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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-08
(54)【発明の名称】新規なエンパグリフロジンの共結晶
(51)【国際特許分類】
   C07D 407/12 20060101AFI20230301BHJP
   A61K 31/351 20060101ALI20230301BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
C07D407/12 CSP
A61K31/351
A61P3/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021515504
(86)(22)【出願日】2020-06-29
(85)【翻訳文提出日】2021-03-19
(86)【国際出願番号】 KR2020008488
(87)【国際公開番号】W WO2021137369
(87)【国際公開日】2021-07-08
(31)【優先権主張番号】10-2019-0178752
(32)【優先日】2019-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520467006
【氏名又は名称】ユニセル・ラブ・カンパニー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】UNICEL LAB CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】アン,ジフン
【テーマコード(参考)】
4C063
4C086
【Fターム(参考)】
4C063AA01
4C063BB08
4C063CC78
4C063DD73
4C063EE01
4C086BA07
4C086GA15
4C086GA20
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA02
4C086NA03
4C086ZC35
(57)【要約】
エンパグリフロジンの問題点である低い安定性及び水溶解度を改善すべく鋭意努力した結果、安定性及び水溶解度が120倍以上増加されたエンパグリフロジン共結晶を開発するに至った。本発明に係るエンパグリフロジン共結晶は、公知のエンパグリフロジン結晶形の安定性及び水溶解度が克服された新規な固体形態であって、薬物としての活用を極大化させ得る最適な原料医薬物質として非常に有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線回折(PXRD)分析において、2θ回折角が14.703±0.2、15.747±0.2、17.958±0.2、18.859±0.2、19.192±0.2、19.518±0.2、20.367±0.2、25.23±0.2及び28.794±0.2において特徴的なピークを有する粉末X線回折パターンを有し、温度示差走査熱量(DSC)分析において、吸熱開始温度145.78℃±3℃において現れ、吸熱温度148.10℃±3℃において現れることを特徴とするエンパグリフロジン/フマル酸共結晶。
【請求項2】
前記エンパグリフロジン/フマル酸共結晶は、エンパグリフロジン1当量に1当量のフマル酸が結合された請求項1に記載のエンパグリフロジン/フマル酸共結晶。
【請求項3】
粉末X線回折(PXRD)パターンが無定形形態を示すことを特徴とするエンパグリフロジン/クエン酸共結晶。
【請求項4】
前記エンパグリフロジン/クエン酸共結晶は、
エンパグリフロジン1当量に1当量のクエン酸が結合された無定形形態である請求項3に記載のエンパグリフロジン/クエン酸共結晶。
【請求項5】
粉末X線回折(PXRD)分析において、2θ回折角が14.738±0.2、18.001+0.2、18.892+0.2、20.418+0.2、22.226+0.2、23.041+0.2、24.878+0.2、25.712+0.2及び27.306±0.2において特徴的なピークを有し、温度示差走査熱量(DSC)分析において、吸熱開始温度122.98℃±3℃において現れ、吸熱温度127.09℃±3℃において現れることを特徴とするエンパグリフロジン/L-ピログルタミン酸共結晶。
【請求項6】
前記エンパグリフロジン/L-ピログルタミン酸共結晶は、
エンパグリフロジン1当量に1当量のL-ピログルタミン酸が結合された請求項5に記載のエンパグリフロジン/L-ピログルタミン酸共結晶。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の共結晶を含んでナトリウム/グルコース共輸送体2(SGLT-2)を抑えて血糖を調節する糖尿病の治療または予防用の薬剤学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンパグリフロジンの問題点である安定性及び水溶解度が改善された新規なエンパグリフロジン共結晶を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
共結晶(cocrystals、コクリスタル)とは、O、OH、Nなどの水素結合をなし得る官能基が豊富であるか、あるいは、酸解離定数(pKa)の差が3以下である共形成体(coformer)と水素結合を介して規則的な割合にて結合して新規な結晶構造を有する結晶性固体のことを言う。
【0003】
これらの共結晶は、2分子以上の化合物を含むため、複合体の形態で表わされ得る。
【0004】
