(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-07
(54)【発明の名称】イオン検出のための可変ディスクリミネータ閾値
(51)【国際特許分類】
H01J 43/30 20060101AFI20230228BHJP
H01J 49/00 20060101ALI20230228BHJP
H01J 49/10 20060101ALI20230228BHJP
H01J 49/42 20060101ALI20230228BHJP
H01J 49/02 20060101ALI20230228BHJP
H01J 43/04 20060101ALI20230228BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20230228BHJP
【FI】
H01J43/30
H01J49/00 310
H01J49/00 360
H01J49/10 500
H01J49/42 150
H01J49/02 500
H01J43/04
G01N27/62 E
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022542276
(86)(22)【出願日】2021-01-06
(85)【翻訳文提出日】2022-07-28
(86)【国際出願番号】 CA2021050006
(87)【国際公開番号】W WO2021138738
(87)【国際公開日】2021-07-15
(32)【優先日】2020-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518410032
【氏名又は名称】パーキンエルマー・ヘルス・サイエンシーズ・カナダ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】PERKINELMER HEALTH SCIENCES CANADA, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】フィッシャー、ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】アタマンチャック、ボフダン
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA14
2G041EA06
2G041GA03
2G041GA09
(57)【要約】
例示的なシステムは、イオン検出器と、イオン検出器と通信する信号処理装置とを含む。イオン検出器は、システムの動作中にイオンを検出し、イオンの検出に応答して信号パルスを生成するように配置される。信号パルスは、システムの少なくとも1つの動作パラメータに関係するピーク振幅を有する。信号処理装置は、イオン検出器からの信号パルスを分析して、システムの動作中に検出されたイオンに関する情報を信号パルスに基づいて特定するように構成される。信号処理装置は、ディスクリミネータ回路を含む。信号処理装置は、システムの動作中のシステムの少なくとも1つの動作パラメータに基づいて、ディスクリミネータ回路の閾値を変化させるようにプログラムされる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
システムであって、
前記システムの動作中にイオンを検出し、イオンの前記検出に応答して信号パルスを生成するように配置されるイオン検出器であって、前記信号パルスは前記システムの少なくとも1つの動作パラメータに関係するピーク振幅を有する、イオン検出器と、
前記イオン検出器と通信し、前記イオン検出器からの信号パルスを分析して、前記システムの動作中に前記検出されたイオンに関する情報を前記信号パルスに基づいて特定するように構成される信号処理装置と、を備え、
前記信号処理装置は、ディスクリミネータ回路を備え、
前記信号処理装置は、前記システムの動作中の前記システムの前記少なくとも1つの動作パラメータに基づいて、前記ディスクリミネータ回路の閾値を変化させるようにプログラムされる、システム。
【請求項2】
前記ディスクリミネータ回路は、アナログ回路である、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記動作パラメータは、前記検出されたイオンの質量電荷比及び前記検出されたイオンのカウントレートからなるグループから選択される、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記信号処理装置は、前記検出されたイオンの増大する質量電荷比については前記閾値を下げるようにプログラムされる、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記信号処理装置は、前記少なくとも1つの動作パラメータの異なる値を前記ディスクリミネータ回路の異なる閾値に関係付けるルックアップテーブルを記憶するメモリを備え、前記信号処理装置は前記ルックアップテーブルにしたがって前記閾値を変化させるようにプログラムされる、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記信号処理装置は、前記システムの動作中の前記少なくとも1つの動作パラメータの測定に基づいて前記閾値を変化させるようにプログラムされる、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記信号処理装置は、前記システムの動作中に検出されたイオンのカウントレートに基づくフィードバックを使って前記閾値を変化させるようにプログラムされる、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記信号処理装置は、異なる質量を有するイオンからの信号パルスの半値全幅(FWHM)がほぼ等しい値を有するように前記閾値を変化させるようにプログラムされる、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記信号処理装置は、前記ディスクリミネータ回路が前記信号パルスを前記イオン検出器から直接受信するように配置される、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
前記信号処理装置は、前記イオン検出器から信号を受信して、増幅した信号を前記ディスクリミネータ回路に送信するように配置された増幅器をさらに備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
前記イオン検出器は、離散的ダイノード検出器である、請求項1に記載のシステム。
【請求項12】
前記システムは、イオン源を含む質量分析(MS)システムである、請求項1に記載のシステム。
【請求項13】
前記MSシステムは、誘導結合されたプラズマMS(ICP-MS)システムである、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記MSシステムは、前記イオン源から前記イオン検出器までのイオン経路内に四重極質量分析計を備える、請求項12に記載のシステム。
【請求項15】
方法であって、
イオン検出器から一連の電気パルスを受信するステップであって、各パルスは前記イオン検出器による1つ又は複数のイオンの検出に対応し、各電気パルスは前記イオン検出器を含むシステムの動作パラメータに関係する振幅とピーク幅を有する、一連の電気パルスを受信するステップと、
可変閾値を有するディスクリミネータを使って前記一連の電気パルスをフィルタ処理して、一連のフィルタ処理済み電気パルスを提供するステップであって、前記フィルタ処理するステップは、前記可変閾値を各電気パルスの前記動作パラメータの値に基づいて調整するステップを含む、一連のフィルタ処理済み電気パルスを提供するステップと、
前記一連のフィルタ処理済み電気パルスを分析して、前記イオン検出器により検出された前記1つ又は複数のイオンに関する情報を特定するステップと、を含む、方法。
【請求項16】
前記動作パラメータは、各イオンの質量電荷比及びカウントレートからなるパラメータのグループから選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記動作パラメータは前記質量電荷比であり、質量電荷比が増大するイオンについては前記可変閾値を下げる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記動作パラメータは前記カウントレートであり、増大するカウントレートについては前記ディスクリミネータの前記可変閾値を下げる、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記1つ又は複数のイオンに関する前記情報は、前記1つ又は複数のイオンの各々の質量を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
