(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-07
(54)【発明の名称】アルツハイマー病の治療のための化合物及び方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/12 20060101AFI20230228BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20230228BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230228BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20230228BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230228BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20230228BHJP
C07K 14/47 20060101ALI20230228BHJP
【FI】
C12N15/12
A61K38/17
A61K48/00
A61P25/28
A61P43/00 105
A61K31/7088
C07K14/47 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022541987
(86)(22)【出願日】2021-01-07
(85)【翻訳文提出日】2022-09-02
(86)【国際出願番号】 EP2021050168
(87)【国際公開番号】W WO2021140140
(87)【国際公開日】2021-07-15
(32)【優先日】2020-01-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511180101
【氏名又は名称】アルファベータ・エービー
【氏名又は名称原語表記】AlphaBeta AB
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100212705
【氏名又は名称】矢頭 尚之
(74)【代理人】
【識別番号】100219542
【氏名又は名称】大宅 郁治
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】ヨハンソン、ヤン
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA20
4C084BA21
4C084BA22
4C084BA35
4C084CA18
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA161
4C084ZA162
4C084ZB211
4C084ZB212
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA16
4C086ZB21
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
Bri2 BRICHOSに少なくとも70%の配列同一性を有する90~200アミノ酸残基の部分を含む単離されたタンパク質であって、全長Bri2 wt中の221位のArgに対応するアミノ酸残基がArg、Lys、Hisではない、単離されたタンパク質。タンパク質は、アルツハイマー病の治療に使用するための医薬として有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号7で示されるアミノ酸配列と少なくとも70%の配列同一性を有する90~200アミノ酸残基の部分を含む単離されたタンパク質であって、配列番号1で示されるアミノ酸配列の221位に対応するアミノ酸残基がGlu及びAspからなる群から選択される、単離されたタンパク質。
【請求項2】
前記配列番号1で示されるアミノ酸配列の221位に対応するアミノ酸残基がGluである、請求項1に記載の単離されたタンパク質。
【請求項3】
前記部分が、配列番号7で示されるアミノ酸配列と少なくとも80%の配列同一性、例えば少なくとも90%の配列同一性を有する、請求項1又は2に記載の単離されたタンパク質。
【請求項4】
500アミノ酸残基以下からなる、請求項1~3のいずれか一項に記載の単離されたタンパク質。
【請求項5】
配列番号4で示されるアミノ酸配列又は配列番号13で示されるアミノ酸配列を有する、請求項1に記載の単離されたタンパク質。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の単離されたタンパク質をコードする配列を含む核酸。
【請求項7】
医薬としての使用のための、配列番号7で示されるアミノ酸配列と少なくとも70%の配列同一性を有する90~200アミノ酸残基の部分を含む単離されたタンパク質であって、配列番号1で示されるアミノ酸配列の221位に対応するアミノ酸残基がArg、Lys若しくはHisではない、単離されたタンパク質、又は前記単離されたタンパク質をコードする核酸。
【請求項8】
前記配列番号1で示されるアミノ酸配列の221位に対応するアミノ酸残基が、Glu、Asp、Gln及びAsnからなる群から選択される、請求項7に記載の使用のための単離されたタンパク質又は核酸。
【請求項9】
前記配列番号1で示されるアミノ酸配列の221位に対応するアミノ酸残基が、Glu及びAspからなる群から選択される、請求項8に記載の使用のための単離されたタンパク質又は核酸。
【請求項10】
前記配列番号1で示されるアミノ酸配列の221位に対応するアミノ酸残基がGluである、請求項9に記載の使用のための単離されたタンパク質又は核酸。
【請求項11】
前記部分が、配列番号7で示されるアミノ酸配列と少なくとも80%の配列同一性、例えば、配列番号7で示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有する、請求項7~10のいずれか一項に記載の使用のための単離されたタンパク質又は核酸。
【請求項12】
500アミノ酸残基以下からなる、請求項7~11のいずれか一項に記載の使用のための単離されたタンパク質又は核酸。
【請求項13】
配列番号4で示されるアミノ酸配列又は配列番号13で示されるアミノ酸配列を有する、請求項7に記載の使用のための単離されたタンパク質又は核酸。
【請求項14】
アルツハイマー病の治療における使用のための、請求項7~13のいずれか一項に記載の単離されたタンパク質又は核酸。
【請求項15】
請求項7~13のいずれか一項に記載の単離されたタンパク質又は核酸の治療的有効量を含む医薬組成物。
【請求項16】
医薬として使用するための、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
アルツハイマー病の治療に使用するための、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項18】
アルツハイマー病を治療する医薬の製造のための、請求項7~13のいずれか一項に記載の単離されたタンパク質又は核酸の使用。
【請求項19】
請求項7~13のいずれか一項に記載の単離されたタンパク質若しくは核酸又は請求項15に記載の医薬組成物の治療的有効量を哺乳動物に投与することを含む、それを必要とする、ヒトを含む前記哺乳動物においてアルツハイマー病を治療する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医学の分野に関する。より具体的には、本発明は、哺乳動物、例えばヒトにおけるアルツハイマー病の治療及び医学的処置のための医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病は、ヒトの認知症の最も一般的な原因の1つである。それは、罹患した個体の脳における神経細胞変性に関連する慢性で致死性の疾患であり、アミロイドβペプチド(Aβペプチド)の細胞外沈着からなるアミロイドプラークの存在によって特徴づけられる。
【0003】
Aβ前駆体タンパク質(AβPP)のタンパク質分解は、さまざまな長さのAβペプチドを生成し、そのうちAβ42は最も凝集しやすく毒性である。Aβ42凝集の動態は、近年明確になった核形成依存性微視的事象に従う。一次核形成の際にAβ42単量体は会合して核を形成し、それから線維が伸長を開始できる。二次核形成の際に単量体は、線維の表面に付着し、新たな核の形成を触媒し、指数関数的な線維の成長をもたらす。この単量体依存性二次核形成自己触媒的経路は、毒性Aβ42種の主な供給源である。ADの治療を見いだすことにおける重要な課題は、全体的な凝集及びプラーク形成に注目することではなく、Aβ42の神経毒性を具体的に低減することである。
【0004】
凝集を妨げる1つの戦略は、機能的にシャペロンと定義されている分子を利用することである。シャペロンは、複雑な細胞内環境でタンパク質の正しいフォールディングを助けることで重要な役割を果たしている。多数の分子シャペロン、例えばヒートショックタンパク質(Hsp)は、フォールディング工程において重要であることが公知で、広範に研究されている。これらのシャペロンの一部は、明らかに、特定のポリペプチドのアミロイド線維形成と相互作用でき、影響を与えることができる。
【0005】
BRICHOSドメインは、いくつかのヒト前駆体タンパク質、最初にBri2、コンドロモジュリン-1及びプロサーファクタントタンパク質C(proSP-C)において見いだされた。Sanchez-Pulido et al., Trends Biochem Sci 27(7): 329-332,2002は、BRICHOSドメインについて概説している。BRICHOSドメインは、生合成中にそれぞれのプロタンパク質の凝集しやすい領域(クライアント)のアミロイド形成を妨げることが示唆されている。proSP-C及びBri2由来の組換えヒト(rh)BRICHOSドメインは、メジン(medin)、膵島アミロイドポリペプチド、Aβ40及びAβ42といった非クライアントタンパク質のアミロイド形成の効果的な阻害剤でもある。
【0006】
国際公開第2011/162655号は、Bri2のBRICHOSドメインが、Aβペプチド及びABri/ADanペプチドの、アミロイド線維形成及び凝集を減少させることを開示している。
【0007】
Bri2は、中枢神経系(CNS)で産生され、ヒトでは海馬及び皮質のニューロンで発現し、AD患者では老年性プラークと共局在する。Bri2の公知の配列として、アミメウナギ(Erpetoichtys calabaricus)(NCBI受託番号:XP_028655526)及びコチョウザメ(Acipenser ruthenus)(UniProt/TrEMBL受託番号:A0A444U9X2)由来の配列が挙げられる。BRICHOSドメインは、生理的条件下でBri2前駆体タンパク質からタンパク質分解によって遊離される。組換えヒト(rh)Bri2 BRICHOSは、in vitroでAβ42線維形成を阻害することに、並びに海馬切片調製物及びショウジョウバエモデルにおいて関連する神経毒性を軽減することに効果がある。rh proSP-C BRICHOSは、Aβ42線維形成において二次核形成ステップを具体的に妨害する。rh Bri2 BRICHOSは、伸長及び二次核形成事象を調節するが、Bri2 BRICHOSの異なるアセンブリ状態は、Aβ線維形成に異なる影響を与える。Bri2 BRICHOS単量体は、Aβ42によるニューロンネットワーク活性の破壊を予防することに最も強力であり、二量体はAβ42全体の線維形成を最も効率的に抑制し、オリゴマーは非線維性タンパク質凝集を阻害する(Chen et al., Nat. Commun., 8: 2081 (2017))。Bri2 BRICHOS単量体は、長期間安定ではなく、in vitroのリン酸緩衝液中又はマウス血清中で、濃度に依存的して高分子量オリゴマーを形成し、Aβ42線維形成に対する効力の低減が伴う。健常対照と比較してAD脳において、さまざまなBri2形態の量の増加が見いだされたことから、Bri2 BRICHOS単量体から高分子量オリゴマーへの転換はADに関連する可能性がある。これらの結果は、単量体の量が増加するようにBri2 BRICHOSアセンブリ状態の分布を調節することが、Aβ42の神経毒性に対抗するための概念であることを示唆している、例えば国際公開第2012/138284号を参照。
【0008】
当技術分野におけるこれらの進歩にもかかわらず、哺乳動物、例えばヒトにおけるアミロイドタンパク質線維の形成に関連する状態を治療するための改善された別の治療法に対し強い必要性がある。
【発明の概要】
【0009】
本発明の目的は、線維化しやすいタンパク質がアミロイド線維に凝集するのを減少させる、又は、線維化しやすいタンパク質のアミロイド線維への凝集を妨げることである。
【0010】
本発明の目的はまた、線維化しやすいタンパク質の哺乳動物の脳における細胞外沈着からなるアミロイドプラークの形成を減少させることである。
【0011】
本発明の目的はまた、アルツハイマー病の治療のための新たな選択肢を提供することである。
【0012】
更に別の目的は、アルツハイマー病の治療のための化合物、化合物の組合せ及びそのような化合物を含む医薬組成物を提供することである。
【0013】
本発明の目的は、Aβ42の神経毒性に対抗するために単量体の量を増加させるように、Bri2 BRICHOSアセンブリ状態の分布を調節することである。
【0014】
本発明は、ヒト由来Bri2のBRICHOSドメインに高い同一性を有するシャペロンタンパク質の単量体が、アルツハイマー病の医学的処置のために有用であるとの知見に一般に基づいている。本発明者らは、単量体性状態を安定化させるBri2 BRICHOSの単一点変異体を設計する。この変異体単量体は、Aβ42の神経毒性を強力に予防し、具体的に線維形成の際に二次核形成を抑制し、重要なことに、Aβ42の神経毒性に対する野生型(wt)タンパク質を顕著に増強する。
【0015】
続く記載から明らかになるこれらの及び他の目的のために、本発明は異なる側面による新たな単離されたタンパク質;タンパク質を含む医薬組成物;アルツハイマー病の治療における医薬使用としてのタンパク質の使用;及びタンパク質の投与を含むアルツハイマー病を治療する方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、いくつかの哺乳動物Bri2-Brichosアミノ酸配列の配列比較を示す(配列番号7~12)。
【
図2】
図2は、Bri2 BRICHOS R221E単量体がAβ42の神経毒性に対してwt Bri2 BRICHOSオリゴマーを増強することを、(A)γ振動データ、(B)未変性PAGE及びウエスタンブロット並びに(C)ThT動態分析の手段によって示す。
【
図3】
図3は、Aβ42線維形成の微視的事象へのBri2 BRICHOS R221E単量体及び二量体の効果を例示する。
【
図4】
図4は、Aβ42オリゴマー形成及び神経毒性へのBri2 BRICHOS R221E単量体及び二量体の効果を例示する。
【
図5】
図5は、異なるBri2 BRICHOS R221E種のマウス海馬切片でのAβ42毒性の効果を例示する。
【
図6】
図6は、Bri2 BRICHOSアセンブリ状態をシフトさせることによるAβ42の神経毒性に対するシャペロン活性の増強についてのモデルを提供する:
【
図7】
図7は、Bri2 BRICHOS R221Eが血液脳関門(BBB)を通過する安定な単量体を形成することを例示する。
【
図8】
図8は、アルツハイマー様病態を有するマウスにおけるBri2 BRICHOS R221Eの行動的効果を例示する。
【
図9】
図9は、アルツハイマー様病態を有するマウスにおけるBri2 BRICHOS R221Eの生化学的効果を示す。
【
図10】
図10は、rh Bri2 BRICHOS R221E投与App
NL-G-Fマウスにおける学習及び記憶機能を例示する。
【
図11】
図11は、App
NL-Fマウスにおけるrh Bri2 BRICHOS R221E処置でのAβプラークカウント及びプラークロードを示す。
【
図12】
図12は、脳組織におけるグリア線維酸性タンパク質(GFAP)レベル及びAβとの共局在を例示する。
【0017】
配列表
配列番号1 ヒトBri2
配列番号2 NT*-Bri2 BRICHOS変異体
配列番号3 Bri2 BRICHOS[Bri2(113~231)]
配列番号4 Bri2 BRICHOS[Bri2(113~231)]変異体
配列番号5 ヒトBri2(1~89)
