(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-06
(54)【発明の名称】癌細胞における異常な解糖的代謝を正常化する方法
(51)【国際特許分類】
A61N 1/32 20060101AFI20230227BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230227BHJP
A61K 31/138 20060101ALI20230227BHJP
A61K 33/24 20190101ALI20230227BHJP
A61K 31/513 20060101ALI20230227BHJP
A61K 31/337 20060101ALI20230227BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230227BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230227BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20230227BHJP
A61N 1/40 20060101ALI20230227BHJP
【FI】
A61N1/32
A61K45/00
A61K31/138
A61K33/24
A61K31/513
A61K31/337
A61P35/00
A61P43/00 125
A61P25/00
A61P43/00 105
A61N1/40
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022539233
(86)(22)【出願日】2020-12-24
(85)【翻訳文提出日】2022-06-24
(86)【国際出願番号】 US2020067010
(87)【国際公開番号】W WO2021134010
(87)【国際公開日】2021-07-01
(32)【優先日】2019-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503115205
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】チラグ・ビヘシュ・パテル
(72)【発明者】
【氏名】コリンヌ・ゲイ・ベナ
(72)【発明者】
【氏名】エドウィン・チャン
(72)【発明者】
【氏名】サンジヴ・サム・ガンビール
(72)【発明者】
【氏名】アルトセルヴァン・ナタラジャン
【テーマコード(参考)】
4C053
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C053JJ02
4C053JJ04
4C053JJ21
4C053JJ40
4C084AA17
4C084NA14
4C084ZA011
4C084ZB211
4C084ZB261
4C084ZC711
4C086AA01
4C086BA02
4C086BC43
4C086HA12
4C086HA24
4C086HA26
4C086HA28
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA01
4C086ZB21
4C086ZB26
4C206AA01
4C206FA05
4C206KA01
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZA01
4C206ZB21
4C206ZB26
(57)【要約】
癌細胞(例えば、神経膠芽腫細胞)の生存能力は、癌細胞にマンノースを投与すること;及び100~500kHzの間の周波数で癌細胞に交流電場を適用することによって、減少させ得る。交流電場での処置に対する感受性は、交流電場での処置の前及び後にPKM2プローブ(例えば、[18F]DASA)の取り込みを測定することによって決定し得る。特に、実験から、マンノースと交流電場との組合せによって、相乗的な抗神経膠芽腫の結果が生じることが示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経膠芽腫を有する患者にPKM2プローブを投与する工程;
神経膠芽腫由来の細胞におけるPKM2取り込みの第1のレベルを測定する工程;
100~500kHzの間の周波数の交流電場を使用して、第1のレベルの測定の後の処置に神経膠芽腫を曝露する工程;
神経膠芽腫を交流電場に曝露した後に、神経膠芽腫由来の細胞におけるPKM2取り込みの第2のレベルを測定する工程;及び、
第1のレベルが第2のレベルより少なくとも5%高いか否かに基づいて、患者が交流電場を使用した処置に対する感受性を有するか否かを決定する工程
を含む、交流電場での神経膠芽腫の処置に対する患者の感受性を決定する方法。
【請求項2】
PKM2プローブが、以下の構造:
【化1】
を有する[18F]DASA-23を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
交流電場が180~220kHzの間の周波数を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
神経膠芽腫を有する患者の神経膠芽腫細胞にPKM2プローブを投与する工程;
神経膠芽腫細胞におけるPKM2発現又はPKM2プローブの取り込みの第1のレベルを測定する工程;
第1のレベルを測定した後に、第1の時間、神経膠芽腫細胞を100~500kHzの間の周波数の交流電場に曝露する工程;
第1の時間の後、神経膠芽腫細胞におけるPKM2発現又はPKM2プローブの取り込みの第2のレベルを測定する工程;及び、
第1のレベルが第2のレベルより少なくとも5%高い場合に、交流電場への神経膠芽腫細胞の曝露を継続する工程
を含む、神経膠芽腫細胞の生存能力を減少させる方法。
【請求項5】
PKM2プローブが、以下の構造:
【化2】
を有する[18F]DASA-23を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
交流電場が180~220kHzの間の周波数を有する、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
神経膠芽腫を有する患者の細胞に、イメージングプローブで標識されたマンノースを投与する工程;
神経膠芽腫細胞における、イメージングプローブで標識されたマンノースの取り込みの第1のレベルを測定する工程;
第1のレベルを測定した後、第1の時間、100~500kHzの間の周波数の交流電場で神経膠芽腫を処置する工程;
第1の時間の後の、神経膠芽腫細胞における、イメージングプローブで標識されたマンノースの取り込みの第2のレベルを測定する工程;及び
第1のレベルが第2のレベルより少なくとも10%低い場合に、交流電場を使用した神経膠芽腫の治療を継続させる工程を含む、
