(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-07
(54)【発明の名称】細胞膜透過性ペプチドを含むループ状タンパク質
(51)【国際特許分類】
C12N 15/62 20060101AFI20230228BHJP
C07K 4/00 20060101ALI20230228BHJP
C12N 9/16 20060101ALI20230228BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20230228BHJP
C12N 9/10 20060101ALI20230228BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20230228BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20230228BHJP
C12N 15/54 20060101ALI20230228BHJP
C12N 15/55 20060101ALI20230228BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20230228BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20230228BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20230228BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20230228BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230228BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20230228BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C07K4/00 ZNA
C12N9/16 B
C07K16/00
C12N9/10
C12N15/12
C12N15/13
C12N15/54
C12N15/55
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N15/11 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022540812
(86)(22)【出願日】2020-12-30
(85)【翻訳文提出日】2022-06-30
(86)【国際出願番号】 US2020067427
(87)【国際公開番号】W WO2021138397
(87)【国際公開日】2021-07-08
(32)【優先日】2019-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516046846
【氏名又は名称】オハイオ ステート イノベーション ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ペイ デフア
【テーマコード(参考)】
4B050
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B050DD11
4B050LL01
4B050LL03
4B065AA26X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA29
4B065CA31
4B065CA44
4B065CA46
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA14
4H045CA42
4H045CA50
4H045DA76
4H045DA89
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
本開示は、少なくとも1つのループ状領域を含む修飾されたループ状タンパク質を提供し、ここで、少なくとも1つのループ状領域は、細胞膜透過性ペプチド(CPP)を含む。いくつかの実施形態において、本開示は、修飾されたループ状タンパク質をコードするポリヌクレオチド及びその産生のための方法を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのループ領域を含む、修飾されたループ状タンパク質であって、前記少なくとも1つのループ領域は、前記ループ領域に挿入された細胞膜透過性ペプチド(CPP)配列を含む、前記修飾されたループ状タンパク質。
【請求項2】
前記ループ状タンパク質がプロテインチロシンホスファターゼである、請求項1に記載の修飾されたループ状タンパク質。
【請求項3】
前記プロテインチロシンホスファターゼがPTP1Bである、請求項2に記載の修飾されたループ状タンパク質。
【請求項4】
配列番号181~185のうちの1つに対して、少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%同一であるアミノ酸配列を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の修飾されたループ状タンパク質。
【請求項5】
配列番号181~185から選択されるアミノ酸配列を含むか、またはそれらからなる、請求項1~3のいずれか1項に記載の修飾されたループ状タンパク質。
【請求項6】
前記ループ状タンパク質が、抗体またはその抗原結合断片である、請求項1に記載の修飾されたループ状タンパク質。
【請求項7】
前記CPP配列が、前記抗体の重鎖のCH1、CH2、またはCH3ドメインのループ状領域に位置する、請求項4に記載の修飾されたループ状タンパク質。
【請求項8】
前記CPP配列が、相補性決定領域(CDR)1、CDR2、またはCDR3に位置する、請求項6に記載の修飾されたループ状タンパク質。
【請求項9】
前記ループ状タンパク質がグリコシルトランスフェラーゼである、請求項1に記載の修飾されたループ状タンパク質。
【請求項10】
前記グリコシルトランスフェラーゼがプリンヌクレオシドホスホリラーゼである、請求項9に記載の修飾されたループ状タンパク質。
【請求項11】
配列番号187に対して、少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%同一であるアミノ酸配列を含む、請求項10に記載の修飾されたループ状タンパク質。
【請求項12】
配列番号187の前記アミノ酸配列を含むか、またはそれからなる、請求項10に記載の修飾されたループ状タンパク質。
【請求項13】
前記ループ状タンパク質が蛍光タンパク質である、請求項1に記載の修飾されたループ状タンパク質。
【請求項14】
前記蛍光タンパク質がGFPである、請求項13に記載の修飾されたループ状タンパク質。
【請求項15】
配列番号177~179のうちの1つに対して、少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%同一であるアミノ酸配列を含む、請求項14に記載の修飾されたループ状タンパク質。
【請求項16】
配列番号177~179から選択されるアミノ酸配列を含むか、またはそれらからなる、請求項14に記載の修飾されたループ状タンパク質。
【請求項17】
前記CPP配列が、少なくとも3つのアルギニン、またはその類似体を含む、請求項1~14のいずれか1項に記載の修飾されたループ状タンパク質。
【請求項18】
前記CPPが、3~6個のアルギニン、またはその類似体を含む、請求項1~17のいずれか1項に記載の修飾されたループ状タンパク質。
【請求項19】
前記CPPが、疎水性側鎖を持つ少なくとも1つのアミノ酸を含む、請求項1~18のいずれか1項に記載の修飾されたループ状タンパク質。
【請求項20】
前記CPPが、疎水性側鎖を持つ1~6個のアミノ酸を含む、請求項19に記載の修飾されたループ状タンパク質。
【請求項21】
疎水性側鎖を持つ前記アミノ酸が、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、プロリン、ナフチルアラニン、フェニルグリシン、ホモフェニルアラニン、チロシン、シクロヘキシルアラニン、ピペリジン-2-カルボン酸、シクロヘキシルアラニン、ノルロイシン、3-(3-ベンゾチエニル)-アラニン、3-(2-キノリル)-アラニン、O-ベンジルセリン、3-(4-(ベンジルオキシ)フェニル)-アラニン、S-(4-メチルベンジル)システイン、N-(ナフタレン-2-イル)グルタミン、3-(1,1’-ビフェニル-4-イル)-アラニン、tert-ロイシン、またはニコチノイルリシンから独立して選択され、そのぞれぞれは、任意選択により、1つ以上の置換基で置換される、請求項20に記載の修飾されたループ状タンパク質。
【請求項22】
疎水性側鎖を持つ前記アミノ酸のうちの少なくとも1つが、トリプトファンである、請求項19~21のいずれか1項に記載の修飾されたループ状タンパク質。
【請求項23】
疎水性側鎖を持つ前記アミノ酸のそれぞれがトリプトファンである、請求項19~21のいずれか1項に記載の修飾されたループ状タンパク質。
【請求項24】
前記CPP配列が、少なくとも3つのアルギニン及び少なくとも3つのトリプトファンを含む、請求項18~23のいずれか1項に記載の修飾されたループ状タンパク質。
【請求項25】
前記CPP配列が、1~6個のD-アミノ酸を含む、請求項18~24のいずれか1項に記載の修飾されたループ状タンパク質。
【請求項26】
第1のループ状領域及び第2のループ状領域を含み、ここで、第1のCPP配列が前記第1のループ状領域に挿入され、第2のCPP配列が前記第2のループ状領域に挿入される、請求項1~25のいずれか1項に記載の修飾されたループ状タンパク質。
【請求項27】
前記第1のCPPが、少なくとも3つのアルギニンを含み、前記第2のCPPが、疎水性側鎖を持つ少なくとも3つのアミノ酸を含む、請求項26に記載の修飾されたループ状タンパク質。
【請求項28】
前記CPP配列が、表Dから独立して選択される、請求項1~26のいずれか1項に記載の修飾されたループ状タンパク質。
【請求項29】
請求項1~28のいずれか1項に記載の修飾されたループ状タンパク質をコードする、組み換え核酸分子。
【請求項30】
プロモーターに作動可能に連結された請求項29に記載の組み換え核酸分子を含む、発現カセット。
【請求項31】
請求項30に記載の発現カセットを含む、ベクター。
【請求項32】
請求項31に記載のベクターを含む、宿主細胞。
【請求項33】
前記宿主細胞が、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、HEK293細胞、BHK細胞、マウスNSO細胞、マウスSP2/0細胞、またはE.coli細胞から選択される、請求項32に記載の宿主細胞。
【請求項34】
請求項1~28のいずれか1項に記載の修飾されたループ状タンパク質を産生する方法であって、請求項32に記載の宿主細胞を培養することと、発現された前記修飾されたループ状タンパク質を上清から精製することとを含む、前記方法。
【請求項35】
請求項1~28のいずれか1項に記載の修飾されたループ状タンパク質を投与することを含む、疾患または状態を治療する方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[技術分野]
関連出願の相互参照
本出願は、2019年12月30日に出願された米国特許仮出願第62/955,009号の優先権を主張するものであり、その全体が参照により本明細書に援用される。
【0002】
連邦政府による資金提供を受けた研究開発の記載
本発明は、米国国立衛生研究所によるGM122459及びCA234124に基づく助成を受け、政府の支援によりなされたものである。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【0003】
電子提出されたテキストファイルの説明
本出願とともに電子提出されたテキストファイルの内容は、その全体が参照により本明細書に援用される:コンピュータ読み取り可能な形式の配列表のコピー(ファイル名:CYPT_020_01WO_SeqList_ST25.txt、記録日:2020年12月15日、ファイルサイズ77.6キロバイト)。
[背景技術]
【0004】
哺乳類細胞のサイトゾル及び核へのタンパク質の効果的な送達は、現在難治性である多くの疾患の治療を含む、幅広い応用への扉を開くことになる。しかしながら、臨床現場での効果的なタンパク質送達は、いまだ達成されておらず、細胞膜透過性の欠如が障害となっている。細胞膜透過性を向上させるために、タンパク質表面工学技術、ナノ粒子担体への組み込み、及び細胞膜透過性ペプチドの付加を含む、多くの試みが行われてきた。しかしながら、これらのアプローチは、概して、サイトゾル送達効率が低く、ほとんどのカーゴがエンドソーム/リソソームコンパートメント内に閉じ込められる。したがって、様々な治療及び研究目的のために、タンパク質の細胞膜透過性を向上させる更なる戦略が必要とされている。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】PTP1Bループ挿入変異体の予測されるタンパク質折り畳みを示す。CPP配列を、描写された側鎖とともに示し、矢印で示す。構造は、PyMOLによって解析した。
【
図2】10個のPTP1B変異体のパイロットスケール(5mL培養液)での発現を示すSDS-PAGEゲルを示す。S=細胞溶解物の可溶性画分;P=細胞溶解物の不溶性画分。
【
図3】10個の異なるPTP1B変異体を発現するE.coli細胞の粗製溶解物におけるホスファターゼ活性を示す。示されるデータは、3回の独立した実験の平均及びSEMを表し、野生型PTP1Bを発現する細胞(100%)に対して正規化されている。
【
図4】NIH 3T3細胞におけるグローバルpYレベルに対するWT及び変異型PTP1Bの影響を示す。Aは、1%血清の存在下で野生型または変異型PTP1B(PTP1B1Rでは2.1μM及び他の全てのタンパク質では3.0μM)で2時間処理した後のNIH 3T3細胞のSDS-PAGE及び抗pYウェスタンブロット分析を示す。Bは、PTP1B
2Rの濃度(0.5~5μM)に応じたグローバルpYレベルの用量依存的な減少を示す。膜は、抗GAPDH抗体で再ブロットし、サンプルのローディングが確実に均等になるようにした。M=分子量マーカー;C=PTP1Bを含まない対照。
【
図5】サイズ排除クロマトグラフィー及びSDS-PAGEによるGFP/GBN複合体の分析を示す。GFP及びGBNを1:3のモル比で混合し、PBSで予め平衡化したSuperdex75 16/60サイズ排除カラムに注入した。タンパク質を含有する画分をSDS-PAGEによって分析し、クマシーブルーで染色した。AはGFP+GBN
WT、BはGFP+GBN
3W、CはBSA+GBN
WT、DはBSA+GBN
3Wを示す。
【
図6】2.5μMのローダミン標識タンパク質で処理した後のHeLa細胞の共焦点画像を示す。AはGBN
WT、BはGBN
3W、CはGBN
3Rを示す。
【
図7】pH7.4及びpH5.0でフローサイトメトリーによって測定した、NFで標識したTat、環状CPP9、及び3つのGFPナノボディ(GBN
WT、GBN
3W、及びGBN
3R)のサイトゾル侵入効率の比較を示す。値は、処理した細胞の平均蛍光強度を表す。
【
図8】GFP-Mff(左パネル)を一過性にトランスフェクトし、3μMのローダミン標識GBN
3W(中央パネル)で2時間処理したHeLa細胞の生細胞共焦点画像を示す。マージした画像を右側に示し、R値は、共局在化のピアソンの相関係数を表す。
【
図9】GFP(赤)、GBN
3W-NLS(青)、及びGFP/GBN
3W-NLS複合体(緑)のサイズ排除カラムからの溶出プロファイルを示す(上部パネル)。GFP及びGBN
3W-NLSを1:3のモル比で混合し、PBSで予め平衡化したSuperdex75 16/60カラムに注入し、カラムをPBSで溶出した。溶出したタンパク質含有画分のSDS-PAGE解析を下のパネルに示す。
【
図10】PBS(
図10A)、10μMのGBN
WT-NLS(
図10B)、10μMのGBN
3W(
図10C)、または10μMのGBN
3W-NLS(
図10D)で2時間処理した後のHeLa細胞における細胞内GFP局在を示す生細胞共焦点画像を示す。
【
図11】5μMのローダミン標識GBN
WT-NLS(
図11A)またはGBN
3W-NLS(
図11B)で2時間処理した後のHeLa細胞の生細胞共焦点画像を示す。
【
図12】ローダミン標識GBN
3W-NLS及び2つの異なるGFP融合タンパク質の細胞内分布を示す生細胞共焦点画像を示す。Aは、GFP-フィブリラリンを一過性にトランスフェクトし、次いで、共焦点顕微鏡の前に5μMのローダミン標識GBN
3W-NLSで2時間処理したHeLa細胞を示す。Bは、GFP-Mffを一過性にトランスフェクトし、次いで、5μMのローダミン標識GBN
3W-NLSで2時間処理したHeLaを示す。枠で囲んだ領域を拡大し、下部に示す。
【
図13】ループ9にCPPを挿入したEGFPの細胞内送達を示す。Aは、ループ9の位置及び挿入したCPPモチーフを示す、WT及び変異体EGFPの構造を示す。Bは、1%FBSの存在下、WT及び変異体EGFP(5μM)で2時間処理した後のHeLa細胞の生細胞共焦点画像を示す。
【
図14】PNP
3Rの細胞侵入及び生物活性を示す。Aは、1%FBSの存在下、5μMのフルオレセイン標識PNP
WT(上)またはPNP
3R(下)で5時間処理した後のHeLa細胞の生細胞共焦点画像を示す。左パネル:FITC蛍光、右パネル:同じ細胞のFITCシグナルとDIC画像の重ね合わせ。Bは、PNP
WTまたはPNP
3R(1μM)による処理あり及び処理なしのS49(野生型PNP)またはNSU-1細胞から得られた細胞溶解物におけるPNP活性を示す。3回の独立した実験からの代表的なデータ(平均±SD)を示す。Cは、NSU-1細胞のdG毒性に対する保護を示す。NSU-1細胞をPBS(タンパク質なし)、3μMのPNP
WT、または3μMのPNP
3Rで37℃で6時間処理し、徹底的に洗浄し、トリプシン-EDTAとともに3分間インキュベートした。25μMのdGを含有するDMEM中に細胞を1×10
5細胞/mLの密度で播種し、細胞成長(細胞カウント)を72時間モニタリングした。タンパク質処理もdG処理もない細胞を陽性対照として使用した。
【
図16】様々なインキュベーション時間後の残余酵素活性を定量することによってモニタリングした野生型及び変異型PNPの血清安定性。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[発明の概要]
いくつかの実施形態において、本開示は、細胞膜透過性ペプチド(CPP)配列を含む、修飾されたタンパク質を提供し、ここで、CPPは、N末端及び/もしくはC末端に位置するか、またはタンパク質に挿入される。例えば、CPPは、抗体のN末端及び/またはC末端に融合され得る。
【0007】
いくつかの実施形態において、本開示は、少なくとも1つのループ領域を含む、修飾されたループ状タンパク質を提供し、ここで、少なくとも1つのループ領域は、当該ループ領域に挿入された(CPP)配列を含む。
【0008】
いくつかの実施形態において、修飾されたループ状タンパク質は、プロテインチロシンホスファターゼである。いくつかの実施形態において、プロテインチロシンホスファターゼは、PTP1Bである。いくつかの実施形態において、ループ状タンパク質は、グリコシルトランスフェラーゼである。いくつかの実施形態において、グリコシルトランスフェラーゼは、プリンヌクレオシドホスホリラーゼである。いくつかの実施形態において、ループ状タンパク質は、蛍光タンパク質である。いくつかの実施形態において、蛍光タンパク質は、GFPである。
