(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-10
(54)【発明の名称】皮質性認知症に関連する徘徊を治療する方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/551 20060101AFI20230303BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20230303BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230303BHJP
【FI】
A61K31/551
A61P25/28
A61P43/00 111
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022542233
(86)(22)【出願日】2021-01-08
(85)【翻訳文提出日】2022-07-07
(86)【国際出願番号】 US2021012575
(87)【国際公開番号】W WO2021142183
(87)【国際公開日】2021-07-15
(32)【優先日】2020-01-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】522273872
【氏名又は名称】ウールジー・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】WOOLSEY PHARMACEUTICALS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】マカリスター,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ジェイコブソン,スヴェン
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086BC54
4C086GA07
4C086GA13
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA15
4C086ZA16
4C086ZC20
(57)【要約】
発明は、rhoキナーゼ阻害剤を使用して、ある特定の認知症に関連する徘徊を治療することができるという発見に基づく。発明の方法は、皮質性認知症に関連する徘徊を有する患者の治療における、rhoキナーゼ阻害剤の使用に関する。発明の好ましい態様は、患者が持続的な徘徊者である、および/または患者が経路探索欠陥を示さない場合、皮質血管性認知症に起因する徘徊および認知症に起因する徘徊を治療することを企図する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮質性認知症に起因する徘徊を有する患者を治療する方法であって、前記患者を治療有効量のファスジルで治療することを含む、方法。
【請求項2】
前記認知症が、多発梗塞性認知症である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記認知症が、虚血によって引き起こされる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記認知症が、出血によって引き起こされていない、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
皮質血管性認知症に起因する徘徊を有する患者を治療する方法であって、前記患者を治療有効量のファスジルで治療することを含む、方法。
【請求項6】
前記認知症が、多発梗塞性認知症である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記認知症が、虚血によって引き起こされる、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記認知症が、出血によって引き起こされていない、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
ビンスワンガー病またはラクナ型認知症ではない血管性認知症に起因する徘徊を有する患者を治療する方法であって、前記患者を治療有効量のファスジルで治療することを含む、方法。
【請求項10】
血管性認知症に起因する徘徊を有する患者を治療する方法であって、前記患者を治療有効量のファスジルで治療することを含み、前記患者が、以前に慢性脳卒中についてファスジルで治療されていない、方法。
【請求項11】
虚血性脳梗塞を伴わない出血性脳卒中に起因する血管性認知症に起因する徘徊を有する患者を治療する方法であって、前記患者を治療有効量のファスジルで治療することを含む、方法。
【請求項12】