交流電場による神経膠芽腫の処置に対する患者の感受性を決定する方法。
【請求項8】
交流電場が180~220kHzの間の周波数を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
神経膠芽腫を有する患者の細胞にマンノースを投与する工程、及び、次いで、100~500kHzの間の周波数の交流電場に神経膠芽腫細胞を曝露する工程を含む、
神経膠芽腫細胞の生存能力を減少させる方法。
【請求項10】
交流電場が180~220kHzの間の周波数を有する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
癌を有する患者にPKM2プローブを投与する工程;
患者の癌細胞におけるPKM2取り込みの第1のレベルを測定する工程;
第1のレベルを測定した後、100~500kHzの間の周波数の交流電場を使用した処置に癌細胞を曝露する工程;
癌細胞におけるPKM2取り込みの第2のレベルを測定する工程;及び
第1のレベルが第2のレベルより少なくとも5%高いか否かに基づいて、患者が交流電場を使用した処置に対する感受性を有するか否かを決定する工程
を含む、交流電場での癌の処置に対する患者の感受性を決定する方法。
【請求項12】
PKM2プローブが、以下の構造:
【化3】
を有する[18F]DASA-23を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
癌を有する患者にPKM2プローブを投与する工程;
患者由来の癌細胞におけるPKM2発現又はPKM2プローブの取り込みの第1のレベルを測定する工程;
第1のレベルを測定した後、第1の時間、癌細胞を100~500kHzの間の周波数の交流電場に曝露する工程;
第1の時間の後、癌細胞におけるPKM2発現又はPKM2プローブの取り込みの第2のレベルを測定する工程;及び、
第1のレベルが第2のレベルより少なくとも5%高い場合に、交流電場への癌細胞の曝露を継続させる工程
を含む、癌細胞の生存能力を減少させる方法。
【請求項14】
PKM2プローブが、以下の構造:
【化4】
を有する[18F]DASA-23を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
イメージングプローブで標識されたマンノースを患者に投与する工程;
患者由来の癌細胞における、イメージングプローブで標識されたマンノースの取り込みの第1のレベルを測定する工程;
第1のレベルを測定した後、第1の時間、100~500kHzの間の周波数の交流電場で癌細胞を処置する工程;
第1の時間の後、癌細胞における、イメージングプローブで標識されたマンノースの取り込みの第2のレベルを測定する工程;及び、
第1のレベルが第2のレベルより少なくとも10%低い場合に、交流電場を使用した癌細胞の処置を継続させる工程を含む、
交流電場を使用した癌の処置に対する患者の感受性を決定する方法。
【請求項16】
癌を有する患者にマンノースを投与する工程、及び、100~500kHzの間の周波数の交流電場に患者由来の癌細胞を曝露する工程を含む、癌細胞の生存能力を減少させる方法。
【請求項17】
癌を有する患者にPKM2プローブを投与する工程;
患者由来の癌細胞におけるPKM2発現又はPKM2プローブの取り込みの第1のレベルを測定する工程;
第1のレベルを測定した後、第1の時間、癌細胞を100~500kHzの間の周波数の交流電場に曝露する工程;
第1の時間の後、癌細胞におけるPKM2発現又はPKM2プローブの取り込みの第2のレベルを測定する工程;及び、
第1のレベルが第2のレベルより少なくとも5%高い場合に、癌細胞に化学療法剤を投与する工程
を含む、癌細胞の生存能力を減少させる方法。
【請求項18】
化学療法剤が、タモキシフェン、シスプラチン、5-フルオロウラシル(5-FU)、及びドセタキセルからなる群から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
化学療法剤がシスプラチンである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
交流電場への癌細胞の曝露を継続させる工程を更に含む、請求項17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照により全体が本明細書に組み込まれている、2019年12月26日に出願した米国仮出願第62/953,704号の優先権を主張するものである。
【背景技術】
【0002】
腫瘍治療電場(TTフィールド:Tumor Treating Fields)は、低強度の中間周波数(例えば、100~500kHz)の交流電場の非侵襲的適用によって送達される効果的な抗悪性腫瘍治療法である。TTフィールドは、極微小管に対して方向性のある力を発揮し、紡錘体の正常な集合に介入する。微小管動態へのかかる介入は、異常な紡錘体形成及びその後の有糸分裂停止又は遅延をもたらす。細胞は、有糸分裂停止で死に得るか、又は正常若しくは異常な異数体子孫のいずれかの形成につながる細胞分裂に進み得る。四倍体細胞の形成は、ずれによる有糸分裂終了によって起り得るか、又は不適切な細胞分裂の間に起こり得るかのいずれかである。異常な娘細胞は、その後の静止期に死に得るか、永久的な停止を経得るか、又はさらなる有糸分裂によって増殖し得、そこでさらなるTTフィールド攻撃に供される。Giladi Mら、Sci Rep.2015;5:18046頁。
【0003】
in vivo環境において、TTフィールド療法は、ウェアラブルかつポータブルなデバイス(Optune(登録商標))を使用して送達し得る。送達システムは、電場ジェネレーター、4つの粘着パッチ(非侵襲的な絶縁トランスデューサーアレイ)、充電式バッテリー及びキャリングケースを含む。トランスデューサーアレイは、皮膚に適用され、デバイス及びバッテリーに連結される。療法は、昼夜を問わず、可能な限り長時間にわたって装着されるように設計される。
【0004】
前臨床設定において、TTフィールドは、例えばInovitro(商標)TTフィールドラボベンチシステムを使用して、in vitroで適用され得る。Inovitro(商標)は、TTフィールドジェネレーター、及びプレート1枚あたり8枚のセラミック皿を含むベースプレートを含む。各皿の内部に配置された22mmの丸いカバーガラス上に、細胞を配置する。各皿において、高誘電率セラミックによって絶縁された2つの垂直な対のトランスデューサーアレイを使用して、TTフィールドを適用する。各皿のTTフィールドの方向付けは、1秒ごとに90°切り換えられ、それゆえ、細胞分裂の種々の配向軸をカバーする。
【0005】
