(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-06
(54)【発明の名称】高純度オキシテトラクロロタングステン(VI)およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 41/00 20060101AFI20230227BHJP
B01J 37/14 20060101ALI20230227BHJP
B01J 37/24 20060101ALI20230227BHJP
B01J 27/132 20060101ALI20230227BHJP
【FI】
C01G41/00 Z
B01J37/14
B01J37/24
B01J27/132 M
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022541834
(86)(22)【出願日】2021-01-04
(85)【翻訳文提出日】2022-07-06
(86)【国際出願番号】 EP2021050013
(87)【国際公開番号】W WO2021140065
(87)【国際公開日】2021-07-15
(31)【優先権主張番号】102020200087.5
(32)【優先日】2020-01-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】102020132629.7
(32)【優先日】2020-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518241791
【氏名又は名称】タニオビス ゲー・エム・ベー・ハー
【氏名又は名称原語表記】TANIOBIS GmbH
【住所又は居所原語表記】Im Schleeke 78-91, 38642 Goslar, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ シュニッター
(72)【発明者】
【氏名】ホルガー ブルム
(72)【発明者】
【氏名】ゲルト パスィング
(72)【発明者】
【氏名】トマシュ クプカ
【テーマコード(参考)】
4G048
4G169
【Fターム(参考)】
4G048AA06
4G048AB01
4G048AC08
4G048AD04
4G048AE06
4G048AE08
4G169AA08
4G169AA11
4G169BB02C
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BB08A
4G169BB08B
4G169BC60A
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4G169BD01C
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4G169BD12B
4G169CB38
4G169CB44
4G169EA01X
4G169EA01Y
4G169EB18X
4G169EB18Y
4G169EC21X
4G169EC21Y
4G169EC25
4G169FA01
4G169FB40
4G169FB41
4G169FB53
4G169FC04
4G169FC07
4G169FC08
(57)【要約】
本発明は、特に化学的純度が特徴的であるオキシテトラクロロタングステン(VI)およびその製造方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オキシテトラクロロタングステン(VI)であって、前記オキシテトラクロロタングステン(VI)は、99.95%を超える化学的純度を有し、前記オキシテトラクロロタングステン(VI)は、WCl
6、WO
2Cl
2、WO
3およびWO
2からなる群から選択される化合物の割合が0.03未満であり、前記割合は、X線回折パターンにおける前記化合物の最も高い強度を有する反射(I(P2)100)と、X線回折パターンにおける前記オキシテトラクロロタングステン(VI)の最も高い強度を有する反射(I(WOCl
4)100)との比と定義され、前記比は、I(P2)100/I(WOCl
4)100と表されることを特徴とする、オキシテトラクロロタングステン(VI)。
【請求項2】
前記オキシテトラクロロタングステン(VI)は、X線回折法によって測定した場合に二次相の割合がそれぞれ0.02以下、好ましくは0.001~0.02、特に好ましくは0.001~0.01であり、前記割合は、二次相の最も高い強度を有する反射(I(P2)100)と、前記オキシテトラクロロタングステン(VI)の最も高い強度を有する反射(I(WOCl
