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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-09
(54)【発明の名称】電解質の設計方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
   H01M 12/06 20060101AFI20230302BHJP
【FI】
H01M12/06 G
H01M12/06 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022541220
(86)(22)【出願日】2021-01-06
(85)【翻訳文提出日】2022-08-30
(86)【国際出願番号】 US2021012285
(87)【国際公開番号】W WO2021141972
(87)【国際公開日】2021-07-15
(31)【優先権主張番号】62/957,407
(32)【優先日】2020-01-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520014844
【氏名又は名称】エル3ハリス オープン ウォーター パワー, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ベンク, ジェシー ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】クランプトン, アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】コバックス, ジェイソン
(72)【発明者】
【氏名】ラユロヴァ, マリヤ
(72)【発明者】
【氏名】マッケイ, イアン サーモン
(72)【発明者】
【氏名】レイル, ディエゴ
(72)【発明者】
【氏名】スティンソン, ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】ズギッチ, ブランコ
【テーマコード(参考)】
5H032
【Fターム(参考)】
5H032AA02
5H032AS01
5H032AS02
5H032AS03
5H032AS11
5H032CC16
5H032EE01
5H032EE02
5H032EE17
(57)【要約】
水性電解質、少なくとも1種の有害イオン種に結合するように構成されている少なくとも1種のキレート化剤および微粒子析出部位を含む、電気化学システム。電気化学システムを形成する方法であって、内部体積を有する筐体を作製するステップ、内部体積内に少なくとも1つの電極を配置するステップ、少なくとも1種の有害イオン種に結合するように構成されている少なくとも1種のキレート化剤を内部体積に添加するステップ、および内部体積に微粒子析出部位を添加するステップを含む、方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性電解質、
少なくとも1種の有害イオン種に結合するように構成されている少なくとも1種のキレート化剤、および
微粒子析出部位
を含む、電気化学システム。
【請求項2】
前記微粒子析出部位が、前記水性電解質中に懸濁されている、請求項1に記載の電気化学システム。
【請求項3】
前記電気化学システムが、金属-水システムである、請求項1に記載の電気化学システム。
【請求項4】
前記電気化学システムが、金属-酸素システムである、請求項1に記載の電気化学システム。
【請求項5】
前記キレート化剤が、前記電気化学システムにおけるアノードのための腐食防止剤である、請求項1に記載の電気化学システム。
【請求項6】
前記微粒子析出部位が、水酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム、ベーマイト、アルミン酸ナトリウム、酸化カルシウム、硫酸アルミニウムカリウム、硫酸アルミニウムアンモニウムまたは溶解したアルミニウム種を含む、請求項1に記載の電気化学システム。
【請求項7】
前記キレート化剤が、前記水性電解質中の少なくとも1種の溶解した種に選択的に配位するように構成されている、請求項1に記載の電気化学システム。
【請求項8】
前記水性電解質が、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、海水、淡水、半塩水、またはそれらの任意の組合せのうちの少なくとも1種を含む、請求項1に記載の電気化学システム。
【請求項9】
前記少なくとも1種の有害イオン種が、Ca2+、Mg2+、Fe2+またはFe3+のうちの少なくとも1種を含む、請求項1に記載の電気化学システム。
【請求項10】
前記微粒子析出部位が、核生成部位である、請求項1に記載の電気化学システム。
【請求項11】
電気化学システムを形成する方法であって、
内部体積を有する筐体を作製するステップ、
前記内部体積内に少なくとも1つの電極を配置するステップ、
前記内部体積に、少なくとも1種の有害イオン種に結合するように構成されている少なくとも1種のキレート化剤を添加するステップ、および
微粒子析出部位を前記内部体積に添加するステップ
を含む方法。
【請求項12】
電解質を前記内部体積に添加するステップをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記電解質を前記内部体積に添加するステップが、水を含有する液体に前記筐体を少なくとも部分的に浸漬するステップを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記微粒子析出部位が、水性電解質中に懸濁されているか、または溶解されているかのどちらかである、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記水性電解質が、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、海水、淡水、半塩水、またはそれらの任意の組合せのうちの少なくとも1種を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記電気化学システムが、金属-水システムである、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
前記キレート化剤が、前記電気化学システムにおけるアノードのための腐食防止剤である、請求項11に記載の方法。
【請求項18】
前記キレート化剤が、前記筐体内の水性電解質中の少なくとも1種の溶解した種に選択的に配位するように構成されている、請求項11に記載の方法。
【請求項19】
前記少なくとも1種の有害イオン種が、Ca2+、Mg2+、Fe2+またはFe3+のうちの少なくとも1種を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項20】
前記電極が、アルミニウムアノード、リチウムアノード、マグネシウムアノード、亜鉛アノードまたは鉄アノードのうちの少なくとも1つを含む、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、その全体が本明細書において説明されているかのごとく、その全開示が参照により組み込まれている、2020年1月6日に出願された、同時係属中の米国仮出願第62/957,407号の利益を主張する。
