(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-06
(54)【発明の名称】T細胞リンパ腫細胞を標的とするユニバーサルCAR-Tならびにその調製方法及び使用
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20230227BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20230227BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20230227BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20230227BHJP
C12N 15/85 20060101ALI20230227BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20230227BHJP
C12N 15/867 20060101ALI20230227BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20230227BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230227BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230227BHJP
【FI】
C12N5/10 ZNA
C12N1/00 B
C12N15/12
C12N15/09 100
C12N15/09 110
C12N15/85 Z
C12N15/864 100Z
C12N15/867 Z
A61K47/68
A61K39/395 T
A61P35/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022540775
(86)(22)【出願日】2020-12-28
(85)【翻訳文提出日】2022-08-26
(86)【国際出願番号】 CN2020140176
(87)【国際公開番号】W WO2021136176
(87)【国際公開日】2021-07-08
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2019/129956
(32)【優先日】2019-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520047082
【氏名又は名称】博雅▲緝▼因(北京)生物科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】EDIGENE BIOTECHNOLOGY INC.
【住所又は居所原語表記】Life Science Park,Floor 2,Building 2,22 KeXueYuan Road,Changping District,Beijing 102206,China
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】王 ▲飛▼
(72)【発明者】
【氏名】袁 ▲鵬▼▲飛▼
(72)【発明者】
【氏名】牛 立超
(72)【発明者】
【氏名】付 建▲強▼
(72)【発明者】
【氏名】▲呉▼ ▲蘭▼▲蘭▼
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C085
【Fターム(参考)】
4B065AA94X
4B065AB01
4B065AC20
4B065BA02
4B065BA03
4B065CA44
4C076AA95
4C076CC27
4C076EE59
4C085AA14
4C085BB01
(57)【要約】
T細胞リンパ腫細胞を標的とするユニバーサルCAR-T細胞を調製する新規な調製方法、この方法によって調製されたユニバーサルCAR-T細胞、及び該ユニバーサルCAR-T細胞を含む生物学的製品が提供される。T細胞リンパ腫細胞を標的とするユニバーサルCAR-T細胞の調製方法は、健康なリンパ系を持つヒトドナーからT細胞を取得し、遺伝子編集技術によって前記T細胞のTRACゲノム領域とB2Mゲノム領域を破壊することによって、T細胞リンパ腫細胞TCRα/βを標的とするCAR分子を前記T細胞中で安定して発現させることを含む。この調製方法によって調製されたT細胞リンパ腫細胞を標的とするユニバーサルCAR-T細胞は、T細胞の天然TCR発現を排除し、移植片対宿主反応を大幅に低減するとともに、それ自体の免疫原性も大幅に低下させ、T細胞リンパ腫細胞を持続的かつ効率的に殺すことができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)健康なリンパ系を持つヒトドナーからT細胞を取得することと、
2)前記T細胞中の
(i)TRACゲノム領域、及び
(ii)B2Mゲノム領域
を遺伝子編集技術によって破壊することと、
3)T細胞リンパ腫細胞TCRα/βを標的とするCAR分子を前記T細胞中で安定して発現させることと
を含む、T細胞リンパ腫細胞を標的とするユニバーサルCAR-T細胞を調製する方法。
【請求項2】
天然TCRを依然として発現しているT細胞を除去するように、ステップ3)から得られた細胞を適切な時間培養することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記TRACゲノム領域が、ヒト14番目染色体の第23016448位から第23016490位のゲノム領域を含み、前記B2Mゲノム領域が、ヒト15番目染色体の第45003745位から第45003788位のゲノム領域を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
T細胞リンパ腫細胞TCRα/βを標的とする前記CAR分子の細胞外領域が、T細胞リンパ腫細胞TCRα/βの細胞外領域に結合するscFv分子である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記CAR分子が、リンカーによって連結された
前記scFvの軽鎖可変領域 配列番号19
QIVLTQSPAIMSASPGEKVTMTCSATSSVSYMHWYQQKSGTSPKRWIYDTSKLASGVPARFSGSGSGTSYSLTISSMEAEDAATYYCQQWSSNPLTFGAGTKLELK;
前記scFvの重鎖可変領域 配列番号20
EVQLQQSGPELVKPGASVKMSCKASGYKFTSYVMHWVKQKPGQGLEWIGYINPYNDVTKYNEKFKGKATLTSDKSSSTAYMELSSLTSEDSAVHYCARGSYYDYDGFVYWGQGTLVTVSA
を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記リンカーが(G)n(S)mを含むアミノ酸配列であり、nが1~20の正の整数であり、mが1~10の正の整数である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記リンカー配列が、配列番号21に示される配列GGGGSGGGGSGGGGSGGGGSである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記TRACゲノム領域及び前記B2Mゲノム領域が、相同組換え、ジンクフィンガーヌクレアーゼ遺伝子編集技術、TALEN遺伝子編集技術、またはCRISPR/Cas遺伝子編集技術によって破壊される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記遺伝子編集技術がCRISPR/Cas9遺伝子編集技術である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
(i)TRACゲノムを標的とするガイドRNA(sgRNA)は、配列番号2~5から選択されるいずれか1つの配列を有する;及び/または
(ii)B2Mゲノムを標的とするガイドRNA(sgRNA)は、配列番号6~13から選択されるいずれか1つの配列を有する、
請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記sgRNA及びCas9をコードするヌクレオチド配列を一緒にまたは別々に前記T細胞に導入する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記sgRNAが化学的に修飾されている、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
前記化学修飾は、2’-O-メチル修飾またはヌクレオチド間3’チオ修飾を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記化学修飾は、前記sgRNAの5’末端の3つの塩基及び3’末端の3つの塩基の2’-O-メチル修飾及びヌクレオチド間3’チオ修飾である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記sgRNA及びCas9をコードするmRNAヌクレオチド配列をエレクトロポレーションによって一緒に前記T細胞に導入する、請求項12~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記エレクトロポレーション条件は、150~250V、0.5~2ms;150V、2ms;160V、2ms;170V、2ms;180V、2ms;190V、1ms;200V、1ms;210V、1ms;220V、1ms;230V、1ms;240V、1ms;及び250V、0.5msから選択されるいずれかである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記TRAC及びB2Mのそれぞれのノックアウト効率が90%以上であり、同時ノックアウト効率が75%以上である、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
T細胞リンパ腫細胞TCRα/βを標的とする前記CAR分子をコードするヌクレオチド配列を、ウイルストランスフェクションによって前記T細胞に導入する、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記ウイルスがアデノ随伴ウイルス(AAV)またはレンチウイルスである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記CAR分子を発現するヌクレオチド配列を相同組換えによって前記T細胞のTRAC遺伝子座に導入して、前記CAR分子をコードするヌクレオチド配列がTCR遺伝子プロモーターの制御下で前記TRAC遺伝子座で発現される、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
ステップ3)から得られた細胞を3~21日間培養して、依然として天然TCRを発現しているT細胞を除去する、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
