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特表2023-508956鉄金属製部品の処理方法及び鉄金属製部品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-06
(54)【発明の名称】鉄金属製部品の処理方法及び鉄金属製部品
(51)【国際特許分類】
   C23C 8/26 20060101AFI20230227BHJP
   C21D 1/06 20060101ALI20230227BHJP
   C21D 9/00 20060101ALI20230227BHJP
   C21D 1/10 20060101ALI20230227BHJP
【FI】
C23C8/26
C21D1/06 A
C21D9/00 A
C21D1/10 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022538999
(86)(22)【出願日】2020-12-23
(85)【翻訳文提出日】2022-08-23
(86)【国際出願番号】 FR2020052620
(87)【国際公開番号】W WO2021130460
(87)【国際公開日】2021-07-01
(31)【優先権主張番号】1915524
(32)【優先日】2019-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506126266
【氏名又は名称】イドロメカニーク・エ・フロットマン
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】リュック・エルマン
(72)【発明者】
【氏名】ヴァンサン・モントゥー
【テーマコード(参考)】
4K028
4K042
【Fターム(参考)】
4K028AA02
4K028AB01
4K028AC07
4K042AA25
4K042BA03
4K042BA06
4K042DA01
4K042DB01
(57)【要約】
本発明は、主に、鉄金属で作られた部品(P)の処理方法であって、5μmから30μmの間の厚さを有する結合層(2)と、前記結合層(2)の下に前記結合層(2)と接触して配置され、100μmから500μmの厚さを有する拡散領域(3)とを前記部品(P)上に形成する窒化操作と、次いで、0.5mm以上の誘導深さにわたって高周波誘導によって前記部品(P)を焼入れする操作であって、それによって前記部品(P)を硬化させ、前記部品(P)を与える操作と、を含み、表面硬度が50HRC以上であり、前記結合層(2)の高度が400HV0.05以上であり、前記部品の高度が、深さ500μmで500HV0.05以上であり、前記高周波誘導焼入れ操作が、前記誘導焼き入れ操作の前に前記部品(P)上に保護フィルムを適用することなく実行される、処理方法。本発明はまた、摩耗及び付着による著しい耐摩耗性、改善された摩擦特性及び改善されたスケーリング耐性、並びに良好な耐食性を有する、鉄金属で作られた部品(P)に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄金属で作られた部品(P)の処理方法であって、
5μmから30μmの厚さを有する結合層(2)と、前記結合層(2)の下に前記結合層(2)と接触して配置され、100μmから500μmの厚さを有する拡散領域(3)とを前記部品(P)上に形成する窒化操作と、次いで、
0.5mm以上の誘導深さにわたって高周波誘導によって前記部品(P)を焼入れする操作であって、それによって前記部品(P)を硬化させ、前記部品(P)を与える操作と、を含み、
表面硬度が50HRC以上であり、
前記結合層(2)の高度が400HV0.05以上であり、
前記部品の高度が、深さ500μmで500HV0.05以上であり、
前記高周波誘導焼入れ操作が、前記誘導焼入れ操作の前に前記部品(P)上に保護フィルムを適用することなく実行される、処理方法。
【請求項2】
前記誘導焼入れ操作の後に焼戻し操作を行わないことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
高周波誘導による前記部品の焼入れ操作が、前記拡散領域(3)/結合層(2)の界面の間及び500μmの深さで、好ましくは前記拡散領域(3)/結合層(2)の界面の間及び300μmの深さで、前記部品(P)にフェライトが保存されるように行われることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