【0002】
技術分野
本明細書に記載されている実施形態は、概して、水性電解質を備える電気化学システム、ならびにより詳細には、有害イオン種に結合するために少なくとも1種のキレート化剤と組み合わせて微粒子析出部位を使用するように構成されている電気化学システムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
金属-水セルなどの電源は、水中での用途の場合の普及した代替エネルギー源になってきた。これらのタイプのセルは、反応2HO→H+2OHに従って水を分解する水素発生カソードを一般に含む。次に、水酸化物イオンをアルミニウムなどの金属材料と反応させるために使用する。セルは、定電圧もしくは定電力で、または他の負荷プロファイル下で放電され得、放電のタイプおよび量は、本明細書に記載されている一般パターンに影響を及ぼすことがある。
【0004】
水性電解質を備える、アルミニウム-水セルなどの金属-水電気化学セルは、いくつかの要因により、セルの性能が予測どおりに低下し、回復する、慣らし期を有する。セルが、定電圧下で稼働する場合、この効果は、セルの電流出力の低下として現れ、比例的に電力出力が低下する。この誘導期の後、セルは、放電の大部分に対して定常状態での稼働に到達することができる。この挙動は、1)ユーザーが、起動中に低い電力出力の期間を含むミッションプロファイルを受け入れなければならないか、または2)電池システムが、遷移期における最低性能点における最小限の放電規格を満たすよう設計されている必要があるかのどちらかの設計上の難題を引き起こし、これは、長期間の定常状態の放電に対するシステムの不十分な適合性をもたらすおそれがある。
【0005】
アルミニウム-水セルの最大電流出力は、電解質の水酸化物濃度を含めた、いくつかの変数の関数である、アルミニウムの腐食速度によって通常、制限される。アルミネート(Al(OH) )は、最終廃棄生成物である(Al(OH))よりもさらなるヒドロキシル基を結合し、ヒドロキシル濃度を低下させる。アルミネートが溶液中に蓄積すると、ヒドロキシル濃度および電流出力が低下する。この傾向は、水酸化アルミニウムが、かなりの速度で電解質から析出し始めて、ヒドロキシル濃度を補うと、反転する。基材上もしくは電解質中の固体粒子上へ不均一に析出することを含めた析出反応が発生することがある、またはアルミネートが溶液中で核形成して水酸化アルミニウム粒子を形成することができるいくつかの機構が存在する。電気化学反応に由来するアルミネート生成速度が、アルミネートの水酸化アルミニウムへの析出速度にほぼ等しく、他の要因が一定に保持されている(温度、および消費した水を補うための水注入など)場合、定常状態の放電に到達することができる。
【0006】
電源は、淡水、塩水、半塩水、またはそれらの任意の組合せ中で使用することができる。一部の電源は、不純水中で使用することができ、析出プロセスは、以下に限定されないが、Si4+、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Fe2+およびFe3+などのある特定のイオン種の存在によって複雑化し得る。
【0007】
既存の電源は、活性電極表面積の汚染または閉塞に敏感なことがある。汚染は、周囲金属イオンまたは水中の他の微粒子によって起こることがある。これらのイオンが析出するのを防止するよう、アルミネートとの相互作用を含め、これらのイオンがシステムと相互作用し得る、複数の機構が存在する。環境的供給源に由来する水が、最初の充填の一部として、または周期的な補充によるかのどちらか一方で、電解質混合物中の構成要素として使用される場合、これらのイオンはある濃度で存在することができる。環境的供給源に由来する水は、海水、河川および湖などの淡水源、沼、湿地または淀んだ池、産業または農業排水に由来するものなどの半塩水源などの、地表水および地下水のすべての形態を含むことが意図されている用語である。
【0008】
したがって、既存電源の欠点を克服する、方法およびデバイスが必要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
概要
この概要は、以下の詳細な説明にさらに記載されている単純化した形態での概念の選択を導入するために提示されている。この概要は、特許請求されている主題の重要な特色もしくは必須特色を特定するまたは排除することを意味するものでも意図するものでもなく、特許請求されている主題の範囲を決定する一助として使用されることを意図するものでもない。
【0010】
一態様によれば、実施形態は、電気化学システムに関する。一部の実施形態では、電気化学システムは、水性電解質;少なくとも1種の有害イオン種に結合するように構成されている少なくとも1種のキレート化剤;および微粒子析出部位を含む。
【0011】
一部の実施形態では、微粒子析出部位は、水性電解質中に懸濁されている。
【0012】
一部の実施形態では、電気化学システムは、金属-水システムである。
【0013】
一部の実施形態では、電気化学システムは、金属-酸素システムである。
【0014】
一部の実施形態では、キレート化剤は、電気化学システムにおけるアノードのための腐食防止剤である。
【0015】
一部の実施形態では、微粒子析出部位は、水酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム、ベーマイト、アルミン酸ナトリウム、酸化カルシウム、硫酸アルミニウムカリウム、硫酸アルミニウムアンモニウムまたは溶解したアルミニウム種を含む。
【0016】
一部の実施形態では、キレート化剤は、水性電解質中の少なくとも1種の溶解した種に選択的に配位するように構成されている。
【0017】
一部の実施形態では、水性電解質は、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、海水、淡水、半塩水、またはそれらの任意の組合せのうちの少なくとも1種を含む。
【0018】
一部の実施形態では、少なくとも1種の有害イオン種は、Ca2+、Mg2+、Fe2+またはFe3+のうちの少なくとも1種を含む。
【0019】
一部の実施形態では、微粒子析出部位は、核生成部位である。
【0020】
別の態様では、実施形態は、電気化学システムを形成する方法に関する。一部の実施形態では、方法は、内部体積を有する筐体を作製するステップ、内部体積内に少なくとも1つの電極を配置するステップ、内部体積に、少なくとも1種の有害イオン種に結合するように構成されている少なくとも1種のキレート化剤を添加するステップ、および微粒子析出部位を内部体積に添加するステップを含む。
【0021】
一部の実施形態では、方法は、電解質を内部体積に添加するステップをさらに含む。
【0022】
一部の実施形態では、電解質を内部体積に添加するステップは、水を含有する液体に筐体を少なくとも部分的に浸漬するステップを含む。
【0023】
一部の実施形態では、微粒子析出部位は、水性電解質中に懸濁されているか、または溶解されているかのどちらかである。
【0024】
一部の実施形態では、水性電解質は、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、海水、淡水、半塩水、またはそれらの任意の組合せのうちの少なくとも1種を含む。
