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特表2023-509072異種膵島細胞の産生のための方法及び組成物並びにそれを用いたインスリン抵抗性又は欠乏状態の処置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-06
(54)【発明の名称】異種膵島細胞の産生のための方法及び組成物並びにそれを用いたインスリン抵抗性又は欠乏状態の処置
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20230227BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20230227BHJP
   C12N 15/54 20060101ALI20230227BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20230227BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230227BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230227BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230227BHJP
   A61K 31/436 20060101ALI20230227BHJP
   A61K 31/522 20060101ALI20230227BHJP
   A61K 38/28 20060101ALI20230227BHJP
   A61K 35/39 20150101ALI20230227BHJP
【FI】
C12N5/10
C12N15/12
C12N15/54
A61P3/10
A61P43/00 121
A61K39/395 G
A61K39/395 U
A61K45/00
A61K31/436
A61K31/522
A61K38/28
A61K35/39
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022540966
(86)(22)【出願日】2021-01-07
(85)【翻訳文提出日】2022-08-30
(86)【国際出願番号】 CN2021070659
(87)【国際公開番号】W WO2021139722
(87)【国際公開日】2021-07-15
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2020/070698
(32)【優先日】2020-01-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519375457
【氏名又は名称】イージェネシス,インコーポレイテッド
(71)【出願人】
【識別番号】521500155
【氏名又は名称】ハンチョウ キハン バイオテクノロジー カンパニー,リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ガオ,ヤンビン
(72)【発明者】
【氏名】ユエ,ヤナン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,ルハン
(72)【発明者】
【氏名】グエル,マーク
(72)【発明者】
【氏名】カン,イーナン
(72)【発明者】
【氏名】チン,ウェニング
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C085
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C084AA02
4C084AA19
4C084BA44
4C084DB34
4C084MA02
4C084NA05
4C084ZC202
4C084ZC351
4C084ZC751
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB11
4C085EE03
4C086AA01
4C086CB07
4C086CB22
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086ZC35
4C086ZC75
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB51
4C087CA04
4C087MA02
4C087MA66
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZC35
4C087ZC75
(57)【要約】
異種移植に適したトランスジェニック膵島細胞を生成するための方法、組成物及びシステムが本明細書に記載される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離されたトランスジェニックブタ膵島細胞であって、
(a)少なくとも1つのグリコシルトランスフェラーゼ酵素の酵素活性を実質的に有さず、ここで、前記グリコシルトランスフェラーゼ酵素は、GGTA、B4GALNT2又はCMAHであり、
(b)非ブタ哺乳動物種由来の少なくとも2つのポリペプチド配列を発現し、ここで、前記少なくとも2つのポリペプチド配列が、CD46、CD55、CD59、THBD、TFPI、CD39、B2M、HLAE、CD47、A20、PD-L1、FASL又はHO-1の少なくとも2つを含み、及び
(c)前記非ブタ哺乳動物種由来の補体による毒性の低減、前記非ブタ哺乳動物種由来の活性化プロテインC凝固の誘導の低減、前記非ブタ哺乳動物種由来のトロンビン-アンチトロンビン複合体の誘導の低減又は前記非ブタ種由来のNK細胞による毒性の低減の1つ以上を示す、単離されたトランスジェニックブタ膵島細胞。
【請求項2】
前記細胞が、GGTA、B4GALNT2及びCMAHから選択される少なくとも2つ又は3つ全てのグリコシルトランスフェラーゼ酵素の酵素活性を実質的に有しない、請求項1に記載のトランスジェニックブタ膵島細胞。
【請求項3】
前記細胞が、CD46、CD55、CD59、THBD、TFPI、CD39、B2M、HLAE、CD47、A20、PD-L1、FASL又はHO-1の少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、少なくとも6つ、少なくとも7つ、少なくとも8つ、少なくとも9つ、少なくとも10個、少なくとも11個、少なくとも12個又は全てを発現する、請求項1又は2に記載のトランスジェニックブタ膵島細胞。
【請求項4】
単離されたトランスジェニックブタ膵島細胞であって、
(a)少なくとも2つのグリコシルトランスフェラーゼ酵素の酵素活性を実質的に有さず、ここで、前記グリコシルトランスフェラーゼ酵素が、GGTA、B4GALNT2又はCMAHの少なくとも2つを含み、
(b)非ブタ哺乳動物種由来のポリペプチド配列を発現し、ここで、前記ポリペプチド配列は、CD46、CD55、CD59、THBD、TFPI、CD39、B2M、HLAE、CD47、A20、PD-L1、FASL又はHO-1であり、及び
(c)前記非ブタ哺乳動物種由来の補体による毒性の低減、前記非ブタ種由来の活性化プロテインC凝固の誘導の低減、前記非ブタ種由来のトロンビン-アンチトロンビン複合体の誘導の低減又は前記非ブタ種由来のNK T細胞による毒性の低減を示す、単離されたトランスジェニックブタ膵島細胞。
【請求項5】
前記細胞が、GGTA、B4GALNT2及びCMAHの酵素活性を実質的に有しない、請求項4に記載のトランスジェニックブタ膵島細胞。
【請求項6】
前記細胞が、CD46、CD55、CD59、THBD、TFPI、CD39、B2M、HLAE、CD47、A20、PD-L1、FASL又はHO-1の少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、少なくとも6つ、少なくとも7つ、少なくとも8つ、少なくとも9つ、少なくとも10個、少なくとも11個、少なくとも12個又は全てを発現する、請求項4又は5に記載のトランスジェニックブタ膵島細胞。
【請求項7】
CD46、CD55、CD59、CD39、B2M、HLAE及びCD47を発現する、請求項1~6のいずれか一項に記載のトランスジェニックブタ膵島細胞。
【請求項8】
前記細胞が、前記1つ又は複数のグリコシルトランスフェラーゼ酵素の発現を実質的に有しない、請求項1~6のいずれか一項に記載のトランスジェニックブタ膵島細胞。
【請求項9】
前記細胞が、前記1つ又は複数のグリコシルトランスフェラーゼ酵素におけるフレームシフト突然変異を含み、翻訳の早期終了を生じさせ、それにより前記グリコシルトランスフェラーゼ酵素の活性が消失する、請求項8に記載のトランスジェニックブタ膵島細胞。
【請求項10】
非ブタ哺乳動物種由来の前記1つ又は複数のポリペプチド配列をコードする1つ又は複数の核酸配列が、ブタオルソログの非オルソロガス遺伝子座内に挿入される、請求項1~9のいずれか一項に記載のトランスジェニックブタ膵島細胞。
【請求項11】
非ブタ哺乳動物種由来の前記1つ又は複数のポリペプチド配列をコードする1つ又は複数の核酸配列が、ブタオルソログの非オルソロガスプロモーターに作動可能に連結される、請求項1~10のいずれか一項に記載のトランスジェニックブタ膵島細胞。
【請求項12】
前記非オルソロガスプロモーターが、非ブタプロモーターである、請求項11に記載のトランスジェニックブタ膵島細胞。
【請求項13】
前記膵島細胞が、ブタ膵臓の脱凝集によって得られる、請求項1~12のいずれか一項に記載のトランスジェニックブタ膵島細胞。
【請求項14】
前記膵島細胞が、アルファ細胞、ベータ細胞、デルタ細胞、イプシロン細胞、膵臓ポリペプチド(PP)細胞又はそれらの任意の組み合わせである、請求項1~13のいずれか一項に記載のトランスジェニックブタ膵島細胞。
【請求項15】
前記非ブタ哺乳動物種が、霊長類種である、請求項1~14のいずれか一項に記載のトランスジェニックブタ膵島細胞。
【請求項16】
前記細胞が、前記非ブタ哺乳動物種に移植された場合、8日間を超える生存を示す、請求項1~15のいずれか一項に記載のトランスジェニックブタ膵島細胞。
【請求項17】
前記細胞が、前記非ブタ哺乳動物種から単離されたPBMCに対して減少したIBMIRを示す、請求項1~16のいずれか一項に記載のトランスジェニックブタ細胞。
【請求項18】
治療有効量の、請求項1~17のいずれか一項に記載の単離されたブタ膵島細胞を含む組成物。
【請求項19】
前記等張緩衝液が、ヘパリン又はTNF-アルファ阻害剤をさらに含む、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
少なくとも約12%~約25%のベータ細胞又は少なくとも約15%~約30%のアルファ細胞を含む、請求項18又は19に記載の組成物。
【請求項21】
前記組成物が、請求項35~42のいずれか一項に従って調製される、請求項18~20のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項22】
インスリン抵抗性又は欠乏状態の処置を、それを必要とする非ブタ哺乳動物において行う方法であって、治療有効用量の、請求項1~17のいずれか一項に記載の単離されたトランスジェニックブタ膵島細胞又は請求項18~21のいずれか一項に記載の組成物を前記哺乳動物に投与することを含む方法。
【請求項23】
前記哺乳動物の内頸静脈又は肝門脈を介して前記細胞を中枢に投与することを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記インスリン抵抗性状態が、1型糖尿病を含む、請求項22又は23に記載の方法。
【請求項25】
前記インスリン抵抗性状態が、2型糖尿病を含む、請求項22又は23に記載の方法。
【請求項26】
前記非ブタ哺乳動物が、前記トランスジェニックブタ膵島細胞又は前記組成物を投与する前に、治療有効用量の抗胸腺細胞グロブリン、抗CD40抗体、抗CD20抗体、ラパログ、カルシニューリン阻害剤、ガンシクロビル又はそのプロドラッグ、抗ヒスタミン剤及びコルチコステロイドを含む導入レジメンを受けている、請求項22~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記トランスジェニックブタ膵島細胞又は前記組成物の投与後、治療有効用量の抗CD40抗体、ラパログ、カルシニューリン阻害剤及びガンシクロビル又はそのプロドラッグを投与することを含む、請求項22~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記トランスジェニックブタ膵島細胞又は前記組成物の投与後、治療有効用量の中間作用型又は長時間作用型インスリン類似体、インスリングラルギン、インスリンデテミル又はNPHインスリンを投与することを含む、請求項22~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記治療有効用量が、非ブタ哺乳動物の体重1kgあたり少なくとも5,000IEQである、請求項22~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
請求項1~17のいずれか一項に記載の単離されたブタ膵島細胞を含む、単離されたブタ膵島。
【請求項31】
請求項1~17のいずれか一項に記載の単離されたブタ膵島細胞を含む、単離されたブタ膵臓オルガノイド。
【請求項32】
前記膵島又はオルガノイドが、膵臓外分泌細胞を実質的に含まない、請求項30又は31に記載の単離されたブタ膵島又は単離されたブタ膵臓オルガノイド。
【請求項33】
前記膵臓オルガノイドが、以下:
(a)新生仔7日目以前に新生仔ブタ動物から膵臓を単離すること、及び
