(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-06
(54)【発明の名称】溶血性尿毒症症候群を処置するための化合物
(51)【国際特許分類】
A61K 38/08 20190101AFI20230227BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20230227BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20230227BHJP
A61P 7/06 20060101ALI20230227BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230227BHJP
【FI】
A61K38/08
A61P31/04
A61P13/12
A61P7/06
A61P43/00 111
A61P43/00 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022539066
(86)(22)【出願日】2020-12-23
(85)【翻訳文提出日】2022-08-18
(86)【国際出願番号】 IB2020062405
(87)【国際公開番号】W WO2021130700
(87)【国際公開日】2021-07-01
(31)【優先権主張番号】102019000025414
(32)【優先日】2019-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517405334
【氏名又は名称】アルマ マータ ストゥディオールム-ウニヴェルシタ ディ ボローニャ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】マウリツィオ・ブリゴッティ
(72)【発明者】
【氏名】ドメニカ・カルニセッリ
(72)【発明者】
【氏名】エリーサ・ポルチェッリーニ
(72)【発明者】
【氏名】エリザベッタ・ガラッシ
【テーマコード(参考)】
4C084
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA17
4C084BA24
4C084CA59
4C084NA14
4C084ZA55
4C084ZA81
4C084ZB35
(57)【要約】
溶血性尿毒症症候群の処置及び/若しくは予防における使用のための、式(I):
[式中、Lが、OAであり、R1が、-Dabであり、R2が、-Thrであり、R3が、-DThrであり、R4が、-Dabであり、R5が、-Dabであり、R6が、-DPheであり、R7が、-Leuであり、R8が、-Abuであり、R9が、-Dabであり、R10が、-Thrである];
を有するNAB815化合物又は薬学的に許容され得るその塩が提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶血性尿毒症症候群の処置及び/若しくは予防における使用のための、式(I):
【化1】
[式中、Lが、OAであり、R1が、-Dabであり、R2が、-Thrであり、R3が、-DThrであり、R4が、-Dabであり、R5が、-Dabであり、R6が、-DPheであり、R7が、-Leuであり、R8が、-Abuであり、R9が、-Dabであり、R10が、-Thrである];
を有するNAB815化合物又は薬学的に許容され得るその塩。
【請求項2】
溶血性尿毒症症候群の処置における使用のためのNAB815化合物又は薬学的に許容され得るその塩。
【請求項3】
哺乳動物の循環系内の血液中に少なくとも1つの志賀毒素を有する哺乳動物(特にヒト)の処置における使用のためのNAB815化合物又は薬学的に許容され得るその塩。
【請求項4】
ヒトの循環系内の血液中に少なくとも1つの志賀毒素2を有するヒトの処置における使用のためのNAB815化合物又は薬学的に許容され得るその塩。
【請求項5】
循環系内の血液中に存在する志賀毒素(特に志賀毒素2)が、白血球並びに/又は血小板と会合して、凝集塊及び/若しくは細胞外小胞を形成する、請求項3又は4に記載のNAB815化合物若しくは薬学的に許容され得るその塩。
【請求項6】
溶血性尿毒症症候群の処置及び/又は予防のための医薬製剤を製造するためのNAB815化合物若しくは薬学的に許容され得るその塩の使用。
【請求項7】
哺乳動物の循環系内の血液中に志賀毒素を少なくとも1つ有する哺乳動物(特にヒト)を処置するための医薬製剤を製造するためのNAB815化合物又は薬学的に許容され得るその塩の使用。
【請求項8】
ヒトの循環系内の血液中で白血球並びに/又は血小板と会合して、凝集塊及び/若しくは細胞外小胞を形成する少なくとも1つの志賀毒素2を有するヒトを処置するための医薬製剤を製造するためのNAB815化合物若しくは薬学的に許容され得るその塩の使用。
【請求項9】
哺乳動物における溶血性尿毒症症候群の処置及び/又は予防の方法であって、哺乳動物にNAB815又は薬学的に許容され得るその塩の用量を投与する工程を含む方法。
【請求項10】
ヒトの循環系内の血液中で白血球並びに/又は血小板と会合して、凝集塊及び/若しくは細胞外小胞を形成する少なくとも1つの志賀毒素2を有するヒトを処置する方法であって、ヒトに用量のNAB815又は薬学的に許容され得るその塩を投与する工程を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その開示全体が参照により本明細書に組み込まれている、2019年12月23日に出願したイタリア特許出願第102019000025414号の優先権を主張するものである。
【0002】
本発明は、溶血性尿毒症症候群の処置及び/若しくは予防並びに/又は血液中に少なくとも1つの志賀毒素を有する哺乳動物の処置における使用のための化合物に関する。本発明は、溶血性尿毒症症候群の処置及び/又は予防のための医薬製剤を製造するための化合物の使用に更に関する。
【背景技術】
【0003】
