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特表2023-509666分子の細胞内送達用の多量体化送達システム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-09
(54)【発明の名称】分子の細胞内送達用の多量体化送達システム
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20230302BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20230302BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230302BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230302BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230302BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230302BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230302BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20230302BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20230302BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20230302BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230302BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230302BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230302BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20230302BHJP
   A61K 47/64 20170101ALI20230302BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230302BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20230302BHJP
   A61K 31/711 20060101ALI20230302BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20230302BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20230302BHJP
   A61K 38/00 20060101ALI20230302BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230302BHJP
   C07K 14/11 20060101ALN20230302BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20230302BHJP
   C12N 15/113 20100101ALN20230302BHJP
   C12N 15/115 20100101ALN20230302BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C07K19/00 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/02 Z
A61P1/16
A61P9/10
A61P25/00
A61P29/00
A61K45/00
A61K47/42
A61K47/64
A61K48/00
A61K31/713
A61K31/711
A61K31/7105
A61K31/7088
A61K38/00
A61P43/00 105
C07K14/11
C12N15/09 100
C12N15/113 Z
C12N15/115 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022540647
(86)(22)【出願日】2020-11-09
(85)【翻訳文提出日】2022-08-26
(86)【国際出願番号】 CN2020127525
(87)【国際公開番号】W WO2021135647
(87)【国際公開日】2021-07-08
(31)【優先権主張番号】201911414575.7
(32)【優先日】2019-12-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】519326323
【氏名又は名称】シァメン・ユニヴァーシティ
(71)【出願人】
【識別番号】521009430
【氏名又は名称】シァメン・イノヴァックス・バイオテック・カンパニー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】XIAMEN INNOVAX BIOTECH CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】1st Floor, 50 Shan Bian Hong East Road, Haicang District, Xiamen, Fujian 361022, China
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100209495
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 さおり
(72)【発明者】
【氏名】ゲ、シェンシァン
(72)【発明者】
【氏名】ユ、シユアン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、ハン
(72)【発明者】
【氏名】パン、ハイフェン
(72)【発明者】
【氏名】レン、シューリン
(72)【発明者】
【氏名】リ、ティンドン
(72)【発明者】
【氏名】グオ、チンシュン
(72)【発明者】
【氏名】ション、ジュンフェイ
(72)【発明者】
【氏名】チャン、ジュン
(72)【発明者】
【氏名】シァ、ニンシャオ
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C076
4C084
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064CA02
4B064CA05
4B064CA06
4B064CA08
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B065AA01X
4B065AA01Y
4B065AA57X
4B065AA57Y
4B065AA72X
4B065AA72Y
4B065AA83X
4B065AA83Y
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA44
4C076AA95
4C076CC01
4C076CC04
4C076CC11
4C076CC16
4C076CC29
4C076EE41
4C076EE59
4C076FF34
4C076GG50
4C084AA03
4C084AA07
4C084AA13
4C084AA17
4C084BA03
4C084NA13
4C084ZA011
4C084ZA012
4C084ZA361
4C084ZA362
4C084ZA751
4C084ZA752
4C084ZB111
4C084ZB112
4C084ZB211
4C084ZB212
4C086AA01
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA05
4C086NA13
4C086ZA01
4C086ZA36
4C086ZA75
4C086ZB11
4C086ZB21
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA09
4H045BA41
4H045CA40
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
カーゴ分子を細胞内に送達するのに使用することができる多量体化送達システム。多量体化送達システムは、カーゴ分子の高効率エンドサイトーシス及びエンドサイトーシス小胞からのその高効率放出を達成することができることから、カーゴ分子の細胞質送達効率が大幅に改善される。カーゴ分子が細胞質内で利用可能になったら、カーゴ分子はそれらに関連する任意の役割を果たし得る。多量体化送達システムは、細胞の生物学的メカニズム及び経路に影響を与えるのに効果的な手段を提供し、研究、治療、及び診断等の様々な分野において使用され得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多量体化ドメイン配列、細胞膜透過性ペプチド、pH感受性膜融合ペプチド、及びプロテアーゼ認識配列を含む融合ポリペプチド。
【請求項2】
前記多量体化ドメインは、二量体化ドメイン、三量体化ドメイン、四量体化ドメイン、又は任意のより高次の多量体化ドメインであり、
好ましくは、前記多量体化ドメインは、ロイシンジッパー、NOE、GCN4-P1、デルタ、及びそれらの任意の組合せからなる群から選択され、
好ましくは、前記多量体化ドメインは、ロイシンジッパーから選択され、
好ましくは、前記多量体化ドメイン配列は、配列番号1又は配列番号2に示される配列を含む、請求項1に記載の融合ポリペプチド。
【請求項3】
前記細胞膜透過性ペプチドは、ペネトラチン、Tat由来ペプチド(例えば、Tat(48-60)又はTat(47-57))、Rev(34-50)、VP22、トランスポータン、Pep-1、Pep-7、及びそれらの任意の組合せからなる群から選択され、
好ましくは、前記細胞膜透過性ペプチドは、Tat(48-60)等のTat由来ペプチドを含み、
好ましくは、前記細胞膜透過性ペプチドは、配列番号14に示される配列を含む、請求項1又は2に記載の融合ポリペプチド。
【請求項4】
前記pH感受性膜融合ペプチドは、インフルエンザウイルスHA2又はその変異体(例えば、INF7、KALA、又はGALA)、メリチン、及びそれらの任意の組合せからなる群から選択され、
好ましくは、前記pH感受性膜融合ペプチドは、INF7を含み、
好ましくは、前記pH感受性膜融合ペプチドは、配列番号12に示される配列を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の融合ポリペプチド。
【請求項5】
前記プロテアーゼは、フリン及び/又はリソソームシステインプロテアーゼから選択され、
好ましくは、前記プロテアーゼ認識配列は、フリン認識配列、リソソームシステインプロテアーゼ認識配列、及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の融合ポリペプチド。
【請求項6】
前記フリン認識配列は、R-X-X-R(配列番号47)を含み、ここで、Xは任意のアミノ酸であり、XはK又はRであり、
好ましくは、前記フリン認識配列は、R-R-X-X-R(配列番号48)を含み、
好ましくは、前記フリン認識配列は、配列番号49に示される配列を含み、
好ましくは、前記フリン認識配列は、配列番号8に示される配列を含む、請求項5に記載の融合ポリペプチド。
【請求項7】
前記リソソームシステインプロテアーゼは、カテプシンB、カテプシンC、カテプシンX、カテプシンS、カテプシンL、カテプシンD、又はカテプシンHからなる群から選択され、
好ましくは、前記リソソームシステインプロテアーゼは、カテプシンLであり、
好ましくは、カテプシンL認識配列は、配列番号10に示される配列を含む、請求項5又は6に記載の融合ポリペプチド。
【請求項8】
前記プロテアーゼ認識配列は、フリン認識配列及びカテプシンL認識配列を含み、
好ましくは、前記プロテアーゼ認識配列は、配列番号49及び配列番号10を含み、
好ましくは、前記プロテアーゼ認識配列は、配列番号8及び配列番号10を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の融合ポリペプチド。
【請求項9】
前記融合ポリペプチドは、N末端からC末端に向かって前記細胞膜透過性ペプチド、前記pH感受性膜融合ペプチド、前記プロテアーゼ認識配列を含み、又はN末端からC末端に向かって前記pH感受性膜融合ペプチド、前記細胞膜透過性ペプチド、前記プロテアーゼ認識配列を含み、前記多量体化ドメイン配列は、前記融合ポリペプチドのN末端若しくはC末端に又は上述の任意の2つの隣接するドメイン間に位置しており、
好ましくは、前記プロテアーゼ認識配列は、N末端からC末端に向かって前記フリン認識配列及び前記カテプシンL認識配列を含む、又はN末端からC末端に向かって前記カテプシンL認識配列及び前記フリン認識配列を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の融合ポリペプチド。
【請求項10】
前記融合ポリペプチドに含まれる任意の2つの隣接するドメインは、任意にペプチドリンカーによって連結されており、
好ましくは、前記ペプチドリンカーは(GS)であり、ここで、mは1~4の整数から選択され、nは1~3の整数から選択される、請求項1~9のいずれか一項に記載の融合ポリペプチド。
【請求項11】
前記融合ポリペプチドは、配列番号16~配列番号18のいずれか1つに示される配列を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の融合ポリペプチド。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の融合ポリペプチドの多量体であって、
好ましくは、該多量体は、二量体、三量体、又は四量体であり、
好ましくは、該多量体は、ホモ多量体である、多量体。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか一項に記載の融合ポリペプチドと、追加のポリペプチドとを含む融合タンパク質であって、
好ましくは、前記追加のポリペプチドは、検出可能な標識を含み、
好ましくは、前記追加のポリペプチドは、エピトープタグ、レポーター遺伝子によってコードされるタンパク質配列、及び/又は核局在化シグナル(NLS)配列を含む、融合タンパク質。
【請求項14】
前記追加のポリペプチドは、核酸結合ドメイン配列であり、
好ましくは、前記核酸結合ドメイン配列は、ジンクフィンガータンパク質(例えば、ZFP9)であり、
好ましくは、前記核酸結合ドメイン配列は、配列番号31に示される配列を含み、
好ましくは、前記融合タンパク質は、配列番号19~配列番号21のいずれか1つに示される配列を含む、請求項13に記載の融合タンパク質。