ピルビン酸キナーゼM2(PKM2:pyruvate kinase M2)は、解糖の最終段階を触媒するので、癌代謝リプログラミングの重要なマーカーである。1-((2-フルオロ-6-[18F]フルオロフェニル)スルホニル)-4-((4-メトキシフェニル)スルホニル)ピペラジン(以下、[18F]DASA-23)は、神経膠芽腫(GBM:glioblastoma)において異常に発現されたPKM2を測定する放射性トレーサーである。GBM等の腫瘍を処置するための承認された治療法としては、外科手術、テモゾロミド(TMZ:temozolomide)化学療法、放射線治療、及びTTフィールドが挙げられる。そして、患者のGBMが所定の療法(例えば、TTフィールド療法)に応答しているか否かを早期に評価する重要な必要性がある。
【0006】
マンノースは、in vitro及びin vivoで腫瘍増殖を阻害することが示されている単糖である。Gonzalezら、Mannose impairs tumour growth and enhances chemotherapy、Nature、563巻、719~723頁(2018)。マンノース及びグルコースは、細胞取り込みの原因となるトランスポーターを共有している。(同文献)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Giladi Mら、Sci Rep.2015;5:18046頁
【非特許文献2】Gonzalezら、Mannose impairs tumour growth and enhances chemotherapy、Nature、563巻、719~723頁(2018)
【非特許文献3】Jiら、Tumor Biology、2017年6月:1~11頁
【非特許文献4】Gaoら、J Cancer Res Clin Oncol.2011年1月;137(1):65~72頁
【非特許文献5】Shinら、Electrophoresis、30巻、12号、2009年6月、2182~2192頁
【非特許文献6】Shiら、Cancer Science、101巻、6号、2010年6月、1447~1453頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、(1)PKM2プローブ(例えば、[18F]DASA-23等)を使用して、TTフィールドでの神経膠芽腫の処置に対する患者の感受性を決定し得ること、及び(2)マンノースとTTフィールドとの組合せで腫瘍(例えば、神経膠芽腫)を処置することによって相乗結果が提供されることを決定した。本発明者らはまた、標識されたマンノースを、神経膠芽腫代謝の変化を検出するため、並びにTTフィールド及びマンノースでの神経膠芽腫の処置に対する患者の感受性を決定するためのプローブとして使用し得ることも決定した。
【0010】
本明細書に記載される態様は、神経膠芽腫を有する患者にPKM2プローブを投与する工程;神経膠芽腫由来の細胞におけるPKM2取り込みの第1のレベルを測定する工程;100~500kHzの間の周波数の交流電場を使用して、第1のレベルの測定の後の処置に神経膠芽腫を曝露する工程;神経膠芽腫を交流電場に曝露した後に、神経膠芽腫由来の細胞におけるPKM2取り込みの第2のレベルを測定する工程;及び、第1のレベルが第2のレベルより少なくとも5%高いか否かに基づいて、患者が交流電場を使用した処置に対する感受性を有するか否かを決定する工程によって、交流電場での神経膠芽腫の処置に対する患者の感受性を決定する方法を提供する。
【0011】
さらなる態様は、神経膠芽腫を有する患者の神経膠芽腫細胞にPKM2プローブを投与する工程;神経膠芽腫細胞におけるPKM2発現又はPKM2プローブの取り込みの第1のレベルを測定する工程;第1のレベルを測定した後に、第1の時間、神経膠芽腫細胞を100~500kHzの間の周波数の交流電場に曝露する工程;第1の時間の後、神経膠芽腫細胞におけるPKM2発現又はPKM2プローブの取り込みの第2のレベルを測定する工程;及び、第1のレベルが第2のレベルより少なくとも5%高い場合に、交流電場への神経膠芽腫細胞の曝露を継続する工程によって、神経膠芽腫細胞の生存能力を減少させる方法を提供する。
【0012】
一部の例において、交流電場による神経膠芽腫の処置に対する患者の感受性を決定する方法が提供される。これらの方法は、神経膠芽腫を有する患者の細胞に、イメージングプローブで標識されたマンノースを投与する工程;神経膠芽腫細胞における、イメージングプローブで標識されたマンノースの取り込みの第1のレベルを測定する工程;第1のレベルを測定した後、第1の時間、100~500kHzの間の周波数の交流電場で神経膠芽腫を処置する工程;第1の時間の後の、神経膠芽腫細胞における、イメージングプローブで標識されたマンノースの取り込みの第2のレベルを測定する工程;及び第1のレベルが第2のレベルより少なくとも10%低い場合に、交流電場を使用した神経膠芽腫の治療を継続させる工程を含む。
【0013】
神経膠芽腫細胞の生存能力を減少させる例示的な方法が提供される。これらの方法は、神経膠芽腫を有する患者の細胞にマンノースを投与する工程、及び、次いで、100~500kHzの間の周波数の交流電場に神経膠芽腫細胞を曝露する工程を含む。
【0014】
本明細書に記載される態様は、癌を有する患者にPKM2プローブを投与する工程;患者の癌細胞におけるPKM2取り込みの第1のレベルを測定する工程;第1のレベルを測定した後、100~500kHzの間の周波数の交流電場を使用した処置に癌細胞を曝露する工程;癌細胞におけるPKM2取り込みの第2のレベルを測定する工程;及び、第1のレベルが第2のレベルより少なくとも5%高いか否かに基づいて、患者が交流電場を使用した処置に対する感受性を有するか否かを決定する工程によって、交流電場での癌の処置に対する患者の感受性を決定する方法を提供する。
【0015】
交流電場を使用した癌の処置に対する患者の感受性を決定する例示的な方法が提供される。これらの方法は、イメージングプローブで標識されたマンノースを患者に投与する工程;患者由来の癌細胞における、イメージングプローブで標識されたマンノースの取り込みの第1のレベルを測定する工程;第1のレベルを測定した後、第1の時間、100~500kHzの間の周波数の交流電場で癌細胞を処置する工程;第1の時間の後、癌細胞における、イメージングプローブで標識されたマンノースの取り込みの第2のレベルを測定する工程;及び、第1のレベルが第2のレベルより少なくとも10%低い場合に、交流電場を使用した癌細胞の処置を継続させる工程を含む。
【0016】
本明細書に記載される態様は、癌を有する患者にマンノースを投与する工程、及び、100~500kHzの間の周波数の交流電場に患者由来の癌細胞を曝露する工程によって、癌細胞の生存能力を減少させる方法を提供する。
【0017】
