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2023-508845SAGE1関連症状の処置及び診断のための方法及び組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-06
(54)【発明の名称】SAGE1関連症状の処置及び診断のための方法及び組成物
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6886 20180101AFI20230227BHJP
   C12Q 1/6827 20180101ALI20230227BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20230227BHJP
   C12Q 1/6874 20180101ALI20230227BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230227BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20230227BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20230227BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20230227BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20230227BHJP
   C07K 16/30 20060101ALI20230227BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230227BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230227BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20230227BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230227BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230227BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230227BHJP
   A61K 47/64 20170101ALI20230227BHJP
   A61K 47/55 20170101ALI20230227BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20230227BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20230227BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20230227BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20230227BHJP
   A61K 38/19 20060101ALI20230227BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20230227BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20230227BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20230227BHJP
   G16B 30/00 20190101ALI20230227BHJP
【FI】
C12Q1/6886 Z ZNA
C12Q1/6827 Z
C12Q1/686 Z
C12Q1/6874 Z
C12N5/10
C12N15/113 Z
C12N15/11 Z
C12N15/62 Z
C07K19/00
C07K16/30
A61P43/00 111
A61P43/00 121
A61K45/00
A61K38/17
A61P35/00
A61K48/00
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K47/64
A61K47/55
A61K35/17 Z
A61K35/12
A61K31/7088
A61K31/7105
A61K38/19
G01N33/68
G01N33/50 P
G01N33/53 D
G01N33/53 M
G16B30/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022534358
(86)(22)【出願日】2020-12-14
(85)【翻訳文提出日】2022-08-08
(86)【国際出願番号】 CN2020136081
(87)【国際公開番号】W WO2021115478
(87)【国際公開日】2021-06-17
(31)【優先権主張番号】201911282566.7
(32)【優先日】2019-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201911282567.1
(32)【優先日】2019-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201911282487.6
(32)【優先日】2019-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514082712
【氏名又は名称】上海交通大学医学院付属第九人民医院
(71)【出願人】
【識別番号】522200317
【氏名又は名称】上海交通大学医学院
【氏名又は名称原語表記】SHANGHAI JIAOTONG UNIVERSITY SCHOOL OF MEDICINE
【住所又は居所原語表記】No. 280, Chongqing South Road, Huangpu District, Shanghai 200025,China
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】レイ ミン
(72)【発明者】
【氏名】ドン ウェイ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン イェンジェ
(72)【発明者】
【氏名】ソン ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ジェン チャオ
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4B065
4C076
4C084
4C085
4C086
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
2G045AA26
2G045CA25
2G045CA26
2G045CB03
2G045CB07
2G045CB08
2G045CB11
2G045DA13
2G045DA14
2G045DA36
4B063QA13
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ08
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS28
4B063QS36
4B063QX01
4B065AA90X
4B065AA94X
4B065AB01
4B065BA01
4B065CA46
4C076AA95
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE41
4C076EE59
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA13
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA23
4C084BA44
4C084CA18
4C084DA01
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4C084NA14
4C084ZB261
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4C084ZC411
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4C084ZC751
4C085AA13
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4C085CC22
4C085CC23
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4C085GG02
4C085GG03
4C085GG04
4C085GG06
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4C086AA01
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4C086EA16
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA03
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4C086MA05
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZC41
4C086ZC75
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB37
4C087BB64
4C087BB65
4C087CA04
4C087CA12
4C087MA02
4C087NA05
4C087ZB26
4C087ZC41
4C087ZC75
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA72
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、SAGE1陽性疾患の診断判定方法及びキットと、SAGE1陽性疾患の処置のための組成物及び方法とを示す。本開示は、さらに、SAGE1複合体と、SAGE1複合体の阻害及びSAGE1陽性疾患の処置のための方法及び組成物とを示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者のSAGE1陽性疾患を診断する方法であって、
前記被験者の生体サンプルにおけるSAGE1発現を検出するステップを含み、
前記生体サンプルにおいて前記SAGE1発現が検出された場合、前記被験者がSAGE1陽性疾患であると診断する
方法。
【請求項2】
前記生体サンプルは、正常な場合、検出可能なSAGE1発現がないタイプのサンプルである
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記被験者はTP53が欠損(例えば、変異)していると判断されている
請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記SAGE1陽性疾患は、SAGE1陽性腫瘍である
請求項1に記載の方法。
【請求項5】
被験者の腫瘍の悪性度又は悪性になる可能性を判定する方法であって、
前記被験者の生体サンプルにおけるSAGE1発現を検出するステップを含み、
前記生体サンプルにおいて前記SAGE1発現が検出された場合、前記腫瘍は、悪性である、又は悪性になる可能性があると判定する
方法。
【請求項6】
前記生体サンプルは、正常な場合、検出可能なSAGE1発現がないタイプのサンプルである
請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記悪性度は、以下の特徴、すなわち、
a)1以上の幹細胞マーカが発現する、
b)転移可能である、
c)細胞の無制御増殖が可能である、
d)疾病が進行する可能性が高い、
e)抗癌治療に耐性が生じる可能性が高い、
f)抗癌治療の処置後に再発する可能性が高い、及び
g)1以上の癌関連ドライバー変異が生じている、又は生じる可能性が高い、
のうちの1以上の特徴を有する
請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
前記被験者には悪性の臨床症状が現れていない
請求項5~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
被験者がSAGE1陽性疾患である可能性を断定する方法であって、
前記被験者の第1生体サンプルにおいてTP53の欠損を検出するステップを含み、
TP53の欠損が検出された場合、前記被験者はSAGE1陽性疾患である可能性が高いと断定する
方法。
【請求項10】
TP53の変異が検出された場合、SAGE1発現の検査をするように前記被験者に推薦するステップをさらに含む
請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記第1生体サンプル又は前記被験者の第2生体サンプルにおけるSAGE1発現を検出するステップをさらに含む
請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記生体サンプルにおいてSAGE1発現が検出されなかった場合、時間を置いて前記被験者のSAGE1発現をモニタリングするステップをさらに含む
請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記第1又は第2生体サンプルは、正常な場合、検出可能なSAGE1発現がないタイプのサンプルである
請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記第1生体サンプル又は前記第2生体サンプルにおいてSAGE1発現を検出した場合、有効量のSAGE1阻害薬を前記被験者に投与するステップをさらに含む
先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
SAGE1阻害薬に対する腫瘍サンプルの感受性を判断する方法であって、
前記腫瘍サンプルにおけるSAGE1発現を検出するステップを含み、
前記腫瘍サンプルにおいて前記SAGE1発現が検出された場合、前記腫瘍サンプルはSAGE1阻害薬に感受性があると判断する
方法。
【請求項16】
SAGE1阻害薬の治療効果を得られる可能性が高い腫瘍がある被験者を特定する方法であって、
前記被験者の生体サンプルにおけるSAGE1発現を検出するステップを含み、
前記SAGE1発現が検出された場合、前記被験者は前記SAGE1阻害薬の治療効果を得られる可能性が高いと特定する方法。
【請求項17】
前記被験者はTP53が変異していると判断されている
請求項16に記載の方法。
【請求項18】
SAGE1阻害薬の治療効果を得られる可能性が高いと特定された前記被験者にSAGE1阻害薬を提供又は投与するステップをさらに含む
請求項16又は17に記載の方法。
【請求項19】
被験者におけるSAGE1陽性疾患の進行をモニタリングする方法であって、
前記被験者の第1生体サンプルにおけるSAGE1発現のレベルを検出するステップ(a)と、
前記被験者の第2生体サンプルにおけるSAGE1発現のレベルを検出するステップ(b)とを含み、
前記第2生体サンプルは前記第1サンプルから時間を置いて取得されたものであり、
前記SAGE1発現のレベルが前記第1生体サンプルよりも前記第2生体サンプルの方が高い場合、前記腫瘍は進行していると判断する
方法。
【請求項20】
SAGE1陽性疾患がある被験者の治療期間中のSAGE1阻害薬による処置に対する応答性をモニタリングする方法であって、
前記治療期間の後、前記被験者の生体サンプルにおけるSAGE1発現のレベルを検出
し、処置後のSAGE1発現レベルを取得するステップ(a)と、
前記治療期間以前に前記被験者から得た生体サンプルにおいて検出されたSAGE1発現の基準レベルと前記処置後のSAGE1発現レベルを比較するステップ(b)とを含み、
前記処置後のSAGE1発現レベルが前記基準レベルより低い場合、前記被験者は前記処置に応答性があると特定する
方法。
【請求項21】
前記SAGE1発現は、DNAレベル、RNAレベル、又はタンパク質レベルで検出される
請求項1~8及び11~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記SAGE1発現は、
(g)SAGE1タンパク質の存在又はレベル、
(h)SAGE1mRNAの存在又はレベル、
(i)SAGE1複合体の存在又はレベル、
(j)SAGE1遺伝子の脱メチル化のレベル、
(k)SAGE1遺伝子のヒストンのアセチル化の存在又はレベル、
(l)SAGE1遺伝子に対する転写因子の結合の存在又はレベル、
(m)これらの組み合わせ、
のいずれかによって示される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記SAGE1複合体は、SAGE1と、INTS3、INIP、NABP1/2、CREBBP、TLE1、TLE2、TLE3、TLE4、TLE5、GGA3、CNOT1、TAX1BP1、SEC16A、CYLD、及びPAXBP1から選択される少なくとも1種の成分とを含む
請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記SAGE1複合体は、SAGE1とINTS3とを含む
請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記メチル化は、SAGE1遺伝子の転写開始部位の上流3kb以内及び下流3kb以内の領域(例えば、前記SAGE1遺伝子のCpG含有部分)で検出される
請求項22に記載の方法。
【請求項26】
前記ヒストンのアセチル化は、前記SAGE1遺伝子のエンハンサ領域、プロモータ領域、又は発現領域の付近で検出される
請求項22に記載の方法。
【請求項27】
前記検出は、免疫学的検査、増幅検査、ハイブリダイゼーションアッセイ、又はシーケンシングアッセイを含む
請求項21~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記生体サンプルを細胞、組織、体液、及びこれらの組み合わせから選択する
先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記体液を血液、血清、血漿、腹水、嚢胞液、胸水、腹膜液、脳脊髄液、涙液、尿、唾液、痰、乳頭液、リンパ液、気道・腸管・尿生殖路の体液、母乳、臓器系の体液、腹膜液、組織移植片の培養で得られる馴化培地、又はこれらの組み合わせから選択する
請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記腫瘍を固形腫瘍又は血液系腫瘍から選択する
先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
副腎癌、リンパ上皮性腫瘍、腺様細胞癌、リンパ腫、聴神経腫、急性リンパ性白血病、肢端黒子型黒色腫、急性骨髄性白血病、先端汗腺腫、慢性リンパ性白血病、急性好酸球性白血病、肝臓癌、急性赤血球白血病、小細胞肺癌、急性リンパ性白血病、非小細胞肺癌、急性巨核芽球性白血病、MALTリンパ腫、急性単球性白血病、悪性線維性組織球腫、急性前骨髄球性白血病、悪性末梢神経鞘腫、マントル細胞リンパ腫、腺癌、辺縁帯B細胞リンパ腫、海馬の悪性腫瘍、腺様嚢胞癌、腺腫様、腺様歯原性腫瘍、肥満細胞白血病、腺扁平上皮癌、縦隔胚細胞腫瘍、脂肪組織腫瘍、乳房髄様癌、副腎皮質癌、甲状腺髄様癌、成人T細胞白血病/リンパ腫、髄芽腫、浸潤性NK細胞白血病、黒色腫、AIDS関連リンパ腫、髄膜腫、肺横紋筋肉腫、メルケル細胞癌、肺胞軟部肉腫、中皮腫、エナメル上皮腫、転移性尿路上皮癌、未分化大細胞リンパ腫、ミュラー管混合腫瘍、甲状腺未分化癌、粘液性腫瘍、血管免疫芽球性T細胞リンパ腫、多発性骨髄腫、血管筋脂肪腫、筋肉組織腫瘍、血管肉腫、菌状息肉腫、星細胞腫、粘液性脂肪肉腫、非定型奇形腫様ラブドイド腫瘍、粘液腫、B細胞慢性リンパ性白血病、粘液肉腫、B細胞リンパ性白血病、上咽頭癌、B細胞リンパ腫、神経鞘腫、基底細胞癌、神経芽細胞腫、胆道癌、神経線維腫症、膀胱癌、神経腫、芽細胞腫、結節性黒色腫、骨癌、眼癌、ブレンナー腫瘍、乏突起膠細胞、褐色腫瘍、乏突起膠腫、バーキットリンパ腫、好酸球性乳癌、脳腫瘍、視神経腫瘍、口腔上皮内腫瘍、骨肉腫、癌肉腫、卵巣癌、骨軟部腫瘍、肺溝腫瘍、甲状腺乳頭癌、骨髄腫、傍神経節腫、軟骨腫、松果体芽細胞腫、脊索腫、松果体細胞腫、絨毛癌、下垂体腫瘍、脈絡叢乳頭腫、下垂体腺腫、腎明細胞肉腫、下垂体腫瘍、頭蓋咽頭腫、形質細胞腫、皮膚T細胞リンパ腫、多胎芽腫、子宮頸癌、前駆Tリンパ芽球性リンパ腫、大腸癌、中枢神経系原発性リンパ腫、デゴス病、原発性滲出性リンパ腫、増殖性小円形細胞腫、原発性腹膜前癌、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、前立腺癌、神経上皮性腫瘍の胚芽異形成症、膵臓癌、未分化細胞腫瘍、咽頭癌、胚性癌、腹膜偽粘液腫、内分泌腺腫瘍、腎細胞癌、腸症関連T細胞リンパ腫、内胚葉洞腫瘍、腎髄質癌、網膜芽細胞腫、食道癌、横紋筋肉腫、エンダデルフォス、横紋筋肉腫、筋腫、リヒター形質転換、線維肉腫、直腸癌、濾胞性リンパ腫、肉腫、濾胞性甲状腺癌、神経鞘腫、神経節細胞腫、セミノーマ、消化管癌、セルトリ細胞腫、胚細胞腫、性索-性腺間質腫瘍、妊娠絨毛癌、印環細胞腫、巨細胞線維芽細胞腫、皮膚癌、骨巨細胞腫、小円形青色細胞腫瘍、神経膠腫、小細胞癌、多形性膠芽腫、軟部肉腫、神経膠腫、ソマトスタチン腫瘍、脳神経膠腫、煤イボ、膵臓の高グルカゴン腫、脊髄腫瘍、性腺芽腫、脾臓辺縁リンパ腫、顆粒膜細胞腫、扁平上皮癌、エストロゲン腫瘍、滑膜肉腫、胆嚢癌、セザリー病、胃癌、小腸癌、ヘアリー細胞白血病、扁平上皮癌、血管芽細胞腫、胃癌、頭頸部癌、T細胞リンパ腫、血管上皮腫、精巣癌、血液悪性腫瘍、肉腫、肝芽腫、甲状腺癌、肝脾臓T細胞リンパ腫、移行上皮細胞癌、ホジキンリンパ腫、喉頭癌、非ホジキンリンパ腫、尿路癌、浸潤性小葉癌、泌尿生殖器癌、腸癌、尿路上皮癌、腎臓癌、ブドウ膜黒色腫、喉頭癌、子宮癌、悪性そばかす様喀痰、疣贅癌、致死性正中線肉芽腫、視経路神経膠腫、白血病、外陰癌、精巣間質腫瘍、膣癌、脂肪肉腫、ワルデンストームマクログロブリン血症、肺癌、腺リンパ腫リンパ管腫、腎芽腫、リンパ肉腫、結腸腺癌(coad)、肝臓肝細胞癌(lihc)、卵巣漿液性嚢胞腺癌(ov)、子宮体部内膜癌(ucec)、甲状腺癌(thca)、皮膚皮膚黒色腫(skcm)、肺腺癌(luad)、頭頸部扁平上皮癌(hnsc)、多形性膠芽腫(gbm)、前立腺腺癌(prad)、胸腺腫(thym)、脳低悪性度神経膠腫(lgg)、直腸腺癌(read)、褐色細胞腫および傍神経節腫(pcpg)、食道癌(esca),腎臓腎明細胞癌(kirc)、子宮頸部扁平上皮癌および内頸部腺癌(cesc)、膀胱尿路上皮癌(blca)、腎臓乳頭状腎細胞癌(kirp)、膵臓腺癌(pad)、胃腺癌(stad)、腎臓嫌色素性腺腫(kich)、乳房浸潤癌(brca)、肺扁平上皮癌(lusc)、肉腫(sarc)、又は急性骨髄性白血病(laml)から前記腫瘍を選択する
請求項30に記載の方法。
【請求項32】
先行請求項のいずれか1項に記載の方法で使用されるキットであって、SAGE1発現を検出する1種以上の試薬を含むキット。
【請求項33】
SAGE1発現を検出する1種以上の前記試薬は、
(n)SAGE1タンパク質の存在又はレベルを検出するための試薬
(o)SAGE1mRNAの存在又はレベルを検出するための試薬
(p)SAGE1複合体の存在又はレベルを検出するための試薬
(q)SAGE1遺伝子のメチル化レベルを検出するための試薬
(r)SAGE1遺伝子のヒストンのアセチル化の存在又はレベルを検出するための試薬
(s)SAGE1遺伝子に対する転写因子の結合の存在又はレベルを検出するための試薬
(t)これらの組み合わせ
から選択される
請求項32に記載のキット。
【請求項34】
SAGE1特異オリゴヌクレオチドプライマ、SAGE1特異オリゴヌクレオチドプローブ、抗SAGE1抗体、及び抗SAGE1複合体抗体から選択される少なくとも1種の試薬を含む
請求項32に記載のキット。
【請求項35】
前記SAGE1特異オリゴヌクレオチドプライマ又はプローブは、SEQ ID NO: 2の8個以上の連続ヌクレオチド又はSEQ ID NO: 1の8個以上の連続ヌクレオチドを含む又はこれと特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドを含む
請求項34に記載のキット。
【請求項36】
SAGE1複合体のレベル又は活性を低下させる
SAGE1複合体阻害薬。
【請求項37】
ポリペプチド、化合物、その抗体もしくは抗原結合フラグメント、又は核酸分子(例えば、ポリヌクレオチドもしくはオリゴヌクレオチド)を含む
請求項36に記載のSAGE1複合体阻害薬。
【請求項38】
前記SAGE1複合体は、INTS3、INIP、NABP1/2、CREBBP、TLE1、TLE2、TLE3、TLE4、TLE5、GGA3、CNOT1、TAX1BP1、SEC16A、CYLD、及びPAXBP1からなる群から選択される少なくとも1種の成分と複合したSAGE1を含む
請求項36又は37に記載のSAGE1複合体阻害薬。
【請求項39】
前記SAGE1複合体は、INTS3と複合したSAGE1を含む
請求項38に記載のSAGE1複合体阻害薬。
【請求項40】
前記SAGE1複合体阻害薬は、SAGE1がINTS3に結合するのを阻害する
請求項39に記載のSAGE1複合体阻害薬。
【請求項41】
前記SAGE1複合体阻害薬は、INTS3に結合する、又は当該INTS3がSAGE1のF838、F873、K874、M832、V876、R872、K828、R836及びQ840からなる群から選択された1以上の残基(残基のナンバリングはSA
GE1のSEQ ID NO: 3に準ずる)に結合しないようにする
請求項40に記載のSAGE1複合体阻害薬。
【請求項42】
前記SAGE1複合体阻害薬は、抗体又はその抗原結合フラグメントを含み、当該抗体又はその抗原結合フラグメントは、(a)SAGE1に特異的に結合する、(b)SAGE1と複合する成分(例えば、INTS3)に特異的に結合する、又は(c)前記SAGE1複合体に特異的に結合するが、SAGE1にもSAGE1と複合する成分にも結合しない
請求項40に記載のSAGE1複合体阻害薬。
【請求項43】
前記SAGE1複合体阻害薬は、INTS3のSAGE1結合フラグメント、その変異体もしくは誘導体、又はその融合ポリペプチドを含む
請求項40に記載のSAGE1複合体阻害薬。
【請求項44】
前記INTS3のSAGE1結合フラグメントは、SAGE1に結合可能なSEQ ID NO:
9のアミノ酸配列、その変異体もしくはフラグメント、又はその融合ポリペプチドを含む
請求項43に記載のSAGE1複合体阻害薬。
【請求項45】
前記SAGE1複合体阻害薬は、SAGE1のINTS3結合フラグメント、その変異体もしくは誘導体、又はその融合ポリペプチドを含む
請求項40に記載のSAGE1複合体阻害薬。
【請求項46】
前記SAGE1のINTS3結合フラグメントは、INTS3に結合可能なSEQ ID NO:
8のアミノ酸配列、その変異体もしくはフラグメント、又はその融合ポリペプチドを含む
請求項45に記載のSAGE1複合体阻害薬。
【請求項47】
前記SAGE1複合体阻害薬は、INTS3に結合可能なINTS6もしくはINTS6LのINTS3結合フラグメント、その変異体もしくは誘導体、又はその融合ポリペプチドを含む
請求項40に記載のSAGE1複合体阻害薬。
【請求項48】
前記INTS6もしくはINTS6LのINTS3結合フラグメントは、INTS3に結合可能なSEQ ID NO: 10、SEQ ID NO: 104、又はSEQ ID NO: 105のアミノ酸配列、その変異体もしくはフラグメント、又はその融合ポリペプチドを含む
請求項47に記載のSAGE1複合体阻害薬。
【請求項49】
ユビキチン経路タンパク質に結合可能な第1部分と、SAGE1又はSAGE1複合体に結合可能な第2部分とを含む
SAGE1阻害薬。
【請求項50】
前記第1部分及び前記第2部分は、リンカーを介して結合している
請求項49に記載のSAGE1阻害薬。
【請求項51】
抗原結合ドメインと、膜貫通型ドメインと、細胞内シグナル伝達ドメインとを含むキメラ抗原受容体(CAR)であって、
前記抗原結合ドメインは、SAGE1のエピトープ又はSAGE1のMHC関連エピトープに特異的に結合する
CAR。
【請求項52】
共刺激ドメインをさらに含む
請求項51に記載のCAR。
【請求項53】
請求項51又は52に記載の前記CARを発現させるように遺伝子操作された細胞。
【請求項54】
前記細胞は、T細胞、腫瘍浸潤リンパ球、NK-T細胞、TCR発現細胞、CD4+T細胞、CD8+T細胞、又はNK細胞を含む
請求項53に記載の細胞。
【請求項55】
SAGE1のエピトープ又はSAGE1のMHC関連エピトープに暴露されるエクスビボ活性化抗原提示細胞であって、場合によって樹状細胞を含むエクスビボ活性化抗原提示細胞。
【請求項56】
請求項36~48のいずれか1項に記載のSAGE1複合体阻害薬と、
請求項49又は59に記載のSAGE1阻害薬、又は請求項53、54、又は55に記載の細胞と、
薬学的に許容されるキャリアとを含む
医薬組成物。
【請求項57】
SAGE1阻害薬と、
薬学的に許容されるキャリアとを含む
医薬組成物。
【請求項58】
前記SAGE1阻害薬は、SAGE1のレベル又は活性を低下させることができる
請求項57に記載の医薬組成物。
【請求項59】
前記SAGE1阻害薬は、SAGE1mRNA転写を阻害し、SAGE1mRNAレベルを低下させ、SAGE1タンパク質レベルを低下させ、又はSAGE1を介する生物学的機能を少なくとも1つ阻害する
請求項58に記載の医薬組成物。
【請求項60】
前記SAGE1阻害薬は、ポリヌクレオチドもしくはオリゴヌクレオチド、ポリペプチド、化合物、又はその抗体もしくは抗原結合フラグメントを含む
請求項58又は59に記載の医薬組成物。
【請求項61】
前記SAGE1阻害薬は、SAGE1タンパク質に特異的に結合し、ポリペプチド、化合物、オリゴヌクレオチド、又はその抗体もしくは抗原結合フラグメントを含む
請求項57~60のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項62】
前記SAGE1阻害薬は、SAGE1核酸(例えば、SAGE1mRNAもしくはSAGE1遺伝子)を標的とするオリゴヌクレオチド、前記オリゴヌクレオチドをコードするポリヌクレオチド、又は前記オリゴヌクレオチドもしくは前記ポリヌクレオチドを含む核酸ベクターを含む
請求項57~60のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項63】
前記オリゴヌクレオチドは、SAGE1mRNAの少なくとも一部と相補的な配列、又はSAGE1遺伝子の少なくとも一部と相補的な配列を含む
請求項62に記載の医薬組成物。
【請求項64】
SAGE1mRNAの前記一部は、SEQ ID NO: 2のヌクレオチド266-366、866-1116、1316-1616、1916-2266、2466-2666、及び2782-2946間の配列内の10個以上の連続ヌクレ
オチドを含む
請求項63に記載の医薬組成物。
【請求項65】
前記オリゴヌクレオチドは、SEQ ID NOs: 82-95及び106-147から選択される配列を含む
請求項63に記載の医薬組成物。
【請求項66】
前記オリゴヌクレオチドは、SEQ ID NOs: 70/71、72/73、74/75、76/77、78/79、又は 80/81から選択されるセンス/アンチセンス配列のペアを含む
請求項63に記載の医薬組成物。
【請求項67】
前記オリゴヌクレオチドは、低分子干渉RNA、短ヘアピンRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、又はガイドRNAである
請求項62に記載の医薬組成物。
【請求項68】
SAGE1陽性疾患について予防又は処置を必要とする被験者に対して当該疾患の予防又は処置を行う方法であって、
a)SAGE1阻害薬、
b)請求項57~67のいずれか1項に記載の医薬組成物、
c)請求項36~48のいずれか1項に記載のSAGE1複合体阻害薬、
d)請求項39又は50に記載のSAGE1阻害薬、
d)請求項53、54、又は55に記載の細胞、又は
e)これらの組み合わせ
の有効量を前記被験者に投与するステップを含む方法。
【請求項69】
前記SAGE1陽性疾患は、SAGE1陽性腫瘍である
請求項68に記載の方法。
【請求項70】
TP53が変異した被験者の腫瘍の悪性度の進行を予防し、抑制し、又は遅らせる方法であって、
a)SAGE1阻害薬、
b)請求項57~67のいずれか1項に記載の医薬組成物、
c)請求項36~48のいずれか1項に記載のSAGE1複合体阻害薬、
d)請求項49又は50に記載のSAGE1阻害薬、
d)請求項53、54、又は55に記載の細胞、又は
e)これらの組み合わせ
の有効量を前記被験者に投与するステップを含む方法。
【請求項71】
前記SAGE1阻害薬は、SAGE1のレベル又は活性を低下させることができる
請求項68~70のいずれか1項に記載の方法。
【請求項72】
前記SAGE1阻害薬は、SAGE1mRNA転写を阻害し、SAGE1mRNAレベルを低下させ、SAGE1タンパク質レベルを低下させ、又はSAGE1を介する生物学的機能を少なくとも1つ阻害する
請求項71に記載の方法。
【請求項73】
前記SAGE1阻害薬は、ポリヌクレオチドもしくはオリゴヌクレオチド、ポリペプチド、化合物、又はその抗体もしくは抗原結合フラグメントを含む
請求項72に記載の方法。
【請求項74】
前記SAGE1阻害薬は、SAGE1mRNAもしくはSAGE1遺伝子を標的とする
オリゴヌクレオチド、前記オリゴヌクレオチドをコードするポリヌクレオチド、又は前記オリゴヌクレオチドもしくは前記ポリヌクレオチドを含む核酸ベクターを含む
請求項73に記載の方法。
【請求項75】
前記オリゴヌクレオチドは、SAGE1mRNAの少なくとも一部と相補的な配列、又はSAGE1遺伝子の少なくとも一部と相補的な配列を含む
請求項74に記載の方法。
【請求項76】
前記SAGE1阻害薬は、SAGE1タンパク質に特異的に結合し、ポリペプチド、化合物、オリゴヌクレオチド、又はその抗体もしくは抗原結合フラグメントを含む
請求項73に記載の方法。
【請求項77】
第2治療薬を投与するステップをさらに含む
請求項68~76のいずれか1項に記載の方法。
【請求項78】
前記第2治療薬は、化学療法剤、抗癌剤、放射線治療、免疫療法剤、抗血管形成剤、標的治療薬、細胞療法薬、遺伝子療法薬、ホルモン療法薬、又はサイトカインを含む
請求項77に記載の方法。
【請求項79】
SAGE1阻害薬である薬剤をスクリーニングする方法であって、
(1)SAGE1タンパク質又はその機能的等価物を検査薬に接触させ、前記検査薬と前記SAGE1又はその機能的等価物との結合を検出するステップ、又は
(2)検査薬をSAGE1複合体の成分のSAGE1結合フラグメントに接触させ、前記検査薬と前記SAGE1結合フラグメントとの結合を検出するステップ、又は
(3)検査薬をSAGE1及びSAGE1複合体の成分のSAGE1結合フラグメントに接触させ、当該SAGE1と当該SAGE1結合フラグメントとの結合を阻害もしくは抑制する当該検査薬の能力又はSAGE1複合体の形成を抑制する当該検査薬の能力を検出するステップのいずれかを含む方法。
【請求項80】
SAGE1阻害薬である薬剤をスクリーニングする方法であって、
SAGE1発現細胞又はその機能的等価物を検査薬に接触させるステップと、
SAGE1又はその機能的等価物の量又は活性を低下させる前記検査薬の能力を判定するステップとを含む方法。
【請求項81】
前記細胞は、腫瘍細胞である
請求項81に記載の方法。
【請求項82】
SAGE1をコードする第1遺伝子と、
レポーターをコードする第2遺伝子とを含む組み換え細胞であって、
前記レポーターは、SAGE1の発現又はSAGE1を介する活性に応じて、検出可能なシグナルを生成するように構成されている
組み換え細胞。
【請求項83】
SAGE1複合体の結合界面のX線結晶構造座標セットであって、
前記結合界面は、F838、F873、K874、M832、V876、R872、K828、R836、及びQ840からなる群から選択されるSAGE1の1以上のアミノ酸残基、又はそのフラグメント、変異体、もしくは誘導体の等価残基を含み、
前記残基のナンバリングはSEQ ID NO: 3に準ずる
X線結晶構造座標セット。
【請求項84】
タンパク質構造データバンク(PDB)のコード7C5Uに規定されている
請求項83に記載のX線結晶構造座標。
【請求項85】
INTS3の結合界面のX線結晶構造座標セットであって、
前記結合界面は、T804、S841、S874、S769、N933、R849、Q773、C777、M781、A816、N818、E838、E850、F871、R848、F805、L845、L815、L844、Y808、C842、Q846、Q870、R877、H878、K882、E732、V766、Q771、D768、A765、Q731、E835、E803、C809、及びL772からなる群から選択されるINTS3の1以上のアミノ酸残基、又はそのフラグメント、変異体、もしくは誘導体の等価残基を含み、
前記残基のナンバリングはSEQ ID NO: 5に準ずる
X線結晶構造座標セット。
【請求項86】
タンパク質構造データバンク(PDB)のコード7C5Uに規定されている
請求項85に記載のX線結晶構造座標。
【請求項87】
SAGE1とINTS3との結合界面のX線結晶構造座標セットであって、
前記SAGE1の結合界面は、SAGE1のF838、F873、K874、M832、V876、R872、K828、R836、及びQ840からなる群から選択される1以上のアミノ酸残基(当該残基のナンバリングはSEQ ID NO: 3に準ずる)、又はそのフラグメント、変異体、もしくは誘導体の等価残基を含み、前記INTS3の結合界面は、INTS3のT804、S841、S874、S769、N933、R849、Q773、C777、M781、A816、N818、E838、E850、F871、R848、F805、L845、L815、L844、Y808、C842、Q846、Q870、R877、H878、K882、E732、V766、Q771、D768、A765、Q731、E835、E803、C809、及びL772からなる群から選択される1以上のアミノ酸残基(当該残基のナンバリングはSEQ ID NO: 5に準ずる)、又はそのフラグメント、変異体、もしくは誘導体の等価残基を含む
X線結晶構造座標セット。
【請求項88】
タンパク質構造データバンク(PDB)のコード7C5Uに規定されている
請求項85に記載のX線結晶構造座標。
【請求項89】
請求項83~88に記載のX線結晶構造座標セットを記憶している機械可読データ記憶媒体。
【請求項90】
潜在的SAGE1複合体阻害薬である薬剤を同定する方法であって、
a)請求項83~88に記載のX線結晶構造座標セットに基づく結合界面の3次元構造の表示物をコンピュータ上で生成するステップと、
b)前記薬剤の表示物をコンピュータ上で生成するステップと、
c)前記薬剤が前記結合界面の1以上の残基と相互作用するよう、前記ステップb)における前記薬剤の表示物を前記ステップa)における前記結合界面の3次元構造のコンピュータ表示物にフィットさせるステップと、
d)前記薬剤と前記結合界面の1以上の残基との前記ステップc)における相互作用を評価するステップとを含み、
前記相互作用により、SAGE1-INTS3複合体に対して競合する場合もある、前記薬剤とSAGE1又はINTS3とを含む低エネルギーで安定的な複合体が生じると、前記薬剤を潜在的SAGE1複合体阻害薬と同定する
方法。
【請求項91】
潜在的SAGE1複合体阻害薬を同定するバーチャルスクリーニング方法であって、
(a)請求項83~88に記載のX線結晶構造座標に基づく結合界面の3次元構造の表示物をコンピュータ上で生成するステップと、
(b)コンピュータ上で、薬剤の表示物を生成する、又はライブラリの薬剤の表示物にアクセスするステップと、
(c)前記ステップ(b)における前記薬剤の表示物を前記ステップ(a)における前記結合界面の3次元構造のコンピュータ表示物にフィットさせ、前記結合界面の1以上の残基と相互作用する前記薬剤の構成を提供するステップと、
(d)前記薬剤と前記結合界面の1以上の残基との前記ステップ(c)における相互作用を評価するステップとを含み、
前記相互作用により、SAGE1複合体に対して競合する場合もある、前記薬剤とSAGE1又はINTS3とを含む低エネルギーで安定的な複合体が生じると、前記薬剤を潜在的SAGE1複合体阻害薬と同定する
バーチャルスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して、SAGE1をバイオマーカとする疾病診断判定方法と、SAGE1を標的とする疾病処置のための組成物及び方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
癌精巣抗原(CTA(Cancer-testis antigen))は、タンパク質の混成群であり、そのファミリは70を超え、メンバは140を超える(Fratta E.ら、Mol Oncol (2011) 5:
164)。様々な腫瘍においてCTAの発現が報告されているが、正常組織におけるCTAの発現は、主に精巣に限定されている。CTAは、腫瘍と免疫特権を持つ精巣とに限定的に発現するため、近年、癌免疫療法及びワクチン開発における抗原として研究されてきた。しかしながら、腫瘍細胞の増殖に関わるCFAの機能は、まだほとんど解明されていない。
【0003】
肉腫抗原1(Sarcoma antigen 1(SAGE1))は、CTAファミリに属する。SAGE1が腫瘍特異性抗原として発見されてから20年近く経つが、腫瘍の増殖及び進行の促進においてなんらかの役割を果たしているのか、どのようにその役割を果たしているのか、未だによく分かっていない。有効な腫瘍診断及び治療法を開発する必要性は継続してあるので、腫瘍細胞の増殖におけるSAGE1の役割を解明し、腫瘍の新しい診断マーカ及び治療標的として機能するかについて、その可能性を探ることが望まれる。
【発明の概要】
【0004】
一態様において、本開示の方法は、被験者のSAGE1陽性疾患を診断する方法であって、前記被験者の生体サンプルにおけるSAGE1発現を検出するステップと、前記生体サンプルにおいて検出される前記SAGE1発現の有無又はレベルに基づいて、前記被験者がSAGE1陽性疾患であるか否かを評価するステップとを含む。
【0005】
一態様において、本開示の方法は、被験者のSAGE1陽性疾患を診断する方法であって、前記被験者の生体サンプルにおけるSAGE1発現を検出するステップを含み、前記生体サンプルにおいて前記SAGE1発現が検出された場合、前記被験者がSAGE1陽性疾患であると診断する。
【0006】
実施の形態によっては、前記生体サンプルは、正常な場合、検出可能なSAGE1発現がないタイプのサンプルである。
【0007】
実施の形態によっては、前記被験者はTP53が欠損(例えば、変異)していると判断されている。
【0008】
実施の形態によっては、前記SAGE1陽性疾患は、SAGE1陽性腫瘍である。
【0009】
別の態様において、本開示の方法は、被験者の腫瘍の悪性度又は悪性になる可能性を判定する方法であって、前記被験者の生体サンプルにおけるSAGE1発現を検出するステップを含み、前記生体サンプルにおいて前記SAGE1発現が検出された場合、前記腫瘍は、悪性である、又は悪性になる可能性があると判定する。
【0010】
別の態様において、本開示の方法は、被験者の腫瘍の悪性度又は悪性になる可能性を判定する方法であって、前記被験者の生体サンプルにおけるSAGE1発現を検出するステップと、前記生体サンプルにおいて検出される前記SAGE1発現の有無又はレベルに基
づいて、前記被験者に悪性又は悪性になる可能性がある腫瘍があるか否かを評価するステップとを含む。
【0011】
実施の形態によっては、前記生体サンプルは、正常な場合、検出可能なSAGE1発現がないタイプのサンプルである。
【0012】
実施の形態によっては、前記悪性度は、以下の特徴、すなわち、
(a)1以上の幹細胞マーカが発現する、
(b)転移可能である、
(c)細胞の無制御増殖が可能である、
(d)疾病が進行する可能性が高い、
(e)抗癌治療に耐性が生じる可能性が高い、
(f)抗癌治療の処置後に再発する可能性が高い、
(g)1以上の癌関連ドライバー変異が生じている、又は生じる可能性が高い、のうちの1以上の特徴を有する。
【0013】
実施の形態によっては、前記被験者には悪性の臨床症状が現れていない。
【0014】
別の態様において、本開示の方法は、被験者がSAGE1陽性疾患である可能性を断定(predicate)する方法であって、前記被験者の第1生体サンプルにおいてTP53の欠損を検出するステップを含み、TP53の欠損が検出された場合、前記被験者はSAGE1陽性疾患である可能性が高いと断定する。
【0015】
別の態様において、本開示の方法は、被験者がSAGE1陽性疾患である可能性を断定(predicate)する方法であって、前記被験者の第1生体サンプルにおいてTP53の欠損を検出するステップと、前記第1生体サンプルにおいて検出される前記TP53の欠損の有無に基づいて、前記被験者がSAGE1陽性疾患である可能性があるか否かを評価するステップとを含む。
【0016】
実施の形態によっては、前記方法は、TP53の欠損(例えば、変異)が検出された場合、SAGE1発現の検査をするように前記被験者に推めるステップをさらに含む。
【0017】
実施の形態によっては、前記方法は、前記第1生体サンプル又は前記被験者の第2生体サンプルにおけるSAGE1発現を検出するステップをさらに含む。
【0018】
実施の形態によっては、前記生体サンプルにおいてSAGE1発現が検出されなかった場合、前記方法は、時間を置いて前記被験者のSAGE1発現をモニタリングするステップをさらに含む。
【0019】
実施の形態によっては、前記第1又は第2生体サンプルは、正常な場合、検出可能なSAGE1発現がないタイプのサンプルである。
【0020】
実施の形態によっては、前記方法は、前記第1生体サンプル又は追加の前記第2生体サンプルにおいてSAGE1発現を検出した場合、有効量のSAGE1阻害薬を前記被験者に投与するステップをさらに含む。
【0021】
別の態様において、本開示の方法は、SAGE1阻害薬に対する腫瘍サンプルの感受性を判断する方法であって、前記腫瘍サンプルにおけるSAGE1発現を検出するステップを含み、前記腫瘍サンプルにおいて前記SAGE1発現が検出された場合、前記腫瘍サンプルはSAGE1阻害薬に感受性があると判断する。
【0022】
別の態様において、本開示の方法は、SAGE1阻害薬に対する腫瘍サンプルの感受性を判断する方法であって、前記腫瘍サンプルにおけるSAGE1発現を検出するステップと、前記腫瘍サンプルにおいて検出される前記SAGE1発現の有無又はレベルに基づいて、前記腫瘍サンプルが前記SAGE1阻害薬に感受性があるか否かを評価するステップとを含む。
【0023】
別の態様において、本開示の方法は、SAGE1阻害薬の治療効果を得られる可能性が高い腫瘍がある被験者を特定する方法であって、前記被験者の生体サンプルにおけるSAGE1発現を検出するステップを含み、前記SAGE1発現が検出された場合、前記被験者は前記SAGE1阻害薬の治療効果を得られる可能性が高いと特定する。
【0024】
別の態様において、本開示の方法は、SAGE1阻害薬の治療効果を得られる可能性が高い腫瘍がある被験者を特定する方法であって、前記被験者の生体サンプルにおけるSAGE1発現を検出するステップと、前記生体サンプルにおいて検出される前記SAGE1発現の有無又はレベルに基づいて、前記被験者がSAGE1阻害薬の治療効果を得られる可能性が高いか否かを評価するステップとを含む。
【0025】
実施の形態によっては、前記被験者はTP53が変異していると判断されている。
【0026】
実施の形態によっては、前記方法は、SAGE1阻害薬の治療効果を得られる可能性が高いと特定された前記被験者にSAGE1阻害薬を提供又は投与するステップをさらに含む。
【0027】
別の態様において、本開示の方法は、被験者におけるSAGE1陽性疾患の進行をモニタリングする方法であって、前記被験者の第1生体サンプルにおけるSAGE1発現のレベルを検出するステップ(a)と、前記被験者の第2生体サンプルにおけるSAGE1発現のレベルを検出するステップ(b)とを含み、前記第2生体サンプルは前記第1サンプルから時間を置いて取得されたものであり、前記SAGE1発現のレベルが前記第1生体サンプルよりも前記第2生体サンプルの方が高い場合、前記腫瘍は進行していると判断する。
【0028】
別の態様において、本開示の方法は、被験者におけるSAGE1陽性疾患の進行をモニタリングする方法であって、前記被験者の第1生体サンプルにおけるSAGE1発現のレベルを検出するステップ(a)と、前記被験者の第2生体サンプルにおけるSAGE1発現のレベルを検出するステップ(b)と、前記ステップ(a)及び前記ステップ(b)のそれぞれにおいて検出された前記SAGE1発現のレベルに基づいて、前記被験者において前記SAGE1陽性疾患が進行しているか否かを評価するステップ(c)とを含み、前記第2生体サンプルは前記第1サンプルから時間を置いて取得されたものである。
【0029】
別の態様において、本開示の方法は、SAGE1陽性疾患がある被験者の治療期間中のSAGE1阻害薬による処置に対する応答性をモニタリングする方法であって、前記治療期間の後、前記被験者の生体サンプルにおけるSAGE1発現のレベルを検出し、処置後のSAGE1発現レベルを取得するステップ(a)と、前記治療期間以前に前記被験者から得た生体サンプルにおいて検出されたSAGE1発現の基準レベルと前記処置後のSAGE1発現レベルを比較するステップ(b)とを含み、前記処置後のSAGE1発現レベルが前記基準レベルより低い場合、前記被験者は前記処置に応答性があると特定する。
【0030】
別の態様において、本開示の方法は、SAGE1陽性疾患がある被験者の治療期間中のSAGE1阻害薬による処置に対する応答性をモニタリングする方法であって、前記治療
期間の後、前記被験者の生体サンプルにおけるSAGE1発現のレベルを検出し、処置後のSAGE1発現レベルを取得するステップ(a)と、前記治療期間以前に前記被験者から得た生体サンプルにおいて検出されたSAGE1発現の基準レベルと前記処置後のSAGE1発現レベルを比較するステップ(b)と、前記ステップ(a)及び前記ステップ(b)のそれぞれにおいて検出された前記SAGE1発現のレベルに基づいて、前記SAGE1阻害薬による前記処置に対する応答性があるか否かを評価するステップ(c)とを含む。
