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特表2023-508776摩耗防止部および腐食防止部を有するブレーキディスクおよびブレーキディスクを製造する方法
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  • 特表-摩耗防止部および腐食防止部を有するブレーキディスクおよびブレーキディスクを製造する方法 図1
  • 特表-摩耗防止部および腐食防止部を有するブレーキディスクおよびブレーキディスクを製造する方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-03
(54)【発明の名称】摩耗防止部および腐食防止部を有するブレーキディスクおよびブレーキディスクを製造する方法
(51)【国際特許分類】
   F16D 65/12 20060101AFI20230224BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20230224BHJP
【FI】
F16D65/12 S
F16D65/12 E
F16D65/12 M
C23C26/00 A
C23C26/00 B
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022564694
(86)(22)【出願日】2020-04-22
(85)【翻訳文提出日】2022-08-24
(86)【国際出願番号】 EP2020061221
(87)【国際公開番号】W WO2021008744
(87)【国際公開日】2021-01-21
(31)【優先権主張番号】202019107269.5
(32)【優先日】2019-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522260610
【氏名又は名称】シー・フォー レイザー テクノロジー ゲー・エム・ベー・ハー
【氏名又は名称原語表記】C4 Laser Technology GmbH
【住所又は居所原語表記】Dresdner Str. 172 B, 01705 Freital, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ティロ シュタインマイアー
【テーマコード(参考)】
3J058
4K044
【Fターム(参考)】
3J058AA48
3J058BA41
3J058BA46
3J058CB23
3J058CB27
3J058EA05
3J058EA08
3J058EA38
3J058FA06
4K044AA02
4K044AA04
4K044AB10
4K044BA10
4K044BA21
4K044BB01
4K044BB16
4K044BC01
4K044BC02
4K044BC12
4K044CA02
4K044CA07
4K044CA11
4K044CA18
4K044CA53
4K044CA62
(57)【要約】
本発明は、車両技術および産業プラント技術の分野に関し、摩耗防止部および腐食防止部を有するブレーキディスク、およびブレーキディスクを製造する方法に関する。公知の解決手段における欠点は、腐食および摩耗防止コーティングが、ブレーキディスクの摩擦面上に表面的に被着されており、最初の制動過程ですぐに擦り落とされることである。本発明の課題は、改善された長持ちする腐食および摩耗防止部を有するブレーキディスクを提供することである。ブレーキディスクの著しく改善された腐食防止特性および摩耗防止特性は、本発明によれば、少なくとも摩擦面(2)の領域が、AlSiベースの拡散層(3)を有しており、拡散層が0.1mm~0.6mmの層厚を有していて、金属製の基体(1)の鋼またはねずみ鋳鉄との相互作用で形成されていることによって達成される。本発明によるブレーキディスクは、たとえば、車両において、または産業用ブレーキまたは風力発電機のブレーキシステムとして使用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼またはねずみ鋳鉄から成る金属製の基体(1)を有するブレーキディスクであって、該基体(1)は、形成された摩擦面(2)を備えた少なくとも1つの領域と、前記ブレーキディスクの取付けのために形成された当付け面(6)を備えた少なくとも1つの領域とを有しており、前記金属製の基体(1)内に、少なくとも前記摩擦面(2)の領域において、鉄、アルミニウムおよびケイ素から形成された拡散層(3)が存在しており、該拡散層(3)は、0.1mm~0.6mmの層厚を有していて、拡散プロセスによる前記金属製の基体(1)の前記鋼またはねずみ鋳鉄との相互作用で形成されている、ブレーキディスク。