さらなる態様は、癌を有する患者にPKM2プローブを投与する工程;患者由来の癌細胞におけるPKM2発現又はPKM2プローブの取り込みの第1のレベルを測定する工程;第1のレベルを測定した後、第1の時間、癌細胞を100~500kHzの間の周波数の交流電場に曝露する工程;第1の時間の後、癌細胞におけるPKM2発現又はPKM2プローブの取り込みの第2のレベルを測定する工程;及び、第1のレベルが第2のレベルより少なくとも5%高い場合に、癌細胞に化学療法剤を投与する工程によって、癌細胞の生存能力を減少させる方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、神経膠芽腫(GBM)の処置への腫瘍治療電場(「TTフィールド」)の適用を説明する図である。
【
図2】
図2は、単独の、又は化学療法と組み合わせた、GBM患者の生存を延長するためのTTフィールドの使用を説明する図である。
【
図3】
図3は、正常組織(酸化的リン酸化)と腫瘍組織(ワールブルク効果)との間の解糖の差を説明する図である。
【
図4】
図4は、TTフィールドが、[18F]DASA-23を測定トレーサーとして使用したPKM2の調節によって測定されるようなGBM解糖の転換をどのようにして引き起こすかを説明する図である。
【
図5】
図5は、GBM細胞(例えば、U87、GBM39)における[18F]DASA-23の取り込みに対するTTフィールドの効果を測定するための例示的な方法を説明する図である。
【
図6】
図6は、U87細胞において、化学療法標準治療(TMZ)又はTTフィールドの後にGBMにおいてPKM2発現が減少することを示す図である。
【
図7】
図7は、[18F]DASA-23の取り込みの減少によって示されるように、U87細胞において、TTフィールドへの曝露の後にGBMにおいてPKM2発現が減少することを示す図である。
【
図8】
図8は、PKM2タンパク質についてのウエスタンブロットによって示されるように、U87細胞において、TTフィールドへの曝露の後にGBMにおいてPKM2発現が減少することを示す図である。
【
図9】
図9は、免疫蛍光法によって示されるように、U87細胞において、TTフィールド曝露によってPKM2発現が減少したことを示す図である。
【
図10】
図10は、血球計算技術による生存細胞の計数に基づく、TTフィールド処置あり及びなしでの、U87細胞に対するマンノースでの処置による、総細胞数に対する効果を示す図である。
【
図11】
図11は、血球計算技術による生存細胞の計数に基づく、TTフィールド処置あり及びなしでの、U87細胞に対するマンノースなしに関する細胞数パーセントに対する効果を示す図である。
【
図12A】
図12Aは、TTフィールドで72時間処置された細胞、シスプラチンで処置された細胞、並びにシスプラチン及びTTフィールドで処置された細胞と比較した、対照OVCAR3ヒト卵巣腺癌細胞由来の細胞溶解物のウエスタンブロットで示されるように、TTフィールド適用によってPKM2タンパク質のレベルが減少することを証明する、例示的な実験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
特許及び特許出願を含むがこれらに限定されない、本明細書で引用される全ての参照は、その全体が参照により本明細書に組み込まれている。
【0020】
[18F]DASA-23を使用して、TMZ及びTTフィールド療法に応答したGBMに呼応する代謝の変化を検出することができる。一つの実験では、ヒトU87 GBM細胞を200kHzのTTフィールド、IC
50のTMZ、又はビヒクルに、3又は6日間(n≧3/条件)供し、その後に[18F]DASA-23取り込みを評価した(例えば、
図2及び
図6)。PKM2についての免疫蛍光法を行って、[18F]DASA-23取り込み結果を確認した(例えば、
図9)。ウエスタンブロット解析を行って、PKM2の発現に対するTMZ及びTTフィールド曝露の効果を決定した。多重比較での二元配置分散分析を行った(例えば、
図8)。データを平均値±SDとして報告する。
【0021】
TTフィールドによって、GBMにおけるPKM2発現が減少し、異常な解糖(即ち、ワールブルク効果)から酸化的リン酸化への転換が示される。放射性トレーサー取り込み、ウエスタンブロット、及び免疫蛍光アッセイによって確認されるように、PKM2発現はこの転換のバイオマーカーである(例えば、
図2、
図6~
図9)。本明細書に記載される態様は、[18F]DASA-23を使用した、種々の療法に対するGBMの解糖の応答の非侵襲的評価を供給する。
【0022】
さらなる態様は、治療を必要とする患者の神経膠芽腫細胞にマンノース及びTTフィールドを投与することによってGBM細胞の増殖を阻害し、GBM細胞の相乗的阻害をもたらす方法を提供する(例えば、
図10及び
図11)。
【0023】
癌細胞の重要な特徴は、ワールブルク効果として公知の代謝の物珍しさであり、それによって腫瘍細胞は、酸素の存在下であっても、エネルギーの源として、より効率的な酸化的リン酸化(OxPhos:oxidative phosphorylation)のミトコンドリア経路よりも発酵を好む。正常組織は、酸素非存在下で、この効率性がより低い経路のみを使用する。生化学的観点から、この代謝のリプログラミングは、解糖経路のいくつかの段階で現れる。それらの中でも顕著なのは、膜関連グルコーストランスポーターの発現及び分布の変化、並びに解糖の最終段階に関わる主な酵素、特にピルビン酸キナーゼの活性及び発現の変更である。
【0024】
PKM2の発現を測定するために[18F]DASA-23放射性トレーサーが開発されているが、[18F]デオキシグルコース([18F]-FDG)を使用して、癌細胞へのグルコース取り込みの促進をモニタリングする。神経膠芽腫(GBM)は、伝統的に、外科的切除、テモゾロミド(TMZ)化学療法、及び/又は放射線治療で処置される。腫瘍治療電場(TTフィールド)、即ち腫瘍への交流電場(例えば、100~500kHz、1~4V/cm)の適用は、GBMにおける、第4の推奨される治療法である。患者のGBMが、TTフィールド療法を含むがこれに限定されない所定の療法に応答しているか否かを早期に評価する重要な必要性がある。
【0025】
[18F]DASA-23が、ヒトGBMの細胞培養物及び同所マウスモデルにおいて、TMZ及びTTフィールド療法に呼応する代謝の変化を検出する能力(
図6)を評価した。[18F]DASA-23の細胞内取り込みによって測定されるように、PKM2発現に対する処置(ビヒクル、TMZ、又はTTフィールド)と処置期間(3又は6日間)との間に、有意な相互作用があった(p=0.005、二元配置分散分析)(
図6)。
【0026】
TTフィールドに曝露された、及び曝露されていない、U87-MG細胞におけるPKM2についての免疫蛍光法から、TTフィールドによる、細胞数の減少、及びより低い強度のPKM2染色が明らかになった。
