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特表2023-509062黄色ブドウ球菌感染の予防のための組成物および方法
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  • 特表-黄色ブドウ球菌感染の予防のための組成物および方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-06
(54)【発明の名称】黄色ブドウ球菌感染の予防のための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/085 20060101AFI20230227BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230227BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230227BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20230227BHJP
   C07K 14/195 20060101ALI20230227BHJP
【FI】
A61K39/085 ZNA
A61K39/395 D
A61K45/00
A61P31/04
C07K14/195
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022540786
(86)(22)【出願日】2020-12-31
(85)【翻訳文提出日】2022-08-25
(86)【国際出願番号】 EP2020088082
(87)【国際公開番号】W WO2021136835
(87)【国際公開日】2021-07-08
(31)【優先権主張番号】19306797.2
(32)【優先日】2019-12-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】522262164
【氏名又は名称】アンタゴニス
【氏名又は名称原語表記】ANTAGONIS
(71)【出願人】
【識別番号】513057773
【氏名又は名称】ユニベルシテ、ド、ベルサイユ‐エステ、カンタン、アン、イブリーヌ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE VERSAILLES-ST QUENTIN EN YVELINES
(71)【出願人】
【識別番号】591140123
【氏名又は名称】アシスタンス ピュブリク-オピトー ドゥ パリ
【氏名又は名称原語表記】ASSISTANCE PUBLIQUE - HOPITAUX DE PARIS
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100155631
【弁理士】
【氏名又は名称】榎 保孝
(74)【代理人】
【識別番号】100137497
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100207907
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 桃子
(74)【代理人】
【識別番号】100217294
【弁理士】
【氏名又は名称】内山 尚和
(72)【発明者】
【氏名】カシー、リベイロ
(72)【発明者】
【氏名】マルタン、ロットマン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン‐ルイ、ガイヤール
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084NA05
4C084ZB35
4C085AA03
4C085AA13
4C085BA13
4C085BB11
4C085CC07
4C085EE03
4H045AA10
4H045AA30
4H045CA11
4H045DA86
4H045EA20
4H045EA31
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、少なくとも1つの黄色ブドウ球菌抗原を含む免疫原性組成物に関連し、当該抗原は、配列番号8のSdrH様ポリペプチド、配列番号4のNuc、または配列番号12のLukGと少なくとも80%の同一性を有するポリペプチドである。また本発明は、当該少なくとも1つの抗原に選択的に結合するポリクローナル抗体を含む免疫治療用組成物に関連し、および本発明は、対象において黄色ブドウ球菌により生じた疾患に対する防御を付与する抗原を特定するインビトロの方法に関連する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの黄色ブドウ球菌抗原を含む免疫原性組成物であって、前記抗原は、配列番号8のSdrH様ポリペプチド、配列番号4のNuc、または配列番号12のLukGと少なくとも80%の同一性を有するポリペプチドである、免疫原性組成物。
【請求項2】
配列番号8のSdrH様ポリペプチドと少なくとも80%の同一性を有する抗原、および配列番号12のLukGと少なくとも80%の同一性を有する抗原とを含む、請求項1に記載の免疫原性組成物。
【請求項3】
前記組成物は、2つ以上の前記黄色ブドウ球菌抗原を、個別のポリペプチドの形態で、または1つ以上の融合ポリペプチドの形態で、または個別のポリペプチドおよび融合ポリペプチドの両方の形態で、含有する、請求項1または2に記載の免疫原性組成物。
【請求項4】
薬学的に許容可能な賦形剤をさらに含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の免疫原性組成物。
【請求項5】
対象において黄色ブドウ球菌により生じた疾患に対する防御を付与するワクチンとして使用するための、請求項1~4のいずれか1項に記載の免疫原性組成物。
【請求項6】
請求項1に規定される少なくとも1つの抗原に選択的に結合するポリクローナル抗体を含む免疫治療用組成物であって、前記抗体は、貪食細胞による黄色ブドウ球菌の取り込みおよび殺傷を促進する、免疫治療用組成物。
【請求項7】
薬学的に許容可能な賦形剤をさらに含む、請求項6に記載の免疫治療用組成物。
【請求項8】
対象において黄色ブドウ球菌により生じた疾患に対する防御を付与する受動免疫療法としての使用のための、請求項6または7に記載の免疫治療用組成物。
【請求項9】
前記黄色ブドウ球菌が、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)またはメチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)である、請求項5または8に記載の使用のための免疫原性組成物または免疫治療用組成物。
【請求項10】
前記対象が、骨関節デバイス、好ましくは骨関節インプラント、より好ましくは関節全置換を有する、請求項5および8~9のいずれか1項に記載の使用のための免疫原性組成物または免疫治療用組成物。
【請求項11】
黄色ブドウ球菌感染に対して有効な1つ以上の抗生物質と関連付けられた使用のための、請求項1~9のいずれか1項に記載の免疫原性組成物または免疫治療用組成物。
【請求項12】
対象において黄色ブドウ球菌により生じた疾患に対する防御を付与する抗原を特定するインビトロの方法であって、
a)黄色ブドウ球菌を含む溶液と、黄色ブドウ球菌抗原に対して惹起された抗体を含む溶液とを、好ましくは35℃で1時間インキュベートし、それにより混合懸濁液を取得すること、
b)工程a)の前記混合懸濁液と、マクロファージを接触させること、
c)マクロファージから前記混合懸濁液を取り除き、細胞外黄色ブドウ球菌を殺傷する抗生物質が補充された新鮮な培地を加えること、および
d)前記マクロファージによる黄色ブドウ球菌の内部移行および殺傷を評価することであって、前記抗原が、黄色ブドウ球菌の内部移行および殺傷の両方の増加を誘導したときに、前記抗原は、黄色ブドウ球菌により生じた疾患に対する防御を付与するとみなされること、を含む、方法。
【請求項13】
前記マクロファージは、不死化マクロファージ細胞株、好ましくはJ774.2細胞株である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
工程d)の黄色ブドウ球菌の前記殺傷は、工程c)から3時間後のマクロファージ中に内部移行した細菌の量と、工程c)から6時間後のマクロファージ中に内部移行した細菌の量とを比較することにより評価される、請求項12または13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】

本発明は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)抗原を含む免疫原性組成物に関する。本発明はさらに、対象において黄色ブドウ球菌(S.aureus)により生じた疾患に対する防御の付与における使用のための免疫原性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
黄色ブドウ球菌は、ヒトの主要な感染原因であり、皮膚および軟組織の感染、骨髄炎、心内膜炎および敗血症を含む広範な病状の原因である。特に黄色ブドウ球菌は、外因性デバイス(例えばカテーテル)やインプラント(例えば人工装具)の物質表面上にバイオフィルムを形成する能力があるため、これらに関連した感染症の大部分の原因となっている。これら感染症は特に、慢性的または全身性であり得るために問題が多く、一部の症例では人工関節の感染、移植失敗、さらには死の原因ともなる。例として、大規模血液透析センターにおける黄色ブドウ球菌感染のレトロスペクティブ解析によって、血液透析患者における黄色ブドウ球菌の感染率は18%近くであること、そして死亡率10%との関連性があり、大部分の感染は血管カテーテルとの関連性があることが判明した(Fitzgerald et al.,2011)。
【0003】
黄色ブドウ球菌感染は、典型的には抗生物質治療で治療されるが、メチシリン耐性(MRSA)株およびバンコマイシン耐性(VRSA)株を含む抗生物質耐性の黄色ブドウ球菌の発生により、従来的な抗生物質の使用が難しくなっている。さらに、バンコマイシンは現在、MRSA細菌の治療および心内膜炎の治療の絶対的標準となっているが、この抗生物質は組織透過性が乏しく、望ましくない副作用があり、殺菌作用が遅いために理想的とは言い難い(Gould,2008)。整形外科用のインプラントの場合、最も多く必要とされるのは再置換術である(Darouiche,2004)。しかしこの手術は費用がかかり、侵襲的で、初回の移植術よりも技術的な困難性が高いことが多く、さらに広い範囲の手術が必要とされるため、対象の生活の質の悪化という帰結へとつながる。
【0004】
