(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-06
(54)【発明の名称】駆動ベルト用のフレキシブルなリング、フレキシブルなリングを含む、無段変速機用の駆動ベルトおよびフレキシブルなリングを製造する方法
(51)【国際特許分類】
F16G 5/16 20060101AFI20230227BHJP
【FI】
F16G5/16 B
F16G5/16 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022539019
(86)(22)【出願日】2020-12-09
(85)【翻訳文提出日】2022-08-23
(86)【国際出願番号】 EP2020025568
(87)【国際公開番号】W WO2021129949
(87)【国際公開日】2021-07-01
(32)【優先日】2019-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】390023711
【氏名又は名称】ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ミン-デュク トラン
(57)【要約】
本発明は、相互に入れ子にされた複数のフレキシブルなリング(41)から成るリングスタック上の周囲に組み付けられた実質的に連続する横断セグメントの列を有する駆動ベルト用のフレキシブルなリング(41)に関する。本発明によれば、駆動ベルト(50)、特に駆動ベルト(50)のリングスタックの疲労強度は、リング(41)の中央部分(41CP)の両側に配置された、リングスタックの半径方向で最も内側のリング(41)の半径方向の内面(41i)の少なくともサイドエッジ(41SE)に、表面プロフィールを設ける一方で、リングの中央部分(41CP)が比較的滑らかに提供されていることにより改善される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リングスタック(8)を備えた駆動ベルト(50)用のフレキシブルな金属リング(41)であって、
前記リングスタック(8)は、
相互に入れ子にされた複数の前記金属リング(41)と、
前記リングスタック(8)上に可動に配置されている連続する複数の横断セグメント(1)と
から成っており、
前記リング(41)の半径方向の内面(41i)に表面プロフィールが設けられている、金属リング(41)において、
前記表面プロフィールは、前記リング(41)の前記半径方向の内面(41i)の中央部分(41CP)の両側でサイドエッジ(41SE)に設けられており、かつ前記中央部分(41CP)は、前記サイドエッジ(41SE)に比べて比較的滑らかであり、かつ特に前記表面プロフィールが設けられていないことを特徴とする、フレキシブルな金属リング(41)。
【請求項2】
リングスタック(8)を備えた、無段階変速機用の駆動ベルト(50)であって、
前記リングスタック(8)は、
相互に入れ子にされた複数の金属リング(41)と、
前記リングスタック(8)上に可動に配置されている連続する複数の横断セグメント(1)と
から成っており、
前記横断セグメント(1)は、それぞれ、該横断セグメント(1)のベース部分(10)と、該ベース部分(10)の両側に配置された2つのピラー部分(11)との間に、前記リングスタック(8)を収容するための中心開口(5)を画定している、駆動ベルト(50)において、
前記リングスタック(8)の半径方向で最も内側のリング(41)の半径方向の内面(41i)および半径方向の外面(41o)に、表面プロフィールが設けられておらず、かつ前記リングスタック(8)の別のリング(41)に、前記表面プロフィールが設けられていることを特徴とする、駆動ベルト(50)。
【請求項3】
リングスタック(8)を備えた、無段変速機用の駆動ベルト(50)であって、
前記リングスタック(8)は、
相互に入れ子にされた複数の金属リング(41)と、
前記リングスタック(8)上に可動に配置されている連続する複数の横断セグメント(1)と
から成っており、
前記横断セグメント(1)は、それぞれ、該横断セグメント(1)のベース部分(10)と、該ベース部分(10)の両側に配置された2つのピラー部分(11)との間に、前記リングスタック(8)を収容するための中心開口(5)を画定している、駆動ベルト(50)において、
前記リングスタック(8)の半径方向で最も内側のリング(41)に、該リング(41)の半径方向の内面(41i)の中央部分(41CP)の両側でサイドエッジ(41SE)に表面プロフィールが設けられており、かつ前記中央部分(41CP)は、前記サイドエッジ(41SE)に比べて比較的滑らかであり、かつ特に前記表面プロフィールが設けられていないことを特徴とする、駆動ベルト(50)。
【請求項4】
前記リングスタック(8)の前記リング(41)の全てに、該リング(41)のそれぞれの半径方向の内面(41i)の中央部分(41CP)の両側で、前記サイドエッジ(41SE)に表面プロフィールが設けられており、かつ前記中央部分(41CP)は、前記サイドエッジ(41SE)に比べて比較的滑らかであり、かつ特に前記表面プロフィールが設けられていない、請求項3記載の駆動ベルト(50)。
【請求項5】
先行する請求項において言及された前記表面プロフィールは、規則的または不規則的なパターンの刻み目および/または畝から成っている、先行する請求項記載のフレキシブルな金属リング(41)または駆動ベルト(50)。
【請求項6】
先行する請求項において言及された前記表面プロフィールは、0.4~1.6マイクロメートルの範囲のISO規格のRa表面粗さを規定する、先行する請求項記載のフレキシブルな金属リング(41)または駆動ベルト(50)。
【請求項7】
前記リング(41)の前記半径方向の内面(41i)の前記中央部分(41CP)は、前記リング(41)の幅の少なくとも33%~50%にわたって延びている、先行する請求項記載のフレキシブルな金属リング(41)または駆動ベルト(50)。
【請求項8】
