IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アルベルト・ルートヴィヒ大学フライブルクの特許一覧

特表2023-508968認知症および年齢依存性の認知機能低下を治療するための腸内微生物叢に関連する方法
<>
  • 特表-認知症および年齢依存性の認知機能低下を治療するための腸内微生物叢に関連する方法 図1
  • 特表-認知症および年齢依存性の認知機能低下を治療するための腸内微生物叢に関連する方法 図2
  • 特表-認知症および年齢依存性の認知機能低下を治療するための腸内微生物叢に関連する方法 図3
  • 特表-認知症および年齢依存性の認知機能低下を治療するための腸内微生物叢に関連する方法 図4
  • 特表-認知症および年齢依存性の認知機能低下を治療するための腸内微生物叢に関連する方法 図5
  • 特表-認知症および年齢依存性の認知機能低下を治療するための腸内微生物叢に関連する方法 図6
  • 特表-認知症および年齢依存性の認知機能低下を治療するための腸内微生物叢に関連する方法 図7
  • 特表-認知症および年齢依存性の認知機能低下を治療するための腸内微生物叢に関連する方法 図8
  • 特表-認知症および年齢依存性の認知機能低下を治療するための腸内微生物叢に関連する方法 図9
  • 特表-認知症および年齢依存性の認知機能低下を治療するための腸内微生物叢に関連する方法 図10
  • 特表-認知症および年齢依存性の認知機能低下を治療するための腸内微生物叢に関連する方法 図11
  • 特表-認知症および年齢依存性の認知機能低下を治療するための腸内微生物叢に関連する方法 図12
  • 特表-認知症および年齢依存性の認知機能低下を治療するための腸内微生物叢に関連する方法 図13
  • 特表-認知症および年齢依存性の認知機能低下を治療するための腸内微生物叢に関連する方法 図14
  • 特表-認知症および年齢依存性の認知機能低下を治療するための腸内微生物叢に関連する方法 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-06
(54)【発明の名称】認知症および年齢依存性の認知機能低下を治療するための腸内微生物叢に関連する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20230227BHJP
   C12Q 1/00 20060101ALI20230227BHJP
   G01N 33/569 20060101ALI20230227BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20230227BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20230227BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20230227BHJP
【FI】
G01N33/68
C12Q1/00
G01N33/569 F
G01N33/48 M
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022539021
(86)(22)【出願日】2020-12-22
(85)【翻訳文提出日】2022-07-29
(86)【国際出願番号】 EP2020087698
(87)【国際公開番号】W WO2021130267
(87)【国際公開日】2021-07-01
(31)【優先権主張番号】19219331.6
(32)【優先日】2019-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】20161869.1
(32)【優先日】2020-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522250910
【氏名又は名称】アルベルト・ルートヴィヒ大学フライブルク
(74)【代理人】
【識別番号】100080182
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 三彦
(74)【代理人】
【識別番号】100142572
【弁理士】
【氏名又は名称】水内 龍介
(72)【発明者】
【氏名】ブランク トーマス
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045AA40
2G045CA25
2G045CA26
2G045CB03
2G045CB04
2G045CB07
2G045CB21
2G045CB26
2G045CB30
2G045DA35
2G045FA34
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ80
4B063QR49
4B063QR72
(57)【要約】
本発明は、認知症疾患の診断および治療の新たな手法に関する。具体的には、本発明は、認知症疾患を診断する新たなマーカー、および認知症疾患治療の新たな標的に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者が認知症を発症するまたは有する確率を診断する方法であって、
a)被験者から試料を入手すること;
b)前記試料中のNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸、ならびに/または5-アミノ吉草酸およびNε-トリメチルリシン(N(6),N(6),N(6)-トリメチル-L-リシン)を含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前駆体、ならびに/またはグルタル酸および5-(ガラクトシルヒドロキシ)-L-リシンを含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の代謝物の濃度を測定すること;
c)前記b)のステップで測定した前記濃度に基づいて前記被験者が認知症を発症するまたは有する確率を決定すること
を含む方法。
【請求項2】
前記試料が、唾液試料、尿試料、血液試料、血清試料、脳液試料、脳室液試料、髄液試料、脳組織試料、微生物試料、糞便試料、または便試料のうちの1つから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の濃度が0.005~0.050μM/g尿中クレアチニンである場合、前記被験者が認知症を発症するまたは有することを示す、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前記前駆体が、5-アミノ吉草酸またはNε-トリメチルリシン(N(6),N(6),N(6)-トリメチル-L-リシン)のうちの1つから選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記濃度が、内部標準物質との比較、または代謝物標準物質との外部比較によって決定される、請求項1~4のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記c)のステップが、前記b)のステップの前記濃度を、対照データ、具体的には、年齢が同じ、性別が同じ、民族が同じ、および/または地理的位置が同じである1人または複数人の健常者の対照データの濃度と比較することを含む、請求項1~5のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記認知症が、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、前頭側頭型認知症、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、緑内障、筋強直性ジストロフィー、進行性核上性麻痺、脊髄性筋萎縮症、多系統萎縮症、運動失調症、血管性認知症、またはその他の認知症のうちの1つから選択される、請求項1~6のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
被験者が認知症を発症するまたは有する確率を診断する方法であって、
a)第1の時点で被験者から第1の試料を入手すること;
b)前記第1の試料中のNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸、ならびに/または5-アミノ吉草酸およびNε-トリメチルリシン(N(6),N(6),N(6)-トリメチル-L-リシン)を含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前駆体、ならびに/またはグルタル酸および5-(ガラクトシルヒドロキシ)-L-リシンを含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の代謝物の濃度を測定すること;
c)第2の時点で前記被験者から第2の試料を入手すること;
d)前記第2の試料中のNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸、ならびに/または5-アミノ吉草酸およびNε-トリメチルリシン(N(6),N(6),N(6)-トリメチル-L-リシン)を含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前駆体、ならびに/またはNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の代謝物の濃度を測定すること;
e)前記b)とd)のステップで測定した前記濃度の比較に基づいて前記被験者が認知症を発症するまたは有する確率を決定すること
を含む方法。
【請求項9】
前記第1の時点と第2の時点が約3~6カ月間隔てられている、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
被験者が認知症を発症するまたは有する確率を診断する方法であって、
a)被験者から試料を入手すること;
b)前記試料中のコリネバクテリウム、クロストリジウム・スポロゲネス、クロストリジウム・スティックランディイ、クロストリジウム・パーフリンジェンス、クロストリジウム・ブチリカム、クロストリジウム・スフェノイデス、クロストリジウム・グルタミクム、クロストリジウム・ビフェルメンタンス、クロストリジオイデス・ディフィシル、オシリバクター、クロアシバシルス・エブリエンシ、ファーミキューテス、およびバクテロイデスのいずれかの存在量を測定すること;
c)前記b)のステップで測定した前記存在量に基づいて前記被験者が認知症を発症するまたは有する確率を決定することであって、特に、前記被験者が認知症を発症するまたは有する確率を決定することが、ファーミキューテスとバクテロイデスの比率を比較することを含むこと
を含む方法。
【請求項11】
前記試料が、微生物試料、腸内細菌叢試料、腸試料、糞便試料、および/または便試料のうち1つまたは複数から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
被験者が認知症を発症するまたは有する確率を診断する方法であって、
a)ヒトから脳試料を入手すること;
b)前記脳試料中のパルブアルブミン陽性介在ニューロンを同定すること;
c)前記脳試料における自発性IPSCの頻度を測定すること;
d)前記c)のステップで測定した前記頻度に基づいて前記被験者が認知症を発症するまたは有する確率を決定すること
を含む方法。
【請求項13】
薬剤候補をスクリーニングする方法であって、
a)NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸、ならびに/または5-アミノ吉草酸およびNε-トリメチルリシン(N(6),N(6),N(6)-トリメチル-L-リシン)を含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前駆体、ならびに/またはグルタル酸および5-(ガラクトシルヒドロキシ)-L-リシンを含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の代謝物のうち1つまたは複数を含む試料を用意すること;
b)前記試料を前記試験薬に曝露すること;
c)前記試料に対する前記試験薬の効果を測定すること;
d)前記試料に対する前記試験薬の効果に基づいて、前記試験薬の薬剤候補としての適格性を決定すること
を含む方法。
【請求項14】
認知症の治療に適している患者群を同定する方法であって、
a)被験者から試料を入手すること;
b)前記試料中のNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸、ならびに/または5-アミノ吉草酸およびNε-トリメチルリシン(N(6),N(6),N(6)-トリメチル-L-リシン)を含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前駆体、ならびに/またはグルタル酸および5-(ガラクトシルヒドロキシ)-L-リシンを含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の代謝物のいずれかの濃度を測定すること;
c)前記b)のステップで測定した前記濃度に基づいて前記被験者が治療に応答する確率を決定すること
を含む方法。
【請求項15】
認知症の治療に適している患者群を同定する方法であって、
a)被験者から試料を入手すること;
b)前記試料中のコリネバクテリウム、クロストリジウム・スポロゲネス、クロストリジウム・スティックランディイ、クロストリジウム・パーフリンジェンス、クロストリジウム・ブチリカム、クロストリジウム・スフェノイデス、クロストリジウム・グルタミクム、クロストリジウム・ビフェルメンタンス、クロストリジオイデス・ディフィシル、オシリバクター、クロアシバシルス・エブリエンシ、ファーミキューテス、およびバクテロイデスのいずれかの存在量を測定すること;
c)前記b)のステップで測定した前記存在量に基づいて前記被験者が治療に応答する確率を決定することであって、特に、前記被験者が認知症を発症するまたは有する確率を決定することが、ファーミキューテスとバクテロイデスの比率を比較することを含むこと
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、認知症疾患の診断および治療の新たな手法に関する。具体的には、本発明は、認知症疾患を診断する新たなマーカー、および認知症疾患治療の新たな標的に関する。
【背景技術】
【0002】
認知症とは、日常生活や活動が妨げられるほどに人の認知機能(判断、記憶、推論)や行動能力が低下することである。これらの機能には、記憶、言語技能、視覚認知、問題解決、自己管理のほか、注意力や集中力などがある。認知症を有する人の中には感情を抑制できない人もおり、性格が変わってしまうこともある。認知症の重症度は、人間の機能に影響が出始めたばかりのごく軽度のものから、生活の基本的な活動を完全に他者に頼らざるを得ない極めて重度のものまである。
【0003】
認知症の徴候や症状は、かつて健康であった脳のニューロン(神経細胞)が機能しなくなり、他の脳細胞との結合が失われ、死滅することで生じ得る。加齢に伴って誰もが多少のニューロンを失うが、認知症を有する人では、通常はるかに多くのニューロンが失われている。認知症は高齢になるほどよく見られるが(85歳以上の人の半数近くが何らかの認知症を患っている可能性がある)、加齢に伴う正常な現象ではない。90歳を超えても認知症の徴候もなく生活している人も多い。認知症の1つである前頭側頭型認知症は、高齢者よりも中高年で多く見られる。認知症の原因は、起こっているとみられる脳の変化の種類によって異なる可能性がある。高齢者の認知症で最も一般的な原因疾患はアルツハイマー病である。その他の認知症には、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症、血管性認知症などがある。2種類以上の認知症が合併した混合型認知症もよく見られ、例えばアルツハイマー型認知症と血管性認知症を併発する人もいる。
【0004】
一般に、人口動態の変化により、社会における認知症の重要性が飛躍的に高まっている。現在、治療の選択肢は限られている。近年、認知症の原因や病態生理に関する知識が膨大に増えているが、それにもかかわらず、認知症をいかに診断し、治療するかが大きな課題となっている。「腸-脳」軸が非常に重要であることを示す調査研究が増えており、さまざまな神経疾患のトリガーが消化管に見いだされ得ることが示唆されている。また、微生物が宿主の行動や認知機能に与える影響もますます重要視されている。無菌動物モデルを用いた実験では、行動障害や認知機能低下の出現が認められている。その他のいくつかの動物モデルやヒト患者の研究で、不安様行動、うつ病、注意欠陥障害、認知障害で見られるようなさまざまな病的行動が、腸内代謝物によって調節されることが確認されている(非特許文献1~3)。腸内毒素症が認知機能に与える影響が十分に研究されている疾患の一例が肝性脳症(認知症に至ることがある)であり、抗生物質の経口投与療法に多少の効果がある(非特許文献4)。従来のリスク因子を調節した多変量解析から、バクテロイデスの保有率が低く、その他の細菌の保有率が高いことが、独立的に認知症と強く関連することが明らかになった(非特許文献5)。2015年の症例報告に、グレード2の門脈大循環性脳症による、アルコールとC型肝炎(HCV)ウイルスの両方に続発する非代償性肝硬変を有する57歳男性について記載されたものがある。この患者は、一般的な便ドナーから糞便微生物移植(FMT)を受け、血清アンモニア値の低下に加え、認知の改善も認められた(非特許文献6)。アルツハイマー病におけるFMTの有効性は、2種類のアルツハイマー病マウスモデルで示されており、健康な若齢ドナーからの糞便移植後に空間記憶と認識記憶の改善が認められた(非特許文献7、8)。若齢の野生型のマイクロバイオームを(FMTによって)老齢の野生型マウスに移植すると、炎症老化、および加齢に伴う認知機能低下にも有益な影響があった(非特許文献9)。しかしながら、いずれの場合も、基礎となる機序についての記載やそれ以上の取り組みはなかった。
【0005】
認知症の診断において、既存の選択肢は限られている。認知症には特有の種類や原因が数多くあり、それぞれ症状は似ているがわずかに異なる。症状のみから認知症を診断することは難しく、こうした症状が進行してから、すなわち疾患のかなり後期になってからでないと可能でない。診断には脳機能イメージング技術が用いられることが多いが、現在の技術では、疾患の早期診断は不可能である。脳生検で診断できる認知症もあるものの、これはめったに推奨されない。現在、認知症の基準診断法は認知テストである。例えばミニメンタルステート検査(MMSE)は、認知症の診断用として最も研究が進んだ最も一般的に使用されている認知テストである。とはいえ、認知テストも症状が進行してからでないと診断できない。
【0006】
認知症の薬物療法において、既存の介入の可能性は限られている。ドイツ神経学会のガイドライン(非特許文献10)によると、2つの物質の使用が推奨されている。1つがアセチルコリンエステラーゼ阻害剤であり、軽度から中等度のアルツハイマー型認知症において、日常活動の遂行能力、認知機能の改善、全体的な医学的所見という点で有効であり、治療が推奨される。常に変更や修正が加えられているが、新たなアセチルコリンエステラーゼ阻害剤が、従来の化合物よりも高い効果を示すことはほとんどない(非特許文献11)。もう1つがメマンチンで、中等度から重度のアルツハイマー型認知症患者において、認知機能、日常生活機能、および全体的な臨床所見に有効である。軽度のアルツハイマー型認知症では、メマンチンの有効性は証明されていない。メマンチンは、軽度のアルツハイマー型認知症患者の治療には使用すべきではない。
【0007】
本発明の目的は、認知症疾患の診断および治療の新たな手法を提供することである。具体的には、本発明は、認知症疾患を診断する新たなマーカー、認知症疾患治療の新たな標的、および認知症の治療に適した新たな治療薬を提供することを目的とする。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Bercik,P.,Denou,E.,Collins,J.,Jackson,W.,Lu,J.,Jury,J.,Deng,Y.,Blennerhassett,P.,Macri,J.,McCoy,K.D.,et al.(2011)The intestinal microbiota affect central levels of brain-derived neurotropic factor and behavior in mice.Gastroenterology 141,599-609,609 e591-593
【非特許文献2】Caspani,G.,Kennedy,S.,Foster,J.A.,and Swann,J.(2019).Gut microbial metabolites in depression:understanding the biochemical mechanisms.Microb Cell 6,454-481
【非特許文献3】Dam,S.A.,Mostert,J.C.,Szopinska-Tokov,J.W.,Bloemendaal,M.,Amato,M.,and Arias-Vasquez,A.(2019).The Role of the Gut-Brain Axis in Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder.Gastroenterol Clin North Am 48,407-431
【非特許文献4】Ahluwalia,V.,Betrapally,N.S.,Hylemon,P.B.,White,M.B.,Gillevet,P.M.,Unser,A.B.,Fagan,A.,Daita,K.,Heuman,D.M.,Zhou,H.,et al.(2016).Impaired Gut-Liver-Brain Axis in Patients with Cirrhosis.Sci Rep 6,26800
【非特許文献5】Saji,N.,Niida,S.,Murotani,K.,Hisada,T.,Tsuduki,T.,Sugimoto,T.,Kimura,A.,Toba,K.,and Sakurai,T.(2019).Analysis of the relationship between the gut microbiome and dementia:a cross-sectional study conducted in Japan.Sci Rep 9,1008
【非特許文献6】Shen,T.C.,Albenberg,L.,Bittinger,K.,Chehoud,C.,Chen,Y.Y.,Judge,C.A.,Chau,L.,Ni,J.,Sheng,M.,Lin,A.,et al.(2015).Engineering the gut microbiota to treat hyperammonemia.J Clin Invest 125,2841-2850
【非特許文献7】Sun,J.,Xu,J.,Ling,Y.,Wang,F.,Gong,T.,Yang,C.,Ye,S.,Ye,K.,Wei,D.,Song,Z.,et al.(2019).Fecal microbiota transplantation alleviated Alzheimer’s disease-like pathogenesis in APP/PS1 transgenic mice.Transl Psychiatry 9,189
【非特許文献8】Elangovan et al.,2019(予稿)
【非特許文献9】M.BOEHME et al.,Program No.676.01.2019 Neuroscience Meeting Planner.Chicago,IL:Society for Neuroscience,2019年オンライン
【非特許文献10】https://www.dgn.org/leitlinien
【非特許文献11】Mehta et al.,2012
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、被験者が認知症を発症するまたは有する確率を診断する方法、認知症の治療薬候補をスクリーニングする方法、認知症を発症するまたは有する被験者を治療する方法、認知症の治療に適している患者群を同定する方法、および認知症の治療の進捗を監視し、任意で認知症の予後を推測する方法を目的とする。本発明は、認知症の治療薬も目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一態様では、本発明は、以下を含む、被験者が認知症を発症するまたは有する確率を診断する方法を目的とする:被験者から試料を入手すること;試料中のNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸、ならびに/または5-アミノ吉草酸およびNε-トリメチルリシン(N(6),N(6),N(6)-トリメチル-L-リシン)を含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前駆体、ならびに/またはグルタル酸および5-(ガラクトシルヒドロキシ)-L-リシンを含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の代謝物の濃度を測定すること;測定した濃度に基づいて被験者が認知症を発症するまたは有する確率を決定すること。試料は、唾液試料、尿試料、血液試料、血清試料、脳液試料、脳室液試料、髄液試料、脳組織試料、微生物試料、糞便試料、または便試料のうちの1つから選択できる。被験者はヒトであり得る。NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の濃度が0.005~0.010μM/g尿中クレアチニンである場合、被験者が認知症を発症するまたは有することが示され得る。NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前駆体は、5-アミノ吉草酸またはNε-トリメチルリシンのうちの1つから選択できる。5-アミノ吉草酸の濃度が0.005~0.010μM/g尿中クレアチニン、またはNε-トリメチルリシンの濃度が4~8μM/g尿中クレアチニンである場合、被験者が認知症を発症するまたは有することが示され得る。NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の代謝物は、グルタル酸および5-(ガラクトシルヒドロキシ)-L-リシンのうちの1つから選択できる。グルタル酸の濃度が6~24μM/g尿中クレアチニン、血清中濃度が10~20μM、脳脊髄液濃度が10~40mM、または5-(ガラクトシルヒドロキシ)-L-リシンの濃度が1.4~2μM/g尿中クレアチニンおよび血清中濃度が0.1~0.3μMである場合、被験者が認知症を発症するまたは有することが示され得る。濃度は、内部標準物質との比較、または代謝物標準物質との外部比較によって決定できる。濃度は、液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)、核磁気共鳴(NMR)、またはイムノアッセイのいずれかの方法を用いて決定できる。被験者が認知症を発症するまたは有する確率を測定することは、対照データ、具体的には、年齢が同じ、性別が同じ、民族が同じ、および/または地理的位置が同じである1人または複数人の健常者の対照データと濃度を比較することを含み得る。認知症は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、前頭側頭型認知症、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、緑内障、筋強直性ジストロフィー、進行性核上性麻痺、脊髄性筋萎縮症、多系統萎縮症、運動失調症、血管性認知症、またはその他の認知症のうちの1つから選択され得る。濃度は、センサーまたは画像関連手法を用いて生体内で測定できる。
【0011】
さらなる態様では、被験者が認知症を発症するまたは有する確率を診断する方法は、第1の時点で被験者から第1の試料を入手すること;第1の試料中のNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸、ならびに/または5-アミノ吉草酸およびNε-トリメチルリシン(N(6),N(6),N(6)-トリメチル-L-リシン)を含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前駆体、ならびに/またはグルタル酸および5-(ガラクトシルヒドロキシ)-L-リシンを含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の代謝物の濃度を測定すること;第2の時点で被験者から第2の試料を入手すること;第2の試料中のNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸、ならびに/または5-アミノ吉草酸およびNε-トリメチルリシン(N(6),N(6),N(6)-トリメチル-L-リシン)を含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前駆体、ならびに/またはグルタル酸および5-(ガラクトシルヒドロキシ)-L-リシンを含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の代謝物の濃度を測定すること;試料で測定した濃度の比較に基づいて被験者が認知症を発症するまたは有する確率を決定することを含む。1つまたは複数の試料は、血液試料、血清試料、脳液試料、脳室液試料、髄液試料、脳組織試料、微生物試料、糞便試料、唾液試料、尿試料、または便試料のうちの1つから選択できる。被験者はヒトであり得る。第1の時点と第2の時点は約3~6カ月間隔てることができる。第2の時点は第1の時点の12~24週間後であり得る。第2の時点は第1の時点の3~6カ月後であり得る。方法は、さらに、第3の時点で被験者から第3の試料を入手すること;第3の試料中のNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸、ならびに/または5-アミノ吉草酸およびNε-トリメチルリシン(N(6),N(6),N(6)-トリメチル-L-リシン)を含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前駆体、ならびに/またはグルタル酸および5-(ガラクトシルヒドロキシ)-L-リシンを含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の代謝物の濃度を測定すること;試料で測定した濃度の比較に基づいて被験者が認知症を発症するまたは有する確率を決定することを含み得る。第2の時点と第3の時点は約6~12カ月間隔てることができる。方法は、さらなる試料をさらなる時点で入手することを含み、被験者が認知症を発症するまたは有する確率は、試料で測定した濃度の比較に基づく。認知症は、加齢に伴う認知症または加齢に伴わない認知症であり得る。認知症は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、前頭側頭型認知症、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、緑内障、筋強直性ジストロフィー、進行性核上性麻痺、脊髄性筋萎縮症、多系統萎縮症、運動失調症、血管性認知症、またはその他の認知症のうちの1つから選択され得る。濃度は、センサーまたは画像関連手法を用いて生体内で測定できる。
