IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ パシフィック インダストリアル デベロップメント コーポレイションの特許一覧

特表2023-509836電気化学セルで使用される無機トラップ剤混合物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-10
(54)【発明の名称】電気化学セルで使用される無機トラップ剤混合物
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/446 20210101AFI20230303BHJP
   H01M 50/443 20210101ALI20230303BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20230303BHJP
   H01M 50/417 20210101ALI20230303BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20230303BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20230303BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20230303BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20230303BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20230303BHJP
   H01M 4/40 20060101ALI20230303BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230303BHJP
   H01M 50/451 20210101ALI20230303BHJP
   H01M 50/42 20210101ALI20230303BHJP
   H01M 50/426 20210101ALI20230303BHJP
   H01M 50/112 20210101ALI20230303BHJP
   H01M 50/429 20210101ALI20230303BHJP
【FI】
H01M50/446
H01M50/443 M
H01M50/434
H01M50/417
H01M10/0566
H01M4/485
H01M4/58
H01M4/587
H01M4/38 Z
H01M4/40
H01M10/052
H01M50/451
H01M50/42
H01M50/426
H01M50/112
H01M50/429
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022534338
(86)(22)【出願日】2020-12-21
(85)【翻訳文提出日】2022-08-08
(86)【国際出願番号】 US2020066362
(87)【国際公開番号】W WO2021138107
(87)【国際公開日】2021-07-08
(31)【優先権主張番号】62/955,510
(32)【優先日】2019-12-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513089291
【氏名又は名称】パシフィック インダストリアル デベロップメント コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ガオ,シャン
(72)【発明者】
【氏名】シェパード,デイヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】リー,ユンクイ
(72)【発明者】
【氏名】サンカラン,アシュウィン
【テーマコード(参考)】
5H011
5H021
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H011AA13
5H021CC04
5H021EE04
5H021EE22
5H021EE32
5H021HH01
5H021HH02
5H021HH03
5H021HH04
5H029AJ12
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL03
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM03
5H029AM07
5H050AA15
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB03
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA19
(57)【要約】
カソードとして機能する活物質を有する正極と、アノードとして機能する活物質を有する負極と、非水電解液と、正極と負極の間に配置されたセパレータとを含む、リチウムイオン電池の二次セルなどの電気化学セルである。セパレータは、無機材料を含む。この無機材料は、第1の無機粒子と1種類以上の第2の無機粒子との混合物を含み、無機材料は、電気化学セル内に存在するようになる水分、遊離遷移金属イオンおよびフッ化水素(HF)のうちの1つ以上を吸収する。また、1つ以上のセルを筐体内で組み合わせて、リチウムイオン二次電池を形成してもよい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソードと、アノードと、非水電解液と、を含む電気化学セルで使用されるセパレータであって、
前記セパレータが、前記電解液の一部および前記アノードを、前記電解液の残りの部分および前記カソードから分離するように、前記カソードと前記アノードとの間に配置されたポリマー膜と、
前記ポリマー膜に塗布された無機材料と、を含み、
前記ポリマー膜は、当該ポリマー膜を通るイオンの可逆的な流れに対して透過性があり、
前記無機材料は、第1の無機粒子と1種類以上の第2の無機粒子との混合物であり、前記無機材料は、前記電気化学セル内に存在するようになる水分、遊離遷移金属イオンおよびフッ化水素(HF)のうちの1つ以上を吸収し、
前記第1の無機粒子は、リチウム(Li)交換ゼオライトを含み、前記1種類以上の第2の無機粒子は、シリカ、α-アルミナ、β-アルミナ、γ-アルミナ、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、炭酸カルシウム、ベーマイト、カオリン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムおよびペロブスカイトからなる群から独立に選択される、セパレータ。
【請求項2】
前記第1の無機粒子と前記1種類以上の第2の無機粒子との重量比が、無機材料の総重量に対して0.1wt.%~約75.0wt.%の範囲である、請求項1に記載のセパレータ。
【請求項3】
