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  • 特表-肺癌の検出方法 図1
  • 特表-肺癌の検出方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-10
(54)【発明の名称】肺癌の検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/35 20140101AFI20230303BHJP
   G01N 33/483 20060101ALN20230303BHJP
【FI】
G01N21/35
G01N33/483 C
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022528543
(86)(22)【出願日】2019-11-15
(85)【翻訳文提出日】2022-06-29
(86)【国際出願番号】 GB2019053245
(87)【国際公開番号】W WO2021094703
(87)【国際公開日】2021-05-20
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522191141
【氏名又は名称】シエラ メディカル リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【弁理士】
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】フォアマン リバティー
(72)【発明者】
【氏名】ファー ランス
【テーマコード(参考)】
2G045
2G059
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045AA26
2G045CB01
2G045FA25
2G059AA06
2G059BB12
2G059BB14
2G059CC16
2G059EE01
2G059EE02
2G059EE03
2G059EE12
2G059FF01
2G059FF03
2G059FF04
2G059HH01
2G059HH06
2G059KK04
2G059MM01
2G059MM02
2G059MM03
2G059MM04
2G059MM05
2G059MM10
(57)【要約】
本発明は、肺疾患を決定する診断方法に関する。該方法は、複数の細胞の分光解析によって生成された複数のスペクトルを取得するステップを含む。該方法は、複数のスペクトルの各スペクトルから関心特徴を決定するステップを含む。該方法は、関心特徴の分布を決定するステップを含む。該方法は、関心特徴の分布に応じて肺疾患を診断するステップを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の細胞の分光解析によって生成された複数のスペクトルを取得するステップと、
前記複数のスペクトルの各スペクトルから関心特徴を決定するステップと、
前記関心特徴の分布を決定するステップと、
前記関心特徴の分布に応じて肺疾患を診断するステップと、を含む、肺疾患を決定する診断方法。
【請求項2】
肺疾患は、前記分布が非対称である場合に診断される、請求項1に記載の診断方法。
【請求項3】
前記関心特徴の分布における外れ値と非外れ値との比率を決定するステップと、前記比率に基づいて非対称性を決定するステップと、を更に含む、請求項2に記載の診断方法。
【請求項4】
前記分布は、外れ値と非外れ値との比率が閾値を超える場合に非対称である、請求項3に記載の診断方法。
【請求項5】
前記閾値は、少なくとも0.05で、好ましくは少なくとも0.1で、好ましくは少なくとも0.15である、請求項4に記載の診断方法。
【請求項6】
前記外れ値は、片側境界に応じて決定される、請求項3~5のいずれか1項に記載の診断方法。
【請求項7】
前記片側境界は、前記関心特徴の平均に応じて、及び/又は前記関心特徴の標準偏差に応じて決定される、請求項6に記載の診断方法。
【請求項8】
前記関心特徴の分布の非対称性の尺度を決定するステップと、前記非対称性の尺度に基づいて非対称性を決定するステップと、を更に含む、請求項2~7のいずれか1項に記載の診断方法。
【請求項9】
前記非対称性の尺度は、歪度、ピアソンの歪度及び/又は尖度である、請求項8に記載の診断方法。
【請求項10】
肺疾患は、前記分布が閾値を超える広がりを有する場合に診断される、請求項1~9のいずれか1項に記載の診断方法。
