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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-09
(54)【発明の名称】電子ノーズの再較正方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/41 20060101AFI20230302BHJP
【FI】
G01N21/41 101
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022540621
(86)(22)【出願日】2020-12-28
(85)【翻訳文提出日】2022-08-29
(86)【国際出願番号】 EP2020087942
(87)【国際公開番号】W WO2021136761
(87)【国際公開日】2021-07-08
(31)【優先権主張番号】1915729
(32)【優先日】2019-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520085280
【氏名又は名称】アリベール
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】ヘリアー シリル
(72)【発明者】
【氏名】ハーバイン デビッド
(72)【発明者】
【氏名】カリチュ ヤニス
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059BB01
2G059CC12
2G059EE02
2G059EE04
2G059FF01
2G059FF04
2G059FF08
2G059KK04
2G059KK10
2G059MM01
2G059MM17
(57)【要約】
本発明は、以下の工程を含む電子ノーズ(1)の再較正方法に関する。標的化合物を含まず、種々の相対湿度(φ)の値を有する基準ガスを測定チャンバ(21)へ連続的に注入し、各注入の過程で測定信号(S(t))を決定し、次に、各基準ガスについて、決定された測定信号(S(t))を表すベースライン(S )を決定し、ベースラインは、存在する基準ガスの相対湿度(φ)に関連付けられ、決定されたベースライン(S )と所定の相対湿度(φ)とに基づいて第2補正関数(f ref1、h ref1)を決定し、第2補正関数(f ref1、h ref1)を第1補正関数(f ref0、h ref0)の代わりに処理ユニット(30)に格納する。
【選択図】図7A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定チャンバ(21)に導入されたガスサンプル中に存在する標的化合物を特性評価するのに適した電子ノーズ(1)の再較正方法であって、
当該電子ノーズ(1)は、前記標的化合物が吸着/脱着を介して相互作用することができる受容体を有する少なくとも1つの感応部位(23)を含み、
前記電子ノーズ(1)は、相対湿度の関数として基準ガスに関連する測定信号を表すパラメータの変化を表す第1補正関数(f ref0、h ref0)を予め格納する処理ユニット(30)を含み、
当該再較正方法は、
標的化合物を含まない基準ガスを前記測定チャンバ(21)に連続的に注入(311、411)し、前記基準ガスは、種々の所定のゼロ以外の相対湿度(φ)値を有するように次々に注入され、
各注入の過程において、前記感応部位(23)に伝達された励起信号に応答して、種々の測定時間で存在する前記基準ガスと前記受容体との相互作用を表す測定信号(S(t))を決定し(312、412)、次いで、各基準ガスについて、存在する前記基準ガスの前記相対湿度(φ)に関連する、決定された測定信号(S(t))を表すベースライン(S )を決定し、
相対湿度(φ;Δφ)の関数として前記基準ガスに関連する測定信号を表すパラメータ(S ;ΔS )の変化を表す第2補正関数(f ref1、h ref1)を決定し(314、414)、
当該第2補正関数の決定は、前記決定されたベースライン(S )及び前記相対湿度(φ)の所定の値に基づいて行われ、前記第2補正関数(f ref1、h ref1)は、前記第1補正関数(f ref0、h ref0)の代わりに前記処理ユニット(30)に格納される、再較正方法。
【請求項2】
前記ベースライン(S )は、対応する測定信号(S(t))の少なくとも一部の平均であり、前記測定信号を表す前記パラメータ(S ;ΔS )は、前記ベースライン(S )と等しい、
請求項1に記載の再較正方法。
【請求項3】
前記連続した注入工程は、種々のリザーバ(41)から種々の基準ガスを少なくとも3回連続して注入することを含む、請求項1又は2に記載の再較正方法。
【請求項4】
前記連続した注入工程は、所定の基準ガスを注入することを含み、前記所定の基準ガスは、初期段階対湿度値(φinit)を有するリザーバ(41)から引き出され、前記測定チャンバ(21)に到達する前に、部分的に親水性液体で満たされたリザーバ(43)を通過し、
これにより、前記測定チャンバ(21)に導入される前記基準ガスは、前記初期値(φinit)から中間値(φint)を介して最終値(φ)まで減少する相対湿度を有する、
請求項1又は2に記載の再較正方法。
【請求項5】
前記連続注入工程は、複数の注入サイクルを含み、
各サイクルは、第1相対湿度(φ1,ref)を有する第1基準ガスの注入と、種々の第2相対湿度(φ)を有する種々の第2基準ガスの注入とを含み、
各第2相対湿度(φ)と前記第1相対湿度(φ1,ref)との間に、互いに異なる複数の相対湿度差(Δφ)を得る、
請求項1に記載の再較正方法。
【請求項6】
前記電子ノーズ(1)は、前記第1相対湿度(φ1,ref)を有する前記第1基準ガスの第1ソース(41)と、前記種々の第2相対湿度(φ)を有する前記種々の第2基準ガスの種々の第2ソース(41)とを含む、
請求項5に記載の再較正方法。
【請求項7】
前記測定信号を表す前記パラメータ(S ;ΔS )は、第1基準ガスと各第2基準ガスとに関連付けられたベースライン(S )の間の基準差(ΔS )に等しく、各基準差(ΔS )は互いに異なる、
請求項5又は6に記載の再較正方法。
【請求項8】
前記電子ノーズ(1)の使用方法であって、前記請求項のいずれか一項に記載の方法を介して達成される再較正の前に実施される第1特性評価段階と、前記再較正の後に実施される第2特性評価段階とを含む、標的化合物を特性評価する複数の段階を含み、各特性評価段階が以下の工程を含む、
測定チャンバへ下記を注入(21)し、
第1段階Pa中に、標的化合物を含まない基準ガス、
その後、第2段階Pb中に、前記標的化合物を含むガスサンプル、
当該注入の過程において、前記感応部位に伝達された励起信号に応答して、種々の測定時間で、少なくとも存在する前記ガスと受容体との相互作用を表す測定信号を決定し、
前記測定チャンバ内の前記第1、及び第2段階Pa、Pbの各相対湿度φ1、φ2の測定し、なお、φ2はφ1と異なり、
少なくとも測定された相対湿度値φ2と、相対湿度の関数として前記基準ガスに関連する前記測定信号を表すパラメータの変動を表す所定の補正関数(f,h)とに基づいて、前記感応部位に関連する補正パラメータを決定し、
少なくとも決定された補正パラメータに基づいて、前記ガスサンプルに関連する前記測定信号を補正することによって有用な信号を決定し、
前記有用な信号に基づいて前記標的化合物を特性評価し、
前記第1特性評価段階は、予め格納された第1補正関数(f ref0,h ref0)を用い、
前記再較正は、第2補正関数(f ref1,h ref1)を決定し、
前記第2特性評価段階は、当該決定された第2補正関数(f ref1,h ref1)を使用する、
方法。
【請求項9】
請求項1~7に記載の再較正方法及び請求項8に記載の使用方法を実施するのに適した、標的化合物を特性評価するための電子ノーズ(1)であって、
前記電子ノーズは、
測定装置(20)であって、
特性評価される対象の化合物を含むガスサンプルを受け入れるのに適しており、前記標的化合物が吸着/脱着を介して相互作用することができる受容体を有する少なくとも1つの感応部位(23)を備える測定チャンバ(21)と、
少なくとも存在する前記ガスと前記受容体との相互作用を表す測定信号(S(t))を、種々の測定時間において、前記感応部位に伝達された励起信号に応答して決定するのに適した測定ユニット(24、25)と、
前記測定チャンバ(21)内に存在する前記ガスの相対湿度値を測定するのに適した湿度センサ(26)と、を備える測定装置と、
流体供給装置(10)であって、
前記測定チャンバ(21)に接続された基準ガスのソース(11)と、
前記測定チャンバ(21)に接続された標的化合物のソース(12)であって、当該ガスサンプルは、ガス及び前記標的化合物から形成されるソースと、を備える液体供給装置と、
少なくとも1つの基準ガスの少なくとも1つのソース(41)を含み、当該ソースは、種々の相対湿度値を有する基準ガスを測定チャンバ(21)に供給するのに適している流体再較正装置(40)と、
処理ユニット(30)であって、
少なくとも1つの相対湿度測定値(φ2)と、前記感応部位(23)に関連し、かつ前記測定された相対湿度(φ;Δφ)の関数として基準ガスに関連する前記測定信号を代表するパラメータ(S ;ΔS )の変動を表す、決定された補正関数(f,h)と、に基づいて修正パラメータ(S ;ΔS )を決定することと、
少なくとも前記決定された補正パラメータ(S ;ΔS )に基づいて、前記ガスサンプルに関連する前記測定信号(S(t∈Pb))を補正することにより、有用な信号(Su(t∈Pb))を決定することと、
決定された前記有用な信号(Su(t∈Pb))に基づいて、前記標的化合物を特性評価することと、
前記測定チャンバ(21)内に存在する前記基準ガスの当該種々の相対湿度値、及び対応する測定信号(S(t))に基づいて補正関数(f,h)を決定こと、に適した処理ユニットと、
を備える、電子ノーズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は、特性評価段階の間に相対湿度の変化を示す測定チャンバに導入されたガスサンプル中の対象の化合物の特性評価を可能にする電子ノーズの分野である。
【背景技術】
【0002】