T細胞リンパ腫細胞TCRα/βを標的とするCAR分子を発現する、T細胞リンパ腫細胞を標的とするユニバーサルCAR-T細胞。
【請求項23】
前記CAR分子が、配列番号14に示されるアミノ酸配列を含む、請求項22に記載のユニバーサルCAR-T細胞。
【請求項24】
TCRα/β、クラス1 HLAタンパク質、PD-1、TIM3、及びLAG3から選択される1つまたは複数のタンパク質を低いレベルで発現するか、または発現しない、請求項22または23に記載のユニバーサルCAR-T細胞。
【請求項25】
請求項22~24のいずれか一項に記載のユニバーサルCAR-T細胞を含む生物学的製品。
【請求項26】
前記ユニバーサルCAR-T細胞の98%または99%以上がTCR陰性である、請求項25に記載の生物学的製品。
【請求項27】
T細胞リンパ腫の治療のための薬剤の調製における、請求項22~24のいずれか一項に記載のユニバーサルCAR-T細胞または請求項25もしくは26に記載の生物学的製品の使用。
【請求項28】
T細胞リンパ腫に罹患している被験者に、治療有効量の請求項22~24のいずれか一項に記載のユニバーサルCAR-T細胞または請求項25もしくは26に記載の生物学的製品を投与することを含む、T細胞リンパ腫を治療する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、T細胞リンパ腫を治療するためのユニバーサルCAR-Tの調製技術、ならびに該調製技術によって調製されたユニバーサルCAR-T細胞及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
悪性腫瘍は、体の健康と命の安全を深刻に脅かす疾患となっており、腫瘍の治癒はずっと人類の夢であった。近年来、腫瘍免疫療法は広範に注目されており、特にCAR-T(Chimeric Antigen Receptor T Cells)技術の現れにより、腫瘍制御において画期的な発展が遂げられた。1989年にCAR-T技術が初めて適用され、2012年にペンシルベニア大学のCarl June教授が率いるチームによりEmily Whiteheadが治癒され、そして、2017年にFDA腫瘍薬物専門家諮問委員会(ODAC)が10:0の圧倒的な投票結果で、若年性進行B細胞性急性リンパ性白血病(r/rAll)の治療におけるノバルティスCAR-T薬CTL019の使用を推奨・承認した。
【0003】
一般的には、従来のCAR-T技術のT細胞は主に患者自身に由来し、GMP環境下でインビトロでT細胞の分離、活性化、CAR導入、培養増幅を経て、最後に品質管理して患者の体内に再注入する。しかし、Tリンパ細胞白血病患者のT細胞は癌性であるため、CAR-T細胞治療には使用できない。同時に、患者が重症の場合、他の細胞の調製のための十分な待ち時間がない。これらの問題は、CAR-T技術の広範な応用を制限してしまう。そのため、現在、CAR-T細胞療法の一つの重要な研究の方向は、如何に健康な献血者のT細胞を使用して大量のCAR-T細胞を調製して患者の臨床使用を満足することである。この技術の確立は、T細胞リンパ腫患者に治療方法を提供し、CAR-T療法のコストを大幅に削減し、均一に調製された細胞の品質をより確実に保証し、患者が必要な時にすぐにCAR-T細胞を取得して治療することができる。
【0004】
本明細書全文でいくつかの文献が引用されている。ここで、各文書(いずれのジャーナル記事または要約、公開済みまたは未公開の特許出願、登録された特許、メーカーの仕様書、プロトコルなどを含む)は言及により本文に取り込まれる。しかしながら、ここに引用された文書が実際に本発明の既存技術であると認めるわけではない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、T細胞リンパ腫細胞を標的とするユニバーサルCAR-T細胞を調製する新規な調製方法、この方法によって調製されたユニバーサルCAR-T細胞、及び該ユニバーサルCAR-T細胞を含む生物学的製品に関する。本願の調製方法によって調製されたT細胞リンパ腫細胞を標的とするユニバーサルCAR-T細胞は、天然TCRの発現を有さず、移植片対宿主反応を大幅に低減できる。同時に、前記T細胞中のB2M遺伝子のノックアウトにより、クラスI HLAタンパク質の発現も大幅に低減及び排除され、T細胞の自己免疫原性が低下する。本願の方法によって調製されたユニバーサルCAR-T細胞は、T細胞リンパ腫細胞を持続的かつ効率的に殺すことができるとともに、移植片対宿主反応が大幅に低減され、使用の安全性が高まる。
【0006】
したがって、一態様では、本発明は、TCRα/βを標的として、T細胞リンパ腫細胞を標的とするユニバーサルCAR-T細胞を調製する方法を初めて開示する。具体的には、本願は以下の項目を提供する。
1、1)健康なリンパ系を持つヒトドナーからT細胞を取得すること、
2)前記T細胞中の
(i)TRACゲノム領域、及び
(ii)B2Mゲノム領域
を遺伝子編集技術によって破壊すること、
3)T細胞リンパ腫細胞TCRα/βを標的とするCAR分子を前記T細胞中で安定して発現させること
を含む、T細胞リンパ腫細胞を標的とするユニバーサルCAR-T細胞を調製する方法。
一部の実施形態において、本願のT細胞リンパ腫細胞を標的とするユニバーサルCAR-T細胞を調製する方法は、
4)天然TCRを依然として発現しているT細胞を除去するように、ステップ3)から得られた細胞を適切な時間培養することをさらに含む。前記適切な時間は例えば、3~21、4~18、5~16、6~14、7~12、8~10日であり、これによって、前記CARを発現する細胞が、天然TCRを依然として発現しているT細胞を除去する。
【0007】
2、天然TCRを依然として発現しているT細胞を除去するように、ステップ3)から得られた細胞を適切な時間培養することをさらに含む、項1に記載の方法。
3、前記TRACゲノム領域が、ヒト14番目染色体の第23016448位から第23016490位のゲノム領域を含み、前記B2Mゲノム領域が、ヒト15番目染色体の第45003745位から第45003788位のゲノム領域を含む、項1または2に記載の方法。
4、T細胞リンパ腫細胞TCRα/βを標的とする前記CAR分子の細胞外領域が、T細胞リンパ腫細胞TCRα/βの細胞外領域に結合するscFv分子である、項1~3のいずれか一項に記載の方法。
5、前記CAR分子が、リンカーによって連結された以下の配列を含む、項4に記載の方法。
前記scFvの軽鎖可変領域 配列番号19
QIVLTQSPAIMSASPGEKVTMTCSATSSVSYMHWYQQKSGTSPKRWIYDTSKLASGVPARFSGSGSGTSYSLTISSMEAEDAATYYCQQWSSNPLTFGAGTKLELK;
前記scFvの重鎖可変領域 配列番号20
EVQLQQSGPELVKPGASVKMSCKASGYKFTSYVMHWVKQKPGQGLEWIGYINPYNDVTKYNEKFKGKATLTSDKSSSTAYMELSSLTSEDSAVHYCARGSYYDYDGFVYWGQGTLVTVSA。
【0008】
6、前記リンカーが(G)n(S)mを含むアミノ酸配列であり、nが1~20の正の整数であり、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20であり、mが1~10の正の整数であり、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10である、項5に記載の方法。
7、前記リンカー配列が、配列番号21に示される配列GGGGSGGGGSGGGGSGGGGSである、項6に記載の方法。
8、前記TRACゲノム領域及び前記B2Mゲノム領域が、相同組換え、ジンクフィンガーヌクレアーゼ遺伝子編集技術、TALEN遺伝子編集技術、またはCRISPR/Cas遺伝子編集技術によって破壊される、項1~7のいずれか一項に記載の方法。
9、前記遺伝子編集技術がCRISPR/Cas9遺伝子編集技術である、項8に記載の方法。
10、(i)TRACゲノムを標的とするガイドRNA(sgRNA)は、配列番号2~5から選択されるいずれか1つの配列を有する;及び/または
(ii)B2Mゲノムを標的とするガイドRNA(sgRNA)は、配列番号6~13から選択されるいずれか1つの配列を有する、
項9に記載の方法。
【0009】
11、前記sgRNA及びCas9をコードするヌクレオチド配列を一緒にまたは別々に前記T細胞に導入する、項10に記載の方法。
12、前記sgRNAが化学的に修飾されている、項10または11に記載の方法。
13、前記化学修飾は、2’-O-メチル修飾またはヌクレオチド間3’チオ修飾を含む、項12に記載の方法。
14、前記化学修飾は、前記sgRNAの5’末端の3つの塩基及び3’末端の3つの塩基の2’-O-メチル修飾及びヌクレオチド間3’チオ修飾である、項13に記載の方法。
15、前記sgRNA及びCas9をコードするmRNAヌクレオチド配列をエレクトロポレーションによって一緒に前記T細胞に導入する、項12~14のいずれか一項に記載の方法。
【0010】
16、前記エレクトロポレーション条件は、150~250V、0.5~2ms;150V、2ms;160V、2ms;170V、2ms;180V、2ms;190V、1ms;200V、1ms;210V、1ms;220V、1ms;230V、1ms;240V、1ms;及び250V、0.5msから選択されるいずれかである、項15に記載の方法。
17、前記TRAC及びB2Mのそれぞれのノックアウト効率が90%、95%、96%、97%、98%、99%以上であり、同時ノックアウト効率が75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%以上である、項1~16のいずれか一項に記載の方法。
18、T細胞リンパ腫細胞TCRα/βを標的とする前記CAR分子をコードするヌクレオチド配列を、ウイルストランスフェクションによって前記T細胞に導入する、項1~17のいずれか一項に記載の方法。
19、前記ウイルスがアデノ随伴ウイルス(AAV)またはレンチウイルスである、項18に記載の方法。
20、前記CAR分子を発現するヌクレオチド配列を相同組換えによって前記T細胞のTRAC遺伝子座に導入して、前記CAR分子をコードするヌクレオチド配列がTCR遺伝子プロモーターの制御下で前記TRAC遺伝子座で発現される、項1~17のいずれか一項に記載の方法。
21、ステップ3)から得られた細胞を3~21日間培養して、依然として天然TCRを発現しているT細胞を除去する、項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【0011】
22、T細胞リンパ腫細胞TCRα/βを標的とするCAR分子を発現する、T細胞リンパ腫細胞を標的とするユニバーサルCAR-T細胞。
23、前記CAR分子が、配列番号14に示されるアミノ酸配列を含む、項22に記載のユニバーサルCAR-T細胞。
24、クラス1 HLAタンパク質、PD-1、TIM3、及びLAG3から選択される1つまたは複数のタンパク質を低いレベルで発現するか、または発現しない、項22または23に記載のユニバーサルCAR-T細胞。
