(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-09
(54)【発明の名称】スラスト生成のためのイオンブースタ
(51)【国際特許分類】
F03H 1/00 20060101AFI20230302BHJP
H02N 99/00 20060101ALI20230302BHJP
【FI】
F03H1/00 A
H02N99/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022538723
(86)(22)【出願日】2021-01-08
(85)【翻訳文提出日】2022-06-21
(86)【国際出願番号】 US2021012649
(87)【国際公開番号】W WO2021183206
(87)【国際公開日】2021-09-16
(32)【優先日】2020-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522247703
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ マイアミ
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ソラリ,トーマス アントニー プリバニック
(57)【要約】
スラスト生成のためのイオンブースタ。本発明は、非対称電極間のイオンの急速な加速によって生成される電気推進に関連する。本発明は、大気環境および宇宙環境での推進力生成に適用可能である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンスラスタシステムであって、
1つ以上の一次電極と、
少なくとも1つの二次電極と、
前記1つ以上の一次電極に動作可能に接続された接地出力を有し、前記少なくとも1つの二次電極に動作可能に接続された正出力をさらに有する高電圧電源と、
作動時に前記1つ以上の一次電極の材料の仕事関数に打ち勝つためのエネルギー源と、を備える、システム。
【請求項2】
前記エネルギー源が、通電時に前記1つ以上の一次電極の温度を上げるために、前記1つ以上の一次電極に閉回路で動作可能に接続された二次電源を含む、請求項1に記載のイオンスラスタシステム。
【請求項3】
前記1つ以上の一次電極が、導電性合金材料を含む、請求項2に記載のイオンスラスタシステム。
【請求項4】
前記エネルギー源が、前記1つ以上の一次電極を加熱するための加熱素子を含む、請求項1に記載のイオンスラスタシステム。
【請求項5】
前記1つ以上の一次電極が、セラミック材料を含む、請求項4に記載のイオンスラスタシステム。
【請求項6】
前記1つ以上の一次電極が、半導体材料を含む、請求項4に記載のイオンスラスタシステム。
【請求項7】
前記エネルギー源が、前記1つ以上の一次電極に近接するUV光源を含む、請求項1に記載のイオンスラスタシステム。
【請求項8】
前記1つ以上の一次電極が、セラミック材料を含む、請求項7に記載のイオンスラスタシステム。
【請求項9】
前記1つ以上の一次電極が、半導体材料を含む、請求項7に記載のイオンスラスタシステム。
【請求項10】
前記1つ以上の一次電極の温度に関係なく、前記1つ以上の一次電極上の定張力を維持するために、前記1つ以上の一次電極に動作可能に接続された定力素子をさらに備える、請求項1に記載のイオンスラスタシステム。
【請求項11】
線形構成で配置された複数のセルを含むマルチセルイオンスラスタシステムであって、各セルが、請求項1によるイオンスラスタを含む、マルチセルイオンスラスタシステム。
【請求項12】
円筒構成で配置された複数のセルを含むマルチセルイオンスラスタシステムであって、各セルが、請求項1によるイオンスラスタを含む、マルチセルイオンスラスタシステム。
【請求項13】
前記定力素子が、定力引張ばねである、請求項10に記載のイオンスラスタシステム。
【請求項14】
1つ以上の一次電極と、少なくとも1つの二次電極と、高電圧電源と、作動時に前記1つ以上の一次電極の材料の仕事関数に打ち勝つためのエネルギー源と、を有するイオンスラスタシステムを使用してスラストを生成する方法であって、前記方法は、
前記1つ以上の一次電極および前記少なくとも1つの二次電極に、