【請求項15】
(i)前記融合タンパク質は、N末端からC末端に向かって細胞膜透過性ペプチド、pH感受性膜融合ペプチド、プロテアーゼ認識配列、及び前記追加のポリペプチドを含み、多量体化ドメイン配列は、前記融合タンパク質のN末端若しくはC末端に又は上記の任意の2つの隣接するドメイン間に位置しており、好ましくは、前記プロテアーゼ認識配列は、N末端からC末端に向かってフリン認識配列及びカテプシンL認識配列を含み、又はN末端からC末端に向かって前記カテプシンL認識配列及び前記フリン認識配列を含み、或いは、
(ii)前記融合タンパク質は、N末端からC末端に向かって前記pH感受性膜融合ペプチド、前記細胞膜透過性ペプチド、前記プロテアーゼ認識配列、及び前記追加のポリペプチドを含み、前記多量体化ドメイン配列は、前記融合タンパク質のN末端若しくはC末端に又は上記の任意の2つの隣接するドメイン間に位置しており、好ましくは、前記プロテアーゼ認識配列は、N末端からC末端に向かって前記フリン認識配列及び前記カテプシンL認識配列を含み、又はN末端からC末端に向かって前記カテプシンL認識配列及び前記フリン認識配列を含み、或いは、
(iii)前記追加のポリペプチドは、前記融合ポリペプチドのC末端に融合されている、請求項13又は14に記載の融合タンパク質。
【請求項16】
請求項13~15のいずれか一項に記載の融合タンパク質の多量体であって、
好ましくは、該多量体は、二量体、三量体、又は四量体であり、
好ましくは、該多量体は、ホモ多量体である、多量体。
【請求項17】
請求項1~11のいずれか一項に記載の融合ポリペプチド又は請求項13~15のいずれか一項に記載の融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む単離された核酸分子。
【請求項18】
請求項17に記載の単離された核酸分子を含むベクター。
【請求項19】
請求項17に記載の単離された核酸分子又は請求項18に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項20】
請求項1~11のいずれか一項に記載の融合ポリペプチド又は請求項13~15のいずれか一項に記載の融合タンパク質を調製する方法であって、請求項19に記載の宿主細胞を適切な条件下で培養することと、前記融合ポリペプチド又は前記融合タンパク質を細胞培養物から回収することとを含み、ここで、前記融合ポリペプチド又は前記融合タンパク質は多量体として存在する、方法。
【請求項21】
請求項12に記載の多量体又は請求項16に記載の多量体と、カーゴ分子とを含む複合体であって、
好ましくは、前記カーゴ分子は、タンパク質、核酸、炭水化物、脂質、化合物、及びそれらの任意の混合物からなる群から選択され、
好ましくは、前記カーゴ分子は、前記多量体に融合されているか、化学的にカップリングされているか、又は非共有結合により連結されている、複合体。
【請求項22】
前記カーゴ分子は、ペプチド又はタンパク質であり、
好ましくは、前記カーゴ分子は、前記多量体に融合されている、請求項21に記載の複合体。
【請求項23】
前記カーゴ分子は、核酸であり、
好ましくは、前記核酸は、DNA分子、RNA分子、siRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、アプタマー、及びそれらの任意の組合せからなる群から選択され、
好ましくは、前記多量体は、請求項14に記載の融合タンパク質の多量体である、請求項21に記載の複合体。
【請求項24】
前記多量体は、前記カーゴ分子に化学的にカップリングされており、
好ましくは、前記化学的なカップリングは、ジスルフィド結合、ホスホジエステル結合、ホスホロチオエート結合、アミド結合、アミン結合、チオエーテル結合、エーテル結合、エステル結合、又は炭素-炭素結合によって達成される、請求項21に記載の複合体。
【請求項25】
前記多量体は、前記カーゴ分子に非共有結合により連結されており、
好ましくは、前記多量体は、前記カーゴ分子に静電的にコンジュゲートされている、請求項21に記載の複合体。
【請求項26】
請求項21~25のいずれか一項に記載の複合体と、薬学的に許容可能な担体及び/又は賦形剤とを含む医薬組成物であって、
好ましくは、カーゴ分子は、薬学的に活性な作用物質又は検出可能な標識を含む、医薬組成物。
【請求項27】
疾患の治療用の医薬の製造における、請求項21~25のいずれか一項に記載の複合体又は請求項26に記載の医薬組成物の使用であって、前記複合体に含まれるカーゴ分子は前記疾患を治療することができ、
好ましくは、前記疾患は、プログラムされた壊死に関連する疾患であり、前記カーゴ分子は、プロテインホスファターゼ1Bを含み、好ましくは、前記プログラムされた壊死に関連する疾患は、肝障害(例えば、薬物性肝障害)、炎症性疾患、虚血再灌流障害、及び/又は神経変性疾患を含む、使用。
【請求項28】
疾患を治療する方法であって、それを必要とする被験体に請求項21~25のいずれか一項に記載の複合体を投与することを含み、ここで、前記複合体に含まれるカーゴ分子は前記疾患を治療することができ、
好ましくは、前記疾患は、プログラムされた壊死に関連する疾患であり、前記カーゴ分子は、プロテインホスファターゼ1Bを含み、好ましくは、前記プログラムされた壊死に関連する疾患は、肝障害(例えば、薬物性肝障害)、炎症性疾患、虚血再灌流障害、及び/又は神経変性疾患を含む、方法。
【請求項29】
請求項1~11のいずれか一項に記載の融合ポリペプチド、請求項12に記載の多量体、請求項13~15のいずれか一項に記載の融合タンパク質、請求項16に記載の多量体、請求項17に記載の単離された核酸分子、請求項18に記載のベクター、請求項19に記載の宿主細胞、又は請求項21~25のいずれか一項に記載の複合体を含むキットであって、
好ましくは、該キットは、トランスフェクション及び/又は細胞内送達についての使用説明書を更に含む、キット。
【請求項30】
送達試薬としての、請求項1~11のいずれか一項に記載の融合ポリペプチド、請求項12に記載の多量体、請求項13~15のいずれか一項に記載の融合タンパク質、請求項16に記載の多量体、請求項17に記載の単離された核酸分子、請求項18に記載のベクター、請求項19に記載の宿主細胞、又は請求項21~25のいずれか一項に記載の複合体の使用。
【請求項31】
カーゴ分子を細胞内に送達する方法であって、前記細胞と請求項21~25のいずれか一項に記載の複合体とを接触させることを含み、ここで、前記カーゴ分子は前記複合体に含まれる前記カーゴ分子であり、
好ましくは、前記細胞と前記複合体との接触は、in vitroで行われ、
好ましくは、前記カーゴ分子は、核酸、ペプチド又はタンパク質、炭水化物、脂質、化合物、及びそれらの任意の混合物からなる群から選択され、好ましくは、前記核酸は、DNA分子、RNA分子、siRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、アプタマー、及びそれらの任意の組合せからなる群から選択される、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子生物学の分野、より詳細には、カーゴ分子の細胞内送達用の多量体化送達システムに関する。
【背景技術】
【0002】
選択的透過性バリアとしての細胞膜は、細胞の生存及び機能にとって重要である。小分子は、天然の細胞プロセス又は脂質二重層の直接拡散のいずれかによって細胞膜を通過することができるが、殆どの場合に、細胞質膜を介した活性な生物学的高分子等の細胞内カーゴの効果的な通過は、細胞輸送プロセスを阻む大きな障害であり続けている。したがって、細胞内カーゴの生細胞への輸送効率を効果的に改善することができる分子輸送ツールは、生物医学等の分野におけるその応用のために極めて重要である。
【0003】
現在、細胞膜透過性ペプチド(CPP)を使用して生物学的高分子の細胞内への侵入を媒介することは、生物医学の分野における研究のホットスポットの1つである。CPPは一般に5アミノ酸~30アミノ酸のポリペプチドであり、これらは化学的架橋、融合発現、又は非共有結合によってタンパク質を含む生物学的高分子が細胞膜を透過し、細胞に侵入することを媒介することができる。細胞膜透過性ペプチドは、生物学的高分子の細胞内への侵入を媒介する際の低い用量、短い輸送時間、制御可能な用量、簡単な操作、低い免疫応答、及び低い副作用といった利点のため、生物医学の様々な分野において使用されてきた。
【0004】
CPPは、生物学的高分子の輸送において上記の利点を有するとは言え、主にそれら自体の低い送達効率及び血清の存在下での送達効率の更なる低下を含む幾つかの制限がある。
【0005】
以前の研究から、CPPによって運ばれる生体高分子の1%しかエンドサイトーシス小胞から逃れることに成功し得ず、これらの殆どは最終的にリソソームに誘導されて分解されることが分かっている。したがって、細胞内カーゴのエンドソーム脱出効率もCPPの細胞内送達プロセスにとっての全体的な送達効率を決める重要な制限要因である。多くの研究がCPPの低い送達効率の問題を解決することに向けられてきた。エンドソーム脱出効率を改善する主な戦略は、成熟及び酸性化の過程において小胞膜の完全性を破壊することで、その内容物(送達された細胞内カーゴを含む)を細胞質へと放出し得るようにすることである。現在、最も効果的な方法は、ウイルス、細菌、動物、及び植物、又はヒトに由来するpH感受性膜融合ペプチドを使用することである。pH感受性ペプチドは、或る特定の割合の疎水性アミノ酸を含み、低いpHで劇的なコンフォメーション変化を起こす。CPP媒介性エンドサイトーシス後のエンドサイトーシス小胞の成熟及び酸性化の過程において、pH値が臨界点まで下がると、CPPにカップリングされたpH感受性ペプチドはコンフォメーション変化を起こし、小胞膜の脂質二重層に結合する。結果として、リン脂質二重層膜の完全性が激しく乱され、そこに小さな細孔が形成され、又は小胞膜が破裂することで、輸送された生物学的高分子は最終的に細胞質へと放出される。しかしながら、その後の研究により、pH感受性ペプチドと融合されたCPPを使用して高分子の細胞内送達システムのエンドサイトーシス小胞脱出効率は確かに改善されたものの、輸送された高分子のかなりの部分が依然としてエンドサイトーシス小胞内に残っていることが判明した(輸送される高分子として蛍光タンパク質を使用した場合に明らかなスポット状の分布が観察され得た)。
【0006】
細胞膜透過性ペプチドの適用を制限する別の要因は、血清不耐性である。すなわち、高い血清濃度の条件下では、CPPの正電荷とヘモグロビンの負電荷との間の静電的相互作用により、CPPは細胞膜と十分に相互作用することができないことから、それらの送達効率の急激な低下がもたらされ、これはまたin vivoでのCPPの幅広い適用を厳しく制限する。
【0007】
まとめると、CPPに媒介される高分子の細胞内への侵入の効率を改善するのに多くの研究が行われてきたが、その効果は依然として満足のいくものではない。細胞内への侵入の効率は、細胞内標的を標的とする生体高分子薬物の開発の分野におけるCPPの広範な適用にとって主要な制限要因であり続けている。同時に、薬物開発においてCPPを使用するには血清耐性も解決しなければならない問題であるが、この問題に関する研究報告は存在しない。
【発明の概要】
【0008】
広範な実験及び繰り返しの探求の末、本出願の発明者らは、予想外にも、多量体化ドメインの導入により、カーゴ分子のエンドサイトーシス効率が大幅に改善され、血清耐性が大幅に改善され得ることを見出している。さらに、pH感受性ペプチドと特定のプロテアーゼ認識配列とを組み合わせると、エンドサイトーシス小胞からのカーゴ分子の放出が大幅に改善され、カーゴ分子の細胞質送達効率が更に改善され、カーゴ分子は、それらの対応する生物学的機能を完全に発揮することが可能となる。これらの知見に基づいて、本発明者らは、効果的な細胞質送達を達成する多量体化送達システムを開発した。
【0009】
融合ポリペプチド
したがって、第1の態様においては、本発明は、多量体化ドメイン配列、細胞膜透過性ペプチド、pH感受性膜融合ペプチド、及びプロテアーゼ認識配列を含む融合ポリペプチドを提供する。
【0010】
本発明において、「多量体化ドメイン」という用語は、本明細書において記載される融合ポリペプチドの幾つかのコピーを多量体化する(すなわち、生体分子複合体を形成する)ことができるあらゆるポリペプチド又はタンパク質を指す。或る特定の実施の形態においては、多量体化ドメインは、同一の融合ポリペプチドを凝集して多量体を形成するホモ多量体化ドメインである。
【0011】
或る特定の実施の形態においては、多量体化ドメインは、該ドメインが少なくとも2つのドメイン(及びそのドメインが部分を構成するポリペプチド)間の相互作用を容易にし得る限り、二量体化ドメイン、三量体化ドメイン、四量体化ドメイン、又は本質的に任意のより高次の多量体化ドメインであり得る。
【0012】
或る特定の実施の形態においては、多量体化ドメインは、ロイシンジッパー、NOE(配列番号3)、GCN4-P1(配列番号4)、デルタ(配列番号5)、及びそれらの任意の組合せからなる群から選択される。
【0013】
或る特定の実施の形態においては、多量体化ドメインは、ロイシンジッパーから選択される。
【0014】
或る特定の実施の形態においては、多量体化ドメイン配列は、配列番号1又は配列番号2に示される配列を含む。
【0015】
本発明において、「pH感受性膜融合ペプチド」という用語は、「pH感受性ペプチド」と区別なく使用され、これは、酸性条件(例えば、6.5未満のpH)下でコンフォメーション変化を起こし、それによりエンドサイトーシス小胞膜との融合を促進し得るポリペプチドのクラスを指す。pH感受性ペプチドが細胞によってエンドサイトーシスされた後のエンドサイトーシス小胞の成熟及び酸性化の過程において、pH値が臨界点まで下がると、そのようなペプチドはコンフォメーション変化を起こし、小胞膜の脂質二重層に結合し、それによりリン脂質二重層膜の完全性が激しく乱される。結果として、リン脂質二重層膜の完全性が激しく乱され、そこに小さな細孔が形成され、又は小胞膜が破裂することで、輸送された生物学的高分子は最終的に細胞質へと放出される。そのようなポリペプチドは当該技術分野においてよく知られており、例えば、Varkouhi, Amir K., et al. Journal of Controlled Release 151.3 (2011): 220-228、Erazo-Oliveras A, Muthukrishnan N, Baker R, et al. Pharmaceuticals, 2012, 5(11): 1177-1209(これらは、引用することによりその全体が本明細書の一部をなす)に記載されている。
【0016】
本発明の融合タンパク質において使用され得るpH感受性ペプチドは、以下のタンパク質又はポリペプチドから選択され得るか、又はそれらから誘導され得る:
ウイルスタンパク質源:HA2(インフルエンザウイルス)及びその変異体KALA、GALA、ペントンベース(アデノウイルス又はライノウイルス)、gp41(HIV)、L2(パピローマウイルス)、エンベロープタンパク質(ウエストナイルウイルス);