高周波誘導による前記部品の焼入れ操作が、前記拡散領域(3)/結合層(2)の界面の間及び500μmの深さで、前記部品(P)が、1体積%から50体積%、好ましくは1%から30%、より好ましくは5%から30%の残留フェライト含有量を有するように行われることを特徴とする、請求項1から3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
高周波誘導による前記部品の焼入れ操作が、前記拡散領域(3)/結合層(2)の界面と500μmの深さとの間で、前記部品(P)が、5体積%から20体積%、好ましくは5%から15%の残留フェライト含有量を有するように行われることを特徴とする、請求項1から4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記高周波誘導焼入れ操作の後に含浸ステップをさらに含むことを特徴とする、請求項1から5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
中性塩水噴霧試験によると、前記部品(P)に80時間を超える耐食性を与えることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記高周波誘導焼入れ操作が、以下のパラメータを用いて行われることを特徴とする、請求項1から7の何れか一項に記載の方法:
50~400kHzの周波数(F)、
4.6~5.8J/mmの線エネルギー(E)。
【請求項9】
5μmから30μmの厚さを有する結合層(2)と、100μmから500μmの厚さを有し、前記結合層(2)の下に前記結合層(2)と接触して配置される拡散領域(3)とを含む、鉄金属で作られた窒化部品(P)であって、前記部品(P)は、
50HRC以上の表面硬度と、
400HV0.05以上の前記結合層(2)の硬度と、
500μmの深さで500HV0.05以上の前記部品の硬度と、を有し、
前記部分(P)が、前記拡散領域(3)/結合層(2)の界面と500μmの深さとの間にフェライト及びマルテンサイトを含む、窒化部品(P)。
【請求項10】
0.5mmの深さにおける前記部品(P)の硬度が、+100HV0.05のコア硬度以上であることを特徴とする、請求項9に記載の部品(P)。
【請求項11】
0.25mmの深さにおける前記部品(P)の硬度が、+350HV0.05のコア硬度以上であることを特徴とする、請求項9又は請求項10に記載の部品(P)。
【請求項12】
1%未満のマンガン含有量を有する、C10からC70族の極低合金鋼で作られることを特徴とする、請求項9から11の何れか一項に記載の部品(P)。
【請求項13】
前記拡散領域(3)/複合層(2)の界面と300μmの深さとの間にフェライト及びマルテンサイトを含むことを特徴とする、請求項9から12の何れか一項に記載の部品(P)。
【請求項14】
前記拡散領域(3)/結合層(2)の界面と500μmの深さとの間に、1体積%から50体積%、好ましくは1%から30%、より好ましくは5%から30%のフェライト含有量を有する、請求項9から13の何れか一項に記載の部品(P)。
【請求項15】
前記拡散領域(3)/結合層(2)の界面の間及び500μmの深さに、5体積%から20体積%、好ましくは5%から15%のフェライト含有量を有することを特徴とする、請求項9から13の何れか一項に記載の部品(P)。
【請求項16】
中性塩水噴霧を用いた試験によると、80時間を超える耐食性を有することを特徴とする、請求項9から15の何れか一項に記載の部品(P)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は、鉄金属、特に超低合金鋼又は低合金鋼で作られた部品の表面処理の分野である。
【背景技術】
【0002】
自動車、航空又は産業用途では、機械部品は、一般に耐用年数中にかなりの応力に晒される。
【0003】
従来、部品は、耐摩擦性、耐摩耗性、耐疲労性、耐スケーリング性、耐腐食性などを含む、その性能の一部を改善するために、1つ又は複数の処理を受ける場合がある。
【0004】
しかしながら、部品の様々な特性の間で適切な妥協点を得ることは困難である。
【0005】
例として、国際公開第2011013362号には、窒化操作(nitriding operation)、化成皮膜(ゾルゲル)によるコーティング操作及び誘導焼入れ操作を含む、部品を処理する方法が記載されている。しかしながら、そのような方法は、フィルムのコストと3回の連続した操作を行う必要があるため、非常に高価である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2011013362号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、部品の様々な特性間の良好な妥協を維持しながら、上述の欠点を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的のために、本発明の目的は、鉄金属で作られた部品の処理方法であって、