ガスサンプル中に含まれる臭気分子や揮発性有機化合物などの対象の化合物を分析し、その特性評価をする能力は、種々の分野、特に健康分野、食品加工業界、香水業界、及び限られた公私の場所(自動車産業、接客業、共有場所など)での嗅覚の快適さに関して重要性を増している。ガスサンプル中に存在する対象の化合物の特性は、「電子ノーズ」と呼ばれる特性評価システムによって達成される。
【0003】
特性評価には種々のアプローチがあり、特に、対象の化合物又は受容体がマーカーで事前に「標識」される必要があるかどうかが互いに異なる。このようなマーカーの使用を必要とする蛍光による検出などとは異なり、表面プラズモン共鳴(SPR:surface plasmon resonance)による検出は、いわゆる標識不使用技術の一例である。
【0004】
SPR特性評価技術は、SPRイメージング技術を用いた電子ノーズによって実施することができ、対象の化合物は、その後、ガスサンプル中に含まれ、複数の異なる感応部位に位置する受容体と吸着/脱着を介して相互作用する。この特性評価技術は、対象の化合物と受容体との吸着/脱着相互作用による局所屈折率の時間関数としての変化を表す光学信号(感応部位の各々に関連する)をリアルタイムで検出することにある。
【0005】
対象の化合物と受容体との相互作用の化学的又は物理的親和性が事前に知られていない限り、対象の化合物の特性評価は、対象の化合物と受容体との吸着/脱着相互作用を表すパラメータの(定常状態の)平衡値を決定することを意味し、このパラメータは、ここでは、感応部位の各々についての局所屈折率における時間の関数としての変化を表す。このようにして、対象の化合物を特徴付ける相互作用パターン、すなわちサインが得られる。具体的には、感応部位(機能化された表面)における対象の化合物の吸着/脱着相互作用が、区別化された吸着特性を示すので、ガス中に存在するどの分子が種々の感応部位の表面に付着したかを決定することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2018/158458号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Brenet et al.“Highly-Selective Optoelectronic Nose based on Surface Plasmon Resonance Imaging for Sensing Gas Phase Volatile Organic Compounds”, Anal. Chem. 2018, 90, 16, 9879-9887
【非特許文献2】Shao et al.“Mechanism and Characteristics of Humidity Sensing with Polyvinyl Alcohol-Coated Fiber Surface Plasmon Resonance Sensor”, Sensors 2018, 18, 2029
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この点に関して、図1A及び図1Bは、特許文献1に記載されているような電子ノーズの例を示している。この種の電子ノーズ1は、一般に、標的化合物を供給するための流体装置10、SPRイメージング測定装置20、及び処理ユニット(図示せず)を含む。
【0009】
測定装置20は、ガスサンプルを受け入れるように意図された測定チャンバ21を備え、このチャンバには、感応部位23のマトリックスアレイが配置された測定キャリア22が配置されている。測定キャリア22は、対象の化合物と相互作用するのに適した種々の受容体が固定された金属層から形成され、種々の受容体は、互いに異なる感応部位23を形成するように配置される。次いで、これらの受容体は、金属層と誘電体媒体、ここでは気体媒体との間の界面に位置する。
【0010】
測定装置20は、励起光信号を発する光源24と、画像センサ25とをさらに備える。少なくとも1つの集束又はコリメートレンズ及び少なくとも1つの偏光子は、公知の方法で、光源24と画像センサ25との間の光路上に設けられてもよい。光源24は、表面プラズモンを発生させる作用角θで測定キャリア22の方向に励起光信号を放射するように設計されている。励起光信号の反射部分は、測定光信号を形成し、画像センサ25によって検出される。測定光信号の強度は、測定キャリア22の屈折率に局所的に依存し、それ自体は、生成される表面プラズモン及び各感応部位23に位置する材料の量に依存し、この材料の量は、感応化合物と受容体との間の相互作用に依存して経時的に変化する。
【0011】
電子ノーズ1の処理ユニットは、「センサグラム」、すなわち、対象の化合物と受容体との相互作用(吸着及び脱着)の動力学に関する情報を抽出する目的で、対象の化合物と種々の感応部位22の各々の受容体との吸着/脱着相互作用を表すパラメータの時間発展に対応する信号を分析するのに適している。これらのセンサグラムは、各感応部位23の画像センサ25によってリアルタイムで検出された測定光信号の強度に対応する測定信号S(t)であってもよいし、各感応部位23に関連する反射率の変動Δ%R(t)の時間発展に対応する「有用な」信号Su(t)であってもよい。反射率%Rは、光源24から出射された励起光信号の強度に対する画像センサ25で検出された測定光信号の強度の比として定義される。反射率Δ%Rの変動は、対象の化合物とは無関係に、測定チャンバ内に存在するガスのみに関連するベースラインを反射率%R(t)の時間発展から差し引くことによって得られる。
【0012】
したがって、種々の感応部位23に関連する有用な信号Su(t)は、対象の化合物が測定チャンバ21内に導入される前に同じ定常状態の初期値(好ましくは実質的にゼロに等しい)を有する。したがって、このベースラインは、感応部位23の各々に対する(対象の化合物を含まない)気体のみの影響を表すものであり、対応する測定信号Su(t)から差し引かれる。したがって、有用な信号Su(t)の強度は、測定チャンバ4の受容体に対する対象の化合物のみの影響を表す。
【0013】
最後に、流体供給装置10は、センサグラムの分析を可能にし、したがって対象の化合物の特性評価を可能にする条件下で、対象の化合物を測定チャンバ21内に導入するのに適している。この点に関して、非特許文献1において、SPRイメージング電子ノーズ1を用いてガスサンプルを特性評価する方法が記載されている。
【0014】
この方法は、対象の化合物と受容体との間の相互作用の速度論が定常状態平衡状態に達するように、測定チャンバにガスサンプルを供給することからなる。
【0015】
より正確には、図1Cに示すように、流体注入は、連続した以下の工程を含む。
初期段階と呼ばれる第1段階Paにおいて、対象の化合物を含まない基準ガスのみを測定チャンバに注入し、この基準ガスは、一般に、ガスサンプルのキャリアガスと同一であり、
特性評価段階と呼ばれる第2段階Pbにおいて、キャリアガスと対象の化合物から形成されたガスサンプルを測定チャンバに注入し、
解離段階と呼ばれる第3段階Pcにおいて、測定チャンバから対象の化合物をパージするために、基準ガスのみが再び測定チャンバに注入される。
【0016】
初期段階Paは、前述のベースラインが取得され、このベースラインは、その後、有用な信号Su(t)(換言すれば、各感応部位に対する反射率Δ%R(t)の変動の時間発展)を得るために、測定信号S(t)から差し引かれることが意図されている。上述したように、流体注入のこの工程は、センサグラムが定常状態平衡領域に続く過渡的な同化領域を特徴付けるように行われる。この定常状態平衡領域に到達すると、有用な信号Su(t)の(定常状態)平衡値が処理ユニットによって抽出され、対象の化合物のサインが定義される。
【0017】
しかし、非特許文献2に示されているように、測定チャンバ内の相対湿度が測定光信号の強度に影響を及ぼすことが判明している。この文献では、著者らはSPRセンサを湿度センサとして用いていた。しかしながら、電子ノーズを用いて対象の化合物を特性評価する方法の場合、測定チャンバ内の相対湿度の変動は、特性評価の質に悪影響を及ぼす測定バイアスを形成する。さらに、相対湿度が長期間にわたって変化し、したがって、同じ対象の化合物及び同じ操作条件について、ある特性評価から次の特性評価へと変化する場合、これは、これらの同じ対象の化合物の特徴を互いに異なったものにする経時的なドリフトをもたらす。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の目的は、従来技術の欠点を少なくとも部分的に改善し、より詳細には、測定チャンバに導入されたガスサンプル中に存在する標的化合物を特性評価するのに適した電子ノーズの再較正方法を提供することである。
当該電子ノーズは、前記標的化合物が吸着/脱着を介して相互作用することができる受容体を有する少なくとも1つの感応部位を含み、前記電子ノーズは、相対湿度の関数として基準ガスに関連する測定信号を表すパラメータの変化を表す第1補正関数を予め格納する処理ユニットを備える。
当該方法は、標的化合物を含まない基準ガスを前記測定チャンバに連続的に注入し、前記基準ガスは、種々の所定のゼロ以外の相対湿度値を有するように次々に注入され、各注入の過程において、前記感応部位に伝達された励起信号に応答して、種々の測定時間で存在する前記基準ガスと前記受容体との相互作用を表す測定信号を決定し、次いで、各基準ガスについて、存在する前記基準ガスの前記相対湿度に関連する、決定された測定信号を表すベースラインを決定し、相対湿度の関数として前記基準ガスに関連する測定信号を表すパラメータの変化を表す第2補正関数を決定し、当該第2補正関数の決定は、前記決定されたベースライン及び前記相対湿度の所定の値に基づいて行われ、前記第2補正関数は、前記第1補正関数の代わりに前記処理ユニットに格納される工程を含む。
【0019】
前記ベースラインは、対応する測定信号の少なくとも一部の平均であってもよく、前記測定信号を表す前記パラメータは、前記ベースラインと等しくてもよい。
【0020】
前記連続した注入工程は、種々のリザーバからの種々の基準ガスを少なくとも3回連続して注入することを含むことができる。
【0021】
前記連続した注入工程は、所定の基準ガスの注入を含むことができ、前記所定の基準ガスは、初期段階対湿度値を有するリザーバから引き出され、前記測定チャンバに到達する前に、部分的に親水性液体で満たされたリザーバを通過し、これにより、前記測定チャンバに導入される前記基準ガスは、前記初期値から中間値を経て最終値まで減少する相対湿度を有する。
【0022】
