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特表2023-509151トランスアミナーゼ突然変異体、固定化トランスアミナーゼ及びシタグリプチンの製造における使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-07
(54)【発明の名称】トランスアミナーゼ突然変異体、固定化トランスアミナーゼ及びシタグリプチンの製造における使用
(51)【国際特許分類】
   C12P 17/16 20060101AFI20230228BHJP
   C12N 9/10 20060101ALI20230228BHJP
   C12N 11/08 20200101ALI20230228BHJP
   C12N 15/54 20060101ALI20230228BHJP
   C12N 15/70 20060101ALI20230228BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230228BHJP
【FI】
C12P17/16
C12N9/10 ZNA
C12N11/08
C12N15/54
C12N15/70 Z
C12N1/21
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022540794
(86)(22)【出願日】2020-12-10
(85)【翻訳文提出日】2022-06-30
(86)【国際出願番号】 CN2020135136
(87)【国際公開番号】W WO2021135886
(87)【国際公開日】2021-07-08
(31)【優先権主張番号】201911423071.1
(32)【優先日】2019-12-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520385157
【氏名又は名称】エーバイオケム バイオテクノロジー カンパニー,リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ティエン、チェンホア
(72)【発明者】
【氏名】チョン、チャンピン
(72)【発明者】
【氏名】ティン、シャオナン
(72)【発明者】
【氏名】チアオ、チー
(72)【発明者】
【氏名】ハオ、チュイシー
(72)【発明者】
【氏名】チー、ヨンリャン
【テーマコード(参考)】
4B033
4B050
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B033NA25
4B033NB34
4B033NC03
4B033ND02
4B033ND08
4B033ND12
4B050CC04
4B064AE54
4B064AE57
4B064CA21
4B064CB30
4B064CC24
4B064CD06
4B064CD12
4B064CD15
4B064CE10
4B064DA01
4B065AA26X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA18
4B065CA44
(57)【要約】
シタグリプチン及び/又は(R)-3-アミノ-1-モルホリン-4-(2,4,5-トリフルオロフェニル)-1-ブタノンの製造における固定化トランスアミナーゼの使用を提供する。前記固定化トランスアミナーゼは、樹脂及びトランスアミナーゼ突然変異体を含み、前記トランスアミナーゼ突然変異体のアミノ酸配列は、配列番号3又は配列番号7に示される。固定化トランスアミナーゼ、トランスアミナーゼ突然変異体およびその製造方法並びに使用をさらに提供する。前記トランスアミナーゼ突然変異体がケトアミド基質を触媒する際に酵素活性が高く、それを固定化トランスアミナーゼに製造した後の酵素活性が依然として高く、それをケトアミド基質を触媒するに用いてシタグリプチン又はその中間体を生産する際に、選別された溶媒反応系と結合し、固定化トランスアミナーゼの転化率が高く且つ立体選択性に優れ、安定性に優れ、繰り返し使用率を向上させ、操作がより簡単で、さらに生産コストを低減させ、産業化生産に有利である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シタグリプチン及び/又は(R)-3-アミノ-1-モルホリン-4-(2,4,5-トリフルオロフェニル)-1-ブタノンの製造における固定化トランスアミナーゼの使用であって、
ただし、前記固定化トランスアミナーゼは、樹脂及びトランスアミナーゼ突然変異体を含み、前記トランスアミナーゼ突然変異体のアミノ酸配列は、配列番号3又は配列番号7に示され、
好ましくは、
前記トランスアミナーゼ突然変異体のアミノ酸配列は、配列番号4又は配列番号8に示され、及び/又は、前記トランスアミナーゼ突然変異体と前記樹脂は、共有結合により接続され、及び/又は、前記樹脂は、好ましくはエポキシ樹脂であり、より好ましくはSEPABEADS(登録商標)EC HFA、ReliZymeTM HFA403、ReliZymeTM EP113、ReliZymeTM EP403及び/又はSEPABEADS(登録商標)EC EPであり、例えばSEPABEADS(登録商標)EC HFAであり、
より好ましくは、前記製造に用いられる反応溶媒は、イソプロパノール水溶液であり、好ましくは前記イソプロパノール水溶液における水の体積含有量が、2%~20%であり、及び/又は、前記製造の反応系には、さらにトランスアミナーゼの補助因子、例えばリン酸ピリドキサールを含み、その濃度は、好ましくは0.5~5mg/mLであることを特徴とする使用。
【請求項2】
樹脂及びトランスアミナーゼ突然変異体を含み、前記トランスアミナーゼ突然変異体のアミノ酸配列は、配列番号3又は配列番号7に示され、
好ましくは、
前記トランスアミナーゼ突然変異体のアミノ酸配列は、配列番号4又は配列番号8に示され、及び/又は、前記トランスアミナーゼ突然変異体と前記樹脂は、共有結合により接続され、及び/又は、前記樹脂は、好ましくはエポキシ樹脂であり、より好ましくはSEPABEADS(登録商標)EC HFA、ReliZymeTM HFA403、ReliZymeTM EP113、ReliZymeTM EP403及び/又はSEPABEADS(登録商標)EC EPであり、例えばSEPABEADS(登録商標)EC HFAであることを特徴とする固定化トランスアミナーゼ。