認知症に起因する徘徊を有する患者を治療する方法であって、前記患者が、経路探索欠陥を示さず、前記患者を治療有効量のファスジルで治療することを含む、方法。
【請求項13】
認知症に起因する徘徊を有する患者を治療する方法であって、前記患者が、失踪、脱走、または境界違反に関与し、前記患者を治療有効量のファスジルで治療することを含む、方法。
【請求項14】
前記患者が、散発的な徘徊者である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
徘徊性認知症を有する患者を治療する方法であって、前記患者が、覚醒時間のうちの少なくとも20%の間、動作を行っている持続的な徘徊者であり、前記患者を治療有効量のファスジルで治療することを含む、方法。
【請求項16】
前記患者が、皮質下認知症を有さない、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記患者が、情動調節障害を有さない、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年1月9日出願の米国仮特許出願第62/958,985号、2020年2月7日出願の米国仮特許出願第62/971,697号、および2020年4月2日出願の米国仮特許出願第63/004,305号の優先権を主張するものである。これらの出願の各々は、参照によりその全体が組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
徘徊は、「周回、無秩序、および/または歩き回りのパターンが現れる頻繁な、反復的な、一時的な障害の性質、および/または空間的な障害の性質を有する移動行動であり、それらのうちのいくつかは、同伴者がいない場合、失踪、失踪の試み、または迷子に関連する。」徘徊行動は、ハンチントン病(HD)、自閉症スペクトラム障害、ダウン症候群、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底変性症、および認知症などの多くの状態である、変性性神経性の状態と関連する。
【0003】
徘徊の最も一般的な根底にある原因は、認知症である。認知症は、なかでも、例えば、パーキンソン病(PD)、ハンチントン病(HD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、アルツハイマー病(AD)、レビー小体型認知症(DLB)、および前頭側頭型認知症(FTD)、正常圧力水頭症(NPH)、および頭部損傷などから生じ得る。あらゆる形態の認知症において、病因に関係なく徘徊が発生するが、異なる頻度で発生し、認知症のタイプに応じて異なる量および質の特色を呈する(Cipriani 2014)。
【0004】
徘徊の診断または評価のための標準化された評価ツールは存在しない。往々にして、認知症の行動的および心理的症状を評価するための2つの広範なツールである、神経精神医学的評価票(NPI)およびCohen-Mansfield興奮評価票を使用することによって、徘徊は捕捉される(Yayama 2013)。一例として、NPIは、「何の理由もなく、施設を歩き回るかまたは旋回する。」という徘徊に関する単一の項目を有する。したがって、その限定的な有用性を例示すると、NPIは、FTDの特徴であるが、ADでは一般的ではなく、VaDでは稀である反復的な徘徊を検出するだけであろう(Bathgate 2001、Nakaoko 2010)。一方で、Algase Wandering Scale(Algase 2001a)は、徘徊の排他的評価のための唯一のツールであり、徘徊の特定のタイプ/特質に限定されない(Yayama 2013)。
【0005】
徘徊は、頻度(持続性)、パターン(周回、無秩序、または歩き回り)、境界違反(失踪)、および方向決定または経路探索能力の欠損(空間的見当識障害)を含む様々な特質の観点から説明することができる(Algase 2001a)。したがって、徘徊は、多くの異なる行動を説明するために使用される一般用語であり、異なる形態および程度の認知症によって徘徊の量および質が変動することが文献に十分に記されている(Cipriani 2014)。
【0006】
多くの場合、徘徊は、認知症患者が自身の自立性を失い、長期間介護施設に収容される理由であり、自尊心に影響を与え、社会的孤立をもたらすだけでなく、また代表的な、甚大な社会的コストである(Logsdon 1998)。徘徊は、迷惑行為、およびより重要なことには、安全上の懸念を頻繁にもたらす、過度の、目的のない移動を特徴とする(Lai 2003、Aud 2004)。特に、患者が制御された環境から脱走することができる場合、徘徊は、転倒および他の事故を通じて生活の質に影響を及ぼす傷害のリスク、またはさらには死亡のリスクを増加させる(Algase 2001a、Wick 2006)。徘徊患者は、抗精神病薬または鎮静剤を使用して、脱走を防止し、徘徊のような問題のある症状を制御するために、「化学的に」拘束されることが報告されている(Human Rights Watch 2018)。明らかに、あらゆる徘徊治療の目標は、化学的拘束を回避することであろう。現在、任意の病因の徘徊に利用可能な治療は存在しないので、徘徊に対する治療アプローチが有意に必要である。