黄色ブドウ球菌感染を予防する効果的なワクチン開発は、現行の治療方法に対する有望な代替法であり、黄色ブドウ球菌に対する様々なワクチンが現在、第I相、第II相または第III相の臨床試験で評価されているが、第III相試験での成功例はまだない。これまでのところ、ワクチン開発は主に黄色ブドウ球菌が分泌するアルファ毒素(Hla)および/または莢膜多糖類に焦点が置かれていた。アルファ毒素を標的とするワクチンは、毒素が病原性作用の大部分の原因となっている感染症に対しては防御的効果があることが示されている(例えば、肺炎、Bubeck and Schneewind,2008に記載される)が、亜致死的感染の防御には不充分である(Adlam et al.,1977)。さらに、莢膜多糖類の変動性、そしてメチシリン耐性黄色ブドウ球菌株の大多数が莢膜被覆されていないことを考慮すると、莢膜多糖類を単独で使用することの意義は限定的である。すでに黄色ブドウ球菌感染症である対象において抗体を誘導することが示されているIsdBタンパク質をはじめとする様々な黄色ブドウ球菌タンパク質が単独で、または組み合わせて評価されているが、将来的な感染に対する防御を提供するには不充分であった(Zorman et al.,2013)。さらに臨床試験によって、IsdBを用いたワクチンは、プラセボレシピエントと比較して効果が無かったことが示されており、一部の症例では有害でさえあった(McNeely et al.,2014)。
【0005】
現行の治療戦略は満足のいくものではなく、黄色ブドウ球菌抗原を含む免疫原性組成物、または当該抗原に対して惹起されたポリクローナル抗体の改善に対するニーズがいまだ存在する。特に、例えば黄色ブドウ球菌感染症に対する防御抗体を誘導することができる抗原を含む、または当該抗体それ自体を含む、黄色ブドウ球菌感染症を予防および/または治療することができる新規の免疫原性組成物および免疫治療用組成物に対するニーズが存在している。また、対象において黄色ブドウ球菌により生じた疾患に対する防御を付与する抗原の新規特定方法に対するニーズも存在する。特に、臨床試験にかかる高いコストと期間という観点から、ワクチン応答の評価を目的として、防御との相関のあるものとして使用され得る改善アッセイ法に対するニーズが存在する。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、これらのニーズおよび他のニーズを満たすものであり、対象において黄色ブドウ球菌により生じた疾患に対する防御を付与する免疫原性組成物、免疫治療用組成物、および抗原を特定するインビトロ方法を提供する。
【0007】
特に本発明は、少なくとも1つの黄色ブドウ球菌抗原を含む免疫原性組成物を提供し、この場合において当該抗原は、配列番号8のSdrH様ポリペプチド、配列番号4のNuc、または配列番号12のLukGと少なくとも80%の同一性を有するポリペプチドである。
【0008】
特定の態様によると、免疫原性組成物は、配列番号8のSdrH様ポリペプチドと少なくとも80%の同一性を有する抗原、および配列番号12のLukGと少なくとも80%の同一性を有する抗原を含む。
【0009】
本発明の免疫原性組成物中に含有される1つ以上の抗原は、例えばIsdBなどの既存の抗原と比較して、予想を超えて改善された免疫特性(例えば、免疫原性の応答のレベル、質および/または範囲など)を提供する点が有益である。
【0010】
好ましくは、免疫原性組成物は、黄色ブドウ球菌抗原を、個別のポリペプチドの形態で、または1つ以上の融合ポリペプチドの形態で、または個別のポリペプチドおよび融合ポリペプチドの両方の形態で、含有する。
【0011】
好ましくは、免疫原性組成物はさらに、薬学的に許容可能な賦形剤を含む。
好ましくは、免疫原性組成物は、対象において黄色ブドウ球菌により生じた疾患に対する防御を付与するワクチンとして使用される。
【0012】
本発明はさらに、本明細書に規定される少なくとも1つの抗原に選択的に結合するポリクローナル抗体を含む免疫治療用組成物に関するものであり、この場合において当該抗体は、貪食細胞による黄色ブドウ球菌の取り込みおよび殺傷を促進する。
【0013】
好ましくは、免疫治療用組成物はさらに、薬学的に許容可能な賦形剤を含む。
【0014】
好ましくは、免疫治療用組成物は、対象において黄色ブドウ球菌により生じた疾患に対する防御を付与する受動免疫療法として使用される。
【0015】
好ましくは、当該黄色ブドウ球菌は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)またはメチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)である。
【0016】
好ましくは、当該対象は、骨関節デバイスを有し、好ましくは骨関節インプラントを有し、より好ましくは、関節全置換(total joint replacement prosthesis)を受けている。
【0017】
好ましくは、本明細書において提供される当該免疫原性組成物または免疫治療用組成物は、黄色ブドウ球菌感染に対して有効な1つ以上の抗生物質と関連付けられて使用される。
【0018】
本発明はさらに、以下を含む、対象において黄色ブドウ球菌により生じた疾患に対する防御を付与する抗原を特定するインビトロの方法に関する:
a)黄色ブドウ球菌を含む溶液と、黄色ブドウ球菌抗原に対して惹起された抗体を含む溶液とを、好ましくは35℃で1時間インキュベートし、それにより混合懸濁液を取得すること、
b)工程a)の当該混合懸濁液と、マクロファージを接触させること、
c)当該マクロファージから当該混合懸濁液を取り除き、細胞外黄色ブドウ球菌を殺傷する抗生物質が補充された新鮮な培地を加えること、および
d)当該マクロファージによる黄色ブドウ球菌の内部移行および殺傷を評価することであって、当該抗原が、マクロファージの生存能力を維持しつつ、黄色ブドウ球菌の内部移行および殺傷の両方の増加を誘導したときに、当該抗原は、黄色ブドウ球菌により生じた疾患に対する防御を付与するとみなされること。
【0019】
多形核好中球を特に使用する従前の方法とは対照的に、本発明者らは、黄色ブドウ球菌の取り込みおよび殺傷の両方を促進する抗体を生成することができる標的ワクチン抗原を特定するための新規OPAアッセイを開発した。実際に多形核好中球は非常に強力な殺菌活性(殺傷)を示しており、そのため特に、最終的に「促進」抗体(すなわち、細菌取り込みを促進するが、その後は殺傷ではなく細胞内細菌の増殖が生じる)が生成されたのか否かを評価することが不可能であった。マクロファージは活性酸素種および抗菌ペプチドの合成レベルが低いため、多形核好中球よりも殺菌(殺傷)活性がずっと低い点が有益である。さらに骨関節人工装具の感染という特殊な状況下では、感染の生理病理学的に、多形核好中球ではなく、脾臓および/または肺に存在するマクロファージによって循環血液伝播性黄色ブドウ球菌を血流から除去し、それにより菌血症の期間を短縮し、人工装具感染の確立の可能性を低下させなければならないため、マクロファージ系のアッセイの開発は特に有益である。
【0020】
好ましくは、当該マクロファージは、不死化マクロファージ細胞株、好ましくはJ774.2細胞株である。
【0021】
好ましくは、工程d)の黄色ブドウ球菌の殺傷は、工程c)から3時間後のマクロファージ中に内部移行した細菌の量と、工程c)から6時間後のマクロファージ中に内部移行した細菌の量とを比較することにより評価される。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明を詳細に記述するまえに、本明細書において使用される場合、「a」および「an」という用語は、文脈から別段であることが指示されない限り、言及される化合物または工程のうちの「少なくとも1つ」、「少なくとも最初」、「1つ以上」、または「複数」を意味するという趣旨で使用されることに留意されたい。本明細書で使用される場合、「および/または」という用語は、「および」、「または」、および「当該用語により接続される要素のすべてまたは任意の他の組み合わせ」を意味することを含む。「含むこと」、「有すること」、「含有すること」、または「包含すること」(および三人称など、当該用語の任意の形態)という用語は、オープンエンドであり、追加の列挙されていない要素または方法の工程を除外しない。対照的に、本明細書で使用される場合、「~からなる」という用語は、(痕跡レベルを超える)任意の他の構成要素または工程を除外する。
【0023】
上述のように、第一の態様によると、本発明は、少なくとも1つの黄色ブドウ球菌抗原を含む免疫原性組成物に関連し、この場合において当該抗原は、配列番号8のSdrH様ポリペプチド、配列番号4のNuc、または配列番号12のLukGと少なくとも80%の同一性を有するポリペプチドである。
【0024】
本明細書で使用される場合、「免疫原性」という用語は、免疫原性としてみなされた構成要素が導入された対象において、測定可能なB細胞介在型免疫応答を誘導する、または刺激する組成物の能力を指す。例えば、本発明の組成物は、対象において免疫応答を誘導または刺激することができるという意味で免疫原性であり、免疫応答は、自然および/または特異的(すなわち、当該免疫原性組成物中に含有される黄色ブドウ球菌ポリペプチドの少なくとも1つに対して)、液性および/または細胞性(例えば、抗体および/もしくはサイトカインの産生、ならびに/または細胞傷害性T細胞、Bリンパ球、Tリンパ球、抗原提示細胞、ヘルパーT細胞、樹状細胞、NK細胞の活性化)であってもよい。免疫原性組成物は通常、投与された対象において防御的応答を生じさせる。具体的には、本発明の組成物は、少なくとも1つの黄色ブドウ球菌ポリペプチドを認識する抗体を誘導し、貪食細胞による黄色ブドウ球菌の取り込みおよび殺傷の両方を増加させるという点で、免疫原性である。しかし当該組成物は、1つ以上の追加的な免疫応答を誘導する場合もある。
【0025】
特に本発明者らは、本明細書において、驚くべきことに、SdrH様ポリペプチド抗原、Nuc抗原、およびLukG抗原のそれぞれが、貪食細胞による黄色ブドウ球菌の取り込みおよび殺傷の両方を増加させる抗体を誘導させる能力を有することを示した。そのような活性を有する抗体の産生は本明細書においてマクロファージ系モデルにおいて最初に実施され、本明細書に記述される抗原は、免疫原性組成物中にあるとき、黄色ブドウ球菌感染に対する防御を誘導することを示している。実際に、本発明抗原を用いて本明細書で取得された結果は、過去に有害な作用を有することが示されているIsdBを用いて取得された結果(黄色ブドウ球菌感染が助長される可能性がある)とは明白に対照をなしており、このことから、抗原評価におけるマクロファージ系モデルの適切性が確認される。動物モデルで取得されたインビボの結果からさらに、これら抗原は、アジュバント単独および/または例えばスタフィロキナーゼなどの対照抗原を用いて観察された結果よりも大幅に腎臓における黄色ブドウ球菌の増殖を低下させ得ることが示されており、このことから、黄色ブドウ球菌感染に対する防御を誘導する能力がさらに確認される。ゆえに特定の態様によると、免疫原性組成物は、細菌のファゴサイトーシスに際して、黄色ブドウ球菌の取り込みおよび殺傷の両方を増加させる、当該抗原に対する抗体を誘導する少なくとも1つの黄色ブドウ球菌抗原を含み、この場合において当該抗原は、配列番号8のSdrH様ポリペプチド、配列番号4のNuc、または配列番号12のLukGと少なくとも80%の同一性を有するポリペプチドである。