前記ポリマー膜に塗布されたものとしての前記無機材料は、前記セパレータの少なくとも一部の中に分散しているか、前記セパレータの表面の少なくとも一部に塗布されたコーティングの形態である、請求項1または2に記載のセパレータ。
【請求項4】
前記第1の無機粒子および前記1種類以上の第2の無機粒子は、独立に、板状、立方体、球状またはそれらの組み合わせであるモルフォロジーを示す、請求項1~3のいずれか1項に記載のセパレータ。
【請求項5】
前記第1の無機粒子および前記1種類以上の第2の無機粒子は、独立に、平均粒度(D50)が0.01マイクロメートル(μm)~約2マイクロメートル(μm)の範囲にある、請求項1~4のいずれか1項に記載のセパレータ。
【請求項6】
前記第1の無機粒子および前記1種類以上の第2の無機粒子は、独立に、表面積が約10m/g~約1000m/gの範囲にある、請求項1~5のいずれか1項に記載のセパレータ。
【請求項7】
前記第1の無機粒子および前記1種類以上の第2の無機粒子は、独立に、細孔容積が約0.1cc/g~約2.0cc/gの範囲にある、請求項1~6のいずれか1項に記載のセパレータ。
【請求項8】
前記第1の無機粒子は、シリカ:アルミナ比が約1~約100の範囲にある、請求項1~7のいずれか1項に記載のセパレータ。
【請求項9】
前記第1の無機粒子は、ABW、AFG、BEA、BHP、CAS、CHA、CHI、DAC、DOH、EDI、ESV、FAU、FER、FRA、GIS、GOO、GON、HEU、KFI、LAU、LTA、LTN、MEI、MER、MOR、MSO、NAT、NES、PAR、PAU、PHI、RHO、RTE、SOD、STI、TER、THO、VET、YUGおよびZSMからなる群から選択されるゼオライト骨格を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載のセパレータ。
【請求項10】
前記ゼオライト骨格は、リチウムイオン交換がおきた後に、前記第1の無機粒子の総重量に対して10wt%未満の濃度のナトリウム(Na)と、0.1wt%~20wt%である濃度のリチウム(Li)を含む、請求項9に記載のセパレータ。
【請求項11】
前記1種類以上の第2の無機粒子は、α-アルミナ、β-アルミナ、γ-アルミナ、ベーマイトまたは水酸化アルミニウムとして選択される、請求項1~10のいずれか1項に記載のセパレータ。
【請求項12】
前記1種類以上の第2の無機粒子は、前記無機材料の総重量に対して約0.01wt.%~約0.3wt.%の範囲にある濃度のナトリウム(Na)を含む、請求項1~11のいずれか1項に記載のセパレータ。
【請求項13】
前記第1の無機粒子および前記1種類以上の第2の無機粒子は、前記無機材料中にランダムに分散した粒子として存在するか、前記粒子のうちの一方がコアを表し、他方の粒子がシェルとしてコアに付着しているコア-シェル複合粒子として存在する、請求項1~12のいずれか1項に記載のセパレータ。
【請求項14】
前記無機材料が前記コーティングの総重量の約10wt.%~99wt.%を占めるように、前記無機材料が有機バインダーをさらに含む、請求項1~13のいずれか1項に記載のセパレータ。
【請求項15】
前記有機バインダーが、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、ポリアクリル酸(PAA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、アルギン酸ナトリウムアンモニウム(SAA)またはこれらの混合物を含む、請求項16に記載のセパレータ。
【請求項16】
前記ポリマー膜は、ポリオレフィン、ポリ(メチルメタクリレート)がグラフトされたポリエチレン、シロキサンがグラフトされたポリエチレン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)ナノファイバーウェブまたはこれらのブレンドを含む、請求項1~15のいずれか1項に記載のセパレータ。
【請求項17】
前記電気化学セルは、リチウムイオン電池の二次セルである、請求項1~16のいずれか1項に記載のセパレータ。
【請求項18】
正極の一部としてのカソードと、
負極の一部としてのアノードと、
前記正極と前記負極との間でのイオンの可逆的な流れを助ける非水電解液と、
セパレータと、を備えた電気化学セルであって、
前記セパレータは、
前記セパレータが、前記電解液の一部および前記アノードを、前記電解液の残りの部分および前記カソードから分離するように、前記正極と前記負極との間に配置されたポリマー膜と、
前記ポリマー膜に塗布された無機材料と、を含み、
前記ポリマー膜は、当該ポリマー膜を通るイオンの前記可逆的な流れに対して透過性があり、
前記無機材料は、第1の無機粒子と1種類以上の第2の無機粒子との混合物であり、前記無機材料は、前記電気化学セル内に存在するようになる水分、遊離遷移金属イオンおよびフッ化水素(HF)のうちの1つ以上を吸収し、
前記第1の無機粒子は、リチウム(Li)交換ゼオライトを含み、前記1種類以上の第2の無機粒子は、シリカ、α-アルミナ、β-アルミナ、γ-アルミナ、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、炭酸カルシウム、ベーマイト、カオリン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムおよびペロブスカイトからなる群から独立に選択される
【請求項19】
前記第1の無機粒子および前記1種類以上の第2の無機粒子は、
板状、立方体、球状またはそれらの組み合わせであるモルフォロジーを示し、
平均粒度(D50)が0.01マイクロメートル(μm)~約2マイクロメートル(μm)の範囲にあり、
表面積が約10m/g~約1000m/gの範囲にあり、
細孔容積が約0.1cc/g~約2.0cc/gの範囲にある、請求項19に記載のセル。
【請求項20】
前記ポリマー膜に塗布されたものとしての前記無機材料は、前記セパレータの少なくとも一部の中に分散しているか、前記セパレータの表面の少なくとも一部に塗布されたコーティングの形態であり、
前記第1の無機粒子と前記1種類以上の第2の無機粒子との重量比が、無機材料の総重量に対して0.1wt.%~約75.0wt.%の範囲である、請求項18または19に記載のセル。
【請求項21】
前記無機材料が、前記無機材料の総重量の約10wt.%~99wt.%を占めるように、前記無機材料が有機バインダーをさらに含み、
前記有機バインダーが、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、ポリアクリル酸(PAA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、アルギン酸ナトリウムアンモニウム(SAA)またはこれらの混合物を含む、請求項20に記載のセル。
【請求項22】
前記第1の無機粒子および前記1種類以上の第2の無機粒子は、前記無機材料中にランダムに分散した粒子として存在するか、前記粒子のうちの一方がコアを表し、他方の粒子がシェルとしてコアに付着しているコア-シェル複合粒子として存在する、請求項18~21のいずれか1項に記載のセル。