25、項22~24のいずれか一項に記載のユニバーサルCAR-T細胞を含む生物学的製品。
26、前記ユニバーサルCAR-T細胞の98%、99%以上がTCR陰性である、項25に記載の生物学的製品。一部の実施形態では、TCR98%、99%以上の前記ユニバーサルCAR-T細胞がTCR及びB2M陰性である。
27、T細胞リンパ腫の治療のための薬剤の調製における、項22~24のいずれか一項に記載のユニバーサルCAR-T細胞または項25もしくは26に記載の生物学的製品の使用。
28、T細胞リンパ腫に罹患している被験者に、治療有効量の項22~24のいずれか一項に記載のユニバーサルCAR-T細胞または項25もしくは26に記載の生物学的製品を投与することを含む、T細胞リンパ腫を治療する方法。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、エレクトロポレーション後の細胞の生存率を示す図である。T細胞及びUCAR-T細胞の生存率はよく、培養時間の増加につれて細胞の生存率は90%以上に達したが、U-CAR-T細胞の生存率は5日目に最初の生存率よりも低かった。CARはTCRを標的とすることができるため、U-CAR-T細胞は初期段階で「自殺」現象を起こし、生存率は低かったが、時間の経過とともに徐々に生存率が上昇し、9日間の培養後、生存率は90%以上に達した。
【
図2】
図2は、エレクトロポレーション後の細胞の増殖を示す図である。T細胞の増殖速度は最も速く、U-T細胞及びU-CAR-T細胞は遅く、12日間培養した後、U-T細胞に対してTCRα/βの精製を行い、その精製回収率は約40%であった。したがって、U-CAR-T細胞の最終的な数はU-T細胞の数よりも多かった。
【
図3】
図3は、TCRα/β-CARが添加されたDKO-T細胞の培養後のCAR発現型分析を示す図である。その結果から、TCRα/β-CARが添加されたDKO-T細胞を培養した後のCARの発現率は10%以上であることが分かった。
【
図4】
図4は、最適化されたsgRNA及びCRISPR/Cas9遺伝子編集技術を使用した、T細胞におけるTRAC/B2M(ダブルノックアウト、Double Knock-out,DKO)ノックアウト分析の結果を示す図である。sgRNAを化学的に修飾し、次に化学的に修飾されたsgRNAとCas9を、さらに最適化されたエレクトロポレーション条件を介して初代T細胞に送達して関連する遺伝子ノックアウトをした。結果として図に示すように、TRACとB2Mの二重遺伝子のノックアウト効率は84%に増加した。
【
図5】
図5は、TCRα/β-CARが添加されたDKO-T細胞の培養後の発現型分析を示す図である。その結果から、TCRα/β-CARが添加されたDKO-T細胞を培養した後、そのTCRα/β陰性細胞の割合は98%以上であることが分かった。
【
図6】
図6は、T細胞、DKO-T及びDKO CAR-T細胞の殺傷機能の検証及び結果の比較を示す図である。この実験では、Jurkatを標的細胞T細胞として使用し、DKO-T及びDKO CAR-T細胞をエフェクター細胞として使用し、10:1、5:1、2.5:1、1.25:1、0.625:1のエフェクター細胞と標的細胞との比率でインビトロ殺傷実験を行った。
【
図7】
図7は、T細胞、DKO-T及びDKO CAR-Tサイトカイン放出を示す図である。この実験では、Jurkatを標的細胞とし、T細胞、DKO-T及びDKO CAR-T細胞をエフェクター細胞とし、10:1、5:1、2.5:1、1.25:1、0.625:1のエフェクター細胞と標的細胞との比率でインビトロ共培養後、上澄みを取り、その中のIFN-γを検出した。
【発明を実施するための形態】
【0013】
なお、明細書及び特許請求の範囲では、特定の構成要素を指すために特定の用語が使用されていることに注意されたい。同じ構成要素が異なる名詞で呼ばれ得ることは、当業者によって理解されるべきである。本明細書及び特許請求の範囲は、構成要素を区別する方法として名詞の違いを使用せず、区別するための基準として構成要素の機能の違いを使用する。例えば、明細書及び特許請求の範囲全体で言及されるように、「包含する」または「含む」は、開放的な用語であるため、「含むが、これらに限定されない」と解釈されるべきである。本明細書における後続の説明は、本発明を実施するための好ましい実施形態であるが、前記説明は、本明細書の一般原則を目的とするものであり、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。本発明の保護の範囲は、添付の特許請求の範囲によって決定されるべきである。
【0014】
本願は、第1の態様において、T細胞リンパ腫細胞を標的とするユニバーサルCAR-T細胞を調製する方法を提供する。
【0015】
一つの具体的な実施形態において、
1)健康なリンパ系を持つヒトドナーからT細胞を取得すること、
2)前記T細胞中の
(i)TRACゲノム領域、及び
(ii)B2Mゲノム領域
を遺伝子編集技術によって破壊すること、
3)T細胞リンパ腫細胞TCRα/βを標的とするCAR分子を前記T細胞中で安定して発現させること、及び
4)ステップ3)から得られた細胞を培養すること
を含む、T細胞リンパ腫細胞を標的とするユニバーサルCAR-T細胞を調製する方法が提供される。
【0016】
本明細書の文脈では、T細胞は健康なヒトに由来する。T細胞は、臍帯血、骨髄、または末梢血単核球(Peripheral blood mononuclear cell,PBMC)などに由来する。一部の実施形態では、T細胞は幹細胞に由来し、例えば、各分化段階の造血幹細胞に由来する。本出願に記載の調製方法は、例えば、PBMCまたは幹細胞にTRAC、B2Mをノックアウトし、さらに培養・分化し、及び/または対応する遺伝子改変されたT細胞を精製することに使用されることができる。
【0017】
本発明のCAR-T細胞で発現されるCARは、順に連結されるシグナルペプチド、細胞外結合領域、ヒンジ領域、膜貫通領域、及び細胞内シグナル領域を含む。本文で使用される用語の「シグナルペプチド」とは、新しく合成したタンパク質の分泌経路への移動をガイドする短い(例えば、5~30のアミノ酸長の)ペプチド鎖をいう。本発明では、人体内の様々なタンパク質のシグナルペプチド、例えば、体内で分泌されるサイトカインタンパク質や白血球分化抗原(CD分子)のシグナルペプチドを使用することができる。一部の実施形態では、前記シグナルペプチドはCD8シグナルペプチドであり、例えば、そのアミノ酸配列は、発明特許出願US20140271635A1に示されている通りである。一部の実施形態では、前記ヒンジ領域は、異なる抗体または抗原受容体のヒンジ領域、特にCD分子のヒンジ領域を使用することができる。一つの具体的な実施形態では、前記ヒンジ領域は、CD8またはCD28などのタンパク質のヒンジ領域から選択することができる。前記CD8またはCD28は、T細胞の表面の天然マーカーである。
【0018】
本発明では、人体におけるタンパク質の様々な膜貫通領域、特に異なる抗原受容体の膜貫通領域を使用することができる。好ましく使用される膜貫通領域は、CD分子の膜貫通領域である。一実施形態では、前記膜貫通領域は、CD8タンパク質の膜貫通領域から選択される。
【0019】
本発明では、前記ヒンジ領域は、CD8αヒンジ領域(CD8-hinge)であり、そのアミノ酸配列は、発明特許出願US20140271635A1に示されている通りである。
【0020】
「細胞外結合領域」とは、標的抗原を特異的に認識する領域をいう。一部の実施形態では、当該細胞外結合領域は、標的腫瘍細胞表面抗原を特異的に認識する領域を含む。例えば、この領域は、scFvまたはその他の抗体の抗原結合フラグメントであってもよい。本文で使用される用語の「scFv」とは、リンカー(linker)によって連結される重鎖可変領域(variable region of heavy chain,VH)と軽鎖可変領域(variable region of light chain,VL)の組換えタンパク質をいい、リンカーによってこの2つのドメインが関連し、最終的に抗原結合部位を形成する。scFvは通常、ひとつのヌクレオチド鎖によってコードされるアミノ酸配列である。上記scFvはさらにその誘導体を含むことができる。
【0021】
本発明で使用されるCAR及びその様々なドメインは、アミノ酸の欠失、挿入、置換、追加、及び/または組換え、及び/またはその他の修飾方法など、本分野で既知の通常技術を単独または組み合わせて使用することによりさらに修飾することができる。ある抗体のアミノ酸配列に基づいてそのDNA配列にその修飾を導入する方法は、当業者にとって公知である(例えば、Sambrook,Molecular Cloning:An Experimental Manual,Cold Spring Harbor Laboratory(1989)N.Y.参照)。この修飾は好ましくは核酸レベルで行われる。
【0022】
本文で使用される用語の「特異的認識」とは、本発明の抗原認識領域が、目標抗原以外のいかなるポリペプチドと交差反応しない、または基本的に交差反応しないことを意味する。その特異性の程度は、イムノブロッティング、イムノアフィニティークロマトグラフィー、フローサイトメトリーなどを含むが、これらに限られていない免疫学的技術によって判断することができる。
【0023】
前記細胞外結合領域は、TCRα/βを特異的に認識する抗原結合領域である。
【0024】
本発明において、前記細胞内シグナル領域は、CD137(4-1BB)タンパク質の細胞内シグナル領域である。CD3分子は5つのサブユニットからなり、その中で、CD3ζサブユニット(CD3zetaとも呼ばれ、ζと略称する)は3つのITAMモチーフを含み、このモチーフは、TCR-CD3複合体における重要なシグナル変換領域である。FcεRIγは主にマスト細胞と好塩基球の表面に分布しており、構造、分布及び機能ではCD3ζと類似しているITAMモチーフを含む。また、前述のように、CD137は、共刺激シグナル分子であり、それぞれのリガンドに結合した後、その細胞内シグナルセグメントの共刺激効果により、T細胞の継続的な増殖を引き起こし、T細胞がIL-2とIFN-γなどのサイトカインを分泌するレベルを上昇させることができるとともに、CAR-T細胞のインビボでの生存サイクルと抗腫瘍効果を改善することができる。特定の実施形態では、TCR単独で生成したシグナルは、天然T細胞を完全に活性化するのに十分ではなく、TCRによる抗原依存の初期活性化の配列(一次細胞内シグナル伝達ドメイン)、及び抗原非依存的な方法で作用して共刺激シグナルを提供する配列(共刺激ドメイン)も必要である。一次シグナル伝達ドメインは、TCR複合体の初期活性化を刺激的または抑制的に調節する。刺激的に作用する一次細胞内シグナル伝達ドメインは、シグナル伝達モチーフを含んでもよく、これは、免疫受容体チロシン活性化モチーフ(ITAM)と呼ばれる。本発明のITAMを含む一次細胞質シグナル伝達配列はCD3ζである。一実施形態では、一次シグナル伝達ドメインは、修飾されたITAMドメインを含み、例えば、天然ITAMドメインと比較して活性が変更(例えば、増加または低下)した突然変異ITAMドメイン、またはトランケートされたITAMの一次細胞内シグナル伝達ドメインを含む。一実施形態では、一次シグナル伝達ドメインは、1つ以上のITAMモチーフを含む。