細菌タンパク質源:リステリオリシンO(LLO)、肺炎球菌ニューモリシン(PLO)、連鎖球菌ストレプトリジンO(SLO)、ジフテリア毒素、緑膿菌外毒素A、志賀毒素、コレラ毒素;
植物タンパク質源:リシン、サポリン、ゲロニン毒素;
ヒト/動物タンパク質源:ヒトカルシトニン、線維芽細胞成長因子受容体、メリチン;
合成ペプチド:(R-Ahx-R)(4)AhxB、ペネトラチン(pAntp)、EB1、ウシプリオンタンパク質(bPrPp)、スイートアローペプチド(sweet arrow peptide)(SAP)、ポリ(L-ヒスチジン)、プロリンリッチペプチド。
【0017】
或る特定の実施の形態においては、pH感受性膜融合ペプチドは、インフルエンザウイルスHA2(配列番号36)又はその変異体、メリチン(配列番号39)、及びそれらの任意の組合せから選択される。或る特定の実施の形態においては、インフルエンザウイルスHA2の変異体は、INF7(配列番号12)、KALA(配列番号37)、又はGALA(配列番号38)から選択される。
【0018】
或る特定の実施の形態においては、pH感受性膜融合ペプチドは、INF7を含む。或る特定の実施の形態においては、pH感受性膜融合ペプチドは、以下の配列を含む又はそれからなる:配列番号12。
【0019】
本発明において、「細胞膜透過性ペプチド(CPP)」という用語は、「細胞透過性ペプチド」、「タンパク質移行ドメイン(PTD)」、「トロイの木馬ペプチド」、又は「形質導入ペプチド」等とも呼ばれ、これらは、様々な分子(例えば、タンパク質又は核酸を含む様々な高分子)の細胞取り込みを促進することができるポリペプチドを指す。そのようなポリペプチドは、当該技術分野においてよく知られており、例えばStewart KM, et al. Org Biomol Chem. 2008 Jul 7;6(13):2242-55、及び中国特許出願公開第101490081号(これらは全て、引用することによりその全体が本明細書の一部をなす)に記載されており、又は米国特許出願公開第2008/0234183号(これは、引用することによりその全体が本明細書の一部をなす)において記載される方法等の当該技術分野において知られる方法によって得ることができる。
【0020】
本発明の融合タンパク質において使用され得るCPPとしては、限定されるものではないが、カチオン型:ペネトラチン、HIV-TAT-47-57、HIV-1 Rev 34-50、FHVコート-35-49、オリゴアルギニン(R9~R12)、CCMV Gag-7-25、S413-PV、VP22、BP16、DPV3、DPV6、FAHコート、プロタミン1、ヒトcJun、エングレイルド-2、Islet-1、HoxA-13、TP10等、両親媒性型:トランスポータン、トランスポータン10、Pep-1、MPGα、MPGβ、CADY、Pepfect6、Pepfect14、Pepfect15、NickFect、Hel、sC18、pVEC、ARF(1-22)、YTA2、PAR1(パルミトイル-SFLLRN)、F2Pal10(パルミトイル-SFLLRN)、BPrPp(1-30)、hLFペプチド(19-40)、ブフォリン2、クロタミン、アズリンp18、hCTペプチド(18-32)、S413-PVrev等、疎水性型:カポジ肉腫の線維芽細胞成長因子、カイマン・クロコディルス(Caiiman crocodylus)由来のIg軽鎖のシグナルペプチド、インテグリンβ3断片、Grb2-SH2ドメイン、HIV-1 gp41(1-23)、HBV移行モチーフ、精子-卵融合タンパク質(89-111)、ヒトカルシトニン(9-32)、Pep-7、C105Y、K-FGF等が挙げられる。
【0021】
さらに、本発明の融合タンパク質において使用されるCPPはまた、ポリペプチド配列がその生物学的活性を依然として保持している限り、すなわち、分子の細胞取り込みを促進する限り、上記のポリペプチド配列のいずれかに対して約60%、70%、80%、90%、95%、99%、又は100%の配列同一性を有するポリペプチド配列から選択され得る。
【0022】
或る特定の実施の形態においては、細胞膜透過性ペプチドは、ペネトラチン(配列番号40)、Tat由来ペプチド、Rev(34-50)(配列番号42)、VP22(配列番号43)、トランスポータン(配列番号44)、Pep-1(配列番号45)、Pep-7(配列番号46)、及びそれらの任意の組合せからなる群から選択される。或る特定の実施の形態においては、Tat由来ペプチドは、Tat(48-60)(配列番号14)又はTat(47-57)(配列番号41)から選択される。
【0023】
或る特定の実施の形態において、細胞膜透過性ペプチドは、Tat(48-60)等のTat由来ペプチドを含む。或る特定の実施の形態においては、細胞膜透過性ペプチドは、以下の配列を含む又はそれからなる:配列番号14。
【0024】
或る特定の実施の形態においては、プロテアーゼは、フリン及び/又はリソソームシステインプロテアーゼから選択される。或る特定の実施の形態においては、プロテアーゼ認識配列は、フリン認識配列、リソソームシステインプロテアーゼ認識配列、及びそれらの組合せからなる群から選択される。
【0025】
或る特定の実施の形態においては、フリン認識配列は、以下の配列を含む又はそれからなる:R-X-X-R(配列番号47)(式中、Xは任意のアミノ酸であり、XはK又はRであり、↓は切断部位を示す)。
【0026】
或る特定の実施の形態においては、フリン認識配列は、以下の配列を含む又はそれからなる:R-R-X-X-R(配列番号48)。
【0027】
或る特定の実施の形態においては、Xは、アラニン(A)、アルギニン(R)、アスパラギン酸(D)、システイン(C)、グルタミン(Q)、グルタミン酸(E)、ヒスチジン(H)、イソロイシン(I)、グリシン(G)、アスパラギン酸(N)、ロイシン(L)、リジン(K)、メチオニン(M)、フェニルアラニン(F)、プロリン(P)、セリン(S)、トレオニン(T)、トリプトファン(W)、チロシン(Y)、及びバリン(V)から選択される。
【0028】
或る特定の実施の形態においては、フリン認識配列は、以下の配列を含む又はそれからなる:RRHKR(配列番号49)。
【0029】
或る特定の実施の形態においては、フリン認識配列は、以下の配列を含む又はそれからなる:QSVASSRRHKRFAGV(配列番号8)。
【0030】
或る特定の実施の形態においては、リソソームシステインプロテアーゼは、カテプシンB、カテプシンC、カテプシンX、カテプシンS、カテプシンL、カテプシンD、又はカテプシンHからなる群から選択される。
【0031】
或る特定の実施の形態においては、リソソームシステインプロテアーゼは、カテプシンLである。
【0032】
或る特定の実施の形態においては、カテプシンL認識配列は、以下の配列を含む又はそれからなる:NNTHDLVGDVRLAGV(配列番号10)。
【0033】
或る特定の実施の形態においては、プロテアーゼ認識配列は、フリン認識配列及びカテプシンL認識配列を含む。或る特定の実施の形態においては、プロテアーゼ認識配列は、N末端からC末端に向かってフリン認識配列及びカテプシンL認識配列を含む、又はN末端からC末端に向かってカテプシンL認識配列及びフリン認識配列を含む一本鎖ポリペプチドである。
【0034】
或る特定の実施の形態においては、プロテアーゼ認識配列は、RRHKR(配列番号49)及びNNTHDLVGDVRLAGV(配列番号10)を含む。或る特定の実施の形態においては、プロテアーゼ認識配列は、配列番号8及び配列番号10を含む。
【0035】
幾つかの実施の形態においては、融合ポリペプチドは、N末端からC末端に向かって細胞膜透過性ペプチド、pH感受性膜融合ペプチド、及びプロテアーゼ認識配列を含み、多量体化ドメイン配列は、融合ポリペプチドのN末端若しくはC末端に又は上記の任意の2つの隣接するドメイン間に位置している。或る特定の例示的な実施の形態においては、多量体化ドメイン配列は、融合ポリペプチドのN末端に又は融合ポリペプチドのC末端にある。
【0036】
他の実施の形態においては、融合ポリペプチドは、N末端からC末端に向かってpH感受性膜融合ペプチド、細胞膜透過性ペプチド、及びプロテアーゼ認識配列を含み、多量体化ドメイン配列は、融合ポリペプチドのN末端若しくはC末端に又は上記の任意の2つの隣接するドメイン間に位置している。或る特定の例示的な実施の形態においては、多量体化ドメイン配列は、融合ポリペプチドのN末端に又は融合ポリペプチドのC末端にある。
【0037】
或る特定の実施の形態においては、プロテアーゼ認識配列は、N末端からC末端に向かってフリン認識配列及びカテプシンL認識配列を含む。或る特定の実施の形態においては、プロテアーゼ認識配列は、N末端からC末端に向かってカテプシンL認識配列及びフリン認識配列を含む。
【0038】
或る特定の実施の形態においては、融合ポリペプチドに含まれる任意の隣接するドメインは、任意にペプチドリンカーによって連結されている。或る特定の実施の形態においては、ペプチドリンカーは(GS)であり、ここで、mは1~4の整数(例えば、1、2、3、又は4)から選択され、nは1~3の整数(例えば、1、2、又は3)から選択される。或る特定の実施の形態においては、ペプチドリンカーは、配列番号50である。或る特定の実施の形態においては、任意の隣接するドメイン間のペプチドリンカーは、同じ又は異なっている場合もある。
【0039】
或る特定の例示的な実施の形態においては、融合ポリペプチドは、配列番号16~配列番号18のいずれか1つに示される配列を含む。
【0040】
第2の態様においては、本発明は、第1の態様の融合ポリペプチドの多量体を提供する。
【0041】
或る特定の実施の形態においては、多量体は、二量体、三量体、又は四量体である。或る特定の実施の形態においては、多量体は二量体である。
【0042】
或る特定の実施の形態においては、多量体はホモ多量体である。
【0043】
融合タンパク質
第3の態様においては、本発明は、第1の態様の融合ポリペプチドと、追加のポリペプチドとを含む融合タンパク質を提供する。
【0044】
或る特定の実施の形態においては、追加のポリペプチドは、酵素、蛍光タンパク質、又はビオチン等のような検出可能な標識を含む。
【0045】
或る特定の実施の形態においては、追加のポリペプチドは、エピトープタグ、レポーター遺伝子によってコードされるタンパク質配列、及び/又は核局在化シグナル(NLS)配列を含む。
【0046】
本発明において使用され得るエピトープタグは当業者によく知られており、その例としては、限定されるものではないが、His、V5、FLAG、HA、Myc、VSV-G、Trx等が挙げられ、当業者は、所望の目的(例えば、精製、検出、又は追跡)に適切なエピトープタグをどのように選択するかを熟知している。或る特定の例示的な実施の形態においては、追加のポリペプチドは、Hisタグを含む。
【0047】
本発明において使用され得るレポーター遺伝子配列は、当業者によく知られており、その例としては、限定されるものではないが、GST、HRP、CAT、GFP、HcRed、DsRed、CFP、YFP、BFP等が挙げられる。
【0048】
本発明において使用され得る核局在化シグナル(NLS)配列は、当業者によく知られており、その例としては、限定されるものではないが、SV40ウイルスのラージT抗原のNLSが挙げられる。或る特定の例示的な実施の形態においては、NLS配列は、配列番号22に示されている。
【0049】
或る特定の例示的な実施の形態においては、追加のポリペプチドは、ジンクフィンガータンパク質(例えば、ZFP9)、又はプロテインホスファターゼ(例えば、Ppmlb)である。或る特定の例示的な実施の形態においては、ジンクフィンガータンパク質は、NLS配列を含む。
【0050】
或る特定の実施の形態においては、追加のポリペプチドは、核酸結合ドメイン配列である。
【0051】
或る特定の実施の形態においては、核酸結合ドメイン配列は、ジンクフィンガータンパク質(例えば、ZFP9)である。
【0052】
或る特定の実施の形態においては、核酸結合ドメイン配列は、配列番号31に示される配列を含む。
【0053】
或る特定の例示的な実施の形態においては、追加のポリペプチドがジンクフィンガータンパク質(例えば、ZFP9)である場合に、多量体化ドメイン配列は、配列番号2に示される配列を含む。
【0054】
或る特定の例示的な実施の形態においては、融合タンパク質は、配列番号19~配列番号21のいずれか1つに示される配列を含む。
【0055】
或る特定の実施の形態においては、融合タンパク質は、N末端からC末端に向かって細胞膜透過性ペプチド、pH感受性膜融合ペプチド、プロテアーゼ認識配列、及び追加のポリペプチドを含み、多量体化ドメイン配列は、融合タンパク質のN末端若しくはC末端に又は上記の任意の2つの隣接するドメイン間に位置している。或る特定の例示的な実施の形態においては、多量体化ドメイン配列は、融合タンパク質のN末端に又はプロテアーゼ認識配列に対するC末端に位置している。好ましくは、プロテアーゼ認識配列は、N末端からC末端に向かってフリン認識配列及びカテプシンL認識配列を含む、又はN末端からC末端に向かってカテプシンL認識配列及びフリン認識配列を含む。
【0056】
或る特定の実施の形態においては、融合タンパク質は、N末端からC末端に向かってpH感受性膜融合ペプチド、細胞膜透過性ペプチド、プロテアーゼ認識配列、及び追加のポリペプチドを含み、多量体化ドメイン配列は、融合タンパク質のN末端若しくはC末端に又は上記の任意の2つの隣接するドメイン間に位置している。或る特定の例示的な実施の形態においては、多量体化ドメイン配列は、融合タンパク質のN末端に又はプロテアーゼ認識配列のC末端に位置している。好ましくは、プロテアーゼ認識配列は、N末端からC末端に向かってフリン認識配列及びカテプシンL認識配列を含む、又はN末端からC末端に向かってカテプシンL認識配列及びフリン認識配列を含む。
【0057】
或る特定の実施の形態においては、追加のポリペプチドは、融合ポリペプチドのC末端に融合されている。
【0058】
或る特定の実施の形態においては、追加のポリペプチドは、10000Da未満、例えば5000Da未満、3000Da未満、又は1000Da未満の分子量を有する。
【0059】
第4の態様においては、本発明は、第3の態様の融合タンパク質の多量体を提供する。
【0060】
或る特定の実施の形態においては、多量体は、二量体、三量体、又は四量体である。或る特定の実施の形態においては、多量体は二量体である。
【0061】
或る特定の実施の形態においては、多量体はホモ多量体である。
【0062】
多量体の調製
本発明の融合ポリペプチド又は融合タンパク質は、当該技術分野において知られる様々な方法によって、例えば、遺伝子工学的方法(組換え技術)によって、又は化学合成法(例えば、Fmoc固相法)によって調製され得る。本発明の融合タンパク質は、それが産生される様式によって限定されない。
【0063】