【請求項23】
前記第1の無機粒子は、ABW、AFG、BEA、BHP、CAS、CHA、CHI、DAC、DOH、EDI、ESV、FAU、FER、FRA、GIS、GOO、GON、HEU、KFI、LAU、LTA、LTN、MEI、MER、MOR、MSO、NAT、NES、PAR、PAU、PHI、RHO、RTE、SOD、STI、TER、THO、VET、YUGおよびZSMからなる群から選択されるゼオライト骨格を含み、
前記第1の無機粒子は、シリカ:アルミナ比が約1~約100の範囲にある、請求項18~22のいずれか1項に記載のセル。
【請求項24】
前記ゼオライト骨格は、リチウムイオン交換がおきた後に、前記第1の無機粒子の総重量に対してナトリウム(Na)濃度が10wt%未満、リチウム(Li)濃度が0.1wt%~20wt%であり、
前記1種類以上の第2の無機粒子は、ナトリウム(Na)濃度が、前記無機材料の総重量に対して約0.01wt.%~約0.3wt.%の範囲にある、請求項18~23のいずれか1項に記載のセル。
【請求項25】
前記ポリマー膜は、ポリオレフィン、ポリ(メチルメタクリレート)がグラフトされたポリエチレン、シロキサンがグラフトされたポリエチレン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)ナノファイバーウェブまたはこれらのブレンドを含む、請求項18~24のいずれか1項に記載のセル。
【請求項26】
前記正極は、リチウム遷移金属酸化物またはリチウム遷移金属リン酸塩を含み、
前記負極は、グラファイト、酸化チタンリチウム、金属ケイ素または金属リチウムを含み、
前記非水電解液は、リチウム塩を有機溶液に分散させた溶液である、請求項18~25のいずれか1項に記載のセル。
【請求項27】
請求項18~26に記載の1つ以上のセルと、
前記1つ以上のセルを封入する内壁を有する筐体と、
を備える、リチウムイオン二次電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広義には電気化学セル、特にリチウムイオン二次電池に使用するための無機材料混合物に関する。具体的には、本開示は、電気化学セルのセパレータに取り込まれる保護用の添加剤として、あるいはセパレータ表面の保護層として、無機トラップ剤の混合物を使用することに関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術の記載は、単に本開示に関連する背景情報を提供するものであり、先行技術を構成しない場合もある。
【0003】
作動時、リチウムイオン電池用の二次セルなどの電気化学セルには通常、負極、非水電解液、セパレータ、正極ならびに、各々の電極に対する集電体が含まれる。これらの構成要素はいずれも、ケース、エンクロージャ、パウチ、袋、円筒状のシェルなど(一般に電池の「筐体」と呼ばれるもの)に封入されている。セパレータは通常、マイクロメートルサイズの孔があるポリオレフィン系の膜であり、正極と負極との間の物理的な接触を防ぐとともに、電極間でのイオン(例えば、リチウムイオン)の移動を可能にしている。それぞれの電極とセパレータとの間には、リチウム塩などの金属塩の溶液である非水電解液が入れられている。
【0004】
ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)などのポリオレフィンの膜は、非水電解液による濡れ性が乏しいため、イオン輸送のインピーダンスが大きくなり、ハイレート特性が悪くなる。さらに重要なことに、ポリオレフィン膜は電気化学セル(例えば、リチウムイオン電池の二次セル)の作動時に温度が上昇すると収縮する場合があり、それによって短絡が生じる危険性が増すとともに、最終的には火災または爆発が発生する可能性がある。さらに、ポリオレフィン膜は柔らかいことから、リチウムデンドライトなどの樹枝状晶が成長して突き抜けることができてしまい、安全性に対する課題が増す。膜の濡れ性を高め、作動時の膜の収縮を抑え、火災や爆発の可能性を制限するか排除できることが望まれる。
【0005】
また、リチウムイオン二次電池で見られるような電気化学プロセスを構築して使用するための、従来の高エネルギーかつ高レートで低コストの目標では、セパレータは比較的薄く、かつ、低コストで製造できるものであることが求められる。セパレータを自然に薄くする方法のひとつとして、無機粒子を配合する方法がある。機粒子のいくつかの例として、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、炭酸カルシウム、ベーマイト、カオリン、ゼオライト、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ペロブスカイトがあげられる。これらの無機粒子の中には、フィラーのように、ポリマー膜の強化、熱収縮の防止、電解液の濡れ性の向上などを助けるものがある。しかしながら、均一な膜を形成すべくこのような粒子を分散させるのは、通常は困難である。この凝集の問題を回避するために、分散剤や架橋剤を添加する場合がある。しかしながら、そのような分散剤や架橋剤を使用すると、全体としての製造コストがかさみ、なおかつ電気化学セルを使用することに付随する安全面での課題が増すようになる。
【0006】
最後に、他の様々な要因で、リチウムイオン電池の劣化が生じる可能性もある。これらの要因のうちいくつかには、非水電解質溶液中の有害な種の存在があげられる。特に、リチウムイオン二次電池は、水分(例えば、水)、フッ化水素(HF)および/または溶解した遷移金属イオン(TMn+)に長時間さらされると、容量が低下する場合がある。これらの有害な種は、電池を作製するのに用いられる製造過程で生じる残留物として生じる場合もあれば、電池で使用される有機電解液の分解生成物として生じる場合もある。実際、もとの可逆容量の20%以上が失われたり、不可逆的になったりすると、リチウムイオン二次電池の寿命が著しく制限される場合がある。リチウムイオン二次電池の充電可能容量や全体としての寿命を延ばすことができれば、交換時のコスト削減や廃棄およびリサイクル時の環境リスクの低減につながる。
【0007】
本開示を十分に理解できるようにするために、添付の図面を参照しながら、例として示す様々な形態について説明する。それぞれの図面の構成要素を必ずしも縮尺通りに示したわけではなく、むしろ、本発明の原理を説明することに重点をおいている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1A図1Aは、無機材料がセパレータに塗布されている、本開示の教示内容に従って作製した電気化学セルの概略図である。
図1B図1Bは、無機材料がセパレータに塗布されている、本開示の教示内容に従って作製したリチウムイオン二次セルとして示される、図1Aの電気化学セルの概略図である。
図2図2は、第1の無機粒子と第2の無機粒子とのランダムな分散物を含む無機材料の概略図である。
図3A図3Aは、本開示の教示内容に従って作製したリチウムイオン二次電池の概略図であり、より大きな混合セルを作製するために図1Bの二次セルのうちの2つを含む4つの二次セルを積層した状態を示している。