【0012】
さらなる態様では、被験者が認知症を発症するまたは有する確率を診断する方法は、被験者から試料を入手すること;試料中のコリネバクテリウム、クロストリジウム・スポロゲネス、クロストリジウム・スティックランディイ、クロストリジウム・パーフリンジェンス、クロストリジウム・ブチリカム、クロストリジウム・スフェノイデス、クロストリジウム・グルタミクム、クロストリジウム・ビフェルメンタンス、クロストリジオイデス・ディフィシル、オシリバクター、クロアシバシルス・エブリエンシ(Cloacibacillus evryensi)、およびファーミキューテスのいずれかの存在量を決定すること;測定した存在量に基づいて被験者が認知症を発症するまたは有する確率を決定することを含む。試料は、微生物試料、腸内細菌叢試料、腸試料、糞便試料、および/または便試料のうち1つまたは複数から選択できる。被験者はヒトであり得る。コリネバクテリウムは、コリネバクテリウム・グルタミカム、コリネバクテリウム・ジェイケイウム、コリネバクテリウム・ウレアリティクム、およびコリネバクテリウム・エフィシエンスのうち1つまたは複数から選択できる。オシリバクターは、オシリバクター・バレリシゲネス(Oscillibacter valericigenes)およびオシリバクター属KLE1745株から選択できる。試料中の微生物叢の構成を決定し得る。腸メタゲノムを決定し得る。方法は、被験者の試料の細菌の存在量または微生物叢の構成または腸メタゲノムを対照と比較することを含み得る。対照は、1人または複数人の健常者のデータに基づき得る。対照は、年齢が同じ、性別が同じ、民族が同じ、および/または地理的位置が同じである1人または複数人の健常者から決定し得る。方法は、試料中のファーミキューテスとバクテロイデスの比率を決定すること、およびこの比率と対照中のファーミキューテスとバクテロイデスの比率とを比較することを含み得る。ファーミキューテス/バクテロイデス(F/B)の比率が1より高い場合、被験者が認知症を発症するまたは有する確率が高いことが示される可能性がある。特に、F/Bの比率が1.1、1.2、1.3、1.4、または1.5より高い場合、被験者が認知症を発症するまたは有する確率が高いことが示される可能性がある。比率の向上が経時的に検出される場合があり、これは被験者が認知症を発症するまたは有することを示す可能性がある。試料は、配列に基づく技術、ジェノタイピングアッセイ、qPCR、RT-qPCR、16S rRNA遺伝子の全長のクローンライブラリー、DGGE、T-RFLP、ARISA、マイクロアレイ、DNAハイブリダイゼーション法のいずれかの方法を用いて解析できる。細菌の存在量は、懸濁液培養またはプレート培養、染色法、顕微鏡観察法、FACSなどのフローサイトメトリー法、光学密度測定法のうち少なくとも1つを含む細胞培養アッセイを用いて測定できる。認知症は、加齢に伴う認知症または加齢に伴わない認知症であり得る。認知症は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、前頭側頭型認知症、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、緑内障、筋強直性ジストロフィー、進行性核上性麻痺、脊髄性筋萎縮症、多系統萎縮症、運動失調症、血管性認知症、またはその他の認知症のうちの1つから選択され得る。
【0013】
さらなる態様では、被験者が認知症を発症するまたは有する確率を診断する方法は、試料中のパルブアルブミン(PV)陽性介在ニューロンを同定すること;試料中の自発性抑制性シナプス後電流(IPSC)の頻度を測定すること;測定した頻度に基づいて被験者が認知症を発症するまたは有する確率を決定することを含む。試料は、脳、急性脳スライス、培養脳組織、ニューロンの培養物、またはPV陽性介在ニューロンの培養物から選択できる。被験者はヒトであり得る。自発性IPSCは、電気生理学的方法および/またはカルシウムイメージングを用いて測定できる。方法は、例えば脳波記録(EEG)および脳磁図(MEG)によって、PV陽性GABAニューロンの振動を検出することも含み得る。
【0014】
別の態様では、本発明は、薬剤候補をスクリーニングする方法を目的とし、方法は、NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸、ならびに/または5-アミノ吉草酸およびNε-トリメチルリシン(N(6),N(6),N(6)-トリメチル-L-リシン)を含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前駆体、ならびに/またはグルタル酸および5-(ガラクトシルヒドロキシ)-L-リシンを含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の代謝物のうち1つまたは複数を含む試料を提供すること;試料を試験薬に曝露すること;試料に対する試験薬の効果を測定すること;試料に対する試験薬の効果に基づいて、試験薬の薬剤候補としての適格性を決定することを含む。
【0015】
別の態様では、本発明は、認知症を発症するまたは有する被験者を治療する方法を目的とし、方法は、被験者におけるNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸、ならびに/または5-アミノ吉草酸およびNε-トリメチルリシン(N(6),N(6),N(6)-トリメチル-L-リシン)を含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前駆体、ならびに/またはグルタル酸および5-(ガラクトシルヒドロキシ)-L-リシンを含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の代謝物のいずれかの濃度を低下させる薬剤または薬剤の組み合わせを被験者に投与することを含む。1つまたは複数の薬剤は、唾液試料、尿試料、血液試料、血清試料、脳液試料、脳室液試料、髄液試料、脳組織試料、微生物試料、糞便試料、または便試料中のNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸、ならびに/または5-アミノ吉草酸およびNε-トリメチルリシン(N(6),N(6),N(6)-トリメチル-L-リシン)を含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前駆体、ならびに/またはグルタル酸および5-(ガラクトシルヒドロキシ)-L-リシンを含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の代謝物のいずれかの濃度を低下させることができる。1つまたは複数の薬剤は、個別に、または組み合わせで投与できる、Ba2+、Ca2+、Fe2+、Mg2+、Sn2+、Zn2+などの酵素5-アミノペンタンアミダーゼの阻害剤であり得る。加えて、または別法として、1つまたは複数の薬剤は、個別に、または組み合わせで投与される、1,5-ペンタンジアミン、リン酸2-エチルヘキシルジフェニル、6-アミノヘキサン酸、アクリジンオレンジ、DL-α-ジフルオロメチルオルニチン、ヒドロキシルアミン、ヨードアセトアミド、セミカルバジド、リン酸トリス(2-クロロ-1-(クロロメチル)エチル)、リン酸トリス(2-クロロエチル)、リン酸トリ-m-クレジル、リン酸トリフェニル、リン酸トリス(2-クロロイソプロピル)、および尿素などのL-リシンカルボキシリアーゼの阻害剤であり得る。加えて、または別法として、1つまたは複数の薬剤は、個別に、または組み合わせで投与される、2,2’-ジピリジル、2-オキソグルタル酸、クエン酸塩、グルタル酸塩、オキサロ酢酸塩、およびコハク酸塩などのリシン2-モノオキシゲナーゼの阻害剤であり得る。
【0016】
別の態様では、本発明は、認知症を発症するまたは有する被験者を治療する方法を目的とし、方法は、腸内細菌叢中のコリネバクテリウム門、クロストリジウム・スポロゲネス、クロストリジウム・スティックランディイ、クロストリジウム・パーフリンジェンス、クロストリジウム・ブチリカム、クロストリジウム・スフェノイデス、クロストリジウム・グルタミクム、クロストリジウム・ビフェルメンタンス、クロストリジオイデス・ディフィシル、オシリバクター、クロアシバシルス・エブリエンシ、およびファーミキューテスのいずれかの細菌を減少させる、または根絶する薬剤を被験者に投与することを含む。薬剤は、上述の細菌の存在量に直接的または間接的に影響を与える抗菌剤、ワクチン、もしくは局所プロバイオティック介入、または別の細菌を含み得る。薬剤は、特に、腸内細菌叢中のファーミキューテス/バクテロイデスの比率を低下させるよう構成されていてよい。
【0017】
別の態様では、本発明は、認知症の治療に適している患者群を同定する方法を目的とし、方法は、被験者から試料を入手すること;試料中のNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸、ならびに/または5-アミノ吉草酸およびNε-トリメチルリシン(N(6),N(6),N(6)-トリメチル-L-リシン)を含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前駆体、ならびに/またはグルタル酸および5-(ガラクトシルヒドロキシ)-L-リシンを含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の代謝物の濃度を測定すること;測定した濃度に基づいて被験者が治療に応答する確率を決定することを含む。治療は、被験者におけるNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸、ならびに/または5-アミノ吉草酸およびNε-トリメチルリシン(N(6),N(6),N(6)-トリメチル-L-リシン)を含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前駆体、ならびに/またはグルタル酸および5-(ガラクトシルヒドロキシ)-L-リシンを含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の代謝物のいずれかの濃度を低下させる薬剤を被験者に投与することを含み得る。
【0018】
別の態様では、本発明は、認知症の治療に適している患者群を同定する方法を目的とし、方法は、被験者から試料を入手すること;試料中のコリネバクテリウム、クロストリジウム・スポロゲネス、クロストリジウム・スティックランディイ、クロストリジウム・パーフリンジェンス、クロストリジウム・ブチリカム、クロストリジウム・スフェノイデス、クロストリジウム・グルタミクム、クロストリジウム・ビフェルメンタンス、クロストリジオイデス・ディフィシル、オシリバクター、クロアシバシルス・エブリエンシ、およびファーミキューテスのいずれかの存在量を決定すること;測定した存在量に基づいて被験者が治療に応答する確率を決定することを含む。方法は、試料中のファーミキューテスとバクテロイデスの比率を決定すること、およびこの比率と対照中のファーミキューテスとバクテロイデスの比率とを比較することを含み得る。方法は、試料中のファーミキューテスとバクテロイデスの比率を決定すること、およびこの比率と対照中のファーミキューテスとバクテロイデスの比率とを比較することを含み得る。ファーミキューテス/バクテロイデスの比率が1より高い場合、被験者が認知症を発症するまたは有する確率が高いことが示される可能性がある。特に、F/Bの比率が1.1、1.2、1.3、1.4、または1.5より高い場合、被験者が認知症を発症するまたは有する確率が高いことが示される可能性がある。比率の向上が経時的に検出される場合があり、これは被験者が認知症を発症するまたは有することを示す可能性がある。治療は、腸内細菌叢中のコリネバクテリウム門、クロストリジウム・スポロゲネス、クロストリジウム・スティックランディイ、クロストリジウム・パーフリンジェンス、クロストリジウム・ブチリカム、クロストリジウム・スフェノイデス、クロストリジウム・グルタミクム、クロストリジウム・ビフェルメンタンス、クロストリジオイデス・ディフィシル、オシリバクター、クロアシバシルス・エブリエンシ、およびファーミキューテスのいずれかの細菌を減少させる、または根絶する薬剤を被験者に投与することを含み得る。薬剤は、特に、腸内細菌叢中のファーミキューテス/バクテロイデスの比率を低下させるよう構成されていてよい。
【0019】
別の態様では、本発明は、被験者から試料を入手すること、試料中のNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸、ならびに/または5-アミノ吉草酸およびNε-トリメチルリシン(N(6),N(6),N(6)-トリメチル-L-リシン)を含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前駆体、ならびに/またはグルタル酸および5-(ガラクトシルヒドロキシ)-L-リシンを含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の代謝物のいずれかの濃度を測定すること、ならびに測定した濃度に基づいて治療の進捗を決定することを含む、認知症の治療の進捗を監視し、任意で予後を推測する方法を目的とする。
【0020】
別の態様では、本発明は、第1の時点で被験者から第1の試料を入手すること、第1の試料中のNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸、ならびに/または5-アミノ吉草酸およびNε-トリメチルリシン(N(6),N(6),N(6)-トリメチル-L-リシン)を含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前駆体、ならびに/またはグルタル酸および5-(ガラクトシルヒドロキシ)-L-リシンを含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の代謝物の濃度を測定すること、第2の時点で被験者から第2の試料を入手すること、第2の試料中のNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸、ならびに/または5-アミノ吉草酸およびNε-トリメチルリシン(N(6),N(6),N(6)-トリメチル-L-リシン)を含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前駆体、ならびに/またはNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の代謝物の濃度を測定すること、前に測定した濃度の比較に基づいて治療の進捗を決定することを含む、認知症の治療の進捗を監視する方法を目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】若齢マウス(2カ月齢)と比較した、老齢マウス(20~24カ月齢)の空間作業記憶(T迷路試験)の低下を示すグラフである。点は個々のマウスの数を表す。データは平均±SEMとして表される;***P<0.001、t検定。
図2】若齢マウス(2カ月齢)と比較した、老齢マウス(20~24カ月齢)の認識記憶(新奇物体認識(NOR)試験)の低下を示すグラフである。点は個々のマウスの数を表す。データは平均±SEMとして表される;**P<0.01、t検定。
図3】若齢マウス(2カ月齢)から老齢マウス(20~24カ月齢)への糞便微生物移植(FMT)後に、老齢マウスの低下した空間作業記憶(T迷路試験)が若齢マウスの水準に向上したことを示すグラフである。若齢マウスの空間作業記憶は老齢マウスからのFMT後に低下している。データは平均±SEMとして表される;*P<0.05(各群のn=5匹)、t検定。
図4】若齢マウス(2カ月齢)から老齢マウス(20~24カ月齢)への糞便微生物移植(FMT)後に、老齢マウスの低下した認識記憶(NOR試験)が若齢マウスの水準に向上したことを示すグラフである。若齢マウスの認識記憶は老齢マウスからのFMT後に低下している。データは平均±SEMとして表される;*P<0.05(各群のn=7匹)、t検定、ns=有意差なし。
図5】ノンターゲットメタボロミクスの結果を示す。(a)若齢マウス(2カ月齢)と老齢(20~24カ月齢)マウスの血清および海馬組織のノンターゲットメタボロミクスの結果を示す表である。数字は倍数変化を示す。グレーのスケールは統計的有意性を表す。(b)ノンターゲットメタボロミクスの結果を示し、血清および脳組織中の年齢によって調節される代謝物のレベルを示す図である。交差代謝物のZスコア(n=4)。若齢ドナー(5,5)、老齢ドナー(6,5)、老齢+ABX+yFMT(6,5)、老齢+ABX+oFMT(6,5)、nは血清および脳それぞれについて。対応のあるウェルチの2標本t検定を用いた統計解析(代謝物はabsFC>1で別個に調節されたと見なされた、p<0.1)。データは独立した3つの実験を表す。エラーバーはSEMを表す。一元配置分散分析による統計解析。(c)ノンターゲットメタボロミクスの結果を示し、血清および脳組織中の年齢によって調節される代謝物のレベルを示す図である。交差代謝物のZスコア(n=4)。若齢ドナー(5,5)、老齢ドナー(6,5)、老齢+ABX+yFMT(6,5)、老齢+ABX+oFMT(6,5)、nは血清および脳それぞれについて。対応のあるウェルチの2標本t検定を用いた統計解析(代謝物はabsFC>1で別個に調節されたと見なされた、p<0.1)。データは独立した3つの実験を表す。エラーバーはSEMを表す。一元配置分散分析による統計解析。
図6】(a)質量分析法で解析した、若齢マウスと比較して、老齢マウスの血清および海馬脳組織で上昇しているNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸(慣用名)の構造を示す図である。IUPAC名:5-(トリメチルアンモニオ)-ペンタノアート;またはδ-バレロベタイン。分子式はC8H17NO2、平均質量は159.226Daである。(b)LC-MSによる、老齢(96~104週齢)SPFおよびGFマウス(n=5)の糞便ペレットにおけるNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の定量化のグラフである。エラーバーはSEMを表す(95%信頼区間)。マン・ホイットニーのU検定による統計解析。(c)LC-MSによる、若齢(8週齢)および老齢(96~104週齢)SPFおよびGFマウス(若齢n=5、老齢n=8)の前頭皮質におけるNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の定量化のグラフである。エラーバーはSEMを表す(95%信頼区間)。二元配置分散分析後にボンフェローニの事後検定による統計解析。(d)TwinsUKデータバンクの加齢コホート(検出可能な場合)の血清/血漿についてノンターゲットメタボロミクスによって定量化したNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸のドットプロット、Shinら(n=3648)のデータを描写。ピアソンの積率相関係数による統計解析。(e)TwinsUKデータバンクの加齢コホート(検出可能な場合)の血清/血漿についてノンターゲットメタボロミクスによって定量化したNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸のドットプロット、Longら(n=6194)のデータを描写。ピアソンの積率相関係数による統計解析。
図7】(a)in vitro電気生理学的記録を用いた、シナプス伝達に対するNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の影響を示す図。急性マウス海馬スライスのパルブアルブミン陽性介在ニューロンに対するNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の影響を示す(最初の一連の記録のデータを描写、マウス3匹からの3つの切片で記録し、バーとバーの間の線は個々のマウスのデータを表す;実験は独立して2回実行し、マウス5匹からの計8つの切片で記録し、両方の実験で同様の結果が示された;データは平均±SEMとして表される)。NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸のバス投与により、パルブアルブミン陽性介在ニューロンにおける自発性IPSC(spIPSC)の発現頻度の増加が誘発される。これは、介在ニューロンシナプスにおけるGABAの放出確率が高いことを示唆している。(b)in vitro電気生理学的記録を用いた、シナプス伝達に対するNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の影響を示す図。制御条件下(黒)およびNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸10μMを用いたプレインキュベーション後(グレー)の前頭前野錐体細胞の自発性興奮性シナプス後電流(EPSC、左)および自発性抑制性シナプス後電流(IPSC、右)の例。データは急性脳スライスのパッチクランプ記録から得たものである。(c)in vitro電気生理学的記録を用いた、シナプス伝達に対するNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の影響を示す図。NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸によって自発性IPSCの頻度は増加したが(p=0.006、対応のないt検定)、振幅は増加しなかった(p=0.174、対応のないt検定)一方で、EPSC特性は不変であった(頻度ではp=0.089、振幅ではp=0.641)。nは対照が10、NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸処理ニューロンが9。
図8】NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の全身投与(腹腔内)後に、mPFCの前辺縁皮質または下辺縁皮質からのin vivo記録でスパイク-スパイクの同期が促進されたことを示すグラフである(n=9匹)。データは平均±SEMとして表される;**P<0.01、t検定。
図9】(a)δ-バレロベタインがin vivoで集団活動に及ぼす影響を評価するために、自然睡眠中の内側前頭前野から行った単一ユニット記録(n=4匹)を示す図である。ベースラインデータを得た後、マウスにNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸(5mg/kg体重、n=4匹、n=56ユニット)またはPBSのみ(n=4匹、79ユニット)を投与した。投与後45分間記録を続けた。トレースの例は、1回の記録セッションにおける全ユニットの合計集団発火率の短いセグメント(黒、ビン幅100ミリ秒、方法参照)、およびδ-バレロベタイン投与前(左)と投与後(右)の1つのニューロンのビニングしたスパイク率(下)を示している。ユニットから、δ-バレロベタイン投与により集団活動への結合が増加し、前頭前野ネットワークにおける同期が促進されたことがわかることに留意されたい。(b)全ニューロンのスパイク率と集団結合を定量化した図である。平均スパイク頻度に対するNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の影響は認められないが、記録された細胞の集団結合の有意な増加(対照:4匹のマウスでn=79ユニット、δ-バレロベタイン:4匹でn=56ユニット、p=0.0017、ウェルチの検定)が見られた。データはベースライン値に対して正規化されており、黒線は分布の平均値を示す。
図10】(a)NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の急性投与が、加齢に伴う記憶障害を再現し、若齢マウスの微生物移植による救援を減弱させることを示す、実験設定の概略図である。SPF条件下で飼育した8週齢のC57BL/6J雄マウスに、行動パラダイムを開始する1時間前にNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸(5mg/kg)を腹腔内投与した。(b)NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の急性投与が、加齢に伴う記憶障害を再現し、若齢マウスの微生物移植による救援を減弱させることを示す、T迷路の結果を示すグラフである(ビークル、δ-バレロベタインでn=10)。データは独立した2つの実験を表す。エラーバーはSEMを表す。マン・ホイットニーのU検定による統計解析(**p<0.01)。(c)NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の急性投与が、加齢に伴う記憶障害を再現し、若齢マウスの微生物移植による救援を減弱させることを示す、新奇物体認識試験(NOR)の習熟の結果を示すグラフである(ビークル、δ-バレロベタインでn=10)。データは独立した2つの実験を表す。エラーバーはSEMを表す。マン・ホイットニーのU検定による統計解析(ns=有意差なし)。(d)NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の急性投与が、加齢に伴う記憶障害を再現し、若齢マウスの微生物移植による救援を減弱させることを示す、新奇物体認識試験(NOR)の習熟から6時間後の試験セッションの結果を示すグラフである(ビークル、δ-バレロベタインでn=10)。データは独立した2つの実験を表す。エラーバーはSEMを表す。マン・ホイットニーのU検定による統計解析(**p<0.01)。(e)NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の急性投与が、加齢に伴う記憶障害を再現し、若齢マウスの微生物移植による救援を減弱させることを示す、実験設定の概略図である。SPF条件下で飼育した15~16カ月齢のC57BL/6J雄マウスに、抗生物質を4日間強制経口投与して腸内微生物叢を枯渇させた。次いで、72時間の間隔を空けてマウスに2回の糞便微生物移植を行い、40日目に行動試験を実施した。行動パラダイムを開始する1時間前にNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸(5mg/kg)を各群に腹腔内投与した。(f)NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の急性投与が、加齢に伴う記憶障害を再現し、若齢マウスの微生物移植による救援を減弱させることを示す、T迷路の結果を示すグラフである(若齢ドナー(ビークル)、老齢ドナー(ビークル)、老齢+ABX+yFMT(ビークル)、老齢+ABX+yFMT(NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸)、老齢+ABX+oFMT(NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸);n=6)。データは独立した2つの実験を表す。エラーバーはSEMを表す。一元配置分散分析後にボンフェローニの事後検定による統計解析(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、ns=有意差なし)。(g)NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の急性投与が、加齢に伴う記憶障害を再現し、若齢マウスの微生物移植による救援を減弱させることを示す、新奇物体認識試験(NOR)の習熟の結果を示すグラフである(若齢ドナー(ビークル)、老齢ドナー(ビークル)、老齢+ABX+yFMT(ビークル)、老齢+ABX+yFMT(NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸)、老齢+ABX+oFMT(NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸);n=6)。データは独立した2つの実験を表す。エラーバーはSEMを表す。一元配置分散分析後にボンフェローニの事後検定による統計解析(ns=有意差なし)。(h)NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の急性投与が、加齢に伴う記憶障害を再現し、若齢マウスの微生物移植による救援を減弱させることを示す、新奇物体認識試験(NOR)の習熟から6時間後の試験セッションの結果を示すグラフである(若齢ドナー(ビークル)、老齢ドナー(ビークル)、老齢+ABX+yFMT(ビークル)、老齢+ABX+yFMT(NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸)、老齢+ABX+oFMT(NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸);n=6)。データは独立した2つの実験を表す。エラーバーはSEMを表す。一元配置分散分析後にボンフェローニの事後検定による統計解析(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、ns=有意差なし)。