【0026】
本明細書で使用される場合、「黄色ブドウ球菌(S.aureus)抗原」という用語は、抗体により結合されることができる黄色ブドウ球菌種に存在する、またはそれらから取得されるポリペプチドまたはその断片(例えば、エピトープ)を指し、この場合において当該抗原は、「SdrH様」ポリペプチド、NucおよびLukG、ならびにそれらの1つ以上の組み合わせから選択される。典型的には、そのような抗原は、1つ以上のBエピトープを含む。本発明の状況下において、当該用語は、天然の黄色ブドウ球菌抗原(例えば、全長抗原)またはその改変型(例えば、断片またはバリアント)を包含する。「天然」の黄色ブドウ球菌抗原は特に、自然界の黄色ブドウ球菌源から見出され、単離され、取得され得る。そのような源としては、黄色ブドウ球菌に感染した、または黄色ブドウ球菌に暴露された対象から収集された生物学的サンプル(例えば、血液、血漿、血清、唾液、痰、組織切片、生検標本など)、培養細胞、ならびに寄託機関(例えば、ATCCまたはTB機関)で入手可能な組み換え物質、ライブラリー、または文献中に記載される(例えば、黄色ブドウ球菌単離株、黄色ブドウ球菌ゲノムなど)が挙げられる。
【0027】
「SdrH様」抗原またはポリペプチドは、宿主接着ドメインのMSCRAMM(icrobial urface omponents ecognizing dhesive atrix olecules)を含有する、細胞壁固定型セリン-アスパラギン酸リピートファミリータンパク質(cell wall-anchored serine-aspartate repeat family protein)である。「SdrH様」ポリペプチドは、配列番号7または8の配列を含んでもよく、それらは各々、配列番号5または6のヌクレオチド配列によりコードされてもよい。本発明の状況下において、「SdrH様」ポリペプチドは、配列番号8の配列を有することが好ましい。
【0028】
「Nuc」抗原(ミクロコッカスヌクレアーゼまたはサーモヌクレアーゼとしても知られる)は、細胞外ヌクレアーゼである。細胞膜でシグナルペプチダーゼにより切断された後、Nucは、NucAまたはNucBの2つの活性型へと処理され得る。Nucは特に、配列番号3または4の配列を含んでもよく、それらは配列番号1または2のヌクレオチド配列によりコードされてもよい。本発明の状況下において、Nucは、配列番号4の配列を有することが好ましい。
【0029】
「LukG」抗原(LukAとしても知られる)は、「LukH」(LukBとしても知られる)とともにヘテロ二量体を形成する。このヘテロ二量体のLukGHは、孔形成ロイコシジンであり、黄色ブドウ球菌による、例えばヒトの単球、マクロファージ、および多形核細胞などの免疫細胞の殺傷を少なくとも部分的に介在する。LukGは、配列番号11または12の配列を含んでもよく、それらは各々、配列番号9または10のヌクレオチド配列によりコードされてもよい。本発明の状況下において、LukGは、配列番号12の配列を有することが好ましい。
【0030】
LukGは、LukHとヘテロ二量体を形成するが、当該免疫原性組成物は、LukHの非存在下でLukGを含有することが好ましい。実際に本発明者らは、貪食細胞による黄色ブドウ球菌の取り込みおよび殺傷を増加させる抗体は、LukGが単独で(すなわち、LukHの非存在下で)採用されたときに誘導され得るという驚くべき発見を見出した。これは、抗体を生成するためにはLukGHヘテロ二量体を使用しなければならないと示唆する過去の研究とは明白に対照をなしている。特にBadarauら、2016年は、LukGまたはLukHのいずれか単独に対して惹起されたモノクローナル抗体は、LukGH毒素を中和する能力が非常に乏しいか、または全くなかったと報告している。ゆえに好ましい態様によると、免疫原性組成物は、LukGおよびLukHの両方を含んでもよいが、LukHの非存在下でLukGを含むことが好ましい。
【0031】
当業者であれば、遺伝子コードの縮重の結果として、本明細書に記載のポリペプチドをコードし得るヌクレオチド配列は多数存在することを理解するであろう。特に所与のヌクレオチド配列内のコドン使用頻度は、黄色ブドウ球菌以外の生物体(例えば大腸菌)における対応ポリペプチドの最適化発現に適合されてもよい。
【0032】
改変された黄色ブドウ球菌抗原(例えば、バリアント)は、典型的には、本明細書に具体的に開示されるポリペプチド、または天然ポリペプチドとは1つ以上の位置で異なっており、例えば、1つ以上のアミノ酸の置換、挿入、付加および/または欠失、非天然配置、ならびに任意のそれらの組み合わせを介して異なっている。アミノ酸置換は、同等であっても、同等でなくてもよい。好ましくは、置換は、「同等」のアミノ酸で行われる。すなわち、その構造が、元のアミノ酸の構造と似ている任意のアミノ酸で置換が行われ、ゆえに、抗原の生物学的活性が変わる可能性は低い。そのような置換の例を、以下の表1に提示する。
【0033】
【表1】
【0034】
いくつかの改変が予期されるとき、連続的および/または非連続的な残基であるかが懸念され得る。改変は、当業者に公知の多くの方法、例えば部位指向性突然変異誘導、PCR突然変異誘導、DNAシャッフリングなどにより、および合成技術(例えば、所望のポリペプチドバリアントをコードする合成核酸分子を生成する)により、生成され得る。
【0035】
黄色ブドウ球菌抗原の起源に関わらず(例えば、天然か、改変か)、本発明の免疫原性組成物中に含有される抗原は、対応する天然抗原、より好ましくはBエピトープの1つ以上の免疫原性部分を保持する。抗原の適切な免疫原性部分を特定する方法は、当分野に公知である。
【0036】
本明細書で使用される場合、「ポリペプチド」という用語は、ぺプチド共有結合を介して結合された、少なくとも10個以上のアミノ酸、好ましくは少なくとも20個以上のアミノ酸を含む、アミノ酸残基のポリマーを指す。ポリペプチドは直線状、分岐状、または環状であってもよく、天然アミノ酸および/またはアミノ酸アナログを含んでもよい。化学的に改変されていてもよい(例えば、グリコシル化され、脂質付加され、アセチル化され、切断され、ジスルフィド結合により架橋され、および/またはリン酸化されていてもよい)。例えばタグ(例えば、his、myc、Flagなど)などの追加要素を含んでもよく、および/または標的化ペプチド(例えば、シグナルペプチド、膜貫通ドメインなど)を含んでもよい。好ましくは、本発明の免疫原性組成物中に含有される少なくとも1つのポリペプチドは、シグナルペプチドを含まない。好ましくは、本発明の免疫原性組成物中に含有される少なくとも1つのポリペプチドは、タグを含まない。「ポリペプチド」という用語は、タンパク質(通常、50個以上のアミノ酸残基を含むポリペプチドに対して採用される)、オリゴペプチド、およびペプチド(通常、50個未満のアミノ酸残基を含むポリペプチドに対して採用される)を包含することが理解されるだろう。ゆえに各ポリペプチドは、特定のアミノ酸により特徴付けられてもよく、および例えば本明細書に提供されるものなどの特定の核酸配列によりコードされてもよい。
【0037】
ゆえにポリペプチドは、アミノ酸配列が、当該ポリペプチドの最終アミノ酸配列の一部であるとき、当該アミノ酸配列を「含む」。そのようなポリペプチドは、一部の例では、最大で数百個の追加のアミノ酸残基(例えば、タグペプチド、標的化ペプチドなど)を有してもよい。ポリペプチドは、当該ポリペプチドが、列挙されるアミノ酸配列のアミノ酸以外のアミノ酸をいずれも含まないとき、アミノ酸配列「からなる」。
【0038】
「同一性百分率(%)」という用語は、2つのポリペプチドまたは核酸分子の間のアミノ酸とアミノ酸、またはヌクレオチドとヌクレオチドの対応を指す。2つの分子間の同一性の百分率は、当該配列によって共有される同一の位置の数の関数であり、最適アライメントおよび各ギャップ長に対して導入が必要なギャップ数を考慮する。本発明の状況下で参照される同一性百分率は、比較される配列の最適アライメントを行った後に決定される。したがって、1つ以上の挿入、欠失、短縮化、および/または置換を含み得る。同一性百分率は、当業者に公知の任意の配列解析法により計算され得る。特に、同一性百分率は、全長にわたりその全体で取り込まれた配列の、比較される配列の包括的なアライメントの後に決定され得る。手動での比較に加え、Needleman and Wunsch(1970)のアルゴリズムを使用した包括的アライメントを決定することも可能である。
【0039】
ヌクレオチド配列については、配列比較は、例えばNeedleソフトウェアなどの当業者に公知の任意のソフトウェアを使用して実施され得る。使用されるパラメーターは特に以下であってもよい:「Gap open」は10.0、「Gap extend」は0.5、そしてEDNAFULL matrixである(NCBI EMBOSS Version NUC4.4)。
【0040】
アミノ酸配列については、配列比較は、例えばNeedleソフトウェアなどの当業者に公知の任意のソフトウェアを使用して実施され得る。使用されるパラメーターは特に以下であってもよい:「Gap open」は10.0、「Gap extend」は0.5、そしてBLOSUM62 matrixである。
【0041】
好ましくは、本発明の状況下で定義される同一性百分率は、その全長にわたり比較された配列の包括的アライメントを介して決定される。
【0042】
本発明は、本明細書に開示されるポリペプチドに対して、上述の方法を使用して、本明細書に提供されるポリペプチド配列と、好ましくは少なくとも50%の配列同一性を含む、好ましくは少なくとも60%、70%、75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%以上の配列同一性を含む、相当な配列同一性を有するポリペプチド配列を包含する。好ましい実施形態によると、ポリペプチドは、黄色ブドウ球菌亜種aureus Mu50 (アクセッション番号BA000017.4)のSdrH様ポリペプチド、Nuc、またはLukGと少なくとも80%の同一性を有する。好ましくは、ポリペプチドは、配列番号8のSdrH様ポリペプチド、配列番号4のNuc、または配列番号12のLukGと少なくとも80%の同一性を有し、さらにより好ましくは、少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%以上の同一性を有する。好ましくは、ポリペプチドは、配列番号8のSdrH様ポリペプチド、配列番号4のNuc、または配列番号12のLukGと100%の同一性を有する。
【0043】