5μmから30μmの間の厚さを有する結合層と、前記結合層の下に前記結合層と接触して配置され、100μmから500μmの厚さを有する拡散領域とを前記部品上に形成する窒化操作と、次いで、
0.5mm以上の誘導深さにわたって高周波誘導によって前記部品を焼入れする操作であって、それによって前記部品を硬化させ、前記部品を与える操作と、を含み、
表面硬度が50HRC以上であり、
前記結合層の高度が400HV0.05以上であり、
前記部品の高度が、深さ500μmで500HV0.05以上であり、
前記高周波誘導焼入れ操作が、前記誘導焼き入れ操作の前に前記部品上に保護フィルムを適用することなく実行される、処理方法である。
【0009】
本発明の方法は、摩耗及び付着による優位な耐摩耗性、改良された摩擦特性及びスケーリング耐性、並びに良好な耐食性を有する部品を得ることを可能にする。また、本発明の方法は、結合層のための保護フィルムを配置する必要がなく、前記保護フィルムを除去する必要がないため、従来技術の方法よりも実施が簡単で安価である。
【0010】
保護フィルムは、高周波誘導焼入れ中の結合層の劣化を防止するのに適した任意のタイプであり、この劣化は、結合層のスケーリング、クラック又は破砕によって現れる可能性がある。
【0011】
特に、保護フィルムは、ゾルゲル膜であってもよい。したがって、高周波誘導焼入れ操作は、ゾルゲル膜なしで行われる。
【0012】
他の態様によれば、本発明による処理方法は、個別に、又は技術的に可能な組み合わせに従って、以下の異なる特徴を有する:
-窒化操作は、ガスを用いて、プラズマによって、又は溶融塩によって行われる。
-窒化操作は、500℃から630℃の温度で15分から3時間行われる。
-高周波焼入れ操作の後に焼き戻し操作が行われない。
-高周波誘導による部品の焼入れ操作は、拡散領域/結合層の界面の間及び500μmの深さで、好ましくは拡散領域/結合層の界面の間及び300μmの深さで、部品にフェライトが保存されるように行われる。拡散領域/結合層の界面は、拡散領域と上層の結合層との間の接触面を意味する。焼入れは迅速であり、マルテンサイト部分のフェライトをその処理深さにわたって完全に変換しないため、プロセスの最後にHF焼入れによって処理された深さにフェライトが残る。500μmの深さは、部品の硬化及び/又は金属構造の変化が観察される誘導深さに対応する。
-高周波誘導による部品の焼入れ操作は、拡散領域/結合層の界面の間及び500μmの深さで、部品が、1体積%から体積50%、好ましくは1%から30%、より好ましくは5%から30%の残留フェライト含有量を有するように行われる。残留フェライト含有量は、体積によるものであり、考慮される領域内の部品の残りの体積に対するフェライトの体積の比率に対応する。
-高周波誘導による部品の焼入れ操作は、拡散領域/結合層の界面と500μmの深さとの間で、部品が、5体積%から20体積%、好ましくは5%から15%の残留フェライト含有量を有するように行われる。
-この方法は、高周波誘導焼入れ操作に続く含浸ステップを含む。焼戻し(tempering)工程を行う場合は、焼戻し後に含浸を行う。これは、例えば、浸漬又は噴霧によって行うことができる。含浸は、腐食の開始を遅らせ、腐食速度を低下させ、部品の耐用年数を延ばす可能性があるため、部品を保護する。
-この方法により、中性塩水噴霧試験によると、80時間以上の耐食性が部品にもたらされる。耐食性は、標準EN ISO 9227に従って、標準塩水噴霧試験とも呼ばれる、中性塩水噴霧を使用する試験に従って測定される。
-高周波誘導焼入れ操作は、次のパラメータで行われる:
50から400kHzの周波数、
4.6から5.8J/mmの線エネルギー。
周波数及び線エネルギーに関するこの二重の条件により、鉄金属で作られた部品を得ることが可能になり、その機械的特性は、従来技術の部品と比較して大幅に改善され、特に、良好な耐食性を維持しながら、摩耗及び付着による耐摩耗性、耐摩擦性、スケーリング耐性が大幅に改善される。振動数及び線エネルギーは、部品の形態、例えば直径に応じて調整される。
-高周波誘導焼入れ操作は、5mm/sから40mm/sの移動速度で行われる。
【0013】