リングスタック(8)を備えた駆動ベルト(50)用のフレキシブルな金属リング(41)を圧延するための圧延プロセスステップ(V)であって、前記リングスタック(8)は、相互に入れ子にされた複数の前記金属リング(41)から成っており、該リング(41)の半径方向の厚さを、圧延力(Fr)で互いに対して押圧される2つの圧延ローラ間に回転式に導入することによって減じる、圧延プロセスステップ(V)において、
前記リング(41)の前記半径方向の厚さは、該プロセスにおいて50%未満だけ減じられ、かつその後に前記リング(41)の軸方向の幅は、少なくとも13mmであり、好適には少なくとも15mmであることを特徴とする、圧延プロセスステップ(V)。
【請求項9】
リングスタック(8)を備えた駆動ベルト(50)用のフレキシブルな金属リング(41)を圧延するための圧延プロセスステップ(V)であって、前記リングスタック(8)は、相互に入れ子にされた複数の前記金属リング(41)から成っており、該リング(41)の半径方向の厚さを、圧延力(Fr)で互いに対して押圧される2つの圧延ローラ間に回転式に導入することによって減じる、圧延プロセスステップ(V)において、
該圧延プロセスステップ(V)のメイン圧延段階(MRP)の完了後に、前記圧延プロセスステップ(V)を平滑化圧延段階(SRP)で継続し、該平滑化圧延段階(SRP)において、前記圧延力(Fr)は、前記メイン圧延段階(MRP)において加えられる圧延力(Fr)の最大で50%、好適には10%~40%であることを特徴とする、圧延プロセスステップ(V)。
【請求項10】
前記圧延ローラに冷却剤を供給する、請求項9記載の圧延プロセスステップ(V)において、
前記平滑化圧延段階(MRP)において前記圧延ローラに供給される前記冷却剤の量は、前記メイン圧延段階(MRP)において前記圧延ローラに供給される前記冷却剤の量の最大で50%であることを特徴とする、圧延プロセスステップ(V)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つのプーリおよび駆動ベルトを備える無段変速機用の駆動ベルトの一部であることを目的としているフレキシブルなリングに関する。このような変速機は、一般的に公知であり、たとえば、乗用車および別の自動車のドライブトレインに適用されている。変速機において、駆動ベルトは、プーリの周囲において、かつプーリの間を走行し、これらのプーリには、それぞれV字形の溝を画定する2つの円錐形のシーブが設けられており、円錐形のシーブ内に、駆動ベルトのそれぞれの周囲部分が保持されている。プーリのV字形の溝の幅は、プーリシーブを互いに向かって、もしくは互いに離れる方向に移動させることによって、相互に反対方向に変化させることができ、これにより、駆動ベルトがそれぞれのプーリと(有効に)摩擦接触している半径を制御し、すなわち変速機によって提供される速度比を、最小速度比と最大速度比との間の連続的な範囲内で制御することができる。
【0002】
公知のタイプの駆動ベルトは、鋼から成る横断セグメントの実質的に連続した列を有しており、これらの横断セグメントは、同様に鋼から成っている、互いに周囲に相互に積層されたフレキシブルで無端の複数のベルトまたはリングから成るリングスタックの周囲を巡るように組み付けられている。
【0003】
上記および下記において、軸線方向、半径方向および周方向は、環状に配置されているときの駆動ベルトに関して規定されている。横断セグメントの厚さ方向および厚さ寸法は、上述の周方向で規定されており、横断セグメントの高さ方向および高さ寸法は、上述の半径方向で規定されており、横断セグメントの幅方向および幅寸法は、上述の軸線方向で規定されている。リングおよびリングスタックの厚さ方向および厚さ寸法は、上述の半径方向で規定されており、リングおよびリングスタックの幅方向および幅寸法は、上述の軸線方向で規定されており、リングスタックの長さ方向および長さ寸法は、上述の周方向で規定されている。上下方向および上下位置はそれぞれ、半径方向外方および半径方向内方の方向で規定されている。
【0004】
公知のフレキシブルなリングには、丸みのある側面を有しているものの、ほぼ矩形の横断面が設けられており、リングの厚さは、リングの幅よりもはるかに小さく、典型的には40~100分の1以下である。また、絶対的には、リングの厚さは小さく、一般的には185~200マイクロメートルの値を有しており、リングはその周方向で比較的容易に曲がることができる。リングスタックにおいて、このような複数のリングは、互いに同心的に配置されている、すなわち、最小限の遊びで重ね合わされており、これにより、駆動ベルトが変速機において作動させられたときに、これらのリングは荷重を分け合う。
【0005】
当該技術分野において、リングスタックにおいて隣接するリング間に潤滑剤を引き込むおよび/または捕捉するために、刻み目および/または畝の規則的または不規則的なパターンがリング内面に圧刻されるという意味で、リングの製造プロセスの一環としてリングの内面を粗面化することが行われることが通常である。このような表面プロフィールの刻み目は、たとえば、閉じた谷部または交差した溝の形態であってもよいが、いずれの場合も、その深さは小さいままであり、一般的には平均で2.5~10マイクロメートルの範囲内にある。さらに、表面プロフィールは、典型的には、比較的微細なスケールで提供され、これにより、それぞれのリング表面の、結果として生じるISO規格のRa粗さは、ISOグレードN5~N7(すなわち、0.4μm<Ra<1.6μm)である。
【0006】
特に、リングにはリング圧延もしくはリングローリングのプロセスステップの一環として表面プロフィールが設けられており、このプロセスステップにおいて、少なくとも実質的に、テンショニングローラによって延伸されかつ周方向に回転させられながら2つの圧延ローラ間で厚さ方向に圧縮されることによって、半完成のリングの厚さが最終厚さにまで減じられる。それに対して、リングの内側に位置する圧延ローラの周面は、完全に滑らかではなく、その代わりに同様の表面プロフィールが設けられている。たとえば、国際公開第2005/053867号に記載されているように、リング圧延中に、このようなローラプロフィールが、リングの内面に圧刻される。