【請求項2】
付加的に、通気通路が存在している、請求項1記載のブレーキディスク。
【請求項3】
前記拡散層(3)は、前記層厚において鉄およびアルミニウムから成る階級化された層システムとして形成されており、該階級化された層システム内でケイ素が均一に分布して存在している、請求項1または2記載のブレーキディスク。
【請求項4】
前記階級化された層システムは、鉄の割合が層表面に向かって連続的に減少し、かつアルミニウムの割合が前記層表面に向かって連続的に増加し、ケイ素が前記階級化された層システム内で均一に分布して存在しているように形成されている、請求項3記載のブレーキディスク。
【請求項5】
少なくとも前記拡散層(3)は、前記金属製の基体(1)をAlSi12またはAlSi合金によりコーティングし、次いで熱処理することによって形成されている、請求項1から4までの少なくともいずれか1項記載のブレーキディスク。
【請求項6】
付加的に、前記当付け面(6)の前記領域および/または前記通気通路(4)が前記拡散層(3)を有している、請求項1から5までの少なくともいずれか1項記載のブレーキディスク。
【請求項7】
前記拡散層(3)は、前記金属製の基体(1)の材料の硬度に比べて大きな硬度を有している、請求項1から6までの少なくともいずれか1項記載のブレーキディスク。
【請求項8】
前記拡散層(3)は、250℃~650℃で40~300分の処理時間の熱処理によって形成されている、請求項1から7までの少なくともいずれか1項記載のブレーキディスク。
【請求項9】
前記通気通路(4)は、前記拡散層(3)と、0.01mm~0.4mmの層厚を有するAlベースの表面層とを有している、請求項1から8までの少なくともいずれか1項記載のブレーキディスク。
【請求項10】
少なくとも前記拡散層(3)内に着色物質が存在している、請求項1から9までの少なくともいずれか1項記載のブレーキディスク。
【請求項11】
請求項1から10までの少なくともいずれか1項記載のブレーキディスクを製造する方法であって、金属製の基体(1)の表面を、少なくとも、形成された摩擦面(2)の領域において機械加工し、次いでコーティング法により、AlSiベースの合金を、少なくとも形成された前記摩擦面(2)の領域に配置し、次いで前記ブレーキディスクの熱処理を保護ガス雰囲気下で実施し、最後に前記金属製の基体(1)の前記表面を少なくとも前記摩擦面(2)の領域において機械加工する、方法。
【請求項12】
付加的に、当付け面(6)および/または通気通路(4)を、AlSiベースの合金でコーティングする、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記コーティングを、AlSi12またはAlSi合金で実現する、請求項11または12の少なくともいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
前記機械加工および/または前記コーティング法を保護ガス雰囲気下で実施する、請求項11から13までの少なくともいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
前記ブレーキディスクの前記熱処理を、40~300分の処理時間および250℃~650℃の温度で、特に有利には550℃~600℃の温度で実施する、請求項11から14までの少なくともいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
前記ブレーキディスクを、前記コーティング前に、250℃~650℃の温度にまで保護ガス雰囲気下で予熱する、請求項11から15までの少なくともいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
前記ブレーキディスクを、前記コーティング前に、150℃~200℃の温度にまで保護ガス雰囲気なしで予熱する、請求項11から15までの少なくともいずれか1項記載の方法。
【請求項18】