【請求項3】
1)トランスアミナーゼ突然変異体の溶液と樹脂とを接触させて固定化トランスアミナーゼを形成させ、前記トランスアミナーゼ突然変異体のアミノ酸配列は、配列番号3又は配列番号7に示される、ステップと、
2)前記固定化トランスアミナーゼを濾過し洗浄するステップとを、含む固定化トランスアミナーゼの製造方法であって、
好ましくは、
前記トランスアミナーゼ突然変異体のアミノ酸配列は、配列番号4又は配列番号8に示され、及び/又は、前記トランスアミナーゼ突然変異体と前記樹脂は、共有結合により接続され、及び/又は、前記樹脂は、好ましくはエポキシ樹脂であり、より好ましくはSEPABEADS(登録商標)EC HFA、ReliZymeTM HFA403、ReliZymeTM EP113、ReliZymeTM EP403及び/又はSEPABEADS(登録商標)EC EPであり、例えばSEPABEADS(登録商標)EC HFAであることを特徴とする製造方法。
【請求項4】
アミノ基供与体が存在する際、反応溶媒において固定化トランスアミナーゼでケトアミド基質を触媒してシタグリプチン及び/又は(R)-3-アミノ-1-モルホリン-4-(2,4,5-トリフルオロフェニル)-1-ブタノンを得るステップを含むシタグリプチン及び/又は(R)-3-アミノ-1-モルホリン-4-(2,4,5-トリフルオロフェニル)-1-ブタノンの製造方法であって、
ただし、前記固定化トランスアミナーゼは、請求項2に記載のとおりであり、及び/又は、前記反応溶媒は、イソプロパノール水溶液であり、
好ましくは、
前記ケトアミド基質は、4-オキソ-4-[3-(トリフルオロメチル)-5,6-ジヒドロ-[1,2,4]トリアゾロ[4,3-a]ピラジン-7-(8H)-イル)-1-(2,4,5-トリフルオロフェニル)ブタン-2-オン及び/又は1-モルホリン-4-(2,4,5-トリフルオロフェニル)-1,3-ブタンジオンであり、
及び/又は、前記アミノ基供与体は、イソプロピルアミンであり、
及び/又は、前記アミノ基供与体と基質とのモル比は、1:1~5:1であり、
及び/又は、前記反応溶媒がイソプロパノール水溶液である際に、水の体積含有量は、2%~20%であり、
及び/又は、前記ケトアミド基質の濃度は、20g/L~200g/Lであり、
及び/又は、前記固定化トランスアミナーゼと基質との質量比は、1:1~6:1であり、
及び/又は、前記製造の反応系には、さらにトランスアミナーゼの補助因子、例えばリン酸ピリドキサールを含み、その濃度は、好ましくは0.5~5mg/mLであり、
及び/又は、前記反応の温度は、30~60℃であり、好ましくは45℃であることを特徴とする製造方法。
【請求項5】
固定化トランスアミナーゼであって、前記トランスアミナーゼ突然変異体のアミノ酸配列は、配列番号3又は配列番号7に示され、
好ましくは、前記トランスアミナーゼ突然変異体のアミノ酸配列は、配列番号4又は配列番号8に示されることを特徴とする固定化トランスアミナーゼ。
【請求項6】
請求項5に記載のトランスアミナーゼ突然変異体をコードすることを特徴とするポリヌクレオチド。
【請求項7】
請求項6に記載のポリヌクレオチドを含む組換え発現ベクターであって、
好ましくは、前記組換え発現ベクターの骨格は、プラスミドpET28aであることを特徴とする組換え発現ベクター。
【請求項8】
形質転換体であって、請求項6に記載のポリヌクレオチド又は請求項7に記載の組換え発現ベクターを宿主に導入し、
好ましくは、前記宿主は、大腸菌であり、好ましくは、大腸菌BL21であることを特徴とする形質転換体。
【請求項9】
シタグリプチン及び/又は(R)-3-アミノ-1-モルホリン-4-(2,4,5-トリフルオロフェニル)-1-ブタノンの製造における請求項5に記載のトランスアミナーゼ突然変異体の使用。
【請求項10】
シタグリプチン及び/又は(R)-3-アミノ-1-モルホリン-4-(2,4,5-トリフルオロフェニル)-1-ブタノンの製造における反応溶媒の使用であって、前記反応溶媒は、イソプロパノール水溶液であり、
好ましくは、前記使用は、アミノ基供与体が存在する際に、イソプロパノール水溶液においてトランスアミナーゼでケトアミド基質を触媒してシタグリプチン及び/又は(R)-3-アミノ-1-モルホリン-4-(2,4,5-トリフルオロフェニル)-1-ブタノンを得るステップを含み、
より好ましくは、前記トランスアミナーゼは、請求項2に記載の固定化トランスアミナーゼ及び/又は請求項5に記載のトランスアミナーゼ突然変異体であり、
及び/又は、前記ケトアミド基質は、4-オキソ-4-[3-(トリフルオロメチル)-5,6-ジヒドロ-[1,2,4]トリアゾロ[4,3-a]ピラジン-7-(8H)-イル)-1-(2,4,5-トリフルオロフェニル)ブタン-2-オン及び/又は1-モルホリン-4-(2,4,5-トリフルオロフェニル)-1,3-ブタンジオンであり、
及び/又は、前記アミノ基供与体は、イソプロピルアミンであり、
及び/又は、前記アミノ基供与体と基質とのモル比は、1:1~5:1であり、
及び/又は、前記反応溶媒がイソプロパノール水溶液である際に、水の体積含有量は、2%~20%であり、及び/又は、前記ケトアミド基質の濃度は、20g/L~200g/Lであり、
及び/又は、前記固定化トランスアミナーゼと基質との質量比は、1:1~6:1であり、
及び/又は、前記製造の反応系には、さらにトランスアミナーゼの補助因子、例えばリン酸ピリドキサールを含み、その濃度は、好ましくは0.5~5mg/mLであり、
及び/又は、前記反応の温度は、30~60℃であり、好ましくは45℃であることを特徴とする使用。
【請求項11】
シタグリプチンリン酸塩の製造方法であって、
請求項4に記載の製造方法により、シタグリプチン及び/又は(R)-3-アミノ-1-モルホリン-4-(2,4,5-トリフルオロフェニル)-1-ブタノンを製造するステップ(1)と、
ステップ(1)で得られたシタグリプチン及び/又は(R)-3-アミノ-1-モルホリン-4-(2,4,5-トリフルオロフェニル)-1-ブタノンを反応させ、シタグリプチンリン酸塩を得るステップ(2)と、を含み、
好ましくは、前記シタグリプチンリン酸塩は、シタグリプチンリン酸塩一水和物であることを特徴とする製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、出願日が2019年12月31日である中国特許出願2019114230711の優先権を主張する。本願は、上記中国特許出願の全文を引用する。