【0025】
一部の実施形態では、電気化学システムは、金属-水システムである。
【0026】
一部の実施形態では、キレート化剤は、電気化学システムにおけるアノードのための腐食防止剤である。
【0027】
一部の実施形態では、キレート化剤は、筐体内の水性電解質中の少なくとも1種の溶解した種に選択的に配位するように構成されている。
【0028】
一部の実施形態では、少なくとも1種の有害イオン種は、Ca2+、Mg2+、Fe2+またはFe3+のうちの少なくとも1種を含む。
【0029】
一部の実施形態では、電極は、アルミニウムアノード、リチウムアノード、マグネシウムアノード、亜鉛アノードまたは鉄アノードのうちの少なくとも1つを含む。
【0030】
本発明の非限定的な実施形態は、概略図であり、縮尺通りに図示するよう意図されていない、添付の図を例として参照しながら記載されている。図では、例示されている同一またはほぼ同一の構成要素はそれぞれ、通常、単一の数字によって表されている。明確にするため、すべての構成要素がすべての図に標識されているわけではなく、例示が当業者に本発明を理解させるために必要ではない場合、本発明の各実施形態の構成要素のすべてが示されているわけでもない。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1は、アルミニウム-水電気化学セルに関して、定電圧および定温における、典型的な電気化学の放電のグラフを示す。
【0032】
図2図2は、一実施形態による電気化学システムを示す。
【0033】
図3図3は、一実施形態による、プレロード(preload)候補の表を示す。
【0034】
図4A図4Aは、一実施形態による水酸化アルミニウムをベースとするプレロード種に関する、温度の関数としてのアルミネートおよびヒドロキシルの平衡濃度のグラフを示す。
【0035】
図4B図4Bは、一実施形態による電解質セル中の水酸化アルミニウムをベースとするプレロード種の関数としての電気化学セル性能のグラフを示す。
【0036】
図5図5は、一実施形態による電解質組成の関数としての析出した水酸化アルミニウムの相対的な相組成を示す。
【0037】
図6図6は、一実施形態によるCa2+と錯体形成するキレート化剤を示す。
【0038】
図7図7は、一実施形態による、KOHおよび様々な鉄添加物(addition)を含む脱イオン(「DI」)水から形成された電解質における、アルミニウム-水電気化学セルの放電を示す。
【0039】
図8図8は、一実施形態による、KOHおよび海水、またはKOHおよび様々なカルシウム添加物を含むDI水から形成された電解質における、アルミニウム-水電気化学セルの放電を示す。
【0040】
図9図9は、一実施形態によるセルを通過する総電荷量の関数としての、添加したプレロードおよび様々な添加した塩を含む、DIおよび海水電解質におけるアルミニウム-水電気化学セルの放電を示す。
【0041】
図10A図10A図10Bおよび図10Cは、一実施形態により検討したキレート化剤候補の表を示す。
図10B図10A図10Bおよび図10Cは、一実施形態により検討したキレート化剤候補の表を示す。
図10C図10A図10Bおよび図10Cは、一実施形態により検討したキレート化剤候補の表を示す。
【0042】
図11図11は、一実施形態による4つの条件下での、海水電解質を含むアルミニウム-水電気化学セルの放電を示す。
【0043】
図12A図12Aは、一実施形態による電気化学放電プロセスの様々な段階における、電解質組成物の電流密度を比較するグラフを示す。
【0044】
図12B図12Bは、一実施形態による様々な電解質組成物に基づく、クーロン効率ごとに通過した電荷量の差を比較するグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0045】
詳細な説明
様々な実施形態は、添付の図面を参照しながら、以下により完全に記載されており、これは、本明細書の一部を形成し、具体的な例示的な実施形態を示す。しかし、本開示の概念は、多数の様々な形態で行われてもよく、本明細書において説明されている実施形態に限定されるものと解釈されるべきではなく、これらの実施形態は、本開示の概念、技法および実施の範囲を当業者に完全に伝えるため、徹底的かつ完全な開示の一部として提供される。実施形態は、方法、システムまたはデバイスとして実施されてもよい。したがって、以下の詳細な説明は、限定的な意味で解釈されるべきではない。
【0046】
本明細書において、「一実施形態」または「実施形態」と言う場合、実施形態と関連して記載されている特定の特色、構造または特徴が、本開示による少なくとも1つの例となる実施または技法に含まれていることを意味する。本明細書における様々な場所の「一実施形態では」という言い回しの出現は、すべてが、必ずしも同じ実施形態を参照しているわけではない。
【0047】
さらに、本明細書において使用されている文言は、主として、読みやすさおよび指示的目的のために選択されているのであって、開示されている主題を説明または制限するために選択されていないことがある。したがって、本開示は、例示であることが意図され、本明細書において議論されている概念の範囲を限定するものではない。
【0048】
図1は、アルミニウム-水電気化学セルに関して、定電圧および定温における、典型的な電気化学の放電のグラフを示す。経時的に典型的な電流が、時間座標としてグラフのx軸に印が付けられている4つの個別の期間に変化している。これらの期間は、遷移前ピーク101、遷移トラフ102、回復点103および遷移後ピーク104を含む。遷移前ピーク101と遷移後ピーク104との比は、図1中ではほぼ1:1であるが、比は、選択した具体的な放電条件および電極材料に依存する。一部のアルミニウム-水電気化学セルでは、典型的な放電は、1:1より高い、1:1未満、またはほぼ1:1に等しい、遷移前ピーク101の遷移後ピーク104に対する比を有することができる。
【0049】
第1の期間110は、起動から遷移前ピーク101までの時間を含む。セルの起動中に、アノード表面は粗くなることがあり、セルの電流出力は、経時的に増大することがある。これは、起動期、または放電の一過性開始状態と称されることがある。
【0050】
第2の期間120は、遷移事象の開始であり、遷移前ピーク101から遷移トラフ102までの範囲に及ぶ。アルミニウム-水セルでは、アルミネート副生物の蓄積が、アルミネートを相殺するほど十分な析出なしに増大する。これにより、アルミニウム-水セルのヒドロキシル濃度が低下し、電流出力は低下し始める。
【0051】
第3の期間130は、遷移事象の回復期であり、遷移トラフ102から回復点103までの範囲に及ぶ。一旦、アルミネート濃度が、いくつかの析出反応の1つの速度に有利となるほど十分に高くなると、アルミネートは、水酸化アルミニウムとして溶液から沈降(crash out)し始める。これによって、アルミネート分子からヒドロキシル基が遊離し、水酸化物濃度が増大し、電流出力が増大する。水酸化アルミニウムの核生成、および既存粒子または表面での成長に異なる反応速度が存在するので、グラフのこの部分の形状は、どの反応速度が有利であるかに基づいて様々になり得る。
【0052】