したがって、別の態様においては、本発明は、本発明の融合ポリペプチド又は融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む単離された核酸分子を提供する。
【0064】
別の態様においては、本発明は、上記の単離された核酸分子を含むベクター(例えば、クローニングベクター又は発現ベクター)を提供する。或る特定の実施の形態においては、ベクターは、例えば、プラスミド、コスミド、ファージ等である。
【0065】
別の態様においては、本発明は、上記の単離された核酸分子又はベクターを含む宿主細胞を提供する。そのような宿主細胞としては、限定されるものではないが、E.コリ(E. coli)細胞等の原核細胞、並びに酵母細胞、昆虫細胞、植物細胞、及び動物細胞(例えば、マウス細胞、ヒト細胞等のような哺乳動物細胞)等の真核細胞が挙げられる。
【0066】
別の態様においては、本発明の融合ポリペプチド又は融合タンパク質を調製する方法であって、タンパク質の発現を可能にする条件下で上記の宿主細胞を培養することと、培養された宿主細胞の培養物から融合ポリペプチド又は融合タンパク質を回収することとを含み、ここで、融合ポリペプチド又は融合タンパク質は多量体の形態で存在する、方法が提供される。
【0067】
別の態様においては、本発明の多量体を調製する方法であって、タンパク質の発現を可能にする条件下で上記の宿主細胞を培養することと、培養された宿主細胞の培養物から多量体を回収することとを含む、方法が提供される。
【0068】
複合体
第5の態様においては、本発明は、第2の態様の多量体とカーゴ分子とを含む、又は第4の態様の多量体とカーゴ分子とを含む複合体を提供する。カーゴ分子は、任意の分子であり得る。
【0069】
或る特定の実施の形態においては、カーゴ分子は、タンパク質、核酸、炭水化物、脂質、化合物、及びそれらの任意の混合物からなる群から選択される。
【0070】
或る特定の実施の形態においては、カーゴ分子は、10000Da未満、例えば5000Da未満、3000Da未満、又は1000Da未満の分子量を有する。
【0071】
或る特定の実施の形態においては、カーゴ分子は、酵素、放射性核種、蛍光色素、化学発光性物質、又はビオチン等のような検出可能な標識を含む。
【0072】
或る特定の実施の形態においては、カーゴ分子は、薬学的に活性な作用物質を含む。
【0073】
ペプチド又はタンパク質
幾つかの実施の形態においては、カーゴ分子は、ペプチド又はタンパク質である。或る特定の実施の形態においては、カーゴ分子は、多量体を形成する融合ポリペプチド又は融合タンパク質に融合されている。或る特定の実施の形態においては、複合体は、第2の態様の多量体を含む。
【0074】
或る特定の実施の形態においては、複合体は、一本鎖ポリペプチドを含み、ここで、
(i)一本鎖ポリペプチドは、N末端からC末端に向かって細胞膜透過性ペプチド、pH感受性膜融合ペプチド、プロテアーゼ認識配列、及びカーゴ分子を含み、多量体化ドメイン配列は、融合タンパク質のN末端若しくはC末端に又は上記の任意の2つの隣接するドメイン間に位置しており、好ましくは、プロテアーゼ認識配列は、N末端からC末端に向かってフリン認識配列及びカテプシンL認識配列を含み、又はN末端からC末端に向かってカテプシンL認識配列及びフリン認識配列を含み、或いは、
(ii)融合タンパク質は、N末端からC末端に向かってpH感受性膜融合ペプチド、細胞膜透過性ペプチド、プロテアーゼ認識配列、及びカーゴ分子を含み、多量体化ドメイン配列は、融合タンパク質のN末端若しくはC末端に又は上記の任意の2つの隣接するドメイン間に位置しており、好ましくは、プロテアーゼ認識配列は、N末端からC末端に向かってフリン認識配列及びカテプシンL認識配列を含み、又はN末端からC末端に向かってカテプシンL認識配列及びフリン認識配列を含み、或いは、
(iii)カーゴ分子は、融合ポリペプチドのC末端に融合されている。
【0075】
核酸
他の実施の形態においては、カーゴ分子は核酸である。或る特定の実施の形態においては、核酸は、DNA分子、RNA分子、siRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、アプタマー、及びそれらの任意の組合せからなる群から選択される。
【0076】
或る特定の実施の形態においては、複合体は、第4の態様の多量体を含み、ここで、多量体を構成する融合タンパク質は、核酸結合ドメイン配列を含む。或る特定の実施の形態においては、核酸結合ドメイン配列は、ジンクフィンガータンパク質(例えば、ZFP9)である。或る特定の実施の形態においては、核酸結合ドメイン配列は、配列番号31に示される配列を含む。或る特定の例示的な実施の形態においては、追加のポリペプチドがジンクフィンガータンパク質(例えば、ZFP9)である場合に、多量体化ドメイン配列は、配列番号2に示される配列を含む。
【0077】
連結様式
或る特定の実施の形態においては、カーゴ分子は、多量体(又は多量体を構成する融合ポリペプチド若しくは融合タンパク質)に融合されているか、化学的にカップリングされているか、又は非共有結合により連結されている。
【0078】
幾つかの実施の形態においては、第2の態様又は第4の態様の多量体(又は多量体を構成する融合ポリペプチド若しくは融合タンパク質)は、カーゴ分子に融合されている。或る特定の実施の形態においては、カーゴ分子は、ペプチド又はタンパク質である。
【0079】
幾つかの実施の形態においては、第2の態様又は第4の態様の多量体(又は多量体を構成する融合ポリペプチド若しくは融合タンパク質)は、カーゴ分子に化学的にカップリングされている。「化学的なカップリング」とは、多量体(又は多量体を構成する融合ポリペプチド若しくは融合タンパク質)に含まれる反応性基とカーゴ分子に含まれる反応性基との間の化学反応において得られる結合を指し、化学反応後に2つの部分が共有結合によってつなぎ合わされる。上記の化学反応(カップリング反応)の前に、多量体、カーゴ分子、又はその両方を別個の反応においてリンカー分子で修飾することで、それぞれが化学的なカップリングに必要とされる反応性基を含むようにすることができる。多量体又はカーゴ分子を修飾するのに使用されるリンカー分子の選択は、使用されるカップリング戦略に依存する。
【0080】
或る特定の実施の形態においては、共有結合は、ジスルフィド結合、ホスホジエステル結合、ホスホロチオエート結合、アミド結合、アミン結合、チオエーテル結合、エーテル結合、エステル結合、又は炭素-炭素結合である。
【0081】
或る特定の実施の形態においては、カーゴ分子は、多量体のC末端にカップリングされている。
【0082】
或る特定の実施の形態においては、カーゴ分子は核酸である。
【0083】
他の実施の形態においては、第2の態様又は第4の態様の多量体は、カーゴ分子に非共有結合により連結されている。
【0084】
或る特定の実施の形態においては、多量体は、カーゴ分子に静電的にコンジュゲートされている。
【0085】
或る特定の実施の形態においては、カーゴ分子は核酸である。
【0086】
複合体の調製
幾つかの実施の形態においては、複合体が化学的にカップリングされた多量体及びカーゴ分子を含む場合に、以下の例示的な方法によって本発明の複合体を得ることができる:多量体及びカーゴ分子に別々に含まれる反応性基間の化学反応を可能にする条件下で多量体とカーゴ分子とを混合することで、2つの部分を共有結合により連結させる。或る特定の実施の形態においては、この方法は、リンカー分子を使用して多量体、カーゴ分子、又は両方を修飾することで、これらがそれぞれ上記の化学反応に必要とされる反応性基を含むようにすることを更に含む。或る特定の実施の形態においては、カーゴ分子は核酸である。
【0087】
他の実施の形態においては、複合体が静電的相互作用によってコンジュゲートされた多量体及びカーゴ分子を含む場合に、以下の例示的な方法によって本発明の複合体を得ることができる:(1)本発明の多量体とカーゴ分子とを混合して混合物を形成し、(2)混合物をインキュベートすることで、多量体及びカーゴ分子が複合体を形成するようにする。或る特定の実施の形態においては、カーゴ分子は核酸である。そのような実施の形態においては、多量体を構成する融合タンパク質は、好ましくは、核酸結合ドメイン配列を更に含む。
【0088】
使用及び方法
本発明の多量体又は複合体は、カーゴ分子のエンドサイトーシス効率を大幅に改善することができ、エンドサイトーシス小胞からのカーゴ分子の効果的な放出を可能にし、カーゴ分子が細胞質内で利用可能になったら、カーゴ分子はそれに関連する任意の役割を果たし得る。したがって、本発明の多量体又は複合体は、更なる研究のためだけでなく、治療用途及び診断用途のためにも細胞内送達剤として使用され得る。
【0089】
したがって、別の態様においては、本発明は、本発明の融合ポリペプチド、融合タンパク質、多量体、複合体、単離された核酸分子、ベクター、又は宿主細胞と、薬学的に許容可能な担体及び/又は賦形剤とを含む医薬組成物を提供する。
【0090】
或る特定の実施の形態においては、医薬組成物は、第5の態様の複合体を含む。
【0091】
或る特定の実施の形態においては、複合体に含まれるカーゴ分子は、薬学的に活性な作用物質又は検出可能な標識である。そのような標識は、診断、薬物動態(例えば、吸収、分布、代謝、排泄)の研究、治療又は薬物の有効性又は副作用の研究等に使用され得る。
【0092】
別の態様においては、本発明はまた、疾患を治療する医薬の製造における、本発明の融合ポリペプチド、融合タンパク質、多量体、複合体、又は融合ポリペプチド若しくは融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む単離された核酸分子、ベクター、若しくは宿主細胞の使用であって、複合体に含まれるカーゴ分子は疾患を治療することができる、使用に関する。別の態様においては、本発明はまた、疾患を治療する方法であって、それを必要とする被験体に、本発明の融合ポリペプチド、融合タンパク質、多量体、複合体、又は融合ポリペプチド若しくは融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む単離された核酸分子、ベクター、若しくは宿主細胞を投与することを含み、ここで、複合体に含まれるカーゴ分子は疾患を治療することができる、方法に関する。
【0093】
或る特定の実施の形態においては、疾患は、プログラムされた壊死に関連する疾患であり、その際、カーゴ分子はプロテインホスファターゼ1B(Ppm1b)を含む。或る特定の実施の形態においては、プログラムされた壊死に関連する疾患は、肝障害(例えば、アセトアミノフェンAPAPによって引き起こされる急性肝障害等の薬物性肝障害)、炎症性疾患(例えば、全身性炎症反応症候群SIRS)、虚血再灌流障害、及び/又は神経変性疾患を含む。或る特定の実施の形態においては、疾患は、TNF-αによって引き起こされるプログラムされた壊死に関連する疾患、例えばTNF-αによって引き起こされるSIRS、すなわち全身性炎症反応症候群である。
【0094】
本発明の融合ポリペプチド、融合タンパク質、多量体、複合体、又は医薬組成物は、医療分野において知られる任意の形態であり得て、例えば、錠剤、丸剤、懸濁液剤、エマルジョン剤、液剤、ゲル剤、カプセル剤、粉剤、顆粒剤、エリキシル剤、トローチ剤、坐剤、注射剤(注射液、凍結乾燥粉末を含む)、吸入剤、スプレー剤等の形態であり得る。好ましい剤形は、意図される投与様式及び治療用途に依存する。
【0095】
本発明の融合ポリペプチド、融合タンパク質、多量体、複合体、又は医薬組成物は、限定されるものではないが、経口投与、直腸投与、非経口投与、又は局所投与を含む当該技術分野において知られる任意の適切な方法によって投与され得る。
【0096】
例示的な投与経路は経口投与である。経口投与用の液体剤形としては、薬学的に許容可能なエマルジョン剤、マイクロエマルジョン剤、液剤、懸濁液剤、シロップ剤、エリキシル剤等が挙げられる。活性成分に加えて、液体剤形は、当該技術分野において一般的に使用される不活性希釈剤、例えば、水又は他の溶剤、可溶化剤及び乳化剤、例えば、エタノール、イソプロパノール、酢酸エチル、ベンジルアルコール、ベンジル安息香酸エステル、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、ジメチルホルムアミド、油(例えば、綿実油、ラッカセイ油、トウモロコシ油、胚芽油、オリーブ油、ヒマシ油、及びゴマ油)、グリセリン、テトラヒドロフルフリルアルコール、ポリエチレングリコール、脂肪酸ソルビタンエステル、並びにそれらの混合物を含み得る。不活性希釈剤に加えて、経口投与用の液体剤形はまた、アジュバント、例えば、湿潤剤、乳化剤、及び懸濁剤、甘味剤、香味剤、並びに芳香剤等も含み得る。経口投与用の固形剤形としては、カプセル剤、錠剤、丸剤、トローチ剤、粉剤、顆粒剤等が挙げられる。活性成分に加えて、固形剤形は、薬学的に許容可能な不活性な賦形剤又は担体、例えば、充填剤(例えば、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトール、デンプン、微結晶性セルロース、ガラクトース、クロスポビドン、及び硫酸カルシウム)、結合剤(例えば、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、スクロース、及びアラビアゴム)、保湿剤(例えば、セチルアルコール、及びモノステアリン酸グリセリル)、崩壊剤(例えば、寒天、炭酸カルシウム、デンプン、アルギン酸、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルデンプンナトリウム)、滑沢剤(例えば、タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム)、及びそれらの混合物を含み得る。
【0097】
本発明の融合ポリペプチド、融合タンパク質、多量体、複合体、又は医薬組成物はまた、非経口経路によっても投与され得る。
【0098】
したがって、別の例示的な投与経路は、非経口投与、例えば、皮下注射、静脈内注射、腹腔内注射、筋肉内注射、胸骨内注射、及び輸注である。非経口投与用の剤形は、注射用溶液、注射用滅菌粉末、又は注射用濃縮溶液を含む注射用調剤であり得る。活性成分に加えて、注射用の剤形は、滅菌水、リンゲル液、及び等張塩化ナトリウム溶液等の薬学的に許容可能な担体、並びに酸化防止剤、緩衝液、及び静菌剤等の適切な添加剤を含み得る。
【0099】
別の例示的な投与経路は、局所投与、例えば、経皮投与(例えば、経皮パッチ又はイオントフォレシスデバイスを介した投与)、眼内投与、又は鼻腔内投与若しくは吸入投与である。経皮投与用の剤形は、局所用のゲル剤、スプレー剤、軟膏剤、及びクリーム剤であり得る。活性成分に加えて、局所剤形は、皮膚又は他の作用領域を介した活性成分の吸収又は浸透を増強する成分を含み得る。
【0100】
別の例示的な投与経路は直腸投与である。直腸投与用の剤形は坐剤であり得る。
【0101】
さらに、製薬分野において知られる他の担体材料及び投与様式も使用することができる。本発明の融合ポリペプチド、融合タンパク質、多量体、複合体、又は医薬組成物は、製剤化及び投与の効果的な方法等の任意の既知の製薬技術によって調製され得る。