【0025】
共刺激シグナル伝達ドメインは、TCRの中の、共刺激分子細胞内ドメインを含む部分を指す。共刺激分子は、抗原に対するリンパ球の効率的な応答に必要な抗原受容体またはそのリガンド以外の細胞表面分子である。本願の共刺激分子領域は、4-1BB(CD137)である。
【0026】
「T細胞受容体(TCR)」は、CD3と結合してTCR-CD3複合体を形成する、すべてのT細胞の表面上の特徴的なマーカーである。TCRはαとβとの2つのペプチド鎖からなり、各ペプチド鎖はさらに、可変領域(V領域)、定常領域(C領域)、膜貫通領域、及び細胞質領域に分けられる。TCR分子は免疫グロブリンスーパーファミリーに属し、その抗原特異性はV領域に存在する。V領域(Vα、Vβ)にはそれぞれ3つの超可変領域、すなわち、CDR1、CDR2、CDR3があり、その中で、CDR3の変異が最も大きくて、TCRの抗原結合特異性を直接に決定する。TCRがMHC-抗原ペプチド複合体を認識する時、CDR1とCDR2は、MHC分子抗原結合溝の側壁を認識して結合し、CDR3は抗原ペプチドに直接に結合する。TCRは、TCR1とTCR2との2類に分けられ、TCR1は、γとδとの2つの鎖で構成され、TCR2は、αとβとの2つの鎖で構成される。末梢血では、T細胞の90%~95%はTCR2を発現し、いずれのT細胞は、TCR2とTCR1のいずれか1つのみを発現する。
【0027】
「β2ミクログロブリン(B2M)」は、細胞表面のヒト白血球抗原(HLA)のβ鎖(軽鎖)部分であり、分子量が11800である、99個のアミノ酸からなる単鎖ポリペプチドである。
【0028】
本出願で使用されるように、「Indel」は、挿入/欠失、すなわち、挿入変異・欠失変異のことを指す。
【0029】
「移植片対宿主反応(GVHD)」とは、ドナーと受容体の間に免疫遺伝学的差異が存在するため、例えば、一方で、免疫活性を有するドナーのTリンパ球のようなドナー細胞が受容体である患者の体内に入ってある程度までに増殖した後、受容体である患者の正常な細胞または組織を標的と誤認して攻撃して起こった反応を指す。もう一方では、異系細胞について、受容体体内の正常な免疫系は、それらをクリアして「宿主対移植片反応((HVGR)」を起こすこともある。
【0030】
HVGRとGVHRの関連遺伝子は、TCR、HLA分子の関連遺伝子を含み、これらの遺伝子が同時にノックアウトされたTリンパ球を同種異系患者に再注入する時、移植片対宿主病(GVHD)を引き起こさないため、「ユニバーサルT細胞」と呼ばれることができる。例えば、単一のTRAC遺伝子は、TCRα鎖をコードする遺伝子と、TCRβをコードする2つのTRBC遺伝子とから形成した完全且つ機能的なTCR複合体であり、TRACをノックアウトするとTCRの不活性化を引き起こす可能性があり、B2MはMHCI関連遺伝子である。これら2つの遺伝子が同時にノックアウトされたTリンパ球は、同種異系患者に再注入する時に移植片対宿主病(GVHD)を引き起こすことはない。
【0031】
「CAR-T」は「キラメ抗原受容体T細胞」の略称であり、キラメ抗原受容体(CAR)はCAR-Tのコアコンポーネントであり、HLAに依存しない方法で標的細胞(例えば、腫瘍)の抗原を認識する能力をT細胞に付与し、これによって、CARにより改変されたT細胞は、天然T細胞の表面上の受容体TCRよりも広い範囲の目標を認識することができる。一部の実施形態では、腫瘍を標的とするCARの設計には、1つの腫瘍関連抗原(tumоr-assоciated antigen、TAA)結合領域(例えば、通常はモノクローナル抗体の抗原結合領域に由来するscFVセグメント)、1つの細胞外ヒンジ領域、1つの膜貫通領域、及び1つの細胞内シグナル領域を含む。目標抗原の選択は、CARの特異性と有効性、及び遺伝子改変されたT細胞自体の安全性にとって肝心な決定要素である。
【0032】
「ユニバーサルCAR-T細胞」とは、特異的な標的細胞(例えば、腫瘍)に関連するマーカーを標的とし、細胞表面のTCRとMHCの機能が不活性化になり、同種異系細胞治療によって引き起こされる免疫拒絶反応を低めることができるCAR-T細胞をいう。
【0033】
自己細胞のCAR-T治療では、採血して患者自身のTリンパ球を分離する必要があり、一方、患者のT細胞が癌性であるため、CAR-Tの調製には患者自身のT細胞を使用できなくなったり、CAR-T細胞の調製プロセスでは突然の状況が発生して、準備された細胞をタイムリーに患者に再注入することができなくなったりする場合、治療効果に影響を与えてしまう。同種異系治療に使用可能なユニバーサルCAR-T細胞は、上記状況において大きな優勢を持っている。
【0034】
養子細胞療法(Adoptive cellular therapy,ACT)、腫瘍養子免疫療法(Tumor adoptive immunotherapy)のような養子免疫療法(Adoptive immunotherapy)とは、免疫細胞をインビトロで処理し、例えば、特異的な抗原を加えて免疫細胞により発現される分子を改変し、またはサイトカインを利用してそれを刺激するなどの方法を利用して、特異性の高い標的細胞(例えば、腫瘍)殺傷性免疫エフェクター細胞をスクリーニングして大量に増幅し、そして患者に注入して標的細胞(例えば、腫瘍)を殺す治療方法であり、受動免疫療法である。
【0035】
「安定した発現」とは、連続的な発現を意味する。宿主細胞における導入遺伝子の安定した発現は、安定したトランスフェクションにより、標的遺伝子を細胞の染色体DNAに組み込み、適切な量の標的タンパク質の合成をガイドすることによって達成することができる。安定したトランスフェクション(例えばウイルストランスフェクションによる)の場合、外因性遺伝子は細胞のゲノムに組み込まれ、外因性遺伝子は細胞のゲノムの一部になり、複製され、安定にトランスフェクトされた細胞の子孫細胞も外因性遺伝子を発現し、それによって安定した発現を達成できる。
【0036】
別の具体的な実施形態において、前記TRACゲノム領域が、ヒト14番目染色体の第23016448位から第23016490位のゲノム領域を含み、前記B2Mゲノム領域が、ヒト15番目染色体の第45003745位から第45003788位のゲノム領域を含む。
【0037】
本明細書の文脈では、「ゲノム」は、分子生物学の分野における一般的な定義に準拠しており、すなわち、生体のすべての遺伝物質の合計を指す。これらの遺伝物質には、DNAまたはRNAが含まれ得る。
【0038】
さらに別の実施形態において、T細胞リンパ腫細胞TCRα/βを標的とする前記CAR分子の細胞外領域が、T細胞リンパ腫細胞TCRα/βの細胞外領域に結合するscFv分子である。
【0039】
本明細書の文脈において、「scFv」とは、抗体の重鎖可変領域と軽鎖可変領域が15~20のアミノ酸の短ペプチド(linker、リンカー)を介して結合した抗体である単鎖抗体(single chain antibody fragment,scFv)を指す。scFv分子は、軽鎖可変領域、リンカー、及び重鎖可変領域で構成されるCAR分子の細胞外部分として理解できる。
【0040】
一つの具体的な実施形態において、前記CAR分子が、リンカーによって連結された以下の配列:
scFvの軽鎖可変領域 配列番号19
QIVLTQSPAIMSASPGEKVTMTCSATSSVSYMHWYQQKSGTSPKRWIYDTSKLASGVPARFSGSGSGTSYSLTISSMEAEDAATYYCQQWSSNPLTFGAGTKLELK;
scFvの重鎖可変領域 配列番号20
EVQLQQSGPELVKPGASVKMSCKASGYKFTSYVMHWVKQKPGQGLEWIGYINPYNDVTKYNEKFKGKATLTSDKSSSTAYMELSSLTSEDSAVHYCARGSYYDYDGFVYWGQGTLVTVSA
を含む。
【0041】
別の具体的な実施形態において、前記リンカーが(G)n(S)mを含むアミノ酸配列であり、nが1~20の正の整数であり、mが1~10の正の整数である。具体的には、nは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20であり得、mは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10であり得る。ここで、Gはグリシンの略号であり、Glyと省略することもあり、Sはセリンの略号であり、Serと省略することもある。
【0042】
一つの具体的な実施形態において、前記リンカー配列が、配列番号21に示される配列GGGGSGGGGSGGGGSGGGGSである。
【0043】
別の具体的な実施形態において、前記CAR分子のアミノ酸配列は、配列番号14に示されるアミノ酸配列を含むか、または配列番号14に示されるアミノ酸配列からなる。
【0044】
一つの具体的な実施形態において、前記TRACゲノム領域及び前記B2Mゲノム領域が、相同組換え、ジンクフィンガーヌクレアーゼ遺伝子編集技術、TALEN遺伝子編集技術、またはCRISPR/Cas遺伝子編集技術によって破壊される。
【0045】
別の具体的な実施形態において、前記遺伝子編集技術がCRISPR/Cas9技術である。
【0046】
本出願で使用されたように、「CRISPR/Cas9」は遺伝子編集技術であり、例えば、CRISPR/Cas9システムのような、自然に存在するまたは人工的に設計された様々なCRISPR/Casシステムを含むが、これらに限られていない。自然に存在するCRISPR/Casシステム(Naturally occurring CRISPR/Cas system)は、細菌と古細菌が長期的な進化中に形成した適応性免疫防御であり、侵入するウイルス及び外因性DNAと対抗することができる。例えば、CRISPR/Cas9の作動原理は、crRNA(CRISPR-derived RNA)が塩基対を通してtracrRNA(trans-activating RNA)と結合してtracrRNA/crRNA複合体を形成し、この複合体は、ヌクレアーゼCas9タンパク質をガイドしてcrRNAとペアになっている配列標的部位で二本鎖DNAを切断する。tracrRNAとcrRNAを人工的に設計することにより、ガイド作用を有するsgRNA(single guide RNA)を改変形成することができ、Cas9がDNAを固定点で切断することをガイドするには十分である。RNA指向のdsDNA結合タンパク質として、Cas9エフェクターヌクレアーゼは、RNA、DNA、及びタンパク質を共局在化することができるため、巨大な改変可能性を有する。CRISPR/Casシステムには、クラス1、クラス2、またはクラス3のCasタンパク質が使用可能である。本発明の一部の実施形態では、前記方法にはCas9が使用される。その他の適用されるCRISPR/Casシステムは、WO2013176772、WO2014065596、WO2014018423、US8,697,359に記載されているシステムと方法を含むが、これらに限られていない。
