(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-06
(54)【発明の名称】バニリン又はその誘導体を調製するための電気化学的方法
(51)【国際特許分類】
C25B 3/25 20210101AFI20230227BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20230227BHJP
C25B 3/03 20210101ALI20230227BHJP
C25B 3/07 20210101ALI20230227BHJP
【FI】
C25B3/25
C25B9/00 G
C25B3/03
C25B3/07
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022530218
(86)(22)【出願日】2019-11-25
(85)【翻訳文提出日】2022-07-15
(86)【国際出願番号】 CN2019120513
(87)【国際公開番号】W WO2021102613
(87)【国際公開日】2021-06-03
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508079739
【氏名又は名称】ローディア オペレーションズ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】シュビーデルノク, レナーテ
(72)【発明者】
【氏名】ストレイフ, ステファン
(72)【発明者】
【氏名】メティビアー, パスカル
(72)【発明者】
【氏名】オルベ, ドミニク
【テーマコード(参考)】
4K021
【Fターム(参考)】
4K021DB31
(57)【要約】
メディエータの存在下でバニリン又はその誘導体を調製するための電気化学的方法。メディエータはリサイクルして再利用でき、したがって反応の終わりまでに塩が形成されず、そのためこの方法はより環境に優しい。さらに、メディエータを使用する場合は、先行技術と比較して低い電位を要する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒と、前記溶媒中で還元型のメディエータを生成する化合物との存在下で、式(I)の化合物を式(II)の化合物に変換するための電気化学的方法
【化1】
(式中:
- M
p+は、H
+、NH
4
+、及び金属カチオンからなる群から選択されるカチオンであり;
- pはMの原子価であり;
- R
1、R
2、R
3、及びR
4は、互いに独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、ハロアルキル基、及びペルハロアルキル基からなる群から選択され;
- R
5は、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、又はアラルキル基を表す)。
【請求項2】
R
1又はR
3がアルコキシ基である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
R
1又はR
3が、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、及びブトキシからなる群から選択され、R
2又はR
4が水素原子である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
R
5が水素原子又はアルキル基である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記式(I)の化合物が、4-ヒドロキシ-3-メトキシマンデル酸又は4-ヒドロキシ-3-エトキシマンデル酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記溶媒中で還元形態でメディエータを生成する前記化合物が、アルカリ金属臭化物、アルカリ金属塩化物、アルカリ金属ヨウ化物、臭化アンモニウム、鉄塩、セリウム塩、マンガン塩、銅塩、コバルト塩、及びクロム塩からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
請求項1に記載の式(I)の化合物を請求項1に記載の式(II)の化合物に変換するための電気化学的方法であって、
(i)還元型のメディエータを生成する化合物を溶媒に溶解して溶液を得る工程;
(ii)工程(i)で得られた前記溶液を電気化学リアクターに添加する工程;
(iii)電流を前記電気化学リアクターに流して、還元型の前記メディエータを酸化型のメディエータへと酸化する工程;
(iv)前記式(I)の化合物を、工程(iii)で得られた酸化形態の前記メディエータと接触させて、前記式(II)の化合物を生成する工程;