本発明はまた、5μmから30μmの厚さを有する結合層と、100μmから500μmの間の厚さを有し、結合層の下に結合層と接触して配置される拡散領域とを含む、鉄金属で作られた部品であって、前記部品は、
-50HRC以上の表面硬度と、
-400HV0.05以上の結合層の硬度と、
-500μmの深さで500HV0.05以上の部分の硬度と、を含み、
前記部品は、拡散領域/結合層界面の間及び500μmの深さでフェライト及びマルテンサイトを含む。
【0014】
他の態様によれば、本発明による鉄金属で作られた部品は、個別に、又は技術的に可能な組み合わせに従って、以下の異なる特徴を有する:
-0.5mmの深さでの部品の硬度は、+100HV0.05以上のコア硬度である。
-0.25mmの深さでの部品の硬度は、+350HV0.05以上のコア硬度である。
-この部品は、マンガン含有量が1%未満のC10からC70族の非常に低い合金鋼で作られる。これらの条件下では、鋼は、顕著な添加元素、すなわち、鋼の全質量に対して質量で5%を超える元素を有していない。好ましくは、部品は、C45グレードの鋼で作られる必要がある。鋼の分野で一般的に使用される「グレード」という用語は、族内の特定のタイプの鋼を指定する。特に、ここでは、鋼C10からC70の族から選択されたグレードC45を指す。
-部品は、低合金鋼で作られ、5質量%を超える添加元素は含まれていない。より好ましくは、部品は、31CrMo4グレードの鋼で作られる。
-部品は、拡散領域/結合層の界面の間及び深さ300μmでフェライト及びマルテンサイトを含む。
-部品は、拡散領域/結合層の界面と500μmの深さとの間に、1体積%から50堆積%、好ましくは1%から30%、より好ましくは5%から30%のフェライト含有量を有する。
-部品は、拡散領域/結合層の界面の間及び500μmの深さに、5体積%と20体積%、好ましくは5%と15%のフェライト含有量を有する。
-中性塩水噴霧を使用した試験によると、部品は、80時間を超える耐食性を有する。
【0015】
本明細書において、「厚さ」という用語は、鉄金属で作られた部品内の所与の層又は領域の上限と下限との間の距離を意味する。厚さは、前記上限及び下限の平均面積に垂直である。
【0016】
「深さ」という用語は、自由表面とも呼ばれる部品の表面間の距離を示し、部品内の特定の点である。深さは、自由表面の平均表面に対して垂直である。例えば、「500μmの深さで500HV0.05以上の拡散領域の硬度」とは、部品の自由表面から数えて、部品内の500μmの距離で、拡散領域の硬度が500HV0.05以上であることを意味する。
【0017】
「上に」、「頂部に」、「超えて」(on、on top of、above)及び「下に」(beneath、below、under、underneath、)などの用語は、部品内の互いに対する層又は領域の位置を指す。これらの用語は、考慮されている層又は領域間に接触があることを必ずしも意味するものではない。
【0018】
それ自体が知られている方法では、窒化は、鉄金属で作られた部品を、窒素を生成できる媒体に浸漬することからなる。本明細書において、窒化は、窒素に加えて炭素が部品に入る窒化の変形であるニトロカーボナイゼーション(nitrocarbonisation)を含む。本明細書の残りの部分に記載されるARCORプロセスは、ニトロカーボナイゼーションプロセスの好ましい例である。
【0019】
処理部品内で、拡散領域は、結合層の下に配置され、結合層から部品のコアに向かって(自由表面から離れて)延在する。一方、結合層は、部品の表面上又は特定の深さにあってもよい。
【0020】
0.5mm以上の誘導深さとは、誘導焼入れステップによって引き起こされる部品の硬化及び/又は金属構造の変化が、部品の表面から少なくとも0.5mmの深さまで及ぶことを意味する。一定の深さを超えると、熱の影響は徐々に減衰し、部品の微細構造及び硬度に測定可能な影響がなくなる。
【0021】
高周波誘導焼入れ操作は、500μmの深さで500HV0.05以上の部品の硬度、及び、好ましくは標準塩水噴霧試験で80時間を超える耐食性を与える。
【0022】
実際、驚くべきことに、本発明による高周波誘導焼入れは、結合層を維持しながら、先に窒化された部品の機械的特性、特に硬度を強化することを可能にする。従って、部品の耐食性は、例えばゾルゲル膜又は塗料などの追加のデバイスを使用する必要なく維持される。ゾルゲル膜を使用しないことで、加工費を抑えることができる。
【0023】