前記1つ以上の一次電極に高電圧電力を供給する前記高電圧電源の接地出力と、
前記少なくとも1つの二次電極に高電圧電力を供給する前記高電圧電源の正出力と、
によって高電圧電力を供給することと、
前記エネルギー源からエネルギーを印加して、前記1つ以上の一次電極の材料の前記仕事関数に打ち勝つことと、を含む、方法。
【請求項15】
前記エネルギー源からエネルギーを印加することが、二次電源から前記1つ以上の一次電極に電力を印加して、前記1つ以上の一次電極を加熱することを含む、請求項14に記載の方法
【請求項16】
前記エネルギー源からエネルギーを印加することが、前記1つ以上の一次電極を加熱するための加熱素子を使用することを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記エネルギー源からエネルギーを印加することが、前記1つ以上の一次電極にUV放射線を印加することを含む、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、推進力生成技術に関する。具体的には、電位差(電圧差)を受ける電極を使用して電源(電気推進)によって生成される推進力に関する。
【0002】
電位差を受ける電極からのスラストの生成は、1928年にT.T.Brownによって初めて発見された。その後、この原理を使用してスラストを生成して車両を推進させる発明が数多く生まれた。発明は、スラストレベルを増加させるために、異なる電極配置および構成を使用している。しかしながら、Brownによって使用された基本原理は、これらの発明において変わっていない。
【0003】
今後10年間で3つの柱、すなわち、1)自律飛行、2)航空機通信、および3)電気推進、が航空宇宙市場を牽引するであろう。さらに、NASAは将来の商用利用のためのハイブリッドおよびオール電気航空機の実現可能性を調査し続けているため、当局のAdvanced Air Transport Technology(AATT)プロジェクトによって確立された野心的な電力目標を達成するために、いくつかの主要な電力関連コンポーネントおよび材料を、開発または改良する必要がある。
【0004】
U.S.Department of Defenseは、宇宙用途のイオンスラスタに非常に関心を示している。SBIRの発表AF192-044で述べられているように、将来のDoDの宇宙船は、ミッション要件のために軌道を変更するか、または混雑した軌道で増加する危険を回避するために、より高い敏捷性を必要とする。敏捷性のある宇宙船とは、推進剤の保存を通じて推進寿命を最大化しながら軌道の変化を起こすことができる宇宙船である。敏捷性には、少なくとも、ミッションニーズに応じて、比推力(Isp)を広範囲にわたってスラストと交換することのできる推進概念が必要である。急な通知には、推進剤を犠牲にして高いスラストが必要になる。時間の制約が少ないミッションニーズは、高いIspを使用し、推進剤を節約することができる。しかしながら、真に敏捷性のある宇宙船は、少なくとも短期間は、高いスラストおよび高いIspの両方を同時に必要とする。
【0005】
高い電位差で電極を使用するスラストは、逆の電圧極性を有する大幅に異なるサイズの電極を使用することによって達成される。(より高い電流密度を有する)より小さな電極は、高速で周囲の媒体(すなわち、空気、窒素、キセノンガス)から、反対に帯電した既存のイオンおよび/または電子を引き寄せる。それらの経路上では、これらのイオンまたは電子は中性分子と衝突する。これらの衝突によって、中性分子は電子を得るかまたは失う。衝撃を受けた今や分極した分子は、高速でより大きな電極に引き寄せられ、これらの加速度がスラストを生成する。
【0006】
高速移動するこれらの分子によってイオン風が生成されるが、これが推進の主な供給源ではない(それらは、数桁のより低い寄与を有する)ことに留意することが重要である。
【0007】
これまで、スラストを生成するための高電圧電極の使用は、宇宙用途でのみ成功している。宇宙船は、キセノンガスを(分子量が大きい)媒体として使用して、分子が加速されたときに生成される運動量を増加させる。低レベルのスラストが生成されるが、宇宙空間では摩擦力がないため、スラスタは所望の速度に達するまで長い間隔で使用される。ただし、宇宙船はキセノンガスを燃料として運ぶ重量ペナルティを科せられる。