【0009】
いくつかの実施形態において、請求項1に記載の修飾されたループ状タンパク質であって、ループ状タンパク質は、抗体またはその抗原結合断片である。いくつかの実施形態において、CPP配列は、相補性決定領域(CDR)1、CDR2、またはCDR3に位置する。
【0010】
いくつかの実施形態において、CPP配列は、少なくとも3つのアルギニン、またはその類似体を含む。いくつかの実施形態において、CPPは、3~6個のアルギニン、またはその類似体を含む。いくつかの実施形態において、CPPは、疎水性側鎖を持つ少なくとも1つのアミノ酸を含む。いくつかの実施形態において、CPPは、疎水性側鎖を持つ1~6個のアミノ酸を含む。いくつかの実施形態において、疎水性側鎖を持つアミノ酸は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、プロリン、ナフチルアラニン、フェニルグリシン、ホモフェニルアラニン、チロシン、シクロヘキシルアラニン、ピペリジン-2-カルボン酸、シクロヘキシルアラニン、ノルロイシン、3-(3-ベンゾチエニル)-アラニン、3-(2-キノリル)-アラニン、O-ベンジルセリン、3-(4-(ベンジルオキシ)フェニル)-アラニン、S-(4-メチルベンジル)システイン、N-(ナフタレン-2-イル)グルタミン、3-(1,1’-ビフェニル-4-イル)-アラニン、tert-ロイシン、またはニコチノイルリシンから独立して選択され、そのぞれぞれは、任意選択により、1つ以上の置換基で置換される。いくつかの実施形態において、疎水性側鎖を持つアミノ酸のうちの少なくとも1つは、トリプトファンである。いくつかの実施形態において、疎水性側鎖を持つアミノ酸のうちの少なくとも1つのそれぞれは、トリプトファンである。いくつかの実施形態において、CPP配列は、少なくとも3つのアルギニン及び少なくとも3つのトリプトファンを含む。いくつかの実施形態において、CPP配列は、1~6個のD-アミノ酸を含む。
【0011】
いくつかの実施形態において、ループ状タンパク質は、第1のループ状領域及び第2のループ状領域を含み、ここで、第1のCPP配列が当該第1のループ状領域に挿入され、第2のCPP配列が当該第2のループ状領域に挿入される。いくつかの実施形態において、第1のCPPは、少なくとも3つのアルギニンを含み、第2のCPPは、疎水性側鎖を持つ少なくとも3つのアミノ酸を含む。
【0012】
いくつかの実施形態において、CPP配列は、表Dから独立して選択される。
【0013】
いくつかの実施形態において、本開示は、本明細書に記載される修飾されたループ状タンパク質をコードする、組み換え核酸分子を提供する。いくつかの実施形態において、本開示は、プロモーターに作動可能に連結された組み換え核酸分子を含む発現カセットを提供する。いくつかの実施形態において、本開示は、発現カセットを含むベクターを提供する。いくつかの実施形態において、本開示は、ベクターを含む宿主細胞を提供する。いくつかの実施形態において、宿主細胞は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、HEK293細胞、BHK細胞、マウスNSO細胞、マウスSP2/0細胞、またはE.coli細胞から選択される。
【0014】
いくつかの実施形態において、本開示は、本明細書に記載される修飾されたループ状タンパク質を産生する方法を提供し、請求項24に記載の宿主細胞を培養することと、発現された修飾されたループ状タンパク質を上清から精製することとを含む。
[発明を実施するための形態]
【0015】
いくつかの実施形態において、本開示は、少なくとも1つのループ状領域を含む修飾されたループ状タンパク質を提供し、ここで、少なくとも1つのループ状領域は、細胞膜透過性ペプチド(CPP)を含む。いくつかの実施形態において、本開示は、本明細書に記載される修飾されたループ状タンパク質をコードするポリヌクレオチド及び本明細書に記載される修飾されたループ状タンパク質の産生のための方法を提供する。
【0016】
本明細書に記載されるCPPモチーフをタンパク質の表面ループ中に挿入するための組成物及び方法は、そうでなければ細胞膜不透過性であるタンパク質に、細胞膜透過性を付与する一般的なアプローチを表す。このアプローチは、これまでの方法と比べて、多くの利点を提供し、なかでも、細胞溶解物から組み換えタンパク質を精製し、生物学的プローブ、治療薬、または研究薬として直接使用することができることから、そのシンプルさは特に重要である。更に、タンパク質とCPP(または他の化学実体)の翻訳後コンジュゲーションは、典型的に、異なる種の混合物をもたらすが、本明細書に記載される方法は、明確に定義された単一種の構造を生成する。他のタンパク質表面リモデリング法、例えば、スーパーチャージング(Cronican et al.,(2010)Potent Delivery of Functional Proteins into Mammalian Cells in Vitro and in Vivo Using a Supercharged Protein.ACS Chem.Biol.5,747-752;及びFuchs et al.,(2007)Arginine Grafting to Endow Cell-Permeability.ACS Chem Biol.2,167-170)及びエステル化(Mix et al.,(2017)Cytosolic Delivery of Proteins by Bioreversible Esterification.J.Am.Chem.Soc.139,14396-14398)と比較すると、本明細書に記載される方法は、タンパク質構造への変化が比較的軽微であり、より幅広いタンパク質に適用可能であるはずである。得られた変異体タンパク質はまた、元のタンパク質の折り畳み/活性が保持され、免疫原性が低いことが期待される。最後に、タンパク質ループにグラフトされたCPPモチーフは、構造的に制約されており、タンパク質分解に対して比較的安定である。
【0017】
分子及び細胞生化学の一般的な方法については、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,3rd Ed.(Sambrook et al.,HaRBor Laboratory Press 2001);Short Protocols in Molecular Biology,4th Ed.(Ausubel et al.eds.,John Wiley & Sons 1999);Protein Methods(Bollag et al.,John Wiley & Sons 1996);Nonviral Vectors for Gene Therapy(Wagner et al.eds.,Academic Press 1999);Viral Vectors(Kaplift & Loewy eds.,Academic Press 1995);Immunology Methods Manual(I.Lefkovits ed.,Academic Press 1997);及びCell and Tissue Culture:Laboratory Procedures in Biotechnology(Doyle & Griffiths,John Wiley & Sons 1998)などの標準的なテキストに見出すことができ、それらの開示は、参照により本明細書に援用される。
【0018】
定義
別途の定義がない限り、本明細書で使用される全ての科学技術用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されている意味と同じ意味を有する。特定の実施形態の実施または検証には、本明細書に記載されるものと類似または同等の任意の方法及び材料を使用することができるが、組成物、方法及び材料の好ましい実施形態が本明細書に記載される。本開示の目的のために、次の用語は以下の定義とする。更なる定義については、本開示を通して記載される。
【0019】
冠詞「a」、「an」、及び「the」は、本明細書において、その冠詞の文法上の対象が1つまたは1つより多いこと(すなわち、少なくとも1つ、または1つ以上であること)を指すために使用される。例として、「要素(an element)」は、1つの要素または1つ以上の要素を意味する。
【0020】
選択肢(例えば、「または」)の使用は、その選択肢のいずれか一方、両方またはその任意の組み合わせを意味することを理解されたい。
【0021】
「及び/または」という用語は、選択肢のうちの1つまたは両方のいずれかを意味するものと理解されたい。
【0022】
「アルキル」または「アルキル基」は、1~15個の炭素原子を有する完全に飽和した直鎖または分枝鎖の炭化水素鎖で、単結合によって分子の残りの部分に結合しているものを指す。1~15個の任意数の炭素原子を含むアルキルが含まれる。最大15個の炭素原子を含むアルキルは、C1~C15アルキルであり、最大10個の炭素原子を含むアルキルは、C1~C10アルキルであり、最大6個の炭素原子を含むアルキルは、C1~C6アルキルであり、最大5個の炭素原子を含むアルキルは、C1~C5アルキルである。C1~C5アルキルは、C5アルキル、C4アルキル、C3アルキル、C2アルキル及びC1アルキル(すなわち、メチル)を含む。C1~C6アルキルは、C1~C5アルキルについて上に記載される全ての部分を含み、C6アルキルも含む。C1~C10アルキルは、C1~C5アルキル及びC1~C6アルキルについて上に記載される全ての部分を含み、C7、C8、C9及びC10アルキルも含む。同様に、C1~C15アルキルは、前述の全ての部分を含み、C11、C12、C13、C14、及びC15アルキルも含む。C1~C15アルキルの非限定的な例としては、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、sec-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、sec-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、t-アミル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、n-デシル、n-ウンデシル、及びn-ドデシルが挙げられる。本明細書で特に別に明記しない限り、アルキル基は、任意選択により置換され得る。
【0023】
「アルキレン」または「アルキレン鎖」は、完全に飽和した直鎖または分枝鎖の二価炭化水素鎖で、1~12個の炭素原子を有するものを指す。C1~C12アルキレンの非限定的な例としては、メチレン、エチレン、プロピレン、n-ブチレン、エテニレン、プロペニレン、n-ブテニレン、プロピニレン、n-ブチニレンなどが挙げられる。アルキレン鎖は、単結合を介して分子の残りの部分に、単結合を介して基に結合している。アルキレン鎖の分子の残りの部分及び基への結合点は、鎖内の1つの炭素または任意の2つの炭素を介し得る。本明細書で特に別に明記しない限り、アルキレン鎖は、任意選択により置換され得る。
【0024】
「アルケニル」または「アルケニル基」は、2~15個の炭素原子を有し、1つ以上の炭素-炭素二重結合を有する、直鎖または分枝鎖の炭化水素鎖を指す。各アルケニル基は、単結合によって分子の残りの部分に結合している。2~15個の任意数の炭素原子を含むアルケニル基が含まれる。最大15個の炭素原子を含むアルケニル基は、C2~C15アルケニルであり、最大10個の炭素原子を含むアルケニルは、C2~C10アルケニルであり、最大6個の炭素原子を含むアルケニル基は、C2~C6アルケニルであり、最大5個の炭素原子を含むアルケニルは、C2~C5アルケニルである。C2~C5アルケニルは、C5アルケニル、C4アルケニル、C3アルケニル、及びC2アルケニルを含む。C2~C6アルケニルは、C2~C5アルケニルについて上に記載される全ての部分を含み、C6アルケニルも含む。C2~C10アルケニルは、C2~C5アルケニル及びC2~C6アルケニルについて上に記載される全ての部分を含み、C7、C8、C9及びC10アルケニルも含む。同様に、C2~C15アルケニルは、前述の全ての部分を含み、C11、C12、C13、C14、及びC15アルケニルも含む。C2~C12アルケニルの非限定的な例としては、エテニル(ビニル)、1-プロペニル、2-プロペニル(アリル)、イソ-プロペニル、2-メチル-1-プロペニル、1-ブテニル、2-ブテニル、3-ブテニル、1-ペンテニル、2-ペンテニル、3-ペンテニル、4-ペンテニル、1-ヘキセニル、2-ヘキセニル、3-ヘキセニル、4-ヘキセニル、5-ヘキセニル、1-ヘプテニル、2-ヘプテニル、3-ヘプテニル、4-ヘプテニル、5-ヘプテニル、6-ヘプテニル、1-オクテニル、2-オクテニル、3-オクテニル、4-オクテニル、5-オクテニル、6-オクテニル、7-オクテニル、1-ノネニル、2-ノネニル、3-ノネニル、4-ノネニル、5-ノネニル、6-ノネニル、7-ノネニル、8-ノネニル、1-デセニル、2-デセニル、3-デセニル、4-デセニル、5-デセニル、6-デセニル、7-デセニル、8-デセニル、9-デセニル、1-ウンデセニル、2-ウンデセニル、3-ウンデセニル、4-ウンデセニル、5-ウンデセニル、6-ウンデセニル、7-ウンデセニル、8-ウンデセニル、9-ウンデセニル、10-ウンデセニル、1-ドデセニル、2-ドデセニル、3-ドデセニル、4-ドデセニル、5-ドデセニル、6-ドデセニル、7-ドデセニル、8-ドデセニル、9-ドデセニル、10-ドデセニル、及び11-ドデセニルが挙げられる。本明細書で特に別に明記しない限り、アルキル基は、任意選択により置換され得る。
【0025】
「アルキニル」または「アルキニル基」は、2~12個の炭素原子を有し、1つ以上の炭素-炭素三重結合を有する、直鎖または分枝鎖の炭化水素鎖を指す。各アルキニル基は、単結合によって分子の残りの部分に結合している。2~15個の任意数の炭素原子を含むアルキニル基が含まれる。最大12個の炭素原子を含むアルキニル基は、C2~C15アルキニルであり、最大10個の炭素原子を含むアルキニルは、C2~C10アルキニルであり、最大6個の炭素原子を含むアルキニル基は、C2~C6アルキニルであり、最大5個の炭素原子を含むアルキニルは、C2~C5アルキニルである。C2~C5アルキニルは、C5アルキニル、C4アルキニル、C3アルキニル、及びC2アルキニルを含む。C2~C6アルキニルは、C2~C5アルキニルについて上に記載される全ての部分を含み、C6アルキニルも含む。C2~C10アルキニルは、C2~C5アルキニル及びC2~C6アルキニルについて上に記載される全ての部分を含み、C7、C8、C9及びC10アルキニルも含む。同様に、C2~C12アルキニルは、前述の全ての部分を含み、C11、C12、C13、C14、及びC15アルキニルも含む。C2~C15アルケニルの非限定的な例としては、エチニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニルなどが挙げられる。本明細書で特に別に明記しない限り、アルキル基は、任意選択により置換され得る。
【0026】
「アリール」は、水素、6~18個の炭素原子及び少なくとも1つの芳香環を含む、炭化水素環系を指し、単結合によって分子の残りの部分に結合している。本開示の目的のために、アリールは、縮合または架橋された環系を含み得る、単環式、二環式、三環式または四環式の環系であり得る。アリールとしては、アセアントリレン、アセナフチレン、アセフェナントリレン、アントラセン、アズレン、ベンゼン、クリセン、フルオランテン、フルオレン、as-インダセン、s-インダセン、インダン、インデン、ナフタレン、フェナレン、フェナントレン、プレイアデン、ピレン、及びトリフェニレンから誘導されるアリールが挙げられるが、これらに限定されない。本明細書で特に別に明記しない限り、「アリール」は、任意選択により置換され得る。
【0027】
「ヘテロアリール」は、水素原子、1~14個の炭素原子、窒素、酸素及び硫黄からなる群から選択される1~6個のヘテロ原子、ならびに少なくとも1つの芳香環を含む、5~20員の環系を指し、単結合によって分子の残りの部分に結合している。本開示の目的のために、ヘテロアリールは、縮合または架橋された環系を含み得る、単環式、二環式、三環式または四環式の環系であり得;ヘテロアリール中の窒素、炭素または硫黄原子は、任意選択により酸化され得;窒素原子は、任意選択により四級化され得る。例としては、アゼピニル、アクリジニル、ベンゾイミダゾリル、ベンゾチアゾリル、ベンズインドリル、ベンゾジオキソリル、ベンゾフラニル、ベンゾオキサゾリル、ベンゾチアゾリル、ベンゾチアジアゾリル、ベンゾ[b][1,4]ジオキセピニル、1,4-ベンゾジオキサニル、ベンゾナフトフラニル、ベンゾオキサゾリル、ベンゾジオキソリル、ベンゾジオキシニル、ベンゾピラニル、ベンゾピラノニル、ベンゾフラニル、ベンゾフラノニル、ベンゾチエニル(ベンゾチオフェニル)、ベンゾトリアゾリル、ベンゾ[4,6]イミダゾ[1,2-a]ピリジニル、カルバゾリル、シンノリニル、ジベンゾフラニル、ジベンゾチオフェニル、フラニル、フラノニル、イソチアゾリル、イミダゾリル、インダゾリル、インドリル、インダゾリル、イソインドリル、インドリニル、イソインドリニル、イソキノリル、インドリジニル、イソオキサゾリル、ナフチリジニル、オキサジアゾリル、2-オキソアゼピニル、オキサゾリル、オキシラニル、1-オキシドピリジニル、1-オキシドピリミジニル、1-オキシドピラジニル、1-オキシドピリダジニル、1-フェニル-1H-ピロリル、フェナジニル、フェノチアジニル、フェノキサジニル、フタラジニル、プテリジニル、プリニル、ピロリル、ピラゾリル、ピリジニル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル、キナゾリニル、キノキサリニル、キノリニル、キヌクリジニル、イソキノリニル、テトラヒドロキノリニル、チアゾリル、チアジアゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、トリアジニル、及びチオフェニル(すなわち、チエニル)が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書で特に別に明記しない限り、ヘテロアリール基は、任意選択により置換され得る。
【0028】