配列番号6 ヒトBri23[Bri2(244~266)]
配列番号7 ヒトBri2Brichos[Bri2(137~231)]
配列番号8 チンパンジーBri2Brichos
配列番号9 ウシBri2Brichos
配列番号10 ブタBri2Brichos
配列番号11 マウスBri2Brichos
配列番号12 ラットBri2Brichos
配列番号13 ヒトBri2Brichos[Bri2(137~231)]変異体
配列番号14 フォワードPCRプライマー
配列番号15 リバースPCRプライマー
配列番号16 NT*-Bri2 BRICHOS変異体[DNA]
【発明を実施するための形態】
【0018】
膜内在性タンパク質2B(ITM2B)とも呼ばれるBri2(配列番号1)は、残基137~231の進化的に保存されたBrichosドメインを含有する(
図1、配列番号7~12)。あるいは、Bri2のBrichosドメインは、残基113~231と見なしてもよい(配列番号3)。
【0019】
本発明は、ヒト由来Bri2のBRICHOSドメインに高い同一性を有するシャペロンタンパク質の単量体が、アルツハイマー病の医学的処置のために有用であるとの知見に一般に基づいている。本発明者らは、単量体性状態を安定化させるBri2 BRICHOSの単一点変異体を設計する。それは、マウス血清中での長期間のインキュベーションで安定であり、血液脳関門(BBB)透過性である。この変異体単量体は、Aβ42の神経毒性を予防することにおいて強力であり、具体的に線維形成の際に二次核形成を抑制し、重要なことに、野生型(wt)タンパク質をAβ42の神経毒性に対して顕著に増強する。Bri2 BRICHOSの単一点変異体の全身投与は、ADマウスの記憶応答及び行動において改善を示す。これは、アストロサイト媒介神経炎症の低減も示す。
【0020】
確立したアルツハイマー様病態を有する加齢Aβ前駆体タンパク質(APP)ノックインマウスの、rh Bri2 BRICHOS R221Eの反復静脈内注入を用いた処置が、Aβ42オリゴマー生成及びin vitroで予測される神経毒性の低減と定量的に一致する程度に、オープンフィールド活性を改善し、アストログリオーシス、ミクログリオーシス及びAβプラーク負荷を低減することも本明細書で実証された。これらの結果は、in vitroでAβ42媒介毒性に対するシャペロン効果が、進行した病態を有するアルツハイマーマウスモデルにおいて臨床的に意義のある処置に転換され得ることを示している。
【0021】
第1の側面によれば、配列番号7で示されるアミノ酸配列又は配列番号3で示されるアミノ酸配列を有するヒト由来Bri2のBrichosドメインの1つに少なくとも70%の配列同一性を有する90~200アミノ酸残基の部分を含むタンパク質からなる群から選択される単離されたタンパク質が提供され、ここで配列番号1で示されるアミノ酸配列の221位(Arg)対応するアミノ酸残基は、Arg、Lys、Hisではない。疑義を避けるために、配列番号1で示されるアミノ酸配列の221位におけるArg残基は、配列番号3で示されるアミノ酸配列の109位におけるArg残基、及び配列番号7で示されるアミノ酸配列の85位におけるArg残基に対応する。
【0022】
この明細書及び特許請求の範囲全体を通じて使用される場合に、用語「%の配列同一性」は、次のとおり算出される。クエリー配列は、CLUSTAL Wアルゴリズムを使用して標的配列とアラインする(Thompson, J.D., Higgins, D.G. and Gibson, T.J., Nucleic Acids Research, 22: 4673-4680 (1994))。比較は、最も短いアラインされた配列に対応するウインドウにわたって行う。各位置のアミノ酸残基を比較し、標的配列中に同一の対応関係を有するクエリー配列中の位置の百分率が%の配列同一性として報告される。
【0023】
この明細書及び特許請求の範囲全体を通じて使用される場合に、用語「%類似性」は、疎水性残基Ala、Val、Phe、Pro、Leu、Ile、Trp、Met及びCysが類似であり;塩基性残基Lys、Arg及びHisが類似であり;酸性残基Glu及びAspが類似であり;並びに親水性無荷電残基Gln、Asn、Ser、Thr及びTyrが類似であること以外は、「%の配列同一性」で記載のとおりに求められる。残りの天然アミノ酸Glyは、この文脈においていかなる他のアミノ酸とも類似していない。
【0024】
本明細書全体を通じて別の態様は、同一性の特定の百分率の代わりに類似性の対応する百分率を実現させる。他の態様は、同一性の特定の百分率及び、各配列についての同一性の好ましい百分率の群から選択される別のより高い類似性の百分率を実現させる。例えば、単離されたタンパク質配列は、別のタンパク質配列に70%類似であってよい;又はそれは別の配列と70%同一であってよい;又はそれは別の配列に70%同一であってよく、更に90%類似であってよい。
【0025】
疑義を避けるために、ヒト由来Bri2のBrichosドメインに少なくとも所与の同一性を有するアミノ酸配列は、70以上、例えば80以上、例えば90以上のアミノ酸残基からなる。好ましいサイズは、70~140アミノ酸残基、例えば80~140アミノ酸残基、例えば90~140アミノ酸残基である。
【0026】
ヒト(配列番号7)、チンパンジー(配列番号8)、ウシ(配列番号9)、ブタ(配列番号10)、マウス(配列番号11)及びラット(配列番号12)由来Bri2のBrichosドメインが高度に保存されていることが注目される、
図1の配列比較を参照。いかなる特定の理論にも束縛されることなく、BrichosドメインがAβペプチドに関して望ましい活性を保有することが考えられる。単離されたタンパク質が、配列番号7で示されるアミノ酸配列及び配列番号3で示されるアミノ酸配列を含むヒト由来Bri2のBrichosドメインのいずれか1つに、少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、例えば少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質からなる群から選択されることが好ましい。好ましい態様では、単離されたタンパク質は、ヒト(配列番号7)、チンパンジー(配列番号8)、ウシ(配列番号9)、ブタ(配列番号10)、マウス(配列番号11)及びラット(配列番号12)由来Bri2のBrichosドメインにおいて保存されている全てのアミノ酸残基、すなわち配列番号7で示されるアミノ酸配列の残基42、76及び82(全長Bri2、配列番号1で示されるアミノ酸配列の残基178、212及び218に対応する)を除く全てのアミノ酸残基を含有する。特定の態様では、単離されたタンパク質は、配列番号7で示されるアミノ酸配列及び配列番号3で示されるアミノ酸配列を含むヒト由来Bri2のBrichosドメインのいずれか1つを含むタンパク質からなる群から選択され、すなわちそれはこれらのBrichosドメインの1つを含有するが、ここで配列番号1で示されるアミノ酸配列の221位(Arg)に対応するアミノ酸残基はArg、Lys、Hisではない。
【0027】
ある変形例では、単離されたタンパク質は、ヒト由来Bri2(配列番号1)に少なくとも70%、例えば少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、例えば少なくとも95%又は100%の配列同一性を有するタンパク質からなる群から選択されるが、ここで配列番号1で示されるアミノ酸配列の221位(Arg)に対応するアミノ酸残基はArg、Lys、Hisではない。特定の態様では、単離されたタンパク質は、配列番号1で示されるアミノ酸配列であるが、ここで配列番号1で示されるアミノ酸配列の221位(Arg)に対応するアミノ酸残基はArg、Lys、Hisではない。
【0028】
特定の態様では、単離されたタンパク質は、配列番号7で示されるアミノ酸配列及び配列番号3で示されるアミノ酸配列を含むヒト由来Bri2のBrichosドメインのいずれか1つからなる群から選択され、すなわちそれはこれらのBrichosドメインの1つを含有するが、ここで配列番号1で示されるアミノ酸配列の221位(Arg)に対応するアミノ酸残基はArg、Lys、Hisではない。
【0029】
この明細書に開示した単離されたタンパク質では、配列番号1で示されるアミノ酸配列の221位に対応するアミノ酸残基は、好ましくはGlu、Asp、Gln及びAsnからなる群から、より好ましくはGlu及びAspからなる群から選択される。
【0030】
この明細書に開示した単離されたタンパク質では、配列番号1で示されるアミノ酸配列の221位に対応するアミノ酸残基は、好ましくはGluである。あるいは、配列番号1で示されるアミノ酸配列の221位に対応するアミノ酸残基は、Aspであってもよい。
【0031】
この明細書で開示したある単離されたタンパク質では、部分は、配列番号4で示されるアミノ酸配列又は配列番号13で示されるアミノ酸配列を有する。特異的に単離されたタンパク質の例として、配列番号4で示されるアミノ酸配列又は配列番号13で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質が挙げられる。
【0032】
この明細書で開示した単離されたタンパク質の好ましい群は、その単量体画分である。単量体画分を提供する好ましい1つの方法は、サイズ排除クロマトグラフィーによる分離である。この明細書で開示した単離されたタンパク質の試料中で、少なくとも25%、例えば少なくとも50%又は少なくとも75%の単離されたタンパク質が単量体として存在することが好ましい。この明細書で開示した単離されたタンパク質の試料中で、本質的に全ての単離されたタンパク質が単量体として存在することが更に好ましい。
【0033】
単離されたタンパク質は、ヒト由来Bri2の残基1~89(配列番号5)に少なくとも70%の配列同一性を有するアミノ酸配列を好ましくは含まない。ある特定の態様では、単離されたタンパク質は、ヒト由来Bri2の残基1~89(配列番号5)に少なくとも50%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含まない。これは、単離されたタンパク質がBri2のBrichosドメイン及び任意の1つ以上の他のアミノ酸配列と高い類似性又は同一性を示すコアアミノ酸配列を含有することを意味し、他のアミノ酸配列は、ヒト由来Bri2の残基1~89(配列番号5)に高い類似性又は同一性を示さなくてもよい。
【0034】
疑義を避けるために、10アミノ酸残基より短いアミノ酸配列は、単離されたタンパク質から除外される文脈では関連すると見なされない。したがって、単離されたタンパク質は、ヒト由来Bri2の残基1~89(配列番号5)に少なくとも所与の同一性を有する10アミノ酸残基以上からなるアミノ酸配列は含まない。
【0035】
さらに、単離されたタンパク質は、ヒト由来Bri2の残基244~266、すなわちヒトBri23(配列番号6)に少なくとも70%の配列同一性を有するアミノ酸配列を好ましくは含まない。ある特定の態様では、単離されたタンパク質は、残基ヒトBri23(配列番号6)に少なくとも50%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含まない。上述のとおりこれは、単離されたタンパク質がBri2のBrichosドメイン及び任意の1つ以上の他のアミノ酸配列と高い類似性又は同一性を示すコアアミノ酸配列を含有することを意味し、他のアミノ酸配列は、ヒトBri23(配列番号6)に高い類似性又は同一性を示さなくてもよい。
【0036】
疑義を避けるために、10アミノ酸残基より短いアミノ酸配列は、単離されたタンパク質から除外される文脈では関連すると見なされない。したがって単離されたタンパク質は、ヒトBri23(配列番号6)に少なくとも所与の同一性を有する10アミノ酸残基以上からなるアミノ酸配列は含まない。
【0037】
上述したBri2 BRICHOS配列に高い同一性を有するコアアミノ酸配列を含むタンパク質は、コアアミノ酸配列の機能、すなわちAβペプチドとの相互作用に干渉しない追加的アミノ酸配列を更に含んでよい。追加的アミノ酸配列は、コアアミノ酸配列のN末端に、コアアミノ酸配列のC末端に、又は両者に接続されてもよい。それは、アミノ酸側鎖を介して、例えばジスルフィド結合を介して接続されてもよい。追加的アミノ酸配列は、本質的に非機能性であってもよく、又は生じたタンパク質に追加的な機能、例えば溶解性、安定性又は望ましい親和性を提供してもよい。コアアミノ酸配列及び任意の追加的アミノ酸配列は、翻訳後化学的修飾を含んで化学的に修飾されてよい。
【0038】
ある特定の態様では、単離されたタンパク質は、500以下、例えば300以下、例えば250以下、例えば200以下、例えば150以下又は100アミノ酸残基からなる。ある特定の態様では、単離されたタンパク質は、90以上、例えば100アミノ酸残基以上からなる。好ましいサイズは、90~300アミノ酸残基、例えば90~200又は90~140アミノ酸残基である。
【0039】
単量体性Bri2 BRICHOS種は、Aβ42誘発神経毒性を最も効率的に妨げ、それによりオリゴマーへのそれらのアセンブリは、抗Aβ42神経毒性の低減を生じる。本研究では、本発明者らは、安定な単量体を形成し、rh wt Bri2 BRICHOSオリゴマーに単量体を遊離させるR221E Bri2 BRICHOS変異体を設計した。rh Bri2 BRICHOS R221E単量体は、Aβ42凝集の際の毒性種の主な供給源の構成することが以前示されている二次核形成を選択的に遮断することによって、Aβ42誘発神経毒性を効率的に軽減する。さらに、wtオリゴマーを分解するrh Bri2 BRICHOS R221E単量体の能力は、Aβ42線維化を遅延させる能力を改善し、重要なことに、海馬切片調製物へのAβ42毒性を低減する(
図2)。
【0040】
タンパク質毒性に対抗する手段として、アミロイド形成のシャペロン媒介予防、既存の凝集物の脱凝集及び凝集物隔離が挙げられる。本発明者らは、Aβ42線維化の際の特定の核形成事象での小さなBri2 BRICHOS R221E種の阻害効率、及び毒性種の隔離可能性を描出する模式的モデルにおいて本発明者らの結果を合理的に説明した(
図6A)。
【0041】
図6は、Bri2 BRICHOSアセンブリ状態をシフトすることによるAβ42の神経毒性に対するシャペロン活性の増強についてのモデルを提供する:
(A)Aβ42は、それぞれ、速度定数k
n、k
+及びk
2で、一次核形成、伸長及び二次核形成を介して線維を形成する。Bri2 BRICHOS R221E二量体(実線矢印)はk
+及びk
2を減弱し、単量体(点線矢印)は主にk
2を低減する。二次核形成は、新たな核形成単位の形成を触媒し、それは線維形成のためのポジティブフィードバックループとして作用し(曲線の矢印)、この機序は神経毒性Aβ42種の生成の強化に関連している可能性がある。さらに、Bri2 BRICHOS単量体の分子サイズは、神経毒性Aβ42種の構造的構成要素である可能性があるβ構造Aβ42分子の単層によくフィットする。反対に、二量体のサイズは、線維末端(PDB受託番号:5KK3)の横断面の面積によく合致し、線維末端伸長速度の減弱を促進している可能性がある。したがって、k
2の特異的な低減を伴う構造的特性は、Bri2 BRICHOS単量体をAβ42に関連する神経毒性の予防において最も効率的にする可能性がある。
(B)rh Bri2 BRICHOS R221Eは、単量体及びより少量のオリゴマー(破線で示される円内の仮説モデル)を形成する一方で、rh wt Bri2 BRICHOSは単量体と平衡にある高分子量オリゴマー(電子顕微鏡データバンク受託番号:EMD-3918)に主にアセンブルする。rh wt Bri2 BRICHOSオリゴマーのrh Bri2 BRICHOS R221E単量体とのインキュベーションは、オリゴマーを不安定化し、動力学的平衡を単量体性状態にシフトし、Aβ42の神経毒性の予防における全体的な効力の増加をもたらす(
図2)。したがって、このモデルは、単一点変異R221EがどのようにBri2 BRICHOSのアセンブリ状態を調節し、それによりAβ42線維形成へのその効果を調節し、Aβ42に関連する神経毒性に対する活性を強化するのかを理解するための基礎を提供する。
【0042】