(b)前記膵臓を機械的又は酵素的消化に供して、オルガノイド断片を生成すること、並びに任意選択により、
(c)ステップ(b)のオルガノイド断片をフィコール勾配沈降によって精製すること
によって調製される、請求項31又は32に記載の単離されたブタ膵臓オルガノイド。
【請求項34】
請求項1~17のいずれか一項に記載のブタ膵島細胞を含む、単離されたブタ膵臓。
【請求項35】
非ブタ哺乳動物レシピエントへの移植前にブタドナーからの膵島の収率を改善する方法であって、以下:
(a)精製手順を受けた新生仔ブタ動物からの膵臓オルガノイドを提供すること、
(b)有効濃度のカスパーゼ阻害剤の存在下において、前記精製後少なくとも90分間にわたって前記オルガノイドを培養すること、及び
(c)有効濃度のコルチコステロイドの存在下で少なくとも7日間にわたって培養を継続すること
を含む方法。
【請求項36】
前記精製手順が、
(a)新生仔7日目以前にトランスジェニック新生仔ブタ動物から膵臓を単離すること、及び
(b)前記膵臓を機械的又は酵素的消化に供して、オルガノイド断片を生成すること、並びに任意選択により、
(c)フィコール勾配沈降により、前記消化された膵臓からオルガノイド断片を精製すること
を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記新生仔ブタ動物が、請求項1~17のいずれか一項に記載の少なくとも1つのブタ細胞を含むトランスジェニックブタである、請求項35又は36に記載の方法。
【請求項38】
前記カスパーゼ阻害剤が、Z-VAD-FMKである、請求項35~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記コルチコステロイドが、メチルプレドニゾロンである、請求項35~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記膵臓オルガノイドが、IBMX、ホスホジエステラーゼ阻害剤又はアデノシン受容体アンタゴニストの存在下で培養される、請求項35~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記膵臓オルガノイドが、ニコチンアミド又はその代謝的に許容される類似体の存在下で培養される、請求項35~40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
インスリン抵抗性又は欠乏状態の処置を、それを必要とする非ブタ哺乳動物において行う方法であって、請求項35~41のいずれか一項に記載のオルガノイドを、前記オルガノイドが以下の基準
(a)約5EU/kg未満のエンドトキシン、
(b)陰性グラム染色、
(c)約70%を超える生存率、又は
(d)総沈降量の約20,000IEQ/mL以上の膵島濃度
のいずれかを満たす場合に前記非ブタ哺乳動物に移植することを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
[0001] 本出願は、2020年1月7日に出願された国際出願番号PCT/中国特許出願公開第2020/070698号に対する優先権を主張するものであり、これは、あらゆる目的のために参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
[0002] 現在の推定では、2030年までに世界的に全ての年齢群で1/2型糖尿病の有病率が4.4%に達することが示されている。現在利用されている薬理学的処置は、1型糖尿病についてインスリン補充(replacement)を含み、2型糖尿病について、単独で又はメトホルミン、スルホニル尿素、グリニド、DPP-4阻害剤、GLP-1受容体アゴニスト、SGLT-2阻害剤若しくはピオグリタゾンとの組み合わせでインスリン補充(supplementation)を含む。これらの戦略は、全て詳細な患者管理及び服薬コンプライアンスを要する。さらに、多くの患者は、これらの介入にもかかわらず、血糖コントロールを達成することができない。
【0003】
[0003] 抗糖尿病薬若しくはインスリンの複雑な投与の不在下で糖尿病患者のグルコース制御を改善するか、又は抗糖尿病薬若しくはインスリンの投与にもかかわらず、グルコース制御が不十分な糖尿病患者のグルコース制御を改善する治療戦略が必要である。同種膵島細胞移植(例えば、門脈内膵島細胞移植)は、重度のリスク要因(例えば、不安定型T1DM、無自覚性低血糖、重度の低血糖エピソード、血糖不安定性)を伴う1型糖尿病患者の場合に使用の増加が見られるが、厳密な免疫抑制の必要性、移植片生存の課題及びドナー細胞の入手可能性は、改善されたグルコース制御が長期的な合併症のリスクを最も最小化する場合、1型糖尿病患者、2型糖尿病患者及び疾患の初期の1型又は2型糖尿病患者におけるこの技術の幅広い使用を妨げる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明の概要
[0004] 一態様において、本開示は、単離されたトランスジェニックブタ膵島細胞を提供し、ここで、この細胞は、(a)GGTA、B4GALNT2又はCMAHである少なくとも1つのグリコシルトランスフェラーゼ酵素の酵素活性を実質的に有さず、(b)非ブタ哺乳動物種由来の少なくとも2つのポリペプチド配列であって、CD46、CD55、CD59、THBD、TFPI、CD39、B2M、HLAE、CD47、A20、PD-L1、FASL又はHO-2の少なくとも2つを含む、少なくとも2つのポリペプチド配列を発現し、及び(c)非ブタ哺乳動物種由来の補体による毒性の低減、非ブタ哺乳動物種由来の活性化プロテインC凝固の誘導の低減、非ブタ哺乳動物種由来のトロンビン-アンチトロンビン複合体の誘導の低減又は非ブタ種由来のNK細胞による毒性の低減の1つ以上を示す。
【0005】
[0005] いくつかの実施形態において、この細胞は、GGTA、B4GALNT2及びCMAHから選択される少なくとも2つ又は3つ全てのグリコシルトランスフェラーゼ酵素の酵素活性を実質的に有しない。
【0006】
[0006] 本明細書に開示される単離されたトランスジェニックブタ膵島細胞のいずれかのいくつかの実施形態において、この細胞は、CD46、CD55、CD59、THBD、TFPI、CD39、B2M、HLAE、CD47、A20、PD-L1、FASL又はHO-1の少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、少なくとも6つ、少なくとも7つ、少なくとも8つ、少なくとも9つ、少なくとも10個、少なくとも11個、少なくとも12個又は全てを発現する。
【0007】
[0007] 別の態様において、本開示は、単離されたトランスジェニックブタ膵島細胞を提供し、ここで、この膵島細胞は、(a)GGTA、B4GALNT2又はCMAHの少なくとも2つを含む、少なくとも2つのグリコシルトランスフェラーゼ酵素の酵素活性を実質的に有さず、(b)非ブタ哺乳動物種由来のポリペプチド配列であって、CD46、CD55、CD59、THBD、TFPI、CD39、B2M、HLAE、CD47、A20、PD-L1、FASL又はHO-1であるポリペプチド配列を発現し、及び(c)非ブタ哺乳動物種由来の補体による毒性の低減、非ブタ種由来の活性化プロテインC凝固の誘導の低減、非ブタ種由来のトロンビン-アンチトロンビン複合体の誘導の低減又は非ブタ種由来のNK T細胞による毒性の低減を示す。
【0008】
[0008] いくつかの実施形態において、この細胞は、GGTA、B4GALNT2及びCMAHの酵素活性を実質的に有しない。
【0009】
[0009] 本明細書に開示される単離されたトランスジェニックブタ膵島細胞のいずれかのいくつかの実施形態において、この細胞は、CD46、CD55、CD59、THBD、TFPI、CD39、B2M、HLAE、CD47、A20、PD-L1、FASL又はHO-1の少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、少なくとも6つ、少なくとも7つ、少なくとも8つ、少なくとも9つ、少なくとも10個、少なくとも11個、少なくとも12個又は全てを発現する。
【0010】
[0010] 本明細書に開示される単離されたトランスジェニックブタ膵島細胞のいずれかのいくつかの実施形態において、この細胞は、CD46、CD55、CD59、CD39、B2M、HLAE及びCD47を発現する。
【0011】
[0011] 本明細書に開示される単離されたトランスジェニックブタ膵島細胞のいずれかのいくつかの実施形態において、この細胞は、1つ又は複数のグリコシルトランスフェラーゼ酵素の発現を実質的に有しない。いくつかの実施形態において、この細胞は、1つ又は複数のグリコシルトランスフェラーゼ酵素におけるフレームシフト突然変異を含み、翻訳の早期終了を生じさせ、それによりグリコシルトランスフェラーゼ酵素の活性を除去する。
【0012】
[0012] 本明細書に開示される単離されたトランスジェニックブタ膵島細胞のいずれかのいくつかの実施形態において、非ブタ哺乳動物種由来の1つ又は複数のポリペプチド配列をコードする1つ又は複数の核酸配列は、ブタオルソログの非オルソロガス遺伝子座内に挿入される。
【0013】
[0013] 本明細書に開示される単離されたトランスジェニックブタ膵島細胞のいずれかのいくつかの実施形態において、非ブタ哺乳動物種由来の1つ又は複数のポリペプチド配列をコードする1つ又は複数の核酸配列は、ブタオルソログの非オルソロガスプロモーターに作動可能に連結される。いくつかの実施形態において、非オルソロガスプロモーターは、非ブタプロモーターである。
【0014】
[0014] 本明細書に開示される単離されたトランスジェニックブタ膵島細胞のいずれかのいくつかの実施形態において、この膵島細胞は、ブタ膵臓の脱凝集によって得られる。
【0015】
[0015] 本明細書に開示される単離されたトランスジェニックブタ膵島細胞のいずれかのいくつかの実施形態において、この膵島細胞は、アルファ細胞、ベータ細胞、デルタ細胞、イプシロン細胞、膵臓ポリペプチド(PP)細胞又はそれらの任意の組み合わせである。
【0016】
[0016] 本明細書に開示される単離されたトランスジェニックブタ膵島細胞のいずれかのいくつかの実施形態において、非ブタ哺乳動物種は、霊長類種である。
【0017】
[0017] 本明細書に開示される単離されたトランスジェニックブタ膵島細胞のいずれかのいくつかの実施形態において、この細胞は、非ブタ哺乳動物種に移植された場合、8日間を超える生存を示す。
【0018】
[0018] 本明細書に開示される単離されたトランスジェニックブタ膵島細胞のいずれかのいくつかの実施形態において、この細胞は、非ブタ哺乳動物種から単離されたPBMCに対して減少したIBMIRを示す。
【0019】
[0019] 別の態様において、本開示は、治療有効量の、本明細書に開示される単離されたトランスジェニックブタ膵島細胞のいずれかを含む組成物を提供する。いくつかの実施形態において、等張緩衝液は、ヘパリン又はTNF-アルファ阻害剤をさらに含む。
【0020】
[0020] 本明細書に開示される組成物のいずれかのいくつかの実施形態において、この組成物は、少なくとも約12%~約25%のベータ細胞又は少なくとも約15%~約30%のアルファ細胞を含む。
【0021】
[0021] 本明細書に開示される組成物のいずれかのいくつかの実施形態において、この組成物は、本明細書に開示される方法のいずれか1つに従って調製される。
【0022】
[0022] 別の態様において、本開示は、インスリン抵抗性又は欠乏状態の処置を、それを必要とする非ブタ哺乳動物において行う方法であって、治療有効用量の、本明細書に開示される単離されたトランスジェニックブタ膵島細胞のいずれか又は本明細書に開示される組成物のいずれかを哺乳動物に投与することを含む方法を提供する。
【0023】
[0023] いくつかの実施形態において、この方法は、哺乳動物の内頸静脈又は肝門脈を介して細胞を中枢に投与することを含む。
【0024】
[0024] 本明細書に開示される方法のいずれか1つのいくつかの実施形態において、インスリン抵抗性状態は、1型糖尿病を含む。
【0025】
[0025] 本明細書に開示される方法のいずれか1つのいくつかの実施形態において、インスリン抵抗性状態は、2型糖尿病を含む。
【0026】
[0026] 本明細書に開示される方法のいずれか1つのいくつかの実施形態において、非ブタ哺乳動物は、トランスジェニックブタ膵島細胞又は組成物を投与する前に、治療有効用量の抗胸腺細胞グロブリン、抗CD40抗体、抗CD20抗体、ラパログ、カルシニューリン阻害剤、ガンシクロビル又はそのプロドラッグ、抗ヒスタミン剤及びコルチコステロイドを含む導入レジメンを受けている。
【0027】
[0027] 本明細書に開示される方法のいずれか1つのいくつかの実施形態において、この方法は、トランスジェニックブタ膵島細胞又は組成物の投与後、治療有効用量の抗CD40抗体、ラパログ、カルシニューリン阻害剤及びガンシクロビル又はそのプロドラッグを投与することをさらに含む。
【0028】
[0028] 本明細書に開示される方法のいずれか1つのいくつかの実施形態において、この方法は、トランスジェニックブタ膵島細胞又は組成物の投与後、治療有効用量の中間作用型又は長時間作用型インスリン類似体、インスリングラルギン、インスリンデテミル又はNPHインスリンを投与することをさらに含む。
【0029】
[0029] 本明細書に開示される方法のいずれか1つのいくつかの実施形態において、本明細書に開示される治療有効用量のいずれかは、非ブタ哺乳動物の体重1kgあたり少なくとも5,000IEQである。
【0030】
[0030] 別の態様において、本開示は、本明細書に開示される単離されたトランスジェニックブタ膵島細胞のいずれかを含む、単離されたブタ膵島を提供する。いくつかの実施形態において、膵島は、膵臓外分泌細胞を実質的に含まない。