このような共結晶の形成は、2分子以上の新たな水素結合を介して結晶構造をなすので、薬物の溶解度及び溶解速度を増加させることができる。これにより、人体内の薬物の吸収率を変化させて生体利用率を変化させることができる。
【0005】
難溶性を克服するための共結晶の共形成体の選定に当たっては、水に溶解され易い、水への馴染み性に優れた分子であることが優先される。仮に、水への馴染み性に乏しく、しかも、溶解度が良好ではない共形成体の選定は、薬物の難溶性を克服することができず、むしろ溶解度が低くなるという現象を引き起こす。このため、共形成体の選定は、非常に重要な必要条件となる。
【0006】
また、共結晶は、無定形結晶多形、水和物、溶媒和物などを含む。
【0007】
結晶(crystals)は、大体のところ、結晶化過程において準安定な結晶を優先的に析出させた後、溶媒媒介及び固体の状態でさらに安定な結晶構造に転移して熱力学的な安定性を保とうとする特性を有していることから、概ね、溶媒内において相転移(phase transformation)を介して分子を並べ替えてさらに安定な結晶構造をなす。
【0008】
これにより、結晶多形が生成され、これをオストワルドの段階則と呼ぶ。
【0009】
このため、準安定な結晶と安定な結晶の物理化学的な特性が変化するのである。そこで、薬物として最も重要な結晶の熱力学的なエネルギーを示す溶解度の変化を引き起こすのである。
【0010】
そして、共結晶の共形成体は、大体において、溶媒内において溶媒分子に取って代わる相転移現象を介して結晶構造が変化したり、共結晶それ自体の結晶多形の存在を確認することができる。
【0011】
このため、水中において共結晶は水和物に相転移されることができ、これにより、共結晶の溶解度が水和物の溶解度に変化する現象を引き起こす虞がある。
【0012】
難溶性水和物結晶形において共結晶を製造しても溶解度が改善されない理由が、直ちに共結晶が水和物に相転移されたからである。
【0013】
そこで、共形成体の選定が非常に重要である。どのような共形成体を用いるかによって、相転移を抑えたり促したりすることができる(Crystal Growth & Design (2011) 11, 887-895, Recrystallization in Materials Processing Intech: Vienna, Austria, 2015; pp. 173-74, Drug Discovery Today (2008) 13, 440-446)。
【0014】
共結晶の形成は、共結晶化(cocrystallization)を介して行われる。
【0015】
共結晶化法としては、溶媒蒸発法(solvent evaporation technique)、反溶媒法(anti-solvent method)、溶媒添加粉砕法(solvent drop grinding)、スラリー法(slurry technique)、個体状態粉砕法(solid state grinfing)などが挙げられる(Recrystallization in Materials Processing Intech: Vienna, Austria, 2015; pp. 173-74)。
【0016】
無定形(amorphous、アモルファス)とは、分子の相互作用は存在するものの、結晶配列をなし得ない固体状態のことを意味する。このため、結晶形よりも高いエネルギー準位を有しているので、結晶形よりも溶解度が高い。しかしながら、高いエネルギー準位により熱力学的な安定性が低いため、結晶形に非常に速やかに相転移されてしまうという不具合を抱えている。
【0017】
無定形形態の共結晶(co-amorphous)は、2以上の分子間の新たな水素結合を介して無定形固体をなして結晶形に相転移される現象を抑える効果を奏することができ、高い溶解度を介して難溶性を克服できる固体状態である。
【0018】
このように、結晶形に相転移される現象を抑え得る理由は、無定形形態のガラス転移温度が薬物それ自体の無定形よりも高いからである(Advanced Drug Delivery Reviews (2016) 100, 116-125)。
【0019】
そして、無定形形態の共結晶の形成は、結晶化速度を非常に速やかに制御して高い過飽和度に速やかに到達させる結晶化法を用いなければならない。代表的に、減圧蒸発結晶化、超臨界結晶化、液体窒素結晶化、凍結蒸発結晶化などの非常に極端的に結晶化速度を速やかに誘導する方法を用いる。
【0020】
しかしながら、共結晶の形成において、薬物分子と共形成体との相互作用による水素結合は非常に多岐に亘るため、たとえこのような極端的な結晶化法を用いるとしても、無定形の設計及び制御を行うことは非常に困難である(From Molecules to Crystallizers An Introduction to Crystallization 2000; pp. 2-14)。
【0021】
また、無定形形態の共結晶において安定性の向上を確認するためには、温度示差走査熱量(DSC)分析を介してガラス転移温度(Tg)が既存の薬物の無定形よりも高い温度において現れるか否かを確認することが必要である。その理由は、無定形形態が存在し得る温度を示すのがガラス転移温度であるからである(Advanced Drug Delivery Reviews 100 (2016) 116 -125)。
【0022】
ナトリウム/グルコース共輸送体2(SGLT-2:sodium/glucose cotransporter 2)は、SGLT-1(sodium/glucose cotransporter 1)とともに腎臓における過剰な血糖の再吸収を担っている輸送体であり、SGLT-2がほとんどの役割を担っている。したがって、SGLT-2阻害剤がSGLT-2を抑えると、小便として排出される血糖が増えてしまい、結局血糖が低くなり、さらには、血糖が有しているカロリーが排出されて体重減少の効果が奏される。