前記連続した注入工程は、複数の注入サイクルを含むことができ、各サイクルは、第1相対湿度を有する第1基準ガスの注入と、種々の第2相対湿度を有する種々の第2基準ガスの注入とを含み、各第2相対湿度と前記第1相対湿度との間に、互いに異なる複数の相対湿度差を得る。
【0023】
前記電子ノーズは、前記第1相対湿度を有する前記第1基準ガスの第1ソースと、前記種々の第2相対湿度を有する前記種々の第2基準ガスの種々の第2ソースとを含むことができる。
【0024】
前記測定信号を表す前記パラメータは、前記第1基準ガスと前記種々の第2基準ガスのそれぞれとに関連するベースライン間の基準差に等しくてもよく、各基準差は他と異なる。
【0025】
本発明もまた、標的化合物を特性評価する複数の段階を含む電子ノーズの使用方法であって、前記特徴のいずれか1つに記載の方法を介して達成される再較正の前に実施される第1特性評価段階と、前記再較正の後に実施される第2特性評価段階とを含み、各特性評価段階は、以下の工程を含む方法である。
測定チャンバへ、第1段階Pa中に、標的化合物を含まない基準ガス、その後、第2段階Pb中に、前記標的化合物を含むガスサンプル、を注入し、
当該注入の過程において、前記感応部位に伝達された励起信号に応答して、種々の測定時間で、少なくとも存在する前記ガスと受容体との相互作用を表す測定信号を決定し、前記測定チャンバ内の前記第1、及び第2段階Pa、Pbの各相対湿度φ1、φ2の測定し、なお、φ2はφ1と異なり、
少なくとも測定された相対湿度値φ2と、相対湿度の関数として前記基準ガスに関連する前記測定信号を表すパラメータの変動を表す所定の補正関数(f,h)とに基づいて、前記感応部位に関連する補正パラメータを決定し、
少なくとも決定された補正パラメータに基づいて、前記ガスサンプルに関連する前記測定信号を補正することによって有用な信号を決定し、
前記第1特性評価段階は、予め格納された第1補正関数を用い、前記再較正は、第2補正関数を決定し、前記第2特性評価段階は、当該決定された第2補正関数を使用する、方法に関する。
【0026】
本発明もまた、標的化合物を特性評価するための電子ノーズに関するものであって、前記電子ノーズは、前記特徴にしたがった再較正方法及び前記特徴にしたがった使用方法を実施するのに適しており、当該電子ノーズは、
特性評価される対象の化合物を含むガスサンプルを受け入れるのに適しており、前記標的化合物が吸着/脱着を介して相互作用することができる受容体を有する少なくとも1つの感応部位を備える測定チャンバと、少なくとも存在する前記ガスと前記受容体との相互作用を表す測定信号を、種々の測定時間において、前記感応部位に伝達された励起信号に応答して決定するのに適した測定ユニットと、前記測定チャンバ内に存在する前記ガスの相対湿度値を測定するのに適した湿度センサと、を備える測定装置と、
前記測定チャンバに接続された基準ガスのソースと、前記測定チャンバに接続された標的化合物のソースであって、当該ガスサンプルは、ガス及び前記標的化合物から形成されるソースと、を備える液体供給装置と、
少なくとも1つの基準ガスの少なくとも1つのソースを含み、当該ソースは、種々の相対湿度値を有する基準ガスを測定チャンバに供給するのに適している流体再較正装置と、
少なくとも1つの相対湿度測定値と、前記感応部位に関連し、かつ前記測定された相対湿度の関数として基準ガスに関連する前記測定信号を代表するパラメータの変動を表す、決定された補正関数と、に基づいて修正パラメータを決定することと、少なくとも前記決定された補正パラメータに基づいて、前記ガスサンプルに関連する前記測定信号を補正することにより、有用な信号を決定することと、決定された前記有用な信号に基づいて、前記標的化合物を特性評価することと、前記測定チャンバ内に存在する前記基準ガスの当該種々の相対湿度値、及び対応する測定信号に基づいて補正関数を決定こと、に適した処理ユニットと、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0027】
本発明の他の態様、目的、利点及び特徴は、その好ましい実施形態の以下の詳細な説明を読むとより明確になるであろう。この説明は、非限定的な例として、添付図面を参照して与えられる。
【0028】
図1A】既に説明した従来技術の一例によるSPRイメージング電子ノーズ及び測定キャリアの感応部位の断面図を示す。
図1B】従来技術の一例によるSPRイメージング電子ノーズ及び測定キャリアの感応部位の上方から見た部分図を示す。
図1C】従来技術の例による電子ノーズによって測定されたセンサグラムSu(t)の例であり、これらのセンサグラムは、ここでは、感応部位のそれぞれに関連する反射率Δ%R(t)における変動の時間発展に対応する。
図2A】先行技術による特性評価方法を用いて得られた3つの相互作用パターン(サイン)の例であり、初期段階Paと特性評価段階Pbとの間の測定チャンバ内の相対湿度差に起因して対象の化合物の特性評価が劣化することを示す。
図2B】SPR撮像用電子ノーズを用いて、測定チャンバ内の相対湿度φについて、相対湿度が一定でφ1に等しい場合、相対湿度が一定でφ2に等しい場合、φ1と異なるφ2、初期段階Paと特性評価段階Pbとの間で相対湿度がφ1からφ2まで通過する場合など、種々の状況で得られる種々の測定信号S(t)の一例を示す。
図2C】特性評価段階における相対湿度の変化に関連する測定バイアスを補正するために前記ノーズが適している一実施形態によるSPRイメージング電子ノーズの概略図及び部分図を示す。
図3】第1実施形態による特性評価方法のフローチャートを示す。
図4A】相対湿度φの関数として基準ガス(対象の化合物なし)に関連するベースライン(S )の変化を表す較正関数hの例であるに示す。
図4B図2Aに既に示されている3つの相互作用パターン(サイン)と、第1実施形態に係る特性評価方法を用いて得られた相互作用パターンとを示す。
図5】第2実施形態による特性評価方法のフローチャートを示す。
図6A】(対象の化合物を含まない)種々の基準ガスの種々の注入サイクルに対する測定信号S(t)の差の一例であり、各サイクルは、相対湿度φ1,refがサイクルの過程で一定のままである第1基準ガスの注入と、それに続く少なくとも第2基準ガスの注入を含み、相対湿度φj=2,3...がサイクルの過程で変化する。
図6B図6Aに示されたサイクルの過程における相対湿度差Δφを示す。
図6C】相対湿度差Δφの関数としてベースライン(S )の差の変化を表す較正関数fの例を示す。
図7A】前記ノーズが再較正段階を実行するように構成されている一実施形態による電子ノーズの概略図及び部分図を示す。
図7B】再較正段階を実施する、図7Aに示された電子ノーズの使用方法のフローチャートを示す。
図7C】1つの変形実施形態による電子ノーズの一部の概略図を示す。
図8A】前記ノーズが再較正段階を実行するように構成された別の実施形態による電子ノーズの概略図及び部分図を示す。
図8B】再較正段階を実施する、図8Aに示された電子ノーズの使用方法のフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図及び説明の残りの部分では、同一又は類似の要素を指定するために同じ参照が使用されている。さらに、種々の要素は、図を明確にするために縮尺どおりに示されていない。さらに、種々の実施形態及び変形例は、相互に排他的ではなく、互いに組み合わせてもよい。特に明記しない限り、「実質的に」、「約」及び「のオーダー」という用語は、10%以内、好ましくは5%以内を意味する。さらに、「...と...の間で構成される」及び同等物という用語は、特に明記されていない限り、限界値を含むことを意味する。
【0030】
本発明は、分析されるガスサンプルを形成するキャリアガス中に存在する対象の化合物の特性評価に関する。特性評価は、湿度センサを備えた測定装置と、標的化合物を供給するための流体装置と、処理ユニットとを備える「電子ノーズ」と呼ばれる分析システムを用いて行われる。以下に詳述するように、電子ノーズはまた、流体再較正装置を備えており、再較正段階を実行するのに適している。これにより、測定チャンバ内の相対湿度の変化に関連する測定バイアスを補正するために使用される補正機能を更新することができる。
【0031】
例として、電子ノーズは、表面プラズモン共鳴(SPR)測定技術を使用する。測定装置は、画像センサであってもよく、複数の感応部位6(kは感応部位のランク)を有する測定チャンバであってもよく、又は光検出器であってもよい。この場合、測定は、最小反射率角度を探索することによって行われ、この角度は、ある量の材料が素領域上に堆積されるときの指数の変動を表す。SPR技術は、多くの場合、表面上の任意の点に堆積された材料の量を測定することを可能にする画像センサ(SPRイメージングのためのSPRI)を使用し、センサの最適な調整角度は、平均最小反射角であり、画像のグレースケールレベルは、材料の表面堆積物に関連する屈折率の変動を表す。変形例として、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)又はNEMS(Nano Electro Mechanical Systems)電磁共振器(例えば、欧州特許出願公開第3184485号明細書に記載)を用いた測定など、他の測定技術を実施してもよい。より広義には、測定装置は、抵抗、圧電、機械、音響又は光学測定装置であってもよい。
【0032】
一般に、「特性評価」とは、電子ノーズの1つ以上の感応部位の受容体とガスサンプル中に含まれる対象の化合物との相互作用を表す情報の取得を意味する。ここでいう相互作用とは、対象の化合物が受容体に吸着及び/又は受容体から脱離する事象である。この情報は、相互作用パターン、すなわち、対象の化合物の「サイン」を形成し、このパターンは、例えば、ヒストグラム又はレーダーチャートの形態で表現可能である。より正確には、電子ノーズがN個の別個の感応部位を含む場合、相互作用パターンは、N個のスカラー又はベクトルの情報の代表的な項目によって形成され、これらは、当該感応部位に関連する測定信号から得られる。
【0033】
一般に、対象の化合物(分析物)は、電子ノーズによって特性評価されることが意図された元素であり、ガスサンプル中に含まれる。例えば、とりわけ、細菌、ウイルス、タンパク質、脂質、揮発性有機分子、無機化合物、などであり得る。さらに、受容体(リガンド)は、感応部位に固定され、対象の化合物と相互作用することができる要素であるが、感応化合物と受容体との間の化学的及び/又は物理的親和性は必ずしも知られていない。種々の感応部位の受容体は、好ましくは、異なる物理化学的特性を有し、これは、対象の化合物と相互作用するそれらの能力に影響を及ぼす。それは、例えば、とりわけ、アミノ酸、ペプチド、ヌクレオチド、ポリペプチド、タンパク質、有機ポリマーの問題であり得る。
