(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-03
(54)【発明の名称】サイズがより小さい単離されたミトコンドリアおよび単離されたミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞
(51)【国際特許分類】
A61K 47/54 20170101AFI20230224BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20230224BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230224BHJP
A61K 9/50 20060101ALI20230224BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20230224BHJP
C12N 15/85 20060101ALI20230224BHJP
C12N 15/88 20060101ALI20230224BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230224BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20230224BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20230224BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALI20230224BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20230224BHJP
【FI】
A61K47/54
A61K35/12 ZNA
A61P43/00 107
A61K9/50
C12N15/11 Z
C12N15/85 Z
C12N15/88 Z
C12N5/10
C12N5/071
C12M1/00 A
C12Q1/6851 Z
C12Q1/686 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022565028
(86)(22)【出願日】2020-12-25
(85)【翻訳文提出日】2022-08-22
(86)【国際出願番号】 JP2020049314
(87)【国際公開番号】W WO2021132735
(87)【国際公開日】2021-07-01
(31)【優先権主張番号】P 2019239479
(32)【優先日】2019-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】519165504
【氏名又は名称】ルカ・サイエンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【氏名又は名称】森田 裕
(72)【発明者】
【氏名】菅沼 正司
(72)【発明者】
【氏名】山田 勇磨
(72)【発明者】
【氏名】原島 秀吉
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 大輔
(72)【発明者】
【氏名】日比野 光恵
(72)【発明者】
【氏名】太田 善浩
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
4B065
4C076
4C087
【Fターム(参考)】
4B029AA23
4B029AA27
4B029BB11
4B029CC01
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ02
4B063QQ08
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4B063QR08
4B063QR32
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4B065CA20
4B065CA44
4C076AA61
4C076AA95
4C076CC29
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4C076DD33
4C076DD33N
4C076EE59
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4C076FF34
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB63
4C087MA38
4C087NA13
4C087NA14
4C087ZB22
(57)【要約】
本発明によれば、より小さいサイズのミトコンドリアの集団およびミトコンドリアを閉鎖空間に内包している脂質膜ベースの小胞の集団を含む組成物、ならびに組成物を生成する方法が提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミトコンドリアの集団を含む組成物であって、前記集団は、動的光散乱によって決定される、1μm未満にピークを有する粒径分布を有する、組成物。
【請求項2】
前記集団が、動的光散乱によって決定される、500nm未満にピークを有する粒径分布を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記集団が0.5未満のPDIを有する、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
ミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞の集団を含む組成物であって、脂質膜ベースの小胞の前記集団は、動的光散乱によって決定される、1μm未満にピークを有する粒径分布を有する、組成物。
【請求項5】
脂質膜ベースの小胞の前記集団が、動的光散乱によって決定される、500nm未満にピークを有する粒径分布を有する、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
脂質膜ベースの小胞の前記集団が0.5未満のPDIを有する、請求項4または5に記載の組成物。
【請求項7】
内包される前記ミトコンドリアが、それと接触する細胞の細胞質に組み込まれていてもよく、前記ミトコンドリアが、細胞質中の内因性ミトコンドリアと融合していてもよい、請求項4~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
ミトコンドリアを細胞に送達するために使用するための、請求項4~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
細胞中のミトコンドリアの呼吸活性を向上させるために使用するための、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
請求項4に記載の組成物を生成する方法であって、
単離されたミトコンドリアを含む水溶液と、脂質膜を形成することができる脂質を含むエタノール溶液とを、マイクロフローチャネルデバイスの中の合流チャネル中で互いに接触させて溶液を混合することを含む方法。
【請求項11】
前記マイクロフローチャネルデバイスが、前記合流チャネル中で互いに接触させる前記溶液の混合を容易にするためのフローチャネルを含み、前記フローチャネルがバッフル構築物を有する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
単離されたミトコンドリアまたは内包されたミトコンドリア中のミトコンドリアDNAレベルを測定する方法であって、前記単離されたミトコンドリアまたは前記内包されたミトコンドリアを含む試料中のミトコンドリアDNAの少なくとも一部を増幅して増幅されたDNAのアンプリコンを得ること、および前記アンプリコンを計数してミトコンドリアDNAレベルを得ることを含む方法。
【請求項13】
測定された前記ミトコンドリアDNAレベルを標準値と比較することをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は2019年12月27日に出願の日本国出願番号第2019-239479号への優先権を主張し、その全内容はここに参照により組み込まれる。
【0002】
本発明は、サイズがより小さい単離されたミトコンドリアおよび単離されたミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞に関する。
【背景技術】
【0003】
ミトコンドリアの機能障害、例えば呼吸鎖複合体機能障害は、ミトコンドリア疾患および加齢の主要な原因である。ミトコンドリア機能の低下は、ミトコンドリア疾患および年齢関連の疾患に主に関与する多くの臓器の細胞に影響する。これを克服するために、ミトコンドリアを細胞に導入する試みが実行されている(米国特許第9,603,872号)。特許文献1では、ミトコンドリアのリポフェクタミンとのリポプレックスを得るために、ミトコンドリアはリポフェクタミン2000試薬と混合される(すなわち、リポフェクタミン粒子および遊離型ミトコンドリア粒子の会合)。米国特許第9,603,872号では、得られたリポプレックスが細胞に導入されたことが確認された。しかし、米国特許第9,603,872号では、導入されたリポプレックスの生理作用はまだ確認されていない。
【0004】
100~200μmの幅を有するチャネルを使用してリポソームを形成するための、マイクロフローチャネルデバイスと呼ばれる技術が開発された(Kimura N.等、ACS Omega、3巻:5044~5051頁、2018年)。Kimura N.等、2018年、により、脂質膜をベースとし、約10nm~約100nmの粒径を有する小胞を得ることができる。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、単離されたミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞および小胞を生成する方法を提供する。
【0006】
本発明者らは、ミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞の集団を含む組成物を得た。小胞はそれぞれ、ミトコンドリアを含むための脂質膜で形成される袋状の膜構造(閉鎖空間)を有すると考えられる。
【0007】
本明細書では、例えば、以下の発明が提供される。
(1)ミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞の集団を含む組成物。
(2)脂質膜ベースの小胞の集団が、動的光散乱によって決定される、1μm未満にピークを有する粒径分布を有する項目(1)による組成物。
(3)脂質膜ベースの小胞の集団が、動的光散乱によって決定される、500nm未満にピークを有する粒径分布を有する項目(2)による組成物。
(4)脂質膜ベースの小胞の集団が0.5未満のPDIを有する、項目(1)~(3)のいずれか1つによる組成物。
(5)内包されるミトコンドリアがそれと接触している細胞の細胞質に組み込まれていてもよく、ミトコンドリアを細胞質中の内因性ミトコンドリアと融合していてもよい、項目(1)~(4)のいずれか1つによる組成物。
(6)ミトコンドリアを細胞に送達するために使用するための、項目(1)~(6)のいずれか1つによる組成物。
(7)細胞中のミトコンドリアの呼吸活性を向上させるために使用するための、項目(6)による組成物。
(8)項目(1)による組成物を生成する方法であって、
単離されたミトコンドリアを含む水溶液と、脂質膜を形成することができる脂質を含むエタノール溶液とを、マイクロフローチャネルデバイスの中の合流チャネル中で互いに接触させて溶液を混合することを含む方法。
(9)マイクロフローチャネルデバイスが、合流チャネル中で互いに接触させる溶液の混合を容易にするためのフローチャネルを含み、フローチャネルがバッフル構築物を有する、項目(8)による方法。
【0008】
さらに、以下の発明が提供される。
[1]ミトコンドリアの集団を含む組成物であって、集団は、動的光散乱によって決定される、1μm未満にピークを有する粒径分布を有する、組成物。
[2]集団が、動的光散乱によって決定される、500nm未満にピークを有する粒径分布を有する、項目[1]による組成物。
[3]集団が0.5未満のPDIを有する、項目[1]または[2]による組成物。
[4]ミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞の集団を含む組成物であって、脂質膜ベースの小胞の集団は、動的光散乱によって決定される、1μm未満にピークを有する粒径分布を有する、組成物。
[4A]ミトコンドリアの50%以上が、脂質膜ベースの小胞に各々内包されている、項目[1]による組成物。
[5]脂質膜ベースの小胞の集団が、動的光散乱によって決定される、500nm未満にピークを有する粒径分布を有する、項目[4]または[4A]による組成物。
[6]脂質膜ベースの小胞の集団が0.5未満のPDIを有する、項目[4]~[5](すなわち、項目[4]、[4A]および[5])のいずれか1つによる組成物。
[7]内包されたミトコンドリアがそれと接触している細胞の細胞質に組み込まれていてもよく、ミトコンドリアが細胞質中の内因性ミトコンドリアと融合していてもよい、項目[4]~[6]のいずれか1つによる組成物。
[8]ミトコンドリアを細胞に送達するために使用するための、項目[4]~[7]のいずれか1つによる組成物。
[9]細胞中のミトコンドリアの呼吸活性を向上させるために使用するための、項目[8]による組成物。
[10]項目[4]または[4A]による組成物を生成する方法であって、単離されたミトコンドリアを含む水溶液と、脂質膜を形成することができる脂質を含むエタノール溶液とを、マイクロフローチャネルデバイスの中の合流チャネル中で互いに接触させて溶液を混合することを含む方法。
[11]マイクロフローチャネルデバイスが、合流チャネル中で互いに接触させる溶液の混合を容易にするためのフローチャネルを含み、フローチャネルがバッフル構築物を有する、項目[10]による方法。
【0009】
ミトコンドリアは、本発明の小胞に内包することができ、医薬製剤に好適である。単分散サイズ分布(すなわち、PDI≦0.5)および/またはサイズ分布の1μm未満にピークを有する、ミトコンドリアを含有する脂質膜ベースのナノ小胞の集団が、医薬製剤にさらに好適になる。
[12]単離されたミトコンドリアまたは内包されたミトコンドリア中のミトコンドリアDNAレベルを測定する方法であって、単離されたミトコンドリアまたは内包されたミトコンドリアを含む試料中のミトコンドリアDNAの少なくとも一部を増幅して増幅されたDNAのアンプリコンを得ること、およびアンプリコンを計数してミトコンドリアDNAレベルを得ることを含む方法。
[13]測定されたミトコンドリアDNAレベルを標準の値と比較することをさらに含む、項目[12]による方法。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】細胞から単離されたミトコンドリアの懸濁液に関する動的光散乱(DLS)で決定した粒径分布およびPDIならびにゼータ電位(ζ)を示す図である。a)は冷凍前の単離されたミトコンドリア(用時調製生成物)のデータを示し、b)は凍結解凍プロセスの後の単離されたミトコンドリア(冷凍生成物)のデータを示す。
【
図2】蛍光色素(TMRE)で検出された用時調製生成物および冷凍生成物におけるミトコンドリアの分極の結果を示す図である。用時調製生成物および冷凍生成物の各々から蛍光が観察された。
【
図3】パネルa)は、マイクロフローチャネルデバイスおよび以降の透析を使用したナノ小胞の調製スキームを示す図である。パネルb)は、脂質含有有機相および水性バッファー(水相)を、マイクロフローチャネルデバイスの中の合流チャネル中で互いに接触させてそれらを混合することによってナノ粒子を調製するスキーム;有機相および水相の組成およびその流速、得られたナノ粒子のDLSによる粒径分布、PDIおよびそのゼータ電位(ζ)を示す図である。
【
図4】脂質含有有機相および単離されたミトコンドリアを含有する水性バッファー(水相)を、マイクロフローチャネルデバイスの中の合流チャネル中で互いに接触させてそれらを混合することによって、ミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞を調製するスキーム;有機相および水相の組成およびその流速、得られた小胞のDLSによる粒径分布およびPDI、ならびにそのゼータ電位(ζ)を示す図である。
【
図5-1】パネルa)は、有機相が脂質を含有しない有機相(50%エタノール溶液)であり、水相が単離されたミトコンドリアを含有する水性バッファーである場合における得られた粒子のDLSによる粒径分布およびPDI、ならびにそのゼータ電位(ζ)を示す図であり;パネルb)は、有機相がステアリル化オクタアルギニン(STR-R8)を含有する有機相であり、水相が単離されたミトコンドリアを含有する水性バッファーである場合における得られた粒子のDLSによる粒径分布およびPDI、ならびにそのゼータ電位(ζ)を示す図である。
【
図5-2】パネルc)は、水性バッファーが有機相の代わりに使用され、水相が単離されたミトコンドリアを含有する水性バッファーである場合における得られた粒子のDLSによる粒径分布およびPDI、ならびにそのゼータ電位(ζ)を示す図である。
【
図6】
図4のスキームに従ってマイクロフローチャネルデバイスによって調製されたナノ粒子の蛍光顕微鏡像を示す図である(ここで、脂質はDOPE-N-(7-ニトロ-2-1,3-ベンゾオキサジアゾール-4-イル)(NBD-DOPE)で蛍光染色され;ミトコンドリアはMitoTracker(商標)Deep Redで染色される)。パネルa)は単離されたミトコンドリアからの蛍光シグナルを示し;パネルb)は脂質からの蛍光シグナルを示し、パネルc)はこれらの併合されたシグナルを示し、それらがほとんど完全に共存していることを示す。
【
図7】化学的固定法によって固定された単離されたミトコンドリアの電子顕微鏡像を示す図である。
【
図8】
図3、パネルb)のスキームに従って調製され、ネガティブ染色法によって染色されたナノカプセルの電子顕微鏡像を示す図である。
図8は得られたナノカプセルの内部が予想に反して脂質(脂質層)で満たされていることを示す。
【
図9】
図4のスキームに従って調製され、ネガティブ染色法によって染色されたナノ粒子の電子顕微鏡像を示す図である。ネガティブ染色法では、ミトコンドリアはコントラストを生成せず、その結果ミトコンドリア自身を検出することができない。
【
図10】
図5-1、パネルb)のスキームに従って得られ、STR-R8で処理され、化学的固定法によって固定された単離されたミトコンドリアの電子顕微鏡像を示す図である。
【
図11】脂質のタイプが変更されたこと以外は
図4と同じスキームに従って得られたミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞のDLSによる粒径分布およびPDI、ならびにそのゼータ電位(ζ)を示す図である。パネルa)およびb)は、ミトコンドリアを含有しない水溶液を使用した陰性対照のデータを示す。パネルc)およびd)は、水溶液が単離されたミトコンドリアを含有する水性バッファーであること以外はパネルa)およびb)とそれぞれ同じ条件で得られた結果を示す。
【
図12】マイクロフローチャネルデバイスに導入される溶液の流速;得られたミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞のDLSによる粒径分布およびPDI;ならびにゼータ電位(ζ)を示す図である。
【
図13】得られたミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞をヒト培養細胞と接触させ、それらを3時間インキュベートすることによって得られた細胞の共焦点レーザースキャン顕微鏡像を示す図である。
図13では、ヒト細胞の中に存在するミトコンドリアはMitoTracker(商標)Greenで染色され;ミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞中のミトコンドリアはMitoTracker(商標)Deep Redで染色される。インキュベートされた細胞では、これらのミトコンドリアからそれぞれ放出される蛍光で形成される像は、所在がほとんど完全に一致する(Hela mito green、単離されたmito red、および併合を参照する)。
【
図14】小胞内にパッケージされていない単離されたミトコンドリアをヒト培養細胞と接触させ、それらを3時間インキュベートすることによって得られた細胞の共焦点レーザースキャン顕微鏡像を示す図である。
図14では、ヒト細胞の中に存在するミトコンドリアはMitoTracker(商標)Greenで染色され;単離されたミトコンドリアはMitoTracker(商標)Deep Redで染色された。
図14は、単離されたミトコンドリアに由来するシグナルが細胞の中で事実上観察されなかったことを示す。
【
図15】小胞内にパッケージされていない、STR-R8で処理された単離されたミトコンドリアをヒト培養細胞と接触させ、それらを3時間インキュベートすることによって得られた細胞の共焦点レーザースキャン顕微鏡像を示す図である。
図15では、ヒト細胞の中に存在するミトコンドリアはMitoTracker(商標)Greenで染色され;単離されたミトコンドリアはMitoTracker(商標)Deep Redで染色された。
図15は、単離されたミトコンドリアに由来するシグナルが細胞の中で事実上観察されなかったことを示す。
図15では、左下パネルはインキュベートされたヒト培養細胞の光学顕微鏡像を示し、細胞死が誘導されることを示唆している。
【
図16】小胞内にパッケージされていない単離されたミトコンドリアをヒト培養細胞(ヒト心臓前駆細胞)と接触させ、それらを3時間インキュベートすることによって得られた細胞の共焦点レーザースキャン顕微鏡像を示す図である。
図16では、ヒト細胞の中に存在するミトコンドリアはMitoTracker(商標)Greenで染色され;単離されたミトコンドリアはMitoTracker(商標)Deep Redで染色された。
図16は、単離されたミトコンドリアに由来するシグナルが細胞の中で事実上観察されなかったことを示す。
【
図17】小胞内にパッケージされていない、STR-R8で処理された単離されたミトコンドリアをヒト培養細胞(ヒト心臓前駆細胞)と接触させ、それらを3時間インキュベートすることによって得られた細胞の共焦点レーザースキャン顕微鏡像を示す図である。
図17では、ヒト細胞の中に存在するミトコンドリアはMitoTracker(商標)Greenで染色され;単離されたミトコンドリアはMitoTracker(商標)Deep Redで染色された。
図17は、単離されたミトコンドリアに由来するシグナルが細胞の中で事実上観察されなかったことを示す。
【
図18】心筋からヒト心筋幹細胞(hCDC)を得てhCDCからミトコンドリアを単離することによって、hCDC由来のミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞を得るスキームを示す図である。
【
図19】hCDC由来のミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞をMELAS患者から得られた皮膚線維芽細胞と接触させ、それらを3時間または24時間インキュベートすることによって得られた細胞のミトコンドリア呼吸活性の測定結果を示す図である。
【
図20】hCDC由来のミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞をLHON患者から得られた皮膚線維芽細胞と接触させ、それらを3時間または24時間インキュベートすることによって得られた細胞のミトコンドリア呼吸活性の測定結果を示す図である。
【
図21】hCDC由来のミトコンドリアまたはリポフェクタミンおよびミトコンドリアの脂質複合体(LFN単離Mt)を内包している脂質膜ベースの小胞を正常な線維芽細胞と接触させ、それらを24時間インキュベートすることによって得られた細胞のミトコンドリア呼吸活性の測定結果を示す図である。LFN単離Mtは、細胞のミトコンドリア呼吸活性を低減する。このことから、LFN単離Mtは細胞に入ってミトコンドリアに対する毒性を引き起こすとみなされた。
【
図22】hCDC由来のミトコンドリアまたはリポフェクタミンおよびミトコンドリアの脂質複合体(LFN単離Mt)を内包している脂質膜ベースの小胞をLeigh(リー)脳症患者から得られた皮膚線維芽細胞と接触させ、それらを24時間インキュベートすることによって得られた細胞のミトコンドリア呼吸活性の測定結果を示す図である。
【
図23】hCDC由来のミトコンドリアまたはリポフェクタミンおよびミトコンドリアの脂質複合体(LFN単離Mt)を内包している脂質膜ベースの小胞をLHON患者から得られた皮膚線維芽細胞と接触させ、それらを24時間インキュベートすることによって得られた細胞のミトコンドリア呼吸活性の測定結果を示す図である。
【
図24】細胞に組み込まれるミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞およびLFN単離Mtの能力を示す図である。
【
図25】LFN単離MtのDLSによる粒径分布およびPDI、ならびにゼータ電位(ζ)を示す図である。LFN単離Mtでは、ゼータ電位値は0に近い。このことから、負荷電ミトコンドリアおよび正荷電LFNが電気的に中性化されている複合体が得られると考えられた。
【
図26】ネガティブ染色された(それぞれ、パネルBおよびA)リポフェクタミン2000(LFN)ならびにLFNおよび単離されたミトコンドリアの混合物(LFN+Mt)の電子顕微鏡像を示す図である。
【
図27】化学的固定によって染色された単離されたミトコンドリア(パネルA)ならびにリポフェクタミン2000(LFN)および単離されたミトコンドリアの混合物(LFN+Mt)(パネルB)の電子顕微鏡像を示す図である。
図27、パネルCは、MITO-QおよびLFN+Mtでそれぞれ処理された細胞の生存比を示す。
【
図28】得られた結果に基づくリポフェクタミンおよび単離されたミトコンドリアの複合体の模式図(パネルa)ならびにミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞の模式図(パネルb)を示す図である。
【
図29A】図に示す様々な方法によって単離されたミトコンドリアの膜電位のためのアッセイの結果を示す図である。MitoTracker Deep Redをミトコンドリア膜電位指示薬として使用した。
【
図29B】図に示す様々な方法によって単離されたミトコンドリアの膜電位のためのアッセイの結果を示す図である。テトラメチルローダミンメチルエステル(TMRM)を、ミトコンドリア膜電位指示薬として使用した。
【
図30A】内包されたミトコンドリアまたはLFNで処理されたミトコンドリアで処理された細胞におけるミトコンドリア呼吸活性のためのアッセイの概要を示す図である。
【
図30B】ミトコンドリア呼吸活性のためのアッセイの結果を示す図である。
【
図30C】ミトコンドリア呼吸活性のためのアッセイの結果を棒グラフフォーマットで示す図である。
【
図31A】定量PCRによるDNA濃度およびブラッドフォード法によって測定されたタンパク質濃度のためにあてはめた較正曲線を示す図である。
【
図31B】PCR法によるアンプリコン(増幅産物)のコピー数および鋳型濃度のためにあてはめた較正曲線を示す図である。
【
図31C】図面に示される方法によって単離されたミトコンドリア中のmtDNAのコピー数を示す図である。コピー数は、全ミトコンドリアタンパク質量を使用して標準化した。
【
図31D】図面に示される方法によって単離された内包されたミトコンドリア中のmtDNAのコピー数を示す図である。コピー数は、全ミトコンドリアタンパク質量を使用して標準化した。
【
図31E】図面に示される方法によって単離された内包されたミトコンドリアで処理された細胞の基礎呼吸活性を示す図である。
【
図31F】図面に示される方法によって単離された内包されたミトコンドリアで処理された細胞の最大呼吸活性を示す図である。
【
図31G】図面に示される方法によって単離されたミトコンドリア中のTFAMの量を示す図である。量は、全ミトコンドリアタンパク質量を使用して標準化した。
【
図31H】図面に示される様々な方法によって単離されたミトコンドリアに含まれる全タンパク質の濃度を示す図である。D-Mtは従来の界面活性剤方法によって単離され、Q(pH7.4)はpH7.4バッファーを使用してiMITによって単離され、Q(pH8.9)はpH8.9バッファーを使用してiMITによって単離された。
【
図32A】ヒト心臓前駆細胞(hCPC)からiMIT方法によって単離されたミトコンドリアを内包することによって調製されたhCPC-MITO-Qのサイズ分布を示す図である。
【
図32B】hCPC-MITO-Qの有る無しでTMRMで処理された細胞中のミトコンドリアの染色の結果を示す図である。
【
図33】図面に示す試料で処理された細胞中のミトコンドリア呼吸活性の結果を示す図である。用語「Res-hCPC-MITO-Q」は、レスベラトロールを内包したMITO-Porterで処理されたhCPCから調製されたMITO-Qを表す。
【
図34A】アッセイプロトコールの時間経過を示す図である。
【
図34B】図面に示されるインキュベーション時間の後にMITO-Qで処理された細胞の最大呼吸活性を示す図である。
【
図35】図面に示される様々な期間の間4℃で保存されたMITO-Qで処理された細胞の最大呼吸活性を示す図である。
【
図36】マイクロフローチャネルデバイスの構造を示す参照図面である。図面で、大きな矢印はチャネルの液体のフロー方向を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
明細書では、「ミトコンドリア」は真核細胞の細胞質に存在する細胞内オルガネラである。ミトコンドリアは、電子伝達系を通して細胞中でATPを生成する(酸化的リン酸化によって)役割をおそらくする。ミトコンドリアは自身のDNA(ミトコンドリアDNA)を有し、それは、細胞核のDNAから独立しているミトコンドリア構成成分因子(例えば、電子伝達系の中の呼吸鎖複合体のタンパク質)をコードする。ミトコンドリアDNAの突然変異は、ミトコンドリア機能を時には損なう。ミトコンドリアの機能不全は、ミトコンドリア疾患と呼ばれる疾患を引き起こすことがある。これを克服するために、外因性ミトコンドリアを供給する試みが療法として実行されている。
【0012】
本明細書で、「小胞」は、内部に膜によって囲まれる閉鎖空間を有する粒子状の物体を指す。閉鎖空間は、内部/外部への物質の物理的、化学的および/または生理的移動が制限される空間を指す。
本明細書では、「脂質膜ベースの小胞」は、主な構成成分として脂質を含む膜で形成されるリポソーム等の小胞を指す。水溶液中に置かれる両親媒性脂質またはカチオン性もしくはアニオン性脂質は、その中に水溶液を含む閉鎖空間を有する脂質二重層(特に、単一の脂質二重層)で構成される小胞を形成することができる。
【0013】