【0047】
別の具体的な実施形態において、本願のCRISPR/Cas9方法では、
(i)TRACゲノムを標的とするガイドRNA(sgRNA)が、配列番号2~5から選択されるいずれか1つの配列を有する;及び/または
(ii)B2Mゲノムを標的とするガイドRNA(sgRNA)が、配列番号6~13から選択されるいずれか1つの配列を有する。
【0048】
本発明において、「sgRNA(single guide RNA」と「gRNA(guide RNA)」、または、「シングルガイドRNA」、「合成されたガイドRNA」または「ガイドRNA」は、置き換えて使用できる。本発明のsgRNAは、目的配列を標的とするガイド配列(guide sequence)を含む。
【0049】
一般に、sgRNAの中のガイド配列は、標的ポリヌクレオチド配列と十分な相補性を有し、標的配列とハイブリダイズし、CRISPR複合体と標的配列との配列特異的結合をガイドする任意のポリヌクレオチド配列である。一部の実施形態では、適切なアラインメントアルゴリズムを使用して最適なアラインメントを行う場合、ガイド配列及びそれに対応する標的配列間の相補程度は約80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、97.5%以上、99%以上またはそれ以上である。最適なアラインメントは、配列をアラインするための任意の適切なアルゴリズムを使用して決定でき、その非限定的な例には、Smith-Watermanアルゴリズム、Needleman-Wimschアルゴリズム、Burrows-Wheeler Transformに基づいたアルゴリズム(例えば、Burrows Wheeler Aligner)、Clustal W、Clustai X、BLAT、Novoalign(Novocraft Technologies,ELAND(Illumina,San Diego,CA))、SOAP(sоap.genоmics.оrg.cnで入手可能)及びMaq(maq.sourceforge.netで入手可能)が含まれる。一部の実施形態では、ガイド配列の長さは、約10以上、11以上、12以上、13以上、14以上、15以上、16以上、17以上、18以上、19以上、20以上、21以上、22以上、23以上、24以上、25以上、26以上、27以上、28以上、29以上、30以上、35以上、40以上、45以上、50以上、55以上、60以上、65以上、70以上、75以上、またはそれ以上のヌクレオチドであってもよい。一部の実施形態では、ガイド配列の長さは、約75未満、70未満、65未満、60未満、55未満、50未満、45未満、40未満、35未満、30未満、25未満、20未満、15未満、12未満、またはそれより少ないヌクレオチドであってもよい。CRISPR複合体と標的配列の配列特異的結合をガイドするガイド配列の能力は、任意の適切な測定方法により評価することができる。例えば、対応する標的配列を有する宿主細胞に、CRISPR複合体を形成するには十分なCRISPRシステムのコンポーネント(テストされるガイド配列を含む)を提供してもよく、例えば、CRISPR配列コンポーネントをコードするベクターを使用してトランスフェクションし、そして標的配列内の優先的な切断を評価することで行うことができる。同様に、標的ポリヌクレオチド配列の切断は、試験管内で、標的配列、CRISPR複合体(テストされるガイド配列と、ガイド配列と異なる対照ガイド配列とを含む)のコンポーネントを提供し、標的配列におけるテストと対照ガイド配列の結合または切断率を比較して評価することができる。また、当業者に既知の他の測定方法を使用して上記測定と評価を行うことができる。
【0050】
さらに別の具体的な実施形態において、前記sgRNA及びCas9をコードするヌクレオチド配列を一緒にまたは別々に前記T細胞に導入する。
【0051】
一つの具体的な実施形態において、前記sgRNA及びCas9をコードするヌクレオチド配列をエレクトロポレーションによって一緒に前記T細胞に導入する。
【0052】
具体的には、TRACを標的とするsgRNA、B2Mを標的とするsgRNA及び/またはCas9をコードするヌクレオチド(例えば、mRNA)は、エレクトロポレーションによってT細胞に導入する。いくつかの実施形態において、TRACを標的とするsgRNA、B2Mを標的とするsgRNA及びCas9をコードするヌクレオチドは、エレクトロポレーションによってT細胞に一緒に導入される。
【0053】
具体的には、前記Cas9をコードするヌクレオチドはmRNAであり、例えば、ARCAキャップを含むmRNAである。一部の実施形態では、前記Cas9をコードするヌクレオチドはレンチウイルスベクターなどのウイルスベクターにある。一部の実施形態では、前記Cas9をコードするヌクレオチドは、例えば、配列番号1の配列を含む。一部の実施形態では、前記TRACを標的とするsgRNA、B2Mを標的とするsgRNA、及びCas9をコードするヌクレオチドは同一のベクターにある。
【0054】
具体的には、前記エレクトロポレーション条件は、150~250V、0.5~2ms;150V、2ms;160V、2ms;170V、2ms;180V、2ms;190V、1ms;200V、1ms;210V、1ms;220V、1ms;230V、1ms;240V、1ms;及び250V、0.5msの条件から選択されるいずれかである。
【0055】
本願では、TRACを標的とするsgRNA、B2Mを標的とするsgRNAを同時にT細胞に導入する。具体的には、TRACを標的とするsgRNA、B2Mを標的とするsgRNAを同時にT細胞に導入する場合、TRACを標的とするsgRNA、B2Mを標的とするsgRNAのそれぞれの量は、互いに近いか、同等であってもよい。一部の実施形態では、TRACを標的とするsgRNA、B2Mを標的とするsgRNAは任意の適切な順序で一つずつT細胞に導入する。一部の実施形態では、TRACを標的とするsgRNA、B2Mを標的とするsgRNA、及びCas9をコードするヌクレオチドを同時にT細胞に導入する。一部の実施形態では、TRACを標的とするsgRNA、B2Mを標的とするsgRNAより、Cas9をコードするヌクレオチドを先にT細胞に導入する。一部の実施形態では、T細胞は、Cas9をコードするヌクレオチドまたはCas9タンパク質を含む。
【0056】
本願では、前記TCRのα鎖定常コード領域(すなわち、TRAC)遺伝子がノックアウトされる。例えば、いくつかの特定の実施形態において、本発明のTCR α鎖定常コード領域遺伝子は、前記細胞のTRAC-sg2、3、4、6分子の1つに導入される(詳細については表1を参照)。
【0057】
【0058】
一つの具体的な実施形態において、前記sgRNAが化学的に修飾されている。
【0059】
もう一つの具体的な実施形態において、前記化学修飾は、2’-O-メチル修飾またはヌクレオチド間3’チオ修飾を含む。
【0060】
別の具体的な実施形態において、前記化学修飾は、前記sgRNAの5’末端の3つの塩基及び3’末端の3つの塩基の2’-O-メチル修飾及びヌクレオチド間3’チオ修飾である。
【0061】
実施例に使用されている具体的な化学修飾の他に、例えば、Deleavey GF1,D案はMJ. Designing chemically modified oligonucleotides for targeted gene silencing. Chem Biol.2012 Aug 24;19(8):937-54、及びHendel et al. Chemically modified guide RNAs enhance CRISPR-Cas genome editing in human primary cells. Nat Biotechnol. 2015 Sep;33(9):985-989の文献に報告された化学修飾方法など、その他の修飾方法を含む。
【0062】
本発明において、化学修飾されたsgRNA及びCas9コード遺伝子を共にエレクトロポレーションによってT細胞に導入し、効率的な遺伝子編集効率(例えば、TCRα/β-B2M-%で表される)を生成し、sgRNAの化学修飾は本発明の肝心な要素の一つである。実施例のデータによって、Cas9 mRNAと一緒にエレクトロポレーションしたのは、化学修飾されていないsgRNAである場合、そのIndels効率は、化学修飾されたsgRNAをエレクトロポレーションした時に得られた遺伝子編集効率よりはるかに低いことは示されている。一つの具体的な実施形態において、前記TRAC及びB2Mのそれぞれのノックアウト効率が90%、92%、94%、96%、98%以上であり、同時ノックアウト効率が75%、80%、85%以上である。
【0063】
「ノックアウト効率」は、遺伝子レベルで遺伝子ノックアウトが発生したINDELの効率を用いて表すことができる。また、細胞レベルで、その遺伝子ノックアウトによって遺伝子によって発現されたタンパク質が消失する、または有意に減少する細胞の百分比を用いて表すこともできる。本発明において、「ノックアウト効率」とは、後者に基づいて算出したノックアウト効率をいう。高いノックアウト効率が目標細胞の収量を増加させ、生産コスト及び治療コストを削減できることは、当業者が理解することができる。
【0064】
具体的には、遺伝子編集されたT細胞(例えば、ユニバーサルT細胞)をさらにスクリーニングしてより高純度の二重遺伝子(TRACとB2M)ノックアウトT細胞を取得する。例えば、TRAC、B2Mの発現量の低い遺伝子編集されたT細胞(例えば、ユニバーサルT細胞)をFACSでスクリーニングすることができる。
【0065】
具体的には、本発明のユニバーサルT細胞のTCR及び/またはHLA遺伝子がノックアウトされる。一部の具体的な実施形態では、前記TCRのα鎖定常コード領域(すなわち、TRAC)の遺伝子がノックアウトされる。B2Mのコード領域がノックアウトされる。
【0066】
一つの具体的な実施形態において、T細胞リンパ腫細胞TCRα/βを標的とする前記CAR分子をコードするヌクレオチド配列を、ウイルストランスフェクションによって前記T細胞に導入して安定的に発現させる。具体的には、前記ウイルスがアデノ随伴ウイルス(AAV)またはレンチウイルスである。
【0067】
いくつかの具体的な実施形態では、ステップ4)の培養プロセスとともに、天然TCRを発現するT細胞が除去される。本願では、この除去プロセスは「精製」とも呼ばれ、磁気ビーズを使用してU(ユニバーサル)CAR-T細胞を精製する従来の方法の代替手段である。この方法による精製は、追加の精製ステップが必要とせず、細胞の損失がなく、それと共に、時間及びコストも削減できる。
【0068】
第2の態様では、本願は、T細胞リンパ腫細胞を標的とするユニバーサルCAR-T細胞に関する。
【0069】
一つの具体的な実施形態において、T細胞リンパ腫細胞を標的とするユニバーサルCAR-T細胞が提供され、該細胞は、T細胞リンパ腫細胞TCRα/βを標的とするCAR分子を発現し、天然TCR分子がない。別の具体的な実施形態において、前記CAR分子が、配列番号14に示されるアミノ酸配列を含む。
【0070】