図11】マウスへのNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の全身投与(腹腔内)が学習と記憶に及ぼす影響を示す図である。左図は、NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸が、若齢マウス(2カ月齢)と老齢マウス(20~24カ月齢)の空間作業記憶(T迷路試験)に及ぼす影響を示す。NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸をマウスに全身投与すると、若齢マウス(2カ月齢)の空間作業記憶(T迷路試験)が老齢マウス(20~24カ月齢)のレベルに低下した。若齢のマウスと比較して学習と記憶が低下していた老齢マウスでは、同じ処理でさらなる低下は認められなかった。点は個々のマウスの数を表す。データは平均±SEMとして表される;***P<0.001;**P<0.01;t検定、ns=有意差なし。右図は、NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸が、若齢マウス(2カ月齢)と老齢マウス(20~24カ月齢)の認識記憶(新奇物体認識試験)に及ぼす影響を示す。NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸をマウスに全身投与すると、若齢マウス(2カ月齢)の認識記憶(新奇物体認識試験)が老齢マウス(20~24カ月齢)のレベルに低下した。若齢のマウスと比較して学習と記憶が低下していた老齢マウスでは、同じ処理でさらなる低下は認められなかった。点は個々のマウスの数を表す。データは平均±SEMとして表される;***P<0.001;**P<0.01;t検定、ns=有意差なし。
図12】L-リシンの分解に関与する酵素を示す図である。
図13】L-リシンの分解を示す図である。
図14】(a)若齢マウスから老齢マウスへの腸移植が記憶機能に与える影響を示す、実験設定の概略図である。SPF条件下で飼育した15~16カ月齢のC57BL/6J雄マウスに、抗生物質を4日間強制経口投与して腸内微生物叢を枯渇させた。次いで、72時間の間隔を空けてマウスに2回の糞便微生物移植を行い、40日目に行動試験を実施した。(b)若齢マウスから老齢マウスへの腸移植が記憶機能に与える影響を示す、T迷路の結果を示すグラフである(若齢ドナー、老齢ドナー、老齢+ABX+yFMT、老齢+ABX+oFMT;それぞれn=13、15、16、14)。データは独立した2つの実験を表す。エラーバーはSEMを表す。一元配置分散分析後にボンフェローニの事後検定による統計解析(**p<0.01、***p<0.001、ns=有意差なし)。(c)若齢マウスから老齢マウスへの腸移植が記憶機能に与える影響を示す、新奇物体認識試験(NOR)の習熟の結果を示すグラフである(若齢ドナー、老齢ドナー、老齢+ABX+yFMT、老齢+ABX+oFMT;それぞれn=13、15、16、14)。データは独立した2つの実験を表す。エラーバーはSEMを表す。一元配置分散分析後にボンフェローニの事後検定による統計解析(ns=有意差なし)。(d)若齢マウスから老齢マウスへの腸移植が記憶機能に与える影響を示す、新奇物体認識試験(NOR)の習熟から6時間後の試験セッションの結果を示すグラフである(若齢ドナー、老齢ドナー、老齢+ABX+yFMT、老齢+ABX+oFMT;それぞれn=13、15、16、14)。データは独立した2つの実験を表す。エラーバーはSEMを表す。一元配置分散分析後にボンフェローニの事後検定による統計解析(**p<0.01、***p<0.001、ns=有意差なし)。(e)若齢マウスから老齢マウスへの腸移植が記憶機能に与える影響を示す、抗生物質およびPLX5622処理の影響を示す図である。SPFおよびABX処理マウスの糞便試料のDAPI- Syto9+生細菌に関するゲーティング。フローサイトメトリーゲーティングの代表的なプロット。(f)若齢マウスから老齢マウスへの腸移植が記憶機能に与える影響を示す、抗生物質およびPLX5622処理の影響を示すグラフである。グラム陽性細菌とグラム陰性細菌の割合。エラーバーはSEMを表す。マン・ホイットニーのU検定による統計解析(**p<0.01)。(g)若齢マウスから老齢マウスへの腸移植が記憶機能に与える影響を示す、抗生物質およびPLX5622処理の影響を示すグラフである。糞便試料1mg当たりの生細菌の定量化。エラーバーはSEMを表す。マン・ホイットニーのU検定による統計解析(**p<0.01)。
図15】(a)ミクログリアがFMTによる認知操作に影響を与えないことを示す、実験設定の概略図である。図14の設定に加え、対照のAIN-76A標準飼料、またはミクログリアを含むcsf1依存性細胞を枯渇させるPLX5622(1200mg/kg)を追加した飼料のいずれかをマウスに与えた。(b)ミクログリアがFMTによる認知操作に影響を与えないことを示す、T迷路の結果を示すグラフである(若齢ドナー(NC)、老齢ドナー(NC)、老齢ドナー(PLX)、老齢+ABX+yFMT(NC)、老齢+ABX+yFMT(PLX)、老齢+ABX+oFMT;それぞれn=4、7、8、7、8、7)。データは独立した3つの実験を表す。エラーバーはSEMを表す。二元配置分散分析後にボンフェローニの事後検定による統計解析(***p<0.001、ns=有意差なし)。(c)ミクログリアがFMTによる認知操作に影響を与えないことを示す、新奇物体認識試験(NOR)の習熟の結果を示すグラフである(若齢ドナー(NC)、老齢ドナー(NC)、老齢ドナー(PLX)、老齢+ABX+yFMT(NC)、老齢+ABX+yFMT(PLX)、老齢+ABX+oFMT;それぞれn=4、7、8、7、8、7)。データは独立した3つの実験を表す。エラーバーはSEMを表す。二元配置分散分析後にボンフェローニの事後検定による統計解析(ns=有意差なし)。(d)ミクログリアがFMTによる認知操作に影響を与えないことを示す、新奇物体認識試験(NOR)の習熟から6時間後の試験セッションの結果を示すグラフである(若齢ドナー(NC)、老齢ドナー(NC)、老齢ドナー(PLX)、老齢+ABX+yFMT(NC)、老齢+ABX+yFMT(PLX)、老齢+ABX+oFMT;それぞれn=4、7、8、7、8、7)。データは独立した3つの実験を表す。エラーバーはSEMを表す。二元配置分散分析後にボンフェローニの事後検定による統計解析(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、ns=有意差なし)。(e)ミクログリアがFMTによる認知操作に影響を与えないことを示す、抗生物質およびPLX5622処理の影響を示す図である。行動試験後に屠殺したPLX5622処理マウスの皮質および海馬におけるDAPI、Iba-1+(明るいドット)の代表的な免疫蛍光画像。スケールバー、150μm。上段:標準飼料、下段:PLX5622。左カラム:皮質、右カラム:海馬。(f)ミクログリアがFMTによる認知操作に影響を与えないことを示す、抗生物質およびPLX5622処理の影響を示すグラフである。PLX5622処理後の1つのROIとしての皮質および海馬におけるIba-1細胞密度の定量化。二元配置分散分析後にボンフェローニの事後検定による統計解析(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001ns=有意差なし)。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の方法および構成を説明するが、当然ながら、こうしたものは変化する可能性があるため、本発明は、説明する特定の方法または構成に限定されないものと理解すべきである。また、本発明の範囲は添付の実施形態によってのみ限定されるため、本明細書で使用する用語は特定の実施形態を説明することを目的とし、限定することを意図するものではないことも理解されたい。
【0023】
値の範囲を提示する場合、文脈が明らかに他に指示しない限り、その範囲の上限と下限の間の、下限の単位の10分の1までの各介在値も具体的に開示されると理解される。記載された範囲内の任意の記載値または介在値と、記載された範囲内の任意の他の記載値または介在値との間のより小さな範囲はそれぞれ本発明に包含される。記載された範囲内の任意の具体的に除外された限界を条件として、これらのより小さな範囲の上限および下限は、独立して、その範囲に含まれることも除外されることもあり、より小さな範囲に、いずれかの限界もしくは両方の限界が含まれる場合、または両方の限界が含まれない場合、各範囲も本発明内に包含される。記載された範囲が限界値の一方または両方を含む場合、それらの含まれる限界値の一方または両方を除外した範囲も本発明に含まれる。
【0024】
別段に定義しない限り、本明細書で使用するすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野における通常の技術者が一般的に理解するのと同じ意味を有する。本明細書に記載するものと類似または同等の任意の方法および材料を本発明の実施または試験に使用できるが、以下に、可能性のある好ましい方法および材料をいくつか記載する。本明細書で言及したすべての出版物は、その出版物の引用に関連する方法および/または材料を開示し、説明するために、参照により本明細書に援用される。本開示は、矛盾がある範囲において、援用された出版物のいかなる開示にも優先することが理解される。
【0025】
本開示を読めば当業者には明らかなように、本明細書で説明し、図示する個々の実施形態はそれぞれ、本発明の範囲または精神から逸脱することなく他のいくつかの実施形態のいずれかの特徴から容易に分離する、またはこれらと組み合わせることができる個別の構成要素および特徴を有する。列挙した方法はいずれも、列挙した事象の順序で、または論理的に可能な他の順序で実施できる。
【0026】
本明細書および添付の実施形態で使用する単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈上明らかに他を指示しない限り、複数の指示物を含むことに留意する必要がある。したがって、例えば「a cell(細胞)」への言及は、複数のそのような細胞を含む。
【0027】
本明細書で検討する出版物は、本願の出願日前のこれらの開示についてのみ提供される。本明細書のいかなる内容も、本発明が、先行発明に基づきかかる出版物に先行する権利を有しないことを認めるものと解釈されるものではない。さらに、提示した出版物の日付は実際の出版物の日付と異なる場合があり、別途確認が必要となる可能性がある。
【0028】
認知症は、認知機能や行動能力の低下を伴い、多くの場合、年齢依存的である。認知症を研究するために、マウスモデルなどいくつかの動物モデルが確立されている。動物はヒトとは異なるものの、動物モデル、特にげっ歯類モデルから得られたデータはヒトに転用できるということが、この分野で広く合意されている。
【0029】
記憶を研究するために、さまざまな認知試験や行動試験が開発されている。例えば、T迷路試験は動物、特にげっ歯類の探索行動を測定するための行動試験である。T迷路試験は、動物が新しい環境を探索しようとすること、すなわち、迷路の見慣れたアームよりも新しいアームを好んで訪れることに基づいている。この課題には、海馬を含む脳の多くの部位が関与している。もう1つの典型的な試験は、認知、特に認識記憶を評価するために用いられる新奇物体認識(NOR)課題である。この試験は、見慣れた物体よりも新しい物体を探索することに多くの時間を費やすという動物の自発的な傾向に基づいている。新しい物体を探索するという選択は、学習記憶や認識記憶の利用を反映している。
【0030】
図1および2は、それぞれT迷路試験と新奇物体認識試験における若齢マウス(2カ月齢)と老齢マウス(例えば20~24カ月齢)の能力の比較を示す。見てわかり得るように、加齢に伴って、マウスの記憶が有意に低下している。ヒトにおいても、多くの場合、記憶機能は年齢と相関する(Nybergら,2012)。
【0031】
近年、胃腸管と中枢神経系の間で生化学シグナリングが行われていることが示されている。最近のアルツハイマーマウスモデル研究では、若齢マウスから老齢マウスへの糞便微生物移植法(FMT)によって、加齢に伴う認知機能低下に有益な効果が得られたことが示された(M.BOEHMEら,Program No.676.01.2019 Neuroscience Meeting Planner.イリノイ州シカゴ:Society for Neuroscience,2019年オンライン)。ヒトにおいても、糞便微生物移植法(FMT)が認知を改善し得ることが示されている(Shenら,2015)。FMTとは、腸内微生物叢を調節するために、腸内毒素症が疑われる患者に健常者の糞便を移植することである。FMT後の脳機能への影響を媒介する基本構造は、脳腸軸(GBA)、すなわち内分泌、免疫、および神経メディエーターで構成された、腸と脳の間の非常に複雑な双方向ネットワークである(Rheeら,2009)。GBAは、主に中枢神経系(CNS)、腸管神経系(ENS)、および腸内微生物叢によって媒介されている(Grenhamら,2011)。胃腸(GI)管の外来性神経は、迷走神経と脊髄の求心性線維を介して腸と脳を結び、脳は遠心性交感神経線維と副交感神経線維をGI管に送っている(Grenhamら,2011)。
【0032】
図3および4は、若齢マウス(2カ月齢)から老齢マウス(例えば20~24カ月齢)への、およびその逆の腸移植が記憶機能に与える影響を、それぞれT迷路試験と新奇物体認識試験を用いて示す。若齢マウス(2カ月齢)から老齢マウス(20~24カ月齢)への腸内微生物叢の移植によって、T迷路試験と新奇物体認識試験における老齢マウス(20~24カ月齢)の記憶が改善した。反対に、老齢マウスから若齢マウスへの腸移植によって記憶機能は低下した。
【0033】
図14も、若齢マウスから老齢マウスへの腸移植が記憶機能に与える影響を示している。学習と記憶への影響を調べるために、糞便微生物移植(FMT)によって若齢マウス(8週齢)から老齢マウス(15~16カ月齢)に腸内微生物叢を移植した(図14a)。ビークルを投与した老齢C57BL/6Jマウスは、若齢ドナーマウスと比較して、T迷路で空間作業記憶障害を(図14b)、新奇物体認識(NOR)試験で認識記憶の低下を示した(図14c、d)。特に、若齢マウスからのFMTによって微生物移植を受けた老齢マウスでは認知障害が後退した。老齢ドナー(15~16カ月齢)から老齢レシピエントへの糞便移植では、行動変化は認められなかった(図14a~d)。FMT用のマウスの腸は、抗生物質カクテル(ABX)を投与して準備した。これにより、生細胞の割合は対照の75%からABX処理マウスの2%に効率的に低下した(図14e、f)。同じ処理によって、フローサイトメトリーによる解析で、糞便細菌の数が103分の1に低下した(図14g)。
【0034】
図15は、ミクログリアがFMTによる認知操作に影響を与えないことを示している。以前の試験で我々は、ミクログリアは、その成熟と生理機能に影響を与える腸内微生物叢によって生成された代謝物に対する感受性が特に高いことを示した(Erny,D.ら)。同時にミクログリアは、シナプス結合性とシナプス可塑性を形成する学習によるシナプスのリモデリングによって、認知処理中に重要な役割を果たす(Blank,T.ら;Parkhurst,C.ら;Wu,Y.ら)。この疑問に取り組むために、1日目からマウスを高効率の脳透過性CSF1R阻害剤(PLX5622)で処理し、大幅なミクログリア除去を行う以外は以前と同じ処置計画を実施した(Dagher,N.ら)(図15a)。我々は、免疫組織化学的検査によってミクログリアの枯渇を検証し、PLX5622で処理したマウスの脳組織にミクログリアがほぼ完全に存在しないことを確認した(図15e、f)。ミクログリアが枯渇したマウス、老齢マウス、および若齢の微生物叢ドナーからFMTを受けた老齢マウスの能力をそれぞれの対照マウスと比較すると、意外なことに、両方の行動パラダイムに変化がなかった(図15b~d)。これらのデータは、ミクログリアがFMTによる認知操作に関与していないことを示唆している。
【0035】
本発明の目的は、この作用の原因となる物質を同定すること、ならびに被験者が認知症を発症するまたは有する確率を診断する方法、認知症の治療薬候補をスクリーニングする方法、認知症を発症するまたは有する被験者を治療する方法、および認知症の治療に適している患者群を同定する方法を提供することである。本明細書で説明するすべての方法は、治療の種類にかかわらず、認知症の治療の進捗を監視し、任意で認知症の予後を推測することも目的とする。
【0036】
上述の作用の原因である可能性のある物質を同定するために、集中的なメタボロミクス解析を実施した。FMT後の行動変化を促す代謝物を同定するために、若齢マウス、老齢マウス、および若齢または老齢のドナーマウスからFMTを受けた老齢マウスから採取した血清および脳組織試料でノンターゲットメタボロミクスを実施した。そのために、ノンターゲット質量分析法を用いて、若齢マウス(2カ月齢)と老齢マウス(例えば24カ月齢)の血清と脳組織を解析した(図5a参照)。血清で635の代謝物が、脳で469の代謝物が検出され、そのうち、それぞれ106と167の代謝物が、年齢で特異的に調節されていた。年齢によって調節される全代謝物のうち、NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸のレベルが、特にFMTドナーの年齢の影響を受けやすかった。トリメチルアミン-N-オキシド、ステアロイルカルニチン(C18)、スタキドリン、およびNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸が年齢依存性調節を示した。若齢ドナーマウスからのFMTを受けた老齢マウスにおけるNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸のレベルのみ、若齢マウスと同程度であることがわかった(図5b~c)。数多くの物質の中で、NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸が、若齢マウスと比較して老齢マウスの血清と脳で有意に上昇することが確認された。血清と脳組織で同様に上昇しているのは、末梢のNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸が脳に到達し、血液脳関門を通過できることを示している(図5参照)。
【0037】
以下に、NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の作用をより詳細に説明する。しかしながら、これは限定を意図するものではない。同じく年齢依存性調節を示したトリメチルアミン-N-オキシド、ステアロイルカルニチン(C18)、およびスタキドリンでも同じ作用が観察される可能性がある(図5参照)。
【0038】
図6aは、質量分析法で解析した、若齢マウスと比較して、老齢マウスの血清および脳組織で上昇しているNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸(慣用名)の化学構造を示す。NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸のIUPAC名は、5-(トリメチルアンモニオ)ペンタノアートまたはδ-バレロベタインである。NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の分子式はC8H17NO2であり、平均質量は159.226Daである。NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸のChemSpider IDはID34236878である。
【0039】
NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の化学構造(図6a)は、腸内細菌叢によって産生される、食物由来のL-カルニチンの代謝物であるγ-ブチロベタイン(γ-BB)と同様である(Koeth,R.ら)。以前の研究では、腸内細菌叢が、NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸を含むトリメチル化アミノ酸の産生に寄与することが示唆されている(Koistinen,Vら)。この発見を検証するために、特定の病原体を保有していない(SPF)老齢マウス(主要な病原種が存在しない複雑な常在細菌叢を保有している)および無菌(GF)マウスの糞便を用いてターゲットメタボロミクスを実施した。我々のデータでは、NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸が、SPFマウスとは対照的にGFマウスで検出されなかったことから、NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の主たる発生源が腸内微生物叢であることも示された(図6b)。SPFマウスとGFマウスの脳組織の画像は似ており、老齢SPFマウスでは、若齢SPFマウスと比較してNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸のレベルが高いことが示された(図6c)。若齢および老齢GFマウスの脳組織におけるNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸のレベルは有意に低下しており、検出限界に近かった(図6c)。
【0040】
NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸のレベルの上昇は、一般に、老齢SPFマウスの血液だけでなく、TwinsUKコホートから得られるヒトの血液試料でも検出された。(図6d、図6e)。試験のうちの1つでは、ハイスループット代謝プロファイリングを用いたゲノムワイド関連スキャンを使用し、145の代謝遺伝子座、およびそれらと400以上の代謝物との接続性において有意な関連が認められた(Shin,S.ら)。これらのヒト血液試料の代謝物を含むデータセットを、代謝物濃度と年齢の間の線形回帰分析で解析したところ、3648の試料で、20~80歳の間で年齢依存的に増加してNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸が検出された(r=0.1464、R2=0.02142、P値<0.001)(図6d)。第2の独立した解析では、32~87歳のヒトの血液メタボロームの経時的変化を調べたLongらの研究データを利用した。NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸は6194の試料で検出できた。データを線形回帰分析にかけたところ、NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の濃度と年齢の間に有意な相関関係が認められた(r=0.1442、R2=0.02080、P値<0.001)(図6e)。マウスおよびヒトにおける年齢とNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸濃度との強い相関関係とあわせて、NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸のレベルと行動遂行能力における平行変化から、我々はNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸が、加齢に伴う認知機能低下の重要な要因であると考えるに至った。
【0041】
NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸が記憶障害において中心的な役割を果たしていることを実証するために、いくつかの実験を行った。実験について詳述する前に、海馬、ならびにシナプス伝達とスパイク-スパイク同期についてのみ簡単に説明する。
【0042】
海馬は、短期記憶から長期記憶への情報の固定や、ナビゲーションを可能にする空間記憶において重要な役割を担う脳領域である。海馬は、他の多くの脳領域と同様に、さまざまな種類のニューロンから構成されている。以下に、錐体細胞と興奮性シナプス伝達、ならびに介在ニューロンと抑制性シナプス伝達について簡単に説明する。
【0043】
錐体細胞は、海馬だけでなく、例えば大脳皮質や扁桃体にも見られ得る興奮性細胞である。錐体細胞の軸索は長く、広範囲に枝分かれしていることが多いため、長距離にわたって投射できる。錐体細胞の樹状突起は、細胞体の先端(尖端樹状突起)だけでなく、底部(基底樹状突起)からも伸びている。樹状突起上にある、樹状突起スパインと呼ばれる小さな突起は、ニューロンの興奮性入力の位置を表している。スパインは樹状突起の遠位領域に広範に存在し、近位領域や錐体細胞の細胞体には存在しない。錐体細胞の細胞体および軸索起始部は、シナプス後スパインを形成しないGABA性シナプスのみを受け取る。
【0044】
興奮性シナプス後受容体の活性化は、正に帯電したイオンがシナプス後細胞内に流入することで起こり、シナプス後膜を脱分極させる。シナプス後細胞は、興奮の時間的加重と空間的加重が活動電位の閾値に達すると発火し始める。したがって、興奮性シナプス伝達はシナプス後細胞が活動電位を発火させる確率を高める。グルタミン酸は中枢神経系における主要な興奮性神経伝達物質であり、特定の代謝型およびイオンチャネル型グルタミン酸受容体を介して作用する。
【0045】
介在ニューロンは、わずかな例外を除き、錐体細胞の活動を調節する局所投射型の抑制性ニューロンである。一様な錐体細胞とは異なり、介在ニューロンは、神経支配や発火パターン、および分子発現プロファイルが大きく異なる種類の多様なニューロンを形成している。海馬では、介在ニューロンが放出する主な抑制性神経伝達物質はGABAである。介在ニューロンの種類によって発火特性が異なり、異なるタイミングで錐体細胞の異なる細胞内ドメインにGABAを放出すると推定されている(KlausbergerおよびSomogyi,2008)。多くの場合、介在ニューロンは、カルシウム結合タンパク質(パルブアルブミン、カルレチニン、およびカルビンジン)、神経ペプチドY、一酸化窒素合成酵素、および血管作動性腸ペプチドなどの特異な神経化学物質の存在に基づいて分類される。介在ニューロンは、統合失調症、双極性障害、てんかん、自閉スペクトラム症、ハンチントン病などのいくつかの神経疾患や、記憶喪失とも関連している。
【0046】
成体の海馬における抑制性シナプス伝達は、主にγ-アミノ酪酸(GABA)を介し、リガンド依存性イオンチャネル型GABAA受容体およびGタンパク質共役型GABAB受容体に作用する。抑制性シナプス伝達は、さまざまな機序、例えば膜電位の位相性と持続性の調節、およびに短絡抑制によって、興奮性の正味の流れを時空間的に制御している。シナプスでの抑制を位相性抑制と呼び、シナプス領域外での抑制を持続性抑制と呼ぶ。活動電位によるGABA放出は主にシナプスのGABA受容体に作用し、ニューロンの過剰興奮を防ぐ。GABAA受容体は、大部分のイオンチャネル型抑制性受容体と同様に、1つの天然イオン、つまり塩化物のみに対して透過性がある。塩化物イオンチャネルが開口すると、塩化物が膜を通過し、静止膜電位が塩化物の平衡電位(ECl)(成熟ニューロンでは約-65mV)まで達することが可能となる。抑制は膜電位にもEClにも大きく依存する。EClが静止膜電位よりも負である場合、GABAA受容体が活性化すると、過分極性抑制性シナプス後電位(IPSP)が生じる。成熟ニューロンでは、EClはほぼ静止膜電位に近い。この場合、抑制性シナプスの活性化は電気的短絡として機能し、正電荷がさらに流れるのを阻止する。このような抑制を短絡抑制と呼ぶ。
【0047】
成体哺乳類の神経系では、シナプス伝達は大部分が化学的で一方向性である。化学シナプスでは、到達した電気信号が化学信号に変換され、続いてこれがシナプス後ニューロンで電気信号を再び発生させることができる。電気信号は、シナプス前終末またはシナプスボタンという特殊なシナプス前構造に到達し、神経伝達物質を含むシナプス小胞を放出させる引き金となる。神経伝達物質はシナプス間隙に放出され、隣接するシナプス後膜に拡散する。シナプス後膜の受容体は、同種の神経伝達物質と結合することによって活性化され、イオンが膜を透過できるようになる。これによりシナプス後電気信号が生成される。
【0048】
シナプス前終末に存在するシナプス小胞は、電気信号が到達することによって、協調的に融合する。しかしながら、シナプス小胞は電気的活動と関わりなく確率的に融合することもある。ランダムに発生する融合イベント(すなわち、活動に依存しないイベント)によって生成されるシナプス後信号は、微小興奮性または抑制性シナプス後電流(mEPSCまたはmIPSC)と呼ばれる。活動が存在する場合のシナプス後信号(すなわち、活動電位によるイベントを含む)は、自発性興奮性または抑制性シナプス後電流(spEPSCまたはspIPCS)と呼ばれる。微小および自発性EPSCとIPSCは振幅に変動があり、これについてはさまざまな機序が提示されている。例えば、振幅の変動はシナプス小胞内の伝達物質量またはシナプス後受容体の数の変動を示している可能性がある。周波数の変化は、放出確率の変化、または放出部位の数の変化のいずれかを反映している。
【0049】