【0007】
認知症のなかでも、VaDは、一般に他の病態が存在せず、1つ以上の血管による原因が存在することによって、他の形式の認知症とは区別される。具体的には、VaDは、他のすべてのタイプの認知症とは異なり、神経変性疾患ではない(Salardini 2019)。特異なことに、VaDの病態生理学は、根底にあるタンパク質症とは関連しない。
【0008】
Kamei(1996a)は、VaDに起因する徘徊を有する2人の患者においてファスジルを使用したことを報告した。患者は慢性脳卒中研究に参加した後、治験責任医師によって徘徊について治療され、ファスジルで治療された。1人の患者は、MRI画像によって確認され、ビンスワンガー型脳梗塞と診断された。治療前、患者は、主に経路探索問題からなる3.5年超の徘徊症状の病歴を有していた。患者は、帰り道がわからなかった。次いで、治療を開始する前の約1年半の間、患者は、週当たりおよそ2~3回、定期的に失踪していた。治療を開始してから数週間以内に、徘徊症状は消失し、治療の継続期間の間は徘徊症状がないままであった。患者が治療から外されたとき、数週間以内に徘徊症状が再び現れた。再治療されると、徘徊は再び解消された。他方の患者は、MRIによって確認された脳出血および多発性ラクナ梗塞の後遺症と診断され、「ラクナ型認知症」(ビンスワンガーの異名、Roman 1985)と診断された。出血からおよそ5ヶ月後、患者は、数ヶ月にわたって週当たり2~3回の増加した頻度で迷子になる数回のエピソードから始まり、経路探索症状を呈し始めた。経路探索症状はすぐに消失し、治療の継続期間の間は経路探索症状がないままであり、治療が中止されるたびに戻ってきた。
【0009】
血管性認知症の2つの主要なサブタイプは、i)大規模な皮質梗塞または多発梗塞性認知症(MID)、およびii)小血管疾患に関連する認知症または皮質下血管性認知症である。著者のKameiによって治療された2名の患者の両方は、脳の皮質下白質が豊富な領域の血管系の決裂によって引き起こされる、皮質下血管性認知症を有していた。The International Classification of Diseases(第10版)(ICD-10)criteria for vascular explicitly identifies subcortical vascular dementia as a subgroup[Wetterling et al.,Dementia.1994;5(3-4):185-188]。したがって、皮質下血管性認知症は、古くから存在する「ラクナ状態」および「ビンスワンガー病」を組み込み、局所およびびまん性の虚血性白質病変および不完全な虚血性傷害を生じる小血管疾患および低灌流に関連している。(Erkinjuntti、1997)。他方では、ほとんどの認知症患者は、非常に異なる病態生理学的プロセスから生じる、脳の皮質領域に影響を及ぼし異なる欠陥を表す、第1のタイプを患っている。
【0010】
さらに、Kamei 1996aの患者は両方ともが、散発的な徘徊者であり、週当たり2~3日徘徊し、主に経路探索欠陥を示し、他の問題のある行動はなかった。Kameiはまた、実質的に同じ知見を有する別の論文を1996年に公開している(Kamei 1996b)。これらの刊行物に先立ち、Kameiは、刊行物の同じ2人の患者および第3の患者に基づいて、日本で特許出願(特許出願第6-293643号)を出願した。また、Kamei 1996aは、非常に類似しており、通常は非常に類似した結果をもたらす2つの認知尺度、Mini Mental State Exam(MMSE)およびHasegawa Dementia Score(HDS)を提示したことに留意する必要がある。実際、HDSは通常、MMSEよりも認知症患者をより重度であるとスコア付けする(Kim 2005)が、さらには、Kamei 1996 aにおけるMMSEスコアがHDSよりも一貫して悪いだけではなく、スコアが異なることによって患者集団について劇的に異なる理解がもたらされる。HDSでは、患者がただ軽度の認知症を有していたことが示唆され、MMSEでは、中等度から重度の認知症であることが示唆される。
【0011】