【0102】
別の態様においては、本発明は、本発明の融合ポリペプチド、融合タンパク質、多量体、複合体、単離された核酸分子、ベクター、又は宿主細胞を含むキットを提供する。或る特定の実施の形態においては、キットは、トランスフェクション及び/又は細胞内送達についての使用説明書を更に含む。或る特定の実施の形態においては、キットは、カーゴ分子(例えば、核酸、ペプチド又はタンパク質、炭水化物、脂質、化合物、及びそれらの任意の混合物)のトランスフェクション及び/又は細胞内送達に使用される。或る特定の実施の形態においては、細胞は、ヒト細胞等の哺乳動物細胞である。
【0103】
別の態様においては、本発明はまた、送達試薬(例えば、トランスフェクション試薬又は細胞内送達試薬)としての、本発明の融合ポリペプチド、融合タンパク質、多量体、複合体、単離された核酸分子、ベクター、又は宿主細胞の使用に関する。或る特定の実施の形態においては、送達試薬は、カーゴ分子(例えば、核酸、ペプチド又はタンパク質、炭水化物、脂質、化合物、及びそれらの任意の混合物)の細胞内送達に使用される。或る特定の実施の形態においては、細胞は、ヒト細胞等の哺乳動物細胞である。
【0104】
別の態様においては、本発明は、カーゴ分子を細胞内に送達する方法であって、細胞と第5の態様の複合体とを接触させることを含み、ここで、カーゴ分子は複合体に含まれるカーゴ分子である、方法を提供する。
【0105】
或る特定の実施の形態においては、細胞と複合体との接触は、in vivoで行われる。
【0106】
或る特定の実施の形態においては、細胞と複合体との接触は、ex vivoで行われる。
【0107】
或る特定の実施の形態においては、細胞と複合体との接触は、in vitroで行われる。
【0108】
或る特定の実施の形態においては、細胞は、哺乳動物細胞、例えばヒト細胞等の真核細胞である。
【0109】
用語の定義
本発明において、特段の指定がない限り、本明細書において使用される科学用語及び技術用語は、当業者によって一般的に理解される意味を有する。さらに、本明細書において使用される細胞培養、生化学、核酸化学、免疫学実験室等の操作工程は全て、対応する分野において広く使用される日常的な工程である。一方、本発明をよりよく理解するために、関連する用語の定義及び説明を以下に示す。
【0110】
本明細書において使用される場合に、「ベクター」という用語は、ポリヌクレオチドを挿入することができる核酸送達担体を指す。ベクターが挿入されるポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質を発現し得る場合に、そのベクターは発現ベクターと呼ばれる。ベクターは、形質転換、形質導入、又はトランスフェクションによって宿主細胞内に導入され得るため、ベクターによって運ばれた遺伝物質要素は宿主細胞において発現され得る。ベクターは、当業者によく知られており、限定されるものではないが、プラスミド、ファージミド、コスミド、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC)、又はP1由来人工染色体(PAC)等の人工染色体、λファージ又はM13ファージ等のファージ、及び動物ウイルスが挙げられる。ベクターとして使用され得る動物ウイルスとしては、限定されるものではないが、レトロウイルス(レンチウイルスを含む)、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス(例えば、単純ヘルペスウイルス)、ポックスウイルス、バキュロウイルス、パピローマウイルス、パポーバウイルス(例えば、SV40)が挙げられる。ベクターは、限定されるものではないが、プロモーター配列、転写開始配列、エンハンサー配列、選択要素、及びレポーター遺伝子を含む、発現を制御する様々な要素を含み得る。さらに、ベクターはまた、複製起点も含み得る。
【0111】
本明細書において使用される場合に、「宿主細胞」という用語は、限定されるものではないが、E.コリ若しくはバチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)等の原核細胞、酵母細胞若しくはアスペルギルス(Aspergillus)等の真菌細胞、ショウジョウバエS2細胞若しくはSf9等の昆虫細胞、又は線維芽細胞、CHO細胞、COS細胞、NSO細胞、HeLa細胞、BHK細胞、HEK293細胞、若しくはヒト細胞等の動物細胞を含む、ベクターを導入するのに使用することができる細胞を指す。
【0112】
本明細書において使用される場合に、「同一性」という用語は、2つのポリペプチド間又は2つの核酸間の一致度を指す。比較される2つの配列が或る特定の部位に同じ単量体サブユニットの塩基又はアミノ酸を有する(例えば、2つのDNA分子の各々が或る特定の部位にアデニンを有する又は2つのポリペプチドの各々が或る特定の部位にリジンを有する)場合に、2つの分子はその部位で同一である。2つの配列間の同一性のパーセントは、比較される部位の総数に対する、2つの配列が共有する同一の部位の数に100を掛けた関数である。例えば、2つの配列の10個の部位の6個が一致している場合に、これらの2つの配列は60%の同一性を有する。例えば、DNA配列:CTGACTとCAGGTTとは、50%の同一性を共有する(6個の部位の3個が一致している)。一般的に、2つの配列の比較は、最大の同一性が得られるように行われる。そのようなアラインメントは、Needlemanらの方法(J. Mol. Biol. 48:443-453, 1970)に基づくAlignプログラム(DNAstar, Inc.社)等のコンピュータープログラムを使用することにより実施することができる。2つのアミノ酸配列間の同一性のパーセントはまた、ALIGNプログラム(バージョン2.0)に組み込まれているE. Meyers及びW. Millerのアルゴリズム(Comput. Appl. Biosci., 4:11-17 (1988))を使用して、PAM120残基重み付け表を使用して、12のギャップ長ペナルティー及び4のギャップペナルティーで決定することもできる。さらに、2つのアミノ酸配列間の同一性のパーセントは、GCGソフトウェアパッケージ(http://www.gcg.comで入手可能)内のGAPプログラムに組み込まれているNeedleman及びWunschのアルゴリズム(J. Mol. Biol. 48:444-453 (1970))によって、Blossum 62行列又はPAM250行列のいずれかを使用して、16、14、12、10、8、6又は4のギャップ重み付け及び1、2、3、4、5、又は6の長さ重み付けで決定することができる。
【0113】
本明細書において含まれる20種の通常のアミノ酸は、日常的な様式で発現される。例えば、Immunology-A Synthesis(第2版, E. S. Golub and D. R. Gren, Eds., Sinauer Associates, Sunderland, Mass. (1991))(これは、引用することにより本明細書の一部をなす)を参照のこと。本発明において、「ポリペプチド」及び「タンパク質」という用語は同じ意味を有し、区別なく使用される。そして、本発明において、アミノ酸は一般に、当該技術分野においてよく知られる1文字及び3文字の略語によって表される。例えば、アラニンは、A又はAlaによって表され得る。
【0114】
本明細書において使用される場合に、「薬学的に許容可能な担体及び/又は賦形剤」という用語は、当該技術分野においてよく知られている、被験体及び活性成分と薬理学的及び/又は生理学的に適合性のある担体及び/又は賦形剤を指し(例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences. Gennaro ARによる編集, 第19版 Pennsylvania: Mack Publishing Company, 1995年を参照)、限定されるものではないが、pH調整剤、界面活性剤、イオン強度増強剤、浸透圧を維持する作用物質、吸収を遅延させる作用物質、希釈剤、アジュバント、保存剤、安定剤等が挙げられる。例えば、pH調整剤としては、限定されるものではないが、リン酸緩衝液が挙げられる。界面活性剤としては、限定されるものではないが、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、又はTween-80等の非イオン性界面活性剤が挙げられる。イオン強度増強剤としては、限定されるものではないが、塩化ナトリウムが挙げられる。浸透圧を維持する作用物質としては、限定されるものではないが、糖、NaCl等が挙げられる。吸収を遅延させる作用物質としては、限定されるものではないが、モノステアリン酸塩及びゼラチンが挙げられる。希釈剤としては、限定されるものではないが、水、水性緩衝液(例えば、緩衝生理食塩水)、アルコール、及びポリオール(例えば、グリセロール)等が挙げられる。アジュバントとしては、限定されるものではないが、アルミニウムアジュバント(例えば、水酸化アルミニウム)、フロイントアジュバント(例えば、完全フロイントアジュバント)等が挙げられる。保存剤としては、限定されるものではないが、チメロサール、2-フェノキシエタノール、パラベン、トリクロロ-tert-ブタノール、フェノール、ソルビン酸等の様々な抗細菌剤及び抗真菌剤が挙げられる。安定剤は、当業者によって通常理解される意味を有し、これは薬物中の活性成分の所望の活性(例えば、PSD-95ユビキチン化の阻害活性)を安定化し得るものであり、限定されるものではないが、グルタミン酸ナトリウム、ゼラチン、SPGA、糖類(例えば、ソルビトール、マンニトール、デンプン、スクロース、ラクトース、デキストラン、又はグルコース)、アミノ酸(例えば、グルタミン酸、グリシン)、タンパク質(例えば、乾燥ホエイ、アルブミン、又はカゼイン)、又はそれらの分解生成物(例えば、ラクトアルブミン加水分解物)等を含む。
【0115】
本明細書において使用される場合に、「治療」という用語は、有益な又は所望の臨床結果を得るために行われる方法を指す。本発明の目的のために、有益な又は所望の臨床結果としては、限定されるものではないが、検出可能であるか又は検出不可能であるかにかかわらず、症状の緩和、疾患の範囲の狭小化、疾患の状態の安定化(すなわち、悪化させない)、疾患の進行の遅延又は減速、及び症状の(部分的又は完全な)緩和が挙げられる。さらに、「治療」は、予想される生存時間(治療を受けていない場合)と比較した生存時間の延長を指す場合もある。
【0116】
本明細書において使用される場合に、「被験体」という用語は、哺乳動物、例えば霊長類、例えばヒトを指す。
【0117】
本発明の有益な効果
本発明の多量体化送達システムは、カーゴ分子のエンドサイトーシス効率及びエンドサイトーシス小胞放出効率を大幅に改善し、それによりカーゴ分子の細胞質送達効率を大幅に改善することで、カーゴ分子がその対応する生物学的機能を完全に発揮し得るようにすることができる。特に、本発明の多量体化送達システムは、血清耐性を大幅に改善し、それによりin vivoでの送達を可能にすることができる。したがって、本発明の送達システムは、細胞の生物学的メカニズム及び経路に影響を与えるのに効果的な手段を提供し、研究、治療、診断等のような多くの分野において使用され得るため、幅広い応用の見通し及び臨床的価値を有する。
【0118】
本発明の実施形態を以下で図面及び実施例を参照して詳細に説明するが、当業者であれば、以下の図面及び実施例は、本発明の範囲を限定するのではなく、本発明を例示するためにのみ使用されることを理解するであろう。本発明の様々な対象及び有利な態様は、当業者には添付の図面及び以下の好ましい実施形態の詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0119】
図1】ロイシンジッパーに基づく多量体化送達システム-eGFPのクローン設計を示す図である。
図2】タンパク質凝集物の状態に対するロイシンジッパーの効果を示す図である。
図3】ロイシンジッパードメインを加えた後の送達システムのエンドサイトーシス効率及び小胞脱出効率の評価を示す図である。
図4】ロイシンジッパードメインの添加後の血清条件下での送達システムのエンドサイトーシス効率の評価を示す図である。
図5】複数の多量体化ドメインに基づく送達システム-eGFPのクローン設計を示す図である。
図6】エンドサイトーシス効率に対する様々な多量体化ドメインの効果の蛍光顕微鏡イメージングを示す図である。
図7】エンドサイトーシス効率に対する様々な多量体化ドメインの効果の評価を示す図である。
図8】TINNeL-eGFP/GFPβ1-10についてのクローン設計を示す図である。
図9】TINNeL送達システムのエンドサイトーシス効率の評価を示す図である。
図10】TINNeL送達システムの小胞脱出効率の評価を示す図である。
図11】様々な血清濃度下でのTINNeL送達システムの送達効率の評価を示す図である。
図12】本発明の多量体化送達システムの輸送メカニズムの概略図を示す図である。
図13】TINNeL-Ppm1b送達システムのタンパク質及び他のコントロールタンパク質についてのクローン構築を示す図である。
図14】TNF-αに誘発される細胞壊死の阻害に対するTINNeL-Ppm1bの効果を示す図である。
図15】TINNeL-Ppm1bによるTNF-α誘発死の阻害後のマウスの生存率を示す図である。
図16】TINNeL-Ppm1bによる阻害後のTNF-αによって引き起こされるマウスSIRS盲腸のHE染色を示す図である。
図17】TINNeL-Ppm1bによる阻害後のTNF-αによって引き起こされるマウスSIRS盲腸の障害スコアを示す図である。
図18】マウスにおけるAPAPに誘発される急性肝障害のTINNeL-Ppm1b治療後のALT/ASTレベルにおける変化を示す図である。
図19】APAPによって引き起こされる死に対するTINNeL-Ppm1b治療によるマウスの生存率を示す図である。
図20】TINNeL-ZFP9送達システムのタンパク質及び他のコントロールタンパク質についてのクローン構築を示す図である。
図21】ZFP9送達用の真核生物発現プラスミド構造の概略図を示す図である。
図22】TINNeL-ZFP9による赤色蛍光タンパク質発現プラスミドの形質導入効率についてのフローサイトメトリー分析を示す図である。
図23】血清条件下でのTINNeL-ZFP9及びX-tremeGNENによって形質導入された赤色蛍光タンパク質発現プラスミドについてのフローサイトメトリー分析を示す図である。
図24】TINNeL-ZFP9によって形質導入されたルシフェラーゼプラスミドの蛍光発現についてのマウスの画像を示す図である。
図25】送達システムによるGFPβ1-10の形質導入の蛍光顕微鏡観察を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0120】
配列情報
本発明において含まれる部分配列の情報を、以下の表1に示す。
【0121】
【表1】
【実施例
【0122】
ここで、以下の実施例を参照して本発明を説明するが、これらの実施例は、本発明を限定することを意図するものではなく、本発明を例示することを意図するものである。