本明細書では、「内包している」は、内部/外部への物質の移動が制限される閉鎖空間の中に所定の物質が内包されている状態を指す。したがって、内包されたミトコンドリアは、膜構造で形成される中空のサックまたは小胞の中の閉鎖空間に分離される。脂質二重層膜を有する脂質膜ベースの小胞は、リポソームと通常呼ばれる。脂質膜構造は、水、血液または他の水溶液への透過性を通常ほとんど有しない。したがって、内包されたミトコンドリアは、細胞へのミトコンドリアの送達の間に全ミトコンドリアを完全にパッケージする膜構造によって体液中で保護することができる。膜構造は、膜の組成が細胞膜のそれに類似しているかまたは膜構造の表面が正電荷を有するとき、内包されたミトコンドリアが細胞に入ることを促進することができる。ミトコンドリアが脂質膜ベースの小胞に内包されているか否かは、例えば、ミトコンドリアおよび脂質を別々に染色し、それとともにミトコンドリアを内包している小胞を形成し、光学顕微鏡(例えば、蛍光色素が使用される場合は蛍光顕微鏡)で観察したときにミトコンドリアおよび脂質のそれぞれの色素の共存を見出し、および電子顕微鏡で形態を観察するときにネガティブ染色によって中空脂質膜(または、その断面)の存在を見出すことによって確認することができる。ミトコンドリアが脂質膜ベースの小胞に内包されているか否かは、例えば、小胞を細胞と接触させ、ミトコンドリアを細胞質に導入することができるかどうか観察することによって確認することができるか;または、小胞の脂質膜が正に荷電している場合は、例えば10mV以上の正のゼータ電位が得られるかどうか検査することによって確認することができる。本明細書では、「遊離型」ミトコンドリアは単離されたミトコンドリアを指し、特に小胞中に内包されていないミトコンドリアを明らかに記載するために使用される。本明細書では、特記しない限り、「単離されたミトコンドリア」または「ミトコンドリア」は遊離型のミトコンドリアを指す。
【0014】
本明細書では、「集団」は、複数の同じかまたは異なる物質の群を指す。本明細書では、「ミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞の集団」は、少なくとも複数の同じかまたは異なるミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞の群である。集団は必ずしも均一でなくてもよく、物理的、化学的および/または生理的分布を有することができる。物理的分布としては、例えば、粒径および多分散指数が挙げられる。化学的分布としては、例えば、ゼータ電位分布および脂質組成分布が挙げられる。生理的分布としては、例えば、生理的機能(例えば、呼吸活性)の差が挙げられる。
【0015】
本明細書では、「動的光散乱」(DLS)は、溶液中のナノメートルオーダーの微粒子のサイズを決定する手法を指す。粒径および多分散を測定する方法は、例えば、ISO22412:2017に規定される。動的光散乱では、粒子のサイズ分布を得ることができる。具体的には、キュムラント分析方法(ISO22412)による散乱光強度の自己相関関数から平均粒径を得ることができる。本明細書では、「ピーク」は、測定された粒径分布を示すヒストグラム中の最大頻度を示す部分を指す。ミトコンドリアがインタクトで単離される場合、単離されるミトコンドリアは通常約1μmあたりにピークを有する粒径分布をおそらく示す。
【0016】
本明細書では、「多分散指数」(PDI)(または、多分散と呼ばれる)は、DLSによって得られる粒径分布の幅を評価する指数である。PDIは、キュムラント分析方法(ISO22412)による散乱光強度の自己相関関数から得ることができる。PDI=0は、溶液中の一群の粒子が完全に同じサイズの粒子からなることを意味し、PDIは最高1である。PDIが0.5以上である場合、一群の粒子は多分散を有するとみなされる。ミトコンドリア(細胞内オルガネラ)の粒径分布は多分散を有し、単離されたミトコンドリアは通常0.5以上のPDIを有すると考えられる。
【0017】
本明細書では、「ゼータ電位」(ζ電位)は、ヘルムホルツ-スモルコフスキー式による電気泳動光散乱によって計算することができる電位を指す。ゼータ電位は、以下の通りに規定される。粒子が溶液に対して移動するとき、ある特定の厚さを有する溶液の層が粒子と一緒に移動する。層の表面(すべる平面)と表面から十分に遠く離れている溶液のバルク部分の間の電位差は、ゼータ電位と規定される。ゼータ電位は電気泳動光散乱方法によって測定することができ、溶液の誘電定数、溶液の粘度、粒子の移動速度および電場に基づいてヘルムホルツ-スモルコフスキー式によって得ることができる。ミトコンドリアは、呼吸の間に内部の膜から外側にプロトンを放出する。これのために、ミトコンドリアは負に分極化され、負のゼータ電位を有する。ミトコンドリアが脂質膜ベースの小胞に内包されている場合、ゼータ電位は脂質膜ベースの組成に基づいて決定される。したがって、ゼータ電位に及ぼすミトコンドリアの影響はないかまたは限定的である。
【0018】
本明細書では、「呼吸」は、電子伝達系の内部からミトコンドリアによって放出されるプロトンの濃度勾配を利用して酸素を消費することによってATPを生成するミトコンドリアの活性を指す。ミトコンドリアの呼吸活性はミトコンドリアの呼吸能力を指し、それは、例えばミトコンドリアの酸素消費速度(OCR)によって決定することができる。酸素消費速度は、例えば細胞外フラックスアナライザーで決定することができる。より具体的に記載すると、リンゴ酸等の呼吸鎖複合体の基質がミトコンドリアに加えられ、その後、ミトコンドリアの溶液のOCR(「OCR1」と命名される)が測定される。その後、ATPシンテターゼ阻害剤(例えば、オリゴマイシン)がミトコンドリアに加えられ、その後、ミトコンドリアの溶液のOCR(「OCR2」と命名される)を測定することができる。その後、アンカップラ(例えば、FCCP)がミトコンドリアに加えられ、その後、ミトコンドリアの溶液のOCR(「OCR3」と命名される)を測定することができる。その後、呼吸鎖複合体阻害剤(例えば、ロテノン等の複合体Iの阻害剤およびアンチマイシンA等の複合体IIIの阻害剤)が加えられ、その後、ミトコンドリアの溶液のOCR(「OCR4」と命名される)を測定することができる。ミトコンドリアの基礎呼吸速度、ATP生成呼吸速度および最大呼吸速度は、以下の式によって得ることができる。
ミトコンドリアの基礎呼吸速度=OCR1-OCR4;
ミトコンドリアのATP生成呼吸速度=OCR1-OCR2;
ミトコンドリアの最大呼吸速度=OCR3-OCR4。
【0019】
一実施態様では、分析するミトコンドリアの呼吸活性は、ミトコンドリアの最大呼吸活性であってよい。
【0020】
本明細書では、「マイクロフローチャネルデバイス」または「マイクロ流体デバイス」は互換的に使用され、μmオーダーの直径または幅および高さを有するチャネルを含むデバイスを指す。マイクロフローチャネルデバイスのチャネルでは、2つの異なる入口から導入される2つの異なる組成物を合流チャネルの中で一緒にすることができる。合流チャネルは、2つの異なる入口にそれぞれ連結している2つの流路が連結する部分である。マイクロフローチャネルデバイスは、合流チャネルの他に一緒になる溶液を混合するためのチャネル(混合チャネル)を有することができる。混合チャネルは、混合および撹拌を容易にするための構造(例えば、屈曲)を有することができる。混合チャネルは、内部表面に凹面および凸面を有しても有しなくてもよい。
【0021】
本明細書では、「エタノール溶液」は、エタノールを含む水溶液を指す。本明細書では、「有機相」は有機溶媒を含む相を指し、脂質膜を形成することができる脂質を溶解することができる有機溶媒を含む相であってよい。有機相中の有機溶媒は、例えば、水溶性の有機溶媒であってよい。水溶性有機溶媒はそれが小胞の形成後に透析等の方法によって容易に除去されるので有利である。水溶性有機溶媒の一例として、エタノールを指摘することができる。実施態様では、有機相は、例えば水性エタノール溶液であってよい。
【0022】
本発明者らは、ミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞および小胞の集団は、単離されたミトコンドリアを含む水溶液と、脂質膜を形成することができる脂質を含む有機相(例えば、エタノール溶液)とを、マイクロフローチャネルデバイスの合流チャネル中で互いに接触させてそれらを混合することによって得ることができることを見出した。本発明により、ミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞またはその集団または小胞を含む組成物を生成する方法であって、単離されたミトコンドリアを含む水溶液と、脂質膜を形成することができる脂質を含む有機相(例えば、エタノール溶液)とを、マイクロフローチャネルデバイスの中の合流チャネル中で互いに接触させてそれらを混合することを含む方法が提供される。
【0023】
本明細書で使用されるように、用語「ミトコンドリア活性化剤」は、ミトコンドリア呼吸鎖複合体(電子伝達系)を活性化することが可能な物質、特にミトコンドリアを膜電位に関して分極化状態に持ってくることが可能な物質を意味し、特に、ミトコンドリアを過分極化状態に持ってくることが可能な物質を使用することが好ましい。ミトコンドリア活性化剤の例としては、レスベラトロール(3,5,4’-トリヒドロキシ-トランス-スチルベン)、コエンザイムQ10、ビタミンC、ビタミンE、N-アセチルシステイン、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル(TEMPO)、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)およびグルタチオン等の抗酸化剤を挙げることができ、特に、レスベラトロールが好ましい(WO2018/092839を参照する)。本発明で好ましく使用されるレスベラトロールは、既知の方法によって植物から抽出されるもの、または既知の方法、例えばAndrus等の方法(Tetrahedron Lett.2003年、44、4819~4822頁)によって化学的に合成されるものであってよい。ミトコンドリア活性化剤の他の例としては、ミトコンドリアDNAならびにミトコンドリアRNA、例えば12S rRNAおよび16S rRNA(参照により本明細書に完全に組み込まれる、WO2020/230601を参照する)、ならびにミトコンドリアの任意の他の成分が挙げられる。
【0024】
マイクロフローチャネルデバイスは、少なくとも2つの入口から延長するフローチャネルが一緒になる合流チャネルを含む。マイクロフローチャネルデバイスは、合流チャネルで一緒になる溶液の混合を促進するための混合チャネルをさらに含むことができる。混合チャネルは線状に延長する経路であってよいか、または混合をさらに促進するために少なくとも1つの屈曲(例えば、バッフル構造または連続的に配置される複数の屈曲)を有することができる。混合チャネルは、内部表面に凹面および凸面を有しても有しなくてもよい。
【0025】
マイクロフローチャネルデバイスのチャネルは、μmオーダーの厚さを有することができる。チャネルが円形の断面を有する場合のチャネルの太さは、その直径によって表される。断面が楕円である場合、太さは長軸および短軸の一方または両方によって表すことができる。断面が長方形である場合、幅および高さの一方または両方を用いることができる。チャネルの幅および高さは、各々独立して例えば100μm~400μmであってよい。
図36に関して、本発明で好適に使用することができるマイクロフローチャネルデバイスが記載される。
図36に示すように、マイクロフローチャネルデバイスのチャネル(10)は、2つの液体試料入口(11aおよび12a)、液体試料入口(11aおよび12a)と合流チャネル(13)の間を各々連結するチャネル(11および12)、ならびに混合チャネル(14)を有する。合流チャネル13は、2つの液体試料入口からそれぞれ延長しているチャネル(11および12)が一緒になる部位である。混合チャネル14は、一緒になる液体試料を混合するためのチャネルである。混合チャネル14は、線状チャネルまたはベンドを有するチャネルであってよい。
図36に示すように、混合チャネル14では、溶液は大きい矢印によって示される流動方向に沿って移動し、ベンドを通して出口14cの方へ導かれる。混合チャネル14は、14aおよび14bによって表されるベンドの単一のまたは複数のセット(例えば、10~30セット、15~25セット、20セット)を有することができる。
図36では、14aはチャネルの幅が狭くなる領域を表し、14bは狭いチャネルが広がる領域を表す。
【0026】
脂質膜ベースの小胞で脂質膜を形成することができる脂質の例としては、リン脂質、糖脂質、ステロールおよび飽和または不飽和脂肪酸が挙げられる。脂質は、複数の脂質を含むことができる。
【0027】
リン脂質は、構造の中にリン酸エステルを有する脂質を指す。リン脂質は、細胞膜を構成することができるタイプのリン脂質であってよい。リン脂質の例としては、ホスファチジルコリン(例えば、ジオレオイルホスファチジルコリン、ジラウロイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン)、ホスファチジルグリセロール(例えば、ジオレオイルホスファチジルグリセロール、ジラウロイルホスファチジルグリセロール、ジミリストイルホスファチジルグリセロール、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、ジステアロイルホスファチジルグリセロール)、ホスファチジルエタノールアミン(例えば、ジラウロイルホスファチジルエタノールアミン、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジステアロイルホスファチジエタノールアミン)、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジン酸、カルジオリピン、スフィンゴミエリン、セラミドホスホリルエタノールアミン、セラミドホスホリルグリセロール、セラミドホスホリルグリセロールホスフェート、1,2-ジミリストイル-1,2-デオキシホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、ダイズホスファチジルコリン、プラスマロゲン、卵黄レシチン、ダイズレシチン、これらの水素化生成物、3β-[N-(N’-,N’-ジメチルアミノエタン)-カルバモイル]コレステロール(DC-コル)、1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)および1,2-二-O-オクタデセニル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTMA)が挙げられる。
【0028】
糖脂質は糖が結合している脂質を指す。糖脂質では、糖は脂質の末端に結合することができる。糖脂質の例としては、グリセロ糖脂質(例えば、スルホキシリボシルグリセリド、ジグリコシルジグリセリド、ジガラクトシルジグリセリド、ガラクトシルジグリセリド、グリコシルジグリセリド)およびグリコスフィンゴリピド(例えば、ガラクトシルセレブロシド、ラクトシルセレブロシド、ガングリオシド)が挙げられる。ステロールの例としては、動物由来のステロール(例えば、コレステロール、コハク酸コレステロール、コレスタノール、ラノステロール、ジヒドロラノステロール、デスモステロール、ジヒドロコレステロール)、植物由来のステロール(フィトステロール)(例えば、スチグマステロール、シトステロール、カンペステロール、ブラシカステロール)および微生物由来のステロール(例えば、チモステロール、エルゴステロール)が挙げられる。
【0029】
ステロールは、動物および植物界に存在するステロイドアルコールを指す。ステロールの例としては、動物由来のステロール(例えば、コレステロール、コハク酸コレステロール、コレスタノール、ラノステロール、ジヒドロラノステロール、デスモステロール、ジヒドロコレステロール)および植物由来のステロール(例えば、スチグマステロール、シトステロール、カンペステロール、ブラシカステロール)が挙げられる。チモステロールおよびエルゴステロール等の微生物由来のステロールもステロールに含まれる。
【0030】
ある実施態様では、脂質膜ベースの小胞を調製するために、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)、スフィンゴミエリン(SM)および1,2-ジミリストイル-sn-グリセロール、メトキシポリエチレングリコールの混合物を使用することができる。一実施態様では、アルキル化ポリアルギニンまたはS2ペプチド、例えばステアリル化オクタアルギニン(STR-R8)またはS2ペプチドが、さらに小胞に含まれてもよい。
【0031】
エタノール溶液は、その溶液が脂質構成成分を可溶化することができる限り、例えば、10V/V%~50V/V%または10V/V%~20V/V%のエタノール濃度を有することができる。
【0032】
ミトコンドリアとして、単離されたミトコンドリアを使用することができる。単離とは、細胞から何かを取り出すことを指す。ミトコンドリアとして、精製されたミトコンドリアを使用することができる。精製とは、単離の後に他の成分の少なくとも1つから成分を完全にまたは部分的に分離することを指す。精製されたミトコンドリアは既に単離されているので、単離されたミトコンドリアであってよい。本明細書では、単離されたミトコンドリアと呼ばれる単離されたミトコンドリアおよび精製されたミトコンドリアは、精製されたミトコンドリアと時には呼ばれる。
【0033】
ミトコンドリアは、水の剪断応力、例えばホモジナイゼーションによって細胞から単離することができる。ミトコンドリアは、凍結融解プロセスを繰り返すことによって細胞膜を破壊することによって細胞から単離することもできる。ミトコンドリアは、界面活性剤(臨界ミセル濃度以上の濃度)で細胞膜を破壊することによって細胞から単離することもできる。ミトコンドリアは、細胞を界面活性剤(臨界ミセル濃度未満の濃度)と接触させ、その後処理細胞を氷の上でインキュベートし、続いて場合により処理細胞に水の剪断応力を与えることによって細胞から細胞の外に単離することもできる。剪断応力は、例えば処理細胞を含有する溶液のピペッティングによって、好ましくはバブリングなしで処理細胞に提供することができる。界面活性剤によって取り出されるミトコンドリアの傷害は最小にすることができるので、単離のために臨界ミセル濃度未満の濃度を有する界面活性剤を有利に使用することができる。
【0034】
単離されたミトコンドリアは、遠心分離によって収集することができる。ミトコンドリアは、例えば数分(例えば、4分)間の500×gで実行される遠心分離プロセスによって、核等の細胞成分(例えば、高密度細胞成分)から分離することができる。したがって、ミトコンドリアは遠心分離プロセスの後に上清を回収することによって収集することができる。さらに、ミトコンドリアはさらに遠心分離して沈殿させることができる。この方法で、沈殿していない他の細胞成分(例えば、低密度細胞成分)からミトコンドリアを分離することができる。
【0035】
ミトコンドリアを含有する水溶液は、バッファー(例えば、ミトコンドリア保存バッファー)の中で維持することができる。維持は、4℃で実行することができる。使用することができるバッファーの例としては、生理的食塩水、Tris(トリス)バッファー、Hepesバッファーおよびリン酸緩衝液が挙げられる。バッファーは、張性剤を含むことができる。張性剤の例としては、スクロースなどの糖を挙げることができる。バッファーは、二価イオンキレート化剤、例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)およびグリコールエーテルジアミン四酢酸を含むことができる。バッファーは、生理的に許容される塩(例えば、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム)を含むことができる。
【0036】
ミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞は、ミトコンドリアを含む水溶液と、脂質膜を形成することができる脂質を含む有機相(例えば、エタノール溶液)とを、マイクロフローチャネルデバイスの合流チャネル中で互いに接触させてそれらを混合することによって得ることができる。このとき、本発明者らは、約1μmの粒径を有する単離されたミトコンドリアがマイクロフローチャネルデバイスに提供されると、1μmより実質的に小さい粒径を有するミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞を得ることができること;および小胞に含有されるミトコンドリアが細胞に導入される場合、細胞のミトコンドリア活性を向上させることができることを見出した。ミトコンドリアを内包している得られた脂質膜ベースの小胞は、単離されたミトコンドリアより小さいPDIを有し、オルガネラとしてのその単一分散は比較的高かった。したがって、本発明により、ミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞の集団を含む組成物(または製剤)を生成する方法が提供される。本発明により、ミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞の集団を含む組成物またはその集団を含むミトコンドリア製剤も提供される。小胞に内包されていない一群のミトコンドリアを含む組成物は、接触させる工程で脂質を含有しない有機相をミトコンドリアを含有する水溶液と接触させることによって得ることができる。内包されていないミトコンドリアを含むそのような組成物は、内包手順にさらにかけてミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞を形成することができる。
【0037】
マイクロフローチャネルデバイスの合流チャネルに導入されるミトコンドリアを含む水溶液および脂質膜を形成することができる脂質を含む有機相(例えば、エタノール溶液)の流速およびその流速比は、当業者が適切に決定することができる。
【0038】
一実施態様では、小胞に内包されないミトコンドリアの集団。一実施態様では、本発明は、小胞に内包されないミトコンドリアの集団を含む組成物または医薬組成物を提供する。好ましい実施態様では、ミトコンドリアの集団は、動的光散乱によって決定される、1μm未満、900nm以下、800nm以下、700nm以下、600nm以下、500nm以下、400nm以下または300nm以下にピークを有する粒径分布を有する。ミトコンドリアの集団のPDIは、0.5以下、0.4以下または0.3以下であってよい。集団は単分散であってよい。そのような集団は、マイクロ流体デバイスでiMITによって単離されたミトコンドリアをより小さいものに分割することによって得ることができる。小さいミトコンドリアは、分割された単離ミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞の調製において、さらに血管系でのいかなる閉塞も回避するために非経口経路での投与においても有益であると考えられている。したがって、医薬組成物は、非経口投与(例えば、静脈内、筋肉内、心室内、脳室内)のために、例えば分割された単離ミトコンドリアを脂質膜ベースの小胞に内包することによって製剤化することができる。一実施態様では、分割されたQは、数および/または密度において未分割のQと同等のクリステを有することができる。
【0039】
好ましい実施態様では、脂質膜ベースの小胞に内包されるミトコンドリアは、脂質膜構造(すなわち、小胞またはサック)に内包された後に分割することができる分割されたものであってよい。ミトコンドリアの分割は、脂質の存在下または不在下でマイクロ流体デバイスを使用して達成することができる。したがって、脂質膜ベースの小胞は分割されたミトコンドリアを内包することができ、それは集団のサイズ分布が1000nm未満、900nm以下、800nm以下、700nm以下、600nm以下、500nm以下、400nm以下または300nm以下のピークを有することができる。一実施態様では、分割されたミトコンドリアはミトコンドリアの中にクリステおよびマトリックスを有する。具体的な実施態様では、分割されたミトコンドリアは内膜の中がクリステで満たされる。本発明により、そのような分割されたミトコンドリアは膜電位を必ずしも有するとは限らないが、小胞を細胞に導入することによって細胞中のミトコンドリア呼吸を向上させることができる。一態様では、小胞内の分割された単離ミトコンドリアは、検出可能な膜電位を有することができない。ミトコンドリアの膜電位は、ミトコンドリア膜電位指示器を使用して検出することができる。
【0040】
一態様では、内包されたミトコンドリアの集団の50%以上、60%以上、70%以上、80%以上または90%以上は分割された単離ミトコンドリアからなる。
【0041】
一態様では、集団のミトコンドリアは、脂質膜ベースの小胞に内包することができる。一態様では、集団中のミトコンドリアの50%以上、60%以上、70%以上、80%以上または90%以上は脂質膜ベースの小胞に各々内包され、内包されたミトコンドリアは医薬組成物として製剤化することができる。
【0042】
本発明の一実施態様では、本発明のミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞の集団を含む組成物、またはこの集団を含むミトコンドリア製剤は、動的光散乱によって決定される、1μm未満、900nm以下、800nm以下、700nm以下、600nm以下、500nm以下、400nm以下または300nm以下にピークを有する粒径分布を有することができる。本発明のミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞の集団を含む組成物、またはこの集団を含むミトコンドリア製剤は、動的光散乱によって決定される、例えば200nm以上および500nm未満にピークを有する粒径分布を有することができる。
【0043】
本発明の一態様では、本発明のミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞の集団を含む組成物、またはこの集団を含むミトコンドリア製剤は、動的光散乱によって決定される、50nm~200nm、50nm~150nm、100nm~500nm、200nm~400nm、300nm~500nm、500nm~1500nm、600nm~1400nm、700nm~1300nm、800nm~1200nmまたは約1000nm(または、約1μm)にピークを有する粒径分布を有することができる。
【0044】
別の実施態様では、脂質膜ベースの小胞に内包されるミトコンドリアまたは分割されたミトコンドリアは、小胞の中で実質的な膜電位をそれ自体有しなくてもよく、実質的な呼吸能力を保っていなくてもよい。内包されたミトコンドリアまたは分割されたミトコンドリアが小胞の中で実質的な膜電位も実質的な呼吸能力も有しない場合でも、内包されたミトコンドリアまたは分割されたミトコンドリアは、ミトコンドリアDNA、コエンザイムQ10および他の成分等のそれらの構成成分を細胞ミトコンドリアへおそらく送達することができ、このように、成分を受け入れた細胞に有益である可能性がある。ミトコンドリアの膜電位または呼吸能力は、pH8~10または8~9等のより高いpH条件の下で低下する可能性がある。そのような内包されたミトコンドリアまたは分割されたミトコンドリアは、細胞への再導入後に膜電位または呼吸等のその生理機能を場合により示すかまたは回復することができる。
【0045】
ミトコンドリアから漏出したミトコンドリアDNAは、細胞機能に多少の負の影響を引き起こす。さらに、単離されたミトコンドリア中のミトコンドリアDNAは、特にミトコンドリア機能の欠陥を有する細胞においてミトコンドリア機能を向上させる。したがって、好ましい実施態様では、分割されたミトコンドリアはミトコンドリアの中にミトコンドリアDNAを維持することができる。単離されたミトコンドリアの中の非核酸成分は、細胞内ミトコンドリア機能を向上させる。したがって、好ましい実施態様では、分割されたミトコンドリアはミトコンドリアの中か上に非核酸成分を維持することができる。
【0046】
本発明のミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞の集団の粒径分布またはそのピークの上限は、供与源の役目をする細胞および細胞からのミトコンドリアの単離方法によって異なることができる。
【0047】
本発明のミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞の集団を含む組成物、またはこの集団を含むミトコンドリア製剤は、動的光散乱によって決定される、0.5以下、0.4以下または0.3以下の多分散指数(PDI)を有することができる。本発明のミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞の集団を含む組成物、またはこの集団を含むミトコンドリア製剤は、0.2~0.4のPDIを有することができる。
【0048】
本発明のミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞の集団を含む組成物、またはこの集団を含むミトコンドリア製剤は、正、ゼロまたは負のゼータ電位を有することができる。溶液中の小胞の分散性を向上させるために(溶液中の凝集を阻止するために)、ゼータ電位は正または負であってよい。小胞は、プラスのゼータ電位を有することができる。小胞が有するプラスのゼータ電位のために、細胞による取り込みを向上させることができる。本発明のミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞の集団を含む組成物、またはこの集団を含むミトコンドリア製剤は、例えば-10mV以下、-11mV以下、-12mV以下、-13mV以下、-14mV以下、-15mV以下、-16mV以下、-17mV以下、-18mV以下、-19mV以下、または-20mV以下のゼータ電位を有することができる。本発明のミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞の集団を含む組成物、またはこの集団を含むミトコンドリア製剤は、例えば10mV以上、11mV以上、12mV以上、13mV以上、14mV以上、15mV以上、16mV以上、17mV以上、18mV以上、19mV以上、または20mV以上のゼータ電位を有することができる。小胞集団がプラスのゼータ電位を有するために、脂質膜はプラスのゼータ電位を与えることができる材料(例えば、カチオン性脂質およびカチオン性部分を有する脂質(例えば、ステアリル化オクタアルギニンおよびS2ペプチド等のカチオン性部分を有する脂質)を含む電気的に中性な脂質で形成される脂質膜)で形成することができる。小胞集団がマイナスのゼータ電位を有するために、脂質膜はマイナスのゼータ電位を有する材料で形成することができる(例えば、アニオン性脂質で形成される脂質膜)。
【0049】
本発明のミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞の集団を含む組成物、またはこの集団を含むミトコンドリア製剤は、動的光散乱によって決定される、1μm未満にピークを有する粒径分布、0.5以下のPDIを有することができ、プラスのゼータ電位を有することができる。本発明のミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞の集団を含む組成物、またはこの集団を含むミトコンドリア製剤は、動的光散乱によって決定される、500nm未満にピークを有する粒径分布、0.5以下のPD1を有することができ、プラスのゼータ電位を有することができる。本発明のミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞の集団を含む組成物、またはこの集団を含むミトコンドリア製剤は、動的光散乱によって決定される、500nm未満にピークを有する粒径分布、0.5以下のPDIを有することができ、10mV以上のゼータ電位を有することができる。