【請求項11】
前記関心特徴の分布における外れ値と非外れ値との比率を決定するステップと、前記比率に基づいて閾値を超える広がりを決定するステップと、を更に含む、請求項10に記載の診断方法。
【請求項12】
前記外れ値は、両側境界に応じて決定される、請求項11に記載の診断方法。
【請求項13】
前記広がりの尺度として標準偏差を決定するステップを更に含み、肺疾患は、前記標準偏差が閾値を超える場合に診断される、請求項10~12のいずれか1項に記載の診断方法。
【請求項14】
前記複数の細胞は、上気道に由来する、請求項1~13のいずれか1項に記載の診断方法。
【請求項15】
前記複数の細胞は、口腔細胞である、請求項1~14のいずれか1項に記載の診断方法。
【請求項16】
前記分光解析は、赤外分光解析、フーリエ変換赤外分光解析、ベンチトップ分光解析及び/又はラマン分光解析である、請求項1~15のいずれか1項に記載の診断方法。
【請求項17】
異なる細胞からの各スペクトルにより少なくとも20個のスペクトルを取得し、好ましくは、異なる細胞からの各スペクトルにより少なくとも50個のスペクトルを取得し、より好ましくは、異なる細胞からの各スペクトルにより少なくとも75個のスペクトルを取得し、更により好ましくは、異なる細胞からの各スペクトルにより少なくとも100個のスペクトルを取得する、請求項1~16のいずれか1項に記載の診断方法。
【請求項18】
前記関心特徴は、関心分光帯域内のピーク面積である、請求項1~17のいずれか1項に記載の診断方法。
【請求項19】
前記関心特徴は、関心分光帯域内の平均値、通常の算術平均、加重算術平均又は重心である、請求項1~17のいずれか1項に記載の診断方法。
【請求項20】
前記関心特徴は、関心波数での値である、請求項1~17のいずれか1項に記載の診断方法。
【請求項21】
前記関心特徴は、関心分光帯域内に分光による最大値又は最小値が発生する波数である、請求項1~17のいずれか1項に記載の診断方法。
【請求項22】
前記関心分光帯域又は関心波数は、1150cm-1の領域、1140~1160cm-1、1080cm-1の領域、1070~1090cm-1、1065cm-1の領域、1060~1070cm-1、1050cm-1の領域、1060~1070cm-1のうちの1つ以上である、請求項18~21のいずれか1項に記載の診断方法。
【請求項23】
前記関心特徴は、請求項18~22における前記関心特徴のうちの2つ以上の組み合わせである、請求項1~17のいずれか1項に記載の診断方法。
【請求項24】
前記肺疾患は、肺癌又は非癌性呼吸器疾患、場合により慢性閉塞性肺疾患である、請求項1~23のいずれか1項に記載の診断方法。
【請求項25】
各分光解析は、単一細胞の一部、好ましくは核を含む単一細胞の一部に関する、請求項1~24のいずれか1項に記載の診断方法。
【請求項26】
前記一部は、細胞質を含む、請求項25に記載の診断方法。
【請求項27】
スペクトルをアミドIIピーク高さに正規化するステップを更に含む、請求項1~26のいずれか1項に記載の診断方法。
【請求項28】
前記スペクトルの二階導関数を計算するステップを更に含む、請求項1~27のいずれか1項に記載の診断方法。
【請求項29】
被検体から複数の細胞を取得するステップ及び/又は前記複数の細胞の分光解析を実行するステップを更に含む、請求項1~28のいずれか1項に記載の診断方法。
【請求項30】
請求項1~29のいずれか1項に記載の方法を実行するコード手段を含む、コンピュータプログラム。
【請求項31】
請求項30に記載のコンピュータプログラムを保持する、コンピュータ可読媒体。
【請求項32】
請求項30に記載のコンピュータプログラムを実行することができるコンピュータを含む、システム。
【請求項33】
分光計を更に含む、請求項32に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肺癌の検出に関する。
【背景技術】
【0002】
肺癌は、例えば、X線撮影(断層撮影を含む)又は肺組織の生検を行うことにより検出することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、肺癌及び他の呼吸器疾患を、他のアプローチよりもより便利に、より低い侵襲性で、より早い段階で、より確実に検出することを可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