信号処理装置に以下のステップを実行させるプログラム命令を含む非一時的コンピュータ可読媒体であって、前記ステップは、
イオン検出器から一連の電気パルスを受信することであって、各パルスは前記イオン検出器による1つ又は複数のイオンの検出に対応し、各電気パルスは前記イオン検出器を含むシステムの動作パラメータに関係する振幅とピーク幅を有する、一連の電気パルスを受信するステップと、
可変閾値を有するディスクリミネータを使って前記一連の電気パルスをフィルタ処理して、一連のフィルタ処理済み電気パルスを提供するステップであって、前記フィルタ処理するステップは、前記可変閾値を各電気パルスの前記動作パラメータの値に基づいて調整するステップを含む、一連のフィルタ処理済み電気パルスを提供するステップと、
前記一連のフィルタ処理済み電気パルスを分析して、前記イオン検出器により検出された前記1つ又は複数のイオンに関する情報を特定するステップと、を含む、非一時的コンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、イオン検出のための可変ディスクリミネータ閾値に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析法は、イオンの質量電荷比を測定する分析方法である。幾つかの実施例において、質量分析法は、1つ又は複数のイオンサンプルを表す質量スペクトル(例えば、各サンプルの質量電荷比の関数としての強度のプロット)を生成するために使用できる。サンプルは、質量スペクトルに基づいて同定及び/又は他のサンプルから判別できる。
【発明の概要】
【0003】
ある態様において、システムはシステムの動作中にイオンを検出し、イオンの検出に応答して信号パルスを生成するように配置されたイオン検出器を含む。信号パルスは、システムの少なくとも1つの動作パラメータに関係するピーク振幅を有する。システムはまた、信号処理装置も含み、これはイオン検出器と通信し、イオン検出器からの信号パルスを分析して、システムの動作中に検出されたイオンに関する情報を信号パルスに基づいて特定(determine)するように構成される。信号処理装置は、ディスクリミネータ回路を含む。信号処理装置は、システムの動作中のシステムの少なくとも1つの動作パラメータに基づいて、ディスクリミネータ回路の閾値を変化させるようにプログラムされる。
【0004】
この態様の実施例は、以下の特徴の1つ又は複数を含むことができる。
幾つかの実施例において、ディスクリミネータ回路はアナログ回路とすることができる。
【0005】
幾つかの実施例において、動作パラメータは、(i)検出されたイオンの質量電荷比、及び(ii)検出されたイオンのカウントレート、のグループから選択できる。
幾つかの実施例において、信号処理装置は、検出されたイオンの増大する質量電荷比については閾値を下げるようにプログラムできる。
【0006】
幾つかの実施例において、信号処理装置は、少なくとも1つの動作パラメータの異なる値をディスクリミネータ回路の異なる閾値に関係付けるルックアップテーブルを記憶するメモリを含むことができ、信号処理装置はルックアップテーブルにしたがって閾値を変化させるようにプログラムできる。
【0007】
幾つかの実施例において、信号処理装置は、システムの動作中の少なくとも1つの動作パラメータの測定に基づいて閾値を変化させるようにプログラムできる。
幾つかの実施形態において、信号処理装置は、システムの動作中に検出されたイオンのカウントレートに基づくフィードバックを使って閾値を変化させるようにプログラムできる。
【0008】
幾つかの実施例において、信号処理装置は、異なる質量を有するイオンからの信号パルスの半値全幅(FWHM:full-width-at-half-maximum)がほぼ等しい値を有するように閾値を変化させるようにプログラムできる。
【0009】
幾つかの実施例において、信号処理装置は、ディスクリミネータ回路が信号パルスをイオン検出器から直接受信するように配置できる。
幾つかの実施例において、信号処理装置は、イオン検出器から信号を受信して、増幅した信号をディスクリミネータ回路に送信するように配置された増幅器をさらに含むことができる。
【0010】
幾つかの実施例において、イオン検出器は離散的ダイノード検出器とすることができる。
幾つかの実施例において、システムは、イオン源を含む質量分析(MS)システムとすることができる。
【0011】
幾つかの実施例において、MSシステムは誘導結合されたプラズマMS(ICP-MS)システムとすることができる。
幾つかの実施例において、MSシステムは、イオン源からイオン検出器までのイオン経路内に四重極質量分析計を含むことができる。
【0012】
他の態様において、方法は、イオン検出器から一連の電気パルスを受信するステップを含む。各パルスはイオン検出器による1つ又は複数のイオンの検出に対応する。電気パルスは、イオン検出器を含むシステムの動作パラメータに関係する振幅とピーク幅を有する。方法はまた、可変閾値を有するディスクリミネータを使って一連の電気パルスをフィルタ処理して、一連のフィルタ処理済み電気パルスを提供するステップも含む。フィルタ処理するステップは、可変閾値を各電気パルスの動作パラメータの値に基づいて調整するステップを含む。方法はまた、一連のフィルタ処理済み電気パルスを分析して、イオン検出器により検出された1つ又は複数のイオンに関する情報を特定するステップも含む。
【0013】
この態様の実施例は以下の特徴の1つ又は複数を含むことができる。
幾つかの実施例において、動作パラメータは、(i)各イオンの質量電荷比及び(ii)カウントレートのパラメータ、のグループから選択できる。
【0014】
幾つかの実施例において、動作パラメータは質量電荷比とすることができ、質量電荷比が増大するイオンについては可変閾値を下げることができる。
幾つかの実施例において、動作パラメータはカウントレートとすることができ、増大するカウントレートについてはディスクリミネータの可変閾値を下げることができる。
【0015】
幾つかの実施例において、1つ又は複数のイオンに関する情報は1つ又は複数のイオンの各々の質量を含むことができる。
他の態様において、非一時的コンピュータ可読媒体は、信号処理装置に各種の動作を実行させるプログラム命令を含む。動作は、イオン検出器から一連の電気パルスを受信するステップを含む。各パルスは、イオン検出器による1つ又は複数のイオンの検出に対応する。各電気パルスは、イオン検出器を含むシステムの動作パラメータに関する振幅とピーク幅を有する。動作はまた、可変閾値を有するディスクリミネータを使って一連の電気パルスをフィルタ処理し、一連のフィルタ処理済み電気パルスを提供するステップも含む。フィルタ処理するステップは、可変閾値を各電気パルスの動作パラメータの値に基づいて調整するステップを含む。動作はまた、一連のフィルタ済み電気パルスを分析して、イオン検出器により検出された1つ又は複数のイオンに関する情報を特定するステップも含む。
【0016】
1つ又は複数の実施形態の詳細が添付の図面と以下の説明の中に示されている。その他の特徴利点は、説明と図面から、及び特許請求項から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】イオン検出器により生成される例示的な出力信号の図である。
【
図3A】可変ディスクリミネータ閾値レベル及び高カウントレートでの検出器の「ゲイン低下」の例示的な影響を示す。
【
図3B】可変ディスクリミネータ閾値レベル及び高カウントレートでの検出器の「ゲイン低下」の例示的な影響を示す。
【
図3C】可変ディスクリミネータ閾値レベル及び高カウントレートでの検出器の「ゲイン低下」の例示的な影響を示す。
【
図3D】可変ディスクリミネータ閾値レベル及び高カウントレートでの検出器の「ゲイン低下」の例示的な影響を示す。
【
図3E】可変ディスクリミネータ閾値レベル及び高カウントレートでの検出器の「ゲイン低下」の例示的な影響を示す。
【
図4】1つ又は複数のイオンに関する情報を特定するための例示的なプロセスのフローチャート図である。
【
図5】例示的なコンピュータシステムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
質量分析システムはイオン検出器を含み、これはサンプルイオンの到着に対応する時間依存電気出力信号(例えば、時間依存電圧信号又は時間依存電流信号)を生成する。質量分析法を使ってサンプルを分析するために、イオン束の強度が測定される(例えば、イオン分析器が1秒間に検出するイオンの数)。ディスクリミネータモジュールは出力信号を受信して、特定のイオンの到着に対応する出力信号の変化とその他の要因(例えば、信号ノイズ)に起因する出力信号の変化を区別する。