【0027】
マンノース及びTTフィールドは、相乗的に相互作用して、GBM細胞の生存能力を減少させる
【0028】
マンノースは、グルコースのものと同じトランスポーター系を占有することが公知である。したがって、これは、グルコーストランスポーターについてグルコースに対する競合的阻害剤として作用する。グルコースの解糖的代謝を阻害し、そのため癌代謝を変更することによって細胞増殖に直接影響を与えることが示されている。本発明者らは、マンノース及びTTフィールドでの併用介入(combination intervention)を行い、神経膠芽腫細胞数の減少に関する、2つの介入の間の有意な相乗的相互作用を示した。
【0029】
マンノース+TTフィールドデータ(
図10及び
図11)から、TTフィールドが、グルコース及びマンノース取り込みを伴う代謝経路に影響を与えることが示唆される。この理論に縛られることなく、TTフィールドは、異常な解糖(所謂「ワールブルク効果」)から正常な酸化的リン酸化への転換を誘導すると考えられている。一態様では、イメージングプローブで標識されたマンノースは、診断的及び治療的効果の両方を有し得た(即ち、セラノスティック)。マンノース+TTフィールドデータを、以下のように生成した:
【0030】
ヒト神経膠芽腫細胞についての増殖条件
【0031】
DMEM(Invitrogen/Life Technologies、Carlsbad、CA、USA/10% FBS/及び1X Antibiotic-Antimycotic)及び1X抗生物質/抗真菌剤中で、U87-MG及びMDA-MB-231を増殖させた。HEPESバッファー溶液(10mM)、MEMピルビン酸ナトリウム溶液1mM、MEM非必須アミノ酸溶液10mM (1X)、GlutaMAX-Iサプリメント(1X)及びAntibiotic-Antimycotic (1X)も含んでいた、Neurobasal-A培地(1X)/DMEM/F12(1X)の1:1混合物の定義された無血清培地中で、GBM2及びGBM39を増殖させた。これらの溶液は、Invitrogen/Life Technologies社 (Carlsbad、CA、USA)から得た。完全機能培地はまた、H-EGF (20ng/mL)、H-FGF-basic-154 (20ng/mL)、H-PDGF-AA (10ng/mL)、H-PDGF-BB (10ng/mL)及びヘパリン溶液、0.2% (2μg/mL)を増殖因子として(全てShenandoah社、Warwick、PA、USA由来)、及びB-27 (Invitrogen/Life Technologies、Carlsbad、CA、USA)をサプリメントとして、含んでいた。
【0032】
Inovitro(商標)システムでの増殖実験
【0033】
この態様では、50,000個の単一細胞を、200μLの培地に懸濁させ、直径22mmのカバーガラスの中央に播種した。カバーガラスを6ウェルプレートに配置し、従来の組織培養インキュベーター(37℃、95%空気、5% CO2)中で一晩インキュベートした。細胞がカバーガラスに接着したら、さらなる2mLの培地を各ウェルに加えた。細胞は、Inovitro(商標)システムのセラミック皿に移される前に、増殖相を獲得するために2~3日間カバーガラスに維持され、次にInovitro(商標)ベースプレート(Novocure社、Haifa、Israel)にマウントされた。1~4V/cmあたりに設定されたTTフィールドを、Inovitro(商標)発電装置によって適用したが、周波数は50~500kHzの範囲であった。インキュベーション温度は、TTフィールドの適用の際に、セラミック皿について37℃の標的温度で、20~27℃に及んだ。処置の前の24時間の制御期間の間、培養物をインキュベートした。処置時間は、1~6日間あたり続き、その後カバーガラスを除去し、カバーガラスあたりの細胞数を決定した。実験を通して、24時間毎に手作業で培養培地を交換した。セラミック皿内の同等なカバーガラスを従来の組織培養インキュベーター(37℃、5% CO2)に配置することによって、対応する対照実験を行い、TTフィールドに曝露されたカバーガラスと並行して細胞を増殖させた。他に言及されていなければ、条件あたりの全ての実験は三つ組の試料で、試料あたり4回の測定(細胞数)を行った。
【0034】
用語「[18F]DASA-23」は、以下の化学構造:
【0035】
【0036】
を有する1-((2-フルオロ-6-[18F]フルオロフェニル)スルホニル)-4-((4-メトキシフェニル)スルホニル)ピペラジン、及び薬学的に許容され得るその塩をいう。[18F]DASA-23は、患者への投与のための薬学的に許容され得るキャリアと組み合わせて使用され得る。
【0037】
用語「癌細胞の生存能力を減少させる」又は「神経膠芽腫細胞の生存能力を減少させる」は、本明細書で使用される場合、癌細胞(例えば、GBM細胞)の成長、増殖、又は生存を減少させることをいう。一部の態様では、癌細胞の生存能力の減少は、癌細胞のクローン原性生存率を減少させること、癌細胞の細胞毒性を増加させること、癌細胞におけるアポトーシスを誘導すること、及び癌細胞の少なくとも一部から形成された腫瘍の腫瘍体積を減少させることを含む。
【0038】
本明細書に記載される態様は、神経膠芽腫を有する患者にPKM2プローブを投与する工程、神経膠芽腫に由来する細胞におけるPKM2取り込みの第1のレベルを測定する工程、神経膠芽腫をTTフィールド処置(例えば、交流電場)に曝露する工程、神経膠芽腫由来の細胞におけるPKM2取り込みの第2のレベルを測定する工程、及び、患者が、第1のレベルが第2のレベルより少なくとも5%(例えば、少なくとも5、10、15、20、30、40、50、60、70、80、又は90%)高いか否かに基づいて、TTフィールドでの処置に対する感受性を有するか否かを決定する工程を含む、TTフィールドでの神経膠芽腫の処置(例えば、交流電場)に対する患者の感受性を決定する方法を提供する。この態様では、PKM2取り込みのレベルの減少によって、神経膠芽腫細胞をTTフィールドでの処置に対する感受性を有するようにする代謝の変化が示される。
【0039】
PKM2プローブは、当該分野で公知の任意の適した方法(例えば、注射、経口投与、及びex vivo)によって患者に投与し得る。一部の例では、神経膠芽腫又は腫瘍細胞は、患者から除去され得(例えば、生検によって)、例えばTTフィールドへの曝露の前及び後に、細胞培養物において、PKM2発現又は取り込みの測定が行われ得る。
【0040】