第4の期間140または定常状態領域は、回復点103から遷移後ピーク104までの範囲に及ぶ。これらの反応が平衡に到達すると、セルは、定電圧での電流出力がほぼ一定になる、定常状態の出力に近づく。アルミネートを生成する電気化学反応が、アルミネートの析出反応と平衡し、電流出力が安定化する点が、回復点を示す。
【0053】
誘導期105または慣らし期は、起動から回復点までの範囲に及び、定常状態前の領域全体である。
【0054】
一部のアルミニウム-水セルでは、遷移前ピーク101は、アルミネート副生物の蓄積が始まってアルミニウム-水セルの出力が低下する前に観察される最大電流出力である。一部のアルミニウムセルでは、遷移前ピーク101は、アノード表面が完全に粗くなる時間ではないことがある。大部分のアルミニウム-水セルでは、アノード表面は、回復点103を通して、粗くなり続け得る。文献では、セルは、電解質の十分に大きなレザーバーを使用することができ、その結果、第2および第3の期間の遷移挙動が起こらないので、遷移前ピーク101は、所与の合金またはカソード組成物の場合の最大出力として報告されることが多い。
【0055】
一部のアルミニウム-水セルでは、遷移トラフ102は、誘導期の最低部分である。遷移トラフ102は、定常状態前の反応速度によって誘導される、最低の水酸化物濃度における、アルミニウム-水セルの出力である。
【0056】
第3の期間の後に、1)水酸化物濃度をゆっくりと増大させる水の消費、および2)実験条件の遅いシフトの両方によるさらなる安定化によって、回復期130の直後に観察されたものよりもわずかに長い第4の期間に平衡後のピーク出力が引き起こされる。一部の実施形態では、水の消費は、カソードにおける水還元反応による。一部の実施形態では、水の消費は、アノードにおける自己腐食によることがある。
【0057】
性能を改善するため、一部の実施形態は、遷移誘導期全体を通じて、最低電流密度を増大させ、こうして、遷移前ピーク101、遷移トラフ102および遷移後定常状態104は、同じ値に近づく。一部の実施形態では、このシステム性能の改善は、ダンペニング(dampening)と呼ばれる。完全にダンペニングした金属-水セルでは、遷移前ピーク101、遷移トラフ102および遷移後定常状態104の電流値は等しくなり、こうして、遷移トラフ102が存在しない。
【0058】
慣らし期を制御するため、実施形態は、期にわたり、期の効果を加速するか、またはダンペニングすることができ、こうして、エンジニアは、電池システムを適切なサイズにすることができる。
【0059】
一部の実施形態では、化学剤は金属-水セルなどの電気化学システムの電解質に添加される。化学剤は、システムの析出反応を加速するように構成されている、アルミネートまたは他の物質などの添加物を含んでもよい。一部の実施形態では、これは、プレロードと称される析出誘導部位とすることができる。一部の実施形態では、プレロードまたはプレロード材料は、水酸化アルミニウムなどの固体材料を含んでもよく、核生成部位または優先的な析出部位として作用するように構成され得る。
【0060】
一部の実施形態では、化学剤は、電解質中に存在する有害な化学種に優先的に結合するように構成されている添加物を含んで、それらを除去することができ、その結果、析出が起こり得る。一部の実施形態では、このタイプの化学剤は、キレート化剤とすることができる。一部の実施形態では、少なくとも1種のキレート化剤と少なくとも1種のプレロードとの組合せが、電気化学システムに添加されてもよい。
【0061】
一部の実施形態では、システムは、ある特定の淡水源から構成されるものなどの、有害な一連の化学種を含有することが予想されない電解質を含んでもよい。一部の実施形態では、有害な一連の化学種を含有することが予想されないシステムは、キレート化剤ではなく、プレロードだけを使用して、慣らし期を加速させ、システムを迅速に平衡にすることができる。電解質が海水から構成される場合などの一部の実施形態では、キレート化剤とプレロードとの組合せにより、類似効果を実現することができる。プレロードとキレート化剤との組合せの最適化は、システムが稼働することが意図されている環境因子、および水質に基づくことができる。
【0062】
一部の実施形態では、プレロードは、アルミニウム含有添加物を含む。一部の実施形態では、プレロードは、アルミニウム-水電気化学セルの電解質に導入されてもよい。一部の実施形態では、プレロードは、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、電解質中に溶解しているアルミン酸ナトリウムもしくはアルミン酸カリウムなどの化学種、またはそれらの任意の組合せの固体粒子とすることができる。一部の金属-水セルでは、プレロードは、金属-水セルと適合する金属含有添加物を含むことができる。例えば、一部の実施形態では、セルが、鉄-水セルであった場合、プレロードは、鉄含有添加物を含むことができる。一部の実施形態では、プレロードは、金属-水セルと適合しない金属含有添加物を含んでもよい。例えば、一部の実施形態では、セルが、アルミニウム-水セルであった場合、プレロードは、マグネシウム含有添加物を含むことができる。
【0063】
一部の実施形態では、プレロードは、電解質中のアルミニウム種の部分溶解を可能にすることがあり、これによって、電解質中の初期アルミネート濃度が増大する。この増大によって、電解質が、図1に示されている標準反応におけるよりも迅速にアルミネートで飽和されるようになる。一部の実施形態では、電解質中に存在する固体残部は、析出アルミニウム反応のための核生成部位として働くことがあり、これにより、より低いアルミネート濃度で反応が引き起こされる。一部の実施形態では、固体残部は、析出アルミニウム反応のための種結晶として働くことがある。
【0064】
一部の実施形態では、アルミネートの急速飽和と電解質中に存在する固体残部との組合せにより、誘導期が短縮され、電気化学システムがより迅速に回復点に到達することが可能となることがある。一部の実施形態では、アルミネートなどの金属の急速飽和は、迅速な回復点に到達するための一次機構となり得る。一部の実施形態では、電解質中に存在する固体残部の量は、迅速な回復点に到達するための一次機構となり得る。プレロードとして非常に可溶性の高い種を使用する一部の実施形態では、金属の急速飽和は、電気化学セルの誘導期を短縮することを主に担うことができる。プレロードとして可溶性の低い微粒子を使用する一部の実施形態では、電解質中に存在する固体残部の量は、電気化学セルの誘導期を短縮することを主に担うことができる。
【0065】
一部の実施形態では、および回分式プロセスとは異なり、アルミニウム-水電池は、アルミネートを継続的に生成し、水酸化アルミニウムを析出させる。温度が100℃を超えて課されることがある工業的プロセスにおける場合とは異なり、これらの電池は、析出を強制的に行わせるために使用される変数の代わりに、温度制御が、大部分、受動的となる環境において機能することができる。一部の実施形態では、電池は、天然の環境海水、半塩水、淡水、またはそれらの任意の組合せにおいて機能することができる。一部の実施形態は、電力を供給するガルバニックセルとして働くことができる。
【0066】
図2は、一実施形態による電気化学システム200を示す。一部の実施形態では、電気化学システム200は、水性電解質210、少なくとも1種の有害イオン種に結合するように構成されている少なくとも1種のキレート化剤220、および微粒子析出部位230を含むことができる。一部の実施形態では、電気化学システム200はまた、プレロード240を含んでもよい。