二次核形成によって促進される新たな核形成単位の生成は、小さな神経毒性Aβ42種の形成に関連すると示唆されており、それにより二次核形成事象の特異的な予防はAβ42誘発神経毒性に対して有益であってよい。さらに、近年の研究は、二次核形成速度の強化によって主に生じる全体的な凝集速度における増加を生じる薬剤も、追加的相互作用が生じる限り、Aβ42毒性を抑制するために有益であり得ることを示している。Aβ42が引き起こす毒性の詳細な機序はいまだ調査中である一方で、効果がある毒性調節因子は、異常な相互作用のために利用される表面を遮蔽するように神経毒性オリゴマーのAβ42種と具体的に相互作用するために特に適していてよい。次いで、これらの相互作用は、基礎をなす神経毒性機序(複数可)、例えば受容体への直接結合又は膜破壊を遅らせてよい。興味深いことに、クラスタリン、Hsp70及びαB-クリスタリンを含む、細胞内及び細胞外のシャペロンが、Aβを含むいくつかの異なるアミロイド原性ペプチドのオリゴマーに結合でき、それにより反応性表面を遮蔽するより大きな種へのそれらのアセンブリを誘導することが示された。この機序がBRICHOSドメインに同様にあてはまるかどうかは依然として検討されているが、電子顕微鏡データはrh Bri2 BRICHOS単量体がオリゴマーのAβ42種と相互作用することを示唆している。
【0043】
本発明者らは、現在の研究において、Bri2 BRICHOS R221E単量体が二次核形成速度を主に減弱する一方で、二量体は伸長及び二次核形成速度に実質的に影響を与えていることを見いだした(
図3及び
図6A)。これは、Bri2 BRICHOS R221E単量体の存在下で核形成単位の生成数の低減を生じるが、二量体は生じない(
図4A)。Bri2 BRICHOS R221E二量体の分子サイズは、近年発表されたAβ42線維構造の横断面の表面によく合致し、Bri2 BRICHOS二量体が、二次核形成速度k
2に加えて伸長速度k
+も効率的に減弱する理由の考えられる説明を提供している。単量体と比較したBri2 BRICHOS二量体の異なる特異性も、二次核形成と伸長事象とがAβ42凝集物上の別個部位で生じることを支持している。可溶性神経毒性Aβ42種の構造的詳細は依然として不明である一方で、毒性Aβ42種/オリゴマーのβ構造は報告されている。本発明者らは、Bri2 BRICHOS単量体の分子サイズが、神経毒性Aβ42種を築き得るβ構造Aβ42分子の単層によくフィットすることを観察した(
図6A)。したがって、新たな核形成単位の生成を効率的に低減する能力は、推定神経毒性Aβ42種との相互作用のためによく合致した分子サイズと併せて、海馬γ振動へのAβ42誘発神経毒性を予防することにBri2 BRICHOS単量体を最も効率的にしている可能性がある(
図4B)。
【0044】
加齢はADの主要リスク因子であるが、詳細な基礎となる機序は不明である。老化の際のシャペロンネットワーク減退は、多数の老化関連疾患に影響を与えると考えられている。老化生物では、ミスフォールドしたタンパク質と機能性シャペロンとの間のバランスは乱されている。さまざまなBri2形態の量の増加が健常対照と比較してAD脳において観察された。シャペロン活性の改善は、局所濃度の増加によって達成され得るが、シャペロンが正確にバランスを保たれていることから、あるシャペロンの過剰産生は疾患を生じる可能性がある。したがって、あるシャペロンネットワークの能力を増大する概念は、プロテオーム劣化(deterioration)に関連する病態を予防する及び治療する可能性を有する。本発明者らの現在の研究では、Aβ42誘発神経毒性に対するrh Bri2 BRICHOS活性の増大が、より長いオリゴマーからの単量体性種の形成の結果として生じることが示されている(
図2)。したがって結果は、Aβ42誘発神経毒性に対する内在性Bri2 BRICHOS活性を強化するための合理的な概念を示唆している。
【0045】
別の側面によれば、この明細書で開示した単離されたタンパク質をコードする配列を含む核酸が提供される。代表的な核酸は、NT*-Bri2 BRICHOS変異体をコードする配列番号16で示される核酸配列であり、並びに配列番号4及び配列番号13で示されるアミノ酸配列を有するBri2 BRICHOS変異体をコードする配列番号16で示される核酸配列の部分配列である。
【0046】
さらなる側面によれば、この明細書で開示した単離されたタンパク質又はこの明細書で開示した核酸の治療的有効量を含む医薬組成物が提供される。医薬組成物は、そのための好適な医薬用担体も含有する。
【0047】
医薬組成物は医薬として有用である。医薬組成物は、ヒトを含む哺乳動物におけるアルツハイマー病の治療において有用である。
【0048】
関連する側面によれば、ヒトを含む哺乳動物におけるアルツハイマー病の治療のための医薬の製造のための単離されたタンパク質の使用が提供される。
【0049】
医薬組成物において有用である単離されたタンパク質の好ましい群は、その単量体画分である。単量体画分を提供する好ましい1つの方法は、サイズ排除クロマトグラフィーによる分離である。医薬組成物では、単離されたタンパク質の少なくとも25%、例えば少なくとも50%又は少なくとも75%が単量体として存在することが好ましい。医薬組成物では、本質的に全ての単離されたタンパク質が単量体として存在することが更に好ましい。
【0050】
単離されたタンパク質は医薬組成物に組み込まれ得る。そのような組成物は、通常、単離されたタンパク質及び好適な薬学的に許容される担体を含む。この明細書では、「好適な医薬用担体」として、薬剤投与に適合性である溶媒、分散媒、コーティング剤、等張及び吸収遅延剤などが挙げられる。補充的な活性化合物も組成物に組み込まれ得る。
【0051】
医薬組成物は、投与のその目的の経路と適合性であるように調合される。投与の経路の例として、非経口(例えば、静脈内、皮内、皮下、くも膜下腔内、及び脳室内(例えば、脳槽(cisternal space)に外科的に配置され、インラインフィルターを有するOmayaリザーバー-シャントを使用)投与が挙げられる。
【0052】
組成物について有用である可能性がある非経口送達システムとして、緩速溶解(slow-dissolving)ポリマー粒子、植込み型インフュージョンシステム及びリポソームが挙げられる。非経口適用のために使用される溶液又は懸濁物として、次の構成成分:滅菌希釈剤、例えば注射用水、食塩水、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール又は他の合成溶媒;抗菌剤、例えばベンジルアルコール又はメチルパラベン;抗酸化物質、例えばアルコルビン酸又は亜硫酸水素ナトリウム;キレート剤、例えばエチレンジアミン四酢酸;緩衝剤、例えば酢酸、クエン酸又はリン酸、及び張性の調整のための薬剤、例えば塩化ナトリウム又はブドウ糖、が挙げられ得る。pHは、酸又は塩基、例えば塩酸又は水酸化ナトリウムを用いて調整され得る。非経口調製物は、ガラス又はプラスチック製のアンプル、ディスポーザブルシリンジ又は複数用量バイアルに封入され得る。
【0053】
アルツハイマー病の治療は、中枢神経系への、好ましくは脳への単離されたタンパク質の直接送達によって達成してもよい。
【0054】
注入可能な使用のために好適な医薬組成物として、滅菌注入可能な溶液又は分散剤の即時調製のための滅菌水溶液(水溶性である場合)又は分散剤及び滅菌散剤が挙げられる。静脈内投与のために好適な担体として、生理食塩水、静菌水、Cremophor EL(登録商標)又はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)が挙げられる。全ての場合において組成物は、滅菌でなければならず、たやすくシリンジを通過できる程度に流動性であるべきである。それは、製造及び保存の条件下で安定であるべきであり、微生物、例えば細菌及び真菌の混入に備えて保存されなければならない。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセリン、プロピレングリコール及び液体ポリエチレングリコール)並びにこれらの好適な混合物を含有する溶媒又は分散媒体であり得る。適切な流動性は、例えば、単離されたタンパク質の粒子へのコーティング(例えば、レシチン)によって、分散剤の場合では必要な粒子サイズの維持によって及び界面活性剤の使用によって維持され得る。微生物の作用の予防は、種々の抗菌剤及び抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アルコルビン酸、チメロサールなどによって達成され得る。多くの場合、組成物中に等張剤を含むことが好ましい。そのような薬剤の例として、糖、ポリアルコール、例えばマンニトール及びソルビトール、並びに塩化ナトリウムが挙げられる。注入可能な組成物の持続的吸収は、吸収を遅らせる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウム又はゼラチンを組成物中に含ませることによってもたらされ得る。
【0055】
滅菌注入可能な溶液は、必要な量の単離されたタンパク質を必要に応じて上述した成分の1つ又は組合せと共に適当な溶媒中に組み込むことに続く、滅菌ろ過によって調製され得る。一般に分散剤は、基本的な分散媒体及び上述したものから必要な他の成分を含有する滅菌ビヒクル中に単離されたタンパク質を組み込むことによって調製される。滅菌注入可能な溶液の調製のための滅菌散剤の場合では、好ましい調製方法は、単離されたタンパク質に加えて任意の望ましい成分の粉末を、それらの予め滅菌ろ過された溶液からもたらす真空乾燥及び凍結乾燥である。
【0056】
一態様では単離されたタンパク質は、身体からの急速な排出に対して化合物を保護する担体、例えば、インプラント及びマイクロ封入送達システムが挙げられる放出制御調合物を含んで調製される。生分解性、生体適合性ポリマー、例えばエチレンビニルアセテート、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル及びポリ乳酸が使用され得る。そのような調合物の調製のための方法は、当業者に明らかである。リポソーム懸濁物(アルツハイマー病によって具体的に影響を受けた細胞にモノクローナル抗体を用いて標的化されたリポソームを含む)も薬学的に許容される担体として使用され得る。これらは、当業者に公知の方法により調製され得る。
【0057】
容易な投与及び均一な投薬量のために単位剤形で経口又は非経口組成物に調合することが有利である。この明細書では、単位剤形は、治療される対象への統一された投薬に適する物理的に分離した単位を指し、各単位は望ましい治療的効果を生じるように算出された予め定められた量の単離されたタンパク質を、必要な医薬用担体と共に含有する。
【0058】
単離されたタンパク質の毒性及び治療的効果は、例えばLD50(集団の50%に致死性の用量)及びED50(集団の50%で治療的に有効な用量)を決定するための、細胞培養又は実験動物における標準的な薬学的手順によって決定され得る。好適な動物モデル、例えば、Sturchler-Pierrat et al, Rev Neurosci, 10: 15-24, 1999;Seabrook et al, Neuropharmacol 38: 1-17, 1999;DeArmond et al, Brain Pathology 5: 77-89, 1995; Telling, Neuropathol Appl Neurobiol 26: 209-220, 2000;及びPrice et al, Science 282: 1079-1083, 1998においてアミロイドーシスについて記載されたものが使用され得る。
【0059】
毒性と治療的効果との間の用量の比は治療指数であり、LD50/ED50として表され得る。高い治療指数を示す化合物は好ましい。毒性を示す化合物も使用されてよいが、非罹患細胞への潜在的な損傷を最小化し、それにより毒性を低減するために、そのような化合物を罹患した組織の部位に標的化する送達系を設計するには注意を要する。
【0060】
細胞培養アッセイ及び動物実験から得られたデータは、ヒトでの使用のための広範な投薬量を調合することに使用され得る。好ましくは化合物の投薬量は、毒性をほとんど又は全く有さないED50を含む血漿中濃度の範囲内である。
【0061】
投薬量は、使用される投薬形態及び利用される投与の経路に応じたこの範囲内で変動してよい。使用される化合物について、治療的有効用量は、例えば線維形成の速度又は細胞死の割合が観察される細胞培養アッセイから最初に推定され得る。用量は、細胞培養において決定されたIC50(すなわち、症状の最大半量阻害を達成する検査化合物の濃度)を含む循環血漿中濃度を達成するように動物モデルにおいて調合されてよい。そのような情報は、ヒトにおいて有用な用量を更に正確に決定するために使用され得る。血漿中の量は、例えば高速液体クロマトグラフィーによって測定されてよい。
【0062】
この明細書で説明するように、単離されたタンパク質の治療的有効量(すなわち、有効投薬量)は、約0.1~100mg/kg体重、より好ましくは約1~100mg/kg体重、さらにより好ましくは約1~50mg/kg体重である。化合物は、対象に長期間にわたって、例えば対象の生涯にわたって投与され得る。1mg/kg~100mg/kgの投薬量は、例えば脳で作用するように指定された抗体の場合、通常適当である。
【0063】
一部の場合では化合物は、一定期間投与され得る。化合物は、慢性的にも投与され得る。当業者は、これだけに限らないが、疾患又は障害の重症度、治療歴、全身状態及び/又は対象の年齢並びに他の疾患の存在を含む、特定の要因が対象を効果的に治療するために必要な投薬量及び時期に影響を与える場合があることを理解する。さらに、治療的有効量の化合物を用いた対象の治療は、単回の治療を含み得る、又は好ましくは一連の治療を含み得る。
【0064】
ヒトAPPを発現しているマウスへの又はヒトへの投与のための組換えの単離されたタンパク質は、いくつかの方法によって製造され得る。組換えタンパク質は、この明細書で記載したように精製できる。
【0065】
単離されたタンパク質が、アルツハイマー病を治療するために動物(例.ヒト)に投与される場合、医師、獣医師又は研究者は、例えば最初に比較的低い用量を、続いて適当な応答が得られるまで用量を増加させて処方してよい。加えて、具体的な動物対象に対する特定の用量が、使用される特定の化合物の活性、対象の年齢、体重、全身状態、性別及び食事、投与の時期、投与の経路、排出速度、併用する薬物及び調節される発現又は活性の程度を含む、種々の要因に依存することが理解される。
【0066】
医薬組成物は、投与のための説明書と共に容器、パック又はディスペンサーに含まれ得る。例えば説明書は、アルツハイマー病を有する又はそのリスクがある個体を治療するために組成物を使用するための指示を含み得る。
【0067】
別の側面によれば、単離されたタンパク質又は医薬組成物の治療的有効量の前記哺乳動物への投与を含む、それを必要とする、ヒトを含む哺乳動物におけるアルツハイマー病を治療する方法が提供される。
【0068】
治療方法において有用である単離されたタンパク質の好ましい群は、その単量体画分である。単量体画分を提供する好ましい1つの方法は、サイズ排除クロマトグラフィーによる分離である。治療では、単離されたタンパク質の少なくとも25%、例えば少なくとも50%又は少なくとも75%が単量体として投与されることが好ましい。本質的に全ての単離されたタンパク質が単量体として投与されることが更に好ましい。
【0069】
特定の態様では、治療は予防的処置であってよい。他の特定の態様では、治療は対症療法的処置であってよい。ある特定の態様では、治療は治癒的処置であってよい。
【0070】
本開示は、アルツハイマー病のリスクがある(又は疑われる)対象を処置する予防的及び治療的方法を提供する。この明細書では、用語「治療」は、疾患、疾患の症状又は疾患になりやすい傾向を治癒する、治す、軽減する、緩和する、変更する、治療する、回復させる、改善する又は影響を与える目的で、アルツハイマー病、疾患の症状又は疾患になりやすい傾向を有する、患者への単離されたタンパク質の適用若しくは投与、又は患者から単離された組織若しくは細胞株への単離されたタンパク質の適用若しくは投与として定義される。
【0071】
一側面では、ポリペプチドの凝集を低減する単離されたタンパク質を対象に投与することによって、Aβペプチドによって生じる線維形成に関連する疾患又は状態を予防する(すなわち、罹患するリスクを減少させる、又は疾患若しくは状態に関連する症状が出現する割合を減少させる)ための方法が提供される。アルツハイマー病のリスクがある対象は、例えば、当技術分野において公知の適当な診断又は予後徴候アッセイのいずれか又は組合せによって同定され得る。予防的薬剤の投与は、疾患が予防される、あるいはその進行が遅くなるように、疾患の特徴的な症状の出現前であってよい。