【0019】
例えば、イオン検出器へのイオンの到着は電荷又は電流を誘導し、その結果、出力信号においてそれに対応するパルスが発生する。ディスクリミネータモジュールは、このパルスの振幅を閾値電圧値(又は、代替的に、パルスが電流パルスである場合は閾値電流値)等の閾値レベル(例えば、「ディスクリミネータ閾値」)と比較することができる。出力信号が特定の時点で閾値レベルを超えた場合、ディスクリミネータモジュールは、イオンがその時点においてイオン検出器に到着したことを特定できる。しかしながら、出力信号がある期間にわたり閾値より低いままである場合、ディスクリミネータモジュールは、イオンがその期間中にイオン検出器に到着しなかったことを特定できる。したがって、出力信号における信号ノイズの影響が抑えられる。
【0020】
幾つかの実施例において、出力信号のピークの振幅は、イオンの質量、イオンの質量電荷比(m/z)、イオン検出器のカウントレート、又はそれらのあらゆる組合せ等の要素に基づいて変化し得る。より大きい振幅の信号はまた、より低振幅の信号より長い持続時間を有する傾向にある。それゆえ、特定のパルスが閾値レベルを超えている時間の量は均一ではなく、イオンのm/z、イオン検出器のカウントレート、又はその両方に依存し得る。したがって、1つの固定の閾値レベルを使用することが全ての状況に適しているとはかぎらないかもしれない。信号は電圧又は電流信号であり得るため、閾値は電圧閾値又は電流閾値であり得る点に留意されたい。本明細書に記載の実施形態は、電圧信号に関して説明されているが、同じ技術が電流信号にも同等に当てはまる。
【0021】
パルスの変化する振幅と、それに関連するパルス持続時間のばらつきは、イオン束の強度を正確に特定する能力(例えば、イオンカウントレート)に悪影響を与え得る。例えば、ディスクリミネータモジュールは、イオン検出器からの出力信号を受信して、イオン検出器からの出力信号が閾値レベルを超えている期間に一定の電圧(又は電流)のディスクリミネータ信号を出力し得る(例えば、方形波パルス)。それゆえ、ディスクリミネータモジュールは、より短い持続時間のより低振幅のパルスより、より長い持続時間の高振幅パルスについて、より長い方形波パルスを出力し得る。ディスクリミネータモジュールが受信する各パルスは、検出「デッドタイム」を設定する(すなわち、電子部品が1つのパルスと、2つ目のパルスが1つ目のパルスにより設定されたデッドタイム内にあるような2つのパルスとを判別できないため、電子部品が後続のパルスを検出できない期間)。ディスクリミネータモジュールにより出力される、より長い方形波パルスは、より短い持続時間の方形波パルスより長いデッドタイムを設定する。イオンカウントレートの正確さはデッドタイムが長くなると低下する(デッドタイム中にディスクリミネータに到着するパルスを計数できないことによる)ため、デッドタイムを短縮するだけでなく、全てのパルスについて、m/zに関係なくデッドタイムを実質的に均一にすることが有利であり得る。
【0022】
幾つかの実施形態において、イオンカウントレートの正確さは、個々の各パルス後のデッドタイムを短縮することによって、より正確にすることができる。幾つかの実施形態において、ディスクリミネータモジュールは、イオン検出器からの出力信号を可変閾値レベル(例えば、可変ディスクリミネータ閾値)に応じて処理するように構成できる。幾つかの実施形態において、閾値レベルは、イオンの質量、イオンのm/z、イオン検出器のカウントレート、又はそれらのあらゆる組合せに応じて変化させることができる。これは例えば、より幅広い用途においてディスクリミネータモジュールがイオン検出器へのイオンの到着に対応するパルスとその他のイベント(例えば、信号ノイズ)に対応するパルスとをより有効に判別できるようにする上で有利である可能性がある。さらに、システムは、より広いダイナミックレンジにわたり、線形の応答(又は、ほぼ線形の応答)を示し得る。
【0023】
幾つかの実施形態において、ディスクリミネータ閾値は、パルスのピーク振幅により近付くように選択され、それによってデッドタイム(例えば、パルスがディスクリミネータ閾値レベルより高い時間の量)が短縮され得る。例えば、より大きいピーク振幅を有するパルスのディスクリミネータ閾値レベルは、より小さいピーク振幅を有すパルスのディスクリミネータ閾値レベルより高いことがあり得る。幾つかの実施形態において、各m/z値に関するディスクリミネータレベルは、各m/z値からのパルスに関連付けられるデッドタイムが実質的に等しくなるように選択され得る。このようにして、デッドタイムが短縮されるだけでなく、広い範囲のm/zにわたり、全てのイオンについて実質的に等しくなる。
【0024】
本明細書では可変閾値レベルを使ってイオンを検出するシステム及び技術は、ガスクロマトグラフィに基づく質量分析システムに関して説明されているが、これらの技術は、それ以外のイオン検出にも当てはめることができる。例えば、可変閾値レベルは、誘導結合プラズマ質量分析システムや核物理学に基づく機器等のシステムにおけるイオン検出にも使用できる。
【0025】
ある例示的な質量分析システム100の簡略的な概略図が
図1に示されている。システム100は、ガスクロマトグラフ102と、イオン源104と、イオン輸送チャンバ106と、四重極マスフィルタ108と、イオン検出器110と、ディスクリミネータモジュール112と、制御モジュール114と、を含む。
【0026】
システム100の動作中、サンプルがガスクロマトグラフ102のインジェクタポート116に注入され、キャピラリカラム118の中に入る。サンプル成分はカラム118を通り、加熱されたオーブン120を通って流れる(例えば、ヘリウムガスの流れを利用)。サンプル成分は、カラム118内でのそれらの相対的保持時間に応じて分離される。例えば、サンプル成分の分離は、カラムの寸法(例えば、長さ、直径、膜厚)のほか、その位相特性に依存する可能性がある。サンプル中の異なる分子間の化学特性の違いと、カラムの固定相に関するそれらの相対的親和性により、サンプルがカラムの長さにわたり移動する間の分子の分離を促進する。
【0027】
カラム118の出口部分122は加熱された輸送コンポーネント124を通過し、カラム118の出口端126がイオン源104内に配置されるようになっている。カラム118の中で分離されたサンプル成分が逐次的に出口端126からイオン源104へと溶出する。
【0028】
幾つかの実施例において、イオン源104は電子イオン化(electron ionization)イオン源とすることができる。例えば、
図1に示されるように、イオン源104はイオン源104の空間130を通じて電子ビーム128を発生させ、それによって溶出成分の一部が電子ビーム128内の電子との相互作用によりイオン化されるようにすることができる。
図1には電子イオン化イオン源が示されているが、その他のイオン源も使用可能である。例えば、幾つかのケースでは、イオン源104は化学イオン化(CI)イオン源(例えば、CI-MSシステムの一部として)又は誘導結合プラズマ(ICP)イオン源(例えば、ICP-MSシステムの一部として)とすることができる。
【0029】
イオン源104はまた、引出し電極136、及び/又はリペラ電極(図示せず)、及び/又はイオン空間ハウジングに電圧を印加することによって、イオン空間130内に電場を発生させる(
図1では等高線132で示されている)。イオン空間130内に形成されたサンプルイオンは電場に応答し、イオン源104の外へと引出し電極136のアパーチャ138を通って加速される。
【0030】
サンプルイオンは引出し電極アパーチャ138を通じて引き出され、イオン輸送チャンバ106により四重極マスフィルタ108の入口へと輸送される。
四重極マスフィルタ108の輸送効率及び分解能は、四重極マスフィルタ108に入るサンプルイオンのビームの特性(例えば、四重極マスフィルタ108に入る際のサンプルイオンの径方向位置、角度、及び影響の程度はそれらほどではないが、運動エネルギ)に依存する。これらのイオンビーム特性自体は、システムで使用されるイオン輸送光学系(例えば、DC電極レンズ)の収束特性の限界と共に、イオン源のイオン化効率と発光特性により限定される。
【0031】