4)100)との比と定義され、前記比は、I(P2)100/I(WOCl
4)100と表される、請求項1記載のオキシテトラクロロタングステン(VI)。
【請求項3】
前記オキシテトラクロロタングステン(VI)は、99.99%以上、好ましくは99.995%以上、特に好ましくは99.999%以上の化学的純度を有する、請求項1または2記載のオキシテトラクロロタングステン(VI)。
【請求項4】
前記オキシテトラクロロタングステン(VI)は、前記オキシテトラクロロタングステン(VI)の全重量に対してそれぞれ50ppm未満の量、好ましくは25ppm未満の量、特に好ましくは5ppm未満の量のケイ素および/またはケイ素化合物を含む、請求項1から3までのいずれか1項記載のオキシテトラクロロタングステン(VI)。
【請求項5】
前記オキシテトラクロロタングステン(VI)は、前記オキシテトラクロロタングステン(VI)の全重量に対してそれぞれ100ppm未満の量、好ましくは30ppm未満の量、特に好ましくは10ppm未満の量の硫黄および/または硫黄化合物を含む、請求項1から4までのいずれか1項記載のオキシテトラクロロタングステン(VI)。
【請求項6】
前記オキシテトラクロロタングステン(VI)は、前記オキシテトラクロロタングステン(VI)の全重量に対してそれぞれ20ppm未満、好ましくは10ppm未満、特に好ましくは5ppm未満のモリブデンおよび/またはその化合物の割合を有する、請求項1から5までのいずれか1項記載のオキシテトラクロロタングステン(VI)。
【請求項7】
前記オキシテトラクロロタングステン(VI)における金属不純物の割合は、前記オキシテトラクロロタングステン(VI)の全重量に対してそれぞれ100ppm未満、好ましくは70ppm未満である、請求項1から6までのいずれか1項記載のオキシテトラクロロタングステン(VI)。
【請求項8】
前記オキシテトラクロロタングステン(VI)は、前記オキシテトラクロロタングステン(VI)の全重量に対してそれぞれ200ppm未満の量、好ましくは100ppm未満の量、特に好ましくは40ppm未満の量の炭素を含む、請求項1から7までのいずれか1項記載のオキシテトラクロロタングステン(VI)。
【請求項9】
前記オキシテトラクロロタングステン(VI)は、粉末の形態で存在し、光学顕微鏡法により測定した場合に全粉末粒子の90%が100μm以下、好ましくは70μm以下の粒子径を有する、請求項1から8までのいずれか1項記載のオキシテトラクロロタングステン(VI)。
【請求項10】
前記オキシテトラクロロタングステン(VI)は、0.5g/cm
3を超える嵩比重を有する、請求項1から9までのいずれか1項記載のオキシテトラクロロタングステン(VI)。
【請求項11】
請求項1から10までのいずれか1項記載のオキシテトラクロロタングステン(VI)の製造方法であって、第1のステップa)において金属タングステンを塩素ガスおよび酸素と反応させ、得られた生成物混合物をさらなるステップb)において酸化剤の存在下で酸化させてオキシテトラクロロタングステン(VI)を得ることを特徴とする、方法。
【請求項12】
前記ステップb)における酸化剤は、酸素、水および水蒸気からなる群から選択される、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記ステップb)における酸化を、酸化剤として水を使用して、20%~80%、好ましくは40%~60%の相対大気湿度で行う、請求項11または12記載の方法。
【請求項14】
前記ステップb)における酸化を、0~80℃、好ましくは0~60℃の温度で行う、請求項11から13までのいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
前記ステップa)における酸素をサブストイキオメトリの比で使用し、タングステン金属に対する酸素のストイキオメトリ比は、好ましくは0.85~0.97であり、特に0.85~0.9である、請求項11から14までのいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
請求項11から15までのいずれか1項記載の方法により得ることができる、オキシテトラクロロタングステン(VI)。
【請求項17】