本明細書で使用される「置換された」という用語は、本明細書で言及される任意の基であって、少なくとも1つの水素原子が、限定するものではないが、F、Cl、Br、及びIなどのハロゲン原子;ヒドロキシル基、アルコキシ基、及びエステル基などの基中の酸素原子;チオール基、チオアルキル基、スルホン基、スルホニル基、及びスルホキシド基などの基中の硫黄原子;アミン、アミド、アルキルアミン、ジアルキルアミン、アリールアミン、アルキルアリールアミン、ジアリールアミン、N-オキシド、イミド、及びエナミンなどの基中の窒素原子;トリアルキルシリル基、ジアルキルアリールシリル基、アルキルジアリールシリル基、及びトリアリールシリル基などの基中のケイ素原子;ならびに様々な他の基中の他のヘテロ原子などの非水素原子への結合によって置き換えられているものを意味する。「置換された」はまた、本明細書の基のいずれかであって、1つ以上の水素原子が、オキソ、カルボニル、カルボキシル、及びエステル基中の酸素などのヘテロ原子;ならびにイミン、オキシム、ヒドラゾン、及びニトリルなどの基中の窒素への高次結合(例えば、二重または三重結合)によって置き換えられているものを意味する。例えば、「置換された」には、上記の基のいずれかであって、1つ以上の水素原子が、-NRgRh、-NRgC(=O)Rh、-NRgC(=O)NRgRh、-NRgC(=O)ORh、-NRgSO2Rh、-OC(=O)NRgRh、-ORg、-SRg、-SORg、-SO2Rg、-OSO2Rg、-SO2ORg、=NSO2Rg、及び-SO2NRgRhで置き換えられているものが含まれる。「置換された」はまた、上記の基のいずれかであって、1つ以上の水素原子が、-C(=O)Rg、-C(=O)ORg、-C(=O)NRgRh、-CH2SO2Rg、-CH2SO2NRgRhで置き換えられているものを意味する。前述において、Rg及びRhは、同一であるか、または異なり、独立して、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アルコキシ、アルキルアミノ、チオアルキル、アリール、アラルキル、シクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキニル、シクロアルキルアルキル、ハロアルキル、ハロアルケニル、ハロアルキニル、ヘテロシクリル、N-ヘテロシクリル、ヘテロシクリルアルキル、ヘテロアリール、N-ヘテロアリール及び/またはヘテロアリールアルキルである。「置換された」は、更に、本明細書の基のいずれかであって、1つ以上の水素原子が、アミノ、シアノ、ヒドロキシル、イミノ、ニトロ、オキソ、チオキソ、ハロ、アルキル、アルケニル、アルキニル、アルコキシ、アルキルアミノ、チオアルキル、アリール、アラルキル、シクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキニル、シクロアルキルアルキル、ハロアルキル、ハロアルケニル、ハロアルキニル、ヘテロシクリル、N-ヘテロシクリル、ヘテロシクリルアルキル、ヘテロアリール、N-ヘテロアリール及び/またはヘテロアリールアルキル基への結合によって置き換えられているものを意味する。加えて、前述の置換基のそれぞれは、任意選択により、上記の置換基のうちの1つ以上によって置換され得る。
【0029】
本明細書で使用されるとき、「約」または「およそ」という用語は、当該技術分野において許容されるレベルで変動する、数量、レベル、値、数、頻度、パーセンテージ、寸法、サイズ、量、重量または長さを指す。いくつかの実施形態において、変動量は、参照の数量、レベル、値、数、頻度、パーセンテージ、寸法、サイズ、量、重量または長さに対して、15%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%または1%程度であり得る。一実施形態において、「約」または「およそ」という用語は、参照の数量、レベル、値、数、頻度、パーセンテージ、寸法、サイズ、量、重量または長さについて、±15%、±10%、±9%、±8%、±7%、±6%、±5%、±4%、±3%、±2%、または±1%の数量、レベル、値、数、頻度、パーセンテージ、寸法、サイズ、量、重量または長さの範囲を指す。
【0030】
数値範囲、例えば、1~5、約1~5、または約1~約5は、当該範囲に包含される各数値を指す。例えば、非限定的かつ単に例示的な一実施形態において、「1~5」の範囲は、1、2、3、4、5;または1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、もしくは5.0;または1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3.0、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4.0、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、もしくは5.0という表現と同等である。
【0031】
本明細書で使用されるとき、「実質的に」という用語は、参照の数量、レベル、値、数、頻度、パーセンテージ、寸法、サイズ、量、重量または長さと比較して、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%以上の数量、レベル、値、数、頻度、パーセンテージ、寸法、サイズ、量、重量または長さを指す。一実施形態において、「実質的に同じ」は、参照の数量、レベル、値、数、頻度、パーセンテージ、寸法、サイズ、量、重量または長さとほぼ同じである効果、例えば、生理学的効果をもたらす、数量、レベル、値、数、頻度、パーセンテージ、寸法、サイズ、量、重量または長さを指す。
【0032】
「ペプチド」、「ポリペプチド」及び「タンパク質」という用語は、本明細書中で区別なく使用され、任意の長さのアミノ酸の重合形態を指し、これらには、コードアミノ酸及び非コードアミノ酸、化学的もしくは生化学的に修飾されたアミノ酸、または誘導体化されたアミノ酸、ならびに修飾されたペプチド骨格を有するポリペプチドが含まれ得る。「修飾された」という用語は、対応する未修飾の物質または化合物と比較して、改変または変更がなされた物質または化合物(例えば、細胞、ポリヌクレオチド配列、及び/またはポリペプチド配列)を指す。
【0033】
本明細書で使用されるとき、「インサート」または「挿入」とは、CPP配列のタンパク質配列への付加を意味する。いくつかの実施形態において、CPP配列は、タンパク質のアミノ酸を除去または置換することなく、タンパク質のループ状領域中のアミノ酸とアミノ酸の間に挿入され、そのため、得られるタンパク質は、CPPに加えて、天然型タンパク質のアミノ酸を全て含有する。このような実施形態において、CPPの挿入は、タンパク質のアミノ酸の総数を増加させる。いくつかの実施形態において、CPPは、タンパク質のループ領域中に存在する1つ以上のアミノ酸を置き換え、そのため、得られるタンパク質は、CPPの挿入前に存在していたアミノ酸の全てを含有しない。いくつかの実施形態において、CPP配列が1つ以上のアミノ酸を置き換える場合、CPPは、CPPのアミノ酸の数と同数のアミノ酸を置き換えてもよいし、そうでなくてもよい。例えば、CPPが6つのアミノ酸を含有する場合、CPPは、ループ中の6つのアミノ酸を置き換えてもよいし、ループ中の1、2、3、4、または5つのアミノ酸を置き換えてもよい。あるいは、アミノ酸を置き換えるのではなく、ループ中のアミノ酸とアミノ酸の間に挿入されてもよい。
【0034】
細胞膜透過性ペプチド
いくつかの実施形態において、本開示は、タンパク質であって、当該タンパク質に挿入された少なくとも1つの細胞膜透過性ペプチド(CPP)配列を含むタンパク質を提供する。CPPの挿入は、タンパク質中の任意の好適な場所、例えば、N末端もしくはC末端、またはN末端とC末端との間に行うことができる。いくつかの実施形態において、本開示は、少なくとも1つのループ領域を含む、修飾されたループ状タンパク質を提供し、ここで、少なくとも1つのループ領域は、当該ループ領域に挿入された細胞膜透過性ペプチド(CPP)配列を含む。タンパク質は、任意の数のループ及び任意の好適な数のCPP配列を含有し得る。当業者であれば、CPPの挿入に好適なループは、CPPの挿入によりタンパク質の所望の活性が消失しないループであることを認識するであろう。タンパク質の活性に対するCPP挿入の影響を決定するための方法は、当該技術分野において知られている(例えば、本明細書に記載される方法を参照されたい)。いくつかの実施形態において、タンパク質は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個以上のループ、及び当該ループ領域(複数可)に挿入された1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個のCPP配列を含む。いくつかの実施形態において、タンパク質中のループ領域の約10%~約100%に挿入される。
【0035】
CPPは、本明細書で開示される修飾されたループ状タンパク質の細胞取り込みを促進する任意のアミノ酸配列であってもよいし、それを含んでもよい。本明細書に記載されるタンパク質ループ及び方法における使用に好適なCPPは、ループ状タンパク質の取り込みを促進する、天然に生じる配列、修飾された配列、及び合成配列、ならびに線状または環状配列を含み得る。線状CPPの非限定的な例としては、ポリアルギニン(例えば、R9またはR11)、Antennapedia配列、HIV-TAT、ペネトラチン、Antp-3A(Antp変異体)、ブフォリンII、トランスポータン、MAP(モデル両親媒性ペプチド)、K-FGF、Ku70、プリオン、pVEC、Pep-1、SynB1、Pep-7、HN-1、BGSC(ビス-グアニジウム-スペルミジン-コレステロール、及びBGTC(Bis-グアニジウム-トレン-コレステロール)が挙げられる。
【0036】
実施形態において、CPP中のアミノ酸の総数は、4~約20アミノ酸の範囲であり得、例えば、約5、約6、約7、約8、約9、約10、約11、約12、約13、約14、約15、約16、約17、約18、及び約19アミノ酸であり、それらの間の全ての範囲及びサブ範囲を含む。いくつかの実施形態において、本明細書で開示されるCPPは、約4~約13個のアミノ酸を含む。特定の実施形態において、本明細書で開示されるCPPは、約6~約10個のアミノ酸、または約6~約8個のアミノ酸を含む。
【0037】
CPPの各アミノ酸は、天然または非天然アミノ酸であり得る。「非天然アミノ酸」という用語は、一端にアミン(-NH2)基及び他端にカルボン酸(-COOH)基を有するが、側鎖または主鎖が修飾されている、天然アミノ酸の同族種である有機化合物を指す。得られる部分は、天然アミノ酸と類似しているが、同一ではない構造及び反応性を有する。そのような修飾の非限定的な例としては、1つ以上のメチレン基による側鎖の伸長、1つの原子を別の原子に置き換えること、及び芳香環のサイズを大きくすることが挙げられる。非天然アミノ酸は、20個の一般的な天然に生じるアミノ酸または稀少な天然アミノ酸であるセレノシステインまたはピロリシンの1つではない、修飾アミノ酸、及び/またはアミノ酸類似体であり得る。例えば、アルギニンの類似体は、側鎖上に1多いまたは1少ないメチレン基を有し得る。非天然アミノ酸はまた、天然アミノ酸のD-異性体であり得る。好適なアミノ酸の例としては、アラニン、アロソロイシン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、ナフチルアラニン、フェニルアラニン、プロリン、ピログルタミン酸、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、その誘導体、またはそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。これらアミノ酸及び他のものを、本明細書で使用されるその略語とともに、表Aに列挙する。
【0038】
【0039】
【0040】
いくつかの実施形態において、CPPは、少なくとも3つのアルギニン、またはその類似体を、例えば、3、4、5、6、7、8、9、または10含む。いくつかの実施形態において、CPPは、3~6個のアルギニン、またはその類似体を含む。
【0041】
いくつかの実施形態において、CPPは、疎水性側鎖を持つ少なくとも1つのアミノ酸、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個のそのようなアミノ酸を含む。いくつかの実施形態において、CPPは、疎水性側鎖を持つ1~6個のアミノ酸を含む。
【0042】
CPP配列への組み込みには、より高い疎水性値を有するアミノ酸が選択され得、より低い疎水性値を有するアミノ酸を含むCPP配列と比べて、修飾されたタンパク質のサイトゾル送達効率を向上することができる。いくつかの実施形態において、各疎水性アミノ酸(本明細書中、疎水性側鎖を有するアミノ酸とも称される)は、独立して、グリシンよりも大きい疎水性値を有する。他の実施形態において、各疎水性アミノ酸は、独立して、アラニンよりも大きい疎水性値を有する。更に他の実施形態において、各疎水性アミノ酸は、独立して、フェニルアラニンよりも大きいまたは等しい疎水性値を有する。疎水性は、当該技術分野において知られている疎水性スケールを使用して測定され得る。以下の表Bは、Eisenberg and Weiss(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.1984;81(1):140-144)、Engleman,et al.(Ann.Rev.of Biophys.Biophys.Chem..1986;(15):321-53)、Kyte and Doolittle(J.Mol.Biol.1982;157(1):105-132)、Hoop and Woods(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.1981;78(6):3824-3828)、及びJanin(Nature.1979;277(5696):491-492)によって報告された、様々なアミノ酸の疎水性値をリストにしたものであり、そのそれぞれの全体は、その全体が参照により本明細書に援用される。特定の実施形態において、疎水性は、Engleman,et al.に報告されている疎水性スケールを使用して測定される。
【0043】
【0044】
いくつかの実施形態において、CPP配列は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個のアミノ酸を含む。いくつかの実施形態において、CPP配列は、1~6個のD-アミノ酸を含む。アミノ酸のキラリティは、サイトゾル取り込み効率を向上するように選択され得る。いくつかの実施形態において、アミノ酸の少なくとも2つは、反対のキラリティを有する。いくつかの実施形態において、反対のキラリティを有する少なくとも2つのアミノ酸は、互いに隣接し得る。いくつかの実施形態において、少なくとも3つのアミノ酸は、互い違いの立体化学を有する。いくつかの実施形態において、互い違いにキラリティを有する少なくとも3つのアミノ酸は、互いに隣接し得る。いくつかの実施形態において、アミノ酸の少なくとも2つは、同じキラリティを有する。いくつかの実施形態において、同じキラリティを有する少なくとも2つのアミノ酸は、互いに隣接し得る。いくつかの実施形態において、少なくとも2つのアミノ酸は、同じキラリティを有し、少なくとも2つのアミノ酸は、反対のキラリティを有する。いくつかの実施形態において、反対のキラリティを有する少なくとも2つのアミノ酸は、同じキラリティを有する少なくとも2つのアミノ酸に隣接し得る。したがって、いくつかの実施形態において、CPPで隣接するアミノ酸は、次の配列のいずれかを有し得る:D-L;L-D;D-L-L-D;L-D-D-L;L-D-L-L-D;D-L-D-D-L;D-L-L-D-L;またはL-D-D-L-D。タンパク質合成中にDアミノ酸をCPP配列に組み込む方法は、当該技術分野において知られており、例えば、Huang et al.,Toward D-peptide biosynthesis:Elongation Factor P enables ribosomal incorporation of consecutive D-amino acids.(2017)bioRxiv 125930;doi:https://doi.org/10.1101/125930;Katoh et al.,Consecutive elongation of D-amino acids in translation.(2017)Cell Chemical Biology 24:46-54を参照されたい。非天然アミノ酸を含有するタンパク質は、ネイティブケミカルライゲーションを使用して生成され得、例えば、Bondalapati,et al.,Expanding the chemical toolbox for the synthesis of large and uniquely modified proteins.(2016)Nature Chemistry volume 8,pages 407-418;Amy E.Rabideau and Bradley Lether Pentelute*.Delivery of Non-Native Cargo into Mammalian Cells Using Anthrax Lethal Toxin.ACS Chem.(2016)Biol.,11(6)1490-1501;及びWeidmann et al.,Copying Life:Synthesis of an Enzymatically Active Mirror-Image DNA-Ligase Made of D-Amino Acids.Cell Chemical Biology,(2019 May 16)26(5);616-619を参照されたい。
【0045】
いくつかの実施形態において、疎水性アミノ酸は、アリール基またはヘテロアリール基を含み、そのそれぞれは、任意選択により、置換される。いくつかの実施形態において、疎水性アミノ酸は、アルキル、アルケニル、またはアルキニル側鎖を含み、そのそれぞれは、任意選択により、置換される。
【0046】
いくつかの実施形態において、疎水性側鎖を有する各アミノ酸は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、プロリン、ナフチルアラニン、フェニルグリシン、ホモフェニルアラニン、チロシン、シクロヘキシルアラニン、ピペリジン-2-カルボン酸、シクロヘキシルアラニン、ノルロイシン、3-(3-ベンゾチエニル)-アラニン、3-(2-キノリル)-アラニン、O-ベンジルセリン、3-(4-(ベンジルオキシ)フェニル)-アラニン、S-(4-メチルベンジル)システイン、N-(ナフタレン-2-イル)グルタミン、3-(1,1’-ビフェニル-4-イル)-アラニン、tert-ロイシン、またはニコチノイルリシンから独立して選択され、そのそれぞれは、任意選択により、1つ以上の置換基で置換される。これらの非天然芳香族疎水性アミノ酸のいくつかの構造(本明細書で開示されるペプチドに組み込まれる前のもの)を以下に示す。特定の実施形態において、各疎水性アミノ酸は、独立して、疎水性芳香族アミノ酸である。いくつかの実施形態において、芳香族疎水性アミノ酸は、ナフチルアラニン、3-(3-ベンゾチエニル)-アラニン、フェニルグリシン、ホモフェニルアラニン、フェニルアラニン、トリプトファン、またはチロシンであり、そのそれぞれは、任意選択により、1つ以上の置換基で置換される。いくつかの実施形態において、各疎水性アミノ酸は、トリプトファンである。
【0047】
【0048】
任意選択の置換基は、cCPPのサイトゾル送達効率を、例えば、置換基を有しないこと以外は同一である配列と比較して、大きく(例えば、50%超)低下させない任意の原子または基であり得る。いくつかの実施形態において、任意選択の置換基は、疎水性置換基または親水性置換基であり得る。ある特定の実施形態において、任意選択の置換基は、疎水性置換基である。いくつかの実施形態において、置換基は、疎水性アミノ酸の溶媒露出表面積(本明細書に定義される)を増加させる。いくつかの実施形態において、置換基は、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキニル、ヘテロシクリル、アリール、ヘテロアリール、アルコキシ、アリールオキシ、アシル、アルキルカルバモイル、アルキルカルボキサミジル、アルコキシカルボニル、アルキルチオ、またはアリールチオであり得る。いくつかの実施形態において、置換基は、ハロゲンである。
【0049】