【0123】
特段の指定がない限り、本発明における分子生物学実験法及び免疫アッセイ法を、基本的にJ. Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第2版, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989、及びF. M. Ausubel et al., Refined Molecular Biology Laboratory Manual, 第3版, John Wiley & Sons, Inc., 1995において記載される方法を参照することによって行った。制限酵素を製品の製造業者により推奨される条件に従って使用した。当業者によれば、実施例は本発明を例として説明するものであって、特許請求の範囲に記載される本発明の範囲を限定することを意図するものではないことが理解される。
【0124】
以下の実施例において含まれる主な試薬の供給元は以下の通りである:
【0125】
クローン構築に関連する試薬に必要とされる材料は以下の通りであった:DNAポリメラーゼ(TaKaRa、R040A)、DNA回収キット(TianGen、DP214-03)、プラスミドミニキット(TianGen、DP103-03)、プラスミドマキシキット(QIAGEN、12663)、Gibsonアセンブリマスターミックス(NEB、E2611L)、DNAマーカー(ThmeroFisher、SM0331)、アガロース(Biowest、BW-R0100)。
【0126】
大規模タンパク質発現に必要とされる材料は以下の通りであった:ペプトン(BiSIGMA-ALDRICH、T7293-1KG)、酵母粉末(OXOID、LP0021B)、塩化ナトリウム(Xilong Chemical Industry、10011012AR)、IPTG(Inalco、1758-1400)。
【0127】
タンパク質精製に必要とされる培地は以下の通りであった:SPセファロースファストフロー(GE Healthcare、17-0729-01)、NIセファロース(GE Healthcare、17-5268-02)。
【0128】
タンパク質精製及び保存に必要とされる試薬は以下の通りであった:グリセロール/グリセロール/C(SIGMA-ALDRICH、G5516)、KCl(Xilong Chemical Industry、1002007)、NaHPO・12HO(Xilong Chemical Industry、1001067AR)、KHPO(Xilong Chemical Industry、1002048AR500)、イミダゾール(SIGMA-ALDRICH、V900153)、トリス塩基(Seebio、183995)、グルコース(Xilong Chemical Industry、1064008AR500)、BCAタンパク質濃度アッセイキット(Thermo Scientific、23227)。
【0129】
細胞培養に必要とされる試薬:FBS(GIBCO、10099-133)、DMEM(GIBCO、11965092)、トリプシン(AMRESCO、0458)。
【0130】
レンチウイルスのパッケージング及び感染に必要とされる試薬:レンチウイルスパッケージングプラスミド:pCMV-VSV-G(Addgene、8454)、pRSV-Rev(Addgene、12253)、pMDLg/pRRE(Addgene、12251)、X-tremeGENEトランスフェクション試薬(Roche、06366244001)、ピューロマイシン(InvivoGen、ant-pr-5)、ブラスチシジン(InvivoGen、ant-bl-5b)、ポリブレン(Santa Cruz、sc-134220)。
【0131】
実験において使用されるGFPβ1-10、ZFP9、Ppm1b、dsRed、mCherry、ヒストンH3関連プラスミドはSangon Bioによって合成され、Cas9配列を増幅するのに使用されるプラスミドは、pCasKP-hph(Addgene、117232)であった。
【0132】
他の試薬:TNF-α(Novoprotein、CF09)、PI(ThmeroFisher、P3566)。
【0133】
細胞系統:HEK-293T(ヒト腎臓上皮細胞)、L929(マウス線維芽細胞)はATCCから購入した。
【0134】
実施例1:TL多量体化送達システムの確立及び性能評価
この実施例においては、ロイシンジッパーを使用して多量体化送達システムを確立した。エンドサイトーシス効率に対する多量体化の効果を、緑色蛍光タンパク質eGFPを送達することによって観察した。小胞脱出効率に対する多量体化の効果を、Split-GFP評価法に基づいてGFPβ1-10-NLS(簡潔にGFPβ-10と呼ばれる)を送達することによって観察した。これにより、送達システムの送達効率に対する多量体化の効果の包括的な評価を行った。同時に、血清(FBS)を系に加えることにより、多量体化の前後のエンドサイトーシス効率の違いを観察して、血清耐性の変化を評価した。
【0135】
1.1 多量体化送達システム(TAT-Leu Zipper)-カーゴ分子複合体についての発現ベクターの構築
TAT、Leu-Zipper(ロイシンジッパー)、及びカーゴ分子を含む組換えタンパク質の発現ベクターを構築し、各組換えタンパク質をコードする核酸の構造を図1に示した。N末端からC末端に向かっての各構成要素のアミノ酸配列を以下の表に示した。構築方法は以下の通りであった:最初に、送達システムにおけるTAT、ロイシンジッパー、及びカーゴ分子(eGFP又はGFPβ1-10)をコードする核酸配列をPCR増幅により得て、これらの全ての部分を複数回のPCRによって連結し、PCRの最後の回の間に、pET21b(+)におけるNdeI制限部位及び対応するNdeI制限部位の上流のオーバーラップを、フォワードプライマーによって断片の5’末端に導入し、pET-21b(+)におけるBamHI制限部位及び対応するBamHI制限部位の下流のオーバーラップを、リバースプライマーによって断片の3’末端に導入した。pET-21b(+)プラスミドをNdeI及びBamHIによる二重消化にかけた。オーバーラップを有する挿入断片を、消化されたベクターpET-21b(+)にGIBSONアセンブリによってライゲーションした。
【0136】
【表2】
【0137】
1.2 多量体化送達システム-カーゴ分子複合体の発現及び精製:
1.1において記載される発現プラスミドを発現菌株E.コリBL21(DE3)へと形質転換し、形質転換されたプレートから単一コロニーを採取し、アンピシリン耐性を含む5mlのLB液体培地に接種し、一晩培養し、次に一晩培養した1mlの細菌液を採取し、アンピシリン耐性を含む500mlのLB液体培地に移し、細菌液が約0.6のOD600を有するまで37℃及び180rpmで培養し、次にインデューサーのIPTGを0.2mMの最終濃度まで加え、25℃で8時間誘導し、誘導された発現の終了後に、4℃で7000gにて10分間遠心分離した後に細胞を収集し、次に細胞を10mlのタンパク質精製平衡化バッファー(PBS、5%のグリセロール)で再懸濁し、超音波処理によって破壊した。次に、上清を遠心分離によって採取し、タンパク質精製システムのSP強陽イオンクロマトグラフィーカラムにロードし、次にタンパク質精製システムを使用して、タンパク質溶出バッファーで標的タンパク質を溶出させた(PBS+0.2MのNaCl~PBS+0.6MのNaClにより不純物タンパク質を除去し、PBS+1.6MのNaClにより溶出生成物を収集した)。タンパク質濃度は、分光光度計又はBCAタンパク質濃度アッセイキットに従って決定され得る。精製された各融合タンパク質を等分し、-20℃で貯蔵した。
【0138】
1.3 送達システム-カーゴ複合体に対するロイシンジッパーの多量体化効果の評価
上記1.2において得られたTAT-eGFP(T-eGFP)及びロイシンジッパーを含むTAT-Leu-eGFP(TL-eGFP)を非還元ポリアクリルアミドゲル電気泳動にかけて、その凝集物形成状態を分析した。結果を図2に示した。単量体状態におけるT-eGFPタンパク質のサイズは約35kDであったが、ロイシンジッパーを加えた後のTL-eGFPのタンパク質サイズは70kDであった。この実験から、ロイシンジッパーが送達システムタンパク質の二量体の形成を促し得ることが分かった。
【0139】
1.4 多量体化送達システム-eGFP複合体のエンドサイトーシス効率の評価
HEK-293T細胞を12ウェル細胞培養プレートに接種し、一晩培養した。タンパク質処理の前に、各ウェル中の細胞数が約2×10個であることを確保し、細胞を無血清DMEM培地で3回すすぎ、次にTL-eGFP及びT-eGFPをそれぞれ5μMで無血清培地に加え、3時間インキュベートした後に、20U/mLのヘパリンを含む予冷した無血清DMEMで3回すすぎを行って、細胞膜に吸着して細胞に侵入することができなかったタンパク質を除去し、細胞を収集してフローサイトメトリー分析を行った。結果を図3に示した。二量体化されたタンパク質TL-eGFPの細胞内蛍光強度は単量体(T-eGFP)の4倍~5倍であったことから、多量体化プロセスが送達システムのエンドサイトーシス効率を改善することが証明された。
【0140】
1.5 多量体化送達システム-GFPβ1-10複合体の小胞脱出効率の評価
Split-GFPシステムにおいて、GFPの11個のβシートを大きな断片(β1-10)及び小さな断片(β11)に分けた。それらは両者とも蛍光活性を失ったが、これらは出会うと自発的に会合し、GFP蛍光特性を復元することができた。これに基づいて、ヒストン-β11を安定的に発現し得るHEK293T細胞を構築し、核侵入シグナル(NLS)を有するGFPβ1-10を、評価される多量体化送達システムと融合発現するカーゴとして使用し、次に安定した細胞系統の形質導入に供した。GFPβ1-10が送達システムによって形質導入された場合に、これはエンドサイトーシス小胞からの脱出に成功して細胞質又は核に侵入した後にのみGFPβ11に結合し、完全なGFPを生成し得るため、GFPの割合及び相対蛍光強度比によってエンドサイトーシス小胞の脱出効率を評価することができた。
【0141】
1.5.1 HEK293T-GFPβ11細胞系統の構築
(1)GFPβ11細胞系統のレンチウイルスプラスミドの構築:
ヒストン-H3のコーディング配列(配列番号27)をPCRによって増幅した。GFPβ11のコーディング配列(配列番号28)は短く、上流プライマーにおいて直接設計された。構成要素を複数回のPCRによってライゲーションし、PCRの最後の回において、レンチベクターにおけるHindIII制限部位及び対応するHindIII制限部位の上流のオーバーラップを、フォワードプライマーによって断片の5’末端に導入し、レンチベクターにおけるBamHI制限部位及び対応するBamHI制限部位の下流のオーバーラップを、リバースプライマーによって断片の3’末端に導入した。レンチプラスミドをHindIII及びBamHIによる二重消化にかけた。オーバーラップを有する挿入断片を、消化されたレンチベクターにGIBSONアセンブリによってライゲーションした。
【0142】
(2)レンチウイルスのパッケージング、感染、及び細胞系統の耐性スクリーニング:
HEK-293T細胞を6ウェルプレートに接種し、一晩培養した。プラスミドのトランスフェクションの前に、1ウェル当たりの細胞数が約2×10個/mlであることを確保し、トランスフェクションの前に、細胞を無血清DMEM培地に移し、1.5μgのレンチ組換えプラスミド、0.75μgのpMDLプラスミド、0.45μgのpVSV-Gプラスミド、0.3μgのpREV(5:3:2:1の質量比)を300μlの無血清DMEMに加え、続いてゆっくりと吹き付けた。9μl(1:3)のX-tremeGENEトランスフェクション試薬を加え、ゆっくりと吹き付け、室温で15分間静置し、細胞上清に滴加し、8時間後に、培地を、10%FBSを含むDMEMに変更することにより培養を継続し、60時間後に、後の感染のために細胞培養上清を収集した。
【0143】
HEK-293T細胞を12ウェルプレートに接種し、一晩培養した。レンチウイルスの感染前に、各ウェル中の細胞数が約2×10個/ml(50%の密度)であることを確保し、元の細胞培養上清を廃棄し、300μlのレンチウイルス(moi=3)及び700μlの10%FBSのDMEMを加え、ポリブレンを10μg/mlの濃度で加え、細胞プレートを無菌条件下で2500rpmにて30分間遠心分離した後に、培養を継続した。
【0144】
48時間のレンチウイルスの感染後に、細胞を1/3の比率で継代し、ピューロマイシンを2.5μg/mlの濃度で加えて耐性スクリーニングを行い、スクリーニングによって得られた陽性細胞をクローニングして、HEK-293T-Hitone-GFPβ11モノクローナル細胞系統を得た。
【0145】
1.5.2 Split-GFPシステムによる小胞脱出効率の検出
上記のHEK-293T Histone H3-β11細胞(略してHEK-293Tβ11)を12ウェル細胞培養プレートに接種し、一晩培養した。タンパク質処理の前に、各ウェル中の細胞数が約2×10個であることを確保し、無血清DMEM培地を使用して細胞を3回すすぎ、次にTL-GFPβ1-10及びT-GFPβ1-10をそれぞれ5μMで無血清培地に加え、3時間インキュベートした後に、20U/mlのヘパリンを含む予冷した無血清DMEMを使用して3回すすぎを行って、細胞膜に吸着して細胞に侵入することができなかったタンパク質を除去し、次に培地を、血清を含むDMEM培地に変更した後に培養を更に9時間継続した。そして、細胞を収集してフローサイトメトリー分析を行った。結果から、二量体化したタンパク質TL-GFPβ1-10の小胞脱出効率が単量体T-GFPβ1-10と比較して変化しないことが分かった(図3)。
【0146】
1.6 血清条件に対する多量体化送達システムの耐性の評価
HEK-293T細胞を12ウェル細胞培養プレートに接種し、一晩培養した。タンパク質処理の前に、各ウェル中の細胞数が約2×10個であることを確保し、細胞を無血清DMEM培地で3回すすぎ、次にTL-eGFP及びT-eGFPをそれぞれ5μMで、無血清、5%FBS、10%FBS、20%FBS、50%FBS、100%FBSのDMEM培地に加え、3時間インキュベートした後に、20U/mLのヘパリンを含む予冷した無血清DMEMを使用してすすいで、細胞膜に吸着して細胞に侵入することができなかったタンパク質を除去し、次に培地を無血清DMEM培地と交換し、細胞を収集してフローサイトメトリー分析を行った。結果を図4に示した。血清含有量の増加に伴い、TL-eGFP及びT-eGFPの形質導入効率は低下したが、TL-eGFPの形質導入効率は血清による影響が比較的少なく、50%FBSの条件では、細胞をT-eGFPにより形質導入した後に細胞内緑色蛍光シグナルを殆ど検出することができなかったが、二量体化されたタンパク質TL-eGFPは依然として、血清を含まない場合と比較して70%の形質導入効率を有していた。多量体化がタンパク質のエンドサイトーシス効率を改善するだけでなく、タンパク質に対してより高い血清耐性を与えることも確認することができた。