【0031】
[0031] 別の態様において、本開示は、本明細書に開示される単離されたトランスジェニックブタ膵島細胞のいずれかを含む、単離されたブタ膵臓オルガノイドを提供する。いくつかの実施形態において、オルガノイドは、膵臓外分泌細胞を実質的に含まない。いくつかの実施形態において、膵臓オルガノイドは、(a)新生仔7日目以前に新生仔ブタ動物から膵臓を単離すること、及び(b)膵臓を機械的又は酵素的消化に供して、オルガノイド断片を生成すること、並びに任意選択により、(c)ステップ(b)のオルガノイド断片をフィコール勾配沈降によって精製することによって調製される。
【0032】
[0032] 別の態様において、本開示は、本明細書に開示される単離されたトランスジェニックブタ膵島細胞のいずれかを含む、単離されたブタ膵臓を提供する。
【0033】
[0033] 別の態様において、本開示は、非ブタ哺乳動物レシピエントへの移植前にブタドナーからの膵島の収率を改善する方法であって、(a)新生仔ブタ由来の精製手順に供した膵臓オルガノイドを提供すること、(b)有効濃度のカスパーゼ阻害剤の存在下において、精製後少なくとも90分間にわたってオルガノイドを培養すること、及び(c)有効濃度のコルチコステロイドの存在下で少なくとも7日間にわたって培養を継続することを含む方法を提供する。
【0034】
[0034] いくつかの実施形態において、精製手順は、(a)新生仔7日目以前にトランスジェニック新生仔ブタ動物から膵臓を単離すること、及び(b)膵臓を機械的又は酵素的消化に供して、オルガノイド断片を生成すること、並びに任意選択により、(c)フィコール勾配沈降により、消化された膵臓からオルガノイド断片を精製することを含む。
【0035】
[0035] 本明細書に開示される方法のいずれか1つのいくつかの実施形態において、新生児ブタ動物は、本明細書に開示される単離されたトランスジェニックブタ膵島細胞のいずれかによる少なくとも1つのブタ細胞を含むトランスジェニックブタである。
【0036】
[0036] 本明細書に開示される方法のいずれか1つのいくつかの実施形態において、カスパーゼ阻害剤は、Z-VAD-FMKである。
【0037】
[0037] 本明細書に開示される方法のいずれか1つのいくつかの実施形態において、コルチコステロイドは、メチルプレドニゾロンである。
【0038】
[0038] 本明細書に開示される方法のいずれか1つのいくつかの実施形態において、膵臓オルガノイドは、IBMX、ホスホジエステラーゼ阻害剤又はアデノシン受容体アンタゴニストの存在下で培養される。
【0039】
[0039] 本明細書に開示される方法のいずれか1つのいくつかの実施形態において、膵臓オルガノイドは、ニコチンアミド又はその代謝的に許容される類似体の存在下で培養される。
【0040】
[0040] 別の態様において、本開示は、インスリン抵抗性又は欠乏状態の処置を、その処置を必要とする非ブタ哺乳動物において行う方法であって、本明細書に開示されるオルガノイドのいずれか1つによるオルガノイドを、オルガノイドが以下の基準:(a)約5EU/kg未満のエンドトキシン、(b)陰性グラム染色、(c)約70%を超える生存率、又は(d)総沈降量の約20,000IEQ/mL以上の膵島濃度のいずれかを満たす場合に非ブタ哺乳動物に移植することを含む方法を提供する。
【0041】
参照による組み込み
[0041] 本明細書で言及される全ての刊行物、特許及び特許出願は、それぞれ個々の刊行物、特許又は特許出願が参照により組み込まれることが具体的及び個別に示されるのと同じ程度に、参照により本明細書に組み込まれる。
【0042】
図面の簡単な説明
[0042] 本発明の新規の特徴は、添付の特許請求の範囲に具体的に記載される。本発明の特徴及び利点のよりよい理解は、本発明の原理が利用される例示的な実施形態を説明する以下の詳細な説明及びその添付の図面を参照することによって得られるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】[0043]ヒト血清中でインキュベートした4-7トランスジェニック内皮臍帯静脈ブタ細胞(PUVEC)のFACS免疫染色結果を示す。上パネルは、ヒト臍帯静脈内皮細胞(「HUVEC」)、トランスジェニック4-7ブタ臍帯静脈内皮細胞(「4-7PUVEC」)又は正常ブタ臍帯静脈内皮細胞(「WT PUVEC」)のIgG又はIgMによる染色を示すFACSプロットである。トランスジェニック4-7PUVECは、HUVEC細胞と同様に、正常なブタ対応物と比較して、ヒト血清からのIgG及びIgM抗体の結合が減少していることを示す。データは、平均±標準偏差として示される。エラーバーは、標準偏差を示し、P値は、独立両側スチューデントt検定から導出される。*は、P<0.05であることを示し、**は、P<0.01であることを示す。
図2】[0044]4-7トランスジェニック内皮臍帯静脈ブタ細胞(PUVEC)で実施されたヒト補体毒性アッセイの結果を示す。左パネルは、アッセイワークフローを示す図であり、右パネルは、様々な濃度のヒト補体(「HC」)とのインキュベーション後の、ヒト臍帯静脈内皮細胞(「HUVEC」)、トランスジェニック4-7ブタ臍帯静脈内皮細胞(「4-7PUVEC」)又は正常ブタ内皮細胞(「WT PUVEC」)のいずれかの死滅を示すチャートである。4-7細胞は、ヒトHUVEC細胞と同様に、正常なブタ対応物に対して、ヒト補体に応答して著しく死滅したものが減少したことを示す。
図3】[0045]4-7トランスジェニックブタ臍帯静脈内皮ブタ細胞(PUVEC)におけるCD39の発現/機能性を検証するために実施された分析の結果を示す。トランスジェニック4-7ブタ臍帯静脈内皮細胞(「4-7PUVEC」)は、HUVEC及びWT PUVECと比較して、ADPとインキュベートした場合のリン酸産生によって測定されるhCD39のADPase生化学活性が有意に高い。データは、平均±標準偏差として示される。エラーバーは、標準偏差を示し、P値は、独立両側スチューデントt検定から導出される。**は、P<0.01であることを示す。
図4】[0046]ヒトプロテインC及びヒトトロンビンを使用した異種細胞での活性化プロテインCアッセイの概略図を示す。
図5】[0047]4-7細胞でのトロンビン-アンチトロンビンIII(TAT)形成アッセイの結果を示す。左パネルは、ヒト血液を使用してトロンビン-アンチトロンビンIII(TAT)複合体形成を測定するためのワークフローを示す図であり、右パネルは、HUVEC、4-7PUVEC又はWT PUVECによる対応するアッセイの結果を示すチャートである。4-7細胞は、WT PUV ECと比較して、HUVEC細胞と同等のTAT形成の減少を示す。
図6】[0048]4-7トランスジェニック細胞で実施された血小板溶解アッセイの結果を示す。HUVEC、4-7PUVEC又はWT PUVECと45分間又は60分間インキュベートした後、ヒト血液から残存する血小板(輪郭が描かれたクラスター)の数を定量化するFACSトレースが示される。4-7細胞は、ブタWT PUVECに対する残存血小板の割合の上昇を示し続けており、これは、HUVEC細胞とインキュベートした場合の残存血小板の割合と同等である。
図7】[0049]追加の時点(5分、15分)での、図6に示される実験の結果を残存CD41陽性血小板として定量化する(MFIは、FAC分析によるCD41チャネルの平均蛍光強度を示す)。
図8】[0050]4-7トランスジェニック細胞で実施されたNK細胞毒性アッセイの結果を示す。HUVEC、4-7PUVEC又はWT PUVECにおいて、エフェクター:標的細胞比10で実施されたNK毒性アッセイの結果を示すチャートが示される。4-7PUVECSは、正常なPUVEC及びHUVEC細胞間の中間の細胞死滅値を示す。
図9】[0051]移植のためにブタ膵島細胞を処理するための例示的なワークフローを示すチャートである。例示的な実施形態において、新生仔ブタは、膵切除に供され(「調達」)、その後、膵臓は、コラゲナーゼで切り刻まれ、消化される(「膵島単離」)。次に、消化された膵島細胞は、ガス透過性、水不透過性のバッグに移され、培養できるようになるまで22~24℃で保持される(「輸送」)。次に、膵島細胞を一定期間にわたって培養し(任意選択によりEGM2培地及びカスパーゼ阻害剤を伴う、「培養」)、機能的膵島均等物定量(IEQ)、エンドトキシンアッセイ、グラム染色、生存率アッセイ及び細胞純度アッセイなどの品質管理手順を実行する。
図10】[0052]トランスジェニック(4-7)又は正常な(WT)バナ(Bana)ミニブタで実施された、図9による膵島単離手順の結果を示す。
図11】[0053]図9のように単離された膵島細胞で実施された血小板溶解又はTAT複合体形成アッセイの結果を示す。左パネルは、4-7膵島が、ヒト全血とインキュベートした場合、WT膵島及び実験対照(NC、生理食塩水のみ)と比較して血小板溶解の減少を明らかにすることを示す。右パネルは、4-7膵島が、ヒト全血とインキュベートした場合、WT膵島及び実験対照(NC、生理食塩水のみ)と比較してTAT複合体の形成の減少を明らかにすることを示す。
図12】[0054]図9のように得られた4-7膵島でヒト血液により実施された即時血液媒介性炎症反応(IBMIR)アッセイの結果を示す。4-7膵島切片をヒト血液とインキュベートした後の抗体(IgG及びIgM、左パネル)及び補体(C3a及びC4d、右パネル)の病巣の染色を示す、200倍の倍率でのIHC顕微鏡写真が示される。4-7膵島細胞は、IgG、IgM、C3a及びC4dに関連する染色及び病巣の減少を示し、これは、膵島細胞がIBMIRの減少を示すことを示唆している。
図13】[0055]図12のようなヒト血液とのインキュベーション後の4-7膵島、WT膵島及び実験対照(NC、生理食塩水のみ)への好中球浸潤を示す。4-7膵島は、WT膵島及び実験対照と比較して残存好中球の数が多いことを示す。
図14】[0056]2つの異なる培養条件下で経時的に図9のように単離された膵島細胞を示す。EGM-2培地又は標準培地(「F-10」、HamのF-10を示す)培地のいずれかでの7日間にわたる培養における膵島均等物(IEQ)を示すグラフが示される。EGM-2培地は、膵島の収率の改善と関連していた。
図15】[0057]2つの異なる培養条件:F-10培地及びNEO培地の下、経時的に図9のように単離された膵島細胞を示す。
図16】[0058]コルチコステロイドを含まない培地(左パネル)対コルチコステロイドを含む培地(右パネル)で図9のように単離された膵島の培養物を比較する。コルチコステロイドは、膵島の収率の改善と関連していた。
図17】[0059]初期(上段、F-10培地)又は改良(EGM-2培地+コルチコステロイド、下段)培養条件下で図9のように単離された膵島の細胞画分を比較する。2つの条件間で無傷の膵島細胞(左)、ベータ細胞(中央)又は生ベータ細胞(右)を比較するFACSトレースが示される。改善された状態は、無傷の膵島細胞の数の改善及びベータ細胞の数の改善と関連していた。
図18】[0060]免疫蛍光染色による腎臓凍結切片における4-7導入遺伝子のタンパク質発現検証を示す。スケールバー(白)、75μm。
図19】[0060]STZを受けた後、WT新生仔ブタ膵島を膵島移植したNCGマウスの60日間にわたる血糖値を示し、これは、約40日後に血糖値が正常化することを示す。4-7腎臓凍結切片における3つのノックアウト及び9つの導入遺伝子の免疫蛍光染色検証。抗体スケールバー(白)、75μm。
図20】[0061]STZを受けた後、WTブタ膵島細胞(「WT Tx」)、4-7膵島細胞(「4-7Tx」)又は偽手術(「Sham Tx」)による膵島移植を受けたNCGマウスの126日間にわたる血糖値を示す。4,000IEQ、2,000IEQ及び1,000IEQを含む異なる膵島線量が「4-7Tx」及び「WT Tx」の両方の実験群に適用された。
図21】[0062]本明細書に記載の方法に従って膵島を移植されたNHPの典型的な誘導、免疫抑制、移植及び管理プロトコルを示す。
図22】[0063]本明細書に記載の方法による、糖尿病のSTZ導入前後の血糖、インスリン及びC-ペプチドに関するNHPの耐糖能試験の応答例を示し、プロトコルは、動物に糖尿病を誘発することに成功していることを示す。
図23】[0064]膵島移植後70日までにわたる、表2に記載された動物のWBC及びリンパ球数(図23)を示す。
図24】[0064]膵島移植後70日までにわたる、表2に記載された動物のCD4+細胞型/CD8+細胞型/B細胞/NK細胞数(図24)を示す。
図25】[0064]膵島移植後70日までにわたる、表2に記載された動物のラパマイシンレベル(図25)を示す。
図26】[0065]移植後12時間及び1ヶ月の動物のMA-1及びMA-2について、肝生検のヘマトキシリン/エオシン染色及び抗クロモグラニンA染色を示し、これは、肝組織に膵島が存在することを示す。
図27】[0066]移植後24時間の動物のMB-11について、肝生検の免疫蛍光染色分析を示し、これは、肝組織における膵島の存在(インスリン及びグルカゴン染色の陽性シグナルによって明らかにされる)を示す。サルIgG、CD41(血小板のマーカー)、フィブリノゲン(凝固の指標のマーカー)及びCD68(マクロファージのマーカー)もインスリン陽性のWTブタ膵島の周囲で検出され、これは、MB-11の移植後24時間での即時血液媒介性炎症反応(IBMIR)の発生を示す。この結果は、遺伝子改変がインビボでのブタ膵島の生存を強化するために重要であることも示す。
図28】[0067]WTブタ膵島を使用した、移植後の異なる時点でのサルレシピエントのブタc-ペプチド、サルc-ペプチド、空腹時血糖及び外因性インスリン摂取の血清濃度を示す。ブタ膵島移植後55日以内に動物の血清からブタc-ペプチドを着実に検出することができる。
【発明を実施するための形態】
【0044】
発明の詳細な説明
概要