【0031】
実施の形態によっては、前記SAGE1発現は、DNAレベル、RNAレベル、又はタンパク質レベルで検出される。
【0032】
実施の形態によっては、前記SAGE1発現は、
(a)SAGE1タンパク質の存在又はレベル、
(b)SAGE1mRNAの存在又はレベル、
(c)SAGE1複合体の存在又はレベル、
(d)SAGE1遺伝子の脱メチル化のレベル、
(e)SAGE1遺伝子のヒストンのアセチル化の存在又はレベル、
(f)SAGE1遺伝子に対する転写因子の結合の存在又はレベル、
これらの組み合わせ、のいずれかによって示される。
【0033】
実施の形態によっては、前記SAGE1複合体は、SAGE1と、INTS3、INIP、NABP1/2、CREBBP、TLE1、TLE2、TLE3、TLE4、TLE5、GGA3、CNOT1、TAX1BP1、SEC16A、CYLD、及びPAXBP1から選択される少なくとも1種の成分とを含む。
【0034】
実施の形態によっては、前記SAGE1複合体は、SAGE1とINTS3とを含む。
【0035】
実施の形態によっては、前記メチル化は、SAGE1遺伝子の転写開始部位の上流3kb以内及び下流3kb以内の領域(例えば、前記SAGE1遺伝子のCpG含有部分)で検出される。
【0036】
実施の形態によっては、前記ヒストンのアセチル化は、前記SAGE1遺伝子のエンハンサ領域、プロモータ領域、又は発現領域の付近で検出される。
【0037】
実施の形態によっては、前記検出は、免疫学的検査、増幅検査、ハイブリダイゼーションアッセイ、又はシーケンシングアッセイを含む。
【0038】
実施の形態によっては、前記生体サンプルを細胞、組織、体液、及びこれらの組み合わせから選択する。
【0039】
実施の形態によっては、前記体液を血液、血清、血漿、腹水、嚢胞液、胸水、腹膜液、脳脊髄液、涙液、尿、唾液、痰、乳頭液、リンパ液、気道・腸管・尿生殖路の体液、母乳、臓器系の体液、腹膜液、組織移植片の培養で得られる馴化培地、又はこれらの組み合わせから選択する。
【0040】
実施の形態によっては、前記腫瘍を固形腫瘍又は血液系腫瘍から選択する。
【0041】
実施の形態によっては、前記腫瘍は、副腎癌、リンパ上皮性腫瘍、腺様細胞癌、リンパ腫、聴神経腫、急性リンパ性白血病、肢端黒子型黒色腫、急性骨髄性白血病、先端汗腺腫、慢性リンパ性白血病、急性好酸球性白血病、肝臓癌、急性赤血球白血病、小細胞肺癌、
急性リンパ性白血病、非小細胞肺癌、急性巨核芽球性白血病、MALTリンパ腫、急性単球性白血病、悪性線維性組織球腫、急性前骨髄球性白血病、悪性末梢神経鞘腫、マントル細胞リンパ腫、腺癌、辺縁帯B細胞リンパ腫、海馬の悪性腫瘍、腺様嚢胞癌、腺腫様、腺様歯原性腫瘍、肥満細胞白血病、腺扁平上皮癌、縦隔胚細胞腫瘍、脂肪組織腫瘍、乳房髄様癌、副腎皮質癌、甲状腺髄様癌、成人T細胞白血病/リンパ腫、髄芽腫、浸潤性NK細胞白血病、黒色腫、AIDS関連リンパ腫、髄膜腫、肺横紋筋肉腫、メルケル細胞癌、肺胞軟部肉腫、中皮腫、エナメル上皮腫、転移性尿路上皮癌、未分化大細胞リンパ腫、ミュラー管混合腫瘍、甲状腺未分化癌、粘液性腫瘍、血管免疫芽球性T細胞リンパ腫、多発性骨髄腫、血管筋脂肪腫、筋肉組織腫瘍、血管肉腫、菌状息肉腫、星細胞腫、粘液性脂肪肉腫、非定型奇形腫様ラブドイド腫瘍、粘液腫、B細胞慢性リンパ性白血病、粘液肉腫、B細胞リンパ性白血病、上咽頭癌、B細胞リンパ腫、神経鞘腫、基底細胞癌、神経芽細胞腫、胆道癌、神経線維腫症、膀胱癌、神経腫、芽細胞腫、結節性黒色腫、骨癌、眼癌、ブレンナー腫瘍、乏突起膠細胞、褐色腫瘍、乏突起膠腫、バーキットリンパ腫、好酸球性乳癌、脳腫瘍、視神経腫瘍、口腔上皮内腫瘍、骨肉腫、癌肉腫、卵巣癌、骨軟部腫瘍、肺溝腫瘍、甲状腺乳頭癌、骨髄腫、傍神経節腫、軟骨腫、松果体芽細胞腫、脊索腫、松果体細胞腫、絨毛癌、下垂体腫瘍、脈絡叢乳頭腫、下垂体腺腫、腎明細胞肉腫、下垂体腫瘍、頭蓋咽頭腫、形質細胞腫、皮膚T細胞リンパ腫、多胎芽腫、子宮頸癌、前駆Tリンパ芽球性リンパ腫、大腸癌、中枢神経系原発性リンパ腫、デゴス病、原発性滲出性リンパ腫、増殖性小円形細胞腫、原発性腹膜前癌、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、前立腺癌、神経上皮性腫瘍の胚芽異形成症、膵臓癌、未分化細胞腫瘍、咽頭癌、胚性癌、腹膜偽粘液腫、内分泌腺腫瘍、腎細胞癌、腸症関連T細胞リンパ腫、内胚葉洞腫瘍、腎髄質癌、網膜芽細胞腫、食道癌、横紋筋肉腫、エンダデルフォス、横紋筋肉腫、筋腫、リヒター形質転換、線維肉腫、直腸癌、濾胞性リンパ腫、肉腫、濾胞性甲状腺癌、神経鞘腫、神経節細胞腫、セミノーマ、消化管癌、セルトリ細胞腫、胚細胞腫、性索-性腺間質腫瘍、妊娠絨毛癌、印環細胞腫、巨細胞線維芽細胞腫、皮膚癌、骨巨細胞腫、小円形青色細胞腫瘍、神経膠腫、小細胞癌、多形性膠芽腫、軟部肉腫、神経膠腫、ソマトスタチン腫瘍、脳神経膠腫、煤イボ、膵臓の高グルカゴン腫、脊髄腫瘍、性腺芽腫、脾臓辺縁リンパ腫、顆粒膜細胞腫、扁平上皮癌、エストロゲン腫瘍、滑膜肉腫、胆嚢癌、セザリー病、胃癌、小腸癌、ヘアリー細胞白血病、扁平上皮癌、血管芽細胞腫、胃癌、頭頸部癌、T細胞リンパ腫、血管上皮腫、精巣癌、血液悪性腫瘍、肉腫、肝芽腫、甲状腺癌、肝脾臓T細胞リンパ腫、移行上皮細胞癌、ホジキンリンパ腫、喉頭癌、非ホジキンリンパ腫、尿路癌、浸潤性小葉癌、泌尿生殖器癌、腸癌、尿路上皮癌、腎臓癌、ブドウ膜黒色腫、喉頭癌、子宮癌、悪性そばかす様喀痰、疣贅癌、致死性正中線肉芽腫、視経路神経膠腫、白血病、外陰癌、精巣間質腫瘍、膣癌、脂肪肉腫、ワルデンストームマクログロブリン血症、肺癌、腺リンパ腫リンパ管腫、腎芽腫、リンパ肉腫、結腸腺癌(coad)、肝臓肝細胞癌(lihc)、卵巣漿液性嚢胞腺癌(ov)、子宮体部内膜癌(ucec)、甲状腺癌(thca)、皮膚皮膚黒色腫(skcm)、肺腺癌(luad)、頭頸部扁平上皮癌(hnsc)、多形性膠芽腫(gbm)、前立腺腺癌(prad)、胸腺腫(thym)、脳低悪性度神経膠腫(lgg)、直腸腺癌(read)、褐色細胞腫および傍神経節腫(pcpg)、食道癌(esca),腎臓腎明細胞癌(kirc)、子宮頸部扁平上皮癌および内頸部腺癌(cesc)、膀胱尿路上皮癌(blca)、腎臓乳頭状腎細胞癌(kirp)、膵臓腺癌(pad)、胃腺癌(stad)、腎臓嫌色素性腺腫(kich)、乳房浸潤癌(brca)、肺扁平上皮癌(lusc)、肉腫(sarc)、急性骨髄性白血病(laml)から選択される。
【0042】
別の態様において、本開示のキットは、本明細書に記載の前記方法のいずれかで使用されるものであって、SAGE1発現を検出する1種以上の試薬を含む。
【0043】
実施の形態によっては、SAGE1発現を検出する1種以上の前記試薬は、
(a)SAGE1タンパク質の存在又はレベルを検出するための試薬、
(b)SAGE1mRNAの存在又はレベルを検出するための試薬、
(c)SAGE1複合体の存在又はレベルを検出するための試薬、
(d)SAGE1遺伝子のメチル化レベルを検出するための試薬、
(e)SAGE1遺伝子のヒストンのアセチル化の存在又はレベルを検出するための試薬、
(f)SAGE1遺伝子に対する転写因子の結合の存在又はレベルを検出するための試薬、
これらの組み合わせ、から選択される。
【0044】
実施の形態によっては、少なくとも1種の試薬がSAGE1特異オリゴヌクレオチドプライマ、SAGE1特異オリゴヌクレオチドプローブ、抗SAGE1抗体、及び抗SAGE1複合体抗体から選択される。
【0045】
実施の形態によっては、前記SAGE1特異オリゴヌクレオチドプライマ又はプローブは、SEQ ID NO: 2の8個以上の連続ヌクレオチド又はSEQ ID NO: 1の8個以上の連続ヌクレオチドを含む又はこれと特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドを含む。
【0046】
別の態様において、本開示のSAGE1複合体阻害薬は、SAGE1複合体のレベル又は活性を低下させる。
【0047】
実施の形態によっては、前記SAGE1複合体阻害薬は、ポリペプチド、化合物、その抗体もしくは抗原結合フラグメント、又は核酸分子(例えば、ポリヌクレオチドもしくはオリゴヌクレオチド)を含む。
【0048】
実施の形態によっては、前記SAGE1複合体は、INTS3、INIP、NABP1/2、CREBBP、TLE1、TLE2、TLE3、TLE4、TLE5、GGA3、CNOT1、TAX1BP1、SEC16A、CYLD、及びPAXBP1からなる群から選択される少なくとも1種の成分と複合したSAGE1を含む。
【0049】
実施の形態によっては、前記SAGE1複合体は、INTS3と複合したSAGE1を含む。
【0050】
実施の形態によっては、前記SAGE1複合体阻害薬は、SAGE1がINTS3に結合するのを阻害する。
【0051】
実施の形態によっては、前記SAGE1複合体阻害薬は、INTS3に結合する、又は当該INTS3がSAGE1のF838、F873、K874、M832、V876、R872、K828、R836及びQ840からなる群から選択された1以上の残基(残基のナンバリングはSAGE1のSEQ ID NO: 3に準ずる)に結合しないようにする。
【0052】
実施の形態によっては、前記SAGE1複合体阻害薬は、抗体又はその抗原結合フラグメントを含み、当該抗体又はその抗原結合フラグメントは、(a)SAGE1に特異的に結合する、(b)SAGE1と複合する成分(例えば、INTS3)に特異的に結合する、又は(c)前記SAGE1複合体に特異的に結合するが、SAGE1にもSAGE1と複合する成分にも結合しない。
【0053】
実施の形態によっては、前記SAGE1複合体阻害薬は、INTS3のSAGE1結合フラグメント、その変異体もしくは誘導体、又はその融合ポリペプチドを含む。
【0054】
実施の形態によっては、前記INTS3のSAGE1結合フラグメントは、SAGE1
に結合可能なSEQ ID NO: 9のアミノ酸配列、その変異体もしくはフラグメント、又はその融合ポリペプチドを含む。
【0055】
実施の形態によっては、前記SAGE1複合体阻害薬は、SAGE1のINTS3結合フラグメント、その変異体もしくは誘導体、又はその融合ポリペプチドを含む。
【0056】
実施の形態によっては、前記SAGE1のINTS3結合フラグメントは、INTS3に結合可能なSEQ ID NO: 8のアミノ酸配列、その変異体もしくはフラグメント、又はその融合ポリペプチドを含む。
【0057】
実施の形態によっては、前記SAGE1複合体阻害薬は、INTS3に結合可能なINTS6もしくはINTS6LのINTS3結合フラグメント、その変異体もしくは誘導体、又はその融合ポリペプチドを含む。
【0058】
実施の形態によっては、前記INTS6もしくはINTS6LのINST3結合フラグメントは、INTS3に結合可能なSEQ ID NO: 10、SEQ ID NO: 104、又はSEQ ID NO: 105のアミノ酸配列、その変異体もしくはフラグメント、又はその融合ポリペプチドを含む。
【0059】
別の態様において、本開示のSAGE1阻害薬は、ユビキチン経路タンパク質に結合可能な第1部分と、SAGE1又はSAGE1複合体に結合可能な第2部分とを含む。
【0060】
実施の形態によっては、前記第1部分及び前記第2部分は、リンカーを介して結合している。
【0061】
別の態様において、本開示のキメラ抗原受容体(CAR)は、抗原結合ドメインと、膜貫通型ドメインと、細胞内シグナル伝達ドメインとを含み、前記抗原結合ドメインは、SAGE1のエピトープ又はSAGE1のMHC関連エピトープに特異的に結合する。
【0062】
実施の形態によっては、前記CARは、共刺激ドメインをさらに含む。
【0063】
別の態様において、本開示の細胞は、本明細書に記載の前記CARを発現させるように遺伝子操作されている。
【0064】
実施の形態によっては、前記細胞は、T細胞、腫瘍浸潤リンパ球、NK-T細胞、TCR発現細胞、CD4+T細胞、CD8+T細胞、又はNK細胞を含む。
【0065】
別の態様において、本開示のエクスビボ活性化抗原提示細胞は、SAGE1のエピトープ又はSAGE1のMHC関連エピトープに暴露されるものであって、当該抗原提示細胞は、場合によって樹状細胞を含む。
【0066】
別の態様において、本開示の医薬組成物は、本明細書に記載の前記SAGE1複合体阻害薬と、本明細書に記載の前記SAGE1阻害薬、又は本明細書に記載の細胞と、薬学的に許容されるキャリアとを含む。
【0067】
別の態様において、本開示の医薬組成物は、SAGE1阻害薬と、薬学的に許容されるキャリアとを含む。
【0068】
実施の形態によっては、前記SAGE1阻害薬は、SAGE1のレベル又は活性を低下させることができる。
【0069】
実施の形態によっては、前記SAGE1阻害薬は、SAGE1mRNA転写を阻害し、SAGE1mRNAレベルを低下させ、SAGE1タンパク質レベルを低下させ、又はSAGE1を介する生物学的機能を少なくとも1つ阻害する。
【0070】
実施の形態によっては、前記SAGE1阻害薬は、ポリヌクレオチドもしくはオリゴヌクレオチド、ポリペプチド、化合物、又はその抗体もしくは抗原結合フラグメントを含む。
【0071】
実施の形態によっては、前記SAGE1阻害薬は、SAGE1タンパク質に特異的に結合し、ポリペプチド、化合物、オリゴヌクレオチド、又はその抗体もしくは抗原結合フラグメントを含む。
【0072】
実施の形態によっては、前記SAGE1阻害薬は、SAGE1核酸(例えば、SAGE1mRNAもしくはSAGE1遺伝子)を標的とするオリゴヌクレオチド、前記オリゴヌクレオチドをコードするポリヌクレオチド、又は前記オリゴヌクレオチドもしくは前記ポリヌクレオチドを含む核酸ベクターを含む。
【0073】
実施の形態によっては、前記オリゴヌクレオチドは、SAGE1mRNAの少なくとも一部と相補的な配列、又はSAGE1遺伝子の少なくとも一部と相補的な配列を含む。
【0074】
実施の形態によっては、SAGE1mRNAの前記一部は、SEQ ID NO: 2のヌクレオチド266-366、866-1116、1316-1616、1916-2266、2466-2666、及び2782-2946間の配列内の10個以上の連続ヌクレオチドを含む。
【0075】
実施の形態によっては、前記オリゴヌクレオチドは、SEQ ID NOs: 82-95及び106-147から選択される配列を含む。
【0076】
実施の形態によっては、前記オリゴヌクレオチドは、SEQ ID NOs: 70/71、72/73、74/75、76/77、78/79、又は 80/81から選択されるセンス/アンチセンス配列のペアを含む。
【0077】
実施の形態によっては、前記オリゴヌクレオチドは、低分子干渉RNA、短ヘアピンRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、又はガイドRNAである。
【0078】
別の態様において、本開示の方法は、SAGE1陽性疾患について予防又は処置を必要とする被験者に対して当該疾患の予防又は処置を行う方法であって、
(a)本明細書に記載の前記SAGE1阻害薬、
(b)本明細書に記載の前記医薬組成物、
(c)本明細書に記載の前記SAGE1複合体阻害薬、
(e)本明細書に記載の前記細胞、又は
(f)これらの組み合わせ
の有効量を前記被験者に投与するステップを含む。
【0079】
実施の形態によっては、前記SAGE1陽性疾患は、SAGE1陽性腫瘍である。
【0080】
別の態様において、本開示の方法は、TP53が変異した被験者の腫瘍の悪性度の進行を予防し、抑制し、又は遅らせる方法であって、
(a)本明細書に記載の前記SAGE1阻害薬、
(b)本明細書に記載の前記医薬組成物、
(c)本明細書に記載の前記SAGE1複合体阻害薬、
(e)本明細書に記載の前記細胞、又は
(f)これらの組み合わせ
の有効量を前記被験者に投与するステップを含む。
【0081】
実施の形態によっては、前記SAGE1阻害薬は、SAGE1のレベル又は活性を低下させることができる。
【0082】
実施の形態によっては、前記SAGE1阻害薬は、SAGE1mRNA転写を阻害し、SAGE1mRNAレベルを低下させ、SAGE1タンパク質レベルを低下させ、又はSAGE1を介する生物学的機能を少なくとも1つ阻害する。
【0083】
実施の形態によっては、前記SAGE1阻害薬は、ポリヌクレオチドもしくはオリゴヌクレオチド、ポリペプチド、化合物、又はその抗体もしくは抗原結合フラグメントを含む。
【0084】
実施の形態によっては、前記SAGE1阻害薬は、SAGE1mRNAもしくはSAGE1遺伝子を標的とするオリゴヌクレオチド、前記オリゴヌクレオチドをコードするポリヌクレオチド、又は前記オリゴヌクレオチドもしくは前記ポリヌクレオチドを含む核酸ベクターを含む。
【0085】
実施の形態によっては、前記オリゴヌクレオチドは、SAGE1mRNAの少なくとも一部と相補的な配列、又はSAGE1遺伝子の少なくとも一部と相補的な配列を含む。
【0086】
実施の形態によっては、前記SAGE1阻害薬は、SAGE1タンパク質に特異的に結合し、ポリペプチド、化合物、オリゴヌクレオチド、又はその抗体もしくは抗原結合フラグメントを含む。
【0087】
実施の形態によっては、前記方法は、第2治療薬を投与するステップをさらに含む。
【0088】
実施の形態によっては、前記第2治療薬は、化学療法剤、抗癌剤、放射線治療、免疫療法剤、抗血管形成剤、標的治療薬、細胞療法薬、遺伝子療法薬、ホルモン療法薬、又はサイトカインを含む。
【0089】
別の態様において、本開示の方法は、SAGE1阻害薬である薬剤をスクリーニングする方法であって、
(a)SAGE1タンパク質又はその機能的等価物を検査薬に接触させ、前記検査薬と前記SAGE1又はその機能的等価物との結合を検出するステップ、又は
(b)検査薬をSAGE1複合体の成分のSAGE1結合フラグメントに接触させ、前記検査薬と前記SAGE1結合フラグメントとの結合を検出するステップ、又は
(c)検査薬をSAGE1及びSAGE1複合体の成分のSAGE1結合フラグメントに接触させ、当該SAGE1と当該SAGE1結合フラグメントとの結合を阻害もしくは抑制する当該検査薬の能力又はSAGE1複合体の形成を抑制する当該検査薬の能力を検出するステップのいずれかを含む。
【0090】
別の態様において、本開示の方法は、SAGE1阻害薬である薬剤をスクリーニングする方法であって、SAGE1発現細胞又はその機能的等価物を検査薬に接触させるステップと、SAGE1又はその機能的等価物の量又は活性を低下させる前記検査薬の能力を判定するステップとを含む。
【0091】
実施の形態によっては、前記細胞は、腫瘍細胞である。
【0092】
別の態様において、本開示の組み換え細胞は、SAGE1をコードする第1遺伝子と、レポーターをコードする第2遺伝子とを含み、前記レポーターは、SAGE1の発現又はSAGE1を介する活性に応じて、検出可能なシグナルを生成するように構成されている。
【0093】
別の態様において、本開示はSAGE1複合体の結合界面のX線結晶構造座標セットを示し、前記結合界面は、F838、F873、K874、M832、V876、R872、K828、R836、及びQ840からなる群から選択されるSAGE1の1以上のアミノ酸残基、又はそのフラグメント、変異体、もしくは誘導体の等価残基を含み、前記残基のナンバリングはSEQ ID NO: 3に準ずる。
【0094】
実施の形態によっては、前記X線結晶構造座標は、タンパク質構造データバンク(PDB)のコード7C5Uに規定されている。
【0095】
別の態様において、本開示はINTS3の結合界面のX線結晶構造座標セットを示し、前記結合界面は、T804、S841、S874、S769、N933、R849、Q773、C777、M781、A816、N818、E838、E850、F871、R848、F805、L845、L815、L844、Y808、C842、Q846、Q870、R877、H878、K882、E732、V766、Q771、D768、A765、Q731、E835、E803、C809、及びL772からなる群から選択されるINTS3の1以上のアミノ酸残基、又はそのフラグメント、変異体、もしくは誘導体の等価残基を含み、前記残基のナンバリングはSEQ ID NO: 5に準ずる。
【0096】
実施の形態によっては、前記X線結晶構造座標は、タンパク質構造データバンク(PDB)のコード7C5Uに規定されている。
【0097】
別の態様において、本開示はSAGE1とINTS3との結合界面のX線結晶構造座標セットを示し、前記SAGE1の結合界面は、SAGE1のF838、F873、K874、M832、V876、R872、K828、R836、及びQ840からなる群から選択される1以上のアミノ酸残基(当該残基のナンバリングはSEQ ID NO: 3に準ずる)、又はそのフラグメント、変異体、もしくは誘導体の等価残基を含み、前記INTS3の結合界面は、INTS3のT804、S841、S874、S769、N933、R849、Q773、C777、M781、A816、N818、E838、E850、F871、R848、F805、L845、L815、L844、Y808、C842、Q846、Q870、R877、H878、K882、E732、V766、Q771、D768、A765、Q731、E835、E803、C809、及びL772からなる群から選択される1以上のアミノ酸残基(当該残基のナンバリングはSEQ ID NO: 5に準ずる)、又はそのフラグメント、変異体、もしくは誘導体の等価残基を含む。
【0098】
実施の形態によっては、前記X線結晶構造座標は、タンパク質構造データバンク(PDB)のコード7C5Uに規定されている。
【0099】
別の態様において、本開示の機械可読データ記憶媒体は、本明細書に記載の前記X線結晶構造座標セットを記憶している。
【0100】
別の態様において、本開示の方法は、潜在的SAGE1複合体阻害薬である薬剤を同定する方法であって、
(a)本明細書に記載の前記X線結晶構造座標セットに基づく結合界面の3次元構造の表示物をコンピュータ上で生成するステップと、
(b)前記薬剤の表示物をコンピュータ上で生成するステップと、
(c)前記薬剤が前記結合界面の1以上の残基と相互作用するよう、前記ステップ(b)における前記薬剤の表示物を前記ステップ(a)における前記結合界面の3次元構造のコンピュータ表示物にフィットさせるステップと、
(d)前記薬剤と前記結合界面の1以上の残基との前記ステップ(c)における相互作用を評価するステップとを含み、
前記相互作用により、SAGE1-INTS3複合体に対して競合する場合もある、前記薬剤とSAGE1又はINTS3とを含む低エネルギーで安定的な複合体が生じると、前記薬剤を潜在的SAGE1複合体阻害薬と同定する。
【0101】
別の態様において、本開示のバーチャルスクリーニング方法は、潜在的SAGE1複合体阻害薬を同定する方法であって、
(a)本明細書に記載の前記X線結晶構造座標に基づく結合界面の3次元構造の表示物をコンピュータ上で生成するステップと、
(b)コンピュータ上で、薬剤の表示物を生成する、又はライブラリの薬剤の表示物にアクセスするステップと、
(c)前記ステップ(b)における前記薬剤の表示物を前記ステップ(a)における前記結合界面の3次元構造のコンピュータ表示物にフィットさせ、前記結合界面の1以上の残基と相互作用する前記薬剤の構成を提供するステップと、
(d)前記薬剤と前記結合界面の1以上の残基との前記ステップ(c)における相互作用を評価するステップとを含み、
前記相互作用により、SAGE1複合体に対して競合する場合もある、前記薬剤とSAGE1又はINTS3とを含む低エネルギーで安定的な複合体が生じると、前記薬剤を潜在的SAGE1複合体阻害薬と同定する。
【0102】
本開示全体を通して、ここで使用される冠詞「a」、「an」、及び「the」は、その冠詞を付した目的語が1又は複数(すなわち、少なくとも1つ)あることを示している。例えば、「a polypeptide」は、1つ又は複数のポリペプチドを意味する。
【0103】
本出願において一連の数値が記載される場合はいずれも、それらの数値のいずれかがある数値範囲の上限又は下限となり得ると理解される。さらに、本発明は、このような数値範囲、すなわち、上限値及び下限値の組み合わせを有する範囲の全体を包含すると理解され、この上限及び下限のそれぞれの数値は、本明細書に記載の数値であり得る。本明細書に提示される範囲は、その範囲内のすべての値を含むと理解される。例えば、1~10は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10の値すべてと、必要に応じて小数値とが含まれると理解される。同様に、「少なくとも/以上」で定められる範囲は、その数字とそれより大きい値とを含むと理解される。
【0104】
本明細書で使用する「約(about)」は、平均値の3つの標準偏差内、又は特定の技術分野における標準的な許容範囲内に収まると理解される。ある実施の形態では、約の変動量は0.5以内と理解される。
【0105】
本明細書において、冠詞「a」及び「an」は、その冠詞を付した目的語が1又は複数(すなわち、少なくとも1つ)あることを示している。例えば、「an element」は、1つ又は複数の元素を意味する。
【0106】
本明細書において、用語「含む(including)」は、「含むが、これに限定されない」という意味で、この文言と同義に用いられている。同様に、「等の」は、「等であって、これに限定されない」という意味で、この文言と同義に用いられている。
【0107】
本明細書において、用語「又は」は、文脈上明らかに別段の指定がなされていない限り、「及び/又は」という意味で包括的に用いられ、この文言と同義である。
【0108】
「含む/備える(comprising)」といった用語は、別段の記載がない限り、非限定的(open-ended)な用語(すなわち、「含むが、これに限定されない」)と解釈される。
【0109】
添付の図面は、本明細書に組み込まれ、その一部を形成するものである。この図面は、この明細書の説明部分と共に、さらに本開示内容の原理を説明し、かつ当業者が本開示内容を作製し、利用できるようにするものである。
【図面の簡単な説明】
【0110】
図1A図1Aは、GTExのRNA-Seqデータセットを使用した場合の正常組織におけるSAGE1の発現を示す。
図1B図1Bは、TCGAの多種多様な癌タイプの発現を示す。
図1C図1Cは、SAGE1mRNA発現レベルで階層化されたTCGAの患者の全生存期間(OS)及び無憎悪生存期間(PFI)を示す。
図2A図2Aは、SAGE1がヒト精巣及び数種の腫瘍組織に発現することを示すIHC染色を示す。
図2B図2Bは、各腫瘍組織におけるSAGE1発現レベルのリアルタイム定量PCR(qPCR)分析を示す。
図2C図2Cは、各癌細胞株及びSAGE1陰性非癌細胞株におけるSAGE1発現レベルのウェスタンブロット分析を示す。
図2D図2Dは、60個の大腸癌組織及び対応する前癌部のSAGE1発現レベルのリアルタイムqPCR分析を示す。
図2E図2Eは、TCGAの癌の種類ごとのSAGE1発現レベルのパターンを示す。
図3A図3Aは、SAGE1が減少すると、RTCAアッセイにおいてHuTu80細胞、A375細胞、KYSE30細胞、A549細胞、及びPLCPRF5細胞の成長が抑制されることを示す。
図3B図3Bは、SAGE1が減少すると、軟寒天上のHuTu80細胞、A375細胞、KYSE30細胞、A549細胞、及びPLCPRF5細胞の足場非依存性成長が抑制されることを示す。
図3C図3Cは、HuTu80細胞においてSAGE1が減少すると、ヌードマウスにおいて異種移植片の成長が妨げられることを示す。
図3D】、
図3E図3D及び図3Eは、shSAGE1治療によって、ブドウ膜黒色腫細胞株MUM2B由来の直交異方性モデルの輝度シグナルが減少し(図3D)及び生存期間が延びた(図3E)ことを示す。
図3F図3Fは、定量PCRで異なるsiRNAを用いた場合のKYSE30におけるSAGE1KDの能力を示す。
図4A】、
図4B】、
図4C図4A図4B、及び図4Cは、ヒト肝細胞癌(HCC-P)におけるSAGE1のノックダウンを示す。代表画像は、HCC-PDX腫瘍として、shSAGE1アデノウイルスで処置を施したもの(n=9)又は施していないもの(n=9)(図4A)を示し、腫瘍の体積(図4B)及び重量(図4C)の統計分析を示す(ノンパラメトリックなマン・ホイットニー検定でP<0.01)。
図4D】、
図4E】、
図4F図4D図4E、及び図4Fは、ヒト大腸癌(CRC-P)におけるSAGE1のノックダウンを示す。代表画像は、CRC-PDX腫瘍として、shSAGE1アデノウイルスで処置を施したもの(n=6)又は施していないもの(n=9)(図4D)を示し、腫瘍の体積(図4E)及び重量(図4F)の統計分析を示す(ノンパラメトリックなマン・ホイットニー検定でP<0.01)。
図4G】、
図4H】、
図4I図4G図4H、及び図4Iは、ヒト肺腺癌(LUAD-P)におけるSAGE1のノックダウンを示す。代表画像は、LUAD-PDX腫瘍として、shSAGE1アデノウイルスで処置を施したもの(n=6)又は施していないもの(n=9)(図4G)を示し、腫瘍の体積(図4H)及び重量(図4I)の統計分析を示す(ノンパラメトリックなマン・ホイットニー検定でP<0.01)。
図4J】、
図4K】、
図4L図4J図4K、及び図4Lは、ヒト肺扁平上皮癌(LUSC-P)におけるSAGE1のノックダウンを示す。代表画像は、LUSC-PDX腫瘍として、shSAGE1アデノウイルスで処置を施したもの(n=7)又は施していないもの(n=9)を示し、腫瘍の体積(図4J)(ノンパラメトリックなマン・ホイットニー検定でP<0.01)及び重量(図4K)の統計分析を示す。異種移植腫瘍組織のヘマトキシリン及びエオシン(H&E)染色ならびに周囲の非上皮細胞から癌細胞を同定するマーカである汎サイトケラチンのIHC染色を示す(図4L)。
図4M】、
図4N】、
図4O図4M図4N、及び図4Oは、SAGE1陰性HCCにshSAGE1アデノウイルスを導入しても腫瘍の成長を抑制しないことを示す。代表画像は、PDX腫瘍として、shSAGE1アデノウイルスで処置を施したもの又は施していないものを示し、群ごとにn=7とした腫瘍の重量(図4M)及び体積(図4N)の統計分析を示す(ノンパラメトリックなマン・ホイットニー検定でP<0.01)。病理組織代表画像は、対照群及びshSAGE処置群の両群におけるヌードマウスの心臓、肝臓、脾臓、腎臓、及び肺を示す(H&E染色、尺度は200μm)(図4O)。
図5A】、
図5B】、
図5C図5A図5B、及び図5Cは、転移の実験モデルにおいて腫瘍の転移を抑制したshSAGE処置を示す。尾静脈にHCC-P、LUAD-P、LUSC-PのPDX由来の細胞を注射した。7~10日後、尾静脈注射によってマウス1匹あたり4×1011個のゲノムコピーでAAV制御又はAAV-SAGE1の処置をレシピエントに施した。70~90日後、転移性腫瘍の存在について、PET-CTでこれらの動物の評価を行った。マウスの健康状態が悪化した場合、予定を早めて分析を行った(図5A)。 図5Bは、体積×SUV-bw平均値による全身腫瘍組織量の計算及びT検定による全身腫瘍組織量分析を示す。また、HCC-Pマウスの生存時間を計算し、カプラン・マイヤー法で分析した。 図5Cは、マウスを安楽死させ、その臓器を解剖した後、ヘマトキシリン・エオジン及びMHC-Iで染色することで行った転移性腫瘍の存在についての評価を示す。
図6A図6Aは、HuTu80細胞において免疫沈降したSAGE1相互作用タンパク質に関するSDS-PAGE及び銀染色による分析を示す。
図6B図6Bは、4種の癌細胞株の免疫沈降したSAGE1複合体組成物のMS分析を示す。
図6C】、
図6D図6C及び図6Dは、SAGE1のINTS3との相互作用(図6C)及びTLE3及びCBPとの相互作用(図6D)のCo-IP分析を示す。
図6E図6Eは、SAGE1、INTS3、及びINTS6のドメイン構成を示す。
図6F図6Fは、SAGE1I3BD及びINTS6I3BDの構造ベースのシーケンスアラインメントを示す。
図6G図6Gは、SAGE1I3BDとINTS3CTDとの相互作用のITC測定値を示す。挿入図はITC滴定データである。
図6H図6Hは、精製INTS3CTD-INTS6I3BD複合体とGSTタグ付きSAGE1I3BDとの混合物のGSTプルダウン分析を示す。
図6I図6Iは、293T細胞(293T-1、293T-2、293T-3)又はSAGE1過剰発現293T細胞(293OE SAGE-1、293OE SAGE-2、293OE SAGE-3)の抗INTS3抗体を使用した免疫沈降複合体の定量MS分析を示す。
図7A】、
図7B図7A及び図7Bは、INTS3CTD二量体の二面図のリボンダイアグラム(図7A)及びSAGE1I3BD-INTS3CTD複合体結晶構造の二面図のリボンダイアグラム(図7B)を示す。
図7C図7Cは、SAGE1I3BDとINTS3CTD二量体との相互作用の詳細を示す。
図7D図7Dは、INTS3CTDのSAGE1I3BD結合ポケットの表面静電ポテンシャルを示す。
図7E図7Eは、SAGE1I3BDの結合によってINTS3CTD二量体におけるPhe805及びTyr807の側鎖が対称から非対称へ変化をすることを示す。
図7F図7Fは、SAGE1I3BDにINTS6I3BDの構造モデルを重ねると、Phe838SAGE1とPro823INTS6との違いが分かりやすくなることを示す。
図7G図7Gは、WT SAGE1、SAGE1I3BD、及びSAGE1mutとINTS3との相互作用のCo-IP分析を示す。
図7H図7Hは、WT又は変異SAGE1I3BDとINTS3CTDとの相互作用のITC測定値の比較を示す。
図7I】、
図7J】、
図7K】、
図7L図7I図7J図7K、及び図7Lは、SAGE1mutではなくWT SAGE1の再発現によって、SAGE1-KD Caco2の細胞の成長(図7I)、SAGE1-KO HuTu 80の細胞増殖(図7J)、軟寒天上のSAGE1-KO HuTu 80細胞の足場非依存性成長(図7K)が復活し、異種移植分析における腫瘍の大きさ及び重量の急激な上昇につながる(図7L)ことを示す。
図8A】、
図8B図8A及び図8Bは、Superdex 200のカラム上のINTS3CTD図8A)及びINTS3CTD-INTS6I3BD図8B)複合体のサイズ排除クロマトグラフィーの断面を示し、精製複合体のピークのフラクションをSDS-PAGEで分解し、クマシーブリリアントブルーで染色したことを示す。
図8C図8Cは、結晶学的対称性に関連する2つのINTS3CTD分子が広範な相互作用を仲介することを示す結晶格子分析を示す。
図8D図8Dは、INTS3CTD二量体の界面の詳細を示す。相互作用に重要な残基の側鎖をスティックモデルで示す。
図8E】、
図8F図8E及び図8Fは、apoINTS3CTD二量体(図8E)及びSAGE1I3BD-INTS3CTD複合体構造(図8F)におけるPhe805INTS3及びTyr808INTS3の電子密度マップの立体視を示す。
図8G図8Gは、SAGE1I3BD-INTS3CTD界面のクローズアップを示す。SAGE1mutにおいてアラニンに置換された6つの重要な相互作用残基をスティックモデルでハイライトしている。
図9A図9Aは、HuTu80細胞におけるSAGE1の減少が、ウェスタンブロットアッセイにおいて、細胞シグナル伝達経路のパネル、転写因子、及び膜タンパク質に影響することを示す。
図9B図9Bは、HuTu80細胞及びKYSE30細胞においてSAGE1が減少すると、フローサイトメトリーアッセイにおいて、G0/G1ブロックになることを示す。
図9C図9Cは、SAGE1-KD HCC-P細胞においてほとんどの細胞周期遺伝子の発現が減少したことを示すMS分析を示す。これらの結果から、SAGE1が初代肝臓癌細胞における細胞周期制御にも不可欠であることが分かった。
図9D図9Dは、HCC15細胞においてSAGE1が減少すると、フローサイトメトリーアッセイにおいて、G0/G1ブロックになることを示す。HCC15細胞においてSAGE1が減少すると、IF染色でのki67発現がなくなり、G0期で停止する。
図9E図9Eは、HCC15初代癌細胞におけるSAGE1の減少が、ウェスタンブロットアッセイにおいて、細胞シグナル伝達経路のパネル、転写因子、及び膜タンパク質に影響することを示す。
図10A図10Aは、原発性腫瘍に広がるSAGE1発現の分布を示し、点線は、高SAGE1患者(SAGE1発現が上位6%のTCGA患者)と低SAGE1患者(その他94%のTCGA患者)との閾値を示している。
図10B図10Bは、高SAGE1患者(SAGE1発現が上位6%のTCGA患者)と低SAGE1患者(その他94%のTCGA患者)との間のゲノム変化のエンリッチメントを示す。Fisherの正確確率検定でオッズ比を推定し、FDR法を適用してp値を調整した。高SAGE1患者の場合、TP53の体細胞変異及びタンパク質のみをコードする変異が残った(Frame_Shift_Del、Frame_Shift_Ins、In_Frame_Del、In_Frame_Ins, Missense_Mutation、Nonsense_Mutation、Nonstop_Mutation、Splice_Site、及びd Translation_Start_Site)。
図11A図11Aは、Xq26.3、GRCh38.p13(Genome Reference Consortium Human Build 38 patch release 13)に位置する、遺伝子ID:55511のSAGE1肉腫抗原1[ホモ・サピエンス(ヒト)]を示し、ヒト遺伝子の特定位置は、ChrX: 135,893,700..135,913,062である。
図11B図11Bは、SAGE1の転写開始部位がChrX: 135893700(すなわち第1エクソンの5’端)付近に位置する(白矢印)ことを示すCAGE(cap analysis of gene expression)分析を示す。ChIP分析によって、明らかなH3K27Ac及びH3K4Me3修飾シグナル(灰色矢印)及び多数の転写因子結合シグナル(黒矢印)が部位付近にあったことが分かった。
図11C図11Cは、SAGE1の転写開始部位の2kb(―1kb~1kb)以内においてDNAメチル化修飾に明らかな違いがある(chrX: 135, 892, 700-135, 894, 700)(紫矢印)ことを示す全ゲノムDNAメチル化配列(全ゲノム重亜硫酸塩配列決定WGBS(Whole Genome Bisulfite Sequencing))分析を示し、高SAGE1発現の細胞は、この部位でのDNAメチル化レベルが低く、低SAGE1発現の細胞又はSAGE1発現がない細胞は、この部位でのDNAメチル化レベルが高い。これにより、DNA脱メチル化がSAGE1発現の制御に関わっていることが分かる。
図12図12は、結晶データコレクション及びリファインメント統計を示す。
図13A図13Aは、INTS3CTD二量体間の相互作用に関わる残基を示す。
図13B図13Bは、INTS3CTD-SAGE1I3BD間の相互作用に関わる残基を示す。
図14A】、
図14B】、
図14C】、
図14D図14A図14Dは、IP-MS分析によって同定されたHuTu80細胞(図14A)、K562細胞(図14B)、U2OS細胞(図14C)、及びKYSE30細胞(図14D)における信頼性の高いSAGE1の相互作用分子のスペクトル数を示す。
図15図15は、汎癌SAGE1発現の有病率(IHC染色で推定)を示す。
図16図16は、ヒトSAGE1shRNAによるSAGE1発現の抑制を示す。
図17-1】、
図17-2】、
図17-3】、
図17-4】、
図17-5】、
図17-6】、
図17-7】、
図17-8】、
図17-9】、
図17-10】、
図17-11】、
図17-12】、
図17-13】、
図17-14】、
図17-15】、
図17-16】、
図17-17】、
図17-18】、
図17-19】、
図17-20】、
図17-21】図17-1~図17-21は、本開示に記載の配列を示す。
【発明を実施するための形態】
【0111】
本開示をさらに詳しく説明する前に、本開示はここに記載する特定の実施の形態に限定されることなく、変更も当然のこととして可能であると理解される。また、本開示の範囲は添付の請求項でのみ限定されるものであるから、本明細書で使用する用語は、特定の実施の形態を説明するためのものにすぎず、限定的する意図はない。
【0112】
別段の定義付けがない限り、本明細書で使用するいずれの科学技術用語も本開示が属する技術分野の当業者が通常理解するものと同様の意味をもつ。本明細書に記載の方法及び材料と類似又は同等のものを本開示の実施又は検査に使用することもできるが、ここでは好ましい方法及び材料について説明する。
【0113】
本明細書で引用するすべての文献及び特許は、参照することで本明細書に組み込まれるが、これは個々の文献又は特許を参照によって組み込むと具体的かつ個別的に明記しているのと同じであり、参照によって本明細書に組み込むことで、引用した文献に関連する方法及び/又は材料を開示し、説明している。あらゆる文献の引用は、出願日以前に公開されているものに関するが、このことをもって本開示が先願として当該文献に先行する権利がないと認めたものではない。また、提供した文献の日付について、実際の文献の日付は個別に確認が必要な場合があり、実際と異なる場合もある。
【0114】
本開示を読むにあたり当業者には明らかであるが、本明細書において説明して図示した個別の実施の形態はそれぞれ、その構成要素及び特徴を本開示の範囲又は趣旨から逸脱し
ない範囲内において別の複数の実施の形態のいずれの特徴とも容易に分離したり、組み合わせたりすることができる。記載した方法はいずれも記載順又は論理上可能な別の順序で実施することができる。
【0115】
本明細書で使用する用語「抗体」は、特定の抗原と結合する免疫グロブリン、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、1価抗体、2価抗体、多価抗体、二重特異性抗体、多重特異性抗体を含む。正常な自然抗体は、2本の重鎖(H)及び2本の軽鎖(L)を含む。哺乳類の重鎖は、アルファ、デルタ、イプシロン、ガンマ、及びミューに分類され、それぞれ可変領域(VH)と第1、第2、第3、場合によっては第4の定常領域(それぞれCH1、CH2、CH3,CH4)とからなり、哺乳類の軽鎖は、ラムダ又はカッパに分類され、それぞれ可変領域(VL)と定常領域とからなる。抗体は、「Y」字型をしており、このYの幹部分がジスルフィド結合で結合した2本の重鎖の第2及び第3定常領域からなる。このYの腕部分のそれぞれは、1本の軽鎖の可変領域及び定常領域に結合した1本の重鎖の可変領域と第1定常領域とを含む。軽鎖及び重鎖の可変領域は、抗原結合に関与する。両鎖の可変領域は一般に、相補性決定領域(CDRs)と呼ばれる3つ超可変ループを含む(LCDR1、LCDR2、及びLCDR3を含む軽鎖CDRsとHCDR1、HCDR2、及びHCDR3を含む重鎖CDRs)。この3つのCDRsは、CDRsよりも一定で超可変ループを支える足場となるフレームワーク領域(FRs)として知られる側方に延びた部分(LFR1、LFR2、LFR3、及びLFR4を含む軽鎖FRsとHFR1、HFR2、HFR3、及びHFR4を含む重鎖FRs)の間に介在する。重鎖及び軽鎖の定常領域は、抗原結合に関与しないが、様々なエフェクタ機能を果たす。抗体は、その重鎖の定常領域のアミノ酸配列に基づいて分類される。抗体の5つの主な分類クラス、すなわちアイソタイプは、それぞれアルファ、デルタ、イプシロン、ガンマ、及びミューの重鎖の存在で特徴づけられるIgA、IgD、IgE、IgG、及びIgMである。この主な抗体クラスのうちのいくつかは、IgG1(gamma1重鎖)、IgG2(gamma2重鎖)、IgG3(gamma3重鎖)、IgG4(gamma4重鎖)、IgA1(alpha1重鎖)、又はIgA2(alpha2重鎖)といったサブクラスに分けられる。
【0116】
本明細書で使用する用語「バイオマーカ」又は「マーカ」は、なんらかの生物学上の状態又は症状の測定可能な指標となる生体分子を指す。本明細書で示すバイオマーカの例としては、遺伝子(例えば、ゲノムDNA、cDNA)又はその遺伝子から転写されたmRNA等の遺伝子産物、その遺伝子でコードされたタンパク質、及びタンパク質複合体がある。実施の形態によっては、バイオマーカは、腫瘍、特に悪性腫瘍と関連する腫瘍マーカである。腫瘍マーカは、生化学的又は免疫化学的な定量測定が可能で、臨床腫瘍学における診断、予後、又は治療アッセイの情報を提供する。腫瘍マーカは、臨床及び画像の検査よりも何カ月も早く腫瘍を診断できることが多いため、腫瘍患者のスクリーニングに有用である。また、腫瘍マーカは、予後、腫瘍再発のモニタリング及び発見、ならびに治療の有効性の判断に使用できる。
【0117】
タンパク質又はポリペプチドに関して本明細書で使用する用語「複合体」は、関連する2以上のポリペプチド鎖のグループを指す。ポリペプチド鎖が違うと、機能が違う場合もある。典型的には、タンパク質複合体におけるポリペプチド鎖は、非共有相互作用で結合している。タンパク質複合体が違うと、経時安定性が違う場合もある。
【0118】
用語「相補的」又は「相補性」は、従来のワトソン・クリック型又は他の新しい型によって核酸が別の核酸配列と水素結合を形成する能力を指す。パーセント相補性とは、別の核酸配列と水素結合を形成できる核酸分子における残基の割合を示す(例えば、10個のうちの5個、6個、7個、8個、9個、10個は、50%相補的、60%相補的、70%相補的、80%相補的、90%相補的、100%相補的である)。パーセント相補性は、基本的な局所配列検索ツール(BLASTプログラム)(Altschul (1990) J. Mol. Biol
. 215, 403-410; Zhang and Madden (1997) Genome Res. 7, 649-656)を使用して定期的に測定できる。
【0119】
ポリペプチド又はポリヌクレオチドに関する用語「誘導体」は、化学的に修飾されたポリペプチド又はポリヌクレオチドを指し、1以上の特定の数の置換基がポリペプチドの1以上の特定のアミノ酸残基又はポリヌクレオチドの1以上の特定のヌクレオチドに共有結合している(異種ポリペプチド、脂肪酸、ならびに化合物による結合又はグリコシル化、アセチル化、リン酸化反応による)。化合物に関する用語「誘導体」は、1つの原子を別の原子又は原子団と置き換えることで親化合物から合成された化合物を指す。
【0120】
用語「診断」は、本明細書に記載の方法を使用して被験者の発症(例えば、SAGE1陽性疾患)の有無を判断することを指す。また、この用語には被験者の疾患レベルを評価する方法の使用も含まれる。
【0121】
用語「検出」は、従来の手段で実施可能な定量的又は半定量的な判断、検査、又は測定の行為を指す。この用語は、例えば血液サンプル又はその他組織サンプル等の生体サンプルが物理試験を経てある状態から別の状態に形質転換する等の物質の変化を想定している。「SAGE1発現を検出する」という文等は、あるサンプルがSAGE1発現の有無又はSAGE1発現レベルを確認するために(直接又は間接的に)検査され得ることを意味するために用いられる。SAGE1発現の有無及びレベルは診断又は治療の判断指針となり得るものと理解される。
【0122】
バイオマーカ(例えばSAGE1)に関する用語「高い」は、生体サンプルにおいて検出されるバイオマーカのレベルがそのバイオマーカの対応する基準レベルよりも高いことを指す。同様に、本明細書で使用する用語「低い」は、生体サンプルにおいて検出されるバイオマーカのレベルがそのバイオマーカの対応する基準レベルよりも低いことを指す。実施の形態によっては、SAGE1発現のレベルはそれぞれ、そのレベルが基準レベルに対して10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、100%、又は2倍、3倍、4倍、5倍、もしくはそれ以上高く又は低くあれば、基準レベルよりも「高い」又は「低い」とみなすことができる。
【0123】
用語「有効量」又は「治療効果のある量」は、薬理活性剤を必要とする個人に対し、所望の生理学的効果を得るために十分な当該薬剤の量を意味する。有効量は、治療対象の個人の健康状態及び体調、治療対象の個人の分類群、配合処方、個人の病状の診断、及びその他関連する要因によって個人ごとに異なる。
【0124】
本明細書で使用する用語「フラグメント」は、長さに関わらず、基準となるポリペプチド又はポリヌクレオチドの一部の配列を指す。フラグメントにも基準となるポリペプチドの少なくとも部分的な生物活性はみられる。
【0125】
本明細書で使用する用語「阻害薬」は、標的分子(例えば、SAGE1又はSAGE1複合体)の効果を阻害する(例えば、拮抗する、抑制する、低下させる、ブロックする、逆転させる、変更する)薬剤を指す。阻害効果は、例えば、標的分子の量を減らしたり、分子の活性を抑制することで発揮される。このような阻害薬は、拮抗作用を示すものであれば、いかなる化合物、タンパク質、もしくは核酸又はその誘導体を含んでいてもよい。
【0126】
本明細書で使用する用語「単離した」は、元の自然環境で存在しなくなった分子又はその複合体を指す。
【0127】
用語「パーセント(%)配列同一性」は、同一のアミノ酸(又は核酸)の個数が最大に
なるように配列をアラインし、必要に応じてギャップを挿入した場合の、基準配列におけるアミノ酸(又は核酸)残基と同一の候補配列におけるアミノ酸(又は核酸)残基の割合と定義される。言い換えれば、アミノ酸配列(又は核酸配列)のパーセント(%)配列同一性は、比較対象の基準配列に対して同一のアミノ酸残基(又は塩基)の個数を候補配列か基準配列か、いずれか短い方のアミノ残基(又は塩基)の総数で割ることで計算できる。アミノ酸残基の同類置換は同一の残基とは考えない。パーセントアミノ酸(又は核酸)配列同一性を判断するためのアラインメントは、例えば、BLASTN、 BLASTp (U.S. National Center for Biotechnology Information (NCBI)のウェブサイトで公開されている。また、Altschul S.F.ら、J. Mol. Biol., 215: 403-410 (1990); Stephen F.ら、Nucleic Acids Res., 25: 3389-3402 (1997))、European Bioinformatics Instituteのウェブサイトで公開されているClustalW2も参照されたい。さらに、Higgins D.G.ら、Methods in Enzymology, 266: 383-402 (1996); Larkin M.A.ら、Bioinformatics (Oxford, England), 23 (21): 2947-8 (2007)も参照されたい。)、及びALIGN or Megalign (DNASTAR)ソフトウェア等の一般に公開されているツールを使って行うことができる。当業者は、このツールが提供する初期パラメータを使用してもよいし、適切なアルゴリズムを選択する等して、このパラメータをアラインメント用に適宜カスタマイズしてもよい。