【0050】
本発明のミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞の集団を含む組成物、またはこの集団を含むミトコンドリア製剤は、動的光散乱によって決定される、1μm未満にピークを有する粒径分布、0.5以下のPDIを有することができ、マイナスのゼータ電位を有することができる。本発明のミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞の集団を含む組成物、またはこの集団を含むミトコンドリア製剤は、動的光散乱によって決定される、500nm未満にピークを有する粒径分布、0.5以下のPDIを有することができ、マイナスのゼータ電位を有することができる。本発明のミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞の集団を含む組成物、またはこの集団を含むミトコンドリア製剤は、動的光散乱によって決定される、500nm未満にピークを有する粒径分布、0.5以下のPDIを有することができ、-10mV以下のゼータ電位を有することができる。
【0051】
本発明のミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞の集団を含む組成物、またはこの集団を含むミトコンドリア製剤は、動的光散乱によって決定される、500nm~1500nm(または約1μm)にピークを有する粒径分布を有することができ、プラスのゼータ電位を有することができる。本発明のミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞の集団を含む組成物、またはこの集団を含むミトコンドリア製剤は、動的光散乱によって決定される、500nm~1500nm(または約1μm)にピークを有する粒径分布、0.5以下のPDIを有することができ、プラスのゼータ電位を有することができる。本発明のミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞の集団を含む組成物、またはこの集団を含むミトコンドリア製剤は、動的光散乱によって決定される、500nm~1500nm(または約1μm)にピークを有する粒径分布、0.5以下のPDIを有することができ、10mV以上のゼータ電位を有することができる。
【0052】
本発明のミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞の集団を含む組成物、またはこの集団を含むミトコンドリア製剤は、動的光散乱によって決定される、500nm~1500nm(または約1μm)にピークを有する粒径分布を有することができ、マイナスのゼータ電位を有することができる。本発明のミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞の集団を含む組成物、またはこの集団を含むミトコンドリア製剤は、動的光散乱によって決定される、500nm~1500nm(または約1μm)にピークを有する粒径分布、0.5以下のPDIを有することができ、マイナスのゼータ電位を有することができる。本発明のミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞の集団を含む組成物、またはこの集団を含むミトコンドリア製剤は、動的光散乱によって決定される、500nm~1500nm(または約1μm)にピークを有する粒径分布、0.5以下のPDIを有することができ、-10mV以下のゼータ電位を有することができる。
【0053】
本発明のミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞の集団を含む組成物、またはこの集団を含むミトコンドリア製剤は、それが細胞に導入されるとき、ミトコンドリアを細胞質に放出し、細胞の中でミトコンドリア機能(例えば、呼吸活性)を向上させる。細胞の中のミトコンドリア機能の向上は、例えば、ミトコンドリアの酸素消費速度を測定することによって決定することができる。
【0054】
本発明のミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞の集団を含む組成物、またはこの集団を含むミトコンドリア製剤は、細胞に導入されると、ミトコンドリアを細胞質に放出し、それにより放出されたミトコンドリアが内因性のミトコンドリアと融合する。より具体的には、本発明のミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞の集団を含む組成物、またはこの集団を含むミトコンドリア製剤は、ミトコンドリアを脂質膜ベースの小胞の中に内包する。組成物または製剤は、細胞に組み込まれると、エンドソームに隔離される。ミトコンドリアはエンドソーム環境の中でさえ脂質膜によって保護され、その後エンドソームから排出することができる;より具体的には、エンドソームは小胞の脂質膜と融合されて脂質膜からミトコンドリアを排出する。この方法で、脂質膜の全部または一部から分離されるミトコンドリアは細胞質に放出することができる。脂質膜の全体または一部から分離されるミトコンドリアは、他のミトコンドリア(例えば、内因性ミトコンドリア)と接触させること、およびそれらと融合することができる。細胞中のミトコンドリアの融合は、細胞中のミトコンドリアおよび小胞に内包されるミトコンドリアを異なる蛍光性色素(波長によって識別可能な)で別々に標識し、それらが細胞中に共存するかどうか検査することによって確認することができる。
【0055】
本発明のミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞の集団を含む組成物、またはこの集団を含むミトコンドリア製剤では、小胞の内部および外部環境は脂質膜によって物理的、生化学的および/または生理的に分離される。より具体的には、小胞は、内部と外部の領域の間の物質の自由な輸送を阻害する障壁の役目をする脂質膜で形成される閉鎖空間を有する。脂質膜ベースの小胞の中のミトコンドリアの内包は、脂質膜ベースの小胞の中の中空空間の像をネガティブ染色法および電子顕微鏡で観察すること;ならびにミトコンドリアおよび脂質膜を異なる蛍光性色素(波長によって識別可能な)で別々に標識し、顕微鏡で観察したときにそれらが共存するかどうか検査することによって確認することができる。
【0056】
本発明のミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞の集団を含む組成物、またはこの集団を含むミトコンドリア製剤は、ミトコンドリアを内包する。ミトコンドリアは細胞の中で、または呼吸鎖複合体の基質の存在下で呼吸活性を有することができる。本発明のミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞の集団を含む組成物、またはこの集団を含むミトコンドリア製剤は、細胞中の低下したミトコンドリア機能を向上させるために使用することができる。本発明のミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞の集団を含む組成物、またはこの集団を含むミトコンドリア製剤は、例えば低下したミトコンドリア機能を有する組織に投与することができる。本発明のミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞の集団を含む組成物、またはこの集団を含むミトコンドリア製剤は、例えば、心筋梗塞によって傷害を受けた組織に投与することができる。本発明のミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞の集団を含む組成物、またはこの集団を含むミトコンドリア製剤は、例えば、ミトコンドリアの機能障害を有する対象に投与することができる。ミトコンドリアの機能障害の例としては、神経変性障害および神経精神障害が挙げられる。
【0057】
本発明のミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞の集団を含む組成物、またはこの集団を含むミトコンドリア製剤は、小胞の有効量を含むことができる。有効量は、小胞が細胞に導入されるときに細胞のミトコンドリア機能を向上させるのに十分な量を指す。
【0058】
本発明のミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞の集団を含む組成物、またはこの集団を含むミトコンドリア製剤は、冷凍状態で提供することができる。冷凍状態にある本発明のミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞の集団を含む組成物、またはこの集団を含むミトコンドリア製剤は、凍結保護物質(例えば、グリセロール)をさらに含むことができる。
【0059】
本発明のミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞の集団を含む組成物、またはこの集団を含むミトコンドリア製剤は、1日以上、2日以上、3日以上、4日以上、5日以上、6日以上、1週間以上の間4℃で保存することができる。保存された組成物は、組成物と接触する細胞の中の細胞内ミトコンドリアを向上させるように使用することができる。
【0060】
本発明により、ミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞の集団を含む組成物またはこの集団を含むミトコンドリア製剤を生成する方法であって、
単離されたミトコンドリアを含む水性バッファーおよび脂質膜を形成することができる脂質を含む有機相を、マイクロフローチャネルデバイスの合流チャネル中で互いに接触させてそれらを混合することを含む方法が提供される。
【0061】
後に実行される透析によってそれを除去することができる限り、有機相は特に限定されない;例えば、エタノール溶液を指摘することができる。
【0062】
本発明の方法では、マイクロフローチャネルデバイスは、合流チャネルの中で互いと接触する溶液の混合を容易にするための、少なくとも1つの屈曲を有するチャネルを有することができる。本発明の方法では、マイクロフローチャネルデバイスは、合流チャネル中で互いに接触する溶液の混合を容易にするためのフローチャネルを含み、フローチャネルはバッフル構築物を有する。
【0063】
本発明の方法は、得られた混合物(ミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞を含む溶液)からエタノールを除去することをさらに含むことができる。エタノールの除去は、得られた混合物を外部の溶液としてミトコンドリアを保存するバッファーを使用した透析に供することによって実行することができる。
【0064】
本発明の方法は、薬学的に許容される賦形剤(例えば、バッファー、張性剤、安定剤、分散剤、塩および凍結保護物質)を、ミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞を含む溶液(バッファー溶液)に加えることをさらに含むことができる。
【0065】
本発明の方法では、単離されたミトコンドリアは、電位依存性色素(例えば、ミトコンドリア膜電位指示薬)で染色することができる。本発明で使用することができるミトコンドリア膜電位指示薬の例としては、テトラメチルローダミンメチルエステル(TMRM)、テトラメチルローダミンエチルエステル(TMRE)、3,3’-ジヘキシルオキサカルボシアニンヨウ化物(DiOC6)、6-アミノ-9-(2-メトキシカルボニルフェニル)キサンテン-3-イリデン)アザニウム塩化物(ローダミン123)、および5,5’,6,6’-テトラクロロ-1,1’,3,3’-テトラエチルベンズイミダゾリルカルボシアニンヨウ化物(JC-1)が挙げられる。JC-1は膜電位依存的にミトコンドリアに蓄積され、高い濃度で会合を形成し、緑色から赤色に変化する。TMRMおよびTMREの各々は、膜電位依存的にミトコンドリアに蓄積され、高い濃度で高い蛍光強度を示す。本発明では、例えば、TMREを使用することができる。したがって、ミトコンドリア膜電位指示薬を使用する場合、その蛍光強度はミトコンドリア膜電位の大きさを反映する。蛍光強度と膜電位の間の関係は、事前に準備された較正曲線に基づいて決定することができる。この方法で、ミトコンドリアを内包している脂質膜をベースにした小胞が機能的ミトコンドリアを内包するかどうかについて容易に評価することができる。
【0066】
一実施態様では、本開示は、「界面活性剤法およびホモジナイゼーションフリー(DHF)」法または代わりに「iMIT」法とここで呼ばれる、新規の方法によって単離されたミトコンドリアを提供する。本明細書に記載される通り、iMIT法によって単離されるミトコンドリアは傷害を受けず(例えば、内膜および外膜の完全性を保持する)、機能的能力(例えば、膜電位)を維持する。iMIT法によって得られるミトコンドリアは、本明細書において「Q」ミトコンドリアと呼ばれる。これらのミトコンドリアは、本明細書に記載されるものを含む様々な疾患および障害のために、例えばミトコンドリアの移植による処置で使用するのに好適である。ミトコンドリアの移植は、様々な疾患および障害で有用であると予想される処置である。ミトコンドリア機能を回復および/または増強するために、ミトコンドリアがひどく機能不全である細胞および/または高度に機能的なミトコンドリアの流入が利益である細胞に、外因性ミトコンドリア(例えば、Qミトコンドリア)が内在化される。
【0067】
ある実施態様では、本開示は、溶液中の細胞を臨界ミセル濃度(CMC)未満の濃度の界面活性剤で処理し、処理された細胞を含有する溶液から界面活性剤を除去し、界面活性剤処理細胞を次にインキュベートしてミトコンドリアを溶液中に回収し、それによって細胞からミトコンドリアを回収することによって細胞からミトコンドリアを回収または単離する方法を提供する。本方法は、「iMIT」と本明細書で呼ばれる。したがって、本明細書では、iMIT、細胞からミトコンドリアを得る方法であって、以下を含む方法が提供される:
(A)第1の溶液中の細胞を臨界ミセル濃度(CMC)未満の濃度の界面活性剤で処理すること、
(B)第1の溶液から界面活性剤を除去して第2の溶液を形成すること、および
(C)第2の溶液中の界面活性剤処理細胞をインキュベートして第2の溶液中のミトコンドリアを回収すること。上の(A)から(C)および本方法の追加の構成が下で記載される。
【0068】
本開示の方法により、それらの細胞質にミトコンドリアを有する細胞は、溶液中で臨界ミセル濃度未満の濃度の界面活性剤で処理される。したがって、ある実施態様では、細胞膜は構造強度が弱体化されるが、界面活性剤の低い濃度のために浸透化まではなされず、ミトコンドリア膜はほとんど界面活性剤に曝露させられず、無傷のままである。ある実施態様では、細胞膜は部分的に浸透化されることがあるが、ミトコンドリア膜は界面活性剤の低い濃度のためにほとんど界面活性剤に曝露させられず、無傷のままである。
【0069】
ある実施態様では、(A)の溶液はバッファーを含むことができる。ここで提供される方法で使用するための例示的なバッファーとしては、例えば、Trisバッファー、HEPESバッファーおよびリン酸緩衝液が挙げられる。バッファーは、例えばpH6.7~7.6(例えばpH6.8~7.4、pH7.0~7.4、例えばpH7.2~7.4、例えばpH7.4)であってよい。ある実施態様では、バッファーは張性剤および浸透圧調節剤を含むことができる。例示的な張性剤および浸透圧調節剤としては、単糖(例えば、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、イノシトール、リボース、キシロース等)、二糖(例えば、ラクトース、スクロース、セロビオース、トレハロース、麦芽糖等)、三糖(例えば、ラフィノース、メレシノース(melesinose)等)、多糖(例えば、シクロデキストリン等)、糖アルコール(例えば、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、マルチトール等)、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール等が挙げられる。バッファーは、キレート剤、特に二価金属のためのキレート剤、例えばカルシウムイオンのためのキレート剤を含有することもできる。キレート剤としては、例えば、グリコールエーテルジアミン四酢酸(EGTA)およびエチレンジアミン四酢酸(EDTA)が挙げられる。
【0070】
ある実施態様では、バッファーはスクロースおよびキレーターを含むTrisバッファーであってよく、pHは6.7~7.6(例えばpH6.8~7.4、pH7.0~7.4、例えばpH7.2~7.4、例えばpH7.4)である。ある実施態様では、Trisバッファーはジギトニンまたはサポニン、またはここで提供される別の界面活性剤を含むことができる。ある実施態様では、ジギトニンまたはサポニンまたは他の界面活性剤は、臨界ミセル濃度の20%以下、15%以下、14%以下、13%以下、12%以下、11%以下、または10%以下の濃度を有することができる。ある実施態様では、ジギトニンは、400μM以下、350μM以下、200μM以下、150μM以下、100μM以下、90μM以下、80μM以下、70μM以下、60μM以下、50μM以下、40μM以下または30μM以下の濃度で(例えば、30μMの濃度で)使用することができる。ある実施態様では、サポニンは、400μM以下、350μM以下、200μM以下、150μM以下、100μM以下、90μM以下、80μM以下、70μM以下、60μM以下、50μM以下、40μM以下、または30μM以下の濃度で(例えば、30μMの濃度で)使用することができる。
【0071】
ある実施態様では、ここで提供される方法で使用される界面活性剤は、イオン性または非イオン性の界面活性剤であってよい。本発明で使用される非イオン性界面活性剤には、例えば、エステル、エーテルおよびアルキルグリコシド形を含めることができる。非イオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルおよびアルキルグリコシドが挙げられる。非イオン性界面活性剤には、Triton-X 100、Triton-X 114、Nonidet P-40、n-ドデシル-D-マルトシド、Tween-20、Tween-80、サポニンおよび/またはジギトニンを含めることができる。処理工程(A)では、Triton-X 100、サポニンおよびジギトニンからなる群から選択される界面活性剤の少なくとも1つが使用される。ある実施態様では、界面活性剤はサポニンまたはジギトニンである。
【0072】
ある実施態様では、処理工程(A)は、細胞を臨界ミセル濃度未満の濃度の界面活性剤で処理することを含む。工程(A)での細胞の処理時間は、例えば、1~30分、例えば1~10分、または例えば1~5分、例えば2~4分、例えば3分であってよい。(A)での細胞の処理は、氷上で、4℃で、または室温で、またはその間の温度で実行することができる。
【0073】
ある実施態様では、処理工程(A)における界面活性剤の濃度は、臨界ミセル濃度未満の濃度、例えば、臨界ミセル濃度の90%以下、80%以下、70%以下、60%以下、50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、15%以下、14%以下、13%以下、12%以下、11%以下、10%以下、例えば5~15%、例えば8~12%、例えば10%であってよい。
【0074】
ある実施態様では、処理工程(A)は、細胞の前処理である。理論に束縛されることを望まないが、臨界ミセル濃度未満の界面活性剤による細胞の処理は、細胞膜の強度を低減することができると;および/または細胞内ミトコンドリアへの界面活性剤法の影響を部分的にもしくは完全に排除すると考えられている。
【0075】
したがって、ミトコンドリアへの界面活性剤の影響を最小にすることを考慮すれば、細胞からのミトコンドリアの回収の間および後に、少なくともいずれかの工程(例えば、工程(B)~(E)の各々)でミトコンドリアが接触する溶液中の界面活性剤の濃度は、臨界ミセル濃度未満、例えば、臨界ミセル濃度の10%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、または1%以下未満であってよいか;または検出限界未満であってよい。ミトコンドリアへの界面活性剤の影響を最小にすることを考慮すれば、好ましくは、細胞からのミトコンドリアの回収の間および後に、ミトコンドリアが接触する溶液に界面活性剤を加えるべきでない。
【0076】
ある実施態様では、細胞は組織中に存在する細胞の形であってよいか、またはそれらは組織から単離されるか(例えば、単一の細胞)もしくはその集団であってよい。組織から単離される細胞は、培養細胞であってよいか、またはそれらを単一の細胞にするために使用されたコラゲナーゼ等の酵素による組織もしくは培養細胞の処理によって得られる単一の細胞もしくはその集団であってよい。組織は、所望により、コラゲナーゼ等の酵素処理の前に細断されてもよい。
【0077】
ある実施態様では、ミトコンドリアと接触している界面活性剤の濃度を低減するかまたはミトコンドリアと接触している界面活性剤を十分に低減するために、ミトコンドリアが(A)で界面活性剤処理細胞から回収される前に、界面活性剤を溶液から除去することができる。
【0078】
除去工程(B)では、界面活性剤の除去は、例えば、バッファーをより低いか低減された濃度の界面活性剤を含有する溶液(好ましくは無界面活性剤溶液)(例えば、バッファー)と置き換えるか、またはバッファーにその溶液を加えることによって実行することができる。界面活性剤処理細胞が接着細胞である場合、界面活性剤を含有するバッファーは、溶液を吸引し、必要な場合細胞をより低いか低減された濃度の界面活性剤を含有する溶液(好ましくは無界面活性剤溶液)(例えば、バッファー)で水洗し、および、より低いか低減された濃度の界面活性剤を含有する溶液(好ましくは無界面活性剤溶液)(例えば、バッファー)を加えることによって除去することができる。界面活性剤処理細胞が浮遊細胞である場合、細胞を遠心分離し、上清を除去し、必要な場合細胞をより低いか低減された濃度の界面活性剤を含有する溶液(好ましくは無界面活性剤溶液)(例えば、バッファー)で水洗し、および、より低いか低減された濃度の界面活性剤を含有する溶液(好ましくは無界面活性剤溶液)(例えば、バッファー)を加えることによって界面活性剤を除去することが可能である。
【0079】
除去とは、例えば、界面活性剤の濃度の10%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、または1%以下未満;またはミトコンドリアが接触する溶液中の検出限界未満を含めて、ミトコンドリアが接触する溶液中の界面活性剤の濃度を少なくとも減少させることを意味する。溶液からの界面活性剤の除去を確実にするために、(B)は、細胞をより低いか低減された濃度の界面活性剤を含有する溶液(好ましくは無界面活性剤溶液)(例えば、バッファー)で洗浄することを含むことができる。
【0080】
(B)では、溶液から界面活性剤を除去するために、溶液に加えられるかまたはそれと交換される溶液は、好ましくはバッファーであってよく、上の(A)に記載されるバッファーであってもよい(しかし、より低い濃度の界面活性剤を含有する溶液、好ましくは界面活性剤を含まないかまたは検出不能レベルの界面活性剤を含む溶液)。
【0081】
(A)で処理された細胞は低減された原形質膜強度を有し、単に溶液中でそれらをインキュベートすることによってミトコンドリアが細胞内部から細胞外領域に放出されることを可能にすることができる。しかし、(C)の前の工程ではミトコンドリアに接触する界面活性剤の量は少なく、ミトコンドリアへの界面活性剤の影響は限定的であり、したがって、ミトコンドリア膜の強度の低下も限定的であり、および/またはミトコンドリア膜は無傷のままである。
【0082】
ある実施態様では、本方法は、細胞を単に第2の溶液中に静置させることによって、第2の溶液中に放出されるミトコンドリアを得ることを含む。
【0083】
したがって、本発明では、細胞内部から細胞外領域にミトコンドリアを放出するために、界面活性剤処理細胞を溶液中でインキュベートすることができる。(C)の「放出する」という用語は、ミトコンドリアが細胞の内部から原形質膜によって囲まれる領域の外側(例えば、溶液側または細胞の外側)に脱出することを意味する。
【0084】
(C)でインキュベートするのに使用するための溶液(「第2の溶液」)は、より低い濃度の界面活性剤を含有する溶液であってよい。好ましいある実施態様では、第2の溶液は無界面活性剤溶液、または無視できる量および/または検出不能である量の界面活性剤を含む溶液である。(C)でインキュベートするのに使用するための溶液は、例えば上の(A)に記載されているバッファーであってよく、およびバッファー(上の(A)に記載されているものより低い濃度の界面活性剤を含む)(好ましくは無界面活性剤溶液)であってよい。(C)で使用される溶液は、例えばバッファー、浸透圧調節剤および二価金属キレーターを含み、界面活性剤を実質的に含まない溶液であってよい。本明細書で使用される「実質的に含まない」は、除去することも検出することもできない「実質的に含まれない成分」の量の混入の存在を排除しないという意味で使用される。
【0085】
(C)では、インキュベーションは、例えば1~30分、例えば5~25分、または例えば5~20分、例えば5~15分、例えば10分であってよい。(C)での細胞の処理は、氷上で、または室温で、またはそれらの間の温度で実行することができる。
【0086】
(C)では、細胞からのミトコンドリアの回収を増強するために、ミトコンドリアの脂質二重層が機械的破壊を引き起こさないように物理的刺激を加えることができる。したがって、(C)では、例えば、インキュベーションは振盪条件下または非振盪条件下で実行することができる。(C)では、例えば、インキュベーションは撹拌条件下または非撹拌条件下で実行することができる。(C)では、界面活性剤処理は、細胞が接着表面から脱離するのをより容易にし、したがって、前記のような軽い水流による接着表面からの細胞の脱離は、分極比に負の影響を及ぼすことはないようである。あるいは、(C)では、インキュベーションは細胞が脱離しない程度に実行することができる。
【0087】
(C)では、溶液で回収されるミトコンドリアは、単離されたミトコンドリアの集団として様々な適用で使用することができる。ある実施態様では、本開示はここで提供される方法によってもたらされる、「Q」ミトコンドリアとここで呼ばれるミトコンドリアの集団を提供する。ある実施態様では、本開示はここで提供される方法によってもたらされる、個々のミトコンドリア(すなわち、個々のQ)を提供する。
【0088】
ある実施態様では、ここで提供される方法は、(D)溶液中で回収されたミトコンドリアを精製することをさらに含む。ミトコンドリアは、遠心分離によって1つまたは複数の他の細胞構成成分から分離することができる。例えば、ミトコンドリアは、(C)で回収されるミトコンドリア集団の、ミトコンドリア集団に含有される脱離した細胞等の混入物を沈殿させるための1500g以下、1000g以下または500g以下での遠心分離によって上清として精製することができる。ミトコンドリアは、好ましくは例えば500gの遠心分離によって上清として精製することができる。ミトコンドリアは、生じた上清を富化等のためにさらなる遠心分離(例えば、8000g~12000g)にかけることによって沈殿物として回収することもできる。本明細書で使用される用語「精製された」は、ミトコンドリアが操作によって溶液中の他の構成成分の少なくとも1つから分離されることを意味する。
【0089】
上の(C)および/または(D)で得られるミトコンドリア集団は、様々な適用で単離されたミトコンドリア集団として使用することができる。
【0090】
本発明の方法は、(E)ミトコンドリアを冷凍することをさらに含むことができる。冷凍は、冷凍のためのバッファーにミトコンドリアを軽く懸濁させることによって実行することができる。冷凍のためのバッファーは(A)に記載のバッファーであってもよいが界面活性剤を含まず、凍結保護物質をさらに含むことができる。例示的な凍結保護物質は当技術分野で公知であり、例としては、グリセロール、スクロース、トレハロース、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチルグリコール、トリエチレングリコール、グリセロール-3-リン酸、プロリン、ソルビトール、ホルムアミドおよびポリマーが挙げられる。したがって、本明細書で提供されるミトコンドリアは、冷凍によって保存することができる。本開示の方法では、低温保存が必要でないならばミトコンドリアは冷凍されず、例えば、ミトコンドリアは新たに単離されたときに使用することができる。他のある実施態様では、ミトコンドリアは約4℃±3℃でまたは氷上で保存することができる。ある実施態様では、ここで提供される方法によって生成されるここで提供されるミトコンドリアは、液体窒素中で約-80℃±3℃以下、約-20℃±3℃以下、または約4℃±3℃で保存することができる。ある実施態様では、ミトコンドリアは数日間、数週間または数カ月間以上保存することができ、解凍後も機能する能力を保持する。
【0091】
ある実施態様では、ここで提供される方法は、ここで規定される通りに単離され、その後冷凍されたミトコンドリアを解凍する方法をさらに含む。ここで提供されるミトコンドリアを解凍する方法は、約20℃±3℃以下の温度でミトコンドリアを解凍すること、およびミトコンドリアを急速に、例えば約5分、約4分、約3分、約2分または約1分以内に解凍することを含む。ある実施態様では、ミトコンドリアの急速な解凍は、ミトコンドリアによる本明細書に記載される機能的能力の保持をもたらす。
【0092】
ある実施態様では、ここで提供される方法は、ミトコンドリア膜が破壊されるような方法で細胞からミトコンドリアを回収する全過程で、細胞膜を破壊する方法を含まない。例えば、ここで提供される方法では、細胞からミトコンドリアを回収する過程で細胞はホモジナイゼーションによって破壊されない。すなわち、ある実施態様では、ここで提供される方法は、ホモジナイゼーションを含まない;ある実施態様では、本方法はホモジナイゼーションを含むが、ホモジナイゼーションはそれがいかなる気泡も引き起こさないか細胞もしくは組織と比較して溶液に気泡を引き起こさない程度で実行されるだけである。ある実施態様では、本方法は、細胞の凍結融解も含まない。細胞の反復凍結融解は原形質膜を破壊してその内容物を回収するのに好適であり、細胞からミトコンドリアを回収するために使用することができるが、得られるミトコンドリアの膜電位は維持されないので(ミトコンドリア膜電位が維持される本開示の方法と対照的に)、凍結融解はミトコンドリア脂質二重層も破壊すると考えられている。
【0093】
ある実施態様では、本開示の方法は、細胞からミトコンドリアを回収する全過程で、細胞膜を破壊する他の方法(例えば、超音波処理、溶液が気泡を引き起こす程度のまたは溶液が泡立つ程度の強力な水流による処理)を含まない。ある実施態様では、本開示の方法は、物理的、化学的または生理的傷害をミトコンドリアに実質的に引き起こすかもしれないいかなるプロセスも実行することなく実行されるが、保存のために凍結融解周期をミトコンドリアに適用することができる。したがって、本発明の方法は、最小限の傷害でミトコンドリアを得ることが可能である。