を含む方法。
【請求項8】
工程(i)において、前記溶液中で還元型のメディエータを生成する前記化合物の濃度が、0.05M~2M、好ましくは0.1M~0.5Mの範囲である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
工程(iii)及び(iv)において、反応温度が0℃~100℃、好ましくは10℃~30℃である、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
工程(i)における還元型のメディエータを生成する前記化合物に対する、工程(iv)における前記式(I)の化合物のモル比が1以上、好ましくは1~10、より好ましくは1.5~5.0である、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
アノードとカソードの両方を含む電気化学リアクターで請求項1に記載の式(I)の化合物を請求項1に記載の式(II)の化合物に変換するための電気化学的方法であって、
a)前記式(I)の化合物と、還元型のメディエータを生成する化合物とを溶媒に溶解して、溶液Aを得る工程;
b)溶媒に還元型のメディエータを生成する化合物を溶解して溶液Bを得る工程;
c)前記アノードを有するコンパートメントに溶液Aを添加し、前記カソードを有するコンパートメントに溶液Bを添加する工程;
d)前記リアクターに電流を流して前記式(II)の化合物を生成する工程;
を含む方法。
【請求項12】
工程a)において、前記式(I)の化合物と還元型のメディエータを生成する前記化合物とのモル比が、1以上、好ましくは1~10、より好ましくは1.5~5.0である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
工程a)の溶液A又は工程b)の溶液Bにおいて還元型のメディエータを生成する前記化合物の濃度が、0.01M~1M、好ましくは0.05M~0.2Mの範囲である、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
工程a)において、溶液A中の前記式(I)の化合物の濃度が、0.1M~1M、好ましくは0.1M~0.3Mの範囲である、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
工程d)において、反応温度が0℃~100℃、好ましくは10℃~30℃である、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バニリン又はその誘導体を調製するための電気化学的方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学名が4-ヒドロキシ-3-メトキシベンズアルデヒドであるバニリンは、食品、飲料、香料、医薬品、及びポリマー中で使用されている最も重要な芳香族フレーバー化合物のうちの1つである。バニリンは、歴史的には、バニラ・プラニフォリア(Vanilla planifolia)、バニラ・タヒテンシス(Vanilla tahitiensis)、及びバニラ・ポンポナ(Vanilla pompona)の鞘から抽出されていた。需要が益々増加している今日では、世界中のバニリン産出量の5%未満が天然のバニラの鞘由来である。現在、バニリンの製造のために化学合成が最も重要な方法である。
【0003】
バニリンは、1875年にチョウジ油の中にみられるオイゲノールから最初に合成された。最初に同定及び分離されてから20年未満である。バニリンは1920年代までオイゲノールから商業的に生産されていた。後に、これは木材パルプを製造するための亜硫酸プロセスの副生成物であるリグニン含有「黒液」から合成された。直感に反して、廃棄物を使用したにもかかわらず、環境への懸念のためリグニンプロセスはもはや一般的ではなく、今日、ほとんどのバニリンはグアイアコールから製造されている。グアイアコールからバニリンを合成するためには複数のルートが存在する。
【0004】
現在、これらの中で最も重要なものは、グアイアコールが求電子芳香族置換によってグリオキシル酸と反応する2段階のプロセスである。その後、得られたバニリルマンデル酸は、酸化的脱炭酸によって4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニルグリオキシル酸を介してバニリンに変換される。例えば、J.Am.Chem.Soc.1998,120,3332-3339には、グアイアコール上でのグリオキシル酸の求電子芳香族置換とそれに続く酸化的脱炭酸を含む2段階で行われるバニリン合成のための工業的プロセスが示されている。不都合なことには、酸化的脱炭酸の反応が過ヨウ素酸NaIO4を用いて行われたときに、このプロセスを使用することによって多くの塩が生成した。