【0067】
一部の実施形態では、電気化学システム200は、内部体積260を有する筐体250、および内部体積260内に少なくとも1つの電極270を含むことができる。筐体250はまた、内部体積内に少なくとも1種の有害イオン種を制御する少なくとも1つの機構を有することができる。有害イオン種は、電解質210が筐体に、および内部体積内に加えられると存在することがある。
【0068】
少なくとも1種の有害イオン種を制御する機構は、キレート化剤220、プレロード240または微粒子析出部位230を含むことができる。一部の実施形態では、機構は、キレート化剤220、プレロード240および微粒子析出部位230の任意の組合せを含むことができる。少なくとも1種のキレート化剤220は、一部の実施形態では、内部体積260に加えられてもよい。一部の実施形態では、プレロード240は、内部体積260に含まれてもよい。一部の実施形態では、微粒子析出部位230はまた、内部体積260に存在することもできる。一部の実施形態では、プレロード240は、微粒子析出部位230である。一部の実施形態では、微粒子析出部位230は、核生成部位である。
【0069】
一部の実施形態では、電気化学システム200は、金属-水システムとすることができる。一部の実施形態では、電気化学システム200は、金属-酸素システムとすることができる。一部の実施形態では、システム200は、液体290を含む環境によって取り囲まれていてもよい。例えば、一部の実施形態では、システムは、半塩水、海水、淡水または脱イオン水などの、水を含有する液体中に、少なくとも部分的に浸漬されてもよい。一部の実施形態では、システムは、水性環境290に完全に浸漬されてもよい。一部の実施形態では、システムは、酸素を含む環境に浸漬されてもよい。
【0070】
一部の実施形態では、システム200は、酸素をベースとする電解質210を使用してもよい。一部の実施形態では、システムは、水性電解質210を使用してもよい。一部の実施形態では、水性電解質210は、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、海水、淡水、半塩水、またはそれらの任意の組合せのうちの少なくとも1種を含んでもよい。電解質210は、電気化学システム200の周囲環境290と同じであってもよい。例えば、一部の実施形態では、電気化学システム200は、海水290によって取り囲まれてもよく、電気化学システム200は、電解質210として内部体積内に海水を使用してもよい。
【0071】
一部の実施形態では、電解質210は、少なくとも1種の有害イオン種を有することができる。例えば、一部の実施形態では、少なくとも1種の有害イオン種は、Ca2+、Mg2+、Fe2+またはFe3+のうちの少なくとも1種を含むことができる。電極表面270は影響を受けることがあり、金属副生物が、これを相殺するほど十分な析出なしにセル中で蓄積し得るので、有害イオン種は、システムの電流出力を低下させるおそれがある。一部の実施形態では、有害イオン種は、アルミニウムアノード、リチウムアノード、マグネシウムアノード、亜鉛アノードまたは鉄アノードなどの、電極270を汚染するおそれがある。
【0072】
汚染を低減し、より効率的な電気化学システムを確実にするため、システム200は、内部体積260に少なくとも1種のキレート化剤220またはプレロード240を含むことができる。一部の実施形態では、キレート化剤220は、水性電解質210中の少なくとも1種の溶解した種に選択的に配位するように構成されている。一部の実施形態では、キレート化剤220は、電気化学システム200におけるアノード270のための腐食防止剤として作用する。一部の実施形態では、以下にさらに詳細に記載されている通り、キレート化剤220およびプレロード240は、電解質210または周囲環境290中の、電極270のタイプ、電解質210のタイプおよび予想される有害イオン種のタイプのうちの少なくとも1つに基づいて選択され得る。
【0073】
一部の実施形態では、電気化学システム200は、プレロード240または微粒子析出部位230を含むことができる。微粒子析出部位230は、電解質210において、析出物を収集するまたは析出プロセスを加速する部位であってもよい。一部の実施形態では、微粒子析出部位230は、核生成部位とすることができる。一部の実施形態では、微粒子析出部位230は、水性電解質210中に懸濁されている。一部の実施形態では、微粒子析出部位230は、水性電解質210中に溶解している。一部の実施形態では、微粒子析出部位230は、水酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム、ベーマイト、アルミン酸ナトリウム、酸化カルシウム、硫酸アルミニウムカリウム、硫酸アルミニウムアンモニウム、溶解したアルミニウム種、またはそれらの任意の組合せを含むことができる。一部の実施形態では、以下にさらに詳細に記載されている通り、微粒子析出部位230は、電解質210または周囲環境290中の、電極270のタイプ、電解質210のタイプおよび予想される有害イオン種のタイプのうちの少なくとも1つに基づいて選択することができる。
【0074】
一部の実施形態では、プレロード240は、析出部位230である。一部の実施形態では、微粒子析出部位230は、固体微粒子部位である。一部の実施形態では、プレロード240は、固体微粒子析出部位または溶解した種のどちらか一方とすることができる。
【0075】
図3は、様々な実施形態による、プレロード候補の表を示す。一部の実施形態では、プレロード候補は、水酸化アルミニウム堆積に使用されてもよい。一部の実施形態では、プレロード候補は、異なる相の電解質に添加されてもよい。例えば、一部の種は、一部の実施形態では、結晶性固体として添加されてもよい。一部の実施形態では、一部の種は、非晶質相に添加されてもよい。一部の実施形態では、種は、塩、合成固体、天然固体、またはそれらの任意の組合せとして添加されてもよい。
【0076】
一部の実施形態では、プレロード候補は、シード粒子とすることができる。一部の実施形態では、誘導期を短縮するために電解質にシード粒子をプレロードする有効性は、3つの要因:シード粒子の組成および電解質へのその溶解度、電解質中のシード粒子の表面積、ならびにシード粒子の結晶構造または相に依存した。一部の実施形態では、プレロード候補は、層状複水酸化物(LDH)であってもよい。
【0077】
一部の実施形態では、電解質への低い溶解度を有する粒子は、高い溶解度を有する粒子よりも、システムの誘導期を短縮することに大きな影響を有し得る。例えば、ベーマイト、バイヤライトおよびギブサイトの3つの水酸化[酸化]アルミニウム種は、アルカリ性溶液に減少性の溶解度を有する。ベーマイトおよびバイヤライト添加物の場合には、ほとんど影響が観察されなかった一方、ギブサイトの導入により、図4に示されている通り、より小さな電力低下、および遷移期からのより迅速な回復がもたらされた。一部の実施形態では、定常状態の電力は、誘導期の後にどの水酸化アルミニウム相が形成されるのを制御することによって影響を受け得る。例えば、析出が、より迅速な成長速度を有する相に押し出され、次に、アルミネートの除去速度が増大した場合、より多くの水酸化物が解放され、セルは、一部の実施形態では、より高い電流密度で稼働する。