【0023】
このような効果により、2型糖尿病の治療剤として有効に使用可能なSGLT-2抑制剤として開発された薬物の一つがエンパグリフロジン(Empagliflozin)であり、ベーリンガーインゲルハイム社で開発して、現在ジャディアンス錠という商品名で全世界的に販売されている。
【0024】
エンパグリフロジンは、下記の構造式(一般式1)で表わされ、国際公開特許公報WO2005/092877号に開示されている。
【0025】
【化1】
【0026】
エンパグリフロジンについては、国際公開特許公報WO 2006/117359号にエンパグリフロジン結晶形が開示され、かつ、国際公開特許公報WO 2011/039107号にエンパグリフロジン結晶形を製造するための結晶化法が開示されている。
【0027】
しかしながら、国際公開特許公報WO 2006/117359号に開示されているエンパグリフロジン結晶形は、水溶解度がわずか0.11mg/mLにすぎず、しかも、安定性もまた悪いということが報告されている。
【0028】
また、エンパグリフロジンは、医薬品原料(原薬、医薬品有効成分)としての悪い安定性に起因して、一定した品質を保ち難く、その結果、製剤学的に有用ではないというデメリットがある。
【0029】
国際公開特許公報WO 2011/039107号には、エンパグリフロジン結晶形の製造方法が開示されているが、遠心分離及び冷却ランプを用いる結晶化法の複雑性が問題視されている。
【0030】
したがって、本発明においては、エンパグリフロジンの低い水溶解度及び一定した品質を保てない良好ではない安定性を克服するために、より生産し易い手軽な結晶化法を用いて、エンパグリフロジン共結晶を開発した。
【0031】
この明細書の全体にわたって多数の論文及び特許文献が参照され、かつ、その引用が表示されている。引用された論文及び特許文献の開示内容は、その全体としてこの明細書に参照として取り込まれて本発明が属する技術分野のレベル及び本発明の内容がさらに明確に説明される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0032】
【特許文献1】国際公開特許公報WO 2005/092877号
【特許文献2】国際公開特許公報WO 2006/117359号
【特許文献3】国際公開特許公報WO 2011/039107号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0033】
エンパグリフロジンの問題点である低い水溶解度及び安定性を改善すべく鋭意努力した結果、本発明者らは、エンパグリフロジン/フマル酸共結晶、エンパグリフロジン/クエン酸無定形形態の共結晶、エンパグリフロジン/L-ピログルタミン酸共結晶を開発するに至った。
【0034】
そこで、本発明の目的は、新規なエンパグリフロジン/フマル酸、エンパグリフロジン/クエン酸、エンパグリフロジン/L-ピログルタミン酸共結晶を提供するところにある。
【0035】
本発明の他の目的は、上述した本発明の新規なエンパグリフロジン/フマル酸、エンパグリフロジン/クエン酸、エンパグリフロジン/L-ピログルタミン酸共結晶の製造方法を提供するところにある。
【0036】
本発明の他の目的及び利点は、下記の発明の説明、特許請求の範囲及び図面によりなお一層明らかになる。
【課題を解決するための手段】
【0037】
本発明の一態様によれば、本発明は、1分子のエンパグリフロジンと1分子のフマル酸とが結合された共結晶を提供する。
【0038】
本発明の一態様によれば、本発明は、1分子のエンパグリフロジンと1分子のクエン酸とが結合された無定形形態の共結晶を提供する。
【0039】
本発明の一態様によれば、本発明は、1分子のエンパグリフロジンと1分子のL-ピログルタミン酸とが結合された共結晶を提供する。
【0040】
本発明者らは、塩基性無機塩類ではなく、アミノ酸または有機酸であるフマル酸、クエン酸、L-ピログルタミン酸を用いて、エンパグリフロジン/フマル酸共結晶、エンパグリフロジン/クエン酸無定形形態の共結晶、エンパグリフロジン/L-ピログルタミン酸共結晶を製造した。
【0041】
したがって、本発明者らは、エンパグリフロジンの低い安定性及び水溶解度を克服すべく、水溶解度が非常に高く、NH、N、O、OHが豊富なL-プロリン、L-アルギニン、L-リシン、フマル酸、シュウ酸、L-ピログルタミン酸、クエン酸を選定して共結晶の設計及び製造を試みた。
【0042】
その結果、エンパグリフロジン/フマル酸共結晶、エンパグリフロジン/クエン酸無定形形態の共結晶、エンパグリフロジン/L-ピログルタミン酸共結晶を開発するに至った。
【0043】
したがって、実験的な最適化を介して、エンパグリフロジン/フマル酸共結晶、エンパグリフロジン/クエン酸無定形形態の共結晶、エンパグリフロジン/L-ピログルタミン酸共結晶を再現性よく製造する方法を確立し、このようにして製造したエンパグリフロジン/フマル酸共結晶、エンパグリフロジン/クエン酸無定形形態の共結晶、エンパグリフロジン/L-ピログルタミン酸共結晶は、既存のエンパグリフロジン結晶形よりも水溶解度及び小腸pH溶解度が約120倍以上増加され、経口剤の摂取の際に投入される水の量250mlにおいて十分に溶解され得るので、経口吸収度を改善することができ、吸湿性及び安定性もまた向上した。
【0044】