疎水性アミノ酸のサイズは、CPPのサイトゾル送達効率を向上するように選択され得る。例えば、より大きな疎水性アミノ酸は、より小さな疎水性アミノ酸を有すること以外は同一である配列と比較して、サイトゾル送達効率を向上し得る。疎水性アミノ酸のサイズは、疎水性アミノ酸の分子量、疎水性アミノ酸の立体作用、側鎖の溶媒露出表面積(SASA)、またはそれらの組み合わせの観点から測定することができる。いくつかの実施形態において、疎水性アミノ酸のサイズは、疎水性アミノ酸の分子量の観点から測定され、より大きい疎水性アミノ酸は、少なくとも約90g/mol、または少なくとも約130g/mol、または少なくとも約141g/molの分子量を持つ側鎖を有する。他の実施形態において、アミノ酸のサイズは、疎水性側鎖のSASAの観点から測定され、より大きい疎水性アミノ酸は、アラニンより大きいSASA、またはグリシンより大きいSASAを持つ側鎖を有する。他の実施形態において、疎水性アミノ酸(複数可)は、ピペリジン-2-カルボン酸程度以上、トリプトファン程度以上、フェニルアラニン程度以上、またはナフチルアラニン程度以上のSASAを持つ疎水性側鎖を有する。いくつかの実施形態において、疎水性アミノ酸(複数可)は、少なくとも約200Å2、少なくとも約210Å2、少なくとも約220Å2、少なくとも約240Å2、少なくとも約250Å2、少なくとも約260Å2、少なくとも約270Å2、少なくとも約280Å2、少なくとも約290Å2、少なくとも約300Å2、少なくとも約310Å2、少なくとも約320Å2、少なくとも約330Å2、少なくとも約350Å2、少なくとも約360Å2、少なくとも約370Å2、少なくとも約380Å2、少なくとも約390Å2、少なくとも約400Å2、少なくとも約410Å2、少なくとも約420Å2、少なくとも約430Å2、少なくとも約440Å2、少なくとも約450Å2、少なくとも約460Å2、少なくとも約470Å2、少なくとも約480Å2、少なくとも約490Å2、約500Å2超、少なくとも約510Å2、少なくとも約520Å2、少なくとも約530Å2、少なくとも約540Å2、少なくとも約550Å2、少なくとも約560Å2、少なくとも約570Å2、少なくとも約580Å2、少なくとも約590Å2、少なくとも約600Å2、少なくとも約610Å2、少なくとも約620Å2、少なくとも約630Å2、少なくとも約640Å2、約650Å2超、少なくとも約660Å2、少なくとも約670Å2、少なくとも約680Å2、少なくとも約690Å2、または少なくとも約700Å2のSASAを持つ側鎖側を有する。
【0050】
本明細書で使用されるとき、「疎水性表面積」または「SASA」は、溶媒に接触可能なアミノ酸側鎖の表面積を指す(平方オングストローム;Å2として報告される)。特定の実施形態において、SASAは、Shrake & Rupley(J Mol Biol.79(2):351-71)によって開発された「ローリングボール」アルゴリズムを使用して算出され、その全体があらゆる目的のために参照により本明細書に援用される。このアルゴリズムは、特定の半径の溶媒の「球体」を使用して、分子の表面を調べるものである。球体の典型的な値は1.4Åであり、これは水分子の半径に近似している。
【0051】
いくつかの側鎖のSASA値を以下の表Cに示す。ある特定の実施形態において、本明細書に記載されるSASA値は、Tien,et al.(PLOS ONE 8(11):e80635.https://doi.org/10.1371/journal.pone.0080635によって報告された、以下の表Cに列挙される理論値に基づき、その全体があらゆる目的のために参照により本明細書に援用される。
【0052】
【0053】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載されるCPPは、少なくとも3つのアルギニンを含む。いくつかの実施形態において、本明細書に記載されるCPPは、疎水性側鎖を持つ少なくとも1つ、2つ、または3つのアミノ酸を含む。いくつかの実施形態において、少なくとも3つのアルギニン及び疎水性側鎖を有する少なくとも3つのアミノ酸が一緒にCPPを構成し、1つのループに挿入され得る。タンパク質が2つ以上のループ状領域を有する場合、CPPは、2つ以上のループ状領域に挿入されてもよい。いくつかの実施形態において、少なくとも3つのアルギニンを持つCPPが第1のループに挿入される。そのような実施形態において、少なくとも3つのアルギニンは、CPPとみなされる。いくつかの実施形態において、疎水性側鎖を持つ少なくとも3つのアミノ酸が第2のループに挿入される。そのような実施形態において、少なくとも3つの疎水性アミノ酸は、CPPとみなされる。いくつかの実施形態において、CPPは、少なくとも3つのアルギニンと、本明細書に記載される少なくとも1つ、2つ、または3つの疎水性アミノ酸との任意の組み合わせを含み得る。いくつかの実施形態において、本明細書に記載されるCPPは、少なくとも3つのアルギニン及び本明細書に記載される少なくとも3つの疎水性アミノ酸を含む。いくつかの実施形態において、本明細書に記載されるCPPは、少なくとも3つのアルギニン及び本明細書に記載される少なくとも4つの疎水性アミノ酸を含む。いくつかの実施形態において、本明細書に記載されるCPPは、少なくとも4つのアルギニン及び本明細書に記載される少なくとも3つの疎水性アミノ酸を含む。いくつかの実施形態において、本明細書に記載されるCPPは、少なくとも4つのアルギニン及び本明細書に記載される少なくとも4つの疎水性アミノ酸を含む。
【0054】
いくつかの実施形態において、アルギニンは、疎水性アミノ酸に隣接している。いくつかの実施形態において、アルギニンは、疎水性アミノ酸と同じキラリティを有する。いくつかの実施形態において、少なくとも2つのアルギニンは、互いに隣接している。更に他の実施形態において、3つのアルギニンは、互いに隣接している。いくつかの実施形態において、少なくとも2つの疎水性アミノ酸は、互いに隣接している。他の実施形態において、少なくとも3つの疎水性アミノ酸は、互いに隣接している。他の実施形態において、本明細書に記載されるCPPは、少なくとも2つの連続する疎水性アミノ酸及び少なくとも2つの連続するアルギニンを含む。更なる実施形態において、1つの疎水性アミノ酸は、アルギニンのうちの1つに隣接している。更に他の実施形態において、本明細書に記載されるCPPは、少なくとも3つの連続する疎水性アミノ酸及び3つの連続するアルギニンを含む。更なる実施形態において、1つの疎水性アミノ酸は、アルギニンのうちの1つに隣接している。これらのアミノ酸の様々な組み合わせは、Dアミノ酸及びLアミノ酸の任意の配置を有し得る。いくつかの実施形態において、CPPは、表Dに列挙される配列のいずれであり得るか、またはそのいずれかを含み得る。すなわち、本明細書で開示される修飾されたループタンパク質に使用されるCPPは、表Dの配列のうちの1つであり得るか、または表Dに列挙される配列のいずれか1つを追加のアミノ酸とともに含み得る。
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
本明細書で使用されるとき、サイトゾル送達効率は、CPPを含む修飾されたタンパク質が細胞膜を通過してサイトゾルに入る能力を指す。実施形態において、CPPを含む修飾されたタンパク質のサイトゾル送達効率は、受容体または細胞型に依存しない。サイトゾル送達効率は、絶対サイトゾル送達効率または相対サイトゾル送達効率を指し得る。
【0060】
絶対サイトゾル送達効率は、成長培地における、CPPを含むタンパク質の濃度に対する、CPPを含むタンパク質のサイトゾル濃度の比である。相対サイトゾル送達効率は、CPPを含む対照タンパク質のサイトゾル中の濃度と比較した、CPPを含むタンパク質のサイトゾル中の濃度を指す。定量は、タンパク質を蛍光標識し(例えば、FITC色素による)、当該技術分野においてよく知られた技術を使用して蛍光強度を測定することによって、達成することができる。
【0061】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載されるCPPを含むタンパク質の相対サイトゾル送達効率は、ループ中に融合されたCPPを有しないこと以外は同一であるタンパク質と比較して、約50%~約1000%の範囲内、例えば、約60%、約70%、約80%、約90%、約100%、約110%、約120%、約130%、約140%、約150%、約160%、約170%、約180%、約190%、約200%、約210%、約220%、約230%、約240%、約250%、約260%、約270%、約280%、約290%、約300%、約310%、約320%、約330%、約340%、約350%、約360%、約370%、約380%、約390%、約400%、約410%、約420%、約430%、約440%、約450%、約460%、約470%、約480%、約490%、約500%、約510%、約520%、約530%、約540%、約550%、約560%、約570%、約580%、または約590%、600%、約610%、約620%、約630%、約640%、約650%、約660%、約670%、約680%、約690%、約700%、約710%、約720%、約730%、約740%、約750%、約760%、約770%、約780%、約790%、約800%、約810%、約820%、約830%、約840%、約850%、約860%、約870%、約880%、約890%、約900%、約910%、約920%、約930%、約940%、約950%、約960%、約970%、約980%、約990%、約1000%であり、それらの間の全ての値及びサブ範囲を含む。いくつかの実施形態において、本明細書に記載されるCPPを含むタンパク質の相対サイトゾル送達効率は、約1.5倍~約1000倍の範囲内、例えば、2、5、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、または100倍であり、それらの間の全ての値及びサブ範囲を含む。他の実施形態において、「ループ中に融合されたCPPを有しないこと以外は同一であるタンパク質」は、N末端及び/またはC末端にCPPを含有しており、例えば、N末端及び/またはC末端に融合された線状CPPを含有する。
【0062】
他の実施形態において、本明細書に記載されるCPPを含むタンパク質の絶対サイトゾル送達効率は、ループ中に融合されたCPPを有しないこと以外は同一であるタンパク質と比較して、約10%~約100%の範囲内、例えば、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約30%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、または約100%であり、それらの間の全ての値及びサブ範囲を含む。いくつかの実施形態において、本明細書に記載されるCPPを含むタンパク質の絶対サイトゾル送達効率は、約0.1倍~約1000倍の範囲内、例えば、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、または100倍であり、それらの間の全ての値及びサブ範囲を含む。他の実施形態において、「ループ中に融合されたCPPを有しないこと以外は同一であるタンパク質」は、N末端及び/またはC末端にCPPを含有しており、例えば、N末端及び/またはC末端に融合された線状CPPを含有する。
【0063】
ループ状タンパク質
いくつかの実施形態において、本開示は、少なくとも1つのループ領域を含む、修飾されたループ状タンパク質を提供し、ここで、少なくとも1つのループ領域は、当該ループに挿入された細胞膜透過性ペプチド(CPP)配列を含む。「ループ状タンパク質」という用語は、1つ以上のループ状領域を含む二次構造を持つタンパク質を指す。ループは、アルファヘリックス及びベータストランド以外のタンパク質の領域を指す。構造上、ループは、一般に、二次構造で方向変化がある領域に位置する。いくつかの実施形態において、方向の変化は、少なくとも120度であり得る。いくつかの実施形態において、方向の変化は、200アミノ酸以下で決定付けられる。内部水素結合に関与するアミノ酸残基が4または5個しかないループは、「ターン」と称される。タンパク質ループは、ベータターン及びオメガループを含む。最も一般的なタイプのループ及びターンは、ポリペプチド鎖の方向を変化させ、鎖を折り返し、よりコンパクトな構造を生み出すことを可能にする。ループの別の例は、抗体の相補性決定領域(CDR)である。例示的なループ状タンパク質は、プロテインチロシンホスファターゼ、抗体、ナノボディなどのその抗原結合断片、及びプリンヌクレオシドホスホリラーゼなどのグリコシルトランスフェラーゼである。タンパク質のループ状領域は、当該技術分野において知られている手段、例えば、Loops in Proteinsデータベースのクエリー(Michalesky and Preissner,Loops In Proteins(LIP)-a comprehensive loop database for homology modelling.Protein Engineering,Design,and Selection.(2003)16:12;979-985参照)、及びオンラインのタンパク質折り畳み認識サーバーPhyre2(Kelley et al.,The Phyre2 Web Portal For Protein Modeling,Prediction And Analysis.Nat.Protoc 2015,10(6),845-858)によって決定することができる。
【0064】
ループ状タンパク質の非限定的な例としては、抗体及びその抗原結合断片、例えば、ナノボディ、ならびに細胞内標的に結合するか、または細胞内標的の高親和性結合剤に操作することができる任意のタンパク質が挙げられる。
【0065】
本明細書に記載される修飾されたループ状タンパク質を生成するために、いくつかの理由により、CPPモチーフをカーゴタンパク質のN末端またはC末端ではなくループ領域に融合させた。第1に、短いCPPペプチドを表面ループへ挿入すること、または元のループ配列をCPPで置き換えることで、CPP配列が「環状」のようなコンフォメーションに拘束されることが予想され、CPP配列のタンパク質分解安定性が大きく向上するものと予想される。第2に、ループを埋め込んだCPPの「環状」のようなコンフォメーションは、環状CPPのコンフォメーションを模倣するものであり得、その細胞侵入効率を高める可能性がある(環状CPPは、線状CPPと比較してより大きなサイトゾル取り込み効率を有する)。第3に、これまでの研究により、適切なペプチド配列のタンパク質表面ループへの挿入は、多くの場合、タンパク質構造の軽微な不安定しかもたらさないことが示されている(Scalley-Kim et al.Protein Science 2003,12,197-206)。
【0066】
もう1つの重要な考慮事項は、CPP配列である。CPPは、腔内膜に結合して、CPPに富む脂質ドメインが小さなベシクルとしてエンドソーム膜から出芽することを誘導することによってエンドソームを離脱し、次いで、これが細胞質内でアモルファスの脂質/CPP凝集体に分解されると考えられる(Qian et al.,Biochemistry 2016,55,2601-2612)。両親媒性CPPは、疎水性基(複数可)が膜に挿入されて正の曲率を生み出し、アルギニン残基がリン脂質の頭部をまとめて負の曲率を誘導することができることから、直交方向に同時に正及び負の膜曲率(または負のガウス曲率)が生じることを特徴とする出芽ネック構造の安定化によって、エンドソーム離脱を促進すると思われる(Dougherty et al.,Understanding Cell Penetration of Cyclic Peptides.Chem.Rev.2019,119,10241-10287)。加えて、最も活性な環状CPP(例えば、シクロ(Phe-phe-Nal-Arg-arg-Arg-arg-Gln)(配列番号125)、ここで、pheはD-フェニルアラニンであり、NalはL-ナフチルアラニン(Nal)であり、argはD-アルギニンである)は、ほぼ交互の位置に、D-アミノ酸とL-アミノ酸を含有する。Qian et al.,Biochemistry 2016,55,2601-2612を参照されたい。環状コンフォメーションにおける疎水性正電荷側鎖の特定の空間的な配置が、あらゆる出芽イベントにおいて必須の中間体である出芽ネックにおける負のガウス曲率の形成を促進し得るのではと仮定される。
【0067】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載される修飾されたループ状タンパク質は、検出可能なタグを更に含む。検出可能なタグの例としては、FLAGタグ、ポリ-ヒスチジンタグ(例えば、6xHis)(配列番号126)、SNAPタグ、Haloタグ、cMycタグ、グルタチオン-S-トランスフェラーゼタグ、アビジン、酵素、蛍光タンパク質、発光タンパク質、化学発光タンパク質、生物発光タンパク質、及びリン光性タンパク質が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、蛍光タンパク質は、青色/UVタンパク質(BFP、TagBFP、mTagBFP2、Azurite、EBFP2、mKalama1、Sirius、Sapphire、及びT-Sapphireなど);シアン色タンパク質(CFP、eCFP、Cerulean、SCFP3A、mTurquoise、mTurquoise2、monomeric Midoriishi-Cyan、TagCFP、及びmTFP1など);緑色タンパク質(GFP、eGFP、meGFP(A208K変異)、Emerald、Superfolder GFP、Monomeric Azami Green、TagGFP2、mUKG、mWasabi、Clover、及びmNeonGreenなど);黄色タンパク質(YFP、eYFP、Citrine、Venus、SYFP2、及びTagYFPなど);オレンジ色タンパク質(Monomeric Kusabira-Orange、mKOκ、mKO2、mOrange、及びmOrange2など);赤色タンパク質(RFP、mRaspberry、mCherry、mStrawberry、mTangerine、tdTomato、TagRFP、TagRFP-T、mApple、mRuby、及びmRuby2など);遠赤色タンパク質(mPlum、HcRed-Tandem、mKate2、mNeptune、及びNirFPなど);近赤外線タンパク質(TagRFP657、IFP1.4、及びiRFPなど);ロングストークスシフトタンパク質(mKeima Red、LSS-mKate1、LSS-mKate2、及びmBeRFPなど);光活性化タンパク質(PA-GFP、PAmCherry1、及びPATagRFPなど);光変換性タンパク質(Kaede(green)、Kaede(red)、KikGR1(green)、KikGR1(red)、PS-CFP2、PS-CFP2、mEos2(green)、mEos2(red)、mEos3.2(green)、mEos3.2(red)、PSmOrange、及びPSmOrangeなど);及び光切替可能なタンパク質(Dronpaなど)からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、検出可能なタグは、AmCyan、AsRed、DsRed2、DsRed Express、E2-Crimson、HcRed、ZsGreen、ZsYellow、mCherry、mStrawberry、mOrange、mBanana、mPlum、mRasberry、tdTomato、DsRed Monomer、及び/またはAcGFPから選択することができ、その全てがClontechから入手可能である。
【0068】
プロテインチロシンホスファターゼ
プロテインチロシンホスファターゼは、タンパク質上のリン酸化チロシン残基からリン酸基を除去する酵素の一群である。プロテインチロシン(pTyr)リン酸化は、タンパク相互作用及び細胞局在化のための新しい認識モチーフを作り、タンパク質の安定性に影響を与え、酵素活性を制御することができる、一般的な翻訳後修飾である。そのため、プロテインチロシンリン酸化を適切なレベルに維持することは、多くの細胞機能にとって不可欠である。