[0068] 本開示は、移植のための異種膵島細胞を提供することにより、移植に関連する免疫抑制、移植片の生存及びドナー細胞の入手可能性の課題に対処する。開示される異種細胞(例えば、遺伝子改変された異種細胞)は、免疫原性の低下及び生存の増加を示し、したがって移植レシピエントにおける免疫抑制剤の使用を減らす必要がある膵島細胞移植に適している。そのような細胞を誘導するための方法、組成物及びシステム並びにそのような細胞の使用を含む治療方法が本明細書でさらに説明される。
【0045】
定義
[0069] 「ブタ(pig)」、「ブタ(swine)」及び「ブタ(porcine)」という用語は、本明細書において互換的に使用され、家畜ブタ、イノシシ(Sus scrofa)種の様々な品種に関連するものを指す。
【0046】
[0070] 「処置」、「処置すること」、「緩和」などの用語は、疾患、傷害又は障害に関連して使用される場合、一般に所望の薬理学的及び/又は生理学的効果を得ることを意味するために本明細書で使用され、また処置中の状態の1つ以上の症状の重症度を改善、緩和及び/又は軽減することを指すために使用される。効果は、疾患、状態又はその症状の発症又は再発を完全に又は部分的に遅らせる点で予防的であり得、及び/又は疾患若しくは状態の部分的若しくは完全な治癒及び/又は疾患若しくは状態に起因する有害作用の点で治療的であり得る。本明細書において使用される「処置」は、哺乳動物、特にヒトの疾患又は状態の任意の処置を包含し、(a)疾患又は状態の素因があり得るが、それを有すると依然として診断されていない対象において疾患又は状態が発生することを防ぐこと、(b)疾患又は状態を阻害すること(例えば、その発症を阻止すること)、又は(c)疾患又は状態を緩和すること(例えば、疾患又は状態の退行を引き起こし、1つ以上の症状の改善を提供すること)を含む。
【0047】
[0071] タンパク質又はポリペプチドの断片若しくは誘導体を指すために使用される場合の「生物学的に活性な」という用語は、断片又は誘導体が、参照全長タンパク質又はポリペプチドの少なくとも1つの測定可能及び/又は検出可能な生物学的活性を保持することを意味する。例えば、CRISPR/Cas9タンパク質の生物学的に活性な断片又は誘導体は、gRNA(本明細書では単一ガイドRNA(sgRNA)とも呼ばれる)に結合し、ガイドRNAと複合体を形成したときに標的DNA配列に結合し、及び/又は1つ以上のDNA鎖を切断する能力を有し得る。例えば、細胞受容体の生物学的に活性な断片又は誘導体は、前記受容体を介してシグナル伝達する天然リガンドに結合する能力を有し得るか、又はリガンドに応答して前記受容体によって一般に伝達される細胞内シグナルを伝達する能力を有し得る。
【0048】
[0072] 本明細書で使用される場合、本明細書における「インデル」という用語は、染色体又はエピソームの標的DNA配列におけるヌクレオチド塩基の挿入又は欠失を指す。そのような挿入又は欠失は、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個又はそれを超える塩基であり得る。特定の実施形態におけるインデルは、さらに大きく、少なくとも約20、30、40、50、60、70p、80、90又は100塩基であり得る。インデルが遺伝子のオープンリーディングフレーム(ORF)内に導入された場合、インデルは、フレームシフト変異を作製することにより、ORFによってコードされるタンパク質の野生型発現を妨害し得る。インデルは、ゲノム配列の二本鎖切断(例えば、部位特異的又はプログラム可能なヌクレアーゼによる)、それに続く非相同末端結合(NHEJ)を使用した細胞修復の結果であり得る。
【0049】
[0073] 本明細書で使用される場合、「1型糖尿病」(T1DM)という用語は、膵臓のベータ細胞の破壊(例えば、自己免疫破壊)のためにインスリンを産生できないことを特徴とする状態を指す。いくつかの実施形態において、1型糖尿病は、126mg/dL(7.0mmol/L)以上の空腹時血漿グルコース(FPG)レベル、200mg/dL(11.1mmol/L)以上の75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)中の2時間血漿グルコースレベル、200mg/dL(11.1mmol/L)以上の高血糖又は高血糖急性発症の典型的症状を有する患者におけるランダム血漿グルコース又は6.5%以上のヘモグロビンA1c(HbA1c)レベルの少なくとも1つを含む、特定の臨床基準(「ステージ3 T1DM」)によって定義される。いくつかの実施形態において、「1型糖尿病」(T1DM)は、ステージ1、ステージ2又はステージ3などのT1DMの特定のステージである。ステージ1は、ベータ細胞に対する複数の自己抗体の存在を除いて無症候性である可能性があるが、ステージ2は、血糖異常(IFG及び/又はIGT)、100~125mg/dL(5.6~6.9mmol/L)などの中間FPGレベル、140~199mg/dL(7.8~11.0mmol/L)以上の75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)中の中間2時間血漿グルコースレベル又は5.7~6.4%(39~47mmol/mol)の中間ヘモグロビンA1c(HbA1c)レベルを伴う可能性がある。1型糖尿病(T1DM)は、小児、若年、青年又は成人で発生し得る。1型糖尿病は、典型的には、多尿症、多飲症、多食症、糖尿病性ケトアシドーシス又は原因不明の体重減少の事象後に診断される。
【0050】
[0074] 本明細書で使用される場合、「2型糖尿病」(T2DM)という用語は、インスリン抵抗性の背景で頻繁にβ細胞インスリン分泌の進行性喪失を特徴とする状態を指す。いくつかの実施形態において、1型糖尿病は、126mg/dL(7.0mmol/L)以上の空腹時血漿グルコース(FPG)レベル、200mg/dL(11.1mmol/L)以上の75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)中の2時間血漿グルコースレベル、200mg/dL(11.1mmol/L)以上の高血糖又は高血糖急性発症の典型的症状を有する患者におけるランダム血漿グルコース又は6.5%以上のヘモグロビンA1c(HbA1c)レベルの少なくとも1つを含む、特定の臨床基準によって定義される。
【0051】
[0075] いくつかの実施形態において、本明細書で言及されるタンパク質又は遺伝子は、以下の表による。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
細胞、組織、細胞及び組織の生成方法並びにそれを使用した処置方法
[0076] 本開示は、複数の改変遺伝子を有する細胞、組織及び器官並びにそれらの生成方法を提供する。いくつかの実施形態において、細胞、組織又は器官は、動物から得られる。いくつかの実施形態において、動物は、哺乳動物である。いくつかの実施形態において、哺乳動物は、非ヒト哺乳動物、例えばウマ、霊長類、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、イヌ又はネコである。いくつかの実施形態において、哺乳動物は、ブタである。
【0055】
[0077] いくつかの実施形態において、1つ以上の細胞は、ブタ細胞である。ブタ細胞が生じるか又は由来する品種の非限定的な例には、以下のブタ品種:American Landrace、American Yorkshire、Aksai Black Pied、Angeln saddleback、Appalachian English、Arapawa Island、Auckland Island、Australian Yorkshire、Babi Kampung、Ba Xuyen、Bantu、Basque、Bazna、Beijing Black、Belarus Black Pied、Belgian Landrace、Bengali Brown Shannaj、Bentheim Black Pied、Berkshire、Bisaro、Bangur、Black Slavonian、Black Canarian、Breitovo、British Landrace、British Lop、British Saddleback、Bulgarian White、Cambrough、Cantonese、Celtic、Chato Murciano、Chester White、Chiangmai Blackpig、Choctaw Hog、Creole、Czech Improved White、Danish Landrace、Danish Protest、Dermantsi Pied、Li Yan、Duroc、Dutch Landrace、East Landrace、East Balkan、Essex、Estonian Bacon、Fengjing、Finnish Landrace、Forest Mountain、French Landrace、Gascon、German Landrace、Gloucestershire Old Spots、Gottingen minipig、Grice、Guinea Hog、Hampshire、Hante、Hereford、Hezuo、Hogan Hog、Huntington Black Hog、Iberian、Italian Landrace、Japanese Landrace、Jeju Black、Jinhua、Kakhetian、Kele、Kemerovo、Korean Native、Krskopolje、Kunekune、Lamcombe、Large Black、Large Black-White、Large White、Latvian White、Leicoma、Lithuanian Native、Lithuanian White、Lincolnshire Curly-Coated、Livny、Malhado de Alcobaca、Mangalitsa、Meishan、Middle White、Minzhu、Minokawa Buta、Mong Cai、Mora Romagnola、Moura、Mukota、Mulefoot、Murom、Myrhorod、Nero dei Nebrodi、Neijiang、New Zealand、Ningxiang、North Caucasian、North Siberian、Norwegian Landrace、Norwegian Yorkshire、Ossabaw Island、Oxford Sandy and Black、Pakchong 5、Philippine Native、Pietrain、Poland China、Red Wattle、Saddleback、Semirechensk、Siberian Black Pied、Small Black、Small White、Spots、Surabaya Babi、Swabian-Hall、Swedish Landrace、Swallow Belied Mangalitza、Taihu pig、Tamworth、Thuoc Nhieu、Tibetan、Tokyo-X、Tsivilsk、Turopolje、Ukrainian Spotted Steppe、Ukrainian White Steppe、Urzhum、Vietnamese Potbelly、Welsh、Wessex Saddleback、West French White、Windsnyer、Wuzhishanm、Yanan、Yorkshire及びYorkshire Blue and Whiteのいずれかが含まれる。いくつかの実施形態において、ブタ細胞は、ヨークシャー及びユカタンブタ細胞である。
【0056】
[0078] いくつかの実施形態において、本開示の細胞は、膵島細胞又はそのサブセットである。膵島細胞は、ベータ細胞、アルファ細胞、デルタ細胞、イプシロン細胞又はPP細胞(別名ガンマ細胞又はF細胞)を含み得る。いくつかの実施形態において、本開示の細胞は、膵島である。いくつかの実施形態において、本開示の細胞は、無傷の膵臓に含まれる。いくつかの実施形態において、本開示の細胞は、膵臓断片に含まれる。いくつかの実施形態において、本開示の細胞は、膵臓オルガノイドに含まれる。いくつかの実施形態において、本開示の細胞は、細胞の集合体に含まれる。いくつかの実施形態において、本開示の細胞は、培地(例えば、固体、半固体、ゲル、液体又はそれらの組み合わせ)に分散された細胞である。いくつかの実施形態において、本開示の細胞は、細胞クラスターに含まれる。いくつかの実施形態において、本開示の膵島細胞又はオルガノイドは、膵臓外分泌細胞を実質的に含まない。
【0057】
[0079] いくつかの実施形態において、本開示の細胞、組織、器官又は動物は、1つ以上の遺伝子が、その一部又は配列が変化した遺伝子の一部の付加、欠失、不活性化、破壊、切除によって改変されるように遺伝子改変されている。
【0058】
[0080] いくつかの実施形態において、本開示の細胞、組織又は器官は、1つ以上の遺伝子を不活性化する1つ以上の突然変異を含む。いくつかの実施形態において、細胞、組織、器官又は動物は、1つ以上の変異を有する1つ以上の遺伝子の発現の減少又は排除を生じる1つ以上の変異又は後成的変化を含む。いくつかの実施形態において、1つ以上の遺伝子は、細胞、組織、器官又は動物に存在する核酸を遺伝子改変することによって不活性化される。いくつかの実施形態において、1つ以上の遺伝子の不活性化は、アッセイによって確認される。いくつかの実施形態において、アッセイは、逆転写酵素PCRアッセイ、RNA-seq、リアルタイムPCR又はジャンクションPCRマッピングアッセイである。いくつかの実施形態において、アッセイは、遺伝子タンパク質の機能についての酵素的アッセイ又は遺伝子又は遺伝子の断片から転写されたタンパク質についてのイムノアッセイである。
【0059】