【0128】
本明細書で使用する用語「インテグレータ複合体サブユニット3」すなわち「INTS3」は、INTS3遺伝子ならびにINTS3遺伝子のmRNA及びINTS3遺伝子でコードされたタンパク質等のINTS3遺伝子産物を指す。これらのフラグメント、変異体、および誘導体も含まれるものとする。ヒトINTS3遺伝子でコードされたタンパク質は、Uniprotアクセッション番号がQ68E01-1である推定1043アミノ酸タンパク質である(第1メチオニンを取り除いたINTS3タンパク質の配列であって、SEQ ID NO: 5として本明細書に組み込まれる)。
【0129】
本明細書で使用する用語「インテグレータ複合体サブユニット6」すなわち「INTS6」は、INTS6遺伝子ならびにINTS6遺伝子のmRNA及びINTS6遺伝子でコードされたタンパク質等のINTS6遺伝子産物を指す。これらのフラグメント、変異体、および誘導体も含まれるものとする。ヒトINTS6遺伝子でコードされたタンパク質は、Uniprotアクセッション番号がQ9UL03-1である推定887アミノ酸タンパク質である(この配列はSEQ ID NO: 6として本明細書に組み込まれる)。
【0130】
本明細書で使用する用語「インテグレータ複合体サブユニット6-like」すなわち「INTS6L」は、INTS6L遺伝子ならびにINTS6L遺伝子のmRNA及びINTS6L遺伝子でコードされたタンパク質等のINTS6L遺伝子産物を指す。これらのフラグメント、変異体、および誘導体も含まれるものとする。ヒトINTS6L遺伝子でコードされたタンパク質は、Uniprotアクセッション番号がQ5JSJ4-1である推定861アミノ酸タンパク質である(この配列はSEQ ID NO: 7として本明細書に組み込まれる)。
【0131】
本明細書で使用する用語「キット」は、本開示の範囲に含まれるSAGE1の発現を具体的に検出又は調節する少なくとも1種の試薬を含む製品(例えば、パッケージ又は容器)を指す。このキットは、本明細書に記載の方法を実行するユニットとして宣伝、流通、又は販売され得る。
【0132】
バイオマーカに関する用語「レベル」は、サンプルに存在する注目バイオマーカの分量を指す。この分量は、絶対量、すなわちサンプルにおけるバイオマーカの総量で表現されてもよいし、相対量、すなわちサンプルにおけるバイオマーカの濃度又は割合で表現されてもよい。バイオマーカのレベルは、DNAレベルで測定でき(例えば、DNAメチル化又はヒストンのアセチル化等のエピジェネティックな修飾の分量で表される)、RNAレベルでも測定でき(例えば、mRNA量)、タンパク質レベルでも測定できる(例えば、
タンパク質又はタンパク質複合体の分量)。
【0133】
用語「可能性」及び「可能性が高い」は、その出来事が起こる可能性の度合いを測ったものである。可能性は、通常の判断能力を備えた人が常識、訓練、又は経験を通して辿り着く場合、推測よりも見込みは高いが、確実性が低いことを指す。実施の形態によっては、用語「可能性」及び「可能性が高い」は、パーセンテージで例えば50%以上、60%以上、80%以上、90%以上、95%以上、99%以上の見込みのことである。
【0134】
SAGE1遺伝子のヒストンのアセチル化に関する用語「付近」は、アセチル化の位置がSAGE1遺伝子の特定の領域又は部位の近く(例えば、50bp、100bp、200bp、400bp、600bp、800bp、又は1kb上流又は下流の範囲内)であることを指す。
【0135】
癌治療(例えば、SAGE1阻害薬による処置)の文脈で使用される「治療効果を得られる」又は「応答性がある」の用語は、その治療に効果的又は好適な応答があることを指し、好ましくない応答、すなわち有害事象ではないということである。患者において、効果的応答は、数多くの臨床的指標で現れるが、検出可能な腫瘍が無くなったり(完全寛解)、腫瘍の大きさ及び/又は腫瘍細胞の数が減少したり(部分寛解)、腫瘍の成長が止まったり(症状の安定)、抗腫瘍免疫応答が強くなったり、腫瘍の退行又は拒絶につながることもあり、腫瘍に関連する1以上の症状がある程度和らいだり、処置後の生存期間が延びたり、及び/又は処置後のある時点における死亡率が低下したりする。
【0136】
用語「TP53」及び「p53」は、本明細書では同義に用いられ、腫瘍タンパク質p53を指し、p53タンパク質及びp53コード用のDNA(例えば、コード遺伝子配列)又はRNAを指すこともあり、イソ型及び変異体もすべて含まれる。このp53の別名として、例えば、抗原NY-CO-13、リンタンパク質p53、腫瘍サプレッサーp53、及び細胞性腫瘍抗原p53がある。ヒトp53の典型的な配列は、UniProtKBデータベースのアクセッション番号P04637(P53-HUMAN)で入手できる。
【0137】
用語「予後」は、病気の起こり得る経過及び結果の予測又は当該病気から快復する可能性を含む。腫瘍に関して使用される場合、予後とは、例えば、治療効果の有無の傾向、臨床亜種の発症、再発、転移、完全又は部分寛解である。予後が良いとは、腫瘍の処置で期待される又は見込まれる結果が良いことであり、予後が悪いとは、腫瘍の処置で期待される又は見込まれる結果があまり良くないことである。
【0138】
用語「ポリヌクレオチド」又は「核酸」又は「オリゴヌクレオチド」は、同義に用いられ、共有結合したヌクレオチドの鎖を指す。ヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチド又はリボヌクレオチドであってもよく、それぞれが独立して修飾されていても未修飾であってもよい。
【0139】
用語「ポリペプチド」及び「タンパク質」は、同義に用いられ、ペプチド結合で共有結合したアミノ酸残基の鎖を指す。タンパク質又はポリペプチドは、アミノ酸以外の部分を含んでもよく(例えば、糖タンパク質であってもよく)、及び/又は、加工されていても修飾されていてもよい。さらに、タンパク質は、例えば、ジスルフィド結合で結合したり、別の手段で関連付けられた1本以上のポリペプチド鎖を含むことがあるとういうことは、当業者であれば理解できると思われる。
【0140】
用語「被験者」は、ヒト又はヒト以外の動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、犬、猫、牛、豚、羊、馬、又は霊長目)を指す。多くの実施の形態では、被験者はヒトである。被験者は、医療提供者による病気の診断又は処置を受ける患者であり得る。用語「被験
者」は、本明細書では「個人」又は「患者」と同義に用いられる。被験者は、ある病気又は疾患に悩まされていたり、かかりやすかったりするが、その病気又は疾患の症状が現れる場合もあれば、現れない場合もある。
【0141】
本明細書で使用する用語「サンプル」又は「生体サンプル」は、被験者から得られた生体サンプルであって、本発明の方法で評価される1以上の注目バイオマーカを含むものを指す。サンプルは、細胞又は細胞から分泌された産物を含み、単離した細胞、組織サンプル、又は体液サンプルがあるが、これらに限定されない。実施の形態よっては、サンプルは、腫瘍細胞又は腫瘍細胞から分泌された産物を含む。実施の形態よっては、サンプルは、腫瘍細胞サンプルである。
【0142】
本明細書で使用する「肉腫抗原1」すなわち「SAGE1」は、SAGE1遺伝子ならびにSAGE1のmRNA及びSAGE1遺伝子でコードされたタンパク質等のSAGE1遺伝子産物を指す。これらのフラグメント、変異体、および誘導体も含まれるものとする。ヒトSAGE1遺伝子は、X染色体に位置する(Genome Reference Consortium Human Build 38 patch release 13によれば、X: 135, 893, 700-135, 913, 026, Xq26.3)。また、NCBIデータベースにおける遺伝子IDは55511である(この配列はSEQ ID NO: 1として本明細書に組み込まれる)。ヒトSAGE1転写産物変異体1は、SAGE1の正準mRNA配列であり、このNCBIアクセッション番号は、NM_001381902.1 (GI: 1833303494)である(この配列はSEQ ID NO: 2として本明細書に組み込まれる)。SAGE1転写産物変異体1は、少なくとも2種類のSAGE1タンパク質をコードする。正準SAGE1タンパク質は、Uniprotアクセッション番号がQ9NXZ1-1である推定904アミノ酸タンパク質である(この配列はSEQ ID NO: 3として本明細書に組み込まれる)。別段の記載がない限り、SAGE1タンパク質に関する位置情報は、この配列から決定する。SAGE1タンパク質のイソ型は、NCBIアクセッション番号がAAI44261.1である推定528アミノ酸タンパク質であり(この配列はSEQ ID NO: 4として本明細書に組み込まれる)、これも本開示の範囲内に含まれる。
【0143】
用語「構造座標」は、結晶状態のタンパク質又はタンパク質複合体の原子(散乱中心)によるX線単色ビームの回折で得られたパターンに関する数学的方程式から導いた直交座標を指す。この回折データを用いて結晶の繰り返し単位の電子密度マップを計算する。次に、この電子密度マップを用いて分子又は分子複合体の個々の原子の位置を確定する。
【0144】
用語「腫瘍」又は「癌」は、同義に用いられ、異常な細胞の成長を伴う病気を指し、人体の組織、内臓、又は細胞に影響するあらゆるステージ及びあらゆる型を含む。この用語は、既知のあらゆる癌及び腫瘍性疾患を含み、悪性腫瘍、陽性腫瘍、軟部組織腫瘍、固形腫瘍、又は血液系腫瘍を問わず、ステージも悪性度も問わず、転移前の腫瘍及び転移後の腫瘍も含む。一般に、腫瘍は、それが位置する組織もしくは内臓又はその発生源である組織もしくは内臓ならびに癌組織及び癌細胞の形態学によって分類される。実施の形態によっては、腫瘍の種類として、副腎癌、リンパ上皮性腫瘍、腺様細胞癌、リンパ腫、聴神経腫、急性リンパ性白血病、肢端黒子型黒色腫、急性骨髄性白血病、先端汗腺腫、慢性リンパ性白血病、急性好酸球性白血病、肝臓癌、急性赤血球白血病、小細胞肺癌、急性リンパ性白血病、非小細胞肺癌、急性巨核芽球性白血病、MALTリンパ腫、急性単球性白血病、悪性線維性組織球腫、急性前骨髄球性白血病、悪性末梢神経鞘腫、マントル細胞リンパ腫、腺癌、辺縁帯B細胞リンパ腫、海馬の悪性腫瘍、腺様嚢胞癌、腺腫様、腺様歯原性腫瘍、肥満細胞白血病、腺扁平上皮癌、縦隔胚細胞腫瘍、脂肪組織腫瘍、乳房髄様癌、副腎皮質癌、甲状腺髄様癌、成人T細胞白血病/リンパ腫、髄芽腫、浸潤性NK細胞白血病、黒色腫、AIDS関連リンパ腫、髄膜腫、肺横紋筋肉腫、メルケル細胞癌、肺胞軟部肉腫、中皮腫、エナメル上皮腫、転移性尿路上皮癌、未分化大細胞リンパ腫、ミュラー管混合腫瘍、甲状腺未分化癌、粘液性腫瘍、血管免疫芽球性T細胞リンパ腫、多発性骨髄腫、血
管筋脂肪腫、筋肉組織腫瘍、血管肉腫、菌状息肉腫、星細胞腫、粘液性脂肪肉腫、非定型奇形腫様ラブドイド腫瘍、粘液腫、B細胞慢性リンパ性白血病、粘液肉腫、B細胞リンパ性白血病、上咽頭癌、B細胞リンパ腫、神経鞘腫、基底細胞癌、神経芽細胞腫、胆道癌、神経線維腫症、膀胱癌、神経腫、芽細胞腫、結節性黒色腫、骨癌、眼癌、ブレンナー腫瘍、乏突起膠細胞、褐色腫瘍、乏突起膠腫、バーキットリンパ腫、好酸球性乳癌、脳腫瘍、視神経腫瘍、口腔上皮内腫瘍、骨肉腫、癌肉腫、卵巣癌、骨軟部腫瘍、肺溝腫瘍、甲状腺乳頭癌、骨髄腫、傍神経節腫、軟骨腫、松果体芽細胞腫、脊索腫、松果体細胞腫、絨毛癌、下垂体腫瘍、脈絡叢乳頭腫、下垂体腺腫、腎明細胞肉腫、下垂体腫瘍、頭蓋咽頭腫、形質細胞腫、皮膚T細胞リンパ腫、多胎芽腫、子宮頸癌、前駆Tリンパ芽球性リンパ腫、大腸癌、中枢神経系原発性リンパ腫、デゴス病、原発性滲出性リンパ腫、増殖性小円形細胞腫、原発性腹膜前癌、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、前立腺癌、神経上皮性腫瘍の胚芽異形成症、膵臓癌、未分化細胞腫瘍、咽頭癌、胚性癌、腹膜偽粘液腫、内分泌腺腫瘍、腎細胞癌、腸症関連T細胞リンパ腫、内胚葉洞腫瘍、腎髄質癌、網膜芽細胞腫、食道癌、横紋筋肉腫、エンダデルフォス、横紋筋肉腫、筋腫、リヒター形質転換、線維肉腫、直腸癌、濾胞性リンパ腫、肉腫、濾胞性甲状腺癌、神経鞘腫、神経節細胞腫、セミノーマ、消化管癌、セルトリ細胞腫、胚細胞腫、性索-性腺間質腫瘍、妊娠絨毛癌、印環細胞腫、巨細胞線維芽細胞腫、皮膚癌、骨巨細胞腫、小円形青色細胞腫瘍、神経膠腫、小細胞癌、多形性膠芽腫、軟部肉腫、神経膠腫、ソマトスタチン腫瘍、脳神経膠腫、煤イボ、膵臓の高グルカゴン腫、脊髄腫瘍、性腺芽腫、脾臓辺縁リンパ腫、顆粒膜細胞腫、扁平上皮癌、エストロゲン腫瘍、滑膜肉腫、胆嚢癌、セザリー病、胃癌、小腸癌、ヘアリー細胞白血病、扁平上皮癌、血管芽細胞腫、胃癌、頭頸部癌、T細胞リンパ腫、血管上皮腫、精巣癌、血液悪性腫瘍、肉腫、肝芽腫、甲状腺癌、肝脾臓T細胞リンパ腫、移行上皮細胞癌、ホジキンリンパ腫、喉頭癌、非ホジキンリンパ腫、尿路癌、浸潤性小葉癌、泌尿生殖器癌、腸癌、尿路上皮癌、腎臓癌、ブドウ膜黒色腫、喉頭癌、子宮癌、悪性そばかす様喀痰、疣贅癌、致死性正中線肉芽腫、視経路神経膠腫、白血病、外陰癌、精巣間質腫瘍、膣癌、脂肪肉腫、ワルデンストームマクログロブリン血症、肺癌、腺リンパ腫リンパ管腫、腎芽腫、リンパ肉腫等があるが、これらに限定されない。実施の形態によっては、腫瘍は、大腸癌、肺癌、肝臓癌、乳癌、食道癌、頭頸部癌、皮膚癌、腎臓癌、白血病、結腸腺癌(coad)、肝臓肝細胞癌(lihc)、卵巣漿液性嚢胞腺癌(ov)、子宮体部内膜癌(ucec)、甲状腺癌(thca)、皮膚皮膚黒色腫(skcm)、肺腺癌(luad)、頭頸部扁平上皮癌(hnsc)、多形性膠芽腫(gbm)、前立腺腺癌(prad)、胸腺腫(thym)、脳低悪性度神経膠腫(lgg)、直腸腺癌(read)、褐色細胞腫および傍神経節腫(pcpg)、食道癌(esca),腎臓腎明細胞癌(kirc)、子宮頸部扁平上皮癌および内頸部腺癌(cesc)、膀胱尿路上皮癌(blca)、腎臓乳頭状腎細胞癌(kirp)、膵臓腺癌(pad)、胃腺癌(stad)、腎臓嫌色素性腺腫(kich)、乳房浸潤癌(brca)、肺扁平上皮癌(lusc)、肉腫(sarc)、急性骨髄性白血病(laml)から選択される。
【0145】
本明細書で使用する用語「処置/治療」又は「処置を施す/治療する」は、疾患を予防したり、緩和したり、疾患の発症を遅らせたり、減速させたり、疾患に関連する症状の進行を予防したり、遅らせたり、疾患に関連する症状を抑えたり、止めたり、疾患の完全寛解又は部分寛解を実現したり、疾患を完治させたり、又はこれらの組み合わせを実現することを指す。腫瘍に関して、「処置を施す/治療する」又は「処置/治療」は、腫瘍性又は悪性の細胞の発生、増殖、進行、転移、癌症状、又はこれらの組み合わせを予防したり、抑制したり、遅らせたり、減速させることを指す場合がある。処置/治療は、必ずしも疾病、疾患、又はその疾病もしくは疾患の症状について、完治又は完全なアブレーションを意味するものではないと理解される。
【0146】
用語「ベクター」は、ポリヌクレオチドの導入、複製、又は発現のために、ポリペプチドが動作可能に挿入される媒体を指す。ベクターには、様々な調節要素が含まれることが
あり、それらは複製元、プロモータ、転写開始配列、エンハンサ、選択可能なマーカ遺伝子、レポーター遺伝子等であるが、これらに限定されない。また、ベクターには、宿主細胞に入るときの手助けをする物質が含まれており、それらはウイルス粒子、リポソーム、イオン化合物、又は両親媒性化合物等であるが、これらに限定されない。
【0147】
なお、本開示において、「含む/備える(comprises, comprised, comprising, contains, containing)」等の用語は、米国特許法に基づく意味をもち、これらは包括的、すなわち非限定的(open-ended)であって、記載されていない追加の要素又は方法ステップを排除しない。また、「基本的に~からなる(consisting essentially of, consists essentially of)」等の用語は、米国特許法に基づく意味をもち、これらは請求項に係る発明の基本的かつ新規な特徴に実質的に影響を与えない追加の材料又はステップを含むことを許容する。用語「からなる(consists of, consisting of)」は、米国特許法に基づく意味をもつ。すなわち、これらの用語は限定的(close-ended)である。
【0148】
II.新規な診断用バイオマーカ及び治療対象としてのSAGE1
肉腫抗原1(SAGE1)は、癌精巣抗原(CTA)の規模の大きい混成群に属する。SAGE1は、腫瘍特異性抗原として同定されてから20年近く経つが、腫瘍の増殖及び進行におけるその役割については未だにあまり解明されていない。
【0149】
本開示では、数多くの研究を通し、SAGE1が腸癌、肺癌、肝臓癌、乳癌、皮膚癌、頭頸部癌、白血病等、様々な腫瘍組織及び細胞で発現すること、精巣組織以外の正常な細胞ではSAGE1は検出されないことが分かった。
【0150】
本開示は、SAGE1が発癌に関わる転写を促進し、多くの癌増殖経路を上方制御するということを思いがけず発見した。このように増殖能が高まることは、異常な増殖、新生物及び腫瘍の進行、SAGE1発現をSAGE1陽性疾病の診断及び予後に有益なバイオマーカとすること、SAGE1陽性疾病の進行をモニタリングすること、治療効果の予測及び治療計画の選択に大きな影響を及ぼす場合がある。
【0151】
本開示は、さらに、SAGE1が腫瘍に依らない(tumor-agnostic)治療標的であることを初めて確認した。様々な腫瘍の患者腫瘍移植(PDX)モデルにおいてSAGE1を下方制御することで腫瘍の成長が効果的に抑制され、病理学的完全寛解にまで至ることもある。本開示では、原発組織又はゲノム景観多様性に関わらず、癌遺伝子中毒につながることもあるSAGE1の発現は、新しい診断物をSAGE1陽性疾患(例えば、SAGE1陽性腫瘍)と判断し、SAGE1レベル又は活性を抑制することは、SAGE1陽性疾患に効果的な治療アプローチとなり得ることが分かった。
【0152】
本明細書で使用する用語「SAGE1陽性」は、細胞又は組織においてSAGE1が発現することを意味する。用語「SAGE1陽性疾患」は、正常時はSAGE1が発現しないSAGE1陽性細胞又はSAGE1陽性組織があることを特徴とする症状を意味する。SAGE1陽性疾患は、正常な発現パターンから逸れたSAGE1の異常又は不所望な発現を特徴とする。SAGE1は、正常な組織では発現しないが、精原細胞、場合によって胎盤及び脳は除く。
【0153】
ある実施の形態では、SAGE1陽性疾患は、精原幹細胞(SSC又はSPG)でないSAGE1陽性細胞があることを特徴とする。ある実施の形態では、SAGE1陽性疾患は、卵管、唾液腺、脂肪組織、副腎、血液、膀胱、血管、胸部、子宮頚部、結腸、食道、心臓、腎臓、肝臓、肺、筋肉、神経、卵巣、膵臓、前立腺、皮膚、小腸、脾臓、胃、甲状腺、子宮又は膣にみられる細胞であるSAGE1陽性細胞があることを特徴とする。
【0154】
ある実施の形態では、SAGE1陽性疾患は、SAGE1陽性異常細胞があることを特徴とする。本明細書で使用する用語「異常細胞」は、生物学上、生理学上、又は病理学上の1以上の側面において、対応する正常細胞と異なる細胞を意味する。異常細胞は、例えば、特に細胞の成長、遺伝子の変異、特定の生物学的経路の異常活性化、特定の遺伝子の異常発現、異常な移動能、又は異常な分化能等が対応する正常細胞と異なり得る。
【0155】
実施の形態によっては、SAGE1陽性疾患は、腫瘍(すなわち、SAGE1陽性腫瘍)を含む。
【0156】
実施の形態によっては、SAGE1陽性疾患は、固形腫瘍又は血液系腫瘍から選択される。
【0157】
実施の形態によっては、SAGE1陽性疾患は、副腎癌、リンパ上皮性腫瘍、腺様細胞癌、リンパ腫、聴神経腫、急性リンパ性白血病、肢端黒子型黒色腫、急性骨髄性白血病、先端汗腺腫、慢性リンパ性白血病、急性好酸球性白血病、肝臓癌、急性赤血球白血病、小細胞肺癌、急性リンパ性白血病、非小細胞肺癌、急性巨核芽球性白血病、MALTリンパ腫、急性単球性白血病、悪性線維性組織球腫、急性前骨髄球性白血病、悪性末梢神経鞘腫、マントル細胞リンパ腫、腺癌、辺縁帯B細胞リンパ腫、海馬の悪性腫瘍、腺様嚢胞癌、腺腫様、腺様歯原性腫瘍、肥満細胞白血病、腺扁平上皮癌、縦隔胚細胞腫瘍、脂肪組織腫瘍、乳房髄様癌、副腎皮質癌、甲状腺髄様癌、成人T細胞白血病/リンパ腫、髄芽腫、浸潤性NK細胞白血病、黒色腫、AIDS関連リンパ腫、髄膜腫、肺横紋筋肉腫、メルケル細胞癌、肺胞軟部肉腫、中皮腫、エナメル上皮腫、転移性尿路上皮癌、未分化大細胞リンパ腫、ミュラー管混合腫瘍、甲状腺未分化癌、粘液性腫瘍、血管免疫芽球性T細胞リンパ腫、多発性骨髄腫、血管筋脂肪腫、筋肉組織腫瘍、血管肉腫、菌状息肉腫、星細胞腫、粘液性脂肪肉腫、非定型奇形腫様ラブドイド腫瘍、粘液腫、B細胞慢性リンパ性白血病、粘液肉腫、B細胞リンパ性白血病、上咽頭癌、B細胞リンパ腫、神経鞘腫、基底細胞癌、神経芽細胞腫、胆道癌、神経線維腫症、膀胱癌、神経腫、芽細胞腫、結節性黒色腫、骨癌、眼癌、ブレンナー腫瘍、乏突起膠細胞、褐色腫瘍、乏突起膠腫、バーキットリンパ腫、好酸球性乳癌、脳腫瘍、視神経腫瘍、口腔上皮内腫瘍、骨肉腫、癌肉腫、卵巣癌、骨軟部腫瘍、肺溝腫瘍、甲状腺乳頭癌、骨髄腫、傍神経節腫、軟骨腫、松果体芽細胞腫、脊索腫、松果体細胞腫、絨毛癌、下垂体腫瘍、脈絡叢乳頭腫、下垂体腺腫、腎明細胞肉腫、下垂体腫瘍、頭蓋咽頭腫、形質細胞腫、皮膚T細胞リンパ腫、多胎芽腫、子宮頸癌、前駆Tリンパ芽球性リンパ腫、大腸癌、中枢神経系原発性リンパ腫、デゴス病、原発性滲出性リンパ腫、増殖性小円形細胞腫、原発性腹膜前癌、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、前立腺癌、神経上皮性腫瘍の胚芽異形成症、膵臓癌、未分化細胞腫瘍、咽頭癌、胚性癌、腹膜偽粘液腫、内分泌腺腫瘍、腎細胞癌、腸症関連T細胞リンパ腫、内胚葉洞腫瘍、腎髄質癌、網膜芽細胞腫、食道癌、横紋筋肉腫、エンダデルフォス、横紋筋肉腫、筋腫、リヒター形質転換、線維肉腫、直腸癌、濾胞性リンパ腫、肉腫、濾胞性甲状腺癌、神経鞘腫、神経節細胞腫、セミノーマ、消化管癌、セルトリ細胞腫、胚細胞腫、性索-性腺間質腫瘍、妊娠絨毛癌、印環細胞腫、巨細胞線維芽細胞腫、皮膚癌、骨巨細胞腫、小円形青色細胞腫瘍、神経膠腫、小細胞癌、多形性膠芽腫、軟部肉腫、神経膠腫、ソマトスタチン腫瘍、脳神経膠腫、煤イボ、膵臓の高グルカゴン腫、脊髄腫瘍、性腺芽腫、脾臓辺縁リンパ腫、顆粒膜細胞腫、扁平上皮癌、エストロゲン腫瘍、滑膜肉腫、胆嚢癌、セザリー病、胃癌、小腸癌、ヘアリー細胞白血病、扁平上皮癌、血管芽細胞腫、胃癌、頭頸部癌、T細胞リンパ腫、血管上皮腫、精巣癌、血液悪性腫瘍、肉腫、肝芽腫、甲状腺癌、肝脾臓T細胞リンパ腫、移行上皮細胞癌、ホジキンリンパ腫、喉頭癌、非ホジキンリンパ腫、尿路癌、浸潤性小葉癌、泌尿生殖器癌、腸癌、尿路上皮癌、腎臓癌、ブドウ膜黒色腫、喉頭癌、子宮癌、悪性そばかす様喀痰、疣贅癌、致死性正中線肉芽腫、視経路神経膠腫、白血病、外陰癌、精巣間質腫瘍、膣癌、脂肪肉腫、ワルデンストームマクログロブリン血症、肺癌、腺リンパ腫リンパ管腫、腎芽腫、リンパ肉腫、結腸腺癌(coad)、肝臓肝細胞癌(lihc)、卵
巣漿液性嚢胞腺癌(ov)、子宮体部内膜癌(ucec)、甲状腺癌(thca)、皮膚皮膚黒色腫(skcm)、肺腺癌(luad)、頭頸部扁平上皮癌(hnsc)、多形性膠芽腫(gbm)、前立腺腺癌(prad)、胸腺腫(thym)、脳低悪性度神経膠腫(lgg)、直腸腺癌(read)、褐色細胞腫および傍神経節腫(pcpg)、食道癌(esca),腎臓腎明細胞癌(kirc)、子宮頸部扁平上皮癌および内頸部腺癌(cesc)、膀胱尿路上皮癌(blca)、腎臓乳頭状腎細胞癌(kirp)、膵臓腺癌(pad)、胃腺癌(stad)、腎臓嫌色素性腺腫(kich)、乳房浸潤癌(brca)、肺扁平上皮癌(lusc)、肉腫(sarc)、又は急性骨髄性白血病(laml)から選択される。
【0158】
III.疾病の診断、予後、及びモニタリングを目的としたSAGE1発現の検出
i.SAGE1陽性疾患の診断
一態様において、本開示の方法は、被験者のSAGE1陽性疾患を診断する方法であって、前記被験者の生体サンプルにおけるSAGE1発現を検出するステップと、前記生体サンプルにおいて検出される前記SAGE1発現の有無又はレベルに基づいて、前記被験者がSAGE1陽性疾患であるか否かを評価するステップとを含む。
【0159】
一態様において、本開示の方法は、被験者のSAGE1陽性疾患を診断する方法であって、前記被験者の生体サンプルにおけるSAGE1発現を検出するステップを含み、前記生体サンプルにおいて前記SAGE1発現が検出された場合、前記被験者がSAGE1陽性疾患であると診断する。
【0160】
実施の形態によっては、前記SAGE1陽性疾患は、SAGE1陽性腫瘍である。実施の形態によっては、前記被験者はp53が欠損(例えば、変異)していると判断されている。本実施の形態の詳細は以下のセクションで説明する。
【0161】
実施の形態によっては、前記方法は、SAGE1陽性疾患であると診断された被験者にSAGE1阻害薬を推奨、処方、又は投与するステップをさらに含む。
【0162】
ii.悪性度の判定
別の態様において、本開示の方法は、被験者の腫瘍の悪性度又は悪性になる可能性を判定する方法であって、前記被験者の生体サンプルにおけるSAGE1発現を検出するステップと、前記生体サンプルにおいて検出される前記SAGE1発現の有無又はレベルに基づいて、前記被験者に悪性又は悪性になる可能性がある腫瘍があるか否かを評価するステップとを含む。
【0163】
一態様において、本開示の方法は、被験者の腫瘍の悪性度又は悪性になる可能性を判定する方法であって、前記被験者の生体サンプルにおけるSAGE1発現を検出するステップを含み、前記生体サンプルにおいて前記SAGE1発現が検出された場合、前記腫瘍は、悪性である、又は悪性になる可能性があると判定する。
【0164】
用語「悪性度」は、良性の反対であり、近辺の細胞に(局所的に)侵入して破壊し、さらには人体の他の部位にまで広がる(転移する)能力がある悪性腫瘍の存在を指す。悪性細胞は、高速で無制御成長する傾向があり、通常、その遺伝子構造が変化することでは死滅しない。悪性細胞には、新しい腫瘍を生むことで再発及び転移を引き起こすと考えられる幹細胞様表現型(「幹細胞性(stemness)」)を示すものもある。したがって、悪性腫瘍は、治療効果がない場合もあり、検出可能な痕跡を治療で除去又は破壊した後に復活する場合もある。用語「悪性になる可能性」は、疾病が進行して悪性になる可能性を意味する。被験者には悪性の兆候がまだ現れていないこともあるが、今後、悪性になったり、疾病が進行して悪性になれば、悪性になる可能性がある場合もある。
【0165】
実施の形態によっては、前記悪性度は、以下の特徴、すなわち、(a)1以上の幹細胞マーカが発現する、(b)転移可能である、(c)細胞の無制御増殖が可能である、(d)疾病が進行する可能性が高い、(e)抗癌治療に耐性が生じる可能性が高い、(f)抗癌治療の処置後に再発する可能性が高い、(g)1以上の癌関連ドライバー変異が生じている、又は生じる可能性が高い、のうちの1以上の特徴を有する。腫瘍が進行すると、患者の生存期間が短くなったり、転移が増えたり、細胞の増殖が増えたり、全身腫瘍組織量が増えたりする。実施の形態によっては、前記被験者には悪性の臨床症状(例えば、上記の特徴)が現れていない。
【0166】
本明細書で使用する用語「癌関連ドライバー変異」は、選択的成長アドバンテージをもつことによって癌の発症を促す変異を指す。癌関連ドライバー変異は、例えば、特にコピー数変化、コード領域又は非コード領域における変異、マイクロRNAの調節異常、エピジェネティックな変化、及びクロマチン修飾因子における変異等によって、遺伝子の機能に影響を与え得る。癌関連ドライバー変異は、腫瘍患者の腫瘍サプレッサーp53、CDKN2A遺伝子、KMT2D遺伝子、SMARCA4遺伝子、NFE2L2遺伝子、FAT1遺伝子、SPTA1遺伝子、ARID1A遺伝子(例えば、図10を参照)、MYC腫瘍遺伝子、BRAF腫瘍遺伝子において、よく観察されている(例えば、Pon, Julia
R and Marra, Marco A, Annu. Rev. Pathol. Mech. Dis. 2015.10: 25-50を参照)。
【0167】
実施の形態によっては、前記SAGE1陽性腫瘍は、悪性である可能性が高い、又は悪性になる可能性がある。
【0168】
実施の形態によっては、前記方法は、悪性である、又は悪性になる可能性があると判定された腫瘍をもつ前記被験者に対し、悪性度に適合した治療法の選択肢を提供するステップをさらに含む。
【0169】
実施の形態によっては、前記被験者はp53が変異していると判断されている。この実施の形態の詳細は以下のセクションで説明する。
【0170】
実施の形態によっては、前記方法は、前記生体サンプルにおいて前記SAGE1発現が検出された場合、前記被験者にSAGE1阻害薬を推奨、処方、又は投与するステップをさらに含む。
【0171】
iii.TP53欠損(又は変異)
別の態様において、本開示の方法は、被験者がSAGE1陽性疾患である可能性を断定(predicate)する方法であって、前記被験者の第1生体サンプルにおいてTP53の欠損を検出するステップと、前記第1生体サンプルにおいて検出される前記TP53の欠損の有無に基づいて、前記被験者がSAGE1陽性疾患である可能性があるか否かを評価するステップとを含む。
【0172】
別の態様において、本開示の方法は、被験者がSAGE1陽性疾患である可能性を断定(predicate)する方法であって、前記被験者の第1生体サンプルにおいてTP53の欠損を検出するステップを含み、TP53の欠損が検出された場合、前記被験者はSAGE1陽性疾患である可能性が高いと断定される。
【0173】
本明細書で使用する用語「欠損」又は「欠損している」は、活性又はレベルが不十分であることを指し、例えば、正常な活性又は正常なレベルよりも低いこと、活性又はレベルそのものが無かったり、ゼロであることが含まれる。例えば、TP53の活性又はレベルに欠損があると、TP53の機能が働かなかったり、正常な機能に及ばず、生体サンプル
におけるTP53の発現レベルがゼロになったり、低下したりする。
【0174】
TP53が無くなることは、様々な癌でよく起こる遺伝子異常である。ある実施の形態において、TP53の活性又はレベルに欠損があることは、TP53に不活性化変異があることで示すことができる。TP53に関して本明細書で使用する用語「不活性化変異」は、TP53の遺伝子又は遺伝子産物の機能又は活性の少なくとも部分的な(又は完全な)損失になる変異、又は非機能的な遺伝子又は遺伝子産物になる変異を指す。例えば、影響を受けたTP53の遺伝子又は遺伝子産物の活性は、野生型カウンターパートよりも著しく低く、全く無くなっていることもある。ある実施の形態において、TP53における不活性化変異は、転座、欠失、挿入、置換、又はこれらの組み合わせであって、TP53の生物活性を低下させる。
【0175】
本明細書で使用する用語「TP53」は、mRNA、タンパク質、さらにはDNA(例えば、ゲノムDNA)を含む別の型も包含するものとする。したがって、TP53のレベル及び/又は活性及び/又は変異状態は、RNA(例えば、mRNA)、タンパク質、又はDNA(例えば、ゲノムDNA)で測定できる。
【0176】
DNA又はRNAレベルにおけるTP53の変異状態又は発現レベルは、この技術分野で公知の方法であれば測定可能であり、この方法としては、例えば、増幅検査、ハイブリダイゼーションアッセイ、又はシーケンシングアッセイがあるが、これらに限定されない。タンパク質レベルにおけるTP53の変異状態又は発現レベルは、この技術分野で公知の方法であれば測定可能であり、この方法としては、例えば、免疫学的検査があるが、これに限定されない。
【0177】
実施の形態によっては、前記方法は、TP53の欠損が検出された場合、例えば、TP53の不活性化変異が検出された場合、SAGE1発現の検査をするように前記被験者に推めるステップをさらに含む。
【0178】
実施の形態によっては、前記方法は、前記第1生体サンプル又は前記被験者の第2生体サンプルにおけるSAGE1発現を検出するステップをさらに含む。SAGE1発現は、第1生体サンプル、すなわち、TP53が検出されるサンプルと同じものにおいて検出でき、それに代えて第1生体サンプルと組織型が同じ又は異なる被験者の第2生体サンプルにおいても検出できる。SAGE1発現を検出するための生体サンプルは、正常時は検出可能なSAGE1発現がない型のサンプルである。
【0179】
実施の形態によっては、前記生体サンプルにおいてSAGE1発現が検出されなかった場合、前記方法は、時間を置いて、例えば、1カ月後、2カ月後、3カ月後などに、前記被験者のSAGE1発現をモニタリングするステップをさらに含む。
【0180】
iv.SAGE1阻害薬に対する感受性の判断
別の態様において、本開示の方法は、SAGE1阻害薬に対する腫瘍サンプルの感受性を判断する方法であって、前記腫瘍サンプルにおけるSAGE1発現を検出するステップと、前記腫瘍サンプルにおいて検出される前記SAGE1発現の有無又はレベルに基づいて、前記腫瘍サンプルが前記SAGE1阻害薬に感受性があるか否かを評価するステップとを含む。
【0181】
別の態様において、本開示の方法は、SAGE1阻害薬に対する腫瘍サンプルの感受性を判断する方法であって、サンプル腫瘍細胞におけるSAGE1発現を検出するステップを含み、検出した前記SAGE1発現によって、前記腫瘍細胞がSAGE1阻害薬に感受性があることが示される。
【0182】
腫瘍細胞に関する用語「感受性」は、腫瘍細胞が腫瘍処置(例えば、SAGE1阻害薬による処置)に応答する能力を指す。腫瘍細胞の感受性は、例えば腫瘍細胞の増殖の抑制又は腫瘍細胞の死滅の観点から測定できる。
【0183】
実施の形態によっては、前記腫瘍サンプルは、被験者から得る。実施の形態によっては、前記方法は、前記腫瘍サンプルがSAGE1阻害薬に感受性があると判断された場合、前記被験者にSAGE1阻害薬による処置を勧めるステップをさらに含む。実施の形態によっては、前記方法は、前記腫瘍サンプルを得た前記被験者であって、SAGE1阻害薬に感受性があると判断された前記被験者にSAGE1阻害薬を提供又は投与するステップをさらに含む。
【0184】
v.SAGE1阻害薬に応答性がある被験者の特定
別の態様において、本開示の方法は、SAGE1阻害薬の治療効果を得られる可能性が高い腫瘍がある被験者を特定する方法であって、前記被験者の生体サンプルにおけるSAGE1発現を検出するステップと、前記生体サンプルにおいて検出される前記SAGE1発現の有無又はレベルに基づいて、前記被験者がSAGE1阻害薬の治療効果を得られる可能性が高いか否かを評価するステップとを含む。
【0185】
別の態様において、本開示の方法は、SAGE1阻害薬の治療効果を得られる可能性が高い腫瘍がある被験者を特定する方法であって、前記被験者の生体サンプルにおけるSAGE1発現を検出するステップを含み、前記SAGE1発現が検出された場合、前記被験者は前記SAGE1阻害薬の治療効果を得られる可能性が高いと特定する。
【0186】
実施の形態によっては、前記被験者はTP53が変異していると判断されている。
【0187】
実施の形態によっては、前記方法は、SAGE1阻害薬の治療効果を得られる可能性が高いと特定された前記被験者にSAGE1阻害薬を推奨、処方、又は投与するステップをさらに含む。
【0188】
実施の形態によっては、前記方法は、前記生体サンプル又は前記被験者の別の生体サンプルにおけるSAGE1発現を検出するステップをさらに含む。
【0189】
実施の形態によっては、前記生体サンプルにおいてSAGE1発現が検出されなかった場合、前記方法は、時間を置いて、前記被験者のSAGE1発現をモニタリングするステップをさらに含む。
【0190】
vi.SAGE1陽性疾患の進行のモニタリング
別の態様において、本開示の方法は、被験者におけるSAGE1陽性疾患の進行をモニタリングする方法であって、前記被験者の第1生体サンプルにおけるSAGE1発現のレベルを検出するステップ(a)と、前記被験者の第2生体サンプルにおけるSAGE1発現のレベルを検出するステップ(b)と、前記ステップ(a)及び前記ステップ(b)のそれぞれにおいて検出された前記SAGE1発現のレベルに基づいて、前記被験者において前記SAGE1陽性疾患が進行しているか否かを評価するステップ(c)とを含み、前記第2生体サンプルは前記第1サンプルから時間を置いて取得されたものである。
【0191】
別の態様において、本開示の方法は、被験者における腫瘍の進行をモニタリングする方法であって、前記被験者の第1生体サンプルにおけるSAGE1発現のレベルを検出するステップ(a)と、前記被験者の第2生体サンプルにおけるSAGE1発現のレベルを検出するステップ(b)とを含み、前記第2生体サンプルは前記第1サンプルから時間を置
いて取得されたものである。実施の形態によっては、前記方法は、前記第2生体サンプルにおけるSAGE1発現のレベルを前記第1生体サンプルにおける前記レベルと比較して腫瘍の進行を判断するステップ(c)をさらに含む。実施の形態によっては、前記第2生体サンプルにおける前記SAGE1発現のレベルが前記第1生体サンプルよりも前記第2生体サンプルの方が高い場合、前記腫瘍は進行していると判断される。
【0192】
実施の形態によっては、前記第2生体サンプルにおける前記SAGE1発現のレベルが前記第1生体サンプルよりも前記第2生体サンプルの方が低い場合、前記腫瘍は退縮していると判断される。実施の形態によっては、前記第1、第2生体サンプル間の経過期間に腫瘍の治療が行われる、又は行われない。実施の形態によっては、前記方法は、前記腫瘍が進行していると判断された場合、前記被験者にSAGE1阻害薬を推奨、処方、又は投与するステップをさらに含む。
【0193】
vii.SAGE1阻害薬に対する被験者の応答性のモニタリング
別の態様において、本開示の方法は、SAGE1陽性疾患がある被験者の治療期間中のSAGE1阻害薬による処置に対する応答性をモニタリングする方法であって、前記治療期間の後、前記被験者の生体サンプルにおけるSAGE1発現のレベルを検出し、処置後のSAGE1発現レベルを取得するステップ(a)と、前記治療期間以前に前記被験者から得た生体サンプルにおいて検出されたSAGE1発現の基準レベルと前記処置後のSAGE1発現レベルを比較するステップ(b)と、前記ステップ(a)及び前記ステップ(b)のそれぞれにおいて検出された前記SAGE1発現のレベルに基づいて、前記SAGE1阻害薬による前記処置に対する応答性があるか否かを評価するステップ(c)とを含む。
【0194】
別の態様において、本開示の方法は、腫瘍がある被験者のSAGE1阻害薬による処置に対する応答性をモニタリングする方法であって、前記治療期間の後、前記被験者の生体サンプルにおけるSAGE1発現のレベルを検出し、処置後のSAGE1発現レベルを取得するステップ(a)と、前記治療期間以前に前記被験者から得た生体サンプルにおいて検出されたSAGE1発現の基準レベルと前記処置後のSAGE1発現レベルを比較するステップ(b)とを含む。
【0195】
実施の形態によっては、前記処置後のレベルが前記基準レベルより低い場合、前記被験者は前記処置に応答性があると判断される。
【0196】
実施の形態によっては、前記処置後のレベルが前記基準レベルより高い場合、前記被験者は前記処置に応答性がないと判断される。
【0197】
viii.SAGE1発現の検出
本明細書で説明するいずれの方法及び実施の形態も、この技術分野で公知の方法のうち、適切な方法によってSAGE1発現を検出できる。実施の形態によっては、本明細書に記載の前記方法には、前記生体サンプルにおけるSAGE1発現の存在又はレベルを検出できる薬剤に前記生体サンプルを接触させることが含まれる。
【0198】
SAGE1発現は、SAGE1発現の有無に基づいて検出でき、SAGE1発現があるということがSAGE1陽性を意味する。
【0199】
あるいは、SAGE1発現は、SAGE1発現のレベルに基づいて検出でき、検出したレベルが基準レベルより高いということがSAGE1陽性を意味する。基準レベルは、1以上の基準サンプル(例えば、健康な被験者、健康な組織、又は腫瘍患者の前癌組織から得たサンプル)から得られる。SAGE1発現の検出は、基準サンプル及び注目生体サン
プルの取得と並行して行える。基準レベルは、1以上の基準サンプルに基づくデータ群、標準、又はレベルを含むデータベースから取得することも可能である。実施の形態によっては、当該データ群、標準、又はレベルは、正規化されている。SAGE1は、ほとんどの健康な細胞又は組織には通常みられないものであるため、基準レベルは、SAGE1発現がないことを示すレベル(又はノイズレベル)も包含するものと理解される。
【0200】
本明細書に記載のSAGE1は、mRNA、タンパク質(及びその複合体)、さらにはDNA(例えば、ゲノムDNA)を含む別の型も包含するものとする。したがって、SAGE1発現は、DNA転写レベル、RNAレベル、又はタンパク質レベルで検出できる。
【0201】
実施の形態によっては、前記SAGE1発現は、(a)SAGE1タンパク質の存在又はレベル、(b)SAGE1mRNAの存在又はレベル、(c)SAGE1複合体の存在又はレベル、(d)SAGE1遺伝子のメチル化レベル、(e)SAGE1遺伝子のヒストンのアセチル化の存在又はレベル、(f)SAGE1遺伝子に対する転写因子の結合の存在又はレベル、又は(g)これらの組み合わせによって示される。
【0202】
実施の形態によっては、前記SAGE1発現は、(a)SAGE1遺伝子の転写の存在又は基準レベルよりも高いレベル、(b)SAGE1mRNAの存在又は基準レベルよりも高いレベル、(c)SAGE1タンパク質の存在又は基準レベルよりも高いレベル、(d)SAGE1複合体の存在又は基準レベルよりも高いレベル、又は(e)これらの組み合わせによって示される。
【0203】
SAGE1mRNAの存在又はレベルは、この技術分野で公知の核酸検査のうち、適切な検査、例えば核酸増幅検査、核酸ハイブリダイゼーションアッセイ、核酸シーケンシングアッセイ、その他、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)フラグメント分析及びキャピラリー電気泳動法等の方法等によって検出できる。核酸増幅検査、ハイブリダイゼーションアッセイ、及びシーケンシングアッセイは、以下のセクションで説明する。RNA分子の存在及びレベルを増幅検査又はシーケンシングアッセイで検出するために、分析前にRNAをcDNAに逆転写しておく必要がある場合がある。
【0204】
SAGE1タンパク質の存在又はレベルは、この技術分野で周知のポリペプチドの検出又は定量に適したアッセイで検出できる。これには、電気泳動法、キャピラリー電気泳動法、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)、薄層クロマトグラフィー(TLC)、超拡散(hyeprdiffusion)クロマトグラフィー、質量分析、又は様々な免疫学的検査等の生化学的分析方法が含まれる。当業者であれば、SAGE1タンパク質の発現の存在又はレベルを判定する際に使用する公知のタンパク質検出方法を容易に応用できる。
【0205】
SAGE1の存在又はレベルは、SAGE1複合体の存在又はレベルで示すこともできる。本明細書において、「SAGE1複合体」、「SAGE1含有複合体」、及び「SAGE1を含む複合体」は、同義に用いられており、SAGE1タンパク質又はそのフラグメントに加えて1以上のタンパク質又はポリペプチドを含むタンパク質複合体を指す。本開示は、SAGE1が他のタンパク質又はポリペプチドと複合体を形成でき、この複合体を介して生物学的機能を発揮するということを思いがけず発見した。例えば、SAGE1は、INTS3と相互作用し、インテグレータのINTS6を置換する。インテグレータは、ほとんどのRNAPII依存性遺伝子の制御、例えば、非コード小核RNAの3’末端処理、エンハンサRNAの合成、転写の一時停止―放出(transcription pause-release)及びプロセッシビティ(processivity)、ならびにインテグレータ標的遺伝子及びエンハンサの未成熟転写終結等に重要な役割をもつ14種以上のサブユニット(INTS1~INTS14)からなる大きなタンパク質複合体である。実施の形態によっては、前記SAGE1複合体は、SAGE1及びINTS3を含む。実施の形態によっては、前記S
AGE1複合体は、SAGE1―INTS3複合体を含む。SAGE1―INTS3複合体は、インテグレータによって結び付けられた遺伝子のプロモータ近位領域に結合することができ、その後、こうした遺伝子の転写を活性化する。本開示は、細胞増殖及び癌表現型に不可欠な経路においてエンリッチされる遺伝子の発現がSAGE1の発現によって明らかに刺激されていることを発見した。実施の形態によっては、前記SAGE1複合体は、INIP、NABP1/2、CREBBP、TLE1、TLE2、TLE3、TLE4、TLE5、GGA3、CNOT1、TAX1BP1、SEC16A、CYLD、及びPAXBP1から選択される1以上の分子をさらに含む。
【0206】
SAGE1複合体の存在又はレベルは、タンパク質間相互作用を測定する方法のうち、適切な方法によって検出できる。ある実施の形態では、タンパク質間相互作用解析法は、メソスケールディスカバリー(MSD)社開発の酵素結合免疫吸着測定法(MSD-ELISA)、標準的な複合体用のELSIA、近接ライゲーション法(PLA)、免疫共沈降法、又は免疫ブロット法等の免疫学的検査又は近接解析に基づく。SAGE1複合体を検出する免疫学的検査は、通常、複合体の成分又は複合体特有のエピトープに特異的に結合する抗体を用いて、複合体の存在又はレベルを検出又は計測する。タンパク質間相互作用は一過性のものであり、サンプル調製中に解離する場合があるが、科学的又は物理的な架橋によってタンパク質複合体の相互作用の成分の安定化又は恒久的な接合が可能である。タンパク質複合体の成分が共有結合で架橋されると、相互作用する元の複合体を維持しながら他のステップ(例えば、細胞溶解、親和性精製、電気泳動法、又は質量分析)を利用してタンパク質間相互作用を分析できる。
【0207】
SAGE1遺伝子の転写は、SAGE1遺伝子のDNAメチル化又はDNA脱メチル化を測定することで判定できる。DNAメチル化は、DNA分子(例えば、DNA分子の1個のシトシン塩基または複数の塩基)にメチル基を付加する(例えば、DNAメチルトランスフェラーゼ酵素の働きによる)生物学的プロセスである。哺乳類では、転写開始部位付近であることが多いシトシン-リン酸-グアニン(CpG)ジヌクレオチドの5’末端位置(すなわち、「CpG部位」)においてDNAメチル化がみられ、遺伝子のエピジェネティックな不活性化につながり得る。逆に、DNA脱メチル化プロセスでは、メチル化されたDNA分子からメチル基を取り除く(例えば、メチルシトシン塩基をシトシンに変える)ことができ、遺伝子のエピジェネティックな活性化につながり得る。実施の形態によっては、SAGE1遺伝子のDNAメチル化のレベルが基準レベルよりも低い(又は、DNA脱メチル化のレベルが基準レベルよりも高い)ことによって、SAGE1遺伝子の転写があること又はそのレベルが基準レベルよりも高いことが示される。
【0208】
ヒトSAGE1遺伝子は、X染色体に位置し(Genome Reference Consortium Human Build 38 patch release 13によれば、ChrX: 135, 893, 700-135, 913, 026, Xq26.3)、NCBIデータベースにおける遺伝子IDは55511である(この配列はSEQ ID NO: 1として本明細書に組み込まれる)。SAGE1遺伝子のDNAメチル化は、SAGE1mRNAに転写される発現領域(ChrX: 135, 893, 716-135, 913, 062)又は発現領域から5’端上流の非発現領域(例えば、ChrX: 135, 890, 700-135, 893, 715)で生じ得る。発現領域には、CpG(ChrX: 135, 893, 450-135, 893, 686)でエンリッチされたDNAの伸長部分が含まれ、これがCpG含有領域として設計される。実施の形態によっては、SAGE1遺伝子のCpG含有領域でSAGE1遺伝子のDNAメチル化が検出される。SAGE1遺伝子の遺伝子発現のCap Analysis of Gene Expression(CAGE)法によると、転写開始部位は、ChrX: 135893700付近に位置しており、さらに全ゲノム重亜硫酸塩配列決定(WGBS)によると、SAGE1発現のレベルが様々である細胞株全体において、SAGE1遺伝子の転写開始部位の1kb上流又は下流の領域内にはDNAメチル化差がある(www. encodeproject.org のWGBSデータK562: ENCSR765JPC, ENCSR481JIW (A549), ENCSR550RTN (HeLa-S3)に基づく)。実施の形態によっては、前記DNAメチル化
は、SAGE1遺伝子の転写開始部位の上流1kb以内及び下流1kb以内の領域(例えば、ChrX: 135, 892, 700-135, 894, 700に広がる領域)で検出される。実施の形態によっては、前記DNA脱メチル化は、SAGE1遺伝子の転写開始部位の上流3kb以内及び下流3kb以内の領域(例えば、ChrX: 135, 890, 700-135, 896, 700に広がる領域)で検出される。
【0209】
DNAメチル化は、この技術分野における方法のうち、適切な方法によって検出できる。実施の形態によっては、生体サンプルに含まれるDNAにおいて非メチル化シトシンとメチル化シトシンとを区別することができる試薬で前記生体サンプルに処置を施す。このような試薬は、例えば、重亜硫酸塩及びメチル化感受性制限酵素を含む。重亜硫酸塩は、メチル化シトシンはそのままで、非メチル化シトシンを選択的に修飾でき、これをウラシルに変換できる。この変換の後、以下に示す核酸増幅検査、シーケンシングアッセイ、又はハイブリダイゼーションアッセイによって、特定の遺伝子座又は遺伝子におけるDNAメチル化を検出及び計測できる。実施の形態によっては、前記生体サンプルに含まれるDNAは、前記DNAメチル化の検出前に増幅される。
【0210】