【0072】
単離されたタンパク質は、アルツハイマー病に関連する線維形成に関係する障害を予防、処置又は回復させるための治療的有効量で患者に投与され得る。治療的有効用量は、障害の症状の回復をもたらすために十分な化合物の量を指す。そのような化合物の毒性及び治療的効能は、上述した標準的な薬学的手順によって決定され得る。
【0073】
タンパク質が遺伝子治療によって、例えば単離されたタンパク質が中枢神経系中の細胞によって発現されるように、神経系、好ましくは脳の細胞をトランスフェクトするために発現ベクター、プラスミド又はウイルスを使用することによって投与され得ることも検討される。これは、アルツハイマー病の治療のために有用である。
【0074】
本発明は、以下の非限定的な実施例により更に例示される。
【実施例】
【0075】
材料及び方法
Bri2 BRICHOS R221E及びAU1タグ化Bri2 BRICHOS wtの製造
rh Bri2 BRICHOS R221E(配列番号4)を生成するために、プライマー5’-CACCTGGGTTTCTTTATTTATGAACTGTGTCATGACAAGGAAAC-3’(配列番号14)及び5’-GTTTCCTTGTCATGACACAGTTCATAAATAAAGAAACCCAGGTG-3’(配列番号15)を合成した。PCR鋳型としてwt NT*-Bri2 BRICHOS(Bri2残基113~231が続く溶解性タグNT*に対応する)プラスミドを用いて、QuikChange II XL Site-Directed Mutagenesis Kit(Agilent、米)を用いてBri2 BRICHOS R221Eを得、配列を確認した(GATC Bioteq、独)。
【0076】
配列番号16で示される核酸配列を有する及びHis6-NT*-トロンビン切断部位-Bri2 BRICHOS R221E(配列番号2)をコードする構築物をSHuffle T7コンピテント大腸菌(E. coli)細胞にトランスフェクトした。細胞を15μg/mLのカナマイシンを含有するLB培地中、30℃でOD600nmの約0.9までインキュベートし、20℃まで低下後、イソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド(IPTG)を0.5mMで加え、細胞を一晩インキュベートした。次に細胞を7,000×g遠心分離、4℃で収集し、細胞沈殿物を20mMのTris(pH8.0)に再懸濁し、5分間、氷上で超音波処理(2秒間オン、2秒間オフ、出力65%)した。可溶化液を4℃で30分間遠心分離し(24,000×g)、標的タンパク質を、Ni-NTAカラムを用いて精製した。His6-NT*部分を除去するために、融合タンパク質を、トロンビン(1:1000、酵素対基質、w/w)を用いて一晩4℃で切断し、第2のNi-NTAカラムにロードした。得られたBri2 BRICHOS R221Eタンパク質は、配列番号4で示されるアミノ酸配列を有した。さまざまなrh Bri2 BRICHOS R221E種(単量体、二量体、オリゴマー)をAKTA system(GE Healthcare、英)を使用して、Superdex 200 PG、200 GL又は75 PGカラム(GE Healthcare、英)によって分離及び分析した。
【0077】
特異的免疫検出のために、AU1タグ(DTYRYI)又はmCherryドメインをPCR増幅によってrh wt Bri2 BRICHOSのC末端に融合した。His6-NT*-トロンビン切断部位-Bri2 BRICHOS wt-AU1又はHis6-NT*-トロンビン切断部位-Bri2 BRICHOS wt-mCherryをコードする構築物を発現させ、Bri2 BRICHOS R221Eについてのものと同じプロトコールを用いて精製した。rh wt Bri2 BRICHOS-AU1又はrh wt Bri2 BRICHOS-mCherryオリゴマーをSuperdex 200 PGカラム(GE Healthcare、英)によって単離した。
【0078】
Bri2 BRICHOS R221E単量体のESI-MS
ESI-MS分析の前に、SECによって単離したrh Bri2 BRICHOS R221E(配列番号4)単量体を、BioSpin微量遠心機カラム(BioRad、米)を使用して200mMの酢酸アンモニウム、pH7.5に緩衝液交換した。単量体性サブユニットの最終濃度は20μMであった。スペクトルを高質量分析のために変更したWaters Synapt G1質量分析計(Waters, Milford, MA)で記録した。試料を施設内で作製した金コートホウケイ酸キャピラリーを使用して質量分析計に導入した。装置の設定:キャピラリー電圧1.5V、試料コーン電圧30V、抽出コーン電圧4V、コリジョントラップ電圧50V及びトランスファー電圧10V。ソース圧力は7mbarで、トラップガスはN2、流量8mL/hであった。データ分析をWaters MassLynx 4.1ソフトウェアを使用して実施した。
【0079】
CD分光法、ビスANS蛍光及びCS熱凝集CDスペクトルを260~190nm、25℃、1mm路長石英キュベット中、Aviv 410 Spectrometer(Lakewood, NJ、米)を用いてタンパク質濃度12μMで記録した。波長工程は0.5nmであり、平均化時間0.3秒間、時定数100ms、バンド幅1nmであった。示したスペクトルは、3回の連続したスキャンの平均である。単量体性サブユニットから計算したさまざまなrh Bri2 BRICHOS R221E種の1μMを、20mMのTris(pH8.0)中で2μMのビスANS(4,4’-ビス(フェニルアミノ)-[1,1’-ビナフタレン]-5,5’-ジスルホン酸二カリウム塩)と10分間、25℃でインキュベートし、蛍光をSLM-Aminco AB-2分光蛍光計及び恒温キュベットホルダー(Thermo Spectronic, Waltham, MA、米)を用いて記録した。蛍光発光スペクトルを420~600nmで395nmでの励起後に記録した。ブタ心臓由来CS(Sigma-Aldrich、独)を40mMのHEPES/KOH(pH7.5)中で600nMに希釈し、次にさまざまな濃度の種々のrh Bri2 BRICHOS R221E種を含む及び含まない状態で45℃で平衡化させた。凝集動態をマイクロプレートリーダー(BMG LabtechからのFLUOStar Galaxy, Offenberg、独)を使用して静止状態条件、45℃でのインキュベーション中の360nmでの吸光度のみかけの増加を読み取ることによって3回反復で測定した。
【0080】
Bri2 BRICHOS R221Eインキュベーション
rh Bri2 BRICHOS R221E(配列番号4)オリゴマー、二量体及び単量体を20μM濃度(単量体性サブユニットに関して)で、ThTアッセイ緩衝液(0.2mMのEDTA及び0.02%のNaN3を含む20mMのリン酸ナトリウム、pH8.0)中37℃でインキュベートした。0、1、4及び24時間後に試料を取り、還元及び非還元条件のSDS-PAGEによってアセンブリ状態について分析した。10μMのrh Bri2 BRICHOS R221Eオリゴマー及び単量体をThTアッセイ緩衝液中、37℃で一晩インキュベートし、未変性PAGEによって分析した。20μMのrh Bri2 BRICHOS R221E二量体も、0.2mMのEDTA及び0.02%NaN3を含む20mMのリン酸ナトリウム、pH8.0中で、37℃で一晩インキュベートし、未変性PAGEによって分析した。
【0081】
Aβ42単量体調製及びThTアッセイ
Aβ42と呼ばれる組換えMet-Aβ(1~42)をBL21*(DE3)pLysS大腸菌(E. coli)(B株)細胞で産生し、イオン交換によって精製した。精製したAβ42タンパク質を一晩凍結乾燥し、7MのGdn-HCl中に再溶解し、次に単量体単離のために0.2mMのEDTA及び0.02%のNaN3を含む20mMのリン酸ナトリウム、pH8.0中でSuperdex 75カラム(GE Healthcare、英)に注入した。Aβ42濃度を280及び300nmでの吸光度から、(A280~A300)について1,424M-1cm-1の吸光係数を使用して算出した。精製したAβ42単量体を低結合エッペンドルフチューブ(Axygene)にアリコートした。アミロイド線維形成の動態の分析のために、3μMのAβ42単量体、10μMのThT及び、さまざまな濃度のrh Bri2 BRICHOS R221E(配列番号4)単量体又は二量体(全ての濃度は単量体性サブユニットを指す)をAβ42と比較してモル比0、10、30、50、70及び100%で含有する80μL溶液を、透明底及び非結合表面の96ウエル黒色ポリスチレンマイクロプレート(Corning Glass 3881、米)の半分の領域の各ウエルに加え、静止状態条件下、37℃でインキュベートした。蛍光を440nm励起フィルター及び480nm発光フィルター(FLUOStar Galaxy from BMG Labtech, Offenberg、独)を使用して記録した。一定濃度(0.9μM)のrh Bri2 BRICHOS R221E単量体及び二量体の存在下でのさまざまな濃度のAβ42の凝集動態を同じ様式で測定した。Aβ42シード調製のために、3μMのAβ42単量体を37℃で約20時間インキュベートし、次に生成された線維を水浴中、3分間超音波処理した。シードの存在下でのAβ42線維形成動態の分析のために、3μMのAβ42、10μMのThT、さまざまな濃度のrh Bri2 BRICHOS R221E単量体又は二量体をAβ42単量体と比較して、0、10、30、50、70及び100%で含有する80μL溶液及び0.6μMのシード(元のAβ42単量体濃度から算出)を、4℃で96ウエルプレートの半分の領域の各ウエルに3回反復で加え、静止状態条件下、37℃で直ちにインキュベートした。蛍光を上述のとおり記録した。伸長速度定数k+(以下を参照)をrh Bri2 BRICHOS R221E単量体又は二量体の存在下で、高度にシードされた(highly seeded)実験から算出した。凹面の凝集トレースの初期の傾きを最初の25~30分間のトレースの線形フィットによって決定した。凝集トレースを、全ての実験について3~4回反復を使用して正規化及び平均化し、1つのデータセットを明示するデータは同じプレートから記録した。
【0082】
rh Bri2 BRICHOS R221E単量体とwtオリゴマーとの同時インキュベーション
rh Bri2 BRICHOS R221E(配列番号4)単量体(5μM)、rh wt Bri2 BRICHOSオリゴマー(5μM)及び混合物(rh Bri2 BRICHOS R221E単量体及びrh wt Bri2 BRICHOSオリゴマー、5μM:5μM又は9μM:4.5μM)を、37℃で一晩インキュベートした。次に活性(同じ合計rh Bri2 BRICHOS濃度で)を、海馬切片においてThTアッセイによってAβ42線維形成に対して及びγ振動測定によってAβ42の神経毒性の予防について検査した(以下を参照)。試料を未変性PAGE及びウサギ抗AU1抗体(1:1000、Abcam、UK)を使用するウエスタンブロットによっても分析した。
【0083】
Aβ42凝集動態の分析
さまざまな濃度のrh Bri2 BRICHOS R221E(配列番号4)単量体又は二量体の存在下でのAβ42の巨視的凝集プロファイルを、実験によるシグモイド方程式にフィットさせた:
【0084】
【0085】
式中、τ1/2は凝集半減時間であり、rmaxは最大成長速度であり、Aは振幅でありF0は基底値である。式(1)を適用することによって、τ1/2及びrmaxをrh Bri2 BRICHOS R221E種を含む及び含まない凝集トレースについて評価した。
【0086】
合計線維塊濃度、M(t)の凝集トレースは、次の積分速度則(integrated rate law)によって記載し:
【0087】
【0088】
式中、追加的な係数はλ及びκの関数であり:
【0089】
【0090】
それらは、微視的速度定数の2つの組合せである
【0091】
【0092】
微視的速度定数kn、k+及びk2は、それぞれ一次核形成、伸長及び二次核形成速度定数であり、パラメーターnC及びn2は、それぞれ一次及び二次核形成についての反応次数である。
【0093】
本発明者らは、巨視的凝集プロファイルを記載するために式(2)を適用し、シャペロンの非存在及び存在下での線維形成の時間発展を記載するために必要な一連の微視的速度定数k+k2及びknk+を比較することによって、rh Bri2 BRICHOS R221Eによって阻害される微視的事象を同定した。
【0094】
最初に一定rh Bri2 BRICHOS R221E濃度を用いて異なる初期Aβ42単量体濃度での動態トレースを全体的にフィットさせ、ここで√(k
nk
+)及び√(k
+k
2)は、全ての濃度にわたって同じ値に制約される。次に、一定Aβ42濃度で異なるrh Bri2 BRICHOS R221E濃度を用いた動態データを、この動態核形成モデル(
図3)を適用することによって全体的に分析し、ここで√(k
nk
+)及び√(k
+k
2)は全ての濃度にわたるフリーフィッティングパラメーターである。本発明者らは、一定Aβ42濃度及び異なるrh Bri2 BRICHOS R221E濃度での動態データセットのグローバルフィットも実施し、ここでフィットは、1つのフィッティングパラメーターが全てのrh Bri2 BRICHOS R221E濃度にわたって一定値に保持される一方で、第2のパラメーターのみがフリーパラメーターであるように制約された。この手順は、単一の速度定数、すなわちk
n、k
+又はk
2が、唯一のフィッティングパラメーターであることをもたらした。
【0095】
核形成単位の生成を例示するために、本発明者らは、rn(t)=knm(t)nc+k2M(t)m(t)n2によって、核形成速度rn(t)による単量体からの新たな線維の生成速度の時間発展を算出した。核形成速度rn(t)を反応にわたって積分することによって核形成単位の数を算出した。
【0096】
Aβ42線維の免疫金染色及び透過型電子顕微鏡分析
5μMのAβ42単量体を37℃で50%のrh Bri2 BRICHOS R221E(配列番号4)単量体又は二量体を用いて約15時間インキュベートし、線維を4℃、22,000×gでの1時間の遠心分離によって回収した。線維を20μLの1×TBS中に慎重に再懸濁し、その内2μLをフォルムバーコートニッケルグリッドにアプライし、約5分間インキュベートした。Kleenexペーパータオルの端を用いて過剰な溶液を除去した。ブロッキングをTBS中1%のBSAでの30分間のインキュベーションによって実施し、その後グリッドをTBSによって3×10分間洗浄した。次にグリッドをヤギ抗Bri2 BRICHOS抗体(1:200希釈)を用いて一晩、4℃でインキュベートし、3×10分間、TBSを用いて洗浄した。最後にグリッドを10nm金粒子(BBI Solutions、英;EM.RAG10)にカップリングした抗ヤギIgG二次抗体(1:40希釈)を用いて2時間、室温でインキュベートし、5×10分間、1×TBSを用いて洗浄した。過剰な溶液をKleenexペーパータオルの端を用いてグリッド表面から除去した。染色のために、2μLの2.5%の酢酸ウラニルを各グリッドに加え(約20秒間保持)、過剰な溶液を除去した。グリッドを約20秒間乾燥させ、透過型電子顕微鏡(TEM, Jeol JEM2100F, 200 kV)によって分析した。
【0097】
Bri2 BRICHOS R221Eを用いた電気生理学的研究
実験をNorra Stockholm’s Djurfoersoeksetiska Naemnd(dnr N45/13)によって承認された倫理的許可に従って実行した。雄又は雌のC57BL/6マウス(生後14~23日、Charles River、独から供給)を実験で使用した。動物を頭切除術によって屠殺する前にイソフルランを使用して深く麻酔した。
【0098】
脳を解剖し、解剖用に変更した氷冷ACSF(人工脳脊髄液)中に置いた。本溶液は、80mMのNaCl、24mMのNaHCO3、25mMのグルコース、1.25mMのNaH2PO4、1mMのアルコルビン酸、3mMのピルビン酸Na、2.5mMのKCl、4mMのMgCl2、0.5mMのCaCl2及び75mMのスクロースを含有した。両半球の腹側海馬の水平方向切片(350μm厚)をLeica VT1200Sビブラトーム(Microsystems, Stockholm、瑞)を用いて作製した。スライス直後に切片を標準的ACSF:124mMのNaCl、30mMのNaHCO3、10mMのグルコース、1.25mMのNaH2PO4、3.5mMのKCl、1.5mMのMgCl2及び1.5mMのCaCl2を含有するサブマージインキュベーションチャンバーに移した。チャンバーを34℃に、解剖後少なくとも20分間保持した。続いて室温(約22℃)で最低40分間冷ました。タンパク質(Aβ42、rh Bri2 BRICHOS R221E(配列番号4)種及びこれらの組合せ)を、細胞外記録のためにスライスをインターフェース型記録チャンバーに移す前に、15分間インキュベーション溶液に加えた。インキュベーションの際に、ACSFにカーボンガス(5%のCO2、95%のO2)を、通気でスライスに連続的に供給した。