前記コーティングをワイヤアーク溶射、吹付け物の運動エネルギを高めた改良ワイヤアーク溶射、高速溶線フレーム溶射、液体アルミニウム浸漬、ラッカ浸漬、ラッカ溶射、レーザ粉体肉盛溶接、粉体溶射またはガルバニックコーティングにより実現する、請求項11から17までの少なくともいずれか1項記載の方法。
【請求項19】
ラッカのコーティング後に、前記ブレーキディスクの、5~240秒の期間にわたる250℃~650℃の温度までの第1の誘導加熱を実現する、請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記コーティング前または前記コーティング中に、着色物質を供給し、該着色物質を用いて前記拡散層(3)内に少なくとも前記摩擦面(2)の領域においてカラーマーキングを形成する、請求項11から19まれのいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両技術および産業プラント技術の分野に関し、摩耗防止部および腐食防止部を有するブレーキディスク、およびブレーキディスクを製造する方法に関する。本発明により製造されたブレーキディスクは、たとえば、車両において、または産業用ブレーキまたは風力発電機のブレーキシステムとして使用することができる。
【背景技術】
【0002】
車両および産業用途における従来のブレーキディスクは、金属材料もしくはセラミック材料から成る一体型のブレーキディスクとして形成されているか、または1種以上の金属材料もしくはセラミック材料から成る、複合ブレーキディスクもしくは複数部分から成るブレーキディスクとして形成されている。
【0003】
ブレーキディスクは、複数の機能領域を有している。たとえば、自動車のブレーキディスクは、フロントアクスルおよびリアアクスルにねじ締結され、このために、平坦な当付け面を有している。この当付け面は、一方ではリムに接触し、他方ではホイールベアリングに接触している。ブレーキディスク全体は、当付け面にわたってホイールピンによって結合されている。
【0004】
さらに、ブレーキディスクは摩擦面を備えた領域を有しており、この摩擦面を介して、擦り付けられるブレーキライニングとの相互作用でブレーキ作用が実現される。
【0005】
発生した熱の導出をより改善するために、ブレーキディスクは、たとえば内部通気型のディスクブレーキとして形成されていてよい。このために、ブレーキディスクは、ブレーキディスクハットの内面に、対応する通気通路を有しており、通気通路は空気を吸い込み、空気はブレーキディスクを通って流れて熱を導出し、これによってブレーキディスクの冷却を保証する。
【0006】
ブレーキディスクは、先行技術では、摩擦面の領域に短期間の腐食防止部を備えているか、または通気通路の領域に長期的な腐食防止部を備えている。短期間の腐食防止部は、ブレーキディスクを短期間だけ腐食から防護する。
【0007】
先行技術に基づいて、ブレーキディスクを腐食および摩耗から防護するために様々な解決手段が知られている。
【0008】
独国実用新案第202018107169号明細書に基づいて、特にブレーキディスク、ブレーキドラムおよびクラッチディスクのための、第1の層および第2の層を備えたコーティングが知られている。第1の層は、20重量%未満の炭化タングステンまたは別の炭化物を含む金属ベースの材料を有しており、第2の層は、第1の層上に被着され、20重量%~94重量%の炭化タングステンを含む炭化タングステン含有の材料を有しており、第1の層および第2の層は熱溶射層である。
【0009】
独国実用新案第202018102703号明細書に基づいて、車両のためのブレーキボディが知られている。このブレーキボディは、摩擦面として粗面化によって形成された表面と、粗面化後に熱溶射法によって摩擦面に被着されたコーティングとを有している。
【0010】
さらに、独国実用新案第202018102704号明細書に基づいて、車両用のブレーキボディが知られている。このブレーキボディは、摩擦面として形成された第1の表面と、摩擦面に隣接して配置され、ベース面として形成された第2の表面と、ベース面に被着されたベース面コーティングとを有する基体を備えている
【0011】
さらに、独国特許出願公開第10203507号明細書から車両用のブレーキディスクが知られている。このブレーキディスクは、金属材料、特にねずみ鋳鉄からなる基体を有しており、基体は、硬質の材料から成るコーティングを備えた少なくとも1つの摩擦面を有している。コーティング下の基体は、ブレーキディスクの軸線に対して軸平行な方向で切除された材料厚さを有しており、基体は、ブレーキディスクの軸線に対して軸平行な方向で、コーティングの層厚だけ、またはコーティングの層厚に関して約±20%、好ましくは±10%だけ切除された材料厚さを有している。