さらなる態様は、神経膠芽腫を有する患者の細胞にPKM2プローブを投与する工程、神経膠芽腫細胞におけるPKM2発現又はPKM2プローブの取り込みの第1のレベルを測定する工程、第1の時間、神経膠芽腫細胞をTTフィールドに曝露する工程、第1の時間の後に、神経膠芽腫細胞におけるPKM2発現又はPKM2プローブの取り込みの第2のレベルを測定する工程、及び、第1のレベルが第2のレベルより少なくとも5%(例えば、少なくとも5、10、15、20、30、40、50、60、70、80、又は90%)高い場合に、TTフィールドへの神経膠芽腫細胞の曝露を継続させる工程を含む、神経膠芽腫細胞の生存能力を減少させる方法を提供する。この態様では、本明細書に記載されるようなPKM2取り込みのレベルの減少によって、神経膠芽腫細胞をTTフィールドでの処置に対する感受性を有するようにする代謝の変化が示される。一態様では、PKM2プローブは[18F]DASA-23を含む。
【0041】
なおさらなる態様は、神経膠芽腫を有する患者の細胞に、イメージングプローブで標識されたマンノースを投与する工程、神経膠芽腫細胞における、イメージングプローブで標識されたマンノースの取り込みの第1のレベルを測定する工程、第1の時間、神経膠芽腫細胞をTTフィールドに曝露する工程、第1の時間の後、神経膠芽腫細胞における、イメージングプローブで標識されたマンノースの取り込みの第2のレベルを測定する工程、及び、第1のレベルが第2のレベルより少なくとも5%(例えば、少なくとも10、15、20、30、40、50、60、70、90、又は100%)低い場合に、TTフィールド及びマンノースへの神経膠芽腫細胞の曝露を継続させる工程を含む、TTフィールドでの神経膠芽腫の処置に対する患者の感受性を決定する方法を提供する。この態様では、本明細書に記載されるようなマンノース取り込みのレベルの増加によって、神経膠芽腫細胞をTTフィールドでの処置に対する感受性を有するようにする代謝の変化が示される。
【0042】
図6に示されるように、30分間にわたるU87神経膠芽腫細胞におけるPKM2発現は、化学療法での処置(TMZ-テモゾロミド)の後に少なくとも10%減少し、TTフィールドへの曝露の後に少なくとも10%減少する。
【0043】
図7は、TTフィールドへの曝露の後に、(1)[18F]DASA-23取り込みが、U87細胞において、30分にわたって少なくとも5%減少し、60分にわたって少なくとも10%減少すること、及び(2)[18F]DASA-23保持率が、60分にわたって少なくとも20%低下することを示す。
【0044】
図8は、TTフィールドへの曝露によって、ウエスタンブロットによるU87細胞におけるPKM2発現が3日後に約50%、6日後に約80%減少することを示す。
【0045】
図9は、DAPI核染色を示す青色(暗い)及びPKM2を示す緑色(明るい)での免疫蛍光法によって、TTフィールドへの曝露によってU87細胞におけるPKM2発現が減少することを示す。PKM2発現は、50%より大きく減少する。
【0046】
図10及び
図11に示されるように、TTフィールドと併用したマンノースと比較して、マンノース単独での処置との間に約10倍のIC50差がある。理論に縛られることなく、in vivoで、及び例えばマンノースPET(ポジトロン放射形断層撮影法:positron emission tomography)プローブの使用によって、この効果に約5倍の減少があると考えられている。したがって、マンノース取り込みの約20%の増加によって、マンノース+TTフィールドに対する代謝処置応答が示されると考えられる。
【0047】
図12A~
図12Bに示されるように、TTフィールドの適用によって、PKM2タンパク質レベルが減少する。
図12A及び
図12Bは、(1)72時間のTTフィールド適用を経た細胞、(2)シスプラチン300nM、(3)シスプラチンとTTフィールドとの組み合わせ、及び(4)対照の間で、対照OVCAR3ヒト卵巣腺癌細胞から生成される溶解物のウエスタンブロットにおいてPKM2タンパク質のレベルを比較する例示的な実験の結果を示す。
図12Aに見られるように、ハウスキーピング遺伝子発現(GAPDH)と比較して、ウエスタンブロット結果を定量化した。
【0048】
OVCAR-3細胞系をATCCから得た。0.01mg/mlウシインスリン;20%ウシ胎仔及び抗生物質を添加された、ATCC処方RPMI-1640培地、カタログ番号30-2001中で細胞を培養した。30,000個の単一細胞を500μLの培地中に懸濁させ、直径22mmのカバーガラスの中央に播種した。
【0049】
72時間のTTフィールド適用の誘導のために、Inovitro(商標)システムのセラミック皿にカバーガラスを配置し、従来の組織培養インキュベーター(37℃、95%空気、5% CO2)中で一晩インキュベートさせた。細胞がカバーガラスに接着すると、さらなる1.5mLの培地を各ウェルに加え、パラフィン(P7793、Sigma Aldrich社)で被覆して、培地の蒸発を避けた。300nMの終濃度でシスプラチンを加えた。一晩のインキュベーションの後、皿をInovitro(商標)ベースプレート(Novocure社、Haifa、Israel)にマウントした。1~6V/cmあたりに設定されたTTフィールドを、Inovitro(商標)発電装置によって適用したが、周波数は200kHzであった。インキュベーション温度は、TTフィールドの適用の際に、セラミック皿について37℃の標的温度で、18℃であった。セラミック皿内の同等なカバーガラスを従来の組織培養インキュベーター(37℃、5% CO2)に配置することによって、対応する対照実験を行い、TTフィールドに曝露されたカバーガラスと並行して細胞を増殖させた。
【0050】
細胞溶解物及び免疫ブロット法
【0051】
TTフィールド適用の後に、洗浄のために細胞を冷PBSプレートに移した。
【0052】
プロテアーゼ阻害剤のカクテル(cOmplete Mini、Roche社)及びホスファターゼ阻害剤(Halt #78420、Thermo Scientific社)を添加されたRIPA溶解バッファー(R0278、Sigma-Aldrich社)をプレートに加え、8個のInovitro(商標)皿について、およそ100μlの調整済みRIPAバッファー(supplemented RIPA buffer)で細胞をこすり取った。
【0053】
4℃で30分の期間、抽出物を振とうした。試料を遠心分離した(20分間、14,000rpm、4℃)。上清を移し、BCAタンパク質アッセイキット(BCAタンパク質アッセイキット、ab102536 Abcam社)によってタンパク質濃度を決定した。
【0054】
タンパク質濃度を決定した後、還元条件下で30μgのタンパク質を溶解し(Bolt試料還元剤、#2060435及び試料バッファー#2045289、Novex社)、試料を100℃で5分間煮沸した。試料をSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動に流した(Bolt 8% Bis-TrisベースゲルNW00080BOX、Thermo-Fischer社)。
