(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-07
(54)【発明の名称】負極、並びにそれを含む電気化学装置及び電子装置
(51)【国際特許分類】
H01M 4/48 20100101AFI20230228BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20230228BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20230228BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20230228BHJP
H01M 4/64 20060101ALI20230228BHJP
【FI】
H01M4/48
H01M4/62 Z
H01M4/66 A
H01M4/36 C
H01M4/64 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022540790
(86)(22)【出願日】2020-01-02
(85)【翻訳文提出日】2022-08-12
(86)【国際出願番号】 CN2020070130
(87)【国際公開番号】W WO2021134755
(87)【国際公開日】2021-07-08
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513054978
【氏名又は名称】寧徳新能源科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】Ningde Amperex Technology Limited
【住所又は居所原語表記】No.1 Xingang Road, Zhangwan Town, Jiaocheng District, Ningde City, Fujian Province, 352100, People’s Republic of China
(74)【代理人】
【識別番号】100166338
【氏名又は名称】関口 正夫
(72)【発明者】
【氏名】王 超
(72)【発明者】
【氏名】▲りょう▼ 群超
(72)【発明者】
【氏名】崔 航
(72)【発明者】
【氏名】謝 遠森
【テーマコード(参考)】
5H017
5H050
【Fターム(参考)】
5H017AA03
5H050AA07
5H050AA15
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB11
5H050DA10
5H050DA11
5H050EA10
5H050EA23
5H050EA24
5H050HA00
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA04
5H050HA13
(57)【要約】
本発明は、負極、並びに当該負極を含む電気化学装置及び電子装置に関するものである。負極は、負極集電体及び負極活物質層を含み、且つ、負極活物質層は、ケイ素系材料を含む。ここで、負極活物質層の総重量に対するケイ素系材料の重量比Rと負極集電体の絶対強度σが公式:K=σ/((1.4×R+0.1))を満たし、ここで、Kは関係係数であり、且つ関係係数は、4000N/m以上である。本発明の電気化学装置は、上記の負極を採用することで、負極活物質層のXY膨張及び歪みを効果的に改善することができ、それによって、電気化学装置のサイクル特性及び安全特性を向上させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極集電体、及び、負極活物質層を含み、
前記負極活物質層は、ケイ素系材料を含み、
前記負極活物質層の総重量に対する前記ケイ素系材料の重量比Rと前記負極集電体の絶対強度σが公式:K=σ/((1.4×R+0.1))を満たし、
Kは関係係数であり、且つ前記関係係数は、4000N/m以上である、負極。
【請求項2】
前記負極集電体の前記絶対強度は、500N/m以上である、請求項1に記載の負極。
【請求項3】
前記負極集電体の厚みは、1μm~15μmである、請求項1に記載の負極。
【請求項4】
前記ケイ素系材料は、一般式M
ySiO
xで表される成分の一種または多種のケイ素酸素材料を含み、
0≦y≦4、0≦x≦4、且つ、Mは、Li、Mg、Ti、及びAlの少なくとも一種を含む、請求項1に記載の負極。
【請求項5】
前記ケイ素酸素材料の一次粒子のX線回折測定による回折パターンにおいて、20.5°~21.5°範囲内に帰属する第1ピークの強度をI
1とし、28.0°~29.0°範囲内に帰属する第2ピークの強度をI
2とすると、0<I
2/I
1≦10を満たす、請求項4に記載の負極。
【請求項6】
前記負極活物質層の総重量に対する前記ケイ素系材料の前記重量比は、1%~70%である、請求項1に記載の負極。
【請求項7】
前記負極活物質層は、さらにバインダー及び導電剤を含み、
前記バインダーは、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸カリウム、ポリアクリル酸リチウム、ポリイミド、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリイミド、ポリアミドイミド、スチレンブタジエンゴム、及びポリフッ化ビニリデンのうちの少なくとも一種を含み、且つ、
前記導電剤は、導電カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンファイバー、及びケッチェンブラックのうちの少なくとも一種を含む、請求項1に記載の負極。
【請求項8】
前記負極集電体は、銅箔、ニッケル箔、チタン箔、クロム箔、及びステンレス鋼箔のうちの少なくとも一種を含む、請求項1に記載の負極。
【請求項9】
前記ケイ素系材料は、さらに被覆層を含み、
前記被覆層は、炭素材料、及び高分子材料のうちの少なくとも一種を含み、
ここで、前記炭素材料は、アモルファスカーボン、カーボンナノチューブ、カーボンナノ粒子、気相成長炭素繊維、及びグラフェンのうちの少なくとも一種を含み、且つ、