SAGE1遺伝子の転写の存在又はレベルも、SAGE1遺伝子のヒストンのアセチル化の存在又はレベルを測定することによって判定できる。ヒストンのアセチル化は、ヒストンタンパク質のN末端にアセチル基が付加される(例えば、ヒストンアセチルトランスフェラーゼの働きによる)生物学的プロセスである。ヒストンのアセチル化によって、凝縮クロマチンがより高い遺伝子転写レベルに関連した、より緩い構造となるように変化する。哺乳類では、一般に、ヒストンH3タンパク質の9~12番目のリジン残基又はヒストンH4タンパク質の16番目のリジン残基においてヒストンのアセチル化がみられる(H3K9ac, H3K27ac, H4K16ac)。実施の形態によっては、SAGE1遺伝子のヒストンのアセチル化のレベルが基準レベルよりも高いことによって、SAGE1遺伝子の転写があること又はそのレベルが基準レベルよりも高いことが示される。実施の形態によっては、ヒストンのアセチル化は、SAGE1遺伝子の非発現領域又は発現領域で検出される。実施の形態によっては、ヒストンのアセチル化は、SAGE1遺伝子のエンハンサ又はプロモータ領域の付近で検出される。実施の形態によっては、前記ヒストンのアセチル化又はSAGE1遺伝子との転写因子の結合は、SAGE1遺伝子の転写開始部位の上流1kb以内及び下流1kb以内の領域(chrX: 135, 892, 700-135, 894, 700)で検出される。実施の形態によっては、前記ヒストンのアセチル化又はSAGE1遺伝子との転写因子の結合は、SAGE1遺伝子の転写開始部位の上流3kb以内及び下流3kb以内の領域(chrX: 135, 890, 700-135, 896, 700)で検出される。
【0211】
SAGE1遺伝子の転写の存在又はレベルは、SAGE1遺伝子のプロモータ領域又はエンハンサ領域等、SAGE1遺伝子との転写因子の結合を測定することでも判定できる。実施の形態によっては、SAGE1遺伝子との転写因子の結合は、ChrX: 135, 892, 756-135, 894, 140に広がる領域において検出される。SAGE1遺伝の転写は、Myc及びCTCFといった転写因子によって制御される。実施の形態によっては、SAGE1遺伝子との転写因子の結合があること又はそのレベルが基準レベルよりも高いことによって、SAGE1遺伝子の転写があること又はそのレベルが基準レベルよりも高いことが示される。
【0212】
ヒストンのアセチル化及びSAGE1遺伝子との転写因子の結合は、共にクロマチン免疫沈降法(ChIP)によって分析できる。ChIPでは、単一の遺伝子座又は複数の遺伝子座における特定のタンパク質―DNA相互作用を検出し、相対的に定量化できる。ChIPでは、DNA配列にタンパク質を化学的又は物理的に架橋し、その後、DNA配列を切断して断片化し、注目タンパク質に特異的な抗体によって架橋複合体の免疫沈降を行い、架橋の反転によって関連DNAフラグメントを放出し、得られたDNAフラグメント
を核酸増幅検査(例えば、エンドポイント又は定量的ポリメラーゼ連鎖反応)、ハイブリダイゼーションアッセイ(例えば、ChIP-chip)、又はシーケンシングアッセイ(ChIP-seq)で分析する。核酸増幅検査、ハイブリダイゼーションアッセイ、及びシーケンシングアッセイについては上述した。ヒストンのアセチル化の検出には、抗H3K9ac抗体、抗H3K27ac抗体、抗H4K16ac抗体等のアセチル化ヒストンに特異的な抗体が有用であり、SAGE1遺伝子との転写因子の結合の検出には、有用な抗体として抗Myc抗体等がある。複数の腫瘍細胞株をChIP-seq分析すると、SAGE1遺伝子の転写開始部位付近の領域がエンリッチされてH3K27ac修飾が生じ、転写因子アレイが結合することが分かった。
【0213】
SAGE1発現の検出に利用できる方法は、適切なものであればよく、例えば、免疫学的検査、増幅検査、ハイブリダイゼーションアッセイ、又はシーケンシングアッセイ等がある。
【0214】
増幅検査
【0215】
核酸増幅検査では、標的核酸(例えば、DNA又はRNA)をコピーすることによって、増幅核酸配列のコピー数を増やす。増幅は指数関数的増幅又は線形増幅である。核酸増幅方法の例として、ポリメラーゼ連鎖反応(「PCR」、米国特許第4683195号及び第4683202号、PCRプロトコルA Guide To Methods And Applications (Innisら編、1990)を参照)、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)、定量リアルタイムPCR(qRT-PCR)、ネステッドPCR等の定量PCR、リガーゼ連鎖反応(Abravaya, K.ら、Nucleic Acids Research, 23: 675-682, (1995)を参照)、分枝DNAシグナル増幅(Urdea, M. S.ら、AIDS, 7 (suppl 2) : S11-S14, (1993)を参照)、増幅可能なRNAレポーター、Qベータ複製(Lizardiら、Biotechnology (1988) 6: 1197を参照)、転写ベースの増幅(Kwohら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1989) 86: 1173-1177を参照)、ブーメランDNA増幅、鎖置換活性、サイクリングプローブ技術、自家持続配列複製(Guatelliら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1990) 87: 1874-1878)、ローリングサークル複製(米国特許第5854033号)、核酸配列ベースの等温増幅(NASBA)、及び遺伝子発現の連続分析(SAGE)を用いた増幅があるが、これらに限定されない。
【0216】
核酸のレベルは、リアルタイム増幅または定量的増幅としても知られる増幅検査中に定量化できる。定量的増幅の方法は、例えば、Gibsonら、Genome Research (1996) 6: 995-1001; DeGravesら、Biotechniques (2003) 34 (1) : 106-10, 112-5; Deiman Bら、Mol Biotechnol. (2002) 20 (2) : 163-79に開示されている。定量化は、通常、増幅(例えば、PCR)反応のサイクルで鋳型のコピーを示す検出可能なシグナルをモニタリングすることを基礎とする。検出可能なシグナルは、増幅中に使用される挿入剤又は標識プライマ又は標識プローブによって生成され得る。検出されたバイオマーカのレベルは、この技術分野で公知の方法によって定量化できる。品質管理の手段として、内部コントロールバイオマーカのレベルを計測してもよい。当業者であれば、内部コントロールバイオマーカがサンプルに本来存在し得るものであり、そのレベルを用いてSAGE1の測定レベルを正規化すれば、サンプルの絶対量の違いを相殺できるということは分かると思われる。これに代えて、増幅検査の後に核酸のレベルを定量化することもできる。
【0217】
ハイブリダイゼーションアッセイ
【0218】
核酸ハイブリダイゼーションアッセイは、プローブを用いて標的核酸をハイブリダイズすることで標的核酸を検出可能にする。ある実施の形態では、ハイブリダイゼーションアッセイ用のプローブは、検出可能に標識化されている。ある実施の形態では、ハイブリダ
イゼーションアッセイ用の核酸ベースのプローブは、標識化されていない。このような標識化されていないプローブは、マイクロアレイ等の固体支持体に固定化でき、検出可能に標識化されている標的核酸分子にハイブリダイズできる。
【0219】
ある実施の形態では、ハイブリダイゼーションアッセイは、核酸(例えば、RNA又はDNA)を単離させ、核酸を分離(例えば、ゲル電気泳動によって分離)した後、分離した核酸を適切な薄膜フィルタ(例えば、ニトロセルロースフィルタ)に移すことで実行でき、そこでプローブが標的核酸にハイブリダイズして検出を可能にする。例えば、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, J. Sambrookら編、2nd edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989, Chapter 7を参照されたい。プローブと標的核酸のハイブリダイゼーションは、この技術分野で公知の方法によって検出又は測定できる。例えば、ハイブリダイズされたフィルタを写真用フィルムに露光することでハイブリダイゼーションのオートラジオグラフィによる検出が行える。ハイブリダイズされたフィルタを露光した写真用フィルムに対し、デンシトメトリーのスキャンを行うと、標的核酸レベルが正確に測定される。コンピュータ撮像システムを用いてバイオマーカのレベルを定量化することもできる。
【0220】
シーケンシングアッセイ
【0221】
シーケンシングアッセイ(例えば、次世代シーケンシング法又は第3世代シーケンシング法)は、標的DNA分子の存在及びレベルの検出に有用であり、標的DNAのシーケンシングし、シーケンシングされた標的DNA分子を数える。これらのシーケンシング法は、合成によるシーケンシング(sequencing-by-synthesis)、ライゲーションによるシーケンシング(sequencing-by-ligation)、ウルトラディープシーケンシング(ultra-deep
sequencing)、又は単一分子シーケンシング(single molecule sequencing)等の原理に基づく。例えば、合成によるシーケンシングは、ポリメラーゼ増幅において、標識化されたヌクレオチド又はヌクレオチド類似体を取り込んで標的核酸の相補鎖を合成する。標識化されたヌクレオチドが取り込まれた直後またはその時点で、標識化のシグナルを測定し、ヌクレオチドの同定を記録する。取り込まれたヌクレオチドの検出可能な標識は、取り込みステップ、検出ステップ、及び同定ステップが繰り返される前に取り除かれる。合成によるシーケンシングは、フォールドバックPCRおよびアンカー型プライマを用いて固体表面(又はマイクロアレイ又はチップ)上で行う場合がある。標的DNAフラグメントは、アンカー型プライマにハイブリダイズすることによって固体表面に付着でき、ブリッジが増幅される。シーケンシング法の例として、シーケンシング法(sequencing)、パイロシーケンシング法(pyrosequencing)、SoLiD法(supported oligonucleotide ligation and detection)、イオントレント技術(Ion torrent technology)、SMRT(single-molecular real time)シーケンシング法、Helicosシーケンシング法(Helicos
sequencing)、ナノポアシーケンシング法(Nanopore sequencing)等があるが、これらに限定されない。
【0222】
免疫学的検査
【0223】
免疫学的検査は、通常、注目タンパク質に特異的に結合する抗体を用いる。このような抗体は、この技術分野で公知の方法によって取得でき(例えば、Huseら、Science (1989)
246: 1275-1281; Wardら、Nature (1989) 341: 544-546を参照されたい)、商用の供給源からも取得できる。免疫学的検査の例として、ウェスタンブロッティング(Western blotting)、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、酵素免疫測定法(EIA)、放射免疫測定(RIA)、免疫沈降、サンドイッチ法、競合アッセイ、免疫蛍光染色イメージング、免疫組織化学、及び蛍光活性化セルソーティング(FACS)があるが、これらに限定されない。免疫学的方法及び免疫学的検査法の検討については、Basic and Clinical Immunology(S
tites&Terr編、7th ed. 1991)を参照されたい。また、免疫学的検査は、Enzyme Immunoassay(Maggio編、1980)及びHarlow &Lane, supraで検討されているいくつか構成のうちのいずれでも実施することができる。一般的な免疫学的検査の検討については、Methods in Cell Biology: Antibodies in Cell Biology, volume 37(Asai編、1993)及びBasic and Clinical Immunology(Stites&Terr編、7th ed. 1991)を参照されたい。
【0224】
本明細書に記載のSAGE1発現検出用アッセイ及び方法は、いずれも自動及び半自動システム又は医療現場の分析システムにおいて使用するために応用又は最適化することができる。SAGE1発現のレベルを判定する際、本明細書に記載のアッセイで検出されたSAGE1発現のレベルをこの技術分野で公知の方法のうち、適切な方法によって正規化できる。例えば、複数の内部マーカの平均レベルもしくは合計レベル又は内部マーカであり得る内部コントロールにレベルを正規化できる。
【0225】
実施の形態によっては、SAGE1は、本明細書に記載の方法で検出される単一のバイオマーカである。実施の形態によっては、本明細書に記載の方法によるSAGE1発現の検出は、被験者から得た生体サンプルを提供するステップを含む。
【0226】
ix.SAGE1発現に基づく評価
SAGE1は、胚発生時にヒト全能性幹細胞など幹細胞性が高い細胞において発現しているのが確認されるものの、ほとんどの正常な組織では発現していない。一方、様々な異常組織でSAGE1の発現が確認されることから、SAGE1は、SAGE1陽性疾患を診断するバイオマーカとして使用できると言える。
【0227】
これまで効果的な早期検出ができなかった腫瘍を診断する方法、腫瘍の悪性度、進行、転移、再発、予後、及び腫瘍処置の効果を評価する方法、及び標的治療を選択する方法をSAGE1発現の検出に基づいて実現する。SAGE1は、従来のバイオマーカと比べ、特異度が高く、正常な組織と腫瘍とを区別する際の正確性がほぼ100%である。
【0228】
実施の形態によっては、正常時にはSAGE1を発現しない生体サンプルにおいてSAGE1が発現することは、その生体サンプルの提供元である被験者がSAGE1陽性疾患であることを示す。これに対し、SAGE1が発現しないことは、このようなSAGE1陽性疾患ではないことを示している。
【0229】
同様に、腫瘍生体サンプルにSAGE1が発現することは、その腫瘍が悪性である可能性が高いこと、もしくは悪性になる可能性があること、その腫瘍がSAGE1阻害薬による処置に感受性があること、又は被験者がSAGE1阻害薬に応答性がある可能性が高いことを示す。
【0230】
実施の形態によっては、SAGE1発現のレベルについて、判定が可能で、閾値レベルと比較できる。この閾値レベルは、SAGE1を発現することが分かっている陽性の基準サンプル及びSAGE1を発現しないことが分かっている陰性の基準サンプルに基づいて判定でき、陽性の基準サンプルを陰性の基準サンプルと区別できるレベルであればよい。
【0231】
実施の形態によっては、被験者におけるSAGE1発現のレベルの変化は、SAGE1陽性疾患の進行又はSAGE1阻害薬に対する被験者の応答性を示し得る。例えば、SAGE1発現のレベルが上昇したことは、SAGE1陽性疾患が進行したこと、又はSAGE1阻害薬を投与された被験者が処置に応答しなくなる可能性が高いこと、もしくは処置に対する耐性を獲得したことを示す。
【0232】
x.生体サンプル
適切なものであればどの生体サンプルでもSAGE1発現の検出に使用できる。実施の形態によっては、前記生体サンプルは、特にSAGE1陽性細胞、SAGE1発現産物、又はSAGE1遺伝子もしくはそのフラグメントが含まれると疑われるものである。
【0233】
実施の形態によっては、前記生体サンプル、特にSAGE1発現産物又はSAGE1遺伝子もしくはそのフラグメントが含まれると疑われる異常細胞を含むものである。実施の形態によっては、前記生体サンプルは、正常な場合、検出可能なSAGE1発現がないタイプのサンプルである。ある実施の形態では、生体サンプルは、精原幹細胞(SSC)を含まない。ある実施の形態では、生体サンプルは、卵管、唾液腺、脂肪組織、副腎、血液、膀胱、血管、胸部、子宮頚部、結腸、食道、心臓、腎臓、肝臓、肺、筋肉、神経、卵巣、膵臓、前立腺、皮膚、小腸、脾臓、胃、甲状腺、子宮又は膣から得たものである。
【0234】
実施の形態によっては、前記生体サンプルは、細胞、組織、体液、及びこれらの組み合わせから選択される。被験者から生体サンプルを得るには当業者が知る適切な方法を用いる。一般に、サンプルのタイプ(すなわち、細胞、組織、又は体液)は、腫瘍細胞の成長に関する評価対象の臓器もしくは組織の入手しやすさ及び構造又は評価対象の癌の種別に基づいて選択される。生体サンプルとしては、腫瘍細胞又は腫瘍細胞含有物(例えば、DNA、RNA,タンパク質、細胞内小器官)をもつ可能性がある被験者の体液又は細胞であればよい。実施の形態によっては、前記生体サンプルは、組織切片、バイオプシー、パラフィン包埋組織、体液、外科的切除によるサンプル、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0235】
体液は、細胞内液、細胞外液、又はこの2つの組み合わせであり得る。実施の形態によっては、前記体液は、血液、血清、血漿、腹水、嚢胞液、胸水、腹膜液、脳脊髄液、涙液、尿、唾液、痰、乳頭液、リンパ液、気道・腸管・尿生殖路の体液、母乳、臓器系の体液、腹膜液、組織移植片の培養で得られる馴化培地、又はこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0236】
生体サンプルは、取得後そのままの状態、冷凍状態、固定状態、又は保存状態で使用できる。生体サンプルを調製する方法は、使用した検出技術に適した方法であればよい。例えば、体液サンプルから腫瘍細胞(循環腫瘍細胞等)を単離又は抽出して調製を行う。別の例としては、パラフィンに組織サンプルを固定化して調製を行う。固定化された組織は、その後、切開され、標的(例えば、SAGE1タンパク質又はSAGE1複合体)との結合を検出するための抗体に接触させる。ある実施の形態では、生体サンプルを加工し、SAGE1発現の検出用にタンパク質、DNA(ゲノムDNA又はセルフリーDNA)、mRNA、又は細胞内小器官を単離する。
【0237】
xi.SAGE1発現の検出用キット
別の態様において、本開示のキットは、本明細書に記載の前記方法のいずれかで使用されるものであって、SAGE1発現を検出する1種以上の試薬を含む。
【0238】
実施の形態によっては、SAGE1発現を検出する1種以上の前記試薬は、SAGE1タンパク質の存在又はレベルを検出するための試薬、SAGE1mRNAの存在又はレベルを検出するための試薬、SAGE1複合体の存在又はレベルを検出するための試薬、SAGE1遺伝子のメチル化レベルを検出するための試薬、SAGE1遺伝子のヒストンのアセチル化の存在又はレベルを検出するための試薬、SAGE1遺伝子に対する転写因子の結合の存在又はレベルを検出するための試薬、及びこれらの組み合わせから選択される。
【0239】
ある実施の形態では、キットは、プライマ、プローブ、及び/又は抗体等の1以上の薬
剤を含む。薬剤は、SAGE1ゲノムDNA、SAGE1mRNA、SAGE1タンパク質、SAGE1複合体、メチル化もしくは非メチル化シトシン、又はその変換後のヌクレオチドの検出に特異的なもの、あるいはアセチル化ヒストンの検出又はSAGE1ゲノムDNAに結合する転写因子の検出に特異的なものであり得る。
【0240】
実施の形態によっては、前記キットは、SAGE1特異オリゴヌクレオチドプライマ、SAGE1特異オリゴヌクレオチドプローブ、抗SAGE1抗体、及び抗SAGE1複合体抗体から選択された少なくとも1種の試薬を含む。
【0241】
核酸に関して本明細書で使用する用語「プライマ」及び「プローブ」は、標的ポリヌクレオチド配列のシーケンス内のプライマの少なくとも一部と配列相補性があることにより、標的ポリヌクレオチド配列に特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドを指す。プライマを伸長させることで新しいポリヌクレオチド鎖を生成する核酸増幅検査及びシーケンシングアッセイにおいて、プライマは有用である。プローブは、標的核酸にハイブリダイズすることによってサンプル内の標的核酸を同定する際に有用である。プライマ及びプローブは、当業者であれば技術常識でもって容易に設計できるので、本明細書に記載の標的ヌクレオチド配列のヌクレオチド配列に特異的にアニールできる。プライマ又はプローブの長さは、少なくとも8ヌクレオチドで、典型的には8~70ヌクレオチドであり、通常は18~26ヌクレオチドである。プライマは、標的配列に正しくハイブリダイズするために、標的ポリヌクレオチド配列のハイブリダイズ部分に対して75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、又は95%以上の配列相補性を有する。
【0242】
ある実施の形態では、本明細書に記載のプライマ又はプローブは、SAGE1ゲノムDNA(SEQ ID NO: 1)又はmRNA(SEQ ID NO: 2)の一部(例えば、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20個以上の連続ヌクレオチド)にハイブリダイズ可能なポリヌクレオチド配列を含む。ある実施の形態では、本明細書に記載のプライマ又はプローブは、SAGE1ゲノムDNA(SEQ ID NO: 1)又はmRNA(SEQ ID NO: 2)の一部(例えば、66、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20個以上の連続ヌクレオチド)に対して、少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、99%、又は100%の相補性を有するポリヌクレオチド配列を含む。
【0243】
ある実施の形態では、本明細書に記載の抗体は、SEQ ID NO: 3の配列を有するSAGE1タンパク質内のエピトープに特異的に結合できる抗原結合領域を含む。
【0244】
本明細書に記載のプライマ、プローブ、及び/又は抗体は、検出可能に標識化されていてもよいし、されていなくてもよい。本明細書で使用する用語「検出可能な標識」は、検出を可能にする分子又は部分を指す。試薬に関する用語「検出可能に標識化される」は、その試薬が検出可能な標識を含む、又は検出可能な標識によって結合可能であることを指す。ある実施の形態では、本明細書に記載のプライマ、プローブ、及び抗体は、検出可能に標識化されたリガンドに特異的に結合できる。プライマ、プローブ、及び抗体の標識化に適した検出可能な標識は、例えば、発色団、放射性同位元素、蛍光色素、化学発光部分、粒子(可視粒子又は蛍光粒子)、核酸、リガンド、又は酵素等の触媒である。検出可能な標識はそれ自体が検出可能なシグナルを生成する必要はなく、ある実施の形態では、検出可能なパートナー又は1以上の追加化合物と反応し、検出可能なシグナルを生成できればよいと理解される。別の例として、酵素は、検出可能なシグナルの生成につながる発色基質、蛍光発生基質、又は発光基質に対するその触媒作用により、検出可能な標識として有用である。
【0245】
ある実施の形態では、このキットは、本明細書に記載の方法を実施するために他の薬剤
をさらに含む場合がある。このような用途の場合、このキットは、適切なバッファ、核酸を単離させる試薬、核酸を増幅させる試薬(例えば、ポリメラーゼ、dNTPミックス)、核酸を配列する試薬、核酸を定量化する試薬(例えば、挿入剤、検出プローブ)、タンパク質を単離させる試薬、及びタンパク質を検出する試薬(例えば、二次抗体)のうちの一部又は全部を含んでよい。
【0246】
実施の形態によっては、前記キットは、メチル化を検出する薬剤を含んでよい。このような用途の場合、このキットは、DNA処置用にDNA内の非メチル化及びメチル化CpG部位を区別できる変換試薬を含む。実施の形態によっては、前記試薬は、重亜硫酸塩試薬である。重亜硫酸塩試薬は、例えば、重亜硫酸アンモニウム、重亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸カリウム、重亜硫酸カルシウム、重亜硫酸マグネシウム、重亜硫酸アルミニウム、亜硫酸水素塩、及びこれらの組み合わせからなる群から選択できる。あるいは、亜硫酸塩試薬は、MethylCodeTM Bisulfite Conversion Kit、EpiMarkTM Bisulfite Conversion Kit、EpiJETTM Bisulfite Conversion Kit、EZ DNA Methylation-GoldTM Kit等の市販のものである。実施の形態によっては、前記試薬は、メチル化感受性制限酵素(MSRE)である。実施の形態によっては、前記MSREは、HpaII、SalI、ScrFI、BbeI、NotI、SmaI、XmaI、MboI、BstBI、ClaI、MluI、NaeI、NarI、PvuI、SacII、HhaI及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0247】
本明細書に記載の方法のいずれかで有用である試薬は、キャリア又は仕切られた容器に含められる。キャリアは、例えば、袋状、箱状、管状、ラック状などの容器又支持体であり、仕切られている場合もある。
【0248】
ある実施の形態では、前記キットは、標準的なネガティブコントロール及び/又は標準的なポジティブコントロールをさらに含む。
【0249】
また、このキットは、本明細書に記載の方法の実施に関する指示(すなわち、プロトコル)を含む教材を含む場合がある。この教材は、通常、書面又は印刷物であるが、これに限定されない。
【0250】
別の態様において、本開示は、腫瘍を診断するためのキットの作製時におけるSAGE1遺伝子又はその活性フラグメントを検出するための物質の使用について示す。このキットは、SAGE1遺伝子又はその活性フラグメントの発現レベルを検出することで腫瘍を診断したり、SAGE1標的治療が被験者に適しているか否かを判断することができる。発明者は、SAGE1遺伝子又はその活性フラグメントの発現が被験者に腫瘍があるか否かと密接に関連していることと、SAGE1の発現が陽性又は発現のレベルが高い腫瘍患者にはSAGE1標的治療がより適していることとを発見した。本開示では、SAGE1を阻害することで腫瘍細胞の増殖、移動、及び足場非依存性成長を大幅に抑えられる一方、妨げられていたSAGE1の発現が復活すると、腫瘍細胞のクローン原生が復活できることを実証する。
【0251】
実施の形態によっては、SAGE1は前記キットにおける単一のバイオマーカである。このキットは、SAGE1遺伝子又はその活性フラグメントを検出するための物質以外に他のバイオマーカを検出する物質を含まない。
【0252】
IV.疾病治療のためのSAGE1及びSAGE1複合体の標的化
別の態様において、本開示は、SAGE1阻害薬、及びSAGE1陽性疾患の処置におけるその利用である。
【0253】
本開示では、驚いたことに、SAGE1の発現及び/又は機能を阻害することでSAG
E1を発現する様々な腫瘍細胞の増幅、移動、足場非依存性成長等を大幅に抑えられる一方、SAGE1の発現が復活すると、細胞の腫瘍形成能が復活できることが分かり、腫瘍の処置としてSAGE1阻害薬が使用できることを実証する。また、SAGE1は、様々な腫瘍組織で特異的に発現するが、精巣以外の正常な組織ではそのようなことはにない。SAGE1タンパク質は、通常、核に位置するが、このタンパク質のペプチド断片は、腫瘍の治療において標的の認識及び免疫活性化に利用可能な主要組織適合遺伝子複合体(MHC)によって腫瘍細胞の表面に提示される。したがって、SAGE1標的治療は、特異性が高く、SAGE1発現がある正常な組織には影響しない。
【0254】
本明細書で使用する用語「SAGE1阻害薬」は、SAGE1のレベル又はSAGE1を介する生物活性を抑制する薬剤である。例えば、SAGE1阻害薬は、SAGE1の発現及び/又は活性を部分的に阻害する、すなわち、抑制する、あるいはSAGE1の発現及び/又は活性を完全に阻害する、すなわち、完全に排除することができ、これにはSAGE1がINTS3に結合してSAGE1-INTS3複合体を形成する能力が含まれる。SAGE1のレベルを抑えることは、SAGE1遺伝子の転写を阻害し、SAGE1mRNAのレベルを低下させる、又はSAGE1タンパク質のレベルを低下させることで実現できる。SAGE1の生物活性を阻害することは、SAGE1が結合パートナーのうちの1以上と結合しないように、又はこれを活性化しないようにすることで実現できる。
【0255】
SAGE1阻害薬の種別は、阻害薬の適切な種別であればよい。実施の形態によっては、前記SAGE1阻害薬は、核酸分子(例えば、ポリヌクレオチドもしくはオリゴヌクレオチド)、ポリペプチド、化合物(例えば、化学化合物)、又はその抗体もしくは抗原結合フラグメントを含む。実施の形態によっては、前記SAGE1阻害薬は、キメラ受容体でもT細胞受容体でもない。実施の形態によっては、前記SAGE1阻害薬は、SAGE1エピトープ又はSAGE1のMHC関連エピトープに結合するキメラ受容体でもT細胞受容体でもない。
【0256】
i.核酸
実施の形態によっては、前記SAGE1阻害薬は、核酸分子を含む。実施の形態によっては、前記SAGE1阻害薬は、SAGE1mRNAもしくはSAGE1遺伝子等のSAGE1核酸を標的とするオリゴヌクレオチド、前記オリゴヌクレオチドをコードするポリヌクレオチド、又は前記オリゴヌクレオチドもしくは前記ポリヌクレオチドを含む核酸ベクターを含む。
【0257】
SAGE1核酸を標的とするオリゴヌクレオチドは、一本鎖オリゴヌクレオチド及び二本鎖オリゴヌクレオチドの両方を含み得る。例として、アンチセンスオリゴヌクレオチド、低分子干渉RNA(siRNA)、マイクロRNA(miRNA)、短ヘアピンRNA(shRNA)、CRISPR/Cas9ガイドRNA、及びその他オリゴマー化合物又はオリゴヌクレオチド類似体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0258】
オリゴヌクレオチドは、SAGE1核酸の適切な部分を標的とする。本明細書で使用する用語「部分」は、オリゴヌクレオチド又は核酸の所定数の連続ヌクレオチドを指す。当業者であれば、例えば、不所望なオフターゲット結合を抑制できるだけの特異的な配列となるよう、及び/又は、SAGE1核酸の二次又は三次構造にも関わらず、オリゴヌクレオチドに十分届くよう、SAGE1の適切な標的部分を決定できる。このために様々なツールがある。例えば、BLASTアルゴリズムを使用して、SAGE1核酸の配列をゲノム全体で他の配列と比較し、選択された標的核酸以外の配列に非特異的にハイブリダイズする可能性がある標的部分を選択しないようにすることができる(すなわち、非標的配列又はオフターゲット配列)。実施の形態によっては、前記SAGE1核酸の標的部分は、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20
、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、もしくはそれ以上のヌクレオチドの長さがあるか、又はこれらのうち2つの長さで決まる範囲内の長さがある。
【0259】
実施の形態によっては、前記SAGE1核酸は、SAGE1mRNAである。SAGE1mRNAの標的部分は、3’UTR、5’UTR、イントロン、エクソンーイントロン連結、コード領域、翻訳開始領域、又は翻訳終了領域等のSAGE1mRNAの構造上規定された領域に位置する場合がある。実施の形態によっては、前記SAGE1mRNAの標的部分は、SEQ ID NO: 2のヌクレオチド266-366、866-1116、1316-1616、1916-2266、2466-2666、2782-2946間の配列内の6個以上の連続ヌクレオチド(例えば、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30ヌクレオチド)を含む。実施の形態によっては、前記SAGE1mRNAの標的部分は、SEQ ID NO: 2のヌクレオチド282-310、333-351、 1076-1094、880-898、1933-1951、2148-2166、1471-1489、2493-2511、1331-1349、2215-2233、1559-1579、2799-2819間の配列からなる群から選択することができる。実施の形態によっては、前記SAGE1mRNAの標的部分は、SEQ ID NOs: 11-67からなる群から選択された配列を含む。
【0260】
実施の形態によっては、前記SAGE1核酸は、SAGE1ゲノムDNAである。SAGE1ゲノムDNAにおける標的部分は、SAGE1ゲノムDNAの非コード領域又はコード領域に位置する場合がある。実施の形態によっては、前記SAGE1核酸は、SAGE1ゲノムの標的部分は、SEQ ID NOs: 68及び69から選択される配列を含む。
【0261】
実施の形態によっては、前記SAGE1阻害薬は、SAGE1核酸(例えば、ゲノムDNA又はmRNA)における標的部分と相補的な配列を含み、その発現又は機能を阻害する。オリゴヌクレオチドの配列とSAGE1核酸の標的部分とは、100%の相補性を必要としない場合がある。ある実施の形態では、前記SAGE1阻害薬は、SAGE1核酸の標的部分に対して、少なくとも70%、75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の相補性を有する配列を含む。相補性のレベルは、オリゴヌクレオチドとSAGE1標的核酸とのハイブリダイゼーションによって所望の効果が得られれば十分であると考えられる。所望の効果とは、標的核酸のmRNAレベルの低下、標的核酸にコードされたタンパク質のレベルの低下、又は標的核酸に関連する表現型の変化があるが、これらに限定されない。
【0262】
実施の形態によっては、前記SAGE1核酸を標的とするオリゴヌクレオチドは、少なくとも8~80、10~80、12~50、15~30、18~24、19~22、もしくは20ヌクレオチド又は塩基対の長さがある。実施の形態によっては、前記オリゴヌクレオチドは、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79又は80ヌクレオチド又は塩基対の長さがあるか、又はこれらのうち2つの長さで決まる範囲内の長さがある。
【0263】
実施の形態によっては、前記オリゴヌクレオチドを化学的に修飾できる。この修飾には、ヌクレオシド間結合、ヌクレオチドの糖成分、又はヌクレオチドの核酸塩基に対する置換又は変更も含まれる。修飾オリゴヌクレオチドは、例えば、高められた細胞取り込み、
核酸標的に対する高められた親和性、ヌクレアーゼが存在する状態における高められた安定性、又は高められた阻害活性等の望ましい性質をもつことができる。化学的に修飾されたヌクレオチドを使用することで、その標的核酸に対する短縮又は欠失オリゴヌクレオチドの結合親和性を高めることもできる。
【0264】
RNA及びDNAの自然に生じるヌクレオシド間結合は、3’~5’端のホスホジエステル結合である。修飾ヌクレオシド間結合を有するオリゴヌクレオチドには、リン原子を保持するヌクレオシド間結合とリン原子を持たないヌクレオシド間結合とが含まれる。ヌクレオシド間結合を含む代表的なリンは、リン酸ジエステル、リン酸トリエステル、メチルホスホン酸、ホスホロアミド酸、及びホスホロチオエートがあるが、これらに限定されない。ヌクレオシド間結合を含む代表的なリン以外のものは、アミド骨格、モルホリノ骨格、及びペプチド核酸(PNA)骨格があるが、これらに限定されない。リンを含む結合及びリンを含まない結合は、周知の方法で作製される。ある実施の形態では、SAGE1核酸を標的とするオリゴヌクレオチドは、1以上の修飾ヌクレオシド間結合を含む。
【0265】
本開示のオリゴヌクレオチドは、糖が修飾された1以上のヌクレオシドを含み得る。ある実施の形態では、ヌクレオシドは、化学的に修飾されたリボフラノース環部分を含む。化学的に修飾されたリボフラノース環の例として、置換基(2’、3’、及び5’端の置換基を含む)を追加したもの、非ジェミナル環を架橋することによって二環式核酸の形成したもの、リボシル環酸素原子をS、N(R)、又はC(R1)(R2)(R、R1、及びR2はそれぞれ独立してH、C1-C2アルキル、又は保護基である)と置き換えたもの、及びこの組み合わせがあるが、これらに限定されない。オリゴヌクレオチドは、ペントフラノシルの代わりにシクロブチル等の糖類似体を有してもよい。
【0266】
核酸塩基(又は塩基)修飾又は置換は、自然に生じた核酸塩基と構造上、区別はできるが、機能上は取り替え可能である。本明細書で使用する「自然/天然」の核酸塩基には、アデニン(A)、グアニン(G)、チミン(T)、シトシン(C)、及びウラシル(U)が含まれる。天然核酸塩基も修飾核酸塩基も両方とも水素結合に加わることができる。このような核酸塩基修飾によって、アンチセンス化合物にはヌクレアーゼの安定性、結合親和性、その他生物学上有益な性質が与えられる場合がある。修飾核酸塩基には、例えば、イノシン、ヒポキサンチン、6-メチルアデニン、5-Meピリミジン(例えば、5-メチルシトシン(5-me-C))、5-ヒドロキシメチルシトシン(HMC)、グリコシルHMC、ゲントビオシルHMC、等の合成核酸塩基及び天然核酸塩基が含まれ、合成核酸塩基、例えば、2-アミノアデニン、2-(メチルアミノ)アデニン、2-(イミダゾリルアルキル)アデニン、2-(アミノアルキルアミノ)アデニン、又はその他ヘテロ置換型アルキルアデニン、2-チオウラシル、2-チオチミン、5-ブロモウラシル、5-ヒドロキシメチルウラシル、8-アザグアニン、7-デアザグアニン、N6(6-アミノヘキシル)アデニン、2,6-ジアミノプリン、5-リボシルウラシル(Carlile (2014)
Nature 5 15 (7525): 143-6)が含まれる。
【0267】
1つのオリゴヌクレオチドにおける全ての位置が一様に修飾される必要はなく、実際、前述の修飾の1以上は、単一のオリゴヌクレオチド、さらにはオリゴヌクレオチド内部の単一のヌクレオシドに組み込まれる場合がある。実施の形態によっては、核酸塩基も骨格も両方修飾されてよい。実施の形態によっては、糖もヌクレオシド間結合も両方修飾されてよい。実施の形態によっては、前記オリゴヌクレオチドは、それぞれが少なくとも1ヌクレオチドからなる化学的に異なる2以上の領域を含むキメラオリゴヌクレオチドである。これらのオリゴヌクレオチドは、典型的には、1以上の有益な性質(例えば、高められたヌクレアーゼ耐性、高められた細胞取り込み、標的に対する高められた結合親和性等)をもたらす修飾ヌクレオチドの1以上の領域と、RNA:DNA又はRNA:RNAハイブリッドを切断可能な酵素に対する基質となる領域と含む。このようなキメラオリゴヌク
レオチドは、この技術分野ではハイブリッド(hybrids)又はギャップマー(gapmers)とも呼ばれている。
【0268】
オリゴヌクレオチドは、得られるアンチセンスオリゴヌクレオチドの活性、細胞分布、又は細胞取り込みを高める1以上の部分又は共役系に共有結合していてもよい。典型的な共役基は、コレステロール部分及び脂質部分を含む。その他の共役基は、炭水化物、リン脂質、ビオチン、フェナジン、葉酸、フェナントリジン、アントラキノン、アクリジン、フルオレセイン、ローダミン、クマリン、及び染料等である。
【0269】
オリゴヌクレオチドも修飾可能で、これにより、一般にオリゴヌクレオチドの片方又は両方の末端に付加される1以上の安定化基を有し、例えばヌクレアーゼの安定性等、性質を向上させられる。これらの末端修飾は、エキソヌクレアーゼ分解からオリゴヌクレオチドを保護し、細胞内の輸送及び/又は局在化に役立つ。安定化基にはキャップ構造が含まれる。このキャップは、5’末端(5キャップ)、3’末端(3’キャップ)、又はこの両方の末端に存在できる。
【0270】
ii.アンチセンスオリゴヌクレオチド
実施の形態によっては、前記SAGE1阻害薬は、オリゴヌクレオチドである。実施の形態によっては、前記オリゴヌクレオチドは、アンチセンスオリゴヌクレオチドである。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、典型的には、DNA又はRNA標的に結合し、転写、翻訳、又はスプライシングのレベルで発現を止めることで、当該標的の発現をブロックするように設計されている。本開示のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、厳格な条件のもとSAGE1核酸にハイブリダイズするように設計されたアンチセンス核酸配列である。本明細書で使用する「厳格な条件」とは、配列がその標的配列にハイブリダイズするが、相補的でない他の配列にはハイブリダイズしないという条件を指す。厳格な条件は、配列によるものであり、各状況によって異なる。例えば、フラグメントが長いと、短いフラグメントよりも特異的ハイブリダイゼーションのハイブリダイゼーション温度を高くする必要がある場合がある。ハイブリダイゼーションの厳格さには他の要因も影響するので、何か1つのパラメータの絶対尺度よりも相補鎖の長さ及び塩基組成、有機溶剤の存在、塩基のミスマッチの程度、パラメータの組み合わせを含めることが重要である。一般的に厳格な条件は、所定のイオン強度及びpHにおいて特異的配列の融点(Tm)よりも約5℃低くなるように選択される。このように、著しいオフターゲット効果が生じないよう、すなわち、直接結合しないよう、発現レベルに直接強く作用しないよう、対象となる標的以外に転写しないように努めつつ、標的に十分相補的なオリゴヌクレオチド、すなわち、所望の効果が得られるように十分にハイブリダイズし、十分な特異性があるオリゴヌクレオチドが選ばれる。
【0271】
アンチセンスオリゴヌクレオチドの最適な長さは様々(例えば、12~18個のヌクレオチドの長さ)であるが、その標的配列はトランスクリプトームにおいてユニークである(Seth (2009) J Med Chem 52: 10-13)。実施の形態によっては、前記アンチセンスオリゴヌクレオチドには、本明細書に記載の1以上の修飾が含まれる。例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチドの修飾ヌクレオシド間結合は、ホスホロチオエートヌクレオシド間結合であり、修飾糖は、二環性の糖又は2’-O-目時氏エチルであり、修飾核酸塩基は、5-メチルシトシンである。別の例として、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、結合デオキシヌクレオシドからなるギャップセグメントと、結合ヌクレオシドからなる5’ウィングセグメントと、結合ヌクレオシドからなる3’ウィングセグメントとを含むギャップマーであり、ギャップセグメントは、5’ウィングセグメントと3’ウィングセグメントとの間で直接隣接するように位置づけられ、各ウィングセグメントのヌクレオシドは修飾糖を含む。
【0272】
iii.干渉オリゴヌクレオチド
実施の形態によっては、オリゴヌクレオチドは、二本鎖干渉オリゴヌクレオチドであり、低分子干渉RNA(「siRNA」)又は短ヘアピンRNA(「shRNA」)が含まれるが、これに限定されない。二本鎖干渉オリゴヌクレオチドは、標的mRNAの翻訳抑制又は分解が可能である。
【0273】
干渉RNA(例えば、siRNA)は、2つの別々のオリゴヌクレオチドをまとめて作られることが可能であり、その場合、1本の鎖がセンス鎖でもう1本の鎖がアンチセンス鎖であり、アンチセンス鎖及びセンス鎖は自己相補的で二重鎖又は二本鎖構造を形成する。アンチセンス鎖は、標的核酸分子の少なくとも一部と相補的なヌクレオチド配列を含み、センス鎖は、標的核酸配列の少なくとも一部に対応するヌクレオチド配列を含む。実施の形態によっては、前記二重鎖構造は、約15~約30個、例えば、約15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29又は30個の塩基対である。実施の形態によっては、前記siRNAは、各鎖に3’オーバーハング(例えば、dTdT等のダブレット)を有する。実施の形態によっては、前記siRNAは、SEQ ID NOs: 70/71、72/73、74/75、76/77、78/79、80/81からなる群から選択される3’dTdTオーバーハングを備えた、又は備えていないセンスRNA鎖/アンチセンスRNA鎖のペアを含む。
【0274】
あるいは、干渉RNA(例えば、shRNA)は、単一のオリゴヌクレオチドであることが可能であり、その場合、自己相補的なセンス領域及びアンチセンス領域は核酸ベース又は非核酸ベースのリンカーによって結合する。実施の形態によっては、前記干渉RNAは、センス領域、アンチセンス領域、及びループ領域を有するshRNAである。ループ領域は、一般に、約2ヌクレオチド~約10ヌクレオチドの長さである。実施の形態によっては、前記ループ領域は、約6ヌクレオチド~約9ヌクレオチドの長さである。実施の形態によっては、前記センス領域及び前記アンチセンス領域は、約15ヌクレオチド~約30ヌクレオチド(例えば、約15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29又は30ヌクレオチド)の長さである。転写後プロセスの後、shRNAは、ダイサー(Dicer)酵素による切断事象により、siRNAに変換される。
【0275】
siRNAがガイドする標的RNA切断反応は、配列特異性が高い。一般に、標的核酸の一部と同一のヌクレオチド配列を含むsiRNAが阻害するには好ましい。しかしながら、本発明を実施するにあたり、siRNAと標的遺伝子との配列同一性が100%である必要はない。したがって、本発明は、遺伝子の変異、鎖の多型性、又は進化的分岐によって予想される配列の多様性を許容できるという効果を有する。例えば、標的配列と比較して、挿入、欠失、及び単一点突然変異があるsiRNA配列でも阻害効果があることが分かっている。
【0276】
実施の形態によっては、本開示において有用なshRNAは、SEQ ID NOs: 82-95及び106-145からなる群から選択された配列を含む。
【0277】
実施の形態によっては、前記二本鎖干渉オリゴヌクレオチドには、本明細書に記載の1以上の修飾が含まれる。実施の形態によっては、前記二本鎖干渉オリゴヌクレオチドとしては、RNAのみを含む分子に限定されず、化学的に修飾されたヌクレオチドも包含される。例えば、両鎖全体がリボヌクレオチドからなるか、一本の鎖全体がリボヌクレオチドからなり、一本の鎖全体がデオキシリボヌクレオチドからなるか、片方又は両方の鎖がリボヌクレオチドとデオキシリボヌクレオチドとの混合物を含む。
【0278】
iv.CRISPR/Cas
CRISPR-Casゲノム編集システムは、典型的には、非特異CRISPR関連エンドヌクレアーゼ(エンドヌクレアーゼ(Cas、例えば、Cas9))及びガイドRNAを含むものであって、多種多様な有機体及び細胞タイプにおいて効率的なゲノム編集を可能にする(Doudna & Charpentier, Science 346, 1258096 (2014))。このCRISPR-Casゲノム編集システムを使用して、SAGE1の出現を阻害することもできる。実施の形態によっては、前記オリゴヌクレオチドは、ガイドRNAである。用語「sgRNA」及び「ガイドRNA」は、本明細書において同義に用いており、Cas9結合に必要な「足場(scaffold)」配列と、標的ゲノムDNAの少なくとも一部と相補的な、ユーザ規定のヌクレオチド「スペーサ(spacer)」又は「ターゲッティング(targeting)」又は「ガイド(guide)」配列とを含む短いRNAを指す。本明細書における用語「ガイド配列」にも対応するDNA又はRNAガイド配列をコードするDNAが含まれる。Cas9による標的部位の認識は、ガイドRNAのガイド配列及び隣接する短いPAMの認識の両方によってプログラムされている。ガイドRNAは、この技術分野において周知の標準的なツールを使って設計できる。
【0279】
Cas9のゲノム標的は、ガイドRNAに存在するガイド配列を変更することで変更できる。ガイドRNA配列のガイド配列は、遺伝子座の内部にあっても外部にあってもよい。一般に、ガイド配列は、標的配列とハイブリダイズし、かつ標的配列へのCRISPR複合体の配列特異的結合を指向するよう、標的ポリヌクレオチド配列と十分に相補的なポリヌクレオチド配列であればよい。実施の形態によっては、ガイド配列とこれに対応する標的配列との相補性の程度は、約50%、60%、75%、80%、85%、90%、97.5%、99%、又はそれ以上である。実施の形態によっては、ガイド配列は、約5、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、35、40、45、50、75ヌクレオチド又はそれ以上の長さである。実施の形態によっては、ガイド配列は、約75、50、45、40、35、30、25、20、15、12ヌクレオチド又はそれ以下の長さである。
【0280】
実施の形態によっては、ガイド配列は、ガイド配列内の二次構造の程度を低減させるように選択される。二次構造は、ポリヌクレオチドフォールディングアルゴリズムのうち適切なもので決定されるとよい。プログラムによっては、ギブスの自由エネルギーの算出に基づくものもある。このような一アルゴリズムの例として、mFoIdがあり、これはZuker及びStieglerによって説明されている(Nucleic Acids Res. 9 (1981), 133-148)。別のフォールディングアルゴリズムとしては、ウィーン大学の理論化学学会(Institute for Theoretical Chemistry at the University of Vienna)がセントロイド構造予測アルゴリズムを用いて開発したオンラインウェブサーバRNAfoidがある(例えば、A.R. Gruberら、2008, Cell 106 (1) : 23-24及びPA Carr and GM Church, 2009, Nature Biotechnology 27 (12): 1151-62を参照されたい)。
【0281】
実施の形態によっては、前記ガイド配列は、SEQ ID NO: 68及び69からなる群から選択された配列を含むSAGE1ゲノムの一部と相補的である。実施の形態によっては、前記ガイドRNAは、SEQ ID NOs: 146及び147からなる群から選択された配列を含む。
【0282】
v.SAGE1複合体阻害薬
実施の形態によっては、前記SAGE1阻害薬は、SAGE1複合体阻害薬を含む。
【0283】
本明細書で使用する用語「SAGE1複合体阻害薬」は、SAGE1複合体のレベル又は活性を低下させることができる。例えば、SAGE1複合体阻害薬は、SAGE1複合体の形成を阻害したり、SAGE1複合体を不活性化したり、SAGE1複合体の生物活性を低下させたりする。SAGE1複合体(例えば、SAGE1―INTS3複合体)の
生物活性には、DNA(例えば、典型的にインテグレータによって結び付けられた遺伝子のプロモータ近位領域)へのSAGE1複合体の結合及び遺伝子の転写の制御が含まれるが、これに限定されない。
【0284】
実施の形態によっては、前記SAGE1複合体阻害薬は、SAGE1複合体の形成を阻害する。実施の形態によっては、前記SAGE1複合体阻害薬は、SAGE1複合体を不活性化する。実施の形態によっては、前記SAGE1複合体阻害薬は、SAGE1複合体の生物活性を低下させる。
【0285】
本開示では、様々なSAGE1複合体を用意した。SAGE1と他の結合パートナーとのタンパク質間相互作用は、例えば、免疫沈降法(例えば、Hamilton B. J.ら、Biochem.