【0007】
公知の各横断セグメントは、中心開口を規定している。この中心開口は、駆動ベルトの半径方向外方に向かって開いており、このようなリングスタックのそれぞれの周方向区分を収容しかつ拘束し、横断セグメントがリングスタックの周囲に沿って移動することを可能にする。この中心開口は、横断セグメントの、リングスタックの半径方向内方に配置されたベース部分と、横断セグメントの、ベース部分のそれぞれの側から半径方向外方へそれぞれ延びている2つのピラー部分とによって、かつそれらの間に画定されている。したがって、2つのピラー部分が、中心開口のそれぞれの軸線方向の境界を規定している一方で、半径方向内方に向かう方向では、中心開口はベース部分によって画定されている。半径方向外方に向かう方向では、中心開口は、リングスタックを中心開口に拘束するために、幾つかの手段によって少なくとも部分的に閉じられている。このタイプの駆動ベルトは、たとえば、英国特許出願公開第1286777号明細書から、より最近では国際公開第2018/210456号から公知である。これらの文献によれば、半径方向外方へ向かう方向でリングスタックを拘束するための上述の手段は、ベース部分から幾らか離れた、それぞれ互いに向かって軸線方向に延びるピラー部分の、すなわち軸線方向で反対側のピラー部分のそれぞれのフック部分によって実施されていることに留意されたい。横断セグメントのこれらのフック部分は、等しい軸線方向の延在長さを有していてもよく、またはこのような軸線方向の延在長さは、2つのフック部分の間で互いに異なっていてもよく、その場合、これらの各フック部分は、好適には、とりわけ国際公開第2018/210456号によって教示されているように、駆動ベルトにおいて連続する横断セグメントのための横断セグメントの互いに反対側に設けられている。
【0008】
半径方向で見て、公知の横断セグメントの外側部分には、実質的に一定の厚さが設けられているのに対して、横断セグメントの内側部分の厚さは、半径方向内方に向かう方向で減少している。上述の内側部分と外側部分との間で、駆動ベルトの周方向に面している、横断セグメントの前面は、幅方向に延びる面部分を含んでおり、この面部分は、半径方向で湾曲しており、当該技術分野においてしばしば揺動エッジまたは傾倒ゾーンと呼ばれる。揺動エッジは、駆動ベルトにおいて連続する横断セグメントが軸線方向を中心として互いに回転することを可能にする一方で、これらの横断セグメントが揺動エッジにおいて接触したままであり、これにより、駆動ベルトは全体として湾曲した軌道をたどる。揺動エッジは、横断セグメントのベース部分に配置されていてもよいが、好適には、横断セグメントのピラー部分に少なくとも部分的に配置されている。
【0009】
変速機における運転中、リングスタックは、2つのプーリの円錐形ディスクの間にクランプされることによって、2つのプーリにおいて半径方向外方へ押し進められている横断セグメントによって緊張させられる。したがって、これらのプーリにおいて、駆動ベルトは、湾曲した軌道をたどり、この湾曲した軌道部分において、横断セグメントは、少なくとも、横断セグメントの、ピラー部分間に配置されているベース部分の表面の一部によって、リングスタックの半径方向内側に向かって支持され、この表面部分は、以下で支持面と呼ばれる。プーリにおけるリングスタックの上述の緊張により、リングスタックは、2つのプーリの間でほぼ直線的に延びている一方で、横断セグメントを、この横断セグメントがこのような直線軌道部分において一方のプーリから他方のプーリへと移動するようにガイドしている。
【0010】
このタイプの駆動ベルトは、一般的に、運転中に周期的に曲げられかつ張力下で引き伸ばされるリングスタックの疲労強度によって変速機におけるその耐用期間が決定されるように設計されている。したがって、少なくともリングスタックの金属疲労に対する耐性に関して、既存の駆動ベルト設計および既存の設計考察を改善することが一般的な開発目標である。
【0011】
本発明は、ライフサイクル試験条件下では、疲労破壊開始が、リングスタックの半径方向で最も外側のリング以外のリングスタックのリングのうちの1つのリングの外面の中央において、または中央の近傍においてしばしば生じるという観察に基づいている。この観察は、駆動ベルトの作動中にリングがその内面において最も高い組み合わされた引張応力および曲げ応力を受けるという一般的な技術的洞察に反するように見える。この明らかな矛盾は、出願人が広範囲の調査を行うきっかけとなり、この調査は、上述の開始が、リングの内面の上述の表面プロフィールに間接的に関連しているという発見につながった。
【0012】
特に、出願人は、リング圧延において、内側のリング面に圧刻された表面プロフィールが、少なくともある程度、外側のリング面の変形をも引き起こすことを発見した。このような意図しない表面プロフィール、すなわち、外側のリング面の凹凸は、内側のリング面の意図的な表面プロフィールよりも顕著ではない。たとえば、刻み目および/または畝のパターンは、あまり精密ではなく、刻み目は、外側のリング面においてより浅い。実際に、内側のリング面の表面プロフィールは通常、肉眼で見えるが、外側のリング面の表面プロフィールは機器を使用しなければほとんど識別できない。それにもかかわらず、外側のリング面のこのような最小限の凹凸でさえ、リングスタックにおいて隣接する2つのリングの間の接触応力を不都合に高めてしまう。特に、接触するリング面の2つの隆起部が、リングの軸方向の中央の近傍において相互作用する場合、リング間の接触力が最も高い箇所において、高い局所的な接触応力が生じる。最終的に、このような接触応力は、隣接する2つのリングのうちの内側のリングの外面の、マイクロピッチングのような表面疲労をもたらしてしまう。リングスタックの最も内側のリングは、一般的にはこのような現象に最も影響されやすい。なぜならば、このリングの外面は、一般的には、運転中に、最も高い法線力を受けるからである。また、中央に配置される単独のリングスタックを備えた現在論じられている駆動ベルト型において適用されるより幅広のリングは、このような幅広のリングにおいてリング圧延において加えられる力がより大きいので、特にこの現象の影響を受けやすい。