したがって、本発明のエンパグリフロジン/フマル酸共結晶、エンパグリフロジン/クエン酸無定形形態の共結晶、エンパグリフロジン/L-ピログルタミン酸共結晶を用いると、エンパグリフロジンの安定性及び水溶解度を改善した改良新薬としての活用が適切である。
【0045】
本発明の一実現例によれば、前記エンパグリフロジン/フマル酸共結晶は、以下の一般式2で表わされる化合物である:
【0046】
【化2】
【0047】
一般式2のエンパグリフロジン/フマル酸共結晶は、水素結合により1分子のエンパグリフロジンと1分子のフマル酸とが1:1の割合にて共結晶を形成する。
【0048】
このような高い水溶解度を有するフマル酸がエンパグリフロジンと水素結合により共結晶を形成することにより、フマル酸との相互作用によりフマル酸が溶解されるとき、エンパグリフロジンも一緒に水において溶解されるので、水溶解度及び所定のpH 6.8溶解度が増加されるのである。
【0049】
本発明のエンパグリフロジン/フマル酸共結晶は、どこにでも報告されたことのない新規な固体形態である。
【0050】
本発明の実現例によれば、上記のエンパグリフロジン/フマル酸共結晶は、X線回折(PXRD)分析において、2θ回折角が14.703±0.2、15.747±0.2、17.958±0.2、18.859±0.2、19.192±0.2、19.518±0.2、20.367±0.2、25.23±0.2及び28.794±0.2において特徴的なピークを有する粉末X線回折パターンを有することを特徴とする下記の一般式2で表わされるエンパグリフロジン/フマル酸共結晶を提供する。
【0051】
例えば、本発明に係るエンパグリフロジン/フマル酸共結晶の一実現例の粉末X線回折の強度及びピークの位置は、下記の[表1]の通りである。
【0052】
【表1】
【0053】
(エンパグリフロジン/フマル酸共結晶のPXRDの強度及びピークの位置)
また、本発明は、密閉パンを用いた温度示差走査熱量(DSC)分析において、昇温速度を10℃/minとしたとき、吸熱開始温度145.78℃±3℃において現れ、吸熱温度148.10℃±3℃において現れる、それらの分子の割合が1:1になるように形成されたエンパグリフロジン/フマル酸共結晶を提供する。
【0054】
また、核磁気共鳴分光(NMR)分析によるH-NMRスペクトルにおいて、1分子のエンパグリフロジンと1分子のフマル酸とが明らかに、それらの分子の割合が1:1になるように形成されたエンパグリフロジン/フマル酸共結晶を提供する。
【0055】
本発明の一実現例によれば、前記無定形形態のエンパグリフロジン/クエン酸共結晶は、下記の一般式3で表わされる化合物である:
【0056】
【化3】
【0057】
一般式3の無定形形態のエンパグリフロジン/クエン酸共結晶は、水素結合により1分子のエンパグリフロジンと1分子のクエン酸とが1:1の割合にて共結晶を形成する。このような高い水溶解度を有するクエン酸がエンパグリフロジンと水素結合により無定形形態をなすことにより、クエン酸との相互作用によりクエン酸が溶解されるとき、エンパグリフロジンも一緒に水において溶解されるので、水溶解度及び小腸pH 6.8の溶解度が増加されるのである。
【0058】
本発明の無定形形態のエンパグリフロジン/クエン酸共結晶は、どこにでも報告されたことのない新規な固体形態である。
【0059】
本発明の実現例によれば、前記無定形形態のエンパグリフロジン/クエン酸共結晶または複合剤は、X線回折(PXRD)分析において、2θ回折角が無定形形態を示し、温度示差走査熱量(DSC)分析において、熱量曲線が無定形形態を示す、それらの分子の割合が1:1になるように形成された無定形形態の共結晶または複合剤である。
【0060】
また、核磁気共鳴分光(NMR)分析によるH-NMRスペクトルにおいて、1分子のエンパグリフロジンと1分子のクエン酸とが明らかに、それらの分子の割合が1:1になるように形成された無定形形態のエンパグリフロジン/クエン酸共結晶を提供する。
【0061】
本発明の一実現例によれば、前記エンパグリフロジン/L-ピログルタミン酸共結晶は、下記の一般式4で表わされる化合物である:
【0062】
【化4】
【0063】
一般式4のエンパグリフロジン/L-ピログルタミン酸共結晶は、水素結合により1分子のエンパグリフロジンと1分子のL-ピログルタミン酸とが1:1の割合にて共結晶を形成する。このような高い水溶解度を有するL-ピログルタミン酸がエンパグリフロジンと水素結合により共結晶を形成することにより、L-ピログルタミン酸との相互作用によりL-ピログルタミン酸が溶解されるとき、エンパグリフロジンも一緒に水において溶解されるので、水溶解度及び小腸pH 6.8の溶解度が増加されるのである。
【0064】
本発明のエンパグリフロジン/L-ピログルタミン酸共結晶は、どこにでも報告されたことのない新規な固体形態である。
【0065】
本発明の実現例によれば、前記のエンパグリフロジン/L-ピログルタミン酸共結晶は、X線回折(PXRD)分析において、2θ回折角が14.738±0.2、18.001±0.2、18.892±0.2、20.418±0.2、22.226±0.2、23.041±0.2、24.878±0.2、25.712±0.2及び27.306±0.2において特徴的なピークを有する粉末X線回折パターンを有することを特徴とする、一般式4で表わされるエンパグリフロジン/L-ピログルタミン酸共結晶を提供する。
【0066】
例えば、本発明に係るエンパグリフロジン/L-ピログルタミン酸共結晶の一実現例の粉末X線回折の強度及びピークの位置は、下記の[表2]の通りである。
【0067】
【表2】
【0068】