【0002】
本発明は、バイオ技術分野に属し、具体的には、トランスアミナーゼ突然変異体、固定化トランスアミナーゼ及びシタグリプチン又はその中間体の製造における当該固定化トランスアミナーゼの使用に関し、本発明は、さらに、シタグリプチンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
糖尿病は、インスリン分泌の変化により、インスリンの欠乏及び作用の低下、又はインスリン活性が低下を引き起こし、又は両者が共に影響を及ぼして高血糖を特徴とする代謝性疾患が出現し、タンパク質、糖及び脂肪の代謝乱れを伴うものである。糖尿病及びその合併症が人類の健康に対する危害程度は、心臓血管疾患、腫瘍後の第3位であり、人類の健康を危害する重要な疾患になった。糖尿病の四種類のタイプにおいて、II型糖尿病は、90%以上を占め、30歳以上の中高齢者に多く見られ、病因は、主に、体がインスリンに敏感ではないためである。
【0004】
シタグリプチンリン酸塩(Sitagliptin phosphate)は、2006年FDAによって許可されて上市したジペプチジルペプチダーゼ-IV(DPP-4)阻害剤であり、II型糖尿病を治療するために用いられるものである。その単独使用又はジメチルビグアニド、ピオグリタゾンと併用はいずれも顕著な血糖降下作用を有し、且つ服用が安全で、耐性に優れ、有害反応が少なかった。
【0005】
米国特許US8293507には、Codexis会社がコリネバクテリウム由来のトランスアミナーゼを改造して得られたトランスアミナーゼを用いて4-オキソ-4-[3-(トリフルオロメチル)-5,6-ジヒドロ-[1,2,4]トリアゾロ[4,3-a]ピラジン-7-(8H)-イル)-1-(2,4,5-トリフルオロフェニル)ブタン-2-オンを触媒してシタグリプチン((2R)-4-オキソ-4-[3-(トリフルオロメチル)-5,6-ジヒドロ-[1,2,4]トリアゾロ[4,3-a]ピラジン-7-(8H)-イル]-1-(2,4,5-トリフルオロフェニル)ブタン-2-アミンを得、シタグリプチンをさらにリン酸化してシタグリプチンリン酸塩を得ることが開示された。改造されたトランスアミナーゼは、ケトアミド基質2g/L、イソプロピルアミン0.5M、22℃、5%DMSO、リン酸ピリドキサール(PLP)100μM及びトランスアミナーゼポリペプチド20mg/mLの条件で、基質である4-オキソ-4-[3-(トリフルオロメチル)-5,6-ジヒドロ-[1,2,4]トリアゾロ[4,3-a]ピラジン-7-(8H)-イル)-1-(2,4,5-トリフルオロフェニル)ブタン-2-オン(本発明では、シタグリプチンジオンと略称する)をHPLC-UVが210nmで検出可能なレベルのシタグリプチンに変換することができる。そのうち効果の最も高い突然変異体(配列番号110)の触媒転化率は、90~95%に達することができた。
【0006】
【化1】
【0007】
US9617573は、US8293507における配列番号110を引き続き改造し、得られた突然変異体は、ケトアミド基質50g/L、イソプロピルアミン(ispropylamine)1.5M、55℃、50%DMSO(v/v)、リン酸ピリドキサール1mMの条件で、少なくとも1.2倍の配列番号110の活性で4-オキソ-4-[3-(トリフルオロメチル)-5,6-ジヒドロ-[1,2,4]トリアゾロ[4,3-a]ピラジン-7-(8H)-イル)-1-(2,4,5-トリフルオロフェニル)ブタン-2-オンをシタグリプチンに変換することができた。そのうち効果の最も高い突然変異体(配列番号130)の触媒転化率は、90~95%に達することができた。
【0008】
しかし、これらのトランスアミナーゼ突然変異体は、いずれも100%有機溶媒中で不安定なものであるため、液体酵素を固定させ、固定化酵素を得て、トランスアミナーゼの有機溶媒における安定性を向上させる。例えば、US9587229には、US8293507における配列番号110をSEPABEADS EXE120樹脂に固定させることが開示され、その結果、配列番号110のSEPABEAD SEXE120固定化酵素が水飽和のIPAc(酢酸イソプロピル)溶媒において、基質である4-オキソ-4-[3-(トリフルオロメチル)-5,6-ジヒドロ-[1,2,4]トリアゾロ[4,3-a]ピラジン-7-(8H)-イル)-1-(2,4,5-トリフルオロフェニル)ブタン-2-オン100g/Lをシタグリプチンに触媒することができ、ee値は99.9%以上であることを示した。しかし、US9587229では、固定化酵素の繰り返し使用率(使用ロット回数)を研究せず、且つ反応溶媒は水飽和のIPAc(酢酸イソプロピル)溶媒であり、当該溶媒を生産に用いる際、事前にIPAcを水飽和させる必要があり、操作がより煩雑であり、複数ロットの使用反応に用いると、その反応系における含水量も制御しにくく、固定化酵素の水活性度に影響を与え、固定化酵素を失活変性し易くなるようにさせる。
【0009】
WO2019011236A1には、1-モルホリン-4-(2,4,5-トリフルオロフェニル)-1,3-ブタンジオン(本発明では、モルホリンジオンと略称する)がトランスアミナーゼで触媒して(R)-3-アミノ-1-モルホリン-4-(2,4,5-トリフルオロフェニル)-1-ブタノンを製造することができ、さらに多段階反応を介してシタグリプチンを製造することが報告されたが、反応において液体酵素を採用し、所定量のDMSOの水溶媒系を含み、基質濃度が高くなく、液体酵素を再利用できず、生産に使用する時にコストが高く、効率が低かった。
【0010】