化学反応における触媒としての、特に官能性炭化水素の製造における触媒としての、半導体産業における、および/またはゾルゲルプロセスにおける、特にエレクトロクロミックコーティングの製造のための、請求項1から10までのいずれか1項または請求項16記載のオキシテトラクロロタングステン(VI)の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に化学的純度および相純度が特徴的であるオキシテトラクロロタングステン(VI)およびその製造方法に関する。
【0002】
オキシテトラクロロタングステン(VI)は、化学量論式WOCl4を有するオキシ塩化物の群からのタングステンの無機化合物である。オキシテトラクロロタングステン(VI)は主に、特に開環反応でのオレフィン製造の触媒として使用される。オキシテトラクロロタングステン(VI)のさらなる使用分野は、半導体産業およびゾルゲルプロセスの出発化合物である。
【0003】
独国特許出願公開第3347918号明細書には、太陽光線に対する透過率が変化する、VO2またはV2O3を含むサーモクロミックコーティングを有するガラス基材であって、25~75℃の温度範囲内で光学変化が起こり、コーティングがその温度移行範囲を通るように加熱されると赤外線領域の太陽エネルギー全体に対する透過率が少なくとも半分低下し、VO2またはV2O3を含むコーティングは、化学的に堆積されたバナジウム化合物の化学的分解および任意に還元によって生成され、バナジウムよりも大きなイオン半径を有する金属の酸化物がドープされている層であるガラス基材が記載されている。適切なドーパントとして特にWOCl4が挙げられており、これを添加することで、VO2膜の変態温度を下げることが可能である。
【0004】
N. Ozerらは、1996年1月の論文“Optical and Electrochromic Properties of Sol-Gel Deposited Doped Tungsten Oxide Films”において、酸化タングステンをドープした膜の製造における前駆化合物としてのWOCl4の使用を記載している。
【0005】
オキシテトラクロロタングステン(VI)の製造について、当業者には種々の方法が知られており、例えば、酸化タングステン(VI)、塩化タングステン(VI)もしくはタングステン酸ナトリウムと塩化チオニルとの反応による、またはジクロロジオキソタングステン(VI)の熱分解による方法が知られている。その他の製造方法としては、オクタクロロシクロペンテン中での酸化タングステン(VI)の沸騰や、化学量論量の酸化タングステン(VI)と塩化タングステン(VI)とを真空アンプル中で200℃にて反応させる方法がある。
【0006】
F. Zadoは、J. Inorg. Nucl. Chem. 25, 1115 (1963)に発表した論文“The high yield synthesis of the Tungsten(VI) oxyhalides WOCl4, WOBr4 and WO2Cl2 and some observations on tungsten(VI) bromide and tungsten(V) chloride”において、WCl6およびWO3を真空アンプルに封入し、100℃に加熱してオキシテトラクロロタングステン(VI)を製造することについて記載している。2時間後に150℃まで昇温させ、24時間かけて析出物を昇華させることができるようにアンプルが配置された。
【0007】
A.E. Castro Lunarらは、J. Chem. Eng. Data 1983, 26, 349-350において“Vapour Pressure of WOCl4”なる標題で、673KでのCCl4とWO3との反応によるオキシテトラクロロタングステン(VI)の製造について記載している。
【0008】
オキシテトラクロロタングステン(VI)の他の既知の製造方法は、例えば、
WCl6+Me3Si-O-SiMe3→WOCl4+2Me3SiCl
の反応によるWCl6と有機ケイ素化合物との反応、
WO3+2SOCl2→WOCl4+2SO2
の反応による塩化チオニルの前述の使用、および酸素含有Cl2ガス中での加熱タングステンの一段反応である。
【0009】