さらに別の具体的な実施形態において、クラス1 HLAタンパク質、PD-1、TIM3、及びLAG3から選択される1つまたは複数のタンパク質を低いレベルで発現するか、または発現しない、上記のユニバーサルCAR-T細胞が提供される。
【0071】
本明細書の文脈では、CD279(分化のクラスター279)とも呼ばれるPD-1(プログラム細胞死受容体1)は重要な免疫抑制分子である。ヒト細胞に対する免疫系の応答をダウンレギュレートし、T細胞の炎症活性を抑制することにより、免疫系を調節して自己耐性を促進する。PD-1、TIM3、及び/またはLAG3遺伝子をノックダウンすることにより、T細胞はこれらのタンパク質を低いレベルで発現するか、またはまったく発現しないため、注入された外来T細胞に対する被験者の耐性が弱まり、除去が減少し、CAR-T細胞が被験者体内において生存及び機能する時間を延長する。
【0072】
一つの具体的な実施形態において、上記のユニバーサルCAR-T細胞を含む生物学的製品が提供される。
【0073】
第3の態様では、本願はユニバーサルCAR-T細胞の使用を提供する。
【0074】
一つの具体的な実施形態において、T細胞リンパ腫の治療のための薬剤の調製における、上記のユニバーサルCAR-T細胞または生物学的製品の使用が提供される。
【0075】
本明細書の文脈では、「T細胞リンパ腫(T-cell lymphomas,TCL)」は、異常なT細胞増殖によって現れる悪性腫瘍であり、非ホジキンリンパ腫の特殊なタイプに属し、発生率は低いが悪性度は高く、患者の1年生存率は低い。この疾患の臨床症状は、リンパ節腫脹、低抵抗、高カルシウム血症、骨侵食などである。T細胞リンパ腫は大よそ2つのカテゴリー、すなわち、T細胞前腫瘍と胸腺後T細胞リンパ腫に分けられ、リンパ節、リンパ節外組織、または皮膚に発生し得る。具体的な例としては、未分化大細胞リンパ腫(Anaplasticlarge cell lymphoma,ALCL)及び末梢T細胞リンパ腫(Peripheral T-cell lymphomas,PTCL)が挙げられる。成熟または末梢T細胞リンパ腫は、進行性のB細胞リンパ腫と比較して予後が不良である。自然免疫系に由来する末梢T細胞リンパ腫は、主に結節外病変を伴う青年期に発生する傾向があり、好発部位は皮膚と粘膜であり、他の免疫系に由来する末梢T細胞リンパ腫は成人に発生する傾向があり、主にリンパ節転移を伴い、PTCLの2/3以上を占める。
【0076】
もう一つの具体的な実施形態において、上記使用は、T細胞リンパ腫に罹患している被験者に、治療有効量の上記のユニバーサルCAR-T細胞または生物学的製品を投与することを含む。
【0077】
本発明に係るCAR-T細胞は、静脈注入経路など、細胞成分を含む医薬品を投与するために従来使用されている経路を通じて、それを必要とする被験者に投与することができる。投与量は、被験者の病状及び一般的な健康状況に基づいて具体的に決定することができる。
【0078】
増幅と遺伝子修飾をする前に、被験者からT細胞源が得られる。用語の「被験者」は、免疫応答を誘発することができる生物(例えば、哺乳動物)を含もうとする。被験者の例には、ヒトが含まれている。T細胞は、末梢血単核細胞、骨髄、リンパ節組織、臍帯血、胸腺組織、感染部位に由来する組織、腹水、胸水、脾臓組織、腫瘍(T細胞リンパ腫は除外される)など、さまざまなソースから取得可能である。本発明のT細胞はまた、各分化段階にある造血幹細胞に由来することができる。方向性分化培養条件下で、造血幹細胞はT細胞に分化する。本発明のある局面では、本分野で利用可能な複数のT細胞株を使用することができる。
【0079】
本発明のある局面では、T細胞は、熟練技術者に既知の様々な技術、例えば、FicollTMを利用して被験者から収集された血液から単離して得てもよいし、アフェレーシス(apheresis)によって個体の循環血液から細胞を得てもよい。アフェレーシスの産物は通常、T細胞、単核細胞、顆粒球、B細胞を含むリンパ球、その他の有核白血球、赤血球、血小板を含む。一局面では、アフェレーシスによって収集された細胞を洗浄して血漿部分を除去し、後続の加工ステップのために細胞を適切な緩衝液または媒質に入れてもよい。
【0080】
赤血球を溶解し、例えばPERCOLLTM勾配遠心分離または向流遠心分離によって単核細胞をパニングして枯渇させ、末梢血リンパ球からT細胞を分離することができる。CD3+、CD28+、CD4+、CD8+、CD45RA+、CCR7+、CD62L+及びCD45RO+T細胞などの特定のT細胞サブセットは、陽性または陰性選択技術によってさらに分離することができる。例えば、一態様では、T細胞は、DYNABEADS(商標)M-450CD3/CD28Tなどの抗CD3/抗CD28(例えば、3×28)結合ビーズと一緒に、所望のT細胞に対して陽性選択するのに十分な時間でインキュベーションすることで分離する。腫瘍浸潤リンパ球(TIL)を腫瘍組織から分離することができる。
【0081】
次は具体的な実施例を通して本発明の内容を説明する。以下の具体的な実施例は、例示のみを目的としており、本発明の内容が具体的な実施例に限定されることを意味するものではないことを理解されたい。本明細書全文でいくつかの文献が引用されている。ここで、各文書(いずれのジャーナル記事または要約、公開済みまたは未公開の特許出願、登録された特許、メーカーの仕様書、プロトコルなどを含む)は言及により本文に取り込まれる。しかしながら、ここに引用された文書が実際に本発明の既存技術であると認めるわけではない。
【実施例1】
【0082】
実施例1:ユニバーサルT細胞の調製
ユニバーサルCAR-T細胞の調製と増幅
ヒト末梢血から選別してT細胞を取得し、選別されたT細胞をサイトカインによって活性化させ、T細胞培養培地を利用して細胞密度を1×106細胞/mLに調整した。72時間後、細胞の状態を観察し、細胞懸濁液を収集し、300gで7分間遠心分離し、上澄みを捨て、DPBS(メーカー:Gibco、カタログ番号:1924294)で2回洗浄し、そしてエレクトロポレーション試薬培地で細胞密度を2.5×107細胞/mLに調整した。合成したCas9 mRNA及び合成されたsgRNAをT細胞とRNAと均一に混合し、最終濃度が100μL当たり2.5×106細胞と2μgのRNA(Cas9 mRNAとsgRNAをそれぞれ2μg含む)を含むようにした。そして、エレクトロポレーターBTX Agile pulse MAXを使用してRNAをT細胞に導入して培養した。細胞の成長状態を毎日観察し、1日おきに細胞を数えて液を補充し、4日目にMOI=2-10の比率で、CAR(具体的な配列については以下を参照)(抗TCRα/βscFv、リンカー領域(Linker)、CD8 alphaヒンジ領域(CD8 alpha hinge)、CD8膜貫通領域(CD8 transmembrane dоmain)、4-11BBシグナル領域(4-11BB signaling domain)及びCD3 zeta、具体的な構造についてUS20140271635A1を参照)が包装されたレンチウイルスを加えた。
【0083】
増殖培養プロセス中の細胞生存率の検出の結果を
図1に示す。細胞培養の初期段階である4~8日目頃、U-CAR-T(TCRα/βを標的とするCARを導入したユニバーサルT細胞)の添加で生存率は良くなかった。これは、細胞が自殺しても天然TCRα/βのT細胞を発現できるからであるが、後期細胞の生存率は他の2つの群とは有意な差がなかった。
図2は、13日間の培養後の細胞の増殖倍率を示している。CARを添加した細胞の自殺により、増殖倍率は他の対照群ほど良くなかった。ただし、U-Tはさらに精製する必要があるため、精製を必要としないユニバーサルCAR-Tよりも最終的に得られた細胞の数が少なかった。
【0084】
細胞増殖と培養の過程で、フローサイトメトリーを使用してCARの発現率をモニタリングした。結果をそれぞれ
図3に示す。CARの陽性率は約12.76%であった。化学修飾されたRNAは遺伝子ノックアウトに使用され、その編集効率は安定して効率的であり、
図4に示すように、TCR及びB2MがノックアウトされたT細胞はフローサイトメトリーによって検出され、二重遺伝子ノックアウト効率は84.95%であった。
図5に示すように、TCRα/βを標的とするCARが添加された二重遺伝子ノックアウトT細胞は、そのTCRとB2Mの陰性率は98%を超え、TCRとB2Mを発現する細胞がさらに除去され、さらなる精製効果が収められ、プロセスが簡素化され、時間とコストが節約されるとともに、より多くの細胞が得られた。
【0085】
ユニバーサルCAR-T細胞のスクリーニング
TCR及びB2M陰性、CD4及びCD8陽性なT細胞を下記の方法でスクリーニングした。
【0086】
免疫磁気ビーズを利用してTCR及びB2M陰性、CD4及びCD8陽性なT細胞をスクリーニングし、編集されたT細胞の状態をT細胞生存率によってモニタリングした。具体的なステップは下記通りである:
第1ステップでは、12~14日目に、エレクトロポレーションされたT細胞を収集し、400Gで5分間遠心分離し、上澄みを捨て、Easy bufferを用いて細胞を1×108/mlに溶解してから、細胞を5mlフローサイトメトリーチューブに移した。スクリーニングビーズを利用して、T細胞中の、TCR、B2Mを依然として発現している細胞を除去し、スクリーニングして最終的な製品、すなわちユニバーサルT細胞を得た。
第2ステップでは、少量のT細胞を取ってフローサイトメトリー検出をすると共に、TCR及びB2M細胞表面のバイオマーカーを染色した。TCR及び/またはB2Mの陽性率は1%未満である場合、次のステップに進むことができる。本実施例では、TCR陽性率は1%であり、TCRとB2M DKOのT細胞陽性率は0.79%未満である。
【0087】
実施例2:実施例1で得られたユニバーサルCAR-Tの機能検証
実施例1で得られたユニバーサルCAR-T細胞(すなわち、エフェクター細胞)の、T細胞急性リンパ球性白血病細胞に対する殺傷効果が観察された。
【0088】
一、特異的腫瘍細胞に対するインビトロ殺傷効果
本発明の実験ステップは下記通りである:
ステップ1:標的細胞の標識
CELL TRACE(商標) Far Red Cell Proliferation Kit(メーカー:Gibco、カタログ番号:1888569)を用いて標的細胞(ヒトリンパ腫細胞Jurkat、すべての細胞はATCCに由来)を標識した。
1. CELL TRACE(商標) Far Red Cell Proliferationを再蒸留水で1mmоlの溶液に希釈した;
2. 1×10
6個の標的細胞を取り、400gで5分間遠心分離して上澄みを除去した;
3. 1μlのCELL TRACE(商標) Far Red Cell Proliferation溶液を加え、37℃の暗所で20分間インキュベーションした;
4. 細胞をT細胞培養培地に加え、37℃で5分間インキュベーションした;
5. 400gで5分間遠心分離した後、上澄みを除去し、標識を完了した。
ステップ2:標的細胞に対するエフェクター細胞の殺傷検出
標識された標的細胞を2×10