志賀毒素は、酵素的に活性のある部分を表すAサブユニットに非共有結合的に結合したBサブユニットの五量体からなる細菌タンパク質である(Paton e Paton 1998年Clin. Microbiol. Rev. 11、450~479頁)。大腸菌(Escherichia coli)及び赤痢菌(Shigella)等の細菌によって産生された志賀毒素は、溶血性尿毒症症候群(HUS: hemolytic-uremic syndrome)の発症に決定的な病原性因子である(Tarrら、2005年Lancet 365、1073~1086頁)。溶血性尿毒症症候群は、感染した患者のおよそ10~15%、特に3歳未満の小児に影響を及ぼす、これらの細菌感染症の深刻な結果である(Tarrら、2005年Lancet 365、1073~1086頁)。HUSは、孤立した症例、小規模流行(数十人の患者)(Tarrら、2005年Lancet 365、1073~1086頁)、又はドイツ及び他のヨーロッパ諸国で2011年に起こった(4000例の感染、800例のHUS、50例の死亡)ものである大規模流行(数百人/数千人の患者)の形で現われ得る(Scheutzら、2011年Euro. Surveill. 16)。HUSは溶血性貧血、血小板減少症及び急性腎不全によって特徴づけられ、それらは、志賀毒素が循環に入る、感染のおよそ1週間後に現れる。実際、毒素は腸内の細菌によって産生され、その後血流に放出されて循環細胞と相互作用し(初期の毒血症)、その後腎臓及び脳の内皮の中毒を決定し、他の異なる腎細胞のようにHUSの引き金を引く(後期の毒血症) (Tarrら、2005年Lancet 365、1073~1086頁)。標的細胞は、糖脂質受容体グロボトリアオシルセラミド(Gb3Cer: globotriaosylceramide)を発現し、これは志賀毒素のBサブユニットの五量体と相互作用する(Bauwensら、2011年Thromb. Haemost. 105、515~528頁)。初期の毒血症の間の循環細胞との相互作用は、症候群(HUS)の病因において決定的な役割を果たし、単球及び血小板上で発現されたGb3Cerによって起こり得る(van Settenら、1996年Blood 88、174~183頁; Karpmanら、2001年Blood 97、3100~3108頁)。2013年に、本特許出願の発明者らの一部が、志賀毒素のAサブユニットと相互作用するToll様受容体4(TLR4: Toll-like receptor 4)として公知の、志賀毒素とヒト循環細胞(好中球、単球及び血小板)との間の相互作用に関与する別の細胞受容体を同定した(Brigottiら、2013年J Immunol.191、4748~4758頁; Arfilliら、2010年Biochem. J.432、173~180頁)。
【0004】
HUSを患う患者の血液中に、白血球/血小板凝集塊、並びに志賀毒素及びHUSの発症に関与する他の病原性因子を含むおよそ1μmの細胞外小胞がある(Stahlら、2011年Blood 117、5503~5513頁; Stahlら、2009年PLoS One 4、e6990)。凝集塊及び細胞外小胞の両方の形成のメカニズムは、2つの受容体Gb3Cer及びTLR4を通じて、志賀毒素と単球、好中球及び血小板との複数の相互作用に集中している。循環細胞は、毒素に結合した後に活性化され、凝集塊を形成し、最終的に細胞外小胞を形成する。単球及び血小板は、Gb3Cer及びTLR4の両方を保有するが、ヒト好中球はTLR4を発現するだけである(Macherら、1980年J. Biol. Chem.255、2092~2096頁)。
【0005】
志賀毒素2は、HUSの発症と最も頻繁に関連するバリアントである(Friedrichら、2002年J Infect. Diseases 185、74~84頁)。細胞外小胞と会合した志賀毒素2が、毒血症の初期段階の間(HUSの発症の前)に、志賀毒素を産生する大腸菌(E. coli)に感染した患者に存在する(Brigottiら、2020年Thrombosis and Haemostasis 120、107~120頁)。更に、志賀毒素2は、膜TLR4に結合したA鎖を通じて、これらの細胞外小胞と会合し得る。これによって、曝露されるB鎖五量体、及びそれ故に小胞内に含まれる志賀毒素、並びに他の病原性因子が、Gb3Cerを発現する細胞に方向付けられる(Brigottiら、2020年Thrombosis and Haemostasis 120、107~120頁)。この形態の循環する毒素(A鎖によって細胞外小胞に結合した志賀毒素2)は、HUSの発症の前日に患者の血液中に現れるが、HUSが進行していない感染患者には存在しない(Brigottiら、2020年Thrombosis and Haemostasis 120、107~120頁)。
【0006】
溶血性尿毒症症候群の特別な処置はない: 患者は支持療法(流体及び電解物の置換、過量輸液、透析、輸血)で処置される(Wurznerら、2014年Semin Thromb Hemost. 40、508~516頁)。したがって、志賀毒素2とTLR4との間の相互作用の阻害剤の使用は、志賀毒素を産生する細菌によって引き起こされるHUSの予防及び治癒における革新的な処置になるであろう。
【0007】
ポリミキシンBは、グラム陰性菌に対して活性があり(Vaara, M.2010年Curr. Opin. Microbiol. 13、574~581頁)、エンドトキシン(又はリポ多糖)として公知の微生物成分とTLR4との間の相互作用をブロックすることができる抗生物質である(Morrisonら、1976年Immunochemistry 13、813~818頁; Srimalら、1996年Biochem. J. 315、679~686頁; Bannatyneら、1977年J. Infect. Dis. 136: 469~474頁)。2016年に、ポリミキシンBは、志賀毒素1/TLR4及び志賀毒素2/TLR4相互作用を妨げることができるということがわかった(Carnicelliら、2016年J. Immunol. 196、1177~1185頁)。しかしながら、ポリミキシンBは腎毒性及び神経毒性があり(Vaara、2013年J. Antimicrob. Chemother. 68: 1213~1219頁)、高濃度でのみ(μg/ml)、志賀毒素2と白血球との間の相互作用を十分にブロックするのに有効である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Paton e Paton 1998年Clin. Microbiol. Rev. 11、450~479頁
【非特許文献2】Tarrら、2005年Lancet 365、1073~1086頁
【非特許文献3】Scheutzら、2011年Euro. Surveill. 16
【非特許文献4】Bauwensら、2011年Thromb. Haemost. 105、515~528頁