しかし、先行技術に記載された方法には、オキシテトラクロロタングステン(VI)が通常は、さらなる結晶相により顕在化する金属不純物や他のタングステン化合物のような不純物をかなりの割合で有し、方法は試験室規模でしか実施することができないという欠点がある。したがって、市販のオキシテトラクロロタングステン(VI)の化学的純度は、金属不純物に関して98%~99.95%とされている。確かに、金属不純物の大部分は、例えば昇華などのさらなる精製ステップによって除去することができる。しかし、昇華は結晶成長の増大を招くため、オキシテトラクロロタングステン(VI)は、一連の用途では欠点となる低い嵩比重を有する大きな針状結晶の形態で存在する。適切な粒子径を得るためには、結晶を例えば粉砕法などで適切に処理する必要がある。しかし、オキシテトラクロロタングステン(VI)は安定性が低いため、これは金属不純物の混入や望ましくない相の生成を招く。また、オキシテトラクロロタングステン(VI)の分解時に例えば塩酸などの腐食性の強い化合物が生成することもこれを悪化させる要因である。また、従来から必要とされている精製方法には、一部の不純物、特にさらなるタングステン化合物やいくつかの非金属を、まったくまたは不十分にしか除去できないという欠点がある。
【0010】
したがって、本発明の課題は、先行技術の欠点を克服するオキシテトラクロロタングステン(VI)と、工業規模でも実施可能であり、例えば粉砕、ふるい分けまたは昇華などの機械的後処理の追加ステップなしで済む、その単純かつ効率的な製造方法とを提供することである。
【0011】
この課題は、高い化学的および結晶学的純度ならびに特定のモルフォロジーを有するオキシテトラクロロタングステン(VI)を提供することによって達成される。
【0012】
したがって、本願の第1の主題は、99.95%を超える化学的純度を有するオキシテトラクロロタングステン(VI)であって、該オキシテトラクロロタングステン(VI)は、WCl6、WO2Cl2、WO3およびWO2からなる群から選択される化合物の割合が0.03未満であり、この割合は、X線回折パターンにおけるこれらの化合物の最も高い強度を有する反射(I(P2)100)と、X線回折パターンにおけるオキシテトラクロロタングステン(VI)の最も高い強度を有する反射(I(WOCl4)100)との比と定義され、I(P2)100/I(WOCl4)100と表されるものである、オキシテトラクロロタングステン(VI)である。
【0013】
本発明によるオキシテトラクロロタングステン(VI)は、特に、分子式WOCl4で表されるオキシテトラクロロタングステン(VI)である。
【0014】
本発明において、WOCl4試料の化学的純度とは、タングステン、塩素および酸素の元素の累積重量割合と、試料中の他のすべての不純物元素の累積重量割合との比を指す。ここで、物質の純度は、試料の全重量に対するWOCl4の量比として表され、タングステン、塩素および酸素以外の他の元素が試料中で検出されない場合には、化学的純度は100%である。本発明の趣意における不純物とは、金属不純物だけでなく、非金属不純物、特にケイ素、炭素、硫黄、モリブデン、鉄、クロムおよびニッケルならびにその化合物をも意味する。
【0015】
化学的純度は、結晶学的純度と区別されなければならない。本願において、結晶学的純度とは、目的の化合物、ここではオキシテトラクロロタングステン(VI)の結晶相に対する不要な化合物の結晶相の比を意味する。ここで、結晶相の比は、例えばX線回折パターンにおける様々な相の強度を用いて決定することができる。適切な記録は、例えばMalvern-PANalytical社の装置(半導体検出器を備えたX’Pert-MPD、40KV/40mA、Niフィルタを備えたCu LFF X線管)を用いて粉末試料について行うことができる。
【0016】
前述の化学的不純物の他に、従来のオキシテトラクロロタングステン(VI)は、例えばWCl6などのさらなる化合物、および任意にいわゆる二次相としてさらなるタングステン酸化物を有する場合がある。これらの酸化物は主に、類似の酸化物であるWO2Cl2、WO3およびWO2であり、これらは、オキシテトラクロロタングステン(VI)とは異なる結晶構造を有し、X線回折法により検出可能である。特に好ましい実施形態では、本発明によるオキシテトラクロロタングステン(VI)は、さらなるタングステン化合物を実質的に含まず、特にさらなるタングステン酸化物化合物を含まない。好ましくは、本発明によるオキシテトラクロロタングステン(VI)は、WCl6、WO2Cl2、WO3およびWO2からなる群から選択される化合物を実質的に含まない。上記のようなさらなる化合物の割合は、オキシテトラクロロタングステン(VI)主要相と前述の二次相との強度比により定義することができる。主要相および二次相は、X線回折パターンにおけるそれらの反射強度によって確認することができ、これは、X線回折パターンにおいて角度[2θ°]あたりのインパルスとして示される。