本明細書に提供される免疫原性組成物は、本明細書に提供されるポリペプチドの任意の組み合わせを含んでもよい。非限定的な例として、組成物は、配列番号4のNucと少なくとも80%の同一性を有するポリペプチド、および配列番号12のLukGと少なくとも80%の同一性を有するポリペプチドを含んでもよい。あるいは組成物は、配列番号4のNucと少なくとも80%の同一性を有するポリペプチド、および配列番号8のSdrH様ポリペプチドと少なくとも80%の同一性を有するポリペプチドを含んでもよい。あるいは組成物は、配列番号8のSdrH様ポリペプチドと少なくとも80%の同一性を有するポリペプチド、および配列番号12のLukGと少なくとも80%の同一性を有する抗原を含んでもよい。あるいは組成物は、配列番号4のNucと少なくとも80%の同一性を有するポリペプチド、配列番号12のLukGと少なくとも80%の同一性を有するポリペプチド、および配列番号8のSdrH様ポリペプチドと少なくとも80%の同一性を有するポリペプチドを含んでもよい。好ましくは、免疫原性組成物は、配列番号8のSdrH様ポリペプチドと少なくとも80%の同一性を有する抗原、および配列番号12のLukGと少なくとも80%の同一性を有する抗原を含む。
【0044】
本明細書に提供される抗原は、貪食細胞による黄色ブドウ球菌の取り込みおよび殺傷の両方を増加させる抗体を有益に誘導させる。ゆえに本発明の免疫原性組成物は、貪食細胞による黄色ブドウ球菌の取り込みおよび殺傷の両方を増加させる抗体を誘導する少なくとも1つの黄色ブドウ球菌抗原を有益に含み、この場合において当該抗原は、配列番号8のSdrH様ポリペプチド、配列番号4のNuc、または配列番号12のLukGと少なくとも80%の同一性を有するポリペプチドである。理論に限定されないが、抗体は、黄色ブドウ球菌のファゴサイトーシス、または抗体依存性細胞傷害活性(ADCC)、またはその両方を促進し得る。一例では、オプソニン化抗体の抗原結合部分が標的抗原に結合し、一方でオプソニン化抗体のFc部分は貪食細胞上のFc受容体に結合する。他の例では、オプソニン化抗体の抗原結合部分が標的抗原に結合し、一方でオプソニン化抗体のFc部分は、例えばそのFcドメインを介して免疫エフェクター細胞に結合し、その結果、結合されたエフェクター細胞(例えば単球、好中球およびナチュラルキラー細胞)による標的細胞の融解が誘発される。
【0045】
本明細書に提供される免疫原性組成物は、複数のポリペプチドが免疫原性組成物中に存在するとき、黄色ブドウ球菌抗原を、個別のポリペプチドの形態で、または1つ以上の融合ポリペプチドの形態で、または個別のポリペプチドと融合ポリペプチドの形態の両方で、含有してもよい。本明細書で使用される場合、「融合ポリペプチド」という用語は、2つ以上のポリペプチド配列を一緒に結合させることにより生成されるポリペプチドを意味する。本発明に包含される融合ポリペプチドは、1つ以上の抗原またはその断片もしくは変異体をコードするDNA配列を、第二のポリペプチドをコードするDNA配列と結合させて、単一のオープンリーディングフレームを形成するキメラ遺伝子構築物の翻訳産物を含む。言い換えると、「融合ポリペプチド」は、2つ以上のタンパク質の組み換えタンパク質であり、それらタンパク質は、ペプチド結合により、またはいくつかのペプチドを介して結合される。
【0046】
本明細書に提供される免疫原性組成物はさらに、2つ以上のポリペプチドが当該免疫原性組成物中に含有されるとき、同量、または異なる量の各構成要素を含んでもよい。非限定的な例として、1回投与当たり合計で50μgの量の抗原が投与されてもよい。当該1つ以上の黄色ブドウ球菌抗原の最適な量は、当業者により決定することができる。
【0047】
本発明のさらなる態様は、対象において黄色ブドウ球菌により生じた疾患に対する防御を付与するワクチンとしての使用のための、本明細書に提供される免疫原性組成物である。組成物は、治療的に有効であるために充分な量の当該1つ以上の抗原を含む。好ましくは、当該ワクチンは、黄色ブドウ球菌感染が確立していない対象に投与されて、当該対象において、黄色ブドウ球菌防御性の液性免疫応答または細胞性免疫応答が誘導される。あるいは当該ワクチンは、黄色ブドウ球菌感染がすでに発生しているが、充分に早期段階にある対象に投与されてもよく、それにより、当該ワクチンに対して生じた免疫応答が、さらなる黄色ブドウ球菌感染の拡大を有効に阻害する。これは特に、黄色ブドウ球菌の菌血症(SAB)が発生しているが、例えば血流感染や敗血症などのより重篤な感染がまだ発生していないときの場合にあり得る。
【0048】
当該免疫原性組成物またはワクチンは、単回投与として投与されてもよい。あるいは当該免疫原性組成物またはワクチンは、一定期間にわたり複数回の投与として投与されてもよい。特にワクチンの投与は、防御効果を維持するために必要に応じて反復されてもよい。
【0049】
当該免疫原性組成物またはワクチンはさらに、1つ以上のアジュバントを含んでもよく、アジュバントは、免疫応答の程度、質、および/または期間を強化するのに役立つ。免疫原性組成物またはワクチンのためのアジュバントは、当分野に公知である。非限定的な例として、当該アジュバントとしては、不完全または完全フロイントアジュバント、モノグリセリドおよび脂肪酸(例えば、モノ-オレイン、オレイン酸および大豆油の混合物)、例えばアルミニウム塩(例えば、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、硫酸アルミニウム)またはリン酸カルシウムゲルなどの鉱物塩、油エマルションおよび界面活性剤系の製剤(例えば、MF59(マイクロ流体洗浄剤安定化水中油エマルション)、QS21(純化サポニン)、AS02[SBAS2](水中油エマルション+MPL+QS-21)、MPL-SE、Montanide ISA-51およびISA-720(安定化油中水エマルション))、微粒子アジュバント(例えば、ウィロゾーム(インフルエンザヘマグルチニンを組み込んだ単層リポソームビヒクル)、AS04([SBAS4]MPLを含むAl塩)、ISCOMS(サポニンと脂質の構造化複合体)、ポリラクチド コグリコリド(PLG))、天然および合成の微生物誘導体(例えば、モノホスホリルリピドA(MPL)、Detox(MPL+M.Phlei細胞壁骨格)、AGP[RC-529](合成アシル化単糖)、Detox-PC、DC Chol(リポソーム内への自己組織化が可能な類脂質免疫刺激物質)、OM-174(リピドA誘導体)、CpGモチーフ(免疫刺激性CpGモチーフを含有する合成オリゴヌクレオチド)、例えば改変LTおよびCTなど、非毒性アジュバント効果を提供するために遺伝子改変された細菌毒素)、内因性ヒト免疫調節物質(例えば、hGM-CSFまたはhIL-12(タンパク質またはプラスミドコード化のいずれかとして投与され得るサイトカイン)、Immudaptin(C3dタンデムアレイ)、MoGM-CSF、TiterMax-G、CRL-1005、GERBU、TERamide、PSC97B、Adjumer、PG-026、GSK-I、GcMAF、B-alethine、MPC-026、Adjuvax、CpG ODN、Betafectin、Alum、およびMF59)、ならびに例えば金粒子などの不活性ビヒクルが挙げられる。好ましくは、アジュバントは上記の中でも鉱物塩、より好ましくは水酸化アルミニウムおよび/またはリン酸アルミニウムである。好ましくは、アジュバントは、湿潤ゲル懸濁液として製剤化され、InvivoGen社により市販されているAlhydrogel(登録商標)およびAdju-Phos(登録商標)のアジュバント例がある。好ましくは、抗原(Ag)とアジュバントの比率は、0.4~3mg Ag:アルミニウムmg(Al)である。
【0050】
さらなる態様では、本発明は、本明細書に提供される少なくとも1つの黄色ブドウ球菌抗原(例えば、SdrH様ポリペプチド、Nuc、またはLukGと少なくとも80%の同一性を有するポリペプチド)に選択的に結合する抗体を含む免疫治療用組成物に関し、この場合において当該抗体は、貪食細胞による黄色ブドウ球菌の取り込みおよび殺傷を促進する。
【0051】
本明細書で使用される場合、「免疫治療用組成物」という表現は、免疫分子を含み(例えば、抗体および任意で追加的な免疫分子)、および受動免疫を提供する組成物を指す。「受動免疫」とは特に、抗原を投与することなく、対象に付与される任意の免疫を指す。概して一時的で、短期間である(例えば、数週または数カ月の免疫を提供する)。
【0052】
本明細書で使用される場合、「抗体」という用語は、少なくとも1つの抗原結合断片または抗原結合ドメインを含み、標的抗原に選択的に結合する任意のポリペプチドを指す。したがって免疫治療用組成物は特に、1つ以上の黄色ブドウ球菌抗原に結合する抗体、または抗体CDRドメインを含むポリペプチドを含んでもよい。ある例では、標的抗原への抗体の結合は、ある程度の交差反応性があったとしても、選択的であると理解される。典型的には、抗体と抗原の間の結合は、結合定数Kが、10-6Mよりも高いときに、特異的であるとみなされる。本明細書に提供される免疫治療用組成物中に含有される抗体は、ポリクローナル、モノクローナル、一特異性、多特異性、ヒト、ヒト化、一本鎖、キメラ、合成、組み換え、または限定されないがFab、F(ab’)、FvおよびscFv断片をはじめとする選択的抗原結合を保持する抗体の任意の断片であってもよい。抗体は、任意のタイプ(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgAおよびIgY)、クラス(例えば、IgG、IgG、IgG、IgG、IgAおよびIgA)またはサブクラスの全免疫グロブリンであってもよい。好ましくは、本明細書に提供される抗体は、ポリクローナルである。したがって好ましい実施形態によると、本発明の免疫治療用組成物は、本明細書に提供される少なくとも1つの抗原に選択的に結合するポリクローナル抗体を含み、この場合において当該抗体は、貪食細胞による黄色ブドウ球菌の取り込みおよび殺傷を促進する。
【0053】
本明細書で使用される場合、「ポリクローナル抗体」という用語は、抗体分子の混合物を指し、同じ抗原または異なる抗原上のいくつかの異なる特異的抗原性決定基に結合することができる、または反応することができる。したがってポリクローナル抗体は、異なるB細胞系統に由来する。ポリクローナル抗体の抗原特異性の可変性は、ポリクローナル抗体を構成する個々の抗体の可変領域中、特に相補性決定領域のCDR1、CDR2およびCDR3中に位置している。ポリクローナル抗体は、例えばウマ、ウシ、トリ、ウサギ、マウスまたはラットなどの動物を、標的抗原またはその一部を用いて免疫化することにより、ディスプレイ法(例えば、ファージディスプレイ、酵母ディスプレイ、またはリボソームディスプレイ)により、またはハイブリドーマ法により、調製されてもよい。ポリクローナル抗体調製物は、免疫化動物の血液、乳、初乳または卵から単離されてもよく、典型的には、標的抗原に特異的な抗体に加えて、標的抗原に特異的ではない抗体も含まれる。標的抗原に特異的な抗体は、ポリクローナル抗体調製物から精製されてもよく、またはポリクローナル抗体調製物はさらに精製されることなく使用されてもよい。したがって本明細書で使用される場合、「ポリクローナル抗体」という用語は、標的抗原に特異的な抗体が富化された抗体調製物と、精製されていない調製物の両方を指す。ポリクローナル抗体は、単離型で、溶液中(例えば、動物の抗血清)で、または宿主細胞中(例えば、ハイブリドーマ)で、提供されてもよい。特定の態様によると、免疫治療用組成物はポリクローナルな抗血清であってもよい。特異的抗原に対する抗体について、ポリクローナル抗体を富化するための多くの技術が当分野に公知である。特定の態様では、抗体は、本明細書に提供される抗原でチャレンジされた動物または第二の対象からアフィニティ精製されてもよい。WO2004/061104に提供されるように、予防的投与および治療的投与に適した高度に特異的なポリクローナル抗体の組み換え産生を使用してもよい。当該文献は、その全体で参照により本明細書に組み込まれる。組み換えポリクローナル抗体(rpAb)は、組み換えポリクローナルタンパク質を構成する個々の物質の個別の操作、製造、精製または特徴解析を行うことなく、一つの調製物として製造バイオリアクターから精製することができる。あるいは一部の例では、ポリクローナル抗体は、複数のモノクローナル抗体を混合することにより調製されることが予期される場合もある。