【非特許文献5】van Settenら、1996年Blood 88、174~183頁
【非特許文献6】Karpmanら、2001年Blood 97、3100~3108頁
【非特許文献7】Brigottiら、2013年J Immunol.191、4748~4758頁
【非特許文献8】Arfilliら、2010年Biochem. J.432、173~180頁
【非特許文献9】Stahlら、2011年Blood 117、5503~5513頁
【非特許文献10】Stahlら、2009年PLoS One 4、e6990
【非特許文献11】Macherら、1980年J. Biol. Chem.255、2092~2096頁
【非特許文献12】Friedrichら、2002年J Infect. Diseases 185、74~84頁
【非特許文献13】Brigottiら、2020年Thrombosis and Haemostasis 120、107~120頁
【非特許文献14】Wurznerら、2014年Semin Thromb Hemost. 40、508~516頁
【非特許文献15】Vaara, M.2010年Curr. Opin. Microbiol. 13、574~581頁
【非特許文献16】Morrisonら、1976年Immunochemistry 13、813~818頁
【非特許文献17】Srimalら、1996年Biochem. J. 315、679~686頁
【非特許文献18】Bannatyneら、1977年J. Infect. Dis. 136: 469~474頁
【非特許文献19】Carnicelliら、2016年J.Immunol. 196、1177~1185頁
【非特許文献20】Vaara、2013年J. Antimicrob. Chemother. 68: 1213~1219頁
【非特許文献21】Vaaraら、2017年Paptides 91、8~12頁
【非特許文献22】Vaaraら、2008年Antimicrob. Agents Chemother. 52: 3229~3236頁
【非特許文献23】Vaaraら、2010年Antimicrob Agents Chemother. 54: 3341~3346頁
【非特許文献24】Tazzariら、2004年Cytometry B Clin. Cytom.61、40~44頁
【非特許文献25】Arfilliら、2015年 Toxins (Basel) 7、4564~4576頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、従来技術の欠点を少なくとも部分的に克服すると同時に、実施するのが容易で経済的である、溶血性尿毒症症候群の処置及び/若しくは予防並びに/又は血液中に少なくとも1つの志賀毒素を有する哺乳動物の処置における使用のための化合物を提供することである。
【0011】
本発明のさらなる目的は、従来技術の欠点を少なくとも部分的に克服すると同時に、実施するのが容易で経済的である、溶血性尿毒症症候群の処置及び/又は予防のための医薬製剤を製造するための化合物の使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によると、添付の独立請求項、及び好ましくは添付の独立請求項に直接又は間接的に独立請求項に従属する請求項のいずれか一項に記載の、溶血性尿毒症症候群の処置及び/若しくは予防並びに/又は血液中に少なくとも1つの志賀毒素を有する哺乳動物の処置における使用のための化合物、並びに溶血性尿毒症症候群の処置及び/若しくは予防のための医薬製剤を製造するための化合物の使用が提供される。
【0013】
ここで、いくつかの非限定的な実施形態を示す添付の図面を参照しながら、本発明を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】ヒト好中球に対する志賀毒素2の結合に対するNAB741(ポリミキシンBの誘導体)の効果を示す図である; データ(平均±標準偏差; n=3)は、例えばポリミキシンB及びその誘導体等の他の化合物なしに毒素の存在下で得られた値に対する結合のパーセンテージを表す(MCV=2.4±0.3、平均±標準偏差; n=3); 縦座標は、好中球に結合した志賀毒素2のパーセンテージを示す; 横座標は、使用されたNAB741の濃度(μg/ml)を示す。
【
図2】ヒト好中球に対する志賀毒素2の結合に対するNAB7061(ポリミキシンBの誘導体)の効果を示す図である; データは、例えばポリミキシンB及びその誘導体等の他の化合物なしに毒素の存在下で得られた値に対する結合のパーセンテージを表す(MCV=2.4±0.3、平均±標準偏差; n=3); 縦座標は、好中球に結合した志賀毒素2のパーセンテージを示す; 横座標は、使用されたNAB7061の濃度(μg/ml)を示す。
【
図3】ヒト好中球に対する志賀毒素2の結合に対するNAB815(ポリミキシンBの誘導体)の効果を示す図である; データは、例えばポリミキシンB及びその誘導体等の他の化合物なしに毒素の存在下で得られた値に対する結合のパーセンテージを表す(MCV=4.3±0.9、平均±標準偏差; n=3); 縦座標は、好中球に結合した志賀毒素2のパーセンテージを示す; 横座標は、使用されたNAB815の濃度(μg/ml)を示す; 毒素あり及びNAB815なしの対照試料に対して、
***P<0.001 (スチューデント検定)。
【
図4】NAB815の濃度の10を底とする対数の関数として、ヒト好中球に結合した志賀毒素2のパーセンテージを示す図である; 縦座標は、NAB815なしでの志賀毒素2の存在下で得られた値に対する、好中球に結合した志賀毒素2のパーセンテージを示す; 横座標は、使用されたNAB815の濃度(μg/ml)の10を底とする対数を示す; IC
50は、志賀毒素2のパーセンテージとNAB815の濃度の対数との間の直線回帰を適用する最小二乗法によって計算した; ピアソン係数(r)を使用して、変数の間の相関を評価した。
【
図5】ラージ細胞と志賀毒素2(Stx2)との間の相互作用に対する、NAB815の存在の効果を示す図である; 実線及び点線は、それぞれ、NAB815の非存在下及び存在下で、種々の濃度の志賀毒素2で処理されたラージ細胞におけるタンパク質合成の程度を示す; 縦座標は、毒素なしの対照に対する、種々の濃度の志賀毒素2でラージ細胞において得られたタンパク質合成のパーセンテージを示す; 横座標は、使用した志賀毒素2の濃度(pM-ピコモル濃度)の10を底とする対数を示す。