シナプス伝達のほかに、脳領域の活動を読み取るものにスパイク-スパイク同期がある。スパイク列の同期性の尺度(または逆にスパイク列の距離)は、2つの、または場合によってはそれ以上のスパイク列間の(非)類似性の推定量である。本明細書では、スパイク列はニューロン活動電位のシーケンスを指す。活動電位の形状も背景の活動も関連情報を伝えないと仮定すると、ニューロン反応はスパイク列に還元され、個々のスパイクのタイミングのみが情報として保持される。相補的な種類のアプローチには、ニューロン信号の同期性の尺度が含まれる。スパイク列間の同期性の程度を推定する尺度は、多くの用途で重要なツールとなる。特に、刺激を反復提示したときのニューロン反応の信頼性を定量化するために(MainenおよびSejnowski,1995)、またはニューロンモデルの性能を試験するために使用できる(Jolivetら,2008)。同期スパイクは受信ニューロンのスパイク放出を引き起こすのに有効であり、同時記録に関する多くの研究において、行動と関連して発生することが示されている(Vaadiaら,1995;Riehleら,1997;Hatsopoulosら,1998;Jacksonら,2003)。
【0050】
神経ネットワークにおけるスパイク活動は、情報伝達とそれに続く記憶を可能にする重要な過程である。ニューロンのスパイク発火の同期性は、もともと新皮質機能の基本的な特性として提示され、大脳皮質の多くの領域においてさまざまな条件下で観察されてきた(Vaadia,E.ら;Courtin,J.ら;Prezioso,M.ら;Dejean,C.ら)。我々は、NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸がニューロン発火挙動を妨げるか、またそれによって認知能力が低下するかという疑問を持った。この疑問に取り組むために、内側前頭前野(mPFC)のニューロンから電気生理学的記録を行った。この脳領域は、ニューロンによる位置と選択結果に関する情報のコード化に必要であり、これらはいずれもT迷路によって評価できる(Yang,Y.ら)。NOR試験では、以前に遭遇した刺激に対する認識記憶のトレースを形成する必要があるが、これもmPFCの完全性に依存すると考えられている(Morici,J.F.ら)。
【0051】
図7は、in vitro電気生理学的記録を用いた、シナプス伝達に対するNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の影響を示す。
【0052】
図7aは、急性マウス海馬スライスのパルブアルブミン陽性介在ニューロンに対するNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の影響を示す(最初の一連の記録のデータを描写、マウス3匹からの3つの切片で記録し、バーとバーの間の線は個々のマウスのデータを表す;実験は独立して2回実行し、マウス5匹から合計8つの切片で記録し、両方の実験で同様の結果が示された;データは平均±SEMとして表される)。NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸のいずれの投与でも、パルブアルブミン陽性介在ニューロンにおける自発性IPSC(spIPSC)の発現頻度の増加が誘発される。spIPSC頻度の増加は、学習および記憶にとって破壊的であり得る(BuzsakiおよびDraguhn,2004;Fries,2015)。
【0053】
図7bおよび図7cは、NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸が興奮性シナプス後電流(EPSC)と抑制性シナプス後電流(IPSC)に与える影響を示す。下辺縁または前辺縁mPFCに限局する2/3層の錐体細胞でホールセルパッチクランプ記録を実施した。最初のステップとして、2/3層の錐体細胞に作用する自発性抑制性シナプス後電流(自発性IPSC)と自発性興奮性シナプス後電流(自発性EPSC)の基本的な特性の評価を試みた。これらの実験の結果から、NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸は基本的な自発性EPSCとIPSCの振幅に有意な影響を及ぼさなかったが、自発性イベントのIPSC頻度を増加させたことが示された(図7c)。自発性IPSCの頻度の増加は、GABA放出確率の上昇、放出部位の数の増加、またはシナプス前介在ニューロン活動の増大を示している可能性がある。
【0054】
NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸がシナプス伝達に影響を及ぼすという事実は、in vivo実験によってさらに証明される。図8は、NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の全身投与(腹腔内)後にスパイク-スパイク同期が促進されることを示している。これは内側前頭前野の前辺縁皮質または下辺縁皮質からのin vivo記録によって観察された(n=マウス9匹、データは平均±SEMとして表される;**P<0.01;t検定)。スパイク同期は、スパイクの準同時出現の相対数から同期の程度を定量化する。スパイク列が一致を含まない場合にのみ0となり、すべてのスパイク列の各スパイクに、他のすべてのスパイク列に一致するスパイクが1つある場合にのみ1となる。スパイク-スパイク同期が促進されると、細かく調整された興奮と抑制のバランスが変化し、認知機能が低下する。認知には、脳全体にわたって脳の各領域間で効率的なニューロンの協調が必要というのが、この仮説の根拠である。このような協調の機序として、振動同期が提示されている。つまり、ニューロンの集団は、その振動活動を、特定の周波数で受容体集団の振動と協調させることによって情報を伝達する。さらに、周波数ごとに、より一般的には、振動パターンごとにそれぞれ異なる機能を担っている。同時に、特定の周波数帯におけるニューロン集団間の位相結合が、認知的内容の統合と流れを調節する機序として提示されている(BuzsakiおよびDraguhn,2004;Fries,2015)。
【0055】
シナプス伝達におけるNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の中心的な役割は、内側前頭前野からのin vivo単一ユニット記録によってさらに証明される。前頭前野(PFC)は、前頭葉の前部を覆う大脳皮質である。この脳領域は、複雑な認知行動の計画、個性表現、意思決定、および社会的行動の調整に関与している。PFCが、前頭葉型認知症だけでなくアルツハイマー病、軽度の認知障害、および正常な老化にも関与しているという証拠が増えている。PFCの部位ごとにそれぞれ異なる種類の記憶や記憶機能障害に関連していると考えられよう(Maclinら,2019;Mizoguchiら,2009)。
【0056】
NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸がmPFC機能に及ぼす影響をさらに調べるために、細胞(細胞外単一ユニット記録)と集団活動(局所フィールド電位)のin vivo測定を用いた。集団結合は、個々のニューロンの活動が集団の残りの部分とどれだけ同期しているかを示す尺度で、学習や記憶に重要な影響を与えることが示されている(Okun,M.ら;Sweeny,Y&Clopath,C.)。
【0057】
図9は、NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸を全身投与すると集団結合が促進されることを示している。マウスにNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸を腹腔内投与すると、錐体ニューロンのスパイク発火率には変化がなかったが、集団結合には有意な増加が認められた。自然睡眠(n=4匹)中に内側前頭前野から単一ユニット記録を行った。ベースラインデータを得た後、マウスにNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸(5mg/kg体重、n=4匹、n=56ユニット)または対照としてリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(n=4匹、n=79ユニット)を投与した。投与後45分間記録を続けた。図9aの上部は、1回の記録セッションにおける全ユニットの集団発火率の短いセグメントの例(ビン幅100ミリ秒)、下部は、NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の投与前(左側)と投与後(右側)の1つのニューロンのビニングしたスパイク率(下)を示す。前頭前野ネットワークで同期の促進が確認できる。図9bは全ニューロンのスパイク率と集団結合の定量化を示しており、NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸は平均スパイク発火率には影響を及ぼさないが、記録された細胞の集団結合を有意に増加させることがわかった(p=0.0017、ウェルチのt検定、データはベースライン値に対して正規化されており、黒線は分布の平均値を示す)。集団結合が増加すると、ニューロンネットワークの正常な機能が阻害され、認知機能が損なわれる。したがってNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸は、記憶障害に関与し、認知症の原因となり得る。
【0058】
NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸が記憶機能に与える影響を、行動試験でさらに証明する。
【0059】
NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸が認知能力を低下させるという我々の仮説を試験するために、NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸を合成して若齢成体マウス(8週齢)に腹腔内投与し、1時間後に、以前に採用した行動パラダイムを実行させた(図10a)。NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸存在下のマウスは、ビークルを投与した対照と比較して、T迷路およびNOR試験において遂行能力が有意に低下した(図10b~d)。若齢マウスからのFMT後に両方の行動パラダイムで遂行能力が向上した老齢マウスでも同様であった(図10e)。この場合、試験実施の1時間前にNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸を投与することによって、学習と記憶の向上が無効となった(図10f~h)。老齢マウスの腸内微生物叢を移植された若齢マウスにこの化合物を投与した場合、さらなる低下は生じなかった(図10f~h)。全体として、我々はNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸が空間作業記憶と空間長期記憶に悪影響を及ぼすと結論付けた。
【0060】
図11も、マウスへのNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の全身(腹腔内)投与が学習と記憶に及ぼす影響を示す。図11の左側は、NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸をマウスに全身(腹腔内)投与すると、若齢マウス(2カ月齢)の空間作業記憶(T迷路試験)が老齢マウス(20~24カ月齢)のレベルに低下したことを示している。老齢マウスは、若齢のマウスと比較して学習および記憶の低下を示したが、同じ処理でさらなる低下は認められなかった(点は個々のマウスの数を表し、データは平均±SEMとして表される;***P<0.001;**P<0.01;t検定、ns=有意差なし)。対照としてPBSを投与し、循環中に存在するマイナス因子の希釈が、認知機能の向上をもたらしている可能性を評価した。同様に、図11の右側は、NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸をマウスに全身(腹腔内)投与すると、同じく若齢マウス(2カ月齢)の認識記憶(新奇物体認識試験)が老齢マウス(20~24カ月齢)のレベルに低下したことを示している。老齢マウスは、若齢のマウスと比較して学習および記憶の低下を示したが、同じ処理でさらなる低下は認められなかった(点は個々のマウスの数を表し、データは平均±SEMとして表される;***P<0.001;**P<0.01;t検定、ns=有意差なし)。対照としてPBSを再び投与し、循環中に存在するマイナス因子の希釈が、認知機能の向上をもたらしている可能性を評価した。
【0061】
このように、行動試験も、NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸が若齢マウスの正常な脳機能を老齢マウスのレベルに混乱させる可能性があることを示している。
【0062】
このように、若齢マウスと比較すると、老齢マウスの血清および脳でNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸レベルの増加が認められる。NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸は抑制性シナプス伝達やネットワーク活動を調節するため、NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸を健康な若齢動物に投与すると、認知障害を引き起こす。したがって、NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸は正常な脳機能と相関関係があり、NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸のレベル上昇は、記憶障害および/または認知症の存在もしくは発症を示している。
【0063】
NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸、その前駆体および代謝物は、被験者が認知症を発症するまたは有する確率を診断するマーカーとなる。
【0064】
被験者が認知症を発症するまたは有する確率を診断する方法は、被験者から試料を入手することを含み得、被験者はヒトであり得る。試料を入手することは、ヒトまたは動物の体で実施される任意のステップを含まない。むしろ、入手するとは、被験者から試料が提供されることを意味する。試料は、唾液試料、尿試料、血液試料、血清試料、脳液試料、脳室液試料、髄液試料、脳組織試料、微生物試料、糞便試料、もしくは便試料、または他の任意の適切な試料のうち1つまたは複数であり得る。
【0065】
方法は、試料中のNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸および/またはNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前駆体および/またはNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の代謝物の絶対濃度を測定することを含み得る。絶対濃度を決定する標準的な方法に、内部標準との比較(液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)は、13Cまたは15Nで標識した標準と標識していない代謝物の強度差を測定することによって実施し、核磁気共鳴(NMR)では単一参照代謝物が使用されることが多い)、または濃度の領域で調製した代謝物標準との外部比較によるものの2つがある。マトリクス効果を考慮し、外部較正曲線は、好ましくは標準を試料に添加して作成する。標準と内在性の検体とで、抽出および取り扱い時の損失を等しくするために、標準は最終試料ではなく元の抽出溶媒に添加する必要がある。
【0066】
LC-MSでは、各クロマトグラフィーの実行に要する時間が重要な制約となる。したがって、試料のスループットを向上させるダイレクトMSに大きな関心が集まっている。クロマトグラフィーを使用しない市販のシステムの一例に、AgilentのRapidFire装置がある。一般的なメタボロミクスLC-MS法では分析時間が1試料当たり約30分であるのに対し、1試料当たり1分未満という利点がある。抗体を用いた定量・定性分析法であるイムノアッセイ(例えば酵素免疫測定法/酵素結合免疫吸着測定法(ELISA))も濃度を測定する選択肢のひとつである。
【0067】
方法は、測定した濃度に基づいて被験者が認知症を発症するまたは有する確率を決定することをさらに含み得る。このため、NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸および/またはNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前駆体および/またはNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の代謝物の濃度は、例えばターゲットメタボロミクス手法またはELISAによって決定し得る。濃度は内部標準または代謝物標準と比較し得る。代謝物標準は、対照データセットの解析によって確立できる。したがって、濃度は健康な対照または認知症を有する対照と比較し得る。対照は、1人または複数人のデータに基づき得る。対照は、年齢が同じ、性別が同じ、民族が同じ、および/または地理的位置が同じである1人または複数人から決定し得る。認知症患者の対照データと濃度を比較することは、認知症の予後に有益である可能性がある。各患者の予測モデルは、主要なパラメータ(患者の年齢、性別、民族、および地理的位置、NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸およびNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前駆体(例えば5-アミノ吉草酸)濃度)を含む決定木に基づいて作成できる。多変量受信機動作特性(ROC)解析を用いて、健康で認知的に正常な高齢者、認知障害(MCI)を有する高齢者、アルツハイマー病(AD)を有する高齢者を区別する診断力を判定するための決定木を作成することができる。
【0068】
一般的に、本明細書における任意の物質の濃度は、対照値と比較して少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、100%、200%、300%、または1000%(10~1000%の間のすべての割合を含む)増加した場合、増加したとみなされる。濃度増加によって、認知症を発症するまたは有する被験者を予測できる。濃度が高いほど、予測の信頼性が高い。
【0069】
尿試料中のNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の濃度はクレアチニンレベルで正規化できる。NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の濃度が0.005~0.010μM/g尿中クレアチニンである場合、被験者が認知症を発症するまたは有することが示され得る。クレアチニンレベルは、性別および被験者固有のパラメータに応じて調整することもできる(例えばクレアチニンレベルの上昇または低下を考慮して)。
【0070】
NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前駆体または代謝物の濃度も、被験者が認知症を発症するまたは有する確率を示し得る。NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前駆体は、5-アミノ吉草酸またはNε-トリメチルリシン(N(6),N(6),N(6)-トリメチル-L-リシン)のうち1つまたは複数から選択できる。
【0071】
NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸は、5-アミノ吉草酸のメチル化によってin vivoまたはin vitroで生成できる。
【化1】
5-アミノ吉草酸 NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸
C5H10NO2+3CH3 C8H17NO2+H2
【0072】
NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸も、グリシンとNε-トリメチルリシンとの反応によってin vivoまたはin vitroで生成できる。
【化2】
Nε-トリメチルリシン+グリシン+2H2O+3ADP+3Pi
→ NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸+酢酸+CO2+3NH3+3ATP
【0073】
Nε-トリメチルリシン(N(6),N(6),N(6)-トリメチル-L-リシン)は、L-リシンの分解とL-カルニチンの最終的な合成の間に産生される代謝物である。図12からわかり得るように、生合成経路全体で、少なくとも5つの酵素、すなわち6-N-トリメチルリシンジオキシゲナーゼ(TMLD)、4-トリメチルアンモニオブチルアルデヒドデヒドロゲナーゼ(TMABADH)、セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ1および2(SHMT1および2)、ならびにγ-ブチロベタインヒドロキシラーゼ(BBH)が関与している。
【0074】
図13からわかるように、5-アミノ吉草酸(または5-アミノペンタン酸)はリシン分解生成物である。これは細菌によるリシンの異化によって生成され得る。微生物におけるリシン異化は、モノオキシゲナーゼ、デカルボキシラーゼ、またはトランスアミナーゼのいずれかの活性によって開始され得る。l-リシンの利用は、中間体としてカダベリンと5-アミノ吉草酸を用いるリジン脱カルボキシル経路によって仲介される可能性がある。別法として、l-リシンの5-アミノ吉草酸への変換は、AruHおよびAruIによって触媒される共役反応によって成されることもある。AruHおよびAruI酵素はアルギニンとして、すなわちそれぞれピルビン酸トランスアミナーゼおよび2-ケトアルギニンデカルボキシラーゼとして報告されている(YangおよびLu,2007)。
【0075】
5-(ガラクトシルヒドロキシ)-L-リシンは5-ヒドロキシリシンの配糖体である。5-ヒドロキシリシンは分子式がC6H14N2O3のアミノ酸である。これはリシンのヒドロキシ誘導体である。
【化3】
【0076】
認知症の症状を呈していない健常者における5-アミノ吉草酸の濃度は、262+/-254nmol/g湿った糞便および0.1~2μmol/mmol尿中クレアチニンの範囲であり得る。健康な対照と比べて5-アミノ吉草酸の濃度が有意に高い、または低い場合、被験者が認知症を発症するまたは有することが示され得る。
【0077】
認知症の症状を呈していない健常者におけるNε-トリメチルリシンの濃度は、脳脊髄液中で1.5+/-2.0μMおよび5.3(3.8~10.4)μmol/mmol尿中クレアチニンの範囲であり得る。健康な対照と比べてNε-トリメチルリシンの濃度が有意に高い、または低い場合、被験者が認知症を発症するまたは有することが示され得る。
【0078】
NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の代謝物の濃度も、被験者が認知症を発症するまたは有する確率を示し得る。NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の代謝物は、グルタル酸および5-(ガラクトシルヒドロキシ)-L-リシンのうちの1つから選択できる。
【0079】
認知症の徴候を示していない健常者におけるグルタル酸の濃度は、血中で0.8(0.0~1.8)μM、脳脊髄液中で0~1μM、189+/-125nmol/g湿った糞便、唾液中で0.5+/-1.4μMの範囲であり得る。認知症の徴候を示していない健常者における5-(ガラクトシルヒドロキシ)-L-リシンの濃度は、2.5(1-5)umol/mmol尿中クレアチニンの範囲であり得る。グルタル酸および5-(ガラクトシルヒドロキシ)-L-リシンの濃度が有意に高い、または低い場合、被験者が認知症を発症するまたは有することが示され得る。
【0080】
認知症は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、前頭側頭型認知症、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、緑内障、筋強直性ジストロフィー、進行性核上性麻痺、脊髄性筋萎縮症、多系統萎縮症、運動失調症、血管性認知症、レビー小体型認知症、またはその他の認知症のうちの1つから選択され得る。
【0081】
濃度は、センサーまたは画像関連の方法を用いてin vivoでも測定できる。NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸および/または前駆体および/または代謝物の継続的なモニタリングによって、認知障害管理が大幅に改善する可能性がある。最小限の侵襲で、血液中または脳脊髄液中または任意の他の適切な試料中の代謝物を検知する装置は、電気化学的な超小型検出プローブを、例えば単中空マイクロニードルの管腔に組み込んだものをベースとし、別途、例えば標準的なシリコン微細加工技術を用いて実現し得る。血管内腔または髄液につながる開口部に向けて管腔内に検出電極を設置することで、短距離の分子拡散を利用した純粋なリアルタイム計測が可能となる。さらにこの装置は、複雑な流体抽出機構を必要とせず、毛細血管内腔の受動的充満のみに依存する。センサー技術とマイクロニードルを組み合わせ、挿入および注入の信頼性を高めることで、経時的に、正確かつ動的にNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸、その前駆体、またはその代謝物を動的に追跡する可能性が得られる。
【0082】
加えて、または別法として、被験者が認知症を発症するまたは有する確率を診断する方法は、第1の時点で被験者から第1の試料を入手すること;第1の試料中のNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸および/またはNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前駆体および/またはNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の代謝物の濃度を測定すること;第2の時点で被験者から第2の試料を入手すること;第2の試料中のNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸および/またはNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前駆体および/またはNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の代謝物の濃度を測定すること;試料で測定した濃度の比較に基づいて被験者が認知症を発症するまたは有する確率を決定することを含み得る。上述のとおり、1つまたは複数の試料は、血液試料、血清試料、脳液試料、脳室液試料、髄液試料、脳組織試料、微生物試料、糞便試料、唾液試料、尿試料、便試料、または他の任意の適切な試料のうちの1つから選択できる。被験者はヒトであり得る。
【0083】
さまざまな時点の濃度を比較すると、対照として健常者の参照データが不要になるという利点がある。基本的に、第1の時点がベースラインまたは対照値となり、被験者に特有のものであってよい。しかしながら、第1の試料および第2の試料(およびそれ以降の試料)の濃度は、さらに健常者の対照値と比較してよく、これにより予測の精度が向上する可能性がある。
【0084】
第1の時点と第2の時点は約3~6カ月間隔てることができる。第2の時点は第1の時点の12~24週間後であり得る。第2の時点は第1の時点の3~6カ月後であり得る。指定した時点に従うことで、一般的な傾向が見つかり、個人差を排除できる。オレイルエタノールアミド、メラトニン、およびドーパミンなど一部の生化学物質は概日リズムの影響を受けるため、試料を採取する時間帯が重要となる。試料を長期間保存し、短期間保存した試料と同時に分析する縦断的な研究では、アッセイ間の変動を最小にするために、凍結温度で試料が安定している期間を知ることが重要である。
【0085】
方法は、さらに、第3の時点で被験者から第3の試料を入手すること;第3の試料中のNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸および/またはNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前駆体および/またはNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の代謝物の濃度を測定すること;試料で測定した濃度の比較に基づいて被験者が認知症を発症するまたは有する確率を決定することをさらに含み得る。第2の時点と第3の時点は約6~12カ月間隔てることができる。方法は、さらなる試料をさらなる時点で入手することを含み、被験者が認知症を発症するまたは有する確率は、試料で測定した濃度の比較に基づく。
【0086】
同じ状況(例えば食事状況が同じ、採取時点が同じなど)で採取した試料を評価すると、予測の精度にとって有益である可能性がある。これにより、自然に生じる各濃度の変動も低減される可能性がある。
【0087】
上述のとおり、認知症は、加齢に伴う認知症または加齢に伴わない認知症であり得る。認知症は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、前頭側頭型認知症、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、緑内障、筋強直性ジストロフィー、進行性核上性麻痺、脊髄性筋萎縮症、多系統萎縮症、運動失調症、血管性認知症、レビー小体型認知症、またはその他の認知症のうちの1つから選択され得る。上述のとおり、濃度は、センサーまたは画像関連の方法を用いてin vivoでも測定できる。