(エンパグリフロジン/L-ピログルタミン酸共結晶のPXRDの強度及びピークの位置)
また、本発明は、密閉パンを用いた温度示差走査熱量(DSC)分析において、昇温速度を10℃/minとしたとき、吸熱開始温度122.98℃±3℃において現れ、吸熱温度127.09℃±3℃において現れる、それらの分子の割合が1:1になるように形成されたエンパグリフロジン/L-ピログルタミン酸共結晶を提供する。
【0069】
さらに、核磁気共鳴分光(NMR)分析によるH-NMRスペクトルにおいて、1分子のエンパグリフロジンと1分子のL-ピログルタミン酸とが明らかに、それらの分子の割合が1:1になるように形成されたエンパグリフロジン/L-ピログルタミン酸共結晶を提供する。
【0070】
本発明の他の態様によれば、本発明は、次のステップを含むエンパグリフロジンの共結晶の製造方法を提供する。
【0071】
(a)エンパグリフロジン及び有機溶媒を混合し、ここに有機酸をそれぞれ添加するステップと、(b)前記ステップ(a)の結果物を昇温させ且つ還流攪拌するステップと、(c)前記ステップ(b)の結果物を冷却しかつ攪拌するステップと、(d)前記ステップ(c)の溶媒の1/2を蒸発させるステップと、(e)前記ステップ(d)の結果物を真空乾燥し、エンパグリフロジン共結晶を得るステップ。
【0072】
本発明者らは、エンパグリフロジンの薬剤学的に有用な新規共結晶を製造するとともに、製造過程において別途の塩類を付けてから外す工程を加えなくても非常に純粋な新規共結晶を高い歩留まり率にて製造し得る方法を確立した。この方法は、共結晶化法のうち、溶媒蒸発法と称する。
【0073】
本発明の方法は、上述した本発明のエンパグリフロジン/フマル酸共結晶、エンパグリフロジン/クエン酸無定形形態の共結晶、エンパグリフロジン/L-ピログルタミン酸共結晶を製造するものであるため、これらの間に共通する内容は、繰り返し記載に伴う明細書の過剰な複雑性を避けるためにその記載を省略する。
【0074】
以下、エンパグリフロジン/フマル酸共結晶、エンパグリフロジン/クエン酸無定形形態の共結晶、エンパグリフロジン/L-ピログルタミン酸共結晶を製造するための本発明の方法について段階別に詳しく説明すれば、下記の通りである:
【0075】
(a)エンパグリフロジン及び有機溶媒の混合及び有機酸の添加
まず、本発明の方法は、固体粉末のエンパグリフロジン及び有機溶媒を混合し、ここに有機酸をそれぞれ添加するステップを含む。
【0076】
本発明の一実現例によれば、前記ステップ(a)のエンパグリフロジンは、有機溶媒の体積に対して1~30(w/v)%で添加され、より好ましくは、6~25(w/v)%であり、さらに好ましくは、10~20(w/v)%である。
【0077】
前記エンパグリフロジン共結晶の製造に際して高い歩留まり率でエンパグリフロジン共結晶を生成し、過量に用いられた有機酸の除去にも効果的な溶媒であると検証された有機溶媒は、好ましくは、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、テトラヒドロフラン、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、クロロホルム、メチルエチルケトン、エチルアセテート、メチレンクロリド及びアセトニトリルよりなる有機溶媒から少なくとも1種以上選ばれ、すなわち、単一溶媒またはこの混合溶媒が選ばれ、より好ましくは、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、またはアセトンであり、最も好ましくは、メタノールである。
【0078】
本発明のさらに他の実現例によれば、前記ステップ(a)の有機酸は、エンパグリフロジンに対して1~1.5当量のモル比にて添加される。
【0079】
有機酸は、それぞれエンパグリフロジンに対して1~1.5当量のモル比にて添加されることが好ましい。このようにして得られた無定形形態のエンパグリフロジン新規共結晶または複合剤は、エンパグリフロジンが結合された無定形形態のエンパグリフロジン/有機酸共結晶または複合剤となる。
【0080】
本発明の他の実現例によれば、前記ステップ(a)の有機酸は、前記混合されたエンパグリフロジン及び有機溶媒に1/3の量に分けられて添加される。
【0081】
これは、前記エンパグリフロジン/有機酸共結晶または複合剤の製造に際して固体粉末エンパグリフロジンと有機酸とを混合するとき、有機酸とエンパグリフロジンとの混合割合が1:1になるに当たって重要であるからである。
【0082】
このため、固体粉末エンパグリフロジンと混合する有機酸を一度に添加するよりも、全体の混合当量の1/3ずつの有機酸を分けて混合するときに最も効果的に形成することができる。
【0083】
より好ましくは、前記ステップ(a)の有機酸を前記混合されたエンパグリフロジン及び有機溶媒に1/3の量に分けて20分おきに添加する。
【0084】
(b)前記結果物の昇温及び還流攪拌
その後、本発明の方法は、前記ステップ(a)の結果物を昇温させ且つ還流攪拌するステップを経る。
【0085】
前記ステップ(a)の結果物の昇温時間は、還流温度に達するまで1時間以上の時間がかかるように温度の調節が必要であり、還流温度における攪拌時間は3時間を超えないようにしなければならない。
【0086】
本発明のさらに他の実現例によれば、前記ステップ(b)の昇温は、1時間~3時間の間に行う。
【0087】
本発明の他の実現例によれば、前記ステップ(b)の還流攪拌は、1時間~3時間の間に行い、より好ましくは、30分~2時間の間に行い、さらに好ましくは、30分~1時間の間に行う。
【0088】