【
図6】ヒト健常ドナー由来の血液試料中の好中球/血小板凝集塊の形成に対する、志賀毒素2(Stx2a)、ポリミキシンB(PMX)、NAB815、混入した菌体内毒素(LPS)の存在の効果を示す図である; 縦座標は、好中球の集団全体に対する凝集塊のパーセンテージを示す; 種々の棒(左から右へ)は、未処理試料(NT)について、並びに志賀毒素2(Stx2a)、Stx2a+ポリミキシンB(PMX)、Stx2a+NAB815、混入した菌体内毒素(LPS)及び95℃で30分処置された志賀毒素2(Stx2a(T))で処置された試料について得られた結果を示す; 示されるデータは、平均±標準偏差(n=2)に関し、毒素あり及び他の成分又は処置なしの対照試料に対して
*P<0.05、
**P<0.01(スチューデント検定)。
【
図7】ヒト健常ドナー由来の血液試料中の単球/血小板凝集塊の形成に対する、志賀毒素2(Stx2a)、ポリミキシンB(PMX)、NAB815、混入した菌体内毒素(LPS)の存在の効果を示す図である; 縦座標は、単球の集団全体に対する凝集塊のパーセンテージを示す; 種々の棒(左から右へ)は、未処理試料(NT)について、並びに志賀毒素2(Stx2a)、Stx2a+ポリミキシンB(PMX)、Stx2a+NAB815、混入した菌体内毒素(LPS)及び95℃で30分処置された志賀毒素2(Stx2a(T))で処置された試料について得られた結果を示す; 示されるデータは、平均±標準偏差(n=2)に関し、毒素あり及び他の成分又は処置なしの対照試料に対して
*P<0.05 (スチューデント検定)。
【
図8】毒素で処置した試料(3人の異なるヒト健常ドナー由来の血液)に関する、好中球/血小板凝集塊のパーセンテージを示す図である; 縦座標は、試料に志賀毒素2単独(Stx2a)を添加することによって得られた凝集塊全体に対する、凝集塊のパーセンテージを示す; 種々の棒(左から右へ)は、志賀毒素2(Stx2a)、Stx2a+ポリミキシンB(PMX)、Stx2a+NAB815、混入した菌体内毒素(LPS)及び95℃で30分処置された志賀毒素2(Stx2a(T))で処置された試料について得られた結果を示す; 示されるデータは、平均±標準偏差(n=3)に関する; 志賀毒素2との血液のインキュベーションの後に、好中球の集団全体にわたる好中球/血小板凝集塊のパーセンテージは、67.8%±17.2%に等しく(平均±標準偏差、n=3)、毒素あり及び他の成分又は処置なしの対照試料に対して
***P<0.001 (スチューデント検定)。
【
図9】毒素で処置した試料(3人の異なるヒト健常ドナー由来の血液)に関する、単球/血小板凝集塊のパーセンテージを示す図である; 縦座標は、試料に志賀毒素2単独(Stx2a)を添加することによって得られた凝集塊全体に対する、凝集塊のパーセンテージを示す; 種々の棒(左から右へ)は、志賀毒素2(Stx2a)、Stx2a+ポリミキシンB(PMX)、Stx2a+NAB815、混入した菌体内毒素(LPS)及び95℃で30分の処置の後の志賀毒素2(Stx2a(T))で処置された試料について得られた結果を示す; 示されるデータは、平均±標準偏差(n=3)に関する; 志賀毒素2との血液のインキュベーションの後に、単球の集団全体にわたる単球/血小板凝集塊のパーセンテージは、62.5%±10.7%に等しく(平均±標準偏差、n=3)、毒素あり及び他の成分又は処置なしの対照試料に対して
***P<0.001 (スチューデント検定)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の第1の態様に従って、溶血性尿毒症症候群の処置(及び/又は予防)のためのNAB815化合物(又は薬学的に許容され得るその塩)が提供される。特に、哺乳動物(更に特に、ヒト)の溶血性尿毒症症候群の処置(及び/又は予防)のために、NAB815化合物(又は薬学的に許容され得るその塩)が提供される。
【0016】
或いは、又はその上、哺乳動物の循環系内の血液中に少なくとも1つの志賀毒素(特に志賀毒素2)を有する哺乳動物(特にヒト)の処置(における使用のために)のために、NAB815(又は薬学的に許容され得るその塩)が提供される。必須ではないが、有利には、哺乳動物(特に、ヒト)の循環系内の血液中に存在する志賀毒素(特に、志賀毒素2)は、白血球並びに/又は血小板と会合して、凝集塊及び/若しくは細胞外小胞を形成する。
【0017】
一部の非限定的な実施形態によると、溶血性尿毒症症候群の処置(及び/又は)予防のためのNAB815化合物の薬学的に許容され得る塩が提供される。
【0018】
或いは、又はその上、哺乳動物の循環系内の血液中に少なくとも1つの志賀毒素(特に志賀毒素2)を有する哺乳動物(特にヒト)の処置(における使用のために)のために、NAB815の薬学的に許容され得る塩が提供される。必須ではないが、有利には、哺乳動物の(特にヒト)の循環系内の血液中に存在する志賀毒素(特に志賀毒素2)は、白血球並びに/又は血小板と会合して、凝集塊及び/若しくは細胞外小胞を形成する。
【0019】
NAB815は、以下の式(I)を有する:
【0020】
【0021】
式中: LはOA、R1は-Dab、R2は-Thr、R3は-DThr、R4は-Dab、R5は-Dab、R6は-DPhe、R7は-Leu、R8は-Abu、R9は-Dab、R10は-Thrである。
【0022】
より正確には、配列R1~R10は、配列Dab-Thr-DThr-cy[Dab-Dab-DPhe-Leu-Abu-Dab-Thr-]、即ち配列番号: 1を表す。言い換えれば、NAB815はOA-Dab-Thr-DThr-cy[Dab-Dab-DPhe-Leu-Abu-Dab-Thr-]、即ちOA-配列番号1である。
【0023】
本明細書中で、NAB815のR1、R5及びR9のDabのそれぞれは、それぞれ正電荷を有することが指摘されるべきである。
【0024】
更に特に、NAB815は、典型的には、塩(特に、薬学的に許容され得る塩)を形成するように、1つ又は複数の対イオン(例えば、硫酸イオン)と会合する。
【0025】