【化2】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする技術的課題は、従来技術におけるトランスアミナーゼの酵素活性が高くなく、それを固定化酵素に製造する時に酵素活性が高くなく、安定性が悪く、さらにケトアミド基質を触媒してシタグリプチン又はその中間体を生産する時に転化率が高いため再利用できない等の欠陥を克服するために、トランスアミナーゼ突然変異体、固定化トランスアミナーゼ及びシタグリプチン又はその中間体の製造における使用を提供することである。本発明のトランスアミナーゼ突然変異体がケトアミド基質を触媒する際に酵素活性が高く、それを固定化トランスアミナーゼに製造した後の酵素活性が依然として高く、それをケトアミド基質の触媒に用いてシタグリプチン又はその中間体を生産する際に選別された溶媒反応系と結合し、固定化トランスアミナーゼの転化率が高く且つ立体選択性に優れ、安定性に優れ、繰り返し使用率を向上させ、操作がより簡単で、さらに生産コストを低減させ、産業化生産に有利である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、従来技術におけるトランスアミナーゼに対して多くの研究を行い、ある具体的な部位の突然変異を行う際に、トランスアミナーゼ突然変異体の酵素活性が大幅に向上することを発見した。且つ継続的にこれらのトランスアミナーゼ突然変異体に対して固定化研究を行った後、選別された特定の樹脂と結合し、且つ特定の溶媒反応系を選別して、得られた固定化酵素をケトアミド基質の触媒に用いる際に安定性がより高く且つ転化率がより高くなり、それをシタグリプチンの生産に用いる時にコストがより低かった。
【0013】
上記技術的課題を解決するために、本発明の第1態様は、シタグリプチン及び/又は(R)-3-アミノ-1-モルホリン-4-(2,4,5-トリフルオロフェニル)-1-ブタノンの製造における固定化トランスアミナーゼの使用を提供し、
【0014】
ただし、前記固定化トランスアミナーゼは、樹脂及びトランスアミナーゼ突然変異体を含み、前記トランスアミナーゼ突然変異体のアミノ酸配列は、配列番号3又は配列番号7に示される。
【0015】
好ましくは、前記トランスアミナーゼ突然変異体のアミノ酸配列は、配列番号4又は配列番号8に示される。
【0016】
好ましくは、前記トランスアミナーゼ突然変異体と前記樹脂は、共有結合により接続される。
【0017】
好ましくは、前記樹脂は、好ましくはエポキシ樹脂であり、好ましくはSEPABEADS(登録商標)EC HFA、ReliZymeTM HFA403、ReliZymeTM EP113、ReliZymeTM EP403及び/又はSEPABEADS(登録商標)EC EPであり、例えばSEPABEADS(登録商標)EC HFAである。
【0018】
より好ましくは、前記製造に用いられる反応溶媒は、イソプロパノール水溶液であり、好ましくは前記イソプロパノール水溶液における水の体積含有量(溶液全体で占める水の体積比)は、2%~20%であり、より好ましくは前記製造の反応系には、トランスアミナーゼの補助因子、例えばリン酸ピリドキサールをさらに含み、その濃度は、好ましくは0.5~5mg/mLである。
【0019】
上記技術的課題を解決するために、本発明の第2態様は、固定化トランスアミナーゼを提供し、当該固定化トランスアミナーゼは、樹脂及びトランスアミナーゼ突然変異体を含み、前記トランスアミナーゼ突然変異体のアミノ酸配列は、配列番号3又は配列番号7に示される。
【0020】
好ましくは、前記トランスアミナーゼ突然変異体のアミノ酸配列は、配列番号4又は配列番号8に示される。
【0021】
好ましくは、前記トランスアミナーゼ突然変異体と前記樹脂は、共有結合により接続される。
【0022】
好ましくは、前記樹脂は、好ましくはエポキシ樹脂であり、好ましくはSEPABEADS(登録商標)EC HFA、ReliZymeTM HFA403、ReliZymeTM EP113、ReliZymeTM EP403及び/又はSEPABEADS(登録商標)EC EPであり、例えばSEPABEADS(登録商標)EC HFAである。
【0023】
上記技術的課題を解決するために、本発明の第3態様は、固定化トランスアミナーゼの製造方法を提供し、
【0024】
1)トランスアミナーゼ突然変異体の溶液と樹脂とを接触させて固定化トランスアミナーゼを形成させ、前記トランスアミナーゼ突然変異体のアミノ酸配列は、配列番号3又は配列番号7に示される、ステップと、
【0025】
2)前記固定化トランスアミナーゼを濾過し洗浄するステップとを、含む。
【0026】
好ましくは、前記トランスアミナーゼ突然変異体のアミノ酸配列は、配列番号4又は配列番号8に示される。
【0027】
好ましくは、前記トランスアミナーゼ突然変異体と前記樹脂は、共有結合により接続される。
【0028】
好ましくは、前記樹脂は、好ましくはエポキシ樹脂であり、好ましくはSEPABEADS(登録商標)EC HFA、ReliZymeTM HFA403、ReliZymeTM EP113、ReliZymeTM EP403及び/又はSEPABEADS(登録商標)EC EPであり、例えばSEPABEADS(登録商標)EC HFAである。
【0029】
上記技術的課題を解決するために、本発明の第4態様は、シタグリプチン及び/又は(R)-3-アミノ-1-モルホリン-4-(2,4,5-トリフルオロフェニル)-1-ブタノンの製造方法を提供し、当該方法は、アミノ基供与体が存在する際、反応溶媒において固定化トランスアミナーゼでケトアミド基質を触媒してシタグリプチン及び/又は(R)-3-アミノ-1-モルホリン-4-(2,4,5-トリフルオロフェニル)-1-ブタノンを得るステップを含み、
【0030】
ただし、前記固定化トランスアミナーゼは、本発明の第2態様に記載のとおりであり、 及び/又は、前記反応溶媒は、イソプロパノール水溶液である。
【0031】
好ましくは、前記ケトアミド基質は、4-オキソ-4-[3-(トリフルオロメチル)-5,6-ジヒドロ-[1,2,4]トリアゾロ[4,3-a]ピラジン-7-(8H)-イル)-1-(2,4,5-トリフルオロフェニル)ブタン-2-オン及び/又は1-モルホリン-4-(2,4,5-トリフルオロフェニル)-1,3-ブタンジオンである。
【0032】
好ましくは、前記アミノ供与体は、イソプロピルアミンである。
【0033】
好ましくは、前記アミノ供与体と基質とのモル比は、1:1~5:1である。
【0034】
好ましくは、前記反応溶媒がイソプロパノール水溶液である際に、水の体積含有量(溶液全体で占める水の体積比)は、2%~20%である。
【0035】
好ましくは、前記ケトアミド基質の濃度は、20g/L~200g/Lである。
【0036】
好ましくは、前記固定化トランスアミナーゼと基質との質量比は、1:1~6:1である。
【0037】
好ましくは、前記製造の反応系には、さらにトランスアミナーゼの補助因子、例えばリン酸ピリドキサールを含み、その濃度は、好ましくは0.5~5mg/mLである。