【0013】
上記の観察に基づき、かつ公知のリングと比較して、本発明は、少なくとも、リングスタックの最も内側のリングの内面の少なくとも中央部分、すなわち観察された疲労破壊開始の位置の反対側の位置に、より少ない範囲で表面プロフィールを設けることを提案する。言い換えれば、本発明によれば、少なくとも、リングスタックの半径方向で最も内側のリングの内面の上述の中央部分は、比較的滑らかに形成されており、特に、0.4μm未満のRa表面粗さ(ISOグレードN4以下)が設けられている。リングスタックの最も内側のリングのこの比較的滑らかな中央部分は、好適には、リングの幅の少なくとも33%、より好適には約50%に及んでいる。特に、本発明によれば、表面プロフィールは、リングスタックの最も半径方向内側のリングの内面に全く設けられていないか、または上述の中央部分の両側でリングの内面のサイドエッジのみに設けられている。
【0014】
代替的または付加的に、リングの製造プロセスは、外側のリング面の上述の凹凸を回避するか、または少なくとも減じるように変化させることができる。本発明は、2つの変化形を提案する。
【0015】
第1に本発明によれば、リング圧延における厚さ減少比は、特に、現在論じられている駆動ベルト型において一般的に適用される、13mmよりも大きく、好適には15mmを超える圧延後の幅を有するリングに関して、特に0.4mmよりも大きな厚さ(すなわち、リング圧延前)を有するリングのための基材に関して、50%未満に制限されている。
【0016】
第2に本発明によれば、リング圧延のプロセスステップは、平滑化段階、すなわちメインの厚さ減少段階に続く平滑化段階を含んでおり、この平滑化圧延段階では、リングは、圧延ローラ間で加えられる圧縮圧延力を受けながら圧延ローラ間で回転されており、圧延力は、メイン圧延段階において加えられる最も高い圧延力に対して少なくとも50%、好適には60%~90%だけ減じられている。特に、このような平滑化圧延段階において、リングと圧延ローラとの間の接触部への冷却および潤滑剤の供給流は、メイン圧延段階におけるこのような供給流に対して減じられており、好適には少なくとも50%減じられている。
【0017】
ここで上述の発明および発明の基礎となる技術的な作動原理を、図面を参照しながらさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】リングスタックと、このリングスタックの周囲に沿ってリングスタックに組み付けられた横断セグメントの列とから構成された駆動ベルトと、2つのプーリとを備えた公知の変速機の単純化された概略的な側面図である。
【
図2】周方向に面した横断面で公知の駆動ベルトを概略的に示す図であり、駆動ベルトの横断セグメントのみの別個の横断面も含んでいる。
【
図3】リングスタックの個別のリングの概略図である。
【
図4】圧延のプロセスステップを含む、リングの公知の製造プロセス全体の、本願に関連する部分のチャート図を示す図である。
【
図5】
図4に示された製造プロセス全体によって実際に得ることができるような、
図3に示したリングの半径方向の内面および半径方向の外面の拡大区分の輪郭プロットを示す図である。
【
図6】本発明による、リングスタックの半径方向で最も内側のリング、特に半径方向で最も内側のリングの半径方向の内面の表面プロフィールを示す概略図である。
【
図7】本発明による圧延のプロセスステップにおいて加えられる圧延力を示すグラフである。
【0019】
図1は、たとえば乗用車の動力伝達経路において使用するための無段変速機51の中央部分を、その断面で概略的に示している。この変速機51はよく知られており、少なくとも第1の可変のプーリ52と、第2の可変のプーリ53と、これらのプーリ52,53の周囲に取り付けられた駆動ベルト50とを有している。動力伝達経路において、第1のプーリ52は、電気モータまたは燃焼エンジンなどの車両の原動機に連結されており、かつこれにより駆動され、第2のプーリ53は、通常は複数の歯車を介して車両の被動輪に連結されており、かつこれを駆動する。各プーリ52,53は、典型的には、それぞれのプーリシャフト54,55に位置固定されている第1の円錐形のシーブと、このようなそれぞれのプーリシャフト54,55に対して軸線方向に移動可能であり、かつ回転方向で位置固定されている第2の円錐形のシーブとを有している。
図1から判るように、変速機51における駆動ベルト50の軌道は、駆動ベルト50がプーリ52,53の間にわたって延びる2つの直線部分STと、駆動ベルト50が2つのプーリ52,53の周囲に巻き掛けられると同時に、プーリ52,53の円錐形のシーブの間に収容されている2つの湾曲部分CTとを有している。
【0020】
駆動ベルト50は、リングスタック8と、少なくとも実質的に連続した列においてリングスタック8の周囲に沿ってリングスタック8に組み付けられている複数の横断セグメント1とから成っている。簡単にするために、
図1には、駆動ベルト50の複数の横断セグメント1のうちの幾つかのみが示されている。さらに、これらの横断セグメント1は、たとえばプーリ52,53の直径に関して正しい縮尺では示されていない。駆動ベルト50において、横断セグメント1は、リングスタック8の周囲に沿って可動である。このリングスタック8は、8つの個別のリングを備えたリングスタック8を示す
図2においてより明らかに確認することができるように、相互に入れ子にされた比較的薄くフレキシブルである無端の複数の鋼ベルトまたはリングから成っている。
【0021】