(c)前記結果物の冷却及び攪拌
その後、本発明の方法は、前記ステップ(b)の結果物、すなわち、還流した反応液を冷却し且つ攪拌するステップを含む。
【0089】
本発明のさらに他の実現例によれば、前記ステップ(c)の冷却は、15~40℃で行い、より好ましくは、温度15~30℃で行い、最も好ましくは、15~20℃で行う。
【0090】
本発明の他の実現例によれば、前記ステップ(c)の攪拌は、1~12時間の間に行い、より好ましくは、1時間~8時間の間に行い、さらに好ましくは、3時間~5時間の間に行う。
【0091】
(d)前記結果物の蒸発及び攪拌
その後、本発明の方法は、前記ステップ(c)の結果物、すなわち、冷却された反応液の溶媒の1/2を蒸発させながら攪拌するステップを含む。
【0092】
本発明のさらに他の実現例によれば、前記ステップ(d)の蒸発は、30~60℃で行い、より好ましくは、温度30~50℃で行い、最も好ましくは、30~40℃で行う。
【0093】
本発明の他の実現例によれば、前記ステップ(d)の攪拌は、1~12時間の間に行い、より好ましくは、1時間~8時間の間に行い、さらに好ましくは、3時間~5時間の間に行う。
【0094】
本発明のさらに他の実現例によれば、前記ステップ(d)後に、(d-1)前記ステップ(d)の結果物を減圧ろ過した後に有機溶媒で洗浄するステップをさらに含む。
【0095】
本発明の他の実現例によれば、前記ステップ(d-1)の有機溶媒は、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、テトラヒドロフラン、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、クロロホルム、メチルエチルケトン、エチルアセテート、メチレンクロリド及びアセトニトリルよりなる有機溶媒から少なくとも1種以上選ばれ、すなわち、単一溶媒またはこの混合溶媒が選ばれ、より好ましくは、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールまたはアセトンであり、最も好ましくは、アセトンである。
【0096】
本発明のさらに他の実現例によれば、前記ステップ(c-1)の有機溶媒は、前記ステップ(a)の有機溶媒の体積に対して1~30(v/v)%で添加され、より好ましくは、1~10(v/v)%、より好ましくは、2~5(v/v)%である。
【0097】
(e)前記結果物の真空乾燥エンパグリフロジン共結晶の収得
最後に、本発明の方法は、前記ステップ(e)の結果物を真空乾燥し、エンパグリフロジン共結晶を得るステップを経る。
【0098】
本発明の他の実現例によれば、前記ステップ(e)の真空乾燥は、温度30~65℃で8時間~12時間の間に行う。
【0099】
より好ましくは、前記真空乾燥は、温度40~55℃で行い、さらに好ましくは、温度45~50℃で行う。
【0100】
上記の温度条件下で、上記の時間の間に真空乾燥を行って得た無定形形態のエンパグリフロジン共結晶の水分の含量が1%以下であり、純度は、液体クロマトグラフィー(HPLC)分析法によれば、99.5%以上である。
【0101】
このような方法を用いて、SGLT-2抑制剤であって、腎臓において血糖の再吸収を抑えて血糖が小便として排出されるようにして血糖を調節する2型糖尿病の治療剤として利用可能なエンパグリフロジン1当量に1当量の有機酸が結合されたエンパグリフロジン共結晶を製造することができる。
【発明の効果】
【0102】
本発明の特徴及び利点をまとめると、下記の通りである。
【0103】
(a)本発明は、1分子のエンパグリフロジンと1分子の有機酸とが結合されたエンパグリフロジン/フマル酸共結晶、エンパグリフロジン/クエン酸無定形形態の共結晶、エンパグリフロジン/L-ピログルタミン酸共結晶及びこの製造方法を提供する。
【0104】
(b)本発明のエンパグリフロジン/フマル酸共結晶、エンパグリフロジン/クエン酸無定形形態の共結晶、エンパグリフロジン/L-ピログルタミン酸共結晶は、その製造に際して共結晶化を介した特殊な溶媒環境下で有機酸の当量、攪拌溶媒の蒸発量、溶媒の蒸発温度及び時間を調節することにより、最適な割合の新規な共結晶を優れた純度及び歩留まり率にて得ることができる。
【0105】
(c)本発明のエンパグリフロジン/フマル酸共結晶、エンパグリフロジン/クエン酸無定形形態の共結晶、エンパグリフロジン/L-ピログルタミン酸共結晶は、極めて低いエンパグリフロジンの安定性及び水溶解度について、本発明の共結晶によりエンパグリフロジンの水溶解度及び小腸pH 6.8の溶解度を120倍増加させ、安定性もまた向上してエンパグリフロジン医薬品原料として非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0106】
図1】本発明の実施例に従い製造されたエンパグリフロジン/フマル酸共結晶の粉末X線回折(PXRD)パターン結果を示す。
図2】本発明の実施例に従い製造された無定形形態のエンパグリフロジン/クエン酸共結晶の粉末X線回折(PXRD)パターン結果を示す。
図3】本発明の実施例に従い製造されたエンパグリフロジン/L-ピログルタミン酸共結晶の粉末X線回折(PXRD)パターン結果を示す。
図4】国際公開特許公報WO 2006/117359号の実施例に従い製造されたエンパグリフロジン結晶形の粉末X線回折(PXRD)パターン結果を示す。
図5】本発明の実施例に従い製造されたエンパグリフロジン/フマル酸共結晶の温度示差走査熱量(DSC)の熱量曲線結果を示す。
図6】国際公開特許公報WO 2006/117359号の実施例に従い製造されたエンパグリフロジン結晶形の温度示差走査熱量(DSC)の熱量曲線結果を示す。