【0038】
好ましくは、前記反応の温度は、30~60℃であり、好ましくは45℃である。
【0039】
上記技術的課題を解決するために、本発明の第5態様は、固定化トランスアミナーゼを提供し、前記トランスアミナーゼ突然変異体のアミノ酸配列は、配列番号3又は配列番号7に示される。
【0040】
好ましくは、前記トランスアミナーゼ突然変異体のアミノ酸配列は、配列番号4又は配列番号8に示される。
【0041】
上記課題を解決するために、本発明の第6態様は、本発明の第5態様に記載のトランスアミナーゼ突然変異体をコードするポリヌクレオチドをを提供する。
【0042】
上記課題を解決するために、本発明の第7態様は、本発明の第6態様に記載のポリヌクレオチドを含む組換え発現ベクターをを提供する。
【0043】
好ましくは、前記組換え発現ベクターの骨格は、プラスミドpET28aである。
【0044】
上記課題を解決するために、本発明の第8態様は、本発明の第6態様に記載のポリヌクレオチド又は本発明の第7態様に記載の組換え発現ベクターを宿主に導入しする形質転換体を提供する。
【0045】
好ましくは、前記宿主は、大腸菌であり、好ましくは、大腸菌BL21である。
【0046】
上記技術的課題を解決するために、本発明の第9態様は、シタグリプチン及び/又は(R)-3-アミノ-1-モルホリン-4-(2,4,5-トリフルオロフェニル)-1-ブタノンの製造における本発明の第5態様に記載のトランスアミナーゼ突然変異体の使用を提供する。
【0047】
上記技術的課題を解決するために、本発明の第10態様は、シタグリプチン及び/又は(R)-3-アミノ-1-モルホリン-4-(2,4,5-トリフルオロフェニル)-1-ブタノンの製造における反応溶媒の使用を提供し、前記反応溶媒は、イソプロパノール水溶液である。
【0048】
好ましくは、前記使用は、アミノ基供与体が存在する際に、イソプロパノール水溶液においてトランスアミナーゼでケトアミド基質を触媒してシタグリプチン及び/又は(R)-3-アミノ-1-モルホリン-4-(2,4,5-トリフルオロフェニル)-1-ブタノンを得るステップを含む。
【0049】
より好ましくは、前記トランスアミナーゼは、本発明の第2態様に記載の固定化トランスアミナーゼ及び/又は本発明の第5態様に記載のトランスアミナーゼ突然変異体である。
【0050】
より好ましくは、前記ケトアミド基質は、4-オキソ-4-[3-(トリフルオロメチル)-5,6-ジヒドロ-[1,2,4]トリアゾロ[4,3-a]ピラジン-7-(8H)-イル)-1-(2,4,5-トリフルオロフェニル)ブタン-2-オン及び/又は1-モルホリン-4-(2,4,5-トリフルオロフェニル)-1,3-ブタンジオンである。
【0051】
より好ましくは、前記アミノ供与体は、イソプロピルアミンである。
【0052】
より好ましくは、前記アミノ供与体と基質とのモル比は、1:1~5:1である。
【0053】
より好ましくは、前記反応溶媒がイソプロパノール水溶液である際に、水の体積含有量(溶液全体で占める水の体積比)は、2%~20%である。
【0054】
より好ましくは、前記ケトアミド基質の濃度は、20g/L~200g/Lである。
【0055】
より好ましくは、前記固定化トランスアミナーゼと基質との質量比は、1:1~6:1である。
【0056】
より好ましくは、前記製造の反応系には、さらにトランスアミナーゼの補助因子、例えばリン酸ピリドキサールを含み、その濃度は、好ましくは0.5~5mg/mLである。
【0057】
より好ましくは、前記反応の温度は、30~60℃であり、好ましくは45℃である。
【0058】
本発明において、前記イソプロパノール水溶液におけるイソプロパノールの量は、基質を全て溶解させることができる量であればよい。イソプロパノール水溶液における水の体積含有量(溶液全体で占める水の体積比)は、2%~20%であってもよく、水が少なすぎると固定化酵素を失活させ、水が多すぎると基質の溶解が不十分である。
【0059】
本発明のある態様は、さらに、シタグリプチンリン酸塩の製造方法を提供し、
【0060】
本発明の第4態様に記載の製造方法により、シタグリプチン及び/又は(R)-3-アミノ-1-モルホリン-4-(2,4,5-トリフルオロフェニル)-1-ブタノンを製造するステップ(1)と、
【0061】
ステップ(1)で得られたシタグリプチン及び/又は(R)-3-アミノ-1-モルホリン-4-(2,4,5-トリフルオロフェニル)-1-ブタノンを反応させ、シタグリプチンリン酸塩を得るステップ(2)と、を含む。
【0062】
好ましくは、前記シタグリプチンリン酸塩は、シタグリプチンリン酸塩一水和物である。
【0063】
本発明において、前記「ケトアミド基質1(本発明では、シタグリプチンジオンと略称することもある)」の総称は、4-オキソ-4-[3-(トリフルオロメチル)-5,6-ジヒドロ-[1,2,4]トリアゾロ[4,3-a]ピラジン-7-(8H)-イル)-1-(2,4,5-トリフルオロフェニル)ブタン-2-オンであり、具体的な構造式は下記のとおりである。
【0064】
【化3】
【0065】
本発明において、前記「ケトアミド基質2(本発明では、モルホリンジオンと略称することもある)」の総称は、1-モルホリン-4-(2,4,5-トリフルオロフェニル)-1,3-ブタンジオン、具体的な構造式は下記のとおりである。
【0066】
【化4】
【0067】
当技術分野の常識に適合することに基づいて、上記好ましい条件を任意に組み合わせて、本発明の各好ましい例を得ることができる。
【0068】
本発明で使用される試薬及び原材料はすべて市販されているものである。
【発明の効果】
【0069】
本発明の積極的な進歩的な効果は、下記の通りである。本発明のトランスアミナーゼ突然変異体がケトアミド基質を触媒する際に酵素活性が高く、それを固定化トランスアミナーゼに製造した後に酵素活性が依然として高い。それをケトアミド基質の触媒に用いてシタグリプチン又はその中間体を生産する際に、選別された溶媒反応系と結合し、固定化トランスアミナーゼの転化率が高く且つ立体選択性に優れ、安定性に優れ、繰り返し使用率を向上させ、操作がより簡単で、さらに生産コストを低減させ、産業化生産に有利である。
【発明を実施するための形態】
【0070】