5個の細胞/mLの密度でR1640+10%FBS培養液で再懸濁し、500μLを取って48ウェルプレートに加えた。適切なエフェクター細胞と標的細胞との比率(2.5:1、1.25:1、0.6:1)で、各ウェルに500μlのエフェクター細胞を加えると共に、T細胞と健康なヒト臍帯血CAR-T細胞(T細胞培養の2日目に、CAR(具体的な構造について、US20140271635A1を参照)が包装されているレンチウイルスをMOI=2~10の比率で加えて得られたCAR-T)を対照細胞として、各群に3つが平行し、個別の標的細胞群を設計し、その死亡率を検出した。37℃、5%CO2で12~16時間培養し、400gで5分間遠心分離し、細胞ペレットを取り、150μlのDPBS(メーカー:Gibco、カタログ番号:1924294)で再懸濁した。PI(メーカー:Sigma;カタログ番号:P4170)で染色した後、フローサイトメトリーで標的細胞の死亡率を検出した。その結果を
図6に示すように、ユニバーサルCAR-T細胞は、高効率の特異的殺傷効果を示している。また、非特異的な標的細胞に対して殺傷効果はほとんどない。
ステップ3:ELISAによるサイトカイン放出の検出
標識された標的細胞を2×10
5個の細胞/mLの密度でRPMI 1640+10%FBSで再懸濁し、500μLを取って48ウェルプレートに加えた。適切なエフェクター細胞と標的細胞との比率(10:1)で、各ウェルに500μlのエフェクター細胞を加えると共に、T細胞と健康なヒト臍帯血CAR-T細胞を対照細胞として、各群に3つが平行し、個別の標的細胞群を設計した。37℃、5%CO2で12~16時間培養し、各ウェルから100μlの培養上澄みを取り、400gで5分間遠心分離して細胞ペレットを除去し、上澄みを取ってからLEGEND MAX(商標) Human IL-2/IFN-gama(メーカー:Biolegend、カタログ番号:431807、430108)キットを用いて、プロトコルに従ってサイトカイン放出を検出した。その結果を
図7に示す。
【0089】
本発明の実施形態は、添付の図面を参照して上で説明したが、本発明は、上記の特定の実施形態及び応用分野に限定されず、上記の具体的な実施形態は、単に例示的であり、ガイドに過ぎず、限定的ではない。本明細書の教示の下で、本発明の特許請求の範囲によって保護される範囲から逸脱することなく、当業者はまた多くの形態を作ることができ、これらはすべて本発明の保護範囲に属する。
【0090】
配列表
配列番号1:Cas9 mRNA配列
gacaagaaguacagcaucggccuggacaucggcaccaacucugugggcugggccgugaucaccgacgaguacaaggugcccagcaagaaauucaaggugcugggcaacaccgaccggcacagcaucaagaagaaccugaucggagcccugcuguucgacagcggcgaaacagccgaggccacccggcugaagagaaccgccagaagaagauacaccagacggaagaaccggaucugcuaucugcaagagaucuucagcaacgagauggccaagguggacgacagcuucuuccacagacuggaagaguccuuccugguggaagaggauaagaagcacgagcggcaccccaucuucggcaacaucguggacgagguggccuaccacgagaaguaccccaccaucuaccaccugagaaagaaacugguggacagcaccgacaaggccgaccugcggcugaucuaucuggcccuggcccacaugaucaaguuccggggccacuuccugaucgagggcgaccugaaccccgacaacagcgacguggacaagcuguucauccagcuggugcagaccuacaaccagcuguucgaggaaaaccccaucaacgccagcggcguggacgccaaggccauccugucugccagacugagcaagagcagacggcuggaaaaucugaucgcccagcugcccggcgagaagaagaauggccuguucggcaaccugauugcccugagccugggccugacccccaacuucaagagcaacuucgaccuggccgaggaugccaaacugcagcugagcaaggacaccuacgacgacgaccuggacaaccugcuggcccagaucggcgaccaguacgccgaccuguuucuggccgccaagaaccuguccgacgccauccugcugagcgacauccugagagugaacaccgagaucaccaaggccccccugagcgccucuaugaucaagagauacgacgagcaccaccaggaccugacccugcugaaagcucucgugcggcagcagcugccugagaaguacaaagagauuuucuucgaccagagcaagaacggcuacgccggcuacauugacggcggagccagccaggaagaguucuacaaguucaucaagcccauccuggaaaagauggacggcaccgaggaacugcucgugaagcugaacagagaggaccugcugcggaagcagcggaccuucgacaacggcagcaucccccaccagauccaccugggagagcugcacgccauucugcggcggcaggaagauuuuuacccauuccugaaggacaaccgggaaaagaucgagaagauccugaccuuccgcauccccuacuacgugggcccucuggccaggggaaacagcagauucgccuggaugaccagaaagagcgaggaaaccaucacccccuggaacuucgaggaagugguggacaagggcgcuuccgcccagagcuucaucgagcggaugaccaacuucgauaagaaccugcccaacgagaaggugcugcccaagcacagccugcuguacgaguacuucaccguguauaacgagcugaccaaagugaaauacgugaccgagggaaugagaaagcccgccuuccugagcggcgagcagaaaaaggccaucguggaccugcuguucaagaccaaccggaaagugaccgugaagcagcugaaagaggacuacuucaagaaaaucgagugcuucgacuccguggaaaucuccggcguggaagaucgguucaacgccucccugggcacauaccacgaucugcugaaaauuaucaaggacaaggacuuccuggacaaugaggaaaacgaggacauucuggaagauaucgugcugacccugacacuguuugaggacagagagaugaucgaggaacggcugaaaaccuaugcccaccuguucgacgacaaagugaugaagcagcugaagcggcggagauacaccggcuggggcaggcugagccggaagcugaucaacggcauccgggacaagcaguccggcaagacaauccuggauuuccugaaguccgacggcuucgccaacagaaacuucaugcagcugauccacgacgacagccugaccuuuaaagaggacauccagaaagcccagguguccggccagggcgauagccugcacgagcacauugccaaucuggccggcagccccgccauuaagaagggcauccugcagacagugaaggugguggacgagcucgugaaagugaugggccggcacaagcccgagaacaucgugaucgaaauggccagagagaaccagaccacccagaagggacagaagaacagccgcgagagaaugaagcggaucgaagagggcaucaaagagcugggcagccagauccugaaagaacaccccguggaaaacacccagcugcagaacgagaagcuguaccuguacuaccugcagaaugggcgggauauguacguggaccaggaacuggacaucaaccggcuguccgacuacgauguggaccauaucgugccucagagcuuucugaaggacgacuccaucgacaacaaggugcugaccagaagcgacaagaaccggggcaagagcgacaacgugcccuccgaagaggucgugaagaagaugaagaacuacuggcggcagcugcugaacgccaagcugauuacccagagaaaguucgacaaucugaccaaggccgagagaggcggccugagcgaacuggauaaggccggcuucaucaagagacagcugguggaaacccggcagaucacaaagcacguggcacagauccuggacucccggaugaacacuaaguacgacgagaaugacaagcugauccgggaagugaaagugaucacccugaaguccaagcugguguccgauuuccggaaggauuuccaguuuuacaaagugcgcgagaucaacaacuaccaccacgcccacgacgccuaccugaacgccgucgugggaaccgcccugaucaaaaaguacccuaagcuggaaagcgaguucguguacggcgacuacaagguguacgacgugcggaagaugaucgccaagagcgagcaggaaaucggcaaggcuaccgccaaguacuucuucuacagcaacaucaugaacuuuuucaagaccgagauuacccuggccaacggcgagauccggaagcggccucugaucgagacaaacggcgaaaccggggagaucgugugggauaagggccgggauuuugccaccgugcggaaagugcugagcaugccccaagugaauaucgugaaaaagaccgaggugcagacaggcggcuucagcaaagagucuauccugcccaagaggaacagcgauaagcugaucgccagaaagaaggacugggacccuaagaaguacggcggcuucgacagccccaccguggccuauucugugcuggugguggccaaaguggaaaagggcaaguccaagaaacugaagagugugaaagagcugcuggggaucaccaucauggaaagaagcagcuucgagaagaaucccaucgacuuucuggaagccaagggcuacaaagaagugaaaaaggaccugaucaucaagcugccuaaguacucccuguucgagcuggaaaacggccggaagagaaugcuggccucugccggcgaacugcagaagggaaacgaacuggcccugcccuccaaauaugugaacuuccuguaccuggccagccacuaugagaagcugaagggcucccccgaggauaaugagcagaaacagcuguuuguggaacagcacaagcacuaccuggacgagaucaucgagcagaucagcgaguucuccaagagagugauccuggccgacgcuaaucuggacaaagugcuguccgccuacaacaagcaccgggauaagcccaucagagagcaggccgagaauaucauccaccuguuuacccugaccaaucugggagccccugccgccuucaaguacuuugacaccaccaucgaccggaagagguacaccagcaccaaagaggugcuggacgccacccugauccaccagagcaucaccggccuguacgagacacggaucgaccugucucagcugggaggcgac