【0147】
1.7 送達システムのエンドサイトーシス効率に対する様々な多量体化ドメインの効果
この実施例においては、送達システムのエンドサイトーシス効率に対する様々な多量体化ドメイン配列の効果を比較した。様々な多量体化ドメインを含む送達システム-カーゴ分子複合体の構成要素を以下の表に示した。上述の複合体を発現する発現ベクターを上記1.1~1.2において記載される方法により調製し、上述の複合体を発現させて精製した。構築されたプラスミドの概略図を図5に示した。
【0148】
【表3】
【0149】
MA104細胞を12ウェル細胞培養プレートに接種し、一晩培養した。タンパク質処理の前に、各ウェル中の細胞数が約2×10個であることを確保し、細胞を無血清DMEM培地で3回すすぎ、次にT-eGFP、TL-eGFP、TL2-eGFP、TN-eGFP、TG-eGFP、及びTD-eGFPをそれぞれ5μMで無血清培地に加え、3時間インキュベートした後に、細胞を20U/mLのヘパリンを含む予冷した無血清DMEMで3回すすいで、細胞膜に吸着したが細胞に侵入することができなかったタンパク質を除去し、培地を無血清培地と交換した後に、蛍光イメージングを行い、細胞を収集してフローサイトメトリー分析を行った。蛍光イメージングの結果を図6に示した。T-eGFP群の細胞内緑色蛍光強度は非常に低かったが、多量体化ドメインが加えられた他の実験群の細胞内蛍光強度は有意に増加した。フローサイトメトリー分析の結果を図7に示した。様々な多量体化ドメインは全て、TATによって媒介されるeGFPの平均蛍光強度を増強することができた、つまり、TATに媒介されるエンドサイトーシスの効率を改善し、ロイシンジッパーに基づくTL-eGFP及びTL2-eGFPが最も明白な効果を有した。
【0150】
実施例2:TINNeL多量体化送達システムの確立及び性能評価
この実施例においては、実施例1の多量体化送達システムに基づいて、pH感受性ペプチド(INF7)及びエンドサイトーシス小胞プロテアーゼ特異的切断部位(CTSLプロテアーゼ:N、フリンプロテアーゼ:Ne)を更に加えて、TINNEL送達システムを構築し、そのエンドサイトーシス効率及び小胞脱出効率を評価した。
【0151】
2.1 TINNEL-カーゴ分子複合体についての発現ベクターの構築
TINNEL-カーゴ分子の組換えタンパク質の発現ベクターを構築し、各組換えタンパク質においてN末端からC末端に向かって含まれる各構成要素のアミノ酸配列を次の表に示した。構築方法は以下の通りであった:最初に、送達システムにおけるTAT、INF7、ロイシンジッパー、N、Ne、及びカーゴ分子(eGFP又はGFPβ1-10)をコードする核酸配列をPCR増幅により得て、これらの部分を複数回のPCRによってライゲーションし、PCRの最後の回において、pET-21b(+)におけるNdeI制限部位及び対応するNdeI制限部位の上流のオーバーラップを、フォワードプライマーによって断片の5’末端に導入し、pET-21b(+)におけるBamHI制限部位及び対応するBamHI制限部位の下流のオーバーラップを、リバースプライマーによって断片の3’末端に導入した。pET-21b(+)プラスミドをNdeI及びBamHIによる二重消化にかけた。オーバーラップを有する挿入断片を、消化されたベクターpET-21b(+)にGIBSONアセンブリによってライゲーションした。プラスミドの概略図を図8に示した。
【0152】
【表4】
【0153】
2.2 TINNeL-カーゴ複合体の発現及び精製:
最初に、2.1において得られた発現プラスミドを発現菌株E.コリBL21(DE3)へと形質転換し、形質転換されたプレートから単一コロニーを採取し、アンピシリン耐性を含む5mlのLB液体培地に接種し、一晩培養し、次に一晩培養した1mlの細菌溶液を、アンピシリン耐性を含む500mLのLB液体培地に移し、細菌液が約0.6のOD600を有するまで37℃及び180rpmで培養し、次にインデューサーのIPTGを0.2mMの最終濃度に達するまで加え、25℃で8時間誘導を行い、誘導された発現の終了後に、4℃で7000gにて10分間遠心分離することによって細胞を収集し、次に細胞を10mlのタンパク質精製平衡化バッファー(PBS、5%のグリセロール)で再懸濁し、超音波処理によって破壊した。次に、上清を遠心分離によって収集し、タンパク質精製システムのSP強陽イオンクロマトグラフィーカラムにロードし、次にタンパク質精製システムを使用して、タンパク質溶出バッファーで標的タンパク質を溶出させた(PBS+0.2MのNaCl~PBS+0.7MのNaClにより不純物タンパク質を除去し、PBS+1.8MのNaClにより溶出生成物を収集した)。タンパク質濃度は、分光光度計又はBCAタンパク質濃度アッセイキットに従って決定され得る。精製された各融合タンパク質を等分し、-20℃で貯蔵した。
【0154】
2.3 TINNeL送達システムの細胞内送達効率の評価
エンドサイトーシス効率の評価:HEK-293Tを12ウェル細胞培養プレートに接種し、一晩培養した。タンパク質処理の前に、1ウェル当たりの細胞数が約2×10個であることを確保し、細胞を無血清DMEM培地で3回すすぎ、次に送達システムのタンパク質TINNeL-eGFP及びコントロールタンパク質TINNe-eGFPをそれぞれ5μMで無血清培地に加え、3時間インキュベートした後に、20U/mLのヘパリンを含む予冷した無血清DMEMを使用して3回すすいで、細胞膜に吸着したが細胞に侵入することができなかったタンパク質を除去した後に、細胞を収集してフローサイトメトリー分析を行った。二量体化後のTINNeL-eGFPの蛍光強度が4倍高いこと、つまり、ロイシンジッパードメインを加えた後にエンドサイトーシス効率が有意に改善されることが判明した(図9)。
【0155】
小胞脱出効率の評価:Split-GFPシステムを使用して、TINNeLシステムの送達効率を、その脱出効率における変化を観察することにより更に評価した。HEK-293Tβ11を12ウェル細胞培養プレートに接種し、一晩培養した。タンパク質処理の前に、各ウェル中の細胞数が約2×10個であることを確保し、細胞を無血清DMEM培地で3回すすぎ、次に送達システムのタンパク質TINNeL-GFPβ1-10及びコントロールタンパク質TINNe-GFPβ1-10をそれぞれ1μMで無血清培地に加え、3時間インキュベートした後に、20U/mLのヘパリンを含む予冷した無血清DMEMを使用して3回すすいで、細胞膜に吸着したが細胞に侵入することができなかったタンパク質を除去した。培地を血清含有培地(10%FBS)に変更した後に、培養を更に9時間継続し、細胞を収集してフローサイトメトリー分析を行った。結果を図10に示した。そこでは、TINNeL-GFPβ1-10がより高い蛍光強度を有したことから、TINNeL送達システムがエンドサイトーシス効率及び小胞脱出効率の両方を改善することができ、より効果的な送達方法であったことを示している。
【0156】
2.4 血清条件下でのTINNeL送達システムの送達効率の評価
HEK-293T細胞を12ウェル細胞培養プレートに接種し、一晩培養し、タンパク質処理の前に、各ウェル中の細胞数が約2×10個であることを確保し、細胞を無血清DMEM培地で3回すすぎ、TINNeL-GFPβ1-10及びコントロールタンパク質TINNe-GFPβ1-10をそれぞれ5μMで無血清、10%FBS、20%FBS、50%FBS、及び100%FBSのDMEM培地に加え、3時間インキュベートした後に、20U/mLのヘパリンを含む予冷した無血清DMEMを使用して4回すすいで、細胞膜に吸着したが細胞に侵入することができなかったタンパク質を除去した。培地を無血清DMEM培地に交換した後に、培養を更に9時間継続し、次に細胞を収集してフローサイトメトリー分析を行った。結果を図11に示した。血清含有量の増加に伴い、TINNeL-GFPβ1-10群及びTINNe-GFPβ1-10群の蛍光強度は減少したが、TINNeL-GFPβ1-10はより影響が少なかった。100%のFBS濃度の条件下では、TINNe-GFPβ1-10群の緑色蛍光シグナルは殆ど検出することができなかったが、TINNeL-GFPβ1-10は依然として、血清を含まない場合と比較して70%の効率を有していた。TINNeLは高効率の送達能力を有するだけでなく、その送達効率は、血清の存在下でも大きく影響されることはなかった。図12は、TINNeL送達システムの原理の概略図を示している。
【0157】
さらに、本発明者らはまた、Split-GFPシステムに基づいて、プロテアーゼ認識配列Nを含む送達システム(TIN-GFPβ1-10)及びプロテアーゼ認識配列Neを含む送達システム(TINe-GFPβ1-10)の小胞脱出効率も評価した。上記の送達システムは、プロテアーゼ認識配列がN又はNe単独によって置き換えられているという点でのみTINNe-GFPβ1-10と相違していた。結果を図25に示した。プロテアーゼ認識配列を有しないTI-GFPβ1-10又はTIN-GFPβ1-10と比較して、プロテアーゼ認識配列N単独を含む送達システム(TIN-GFPβ1-10)又はプロテアーゼ認識配列Neを含む送達システム(TINe-GFPβ1-10)のどちらも、エンドサイトーシス小胞の脱出効率が有意に改善された。上記の結果から、プロテアーゼ認識配列N又はNeのいずれも単独で小胞脱出効率を改善する能力を有することが分かった。
【0158】
実施例3:TNF-αによって誘発されるアポトーシスの阻害におけるTINNeL-Ppm1bの適用
細胞死はアポトーシス及び壊死に分類され得る。中でも、細胞壊死は、細胞膜の破裂、膨張、及び内容物の漏出をもたらし得ることから、主に受容体相互作用キナーゼ3(RIP3)によって制御される重度の炎症応答が引き起こされる。TNF-αの刺激下で、Rip1及びRip3を含むネクロソームが細胞内で形成され、ネクロソーム内のRip3がMlk1を動員してこれをリン酸化する。リン酸化されたMlk1は細胞膜に移行してネクロトーシスを起こし、その間に、Mlk1のネクロトーシスへの動員にRip3のリン酸化が必要である。したがって、Rip3のリン酸化は、細胞壊死を阻害して、それによって引き起こされる炎症応答を制御するのに重要な標的である可能性がある。プロテインホスファターゼ1B(Ppm1b)は、Rip3を脱リン酸化することにより培養細胞及びマウスにおけるネクロトーシスを阻害し得ることが研究から分かっており、Ppm1bタンパク質はプログラムされた壊死を制御するのに重要なツールになっている。プログラムされた細胞壊死が炎症性疾患、虚血再灌流障害、神経変性疾患、及びその他の疾患の発生と密接に関連していることが見出されていることを考慮すると、Ppm1bタンパク質は、プログラムされた細胞壊死に関連する上述の疾患の治療において大きな可能性を示している。
【0159】
3.1 TINNeL-Ppm1b複合体及び他のコントロールタンパク質についての発現ベクターの構築
TAT、INF7、プロテアーゼ切断部位、多量体化ドメイン、及びカーゴ分子Ppm1b(配列番号29)を含む組換えタンパク質についての発現ベクターを構築した。各組換えタンパク質の構造概略図を図13に示した。N末端からC末端に向かっての各構成要素のアミノ酸配列を以下の表に示した。構築方法は以下の通りであった:TAT、INF7、N、Ne、及びPpm1bの核酸配列をPCR増幅により得て、これらの部分を複数回のPCRによって接続し、PCRの最後の回において、pET-21b(+)におけるNdeI制限部位及び対応するNdeI制限部位の上流のオーバーラップを、フォワードプライマーによって断片の5’末端に導入し、pET-21b(+)におけるBamHI制限部位及び対応するBamHI制限部位の下流のオーバーラップを、リバースプライマーによって断片の3’末端に導入した。pET-21b(+)プラスミドをNdeI及びBamHIによる二重消化にかけた。オーバーラップを有する挿入断片を、消化されたベクターpET-21b(+)にGIBSONアセンブリによってライゲーションした。
【0160】
【表5】
【0161】
3.2 TINNeL-Ppm1bタンパク質及び他のコントロールタンパク質の発現及び精製
最初に、3.1において得られた発現プラスミドを発現菌株E.コリBL21(DE3)へと形質転換し、形質転換されたプレートから単一コロニーを採取し、アンピシリン耐性を含む5mlのLB液体培地に接種し、一晩培養し、一晩培養した1mlの細菌液を採取し、アンピシリン耐性を含む500mlのLB液体培地に移し、細菌液が約0.6のOD600を有するまで37℃及び180rpmで培養し、次にインデューサーのIPTGを0.2mMの最終濃度まで加え、25℃で8時間誘導を行い、誘導発現が完了した後に、4℃で7000gにて10分間遠心分離することによって細胞を収集し、細胞の一部を採取して、タンパク質の誘導された発現を検出し、次に細胞を10mlのタンパク質精製平衡化バッファー(50mlのC、3.6342gのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンを1Lの二重蒸留水中に溶解し、pH8.0に調整した)で再懸濁し、超音波処理によって破壊した。次に、遠心分離によって上清を収集し、AKTAタンパク質精製システムのスルホプロピル(SP)陽イオン交換カラムにロードし、次に平衡化バッファー及び高塩濃度の溶離液(50mlのC、116.88gのNaCl、3.6342gのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンを1Lの二重蒸留水中に溶解し、pH8.0に調整した)を様々な比率で使用して勾配溶出を行い、標的タンパク質を得た。タンパク質濃度を、分光光度計又はBCAタンパク質濃度アッセイキットに従って決定することができた。精製された各融合タンパク質を等分し、-20℃で貯蔵した。
【0162】
3.3 L292細胞のTNF-αに誘発される壊死に対するTINNeL-Ppm1bの効果
L929細胞を12ウェル細胞培養プレートに接種し、一晩培養した。タンパク質処理の前に、各ウェル中の細胞数が約2×10個であることを確保し、細胞を無血清DMEM培地で3回すすぎ、次に送達システムのタンパク質TINNeL-Ppm1b及び他のコントロールタンパク質をそれぞれ無血清培地中に加えた。3時間インキュベートした後に、10%FBSのDMEMで希釈された1mlの20ng/mlのTNF-α及び20mMのz-VADを加えた。10時間インキュベートした後に、細胞を収集してPI染色を行った。細胞における細胞壊死の比率を、フローサイトメトリー分析によって観察した。同時に、レンチウイルスに導入されたPpm1b(Lenti-Ppm1b)及びレンチウイルス(Lenti-vec)をコントロールとして使用し、Ppm1b発現配列を有するレンチウイルス及びコントロールレンチウイルスをパッケージングし、HEK-293T細胞において収集し、L929細胞に24時間感染させてPpm1bを細胞内で完全に発現させた後に、感染されたL929細胞を再播種し、後にTNF-α刺激を行った。結果を図14に示した。TINNeL-Ppm1bで処理されたL929においては、TNF-αによって引き起こされた細胞壊死の比率は最も低く、たったの約10%であり、その阻害効果は、ポジティブコントロールとしてのレンチウイルス感染群の阻害効果(20%)よりも更に優れていた。