【0034】
部分的に上述された図1Cは、センサグラムがそれぞれ慣用的であると言われるプロファイルを有する、すなわち、対象の化合物と受容体との間の相互作用において平衡(すなわち定常状態)の領域を特徴とする特性評価方法との関連において、SPRイメージング電子ノーズ1の感応部位23と関連するセンサグラムSu(t)の例を示す。この例では、相対湿度φは、初期段階Paと特性評価段階Pbとの間で実質的に変化しない。
【0035】
センサグラムSu(t)は、対象の化合物と当該感応部位23の受容体との間の相互作用を表す特性評価パラメータの時間発展に対応する。前記パラメータは、励起信号の放射に応答して感応部位23によって生成される測定信号S(t)の強度に基づいて決定される。この例では、特性評価パラメータは、ベースラインに関して感応部位23に関連する反射率%R(t)における変動Δ%R(t)であるが、電子ノーズの別の構成においては、透過係数における変動であってもよい。ここで、反射率Δ%R(t)の変動は、当該感応部位23の屈折率の改変と相関され、これは、対象の化合物と感応部位23の受容体との吸着及び脱着相互作用に依存する。
【0036】
公知の方法では、従来の形状のセンサグラムSu(t)は、初期段階Pa、対象の化合物を特性評価する段階Pb、及び解離段階Pcを示す。センサグラムSu(t)のy軸値は、当該感応部位23の受容体の数に特に比例する。
【0037】
初期段階Paは、時間tから時間tまでの間、測定チャンバ21への(対象の化合物を含まない)基準ガスの導入に対応する。測定信号S(t)、換言すれば、t≦t<t間の各感応部位23について決定された反射率%R(t)の時間発展は、各感応部位23について、測定チャンバ内の環境を特性評価する。そこから、一般に1つの感応部位23と次の感応部位とは異なるベースラインS が推定され、次に、測定信号S(t)から差し引かれて、図1Cに示す有用な信号Su(t)が得られる。したがって、センサグラムは有用な信号Su(t)を示し、したがって、初期段階Paにおいて、すべての感応部位23についてゼロに近い同じ初期値を有する。
【0038】
注入段階Pbは、時間tから時間tまでの、測定チャンバ21へのガスサンプル(キャリアガス及び対象の化合物、ならびに必要に応じて無臭の気相希釈剤)の導入に対応する。この段階は、過渡的な同化領域Pb.1とそれに続く定常状態平衡領域Pb.2を有する。この例では、相対湿度φは、各段階Pa、Pb、Pcにおいて一定である。
【0039】
過渡的な同化領域Pb.1は、対象の化合物が測定チャンバ21内に注入されるとき、対象の化合物と受容体との間の相互作用が徐々に、しかし指数関数的に増加(Langmuir吸着モデルの近似)する。同化領域におけるセンサグラムの指数関数的成長は、脱着事象よりも多くの吸着事象が存在するという事実による。
【0040】
ここで、対象の化合物A(分析物)と受容体L(リガンド)との相互作用は、対象の化合物Aが受容体Lに吸着して対象の化合物/受容体対LA(リガンド-分析物)を形成する係数k(mol-1・s-1)と、化合物LAの解離に対応する脱着係数k(s-1)によって特性評価される可逆的効果であることに留意されたい。k/kの比は、受容体Lの50%を飽和させる対象の化合物Aの濃度cの値を与える平衡解離係数k(mol)以外のものではない。
【0041】
化合物LAの濃度cLA(t)が定常dcLA/dt=0のままであるとき、すなわち、定数kに対象の化合物の濃度c(t)及び受容体c(t)(吸着事象の数)を乗じた積が、定数kに化合物LAの濃度cLA(t)(脱着事象の数)を乗じた積に等しいとき、すなわち、以下の速度式が満たされるとき、Pb.2は、dcLA/dt=k×c×c-k×cLA=0である。測定信号の最大定常状態値は、対象の化合物Aの濃度c(t)に比例する。対象の化合物Aの濃度cが十分である場合、感応部位における受容体Lの飽和が達成され得る。
【0042】
解離段階Pcは、化合物LAの濃度が通常は指数関数的に減少するように、時間tから測定チャンバ内に存在する対象の化合物を除去する工程に相当する。これは、再び同じ基準ガスを測定チャンバに導入することによって行うことができる。
【0043】
しかしながら、特性評価段階の過程における測定チャンバ21内の相対湿度の変動が、特性評価の品質に悪影響を及ぼす測定バイアスを発生させていることが観察されている。この測定バイアスは、初期段階Paと特性評価段階Pbとの間の測定チャンバ21内の相対湿度のゼロ以外の差に関連するバイアスである。これは、測定チャンバ内の環境を特性評価するパラメータ(ここでは相対湿度)の時間の関数としての変化から生じる限りにおいて、測定バイアスであり、理論的には時間の経過と共に安定しているべきものである。ここでは、「測定ノイズ」ではなく「測定バイアス」と呼ばれるが、これは、測定信号の変動が決定的であり、かつランダムな性質ではないという問題であるからである。この湿度の変化は、初期段階Paに注入された基準ガス(多くの場合、周囲空気)と、注入期間Pbに注入されたガスサンプル(多くの場合、排水などの臭気ガス)と、混合された周囲空気との間の含水量の差に起因することがある。この排水は、1つ又は複数の親水性又は疎水性分子によって特性評価される場合があり、実際には、その放出が周囲空気よりも多くの水を含む原料(例えば調理された食品)に起因する場合がある。
【0044】
換言すれば、相対湿度は、初期段階Paにおいて実質的に一定の第1値φ1と、特性評価段階Pbにおいて実質的に一定であるが異なる第2値φ2とを有することができる。ここで、相対湿度差Δφはφ2-φ1とする。相対湿度φとは、測定チャンバ内に存在するガス、ここではキャリアガスの水蒸気含有量を意味する。これは、存在する気体に含まれる水蒸気の分圧と、同じ温度での飽和蒸気圧との比である。
【0045】
この測定バイアスは、ガスサンプルの相対湿度φ2が、初期段階Paに導入された基準ガスの相対湿度φ1とは異なり、例えばそれよりも低い場合に特に存在する。したがって、初期段階Paにおいては、基準ガスは、電子ノーズ1の環境から得られる相対湿度φ1の湿った空気であってもよい。特性評価段階Pbでは、ガスサンプルは、例えば、電子ノーズ1の環境から得られた湿った空気と、リザーバ12から得られた対象の化合物とからなる。ただし、ガスサンプルの相対湿度φ2はφ1と異なっていてもよい。これは、環境から得られる湿った空気の相対湿度が変化した可能性があるためである。また、φ1とφ2との間の相対湿度の変化について、標的化合物を含有するリザーバ12のヘッドスペース内に存在するガスの相対湿度も考えられる。具体的には、ガスサンプルを形成するために、キャリアガスソース11から得られたφ1の湿った空気をリザーバ12に導入し、存在するガス(対象の化合物及び気相希釈剤)と混合する。しかしながら、液相希釈剤は親水性であってもよく、したがって、リザーバ12のヘッドスペースに導入される湿った空気の相対湿度φの減少をもたらし得る。その結果、ガスサンプルの相対湿度φ2は、φ1より低くなり、一定にならない場合がある。
【0046】
親水性の液相希釈剤がヘッドスペースに導入される湿った空気の相対湿度の連続的な低下を引き起こさないように、熱力学的平衡がリザーバ12のヘッドスペースにおいて徐々に到達し得ることに留意されたい。したがって、この特定の場合には、測定チャンバ21内のガスサンプルの相対湿度は、φ1に実質的に等しい値に徐々に近づく傾向にあり、段階PaとPbとの間の相対湿度の差Δφに関連する測定バイアスは、時間の経過と共に減少することになる。いずれにしても、熱力学的平衡に達するまで、種々の連続した特性評価は、時間の経過とともに同一ではないサインを生じる(サインは時間の関数としてドリフトする)。
【0047】
Δφに関連する測定バイアスの根底にある問題は、特性評価方法が有用な信号Su(t)に基づいて実行される場合、すなわち、対応する測定信号S(t)からベースラインS を減算する工程を含む場合、特に深刻になる。具体的には、この工程の目的は、対象の化合物の特性評価から、それらの環境に関連する効果、特にキャリアガスの効果を除外することである。しかしながら、このベースラインS は、初期段階Paにおけるキャリアガスを表しているが、測定チャンバ内のこのキャリアガスの物理的性質が変化している(相対湿度の変化)可能性があるので、必ずしも特性評価段階Pbにおけるキャリアガスを表しているわけではないことが観察されている。
【0048】
図2Aは、従来技術の一例による特性評価方法を用いて実施されている、種々のガスサンプルの特性評価を表す3つの相互作用パターン、すなわちサインを示しており、これらの相互作用パターンM1、M2及びM3は、ここでは、定常状態平衡領域Pb.2におけるセンサグラムSu(t)から決定される(定常状態)平衡値のレーダーチャートの形で表現されている。これらの結果から、相対湿度差Δφが対象の化合物のキャラクタリゼーションに及ぼす効果を示した。これらの相互作用パターンM1、M2、M3を得るために、3つの試験において同じキャリアガスを使用し、このキャリアガスは、約12%の初期段階対湿度φ1を有する湿った空気であった。
【0049】
第1サインM1は、約50%に等しい相対湿度φ2を有する湿った空気から形成され、対象の化合物がブタノール分子であるガスサンプルに対応する。このように、測定チャンバ21内の相対湿度は、初期段階Paで約12%に相当するφ1から特性評価段階で約50%に相当するφ2までの比較的大きな変動が、特性評価方法を実施したときに観察された。したがって、基準ガス(φ1における湿潤空気12%)を用いてベースラインS を決定し、ベースラインS を減算した後のガスサンプル(φ2における湿潤空気50%、対象の化合物)を用いて平衡値を決定した。この相対湿度差Δφが測定バイアスとなる。相互作用パターンM1が実際にはブタノール分子のみを表すように、この測定バイアスの影響を制限することが重要である。
【0050】