【0012】
公知の解決手段における欠点は、腐食および摩耗防止コーティングがブレーキディスクの摩擦面上に表面的に被着されており、最初の制動過程ですぐに擦り落とされるので、摩擦面が短時間で腐食し、腐食プロセスによって基材を直接に損なうことである。たとえば、電気自動車またはハイブリッド車ではまさに、クリーニング制動の回数が大幅に減ることが想定されており、これは腐食発生を増大させ、これに基づいて必然的に機能不全が生じてしまう。このような機能不全は、騒音問題として生じ、極端な場合にはブレーキ性能の喪失につながってしまう。さらに、摩擦面の領域で発生した腐食によって摩擦面がより迅速に摩耗するという欠点も生じる。
【0013】
炭化物、たとえば炭化タングステン、炭化クロムまたは炭化ホウ素をベースとした層システムを備える硬質材料でコーティングされたブレーキディスクの高い材料コストおよび製造コストも欠点である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の課題は、改善された長持ちする腐食および摩耗防止部を有するブレーキディスクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この課題は、特許請求の範囲に記載された本発明によって解決される。有利な構成は、従属請求項の対象であり、本発明は、互いに排他的ではない限り、「および」の接続詞の意味での個別の従属請求項の組合せも含む。
【0016】
本発明の課題は、鋼またはねずみ鋳鉄から成る金属製の基体を有するブレーキディスクであって、基体が、形成された摩擦面を備えた少なくとも1つの領域と、ブレーキディスクの取付けのために形成された当付け面を備えた少なくとも1つの領域とを有しており、金属製の基体内に、少なくとも摩擦面の領域において、鉄、アルミニウムおよびケイ素から形成された拡散層が存在しており、拡散層が、0.1mm~0.6mmの層厚を有していて、拡散プロセスによる金属製の基体の鋼またはねずみ鋳鉄との相互作用で形成されているブレーキディスクによって解決される。
【0017】
有利には、付加的に、通気通路が存在しているブレーキディスクが存在している。
【0018】
有利な構成では、拡散層が、層厚において鉄およびアルミニウムから成る階級化された(gradiert)層システムとして形成されており、階級化された層システム内でケイ素が均一に分布して存在しており、特に有利には、本構成において、階級化された層システムは、鉄の割合が層表面に向かって連続的に減少し、アルミニウムの割合が層表面に向かって連続的に増加するように形成されている。
【0019】
少なくとも拡散層が、金属製の基体をAlSi12および/またはAlSi合金によりコーティングし、次いで熱処理することによって形成されていると有利である。
【0020】
付加的に、当付け面の領域および/または通気通路が拡散層を有していると、同様に有利である。
【0021】
拡散層が、金属製の基体の材料の硬度に比べて大きな硬度を有していても、有利である。
【0022】
ブレーキディスクの有利な構成では、拡散層が、250℃~650℃で40~300分の処理時間の熱処理によって形成されている。
【0023】
有利には、通気通路が、拡散層と、0.01mm~0.4mmの層厚を有するAlベースの表面層とを有している。
【0024】
少なくとも拡散層内に着色物質が存在していても有利である。
【0025】
本発明は、本発明に係るブレーキディスクを製造する方法であって、金属製の基体の表面を、少なくとも、形成された摩擦面の領域において機械加工し、次いでコーティング法により、AlSiベースの合金を、少なくとも形成された摩擦面の領域に配置し、次いでブレーキディスクの熱処理を保護ガス雰囲気下で実施し、最後に金属製の基体の表面を少なくとも摩擦面の領域において機械加工する方法によって解決される。
【0026】
有利には、付加的に、当付け面および/または通気通路を、AlSiベースの合金でコーティングする。
【0027】
コーティングを、AlSi12またはAlSi合金で実現しても、有利である。
【0028】
方法の有利な1つの構成では、機械加工および/またはコーティング法を保護ガス雰囲気下で実施する。