【0054】
本発明の免疫治療用組成物は、例えば黄色ブドウ球菌に暴露された後の対象の治療のためなど、治療目的で使用されてもよい。免疫治療用組成物は、予測される、または可能性のある黄色ブドウ球菌暴露の前に(例えば、整形外科手術、腎透析の前に)、予防的に使用されてもよい。当該免疫治療用組成物は、対応する抗原(例えば、「SdrH様」ポリペプチド、Nuc、および/またはLukG)を担持する黄色ブドウ球菌株による感染の予防または治療に使用することが有益であり得る。投与は、所与の期間にわたり、または特定の事象の前(例えば、外科手術の前)に、受動免疫を提供するために必要に応じて反復され得る。
【0055】
好ましくは、感染の予防または治療は、受容免疫化により行われる。したがって好ましい実施形態によると、本明細書に提供される免疫治療用組成物は、対象において黄色ブドウ球菌により生じた疾患に対する防御を付与する受動免疫療法として使用される。この点に関し、免疫治療用組成物は、ポリクローナルな組成物であってもよい。特定の実施形態では、免疫治療用組成物は、ポリクローナルな抗血清であり、好ましくは「SdrH様」ポリペプチド、Nuc、および/またはLukG抗原でチャレンジされた動物からアフィニティ精製されたポリクローナルな抗血清である。
【0056】
好ましくは、少なくとも1つの黄色ブドウ球菌抗原を含む本発明の免疫原性組成物、または当該少なくとも1つの黄色ブドウ球菌抗原に対して惹起された抗体、好ましくはポリクローナル抗体を含む免疫治療用組成物はさらに、少なくとも1つの薬学的に許容可能な賦形剤を含む。「薬学的に許容可能な賦形剤」という用語は、本明細書において、医薬組成物と適合性があり、患者において望ましくない副作用を生じさせず、概して非毒性であるとみなされる構成要素、または構成要素の組み合わせと定義される。薬学的に許容可能な賦形剤は、多くは組成物の投与促進、製品の保存可能期間の延長、もしくは有効性の強化、または組成物の溶解度もしくは安定性の改善に関与する。一部の例では、賦形剤それ自体も、治療効果を有し得る。当該1つ以上の賦形剤の選択はさらに、望まれる投与経路にも依存し得る。本発明の状況下で、薬学的に許容可能な賦形剤は特に、1つ以上の希釈剤、アジュバント、抗酸化剤、保存剤、緩衝剤、および可溶化剤を含み得る。非限定的な例として、薬学的に許容可能な賦形剤は、水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、例えばスクロースやデキストロースなどの糖、グリセロール、エタノール、プロピレングリコール、ポリソルベート80、ポリ(エチレン)グリコール300および400(PEG300および400)、PEG化ヒマシ油(例えば、Cremophor EL)、ポロキサマー407および188、脂肪乳剤、脂質、PEG化リン脂質、ポリマーマトリクス、生体適合性ポリマー、リポスフィア、小胞、リポソーム、コーンスターチ、ゼラチン、ラクトース、スクロース、微結晶性セルロース、カオリン、マンニトール、リン酸二カルシウム、硫酸カルシウム、塩化ナトリウム、アルギン酸、クロスカルメロースナトリウム、デンプングリコール酸ナトリウム、およびそれらの組み合わせを含んでもよい。
【0057】
さらに、抗原(例えば、ポリペプチド)を含む免疫原性組成物、または活性成分として抗体を含む免疫治療用組成物の調製方法は、当分野に公知である。製剤は、経鼻投与、局所投与、経口投与(口腔投与および舌下投与を含む)、および非経口投与に適したものを含み得る。製剤は、単位剤形であったほうが便利な場合がある。単一の剤形を作製するために担体材料と混合され得る活性成分の量は、対象、および/または特定の投与様式に応じて変化し得る。単一の剤形を作製するための担体材料と混合され得る活性成分の量は概して、治療効果を生じさせる化合物の量である。典型的には、そのような組成物は、液状溶液または懸濁液のいずれかの注射用物質として調製されるが、注射前の液体の溶液または懸濁液に適した固形の形態でも調製され得る。製剤は、乳化もされ得る。活性成分はしばしば、例えば上で列記されるもののうちの1つ以上の賦形剤などの賦形剤と混合される。
【0058】
本明細書で使用される場合、「黄色ブドウ球菌」という用語は、黄色ブドウ球菌種の任意の株を指す。当該用語は、実験株ならびに臨床単離株を包含する。好ましい実施形態によると、黄色ブドウ球菌は、1つ以上の抗生物質に対して抵抗性であり、好ましくはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)である。「メチシリン耐性」という用語は、メチシリンの殺菌効果に対する、細菌株の感受性の欠落を示す。メチシリンに対する耐性は特に、ブドウ球菌染色体カセット(SCC:Staphylococcal Chromosomal Cassette)内に一般に位置するmecA遺伝子またはmecC遺伝子により与えられる。MRSA株は、ベータラクタム系の全ての剤に対しても自然に抵抗性であるが、いわゆる「第五世代セファロスポリン」は例外となる可能性があり、セフタロリンとセフトビプロールが最初に利用可能な剤である。MRSA株はさらに、追加的な抗生物質(例えば、グリコペプチド、リポペプチド、ムピロシン、キノロン、アミノグリコシド、マクロライド、リファンピンなど)に対する耐性も含み得る。あるいは黄色ブドウ球菌は、メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)であり得る。メチシリン感受性株は、黄色ブドウ菌中でよくみられるクラスAベータ-ラクタマーゼにより加水分解されていない、メチシリンおよび他のベータラクタム系の殺菌効果に感受性である(特に、オキサシリン、クロキサシリン、ナフシリン、セファロスポリン、カルバペネム、ペニシリン/ベータラクタム阻害剤の組み合わせ)が、他の抗生物質に対する耐性は含み得る。
【0059】
本明細書で使用される場合、「黄色ブドウ球菌により生じた疾患に対する防御を付与する」という表現は、黄色ブドウ球菌関連の疾患または感染の予防、または発生および/もしくは確立の遅延を指す。非限定的な例として、当該黄色ブドウ球菌の疾患または感染は、皮膚もしくは軟部組織の感染(SSTI:skin or soft tissue infection)、外傷感染、菌血症、心内膜炎、肺炎、骨髄炎、毒素性ショック症候群、感染性心内膜炎、毛嚢炎、フルンケル、吹き出物、膿痂疹、水泡性膿痂疹、蜂巣炎、ブドウ菌腫、熱傷様皮膚症候群、中枢神経系感染、感染性および炎症性の眼疾患、骨髄炎もしくは他の関節や骨の感染、気道感染、尿路感染、敗血症性関節炎、敗血症、または壊疽であり得る。特に当該黄色ブドウ球菌関連の疾患または感染は、本明細書に記載されるように、対象中の外来性デバイスまたはインプラントの存在に関連付けられる場合がある。
【0060】
「患者」または「対象」は、年齢に関わらず任意のヒト個体であり得る。具体的には、対象は、成人または子供であり得る。「成人」という用語は、本明細書において、少なくとも16歳の個人を指す。「子供」という用語は、0~1歳の幼児、1~8歳の子供、8~12歳、および12~16歳を含む。「子供」という用語はさらに、誕生時~28日齢の新生児、および28~364日齢の新生児期後の幼児も含む。組成物は、成人、または新生児を含む子供に投与され得る。本発明の組成物は、何等かの理由で、より好ましくは心臓手術もしくは整形外科手術、または透析治療(例えば、腎透析)のために入院するであろう、またはすでに入院している対象における黄色ブドウ球菌関連疾患の予防または治療における使用に特に有益である。好ましい実施形態では、対象は、外来性デバイスまたはインプラントを担持する。非限定的な例として、当該対象は、以下のデバイスまたはインプラントのうちの1つ以上を担持し得る:静脈内カテーテル、人工血管、血管内ステント、脳脊髄液シャント、人工心臓弁、導尿カテーテル、人工関節、整形外科固定具、心臓ペースメーカーもしくは除細動器、腹膜透析カテーテル、子宮内器具、胆道ステント、インスリン投与用のカテーテル、義歯、豊胸用インプラント、コンタクトレンズ、または任意の他の外来性デバイスもしくはインプラント。好ましくは、当該対象は、骨関節デバイスを有し、好ましくは骨関節インプラントを有し、より好ましくは関節全置換または関節部分置換を有し、さらにより好ましくは股関節、膝関節、肩関節、肘関節、手関節もしくは足関節の全体的または部分的な置換を有する。
【0061】
本発明のさらなる態様では、本明細書に提供される実施形態のいずれかによる免疫原性組成物または免疫治療用組成物は、対象の黄色ブドウ球菌感染の治療における使用のためである。「治療」という用語は、黄色ブドウ球菌感染の症状を改善または完全に消失させるプロセスを指す。好ましくは、治療は、本明細書に記載される免疫原性組成物または免疫治療用組成物を、例えば黄色ブドウ球菌感染の治療または予防に使用される抗生物質治療などの1つ以上の従来的な治療法と組み合わせて、または黄色ブドウ球菌感染による移植失敗の症例ではインプラント置換と同時に、体内投与することにより実施される。したがって特定の実施形態によると、当該免疫原性組成物または免疫治療用組成物は、黄色ブドウ球菌感染に対して有効な1つ以上の抗生物質と関連付けられて使用される。
【0062】
本発明のさらなる態様は、その必要のある対象において免疫応答を惹起させる方法に関し、当該方法は、黄色ブドウ球菌感染の予防または治療を目的として、本明細書に記載される免疫原性組成物を提供または投与することを含む。本発明はさらに、黄色ブドウ球菌関連の疾患もしくは感染を予防および/または治療する方法に関連し、当該方法は、本明細書に記載される実施形態のいずれかによる免疫原性組成物または免疫治療用組成物を、その必要のある対象に投与することを含む。特定の実施形態によると、その必要のある対象に受動免疫を付与する方法が本明細書において提供され、当該方法は、(1)少なくとも1つの黄色ブドウ球菌抗原を含む免疫原性組成物を使用して抗体調製物を作製する工程であって、当該抗原は、配列番号8のSdrH様ポリペプチド、配列番号4のNuc、および/または配列番号12のLukGと少なくとも80%の同一性を有するポリペプチドである工程、および(2)当該対象に、免疫治療用調製物を投与する工程、を含む。