前記高分子材料は、ポリフッ化ビニリデン又はその誘導体、カルボキシメチルセルロース又はその誘導体、カルボキシメチルセルロースナトリウム又はその誘導体、ポリビニルピロリドン又はその誘導体、ポリアクリル酸又はその誘導体、及びポリスチレンブタジエンゴムのうちの少なくとも一種を含む、請求項1に記載の負極。
【請求項10】
正極、
セパレータ、及び、
請求項1~9のいずれかに記載の負極を含む、電気化学装置。
【請求項11】
請求項10に記載の電気化学装置を含む、電子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー貯蔵分野に関するものであり、特に、負極、並びに当該負極を含む電気化学装置及び電子装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モバイル電子技術の急速な発展に伴い、携帯電話、タブレット、ノートパソコン、ドローンなどのようなモバイル電子装置が使用される頻度や、使用体験に対する要求がますます高まっている。従って、電子装置にエネルギーを提供する電気化学装置(例えば、リチウムイオン電池)は、より高いエネルギー密度、より大きいレート、より高い安全性、及び繰り返し充放電過程後のより小さい容量低下を示さなければならない。
【0003】
電気化学装置分野において、負極活物質として高エネルギー密度の材料を採用することは、主な研究テーマの一つである。しかしながら、高エネルギー密度を有する材料(例えば、ケイ素系材料)は、通常、電気伝導度が低すぎ、膨張率が高すぎ、加工性が十分でないなどのような、従来のセル構造と不整合である問題がある。従って、負極活物質として高エネルギー密度の材料を採用する電気化学装置に対して、そのセル構造(例えば、負極、セパレータ、及び正極)の改善及び最適化は、目前に迫っている研究問題である。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、負極、並びに、当該負極を含む電気化学装置及び電子装置を提供することで、少なくともある程度に、関連分野に存在する少なくとも一つの問題を解決することを意図する。
【0005】
本発明の一態様によれば、本発明は、負極集電体と、ケイ素系材料を含む負極活物質層とを含む負極を提供する。負極活物質層の総重量で、ケイ素系材料の重量比Rと負極集電体の絶対強度σが公式:K=σ/((1.4×R+0.1))を満たし、ここで、Kは関係係数であり、且つ関係係数は、約4000N/m以上である。
【0006】
本発明に係わる負極は、ケイ素系材料の重量比と負極集電体の絶対強度との関係を限定することで、負極活物質層の充放電サイクル過程におけるXY膨張、及び歪みを効果的に抑制し、ひいては電気化学装置のサイクル膨張率を低減させ、サイクル特性及び安全特性を向上させることができる。
【0007】
本発明のもう一つの態様によれば、本発明は、正極、セパレータ、及び上記の負極を含む電気化学装置を提供する。
【0008】
本発明のもう一つの態様によれば、本発明は、上記の電気化学装置を含む電子装置を提供する。
【0009】
本発明の実施例の追加の態様および利点は、部分的に後続の記載に説明され、示されるか、または本発明の実施例の実施を通じて解釈される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
以下では、本発明の実施例を説明するために、本発明の実施例または先行技術を説明するための必要な図面を概略に説明する。明らかに、以下に説明される図面は、本発明の実施例の一部にすぎないことは自明である。当業者にとって、創造的な労力をかけない前提で、依然としてこれらの図面に例示される構造により他の実施例の図面を得ることができる。
【
図1】
図1は、本発明の実施例1及び実施例6のサイクル容量曲線図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施例1及び実施例6におけるリチウムイオン電池のサイクル膨張率曲線図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施例16のX線回折図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施例19のX線回折図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施例を詳しく説明する。本発明の明細書では、同じまたは類似な部件、並びに、同じまたは類似な機能を備えた部件は、類似な符号で示される。本発明に記載された、図面と関連する実施例は、例示用、図解用であり、本発明を概に理解するために使用される。本発明の実施例は、本発明を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0012】
本文に使用されたように、用語「おおよそ」、「大体」、「実質」および「約」は小さな変化を叙述及び説明する。事件又は状況と合わせて用いられる場合、当該用語は、その事件又は状況が正確に発生する例及びその事件又は状況に極めて近似して発生する例を指す。例を挙げると、数値と合わせて用いられる場合、用語は、当該数値の±10%以下の変化範囲を指すことができ、例えば、±5%以下、±4%以下、±3%以下、±2%以下、±1%以下、±0.5%以下、±0.1%以下、又は±0.05%以下である。例を挙げると、2つの数値の差が当該数値の平均値の±10%以下(例えば、±5%以下、±4%以下、±3%以下、±2%以下、±1%以下、±0.5%以下、±0.1%以下、又は±0.05%以下)である場合、2つの数値は「大体」同じであると考えられる。
【0013】
本明細書において、別に断らない限り、「中央の」、「縦の」、「側面の」、「前方の」、「後方の」、「右方の」、「左方の」、「内部の」、「外部の」、「低い方の」、「高い方の」、「水平の」、「垂直の」、「より高い」、「より低い」、「上方の」、「下方の」、「頂部の」、「底部の」、およびこれらより派生された単語(例えば「水平に」、「下を向いて」、「上を向いて」など)という相対位置を表す単語は、説明に記載されたまたは図面に描かれた方向と解釈すべきである。これらの相対位置を表す単語は、説明上の便利を図るだけのものであり、本発明を特定の方向で構築または操作するとは要求しない。