[0081] 本開示の細胞、組織又は器官は、任意の適切な方法によって遺伝子改変することができる。本明細書に開示及び記載されるノックアウト(KO)、ノックイン(KI)及び/又はゲノム置換戦略に適した方法の非限定的な例には、Cas9、Cas12a(Cpf1)、Cas12b、Cas12c、Cas12d、Cas12e、Cas12g、Cas12h、Cas12i又はその他のCRISPRエンドヌクレアーゼ、アルゴノートエンドヌクレアーゼ、転写活性化因子様(TAL)エフェクター及びヌクレアーゼ(TALEN)、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、発現ベクター、トランスポゾンシステム(例えば、PiggyBacトランスポサーゼ)又はそれらの任意の組み合わせを使用したCRISPR媒介性遺伝子改変が含まれる。いくつかの実施形態において。
【0060】
[0082] いくつかの実施形態において、細胞、組織又は器官は、少なくとも1つのグリコシルトランスフェラーゼ酵素の酵素活性を実質的に有さず、前記グリコシルトランスフェラーゼ酵素は、GGTA、B4GALNT2又はCMAHである。細胞、組織又は器官は、GGTA、B4GALNT2及びCMAHから選択される少なくとも2つのグリコシルトランスフェラーゼ酵素の酵素活性を実質的に有しない可能性がある。細胞、組織又は器官は、GGTA、B4GALNT2及びCMAHから選択される少なくとも3つのグリコシルトランスフェラーゼ酵素の酵素活性を実質的に有しない可能性がある。いくつかの場合、GGTA、B4GALNT2及びCMAHから選択される少なくとも1つのグリコシルトランスフェラーゼ酵素の酵素活性を実質的に有しない細胞は、検出可能なレベルのグリコシルトランスフェラーゼ酵素タンパク質の全長コピーを実質的に含まない。いくつかの場合、GGTA、B4GALNT2及びCMAHから選択される少なくとも1つのグリコシルトランスフェラーゼ酵素の酵素活性を実質的に有しない細胞は、検出可能なレベルのグリコシルトランスフェラーゼ酵素タンパク質の機能的ポリペプチド断片を実質的に含まない。いくつかの場合、GGTA、B4GALNT2及びCMAHから選択される少なくとも1つのグリコシルトランスフェラーゼ酵素の酵素活性を実質的に有しない細胞は、全長グリコシルトランスフェラーゼ酵素をコードするmRNAの転写物を実質的に含まない。いくつかの場合、GGTA、B4GALNT2及びCMAHから選択される少なくとも1つのグリコシルトランスフェラーゼ酵素の酵素活性を実質的に有しない細胞は、グリコシルトランスフェラーゼ酵素の機能的断片をコードするmRNAの転写物を実質的に含まない。いくつかの場合、GGTA、B4GALNT2及びCMAHから選択される少なくとも1つのグリコシルトランスフェラーゼ酵素の酵素活性を実質的に有しない細胞は、少なくとも1つのグリコシルトランスフェラーゼ酵素のオープンリーディングフレーム内にインデルを含む。インデルは、部位特異的ヌクレアーゼを使用して生成され得る。インデルは、少なくとも1つのグリコシルトランスフェラーゼ酵素のオープンリーディングフレーム(ORF)(又はゲノム内に複数のコピーを有する遺伝子の場合、全てのORF)を破壊し、その結果、グリコシルトランスフェラーゼ遺伝子が転写されるとき、全長又は機能的断片のmRNA又はタンパク質の産生が妨げられる。
【0061】
[0083] いくつかの実施形態において、細胞、組織又は器官は、非ブタ哺乳動物種由来の少なくとも2つのポリペプチド配列(例えば、少なくとも2つの異種ポリペプチド配列)を発現し、前記少なくとも2つのポリペプチド配列は、CD46、CD55、CD59、THBD、TFPI、CD39、B2M、HLAE、CD47、A20、PD-L1、FASL又はHO-1の少なくとも2つを含む。細胞、組織又は器官は、CD46、CD55、CD59、THBD、TFPI、CD39、B2M、HLAE、CD47、A20、PD-L1、FASL又はHO-1の少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、少なくとも6つ、少なくとも7つ、少なくとも8つ、少なくとも9つ、少なくとも10個、少なくとも11個、少なくとも12個又は全てを発現し得る。いくつかの場合、非ブタ哺乳動物種由来の少なくとも2つのポリペプチド配列は、CD46、CD55、CD59、THBD、TFPI、CD39、B2M、HLAE、CD47、A20、PD-L1、FASL若しくはHO-1又はそれらの組み合わせの全長配列を含む。いくつかの場合、非ブタ哺乳動物種由来の少なくとも2つのポリペプチド配列は、CD46、CD55、CD59、THBD、TFPI、CD39、B2M、HLAE、CD47、A20、PD-L1、FASL若しくはHO-1又はそれらの組み合わせの機能的断片を含む。いくつかの場合、非ブタ哺乳動物種由来の少なくとも2つのポリペプチド配列を発現する細胞、組織又は器官は、CD46、CD55、CD59、THBD、TFPI、CD39、B2M、HLAE、CD47、A20、PD-L1、FASL若しくはHO-1又はそれらの組み合わせの全長配列をコードするmRNAを発現する。いくつかの場合、非ブタ哺乳動物種由来の少なくとも2つのポリペプチド配列を発現する細胞、組織又は器官は、CD46、CD55、CD59、THBD、TFPI、CD39、B2M、HLAE、CD47、A20、PD-L1、FASL若しくはHO-1又はそれらの組み合わせの機能的断片をコードするmRNAを発現する。
【0062】
[0084] いくつかの実施形態において、本明細書に開示される異種ポリペプチド配列のいずれか1つは、目的のヒト遺伝子又はその断片によってコードされるポリペプチド配列と少なくとも約70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である。いくつかの実施形態において、本明細書に開示される異種ポリペプチド配列のいずれか1つをコードするポリヌクレオチド配列は、目的のヒト遺伝子又はその断片と少なくとも約70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である。いくつかの例において、本明細書に開示される目的のヒト遺伝子は、CD46、CD55、CD59、THBD、TFPI、CD39、B2M、HLAE、CD47、A20、PD-L1、FASL及びHO-1から選択される1つ以上のメンバー(例えば、2つ以上のメンバー)を含み得る。
【0063】
[0085] いくつかの実施形態において、本明細書に開示される遺伝子改変された細胞、組織又は器官のいずれかは、遺伝子改変された細胞として、異なる種の対象を処置するために使用され得る。いくつかの実施形態において、本開示は、本明細書に記載の遺伝子改変された細胞、組織又は器官のいずれかを、それを必要とする対象に移植する方法を提供する。いくつかの実施形態において、対象は、ヒトである。いくつかの実施形態において、対象は、非ヒト霊長類である。
【0064】
[0086] 非ブタ哺乳動物種は、霊長類種であり得る。いくつかの実施形態において、非ブタ哺乳動物種は、非ヒト霊長類である。
【0065】
[0087] いくつかの実施形態において、非ブタ哺乳動物種は、ヒト(Homo Sapiens)である。
【0066】
[0088] いくつかの場合、非ブタ哺乳動物種由来の少なくとも2つのポリペプチド配列を発現する細胞、組織又は器官は、CD46、CD55、CD59、THBD、TFPI、CD39、B2M、HLAE、CD47、A20、PD-L1、FASL若しくはHO-1、それらの組み合わせ又はそれらの融合物をコードするゲノム配列を含む。いくつかの場合、ゲノム配列は、CD46、CD55、CD59、THBD、TFPI、CD39、B2M、HLAE、CD47、A20、PD-L1、FASL若しくはHO-1、それらの組み合わせ又はそれらの融合物の全長コピーをコードするオープンリーディングフレームを含む。いくつかの場合、ゲノム配列は、CD46、CD55、CD59、THBD、TFPI、CD39、B2M、HLAE、CD47、A20、PD-L1、FASL若しくはHO-1、それらの組み合わせ又はそれらの融合物の機能的断片をコードするオープンリーディングフレームを含む。いくつかの実施形態において、オープンリーディングフレームは、プロモーターに作動可能に連結される。いくつかの実施形態において、プロモーターは、ユビキタスプロモーターである。いくつかの実施形態において、プロモーターは、ヒトプロモーターである。いくつかの実施形態において、プロモーターは、非ブタプロモーターである。いくつかの実施形態において、プロモーターは、ウイルスプロモーターである。いくつかの実施形態において、プロモーターは、ブタプロモーターである。いくつかの実施形態において、プロモーターは、ユビキタスプロモーターである。いくつかの実施形態において、プロモーターは、非ブタ哺乳動物種由来の遺伝子の天然ヒトプロモーター又はその機能的断片、例えばCD46、CD55、CD59、THBD、TFPI、CD39、B2M、HLAE、CD47、A20、PD-L1、FASL又はHO-1の天然プロモーターである。いくつかの実施形態において、プロモーターは、非ブタ哺乳動物種由来の遺伝子のブタオルソログのブタプロモーター又はその機能的断片、例えばCD46、CD55、CD59、THBD、TFPI、CD39、B2M、HLAE、CD47、A20、PD-L1、FASL又はHO-1のプロモーターである。
【0067】
[0089] 少なくとも2つのポリペプチド配列をコードするゲノム配列は、細胞、組織又は器官のゲノム内の任意の適切な位置に位置し得る。いくつかの実施形態において、少なくとも2つのポリペプチド配列をコードするゲノム配列は、AAVS1、CEP112、ROSA26、Pifs302又はPifs501などのブタゲノムの「セーフ・ハーバー」遺伝子座に位置する。いくつかの実施形態において、少なくとも2つのポリペプチド配列をコードするゲノム配列は、部位特異的又はプログラム可能なヌクレアーゼ(例えば、上記したGGTA、B4GALNT2、CMAH)を使用するインデル形成によって「ノックアウト」された別の遺伝子の遺伝子座又はその近位に位置する。いくつかの実施形態において、少なくとも2つのポリペプチド配列をコードするゲノム配列は、非ブタ哺乳動物種由来のポリペプチドの対応するオルソロガスブタ遺伝子座、例えばCD46、CD55、CD59、THBD、TFPI、CD39、B2M、HLAE、CD47、A20、PD-L1、FASL又はHO-1のオルソログの遺伝子座に位置する。いくつかの実施形態において、少なくとも2つのポリペプチド配列をコードするゲノム配列は、対応するオルソロガスブタポリペプチド、例えばCD46、CD55、CD59、THBD、TFPI、CD39、B2M、HLAE、CD47、A20、PD-L1、FASL又はHO-1のオルソログの代わりに位置する。
【0068】
[0090] いくつかの実施形態において、非ブタ哺乳動物種由来の少なくとも2つのポリペプチド配列は、CD46、CD55、CD59、THBD、TFPI、CD39、B2M、HLAE、CD47、A20、PD-L1、FASL又はHO-1のサブセットを含む。サブセットは、CD46、CD55、CD59、CD39、B2M、HLAE及びCD47であり得る。サブセットは、炎症応答導入遺伝子、免疫応答導入遺伝子、免疫調節剤導入遺伝子、凝固応答導入遺伝子、補体応答導入遺伝子及びそれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも2つのタイプの導入遺伝子であり得る。炎症応答導入遺伝子は、TNFα誘導タンパク質3(A20)、ヘムオキシゲナーゼ(HO-1)、分化クラスター47(CD47)又はそれらの組み合わせを含み得る。免疫応答導入遺伝子は、ヒト白血球抗原-E(HLA-E)、ベータ-2ミクログロブリン(B2M)又はそれらの組み合わせを含み得る。免疫調節剤導入遺伝子は、プログラム死リガンド1(PD-L1)、Fasリガンド(FasL)又はそれらの組み合わせを含み得る。凝固応答導入遺伝子は、分化クラスター39(CD39)、トロンボモジュリン(THBD)、組織因子経路阻害剤(TFPI)及びそれらの組み合わせを含み得る。補体応答導入遺伝子は、膜補因子タンパク質(hCD46)、補体崩壊促進因子(hCD55)、MAC阻害因子(hCD59)又はそれらの組み合わせを含み得る。
【0069】
[0091] いくつかの実施形態において、非ブタ哺乳動物種由来の少なくとも2つのポリペプチド配列は、タンデム配列として(例えば、例えば相同組換えによって組み込まれた、単一の構築物として)提供され得る。
【0070】
[0092] いくつかの実施形態において、本明細書に記載の細胞、組織又は器官は、非ブタ哺乳動物種に移植した場合、約1日超、2日超、3日超、4日超、5日超、6日超、7日超、8日超、9日超、10日超、11日超、12日超、13日超、14日超、15日超、16日超、20日超、24日超、36日超、48日超、60日超、72日超、84日超又はそれを超える生存を示し得る。
【0071】