以下では、実施例により本発明をさらに説明したが、それにより本発明を述べた実施例の範囲に限定するものではない。下記の実施例では、具体的な条件を明記しない実験方法は、従来の方法と条件、又は製品明細書に従って実験方法を選択する。
【0071】
本発明における実験方法は、特に説明しない限り、いずれも従来の方法を採用し、遺伝子クローニング作業は、具体的に、J.Sambrookらが編著した「Molecular Cloning Experimental Guide」を参照することができる。
【0072】
本発明におけるアミノ酸の略語は、特に説明しない限り、当技術分野の慣用用語であり、具体的な略語に対応するアミノ酸を表1に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
前記アミノ酸に対応するコドンも当技術分野の慣用用語であり、具体的なアミノ酸とコドンの対応関係は表2に示される通りである。
【0075】
【表2】
【0076】
Pet28aはNovagen会社から購入されたものであり、NdeI酵素、HindIII酵素はThermo Fisher会社から購入されたものであり、BL21コンピテントセルはBeijing Dingguo Changsheng Biotechnology Co.,Ltd.から購入されたものである。
【実施例
【0077】
実施例1 トランスアミナーゼ突然変異体酵素液の製造
配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8のヌクレオチド配列に示された遺伝子を合成し得て、遺伝子製造会社は蘇州金唯智生物科学技術有限公司(蘇州工業園区星湖町218号生物ナノ科学技術園C3階)である。上記遺伝子は、それぞれ、配列表における配列番号1(すなわちUS8293507における配列番号110)、配列番号3、配列番号5(すなわちUS9617573における配列番号130)、配列番号7に示されたトランスアミナーゼをコードする。
【0078】
【表3】
【0079】
そして、合成した遺伝子酵素をpET28aに連結し、酵素切断部位をNdeI&HindIIIとし、酵素が連結されたベクターを宿主大腸菌BL21コンピテントセルに形質転換させた。構築された菌種をTB培地に接種して培養し、37℃、200rpmのシェーカーで、IPTG濃度0.1mMで一晩誘導し、菌を回収して、トランスアミナーゼ遺伝子を含む工程菌を得た。
【0080】
トランスアミナーゼ遺伝子を含む工程菌をプレート上にストリークして活性化させた後、単一のコロニーをカナマイシン50μg/mLを含むLB液体培地5mLに接種し、37℃で振とうしながら12時間培養した。2%(v/v)接種量で50μg/mLの同じくカナマイシンを含む新鮮なLB液体培地150mLに移し、37℃で振とうしてOD600値が約0.8に達した時にIPTGを最終濃度0.5mMになすまで添加し、18℃で16時間誘導して培養した。培養完了後、培養液を10,000rpmで10分間遠心分離し、上清を捨て、菌体を収集し、-80℃の超低温冷蔵庫に保存して、待機させた。
【0081】
培養終了後に収集された菌体2gを、pH7.4のリン酸緩衝液50mMで菌体を2回洗浄し、そして菌体をpH7.4のリン酸緩衝液20mLに懸濁し、超音波破砕し、破砕液を遠心分離して沈殿を除去し、得られた上清液はトランスアミナーゼ突然変異体を含む粗酵素液であった。粗酵素液10mLをニッケルカラム(Bestchrom(Shanghai)Biosciences Co.Ltd)で精製して純粋な酵素液を得、且つタンパク質濃度を約4.5mg/mLに保持させた。
【0082】
ケトアミド基質2(モルホリンジオン)及びケトアミド基質1(シタグリプチンジオン)を、それぞれ、基質として酵素活性を測定し、測定方法は下記のとおりである:シタグリプチンジオン又はモルホリンジオン0.1gを秤量し、無水エタノール2mL、0.1mol/LのpH8.5のトリエチルアミン緩衝液6.4mL、2mol/LのpH8.5のイソプロピルアミン塩酸塩溶液1.6mL及びリン酸ピリドキサール(PLP)粉末0.003gを加え、37℃のシェーカーで30分間予熱し、純粋な酵素液0.1mLを加え、温度を37℃に制御したシェーカーで、30分間反応し、6N塩酸0.5mLを迅速に加えて、30秒間振とうし続けて不活化した。サンプリングしてアセトニトリルで希釈し、HPLCで検出し、検量線に基づいて酵素液活力を算出した。異なる突然変異体の酵素活性の検出結果は下記の表4に示される通りである。
【0083】
HPLC方法は、下記の通りである。カラム:C18カラム4.6×250mm、5μm;検出器:UV268nm;カラム温度:40℃;流速:0.8mL/min;サンプル注入量:20μL;移動相A:水:アセトニトリル:ギ酸:アンモニア水=950:50:0.5:0.5であり、pHは3.60~3.80の間にあるべきであり、pHが達成できなければ、10%のアンモニア水又は10%のギ酸でpHを3.70に調節した;ギ酸アンモニウムを用いてpHを3.70に調節することもできた;移動相B:水:アセトニトリル=20:80;グラジエント溶出:100%A(0.01min)、60%A+40%B(20min)、60%A+40%B(40min)、100%A(50min)、100%A(60min)。
維持時間:モルホリンジオン:27.828min;(R)-3-アミノ-1-モルホリン-4-(2,4,5-トリフルオロフェニル)-1-ブタノン:14.835min;
維持時間:シタグリプチンジオン:34.811min;シタグリプチン:17.489min。
モルホリンジオンコントロールの維持時間:27.820min;
(R)-3-アミノ-1-モルホリン-4-(2,4,5-トリフルオロフェニル)-1-ブタノンコントロールの維持時間:14.856min;
シタグリプチンジオンコントロールの維持時間:34.715min;
シタグリプチンコントロール(Beijing Yingxiang Technology Co.,Ltd.から購入したものである)の維持時間:17.705min。
【0084】