【0163】
同時に、Ppm1bがRip3リン酸化のプロセスを阻害することにより細胞壊死を阻害したため、様々な処理群(上記と同じ処理方法による)のL929細胞におけるRip3及びリン酸化されたRip3(p-Rip3)の含有量をウェスタンブロットにより確認することを試みて、細胞質に侵入した後にRip3のリン酸化をより効果的に阻害することによりTINNe-Ppm1bがTNF-α細胞の壊死を阻害したことを更に判定した。結果を図14に示した。ここで、全ての処理群のL929細胞におけるRip3の含有量は基本的に同じであったが、リン酸化された状態のp-Rip3については、TINNeL-Ppm1b群が他のタンパク質群よりも有意に低い結果を示したことから、TINNeL-Ppm1bがより効果的にL929細胞質に侵入し、Rip3のリン酸化を阻害することによりTNF-αによって引き起こされる壊死を阻害し得ることが示された。
【0164】
3.4 TNF-αに誘発される全身性炎症反応症候群に対するTINNeL-Ppm1bの阻害活性の評価
マウスにおいて、TNF-αに誘発される細胞壊死は更にマウスにおける全身性炎症反応症候群(SIRS)の引き金となり、最終的にはマウスの死につながる。TINNeL送達システムは、高い送達効率を有しただけでなく、血清の存在下でも高い送達効率を維持し得るべきである、つまり、in vivoで依然としてその送達効率を十分に発揮することができた。したがって、TNF-αに誘発されるSIRSモデルに基づいて、TINNeL-Ppm1bがin vivoで依然として理想的な送達効率を有するか否かを観察することを試みた。
【0165】
尾静脈経路を介して、25mmolのTINNeL-Ppm1b及び他のコントロールタンパク質を6週齢の雌のBALB/Cマウス(1群当たり12匹)に注射し、2時間後に15μgのTNF-αも尾静脈経路を介してマウスに注射し、その後1時間おきにマウスの生存を観察した(図15)。結果により、観察期間の間に(生存率は基本的に40時間後に安定していた)コントロール群における全てのマウスは20時間以内にTNF-αによって引き起こされた炎症で死亡したのに対して、TINNeL-Ppm1b群におけるマウスは観察期間の終わりに依然として100%生存していたことが示された(図15)。同時に、TNF-αに誘発されるSIRSをマウスにおける盲腸損傷の程度から直接観察することができたため、25nmolのTINNeL-Ppm1b及び他のコントロールタンパク質を6週齢の雌BALB/Cマウス(1群当たり6匹)に尾静脈経路を介して注射し、2時間後に15μgのTNF-αも尾静脈を介してマウスに投与し、10時間後にマウスを安楽死させ、盲腸を取り出してHE染色し、様々な治療群におけるマウスの盲腸障害を観察し、障害のスコアを付けた。結果により、TINNeL-Ppm1b群におけるマウスはほぼ無傷の盲腸を有し(図16)、スコアはモック群(TNF-αを投与しなかったコントロール群)のスコアと同等であり、TNF-αに誘発されるSIRSを他のタンパク質と比較してより効果的に阻害することができた(図17)ことが示された。したがって、上記の結果に基づいて、TINNeL-Ppm1bがマウスにおけるTNF-αに誘発されるSIRSを効果的に阻害することができ、TINNeLがより効果的な送達システムであることが確認された。
【0166】
実施例4:APAPによって引き起こされる急性肝障害の治療におけるTINNeL-Ppm1bの適用
アセトアミノフェン(APAP)は、臨床診療で一般的に使用されている解熱薬及び鎮痛薬であるが、その過剰摂取は急性肝障害及び死亡のリスクにつながる可能性がある。近年、APAPによって誘発される急性肝障害は、Rip3によって媒介されるプログラムされた細胞壊死によって誘発される炎症応答によって引き起こされることが研究により確認された。したがって、Ppm1bによるRip3の脱リン酸化は、APAPに誘発される急性肝障害を治療する効果を達成する可能性が非常に高い。
【0167】
最初に、5週齢~7週齢のマウス(16g~18g)に500mg/kg(非致死用量)のAPAPを、尾静脈経路を介して注射し、25nmolのTINNeL-Ppm1b及び実施例3において調製された他のコントロールタンパク質の2回の注射(各群において7匹のマウス)をそれぞれ2時間後及び6時間後に尾静脈経路を介して注射し、APAP注射の6時間後(12時間)に血液試料を眼窩採血によって収集し、血清中のALT及びASTのレベルを検出し、マウスの肝臓障害を評価した。結果により、TINNeL-Ppm1b群のALTレベル及びASTレベルが最も低く、これらはAPAP希釈バッファーDMSO群(ALT/ASTの増加はDMSOによって引き起こされ、この部分はRip3経路によってもたらされたものではなかった)の場合と基本的に同じであることが示された。したがって、TINNeL-Ppm1bは、APAPに誘発される急性肝障害の理想的な治療効果を達成することができた(図18)。
【0168】
APAPの用量を更に増やすと、これはより重度の肝臓障害につながり、その後マウスの死を誘発し得た。したがって、TINNeL-Ppm1bが致死用量のAPAPでのマウスの肝臓障害を治療することができるか否かを観察することを試みた。一方、APAPに誘発される肝障害の治療に現在FDAによって承認されている唯一の薬物であるNACをコントロールとして使用した。最初に、800mg/kg(致死用量)のAPAPを5週齢~7週齢のBALB/Cマウス(16g~18g)に尾静脈経路を介して注射し、次に25mmolのTINNeL-Ppm1b、NAC、PBSの2回の注射(各群において7匹のマウス)をそれぞれ2時間後及び6時間後に尾静脈経路を介して注射した後に、マウスの生存を1時間おきに観察した。結果を図19に示した。PBS群において全てのマウスは18時間以内に死亡した。72時間の観察期間の間に(急性期は24時間以内に起こった)、NAC群におけるマウスの生存率は20%であったが、TINNeL-Ppm1b群は60%に達し得た。したがって、APAPによって引き起こされたより重度の急性肝障害についても、TINNeL-Ppm1bは優れた治療効果を示し、これは現在の臨床薬NACよりも更に優れていた。上記の結果は、in vivoでの送達におけるTINNeLの利点を完全に裏付けている。
【0169】
実施例5:TINNeL-ZFP9のin vitro及びin vivoでの核酸送達効率の評価
5.1 TINNeL-ZFP9及び他のコントロールタンパク質についての発現ベクターの構築
TAT、INF7、プロテアーゼ切断部位、多量体化ドメイン、カーゴ分子ZFP9(配列番号31)を含む組換えタンパク質の発現ベクターを構築した。各組換えタンパク質の構造を図20に示し、N末端からC末端に向かっての各構成要素のアミノ酸配列を以下の表に示した。構築方法は以下の通りであった:TAT、INF7、プロテアーゼ切断部位、ロイシンジッパー、ZFP9をコードする核酸配列をPCR増幅により得て、これらの部分を複数回のPCRによってライゲーションし、PCRプロセスの最後の回において、pET-21b(+)におけるNdeI制限部位及び対応するNdeI制限部位の上流のオーバーラップを、フォワードプライマーによって断片の5’末端に導入し、pET-21b(+)におけるBamHI制限部位及び対応するBamHI制限部位の下流のオーバーラップを、リバースプライマーによって断片の3’末端に導入した。pET-21b(+)プラスミドをNdeI及びBamHIによる二重消化にかけた。オーバーラップを有する挿入断片を、消化されたベクターpET-21b(+)にGIBSONアセンブリによってライゲーションした。
【0170】
【表6】
【0171】
5.2 TINNeL-ZFP9及びコントロールタンパク質の発現及び精製
最初に、5.1において得られた発現プラスミドを発現菌株E.コリBL21(DE3)へと形質転換し、形質転換されたプレートから単一コロニーを採取し、アンピシリン耐性を含む5mlのLB液体培地に接種し、一晩培養し、次に一晩培養した1mlの細菌液を採取し、アンピシリン耐性を含む500mlのLB液体培地に移し、細菌液が約0.6のOD600を有するまで37℃及び180rpmで培養し、次にインデューサーのIPTGを0.2mMの最終濃度まで加え、25℃で8時間誘導を行い、誘導発現が完了した後に、4℃で7000gにて10分間遠心分離することによって細胞を収集し、細胞の一部を採取して、タンパク質の誘導された発現を検出し、次に細胞を10mlのタンパク質精製平衡化バッファー(50mlのC、3.6342gのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンを1Lの二重蒸留水中に溶解し、pH8.0に調整した)で再懸濁し、超音波処理によって破壊した。次に、遠心分離によって上清を収集し、AKTAタンパク質精製システムのスルホプロピル(SP)陽イオン交換カラムにロードし、次に平衡化バッファー及び高塩濃度の溶離液(50mlのC、116.88gのNaCl、3.6342gのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンを1Lの二重蒸留水中に溶解し、pH8.0に調整した)を様々な比率で使用して勾配溶出を行い、標的タンパク質を得た。タンパク質濃度を、分光光度計又はBCAタンパク質濃度アッセイキットに従って決定することができた。精製された各融合タンパク質を等分し、-20℃で貯蔵した。
【0172】
5.3 ZFP9結合部位を含む真核生物発現プラスミドの構築
tdTomatoコーディング配列及びZFP9結合部位を含む発現ベクター(pTT5-tdTomato-6BSプラスミド)を構築し、その概略構造を図21に示した。tdTomatoコーディング配列(配列番号33)及びZFP9結合部位(6結合部位)の配列(配列番号34)をPCRによる増幅によって得て、これら2つを2回のPCRによってライゲーションし、第2回のPCRの間に、pTT5ベクターにおけるHindIII制限部位及び対応するHindIII制限部位の上流のオーバーラップを、フォワードプライマーによって断片の5’末端に導入し、pTT5ベクターにおけるBamHI制限部位及び対応するBamHI制限部位の下流のオーバーラップを、リバースプライマーによって断片の3’末端に導入した。pTT5プラスミドをHindIII及びBamHIで二重消化した。オーバーラップを有する挿入断片を、消化されたpTT5ベクターにGIBSONアセンブリによってライゲーションした。
【0173】
5.4 プラスミドDNAの送達におけるTINNeL-ZFP9の送達効率の評価
最初に、HEK-293T細胞を12ウェルプレートに接種し、一晩培養した。タンパク質処理の前に、各ウェル中の細胞数が約5×10個であることを確保し、5μMの送達システムのタンパク質又は他のコントロールタンパク質及び5gのpTT5-tdTomato-6BSプラスミドを37℃で30分間共培養して、複合体を完全に形成させ、細胞を無血清DMEM培地で3回すすぎ、次に複合体を加えて3時間インキュベートし、培地を10%FBSのDMEMと交換し、培養を継続し、培地を交換した後に、赤色蛍光タンパク質の発現をフローサイトメトリー分析によって、それぞれ12時間、24時間、及び36時間観察した。結果を図22に示した。他のコントロールタンパク質と比較して、TINNeL-ZFP9群の赤色蛍光比は3つの検出時点で最も高かった。したがって、TINNeL-ZFP9は、それに取り付けられたpTT5-tdTomato-6BSを核内に送達するのにより効果的であり、その結果、プラスミド上の赤色蛍光遺伝子の発現が実現された。
【0174】
5.5 血清条件下でのTINNeL-ZFP9の送達効率の評価
この実施例においては、血清条件下でのTINNeL-ZFP9のトランスフェクション効果を調査し、血清条件下で機能し得る市販のトランスフェクション試薬X-tremeGENEをコントロールとして使用した。
【0175】
最初に、HEK-293T細胞を12ウェルプレートに接種し、一晩培養した。タンパク質処理の前に、各ウェル中の細胞数が約5×10個であることを確保し、5μMのTINNeL-ZFP9及び5μgのpTT5-tdTomato-6BSプラスミドを37℃で30分間共培養して複合体を完全に形成させ、複合体を100%FBSの血清条件下で及び無血清条件下で加え、3時間インキュベートし、培地を10%FBSのDMEMと交換し、培養を継続し、コントロールのX-tremeGENE群においては、5μgのpTT5-tdTomato-6BSプラスミド及びX-tremeGENEを1μgのDNA:3μlのX-tremeGENEの比率で混合した後に、室温で30分間静置し、100%FBSの血清条件下で及び無血清条件下で8時間インキュベーションを行い、次に培地を10%FBSのDMEMと交換し、培養を継続した。上記の処理群については、培地を交換した後に、赤色蛍光タンパク質の発現をフローサイトメトリー分析によって、それぞれ12時間、24時間、36時間、48時間、60時間、72時間、及び84時間観察した。結果を図23に示した。無血清条件下では、TINNeL-ZFP9群における赤色蛍光細胞の割合はより素早く増加したが、プラトー段階に達した後に、その割合は基本的にX-tremeGENE群の場合と同じであった。しかしながら、100%FBSの条件下では、各時点で赤色蛍光細胞の割合にほぼ10%の差があったことから、TINNeL-ZFP9が血清条件下でより効果的なトランスフェクション能力を示したことを表している。
【0176】
5.5 マウスにおけるTINNeL-ZFP9の送達効率の評価
ルシフェラーゼコーディング遺伝子(配列番号35)及びZFP9結合部位(配列番号34)を有するpTT5-Luc-6BS発現プラスミドを構築した。構築方法は上記5.3と同じであった。4nmolのTINNeL-ZFP9又は他のコントロールタンパク質TINNe-ZFP9、T-ZFP9を5μgのpTT5-Luc-6BS発現プラスミドと30分間混合した後に、それをヌードマウスの左脚筋に注射し、24時間後に蛍光強度をイメージングして分析した。結果を図24に示した。T-ZFP9群及び非治療群では蛍光が殆ど検出されなかったのに対して、TINNe-ZFP9では弱い蛍光が検出され、一方で、TINNeL-ZFP9群では強い蛍光が検出された。したがって、マウスにおいてTINNeL-ZFP9が効果的にDNAに結合してこれを送達し得ることが確認された。
【0177】
本発明の特定の実施形態が詳細に説明されるが、当業者は、公開された全ての教示に照らして、詳細に様々な修正及び変更を加えることができること、並びにこれらの変更が全て本発明の範囲内にあることを理解する。本発明の全範囲は、添付の特許請求の範囲及びそれに相当するものによって与えられる。
図1
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【配列表】
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【国際調査報告】