変速機51の運転中に、駆動ベルト50の横断セグメント1は、第1のプーリ52によって、このプーリ52の回転方向に摩擦によって駆動され得る。これらの駆動された横断セグメント1は、リングスタック8の周方向で先行する横断セグメント1を押し、最終的に、第2のプーリ53をやはり摩擦により回転駆動する。横断セグメント1とプーリ52,53との間でこのような摩擦(力)を発生させるために、各プーリ52,53の上述のプーリシーブが、互いに向かって押し進められる。これにより、これらのプーリシーブは、横断セグメント1をその間で、駆動ベルト50のそれぞれ湾曲した軌道部分CTにおいてクランプする。このために、各プーリ52,53の可動なプーリシーブに作用する、電子制御可能かつ液圧式に機能する移動手段(図示せず)が、変速機51に設けられている。これらの移動手段も、プーリ52,53において駆動ベルト50のそれぞれの半径方向位置R1およびR2を制御し、したがってプーリ52,53のプーリシャフト54,55間の動力伝達経路において変速機51により提供される速度比を制御する。
【0022】
変速機51の駆動ベルト50の運転中にも、横断部材は、円錐形のプーリシーブ間にクランプされることにより半径方向外方へ押し退けられ、これにより緊張させられたリングスタック8の半径方向内側と接触させられる。上述のように、駆動ベルト50において、横断セグメント1は、リングスタック8の周囲に沿ってリングスタック8に対して移動することができるので、リングスタック8は、少なくとも別のタイプの駆動ベルトと比較して、プーリ52,53間で駆動ベルト50によって伝達されるトルクに関して比較的低いレベルで緊張させられる。
【0023】
図2には、公知の駆動ベルト50がより詳細に概略的に示されている。
図2の左側には、駆動ベルト50が、周方向に面した断面で示されており、
図2の右側には、横断セグメント1のみの断面A-Aが含まれている。
図2から、駆動ベルト50の横断セグメント1が、概して、「V」の文字に似て形成されており、すなわち、概してV字形であることが分かる。言い換えれば、横断セグメント1の、プーリ52,53と(摩擦)接触する側面12は、これらのプーリ52,53の円錐形のシーブ間に存在する角度とほぼ一致する角度に向けられることにより、半径方向外方に向かう方向で互いに拡開している。横断セグメント1のプーリ接触面12は、典型的には、微視的なプロフィールによって波形にされているか、または粗い表面構造が設けられており、これにより、波形または表面粗さのより高い位置にある頂点のみがプーリ52,53に接触する。横断セグメント設計のこの特別な特徴は、駆動ベルト50とプーリ52,53との間の摩擦が、公知の変速機51に供給される冷却オイルが、波形または表面粗さのより低い位置にある部分に収容されることを可能にすることによって最適化されることを提供する。
【0024】
各横断セグメント1は、ベース部分10と2つのピラー部分11とを有している。これらのうちベース部分10は、主に駆動ベルト50の軸線方向に延びており、ピラー部分11は、主に駆動ベルト50の半径方向に、それぞれベース部分10のそれぞれの軸線方向側から延びている。その厚さ方向で、横断セグメント1は、本体前面、すなわち前面2と、本体後面、すなわち後面3との間に延びており、前面および後面は両方とも、少なくともほぼ駆動ベルト50の周方向に向けられている。各横断セグメント1のピラー部分11とベース部分10との間の中心に開口5が規定されている。この開口5内に、リングスタック8の周方向区分が収容されている。半径方向外方に向かって、中心開口5は、ピラー部分11のそれぞれのフック部分9によって部分的に閉じられている。このようなフック部分9はそれぞれ、それぞれのピラー部分11から、概してそれぞれ反対側のピラー部分11の方向へ延びている。したがって、フック部分9は、リングスタック8を半径方向外方に向かう方向で横断セグメント1の中心開口5に拘束する。ピラー部分11間において、ベース部分10は、リングスタック8を半径方向内方に向かう方向で拘束し、かつ支持するための支持面13を規定している。
【0025】
図2に図示したように、支持面13は、中心開口5の境界面の中央部分であり、中心開口5は、半径方向内方に向かう方向でベース部分10によって規定されており、したがって、主に、駆動ベルト50の軸線方向および周方向に延びている。支持面は、横断セグメント1とリングスタック8との間の所望の接触および相互作用を実現するか、または少なくとも促進するために、よく知られた形式で少なくとも軸線方向に凸状に湾曲させられている。支持面13の両側で、ベース部分10の上述の境界面は、支持面13と、中心開口5に面するそれぞれのピラー部分11の側面との間の移行部を形成する移行面15をさらに有している。典型的には、このような移行面15は、支持面13に隣接する凸状に湾曲した部分と、それぞれのピラー部分11の上述の側面に隣接する凹状に湾曲した部分とを含んでいる。移行面15の凸状に湾曲した部分は、支持面13が湾曲しているよりも著しく小さな(たとえば、0.1倍以下の)曲率半径で湾曲させられていることに留意されたい。リングスタック8の幅は、駆動ベルト50の設計をできるだけコンパクトにすることを可能にするように、支持面13の幅よりも幾らか大きくてもよい。
【0026】
横断セグメント1の両方のピラー部分11には、横断セグメント1の前面2から厚さ方向で突出する突出部6と、それぞれのピラー部分11の反対の側に、すなわち横断セグメント1の後面3に設けられた、対応するが幾らか大きなキャビティ7とが設けられている。駆動ベルト50の横断セグメント1の列において、第1の横断セグメント1の突出部6が、連続する第2の横断セグメント1のキャビティ7内に収容されている。連続する横断セグメント1の突出部6とキャビティ7とのこの係合により、横断セグメント1は、互いに連接し、駆動ベルト50における横断セグメント1の上述の列において半径方向および軸線方向で互いに整列する。
図2において、キャビティ7の直径は、突出部6の直径に対して誇張されており、突出部6とキャビティ7との間に存在する遊びを示している。
【0027】