【発明の概要】
【0008】
大気条件では、媒体として空気を使用することの限界から、有用なスラストレベルの生成は達成されていない。これらの限界は、空気の誘電分解電圧および大気中のイオンの利用可能性に起因している。
【0009】
本明細書に提示される本発明の実施形態は、電極から電子を抽出することによってイオンスラスタのスラストレベルを引き上げる。これは、電極材料の仕事関数に打ち勝つことによって達成される。電子が抽出されると、電子は周囲の媒体との追加の衝突を生成し、したがって帯電した分子の数を増加させる。増加した数または帯電した分子および電子の加速により、イオンスラスタのスラストレベルが増加する。
【0010】
本発明の実施形態は、任意の媒体(すなわち、キセノンガス、窒素、空気)に適用可能である。注目すべきことに、大気条件において本発明の実施形態を使用することにより、イオンスラスタを電気駆動航空機のための実行可能な選択肢とする点までスラストレベルを増加させる。
【0011】
一実施形態では、システムが開示されており、前記システムは、1つ以上の一次電極と、少なくとも1つの二次電極と、前記1つ以上の一次電極に動作可能に接続された接地出力を有する高電圧電源であって、前記少なくとも1つの二次電極に動作可能に接続された正出力をさらに有する高電圧電源と、作動時に前記1つ以上の一次電極の材料の仕事関数に打ち勝つためのエネルギー源と、を備えている。
【0012】
一実施形態では、エネルギー源は、作動時に前記1つ以上の一次電極の温度を上げるために、前記1つ以上の一次電極に閉回路で動作可能に接続された二次電源を含んでいる。代替的に、エネルギー源は、前記1つ以上の一次電極を加熱するための加熱素子または前記1つ以上の一次電極に近接するUV光源を備えることができる。さらに、この3つのエネルギー源の組み合わせを使用することができる。
【0013】
様々な実施形態では、1つ以上の一次電極は、セラミック材料、半導体材料および導電性合金材料、またはそれらの材料の様々な組み合わせを含むことができる。
【0014】
一実施形態は、線形構成で配置された複数のセルを含み、各セルは上述のシステムのうちの1つ。代替的に、複数のそのようなセルは、円筒構成で配置することができる。
【0015】
一実施形態では、1つ以上の一次電極と、少なくとも1つの二次電極と、高電圧電源と、作動時に前記1つ以上の一次電極の材料の仕事関数に打ち勝つためのエネルギー源と、を有するイオンスラスタシステムを使用してスラストを生成するための方法が開示されており、前記方法は、前記1つ以上の一次電極および前記少なくとも1つの二次電極に、前記1つ以上の一次電極に高電圧電力を供給する前記高電圧電源の接地出力と、前記少なくとも1つの二次電極に高電圧電力を供給する前記高電圧電源の正出力と、によって高電圧電力を供給することと、エネルギー源からエネルギーを印加して、前記1つ以上の一次電極の材料の仕事関数に打ち勝つことと、を含む。
【0016】
一実施形態では、エネルギー源からエネルギーを印加することは、二次電源から前記1つ以上の一次電極に電力を印加して、1つ以上の一次電極を加熱すること、前記1つ以上の一次電極を加熱するための加熱素子を使用すること、前記1つ以上の一次電極にUV放射線を印加すること、またはエネルギー源からエネルギーを印加するための前述の方法の様々な組み合わせ、を含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
本明細書に組み込まれ、本明細書の一部を形成する添付の図面は、本発明の1つ以上の実施形態を例示し、説明とともに、本発明の原理を解説する役割を果たす。図面は、本発明の1つ以上の実施形態を例示する目的のためだけのものであり、本発明を制限するものとして解釈されるべきではない。図面の内容は以下のとおりである。
【0018】
【
図1】本発明の実施形態を簡略化した概略図である。
【0019】
【
図2】本発明の実施形態の原理を簡略化した概略図を示す。
【0020】
【
図3】導電性の金属合金電極を使用した本発明の実施形態の概略図である。
【0021】
【
図4】セラミック電極または半導体電極を使用した本発明の実施形態の概略図である。