【0094】
本発明の方法は、細胞から回収されるミトコンドリアを精製するのに1つまたは複数の濾過工程を必要としない。
【0095】
ある実施態様では、ここで提供される方法は、ミトコンドリアがなお細胞中にある間に、ミトコンドリアを損傷せずに微小管系からミトコンドリアを静かに分離する。インキュベーション期間の間、ミトコンドリア表面からの微小管の脱離のために形状が非糸状になったミトコンドリアは、界面活性剤処理細胞膜を通って細胞から脱出することができる。したがって、開示の方法を通して細胞から得られるミトコンドリアは、ミトコンドリア膜を破ることおよび引き裂くことなしに、さもなければミトコンドリアの構造を損傷させずに得られる。したがって、ここで提供される単離されたミトコンドリアおよびその集団は、単離の後に機能を維持することが可能であり、疾患状態の処置で使用するのに以前に記載されたいかなる単離されたミトコンドリアよりも非常に好適である。
【0096】
したがって、ここで提供される方法は、ミトコンドリアを単離するための従来の方法と重要な点で異なり、従来の方法または以前に開示されたいかなる他の方法によって単離されるミトコンドリアと比較して、意外で有利な機能を有する単離されたか得られたミトコンドリアを提供する。
【0097】
好ましい実施態様では、ミトコンドリアは心臓細胞、筋細胞、心筋細胞、心臓前駆細胞、心臓幹細胞、HUVEC細胞およびHeLa細胞等の細胞系から単離することができる。
【0098】
本開示は、単離されたか得られたか処理されたミトコンドリアの集団を提供し、ここで集団中のミトコンドリアは優れた機能的能力を示す。例えば、一態様では、本開示は単離されたミトコンドリアの集団であって、集団中のミトコンドリアのうち少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%または少なくとも約95%は無傷の内膜および外膜を有し;および/または集団中のミトコンドリアのうち少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%または少なくとも約95%は、蛍光指示薬によって測定すると分極化している、単離されたミトコンドリアの集団を提供する。ある実施態様では、蛍光指示薬は正荷電色素、例えばJC-1、テトラメチルローダミンメチルエステル(TMRM)およびテトラメチルローダミンエチルエステル(TMRE)からなる群から選択される。
【0099】
ある実施態様では、単離されたか得られたミトコンドリアの集団の少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%以上は、蛍光指示薬によって測定すると分極化している。ある実施態様では、蛍光指示薬は、ミトコンドリア膜電位を測定するのに好適であることが当業者に公知である任意の蛍光指示薬であってよい。ある実施態様では、蛍光指示薬はJC-1、TMRMおよびTMREからなる群から選択される。ある実施態様では、細胞外環境は約4mg/dL~約12mg/dLまたは約1mmol/L(1000μM)~約3mmol/L(3000μM)の全カルシウム濃度を含むことができる。例えば、ある実施態様では、細胞外環境は約8mg/dL~約12mg/dLまたは約2mmol/L(2000μM)~約3mmol/L(3000μM)の全カルシウム濃度を含む。ある実施態様では、細胞外環境は約4mg/dL~約6mg/dLまたは約1mmol/L(1000μM)~約1.5mmol/L(1500μM)の遊離または活性カルシウムの濃度を含む。ある実施態様では、ミトコンドリアの集団は、細胞中のカルシウム環境と比較してより高いカルシウム濃度を有する環境の中で機能的能力を維持する。
【0100】
ある実施態様では、単離されたミトコンドリアの集団であって、集団中のミトコンドリアの少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、または少なくとも約95%がダイナミン関連タンパク質1(drp1)依存性分裂を経ていない集団が本明細書で提供される。ある実施態様では、内膜および外膜を有する単離されたミトコンドリアの集団であって、ミトコンドリアの内膜は高密度に折りたたまれたクリステを含む、単離されたミトコンドリアの集団がある実施態様において提供される。
【0101】
ある実施態様では、集団中のミトコンドリアのうち少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%または少なくとも約95%は、実質的に非糸状の、非分枝状の構造または形状を有する、単離されたミトコンドリアの集団がある実施態様において提供される。例えば、ある実施態様では、ここで提供されるミトコンドリアは、顕微鏡下で見たとき円形、点状、球状、不規則形および/またはわずかに伸長した形、またはその任意の混合の外観である。ある実施態様では、集団におけるミトコンドリアのうち少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%または少なくとも約95%が、4:1以下、3.5:1以下または3:1以下の長径対短径比を有する。ある実施態様では、ここで提供されるミトコンドリアの集団中の単離されたミトコンドリアのうち、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%または少なくとも約95%は、ミトコンドリアの流体力学的直径の2倍または3倍より短い長さを有する。このように、ここで提供される単離されたミトコンドリアは、細胞の中にあるほとんどのミトコンドリアの形状(糸状)と比較した場合、著しく異なる形状(非糸状)を有する。したがって、ある実施態様では、ここで提供されるミトコンドリアの集団は、集団中のミトコンドリアのうち少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%または少なくとも約95%は形状が非糸状であるという点で、細胞中に存在して単離されていないミトコンドリアと異なる形状を有する。ある実施態様では、ここで提供される単離されたミトコンドリアの集団は、ミトコンドリア会合膜(MAM;mitochondria-associated membrane)との会合の減少を示す。ある実施態様では、MAMとの会合は、グルコース調節タンパク質75(GRP75)の発現によって測定される。ある実施態様では、ここで提供される単離されたミトコンドリアの集団は、細胞中のミトコンドリアと、ならびに/またはある実施態様においてさらに記載される通り従来の単離方法、例えば、ホモジナイゼーションおよび/もしくは高レベルの界面活性剤法を含む方法によって得られたミトコンドリアと比較した場合、約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、約60%、約50%、約40%、約30%またはそれ以下のMAMとの会合を示す。ある実施態様では、ここで提供される単離されたミトコンドリアの集団は、MAMとの会合の減少を示し、減少は、細胞中のミトコンドリア、または従来の単離方法によって単離されたミトコンドリアの、MAMとの会合と比較して、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%またはそれ以上である。
【0102】
ある実施態様では、ここで提供される単離されたミトコンドリアの集団は、サイズが約500nm~約3500nmである。ある実施態様では、集団中のミトコンドリアのうち少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%または少なくとも約99%は、サイズが約500nm~約3500nmである。ある実施態様では、集団中のミトコンドリアの平均サイズは、約500nm、約600nm、約700nm、約800nm、約900nm、約1000nm、約1100nm、約1200nm、約1300nm、約1400nm、約1500nm、約1600nm、約1700nm、約1800nm、約1900nm、約2000nm、約2100nm、約2200nm、約2300nm、約2400nm、約2500nm、約2600nm、約2700nm、約2800nm、約2900nm、約3000nm、約3100nm、約3200nm、約3300nm、約3400nmまたは約3500nmである。ある実施態様では、単離されたミトコンドリアの集団の多分散指数(PDI)は約0.2~約0.8である。ある実施態様では、単離されたミトコンドリアの集団のPDIは約0.2~約0.5である。ある実施態様では、単離されたミトコンドリアの集団のPDIは約0.25~約0.35である。ある実施態様では、ミトコンドリアの集団のゼータ電位は約-15mV~約-40mVである。ある実施態様では、ミトコンドリアの集団のゼータ電位は約-20mV、約-25mV、約-30mV、約-35mVまたは約-40mVである。
【0103】
ある実施態様では、ここで提供される単離されたミトコンドリアの集団は、単離されたミトコンドリアの集団が細胞の集団と接触すると、細胞への組込み、および/または細胞中の内在性ミトコンドリアとの共局在が可能である。例えば、ある実施態様では、本開示は、細胞からミトコンドリアを得、その後細胞(例えば、ex vivoまたはin vivoの細胞)の集団を単離したミトコンドリアの集団と接触させる方法を提供する。そのようなある実施態様では、ここで記載されるiMIT法を通して単離される、ここで提供されるミトコンドリアは、細胞に存在する内在性ミトコンドリアと共局在することが可能である。ある実施態様では、ここで提供されるミトコンドリアは、それらが接触した細胞に存在するミトコンドリアと融合することがさらに可能である。ある実施態様では、単離されたミトコンドリアの集団のかなりの割合は、細胞中の内因性ミトコンドリアとの共存および/または融合が可能である。例えば、ある実施態様では、集団中のミトコンドリアのうち少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%または少なくとも約95%は、細胞中の内在性ミトコンドリアとの共局在および/または融合が可能である。したがって、ここで提供されるミトコンドリアは、それらが細胞中の内在性ミトコンドリアとの共局在および/または融合が可能であるという点で、従来の方法を通して単離されるミトコンドリアと著しく異なる。
【0104】
ある実施態様では、ここで提供される単離されたミトコンドリアは、約4℃での保存の後に安定し、および/または分極化しており、および/または膜電位を維持し、および/または無傷の内膜および外膜を維持し、および/または細胞外環境への曝露の後に(例えば、約4mg/dL~約12mg/dLの全カルシウム濃度への曝露の後に)機能する能力を維持する。例えば、ある実施態様では、集団中のミトコンドリアのうち少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%または少なくとも約95%は、約4℃での保存の後に、安定し、および/または分極化しており、および/または膜電位を維持し、および/または無傷の内膜および外膜を維持し、および/または細胞外環境への曝露の後に(例えば、約4mg/dL~約12mg/dLの全カルシウム濃度への曝露の後に)機能する能力を維持する。ある実施態様では、ここで提供される単離されたミトコンドリアは、約-20℃以下で保存の後に、安定し、および/または分極化しており、および/または膜電位を維持し、および/または無傷の内膜および外膜を維持し、および/または細胞外環境への曝露の後に(例えば、約4mg/dL~約12mg/dLの全カルシウム濃度への曝露の後に)機能する能力を維持する。例えば、ある実施態様では、集団中のミトコンドリアのうち少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%または少なくとも約95%は、約-20℃での保存の後に安定であり、および/または分極化しており、および/または膜電位を維持し、および/または無傷の内膜および外膜を維持し、および/または細胞外環境への曝露の後に(例えば、約4mg/dL~約12mg/dLの全カルシウム濃度への曝露の後に)機能する能力を維持する。ある実施態様では、ここで提供される単離されたミトコンドリアは、約-80℃以下で保存の後に、安定し、および/または分極化しており、および/または膜電位を維持し、および/または無傷の内膜および外膜を維持し、および/または細胞外環境への曝露の後に(例えば、約4mg/dL~約12mg/dLの全カルシウム濃度への曝露の後に)機能する能力を維持する。例えば、ある実施態様では、集団中のミトコンドリアのうち少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%または少なくとも約95%は、約-80℃で保存の後に安定であり、および/または分極化しており、および/または膜電位を維持し、および/または無傷の内膜および外膜を維持し、および/または細胞外環境への曝露の後に(例えば、約4mg/dL~約12mg/dLの全カルシウム濃度への曝露の後に)機能する能力を維持する。ある実施態様では、ここで提供される単離されたミトコンドリアは、液体窒素中で保存の後に安定し、および/または分極化しており、および/または膜電位を維持し、および/または無傷の内膜および外膜を維持し、および/または細胞外環境への曝露の後に(例えば、約4mg/dL~約12mg/dLの全カルシウム濃度への曝露の後に)機能する能力を維持する。例えば、ある実施態様では、集団中のミトコンドリアのうち少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%または少なくとも約95%は、液体窒素中で保存の後に安定であり、および/または分極化しており、および/または膜電位を維持し、および/または無傷の内膜および外膜を維持し、および/または細胞外環境への曝露の後に(例えば、約4mg/dL~約12mg/dLの全カルシウム濃度への曝露の後に)機能する能力を維持する。
【0105】
ある実施態様では、保存は少なくとも約2時間、少なくとも約6時間、少なくとも約12時間、少なくとも約24時間、少なくとも約48時間、少なくとも約1週間、少なくとも約2週間、少なくとも約3週間、少なくとも約1カ月、少なくとも約2カ月、少なくとも約3カ月、またはそれより長い。したがって、ある実施態様では、ここで提供される単離されたミトコンドリアは、少なくとも新たに単離されるとき、および保存の後でさえもそれらが機能的能力を維持するという点で、従来の方法を通して単離されるミトコンドリアと著しく異なる。
【0106】
ある実施態様では、ここで提供される単離されたミトコンドリアは、ミトコンドリアの集団を保存のために冷凍し、その後解凍した後に、安定でありおよび/または分極化され、および/または膜電位を維持し、および/またはインタクトな内膜および外膜を維持し、および/または細胞外環境への曝露の後に(例えば、約4mg/dL~約12mg/dLの全カルシウム濃度への曝露の後に)機能する能力を維持する。ある実施態様では、冷凍しその後解凍した後に、膜電位の維持率は、冷凍前のミトコンドリアの膜電位に対して約90%である。例えば、ある実施態様では、冷凍、解凍したミトコンドリアの集団の分極比は、冷凍前のその集団の分極比の約90%である。ある実施態様では、集団中のミトコンドリアの少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%または少なくとも約95%は、保存のために冷凍しその後解凍した後に、例えば、保存のために冷凍しその後1回、2回、3回またはそれより多く解凍した後に、安定でありおよび/または分極化され、および/または膜電位を維持し、および/またはインタクトな内膜および外膜を維持し、および/または細胞外環境への曝露の後に(例えば、約4mg/dL~約12mg/dLの全カルシウム濃度への曝露の後に)機能する能力を維持する。したがって、ある実施態様では、ここで提供される単離されたミトコンドリアは、少なくとも保存のために冷凍しその後解凍した場合でさえもそれらが機能的能力を維持するという点で、従来の方法を通して単離されるミトコンドリアと著しく異なる。
【0107】
ある実施態様では、ここで提供される単離されたミトコンドリアの集団は、ここで提供されるいずれかの温度での(例えば、4℃±3℃、-20℃±3℃、-80℃±3℃、または液体窒素中での)ミトコンドリアの保存の後に、細胞に組み込むこと、ならびに/または細胞中の内在性ミトコンドリアとの共局在および/もしくは融合が可能である。例えば、ある実施態様では、集団中のミトコンドリアのうち少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%または少なくとも約95%は、ミトコンドリアが保存された後、および/または1つまたは複数の凍結融解サイクルを受けた後に、細胞に組み込むこと、ならびに/または細胞中の内在性ミトコンドリアとの共局在および/もしくは融合が可能である。ある実施態様では、ここで提供される単離されたミトコンドリアの集団を保存して解凍する方法は、集団を約-20℃±3℃、約-80℃±3℃、またはそれより低い温度で(例えば、液体窒素中で)保存し、その後ミトコンドリアを約20℃±3℃またはそれより低い温度で解凍することを含み、ミトコンドリアは約5分以内、約4分以内、約3分以内、約2分以内または約1分以内に解凍される。特定のある実施態様では、ミトコンドリアの集団は約1分以内に解凍される。したがって、ある実施態様では、ここで提供されるミトコンドリアは、少なくともそれらを細胞に組み込むこと、ならびに/または細胞中の内在性ミトコンドリアとの共局在および/もしくは融合が可能であり、一方、従来の方法によって単離されるミトコンドリアは細胞に組み込むこと、ならびに/または細胞中の内在性ミトコンドリアと共局在および/もしくは融合することが不可能であるかまたはその能力が大きく低減している点で、従来の方法を通して単離されるミトコンドリアと著しく異なる。ある実施態様では、共局在する単離されたミトコンドリアは、糸状の構造、ネットワーク構造および/または網状構造を形成することができる。
【0108】
ある実施態様では、本開示は、ここで提供される単離されたミトコンドリアを含む組成物を提供する。組成物は、ある実施態様では、1つまたは複数の薬学的に許容される担体をさらに含む。
【0109】
ある実施態様では、本開示は、ミトコンドリアを細胞から単離する方法であって、従来公知である方法と異なり、ここで提供される優れた機能および他の特徴を有するミトコンドリアをもたらす方法を提供する。ある実施態様では、ミトコンドリアを細胞から単離する方法は、第1の溶液中の細胞を界面活性剤の臨界ミセル濃度(CMC)未満の濃度の界面活性剤で処理すること、界面活性剤を除去して第2の溶液を形成すること、第2の溶液中の細胞をインキュベートすること、および第2の溶液からミトコンドリアを回収することを含む。ある実施態様では、第1の溶液中の界面活性剤の濃度は、界面活性剤のCMCの約50%以下である。例えば、ある実施態様では、第1の溶液中の界面活性剤の濃度は、界面活性剤のCMCの約40%以下、約30%以下、約20%以下、または約10%以下である。
【0110】
ある実施態様では、界面活性剤は非イオン性界面活性剤である。ある実施態様では、界面活性剤はTriton-X 100、Triton-X 114、Nonidet P-40、n-ドデシル-D-マルトシド、Tween-20、Tween-80、サポニンおよびジギトニンからなる群から選択される。ある実施態様では、界面活性剤はサポニンまたはジギトニンである。ある実施態様では、界面活性剤の濃度は約400μM未満である。例えば、ある実施態様では、第1の溶液中の界面活性剤の濃度は、約300μM未満、約200μM未満、約100μM未満または約50μM未満である。ある実施態様では、第1の溶液中の界面活性剤の濃度は、約100μM、約75μM、約60μM、約50μM、約40μM、約30μMまたは約20μMである。ある実施態様では、第1の溶液中の界面活性剤の濃度は、約20μM~約50μMまたは約30μM~約40μMである。
【0111】
ある実施態様では、第1の溶液は、張性剤、浸透圧調節剤またはキレート剤の1つまたは複数を含むバッファーをさらに含む。ある実施態様では、第1の溶液はTrisバッファー、スクロースおよびキレーターを含む。
【0112】
ある実施態様では、低濃度の界面活性剤(例えば、界面活性剤のCMC未満)を含む第1の溶液中の細胞を処理するステップは、第1の溶液中の細胞を室温で約2分~約30分間インキュベートすることを含む。例えば、ある実施態様では、第1の溶液中の細胞を処理するステップは、第1の溶液中の細胞を約2、約5、約10、約15、約20、約25または約30分間インキュベートすることを含む。インキュベーションは、約4℃~約37℃の温度で実行することができる。
【0113】
ある実施態様では、界面活性剤を除去するステップは、溶液中の界面活性剤を第1の溶液中の界面活性剤濃度の10%未満へ、または第1の溶液中の界面活性剤濃度の1%未満へ減少させることを含む。ある実施態様では、界面活性剤を除去するステップは、細胞をバッファーで洗浄することを含む。
【0114】
ある実施態様では、第2の溶液をインキュベートするステップは、第2の溶液中の細胞を約5分~約30分間インキュベートすることを含む。例えば、ある実施態様では、第2の溶液中の細胞をインキュベートするステップは、第2の溶液中の細胞を約5、約10、約15、約20、約25または約30分間インキュベートすることを含む。ある実施態様では、第2の溶液中の細胞をインキュベートするステップは、約4℃±3℃の温度でまたは氷上で実行される。
【0115】
ある実施態様では、第2の溶液からミトコンドリアを回収するステップは、上清を収集して単離されたミトコンドリアを回収することを含む。ある実施態様では、第2の溶液からミトコンドリアを回収するステップは、第2の溶液を遠心分離し、遠心分離後に上清を回収して単離されたミトコンドリアを回収することを含む。
【0116】
ある実施態様では、iMITは培養表面に付着している細胞の上で実行することができる。ある実施態様では、iMITは、細胞を表面から切り離すことなく培養表面に付着している細胞の上で実行することができる。ある実施態様では、第2の溶液からミトコンドリアを回収するステップは、上清を回収して単離されたミトコンドリアを回収することを含み、その後必要に応じて培養表面の残りの細胞を第2の溶液または別の第2の溶液で洗浄してそれを上清と合わせることができる。
【0117】
ある実施態様では、ここで提供される方法は、単離されたミトコンドリアを冷凍することをさらに含む。ある実施態様では、本方法は、ミトコンドリアを、凍結保護物質(例えば、グリセロール)を含むバッファーの中で冷凍することを含む。ある実施態様では、本方法は、ミトコンドリアを液体窒素中のバッファーの中で冷凍することを含む。ある実施態様では、本方法は、冷凍後にミトコンドリアを解凍することをさらに含む。ある実施態様では、ミトコンドリアを解凍する方法は、ミトコンドリアを速やかに、例えば約5分以内に、または約1分以内に解凍することを含む。ある実施態様では、ミトコンドリアは約20℃±3℃~約37℃±3℃の温度を有する温浴中で解凍される。ある実施態様では、ミトコンドリアは約20℃±3℃またはそれ以下の温度で解凍される。
【0118】
ある実施態様では、本開示はここで提供される方法によって得られる単離されたミトコンドリアの集団を提供する。ある実施態様では、ここで提供される方法は「iMIT」方法であり、この方法によって得られるミトコンドリアは本明細書において「Q」ミトコンドリアと呼ばれる。ある実施態様では、本開示は、ここで提供される方法によって得られる単離されたミトコンドリアの集団を含む組成物および/または製剤を提供する。
【0119】
ある実施態様では、本開示は、ミトコンドリア機能障害と関連した疾患または障害を治療または予防する方法であって、対象の細胞を、ここで提供される単離されたミトコンドリア、例えばQミトコンドリアの集団と接触させることを含む方法を提供する。ある実施態様では、疾患または障害は、虚血関連の疾患または障害である。例えば、ある実施態様では、虚血関連の疾患または障害は、脳虚血再かん流、低酸素性虚血性脳症、急性冠動脈症候群、心筋梗塞、肝臓虚血-再かん流損傷、虚血性損傷-コンパートメント症候群、血管遮断、創傷治癒、脊髄損傷、鎌形赤血球疾患および移植臓器の再かん流損傷からなる群から選択される。ある実施態様では、疾患または障害は遺伝子障害である。ある実施態様では、疾患または障害は、がん、心血管疾患、目の障害、耳の障害、自己免疫性疾患、炎症性疾患または線維性障害である。ある実施態様では、疾患は急性呼吸窮迫症候群(ARDS)である。ある実施態様では、疾患または障害は加齢性疾患もしくは障害、または加齢関連の状態である。ある実施態様では、疾患または障害は、子癇前症または子宮内胎児発育遅延(IUGR)である。
【0120】
ある実施態様では、本開示は、ここで規定される疾患または障害を治療または予防する方法であって、それを必要とする対象に単離されたミトコンドリアの集団または組成物を投与することを含む方法を提供する。ある実施態様では、単離されたミトコンドリアの投与経路は、静脈内、動脈内、気管内、皮下、筋肉内、吸入または肺内の投与経路によるものである。ある実施態様では、対象は哺乳動物、例えばヒトである。
【0121】
ある実施態様では、本開示は、無傷の内膜および外膜を有する単離されたミトコンドリアであって、内膜は折りたたまれたクリステを含み、ミトコンドリアは細胞から単離され、ミトコンドリアは蛍光指示薬(例えば、JC-1、TMRMまたはTMRE)によって測定すると分極化しており、ミトコンドリアは細胞外環境で分極を維持することが可能である、単離されたミトコンドリアを提供する。ある実施態様では、折りたたまれたクリステは高密度に折りたたまれたクリステである。ある実施態様では、ミトコンドリアは実質的に非糸状の形状を有する。ある実施態様では、ミトコンドリアはその表面でチューブリンと会合している電位依存性アニオンチャネル(VDAC)を含む。例えば、ある実施態様では、単離されたミトコンドリアは、表面のVDACと会合している二量体チューブリンを含む。ある実施態様では、チューブリンは少なくともα-チューブリンを含む。ある実施態様では、チューブリンは、α-チューブリンおよびβ-チューブリンを含むヘテロダイマーである。ある実施態様では、チューブリンはホモダイマーである。ある実施態様では、単離されたミトコンドリアは、GRP75発現によって測定するとMAMとの会合の減少を示す。例えば、ある実施態様では、単離されたミトコンドリアは、細胞中に存在する(すなわち、単離されていない)ミトコンドリア、ならびに/または本明細書にさらに記載される通り従来の単離方法、例えば、ホモジナイゼーションおよび/もしくは高レベルの界面活性剤法を含む方法によって得られたミトコンドリアと比較した場合、約70%、約60%、約50%、約40%、約30%またはそれ以下のMAMとの会合を示す。ある実施態様では、ここで提供される単離されたミトコンドリアは、MAMとの会合の減少を示し、ここで減少は、細胞中に存在する(すなわち、単離されていない)ミトコンドリア、および従来の単離方法によって単離されたミトコンドリアのMAMとの会合と比較して、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%またはそれ以上である。
【0122】
ある実施態様では、ここで提供される単離されたミトコンドリアは、約-30mV~約-220mVの膜電位を有する。ある実施態様では、単離されたミトコンドリアは形状が非糸状である。ある実施態様では、単離されたミトコンドリアはdrp1依存性分裂を経ていない。ある実施態様では、単離されたミトコンドリアはサイズが約500nm~3500nmである。例えば、ある実施態様では、単離されたミトコンドリアは、サイズが約500、約600、約700、約800nm、約900nm、約1000nm、約1100nm、約1200nm、約1500nm、約2000nm、約2500nm、約3000nmまたは約3500nmである。
【0123】
ある実施態様では、本開示はここで提供される方法によって得られる単離されたミトコンドリアを提供する。ある実施態様では、本開示は、ここで提供される単離されたミトコンドリアを含む組成物および製剤を提供する。
【0124】
好ましい実施態様では、ミトコンドリアはMITO-細胞から単離することができる。MITO-細胞は、細胞をMITO-Porterと接触させることによって活性化された細胞である(参照により本明細書に完全に組み込まれる、WO2018/092839を参照する)。MITO-Porterはリポソームの中にミトコンドリア活性化剤を含み、それは、ミトコンドリア標的化シグナル分子、例えばアルキル化された生理的に許容されるポリカチオン、例えばポリアルギニンもしくはS2ペプチド、またはポリアルギニンもしくはS2ペプチド等のポリカチオンにコンジュゲートした脂質を場合により提供する(参照により本明細書に完全に組み込まれる、W02017/090763およびWO2018/092839を参照する)。ミトコンドリア活性化剤の例としては、レスベラトロール(3,5,4’-トリヒドロキシ-トランス-スチルベン)、コエンザイムQ10、ビタミンC、ビタミンE、N-アセチルシステイン、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル(TEMPO)、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)およびグルタチオン等の抗酸化剤が挙げられ、特に、レスベラトロールが好ましい(WO2018/092839を参照する)。レスベラトロールは、NAD+依存性ヒストン脱アセチル化酵素活性を有する酵素のファミリーであるサーチュインファミリーのSIRT1を活性化することができることが報告されている。レスベラトロールはサーチュイン-AMPK-PPAR-PGC-1α複合体をコーム(corm)してFOXO1の転写を促進することができ、ミトコンドリアの生物発生をもたらす。ミトコンドリア活性化剤を含有するMITO-Porterで処理された細胞であるMITO-細胞は、抗酸化剤等のミトコンドリア活性化剤のために活性化呼吸活性および呼吸複合体活性を有する。サーチュイン-AMPK-PPAR-PGC-1α軸シグナル誘導ミトコンドリア生物発生は、NAD+からのe-の流入による酸化的リン酸化反応の増加を受け入れるために、クリステの融合および分裂をさらに活性化することも報告されている。クリステ融合はクリステの高密度化を引き起こし、ミトコンドリアの中のミトコンドリア指示薬の蛍光の大幅な増加をもたらす。したがって、理論的には、MITO-Porterによって活性化されたMITO-細胞から単離されたQ(「スーパーQ」とも呼ばれる)は、未処理の細胞からのQより高い密度のクリステ、レスベラトロール等のMITO-Porterに含まれる抗酸化剤、より多くの核内包体、およびより活性化されたSIRT3-AMPK-PPAR-PGC1α複合体または活性化SIRT1-AMPK-PPAR-PGC-1α、ならびに、複合体の活性化のために未処理の細胞からのQより多くの転写物を有することができる。したがって、内包されたスーパーQは、細胞内ミトコンドリア活性化の後の内包されたQより強力な作用を示すことができると考えられている。
【0125】