【0069】
プロテインチロシンホスファターゼ1B(PTP1B)としても知られる非受容体型チロシンプロテインホスファターゼ1は、プロテインチロシンホスファターゼ(PTP)ファミリーの初期メンバーである酵素である。ヒトでは、PTPN1遺伝子によってコードされている。PTP1Bは、インスリンシグナル伝達経路の負の調節因子であり、特に2型糖尿病の治療として、有望な潜在的治療標的とみなされている。また、乳癌の発生にも関与しており、乳癌の潜在的治療標的としても探究されている。PTP1Bの三次構造は、5つのループ領域を含む。
【0070】
いくつかの実施形態において、本開示の修飾されたループ状タンパク質は、5つのループ領域の1つ以上にCPP配列を含む、修飾されたPTP1Bタンパク質である。いくつかの実施形態において、本開示の修飾されたループ状タンパク質は、ループ1領域にCPP配列を含む、修飾されたPTP1Bタンパク質である。いくつかの実施形態において、修飾されたPTP1Bタンパク質は、ループ2領域にCPP配列を含む。いくつかの実施形態において、修飾されたPTP1Bタンパク質は、ループ3領域にCPP配列を含む。いくつかの実施形態において、修飾されたPTP1Bタンパク質は、ループ4領域にCPP配列を含む。いくつかの実施形態において、修飾されたPTP1Bタンパク質は、ループ5領域にCPP配列を含む。いくつかの実施形態において、ループ1領域、ループ2領域、ループ3領域、ループ4領域、ループ5領域、またはそれらの組み合わせ中のCPP配列。
【0071】
グリコシルトランスフェラーゼ
グリコシルトランスフェラーゼ(GTF、Gtf)は、天然グリコシド結合を確立する酵素(EC2.4)である。活性化された糖ヌクレオチド(「グリコシルドナー」としても知られる)から求核性のグリコシルアクセプター分子に糖部分を転移することを触媒し、その求核剤は、酸素、炭素、窒素、または硫黄系であり得る。いくつかの実施形態において、グリコシルトランスフェラーゼは、プリンヌクレオシドホスホリラーゼである。プリンヌクレオシドホスホリラーゼ(PNP)は、イノシンをヒポキサンチンとリボースリン酸に、グアノシンをグアニンとリボースリン酸に変換することによって、プリン代謝に関与する酵素である(Erion et al.,Purine nucleoside phosphorylase.2.Catalytic mechanism.Biochemistry 1997,36,11735-48)。PNP欠損をもたらす変異は、T細胞(細胞媒介性)免疫に欠陥を引き起こすだけでなく、B細胞免疫及び抗体反応にも影響することがある(Markert,Purine nucleoside phosphorylase deficiency.Immunodefic.Rev.1991,3,45-81)。この稀な遺伝子疾患の潜在的な治療法は、患者の細胞のサイトゾルに酵素的に活性なPNPを送達することである。
【0072】
いくつかの実施形態において、本開示の修飾されたループ状タンパク質は、1つ以上のPNPループ領域にCPP配列を含む、修飾されたPNPタンパク質である。いくつかの実施形態において、修飾されたPNPタンパク質は、2つのPNPループ領域にCPP配列を含む。いくつかの実施形態において、修飾されたPNPタンパク質は、3つのPNPループ領域にCPP配列を含む。
【0073】
抗体及び抗原結合断片
「抗体」という用語は、免疫グロブリン(Ig)分子であって、Ig分子の可変領域に位置する少なくとも1つのエピトープ認識部位を介して、炭水化物、ポリヌクレオチド、脂質、またはポリペプチドなどの特定の標的に結合することが可能なIg分子を指す。本明細書で使用されるとき、この用語は、インタクトなポリクローナルまたはモノクローナル抗体及びその抗原結合断片を包含する。例えば、天然型免疫グロブリン分子は、2つの重鎖ポリペプチド及び2つの軽鎖ポリペプチドから構成される。重鎖ポリペプチドのそれぞれは、重鎖ポリペプチドと軽鎖ポリペプチドとの間の鎖内ジスルフィド結合により、軽鎖ポリペプチドと会合して、2つのヘテロ二量体タンパク質またはポリペプチド(すなわち、2つの異種ポリペプチド鎖からなるタンパク質)を形成する。次いで、2つのヘテロ二量体タンパク質は、重鎖ポリペプチド間の追加の鎖内ジスルフィド結合により会合して、免疫グロブリンタンパク質またはポリペプチドを形成する。
【0074】
本明細書で使用される「抗原結合断片」という用語は、目的の抗原の少なくとも1つのエピトープに結合する、免疫グロブリン重鎖及び/または軽鎖の少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含有するポリペプチド断片を指す。この点に関して、本明細書に記載される抗体の抗原結合断片は、標的分子に特異的に結合する抗体に由来する可変重鎖(VH)及び可変軽鎖(VL)配列の1、2、3、4、5、または6つ全てのCDRを含み得る。抗原結合断片には、全長抗体の一部、一般に、その抗原結合領域または可変領域を含むタンパク質、例えば、Fab、F(ab’)2、Fab’、Fv断片、ミニボディ、ダイアボディ、単一ドメイン抗体(dAb)、一本鎖可変断片(scFv)、抗体断片から構成される多重特異性抗体、及び必要とされる特異性の抗原結合部位または断片を含む免疫グロブリン分子の任意の他の修飾構造体が含まれる。
【0075】
「F(ab)」という用語は、パパイン酵素によるIgG分子のタンパク質分解性切断によって得られるタンパク質断片のうちの2つを指す。各F(ab)は、VH鎖及びVL鎖の共有結合ヘテロ二量体を含み、インタクトな抗原結合部位を含む。各F(ab)は、一価の抗原結合断片である。「Fab’」という用語は、F(ab’)2から得られる断片を指し、Fcのごく一部を含有し得る。各Fab’断片は、一価の抗原結合断片である。
【0076】
「F(ab’)2」という用語は、ペプシン酵素によるタンパク質分解性切断によって生成されたIgGのタンパク質断片を指す。各F(ab’)2断片は、2つのF(ab’)断片を含み、したがって、二価の抗原結合断片である。
【0077】
「Fv断片」は、天然型抗体分子の抗原認識及び結合能力のほとんどを保持しているが、Fab内に含有されるCH1及びCLドメインを欠く抗原結合部位を含む、非共有結合性のVH::VLヘテロ二量体を指す。Inbar et al.(1972)Proc.Nat.Acad.Sci.USA 69:2659-2662;Hochman et al.(1976)Biochem 15:2706-2710;及びEhrlich et al.(1980)Biochem 19:4091-4096。
【0078】
CH3ドメインに結合されたscFvを含むミニボディもまた本明細書に含まれる(S.Hu et al.,Cancer Res.,56,3055-3061,1996)。例えば、Ward,E.S.et al.,Nature 341,544-546(1989);Bird et al.,Science,242,423-426,1988;Huston et al.,PNAS USA,85,5879-5883,1988;PCT/US92/09965;WO94/13804;P.Holliger et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90 6444-6448,1993;Y.Reiter et al.,Nature Biotech,14,1239-1245,1996;S.Hu et al.,Cancer Res.,56,3055-3061,1996を参照されたい。
【0079】
二重特異性抗体(BsAb)は、2つの異なる固有の抗原(または同じ抗原の異なるエピトープ)に同時に結合することができる抗体である。現在、BsAbの主な用途は、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)及びエフェクター細胞によって媒介される他の細胞傷害機序による腫瘍細胞の殺傷を増大させるために、細胞傷害性免疫エフェクター細胞をリダイレクトすることである。
【0080】
組み換え抗体工学技術により、親モノクローナル抗体(mab)の可変重鎖(VH)及び軽鎖(VL)ドメインを含む組み換え二重特異性抗体断片の作製が可能となる。非限定的な例としては、scFv(単鎖可変断片)、BsDb(二重特異性ダイアボディ)、scBsDb(一本鎖二重特異性ダイアボディ)、scBsTaFv(一本鎖二重特異性タンデム可変ドメイン)、DNL-(Fab)3(ドック・アンド・ロック三価Fab)、sdAb(単一ドメイン抗体)、及びBssdAb(二重特異性単一ドメイン抗体)が挙げられる。
【0081】
Fc領域を持つBsAbは、ADCC及びCDCなどのFc媒介性エフェクター機能を果たすのに有用である。これらは、通常のIgGの半減期を有する。一方、Fc領域を持たないBsAb(二重特異性断片)は、治療活性の発揮には、抗原結合能力にのみ依存している。これらの断片は、サイズが小さいことから、固形腫瘍への透過率に優れている。BsAb断片は、グリコシル化を必要とせず、細菌細胞で産生され得る。その用途に合わせたBsAbのサイズ、価数、柔軟性及び半減期。
【0082】
二重特異性IgG抗体は、組み換えDNA技術を使用して、同じ細胞株で発現させた2つの異なる重鎖及び軽鎖から組み立てることができる。異なる鎖のランダムな組み立てにより、非機能性分子及び望ましくないHCホモ二量体の形成が生じる。この問題に対応するために、第2の結合部分(例えば、単鎖可変断片)をH鎖またはL鎖のN末端またはC末端に融合させ、各抗原に対して2つの結合部位を含有する四価BsAbを得ることができる。LC-HCのミスペアリング及びHCホモ二量体化に対処するための更なる方法は、以下の通りである。
【0083】
ノブ・イントゥ・ホールBsAb IgG。2つのCH3ドメインに異なる変異を導入することによって、H鎖ヘテロ二量体化を強制的に起こさせ、非対称抗体を得る。具体的には、一方のHCに「ノブ」変異を作り、もう一方のHCに「ホール」変異を作り、ヘテロ二量体化を促進させる。
【0084】
Ig-scFv融合。全長IgGに新しい抗原結合部分を直接付加することで、四価の融合タンパク質を得る。例としては、IgG C末端のscFv融合及びIgG N末端のscFv融合が挙げられる。
【0085】
ダイアボディ-Fc融合。これは、IgGのFab断片を二重特異性ダイアボディ(scFvの誘導体)に置き換えることを伴う。
【0086】
デュアル可変ドメイン-IgG(DVD-IgG)。1つの特異性を持つIgGのVL及びVHドメインを、リンカー配列を介して、異なる特異性を持つIgGのVL及びVHのN末端にそれぞれ融合して、DVD-IgGを形成する。
【0087】
「ダイアボディ」という用語は、VH及びVLドメインが、同じ鎖上の2つのドメイン間で対合が起こらないような短いリンカーを使用して単一ポリペプチド鎖に発現させることにより、これらのドメインを別の鎖の相補ドメインと対合させ、2つの抗原結合部位を形成させた二重特異性抗体を指す(例えば、Holliger et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6444-48(1993)及びPoljak et al.,Structure 2:1121-23(1994)参照)。
【0088】
「ナノボディ」または「単一ドメイン抗体」という用語は、単一の単量体可変抗体ドメインからなる抗原結合断片を指す。これらには、従来のモノクローナル抗体(mAb)と比べて、サイズの小ささ(15kD)、還元的な細胞内環境での安定性、及び細菌系での産生の容易さを含む、いくつかの利点がある(Schumacher et al.,(2018)Nanobodies:Chemical Functionalization Strategies and Intracellular Applications.Angew.Chem.Int.Ed.57,2314;Siontorou,(2013)Nanobodies as novel agents for disease diagnosis and therapy.International Journal of Nanomedicine,8,4215-27)。これらの特徴により、ナノボディは、遺伝子及び化学的な修飾が可能であり(Schumacher et al.,(2018)Nanobodies:Chemical Functionalization Strategies and Intracellular Applications.Angew.Chem.Int.Ed.57,2314)、研究ツール及び治療薬としての応用を容易にしている(Bannas et al.,(2017)Nanobodies and nanobody-based human heavy chain antibodies as antitumor therapeutics.Frontiers in Immunology,8,1603)。過去10年間にわたり、ナノボディは、タンパク質の固定化(Rothbauer et al.,(2008)A Versatile Nanotrap for Biochemical and Functional Studies with Fluorescent Fusion Proteins.Mol.Cell.Proteomics,7,282-289)、イメージング(Traenkle et al.,(2015)Monitoring Interactions and Dynamics of Endogenous Beta-catenin With Intracellular Nanobodies in Living Cells.Mol.Cell.Proteomics,14,707-723)、タンパク質間相互作用の検出(Herce et al.,(2013)Visualization and targeted disruption of protein interactions in living cells.Nat.Commun,4,2660;Massa et al.,(2014)Site-Specific Labeling of Cysteine-Tagged Camelid Single-Domain Antibody-Fragments for Use in Molecular Imaging.Bioconjugate Chem,25,979-988)、及び高分子阻害剤(Truttmann et al.,(2015)HypE-specific Nanobodies as Tools to Modulate HypE-mediated Target AMPylation.J.Biol.Chem.290,9087-9100)に使用されてきた。
【0089】
しかしながら、抗体及びナノボディの細胞内応用は、細胞膜透過性の欠如により阻まれてきた。その細胞膜透過性を向上させるために多くの試みが行われており、それらには、タンパク質表面工学技術(Bruce et al.,(2016)Resurfaced cell-penetrating nanobodies:A potentially general scaffold for intracellularly targeted protein discovery.Protein Sci,25,1129-1137)、ナノ粒子担体への組み込み(Chiu et al.,(2016)Intracellular chromobody delivery by mesoporous silica nanoparticles for antigen targeting and visualization in real time.Sci.Rep,6,25019)、及び環状CPPの付加(Herce et al.,(2017)Cell-permeable nanobodies for targeted immunolabelling and antigen manipulation in living cells.Nat.Chem,9,762-771)が含まれる。しかしながら、これらのアプローチは、ほとんどのカーゴがエンドソーム/リソソームコンパートメント内に閉じ込められるため、概して、サイトゾル送達効率が低い。したがって、抗体及びナノボディの細胞膜透過性を向上させる更なる戦略が必要とされている。
【0090】
いくつかの実施形態において、CPP配列は、抗体またはその抗原結合断片の1つ以上のループ(例えば、1、2、3、またはそれより多いループ)に挿入される。いくつかの実施形態において、CPP配列は、可変アミノ酸配列を持つループ領域(すなわち、CDRループ)に挿入される。抗体及びその抗原結合断片の高度保存領域または可変領域を決定する方法は、当該技術分野においてよく知られている。
【0091】
いくつかの実施形態において、CPP配列は、抗体の定常ドメイン内のループ領域に挿入される。例えば、いくつかの実施形態において、CPP配列は、重鎖のCH1ドメインの1つ以上のループに挿入される。このような実施形態において、CPP配列は、アミノ酸位置D148とT155の間及び/またはN201とV211の間に挿入され得る。いくつかの実施形態において、CPP配列は、重鎖のCH2ドメインの1つ以上のループに挿入される。このような実施形態において、CPP配列は、アミノ酸位置D265とK274の間及び/またはK322とI332の間に挿入され得る。いくつかの実施形態において、CPP配列は、重鎖のCH3ドメインの1つ以上のループに挿入される。このような実施形態において、CPP配列は、アミノ酸位置のG371とA378の間及び/またはS426とT437の間に挿入され得る。抗体重鎖のアミノ酸位置への全ての言及は、Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991)にあるようなEUインデックスに従い、これは、参照により本明細書に明示的に援用される。「EUインデックス」は、ヒトIgG1抗体のナンバリングを指す。
【0092】
いくつかの実施形態において、本開示の修飾されたループ状タンパク質は、抗体または抗原結合断片上のCDRのうちの1つ以上に挿入されたCPP配列を含む、修飾された抗体である。いくつかの実施形態において、CPP配列は、CDR1、CDR2、またはCDR3領域、またはそれらの組み合わせに挿入される。いくつかの実施形態において、修飾された抗体は、CDR1に挿入されたCPP配列を含む。いくつかの実施形態において、修飾された抗体は、CDR2に挿入されたCPP配列を含む。いくつかの実施形態において、修飾された抗体は、CDR3に挿入されたCPP配列を含む。
【0093】
いくつかの実施形態において、本開示の修飾されたループ状タンパク質は、抗体または抗原結合断片上のCDRのうちの1つ以上に挿入されたCPP配列を含む、修飾されたナノボディである。いくつかの実施形態において、CPP配列は、CDR1、CDR2、またはCDR3領域、またはそれらの組み合わせに挿入される。いくつかの実施形態において、修飾されたナノボディは、CDR1に挿入されたCPP配列を含む。いくつかの実施形態において、修飾されたナノボディは、CDR2に挿入されたCPP配列を含む。いくつかの実施形態において、修飾されたナノボディは、CDR3に挿入されたCPP配列を含む。
【0094】