【0022】
【
図5】UV(紫外線)光放射を使用した本発明の実施形態の概略図である。
【0023】
【
図6】線状の単一セル構成での本発明の実施形態である。
【0024】
【
図7A】線状スラスタのためのマルチセル構成を含む本発明の実施形態である。
【0025】
【
図7B】円筒形スラスタのためのマルチセル構成を含む本発明の実施形態である。
【0026】
【
図8】本発明の実施形態を試験するための実験的設定を示す。
【0027】
【
図9】電極の温度に関係なく電極の張力を維持するのに役立つ、
図8の設定で使用される定力ばねをより詳細に示す。
【0028】
【
図10】高電力供給のみを使用してベースラインを生じさせ、次いで二次電力供給を追加して小さな電極を加熱したときのスラスト改善と比較した、
図8の実験的設定からの結果を示す。
【0029】
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下の詳細な説明において、本発明の実施形態の完全な理解を提供するために、多数の具体的な詳細が記載される。しかしながら、本出願を研究する際に、実施形態がこれらの具体的な詳細なしに実施され得ることが当業者によって理解されるであろう。例えば、周知の動作または技術は、詳細に示されない場合がある。本明細書で使用される技術用語および科学用語は、本主題が属する技術分野の当業者に一般に理解される意味と同じ意味を有する。
【0031】
本出願を通して使用される場合、本明細書で使用される「または」という用語は、要素のリストを接続するために使用されるとき、「または」という用語がリスト内の要素のうちの1つ、いくつか、またはすべてを意味するように、その包括的な意味で使用される(その排他的な意味では使用されない)。特に断りのない限り、「X、Y、およびZのうちの少なくとも1つ」という語句などの接続詞的言語は、要素がX、Y、Z、XおよびY、XおよびZ、YおよびZ、またはX、YおよびZ(すなわち、X、Y、およびZの任意の組み合わせ)のいずれかであり得ることを伝えると理解されたい。したがって、そのような結合言語は、別段の指示がない限り、一般に、特定の実施形態が、Xのうちの少なくとも1つ、Yのうちの少なくとも1つ、およびZのうちの少なくとも1つのそれぞれが存在することを必要とすることを暗示することを意図するものではない。
【0032】
本明細書における要素の位置(すなわち、「上部」、「下部」、「前方(FWD)」、「後方(AFT)」、「の上に」、「の下に」)への言及は、図中の様々な要素の配向を説明するために使用されるに過ぎない。様々な要素の配向は、他の例示的な実施形態に従って異なる場合があり、そのような変形形態は、本開示によって包含されることが意図されることに留意されたい。
【0033】
本発明の実施形態は、大気圏および宇宙旅行のための、民間輸送、商業輸送、および軍事輸送のための既存の問題を満たすための技術的な方法により、現在の先行技術による既存の問題を克服することができる技術ベースの解決策を提供する。既知のイオンスラスタ技術は、1928年にT.T.Brownによって発見され特許取得された基本原理のみを最適化する。本発明の実施形態は、電極から電子を抽出することによってイオンスラスタのスラストを前例のないレベルまで増加させる、新しい物理原理を使用することができる。本発明の実施形態は、いくつかの構成を有し得るイオンスラスタセルを含む。様々な考えられ得る構成において、イオンスラスタセルは、概して、本明細書に開示される電極から電子を抽出して、電子と媒体の中性分子との間の衝突によって生じた帯電したイオンの量を増加させることによって、先行技術よりも優れたスラストレベルをもたらす。電子もまた加速される。この電子の質量の加速は、スラストの増加にも寄与する。
【0034】
本発明の実施形態は、3つの物理的原理、すなわち非対称電極(異なるサイズ)が電位差を受けること、電位差によって静電力が生じること、および電極の材料の仕事関数に打ち勝つこと、を使用してスラストを生成することができる。
【0035】
ここで
図1~