【0099】
記録を、海馬CA3領域で3~5MΩの抵抗に寄せたホウケイ酸ガラス微小電極を用いて実行した。局所電場電位(LFP)をインターフェース型チャンバー(灌流量1分間あたり4.5mL)において32℃で錐体細胞層に置いたACSFを満たした微小電極を使用して記録した。LFPγ振動を、槽にカイニン酸(KA)(100nM、Tocris)に添加することによって引き起こした。全ての記録が実行される前に振動を20分間安定化させた。いかなるAβ42、rh Bri2 BRICHOS R221E種又はこれらの組合せも、γ振動の安定化の際又はその後の電気生理学的記録の際のいずれの記録チャンバー内にも存在しなかった。インターフェースチャンバー記録溶液は、124mMのNaCl、30mMのNaHCO3、10mMのグルコース、1.25mMのNaH2PO4、3.5mMのKCl、1.5mMのMgCl2及び1.5mMのCaCl2を含有した。
【0100】
インターフェースチャンバーLFP記録を、4チャネル増幅器/シグナル調整装置M102増幅器(Electronics lab, Faculty of Mathematics and Natural Sciences, University of Cologne, Cologne、独)を用いて実施した。信号を10kHzでサンプリングし、Hum Bug 50Hzノイズ除去装置(LFPシグナルのみ;Quest Scientific, North Vancouver, BC, Canada)、1kHzのソフトウェア低域フィルターを使用して調整し、Digidata 1322A及びClampex 9.6ソフトウェア(Molecular Devices, CA、米)を使用してデジタル化及び保存した。
【0101】
出力スペクトル密度プロット(60秒長LFP記録から)を、Axograph X(Kagi, Berkeley, CA、米)を使用して8,192ポイントの平均フーリエセグメントにおいて算出した。振動出力を20~80Hzの出力スペクトル密度を積分することによって算出した。データを平均±平均値の標準誤差として報告する。統計解析のためにスチューデントのt検定(独立)を使用した。有意水準は*p<0.05;**p<0.01;***p<0.001である。全ての実験を、同じ動物/調製物の並行対照を用いて実施した。
【0102】
rh Bri2 BRICHOS R221E種及びAβ40を用いたNMR研究
凍結乾燥15N-Aβ40を10mMのNaOH中に2mg/mLの濃度まで溶解し、2分間、水-氷浴中で超音波処理した。溶液を16mMのリン酸ナトリウム緩衝液、pH7.4、0.02%のNaN3、0.2mMのEDTA及び5%のD2O中に75μMの最終Aβ濃度になるように希釈した。1H-15N HSQCスペクトルを8℃、低温貯蔵プローブを備えた500 MHz Bruker分光計で、2,048×128コンプレックスポイント及び32スキャンを使用して記録した。
【0103】
BBB通過の分析
3カ月齢C57BL/6NTac(Taconic、丁)雄マウスを、管理された湿度及び温度下、12時間明暗周期、群での収容(ケージあたり7匹)、餌及び水を自由摂食で飼った。全ての動物実験は、Soedra Stockholm’s Djurfoersoeksetiska Naemnd(dnr S 6-15)及びLinkoeping’s etiska naemnd(ID855)の倫理委員会によって承認された。マウスに、rh Bri2 BRICHOS R221E(配列番号4)単量体、20mg/kg又は同量のPBSの単回i.v.注入を側面尾静脈に30ゲージ針を有する0.3mLシリンジを使用して受けさせた。注入前にマウスをシングルケージ中、加熱ランプ下に5分間、尾静脈を拡張させるために置いた。マウスをイソフルランで麻酔し、40mLの食塩水(0.9%のNaCl)を用いて、注入後1、2又は6時間心臓内灌流した。迅速に脳を除去し、ドライアイス中で瞬間凍結し、分析まで-80℃で保存した。
【0104】
血液を、rh Bri2 BRICHOS R221E単量体を注入した5、30、60、120及び360分後に、尾静脈から回収した。側面尾静脈を27ゲージ針を使用して穿刺し、血液50~100μLを各時点で回収した。血液を凝固させ、4℃、10分間、3000rpmで遠心分離して血清を回収し、-20℃で保存した。分析の前に試料を1×PBS中1:5に希釈した。
【0105】
マウス組織を、プロテアーゼ阻害剤を補充した50mMのTris/HCl(pH7.4)、150mMのNaCl、1.0%(v/v)のTriton(登録商標)X-100、0.1%(w/v)のSDS及び10mMのEDTA中でホモジナイズした。脳試料を4℃、30分間、14000rpmで遠心分離し、次に上清を回収し、-20℃で保存した。タンパク質濃度をブラッドフォード法によって決定した。血清及び脳試料を2%のSDS、0.03MのTris、5%の2-メルカプトエタノール、10%のグリセリン、ブロモフェノールブルーを含有する変性緩衝液中に調製し、10分間、96℃で加熱した。1ウエルあたり総タンパク質100μgがロードされるように、血清及び脳ホモジネートについての試料容量を正規化した。試料を10%のSDS-PAGEゲル、還元条件で分離し、ニトロセルロース膜(GE Healthcare)にブロットした。ブロット後、膜を5%のミルク/PBS中で1時間ブロッキングし、5%のミルク、0.1%のTween(登録商標)/PBS中で、ヤギ抗Bri2 BRICHOS抗体(1:300)を用いた一晩、4℃でのインキュベーションが続いた。膜を3回、0.1%のTween(登録商標)/PBSを用いて洗浄し、二次抗ヤギ抗体(1:10000)を用いて1時間、RTでインキュベートした。洗浄後、蛍光画像化システム(Li-Cor, Odysey CLx)を使用して画像を取得した。
【0106】
血清半減期をImageJを用いたrh Bri2 BRICHOS R221E単量体性結合強度のデンシトメトリー分析後に算出した。濃度を相対強度として表し、各曲線について5分での試料強度に正規化した。みかけの半減期をGraphPad Prismを使用して非線形単相減衰分析によって得た。
【0107】
アルツハイマー様病態を有するマウスにおけるBri2 BRICHOS R221Eの効果
アルツハイマー様病態を有する老化APPNLFマウスにおけるrh Bri2 BRICHOS R221Eの効果を調査した。APPNLFマウスはAPPを生理学的レベルで発現し、Swedish(KM670/671NL)及びBeyreuther/Iberian(I716F)変異を含有する(Saito et al., Nature Neuroscience 17(5): 661-663 (2014))。モデルは、APPを過発現することなくAβ42を過産生することから好ましい。
【0108】
研究設計
Swedish(KM670/671NL)及びBeyreuther/Iberian(I716F)変異を保有するAppノックイン雌マウス(AppNL-Fマウス)を動物施設Huddinge campus, Karolinska Institutetで19カ月まで高齢化させた。マウスを3~5個体の群でケージに入れ、明暗条件は12時間:12時間(8:00に点灯)であった。マウスを、PBS又はrh Bri2 BRICHOS R221E投与に、n=10匹/群で無作為に分けた。マウスに、PBS又はrh Bri2 BRICHOS R221E(配列番号4;20mg/kg体重)注入を静脈内に毎週2回、10週間受けさせた。マウスを2~4%のイソフルランを使用して麻酔し、PBS又はrh Bri2 BRICHOS R221Eをゆっくりとインフュージョンして注入した。各群から2匹のマウスが、14回~16回目の注入後に死んだ。研究は、処置の効果を判定するために一連の行動及び生化学アッセイを使用した。行動及び生化学アッセイを評価する実験者は、介入群には盲検であった。行動実験は、明期(10:00~18:00)で実施した。全ての生物学的反復の数は、各方法セクションに示されている。外れ値は、Rout法(Q=1%)又はPrism 8(GraphPad software Inc., CA、米)を使用するGrubbs方法(α=0.2)を使用して検出し、除外した。同齢wtマウス、23~25カ月齢を一部のデータの比較のために使用した。
【0109】
Swedish及びBeyreuther/Iberian変異に加えてArctic(E693G)変異を保有するAppノックイン雌マウス(AppNL-G-Fマウス)を3カ月齢で開始して12週間、PBS又はrh Bri2 BRICHOS R221E(10mg/kg)の静脈内注入で5日ごとに処置した(合計17回注入)、n=12/群。
【0110】
全ての動物取扱及び実験手順は、地域の倫理指針に従って実行し、Soedra Stockholm’s Djurfoersoeksetiska Naemnd(dnr S 6-15)及びLinkoeping’s animal ethical board(ID 855)によって承認された。
【0111】
行動研究
Y迷路 Y迷路装置は、灰色プラスチックで作られ、中央プラットフォーム(15×15×15cm)から拡張された3個のコンパートメント(36×15cm)からなる。各マウスを迷路の中央に向けて1つのアームに置き、次に5分間自由に探索させた。全ての匂いの手がかりを除去するために装置を各セッション間に70%のエタノールを用いて清掃した。マウスの自発的行動を変化の数/(合計エントリー-1)で割ることによって手作業で判定した。
【0112】
高架式十字迷路 装置は、中央プラットフォーム(5×5cm)から拡張された2個の反対方向のオープンアーム(30×5cm)及び2個の反対方向のクローズアーム(30×5cm、高さ15cmの透明の壁に囲まれている)からなった。迷路は、拡散光を有する部屋において床から40cm上にあげた。マウスをオープンアームに向けて装置の中央に個別に置き、装置を自由に5分間探索させた。全ての匂いの手がかりを除去するために、装置を各セッション間に70%エタノールを用いて清掃した。オープンアーム(複数可)で過ごした時間及びオープンアームに入った数をビデオトラッキングEthoVision(登録商標)XTソフトウェア、Noldus(Wageningen、蘭)によって測定した。
【0113】
オープンフィールド及び新規物体認識 オープンフィールド活動領域は、20cmの壁を有する四角いプラスチックボックス(35×35)であった。各マウスを不透明な壁に向けて角に穏やかに置き、馴化のために自由に5分間探索させた。2時間の間隔後に、ボックスの角近くに対角線上で置いた2個の類似の試料物体(レゴ)を有する同じオープンボックスにマウスを置き、それらを自由に探索させた。翌日、物体の1つを新たな物体(エッグタイマー)で置き換え、マウスに2個の物体を5分間自由に探索させた。各マウスの行動をビデオで監視し、EthoVision(登録商標)XTソフトウェア、Noldus(Wageningen、蘭)を使用して分析した。活動領域を各セッション後に70%エタノールを用いて清掃した。馴化相を、EthoVisionソフトウェアの活動トラッキング特性を使用してマウスの活動性を分析するために使用した。マウスの探索行動を習熟相の際に類似の物体について使った時間から分析した。識別指数を新たな物体を探索することに使用した時間を両者の物体を探索するために使用した合計時間で割って算出した。
【0114】
モリス水迷路 マウスを隠された避難プラットフォーム(直径10cm、高さ30cm)を突き止めるように環状プール(直径1.2m、高さ60cm)(Ugobasile、伊)で訓練した。プールを、北東、北西、南東及び南西として同定される4個の等しい四分円にコンピューター上で分割した。タンクを温度21±2℃の水道水でプラットフォームの上1cmまで満たし、水をミルクで不透明にした。タンクをタンクの底近くの4個のライトで照らした。プラットフォームを固定位置(北西四分円の中央)でタンクに置いた。プールを、拡散光及び実験者及び多数の迷路外視覚刺激を隠すためのカーテンを有する大きな部屋に置いた。取得層の際に、各マウスを1日あたり4回試行で、連続した4日間、30分間の試行間隔で訓練した。マウスを次の出発点:北、東、南又は西の1つからプールの壁に向けて放し、プラットフォームを60秒間探させた。各日で、出発点は一定のままにした。マウスが60秒後にプラットフォームを見いだせなかった場合、穏やかにプラットフォームの方に誘導し、15秒間とどまらせた。プローブ試行の際に、参照記憶を、全てのマウスについて同じ解放ポイントを使用して、5日目、最後の取得試行の24時間後にプラットフォームを除去することによって評価した。ビデオカメラをプールの中央の上に置き、EthoVision(登録商標)XTビデオトラッキングシステムNoldus(Wageningen、蘭)に繋いだ。隠されたプラットフォームを見つけるまでの待機時間を、学習の測定として使用した。プローブ試行について、標的四分円において過ごした合計時間を取得した空間記憶の保持測定として使用した。
【0115】
恐怖条件づけ マウスを、消音白色チェストで囲まれたステンレススチールグリッド床(Kinder Scientific、米)の条件づけチャンバー(17×10×10cm)内で訓練及び検査した。条件づけ日に各マウスを条件づけチャンバー内に個別に置き、2分間自由に探索させ、30秒間の音(65dB)及び穏やかな足へのショック(0.5mA、2秒)が続いた。もう1回の音及び足へのショックを1分間の刺激間隔で提示し、マウスを最後の足へのショックの30秒後にそれらのホームケージに戻した。全ての匂いの手がかりを除去するために、チャンバーを各セッション間に70%エタノールを用いて清掃した。条件づけ1日後、マウスを同じチャンバーに置き、コンテキストベースのすくみ(context based freezing)のための足への刺激を与えずに3分間自由に探索させた。3日目にマウスを、消音白色チェストの中に置いた黒色四角チャンバー内に置き、2分間自由に探索させ、2分間の音が続き、その際にすくみ応答を刺激ベースの恐怖条件づけについて評価した。各検査においてすくみ時間を、Motor Monitorソフトウェア(Kinder Scientific、米)を使用して算出した。活動性を補正したすくみを、ベースライン(コンテキスト恐怖条件づけのための条件づけ日の最初の2分間、及び刺激恐怖条件づけのための3日目の最初の2分間)を合計すくみ時間から減算することによって算出した。
【0116】
酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)
マウス皮質及び海馬をTRIS可溶性(TS)画分及び塩酸グアニジン可溶性(GS)に分けた。AβX-40及びAβX-42を、Aβ ELISAキット(IBL、日)を製造者の説明書に従って使用して定量した。
【0117】
チオフラビン-S染色
パラフィン包埋脳組織から、ミクロトームを使用して5μm厚の切片を切断し、Superfrost Plus顕微鏡スライドガラス上に得て、37℃で一晩乾燥させた。切片をキシレン中及びエタノールの濃度を減少(99~70%)させて洗浄することによって脱パラフィンし、蒸留水中に調製した1%のろ過チオフラビン-Sを用いた1時間、暗所、室温での染色が続いた。切片をエタノール70%及び95%中で洗浄し、蒸留水での洗浄が続いた。次に切片をヘキスト核染色とインキュベートし、PBS-Tを用いた3回洗浄が続き、PermaFluor水溶性封入剤で覆った。次に切片(切片4個/マウス)を、Nikon Eclipse E800共焦点顕微鏡を用いて視覚化し、倍率2倍で画像化した(Nikon DS-Qi2カメラ)。プラークを皮質と海馬領域の両者の総表面から計数(盲検の観察者によって)した。
【0118】
組織調製及び免疫蛍光