一実施態様では、本発明は、スーパーQまたはMITO-Porterで処理された細胞から単離されるミトコンドリアを提供する。一実施態様では、スーパーQはiMIT方法によって単離することができる。一実施態様では、スーパーQおよび内包されたスーパーQは、レスベラトロール等のMITO-Porterを使用して組み込まれたミトコンドリア活性化剤を含有することができる。一実施態様では、スーパーQおよび内包されたスーパーQは、未処理細胞から単離されるQおよび内包されたQより多くのミトコンドリア活性化剤を含有することができる。
【0126】
一態様では、本開示は、ここで提供される方法を使用して細胞から単離され、その結果高度に機能的であるミトコンドリアの集団を提供する。上記のように、ここで提供される新規単離方法は、「DHF」法または「iMIT」法と互換的に呼ばれる;DHFまたはiMIT法によって得られるミトコンドリアは、本明細書において「Q」ミトコンドリアと呼ばれる。Qミトコンドリアは、ミトコンドリアが従来の方法を通して単離される場合に起こる破壊および膜破壊を免れ、したがって、従来の方法を通して単離されるミトコンドリアより構造的および機能的に優れている。
【0127】
ある実施態様では、本開示は単離されたか得られたミトコンドリアの集団を提供し、集団は高い割合の分極化ミトコンドリアを含有する(すなわち、集団は高い分極比を有する)。したがって、ここで提供されるミトコンドリアの集団は、膜電位を有するミトコンドリアの高い割合を含む。ある実施態様では、本開示はミトコンドリアの集団を提供し、集団中の高い割合のミトコンドリアは無傷の内膜および外膜を有する。ある実施態様では、無傷の内膜および外膜の存在は、ミトコンドリアの機能的活性、例えば、膜電位および分極によって決定することができる。
【0128】
本明細書で提供されるミトコンドリアの集団は、したがって、従来の方法、例えば、前記のように、ホモジナイゼーションおよび/または細胞の凍結融解および/または高濃度の界面活性剤法もしくは界面活性剤を含む方法を使用して細胞から得られるミトコンドリア集団より優れている。例えば、従来の方法を通して細胞から単離されるミトコンドリアは、単離プロセスによって必然的に傷害を受け、機能的能力を失う。したがって、本開示は、従来の方法によって得られたミトコンドリアの集団より高い分極比および/またはより高い%分極、および/またはより高い%の無傷の内膜および外膜を有するミトコンドリアを有する単離されたミトコンドリアの集団を提供する。
【0129】
ある実施態様では、単離されたか得られたミトコンドリアの集団の分極比は、例えば、40%以上、45%以上、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、または85%以上であってよい。
【0130】
ある実施態様では、単離されたか得られたミトコンドリアの集団の少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%以上は、蛍光指示薬によって測定すると分極化している。ある実施態様では、蛍光指示薬は、ミトコンドリア膜電位を測定するのに好適であることが当業者に公知である任意の蛍光指示薬であってよい。ある実施態様では、蛍光指示薬はJC-1、TMRMおよびTMREからなる群から選択される。
【0131】
ある実施態様では、単離されたか得られたミトコンドリアの集団の少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%またはそれ以上は、無傷の内膜および外膜を有する。ある実施態様では、単離されたか得られたミトコンドリアの集団の少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%またはそれ以上は、内膜中に高密度に折りたたまれたクリステを有する。例えば、ある実施態様では、Qミトコンドリアのクリステ構造は、細胞中の、すなわち細胞から単離されていないミトコンドリアのクリステ構造のそれに似ている。本明細書で使用される用語「高密度に折りたたまれたクリステ」は、ミトコンドリアが高密度で存在するクリステ、すなわち高度に折りたたまれたクリステを含むことを意味する。クリステの密度は、顕微鏡検査(例えば、共焦顕微鏡検査を含む透過電子または光学式顕微鏡検査)を使用して調査することができる。ある実施態様では、ミトコンドリア中のクリステ密度は、平方マイクロメートルあたりのクリステひだの数によって測定することができ、それはひだの数を数えることによって手動で、および/または自動化ソフトウェアプログラムによって決定することができる。ある実施態様では、「高密度のクリステ」、「高密度に折りたたまれたクリステ」等は、平方マイクロメートルにつき少なくとも約3、少なくとも約4、少なくとも約5、少なくとも約6、少なくとも約7、少なくとも約8またはそれ以上のクリステ(すなわち、クリステひだ)を意味する。あるいは、またはさらに、ミトコンドリア中のクリステ密度は、ミトコンドリアの容量あたりのクリステ表面積によって測定することができる。したがってある実施態様では、「高密度のクリステ」、「高密度に折りたたまれたクリステ」等は、ミトコンドリアの容量あたりのクリステ表面積(μm2μm-3)が、少なくとも約20、少なくとも約25、少なくとも約30、少なくとも約35、少なくとも約40またはそれより大きいことを意味する。クリステ密度を決定する方法は、当技術分野で公知である(例えば、Segawa等、「Quantification of cristae architecture reveals time dependent characteristics of individual mitochondria」Life Science Alliance第3巻7号、2020年6月;およびNielsen等、The Journal of Physiology 595.9(2017)2839~47頁を参照する)。ある実施態様では、ここで提供されるミトコンドリアの集団中のミトコンドリアの少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、またはそれ以上は、平方マイクロメートルにつき少なくとも約3、少なくとも約4、少なくとも約5、少なくとも約6、少なくとも約7、少なくとも約8、またはそれ以上のクリステを有し;および/またはミトコンドリアの容量につき少なくとも約20のクリステ表面積(μm2μm-3)、少なくとも約25μm2μm-3、少なくとも約30μm2μm-3、少なくとも約35μm2μm-3、少なくとも約40μm2μm-3またはそれ以上を有する。ある実施態様では、ここで提供される単離されたミトコンドリアは、単離されたミトコンドリアが得られた細胞型でのミトコンドリアのクリステ密度と同等のおよび/またはそれより有意に低くない平均的なまたは代表的なクリステ密度を有する。ある実施態様では、ここで提供されるミトコンドリア集団中のミトコンドリアのうち少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%またはそれ以上は、単離されたミトコンドリアが得られた細胞型でのミトコンドリアの平均的なまたは代表的なクリステ密度と同等のおよび/またはそれより有意に低くないクリステ密度を示す。
【0132】
ある実施態様では、ここで提供される単離されたミトコンドリアの集団は、高カルシウム(Ca2+)環境に曝露させた場合でも機能的能力を維持する意外な機能を有する。ある実施態様では、ここで提供される単離されたミトコンドリアの集団は、ここで提供される単離方法のために、細胞外環境において機能的能力を維持する。ある実施態様では、単離されたか得られたミトコンドリアの集団の少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%またはそれ以上は、細胞外環境で機能的能力を維持する。ある実施態様では、細胞外環境は約6mg/dL~約14mg/dL、または約8mg/dL~約12mg/dLの全カルシウム濃度を含む。ある実施態様では、細胞外環境は約3mg/dL~約8mg/dL、または約4mg/dL~約6mg/dLの遊離/活性カルシウムの濃度を含む。したがって、ある実施態様では、ここで提供されるQミトコンドリアは、最小限であるか無視できる損傷で細胞環境から単離されるという注目に値する特徴を有し、細胞外環境、例えば、さもなければミトコンドリアへの損傷を引き起こし、および/またはそれらの機能的能力を有意に阻害することが予想される冨カルシウム環境に曝露させられる場合でも機能する能力を保持する。
【0133】
理論に束縛されることを望まないが、一部のある実施態様では、細胞外環境で機能的能力を維持するここで提供される単離されたか得られたミトコンドリアの能力は、一部または全体的に、チューブリンとミトコンドリア表面の電位依存性アニオンチャネル(VDAC)との会合によるものである。例えば、ある実施態様では、ここで提供されるiMIT単離プロセスの間、チューブリンはミトコンドリアの表面で全てのまたはかなりの数のVDACと会合することができ、そのため、冨カルシウム環境(例えば、約3mg/dL~約14mg/dLのカルシウムまたはそれより多くを含む細胞外環境)でさえミトコンドリアは機能を維持することが可能である。ある実施態様では、チューブリンと単離されたミトコンドリアの表面のVDACとの会合は、ミトコンドリアの表面でチューブリンの存在を例えば染色によって検出することによって決定することができる。
【0134】
理論に束縛されることを望まないが、一部のある実施態様では、ここで提供される単離されたQミトコンドリアは、全体的にまたは一部iMIT単離の間のQミトコンドリア外膜におけるコレステロール、エルゴステロールおよび/または関連分子の減損のために、細胞外環境において機能的能力を維持することが可能である。すなわち、コレステロール(VDAC構造を安定させる)は、単離手順の間に少量の界面活性剤がミトコンドリア膜と接触するためにある程度減損してもよく、一部または全ての機能を失ったVDACを表面に有する単離されたミトコンドリアをもたらし、そのため、ミトコンドリアは細胞外カルシウム濃度(例えば、約3mg/dL~約14mg/dLのカルシウムまたはそれより多くを含む細胞外環境)に耐性になる。したがって、ある実施態様では、ここで提供される単離されたミトコンドリアは、非常に低いレベルのステロール濃度をミトコンドリア膜に含む。
【0135】
ある実施態様では、単離されたか得られたミトコンドリアの集団は、細胞中のミトコンドリアおよび/または従来の方法、例えば細胞のホモジナイゼーションおよび/もしくは細胞の凍結融解を含む方法を使用して単離されたか得られたミトコンドリアと比較して、MAM(mitochondria-associated membrane;ミトコンドリア会合膜)との会合の減少をさらに示す。ある実施態様では、減少したMAMとの会合は、ミトコンドリアの表面でのグルコース調節タンパク質GRP75の発現によって測定される。
【0136】
ある実施態様では、単離されたミトコンドリアは形状が実質的に非糸状である。「非糸状」は、「非ネットワーク様」等と互換的に使用することができ、ミトコンドリアが細胞中に存在するミトコンドリアの分枝状および網状のネットワークを示さないことを意味する。ある実施態様では、糸状か、ネットワーク化されたか、または分枝状の構造を有するよりも、ここで提供されるミトコンドリアは、顕微鏡下で見たとき、円形、球状、不規則形および/またはわずかに伸長した形、またはその任意の混合の外観である。より低い拡大率では、単離されたミトコンドリアは点状構造のように見える。対照的に、より低い拡大率では、細胞中のミトコンドリアの非常に細長いネットワーク状または分枝状の構造は可視的である。ある実施態様では、単離されたか得られたミトコンドリアの集団の少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%またはそれ以上は、4:1以下、3.5:1以下または3:1以下の長径対短径比を有する。理論に束縛されることを望まないが、本明細書で提供される方法を通して単離されるミトコンドリアの形状は、ミトコンドリアが単離前の細胞中になおある間の、微小管への運動タンパク質による連結の穏やかな除去からもたらされる。すなわち、ミトコンドリアが細胞の微小管にもはや連結されていないと、それらは、代わりに本明細書に記載される非糸状の形状を形成するために細胞中で有していた、非常に細長く、分枝状/ネットワーク化された形状を失う。
【0137】
ある実施態様では、ここで提供されるミトコンドリア集団中の単離されたミトコンドリアのうち少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、または少なくとも約95%は、ミトコンドリアの流体力学的直径の2倍より短い長さを有する。ある実施態様では、流体力学的直径は約1μmであり、ここで提供されるミトコンドリア集団中の単離されたミトコンドリアのうち少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、または少なくとも約95%は、主軸の長さが2μm以下、1.9μm以下、1.8μm以下、1.7μm以下、1.6μm以下、1.5μm以下、1.4μm以下、または1.3μm以下の長さを有する。ある実施態様では、流体力学的直径は動的光散乱法(DLS)によって測定される。ある実施態様では、流体力学的直径は中位径D50である。
【0138】
一般に細胞では、ミトコンドリアは前記のように形状が非常に細長いか、または糸状の分枝状構造の形である。非糸状で細長くないミトコンドリアは、一般的にdrp1依存性分割またはdrp1依存性分裂が起こっているときに細胞に存在するだけである。ミトコンドリア分裂のこの過程では、小胞体との相互作用がミトコンドリアの最初の狭窄を引き起こす。Drp1タンパク質がミトコンドリアに動員されてその表面に集合し、さらなる狭窄を引き起こす。膜切断の最終段階を実行するためにDYN2が動員される。生じたミトコンドリアは、形状が一般的に球状であってよい。細胞中では、そのような球状ミトコンドリアは、細長くなるか、またはより一般的な枝様構造を形成する前の限定的な期間、球状の形状を保持することができる。対照的に、iMIT法を使用して単離されるミトコンドリアは、Drp1媒介分裂を受けることなしに形状が非糸状である。さらに、細胞のホモジナイゼーションを含む方法等の従来の方法によって単離されるミトコンドリアは、形状が非糸状であり、ほとんど円形または球状であるミトコンドリアを産するが、その理由は、それらが傷害を受けており、さもなければそれらに細長い形状を維持させる細胞中の微小管から引き裂かれているからである。このような方法で単離されるミトコンドリアと対照的に、本明細書で提供されるiMIT法によって単離されるミトコンドリアは、微小管からの有害な除去を受けておらず、drp1媒介分裂を受けていない。したがって、本開示のミトコンドリアは、細胞中の天然のミトコンドリアおよび、より伝統的な方法によって単離されるミトコンドリアと異なる。例えば、ある実施態様では、iMIT法を通して得られるここで提供されるミトコンドリアは、形状が実質的に非糸状であるが、drp1分裂を受けずに、高度に機能的な状態(例えば、分極)、高密度に折りたたまれたクリステを含む無傷の内膜および外膜構造を同時に示す。
【0139】
ある実施態様では、ここで提供されるQミトコンドリアは、細胞または細胞の集団と接触させると、細胞中の内在性ミトコンドリアとの共局在という意外な機能を示す。Qミトコンドリアは、従来の方法を通して単離されるミトコンドリアと比較して、大いにより高い程度で内在性ミトコンドリアと共局在する。ある実施態様では、ここで提供されるQミトコンドリアは、細胞または細胞の集団と接触させると、細胞中の内在性ミトコンドリアと融合する。単離されたQミトコンドリアの融合は、従来の方法で単離されるミトコンドリアとは明らかな差であり、それより有利である。ある実施態様では、ミトコンドリアは保存の後でさえこの能力を保持する。したがって、ある実施態様では、ここで提供されるQミトコンドリアは、少なくともそれらが細胞中の内在性ミトコンドリアとの共局在および/または融合がより効率的であるという点で、従来通りに単離されるミトコンドリアより優れており、したがって、本明細書に記載されるもの等の任意の疾患または障害を処置するために使用するとき、優れた臨床効果を示す。これは、ここで提供されるQミトコンドリアが、従来通りに単離されるミトコンドリアと比較してより頑強でほぼ無傷の外膜を有することを示唆しているのかもしれない。
【0140】
ある実施態様では、本開示はここで提供される方法によって単離されるか得られるミトコンドリアの集団を提供する。例えば、本開示は、ここで上に記載されるiMIT法の工程(A)~(C)を含む方法によって単離されるか得られるミトコンドリアの集団を提供する。ある実施態様では、本開示は、ここで上に記載される(A)~(E)の工程を含む方法によって単離されるか得られるミトコンドリアの集団を提供する。
【0141】
本開示により、本発明の単離されたミトコンドリアの集団を含む組成物が提供される。本開示により、本発明の単離されたミトコンドリアの集団を含むミトコンドリア製剤が提供される。本発明の単離されたミトコンドリアの集団を含む組成物は、バッファーをさらに含むことができる。本発明の単離されたミトコンドリアの集団を含むミトコンドリア製剤は薬学的に許容され、薬学的に許容される追加の構成成分、例えば賦形剤をさらに含むことができる。本開示の単離されたミトコンドリアの集団、またはそれを含有する組成物もしくはミトコンドリア製剤は、蛍光発色細胞選別(FACS)等のフローサイトメーターによる細胞選別を使うことなく、分離プロセスの間に得ることができる。したがって、本発明の単離されたミトコンドリアの集団、またはそれを含有する組成物もしくはミトコンドリア製剤は、蛍光色素および蛍光プローブ(ならびに非蛍光性ミトコンドリア染色剤およびプローブ)を含有しない。ある実施態様では、組成物は医薬組成物である。Qのこれらの機能の全ては、スーパーQの調製で実行することができる。
【0142】
ある実施態様では、界面活性剤処理は10℃未満、9℃、8℃、7℃、6℃、5℃または4℃で、好ましくは約0℃~約4℃の温度で、または氷上で(試料が凍結しない限り)実行することができる。ある実施態様では、単離手順の全ては約0℃から室温の間の温度で、好ましくは10℃未満、9℃、8℃、7℃、6℃、5℃または4℃、好ましくは約4℃で、または氷上で実行することができる。
【0143】
本開示は、ここで提供される方法によってそのミトコンドリアが活性化された細胞から単離されるかまたは得られるミトコンドリアの集団を提供する。ミトコンドリアの活性化は様々な方法によって、例えばミトコンドリアをミトコンドリア活性化剤と接触させることによって達成することができる。ミトコンドリアのそのような活性化は、MITO-Porter技術を含む様々な方法によって達成することができる。MITO-Porter技術は、ミトコンドリア標的化担体およびミトコンドリア活性化剤の複合体を使用することができる。ミトコンドリア標的化担体およびミトコンドリア活性化剤の複合体では、ミトコンドリア標的化担体はミトコンドリア活性化剤に、場合によりリンカーを通して共有結合または非共有結合で連結することができる。複合体では、MTSペプチド、ポリカチオン、オクタアルギニンおよびS2ペプチド等のミトコンドリア標的化担体は、リポソームなどの脂質膜ベースの小胞の表面に提示される脂質または疎水性の部分(例えば、炭化水素)に疎水性相互作用を通して共有結合することができる。一態様では、小胞の形のミトコンドリア標的化担体は、ミトコンドリア活性化剤を内包または含有することができる。ある実施態様では、活性化ミトコンドリアは、未処理のミトコンドリアまたはミトコンドリア活性化処理の前のミトコンドリアのそれと比較して向上した膜電位および/または酸素消費速度(OCR)によって評価することができる向上した呼吸活性を有する。
【0144】
本開示は、レスベラトロール等のミトコンドリア活性化剤を内包しているMITO-Porterで処理された細胞から、ここで提供される方法によって単離されるかまたは得られるミトコンドリアの集団も提供する。ある実施態様では、本開示はここで提供される方法によって細胞から単離されるかまたは得られる、レスベラトロール等のミトコンドリア活性化剤を含むミトコンドリアの集団を提供する。本発明は、ミトコンドリア標的化担体およびミトコンドリア活性化剤の複合体をCPCまたは非CPC細胞等の細胞に導入するステップを含む。ある実施態様では、細胞は心臓細胞でなくてもよい。
【0145】
本発明は、ミトコンドリア標的化担体およびミトコンドリア活性化剤の複合体をCPCまたは非CPC細胞等の細胞に導入するステップを含む。好ましい実施態様では、ミトコンドリア標的化担体およびミトコンドリア活性化剤の複合体は、ミトコンドリア活性化剤を内包または含有する脂質膜ベースの小胞(すなわち、ミトコンドリア標的化リポソーム)である。
【0146】
ミトコンドリア標的化担体は、担体が細胞に導入されるときに細胞内オルガネラの1つとしてミトコンドリアに選択的に到達する機能を有するものである。ミトコンドリア標的化担体の例としては、脂溶性のカチオン物質、例えば親油性トリフェニルホスホニウムカチオン(TPP)およびローダミン123;ポリペプチド、例えばミトコンドリア標的化配列(MTS)ペプチド(Kong、BW.等、Biochimica et Biophysica Acta 2003年、1625巻、98~108頁)、およびS2ペプチド(Szeto、H.H.等、Pharm.Res.2011年、28巻、2669~2679頁);ならびにミトコンドリア標的化リポソーム、例えばDQAsome(Weissig、V.等、J.Control.Release 2001年、75巻、401~408頁)、MITO-Porter(Yamada、Y.等、Biochim Biophys Acta.2008年、1778巻、423~432頁)、DF-MITO-Porter(Yamada、Y.等、Mol.Ther.2011年、19巻、1449~1456頁)およびS2ペプチドで改変された改変DF-MITO-Porter(Kawamura、E.等、Mitochondrion 2013年、13巻、610~614頁)を挙げることができる。これらの文書は、本発明における担体の生成および使用に関してここに参照により組み込まれる。
【0147】
本発明で好ましいミトコンドリア標的化担体はミトコンドリア標的化リポソームであり、特に、MITO-Porter、DF-MITO-Porterまたは改変されたDF-MITO-Porterが好ましい。
【0148】
ミトコンドリア標的化担体およびミトコンドリア活性化剤の複合体は、複合体を形成するために化学結合、物理的内包等が使用されるか否かを問わず、ミトコンドリア標的化担体およびミトコンドリア活性化剤が統一して行動する構成を有する物質である。例えば、脂溶性のカチオン脂質またはポリペプチドがミトコンドリア標的化担体である場合、ミトコンドリア標的化担体およびミトコンドリア活性化剤の複合体は、共有結合またはイオン結合等の化学的方法を、例えば脂溶性カチオン物質に関するMurphy等の方法(G.F.Kelso等、J.Biol.Chem.、2001年、276巻、4588~4596頁)または特開2007-503461号に記載されるSzetoペプチドに関する方法によって使用してミトコンドリア標的化担体をミトコンドリア活性化剤に結合することによって形成することができる。
【0149】
さらに、ミトコンドリア標的化担体がリポソームである場合、ミトコンドリア標的化担体およびミトコンドリア活性化剤の複合体は、ミトコンドリア活性化剤をリポソームの脂質膜表面に化学的に結合することによって、または、ミトコンドリア活性化剤をリポソーム、すなわち脂質膜によってブロックされる内部の空間に物理的に内包することによって形成することができる。
【0150】
複合体は、ミトコンドリア標的化担体について公知である細胞への複合体の導入のための方法によって、CPCまたは非CPC細胞等の細胞に導入することができる。複合体は、例えば、複合体を含有する適当な培地でCPCまたは非CPC細胞等の細胞を培養すること、または複合体およびCPCもしくは非CPC細胞等の細胞を、リポフェクタミンもしくはポリエチレングリコール等の細胞への物質の取り込みを促進することが可能な既知物質の存在下でインキュベートすることによって細胞に導入することができる。
【0151】
ミトコンドリア標的化担体およびミトコンドリア活性化剤の複合体をCPCまたは非CPC細胞等の細胞に導入するステップの好ましい例は、本発明の第1の態様では、CPCまたは非CPC細胞等の細胞およびミトコンドリア活性化剤を内包しているミトコンドリア標的化リポソームである複合体、特にMTSペプチドまたはS2ペプチドで改変された表面を有し、ミトコンドリア活性化剤を内包しているMITO-PorterまたはDF-MITO-Porterである複合体をインキュベートすることによって、複合体をCPCまたは非CPC細胞等の細胞に導入するステップである。
【0152】
ミトコンドリア活性化剤は、ミトコンドリア呼吸鎖複合体(電子伝達系)を活性化することが可能な物質、特にミトコンドリアを膜電位に関して分極化状態に持ってくることが可能な物質であり、特に、ミトコンドリアを過分極化状態に持ってくることが可能な物質を使用することが好ましい。ミトコンドリア活性化剤の例としては、レスベラトロール(3,5,4’-トリヒドロキシ-トランス-スチルベン)、コエンザイムQ10(参照により本明細書に完全に組み込まれる、WO2020/203961Aを参照)、ビタミンC、ビタミンE、N-アセチルシステイン、TEMPO、SODおよびグルタチオン等の抗酸化剤を挙げることができ、特に、レスベラトロールが好ましい。
【0153】
本発明で好ましく使用されるレスベラトロールは、既知の方法によって植物から抽出されるもの、または既知の方法、例えばAndrus等の方法(Tetrahedron Lett.2003年、44、4819~4822頁)によって化学的に合成されるものであってよい。
【0154】
本発明による方法によって生成するCPCまたは非CPC細胞等の細胞は、本発明のさらなる態様の1つであり、下の実施例で示すようにドキソルビシンを受けるマウスの生存能力をかなり向上させることができる。
【0155】
一種のアントラサイクリンベースの薬剤であるドキソルビシンの投与は重度の心筋損傷を引き起こすことが臨床的に知られており、ドキソルビシンを受けるマウスは心不全モデルマウスとして使用される。したがって、本発明による方法によって生成するCPCまたは非CPC細胞等の細胞は、心筋損傷、特に重度の心筋損傷の処置および/または予防、心機能の悪化の回復、防御または抑制、心不全の処置および/または予防等のために使用することができる。
【0156】
本発明の別の態様は、心筋幹細胞を含む細胞集団に関し、細胞集団を蛍光色素JC-1で染色したときの、JC-1単量体の蛍光強度に対するJC-1二量体の蛍光強度の比(JC-1二量体の蛍光強度/JC-1単量体の蛍光強度)の平均値は1~4である。
【0157】
ミトコンドリアに存在する呼吸鎖複合体の作用の下で、ミトコンドリアは膜の内外でプロトン濃度勾配を生成し、膜電位がある分極化状態になる。アポトーシス、代謝ストレス等を受けるとき、分極化したミトコンドリアは膜電位が低減された脱分極状態に変わる。このように、ミトコンドリアの分極状態は、ミトコンドリアの代謝活性を示すパラメータであり、多数の分極化したミトコンドリアを有する細胞は、活性化ミトコンドリアを有する細胞とみなされる。
【0158】
ミトコンドリア膜電位プローブである蛍光色素JC-1(5,5’,6,6’-テトラクロロ-1,1’,3,3’-テトラエチルベンズイミダゾリルカルボシアニンヨウ化物)は、脱分極ミトコンドリアで緑色蛍光を放出する単量体であるが、分極化ミトコンドリアでは赤色蛍光を放出する二量体を形成することが知られている。したがって、JC-1単量体とJC-1二量体の間の蛍光強度の比は、ミトコンドリアの分極状態を示す指数である。蛍光強度の比は、例えば、Thermo Fisher Scientific、Cosmo Bio Co.,Ltd.から市販されているJC-1等を使用して、製造業者のプロトコールに従って蛍光比を検出することによって測定することができる。
【0159】
この態様による細胞集団は、活性化ミトコンドリアを有するCPCまたは非CPC細胞等の細胞を含む細胞集団であり、集団に含まれるCPCまたは非CPC細胞等の細胞のミトコンドリアの活性化の程度は、細胞集団をJC-1で染色したときの、JC-1単量体の蛍光強度に対するJC-1二量体の蛍光強度の比(JC-1二量体の蛍光強度/JC-1単量体の蛍光強度)の平均値によって表すことができる。
【0160】
蛍光強度の比の平均値は、細胞集団に含まれる任意の数のCPCまたは非CPC細胞等の細胞、好ましくは10を超え100未満のCPCまたは非CPC細胞等の細胞の各々について、JC-1単量体の蛍光強度に対するJC-1二量体の蛍光強度の比(JC-1二量体の蛍光強度/JC-1単量体の蛍光強度)を測定し、測定された比の平均値を計算することによって決定することができる。活性化ミトコンドリアを有するCPCを含む細胞集団中のJC-1単量体の蛍光強度に対するJC-1二量体の蛍光強度の比の平均値は1を超え、好ましくは1~4である。
【0161】
この態様による細胞集団は、CPCまたは非CPC細胞等の細胞から主になる細胞集団である。細胞集団は、一般的に本発明の第1の態様による上述の方法によって生成することができる。
【0162】
細胞から単離されたミトコンドリアは、ミトコンドリア活性化剤で処理されている。したがって、ミトコンドリアは、好ましくはミトコンドリア活性化剤を内包または含有するMITO-Porter(または、脂質膜ベースの小胞またはリポソーム)で処理された細胞から単離される。
【0163】
一実施態様では、単離されたミトコンドリアまたは分割されたミトコンドリア中のミトコンドリアDNA濃度は、タンパク質1μgあたり105~107コピーである。ミトコンドリアDNAのコピー数は、配列番号1の配列を有するフォワードプライマーおよび配列番号2の配列を有するリバースプライマーを含むプライマーセットを使用した定量的PCRによって計算することができる。一実施態様では、単離されたミトコンドリアまたは分割されたミトコンドリアの中に、ミトコンドリア転写因子A(TFAM)が全タンパク質1mgあたり約50ngから全タンパク質1mgあたり約300ngの間の濃度(例えば、全タンパク質1mgあたり約100ngから全タンパク質1mgあたり250ng/mg)で含有されてもよく、それは抗TFAM抗体を使用してELISAによって計算することができる。この計算は、TFAMの標準値または試料を比較することによって実行することができる。
【0164】