図5を参照すると、本発明の異なる態様および様々な実施形態の概略図が示されており、これらには、より小さな電極の材料の仕事関数に打ち勝つための3つの考えられ得る例示的なエネルギー源、すなわち、1)電気による加熱、2)二次加熱、および3)UV光源からの放射線、が含まれている。本発明の様々な実施形態では、電子は、電極の材料の仕事関数に打ち勝つことによって電極から引き出される。
図7Aおよび
図7Bは、本発明の実施形態である、線形の積層可能セルおよび円筒形の積層可能セルを示す。
【0036】
図1をより詳細に参照すると、一実施形態によれば、電極1および電極2は、好ましくは導電性合金で作られている。一実施形態では、電極1(一次電極とも呼ばれる)は、好ましくは電極2(二次電極とも呼ばれる)よりも小さい。一実施形態では、高電圧電源3は、電極1および2に接続されている。高電圧電源3の接地出力(負の出力)は、電極1に動作可能に接続され、高電圧電源3の正出力は、電極2に動作可能に接続されている。動作接続は、直接的に(例えば、直接配線)または間接的に(例えば、増幅器または他の回路などの介在素子を有して)達成することができる。電極1および電極2は、好ましくは、構造物5に取り付けられている。電極2が電極1より大きい場合、スラストは、大きな電位差を受ける非対称電極によって生成される。さらに、電極間に静電吸引力が生じるが、これらは構造物5に伝達され、生成されたスラストには寄与していない。
【0037】
一実施形態では、電極1はまた、二次電源4に接続される。電極1の材料は、好ましくは、二次電源が通電されるとその温度が上昇するような材料である。二次電源4が通電されると、より小さな電極1の温度が上昇し始め、電極1の材料の仕事関数温度に近づき始める。さらに、電極間に生じる静電力は、電極1の仕事関数に打ち勝つことに寄与する。電子は、温度の上昇および静電力によって電極1の表面から引き出される。
【0038】
図2は、一実施形態において、大きな正電圧電位を有するより大きな電極2によって引き寄せられる、電極1の表面から引き出される電子を示す。より小さな電極1を離れる電子は、媒体7を通して非常に高速で進む。媒体は、空気、窒素ガス、キセノンガス、または他のタイプのガスであることができる。媒体7中の分子は、媒体7中に追加のイオンを生じさせる電極1を離れる電子によって影響を受ける。新たに生じた、負に帯電したイオンは、より大きな電極2に向かって加速され、これは、システムによって生成されるスラストを有意に増加させる。電極1を離れる電子はまた、中性分子に衝突することなく電極2に向かって加速され得る。
【0039】
図3は、定力素子6を追加した実施形態の概略図を示す。電極1の温度が上昇すると、電極1は膨張し、その長さが伸張する。定力素子6により、電極1がその温度に関係なく一定の張力に維持されることを確実にする。
【0040】
一般に、材料の温度を上げることでその仕事関数に打ち勝つメカニズムは、熱電子放出と呼ばれる。電極1に使用される材料は、金属合金、セラミックス、および半導体であることができる。セラミックスおよび半導体の場合、材料が導電性になるために材料を加熱する必要がある。一実施形態では、これは、
図4に示される加熱素子17を導入することによって達成される。材料は、加熱素子17を使用して加熱されると導電性となり、二次電源4に通電することができ、システムは前述したように動作する。この時点で、加熱素子17は除去することができる。導電性になる前に加熱を必要とする材料として、限定されないが、イットリウム、二酸化亜鉛、およびより大量の電子を媒体に放出することができる他の材料が挙げられる。
【0041】
別の実施形態では、材料の仕事関数は、UV光放射によって打ち勝つ。
図5は、UV光源8を使用して電極1を放射して、電極1の材料仕事関数に打ち勝つことに寄与する、本発明の実施形態の概略図を示す。
【0042】
図6は、単一のセル構成の実施形態を示す。セルの内部では、電極は構造物に固定され、媒体はセルの吸入時に提供される。前述した配置のいずれかは、示されている構成で実施することができる。
【0043】
図7Aは、マルチセル線形構成の実施形態を示し、
図7Bは、円筒構成の実施形態を示す。これらは、積み重ねるか、または互いに同心円状に置くことができる。前述した配置のいずれかは、示されている構成で実施することができる。
【0044】