図3B図3Bは、本開示の教示内容に従って作製したリチウムイオン二次電池の概略図であり、図1Bの二次セルのうちの2つを含む4つの二次セルを直列に組み込んだ状態を示している。
図4A図4Aは、別のリチウムイオン二次電池の概略図であり、より大きな混合セルを作製するために図1Bの二次セルのうちの4つを含む4つの二次セルを積層した状態を示している。
図4B図4Bは、本開示の教示内容に従って作製した別のリチウムイオン二次電池の概略図であり、図1Bの二次セルのうちの4つを含む4つの二次セルを直列に組み込んだ状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書で説明する図面は例示を目的としたものであり、いかなる形でも本開示の範囲を限定することを意図したものではない。
【0010】
以下の説明は、本質的に単に例示的なものであり、本開示またはその適用もしくは使用を限定することを何ら意図したものではない。例えば、構造要素とその使用を一層完全に説明するために、本開示全体を通して、本明細書に含まれる教示内容に従って製造および使用される無機材料を、リチウムイオン二次電池で使用するための二次セルと組み合わせて説明する。リチウムイオン電池で使用される一次セルや電気化学セルを含むがこれらに限定されるものではない他の用途で、このような無機材料を取り入れて使用することは、本開示の範囲内であると考えられる。本明細書および図面を通して、対応する参照数字は、同様または対応する部品および特徴を示すことを理解されたい。
【0011】
リチウムイオン電池とリチウムイオン二次電池の主な違いとして、リチウム電池が一次セルを含む電池を表し、リチウムイオン二次電池が二次セルを含む電池を表すことである。「一次セル」という用語は、容易あるいは安全に充電ができない電池セルをいい、「二次セル」という用語は、充電可能な電池セルをいう。本明細書で使用する場合、「セル」とは、電極と、セパレータと、電解液とを含む電池の基本的な電気化学的単位をいう。これに対して、「電池」とは、例えば1つ以上のセルなどのセルの集合体をいい、筐体と、電気的接続と、場合によっては制御および保護用の電子機器とを含む。
【0012】
リチウムイオン(例えば一次セル)電池は充電できないため、現在の耐用寿命は約3年であり、それを過ぎると価値がなくなってしまう。そのように寿命が限られていても、リチウム電池の方が、リチウムイオン二次電池より多くの容量を提供することができる。リチウムイオン電池では、電池のアノードとして金属リチウムが使用されている。これは、リチウムイオン二次電池でアノードを作製するのに複数の他の材料を使用することができるのとは異なる。リチウムイオン二次セル電池の重要な利点のひとつに、効果がなくなるまでに何度も充電できることがあげられる。リチウムイオン二次電池が何度も充放電サイクルを繰り返すことができるのは、生じる酸化還元反応の可逆性による。リチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が高いため、多くの携帯型電子機器(携帯電話やノートパソコンなど)、電動工具、電気自動車、グリッドエネルギー貯蔵などのエネルギー源として広く利用されている。
【0013】
本開示の目的で、本明細書では、「約」および「実質的に」という語を、当業者に知られた予想されるばらつき(例えば、測定時の限界やばらつき)に起因する測定可能な値および範囲に関して使用する。
【0014】
本開示の目的で、要素での「少なくとも1つ」および「1つ以上の」という表現を同義に使用しており、これらの表現が同じ意味を持つ場合もある。単一の要素または複数の要素を含むことを示すこれらの表現を、要素の最後に接尾辞「(s)」を付して表す場合もある。例えば、「少なくとも1種の金属」、「1種類以上の金属」および「金属(s)」を同義に用いることができ、これらの語が同じ意味を持つことを意図している。
【0015】
本開示は、広義には、電気化学セル内に存在するようになる水分(HO)、遊離遷移金属イオン(TMn+)およびフッ化水素(HF)のうちの1つ以上を無機材料が吸収するような、第1の無機粒子と1種類以上の第2の無機粒子との混合物を含む、本質的に当該混合物からなる、あるいは当該混合物からなる無機材料を含む、セパレータを提供する。無機材料が、電池の筐体内に存在する有害な種に対するトラップ剤またはスカベンジャーとして作用する。この無機材料は、リチウムイオンおよび有機輸送媒体を含む非水電解液の性能に影響を与えることなく、水分、遊離遷移金属イオンおよび/またはフッ化水素(HF)を選択的かつ効果的に吸収することで、上記の目的を達成する。
【0016】
二次リチウムイオン電池などの電気化学セル内に存在する水分は、主にセルの製造時の残留物および/または有機電解液の分解生成物として発生する。製造工程で組み立て時に環境を「乾燥した状態」にすることはできても、電池の製造時に水分を完全に除去するのはほぼ不可能である。また、有機電解液溶媒は、特に高温での作動時に分解してCOおよびHOを副生する傾向がある。リチウムイオン電池にHOが存在すると、電解液中に存在するLi塩(例えば、LiPF)と反応して、LiFやHFを発生させることがある。形成されたLiFは、1つ以上の電極に付随する活物質の表面に堆積して、固体電解質界面(SEI)を形成する場合がある。この固体電解質界面(SEI)は、リチウムイオンの(デ)インターカレーションを遅延させ、活物質の表面を不活化することで、レート能力の低下および容量の損失をもたらす可能性がある。
【0017】
さらに、HFが形成されると、これが遷移金属イオンと酸素イオンとを含む正極を攻撃し、活物質以外の遷移金属含有化合物とHOがさらに生じる場合がある。反応物として水を使用すると、反応が周期的になり、電解液や活物質に対する悪影響が加速する。また、形成される遷移金属含有化合物が電解液に不溶で電気化学的に不活性な場合がある。これらの不溶性の遷移金属化合物が正極の表面に堆積することで、SEIが形成される場合もある。一方、遷移金属含有イオンが可溶性である場合、イオンの形態で有機電解液に溶解する場合がある。これらの遊離イオン、例えば、Mn2+やNi2+は、負極に引き寄せられ、負極でSEIの一部をなして次々と様々な反応を引き起こす場合がある。このように、電気化学にHFが存在すると、最終的には電解液中に存在する活物質とLiイオンを消費しつづけることになり、それによって、リチウムイオン電池のる容量が低下してしまう。
【0018】
さらに、セパレータに対する添加剤またはセパレータの表面に塗布されるコーティングのいずれかとして、セパレータ(例えば、ポリマー膜)に取り込まれる本開示の無機材料は、ポリマー膜または塗布される保護コーティング層におけるフィラーとして機能し得る。このように、無機材料は、ポリマー膜を強化し、熱収縮を防止し、電解液の濡れ性を向上させることができる。また、無機材料によって、樹枝状晶の形成を抑え、火災や爆発が生じる可能性を減らすことが可能な場合もある。
【0019】