第2サインM2は、実質的にφ1(すなわち12%)に等しい相対湿度φ2を有する湿った空気から形成され、対象の化合物がブタノール分子でもある第2ガスサンプルに対応する。特性評価方法が実施された場合、基準ガス(φ1での湿潤空気)に関連するベースラインS を差し引くことによって、相対湿度の変化Δφが0である限り、ガス状環境の影響を排除して、対象の化合物と受容体との相互作用のみを特性評価することが可能であった。したがって、サインM2は、相対湿度Δφの変化に関連する測定バイアスがないため、対象の化合物のみを表す。サインM1はサインM2と重複せず、これは、M1の場合のΔφに関連する測定バイアスの存在を示すことに留意されたい。このため、測定チャンバ内の初期段階Paと特性評価段階Pbとの相対湿度Δφに差があっても、対象の化合物のみを代表するサインM2に向かうようにサインM1を補正できることが重要である。
【0051】
第3サインM3は、約50%に等しい相対湿度φ2(標的化合物なし)を有する湿った空気のみから形成される基準ガスに対応する。ここでは、電子ノーズ1による湿潤空気の特性評価に及ぼす相対湿度Δφの変化の影響のみを、対象の化合物の非存在下で測定した。初期段階Paと特性評価段階Pbとの間の相対湿度Δφが増加すると、感応部位23の反射率Δ%Rの変動が増加することが分かる。サインM1(Δφがゼロ以外の湿潤空気と対象の化合物からなる気体試料)は、サインM2(Δφが0である湿潤空気と対象の化合物からなる気体試料)とサインM3(Δφがゼロ以外の湿潤空気と対象の化合物)の間に位置し、ゼロ以外の相対湿度差Δφに関連する測定バイアスが対象の化合物のサインに及ぼす影響を明確に示すことに留意されたい。したがって、対象の化合物の特性評価の質を向上させるために、この測定バイアスを制限するか、又は除去することができることが重要である。
【0052】
図2Bは、種々のガスサンプルについての測定信号S(t)の例を示しており、したがって、相対湿度Δφの変化に関連する測定バイアスが対象の化合物の特性評価に及ぼす影響も示している。これらの実施例では、基準ガス(段階Paで注入)とガスサンプル(段階Pbで注入)のキャリアガスは湿った空気である。
【0053】
測定信号S φ1(t)は、測定チャンバ21内の相対湿度が、初期段階Pa及び特性評価段階Pbの間、φ1のまま一定である場合に相当する。相対湿度の変化Δφは0である(関連する測定バイアスはない)。ゼロ以外のベースラインS b,φ1は、基準ガス(対象の化合物を含まないφ1の湿った空気)が初期段階Paにおいて測定チャンバ21内にあるときの電子ノーズ1の応答に対応する。
【0054】
測定信号S φ2(t)は、測定チャンバ21内の相対湿度が、初期段階Pa及び特性評価段階Pbの間、φ2のまま一定である場合に相当する。相対湿度の変化Δφは0である(関連する測定バイアスはない)。ここで、相対湿度φ2はφ1よりも高い。ゼロ以外のベースラインS b,φ2は、S b,φ1とは異なり、初期段階Paにおいて基準ガス(対象の化合物を含まないφ2の湿潤空気)が測定チャンバ21内にあるときの電子ノーズ1の応答に対応する。
【0055】
測定信号S Δφ(t)は、測定チャンバ21内の相対湿度が一定でない場合に相当し、初期段階Paの値φ1から特性評価段階Pbの値φ2へと遷移する。相対湿度の変化Δφはゼロ以外であり、ここでは正である。基準ガスが初期段階Paの相対湿度φ1である限り、測定信号S φ1(t)と同じベースラインS b,φ1を有する。しかし、ガスサンプルが特性評価段階Pbにおいて相対湿度φ2である限り、測定信号S φ2(t)と同じ平衡値を有する。これにより、測定信号S Δφ(t)は、初期段階Paの測定信号S φ1(t)から、特性評価段階Pbの測定信号S φ2(t)へと徐々に移行する。そして、測定バイアスは、S b,φ2とS b,φ1との差に対応するΔS b,Δφのオーダーの大きさを有する。したがって、対象の化合物のみを特性評価するためには、測定信号S Δφ(t)における測定バイアスΔS b,Δφを低減又は除去することさえ可能であることが必要である。
【0056】
図2Cは、一実施形態による電子ノーズ1の概略的かつ部分的な図であり、ノーズは、特性評価段階の過程における測定チャンバ21内の相対湿度Δφの変化に関連する測定バイアスΔS b,Δφを補正するのに適している。
【0057】
電子ノーズ1は、ここでは、測定チャンバ21に導入されたガスサンプル中に含まれる対象の化合物(例えば、臭気分子、揮発性有機化合物)を特性評価することができる光電子システムである。これらの図に示される電子ノーズ1は、ここではSPR技術に基づいており、本発明はこの構成に限定されるものではないが、この例では、当業者に公知のクレッチマン構成の特徴を有する。しかしながら、上述のように、受容体を備えた少なくとも1つの感応部位を有するように機能化されたMEMS又はNEMSマイクロ共振器の共振周波数の測定など、他の測定技術を使用することができる。
【0058】
電子ノーズ1は、互いに異なる複数の感応部位23を含み、これらの感応部位は、分析されるべきガスサンプルを受け取ることが意図された測定チャンバ21内に位置し、これらの感応部位はそれぞれ、研究されるべき対象の化合物と相互作用することができる受容体から形成される(図1B参照)。感応部位23は、それらが分析される対象の化合物に対する化学的又は物理的親和性に関して異なる受容体を含み、したがって、1つの感応部位23から次の感応部位へと異なる相互作用情報を送達することを意図するという意味で互いに区別される。感応部位23は、測定キャリア22の別個の領域であり、互いに隣接していても、離間していてもよい。電子ノーズ1は、例えば、任意の測定ドリフトを検出すること及び/又は欠陥のある感応部位の識別を可能にすることを目的として、複数の同一の感応部位23をさらに含むことができる。
【0059】
電子ノーズ1は、測定装置20、ここではSPRイメージング装置を備え、各感応部位23について、ここでは、当該感応部位23について得られた測定光信号の強度のリアルタイム測定を介して、対象の化合物と受容体との相互作用を定量化することができる。この光信号は、光源24によって放射された励起光信号の一部、ここでは反射部分である。光センサ25によって検出される測定光信号の強度は、注目する化合物と受容体との吸着/脱着相互作用と特に直接的に相関する。NEMS又はMEMSマイクロ共振器の共振周波数を測定する技術の場合、測定信号は、マイクロビームなどの振動を表す電気信号であってもよい。
【0060】
SPRイメージングによる測定の文脈では、測定装置20は、すべての感応部位23から測定光信号をリアルタイムで取得するのに適している。このようにして、励起光信号に応答して感応部位23から発せられた測定光信号は、同一の光センサ25によって取得された画像の形態で一緒にリアルタイムに検出される。
【0061】
したがって、測定装置20は、励起光信号と呼ばれる光信号を感応部位23の方向に伝送し、測定キャリア22上に表面プラズモンを発生させるのに適した光源24を含む。光源24は、発光スペクトルが中心波長λを中心とする発光ピークを有する発光ダイオードから形成することができる。種々の光学素子(レンズ、偏光子など)を、光源24と測定キャリア22との間に配置することができる。
【0062】
測定装置20は、光センサ25、ここでは画像センサ、すなわち、励起光信号に応答して感応部位から発せられる光信号の画像を収集又は検出するのに適したマトリックスアレイ光センサをさらに備える。画像センサ25は、例えば、マトリックスアレイ光検出器、CMOS又はCCDセンサである。したがって、それは、好ましくは、複数の画素が所与の感応部位23から発行された測定光信号を取得するような空間分解能を有する画素のマトリクスアレイを含む。
【0063】
処理ユニット30は、特性評価方法に関連して以下に説明する処理動作を実行可能にする。少なくとも1つのマイクロプロセッサ及び少なくとも1つのメモリ31を含むことができる。測定装置20に接続され、より正確には画像センサ25に接続される。それは、データ格納媒体に格納された命令を実行することができるプログラマブルプロセッサを含む。特性評価方法を実施するのに必要な命令を含む少なくとも1つのメモリ31をさらに含む。メモリ31は、各測定時間に算出された情報を格納するのにも適している。
【0064】
以下に説明するように、処理ユニット30は、現在の時刻tにおいて、感応部位23に関連する測定信号S(t)を決定するのに、測定期間Δtにおいて所定のサンプリング周波数fで取得された基本画像と呼ばれる複数の画像を格納して処理することに特に適している。好ましくは、測定信号S(t)は、測定時間tにおいて、感応部位23に関連する画素を介して画像センサ25によって反射及び検出される光信号の強度の平均に対応する。画素を介して検出された光強度の平均は、以下に詳細に説明するように、感応部位23の1つ以上の画像について計算され得る。
【0065】
流体供給装置10は、初期段階Pa中に基準ガスのみ(すなわち、対象の化合物を含まない)を、キャリアガス及び特性評価段階Pb中の対象の化合物からなるガスサンプルを、測定チャンバ21に供給するのに適している。ガスサンプルは、対象の化合物を含有する点で基本的に基準ガスと異なる。1つ以上の追加のガスが存在してもよいが、それらは無臭であるため、電子ノーズ1の部分に実質的に反応を誘発しない。ガスサンプル中に存在する追加のガスの一例は、気相希釈剤であり得る。図1Cを参照して説明したように、対象の化合物は、リザーバ12内に収容された液体希釈剤中に格納され得る。希釈剤の気相及び対象の化合物をキャリアガス(例えば、湿った空気)に加えて、ガスサンプルを形成する。基準ガスとガスサンプルは、ここでも相対湿度値が異なる。
【0066】
この目的のために、流体供給装置10は、基準ガスソース11と、対象の化合物のリザーバ12とを含む。リザーバ12は、対象の化合物が配置されている液体希釈剤を含む。流体供給装置10は、ソース11の下流に位置するバルブ13と、ソース11及びリザーバ12を測定チャンバ21と連通する流体ダクトに接続するバルブ14とを含む。これにより、測定チャンバ21には、初期段階Pa及び解離段階Pcに基準ガス(例えば相対湿度φ1の湿った空気)が供給され、特性評価段階Pbにガスサンプル(例えば、相対湿度φ2の湿った空気、対象の化合物、場合によっては気相希釈剤)が供給される。測定チャンバ21内の対象の化合物の濃度が経時的に一定に維持されるように構成されてもよい。また、電子ノーズ1は、測定チャンバ21内の相対湿度を測定可能な湿度センサ26をさらに備えている。このセンサ26は、ガスの相対湿度を直接測定してもよいし、当該ガスの相対湿度を導き出すことができる他の任意の物理パラメータを測定してもよい。湿度センサ26は、測定チャンバ21内に、又はその上流(図示のように)もしくは下流に配置されてもよい。これは、処理ユニット30に接続されており、これは、初期段階Paと特性評価段階Pbとの間の相対湿度差を計算するのにさらに適している。