【0005】
Shenyang Huagong Daxue Xuebao (2010),24(4),289-293では、3-メトキシ-4-ヒドロキシマンデル酸からの電気化学的酸化によってバニリンを調製する方法が教示されている。しかしながら、そのような反応は、水酸化ナトリウムなどの塩基性化合物の存在下で行わなくてはならない。反応後、塩基性化合物を除去するために塩酸を使用した。同様に、この方法を使用しても塩は依然として形成された。さらに、反応は55~60℃の範囲の高温を使用した。この反応には常に高い電位が必要であることも当業者には周知である。
【0006】
より穏やかな反応条件下でバニリン又はその誘導体を調製するためのより環境に優しいプロセスの開発が依然として必要とされており、これは従来技術の欠点を克服することができる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、本発明は、溶媒と、溶媒中で還元型のメディエータを生成する化合物との存在下で、式(I)の化合物を式(II)の化合物に変換するための電気化学的方法に関する
【化1】
(式中:
- M
p+は、H
+、NH
4
+、及び金属カチオンからなる群から選択されるカチオンであり;
- pはMの原子価であり;
- R
1、R
2、R
3、及びR
4は、互いに独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、ハロアルキル基、及びペルハロアルキル基からなる群から選択され;
- R
5は、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、又はアラルキル基を表す)。
【0008】
有利なことに、メディエータは、塩を形成することなくリサイクル及び再利用できるため、この方法はより環境に優しいものになる。さらに、メディエータを使用する場合は、先行技術と比較してより低い電位が必要とされる。
【0009】
定義
特許請求の範囲を含めた本明細書の全体を通して、用語「1つを含む」は、特に明記しない限り、用語「少なくとも1つを含む」と同じ意味であると理解されるべきであり、「~の間」は、その両端を含むと理解されるべきである。
【0010】
本明細書で用いるところでは、有機基に関連する専門用語「(Cn~Cm)」(式中、n及びmはそれぞれ整数である)は、基が、1つの基当たりn個の炭素原子からm個の炭素原子を含有し得ることを示す。
【0011】
本明細書で使用される「酸化的脱炭酸」反応という用語は、カルボン酸塩又はカルボン酸基が除去されて二酸化炭素を形成する酸化反応である。
【0012】
本明細書で使用される「アノード」という用語は、電子が外部回路に移動する電極を意味し、酸化が起こる電極である。
【0013】
本明細書で使用される「カソード」という用語は、電子が外部回路から移動する電極を意味し、還元が起こる電極である。
【0014】
冠詞「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その(the)」は、冠詞の文法的対象の1つ又は2つ以上(すなわち少なくとも1つ)を指すために使用される。
【0015】
用語「及び/又は」は、「及び」、「又は」の意味だけでなく、この用語に関連する要素の他の可能な組み合わせも全て包含する。
【0016】
説明の継続において、特に明記しない限り、端の値は、与えられている値の範囲に含まれることが明記される。
【0017】
比、濃度、量及び他の数値データは、本明細書において範囲形式で示される場合がある。このような範囲形式は、単に便宜上及び簡潔さのために使用され、範囲の限界点として明示的に列挙される数値を包含するだけでなく、それぞれの数値及び部分範囲が明示的に列挙されるかのようにその範囲内に包含される全ての個々の数値又は部分範囲を包含するように柔軟に解釈されるものと理解すべきである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書で使用される「メディエータ」は、電子移動を媒介するレドックス物質である。本発明において、この物質は、酸化電極と式(I)の化合物との間の電子シャトルとして機能する。メディエータは、酸化電極と式(I)の化合物との間の電子の移動を担うことができる限り、特に限定されない。
【0019】
溶媒中で還元型のメディエータを生成する化合物の例は:
- 臭化リチウム(LiBr)、臭化ナトリウム(NaBr)、及び臭化カリウム(KBr)などのアルカリ金属臭化物;
- 塩化リチウム(LiCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、及び塩化カリウム(KCl)などのアルカリ金属塩化物;