【0014】
なお、本文において、範囲の形式で量、比率及びその他の数値を表すことがある。このような範囲形式は、便利及び簡潔のために用いられ、円滑に理解されるべき、範囲制限に指定される明確的な数値を含むだけでなく、各数値及びサブ範囲を明確に指定しているように、当該範囲内の全ての個別の数値又はサブ範囲を含むことを、理解すべきである。
【0015】
具体的な実施形態及び請求の範囲において、用語「のうちの少なくとも一方」、「のうちの少なくとも一つ」、「のうちの少なくとも一種」、又は、他の類似な用語で接続される項目のリストは、リストされる項目の任意の組み合わせを意味する。例えば、項目A及びBがリストされると、フレーズ「A及びBのうちの少なくとも一つ」は、Aのみ、Bのみ、又は、A及びBを意味する。他の実例では、項目A、B、及びCがリストされている場合、フレーズ「A、B、及びCのうちの少なくとも一方」は、Aのみ、Bのみ、Cのみ、A及びB(Cを除く)、A及びC(Bを除く)、B及びC(Aを除く)、又は、A、B、及びCのすべてを意味する。項目Aは一つの要素又は複数の要素を含んでもよい。項目Bは一つの要素又は複数の要素を含んでもよい。項目Cは一つの要素又は複数の要素を含んでもよい。
【0016】
電気化学装置の分野において、より高いエネルギー密度がある電気化学装置を求めるために、より高いグラム容量がある負極活物質に代えることは、研究テーマの一つである。ケイ素は高い理論グラム容量(4200mAh/g)を有し、リチウムイオン電池での適用が、広々とした前途がある。ここで、中国特許CN107925074Aでは、ある程度不均化のケイ素系材料(SiOX,0≦x)結晶を負極活物質とすることで、リチウムイオン電池の初回充放電効率及びサイクル特性を効果的に向上させることを開示した。中国特許公開番号がCN107925074Aである中国特許出願では、ケイ素系材料を負極活物質とする具体実施例を例示し、その全内容を援用して本願に取り込まれる。しかしながら、ケイ素系材料は、充放電サイクルにおけるリチウム吸蔵の過程では、大きい体積膨張が発生し、負極集電体に大きい作用力を与えるため、負極にXY膨張及び構造の歪みを引き起こす。
【0017】
中国特許CN103579578Bでは、銅箔集電体の引張強度及び厚みを限定することで、負極の充放電過程における延長を抑制する。しかし、引張強度の高い銅箔集電体は、銅箔の厚みが厚すぎ、負極の構造が硬すぎるとの問題を招来するため、リチウムイオン電池のエネルギー密度の低下、及び加工性能の低下を引き起こす。
【0018】
上記のように、中国特許公開番号がCN107925074Aである中国特許出願では、ケイ素系材料を負極活物質とする具体実施例を例示し、その全内容を援用して本願に取り込む。中国特許公開番号がCN103579578Bである中国特許出願では、引張強度の異なる銅箔集電体の具体実施例を例示し、その全内容を援用して本願に取り込まれる。
【0019】
本発明において、用語「XY膨張」は、負極活物質層が負極集電体表面と水平な方向への体積膨張を表す。
【0020】
本発明は、負極におけるケイ素系材料の含有量と負極集電体の絶対強度との関係を限定することで、負極集電体の強度をケイ素系材料の膨張による応力強度より大きくさせて、負極体積膨張に対する負極集電体の許容性を向上させる。
【0021】
本発明の一態様によれば、本発明は、負極集電体及び負極活物質層を含む負極を提供する。負極活物質層はケイ素系材料を含み、負極活物質層の総重量で、ケイ素系材料の重量比Rと負極集電体の絶対強度σが公式:K=σ/((1.4×R+0.1))を満たし、ここで、Kは関係係数であり、且つ関係係数は、4000N/m以上である。他のいくつかの実施例において、関係係数は約4000N/mである。他のいくつかの実施例において、関係係数はおおよそ、例えば、約4500N/m、約5000N/m、約5500N/m、約6000N/m、約6500N/m、約7000N/m、またはこれらの数値のうちの任意の二つからなる範囲である。本発明の負極は、負極活物質層のXY膨張を効果的に抑制し、負極構造の歪みを低減させ、電気化学装置のサイクル寿命を延長させることができる。
【0022】
本発明において、用語「絶対強度」は、「極限強度」又は「破壊応力」とも称され、物体が外力を受けたときに歪み、伸長、または破断が発生せずに耐えられる最大の応力を表す。
【0023】
いくつかの実施例において、負極集電体の絶対強度は、約500N/m以上である。他のいくつかの実施例において、負極集電体の絶対強度はおおよそ、例えば、約500N/m、約600N/m、約700N/m、約1000N/m、約1500N/m、約2000N/m、約2600N/m、またはこれらの数値のうちの任意の二つからなる範囲である。他のいくつかの実施例において、負極集電体の絶対強度は、約1000N/m~約2600N/mである。
【0024】
いくつかの実施例において、負極集電体の厚みは、約1μm~約15μmである。他のいくつかの実施例において、前記負極集電体の厚みは、おおよそ、例えば、約1μm、約2μm、約3μm、約5μm、約10μm、約12μm、約15μm、または、これらの数値のうちの任意の二つからなる範囲である。他のいくつかの実施例において、負極集電体の厚みは、約3μm~約10μmである。
【0025】
いくつかの実施例において、負極集電体は、銅箔、ニッケル箔、チタン箔、クロム箔、及びステンレス鋼箔のうちの少なくとも一種を含む。本発明の趣旨を逸脱しない場合、当業者が、具体的な需要に応じて負極集電体としていずれかの一般的な導電箔を制限されずに選択できることを、理解すべきである。
【0026】
いくつかの実施例において、ケイ素系材料は、ケイ素単体、ケイ素酸素材料、シリコンカーボン、及びケイ素合金のうちの一種または多種を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施例において、ケイ素系材料は、一般式MySiOxで表される成分の一種または多種のケイ素酸素材料を含み、ここで、0≦y≦4、0≦x≦4、且つ、Mは、Li、Mg、Ti、及びAlの少なくとも一種を含む。