【0029】
方法の別の有利な1つの構成では、ブレーキディスクの熱処理を、40~300分の処理時間および250℃~650℃の温度で、特に有利には550℃~600℃の温度で実施する。
【0030】
請求項11から15までの少なくともいずれか1項記載の方法では、ブレーキディスクを、コーティング前に、250℃~650℃の温度にまで保護ガス雰囲気下で予熱する。
【0031】
さらに、方法の有利な構成では、ブレーキディスクを、コーティング前に、150℃~200℃の温度にまで保護ガス雰囲気なしで予熱する。
【0032】
コーティングを、ワイヤアーク溶射、吹付け物の運動エネルギを高めた改良ワイヤアーク溶射、高速ワイヤフレーム溶射、液状アルミニウム浸漬、ラッカ浸漬、ラッカ溶射、レーザ粉体肉盛溶接、粉体溶射またはガルバニックコーティングによって実現することも有利である。
【0033】
さらに、ラッカのコーティング後に、ブレーキディスクの、5~240秒の期間にわたる250℃~650℃の温度までの第1の誘導加熱を実現すると有利である。
【0034】
コーティング前またはコーティング中に、着色物質を供給し、これらの着色物質を用いて、拡散層(3)内に少なくとも摩擦面(2)の領域においてカラーマーキングを形成することも有利である。
【0035】
本発明により、改良された腐食防止特性および摩耗防止特性を有するブレーキディスクを提供することに初めて成功し、このブレーキディスクは、金属製の基体上に付加的な層を設けることなしに製造されている。改善された腐食防止特性および摩耗防止特性は、少なくとも摩擦面の領域で達成され、当付け面の領域および/または通気通路も、本発明による腐食防止部および摩耗防止部を有していてよい。
【0036】
本発明の枠内では、ブレーキディスクとは、金属製の基体から成っており、直径上に配置された摩擦面のような種々異なる機能付与領域、当付け面およびウェブにより形成された通気通路を有している、ブレーキシステムの構成部材であると理解することができる。
【0037】
金属製の基体とは、本発明の枠内では、本発明により鋼またはねずみ鋳鉄から製造されている、機能付与領域を備えて形成されたブレーキディスクであると理解することができる。
【0038】
摩擦面とは、本発明の枠内では、対応して形成されたブレーキライニングとの相互作用でブレーキ作用を達成する、片面または両面に形成されたディスク状の表面であると理解することができる。
【0039】
当付け面とは、本発明の枠内では、金属製の基体の、ホイールのリムおよび/またはホイール軸受けまたは軸に接触し、通常はこれらと力結合式に結合している領域であると理解することができる。
【0040】
通気通路とは、本発明の枠内では、金属製の基体の、2つの摩擦面の間に形成され、ブレーキディスクからの熱導出、ひいてはブレーキディスクの冷却をもたらす領域であると理解することができる。通気通路は、摩擦面の直径方向で反対側に位置する領域を接続するウェブによって形成されている。通気通路は、摩擦面にも孔またはスリットとして形成されていてよい。
【0041】
ブレーキディスクの著しく改善された腐食防止特性および摩耗防止特性は、本発明によれば、少なくとも摩擦面の領域が、0.1mm~0.6mmの層厚を有し、金属製の基体の鋼またはねずみ鋳鉄との相互作用で形成されているAlSiベースの拡散層を有していることによって達成される。
【0042】
ブレーキディスクのコーティング時に、酸化鉄の形成は、摩耗防止部および腐食防止部の形成にとって不都合であることが判った。なぜなら、金属製の基体の表面に形成された酸化鉄が、付着条件を悪化させ、このような付着条件は一方では鉄アルミナイドの形成を妨害かつ阻止し、さらに摩耗防止層および腐食防止層の脆い剥げ落ちを引き起こすからである。
【0043】
このことを阻止するために、本発明により、第1の方法ステップにおいて、金属製の基体を、少なくとも摩擦面の領域において、AlSiベースの合金によるコーティングの前に機械加工することが提案され、有利には、機械加工を、約45°の噴射角度でコランダムを用いて回転方向および回転方向とは逆方向で2回サンドブラストすることによって実施することが提案される。これにより、少なくとも摩擦面の領域に拡大した表面積が形成され、これらの摩擦面は、形成すべき摩耗防止層および腐食防止層のための付着および拡散条件の改善を可能にする。
【0044】