第1の態様では、肺疾患を決定する診断方法が提供され、該方法は、複数の細胞の分光解析によって生成された複数のスペクトルを取得するステップと、前記複数のスペクトルの各スペクトルから関心特徴を決定するステップと、前記関心特徴の分布を決定するステップと、前記関心特徴の分布に応じて肺疾患を診断するステップと、を含む。
【0005】
分布は、肺疾患を示すことができる区別を提供することができ、肺疾患(又は肺疾患のリスクがある被検体)の侵襲性がより低く、より便利で、信頼できる初期段階での特定を可能にすることができる。
【0006】
肺疾患は、前記分布が非対称である場合に診断されてもよい。非対称分布は、特に肺疾患又は肺疾患のリスクを示すことができる。
【0007】
該方法は、前記関心特徴の分布における外れ値と非外れ値との比率を決定するステップと、前記比率に基づいて非対称性を決定するステップと、を更に含んでもよい。そのような比率は、前記分布の尺度を提供することができ、目標の感度及び/又は特異度を提供するように選択することができる。
【0008】
前記分布は、外れ値と非外れ値との比率が閾値を超える場合に非対称であってもよい。前記閾値は、少なくとも0.05で、好ましくは少なくとも0.1で、好ましくは少なくとも0.15であってもよい。前記閾値は、目標の感度及び/又は特異度を提供するように選択することができる。
【0009】
前記外れ値は、片側境界、又は代わりに両側境界に応じて決定されてもよい。前記片側境界又は前記両側境界は、前記関心特徴の平均に応じて、及び/又は前記関心特徴の標準偏差に応じて決定されてもよい。前記境界は、目標の感度及び/又は特異度を提供するように選択することができる。
【0010】
該方法は、前記関心特徴の分布の非対称性の尺度を決定するステップと、前記非対称性の尺度に基づいて非対称性を決定するステップと、を更に含んでもよい。前記非対称性の尺度は、歪度、ピアソンの歪度及び/又は尖度であってもよい。
【0011】
肺疾患は、前記分布が閾値を超える広がりを有する場合に診断されてもよい。対称的であるか非対称的であるかにかかわらず、高い広がりを有する分布は、特に肺疾患又は肺疾患のリスクを示すことができる。
【0012】
該方法は、前記関心特徴の分布における外れ値と非外れ値との比率を決定するステップと、前記比率に基づいて閾値を超える広がりを決定するステップと、を更に含んでもよい。そのような比率は、広がりの尺度を提供することができ、目標の感度及び/又は特異度を提供するように選択することができる。前記外れ値は、好ましくは、両側境界に応じて決定される。前記両側境界は、前記関心特徴の平均に応じて、及び/又は前記関心特徴の標準偏差に応じて決定されてもよい。
【0013】
該方法は、前記広がりの尺度として標準偏差を決定するステップを更に含んでもよく、肺疾患は、前記標準偏差が閾値を超える場合に診断される。前記分布のヒストグラムの半値全幅、四分位数、十分位数又は百分位数などの上と下の間の範囲、平均絶対偏差又は2つ以上の広がりの尺度の組み合わせを含む他の広がりの尺度を使用してもよい。
【0014】
利便性と低い侵襲性のために、前記複数の細胞は、上気道に由来してもよい。前記複数の細胞は、好ましくは、口腔細胞である。
【0015】
前記分光解析は、赤外分光解析、フーリエ変換赤外分光解析、ベンチトップ分光解析及び/又はラマン分光解析のうちの1つ以上であってもよい。前記スペクトルは、好ましくは、吸収スペクトル又はその導関数である。
【0016】
好ましくは、異なる細胞からの各スペクトルにより少なくとも20個のスペクトルを取得し、好ましくは、異なる細胞からの各スペクトルにより少なくとも50個のスペクトルを取得し、より好ましくは、異なる細胞からの各スペクトルにより少なくとも75個のスペクトルを取得し、更により好ましくは、異なる細胞からの各スペクトルにより少なくとも100個のスペクトルを取得する。
【0017】
前記関心特徴は、関心分光帯域内のピーク面積、関心分光帯域内の平均値、通常の算術平均、加重算術平均又は重心、関心波数での値及び/又は関心分光帯域内に分光による最大値又は最小値が発生する波数であってもよい。
【0018】
前記関心分光帯域又は関心波数は、1150cm-1の領域、1140~1160cm-1、1080cm-1の領域、1070~1090cm-1、1065cm-1の領域、1060~1070cm-1、1050cm-1の領域、1060~1070cm-1のうちの1つ以上であってもよい。