Biophys. Res. Commun. 1999, 261: 646-51を参照されたい)を用いて特定し、検査できる。SAGE1は、抗SAGE1抗体を用いてSAGE1発現細胞株から免疫沈降させることができる。あるいは、SAGE1とHisタグとの融合を発現するように操作された細胞株にHisタグ抗体を用いることができる。免疫沈降複合体は、ウェスタンブロッティング(Western blotting)、タンパク質の35S-メチオニンの標識化、タンパク質のマイクロシーケンシング、銀染色、及び2次元ゲル電気泳動等の処置によって、タンパク質会合に関して検査され得る。
【0286】
実施の形態によっては、前記SAGE1複合体は、INTS3、INIP(UniProt Accession: Q9NRY2)、NABP1/2(UniProt Accession: Q96AH0、Q9BQ15)、CREBBP(UniProt Accession: Q92793)、TLE1(UniProt Accession: Q04724)、TLE2(UniProt Accession: Q04725)、TLE3(UniProt Accession: Q04726)、TLE4(UniProt Accession: Q04727)、TLE5(UniProt Accession: Q08117)、GGA3(UniProt Accession: Q9NZ52)、CNOT1(UniProt Accession: A5YKK6)、TAX1BP1(UniProt Accession: Q86VP1)、SEC16A(UniProt Accession: O15027)、CYLD(UniProt Accession: Q9NQC7)、及びPAXBP1(UniProt Accession: Q9Y5B6)からなる群から選択される少なくとも1種の成分と複合したSAGE1を含む。この少なくとも1種の成分とSAGE1とが形成する複合体を阻害する阻害薬であれば、本明細書で検討している阻害薬であるものとする。
【0287】
実施の形態によっては、前記SAGE1複合体は、INTS3と複合したSAGE1を含む。実施の形態によっては、前記SAGE1複合体阻害薬は、SAGE1とINTS3との相互作用を阻害することでSAGE1複合体のレベルを低下させる。実施の形態によっては、前記SAGE1複合体阻害薬は、SAGE1がINTS3に結合するのを阻害する。
【0288】
本開示では、驚いたことに、腫瘍細胞のSAGE1複合体を阻害することで腫瘍の成長を抑制でき、腫瘍細胞の増殖は、外因性野生型SAGE1の発現によって復活することがあるが、残基がINTS3との相互作用に関与していると推定的される変異SAGE1の発現では復活しないことが分かった。また、本開示では、SAGE1発現の抑制に応じた遺伝子の差次的発現は、INTS3の抑制と一致することも分かった。これらの研究結果から、SAGE1は機能するためにINTS3と複合体を形成できることが分かり、SAGE1とINTS3との相互作用を妨げたり、SAGE1陽性細胞のSAGE1-INTS3複合体の量が減少させたりすることがSAGE1陽性細胞の処置には有用となり得ることが実証された。
【0289】
実施の形態によっては、前記SAGE1複合体阻害薬は、SAGE1と複合する前記成分(例えば、INTS3)とSAGE1との相互作用を妨げる。実施の形態によっては、前記SAGE1複合体阻害薬は、SAGE1とINTS3との相互作用を妨げる。この妨
害は、INTS3との相互作用に関わっているSAGE1タンパク質のアミノ酸残基をブロックすることによって行われてもよい。本明細書で使用するSAGE1-INTS3複合体とは、概して、タンパク質間相互作用によってSAGE1(又はそのフラグメント)とINTS3(又はそのフラグメント)との間で形成される複合体を指す。INTS3は、典型的には量体を形成するものでよく、形成された量体がさらにSAGE1とSAGE1-INTS3複合体を形成する場合もある。SAGE1のC末端フラグメント(SEQ ID
NO: 3の残基818-904)及びINTS3のC末端フラグメント(SEQ ID NO: 5の残基572-978)を含む複合体の結晶構造によると、INTS3との結合界面におけるSAGE1のアミノ酸残基には、F838、F873、K874、M832、V876、R872、K828、R836、及びQ840(SEQ ID NO: 3に従ってナンバリングされた残基)からなる群から選択される少なくとも1以上の残基が含まれ得る。実施の形態によっては、前記SAGE1複合体阻害薬は、INTS3に結合する、あるいはINTS3がSAGE1のF838、F873、K874、M832、V876、R872、K828、R836、及びQ840から選択される少なくとも1以上の残基に結合しないようにする。例えば、SAGE1複合体阻害薬は、SAGE1の結合界面にある残基の少なくとも1以上と結合しようとINTS3と競い合ったり、SAGE1又はINTS3の配座をアロステリックに変更することでSAGE1とINTS3との結合を弱めたり、解消するような形でSAGE1又はINTS3と結合する。
【0290】
SAGE1複合体阻害薬は、適切なタイプの阻害薬であればよく、例えば、核酸分子(例えば、ポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチド)、ポリペプチド、化合物(例えば、化学化合物)、又はその抗体もしくは抗原結合フラグメントである。
【0291】
a)化合物
実施の形態によっては、前記SAGE1複合体阻害薬は、SAGE1複合体(例えば、SAGE1-INTS3複合体)の形成を阻害できる化合物を含む。化合物は、この技術分野で公知のコンビナトリアルライブラリ(combinatorial library)法における多数のアプローチのうちのいずれかを用いて得ることができ、例えば、空間的にアドレス可能な平行固相又は液相ライブラリ、デコンボリューションを必要とするシンセティックライブラリ法、「OBOC(one-bead one-compound)」ライブラリ法、及び親和性クロマトグラフィセレクションを用いたシンセティックライブラリ法等のアプローチがある(Lam, K.S. (1997) Anticancer Drug Des. 12: 145)。
【0292】
本開示の目的に適合する化合物は、SAGE1のアクティブ結合部位又はアロステリック結合部位に結合できるものである。アクティブ結合部位は、その形状及び帯電電位によってSAGE1複合体の別の成分(例えばINTS3)と様々な共有結合力及び/又は非共有結合力を介して好適に相互作用するSAGE1の領域を指す。アロステリック結合部位は、モジュレータによって、SAGE1の配座を変更してSAGE1の活性に作用する、アクティブ結合部位以外のSAGE1の領域を指す。実施の形態によっては、化合物は、SAGE1のアクティブ結合部位に結合しようとINTS3と競い合う。例えば、化合物は、SAGE1に結合したINTS3タンパク質又はそのフラグメントの位置を変更でき、SAGE1複合体を分解し、その活性の阻害する。実施の形態によっては、前記化合物は、SAGE1のアロステリック結合部位に結合し、INTS3と競い合わない。
【0293】
化合物は、本明細書に開示した細胞ベース又は非細胞ベースのアッセイでスクリーニングすることができる。本明細書に開示した方法によって化合物をバーチャルスクリーニングすることもできる。実施の形態によっては、リード化合物は最初に同定され、SAGE1に結合するために必要なリード化合物のファルマコフォアを次に決定する。その後、リード化合物と同じファルマコフォアでありながらもより優れた薬理学的特性を示す一連の候補化合物を生成し、設計し、選択するため、コンピュータモデリングを行ってもよい。
化合物のスクリーニングはプール単位(例えば、検査サンプルごとに複数の化合物)で行うことも、個別の化合物単位で行うこともできる。
【0294】
b)抗SAGE1抗体
実施の形態によっては、前記SAGE1複合体阻害薬は、抗体又はそのフラグメントを含む。
【0295】
実施の形態によっては、前記SAGE1複合体阻害薬は、抗体又はそのフラグメントを含み、当該抗体又フラグメントは、(a)SAGE1に特異的に結合する、(b)SAGE1と複合する成分(例えば、INTS3)に特異的に結合する、又は(c)前記SAGE1複合体に特異的に結合するが、SAGE1にもSAGE1と複合する成分にも結合しない。
【0296】
実施の形態によっては、SAGE1複合体阻害薬は、抗体又はそのフラグメントを含み、当該抗体又フラグメントは、INTS3と相互作用する場合があるSAGE1又はSAGE1のフラグメントに特異的に結合でき、これによってSAGE1とINTS3と相互作用をブロックする。
【0297】
SAGE1タンパク質又はINTS3と相互作用するSAGE1のフラグメント(例えば、SEQ ID NO: 3の残基818-904)は、免疫原として使用でき、この技術分野で周知の方法に従って、多クローン性及びの単クローン性の抗体を調製する標準的な技術を用いて当該免疫原に結合する抗体を生成する。抗原ペプチドは、典型的には、少なくとも8個のアミノ酸残基を含み、ペプチドに対する抗体が各全長分子と特異的免疫複合体を形成するよう、各全長分子に存在するエピトープを包含する。好ましくは、抗原ペプチドは、少なくとも10個のアミノ酸残基を含む。ある実施の形態では、このような抗原ペプチドは、マウス又はヒト等の1種(species)の任意のポリペプチド分子に特異的であり得る。
【0298】
さらに、ヒトの部分及びヒト以外の部分の両方を含み、標準的なDNA組み換え技術で作製可能なキメラ化モノクローナル抗体及びヒト化モノクローナル抗体等の組み換えポリペプチド抗体が本発明の範囲内に含まれる。SAGE1タンパク質又はそのフラグメントに対して作製された完全ヒト抗体も本発明の範囲内に含まれる。完全ヒト抗体は、ヒト免疫グロブリン遺伝子の定常領域が導入されたマウスを用いて作製でき、標的抗体は、抗体産生リンパ球をマウスから分離してハイブリドーマにすることにより、量産可能である。また、ヒト抗体遺伝子を取り込み、ファージのコートタンパク質と融合した形でヒト抗体をその表面に示すファージを使ったファージディスプレイ(phage display)法によっても作製できる。
【0299】
実施の形態によっては、本開示の抗体又は抗原結合フラグメントは、モノクローナル抗体、二重特異性抗体、多特異性抗体、組み換え抗体、標識抗体、2価抗体、抗イディオタイプ抗体、二量体・多量体抗体、又は修飾抗体(例えば、グリコシル化抗体)である。実施の形態によっては、本開示の抗体又は抗原結合フラグメントは、ダイアボディ(diabody)、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fd、Fvフラグメント、ジスルフィド安定化Fvフラグメント(dsFv)、(dsFv)2、二重特異性dsFv(dsFv-dsFv’)、ジスルフィド安定化ダイアボディ(dsダイアボディ)、単鎖抗体分子(scFv)、scFv二量体(2価ダイアボディ)、二重特異性scFv二量体、多特異性抗体、重鎖抗体、、ラクダ化シングルドメイン抗体、ナノボディ、ドメイン抗体、又は2価ドメイン抗体である。
【0300】
c)阻害ポリペプチド
実施の形態によっては、前記SAGE1複合体阻害薬は、ポリペプチドを含む。本開示において有用なポリペプチドには、SAGE1と複合する成分(例えば、INTS3)に結合できるSAGE1のフラグメント、変異体、もしくは誘導体であるポリペプチド、又はSAGE1に結合できる、SAGE1と複合する当該成分(例えば、INTS3)のフラグメント、変異体、もしくは誘導体であるポリペプチドが含まれるが、完成した複合体は、遺伝子転写制御においてSAGE1複合体(例えば、SAGE1-INTS3複合体)の活性を欠く。
【0301】
実施の形態によっては、前記SAGE1複合体阻害薬は、INTS3のSAGE1結合フラグメント又はその変異体もしくは誘導体を含む。INTS3のポリペプチドフラグメントは、SAGE1に結合し、INTS3へのSAGE1の結合に干渉する。用語「変異体」は、天然に生じるポリペプチドと比べ、1個以上のアミノ酸残基が変更又は修飾されているポリペプチドを指す。変異ポリペプチドのアミノ酸配列は、INTS3又はINTS3のフラグメントのアミノ酸配列と少なくとも50%、60%、70%、80%、85%、90%、95%、98%、又は100%一致してよい。INTS3の典型的なアミノ酸配列はSEQ ID NO:5に示されている。実施の形態によっては、前記INTS3のポリペプチドフラグメントは、INTS3のC末端フラグメントを含む。INTS3のC末端フラグメントは、C末端から数えて最後の少なくとも500、400、300、250、200、もしくは150個の残基、又はC末端から500~100、400~100、300~100、200~100、500~50、400~50、300~50、又は200~50個の残基を含んでよい。実施の形態によっては、前記INTS3のC末端SAGE1結合フラグメントは、SAGE1に結合可能なSEQ ID NO:9のアミノ酸配列(すなわち、SEQ ID NO:5の残基572~978)又はその変異体もしくはフラグメントを含む。
【0302】
実施の形態によっては、前記SAGE1複合体阻害薬は、SAGE1のINTS3結合フラグメント又はその変異体もしくは誘導体を含む。SAGE1のポリペプチドフラグメントは、INTS3に結合し、INTS3へのSAGE1の結合に干渉する。実施の形態によっては、前記SAGE1のINTS3結合フラグメントは、SAGE1のC末端フラグメントを含む。SAGE1のC末端フラグメントは、C末端から数えて最後の100、90、80、70、60、又は50個の残基を含んでよい。実施の形態によっては、前記SAGE1のC末端フラグメントは、SEQ ID NO: 3の残基818~904を含む。実施の形態によっては、前記SAGE1複合体阻害薬は、SAGE1に結合可能なSEQ ID NO: 8の配列(すなわち、SEQ ID NO:3の残基818~904)を有するポリペプチド又はその変異体もしくはフラグメントを含む。
【0303】
本開示において有用なポリペプチドは、INTS6もしくはINTS6LのINTS3結合フラグメント又はその変異体もしくは誘導体も含む。このINTS6もしくはINTS6LのINTS3結合フラグメントは、SAGE1と競い合ってINTS3と結合することができ、これによってINTS3へのSAGE1の結合をブロックする。実施の形態によっては、前記INTS6もしくはINTS6LのSAGE1結合フラグメントは、INTS3に結合可能なSEQ ID NO: 10(例えば、INTS6のSEQ ID NO:6の残基803~887)、SEQ ID NO:104(例えば、INTS6のSEQ ID NO:6の残基786~887)、又はSEQ ID NO:105(例えば、INTS6LのSEQ ID NO:7の残基759~861)のアミノ酸配列又はその変異体(例えば、少なくとも50%の配列同一性を有する)もしくはフラグメントを含む。
【0304】
実施の形態によっては、SAGE1とINTS3との相互作用を妨げる又は競合的に阻害することができる前記ポリペプチドフラグメントは、前記フラグメントとは異種の第2ポリペプチドに融合され、融合ポリペプチドを形成する。第2ポリペプチド、例えば、免疫グロブリンの定常領域又はヒト血清アルブミン結合部分は、第1ポリペプチドの溶解度
、親和性、安定性、又は価数を変更したり、融合ポリペプチドの発現、分泌、又は精製を容易にしたりする。
【0305】
vi.タンパク質分解誘導キメラ分子(Protac)
本開示は、さらに、ユビキチン経路タンパク質に結合可能な第1部分と、SAGE1又はSAGE1複合体に結合可能な第2部分とを含む二官能性分子を含むSAGE1阻害薬(及びSAGE1複合体阻害薬)も検討している。二官能性分子は、SAGE1又はSAGE1複合体をユビキチン経路付近に置くことでSAGE1又はSAGE1複合体を分解させることができる。
【0306】
実施の形態によっては、前記二官能性分子は、ユビキチン経路でSAGE1又はSAGE1複合体の分解を促進するタンパク質分解誘導キメラ分子(PROTAC)を含む。PROTACは、26Sプロテアソームが後で分解する注目タンパク質のユビキチン化に用いられるE3ユビキチンリガーゼの活性をハイジャックすることで注目タンパク質の分解を誘導する(詳細は、例えば、Wang Y, Acta Pharmaceutica Sinica B 2020;10 (2):207-238で確認できる)。
【0307】
ユビキチン経路タンパク質結合部分には、E3リガーゼと結合する任意の分子が含まれていてよい。PROTAC等の二官能性分子の成長に適するE3リガーゼの例として、フォン・ヒッペル-リンドウ(VHL)、セレブロン、MDM2(Mouse double minute 2)、beta-TrCP1、アポトーシス阻害タンパク質(IAP)E3リガーゼ、TRIM21(UniProtKB-P19474(RO52_HUMAN))、後期促進複合体(APC)、UBR5(EDD1)、SOCS/BC-box/eloBC/CUL5/RING、LNXp80、CBX4、CBLL1、HACE1、HECTD1、HECTD2、HECTD3、HECW1、HECW2、HERC1、HERC2、HERC3、HERC4、HUWE1、ITCH、NEDD4、NEDD4L、PPIL2、PRPF19、PIAS1、PIAS2、PIAS3、PIAS4、RANBP2、RNF4、RBX1、SMURF1、SMURF2、STUB1、TOPORS、TRIP12、UBE3A、UBE3B、UBE3C、UBE4A、UBE4B、UBOX5、UBR5、WWP1、WWP2、Parkin、A20/TNFAIP3、AMFR/gp78、ARA54、beta-TrCP1/BTRC、BRCA1、CBL、CHIP/STUB1、E6、E6AP/UBE3A、F-box protein
15/FBXO15、FBXW7/Cdc4、GRAIL/RNF128、HOIP/RNF31、cIAP-1/HIAP-2、cIAP-2/HIAP-1、cIAP(pan)、ITCH/AIP4、KAP1、MARCH8、Mind Bomb 1/MIB1、Mind Bomb 2/MIB2、MuRF1/TRIM63、NDFIP1、NEDD4、NleL、Parkin、RNF2、RNF4、RNF8、RNF168、RNF43、SART1、Skp2、SMURF2、TRAF-1、TRAF-2、TRAF-3、TRAF-4、TRAF-5、TRAF-6、TRIM5、TRIM21、TRIM32、UBR5、及びZNRF3があるが、これに限定されない。
【0308】
例として、VHLは、革新的な治療可能性を有するE3リガーゼの1つである。VHLは、エロンギン(elongin)B及びC、Cul2、ならびにRbx1からなるE3リガーゼ複合体VCBの基質認識サブユニットである。
【0309】
別の例として、セレブロンは、ヒトにおいてCRBN遺伝子がコードするタンパク質である。セレブロンは、損傷DNA結合タンパク質1(DDB1)、カリン4A(CUL4A)、及びカリン1(ROC1)の調節因子とE3ユビキチンリガーゼ複合体を形成する。この複合体は、多数の他のタンパク質をユビキチン化する。
【0310】
化合物の2つの部分は、直接又は化学リンカーを介してつながることができる。リンカーは、切断可能なリンカーでも切断不可能なリンカーでもよい。リンカーはある程度の柔軟性があるものが好ましいため、様々な長さのPEG及び(不)飽和アルカン鎖がよく用いられる。実施の形態によっては、前記リンカーは、例えば、アミド、エステル、チオエステル、ケト、カルバメート(ウレタン)、炭素、又はエステル基を介して前記2つの部分に独立して共有結合しており、ユビキチンリガーゼのユビキチン経路タンパク質結合部分と、分解されるSAGE1又はSAGE1複合体におけるSAGE1又はSAGE1複合体結合部分とを最も強く結合するため、各基は前記2つの部分のどこに挿入されてもよい。
【0311】
ある実施の形態では、本明細書に記載の化合物は、複数のユビキチン経路タンパク質結合部分、複数のSAGE1もしくはSAGE1複合体結合部分、複数のリンカー、又はこれらの組み合わせを含む。
【0312】
二官能性分子は、この技術分野で公知の方法で設計かつ作製され、詳細は、例えば、PCT特許出願WO2017201449A1、米国特許出願US10,584,101、US10,071,164、米国特許出願US20180147202、Ishida T, Ciulli A. E3 Ligase Ligands for PROTACs、How They Were Found and How to Discover New
Ones、SLAS DISCOVERY: Advancing the Science of Drug Discovery. November 2020. doi: 10.1177/2472555220965528, Wang, Y.ら、Degradation of proteins by PROTACs and
other strategies, Acta Pharmaceutica Sinica B, Volume 10, Issue 2, 2020, Pages 207-238で確認でき、これらは全体として本明細書に組み込まれる。
【0313】
V.医薬組成物及び組み合わせ
別の態様において、本開示の医薬組成物は、本明細書に記載のSAGE1阻害薬を含む。実施の形態によっては、前記SAGE1阻害薬は、SAGE1複合体阻害薬である。用語「医薬組成物」は、被験者への投与に適合する型の本開示のSAGE1阻害薬を含む製剤を指す。この組成物は、腫瘍の処置及び/又はSAGE1-INTS3の発現レベルの調節に使用できる。
【0314】
実施の形態によっては、前記医薬組成物は、薬学上許容される賦形剤をさらに含む。用語「薬学上許容される賦形剤」は、全般的に安全で、毒性がなく、生物学上もその他の点でも被験者に対して望ましい医薬組成物を調製する際に有用な賦形剤を意味する。実施の形態によっては、薬学上許容される前記賦形剤は、薬学上許容されるキャリア及び/又は薬学上許容される希釈剤を含む。適切な賦形剤には、例えば、酸化防止剤、フィラー、バインダー、崩壊剤、バッファ、防腐剤、潤滑剤、香料、増粘剤、着色料、乳化剤、安定剤等が含まれてよい。
【0315】
医薬組成物は、通常、予定の投与経路に適合するように構成される。使用する特定の賦形剤は、本開示の化合物が適用される手段及び目的によって変わる。溶剤は、一般に、ヒトを含む哺乳類に投与しても安全であると当業者が認識する溶剤に基づいて選択される。一般に、安全な溶剤とは、水等の毒性のない水性溶剤及び毒性のないその他水溶性又は水混和性溶剤である。適切な水性溶剤には、水、エタノール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール(例えば、PEG400、PEG300)等及びこれらの混合物が含まれる。
【0316】
実施の形態によっては、適切な賦形剤には、リン酸塩、クエン酸塩、及びその他有機酸等のバッファ、アルコルビン酸及びメチオニンを含む酸化防止剤、防腐剤(オクタデシルジメチルベンジル塩化アンモニウム、塩化ヘキサメトニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、フェノールアルコール、ブチルアルコール、ベンジルアルコール、メ
チルパラベンもしくはプロピルパラベン等のアルキルパラベン、カテコール、レゾルシノール、シクロヘキサノール、3-ペンタノール、及びm-クレゾール等)、低分子量(残基が10個未満)のポリペプチド、血清アルブミン、ゼラチン、もしくは免疫グロブリン等のタンパク質、ポリビニルピロリドン等の親水性ポリマー、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、もしくはリシン等のアミノ酸、単糖、二糖、その他グルコース、マンノース、もしくはデキストリンを含む炭水化物、EDTA等のキレート剤、スクロース、マンニトール、トレハロース、もしくはソルビトール等の糖、ナトリウム等の塩形成対イオン、金属錯体(例えば、Zn-タンパク質錯体)、ならびに/又はTWEEN(登録商標)、PLURONICS(登録商標)、もしくはポリエチレングリコール(PEG)等の非イオン界面活性剤が含まれ得る。
【0317】
実施の形態によっては、適切な賦形剤には、1以上の安定剤、界面活性剤、湿潤剤、潤滑剤、乳化剤、懸濁剤、保存料、酸化防止剤、不透明化剤、流動促進剤、加工助剤、着色料、甘味料、香料、香味料、及びその他の公知の添加物が含まれていてよく、これによって薬(すなわち、本開示の化合物又はその医薬組成物)の提供形態が洗練されたり、医薬製品(すなわち、薬剤)の製造が助けられる。原薬は、例えば、液滴形成法又は界面重合によって調製したマイクロカプセルに封入してもよく、コロイド状薬物送達システム(例えば、リポソーム、アルブミン小球体、マイクロエマルション、ナノ粒子、及びナノカプセル)又はマクロエマルションにおけるヒドロキシメチルセルロース又はゼラチンのマイクロカプセル及びポリ(メチルメタクリレート)マイクロカプセルに封入してもよい。このような技術は、Remington's Pharmaceutical Sciences 16th edition, Osol, A. Ed. (1980)に開示されている。リポソームは、ヒトを含む哺乳類への薬(本明細書に開示する化合物と場合によっては化学療法剤等)の送達に有用な様々な種類の脂質、リン脂質、及び/又は、界面活性剤からなる小胞である。リポソームの成分は、生体膜の脂質組成と同様、二重層に並べられることが多い。
【0318】
本明細書に記載する医薬組成物は、ヒトに限定されないが、ヒトを含む被験者に投与される組成物が取り得る形態であればよく、予定の投与経路に適合するように構成される。投与経路の例としては、非経口(皮下、静脈注射、筋肉、及び腹腔)、経口、直腸、皮膚、経皮、胸腔、肺内、及び鼻腔(呼吸器官)の経路がある。医薬組成物は、例えば、溶液、懸濁液、乳濁液、ピル、カプセル、錠剤、徐放性製剤、又は粉末剤であり得る。
【0319】
本明細書に記載の医薬組成物については様々な経路が考えられるので、予定の投与経路次第で本明細書に記載の医薬組成物をまとめて供給してもよいし、投与量単位で供給してもよい。例えば、経口投与、口腔投与、及び舌下投与では、粉末剤、懸濁液、顆粒、錠剤、ピル、カプセル、ジェルキャップ、及びカプレットが固形での投薬形態として可能であり、乳濁液、シロップ、エリキシル剤、懸濁液、及び溶液が液体での投薬形態として可能である。注射による投与では、乳濁液及び懸濁液が液体での投薬形態として可能であり、適切な溶液と再構成させられる粉末が固形での投薬形態として可能である。吸入投与では、溶液、スプレー、乾燥粉末、及びエアロゾルが投薬形態として可能である。局所(口腔及び舌下等)投与又は経皮投与では、粉末、スプレー、軟膏、ペースト、クリーム、ローション、ジェル、溶液、及びパッチが投薬形態として可能である。膣内投与では、ペッサリー、タンポン、クリーム、ゲル、ペースト、泡、スプレーが投薬形態として可能である。適切な医薬組成物を製剤する方法は、この技術分野で公知のものであり、例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 21st ed., 2005を参照されたい。
【0320】
実施の形態では、医薬組成物を注射可能な組成物に製剤する。注射可能な医薬組成物は、例えば、溶液、懸濁液、乳濁液、又は溶液、懸濁液、もしくは乳濁液の生成に適した固形等、従来の任意の形態に調製してよい。注射用の調合液には、そのまま注射できる減菌溶液及び/又は非発熱性溶液、皮下錠剤を含む凍結乾燥粉末等の溶剤と混ぜて使う滅菌乾
燥済みの可溶性製品、そのまま注射できる減菌懸濁液、賦形剤と混ぜて使う不溶性の滅菌乾燥製品、ならびに滅菌及び/又は非発熱性乳濁液が含まれる場合がある。溶液は水溶液でも非水溶液でもよい。
【0321】
ある実施の形態では、投与量単位の非経口製剤をアンプル、バイアル、又は針付き注射器にパッケージングする。この技術分野で知られていて実際に行われているように、非経口投与されるすべての調剤は滅菌され、発熱性はないものする。ある実施の形態では、本明細書に開示したポリペプチド複合体を適切な溶剤に溶かすことで、滅菌された凍結乾燥粉末を調製する。凍結乾燥粉末を注射用の水で戻すと非経口投与用の製剤なる。ある実施の形態では、戻すために、滅菌及び/又は非発熱性の水、又はその他適切な液体のキャリアを凍結乾燥粉末に加える。正確な分量は、選択された治療によって異なり、経験的に決定できる。
【0322】
実施の形態によっては、本開示の医薬組成物は、短時間作用型、速放性、長時間作用型、及び徐放性のものとして製剤できる。したがって、本開示の医薬組成物は、制御放出性又は持続放出性のものに製剤されてもよい。実施の形態によっては、核酸であるSAGE1阻害薬又は核酸を含むSAGE1阻害薬を含む前記医薬組成物は、核酸剤の投与に適した任意の方法で投与できる。これらの方法には、例えば、遺伝子銃、バイオ注射器、及び皮膚パッチが含まれる。
【0323】
医薬組成物は、投与の指示書とともに容器、パック、又はディスペンサに含ませることができる。
【0324】
ある実施の形態では、本明細書に記載のSAGE1阻害薬は、腫瘍処置に使用される他の任意の治療薬と組み合わせて投与してよい。本明細書で使用する用語「組み合わせて投与する」には、同じ医薬組成物の一部として同時に投与すること、別々の組成物として同時に投与すること、又は別々の組成物として異なるタイミングで投与することが含まれる。医薬組成物が別の薬剤の前後に投与される場合、その組成物と別の薬剤とが別の経路で投与されたとしても、本明細書で言うところの当該薬剤と「組み合わせて」投与されることになる。本明細書に記載のSAGE1阻害薬とその他の治療薬とは、同時期に被験者に効力を及ぼす場合に時間が合っていてもずれていても投与が可能である。可能であれば、本明細書に記載のSAGE1阻害薬と組み合わせて投与される別の治療薬は、その治療薬の製品情報に記載されたスケジュール、Physicians' Desk Reference (Physicians' Desk
Reference, 70th Ed (2016))、又はこの技術分野で公知のプロトコルに従って投与する。
【0325】
VI.細胞治療
i.操作免疫細胞
本開示では、キメラ受容体を発現するように操作された免疫細胞も検討しており、これらをSAGE1陽性腫瘍に向かわせる。腫瘍細胞に対する特異性は、SAGE1のエピトープ又はSAGE1のMHC関連エピトープに対する結合特異性をもたらす受容体の抗体結合ドメインに基づく。
【0326】
本明細書で使用する「MHC」は、細胞表面にみられ、細胞内から免疫細胞(T細胞等)にタンパク質のフラグメントを提示する主要組織適合遺伝子複合体分子を指す。実施の形態によっては、前記MHC分子は、サイトゾルタンパク質に由来するペプチドを提示するMHCクラスIタンパク質である。実施の形態によっては、前記MHCクラスIタンパク質は、HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-E、HLA-F、又はHLA-Gである。実施の形態によっては、前記HLA-Aは、HLA-A02である。
【0327】
実施の形態によっては、前記SAGE1のエピトープは、MHCクラスI拘束性ペプチドである。実施の形態によっては、前記エピトープは、アミノ酸が約8個~約12個(約8、9、10、11、又は12個等)の長さである。SAGE1の適切なMHCクラスI拘束性ペプチドは、例えば、当業者には公知のコンピュータ予想モデルを使用し、特定のMHC(例えば、HLA-A*02:01)結合モチーフならびにプロテアソーム及び免疫プロテアソームの切断部位の存在に基づいて決定できる。
【0328】
実施の形態によっては、前記抗体結合ドメインは、Fv状抗原結合モジュールである。実施の形態によっては、前記抗体結合ドメインは、第1ポリペプチド鎖及び第2ポリペプチド鎖を含むFb状抗原結合モジュールである。
【0329】
実施の形態によっては、前記操作受容体は、抗原結合ドメインと、膜貫通型ドメインと、細胞内シグナル伝達ドメインとを含むキメラ抗原受容体(CAR)であって、前記抗原結合ドメインは、SAGE1のエピトープ又はSAGE1のMHC関連エピトープに特異的に結合する。
【0330】
CARの膜貫通型ドメインは、天然のものでも、合成されたものでもよい。天然の場合、ドメインは、任意の膜結合型タンパク質又は膜貫通型タンパク質に由来するものでよい。本発明における特定の使用のための膜貫通型領域は、T細胞受容体、CD28、CD3s、CD3、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、又はCD154のα鎖、β鎖、δ鎖、γ鎖、又はζ鎖に由来するものでよい(すなわち、少なくともこれらの膜貫通型領域を含んでよい)。実施の形態によっては、前記膜貫通型ドメインは合成でよく、その場合、ロイシン及びバリン等の疎水性残基を主に含んでよい。実施の形態によっては、合成の膜貫通型ドメインの各端には、フェニルアラニン、トリプトファン、及びバリンの三重項が見られる場合がある。実施の形態によっては、例えば、アミノ酸が約2個~約10個(約2、3、4、5、6、7、8、9、又は10個等)の長さである短いペプチドリンカーがCARの膜貫通型ドメイン及び細胞内シグナル伝達ドメインを形成してもよい。実施の形態によっては、前記リンカーは、グリシン―セリン二重項である。
【0331】
CARの細胞内シグナル伝達ドメインは、CARが置かれた免疫細胞の正常なエフェクタ機能の少なくとも1つの活性に関与する。例えば、T細胞のエフェクタ機能は、細胞溶解活性又はサイトカインの分泌を含むヘルパー活性であってよい。したがって、細胞内シグナル伝達ドメインは、エフェクタ機能シグナルを伝達して細胞に特殊化した機能を行わせるタンパク質の細胞内シグナル伝達ドメインの全体又は切断後の部分から得られる細胞内シグナル伝達配列を含むことができる。細胞内シグナル伝達ドメインの例には、T細胞受容体(TCR)の細胞質配列と、抗原受容体連結後にシグナル伝達を開始させるために協働するコレセプターの細胞質配列と、これらの配列の任意の誘導体又は変異体と、同じ機能を有する任意の合成配列とが含まれる。本開示における特定の使用のための細胞内シグナル伝達配列の例には、CD3ガンマ、CD3デルタ、CD3エプシロン、CD3ゼータ、CD5、CD22、CD79a、CD79b、CD66d、FcRガンマ、FcRベータ、及びTCRゼータに由来するものが含まれる。
【0332】
実施の形態によっては、CARの細胞内シグナル伝達ドメインはさらに共刺激ドメインを含む。T細胞の完全活性化には、T細胞受容体(TCR)を介して生成したシグナルと二次又は共刺激シグナルとが必要であることが知られている。本開示に有用な共刺激ドメインは、共刺激分子の細胞内ドメインから得ることができる。共刺激分子の例には、例えば、CD27、CD28、4-1BB(CD137)、OX40、CD30、CD40、PD-1、ICOS、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3、CD83と特異的に結合するリガンド等が含まれる。
【0333】
実施の形態によっては、前記CARの細胞内シグナル伝達ドメインは、CD3ζ細胞内シグナル伝達配列と、CD28及び/又は4-IBB細胞内シグナル伝達配列とを含む。
【0334】
実施の形態によっては、前記操作受容体は、抗原結合ドメインと、TCR膜貫通型ドメインを含むT細胞受容体モジュール(TCRM)とを含む操作T細胞受容体(TCR)であって、前記抗原結合ドメインは、SAGE1のMHC関連エピトープに特異的に結合する。
【0335】
実施の形態によっては、前記操作TCRは、第1ポリペプチド鎖及び第2ポリペプチド鎖を含むヘテロ二量体である。第1及び第2ポリペプチド鎖は、共有結合(例えば、ペプチド又はその他の化学結合)又は非共有結合(例えば、ジスルフィド結合)等によって結合し得る。
【0336】
実施の形態によっては、前記TCRMは、少なくとも1つのTCR関連シグナル伝達モジュールをリクルートできる。実施の形態によっては、前記TCR関連シグナル伝達モジュールは、CD3δε、CD3γε及びζζからなる群から選択される。
【0337】
実施の形態によっては、前記TCRMは、TCR(αβTCR又はγδTCR等)の膜貫通型モジュールを含む。実施の形態によっては、TCRMは、TCRの結合ペプチド又はそのフラグメントの一方又は両方をさらに含む。実施の形態によっては、前記操作TCRは、少なくとも1つの細胞内ドメインをさらに含む。例えば、操作TCRの少なくとも1つの細胞内ドメインのうち1以上は、TCRの細胞内ドメイン又はT細胞共刺激シグナル伝達配列からの配列を含む。共刺激シグナル伝達配列は、例えば、CD27、CD28、4-1BB(CD137)、OX40、CD30、CD40、ICOS、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3、CD83と特異的に結合するリガンド等が含まれる共刺激分子の細胞内ドメインの一部であり得る。実施の形態によっては、前記操作TCRは、前記抗原結合ドメインと前記TCRMとの間に1以上のペプチドリンカーをさらに含むことで、細胞外ドメインの長さを最適化する。
【0338】
CAR又は操作TCRをコードする核酸及び当該核酸が挿入されるベクターが本開示で検討されている。ベクターには、受容体の発現が細胞表面を標的とするようにシグナルペプチドをコードする配列が含まれていてよい。
【0339】
本開示はCAR又は操作TCRを発現するように遺伝子操作された細胞も示す。このような細胞は、CAR又は操作TCRを細胞にコードする核酸を含むベクターを導入することによって生成可能である。実施の形態によっては、前記細胞は、樹状細胞、T細胞、又はナチュラルキラーを含む。
【0340】
ii.操作抗原提示細胞
別の態様において、本開示のエクスビボ活性化抗原提示細胞(APC)は、SAGE1陽性疾患に対する免疫反応(例えば、抗原特異性T細胞応答)を高めるためにSAGE1又はそのフラグメントが取り込まれている。
【0341】
APCは、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)タンパク質と複合した抗原をその表面に提示する細胞である。APCの例には、樹状細胞(DC)、マクロファージ、B細胞、及び一定の活性化上皮細胞が含まれる。実施の形態によっては、APCは樹状細胞である。SAGE1を取り込んだAPCは、患者の免疫細胞(例えば、T細胞)にMHC-I及び/又はMHC-II分子が複合したSAGE1特異的ペプチドを提示することで、強い
腫瘍特異的免疫反応を生じさせる。
【0342】
一般に、エクスビボ活性化APCの調製では、患者からAPC細胞(例えば、DC)を単離する。単離された細胞は、エクスビボで活性化されて成熟し、患者に戻す前に注目抗原を提示する。特定の腫瘍抗原(例えば、SAGE1)及び腫瘍溶解物等をAPCの活性化に使用できる。特定の腫瘍抗原(例えば、SAGE1のエピトープ又はSAGE1のMHC関連エピトープ)をコードする発現ベクター(例えば、ウイルスベクター又はmRNA)、全腫瘍細胞mRNA、腫瘍由来のエキソソーム(TDE)、又はSAGE1のエピトープもしくはSAGE1のMHC関連エピトープを発現するように修飾された細胞(例えば、線維芽細胞)等を用いて、エレクトロポレーション、トランスフェクション、又は形質導入を行うことによってもAPCを活性化できる。
【0343】
被験者(例えば、癌患者)への投与に適したAPCは、そのような細胞が見つかった任意の組織から単離して得ることができるが、培養して提供することもできる。APC(例えば、DC)は、例として、哺乳類の骨髄又はPMBC、哺乳類の脾臓、又は哺乳類の皮膚で見つけられる。例えば、骨髄は、哺乳類から採取し、DCの成長を促す培地で培養できる。この培地には、GM-CSF、IL-4及び/又はその他サイトカイン(例えば、TNF-α)、成長因子、並びにサプリメントを含ませることができる。DCは、これが存在するあらゆる細胞内で数が少ないので、DCの単離及び濃縮が必要となる。単離したDCを濃縮した集合体を得るため、反復的な密度勾配分離、蛍光活性化細胞選別法、陽性選別、陰性選別、又はこの組み合わせを伴う多くの作業が定期的に行われる。
【0344】
適切なサイトカインを含んだ培地における適切な培養時間(例えば、DCを増殖及び分化させて成熟させるもので、4日、6日、8日、10日、12日、又は14日等)を経て、標準的な技術を使い、DCのクラスタがSAGE1の1以上のエピトープがある中で培養されるか、SAGE1の1以上のエピトープをコードする発現ベクターを用いてトランスフェクト/形質導入されて、癌ワクチン用に採取できる。実施の形態によっては、APCは、SAGE1のエピトープ又はSAGE1のMHC関連エピトープを発現する細胞と融合させることもできる。実施の形態によっては、SAGE1のエピトープは、MHCクラスI拘束性エピトープ又はMHCクラスII拘束性エピトープである。
【0345】
別の態様において、本開示のワクチン組成物は、本明細書に記載のエクスビボ活性化APCを含む。別の態様において、本開示の方法は、SAGE1陽性疾患の予防又は治療を行う方法であって、本明細書に記載の活性化APCを有効量投与するステップを含む。
【0346】
APCベースのワクチンは、注射、点滴、接種、直接的な手術による投与、又はこれらの組み合わせを含む任意の適切な投与経路で被験者に投与できる。他の実施形態では、ワクチンを静脈内投与する。
【0347】
VII.SAGE1陽性疾患の処置方法
別の態様において、本開示の方法は、SAGE1陽性疾患の処置を必要とする被験者に対して当該疾患の処置を施す方法であって、有効量の(a)SAGE1阻害薬、(b)本明細書に記載の医薬組成物、(c)本明細書に記載のSAGE1複合体阻害薬、(d)本明細書に記載の細胞、及び(e)これらの組み合わせを被験者に投与するステップを含む。ある実施の形態では、投与前の被験者の生体サンプルからSAGE1発現を検出する。SAGE1発現の検出には、本明細書に開示したいずれの方法も使うことができる。
【0348】
実施の形態によっては、前記SAGE1陽性疾患は、腫瘍である。本明細書に開示したいずれの腫瘍もその腫瘍がSAGE1陽性である限り、本明細書に記載の方法を使用して処置を施されてよい。実施の形態によっては、前記処置は、前記腫瘍の発症、進行、転移
、又は再発を予防し、遅らせ、又は抑制する。
【0349】
別の態様において、本開示の方法は、TP53が変異した被験者の腫瘍の悪性度の進行を予防し、抑制し、又は遅らせる方法であって、有効量の(a)SAGE1阻害薬、(b)本明細書に記載の医薬組成物、(c)本明細書に記載のSAGE1複合体阻害薬、(d)本明細書に記載の細胞、及び(e)これらの組み合わせを被験者に投与するステップを含む。ある実施の形態では、投与前の被験者の生体サンプルからSAGE1発現を検出する。本明細書に記載のSAGE1阻害薬、SAGE1複合体阻害薬、及び細胞のいずれも使用できる。
【0350】
ある実施の形態では、有効量は、治療効果のある量である。ある実施の形態では、治療効果のある量は、病気の症状の予防、緩和、もしくは改善又は治療中の被験者の生存期間の延長に十分な量である。治療効果のある量の判定は、当業者の能力範囲内で十分行える。治療効果のある量は、被験者に対する特定の処置によって異なり、被験者の体重、サイズ、及び健康、疾患の性質及び程度、投与率、投与のために選択された治療法又はその組み合わせ、ならびに処方医師の指示等の公知の様々な要因に左右される。所定の状況に治療効果のある量は、臨床医の技能及び判断の範囲内の日々の実験によって判定することができる。例えば、初回の投与量を以降の投与量より多くしてもよい。別の例として、処置期間中、被験者の応答次第で投与量を変更してよい。
【0351】
ある実施の形態では、有効量は、予防効果のある量である。予防効果のある量は、疾患(例えば、SAGE1陽性疾患)の予防又は当該症患(例えば、SAGE1陽性疾患)に関連する症状の緩和等、被験者に所望の予防効果が得られる量とすることができる。症状が緩和されたか否かは、内科医又はその他医療関係者がその症状の重症度又は進行状態の検査に用いる任意の臨床測定によって検査でき、入院の必要性について改善が見られる場合もある。
【0352】
オリゴヌクレオチド又は核酸を細胞に導入する方法には、物理的方法、生物学的方法、及び化学的方法がある。ポリヌクレオチドを細胞に導入する物理的方法には、トランスフェクション、形質転換、形質導入、リン酸カルシウム沈殿、リポフェクション、パーティクルボンバードメント、マイクロインジェクション、及びエレクトロポレーション等がある。
【0353】
ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入する化学的手段には、巨大分子複合体、ナノカプセル、ミクロスフェア、及びビーズ等のコロイド分散系ならびに水中油型エマルション、ミセル、混合ミセル、及びリポソーム等の脂質ベース系が含まれる。体外(in vitro)及び体内(in vivo)で運搬媒体として使用される典型的なコロイド系は、リポソーム(例えば、人工膜小胞)である。
【0354】
注目ポリヌクレオチドを細胞に導入する生物学的方法には、核酸ベクターの使用が含まれる。本明細書に開示のオリゴヌクレオチドは、ベクターに挿入でき、ベクター内の転写単位から発現できる。実施の形態によっては、前記オリゴヌクレオチドは、核酸ベクターに含まれる、又はコードされる。当業者には明らかであるが、本発明の核酸を細胞に移入させるのに適したベクターは各種ある。核酸を運搬する適切なベクターを選択し、選択した発現ベクターを細胞に挿入するために状況を最適化することは、過度に実験する必要もなく、当業者の技術範囲内のことである。
【0355】
ウイルスベクターは、遺伝子を哺乳類、例えば、ヒトの細胞に挿入するために最も広く用いられている方法である。使用するウイルスベクターは複製に適したもので、場合によっては真核細胞における組み込みに適したものである。典型的なベクターは、転写ターミ
ネータ及び翻訳ターミネータと、開始配列と、所望の核酸配列の発現の制御に有用なプロモータと、少なくとも1つの有機体において機能する複製の起点と、1以上の選択可能なマーカ(4th Edition, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, New York, 2012)とを含む。DNAウイルス及びRNAウイルスを含むウイルスベクターは、レトロウイルス、レンチウイルス、ポックスウイルス、単純ヘルペスウイルスI、アデノウイルス、及びアデノ関連ウイルス等から得られる。
【0356】
ある実施の形態では、CRISPRシステムの1以上の要素を発現させる1以上のベクターを宿主細胞に導入することで、CRISPRシステムの当該要素の発現によって1以上の標的部位にCRISPR複合体が形成される。例えば、CAS酵素及びガイド配列は、単一のベクターの同一又は別々の調節要素に操作可能に結合する、又はそれぞれが別々のベクターの別々の調節要素に結合する。
【0357】
プラスミド等の非ウイルスベクターを用いて核酸又はポリヌクレオチドを細胞に導入することもできる。ある実施の形態では、shRNA又はガイドRNAをコードするプラスミドを細胞にトランスフェクトする。
【0358】
VIII.SAGE1阻害薬のスクリーニング方法
別の態様において、本開示は、SAGE1阻害薬である薬剤(例えば、SAGE1のレベル又はSAGE1を介する生物活性を抑制する薬剤)を同定又はスクリーニングする方法を示す。薬剤は、例えば、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、化合物、抗体もしくはその抗原結合フラグメント、又はこれらのうちのいずれかの誘導体である。
【0359】