【0088】
加えて、または別法として、被験者が認知症を発症するまたは有する確率を診断する方法は、被験者の腸内細菌叢の解析を含み得る。
【0089】
腸内微生物叢には1000種を超える細菌種が含まれ、これらは主に、ファーミキューテス、バクテロイデス、アクチノバクテリア、およびプロテオバクテリアの4つの門に分類される(Leclery,S.ら.;Verbeke,K.A.ら)。ヒトおよびマウスでは年齢とともに腸内微生物叢が変化することが多くの研究で示されており(Langille M.G.ら、Biagi,E.ら)、これは、加齢に伴ってδNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の濃度が上昇する理由の1つである可能性がある。特定の細菌分類または特定の細菌種の相対存在量(正または負の相関を意味する)は、老化過程における記憶障害および/または認知症の予後因子および/または徴候である可能性がある。
【0090】
NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸自体の濃度を決定する代わりに、その合成に関与している特定の腸内細菌の存在および/または存在量を決定することも可能である。例えばNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前駆体である5-アミノ吉草酸は、コリネバクテリウムで見られ得る。さらに、NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の生成につながるリシン分解は、ヒトの腸内細菌叢に常在する細菌であるコリネバクテリウム内で生じる。NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸はリシンの分解中に生成される。ヒトの腸内で細菌を発酵させるその他のリシンは、大腸菌、肺炎桿菌、クロストリジウム・ビフェルメンタンス、クロストリジウム・スポロゲネス、クロストリジウム・スティックランディイ、クロストリジオイデス・ディフィシル、およびクロストリジウム・パーフリンジェンスである(Daiら,2011)。
【0091】
フェカリス菌および緑膿菌はトリメチルリシンをN,N,N-トリメチル-5-アミノ吉草酸に代謝する(Zhao,M.ら)。N,N,N-トリメチル-5-アミノ吉草酸とビフィドバクテリウムの間で強い正の相関が見られ、またN,N,N-トリメチル-5-アミノ吉草酸と、クロストリジウム、デスルフォビブリオ、ムシスピリルム(Mucispirillum)、オドリバクター、およびリケネラのうちの未分類の属であるアリスティペスとの間に強い負の相関が認められた(Koistinen,V.M.ら)。
【0092】
ファーミキューテスの増加によって、トリメチルアミン(TMA)、その共代謝物トリメチルアミン-N-オキシド(TMAO)(Martinez-del Camp,A.ら)、およびそれによりその前駆体NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸(Servillo,L.ら)が増加する可能性がある。加齢に伴うファーミキューテス/バクテロイデス(F/B)比の増加は、代謝物の血液脳関門通過を促進させる上皮タイトジャンクションの低下とさらに関連している(Braniste,V.ら)。幼児期から高齢までの間にファーミキューテス門の相対存在量が増加したのに対し、バクテロイデスの相対存在量は減少した。男女ともに、F/B>1となるオッズは年齢とともに増加する傾向にあり、高齢の年齢集団で最大値に達している[オッズ比(OR);同性の参照年齢(0~9歳)集団と比較して、60~69歳の年齢集団で女性のOR=2.7(95%CI、1.2~6.0)、男性のOR=3.7(95%CI、1.4~9.6)]。最高齢集団(60~69歳)では、幼児・小児集団(0~9歳)よりも40%高かった。バクテロイデス存在量では逆の傾向が示され、幼児・小児と比較して高齢集団で約80%低い。その結果、F/B比は年齢とともに増加する傾向にあり、60~69歳の年齢集団で最高値(1.42)に達する。これは、老化した脳でNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸のレベルが上昇する別の機序を示している。
【0093】
したがって、被験者が認知症を発症するまたは有する確率を診断する方法は、被験者から試料を入手すること;試料中のコリネバクテリウム、クロストリジウム・スポロゲネス、クロストリジウム・スティックランディイ、クロストリジウム・パーフリンジェンス、クロストリジウム・ブチリカム、クロストリジウム・スフェノイデス、クロストリジウム・グルタミクム、クロストリジウム・ビフェルメンタンス、クロストリジオイデス・ディフィシル、オシリバクター、クロアシバシルス・エブリエンシ(Cloacibacillus evryensi)、およびファーミキューテスのいずれかの存在量を決定すること;測定した存在量に基づいて被験者が認知症を発症するまたは有する確率を決定することを含み得る。方法は、試料中のファーミキューテスとバクテロイデスの比率を決定すること、およびこの比率と対照中のファーミキューテスとバクテロイデスの比率とを比較することを含み得る。ファーミキューテス/バクテロイデスの比率が1より高い場合、被験者が認知症を発症するまたは有する確率が高いことが示される可能性がある。特に、F/Bの比率が1.1、1.2、1.3、1.4、または1.5より高い場合、被験者が認知症を発症するまたは有する確率が高いことが示される可能性がある。比率の向上が経時的に検出される場合があり、これは被験者が認知症を発症するまたは有することを示す可能性がある。
【0094】
存在量の決定とは、細菌の存在の有無を検出することと理解され、必ずしも定量的な量を検出する必要はない。しかしながら、細菌の量は、被験者が認知症を発症するまたは有する確率の予測を向上させる要因となる可能性がある。
【0095】
試料は、微生物試料、腸内細菌叢試料、腸試料、糞便試料、および/または便試料のうち1つまたは複数から選択できる。被験者はヒトであり得る。
【0096】
コリネバクテリウムは、コリネバクテリウム・グルタミカム、コリネバクテリウム・ジェイケイウム、コリネバクテリウム・ウレアリティクム、およびコリネバクテリウム・エフィシエンスのうち1つまたは複数から選択できる。
【0097】
オシリバクターは、オシリバクター・バレリシゲネス(Oscillibacter valericigenes)およびオシリバクター属KLE1745株から選択できる。
【0098】
試料中の微生物叢の構成を決定し得る。腸メタゲノムを決定し得る。方法は、被験者の試料の細菌の存在量または微生物叢の構成または腸メタゲノムを対照と比較することを含み得る。対照は、1人または複数人の健常者のデータに基づき得る。対照は、年齢が同じ、性別が同じ、民族が同じ、および/または地理的位置が同じである1人または複数人の健常者から決定し得る。
【0099】
腸メタゲノム、腸メタゲノムの微生物叢、または微生物叢の組成変化は、疾患またはリスク被験者(患者)と対照被験者との間で識別することができ、好ましくは、これは、存在する細菌群もしくは細菌種の種類または数の変化、例えば、種または他の分類学的な存在量の変化を識別することによって行われる。好ましい方法は、特定の細菌群または細菌種の存在について前記被験者の腸内細菌叢の試料を分析すること、例えば、対照レベルと比較して、特定の細菌群または細菌種、特に認知症または認知症関連疾患を有する被験者の腸内メタゲノムにおいて増大または増加することが確認されている種の増大または増加について前記試料を分析することを含む。別法として、対照被験者(健康な被験者)の腸内メタゲノムにおいて増大または増加することが確認されている細菌群または細菌種については、対照レベルと比較して、特定の細菌群または細菌種で減少または枯渇について被験者の試料、例えば腸内細菌叢試料を分析することができよう。本明細書に記載する細菌または遺伝子のレベルの「増加」または「増加した」レベルまたは「増大」等は、当該マーカーを対照レベルと比較する場合の、当該マーカーの任意の測定可能な増加または上昇または増大を含む。好ましくは、レベルの増加は有意となり、より好ましくは臨床的または統計的に有意となり(好ましくは確率値<0.05)、最も好ましくは臨床的および統計的に有意となる(好ましくは確率値<0.01)。
【0100】
試料は、配列に基づく技術、ジェノタイピングアッセイ、qPCR、RT-qPCR、16S rRNA遺伝子の全長のクローンライブラリー、DGGE、T-RFLP、ARISA、マイクロアレイ、DNAハイブリダイゼーション法のいずれかの方法を用いて解析できる。細菌の存在量は、懸濁液培養またはプレート培養、染色法、顕微鏡観察法、FACSなどのフローサイトメトリー法、光学密度測定法のうち少なくとも1つを含む細胞培養アッセイを用いて測定できる。
【0101】
例えば、糞便試料または腸試料などの腸内細菌叢試料は、配列に基づく技術によって核酸レベルで分析できよう。本発明は、例えばバーコードマルチプレックス454シーケンシングを用いて実施し、腸内微生物叢の細菌構成を単独で、または他の解析と組み合わせて分析することができる。本発明は、当技術分野で既知の特定の細菌種または細菌群を定量化する他の方法を用いて実施することもできる。
【0102】
上述のとおり、認知症は加齢に伴う認知症であり得、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、前頭側頭型認知症、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、緑内障、筋強直性ジストロフィー、進行性核上性麻痺、脊髄性筋萎縮症、多系統萎縮症、運動失調症、血管性認知症、レビー小体型認知症、またはその他の認知症のうちの1つから選択され得る。
【0103】
加えて、または別法として、被験者が認知症を発症するまたは有する確率を診断する方法は、試料中のパルブアルブミン陽性介在ニューロンを同定すること;試料中の自発性IPSCの頻度を測定すること;測定した頻度に基づいて被験者が認知症を発症するまたは有する確率を決定することを含む。
【0104】
上記に詳述したとおり、NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸は、パルブアルブミン陽性介在ニューロンにおける自発性IPSCの頻度に影響を及ぼす。したがって、異常なspIPSC頻度は、被験者が認知症を発症するまたは有することも示し得る。
【0105】
同様に、被験者が認知症を発症するまたは有する確率を診断する方法は、試料中のパルブアルブミン陽性介在ニューロンを同定すること;パルブアルブミン陽性介在ニューロンの振動を測定すること;測定した振動に基づいて被験者が認知症を発症するまたは有する確率を決定することを含み得る。
【0106】
上に示すように、NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸は、ガンマ振動の生成において主要な役割を果たすPV陽性GABAニューロンに影響を及ぼす(BuzsakiおよびWang,2012)。したがって、振動を決定および/または定量化することによって、被験者が認知症を発症するまたは有する確率を予測してよい。振動は脳波記録(EEG)および脳磁図(MEG)によって検出してよい。
【0107】
試料は、脳、急性脳スライス、培養脳組織、ニューロンの培養物、またはパルブアルブミン陽性介在ニューロンの培養物から選択できる。被験者はヒトであり得る。自発性IPSCは、電気生理学的方法および/またはカルシウムイメージングを用いて測定できる。方法は、例えば脳波記録(EEG)および脳磁図(MEG)によって、PV陽性GABAニューロンの振動を検出することも含み得る。
【0108】
加えて、または別法として、本発明は、薬剤候補をスクリーニングする方法を目的とし、方法は、NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸、NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前駆体、NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の代謝物のうち1つまたは複数を含む試料を提供すること;試料を試験薬に曝露すること;試料に対する試験薬の効果を測定すること;試料に対する試験薬の効果に基づいて、試験薬の薬剤候補としての適格性を決定することを含む。試料は、唾液試料、尿試料、血液試料、血清試料、脳液試料、脳室液試料、髄液試料、脳組織試料、微生物試料、糞便試料、または便試料のうちの1つから選択できる。試験薬は、酵素分解、キレート化、結合、吸収など、NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸、NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前駆体、NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の代謝物のいずれかとの特定の生化学的相互作用に関与する作用機序を有し得る。試験薬の効果は、NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸、NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前駆体、NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の代謝物のいずれかの濃度の低下であってよい。試験薬の薬剤候補としての適切性は、NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸、NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前駆体、NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の代謝物のうちいずれかの濃度の低下に対して試験薬が及ぼす効果に基づいて決定してよい。加えて、または別法として、試験薬は、試料中のコリネバクテリウム、クロストリジウム・スポロゲネス、クロストリジウム・スティックランディイ、クロストリジウム・パーフリンジェンス、クロストリジウム・ブチリカム、クロストリジウム・スフェノイデス、クロストリジウム・グルタミクム、クロストリジウム・ビフェルメンタンス、クロストリジオイデス・ディフィシル、オシリバクター、クロアシバシルス・エブリエンシ、およびファーミキューテスのいずれかの細菌を減少させる、または根絶することもできる。試験薬は、上述の細菌の存在量に直接的または間接的に影響を与える抗菌剤、ワクチン、もしくは局所プロバイオティック介入、または別の細菌を含み得る。例えば、大腸菌などその他の細菌が増加し、それにより上述の細菌が減少する可能性がある。試験薬の薬剤候補としての適格性は、上述の細菌のいずれかの存在量に対して試験薬が及ぼす効果に基づいて決定してよい。
【0109】
上述のように、NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸は、シナプス伝達、特に抑制性伝達に影響を与える。自発性IPSCの頻度の変化は、放出確率の変化、または放出部位の数の変化のいずれかを示す。NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸は、GABA受容体作動薬として機能する可能性もある。NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸がシナプス伝達に及ぼす影響を低減する薬剤はいずれも、認知症の症状を軽減する、または認知症の発症を遅延させる可能性がある。潜在的な機序の1つが、スパイク-スパイク頻度の同期の正常化である。これにより、この場合のPFCのように、特定の脳領域内の情報処理が向上する。同時に、他の脳領域(例えば海馬)との同期も向上する。その結果、認知処理が促進されることになる。
【0110】
本発明は、認知症を発症するまたは有する被験者を治療するさまざまな方法も目的とする。「治療」、「治療すること」などは、一般に、所望の薬理学的および/または生理学的効果を得ることを意味する。この効果は、疾患またはその症状を完全もしくは部分的に妨げるという点で予防的であってよい、ならびに/または、疾患および/もしくは疾患に起因する有害作用を部分的もしくは完全に治癒するという点で治療的であってよい。本明細書で使用する「治療」は、ヒトにおける疾患のあらゆる治療を対象とし、以下を含む:(a)疾患にかかりやすい素因を持っているが、罹患しているという診断をまだ受けていない被験者で疾患が発生するのを防ぐこと;(b)疾患を抑制すること、すなわち、発病を阻止または遅らせること;または(c)疾患を緩和すること、すなわち、疾患の退行を引き起こすこと。治療は、例えば遺伝子発現の調節、組織または器官の若返りなど、さまざまな物理的発現をもたらす可能性がある。治療薬は、疾患または損傷の発生前、発生中、または発生後に投与してよい。継続している疾患で、治療により患者の望ましくない臨床症状が安定化または軽減されるような場合は、特に関心が高い。このような治療は、罹患した組織の機能が完全に失われる前に行われることがある。治療薬は、疾患の症状を呈する段階で投与する場合や、場合によっては疾患症状の後に投与する場合がある。治療の進展は、被験者におけるNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸、ならびに/または5-アミノ吉草酸およびNε-トリメチルリシン(N(6),N(6),N(6)-トリメチル-L-リシン)を含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前駆体、ならびに/またはグルタル酸および5-(ガラクトシルヒドロキシ)-L-リシンを含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の代謝物のいずれかの濃度を測定することによって、監視または評価または決定してよい。診断との関連で上記または下記に説明する方法は、治療の進展を監視または評価または決定する方法にも同様に適用され、任意で予後を推測する。治療は、被験者におけるNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸、ならびに/または5-アミノ吉草酸およびNε-トリメチルリシン(N(6),N(6),N(6)-トリメチル-L-リシン)を含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前駆体、ならびに/またはグルタル酸および5-(ガラクトシルヒドロキシ)-L-リシンを含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の代謝物のいずれかに作用する治療であってよいが、その他の治療でもあり得る。認知症の治療は、これらの物質のいずれかの濃度に変化をもたらすことができ、そのため、これらの濃度は治療の進展を監視または評価または決定することに使用してよい。
【0111】
例えば、本発明は、認知症を発症するまたは有する被験者を治療する方法を目的とし、方法は、被験者におけるNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸、ならびに/または5-アミノ吉草酸およびNε-トリメチルリシン(N(6),N(6),N(6)-トリメチル-L-リシン)を含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前駆体、ならびに/またはグルタル酸および5-(ガラクトシルヒドロキシ)-L-リシンを含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の代謝物のいずれかの濃度を低下させる薬剤または薬剤の組み合わせを被験者に投与することを含む。1つまたは複数の薬剤は、唾液試料、尿試料、血液試料、血清試料、脳液試料、脳室液試料、髄液試料、脳組織試料、微生物試料、糞便試料、または便試料中のNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸、ならびに/または5-アミノ吉草酸およびNε-トリメチルリシン(N(6),N(6),N(6)-トリメチル-L-リシン)を含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前駆体、ならびに/またはグルタル酸および5-(ガラクトシルヒドロキシ)-L-リシンを含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の代謝物のいずれかの濃度を低下させることができる。以下の酵素反応に示すように、1つまたは複数の薬剤は、5-アミノペンタンアミドから5-アミノ吉草酸を生成させる酵素である5-アミノペンタンアミダーゼの阻害剤であり得る。この酵素は以下の化合物によって阻害され得、これらは個別に、または組み合わせで投与される可能性がある:Ba2+、Ca2+、Fe2+、Mg2+、Sn2+、Zn2+。もう1つの標的はL-リシンカルボキシリアーゼとなり、これはカダベリンL-リシンからカダベリンを産生する。この酵素は、個別に、または組み合わせで投与される、1,5-ペンタンジアミン、リン酸2-エチルヘキシルジフェニル、6-アミノヘキサン酸、アクリジンオレンジ、DL-α-ジフルオロメチルオルニチン、ヒドロキシルアミン、ヨードアセトアミド、セミカルバジド、リン酸トリス(2-クロロ-1-(クロロメチル)エチル)、リン酸トリス(2-クロロエチル)、リン酸トリ-m-クレジル、リン酸トリフェニル、リン酸トリス(2-クロロイソプロピル)、および尿素によって阻害され得る。L-リシンからの5-アミノペンタンアミドの生成は、酵素リシン2-モノオキシゲナーゼを阻害することによって標的とし得る。この酵素反応の好適な阻害剤は、個別に、または組み合わせて適用される2,2’-ジピリジル、2-オキソグルタル酸、クエン酸塩、グルタル酸塩、オキサロ酢酸塩、およびコハク酸塩である。
【0112】
酵素反応:
反応:5-アミノペンタンアミド+H2O=5-アミノ吉草酸+NH3
酵素:5-アミノペンタンアミダーゼ
阻害剤:Ba2+、Ca2+、Fe2+、Mg2+、Sn2+、Zn2+
反応:カダベリンL-リシン<=>カダベリン+CO2
酵素:L-リシンカルボキシリアーゼ
阻害剤:1,5-ペンタンジアミン、リン酸2-エチルヘキシルジフェニル、6-アミノヘキサン酸、アクリジンオレンジ、DL-α-ジフルオロメチルオルニチン、ヒドロキシルアミン、ヨードアセトアミド、セミカルバジド、リン酸トリス(2-クロロ-1-(クロロメチル)エチル)、リン酸トリス(2-クロロエチル)、リン酸トリ-m-クレジル、リン酸トリフェニル、リン酸トリス(2-クロロイソプロピル)、尿素
反応:L-リシン+O2=5-5-アミノペンタンアミド+CO2+H2O
酵素:リシン2-モノオキシゲナーゼ
阻害剤:2,2’-ジピリジル、2-オキソグルタル酸、クエン酸塩、グルタル酸塩、オキサロ酢酸塩、コハク酸塩
【0113】
NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸は、リシンのコハク酸塩への異化の一部として生成される。リシンは、無差別酵素GabTおよびGabDによって5-アミノ吉草酸を介した経路に入る。GabTは、コハク酸セミアルデヒドを産生するGABAトランスアミナーゼと称される。GabDは、コハク酸セミアルデヒドをコハク酸塩に変換する脱水素酵素である(Schneiderら,2002)。この経路は、CsiDオペロンを抑制するリガンド依存性転写因子をコードするCsiRを、例えばウイルス構築体によって腸内微生物叢に導入することによって抑制することが可能である(Knorrら,2018)。
【0114】
本発明は、認知症を発症するまたは有する被験者を治療する方法も目的とし、方法は、腸内細菌叢中のコリネバクテリウム、クロストリジウム・スポロゲネス、クロストリジウム・スティックランディイ、クロストリジウム・パーフリンジェンス、クロストリジウム・ブチリカム、クロストリジウム・スフェノイデス、クロストリジウム・グルタミクム、クロストリジウム・ビフェルメンタンス、クロストリジオイデス・ディフィシル、オシリバクター、クロアシバシルス・エブリエンシ、およびファーミキューテスのいずれかの細菌を減少させる、または根絶する薬剤を被験者に投与することを含む。薬剤は、上述の細菌の存在量に直接的または間接的に影響を与える抗菌剤、ワクチン、もしくは局所プロバイオティック介入、または別の細菌を含み得る。例えば、大腸菌などその他の細菌が増加し、それにより上述の細菌が減少する可能性がある。
【0115】
薬剤は、製剤、調合薬、もしくは医薬品、または栄養補助食品として送達される可能性があり、これは、遅延放出性もしくは徐放性の腸溶性組成物もしくは製剤、または即放性製剤として製剤化してよい。任意で製剤は、回腸末端でpH7で溶解するように設計された胃耐性コーティングを含み、例えば活性成分は、pH7以上で溶解するアクリル系樹脂または等価物、例えばポリ(メタ)アクリレート、例えばメタクリル酸コポリマーB、NFでコーティングされ、例えば、マルチマトリクス(MMX)製剤を含む。
【0116】
本製剤、調合薬、または医薬品は、追加的な抗菌剤または抗生物質をさらに含み、任意で、追加的な抗菌剤または抗生物質は以下を含む:アンピシリン、スルバクタム、テトラサイクリン、セファロスポリン、カルバペネム、イミペネム、メロペネム、モノバクタム、リンコサミド、クリンダマイシン、キノロン、フルオロキノロン、スルホンアミド、フラジシン、ニトロイミダゾール、メトロニダゾール、チニダゾール、抗クロストリジウム剤、またはラモプラナン、アミノグリコシド系抗生物質、ゲンタマイシン、ネオマイシン、ストレプトマイシン、パロモマイシン、ベルダマイシン、ムタマイシン、シソマイシン、ネチルマイシン、レチミシン、カナマイシン、アンフェニコール、アンサマイシン、β-ラクタム系抗生物質、カルバペネム、セファロスポリン、セファマイシン、モノバクタム、オキサセフェム、リンコサミド系抗生物質、クリンダマイシン。
【0117】
加えて、または別法として、本発明は、認知症の治療に適している患者群を同定する方法を目的とし、方法は、被験者から試料を入手すること;試料中のNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸、ならびに/または5-アミノ吉草酸およびNε-トリメチルリシン(N(6),N(6),N(6)-トリメチル-L-リシン)を含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前駆体、ならびに/またはグルタル酸および5-(ガラクトシルヒドロキシ)-L-リシンを含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の代謝物のいずれかの濃度を測定すること;測定した濃度に基づいて被験者が治療に応答する確率を決定することを含む。治療は、被験者におけるNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸、ならびに/または5-アミノ吉草酸およびNε-トリメチルリシン(N(6),N(6),N(6)-トリメチル-L-リシン)を含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前駆体、ならびに/またはグルタル酸および5-(ガラクトシルヒドロキシ)-L-リシンを含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の代謝物のいずれかの濃度を低下させる薬剤を被験者に投与することを含み得る。
【0118】
加えて、または別法として、本発明は、認知症の治療に適している患者群を同定する方法を目的とし、方法は、被験者から試料を入手すること;試料中のコリネバクテリウム、クロストリジウム・スポロゲネス、クロストリジウム・スティックランディイ、クロストリジウム・パーフリンジェンス、クロストリジウム・ブチリカム、クロストリジウム・スフェノイデス、クロストリジウム・グルタミクム、クロストリジウム・ビフェルメンタンス、クロストリジオイデス・ディフィシル、オシリバクター、クロアシバシルス・エブリエンシ、およびファーミキューテスのいずれかの存在量を決定すること;測定した存在量に基づいて被験者が治療に応答する確率を決定することを含み、特に、被験者が認知症を発症するまたは有する確率を決定することは、ファーミキューテスとバクテロイデスの比率を比較することを含む。治療は、腸内細菌叢中のコリネバクテリウム門、クロストリジウム・スポロゲネス、クロストリジウム・スティックランディイ、クロストリジウム・パーフリンジェンス、クロストリジウム・ブチリカム、クロストリジウム・スフェノイデス、クロストリジウム・グルタミクム、クロストリジウム・ビフェルメンタンス、クロストリジオイデス・ディフィシル、オシリバクター、クロアシバシルス・エブリエンシ、およびファーミキューテスのいずれかの細菌を減少させる、または根絶する薬剤を被験者に投与することを含み得る。薬剤は、上述の細菌の存在量に直接的または間接的に影響を与える抗菌剤、ワクチン、もしくは局所プロバイオティック介入、または別の細菌を含み得る。例えば、大腸菌などその他の細菌が増加し、それにより上述の細菌が減少する可能性がある。
【0119】