スライドガラス上のマウス組織切片をキシレン中及びエタノールの濃度を減少(99~70%)させて洗浄することによって脱パラフィンした。抗原賦活のためにスライドをクエン酸緩衝溶液(0.1Mクエン酸及び0.1Mクエン酸ナトリウム)中110℃で5分間圧力煮沸し、次に水道水に続いてPBS-Tween(登録商標)0.05%を用いて各5分間洗浄した。次に切片を、TNBブロッキング緩衝液(0.1MのTris-HCl(pH7.5)、0.15MのNaCl及び0.5%のブロッキング試薬;PerkinElmer、米)又はNGS(正常ヤギ血清、Vector Laboratories、米)を用いて30分間、室温でインキュベートした。
【0119】
次に、脳切片をTNB緩衝液中、抗Aβ(82E1;IBL、米)1:2000、TNB緩衝液中、抗GFAP(グリア線維酸性タンパク質;Agilant technologies、米)1:500又はNGS中、抗Iba1(Fujifilm Wako、日)1:250と共に4℃で一晩インキュベートした。その後、切片をTNB緩衝液又はNGS中ビオチン化抗マウス又は抗ウサギ抗体(Vector Laboratories;英)1:200と共に2時間、室温でインキュベートし、次にTNB緩衝液又はNGS中、HRP-コンジュゲートストレプトアビジン(PerkinElmer;米)1:100と共に30分間インキュベートした。シグナル増幅のために、試料を増幅試薬中チラミド(PerkinElmer;米)1:50で10分間インキュベートした。
【0120】
最終的に、試料をヘキスト溶液、PBS-T中1:3000を用いてゆっくり撹拌しながら15分間インキュベートし、PermaFluor Aqueous Mounting Medium(ThermoScientific、米)を用いた封入及び一晩の乾燥が続いた。各インキュベーション工程の間に、試料をPBS-T中で3回、5分間ゆっくり撹拌しながら洗浄した。次に切片(マウス1匹あたり4個)をNikon Eclipse E800共焦点顕微鏡を使用して視覚化し、ImageJソフトウェア(National Institutes of Health, MD)でのさらなる分析のために倍率2×及び10×でNikon DS-Qi2カメラを用いて画像化した。
【0121】
ウエスタンブロット
皮質及び海馬組織(n=4~7個/群)を、完全プロテアーゼ阻害剤混合物(Sigma-Aldrich、米)を含むRIPA緩衝液(Thermo Fisher Scientific、米)中にホモジナイズした。得られた上清をブラッドフォードプロテインアッセイ(Bio-Rad、米)を使用するタンパク質濃度決定に供した。次に50μgタンパク質を4~20%のプレキャストゲル(Bio-Rad、米)にロードし、0.2μmニトロセルロース又はPVDF膜(Amersham(登録商標)Hybond(登録商標)、GE healthcare、独)に移した。膜をTBS-T(0.05%のTween(登録商標)20)中の5%のスキムミルクでブロッキングし、抗GFAP(Agilant technologies、米)1:3000、抗AIF-1/Iba1(Novus biologicals、米)1:1000又は抗Aβ1-16(6E10;Biolegend、米)1:1000を用いて調べ、4℃で一晩保持し、次に抗マウス若しくは抗ウサギCy3 1:2500(GE Healthcare、英)、抗マウスIgG HRP-コンジュゲート 1:5000(GE Healthcare、英)又は蛍光標識抗ウサギ二次抗体1:10000(Li-COR Biosciences、米)と共にインキュベートした。膜を各インキュベーション工程後に、TBS-Tを用いて3回洗浄した。
【0122】
APP及びCTFa/β断片について、皮質組織を4×Pipes緩衝液(Sigma Aldrich、米)中でホモジナイズし、70000rpm、30分間の超遠心分離が続いた。得られた沈殿物をPipes緩衝液に再懸濁し、ブラッドフォードプロテインアッセイを使用してタンパク質濃度を測定した。2.5μg/μlタンパク質を37℃で30分間インキュベートし、クロロホルム/メタノール、2:1(v/v)による30分間、穏やかに混合しながらの抽出が続いた。遠心分離(15000rpm、15分間)後に得られた白色界面に、クロロホルム/メタノール、2:1(v/v)を加えて1時間穏やかに混合し、遠心分離(15000rpm、15分間)が続いた。沈殿物を、スピードバックを使用して2分間乾燥させ、試料緩衝液(9M尿素を含有するSDS試料緩衝液)中に再懸濁し、一晩室温で保持した。次に40μgタンパク質を8~16%のプレキャストゲル(Bio-Rad、米)にロードし、0.2μmニトロセルロース膜に移し、APPのCTFa/β断片の検出のために抗APPのC末端抗体(Sigma Aldrich、米)1:5000を用いて調べた。抗β-アクチン(Sigma Aldrich、米)1:3500又は抗GAPDH(Sigma Aldrich、米)1:5000をローディング対照として使用した。タンパク質バンドをAmersham imager 600(GE Healthcare)又はOdyssey CLx(Li-COR Biosciences、米)を使用して視覚化し、バンド強度をImage Jソフトウェアを用いて測定し、ローディング対照を用いて正規化した。
【0123】
統計解析
全ての統計的比較は、Prism 8(GraphPad software Inc., CA、米)を使用して実施した。正規性をシャピロ-ウイルク検定を使用して調べた。異なる時点の点にわたるデータを多重比較のためにボンフェローニ補正を用いた二元配置ANOVAによって分析した。全ての他のデータは、多重t検定又は両側スチューデントのt検定によって分析した。誤差伝播を免疫染色実験のための同じマウス由来の切片間の変動について説明するために使用した。概算の変動性を平均値の標準誤差(SEM)として報告し、p<0.05を統計的に有意と見なした。
【0124】
相関分析
rh Bri2 BRICHOS R221E及びPBS処置群における相関 相関をPBS処置対照群及びrh Bri2 BRICHOS R221Eを用いて処置したマウスの全てのマウスについてピアソン相関係数としてペアワイズで算出した。試料サイズは、マウス3~8匹であった。関連性のある相関及び傾向の同定のために、本発明者らは、比較のために相関係数及び両側P値(p<0.05又はp<0.2)を考慮した。
【0125】
マウス脳におけるBRICHOS/Aβ42比から予測されるin vivoでの結果とin vitro及びex vivoでの結果との相関 プラークロード、プラーク数、アストログリオーシス及びミクログリオーシスに対するrh Bri2 BRICHOS R221E処置の効果、ここで正の処置効果は量の減少に対応し、相対的効果は比BRICHOS/PBSとして算出された一方で、行動研究については、処置での正の効果は量の増加に対応し、効果は比PBS/BRICHOSとして算出した。比のエラーバーは、個々の測定値のSEMの伝播に対応する。p値>0.2を有する比較、及び恐怖条件づけ研究由来のデータ(有意な処置効果がないことから)は、分析に含めなかった。
【0126】
in vitroで生成されたオリゴマーの数を、rh Bri2 BRICHOS R221E処置群の皮質脳ホモジネート中のGS-可溶性Aβ42の量から概算し、1.04g/mlの脳密度を推定した。さらに、脳におけるBRICHOS:Aβ42の比を2時間後の野生型rh Bri2 BRICHOSのBBB通過の程度(400±150nM)に基づいて概算し、AppNL-FマウスにおけるBRICHOS:Aβ42についての比0.14±0.06を得た。
【0127】
海馬γ振動へのex vivo毒性への効果の概算は、100%の野生型又はrh Bri2 BRICHOS R221E単量体のいずれかのAβ42への添加が未処置対照と同じγ振動値をもたらし、rh野生型Bri2 BRICHOS単量体濃度にほぼ線形の応答が見いだされた、以前の結果に基づいている。したがって本発明者らは、概算したin vivoでのBRICHOS:Aβ42比由来のex vivo毒性への効果を算出するために、この線形関係を適用した。誤差は、線形関係を仮定して、対照、Aβ42単独及び100%のBRICHOSデータセット由来の相対誤差から概算した。
【0128】
ヒトAD患者におけるAβ42の量を、55.4%の灰白質及び44.6%の白質の加重平均を使用して、灰白質及び白質についての公表された値から概算した。同じ計算及び、ヒトにおいてBRICHOSがマウスにおいてと同じBBB透過性を有することを含む仮定を適用して、新たな核形成単位の低減について上述のとおり、ヒトAD Aβ42レベルに対するin vivo効果は、誤差推定のためのAβ42の量の公表された標準偏差値を含んで概算され得る。
【0129】
結果
Bri2 BRICHOS R221Eは、安定な単量体及び不安定なオリゴマーを形成する。
【0130】
rh proSP-C BRICHOSの結晶構造、BRICHOSドメインの唯一利用可能な高解像度構造は、ヘリックス2からの残基が隣接サブユニットのポケットに向いているホモ三量体を示す。proSP-C BRICHOS構造に基づくBri2 BRICHOSサブユニットの構造モデルでは、Arg221はヘリックス2で表面に露出しており、隣接サブユニットのポケットを向いている可能性がある。Arg221Glu変異が反対の表面静電ポテンシャルを導入し、オリゴマーを不安定化させ、安定サブユニット単量体を生成すると考えられる。
【0131】
rh Bri2 BRICHOS R221Eを、スパイダーシルクタンパク質のN末端ドメインに基づいて最近開発された溶解性タグ、NT*との融合で産生した。サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって、精製したNT*-Bri2 BRICHOS R221Eをオリゴマー、二量体及び単量体に分離した。wtタンパク質とは対照的に、変異体は、大部分は単量体を形成し、Arg221がBri2 BRICHOSオリゴマー形成に実際に寄与していることを示唆している。NT*タグのタンパク質分解性遊離後に、単離されたrh Bri2 BRICHOS R221Eオリゴマーは、サブユニット間ジスルフィド結合によって部分的に連結され、二量体はジスルフィド依存性である。エレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI-MS)は、SECによって単離されたrh Bri2 BRICHOS R221E単量体の四次構造を確認した。ESI-MSによって決定された質量、14050.2Daは、2個の保存されたCysが分子内ジスルフィド結合を形成している単量体の算出された質量、14050.1Daと完全に一致している。円二色性(CD)分光法は、単量体性rh Bri2 BRICHOS R221Eの全体的な二次構造がwt単量体に類似していることを示した。オリゴマーの形成と関連して、ネガティブCDピークは約205~210nm右にシフトし、rh wt Bri2 BRICHOSについて観察されたパターンと同等の構造的安定性を示している。単離されたrh Bri2 BRICHOS R221E単量体、二量体及びオリゴマーは、ビスANSに結合し、遊離ビスANSと比較して蛍光発光強度における顕著な増加及び約533nmから480~490nmへの発光最大値の青色シフトによって証明される。これは、wt種についての状況と類似の、全てのrh Bri2 BRICHOS R221E種が疎水性表面を露出していることを示している。さまざまなアセンブリ状態のrh Bri2 BRICHOS R221Eの、非線維性タンパク質凝集を妨げる能力を、熱変性クエン酸合成酵素(CS)に対して評価した。二量体及び単量体は、CS凝集を抑制することにおいて比較的非効率的であった一方で、wt種の場合と同様に、オリゴマーはCSの凝集を効率的に低減する。本明細書全体を通じて、さまざまなrh Bri2 BRICHOS R221E種の濃度は、その単量体性サブユニットを参照している。
【0132】
単離されたrh wt Bri2 BRICHOS単量体は、SECによって示されたとおり濃度の増加で二量体を形成する一方で、rh Bri2 BRICHOS R221E単量体は、濃度の増加でSEC上での移動の変化を示さなかった。同様にrh Bri2 BRICHOS R221E単量体の20mMのNaPi(pH8.0)中、37℃、一晩のインキュベーションに続く未変性PAGEは、それらが単量体性状態を維持していることを示し、wtタンパク質の場合とは異なる。未変性PAGEによる分析は、単量体及び他の低n種が、37℃での一晩インキュベーション後にrh Bri2 BRICHOS R221Eオリゴマーから遊離される一方で、rh wt Bri2 BRICHOSオリゴマーがインキュベーションの際に小さな種を自発的に遊離しないことを示している。
【0133】
Bri2 BRICHOSオリゴマーの不安定化は、抗Aβ42神経毒性活性を増大させる。
【0134】
rh Bri2 BRICHOSオリゴマーの不安定化のAβ42に関連する神経毒性の軽減への効果を調査するために、本発明者らは、マウス海馬切片におけるγ振動のAβ42誘発低減を予防することにおける有効性を検査した。ガンマ振動は、学習、記憶、認知及び他の更に高度な処理過程に関連し、AD患者において観察される認知低下は、γ振動の減少と共に進行する。ここでγ振動は、wt C57BL/6マウス由来の水平方向の海馬切片において、スライスを100nMのカイニン酸(KA)で表面灌流し、次にそれらを30分間安定化させることによって誘導した。
【0135】
図2Aは、50nMのAβ42、50nMのAβ42+プレインキュベートされた25nMのrh Bri2 BRICHOS R221E単量体、50nMのAβ42+プレインキュベートされた25nMのrh wt Bri2 BRICHOSオリゴマー、50nMのAβ42+プレインキュベートされた50nMのrh wt Bri2 BRICHOSオリゴマー、50nMのAβ42+プレインキュベートされた50nMのrh Bri2 BRICHOS R221Eオリゴマー並びに、50nMのAβ42+25nMのrh wt Bri2 BRICHOSオリゴマー及び25nMのrh Bri2 BRICHOS R221E単量体のプレインキュベートされた混合物の15分間インキュベーション後の、対照条件(灰色)下でのトレース例及び出力スペクトル例(i及びii)を示す。実験からの正規化γ振動出力の概要ヒストグラム(iii及びiv)も示す。ヒストグラムの下の数字は生物学的反復の数を記し、データは平均値±平均値の標準誤差として報告する。対照対Aβ42:p<0.0001、ns、有意差なし、
*p<0.05、
**p<0.01、
***p<0.001。
【0136】
50nMのAβ42を用いた15分間の海馬切片のプレインキュベーションは、続くKA適用によって生成されたγ振動の出力を顕著に低減した(
図2A)。50nMのrh Bri2 BRICHOS R221Eオリゴマーの50nMのAβ42と併せた添加は、未処置対照におけるものと異ならない振動をもたらした一方で、50nMのAβ42を含むrh wt Bri2 BRICHOSオリゴマーの添加は、未処置対照及びrh Bri2 BRICHOS R221Eオリゴマー及びAβ42を用いた処置後に得られたγ振動と比較して有意に低いγ振動をもたらした(
図2Ai、iii)。これらの観察は、rh Bri2 BRICHOS R221Eオリゴマーの不安定化及び小さな種の遊離が抗Aβ42神経毒性活性を増加させることを示唆している。次に本発明者らは、rh Bri2 BRICHOS R221E単量体がrh wt Bri2 BRICHOSオリゴマー形成に干渉でき、それにより、単量体の比を増加させると仮定し、これはAβ42の神経毒性を相殺する効力を増加させると期待される。
【0137】
この仮説を検査するために、本発明者らは、rh Bri2 BRICHOS R221E単量体及びrh wt Bri2 BRICHOSオリゴマーを同時にインキュベーションし、その後Bri2 BRICHOSアセンブリ状態の分布並びに、Aβ42線維形成及び神経毒性への効果を評価した。wtとR221E rh Bri2 BRICHOS単量体との間の識別を可能にするために、本発明者らは、非タグ化wtタンパク質と同様に挙動し、抗AU1抗体を使用して選択的に免疫検出できるAU1タグを含有するrh wt Bri2 BRICHOS構築物を使用した。
図2Bでは、rh Bri2 BRICHOS R221E単量体及び、免疫検出のためのAU1タグを含有するrh wt Bri2 BRICHOSオリゴマー(5:5μM及び9:4.5μM)を37℃で一晩同時インキュベートし、未変性PAGE及び抗AU1タグ抗体を用いたウエスタンブロットによって分析した。破線で示される四角はwt Bri2 BRICHOS単量体の移動を示す。未変性PAGE及びウエスタンブロット分析は、rh wt Bri2 BRICHOSオリゴマーの、rh Bri2 BRICHOS R221E単量体との同時インキュベーションが、小さな種、特に単量体の遊離をもたらすことを示している(