いくつかの実施形態において、モノクローナル抗体またはその抗原結合断片におけるCPP挿入の最適部位は、部分的には、「エピトープビニング」を使用することによって、決定される。「エピトープビニング」は、標的タンパク質に対するモノクローナル抗体またはその断片のライブラリーを特性評価及び分類するために使用される競合イムノアッセイを指す。エピトープビニングにより、モノクローナル抗体を、ペアワイズ方式で、抗原に対する結合を互いに遮断する能力に基づいて、エピトープ「ファミリー」または「ビン」に分類することができる。あるモノクローナル抗体の抗原結合が別のモノクローナル抗体の結合を阻害する場合、それらの抗体は、類似または重複するエピトープに結合するとみなされ、同じ「ビン」に分類される。逆に、モノクローナル抗体の抗原への結合が別のモノクローナル抗体の結合と干渉しない場合、それらは、別個の重複しないエピトープに結合するとみなされる。エピトープビニングは、所与の抗体ライブラリーの数百または数千の抗体クローンを特性評価するために使用される。エピトープビニングの標準的な方法は、典型的に、表面プラズモン共鳴(SPR)技術を伴う。SPRを使用すると、モノクローナル抗体候補は、標的タンパク質への結合について、ペアワイズでスクリーニングされる。他の標準的な方法は、インタンデム、プレミックス、または古典的なサンドイッチアッセイなどのELISAベースのスクリーニングを伴う。抗体の分類は、米国特許第8,568,992号及び米国特許出願公開第US2017/0131276号に更に開示されており、その全体が参照により本明細書に援用される。
【0095】
いくつかの実施形態において、エピトープビニングデータは、抗体配列決定データとマージされ、ループ領域へのCPP配列挿入の最適部位が決定され得る。各「ビン」に属する抗体の配列アライメントにより、同一のアミノ酸配列を持つループ状領域が特定され、これらの保存残基が抗原結合に重要であることが示唆される。各「ビン」に属する抗体の配列アライメントにより、可変アミノ酸配列を持つループ状領域が特定され、CPP挿入が抗原結合活性に影響しないことが示唆される。いくつかの実施形態において、CPP配列は、可変アミノ酸配列を持つ抗体のループ領域(すなわち、CDRループ)に挿入される。
【0096】
好適な抗体または本明細書で言及される断片のいずれかの非限定的な例としては、K-Ras、ベータ-カテニン、c-Myc、STAT3、及び他の発がん性タンパク質が挙げられる。
【0097】
例示的な修飾されたループ状タンパク質
いくつかの実施形態において、本開示は、表Eから選択される修飾されたループ状タンパク質を提供する。挿入されたCPP配列を太字で示す。PTP1B2R(C215S)中のSer215に下線を引く。
【0098】
【0099】
【0100】
いくつかの実施形態において、本開示は、配列番号177~179、181~185、及び187から選択される配列に対して、少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%同一であるアミノ酸配列を含む、修飾されたループ状タンパク質を提供する。いくつかの実施形態において、本開示は、配列番号177~179、181~185、及び187から選択されるアミノ酸配列を含む、修飾されたループ状タンパク質を提供する。いくつかの実施形態において、本開示は、配列番号177~179、181~185、及び187から選択されるアミノ酸配列からなる、修飾されたループ状タンパク質を提供する。
【0101】
ポリヌクレオチド及び発現ベクター
ポリヌクレオチド
本明細書で提供されるのは、本明細書に記載される修飾されたループ状タンパク質をコードする核酸配列を含む、核酸分子である。「ポリヌクレオチド」及び「核酸」という用語は、本明細書中で区別なく使用され、リボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチドのいずれかの任意の長さのヌクレオチドの重合形態を指す。したがって、この用語は、限定するものではないが、一本鎖、二本鎖もしくは多本鎖のDNAもしくはRNA、ゲノムDNA、cDNA、DNA-RNAハイブリッド、またはプリン塩基及びピリミジン塩基もしくは他の天然、化学的もしくは生化学的修飾、非天然もしくは誘導体化ヌクレオチド塩基を含む重合体を含む。「オリゴヌクレオチド」は、一般に、一本鎖または二本鎖のDNAの約5~約100ヌクレオチドのポリヌクレオチドを指す。しかしながら、本開示の目的上、オリゴヌクレオチドの長さに上限はない。オリゴヌクレオチドは、「オリゴマー」または「オリゴ」としても知られ、遺伝子から単離され得るか、または当該技術分野において知られている方法によって化学的に合成され得る。「ポリヌクレオチド」及び「核酸」という用語は、記載される実施形態に適用されるように、一本鎖及び二本鎖のポリヌクレオチドを含むものと理解されたい。
【0102】
2つ以上のポリヌクレオチド間またはポリペプチド間の配列関係を記述するために使用される用語には、「参照配列」、「比較ウインドウ」、「配列同一性」、「配列同一性のパーセンテージ」、及び「実質的な同一性」が含まれる。「参照配列」は、ヌクレオチド及びアミノ酸残基を含め、長さが少なくとも12であるが、しばしば15~18、多くの場合、少なくとも25モノマー単位である。2つのポリヌクレオチドは、それぞれ、(1)2つのポリヌクレオチド間で類似する配列(すなわち、完全なポリヌクレオチド配列の一部のみ)、及び(2)2つのポリヌクレオチド間で相違する配列を含み得るので、2つ(以上)のポリヌクレオチド間の配列比較は、典型的に、2つのポリヌクレオチドの配列を「比較ウインドウ」にわたって比較して、配列類似性のある局所領域を特定及び比較することによって実施される。「比較ウインドウ」は、少なくとも6、通常は約50~約100、より通常は約100~約150の連続する位置の概念上のセグメントを指し、ある配列が、同数の連続する位置の参照配列と、2つの配列の最適なアライメントの後に比較される。比較ウインドウは、2つの配列の最適アライメントを得るために、参照配列(付加または欠失を含まない)と比較して、約20%以下の付加または欠失(すなわち、ギャップ)を含み得る。比較ウインドウのアライメントを行うための配列の最適アライメントは、アルゴリズム(Wisconsin Genetics Software Package Release 7.0(Genetics Computer Group,575 Science Drive Madison,WI,USA)中のGAP、BESTFIT、FASTA、及びTFASTA)のコンピュータ実装によって、または調査及び選択された様々な方法のいずれかによって生成されるベストアライメント(すなわち、比較ウインドウにわたって最大の相同性パーセンテージをもたらすもの)によって実施され得る。また、例えば、Altschul et al.,1997,Nucl.Acids Res.25:3389によって開示されているBLASTファミリーのプログラムを参照してもよい。配列解析の詳細な考察は、Ausubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons Inc,1994-1998(第15章単元19.3)に見出すことができる。
【0103】
「配列同一性」、または例えば「~に対して50%同一である配列」を含む記述は、本明細書で使用される場合、配列が、比較ウインドウにわたって、ヌクレオチド単位ごとまたはアミノ酸単位ごとに同一である程度を指す。したがって、「配列同一性のパーセンテージ」は、最適にアライメントされた2つの配列を比較ウインドウにわたって比較し、両方の配列で同一の核酸塩基(例えば、A、T、C、G、I)または同一のアミノ酸残基(例えば、Ala、Pro、Ser、Thr、Gly、Val、Leu、Ile、Phe、Tyr、Trp、Lys、Arg、His、Asp、Glu、Asn、Gln、Cys及びMet)が存在する位置の数を決定して、一致する位置の数を得、一致する位置の数を比較ウインドウの位置の総数(すなわち、ウインドウサイズ)で割り、その結果に100を掛けて配列同一性のパーセンテージを得ることによって計算され得る。
【0104】
本明細書で使用される場合、「ポリヌクレオチドバリアント」及び「バリアント」などという用語は、参照ポリヌクレオチド配列と実質的な配列同一性を示すポリヌクレオチド、または以下に定義されるストリンジェントな条件下で参照配列とハイブリダイズするポリヌクレオチドを指す。これらの用語は、参照ポリヌクレオチドと比較して1つ以上のヌクレオチドが付加もしくは欠失されているか、または異なるヌクレオチドと置き換えられている、ポリヌクレオチドを含む。この点に関して、変異、付加、欠失及び置換を含むある特定の変更は、参照ポリヌクレオチドに対して行うことができ、それによって変更されたポリヌクレオチドは、参照ポリヌクレオチドの生物学的機能または生物活性を保持することは当該技術分野においてよく理解されている。
【0105】
特定の実施形態において、ポリヌクレオチドまたはバリアントは、参照配列に対して、少なくともまたは約50%、55%、60%、65%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%,85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列同一性を有する。
【0106】
本明細書で企図されるポリヌクレオチドは、本明細書に別途開示されるように、または当技術分野において知られているように、コーディング配列自体の長さにかかわらず、他のDNA配列、例えば、プロモーター及び/またはエンハンサー、非翻訳領域(UTR)、シグナル配列、Kozak配列、ポリアデニル化シグナル、追加の制限酵素部位、マルチクローニングサイト、配列内リボソーム進入部位(IRES)、リコンビナーゼ認識部位(例えば、LoxP、FRT、及びAtt部位)、終止コドン、転写終結シグナル、ならびに自己切断ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、エピトープタグと組み合わせてもよく、そのため、その全体的な長さは大きく変動し得る。したがって、特定の実施形態において、ほぼあらゆる長さのポリヌクレオチド断片を採用することができ、その全長は、好ましくは、目的の組み換えDNAプロトコルにおける調製及び使用が容易であることに限られることが企図される。ポリヌクレオチドは、当該技術分野において知られ、利用可能である、様々な十分に確立された技術のいずれかを使用して、調製、操作及び/または発現させることができる。
【0107】
プロモーター及びシグナル配列
いくつかの実施形態において、ベクターはまた、修飾されたループ状タンパク質をコードするポリヌクレオチドに融合された、シグナルペプチド(例えば、核局在化、核小体局在化、ミトコンドリア局在化のため)をコードする配列も含み得る。例えば、ベクターは、修飾されたループ状タンパク質をコードするポリヌクレオチドに融合された、核局在化配列(例えば、SV40またはcMyc由来)を含み得る。例示的な核局在化配列を以下に示す:
SV40:PKKKRKV(配列番号127)
NLP:AVKRPAATKKAGQAKKKKLD(配列番号128)
TUS:KLKIKRPVK(配列番号129)
EGL-13:MSRRRKANPTKLSENAKKLAKEVEN(配列番号130)
【0108】
ベクター
「ベクター」という用語は、別の核酸分子を輸送または運搬することが可能な核酸分子を指すために本明細書で使用される。輸送された核酸は、一般に、ベクター核酸分子に連結、例えば、挿入される。ベクターは、細胞内で自律複製を誘導する配列を含み得るか、または宿主細胞DNAへの組み込みを可能にするのに十分な配列を含み得る。
【0109】
本明細書で使用される「発現カセット」という用語は、RNAを発現し、その後タンパク質を発現することができるベクター内の遺伝子配列を指す。核酸カセットは、目的の遺伝子、例えば、修飾されたループ状タンパク質を含有する。核酸カセットは、カセット内の核酸がRNAに転写され、必要な場合にはタンパク質またはポリペプチドに翻訳され、形質転換細胞の活性に必要とされる適切な翻訳後修飾を受け、適切な細胞内コンパートメントを標的とすることまたは細胞外コンパートメントへの分泌によって生物活性に適切なコンパートメントへ移動していくことができるように、ベクター内に位置的及び連続的に配向される。好ましくは、カセットは、ベクターへの容易な挿入に適合された3’末端及び5’末端を有し、例えば、各末端に制限エンドヌクレアーゼ部位を有する。カセットは、取り出して、プラスミドまたはウイルスベクターに単一のユニットとして挿入されてもよい。いくつかの実施形態において、核酸カセットは、修飾されたループ状タンパク質の配列を含有する。
【0110】
例示的なベクターとしては、限定するものではないが、プラスミド、ファージミド、コスミド、トランスポゾン、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC)、またはP1由来人工染色体(PAC)などの人工染色体、ラムダファージまたはM13ファージなどのバクテリオファージ、及び動物ウイルスが挙げられる。ベクターとして有用な動物ウイルスのカテゴリーの例としては、限定するものではないが、レトロウイルス(レンチウイルスを含む)、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス(例えば、単純ヘルペスウイルス)、ポックスウイルス、バキュロウイルス、パピローマウイルス、及びパポバウイルス(例えば、SV40)が挙げられる。発現ベクターの例は、哺乳類細胞における発現には、pClneoベクター(Promega);哺乳類細胞におけるレンチウイルス媒介遺伝子移入及び発現には、pLenti4/V5-DEST(商標)、pLenti6/V5-DEST(商標)、及びpLenti6.2/V5-GW/lacZ(Invitrogen)である。特定の実施形態において、本明細書で開示される修飾されたループ状タンパク質のコーディング配列は、宿主細胞における修飾されたループ状タンパク質の発現のために、そのような発現ベクターにライゲーションされ得る。いくつかの実施形態において、本明細書で企図される1つ以上のポリヌクレオチドを宿主細胞に送達するために、非ウイルスベクターが使用される。
【0111】
いくつかの実施形態において、ベクターは、エピソームベクターまたは染色体外に維持されるベクターを含むがこれらに限定されない、非組み込み型ベクターである。本明細書で使用される場合、「エピソーム」という用語は、宿主の染色体DNA内に組み込まれることなく、また分裂する宿主細胞から次第に失われることなく、複製することが可能なベクターを指し、当該ベクターは、染色体外またはエピソームで複製することも意味する。ベクターは、リンパ球向性ヘルペスウイルスもしくはガンマヘルペスウイルス、アデノウイルス、SV40、ウシパピローマウイルス、または酵母に由来するDNA複製起点または「ori」、具体的には、EBVのoriPに対応するリンパ球向性ヘルペスウイルスまたはガンマヘルペスウイルスの複製起点をコードする配列を有するように操作される。具体的な態様において、リンパ球向性ヘルペスウイルスは、エプスタインバーウイルス(EBV)、カポジ肉腫ヘルペスウイルス(KSHV)、サルヘルペスウイルス(HS)、またはマレック病ウイルス(MDV)であり得る。エプスタインバーウイルス(EBV)及びカポジ肉腫ヘルペスウイルス(KSHV)は、ガンマヘルペスウイルスの例でもある。典型的に、宿主細胞は、複製を活性化するウイルス複製トランス活性化因子タンパク質を含む。
【0112】
いくつかの実施形態において、ポリヌクレオチドは、トランスポゾンベクター系を使用して、標的細胞または宿主細胞に導入される。ある特定の実施形態において、トランスポゾンベクター系は、転移要素及び本明細書で企図されるポリヌクレオチドを含むベクター;ならびにトランスポザーゼを含む。一実施形態において、トランスポゾンベクター系は、単一のトランスポザーゼベクター系であり、例えば、WO2008/027384を参照されたい。例示的なトランスポザーゼとしては、piggyBac、Sleeping Beauty、Mos1、Tc1/mariner、Tol2、mini-Tol2、Tc3、MuA、HimarI、FrogPrince、及びその誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。piggyBacトランスポゾン及びトランスポザーゼは、例えば、米国特許第6,962,810号に記載されており、その全体が参照により本明細書に援用される。Sleeping Beautyトランスポゾン及びトランスポザーゼは、例えば、Izsvak et al.,J.Mol.Biol.302:93-102(2000)に記載されており、その全体が参照により本明細書に援用される。メダカのOryzias latipesから最初に単離され、hATファミリーのトランスポゾンに属するTol2トランスポゾンは、Kawakami et al.(2000)に記載されている。Mini-Tol2は、Tol2のバリアントであり、Balciunas et al.(2006)に記載されている。Tol2及びMini-Tol2トランスポゾンは、Tol2トランスポザーゼと協働する場合に、導入遺伝子の生物のゲノムへの組み込みを促進する。Frog Princeトランスポゾン及びトランスポザーゼは、例えば、Miskey et al.,Nucleic Acids Res.31:6873-6881(2003)に記載されている。
【0113】
発現ベクターに存在する「制御要素」または「調節配列」は、宿主細胞のタンパク質と相互作用して転写及び翻訳を実施する、ベクターの非翻訳領域(例えば、複製起点、選択カセット、プロモーター、エンハンサー、翻訳開始シグナル(Shine Dalgarno配列またはKozak配列)イントロン、ポリアデニル化配列、5’及び3’非翻訳領域)である。そのような要素は、その強さ及び特異性が異なり得る。利用されるベクター系及び宿主に応じて、ユビキタスプロモーター及び誘導性プロモーターを含む、任意の数の好適な転写及び翻訳要素が使用され得る。いくつかの実施形態において、目的のポリヌクレオチドは、制御要素または調節配列に作動可能に連結される。「作動可能に連結される」とは、そのように記載される要素が、その意図された様式で機能することを可能にする関係にある並置を指す。例えば、プロモーターは、プロモーターがポリヌクレオチド配列の転写または発現に影響する場合、ポリヌクレオチド配列に作動可能に連結されている。
【0114】
いくつかの実施形態において、目的のポリヌクレオチドは、プロモーター配列に作動可能に連結される。本明細書で使用される「プロモーター」という用語は、RNAポリメラーゼが結合するポリヌクレオチド(DNAまたはRNA)の認識部位を指す。RNAポリメラーゼは、プロモーターに作動可能に連結されたポリヌクレオチドを開始及び転写する。特定の実施形態において使用するのに好適な例示的なユビキタスプロモーターとしては、サイトメガロウイルス(CMV)前初期プロモーター、ウイルスシミアンウイルス40(SV40)(例えば、初期または後期)プロモーター、脾臓フォーカス形成ウイルス(SFFV)プロモーター、モロニーマウス白血病ウイルス(MoMLV)LTRプロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)LTR、単純ヘルペスウイルス(HSV)(チミジンキナーゼ)プロモーター、ワクシニアウイルス由来のH5、P7.5、及びP11プロモーター、伸長因子1-アルファ(EF1α)プロモーター、初期成長応答1(EGR1)プロモーター、フェリチンH(FerH)プロモーター、フェリチンL(FerL)プロモーター、グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)プロモーター、真核生物翻訳開始因子4A1(EIF4A1)プロモーター、熱ショック70kDaタンパク質5(HSPA5)プロモーター、熱ショックタンパク質90kDaベータメンバー1(HSP90B1)プロモーター、熱ショックタンパク質70kDa(HSP70)プロモーター、β-キネシン(β-KIN)プロモーター、ヒトROSA26遺伝子座(Irions et al.,Nature Biotechnology 25,1477-1482(2007))、ユビキチンC(UBC)プロモーター、ホスホグリセリン酸キナーゼ-1(PGK)プロモーター、サイトメガロウイルスエンハンサー/ニワトリβ-アクチン(CAG)プロモーター、β-アクチンプロモーター、ならびに骨髄増殖性肉腫ウイルスエンハンサーの負調節領域欠失dl587revプライマー-結合部位置換(MND)プロモーター(Challita et al.,J Virol.69(2):748-55(1995))が挙げられるが、これらに限定されない。