さらに駆動ベルト50の横断セグメント1の上述の列において、第1の横断セグメント1の前面2の少なくとも一部は、連続する第2の横断セグメント1の後面3の少なくとも一部に当接する。当接している横断セグメント1は、互いに対して相対的に傾倒することができる一方で、横断セグメント1の前面2の軸線方向に延びる凸状に湾曲された面部分4における、面部分4による相互の接触は維持される。この面部分4は、以下に揺動エッジ4と呼ばれる。このような揺動エッジ4の上方、すなわち半径方向外側において、横断セグメント1は、ほぼ一定の厚さを有している一方で、このような揺動エッジ4の下方、すなわち半径方向内方において、横断セグメント1はテーパさせられている、すなわち、半径方向内方に向かう方向で(徐々に、段階的に、またはこれらの組み合わせによって)減少する厚さを有しており、これにより、当接する横断セグメント1のそれぞれのベース部分10間に干渉することなしに、前述の相対的な傾倒を可能にすることができる。
【0028】
図2において、揺動エッジ4は部分的に横断セグメント1のピラー部分11に、かつ部分的に横断セグメント1のベース部分10に配置されていて、これにより揺動エッジ4は支持面13に半径方向でオーバラップしているが、揺動エッジ4を完全にベース部分10に、すなわち支持面13の半径方向内方に揺動エッジ4を配置することも知られていることに留意されたい。いずれの場合も、揺動エッジ4は好適には、中心開口5によって、かつ/または横断セグメント1の前面2に設けられた切欠き領域14によって隔てられた2つの部分4a,4bに設けられている。切欠き領域14は、厚さ方向で揺動エッジ4に対して切り欠かれている。切欠き領域14は、当接する横断セグメント1間の通路を提供し、潤滑剤が駆動ベルト50の半径方向内側からリングスタック8の半径方向内側へ流れることを可能にする。このような潤滑剤は、変速機を冷却するためだけでなく、横断セグメント1とリングスタック8との間ならびにリングスタック8の個々のリング間の動的接触を潤滑するためにも運転中に変速機に供給される。さらに、
図2に図示された横断セグメント1の実施形態において、揺動エッジ4が部分的に横断セグメント1のピラー部分11およびベース部分10に配置されており、切欠き領域14は、部分的に、横断セグメント1の前面2と支持面13との間の湾曲した移行面として、横断セグメントの精密打抜きを行う好適な製造方法の不可避の副作用として形成されている。精密打抜き加工では、横断セグメント1の輪郭に対応する輪郭を有するポンチを、基材を通してダイプレートの横断セグメント形の孔内へとプレスし、横断セグメント1の反対側でカウンタポンチによって支持することによって、横断セグメント1が基材から切断される。基材と接触するカウンタポンチの端面は、とりわけ揺動エッジ4を形成するための形にされており、突出部6を形成するための型として働く切欠きが設けられている一方で、基材に接触するポンチの端面はキャビティ7を形成するための突出した部分である。
【0029】
図3には、リングスタック8の個別のリング41が図示されている。間に谷を備えた、互いに交差する連続的な畝の微細なスケールの表面プロフィールは、リング41の内面41i上に存在しており、クロスハッチングにより
図3に概略的に示されている。リング41の外面41oは、このような表面プロフィールを有しておらず、したがって、比較的滑らかである。内面41iの表面プロフィールは、リングスタック8の個別のリング41間の摺動接触の表面積を減じることにより、かつこのような摺動接触における潤滑剤の引込みおよび/または捕捉によって、リングスタック8の個別のリング41間の摩擦を減じる。
【0030】
図4は、駆動ベルトリング構成部材41のための公知の製造方法の関連する部分を示しており、この公知の製造方法は、典型的には、自動車用途のための金属駆動ベルト50の製造のために当該技術分野において適用される。公知の製造方法の別個のプロセスステップは、ローマ数字によって示されている。
【0031】
第1のプロセスステップIでは、約0.4mmの厚さを有するマルエージング鋼基材の薄いシートまたはプレート20が円筒状に曲げられて、突き合わせられたプレート端部21が、第2のプロセスステップIIにおいて互いに溶接され、中空の円筒もしくは管22を形成する。プロセスの第3のステップIIIにおいて、管22は、オーブンチャンバ60において焼きなましされる。その後、第4のプロセスステップIVにおいて、管22は、複数の環状のリング41に切断され、これらのリング41は、その後に第5のプロセスステップVにおいて、2つの圧延ローラの間で圧延され、引き伸ばされながら、その厚さを約2分の1に減少させる。リング圧延中に、リング41と圧延ローラとの間の接触部に冷却および潤滑剤が供給される。リング圧延のプロセスステップにおいて、たとえば、国際公開第2005/053867号に記載されているように、上述の表面プロフィールは、適切にプロフィール形成された圧延面が設けられたそれぞれの圧延ローラによって、リング41の内面41iに圧刻される。
【0032】
このように圧延されたリング41は、オーブンチャンバ60において、摂氏600度よりもかなり高い温度、たとえば約800℃でリング材料を回復かつ再結晶化することによって先行する圧延プロセスステップの加工硬化効果を取り除くための別の、つまりリング焼きなましプロセスステップVIを受ける。このような高温では、リング材料の微細構造は、完全にオーステナイト型の結晶から成っている。しかしながら、リング41の温度が再び室温にまで低下すると、このような微細構造は、所望のように、マルテンサイトへと戻る。焼きなましVIの後に、リング41は、第7のプロセスステップVIIにおいて、2つの回転するローラの周りに組み付けられ、これらのローラを離すことによって所定の周長へと延伸させられることによって較正される。リング較正のこの第7のプロセスステップVIIにおいて、内部応力もリング41に加えられる。
【0033】