[0093] いくつかの実施形態において、本明細書に記載の細胞、組織又は器官は、本明細書に記載の非ブタ哺乳動物種に移植された場合、変化した免疫応答を示し得る。本明細書に記載の細胞、組織又は器官は、非ブタ哺乳動物種から単離されたPBMCに対して減少したIBMIRを示し得る。即時血液媒介性免疫応答(IBMIR)は、凝固及び補体カスケード、白血球及び血小板集団を含む強力な自然免疫応答であり、ドナー膵島をレシピエントに移植した直後に誘発され、例えば補体活性化をモニターするアッセイを使用して測定することができる(J. D. Lambris et al. (eds.), Immune Responses to Biosurfaces (2015), Advances in Experimental Medicine and Biology,Springer InternationalにおけるKourtzelis et al., Chapter 11“Regulation of Instant Blood Mediated Inflammatory Reaction (IBMIR) in Pancreatic Islet Xeno-Transplantation:Points for Therapeutic Interventions”)。IBMIRは、少なくとも約0.25倍、約0.5倍、約0.75倍、約1倍、約2倍、約3倍、約4倍、約5倍、約6倍、約7倍、約8倍、約9倍若しくは約10倍又はそれを超えて減少し得る。本明細書に記載の細胞、組織又は器官は、非ブタ種由来の補体による毒性の低減を示し得る。非ブタ種由来の補体からの毒性は、放射性アッセイ(例えば、51Crアッセイ)、生細胞染色(例えば、フローサイトメトリーによる)、LDH又はGAPDHなどの放出された細胞内酵素の活性又は死細胞染色を使用して測定され得る。例示的な方法は、Yamamoto et al. Scientific Reports (10): 9771 (2020)に記載されている。非ブタ種由来の補体に対する毒性は、少なくとも約0.25倍、約0.5倍、約0.75倍、約1倍、約2倍、約3倍、約4倍、約5倍、約6倍、約7倍、約8倍、約9倍若しくは約10倍又はそれを超えて減少し得る。本明細書に記載の細胞、組織又は器官は、非ブタ哺乳動物種由来の活性化プロテインC凝固の誘導の低減を示し得る。非ブタ哺乳動物種由来の活性化プロテインC凝固の誘導は、少なくとも約0.25倍、約0.5倍、約0.75倍、約1倍、約2倍、約3倍、約4倍、約5倍、約6倍、約7倍、約8倍、約9倍若しくは約10倍又はそれを超えて減少し得る。本明細書に記載の細胞、組織又は器官は、非ブタ種由来のトロンビン-アンチトロンビン複合体形成の誘導の低減を示し得る。非ブタ種由来のトロンビン-アンチトロンビン複合体形成の誘導は、少なくとも約0.25倍、約0.5倍、約0.75倍、約1倍、約2倍、約3倍、約4倍、約5倍、約6倍、約7倍、約8倍、約9倍若しくは約10倍又はそれを超えて減少し得る。本明細書に記載の細胞、組織又は器官は、非ブタ種由来のNK細胞による毒性の低減を示し得る。非ブタ種由来のNK細胞からの毒性は、放射性アッセイ(例えば、51Crアッセイ)、生細胞染色(例えば、フローサイトメトリーによる)、LDH又はGAPDHなどの放出された細胞内酵素の活性、死細胞染色又は細胞毒性を評価するために使用される他の技術を使用して測定され得る。非ブタ種由来のNK細胞による毒性は、少なくとも約0.25倍、約0.5倍、約0.75倍、約1倍、約2倍、約3倍、約4倍、約5倍、約6倍、約7倍、約8倍、約9倍若しくは約10倍又はそれを超えて減少し得る。
【0072】
[0094] いくつかの場合、本開示は、治療有効用量の、本明細書に記載の実施形態のいずれかによるブタ膵島細胞を含む組成物を提供する。膵島細胞は、膵臓に見られる天然の割合の膵島細胞を含み得るか、又は膵島細胞のサブセット若しくは膵臓に天然に見られるものと異なる割合の膵島細胞を含み得る。膵島細胞は、ベータ細胞、アルファ細胞、デルタ細胞、イプシロン細胞又はPP細胞(別名ガンマ細胞又はF細胞)を含み得る。
【0073】
[0095] いくつかの場合、膵島細胞は、少なくとも約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、35%、40%、50%又はそれを超える量のベータ細胞を含み得る。いくつかの場合、膵島細胞は、最大で約50%、45%、40%、35%、30%、29%、28%、27%、26%、25%、24%、23%、22%、21%、20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%又はそれ未満の量のベータ細胞を含み得る。いくつかの例において、膵島細胞は、約10%~約30%の範囲の量のベータ細胞を含み得る。いくつかの例において、膵島細胞は、約12%~約25%の範囲の量のベータ細胞を含み得る。
【0074】
[0096] いくつかの場合、膵島細胞は、少なくとも約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、35%、40%、50%又はそれを超える量のアルファ細胞を含み得る。いくつかの場合、膵島細胞は、最大で約50%、45%、40%、35%、30%、29%、28%、27%、26%、25%、24%、23%、22%、21%、20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%又はそれ未満の量のアルファ細胞を含み得る。いくつかの例において、膵島細胞は、約10%~約40%の範囲の量のアルファ細胞を含み得る。いくつかの例において、膵島細胞は、約15%~約30%の範囲の量のベータ細胞を含み得る。
【0075】
[0097] いくつかの場合、膵島細胞は、少なくとも約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、35%、40%、50%又はそれを超える量のデルタ細胞を含み得る。いくつかの場合、膵島細胞は、最大で約50%、45%、40%、35%、30%、29%、28%、27%、26%、25%、24%、23%、22%、21%、20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%又はそれ未満の量のデルタ細胞を含み得る。いくつかの例において、膵島細胞は、約10%~約40%の範囲の量のデルタ細胞を含み得る。いくつかの例において、膵島細胞は、約15%~約30%の範囲の量のデルタ細胞を含み得る。
【0076】
[0098] いくつかの場合、膵島細胞は、少なくとも約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、35%、40%、50%又はそれを超える量のイプシロン細胞を含み得る。いくつかの場合、膵島細胞は、最大で約50%、45%、40%、35%、30%、29%、28%、27%、26%、25%、24%、23%、22%、21%、20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%又はそれ未満の量のイプシロン細胞を含み得る。いくつかの例において、膵島細胞は、約10%~約40%の範囲の量のイプシロン細胞を含み得る。いくつかの例において、膵島細胞は、約15%~約30%の範囲の量のイプシロン細胞を含み得る。
【0077】
[0099] いくつかの場合、膵島細胞は、少なくとも約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、35%、40%、50%又はそれを超える量の膵臓ポリペプチド(PP)細胞を含み得る。いくつかの場合、膵島細胞は、最大で約50%、45%、40%、35%、30%、29%、28%、27%、26%、25%、24%、23%、22%、21%、20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%又はそれ未満の量のPP細胞を含み得る。いくつかの例において、膵島細胞は、約10%~約40%の範囲の量のPP細胞を含み得る。いくつかの例において、膵島細胞は、約15%~約30%の範囲の量のPP細胞を含み得る。
【0078】
[00100] いくつかの場合、アルファ細胞の数と比較したベータ細胞の数は、少なくとも約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、35%、40%、45%、50%又はそれを超えるものであり得る。いくつかの場合、アルファ細胞の数と比較したベータ細胞の数は、最大で50%、45%、40%、35%、30%、29%、28%、27%、26%、25%、24%、23%、22%、21%、20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%又はそれ未満であり得る。いくつかの例において、アルファ細胞の数と比較したベータ細胞の数は、約10%~約40%の範囲であり得る。いくつかの例において、アルファ細胞の数と比較したベータ細胞の数は、約15%~約30%の範囲であり得る。
【0079】
[00101] 細胞は、最初にその培地又は脱凝集した膵臓から採取し、次に処置有効量での投与に適した培地及び容器系(「薬学的に許容される」担体)で細胞を洗浄し、濃縮することによって製剤化され得る。適切な注入培地は、任意の等張培地であり得、通常の生理食塩水、Normosol R(Abbott)、Plasma-Lyte A(Baxter)、水中5%デキストロース、乳酸リンゲル液、フェノールレッド及びヘパリンを含まないCMRL 1066(例えば、100U/kgレシピエント)などを利用できる。注入培地は、ヒト血清アルブミン、ウシ胎児血清又は他のヒト血清成分で補充できる。いくつかの場合、抗凝固剤(例えば、ヘパリン)は、レシピエント1キログラムあたり少なくとも1単位(U/kg)、2U/kg、3U/kg、4U/kg、5U/kg、10U/kg、15U/kg、20U/kg、30U/kg、40U/kg、50U/kg、60U/kg、70U/kg、80U/kg、90U/kg、100U/kg、150U/kg、200U/kg、250U/kg、300U/kg、350U/kg、400U/kg、450U/kg、500U/kg、600U/kg、700U/kg、800U/kg、900U/kg、1,000U/kg又はそれを超える量で投与され得る。抗凝固剤は、膵島細胞と同じ溶液(例えば、緩衝液)で投与され得る。他の実施形態において、抗凝固剤及び膵島細胞は、別々に投与され得る。いくつかの場合、TNF-アルファ阻害剤(例えば、エタネルセプト)は、レシピエント1キログラムあたり少なくとも約0.1ミリグラム(mg/kg)、0.2mg/kg、0.3mg/kg、0.4mg/kg、0.5mg/kg、1mg/kg、2mg/kg、3mg/kg、4mg/kg、5mg/kg、6mg/kg、7mg/kg、8mg/kg、9mg/kg、10mg/kg又はそれを超える量で投与され得る。一例において、TNF-アルファ阻害剤は、約3mg/kgの量で投与され得る。TNF-アルファ阻害剤は、膵島細胞と同じ溶液(例えば、緩衝液)で投与され得る。他の実施形態において、TNF-アルファ阻害剤及び膵島細胞は、別々に投与され得る。
【0080】
[00102] いくつかの場合、本開示は、インスリン抵抗性又は欠乏状態の処置を、それを必要とする非ブタ哺乳動物において行う方法を提供する。インスリン抵抗性又は欠乏状態は、1型又は2型糖尿病、単一遺伝子型糖尿病症候群(新生児糖尿病及び若年発症成人型糖尿病[MODY]など)、外分泌膵臓の疾患(嚢胞性線維症及び膵炎など)又は薬物若しくは化学物質誘発性糖尿病(グルココルチコイドの使用、HIV/AIDSの処置又は臓器移植後など)を含み得る。いくつかの実施形態において、インスリン抵抗性又は欠乏状態が1型又は2型糖尿病を含む場合、哺乳動物は、空腹時血漿グルコースレベル、経口耐糖能試験での成績又はHbA1Cなどの特定の臨床基準を示し得る。いくつかの実施形態において、インスリン抵抗性又は欠乏状態は、不安定形糖尿病、無自覚性低血糖、重度の低血糖エピソード又は血糖不安定性などの哺乳動物に存在する強化された危険因子を含み得る。
【0081】
[00103] 非ブタ哺乳動物種は、霊長類種であり得る。いくつかの実施形態において、非ブタ哺乳動物種は、非ヒト霊長類である。非ヒト霊長類には、マーモセット科(Callitrichidae)(マーモセット及びタマリン)、オマキザル科(Cebidae)(新世界ザル)、オナガザル科(Cercopithecidae)(旧世界ザル)、コビトキツネザル科(Cheirogaleidae)(コビトキツネザル及びネズミキツネザル)、アイアイ科(Daubentoniidae)(アイアイ)、ガラゴ科(Galagonidae)(ブッシュベビー及びガラゴ)、ヒト科(Hominidae)(大型類人猿を含む)、テナガザル科(Hylobatidae)(テナガザル及び小型類人猿)、インドリ科(Indridae)(インドリ、シファカ及び近縁種)、キツネザル科(Lemuridae)(チャイロキツネザル)、ロリス科(Loridae)(ロリス)、メガラダピス科(Megaladapidae)(イタチキツネザル)及びメガネザル科(Tarsiidae)(メガネザル)のファミリーを含むが、これらに限定されない、現存の非ヒト霊長類の様々な分類のいずれか又は全てによる現存の非ヒト霊長類が含まれる。「非ヒト霊長類」という用語は、現存の非ヒト霊長類の様々な分類のいずれか又は全てに従って分類された非ヒト霊長類及びその群を包含する。例えば、Wilson及びReeder(1993)は、キツネザル科(Lemuridae)からメガラダピス科(Megaladapidae)、ロリス科(Loridae)からガラゴ科(Galagonidae)を分け(前者の綴りは、ロリス科(Lorisidae)ではなく、ロリス科(Loridae)である)、ヒト科(Hominidae)に類人猿を含めている。Wilson, D. E.及びD. M. Reeder. 1993. Mammal Species of the World, A Taxonomic and Geographic Reference. 2nd edition. Smithsonian Institution Press, Washington。Anderson及びJones(1984年)は、現存の霊長類(Primates)の目を、曲鼻猿亜目(Strepsirhini)と直鼻猿亜目との2つの亜目に分けている。Thorington, R. W., Jr.及びS. Anderson. 1984. Primates. Pp. 187-217 in Anderson, S.and J. K. Jones, Jr. (eds). Orders and Families of Recent Mammals of the World. John Wiley and Sons, N.Y。曲鼻猿亜目(Strepsirhines)は、主に多くの原始的な特徴を有する樹上性の種を含むが、同時に特定の生活様式のためのいくつかの極端な分化を有し、直鼻猿亜目(Haplorhine)は、いわゆる「高等」霊長類であり、さらに2つの主要群、広鼻下目(Platyrrhini)と狭鼻下目(Catarrhini)とに分けられる。広鼻下目(Platyrrhine)は、平らな鼻、外向きの鼻の開口部、上顎及び下顎に3つの小臼歯、3つ又は4つの主要な歯尖を備えた前上臼歯を有し、新世界(オマキザル科(Cebidae)及びマーモセット科(Callitrichidae))でのみ見られる。狭鼻下目は、互いに接近した下向きの鼻の開口部の対を有し、通常、各顎に2つの小臼歯、4つの歯尖を備えた前上臼歯を有し、旧世界(オナガザル科(Cercopithecidae)、テナガザル科(Hylobatidae)、ヒト科(Hominidae))でのみ見られる。大半の霊長類は、熱帯又は亜熱帯に生息しているが、温帯地域にも生息しているものもある。いくつかの陸生種を除いて、霊長類は、樹上性である。一部の種は、葉又は果物を食べ、他の種は食虫性又は肉食性である。Myers, P. 1999.“Primates”(On-line), Animal Diversity Web. Accessed Aug. 26, 2005を参照されたい。