表面の機械加工中および機械加工後に酸化鉄の即座の形成を阻止するために、金属製の基体材料の機械加工を保護ガス雰囲気下で行うと、特に有利である。保護ガスとして、たとえばアルゴンまたは窒素を使用することができる。特に有利には、さらに、本発明による拡散層の所望の成長および0.1mm~0.6mmの所望の層厚にとって不都合であるあらゆる酸化プロセスを阻止するために、全ての方法ステップを保護ガス雰囲気下で実施することがさらに提案される。
【0045】
本発明によれば、金属製の基体の表面の機械加工後に、AlSiベースの合金を、少なくとも摩擦面の領域において金属製の基体の材料に被着することが提案される。有利には、さらに酸化鉄の形成に対抗するために、AlSiベースの合金による金属製の基体のコーティングを同様に保護ガス雰囲気下で行うことができる。
【0046】
熱コーティングプロセスの使用により、少なくとも摩擦面の領域において良好な付着性を有する特に細粒のAlSiベース層を形成することが可能となり、これにより、次いで熱処理によって、金属製の基体の材料において本発明による拡散層を実現することができるようになる。
【0047】
本発明によれば、コーティング材料としてのAlSiベースの合金組成によって、特に有利な摩耗防止部および腐食防止部が達成されることが判った。この摩耗防止部および腐食防止部は、250℃~650℃、好適には550℃~600℃の温度および40~300分の処理時間の本発明による熱処理によって、金属製の基体の材料内で拡散により形成され、意想外にも繰返しの制動過程においても持続的に維持される。
【0048】
550℃~600℃の有利な温度範囲は、拡散層の形成時の拡散速度を増大させると同時に、被着された材料を融点以下に維持する。金属製の基体からの被着されたAlSiベースの合金の離れた流れ落ちは回避される。
【0049】
ブレーキディスクがコーティング前に250℃~650℃の温度にまで保護ガス雰囲気下で予熱されると、拡散プロセスの開始にとって特に有利である。200℃を超える温度での予熱時に望ましくない酸化鉄が生じ、この酸化鉄は、保護ガス雰囲気の使用によって回避されることが判った。予熱温度が単に150℃~200℃に設定される場合、ブレーキディスクの予熱時に保護ガスの使用を省略することは意想外にも可能であった。
【0050】
しかし、鉄、アルミニウムおよびケイ素から成長した拡散層は、本発明によれば、先行技術から知られているような、金属製の基体の表面上に配置された摩耗防止層および腐食防止層ではない。むしろ、少なくとも摩擦面の領域において、摩耗防止部および腐食防止部は、専ら純粋な拡散層によって提供される。この拡散層は、金属製の基体上にコーティングされたAlSiベースの合金の意図的な熱処理によって拡散プロセスにより形成されている。
【0051】
本発明によれば、意想外にも、合金成分としてのケイ素の割合により、熱処理中に、拡散層内に均質なケイ素結晶が排出され、このケイ素結晶がアルミニウムとの相互作用で特に均質かつ硬い拡散層をもたらすことが判った。AlSiベースの合金におけるケイ素の発見された割合は、特に有利な形式で酸素が結合し、これにより酸化鉄の形成による金属製の基体の材料との酸化プロセスが阻止されるという別の利点を有している。酸化鉄の形成を阻止することは、0.1mm~0.6mmの層厚を有する基体の材料における鉄アルミナイドの妨害のない迅速な成長を可能にする。
【0052】
さらに、提案されたケイ素の割合により、摩擦面の表面近傍の領域におけるアルミニウムの望ましくない酸化が阻止されることが判った。これにより、所望の鉄アルミナイドの効果的な成長を妨げ得る、拡散層内に堆積した酸素が、AlSiベースの合金において使用されるケイ素の割合によって減じられる。
【0053】
後に拡散によって形成される層の品質にとって、被着されたAlSiベースの層自体ができるだけ密であり、金属製の基体の表面が良好に濡れていることが重要である。このためには、被着されるAlSiベースの合金の溶融液滴(吹付け物)が高い運動エネルギで金属製の基体の表面に衝突すると有利である。これは特に、ワイヤアーク溶射、吹付け物の運動エネルギを高めた改良ワイヤアーク溶射、高速フレーム溶射(HVOF)または高速ワイヤフレーム溶射のようなコーティング方法により達成される。
【0054】
熱により開始される拡散プロセスによって、著しく高い表面硬度を有する、鉄アルミナイドから形成された拡散層が生じる。金属製の基体の通常使用される材料は、約220HVの表面硬度を有する鋼またはねずみ鋳鉄である。