皮質下血管性認知症におけるKameiの研究が、認知症の皮質型または皮質下認知症の非血管型に外挿することができるという証拠はなく、また、持続的な徘徊者または経路探索欠陥を有さない徘徊者に外挿することができるという証拠もない。皮質下および皮質血管性認知症の病因、病態、および症状は、十分に特徴評価されている。大血管性皮質脳卒中および皮質下の小血管疾患は、異なる種類の欠損を生じる傾向がある。皮質下認知症の特徴的な症状としては、典型的には、忘却、思考プロセスの遅延、軽度の知的障害、無気力、惰性、うつ病(時には癇癪を伴う)、回想能力の喪失、および知識操作能力のなさが挙げられる。加えて、皮質下認知症患者は、気分障害を有する。反復行動および強迫行動のような他の行動異常は、皮質下認知症を患っている一部の患者で発生する。一般に、皮質下認知症の提示は、より微妙であり、一時的に進行性であり、多くの場合、皮質下認知症における執行機能の欠陥として説明される。これは、記憶タスクなどのタスクにおける、速度および「戦略的」処理(すなわち、注意、計画、および監視)の欠損を含む。
【0012】
対照的に、皮質血管性認知症は、失語症、失読症、および健忘症と関連する。
【0013】
記憶は、皮質下および皮質血管性認知症の両方において障害を受ける。しかし、皮質血管性認知症では、想起異常は、情報の適切な符号化の不全、または記憶定着化の衰えに起因している。行動変化としては、無気力、自発性の欠如、および固執を挙げることができる。対照的に、皮質下障害では、自発的想起における欠損を呈するが、符号化および記憶はほとんど維持されており、想起を補助することができる。皮質下認知症は、正常に記憶された情報の誤った検索が存在するので、すべての期間に等しく影響を及ぼす、比較的軽度の逆行性の健忘症を特徴とする。これが、皮質下血管性認知症の経路探索問題を生じる想起欠損である。
【0014】
皮質下および皮質性認知症は、区別して診断される。白質高信号域(すなわち、皮質下)は、特に大きな体積での大脳の小血管疾患から生じると考えられている。この損傷は、Fazekas尺度:0(病変なし)、1(点状病変)、2(早期融合性病変)、および3(融合性病変)を使用して定量化することができる。Fazekasスコア1は、正常とみなすことができるが、スコア2および3は、小血管疾患の存在を示す。スコア3は、どの年齢でも異常である。前頭葉および頭頂葉における融合性病変の存在は、大規模な白質病態(>25%)を示し、(皮質下)血管性認知症の診断に使用することができる。複数の基底神経節および前頭白質に関与するラクナ梗塞、ならびに両側視床病変もまた、皮質下血管性認知症の診断に役立つ。
【0015】
戦略的な大血管梗塞は、以下の領域:両側前大脳動脈、傍正中視床、内側下側頭葉、頭頂側頭葉および側頭後頭連合野、ならびに優位半球における角回、上前頭および頭頂分水嶺領域に関与する場合、皮質性認知症を示し得る。
【0016】
皮質性認知症を対象とした介入の中心的な問題は、因果関係に対する関連性の問題である。介入が疾患の治療に役立つためには、因果関係の連鎖を断ち切る必要がある。認知症の最も一般的な形態であるADは、非常に有益な症例を提供する。ADの2つの特徴的な病理学的所見は、細胞外アミロイドプラークおよび神経間神経原線維変化(NFT)である。
【0017】
Aβ、タウ、および神経炎症は、確かにADと関連するが、それらが因果関係に関与しているかどうかは明らかではなく、したがって、これらのうちのいずれかに影響を及ぼすことが、疾患の治療において何らかの治療上の利益を有するかは不明である。家族性疾患の理解に基づいて、Aβは、タウ病理、神経炎症を誘発し、最終的には認知機能低下をもたらす神経細胞の喪失を誘発することによって、神経変性のプロセスを開始すると考えられている。言い換えると、Aβは、因果関係連鎖の始まりにある。Aβ病理を停止させることによって、疾患は停止するはずであり、現在のところ、ほとんどの治療的アプローチは、Aβを標的としている。
【0018】
しかしながら、動物モデルにおいてAβを標的とする有望性を示す圧倒的な文献にもかかわらず、ADにおいて機能することが示されている製品は存在しない(Ceyzeriat et al.,Current Alzheimer Research 17:1-13(2020)。これらの失敗としては、注目するべきことに、多くのなかでも、抗Aβ42+フロイントアジュバント、バピネウズマブ、ソラネズマブ、アデュカヌマブ、ベルベセスタット、ラナベセスタット、アタベセスタット、CNP520、エレンベセスタット、γ-セクレターゼ阻害剤、ブリオスタチン、およびPBT2が挙げられる。
【0019】
タウは、Aβの下流であるという証拠があるので、標的になりにくく、したがって、原因ではないので、治験の頻度は低い。注目すべきことに、開始された15のTAUを標的とした治験のうち、すでに4つが停止されている。
【0020】