加えて、または別法として、本発明は、被験者から試料を入手すること、試料中のNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸、ならびに/または5-アミノ吉草酸およびNε-トリメチルリシン(N(6),N(6),N(6)-トリメチル-L-リシン)を含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前駆体、ならびに/またはグルタル酸および5-(ガラクトシルヒドロキシ)-L-リシンを含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の代謝物のいずれかの濃度を測定すること、ならびに測定した濃度に基づいて治療の進捗を決定することを含む、認知症の治療の進捗を監視し、任意で予後を推測する方法も目的とする。治療は、被験者におけるNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸、ならびに/または5-アミノ吉草酸およびNε-トリメチルリシン(N(6),N(6),N(6)-トリメチル-L-リシン)を含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前駆体、ならびに/またはグルタル酸および5-(ガラクトシルヒドロキシ)-L-リシンを含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の代謝物のいずれかに作用する治療であってよいが、その他の治療でもあり得る。認知症の治療は、これらの物質のいずれかの濃度に変化をもたらすことができ、そのため、これらの濃度は治療の進展を監視または評価または決定することに使用してよい。認知症を診断する方法に関する本開示は、同様に、認知症の治療の進捗を監視する方法に適用される。
【0120】
加えて、または別法として、本発明は、第1の時点で被験者から第1の試料を入手すること、第1の試料中のNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸、ならびに/または5-アミノ吉草酸およびNε-トリメチルリシン(N(6),N(6),N(6)-トリメチル-L-リシン)を含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前駆体、ならびに/またはグルタル酸および5-(ガラクトシルヒドロキシ)-L-リシンを含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の代謝物の濃度を測定すること、第2の時点で被験者から第2の試料を入手すること、第2の試料中のNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸、ならびに/または5-アミノ吉草酸およびNε-トリメチルリシン(N(6),N(6),N(6)-トリメチル-L-リシン)を含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前駆体、ならびに/またはNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の代謝物の濃度を測定すること、前に測定した濃度の比較に基づいて治療の進捗を決定することを含む、認知症の治療の進捗を監視し、任意で予後を推測する方法を目的とする。認知症を診断する方法に関する本開示は、同様に、認知症の治療の進捗を監視する方法に適用される。
【0121】
以前の研究では、認知的フレイルが、健康な老化における幸福にとって最も深刻な脅威の1つであることが確認されており、認知の衰えと神経機構の分解が関連付けられている(Lawton,M.ら)。脳機能の指標としてのみならず、加齢に伴う記憶障害の直接の原因として代謝物に注目した研究はごくわずかであった。本研究において、我々は、若齢マウス、ならびに若齢および老齢ドナーマウスの糞便を用いたFMT後の老齢マウスから得た血液および脳組織試料を用いてノンターゲットメタボロミクスを実施した。我々は、血液中および脳組織中の代謝物NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸のレベルが年齢とともに増加したこと、ならびにδNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸が、mPFCニューロン活動のレベルで行動的に評価されるように、加齢に伴う認知障害の原因となっている成分の1つであることの証拠を提示する。
【0122】
我々の行動データから、若齢マウスにNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸を腹腔内投与した後、作業記憶と認識記憶が低下したことが示された。老齢のマウスとヒトの脳では、NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸のレベルが上昇していることから、明らかにこの代謝物は血液脳関門を通過し、加齢に伴う作業記憶と認識記憶の低下を引き起こしている可能性がある。老齢マウスと同様に老齢のヒトも、記憶内容を絶えず更新する必要がある作業記憶課題に影響を受けている(Gazzaley,A.,ら)。さらに高齢者は、刺激を適切にコード化できないため、加齢に伴う認識記憶の低下も生じている(Grady,C.ら)。老化過程では、髄鞘と髄節間の変化に起因によって軸索に沿った伝導速度が低下することで、反応時間が長くなり、認知能力(注意と記憶を含む)や感覚機能および運動機能に関わるニューロンの同期性が妨げられる(Jermakowicz,WJら)。NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸は、スパイクの同期性が高いことを示すmPFCにおける集団結合を促進し、まさにこのようにして認知能力を阻害しているようである。興奮と抑制のバランスの観察される変化は、全体的な集団活動と、それにより集団結合を変化させる可能性がある。学習と記憶の過程では、集団結合の程度が異なることが機能的に重要であることを示唆する理論的な議論がいくつかある。強い集団結合は、関連する信号とは無関係な揺らぎ、すなわちノイズ相関として現れ、信号対雑音比を悪化させ、情報処理を阻害することがある(Cohen M.R.ら;Averbeck B.B.,ら)。さらに、相関が強いと集団符号化の情報量が低下し得るため、集団結合が強いと、正常な認知機能にとって有害となる可能性がある(Rolls E.T.,ら;Shew,W.L.ら)。神経の同期の逸脱は、老齢マウスだけでなく高齢者の中枢聴覚系でも認められ、これは音声知覚問題に起因している(Goossens,T.ら)。
【0123】
腸内微生物叢には1000種を超える細菌種が含まれ、これらは主に、ファーミキューテス、バクテロイデス、アクチノバクテリア、およびプロテオバクテリアの4つの門に分類される(Leclery,S.ら.;Verbeke,K.A.ら)。ヒトおよびマウスでは年齢とともに腸内微生物叢が変化することが多くの研究で示されており(Langille M.G.ら、Biagi,E.ら)、これは、加齢に伴ってδNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の濃度が上昇する理由の1つである可能性がある。例えば、ファーミキューテスの増加によって、トリメチルアミン(TMA)、その共代謝物トリメチルアミン-N-オキシド(TMAO)(Martinez-del Camp,A.ら)、およびそれによりその前駆体NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸(Servillo,L.ら)が増加する可能性がある。加齢に伴うファーミキューテス/バクテロイデス(F/B)比の増加は、代謝物の血液脳関門通過を促進させる上皮タイトジャンクションの低下とさらに関連している(Braniste,V.ら)。これは、老化した脳でNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸のレベルが上昇する別の機序を示している。
【0124】
つまり我々は、代謝物NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の加齢に伴う増加は腸内微生物叢に依存しており、認知能力に悪影響を及ぼすmPFCニューロン活動パターンの脳同期性を変化させる可能性があるという証拠を示す。
【0125】
実験手順:
上記に開示した実験を、以下に示す材料と方法を用いて実施した。本開示は、これらの材料および方法に限定されるものではなく、異なる材料および異なる方法を用いても、検討したものと同じ結果が得られ得ることを理解されたい。
【0126】
マウス
特定の病原体を保有していない(SPF)C57BL/6マウスをTaconic FarmsまたはJanvier Labs(フランス)から購入した。若齢マウス(2カ月齢)と老齢マウス(15~16カ月齢または20~24カ月齢)の2つの年齢集団の雌雄マウスを実験に用いた。マウスは1ケージ当たり最大5匹とし、午前6時に点灯する12時間の明暗サイクルで飼育した。餌と水は自由摂食とした。マウスは、実験開始前にSPF飼育室の個別換気ケージ(IVC)で少なくとも1週間休ませた。マウスは、CEMT(ドイツ、フライブルク)の特定の病原体を排除した(SPF)条件下で、餌と水は自由摂食として12時間ごとの明暗サイクルで飼育した。ケージの影響を避けるために、実験ごとに少なくとも3つの異なるケージから集めたマウス群を解析した。無菌(GF)マウスは、ベルン大学病院胃腸科Macpherson研究室(スイス)から得た。
【0127】
処置
腸内微生物叢を急激に枯渇させるために、15~16カ月齢のSPF雄マウスに、セフォキシチン(Santa Cruz Biotechnology)、ゲンタマイシン(Sigma-Aldrich)、メトロニダゾール(Sigma-Aldrich)、およびバンコマイシン(Hikma-pharma)を含む抗生物質(ABX)の混合物を、滅菌1xPBS中、各10mg/kgで、3日間連続で強制経口投与した。4日目に、マウスにクリンダマイシン塩酸塩を1回投与した(33.3mg/kg)(Sigma-Aldrich)。24時間後に糞便微生物移植(FMT)を開始した。ミクログリアなどのcsf1依存性細胞をin vivoで枯渇させるために、CSF1R阻害剤PLX5622(Plexxicon Inc.)を混ぜ入れたAIN-76A標準飼料を、1200mg/kg(Research Diets Inc.)でマウスに自由摂食させた。各対照にはAIN-76A標準飼料を与えた。行動試験の1時間前に、5mg/kgのδ-バレロベタイン(MCAT、ドイツ)をマウスに投与した。
【0128】
メタボロミクス解析
若齢および老齢マウスから血清と海馬脳組織を採取し、重量を測定した後に液体窒素を用いて瞬間凍結した。試料解析は、Metabolon,Inc.独自の一連の有機および水抽出を用いて行い、タンパク質成分を除去しながら低分子を最大限に回収した。抽出液は、LCによる分析用とGCによる分析用の2つに分けた。TurboVap(登録商標)(Zymark)を用いて有機溶剤成分を除去した。次いで、各試料を凍結し、真空下で乾燥させた。方法の詳細は、Metabolon,Inc.が、ノンターゲット質量分析法メタボロミクスの標準プロトコルとして提供され得る。
【0129】
ノンターゲットメタボロミクス
試料は採取時に瞬間凍結し、次の処理までMetabolon,Inc.52で、-80℃で保存した。簡潔に説明すると、品質管理のために、抽出工程の第1のステップの前に回収標準を加えた。タンパク質を除去し、タンパク質に結合した低分子または沈殿したタンパク質マトリクスに捕捉された低分子を解離させ、化学的に多様な代謝物を回収するために、メタノールを用いて2分間激しく振とうし(Glen Mills Genogrinder 2000)、その後遠心分離を行ってタンパク質を沈殿させた。得られた抽出物を5つに分け、超高速液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析法(UPLC-MS/MS;正イオン化)による解析用に2つ(すなわち、早期および後期溶出化合物)、UPLC-MS/MS(負イオン化)による解析用に1つ、UPLC-MS/MS極プラットフォーム(polar platform)(負イオン化)用に1つ、さらにバックアップ用に1つの試料を確保した。実験試料と合わせて、以下の3種類の対照を解析した:Metabolon,Inc.によって幅広く特性付けされたスパイクイン対照のプールから作成した試料、またはデータセット全体で技術的複製として用いた、関心のある各実験試料のごく一部から作成した試料;プロセスブランクとして用いた抽出水試料;ならびに装置性能の監視を可能にした各解析試料にスパイクされた標準物質のカクテル。装置の変動性は、質量分析計に注入する前に各試料に添加された標準物質の相対標準偏差(RSD)の中央値を計算することによって決定した(RSD中央値=通常4~6%;n≧30標準物質)。全体的なプロセスの変動は、対照プールまたはクライアントマトリクス試料の100%に存在するすべての内因性代謝物(すなわち非標準器(non-instrument standard))のRSD中央値を計算することによって決定した(RSD中央値=10~14%;n=代謝物数百)。実験試料と対照は、プラットフォームの実行全体にランダムに配置した。
【0130】
ノンターゲット質量分析法(MS)解析はMetabolon,Inc.(米国)で実施した。試料を超高速液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析計(UPLC-MS/MS)52に導入した。クロマトグラフィーは標準化し、方法の妥当性を確認した後、それ以上の変更は行わなかった。Metabolonでの一般的な実施手順として、カラムはすべて、実験開始時に単一の製造業者のロットから購入した。すべての溶媒も同様に、関連するすべての実験を完了するのに十分な量を単一の製造業者のロットから一括購入した。各試料について、真空乾燥した試料を、プラットフォームに応じて一定濃度の8種以上の注入標準を含む注入溶媒に溶解させた。注入とクロマトグラフィーの一貫性を保証するために、いずれも内部標準を使用した。装置は、質量分解能と質量精度について、毎日調整と校正を行った。
【0131】
UPLC-MS/MSプラットフォームは、WatersのAcquity UPLCとWatersのUPLC BEH C18-2.1x100mm、1.7μmカラム、さらに加熱エレクトロスプレーイオン化(HESI-II)源と適合したThermo ScientificのQ-Exactive高解像度/精密質量分析計を利用し、Orbitrap質量分析計は35,000の質量分解能で作動させた。試料抽出物は乾燥させた後に、酸性または塩基性LC適合溶媒で再構成した。注入とクロマトグラフィーの一貫性を確保するために、溶媒はいずれも一定濃度の8種以上の注入標準を含有していた。1つのアリコートは酸性陽イオン最適化条件で、もう1つは塩基性陰イオン最適化条件で、別々の専用カラム(Waters UPLC BEH C18-2.1x100mm、1.7μm)を用いて、独立した注入を2回行って分析した。酸性条件下で再構成した抽出物は、0.1%ギ酸を含む水およびメタノールでグラジエント溶出し、塩基性抽出物は6.5mM重炭酸アンモニウムを含む水およびメタノールを用いた。3つ目のアリコートは、10mMギ酸アンモニウムを含む水およびアセトニトリルからなるグラジエントを用いたHILICカラム(WatersのUPLC BEH Amide 2.1x150mm、1.7μm)から溶出した後に、負イオン化により分析した。MS分析は、動的排除を用いてMSスキャンとデータ依存性MS2スキャンを交互に行い、スキャン範囲は80~1000m/zとした。
【0132】
代謝物は、実験試料のイオン特徴を、保持時間、分子量(m/z)、好ましい付加物、およびインソースフラグメント、ならびに関連するMSスペクトルを含む化学標準物質の参照ライブラリーの項目と自動比較することによって同定し、Metabolon53が開発したソフトウェアを使用して、品質管理のために目視検査でキュレーションした。既知の化学物質の同定は、精製された標準物質のメタボロミクスライブラリーの項目との比較に基づいている。市販の精製標準化合物を入手し、検出可能な特徴を決定するためにLIMSに登録した。クロマトグラフィーと質量スペクトルの両方が繰り返し現れるという性質から同定された、構造的に特定されていない生化学物質の質量スペクトルの項目を追加で作成した。これらの化合物は、適合する精製標準物質を将来的に入手することによって、または従来の構造解析によって同定できる可能性がある。ピークは曲線下面積を用いて定量化した。各試料中の各代謝物の生の領域数を正規化し、各実施日の中央値によって装置の日間調整差による変動を補正し、そのために各実施の中央値を1.0に設定した。これにより、試料間の差を保持しながら、生のピーク面積が大きく異なる代謝物を同様のグラフ尺度で比較することが可能となった。欠落値は、正規化後に観察された最小値に帰属させた。
【0133】
ターゲットメタボロミクス
予冷した(-80℃)抽出溶液(80:20メタノールLC-MSグレード:Milli-Q H2O)を用いて試料を抽出した。LC-MSによる標的代謝物の定量化は、Agilent 6495QQQ-MSと合わせてAgilent 1290 Infinity II UHPLCを使用し、MRMモードで行った。MRM設定は、すべての化合物について純粋な標準物質を用いて個別に最適化した。LC分離はPhenomenexのLunaプロピルアミンカラム(50x2mm、3μm粒子)で100%緩衝液B(90%アセトニトリル中5mM炭酸アンモニウム)からの90%緩衝液A(水中10mM NH4)への溶媒グラジエントを用いて行った。流量は1000~750μL/分からとした。オートサンプラーの温度は5℃、注入量は2μLであった。ピーク面積は、各代謝物の標準物質に基づいて特定し、MassHunter(Agilent)を用いて計算した。
【0134】
ヒトのメタボロミクスデータ
TwinsUKのAdult Twin Registryには、疾患およびライフスタイル特性が一般的な英国人と似通った、主に女性からなる約14,000人の被験者が登録されている。セント・トーマス病院の研究倫理委員会が試験を承認し、すべての双子が書面によるインフォームド・コンセントを提出した。我々は、加齢コホートを含み、Metabolon Inc.のプラットフォームで実施された血液メタボローム試験2試験54、55のδ-バレロベタインについてデータをマイニングした。簡潔に説明すると、代謝物の比率は、Metabolon,Inc.(米国ノースカロライナ州モリスビル)がノンターゲットUPLC-MS/MSプラットフォームを用いて血液試料で測定した。代謝物は、実施日の中央値でスケーリングし、対数変換を行った。データは、平均値0、標準偏差1になるようにさらに分位正規化した。δ-バレロベタインが検出レベル(ゼロ)未満であった被験者は、利用不可(NA)とみなされた。
【0135】
糞便微生物移植(FMT)
微生物枯渇試験のために、1mg/mLのアンピシリン(Auromedics)、ネオマイシン硫酸塩(Fisher)、ストレプトマイシン(Sigma)、および0.5mg/mLのバンコマイシン(Sagent)を含む飲料水を、SPFマウスに4~5週間摂取させた(Khosraviら,2014)。これらのマウスは、糞便スラリーの強制経口投与によって実施したFMTにより再コロニー化した。レシピエントマウスは、FMTの2時間前にケージから餌を取り除いた。糞便スラリーは、8~14匹のドナーマウスの糞便ペレットをプールして得た。ペレットは計量し、糞便300mgにつき1mLのPBSで1分間ボルテックスして再懸濁させた。500×gで5分間遠心分離して大きな粒子をペレットにした後、FMT用に上澄みを回収した。各レシピエントマウスに150μLの糞便スラリーを強制経口投与した。残ったスラリーは、16S rRNAシーケンシング用に-80℃で保管した。FMT後、レシピエントマウスのケージには、ドナーマウスの汚れた床敷および新鮮な糞便ペレットをそれぞれ週に1回および2回補充した。16S rRNAシーケンシング用の糞便ペレットはFMTの前日かつ実験の最後に回収し、DNA抽出のために-80℃で保管した。ABX処理マウスの再コロニー化のために、8週齢または15~16カ月齢の雄マウスからのFMTを実施した。新鮮な糞便ペレットは滅菌フード下で回収し、嫌気性細菌を保持するために、1xPBS中0.1%L-システイン塩酸塩一水和物中で直接完全にホモジナイズする。ホモジネートは1分間、200g、4℃でスピンダウンし、濁った上澄みを使用してレシピエントマウスに強制経口投与および経直腸投与した。FMTは72時間の間隔を空けて2回実施した。
【0136】
マウスへの投与
NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸を0.9%NaClに溶解し、10mL/kgの容量で、200mg/kgの用量を腹腔内投与した。対照としてビークルNaClを投与した。
【0137】
行動試験
薬剤もしくはビークル投与の40分後、またはFMTの4週間後にマウスを試験した。まずマウスに新奇物体認識試験の訓練試行を行ってからT迷路試験を実施し、次いで訓練セッションマウスの6時間後に新奇物体認識試験を実施した。空間作業記憶は、前述のとおり、T迷路で継続的な自発的交替課題を用いて試験した(Spowart-Manning,L.ら)。簡潔に説明すると、T迷路の基部にマウスを置き、基部のアームに戻るまで、ランダムに割り当てたT迷路のアームを探索させた。続いて、ブロックしていたアームを開き、マウスに迷路全体を探索させた。T迷路の片方のアームに入ったら、もう一方のアームはマウスが基部のアームに戻るまでブロックした。その後、基部のアームの出口を5秒間ブロックし、マウスに再び迷路を探索させた。実験は14回自由にアームに進入させた後に終了した。アームへの進入は、直前に訪れたアームと反対側のアームをマウスが選択した場合に交替として得点した。認識記憶の評価には、以前に公表されている(Antunes,M.およびBiala,G.ら)新奇物体認識(NOR)課題を適用した。馴化期では、各マウスに、20秒間の総探索時間内に2つの類似物体を探索させた。試験セッションは馴化セッションの6時間後に開始した。試験セッションでは、各マウスに、見慣れた物体と、形状や質感の異なる新奇物体とを探索させた。新奇物体と見慣れた物体の位置はマウスごとに無作為に設定した。各マウスが新奇物体と見慣れた物体を探索するのに費やした時間を記録した。実験は、探索時間の合計が20秒に達した時点で終了した。
【0138】
T迷路:T迷路の自発性交替は、中枢神経系障害について、動物、特にげっ歯類モデルの探索行動を測定する行動試験である。この試験は、げっ歯類が新しい環境を探索しようとすること、すなわち、迷路の見慣れたアームよりも新しいアームを好んで訪れることに基づいている。この課題には、海馬を含む脳の多くの部位が関与している。最初にマウスをT迷路のスタートアームに置く。スタートアームで放すと、マウスは左または右いずれかのゴールアームへの進入を選択する。試行を繰り返すと(計15回)、前回訪れたアームに進入する傾向が低いことがわかる。交替の割合(各ゴールアームでの転換数)と総試行時間を記録する。この試験は、マウスの形質転換系における認知障害を定量化し、新規の化学物質が認知に及ぼす影響を評価するのに用いる。
【0139】
新奇物体認識:新奇物体認識(NOR)課題は、中枢神経系障害のげっ歯類モデルにおける認知、特に認識記憶を評価するために用いられる。この試験は、見慣れた物体よりも新しい物体を探索することに多くの時間を費やすというげっ歯類の自発的な傾向に基づいている。新しい物体を探索するという選択は、学習記憶と認識記憶の利用を反映している。新奇物体認識課題は、2種類の物体を置いたオープンフィールドアリーナで実施する。2つの物体は高さと体積は概ね同じであるが、形状と外観が異なる。マウスは、2つの同一物体が等距離の位置に置かれた見慣れたアリーナに入れられる。マウスは物体を計20秒探索した後に元のケージに戻される。訓練試行の6時間後に試験の第2段階を実施する。長期認識記憶を試験するために、見慣れた物体と新奇物体が置かれたオープンフィールドでマウスを探索させる。10分の間に各物体を探索するのに費やした時間と、識別指数の割合を記録する。この試験は、マウスの形質転換系における認知能力の低下を判定し、新規の化学物質が認知に及ぼす影響を評価するのに有益である。
【0140】
in vivo電気生理学的手法のための手術
10~11週齢のC57BL/6Jマウスにイソフルラン(導入濃度:3%、維持濃度:1.5%)で麻酔をかけた。鎮痛のためにブプレノルフィン(0.05~0.1mg/kg体重)とカプロフェン(4~5mg/kg体重)を投与した。移植中は加熱パッドを用いて体温を維持した。小脳から鼻まで皮膚を切開し、骨を3%H2O2で洗浄した。ラムダ縫合の前方に基礎スクリューと参照スクリュー(直径1mm)を埋入した。3本目の安定スクリューは左頭頂骨に埋入した。タングステン線で作製された四極真空管(California Fine Wire Company)8個が装着されたマイクロドライブを、(脳表面から)右前頭前野の座標AP+1.9、ML0.4、DV-1.2に挿入した。開頭部はワセリンで保護し、マイクロドライブは歯科用セメントで頭蓋骨に固定した。手術後、マウスにブプレノルフィンとカプロフェン48時間かけて皮下投与し、個別に収容した。
【0141】
電気生理学的手法
海馬スライスの作製
マウスに麻酔をかけて断頭した後、直ちに脳を取り出し、スクロース150mM、NaCl 50mM、NaHCO3 25mM、ブドウ糖10mM、KCl 2.5mM、NaH2PO4・H2O 1mM、CaCl2 0.5mM、MgCl2 7mMを含む、酸素化した氷冷高スクロースの人工脳脊髄液(hsACSF)に浸漬させた。hsACSF中に2分間保持した後、脳のブロックを作製し、ビブラトーム(VTS1000;Leica、イリノイ州バンノックバーン)のステージに接着して、海馬を含む300μm厚の水平な脳スライスを作製した。続いて、スライスをACSF(NaCl 124mM、KCl 3mM、NaH2PO4・H2O 1.25mM、MgSO4・7H2O 2mM、NaHCO3 26mM、ブドウ糖10mM、およびCaCl2 2mMを含有)を含むチャンバーに入れた。スライスは35℃で40分間インキュベートした後、室温で保持した(6~8時間)。
【0142】
記録
記録のために、スライスは32℃で温めた酸素化ACSFを2~4mL/分で灌流させた水浸式の記録チャンバー(Warner Instruments、コネチカット州ハムデン)に入れた。赤外線微分干渉(IR-DIC)顕微鏡下でCA1領域に介在ニューロンを同定した。マイクロピペットプラー(Sutter Instrument、カリフォルニア州ノバート)を用いて、外径1.5mmのホウケイ酸ガラス(World Precision Instruments、フロリダ州サラソータ)から3~7MΩでパッチピペットを引いた。データはAxopatch1D増幅器(Axon Instruments、カリフォルニア州フォスターシティ)を用いて取得し、10kHzでデジタル化して、Digidata1320AとpClamp8.2ソフトウェア(Molecular Devices、カリフォルニア州サニーベール)を用いて記録した。すべての実験で、内部記録液(グルコンサンK 40mM、KCl 100mM、NaCl 2mM、HEPES 10mM、EGTA 4mM、MgATP 4mM、Na2GTP 0.3mM、およびQX-314 1.25mMを含有)(pH7.20~7.25;285~295mOsm)を使用した。すべての実験で、マウスはP50からP60の間であった。CA1介在ニューロンから安定した電圧クランプ記録を取得した後、記録を電流クランプモードに切り替え、過分極および脱分極電流の注入ステップを用いて、公表された発火パターンおよび活動電位(AP)特性(Buttら,2005;FlamesおよびMarin,2005)を利用して記録されている細胞のクラスを決定した。続いて、記録を電圧クランプモード(保持電位、-60mV)に切り替えてsIPSCを記録した。自発性IPSCは、20μMの6,7-ジニトロキノキサリン-2,3-ジオン(DNQX、α-アミノ-3-ヒドロキシ-5-メチル-4-イソキサゾールプロピオン酸[AMPA]受容体ブロッカー)および50μMのd-2-アミノ-5-ホスホノ吉草酸(d-APV、NMDA受容体ブロッカー;Sigma)を含むACSFでスライスを灌流することによって薬理学的に単離した。記録はすべて32℃で取得した。電圧クランプ記録は1kHzでローパスフィルターを、60Hzでバンドパスフィルターをかけた(Hum Bug;AutoMate Scientific、カリフォルニア州バークレー)。ホールセルのアクセス抵抗と保持電流を継続的にモニタリングし、記録が安定していることを確認した。すべての記録は、まず対照条件下で行い、次いで浴液中で10μMのNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の存在下で行った。
【0143】
in vitroパッチクランプ記録
マウスにケタミン/キシラジン(100/13mg/kg体重)を腹腔内投与し、氷冷液(NaCl 87mM、NaHCO3 25mM、KCl 2.5mM、NaH2PO4 1.25mM、グルコース10mM、スクロース75mM、CaCl2 0.5mM、およびMgCl2 7mM(95%O2/5%CO2で通気)を含有)を心内灌流した。PFCの300μm厚の前頭切片をビブラトームで作製し、人工脳脊髄液(ACSF)(NaCl 125mM、NaHCO3 25mM、KCl 2.5mM、NaH2PO4 1.25mM、グルコース25mM、CaCl2 2mM、およびMgCl2 1mM(95%O2/5%CO2で通気)を含有)中に、最初に34℃で30分間、次いで室温で保管した。パッチクランプ記録では、ホウケイ酸ガラス管から引いて、セシウム系のピペット溶液(CsCl 20mM、MgCl2 2mM、Na2ATP 2mM、QX-314 1mM、ヘペス10mM、TEACl 8mM、グルコン酸セシウム(Cs-Gluconate)110mMを含有)を満たしたピペットを使用し、特徴的な細胞体の形状から識別される錐体ニューロンを対象とした。記録は、Axopatch Multiclamp増幅器を電圧クランプモードで使用し、30~34℃で行った。自発性興奮性シナプス後電流(EPSC)を分離するために、静止膜電位を-70mVに保持した(抑制性シナプス後電流(IPSC)の逆転電位)。自発性IPSCを記録するために、細胞は0mVに保持した(EPSCの逆転電位)。IPSCとEPSCはともに、10μMのδ-バレロベタインでプレインキュベーションしたスライス、またはACSFで保存した対照スライスで、同じニューロンから記録された。自発性イベントは、ローパスフィルターをかけたデータ(<1kHz)から視覚的に同定した。振幅は平均的なイベントから測定した。