一態様では、本発明は、内包されたミトコンドリア中のミトコンドリアDNAレベルを測定する方法であって、単離されたミトコンドリアを提供すること、および単離されたミトコンドリア中のミトコンドリアDNAレベルを測定することを含む方法を提供する。一実施態様では、本方法は単離されたミトコンドリア中のタンパク質の量を測定することをさらに含むことができる。一実施態様では、本方法は、単離されたミトコンドリア中のタンパク質の量を測定すること、およびミトコンドリアDNAレベルとタンパク質の量の比を計算することをさらに含むことができる。一実施態様では、ミトコンドリアDNAレベルは、ミトコンドリアDNAのコピー数または濃度で表すことができる。好ましい実施態様では、単離されたミトコンドリアは、脂質膜ベースの小胞等の小胞に内包することができる。一実施態様では、タンパク質の量は、ブラッドフォード方法によって測定することができる。一実施態様では、DNA量は、定量的PCR方法によって測定することができる。好ましい実施態様では、ミトコンドリアDNAレベルを測定するステップは、配列番号1に示すヌクレオチド配列を有する第1のプライマーおよび配列番号2に示すヌクレオチド配列を有する第2のプライマーを含むプライマーセットを使用してミトコンドリアDNAを増幅することを含むことができる。本方法は、測定されたミトコンドリアDNAレベルを標準値と比較することをさらに含むことができる。標準値は、iMIT法によって得られる機能的な単離されたミトコンドリアの値であってよい。単離されたミトコンドリアまたは内包されたミトコンドリア中のミトコンドリアDNAレベルは、単離プロセスまたは保存中のミトコンドリアへの傷害の指標となることができる。一実施態様では、レベルが標準値の20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上または90%以上である所定値である場合、本方法は、所定値以上のレベルを有する試料を医薬組成物のための薬学的に有効な成分であると予測することをさらに含むことができる。言い換えると、レベルは薬学的に有効な成分としての試料の有効性、機能または有用性の指標となることができる。一実施態様では、本方法は、所定値以上のレベルを有する試料を選択すること、および/または所定値未満のレベルを有する試料を廃棄することをさらに含むことができる。本方法は、単離されたミトコンドリアまたは内包されたミトコンドリアを含む試料のミトコンドリア機能を試験する方法であってよい。したがって、本発明による方法は、単離されたミトコンドリア試料、保存されたミトコンドリア試料、内包されたミトコンドリア試料、薬学的に許容されるミトコンドリア製剤または薬学的に許容されるミトコンドリア調製物等の試料の中のミトコンドリアへの傷害を予測するために有益である。予測するステップは、DNAレベルまたは上の比を所定値と比較することを含むことができる。所定値は、タンパク質1μgあたり2×105コピーからタンパク質1μgあたり5×106コピーの間で変動する。所定値の下限は、タンパク質1μgあたり2×105コピー、タンパク質1μgあたり3×105コピー、タンパク質1μgあたり4×105コピー、タンパク質1μgあたり5×105コピー、タンパク質1μgあたり6×105コピー、タンパク質1μgあたり7×105コピー、タンパク質1μgあたり8×105コピー、タンパク質1μgあたり9×105コピー、タンパク質1μgあたり1×106コピー、タンパク質1μgあたり2×106コピー、タンパク質1μgあたり3×106コピー、タンパク質1μgあたり4×106コピー、またはタンパク質1μgあたり5×106コピーになる。所定値の上限は、タンパク質1μgあたり5×106コピー、タンパク質1μgあたり4×106コピー、タンパク質1μgあたり3×106コピー、タンパク質1μgあたり2×106コピー、またはタンパク質1μgあたり1×106コピーであってよい。
【0165】
本開示は、人工的に活性化されている、単離されたか得られたか処理されたミトコンドリアの集団も提供し、集団中のミトコンドリアは優れた機能的能力を示す。例えば、一態様では、本開示は単離されたミトコンドリアの集団を提供し、集団中のミトコンドリアの少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%または少なくとも約95%はインタクトな内膜および外膜を有し;および/または集団中のミトコンドリアの少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%または少なくとも約95%は、蛍光指示薬によって測定したときに分極化している。ある実施態様では、蛍光指示薬は正荷電色素、例えばJC-1、テトラメチルローダミンメチルエステル(TMRM)およびテトラメチルローダミンエチルエステル(TMRE)からなる群から選択される。
【0166】
ある実施態様では、本開示は単離されたミトコンドリアの集団を提供し、集団中のミトコンドリアの少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%または少なくとも約95%は、細胞外環境で機能的能力を維持する(例えば、分極化される)。ある実施態様では、細胞外環境中の機能的能力は、膜電位の蛍光指示薬によって測定される。ある実施態様では、蛍光指示薬は正荷電色素、例えばJC-1、TMRMおよびTMREからなる群から選択される。ある実施態様では、細胞外環境は約4mg/dL~約12mg/dLまたは約1mmol/L(1000μM)~約3mmol/L(3000μM)の全カルシウム濃度を含むことができる。例えば、ある実施態様では、細胞外環境は約8mg/dL~約12mg/dLまたは約2mmol/L(2000μM)~約3mmol/L(3000μM)の全カルシウム濃度を含む。ある実施態様では、細胞外環境は約4mg/dL~約6mg/dLまたは約1mmol/L(1000μM)~約1.5mmol/L(1500μM)の遊離または活性カルシウムの濃度を含む。ある実施態様では、ミトコンドリアの集団は、細胞中のカルシウム環境と比較してより高いカルシウム濃度を有する環境の中で機能的能力を維持する。
【0167】
ある実施態様では、単離されたミトコンドリアの集団が本明細書で提供され、集団中のミトコンドリアの少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%または少なくとも約95%は、ダイナミン関連タンパク質1(drp1)依存性分裂を経ていない。ある実施態様では、内膜および外膜を有する単離されたミトコンドリアの集団が本明細書で提供され、ミトコンドリアの内膜は高密度に折りたたまれたクリステを含む。
【0168】
ある実施態様では、単離されたミトコンドリアの集団が本明細書で提供され、集団中のミトコンドリアの少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%または少なくとも約95%は、実質的に非糸状の、非分枝状の構造または形状を有する。例えば、ある実施態様では、ここで提供されるミトコンドリアは、顕微鏡の下で見たとき円形、点状、球状、不規則形および/またはわずかに伸長した形、またはその任意の混合の外観である。ある実施態様では、集団中のミトコンドリアの少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%または少なくとも約95%は、4:1以下、3.5:1以下または3:1以下の長径対短径比を有する。ある実施態様では、ここで提供されるミトコンドリアの集団中の単離されたミトコンドリアの少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%または少なくとも約95%は、ミトコンドリアの流体力学的直径の2倍または3倍より短い長さを有する。このように、ここで提供される単離されたミトコンドリアは、細胞の中にあるほとんどのミトコンドリアの形状(糸状)と比較した場合、著しく異なる形状(非糸状)を有する。したがって、ある実施態様では、ここで提供されるミトコンドリアの集団は、集団中のミトコンドリアの少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%または少なくとも約95%は形状が非糸状であるという点で、細胞中に存在して単離されていないミトコンドリアと異なる形状を有する。ある実施態様では、ここで提供される単離されたミトコンドリアの集団は、ミトコンドリア会合膜(MAM)との減少した会合を示す。ある実施態様では、MAMとの会合は、グルコース調節タンパク質75(GRP75)の発現によって測定される。ある実施態様では、ここで提供される単離されたミトコンドリアの集団は、細胞中のミトコンドリア、および/または本明細書でさらに記載される通り従来の単離方法、例えば、ホモジナイゼーションおよび/もしくは高レベルの界面活性剤を含む方法によって得られたミトコンドリアと比較した場合、約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、約60%、約50%、約40%、約30%またはそれ以下のMAMとの会合を示す。ある実施態様では、ここで提供される単離されたミトコンドリアの集団は、MAMとの会合の減少を示し、この減少は、細胞中のミトコンドリア、または従来の単離方法によって単離されたミトコンドリアのMAMとの会合と比較して、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%またはそれ以上である。
【0169】
ある実施態様では、ここで提供される単離されたミトコンドリアの集団は、サイズが約500nm~約3500nmである。ある実施態様では、集団中のミトコンドリアの少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%または少なくとも約99%は、サイズが約500nm~約3500nmである。ある実施態様では、集団中のミトコンドリアの平均サイズは、約500nm、約600nm、約700nm、約800nm、約900nm、約1000nm、約1100nm、約1200nm、約1300nm、約1400nm、約1500nm、約1600nm、約1700nm、約1800nm、約1900nm、約2000nm、約2100nm、約2200nm、約2300nm、約2400nm、約2500nm、約2600nm、約2700nm、約2800nm、約2900nm、約3000nm、約3100nm、約3200nm、約3300nm、約3400nmまたは約3500nmである。ある実施態様では、単離されたミトコンドリアの集団の多分散指数(PDI)は約0.2~約0.8である。ある実施態様では、単離されたミトコンドリアの集団のPDIは約0.2~約0.5である。ある実施態様では、単離されたミトコンドリアの集団のPDIは約0.25~約0.35である。ある実施態様では、PDIは約0~0.8、好ましくは約0~0.5、より好ましくは約0~0.35である。ある実施態様では、ミトコンドリアの集団のゼータ電位は約-15mV~約-40mVである。ある実施態様では、ミトコンドリアの集団のゼータ電位は約-20mV、約-25mV、約-30mV、約-35mVまたは約-40mVである。
【0170】
ある実施態様では、ここで提供される単離されたミトコンドリアの集団は、単離されたミトコンドリアの集団を細胞の集団と接触させた場合、細胞への組込み、および/または細胞中の内因性ミトコンドリアとの共存が可能である。例えば、ある実施態様では、本開示は、細胞からミトコンドリアを得、その後細胞(例えば、ex vivoまたはin vivoの細胞)の集団を単離したミトコンドリアの集団と接触させる方法を提供する。そのような実施態様では、本明細書に記載されるiMIT法を通して単離される、ここで提供されるミトコンドリアは、細胞に存在する内因性ミトコンドリアと共存することが可能である。ある実施態様では、ここで提供されるミトコンドリアは、それらが接触した細胞に存在するミトコンドリアと融合することがさらに可能である。ある実施態様では、単離されたミトコンドリアの集団のかなりの割合は、細胞中の内因性ミトコンドリアとの共存および/または融合が可能である。例えば、ある実施態様では、集団中のミトコンドリアの少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%または少なくとも約95%は、細胞中の内因性ミトコンドリアとの共存および/または融合が可能である。したがって、ここで提供されるミトコンドリアは、それらが細胞中の内因性ミトコンドリアとの共存および/または融合が可能であるという点で、従来の方法を通して単離されるミトコンドリアと著しく異なる。
【0171】
ある実施態様では、ここで提供される単離されたミトコンドリアは、約4℃で保存の後に安定でありおよび/または分極化され、および/または膜電位を維持し、および/またはインタクトな内膜および外膜を維持し、および/または細胞外環境への曝露の後に(例えば、約4mg/dL~約12mg/dLの全カルシウム濃度への曝露の後に)機能する能力を維持する。例えば、ある実施態様では、集団中のミトコンドリアの少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%または少なくとも約95%は、約4℃で保存の後に安定でありおよび/または分極化され、および/または膜電位を維持し、および/またはインタクトな内膜および外膜を維持し、および/または細胞外環境への曝露の後に(例えば、約4mg/dL~約12mg/dLの全カルシウム濃度への曝露の後に)機能する能力を維持する。ある実施態様では、ここで提供される単離されたミトコンドリアは、約-20℃以下で保存の後に安定でありおよび/または分極化され、および/または膜電位を維持し、および/またはインタクトな内膜および外膜を維持し、および/または細胞外環境への曝露の後に(例えば、約4mg/dL~約12mg/dLの全カルシウム濃度への曝露の後に)機能する能力を維持する。例えば、ある実施態様では、集団中のミトコンドリアの少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%または少なくとも約95%は、約-20℃で保存の後に安定でありおよび/または分極化され、および/または膜電位を維持し、および/またはインタクトな内膜および外膜を維持し、および/または細胞外環境への曝露の後に(例えば、約4mg/dL~約12mg/dLの全カルシウム濃度への曝露の後に)機能する能力を維持する。ある実施態様では、ここで提供される単離されたミトコンドリアは、約-80℃以下で保存の後に安定でありおよび/または分極化され、および/または膜電位を維持し、および/またはインタクトな内膜および外膜を維持し、および/または細胞外環境への曝露の後に(例えば、約4mg/dL~約12mg/dLの全カルシウム濃度への曝露の後に)機能する能力を維持する。例えば、ある実施態様では、集団中のミトコンドリアの少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%または少なくとも約95%は、約-80℃で保存の後に安定でありおよび/または分極化され、および/または膜電位を維持し、および/またはインタクトな内膜および外膜を維持し、および/または細胞外環境への曝露の後に(例えば、約4mg/dL~約12mg/dLの全カルシウム濃度への曝露の後に)機能する能力を維持する。ある実施態様では、ここで提供される単離されたミトコンドリアは、液体窒素で保存の後に安定でありおよび/または分極化され、および/または膜電位を維持し、および/またはインタクトな内膜および外膜を維持し、および/または細胞外環境への曝露の後に(例えば、約4mg/dL~約12mg/dLの全カルシウム濃度への曝露の後に)機能する能力を維持する。例えば、ある実施態様では、集団中のミトコンドリアの少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%または少なくとも約95%は、液体窒素で保存の後に安定でありおよび/または分極化され、および/または膜電位を維持し、および/またはインタクトな内膜および外膜を維持し、および/または細胞外環境への曝露の後に(例えば、約4mg/dL~約12mg/dLの全カルシウム濃度への曝露の後に)機能する能力を維持する。ある実施態様では、保存は、少なくとも約2時間、少なくとも約6時間、少なくとも約12時間、少なくとも約24時間、少なくとも約48時間、少なくとも約1週間、少なくとも約2週間、少なくとも約3週間、少なくとも約1カ月、少なくとも約2カ月、少なくとも約3カ月、またはそれより長い。したがって、ある実施態様では、ここで提供される単離されたミトコンドリアは、新たに単離されるとき、および保存の後でさえもそれらが機能的能力を少なくとも維持するという点で、従来の方法を通して単離されるミトコンドリアと著しく異なる。
【0172】
ある実施態様では、ここで提供される単離されたミトコンドリアは、ミトコンドリアの集団を保存のために冷凍した後に、およびその後解凍した後に、安定し、および/または分極化しており、および/または膜電位を維持し、および/または無傷の内膜および外膜を維持し、および/または細胞外環境への曝露の後に(例えば、約4mg/dL~約12mg/dLの全カルシウム濃度への曝露の後に)機能する能力を維持する。ある実施態様では、冷凍しその後解凍した後に、膜電位の維持率は、冷凍前のミトコンドリアの膜電位に対して約90%である。例えば、ある実施態様では、冷凍、解凍したミトコンドリアの集団の分極比は、冷凍前のその集団の分極比の約90%である。ある実施態様では、集団中のミトコンドリアのうち少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%または少なくとも約95%は、保存のために冷凍しその後解凍した後に、例えば、保存のために冷凍しその後1回、2回、3回またはそれより多く解凍した後に、安定であり、および/または分極化しており、および/または膜電位を維持し、および/または無傷の内膜および外膜を維持し、および/または細胞外環境への曝露の後に(例えば、約4mg/dL~約12mg/dLの全カルシウム濃度への曝露の後に)機能する能力を維持する。したがって、ある実施態様では、ここで提供される単離されたミトコンドリアは、少なくとも保存のために冷凍しその後解凍した場合でさえもそれらが機能的能力を維持するという点で、従来の方法を通して単離されるミトコンドリアと著しく異なる。
【0173】
ある実施態様では、ここで提供される単離されたミトコンドリアの集団は、ここで提供されるいずれかの温度(例えば、4℃±3℃、-20℃±3℃、-80℃±3℃、または液体窒素中で)でのミトコンドリアの保存の後に、細胞に組み込むこと、ならびに/または細胞中の内因性ミトコンドリアとの共存および/もしくは融合が可能である。例えば、ある実施態様では、集団中のミトコンドリアの少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%または少なくとも約95%は、ミトコンドリアが保存された後、および/または1回または複数回の凍結融解サイクルを受けた後に、細胞に組み込むこと、ならびに/または細胞中の内因性ミトコンドリアとの共存および/もしくは融合が可能である。ある実施態様では、ここで提供される単離されたミトコンドリアの集団を保存して解凍する方法は、集団を約-20℃±3℃、約-80℃±3℃、またはそれより低い温度で(例えば、液体窒素中で)保存し、その後ミトコンドリアを約20℃±3℃またはそれより低い温度で解凍することを含み、ミトコンドリアは約5分以内、約4分以内、約3分以内、約2分以内または約1分以内に解凍される。特定の実施態様では、ミトコンドリアの集団は約1分以内に解凍される。したがって、ある実施態様では、ここで提供されるミトコンドリアは、それらを細胞に組み込むこと、ならびに/または細胞中の内因性ミトコンドリアとの共存および/もしくは融合が少なくとも可能であるが、従来の方法によって単離されるミトコンドリアは細胞に組み込むこと、ならびに/または細胞中の内因性ミトコンドリアと共存および/もしくは融合することが不可能であるかまたはその能力が大きく低減している点で、従来の方法を通して単離されるミトコンドリアと著しく異なる。ある実施態様では、共存する単離されたミトコンドリアは、糸状の構造、ネットワーク構造および/または網状構造を形成することができる。
【0174】
ある実施態様では、本開示は、ここで提供される単離されたミトコンドリアを含む組成物を提供する。組成物は、ある実施態様では、1つまたは複数の薬学的に許容される担体をさらに含む。
【0175】
ある実施態様では、本開示は、ミトコンドリアを細胞から単離するための、従来公知である方法と異なる方法であって、ここで提供される優れた機能および他の特徴を有するミトコンドリアをもたらす方法を提供する。ある実施態様では、ミトコンドリアを細胞から単離する方法は、細胞を第1の溶液中で界面活性剤の臨界ミセル濃度(CMC)未満の濃度の界面活性剤で処理すること、界面活性剤を除去して第2の溶液を形成すること、第2の溶液中で細胞をインキュベートすること、および第2の溶液からミトコンドリアを回収することを含む。ある実施態様では、第1の溶液中の界面活性剤の濃度は、界面活性剤のCMCの約50%以下である。例えば、ある実施態様では、第1の溶液中の界面活性剤の濃度は、界面活性剤のCMCの約40%以下、約30%以下、約20%以下、または約10%以下である。
【0176】
ある実施態様では、界面活性剤は非イオン性界面活性剤である。ある実施態様では、界面活性剤はTriton-X 100、Triton-X 114、ノニデット(Nonidet)P-40、n-ドデシル-D-マルトシド、Tween-20、Tween-80、サポニンおよびジギトニンからなる群から選択される。
【0177】
ある実施態様では、界面活性剤はサポニンまたはジギトニンである。ある実施態様では、界面活性剤の濃度は約400μM未満である。例えば、ある実施態様では、第1の溶液中の界面活性剤の濃度は、約300μM未満、約200μM未満、約100μM未満または約50μM未満である。ある実施態様では、第1の溶液中の界面活性剤の濃度は、約100μM、約75μM、約60μM、約50μM、約40μM、約30μMまたは約20μMである。ある実施態様では、第1の溶液中の界面活性剤の濃度は、約20μM~約50μMまたは約30μM~約40μMである。
【0178】
ある実施態様では、第1の溶液は、張性剤、浸透圧調節剤またはキレート剤の1つまたは複数を含むバッファーをさらに含む。ある実施態様では、第1の溶液はTrisバッファー、スクロースおよびキレーターを含む。
【0179】
ある実施態様では、低濃度の界面活性剤(例えば、界面活性剤のCMC未満)を含む第1の溶液の中で細胞を処理するステップは、第1の溶液の中で細胞を室温で約2分~約30分間インキュベートすることを含む。例えば、ある実施態様では、第1の溶液の中で細胞を処理するステップは、第1の溶液の中で細胞を約2、約5、約10、約15、約20、約25または約30分間インキュベートすることを含む。インキュベーションは、約4℃~約37℃の温度で実行することができる。
【0180】
ある実施態様では、界面活性剤を除去するステップは、溶液中の界面活性剤を第1の溶液中の界面活性剤濃度の10%未満へ、または第1の溶液中の界面活性剤濃度の1%未満へ減少させることを含む。ある実施態様では、界面活性剤を除去するステップは、細胞をバッファーで洗浄することを含む。
【0181】
ある実施態様では、第2の溶液をインキュベートするステップは、第2の溶液中の細胞を約5分~約30分間インキュベートすることを含む。例えば、ある実施態様では、第2の溶液の中で細胞をインキュベートするステップは、第2の溶液の中で細胞を約5、約10、約15、約20、約25または約30分間インキュベートすることを含む。ある実施態様では、第2の溶液の中で細胞をインキュベートするステップは、約4℃±3℃の温度でまたは氷上で実行される。
【0182】
ある実施態様では、第2の溶液からミトコンドリアを回収するステップは、上清を収集して単離されたミトコンドリアを回収することを含む。ある実施態様では、第2の溶液からミトコンドリアを回収するステップは、第2の溶液を遠心分離し、遠心分離後に上清を収集して単離されたミトコンドリアを回収することを含む。
【0183】
ある実施態様では、iMITは培養表面に付着している細胞の上で実行することができる。ある実施態様では、iMITは、細胞を表面から切り離すことなく培養表面に付着している細胞の上で実行することができる。ある実施態様では、第2の溶液からミトコンドリアを回収するステップは、上清を収集して単離されたミトコンドリアを回収することを含み、その後必要に応じて培養表面の残りの細胞を第2の溶液または別の第2の溶液で洗浄してそれを上清と合わせることができる。
【0184】
ある実施態様では、ここで提供される方法は、単離されたミトコンドリアを冷凍することをさらに含む。ある実施態様では、本方法は、凍結保護物質(例えば、グリセロール)を含むバッファーの中でミトコンドリアを冷凍することを含む。ある実施態様では、本方法は、液体窒素中のバッファーの中でミトコンドリアを冷凍することを含む。ある実施態様では、本方法は、冷凍後にミトコンドリアを解凍することをさらに含む。ある実施態様では、ミトコンドリアを解凍する方法は、ミトコンドリアを速やかに、例えば約5分以内に、または約1分以内に解凍することを含む。ある実施態様では、ミトコンドリアは約20℃±3℃~約37℃±3℃の温度を有する温浴中で解凍される。ある実施態様では、ミトコンドリアは約20℃±3℃またはそれ以下の温度で解凍される。
【0185】
ある実施態様では、本開示はここで提供される方法によって得られる単離されたミトコンドリアの集団を提供する。ある実施態様では、ここで提供される方法は「iMIT」法であり、この方法によって得られるミトコンドリアは本明細書において「Q」ミトコンドリアと呼ばれる。ある実施態様では、本開示は、ここで提供される方法によって得られる単離されたミトコンドリアの集団を含む組成物および/または製剤を提供する。
【0186】
ある実施態様では、本開示は、ミトコンドリア機能障害と関連した疾患または障害を治療または予防する方法であって、対象の細胞をここで提供される単離されたミトコンドリア、例えばQミトコンドリアの集団と接触させることを含む方法を提供する。ある実施態様では、疾患または障害は、虚血関連の疾患または障害である。例えば、ある実施態様では、虚血関連の疾患または障害は、脳虚血再かん流、低酸素虚血脳症、急性冠動脈症候群、心筋梗塞、肝臓虚血-再かん流損傷、虚血性損傷-仕切り症候群、血管遮断、創傷治癒、脊髄損傷、鎌形赤血球疾患および移植臓器の再かん流損傷からなる群から選択される。ある実施態様では、疾患または障害は、遺伝子障害である。ある実施態様では、疾患または障害は、がん、心血管疾患、目の障害、耳の障害、自己免疫性疾患、炎症性疾患または線維性障害である。ある実施態様では、疾患は急性呼吸窮迫症候群(ARDS)である。ある実施態様では、疾患または障害は加齢の疾患もしくは障害、または加齢関連の状態である。ある実施態様では、疾患または障害は、子癇前症または子宮内成長制限(IUGR)である。
【0187】
ある実施態様では、本開示は、ここで規定される疾患または障害を治療または予防する方法であって、それを必要とする対象に単離されたミトコンドリアの集団または組成物を投与することを含む方法を提供する。ある実施態様では、単離されたミトコンドリアの投与経路は、静脈内、動脈内、気管内、皮下、筋肉内、吸入または肺内の投与経路によるものである。ある実施態様では、対象は哺乳動物、例えばヒトである。
【0188】
ある実施態様では、本開示は、インタクトな内膜および外膜を有する単離されたミトコンドリアを提供し、内膜は折りたたまれたクリステを含み、ミトコンドリアは細胞から単離されており、蛍光指示薬(例えば、JC-1、TMRMまたはTMRE)によって測定したときにミトコンドリアは分極化し、ミトコンドリアは細胞外環境で分極を維持することが可能である。ある実施態様では、折りたたまれたクリステは高密度に折りたたまれたクリステである。ある実施態様では、ミトコンドリアは実質的に非糸状の形状を有する。ある実施態様では、ミトコンドリアはチューブリンと関連するその表面に電圧依存性アニオンチャネル(VDAC)を含む。例えば、ある実施態様では、単離されたミトコンドリアは、表面のVDACと関連した二量体チューブリンを含む。ある実施態様では、チューブリンは少なくともα-チューブリンを含む。
【0189】
ある実施態様では、チューブリンは、α-チューブリンおよびβ-チューブリンを含むヘテロダイマーである。ある実施態様では、チューブリンはホモダイマーである。ある実施態様では、単離されたミトコンドリアは、GRP75発現によって測定したときにMAMとの減少した会合を示す。例えば、ある実施態様では、単離されたミトコンドリアは、細胞中に存在する(すなわち、単離されていない)ミトコンドリア、および/または本明細書でさらに記載される通り従来の単離方法、例えば、ホモジナイゼーションおよび/もしくは高レベルの界面活性剤を含む方法によって得られたミトコンドリアと比較した場合、約70%、約60%、約50%、約40%、約30%またはそれ以下のMAMとの会合を示す。ある実施態様では、ここで提供される単離されたミトコンドリアは、MAMとの会合の減少を示し、この減少は、細胞中に存在する(すなわち、単離されていない)ミトコンドリア、および従来の単離方法によって単離されたミトコンドリアのMAMとの会合と比較して、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%またはそれ以上である。
【0190】
ある実施態様では、ここで提供される単離されたミトコンドリアは、約-30mV~約-220mVの膜電位を有する。ある実施態様では、単離されたミトコンドリアは形状が非糸状である。ある実施態様では、単離されたミトコンドリアはdrp1依存性分割を経ていない。ある実施態様では、単離されたミトコンドリアはサイズが約500nm~3500nmである。例えば、ある実施態様では、単離されたミトコンドリアは、サイズが約500、約600、約700、約800nm、約900nm、約1000nm、約1100nm、約1200nm、約1500nm、約2000nm、約2500nm、約3000nmまたは約3500nmである。
【0191】
ある実施態様では、本開示はここで提供される方法によって得られる単離されたミトコンドリアを提供する。ある実施態様では、本開示は、ここで提供される単離されたミトコンドリアを含む組成物および製剤を提供する。
【0192】
本開示は、下に記載されるような発明を提供することもできる。
項目1。
単離されたミトコンドリアの集団であって:
(i)集団中のミトコンドリアの少なくとも80%はインタクトな内膜および外膜を有し、
(ii)集団中のミトコンドリアの少なくとも80%は蛍光指示薬によって測定したときに分極化し、
および/または
(iii)集団中のミトコンドリアの少なくとも80%は細胞外環境で機能的能力を維持する。好ましい実施態様では、ミトコンドリアは活性化されている。より好ましい実施態様では、ミトコンドリアはレスベラトロール等のミトコンドリア活性化剤で活性化されている。より好ましい実施態様では、そのようなミトコンドリアは、ミトコンドリア活性化剤、例えばレスベラトロール等のミトコンドリア活性化剤を含有または内包している脂質膜ベースの小胞(例えば、リポソーム)で処理された細胞から得ることができる。
項目2。
(iii)の細胞外環境での前記機能的能力が膜電位の蛍光指示薬によって測定される、項目1に記載の単離されたミトコンドリアの集団。
項目3。
(iii)の細胞外環境が約8~約12mg/dLの全カルシウム濃度を含む、項目1に記載の単離されたミトコンドリアの集団。
項目4。
(iii)の細胞外環境が約4~約6mg/dLの遊離/活性カルシウム濃度を含む、項目1に記載の単離されたミトコンドリアの集団。
項目5。
前記集団中のミトコンドリアの少なくとも80%がダイナミン関連タンパク質1(drp1)依存性分裂を起こしていない、項目1に記載の単離されたミトコンドリアの集団。
項目6。
前記ミトコンドリアの内膜が、高密度に折りたたまれたクリステを含む、項目1に記載の単離されたミトコンドリアの集団。
項目7。
前記集団中のミトコンドリアの少なくとも80%が非糸状の形状を有する、項目1~6のいずれか一項に記載の単離されたミトコンドリアの集団。
項目8。
前記ミトコンドリアの少なくとも85%が非糸状の形状を有する、項目7に記載の単離されたミトコンドリアの集団。
項目9。