本発明は、非限定的な例としてのみ与えられ、添付の図面を参照してなされる以下の説明からよりよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、それぞれ準拠(ARCOR FLASH、すなわちARCOR窒化処理とそれに続く高周波誘導焼入れ)及び本発明に従わない(ARCOR単一、高周波誘導焼入れなし)2つの部品の硬度プロファイルを示すグラフである。
図2図2は、本発明による方法を特徴付けるために鋼部品に対して実施された一連の試験を説明する表である。
図3図3は、図2の表に対応する一連の試験を示すグラフである。
図4図4は、本発明による方法によって処理された部品の顕微鏡写真である。
図5図5は、図4の拡大図である。
図6図6は、先行技術に従って処理された部品の顕微鏡写真である(ARCOR処理に続いて先行技術に従って誘導焼入れ)。
図7図7は、ARCOR処理後に誘導焼入れを行わずに処理した部品の顕微鏡写真である。
図8図8は、本発明(ARCOR FLASH処理)による鉄金属で作られた部品の顕微鏡写真である。
図9図9は、本発明による鉄金属で作られた部品の顕微鏡写真と、この同じ部品を測定することによって得られた硬度プロファイルを特徴とするモンタージュである。
図10図10は、本発明によるリング(ARCOR FLASH処理)と従来技術のリング(ARCOR処理のみ)とのリングの摩擦係数の変化を示すグラフである。
図11図11は、1回のARCOR処理を受けた鉄金属で作られた部品の写真である。
図12図12は、ARCOR FLASH処理(ARCOR窒化とそれに続く高周波誘導焼入れ)を受けた、本発明による鉄金属で作られた部品の写真である。
図13図13は、誘導層を中心とした、図4の顕微鏡写真の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明者のアプローチの目的は、鉄金属で作られた部品の様々な処理を実施するいくつかの一連の試験を実行することであった。
【0026】
特に、本発明者らは、以下の2つの処理の効果を研究した。
【0027】
ARCORニトロカーボナイゼーション操作(ARCOR nitrocarbonisation treatment:出願人によって登録された商標)は、部品の表面からコアに向かって、並置された結合層2及び拡散領域3を与える(図4を参照)。結合層2は、典型的には約20μmの厚さを有するが、拡散領域3は、典型的には数十又は数百マイクロメートル、例えば300μmの厚さを有する。
【0028】
高周波焼入れ(周波数≧20kHz)は、一般に約1mmの深さを持つ誘導層において、部品の表面にマルテンサイト構造を与える。言い換えると、誘導による硬化は、部品の表面から約1mmの深さまで広がり、窒化によって既に得られた硬化プロファイルに重ね合わされる。誘導層は、Fe(α)フェライトの変態から生じるFe(α’)マルテンサイトと、残りの未変態のFe(α)フェライトを含み、高レベルの硬度を与え、耐摩耗性及び耐疲労性に非常に有利であると認められている。
【0029】
結合層2は、とりわけ、良好な摩擦特性、凝着摩耗に対する高レベルの耐性及び良好な耐腐食性を与える。
【0030】
拡散領域3は、複合層2と拡散領域3の下に位置する基材1との間に、あるレベルの耐摩耗性(摩耗性及び付着性)及び耐疲労性のレベルに有利な硬度勾配を与える。
【0031】
以下の表1は、様々な試験シリーズを示す。
【0032】
【表1】
【0033】
凡例:
0:プロパティが存在しない
+:中程度の特性改善
++:良好な特性
+++:優れた特性
-:特性劣化
【0034】
試験シリーズの結果に関するコメント:
-シリーズ1:副層の硬度が低いため(≒0.3mm)、研磨摩耗及び疲労に対する中程度の耐性がある。
-シリーズ2:耐焼付性、耐食性なし。
-シリーズ3:ARCOR窒化温度(≒590℃)は、HF焼入れによってもたらされるマルテンサイト構造に焼き戻し効果をもたらす。これにより、硬度が大幅に低下する。この結果は、シリーズ1と同等である。
-シリーズ4:HF焼入れの時間/温度パラメータは、ARCOR結合層を劣化させる。したがって、耐食特性及びトライボロジー挙動が低下する。
-シリーズ5:驚くべきことに、FLASH HF焼入れにより、ARCORの結合層2の劣化(結合層2に関連する耐食特性及びトライボロジー特性の損失を引き起こす酸化又はスケーリング)を最小限に抑えるか、又は排除することさえ可能になる。シリーズ4と比較して、部品Pは、ARCORが提供する基本的な特性を保持している。シリーズ1と比較して、HF FLASH焼入れは、結合層2より下の硬度が高くなり、硬化深さも増加する。
【0035】