【0063】
好ましくは、当該黄色ブドウ球菌は、抗生物質耐性の黄色ブドウ球菌であり、より好ましくはMRSAである。好ましくは、当該対象は、本明細書に記載される外来性デバイスまたはインプラントを担持し、より好ましくは、当該対象は、骨関節デバイスを有し、好ましくは、骨関節インプラントを有し、より好ましくは、関節全置換を有する。
【0064】
本発明は、対象において免疫応答を惹起するための、好ましくは黄色ブドウ球菌に関連した疾患もしくは感染の予防および/または治療のための医薬品の製造のための本発明による免疫原性組成物または免疫治療用組成物の使用も含む。
【0065】
本発明は、黄色ブドウ球菌が関連した疾患もしくは感染の予防および/または治療における、本明細書に記載される実施形態のいずれかによる免疫原性組成物または免疫治療用組成物の使用も含む。
【0066】
さらなる態様によると、本発明は、本明細書に提供される免疫原性組成物または免疫治療用組成物、および対象に本明細書に記載される免疫原性組成物または免疫治療用組成物を提供する、または投与することに関する説明書とを含むキットに関する。
【0067】
上述のように、臨床試験のコストの高さと期間を鑑みて、インビトロのオプソニン貪食作用(OPA:opsonophagocytosis)アッセイは、ワクチン応答の評価に対して防御の相関として普遍的に使用されており(Romero-Steiner et al.,2006)、ならびに抗体の機能性評価、特にプロフェッショナル貪食細胞による黄色ブドウ球菌の取り込みを促進する抗体の能力の評価に対して防御の相関として普遍的に使用されている(Nanra et al.,2013;Fowler et al,2013)。多形核好中球を特に使用する従前の方法とは対照的に、本発明者らは、黄色ブドウ球菌の取り込みおよび殺傷の両方を促進する抗体を生成することができる標的ワクチン抗原を特定するための、本明細書に提供される新規OPAアッセイを開発した。
【0068】
したがってさらなる態様によると、本発明は、以下を含む、対象において黄色ブドウ球菌により生じた疾患に対する防御を付与する抗原を特定するインビトロの方法に関する:
a)黄色ブドウ球菌を含む溶液と、黄色ブドウ球菌抗原に対して惹起された抗体を含む溶液とを、好ましくは35℃で1時間インキュベートし、それにより混合懸濁液を取得すること、
b)工程a)の当該混合懸濁液と、マクロファージを接触させること、
c)マクロファージから混合懸濁液を取り除くこと、および
d)当該マクロファージによる黄色ブドウ球菌の内部移行および殺傷を評価することであって、当該抗原が、黄色ブドウ球菌の内部移行および殺傷の両方の増加を誘導したときに、当該抗原は、黄色ブドウ球菌により生じた疾患に対する防御を付与するとみなされること。
【0069】
上述の方法の工程a)、b)、c)およびd)は必然的に上記に示される順序で実施される。さらに当該方法に、追加工程が含まれてもよく、例えば、黄色ブドウ球菌を含有する溶液を培養または希釈して、特定の密度(例えば、1の光学密度)で細菌を提供する工程、抗体を含む溶液を濃縮または希釈する工程、および/または(例えば、マクロファージが特定の感染多重度(MOI)を有する細菌と接触され得るように)混合溶液を希釈する工程、細菌および/またはマクロファージを洗浄する工程、マクロファージをインキュベートする工程などが含まれてもよい。
【0070】
工程a)は、35℃で1時間実施されることが好ましいが、インキュベーションは、2℃~40℃の範囲の温度で1分~48時間行われてもよい。同様に、工程b)は、35℃で1時間実施されることが好ましいが、マクロファージは、2℃~38℃の範囲の温度で1分~48時間、混合懸濁液と接触されてもよい。マクロファージは、5%CO雰囲気下、35℃で保管されることが好ましい。好ましくは、混合懸濁液は、10:1~25:1で構成されるMOI(すなわち、マクロファージ当たり10~25個の細菌)を有する。マクロファージ層と黄色ブドウ球菌の接触は、黄色ブドウ球菌とマクロファージの間の接触が促進される遠心分離により増強させることができる。したがって遠心分離は、工程b)の期間を有益に減少させ得る。当該接触工程によって、ある割合の黄色ブドウ球菌が内部移行することが可能となり、その割合は工程a)に提供される抗体を含む溶液の組成に従いさらに変化し得る。工程c)の混合懸濁液の除去は特に、1つ以上の洗浄工程(例えば、マクロファージを新鮮な培養培地またはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄する工程)を含んでもよい。実際にこの洗浄工程により、外部にいる黄色ブドウ球菌の除去が有益に改善される。工程c)はさらに、好ましくは混合懸濁液を取り除いた後に、抗生物質を含む溶液の添加工程を含んでもよい。そのような溶液添加工程によって、残留している任意の細胞外黄色ブドウ球菌の殺傷が有益に確保される。したがって黄色ブドウ球菌は、使用される抗生物質に対して感受性でなければならず、一方でマクロファージは、影響を受けないことが好ましい。非限定的な例として、当該抗生物質は、ゲンタマイシンである。ゲンタマイシンは特に、50μg/mL~100μg/mLの範囲内の濃度、または100μg/mL以上の濃度であってもよい。非限定的な例として、抗生物質を含有する溶液は、例えばDMEMなどの細胞培養培地である。当該培養培地は、その前に使用されていないことが好ましい(すなわち、「新鮮」である)。
【0071】
したがって好ましい実施形態によると、工程c)は、混合懸濁液をマクロファージから取り除くこと、および抗生物質を補充された溶液を加えることを含む。より好ましくは、工程c)は、マクロファージから混合懸濁液を取り除くこと、および抗生物質を補充された新鮮な培地を加えること、それにより確実に細胞外黄色ブドウ球菌を殺傷すること、を含む。
【0072】
マクロファージにおける黄色ブドウ球菌の内部移行および殺傷は、当分野に公知の方法を使用して決定され得る。
【0073】
例として、内部移行は、当分野に公知の方法(例えば、画像解析など)に従い、観察される蛍光レベルにより細菌を定量することにより決定され得る(例えば、蛍光タンパク質を発現する組み換え黄色ブドウ球菌の蛍光を測定することにより直接的に決定され得る、またはグラム陽性細菌の細胞壁に結合する蛍光グリコペプチド抗生物質である例えばBODIPY(登録商標)FLバンコマイシン(VMB)などの1つ以上の染色剤を、固定および透過処理されたマクロファージに添加して、得られた蛍光を測定することにより間接的に決定され得る)。内部移行は特に、対象抗原に対して惹起された抗体を含有する混合懸濁液で処理されたマクロファージにおいて、工程c)の3時間後に存在する蛍光レベルを、対照血清(例えば、GFPタンパク質など、黄色ブドウ球菌中には存在しない抗原に対して惹起されたもの)と、画像取得および画像解析を使用して比較することにより決定され得る。特定の例として、画像解析を使用して、例えば各条件におけるマクロファージ当たりのVMB蛍光陽性ピクセルの数などを決定してもよい。さらなる例として、工程d)の黄色ブドウ球菌の殺傷は、工程c)から3時間後のマクロファージ中に内部移行した細菌の量と、工程c)から6時間後のマクロファージ中に内部移行した細菌の量とを比較することにより評価される。具体的には、殺傷は、本明細書に記載される方法に従い観察されるVMB蛍光のレベルを3時間と6時間で比較することにより決定されてもよい。細菌増殖は、3時間と比較して6時間で蛍光増加が測定されたときに発生したとみなされ得る。細菌溶解(すなわち、殺傷)は、3時間と比較して6時間で蛍光減少が測定されたときに発生したとみなされ得る。そのような蛍光変化は、細菌の増殖/溶解と関連した細胞内ペプチドグリカン量における変化を反映する。
【0074】
当該方法で使用されるマクロファージは、任意のマクロファージ細胞株または単離マクロファージであってもよい。好ましくは、当該マクロファージは、古典的培養条件(すなわち、DMEM)中で単層で培養される。好ましくは、当該マクロファージは、不死化マクロファージ細胞株、より好ましくはJ774.2細胞株である。
【図面の簡単な説明】
【0075】
図1図1は、免疫血清により介在される黄色ブドウ球菌の取り込みである。 1/1000希釈(上のパネル)と1/2000希釈(下のパネル)の免疫血清を使用した、10:1(左のパネル)と25:1(右のパネル)の多重感染度(MOI)での黄色ブドウ球菌の取り込み(感染後3時間)。平均蛍光面積値(488nm励起、515nm発光)を報告し、抗GFP抗体(値は1)により正規化した。標準偏差を、細胞当たりの蛍光面積値から計算し、その後、抗GFP抗体の蛍光に対して正規化した。統計的有意性は、生データにGraphpad Prismを使用して評価した。*P-値<0.05。**P-値<0.01。検証したタンパク質:Pbp2a(A)、SspA(B)、Sak(C)、IsaA(D)、GlpQ(E)、オートリシン様タンパク質(Autolysin-like protein)(F)、Nuc(G)、Hla(H)、LukG(I)、LukH(J)、IsdA(K)、IsdB(M)、SdrD(「N」および「Nb」の2つの部分ポリペプチドとして)、ClfA(「O」および「Ob」の2つの部分ポリペプチドとして)、MntC(1)、SdrH様ポリペプチド(2)、Lip2(3)、推定タンパク質(4)、Atl(5)、および仮想タンパク質(6)。灰色:Nuc(G)、LukG(I)、およびSdrH様ポリペプチド(2)。 示されるように、5個のポリペプチドのみが、少なくとも2つの異なる条件下で取り込みの有意な増加に関連付けられた。Nuc(G)、Hla(H)、LukG(I)、IsdA(K)、およびSdrH様ポリペプチド(2);1/1000と1/2000の希釈に対して観察された値は類似しており、閾値効果の欠落が示唆されることに注意されたい。
図2図2は、黄色ブドウ球菌の殺傷である。 1/1000希釈(上のパネル)と1/2000希釈(下のパネル)の免疫血清を使用した、10:1(左のパネル)と25:1(右のパネル)のMOIでの黄色ブドウ球菌の殺傷(感染後6時間)。6時間で報告されたタンパク質の平均蛍光面積(励起488nm、発光515nm)は、本明細書において、3時間での同タンパク質に対して測定された値(参照値は1)に対して正規化された。検証されたタンパク質は、上記のタンパク質と同じである(図1の説明を参照)。灰色:Nuc(G)、LukG(I)、およびSdrH様ポリペプチド(2)。 示されるように、黄色ブドウ球菌取り込みにおける有意な増加と関連していた5つの抗原のうち、3つの抗原のみが、以下の全てのアッセイ条件において、細菌殺傷とも関連していた:Nuc(G)、LukG(I)、およびSdrH様ポリペプチド(2)。