【0055】
電気泳動の後、タンパク質を0.2μmポリビニリデンジフルオリドメンブレン(Immuno-Blot PVDF #162-0177、Bio-Rad社)に移し、適切な一次抗体:GAPDH(SC-32233、Santa Cruz)及びPKM2(ab137852、abcam社)、それに続くホースラディッシュペルオキシダーゼ結合二次抗体(ヤギ抗ウサギ7074、Cell Signaling社及びヤギ抗マウス7076、Cell Signaling社)及び化学発光基質(WBLUF0100、Sigma-Aldrich社)で調べた。Image Jソフトウエアによってバンドの定量化を行った。
【0056】
別の態様では、神経膠芽腫を有する患者の細胞にマンノースを投与する工程、及び神経膠芽腫細胞をTTフィールドに曝露する工程を含む、神経膠芽腫細胞の生存能力を減少させる方法が提供される。
【0057】
本明細書に記載される態様は、癌細胞にマンノースを投与する工程、及び交流電場を癌細胞に適用する工程によって、癌細胞(例えば、GBM)の生存能力を減少させる方法を提供し、ここで交流電場は、100~500kHzの間の周波数を有する。一部の態様では、適用工程の少なくとも一部は、投与工程の少なくとも一部と同時に行われる。
【0058】
さらなる態様は、癌を有する患者にPKM2プローブを投与する工程、患者由来の癌細胞におけるPKM2取り込みの第1のレベルを測定する工程、100~500kHzの間の周波数で交流電場を使用した処置に癌細胞を曝露する工程、癌細胞におけるPKM2取り込みの第2のレベルを測定する工程、及び、患者が、第1のレベルが第2のレベルより少なくとも5%(例えば、少なくとも5、10、15、20、30、40、50、60、70、90、又は100%)高いか否かに基づいて、交流電場を使用した処置に対する感受性を有するか否かを決定する工程を含む、交流電場での癌の処置に対する患者の感受性を決定する方法を提供する。この態様では、本明細書に記載されるようなPKM2取り込みのレベルの減少によって、神経膠芽腫細胞をTTフィールドでの処置に対して感受性にする代謝の変化が示される。
【0059】
別の態様は、癌を有する患者由来の癌細胞にPKM2プローブを投与する工程、癌細胞におけるPKM2発現又はPKM2プローブの取り込みの第1のレベルを測定する工程、第1の時間、100~500kHzの間の周波数で交流電場に癌細胞を曝露する工程、第1の時間の後、癌細胞におけるPKM2発現又はPKM2プローブの取り込みの第2のレベルを測定する工程、及び、第1のレベルが第2のレベルより少なくとも5%(例えば、少なくとも5、10、15、20、30、40、50、60、70、90、又は100%)高い場合に、交流電場への癌細胞の曝露を継続させる工程を含む、癌細胞の生存能力を減少させる方法を提供する。この態様では、本明細書に記載されるようなPKM2取り込みのレベルの減少によって、神経膠芽腫細胞をTTフィールドでの処置に対して感受性にする代謝の変化が示される。
【0060】
上述の態様のいずれかでは、PKM2プローブは、場合により、以下の構造を有する[18F]DASA-23を含み得る:
【0061】
【0062】
さらなる態様は、癌を有する患者の細胞に、イメージングプローブで標識されたマンノースを投与する工程、癌細胞における、イメージングプローブで標識されたマンノースの取り込みの第1のレベルを測定する工程;第1の時間、100~500kHzの間の周波数で、交流電場で癌細胞を処置する工程、第1の時間の後、癌細胞における、イメージングプローブで標識されたマンノースの取り込みの第2のレベルを測定する工程、及び、第1のレベルが第2のレベルより少なくとも5%(例えば、少なくとも5、10、15、20、30、40、50、60、70、90、又は100%)低い場合に、交流電場を使用した癌の処置を継続させる工程を含む、交流電場を使用した癌の処置に対する患者の感受性を決定する方法を提供する。この態様では、本明細書に記載されるようなマンノース取り込みのレベルの増加によって、神経膠芽腫細胞をTTフィールドでの処置に対して感受性にする代謝の変化が示される。
【0063】
別の態様は、癌を有する患者にマンノースを投与する工程、及び、100~500kHzの間の周波数で、患者の癌細胞を交流電場に曝露する工程を含む、癌細胞の生存能力を減少させる方法を提供する。
【0064】
本明細書に記載される態様は、治療有効濃度で癌細胞(例えば、GBM細胞)にマンノースを送達する方法を提供し、ここで、癌細胞の少なくとも一部において交流電場は少なくとも1V/cmの場の強度を有する。
【0065】
用語「治療有効濃度」は、本明細書で使用される場合、意図される目的(例えば、癌の処置、GBMの処置)を達成するのに十分なマンノースの濃度をいう。一態様では、マンノースの治療有効濃度は、1~10mMの間である。
【0066】
別の態様では、電場を適用する工程は、少なくとも72時間の持続時間を有する。72時間の電場の適用は、単一の72時間の間隔で達成されてもよい。或いは、電場の適用は、小休止によって中断されてもよい。例えば、セッション間に2時間の小休止がある、各12時間の持続時間を有する6つのセッションを行ってもよい。別の態様では、電場を適用する工程は、少なくとも4時間の持続時間を有する。
【0067】
更に別の態様では、交流電場の周波数は、180~220kHzの間である。別の態様では、マンノースは、治療有効濃度で癌細胞に送達され、交流電場は、癌細胞の少なくとも一部で、少なくとも1V/cmの場の強度を有する。
【0068】
更に別の態様では、適用工程の少なくとも一部は、投与工程の少なくとも一部と同時に行われる。
【0069】
さらなる態様では、マンノースは治療有効濃度で癌細胞に送達され、交流電場は、癌細胞の少なくとも一部で、少なくとも1V/cmの場の強度を有する。場合により、適用工程は、少なくとも72時間の持続時間を有し、交流電場の周波数は、180~220kHzの間である。場合により、適用工程の少なくとも一部は、投与工程の少なくとも一部と同時に行われ得る。
【0070】
本明細書に記載される態様は、癌を有する患者にPKM2プローブを投与する工程;患者由来の癌細胞における、PKM2発現又はPKM2プローブの取り込みの第1のレベルを測定する工程;第1の時間、100~500kHzの間の周波数で癌細胞を交流電場に曝露する工程;第1の時間の後、癌細胞におけるPKM2発現又はPKM2プローブの取り込みの第2のレベルを測定する工程;及び、第1のレベルが第2のレベルより少なくとも5%(例えば、少なくとも5、10、15、20、30、40、50、60、70、90、又は100%)高い場合に、癌細胞に化学療法剤(例えば、タモキシフェン、シスプラチン、5-フルオロウラシル(5-FU)、及びドセタキセル)を投与する工程によって癌細胞の生存能力を減少させる方法を提供する。一部の例では、化学療法剤はシスプラチンである。一部の例では、方法は、交流電場への癌細胞の曝露を継続させる工程を更に含む。