【0091】
TRAC-sg2(T2)配列:配列番号2
gcugguacacggcaggguca
【0092】
TRAC-sg3(T3)配列:配列番号3
cucucagcugguacacggca
【0093】
TRAC-sg4(T4)配列:配列番号4
auuuguuugagaaucaaaau
【0094】
TRAC-sg6(T6)配列:配列番号5
ucucucagcugguacacggc
【0095】
B2M-sg1(B1)配列:配列番号6
acucucucuuucuggccugg
【0096】
B2M-sg2(B2)配列:配列番号7
gaguagcgcgagcacagcua
【0097】
B2M-sg3(B3)配列:配列番号8
cgcgagcacagcuaaggcca
【0098】
B2M-sg4(B4)配列:配列番号9
ucacgucauccagcagagaa
【0099】
B2M-sg5(B5)配列:配列番号10
gcuacucucucuuucuggcc
【0100】
B2M-sg6(B6)配列:配列番号11
uuugacuuuccauucucugc
【0101】
B2M-sg7(B7)配列:配列番号12
cgugaguaaaccugaaucuu
【0102】
B2M-sg8(B8)配列:配列番号13
cucgcgcuacucucucuuuc
【0103】
抗TCRα/βのscFvのアミノ酸配列:配列番号14
【0104】
【0105】
ここで、下線の付いた部分はリンカー(すなわちLinker)配列である。
【0106】
CD8 alphaヒンジ領域のヌクレオチド配列:配列番号15
accacgacgccagcgccgcgaccaccaacaccggcgcccaccatcgcgtcgcagcccctgtccctgcgcccagaggcgtgccggccagcggcggggggcgcagtgcacacgagggggctggacttcgcctgtgat
【0107】
CD8膜貫通領域のヌクレオチド配列:配列番号16
atctacatctgggcgcccttggccgggacttgtggggtccttctcctgtcactggttatcaccctttactgc
【0108】
4-11BBシグナル領域のヌクレオチド配列:配列番号17
aaacggggcagaaagaaactcctgtatatattcaaacaaccatttatgagaccagtacaaactactcaagaggaagatggctgtagctgccgatttccagaagaagaagaaggaggatgtgaactg
【0109】
CD3 zetaのヌクレオチド配列:配列番号18
agagtgaagttcagcaggagcgcagacgcccccgcgtacaagcagggccagaaccagctctataacgagctcaatctaggacgaagagaggagtacgatgttttggacaagagacgtggccgggaccctgagatggggggaaagccgagaaggaagaaccctcaggaaggcctgtacaatgaactgcagaaagataagatggcggaggcctacagtgagattgggatgaaaggcgagcgccggaggggcaaggggcacgatggcctttaccagggtctcagtacagccaccaaggacacctacgacgcccttcacatgcaggccctgccccctcgc
【0110】
抗TCRα/βのscFvの軽鎖可変領域のアミノ酸配列:配列番号19
QIVLTQSPAIMSASPGEKVTMTCSATSSVSYMHWYQQKSGTSPKRWIYDTSKLASGVPARFSGSGSGTSYSLTISSMEAEDAATYYCQQWSSNPLTFGAGTKLELK
【0111】
抗TCRα/βのscFvの重鎖可変領域のアミノ酸配列:配列番号20
EVQLQQSGPELVKPGASVKMSCKASGYKFTSYVMHWVKQKPGQGLEWIGYINPYNDVTKYNEKFKGKATLTSDKSSSTAYMELSSLTSEDSAVHYCARGSYYDYDGFVYWGQGTLVTVSA
【0112】
scFvの軽鎖可変領域と重鎖可変領域を連結するリンカーのアミノ酸配列:配列番号21
GGGGSGGGGSGGGGSGGGGS
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2022-09-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)健康なリンパ系を持つヒトドナーからT細胞を取得することと、
2)前記T細胞中の
(i)TRACゲノム領域、及び
(ii)B2Mゲノム領域
を遺伝子編集技術によって破壊することと、
3)T細胞リンパ腫細胞TCRα/βを標的とするCAR分子を前記T細胞中で安定して発現させることと
を含
み、
任意的に、天然TCRを依然として発現しているT細胞を除去するように、ステップ3)から得られた細胞を適切な時間培養することをさらに含む、
T細胞リンパ腫細胞を標的とするユニバーサルCAR-T細胞を調製する方法。
【請求項2】
前記TRACゲノム領域が、ヒト14番目染色体の第23016448位から第23016490位のゲノム領域を含み、前記B2Mゲノム領域が、ヒト15番目染色体の第45003745位から第45003788位のゲノム領域を含む、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
T細胞リンパ腫細胞TCRα/βを標的とする前記CAR分子の細胞外領域が、T細胞リンパ腫細胞TCRα/βの細胞外領域に結合するscFv分子であ
り、
好ましくは、前記CAR分子が、リンカーによって連結された
前記scFv分子の軽鎖可変領域 配列番号19
QIVLTQSPAIMSASPGEKVTMTCSATSSVSYMHWYQQKSGTSPKRWIYDTSKLASGVPARFSGSGSGTSYSLTISSMEAEDAATYYCQQWSSNPLTFGAGTKLELK;
前記scFv分子の重鎖可変領域 配列番号20
EVQLQQSGPELVKPGASVKMSCKASGYKFTSYVMHWVKQKPGQGLEWIGYINPYNDVTKYNEKFKGKATLTSDKSSSTAYMELSSLTSEDSAVHYCARGSYYDYDGFVYWGQGTLVTVSA
を含む、請求項1
又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記リンカーが(G)n(S)mを含むアミノ酸配列であり、nが1~20の正の整数であり、mが1~10の正の整数であ
り、
好ましくは、前記リンカーの配列が、配列番号21に示される配列GGGGSGGGGSGGGGSGGGGSである、
請求項
3に記載の方法。
【請求項5】
前記TRACゲノム領域及び前記B2Mゲノム領域が、相同組換え、ジンクフィンガーヌクレアーゼ遺伝子編集技術、TALEN遺伝子編集技術、またはCRISPR/Cas遺伝子編集技術によって破壊さ
れ、
好ましくは、前記遺伝子編集技術がCRISPR/Cas9遺伝子編集技術であり、
更に好ましくは、(i)TRACゲノムを標的とするガイドRNA(sgRNA)は、配列番号2~5から選択されるいずれか1つの配列を有する;及び/または
(ii)B2Mゲノムを標的とするガイドRNA(sgRNA)は、配列番号6~13から選択されるいずれか1つの配列を有し、
更に好ましくは、前記sgRNA及びCas9をコードするヌクレオチド配列を一緒にまたは別々に前記T細胞に導入する、
請求項1~
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記sgRNAが化
学修飾されて
おり、
好ましくは、前記化学修飾は、2’-O-メチル修飾またはヌクレオチド間3’チオ修飾を含み、
更に好ましくは、前記化学修飾は、前記sgRNAの5’末端の3つの塩基及び3’末端の3つの塩基の2’-O-メチル修飾及びヌクレオチド間3’チオ修飾である、
請求項
5に記載の方法。
【請求項7】
前記sgRNA及びCas9をコードするmRNAヌクレオチド配列をエレクトロポレーションによって一緒に前記T細胞に導入
し、
好ましくは、前記エレクトロポレーションの条件は、150~250V、0.5~2ms;150V、2ms;160V、2ms;170V、2ms;180V、2ms;190V、1ms;200V、1ms;210V、1ms;220V、1ms;230V、1ms;240V、1ms;及び250V、0.5msから選択されるいずれかである、
請求項
6に記載の方法。
【請求項8】
TRAC及びB2Mのそれぞれのノックアウト効率が90%以上であり、同時ノックアウト効率が75%以上である、請求項1~
7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
T細胞リンパ腫細胞TCRα/βを標的とする前記CAR分子をコードするヌクレオチド配列を、ウイルス
によるトランスフェクションによって前記T細胞に導入
し、
好ましくは、前記ウイルスがアデノ随伴ウイルス(AAV)またはレンチウイルスである、請求項1~
8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記CAR分子を発現するヌクレオチド配列を相同組換えによって前記T細胞のTRAC遺伝子座に導入して、前記CAR分子をコードするヌクレオチド配列がTCR遺伝子プロモーターの制御下で前記TRAC遺伝子座で発現される、請求項1~
8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
ステップ3)から得られた細胞を3~21日間培養して、依然として天然TCRを発現しているT細胞を除去する、請求項1~
10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
T細胞リンパ腫細胞TCRα/βを標的とするCAR分子を発現
し、
前記CAR分子が、配列番号14に示されるアミノ酸配列を含む、T細胞リンパ腫細胞を標的とするユニバーサルCAR-T細胞。
【請求項13】
TCRα/β、クラス1 HLAタンパク質、PD-1、TIM3、及びLAG3から選択される1つまたは複数のタンパク質を低いレベルで発現するか、または発現しない、請求項
12に記載のユニバーサルCAR-T細胞。
【請求項14】
請求項
13に記載のユニバーサルCAR-T細胞を含
み、好ましくは、前記ユニバーサルCAR-T細胞の98%または99%以上がTCR陰性である、生物学的製品。
【請求項15】
T細胞リンパ腫の治療のための薬剤の調製における、請求項
12又は13に記載のユニバーサルCAR-T細胞または請求項
14に記載の生物学的製品の使用。
【国際調査報告】