その後、リング41は、組み合わせられた時効硬化、すなわちバルク析出硬化と、窒化、すなわち表面硬化との第8のプロセスステップVIIIにおいて熱処理される。特に、このような組み合わされた熱処理は、アンモニア、水素および窒素ガスの混合物の制御されたプロセス雰囲気を含むオーブンチャンバ60内でリング41を制御された温度に維持することを含む。当該技術分野において、プロセス雰囲気中のアンモニア濃度を5~25体積%の値に制御し、プロセス雰囲気中の水素濃度を5~15体積%の値に制御し、プロセス雰囲気の温度を450~525℃の値に制御することが知られている。これ関して実際に適用される値は、約10体積%のアンモニアガス、約5体積%の水素ガスおよび470℃である。オーブンチャンバ内では、アンモニア分子が、リング41の表面において水素ガスと窒素原子とに分解し、窒素原子は、リング41の結晶構造内に進入することができる。これらの間入する窒素原子により、摩耗および疲労破壊に対する耐性が著しく高められることが知られている。典型的には、組み合わされたリング析出硬化および窒化の第8のプロセスステップVIIIは、リング41の外面41oに形成された窒化層または窒素拡散ゾーンが、たとえば、25マイクロメートルの所望の厚さに達するまで実施される。
【0034】
特に、このような組み合わされた熱処理の前後に、アンモニアを含まないプロセスガス中での時効硬化熱処理、すなわち同時的な窒化を伴わない熱処理が行われてもよいことに留意されたい。このような別個の時効硬化熱処理は、窒化熱処理の持続時間が短すぎて、析出硬化プロセスを同時に完了させることができない場合に適用される。
【0035】
このように処理された複数のリング41は、第9のプロセスステップIXにおいて組み立てられて、これにより隣接するリング41の各対の間に最小限の半径方向の遊びまたは間隙を実現するために、選択されたリング41の半径方向の積層、つまり同心的な入込みによってリングスタック8を形成する。特に、リング較正の第7のプロセスステップVIIの直後に、すなわち、リングの時効硬化およびリング窒化の第8のプロセスステップVIIIに先だって、リングスタック8を組み立てることも当該技術分野において公知であることに留意されたい。
【0036】
変速機における運転中に、リングスタック8の個別のリング41は、とりわけ上述のクランプ力に対して半径方向に向けられた反力によって緊張させられることがよく知られている。しかしながら、結果として生じるリング張力は一定ではなく、変速機によって伝達されるべきトルクに応じて変化するだけでなく、変速機内の駆動ベルト50の回転に応じても変化する。したがって、リング41の降伏強度および耐摩耗性に加えて、疲労強度もリング41の重要な特性および設計パラメータである。
【0037】
この後者の点において、本発明は、試験において、リング41の極限疲労の開始が、リングスタック8の中央の近傍のリングスタック8の半径方向で最も内側のリング41の外面41oにおいて生じ得るという観察に基づく。この開始位置は、最も内側のリング41の外面41oと、リングスタック8の後続のリング41の内面41iとの間の接触部に関連していた。このような接触において、後続のリング41の内面41iに設けられている表面プロフィールは、最も内側のリング41の外面41o上の突部と相互作用し、これにより応力が局所的に上昇することが分かった。リング41の外面41o上のこれらの突部は、リング圧延のプロセスステップVにおいて形成される。リング41の内面41iに圧刻された表面プロフィールは、リング41の外面41oの変形も引き起こす。
図5では、リング圧延における溝のクロスハッチパターンの形態の表面プロフィールが意図的に設けられたリング41の典型的な内面41iと、表面プロフィールが意図せずに設けられているリング41の結果として生じる外面41oとの両方が表面輪郭プロットに含まれる。
図5において、内面41iの表面プロフィールは、約12μmである、最も明るい領域と最も暗い領域との間の最大の高度差を有しており、このような最大の高度差は、外面41iの表面プロフィールにとっては約4μmである。
【0038】
特に、リングスタック8の半径方向で最も内側のリング41の疲労強度を改善するために、本発明は、概して、
図6に図示したように、半径方向で最も内側のリング41の内面41iの中央部分CPに上述の表面プロフィールを設けないことによって、半径方向で最も内側のリング41の外面41oをできるだけ滑らかに製造することを提案する。結局、内面41iのこの中央部分CPは、外面41oにおいて疲労破壊開始が観察された箇所に一致する。言い換えると、リング41の内面41iのサイドエッジSEにのみに、本発明により表面プロフィールが設けられている。さらに、製造の観点から、別のリング41の内面41iに、滑らかな中央部分CPを有するサイドエッジSEと同一の表面プロフィールを設けると便利である場合がある。
【0039】
しかし同一の目的のために、リング41の上記設計に対して代替的または代替的には、
図7に図示したように、リング圧延の第5のプロセスステップVを本発明に従って最適化することができる。
図7には、圧延ローラ間でリング41に加えられる圧縮圧延力Frが、圧延プロセスの継続時間のための時間tの関数としてプロットされている。
図7は、新規のリング圧延プロセスが、メイン圧延段階MRPと平滑化圧延フェーズSRPとの両方を含んでいることを図示している。メイン圧延段階MRPでは、リング41の厚みを減じるために比較的高い圧延力Fsが加えられる。メイン圧延段階MRPの終了時に、圧延力Frは減じられるが、ゼロになるのではなく、むしろ圧延プロセスが、上述の平滑化圧延フェーズSRPで継続して、主圧延段階MRPにおいて加えられる(最大の)圧延力Frの(本実施例では)±40%の減じられた圧延力Frを加える。平滑化圧延段階SRPの終了時に、圧延力Fsはゼロに減じられて、リング圧延のこの第5のプロセスステップVを完了する。特に、平滑化圧延段階SRPにおいて加えられる圧延力Frは、リング41の内面41iに作用する圧延ローラの表面プロフィールの作用が外面41oに及ぼされないように低く選択されている。同時に、外面41oは、滑らかな圧延面を有する他方の圧延ローラによってまだ加工されており、すなわち塑性変形されている。したがって、平滑化圧延段階SRPにおいて、メイン圧延段階MRPにより引き起こされる、リング41の外面41oの凹凸が再度低減される。好適には、このような平滑化圧延段階SRPでは、リングと圧延ローラとの間の接触部への潤滑剤の供給も、メイン圧延段階におけるこのような潤滑剤供給に対して減じられている。