- ヨウ化リチウム(LiI)、ヨウ化ナトリウム(NaI)、及びヨウ化カリウム(KI)などのアルカリ金属ヨウ化物;
- 臭化アンモニウム(NH4Br);
- 硫酸鉄(II)(FeSO4)、臭化鉄(II)(FeBr2)、塩化鉄(II)(FeCl2)、ヨウ化鉄(II)(FeI2)、亜硝酸鉄(II)(Fe(NO3)2)、酢酸鉄(II)((C2H3O2)2Fe)、フェリシアン化カリウム(II)K4[Fe(CN)6]、及びフェロセンなどの鉄塩;
- 硫酸セリウム(III)Ce2(SO4)3などのセリウム塩;
- 硫酸マンガン(II)(MnSO4)などのマンガン塩;
- 硫酸銅(II)(CuSO4)、臭化銅(II)(CuBr2)、塩化銅(II)(CuCl2)、ヨウ化銅(II)(CuI2)、亜硝酸銅(II)(Cu(NO3)2)、及び酢酸銅(II)((C2H3O2)2Cu)などの銅塩;
- 硫酸コバルト(II)(CoSO4)、臭化コバルト(II)(CoBr2)、塩化コバルト(II)(CoCl2)、ヨウ化コバルト(II)(CoI2)、亜硝酸コバルト(II)(Co((NO3)2)、及び酢酸コバルト(II)(C2H3O2)2Co)などのコバルト塩;
- 硫酸クロム(III)(Cr2(SO4)3)、臭化クロム(III)(CrBr3)、塩化クロム(III)(CrCl3)、ヨウ化クロム(III)(CrI3)、亜硝酸クロム(III)(Cr(NO3)3)、及び酢酸クロム(III)(C2H3O2)3Cr)などのクロム塩。
【0020】
いくつかの実施形態では、臭化ナトリウム(NaBr)又は臭化アンモニウム(NH4Br)を好ましく使用することができる。
【0021】
いくつかの実施形態では、鉄塩などの環境に優しい化合物を好ましく使用することができる。全ての鉄塩の中でも、硫酸鉄(II)(FeSO4)がより好ましい。
【0022】
本発明による方法において、上述した化合物を溶媒に溶解すると、還元型のメディエータが得られる。電流がリアクターに流れるときに酸化型のメディエータが得られるように、還元型のメディエータがアノードで酸化されることを当業者は理解するはずである。次いで、酸化型のメディエータは、式(I)の化合物を酸化し、それと同時に還元型のメディエータを形成し、これは、化合物が溶解したときに得られるメディエータの還元型と同じであっても異なっていてもよい。
【0023】
還元型のメディエータの例は、
- Br-、Cl-、及びI-などのハロゲンイオン;
- Fe2+、Fe(CN)6
4-
、Mn2+、MnO4
2-、Ce3+、Cr3+、及びCo2+などの金属イオン;
である。
【0024】
酸化型のメディエータの例は、
- 次亜臭素酸イオン(OBr-)、次亜塩素酸イオン(OCl-)、及び次亜ヨウ素酸イオン(OI-)などのハロゲンイオン;
- Fe3+、Fe(CN)6
3-、MnO4
2-、MnO4
-、Ce4+、HCrO4
-、及びCo3+などの金属イオン;
である。
【0025】
上で定義した通り、Mp+は金属カチオンであってよい。好ましくは、pは1又は2である。金属カチオンの例は、K+、Li+、Na+、及びMg2+である。
【0026】
いくつかの別の実施形態では、Mp+はH+である。
【0027】
上で定義したように、R1、R2、R3、及びR4、は、互いに独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、ハロアルキル基、及びペルハロアルキル基からなる群から選択される。
【0028】
いくつかの実施形態では、R1、R2、R3、及びR4は、互いに独立して、水素原子であってよく、或いはC1~C6アルキル基であってよい。より好ましくは、R1、R2、R3、及びR4は、互いに独立して、水素原子、メチル、エチル、プロピル、及びイソプロピルからなる群から選択される。
【0029】
いくつかの実施形態では、R1又はR3は、アルコキシであってよく、これは、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、及びブトキシからなる群から選択される。R2又はR4は水素原子であってよい。
【0030】
本発明の特定の態様によれば、R5は水素原子又はアルキル基である。
【0031】
式(I)の化合物は、特に、4-ヒドロキシ-3-メトキシマンデル酸又は4-ヒドロキシ-3-エトキシマンデル酸であってよい。
【0032】
式(II)の化合物は、特に、4-ヒドロキシ-3-メトキシベンズアルデヒド又は4-ヒドロキシ-3-エトキシベンズアルデヒドであってよい。
【0033】
溶媒は、式(I)の化合物と、還元型のメディエータを生成する化合物とが溶液中で十分に接触できるように、両方に対して優れた溶解性を有する必要があることが理解される。そのような溶媒は、アルコール、水、又はそれらの組み合わせとすることができる。好ましくは、溶媒は水である。