【0055】
AlSiベースの合金が金属製の基体の材料内に拡散することにより、意想外にも、少なくとも機械的に後処理された摩擦面において、350HV~850HVの著しく高い表面硬度が生じる。求められた硬度は、拡散領域の全体にわたって確認することができる。拡散層の突き止められた硬度の特別な技術的な効果は、ブレーキディスクの摩耗が減じられることであり、これはブレーキディスクの耐用年数に有利に影響を与え、さらに発塵を著しく減じる。
【0056】
形成された拡散層の別の利点は、金属製の基体と基体上に被着される摩耗および腐食防止層との間の付着媒体を省略することができることにある。なぜならば、AlSiベースの合金が金属製の基体の材料上に直接コーティングされ、そこで金属製の基体の材料との金属間プロセスによる鉄アルミナイドとして、熱により開始される拡散プロセスによって直接成長するからである。これにより、金属製の基体の表面の摩耗および腐食防止層の剥げ落ちおよび剥離が阻止される。
【0057】
拡散層およびブレーキライニング、ブレーキディスク、ブレーキキャリパの相互作用により、さらに、減衰係数と固有振動数の正の変化がさらに生じる。改善された機能特性は、拡散深さおよび硬度を介して、ブレーキディスクにおいて能動的に達成される。固有振動数および減衰係数が減じられ、これにより、制動過程時のいわゆるジャダーまたはブレーキディスク騒音の発生が少なくとも減じられる。
【0058】
AlSiベースの合金による金属製の基体のコーティングのための特に有利な方法は、特にAlSiベースの合金の被着前に金属製の基体の加熱が予熱される場合も、ワイヤアーク溶射、浸漬、ラッカ溶射、レーザ粉体肉盛溶接または粉体溶射であることが判った。金属製の基体の予熱により、拡散プロセスがより迅速に開始され、金属製の基体内での鉄アルミナイドの成長が促進される。
【0059】
熱処理後の摩擦面および当付け面の領域における表面の最終的な機械加工により、余剰なAlベースの表面層が除去されるという技術的な効果が達成され、既知のガス窒化されたブレーキディスクとは異なり、本発明に係るブレーキディスクはNAO(非アスベスト有機)ブレーキライニングと、LOW-MET(低金属)ブレーキライニングとの両方で使用することができる。
【0060】
さらに、最終的な機械加工により、改善された摩耗特性および腐食特性を失うことなしに、簡単な方法でブレーキディスクの生じ得る歪みを修正することができる。さらに、最終的な機械加工によって、アンバランスを解消するための付加的な作業を省略することができるようになる。
【0061】
この新規のブレーキディスクにより、今日市販されているブレーキディスクの極めて大きな欠点が排除される。ブレーキライニングの高さは、ブレーキディスクの摩擦面の高さより小さいことが知られている。したがって、公知のブレーキディスクは、摩擦面内へのブレーキライニングの走入と、その後のブレーキユニットからの摩擦ライニングの困難かつ手間のかかる取外しとを防止するために、摩擦面の外周において環状に延びる面取り部を備えている。しかし、摩擦面の外周における面取り部の形成は、摩擦面の製造における付加的な作業工程、ひいては付加的な製造コストに結びついている。
【0062】
少なくとも摩擦面の領域に、鉄アルミナイドから形成された本発明によるAlSiベースの拡散層を有している本発明に係るブレーキディスクにより、350HV~850HVの特別な硬度により、摩擦面へのブレーキライニングの走入が阻止されるので、この欠点を排除することができる。
【0063】
本発明の有利な構成では、ブレーキディスクにおいて、摩擦面の他に、当付け面の領域および通気通路にも、本発明によるAlSiベースの合金が設けられ、本発明による拡散層が形成されていてよい。
【0064】
当付け面の領域における摩耗防止部および腐食防止部の形成は、たとえばブレーキディスクにおいて、車両のアクスルとの力結合式の結合時の固定挙動(Setzungsverhalten)が著しく減じられるという技術的な利点を提供する。これにより、ブレーキディスクがホイールピンとの接触に至るまで滑り落ちることが阻止される。
【0065】
通気通路の領域における摩耗防止部および腐食防止部の形成は、通気通路の滑らかな表面が、特に冬季の塩溶液の作用時にも腐食傾向が低いことに基づいて維持され、通気通路を通る持続的な摩擦のない流れ、ひいては制動過程時の同一のままの良好な熱導出が可能にされることにつながる。