【0027】
ケイ素酸素材料のX線回折測定(X-raydiffraction,XRD)によるXRD回折パターンにおいて、28.0°~29.0°範囲内に帰属する第2ピークの強度I2と20.5°~21.5°範囲内に帰属する第1ピークの強度I1との比I2/I1は、ケイ素酸素材料が不均化を受ける影響の程度を表す。第2ピークの強度I2と第1ピーク強度I1との比I2/I1が大きいほど、ケイ素酸素材料の内部で発生したSiO不均化によって生成されたナノケイ素結晶粒子のサイズが大きいことを表す。いくつかの実施例において、ケイ素酸素材料の第2ピークの強度I2と第1ピークの強度I1との比I2/I1が0超10以下である。他のいくつかの実施例において、ケイ素酸素材料の第2ピークの強度I2と第1ピークの強度I1との比I2/I1が1以下である。
【0028】
いくつかの実施例において、負極活物質層は、さらに炭素系材料、金属化合物、硫化物、リチウムの窒化物(例えば、LiN3)、リチウム金属、リチウムとともに合金を形成する金属、及びポリマー材料などのリチウムを吸蔵及び放出できる負極活物質を含むが、これらに限定されない。炭素材料の例は、低黒鉛性炭素、易黒鉛性炭素、人工黒鉛、天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ、ソフトカーボン、ハードカーボン、熱分解炭素、コークス、ガラス状炭素、有機ポリマー化合物焼結体、カーボンファイバー、および活性炭を含む。いくつかの実施例において、負極活物質層はさらに炭素系材料を含む。
【0029】
いくつかの実施例において、負極活物質層の総重量で、ケイ素系材料の重量比は、約1%~約70%である。他のいくつかの実施例において、ケイ素系材料の重量比はおおよそ、例えば、約1%、約5%、約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、または、これらの数値のうちの任意の二つからなる範囲である。他のいくつかの実施例において、負極活物質層の総重量で、ケイ素系材料の重量比は約10%~約40%である。
【0030】
いくつかの実施例において、前記負極活物質層は、さらにバインダー及び導電剤を含み、ここで、バインダーは、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸カリウム、ポリアクリル酸リチウム、ポリイミド、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリイミド、ポリアミドイミド、スチレンブタジエンゴム、及びポリフッ化ビニリデンのうちの少なくとも一種を含み、且つ、導電剤は、導電カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンファイバー、及びケッチェンブラックのうちの少なくとも一種を含む。
【0031】
当業者が実際の需要に応じて、当分野のいずれかの一般的なバインダー又は導電剤を制限されずに選択して添加できることを、理解すべきである。
【0032】
いくつかの実施例において、負極活物質層におけるケイ素系材料は、さらに被覆層を含む。ケイ素系材料に、炭素材料又はポリマー材料による被覆を行うことで、被覆層は、ケイ素系材料がリチウムを吸蔵する時の膨張を制限するとともに、体積変化の緩衝層として、負極の構造安定性を向上させることができる。同時に、被覆層は、リチウムを吸蔵する過程中にケイ素系材料と電解液との直接接触を効果的に避けることができるため、負極表面の固体電解質界面(Solidelectrolyteinterface,SEI)膜の形成を安定化させ、不可逆な容量損失を低減し、リチウムイオン電池のサイクル特性を向上させることができる。また、導電性の高い被覆層は、ケイ素系材料の表面導電性を効果的に向上させ、負極材料の電子伝導性及びイオン伝導性を向上させ、リチウムイオン電池のレート特性を向上させることができる。
【0033】
いくつかの実施例において、被覆層は、炭素材料及び高分子材料のうちの少なくとも一種を含み、ここで、炭素材料は、アモルファスカーボン、カーボンナノチューブ、カーボンナノ粒子、気相成長炭素繊維、及びグラフェンのうちの少なくとも一種を含む。そして、高分子材料は、ポリフッ化ビニリデン又はその誘導体、カルボキシメチルセルロース又はその誘導体、カルボキシメチルセルロースナトリウム又はその誘導体、ポリビニルピロリドン又はその誘導体、ポリアクリル酸又はその誘導体、及びポリスチレンブタジエンゴムのうちの少なくとも一種を含む。
【0034】
いくつかの実施例において、負極活物質層の厚みは、約50μm~約200μmである。
【0035】
いくつかの実施例において、負極活物質層の圧縮密度(compacted density)は、約1.4g/cm3~約1.9g/cm3である。
【0036】
本発明において、用語「圧縮密度」は、単位面積の集電体上における活物質の重量を、冷間圧延された活物質層の集電体の表面に垂直する方向での総厚みで除したものを指す。
【0037】
いくつかの実施例において、負極活物質層の孔隙率は、約15%~約35%である。
【0038】
いくつかの実施例において、本発明負極の調製方法は、以下のステップを含む。
【0039】
一定量のケイ素系材料及び石墨を取り、バインダー、導電剤と一定の重量比で混合した後に、脱イオン水に溶かして、均一に撹拌する。撹拌した後に、篩にかけ、混合スラリーを得る。混合スラリーを銅箔集電体上に塗布し、乾燥させる。乾燥させた後に、負極活物質層が得られるように冷間圧延処理を行って、そしてカット工程を経て、負極を得る。
【0040】
本発明実施例における負極の調製方法中の各ステップは、本発明の趣旨を逸脱しない場合、具体的な需要に応じて、当分野のその他の一般的な処理方法を制限されずに選択又は変更できることを、理解すべきである。
【0041】
本発明のもう一つの態様によれば、本発明のいくつかの実施例は、さらに本発明の負極を含む電気化学装置を提供する。いくつかの実施例において、電気化学装置はリチウムイオン電池である。リチウムイオン電池は、上記の実施例における負極、セパレータ、及び正極を含み、セパレータは、正極と負極との間に設置される。