【0067】
図3は、第1実施形態による対象の化合物の特性評価方法のフローチャートを示しており、ゼロ以外の相対湿度差Δφに関連する測定バイアスΔS b,Δφを減少又は除去し、測定チャンバ21内の相対湿度差Δφを、初期段階Paにおける値φ1と特性評価段階Pbにおけるφ1とは異なる値φ2との間で定義する。本実施形態では、相対湿度φ2に対する基準ガスに関連するベースラインS b,φ2の推定値に基づいて有用な信号Su(t)が補正され、この推定値は補正関数hを用いて得られる。
【0068】
予備較正段階10において、各感応部位23に関連する補正関数hが決定される。この補正関数hは、初期段階Paに導入される基準ガスに関連する測定信号を表すパラメータの変化を相対湿度φの関数として表す。より正確には、代表的なパラメータは、ここでは、基準ガスが測定チャンバ21内に存在する場合の測定信号のベースラインである。ここでS は、測定信号の推定ベースラインS (t)を示し、較正段階で推定ベースラインが決定される。より正確には、測定信号とそのベースラインが補正関数に関連付けられている場合、チルダ記号は文字Sに配置される。補正関数は連続関数であり、とりわけ多項式又は対数であってもよい。以下に詳述するように、較正段階10においてパラメータ化される。
【0069】
第1工程110では、電子ノーズ1の測定チャンバ21に流体を注入する工程が実行される。この工程は、基準ガス(ここでは、対象の化合物を含まないキャリアガス)を注入する第1初期段階Paと、ガスサンプル(対象の化合物を含むキャリアガス)を注入する過程での特性評価段階Pbと、第3解離段階Pcとを含む。基準ガスとガスサンプルとは異なる相対湿度を有し、基準ガスについてはφ1、ガスサンプルについてはφ2で示される。
【0070】
工程120では、1からNまでの範囲の各感応部位23について、現在の時間tにおいて、当該感応部位23の反射率%R(t)を表し、したがって導入された基準ガス及びガスサンプルの測定チャンバ21内の存在に対する電子ノーズ1の応答も表す測定信号S(t)が決定される。
【0071】
このため、注入工程110では、N個の感応部位23の基本画像Ieと呼ばれる複数の画像を取得する。より正確には、感応部位23は、その中で表面プラズモンを発生することができる励起光信号で照射され、励起光信号の反射部分が検出される。画像センサ25は、取得した画像を格納する処理ユニット30に接続されている。
【0072】
画像センサ25は、連続する2つの測定時間ti-1とtとの間の期間Δtにわたって、基本画像Ieの取得ランクmであるN個の異なる感応部位のマトリックス配列の複数の画像Ieをサンプリング周波数fで取得する。サンプリング周波数fは、毎秒10画像であってもよく、取得期間Δtは、例えば、数秒、4秒であってもよい。
【0073】
処理ユニットは、各基本画像Ieについて、所定の感応部位23に対応付けられた各画素i,jが取得した光強度(I(i,j))の平均値をとって基本光強度値(Iを求め、その平均値(I Δtを取得期間Δtにわたって算出する。この平均値(I Δtは、次いで、感応部位23に関連する現在時刻tにおける測定信号S(t)に対応する。
【0074】
測定信号S(t)を取得して決定するこの工程120は、流体注入工程110において実行され、複数の連続する測定時間tについて繰り返される。各反復において、iは、現在時間とも呼ばれる1つの測定時間tに関連付けられる。
【0075】
工程130では、測定チャンバ21内の相対湿度を段階Pb、Pbで測定する。このため、湿度センサ26は、段階Pa及びPbにおける相対湿度φを測定し、その測定値を処理ユニット30に送信する。ここで、相対湿度φ2(段階Pb)の値は、値φ1(段階Pa)とは異なる。相対湿度値φ1、φ2は、それぞれ、当該段階又は所定期間の相対湿度の平均値であってもよい。相対湿度φ1は、時間tの直前の期間にわたって計算された平均値であることが好ましく、したがって、特徴段階Pbである。相対湿度φ2は、好ましくは、定常状態Pb.2にある期間にわたって計算された平均値であり、例えば、時刻t、したがって解離段階Pcの直前の期間の間に計算される。
【0076】
工程140では、相対湿度φ2に対する基準ガスに関連する測定信号を表すベースラインS b,φ2が決定される。このベースラインS b,φ2は、補正関数h及び測定値φ2を用いて計算される。つまり、S b,φ2=h(φ2)となる。
【0077】
工程150では、ガスサンプルに関連する測定信号S(t)、すなわち、段階Pb(すなわちt∈Pb)に属するtについて、決定されたベースラインS b,φ2を減算することによって補正される。これにより、有用な信号Su(t∈Pb)が得られる。したがって、この実施形態に関連して、対象の化合物を含有するが、相対湿度の変化を受けたガスサンプルに関連する有用な信号は、段階Pbにおけるその測定信号S(t∈Pb)を、それ自体のベースラインS をそれから差し引くことによってではなく、補正関数hを用いて推定されたベースラインS b,φ2で補正することによって計算される。具体的には、この値S は、段階Paにおける基準ガスの相対湿度φ1に関連付けられ、一方、ガスサンプルの測定信号は、差Δφに関連付けられた測定バイアスによって影響を受ける。したがって、測定信号S(t∈Pb)からベースラインS を減算すると、測定バイアスΔS b,Δφが考慮されなくなる。一方、補正関数hを用いて推定したベースラインS b,φ2を引くことにより、相対湿度差Δφを考慮することができる。
【0078】
工程160では、補正された有用な信号Su(t∈Pb)に基づいて、対象の化合物を特性評価する。このようにして、標的化合物の特徴を形成する表示(特にヒストグラム又はレーダーチャートの形式をとる)を提供するために、平衡すなわち定常状態の値が、感応部位23の各々についてこれらの信号から抽出される。
【0079】
このように、本実施形態に係る特性評価方法によれば、段階Paと段階Pbとの間の相対湿度Δφのゼロ以外の変動に伴う測定バイアスΔS b,Δφを制限又は除去することによって、対象の化合物の特性評価の品質を向上させることができる。したがって、対象の化合物を特性評価することを可能にする有用な信号Su(t∈Pb)は、基準ガスに関連付けられたベースラインS b,φ2及び相対湿度φ2を有するガスサンプルに関連付けられた測定信号S(t∈Pb)を補正することによって計算される。これは、基準ガスが相対湿度φ2に対して有するであろうベースラインS b,φ2を推定し、次いで、工程120で検出された測定信号S(t)からこの値を減算することになる。次いで、対象となる化合物の特性評価は、対象となる化合物のみに関係し、測定チャンバ21内の相対湿度に変化が見られたガスには関係しないか、又はわずかに関係しない限り、より正確かつ正確に行われる。
【0080】
工程151から154は、有利に実施され得る。これらにより、電子ノーズ1がセンサドリフト、すなわち、対象の化合物及び操作条件が同じであっても電子ノーズ1が出力する測定信号の変動を示す場合に、対象の化合物の特性評価の品質をさらに改善することができる。このセンサドリフトは、較正段階10と特性評価段階100との間で生じ得る。
【0081】
工程151では、相対湿度φ1の基準ガスに関連する測定信号のベースラインS b,φ1が決定される。このベースラインS b,φ1は、補正関数h及び測定値φ1を用いて計算される。つまり、S b,φ1=h(φ1)となる。
【0082】
工程152では、基準ガス、すなわち段階Paに属するtに関する測定信号S(t)が、決定されたベースラインS b,φ1を減算することによって補正される。これにより、Su(t∈Pa)=S(t)-S b,φ1となるような有用な信号Su(t∈Pa)が得られる。センサドリフトのため、本来ゼロであるべき有用な信号Su(t∈Pa)は、実質的に0ではない。
【0083】
工程153において、有用な信号Su(t∈Pa)のベースラインSu が決定される。例えば、時間tの前、したがって段階Pbの前の所定の期間にわたるこの有用な信号の平均値の問題である。
【0084】
工程154において、第2ガスサンプルに関連する有用な信号Su(t∈Pb)は、そこから決定されたベースラインSu を減算することによって補正される。このようにして、このセンサドリフトのない補正された有用な信号Su(t∈Pb)が得られる。
【0085】
工程160では、修正された有用な信号Su(t∈Pb)を使用して、対象の化合物を特性評価する。このセンサドリフトが補正される限り、改善された品質の対象の化合物の特性評価が得られる。
【0086】
ここで、較正段階10は、相対湿度φの関数として、基準ガスのみ(すなわち、標的化合物を含まない)に関連するベースラインS の変動の例を示す図4A及び図4Bを参照して説明される。この較正段階10では、文字Sにチルダ記号を使用して、この段階10で取得された測定信号と特性評価段階100で取得された測定信号とを区別する。
【0087】
工程11では、基準ガスを測定チャンバ21に注入する。したがって、基準ガスはキャリアガスのみから形成され、対象の化合物を含まない。それは、時間と共に、好ましくは段階的に変化するゼロ以外の相対湿度φを有する。
【0088】
工程12では、1からNまでの各感応部位23について、現時点tにおいて、当該感応部位23の反射率%R(t)を代表し、したがって、測定チャンバ21内の基準ガスの存在に対する電子ノーズ1の応答を代表する測定信号S (t)が決定される。この工程は、工程120と同様であるため、再度説明しない。基準ガスが対象の化合物を含まない限り、測定信号S (t)は、過渡的な同化領域Pb.1及び定常状態平衡領域Pb.2を特徴としない。したがって、相対湿度φの所与の値に関連するベースラインS を決定することが可能である。φが一定であることが好ましい所定の期間にわたるの平均値S (t)の問題であることが好ましい。
【0089】
工程13では、経時的な相対湿度φ(t)が湿度センサ26を用いて測定される。
【0090】