図2B)。本発明者らは、wt rh Bri2 BRICHOSオリゴマーから単量体を遊離するrh Bri2 BRICHOS R221Eの能力を更に研究するために、Bri2 BRICHOSのmCherryとの融合物を使用した。rh Bri2 BRICHOS R221E単量体とrh Bri2 BRICHOS-mCherryオリゴマーの同時インキュベーションは、変異体とwtオリゴマーとの間で、モル比約2:1で飽和するwt単量体の濃度依存性遊離を生じさせる。rh Bri2 BRICHOS R221E単量体の添加も、rh wt Bri2 BRICHOSの抗Aβ42神経毒性有効性を増加させる(
図2A)。本発明者らは、25nMのrh wt Bri2 BRICHOSオリゴマーと25nMのrh Bri2 BRICHOS R221E単量体を一晩、37℃で同時にインキュベートし、混合物は、混合物と同じ方法でプレインキュベートされた50nMのrh wt Bri2 BRICHOSオリゴマーよりも更に強力にγ振動出力のAβ42誘発低減を減弱した(
図2A)。注目すべきことに混合物の性能の強化は、2つの単一の種の性能を単に加えることによっては説明できず(
図2A)、Aβ42線維化動態は、rh Bri2 BRICHOS R221E単量体及びrh wt Bri2 BRICHOSオリゴマーのインキュベートされた混合物によって、いずれかの種単独での同じ合計濃度によってよりも更に強く遅延された(
図2C)。
図2Cは、3μMのrh wt Bri2 BRICHOSオリゴマー、3μMのrh Bri2 BRICHOS R221E単量体、又は、1.5μMのwtオリゴマーと1.5μMのR221E単量体のプレインキュベートされた混合物の存在下での、3μMのAβ42単独のThT動態分析を示している。これらの結果は、オリゴマーから単量体へのBri2 BRICHOSの分布のシフトが、抗Aβ42神経毒性能力を強める方法であることを示唆している。
【0138】
Bri2 BRICHOS R221E単量体は、Aβ42線維化の二次核形成を選択的に阻害する。
【0139】
rh wt Bri2 BRICHOSオリゴマーからの小さな種の遊離の根底となる分子機構及び、これがAβ42の神経毒性に対する能力の増加にどのように関連するかを見いだすために、本発明者らは、rh Bri2 BRICHOS R221E単量体及び二量体のAβ42線維形成への効果を調査した。本発明者らは、さまざまな濃度のrh Bri2 BRICHOS R221E種の非存在下及び存在下でのAβ42線維形成の動態をモニターするためにチオフラビンThT蛍光を使用した。
【0140】
図3は、rh Bri2 BRICHOS R221E単量体及び二量体のAβ42線維形成の微視的事象への効果を例示する:
(A~B)フリーフィッティングパラメーターとして複合速度定数(combined rate constant)
【0141】
【0142】
及び√(k+k2)を用いた、0、10、30、50、70及び100%のrh Bri2 BRICHOS R221E単量体(A)及び二量体(B)の存在下での、3μMのAβ42の正規化及び平均化した凝集トレース(×印)の個別のフィット(実線)。フィット(挿入図)から得られた相対的複合速度定数の依存度は、両者のrh Bri2 BRICHOS R221E種の二次核形成(k+k2)への強い効果があるが、一次(knk+)経路にはないことを明らかにしている。
(C)(A)及び(B)において示したさまざまな濃度のrh Bri2 BRICHOS R221E種の存在下でのAβ42凝集トレースのフィッティングから抽出したrmax及びτ1/2(挿入図)についての値。
(D~E)0、10、30、50、70及び100%のrh Bri2 BRICHOS R221E単量体(D)及び二量体(E)の存在下での0.6μMの実施されたAβ42線維用いた3μMのAβ42のシードされた凝集トレース。
(F)(D)及び(E)における高度にシードされた凝集動態から決定された伸長速度(k+)。
(G~H)5μMのAβ42を、50%のモル比のrh Bri2 BRICHOS R221E単量体(G)又は二量体(H)と共に及び伴わずに一晩、37℃でインキュベートした。試料をヤギ抗Bri2 BRICHOS抗体及び金標識二次抗体を用いて処置し、TEMによって特徴づけた。スケールバーは100nmである。矢印は線維末端を示す。
(I)rh Bri2 BRICHOS R221E単量体及び二量体での同時線維化後の、8個のAβ42線維末端の30nm以内に位置付けられたそれぞれの金粒子の数。データは平均値±標準偏差として報告する。***p<0.001。
【0143】
rh Bri2 BRICHOS R221E単量体は、準化学量論的濃度でAβ42線維形成の用量依存性漸減を示し、凝集動態は典型的なシグモイド挙動に従う(
図3A)。線維化半減時間τ
1/2はrh Bri2 BRICHOS R221E単量体濃度の増加と共に増加する一方で、凝集の最大速度rmaxは、単一指数的減少を示す(
図3A、
図3C)。rh Bri2 BRICHOS R221E二量体は単量体と類似の効果を示すが、Aβ42線維形成の全体速度を抑制することでは更に効果がある(
図3B、
図3C)。γ値であるτ
1/2αm(0)
γ(式中、m(0)は初期Aβ42単量体濃度である)は、rh Bri2 BRICHOS R221E種の非存在及び存在下で類似であり、rh Bri2 BRICHOS R221Eの存在下でも、Aβ42線維化が主に単量体依存性二次経路に従うことを示唆している。成熟線維の塊の指標である最終ThT蛍光強度は、Aβ42濃度に対して直線的に増加し、さまざまな濃度のrh Bri2 BRICHOS R221E種の存在下で有意に変化しない。
【0144】
Aβ42線維化動態は、一連の微視的速度定数によって記載される、すなわち一次(k
n)及び二次(単量体依存性k
2及び単量体非依存性k
-)核形成並びに伸長(k
+)。さまざまなrh Bri2 BRICHOS R221E種によって最も影響を受けるAβ42の線維化経路における微視的工程を同定するために、本発明者らは、一次に対する複合速度定数√(k
nk
+)及び二次核形成事象に対する√(k
+k
2)をそれぞれ決定した。本発明者らは、動態モデルをさまざまなAβ42濃度及び一定のrh Bri2 BRICHOS R221E濃度に全体的にフィットさせた。ここで、√(k
nk
+)及び√(k
+k
2)は、全ての濃度で同じ値に制約される。本発明者らは、フィッティングパラメーター√(k
nk
+)がいずれかのrh Bri2 BRICHOS R221E種の存在下でAβ42単独と類似であることを見いだし、主に二次経路がrh Bri2 BRICHOS R221Eによって調節されていることを示唆している。結果は、k
+k
2に関連する核形成事象、すなわち線維伸長又は/及び二次核形成を阻害することにおいてrh Bri2 BRICHOS R221E二量体が単量体よりも効率的であることも示している。Aβ42線維化へのrh Bri2 BRICHOS R221Eの効果を定量的に解明するために、次に本発明者らは一定のAβ42濃度及びさまざまなrh Bri2 BRICHOS R221E濃度を用いて得られたデータセットに、個々に動態モデルをフィットさせた(
図3A~
図3C)。分析は、√(k
+k
2)がrh Bri2 BRICHOS R221Eによって有意に変化する一方で、√(k
nk
+)は変化しないことを明らかにし(
図3A、
図3B、挿入図)、二次核形成が、影響を受ける主な経路であることを再度示唆している。個々のフィッティングも、二量体が√(k
+k
2)を低減することにおいて単量体よりも更に強力であることを示した(
図3A、
図3B、挿入図)。
【0145】
個別の微視的速度定数k+、kn及びk2の摂動は、それらの相対的寄与が、神経毒性Aβ42オリゴマー種の生成に関係する可能性がある新たに形成される核形成単位の数を決定することから最も関連する。個別の微視的工程への効果を評価するために、本発明者らは、一定のAβ42及びさまざまなrh Bri2 BRICHOS R221E濃度での動態データセットのグローバルフィットを実施し、ここで、1つだけの単一速度定数、すなわちkn、k+又はk2がフィッティングパラメーターであるようにフィットは制約された。単一のフィッティングパラメーターとしての一次核形成速度kn又は伸長k+は、両者のrh Bri2 BRICHOS種に対して不十分なフィットを生じ、これは、rh Bri2 BRICHOS R221Eの単量体及び二量体のいずれもAβ40単量体と相互作用しないことを示すNMRデータによって更に確認された。単一のフリーフィッティングパラメーターとしてのk2を用いて、動態をrh Bri2 BRICHOS R221E単量体について適切に記載したが、二量体についてはしなかった。したがって本発明者らは、rh Bri2 R221E単量体が、Aβ42線維形成の際に二次核形成を主に阻害すると結論付ける。対照的に二量体は、二次核形成(k2)及び線維末端伸長(k+)を阻害する。
【0146】
伸長工程がさまざまなrh Bri2 BRICHOS種の存在下でどのように影響を受けるのかを更に研究するために、本発明者らは、高い初期線維シード濃度の存在下、一次及び二次核形成事象が無視でき、線維伸長のみが線維塊の増加に寄与する条件下で、凝集動態を決定した。これらの条件下で線維化トレースは、通常、凹面凝集挙動に従い(
図3D、
図3E)、ここで初期の傾きは伸長速度k
+に正比例する。これらのシーディング実験は、rh Bri2 BRICHOS R221E二量体が、伸長速度を用量依存的様式で有意に減少させ、低濃度ですでに線維末端伸長が著しく遅らされていることを明らかにした(
図3E、
図3F)。対照的に、rh Bri2 R221E単量体は、線維末端伸長にわずかな効果を示しただけであった(
図3D、
図3F)。このことは、両者のrh Bri2 BRICHOS R221E種が、表面触媒二次核形成への効果を介してAβ42線維化を低減する一方で、線維末端伸長はrh Bri2 BRICHOS二量体によってのみ実質的に影響されることを示している。
【0147】
さまざまな効果が、単量体及び二量体が線維末端にさまざまに会合することに関連している。このことを検討するために本発明者らは、抗Bri2 BRICHOS免疫金染色及び透過型電子顕微鏡(TEM)を使用した。本発明者らは、単量体及び二量体が大量に及び類似の密度でAβ42線維表面に結合し(
図3G、
図3H)、これが動態分析を支持し、両者のrh Bri2 BRICHOS R221E種の二次核形成への効果の基礎を提供していることを見いだした。さらに、Aβ42線維末端に結合するrh Bri2 BRICHOS R221E二量体の数は、単量体についてよりも有意に高く(
図3I)、主に二量体が線維末端伸長を調節しているという動態分析からの結果を実証している。
【0148】
Bri2 BRICHOS R221E単量体は、Aβ42の神経毒性を効率的に妨げる。
【0149】
新たな核形成単位の数が二次核形成の阻害によって減少するが、伸長を阻害することによって増加することから、Aβ42二次核形成及び伸長の相対的阻害は、毒性低分子量種の形成の低減と関連する可能性がある。したがって
図3Fに示される結果は、rh Bri2 BRICHOS R221E二量体及び単量体の存在下で、それぞれ形成された毒性Aβ42種の予測される量について重要な意義を有し得る。新たなAβ42核形成単位の量は、一定濃度のrh Bri2 BRICHOS R221Eの存在下及び非存在下でさまざまなAβ42濃度のグローバルフィットから決定された複合速度定数、及びシードされた凝集実験から決定したさまざまなrh Bri2 BRICHOS R221E種の30%のモル等価でのAβ42線維伸長速度から最初に算出した(
図3D~
図3F)。
【0150】
図4は、rh Bri2 BRICHOS R221E単量体及び二量体のAβ42オリゴマー形成及び神経毒性への効果を例示する:
(A)上パネル:誘導されたグローバルフィッティング動態パラメーター及び
図3Fにおける伸長速度(k
+)から概算された、30%のモル比のrh Bri2 BRICHOS R221E単量体及び二量体の非存在及び存在下で形成されたAβ42核形成単位の相対数。
下パネル:
図3A、
図3Bから誘導された個別のフィッティングパラメーター及び
図3Fからの伸長速度(k
+)から概算された、さまざまな濃度のrh Bri2 BRICHOS R221E単量体(右バー)及び二量体(左バー)の存在下で形成されたAβ42核形成単位の相対数。
(B)対照条件(KA)下でのマウス海馬γ振動出力の概要ヒストグラム、50nMのAβ42を用いた15分間のインキュベーション後、及び50nMのAβ42+50nMのrh Bri2 BRICHOS R221E単量体又は二量体を用いた15分間のインキュベーション後。ヒストグラムの下の数字は生物学的反復の数を記し、データは平均値±平均値の標準誤差として報告する。対照対Aβ42:p<0.0001;ns、有意差なし、
**p<0.01。
【0151】
結果(
図4A、上パネル)は、核形成単位の生成が30%のrh Bri2 BRICHOS R221E単量体の存在下で約25%低減される一方で、二量体は効果を有さなかったことを示した。この阻害効果が、高い相対Bri2 BRICHOS濃度でも有効であるかどうかを調査するために、次に本発明者らは、グローバルフィットから得た値と比較してより大きな不確実性に悩まされる個別のフィット(
図3A~
図3B)から得た複合速度定数から、核形成単位の生成及び伸長速度(
図3F)を概算した。実際に核形成単位の生成は、rh Bri2 BRICHOS R221E単量体の存在下で、用量依存的様式で70%まで低減される(
図4A、下パネル)。したがって結果は、rh Bri2 BRICHOS R221E単量体が、rh proSP-C BRICHOSに匹敵する性能でAβ42核形成単位の形成を有意に低減する一方で、二量体は低減しないことを示唆している。
【0152】
Aβ42に関連する神経毒性を低減するrh Bri2 BRICHOS R221Eの能力が核形成単位の生成と相関するかどうかを調査するために、本発明者らは、マウス海馬切片においてγ振動のAβ42誘発低減を妨げることにおけるrh Bri2 BRICHOS単量体及び二量体の有効性を検査した。本発明者らは、50nMのrh Bri2 BRICHOS R221E単量体の50nMのAβ42への添加が、Aβ誘発神経毒性を予防し、γ振動の出力が未処置対照のレベルに達したことを見いだした(
図4B)。対照的に50nMのrh Bri2 BRICHOS R221E二量体の50nMのAβ42への添加は、Aβ42誘発毒性の有意な予防を生じなかった(
図4B)。このことは、単量体がAβ42誘発毒性に対して効率的であることを示し、二次核形成の阻害が、毒性のAβ42オリゴマー形成を有意に低減する動態分析を支持している。
【0153】
図5は、マウス海馬切片におけるさまざまなrh Bri2 BRICHOS R221E種のAβ42毒性への効果を例示する。対照条件下(KA)でのマウス海馬γ振動出力の概要ヒストグラム、50nMのAβ42を用いた15分間のインキュベーション後、50nMのAβ42+100nMの二量体又は100nMの単量体を用いた15分間のインキュベーション後。ヒストグラムの下の数字は生物学的反復の数を記し、データは平均値±平均値の標準誤差として報告する。
***p<0.001;ns、有意差なし。注目すべきことに、50nM~100nMへのrh Bri2 BRICHOS二量体の濃度の増加は、Aβ42誘発毒性の有意な予防をもたらした(
図5)。
【0154】
これらの結果は、作用機序及びAβ42と比較した分子比に依存する神経毒性への効果に関するAβ42線維形成の阻害剤の最終的な結果を示している。
【0155】
Bri2 BRICHOS R221EはBBBを透過する安定な単量体を形成する。
【0156】
図7は、rh Bri2 BRICHOS R221EがBBBを通過する安定な単量体を形成することを例示する:
(A)マウス血清中、37℃でさまざまな時間インキュベートしたrh Bri2 BRICHOS R221E単量体の非還元条件下のSDS-PAGE後のウエスタンブロット。レーンCは、インキュベートされていないrh Bri2 BRICHOS R221E単量体を含有する。