図1Aを参照すると、電気化学セル1Aは、主に、正極10と、負極20と、非水電解液30と、セパレータ40とを備える。正極10は、セル1のカソード5として機能する活物質と、カソード5に接触している集電体7とを含み、セル1が充電している時にカソード5からアノード15にイオン45が流れるようになっている。同様に、負極20は、セル1のアノード15として機能する活物質と、アノード15と接触する集電体17とを含み、セル1が放電している時にアノード15からカソード5にイオン45が流れるようになっている。カソード5と集電体7との接触ならびにアノード15と集電体17との接触には、独立に、直接接触または間接接触が選択されてもよく、あるいは、アノード15またはカソード5と、対応する集電体17、7とが直接的に接触する。
【0020】
ここで、図1Bを参照すると、図1Aの電気化学セル1Aは、リチウムイオン二次電池で使用するための二次セル1Bとして示されている。この具体的な用途において、アノード15とカソード5との間を可逆的に流れるイオン45は、リチウムイオン(Li)である。
【0021】
ここで図1Aおよび図1Bの両方を参照すると、非水電解液30は、負極20と正極10との間に入れられており、それらの両方と接触すなわち流体が行き来できるようになっている。この非水電解液30によって、正極10と負極20との間でのイオン45(例えば、リチウムイオン)の可逆的な流れが助けられる。正極10と負極20との間には、ポリマー膜を含むセパレータ40が配置され、このセパレータ40が電解液30の一部およびアノード15を、電解液30の残りおよびカソード5から分離するようになっている。セパレータ40は、このセパレータ40を通るイオン45の可逆的な流れに対して透過性がある。
【0022】
このまま図1Aおよび図1Bを参照すると、無機材料50Cは、セパレータ40の一部として含まれる。無機材料50Cは、セパレータ(例えば、ポリマー膜)に対する添加剤あるいはセパレータの表面に塗布されるコーティングとして、セパレータに取り込むことができる。あるいは、無機材料は、セパレータ40の片面に塗布されてもよいし、セパレータ40の両面に塗布されてもよい。この無機材料50Cは、第1の無機粒子と1種類以上の第2の無機粒子との混合物であることが選択され、無機材料は、電気化学セル内に存在するようになる水分、遊離遷移金属イオンおよびフッ化水素(HF)のうちの1つ以上を吸着する。セル1A、1Bに存在する無機材料50Cの量は、セパレータの総重量に対して、最大100wt%、あるいは最大50wt%、あるいは1wt%~50wt%であってもよい。第1の無機粒子と1種類以上の第2の無機粒子の重量の割合は、無機材料の総重量を基準にして、0.05wt.%~約85.0wt.%、あるいは0.1wt.%~約75.0wt.%、あるいは1.0wt.%~約65.0wt.%、あるいは5.0wt.%~50.0wt.%の範囲にある。
【0023】
第1の無機粒子には、リチウム(Li)交換ゼオライトが含まれていてもよい。第1の無機粒子は、小さな板状、立方体、球状のいずれかであるモルフォロジーを示し、平均粒度(D50)が0.01マイクロメートル(μm)~約2μmの範囲、あるいは約0.1μm~約1.75μm、あるいは約0.2μm~約1.5μmの範囲である。また、第1の無機粒子は、表面積が5m/g~約1,250m/g、あるいは10m/g~1,000m/g、あるいは約50m/g~約800m/gであってもよい。第1の無機粒子が示す細孔容積は、約0.05cc/g~約2.5cc/g、あるいは0.1cc/g~約2.0cc/g、あるいは約0.3cc/g~約1.5cc/gのオーダーである。
【0024】
第1の無機粒子として使用されるLiイオン交換ゼオライトの骨格は、ABW、AFG、BEA、BHP、CAS、CHA、CHI、DAC、DOH、EDI、ESV、FAU、FER、FRA、GIS、GOO、GON、HEU、KFI、LAU、LTA、LTN、MEI、MER、MOR、MSO、NAT、NES、PAR、PAU、PHI、RHO、RTE、SOD、STI、TER、THO、VET、YUG、ZSMから選択することができるが、これらに限定されるものではない。ゼオライト中のSiO/Alの比は、1~100、あるいは2~約90、あるいは約4~約80の範囲である。ゼオライト中のナトリウム(Na)の濃度は、最初はゼオライトの総重量に対して0.1~20wt.%の範囲である。しかしながら、イオン交換の過程で、リチウムイオンが骨格中のナトリウムイオンの一部または大部分を置き換えるようになる。このようなリチウムイオンとの交換後の第1の無機粒子の最終的なナトリウム(Na)濃度は、ゼオライトの総重量に対して10wt.%未満、あるいは8wt.%未満、あるいは0.01wt.%~10wt.%である。
【0025】
ゼオライトは、TO四面体単位の繰り返しで構成される結晶性または準結晶性のアルミノケイ酸塩であり、Tは最も一般的にはケイ素(Si)またはアルミニウム(Al)である。これらの繰り返し単位は、互いに結合し、内部に分子レベルの大きさの空洞および/またはチャネルを含む結晶骨格すなわち結晶構造を形成する。このように、アルミノケイ酸塩ゼオライトでは、少なくとも酸素(O)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)の原子が、骨格構造に組み込まれている。ゼオライトは、シリカ(SiO)とアルミナ(Al)が酸素原子を共有して相互に結合した結晶骨格を有するため、結晶骨格中に存在するSiO:Alの比(SAR)によって特徴付けられることがある。
【0026】
骨格表記とは、ゼオライトの骨格構造を定義する国際ゼオライト学会(International Zeolite Associate(IZA))が定めたコードを表す。したがって、例えば、チャバザイトとは、ゼオライトの主結晶相が「CHA」であるゼオライトを意味する。ゼオライトの結晶相または骨格構造については、X線回折(XRD)データによって解析することができる。しかしながら、XRDの測定値は、ゼオライトの成長方向、構成元素の比率、吸着物質や欠陥などの存在、XRDスペクトルにおける各ピークの強度比またはポジショニングのずれなど、様々な要因の影響を受ける可能性がある。したがって、IZAが提供する定義に記載された各ゼオライトの骨格構造の各々のパラメータについて測定された数値に、10%以下、あるいは5%以下、あるいは1%以下のずれがあっても、予想される許容範囲内である。
【0027】
本開示の一態様によれば、本開示のゼオライトは、天然ゼオライト、合成ゼオライトまたはそれらの混合物であってもよい。あるいは、ゼオライトは合成ゼオライトである。なぜなら、そのようなゼオライトは、SAR、結晶子の大きさ、結晶子のモルフォロジーの点で他のゼオライトより均一性が高く、不純物(例えば、アルカリ土類金属)が少なく集中していないためである。
【0028】