【0082】
[00104] いくつかの実施形態において、非ブタ哺乳動物種は、ヒト(Homo Sapiens)である。
【0083】
[00105] インスリン抵抗性又は欠乏状態の処置を、それを必要とする非ブタ哺乳動物において行う方法は、本明細書に記載の組成物、細胞、器官又は組織のいずれかの投与又は移植を含み得る。いくつかの場合、細胞組成物が投与されるとき、組成物は、中枢に投与され、例えば非ブタ哺乳動物の内頸静脈又は肝門脈を介して投与される。
【0084】
[00106] いくつかの場合、組成物、細胞、器官又は組織による処置前に、非ブタ哺乳動物は、誘導免疫抑制レジメンを受けている。導入レジメンは、前記細胞、組織又は器官を投与する前の、治療有効用量の抗胸腺細胞グロブリン、抗CD40抗体、抗CD20抗体、ラパログ、カルシニューリン阻害剤、ガンシクロビル又はそのプロドラッグ、抗ヒスタミン剤又はコルチコステロイドを含み得る。
【0085】
[00107] いくつかの場合、組成物、細胞、器官又は組織による処置後、非ブタ哺乳動物は、維持免疫抑制レジメンを受ける。維持レジメンは、治療有効用量の抗CD40抗体、ラパログ、カルシニューリン阻害剤及びガンシクロビル又はガンシクロビルのプロドラッグを含み得る。
【0086】
[00108] いくつかの場合、組成物、細胞、器官又は組織で処置した後、非ブタ哺乳動物は、支持的インスリンレジメンを受ける。支持的インスリンレジメンは、前記細胞、組織、器官又は組成物の投与後の、治療有効用量の中間作用型又は長時間作用型インスリン類似体(例えば、インスリングラルギン、インスリンデテミル又はNPHインスリン)を含み得る。
【0087】
[00109] インスリン抵抗性又は欠乏状態の処置を、それを必要とする非ブタ哺乳動物において行う方法は、特定の膵島等価用量(1kgあたりのIEQ)の投与を含み得る。参考として、膵島等価性(IEQ)は、直径150μmの単一の球状膵島に等しい1つのIEQとして定義され(Huang et al. Cell Transplant 2018 Jul: 27 (7): 1017-26)、膵島等価用量は、レシピエントの非ブタ哺乳動物体重1kgあたりのIEQである。いくつかの場合、用量は、非ブタ哺乳動物の体重1kgあたり少なくとも約1,000IEQ(IEQ/kg)、2,000IEQ/kg、3,000IEQ/kg、4,000IEQ/kg、5,000IEQ/kg、6,000IEQ/kg、7,000IEQ/kg、8,000IEQ/kg、9,000IEQ/kg、10,000IEQ/kg、11,000IEQ/kg、12,000IEQ/kg、13,000IEQ/kg、14,000IEQ/kg、15,000IEQ/kg、16,000IEQ/kg、17,000IEQ/kg、18,000IEQ/kg、19,000IEQ/kg、20,000IEQ/kg又はそれを超える量であり得る。いくつかの場合、用量は、最大で約20,000IEQ/kg、19,000IEQ/kg、18,000IEQ/kg、17,000IEQ/kg、16,000IEQ/kg、15,000IEQ/kg、14,000IEQ/kg、13,000IEQ/kg、12,000IEQ/kg、11,000IEQ/kg、10,000IEQ/kg、9,000IEQ/kg、8,000IEQ/kg、7,000IEQ/kg、6,000IEQ/kg、5,000IEQ/kg、4,000IEQ/kg、3,000IEQ/kg、2,000IEQ/kg、1,000IEQ/kg又はそれ未満であり得る。一例において、用量は、非ブタ哺乳動物の体重1kgあたり少なくとも5,000IEQであり得る。
【0088】
[00110] いくつかの態様において、本開示は、非ブタ哺乳動物レシピエントへの移植前にブタドナーからの膵島の収率を改善する方法を提供する。方法は、膵臓オルガノイドを提供すること、有効濃度のカスパーゼ阻害剤の存在下で前記オルガノイドを培養すること及び有効濃度のコルチコステロイドの存在下で培養を継続することを含み得る。オルガノイドは、カスパーゼ阻害剤の存在下で少なくとも30分間、少なくとも60分間、少なくとも90分間、少なくとも2時間、少なくとも4時間、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも18時間、少なくとも24時間、少なくとも30時間、少なくとも90時間、少なくとも120時間、少なくとも180時間、少なくとも360時間、少なくとも720時間又はそれを超える期間にわたって培養され得る。オルガノイドは、コルチコステロイドの存在下において、カスパーゼ阻害剤による処置後、少なくとも1、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10、少なくとも11、少なくとも12、少なくとも13又は少なくとも14日間にわたって培養され得る。膵臓オルガノイドは、7日目以前にブタ動物から単離され得る。カスパーゼ阻害剤は、Z-VAD-FMK、Z-LEHD-FMK、Z-IETD-FMK、Emricasan、Z-VEIDFMK、Z-DEVD-CMK、MX1122、M867、MMPSI、イサチンスルホンアミド、Boc-Asp-FMK、VX-166、Q-VD-OPh又はIDN-6556であり得る。コルチコステロイドは、メチルプレドニゾロンであり得る。オルガノイドは、ニコチンアミド又はその代謝的に許容される類似体の存在下で培養され得る。
【実施例
【0089】
実施例
実施例1.トランスジェニックブタ動物及びそれに由来する内皮細胞の構成及び特性評価
[00111] CRISPR-Cas9を介したNHEJを使用して、バマ(Bama)ミニブタのブタ初代線維芽細胞で3つの主要な炭水化物産生グリコシルトランスフェラーゼ/グリコシルヒドロラーゼ遺伝子GGTA1、CMAH及びB4GALNT2を機能的にノックアウトした。次に、12のヒト導入遺伝子(CD46、CD55、CD59、CD39、CD47、A20、PD-L1、HLA-E、B2M、THBD、TFPI、HO-1)を、PiggyBACトランスポゾンを介したランダム統合を介してブタゲノムの単一のマルチ導入遺伝子カセットに統合して、「4-7」と呼ばれる3KO/12TG細胞(体細胞核移植(SCNT)を介してブタを生成するために使用された)を生成した。野生型ブタ耳線維芽細胞は、最初に、a)GGTA、CMAH及びB4GALNT2遺伝子を標的とするCRISPR-Cas9試薬、及びb)(i)PiggyBacトランスポザーゼカセット(ii)12のヒト導入遺伝子の1つ以上を含むトランスジェニック構築物を保持するペイロードプラスミドの両方でエレクトロポレーションされた。導入遺伝子は、所望のユビキタスプロモーター又は組織特異的プロモーターを有する4つの異なるシストロン中に配置された。各シストロン内の導入遺伝子は、同様のモル比での発現を確実にするため、リボソームスキップ2Aペプチドにより分離された。さらに、ユビキタスクロマチンオープニングエレメント(UCOE)などのシスエレメントの組み合わせを導入して、導入遺伝子のサイレンシングを防ぎ、強力なポリアデニル化部位及びターミネーターを備えたインスレーターを導入して、導入遺伝子間及び導入遺伝子と隣接染色体との間の相互作用を最小限に抑えた。線維芽細胞の単一細胞クローンを生成し、断片分析/全ゲノム配列決定によってスクリーニングして、所望のゲノム改変を有するクローンを同定し、次に所望の改変を有するクローンをドナーとして使用して、SCNTにより生きたブタを作製した。
【0090】
[00112] 導入遺伝子の発現レベルは、qPCRによって決定され、統合部位は、逆PCRに基づくジャンクションキャプチャーを使用して決定され、タンパク質レベルは、蛍光活性化セルソーティング(FACS)によって決定された。結果は、以下の表1Bに要約される。
【0091】
【表3】
【0092】
[00113] 表1Bは、免疫組織化学(IHC)染色の結果による、4-7ブタの組織における様々な導入遺伝子の発現を示す。
【0093】
【表4】
【0094】
[00114] 遺伝子ノックアウト/ノックインの結果の機能的特徴
[00115] GGTA/CMAH/B4Gal
[00116] 野生型ブタ組織に結合する予め形成された抗体は、異種移植に対する主要な初期免疫学的障壁と見なされており、これらの3つの遺伝子は、これらの抗体が標的とする異種抗原の産生に大きく関与していることが確認されている(Byrne 2014、Lai 2002、Lutz 2013、Martens 2017、Tseng 2006)。したがって、これらの遺伝子の機能喪失は、ブタ移植片の内皮への予め形成された抗ブタ抗体の結合を大きく排除するであろうと予測された。これは、標的ブタ臍帯静脈内皮細胞(「4-7」と呼ばれ、GGTA1、CMAH、B4GalNT2ノックアウトを含む、図1を参照されたい)への宿主抗体の結合の減少を示すフローサイトメトリーの結果によって確認された。抗体結合の低下を実証するために、遺伝子操作されたブタ内皮細胞をプールされたヒト血清とインキュベートし、結合したヒトIgM及びIgGを結合型二次抗ヒト抗体で検出し、フローサイトメトリーで分析した。野生型ブタ臍帯静脈内皮細胞(PUVEC)(赤色の等高線図)とは対照的に、3つの遺伝子を排除すると、抗体結合が有意に減少した(青色及び黄色の等高線図を比較、結合が約1log減少)。
【0095】
[00117] 補体調節タンパク質(CD46、CD55及びCD59)
[00118] ブタ移植片の機能を維持し、補体を介した毒性からドナー器官を保護するために、ヒト補体調節タンパク質を過剰発現させた。簡単に説明すると、遺伝子操作されたブタ線維芽細胞及びブタ脾細胞を25%ヒト補体と共に1時間インキュベートした。細胞をヨウ化プロピジウムで染色し、フローサイトメトリーで分析して細胞死を定量化した(図2を参照されたい)。図2の左パネルは、アッセイワークフローを示す図であり、右パネルは、様々な濃度のヒト補体(「HC」)とのインキュベーション後の、ヒト臍帯静脈内皮細胞(「HUVEC」)、トランスジェニック4-7ブタ臍帯静脈内皮細胞(「4-7PUVEC」)又は正常ブタ臍帯静脈内皮細胞(「WT PUVEC」)のいずれかの死を示すチャートである。3つの導入遺伝子の全てを有する4-7細胞は、ヒトHUVEC細胞と同様に、正常なブタ対応物に対して、ヒト補体に応答して劇的に減少した死を示す。
【0096】
[00119] 凝固応答遺伝子
[00120] 血管形成されたWTブタ器官がヒトに移植される場合、予め形成された抗体、補体及び自然免疫細胞が内皮細胞の活性化を誘発し、凝固及び炎症を引き起こす可能性がある。ブタ内皮細胞からの凝固調節因子とヒト血液との間の不和合性は、異常な血小板活性化及びトロンビン形成をもたらし、損傷を悪化させる。さらに、ブタとヒトとの間の凝固調節因子(例えば、組織因子経路阻害剤、TFPI)の分子の不和合性により、外因性凝固調節が無効となる。
【0097】
[00121] これらの異種凝固の問題に対処するために、a)ヒトCD39(凝固カスケードにおけるADPの血栓作用を打ち消すADPヒドロラーゼ)、及びb)ヒトTFPI(内皮細胞の活性化後に細胞表面に移動する因子)の両方を4-7PUVECで過剰発現させ、次に様々なインビトロ及びエクスビボアッセイを実施して、これらの導入遺伝子が正しく機能し、血小板及び凝固カスケードを調節する能力を検証した。図3は、4-7トランスジェニック内皮臍帯静脈ブタ細胞(PUVEC)におけるCD39の発現/機能性を検証するために実施された分析の結果を示す。チャートは、HUVEC、4-7PUVEC又はWT PUVECで実施された比色CD39 ADP加水分解ベースの活性アッセイの結果を示す。4-7細胞は、CD39の活性が強化されており、これは、導入遺伝子が機能的及び過剰発現していることを示唆している。インビトロADPase生化学アッセイは、WT PUVEC又はHUVECに対して4-7PUVECで有意に高いCD39活性を示した。同様に、活性化された4-7PUVECは、ヒトXaに効果的に結合し中和する能力を示し、これにより凝固を緩和し、トロンビン-アンチトロンビン(TAT)複合体の形成を低減することができる(図5)。4-7PUVECと共培養したヒト全血を用いた図5のエクスビボ凝固アッセイは、最小限のTAT(トロンビン-アンチトロンビン)が形成され、TAT形成のレベルがHUVECのレベルと類似していたことを示し(図5)、これは、4-7PUVECが人的要因との凝固適合性を高めることを示唆している。
【0098】