ただし、モルホリンジオン基質原料とコントロールである(R)-3-アミノ-1-モルホリン-4-(2,4,5-トリフルオロフェニル)-1-ブタノンは、自社で合成したものであり、合成方法はWO2019011236A1を参照した;3-アミノ-1-モルホリン-4-(2,4,5-トリフルオロフェニル)-1-ブタノンラセミ体は、実験室で自己合成したものであり、モルホリンジオンでアンモニア化及び触媒し、水素化して製造されたものである。コントロールである(R)-3-アミノ-1-モルホリン-4-(2,4,5-トリフルオロフェニル)-1-ブタノン配置の決定は、下記の通りである。(R)-3-アミノ-1-モルホリン-4-(2,4,5-トリフルオロフェニル)-1-ブタノンはさらに反応させて(3R)-N-tert-ブトキシカルボニル-3-アミノ-4-(2,4,5-トリフルオロフェニル)-酪酸(WO2019011236A1を参照する)を得、安徽海康薬業有限責任公司から購入した(3R)-N-tert-ブトキシカルボニル-3-アミノ-4-(2,4,5-トリフルオロフェニル)-酪酸標準品をコントロールとして、R配置を確定することができる。
【0085】
配置決定のHPLC方法は、下記の通りである。
カラム:Daicel Chiralpak AD-H(4.6mm×250mm、5μm);移動相:n-ヘキサン:イソプロパノール=90:10;検出波長:210nm;流速:1.0mL/min;注入体積:10μL;カラム温度:25℃;維持時間:40min。
【0086】
シタグリプチンジオン基質原料は、本実験室で自己合成したものであり、合成方法はCN100430397Cを参照し、シタグリプチンラセミ体は、本実験室で自己合成したものであり、シタグリプチンジオンでアンモニア化及び触媒水素化を行って製造したものである。
【0087】
【表4】
【0088】
表4から分かるように、Enz.2-M122F及びEnz.1-M122Q-P223Tの酵素活性は、シタグリプチンジオン又はモルホリンジオンを基質とした時に、いずれも有意に増加した。ただし、Enz.2-M122Fの酵素活性はEnz.2の2倍程度であった;Enz.1-M122Q-P223Tはシタグリプチンジオンを触媒する時に、Enz.1の酵素活性より50%増加し、Enz.1-M122Q-P223Tがモルホリンジオンを触媒する時に、その酵素活性はEnz.1の3倍より多かった。
【0089】
実施例2 固定化トランスアミナーゼ突然変異体の製造
トランスアミナーゼ突然変異体の菌スラッジ12gを取り、100mMのリン酸緩衝液120mLを加えて均一に混合し、細胞を高圧均質化して破砕し、遠心分離して上清酵素液を収集し、K2HPO4・3H2O22g、KH2PO42.2gとPLP0.024gを加え、撹拌して溶解し、樹脂(樹脂型番は具体的に表5に示され、いずれもSoochow High Tech Chromatography Co.,Ltd.から購入したものである)10gを加えて固定し、25℃、180rpmのシェーカーで20~25時間固定し、吸引濾過し、脱イオン洗浄し、吸引濾過して固定化酵素を得た。モルホリンジオン及びシタグリプチンジオンをそれぞれ基質として固定化酵素の酵素活性検出を行い、酵素活性検出方法は下記のとおりである。
【0090】
モルホリンジオン又はシタグリプチンジオン基質1.2gを50mLの三角フラスコに秤量し、イソプロパノール19mL、16mg/mLのPLP溶液0.6mL及びイソプロピルアミン0.4mLを加え、45℃でそれを完全に溶解させるまでシェーカーで振とうし、37℃まで降温して30分間維持し、検出しようとする固定化酵素0.5gを秤量して予熱された基質に加え、37℃で、200rpmのシェーカーで20分間反応し、サンプリングしてアセトニトリルで希釈し、HPLC検出し、標準品シタグリプチン(Beijing Yingxiang Technology Co.,Ltd.から購入したものである)/標準品シタグリプチン中間体(R)-3-アミノ-1-モルホリン-4-(2,4,5-トリフルオロフェニル)-1-ブタノン(自己合成し、合成方法はWO2019011236A1を参照する)濃度検量線に基づいて生成物シタグリプチン(モルホリンジオンを基質とする時に、計算する生成物は、シタグリプチン中間体(R)-3-アミノ-1-モルホリン-4-(2,4,5-トリフルオロフェニル)-1-ブタノンである)の濃度を算出し、固定化酵素活性を算出し、結果は下記の表5に示される通りである。
【0091】
HPLC検出方法は実施例1におけるHPLC方法と同じである。
【0092】
【表5】
【0093】
表5における異なる樹脂の固定化効果に基づき、SEPABEADS(登録商標)EC HFA型番の樹脂で製造された固定化酵素を選択して触媒反応を行った。
【0094】
実施例3 イソプロパノール系における固定化酵素(樹脂:SEPABEADS(登録商標)ECHFA)のモルホリンジオンを触媒するための使用
三角フラスコに、イソプロパノール25mL、モルホリンジオン2.5g、水2mL、PLP32mg、イソプロピルアミン1.135mL、実施例2で得られた固定化酵素10gを加え、45℃、200rpmのシェーカーで反応させた。24時間反応させてサンプリングして転化率を検出した。反応液を濾過して固定化酵素を得、続いてイソプロパノール25mL、モルホリンジオン2.5g、水2mL、PLP32mg、イソプロピルアミン1.135mLを加え、45℃で、200rpmのシェーカーで反応させ、24時間反応させてサンプリングして転化率を検出した。上記方法に従って固定化酵素を繰り返して使用した。結果は表6に示される通りであり、表中に下記のことがを示された。固定化酵素を10バッチを反応に使用し、Enz.1-M122Q-P233T及びEnz.2-M122Fの転化率は依然として85%以上を維持し、且つee値>99.9%であり、固定化酵素は安定した;Enz.1及びEnz.2(3バッチを使用した後、効果が良くなかった)は転化率が低く、モルホリンジオンの触媒には適さなかった。
ただし、HPLCで転化率を検出する方法は実施例1におけるHPLC方法と同じである。
維持時間:モルホリンジオン:27.831min;(R)-3-アミノ-1-モルホリン-4-(2,4,5-トリフルオロフェニル)-1-ブタノン:14.811min。
【0095】
キラルHPLC方法で生成物ee値を検出する方法は下記のとおりである:
カラム:Daicel Chiralpak AD-Hカラム4.6mm*250mm、5μm;移動相:n-ヘキサン:イソプロパノール:ジエチルアミン=40:60:0.1;検出器:UV268nm;カラム温度:25℃;流速:0.8mL/min;サンプル注入量:10μL。維持時間:(S)-3-アミノ-1-モルホリン-4-(2,4,5-トリフルオロフェニル)-1-ブタノン:10.295minであり、(R)-3-アミノ-1-モルホリン-4-(2,4,5-トリフルオロフェニル)-1-ブタノン:28.091min。