【0078】
図4AおよびBは、一実施形態による、プレロード種の溶解度、および電解質セル中のプレロード種の関数としての電気化学セルの性能のグラフを示す。
【0079】
一部の実施形態では、高表面積対体積比を有する粒子に対応する高い比表面積を有するシード粒子は、誘導期のダンペニングに有効であった。一部の実施形態では、表面積が大きいほど、電解質をプレロードする有効性が高まる。図4において、90Cのギブサイト線と63Cギブサイト線の両方が、電解質中に添加されたギブサイトの同量に相当するが、90Cギブサイト線は、63Cギブサイト線の粒子サイズよりも小さな粒子サイズに相当する。ギブサイトを含むDI電解質の図4Bにおける遷移トラフは、放電が、遷移トラフ期を有さない定常状態の放電に近づくよう、十分にダンペニングされる。これは、シード粒子に対する活性部位の数の関数であり、これは、表面積の増加に対して線形的に変化する。一部の実施形態では、溶液中の全粒子の絶対表面積は、より多い量のより小さな粒子を使用することによって増大することができる。
【0080】
同一温度における同じように設計した電気化学セルの稼働に関すると、類似した遷移トラフは、放電への約1~2Ahrで観察され得る。図4Bに示されている通り、ベーマイトなどの非常に可溶性の高い種は、トラフに顕著な影響を及ぼさなかった。適度に可溶性のバイヤライトの添加により、最小電流出力は1.2Ahrではなく、1.0Ahrにおいて発生し、電流密度は、20mA/cm未満ではなく、25mA/cmにより近かった。最低の可溶性水酸化アルミニウム種である、ギブサイトの添加により、約35mA/cmのダンペニングされたトラフがもたらされた。一部の実施形態では、速度論的に、析出反応にとって最も有利な状態は、図4Bに示されている実施形態のギブサイトであり、これは、アルミネートの析出速度の加速に寄与し、溶液中のその濃度を低下させ、電流出力を増大することができる。一部の実施形態では、粒子を完全に溶解する時間は、種間で幅広く変わる。一部の実施形態では、溶解は、電池放電の時間スケールにわたり、効果を有さない。
【0081】
さらに、一部の実施形態では、析出の実験条件が、水酸化アルミニウム副生物の熱力学的に好ましい状態と速度論的に好ましい状態の両方に対する影響を有するので、プレロードのシード粒子の結晶相は、重要な因子である。
【0082】
図5は、一実施形態による電解質組成の関数としての析出した水酸化アルミニウムの組成を示す。一部の実施形態では、アルミニウム-水電池が放電される条件下では、ギブサイトが、水酸化アルミニウムにとって熱力学的に有利な相である。速度論的には、冷温、0~25℃の間、大気圧において、および追加の塩またはイオン種が存在せずに形成する第1の水酸化アルミニウム生成物は、バイヤライトである。バイヤライトの成長もまた、電気化学システムにおける他の表面に観察される(「不均一な廃棄物」)。しかし、一部の実施形態では、廃棄生成物は、シード粒子の下にある結晶構造に基づいて、様々な相を形成することができる。例えば、25℃よりも高い温度、および14よりも高いpHの値では、水酸化アルミニウム析出物の一次相は、ギブサイトである。一部の実施形態では、海水が水酸化カリウムと混合されると形成する水酸化カルシウムおよび水酸化マグネシウムなどの、海水の塩および他の不溶性粒子の存在はまた、ギブサイトになるよう速度論的に有利な析出状態を引き起こすことができる。図5に示される通り、DI水をベースとする電解質に由来する廃棄物は、約60%のギブサイトを含有し、海水をベースとする電解質に由来する廃棄物は、約75%のギブサイトを含有した。図5はまた、海水をベースとする電解質にやはり存在する、より程度の大きな非晶質(非結晶性)廃棄物を示しており、これによって、パーセンテージの合計が100%にならない原因となる。
【0083】
ある特定のイオン種の存在は、セル性能に対して有害な影響を有するおそれがあり、これは、電気化学セルのための電解質が水の環境的供給源から形成される場合に直面する特有の課題である。これらの供給源は、以下に限定されないが、海水、半塩(湿地または沼)水、農業排水もしくは排水の他の形態、または他の「天然」源を含むことができる。イオン種を結合させるために用いられる一般的な技法の1つは、通常有機化合物を使用して溶液中の金属イオンを結合させる化学反応である、キレート化である。
【0084】
図6は、一実施形態によるCa2+と錯体形成するキレート化剤を示す。一部の実施形態は、電気化学セルのための天然源となる水性電解質中で、特異的なCa2+結合性およびFe3+結合性キレート化剤を使用することができる。一部の実施形態は、水性電解質に溶解し得る、キレート化剤を使用してもよい。一部の実施形態は、水性電解質に溶解することができない、剤を使用してもよい。例えば、一部の実施形態では、単一プロセスユニットに固定され、次に、電気化学セルに注入されたキレート化剤またはイオン交換樹脂の上に電解質を流すと、同じ目的を達成することができる。陽イオン種は、溶液中でCa2+と錯体形成することによって、反応を継続すること、およびセルを汚染することができず、金属-水酸化物副生物の形成を阻害することができない。
【0085】
アルミニウム-水セルの場合、電解質中に存在するCa2+、Sr2+およびFe3+などの陽イオン種は、様々な種依存的な機構により電気化学に影響を与えることができる。2つの主要な機構が、これらの種で発生する:1)電極表面のどちらか一方を汚染することにより、半反応の一方が起こるのを阻止する、および/または2)水酸化アルミニウム副生物の形成を阻害することにより、水酸化物が増加し、電気化学セルの電流出力を低下させる。
【0086】
より具体的には、Fe3+イオンの有害な効果は、第1の機構によって引き起こされる。一部の実施形態では、Fe3+は、H発生反応がアノードにおいて起こるように促進することがあり、これによって、クーロン効率を低下させ、セルの出力を低下させるおそれがある。Ca2+およびSr2+イオンの存在により、後者の機構が発生し得、これは、電気化学に対して2つの影響を有する。二価陽イオンは、水酸化アルミニウム副生物の形成を阻害し、第2に、アノード表面に二重ヒドロキシル層の厚みを増大させることができる。どちらの効果も、水酸化物イオンのアノードへの輸送を阻止することによって、セルの電流出力を低下させる。どちらの作用も、図6に示されているものなどの、キレート化剤の導入によって是正され得る。一部の実施形態では、システムは、電解質中の有害なイオンに特異的な複数のキレート化剤を使用することができる。
【0087】
図7は、一実施形態による、KOHおよび様々な鉄添加物を含むDI水から形成された電解質における、アルミニウム-水電気化学セルの放電を示す。一部の実施形態では、図6に示されている通り、Fe3+は、セルと有害に相互作用をして、セルのクーロン効率および電流出力を低下させるおそれがある。示される通り、Fe2+の添加は、電流密度の一時的な低下をもたらした。一部の実施形態では、Fe3+が存在により、クーロン効率の一時的な低下がもたらされた。一部の実施形態では、水は、アルミニウムアノードにおいてFe3+により還元されており、短絡を引き起こし、この場合、電流出力または自己腐食は、図7に示されているグラフ中では目視可能ではない。
【0088】