特に好ましい実施形態では、二次相の最も高い強度を有する反射(I(P2)100)と、オキシテトラクロロタングステン(VI)主要相の最も高い強度を有する反射(I(WOCl4)100)との比はI(P2)100/I(WOCl4)100と表され、これはそれぞれX線回折法によって測定した場合に、好ましくは0.02未満、特に好ましくは0.001~0.02、特に0.001~0.01である。本発明によるオキシテトラクロロタングステン(VI)が、WCl6、WO2Cl2、WO3およびWO2からなる群から選択されかつ本発明において二次相と称される化合物を実質的に含まないとみなされるのは、上記で定義した主要相と二次相との比が0.001以下の場合である。さらなる好ましい実施形態では、二次相は検出されない。ここで、さらなるタングステン化合物の割合は、ここではX線回折法によって確認され、例えばMalvern-PANalytical社の装置(半導体検出器を備えたX’Pert-MPD、40KV/40mA、Niフィルタを備えたCu LFF X線管)を用いて粉末試料について測定される。
【0017】
好ましい実施形態では、本発明によるオキシテトラクロロタングステン(VI)は、99.99%以上、好ましくは99.995%以上、特に好ましくは99.999%以上の化学的純度を有する。
【0018】
従来のオキシテトラクロロタングステン(VI)は、一般に、オキシテトラクロロタングステン(VI)のさらなる使用に悪影響を与えるおそれのある一連の化学的不純物を有する。これらの化学的不純物は、製造方法にもよるが、特にケイ素およびその化合物、硫黄およびその化合物、さらに炭素、モリブデンおよび鉄である。これに対して、本発明によるオキシテトラクロロタングステン(VI)は、不純物レベルが低いことが特徴的である。好ましい実施形態では、本発明によるオキシテトラクロロタングステン(VI)は、50ppm未満の量、好ましくは25ppm未満の量、特に好ましくは5ppm未満の量のケイ素および/またはケイ素化合物を含み、ここで、これらのデータはそれぞれ、オキシテトラクロロタングステン(VI)の全重量に対するものである。
【0019】
さらなる好ましい実施形態では、本発明によるオキシテトラクロロタングステン(VI)は、100ppm未満の量、好ましくは30ppm未満の量、特に好ましくは10ppm未満の量の硫黄および/または硫黄化合物を含み、ここで、これらのデータはそれぞれ、オキシテトラクロロタングステン(VI)の全重量に対するものである。
【0020】
ケイ素以外の金属不純物の割合は、全体として100ppm未満、好ましくは70ppm未満、特に好ましくは50ppm未満であり、ここで、これらのデータはそれぞれ、オキシテトラクロロタングステン(VI)の全重量に対するものである。金属不純物は、例えば、第2主族元素および第3主族元素、耐火性金属、特に鉄、クロム、ニッケルおよびモリブデンであり得る。特に好ましい実施形態では、本発明によるオキシテトラクロロタングステン(VI)は、オキシテトラクロロタングステン(VI)の全重量に対して、それぞれ20ppm未満、好ましくは10ppm未満、特に好ましくは5ppm未満のモリブデンおよび/またはその化合物の割合を有する。
【0021】
同様に好ましいのは、本発明によるオキシテトラクロロタングステン(VI)が、200ppm未満の量、好ましくは100ppm未満の量、特に好ましくは40ppm未満の量の炭素を含む実施形態であり、ここで、これらのデータはそれぞれ、オキシテトラクロロタングステン(VI)の全重量に対するものである。
【0022】
その高い化学的および結晶学的純度に加えて、本発明によるオキシテトラクロロタングステン(VI)はさらに、そのモルフォロジーを特徴とする。従来のオキシテトラクロロタングステン(VI)は一般に大きな針状結晶の形態で存在するのに対し、本発明によるオキシテトラクロロタングステン(VI)では、驚くべきことにこのモルフォロジーは観察できなかった。したがって、好ましい実施形態では、本発明によるオキシテトラクロロタングステン(VI)は微粉末の形態で存在し、光学顕微鏡法により測定した場合に全粉末粒子の90%が100μm以下、好ましくは70μm以下の粒子径を有し、ここで、粒子径は、粒子の最長寸法を表す。ここで、パーセンテージは、粉末粒子の総数に対するものである。驚くべきことに、本発明によるオキシテトラクロロタングステン(VI)の特定のモルフォロジーによって、さらなる適用におけるオキシテトラクロロタングステン(VI)の溶解キネティクスを改善することが可能であることが判明した。
【0023】
本発明によるオキシテトラクロロタングステン(VI)の特定のモルフォロジーによって、さらに、嵩密度(時には嵩比重とも呼ばれる)の明確な改善を達成することが可能であった。好ましい実施形態では、本発明によるオキシテトラクロロタングステン(VI)は、0.5g/cm3を超える嵩密度を有する。ここで、嵩密度ρSchは、式