実施の形態によっては、前記方法は、SAGE1タンパク質又はその機能的等価物をスクリーニング対象の薬剤に接触させ、前記SAGE1又はその機能的等価物と前記薬剤との結合を検出するステップを含む。結合の存在は、その薬剤がSAGE1阻害薬であり得ることを示している。本明細書で使用する「機能的等価物」とは、化学構造が違っても少なくとも部分的には天然のポリペプチドの生物学的機能を保持する天然のポリペプチド(例えば、SAGE1)のフラグメント、変異体、誘導体、又は融合ポリペプチドを指す。実施の形態によっては、機能的等価物は、天然のポリペプチドの少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の生物活性を保持する。SAGE1の生物学的機能には、増殖促進遺伝子の転写を上方制御する等して腫瘍形成を促進すること、及びINTS3と結合することが含まれるが、これに限定されない。
【0360】
実施の形態によっては、前記方法は、検査薬をSAGE1複合体の成分のSAGE1結合フラグメントに接触させ、前記SAGE1結合フラグメントと前記検査薬との結合を検出するステップを含む。結合の存在は、その薬剤がSAGE1複合体阻害薬であり得ることを示している。
【0361】
実施の形態によっては、前記方法は、検査薬をSAGE1及びSAGE1複合体の成分のSAGE1結合フラグメントに接触させ、当該SAGE1と当該SAGE1結合フラグメントとの結合を阻害もしくは抑制する当該検査薬の能力を検出するステップを含む。これに代えて、前記方法は、SAGE1複合体の形成を抑制する当該検査薬の能力を検出するステップを含んでもよい。検査薬がSAGE1複合体の成分のSAGE1結合フラグメントへのSAGE1の結合を阻害もしくは抑制すれば、又はSAGE1複合体の形成を抑制すれば、この検査薬は、SAGE1複合体阻害薬であり得る。実施の形態によっては、前記SAGE1複合体の成分は、INTS3、INIP、NABP1/2、CREBBP、TLE1、TLE2、TLE3、TLE4、TLE5、GGA3、CNOT1、TAX1BP1、SEC16A、CYLD、及びPAXBP1からなる群から選択される1以上
の成分を含む。実施の形態によっては、前記SAGE1複合体の成分は、INTS3を含む。実施の形態によっては、前記INTS3のSAGE1結合フラグメントは、SAGE1結合可能なSEQ ID NO: 9のアミノ酸配列、その変異体もしくはフラグメント、又はこれらのいずれかの融合タンパク質を含む。
【0362】
実施の形態によっては、前記方法は、薬剤の存在下でSAGE1をINTS3に接触させ、SAGE1-INTS3複合体の形成を検出するステップを含み、当該薬剤がSAGE1-INTS3複合体の形成を阻害した場合、当該薬剤をSAGE1阻害薬と同定する。実施の形態によっては、セルフリースクリーニングアッセイは、SAGE1-INTS3複合体を薬剤に接触させ、当該複合体の量を検出するステップを含み、当該薬剤が当該複合体の量を減少させた場合、当該薬剤をSAGE1阻害薬と同定する。
【0363】
薬剤とSAGE1又はその機能的等価物との結合は、様々な方法で判断できる。例えば、SDS-PAGE及び/又は質量分析を用いて結合の存在及び/又は量を分析できる。別の例として、SAGE1及びSAGE1複合体の成分のSAGE1結合フラグメント(例えば、INTS3)を放射性同位元素標識又は酵素標識と連結させることで、そのつながりにおける標識化分子を検出してSAGE1又はSAGE1結合フラグメントへの薬剤の結合を判断できる。この結合は、表面プラズモン共鳴(SPR)等の方法で、いずれの成分も標識化することなくリアルタイムでも判断できる。実施の形態によっては、結合分子又は結合済みの分子の分離/検出を容易にするとともにアッセイの自動化に対応できるよう、SAGE1又はSAGE1複合体の成分(例えば、INTS3)のSAGE1結合フラグメントのいずれかを固定するとよい。例えば、SAGE1及び/又はSAGE1複合体の成分(例えば、INTS3)のSAGE1結合フラグメントは、マトリックスに結合できるような別のドメインを含む融合タンパク質(例えば、グルタチオン-S-トランスフェラーゼベースの融合タンパク質)の形態で提供できる。
【0364】
例えば、ペプチドライブラリをスクリーニングすることで、SAGE1、その機能的等価物、もしくはINTS3のSAGE1結合フラグメントと相互作用又は結合する分子又はINTS3等の結合先へのSAGE1の結合をブロックする分子を同定できる。有用なペプチドライブラリには、バクテリオファージコートタンパク質の融合タンパク質として発現でき、その後、SAGE1又はその機能的等価物に対してスクリーニングされ得る無作為のアミノ酸集合又は制御されたアミノ酸集合をコードするものが含まれる。典型的なペプチドライブラリには、HSP90又はフィブロネクチン(Anders Olson C.ら、Protein Sci., 2007; 16: 476, Wahlberg E.ら、Proc. Natl. Acad. Sci. (2003) ; 100: 3185)に基づくものが含まれる。SAGE1タンパク質配列と相互作用する分子を同定するために用いることができるスクリーニング方法は、例えば、米国特許第5723286号及び第5733731号に開示されている。
【0365】
実施の形態によっては、前記方法は、SAGE1又はその機能的等価物を発現させる細胞をスクリーニング対象の薬剤に接触させるステップと、SAGE1又はその機能的等価物の量又は活性を低下させる当該薬剤の能力を判定するステップとを含む。実施の形態によっては、前記細胞は、腫瘍細胞である。
【0366】
例えば、SAGE1機能に干渉する小分子が同定でき、これにはRNAPII依存性転写制御を仲介するSAGE1の能力、癌遺伝子の転写を活性化させるSAGE1の能力、又は腫瘍形成につがなる転写制御ミスに対して干渉する分子が含まれる。SAGE1機能を制御するリガンドが同定でき、これはSAGE1複合体に結合するその能力又はSAGE1複合体の機能に干渉するその能力に基づく。
【0367】
SAGE1の活性は、例えば、SAGE1複合体が制御する遺伝子の発現を検出するこ
とによって判定できる。例えば、SAGE1複合体が標的とする応答性のある制御要素に動作可能に結合するレポーター遺伝子の導入を検出することでSAGE1の活性が示され得る。
【0368】
実施の形態によっては、前記方法は、前記SAGE1複合体(例えば、SAGE1-INTS3複合体)を薬剤に接触させ、SAGE1複合体の制御下におけるレポーター遺伝子の活性化を検出するステップを含み、当該薬剤がレポーター遺伝子の活性化を抑制又は防止した場合、当該薬剤をSAGE1阻害薬と同定する。
【0369】
実施の形態によっては、本開示の組み換え細胞は、SAGE1をコードする第1遺伝子と、レポーターをコードする第2遺伝子とを含み、当該レポーターは、SAGE1の発現又はSAGE1を介する活性に応じて、検出可能なシグナルを生成するように構成されている。
【0370】
典型的な方法は、例えば、1999年7月27日登録の米国特許第5928868号で検討されており、少なくとも1つのリガンドが小分子であるハイブリッドリガンドを形成する方法を含む。これを説明する実施の形態では、SAGE1とDNA結合タンパク質との融合タンパク質を発現するように操作された細胞を用いて、ハイブリッドリガンド/小分子の融合タンパク質及びcDNAライブラリ転写活性化タンパク質を共発現させる。この細胞は、さらにレポーター遺伝子を含み、その発現は第1及び第2融合タンパク質付近に調節され、ハイブリッドリガンドが両方のハイブリッドタンパク質の標的部位に結合する場合にのみ生じる事象である。レポーター遺伝子を発現させるこれらの細胞を選択し、不明の小分子又は不明のリガンドを同定する。この方法によって、SAGE1を活性化する又は阻害するモジュレータを同定する手段が提供される。
【0371】
実施の形態によっては、SAGE1阻害薬である薬剤のスクリーニングアッセイは、細胞ベースのアッセイであり、SAGE1発現細胞を発現させる細胞を検査薬に接触させ、SAGE1又はSAGE1複合体の量又は活性を低下させる検査薬の能力を判定するステップを含む。実施の形態によっては、前記細胞は、腫瘍細胞である。腫瘍細胞は、動物モデル又は腫瘍患者から得られる。実施の形態によっては、前記接触ステップは、インビボ(in vivo)、エクスビボ(ex vivo)、又はインビトロ(in vitro)で行われる。
【0372】
SAGE1の量は、SAGE1mRNA又はそのタンパク質もしくはフラグメントの発現のレベルで示され得る。細胞におけるSAGE1mRNA又はそのタンパク質もしくはフラグメントの発現レベルは、SAGE1mRNA又はそのタンパク質を検出する本明細書に記載の方法で判定できる。薬剤がないときよりもあるときの方がSAGE1mRNAの量が減少する(統計的に大幅に少ない)場合、その薬剤をSAGE1阻害薬と同定する。
【0373】
SAGE1の活性は、上述のように判定できるSAGE1複合体の量又は活性で示すことができる。SAGE1又はSAGE1複合体の活性は、さらに、コントロールと比較した腫瘍細胞の生存性又は増殖性の低下等、SAGE1が制御する細胞応答によって示すこともできる。コントロールとしては、薬剤に接触させられなかった腫瘍細胞又は抗癌剤に接触させられた腫瘍細胞があり得る。例えば、細胞の増殖又は侵入は、本明細書に記載した細胞の個数、細胞の動き、マトリゲルアッセイ、増殖及び/又は侵入関連遺伝子発現の誘導等をモニタリングすることで判定できる。さらに、SAGE1又はSAGE1複合体のインビボ活性は、固形腫瘍であれば、例えば、PETスキャンで撮像することで、腫瘍の縮小によって示すことができる。
【0374】
本開示は、さらに、上述のスクリーニングアッセイで同定される薬剤に関する。したが
って、本明細書に記載するとおりに同定された薬剤を適切な動物モデルにさらに使用することは、本発明の範囲内である。例えば、本明細書に記載するとおりに同定された薬剤は、動物モデルに使用することで、その薬剤による処置の有効性、毒性、又は副作用を判定できる。あるいは、本明細書に記載するとおりに同定された薬剤は、動物モデルに使用することで、その薬剤の作用のメカニズムを判定できる。さらに、本発明は、上述のスクリーニングアッセイで同定される薬剤の本明細書に記載の処置のための使用に関する。
【0375】
IX.SAGE1-INTS3複合体阻害薬の構造ベースの発見
別の態様において、本開示の単離SAGE1-INST3複合体は、SAGE1又はそのフラグメント及びINST3又はそのフラグメントを含む。実施の形態によっては、SAGE1のフラグメントは、INTS3に結合できる。実施の形態によっては、INTS3のフラグメントは、SAGE1に結合できる。
【0376】
実施の形態によっては、前記INTS3のフラグメントは、INTS3のC末端フラグメント、例えば、C末端から500、400、300、250、200、もしくは150個の残基、又はC末端から500~100、400~100、300~100、200~100、500~50、400~50、300~50、又は200~50個の残基を含む。実施の形態によっては、前記SAGE1のフラグメントは、SAGE1のC末端フラグメント、例えば、C末端から数えて最後の100、90、80、70、60、又は50個の残基を含む。実施の形態によっては、SAGE1は、SEQ ID NO: 3のアミノ酸配列又はこれと少なくとも70%一致する配列を有する。実施の形態によっては、INTS3は、SEQ ID NO: 5のアミノ酸配列又はこれと少なくとも70%一致する配列を有する。実施の形態によっては、前記SAGE1-INTS3複合体は、SEQ ID NO: 5の残基572~978を含むINTS3のC末端フラグメントと、SEQ ID NO: 3の残基818~904を含むSAGE1のC末端フラグメントとを含む。
【0377】
実施の形態によっては、前記SAGE1-INTS3複合体は結晶化している。結晶化SAGE1-INTS3複合体は、SAGE1とINTS3との界面でつながる特定のアミノ酸及びその原子の原子モデリング情報を得るための手段を提供する場合がある。
【0378】
実施の形態によっては、本開示の前記結晶化SAGE1-INTS3複合体は、X線を回折し、5Å、4Å、3Å、2Å、又は1.5Åよりも高い解像度を得ることができ、かつ分子の3次元構造の判定に有用である。
【0379】
i.X線結晶構造座標
別の態様において、本開示は、SAGE1-INTS3複合体のX線結晶構造座標セットを示す。このX線結晶構造座標セットは、タンパク質構造データバンク(PDB)にコード7C5Uで預けられたもの(Deposition ID D_1300015303)(Bernstein, F. C, T. F. Koetzleら(1977) J MoI Biol 112 (3):535-42)であり、これは、SEQ ID NO: 3の残基818~904のアミノ酸配列を含むSAGE1ポリペプチドと、SEQ ID NO: 5の残基572~978のアミノ酸配列を有するINTS3ポリペプチドとを含むSAGE1-INTS3複合体のX線結晶構造座標を示している。実施の形態によっては、本明細書に記載の結晶は、おおよその寸法が260.112±0.1Å、b=46.240±0.1Å、c=103.101±0.1Å、α=90±0.1°、β=113.280±0.1°、γ=90±0.1°で、対称であり、空間群がC2である。
【0380】
SAGE1-INTS3複合体、特にSAGE1とINTS3との界面の3次元構造によって、SAGE1とINTS3との相互作用に干渉する、SAGE1-INTS3複合体阻害薬を含むSAGE1阻害薬の設計と同定が可能になる。例えば、3次元構造の知識があれば、分子設計、好ましくはSAGE1又はINTS3に結合できる医薬品の設計が
可能になり、これにより、SAGE1-INTS3複合体に妨害を加え、この複合体が細胞増殖及び癌表現型に関わる遺伝子の発現を上方制御する等の生物学的機能を発揮できないようにできる。界面について言及する際、界面の一部(例えば、保管されている座標ファイル(PDBコード:7C5U)のSAGE1部分の構造座標の全部もしくは一部、保管されている座標ファイル(PDBコード:7C5U)のINTS3部分の構造座標の全部もしくは一部、又は保管されている座標ファイル(PDBコード:7C5U)のSAGE1部分及びINTS3部分の両方)を指す場合がある。この構造座標は2020年5月20日にRCSBのPDBにアクセッション番号7C5Uで預けられている。保管情報は本明細書に開示した発明の公開後に公開される。
【0381】
実施の形態によっては、本開示はSAGE1複合体のX線結晶構造座標セットを示し、結合界面は、F838、F873、K874、M832、V876、R872、K828、R836、及びQ840(ナンバリングはSEQ ID NO: 3に準ずる)からなる群から選択されるSAGE1の1以上のアミノ酸残基、又はそのフラグメント、変異体、もしくは誘導体の等価残基を含む。
【0382】
実施の形態によっては、本開示はINTS3の結合界面(例えば、SAGE1結合界面)のX線結晶構造座標セットを示し、前記結合界面は、T804、S841、S874、S769、N933、R849、Q773、C777、M781、A816、N818、E838、E850、F871、R848、F805、L845、L815、L844、Y808、C842、Q846、Q870、R877、H878、K882、E732、V766、Q771、D768、A765、Q731、E835、E803、C809、及びL772(ナンバリングはSEQ ID NO: 5に準ずる)からなる群から選択されるINTS3の1以上のアミノ酸残基、又はそのフラグメント、変異体、もしくは誘導体の等価残基を含む。
【0383】
実施の形態によっては、本開示はSAGE1とINTS3と結合界面のX線結晶構造座標セットを示し、前記SAGE1の結合界面は、SAGE1のF838、F873、K874、M832、V876、R872、K828、R836、及びQ840からなる群から選択される1以上のアミノ酸残基(当該残基のナンバリングはSEQ ID NO: 3に準ずる)、又はそのフラグメント、変異体、もしくは誘導体の等価残基を含み、前記INTS3の結合界面は、INTS3のT804、S841、S874、S769、N933、R849、Q773、C777、M781、A816、N818、E838、E850、F871、R848、F805、L845、L815、L844、Y808、C842、Q846、Q870、R877、H878、K882、E732、V766、Q771、D768、A765、Q731、E835、E803、C809、及びL772からなる群から選択される1以上のアミノ酸残基(当該残基のナンバリングはSEQ ID NO: 5に準ずる)、又はそのフラグメント、変異体、もしくは誘導体の等価残基を含む。
【0384】
当業者であれば理解できることであるが、タンパク質複合体又はそのタンパク質の構造座標セットは3次元の形状を規定する相対的な点集合である。したがって、完全に異なる座標セットで類似又は同一の形状を規定することも可能であり、これは本発明の範囲に含まれる。また、個々の座標における僅かなばらつきは、全体の形状にはほとんど影響がない。結合界面でいえば、界面でつながる原子又は残基がこうしたばらつきによって大幅に変わるとは考えられない。
【0385】
なお、アミノ酸の変異、追加、置換、及び/もしくは欠失又は結晶を構成する構成要素のいずれかにおけるその他の変更により結晶構造が変化することで構造座標にばらつきが生じる場合もある。このようなばらつきは、保存主鎖原子から約2Å以下の平均二乗偏差(rmsd)等、元の座標と比較して誤差の許容基準範囲内であるならば、得られる3次
元形状は同じとみなされる。実施の形態によっては、前記平均二乗偏差は、約1.5Å、1.0Å、又は0.5Å以下である。本明細書で使用する用語「平均二乗偏差」は、平均値からの偏差の2乗の算術平均の平方根を指す。原子オブジェクトの観点から、これらの数字はオングストロームで示される。
【0386】
SAGE1-INTS3複合体の構造座標を数学的に操作することで上述の変化を生じさせてもよい。例えば、元の構造座標の結晶学的置換(crystallographic permutation)、元の構造座標の分割(fractionalization)、元の構造座標セットに対する整数加算又は減算(integer additions or subtraction)、元の構造座標の反転(inversion)、又はこれらの組み合わせによって、保管されている座標ファイル(PDBコード:7C5U)に示される構造座標を操作できる。例えば、本開示のSAGE1-INTS3複合体は、保管されている座標ファイル(PDBコード:7C5U)に示されるアミノ酸残基±2Å以下(より好ましくは1.5Å以下、さらに好ましくは1Å以下、最も好ましくは0.5Å以下)の当該アミノ酸の保存主鎖原子からの平均二乗偏差を特徴とする結合界面を含むことが好ましい。
【0387】
したがって、本開示は、結合界面を構成するアミノ酸の主鎖原子からの平均二乗偏差が約2Å以下、約1.5Å以下、約1Å以下、又は約0.5Å以下の範囲内にある本明細書に記載のSAGE1-INTS3複合体の結合界面(例えば、保管されている座標ファイル(PDBコード:7C5U))を含むX線結晶構造座標をさらに示す。
【0388】
ii.コンピュータ可読記憶媒体
本明細書に記載のSAGE1-INTS3複合体から生成した構造座標を使用するためには、関連座標を3次元形状又はグラフィック描写として表示したり、関連座標を変換して3次元形状又はグラフィック描写にする必要があったり、そうでない場合はこれらを操作する必要がある場合がある。一般に、構造座標のこのような3次元表示は、合理的薬物設計、分子置換法、ホモロジーモデリング、及び変異分析において使用される。これは、通常、構造座標セットから分子又はその一部の3次元のグラフィック描写を生成できる様々な市販のソフトウェアプログラムを使用することで行われる。この科学技術分野には既存のソフトウェアプログラムが多く、これらは参照によって全体が本明細書に組み込まれる。例えば、GRID(Oxford University, Oxford, UK)、AUTODOCK(Scripps
Research Institute, La Jolla, Calif.)、Flo99(Thistlesoft, Morris Township, NJ.)等を参照されたい。
【0389】
したがって、別の態様において、本開示のコンピュータ可読記憶媒体には、保管されている座標ファイル(PDBコード:7C5U)に示されるもの等、本開示に係る結晶構造座標が記憶されている。
【0390】
このようなプログラムの記憶、転送、及び使用に関し、結合界面を含むSAGE1-INTS3複合体の3次元表示を生成するコンピュータ等の機械も考えられる。この機械は、本開示に係る結晶構造座標が記憶されている機械可読データ記憶媒体を含む。コンピュータ可読記憶媒体は、当業者に周知であり、例えば、ハードディスク、CD-ROM,フロッピーディスク、DVD、USBメモリ等、及びその他磁気媒体、光磁気媒体、光媒体、フロプティカル媒体、その他コンピュータで使用できる媒体が含まれる。前記機械は、さらに、機械可読データを処理するための指令を記憶するための作業用メモリと、当該作業用メモリ及び機械可読データ記憶媒体に連結される、機械可読データを所望の3次元表示に加工するための中央処理装置(CPU)とを含む。また、本発明の前記機械は、さらに、ユーザが3次元表示を視認できるようにCPUに接続されたディスプレイを含む。したがって、前記データを使用するための指令がプログラミングされた機械、例えば、上述したタイプの1以上のプログラムを搭載したコンピュータで使用すると、本明細書に記載
された機械は、本明細書に記載のSAGE1-INTS3複合体の3次元表示を行うことができる。
【0391】
iii.潜在的SAGE1複合体阻害薬の同定及びスクリーニング方法
別の態様において、本開示の方法は、潜在SAGE1複合体阻害薬である薬剤を同定する方法であって、
(a)本明細書に記載の前記X線結晶構造座標セットに基づく結合界面の3次元構造の表示物をコンピュータ上で生成するステップと、
(b)前記薬剤の表示物をコンピュータ上で生成するステップと、
(c)前記薬剤が前記結合界面の1以上の残基と相互作用するよう、前記ステップ(b)における前記薬剤の表示物を前記ステップ(a)における前記結合界面の3次元構造のコンピュータ表示物にフィットさせるステップと、
(d)前記薬剤と前記結合界面の1以上の残基との前記ステップ(c)における相互作用を評価するステップとを含み、
前記相互作用により、SAGE1-INTS3複合体に対して競合する場合もある、前記薬剤とSAGE1又はINTS3とを含む低エネルギーで安定的な複合体が生じると、前記薬剤を潜在的SAGE1複合体阻害薬と同定する。
【0392】
別の態様において、本開示のバーチャルスクリーニング方法は、潜在的SAGE1複合体阻害薬を同定する方法であって、
(a)本明細書に記載の前記X線結晶構造座標に基づく結合界面の3次元構造の表示物をコンピュータ上で生成するステップと、
(b)コンピュータ上で薬剤の表示物を生成する、又はライブラリの薬剤の表示物にアクセスするステップと、
(c)前記薬剤が前記結合界面の1以上の残基と相互作用するよう、前記ステップ(b)における前記薬剤の表示物を前記ステップ(a)における前記結合界面の3次元構造のコンピュータ表示物にフィットさせるステップと、
(d)前記薬剤と前記結合界面の1以上の残基との前記ステップ(c)における相互作用を評価するステップとを含み、
前記相互作用により、SAGE1複合体に対して競合する場合もある、前記薬剤とSAGE1又はINTS3とを含む低エネルギーで安定的な複合体が生じると、前記薬剤を潜在的SAGE1複合体阻害薬と同定する。
【0393】
コンピュータ上の結合界面の表示物はグラフィック表示、すなわち3次元空間にアミノ酸残基の座標を描いたものであり得る。ステップ(a)における結合界面の3次元グラフィック表示及び/又はステップ(b)の薬剤の3次元グラフィック表示を生成するソフトウェアは、公知で市販のものである。例として、Quanta、WebLite Viewer、Schrodinger Suite、AUTODDOCK、及びDOCK等がある。
【0394】
上記ステップ(c)におけるフィッティング(すなわちドッキング)は、ステップ(b)における薬剤の表示物とステップ(a)における結合界面の3次元構造の表示物との相補性を検査するプロセスである。フィッティングは、この技術分野で公知の方法で行うことができ、例えば、超精密グライドドッキング(Glide XP)等、結合界面と薬剤との「フィット」を評価する様々な計算手法を用いることができる。
【0395】
薬剤と本開示のSAGE1-INTS3複合体の結合界面の1以上の残基との相互作用は、コンピュータ評価で検査して最適化してよい。例えば、形状、大きさ、及び静電相補性で評価されてもよく、これらは目視で定性的に判断されたり、LUDI、PLP、PMF、SCORE、GOLD、FlexX、Emodelスコア、及びGlide XPスコア等のスコアリング機能を使用して定量的に判断される。これらの定性的及び定量的評
価の方法は、個別に使用してもよいし、コンセンサススコアリング形式等で組み合わせて使用してもよい。
【0396】
あるいは、薬剤と結合界面の1以上の残基との相互作用は、薬剤とSAGE1分子又はINTS3分子単体との結合又はつながりによって形成される複合体の相互作用エネルギーに基づいて評価できる。本明細書で使用する用語「低エネルギーで安定している複合体」とは、薬剤とSAGE1又はINTS3との間の疎水性エンクロージャ、水素結合相互作用、内部エネルギー(ファン・デル・ワールスの相互作用等)を含む相互作用のエネルギーがコンピュータプログラムで設定され得る所定の閾値未満の複合体を指す。相互作用のエネルギーは、例えば、Glideプログラムの超精密グライドドッキング(Glide XP)等、この技術分野で公知のソフトウェアを使用して判定できる。
【0397】
所定の閾値とのエネルギーの比較は、手動で行ってもコンピュータベースで行ってもよい。コンピュータベースの比較では、コンピュータプログラムによってデータベースに保存された所定の閾値と相互作用のエネルギーの値を比較してよく、このコンピュータプログラムは、さらに、比較結果を評価し、自動で所望の査定を適切な出力形式で提供してもよい。当業者であれば、この比較に基づいて、潜在SAGE1-INTS3複合体阻害薬を容易に同定できる。実施の形態によっては、前記所定の閾値は、グライドXPスコアであり、これは疎水性エンクロージャ、水素結合相互作用、内部エネルギー(ファン・デル・ワールスの相互作用等)、静電相互作用、2つのXPペナルティ(すなわち、脱溶媒和ペナルティ及びリガンド-歪ペナルティ)によって決まる。実施の形態によっては、前記所定の閾値は、-12の基準グライドXPスコアに対し、グライドXPスコアが-10である。
【0398】
上述のとおり同定された潜在SAGE1複合体阻害薬の効果は、さらに、コンピュータで評価されても、実験によって評価されてもよい(例えば、競合結合実験又はSAGE1-INTS3複合体の生物活性に対する薬剤の効果の測定等)。
【0399】
実施の形態によっては、潜在SAGE1-INTS3複合体阻害薬を同定又はスクリーニングする方法は、ステップ(d)で得られた結果に基づいて薬剤を修飾するステップ(e)をさらに含む。修飾は、SAGE1又はINTS3との親和性である薬剤の結合特性及び選択性の向上又は変更のために、薬剤を対して行うことができる。一般に、最初の修飾は控えめである。すなわち、置き換える基は、大きさ、形状、疎水性、及び電荷が元の基とほぼ同じである。このように修飾された薬剤は、SAGE1-INTS3複合体の結合界面の1以上の残基との相互作用について、詳述した方法と同じコンピュータによる方法で分析できる。実施の形態によっては、前記方法は、潜在SAGE1-INTS3複合体阻害薬を同定又はスクリーニングする方法において、ステップ(b)~(e)を繰り返すステップをさらに含む。
【0400】
米国特許第5834228号及び第7930109号ならびにPCT出願国際公開WO99/09148には様々な分子分析技術及び合理的薬物設計技術がさらに開示されており、これらの内容は参照によって本明細書に組み込まれる。
【0401】
実施の形態によっては、前記薬剤は、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、化合物、抗体もしくはその抗原結合フラグメント又はこれらのうちのいずれかの誘導体である。
【0402】
X.優先出願で開示した実施の形態の組み込み
i.腫瘍用バイオマーカとしてのSAGE1の使用
別の態様において、本開示は、腫瘍の処置の治療効果の評価及び/又は腫瘍の予後の判断のためのキットの製造時におけるSAGE1遺伝子又はその活性フラグメントを検出す
るための物質の使用について示す。
【0403】
実施の形態によっては、前記物質は、細胞、組織、又は体液におけるSAGE1遺伝子又はその活性フラグメントを検出するためのものであり、当該体液は、好ましくは、細胞内液、細胞外液、間質液、血漿、リンパ液、及びその組み合わせからなる群から選択され、且つ/又は
【0404】
前記物質は、SAGE1遺伝子のタンパク質発現レベル又はSAGE1遺伝子の分子発現レベルを検出するためのものであり、且つ/又は
【0405】
SAGE1遺伝子又はその活性フラグメントを検出するための前記物質は、SAGE1遺伝子又はその活性フラグメントを検出するための特異性プローブを含み、且つ/又は
【0406】
SAGE1遺伝子又はその活性フラグメントを検出するための前記物質は、SAGE1遺伝子を特異的に増幅させるためのプライマを含む。
【0407】
実施の形態によっては、前記腫瘍は、固形腫瘍又は血液系腫瘍であり、好ましくは、腸癌、肺癌、肝臓癌、乳癌、食道癌、頭頸部癌、皮膚癌、腎臓癌、白血病、結腸腺癌(coad)、肝臓肝細胞癌(lihc)、卵巣漿液性嚢胞腺癌(ov)、子宮体部内膜癌(ucec)、甲状腺癌(thca)、皮膚皮膚黒色腫(skcm)、肺腺癌(luad)、頭頸部扁平上皮癌(hnsc)、多形性膠芽腫(gbm)、前立腺腺癌(prad)、胸腺腫(thym)、脳低悪性度神経膠腫(lgg)、直腸腺癌(read)、褐色細胞腫および傍神経節腫(pcpg)、食道癌(esca),腎臓腎明細胞癌(kirc)、子宮頸部扁平上皮癌および内頸部腺癌(cesc)、膀胱尿路上皮癌(blca)、腎臓乳頭状腎細胞癌(kirp)、膵臓腺癌(pad)、胃腺癌(stad)、腎臓嫌色素性腺腫(kich)、乳房浸潤癌(brca)、肺扁平上皮癌(lusc)、肉腫(sarc)、急性骨髄性白血病(laml)から選択される。
【0408】
実施の形態によっては、腫瘍の処置の治療効果の評価及び/又は腫瘍の予後の判断のための前記キットは、サンプル中のSAGE1遺伝子の発現レベルに基づく。
【0409】
実施の形態によっては、前記SAGE1遺伝子は、前記キットにおける単一のバイオマーカである。
【0410】
別の態様において、本開示は、腫瘍を診断するためのキットの製造時におけるSAGE1遺伝子又はその活性フラグメントを検出するための物質の使用について示す。
【0411】
実施の形態によっては、前記物質は、細胞、組織、又は体液におけるSAGE1遺伝子又はその活性フラグメントを検出するためのものであり、当該体液は、好ましくは、細胞内液、細胞外液、間質液、血漿、リンパ液、及びその組み合わせからなる群から選択され、且つ/又は
【0412】
前記物質は、SAGE1遺伝子のタンパク質発現レベル又はSAGE1遺伝子の分子発現レベルを検出するためのものであり、且つ/又は
【0413】
SAGE1遺伝子又はその活性フラグメントを検出するための前記物質は、SAGE1遺伝子又はその活性フラグメントを検出するための特異性プローブを含み、且つ/又は
【0414】
SAGE1遺伝子又はその活性フラグメントを検出するための前記物質は、SAGE1遺伝子を特異的に増幅させるためのプライマを含む。
【0415】
実施の形態によっては、前記腫瘍は、固形腫瘍又は血液系腫瘍であり、好ましくは、腸癌、肺癌、肝臓癌、乳癌、食道癌、頭頸部癌、皮膚癌、腎臓癌、白血病、結腸腺癌(coad)、肝臓肝細胞癌(lihc)、卵巣漿液性嚢胞腺癌(ov)、子宮体部内膜癌(ucec)、甲状腺癌(thca)、皮膚皮膚黒色腫(skcm)、肺腺癌(luad)、頭頸部扁平上皮癌(hnsc)、多形性膠芽腫(gbm)、前立腺腺癌(prad)、胸腺腫(thym)、脳低悪性度神経膠腫(lgg)、直腸腺癌(read)、褐色細胞腫および傍神経節腫(pcpg)、食道癌(esca),腎臓腎明細胞癌(kirc)、子宮頸部扁平上皮癌および内頸部腺癌(cesc)、膀胱尿路上皮癌(blca)、腎臓乳頭状腎細胞癌(kirp)、膵臓腺癌(pad)、胃腺癌(stad)、腎臓嫌色素性腺腫(kich)、乳房浸潤癌(brca)、肺扁平上皮癌(lusc)、肉腫(sarc)、急性骨髄性白血病(laml)から選択される。
【0416】
実施の形態によっては、腫瘍の診断又はSAGE1の標的治療に対する前記被験者の適合性の有無は、サンプル中のSAGE1遺伝子の発現レベルに基づく。
【0417】
実施の形態によっては、SAGE1遺伝子は、前記キットにおける単一のバイオマーカである。
【0418】
主に精巣及び胚の組織の細胞で発現する癌精巣抗原、腫瘍関連抗原は、他の正常な組織では発現しないか、発現レベルが低い。しかしながら、この抗原は、悪性腫瘍細胞の組織タイプごとに異なる割合で発現レベルが高く、腫瘍の早期検出及び免疫療法の観点からは潜在的抗原標的である。腫瘍形成におけるその役割は最近の研究で分かってきているが、成長期間、幹細胞の分化期間、及び発癌期間において重要な細胞過程の調節を担っている可能性がある。ただし、これらの再活性化精巣タンパク質が発癌作用を助ける働きをするのか否か、いかにして働くのかはまだほとんど説明されていない。本開示は、多くの研究を重ねる中で、SAGE1すなわちX染色体(X:135895410-135913726, Xq26.3)に位置するCT-X癌精巣抗原が腸癌、肺癌、肝臓癌、乳癌、皮膚癌、頭頸部癌、白血病等、様々な腫瘍組織及び細胞で発現すること、またSAGE1の発現が精巣組織以外の他の正常な細胞では検出されないことを思いがけず発見した。よって、被験者に腫瘍が形成されやすいか否かを分析したり、被験者に腫瘍があるか否かを診断したり、腫瘍処置の治療効果を分析したり、且つ/又は腫瘍の予後の判定したりするためにSAGE1(例えば、SAGE1遺伝子又はその発現産物)を用いることが考えられる。
【0419】
別の態様において、本開示は、腫瘍処置の治療効果を評価し、且つ/又は腫瘍の予後を判定するためのキットの作製時におけるSAGE1遺伝子又はその活性フラグメントを検出するための物質の使用について示す。このキットは、全般的に、SAGE1遺伝子又はその活性フラグメントを検出するための物質によって、サンプル中のSAGE1遺伝子又はその活性フラグメントの発現量を検出できるので、当該サンプル中のSAGE1遺伝子又はその活性フラグメントの発現量を用いて腫瘍の悪性度を評価し、腫瘍処置の治療効果を評価し、且つ/又は腫瘍の予後を判定できる。本開示は、SAGE1遺伝子又はその活性フラグメントの発現が患者の腫瘍の悪性度、処置を受けた患者の当該処置の治療効果、及び/又は腫瘍の予後と密接に関連していることを発見した。
【0420】
特に、固形腫瘍又は血液系腫瘍の場合、SAGE1陽性腫瘍は、一般に高めの悪性度を示し、SAGE1陽性腫瘍がある患者は、腫瘍処置を施された後の応答性が一般に比較的低く、比較的予後が悪く、比較的短期間で新しい腫瘍が成長してしまう。例えば、SAGE1陽性腫瘍がある患者は、全生存期間及び/又は無憎悪生存期間が比較的短い。別の例として、陽性のSAGE1発現はリンパ節転移と関連があり、SAGE1陽性腫瘍がある患者は、よりリンパ節転移が生じやすかったり、新たな腫瘍が成長しやすい。SAGE1
発現とは、SAGE1mRNAの発現レベル又はSAGE1タンパク質の発現レベルのことでもあり得る。陽性のSAGE1発現(又はSAGE1陽性)とは、概して、SAGE1発現が存在すること、又は基準に対してSAGE1発現のレベルが高いことを指す。ある実施の形態では、陽性のSAGE1発現は、腫瘍組織におけるSAGE1mRNAの検出可能な発現によって示される。ある実施の形態では、陽性のSAGE1発現は、腫瘍組織におけるSAGE1タンパク質の検出可能な発現によって示される。ある実施の形態では、陽性のSAGE1発現は、サンプルにおいて、周囲の健康な組織と比較して高いSAGE1mRNAの発現が検出されることで示される。ある実施の形態では、陽性のSAGE1発現は、サンプルにおいて、周囲の健康な組織と比較して高いSAGE1タンパク質の発現が検出されることで示される。
【0421】
固形腫瘍又は血液系腫瘍がある患者の場合、通常、SAGE1陽性レベルが高いほど腫瘍の悪性度が高く、腫瘍処置を施された後の応答性が一般に比較的低く、比較的予後が悪く、比較的短期間で新しい腫瘍が成長してしまう。例えば、SAGE1発現のレベルが高いほど、患者の全生存期間及び/又は無憎悪生存期間が短くなる。別の例では、高いSAGE1発現のレベルはリンパ節転移と関連があり、SAGE1発現のレベルが高いほど、患者は、よりリンパ節転移が生じやすかったり、新たな腫瘍が成長しやすい。
【0422】
腫瘍処置の治療効果又は腫瘍の予後は、腫瘍患者の全生存期間及び/又は無憎悪生存期間を評価することで評価できる。全生存期間(OS)とは、通常、ある時点(例えば、腫瘍が診断されたとき又は外科手術で腫瘍が切除されたとき等)からその患者がなんらかの原因で死亡するまでの時間を指す。無憎悪生存期間(PFS)とは、概して、ある時点(例えば、腫瘍が診断されたとき、外科手術で腫瘍が切除されたとき等)から別の時点、腫瘍の局所的又は部分的な退縮が検出されたり、遠隔転移が検出された時点又はその患者の死亡までの時間を指す。
【0423】
別の態様において、本開示は、腫瘍を診断するためのキットの作製時におけるSAGE1遺伝子又はその活性フラグメントを検出するための物質の使用について示す。このキットは、SAGE1遺伝子又はその活性フラグメントの発現レベルを検出することで腫瘍を診断したり、SAGE1標的治療が被験者に適しているか否かを判断することができる。本開示では、SAGE1遺伝子又はその活性フラグメントの発現が被験者に腫瘍があるか否かと密接に関係していることと、SAGE1発現が陽性又はSAGE1発現のレベルが高い腫瘍患者にはSAGE1標的治療がより適していることとが分かった。
【0424】
具体的には、固形腫瘍及び/又は血液系腫瘍がある患者の場合、腫瘍組織においてSAGE1遺伝子が特異的に陽性に発現する。したがって、SAGE1遺伝子の発現量で患者に腫瘍があるか否かを判定できる。例えば、SAGE1発現が陽性の患者は、通常、腫瘍がある可能性が高い。あるいは、SAGE1遺伝子の発現量を用いて、SAGE1の標的治療が被験者に適しているか否かを判断できる。本開示は、SAGE1を阻害することで腫瘍細胞の増殖、移動、及び足場非依存性成長を大幅に抑えられる一方、妨げられていたSAGE1の発現が復活すると、腫瘍細胞のクローン原生が復活できることを実証しており、これは、SAGE1発現が陽性、且つ/又はSAGE1発現のレベルが高い患者は一般にSAGE1の標的治療に適していることを示している。
【0425】
本開示において、SAGE1遺伝子又はその活性フラグメントを検出するための物質は当業者に周知であり、この物質を調製する方法もまた当業者に周知である。具体的には、この物質は、概してSAGE1遺伝子又はその活性フラグメントの発現を検出し、詳細にはSAGE1遺伝子のタンパク質発現レベル又SAGE1遺伝子の分子(例えば、SAGE1mRNA)発現レベルを検出してよい。例えば、この物質は、標的分子(例えば、SAGE1mRNA、SAGE1タンパク質等)に特異的に結合できる物質であってよく、
この物質の結合が検出される。ある実施の形態では、この物質は、SAGE1遺伝子に特異的に結合できるプローブとすることができ、別の実施の形態では、この物質は、SAGE1タンパク質を特異的に標的とできる抗体とすることができる。別の例として、この物質は、SAGE1遺伝子を特異的に増幅できる物質であってよく、この特異的な増幅から得られる遺伝子フラグメントを検出することによってSAGE1遺伝子又はその活性フラグメントの発現が検出できる。ある実施の形態では、この物質は、SAGE1遺伝子を特異的に増幅できるプライマ及び/又は増幅によって得られる産物の検出に適した標識(例えば、染料)等であってよい。
【0426】
本開示において、キットを使用する方法は、一般に、SAGE1遺伝子又はその活性フラグメントを検出するための物質によって異なる。このキットは、概して、患者の細胞、組織、及び体液に対して行われる検出に使用できる。具体的には、SAGE1遺伝子又はその活性フラグメントを検出するための物質を用いて、被験者の細胞、組織、及び体液におけるSAGE1遺伝子又はその活性フラグメントを検出できる。この体液は、例えば、細胞内液(核を含む)及び細胞外液等から選択される流動体又はこれらの組み合わせである。この細胞外液は、具体的には、例えば、間質液、血漿、及びリンパ液等から選択される流動体又はこれらの組み合わせである。ある実施の形態では、キットの検出対象のサンプルは、細胞、血液サンプル(例えば、血漿サンプル及び/又は全血サンプル等)、及び組織(例えば、腫瘍組織又は前癌組織等)又は病理切片から選択される。
【0427】
実施の形態によっては、前記腫瘍は、固形腫瘍又は血液系腫瘍であり、例えば、腸癌、肺癌、肝臓癌、乳癌、食道癌、頭頸部癌、皮膚癌、腎臓癌、白血病、結腸腺癌(coad)、肝臓肝細胞癌(lihc)、卵巣漿液性嚢胞腺癌(ov)、子宮体部内膜癌(ucec)、甲状腺癌(thca)、皮膚皮膚黒色腫(skcm)、肺腺癌(luad)、頭頸部扁平上皮癌(hnsc)、多形性膠芽腫(gbm)、前立腺腺癌(prad)、胸腺腫(thym)、脳低悪性度神経膠腫(lgg)、直腸腺癌(read)、褐色細胞腫および傍神経節腫(pcpg)、食道癌(esca),腎臓腎明細胞癌(kirc)、子宮頸部扁平上皮癌および内頸部腺癌(cesc)、膀胱尿路上皮癌(blca)、腎臓乳頭状腎細胞癌(kirp)、膵臓腺癌(pad)、胃腺癌(stad)、腎臓嫌色素性腺腫(kich)、乳房浸潤癌(brca)、肺扁平上皮癌(lusc)、肉腫(sarc)、及び急性骨髄性白血病(laml)等から選択される。
【0428】
SAGE1遺伝子は、キットにおける単一のバイオマーカであってよい。すなわち、キットは、SAGE1遺伝子又はその活性フラグメントを検出するための物質に加えて他のバイオマーカを検出するための物質を含むことはしない。SAGE1遺伝子をキットにおける単一のバイオマーカとして用いることで、腫瘍処置の治療効果の評価、及び/又は腫瘍の予後の判定、又は腫瘍を診断を行うことができる。
【0429】
本開示のSAGE1遺伝子又はその活性フラグメントは、腫瘍の悪性度、転移、再発、予後の評価、及び標的治療の選択のためのバイオマーカとして機能する。SAGE1は、従来のバイオマーカと比べて特異性が高く(SAGE1は腫瘍組織で発現するが正常な組織では発現しない)、腫瘍を正常な組織と見分ける正確性は100%に近い上、腫瘍処置の治療標的としても機能でき、腫瘍が映らない撮像にも使える。また、SAGE1の発現プロフィールによって、腫瘍処置の治療効果を評価するための基礎、再発及び転移をモニタリングするための基礎、及び腫瘍の悪性レベルを判定するための基礎が提供され得る。
【0430】
ii.薬又はキットの調製時におけるSAGE1阻害薬の使用
別の実施の形態では、本開示は、1)腫瘍の処置のため、及び/又は2)SAGE1-INTS3複合体の発現レベルを調節するための薬又はキットの製造時におけるSAGE1阻害薬の使用を示す。
【0431】
実施の形態によっては、前記SAGE1阻害薬がSAGE1の発現及び/又は機能を阻害する。
【0432】
実施の形態によっては、前記SAGE1阻害薬は、単一の活性成分である。
【0433】
実施の形態によっては、前記SAGE1阻害薬は、核酸分子、タンパク質分子、又は化合物から選択される。
【0434】
実施の形態によっては、核酸分子は、SAGE1用の干渉RNA、SAGE1用のアンチセンスオリゴヌクレオチド、及びSAGE1発現をノックアウト又はノックダウンさせるための薬剤からなる群から選択され、且つ/又は、タンパク質分子は、抗SAGE1抗体、好ましくは、モノクローナル抗体である。
【0435】
実施の形態によっては、前記核酸分子は、SEQ ID Nos. 59-67のいずれかに示される配列を含む標的配列を標的とし、前記核酸分子のポリヌクレオチド配列は、SEQ ID Nos. 87-95及び96-99のいずれかに示される配列を含む。
【0436】
実施の形態によっては、前記SAGE1阻害薬は、INTS3に結合しようとSAGE1と競い合い、好ましくは、前記SAGE1阻害薬は、INTS6、INTS6L、又はその組み合わせである。
【0437】
実施の形態によっては、前記腫瘍は、SAGE1陽性腫瘍である。
【0438】
実施の形態によっては、前記腫瘍は、固形腫瘍又は血液系腫瘍であり、好ましくは、腸癌、肺癌、肝臓癌、乳癌、食道癌、頭頸部癌、皮膚癌、腎臓癌、白血病、結腸腺癌(coad)、肝臓肝細胞癌(lihc)、卵巣漿液性嚢胞腺癌(ov)、子宮体部内膜癌(ucec)、甲状腺癌(thca)、皮膚皮膚黒色腫(skcm)、肺腺癌(luad)、頭頸部扁平上皮癌(hnsc)、多形性膠芽腫(gbm)、前立腺腺癌(prad)、胸腺腫(thym)、脳低悪性度神経膠腫(lgg)、直腸腺癌(read)、褐色細胞腫および傍神経節腫(pcpg)、食道癌(esca),腎臓腎明細胞癌(kirc)、子宮頸部扁平上皮癌および内頸部腺癌(cesc)、膀胱尿路上皮癌(blca)、腎臓乳頭状腎細胞癌(kirp)、膵臓腺癌(pad)、胃腺癌(stad)、腎臓嫌色素性腺腫(kich)、乳房浸潤癌(brca)、肺扁平上皮癌(lusc)、肉腫(sarc)、急性骨髄性白血病(laml)から選択される。
【0439】
別の態様において、本開示の組成物は、本明細書に開示したSAGE1阻害薬を含み、当該組成物は、
【0440】
腫瘍に処置を施し、且つ/又は
【0441】
SAGE1-INTS3複合体の発現レベルを調節する。
【0442】
癌/精巣の遺伝子(癌精巣抗原すなわちCTA)のファミリは、通常、成獣の精巣でのみ発現し、その他の正常な組織においては発現が少ない又は発現がないが、ほとんどの種類の悪性腫瘍及び血液系腫瘍でも発現する。これらのCTAは、癌の主要なバイオマーカと考えられており、癌免疫療法の優れた抗原標的でもある。NY-ESO-1等、いくつかの癌精巣抗原は、第3相臨床試験に入った癌ワクチンのために開発された。腫瘍形成におけるその役割は最近の研究で分かってきているが、成長期間、幹細胞の分化期間、及び発癌期間において重要な細胞過程の調節を担っている可能性がある。多数の癌精巣抗原が
癌幹細胞(CSC)又は癌開始細胞(CIC)で選択的に発現することは実証されているが、再活性化精巣タンパク質が発癌作用を助ける働きをするのか否か、いかにして働くのかはまだほとんど説明されていない。本開示は、多くの研究を重ねる中で、X染色体(X:135895410-135913726, Xq26.3)に位置するCT-X癌精巣抗原が正常な精巣組織外の様々な種類のヒト腫瘍で腫瘍特異性抗原として異常に活性化されることを思いがけず発見した。SAGE1は、INTS3と機能複合体を形成することができ、SAGE1-INTS3複合体は、様々な腫瘍細胞及び腫瘍組織に特異的にみられる。本開示は、さらに、SAGE1遺伝子/タンパク質又はSAGE1-INTS3複合体遺伝子/タンパク質を特異的に標的とすることで、SAGE1陽性癌細胞の増殖及び足場非依存性成長ならびにインビボ異種移植片の成長が大幅に抑えられることを実証しており、これによって、腫瘍の処置に効果的な新たな標的を提供している。
【0443】
一態様において、本発明は、腫瘍の処置用の薬剤又はキット製造時におけるSAGE1阻害薬の使用を示す。様々な種類の腫瘍でSAGE1が陽性に発現するだけでなく、SAGE1発現が陽性の患者は予後が比較的悪くなることが分かった。SAGE1は、腫瘍組織で特異的に陽性に発現する一方、健康な組織(例えば、前癌組織)では発現しない。本開示は、SAGE1を阻害することで腫瘍細胞の増殖、移動、及び足場非依存性成長を大幅に抑えられる一方、妨げられていたSAGE1の発現が復活すると、腫瘍細胞のクローン原生が復活できることが分かり、SAGE1阻害薬が腫瘍の処置に使用できることを実証している。