工程14では、決定されたベースラインS と相対湿度φの測定値とに基づいて補正関数hが決定される。図4Aは、相対湿度の関数として基準ガス(湿った空気、例えば)に関連するベースラインS の変動を示す補正関数hの一例を示す。この例では、補正関数は、ここでは多項式回帰によってパラメータ化される(すなわち、多項式の次数nと係数が決定される)多項式関数である。また、対数関数、シグモイドニューラルネットワーク、ガウス混合などの他のタイプの補正関数を使用することができ、さらに、最小二乗法などの他のパラメータ化方法を使用してもよい。したがって、較正段階10に続いて、各感応部位23に関連する補正関数hが得られ、この補正関数によって、所定の相対湿度φについて基準ガス(湿った空気、例えば)に関連するベースラインS が決定される。
【0091】
図4Bは、図2Aに示される3つのサインM1、M2、M3を示す。サインM1cは、サインM1と同じ第2ガスサンプル、すなわち、約50%に等しい相対湿度φ2(したがって、相対湿度Δφに変動がある)を有する湿った空気から形成され、対象の化合物がブタノール分子であるガスサンプルに対応する。サインM1は、従来技術の一例に係る特性評価方法を用いて取得したものであるが、サインM1cは、図3に示す特性評価方法を用いて取得したものである。サインM1cはサインM2に重畳されており、これは、段階PaとPbとの間の相対湿度Δφの変動がないことに対応する。このように、本実施形態に係る特性評価方法によれば、実際には、段階Paと段階Pbとの相対湿度の差Δφがゼロ以外の測定バイアスΔS b,Δφを低減又は除去することができる。
【0092】
図5は、第2実施形態による対象の化合物を特性評価する方法のフローチャートを示しており、ここでは、段階PaとPbとの間のゼロ以外の相対湿度差Δφに関連する測定バイアスΔS b,Δφが減少又は除去され、測定チャンバ21内の相対湿度差Δφは、初期段階Paにおける値φ1と、特性評価する段階Pbにおけるφ1とは異なる値φ2との間で定義される。この方法は、補正関数fを用いて得られたベースライン差ΔS b,Δφの推定値を用いて有用な信号を顕著に補正するという点で、図3に示された方法と本質的に異なる
【0093】
較正段階20では、補正関数fが決定される。この段階は、図6A~6Cに示されている。目的は、ベースライン差ΔS の変動を相対湿度差Δφの関数として表す補正関数fを求めることである。
【0094】
工程21において、測定チャンバへの複数サイクルの注入が行われる。ランクjの各サイクルは、一定でゼロ以外の相対湿度φ1,refの第1基準ガスの第1注入と、それに続くφ1,refとは異なる一定の相対湿度φのランクjの第2基準ガスの第2注入とから形成される。各サイクルの間に、相対湿度φが変化し、相対湿度差Δφ=φj-φ1,refの複数の値が得られる。
【0095】
工程22では、測定信号S (t)を取得する。図6Aは、時間の関数として、種々の連続したサイクル及び感応部位23に対する2つの注入に関連する測定信号間の差ΔS (t)をより正確に示す。より正確には、この例では、同じサイクルの第2注入の測定信号から、第1注入の測定信号が減算される。したがって、図6Aに示されるように、この差ΔS (t)は、各第1注入中に0の値を有し、第2注入中にゼロ以外の値を有する。
【0096】
次いで、各サイクルの第1及び第2注入のベースライン間の差ΔS が決定される。これは、各サイクルの第1及び第2注入のベースラインS を決定し、それらの間の差を決定することを意味する。ベースラインS は、好ましくは、所定の期間にわたる測定信号S (t)の平均値である。
【0097】
工程23において、各サイクルの第1及び第2注入の間の相対湿度差Δφを測定する。図6Bは、相対湿度差Δφの時間の関数としての変化を示す。この差Δφは、各第1注入についてゼロであり、ある第2注入から次の注入までについてゼロ以外であり、経時的に変化することに留意されたい。このようにして、一連の値の組(Δφ;ΔS k,j j=1,Mが得られ、Mは実行されたサイクル数である。
【0098】
工程24では、ベースラインΔS k,j の差と相対湿度差Δφの測定値とに基づいて補正関数fを決定する。図6Cは、2つの感応部位23及び23について、相対湿度差Δφの関数として基準ガス(例えば、湿った空気)に関連するベースラインΔS k=1,2 の差の変動を示す2つの較正関数f、fの一例を示す。この例では、補正関数は、多項式回帰によってパラメータ化される(すなわち、多項式の次数nと係数が決定される)多項式関数である。図3の例と同様に、対数関数、シグモイドニューラルネットワーク、ガウス混合などの他のタイプの較正関数を使用することができる。したがって、較正段階20に続いて、各感応部位6に関連する補正関数fが得られ、この補正関数によって、所定の相対湿度差Δφについて基準ガスに関連するベースラインΔS の差が決定される。
【0099】
次に、特性評価段階200が実行される。工程210では、電子ノーズ1の測定チャンバ21に流体を注入する工程を実行する。この工程は、基準ガス(対象の化合物を含まないキャリアガス)を注入する第1初期段階Paと、ガスサンプル(対象の化合物を含むキャリアガス)を注入する過程での特性評価段階Pbと、その後の第3解離段階Pcとを含む。基準ガスとガスサンプルとは異なる相対湿度を有し、基準ガスについてはφ1、ガスサンプルについてはφ2で示される。
【0100】
工程220において、1からNまでの範囲の各感応部位23について、現在の時間tにおいて、基準ガスの存在に対する電子ノーズ1の応答を表す測定信号S(t)が決定され、次いで、測定チャンバ21内のガスサンプルが決定される。この工程は工程120と同様であり、再度詳細には説明しない。
【0101】
工程230では、測定チャンバ21内の段階Pb,Pbの相対湿度を測定する。このため、湿度センサ26は、段階Pa及びPbにおける相対湿度φを測定し、その測定値を処理ユニット30に送信する。ここで、相対湿度φ2(段階Pb)の値は、値φ1(段階Pa)とは異なる。そして、処理ユニット30は、相対湿度差Δφ=φ2-φ1を求める。
【0102】
工程240では、測定された相対湿度差Δφに基づいてベースライン差ΔS の推定値を決定する。図2Bに示されるように、このベースライン差ΔS は、段階PaとPbの間の相対湿度差Δφがガスサンプルに関連する測定信号に及ぼす影響に対応する。このベースライン差ΔS は、補正関数fを用い、測定された差Δφを用いて推定される。
【0103】
次に、測定信号S(t∈Pa)に基づいて、基準ガスに係るベースラインS b、φ1も決定する。好ましくは、所定期間にわたる段階Paにおける測定信号S(t∈Pa)の平均値の問題である。
【0104】
工程250では、測定された相対湿度差Δφに対するベースライン差ΔS の推定値を減算し、段階Paにおける基準ガスに対するベースラインS b,φ1を減算することによって、ガスサンプルに関連する、すなわち段階Pbに属するtに対する測定信号S(t)が補正される。これにより、有用な信号Su(t∈Pb)が得られる。すなわち、Su(t∈Pb)=S(t∈Pb)-[ΔS b,φ1]である。
【0105】
したがって、この実施形態に関連して、ガスサンプルに関連する有用な信号、すなわち、対象の化合物を含むが、相対湿度Δφがゼロ以外の変動を受けたものは、一方では相対湿度差Δφの影響ΔS を、他方ではベースラインS b、φ1から差し引くことによって、その測定信号S(t∈Pb)を補正することによって計算されるこのように、本実施形態では、相対湿度差Δφに伴う測定バイアスΔS b,Δφを除去するとともに、センサドリフトを除去することができる。
【0106】
工程260において、対象の化合物は、有用な信号Su(t∈Pb)に基づいて特性評価される。標的化合物の特徴を形成するヒストグラム、レーダーチャートなどの形式で表現を提供するために、これらの信号から平衡、すなわち定常状態の値が抽出される。
【0107】
このように、本実施形態に係る特性評価方法は、段階PaとPbとの間のゼロ以外の相対湿度差Δφに関連する測定バイアスΔS b,Δφを制限又は除去するだけでなく、較正段階20と特性評価段階200との間のセンサドリフトを制限又は除去することによっても、対象の化合物の特性評価の品質を改善することを可能にする。対象の化合物の特性評価は、対象の化合物のみに関係し、相対湿度の変化を経験したキャリアガスには関係しないか、又はわずかに関係しない限り、より正確かつ正確に行われる。
【0108】
しかし、処理ユニット30のメモリ31に格納された所定の補正関数f又はhは、測定チャンバ21内に存在するガスに関連する測定装置20の応答を、もはや完全には代表していない可能性があるという意味では、電子ノーズ1は、別のタイプのセンサドリフトの影響をうけることもある。したがって、電子ノーズ1を再較正することが推奨される。ここで、電子ノーズ1は、新しい補正関数f又はhを決定すること、すなわち、作業場への復帰や、図2Cのシステムに関連する電子ノーズを用いた新しい特性評価を必要とすることなく、この補正関数を再パラメータ化することができる。この再較正段階300、400は、いわゆるオンライン再較正段階であり、したがって、2つの特性評価段階100、200の間で実施することができる。
【0109】
図7Aは、再較正段階300を実施するように構成された一実施形態による電子ノーズ1の概略図及び部分図である。ここで、電子ノーズ1は、図2Cに示されたものと同様であり、流体再較正装置40を備えている点、及び処理ユニット30が再較正段階40を実行するように構成されている点において特に異なる。
【0110】
電子ノーズ1は、好ましくは、測定チャンバ21が、一方は、標的化合物を供給するための流体装置10に接続され、他方は、経時的に種々の相対湿度値を有する1つ以上の基準ガスを送達する流体再較正装置40に接続されることを可能にする三方バルブ2を備える。
【0111】
この例では、流体再較正装置40は、異なる相対湿度φ1、φ2及びφ3を有する基準ガスの少なくとも3つのソース41(ここでは、41、41、41)を含む。好ましくは、これらの3つの相対湿度の値は、最大で20%以上のオーダーで異なることができ、少なくとも5%だけ互いに異なってもよい。上記のように、基準ガスは、標的化合物を含まないものである。もちろん、一般に、供給装置は、より多数のソース41を含むことができる。各ソース41は、ここでは、1つのバルブ42に関連付けられている。
【0112】
図7Bは、電子ノーズの使用方法の一例であり、図3に示される較正段階10に関して記載されたものと同様の原理に基づく再較正段階300を含む。