これらの特性を改善するために、幾つかのケースにおいて、イオン輸送チャンバ106はイオンガイド140を含むことができ、これはイオン輸送チャンバ106内に無線周波数(RF)フィールドを発生させる。幾つかのケースにおいて、イオン輸送チャンバ106はまた、軸方向の電場(すなわち、サンプルイオンビームの移動経路の方向に沿って延びる電場)も発生させることができる。イオン輸送チャンバ106は、ガスで加圧することもできる。イオン源を出たサンプルイオンは、イオン輸送チャンバ106の中に入り、RFフィールドにより捕捉され、イオンガイド140の長さを通過する際にイオンガイド軸142の周囲で振動する。ガス分子との衝突により、サンプルイオンの運動エネルギが消失され、その結果、それらの径方向の移動及び運動エネルギが減少し、それによって、イオン輸送チャンバ106の出口端144に到達したときに、サンプルイオンを改善されたビーム特性(例えば、径方向の位置と角度の変動が小さく、運動エネルギがより低い)で四重極マスフィルタ108の入口に収束させることができ、その結果、マスフィルタによるイオン輸送及び/又は分解能を従来の静電光学系より高めることができる。このことは、例えば、それによってイオン源104から生成される場合等、当初から広いイオンの空間及び角度分布についての輸送効率が改善されることからも有利である可能性がある。
【0032】
イオン輸送チャンバ106の出口端144において収束されたイオンビームは、四重極マスフィルタ108の入口へと注入されてサンプルイオンの質量分析が行われる。四重極マスフィルタは、サンプルイオン質量分解を行う(例えば、それらの質量電荷比(m/z)に基づく)。一例として、四重極マスフィルタ108は平行な4つの導電ロッドを含むことができ、これらは2×2の構成に配置され、対向するロッド対の各々が相互に電気的に接続される。RF電圧がDCオフセット電圧と共にロッドの一方の対と他方の対との間に印加される。サンプルイオンが四重極内のロッド間を進むと、ある電圧比について特定の質量電荷比のイオンだけが検出器に到達する。その他のイオンは不安定な軌道を有し、ロッドと衝突する。それによって、特定のm/zを持つイオンを選択できる。
【0033】
質量分解されたイオンは、四重極マスフィルタ108の出口端を通って出ると、イオン検出器110へと向けられる。イオン検出器110は、イオン検出器110へのイオンの到着(例えば、イオンがイオン検出器110の検出器表面を通過した、又はそれにぶつかったとき)により誘導された電荷又は生成された電流を記録する。幾つかの実施例において、イオン検出器110は、記録された電荷又は電流に対応する時間依存電気出力信号(例えば、時間依存電圧又は電流信号)を生成できる。
【0034】
出力信号は、ディスクリミネータモジュール112に伝送されて処理される。ディスクリミネータモジュール112は、出力信号に基づいてイオン検出器110へのイオンの到着を識別する。幾つかの実施例において、ディスクリミネータモジュール112はディスクリミネータ回路146を含むことができ、これは特定のイオン(例えば、特定のm/zを有する)の到着に対応する出力信号の変化とその他の要因(例えば、信号ノイズ)に起因する出力信号の変化を判別する。幾つかの実施例において、ディスクリミネータモジュール112は、ある期間にわたりイオン検出器110に到着したイオンの数をカウントすることができる。幾つかの実施例において、ディスクリミネータ回路は、デジタル回路、アナログ回路、ソフトウェア、又はそれらの組合せを用いて実装できる。
【0035】
幾つかの実施形態において、ディスクリミネータ回路146は、イオン検出器110からの出力信号を受信して、イオン検出器からの出力信号が閾値レベルを超えている時間の量に対応する持続時間にわたる一定の電圧(又は電流)のディスクリミネータ信号(例えば、方形波パルス)を出力する。ディスクリミネータ回路146からの方形波パルスはその後、計数電子部品(図示せず)により受信され得て、それがディスクリミネータ回路146から受信した方形波パルスの数をカウントする。幾つかの実施形態において、計数電子部品は、ディスクリミネータモジュール112及び/又はディスクリミネータ回路146とは別であり得る。例えば、計数電子部品は、制御モジュール114に含められ、及び/又は別のコンポーネントであり得る。他の実施形態において、計数電子部品は、ディスクリミネータモジュール112及び/又はディスクリミネータ回路146の一部であり得る。
【0036】
幾つかの実施例において、ディスクリミネータ回路146はイオン検出器110から受信した出力信号を直接処理できる。幾つかの実施例において、ディスクリミネータモジュール112は、ディスクリミネータ回路146による処理の前に出力信号を増幅する1つ又は複数の増幅器148を含むことができる。幾つかの実施形態において、イオン検出器110とディスクリミネータモジュール112との間で出力信号のデジタル処理は行われない。
【0037】
制御モジュール114は、ガスクロマトグラフ102、イオン源104、イオン輸送チャンバ106、四重極マスフィルタ108、イオン検出器110、及び/又はディスクリミネータモジュール112と通信可能に連結され、システム100の他のコンポーネントの一部又は全部の動作を制御する。例えば、幾つかの実施例において、制御モジュール114は、システム100のコンポーネントの一部又は全部の動作を制御するための命令又はコマンドを提供できる。幾つかの実施例において、制御モジュール114は、イオン検出器110に到着したイオンの数やこれらのイオンの各々のm/z等、ディスクリミネータモジュール112から出力されたイオンに関するデータを記録することができる。幾つかの実施例において、制御モジュール114は、少なくとも一部に、1つ又は複数のコンピューティングデバイス(例えば、各々が1つ又は複数のプロセッサを有する1つ又は複数の電子処理装置、例えばパーソナルコンピュータ、スマートフォン、タブレットコンピュータ、サーバコンピュータ等)を使って実装できる。
【0038】
図1は、ガスクロマトグラフ102を有するシステム100を示しているが、ガスクロマトグラフは必ずしも全ての実施例において存在するとはかぎらない。幾つかの実施例において、イオンは、他の技術を使ってイオン源104の中に導入できる(例えば、イオンは、先にガスクロマトグラフィにより分離されずに、例えば誘導結合プラズマ装置を用いて直接イオン源104に導入できる)。
【0039】
前述のように、イオン検出器はイオン検出器110へのイオンの到着により誘導される電荷又は生成される電流に対応する時間依存電気出力信号(例えば、時間依存電圧信号)を生成できる。すると、ディスクリミネータモジュール112は、この出力信号に基づいてイオン検出器110へのイオン到着を識別できる。
【0040】
図2は、イオン検出器110により生成される2つの簡略化された例示的な出力信号200a及び200bを示している。第一の出力信号200aは、それぞれm/zが20及びm/zが200であり、第一のカウントレート(例えば、毎秒10
6カウント)で測定された2つのイオンのイオン検出器110への逐次的な到着に対応する。第二の出力信号200bは、同じくそれぞれm/zが20及びm/zが200であり、第一のカウントレートより高い第二のカウントレート(例えば、毎秒10
7カウント)で測定された2つのイオンのイオン検出器110への逐次的な到着に対応する。この例では、出力信号200a及び200bは負の電圧極性を有し、電圧は
図2において下方向に増大する。図解しやすくするために、出力信号200a及び200bは相互に重ねられている。しかしながら、実際には、出力信号200a及び200bは相次いで(例えば、ある時間にわたり逐次的に)生成できる。さらに、図解しやすくするために、出力信号200a及び200bは必ずしも正確な縮尺によっているわけではない。
【0041】
図2に示されるように、イオン検出器110へのイオン到着により、出力信号の電圧におけるパルス(例えば、逆ピーク)が発生する。例えば、m/zが20のイオンが到着すると、出力信号200a内のパルス202a及び出力信号200b内のパルス202bが発生する。さらに、m/zが200のイオンが到着すると、出力信号200a内のパルス204aと出力信号200b内のパルス204bが発生する。
【0042】
幾つかの実施例において、ディスクリミネータモジュール112は、イオンの到着に対応する出力信号の変化とその他の要因(例えば、信号ノイズ)に起因する出力信号の変化とを判別できる。例えば、ディスクリミネータモジュール112は、出力信号の振幅を閾値レベル(例えば、「ディスクリミネータ閾値」)と比較できる。出力信号がある特定の時点で閾値レベルを超えた場合(例えば、出力信号内のパルスの振幅が閾値レベルより大きい)場合、ディスクリミネータモジュール112は、イオンがその時点でイオン検出器110に到着したことを特定できる。しかしながら、出力信号がある期間中に閾値レベルより低いままであると、ディスクリミネータモジュール112は、その期間中にイオンがイオン検出器110に到着しなかったことを特定できる。したがって、出力信号の信号ノイズの影響は抑えられる。
【0043】