【0444】
本明細書で使用する用語「処置」とは、所望の薬効及び/又は生理学的効果をもたらすことができる予防的、治癒的、又は緩和的な処置を指す。そのような効果は、好ましくは、疾病の1以上の症状を医学的に抑制すること、又は疾病を完全に排除すること、又は疾病の発生を阻止する、もしくは遅らせること、及び/又は疾病の進行もしくは悪化の危険性を低下させることを指す。
【0445】
別の実施の形態では、本開示は、SAGE1-INTS3複合体の発現レベルの調節に利用される薬剤又はキットの製造時におけるSAGE1阻害薬の使用を示す。本開示は、腫瘍特異性抗原であるSAGE1が異常活性の後にINTS3と複合体を形成できることを発見した。SAGE1-INTS3複合体は、様々な腫瘍細胞及び腫瘍組織に特異的にみられる。SAGE1が阻害される場合、野生型SAGE1の発現で腫瘍細胞増殖が促進されることがあるが、INTS3と相互作用する主要な残基(F838A、F873A、K874A、R872A、M832A、Q840A)に点変異がある変異SAGE1の発現では、こういったことはない。この発見によれば、SAGE1が機能するにはINTS3と複合体を形成する必要があり、SAGE1とINTS3との相互作用を妨げることでSAGE1-INTS3複合体の量を減らせば腫瘍細胞の成長が抑えられる。
【0446】
SAGE1-INTS3複合体とは、概して、タンパク質間相互作用で形成されるSAGE1とINTS3との複合体を指す。通常、INTS3が二量体を(例えば、溶液内で)形成でき、これがさらに水素結合及び塩橋等の相互作用でSAGE1と複合体を形成することができる。SAGE1-INST3複合体の結晶構造が取り得る単位格子のパラメータは260.112±0.1Å、b=46.240±0.1Å、c=103.101±0.1Å、α=90±0.1°Å、β=113.280±0.1°Å、γ=90±0.1°Åである。SAGE1-INST3複合体において、SAGE1-INST3複合体の形成に関わる主要なアミノ酸残基には、典型的には、F838、F873、K874、R872、M832、及びQ840等が含まれる。
【0447】
本明細書に開示したSAGE1阻害薬は、SAGE1の発現及び/又は機能を阻害できる。例えば、SAGE1阻害薬は、SAGE1の発現及び/又は機能を部分的に阻害でき
る、すなわち抑制できるか、SAGE1の発現及び/又は機能を完全に阻害できる、すなわち排除できるが、この機能には、INTS3に結合してSAGE1-INTS3複合体を形成するSAGE1の能力が含まれる。SAGE1阻害薬として機能できる薬剤の種類は、当業者に公知のものである。例えば、阻害薬は拮抗薬及び遮断薬等である。別の例として、阻害薬は、核酸(例えば、mRNA)レベル又はタンパク質レベルでSAGE1発現を阻害できる。さらに別の例として、阻害薬は、INTS3に結合しようとSAGE1と競い合う薬剤であり得る。実施の形態によっては、前記SAGE1阻害薬は、核酸分子、タンパク質分子、又は化合物等である。核酸分子は、SAGE1に対する干渉RNA、SAGE1に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド、SAGEの発現をノックアウト又はノックダウンするための薬剤から選択されてよい。具体的には、SAGE1阻害薬は、siRNA、miRNA、shRNA、遺伝子ノックアウトベクター、又はsiRNA、miRNA、もしくは干渉RNA等を発現できる遺伝子発現ベクターであり得る。タンパク質分子は、モノクローナル抗体でもポリクローナル抗体でもよい抗SAGE1抗体から選択されてよい。一例として、INTS3と結合しようとSAGE1と競い合える薬剤は、INTS6(DDX26, Accession: NP_036273.1)又はINTS6L(DDX26b, Accession: Q8BND4.1)又はその組み合わせであり得る。実施の形態によっては、前記核酸分子は、SEQ ID Nos. 59-67のいずれかに示される配列を含む標的配列を標的とする。ある実施の形態では、前記核酸分子のポリヌクレオチド配列は、SEQ ID Nos. 87-95のいずれかに示される配列を含む。ある実施の形態では、前記核酸分子のポリヌクレオチド配列は、SEQ ID Nos. 96-99のいずれかに示される配列を含む。
【0448】
本明細書に開示した薬又はキットでは、SAGE1阻害薬を単一の活性成分として、又はその他の活性成分と組み合わせて、腫瘍の処置に用いることができる。
【0449】
本明細書に開示した薬又はキットで処置を施される腫瘍は、ほとんどの場合、SAGE1陽性腫瘍である。SAGE1陽性又は陽性のSAGE1発現とは、概して、SAGE1発現が存在すること、又は基準に対してSAGE1発現のレベルが高いことを指す。ある実施の形態では、陽性のSAGE1発現は、腫瘍組織におけるSAGE1mRNAの検出可能な発現によって示される。ある実施の形態では、陽性のSAGE1発現は、腫瘍組織におけるSAGE1タンパク質の検出可能な発現によって示される。ある実施の形態では、陽性のSAGE1発現は、腫瘍組織において、周囲の健康な組織と比較して高いSAGE1mRNAの発現が検出されることで示される。ある実施の形態では、陽性のSAGE1発現は、腫瘍組織において、周囲の健康な組織と比較して高いSAGE1タンパク質の発現が検出されることで示される。実施の形態によっては、前記腫瘍は、固形腫瘍又は血液系腫瘍であり、例えば、腸癌、肺癌、肝臓癌、乳癌、食道癌、頭頸部癌、皮膚癌、腎臓癌、白血病、結腸腺癌(coad)、肝臓肝細胞癌(lihc)、卵巣漿液性嚢胞腺癌(ov)、子宮体部内膜癌(ucec)、甲状腺癌(thca)、皮膚皮膚黒色腫(skcm)、肺腺癌(luad)、頭頸部扁平上皮癌(hnsc)、多形性膠芽腫(gbm)、前立腺腺癌(prad)、胸腺腫(thym)、脳低悪性度神経膠腫(lgg)、直腸腺癌(read)、褐色細胞腫および傍神経節腫(pcpg)、食道癌(esca),腎臓腎明細胞癌(kirc)、子宮頸部扁平上皮癌および内頸部腺癌(cesc)、膀胱尿路上皮癌(blca)、腎臓乳頭状腎細胞癌(kirp)、膵臓腺癌(pad)、胃腺癌(stad)、腎臓嫌色素性腺腫(kich)、乳房浸潤癌(brca)、肺扁平上皮癌(lusc)、肉腫(sarc)、及び急性骨髄性白血病(laml)等から選択される。
【0450】
別の態様において、本開示の組成物は、本明細書に開示したSAGE1阻害薬を含み、当該組成物は、腫瘍の処置、及び/又は、SAGE1複合体の発現レベルの調節に使用される。
【0451】
別の態様において、本開示は、例えば、個体及び細胞等におけるSAGE1―INTS
3複合体の発現レベルを調節するために用いられる調節方法を示す。例えば、この方法は、本明細書に開示した被験者に有効量のSAGE1阻害薬又は組成物を投与するステップを含む。
【0452】
別の態様において、本開示は、被験者に本明細書に開示したSAGE1阻害薬又は組成物の有効量を投与するステップを含む処置方法を示す。腫瘍に限定されないが、腫瘍を含む疾病の処置にこの方法が使用できる。実施の形態によっては、前記腫瘍は、固形腫瘍又は血液系腫瘍であり、例えば、腸癌、肺癌、肝臓癌、乳癌、食道癌、頭頸部癌、皮膚癌、腎臓癌、白血病、結腸腺癌(coad)、肝臓肝細胞癌(lihc)、卵巣漿液性嚢胞腺癌(ov)、子宮体部内膜癌(ucec)、甲状腺癌(thca)、皮膚皮膚黒色腫(skcm)、肺腺癌(luad)、頭頸部扁平上皮癌(hnsc)、多形性膠芽腫(gbm)、前立腺腺癌(prad)、胸腺腫(thym)、脳低悪性度神経膠腫(lgg)、直腸腺癌(read)、褐色細胞腫および傍神経節腫(pcpg)、食道癌(esca),腎臓腎明細胞癌(kirc)、子宮頸部扁平上皮癌および内頸部腺癌(cesc)、膀胱尿路上皮癌(blca)、腎臓乳頭状腎細胞癌(kirp)、膵臓腺癌(pad)、胃腺癌(stad)、腎臓嫌色素性腺腫(kich)、乳房浸潤癌(brca)、肺扁平上皮癌(lusc)、肉腫(sarc)、及び急性骨髄性白血病(laml)等から選択される。
【0453】
本明細書で使用する用語「被験者」とは、概して、本明細書に記載の薬剤、キット、又は化合物による処置で恩恵を受けることになると思われるヒト、ヒト以外の哺乳類、犬、猫、馬、羊、豚、牛などの霊長類を指す。
【0454】
本明細書で使用する用語「治療効果のある量」とは、概して、本明細書に記載の疾病の処置について適切な投与期間を経れば効果が出る量を指す。
【0455】
本明細書に記載のSAGE1遺伝子は、抗腫瘍薬剤の標的として用いられる。本開示は、SAGE1遺伝子が発現しないようにすることで、陽性のSAGE1発現を示す様々な腫瘍細胞(例えば、黒色腫細胞A375、十二指腸腺癌細胞HUTO80、結腸直腸腺癌細胞Caco-2、食道癌細胞TE1)の増殖、移動等が大幅に阻害できることを発見し、これは、SAGE1が様々な種類の腫瘍の腫瘍促進因子として機能することを意味する。また、SAGE1遺伝子が発現しないようにすることで、ヒト由来の固形腫瘍の成長を大幅に阻害でき、固形腫瘍における腫瘍細胞の死滅が促進されるため、この標的が重要な生理学的機能を有していることが分かる。さらに、SAGE1は様々な腫瘍細胞において特異的に発現するが、精巣以外の正常な組織ではそのようなことはない。SAGE1タンパク質は、通常、核酸にあるが、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)によってタンパク質のペプチドフラグメントが腫瘍細胞の表面に提示されるので、このことが標的治療における標的の認識及び/又は癌免疫療法における免疫活性化に利用できる。したがって、SAGE1を標的とした遺伝子干渉療法は、特異性が高く、SAGE1発現のない正常な組織に影響を与えることがないので、正常な生理学的機能又は健康を害さない。SAGE1の発現及び/又は機能を阻害するSAGE1阻害薬は、臨床腫瘍処置に大きな可能性がある。
【0456】
iii.SAGE1-INTS3複合体の発現及び/又は機能を調節する物質の使用
別の態様において、本開示は、腫瘍の処置用の薬剤又はキットの製造時におけるSAGE1-INTS3複合体の発現及び/又は機能を調節するための物質の使用を示す。
【0457】
実施の形態によっては、SAGE1-INTS3複合体の発現及び/又は機能を調節するための前記物質は、単一の活性成分である。
【0458】
実施の形態によっては、前記物質は、SAGE1-INTS3複合体の発現及び/又は機能の調節時に使用するためのものである。
【0459】
実施の形態によっては、SAGE1-INTS3複合体の発現及び/又は機能を調節するための前記物質は、核酸分子、タンパク質分子、及び化合物から選択される。
【0460】
実施の形態によっては、SAGE1-INTS3複合体の発現及び/又は機能を調節するための前記物質は、SAGE1阻害薬である。
【0461】
実施の形態によっては、前記SAGE1阻害薬は、SAGE1用の干渉RNA、SAGE1用のアンチセンスオリゴヌクレオチド、及びSAGE1発現をノックアウト又はノックダウンするための薬剤からなる群から選択される。
【0462】
実施の形態によっては、前記SAGE1阻害薬は、INTS3に結合しようとSAGE1と競い合う物質であり、且つ/又は前記SAGE1阻害薬は、INTS6及びINTS6Lから選択される。
【0463】
実施の形態によっては、前記腫瘍は、SAGE1陽性腫瘍である。
【0464】
実施の形態によっては、前記腫瘍は、固形腫瘍又は血液系腫瘍であり、好ましくは、腸癌、肺癌、肝臓癌、乳癌、食道癌、頭頸部癌、皮膚癌、腎臓癌、白血病、結腸腺癌(coad)、肝臓肝細胞癌(lihc)、卵巣漿液性嚢胞腺癌(ov)、子宮体部内膜癌(ucec)、甲状腺癌(thca)、皮膚皮膚黒色腫(skcm)、肺腺癌(luad)、頭頸部扁平上皮癌(hnsc)、多形性膠芽腫(gbm)、前立腺腺癌(prad)、胸腺腫(thym)、脳低悪性度神経膠腫(lgg)、直腸腺癌(read)、褐色細胞腫および傍神経節腫(pcpg)、食道癌(esca),腎臓腎明細胞癌(kirc)、子宮頸部扁平上皮癌および内頸部腺癌(cesc)、膀胱尿路上皮癌(blca)、腎臓乳頭状腎細胞癌(kirp)、膵臓腺癌(pad)、胃腺癌(stad)、腎臓嫌色素性腺腫(kich)、乳房浸潤癌(brca)、肺扁平上皮癌(lusc)、肉腫(sarc)、急性骨髄性白血病(laml)から選択される。
【0465】
別の態様において、本開示は、腫瘍の処置時に使用するための組成物を示し、前記組成物は、SAGE1-INTS3複合体の発現及び/又は機能の調節時に使用するための物質を含む。
【0466】
本開示は、多くの研究を重ねる中で、SAGE1すなわちX染色体(X:135895410-135913726, Xq26.3)に位置するCT-X癌精巣抗原が腸癌、肺癌、肝臓癌、乳癌、皮膚癌、頭頸部癌、白血病等、様々な腫瘍組織及び細胞で腫瘍特異性抗原として発現し、異常活性の後に様々な種類のヒト腫瘍においてINTS3と新たな機能複合体を形成することを思いがけず発見した。本開示は、SAGE1遺伝子/タンパク質又はSAGE1-INTS3複合体遺伝子/タンパク質を特異的に標的とすることで、SAGE1陽性癌細胞の増殖及び足場非依存性成長ならびにインビボ異種移植片の成長が大幅に抑えられることが分かり、これによって、腫瘍の処置に効果的な新たな標的を提供している。
【0467】
別の態様において、本開示は、腫瘍の処置用の薬剤又はキットの製造時におけるSAGE1-INTS3複合体の発現及び/又は機能を調節するための物質の使用を示す。本開示は、SAGE1-INTS3複合体は、SAGE1が発現してINTS3に結合する細胞にのみ存在する一方、SAGE1発現が陰性の細胞には存在しないことを発見した。SAGE1発現の減少による主な差次的遺伝子発現は、INTS3発現の減少によるそれと一致する。すなわち、SAGE1発現の減少に応じて上昇制御される遺伝子は、INTS
3発現の減少にも応じて上昇制御され、その逆も然りで、これは、SAGE1がINTS3と複合体を形成することで腫瘍関連遺伝子の発現の制御と変更を行っていることを示唆している。INTS3とSAGE1とは、共働するものであり(synergistic)、1つの複合体ユニットとして機能する。また、INTS3-SAGE1間の相互作用を乱すことによって、腫瘍細胞の成長を促進するSAGE1の能力を完全に消失させ、異種移植片の成長を大幅に阻害することができる。本開示は、腫瘍の成長を阻害するための標的としてSAGE1―INTS3複合体が機能できることを実証する。
【0468】
SAGE1-INTS3複合体とは、概して、タンパク質間相互作用で形成されるSAGE1とINTS3との複合体を指す。通常、INTS3が二量体を(例えば、溶液内で)形成でき、これがさらに水素結合及び塩橋等の相互作用でSAGE1と複合体を形成することができる。SAGE1-INST3複合体の結晶構造が取り得る単位格子のパラメータは260.112±0.1Å、b=46.240±0.1Å、c=103.101±0.1Å、α=90±0.1°Å、β=113.280±0.1°Å、γ=90±0.1°Åである。SAGE1-INST3複合体において、SAGE1-INST3複合体の形成に関わる主要なアミノ酸残基には、典型的には、F838、F873、K874、R872、M832、及びQ840等が含まれる。
【0469】
本明細書で使用する用語「処置」とは、所望の薬効及び/又は生理学的効果をもたらすことができる予防的、治癒的、又は緩和的な処置を指す。そのような効果は、好ましくは、疾病の1以上の症状を医学的に抑制すること、又は疾病を完全に排除すること、又は疾病の発生を阻止する、もしくは遅らせること、及び/又は疾病の進行もしくは悪化の危険性を低下させることを指す。
【0470】
SAGE1-INTS3複合体の発現及び/又は機能を調節するための物質は、SAGE1-INTS3複合体の発現及び/又は機能を阻害する物質であり得る。例えば、SAGE1-INTS3複合体の発現及び/又は機能を阻害するための物質は、SAGE1-INTS3複合体の発現及び/又は機能を部分的に阻害、すなわち抑制してもよく、SAGE1-INTS3複合体の発現及び/又は機能を完全に阻害、すなわち完全に排除してもよい。SAGE1-INTS3複合体の発現及び/又は機能を阻害するための物質は、上記の機能を果たすことができる物質(例えば、核酸分子、タンパク質分子、又は化合物等)であれば、いかなる物質でもよい。
【0471】
SAGE1-INTS3複合体の発現及び/又は機能を調節するための物質は、SAGE1阻害薬であり得る。SAGE1阻害薬は、SAGE1の発現及び/又は機能を部分的に阻害できる、すなわち抑制できるか、SAGE1の発現及び/又は機能を完全に阻害できる、すなわち排除できるが、この機能には、INTS3に結合してSAGE1-INTS3複合体を形成するSAGE1の能力が含まれる。SAGE1阻害薬として機能できる薬剤の種類は、当業者に公知のものである。例えば、阻害薬は拮抗薬及び遮断薬等である。別の例として、阻害薬は、核酸(例えば、mRNA)レベル又はタンパク質レベルでSAGE1発現を阻害できる。さらに別の例として、阻害薬は、INTS3に結合しようとSAGE1と競い合う薬剤であり得る。実施の形態によっては、前記SAGE1阻害薬は、核酸分子、タンパク質分子、又は化合物等である。核酸分子は、SAGE1に対する干渉RNA、SAGE1に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド、SAGEの発現をノックアウト又はノックダウンするための薬剤から選択されてよい。具体的には、SAGE1阻害薬は、siRNA、miRNA、shRNA、遺伝子ノックアウトベクター、又はsiRNA、miRNA、もしくは干渉RNA等を発現できる遺伝子発現ベクターであり得る。タンパク質分子は、モノクローナル抗体でもポリクローナル抗体でもよい抗SAGE1抗体から選択されてよい。一例として、INTS3と結合しようとSAGE1と競い合える薬剤は、INTS6(DDX26, Accession: NP_036273.1)又はINTS6L(DDX26b,
Accession: Q8BND4.1)又はその組み合わせであり得る。実施の形態によっては、前記核酸分子は、SEQ ID Nos. 59-67のいずれかに示される配列を含む標的配列を標的とする。ある実施の形態では、前記核酸分子のポリヌクレオチド配列は、SEQ ID Nos. 87-95のいずれかに示される配列を含む。ある実施の形態では、前記核酸分子のポリヌクレオチド配列は、SEQ ID Nos. 96-99のいずれかに示される配列を含む。
【0472】
本明細書に開示した薬又はキットでは、SAGE1阻害薬を単一の活性成分として、又はその他の活性成分と組み合わせて、腫瘍の処置に用いることができる。
【0473】
本明細書に開示した薬又はキットで処置を施される腫瘍は、ほとんどの場合、SAGE1陽性腫瘍である。SAGE1陽性又は陽性のSAGE1発現とは、概して、SAGE1発現が存在すること、又は基準に対してSAGE1発現のレベルが高いことを指す。ある実施の形態では、陽性SAGE1発現は、腫瘍組織におけるSAGE1mRNAの検出可能な発現によって示される。ある実施の形態では、陽性SAGE1発現は、腫瘍組織におけるSAGE1の検出可能な発現によって示される。ある実施の形態では、陽性のSAGE1発現は、腫瘍組織において、周囲の健康な組織と比較して高いSAGE1mRNAの発現が検出されることで示される。ある実施の形態では、陽性のSAGE1発現は、腫瘍組織において、周囲の健康な組織と比較して高いSAGE1タンパク質の発現が検出されることで示される。実施の形態によっては、前記腫瘍は、固形腫瘍又は血液系腫瘍であり、例えば、腸癌、肺癌、肝臓癌、乳癌、食道癌、頭頸部癌、皮膚癌、腎臓癌、白血病、結腸腺癌(coad)、肝臓肝細胞癌(lihc)、卵巣漿液性嚢胞腺癌(ov)、子宮体部内膜癌(ucec)、甲状腺癌(thca)、皮膚皮膚黒色腫(skcm)、肺腺癌(luad)、頭頸部扁平上皮癌(hnsc)、多形性膠芽腫(gbm)、前立腺腺癌(prad)、胸腺腫(thym)、脳低悪性度神経膠腫(lgg)、直腸腺癌(read)、褐色細胞腫および傍神経節腫(pcpg)、食道癌(esca),腎臓腎明細胞癌(kirc)、子宮頸部扁平上皮癌および内頸部腺癌(cesc)、膀胱尿路上皮癌(blca)、腎臓乳頭状腎細胞癌(kirp)、膵臓腺癌(pad)、胃腺癌(stad)、腎臓嫌色素性腺腫(kich)、乳房浸潤癌(brca)、肺扁平上皮癌(lusc)、肉腫(sarc)、及び急性骨髄性白血病(laml)等から選択される。
【0474】
別の態様において、本開示は、腫瘍の処置時に使用するための組成物を示し、前記組成物は、SAGE1-INTS3複合体の発現及び/又は機能の調節時に使用するための、本明細書に開示した物質を含む。
【0475】
別の態様において、本開示の処置方法は、SAGE1-INTS3複合体もしくは本明細書に開示した複合体の発現及び/又は機能を調節できる物質の有効量を被験者に投与するステップを含む。腫瘍に限定されないが、腫瘍を含む疾病の処置にこの方法が使用できる。実施の形態によっては、前記腫瘍は、固形腫瘍又は血液系腫瘍であり、例えば、腸癌、肺癌、肝臓癌、乳癌、食道癌、頭頸部癌、皮膚癌、腎臓癌、白血病、結腸腺癌(coad)、肝臓肝細胞癌(lihc)、卵巣漿液性嚢胞腺癌(ov)、子宮体部内膜癌(ucec)、甲状腺癌(thca)、皮膚皮膚黒色腫(skcm)、肺腺癌(luad)、頭頸部扁平上皮癌(hnsc)、多形性膠芽腫(gbm)、前立腺腺癌(prad)、胸腺腫(thym)、脳低悪性度神経膠腫(lgg)、直腸腺癌(read)、褐色細胞腫および傍神経節腫(pcpg)、食道癌(esca),腎臓腎明細胞癌(kirc)、子宮頸部扁平上皮癌および内頸部腺癌(cesc)、膀胱尿路上皮癌(blca)、腎臓乳頭状腎細胞癌(kirp)、膵臓腺癌(pad)、胃腺癌(stad)、腎臓嫌色素性腺腫(kich)、乳房浸潤癌(brca)、肺扁平上皮癌(lusc)、肉腫(sarc)、及び急性骨髄性白血病(laml)等から選択される。
【0476】
本発明において、「被験者」には、概して、製剤、キット、又は複合製剤による処置で
恩恵を受けることになると思われるヒト、ヒト以外の哺乳類、犬、猫、馬、羊、豚、牛などの霊長類が含まれる。
【0477】
本発明において、「治療効果のある量」とは、概して、適切な投与期間を経れば上記疾病の処置の効果が得られる量を指す。
【0478】
本明細書に記載のSAGE1-INTS3複合体は、抗腫瘍薬剤の標的として用いられる。SAGE1は、黒色腫、膀胱癌、肝臓癌、類表皮癌、非小細胞肺癌、及び扁平上皮癌等の様々な腫瘍の細胞表面で発現するが、精巣以外の正常な組織では通常は発現しない。SAGE1-INTS3複合体は、SAGE1発現が陽性のいかなる種類の腫瘍の治療標的としても効果的に機能でき、SAGE1発現が陽性の腫瘍の割合が比較的高い。SAGE1-INTS3複合体は、標的治療に用いられてきた他の標的とは異なる。遺伝子の変異ではなく、新たな複合体でSAGE1とINTS3とが相互に作用することで、標的治療における作用機序の基礎ができる。これは、生理学的条件下において、SAGE1発現が通常、精巣等の生殖器系でしか見られず、脳では低いレベルでみられるものの、他の組織ではみられない一方、SAGE1は様々な腫瘍組織ごとに異なる頻度で特異的に発現するという事実に基づくものでもある。精巣及び脳の内部のバリアによって、SAGE1/SAGE1-INST3遺伝子/タンパク質を特異的に標的としても正常な組織には影響しない。
【実施例
【0479】
特定の実施の形態(そのうちのいくつかは好適な実施の形態である)を参照し、本開示を具体的に示して説明してきたが、本明細書に開示した開示内容の趣旨を逸脱しない限り、形態及び詳細について様々な変更が加えられてよいことは当業者には理解されることである。
【0480】
実施例で用いる材料及び方法は、このセクションの最後に記載する。
【0481】
実施例1:正常な組織及び癌組織におけるSAGE1発現の分布
【0482】
SAGE1発現は精巣に限定され、体細胞組織の大部分でほとんど又は全く発現しない(図1A及び図1B)。GTExウェブサイト(https: //gtexportal. org/home/gene/)で可視化のために使用した各遺伝子のTPM値をGTExウェブサイト(https: //gtexportal. org/home/datasets)からダウンロードした。
【0483】
癌組織の場合、ほぼ全ての悪性腫瘍で異常に発現した(図1B)。TCGAプロジェクトにおける各遺伝子のFPKM値は、GDCウェブサイト(https: //portal. gdc. cancer. gov)から取得しており、exp(log(FPKM) -log(sum(FPKM)) + log(106))の式を使って、TPMに変換している。
【0484】
実施例2:TCGAにおける癌の種類ごとの全生存期間分析及びSAGE1発現レベルのパターン
【0485】
SAGE1は、その発現が癌細胞の増殖を促進し、癌患者の予後の悪さと関連する癌増殖遺伝子として同定される(図1C)。癌におけるSAGE1発現の生物学的意義を理解するために、TCGAデータセットを用いて生存曲線の分析を行った。汎癌におけるSAGE1の存在が予後の悪さに関連していた。また、汎癌におけるSAGE1発現のレベルが高いほど全生存期間が短くなることが分かり、このことは、SAGE1の発現が疾病のステージの進行及び予後の悪さと関連する傾向があることを示唆している。
【0486】
TCGAにおける癌の種類ごとにSAGE1発現レベルを分析し、正規化した個数に応じて、陰性(0RESM)、低発現(0.1857-11.2969RESM)、及び高発現(>11.30RESM)の3つのグループに分類した。
【0487】
実施例3:多様な腫瘍組織ごとのSAGE1発現レベル及びIHC染色によるPDXマウス処置効果実験
【0488】
正常な組織では発現が限定的であることに関し、健康な組織又は前癌部と比較して、精巣癌以外の多くの癌タイプ及び癌細胞株でSAGE1が高発現であることが分かった。
【0489】
組織学的に、SAGE1ノックダウン腫瘍では、IHC染色で示すとおり、SAGE1発現及び細胞増殖レベルの両方が実質的に抑制された(図4L)。顕著なことに、shSAGE1処置後のLUS-Pにおける7つの腫瘍のうち、4つはエンドポイントで検出不能となっており、残りの3つの残渣塊は線維性炎症となっていたものの病理学検査及びIHC検査で確認できる癌の遺残はみられなかった。
【0490】
実施例4:SAGE1陽性癌細胞はSAGE1に依存する
【0491】
癌におけるSAGE1の機能を調査するため、まず、腫瘍組織のウェスタンブロッティング(Western blotting)及びqPCR分析(図2B)によってSAGE1陽性癌細胞株(図2C)を同定した。5つの癌細胞株(図3A)におけるSAGE1(SAGE1-KD)に対し、短ヘアピンRNA(SEQ ID NO: 33 GCTGCAGTCACTCACAACAに示される配列を標的とするshRNA Y12682(SEQ ID NO: 128))を運ぶレンチウイルスによってSAGE1をノックダウンすると、リアルタイム細胞解析(RTCA)及び足場非依存性成長アッセイの両方で細胞の成長が鈍くなった(図3B)。さらにSAGE1のインビボ機能を調査するため、HuTu80親細胞及びSAGE1-KO細胞を並行して皮下注射することでヌードマウスにおける異種移植片の成長を調べた。親の異種移植片に比べ、SAGE1-KO HuTu80異種移植片には著しい成長抑制がみられた(図3C)。また、SAGE1陽性のブドウ膜黒色腫細胞株(MUM2B)由来の直交異方性モデルにおいて、SAGE1がノックダウンされると、コントロールグループに比べて輝度シグナルが大幅に低下するが(P<0.001、図3D)、眼内播種の5日後にベースラインを撮像すると、同じ輝度を示す(図3D)。さらに、SAGE1-KDグループの生存期間の方がかなり優れていることが観察された(図3E)。まとめると、これらの結果によって、SAGE1がSAGE1陽性癌細胞の腫瘍形成上の成長にとって重要であることが実証された。定量PCRで異なるsiRNA(SEQ ID NOs: 70-81)を用いてKYSE30におけるSAGE1KDの能力をテストした(図3F)。
【0492】
実施例5:SAGE1が癌細胞の増殖及び細胞周期に関わる複数の経路を制御する
【0493】
癌細胞におけるSAGE1の機能をタンパク質レベルでさらに調査するため、これらの成長因子によって活性化される受容体チロシンキナーゼ(RTK)のタンパク質の産物について、SAGE1欠失癌細胞では、リン酸化レベルが低くなるであろうとモニタリングした。SAGE1-KD Hutu80細胞においては確かに、EGFR、FGFR1、FGFR3、Met、Kit、FLT3、及びPDGFαのリン酸化が明らかに抑制されており、SAGE1がRTK介在経路の制御において重要な役割を担っていることが強く示唆された。また、Wnt、TGF--β、JAK-STAT、及びNotch経路における主要なシグナル分子のリン酸化が著しく抑制されていることを観察し、これらの経路もまたSAGE1によって制御されていることを確認した。ウェスタンブロッティング(Western blotting)による分析によれば、SAGE1-KD細胞においてSAGE1制御転写因子のタンパク質が明らかに減少していることも分かった(図9A)。
【0494】
これらのSAGE1制御経路すべての主な下流効果は、細胞増殖である。癌細胞の増殖に関するSAGE1の効果を直接的に評価するため、WT及びSAGE1-KDの両方の状態における複数のSAGE1陽性癌細胞株の蛍光活性化セルソーティング(FACS)分析を行った。定量的測定によって、SAGE1をノックダウンすると細胞周期のGo/G1期で静止し、G2/M期に入らないようにブロックされることが分かり(図9B)、SAGE1がSAGE1陽性癌細胞における細胞増殖の重要な役割を担っていることが示唆された。
【0495】
患者由来の初代腫瘍細胞におけるSAGE1の機能をさらに調査するため、初代HCC-P細胞におけるHCC-Pコントロール及びSAGE1-KDに対してWB及びTMT標識化MS-bacを行った(図9C及び図9E)。その結果、RTK、細胞周期に関連するタンパク質、及び転写因子の発現がSAGE1に依存していることが分かり、HCC-P細胞における遺伝子発現プログラムは、HuTu80細胞の場合と同様に、SAGE1によって制御されていることが示された。これと同じく、FACS及びKi67染色データからもGo/G1期で明らかに静止することが見てとれ(図9D)、MS分析によって、SAGE1-KD HCC-P細胞においてほとんどの細胞周期遺伝子の発現が減少したことが明らかになった。これらの結果から、SAGE1が初代肝臓癌細胞における細胞周期制御にも不可欠であることが分かった。まとめると、SAGE1が複数の癌経路を活性化させることで腫瘍細胞を増殖させる汎癌マスター調節因子であることが我々の分析で実証された。
【0496】
実施例6
【0497】
患者由来の組織及び初代腫瘍細胞におけるSAGE1の機能をさらに調査するため、SAGE1についてqPCR及びウェスタンブロッティングによる分析を行った(図2B及び図2C)。正常な組織では発現が限定的であることに関し、健康な組織又は前癌部と比較して、多数の癌細胞株及び腫瘍組織でSAGE1が高発現であることが分かった。さらに、60個の大腸癌(CRC)組織及び対応する前癌部のqPCR分析によって、このSAGE1の癌特異性発現プロファイルを確認した(図2D)。
【0498】
実施例7.SAGE1を標的とすると癌の進行を妨げる新たなアプローチの効果を高める
【0499】
次に、SAGE1陽性癌細胞の増殖にはSAGE1が必要であることから、SAGE1を標的とすることが有効な抗癌治療ストラテジーになるか否かを直接評価した。免疫組織化学(IHC)染色によって初期継代の患者由来の異種移植片(PDX)の大型パネルをスクリーニングし、SAGE1陽性腫瘍を探した(図15)。異なる癌タイプに由来する7つのSAGE1陽性PDX、すなわち、肝細胞癌(HCC-P)、肺扁平上皮癌(LUS-P)、肺腺癌(LUA-P)、結腸癌(CRC-P)、口腔咽頭扁平上皮癌(OSC-P)、胆嚢癌(GBC-P)、及び食道扁平上皮癌(ESC-P)をインビボSAGE1-KD治療のために用意した。2つのSAGE1陰性PDX、すなわちHCC-N及びLUS-Nをコントロールとして用いた。
【0500】
shRNA82(SEQ ID NO: 80)をアデノウイルスに組み込み、PDXマウスに投与した。この処置によって腫瘍の体積及び重量が85%以上の平均成長抑制率(P<0.001)で著しく減少し、SAGE1が腫瘍の成長において重要な役割を担っていることを示した(図4A図4L)。顕著なことに、shSAGE1処置後のLUS-Pにおける7つの腫瘍のうち、4つはエンドポイントで検出不能となっており、残りの3つの残渣塊は線維性炎症となっていたものの病理学検査及びIHC検査で確認できる癌の遺残はみら
れなかった(図4J図4L)。全く対照的に、2つのSAGE1陰性腫瘍、すなわちHCC-N及びLUS-Nにおいて、同じアデノウイルス処置を施したが、投与期間中に腫瘍の成長について目立った効果はなく、平均成長抑制率は3.08%であり、SAGE1陽性PDXにみられた腫瘍の抑制がSAGE1に特異的であったことが強く示唆された(図4M図4O)。特筆すべきは、shSAGE1で処置を施した動物について、体重、外見、及び行動パターンに大きな変化はなく、臓器損傷の兆候もなかった(図4O)ことであり、shSAGE1の投与について、臓器レベルでも生体内レベルでもオフターゲット効果は検出されなかったことになる。まとめると、我々の前臨床データによれば、SAGE1は複数の癌タイプの腫瘍形成上の成長にとって重要である。SAGE1のノックダウンが腫瘍の成長を鈍化させるということは、このような腫瘍がSAGE1に依存してきているということ、また、SAGE1を標的とすることがSAGE1陽性腫瘍に対する新たな治療ストラテジーになり得るということを示唆している。
【0501】
実施例8.癌細胞におけるINTS3との結合のためにSAGE1がINTS6と競い合う
【0502】
腫瘍形成におけるSAGE1の機能を力学的に洞察するため、抗SAGE1抗体によってHuTu80細胞に引きこまれた内因性SAGE1複合体のプロテオーム解析を行った。この複合体は、SDS-PAGEで分解され、銀染色によって可視化させて、MS分析が行われた(図6A及び図14A図14D)。CBP(CRBP結合タンパク質)、TLE(Groucho/Transducin-Like Enhancer of Split)タンパク質、INTS3(インテグレータ複合体の成分)、及びINTS3結合パートナーであるNABP(核酸結合タンパク質)及びINIP(INTS3とNABPとの相互作用タンパク質)(図6B)等、転写制御に関連付けられていた多数のタンパク質を信頼性の高いSAGE1の相互作用分子として再現性のある方法で同定した。特に、他のSAGE1発現癌細胞株におけるSAGE1複合体のプロテオーム解析でも同じグループのタンパク質を同定したので、これらのタンパク質が、癌細胞において、SAGE1と相互作用する真の因子であることが強く示唆された(図6B)。SAGE1とこれらのタンパク質との相互作用は、さらに、免疫共沈降(co-IP)分析によって確認された(図6C及び図6D)。
【0503】
INTS3(INTS3CTD、残基572~978、SEQ ID NO: 9)のC末端ドメインがINTS6(残基803~887、SEQ ID NO: 10)のC末端における小さなドメインとの直接的な相互作用を仲介することは、過去の研究で示唆されていた。このデータと一致するが、INTS3CTD及びINTS6803-887を同時に精製し、これらがサイズ排除クロマトグラフィー分析が可能な、安定した二元複合体を形成したことが分かった(図8A及び図8B)。興味深いことに、SAGE1の小さなC末端領域(残基818~904、SEQ ID NO: 8)は、INTS6803-887と配列がよく似ているので(43%の同一性及び82%の類似性)(図6E及び図6F)、SAGE1818-904がINTS6803-887に似た3次元構造を有する可能性が高く、INTS3CTDとの相互作用も仲介し得ることが分かる。確かに、SAGE1818-904は平衡解離定数が~39nMでINTS3CTDに結合できることは等温熱量(ITC)測定によって分かっている(図6G)。したがって、以降はSAGE1818-904及びINTS6803-887をそれぞれSAGEI3BD及びINTS6I3BD(SAGE1とINTS6とのINTS3結合ドメイン)と呼ぶ(図6E)。
【0504】
SAGEI3BDがINTS6I3BDとよく似ているため、これらはINTS3CTDと互いに排他的な方法で相互作用する可能性が高い。この発想をテストするため、精製したINTS3CTD-INTS6I3BD複合体をGSTタグSAGEI3BDと混ぜ合わせ、GSTプルダウン解析を行った。このインビトロ競合アッセイによって、SAGEI3BDが確かにINTS6I3BDと競い合い、INTS3CTDとより高い親和性
で結合するということがはっきりと分かった(図6H)。このインビボ競合をさらにテストするため、SAGE1陰性293T細胞におけるINTS3相互作用タンパク質をIP-MS分析で調べた。抗INTS3抗体は、INTS6とインテグレータのその他の成分すべてとをプルダウンできたことから、INTS3は293T細胞においてインテグレータのサブユニットとして存在していると思われる(図6I)。これに対し、同じアプローチではSAGE1過剰発現293T細胞におけるINTS6をプルダウンすることはできなかった(図6I)。その代わり、SAGE1はプルダウンアッセイで確実に検出できることから(図6I)、293T細胞において異所的に発現したSAGE1がINTS3-INTS6間の相互作用を妨げ、インテグレータからINTS3を取ることで新たにSAGE1-INTS3複合体を形成できるということが分かった。
【0505】
実施例9.INTS3CTD-SAGE1I3BD複合体の結晶構造
【0506】
SAGE1がINTS3と相互作用するためにINTS6とどのように競い合うかを理解するため、まず、INTS3CTDの結晶構造を単波長異常分散(SAD)法によって2.3Åの解像度で決定した(図7A、PDBにおいてコード7C5Tで保管されている座標)。INTS3CTDは、密集した23個のヘリックスからなり、立体配座は細長い棒状になっている(図7A)。特に、INTS3CTDは、結晶に二量体の立体配座が採用され、その二量体界面には、疎水性相互作用と静電相互作用の両方がみられ、全体で1620Åの溶媒露出表面積を持つ(図8C図8D、及び図8E)。較正サイズ排除クロマトグラフィーを用いた実験によって、INTS3CTDの溶出ピークが~95kDaの分子量に相当することが分かり(図8A)、INTS3CTDも溶液中で二量体として存在することが確認された。また、INTS3-INTS6タンパク質複合体も精製した(図8B)。
【0507】
次に、SAGE1I3BD-INTS3CTD複合体を結晶化し、その構造を2.9Åの解像度で分子置換によって決定した(図7B図7D及び図12、PDBにコード7C5Uで保管されている座標)。SAGE1I3BD-INTS3CTD複合体の構造において、SAGE1I3BD分子は、1対2の化学量論組成比でINTS3CTDの二量体に結合する(図7B)。なお、ITC測定値からもSAGE1I3BD-INTS3CTD間の相互作用における化学量論組成比が1対2であることが分かった(図7H)。SAGE1I3BDは、4本のヘリックス束であり、INTS3CTD二量体のジョイント部分に位置する(図7B図7D)。SAGE1I3BDにおいてヘリックスをつなげる2本の内部ループが疎水性相互作用と静電相互作用の両方によってINTS3CTD二量体との接触を仲介する(図7E及び図8F)。INTS3CTD二量体における接触面は、酸性度が高く、電荷相補性および形状相補性の両方によって、SAGE1I3BDの塩基性残基のパネル(Lys833、Arg836、Arg872、及びLys874)と相互作用する(図8F及び図8G)。この酸性のINTS3CTD表面の中心付近には疎水性ポケットが2つ隣接してある。Phe838SAGE1の側鎖がキャビティが深い方のポケットに入り込み、もう1つのフェニルアラニンPhe873SAGE1が浅い方に置かれる。なお、SAGE1I3BDはINTS3CTDの二量体状態には干渉しないが、INTS3CTD二量体に結合することで、Phe805INTS3及びTyr808INTS3の芳香族側鎖の構造が対称から非対称へ遷移し、これによって、SAGE1I3BDと効率的に結合するための2つの疎水性ポケットが形作られる(図7E図8C図8E、及び図8F)。INTS3CTD二量体及びSAGE1I3BD-INTS3CTD複合体の相互作用に関わった残基は同定される(図13A及び図13B)。
【0508】
INTS6I3BDとSAGE1I3BDとは配列の一致度が高いことから、SAGE1I3BD-INTS3CTD複合体構造に基づいてINTS3CTD-INTS6I3BD界面をモデリングした。予想通り、プロリン置換(Phe838SAGE1からPr
o823INTS6)以外、INTS6I3BD-INTS3CTD界面は、SAGE1I3BDとINTS3CTDとの界面とほぼ同じである(図7F)。なお、このプロリン置換は、エネルギー的に好ましくないキャビティを生むことが予想されるもので、INTS6I3BDとINTS3CTDとの相互作用の弱さの理由である(図7F)。このように、これらの構造データは、癌細胞におけるSAGE1発現によってINTS3とINTS6との相互作用が妨げられ、新たにSAGE1-INTS3複合体が形成され得ることの確かな根拠となる。
【0509】
実施例10:SAGE1-INTS3間の相互作用が癌細胞の増殖に不可欠である
【0510】
SAGE1-INTS3間の相互作用のインビボ機能を研究するため、まず、INTS3とSAGE1の欠失変異体(SAGE1ΔI3BD)との相互作用を調べた。Co-IP実験によって、SAGE1-INTS3間の相互作用にはSAGE1のI3BDドメインが必要であることが分かった(図7G)。次に、Phe838等の界面にある6つの重要な残基がアラニンに置換された変異SAGE1(SAGE1mut)を生成し、これらの変異によってSAGE1-INTS3間の相互作用が完全に無くなったことを確認した(図7G及び図7H)。Co-IPデータによれば、ITC分析では、INTS3CTDと変異SAGE1I3BDとの検出可能な相互作用は認められず(図7H)、結晶構造におけるSAGE1とINTS3との観察界面がSAGE1-INTS3間の相互作用に不可欠であることが裏付けられた。
【0511】
SAGE1とINTS3との相互作用が癌細胞の増殖に重要であるか否かを調べるために、野生型(WT)SAGE1及び変異SAGE1をそれぞれSAGE1-KO HuTu80細胞及びSAGE1-KD Caco2細胞に導入した。WT SAGE1の発現によって両方の細胞株で細胞の成長が復活し、SAGE1-KO HuTu80細胞及びSAGE1-KD Caco2細胞で観察された抑制がSAGE1に特異的であったことが裏付けられた(図7I及び図7J)。全く対照的に、SAGE1mutでは、WT SAGE1よりもさらに高いレベルで発現したものの、細胞増殖能は回復しなかった。次に、軟寒天及び異種移植片によるアッセイにおいて、WT又は変異SAGE1で復活したSAGE1-KO HuTu80細胞を用いて、SAGE1-INTS3間の相互作用の影響をさらに調査した。細胞成長データと一致するが、変異SAGE1ではなく、WTの異所性発現によって、SAGE1-KO HuTu80細胞の足場非依存性成長が助けられることで腫瘍の体積及び重量が増加する(図7K及び図7L)。まとめると、これらの変異解析によって、SAGE1-INTS3間の相互作用が癌細胞の増殖に不可欠であること、また、この相互作用を妨げることでSAGE1の腫瘍形成機能を弱めることができることが分かった。
【0512】
実施例11:尾静脈注射アッセイによるインビボ転移分析
【0513】
この実験では、インビボ腫瘍形成転移にとってSAGE1が重要であることが示される。SAGE1のノックダウンが腫瘍の転移を鈍化させるということは、このような腫瘍がSAGE1に依存してきているということ、また、SAGE1を標的とすることがインビボSAGE1陽性腫瘍に対する新たな治療ストラテジーになり得るということを示唆している。
【0514】
転移の実験モデルでは、shSAGE1処置によって腫瘍の転移が抑制された。尾静脈にHCC-P、LUAD-P、LUSC-PのPDX由来の細胞を注射した。7~10日後、尾静脈注射によってマウス1匹あたり4×1011個のゲノムコピーでAAV制御又はAAV-SAGE1(SEQ ID NO: 33 GCTGCAGTCACTCACAACAに示される配列を標的としたshRNA Y12682(SEQ ID NO: 128)を運ぶもの)の処置をレシピエントに施
した。70~90日後、転移性腫瘍の存在について、PET-CTでこれらの動物の評価を行った。マウスの健康状態が悪化した場合、予定を早めて分析を行った。全身腫瘍組織量を体積×SUV-bw平均値で計算し、T検定で分析した。HCC-Pマウスの生存時間を計算し、カプラン・マイヤー法で分析した。マウスを安楽死させ、臓器を解剖し、ヘマトキシリン・エオジン及びMHC-Iで染色することで転移性腫瘍の存在について評価を行った(図5A図5C)。
【0515】
実施例12
【0516】
SAGE1が高発現であることが腫瘍のドライバー変異と関連しているのか否かをさらに研究するため、TCGAデータでさらなる分析を行った(図10A及び図10B)。このSAGE1高発現患者の場合、SAGE1の高発現(SAGE1の発現レベルの上位6%)と相関性が高いTP53の体細胞変異及びタンパク質のみをコードするTP53の変異が残った(Frame_Shift_Del、Frame_Shift_Ins、In_Frame_Del、In_Frame_Ins、Missense_Mutation、Nonsense_Mutation、Nonstop_Mutation、Splice_Site、及びTranslation_Start_Site)。
【0517】
実施例13:SAGE1遺伝子の局在性、制御、メチル化に関する分析
【0518】
肉腫抗原1(SAGE1)は、X染色体に位置するCTA遺伝子であって、推定904アミノ酸タンパク質をコードし、Xq26.3、GRCh38.p13(Genome Reference Consortium Human Build 38 patch release 13)に位置する、遺伝子ID:55511のSAGE1肉腫抗原1[ホモ・サピエンス(ヒト)]であって、ヒト遺伝子の特定位置は、ChrX: 135,893,700..135,913,062である(図11A)。
【0519】
さらにCAGE(cap analysis of gene expression)分析によって、K562において、SAGE1の転写開始部位はChrX: 135893700(すなわち第1エクソンの5’端)付近に位置することが分かった(白矢印)。ChIP分析では、SAGE1が活性化された場合、明らかなH3K27Ac及びH3K4Me3修飾シグナル(灰色矢印)及び多数の転写因子結合シグナル(黒矢印)が部位付近にあったことが分かった(図11B)。
【0520】
全ゲノムDNAメチル化配列(全ゲノム重亜硫酸塩配列決定WGBS(Whole Genome Bisulfite Sequencing))分析によって、SAGE1の転写開始部位の2kb(-1kb~1kb)以内においてDNAメチル化修飾に明らかな違いがある(chrX: 135, 892, 700-135, 894, 700)(紫矢印)ことが分かり、高SAGE1発現の細胞は、この部位でのDNAメチル化レベルが低く、低SAGE1発現の細胞又はSAGE1発現がない細胞は、この部位でのDNAメチル化レベルが高い。これにより、DNA脱メチル化がSAGE1発現の制御に関わっていることが分かる(図10C)。