【0019】
前記関心特徴は、前述のような前記関心特徴のうちの2つ以上の組み合わせであってもよい。
【0020】
前記肺疾患は、肺癌又は非癌性呼吸器疾患、場合により慢性閉塞性肺疾患であってもよい。
【0021】
好ましくは、各分光解析は、単一細胞の一部、好ましくは核を含む単一細胞の一部に関する。前記一部は、細胞質を含んでもよい。
【0022】
該方法は、スペクトルをアミドIIピーク高さに正規化するステップ及び/又は前記スペクトルの二階導関数を計算するステップを更に含んでもよい。
【0023】
該方法は、被検体から複数の細胞を取得するステップ及び前記複数の細胞の分光解析を実行するステップのうちの1つ以上を更に含んでもよい。
【0024】
別の態様では、前述のような方法を実行するコード手段を含むコンピュータプログラムが提供される。
【0025】
別の態様では、前述のようなコンピュータプログラムを保持するコンピュータ可読媒体が提供される。
【0026】
別の態様では、前述のようなコンピュータプログラムを実行することができるコンピュータを含むシステムが提供される。該システムは、分光計を更に含んでもよい。
【0027】
別の態様では、本明細書に記載のいずれかの方法を実行、及び/又は本明細書に記載のいずれかの装置の特徴を具体化するコンピュータプログラム及びコンピュータプログラム製品が提供される。別の態様では、本明細書に記載のいずれかの方法を実行、及び/又は本明細書に記載のいずれかの装置の特徴を具体化するプログラムを記憶した非一時的なコンピュータ可読媒体が提供されている。別の態様では、本明細書に記載のいずれかの方法を実行するソフトウェアコードを含むコンピュータプログラム製品が提供される。ハードウェアに実装されている特徴は、通常、ソフトウェアに実装されてもよく、逆も同様である。本明細書におけるソフトウェア及びハードウェアの特徴へのあらゆる言及は、以上に従って解釈すべきである。
【0028】
本発明はまた、本明細書に記載のいずれかの方法を実行、及び/又は本明細書に記載のいずれかの装置の特徴を具体化するコンピュータプログラムを具体化する信号と、そのような信号を送信する方法と、本明細書に記載のいずれかの方法を実行、及び/又は本明細書に記載のいずれかの装置の特徴を具体化するコンピュータプログラムをサポートするオペレーティングシステムを有するコンピュータ製品とを提供する。
【0029】
本明細書に記載の任意の装置の特徴はまた、方法の特徴として提供されてもよく、逆もまた同様である。
【0030】
本発明の一態様における任意の特徴は、任意の適切な組み合わせで、本発明の他の態様に適用されてもよい。特に、方法の態様は、装置の態様に適用されてもよく、逆もまた同様である。更に、ある態様の任意の、いくつかの、及び/又は全ての特徴を、任意の適切な組み合わせで、任意の他の態様の任意の、いくつかの、及び/又は全ての特徴に適用することができる。
【0031】
本発明の任意の態様で説明及び定義された様々な特徴の特定の組み合わせが、独立して実施及び/又は供給及び/又は使用され得ることも理解されたい。
【0032】
本明細書で使用される場合、ミーンズ・プラス・ファンクションの特徴は、適切にプログラムされたプロセッサ及び関連するメモリなど、それらの対応する構造に関して代替的に表現されてもよい。
【0033】
本発明のこれら及び他の態様は、以下の図を参照して説明される以下の例示的な実施形態から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】多数の被検体からのサンプルからのスペクトルのピーク面積のプロットである。
図2】各サンプルの非外れ値と比較した外れ値の比率のプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
被検体から口腔細胞のサンプルを収集し、例えば、4%ホルムアルデヒド又は10%中性緩衝ホルマリン(NBF)で20分間固定する。細胞懸濁液を、例えば厚さ1mm、直径22mmのフッ化カルシウム(CaF2)又はセレン化亜鉛(ZnSe)IR窓などのIR透過に適した基板にサイトスピンする。細胞調製のための他の適切なプロトコルを使用してもよく、例えば、サイトスピンを省略してもよく、細胞を沈降することを許可してもよく、余分な液体を蒸発してもよく、又は細胞を窓に直接塗りつけてもよい。
【0036】