【0042】
いくつかの実施例において、正極は正極集電体を含む。正極集電体は、アルミニウム箔又はニッケル箔であるが、当分野で一般的に使用されるその他の正極集電体及び負極集電体を、限制されずに使用してもよい。
【0043】
いくつかの実施例において、正極は、リチウム(Li)を吸蔵及び放出できる正極活物質を含む(以下、「リチウムLiを吸蔵/放出できる正極活物質」と称する場合がある)。リチウム(Li)を吸蔵/放出できる正極活物質の実例は、コバルト酸リチウム、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム、ニッケルコバルトアルミン酸リチウム、マンガン酸リチウム、リン酸マンガン鉄リチウム、リン酸バナジウムリチウム、リン酸バナジルリチウム、リン酸鉄リチウム、チタン酸リチウム、及びリチウム過剰マンガン系材料における一種又は多種を含む。
【0044】
上記の正極活物質において、コバルト酸リチウムの化学式は、LiyCoaM1bO2-cであってもよく、ここで、M1は、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ホウ素(B)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)、スズ(Sn)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、タングステン(W)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ジルコニウム(Zr)、及びケイ素(Si)のうちから選択される少なくとも一種を表し、y、a、b、及びc値はそれぞれ、0.8≦y≦1.2、0.8≦a≦1、0≦b≦0.2、-0.1≦c≦0.2の範囲内にある。
【0045】
上記の正極活物質において、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム、又はニッケルコバルトアルミン酸リチウムの化学式は、LizNidM2eO2-fであってもよく、ここで、M2は、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ホウ素(B)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)、スズ(Sn)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、タングステン(W)、ジルコニウム(Zr)、及びケイ素(Si)のうちから選択される少なくとも一種を表し、z、d、e、及びf値はそれぞれ、0.8≦z≦1.2、0.3≦d≦0.98、0.02≦e≦0.7、-0.1≦f≦0.2の範囲内にある。
【0046】
上記の正極活物質において、マンガン酸リチウムの化学式は、LiuMn2-gM3gO4-hであり、ここで、M3は、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ホウ素(B)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)、スズ(Sn)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、及びタングステン(W)のうちから選択される少なくとも一種を表し、z、g、及びh値はそれぞれ、0.8≦u≦1.2、0≦g<1.0、及び-0.2≦h≦0.2の範囲内にある。
【0047】
いくつかの実施例において、正極は、さらにバインダー及び導電剤のうちの少なくとも一種を含むことができる。当業者が実際の需要に応じて、当分野の一般的なバインダー及び導電剤を制限されずに選択できることを、理解すべきである。
【0048】
いくつかの実施例において、セパレータは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、およびアラミドのうちから選択される少なくとも一種を含むが、これらに限定されない。例を挙げると、ポリエチレンは、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、及び超高分子量ポリエチレンのうちの少なくとも一種の成分から選択される。特に、ポリエチレン及びポリプロピレンは、短絡の防止に優れた効果があり、そしてシャットダウン効果で電池の安定性を改善することができる。
【0049】
本発明のリチウムイオン電池は、さらに電解質を含み、電解質は、ゲル電解質、固体電解質、及び電解液のうちの一種または多種であってもよく、電解液はリチウム塩及び非水溶媒を含む。
【0050】
いくつかの実施例において、リチウム塩、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4、LiB(C6H5)4、LiCH3SO3、LiCF3SO3、LiN(SO2CF3)2、LiC(SO2CF3)3、LiSiF6、LiBOB、及びジフルオロボロン酸リチウムのうちの一種又は多種から選択される。例を挙げると、高いイオン導電率を与え、サイクル特性を改善することができるため、リチウム塩はLiPF6が用いられる。
【0051】
非水溶媒は、炭酸エステル化合物、カルボン酸エステル化合物、エーテル化合物、その他の有機溶媒またはこれらの組み合わせであってもよい。
【0052】
上記の炭酸エステル化合物は、鎖状炭酸エステル化合物、環状炭酸エステル化合物、フルオロ炭酸エステル化合物、またはこれらの組み合わせであってもよい。
【0053】
上記の他の有機溶媒の実例は、ジメチルスルホキシド、1,2-ジオキソラン、スルホラン、メチルスルホラン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N-メチル-2-ピロリドン、ホルムアミド、ジメチルメチルアミド、アセトニトリル、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリオクチル、およびリン酸エステル、並びにこれらの組み合わせである。
【0054】