方法:
【0521】
1.全生存期間
【0522】
カプラン・マイヤー法でログランク検定を用いて生存期間の分析を行った。全生存期間とは、最初の外科的切除から死亡時又は最後の経過観察時(打ち切り)までの期間とした。陰性(0RESM)、低発現(0.1857-11.2969RESM)、高発現(>11.30RESM)に準じて、TCGAデータベースを陰性グループ、低レベルSAGE1発現グループ、及び高レベルSAGE1発現グループに分類した。
【0523】
Rソフトウェア、バージョン4.0.2を用いて全ての分析を行った。両側p値<0.05は、統計的には大きいと考えられる。
【0524】
2.足場非依存性成長アッセイ
【0525】
軟寒天コロニー形成試験では、0.35%のFisher低融点寒天を含む成長培地に2×103個の細胞を加え、6ウェルプレートにおける0.7%Sigma寒天ベッド上に重ねた。続いて、培養皿を冷蔵庫(4℃)に移して15分置き、室温で10分置いた後、細胞培養インキュベータ(37℃)に移した。細胞培地は3日ごとに補充した。2~3週間後、培地をオーバーナイトでpiodonitroneotetrazolium violet(Sigma-Aldrich、#146-68-9)染色し、MiniCount Colony Counter(Imaging Products International、#013100708)を用いて撮像した。コロニーを数え、3つの個別実験から平均値±SDとしてデータ化した。
【0526】
3.WB
【0527】
次に挙げる抗体、すなわち、ウサギ抗SAGE1ポリクローナル抗体(Novus Biologicals、#NBP1-84355)、ウサギ抗INTS3ポリクローナル抗体(Novus Biologicals、#NBP1-19091)、マウス抗Hisモノクローナル抗体(Proteintech、#66005-1-Ig)、ウサギ抗FLAGポリクローナル抗体(Proteintech、#20543-1-AP)、マウス抗STREPIIモノクローナル抗体(Abcam、#ab184224)、ウサギ抗TLE3ポリクローナル抗体(Proteintech、#11372-1-AP)、マウス抗GAPDHモノクローナル抗体(Proteintech、#60004-1-Ig)、ヤギ抗ウサギIgG(H+L)、HRP複合体(Proteintech、#SA00001-2)、ヤギ抗マウスIgG(H+L)、HRP複合体(Proteintech、#SA00001-1)を用いてウェスタンブロットを行った。
【0528】
タンパク質を4~20%の濃度勾配のSDS-PAGEゲル(Genescript、#M42012C)で分解し、PVDF膜に移した。その後、希釈した1×TBSTバッファ(Sangon、#tbst-C520009)の5%の脱脂乳でこれらの膜をブロックし、4℃で一次抗体を用いてオーバーナイトでプローブし、その後、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)-共役ロバ抗マウス、抗ウサギ、又は抗ヤギ抗体を室温で1時間培養した。膜洗浄を3回行った後、Western Lightning ECL Pro(PerkinElmer、#NEL122001EA)又はECL Prime Western Blotting検出試薬(Amersham、#RPN2232)で免疫複合体を検出した。
【0529】
4.細胞周期及びKi67テスト
【0530】
インビボSAGE1ノックダウン実験のため、免疫組織化学でストレプトアビジン-ビオチン複合体(SABC)法を用いてSAGE1及びKi67を検出した。LUSC-Pについては、腫瘍残基の組織学的変化を示すため、ヘマトキシリン及びエオシンによる染色を行った。汎サイトケラチン染色によって、SAGE1shRNA処置後の組織において腫瘍性成分に代わる線維性炎症の変化がみられた。SAGE1、Ki67、及び汎サイトケラチンに対する一次抗体は、それぞれ、1:300、1:100、1:200の濃度で使用した。この研究で使用した全ての抗体は、製造元が標的としたものにのみ反応することが確認されている。
【0531】
5.IHC
【0532】
非特定化ヒト正常組織及び癌組織を上海芯超生物科技有限公司(Shanghai OUTDO Biotech Co. Ltd)(中国、上海)から取得した。SAGE1を検出するため、免疫組織化学でストレプトアビジン-ビオチン複合体法を使用した。免疫蛍光染色のため、HuTu80由来の異種移植組織及びHCC-PDX組織の切片を新しいキシレン中でそれぞれ15分間2回脱ロウし、100%、95%、75%、50%のエタノール及びPBSでそれぞれ
10分間再水和した。切片をTUF TARGET UNMASKING FLUID(Invitrogen、Z00R.0000)に入れて20分間沸騰させることで、エピトープ賦活化を行った。その後、スライドをPBST(0.5%のトリトンX-100を補充したPBSバッファ)で洗浄し、5%のBSAを用いてRTで3時間ブロックした後、4℃でウサギ抗SAGE1ポリクローナル抗体(Novus NBP1-84355)又はウサギ抗INTS3ポリクローナル抗体(Novus NBP1-19091)を用いてオーバーナイトで培養してから洗浄し、Alexa Fluor 555又は488共役二次抗体(Proteintech)を用いて培養した。核はDAPI(Sigma)で対比染色した。スライドをPBSTでよく洗浄してマウントし、レーザ走査型共焦点顕微鏡を用いて可視化した。
【0533】
6.LC MS/MSベースのプロテオミクス及びデータ処理
【0534】
ソニケーションによって細胞を溶解バッファ(8Mの尿素、1%のSDS、100mMのトリス塩酸、pH8.5、1mMのPMSF、1:100(vol/vol)のプロテアーゼ阻害薬カクテル(スイス、ロシュ)を含む)で溶解した。溶解物を氷上で30分培養した後、16000gを30分間、4℃で遠心分離することで、溶けないデブリを除去した。上清のタンパク質濃度をPierceTM BCA Protein Assay Kit(Thermo Scientific)によって測定した。ジスルフィド架橋を10mMのトリス(2-カルボキシエチル)-ホスフィン(TCEP)を用いて室温で10分間還元した後、15mMのヨードアセトアミドを用いて室温で暗所において30分間アルキル化を行った。SDSを除去するため、アセトン沈殿を行った。タンパク質サンプルをpH8.0の4Mの尿素及び40mMのトリス塩酸に再懸濁させた。まず1:100でLys-C(Wako)を3時間かけて加え、1:50でトリプシン(Promega)をオーバーナイトで加えることで、2段階の消化を37℃で行った。C18RP固相抽出カートリッジ(Waters)を用いて消化物を脱塩し、真空分離(Labconco)で溶出物を乾燥させた。製造元の指示に従ってTMT標識化を行った。簡潔に述べると、100mgのペプチドを50mMのTEABバッファ(phは8.5)100mLに浸してもどした。TMT 6-plex剤(ThermoFisher)を0.8mgずつアセトニトリル41mLに浸してもどしてから、ペプチドの対応するアリコートに加えた。標識化反応は、室温で1時間培養した後、5%のヒドロキシルアミンを8ml加えてクエンチした。標識ペプチドを組み合わせ、C18カラムカートリッジ(Waters)を用いて脱塩した。TMT標識ペプチドをAgilent 1200 HPLCを用いてAcquity BEH300 C18 Column(300Å、1.7μm、1mm×150mm、Waters)の高pH逆相クロマトグラフィーで断片化した。ペプチドは32個の断片に分離され、これを15個の断片にまとめた。セルフパック式のStageTipを用いて各断片を脱塩し、真空遠心分離で乾燥させ、LC MS/MS分析用に0.1%のギ酸に浸してもどした。各断片は、社内のパックドキャピラリーカラム(20 cm x 75 μm i.d., ReproSil-Pur C18、粒子径1.9μm、細孔サイズ120Å、Dr. Maisch)を用いてEASY-nLC 1200 UHPLC(ThermoScientific)で150分以上のLCグラジエントで250nL/minの流速(4~8%バッファBで8分間、8~25%バッファBで105分間、25~40%バッファBで30分間、40~80%バッファBで7分間、バッファAは水に0.1%のギ酸、バッファBはアセトニトリルに0.1%のギ酸及び20%の水)で分離した。マスデータは、SPS-MS3法を用いてOrbitrap Fusion Lumos質量分析計(ThermoScientific)で取得した。スキャン範囲を375~1500m/zとし、AGC標的を4×105とし、最大イオン注入時間(MIT)を20msとし、ダイナミックエクスクルージョンを60sとして、60Kの解像度でMS1スキャンを集めた。MS2分析のため、単離ウィンドウを0.7m/zとし、AGC標的を1×104とし、MITを50msとして、MS1プリカーサーイオンを四重極で単離し、35%の正規化衝突エネルギーの衝突誘起解離で断片化した。MS2断片イオンを「高速」スキャンのイオントラップで検出した。各MS2スペクトルを取得した後、MS2スペクトルにおける強度が上位10個のイオンにSPS(synchronous precursor selection)のMS3スキャンを行った。単離ウィンドウを0.7m/zとし、AGC標的を5×104とし、MITを100msとしてSPS―MS3プリカーサーを単離した後、HCDを用いて活
性エネルギーを65%として断片化を行い、Orbitrapを用いて15kの解像度で検出を行った。
【0535】
同定、定量化、及び差次的発現の分析は、Proteome Discover 2.2(ThermoScientific)を用いて行った。簡潔に述べると、TMT定量化の原データをProteome Discover 2.2(ThermoFisher)を用いて加工した。Sequest HT検索エンジンによってヒト参照プロテオーム(UP000005640)に対してMS/MSスペクトルを検索した。MS1の許容範囲は10ppmに設定し、MS2の許容範囲は0.6に設定した。タンパク質分解酵素としてトリプシンを特定したので、2箇所以下の切断ミスは許容される。システイン残基のカルバミドメチル化(+57.0214 Da)ならびにペプチドN末端及びリシン残基のTMTタグ(+229.1629 Da)を静的修飾として設定した。メチオニンの酸化及びタンパク質N末端のアセチル化を可変修飾として設定した。並行してデコイ(decoy)データベース検索も行い、ペプチドスペクトルマッチ(PSM)及びタンパク質の両方について偽発見率(FDR)を1%に設定した。TMTレポーターイオンの信号対雑音比(S/N)の値をMS3スキャンから取得し、MS2のペプチドの同定とペアリングした。S/Nの平均値が10未満又は共単離干渉イオンが25%より多いPSMは排除した。異なるTMT試薬の同位体不純物に応じてS/N測定値を調整した。タンパク質ごとにその量を当該タンパク質にマッチする全てのPSMのS/N値を合計して算出した。各経路の全てのタンパク質の信号の合計が同じになるようにタンパク質量を正規化した。各タンパク質測定値に両側t検定を適用した後、ベンジャミーニ・ホッホベルク(Benjamini-Hochberg)法を用いて複数の検定上の補正を行った。倍率変化(fold change)>1.5でベンジャミーニ・ホッホベルク調整p値<0.05のタンパク質は、差次的に発現するタンパク質であると考えられる。
【0536】
7.実験動物
【0537】
BALB/cヌードマウスの飼育及びあらゆる処置は、動物実験委員会(Institutional Animal Care and Use Committee)によって認められ、1986年(英国)(2013年改正)の動物(科学的処置)法に準じたものとした。本願の全セクションが動物を使用した研究の報告のためのARRIVEガイドラインに従っている。全てのマウスは特定病原体のない(SPF)状態において個別換気されたケージで飼育されていた(1ケージにつき5匹)。飼育室は温度管理され、12時間ずつの明暗サイクルが保たれていた。動物の体重は1日置きに測定した。
【0538】
8.細胞株由来の皮下異種移植片
【0539】
雄のBALB/c胸腺欠損ヌードマウス(生後4~6週)をSIBSの実験動物センターから得た。上述のとおり、HuTu80親細胞及びSAGE1-KO細胞(100μLに3×106細胞)をマウスの脇腹に皮下注射した。最終的には腫瘍組織をこのマウスから切除し、重さを測った。腫瘍重量のデータは平均値±SD(n=6)で示される。動物実験は、上海第9人民医院(shanghai ninth people’s hospital)、上海交通大学医学院(Jiaotong University School of Medicine)の動物愛護協会(SH9H-2019-A727-1)に認められているもので、中華人民共和国国家衛生与計画生育委員会(National Health and Family Planning Commission of China)が制定したガイドラインに準ずる上海交通大学(Shanghai JiaoTong University)の動物に関する指針に従って実行した。
【0540】
9.細胞株由来の眼内ブドウ膜黒色腫異種移植片
【0541】
ブドウ膜黒色腫細胞株MUM2Bをplvx-luciferase-mCherry-Blasticidinベクターがコードしたレンチウイルスでプレトランスフェクトした。細胞をPBSで2回洗浄し、ト
リプシン処理で採取した。まず、BALB/cヌードマウス(雄、生後6週間)に表面麻酔剤ベノキシール(Benoxil)で麻酔をかけた。眼の乾燥を防ぐためにメトセル(Methocel)点眼薬を使用した。外科用顕微鏡を用いて注射を行った。ハミルトンシリンジを用いて3×104個のブドウ膜黒色腫細胞を含む2ulの滅菌リン酸緩衝生理食塩水を右眼の脈絡膜上腔に強膜を通して注射した。注射後、これらの眼に抗生点眼薬で処置を施した。アデノウイルスの投与(5日目)の前及びアデノウイルスの投与(12日目)の後に生物発光イメージングアッセイ(bio-luminance imaging assay)を行った。アデノウイルスのSAGE1抑制ベクター又は空ベクターを硝子体に注入した(7、9、11日目の各投与において、3.2*1011pfu/ml、1.5ul)。生存期間はマウスごとに算出している。
【0542】
10.患者由来の異種移植片(PDX)腫瘍及びインビボSAGE1ノックダウン実験
【0543】
PDX腫瘍は、上海尚泰生物技術有限公司(Shanghai Sunstem Biotechnology Co., Ltd.)及び無錫薬明康徳新薬開発股フン有限公司(WuXi Apptec Co., Ltd.)又は我々の部門(SH9H-2019-T279-2)から提供されたものである。異種移植片を50~100mm3の大きさになるまで成長させた後、上述のとおり、インビボRNAi実験用にマウスを無作為に2つのグループに分けた(1グループにつき7~9匹)。3日置きに腫瘍内に多点注射を行うことでshSAGE1アデノウイルスを入れた。腫瘍体積=(長さ×幅2)/2の式を用いて、一定間隔ごとに腫瘍サイズをデジタルキャリパーで測定した。最後の投薬から1日経った後、動物を犠牲死させて腫瘍の重さを測り、ホルマリンで固定した。IHCを行ってSAGE1及びKi67を調べた。腫瘍体積及び腫瘍重量のデータは平均値±SD又は平均値±SE(n=7~9)で示される。全ての動物実験は、上海交通大学医学院(Jiaotong University School of Medicine)の動物愛護協会(SH9H-2019-A727-1)に認められているもので、中華人民共和国国家衛生与計画生育委員会(National Health and Family Planning Commission of China)が制定したガイドラインに準ずる上海交通大学(Shanghai JiaoTong University)の動物に関する指針に従って実行した。
【0544】
11.PDX由来の細胞(PDC)の単離及び単細胞RNAシーケンシング用のサンプル調製
【0545】
新しいPDX組織を1×PBSで2回洗浄し、コラゲナーゼタイプIV(Sigma Aldrichカタログ番号C5138-500MG)で20~30分間37℃で軽く攪拌(250rpm)しながら消化させた。消化は10%のFBS(Gibcoカタログ番号0082147)を加えることで停止させた。メッシュサイズが40μmのストレーナー(Fisher Scientificカタログ番号08-771-1)で漉して単細胞を得た。この細胞を600×gで15分間、遠心分離にかけてペレット化し、1×PBSで2回洗浄した。その後、細胞を培養し、shRNAウイルスに感染させた。最終的には細胞をトリプシン処理し、単細胞RNAシーケンシング用に1×PBS+10%のFBSに再懸濁させた。
【0546】
12.組織の染色
【0547】
非特定化ヒト正常組織及び癌組織を上海芯超生物科技有限公司(Shanghai OUTDO Biotech Co. Ltd)(中国、上海)から取得した。SAGE1を検出するため、免疫組織化学でストレプトアビジン-ビオチン複合体法を使用した。免疫蛍光染色のため、HuTu80由来の異種移植組織及びHCC-PDX組織の切片を新しいキシレン中でそれぞれ15分間2回脱ロウし、100%、95%、75%、50%のエタノール及びPBSでそれぞれ10分間再水和した。切片をTUF TARGET UNMASKING FLUID(Invitrogen、Z00R.0000)に入れて20分間沸騰させることで、エピトープ賦活化を行った。その後、スライドをPBST(0.5%のトリトンX-100を補充したPBSバッファ)で洗浄し、5%のBS
Aを用いてRTで3時間ブロックした後、4℃でウサギ抗SAGE1ポリクローナル抗体(Novus NBP1-84355)又はウサギ抗INTS3ポリクローナル抗体(Novus NBP1-19091)を用いてオーバーナイトで培養してから洗浄し、Alexa Fluor 555又は488共役二次抗体(Proteintech)を用いて培養した。核はDAPI(Sigma)で対比染色した。スライドをPBSTでよく洗浄してマウントし、レーザ走査型共焦点顕微鏡を用いて可視化した。
【0548】
13.インビボSAGE1ノックダウン実験IHC
【0549】
SAGE1及びKi67を検出するため、免疫組織化学でストレプトアビジン-ビオチン複合体(SABC)法を使用した。LUSC-Pについては、腫瘍残基の組織学的変化を示すため、ヘマトキシリン及びエオシンによる染色を行った。汎サイトケラチン染色によって、SAGE1shRNA処置後の組織において腫瘍性成分に代わる線維性炎症の変化がみられた。SAGE1、Ki67、及び汎サイトケラチンに対する一次抗体は、それぞれ、1:300、1:100、1:200の濃度で使用した。この研究で使用した全ての抗体は、製造元が標的としたものにのみ反応することが確認されている。
【0550】
14.タンパク質発現及び精製
【0551】
SAGE1I3BD(残基818~904)及びINTS3CTD(残基572~978)を6×Hisタグ(1)の後のN末端で融合したSUMOタンパク質を有する修飾pET28ベクターにクローニングした。INTS6I3BD(残基572~978)及びSAGE1I3BD(残基818~904)をGSTタグを有するpGEX―6P-1ベクターにクローニングした。His-SUMO-INTS3CTD及びGST-SAGE1I3BDを大腸菌BL21(DE3)-CodonPlus細胞(Stratagene)で共発現させた。0.1mMのIPTGによって20℃で20時間誘導した後、遠心分離で細胞を採取し、ペレットを溶解バッファ(50mMのトリス塩酸、pH8.0、400mMの塩化ナトリウム、10%のグリセロール、1mMのPMSF、5mMのベンズアミジン、1mg mL-1のロイペプチン、及び1mg mL-1のぺプスタチン)に再懸濁させた。その後、ソニケーションによって細胞を溶解し、細胞デブリを超遠心分離で除去した。上清をNi-NTAアガロースビーズ(QIAGEN)と混ぜ合わせ、4℃で2時間揺り動かした後、250mMのイミダゾールで溶出を行った。ULP1及び3CPreScissionプロテアーゼを添加してHis-SUMO及びGSTタグを取り除いた。そして、25mMのトリス塩酸、pH8.0、150mMの塩化ナトリウム、及び2mMのジチオスレイトールで平衡化したサイズ排除クロマトグラフィーでSAGE1I3BD-INTS3CTD複合体を精製した。精製したSAGE1I3BD-INTS3CTD複合体を15mg mL-1まで濃縮し、-80℃で保存した。その他のタンパク質及びタンパク質複合体(INTS3CTD、WT及び変異SAGE1I3BD、及びSAGE1I3BD-INTS3CTD複合体)を同様に精製し、10~20mg mL-1まで濃縮し、-80℃で保存した
【0552】
15.結晶化、データ収集、及び構造決定
【0553】
4℃でシッティングドロップ蒸気拡散することでINTS3CTD二量体及びSAGE1I3BD-INTS3CTD複合体の結晶を成長させた。INTS3CTDの沈殿ウェル溶液は、25%のエチレングリコール3350と、0.01mMのEDTAと、150mMの塩化ナトリウムとからなっていた。SAGE1I3BD-INTS3CTD複合体の沈殿ウェル溶液は、0.2Mの硫酸アンモニウムと、25%のエチレングリコール3350とからなっていた。結晶を採取溶液(INTS3CTDの結晶用には、25%のエチレングリコール、0.01mMのEDTA、150mMの塩化ナトリウム、25%のグリセロール、及びSAGE1I3BD-INTS3CTD複合体の結晶用には、0.2Mの
硫酸アンモニウム、25%のエチレングリコール3350、25%のグリセロール)に徐々に移した後、保存のために液体窒素で瞬間冷凍した。上海光源SSRF(Shanghai Synchrotron Radiation Facility)ビームラインBL18U1及びBL19U1において極低温環境(100K)でデータセットを収集した。INTS3CTDの3.0-AのSeMe-SADデータセットをSeピーク波長(0.97853A)で収集し、HKL3000(2)で加工した。7個のセレン原子を見つけて精製し、HKL3000.(3)を用いて元のSAD電子密度マップを算出した。溶媒平滑化(solvent flattening)で最初のSADマップの実質的な改良を行った。そして、フェニックス(4)を用いて2.5-Aの解像度のネイティブデータセットに対し、モデルを精緻化した。SAGE1I3BDINTS3CTD複合体の結晶は、2.90Aの解像度に回折し、分子置換法で構造を決定した。
【0554】
16.GSTプルダウンアッセイ
【0555】
精製GST-SAGE1I3BDをINTS3CTD-INTS6I3BD複合体に同じモル比で加え、混合物を100μLのバッファ(25mMのトリス塩酸、pH8.0、150mMの塩化ナトリウム、及び2mMの塩化マグネシウム)中で2時間、4℃でグルタチオンセファロース4Bビーズ(GE Healthcare)と培養した。同一のバッファでよく洗浄した後、結合したタンパク質を溶出バッファ(25mMのトリス塩酸、、pH8.0、150mMの塩化ナトリウム、2mMの塩化マグネシウム、及び15mMの還元グルタチオン)に溶出させた。インプット及び溶出サンプルのタンパク質を12%のSDS-PAGEでCoomassieブルー染色によって可視化した。
【0556】
17.等温滴定熱量測定(ITC)
【0557】
SAGE1I3BD-INTS3CTD相互作用の平衡解離定数をMicroCal iTC200熱量計(Malvern)を用いて決定した。25mMのトリス塩酸、pH8.0、150mMの塩化ナトリウム、及び5mMの塩化マグネシウム中で結合エンタルピーを16℃で測定した。実験は2つ別個に行った。続いて、Origin 7ソフトウェア(OriginLab)を用いてITCデータを分析し、適合させた。
【0558】
18.細胞培養、トランスフェクション、及びレンチウイルス形質導入
【0559】
この研究で使用した細胞株は、上海盖寧生物科技有限公司(Shanghai Gaining Biological Technology Ltd.)(中国、上海)から購入したもので、DNA指紋法を用いて検証した。10%のウシ胎仔血清(FBS、Gibco、#10091-148)を補充した最小必須培地(Gibco、#42360032)でヒト十二指腸腺癌HuTu80細胞を培養した。HEK-293T、ヒト悪性黒色腫A375、及びヒト結腸直腸腺癌Caco2細胞を10%のFBSを含むダルベッコの(Dulbecco’s)修飾イーグル培地(HyClone、#SH30022.01)でそれぞれ培養した。
【0560】
10%のFBSを補充したRPMI-1640培地(Gibco、#22400089)でヒト不死化初代肝細胞LO2、慢性骨髄性白血病K-562、及び骨肉腫U2OS細胞を維持した。10%のFBSを含むDMEM/F12培地(Gibco、#11330032)でヒト食道扁平上皮癌KYSE-30細胞を培養した。
【0561】
ヒトHis-SAGE1-Flag、His-INTS3-StrepをレンチウイルスpCDH-CMVベクター(Addgene、プラスミド#72265)にそれぞれサブクローニングした。所望の変異を含むプライマを有するQuikChange II site指向の突然変異生成キット(Agilent、#200523)を用いて、WT SAGE1プラスミドから変異SAGE1(S
AGE1mut:R872A、F873A、K874A、M832A、F838A、及びQ840A)を得た。外因性SAGE1発現細胞を蛍光標識するために、レンチウイルス骨格が宿主細胞ゲノムに組み込まれた場合に蛍光copGFPが同じ細胞で発現できるようにする修飾レンチウイルスpCDH-CMV-MCS-EF1-copGFPベクターにおけるBamHI-XbaI部位にWTSAGE1、SAGE1mutを挿入した。全てのプラスミドは、配列解析によって検証した。
【0562】
19.SAGE1shRNA及びsiRNA
【0563】
ヒトSAGE1shRNA及びsiRNAを試験し、それらのうちの多くが内因性SAGE1発現を十分に抑制できた(図16)。ネガティブコントロールとして、pLK0.1スクランブルshRNAベクターを使用した。指示されたpLK0.1-SAGE1shRNA構造をpCMV-dR8.2 dvpr(Addgene、プラスミドAddgene)及びpCMV-VSV-G(Addgene、プラスミド#8454)の2つのパッケージングベクターと共に一過性でトランスフェクトすることによって、HEK-293T細胞にレンチウイルスを生成した。トランスフェクションから48時間後に上清を採取し、0.45μm滅菌フィルタ(Millipore、#SLHU033RB)で濾過した。得られたレンチウイルスの備蓄を使ってHuTu80、Caco2、A375、及びLO2細胞それぞれの形質導入を行った。24時間後、3~5日間の3μg mL-1のピューロマイシン(Gibco、#A11138-03)による細胞選択を行った。
【0564】
図17-1~図17-21は、本開示で使用したSAGE1siRNA及びshRNAと、本開示で使用したSAGE1siRNA及びshRNAによるSAGE1mRNA転写産物の標的配列とを示す。
【0565】
20.フローサイトメトリー及びセルソーティング
【0566】
外因性SAGE1又はSAGE1mut発現細胞を単離するために、copGFP発現が同じ細胞で生じることを利用し、これによって、これらのSAGE1発現細胞集団の精製のために蛍光活性化セルソーティング(FACS)を使用できた。簡潔に述べると、SAGE1-KD及びKO又はコントロール細胞をWT SAGE1、SAGE1mut、又は空のベクターに24時間感染させた後、24時間培養した。そして、これらの細胞をトリプシン処理し、1%のペニシリン-ストレプトマイシン(Gibco、#15140122)を含む滅菌FCASバッファに再懸濁させ、BD Influxでセルソーティングした。選別した生copGFP+細胞をさらなる研究のために採取した。
【0567】
21.CRISPR/Cas9法によるSAGE1のノックアウト
【0568】
内因性SAGE1をノックアウトするため、2ペアのDNAオリゴ(Hum SAGE1 sg1-Up: ACCGaaggaagagtatgtcctcg(SEQ ID NO: 96)、Hum SAGE1 sg1-D: AAACCGAGGACATACTCTTCCTT(SEQ ID NO: 98)、Hum SAGE1 sg2-Up: ACCGaagtaaatctggttgcaac(SEQ ID NO: 97)、Hum SAGE1 sg2-D: AAACGTTGCAACCAGATTTACTT(SEQ ID NO: 99)(小文字はSAGE1ゲノムにおける標的配列を示す))の両方をsgRNAの生成に使用し、このsgRNAがpX330-U6-Chimeric_BB-CBh-hSpCas9ベクター(Addgene、プラスミド#42230)のAgeI-EcoRI部位にアニールしてクローニングした。製造元の指示に従い、lipofectamine 2000試薬(Invitrogen、#11668019)を用いて、これらのSAGE1標的構造をHuTu80細胞にトランスフェクトした。48時間後、細胞を分離し、再懸濁させ、希釈物が1ウェルごとに1細胞入る96ウェルプレートに再播種した。数日培養した後、個々のコロニーを分け、各コロニーの全ての細胞の半分をゲノムDNA抽出及びT7エンドヌクレアーゼI切断アッセイ(New England Biolabs、#M0302S)を行ったが、これは前述の(5)のと
おりである。簡単に述べると、100μLの溶解バッファ(10μMのトリス塩酸、0.4Mの塩化ナトリウム、2μMのEDTA、1%のSDS,及び100μg mL―1のプロテイナーゼK)で細胞を溶解した。ゲノムDNAをフェノール-クロロホルムで抽出し、エタノールで沈殿させ、溶出バッファ(1mMのトリス塩酸、、pH8.3)で溶解した。標的部位を内部にもつDNAフラグメントをQ5ホットスタート高正確性DNAポリメラーゼ(New England Biolabs、#M0493)によって増幅し、PCR及びDNAクリーンアップキット(New England Biolabs、#T1030)で精製した。精製PCR産物を変性し、NEBバッファ2でアニールした。得られたハイブリッドPCR産物をT7エンドヌクレアーゼIで30分間消化し、2.5%のアガロースゲルで分離した。SAGE1がないコロニーもSAGE1遺伝子座シーケンシング及びウェスタンブロットによって検証した。
【0569】
22.細胞成長分析
【0570】
リアルタイム細胞アナライザーXCELLIGENCE(ACEA Biosciences)を使用して、製造元の指示に従い、細胞の成長をモニタリングした。簡潔に述べると、1ウェルあたり3-6×103の密度の細胞をEプレート96に播種し、リアルタイム電機抵抗値を120時間測定した。各ウェルにおける電機インピーダンスの上昇は、細胞数の増加と正の関連があり、細胞インデックス=(Rtn-Rt0)/15Ω(Rtnは、時点Tnにおいて測定した抵抗であり、Rt0は、時点T0において測定したバックグラウンド抵抗である)の式によって、単位のない細胞インデックスのリアルタイム測定値として細胞成長曲線を示した。
【0571】
23.組織の染色
【0572】
非特定化ヒト正常組織及び癌組織を上海芯超生物科技有限公司(Shanghai OUTDO Biotech Co. Ltd)(中国、上海)から取得した。SAGE1を検出するため、免疫組織化学でストレプトアビジン-ビオチン複合体法を使用した。免疫蛍光染色のため、HuTu80由来の異種移植組織及びHCC-PDX組織の切片を新しいキシレン中でそれぞれ15分間2回脱ロウし、100%、95%、75%、50%のエタノール及びPBSでそれぞれ10分間再水和した。切片をTUF TARGET UNMASKING FLUID(Invitrogen、Z00R.0000)に入れて20分間沸騰させることで、エピトープ賦活化を行った。その後、スライドをPBST(0.5%のトリトンX-100を補充したPBSバッファ)で洗浄し、5%のBSAを用いてRTで3時間ブロックした後、4℃でウサギ抗SAGE1ポリクローナル抗体(Novus NBP1-84355)又はウサギ抗INTS3ポリクローナル抗体(Novus NBP1-19091)を用いてオーバーナイトで培養してから洗浄し、Alexa Fluor 555又は488共役二次抗体(Proteintech)を用いて培養した。核はDAPI(Sigma)で対比染色した。スライドをPBSTでよく洗浄してマウントし、レーザ走査型共焦点顕微鏡を用いて可視化した。
【0573】
インビボSAGE1ノックダウン実験のため、免疫組織化学でストレプトアビジン-ビオチン複合体(SABC)法を用いてSAGE1及びKi67を検出した。LUSC-Pについては、腫瘍残基の組織学的変化を示すため、ヘマトキシリン及びエオシンによる染色を行った。汎サイトケラチン染色によって、SAGE1shRNA処置後の組織において腫瘍性成分に代わる線維性炎症の変化がみられた。SAGE1、Ki67、及び汎サイトケラチンに対する一次抗体は、それぞれ、1:300、1:100、1:200の濃度で使用した。この研究で使用した全ての抗体は、製造元が標的としたものにのみ反応することが確認されている。
【0574】
24.qPCR及びWB
【0575】
患者由来の初代腫瘍細胞におけるSAGE1の機能をさらに調査するため、以下のプライマを有するサンプルについてqPCR及びウェスタンブロッティングによる分析を行った。
【0576】
定量PCRプライマSage-F:ACTTCAAACGAGTCAACCAACT(SEQ ID NO: 100)、
【0577】
Sage-R:TCTAACCACGAGGACATACTCTT(SEQ ID NO: 101)、
【0578】
GAPDH-F:ATCATCCCTGCCTCTACTGG(SEQ ID NO: 102)、
【0579】
GAPDH-R:GTCAGGTCCACCACTGACAC(SEQ ID NO: 103)。
【0580】
次に挙げる抗体、すなわち、ウサギ抗SAGE1ポリクローナル抗体(Novus Biologicals、#NBP1-84355)、ウサギ抗INTS3ポリクローナル抗体(Novus Biologicals、#NBP1-19091)、マウス抗Hisモノクローナル抗体(Proteintech、#66005-1-Ig)、ウサギ抗FLAGポリクローナル抗体(Proteintech、#20543-1-AP)、マウス抗STREPIIモノクローナル抗体(Abcam、#ab184224)、ウサギ抗TLE3ポリクローナル抗体(Proteintech、#11372-1-AP)、マウス抗GAPDHモノクローナル抗体(Proteintech、#60004-1-Ig)、ヤギ抗ウサギIgG(H+L)、HRP複合体(Proteintech、#SA00001-2)、ヤギ抗マウスIgG(H+L)、HRP複合体(Proteintech、#SA00001-1)を用いてウェスタンブロットを行った。
【0581】
タンパク質を4~20%の濃度勾配のSDS-PAGEゲル(Genescript、#M42012C)で分解し、PVDF膜に移した。その後、希釈した1×TBSTバッファ(Sangon、#tbst-C520009)の5%の脱脂乳でこれらの膜をブロックし、4℃で一次抗体を用いてオーバーナイトでプローブし、その後、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)-共役ロバ抗マウス、抗ウサギ、又は抗ヤギ抗体を室温で1時間培養した。膜洗浄を3回行った後、Western Lightning ECL Pro(PerkinElmer、#NEL122001EA)又はECL Prime Western Blotting検出試薬(Amersham、#RPN2232)で免疫複合体を検出した。
【0582】
25.チラミドシグナル増幅に基づく多重免疫組織化学的蛍光分析
【0583】
TSA5色キット(Yuanxibio、#D110051-50T)と合わせ、一次抗体を用いて4μm厚の脱パラフィン組織切片を連続的に染色することで多重免疫蛍光(mIF)分析を行った。簡潔に述べると、抗原回復及び内因性ペルオキシダーゼ活性の失活の後、TBSTバッファ内で5%のBSAを用いてスライドを1時間ブロックし、抗INTS3抗体(Proteintech、#16620-1-AP)を用いて30分間培養し、その後、抗ウサギ西洋ワサビペルオキシダーゼ共役(HRP)二次抗体(Yuanxibio、#A10011-60)を用いて10分間プローブした。TSA570を用いた蛍光標識化を製造元の指示に従って10分間行った。そして、TBSTバッファでスライドを洗浄し、1mMのクエン酸塩溶液に移し、15分間サブボイリングした。スライドを冷まし、洗浄し、ブロックして、抗ヒストンH3K9me3(Acam、#ab8898)/TSA620及び抗SAGE1(Acam、# ab233388)/TSA520に対する次の3回の染色に使用した。最後に、スライドをDAPI(ThermoFisher、#D1306)2滴で処置を施し、蒸留水で洗浄し、Prolong Goldマウンティング培地でマウントした。Zeiss LSM 880レーザ走査型共焦点顕微鏡で観察して撮影し、Indica Haloソフトウェアを用いて分析した。
【0584】
26.免疫沈降(IP)及び免疫共沈降(co-IP)
【0585】
IPのために、1×107細胞をプロテアーゼ阻害薬カクテル(Sigma-Aldrich、#B14001)を補充した溶解バッファ(20mMのトリス塩酸、150mMの塩化ナトリウム、10%のグリセロール、0.5%のトリトンX-100、1mMのEDTA、1mMのEGTA、pH7.4)で溶解し、10分間4℃で培養し、Bioruptor Plus(Diagenode)(5~10%のamplitude/powerで5秒ON-5秒OFF)によって1分間ソニケーションした。遠心分離(14000rpm、15分間、4℃)後、1mgの上清を5μgのウサギ抗SAGE1ポリクローナル抗体(Novus Biologicals、#NBP1-84355、又はAbcam、#ab233388)及びウサギ抗INTS3ポリクローナル抗体(Novus Biologicals、#NBP1-19091)でそれぞれ16時間培養した。
【0586】
翌日、20μLのタンパク質Gビーズ(Millipore、#LSKMAGG02)を各チューブに添加し、もう3時間培養した。そして、ビーズを採取し、溶解バッファで3回洗浄し、0.2Mのグリシン(pH2.2)によって溶出した。
【0587】
co-IPのために、X-tremeGENE HP DNAトランスフェクション試薬(Sigma-Aldrich、#6366546001)を用いて、指示されたプラスミドでHEK-293T細胞をトランスフェクトした。48時間後、50mMのトリス塩酸、pH7.5、150mMの塩化ナトリウム、0.1%のトリトンX-100、1mMのEDTA、及び1×Rocheプロテアーゼ阻害薬を含むIPバッファで細胞を溶解した。マウス抗Hisモノクローナル抗体(Proteintech #66005-1-Ig)又はウサギ抗FLAGポリクローナル抗体((Proteintech #20543-1-AP)を用いてオーバーナイトで上清を培養した。そして、タンパク質A/Gアガロースビーズ(Millipore、#LSKMAGAG02)を添加し、さらに2時間回転させた。免疫沈降複合体に対し、SDS-PAGEを行った後、ウェスタンブロット及び/又はMS分析を行った。
【0588】
27.質量分析(MS)によるタンパク質の同定
【0589】
免疫沈降の溶出液を5mMのトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP)で還元し、25mMのヨードアセトアミドでアルキル化した。冷アセトンによるタンパク質の沈降後、タンパク質を25mMの重炭酸アンモニウムバッファに浸してもどし、オーバーナイトで37℃において酵素/基質の割合を1:50としてsequencing-gradeトリプシン(Promega)によって消化させた。
【0590】
液体クロマトグラフィータンデム質量分析(LC-MS/MS)のため、EASY-nLC 1000 UHPLC(Thermo Scientific)を用いて、オンライン脱塩用のトラップカラム(内径(i.d.)2cm×100μm、C18、粒径3μm、細孔径100A)に消化ペプチド混合物を入れた。そして、キャピラリーカラム(内径15cm×75μm、ReproSil-Pur C18、粒径1.9μm、細孔径120A)において、300nL min-1の流量で、ペプチドを分離した。溶出液をOrbitrap Fusion質量分析計又はQ Exactive HF質量分析計(Thermo Scientific)に直接導入した。質量スペクトルは、データ依存モードで取得し、各フルスキャンMS(m/z350~1500、解像度60K)の後、最も強いプリカーサーイオンに対して高衝突誘起解離MS/MSスキャンを数度行った。生データを抽出し、ヒトUniProtデータベース(UP000005640)に対してSEQUEST検索エンジンを有するProteome Discoverer 2.2(Thermo Scientific)によって検索を行った。酵素特異性をトリプシンに設定したので、2箇所以下の切断ミスは許容した。質量の許容範囲は、プリカーサーについては10ppm、フラグメントイオンについては0.02Daに設定した。システインのカルバミドメチル化(+57.022 Da)を静的修飾として設定し、メチオニン残基(+15.995 Da)の酸化を可変修飾として設定した。並行してデコイ(decoy)データベース検索も行い、偽発見率(FDR)1%未満のペプチドは許容した。
【0591】
28.細胞株由来の異種移植片
【0592】
雄のBALB/c胸腺欠損ヌードマウス(生後4~6週)を上海生命科学研究院(中国、上海)の実験動物センターから得た。1-3×106個のHuTu80親細胞、KO/SAGE1細胞、及びSAGE1mut細胞をマウスの脇腹に皮下注射した。エンドポイントにおいて、腫瘍組織を犠牲死させた動物から切除し、重量及び体積を算出した。腫瘍重量のデータは平均値±SDで示した。
【0593】
29.TCGAデータセット
【0594】
コホートは、ヒトの大人の癌のほとんどの主要クラスを示す32TCGAプロジェクトの10207個のサンプルからなった。レベル3RNA-seqデータは、次に挙げるTCGAデータセット、すなわち、ACC(n=79)、BLCA(n=414)、BRCA(n=1,109)、CESC(n=306)、CHOL(n=36)、COAD(n=480)、DLBC(n=48)、ESCA(n=162)、GBM(n=169)、HNSC(n=502)、KICH(n=65)、KIRC(n=539)、KIRP(n=289)、LAML(n=151)、LGG(n=529)、LIHC(n=374)、LUAD(n=535)、LUSC(n=502)、MESO(n=86)、OV(n=379)、PAAD(n=178)、PCPG(n=183)、PRAD(n=499)、READ(n=167)、SARC(n=263)、SKCM(n=471)、STAD(n=375)、THCA(n=510)、THYM(n=119)、UCEC(n=552)、UCS(n=56)、及びUVM(n=80)のそれぞれからダウンロードした。関連する臨床的アノテーションもダウンロードし、参照用Rオブジェクトとして保存した。これらのmRNAシーケンシングFPKMデータセットは、「TCGAbiolinks」パッケージ(v2.15.3)(26)でRを介して全て自由にアクセスできる。
【0595】
30.GTExデータセット
【0596】
Genotype-Tissue Expression(GTEx)プロジェクト(27)は、組織特異的遺伝子の発現及び制御を研究するため、包括的な公的リソースを構築するための継続的な努力である。29GTEx健常組織のRNA―seqデータの遺伝子リードカウント及びGENCODE 26転写モデルに基づく遺伝子レベルのモデルは、GTEx_Analysis_2017-06-05_v8_RNASeQCv1.1.9_gene_reads. gct及びgencode. v26. GRCh38. genes. gtf.を含むGTExウェブサイト(https: //www. gtexportal. org)からダウンロードした。
【0597】
29個の組織の16047個のサンプルのRNA発現値をfragments per kilobase of transcript per million mapped reads(FPKM)に正規化した。サンプルは、脂肪(n=1204)、副腎(n=258)、膀胱(n=21)、血液(n=929)、脳(n=2642)、胸(n=459)、子宮頸(n=19)、腸(n=779)、食道(n=1445)、卵管(n=9)、心臓(n=861)、腎臓(n=89)、肝臓(n=226)、肺(n=578)、筋肉(n=803)、神経(n=619)、卵巣(n=180)、膵臓(n=328)、下垂体(n=283)、前立腺(n=245)、唾液腺(n=162)、皮膚(n=1809)、小腸(n=187)、脾臓(n=241)、胃(n=359)、精巣(n=361)、甲状腺(n=653)、子宮(n=142)、及び膣(n=156)を含む。
【0598】
31.定量化及び統計分析
【0599】
実験結果の統計的検定はすべて、特段の記載がない限り、GraphPad Prism 7を用いて行った。統計的有意性は、独立2群のスチューデントのt検定によって算出した。ITC実験における解離定数(Kd)は、単一部位に特異的な結合モデルを使った別々の2つの実験から、Origin 7ソフトウェアを用いて、平均値±標準誤差として算出した。ノンパラメトリックなマン・ホイットニー検定を用いて、インビボ実験のデータの統計分析を行った。結果は、特段の記載がない限り、平均値±標準偏差として示し、p<0.05を統計的に有意とした。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
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図4A
図4B
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図4D
図4E
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図4L
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図5B
図5C
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図6B
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図6E
図6F
図6G
図6H
図6I
図7A
図7B
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図7D
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図7F
図7G
図7H
図7I
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図7K
図7L
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図8F
図8G
図9A
図9B
図9C
図9D
図9E
図10A
図10B
図11A
図11B
図11C
図12
図13A
図13B
図14A
図14B
図14C
図14D
図15
図16
図17-1】
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図17-18】
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図17-20】
図17-21】
【配列表】
2023508845000001.app
【国際調査報告】