Fe3+が、完全に消費されると、セルは、Feが毒にならない場合に類似した電流出力まで回復することができる。例えば、Fe(III)Clを見ると、出力は、約5~8mA/cmでピークに達する一方、脱イオン水中の電解質は、約40mA/cmでピークに達する。
【0089】
一部の実施形態では、Ca2+(および、拡張によりSr2+)イオンなどのある特定のイオンの存在により、プレロードスキームの効果が大幅に低下し得る。図8は、一実施形態による、海水、ならびにKOH、Al(OH)および様々なカルシウム添加物を含むDI水から形成された電解質における、アルミニウム-水電気化学セルの放電を示す。グラフは、KOHおよびAl(OH)を含むDI水(実線)、KOHおよびAl(OH)プレロードを添加した海水(破線)、ならびにKOH、Al(OH)プレロードおよびCa2+を添加したDI水(点線)から形成された電解質を通過した総電荷量を示す。一部の実施形態では、電解質を含むDI水と水酸化アルミニウムとの組合せにより、水酸化アルミニウムと組み合わせた海水電解質よりも通過した総電荷量が多くなる。これらの組合せのどちらも、水酸化アルミニウムを含むDI水と塩化カルシウムとの組合せよりも通過した総電荷量は多くなる。図8に示されている通り、溶液は、アルミネートで飽和された状態になるので、Ca2+が添加される場合よりも、電解質を含むDI水と水酸化アルミニウムとの組合せにおいて、電流密度の低下は少ない。
【0090】
図9は、一実施形態によるセルを通過した総電荷量の関数としての、添加したAl(OH)プレロードおよび様々な添加した塩を含む、DI水および海水電解質におけるアルミニウム-水電気化学セルの放電を示す。示されている通り、DI水、DI水およびMgCl、ならびにDI水およびNaClを使用して構成されたプレロード含有電解質の場合の平均電流密度は、海水またはDI水およびCaClから構成されるプレロード含有電解質の場合の平均電流密度よりも高い。言い換えると、遷移トラフは、カルシウムイオンを含有しないプレロード含有電解質の場合、低下する。
【0091】
図10A、10Bおよび10Cは、一実施形態により検討したキレート化剤候補の3つの表を示す。複数の化学的キレート化剤を電気化学システムに使用して、システムをより効率的にすることができる。一部の実施形態は、Ca2+に特異的なキレート化剤、一般に陽イオンを結合するキレート化剤、または溶液から析出する不溶性カルシウムもしくは他の金属生成物を形成する可溶性塩を使用することができる。一部の実施形態では、複数のキレート化剤を、電解質に特異的な、または電極に特異的な環境の少なくとも1つに照らし合わせて選択することができる。例えば、多量のカルシウムイオンが、電解質中に存在することが予想される場合、システムは、Ca2+に結合するように構成されているキレート化剤を含むことができる。一部の実施形態では、システムは、複数のキレート化剤を含むことができる。一部の実施形態では、多量の鉄イオンおよびカルシウムイオンが電解質中に存在することが予想される場合、システムは、Fe3+およびCa2+の少なくとも一方に結合するように構成されているキレート化剤、一般に陽イオンを結合するキレート化剤、または複数のキレート化剤を含むことができ、複数のキレート化剤の少なくとも1種は、Fe3+に結合するように構成されており、複数のキレート化剤のもう一方は、Ca2+に結合するように構成されている。
【0092】
実験では、キレート化剤の影響を、代わりに遷移前電流および電力密度を用いて測定した。有害な種が溶液から除去されると、セルは、脱イオン/蒸留水から形成される電解質を用いて行われる方法と類似した放電プロファイルに近づく。大部分のキレート化種は、1:1のモル比でイオンを結合し、したがって、それは、どの程度の量のキレート化剤を添加するかを決定するための基礎として使用した。しかし、一部の実施形態では、キレート化剤の濃度は、正確に1:1のモル比でなくてもよい。一部の実施形態では、キレート化剤の濃度は、溶液中のCa2+の濃度に等しくてもよい。一部の実施形態では、キレート化剤の濃度は、Ca2+、Mg2+およびFe3+を含めた、溶液中の二価および三価の陽イオン種のすべての濃度に等しくてもよい。これらは、NaおよびKなどの一価陽イオンを除き、海水中に存在する溶解した陽イオン種の大部分を含む。
【0093】
キレート化剤の種のすべてが、同じ有効性を有するとは限らない。一部の実施形態は、高いアルカリ性でのキレート化剤の安定性、存在する他の種よりも二価および三価の陽イオンを有利にするイオン選択性、ならびにある特定のpH条件における標的種の溶解度に応じて、様々なキレート化剤を使用することができる。例えば、Ca2+、Mg2+およびSr2+としての、アルカリ性溶液中のいくつかの標的種は、強塩基に曝露すると、固体の金属水酸化物を形成する。高pH条件下では、平衡は析出に有利となるが、微量のこれらの種は、一部の実施形態では、溶液中に残り得る。一部の実施形態では、微量の溶解量の消費により、金属水酸化物(以下のスキームにおいて、Mとして表される金属)を可溶化し、次いで種をキレート化する(以下Chlとして表されるキレート化剤)方向に平衡を進ませることができる。
【数1】
【0094】
速度論的に、このプロセスは、十数分間から数時間程度で起こり得、15分後に、大幅な改善が一般に観察される。各キレート化剤の性能は、ある特定の実施形態では、様々になり得、複数のカルボン酸およびニトリル基を含有する化合物が最善を発揮し、より少ない官能基を有する化合物は金属イオンにそれほど効果的に結合しない。一部の実施形態では、金属水酸化物の固体がより結晶性の形態に遷移すると、溶解速度が減速し得、金属イオンを結合するために必要な期間が増大する。
【0095】
図11は、一実施形態による4つの条件下での、海水電解質を含むアルミニウム-水電気化学セルの放電を示す。これらの条件は、海水電解質;海水電解質およびキレート化剤;海水電解質、キレート化剤およびプレロード;ならびに海水電解質、プレロードおよび事前粗化キレート化剤の添加である。
【0096】
一部の実施形態では、キレート化剤を事前粗化するため、キレート化剤をサンドブラストしてもよい。一部の実施形態では、キレート化剤は、Ca2+を含んでもよい。一部の実施形態では、有効なプレロードと適切なキレート化剤の組合せにより、誘導期が大幅にダンペニングされ、放電が定常状態に加速され、一般に、アルミニウム-水電気化学セルの性能が改善される。図11に示される通り、海水電解質は単独で、遷移トラフと回復点との間に大きなギャップを有した。しかし、プレロードおよびキレート化剤を含む海水電解質は、遷移トラフと回復点との間に電流密度のより小さな差を有する。キレート化剤を事前粗化すると、その差も著しく縮小する。さらに、遷移前ピークから回復点までの時間は、まさに海水電解質、または海水電解質およびキレート化剤単独の場合よりも、キレート化剤、プレロードおよび海水電解質の場合の方が短い。
【0097】
図12Aは、一実施形態による電気化学放電プロセス全体を通して、電解質組成物の電流密度を比較するグラフを示す。図12Bは、様々な電解質組成物に基づく、クーロン効率ごとに通過した電荷量の差を比較するグラフを示す。これらは、3つの条件下:原料のままの(raw)海水電解質、プレロードが存在する海水電解質、およびプレロードおよびキレート化剤が存在する海水電解質で、海水中の電解質に関して、電気化学フローセルの放電における重要な性能測定基準に関して収集した実験データの編集物を示している。