いくつかの実施例において、非水溶媒は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、炭酸プロピレン、酢酸メチル、プロピオン酸エチル、フルオロエチレンカーボネート、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0055】
本発明の実施例における負極、正極、セパレータ、及びリチウムイオン電池の調製方法は、本発明の趣旨を逸脱しない場合、具体的な需要に応じて当分野のいずれかの適宜な一般的な方法を制限されずに選択できることを、理解すべきである。電気化学装置を調製する方法の一つの実施案において、リチウムイオン電池の調製方法は、上記の実施例における負極、セパレータ、及び正極を順に巻き取り、折り畳み、又は堆積して、電極群とし、電極群を、例えば、アルミニウムプラスチックフィルムに入れ、電解液を注液し、真空パッケージング、静置、フォーメーション、整形などの工程を経ることで、リチウムイオン電池が得られることを含む。
【0056】
前述では、リチウムイオン電池を例として説明しているが、本発明を読んだ後、当業者は、本発明の負極は他の適切な電気化学装置に使用することできると想到できる。このような電気化学装置は、電気化学反応を発生させるいずれかの装置を含み、その具体的な実例は、全ての種類の、一次電池、二次電池、燃料電池、太陽電池、又はキャパシタを含む。特に、その電気化学装置は、リチウム金属二次電池、リチウムイオン二次電池、リチウム重合体二次電池、又はリチウムイオン重合体二次電池を含むリチウム二次電池である。
【0057】
本発明のいくつかの実施例において、本発明の実施例における電気化学装置を含む電子装置がさらに提供する。
【0058】
本発明の実施例の電気化学装置は特に限定されなく、先行技術で既知された任意の電子装置に用いられてもよい。いくつかの実施例において、本発明の電子装置は、ノートコンピューター、ペン入力型コンピューター、モバイルコンピューター、電子ブックプレーヤー、携帯電話、携帯型ファクシミリ、携帯型コピー機、携帯型プリンター、ステレオヘッドセット、ビデオレコーダー、液晶テレビ、ポータブルクリーナー、携帯型CDプレーヤー、ミニディスク、トランシーバー、電子ノートブック、電卓、メモリーカード、ポータブルテープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、モーター、自動車、オートバイ、補助自転車、自転車、照明器具、おもちゃ、ゲーム機、時計、電動ツール、閃光灯、カメラ、大型家庭用ストレージバッテリー、及びリチウムイオンコンデンサーなどを含むが、これらに限定されない。
【0059】
具体的な実施例
以下では、いくつかの具体的な実施例を挙げて、その負極に単位重量及び圧縮密度に対する測定を行い、その電気化学装置(リチウムイオン電池)にサイクル特性測定、サイクル膨張率測定、及び放電レート測定を行うことで、本発明の技術案をより詳しく説明する。
【0060】
一、測定方法
絶対強度の測定方法:
測定範囲が0N~1000Nであり、精度が±1%である引張試験機、及び測定範囲が0mm~300mmであり、最小目盛りが0.02mmであるノギス、又は、対応する精度の測定器を採用した。測定物から長さ200土0.5mm、幅15±0.25mmの測定サンプルを切り出した。サンプルを採取する位置は、測定物の幅方向で、縦、横方向に沿ってそれぞれ2つの測定サンプルを取った。そして、測定サンプルを引張試験機に置き、ここで、治具距離は125±0.1mmであり、治具引張速度は50mm/minであり、且つ、試験温度は20±10℃であった。測定サンプルを切れるまで長手方向で連続的に負荷を与え、最大負荷Fを力測定ディスクまたは引張曲線から読み取り、絶対強度:σ=F/Lを計算し、ここで、Lは測定サンプルの幅であった。4つのサンプルの試験結果で算術平均値を取ることで、当該測定物の絶対強度を得た。
【0061】
レーザー粒度分析:
レーザー粒度測定は、サイズの異なる粒子がレーザーに強度の異なる散乱を発生させることができる原理で、粒子分布を測定するものであった。粒子の特性を表す主な指標には、Dn10、Dv10、Dv50、Dv90、Dv99などがあるが、ここで、Dv50は、粒度と称され、材料が体積基準の粒子分布において、小粒径側から、累積体積が50%になる粒子径であった。本発明実施例及び比較例は、Mastersizer2000レーザー粒度分布測定装置でサンプルの粒子の粒度を分析する。正極材料のサンプルを100mLの分散剤(脱イオン水)に分散させ、遮光度を8~12%にした。そして、超音波強度40KHz、180Wで、サンプルに5分間超音波処理した。超音波処理を行った後に、サンプルに対して、レーザー粒度分布分析を行い、粒度分布データを得た。
【0062】
X線回折の測定:
X線回折測定装置(ブルカー、D8)を使用し、「X線回折分析通則」規格:JJSK0131-1996により測定を行った。具体的な測定の設定は以下の通りであった。測定電圧は40kVであり、電流は30mAであり、スキャン角度範囲は10°~85°であり、スキャンステップ(step length of scanning)は0.0167°であり、各ステップに設置させる時間は0.24sであり、XRD回折パターンを得た。2θが28.0°~29.0°範囲内に帰属する最高強度数値I2、及び20.5°~21.5°範囲内に帰属する最高強度I1を記録することで、I2/I1の比を計算した。
【0063】
単位重量及び圧縮密度の測定:
測定する負極上の負極活物質層から、負極集電体の表面に沿って、面積が1540.25mm2の円形の活物質サンプルを得た。負極集電体を除去した後に、その負極活物質の重量を記録した。各グループは、12箇所の異なる位置の活物質サンプルを取り、負極活物質層の単位面積重量を計算した。
【0064】
負極集電体の表面に垂直する方向での負極上の負極活物質層の総厚み(集電体を除いた厚み)を測定した。各グループは、12箇所の異なる位置の活物質サンプルを取り、負極活物質層の圧縮密度を計算した圧縮密度=負極活物質の重量/負極集電体の表面に垂直する方向での総厚みである。
【0065】
サイクル特性測定:
25℃±2℃及び45℃±2℃の恒温器に、以下の実施例及び比較例におけるリチウムイオン電池をそれぞれ2時間静置し、0.7Cの定電流で4.4Vまで充電し、そして4.4Vの定電圧で0.02Cまで充電し、5分間静置し、さらに0.5Cの定電流で3.0Vまで放電する。これを一回の充放電サイクル過程とし、リチウムイオン電池の25℃±2℃及び45℃±2℃での初回サイクルの放電容量を記録し、そして上記の方法で充放電サイクル過程を繰り返し、毎回充放電サイクル過程の放電容量を記録し、そして初回サイクルの放電容量と比較して、サイクル容量曲線を得た。
【0066】
各グループは4つのリチウムイオン電池を取り、リチウムイオン電池の容量維持率の平均値を計算した。
【0067】
リチウムイオン電池の25℃サイクル維持率(%)=400回目のサイクルの放電容量(mAh)/初回サイクル後の放電容量(mAh)×100%。
【0068】
リチウムイオン電池の45℃サイクル維持率(%)=200回目のサイクルの放電容量(mAh)/初回サイクル後の放電容量(mAh)×100%。
【0069】
サイクル膨張率測定:
スパイラルマイクロメータで以下の実施例におけるリチウムイオン電池の、初回サイクル時に満充電状態下の厚み及び400回目のサイクル時に満充電状態下の厚みを測定した。リチウムイオン電池の、400回目のサイクルのサイクル厚み膨張率(%)=(400回目のサイクルの満充電厚み/初回満充電厚み-1)×100%。
【0070】
測定装置で、以下の実施例におけるリチウムイオン電池の、初回サイクル時に満充電状態下で分解された後の負極集電体表面と平行する負極活物質層の表面積、及び400回目のサイクル時に満充電状態下で分解された後の負極集電体表面と平行する負極活物質層の表面積を記録した。リチウムイオン電池の400回目のサイクルのXY膨張率(%)=(400回目のサイクルの負極活物質層の表面積/初回サイクルの負極活物質層の表面積-1)×100%。
【0071】
放電レート測定:
以下の実施例におけるリチウムイオン電池を25℃±2℃の恒温器に2時間静置し、0.2Cの定電流で3.0Vまで放電した。そして、0.5Cの定電流で、4.4Vまで充電し、そして4.4Vの定電圧で0.05Cまで充電し、5分間静置し、そして0.2Cの定電流で3.0Vまで放電した。リチウムイオン電池が0.2Cの定電流で放電する放電容量を記録した。
【0072】
さらに、リチウムイオン電池を0.5Cの定電流で4.35Vまで充電し、そして4.35Vの定電圧で0.05C満充電まで充電し、そして2.0Cの定電流で3.0Vまで放電した。リチウムイオン電池が2.0Cの定電流で放電する放電容量を記録した。
【0073】
各グループは4つのリチウムイオン電池で測定し、リチウムイオン電池の放電レートの平均値を計算した。放電レート=2.0Cの定電流で放電する放電容量(mAh)/0.2Cの定電流で放電する放電容量(mAh)。
【0074】
二、調製方法
正極の調製
コバルト酸リチウム(LiCoO2)、導電カーボンブラック、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を重量比96:2:2の割合でN-メチルピロリドン(NMP)溶液に溶かし、正極スラリーを形成した。アルミニウム箔を正極集電体とし、正極スラリーを正極集電体上に塗工し、乾燥、冷間圧延、カット工程を経て、正極が得られた。
【0075】
電解液の調製
含水量が10ppm未満の雰囲気で、ヘキサフルオロリン酸リチウム、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、及び非水有機溶媒(エチレンカーボネート(EC):ジメチルカーボネート(DMC):ジエチルカーボネート(DEC)=1:1:1、重量比)を、フルオロエチレンカーボネートの重量濃度が10wt%であり、且つ、ヘキサフルオロリン酸リチウムの濃度が1mol/Lである電解液を調製した。
【0076】
リチウムイオン電池の調製
ポリエチレン(PE)多孔質ポリマーフィルムをセパレータとして使用した。上記の正極、セパレータ、並びに以下の実施例及び比較例における負極を順に重ね合わせ、隔離のためのセパレータを正極と負極との間に置き、そして、電極モジュールに巻き取った。そして、当該電極モジュールをアルミニウムプラスチックフィルム包装袋に入れ、80℃で脱水した後、乾式電極モジュールが得られた。そして、上記の電解液を乾式電極モジュールに注液し、真空パッケージ、静置、フォーメーション、整形などの工程を経ることで、以下の各実施例及び比較例におけるリチウムイオン電池の調製を完了した。
【0077】
実施例1
ケイ素酸素材料であるSiOx(0.5≦x≦1.6)及び人造石墨を撹拌器に入れて混合することで、負極活物質を形成し、ここで、ケイ素酸素材料のX線回折測定によるI2/I1の比は0.38であった。そして、ポリアクリル酸、導電カーボンブラックを撹拌中の負極活物質(負極活物質、導電カーボンブラック、ポリアクリル酸の重量比は95:2:3である)に入れ、公転速度20回/分、自転速度1200回/分で60分間撹拌し、さらに脱イオン水を入れて120分間撹拌し、混合スラリーが得られ、ここで、ケイ素酸素材料SiOxの重量比は1%であった。
【0078】
銅箔を負極集電体とし、ここで、負極集電体の厚みは9μmであり、且つ、絶対強度は1800N/mであった。混合スラリーを負極集電体上に塗布し、乾燥させた。乾燥させた後、冷間圧延処理を行うことで、負極活物質層が得られ、ここで、負極活物質層の厚みは90μmであり、且つ、圧縮密度は1.75g/cm3であり,そしてカット工程を経て、負極が得られた。
【0079】
実施例2~8
実施例2~8におけるケイ素酸素材料SiOxの重量比は、順に7%、11%、15%、20%、30%、50%、70%であること以外、実施例1の調製方法と同様であった。
【0080】
実施例9~15
実施例9~15における負極集電体の厚みは、順に8μm、7μm、6μm、5μm、4μm、2.5μm、1μmであり、且つ、負極集電体の絶対強度は、順に1600N/m、1400N/m、1200N/m、1000N/m、800N/m、500N/m、200N/mであること以外、実施例3の調製方法と同様であった。
【0081】