図7】本発明の実施例に従い製造された無定形形態のエンパグリフロジン/クエン酸共結晶の温度示差走査熱量(DSC)の熱量曲線結果を示す。
図8】本発明の実施例に従い製造された無定形形態のエンパグリフロジン/クエン酸共結晶、クエン酸、エンパグリフロジン結晶形の温度示差走査熱量(DSC)の熱量曲線結果を示す。
図9】本発明の実施例に従い製造されたエンパグリフロジン/L-ピログルタミン酸共結晶の温度示差走査熱量(DSC)の熱量曲線結果を示す。
図10】本発明の実施例に従い製造されたエンパグリフロジン/L-ピログルタミン酸共結晶、L-ピログルタミン酸、エンパグリフロジン結晶形の温度示差走査熱量(DSC)の熱量曲線結果を示す。
図11】本発明の実施例に従い製造されたエンパグリフロジン/フマル酸共結晶の核磁気共鳴分光(NMR) H-NMRスペクトル結果を示すが、この結果において、エンパグリフロジン/フマル酸の化学両論的割合が正確に1:1にそのピークが積分されて現れる。
図12】本発明の実施例に従い製造された無定形形態のエンパグリフロジン/クエン酸共結晶の核磁気共鳴分光(NMR) H-NMRスペクトル結果を示すが、この結果において、エンパグリフロジン/フマル酸の化学両論的割合が正確に1:1にそのピークが積分されて現れる。
図13】本発明の実施例に従い製造されたエンパグリフロジン/L-ピログルタミン酸共結晶の核磁気共鳴分光(NMR) H-NMRスペクトル結果を示すが、この結果において、エンパグリフロジン/フマル酸の化学両論的割合が正確に1:1にそのピークが積分されて現れる。
図14】国際公開特許公報WO 2006/117359号の実施例に従い製造されたエンパグリフロジン結晶形の核磁気共鳴分光(NMR) H-NMRスペクトル結果を示す。
図15】本発明の実施例に従い製造されたエンパグリフロジン/フマル酸共結晶、エンパグリフロジン/クエン酸無定形形態の共結晶、エンパグリフロジン/L-ピログルタミン酸共結晶、並びにエンパグリフロジン結晶形の1mg/mLの濃度の水溶解性を比較試験した結果である。このとき、本発明のエンパグリフロジン共結晶はいずれも溶解されたものの、エンパグリフロジン結晶形は溶解度が低いため溶解されない。
【発明を実施するための形態】
【0107】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに詳しく説明する。これらの実施例は単に本発明をより具体的に説明するためのものにすぎず、本発明の要旨に従って本発明の範囲がこれらの実施例により何ら制限されないということは当業界における通常の知識を有する者にとって自明である。
【0108】
[実施例1]エンパグリフロジン/フマル酸共結晶の製造
エンパグリフロジン10gとメタノール100mlとを入れた後、常温で20分間攪拌した。その後、フマル酸1.2当量を1/3ずつ投入し、温度を1時間かけて徐々に上げて還流温度まで到達させた後、30分間さらに攪拌した。徐々に15℃~20℃まで冷却した後、3時間攪拌した。その後、温度を30℃~40℃に上げて3時間攪拌しながらメタノールを70ml蒸発させて結晶を析出させた。析出された結晶を減圧ろ過した後、アセトン10mlで洗浄し、45℃で16時間以上真空乾燥して新規なエンパグリフロジン/フマル酸共結晶を90%の歩留まりにて得た。
【0109】
[実施例2]エンパグリフロジン/クエン酸共結晶の製造
エンパグリフロジン10gとメタノール100mLとを入れた後、常温で20分間攪拌した。その後、クエン酸1.2当量を投入した後、1時間攪拌した。その後、温度を30℃~40℃に上げて3時間攪拌しながらメタノールを80mL蒸発させて結晶を析出させた。その後、エチルアセテート50mLを投入した後、20分間攪拌した。そして、析出された結晶を減圧ろ過した後、エチルアセテート10mlで洗浄し、45℃で16時間以上真空乾燥して新規なエンパグリフロジン/クエン酸共結晶を85%の歩留まりにて得た。
【0110】
[実施例3]エンパグリフロジン/L-ピログルタミン酸共結晶の製造
エンパグリフロジン10gとメタノール100mlとを入れた後、常温で20分間攪拌した。その後、L-ピログルタミン酸1.2当量を1/3ずつ投入し、温度を1時間かけて徐々に上げて還流温度まで到達させた後、30分間さらに攪拌した。徐々に15℃~20℃まで冷却した後、3時間攪拌した。その後、温度を30℃~40℃に上げて3時間攪拌しながらメタノールを60ml蒸発させて結晶を析出させた。析出された結晶を減圧ろ過した後、エチルアセテート10mlで洗浄し、45℃で16時間以上真空乾燥して新規なエンパグリフロジン/L-ピログルタミン酸共結晶を82%の歩留まりにて得た。
【0111】
[実施例4]エンパグリフロジン/フマル酸共結晶の製造
エンパグリフロジン10gとメタノール300mlとを入れた後、常温で20分間攪拌して溶解した。その後、フマル酸1.2当量を投入して30分間攪拌しながら溶解した。その後、濃縮器を用いて結晶が析出されるまでメタノールをすべて蒸発させた。そして、エチルアセテート50mLを投入して20分間攪拌した後、減圧ろ過してエチルアセテート10mlで洗浄し、45℃で16時間以上真空乾燥して新規なエンパグリフロジン/フマル酸共結晶を88%の歩留まりにて得た。
【0112】
[実施例5]エンパグリフロジン/L-ピログルタミン酸共結晶の製造