【0144】
in vivo電気生理学的手法
局所フィールド電位は、自由行動マウスで、術後2~21日目に無線増幅器システム(W4、Multichannel Systems)を用いてサンプリングレート2kHzで、または有線記録システム(RHD2000、Intan Technologies、サンプリングレート10kHz)で記録した。単一ユニット活動は32チャンネル増幅器システム(RHD2000、Intan Technologies)を用いて20~30kHzで記録した。最後の記録セッションの後、マウスにウレタン(2g/kg)を腹腔内投与して深い麻酔をかけた。記録位置を特定するため、各電極に短時間(約1秒)10~20Vを印加して電解病変を作製した。マウスはリン酸緩衝生理食塩水(約1分)に続いて4%パラホルムアルデヒド(約10分)で心内灌流した。脳を切片化し(スライス厚100~200μm)、光学顕微鏡で検査した。脳の一部をクレシルバイオレットまたは4’,6’-ジアミジノ-2-フェニルインドールで染色した。mPFCの前辺縁または下辺縁皮質に位置する記録領域のみが解析対象とした。
【0145】
数日間記録室に馴化させた後、32チャンネル増幅器(Intan Technologies)を用いて30kHzのサンプリング周波数で単一ユニット記録を実施した。馴化期間中、電極は1日に100μmずつPFC(DV-2/-2.1)に下降させた。最初に、マウスがホームケージ内で完全に不動で、PFCの局所フィールド電位に徐波活動が見られるエポックとして、睡眠中のベースラインを記録した。このとき、マウスのホームケージのビデオ記録と、増幅器に取り付けた3軸加速度計を用いて、不動時間を抽出した。30分後、滅菌リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で希釈した5mg/kgのδ-バレロベタイン、または滅菌PBS(対照)をマウスに腹腔内投与し、ホームケージに戻した。投与後50分から90分の間に記録を継続し、δ-バレロベタインがmPFCの集団活動に及ぼす影響を評価した。記録後、マイクロドライブを進め、次の記録日に独立したユニット群から記録した。記録2日目には、δ-バレロベタインとPBSの投与をマウス間で入れ替えて実験を繰り返した。最後の記録セッションの後、マウスはPBSに続いて4%パラホルムアルデヒド(PFA、4%)で心内灌流した。4%PFAで一晩後固定した後、100μmの前頭切片をビブラトームで切り出し、DAPIで染色してPFCの記録部位を同定した。
【0146】
スパイクソーティングと単一ユニットデータ解析
アーチファクトを含む記録部分は手作業で識別して除去した。無作為に選択した8~10チャンネルの平均値として計算した共通の平均値を、すべてのチャンネルから差し引いた。MountainSortを用いて、0.3~6kHzのバンドパスフィルターをかけたデータから単一ユニットをクラスタリングした。得られたクラスターは、きれいなスパイク形状と明確な不応期を持つ自己相関図に基づいて手動でキュレーションした。さらに、発火率が0.5Hz超のユニットのみを、さらなる解析のために保持した。発火率は、解析した行動エピソード中のスパイクの総数を持続時間で割った値から推定した。集団の同期性を定量化するために、各時点における任意のユニットのレート変化と正規化した集団発火率とを比較する測定基準を利用した。まず、各記録セッションについて、同時に記録されたユニットの平均正規化発火率を100ミリ秒ビンで合計することにより、集団活動ベクトルを作成した。次に、発火率と集団の比率の積の和を各ビンの発火率の和で割ることにより、各ユニットの集団結合を定量化した。最後に、各ユニットについて、δ-バレロベタインまたはPBSの投与前後の集団結合の測定値をそれぞれ引くことにより、集団結合の変化を定量化した。
【0147】
データ解析
LFPデータは、Python2.7 Spyder IDEで動作するビルトインおよびカスタムメイドのルーチンで解析した。各マウスのLFP生データは、LFPの平均値を引き、信号の標準偏差で割ることによってZスコアに変換した。
【0148】
データおよび統計解析
データは平均値±SEMとして表される。統計解析はPrism7.0ソフトウェア(GraphPad Software)を用いて行った。2群間の平均は、対応のないスチューデントの両側t検定で比較した。複数群の平均値の相互比較、または1つの対照群に対する比較は、一元配置分散分析およびボンフェローニの事後検定で分析した。実施したすべての電気生理学的手法および行動実験は、無作為化かつ盲検化された方法で行った。
【0149】
組織学的検査と免疫蛍光法
マウスをケタミン(100mg/kg体重)とキシラジン(10mg/kg体重)で致死的に麻酔した後、1xPBSで左心腔内を灌流した。組織学的検査のために、脳を4%PFA中で一晩保持した。次いで、脳を30%スクロース中で脱水し、Tissue-Tek O.C.T.TM化合物(Sakura Finetek Germany GmbH)に埋め込んだ。脳組織から14μm厚の凍結切片を滑走式ミクロトーム(SM2000R,Leica Biosystems)で切り出し、抗Iba-1(1:500,Wako)を用いて4℃で24時間、続いて1:500(Thermo Fisher Scientific)の希釈のAlexa Fluor568共役二次抗体を用いて室温で2時間免疫標識した。核はDAPIで対比染色した。老齢マウスの組織の自家蛍光を除去するために、スライドをTrueBlackリポフスチン自家蛍光クエンチャーで処理した。カバースリップはProLong Diamond Antifade Mountant(Thermo Fisher Scientific)を用いてマウントした。蛍光イメージングはBZ-9000 Biorevo顕微鏡(Keyence)を用いて行った。Iba-1+ DAPI+細胞はImageJ(v.1.53c)を用いて定量した。
【0150】
フローサイトメトリー(微生物負荷)
糞便試料をSPFおよびABX処理マウスから採取し、重量を測定した後、直ちに氷冷1xPBS中でホモジナイズし、50μmのCellTricsフィルター(Sysmex)でろ過した。ろ液の画分を1xPBSで1:20に希釈し、5分間、3000g、4℃で遠心分離を行った。続いて、上澄みを吸引し、グラム陽性細菌とグラム陰性細菌を識別する色素Syto9(PBS中1:1000、Thermo Fisher)にペレットを再懸濁し、4℃で10分間インキュベートした。DAPI(1:1000)を用いて死細胞を排除し、生細菌の割合を記録した。フローサイトメトリー細胞計数ビーズ(1:20、Thermo Fisher)を添加し、糞便試料1mg当たりの生菌の絶対量を定量した。
【0151】
科学文献
Ahluwalia,V.,Betrapally,N.S.,Hylemon,P.B.,White,M.B.,Gillevet,P.M.,Unser,A.B.,Fagan,A.,Daita,K.,Heuman,D.M.,Zhou,H.,et al.(2016).Impaired Gut-Liver-Brain Axis in Patients with Cirrhosis.Sci Rep6,26800.
Antunes,M.&Biala,G.The novel object recognition memory:neurobiology,test procedure,and its modifications.Cogn Process13,93-110,doi:10.1007/s10339-011-0430-z(2012).
Averbeck,B.B.,Latham,P.E.&Pouget,A.Neural correlations,population coding and computation.Nat Rev Neurosci7,358-366,doi:10.1038/nrn1888(2006).
Bercik,P.,Denou,E.,Collins,J.,Jackson,W.,Lu,J.,Jury,J.,Deng,Y.,Blennerhassett,P.,Macri,J.,McCoy,K.D.,et al.(2011).The intestinal microbiota affect central levels of brain-derived neurotropic factor and behavior in mice.Gastroenterology141,599-609,609e591-593. Biagi,E.et al.Through ageing,and beyond:gut microbiota and inflammatory status in seniors and centenarians.PLoS One5,e10667,doi:10.1371/journal.pone.0010667(2010).
Blank,T.,Goldmann,T.&Prinz,M.Microglia fuel the learning brain.Trends Immunol35,139-140,doi:10.1016/j.it.2014.02.005(2014).
Braniste,V.et al.The gut microbiota influences blood-brain barrier permeability in mice.Sci Transl Med6,263ra158,doi:10.1126/scitranslmed.3009759(2014)
Butt,S.J.,Fuccillo,M.,Nery,S.,Noctor,S.,Kriegstein,A.,Corbin,J.G.,and Fishell,G.(2005).The temporal and spatial origins of cortical interneurons predict their physiological subtype.Neuron48,591-604.
Buzsaki,G.,and Draguhn,A.(2004).Neuronal oscillations in cortical networks.Science304,1926-1929.
Buzsaki,G.,and Wang,X.J.(2012).Mechanisms of gamma oscillations.Annu Rev Neurosci35,203-225.
Caspani,G.,Kennedy,S.,Foster,J.A.,and Swann,J.(2019).Gut microbial metabolites in depression:understanding the biochemical mechanisms.Microb Cell6,454-481.
Cohen,M.R.&Kohn,A.Measuring and interpreting neuronal correlations.Nat Neurosci14,811-819,doi:10.1038/nn.2842(2011).
Courtin,J.et al.Prefrontal parvalbumin interneurons shape neuronal activity to drive fear expression.Nature505,92-96,doi:10.1038/nature12755(2014).
Dagher,N.N.et al.Colony-stimulating factor1 receptor inhibition prevents microglial plaque association and improves cognition in 3xTg-AD mice.J Neuroinflammation12,139,doi:10.1186/s12974-015-0366-9(2015)
Dai,Z.L.,Wu,G.,and Zhu,W.Y.(2011).Amino acid metabolism in intestinal bacteria:links between gut ecology and host health.Front Biosci(Landmark Ed)16,1768-1786.
Dam,S.A.,Mostert,J.C.,Szopinska-Tokov,J.W.,Bloemendaal,M.,Amato,M.,and Arias-Vasquez,A.(2019).The Role of the Gut-Brain Axis in Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder.Gastroenterol Clin North Am48,407-431.
Dejean,C.et al.Prefrontal neuronal assemblies temporally control fear behaviour.Nature535,420-424,doi:10.1038/nature18630(2016).
Erny,D.et al.Host microbiota constantly control maturation and function of microglia in the CNS.Nat Neurosci18,965-977,doi:10.1038/nn.4030(2015)
Flames,N., and Marin,O.(2005).Developmental mechanisms underlying the generation of cortical interneuron diversity.Neuron46,377-381.
Fries,P.(2015).Rhythms for Cognition:Communication through Coherence.Neuron88,220-235.
Gazzaley,A.,Cooney,J.W.,Rissman,J.&D’Esposito,M.Top-down suppression deficit underlies working memory impairment in normal aging.Nat Neurosci8,1298-1300,doi:10.1038/nn1543(2005).
Goossens,T.,Vercammen,C.,Wouters,J.&van Wieringen,A.Aging Affects Neural Synchronization to Speech-Related Acoustic Modulations.Front Aging Neurosci8,133,doi:10.3389/fnagi.2016.00133(2016).
Grady,C.L.et al.Age-related reductions in human recognition memory due to impaired encoding.Science269,218-221,doi:10.1126/science.7618082(1995).
Grenham,S.,Clarke,G.,Cryan,J.F.,and Dinan,T.G.(2011).Brain-gut-microbe communication in health and disease.Front Physiol2,94.
Jermakowicz,W.J.&Casagrande,V.A.Neural networks a century after Cajal.Brain Res Rev55,264-284,doi:10.1016/j.brainresrev.2007.06.003(2007).
Kim,D.,Yoo,S.A.,andKim,W.U.(2016).Gut microbiota in autoimmunity:potential for clinical applications.Arch Pharm Res39,1565-1576.
Leclercq,S.et al.Intestinal permeability, gut-bacterial dysbiosis,and behavioral markers of alcohol-dependence severity.Proc Natl Acad Sci U S A 111,E4485-4493,doi:10.1073/pnas.1415174111(2014).
Khosravi,A.,Yanez,A.,Price,J.G.,Chow, A., Merad,M.,Goodridge,H.S.,and Mazmanian,S.K.(2014).Gut microbiota promote hematopoiesis to control bacterial infection.Cell Host Microbe15,374-381.
Klausberger,T.,and Somogyi,P.(2008).Neuronal diversity and temporal dynamics:the unity of hippocampal circuit operations.Science321,53-57.
Knorr,S.,Sinn,M.,Galetskiy,D.,Williams,R.M.,Wang,C.,Muller,N.,Mayans,O.,Schleheck,D.,and Hartig,J.S.(2018).Widespread bacterial lysine degradation proceeding via glutarate and L-2-hydroxyglutarate.Nat Commun9,5071.
Koeth,R.A.et al.gamma-Butyrobetaine is a proatherogenic intermediate in gut microbial metabolism of L-carnitine to TMAO.Cell Metab20,799-812,doi:10.1016/j.cmet.2014.10.006(2014).
Koistinen,V.M.et al.Contribution of gut microbiota to metabolism of dietary glycine betaine in mice and in vitro colonic fermentation.Microbiome7,103,doi:10.1186/s40168-019-0718-2(2019).
Langille,M.G.et al.Microbial shifts in the aging mouse gut.Microbiome2,50,doi:10.1186/s40168-014-0050-9(2014).
Lawton,M.P.et al.Health,valuation of life,and the wish to live.Gerontologist39,406-416,doi:10.1093/geront/39.4.406(1999).
Long,T.,Hicks,M.,Yu,H.C.,Biggs,W.H.,Kirkness,E.F.,Menni,C.,Zierer,J.,Small,K.S.,Mangino,M.,Messier,H.,et al.(2017).Whole-genome sequencing identifies common-to-rare variants associated with human blood metabolites.Nat Genet49,568-578.
Maclin,J.M.A.,Wang,T.,and Xiao,S.(2019).Biomarkers for the diagnosis of Alzheimer’s disease,dementia Lewy body,frontotemporal dementia and vascular dementia.Gen Psychiatr32,e100054.
Martinez-del Campo,A.et al.Characterization and detection of a widely distributed gene cluster that predicts anaerobic choline utilization by human gut bacteria.mBio6,doi:10.1128/mBio.00042-15(2015).
Mizoguchi,K.,Shoji,H.,Tanaka,Y.,Maruyama,W.,and Tabira,T.(2009).Age-related spatial working memory impairment is caused by prefrontal cortical dopaminergic dysfunction in rats.Neuroscience162,1192-1201.
Morici,J.F.,Bekinschtein,P.&Weisstaub,N.V.Medial prefrontal cortex role in recognition memory in rodents.Behav Brain Res292,241-251,doi:10.1016/j.bbr.2015.06.030(2015).
Nyberg,L.,Lovden,M.,Riklund,K.,Lindenberger,U.,and Backman,L.(2012).Memory aging and brain maintenance.Trends Cogn Sci16,292-305.
Okun,M.et al.Diverse coupling of neurons to populations in sensory cortex.Nature521,511-515,doi:10.1038/nature14273(2015).
Parkhurst,C.N.et al.Microglia promote learning-dependent synapse formation through brain-derived neurotrophic factor.Cell155,1596-1609,doi:10.1016/j.cell.2013.11.030(2013).
Prezioso,M.et al.Spike-timing-dependent plasticity learning of coincidence detection with passively integrated memristive circuits.Nat Commun9,5311,doi:10.1038/s41467-018-07757-y(2018).
Rhee,S.H.,Pothoulakis,C.,and Mayer,E.A.(2009).Principles and clinical implications of the brain-gut-enteric microbiota axis.Nat Rev Gastroenterol Hepatol6,306-314.
Rolls,E.T.,Treves,A.&Tovee,M.J.The representational capacity of the distributed encoding of information provided by populations of neurons in primate temporal visual cortex.Exp Brain Res114,149-162,doi:10.1007/pl00005615(1997).
Saji,N.,Niida,S.,Murotani,K.,Hisada,T.,Tsuduki,T.,Sugimoto,T.,Kimura,A.,Toba,K.,and Sakurai,T.(2019).Analysis of the relationship between the gut microbiome and dementia:a cross-sectional study conducted in Japan.Sci Rep9,1008.
Schneider,B.L.,Ruback,S.,Kiupakis,A.K.,Kasbarian,H.,Pybus,C.,and Reitzer,L.(2002).The Escherichia coli gabDTPC operon:specific gamma-aminobutyrate catabolism and nonspecific induction.J Bacteriol184,6976-6986.
Servillo,L.et al.Ruminant meat and milk contain delta-valerobetaine,another precursor of trimethylamine N-oxide(TMAO)like gamma-butyrobetaine.Food Chem260,193-199,doi:10.1016/j.foodchem.2018.03.114(2018).
Shen,T.C.,Albenberg,L.,Bittinger,K.,Chehoud,C.,Chen,Y.Y.,Judge,C.A.,Chau,L.,Ni,J.,Sheng,M.,Lin,A.,et al.(2015).Engineering the gut microbiota to treat hyperammonemia.J Clin Invest125,2841-2850.
Shew,W.L.,Yang,H.,Yu,S.,Roy,R.&Plenz,D.Information capacity and transmission are maximized in balanced cortical networks with neuronal avalanches.J Neurosci31,55-63,doi:10.1523/JNEUROSCI.4637-10.2011(2011).
Shin,S.Y.,Fauman,E.B.,Petersen,A.K.,Krumsiek,J.,Santos,R.,Huang,J.,Arnold,M.,Erte,I.,Forgetta,V.,Yang,T.P.,et al.(2014).An atlas of genetic influences on human blood metabolites.Nat Genet46,543-550.
Spowart-Manning,L.&van der Staay,F.J.The T-maze continuous alternation task for assessing the effects of putative cognition enhancers in the mouse.Behavioural Brain Research151,37-46,doi:10.1016/j.bbr.2003.08.004(2004).
Sun,J.,Xu,J.,Ling,Y.,Wang,F.,Gong,T.,Yang,C.,Ye,S.,Ye,K.,Wei,D.,Song,Z.,et al.(2019).Fecal microbiota transplantation alleviated Alzheimer’s disease-like pathogenesis in APP/PS1 transgenic mice.Transl Psychiatry9,189.
Sweeney,Y.&Clopath,C.Population coupling predicts the plasticity of stimulus responses in cortical circuits.Elife9,doi:10.7554/eLife.56053(2020).
Vaadia,E.et al.Dynamics of neuronal interactions in monkey cortex in relation to behavioural events.Nature373,515-518,doi:10.1038/373515a0(1995).
Verbeke,K.A.,Boesmans,L.&Boets,E.Modulating the microbiota in inflammatory bowel diseases:prebiotics,probiotics or faecal transplantation?Proc Nutr Soc73,490-497,doi:10.1017/S0029665114000639(2014).
Wu,Y.,Dissing-Olesen,L.,MacVicar,B.A.&Stevens,B.Microglia:Dynamic Mediators of Synapse Development and Plasticity. Trends Immunol36,605-613,doi:10.1016/j.it.2015.08.008 (2015).
Yang,Y.&Mailman,R.B.Strategic neuronal encoding in medial prefrontal cortex of spatial working memory in the T-maze.Behav Brain Res343,50-60,doi:10.1016/j.bbr.2018.01.020(2018).
Zhao,M.et al.TMAVA,a Metabolite of Intestinal Microbes,Is Increased in Plasma From Patients With Liver Steatosis,Inhibits gamma-Butyrobetaine Hydroxylase,and Exacerbates Fatty Liver in Mice.Gastroenterology158,2266-2281 e2227,doi:10.1053/j.gastro.2020.02.033(2020).
Zhong,D.,Wu,C.,Zeng,X.,and Wang,Q.(2018).The role of gut microbiota in the pathogenesis of rheumatic diseases.Clin Rheumatol37,25-34.