図3図3は、抗IsdBタンパク質抗血清および抗SdrH様ポリペプチド抗血清で処理された黄色ブドウ球菌に感染したマクロファージの感染後6時間での画像(MOI 1:10、血清希釈1/1000)である。 抗IsdB(M)タンパク質抗血清(パネルA)の場合、無数の細菌(白い円)が、細胞質空間を埋め尽くしているのが認められる:細胞外細菌の放出を伴う細胞溶解領域も観察された。抗SdrH様ポリペプチド(2)抗血清(パネルB)で取得された画像は、これとは対照的であった:個々の細菌(白い円)を数え上げることができた。細胞骨格構造は保存され、核領域も保存されていた。同様の結果が、抗Nuc(G)タンパク質および抗LukG(I)タンパク質の抗血清でも得られた(データ示さず)。
【実施例
【0076】
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を示すために含まれている。以下の実施例および添付の図面に記載され、示されている全ての内容は、解説であり、限定の意味はないと解釈される。以下の実施例は、当業者により判定され得る任意の代替、均等および改変を含む。
【0077】
実施例1:黄色ブドウ球菌および対照抗原の構築、作製および精製
材料および方法
本発明の黄色ブドウ球菌抗原、および黄色ブドウ球菌対照抗原をコードする遺伝子を発現ベクター内にクローニングする
配列解析された黄色ブドウ球菌株Mu50を、ゲノムDNA源として使用した。DNA抽出は、市販キット(DNeasy Blood and Tissue、Qiagen社、ドイツ、ヒルデン)を使用して実施された。対象の黄色ブドウ球菌遺伝子は、AmplifXで設計された適切なプライマーを使用したポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅された。
【0078】
黄色ブドウ球菌遺伝子のヌクレオチド配列は特に、配列番号1、5、9、13、17、21、25、29、33、37、41、45、49、53、57、61、65、69、73、および79に提供される。クローニングされたDNA配列は、配列番号2、6、10、14、18、22、26、30、34、38、42、46、50、54、58、62、66、70、74、75、80、および81に提供される。sdrDおよびclfA遺伝子について、特に2つの異なるポリペプチドが、クローニングされた(sdrDについては配列番号74および75、ならびにclfAについては配列番号80および81)。DNAは、SalIおよびStuI(Thermo Scientific社、米国、ウォルサム)を用いた制限酵素消化の前に精製され、ポリヒスチジンタグを含有する発現ベクターpET-6xHN-N(Clontech社、日本、大津)にも同様に行われた。次いで制限酵素消化されたPCR産物をベクターにライゲーションした。得られた各遺伝子の発現ベクターは、電気泳動により整理され、その後、ケモコンピテントDH10β1大腸菌(Thermo Scientific社)に形質転換された。形質転換された細菌は、Luria-Bertani(LB)液体培地中、35℃で1時間インキュベートされ、その後、アンピシリン(100mg/L)を含むLBアガーに播種され、35℃で一晩インキュベートされた。単離クローンが回収され、LB液体培地中で一晩増殖させ、クローンを増幅させた。次いでベクターDNAを、市販キット(QIAprep Spin Miniprep、Qiagen社)を使用して精製した。配列解析を実施して、各挿入遺伝子の配列を確認した。pET-6xHN-GFPuvベクター(Clontech社)を、緑色蛍光タンパク質(GFP、クローニングされたDNA配列およびアミノ酸配列はそれぞれ配列番号85および86)の発現に使用した。
【0079】
抗原の作製および精製
DH10β1細胞に使用したものと同じプロトコールに従い、確認済みのベクターを使用してケモコンピテントBL21(DE3)大腸菌細胞(Thermo Scientific社)を形質転換して、単離されたコロニーを同様に増幅した。一晩培養した培養物の1/100希釈を、0.5の最適密度に培養物が到達するまで35℃でインキュベートした。次いでIPTG(最終1mM)の溶液を細菌に添加して、ODが1.2に到達するまで35℃で抗原産生を誘導した。遠心分離によって得られた細菌ペレットを溶解し、ヒスチジンタグ付けタンパク質を市販キット(Proteus Metal Chelate、Generon社、英国、スラウ)を使用して精製し、組み換えHisタグ付けタンパク質を、10mMイミダゾール溶液を使用して溶出した。次いで溶出された抗原を、Amicon Ultra-15カラム(Merck社、ドイツ、ダルムシュタット)を使用して濃縮した。当該抗原のポリペプチド配列は、配列番号3、7、11、15、19、23、27、31、35、39、43、47、51、55、59、63、67、71、76、および82に提供される通りである。クローニングされたポリペプチド配列は、そのすべてがN末端にHis Tagをさらに含んでおり、配列番号4、8、12、16、20、24、28、32、36、10、44、48、52、56、60、64、68、72、77、78、83、および84に提供される通りである。
【0080】
抗原の特徴解析
精製抗原の特徴解析は、クマシン溶液で着色されたドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)により実施され、組み換え抗原の大きさ、完全性および純度が評価された。精製抗原溶液の濃度は、Bradford法を使用して決定された。
【0081】
結果
合計で20個の黄色ブドウ球菌抗原が、22個の異なるポリペプチドとして評価され、クローニングされ、発現および精製された(95%を超える純度)。精製タンパク質の合計量は、各組み換えタンパク質について1mg~6mgの範囲であった。
【0082】
これらタンパク質のうち以下の4つが、医薬品開発中の抗黄色ブドウ球菌ワクチン中に含まれており、対照ワクチン抗原として使用された:IsdB(Harro et al.,2010、Moustafa et al.,2012、Fowler et al.,2013に記載される)、MntC(Salazar et al.,2014、Begier et al.,2017、Inoue et al.,2018に記載される)、ClfA(Salazar et al.,2014、Begier et al.,2017、Inoue et al.,2018に記載される)、およびHla アルファ毒素(Landrum et al.,2016に記載される)。
【0083】
実施例2:黄色ブドウ球菌抗原に対する抗体の作製
材料および方法
黄色ブドウ球菌のポリペプチドおよび対照抗原を標的とする抗体は、特定病原体がいない、特に黄色ブドウ球菌がいない環境下に由来すると実証されているBALB/cJRjマウスの免疫化により取得された。9週齢のマウスを受け取り、免疫化前の1週間、馴化させた。抗原当たり6匹のマウスの群に、フロイント完全アジュバントとともに20μgの精製抗原の第一用量を注射し、その後さらに21日目と42日目に20μgの抗原をフロイント不完全アジュバントとともに2回注射した。最初の注射から50日後にマウスを安楽死させ、血清を収集した。第一の対照群(n=6)は、GFP(非関連非黄色ブドウ球菌抗原)を注射した。第二の対照群(n=6)は、リン酸緩衝溶液(PBS)を注射し、アジュバントの免疫原性に対する対照とした。
【0084】
各免疫血清の力価と特異性は、精製タンパク質を使用したウェスタンブロッティングにより実証された。
【0085】
結果
各血清は、60,000の力価まで連続希釈されて評価された。検証された全ての血清サンプルがこの濃度で陽性特異的バンドを示したことから、全ての動物の有効な免疫化が示された。同じ抗原で免疫化された6匹のマウスからの血清をプールして、22個の黄色ブドウ球菌ポリペプチドの各々、およびGFPについて単一の免疫血清ストックを取得した。
【0086】
実施例3:マクロファージ系OPAアッセイにおける免疫血清のインビトロ評価
材料および方法
黄色ブドウ球菌株
実験は、USA300およびそのspA誘導体(Frederic Laurent、リヨン)を用いて実施された。
【0087】
マクロファージの培養
マウスBALB/c不死化マクロファージ細胞株J774.2(European Collection of Authenticated Cell Lines、英国、ポートンダウン)に対し、細胞アッセイを実施した。マクロファージを、10%ウシ胎児血清を補充したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中、5%CO雰囲気下、35℃で培養した。細胞を補充DMEM中に懸濁させ、アッセイの24時間前に培養プレートに播種した。
【0088】
マクロファージ系アッセイ
ブレインハートインフュージョン(BHI)液体培地での18時間の黄色ブドウ球菌培養物を、新鮮な培地中で1/100に希釈し、培養物のODが1に到達するまで37℃でインキュベートした。1/1000または1/2000に希釈された免疫血清を添加し、35℃で1時間、細菌表面に結合させた。次いで血清処理された細菌を、10:1(細胞当たり10個の細菌)および25:1(細胞当たり25個の細菌)の感染多重度(MOI)で濃度決定されたJ774.2細胞単層に添加した。5%CO雰囲気下、35℃で1時間インキュベートした後、ウェルから培地を取り除き、PBSで穏やかに洗浄して、ゲンタマイシンを含む新鮮なDMEMを添加した。適切な時間(以下を参照のこと:細菌取り込み、感染後3時間;細菌殺傷、感染後6時間)で、J774.2細胞をPBSで洗浄し、PFA 4%で5分間固定して、0.1% Triton X100で5分間透過処理した。固定細胞をヘキスト33342(Thermo Scientific社)、Phalloidin-ATTO 655(Sigma-Aldrich社、米国、セントルイス)およびBODIPY(登録商標)FL Vancomycin(VMB)(Invitrogen社、米国、カールスバッド)で30分間染色し、ガラスカバースリップを使用して密封した。Leica SP8共焦点顕微鏡を使用して画像を取得し、ImageJソフトウェア(National Institute of Health、米国、ベテスダ)を使用して解析した。
【0089】
細菌の取り込みおよび殺傷の評価
血清処理細菌の取り込みは、各抗原特異的血清に対するJ774.2細胞当たりのVMB蛍光のピクセル数(細菌細胞壁の定量)と、非関連対照血清(抗GFP)に対するJ774.2細胞当たりのVMB蛍光のピクセル数を比較することにより、感染後3時間で評価された。
【0090】
内部移行した細菌の結果を評価するために、感染後3時間でのVMBと、感染後6時間でのVMBの面積を比較した。蛍光増加が測定されたときに細菌増殖とした。蛍光増殖は、細胞内ペプチドグリカン量の増加を反映している。細胞内ペプチドグリカン量の減少が測定されたときに細菌溶解(殺傷)とした。この減少は、細胞内ペプチドグリカン量の減少を反映している。
【0091】
結果