口腔細胞のサンプルを適切なFTIR装置で分析する。一例では、サンプルを、従来の(グローバー)光源を備えたベンチトップFTIR分光計で分析する。適切な例としては、Spectrum 10ソフトウェアで制御されるFrontier分光計に結合されたPerkin Elmer(パーキンエルマー) Spotlight 200i FT-IR顕微鏡又はOMIC Pictaソフトウェアで制御されるThermoFischer Scientific(サーモフィッシャーサイエンティフィック)、Nicolet iN10 Mx赤外撮影顕微鏡が挙げられる。ベンチトップFTIR分光計は、液体窒素で冷却されてもよく、テルル化カドミウム水銀(MCT)検出器を有してもよい。適切なIR検出器の例としては、液体窒素冷却テルル化カドミウム水銀(MCT)単一元素検出器又は64×64アレイの液体窒素冷却FPA検出器が挙げられる。一例では、シングルポイント透過測定は、15×15pmのアパーチャを使用して記録される。より大きなアパーチャを選択して、細胞のより多くの部分を照合してもよい。実質的に細胞全体をカバーするようにアパーチャを選択してもよい。ミー散乱を最小限に抑えるために、細胞の直径よりも小さいアパーチャを選択することが有利である。
【0037】
シングルポイント透過測定は、口腔細胞のサンプルからランダムに選択された(例えば、手動で、又は自動画像処理による細胞の特定により自動的に)、サンプルごとに100個の個別の非アポトーシスで無傷の細胞に対して行われる。測定は、核に焦点を合わせた単一細胞の一部、好ましくは核及び細胞質の一部を含む一部(変形例では、この一部は、核のみ、又は細胞質のみを含んでもよい)を照合する。データは、4000~600cm-1の領域において室温で記録され、システムは、1800~1000cm-1の領域において信号を最大化するように最適化される。16個のインターフェログラムは、フーリエ変換前に4cm-1の解像度で平均化される。吸収スペクトルは、窓の透明な領域から取得したバックグラウンド測定(4cm-1の解像度で平均化された16個のインターフェログラム)を参照として使用して計算される。バックグラウンドスペクトルは、例えば最初の細胞測定前に記録され、その後に15個細胞ごとの測定後に記録される。
【0038】
ベンチトップの「FTIR分光計システム」の他の例としては、INVENIO分光計とOPUSソフトウェアとに結合されたBruker HYPERION 3000 FTIR顕微鏡、又はIRTracer-100分光計とAIMsolutionソフトウェアとに結合された島津AIM-9000顕微鏡が挙げられる。
【0039】
変形例では、上記のような従来の(グローバー)光源を備えたベンチトップFTIR分光計ではなく、シンクロトロン光源を使用する。一例では、シンクロトロン光源は、ビームライン22にFTIR顕微分光法を使用して、ダイヤモンド光源(Harwell Science and Innovation Campus(ハーウェル・サイエンス・イノベーションキャンパス)、ディドコット(Didcot))によって提供される。この例では、FTIRデータは、Bruker IFS 66s分光計を使用して記録され、該分光計は、KBrビームスプリッターが取り付けられ、適切なIR検出器を備えたBruker Hyperion 3000顕微鏡に結合され、一例ではOPUS7.0で動作する。白色光画像は、顕微鏡での36倍の対物レンズを使用して記録される。
【0040】
FTIRデータを取得するためのサンプル分析の様々な代替手段が可能であり、当業者に知られている他の多くの代替手段の中でも、例えば、30×30μmのアパーチャを使用してもよく、測定を行う間、5分ごとにバックグラウンド読み取りを行ってもよく、256個以上のインターフェログラムを平均化してもよい。
【0041】
吸収スペクトルデータを前処理してもよい。吸収スペクトルデータを前処理して、吸収スペクトルを、例えば、1465~1575cm-1の領域内のアミドIIピーク高さに正規化することができる。吸収スペクトルデータを前処理して二階導関数を計算することができ、例えば13ポイントのSavitzky-Golay平滑化を使用して、広いピークを狭くし、あらゆるベースラインドリフトを補正する。当技術分野でよく知られているように、スペクトルを正規化、及び/又はスペクトルの適切な導関数を見つけるための代替手順を使用してもよい。当技術分野でよく知られているように、前処理はまた、水減算、水蒸気減算及び/又はベースライン補正のステップを含んでもよい。