本明細書中で使用される略語は、以下の意味を有する: Dabは、α,γ-ジアミノ-n-ブチリル(即ち、2,4-ジアミノブチリル)であり; Abuは2-アミノブチリル(aminobutyryle)であり; ThrはL-スレオニン; DThrはD-スレオニンであり; DPheはD-フェニルアラニンであり; LeuはL-ロイシンであり; DSerはD-セリンであり; OAはオクタノイルであり; MOAはメチルオクタノイルであり; MHAはメチルヘプタノイルであり; Acはアシルであり; cy[...]は、角括弧で示された成分からなり、最初と最後の成分が結合している、環を示す。
【0026】
本明細書中で、「薬学的に許容され得る塩」は、元の化合物の生物学的特徴を維持する塩を意味する。これらの塩の調製のための方法の非限定的な例としては、以下の方法が挙げられる: 元の化合物の遊離塩基への無機酸(例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸等)又は有機酸(例えば、酢酸、シュウ酸、マレイン酸、メタンスルホン酸、サリチル酸、コハク酸、クエン酸等)の添加; 元の化合物の酸プロトン(acid proton)の、金属カチオン(例えば、アルカリ金属又はアルミニウム等のカチオン)での置換; 元の化合物の酸プロトンの、有機塩基 (例えば、ジメチルアミン、トリエチルアミン等)への転移及び前記有機塩基との配位。
【0027】
薬学的に許容され得る塩の特定の例は、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酢酸、クエン酸、アスコルビン酸、マレイン酸、安息香酸、酒石酸、炭酸等の非毒性の酸の使用から得られる酸付加塩である。薬学的に許容され得る塩の形成のために典型的に使用される酸は、硫酸である。
【0028】
本明細書において、「プロドラッグ」は、in vivoで薬理学的に活性がある物質に変換される薬剤を意味する。プロドラッグは、対応する薬理学的に活性がある物質と比較して、いくつかの利点を有し得る。例えば、患者に投与することがより容易であり、並びに/又はより大きな溶解度及び/若しくは細胞膜を通過する優れた能力を有し得る。NAB815に言及する場合、考え得るプロドラッグも含まれることを意味する。
【0029】
NAB815は、欧州特許第3045469号の実施例1に開示されているものに従って合成され得る。
【0030】
NAB815(又は薬学的に許容され得るその塩)が、特にヒト腎尿細管細胞に対して細胞毒性を有し(IC50 334μg/mL)、ポリミキシンB(IC50 18μg/mL)のおよそ20分の1であることが証明されている(Vaaraら、2017年Peptides 91、8~12頁)。
【0031】
したがって、NAB815の使用は、薬物によって引き起こされる腎毒性のリスクの減少につながる。
【0032】
NAB815の構造は、環状部分に3つの正電荷を持つ他のトリ陽イオン性環状リポノナペプチド誘導体: NAB7061(Vaaraら、2008年 Antimicrob. Agents Chemother. 52:3229~3236頁)及びNAB741(Vaaraら、2010年 Antimicrob Agents Chemother. 54: 3341~3346頁)とは異なり、毒性に関与する正電荷が5つから3つへ減少しており、そのうち2つが分子の環状部分にあるので、ポリミキシンB(環状部分に3つ、直鎖状部分に2つの電荷があるペンタ陽イオン性環状リポデカペプチド、Table 1 (表1))の1つと実質的に異なる(Table 1 (表1))。
【0033】
下記のTable 1 (表1)は、前述の化合物についての、式(I)の種々の部分の意味を示す。
【0034】
【0035】
より正確には、ポリミキシンB、NAB7061及びNAB741についての配列R4~R10は、配列cy[Dab-Dab-DPhe-Leu-Dab-Dab-Thr-]、即ち配列番号2を表す。したがって、言い換えれば: ポリミキシンBはMOA/MHA-Dab-Thr-Dab-cy[Dab-Dab-DPhe-Leu-Dab-Dab-Thr-]、即ちMOA/MHA-Dab-Thr-Dab-配列番号2; NAB7061はOA-Thr-Abu-cy[Dab-Dab-DPhe-Leu-Dab-Dab-Thr-]、即ちOA-Thr-Abu-配列番号2; NAB741はAc-Thr-DSer-cy[Dab-Dab-DPhe-Leu-Dab-Dab-Thr-]、即ちAc-Thr-DSer-配列番号2である。
【0036】
上に示した構造(即ち式(I))において、Dab(R4のDab、即ち環状部分の形成を決定するDabを除く)が、各それぞれの正電荷を有することは指摘されるべきである。
【0037】
より具体的には、ポリミキシンB、NAB7061及びNAB741は、1つ又は複数の対イオン(例えば、硫酸イオン)と典型的に会合して、塩(特に、薬学的に許容され得る塩)を形成する。
【0038】
実験によってNAB815が、溶血性尿毒症症候群の処置及び/又は予防について、ポリミキシンB、NAB7061及びNAB741よりも驚くほど活性が高いことが示されたことが、指摘されるべきである。特に、NAB815は、志賀毒素2とヒト循環細胞中のTLR4との相互作用の阻害において驚くほど有意に活性が高く(ヒト好中球、
図1~
図4);志賀毒素2と直接相互作用し;志賀毒素2とヒト循環細胞の間の相互作用の結果を回避するのに驚くほど有意に活性が高い(単球/血小板及び好中球/血小板凝集塊の形成を遮断する、
図6~
図9)ことが証明された。
【0039】
したがって、NAB815は、非常に少ない量で有効である。
【0040】
これは、患者の血液中にさらなる志賀毒素を放出するリスクが低くNAB815を使用し得るというさらなる利点につながる。
【0041】
この点について、志賀毒素を産生する細菌に感染した患者における抗生物質療法が、溶血性尿毒症症候群の処置/予防に通常推奨されないことが、留意されるべきである(Wurznerら、2014年Semin Thromb Hemost. 40、508~516頁)。これは、抗生物質が、細菌を攻撃することによって、患者の血液中の志賀毒素の濃度の増大を決定し得ることによる(これらの志賀毒素は、おそらく抗生物質によって攻撃された細菌によって放出される)。
【0042】
言い換えれば、NAB815は、非常に少ない量で働き得るので、驚いたことに、志賀毒素を産生する細菌に感染したか又は溶血性尿毒症症候群を患った患者にとって抗生物質は有害である(悪化させる)とされてきた技術的偏見をうまく克服する。
【0043】
上記に照らして、本明細書中で、溶血性尿毒症症候群の予防(及びおそらく処置)を参照する場合、志賀毒素を産生する細菌に対するNAB815の抗生物質作用を意図しない。