【0034】
式(I)の化合物と還元型のメディエータを生成する化合物とを含む溶液のpH値は、メディエータに依存し、任意選択的に当業者によって調整される。例えば、式(I)の化合物と鉄塩とを含む溶液のpH値は、鉄(II)/(III)水酸化物の形成を防ぐために4未満、好ましくは3未満に調製する必要がある。式(I)の化合物とアルカリ金属臭化物とを含む溶液のpH値は、有毒なBr2ガスの形成を防ぐために、酸性又はわずかに塩基性の溶液に調整する必要がある。
【0035】
本発明による方法は、アノードとカソードの両方を含むそのような好ましいリアクターの中で行われる。
【0036】
アノード及び/又はカソードは、好ましくは触媒を含む。アノード又はカソード用の触媒は、金属元素を含んでいてもよく、これは、単体金属、金属合金、金属酸化物、又は金属錯体の形態であってよい。
【0037】
アノード触媒は、好ましくは、周期表の第IIIA族、IVA族、VA族、及び遷移金属の元素からなる群から選択される元素を含み得る。
【0038】
本明細書において使用される第IB族、IIB族、IIIB族、IVB族、VB族、VIB族、VIIB族、及びVIIIB族の金属は、しばしば遷移金属と呼ばれる。この族は、原子番号21~30(Sc~Zn)、39~48(Y~Cd)、72~80(Hf~Hg)、及び104~112(Rf~Cn)の元素を含む。
【0039】
アノード触媒の例は、特に:
(i)Pd、Pt、Ru、Au、Rh、Ir、Bi、Sn、B、及びこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される元素を含む単体金属;
(ii)Pd-Au、Pd-B、及びPt-Ruなどの金属合金;
である。
【0040】
好ましくは、アノード触媒はPtである。
【0041】
カソード触媒は、好ましくは、周期表の第IA族、IIA族、IIIA族、IVA族、VA族、VIA族、VIIA族、遷移金属、及びランタニドの元素からなる群から選択される元素を含み得る。
【0042】
カソード触媒の例は、特に:
- Pt、Ni、Cu、C、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される元素を含む単体金属;
である。
【0043】
好ましくは、カソード触媒は、Ni又はCuであり、より好ましくはCuである。
【0044】
上述したアノード又はカソード用の触媒は、支持体上に担持させることができる。支持体は特に限定されない。支持体の典型的な例は、炭素、アルミナ、及びシリカである。
【0045】
一実施形態では、アノード又はカソードは、上述した触媒と、基材とを含み得る。
【0046】
好ましくは、アノード及びカソードは、多孔質基材構造を用いて製造することができる。
【0047】
アノード基材は、例えば、ステンレス鋼ネット、ニッケルフォーム、焼結ニッケル粉末、エッチングされたアルミニウム-ニッケル混合物、炭素繊維、及び炭素布を含むことができる。好ましくは、アノード基材として炭素材料及びステンレス鋼が使用される。
【0048】
カソード基材は、ステンレス鋼、ニッケルフォーム、焼結ニッケル粉末、エッチングされたアルミニウム-ニッケル混合物、金属スクリーン、炭素繊維、及び炭素布を含むことができる。
【0049】
アノード触媒をアノード基材に適用する方法、及びカソード触媒をカソード基材に適用する方法としては、例えば、塗布、湿式噴霧、粉末堆積、電着、蒸着、乾式噴霧、デカーリング(decaling)、塗装、スパッタリング、低圧蒸着、電気化学蒸着、テープキャスティング、スクリーン印刷、ホットプレス、及びその他の方法が挙げられる。
【0050】
基材が使用される場合、触媒担持の好ましい範囲は、0.01mg/cm-2~500mg/cm-2に含まれ得る。より好ましくは、触媒担持量は、1mg/cm-2~20mg/cm-2に含まれ得る。
【0051】
好ましい実施形態では、本発明に従って使用される電気化学リアクターは、2つの独立したコンパートメントを有する。アノードとカソードは、これら2つのコンパートメントに別々に存在する。2つのコンパートメントの間に膜を配置することができる。前記膜は、中性であっても又はイオン交換膜であってもよい。好ましくは、膜は、ナフィオン(スルホン化テトラフルオロエチレンベースのフルオロポリマー-コポリマー)カチオン交換膜である。
【0052】
有利には、アノードとカソードとの間の距離は、1mm~10cm、好ましくは3mm~1cmの範囲である。
【0053】
一実施形態では、本発明による方法は、以下の工程を含む:
(i)還元型のメディエータを生成する化合物を溶媒に溶解して溶液を得る工程;