【0040】
本発明は、上述の説明の全体および添付した図面の全ての詳細に加えて、添付の特許請求の範囲の全ての特徴にも関し、かつこれらの特徴を含む。請求項における括弧書きの符号は、請求項の範囲を限定するのではなく、単に、それぞれの特徴の拘束しない例として提供されている。請求項に記載された特徴は、任意の製品または任意の方法において別々に適用することができるが、場合によっては、請求項に記載されたこれらの2つ以上の特徴のあらゆる組み合わせを適用することも可能である。
【0041】
本発明は、本明細書において明示的に言及された実施形態および/または実施例に限定されず、これらの実施形態および/または実施例の変更、改良および実用的な適用、関連分野の当業者が想到するものを包含する。
【手続補正書】
【提出日】2022-08-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動ベルト(50)用のフレキシブルな金属リング(41)であって、
前記駆動ベルト(50)は、
相互に入れ子にされた複数の前記金属リング(41)から成るリングスタック(8)
と、
前記リングスタック(8)上に可動に配置されている連続する複数の横断セグメント(1)と、
を備え
る、金属リング(41)
において、
前記
金属リング(41)の内面(41i)の
中央部分(41CP)は、前記金属リング(41)の、前記中央部分(41CP)の両側
に配置されているサイドエッジ(41SE)
よりも低いISO規格のRa表面粗さを有することを特徴とする
、金属リング(41)。
【請求項2】
前記金属リング(41)の前記内面(41i)の前記サイドエッジ(41SE)には、前記中央部分(41CP)よりも高い前記Ra表面粗さを有する表面プロフィールが設けられており、
前記表面プロフィールは、規則的または不規則的なパターンの刻み目および/または畝から成っている、請求項1記載の金属リング(41)。
【請求項3】
前記金属リング(41)の前記内面(41i)の前記中央部分(41CP)は、前記金属リング(41)の幅の50%にわたって延びている、請求項1または2記載の金属リング(41)。
【請求項4】
相互に入れ子にされた複数の金属リング(41)から成るリングスタック(8)
と、
前記リングスタック(8)上に可動に配置されている連続する複数の横断セグメント(1)であって、前記横断セグメント(1)は、それぞれ、該横断セグメント(1)のベース部分(10)と、該ベース部分(10)の両側に配置された2つのピラー部分(11)との間に、前記リングスタック(8)を収容するための中心開口(5)を画定している、
横断セグメント(1)と、
を備える駆動ベルト(50)において、
前記リングスタック(8)
は、半径方向で最も内側の
第1のリング(41)
と、前記第1のリング(41)とは別の第2のリング(41)と、を含み、前記
第2のリング(41)に
は、
前記第2のリング(41)の内面(41i)または外面(41o)の周囲全体に沿って、前記第1のリング(41)の内面(41i)および外面(41o)よりも高いISO規格のRa表面粗さを有する表面プロフィールが設けられていることを特徴とする、駆動ベルト(50)。
【請求項5】
相互に入れ子にされた複数の金属リング(41)から成るリングスタック(8)
と、
前記リングスタック(8)上に可動に配置されている連続する複数の横断セグメント(1)であって、前記横断セグメント(1)は、それぞれ、該横断セグメント(1)のベース部分(10)と、該ベース部分(10)の両側に配置された2つのピラー部分(11)との間に、前記リングスタック(8)を収容するための中心開口(5)を画定している、
横断セグメント(1)と、
を備える駆動ベルト(50)において、
前記リングスタック(8)の半径方向で最も内側の
第1のリング(41)
の内面(41i)の中央部分(41CP)は、前記第1のリング(41)の、前記中央部分(41CP)の両側に配置されているサイドエッジ(41SE)よりも低いISO規格のRa表面粗さを有することを特徴とする、駆動ベルト(50)。
【請求項6】
前記第1のリング(41)の前記内面(41i)の前記サイドエッジ(41SE)には、前記中央部分(41CP)よりも高い前記Ra表面粗さを有する表面プロフィールが設けられており、
前記表面プロフィールは、規則的または不規則的なパターンの刻み目および/または畝から成っている、請求項5記載の駆動ベルト(50)。
【請求項7】
前記リングスタック(8)の
全ての前記
金属リング(41)に
おいて、
前記内面(41i)の前記中央部分(41CP)は、前記サイドエッジ(41SE)よりも低い前記Ra表面粗さを有する、請求項
5または6記載の駆動ベルト(50)。
【請求項8】
前記
第1のリング(41)
の前記内面(41i)の前記中央部分(41CP)は、前記
第1のリング(41)の幅の50%にわたって延びている、
請求項5から7のいずれか1項記載
の駆動ベルト(50)。
【請求項9】
相互に入れ子にされた複数の金属リング(41)から成るリングスタック(8)を備えた駆動ベルト(50)用の
、フレキシブルな金属リング(41)を圧延するための圧延
方法(V)であって、
前記金属リング(41)の半径方向の厚さを、圧延力(Fr)で互いに対して押圧される2つの圧延ローラ間に回転式に導入することによって減じる、圧延
方法(V)において、
前記圧延
方法(V)のメイン圧延段階(MRP)の完了後に、前記圧延
方法(V)を平滑化圧延段階(SRP)で継続し、該平滑化圧延段階(SRP)において、前記圧延力(Fr)は、前記メイン圧延段階(MRP)において加えられる圧延力(Fr)の最大で50%、好適には10%~40%であることを特徴とする、圧延
方法(V)。
【請求項10】
前記圧延ローラに冷却剤を供給する、請求項
9記載の圧延
方法(V)において、
前記平滑化圧延段階(
SRP)において前記圧延ローラに供給される前記冷却剤の量は、前記メイン圧延段階(MRP)において前記圧延ローラに供給される前記冷却剤の量の最大で50%であることを特徴とする、圧延
方法(V)。
【国際調査報告】