幾つかの実施例において、ディスクリミネータモジュール112は、出力信号の振幅が閾値レベルより大きい場合はより大きい振幅を有し(例えば、バイナリ値「1」に対応する方形パルス)、出力信号の振幅が閾値より小さい場合はより小さい振幅を有する(例えば、バイナリ値「0」に対応するデフォルトの低振幅)を有するディスクリミネータ信号を出力できる。ディスクリミネータ信号は、例えばイオンがイオン検出器110に到着した特定の時点を識別するために使用できる。さらに、ディスクリミネータ信号は、到着したイオンの数をカウントするために使用できる(例えば、ディスクリミネータ信号中のパルスの数をカウントすることによる)。
【0044】
幾つかの実施例において、1つの固定閾値レベルを様々な複数の用途(例えば、異なるカウントレートにより異なるとサンプルを分析する場合)に使用できる。幾つかの実施例において、閾値レベルは事前に選択できる(例えば、製造又は較正プロセス中にシステム100の製造業者が明示する)。
【0045】
しかしながら、1つの固定閾値レベルの使用があまり適当ではない特定の状況もあり得る。例えば、少なくとも幾つかのイオン検出器は、イオン検出器に到着するイオンの質量、イオンのm/z、及び/又は測定プロセスのカウントレートに応じて振幅が変化するパルスを有する出力信号を生成する。例えば、2000V以下のイオン-電子変換ダイノード電圧で動作する離散型ダイノードイオン検出器(例えば、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)システムで一般的に使用される)がこうした特徴を示し得る。特に、イオン検出器により出力されるパルスの振幅は、イオンの質量又はm/zの増大に伴って低下し得る。さらに、イオン検出器により出力されるパルスの振幅は、カウントレートの増大と共に低下し得る。振幅のこのような変動と、それに関連するパルス持続時間の変動により、1つの固定の閾値レベルは、イオン検出器へのイオンの到着に対応するパルスをその他のイベント(例えば、信号ノイズ)に対応するパルスから正確に判別するうえで有効ではないかもしれない。したがって、システムの動作の有効性は低くなり得る。
【0046】
例えば、
図2を参照すると、出力信号200a(より低いカウントレートに対応する)は、m/zが20のイオンに対応するパルス202aとm/zが200のイオンに対応するパルス204aを有する。
図2に示されるように、パルス202aの振幅はパルス204aより大きい。したがって、パルス202aを検出するのに適した閾値レベル(例えば、閾値レベル「A」)はパルス204aを有効に検出するには高すぎるかもしれない。
【0047】
他の例として、
図2を参照すると、出力信号200b(より高いカウントレートに対応する)は、m/zが20のイオンに対応するパルス202bとm/zが200のイオンに対応するパルス204bを有する。
図2に示されるように、パルス202b及び204bの振幅は、それぞれパルス202a及び204aより小さい。したがって、出力信号200a内のパルスを検出するのに適した閾値レベルは、出力信号200b内のパルスを有効に検出するには高すぎるかもしれない。
【0048】
この問題に対応するために、ディスクリミネータモジュール112は、イオン検出器110からの出力信号を可変閾値レベル(例えば、可変ディスクリミネータ閾値)にしたがって処理するように構成できる。特に、閾値レベルはイオンの質量、イオンのm/z、イオン検出器のカウントレート、又はそれらの何れかの組合せに応じて変化させることができる。これは例えば、ディスクリミネータモジュール112がイオン検出器でのイオンの到着に対応するパルスと他のイベント(例えば、信号ノイズ)に対応するパルスとを判別できるようにするうえで有利である可能性がある。したがって、システムはより広い範囲の用途においてより有効に動作し得る。
【0049】
幾つかの実施例において、ディスクリミネータモジュール112は、可変閾値レベルの適当な値を1つ又は複数の入力に基づいて選択できる。例えば、ディスクリミネータモジュール112は、(例えば、制御モジュール114から)、イオンの予想質量(例えば、四重極マスフィルタ108によりフィルタ処理される)、イオンの予想m/z(例えば、四重極マスフィルタ108によりフィルタ処理される)、及び/又はイオン検出器のカウントレート(例えば、動作中にイオン検出器110及び/又は制御モジュール114により明示される)を示すデータを受信できる。この情報に基づいて、ディスクリミネータモジュール112は、イオン検出器110へのイオンの到着を識別するための可変閾値レベルのための特定の値を選択できる。
【0050】
幾つかの実施例において、イオン検出器のカウントレートは実験的に予想できる。例えば、イオン検出器のカウントレートは、特定のサンプルに関して「プレスキャン」実験を行い、質量分析システムにより測定されている(又は、測定される予定の)各質量でのカウントレート(例えば、信号強度)を確定することによって予想できる。適当な可変閾値レベルは、予想カウントレートに基づいて選択でき、選択された可変閾値レベルは、追跡実験の中でそのサンプルに関するイオン到着を検出するために使用できる(例えば、本明細書に記載のとおり)。幾つかの実施例において、プレスキャン実験は、追跡実験の実行直前に行うことができる。
【0051】
幾つかの実施例において、ディスクリミネータモジュール112は、可変閾値レベルと、(i)イオンの質量、(ii)イオンの予想m/z、及び/又はイオン検出器のカウントレート、のうちの1つ又は複数との間の負相関(例えば、反比例の関係)に応じて可変閾値レベルの適当な値を選択できる。例えば、イオン質量が増大した場合、ディスクリミネータモジュール112は可変閾値レベルをより低く調整できる。他の例として、イオンのm/zが増大した場合、ディスクリミネータモジュール112は可変閾値レベルをより低く調整できる。他の例として、カウントレートが増大した場合、ディスクリミネータモジュール112は可変閾値レベルをより低く調整できる。
【0052】
幾つかの実施例において、ディスクリミネータモジュール112は、可変閾値レベルのための特定の値をルックアップテーブル(例えば、入力値の特定の組合せの各々について、対応する出力値を示す1つ又は複数のデータレコード)を使って選択できる。ルックアップテーブルの簡略化した例を表1~3に示す。
【0053】
【0054】
【0055】
【表3】
幾つかの実施例において、ルックアップテーブルは、ある特定の入力値(例えば、入力値A
i、B
j、及び/又はC
k)について、可変閾値レベルの対応する値(例えば、出力値Z
n)を明示できる。幾つかの実施例において、入力値の幾つか又は全部は離散値とすることができる。幾つかの実施例において、入力値の幾つか又は全部は値の範囲とすることができる。さらに、ルックアップテーブルは、入力値と出力値との任意の数の異なる組合せに対応する任意の数の行(例えば、ビン)を含むこともできる。
【0056】
例えば、検出されるm/zの全範囲が0~300である場合、任意の数の行又はビン(例えば、2、3、4、5、又はそれより多く)があってもよく、各々が可変閾値レベルの独自の値を有する。例えば、2つの範囲がある場合、m/z範囲0~150は20mVの可変閾値レベルに対応でき、m/z範囲150~300は可変閾値レベル150mVに対応できる。他の例として、3つの範囲がある場合、m/z範囲0~100は20mVの可変閾値レベルに対応でき、m/z範囲100~200は80mVの可変閾値レベルに対応でき、m/z範囲200~300は160mVの可変閾値レベルに対応できる。例としての値を上に記したが、これらは実例にすぎない。実際には、任意の数の入力値(異なる範囲の入力値も含む)と出力値とを任意の数の異なる組合せにおいて使用できる。
【0057】
幾つかの実施例において、ルックアップテーブル内の値は経験的に特定できる。例えば、イオン質量の範囲、m/zの範囲、及び/又はカウントレートの範囲等、ある範囲の条件下で実験を実行できる。可変閾値レベルの適当な値は、各条件群について経験的に選択できる。
【0058】
幾つかの実施例において、ルックアップテーブルは、ディスクリミネータモジュール112によって(例えば、1つ又は複数の記憶媒体及び/又はメモリモジュール内に)保存され、動作中に選択的に読出し可能である。幾つかの実施例において、ルックアップテーブルはディスクリミネータモジュール112以外のコンポーネントによって(例えば、1つ又は複数の記憶媒体及び/又は制御モジュール114のメモリモジュール内に)保存され、動作中にディスクリミネータモジュール112に提供できる。
【0059】
幾つかの実施例において、ディスクリミネータモジュール112は数学関数を使って可変閾値レベルのための特定の値を選択できる。例えば、関数は、1つ又は複数の入力値に対して可変閾値レベルの特定の値を出力できる。一例として、イオンのあるm/zに関して、可変閾値レベルの値を出力する関数は次式とすることができる。