(ii)工程(i)で得られた溶液を電気化学リアクターに添加する工程;
(iii)電流を電気化学リアクターに流して、還元型のメディエータを酸化型のメディエータに酸化する工程;
(iv)式(I)の化合物を、工程(iii)で得られた酸化形態のメディエータと接触させて、式(II)の化合物を生成する工程。
【0054】
工程(i)
溶液中で還元型のメディエータを生成する化合物の濃度は、0.05M~2M、好ましくは0.1M~0.5Mの範囲とすることができる。
【0055】
工程(iii)
好ましくは、反応温度は、0℃~100℃、より好ましくは10℃~30℃、最も好ましくは室温であってよい。
【0056】
本発明によれば、室温は15℃~25℃である。
【0057】
好ましくは、反応は、1時間~144時間、より好ましくは2時間~50時間行うことができる。
【0058】
好ましくは、反応は、0.1mA/cm2~100mA/cm2、より好ましくは0.5mA/cm2~15mA/cm2の範囲の電流密度で行うことができる。
【0059】
好ましくは、反応は、0.0001V~10V、より好ましくは1.5V~4Vの範囲の電位で行うことができる。
【0060】
工程(iv)
この工程における式(I)の化合物と、工程(i)において還元型でメディエータを生成する化合物とのモル比は、1以上、好ましくは1~10、より好ましくは1.5~5.0であってよい。
【0061】
好ましくは、反応温度は、0℃~100℃、より好ましくは10℃~30℃、最も好ましくは室温であってよい。
【0062】
本発明によれば、室温は15℃~25℃である。
【0063】
当業者は、上記反応パラメータに基づいて適切な反応時間を使用するであろう。
【0064】
別の実施形態では、アノードとカソードの両方を含む電気化学リアクターで行われる本発明による方法は、以下の工程を含む:
a)式(I)の化合物と、還元型のメディエータを生成する化合物とを溶媒に溶解して、溶液Aを得る工程;
b)溶媒に還元型のメディエータを生成する化合物を溶解して溶液Bを得る工程;
c)アノードを有するコンパートメントに溶液Aを添加し、カソードを有するコンパートメントに溶液Bを添加する工程;
d)リアクターに電流を流して式(II)の化合物を生成する工程。
【0065】
工程a)
式(I)の化合物と還元型のメディエータを生成する化合物とのモル比は、1以上、好ましくは1~10、より好ましくは1.5~5.0であってよい。
【0066】
溶液Aにおいて還元型のメディエータを生成する化合物の濃度は、0.01M~1M、好ましくは0.05M~0.2Mの範囲であってよい。
【0067】
溶液A中の式(I)の化合物の濃度は、0.1M~1M、好ましくは0.1M~0.3Mの範囲であってよい。
【0068】
工程b)
溶液Bにおいて還元型のメディエータを生成する化合物の濃度は、0.01M~1M、好ましくは0.05M~0.2Mの範囲であってよい。
【0069】
当業者によって理解され得るように、工程a)と工程b)の順序は、逆にしてもよく、或いは同時に実行することができる。
【0070】
工程d)
好ましくは、この実施形態における反応温度は、0℃~100℃、より好ましくは10℃~30℃、最も好ましくは室温であってよい。
【0071】
好ましくは、この実施形態における反応は、0.1mA/cm2~100mA/cm2、より好ましくは1mA/cm2~15mA/cm2の範囲の電流密度で行うことができる。
【0072】
好ましくは、反応は、0.0001V~10V、より好ましくは1.5V~4Vの範囲の電位で行うことができる。
【0073】
好ましくは、反応は1時間~144時間行うことができる。
【0074】
以下の実施例は、本発明の実施形態を例示するために含められる。言うまでもなく、本発明は、記載される実施例に限定されない。
【実施例】
【0075】
原材料
- 臭化ナトリウム:Sigma-AldrichのCAS No7647-15-6
- 硫酸鉄(II)七水和物:Sigma-AldrichのCAS No7782-63-0
- 4-ヒドロキシ-3-メトキシマンデル酸(バニリルマンデル酸):Sigma-AldrichのCAS No 55-10-7
【0076】
実施例1
メディエータのEx-situ合成
バニリンが電気化学的にではなくメディエータによって形成されることを証明するために、最初の工程で、電気化学によるH-セル構成でBr-の電気化学的酸化によってBrO-を形成する。2番目の工程では、この溶液を4-ヒドロキシ-3-メトキシマンデル酸に添加する。4時間撹拌する。
・わずかに塩基性の媒体(総濃度=0.01M、pH7~8)を実現するために、1MのNaOHを1ml含む0.15MのNaBr水溶液100mlを調製する。