【0042】
1200~900cm-1の領域内の特定の関心帯域は、癌患者のサンプルの正規化されたスペクトルと健康な被検体のサンプルとの間に特に大きな違いを示す。4つの関心帯域の例は、1140~1160cm-1、1070~1090cm-1、1060~1070cm-1及び1040~1060cm-1である。関心帯域の別の例としては、1050cm-1の領域の帯域、1065cm-1の領域の帯域、1080cm-1の領域の帯域及び1150cm-1の領域の帯域が挙げられる。
【0043】
癌群と健康群との平均と標準偏差を分析して、特に大きな違いのある帯域を決定してもよい。
【0044】
関心帯域について、帯域内の個々のスペクトルのピーク面積を決定する。その帯域内の正規化された二次微分スペクトルの開始点と終了点との間に直線を定義する。関心帯域の正規化された二次微分スペクトルの直線とピーク/トラフとの間の面積(ピーク面積と呼ばれる)を計算する。
【0045】
スペクトルのピーク面積を分析して、癌患者からのサンプルを特定する。
【0046】
サンプルからの測定値セット(同じ患者からの約100個の個々の細胞スペクトルからのデータを含む)の計算されたピーク面積のカイ二乗検定を実行して、データが正規分布されるかどうかを決定する。肺癌に罹患している被検体と肺癌に罹患していない被検体など、異なる被検体において、多くの測定値セットが正規分布されないデータを有することが観察される。Wilcoxon順位和分析は、異なる患者からのデータが類似又は非類似の分布を有することを示すために実行される。多くの患者が異なる分布のデータを有することが観察される。
【0047】
対照群(肺癌に罹患していない被検体)に属するサンプルからのピーク面積の分布と、癌群(肺癌に罹患している被検体)に属するサンプルからのピーク面積の分布とは異なることが観察される。特定のサンプルのスペクトルは、細胞のランダムな選択からのいくつかのスペクトルとともに、いくつかの外れ値を持つクラスターを形成する。対照群の場合、クラスターは、通常、より狭く、外れ値の数は、より少なく、分布は、比較的対称的であり、癌群の場合、クラスターは、より分散し、外れ値の数は、より多く、非対称性は、より顕著である。癌患者では、サンプルからランダムに選択した細胞の割合が変化するため、スペクトル分布がシフトすると考えられる。
【0048】
肺癌に罹患していない被検体からのサンプルと肺癌に罹患している被検体からのサンプルとを区別するために、分布の様々な尺度を使用することができる。例えば、サンプルからの測定値セット(つまり、同じ患者からの約100個の個々の細胞スペクトル)の場合、特定の境界を参照して、非外れ値と比較した外れ値の比率により、分布の適切な尺度を得ることができる。
【0049】
図1は、(肺癌に罹患しているか、又は罹患していない)多数の被検体にわたる、各サンプルからの各細胞の読み取り値についての1059~1073cm-1の領域内の関心帯域におけるピーク面積のプロットを示す。y軸は、各サンプル(つまり、約100個の個々の細胞スペクトルのクラスター)の平均値が0に校正される場合、ピーク面積を表すメトリック値である。x軸は、スペクトルインデックス番号である。スペクトルインデックス番号1~およそ1475は、健康な被検体からのサンプルからのものであり、残りのスペクトル(濃い陰影付き)は、肺癌に罹患している被検体からのサンプルからのものである。同じサンプルからの(つまり、同じ患者からの)スペクトルは、約100個のインデックス番号にまたがる連続したインデックス番号を有するセットを形成する。
【0050】
図1は、外れ値を区別するために定義された境界2を示す。境界2は、区別を最適化するために選択され、図1に示す例では、-0.2ピーク面積メトリック値単位箇所にある。別の例では、境界は、-0.08にある。
【0051】
図2は、各サンプル(つまり、同じ患者からのデータセット)の非外れ値と比較した外れ値の比率のプロットを示す。比率は、図1に示される境界2を有する図1のデータに関連する。y軸は、比率であり、x軸は、患者のインデックス番号である。患者インデックス番号1~15は、健康群に属するサンプルからのものであり、残りの患者インデックス番号(濃い陰影付き)は、癌群に属するサンプルからのものである。
【0052】
図2は、対照群と癌群とを区別するために定義された閾値4を示す。閾値4は、区別を最適化するために選択され、図2に示す例では、0.057である。別の例では、閾値は、0.14である。