(B)注入後のさまざまな時点で得られたウエスタンブロットバンドのデンシトメトリーによって決定された、rh Bri2 BRICHOS R221E単量体のマウス血清中での半減期。ゲル及び減衰曲線は1つの代表的な実験を示し、挿入図は5匹の動物において決定された半減期の散布図を示す。Mはタンパク質ラダーを示す。
(C)rh Bri2 BRICHOS R221E単量体又はPBSの静脈内注入の1、2又は6時間後に回収した脳ホモジネートの還元条件でのSDS-PAGE後のウエスタンブロット。レーンCはrh Bri2 BRICHOS R221E単量体の移動を示す。矢印は、脳ホモジネート試料中のバンドを指している。
【0157】
rh Bri2 BRICHOS R221Eの単量体を37℃、マウス血清中ex vivoでインキュベートし、24時間後に単量体は本質的に未変化の強度で残っており(7A)、一方rh wt Bri2 BRICHOSは同じ条件下で大部分がオリゴマーに転換されている(Chen et al., Nat Commun 8: 2081 (2017))。
【0158】
rh BRICHOS R221E単量体を20mg/kgの用量でC57BL/6NTacマウスに静脈内注入し、一方対照マウスにはPBSのみを注射し、血清中の半減期及びBBB透過性を血清及び脳ホモジネートのウエスタンブロットからそれぞれ評価した。in vivoでrh Bri2 BRICHOS R221E単量体の血清半減期は53±19分間であり(
図7B)、rh wt Bri2 BRICHOS単量体、二量体又はオリゴマーの半減期よりも長い(約30~40分間)。rh Bri2 BRICHOS R221Eを、注入の2時間後にウエスタンブロットによって脳ホモジネート中で検出し(
図7C)、wtタンパク質と同様にrh Bri2 BRICHOS R221EがBBBを透過することを示している。
【0159】
アルツハイマー様病態を有するマウスにおけるBri2 BRICHOS R221Eの効果
アルツハイマー様病態を有する老化APPNLFマウスにおけるrh Bri2 BRICHOS R221Eの効果を調査した。
【0160】
図9は、rh Bri2 BRICHOS R221E投与マウスが、皮質領域の塩酸グアニジン(A)可溶性画分においてAβ42の低減傾向を示す一方で、TRIS可溶性画分(B)においてAβ42に効果が見られなかったことを例示している。rh Bri2 BRICHOS R221E投与マウスも、GFAP(C)、炎症に関係するアストログリア細胞マーカーの発現の低減を示し、rh Bri2 BRICHOS R221E非経口処置が老化ADマウスにおいて、神経炎症を低下させることを示唆している。
【0161】
したがって、rh Bri2 BRICHOS R221Eの全身投与は、ADマウスのアストロサイト媒介神経炎症の低減を示す。
【0162】
身体活動性及びオープンフィールド探索は、rh Bri2 BRICHOS R221E投与APP
NL-F
マウスにおいて改善する。
【0163】
APP
NL-Fマウスに10週間でrh Bri2 BRICHOS R221E単量体の注入を合計20回与え、PBS注入対照と比較して望ましくない副作用又は体重減少の巨視的兆候を生じなかった。rh Bri2 BRICHOS R221Eは、PBS注入対照マウスと比較してマウスの身体活動性を改善し、それらの身体活動性は同齢wtマウスについての値に近づいていた(
図8A~
図8B)。
【0164】
図8は、rh Bri2 BRICHOS R221Eが、AppNL-Fマウスにおいて不安レベルにおける変化を伴わずに、身体活動性及び探索を改善することを例示している。ヒストグラムは、平均活動性(
図8A)及び速度(
図8B)を示す。データは、PBS及びrh Bri2 BRICHOS R221E処置AppNL-Fマウスについて並びに同齢wt対照について平均値±SEMとして示している。独立パラメトリック両側t検定を全ての分析についてのp値を算出するために使用した。PBS群での4.99値はパネル(B)についての外れ値として除外した。
【0165】
rh Bri2 BRICHOS R221E処置Appノックインマウスにおける嫌悪学習及び記憶
恐怖条件づけ(FC)検査は、嫌悪学習及び記憶応答をrh Bri2 BRICHOS R221E投与を伴う及び伴わない状態でAPPNL-Fマウスにおいて評価するために実施した。処置AppNL-Fコホートでは、本発明者らはコンテキスト及び刺激FCについてrh Bri2 BRICHOS R221Eマウスと比較して、PBS対照においてすくみ行動の増加傾向を観察した。
【0166】
Swedish及びIberian変異に加えてArctic変異を保有するApp
NL-G-Fノックインマウスは、App
NL-Fノックインマウスと比較して行動欠陥を含む、より強く、より早期のAD様病態を示す。本発明者らは、rh Bri2 BRICHOS R221EをApp
NL-G-Fノックインマウスに、3カ月齢(Aβ病態が発症し始める)から5日ごとに12週間、合計17回注入で、10mg/kgの用量で投与し、その後Y迷路でそれらを検査し、新規物体認識(NOR)における物体認識記憶を評価した。このことは、rh Bri2 BRICHOS R221E処置でのY迷路における交替頻度の有意な(p<0.05)改善(
図10A)及び新規物体識別の改善(
図10B)を示した。
図10におけるデータは、平均値±SEMとして表されている。二元ANOVA及び独立パラメトリック両側t検定を、p値を算出するために使用した。
【0167】
rh Bri2 BRICHOS R221E処置を用いたApp
NL-F
マウスにおけるAβプラーク負荷の減弱
海馬及び皮質中のTris又は塩酸グアニジン可溶性Aβ40及びAβ42の量をELISAによって分析し、PBS及びrh Bri2 BRICHOS R221E処置App
NL-Fマウスの間でいずれの脳領域においてもAβ40及びAβ42の量に変化がないことを明らかにした。対照的に、アミロイドに対するチオフラビンS色素又はAβ抗体を使用する免疫染色を用いた脳組織の染色は、PBS対照と比較して、rh Bri2 BRICHOS R221E処置マウスが皮質に低いチオフラビンS陽性プラークカウントを有し(
図11A)、皮質において低い合計Aβ陽性プラークロードを示す(
図11B)ことを明らかにした。データは、平均値±SEMとして表した。独立パラメトリック両側t検定を、p値を算出するために使用した。
【0168】
rh Bri2 BRICHOS R221E処置後のAPP
NL-F
マウスにおけるアストログリオーシスの低減
皮質及び海馬におけるアストログリオーシスをグリア線維酸性タンパク質(GFAP)の量によって、並びにrh Bri2 BRICHOS R221E及びPBS投与App
NL-Fマウスの切片の免疫染色によって評価した。β-アクチンを用いた正規化後、GFAPの量は、PBS対照と比較してrh Bri2 BRICHOS R221E処置マウスの海馬脳ホモジネートにおいて有意に(p<0.01)低減しており、rh Bri2 BRICHOS R221E処置マウスの皮質においてGFAPの量の低下傾向があった(
図12A)。さらに、脳切片のGFAP免疫染色は、PBS対照と比較して皮質においてrh Bri2 BRICHOS R221E投与マウスのGFAP陽性アストロサイトが顕著に低減していた(p=0.02)ことを示した(
図12B)。GFAP陽性アストロサイトを含む領域は、円形クラスターとしてしばしば出現し、それらがプラークを囲んでいる可能性があることを示している。これに対処するために本発明者らは、脳組織をGFAP及びAβについて二重染色し、結果はAβプラーク周辺のGFAP陽性細胞の豊富な局所化を示している(
図12C)。GFAP及びAβ共局在の程度は、PBS対照と比較して、海馬及び皮質においてrh Bri2 BRICHOS R221E処置マウスで有意に(p=0.03又はp<0.001)低減されていた(
図12C)。データは、PBS及びrh Bri2 BRICHOS R221E処置App
NL-Fマウスについて平均値±SEMとして示している。独立パラメトリック両側t検定を、全ての分析についてのP値を算出するために使用した。
【0169】
rh Bri2 BRICHOS R221E処置でのApp
NL-F
マウスにおけるミクログリオーシスの減弱
皮質及び海馬由来の脳組織ホモジネートを、rh Bri2 BRICHOS R221E及びPBS投与App
NL-FマウスにおけるIba1レベルを評価するために分析した。rh Bri2 BRICHOS R221E処置マウスの皮質におけるIba1のレベルは、PBS対照と比較して低減されていた(p=0.05)が、海馬領域では検出可能な差異はなかった。脳切片のIba1免疫染色は、両者の脳領域において染色の低減を示し、皮質領域において有意に(p=0.01)低減して、PBS対照と比較してrh Bri2 BRICHOS R221E処置マウスにおいてより少ないIba1陽性ミクログリア細胞を示している(
図13)。
【0170】
rh Bri2 BRICHOS R221E処置を伴う及び伴わないAppNL-Fマウスにおける、プラークとアストロサイト及びミクログリア活性化についてのマーカーとの間の相関
前臨床研究は、可溶性Aβオリゴマーがミクログリアを活性化でき、サイトカインの分泌を促進できることを報告した。AD対象でのミクログリアマーカー及びピッツバーグ化合物B(PIB)、Aβ沈着についてのマーカーのポジトロン断層撮影画像化は、これらのマーカーが皮質に共局在していることを示し、認知状態とミクログリア活性化との間の逆相関を明らかにした。さらに、ミクログリア活性化及びアストログリオーシスは、ADにおける早期の現象の可能性があるが、PIB陽性アミロイド沈着の個々のレベルとミクログリア活性化とは相関しない。このことは、本発明者らのデータからプラークとアストロサイト及びミクログリア活性化との間の潜在的な関係を明らかにするように本発明者らを促した。これにより本発明者らは、PBS処置対照群及びrh Bri2 BRICHOS R221E処置群それぞれのマウスについて、皮質及び海馬におけるプラークロード(Aβ免疫染色)、アミロイドプラークカウント(チオフラビンS染色)、アストログリオーシス(GFAP免疫染色)、ミクログリオーシス(Iba1免疫染色)並びに共局在(Aβ及びGFAP免疫染色)でペアワイズ相関を行った。
【0171】
PBS処置マウス及びrh Bri2 BRICHOS R221E処置マウスにおいて、GFAP及びIba1染色は、皮質及び海馬で正に相関する(
図12B及び
図13に示すデータに基づく)。このことは、これらのマーカーの両者が中枢神経系への侵襲を報告していることから予測され、関連性のある相関が、比較的少数のマウスが使用されたにもかかわらず本発明者らの研究において見いだされたことを支持している。この観察は、rh Bri2 BRICHOS R221E処置がPBS対照と比較して相関を一般に抑制しないことを示している(更に以下を参照)。PBS処置マウスでは、Aβ陽性プラークの面積(プラークロード)がGFAP及びIba1染色と、並びにAβ及びGFAP共局在と正に相関する傾向が、特に皮質においてある(
図11B、
図12B~
図12C及び
図13において示されたデータに基づく)。驚くべきことに、チオフラビンS陽性プラークの数(プラークカウント)は、PBS処置マウスにおいてGFAP及びIba1染色並びにAβ及びGFAP共局在と一般に負に相関する(
図11A、
図12B~
図12C及び
図13において示されたデータに基づく)。さらに、Aβプラークロード及びチオフラビンSプラークカウントは、PBS処置マウスにおいて互いに逆相関する傾向がある(
図11A~
図11Bにおいて示されたデータに基づく)。
【0172】
PBS処置対照App
NL-Fマウスでの状況とは対照的に、rh Bri2 BRICHOS R221E処置マウスは、AβプラークロードとチオフラビンSプラークカウントとの間に相関を示さない(
図11A~
図11Bにおいて示されたデータに基づく)。さらに、PBSマウスにおいて見られたチオフラビンSプラークカウントとGFAP及びIba1染色との間の負の相関の傾向は、rh Bri2 BRICHOS R221E処置マウスでは見られず(
図11A及び
図12Bにおいて示されたデータに基づく;
図11A及び
図13)、PBSマウスにおけるAβプラークロードとGFAP及びIba1染色との間の正の相関の傾向は、rh Bri2 BRICHOS R221E処置マウスでは目立たない(
図11B及び
図12Bにおいて示されたデータに基づく;
図11B及び
図13)。
【0173】
APP
NL-F
マウスでのrh Bri2 BRICHOS R221E処置の効果は、脳BRICHOS/Aβ42比から概算されるin vitroでの新たなAβ42核形成単位の生成及びex vivoでのAβ42誘発神経毒性の低減と一致する。
【0174】
rh Bri2 BRICHOSは、単量体依存性二次核形成事象によって新たな核形成単位の生成を減弱する固有の能力を示し、in vitro線維形成の際に神経毒性Aβ42オリゴマーに転換できる可能性がある。さらにrh Bri2 BRICHOSは、ex vivoで海馬切片におけるγ振動のAβ42誘発低減を遮断し、Aβ42線維化の分子研究においてモデル化合物として現れた。rh Bri2 BRICHOS R221E投与後にin vivoで今回観察された処置の効果が、in vitroでBRICHOSについて決定された分子機序によって媒介され得るかどうかを調査するために、本発明者らは、新たな核形成単位の減弱の観点からのAβ42オリゴマーの生成の低減の程度と、in vitro及びex vivoでそれぞれ測定されたrh Bri2 BRICHOS R221Eによるγ振動のAβ42誘発悪化の低減との間に、定量的一致があるかどうかを検討し、効果はAppNL-Fマウスにおいて見られた。
【0175】
この目的のために本発明者らは、野生型マウスにおいて測定された野生型rh Bri2 BRICHOSのBBB通過の程度から、処置AppNL-Fマウスの脳におけるrh Bri2 BRICHOS R221Eの量を概算し[Tambaro et al., J Biol Chem. 294, 2606-2615 (2019)]、潜在的なin vivoでのrh Bri2 BRICHOS R221E/Aβ42比を決定するために、AppNL-F脳ホモジネート中のAβ42の測定された量を使用した。次に本発明者らは、以前に公表されたデータ[Chen et al., Nat. Commun. 8, 2081, (2017); Chen, et al. Commun Biol. 3, 32 (2020)]を使用して、どの程度のin vitroでの核形成単位生成の低減及びAβ42の低下が、ex vivoで海馬切片においてγ振動にそれぞれ効果を誘発し、このrh Bri2 BRICHOS R221E/Aβ42比に対応するかを概算した。注目すべきことに、in vitroでのオリゴマー生成の予測された低減及び概算されたin vivoでのrh Bri2 BRICHOS R221E/Aβ42比に対応するex vivoでのAβ42媒介神経毒性の低下は、ウエスタンブロットによる皮質におけるAβ陽性及びチオフラビンS陽性プラーク、GFAP染色、Iba1レベルの低減並びにrh Bri2 BRICHOS R221E後にAppNL-Fマウスにおいて観察された身体活動性の増加とよく一致する。Aβの共局在の程度及びGFAP染色及びIba1染色について、in vivoでの低減は一見したところin vitroデータから予測されるよりも明らかであり、カスケードを増幅することがin vivoでのアストログリア及びミクログリアの活性化に関与することに関連する可能性がある。
【0176】
結論
本発明者らの結果は、AppNL-Fノックインマウスにおける身体活動性、Aβプラーク負荷並びにアストロサイト及びミクログリア活性化が、rh Bri2 BRICHOS R221Eの静脈内投与によって有意に改善され得ることを示している。
【0177】
特に本発明者らの結果は、表面触媒二次核形成経路による新たな核形成単位の生成が、AppNL-Fマウスにおいて観察されたAβ誘発アストロサイト及びミクログリア活性化によって示されるとおり毒性効果を生じ得ること、並びにrh Bri2 BRICHOS R221Eを用いた静脈内処置が、in vivoで神経毒性経路を効率的に低減することを支持している。
【0178】
本発明者らの観察は、rh Bri2 BRICHOS R221Eを用いたAppNL-Fノックインマウスの静脈内処置が、Aβ抗体及びチオフラビンS陽性プラークに影響を与え、ミクログリア及びアストロサイトの活性化の低減を生じることを支持している。
【配列表】
【国際調査報告】