ρSch=m/VSch
に従って、バルク重量mとバルク占有体積VSchとの比と定義され、ASTM B329-06に準拠して測定することができる。
【0024】
本発明のさらなる主題は、本発明によるオキシテトラクロロタングステン(VI)の製造方法である。本発明による方法は、第1のステップa)において金属タングステンを温度T(1)で塩素ガスおよび酸素と反応させ、得られた生成物混合物をさらなるステップb)において酸化剤の存在下にて温度T(2)で酸化させて、本発明によるオキシテトラクロロタングステン(VI)を得ることを特徴とする。
【0025】
ステップa)で使用される金属タングステンは、ASTM B822に準拠して測定した場合に、粒子径D90が300μm未満、好ましくは粒子径D90が150μm未満である金属粉末であることが好ましい。なお、ここでいう粒子径のD90値とは、規定値未満の粒子径を有する粒子の割合を示す。
【0026】
本発明による方法のステップa)の反応は、好ましくは600~1000℃の温度T(1)で実施される。
【0027】
特定の理論に縛られるものではないが、本発明による方法のステップa)において、タングステン金属と塩素ガスおよび酸素との反応により、オキシテトラクロロタングステン(VI)と塩化タングステン(VI)との混合物が生成されると本発明において想定される。本発明による方法において、驚くべきことに、さらなるステップにおいて、得られた塩化タングステン(VI)を選択的に酸化させてオキシテトラクロロタングステン(VI)とすることができ、それにより、高純度でかつ特定のモルフォロジーを有するオキシテトラクロロタングステン(VI)が得られることが判明した。
【0028】
本発明による方法はさらに、オキシテトラクロロタングステン(VI)を高い化学的および結晶学的純度で得ることができ、したがって、例えば昇華などのさらなる後処理ステップを省略できるという利点を提供する。したがって、さらなる精製ステップおよび/または操作ステップ、特に昇華および/または粉砕が省略される本発明による方法の実施形態が好ましい。特定の理論に縛られるものではないが、昇華、粉砕またはふるい分けなどの追加の操作ステップの省略は、本発明による方法ゆえに従来のオキシテトラクロロタングステン(VI)とは対照的に小粒子の形態で存在するオキシテトラクロロタングステン(VI)が得られることに寄与するものと想定される。
【0029】
ステップb)で使用される酸化剤は、好ましくは、酸素、水および水蒸気からなる群から選択される。本発明による方法のステップb)において使用される特に好ましい酸化剤は、水または水蒸気である。好ましくは、本発明による方法のステップb)において酸化剤として水を使用する場合、酸化は、20%~80%、好ましくは40%~60%の相対大気湿度で行われる。
【0030】
塩化タングステン化合物の酸化は、従来は300℃以上の温度で行われる。本発明による方法において驚くべきことに、酸化を、例えばWO2Cl2やWO3などのより高次の酸化物またはオキシ塩化物が生成されることなく、また特に酸化剤として水を使用する場合に収率を損なうことなく、著しくより低い温度でも行えることが判明した。したがって、ステップb)における酸化が、0~80℃、好ましくは0~60℃の温度T(2)で、好ましくは5分~50時間にわたって行われる本方法の実施形態が好ましい。
【0031】
さらに、一般的な予想に反して、タングステン金属と酸素および塩素ガスとの反応を、タングステン金属に対して酸素がサブストイキオメトリ(unterstoechiometrischen)の比である雰囲気で行うことが有利であることが実証された。したがって、ステップa)における酸素がサブストイキオメトリの比で使用される実施形態が好ましい。好ましくは、本発明による方法のステップa)におけるタングステン金属に対する酸素のストイキオメトリ比(stoechiometrische Verhaeltnis)は、0.85~0.97であり、特に好ましくは0.85~0.9である。
【0032】
オキシテトラクロロタングステン(VI)の先行技術で知られている一連の製造方法は、有機化合物、特に有機硫黄化合物および有機ケイ素化合物の使用に基づくものである。本発明において、驚くべきことに、健康に有害なものもあるそのような化合物を使用しなくても、穏やかな条件下で高純度のオキシテトラクロロタングステン(VI)を得ることができることが判明した。したがって、本発明による方法において硫黄化合物および/またはケイ素化合物および/または塩素化炭化水素を使用しない本発明による方法の実施形態が好ましい。