【0071】
理論に縛られることなく、より低い[18F]DASA-23の取り込みは、PKM2の活性の減少と相関があると考えられており、実際、処置された細胞由来のタンパク質試料のウエスタンブロット解析によって、処置後のPKM2の発現がより低いことが明らかになった(
図8、
図12A~
図12B)。神経膠腫細胞におけるTTフィールド適用に続いて、[18F]DASA-23の有意に低い取り込みがあることが示されている。PKM2発現を減少させることによって、処置に対する耐性がPKM2活性の増大に関連することが示されている種々の細胞毒性剤に対する癌細胞の感受性を増加させると考えられている。Jiら、Tumor Biology、2017年6月:1~11頁;Gaoら、J Cancer Res Clin Oncol.2011年1月;137(1):65~72頁;Shinら、Electrophoresis、30巻、12号、2009年6月、2182~2192頁;Shiら、Cancer Science、101巻、6号、2010年6月、1447~1453頁。例えばPKM2発現を減少させた後、TTフィールド処置を化学療法剤と組み合わせることによって、処置効果を増大させ得、化学療法剤の治療有効用量を減少させ得る。
【0072】
本明細書に記載されるin vitro実験は、Novocure Inovitro(商標)システムを使用して行った。これらの実験において、交流電場の方向は、2つの垂直方向の間で1秒の間隔で切り換えた。しかし、代替の実施形態では、交流電場の方向は、より速い速度で(例えば、1~1000msの間の間隔で)、又はより遅い速度で(例えば、1~100秒の間の間隔で)切り換え得る。
【0073】
本明細書に記載されるin vitro実験において、交流電場の方向は、交互の順序で2D空間において互いに90°離れて配置された2対の電極に交流電圧を適用することによって、2つの垂直方向の間で切り換えた。しかし、代替の実施形態では、交流電場の方向は、電極の対を再配置することによって垂直ではない2つの方向の間で、又は3つ以上の方向(さらなる対の電極が提供されると仮定する)の間で切り換え得る。例えば、交流電場の方向は、それぞれがそれ自体の電極の対の配置によって決定される3つの方向の間で切り換え得る。場合により、得られた電場が3D空間において互いに90°離れて配置されるように、これらの3対の電極を配置し得る。他の代替の実施形態では、電極は対で配置する必要はない。例えば、参照により本明細書に組み込まれている米国特許第7,565,205号に記載されている電極配置を参照のこと。他の代替の実施形態では、電場の方向は一定である。
【0074】
本明細書に記載されるInovitro(商標)システムを使用したin vitro実験において、Inovitro(商標)システムは皿の側壁の外表面に配置された導電性の電極を使用し、側壁のセラミック材料は誘電体として作用するので、電場は培養物に容量結合された。しかし、代替の実施形態では、電場は、容量結合なしに細胞に直接適用され得た(例えば、導電性の電極が、側壁の外表面上の代わりに側壁の内部表面に配置されるように、Inovitro(商標)システム構成を改変することによって)。
【0075】
本明細書に記載される方法はまた、生きた対象の体の標的領域に交流電場を適用することによって、in vivo環境において適用され得る(例えば、Novocure社Optune(登録商標)システムを使用して)。これは、例えば、これらの電極の選択されたサブセットの間の交流電圧の適用によって対象の体の標的領域において交流電場が課されるように、電極を対象の皮膚の上又は下に配置することによって達成され得る。
【0076】
例えば、関連のある細胞が対象の脳に位置する状況では、一対の電極を対象の頭の前及び後ろに配置し得、第2の対の電極を対象の頭の右及び左に配置し得た。一部の実施形態では、電極は、対象の体に容量結合される(例えば、導電性プレートを含み、導電性プレートと対象の体との間に配置された誘電体層を有する電極を使用することによって)。しかし、代替の実施形態では、誘電体層は省略され得、この場合導電性プレートは対象の体と直接接触するであろう。別の実施形態では、電極は、患者の皮膚の下に皮下的に挿入され得た。交流電圧ジェネレーターは、第1の時間(例えば、1秒間)、左右の電極の間で、選択された周波数(例えば、200kHz)で交流電圧を適用し、これは力線の最も重要な構成要素が対象の体の横軸に平行である、交流電場を誘導する。
【0077】
次いで、交流電圧ジェネレーターは、第2の時間(例えば、1秒間)、前後の電極の間で同じ周波数(又は異なる周波数)で交流電圧を印加し、これは電場線の最も重要な成分が対象の体の矢状軸に平行である、交流電場を誘導する。この2工程シーケンスは、次いで、処置の持続時間の間繰り返される。場合により、電極に温度センサが含まれ得、交流電圧ジェネレーターは、電極で感知される温度が高すぎる場合に電極に適用される交流電圧の振幅が減少するように設定され得る。一部の実施形態では、1対又は複数対以上のさらなる電極が加えられてもよく、シーケンスに含まれてもよい。代替の実施形態では、単一の対の電極のみが使用され、この場合、電場線の方向は切り換えられない。このin vivo実施形態についてのパラメータのいずれも(例えば、周波数、場の強度、持続時間、方向切り換え速度、及び電極の配置)は、in vitro実施形態と関連して上述されたように、変化し得ることに注意されたい。しかし、in vivo環境において、電場は常に対象にとって安全であり続けることが保障されるように注意が払われなければならない。
【0078】
本明細書に記載される実験において、連続した時間(例えば、72時間又は14日間)、TTフィールドが適用されたことに注意されたい。しかし、代替の実施形態では、TTフィールドの適用は、好ましくは短い小休止によって、中断され得る。例えば、72時間の時間は、各ブロック間に2時間の小休止を有する6つの12時間のブロックに交流電場を適用することによって、満たされ得る。
【0079】
本発明は、特定の実施形態を参照して開示されてきたが、添付の特許請求の範囲に定義されているように、本発明の範囲(sphere)及び範囲(scope)から逸脱することなく、記載された実施形態に対する多数の改変、変更、及び変化が可能である。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されないが、下記の特許請求の範囲の言葉、又はその同等物によって定義された、最大限の範囲を有することが意図される。
【0080】
【国際調査報告】