1種類以上の第2の無機粒子は、シリカ、α-アルミナ、β-アルミナ、γ-アルミナ、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、炭酸カルシウム、ベーマイト、カオリン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムおよびペロブスカイトからなる群から独立に選択される。あるいは、1種類以上の第2の無機粒子は、α-アルミナ、β-アルミナ、γ-アルミナ、ベーマイトまたは水酸化アルミニウムとして選択される。
【0029】
1種類以上の第2の無機粒子は、小さな板状、立方体、球状のいずれかであるモルフォロジーを示し、平均粒度(D50)が0.01マイクロメートル(μm)~約2μmの範囲、あるいは約0.1μm~約1.75μm、あるいは約0.2μm~約1.5μmの範囲である。また、第1の無機粒子は、表面積が5m/g~約1,250m/g、あるいは10m/g~1,000m/g、あるいは約50m/g~約800m/gであってもよい。第1の無機粒子が示す細孔容積は、約0.05cc/g~約2.5cc/g、あるいは0.1cc/g~約2.0cc/g、あるいは約0.3cc/g~約1.5cc/gのオーダーである。1種類以上の第2の無機粒子中のナトリウム(Na)の濃度は、ゼオライトの総重量に対して0.01wt.%~0.3wt.%、あるいは約0.05wt.%~0.25wt.%の範囲にある。
【0030】
当技術分野で知られている走査型電子顕微鏡(SEM)または他の光学的イメージング法またはデジタルイメージング法を使用して、無機材料の形状および/またはモルフォロジーを決定してもよい。平均粒度と粒度分布の測定については、例えば、ふるい分け、顕微鏡検査、コールター計数、動的光散乱または粒子画像分析など、従来のどのような技術を用いて行ってもよい。あるいは、平均粒度とそれに対応する粒度分布の決定には、レーザー粒子分析装置を使用する。無機材料の表面積および細孔容積の測定を達成するには、顕微鏡検査、小角X線散乱、水銀ポロシメトリー、BET分析を含むがこれらに限定されるものではない、既知のどのような技術を用いてもよい。あるいは、BET分析を使用して、表面積および細孔容積を決定する。
【0031】
次に、図2を参照すると、無機材料50Cは、粒子A51と粒子B53とが互いにランダムに分散して含まれるものであると表現することができる(図2参照)。このコアシェル複合体57において、粒子A51はコアを表し、粒子B53はシェルとしてコアの表面に付着している。粒子B53は平均直径(D)を示し、粒子A51は平均直径(D)を示し、DがDよりも大きい。望ましい場合、DがDの少なくとも2倍であってもよく、あるいは、DがDの3倍以上であってもよく、あるいは、DがDの少なくとも5倍であってもよい。DおよびDの平均直径は一般にD10であり、あるいはD50であり、あるいはD90である。通常、第1の無機粒子を粒子A51として利用し、1種類以上の第2の無機粒子が粒子B53である。しかしながら、望ましい場合、1種類以上の無機粒子を粒子A51として利用してもよく、この場合は第1の無機粒子が粒子B53である。
【0032】
無機材料50Cについては、機械的な粉砕で作製することができる。機械的な粉砕は、ボールミル、ジェットミル、アイガーミル、アトライターミルまたは振動ミルを含むがこれらに限定されるものではない、従来のどのようなタイプのミルを使用して行ってもよい。また、粉砕工程の前または間に、要望または必要性に応じて、分散剤、界面活性剤、カップリング剤などを添加して粒子AおよびBの表面特性を調整してもよい。
【0033】
無機材料50Cがコーティングとして塗布される場合、コーティング調製物は、無機材料がコーティングの総重量の約10wt.%~99wt.%、あるいは約15wt.%~95wt.%を占めるように、有機バインダー59を含んでいてもよい。この有機バインダーとしては、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、ポリアクリル酸(PAA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、アルギン酸ナトリウムアンモニウム(SAA)またはこれらの混合物があげられるが、これらに限定されるものではない。
【0034】
再び図1Aおよび図1Bを参照すると、正極10および負極20の活物質は、リチウムイオン電池の二次セルなどの電気化学セルにおいてこの機能を果たすことが知られているどのような材料であってもよい。正極10に用いられる活物質としては、リチウム遷移金属酸化物または遷移金属リン酸塩があげられるが、これらに限定されるものではない。正極10に用いられる活物質のいくつかの例としては、LiCoO、LiNi1-x-yCoMn(x+y≦2/3)、zLiMnO・(1-z)LiNi1-x-yCoMn(x+y≦2/3)、LiMn、LiNi0.5Mn1.5およびLiFePOがあげられるが、これらに限定されるものではない。また、負極15に用いられる活物質としては、グラファイトやLiTi12ならびに、金属ケイ素および金属リチウムなどがあげられるが、これらに限定されるものではない。あるいは、負極に用いられる活物質は、比容量が1マグニチュード高いことから、金属ケイ素または金属リチウムである。正極10および負極20のどちらの集電体7、17も、例えばカソードにアルミニウム、アノードに銅など、電気化学セルまたはリチウム電池の電極に使用されることが当技術分野で知られている、どのような金属で作られていてもよい。また、正極10および負極20におけるカソード5およびアノード15は通常、2つの異種活物質で構成されている。
【0035】
非水電解液30は、酸化/還元プロセスを助け、イオン45(例えば、リチウムイオン)がアノード15とカソード5との間を流れるための媒体を提供するように選択される。非水電解液30は、無機塩を有機溶媒に入れた溶液であってもよい。リチウム電池の二次セルに用いられるリチウム塩のいくつかの具体例としては、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、リチウムビス(オキサラト)ボレート(LIBOB)およびリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSi)があげられるが、これらに限定されるものではない。これらの無機塩は、例えば、エチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、プロピレンカーボネート(PC)、ビニレンカーボネート(VC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)などの有機溶媒での溶液を形成することができる。リチウム電池の二次セルに用いられる電解液の具体例としては、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートの混合物(EC/DEC=50/50vol.)にLiPFを加えた1モル溶液があげられる。
【0036】