・リアクターとして、80mlのH-セルを使用する。両側に上で調製した溶液50mlを充填する。膜はスルホンベースの陽イオン交換膜である(Nafion、M=1100、厚さ=0.07インチ)。アノードチャンバーでは、円形のPtメッシュを作用電極として使用する。(直径=2cm、高さ=0.1cm、表面積=3.14cm2)。カソードチャンバーでは、銅板(1cm×1.5cm、厚さ=2mm)を対極として使用する。使用前に電極を洗浄する。Ptを超音波浴中でエタノールで15分間洗浄し、酢酸エチルですすぎ洗いし、風乾する。Cu電極を超音波浴中の2MのHCl溶液の中に15分間入れ、次いで脱イオン水ですすぎ洗いし、エタノール中で超音波浴にさらに15分間置く。Cu板を酢酸エチルですすぎ洗いし、風乾する。
・反応は、6.4mA/cm2の電流密度で20時間実行する。
・2番目の工程では、0.86mmolのバニリルマンデル酸を秤量し、撹拌子が入っている10mlビーカーの中に入れる。合計6×1ml(等モル)のBrO-溶液を、撹拌しながら容器に滴下する。1mlをゆっくりと添加した後、次の添加の前に5分間待機する。6ml添加した後、反応物を一晩撹拌する。反応溶液は強いバニリンの匂いを有する。析出物が形成され、これを遠心分離によって分離する。液相を酢酸エチルで抽出する。固体析出物としての有機相の生成物と同様に、DMSOを使用するNMRによって分析する。推定される結果は、約53%の合計変換率を示す。固相の選択性は、約30%のバニリン、70%のビスバニリンを示す。液相は、13%のバニリン、17%のバニリン酸、1%のビスバニリン、69%のその他を示した。
【0077】
実施例2
臭化ナトリウムによる4-ヒドロキシ-3-メトキシマンデル酸の電気化学的脱炭酸。
ナフィオン陽イオン交換膜を備えた20mlのH-セルをリアクターとして使用する。セルの間に膜を配置した後、シールを確認するために両側に水を入れる。アノード側は、作用電極としてPtメッシュを備えている:直径=1cm、高さ=2cm、表面積=6.3cm2。カソード側は対極として200ppiのCuメッシュを使用する。これは円筒形状に曲げられる:長さ=4cm、高さ=2cm、表面積=8cm2。系は撹拌されず、参照電極は使用されない。
・NaBr(0.1672g、0.1M)及びマンデル酸(0.7109g、0.3M)を12mlの水に溶解し、アノードチャンバーに移す。pHは約2になった。カソード溶液は、12mlの水中のNaBr(0.1644g、0.1M)からなる。
・電流密度0.5mA/cm2の電流を144時間アノードに流す。
・後処理:アノード溶液を20mlのジクロロメタンで5回抽出し、NaSO4で乾燥し、デカンテーションする。真空でCH2Cl2を除去する。
・NMR用に以下のサンプルを採取する:後処理前の反応溶液、抽出後の水相、アノードでの析出物、及び有機相。さらに、HPLCを行う。
・HPLCは、約6つの主要な生成物と反応物を示す。バニリンは、12.394分の保持時間で明確に識別できた。マンデル酸誘導体は約3.635分に存在する。バニリンの二量体と三量体も存在するようである。芳香族環のメトキシ基が溶液の酸性のpHのためヒドロキシ基で置換されている副生成物であると考えられる複数の未知のピークが存在する。バニリン酸は観察されなかった。変換率は約37%であり、バニリンの選択率は45%であった。
【0078】
実施例3
硫酸鉄による4-ヒドロキシ-3-メトキシマンデル酸の電気化学的脱炭酸
・リアクターとして、ナフィオン陽イオン交換膜を備えた50mlのH-セルを使用する。セルの間に膜を配置した後、シールを確認するために両側に水を入れる。アノード側は、作用電極としてPtメッシュを備えている:直径=1cm、高さ=2cm、表面積=6.3cm2。カソード側は対極として200ppiのCuメッシュを使用する。これは円筒形状に曲げられる:長さ=5cm、高さ=2cm、表面積=10cm2。系は撹拌されず、参照電極は使用されない。
・FeSO4(0.8361g、0.1M)及びマンデル酸誘導体(1.7839g,0.3M)を20mlの水及び10mlの1MのH2SO4に溶解し、アノードチャンバーに移す。pHは約0になった。カソード溶液は、1MのH2SO410mmlと水20mlの中の0.1MのFeSO4(0.8356g)溶液からなる。
・電流密度10mA/cm2の電流を144時間アノードに流す。
・後処理:アノード溶液を20mlのジクロロメタンで5回抽出し、NaSO4で乾燥し、デカンテーションする。真空でCH2Cl2を除去する。
・NMR用に以下のサンプルを採取する:後処理前の反応溶液、抽出後の水相、アノードでの析出物、及び有機相。
・2.5時間後、15%のマンデル酸が変換された。複数の未知の副生成物の隣に、バニリンとジヒドロキシベンズアルデヒドがそれぞれ17%と16%の選択率で形成された。
【国際調査報告】