【0060】
THRESHOLD=BASE_THRESHOLD+THRESHOLD_SLOPE*MASS_TO_CHARGE_RATIO (式1)
式中、THRESHOLDは可変閾値レベルの出力値、BASE_THRESHOLDは定数、THRESHOLD_SLOPEは勾配値、MASS_TO_CHARGE_RATIOはイオンのm/zである。実際には、その他の関数も実装に応じて使用可能である。例えば、関数は上述のものとは異なる、及び/又はそれに追加される入力値を有することができる。さらに、関数はそれらの間の異なる関係(例えば、比例、指数関数等)も定義し得る。
【0061】
幾つかの実施例において、関数は経験的に特定できる。例えば、実験はある条件範囲、例えばイオン質量範囲、m/z範囲、及び/又はカウントレート範囲で実行できる。適当な関数(例えば、入力値の特定の値及び/又はそれらの間の関係を有する)は、実験結果に基づいて経験的に選択できる。幾つかの実施例において、関数は、実験結果の回帰分析(例えば、線形回帰分析、単回帰分析、多項式回帰分析、一般線形モデル分析、又は他の何れかの分析)を用いて特定できる。
【0062】
幾つかの実施例において、関数はディスクリミネータモジュール112によって(例えば、1つ又は複数の記憶媒体及び/又はメモリモジュール内に)保存され、動作中に選択的に読出し可能である。幾つかの実施例において、関数はディスクリミネータモジュール112以外のコンポーネントによって(例えば、1つ又は複数の記憶媒体及び/又は制御モジュール114のメモリモジュール内に)保存され、動作中にディスクリミネータモジュール112に提供できる。
【0063】
幾つかの実施例において、ディスクリミネータモジュール112は、可変閾値レベルの値を、それがパルスの予想ピーク振幅の半分と等しく(又はほぼ等しく)なるように選択するように構成できる。この振幅は、パルスの「半値全幅」(FWHM:full width, half maximum)ピーク値と呼ばれ得る。一例として、
図2に示されるように、パルス202aのFWHMピーク値はAであり、パルス204aのFWHMピーク値はBであり、パルス202bのFWHMピーク値はCであり、パルス204bのFWHMピーク値はDである。
【0064】
可変閾値レベルの値をそれがパルスのFWHMピーク値と等しく(又はほぼ等しく)なるように選択することにより、各種の技術的利点を提供できる。例えば、ディスクリミネータモジュール112が出力信号のパルスをそのパルスのFWHMピーク値と等しい(又はほぼ等しい)可変閾値レベルにしたがって処理すると、その結果としてディスクリミネータモジュール112が生成するディスクリミネータ信号は、イオン検出器110の出力信号内のパルスの半分(又はほぼ半分)の幅を有するパルス(例えば、方形パルス)を有することになる。これによって、ディスクリミネータモジュール112は(例えば、出力信号中の信号ノイズを抑制することによって)偽陽性を減らし、他方では、時間的に近接して受信した複数のイオン同士を(例えば、1つの重複する方形パルスではなく、複数のイオンの到着に応答する複数の方形パルスを有するディスクリミネータ信号を生成することによって)判別するのに十分な感度も保持することが可能となる。したがって、ディスクリミネータモジュール112は、より広いダイナミックレンジにわたり線形の応答(又は、ほぼ線形の応答)を示すことができる。さらに、これらの利点は、システム100のその他のコンポーネント(例えば、ガスクロマトグラフ102、イオン源104、イオン輸送チャンバ106、四重極マスフィルタ108、及び/又はイオン検出器110)に大きな変更を加えることなく実現できる。
【0065】
これに対して、ディスクリミネータモジュール112がFWHMピーク値より実質的に高い可変閾値レベルにしたがって出力信号のパルスを処理する場合、ディスクリミネータモジュール112は特定のイオン(例えば、可変閾値レベルの、又はそれより低いパルスを生じさせるイオン)の到着を確実に検出できないかもしれない。例えば、
図2に関して、ディスクリミネータモジュール112が閾値Aにしたがってパルス204aを処理する場合、ディスクリミネータモジュール112はパルス204aの存在を特定できないかもしれず、これは偽陰性につながる。
【0066】
さらに、ディスクリミネータモジュール112が出力信号のパルスをFWHMピーク値より低い可変閾値レベルにしたがって処理する場合、ディスクリミネータモジュール112は信号ノイズを確実に抑制できないかもしれず、偽陽性につながる。さらに、ディスクリミネータモジュール112は、出力信号のパルスの半分より大きい幅を有する方形パルスを有するディスクリミネータ信号を生成するであろう。この幅により、ディスクリミネータモジュール112が時間的に近接して受信した複数のイオン同士を区別することは困難であり得る(例えば、出力信号内の重複するパルスの結果、ディスクリミネータ信号において1つの複合パルスとなることによる)。
【0067】
したがって、可変閾値レベルを、それがパルスのFWHMピーク値と等しく(又は、ほぼ等しく)なるように選択することによって、偽陽性の低減と偽陰性の低減とのバランスがとられ、それと同時にディスクリミネータモジュール112が時間的に近接して受信した複数のイオン同士をよりよく判別することが可能となる。
【0068】
前述のものと同様にして、FWHMピーク値は経験的に特定できる。例えば、イオン質量の範囲、m/zの範囲、及び/又はカウントレートの範囲等、ある範囲の条件下で実験を実行できる。適当なFWHMピーク値は、各条件群について経験的に選択できる。すると、FWHMピーク値は、ディスクリミネータモジュール112の動作を制御するためのルックアップテーブル及び/又は関数(例えば、前述のとおり)を生成するために使用できる。
【0069】
幾つかの実施例において、可変ディスクリミネータ閾値レベルは以下のようにすることができる:
【0070】
【表4】
これらの値は、例えば質量範囲の広いイオン(例えば、質量7.016amuの単体リチウム(Li)、質量56.9354amuの単体鉄(Fe)、質量114.904amuの単体インジウム(In)、及び質量238.05amuの単体ウラニウム(U))を判別するうえで特に有益である可能性がある。しかしながら、実際には、実装に応じて他の例も可能である。
【0071】
幾つかの実施例において、ディスクリミネータモジュール112は、イオン検出器110からの出力信号をリアルタイムで、又は実質的にリアルタイムで(例えば、イオン検出器110から出力信号を受信したときに)処理できる。例えば、ディスクリミネータモジュール112は、出力信号をリアルタイムで、又は実質的にリアルタイムで処理することを可能にするファームウェア(例えば、組み込みソフトウェア又はその他のプログラミング)、デジタル回路構成、及び/又はアナログ回路構成を含むことができる。これは、例えば出力信号を処理するために必要な計算資源を低減させるのに有利である可能性がある。例えば、ディスクリミネータモジュール112は、出力信号を連続的に受信し、そのようにする中で、対応するディスクリミネータ信号をリアルタイムで、又は実質的にリアルタイムで生成する(例えば、ディスクリミネータ信号をデータ「ストリーム」で出力する)ことができる。したがって、出力信号を別に記録する必要がない。
【0072】
しかしながら、幾つかの実施例において、ディスクリミネータモジュール112はまた、イオン検出器110からの出力信号の「取得後」分析を実行できる(例えば、出力信号の全体が記録された後に出力信号を処理する)。幾つかの実施例において、この分析は、システム100とは別のシステム又は機器(例えば、本明細書に記載の方法で出力信号を処理するように構成されたソフトウェア及び/又はハードウェアを有する別のコンピュータシステム)により実行できる。
【0073】
実験データの例
本明細書に記載の技術のフィージビリティを実証するために、各種の実験を行った。
簡単に言えば、実験から、実験的イオン検出器により生成された出力信号のパルス振幅は、カウントレートの増大と共に減衰することに気付いた。これは、イオン検出器にはそのアバランシェフォトダイオードステージの中に電流制限機能が組み込まれているため(例えば、「高カウントレート検出器」として特に設計されていない)、予想されることである。このパルス振幅の減衰(「ゲイン低下」と呼ばれることもある)は、より高い質量において特に顕著であり、この場合、パルスはまず、最小である。したがって、ディスクリミネータレベルを下げて、カウントレート能力を高めた。
【0074】
下表は、これらの高いカウントレート能力の調査結果をまとめたものである。テスト10の結果は、それ以前の結果との比較として、13nsに設定された単安定バイブレータの「デッドタイム」で得られたものである点に留意されたい。