ADにおける第3の推定的介入標的である神経炎症の役割は明らかではなく、早期疾患において有益である可能性が高いが、炎症誘発性サイトカイン産生および酸化ストレスのループへの参与によって悪影響を及ぼす可能性がある。疫学的研究は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)での治療が、ADを発症するリスクを低減し、トランスジェニックモデルにおけるアミロイド負荷を低減することができることを示唆しているが、今日までの抗炎症薬を試験する予測的な研究は、ADでの認知に有益な効果を示していない。神経炎症を標的とする研究は進行中であるが、初期の結果は、有望ではない。p38マイトジェン活性化プロテインキナーゼの選択的阻害剤であるネフラマピモドは、動物モデルにおいて有効性を示したが、ヒトにおけるAβの沈着には効果がなく、脳脊髄液中のタウを低減したにもかかわらず、第2相におけるエピソード記憶の改善というその主要評価項目に失敗した。
【0021】
動物モデルにおいて有望と思われた化合物の臨床的失敗の数を考慮すると、動物データの解釈には深刻な程度の懐疑を適用すべきである。げっ歯類とヒトとの間の脳の複雑さの違いという明らかな問題を除いたとしても、既存のモデルのうちの多くは、ヒトの状態との類似性をただ差し当たり担持するのみである。多くのことが動物に神経変性を引き起こし得、多くの推定的な薬がその神経変性を停止させ得るが、根底にある病態生理学および因果関係の連鎖は不明であり、これが、疾患を改変する介入が作用する必要があるところである。したがって、病理学的および臨床的提示の両方において、最良の症例における既知の欠損を有する動物モデルが、可能な限りヒト疾患に非常に類似していることが重要である。
【0022】
AD/認知症の様々なモデルにおけるrhoキナーゼ阻害剤の使用に注目する出版物が多く存在する。ほとんどのモデルは、基本的な特性が欠損している。いくつかのモデルは、ストレプトゾトシンのような薬剤で神経毒性を直接誘発すること、またはさらにはアミロイド-ベータを脳に直接注射することに関与する。これらのモデルは、ある特定のADのような特性を呈し得るが、それらは単なる神経変性のモデルであり、AD自体の治療を予測することはできない。トランスジェニックモデルでさえ、不十分である。例えば、おそらく最も広く報告されているトランスジェニックモデルである、NFTを伴わずアミロイドプラークのみを発症する、APP/PS-1マウスなどのトランスジェニックマウスが多く存在する。rTG4510タウマウスなどの、アミロイドプラークを伴わずタウオパチーを発症するマウスも存在する。ADは、両方の存在を特徴とする。いくつかの出版物は、非現実的な投与経路(例えば、脳室内注射)を使用し、多くは適切な用量を使用していない。これに関して、動物において使用される用量を、ヒトにおいて同じ用量に変換するための標準的な式が存在する。ヒト当量用量は、例えば、Nair&Jacob,J Basic Clin Pharm.7:27-31(2016)の表1を使用して計算することができ、これらは、米国FDAによって使用されるのと同じ変換である。Becker,Alzheimers Dis.15:303-325(2008)は、AD薬開発の成功における用量の重要性を論じ、これをAD薬開発の失敗点として指摘している。
【0023】
認知症の動物モデルにおいてファスジルが投与される公開文献が存在する。しかし、これらの研究は、同じ理由のうちの多くについて不十分である。すなわち、動物モデルは、神経解剖学における種の違いに部分的に起因し(Sasaguri 2017)、上記のモデルの基本的な病理学的基礎の欠損に部分的に起因して、ヒト疾患を忠実に再現していない。加えて、いくつかでは、生理学的に関連する用量を使用しておらず、重要なことに、徘徊に関連する転帰は、それらのうちのいずれにおいても測定されなかった。パラダイム的な皮質性認知症である、ADにおける発症の特徴は、いずれの動物モデルでも測定することができない意味記憶の失敗であることにも留意することが重要であるので、すべての動物モデルは、同様にこの欠損が共通する。例えば、Hamano et al.,2019は、rTG4510タウトランスジェニックマウスに12mg/kg/日(68mg HED)を投与し、タウリン酸化/切断およびオリゴマーのみを測定したが、転帰については記載していない。Elliott 2018は、トリプルトランスジェニックマウスモデル(APP Swedish、MAPT P301L、およびPSEN1 M146V)を使用し、10mg/kg/日(腹腔内)のファスジル(57mg HED)の用量でインビボでのβ-アミロイドプラークの低減を観察した。Sellers 2018は、AB42マウスモデルを使用し、10mg/kgのBID(226mg HED)の用量でファスジルを腹腔内投与したが、β-アミロイド樹状突起スパイン損失のみを監視した。