【0066】
通気通路の形成された結合ウェブにおいて、AlSiベースの合金の鋳鉄材料または鋼材料への熱により開始される拡散によって初めて、結合ウェブを小さな壁厚で寸法設計することが可能になる。先行技術に基づいて今日まで知られている結合ウェブは、腐食防止部の欠如、ひいては増加する摩耗を考慮して5mmの最小壁厚を有していなければならないことが知られている。
【0067】
通気通路の領域における本発明による摩耗防止部および腐食防止部により、約40%~50%の最小幾何学形状の著しい縮小が可能であり、これにより、重量を最適化し、コストを低減したブレーキディスクが初めて提供される。
【0068】
本発明によるAlSiベースの合金でコーティングされているブレーキディスクの局所的な領域のみを意図的に熱処理することも可能である。これによって、専らこれらの領域においてのみ拡散プロセスが活性化され、したがって、ブレーキディスクに意図的に機能付与することが達成される。したがって、改善された摩耗防止および腐食防止が達成されるべき、金属製の基体の材料の領域においてのみ、意図的な熱処理が実施されるという可能性が生じる。したがって、ブレーキディスク全体の完全な熱処理は不要であり、これにより、本発明に係るブレーキディスクの製造は、より低コストに、かつより時間削減されたものになる。
【0069】
ブレーキディスクおよびブレーキディスクを製造する方法の特に有利な構成では、コーティング前またはコーティング中に着色物質が供給され、この着色物質を用いて拡散層内にカラーマーキングが形成される。これにより、特に摩擦面の領域において拡散層内に、たとえば摩耗インジケータとして使用かつ利用することができる色合いが形成されることが達成される。しかし、着色物質が温度インジケータであり、ブレーキディスク、たとえば摩擦面の運転温度に関する情報を与えることも可能である。
【0070】
以下に、本発明を実施例に基づき詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0071】
図1】ブレーキディスクの横断面を示す概略図である。
図2】拡散層を有するブレーキディスクの概略的な部分図である。
【発明を実施するための形態】
【0072】
実施例
220HVの硬度を有する、ねずみ鋳鉄から成る、車両用の内部通気型のブレーキディスクが提供される。ブレーキディスクは、直径上に互いに反対側に配置された2つの摩擦面2と、ブレーキディスクをアクスルに取り付けるための当付け面6とを有している。2つの摩擦面2は、ウェブ状に形成された通気通路4によって結合されている。コランダム(99.81%のAl3、0.1%のNaO、0.04%のTiO2、0.02%のSiO2、0.03%のFe)により、かつ窒素保護ガス雰囲気を用いながら、両摩擦面2の表面をブレーキディスクの回転方向および回転方向とは逆方向に2回、45°の角度で機械加工し、これにより汚れと酸化鉄を除去して、拡散層の後の形成のための改善した拡散条件を提供する。さらに、表面近傍の領域において、ねずみ鋳鉄の層状構造が変更および除去される。
【0073】
次いで、ブレーキディスクはコーティング設備に供給され、窒素保護ガス雰囲気下で、摩擦面2、当付け面6および通気通路4の領域において、0.4mmの層厚を有するAlSi12合金がアークワイヤ溶射によってコーティングされる。コーティングの後、炉内でブレーキディスク全体の熱処理が、アルゴン保護ガス雰囲気下で実施される。熱処理は580℃で240分間行われ、次いでブレーキディスクが冷却される。この熱処理により、170μm~200μmの層厚を有する鉄アルミナイドの拡散層3と、約50μmの層厚を有するAlベースの表面層とが形成された。
【0074】
摩擦面2および当付け面6の領域では、余剰なAlベースの表面層が、次いで研削によって機械加工されて拡散層3にまで除去されるので、摩擦面2および当付け面6の領域には、成長した鉄アルミナイドから成る拡散層3のみが残っている。ケイ素は、拡散層中に均一に分布して存在している。通気通路4の領域では、表面の機械加工は行われない。
【0075】
摩擦面2、当付け面6および通気通路4は、350HVの硬度を有し、長期的な摩耗防止部および腐食防止部を有している。
【符号の説明】
【0076】
1 金属製の基体
2 摩擦面
3 拡散層
4 通気通路
5 回転する軸
6 当付け面
図1
図2
【国際調査報告】