エンパグリフロジン10gとメタノール300mlとを入れた後、常温で20分間攪拌して溶解した。その後、L-ピログルタミン酸1.2当量を投入して30分間攪拌しながら溶解した。その後、濃縮器を用いて結晶が析出されるまでメタノールをすべて蒸発させた。そして、エチルアセテート50mLを投入して20分間攪拌した後、減圧ろ過してエチルアセテート10mlで洗浄し、45℃で16時間以上真空乾燥して新規なエンパグリフロジン/L-ピログルタミン酸共結晶を83%の歩留まりにて得た。
【0113】
[実験例1]粉末X線回折(PXRD)
PXRD分析(図1から図4を参照)をCuKα放射線を用いて(D8 Advance)X線粉末回折計上で行った。器具には管動力が仕掛けられており、電流量は45kV及び40mAに設定した。発散及び散乱スリットは1°に設定し、受光スリットは0.2mmに設定した。5から35° 2θまで3°/分(0.4秒/0.02°おき)のθ-2θ連続走査を用いた。
【0114】
[実験例2]温度示差走査熱量法(DSC)
TA社から入手したDSC Q20を用いて、窒素の浄化下で20℃から300℃まで10℃/minの走査速度で、密閉パンでDSCの測定(図5から図10を参照)を行った。
【0115】
[実験例3]エンパグリフロジン共結晶の溶解度の評価
エンパグリフロジンは、0.111mg/mlの水溶解度を有する難溶性のものであるため、それに伴い、水溶解度が高いフマル酸、クエン酸、L-ピログルタミン酸と結合して新規な共結晶を製造してエンパグリフロジンの水溶解度及び胃腸管pH溶解度を改善しようとした。その結果を下記表3にまとめて示す。
【0116】
【表3】
【0117】
(エンパグリフロジン共結晶とエンパグリフロジン結晶形の溶解度)
上記の表3から明らかなように、公知のエンパグリフロジン結晶形に比べて本発明のエンパグリフロジン/フマル酸共結晶の水溶解度及び小腸pH 6.8における溶解度が約18倍増加し、無定形形態のエンパグリフロジン/クエン酸共結晶の水溶解度及び小腸pH 6.8における溶解度が約120倍以上増加され、エンパグリフロジン/L-ピログルタミン酸共結晶の水溶解度及び小腸pH 6.8における溶解度が約24倍増加されたことが確認された。
【0118】
そこで、本発明のエンパグリフロジン共結晶の水溶解度が公知のエンパグリフロジン結晶形のそれに比べて約120倍まで増加できるということが確認された。
【0119】
したがって、本発明のエンパグリフロジン共結晶は、エンパグリフロジン結晶形の問題点である低い水溶解度を克服できる新規な結晶形態であり、これは、エンパグリフロジンの薬効を極大化させることができるということが予測された。
【0120】
[実験例4]エンパグリフロジン共結晶とエンパグリフロジン結晶形の加速、苛酷安定性の比較評価
医薬品の安定性試験とは、医薬品などの保存方法及び使用期間を設定するために、適切な規格を設定した後、定められた試験法に基づいて有意的な変化を判断して有効期間を設定するため、薬物の適正な安定性の確保は、薬物の製品化に当たって非常に重要な要素の一つである。
【0121】
したがって、本発明のエンパグリフロジン/フマル酸共結晶、無定形形態のエンパグリフロジン/クエン酸共結晶、エンパグリフロジン/L-ピログルタミン酸共結晶の製品化の可能性を確認するために、国際公開特許公報WO 2006/117359号に公知となっているエンパグリフロジン結晶形を対照群として医薬品規制調和国際会議(ICH)ガイドラインに従って加速及び苛酷安定性試験を行い、米国薬局方(USP)に記載されている液体クロマトグラフィー(HPLC)分析法を用いて分析した後、その結果を表4及び表5に示す。
【0122】
【表4】

(エンパグリフロジン共結晶とエンパグリフロジン結晶形の加速安定性試験結果、40℃±2℃、RH 75%)
【0123】
【表5】
【0124】
(エンパグリフロジン共結晶とエンパグリフロジンの苛酷安定性評価結果、60℃±2℃、RH 75%)
実施例により製造されたエンパグリフロジン共結晶とエンパグリフロジン結晶形の加速、苛酷条件の安定性試験を行った。その結果、表4と表5に示すように、エンパグリフロジン共結晶は純度の影響なしに安定的に保たれたものの、エンパグリフロジン結晶形は純度が下がって安定性が良好ではないということが確認された。
【0125】
したがって、エンパグリフロジン共結晶の加速、苛酷条件における安定性は、エンパグリフロジン結晶形よりも改善されたということが確認された。
【0126】
[実験例5]エンパグリフロジン共結晶とエンパグリフロジン結晶形の水溶解性の比較試験
体内吸収率を増加させるためには、水溶解性がある程度は増加されなければならない。したがって、本発明のエンパグリフロジン共結晶と公知のエンパグリフロジン結晶形の水溶解性を1mg/mLの濃度にして比較評価した。
【0127】
その結果、エンパグリフロジン結晶形は溶解されないため懸濁液の状態で存在するのに対し、本発明のエンパグリフロジン共結晶はすべて溶解されて水溶解性が増加されたことを確認した。したがって、本発明の共結晶は、水溶解度を改善して、エンパグリフロジンの難溶性を克服できる新規な原料医薬としての価値を立証した[図15]。
【0128】
このため、本発明のエンパグリフロジン共結晶は、エンパグリフロジンの問題点である低い安定性及び水溶解度を克服した新規な医薬品原料としての可能性が期待できるものである。
【0129】
以上、本発明の特定の部分について詳しく記述したが、当業界における通常の知識を有する者にとってこのような具体的な記述は単に好適な実現例に過ぎず、このため、本発明の範囲が制限されるわけではないということは明らかである。よって、本発明の実質的な範囲は、特許請求の範囲とその等価物により定義されるものというべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
【国際調査報告】