ラセミ体コントロールの維持時間:10.290minと28.087min;
(R)-3-アミノ-1-モルホリン-4-(2,4,5-トリフルオロフェニル)-1-ブタノンコントロールの維持時間:28.093min。
【0096】
【表6】
【0097】
以上の結果から、本発明のトランスアミナーゼ変異体は、モルホリンジオンを固定化酵素触媒する実験において、従来技術のEnz.1及びEnz.2を固定化酵素触媒に用いた場合よりも優れた変換率の効果を示しており、その差は統計的に有意であった(p値はいずれも0.05未満であり、ただし、p値の算出にはT-Testダブルテール実験を用いた)。
【0098】
実施例4 イソプロパノール系における固定化酵素のシタグリプチンジオンを触媒するための使用
三角フラスコに、イソプロパノール25mL、シタグリプチンジオン3.75g、水2mL、PLP32mg、イソプロピルアミン1.7mL、及び実施例2で得られた固定化酵素10gを加え、45℃、200rpmのシェーカーで反応させ、24時間反応させてサンプリングして転化率を検出した。反応液を濾過して固定化酵素を得、続いてイソプロパノール25mL、シタグリプチンジオン3.75g、16mg/mLのPLP水溶液2mL、イソプロピルアミン1.7mLを加え、45℃で、200rpmのシェーカーで反応させ、24時間反応させてサンプリングして転化率を検出した。上記方法に従って固定化酵素を繰り返して使用し、結果は、固定化酵素を10バッチを反応に使用し、転化率は依然として85%以上に維持し、且つee値>99.9%であり、固定化酵素が比較的に安定したことを示した。具体的な使用結果を下記の表7に示される通りである。
ただし、HPLCで転化率を検出する方法は実施例1におけるHPLC方法と同じである。
維持時間:シタグリプチンジオン:34.827min;シタグリプチン:17.394min。
【0099】
キラルHPLC方法で生成物ee値を検出する方法は下記のとおりである:
カラム:Daicel Chiralpak AD-Hカラム4.6mm*250mm、5μm;移動相:N-ヘプタン:エタノール:ジエチルアミン=40:60:0.1;検出器:UV268nm;カラム温度:25℃;流速:0.8mL/min;サンプル注入量:10μL。維持時間:(S)-鏡像異性体:14.181、シタグリプチン:17.580。
ラセミ体コントロールの維持時間:14.172min及び17.702min;
シタグリプチンコントロールの維持時間:17.665min。
【0100】
【表7】
【0101】
後述する比較例1と比較して、上記実施例3のモルホリンジオン触媒反応と組み合わせて見ると、本発明の反応溶媒であるイソプロパノールは、IPAcよりもシタグリプチンジオン及び/又はモルホリンジオンの触媒に適している(標準偏差が小さく、より安定である)ことが分かった。
【0102】
実施例5 シタグリプチンリン酸塩一水和物の製造
実施例4の反応が終了した後、濾過し、固定化酵素と濾液を得て、濾液を60℃で濃縮乾固して濃縮物を得た。ジクロロメタン100mLを加えて溶解し、精製水100mLを加え、撹拌し、30%の濃塩酸でpHを2~3の間に調節し、静置して分層した。水相にジクロロメタン100mLを加え、撹拌し、30%の水酸化ナトリウム溶液を加えてpHを11に調節し、静置して分層した。水相に再びジクロロメタン100mLを加え、撹拌して抽出し、静置して分層した。2回のアルカリ抽出の有機相を合併した。60℃で濃縮し、濃縮物にイソプロパノール120mLを加え、撹拌して溶解させ、85%のリン酸10.6gを加え、75℃まで昇温させ、撹拌して全部溶解させ、徐々に降温させてシタグリプチンリン酸塩結晶を析出させ、5℃で2時間保温し、濾過し、ケーキを60℃でドライ乾燥させて、シタグリプチンリン酸塩一水和物を得た。
【0103】
比較例1 IPAc(酢酸イソプロピル)系でシタグリプチンジオンに対する固定化樹脂の触媒
三角フラスコに、酢酸イソプロピル25mL、シタグリプチンジオン1.25g、16mg/mLのPLP水溶液2mL、イソプロピルアミン0.95mL及び実施例2で得られた固定化酵素3.75gを加え、45℃、200rpmのシェーカーで反応させ、24時間反応させてサンプリングして転化率を検出した。反応液を濾過して固定化酵素を得、続いて酢酸イソプロピル25mL、シタグリプチンジオン1.25g、水2mL、PLP32mg、イソプロピルアミン0.95mLを加え、45℃で、200rpmのシェーカーで反応させ、24時間反応させてサンプリングして転化率を検出した。上記方法で固定化酵素を繰り返して使用し、結果は表8に示されるとおりであり、表中に、固定化酵素を3バッチを反応に使用し、固定化酵素の安定性が比較的に低く(即ち標準差値が高い)、転化率が比較的に低かったことを示した。
【0104】
【表8】
【0105】
比較例2 IPAc(酢酸イソプロピル)系でモルホリンジオンに対する固定化樹脂の触媒
三角フラスコに、酢酸イソプロピル25mL、モルホリンジオン1.25g、水2mL、PLP水溶液32mg、イソプロピルアミン0.95mL及び実施例2で得られた固定化酵素5gを加え、45℃、200rpmのシェーカーで反応させ、24時間反応させてサンプリングして転化率を検出した。反応液を濾過して固定化酵素を得、続いて酢酸イソプロピル25mL、モルホリンジオン1.25g、16mg/mLのPLP水溶液2mL、イソプロピルアミン0.95mLを加え、45℃で、200rpmのシェーカーで反応させ、24時間反応させてサンプリングして転化率を検出した。上記方法で固定化酵素を繰り返して使用し、結果は表9に示される通りである。
【0106】
【表9】
【0107】
表8及び表9は、水飽和のIPAc(酢酸イソプロピル)溶媒系において、異なる固定化酵素は、それぞれシタグリプチンジオンとモルホリンジオンを触媒し、それぞれ3バッチを反応に使用し、固定化酵素の安定性が悪く、転化率が低く、且つその転化率は本発明の固定化酵素の転化率と顕著な差があり、これは酢酸イソプロピル系が該固定化酵素の応用に適さなかったことを示した。
【配列表】
2023509151000001.app
【国際調査報告】