本発明の開発には、まず、従来のHF焼入れと比較したFLASH HF焼入れの予想外の利点を特定し、次に、あらゆるタイプの鉄系部品にARCOR+FLASH HF焼入れ処理法=ARCOR FLASHを実施できるようにするために、FLASH HF焼入れのパラメータを特徴付ける必要があった。
【0036】
図1は、単一のARCOR処理を受けた部品(シリーズ1)及び本発明によるARCOR FLASH処理を受けた部品(シリーズ5)を含む2つの部品の硬度プロファイルを比較するグラフである。ARCOR FLASH処理は、結合層2の下(特に拡散領域)の硬度、並びに硬化深さを増加させることを可能にする。図1のサンプルに関して、拡散領域3は、400μmから500μmの間の厚さを有し、誘導深さは、約1mmである。
【0037】
図2は、本発明によるARCOR FLASH処理方法を特徴付けるために、鋼部品に対して実施された一連の試験を説明する表である。
【0038】
部品は、直径38mmの棒鋼で、厚さ15μmから20μmの結合層を作成するARCOR処理が施されている。
【0039】
E1からE9試験は、C45鋼棒で、E10及びE11試験は、C10鋼棒で、E12試験は、C70鋼棒で、E13試験は、42CD4鋼棒で実行される。
【0040】
試験は、可変パラメータで実行される高周波誘導焼入れ操作で構成されている。移動速度は、部品に沿って並進移動可能な磁気インダクタの速度である。
【0041】
試験結果に関するコメント:
-E1(比較):低周波及び高出力。結合層が誘導により劣化。
-E2(本発明による):最適な線エネルギー。満足のいく結果
-E3(比較):移動速度が少し速過ぎる。線エネルギーが少し低過ぎる。表面硬度及び誘導深さが低過ぎる。
-E4(本発明による):E2ほどではないが、E3よりは良い結果。
-E5(比較):移動速度が少し遅過ぎる。線エネルギーが少し高過ぎる。表面硬度、誘導深さは良好だが、誘導により結合層が劣化。
-E6、E7、E8及びE9(すべて本発明による):移動の頻度及び速度の影響を決定することを目的とした試験。満足のいく結果。
-E10、E11及びE12:処理結果に対する鋼グレードの影響を示す試験
-E10(比較):C10鋼で試験された試験E5のパラメータは、準拠していない結果を生じる。
-E11(本発明による):C10鋼で試験されたE2試験のパラメータは、満足のいく結果を得ることを可能にする。
-E12(本発明による):E2試験のパラメータはまた、C70鋼での試験時に満足のいく結果を得ることを可能にする。
-E13(本発明による):42CD4鋼に適用されるE8試験のパラメータにより、満足のいく結果を得ることができる。
【0042】
図3は、C45鋼棒で行われた、図2のE1からE9試験の結果を示すグラフである。
【0043】
グラフでは、線エネルギー(W.s/mm)がx軸に表され、誘導周波数(kHz)がy軸に表される。
【0044】
線エネルギーは、誘導中の部品Pの移動速度に対する減少した誘導の電力として定義される。このパラメータは、処理された部品Pのジオメトリーに関連している。別のより一般的なパラメータは、特定の期間適用される単位面積あたりの電力の密度、つまり、誘導の電力を、誘導を吸収する部分の面積で割り、移動速度で割ったものである。したがって、第1の寸法の部分に対する最適焼入れパラメータに基づいて、第2の寸法(例えば、より大きな寸法)の部分に対する最適焼入れパラメータを容易に見つけることが可能であり、他のパラメータは、それ以外は同じである(同一の材料、同一の窒化)。
【0045】
図2及び図3から、周波数(F)が50kHzから400kHzの間であり、線エネルギー(E)が4.6J/mm及び5.8J/mm(従って、1つは図3の点線の長方形でモデル化された領域にある)である、C45、C10、C70及び42CD4鋼で実施された試験により、誘導後に以下を得ることが可能になることが見られる:
-満足のいく品質の結合層、
-400HV0.05以上の硬度を有する結合層、
-0.5mm以上の誘導深さ、
-50HRC以上の表面硬度、
-満足のいく耐食性。
【0046】
さらに、これらの結果は、ゾルゲル膜などの、高周波誘導焼入れ前の保護フィルムにおいて最初に部品をコーティングする必要なく得られるため、処理の複雑さとコストを削減することができる。
【0047】
全てが本発明による試験2、4、6から9、11及び12について、以下の有利な特性が存在する:
-0.25mmの深さでの拡散領域の硬度は、+350HV0.05以上のコア硬度である。
-0.5mmの深さの拡散領域の硬度は、+100HV0.05以上のコア硬度である。
【0048】
したがって、本発明による処理は、拡散領域内の非常に深いところまで効果的である。