【0098】
一部の実施形態では、プレロードは単独で導入してもまたはキレート化剤と組み合わせて導入しても、いずれであっても、セルのクーロン効率、または定常状態での平均電流密度に顕著に影響を与えない。しかし、一部の実施形態では、遷移までの時間、および遷移前のおよび遷移トラフにおける最大電流密度は、大幅に改善される。比は、一部の実施形態では、一層の安定化を示しており、プレロードは、単独でまたはキレート化剤と組み合わされて誘導期を短縮し、電気化学システムをより迅速に回復点に到達させることを可能にすることを示している。例えば、図12Aにおいて示されている通り、遷移後平均は、3つの条件のすべてに関して比較的類似しているが、トラフの最小値は、プレロードおよびキレート化剤が存在する海水電解質の方が、原料のままの海水電解質よりもはるかに高い。これは、一部の実施形態では、プレロードおよびキレート化剤を添加することにより、より安定な電気化学システムが作製されることを示している。
【0099】
本発明のいくつかの実施形態が、本明細書において記載され、例示されているが、当業者は、本明細書に記載されている機能を発揮するため、ならびに/あるいは結果および/または1つもしくは複数の利点を得るため、様々な他の手段および/または構造を容易に構想し、このような変形および/または改変の各々は、本発明の範囲内にあると見なされる。より一般的に、当業者は、本明細書に記載されているすべてのパラメータ、寸法、材料および構成は、例示であることが意図されていること、ならびに実際のパラメータ、寸法、材料および/または構成は、本発明の教示が使用される特定の用途(単数または複数)に依存することを容易に認識する。当業者は、型通りの実験だけを使用して、本明細書に記載されている本発明の具体的な実施形態に対する多数の等価物を認識するか、または解明することができる。したがって、前述の実施形態は、単なる例として提示されていること、ならびに本発明は、添付の特許請求の範囲およびその等価物の範囲内で、具体的に記載され、特許請求されているもの以外で実施することができることを理解すべきである。本発明は、本明細書に記載されている、個々の特色、システム、物品、材料および/または方法の各々を対象とする。さらに、このような特色、システム、物品、材料および/または方法の2つまたはそれより多数の任意の組合せは、このような特色、システム、物品、材料および/または方法が相互に矛盾しない場合、本発明の範囲内に含まれる。
【0100】
本明細書および特許請求の範囲における、不定冠詞「a」および「an」は、本明細書で使用する場合、それとは反対に明確に示されていない限り、「少なくとも1つの」を意味することを理解すべきである。
【0101】
本明細書および特許請求の範囲における、言い回し「および/または」は、本明細書で使用する場合、そのように接続されている要素、すなわち、一部の場合、接続的に提示されており、他の場合には、非接続的に提示されている要素の「いずれか一方または両方」を意味すると理解されるべきである。「および/または」という節によって具体的に特定される要素以外の他の要素は、それとは反対に明確に示されない限り、具体的に特定されるそのような要素に関連するか否かに関わらず、必要に応じて存在することができる。したがって、非限定的な例として、「Aおよび/またはB」という場合、「含む(comprising)」などのオープンエンドな言語と併せて使用される場合、一実施形態では、BがないA(必要に応じて、B以外の要素を含む);別の実施形態では、AがないB(必要に応じてA以外の要素を含む);さらに別の実施形態では、AとBの両方(必要に応じて、他の要素を含む)などを指すことができる。
【0102】
本明細書および特許請求の範囲における、「または」は、本明細書で使用する場合、上に定義されている「および/または」と同じ意味を有すると理解されるべきである。例えば、一覧表示中の項目を分離する場合、「または」または「および/または」は、包括的である、すなわち要素の数または一覧表示の少なくとも1つを含むが、1つより多くもやはり含み、必要に応じて一覧表示されていない追加の項目も含むと解釈されるものとする。「のうちの1つだけ」または「のうちの正確に1つ」、または特許請求の範囲において使用される場合、「からなる(consisting of)」などの、反対に明確に示される用語だけが、要素の数または一覧表示のうちの正確に1つの要素を含むことを指す。一般に、用語「または」は、本明細書で使用する場合、「どちらか」、「のうちの一方」、「のうちの1つだけ」または「のうちの正確に1つ」などの、排他性の用語が前に付く場合、排他的な選択肢(すなわち、「一方またはもう一方であるが、両方ではない」)を示すとだけ解釈されるものとする。「から実質的になる(consisting essentially of)」は、特許請求の範囲において使用する場合、特許法の分野において使用されているようなその普通の意味を有するものとする。
【0103】
本明細書および特許請求の範囲における、1つまたは複数の要素の一覧表示を参照した「少なくとも1つ」という言い回しは、本明細書で使用する場合、要素の一覧表示中のいずれか1つまたは複数の要素から選択される少なくとも1つの要素を意味するが、要素の一覧表示内に具体的に列挙されているありとあらゆる要素の少なくとも1つを必ずしも含む必要はなく、要素の一覧表示中の要素のいかなる組合せも排除するものではないことが理解されるべきである。この定義により、「少なくとも1つ」という言い回しが指す要素の一覧表示内で具体的に特定されている要素以外の要素が、具体的に特定されている要素に関連するか否かに関わらず、必要に応じて、存在してもよいことがやはり許容される。したがって、非限定的な例として、「AおよびBの少なくとも1つ」(または、等価には「AまたはBの少なくとも1つ」または等価には「Aおよび/またはBの少なくとも1つ」)は、一実施形態では、少なくとも1つ、必要に応じて1つより多くのAを含み、Bが存在しない、(および、必要に応じてB以外の要素を含む);別の実施形態では、少なくとも1つ、必要に応じて1つより多くのBを含み、Aが存在しない(および、必要に応じてA以外の要素を含む);さらに別の実施形態では、少なくとも1つ、必要に応じて1つより多くのAを含み、および少なくとも1つ、必要に応じて1つより多くのBを含む(および、必要に応じて他の要素を含む)などを指すことができる。
【0104】
特許請求の範囲、および上記の明細書において、「含む(comprising)」、「含む(including)」、「有する(carrying)」、「有する(having)」、「含有する(containing)」、「含む(involving)」、「保持する(holding)」などの移行句はすべて、オープンエンドであること、すなわち含むがそれらに限定されないことを意味すると理解すべきである。米国特許庁特許審査便覧の項目2111.03に記載されている通り、「からなる(consisting of)」および「から本質的になる(consisting essentially of)」という移行句のみが、それぞれ閉じたまたは半分が閉じた移行句であるものとする。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図10C
図11
図12A
図12B
【国際調査報告】