実施例16~19
実施例16~19は、負極集電体として、順にニッケル箔、チタン箔、クロム箔、ステンレス鋼箔を採用すること以外、実施例3の調製方法と同様であった。
【0082】
実施例20~23
実施例20~23は、ケイ素酸素材料のX線回折測定によるI2/I1の比が順に0.41、0.64、1、2.5であること以外、実施例3の調製方法と同様であった。
【0083】
実施例24~27
実施例24~27は、ケイ素酸素材料に順に金属元素リチウム、マグネシウム、チタン、アルミニウムをドープし、且つ、実施例24~27における金属元素ドープの量が負極材料に占める重量比がそれぞれ、1.17%、2%、2%、1.5%であること以外、実施例3の調製方法と同様であった。
【0084】
以上の実施例及び比較例における負極に単位重量及び圧縮密度の測定を行った。そして、リチウムイオン電池にサイクル特性測定、サイクル膨張率測定、及び放電レート測定を行い、その測定結果を記録した。
【0085】
実施例1~27における負極及びリチウムイオン電池の統計数値、及びサイクル特性測定、サイクル膨張率測定、放電レート測定による結果は表1に示す。
【0086】
【0087】
表1に示されたように、本発明の実施例1~5、9~12、16~27におけるリチウムイオン電池において、負極活物質層の総重量で、負極におけるケイ素系材料の重量比Rと負極集電体の絶対強度σが公式:K=σ/((1.4×R+0.1))を満たし、ここで、Kは4000N/mである。他の実施例に比べて、本発明において、上記のケイ素系材料の重量比と負極集電体の絶対強度が範囲内を満たす実施例のリチウムイオン電池は、80%以上の25℃、400回のサイクル維持率及び25℃、400回のサイクル厚み膨張率を有するとともに、9.5%以下の25℃、400回のサイクル厚み膨張率、及び0.34%以下の25℃、400回のサイクルXY膨張率、そして83.5%以上の放電レートを維持することができる。
【0088】
具体的に、実施例1~5及び実施例6~8の比較から分かるように、負極活物質層におけるケイ素系材料の含有量が高いほど、リチウムイオン電池のサイクル膨張率がそれにつれて大幅に増加する。実施例6~8を参照して分かるように、負極活物質層におけるケイ素系材料の含有量が、本発明の実施例に提供されるケイ素系材料と負極集電体との強度範囲を超えた場合、負極集電体強度がケイ素系材料の膨張率を抑えることに十分でないため、負極活物質層のXY膨張率が大幅に上昇し、リチウムイオン電池に膨張及び歪みが発生し、それによって、リチウムイオン電池のサイクル特性及び安全特性に影響を与える。
【0089】
図1及び
図2は、それぞれ本発明の実施例1及び実施例6におけるリチウムイオン電池のサイクル容量曲線図及びサイクル膨張率曲線図である。
【0090】
図1に示されたように、400回のサイクルを経た後、実施例1において、ケイ素系材料の含有量が低いため、負極活物質層がサイクル過程中に生じた応力が小さく、負極集電体が一定の絶対強度を有する場合、XY膨張及び歪みが容易に発生しなくなり、それによって、負極活物質層と負極集電体との結合、及びリチウムイオン電池のサイクル性が確保される。一方、実施例6において、ケイ素系材料の含有量が大きいため、負極活物質層がサイクル過程中に生じた応力が負極集電体の絶対強度を超えたため、負極に歪みが発生し、リチウムイオン電池のサイクル維持率がサイクルの始めから急速に悪化する。従って、実施例4におけるリチウムイオン電池の容量維持率は急速に低下する。
【0091】
実施例9~12及び13~15の比較から分かるように、負極活物質が同様である場合、負極集電体の異なる絶対強度は、負極活物質層からの応力に耐えられる強度を表し、さらに負極がXY膨張および歪みを抑制する程度を表す。負極集電体の絶対強度が小さいほど、負極のXY膨張率及び歪み率が大きくなり、さらに電池のサイクル特性が悪くなり、同様なサイクル回数での容量維持率が低下するとともに、負極の歪みの影響により、リチウムイオン電池のレート性能も低下する。
【0092】
図3及び
図4は、それぞれ本発明の実施例20及び実施例23におけるケイ素系材料のX線回折図である。
【0093】
実施例20~23の比較から分かるように、I2/I1の値の増加に伴い、リチウムイオン電池のサイクル維持率が低下し続いて、サイクル膨張率が増加し、レート特性が悪くなる。I2/I1の値は、材料に、材料の不均化によって影響される程度を表し、その値が大きいほど、内部で生じた酸化ケイ素の不均化によりケイ素結晶のサイズも大きくなり、リチウムを吸蔵する過程中に、負極活物質層の一部の領域での応力が急激に増大し、それによって、ケイ素系材料の結晶構造が充放電サイクル過程中に破壊される。
【0094】
上記の実施例及び比較例の比較から明確に理解されたように、本発明は、負極におけるケイ素系材料の重量比と負極集電体の絶対強度の関係を限定することで、リチウムイオン電池における負極の不規則な膨張及び歪みを効果的に低減するとともに、ある程度に負極活物質層が負極集電体から剥離する現象を改善し、それによって、リチウムイオン電池のサイクル特性及び安全特性を向上させる。
【0095】
明細書全体では、「いくつかの実施例」、「一部の実施例」、「一つの実施例」、「他の例」、「例」、「具体例」、又は「一部の例」の引用については、本発明の少なくとも一つの実施例又は例が、当該実施例又は例に記載の特定の特徴、構造、材料又は特性を含むことを意味する。従って、明細書全体の各箇所に記載された、例えば「いくつかの実施例において」、「実施例において」、「一つの実施例において」、「他の例において」、「一つの例において」、「特定の例において」又は「例」は、必ずしも本発明の同じ実施例又は例を引用するわけではない。また、本発明の特定の特徴、構造、材料、又は特性は、一つ又は複数の実施例又は例において、あらゆる好適な形態で組み合わせることができる。
【0096】
例示的な実施例が開示及び説明されているが、当業者にとって、上記実施例が本発明を限定するものとして解釈されることができなく、且つ、本発明の趣旨、原理、及び範囲から逸脱しない場合に、実施例を改変、置換及び変更することができることを、理解すべきである。
【国際調査報告】