【0152】
また、上述した発明は、以下の実施形態で説明されてもよい。
【0153】
実施形態1
被験者が認知症を発症するまたは有する確率を診断する方法であって、
a)被験者から試料を入手すること;
b)前記試料中のNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸、ならびに/または5-アミノ吉草酸およびNε-トリメチルリシン(N(6),N(6),N(6)-トリメチル-L-リシン)を含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前駆体、ならびに/またはグルタル酸および5-(ガラクトシルヒドロキシ)-L-リシンを含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の代謝物の濃度を測定すること;
c)前記b)のステップで測定した前記濃度に基づいて前記被験者が認知症を発症するまたは有する確率を決定すること
を含む方法。
実施形態2
前記試料が、唾液試料、尿試料、血液試料、血清試料、脳液試料、脳室液試料、髄液試料、脳組織試料、微生物試料、糞便試料、または便試料のうちの1つから選択される、実施形態1に記載の方法。
実施形態3
前記被験者は、ヒトである、実施形態1および2のうちいずれか一項に記載の方法。
実施形態4
NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の濃度が0.005~0.050μM/g尿中クレアチニンである場合、前記被験者が認知症を発症するまたは有することを示す、実施形態1~3のうちいずれか一項に記載の方法。
実施形態5
NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前記前駆体が、5-アミノ吉草酸またはNε-トリメチルリシン(N(6),N(6),N(6)-トリメチル-L-リシン)のうちの1つから選択される、実施形態1~3のうちいずれか一項に記載の方法。
実施形態6
5-アミノ吉草酸の濃度が0.005~0.050μM/g尿中クレアチニン、またはNε-トリメチルリシンの濃度が4~8μM/g尿中クレアチニンである場合、前記被験者が認知症を発症するまたは有することを示す、実施形態5に記載の方法。
実施形態7
NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前記代謝物は、グルタル酸および5-(ガラクトシルヒドロキシ)-L-リシンのうちの1つから選択される、実施形態1~3のうちいずれか一項に記載の方法。
実施形態8
グルタル酸の濃度が6~24μM/g尿中クレアチニン、血清中濃度が10~20μM、脳脊髄液濃度が10~40mM、または5-(ガラクトシルヒドロキシ)-L-リシンの濃度が1.4~2μM/g尿中クレアチニンおよび血清中濃度が0.1~0.3μMである場合、前記被験者が認知症を発症するまたは有することを示す、実施形態7に記載の方法。
実施形態9
前記濃度が、内部標準物質との比較、または代謝物標準物質との外部比較によって決定される、実施形態1~8のうちいずれか一項に記載の方法。
実施形態10
前記濃度は、液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)、核磁気共鳴(NMR)、またはイムノアッセイのいずれかの方法を用いて決定される、実施形態1~9のうちいずれか一項に記載の方法。
実施形態11
前記c)のステップが、前記b)のステップの前記濃度を、対照データ、具体的には、年齢が同じ、性別が同じ、民族が同じ、および/または地理的位置が同じである1人または複数人の健常者の対照データの濃度と比較することを含む、実施形態1~10のうちいずれか一項に記載の方法。
実施形態12
前記認知症が、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、前頭側頭型認知症、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、緑内障、筋強直性ジストロフィー、進行性核上性麻痺、脊髄性筋萎縮症、多系統萎縮症、運動失調症、血管性認知症、またはその他の認知症のうちの1つから選択される、実施形態1~11のうちいずれか一項に記載の方法。
実施形態13
被験者が認知症を発症するまたは有する確率を診断する方法であって、
a)第1の時点で被験者から第1の試料を入手すること;
b)前記第1の試料中のNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸、ならびに/または5-アミノ吉草酸およびNε-トリメチルリシン(N(6),N(6),N(6)-トリメチル-L-リシン)を含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前駆体、ならびに/またはグルタル酸および5-(ガラクトシルヒドロキシ)-L-リシンを含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の代謝物の濃度を測定すること;
c)第2の時点で前記被験者から第2の試料を入手すること;
d)前記第2の試料中のNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸、ならびに/または5-アミノ吉草酸およびNε-トリメチルリシン(N(6),N(6),N(6)-トリメチル-L-リシン)を含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前駆体、ならびに/またはNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の代謝物の濃度を測定すること;
e)前記b)とd)のステップで測定した前記濃度の比較に基づいて前記被験者が認知症を発症するまたは有する確率を決定すること
を含む方法。
実施形態14
前記試料のうちの1つまたは複数は、血液試料、血清試料、脳液試料、脳室液試料、髄液試料、脳組織試料、微生物試料、糞便試料、唾液試料、尿試料、または便試料から選択される、実施形態13に記載の方法。
実施形態15
前記被験者は、ヒトである、実施形態13および14のうちいずれか一項に記載の方法。
実施形態16
前記第1の時点と第2の時点が、約3~6カ月間隔てられている、実施形態13~15のうちいずれか一項に記載の方法。
実施形態17
前記第2の時点は、前記第1の時点の12~24週間後である、実施形態13~16のうちいずれか一項に記載の方法。
実施形態18
前記第2の時点は、前記第1の時点の3~6カ月後である、実施形態13~17のうちいずれか一項に記載の方法。
実施形態19
前記方法は、
f)第3の時点で被験者から第3の試料を入手すること;
g)前記第3の試料中のNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸、ならびに/または5-アミノ吉草酸およびNε-トリメチルリシン(N(6),N(6),N(6)-トリメチル-L-リシン)を含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前駆体、ならびに/またはグルタル酸および5-(ガラクトシルヒドロキシ)-L-リシンを含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の代謝物の濃度を測定すること;
h)前記b)、d)とg)のステップで測定した前記濃度の比較に基づいて前記被験者が認知症を発症するまたは有する確率を決定すること
をさらに含む、実施形態13~18のうちいずれか一項に記載の方法。
実施形態20
前記第2の時点と第3の時点は、約6~12カ月間隔てられている、実施形態19に記載の方法。
実施形態21
さらなる試料をさらなる時点で入手し、かつ前記被験者が認知症を発症するまたは有する確率は、前記試料で測定した前記濃度の比較に基づく、実施形態13~20のうちいずれか一項に記載の方法。
実施形態22
前記認知症は、加齢に伴う認知症または加齢に伴わない認知症である、実施形態13~21のうちいずれか一項に記載の方法。
実施形態23
前記認知症は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、前頭側頭型認知症、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、緑内障、筋強直性ジストロフィー、進行性核上性麻痺、脊髄性筋萎縮症、多系統萎縮症、運動失調症、血管性認知症、またはその他の認知症のうちの1つから選択される、実施形態13~22のうちいずれか一項に記載の方法。
実施形態24
前記濃度は、センサーまたは画像関連手法を用いて生体内で測定される、実施形態13~23のうちいずれか一項に記載の方法。
実施形態25
被験者が認知症を発症するまたは有する確率を診断する方法であって、
a)被験者から試料を入手すること;
b)前記試料中のコリネバクテリウム、クロストリジウム・スポロゲネス、クロストリジウム・スティックランディイ、クロストリジウム・パーフリンジェンス、クロストリジウム・ブチリカム、クロストリジウム・スフェノイデス、クロストリジウム・グルタミクム、クロストリジウム・ビフェルメンタンス、クロストリジオイデス・ディフィシル、オシリバクター、クロアシバシルス・エブリエンシ、ファーミキューテス、およびバクテロイデスのいずれかの存在量を測定すること;
c)前記b)のステップで測定した前記存在量に基づいて前記被験者が認知症を発症するまたは有する確率を決定することであって、特に、前記被験者が認知症を発症するまたは有する確率を決定することが、ファーミキューテスとバクテロイデスの比率を比較することを含むこと
を含む方法。
実施形態26
前記試料が、微生物試料、腸内細菌叢試料、腸試料、糞便試料、および/または便試料のうち1つまたは複数から選択される、実施形態25に記載の方法。
実施形態27
前記被験者は、ヒトである、実施形態25および26のうちいずれか一項に記載の方法。
実施形態28
前記コリネバクテリウムは、コリネバクテリウム・グルタミカム、コリネバクテリウム・ジェイケイウム、コリネバクテリウム・ウレアリティクム、およびコリネバクテリウム・エフィシエンスのうち1つまたは複数から選択される、実施形態25~27のうちいずれか一項に記載の方法。
実施形態29
前記オシリバクターは、オシリバクター・バレリシゲネスおよびオシリバクター属KLE1745株から選択される、実施形態25~28のうちいずれか一項に記載の方法。
実施形態30
前記試料中の前記微生物叢の構成を決定する、実施形態25~29のうちいずれか一項に記載の方法。
実施形態31
腸メタゲノムを決定する、実施形態25~30のうちいずれか一項に記載の方法。
実施形態32
前記方法は、前記被験者の前記試料の前記細菌の前記存在量または前記微生物叢の前記構成または前記腸メタゲノムを対照と比較することを含む、実施形態25~31のうちいずれか一項に記載の方法。
実施形態33
前記対照は、1人または複数人の健常者のデータに基づく、実施形態32に記載の方法。
実施形態34
前記対照は、年齢が同じ、性別が同じ、民族が同じ、および/または地理的位置が同じである1人または複数人の健常者から決定される、実施形態33に記載の方法。
実施形態35
前記試料は、配列に基づく技術、ジェノタイピングアッセイ、qPCR、RT-qPCR、16S rRNA遺伝子の全長のクローンライブラリー、DGGE、T-RFLP、ARISA、マイクロアレイ、DNAハイブリダイゼーション法のいずれかの方法を用いて解析される、実施形態25~34のうちいずれか一項に記載の方法。
実施形態36
細菌の前記存在量は、懸濁液培養またはプレート培養、染色法、顕微鏡観察法、FACSなどのフローサイトメトリー法、光学密度測定法のうち少なくとも1つを含む細胞培養アッセイを用いて測定される、実施形態25~35のうちいずれか一項に記載の方法。
実施形態37
前記認知症は、加齢に伴う認知症または加齢に伴わない認知症である、実施形態25~36のうちいずれか一項に記載の方法。
実施形態38
前記認知症は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、前頭側頭型認知症、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、緑内障、筋強直性ジストロフィー、進行性核上性麻痺、脊髄性筋萎縮症、多系統萎縮症、運動失調症、血管性認知症、またはその他の認知症のうちの1つから選択される、実施形態25~37のうちいずれか一項に記載の方法。
実施形態39
被験者が認知症を発症するまたは有する確率を診断する方法であって、
a)試料中のパルブアルブミン陽性介在ニューロンを同定すること;
b)前記試料中の自発性IPSCの頻度を測定すること;
c)前記b)のステップで測定した前記頻度に基づいて前記被験者が認知症を発症するまたは有する確率を決定すること
を含む方法。
実施形態40
前記試料は、脳、急性脳スライス、培養脳組織、ニューロンの培養物、またはパルブアルブミン陽性介在ニューロンの培養物から選択される、実施形態39に記載の方法。
実施形態41
前記被験者は、ヒトである、実施形態39および40のうちいずれか一項に記載の方法。
実施形態42
前記自発性IPSCは、電気生理学的方法および/またはカルシウムイメージングを用いて測定される、実施形態39~41のうちいずれか一項に記載の方法。
実施形態43
脳波記録(EEG)および脳磁図(MEG)によって、PV陽性GABAニューロンの振動を検出する、実施形態39~42のうちいずれか一項に記載の方法。
実施形態44
薬剤候補をスクリーニングする方法であって、
a)NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸、ならびに/または5-アミノ吉草酸およびNε-トリメチルリシン(N(6),N(6),N(6)-トリメチル-L-リシン)を含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前駆体、ならびに/またはグルタル酸および5-(ガラクトシルヒドロキシ)-L-リシンを含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の代謝物のうち1つまたは複数を含む試料を用意すること;
b)前記試料を前記試験薬に曝露すること;
c)前記試料に対する前記試験薬の効果を測定すること;
d)前記試料に対する前記試験薬の効果に基づいて、前記試験薬の薬剤候補としての適格性を決定すること
を含む方法。
実施形態45
認知症を発症するまたは有する被験者を治療する方法であって、
前記被験者におけるNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸、ならびに/または5-アミノ吉草酸およびNε-トリメチルリシン(N(6),N(6),N(6)-トリメチル-L-リシン)を含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前駆体、ならびに/またはグルタル酸および5-(ガラクトシルヒドロキシ)-L-リシンを含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の代謝物のいずれかの濃度を低下させる薬剤を前記被験者に投与すること
を含む方法。
実施形態46
前記薬剤または薬剤の前記組み合わせは、唾液試料、尿試料、血液試料、血清試料、脳液試料、脳室液試料、髄液試料、脳組織試料、微生物試料、糞便試料、または便試料中のNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸、ならびに/または5-アミノ吉草酸およびNε-トリメチルリシン(N(6),N(6),N(6)-トリメチル-L-リシン)を含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前駆体、ならびに/またはグルタル酸および5-(ガラクトシルヒドロキシ)-L-リシンを含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の代謝物の濃度を低下させる、実施形態45に記載の方法。
実施形態47
前記方法は、
a)前記被験者から試料を入手すること;
b)前記試料中のNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸、ならびに/または5-アミノ吉草酸およびNε-トリメチルリシン(N(6),N(6),N(6)-トリメチル-L-リシン)を含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前駆体、ならびに/またはグルタル酸および5-(ガラクトシルヒドロキシ)-L-リシンを含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の代謝物のいずれかの濃度を測定すること;
c)前記b)のステップで測定した前記濃度に基づいて治療の進捗および/または予後を決定すること
をさらに含み、
前記方法は、前記c)のステップで決定された前記進捗に基づいて治療を任意に調整することを含む、実施形態45または46に記載の方法。
実施形態48
前記方法は、
a)第1の時点で前記被験者から第1の試料を入手すること;
b)前記第1の試料中のNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸、ならびに/または5-アミノ吉草酸およびNε-トリメチルリシン(N(6),N(6),N(6)-トリメチル-L-リシン)を含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前駆体、ならびに/またはグルタル酸および5-(ガラクトシルヒドロキシ)-L-リシンを含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の代謝物の濃度を測定すること;
c)第2の時点で前記被験者から第2の試料を入手すること;
d)前記第2の試料中のNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸、ならびに/または5-アミノ吉草酸およびNε-トリメチルリシン(N(6),N(6),N(6)-トリメチル-L-リシン)を含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前駆体、ならびに/またはNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の代謝物の濃度を測定すること;
e)前記d)のステップで測定した前記濃度の比較に基づいて治療の進捗および/または予後を決定すること
をさらに含み、
前記方法は、前記e)のステップで決定された前記進捗に基づいて治療を任意に調整することを含む、実施形態45または46に記載の方法。
実施形態49
前記第1の時点と第2の時点が、約3~6カ月間隔てられている、実施形態48に記載の方法。
実施形態50
前記試料のうちの1つまたは複数は、血液試料、血清試料、脳液試料、脳室液試料、髄液試料、脳組織試料、微生物試料、糞便試料、唾液試料、尿試料、または便試料から選択される、実施形態47~49のうちいずれか一項に記載の方法。
実施形態51
認知症を発症するまたは有する被験者を治療する方法であって、
腸内細菌叢中のコリネバクテリウム門、クロストリジウム・スポロゲネス、クロストリジウム・スティックランディイ、クロストリジウム・パーフリンジェンス、クロストリジウム・ブチリカム、クロストリジウム・スフェノイデス、クロストリジウム・グルタミクム、クロストリジウム・ビフェルメンタンス、クロストリジオイデス・ディフィシル、オシリバクター、クロアシバシルス・エブリエンシ、およびファーミキューテスのいずれかの細菌を減少させる、または根絶する薬剤を前記被験者に投与すること
を含む方法。
実施形態52
前記薬剤は、実施形態51の前記細菌の存在量に直接的または間接的に影響を与える抗菌剤、ワクチン、もしくは局所プロバイオティック介入、または別の細菌を含む、実施形態51に記載の方法。
実施形態53
認知症の治療に適している患者群を同定する方法であって、
a)被験者から試料を入手すること;
b)前記試料中のNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸、ならびに/または5-アミノ吉草酸およびNε-トリメチルリシン(N(6),N(6),N(6)-トリメチル-L-リシン)を含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前駆体、ならびに/またはグルタル酸および5-(ガラクトシルヒドロキシ)-L-リシンを含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の代謝物のいずれかの濃度を測定すること;
c)前記b)のステップで測定した前記濃度に基づいて前記被験者が治療に応答する確率を決定すること
を含む方法。
実施形態54
前記治療は、前記被験者におけるNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸、ならびに/または5-アミノ吉草酸およびNε-トリメチルリシン(N(6),N(6),N(6)-トリメチル-L-リシン)を含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前駆体、ならびに/またはグルタル酸および5-(ガラクトシルヒドロキシ)-L-リシンを含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の代謝物のいずれかの濃度を低下させる薬剤を前記被験者に投与することを含む、実施形態53に記載の方法。
実施形態55
認知症の治療に適している患者群を同定する方法であって、
a)被験者から試料を入手すること;
b)前記試料中のコリネバクテリウム、クロストリジウム・スポロゲネス、クロストリジウム・スティックランディイ、クロストリジウム・パーフリンジェンス、クロストリジウム・ブチリカム、クロストリジウム・スフェノイデス、クロストリジウム・グルタミクム、クロストリジウム・ビフェルメンタンス、クロストリジオイデス・ディフィシル、オシリバクター、クロアシバシルス・エブリエンシ、ファーミキューテス、およびバクテロイデスのいずれかの存在量を測定すること;
c)前記b)のステップで測定した前記存在量に基づいて前記被験者が治療に応答する確率を決定することであって、特に、前記被験者が認知症を発症するまたは有する確率を決定することが、ファーミキューテスとバクテロイデスの比率を比較することを含むこと
を含む方法。
実施形態56
前記治療は、腸内細菌叢中のコリネバクテリウム門、クロストリジウム・スポロゲネス、クロストリジウム・スティックランディイ、クロストリジウム・パーフリンジェンス、クロストリジウム・ブチリカム、クロストリジウム・スフェノイデス、クロストリジウム・グルタミクム、クロストリジウム・ビフェルメンタンス、クロストリジオイデス・ディフィシル、オシリバクター、クロアシバシルス・エブリエンシ、およびファーミキューテスのいずれかの細菌を減少させる、または根絶する薬剤を前記被験者に投与することを含む、実施形態55に記載の方法。
実施形態57
前記薬剤は、実施形態56の前記細菌の存在量に直接的または間接的に影響を与える抗菌剤、ワクチン、もしくは局所プロバイオティック介入、または別の細菌を含む、実施形態56に記載の方法。
実施形態58
認知症の治療の進捗を監視する方法であって、
a)被験者から試料を入手すること;
b)前記試料中のNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸、ならびに/または5-アミノ吉草酸およびNε-トリメチルリシン(N(6),N(6),N(6)-トリメチル-L-リシン)を含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前駆体、ならびに/またはグルタル酸および5-(ガラクトシルヒドロキシ)-L-リシンを含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の代謝物のいずれかの濃度を測定すること;
c)前記b)のステップで測定した前記濃度に基づいて治療の進捗および/または予後を決定すること
を含む方法。
実施形態59
前記治療は、前記被験者におけるNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸、ならびに/または5-アミノ吉草酸およびNε-トリメチルリシン(N(6),N(6),N(6)-トリメチル-L-リシン)を含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前駆体、ならびに/またはグルタル酸および5-(ガラクトシルヒドロキシ)-L-リシンを含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の代謝物のいずれかの濃度に影響を与える治療である、実施形態58に記載の方法。
実施形態60
前記試料は、唾液試料、尿試料、血液試料、血清試料、脳液試料、脳室液試料、髄液試料、脳組織試料、微生物試料、糞便試料、または便試料のうちの1つから選択される、実施形態58または59に記載の方法。
実施形態61
前記被験者は、ヒトである、実施形態58~60のうちいずれか一項に記載の方法。
実施形態62
NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の濃度が0.005~0.050μM/g尿中クレアチニンである場合、前記被験者が認知症を発症するまたは有することを示す、実施形態58~61のうちいずれか一項に記載の方法。
実施形態63
NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前記前駆体は、5-アミノ吉草酸またはNε-トリメチルリシンのうちの1つから選択される、実施形態58~62のうちいずれか一項に記載の方法。
実施形態64
5-アミノ吉草酸の濃度が0.005~0.050μM/g尿中クレアチニン、またはNε-トリメチルリシンの濃度が4~8μM/g尿中クレアチニンである場合、前記被験者が認知症を発症するまたは有することを示す、実施形態63に記載の方法。
実施形態65
NNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前記代謝物は、グルタル酸および5-(ガラクトシルヒドロキシ)-L-リシンのうちの1つから選択される、実施形態58~61のうちいずれか一項に記載の方法。
実施形態66
グルタル酸の濃度が6~24μM/g尿中クレアチニン、血清中濃度が10~20μM、脳脊髄液濃度が10~40mM、または5-(ガラクトシルヒドロキシ)-L-リシンの濃度が1.4~2μM/g尿中クレアチニンおよび血清中濃度が0.1~0.3μMである場合、前記被験者が認知症を発症するまたは有することを示す、実施形態65に記載の方法。
実施形態67
前記濃度が、内部標準物質との比較、または代謝物標準物質との外部比較によって決定される、実施形態58~66のうちいずれか一項に記載の方法。
実施形態68
前記濃度は、液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)、核磁気共鳴(NMR)、またはイムノアッセイのいずれかの方法を用いて決定される、実施形態58~67のうちいずれか一項に記載の方法。
実施形態69
前記c)のステップが、前記b)のステップの前記濃度を、対照データ、具体的には、年齢が同じ、性別が同じ、民族が同じ、および/または地理的位置が同じである1人または複数人の健常者の対照データの濃度と比較することを含む、実施形態58~68のうちいずれか一項に記載の方法。
実施形態70
前記認知症が、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、前頭側頭型認知症、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、緑内障、筋強直性ジストロフィー、進行性核上性麻痺、脊髄性筋萎縮症、多系統萎縮症、運動失調症、血管性認知症、またはその他の認知症のうちの1つから選択される、実施形態58~69のうちいずれか一項に記載の方法。
実施形態71
認知症の治療の進捗および/または予後を監視する方法であって、
a)第1の時点で被験者から第1の試料を入手すること;
b)前記第1の試料中のNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸、ならびに/または5-アミノ吉草酸およびNε-トリメチルリシン(N(6),N(6),N(6)-トリメチル-L-リシン)を含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前駆体、ならびに/またはグルタル酸および5-(ガラクトシルヒドロキシ)-L-リシンを含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の代謝物の濃度を測定すること;
c)第2の時点で前記被験者から第2の試料を入手すること;
d)前記第2の試料中のNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸、ならびに/または5-アミノ吉草酸およびNε-トリメチルリシン(N(6),N(6),N(6)-トリメチル-L-リシン)を含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前駆体、ならびに/またはNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の代謝物の濃度を測定すること;
e)前記b)とd)のステップで測定した前記濃度の比較に基づいて治療の進捗を決定すること
を含む方法。
実施形態72
前記試料のうちの1つまたは複数は、血液試料、血清試料、脳液試料、脳室液試料、髄液試料、脳組織試料、微生物試料、糞便試料、唾液試料、尿試料、または便試料から選択される、実施形態71に記載の方法。
実施形態73
前記被験者は、ヒトである、実施形態71および72のうちいずれか一項に記載の方法。
実施形態74
前記第1の時点と第2の時点が、約3~6カ月間隔てられている、実施形態71~73のうちいずれか一項に記載の方法。
実施形態75
前記第2の時点は、前記第1の時点の12~24週間後である、実施形態71~74のうちいずれか一項に記載の方法。
実施形態76
前記第2の時点は、前記第1の時点の3~6カ月後である、実施形態71~75のうちいずれか一項に記載の方法。
実施形態77
前記方法は、
f)第3の時点で被験者から第3の試料を入手すること;
g)前記第3の試料中のNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸、ならびに/または5-アミノ吉草酸およびNε-トリメチルリシン(N(6),N(6),N(6)-トリメチル-L-リシン)を含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の前駆体、ならびに/またはグルタル酸および5-(ガラクトシルヒドロキシ)-L-リシンを含むがこれらに限定されないNNN-トリメチル-5-アミノ吉草酸の代謝物の濃度を測定すること;
h)前記b)、d)とg)のステップで測定した前記濃度の比較に基づいて治療の進捗を決定すること
をさらに含む、実施形態71~76のうちいずれか一項に記載の方法。
実施形態78
前記第2の時点と第3の時点は、約6~12カ月間隔てられている、実施形態77に記載の方法。
実施形態79
さらなる試料をさらなる時点で入手し、かつ前記被験者が認知症を発症するまたは有する確率は、前記試料で測定した前記濃度の比較に基づく、実施形態71~78のうちいずれか一項に記載の方法。
実施形態80
前記認知症は、加齢に伴う認知症または加齢に伴わない認知症である、実施形態71~79のうちいずれか一項に記載の方法。
実施形態81
前記認知症は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、前頭側頭型認知症、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、緑内障、筋強直性ジストロフィー、進行性核上性麻痺、脊髄性筋萎縮症、多系統萎縮症、運動失調症、血管性認知症、またはその他の認知症のうちの1つから選択される、実施形態71~80のうちいずれか一項に記載の方法。
実施形態82
前記濃度は、センサーまたは画像関連手法を用いて生体内で測定される、実施形態71~81のうちいずれか一項に記載の方法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
【国際調査報告】