【0033】
本発明による方法により製造されたオキシテトラクロロタングステン(VI)は、その純度の点のみならず、特にそのモルフォロジーの点でも、従来の方法によって製造されたオキシテトラクロロタングステン(VI)とは異なるものである。したがって、本発明のさらなる主題は、本発明による方法により製造されたオキシテトラクロロタングステン(VI)である。本発明による方法により製造されたオキシテトラクロロタングステン(VI)の特徴は、光学顕微鏡法により測定した場合に全粒子の90%が100μm以下、好ましくは70μm以下の粒子径を有することである。ここで、パーセンテージは、粒子の総数に対するものである。ここで、粒子径は、粒子の最長寸法を表す。
【0034】
本発明のさらなる主題は、本発明によるオキシテトラクロロタングステン(VI)、または本発明による方法により得られたオキシテトラクロロタングステン(VI)の、化学反応における触媒としての、特に官能性炭化水素の製造における触媒としての、半導体産業における、および/またはゾルゲルプロセスにおける、特にエレクトロクロミックコーティングの製造のための、使用である。
【0035】
本発明は、以下の実施例および図面をもとにより詳細に説明されるが、これらは、発明の思想を何ら限定するものではないと理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】比較例1のオキシテトラクロロタングステン(VI)のX線回折パターンを示す図。
【
図2】比較例1のオキシテトラクロロタングステン(VI)の光学顕微鏡写真を示す図。
【
図3】比較例2のオキシテトラクロロタングステン(VI)のX線回折パターンを示す図。
【
図4】比較例2のオキシテトラクロロタングステン(VI)の光学顕微鏡写真を示す図。
【
図5】比較例3のオキシテトラクロロタングステン(VI)のX線回折パターンを示す図。
【
図6】本発明による試験4.0の中間体のX線回折パターンを示す図。
【
図7】本発明による試験4.0の中間体の光学顕微鏡写真を示す図。
【
図8】本発明による試験4.2の生成物のX線回折パターンを示す図。
【
図9】本発明による試験4.2の生成物の光学顕微鏡写真を示す図。
【0037】
実施例
1.比較例1
以下の反応式に従ってオキシテトラクロロタングステン(VI)を製造した。
【0038】
WCl6+Me3Si-O-SiMe3→WOCl4+2Me3SiCl(比較例1)
【0039】
得られたオキシテトラクロロタングステン(VI)の化学的純度、検出された結晶相、粒子径、および嵩比重を含む分析を表1にまとめた。
【0040】
得られたオキシテトラクロロタングステン(VI)のX線回折パターンを示す
図1から明らかなように、目的化合物だけでなく、WO
2Cl
2の割合も顕著に存在していた。
【0041】
図2aおよび
図2bは、比較例1の式に従って製造されたオキシテトラクロロタングステン(VI)の光学顕微鏡写真を示し、ここで、結晶の針状形態がはっきりとわかり、また100μm未満のサイズを有するのは全粒子の40%未満である。
【0042】
2.比較例2
さらなる比較例として、以下の反応式に従ってオキシテトラクロロタングステン(VI)を製造した。
【0043】
WO3+2SOCl2→WOCl4+2SO2(比較例2)
【0044】
得られたオキシテトラクロロタングステン(VI)の化学的純度、検出された結晶相、粒子径、および嵩比重を含む分析を表1にまとめた。
【0045】
生成物のX線回折パターンから、目的のオキシテトラクロロタングステン(VI)とともに、副生成物としてWO
2Cl
2が存在することがわかる(
図3)。
【0046】
図4は、比較例2の式に従って製造されたオキシテトラクロロタングステン(VI)の光学顕微鏡写真を示し、ここで、結晶の針状形態がはっきりとわかり、また100μm未満のサイズを有するのは全粒子の10%未満である。
【0047】
3.比較例3
さらなる比較として、以下の反応式に従って、800℃での一段反応でオキシテトラクロロタングステン(VI)を製造した。
【0048】
W+2Cl2+0.5O2→WOCl4(比較例3)
【0049】
得られたオキシテトラクロロタングステン(VI)の化学的純度、検出された結晶相、粒子径、および嵩比重を含む分析を表1にまとめた。
【0050】
得られたオキシテトラクロロタングステン(VI)は、目的のオキシテトラクロロタングステン(VI)の他にさらに著量のWCl