このまま図1Aおよび図1Bを参照すると、セパレータ40は、アノード15とカソード5とが接触しないようにして、イオン45がセパレータを通って流れるようにする。セパレータ40は、ポリエチレン、ポリプロピレンおよびそれらのブレンドなどの半結晶構造を有するポリオレフィンベースの材料ならびに、マイクロポーラスなポリ(メチルメタクリレート)がグラフトされたポリエチレン、シロキサンがグラフトされたポリエチレン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)ナノファイバーウェブを含むがこれらに限定されるものではない、ポリマー膜であってもよい。あるいは、ポリマー膜は、ポリエチレン、ポリプロピレンまたはそれらのブレンドなどのポリオレフィンである。
【0037】
セパレータ40は、リチウムイオン電池用の二次セルなどの電気化学セルの安全性、耐久性、ハイレート性能において重要な役割を担っている。ポリマー膜には電気的な絶縁性があり、正極と負極とを完全に分断して内部短絡を回避する。ポリマー膜は通常、イオン伝導性ではなく、大きな孔があって非水電解液が充填されるため、イオンの移動が可能になる。
【0038】
本開示の一態様によれば、1つ以上の二次セルを組み合わせて、リチウムイオン二次電池などの電気化学セルを作製してもよい。そのような電池75Aの例を、図3Aおよび図4Aに示す。図中、二次セル1を4つ積層し、さらに大きな単一の二次セルを作製して、これを容器に封入してリチウムイオン二次電池75Aを作製している。図3Bおよび図4Bには、電池75Bの別の例を示す。図中、二次セルを4つ積むか並べて直列に配置し、各々のセルを個別に収容した状態で大容量の電池75Bを作製している。
【0039】
図3A図3B図4A図4Bを具体的に参照すると、このような電池75A、75Bの一例が示されている。図中、図1Bの2つの二次セル(図3A図3B参照)と図1Bの4つの二次セル(図4A図4B参照)とが組み合わされて、対応する電池75A、75Bが作製されている。リチウムイオン二次電池75A、75Bには、物理的保護と環境保護の両方の目的で、その内側に二次セル1が封入されるか、容器で密閉された内壁を有する筐体60も含まれる。図3Aまたは図3B図4Aまたは図4Bに示す電池75A、75Bには、それぞれ図1Bの二次セルが2つおよび4つ取り入れられているが、そのような電池75A、75Bにはセルがいくつ含まれていてもよいことを、当業者であれば理解するであろう。
【0040】
また、図3A図4Bは、二次セル1Bをリチウムイオン二次電池75A、75Bに取り入れることを示しているが、別の用途で使用するために、同じ原理を用いて1つ以上の電気化学セル1Aを筐体60で囲むすなわちその中に入れてもよいことを、当業者であれば理解するであろう。これらの電気化学セル1Aでは、無機材料50Cは、セパレータ40の少なくとも一部の中に分散されていてもよいし、セパレータ40の表面の一部に塗布されたコーティングの形態であってもよい。
【0041】
筐体60を構成するにあたって、当技術分野でそのような使い方が知られている材料であれば、どのような材料を使用してもよく、筐体60の所望の幾何学形状についても、具体的な用途に必要とされるか望ましい、どのような形状であってもよい。例えば、リチウムイオン電池は通常、3通りの主なフォームファクタまたは幾何学形状すなわち、円筒形、多面体またはソフトパウチに収容される。円筒形電池の筐体60は、アルミニウム、スチールなどで作られていてもよい。多面体の電池は通常、円筒形ではなく直方体形の筐体60を含む。ソフトパウチの筐体60であれば、様々な形状と大きさに形成することができる。これらの軟質の筐体は、アルミニウム箔でできたパウチの内側、外側またはその両方にプラスチックをコーティングして構成されたものであってもよい。また、軟質の筐体60は、ポリマータイプのケースであってもよい。筐体60に用いられるポリマー組成物は、リチウムイオン二次電池に従来から用いられている公知のどのようなポリマー材料であってもよい。数ある例の中でも具体的な例としては、内側にポリオレフィン層、外側にポリアミド層を含むラミネートパウチを使用することがあげられる。軟質の筐体60については、筐体60が電池75内に存在する二次セル1Bを機械的に保護するように設計する必要がある。
【0042】
本開示で提供する具体例は、本発明の様々な実施形態を説明するためのものであり、本開示の範囲を限定すると解釈されるべきではない。これらの実施形態は、明確かつ簡潔な明細書を書くことができるような方法で説明されているが、本発明から逸脱することなく、実施形態を様々に組み合わせたり、分離したりできることが想定され、理解されるであろう。例えば、本明細書で説明した好ましい特徴はいずれも、本明細書で説明した本発明のすべての態様に適用可能であることが理解されるであろう。
【0043】
評価方法1-無機添加剤の遷移金属カチオントラップ能力
【0044】
Mn2+、Ni2+およびCo2+に対する吸蔵能力に関する無機添加剤の性能を、有機溶媒すなわちエチレンカーボネートとジメチルカーボネートとの混合物(EC/DMC=50/50vol)中で測定する。
【0045】
有機溶媒中における無機添加剤のMn2+、Ni2+、Co2+に対するトラップ能力を、誘導結合プラズマ発光分析(ICP-OES)により分析する。有機溶媒については、過塩素酸マンガン(II)、過塩素酸ニッケル(II)、過塩素酸コバルト(II)をそれぞれ1000ppm含むように調製する。粒子状の無機添加剤を総質量の1wt.%として添加し、混合物を1分間撹拌した後、25℃で24時間静置した上で、Mn2+、Ni2+およびCo2+の濃度の低下を測定する。
【0046】
評価方法2-無機添加剤のHF捕捉能力
【0047】
非水電解液すなわちエチレンカーボネートとジメチルカーボネートとの混合物(EC/DMC=50/50vol.)に1MのLiPFを加えた溶液における無機添加剤のHF捕捉能力を、フッ化物イオン選択(ISE)計によって分析する。電解質溶液については、100ppmのHFを含むように調製する。粒子状の無機添加剤を総質量の1wt.%として添加し、混合物を1分間撹拌した後、25℃で24時間静置した上で、溶液中のFの減少を測定する。
【0048】
以下は、水分が残ったリチウムイオン電池で生じる反応である。
LiPF+HO→HF+LiF↓+HPO
LiMO+HF→LiF↓+M2++H
ここで、Mは遷移金属を表す。
【0049】
このため、電解液中のHFを減少させるには、無機添加剤がHFと残留水分とを同時に消費して反応の連鎖を断ち切る必要がある。
【0050】
評価方法3-セパレータコーティング
【0051】
単層ポリプロピレン膜(Celgard(登録商標) 2500、Celgard LLC、North Carolina)を用いてセパレータを作製する。性能を比較するために、無機添加剤を含むセパレータと含まないセパレータを構成する。無機添加剤を含むスラリーをセパレータに二面コーティングする。このスラリーは、10~50wt.%の無機添加剤粒子を脱イオン(DI)水に分散させたものである。固形分全体に対するポリマーバインダーの質量比は、1~10%である。コーティングについては、乾燥前の厚さが5~15μmになるように塗布する。コーティング付きのセパレータの厚さは、25~45μmである。このコーティング付きのセパレータを、直径19mmの丸い円盤に打ち抜く。