2つの抗体希釈(1:1000、1:2000)を用いて黄色ブドウ球菌をインキュベートした後、10:1および25:1のMOIで感染後3時間に評価された細菌取り込みの評価を本明細書に提示する。各実験の抗GFP対照血清は正規化のためである。以下の5つの抗原が、著しく異なる振る舞いを示し、少なくとも2つの条件下で、黄色ブドウ球菌の内部移行の有意な増加があった:SdrH様ポリペプチド(2)、Nuc(G)、およびLukG(I)、Hla(H)、およびIsdA(K)(図1)。
【0092】
細胞内細菌の除去と増殖は、感染から6時間後のVMB蛍光の面積を、感染から3時間後に観察された蛍光面積と比較することにより評価された。有意な細菌取り込みと関連付けられることが示された5つの抗原の中で、以下の3つの抗原が、全ての実験条件下で細菌殺傷とも関連していた:SdrH様ポリペプチド(2)、Nuc(G)、およびLukG(I)(図2)。
【0093】
注目すべきは、取り込みにそれほど効果が無かった多くのタンパク質が、細菌増殖の強化と関連していたことである(免疫血清の「促進」効果)(例えば、図2の25:1のMOI、1/1000の血清希釈でのタンパク質PbP2a(A)およびSak(C))。細菌増殖は、抗IsdBタンパク質血清で特に激しく、マクロファージ単層の破壊が生じていた(図3)ために、細胞内細菌負荷が過小評価されていた(図1および2を、図3と比較する)。
【0094】
実施例4:マウスにおける、全身性黄色ブドウ球菌感染のインビボモデルの構築
過去の研究により、BALB/cマウスは、腎臓での細菌増殖を抑えることができないマウス系統であり、血液伝播性黄色ブドウ球菌感染に対して非常に感受性であることが示されている(von Kockritz-Blickwede et al.,2008)。しかし、黄色ブドウ球菌の病原性レパートリーに従い、黄色ブドウ球菌株間で感染経過が異なる可能性があるため、本発明者らは最初に、非致死性の腎臓感染を導く黄色ブドウ球菌USA300の用量を決定した。
【0095】
材料および方法
黄色ブドウ球菌株
実験は、黄色ブドウ球菌株USA300を用いて実施された。
【0096】
マウス
メスのBALB/cマウスを、Janvier Labs(フランス、Le Genest Saint Isle)から購入した。6週齢のマウスを受け取り、免疫化前の1週間、馴化させた。動物実験は、機関および国の倫理ガイダンスに従い実施された(協定APAFIS #26827)。
【0097】
全身性黄色ブドウ球菌感染のマウスモデル
ケタミン/キシラジン(50/10mg/kg)の腹腔内投与によりマウスを麻酔し、100μLの体積で、後眼窩腔注射により10、10または10 CFUのUSA300を接種した。感染から3時間後および24時間後にマウスを安楽死させた。脾臓と腎臓を採取し、ホモジナイズして、Mueller Hinton2寒天プレート上に連続希釈を播種した。CFUは、37℃で24時間のインキュベーション後に計数された(最低検出限界:1臓器当たり2.69log10 CFU)。
【0098】
結果
チャレンジから24時間後の時点の前に、10CFUの用量では100%の動物が死亡した。一方で10CFUでは、腎臓に感染が確立しなかった(チャレンジ後3時間および24時間で細菌が検出されなかった)(表2)。
【0099】
したがって、10CFUが、非致死的で、腎臓感染と関連付けられる唯一の用量であった。予測されたように、脾臓における細菌負荷はチャレンジ後3時間および24時間で類似しており、このことから、感染が制御されていることが示唆される。一方で腎臓では細菌増殖が劇的に増加していた(チャレンジ後3時間および24時間の間で、約4log10のCFUの差異)(表2)。
【0100】
【表2】
【0101】
実施例5:全身性黄色ブドウ球菌感染のマウスモデルにおける、SdrH様ポリペプチドと陰性対照の防御効果の評価
BALB/cマウスは、強いTh2応答を発現させることで黄色ブドウ球菌感染を制御し得ることが示されている(Nippeら、2011)。本発明者らは上記で、SdrH様ポリペプチド、Nuc、またはLukGに対する血清が、ファゴサイトーシスによる黄色ブドウ球菌の殺傷を強化したことをOPAアッセイで示している(実施例3を参照)。そこで本発明者らは、これら3つの抗原のうちの1つであるSdrH様ポリペプチド(SdrH様)でBALB/cマウスをワクチンすることにより、この全身性感染モデルにおいて腎臓感染の制御が改善され得るかを試験した。
【0102】
材料および方法
SdrH様、アジュバントの作製と精製
SdrH様は、実施例1に記載されるように作製および精製された。アジュバント(水酸化アルミニウムゲル(Alhydrogel(登録商標))およびリン酸アルミニウムゲル(Adju-Phos(登録商標));InVivoGen社、米国カリフォルニア州)は、メーカーの推奨に従い使用された。
【0103】
ワクチンプロトコールおよびエンドポイント解析
10μgの精製SdrH様(5μgは、水酸化アルミニウムゲル(右腿;体積:50μL)、5μgは、リン酸アルミニウムゲル(左腿;体積:50μL))を用いて3週間、週に1回筋肉内注射で免疫化した。陰性対照として、マウスは同量のアジュバント単独を投与された。
【0104】
マウス(時点ごとに6匹のマウス群)は、3回目の免疫化から2週間後、10 CFU用量のUSA300を接種された。プロトコールは実施例4に別段に記載されるとおりである。
【0105】
結果
表3に示されるように、チャレンジ後24時間での細菌負荷は、対照マウスと比較し、SdrH様でワクチンされたマウスにおいて、0.53log10まで低下した。腎臓感染はワクチンマウスにおいても制御されていなかったが、細菌増殖は顕著に低下した(チャレンジ後3時間および24時間の間で、対照マウスの+2.06log10 CFUと比較し、+1.53log10 CFU)。
【0106】
予測されたように、ワクチンは、脾臓感染には最小限の影響であった。
【表3】
【0107】
実施例6:全身性黄色ブドウ球菌感染のマウスモデルにおける、スタフィロキナーゼおよびMntCと比較した、SdrH様の防御効果の評価
次いでSdrH様を、スタフィロキナーゼおよびMntCと比較した。最初の比較はスタフィロキナーゼであり、このタンパク質に対する血清は、OPAアッセイにおいて黄色ブドウ球菌の細胞内増殖を助長することが逆説的に示されているために選択された(図1および2のSak、「C」を参照)。2番目の比較はMntCであり、MntCは様々な動物モデルにおいて有望なワクチン候補であることが示されていること(Andersonら、2012)、一方でOPAアッセイではSdrH様に劣ることが明らかとなっていることから選択された(図1および2のMntC、「1」を参照)。
【0108】
以下の3つの感染用量を検証した:10、3x10および10 CFU。
【0109】
材料および方法
SdrH様、スタフィロキナーゼ、およびMntCは、実施例1に記載されるように作製および精製された。ワクチンプロトコールおよびエンドポイント解析は、防御効果が以下の3つの用量を使用して評価されたことを除き、実施例5に記載されるとおりであった:10、3x10および10 CFUのUSA300。
【0110】
結果
腎臓における感染経過は、スタフィロキナーゼでワクチンされた場合と比較し、SdrH様でワクチンされたマウスにおいて明らかに異なっていた(表4)。USA300の用量に関わらず、SdrH様は、スタフィロキナーゼと比較して、約0.80log10 CFUまで腎臓における細菌負荷を減少させた(表5)。
【0111】
10 CFUの最低用量で、スタフィロキナーゼと比較し、MntCで同様のCFU減少(0.95log10 CFU)が観察された(表5)。しかしその差は、10および3x10 CFUではそれほど多くなかった(0.30~0.39log10 CFUの減少のみ;表5)。
【0112】
上述の結果と同じく、2つの最高用量の10および3x10 CFUで、腎臓感染に対し、SdrH様は、MntCよりも強い効果を示し(それぞれ0.45および0.47 log10 CFUの減少;表5)、それと同時に10CFUでも同様の結果が得られた。
【0113】
したがって、SdrH様、スタフィロキナーゼ、およびMntCを用いてワクチンを行った後に腎臓で観察された細菌動態は、OPAアッセイにおいてこれら3つの抗原を用いて観察された細菌動態と同様であった。
【0114】
予測されたように、これら3つの抗原の各々を用いたワクチンは、脾臓感染には最小限の影響であった。
【表4】
【0115】
【表5】
【0116】
結論
特異的抗体は、細胞外抗原の生理学的機能を阻害し、免疫細胞による取り込みを増加させ、ファゴサイトーシスを促進し、および/またはファゴリソソーム画分への細菌標的化を改善することができるため、黄色ブドウ球菌への特異的抗体の結合は宿主にとって有益であり得る。特に黄色ブドウ球菌抗原に対する抗体は、好都合な細胞内微小環境へと細菌を標的化させる細菌の防御メカニズムを阻害し、細菌処理を増加させて抗原を提示させることにより免疫応答を強化させ、そして細菌除去を助長することができる。しかし特定の抗体は、免疫システムにより適切に認識され、宿主による感染制御に関与する決定基の機能を阻害してしまうことによって、細菌の毒性を増加させるという有害な作用を有している。ワクチン候補により生成される液性応答は、細菌取り込みを増加させて最適に抗原提示させ、細胞内での細菌溶解を増強させることが好ましい。
【0117】
驚くべきことに、SdrH様ポリペプチド、NucまたはLukGに対する血清は、マクロファージによる黄色ブドウ球菌の内部移行の促進と、ファゴサイトーシス後の細胞内の黄色ブドウ球菌除去の強化の両方を示した。
【0118】
ワクチンタンパク質候補のHla、MntC、およびClfAに対して惹起された抗血清が過去に開発されたことはなく、本明細書に報告される2つの特性を組み合わせた臨床試験において有効性が無いことが示されていることは注目すべきである。さらにIsdBワクチン候補は、ワクチンを受けた患者の転帰を悪化させることが示されており、本明細書で報告されるマクロファージアッセイにおいても有害であることが実証され、内部移行の強化に伴いマクロファージ層が急速に破壊されていた。これらの結果から、対象において黄色ブドウ球菌により生じる疾患に対する防御を付与する抗原の特定において、本明細書に提供される新規マクロファージ系インビトロアッセイの適切性がさらに確認される。
【0119】
さらに、マクロファージ系インビトロアッセイの結果は、BALB/cマウスを使用した全身性黄色ブドウ球菌感染モデルにおいてインビボでも確認された。BALB/cマウスは、腎臓での細菌増殖を抑えることができないため、黄色ブドウ球菌に対して高度に感受性である。実際に当該モデルで評価された3つの抗原のうち、SdrH様ポリペプチドは、腎臓全体での黄色ブドウ球菌の細菌増殖に対して最も強い阻害効果を示し、MntCが2番目であった。この結果は、マクロファージアッセイで観察された動態と合致していた。
【0120】
参考文献
図1
図2
図3
【配列表】
2023509062000001.app
【国際調査報告】