前記ミトコンドリアの少なくとも90%が非糸状の形状を有する、項目8に記載の単離されたミトコンドリアの集団。
項目10。
前記ミトコンドリアが、グルコース調節タンパク質75(GRP75)の発現によって測定すると、ミトコンドリア会合膜(MAM)との会合の減少を示す、項目1~9のいずれか一項に記載の単離されたミトコンドリアの集団。
項目11。
会合の減少が、細胞中のミトコンドリアの、または細胞のホモジナイゼーションを含む方法によって得られた単離されたミトコンドリアの、MAMとの会合と比較して少なくとも約30%の減少である、項目10に記載の単離されたミトコンドリアの集団。
項目12。
会合の減少が少なくとも約50%の減少である、項目11に記載の単離されたミトコンドリアの集団。
項目13。
(i)前記集団中のミトコンドリアの少なくとも85%は無傷の内膜および外膜を有し、
(ii)前記集団中のミトコンドリアの少なくとも85%は蛍光指示薬によって測定すると分極化しており、
および/または
(iii)前記集団中のミトコンドリアの少なくとも85%は細胞外環境で機能的能力を維持する、
項目1~12のいずれか一項に記載の単離されたミトコンドリアの集団。
項目14。
(i)前記集団中のミトコンドリアの少なくとも90%は無傷の内膜および外膜を有し、
(ii)前記集団中のミトコンドリアの少なくとも90%は蛍光指示薬によって測定すると分極化しており、
および/または
(iii)前記集団中のミトコンドリアの少なくとも90%は細胞外環境で機能的能力を維持する、
項目1~12のいずれか一項に記載の単離されたミトコンドリアの集団。
項目15。
前記蛍光指示薬がJC-1、テトラメチルローダミンメチルエステル(TMRM)およびテトラメチルローダミンエチルエステル(TMRE)からなる群から選択される、項目1~14のいずれか一項に記載の単離されたミトコンドリアの集団。
項目16。
前記集団中のミトコンドリアの少なくとも80%はサイズが約500nm~約3500nmである、項目1~15のいずれか一項に記載の単離されたミトコンドリアの集団。
項目17。
前記集団の多分散指数(PDI)が約0.2~約0.8である、項目1~16のいずれか一項に記載の単離されたミトコンドリアの集団。
項目18。
前記集団の多分散指数(PDI)が約0.2~約0.3である、項目1~16のいずれか一項に記載の単離されたミトコンドリアの集団。
項目19。
前記ミトコンドリアの集団のゼータ電位が約-15mV~約-40mVである、項目1~18のいずれか一項に記載の単離されたミトコンドリアの集団。
項目20。
単離されたミトコンドリアの前記集団が細胞の集団と接触すると、前記単離されたミトコンドリアが前記細胞中の内在性ミトコンドリアとの共局在が可能である、項目1~19のいずれか一項に記載の単離されたミトコンドリアの集団。
項目21。
単離されたミトコンドリアの前記集団が細胞の集団と接触すると、前記ミトコンドリアが前記細胞中の内在性ミトコンドリアと融合することが可能である、項目1~19のいずれか一項に記載の単離されたミトコンドリアの集団。
項目22。
前記ミトコンドリアが、4℃で少なくとも12時間の保存の後に前記内在性ミトコンドリアとの共局在が可能である、項目20に記載の単離されたミトコンドリアの集団。
項目23。
前記ミトコンドリアが、4℃で少なくとも12時間の保存の後に前記内在性ミトコンドリアと融合することが可能である、項目21に記載の単離されたミトコンドリアの集団。
項目24。
前記集団中の単離されたミトコンドリアの少なくとも70%は、前記集団が1つまたは複数の凍結融解サイクルを受けた後に蛍光指示薬によって測定すると分極化している、項目1~23のいずれか一項に記載の単離されたミトコンドリアの集団。
項目25。
前記集団が1つまたは複数の凍結融解サイクルを受けた後に、前記ミトコンドリアが内在性ミトコンドリアとの共局在が可能である、項目1~24のいずれか一項に記載の単離されたミトコンドリアの集団。
項目26。
前記集団が-80℃以下で少なくとも2週間冷凍され、その後20℃以下で約5分以内に解凍される、項目24または25に記載の単離されたミトコンドリアの集団。
項目27。
前記集団が約1分以内に解凍される、項目26に記載の単離されたミトコンドリアの集団。
項目28。
前記集団が少なくとも2週間液体窒素中で冷凍される、項目26または27に記載の単離されたミトコンドリアの集団。
項目29。
前記集団が少なくとも2カ月間液体窒素中で冷凍される、項目28に記載の単離されたミトコンドリアの集団。
項目30。
解凍されたミトコンドリアの前記集団が細胞の集団と接触すると、前記集団中の単離されたミトコンドリアが前記細胞中の内在性ミトコンドリアとの融合が可能である、項目24~29のいずれか一項に記載の単離されたミトコンドリアの集団。
項目31。
項目1~30のいずれか一項に記載の単離されたミトコンドリアの集団を含む組成物。
項目32。
項目31に記載の組成物および薬学的に許容される担体を含む製剤。
項目33。
ミトコンドリアを細胞から単離する方法であって、
(i)第1の溶液中の細胞を界面活性剤に関する臨界ミセル濃度未満の濃度の界面活性剤で処理すること、
(ii)前記界面活性剤を除去して第2の溶液を形成すること、
(iii)前記第2の溶液中の前記細胞をインキュベートすること、および
(iv)前記第2の溶液からミトコンドリアを回収すること
を含み、
ここで、例えばミトコンドリア活性化剤を含有または内包している脂質膜ベースの小胞と細胞を接触させることによって、細胞は活性化ミトコンドリアを有する、方法。
項目34。
前記第1の溶液中の前記界面活性剤の濃度が前記界面活性剤の臨界ミセル濃度の約50%以下である、項目33に記載の方法。
項目35。
前記第1の溶液中の前記界面活性剤の濃度が前記界面活性剤の臨界ミセル濃度の約10%以下である、項目33または34に記載の方法。
項目36。
前記界面活性剤が非イオン性界面活性剤である、項目33~35のいずれか一項に記載の方法。
項目37。
前記界面活性剤がTriton-X 100、Triton-X 114、Nonidet P-40、n-ドデシル-D-マルトシド、Tween-20、Tween-80、サポニンおよびジギトニンからなる群から選択される、項目33~36のいずれか一項に記載の方法。
項目38。
前記界面活性剤がサポニンまたはジギトニンであり、前記第1の溶液中の前記界面活性剤の濃度が約400μM未満である、項目37に記載の方法。
項目39。
前記界面活性剤がサポニンまたはジギトニンであり、前記第1の溶液中の前記界面活性剤の濃度が約50μM未満である、項目37に記載の方法。
項目40。
前記界面活性剤がサポニンまたはジギトニンであり、前記第1の溶液中のサポニンまたはジギトニンの濃度は約30μM~約40μMである、項目37に記載の方法。
項目41。
前記第1の溶液が、張性剤、浸透圧調節剤またはキレート剤の1つまたは複数を含むバッファーをさらに含む、項目33~40のいずれか一項に記載の方法。
項目42。
前記第1の溶液がTrisバッファー、スクロースおよびキレーターを含む、項目41に記載の方法。
項目43。
前記第1の溶液中の前記細胞を処理することが、前記第1の溶液中の前記細胞を室温で約2分~約30分間インキュベートすることを含む、項目33~42のいずれか一項に記載の方法。
項目44。
前記界面活性剤を除去することが、前記溶液中の前記界面活性剤を前記第1の溶液中の前記界面活性剤の濃度の10%未満へ減少させることを含む、項目33~43のいずれか一項に記載の方法。
項目45。
前記界面活性剤を除去することが、前記溶液中の前記界面活性剤を前記第1の溶液中の前記界面活性剤の濃度の1%未満へ減少させることを含む、項目33~44のいずれか一項に記載の方法。
項目46。
前記界面活性剤を除去することが前記細胞をバッファーで洗浄することを含む、項目33~45のいずれか一項に記載の方法。
項目47。
前記第2の溶液をインキュベートすることが、前記第2の溶液中の前記細胞を約4℃で約5分~約30分間インキュベートすることを含む、項目33~46のいずれか一項に記載の方法。
項目48。
前記第2の溶液から前記ミトコンドリアを回収することが、上清を回収して単離されたミトコンドリアを回収することを含む、項目33~47のいずれか一項に記載の方法。
項目49。
前記第2の溶液から前記ミトコンドリアを回収することが、前記第2の溶液を遠心分離し、遠心分離後に上清を回収して単離されたミトコンドリアを回収することを含む、項目33~48のいずれか一項に記載の方法。
項目50。
単離された前記ミトコンドリアを冷凍することをさらに含む、項目33~49のいずれか一項に記載の方法。
項目51。
単離された前記ミトコンドリアを、凍結保護物質を含むバッファーの中で冷凍することを含む、項目50に記載の方法。
項目52。
項目33~51のいずれか一項に記載の方法によって得られた、単離されたミトコンドリアの集団。
項目53。
疾患または障害を処置する方法であって、それを必要とする対象の細胞を、項目1~30のいずれか一項に記載の単離されたミトコンドリアの集団または項目31に記載の組成物または項目32に記載の製剤と接触させることを含み、前記疾患または障害は、糖尿病(I型およびII型)、代謝性疾患、ミトコンドリア機能障害と関連する目の障害、難聴、治療薬と関連するミトコンドリアの毒性、化学療法または他の治療薬と関連する心毒性、ミトコンドリア機能不全障害および片頭痛からなる群から選択される方法。
項目54。
ミトコンドリア機能障害と関連する疾患または障害を処置する方法であって、それを必要とする対象の細胞を、項目1~30のいずれか一項に記載の単離されたミトコンドリアの集団または項目31に記載の組成物または項目32に記載の製剤と接触させることを含む方法。
項目55。
疾患または障害は、ミトコンドリアミオパシー、糖尿病および聴覚障害(DAD)症候群、バース症候群、レーバーの遺伝性眼神経障害(LHON)、リー症候群、NARP(神経障害、運動失調、色素性網膜炎および下垂症候群)、筋神経性胃腸脳症(MNGIE)、MELAS(ミトコンドリア脳症、乳酸アシドーシスおよび脳卒中様発症)症候群、荒れた赤色線維を有するミオクローヌス性てんかん(MERRF)症候群、カーンズ-セイヤー症候群およびミトコンドリアDNA消耗症候群からなる群から選択される、項目54の方法。
項目56。
前記疾患または障害が虚血関連の疾患または障害である、項目54に記載の方法。
項目57。
前記虚血関連の疾患または障害が、脳虚血再かん流、低酸素性虚血性脳症、急性冠動脈症候群、心筋梗塞、肝臓虚血-再かん流損傷、虚血性損傷-コンパートメント症候群、血管遮断、創傷治癒、脊髄損傷、鎌形赤血球疾患および移植臓器の再かん流損傷からなる群から選択される、項目56に記載の方法。
項目58。
前記疾患または障害が遺伝子障害である、項目54に記載の方法。
項目59。
前記疾患または障害が加齢性疾患または障害である、項目54に記載の方法。
項目60。
前記疾患または障害が神経変性状態または心血管状態である、項目54に記載の方法。
項目61。
前記神経変性状態が、認知症、フリードライヒ運動失調、筋萎縮性側索硬化症、ミトコンドリアミオパシー、脳症、乳酸アシドーシス、脳卒中(MELAS)、赤色ぼろ線維・ミオクローヌス性てんかん(MERFF)、てんかん、パーキンソン病、アルツハイマー病またはハンチントン病からなる群から選択される、項目60に記載の方法。
例示的な神経精神医学的障害としては、双極性障害、統合失調症、うつ病、習慣性障害、不安障害、注意欠陥障害、人格障害、自閉症およびアスペルガー病が挙げられる。
項目62。
前記心血管状態が、冠状動脈性心疾患、心筋梗塞、アテローム硬化症、高血圧、心停止、脳血管疾患、末梢動脈疾患、リウマチ性心疾患、先天性心臓病、鬱血性心不全、不整脈、脳卒中、深部静脈血栓症および肺塞栓症からなる群から選択される、項目60に記載の方法。
項目63。
前記疾患または障害が、がん、自己免疫性疾患、炎症性疾患または線維症障害である、項目54に記載の方法。
項目64。
前記疾患が急性呼吸窮迫症候群(ARDS)である、項目54に記載の方法。
項目65。
前記疾患または障害が、子癇前症または子宮内胎児発育遅延(IUGR)である、項目54に記載の方法。
項目66。
単離されたミトコンドリアの前記集団または前記組成物を、静脈内、動脈内、気管内、皮下、筋肉内、吸入または肺内投与経路を通して前記対象に投与することを含む、項目54~65のいずれか一項に記載の方法。
項目67。
無傷の内膜および外膜を有する単離されたミトコンドリアであって、前記内膜は折りたたまれたクリステを含み、前記ミトコンドリアは細胞から単離され、前記ミトコンドリアは蛍光指示薬によって測定すると分極化しており、前記ミトコンドリアは細胞外環境で分極を維持することが可能である、単離されたミトコンドリア。
項目68。
非糸状の形状を有する、項目67に記載の単離されたミトコンドリア。
項目69。
前記ミトコンドリアの表面の電位依存性アニオンチャネル(VDAC)はその表面でチューブリンと会合している、項目67または68に記載の単離されたミトコンドリア。
項目70。
前記チューブリンが二量体チューブリンである、項目67に記載の単離されたミトコンドリア。
項目71。
前記チューブリンが、α-チューブリンおよびβ-チューブリンを含むヘテロダイマーである、項目70に記載の単離されたミトコンドリア。
項目72。
前記蛍光指示薬がJC-1、テトラメチルローダミンメチルエステル(TMRM)およびテトラメチルローダミンエチルエステル(TMRE)からなる群から選択される、項目67~71のいずれか一項に記載の単離されたミトコンドリア。
項目73。
グルコース調節タンパク質75(GRP75)の発現によって測定すると、ミトコンドリア会合膜(MAM;mitochondria-associated membrane)との会合の減少を示す、項目67~72のいずれか一項に記載の単離されたミトコンドリア。
項目74。
会合の減少が、細胞中のミトコンドリアの、または細胞のホモジナイゼーションを含む方法によって得られた単離されたミトコンドリアの、MAMとの会合と比較して少なくとも約30%の減少である、項目73に記載の単離されたミトコンドリア。
項目75。
会合の減少が少なくとも約50%の減少である、項目74に記載の単離されたミトコンドリア。
項目76。
膜電位が約-30mV~約-220mVである、項目67~75のいずれか一項に記載の単離されたミトコンドリア。
項目77。
drp1依存性分裂を起こしていない、項目67~76のいずれか一項に記載の単離されたミトコンドリア。
項目78。
サイズが約500nm~3500nmである、項目67~77のいずれか一項に記載の単離されたミトコンドリア。
項目79。
項目67~78のいずれか一項に記載の単離されたミトコンドリアを含む組成物。
項目80。
単離されたミトコンドリアがそのミトコンドリアがミトコンドリア活性化剤で処理された細胞に由来するかまたはそれから単離される、項目1~30のいずれか1つの単離されたミトコンドリアの集団。
項目81。
細胞中のミトコンドリアを(i)~(iv)の前にミトコンドリア活性化剤で処理する、項目33~52のいずれか1つの方法。
項目82。
単離されたミトコンドリアがそのミトコンドリアがミトコンドリア活性化剤で処理された細胞に由来するかまたはそれから単離される、項目30もしくは79の組成物または項目31の製剤。
項目83。
そのミトコンドリアがミトコンドリア活性化剤で処理された細胞に由来するかまたはそれから単離される、単離されたミトコンドリア。
項目84。
そのミトコンドリアがミトコンドリア活性化剤で処理された細胞に由来するかまたはそれから単離される、項目67~78のいずれか1つの単離されたミトコンドリア。
項目85。
投与される単離されたミトコンドリアの集団が、項目80の単離されたミトコンドリアの集団、項目82の組成物または項目82の製剤である、項目53~66のいずれか1つの方法。
項目86。
ミトコンドリア活性化剤をさらに含む、項目80の単離されたミトコンドリアの集団、項目82の組成物もしくは製剤、または項目83もしくは84の単離されたミトコンドリア。
項目87。
ミトコンドリア活性化剤がレスベラトロールである、項目80の単離されたミトコンドリアの集団、項目82の組成物もしくは製剤、または項目83もしくは84の単離されたミトコンドリア。
項目88。
ミトコンドリア活性化剤がレスベラトロールである、項目86の集団、組成物、製剤または単離されたミトコンドリア。
項目89。
ミトコンドリア活性化剤を内包または含有する脂質膜ベースの小胞で処理された細胞に由来するかまたはそれから単離される、単離されたミトコンドリア。
項目90。
ミトコンドリア活性化剤がレスベラトロールである、項目89の単離されたミトコンドリア。
項目91。
ミトコンドリア活性化剤をさらに含む、項目89または90の単離されたミトコンドリア。
項目92。
項目88~90のいずれか1つの単離されたミトコンドリアの集団。
項目93。
項目88~90のいずれか1つの単離されたミトコンドリアの集団を含む組成物。
項目94。
項目88~90のいずれか1つの単離されたミトコンドリアの集団を含む医薬組成物。
項目95。
細胞がミトコンドリア活性化剤を内包または含有する脂質膜ベースの小胞で処理された、項目33~66のいずれか1つの方法。
項目96。
ミトコンドリア活性化剤がレスベラトロールである、項目95の方法。
【0193】
一実施態様では、内包されたミトコンドリアは、上で説明される通り単離されたミトコンドリアから調製することができる。
【実施例】
【0194】
実施例1
ミトコンドリアの単離
ミトコンドリアは以下の通りHeLa細胞から単離した。Rikenの細胞バンクから購入したヒト由来のHeLa細胞(RCB3680)を培養した。培養で使用した培地はMEM+10%FBSであり、継代培養は1週間に1回または2回実行した。
1)細胞は直径100mmのシャーレで培養し、80%集密が確認された。
2)培地を捨て、シャーレを単離バッファー(10mM Tris-HCl、250mMスクロース、0.5mM EGTA、pH7.4)の3mLで2回洗浄した。
3)3mLの30μMジギトニンを含む単離バッファーをシャーレに加え、シャーレを室温で3分間静置させた。30μMは、ジギトニンの臨界ミセル濃度(cmc)の約1/10である。
4)シャーレの内部は、単離バッファー3mLで2回洗浄した。
5)単離バッファー3mLをシャーレに加え、シャーレを4℃で10分間静置させた。
6)マイクロピペットを使用した弱いピペッティングによって、細胞を脱離させた。
7)その後、ミトコンドリアおよび脱離した細胞を含む懸濁液を15mL遠心管に移し、500×g、4℃で10分間遠心分離した。上清(2mL)を収集して単離されたミトコンドリアの集団を得た(以降、「用時に調製された生成物」とも呼ばれる)。
8)冷凍するとき、単離バッファーではなく冷凍バッファー(10mM Tris-HCl、225mMマンニトール、75mMスクロース、0.5mM EGTA、pH7.4)にグリセロールを加えて10%の濃度を得、懸濁した。懸濁液を液体窒素で冷凍して、冷凍された単離されたミトコンドリアを得た(以降、「冷凍生成物」とも呼ばれる)。
【0195】
用時に調製された生成物は、リンゴ酸およびグルタミン(各々5mM)の存在下で250nMのテトラメチルローダミンメチルエステル(TMRM)で染色し、単離されたミトコンドリアの活性を評価した。その結果、ミトコンドリアの分極が確認された。単離されたミトコンドリアをMitoTracker Deepredの100nMで染色し、その純度を検査した。その結果、単離されたミトコンドリアを含むほとんど全体の溶液から明るい緑色蛍光が放出された。このことから、単離されたミトコンドリアがほとんど全体の溶液に存在することが確認された。言い換えると、単離されたミトコンドリアはミトコンドリア溶液の98%以上の比で存在し、ミトコンドリアの90%は分極を示した。
【0196】
冷凍ミトコンドリアは水道水にさらすことによって解凍し、500×gおよび4℃で10分間遠心分離した。上清を収集し、続いて遠心分離してミトコンドリアを沈殿させた。上清を廃棄し、Trisバッファーを代わりに加えて試料を得た。これらの試料に含有されるミトコンドリアの粒径(動的光散乱による)およびゼータ電位(電気泳動的光散乱による)は、Zetasizer NanoZS(Malvern Instruments,Ltd.、Worcestershire、UK)によって測定した。より具体的には、ミトコンドリアの平均粒径(平均流体力学的粒径)および多分散指数(PDI)は、キュムラント分析(ISO22412)による散乱光強度の自己相関関数から得られた。その後、粒径に基づいてヒストグラムを作成した。結果は、
図1に示す通りであった。
図1で、冷凍前の使用時に調製される、上のステップ7)で得られた生成物の結果はパネルa)に示され;一方、上のステップ8)で得られた冷凍生成物を解凍することによって得られた試料の結果はパネルb)に示される。
図1に示すように、単離されたミトコンドリアの集団中のミトコンドリアの粒径は、約1,000nmあたりに分布した(
図1、パネルa)を参照する)。冷凍、解凍された単離されたミトコンドリアの集団で、同じ分布結果が得られた(
図1、パネルb)を参照する)。さらに、凍結融解プロセスの後、ゼータ電位は負の値で維持された(
図1のゼータ(ζ)電位を参照する)。
【0197】
その後、単離されたミトコンドリアの集団に含有されるミトコンドリアの表面電位を評価するために、共焦点レーザー顕微鏡で観察を実行した。より具体的には、膜電位を評価するために、ミトコンドリア電位依存性試薬、テトラメチルローダミンエチルエーテル(TMRE)(励起波長:549nm、蛍光波長:574nm)(Thermo Fisher、Waltham、MA)を使用した。ミトコンドリア膜電位が維持される場合、TMREは赤色蛍光を放出する。単離されたミトコンドリアの溶液(300μL)を3.5cmガラスベースのシャーレ(AGC TECHNO GLASS Co.,Ltd.(IWAKI)、Shizuoka、Japan)に加え、10×gおよび4℃で10分間遠心分離した。上清を廃棄した。染色溶液を加え、10nmのTMRE、0.33mg/mLのウシ血清アルブミン(BSA)(Sigma-Aldrich、St.Louis、MO)、5mMリンゴ酸(Wako Pure Chemical Industries,Ltd.、Osaka、Japan)および5mMグルタミン酸(Wako Pure Chemical Industries,Ltd.、Osaka、Japan)を得、各々は最終濃度である。インキュベーションは、室温で10分間実行した。FV10i-LVI(Olympus Corporation、Tokyo、Japan)を使用して観察を実行した。結果は、
図2に示す通りである。
図2で、上のステップ7)で得られた単離されたミトコンドリアの集団(すなわち、凍結融解プロセスの前の単離されたミトコンドリアの集団、以降「用時に調製された生成物」とも呼ばれる)の結果はパネルa)に示され;一方、上のステップ8)で得られた冷凍材料(すなわち、凍結融解プロセスの後の単離されたミトコンドリアの集団、以降「冷凍生成物」とも呼ばれる)を解凍することによって得られた試料の結果はパネルb)に示される。
図2に示すように、冷凍生成物においても赤色蛍光が満足に検出される。凍結融解プロセスの後でさえも膜電位が維持されることが実証される。
【0198】
実施例2
脂質膜によるコーティングおよび得られた粒子の特徴分析
単離されたミトコンドリアの集団に含有されるミトコンドリアは、内部と外部を位相的に分離する境界の役目をするラメラ構造を有する脂質膜で各々コーティングされた(脂質膜に内包されたミトコンドリアを得るために)。脂質膜によるコーティングにおいて、マイクロフローチャネルを使用することができるかどうか検討した。このプロセスは、具体的には以下の通りであった。マイクロフローチャネルデバイスとして、バッフル構築物を有するiLiNP(商標)(Lilac pharma Inc.)を使用した。デバイス、iLiNPは、
図36に示すように、2つの溶液入口(11aおよび12a)、溶液入口を合流チャネル(13)および混合チャネル(14)にそれぞれ連結するチャネル(11および12)を有する。合流チャネル13は、2つの溶液入口から延長しているチャネル(11および12)が一緒になる部位である。混合チャネル14は、一緒になる溶液が混合されるチャネルである。
図36に示すように、混合チャネル14では、溶液は大きい矢印によって示される流動方向に沿って移動し、ベンドを通して出口14cの方へ導かれる。混合チャネル14は、14aおよび14bによって表されるベンドの単一のまたは複数のセット(20セット)を有していた。
図36では、14aはチャネルの幅が狭くなる(幅50μm)領域を表し、14b(幅200μm)は、狭くなる領域の幅が元の幅に戻る領域を表す。チャネルの高さは100μmであった。マイクロフローチャネルデバイスにより、有機溶媒および水溶性溶媒を高速で撹拌することができる(
図3、パネルa)を参照する)。この実施例では、ここで使用された有機相は、エタノールに溶解した7.7mM脂質溶液(1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)/スフィンゴミエリン(SM)/1,2-ジミリストイル-sn-グリセロール、メトキシポリエチレングリコール2000(DMG-PEG2000)/ステアリル化オクタアルギニン(STR-R8)=9/2/0.33/1.1(モル比))であった;ここで使用された水相は単離されたミトコンドリアの溶液であった。これらの2つの溶液をマイクロフローチャネルデバイスの2つの入口にそれぞれ注ぎ、マイクロフローチャネルデバイスの合流チャネルの中で混合した(
図4を参照する)。混合条件は以下の通りであった:全体の流速:500μL/分(有機相:100μL/分、水相:400μL/分)。ここで使用されたシリンジポンプは、PUMP 11 ELITE(Harvard Apparatus、Holliston、MA)であった。対照として、水相に単離されたミトコンドリアを含まない試料(
図3、パネルb)を参照する)、有機相にエタノールだけを使用した試料(
図5、パネルa)を参照する)および有機相にSTR-R8だけを含むエタノールを使用した試料(
図5、パネルb)を参照する)を評価した。さらに、水溶性溶媒および有機相の代わりに単離されたミトコンドリア溶液の混合物を使用した試料も評価した(
図5、パネルc)を参照する)。個々の試料の粒径およびゼータ電位が測定された。その結果、
図4に示すように、マイクロフローチャネルデバイスから得られた粒子は、100nmあたりにピークを有する単分散粒径分布を示した。活性を有するミトコンドリアは分極化するので、それらは負のゼータ電位を有する。対照的に、マイクロフローチャネルデバイスによって得られた粒子は、正のゼータ電位を示した(
図4を参照する)。この事実は、ミトコンドリアは表面にカチオン性STR-R8を曝露する脂質膜によって内包されたこと、およびゼータ電位は前記R8の存在のために正に変化したことを示唆する。
【0199】
さらに、ミトコンドリア膜電位指示薬を使用することによって、マイクロフローチャネルでの分割の後にミトコンドリアがより小さいものに分割され(サイズ:262nm;PDI:0.301;ζ電位:-19.7mV)、検出可能な負の膜分極を有しないことが示された。
【0200】
実施例3
蛍光顕微鏡によるミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞の観察
次に、ミトコンドリアが脂質膜で首尾よくコーティングされたかどうか決定するために、ミトコンドリアを赤色(MitoTracker(商標)Deep Red(励起波長:644nm、蛍光波長:665nm)(Thermo Fisher、Waltham、MA))に染色し;一方、脂質は緑色(DOPE-N-(7-ニトロ-2-1,3-ベンズオキサジアゾール-4-イル)(NBD-DOPE)(励起波長:465nm、蛍光波長:535nm)(Avanti Polar lipids、Alabaster、AL)に染色し、その後、単離されたミトコンドリアは、前記のようにマイクロフローチャネルデバイスを使用したコーティングプロセスに供し、蛍光画像化によって観察した。ミトコンドリアがコーティングされた場合、赤色および緑色の重複部分と黄色の蛍光が生成されるはずである。マイクロフローチャネルデバイスによって得られた粒子をガラススライドに加え、Nikon A1(Nikon Corporation、Tokyo、Japan)によって観察した。結果は、
図6に示す通りである。
図6に示すように、ミトコンドリアの存在を示す赤色蛍光(
図6、パネルa)を参照する)および脂質の存在を示す緑色蛍光(
図6、パネルb)を参照する)は完全に共存した(
図6、パネルc)を参照する)。結果は、得られた粒子が脂質膜によって内包されたミトコンドリアの形の粒子であることを裏付ける。
【0201】
実施例4
電子顕微鏡によるミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞の観察
上記のマイクロフローチャネルデバイスによって得られたミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞(
図4を参照する)の構造を、電子顕微鏡で観察した。単離されたミトコンドリア(使用時に調製される生成物)およびSTR-R8改変を有する単離されたミトコンドリア(
図5、パネルb)に示すミトコンドリア)を、対照として使用した。より具体的には、単離されたミトコンドリアおよびSTR-R8改変を有する単離されたミトコンドリアは、生体試料を観察するために通常用いられる化学固定方法によって染色した。単純な脂質膜ベースの小胞(
図3、パネルb)を参照する)およびミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞(
図4を参照する)は、ナノ粒子観察のために好適であるネガティブ染色方法によって染色した。化学固定方法は、以下の通りに実行した。最初に、試料を4%のパラホルムアルデヒドおよび2%のグルタルアルデヒドを含む同じ量の0.1Mカコジラートバッファー(pH7.4)で固定し、冷却し、その後、4℃で一晩、2%のグルタルアルデヒドを含む0.1Mカコジラートバッファー(pH7.4)でさらに固定した。固定した試料をカコジラートバッファーで洗浄し、その後2%のオスミウムテトラオキシドを含む0.1Mカコジラートバッファー(pH7.4)でさらに固定した。水を除去するために、エタノールを含む溶液に試料を段階的に浸した。試料をプロピレンオキシドで2回処理し、プロピレンオキシドおよび樹脂を含む混合物(Quetol-812;Nisshin EM Co.、Tokyo、Japan)に70:30の比で1時間インキュベートした。その後、管のキャップを除去し、プロピレンオキシドを蒸発させるために試料を一晩静置させた。その後、試料を100%樹脂に包埋し、60℃で48時間重合反応を実行した。試料を厚さ70nmの切片にスライスした。切片は、電子顕微鏡で観察した。ネガティブ染色方法によってナノ粒子が観察された。これは、脂質膜が化学固定方法によって分解し、生じた試料は膜構造を観察するのに好適でないからである。ここで使用された電子顕微鏡は、JEM-1400 Plus(JEOL Ltd.、Tokyo、Japan)であった。観察の分析は、Tokai Electron Microscopy,Inc.に外注化された。結果は、
図7~10に示す通りであった。
図7に示すような化学固定法では、単離されたミトコンドリアがミトコンドリアで特徴的なクリステ構造を有することが観察された。