[00122] 図6は、血小板活性化に対するこれらの遺伝子改変の影響を評価するために行われたアッセイの結果を示す。図6は、4-7トランスジェニック細胞で実施された血小板溶解アッセイの結果を示す。HUVEC、4-7PUVEC又はWT PUVECと45分間又は60分間インキュベートした後、ヒト血液から残存する血小板(輪郭が描かれたクラスター)の数を定量化するFACSトレースが示される。4-7細胞は、ブタWT ECに対する残存血小板の数の上昇を示し続けており、これは、HUVEC細胞とインキュベートした場合の残存血小板の割合と同等である。
【0099】
[00123] HLA成分(HLA-E/B2M)
[00124] ナチュラルキラー(NK)細胞上のキラー細胞抑制受容体(KIR)による標的細胞上のMHC Iの連結は、NK細胞を介した標的細胞の死滅を阻害する。ブタMHCIは、ヒトNK KIRを介してシグナルを伝達することができないため、ブタ細胞は、NK細胞による標的細胞殺傷の影響を受けやすい。NKを介した細胞死を克服するために、ヒトNK KIR受容体を連結するヒトHLA-Eをブタ細胞で過剰発現させた。さらに、MHCヘテロ二量体化パートナーB2Mのヒトコピーも過剰発現された。
【0100】
[00125] 次に、機能アッセイを実施して、4-7内皮細胞が遺伝子改変によるNKを介した細胞死滅に抵抗性であることを検証した。WT PUVEC、4-7PUVEC及びHUVECは、インビトロアッセイでヒトNK細胞による殺傷の標的となった(図7)。図7は、4-7PUVECが、WTの対応物よりもNKを介した細胞毒性が有意に低いことを示す(独立両側スチューデントt検定)。
【0101】
実施例2.トランスジェニック動物からの膵島の単離
[00126] トランスジェニック雄バマ(Bama)ミニブタ(実施例1のように産生された)を麻酔し、出生後0~7日で開腹及び瀉血に供した。膵臓を切除し、メスを用いて無菌条件下で小断片に切断した。膵臓断片をコラゲナーゼV消化(1mg/ml)に供し、ガス透過性培養バッグ(OriGen PermaLife(商標)細胞培養バッグ)に移し、培養施設に輸送するために22~24℃で保持した。膵島は、EGM-2培地(FGF-B、VEGF、R3-IGF、アスコルビン酸、hEGF、ヘパリン、D-グルコース、ニコチンアミド、10%ブタ血清、50μM IBMX、120μMアミカシン及び60μMアンピシリンを含むEGM-2)、EGM-2培地+コルチコステロイド(EGM-2+1μMメチルプレドニゾロン)又はHamのF-10培地のいずれかにおいて、7日間にわたりバッグ又はペトリ皿で培養された。膵島均等物(IEQ)は、培養中の7日間にわたって測定され、グラフ化された(図14、15及び16を参照されたい)。コルチコステロイドを含むEGM-2培地は、3つの条件の中で膵島の収率の改善と関連していた。
【0102】
[00127] いくつかの場合、機械的又は酵素的消化に続いて、膵臓断片が沈降(例えば、フィコール勾配沈降)によって精製され得る。他の場合、沈降によるそのような精製ステップは、必要でない可能性があるか又は必ずしも必要でない。そのような場合、膵臓断片は、移植前に培養され得(例えば、培養皿で約7日間)、その間に非膵島細胞(例えば、外分泌細胞)が死滅し得る。
【0103】
[00128] 実施例3.トランスジェニック動物からの膵島の分析
[00129] 実施例2のように正常及びトランスジェニックなバマ(Bama)ミニブタから膵島細胞を単離した後、アッセイを実施して、4-7内皮細胞について実施例1で行った実験のスキームと同様に、4-7膵島細胞の異種適合性の側面を評価した。
【0104】
[00130] 第一に、血小板及び凝固カスケードを調節するための遺伝子改変の効果を評価するために実験を行った。図11は、図9/実施例2のように単離された膵島細胞で実施された血小板溶解又はTAT複合体形成アッセイの結果を示す。陰性対照(NC)としてのヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)、WT又は4-7膵島で実施された図6のような血小板溶解アッセイ(左パネル)及びHUVEC NC、WT又は4-7膵島で実施された図5のようなTAT複合体形成アッセイを示すチャートが示される。4-7膵島は、ヒト血液成分とインキュベートすると、血小板溶解の減少及びTAT複合体形成の減少を示す。
【0105】
[00131] 第二に、移植されたブタ組織に対するヒト免疫系の短期的なIBMIR応答を調節するための遺伝子改変の効果を評価するために実験を行った。図12は、図9のように得られた4-7膵島でヒト血液により実施された即時血液媒介性炎症反応(IBMIR)アッセイの結果を示す。簡単に説明すると、ヒト全血を、本明細書に開示されるようにブタ膵島細胞と共にインキュベートし、その後、ヒト全血とブタ膵島細胞との間の接触(又は相互作用)によって少なくとも部分的に引き起こされる凝固又は血餅をチェックした。いくつかの場合、血餅のサイズ及び/又は重量が測定された。4-7膵島切片をヒト血液とインキュベートした後の抗体(IgG及びIgM、左パネル)及び補体(C3a及びC4d、右パネル)の病巣の染色を示す、200倍の倍率でのIHC顕微鏡写真が図9に示される。4-7膵島細胞は、IgG、IgM、C3a及びC4dに関連する染色及び病巣の減少を示し、これは、膵島細胞がIBMIRの減少を示し、最初の移植時に死に対する抵抗性が強化されていることを示すはずであることを示唆している。
【0106】
[00132] 第三に、ヒト好中球の活性を調節するための遺伝子改変の効果を評価するために実験が行われた。図13は、4-7膵島で培養されたヒト全血中の好中球の残存数を示す。4-7膵島は、ヒト全血とインキュベートした場合、WT膵島と比較して好中球の残存数が多いことが明らかになった。
【0107】
実施例4.レシピエントマウスへの膵島の移植
[00133] 異種移植時の4-7ブタトランスジェニック膵島細胞の機能を試験するために、STZベースのマウス糖尿病膵島養子移入モデルが確立された。このモデル手順を使用したマウスの例示的な血糖値を図19に示す。このモデルは、毒素(ストレプトゾトシン、STZ)を使用して免疫不全マウスの膵島細胞を殺傷し、血糖値の劇的な上昇を生じる。膵島細胞の移植は、移植後約60日までに血糖値の正常化をもたらす。
【0108】
[00134] 糖尿病の処置における4-7膵島細胞の有効性を評価するために、糖尿病は、ストレプトゾトシン(STZ、125mg/kg)の単回投与による処置と、それに続く3日間のウォッシュアウト期間により、n=12 NCD(NOD-Prkdcem26Cd52Il2rgem26Cd22/NjuCrl)マウスで最初に誘発され、3匹の未処置同齢マウスを対象として残した。次に、未処置のマウス及びSTZ処置マウスのうちの3匹を偽移植手術に供し、STZマウスのうちの3匹に、図9/実施例2のように単離された野生型ブタ膵島(3000IEQ)を投与し、STZマウスのうちの3匹に、図9/実施例2のように単離された4-7トランスジェニックブタ膵島(3000IEQ)を投与した。膵島が移植された場合、それらは、左腎被膜下に移植された。簡単に説明すると、4-7膵島細胞を溶液(例えば、緩衝液)に混合又は分散させ、注射器及びソフトチューブを介して腎臓被膜下に注入(例えば、ゆっくりと注入)した。
【0109】
[00135] 図20は、本明細書で提供される対象の4-7ブタトランスジェニック膵島細胞を含む膵島様細胞クラスター(NICC)を投与された(T1D齧歯動物モデルとしての)NCGマウスの血糖値を示す。野生型ブタ膵島細胞を含むNICCを対照として使用した。様々な量のNICCがNCGマウスに移植された:4000IEQ、2000IEQ及び1000IEQ。データは、WTブタ膵島細胞と比較して、4-7ブタトランスジェニック膵島細胞がマウスの血糖値の上昇を制御するのに同様の有効性を示したことを示す。4-7ブタのトランスジェニック膵島細胞は、移植後約2週間で、インビボで機能するようになった(例えば、血糖値の制御において)。
【0110】
[00136] いくつかの場合、移植されたブタ細胞の異常増殖をより長い時間(例えば、5、6、7、8、9、10、11、12ヶ月超又はそれを超える期間)モニターし得る。いくつかの場合、ヒト成人膵島細胞は、例えば、臨床的なヒト成人膵島処置用量で陽性対照として使用され得る。いくつかの場合、非肥満糖尿病(NOD)T1Dマウスモデルが二次的なインビボモデルとして使用され得る。いくつかの場合、その適合性及び安全性を試験するために、ブタトランスジェニック膵島細胞が門脈内静脈注射によって投与され得る。
【0111】
[00137] 実施例5.レシピエントサルへの膵島の移植
[00138] 霊長類への異種移植時の4-7ブタトランスジェニック膵島細胞の機能を試験するために、STZベースのNHP糖尿病膵島養子移入(門脈内膵島細胞移植を使用)モデルが確立された。図9/実施例2のように単離された4-7膵島及びWTを、超音波によって誘導される経皮経肝門脈カテーテル法によりカニクイザルに移植した。これらの実験のスキームを図21に示す。
【0112】
[00139] ブタ細胞の移植に使用された免疫抑制プロトコルは、以下の通りであった。
【0113】
[00140] ATGは、-7日目(±2日)、-6日目(±2日)、-4日目(±2日)に5mg/kgの用量でIV投与され、血中のベースラインレベルの5%未満までのリンパ球枯渇が達成された場合、-1日目に追加のATGが投与された。
【0114】
[00141] 抗CD40は、-4日目(±1日)、0日目、4日目、7日目、10日目、14日目に静脈内投与され、その後、毎週、50mg/kg初回用量及びその後30mg/kgで投与された。
【0115】
[00142] 抗CD20モノクローナル抗体リツキシマブを0日目(±2日)に375mg/m2の用量でIV投与し、B細胞数がベースラインの5%を超えて上昇した場合には最大3ヶ月ごとに反復投与した。
【0116】
[00143] ラパマイシンとタクロリムスは、それぞれ0.3mg/kgQD及び0.02mg/kg BIDの開始用量で経口により-3日目(±1日)に開始され、血漿濃度に応じて調整した。
【0117】
[00144] ガンシクロビルは、5mg/kgの用量で-7日目(±2日)から開始して筋肉内投与された。
【0118】
[00145] 注入反応を防ぐために、クロルトリメトン0.4mg/kg IM及びメチルプレドニゾロン10mg/kg IVの予防的使用がATG、抗CD40及び抗CD20投与前に投与された。
【0119】
[00146] 健康をサポートするためのSTZ導入動物へのインスリンの支持的投与は、以下のように提供された。
【0120】
[00147] グラルギンインスリンは、QDで投与され、最初に2U QDで投与された。用量は、FBGが150mg/dl超である場合には2U増加し、FBGが100mg/dl未満である場合には2U減少した。
【0121】
[00148] 動物の記録された血糖値に応じて、朝及び夕方にインスリンをBID投与した。朝の投与では、200mg/dl未満は、インスリンを投与せず、200~350mg/dlは、4Uのインスリンを投与し、350~400mg/dlは、6Uのインスリンを投与し、400~600mg/dlは、8Uのインスリンを投与し、600mg/dl超は、10Uのインスリンを投与した。夕方の投与では、300mg/dl未満は、インスリンを投与せず、300~350mg/dlは、4Uのインスリンを投与し、350~400mg/dlは、6Uのインスリンを投与し、400~600mg/dlは、8Uのインスリンを投与し、600mg/dl超は、10Uのインスリンを投与した。
【0122】
[00149] サル(MB-1)でSTZ糖尿病誘発プロトコルを使用したパイロット実験を図22に示し、動物は、図21のスキームに従って管理されている。移植された細胞の機能的出力を測定するために、50%デキストロース1ml/kg ivの投与後、動物の血糖、C-ペプチド及びインスリンを評価した。図22のデータは、STZ処置後の血糖の増加並びにC-ペプチド及びインスリンの減少により、糖尿病誘発プロトコルが成功したことを示す。このプロトコルを使用して、さらなる動物MA-1、MA-2、MB-2、MC-1、MD-1及びME-1に糖尿病を誘発し、以下の表2に従って移植片を移植した。移植後の白血球数、リンパ球数、CD4+細胞型、CD8+細胞型、B細胞、NK細胞及びラパマイシンレベルについて動物をモニターした(図23、24及び25)。
【0123】
[00150] 動物MA-1及びMA-2は、その後、移植された4-7膵島の存在について、移植後12時間及び1ヶ月の肝生検の免疫組織化学について分析された。肝生検を実施し、ヘマトキシリン/エオシン(MA-1及びMA-2の場合)及び(MA2の場合)膵島細胞を染色する神経上皮マーカークロモグラニンAについて染色し、膵島様構造の存在及び動物肝臓への4-7細胞の生着を示す(図26を参照されたい)。
【0124】
[00151] 非ヒト霊長類の移植片の機能を長期間にわたって評価するために、免疫組織化学、血糖、C-ペプチド(サル及びブタの両方)及びインスリンレベルは、表2の全ての動物で引き続き監視される。
【0125】
【表5】
【0126】
[00153] 本発明の好ましい実施形態が本明細書に示され、説明されてきたが、そのような実施形態が例としてのみ提供されていることは、当業者に明らかであろう。ここで、本発明から逸脱することなく、多数の変形形態、変更形態及び置換形態が当業者に想到されるであろう。本明細書に記載の本発明の実施形態に対する様々な代替形態は、本発明を実施する際に使用され得ることを理解されたい。以下の特許請求の範囲は、本発明の範囲を定義し、これらの特許請求の範囲内の方法及び構造並びにそれらの均等物は、それによって包含されることが意図されている。
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【国際調査報告】