6およびWO
2Cl
2を含むX線回折パターン(
図5)を示す。この試験ではWO
2Cl
2が主要相であり、オキシテトラクロロタングステン(VI)は二次相に過ぎないことに留意する必要がある。同一条件下での再現試験では、X線回折分析により、これら3つの化合物の量比が変動して出現することが確認された。一段反応では、純相のオキシテトラクロロタングステン(VI)を製造することはできなかった。
【0051】
比較例3の式に従って製造されたオキシテトラクロロタングステン(VI)の光学顕微鏡写真でも、結晶の針状形態がはっきりとわかり、また100μm未満のサイズを有するのは全粒子の50%未満であった。
【0052】
【0053】
4.本発明による実施例
オキシテトラクロロタングステン(VI)を本発明により二段法で製造し、その際、第1のステップa)において、150μm未満の粒子径D90を有するタングステン金属粉末を、Cl2ガス流中にて800℃で、使用したタングステンの量に対して0.85のストイキオメトリ比の酸素の添加下に反応させた。
【0054】
得られた反応生成物は、酸素のサブストイキオメトリ添加(ストイキオメトリ比0.85)により、目的のオキシテトラクロロタングステン(VI)の他に、さらに著量のWCl6を含んでいた。
【0055】
このWOCl4とWCl6との生成物混合物を、異なる酸化条件下で本発明による方法のステップb)に従って反応させて、本発明によるオキシテトラクロロタングステン(VI)を得た。ここで、酸化条件、および試験4.1~試験4.8で製造した粉末の関連分析結果をすべて表2にまとめた。酸化は、水を入れた空調キャビネット内で行い、このキャビネットでは、表2に示すように相対大気湿度および温度を制御した。
【0056】
得られたオキシテトラクロロタングステン(VI)の化学的純度、検出された結晶相、粒子径および嵩比重を含む分析は、表2の試験4.0以下から明らかである。
【0057】
【0058】
図6は、試験4.0の、ステップa)の後に得られた中間体のX線回折パターンを示す。このパターンから明らかなように、前述の化合物WOCl
4およびWCl
6以外のさらなるタングステン化合物は存在しない。
【0059】
図7は、ステップa)の後の生成物の光学顕微鏡写真を示す。従来の製造方法とは異なり、粉末は針状結晶の形態ではない。粉末粒子の総数の95%超の粒子径は、粒子の最も長い長手方向の寸法に関して100μm未満である。
【0060】
図8は、試験4.2の、ステップb)の後に得られた生成物のX線回折パターンを示す。このパターンから明らかなように、WCl
6の完全な酸化が行われ、目的のWOCl
4が得られた。
【0061】
図9の光学顕微鏡写真で示されるように、オキシテトラクロロタングステン(VI)のモルフォロジーは、酸化によって何ら影響を受けていない。試験4.2の最終生成物においても、オキシテトラクロロタングステン(VI)は、粉末粒子の総数の95%超が100μm未満の粒子径を有する小粒子の形態で存在していた。
【0062】
表2から明らかなように、試験4.1~試験4.6において、特に本発明による方法の第2のステップにおける酸化条件の制御により、99.95%を超える化学的純度を有し、かつ二次相が検出されないか、またはI(P2)100/I(WOCl4)100の比が0.03未満である本発明によるオキシテトラクロロタングステン(VI)を製造することができた。試験4.7および試験4.8のように、酸化の有利なプロセス範囲から逸脱した場合、急速に増加する量のWO2Cl2が形成され、これは、I(P2)100/I(WOCl4)100の比の増加により視認することができる。
【0063】
結晶性タングステン化合物の割合をX線回折法によって確認し、例えばMalvern-PANalytical社の装置(半導体検出器を備えたX’Pert-MPD、40KV/40mA、Niフィルタを備えたCu LFF X線管)を用いて粉末試料について測定する。X線回折パターンの定性分析では、確認された反射を、文献から知られているタングステン化合物の反射に割り当てた。
【0064】
化学的不純物の微量分析を、次の分析機器PQ 9000 (Analytik Jena)またはUltima 2(Horiba)を用いたICP OESによって行った。化学的純度の確認は、タングステン、塩素および酸素の元素のみを含む100重量%の仮想的な不純物不含の試料と、すべての金属、非金属およびSiを含む残りのすべての元素を含む全不純物の合計との、重量%単位での差として算術的に求められる。
【国際調査報告】