【0115】
特定の実施形態で企図されるポリヌクレオチドの非ウイルス送達の例示的な方法としては、エレクトロポレーション、ソノポレーション、リポフェクション、マイクロインジェクション、微粒子銃、ビロソーム、リポソーム、イムノリポソーム、ナノ粒子、ポリカチオンまたは脂質:核酸コンジュゲート、ネイキッドDNA、人工ビリオン、DEAEデキストラン媒介導入、遺伝子銃、及び熱ショックが挙げられるが、これらに限定されない。
【0116】
特定の実施形態で企図される特定の実施形態において使用するのに好適なポリヌクレオチド送達系の例示的な例としては、Amaxa Biosystems、Maxcyte,Inc.、BTX Molecular Delivery Systems、及びCopernicus Therapeutics Inc.によって提供されているものが挙げられるが、これらに限定されない。リポフェクション試薬は、市販されている(例えば、Transfectam(商標)及びLipofectin(商標))。ポリヌクレオチドの効率的な受容体認識リポフェクションに好適なカチオン性脂質及び中性脂質は、文献に記載されている。例えば、Liu et al.(2003)Gene Therapy.10:180-187;及びBalazs et al.(2011)Journal of Drug Delivery.2011:1-12を参照されたい。抗体を標的とした細菌由来の非生物ナノセルベースの送達もまた、特定の実施形態において企図される。
【0117】
タンパク質発現系
いくつかの実施形態において、本明細書に記載される修飾されたループ状タンパク質をコードする核酸配列を含む発現カセットを含むベクターは、コードされた修飾されたループ状タンパク質を発現することが可能な宿主細胞に導入される。例示的な宿主細胞としては、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、HEK293細胞、BHK細胞、マウスNSO細胞、またはマウスSP2/0細胞、及びE.coli細胞が挙げられる。次いで、発現されたタンパク質は、当該技術分野において知られている様々な方法(例えば、プロテインAカラム、アフィニティークロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィーなど)のいずれか1つを使用して、培養系から精製される。
【0118】
本明細書に記載される修飾されたループタンパク質の産生に使用するのに好適な数多くの発現系が存在する。特に、真核生物ベースの系は、核酸配列、またはその同族ポリペプチド、タンパク質及びペプチドを産生するために利用することができる。そのような系は数多く市販され、広く入手可能である。
【0119】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載される修飾されたループタンパク質は、標準化されたプロトコルに従って、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を使用して産生される。あるいは、例えば、トランスジェニック動物を利用して本明細書に記載される修飾されたループタンパク質を産生することができ、一般に、十分に確立されたトランスジェニック動物技術を使用して、動物の乳汁に発現させることによってなされる。Lonberg N.Human antibodies from transgenic animals.Nat Biotechnol.2005 Sep;23(9):1117-25;Kipriyanov et al.Generation and production of engineered antibodies.Mol Biotechnol.2004 Jan;26(1):39-60;Ko et al.,Plant biopharming of monoclonal antibodies.Virus Res.2005 Jul;111(1):93-100もまた参照されたい。
【0120】
昆虫細胞/バキュロウイルス系は、高レベルの異種核酸セグメントのタンパク質発現をもたらすことができ、例えば、米国特許第5,871,986号及び同第4,879,236号(いずれもその全体が参照により本明細書に援用される)に記載され、例えば、InvitrogenからMAXBAC(登録商標)2.0及びClonotechからBACPACK(商標)バキュロウイルス発現系の名称で購入することができる。
【0121】
発現系の他の例としては、合成エクジソン誘導性受容体を利用する、StratageneのComplete Control Inducible Mammalian Expression Systemが挙げられる。誘導性発現系の別の例は、Invitrogenから入手可能であり、全長CMVプロモーターを使用する誘導性哺乳類発現系であるT-REX(商標)(テトラサイクリン制御性発現)Systemが提供されている。Invitrogenは、メチロトローフ酵母菌Pichia methanolicaにおける高レベルの組み換えタンパク質産生のために設計された、Pichia methanolica Expression Systemと呼ばれる酵母菌発現系も提供している。当業者であれば、本明細書に記載される修飾されたループ状タンパク質をコードする核酸配列を含む発現コンストラクトなどのベクターを発現させ、コードされる核酸配列またはその同族ポリペプチド、タンパク質、もしくはペプチドを産生させる方法を知っているであろう。概して、Recombinant Gene Expression Protocols By Rocky S.Tuan,Humana Press(1997),ISBN0896033333;Advanced Technologies for Biopharmaceutical Processing By Roshni L.Dutton,Jeno M.Scharer,Blackwell Publishing(2007),ISBN0813 805171;Recombinant Protein Production With Prokaryotic and Eukaryotic Cells By Otto-Wilhelm Merten,Contributor European Federation of Biotechnology,Section on Microbial Physiology Staff,Springer(2001),ISBN0792371372を参照されたい。
【0122】
別の方法として、本発明のタンパク質は、排他的固相合成、部分的固相法、フラグメント縮合または古典的な液相合成によって合成することができる。これらの合成法は、当業者によく知られている(例えば、Merrifield,J.Am.Chem.Soc.85:2149(1963)、Stewart et al.,“Solid Phase Peptide Synthesis”(2nd Edition),(Pierce Chemical Co.1984)、Bayer and Rapp,Chem.Pept.Prot.3:3(1986)、Atherton et al.,Solid Phase Peptide Synthesis:A Practical Approach(IRL Press 1989)、Fields and Colowick,“Solid-Phase Peptide Synthesis,”Methods in Enzymology Volume289(Academic Press 1997)、及びLloyd-Williams et al.,Chemical Approaches to the Synthesis of Peptides and Proteins(CRC Press,Inc.1997)参照)。「ネイティブケミカルライゲーション」及び「発現タンパク質ライゲーション」などの全化学合成戦略の変形形態も標準である(例えば、Dawson et al.,Science266:776(1994)、Hackeng et al.,Proc.Nat’l Acad.Sci.USA94:7845(1997)、Dawson,Methods Enzymol.287:34(1997)、Muir et al,Proc.Nat’l Acad.Sci.USA95:6705(1998)、及びSeverinov and Muir,J.Biol.Chem.273:16205(1998)参照)。発現タンパク質ライゲーションの一例において、組み換え発現タンパク質をインテインから切断し、共役チオフェノールを含有する反応溶液中で、酸化されていないスルフヒドリル側鎖を有するN末端システインを含有するペプチドとタンパク質を接触させることによって、タンパク質をペプチドにライゲートさせる。これにより、組み換えタンパク質のC末端にチオエステルが形成され、これが分子内で自然に転位し、タンパク質とペプチドを連結するアミド結合が形成される。概して、Muir,TW et al Expressed Protein Ligation:A General Method for Protein Engineering,PNAS(1998)95(12)6705-6710;米国特許第6,849,428号;米国特許出願公開第2002/0151006号;Bondalapati,et al.,Expanding the chemical toolbox for the synthesis of large and uniquely modified proteins.(2016)Nature Chemistry volume 8,pages 407-418;Amy E.Rabideau and Bradley Lether Pentelute*.Delivery of Non-Native Cargo into Mammalian Cells Using Anthrax Lethal Toxin.ACS Chem.(2016)Biol.,11(6)1490-1501;及びWeidmann et al.,Copying Life:Synthesis of an Enzymatically Active Mirror-Image DNA-Ligase Made of D-Amino Acids.Cell Chemical Biology,(2019 May 16)26(5);616-619を参照されたい。
【実施例】
【0123】
実施例1:細胞膜透過性PTP1B
本明細書に記載されるタンパク質工学アプローチの一般性を実証するために、プロテインチロシンホスファターゼ1B(PTP1B)の触媒ドメイン(アミノ酸1~321)を、哺乳類細胞への送達を可能にするように、CPPを用いて操作した。チロシンリン酸化は、一般に、サイトゾル及び核タンパク質または膜貫通タンパク質のサイトゾルドメインに制限されている。したがって、これらのタンパク質のホスホチロシン(pY)レベルの変動は、PTP1Bのサイトゾル空間への機能的送達の決定的な証拠を提供する。更に、pYレベルの任意の変化は、抗pY抗体を用いた免疫ブロット法によって簡便に検出することができる。
【0124】
PTP1B(1~321)構造の調査により、CPPのグラフトが可能な部位として、5つの溶媒露出ループ領域が明らかになった。これらのループは、PTP1Bの触媒部位またはアロステリック部位から遠位である。PTPファミリーの他のメンバーとの配列アライメントにより、これらのループ領域には高い配列変異があることが示されており(Yang et al.,(1998).Crystal Structure of the Catalytic Domain of Protein-tyrosine Phosphatase SHP-1.Journal Biological Chemistry,273(43),28199-28207)、これらのループの修飾がPTP1Bのフォールディングまたは触媒機能を阻害する可能性は低いことが示唆される。各ループに対して、WWWRRRR(配列番号117)及びRRRRWWW(配列番号118)の両方の配向でCPP配列を挿入し、合計で10個のループ挿入変異体を得た(表1)。グリシン残基は、ループの柔軟性を提供するために導入した。変異体タンパク質は、挿入の部位(すなわち、ループ1~5をそれぞれ「1~5」)及びCPPの配向(WWWRRRR(配列番号117)を「W」及びRRRRWWW(配列番号118)を「R」)に基づいて、「1~5W」及び「1~5R」と名付けた。修飾されたループの全体的な正電荷を確保するために、元のループ領域の酸性残基のいくつかを除去した。場合によっては、ループの柔軟性を高めるために、グリシン残基をCPP配列の両側に挿入した。
【0125】
【0126】
10個のPTP1B変異体の3D構造を、オンラインのタンパク質折り畳み認識サーバーPhyre2を使用して予測した。10個の変異体は全て、CPP配列がタンパク質表面に提示された野生型タンパク質の折り畳みを有することが予測された(
図1)。ループ1、3、及び5の挿入変異体について、CPPモチーフは、溶媒に面した側鎖を持つ「環状のような」トポロジーを取ったが、ループ2及び4の変異体では、CPPは、制約の低い構造を示した。
【0127】
実施例2:細胞膜透過性PTP1Bの生成及び特性評価
PTP1B変異体をワンステップPCR法によって生成した(Qi et al.(2008)A one-step PCR-based method for rapid and efficient site-directed fragment deletion,insertion,and substitution mutagenesis.Journal of Virological Methods 149,85-90)。溶解性及び触媒活性を迅速に評価するために、変異体のそれぞれを5mLのE.coli BL21(DE3)細胞培養で発現させた。粗製細胞溶解物をSDS-PAGEによって分析した。10個の挿入変異体は全て、低温で導入すると主に可溶性タンパク質を産生し、これは、CPPのループへの挿入がPTP1Bの全体的な折り畳みを阻害しないことを示している(
図2)。
【0128】
細胞溶解物のホスファターゼ活性を、p-ニトロフェニルリン酸(pNPP;0.5mM)を基質として使用することによって、定量した。10個の変異体のうち4つは、野生型PTP1Bの25~60%の触媒活性を示したが、残りは活性が低かった(
図3)。細胞溶解物のPTP活性は、所与の変異体の発現レベルと比活性の両方に左右された。
【0129】
活性の最も高い4つのPTP1B変異体(1W、1R、2R、及び4R)をE.coli BL21(DE3)細胞で大規模発現させ、アフィニティークロマトグラフィーによってほぼ均質になるまで精製した。4つの変異体は、異なる可溶性タンパク質の収量を示しており、これは、折り畳み効率及びタンパク質分解安定性が異なることに起因すると思われる(表2)。変異体の比活性を精製タンパク質で決定し、野生型PTP1Bと比較した。変異体1Rを除く他の3つの変異体は、野生型PTP1Bと比較して、同等またはより高い触媒活性を示した(表2)。
【0130】
【0131】
PTP1B変異体の細胞膜透過性を評価するために、NIH 3T3細胞を野生型または変異型PTP1B(1R、1W、2R及び4R)で2時間処理し、溶解し、そのグローバルpYレベルを抗pY抗体4G10による免疫ブロット法によって調べた。未処理の細胞及び野生型PTP1Bで処理した細胞は、非常に類似したpYタンパク質レベルを示したが、PTP1Bの変異型で処理した後の細胞は、低いpYレベルを示し、変異体2R及び4Rでは最大の減少が観察された(
図4A)。更に、異なる濃度の2R変異体で処理した3T3細胞は、ほとんどのタンパク質のpYレベルについて用量依存的な減少を示した(
図4B)。これらのデータは、野生型PTP1Bではなく、PTP1B変異体が3T3細胞のサイトゾルに入り、細胞内タンパク質上のチロシン残基を脱リン酸化する生物活性があったことを示している。
【0132】
実施例3:細胞膜透過性ナノボディ
この研究において、CPPループ挿入戦略をナノボディに適用した。GFP結合ナノボディ(GBN)をモデル系として選択した。高度に保存された非CDRループとは異なり、GBNのCDR1及びCDR3ループは、CPP挿入に耐性があることがわかった。操作したナノボディは、効率的に哺乳類細胞に入り、生細胞内でGFPに特異的に結合した。
【0133】
細胞膜透過性GFP結合ナノボディの構築。CPPループ挿入研究にGBNを選択したのは、GFP:GBN複合体の構造及び結合熱力学が十分に特徴付けられているからである(Kubala et al.,(2010)Structural and thermodynamic analysis of the GFP:GFP-nanobody complex.Protein science:a publication of the Protein Society,19(12),2389-401)。ラクダナノボディは、高度に保存されたコア構造及び3つの可変相補性決定領域(CDR)からなる典型的な免疫グロブリンの折り畳みを有する(Mitchell & Colwell(2018).Comparative analysis of nanobody sequence and structure data.Proteins:Structure,Function,And Bioinformatics,86(7),697-706)。GFP/GBN複合体の結晶構造は、3つのCDRループが全て抗原結合に関与することを示している。標的結合に対する潜在的影響を最小限に抑えるために、まず、4つの非CDRループをCPP挿入部位に選択した(表3)。CPPモチーフRRRRWWW(配列番号118)またはその逆配列WWWRRRR(配列番号117)を各ループに挿入した。残念ながら、非CDRループ1及び2へのCPP挿入は、不溶性タンパク質を産生し、ループ4への挿入は、標的タンパク質の発現に失敗し、ループ3の挿入変異体では、分子クローニングがうまくいかなかった(表4)。これらの結果は、高度に保存されたこれらの非CDR領域の配列完全性が、タンパク質構造を維持するために重要であることを示唆している。
【0134】
【0135】
【0136】
次に、RRRRWWW(配列番号118)またはWWWRRRR(配列番号117)のCPP配列を3つのCDRループに挿入して、更に6つの変異体を作製した(表3)。CPPを挿入する正確な部位は、いくつかの検討事項に基づいて決定した。まず、挿入は、通常「ターン構造」を形成する2つのアミノ酸の間になされ、天然型タンパク質構造の破壊を最小限に抑え、挿入された配列の構造的制約を最大にするようにする。溶媒に最も露出した2つの残基の間に挿入すると、CPP側鎖が溶媒側に向くことが予想される。第2に、GBN1R、GBN1W、GBN2W、及びGBN3R変異体に例示されるように(表3)、元のループ配列のカチオン性または疎水性残基は、概して、CPP配列の一部として維持して、導入されるアミノ酸置換数を最小限に抑えた。最後に、CDR2への両方の挿入について、WT配列のアスパラギン酸を除去して、正電荷のCPPと干渉しないようにした。6つのCDR挿入変異体をワンステップPCR法によって良好に構築した(Qi et al.,(2008)A one-step PCR-based method for rapid and efficient site-directed fragment deletion,insertion,and substitution mutagenesis.Journal of Virological Methods 149,85-90)。変異体のうちの3つ(GBN1W、GBN3W、及びGBN3R)は、E.coliで発現させると、可溶性タンパク質を産生した(表4)。これらの変異体をニッケルアフィニティークロマトグラフィーによってほぼ均質になるまで精製した。