【0113】
それは、標的化合物を特性評価する少なくとも1つの段階100を含む。この段階は、図3を参照して説明した段階と同じである。ここで、特性評価段階100は、補正パラメータ、ここでは相対湿度φ2に対する基準ガスに関連する測定信号を表すベースラインS b,φ2=h(φ2)に基づいて、有用な信号Suを補正する工程140、150を含む。この補正パラメータは、較正段階10で決定された補正関数、ここではh ref0を用いて決定される。この較正段階10は、電子ノーズ1が実際に始動される前に、作業場で実施されてもよい。
【0114】
ここでは、電子ノーズを再較正すること、すなわち、補正関数を再決定することが望まれ、この新しい補正は、おそらくセンサドリフトが識別されたためであり、h ref1と表記される。これには、補正関数をパラメータ化する種々の係数の更新が含まれる。
【0115】
これを行うために、再較正段階300は、第1基準ガスを測定チャンバに注入する工程311を含み、基準ガスは、ソース41から引き出され、相対湿度φ1を有する。これにより、バルブ2は、流体供給装置10からの流れを遮断し、流体再較正装置40からの流れを可能にする。ソース41の出力に接続されたバルブ42は、バルブ42及び42が閉じられたまま開かれる。
【0116】
工程312において、測定装置20は、注入工程311の過程で測定信号S k,m=1(t)を取得し、次いで、処理ユニット30は、メモリ31に格納されている関連するベースラインS k,1 を決定する。
【0117】
工程313では、注入工程311の過程で、湿度センサ26を用いて相対湿度φ1を経時的に測定する。リザーバ41内に存在する基準ガスの相対湿度値が既知であると考えられ、測定チャンバ21内の相対湿度値がリザーバ41内の既知の相対湿度値と等しいと考えられる場合、この工程は任意である。この相対湿度φ1は、処理ユニット30のメモリ31に格納される。
【0118】
工程311,312及び313は、ソース41に格納された種々の基準ガスについて、m=1~3(つまり、1から3まで増やされる)で繰り返される。したがって、ここでのメモリは、3組の値(φ;S k,m m=1~3を含む。
【0119】
工程314において、処理ユニット30は、値の組(φ;S k,m m=1~3に基づいて、新しい補正関数h ref1を、例えば回帰、最小二乗法によって決定する。新しい補正関数h ref1は、メモリに格納され、古い関数h ref0から置き換えられる。
【0120】
これにより、電子ノーズ1は、再較正段階300を実行することができ、補正機能に関連するセンサドリフトの問題を解決することができる。また、オンラインで再較正を行うことにより、長期間にわたって電子ノーズ1の信頼性を向上させることができ、再較正のために電子ノーズを作業場に戻す必要がなくなる。
【0121】
したがって、使用方法は、標的化合物を特性評価する段階100に続く少なくとも1つの段階を含むことができ、この段階は、再較正段階300に続いて実施される。この段階100は、図3を参照して説明したものと同一であるか、又は図5を参照して説明したものと同一であってもよい。ここで、次の特性評価段階100は、補正パラメータに基づいて有用な信号Suを補正する工程140、150を含む。この補正パラメータは、ここでは、再較正段階300で決定された更新された補正関数h ref1を使用して決定され、古い補正関数h ref0を使用しない。
【0122】
さらに、ソース41は、種々の相対湿度の基準ガスを予め充填したリザーバであってもよく、変形例として、電子ノーズ1自体によって充填されてもよい。したがって、リザーバ41は、相対湿度センサ(図示せず)に接続された流体ダクトによって外部環境に接続されてもよい。リザーバ41は、最初は空であり、この湿った空気の相対湿度が変化するにつれて、湿った外気を用いて順次充填される。このようにして、1日の間、又は季節の間、外気の相対湿度は、例えば、15%から50%(例えば、冬と夏)の範囲、又は30%から70%(例えば、春と秋)の範囲で変化する。したがって、電子ノーズ1は、相対湿度センサを用いて定期的に外気の相対湿度を測定し、湿った空気が所定の値φを有するとき、電子ノーズは、種々のリザーバ41が種々の相対湿度φの湿った空気で満たされるまで、リザーバ41を満たす。
【0123】
図7Cは、一変形実施形態による電子ノーズ1の一部の概略図であり、流体再較正装置40において本質的に図7Aに示されるものとは異なる。
【0124】
この例では、流体再較正装置40は、複数の別個のリザーバからではなく、親水性溶液のリザーバ43と関連する単一のリザーバ41からの基準ガスを測定チャンバ21に供給するように構成される。ここでも、基準ガスは標的化合物を含まない。
【0125】
リザーバ41は、ゼロ以外の相対湿度φinitを有する基準ガスを含む。例えば硝酸エステルのような親水性の液体溶液を含むリザーバ43のヘッドスペースに接続される。ヘッドスペースは、バルブ2に、ここではバルブ42によって接続される。
【0126】
したがって、再較正段階300において、基準ガスは、親水性溶液のリザーバ43を通過し、次いで、測定チャンバ21内に導入される。最初に、それは測定チャンバ21内に相対湿度φinitを有し、次いで、親水性溶液が水分子を吸着すると、基準ガスの相対湿度は減少し、したがって、φinitよりも低い中間値φintに渡され(水分枯渇)、その後、リザーバ43のヘッドスペース内で熱力学的平衡に達すると、最終値φに達する。したがって、工程314において、処理ユニット30は、少なくとも三つの値のペア(φ;S k,m m=1~3により、新たな補正関数h ref1を決定する。
【0127】
ここで、相対湿度φinitの基準ガスのリザーバ41は、作業場内で充填されていてもよいし、変形例として、外部環境からの湿った空気で電子ノーズ1によって充填されていてもよい。これを行うために、上述のように、リザーバ41は、相対湿度センサ(図示せず)を備えた流体ダクトによって外部環境に接続される。外部空気が実質的にφinitに等しい相対湿度を有するとき、電子ノーズ1はリザーバ41を充填する。
【0128】
図8Aは、再較正段階400を実行するように構成された別の実施形態による電子ノーズ1の概略図及び部分図である。ここで、電子ノーズ1は、図7Aに示されているものと同様であり、流体再較正装置40において、それらとは顕著に異なる。
【0129】
この例では、流体再較正装置40は、基準ガスの3つのソース41、相対湿度φ1,refを有する基準ガスのソース411,ref、及び相対湿度φ及びφを有するソース41及び41を含む。好ましくは、これらの値φ及びφは、φ1,refと互いにことなり、好ましくは少なくとも5%異なる。もちろん、流体再較正装置40は、より多数のリザーバを含むことができる。上記のように、基準ガスは、標的化合物を含まないものである。
【0130】
図8Bは、電子ノーズの使用方法の一例であり、図5に示される較正段階20に関して記載されたものと同様の原理に基づく再較正段階400を含む。
【0131】
それは、標的化合物を特性評価する少なくとも1つの段階200を含む。この段階は、図5を参照して説明した段階と同じである。ここで、特性評価段階200は、補正パラメータΔS に基づいて有用な信号Suを補正する工程240、250を含む。この補正パラメータは、較正段階20で決定された補正関数、ここではf ref0を用いて決定される。この較正段階20は、電子ノーズ1が実際に始動される前に、作業場で実施されてもよい。
【0132】
ここでは、電子ノーズを再較正すること、すなわち、補正関数を再決定することが望まれ、この新しい補正は、おそらくセンサドリフトが識別されたためであり、h ref1と表記される。目的は、ベースライン差ΔS の変化を表す相対湿度差Δφの関数として新たな補正関数fを求めることである。これには、補正関数をパラメータ化する種々の係数の更新が含まれる。
【0133】
工程411では、測定チャンバ21への基準ガスの複数サイクルの注入が行われる。基準ガスには、対象となる化合物は含まれていない。各サイクルは、1つの相対湿度差値Δφ=φ-φ1,refと関連付けられる。このため、各注入サイクルは、相対湿度φ1,refの第1基準ガスの第1注入から形成され、次いで、φ1,refとは異なるj=2,3...の相対湿度φjの第2基準ガスの第2注入から形成される。
【0134】
各サイクルにおいて、相対湿度φが変化するので、工程413において、相対湿度差Δφ=φ-φrefの複数の値が得られる。これらの値は、処理ユニット30に送信され、メモリ31に格納される。
【0135】
工程412では、種々の注入サイクルにおける測定信号S (t)が取得される。したがって、サイクルj=2において、基準ガスφ1,refに係る測定信号S (t)が取得され、次いで、基準ガスφに係る測定信号S (t)が取得される。次いで、処理ユニットは、φ1,refの基準ガスに関連するベースラインS k,1 を決定し、次いで、φの基準ガスに関連するベースラインS k,2 を決定する。次に、これらのベースライン間の差ΔS k,2 を決定する。相対湿度差はΔφとなる。
【0136】
工程411,412及び413は、ここでj=2,3(2サイクル)で種々の基準ガスに対して繰り返される。したがって、ここでのメモリは、2組の値(Δφ;ΔS k,j j=1,2を含む。
【0137】
工程414において、処理ユニットは、値の組(Δφ;ΔS k,j j=1,2に基づいて、新しい補正関数f ref1を、例えば、回帰、最小二乗法によって決定する。新しい補正関数f ref1は、メモリ31に格納され、古い関数f ref0から置き換えられる。
【0138】
これにより、電子ノーズ1は、再較正段階400を実行することができ、補正機能に関連するセンサドリフトの問題を解決することができる。また、オンラインで再較正を行うことにより、長期間にわたって電子ノーズの信頼性を向上させることができ、再較正のために電子ノーズを作業場に戻す必要がなくなる。その後、使用方法は、新しい補正関数f ref1を使用する新しい特性評価段階200を含むことができる。
【0139】
特定の実施形態について説明した。種々の変更及び変形は、当業者にとって明らかである。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図3
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
【国際調査報告】