【0052】
評価方法4-コインセルのサイクリング
【0053】
無機添加剤を電気化学的な状況で評価するために、コインセル(2025型)を作製する。ここでは、外装ケーシング、スペーサー、スプリング、集電体、正極、セパレータ、負極、非水電解液を含むコインセルを作製する。
【0054】
正極として使用する膜を作製するために、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)のn-メチル-2-ピロリドン(NMP)溶液に、LiNi0.8Co0.1Mn0.1などの活物質(AM)とカーボンブラック(CB)粉末とを分散させることによって、スラリーを形成する。スラリー中のAM:CB:PVDFの質量比は、90:5:5である。いずれの場合も、このスラリーをアルミニウム膜にブレードコーティングする。乾燥およびカレンダー処理後、形成された各正極膜の厚さを測定すると、50~150μmの範囲内になる。これらの正極膜を、それぞれ直径12mmの円盤状に打ち抜く。活物質は典型的な質量負荷が6mg/cm前後である。
【0055】
負極として使用するために、リチウム金属箔(厚さ0.75mm)を直径12mmの丸い円盤状に切り出す。
【0056】
電池の性能試験について本明細書でさらに説明するように、上述した正極および負極、評価方法3で説明したようなセパレータ、電解液としてエチレンカーボネートとジメチルカーボネートとの混合物(EC/DMC=50/50vol.)に1MのLiPFを加えた溶液を使用して、コインセル(2025型)を作製する。各セルについて、C/10で2回の初期充放電サイクルの後、25℃でC/3の電流負荷、3~4.3Vでサイクルする。
【0057】
実施例1
【0058】
リチウム(Li)でイオン交換したFAU型Yゼオライトを、無機添加剤として使用する。粒度を測定すると、D10が0.27μm、D50が0.43μm、D90が3.76μmである。表面積は640m/gであり、細孔容積は0.23cc/gである。シリカとアルミナの比(SAR)は3.6であり、無機添加剤は0.35wt.%のNaOと6.36wt.%のLiOを含有している。
【0059】
遷移金属カチオンのトラップ能力試験では、無機添加剤はEC/DMC中のNi2+、Mn2+、Co2+をそれぞれ63%、77%、84%減少させた。また、無機添加剤は、電解質溶液中のHFを30%捕捉する。
【0060】
実施例2
【0061】
一種のγ-Alを、無機添加剤として使用する。粒度を測定すると、D10が2.3μm、D50が3.3μm、D90が5.2μmである。表面積は155.3m/gであり、細孔容積は0.60cc/gである。このγ-Alの強熱減量(LOI)試験では、Alが83.05wt.%含まれていることが示されている。
【0062】
このγ-Alは、EC/DMC中のNi2+、Mn2+、Co2+に対するトラップ能力を示さない。しかしながら、電解質溶液中の23%のHFを捕捉する。
【0063】
実施例3
【0064】
一種のベーマイトを、無機添加剤として使用する。粒度を測定すると、D10が9.3μm、D50が30.2μm、D90が53.4μmである。表面積は100.2m/gであり、細孔容積は0.48cc/gである。このベーマイトには、Alが83.05wt.%含まれている。
【0065】
このベーマイトは、EC/DMC中のNi2+、Mn2+、Co2+に対するトラップ能力を示さない。しかしながら、電解質溶液中の10%のHFを捕捉する。
【0066】
実施例4
【0067】
評価方法4に記載のサイクル試験用セパレータとして、裸のポリプロピレン製の膜を使用する。膜厚は25μmである。このセルは、70サイクルで3.5%の容量低下を示し、クーロン効率が2.5%低下する。
【0068】
実施例5
【0069】
実施例1と2を含む混合物を、ポリプロピレン製セパレータ片に両面コーティングする。コーティング層では、[実施例1]:[実施例2]:PVAの重量比が5:45:10である。コーティング付きのセパレータの厚さは39.0μmである。
【0070】
混合物のコーティングをほどこしたポリプロピレンフィルムを、評価方法4に記載のサイクル試験用のセパレータとして使用する。このセルは、70サイクルで1.5%の容量低下を示し、クーロン効率の低下はほぼゼロである。
【0071】
実施例6
【0072】
実施例1と3とを含む混合物を、裸のポリプロピレンセパレータ片に両面コーティングする。コーティング層では、[実施例1]:[実施例3]:PVAの重量比が5:45:10である。コーティング付きのセパレータの厚さは38.8μmである。
【0073】
混合物のコーティングをほどこしたポリプロピレンフィルムを、評価方法4に記載のサイクル試験用のセパレータとして使用する。このセルは、70サイクルで1.5%の容量低下を示し、クーロン効率の低下はほぼゼロである。
【0074】
実施例7
【0075】
実施例1と2を含む混合物を、ポリプロピレン製セパレータ片に両面コーティングする。コーティング層では、[実施例1]:[実施例2]:PVAの重量比が25:25:10である。コーティング付きのセパレータの厚さは42.0μmである。
【0076】
混合物のコーティングをほどこしたポリプロピレンフィルムを、評価方法4に記載のサイクル試験用のセパレータとして使用する。このセルは、70サイクルで1.5%の容量低下を示し、クーロン効率の低下はほぼゼロである。
【0077】
このように、裸のポリプロピレンを用いたセルと比較すると、混合物をコーティングしたセパレータを用いたセルは、長期間にわたるサイクルでの容量保持率が高く、クーロン効率の低下が少ないことが分かる。
【0078】
本開示に照らして、当業者であれば、本開示の意図または範囲から逸脱したりこれを越えたりすることなく、本明細書に開示した特定の実施形態に多くの変更を加えることができ、依然として同様または類似の結果を得ることができることを理解するであろう。また、当業者であれば、本明細書で報告した特性はいずれも、日常的に測定され、複数の異なる方法で得られる特性を表していることも、理解するであろう。本明細書で説明した方法は、そのような方法の1つを表しており、本開示の範囲を越えることなく、他の方法を用いることができる。
【0079】
本発明の様々な形態についての上述した説明は、例示および説明の目的で提示されたものである。網羅的であることや、開示された厳密な形態に本発明を限定することは、意図されていない。上記の教示内容に照らして、多数の改変または変形を施すことが可能である。ここに示す形態は、本発明の原理およびその実用的な用途を最もよく示すことで、当業者が、考えられる特定の用途に適した様々な形態で、様々な改変を施して本発明を利用できるようにするために選択され、説明されたものである。このようなすべての改変および変形は、添付の特許請求の範囲によって決定される本発明の範囲内であり、特許請求の範囲が公正かつ適法に、衡平に与えられる範囲に従って解釈される。
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
【国際調査報告】