【0053】
例に示される区別は、4つの癌サンプルのうち3つを正しく分類し、15個の健康なサンプルのうちの13個を正しく分類する。75%の感度と87%の特異度が観察される。他の例では、分類器は、感度60%及び特異度77.8%で癌患者を正しく特定し、他の例では、感度60%及び特異度66%で特定する。
【0054】
喫煙は、呼吸経路からのサンプルの分析において交絡因子となる可能性があることが知られている。しかしながら、喫煙者であり肺癌に罹患していない被検体から得られたサンプルは、喫煙者ではなく肺癌に罹患していない被検体から得られたサンプルと同じパターンを示すことが観察される。肺癌に罹患しているか、又は罹患していない被検体からのサンプルの区別は、被検体が喫煙者であるかどうかの影響を受けない。
【0055】
慢性閉塞性肺疾患は、呼吸経路からのサンプルの分析において交絡因子となる可能性があることが知られている。しかしながら、癌に罹患していないが、非癌性呼吸器疾患(慢性閉塞性肺疾患を含む)に罹患している被検体から得られたサンプルは、肺癌に罹患している被検体から得られたサンプルとは異なることが観察される。非癌性呼吸器疾患に罹患している被検体から得られたサンプルは、呼吸器疾患に罹患していない被検体から得られたサンプルとは異なる分布を示してもよい。
【0056】
図示の例では、口腔細胞のサンプルが収集され、分析される。口腔細胞のサンプルは、口腔スワブ又は口腔内洗浄液によって収集することができる。変形例では、サンプルは、他の口、歯、舌組織(例えば、スワブ収集)、喀痰、唾液、喉、鼻又は鼻腔組織(例えば、スワブ収集)を含む上気道の1つ以上の部位から収集される。
【0057】
図示の例では、境界2及び閾値4は、図1及び2に示されるデータに基づいて選択される。境界と閾値を設定するために、2D最適化をアルゴリズムで実行してもよく、感度と特異度との間のトレードオフに応じて境界と閾値を選択して、つまり、感度若しくは特異度のいずれかを最適化するか、又は(事前スクリーニング若しくは一連のテストの一部としての)特定の使用シナリオの感度若しくは特異度の間の最適なバランスを見つけることができる。
【0058】
図示の例では、境界は、片側境界であり、クラスターの片側の外れ値のみは、考慮されるが、別の代替手段では、境界は、クラスターの両側に1つずつある両側境界であり、クラスターの両側の外れ値は、考慮される。
【0059】
図示の例では、関心帯域のみが分類のために考慮されるが、別の代替手段では、2つ以上の関心帯域が考慮される。
【0060】
図示の例では、特定の関心帯域内のピーク面積が決定され分析されるが、様々な代替尺度を使用してスペクトル内の関心特徴を定量化することができる。いくつかの例としては、
・特定の波数での吸光度(又は吸光度の導関数)と、
・通常の算術平均又は加重算術平均であってもよい、ある範囲の波数(関心帯域)にわたる吸光度(又は吸光度の導関数)の平均と、
・ピーク位置、つまり、関心帯域内にピーク又はトラフの吸光度(又は吸光度の導関数)が発生する波数と、
・ある範囲の波数(関心帯域)にわたる吸光度(又は吸光度の導関数)の重心と、が挙げられる。
【0061】
スペクトル内の関心特徴を定量化する2つ以上の尺度の組み合わせを使用してもよい。
【0062】
分布を定量化することにより、対照群と癌群とを区別する他の尺度には、例えば、以下が含まれる。
標準偏差σ:
【数1】
分布のヒストグラムの半値全幅、
四分位数、十分位数、百分位数などの上と下の間の範囲、
平均絶対偏差s:
【数2】
歪度γ:
【数3】
ピアソン(Pearson)の歪度:
【数4】
尖度c:
【数5】
ただし、データセット{x...x}にN個の要素があり、通常の算術平均が
【数6】
である。
【0063】
図示の例では、赤外分光法データが使用されるが、代替形態ではラマン分光法又は別のタイプの分光法が使用される。
【0064】
他の様々な改変は、当業者には明らかであろう。
【0065】
以上、純粋に例示として本発明は記載されており、詳細の改変を本発明の範囲内で行うことができることが理解されるであろう。
【0066】
特許請求の範囲に表示されている参照番号は、単なる例示であり、特許請求の範囲に限定的な影響を及ぼさないものとする。
【0067】
本明細書及び特許請求の範囲に使用される「含む」という用語は、好ましくは、「少なくとも一部は…からなる」を意味する。
図1
図2
【国際調査報告】