【0075】
【表5】
上述のように、パルス計数モードにおける応答の最適な直線性(例えば、ソフトウェア修正後、75百万カウント/秒に近い)は、30~40mVの範囲の比較的低いディスクリミネータ閾値を用いて実現された。
【0076】
図3A~
図3Eは、高いカウントレートでの可変ディスクリミネータ閾値レベルと検出器の「ゲイン低下」の例示的な効果を示している。
図3Aは、Zn66を分析する場合の、「デュアルモード」イオン検出器(例えば、アナログ動作モード及びデジタル動作モードの何れでもイオンを検出できるイオン検出器)からのアナログ信号とパルスモード信号との間の「理想的な」関係の例示的プロット300を示している。アナログ信号はイオン検出器のアナログ動作モード中にカウントされるイオンの数に対応する。パルスモード信号は、固定閾値レベルを有するディスクリミネータモジュールを使ってデジタル動作モード中にカウントされるイオンの数に対応する。
図3Aに示されるように、アナログ及びパルスモード信号間の関係は、イオン検出器のダイナミックレンジを通じて線形である。
【0077】
しかしながら、本明細書に記載されているように、ディスクリミネータモジュールを1つの固定の閾値レベルにしたがって動作させることは、全ての用途について適当であるとはかぎらないかもしれない。例えば、
図3Bは、プロット310a及び310bを示し、これらは、Ba138(プロット310a)及びCe140(プロット310b)を分析するときのデュアルモードイオン検出器からのアナログ信号とパルスモード信号との間の関係を示す。ここで、パルスモード信号は、固定閾値レベル200mVのディスクリミネータモジュール用いたデジタル動作モード中にカウントされたイオンの数に対応する。前述のように、アナログ及びパルスモード信号間の関係は、特にカウント数が増えると線形ではなくなる。実際、パルスモード信号が最大値(例えば、23×10
6カウント毎秒)に到達すると、これは、パルスが高いカウントレートでディスクリミネータ閾値より低くなるため、減少し始める。この非直線性(例えば、アナログ検出モードとデジタル検出モードで得られた結果間の不一致)は、それが測定にモード依存バイアスをもたらすため、望ましくない。
【0078】
しかしながら、
図3Cに示されるように、(動作パラメータにそれ以外の変更を加えずに)閾値レベルを40mVに下げた場合、結果は直線性の改善を示している(例えば、プロット320a及び320bに示される)。特に、パルスモジュール信号の応答ははるかに線形となり、80×10
6カウント毎秒まで延びる。
【0079】
図3Dに示されるように、閾値レベルをさらに30mVに下げ、デッドタイムパラメータを(例えば、この例では39nsecに)調整すると、全体的な応答はより線形となり、70×10
6カウント毎秒を超えて延びる(例えば、プロット330a及び330bに示されている)。プロットのわずかな湾曲は、デッドタイムパラメータを若干低減させて、さらに直線性を持たせることができることを示している。
【0080】
図3Eに示されるように、信号処理システムに軽微な変更を加え(例えば、単安定バイブレータの幅を7nsに減少させ、「デッドタイム」全体を約13nsにする)、Syngistix(PerkinElmer、ウォルサム、MA)デッドタイムパラメータを33nsecに最適化することで、直線性とカウントレート能力との間の良好なバランス(50×10
6 cpsを超える)が実現される(例えば、プロット340a~340dに示される)。
【0081】
例示的プロセス
1つ又は複数のイオンに関する情報を特定する例示的なプロセス400が
図4に示されている。幾つかの実施例において、プロセス400は、本明細書に記載のシステム(例えば、
図1に示され、説明されるシステム100)の1つ又は複数により実行できる。
【0082】
プロセス400によれば、一連の電気パルスがイオン検出器から受信される(ステップ402)。各パルスは、イオン検出器による1つ又は複数のイオンの検出に対応する。各電気パルスは、イオン検出器を含むシステムの動作パラメータに関係する振幅とピーク幅を有する。一例として、
図1を参照すると、ディスクリミネータモジュール112はイオン検出器110から1つ又は複数の出力信号を受信できる。
図2に示されるように、出力信号は複数のパルスを含むことができ、各々がイオン検出器110による1つ又は複数のイオンの検出に対応する。各パルスは、イオンの質量、イオンのm/z、及び/又はイオン検出器110のカウントレートに関係する特定の振幅とピーク幅を有する。幾つかの実施例において、一連のパルスは電圧パルス(例えば、特定の電圧振幅を有する)とすることができる。幾つかの実施例において、一連のパルスは電流パルス(例えば、特定の電流振幅を有する)とすることができる。
【0083】
一連の電気パルスは、可変閾値を有するディスクリミネータを使ってフィルタ処理され、一連のフィルタ処理済み電気パルスが提供される(ステップ404)。幾つかの実施例において、可変閾値は可変閾値電圧(例えば、パルスが電圧パルスである場合)とすることができる。幾つかの実施例において、可変閾値は可変閾値電流(例えば、パルスが電流パルスである場合)とすることができる。
【0084】
フィルタ処理することは、可変閾値を各電気パルスの動作パラメータの値に基づいて調整することを含む。一例として、
図1及び
図2に関して説明したように、可変閾値の値はイオンの予想質量(例えば、四重極マスフィルタ108によりフィルタ処理される)、イオンの予想m/z(例えば、四重極マスフィルタ108によりフィルタ処理される)、及び/又はイオン検出器のカウントレート(例えば、動作中にイオン検出器110及び/又は制御モジュール114により明示される)に基づいて選択できる。幾つかの実施例において、可変閾値の値はルックアップテーブル又は数学関数を用いて選択できる。さらに、ディスクリミネータモジュール112は、出力信号のパルスの振幅が閾値レベルより大きい場合は、より大きい振幅(例えば、バイナリ値「1」に対応する方形パルス)の、出力信号のパルスの振幅が閾値レベルより小さい場合は、より小さい振幅(例えば、バイナリ値「0」に対応するデフォルトのより低振幅)の、対応するディスクリミネータ信号を出力することができる。
【0085】
幾つかの実施例において、動作パラメータは、質量電荷比とすることができ、可変閾値は、質量電荷比が増大するイオンについて低下させることができる。
幾つかの実施例において、動作パラメータはカウントレート(例えば、イオン検出器の)とすることができ、ディスクリミネータの可変閾値はカウントレートの増大と共に低下させることができる。
【0086】
一連のフィルタ処理済み電気パルスが分析されて、イオン検出器により検出された1つ又は複数のイオンに関する情報が特定される(ステップ406)。一例として、
図1及び
図2を参照すると、ディスクリミネータモジュール112により出力されるディスクリミネータ信号は、イオンがイオン検出器110に到着した具体的な時点を識別するために使用できる。さらに、ディスクリミネータ信号は、到着したイオンの数をカウントするために使用できる(例えば、ディスクリミネータ信号内のパルスの数をカウントすることによる)。幾つかの実施例において、1つ又は複数のイオンに関する情報は、1つ又は複数のイオンの各々の質量を含むことができる。
【0087】
例示的なコンピュータシステム
本明細書に記載の主題及び動作の幾つかの実施例は、本明細書において開示される構造及びそれらに構造的等価物を含め、デジタル電子回路構成において、又はコンピュータソフトウェア、ファームウェア、若しくはハードウェアにおいて、又はそれらの1つ以上の組合せにおいて実装できる。例えば、ディスクリミネータモジュール112及び/又は制御モジュール114は、デジタル電子回路構成を用いて、又はコンピュータソフトウェア、ファームウェア、若しくはハードウェアにおいて、又はそれらの1つ以上の組合せにおいて実装できる。他の例として、プロセス400の一部又は全部は、デジタル電子回路構成を用いて、又はコンピュータソフトウェア、ファームウェア、若しくはハードウェアにおいて、又はそれらの1つ以上の組合せにおいて実装できる。
【0088】
本明細書に記載の幾つかの実施例は、デジタル電子回路構成、コンピュータソフトウェア、ファームウェア、若しくはハードウェアの1つ又は複数のグループ又はモジュールとして、又はそれらの1つ以上の組合せにおいて実装できる。異なるモジュールを使用できるが、各モジュールが別個である必要はなく、複数のモジュールを同じデジタル電子回路構成、コンピュータソフトウェア、ファームウェア、若しくはハードウェア、又はそれらの組合せ上で実装できる。
【0089】