【0137】
実施例4:細胞膜透過性ナノボディの特性評価
GBN変異体によるGFP結合
変異型ナノボディのGFPへの結合能をゲル濾過クロマトグラフィーによって評価した。野生型または変異型ナノボディをGFPと3:1のモル比でインキュベートし、混合物をSuperdex 75カラムに通した。予想した通り、GBN
WT及びGFPは、2つのタンパク質の1:1複合体に対応する約45kDのピークとして共溶出した(
図5A)。過剰な未結合ナノボディに対応する約15kDの第2のピークも観察された。各溶出種の同定は、SDS-PAGEによって確認した。喜ばしいことに、GBN
3W及びGBN
3R変異体もまたGFPとの1:1複合体を形成し、これは、GFP結合に関与するCDR3の構造変化にかかわらず、いずれも実質的なGFP結合活性を保持していたことを示している(
図5B)。陰性対照として、BSAは、別のピークとして溶出され、GBN
WT(
図5C)またはGBN
3W(
図5D)のいずれとも複合体を形成しなかった。GBN
3W及びGBN
3Rは、GBN
WTよりもはるかに大きな溶出量を示したが、これは、CPP挿入後にタンパク質の疎水性が増大し、ゲル濾過樹脂への結合が強くなったためと思われる(
図5D)。
【0138】
次に、表面プラズモン共鳴を利用して、GFPとGBN変異体との間の相互作用を定量した。GFPをセンサーチップ上に固定化し、漸増濃度のGBN変異体を注入したところ、濃度依存的にレスポンスユニット(RU)が上昇した。野生型及び3つのループ挿入変異体は、固定化されたGFPと強い相互作用を示し、会合速度は速く(104M-1s-1)、解離速度は遅かった(10-4s-1)。GBNWTは、18.9nMの計算されたカイネティクスの解離速度定数を有したが、3つの変異体も同様のKD値(20~35nM)を示した。平衡Kd値は、4つ全てのナノボディでいくらか高く、233nM(GBNWT)~712nM(GBN1W)の範囲であった(表5)。しかし、これらの結果は、ループ挿入がGFP結合能を阻害しなかったことを示している。
【0139】
【0140】
GBNバリアントの細胞侵入
GFP結合親和性が高いことから、GBN
3W及びGBN
3Rを更なる研究のために選択した。GBN
WT、GBN
3W、及びGBN
3R(2.5μM)の表面リシン残基(複数可)をローダミンで標識し、HeLa細胞とともに1.5時間インキュベートし、洗浄し、生細胞共焦点顕微鏡によってイメージングした。GBN
WT(
図6A)は、顕著な内在化を示さなかったが、GBN
3W(
図6B)及びGBN
3R(
図6C)は、強く部分的に拡散した細胞内蛍光を発生し、後者のほうが細胞侵入がいくらか効率的であった。
【0141】
サイトゾル侵入効率を評価するために、ナノボディの表面リシン(複数可)をナフトフルオレセイン(NF)で標識し、5μMのNF標識ナノボディでHeLa細胞を2時間処理し、フローサイトメトリーによって解析した。細胞膜透過性ペプチドTat及びCPP9を陽性対照として使用した。NFは、pH感受性色素であり、酸性のエンドソーム及びリソソームコンパートメント内では非蛍光である。そのため、フローサイトメトリーによって測定された蛍光強度は、細胞表面で会合したタンパク質及びエンドソーム/リソソームからサイトゾルへ離脱したタンパク質を反映する。細胞表面結合タンパク質からの影響を排除するために、細胞懸濁液のpHをフローサイトメトリーの直前に素早く5.0に調整し、あらゆる細胞外NFの蛍光を消した。
図7に示されるように、酸性pHでは、GBN
3W及びGBN
3Rで処理したHeLa細胞の全蛍光強度が低下したことから、一部のナノボディが細胞膜と会合することを示している。しかしながら、pH5であっても、GBN
3W及びGBN
3Rで処理した細胞は、優れたサイトゾル侵入活性を有するCPP9と同等かまたは更に強い蛍光を示しており(Qian et al.,(2016).Discovery and Mechanism of Highly Efficient Cyclic Cell-Penetrating Peptides.Biochemistry,55(18),2601-2612)、GBN変異体がHeLa細胞のサイトゾルに効率的に侵入したことが示唆される。予想した通り、Tat及びGBN
WTは、酸性または中性pHのいずれにおいても、極めて低いサイトゾル侵入を示した。
【0142】
GFPとGBN変異の共局在化
内在化したナノボディが生細胞で機能するかどうかを決定するために、サイトゾルGFPとの共局在化を分析した。ミトコンドリア外膜に局在するGFP融合タンパク質をHeLa細胞に一過性にトランスフェクトした。24時間後、細胞をローダミン標識ナノボディで処理し、共焦点顕微鏡によってイメージングした。ローダミン標識GBN
3Rで処理した細胞は、細胞膜上に強いタンパク質凝集を示し、GBN
3Rは、細胞内に発現されたGFPと共局在しなかった(データ示さず)。対照的に、GBN
3Wは、非常に強い細胞内蛍光を示し、ミトコンドリア結合GFPと部分的に共局在し、ピアソンの相関係数は約0.7であった(
図8)。これらのデータは、内在化したGBN
3Wの一部がエンドソームから離脱し、ミトコンドリア表面に局在するGFPに結合したことを示している。GBNの少なくとも一部は、エンドソーム/リソソーム内に保持され、及び/または細胞表面と会合するとみられ、R値は<1.0となった。
【0143】
核局在化シグナルのGBN
3Wへの融合
GFPとGBNの共局在化を更に試験するために、c-Myc核局在化シグナル(NLS;PAAKRVKLD(配列番号166))をGBN
WT及びGBN
3WのC末端に融合し、それぞれGBN
WT-NLS及びGBN
3W-NLSを作製した。C末端NLSの付加は、サイズ排除クロマトグラフィーでのGFP及びGBNバリアントの共溶出によって示されるように、GFP結合に影響しなかった(
図9)。GFPを安定的に発現するHeLa細胞を、GBN
WT-NLS、GBN
3W、またはGBN
3W-NLSで処理した。サイトゾル侵入及びGFP結合後、NLSは、GFP/GBN複合体の核内蓄積をもたらし、核内の緑色蛍光が増加することが予想された。予想した通り、未処理細胞は、細胞質及び核全体にわたって不均一なGFP蛍光を示し(
図10A)、GBN
WT-NLSまたはGBN
3Wによる細胞の処理では、細胞に侵入することも核に局在化することもできないことから、GFP分布は変わらなかった(それぞれ
図10B及び
図10C)。予想に反して、GBN
3W-NLSもGFPの有意な核内蓄積をもたらさなかった(
図10D)。いくつかの要因がこの失敗を引き起こしたと思われる。まず、C末端NLSがGBNのサイトゾル侵入を阻害する可能性がある。第2に、C末端のNLS配列が機能的なNLSではない可能性がある。最後に、内在化したGBN
3W-NLSの量がサイトゾルGFPの量に対して少なすぎ、GFPの細胞内分布を変えることができなかった可能性がある。
【0144】
GBN
WT-NLS及びGBN
3W-NLSが細胞に侵入することができるかどうかを決定するために、ナノボディをローダミンで標識し、5μMのローダミン標識ナノボディでHeLa細胞を処理し、続いて、共焦点顕微鏡によるイメージングを行った。GBN
WTと同様に(予想した通り)、GBN
WT-NLSは、細胞に侵入しなかった(
図11A)。興味深いことに、C末端にNLSを付加すると、GBN
3Wのサイトゾル侵入効率が更に上がり、GBN
3W-NLSは、細胞質全体にわたって容易に視認可能な拡散した蛍光を発生しているが、核内では発生していない(
図11B)。これは、正電荷のc-Myc NLSがGBN
3Wのエンドソーム離脱を促進することができるが、このコンストラクトでは機能的なNLSではないことを示している。
【0145】
GBN
3W-NLSは、GBN
3Wと比べて向上したサイトゾル侵入を示したことから、細胞内で発現されたGFPと共局在する能力を調べた。核内(特に、核小体)に局在するGFP-フィブリラリンを一過性にトランスフェクトしたHeLa細胞において、ローダミン標識GBN
3W-NLSは、GFPとの共局在を示さず、これは、後者が核に入ることができないためと思われる(
図12A)。一方、ミトコンドリア外膜上に局在するGFP-MffをHeLa細胞にトランスフェクトした場合、GBN
3W-NLSは、GFP-Mffと部分的に共局在した(
図12A)。内在化したGBN
3W-NLSは、明らかに2つの異なる種類の細胞内蛍光パターンを生成する。GFPシグナルと重複しない点状の強いシグナルは、おそらく、ナノボディがエンドソーム及びリソソームの内部にまだ閉じ込められていることを表し、弱いGFP共局在化シグナルは、サイトゾルへ離脱してミトコンドリア局在化GFP-Mffに結合したナノボディを表している。
【0146】
実施例5:細胞膜透過性GFP
本明細書に記載されるCPPループ挿入戦略を改良型緑色蛍光タンパク質(EGFP)で試験した。EGFPは、その固有の蛍光により、適切に折り畳まれた変異体の同定及び細胞侵入効率の評価が容易である。EGFPのループ9(アミノ酸171~176)は、ペプチド挿入に高い耐性を持つことがこれまでに示されている(Pavoor et al.,Development of GFP-based biosensors possessing the binding properties of antibodies.PNAS 2009,106,11895-11900)。CPPモチーフWWWRRR(配列番号123)を両方の配向でEGFPのAsp173とGly174の間に挿入した(
図13A)。RRRWWW(配列番号124)挿入の場合、ループ中の2つの酸性残基Glu172及びAsp173を除去した。これは、そうでなければ、部分的にCPPの正電荷を中和し、その細胞膜透過活性を低下させる可能性がある。偶然にも、所望のコンストラクトに加えて、挿入変異導入により、余分なアルギニン残基RRRRWWW(配列番号118)を含有するコンストラクトも生成された。これは、細菌細胞におけるPCR産物の相同組み換えでフレームシフト変異が生じた結果と思われる。本研究で生成されたEGFP挿入変異体及びその特性を表5Aにまとめる。
【0147】
【0148】
EGFPの野生型及び変異型の両形態をE.coliで発現させ、高収率でほぼ均質になるまで精製した。変異体タンパク質は、野生型EGFPと比べてわずかに減少した蛍光強度(10~50%)を示したが、その最大励起及び蛍光は本質的に変わらないままであった(データ示さず)。
【0149】
EGFP及び挿入変異体の細胞侵入効率を決定するために、10%ウシ胎児血清(FBS)の存在下、5μMのタンパク質でHeLa細胞を2時間処理し、洗浄し、フローサイトメトリーによって解析した。EGFP
W3R3は、WT EGFPと比較して細胞取り込みの改善を示さなかったが、EGFP
R3W3及びEGFP
R4W3は、EGFPよりも8倍及び13倍高い効率で細胞に侵入した(表5A)。フローサイトメトリーの結果を確認するために、5μMのEGFP変異体(1%FBS)でHeLa細胞を2時間処理し、生細胞共焦点顕微鏡によって細胞をイメージングした。最も強い蛍光は、EGFP
R4W3で処理した細胞で観察され、EGFP
R3W3及びEGFP
W3R3が続いたが、WT EGFPで処理した細胞は、検出可能な細胞内蛍光を示さなかった(
図13B)。内在化したタンパク質のどの程度がサイトゾルに到達したかを決定するために、WT EGFP及びEGFP
R4W3をpH感受性色素NFで標識し、標識タンパク質で処理したHeLa細胞を再びNFチャンネルでフローサイトメトリーによって解析した。NF標識したWT EGFPとEGFP
R4W3の両方で検出可能な細胞内蛍光が得られたことから、いずれのタンパク質もHeLa細胞のサイトゾルに入ったことが示唆される。EGFP
R4W3で処理した細胞は、WT EGFPで処理した細胞よりも約2倍高い蛍光を示した(データ示さず)。同じ条件下で、非標識EGFPタンパク質で処理した細胞は、本質的にバックグラウンドのNFシグナルを有したことから、EGFPの固有の蛍光がNFシグナルと干渉しないことが確認された。EGFP
W3R3の細胞侵入がEGFP
R3W3よりも劣るのは、前者のループ9に2つの負電荷残基が存在すること(表5)、RRRWWW(配列番号124)よりもWWWRRR(配列番号123)による膜結合の効率が低いこと、またはその両方によって生じるものと思われる。
【0150】
実施例6:酵素補充療法の候補としてのプリンヌクレオシドホスホリラーゼの細胞内送達
PNPのホモ三量体構造の調査により、これも活性部位から遠位にある3つの溶媒露出ループ、すなわち、His20-Pro25、Asn74-Gly75、及びGly182-Leu187が明らかになった(dos Santos et al.,Crystal structure of human purine nucleoside phosphorylase complexed with acyclovir.Biochem Biophys Res Commun.2003,308,553-559)。これらのループ領域のそれぞれにCPPモチーフRRRRWWW(配列番号118)を挿入して、3つのPNPバリアントを作製した(表6)。3番目の挿入変異体(182~187)については、酸性残基(Glu183)を除去して、ループ配列の全体的な正電荷を最大にした。異なる導入条件下でのパイロット発現実験により、部位1または2でのCPP挿入では、不溶性タンパク質が得られ、一方、部位3での挿入では、部分的に可溶性のタンパク質PNP3Rが生成されたことが明らかになり、PNP3Rを野生型PNPと同じ手順に従ってほぼ均質になるまで精製した。PNP3Rは、野生型酵素と同様の触媒活性を有する(表6)。
【0151】
【0152】
PNP
3Rの細胞侵入は、まず、5μMのフルオレセイン標識PNP
3Rまたは野生型PNP(PNP
WT)でHeLa細胞を5時間処理し、生細胞共焦点顕微鏡によって細胞をイメージングすることで調べた。PNP
3Rで処理した細胞は、細胞内部に容易に視認可能な緑色蛍光シグナルを示したが、PNP
WTで処理した細胞は、同じ実験条件下で、検出可能な蛍光を示さなかった(
図14A)。なお、タンパク質の沈殿または変性を最小限に抑えるために、タンパク質は、意図的に低い化学量論(0.1~0.2色素/タンパク質)で標識したことに留意されたい。PNP
3Rの細胞侵入効率を更に評価するために、PNP欠損マウスTリンパ球(NSU-1)を1μMのPNP
WTまたはPNP
3Rで2時間処理し、徹底的に洗浄して細胞外タンパク質を除去した。細胞を溶解し、サイトゾル画分におけるPNP活性を、市販のPNP酵素アッセイキットを使用して定量した。未処理のNSU-1細胞は有意なPNP活性を有しないが、PNP
3RによるNSU-1細胞の処理は、正常S49細胞(100%)よりも1.35倍高いPNP活性となった(
図14B)。同じ条件下で、PNP
WTで処理したNSU-1細胞は、S49細胞と比べて16%の活性を示した。後者の活性は、NSU-1細胞が非付着性細胞であり、洗浄中に細胞外液を完全に除去することが困難であったことから、洗浄手順による細胞外PNP活性の除去が不完全であったことに起因すると思われる。
【0153】
最後に、PNP欠損によって生じるNSU-1細胞の代謝欠陥をPNP
3Rが修正する能力について試験した。PNP欠損細胞(例えば、NSU-1)は、デオキシグアノシン(dG)毒性に感受性である。
図14Cに示されるように、NSU-1細胞は、25μMのdGの存在下では成長できなかったが、dGの不在下では、細胞密度が72時間で1×10
5から2.3×10
6細胞/mLに増加した。NSU-1細胞を3μMのPNP
3Rで6時間前処理し、徹底的に洗浄してあらゆる細胞外PNP
3Rを除去し、次いで、25μMのdGで刺激した場合、未処理細胞(dGなし、タンパク質なし)と同様の成長曲線を示した。同じ条件下で、PNP
WTで処理したNSU-1細胞は、未処理の対照と比べてごくわずかな成長(13%)しか示さなかったが、これは、成長培地からのPNP
WTの不完全な除去に起因すると思われる。したがって、PNP
WTではなく、PNP
3Rが、PNP欠損細胞をdG毒性から効果的に救済することができる。PNP
3Rは、新規の細胞内酵素補充療法として更に発展する可能性がある。これまでの酵素補充療法は全て細胞外酵素またはリソソーム酵素を伴うものであった(Concolino et al.,Enzyme replacement therapy:efficacy and limitations.Ital.J.Pediatr.2018,44,120)。
【0154】
実施例7:ループ挿入変異体の血清安定性
両親媒性CPP配列(例えば、RRRRWWW(配列番号118))を表面ループに挿入すると、タンパク質の熱力学的安定性が低下するだけでなく、プロテアーゼ(例えば、トリプシン及びキモトリプシン)に対する新しい切断部位候補が生じる可能性がある。どちらの要因も変異体タンパク質の代謝安定性を潜在的に低下させる可能性がある。野生型EGFP、PTP1B、及びPNPならびにその生物学的に活性な変異体のタンパク質分解安定性を、ヒト血清中で様々な時間(0~16時間)インキュベートし、SDS-PAGE解析によって、残ったインタクトタンパク質の量を定量することによって試験した。野生型タンパク質は全て血清中で非常に安定しており、16時間を超えるt
1/2値を示した(
図15)。試験した7つの変異体タンパク質のうち、EGFP
W3R3、EGFP
R3W3、EGFP
R4W3、PTP1B
2R、PTP1B
4R、及びPNP
3Rは、野生型対応物と比べて、同等かまたはわずかに低下した安定性を示し、PTP1B
1Wのみが野生型タンパク質よりも迅速な分解を示した(t
1/2≦5時間)。PNPの残余酵素活性をインキュベーション時間の関数としてモニタリングした場合にも、同様の結果が得られた(
図16)。線状CPP配列は、一般に、非常に短い血清半減期(典型的に≦30分)を有するので(Qian et al.,Early Endosomal Escape of a Cyclic Cell-Penetrating Peptide Allows Effective Cytosolic Cargo Delivery.Biochemistry 2014,53,4034-4046及びQian et al.,(2015)Intracellular Delivery of Peptidyl Ligands by Reversible Cyclization:Discovery of a PDZ Domain Inhibitor that Rescues CFTR Activity.Angew.Chem.Int.Ed.54,5874-5878)、これらのデータは、変異体タンパク質の全体的な安定性は、特定のCPP配列、挿入部位、及び宿主タンパク質の性質に依存する可能性はあるが、両親媒性CPP配列をタンパク質ループに挿入すると、タンパク質分解安定性が大幅に向上し、代謝的に安定な変異体タンパク質が生成されることを示している。
【0155】
参照による援用
本明細書で引用される全ての参考文献、論文、刊行物、特許、特許公報、及び特許出願は、あらゆる目的のために、その全体が参照により援用される。しかしながら、本明細書で引用される任意の参考文献、論文、刊行物、特許、特許公報、及び特許出願の言及は、世界のいかなる国においても、それらが有効な先行技術を構成すること、または共通の一般知識の一部を形成することに対して、承認または任意の形式の提案をなすものではなく、かつそう解釈されるべきではない。
【配列表】
【国際調査報告】