提示された実施形態に加えて、スラスタの構成には、生成されるスラストを最適化するための複数の電極配置を含むことができる。スラスタの実施形態は、第2、第3以上のスラスタが、前のスラスタの後ろのアレイ内に置かれる多段式であることもできる。
【0045】
本発明の様々な実施形態は、電極の電子を抽出することによって、イオンスラスタ内のスラストレベルを有意に増加させることができる。スラストの増加により、大気条件下でのイオン推進技術の使用が可能となり、宇宙旅行のためのイオンスラスタの性能が向上する。本発明の実施形態は、大気電気推進の分野における主要な突破口をもたらし、イオンスラスタ技術の使用を、スラストを生成するための実行可能な選択肢とする。宇宙旅行のために、本発明の実施形態は、宇宙船が敏捷性のある迅速な応答操作を行うことを可能にし、ミッション時間を短縮する、宇宙船の速度を増加させるより高いスラストレベルをもたらす。
【0046】
産業上の利用可能性
本発明を、以下の非限定的な実施例によってさらに例示する。
【0047】
実施例1
一実施形態を、
図8に示される実験的な設定を使用して実施した。実験的な設定は、2つの上部電極および1つの下部電極で構成した。上部電極は、直径0.0005インチであり、ニクロム80の材料で作製されていた。下部電極は、直径0.1875インチであり、厚紙フォームおよびアルミ箔で覆われた木材で作製されていた。すべての電極は、導電性材料で作製されていた。すべての電極は、長さ12インチであった。
【0048】
高電源の最大送電電圧は、0.5ミリアンペアで30.7KVDCであった。高電圧電源は、最大定格容量まで使用した。二次電圧電源は、5アンペアで最大送電電圧60VDCで送電した。二次電源は、電圧32VDCで使用した。
【0049】
電極は、スケールの上に取り付けられた木製構造物に固定した。スケールで、所与の電圧(質量に重力を掛けたもの)に対してシステムが達成した上向きスラストの量を記録した。
【0050】
上部電極は、構造物の一端に固定し、かつ他端を定力ばねに取り付けて、上部電極の温度が上昇したときにそれらの熱膨張に関係なく、確実に電極の引張が一定に保たれるようにした(
図9を参照)。
【0051】
上部電極は、高電圧電源の接地(負)に接続した。下部電極は、高電圧電源の正出力に接続した。
【0052】
また、上部電極は、各端部で二次電源に並列に接続した。これにより、二次電源との間に閉回路を作り出した。
【0053】
実験は、まず高電圧電源にのみ通電することによって行い、高電圧電源の出力を10KV~30.7KVに変化させることによってスラスト測定値を記録した。
【0054】
その後、実験を繰り返したが、ただし両方の電源(高電圧電源および二次電圧電源)を通電して行った。高電圧電源の出力を10KV~30に変化させることによりスラスト測定値を記録した。供給する二次電源は32VDCに設定し、変更しなかった。
【0055】
第1の実験と第2の実験との間の測定値の差は、本発明の実施形態がもたらし得る、生成されたスラストのレベルへの改善を実証している。
【0056】
図10は、スラストレベルの増加における改善への寄与を示す実験結果を示す。
図11は、達成したスラストの改善率を示す。驚くべきことに、結果は、高電圧電源からの18KV入力電圧に対して
254.4%という予想外の最大寄与を示した。
【0057】
前述の実施例は、単一のセルスラスタであった。実施例は、複数の電極構成および電極に供給される複数の電圧極性を使用して繰り返すことができる。
【0058】
前述の実施例は、電極材料を、二次電圧電源に通電する前に上部電極を加熱する必要があり得る、より低い仕事関数を有する電極材料に置き換えることによって、同様の成功をもって繰り返すことができる。また、実施例は、UV光照射によって到達可能な仕事関数を有する材料を用いて繰り返すこともできる。
【0059】
本発明は、これらの記載された実施形態を特に参照して詳細に説明されてきたが、他の実施形態で同じ結果を達成することができる。本発明の変形形態および修正形態は、当業者には明らかであり、添付の特許請求の範囲において、すべてのそのような修正および等価物を網羅することが意図される。上記で引用した全ての参考文献、出願、特許、および刊行物の開示全体が、参照により本明細書に組み込まれる。
【国際調査報告】