図8に示すように、ミトコンドリアを内包していない脂質膜ベースの小胞は粒子の形を有することが観察された;しかし、粒子の内部は脂質膜で満たされた。対照的に、ミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞(
図4を参照する)は、
図9に示すように中空の脂質膜構造を有することが観察された。脂質膜は、いかなる物質も中に内包されていない場合、粒子の内部は
図8に示すように脂質膜で満たされる。
図9に示す粒子では、脂質膜が内部に入ることができなかったので、ミトコンドリアが内包されると推定された。ネガティブ染色法は、
図7に示すようにミトコンドリアの構造を観察するのに適当な方法でないことに注意する。このため、ミトコンドリアは
図9に示されなかった。しかし、STR-R8で改変され、単離されたミトコンドリアでは、ミトコンドリアの構造は
図10に示すように破壊されることが観察された。ミトコンドリアが脂質膜によって内包された後、ミトコンドリアがSTR-R8で好ましく改変されることが判明した。
【0202】
実施例5
各種の脂質を使用したミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞
図4で調製されたミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞の脂質膜組成物(ナノカプセル材料:DOPE/SM/STR-R8)の代わりに、様々な脂質膜組成物を使用して、これらの組成物からミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞を調製することができるかどうか検討した。ここで使用される脂質膜材料組成物は、中性脂質膜組成物であった:臨床的に使用されるナノカプセルDoxilのそれと同じ組成物の成分である、水素化ダイズホスファチジルコリン(HSPC)/コレステロール(Chol)/1,2-ジミリストイル-rac-グリセロ-3-メトキシポリエチレングリコール-2000(DMG-PEG2000)=3/2/0.25(モル比);および負の電位を有する脂質膜組成物の成分であるDOPE/コレステロールヘミスクシネート(CHEMS)=9/2(モル比)。ミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞は、上で指摘したようなマイクロフローチャネルデバイスによって調製した。陰性対照として、ミトコンドリアを含まない溶液および脂質を含む有機溶媒から調製した粒子を使用した。結果は、
図11に示す通りであった。
図11に示すように、粒子群のいずれのものも凝集なしの粒径分布を示すことが観察された。ミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞(図では「ミトコンドリアをパッケージする」)の粒径は、その中に内包されるミトコンドリアを有していない粒子(図では「ナノ粒子」)のそれより大きい傾向があることが判明した。正に荷電した
図4に示す組成物だけでなく、中性脂質(
図11、パネルc)を参照する)および負に荷電した脂質(
図11、パネルd)を参照する)の両方においても、ミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞を得ることができることも判明した。粒径の間の比較に基づいて、粒径分布が脂質膜組成によって変化する可能性が示唆された(
図11を参照する)。
【0203】
実施例6
様々な流速でパッケージされたミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞
ミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞は、有機相の流速およびエタノール濃度だけが変更されたこと以外は上記と同じマイクロフローチャネルデバイス(
図4を参照する)を使用して調製した。全体の流速は50μL/分、100μL/分、250μL/分または500μL/分に変更された。有機相のエタノール濃度は、10%、20%または40%に変更された。得られたミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞の粒径およびゼータ電位は、上と同様に測定した。結果は、
図12に記載の通りであった。
図12に記載されるように、いかなる条件でも、粒径は約100~150nmであった。
【0204】
実施例7
得られたミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞の細胞への組込み
図4で得られたミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞の細胞への組込みおよび組込み後の細胞におけるその細胞内動態力学を観察した。単離されたミトコンドリアのパッケージングの前に、ミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞中のミトコンドリアを、MitoTracker(商標)Deep Redで赤色に染色した(ミトコンドリアを染色する目的で4℃で15分間100nMの濃度でそれらをインキュベートすることによって)。HeLa細胞を調製し、HeLa細胞中のミトコンドリアをMitoTracker(商標)Greenで緑色に染色した(5%CO
2条件の37.0℃で15分間それらを100nMの濃度でインキュベートすることによって)。その後、生じたHeLa細胞に、ミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞を加えた。混合物を3時間インキュベートした。インキュベーションの後、共焦点レーザースキャン顕微鏡(CLSM、使用した機械OlympusFV10i-LIV、対物レンズUPlanSApo60×/NA=1.2水、LDレーザー473nm、635nm)で細胞を観察した。結果は、
図13に示す通りであった。
図13に示すように、HeLa細胞では、ミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞に由来するミトコンドリアの赤色シグナル、およびHeLa細胞に由来するミトコンドリアの緑色シグナルが観察された。ほとんど全てのミトコンドリアは共存を示した。このことから、ミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞に由来するミトコンドリアが細胞に組み込まれ;細胞に組み込まれたミトコンドリアが細胞中のミトコンドリアと融合すること;および融合が均一に実行されることが判明した。
【0205】
対照的に、パッケージングの前の単離されたミトコンドリア(同じ量)をHeLa細胞に加えた場合、赤色シグナルは細胞で事実上観察されなかった(
図14を参照する)。STR-R8で改変され、単離されたミトコンドリア(脂質でコーティングされていない)を加えたHeLa細胞では、多くの細胞が死んだことが観察された(
図15を参照する)。
【0206】
ミトコンドリアをヒト心筋幹細胞(hCDC)から単離し、上と同様にHeLa細胞と接触させた。30分後に、細胞への単離されたミトコンドリアの組込みが観察された。脂質でパッケージされていない単離されたミトコンドリアの細胞の中への組込みは観察されなかった(
図16および17を参照する)。
【0207】
実施例8
ミトコンドリア疾患モデル細胞の救済実験
実験では、ミトコンドリアをヒト心筋幹細胞(hCDC)から単離し、脂質にパッケージし、ミトコンドリア突然変異を有する細胞に移植した。この方法で、ミトコンドリア突然変異を救済した。細胞がhCDCに変更されたこと以外は、単離されたミトコンドリアの集団を上と同様にhCDCから収集した(
図18を参照する)。hCDC由来のミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞を得るために、単離されたミトコンドリアの収集した集団を
図4に示すように脂質膜にパッケージした。その後、得られたhCDC由来のミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞を、MELAS患者からの単離培養によって得られた皮膚線維芽細胞(MELA細胞)、およびLHON患者からの単離培養によって得られた皮膚線維芽細胞(LHON細胞)に加えた。3時間および24時間後に、ミトコンドリアの呼吸活性を細胞外フラックスアナライザー(使用した機械:細胞外フラックスアナライザーXFp、Agilent Technologies、California、USA)によって評価した。アッセイプレートのウェルに、細胞を15,000細胞/ウェルの割合で播種した。アッセイの3時間および24時間前に、hCDC由来のミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞を加えた。呼吸活性測定のための基礎培地に、グルコース(5.5mM)、ピルビン酸(1.25mM)およびグルタミン(4.0mM)を加えた。基礎呼吸を細胞外フラックスアナライザーによって測定した後、ミトコンドリアの酸素消費速度を測定するために、オリゴマイシン(最終濃度1μM、カルボニルシアニド-p-トリフルオロメトキシフェニルヒドラゾン(FCCP)(最終濃度1.5μM)、ならびにロテノンおよびアンチマイシンA(最終濃度各々0.5μM)をこの順に逐次的に加えた。
【0208】
結果は、
図19および20に示す通りであった。
図19および20に示すように、hCDC由来のミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞を加えることによって、FCCPの添加の後のミトコンドリアの呼吸活性は大いに向上した。呼吸活性の向上は3時間後でも観察され、そのさらなる大きな向上が24時間後に観察された。記載されるように、ミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞を細胞に移植することによって、処理細胞におけるミトコンドリアの機能が向上することが判明した。向上はわずか3時間以内に観察され、向上のためにミトコンドリアのゲノムDNAが必ずしも必要とされるとは限らないこと、および、むしろ内包されたミトコンドリアの中の他の成分のいくつかが細胞内ミトコンドリア機能を支えることを助けるかもしれないことを示唆した。
【0209】
実施例9
リポフェクションによる細胞へのミトコンドリアの送達と比較したミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞による細胞へのミトコンドリアの送達
ミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞として、上で指摘した通りに調製されたhCDC由来のミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞を使用した。リポフェクションのために、上で指摘した通りに調製された用時に調製された生成物、およびリポフェクタミン(Lipofectamine(登録商標)2000 Invitrogen、California、USA)の溶液(1μL)を0.32μgのミトコンドリア(タンパク質に換算して)を混ぜ合わせることによって調製された脂質複合体(リポプレックス、以降「LFN単離Mt」とも呼ばれる)を使用した。細胞として、正常な皮膚線維芽細胞(正常な線維芽細胞)、リー脳症患者から単離培養によって得られた皮膚線維芽細胞(リー脳症細胞)、およびLHON患者から単離培養によって得られた皮膚線維芽細胞(LHON細胞)を使用した。アッセイプレートのウェルに、細胞を15,000細胞/ウェルの割合で播種した。アッセイの24時間前に、hCDC由来のミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞およびLFN単離Mtを加えた。(導入されたミトコンドリアの量は同じであった)。呼吸活性測定のための基礎培地に、グルコース(5.5mM)、ピルビン酸(1.25mM)およびグルタミン(4.0mM)を加えた。基礎呼吸を細胞外フラックスアナライザーによって測定した後、ミトコンドリアの酸素消費速度を測定するために、オリゴマイシン(最終濃度1μM、FCCP(最終濃度1.5μM)、ならびにロテノンおよびアンチマイシンA(最終濃度各々0.5μM)をこの順に逐次的に加えた。
【0210】
結果は、
図21~23に示す通りであった。
図21~23に示すように、ミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞は、正常細胞、リー脳症線維芽細胞およびLHON線維芽細胞を含む細胞のいずれのミトコンドリア呼吸活性も増加させた。対照的に、リポフェクタミンを使用した群(LFN単離Mt)では、ミトコンドリア呼吸活性の増加は観察されなかったかまたは限定的であった。リポフェクタミンを使用した群(LFN単離Mt)は、
図21に示すように正常細胞のミトコンドリア呼吸活性に負の影響を及ぼした。このことから、リポフェクタミンを使用した群(LFN単離Mt)はおそらく細胞傷害性であることが示唆された。
【0211】
その後、ミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞が細胞に組み込まれる可能性をLFN単離Mtのそれと比較した。使用時に調製される生成物と同様にミトコンドリアが正常な皮膚線維芽細胞からとられたこと以外は、試験試料を各々上と同様に調製した。試験試料が細胞に組み込まれる可能性は、フローサイトメーター(CytoFlex、Beckman Coulter,Inc.、Tokyo、Japan)によって評価した。HeLa細胞は、6ウェルプレートに2.0×105細胞/ウェルの比で播種した。播種の8時間後に、LFN単離Mt溶液、単離されたミトコンドリアの溶液およびミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞を、同じ量のミトコンドリアが供給されるように加えた。24時間後に、Hela細胞を収集し、細胞中のMITO MitoTracker(商標)Deep Redから放出された蛍光の強度をフローサイトメーター(レーザー638nm、チャネルAPC)によって測定した。
【0212】
結果は、
図24に示す通りであった。
図24に示すように、リポフェクタミンを使用した群(LFN単離Mt)が細胞に入る可能性は、単離されたミトコンドリアのそれより低いことが確認された。ミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞は、
図13の観察像に示されるものと同様に細胞に効率的に組み込まれることが確認された。
【0213】
実施例10
ミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞およびリポフェクタミン-ミトコンドリア複合体の間の比較
単離されたミトコンドリア(用時に調製された生成物)、および用時に調製された生成物とリポフェクタミン2000の混合物、すなわち、1μLのリポフェクタミン溶液(Opti MEM)およびミトコンドリア(タンパク質に換算して0.32μg)を混ぜ合わせることによって調製される混合物(LFN単離Mt)を調製した。それらの粒径分布およびゼータ電位をZetasizerによって測定した。結果は、
図25に示す通りであった。
図25に示すように、リポフェクタミンは約2670nmの粒径を有し、リポフェクタミン-ミトコンドリア複合体は約3500nmの粒径を有していた。リポフェクタミン-ミトコンドリア複合体は、小さい負のゼータ電位を有していた。これは、複合体が電気的に中性であったことを意味し;言い換えると、そのミトコンドリアはリポフェクタミン(正の電荷)によって完全に内包されておらず、リポフェクタミンおよび遊離型のミトコンドリアが電荷を中和するように複合体を形成することができることを示唆した。
【0214】
用時に調製された生成物およびリポフェクタミン2000の混合物に関して、混合物で形成されたリポフェクタミン-ミトコンドリア会合が電子顕微鏡で観察された。用時に調製された生成物およびリポフェクタミン2000の混合物は、それぞれルーチン方法により化学固定法およびネガティブ染色方法で染色し、次に会合を観察した。ネガティブ染色の結果は
図26に示す通りであって、化学固定法の結果は
図28に示す通りであった。
図26に示すように、リポフェクタミン2000(LFNだけ)は溶液中で粒子の会合を形成した。これに対して、リポフェクタミン2000およびミトコンドリアの混合物(LFN+Mt)の場合、LFN粒子と破片様ミトコンドリア(白色の破線によって内包された)の間の会合が観察された。
図27に示すように、使用時に調製される生成物(パネルA)と比較したリポフェクタミン2000-ミトコンドリア混合物(LFN+Mt;パネルB)では、リポフェクタミン粒子の凝集体がミトコンドリアの一部の側と会合していることが観察された。したがって、LFNおよびミトコンドリアの複合体は、明らかにミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞でない。
【0215】
さらに、MITO-Qの細胞傷害性を測定し、LFN+Mtのそれと比較した。HeLa細胞を1.0×10
4細胞/ウェルで平板培養し、24時間培養した。次に、Hela細胞をMITO-Qまたは異なる濃度でLFNで処理したQと接触させた。1時間のインキュベーションの後、培地を除去し、500μLの新鮮な培地(FBS(-))を各ウェルに加えて細胞をさらにインキュベートした。ミトコンドリア処理の24時間後に、細胞を500μLのPBSで洗浄した。次に、処理した細胞の生存率(%)を測定するために、インキュベートした細胞をWST-1アッセイ(Premix WST-1 Cell Proliferation Assay System、Takara Bio、Japan)に供した。結果は、
図27のパネルCに示した。
図27のパネルCに示すように、HeLa細胞は、LFN+Mtによる処理によって細胞傷害性を用量依存的に示すが、Hela細胞はMITO-Qによる処理によって細胞傷害性を実質的に示さない。完全に内包されたミトコンドリアは、ミトコンドリアを内包している粒子の細胞傷害性を減少させることができることを示唆する。より小さいミトコンドリアは、実質的な細胞傷害性を示さずに脂質膜ベースのナノ小胞の調製において有益である可能性を示唆する。
【0216】
結果は、
図28に要約した。
図28に示すように、リポフェクタミンおよび単離されたミトコンドリアの混合物では粒子が形成される;しかし、ミトコンドリアは粒子の中に内包されない。ミトコンドリア(粒子)およびリポフェクタミン粒子は複合体を形成すると考えられている。対照的に、本発明では、閉鎖空間にミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞が得られた。ミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞は、ミトコンドリア活性を有する。細胞への小胞の導入は、細胞のミトコンドリア活性を増強することができる。さらに、単離されたミトコンドリアを脂質溶液と混合するためにマイクロフローチャネルデバイスが使用されたので、単離されたミトコンドリアは活性を保ちながら小さい集団に分割され、脂質膜ベースの小胞の中に分割された小さい集団の状態で内包された。本発明により、ミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞が提供されるだけでなく、ミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞を小型化することもできる。小型化されたミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞を提供することもできる。
【0217】
実施例11
細胞内ミトコンドリア機能の向上に及ぼす膜電位の喪失の影響
図29Aおよび29Bに示すように、pH7.4~8.9を有する溶液を単離プロセス全体で使用したこと以外は、単離されたミトコンドリアは実施例1に示すように調製した。次に、異なるpHを有する溶液で単離されたミトコンドリアを、リンゴ酸およびグルタミン(各々5mM)の存在下で100nMのMitoTracher Deep Redまたは250nMのテトラメチルローダミンメチルエステル(TMRM)で染色し、単離されたミトコンドリアの活性を評価した。結果は、
図29Aおよび29Bに示す。
図29Aおよび29Bに示すように、pH8.0~8.9の溶液で単離したミトコンドリアは、これらの試料での低下した蛍光強度によって明示されるようにその膜電位が低下する。
【0218】
細胞内ミトコンドリア機能の向上に及ぼす膜電位の低下したミトコンドリアの移入の影響を評価するために、膜電位の低下したpH8.9の溶液で単離したミトコンドリアを脂質膜ベースの小胞に内包し、次に実施例9に記載される手順によりHeLa細胞に導入した。pH 7.4の溶液で単離した内包されたミトコンドリアを陽性対照として使用し、Trisバッファーを陰性対照として使用した。実験は、
図30Aに示す通りに実行した。簡潔には、HeLa細胞を実験の24時間前に平板培養した。24時間後に細胞を継代培養し、次に、用意した内包されたミトコンドリアを培養に加えた。1時間のインキュベーションの後、FBSを20%の最終濃度で培養に加えた。24時間後に、細胞呼吸機能を実施例9に記載されている通りに測定した。
【0219】
図30Bおよび30Cに示すように、処理細胞におけるミトコンドリア呼吸はpH8.9バッファーで調製した内包されたミトコンドリアによって処理した群で向上した。呼吸機能のこの向上は、pH7.4バッファーで調製した内包されたミトコンドリアによって処理した群と同等で、陰性対照群と比較して有意に大きな向上であった。これらの結果から、ミトコンドリアが移入された細胞の中でミトコンドリア機能を向上させるために、ミトコンドリアの膜電位は必ずしも必要でないと考えられた。
【0220】
実施例12
MITO-QにおけるmtDNAの存在度およびMITO-Q活性へのその影響
MITO-Qは、pH7.4バッファーで単離されたQ、pH8.9バッファーで単離されたQ、および臨界ミセル濃度より高い濃度の界面活性剤を使用した従来の方法(以降「D方法」とも呼ばれる)によって単離されたミトコンドリアから調製した。
【0221】
ミトコンドリアDNA(「mtDNA」とも呼ばれる)は、定量的PCR方法によって測定した。測定の前に、広いダイナミックレンジのためにmtDNAを直線的に検出するために、プライマーセットを選択した。莫大な数のプライマー対を選択した後に、PCRによるmtDNAの線形増幅を達成するために、配列番号1に示す核酸を有するフォワードプライマーおよび配列番号2に示す核酸配列を有するリバースプライマーを特定した。
図31Aでは、希釈系列を得るために単離されたミトコンドリアをTrisバッファーで希釈した。タンパク質濃度を従来のブラッドフォード方法によって測定し、mtDNAの濃度を上記のプライマー対を使用したPCR増幅によって計算した。タンパク質濃度とmtDNA濃度の間の関係を、
図31Aに示した。
図31Aに示すように、濃度は直線的に高く互いに関連していた。さらに、tRNA
Leu(3230~3304)をpUC57-AmpプラスミドベクターのEcoRIおよびEcoRV制限酵素部位に挿入することによって、pT7-tRNA
Leuを調製した。希釈系列を得るために、プラスミドをTrisバッファーで希釈した。次に、アンプリコンのコピー数を測定するために、異なる濃度を有するプラスミドを増幅した。
図31Bは、測定されたコピー数(または、アンプリコンの濃度)(ng/μL)がプラスミドの濃度と高度に相関していたことを示し、選択されたプライマー対がmtDNAを直線的に増幅することができ、試料に含まれる鋳型mtDNAを定量化するのに有益であることを示唆する。
【0222】
単離されたミトコンドリアの膜が破壊される場合、mtDNAはミトコンドリアから漏出し、得られたミトコンドリア中のmtDNAの量の減少をもたらす。様々な方法によって単離されたミトコンドリア中のmtDNAの数を計算した。pH7.4溶液でiMITによって単離されたミトコンドリアはタンパク質1μgあたり9.3×10
6コピーのmtDNAを有し、pH8.9溶液でiMITによって単離されたミトコンドリアはタンパク質1μgあたり5.6×10
6コピーのmtDNAを有し、CMCより高い濃度でD方法によって単離されたミトコンドリアはタンパク質1μgあたり8.7×10
5コピーのmtDNAを有する、ただし、
図31Cに示すように1ngのmtDNAは1.0×10
6コピーのmtDNAを含有する。したがって、iMITによって単離されたミトコンドリアはそれらのmtDNAをミトコンドリアの内部に保つが、D方法によって単離されたミトコンドリアは単離プロセスの間にミトコンドリアからそれらのmtDNAの大部分を失ったと考えられた。
【0223】
さらに、内包されたミトコンドリアを得るためにこれらの単離されたミトコンドリアをパッケージし、次に、内包されたミトコンドリアの中のmtDNAのコピーを同様の方法で計算した。結果は、表1および
図31Dに示す。
【0224】
【0225】
得られた内包されたミトコンドリアを細胞と接触させてミトコンドリアを細胞に導入した。基礎ミトコンドリア呼吸および最大ミトコンドリア呼吸を測定した。結果は、
図31Eおよび31Fに示す。
図31Eおよび31Fに示すように、pH7.4で単離されたMITO-QおよびpH8.9で得られたMITO-Qは、呼吸活性の劇的な増加を示すが、D方法によって得られたミトコンドリアは呼吸活性の中等度の増加を示す。これらの結果から、ミトコンドリアは単離プロセスの間にミトコンドリア成分の一部を失う可能性があるが、iMITによって単離されるQはそれらを維持する。
【0226】
内包されたミトコンドリアの各々に含まれる転写因子A、ミトコンドリア(TFAM)の量は、転写因子A、ミトコンドリア(TFAM)生物体種:ホモサピエンス(ヒト)(#MBS2706301)のための酵素結合免疫吸着検定法キットで製造業者のマニュアルにより測定した。pH7.4バッファーもしくはpH8.9バッファーを使用したiMIT方法によって、またはD方法によって単離されたミトコンドリアを、単離されたミトコンドリアとして使用した。これらのミトコンドリアは、上に示す実施例により脂質膜ベースのナノ小胞に内包した。WST-1アッセイからの結果は、
図31Gに示す。
図31Gに示すように、様々な方法によって単離されたミトコンドリアに含まれるTFAMのレベルは、お互いに同等であった。これらの方法によって単離されたミトコンドリアの中の全タンパク質の量は、お互いに同等であった(
図31H)。
【0227】
分割されたミトコンドリアまたは分割されたQはその呼吸活性を失い、したがって、従来の方法によって単離プロセスの間に減少するミトコンドリア成分のいくつかは、ミトコンドリア機能の活性化において重要な役割をすることができる。小胞中のmtDNAの濃度がMITO-Q機能の重要な指標になることも示された。
【0228】
実施例13
ヒト心臓前駆細胞からのミトコンドリアを含む脂質膜ベースの小胞の調製
実施例1によりヒト心臓前駆細胞(hCPC)からミトコンドリアを単離し、その後実施例2により脂質膜ベースの小胞に内包した。単離されたhCPCミトコンドリアおよび内包されたミトコンドリアのサイズ分布を、
図32Aおよび下の表2に示した。
【0229】
【0230】
表2および
図32Aに示すように、単離されたhCPCミトコンドリア(すなわち、単離されたhCPC Mt)は、サイズ分布のほぼ800nmにピーク、0.5より大きい0.7のPDI、および負のゼータ電位を有する。カチオン性ペプチドを提示する脂質膜ベースの小胞に内包された後、小胞(すなわち、hCPC-MITO-Q)は、サイズ分布の85nmにピーク、0.5未満のPDIおよび正のゼータ電位を有する。これらの結果は、hCPCミトコンドリアがカチオン性ペプチドを提示する小胞に首尾よく内包されたことを示す。
【0231】
次に、調製された内包されたミトコンドリア(hCPC-MITO-Q)をhCPCと接触させ、TMRMを使用してミトコンドリアを染色することによって、生じたhCPCの膜分極の程度を測定した。
図32Bに示すように、hCPC-MITO-Qは、未処理の対照細胞より強い蛍光を処理細胞で誘導する。
【0232】
実施例14
MITO-Porterによってそれらのミトコンドリア機能が活性化された細胞からの単離されたミトコンドリアの移入の影響
この実施例では、WO2018/092839の実施例1に示されるのと同じ方法で、ミトコンドリアのための薬物送達系であるMITO-Porterを使用することによってhCPCをミトコンドリア活性化剤レスベラトロールで処理した。次に、ミトコンドリアをレスベラトロール処理hCPCから単離し、ステアリル化オクタアルギニンの代わりにステアリル化S2ペプチドを使用することによって、実施例12に記載の方法によりS2ペプチドを提示する脂質膜ベースの小胞に内包した(Szeto、H.H.等、Pharm.Res.、2011年、28巻、2669~2679頁)。生じた小胞は、Res-hCPC-MITO-Qと呼ばれた。
【0233】
Trisバッファーで処理されたhCPC、実施例12で調製されたhCPC-MITO-Q、および実施例13で調製されたRes-hCPC-MITO-Qの基礎呼吸および最大呼吸を
図33に示した。
図33に示すように、Res-hCPC-MITO-Qは、hCPC-MITO-Qより大きな向上を処理細胞の呼吸能力で誘導する。これらの結果は、活性化ミトコンドリアが処理細胞の呼吸能力をさらに向上させることができることを示す。
【0234】
実施例15
実施例1~2に示すように調製されたMITO-Qを正常な線維芽細胞と接触させ、次に処理細胞を
図34Aに示す異なる時間インキュベートした。最大呼吸活性を各試料で測定した。結果は、
図34Bに示した。
図34Bに示すように、処理細胞の全ては、無処理群(NT)と比較して向上した最大呼吸活性を示す。MITO-QはミトコンドリアDNAおよびミトコンドリアの他の成分を含有すること、ならびに、より短い時間(例えば、3時間~48時間)インキュベートされた試料で観察された向上は、タンパク質、代謝産物等を含む非DNA成分のいくつかからもたらされるが、より長い時間(例えば、72時間)インキュベートされた試料で観察された向上は、ミトコンドリアの代謝回転期間(約2~3日間)を考慮すると細胞に移入されたミトコンドリアDNAからもたらされることが考えられる。
【0235】
実施例16
ミトコンドリアを内包している脂質膜ベースの小胞の保存
ミトコンドリアをhCPCから単離し、実施例12に記載される方法によりS2ペプチド/アプタマーを提示する脂質膜ベースの小胞に内包した。得られたhCPC-MITO-Qは、1週間の間4℃で保存した。次に、保存したhCPC-MITO-QをhCPCと接触させ、最大呼吸能力を測定した。保存前のhCPC-MITO-Qは、陽性対照として使用した。
図35に示すように、保存したhCPC-MITO-Qで処理した細胞の最大呼吸は、無処理細胞(NT)および保存前のhCPC-MITO-Qで処理した細胞より大きかった。したがって、これらの結果は、脂質膜ベースの小胞を含有する製剤は少なくとも1週間安定して保存することができることを示す。
【0236】
図36の参照符号リスト
11:チャネル1
11a:チャネル1の液体試料入口
12:チャネル2
12a:チャネル2の液体試料入口
13:チャネル1およびチャネル2の合流チャネル
14:合流チャネルで一緒になる液体試料を混合するための混合チャネル
14a:チャネルの狭くなる領域
14b:狭くなった領域が広がる領域
14c:液体試料混合物を排出ための出口
【国際調査報告】