本明細書に記載の幾つかの実施例は、データ処理装置により実行されるための、又はその動作を制御するための、コンピュータ記憶媒体上に符号化された1つ又は複数のコンピュータプログラム、すなわちコンピュータプログラム命令の1つ又は複数のモジュールとして実装できる。コンピュータ記憶媒体は、コンピュータ可読記憶装置、コンピュータ可読記憶基板、ランダム若しくはシリアルアクセスメモリアレイ若しくは装置、又はそれらの1つ以上の組合せとすることができ、又はその中に含めることができる。さらに、コンピュータ記憶媒体は伝播信号ではないが、コンピュータ記憶媒体は人工的に生成される伝播信号の中に符号化されたコンピュータプログラム命令の伝送源又は伝送先とすることができる。コンピュータ記憶媒体はまた、1つ又は複数の別々の物理コンポーネント若しくは媒体(例えば、複数のCDs、ディスク、又はその他の記憶装置)とすることもでき、又はその中に含めることもできる。
【0090】
「データ処理装置」という用語は、データを処理するためのあらゆる種類の装置、デバイス、及び機械を包含し、これには例えばプログラム可能プロセッサ、コンピュータ、システムオンチップ、若しくは複数のそれら、又はこれらの組合せが含まれる。装置は専用論理回路、例えばFPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ)又はASIC(特定用途集積回路)を含むことができる。装置はまた、ハードウェアに加えて、当該のコンピュータプログラムのための実行環境を創出するコード、例えばプロセッサファームウェア、プロトコルスタック、データベース管理システム、オペレーティングシステム、クロスプラットフォームランタイム環境、仮想マシン、又はそれらの1つ以上の組合せを構成するコードを含むこともできる。装置と実行環境は、様々なコンピューティングモデルインフラストラクチャ、例えばウェブサービス、分散型コンピューティング、及びグリッドコンピューティングインフラストラクチャを実現できる。
【0091】
コンピュータプログラム(プログラム、ソフトウェア、ソフトウェアアプリケーション、スクリプト、又はコードとも呼ばれる)は、任意の形態のプログラミング言語でも書くことができ、これにはコンパイル型若しくはインタプリタ型言語、宣言型、又は手続き型言語が含まれる。コンピュータプログラムは、ファイルシステム内のファイルに対応し得るが、その必要はない。プログラムは、他のプログラム若しくはデータを保持するファイルの一部の中に(例えば、マークアップ言語ドキュメントに記憶された1つ若しくは複数のスクリプト)、当該プログラム専用の1つのファイルに、又は複数の連携ファイル(例えば、1つ又は複数のモジュール、サブプログラム、又はコードの一部を記憶するファイル)に記憶できる。コンピュータプログラムは、1つのコンピュータ上で、又は1つのサイト上に配置された、若しくは複数のサイトに分散され、通信ネットワークにより相互接続される複数のコンピュータ上で実行されるように展開できる。
【0092】
本明細書に記載のプロセス及びロジックフローの幾つかは、1つ又は複数のコンピュータプログラムを実行して、入力データに対する演算を行い、出力を生成することにより動作をなす1つ又は複数のプログラマブルプロセッサにより実行できる。プロセス及びロジックフローは、専用論理回路構成、例えばFPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ)又はASIC(特定用途集積回路)等としても実装できる。
【0093】
コンピュータプログラムの実行に適したプロセッサとしては、例えば、汎用及び専用マイクロプロセッサと、あらゆる種類のデジタルコンピュータのプロセッサが含まれる。一般に、プロセッサは、リードオンリメモリ若しくはランダムアクセスメモリ、又はそれらの両方から命令及びデータを受け取る。コンピュータは、命令に従って動作を行うプロセッサと、命令及びデータを記憶するための1つ又は複数のメモリデバイスを含む。コンピュータはまた、データを記憶するための1つ又は複数の大量記憶装置、例えば磁気、磁気光ディスク、若しくは光ディスクを含み得て、又はそこからデータを受信し、若しくはそこにデータを送信するように動作的に連結され得る。しかしながら、コンピュータはそのような装置を有している必要はない。コンピュータプログラム命令及びデータを記憶するのに適した装置には、あらゆる形態の不揮発性メモリ、媒体、及びメモリデバイスが含まれ、これには例えば半導体メモリデバイス(例えば、EPROM、EEPROM、フラッシュメモリデバイス、及びその他)、磁気ディスク(例えば、内部ハードディスク、リムーバブルディスク、及びその他)、磁気光ディスク、及びCD-ROM並びにDVD-ROMディスクが含まれる。プロセッサとメモリは、専用論理回路により補足し、又はその中に組み込むことができる。
【0094】
ユーザとの相互作用を提供するために、動作は、ユーザに向けて情報を表示するための表示装置(例えば、モニタ、又はその他の種類の表示装置)と、ユーザがそれを用いてコンピュータに入力を提供できるキーボード及びポインティングデバイス(例えば、マウス、トラックボール、タブレット、タッチセンサ型スクリーン、又はその他の種類のポインティングデバイス)を有するコンピュータ上で実装できる。ユーザとの相互作用を提供するために使用できるその他の種類のデバイスも使用でき、例えば、ユーザに提供されるフィードバックは、任意の形態のセンサリフィードバック、例えば視覚フィードバック、聴覚フィードバック、又は触覚フィードバックとすることができ、ユーザからの入力は、音響、音声、又は触覚入力を含むあらゆる形態で受信できる。それに加えて、コンピュータは、ユーザが使用するデバイスに文書を送信し、そこから文書を受信することによって、例えば、ウェブブラウザから受信したリクエストに応答してウェブページをユーザのクライアントデバイス上のウェブブラウザに送信することによって、ユーザと相互作用できる。
【0095】
コンピュータシステムは、1つのコンピューティングデバイス、又は近接して、若しくは概して相互に離れ、典型的に通信ネットワークを通じて相互作用する複数のコンピュータを含み得る。通信ネットワークの例には、ローカルエリアネットワーク(「LAN」という)及びワイドエリアネットワーク(「WAN」という)、インタネットワーク(例えば、インタネット)、衛星リンクを含むネットワーク、並びにピアツーピアネットワーク(例えば、アドホックピアツーピアネットワーク)が含まれる。クライアントとサーバの関係は、それぞれのコンピュータ上で実行され、相互にクライアント-サーバ関係を有するコンピュータプログラムにより生じ得る。
【0096】
図5は例示的なコンピュータシステム500を示しており、これはプロセッサ510と、メモリ520と、記憶装置530と、入力/出力装置540と、を含む。コンポーネント510、520、530、及び540は、例えばシステムバス550により相互接続できる。プロセッサ510は、命令を処理してシステム500内で実行されるようにすることができる。幾つかの実施例において、プロセッサ510は、シングルスレッドプロセッサ、マルチスレッドプロセッサ、又はその他の種類のプロセッサである。プロセッサ510は、メモリ520内に、又は記憶装置530上に記憶された命令を処理することができる。メモリ520と記憶装置530は、システム500内に情報を記憶できる。
【0097】
入力/出力装置540は、システム500のための入力/出力動作を提供する。幾つかの実施例において、入力/出力装置540は、ネットワークインタフェースデバイス、例えばイーサネット(登録商標)カード、シリアル通信デバイス、例えばRS-232ポート、及び/又は無線インタフェースデバイス、例えば802.11カード、3Gワイヤレスモデム、4Gワイヤレスモデム、5Gワイヤレスモデム等の1つ又は複数を含むことができる。幾つかの実施例において、入力/出力装置は、入力データを受信し、出力データを他の入力/出力デバイス、例えばキーボード、プリンタ、及び表示装置560に送信するように構成されたドライバ装置を含むことができる。幾つかの実施例において、モバイルコンピューティングデバイス、モバイル通信装置、及びその他のデバイスも使用できる。
【0098】
本明細書には多くの詳細事項が含まれているが、これらは特許請求の範囲を限定するものではなく、特定の非限定的な例に固有の特徴を説明するものと理解すべきである。本明細書中で別の実施例に関して説明されている特定の特徴は組み合わせることもできる。逆に、1つの実施例に関して説明された各種の特徴は、複数の実施形態で別々に、又は何れの適当な部分的組合せでも実装できる。
【0099】
様々な実施例を説明した。しかしながら、本発明の主旨と範囲から逸脱することなく、各種の改変を加え得ると理解されたい。したがって、その他の実装も後述の特許請求の範囲に含まれる。
【国際調査報告】