【0044】
本発明のさらなる態様に従って、溶血性尿毒症症候群の処置(及び/又は予防)のための医薬製剤を製造するための、NAB815化合物(又は薬学的に許容され得るその塩)の使用が提供される。或いは、又はその上、循環系(哺乳動物の、特に、ヒトの)内の血液中に少なくとも1つの志賀毒素(特に、志賀毒素2)を有する哺乳動物(特にヒト)を処置するための医薬製剤を製造するためのNAB815化合物(又は薬学的に許容され得るその塩)の使用が提供される。特に、循環系内の血液中に存在する志賀毒素(特に志賀毒素2)は、哺乳動物(より正確にヒト)の循環系内の血液中で白血球並びに/又は血小板と会合して、凝集塊及び/若しくは細胞外小胞を形成する。
【0045】
本発明のさらなる態様に従って、上で定義した一般式(I)を有する化合物又は薬学的に許容され得るその塩(特に、薬学的に許容され得る賦形剤及び/又は希釈剤)を含む医薬製剤が、提供される。
【0046】
必須ではないが、有利には、医薬製剤は、NAB815の薬学的に許容され得る塩を含む。
【0047】
医薬製剤(NAB815を含む)は、一部の非限定的な実施形態によると、非経口経路、経腸経路、局所経路(又はそれらの組み合わせ)からなる群から選択される経路による投与のためのものである。
【0048】
必須ではないが、有利には、医薬製剤は、1つ又は複数の薬学的に許容され得る賦形剤を更に含む。
【0049】
例えば、医薬製剤は錠剤であり得、薬学的に許容され得る賦形剤として、食品用フルクトースを含み得る。
【0050】
一部の非限定的な例では、医薬製剤(NAB815を含む)は、皮下投与、静脈内投与、関節内投与、髄腔内投与、筋肉内投与、腹腔内投与、皮内投与(皮内注射)、経皮投与、直腸内投与、頬側投与、口腔粘膜投与、経鼻投与、点眼、経口投与、吸入投与及び/又は移植のためのものである。
【0051】
必須ではないが、有利には、医薬製剤(NAB815を含む)は、注射又は継続投与(他の同様の化合物について公知のものに従う)による非経口投与のためのものである。注射液製剤は、単位用量(unitary dose)の形態、例えば、防腐剤を含む、球状のもの又は複数投与型容器(multi-dose container)の形態であり得る。医薬製剤は、水又は油性液体中の懸濁液形態であり得、分散剤及び安定化剤である製剤の要素を含有し得る。別法として、NAB815は、散剤であり得、目的に適した液体、例えば滅菌水中に、使用の直前に溶解され得る。
【0052】
有利には、必須ではないが、医薬製剤(NAB815を含む)は、組成物の局所投与(皮膚上)及び/又は経口投与によって投与される。例えば、この場合(経口投与)、一部の変形によると、組成物は、液体水様形態(液剤、シロップ、滴下剤、等)又は固体形態(錠剤、丸剤、カプセル、等)である。
【0053】
経口投与のために、医薬製剤は、例えば、結合剤(例えば、α化コーンスターチ、ポリビニルピロリドン又はメチルセルロース)、充填剤(例えば、ラクトース、微結晶セルロース又はリン酸水素カルシウム)、添加剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、シリカ)、崩壊剤(例えば、ジャガイモデンプン)及び/又は滑沢剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)としての薬学的に許容され得る賦形剤とともに公知の方法によって調製された錠剤又はカプセルの形態であり得る。錠剤は、公知の方法によって被覆され得る。経口投与のための液体製剤は、例えば、溶液、シロップ若しくは懸濁液の形態を有し得るか、又は使用前に水若しくは別の液体に溶解し得る乾燥品の形態であり得る。これらの製剤は、懸濁剤(例えば、ソルビトール、セルロース誘導体、食用の硬化脂肪)、乳化剤(例えば、レシチン又はアカシア)、非水状液(non-watery liquid) (例えば、アーモンド油、油エステル、エチルアルコール又は分画された植物油)及び/又は防腐剤(例えば、メチル-若しくはプロピルp-ヒドロキシ安息香酸、ソルビン酸又はアスコルビン酸)としての薬学的に許容され得る賦形剤とともに、公知の方法で調製され得る。製剤はまた、適切な場合に、緩衝塩、着色剤、香料及び/又は甘味料を含み得る。
【0054】
経口投与製剤は、制御された様式で活性化合物を放出するように、公知の様式で製剤化され得る。
【0055】
一部の非限定的な例では、医薬製剤は(NAB815を含む)は、例えばカカオ脂又は他のグリセリド等の公知の座薬賦形剤を含む、座薬又はバルブシリンジ等の直腸内投与によって投与されるように(公知の様式で)設計し得る。
【0056】
その上、又は或いは、医薬製剤(NAB815を含む)は、長期放出性組成物として、(公知の様式で)製剤化され得る。これらの長期放出性組成物は、例えば、移植(例えば皮下又は筋肉内移植)によって、又は筋肉内注射によって、投与され得る。したがって、例えば、医薬製剤(NAB815を含む)は、比較的難溶性の塩等の、比較的難溶性である適切なポリマー及び/又は疎水性物質(例えば、乳剤又は油)及び/又はイオン交換レジン及び/又は(NAB81の)誘導体を含む。
【0057】
鼻腔内投与のために、医薬製剤は、例えば適切な輸送体のための粉末で、(公知の)デバイスによる投与のために製剤化され得る。
【0058】
一部の実施形態では、医薬製剤は、活性化合物としてNAB815(特に、その塩)のみを含み、或いは、1つ又は複数のさらなる有効成分、特に抗菌剤を含む。
【0059】
これらのさらなる有効成分は、NAB815と、同時に、又は任意の順序で順に、投与され得る。
【0060】
NAB815は、適切な製剤で製剤化され得、適切な投与形態は、例えば、溶液、分散体、懸濁液、粉末、カプセル、錠剤、丸剤、徐放性カプセル、徐放性錠剤及び徐放性丸剤を含む。
【0061】
本発明のさらなる態様に従って、哺乳動物における溶血性尿毒症症候群の処置及び/又は予防のための方法が提供される。方法は、哺乳動物に用量のNAB815(又は薬学的に許容され得るその塩)を投与する工程を含む。
【0062】
その上、又は或いは、哺乳動物(特にヒト)の循環系内の血液中で白血球並びに/又は血小板と会合して、凝集塊及び/若しくは細胞外小胞を形成する少なくとも1つの志賀毒素2を有する哺乳動物(特に、ヒト)を処置するための方法が提供される。方法は、哺乳動物に用量のNAB815(又は薬学的に許容され得るその塩)を投与する工程を含む。