【0049】
これらの試験は、C45、C10、C70及び42CD4の棒鋼で実施されている。実際には、高周波誘導焼入れの周波数(F)及び線エネルギー(E)は、部品Pの鉄金属に適合される。適切なパラメータを決定するために、試験を行う必要がある場合がある。
【0050】
図4から図8に示し、以下に説明する金属部品の顕微鏡写真を作成するために、部品は、「ナイタール」と呼ばれる硝酸とアルコールの溶液による化学エッチングに掛けられている。このように、ナイタールは、部品の微細構造のインジケータの役割を果たし、部品を光学顕微鏡で見えるようにする。
【0051】
図4及び図5は、18μmの結合層2μm、約300μmの拡散領域3、及び、約0.5mmの誘導深さを有する、ARCOR FLASH処理(本発明によるARCOR+HF誘導焼入れ)を受けているC45鋼で作られた部品Pの顕微鏡写真である。
【0052】
部品Pは、鋼基材1、誘導層4、結合層2及び拡散領域3を含む。顕微鏡写真の撮影に必要なカットを行うために、アルミニウムのシート5及びコーティング6が追加されている。図4において、セグメント[AB]は、結合層2の平均表面(拡散領域3と結合層2との間の界面)と鋼基材1の平均表面との間の距離(厚さ)を表す。
【0053】
ここで、混合層2及び拡散領域3は、ARCOR NITROCARBONISATIONによって得られる。
【0054】
誘導層4は、高周波誘導によって得られる。それは、微細なマルテンサイトFe(α’)とフェライトFe(α)から構成されている。図5は、焼入れ後に、プロセスの最後に得られた部品の焼入れ領域に残っているFe(α)フェライトの存在を明確に示している。それは、本発明による微細構造である。
【0055】
図6は、従来のHF焼入れを受けた窒化鋼の顕微鏡写真を示しており、全てのFe(α)フェライトは、焼入れ中にFe(α’)マルテンサイトに変換されている。したがって、処理された領域にはもはやフェライトはない。したがって、この微細構造は、本発明によるものではない。
【0056】
図7は、単一のARCORニトロカーボナイゼーション(焼入れなし)を受けた鉄金属製の部品を示し、図8は、したがって、ニトロカーボナイゼーション、次いでHF焼入れ(本発明によるARCOR+HF誘導による焼入れ)を受けた本発明による部品を示す。
【0057】
図8においては、部品Pの結合層2が、黒色で約10マイクロメートルの大きさの上層2aを含むことが分かる。この上層2aは、HF焼入れによって多孔質にされており、ナイタールによって明確に明らかにされている。これは、本発明による処理方法の最後に、結合層がHF焼入れ後にわずかに劣化するが、存在し続け、少なくともその下部2bでその構造的完全性を保持することを示している。
【0058】
このような上層2aは、図7では観察することができない。結合層の構造は、焼入れが起こらなかったため、実際には変更されていない。
【0059】
したがって、本発明による部品Pは、HF焼入れが保護フィルムなしで行われたという事実にもかかわらず、部品に耐摩耗性、耐摩擦性及び耐腐食性を与える結合層2を実際に有する。
【0060】
図9は、本発明による部品Pの顕微鏡写真と、この同じ部品を測定することによって得られた硬度プロファイルとを並べたモンタージュである。硬度測定ポイントは、顕微鏡写真に表示され、異なる層に対応する測定ベアリングが定義されている。
【0061】
この図では、部分的に酸化された結合層2と誘導層4が特に見える。結合層のすぐ下で行われた硬度測定は、最大900HVの硬度を示している。部品の表面から離れて部品のコアに向かって下に移動すると、硬度は、ほぼ直線的に減少し、これにより、拡散領域3の厚さを約175μmと見積もることができ、高度が775HVの深さである。
【0062】
200μmから500μmの範囲の深さでは、硬さは、一般に550HVから600HVの値で安定している。これらの深さは、部品の結晶構造によって顕微鏡写真で視覚的に検出することができる誘導処理領域にある。
【0063】
600μm以上の深さからの測定値は、部品の母材、つまり、処理を受けていない部品のコアにある。約250HVの硬度が測定される。
【0064】
図10から図12を参照すると、本出願人は、得られた部品の性能を特徴付けるために、部品に対して機械的エージング試験を行った。以下で「ARCORリング」と呼ばれる、単一のARCORニトロカーボナイゼーションを有する滑らかな42CD4鋼リングを、本発明によるARCORニトロカーボナイゼーション及びHF焼入れを有する滑らかな42CD4鋼リングと比較する。
【0065】