【0063】
処置され得る哺乳動物の例は: ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ及びウマ等の家畜; ネコ及びイヌ等の愛玩動物; モルモット、ウサギ、マウス及びラット等の実験動物; ヒトである。
【0064】
NAB815は、種々の方法で、例えば非経口経路、局所経路及び/又は経腸経路によって、(哺乳動物に-特にヒトに)投与され得る。
【0065】
一部の特定の場合では、NAB815は、皮下投与、静脈内投与、関節内投与、髄腔内投与、筋肉内投与、腹腔内投与及び皮内投与によって、並びに経皮投与、直腸内投与、頬側投与、口腔粘膜投与、経鼻投与、点眼によって、吸入によって、及び経口投与によって、投与され得る。
【0066】
NAB815の投与量は、患者の年齢及び状態に依存し、したがって、投与量は、医師によってケースバイケースで決定されるべきである。投与量はまた、投与方法に依存する。使用可能な用量は、例えば、1日あたり、体重に対して0.1mg/Kg~300mg/Kgの間(特に、0.1mg/Kg~100mg/Kg; 更に特に、0.1mg/Kg~30mg/Kg)の範囲であり得る。
【0067】
NAB815は、公知及び使用可能な様式で製剤化された1つ又は複数の適切な治療剤と組み合わせて投与され得る。
【0068】
本発明のさらなる態様に従って、哺乳動物における溶血性尿毒症症候群の処置及び/又は予防のための方法が提供される。特に、本方法は、哺乳動物に用量のNAB815又は薬学的に許容され得るその塩を投与する工程を含む。
【0069】
その上、又は或いは、ヒトの循環系内の血液中で白血球並びに/又は血小板と会合して、凝集塊及び/若しくは細胞外小胞を形成する少なくとも1つの志賀毒素2を有する哺乳動物(特に、ヒト)を処置する方法が提供され; その方法は、ヒトに用量のNAB815又は薬学的に許容され得るその塩を投与する工程を含む。
【0070】
他に明白に示されなければ、上記の参考文献(論文、書籍、特許出願等)の内容は、本明細書中に全体的に引用される。特に、上記の参考文献は、参照により本明細書に組み込まれている。
【0071】
本発明のさらなる特徴は、単に説明的で非限定的な例の以下の説明の熟読することにより最も良く理解されることになる。
【実施例1】
【0072】
この例は、NAB815が、TLR4を発現する循環細胞(ヒト好中球)への志賀毒素2の結合の予防及び溶血性尿毒症症候群の発生への関与が示唆されている、続く機能的帰結の阻止において、ポリミキシンBよりもはるかに低い濃度で有効であることを示す。
【0073】
好中球への志賀毒素2の結合は、毒素との、3人の異なるドナーのヒト血液から単離されたこれらの細胞のインキュベーションの後、間接的な蛍光ベースのフローサイトメトリーによって、測定し(
図3及び
図4); 結果を、好中球に結合した毒素のパーセンテージとして表す。手短に言えば、上述のように、低混入量の菌体内毒素を伴って無菌状態で単離されたヒト好中球(99.7%の純度)を、Ficoll-Paqueでの遠心分離とその後のデキストランでの沈降、赤血球の低浸透性の溶解、及びEasySep Human Nutrophil Enrichment Kit(Stemcell Technologies社、バンクーバー、BC、カナダ)による混入した細胞の陽性除去(positive removal)の後、健常ドナーのバフィコートから得た(Brigottiら、2013年J Immunol.191、4748~4758頁)。好中球への志賀毒素2の結合についての実験において、本発明者らは、毒素の非特異的な喪失を回避するために、低内毒素含有量(≦1Eu/mg、Sigma社)でウシ血清アルブミン(BSA: bovine serum albumin)1%を含むPBS(リン酸緩衝食塩水: phosphate buffered saline)で前処理されたエッペンドルフチューブを使用した(Brigottiら、2013年J Immunol.191、4748~4758頁)。種々の濃度の、NAB741、NAB7061及びNAB815と呼ばれるポリミキシンBの誘導体の存在下及び非存在下で(10mg/mlの濃度でPBSに再懸濁され、同じバッファーで希釈される)、好中球(5x10
5/ml)を、250μlのPBS-BSA中の志賀毒素2(60nM)とともに37℃で90分インキュベートした。インキュベーションの後、200xgで5分間の遠心分離によって細胞を沈降させ、37℃で、100μlの同じバッファーで3回洗浄した。非特異的結合を回避するためのヒト血清の存在下で、マウスモノクローナル抗毒素抗体(IgG)とのインキュベーション、PBSでの洗浄、及びその後の抗マウスIgG蛍光ヒツジ抗体(FITC)の添加によって、好中球に結合した志賀毒素2の量の決定を行った。蛍光ベースのフローサイトメトリー解析によって、好中球に付随した蛍光の検出が可能になる(Tazzariら、2004年Cytometry B Clin. Cytom.61、40~44頁)。得られた蛍光ヒストグラムのMCVパラメータ(蛍光の平均チャネル値)を、好中球への志賀毒素2の結合の定量決定について選択した。
【0074】
他の2つのポリミキシンBの低毒性誘導体の効果を、NAB815のものと比較した(常に上述の手順の後で)。有意でない結果、及び効果が用量依存的でないということによって示されるように、NAB741及びNAB7061はともに、好中球への志賀毒素2の結合の阻害剤としてほとんど有効でないことが証明された(
図1及び
図2)。反対に、NAB815は、好中球/志賀毒素2相互作用の強力な阻害剤であり、そのため1μg/mlより低い濃度でも著しい用量依存的関係を有する再現性のある結果を決定することを証明した(
図3及び
図4)。そのため、NAB815は、志賀毒素2とTLR4との間の相互作用の、驚くほど優良な阻害剤である。実際、NAB815についてのこれらの実験によって計算されたIC
50(50%阻害を決定する濃度)(0.057μg/ml)は、驚いたことに、同様の条件でポリミキシンBで得られたもの(3.5μg/ml)のおよそ60分の1である(Carnicelliら、2016年J. Immunol. 196、1177~1185頁)。細胞を60nM毒素とともにインキュベートすることによって得られた、好中球への志賀毒素2の結合が、43nM NAB815(0.057μg/ml)の存在下で50%阻害されることが、指摘されるべきであり、これは、志賀毒素2とNAB815との間の1:1化学量論比を示す。ポリミキシンBの特定の非毒性誘導体(NAB815)が親化合物よりはるかに低い濃度で効果的であると証明されたので、結果は革新的で驚くべきものである。一方、同じ抗生物質の他の2つのほとんど毒性のない誘導体(NAB741、NAB7061)はいかなる効果ももたらさなかった。
【実施例2】
【0075】
この例は、NAB815が志賀毒素2と直接相互作用することを示した。NAB815/志賀毒素2の相互作用の間接的証拠を得るために、化合物中に存在する12個のトリプトファン残基による志賀毒素2の天然の蛍光を使用した。毒素(PBS 300μL中に0.5μM)を295nmで励起することにより、プラトーに達するまで増大させる量のNAB815の存在(0.05~5μM)によって徐々に減少する(消光)蛍光の放射(349nmで最大)を得ることが可能になる(経験終了時における試料容積326μL)。同じ波長で励起されたNAB815は、蛍光放射を決定しない。放射結果を、分光光度の評価により各点で算出した抗生物質の添加による毒素の濃度の希釈に対して補正した。NAB815の存在下で化学量論的な毒素/NAB815比1:1で、放射の最大減少がおよそ10%であり、複合体の解離定数(Kd)0.5×10
-8Mは、志賀毒素2に対するNAB815の親和性が有意であることを示す。放射の部分的な減少(10%)は、NAB815と志賀毒素2のA鎖との相互作用と説明され得る。実際に、Bの五量体は、10個のトリプトファンを含有し(各Bサブユニット内に2個)、それ故、NAB815に起因する、5本のB鎖それぞれにあるこれらトリプトファンのうち1つが消光されたのなら、放射の更に大きく有意な減少及び不定比性の毒素/NAB815比を決定したであろう。逆もまた同じで、A鎖は、ホロ毒素内に存在する12個のトリプトファンのうち2つだけを含有し、したがって、蛍光放射の部分的な減少は、NAB815と志賀毒素2のA鎖との相互作用で説明され得る。志賀毒素2(Mw 68000)と比較してNAB815の小さい質量(Mw 1319.44)は、A鎖の1つの単一のトリプトファンの消光と一致する。志賀毒素のB鎖五量体と相互作用する同じ受容体(Gb3Cer)を発現するラージ細胞(バーキットリンパ腫)等のヒト細胞、及びin vivoでの標的細胞が、NAB815によって保護されないことは指摘されるべきである(
図5)。中毒を、NAB815の存在(0.3μg/mL)及び非存在下で異なる濃度の志賀毒素2で処理したラージ細胞において得たタンパク質合成の阻害[放射性アミノ酸の存在下で測定した; Arfilliら、2015年 Toxins (Basel) 7、4564~4576頁]によって評価した。ポリミキシンBでこれまでに証明されているように(Carnicelliら、2016年 J. Immunol. 196、1177~1185頁)、NAB815に保護効果はない。要約すれば、NAB815は、ポリミキシンBの様にTLR4/毒素相互作用を特異的に阻害する。
【実施例3】
【0076】
この例は、NAB815が、ヒト循環細胞において志賀毒素2/TLR4相互作用の機能的帰結を遮断することを証明した。
【0077】
NAB815の最も重要な効果は、毒血症の初期段階の間(HUSの発症前)に患者において観察される白血球/血小板凝集塊の形成において得られ、それはHUSの発症に関係する細胞外小胞の形成と相関する。これら凝集塊の形成を、前述のとおり、直接蛍光フローサイトメトリーにより評価した(Carnicelliら、2016年 J. Immunol. 196、1177~1185頁)。手短に言えば、健康なドナーの非分画血液試料(1mL)を、志賀毒素2(1nM)と37℃で4時間インキュベートした。赤血球の浸透圧溶解後、試料を異なる蛍光モノクローナル抗体(mAb):血小板を検出するためのフィコエリトリン(PE)で印をつけた抗CD41、単球を検出するためのFITCで印をつけた抗CD14及び好中球を検出するためのフィコエリトリンシアニン5(PC5)で印をつけた抗CD16とインキュベートし、1回、顆粒細胞をフローサイトメーター(ゲート)で同定した。更に、対照を、適当な同位体抗体を用いて実施して偽陽性を除外した。CD14/CD41二重陽性を示した細胞集団及びCD16/CD41二重陽性を示した顆粒細胞集団を、それぞれ単球/血小板又は好中球/血小板凝集塊として同定した。
図6~
図9は、志賀毒素2(Stx2a)で処置したヒト血液における好中球/血小板又は単球/血小板凝集塊の形成に対するポリミキシンB(PMX)及びNAB815の効果を示す。
図6及び
図7は、代表的なドナーの血液で得られた結果を示す;より正確には、形成された凝集塊の数を、それぞれ単球及び好中球の総数と比較してパーセンテージとして表す。
図8及び
図9は、異なる3人のドナーの血液で得られた結果を示す(データを、形成された凝集塊のパーセンテージとして表す)。
【0078】
志賀毒素2の調製における唯一の混入した菌体内毒素の存在について実施した対照も示され(LPS、0.01EU、それ故、Stx2aの非存在下)、それは凝集塊の形成に対するいかなる効果も決定しない。
【0079】
熱不安定性対照[Stx2a(T)]によって示される通り、これら凝集塊の形成は、志賀毒素2だけに起因すると考えざるを得ない。
【0080】
単球/血小板及び好中球/血小板凝集塊の形成に対するNAB815の阻害性効果は、非常に低い濃度0.01μg/mL(志賀毒素2と比較しておよそ7倍モル過剰)でさえ明白である(70%以上の阻害)。
図6~
図9において、濃度0.1μg/mLにおけるNAB815及びポリミキシンBの効果が比較され:NAB815とは異なり、ポリミキシンBは有効でない。
【0081】
配列番号1(即ちDab-Thr-DThr-cy[Dab-Dab-DPhe-Leu-Abu-Dab-Thr-])は、SEQ ID NO:1に対応する。
【0082】
配列番号2(即ちcy[Dab-Dab-DPhe-Leu-Dab-Dab-Thr-])は、SEQ ID NO:2に対応する。
【0083】
ポリミキシンBの配列R1~R10(上のTable 1 (表1)を参照のこと)は、SEQ ID NO:3に対応する。
【0084】
NAB7061の配列R2~R10(上のTable 1 (表1)を参照のこと)は、SEQ ID NO:4に対応する。
【0085】
NAB741の配列R2~R10(上のTable 1 (表1)を参照のこと)は、SEQ ID NO:5に対応する。
【配列表】
【国際調査報告】