これらの2つのリングは、16NC6 CT鋼シャフトに取り付けられており、市販の潤滑剤が追加されている。加えられた荷重は、50MPaの接触圧力を引き起こし、軸に対するリングの回転速度は、7.8mm/sであった。
【0066】
図10は、実行された回転数の関数として、これら2つのリングの摩擦係数の変化を示すグラフである。y軸は、摩擦係数μ(単位なし)を示し、x軸は、リングが受ける回転数Rev(回転単位)を示す。単一のARCORリングの新しい摩擦係数が約0.15μであり、この摩擦係数が、わずか2000回転から着実に増加し始め、約9000回転で約0.6μという高い値に達することが分かる。
【0067】
本発明による部品Pは、新しい状態で、約0.1μの単一のARCORリングの摩擦係数よりわずかに低い摩擦係数を有し、約11,000回転まで安定したままである。摩擦係数が増加し始めるのはこの値からであり、約125,000回転で0.6μの値に達し、これは、単一のARCORリングの場合と同様である。
【0068】
図11及び図12は、それぞれ、これらの試験後の単一ARCORリング及び本発明による部品Pの写真である。単一のARCORリングに著しい摩耗が見られ、材料が焼き付きによりねじれていることが分かる。部品Pの摩耗は、それほど目立ない。
【0069】
図13は、誘導層4を中心とした、図4の顕微鏡写真の拡大図である。セグメント[AB]は、誘導層4の厚さを表す。図13の画像を処理すると、誘導層内のFe(α)フェライトからなる領域の割合、すなわち、Fe(α)フェライト領域とFe(α’)マルテンサイト領域の合計に対する割合を推定できる。より正確には、グレーレベルの下限と上限を定義することにより、マルテンサイト相の平均グレー領域が占める空気を推定し、フェライトレベルを高めることができる。フェライトははっきりと見えるが、相界面が暗く見える場合があり、小さい寸法のフェライトの場合、これは無視できない場合があるため、2つの閾値を使用し、それらを変化させてこの推定値に到達することが勧めされる。
【0070】
図13の例では、セグメント[AB]によって区切られた層の残りに対する残留フェライト含有量は、1%から15%であり、この含有量が結合層の近くで1%に向かう傾向があり(点A)、コアの近くで15%に向かう傾向がある(点B)ことが理解される。残留フェライト量は、体積で表される。
【0071】
一般に、本発明による処理方法により、拡散領域3/結合層2界面と500μmの深さ(セグメント[AB])との間の部品において、1%以上、好ましくは5%以上の残留フェライト含有量を得ることが可能になる。
【0072】
同様に、本発明による処理方法は、拡散領域3/結合層2の界面と500μmの深さ(セグメント[AB])との間の部品において、50%以下、好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下、さらにより好ましくは15%以下の残留フェライト含有量を得ることを可能にする。
【0073】
好ましくは、残留フェライト含有量は、1%から20%、好ましくは5%から15%であるべきである。
【0074】
製造プロセスは、部品Pの耐食性を改善するために含浸ステップを任意に含むことができる。
【0075】
好ましくは、誘導による焼入れ後に含浸を行うべきである。
【0076】
含浸自体は、当業者に周知の技術であり、特定の方法は、例えば欧州特許第3237648号明細書に記載されている。含浸は、浸漬又は噴霧によって行うことができる。
【0077】
含浸は、腐食の開始を遅らせ、腐食速度を低下させ、従って部品の耐用年数を延ばす可能性があるため、部品を保護する。
【0078】
腐食性雰囲気、例えば塩水噴霧での試験によって部品の耐食性を評価することが可能である。EN ISO 9227規格「人工雰囲気での腐食試験-塩水噴霧での試験」には、そのような試験が説明されている。本発明による方法に含浸ステップを追加することによって、中性塩水噴霧を使用した試験によると、80時間を超える耐食性を有する部品Pを得ることが可能である。
【0079】
上記のことを考慮すると、意外なことに、本発明による窒化操作に続いて高周波誘導焼入れ操作を行うことによって、多くの利点を得ることができる。これらの操作により、HF焼入れの前に部品をコーティングする必要なく、研磨及び付着による摩耗に対する顕著な耐性、及び、摩擦特性の改善、適切な耐食性と組み合わされたスケーリングに対する耐性を備えた鉄系材料で作られた部品を得ることが可能になる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【国際調査報告】