Couch et al.2010は、脳室内注入を使用し、樹状突起の分岐に対する効果を観察したが、徘徊に関連する転帰については記載していない。これらの参考文献に何らかの行動転帰が不在であることはさておき、脳室内投与はヒトにとって治療的な選択肢ではない。Yu 2017およびHou 2012は、APP/PS1トランスジェニックマウス(70、140mg HED)およびストレプトゾトシンラット(226mg HED)に、それぞれ5および10mg/kg/日のファスジルを腹腔内投与し、モリス水迷路(徘徊ではなく空間学習および記憶のモデル)においてたどり着くまでの距離および区画時間が改善されたことを観察した。皮質性認知症を有するすべての患者が徘徊するわけではないので、記憶損失と徘徊との間に明らかな関連性はない。
【0024】
上と矛盾する報告も存在する。例えば、Turk 2018(学位論文)は、トリプルトランスジェニックマウスを使用し、水中30mg/kgおよび100mg/kgでファスジルを投与した月齢10ヶ月または12ヶ月では、空間記憶における改善を観察しなかった。
【0025】
現在利用可能な動物モデリングに基づいて、認知症の病理学的特徴を標的とする異なる治療戦略が試験されているが、ヒトにおいて有益な効果を示すことはできていない。現在、利用可能な医薬品は、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤およびN-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体拮抗薬に限定されており、これらは、いくつかの認知症状においてわずかな改善を示すに過ぎない。既存のまたはさらには提案されているいずれの療法も、認知症における徘徊の問題に対処しておらず、前述の承認された治療薬によって治療されていない。動物に限らず、ヒトに利益を示す新しい療法を提供するという、甚大な満たされていないニーズが存在する。
【発明の概要】
【0026】
発明の一実施形態は、皮質性認知症に起因する徘徊を有する患者を治療する方法であって、当該患者を治療有効量のファスジルで治療することを含む、方法を含む。この実施形態のある特定の態様では、認知症は、虚血によって引き起こされ、かつ/または出血によって引き起こされない、多発梗塞性認知症である。この実施形態のある特定の態様では、患者は、皮質下認知症を有さない。別の実施形態では、患者は、混合型認知症(タンパク質症に関連する認知症に関連する血管性認知症)を有する。別の実施形態では、患者は、混合型認知症を有さない。特定の実施形態では、患者は、女性である。別の特定の実施形態では、患者は、若年性認知症を有する。さらにさらなる特定の実施形態では、患者は、ダウン症候群に関連する認知症を有する。さらなる実施形態では、患者は、コルサコフ症候群を有する。別の特定の実施形態では、治療される患者は、少なくとも1つのApoE ε4対立遺伝子を有する。
【0027】
発明の好ましい態様は、皮質血管性認知症に起因する徘徊を有する患者を治療する方法であって、当該患者を治療有効量のファスジルで治療することを含む、方法を企図する。この実施形態のある特定の態様では、認知症は、虚血によって引き起こされ、かつ/または出血によって引き起こされない、多発梗塞性認知症である。
【0028】
他の実施形態は、ビンスワンガー病またはラクナ型認知症ではない血管性認知症に起因する徘徊を有する患者を治療することであって、当該患者を治療有効量のファスジルで治療することを含む、治療することに関する。別の実施形態では、皮質性認知症に関連する徘徊について治療される患者は、情動調節障害を呈さないか、または、限定されないが、強迫観念に駆られたもしくは不適切な笑いおよび/もしくは泣きを含む、感情失禁が現れない。
【0029】
ある特定の好ましい実施形態では、発明の方法は、認知症に起因する徘徊を有する患者を治療する方法であって、当該患者を治療有効量のファスジルで治療することを含み、当該患者が、以前に慢性脳卒中についてファスジルで治療されていない、方法を含む。
【0030】
発明のなお別の態様は、認知症に起因する徘徊を有する患者を治療する方法であって、患者が、経路探索欠陥を示さず、当該患者を治療有効量のファスジルで治療することを含む、方法を含む。
【0031】
別の好ましい実施形態は、認知症に起因する徘徊を有する患者を治療する方法であって、患者が、失踪、脱走、または境界違反に関与し、当該患者を治療有効量のファスジルで治療することを含む、方法を含む。この実施形態によれば、患者は、散発的または持続的な徘徊者であり得る。
【0032】
さらに別の実施形態は、徘徊性認知症を有する患者を治療する方法であって、患者が、覚醒時間のうちの少なくとも20%の間、動作を行っている持続的な徘徊者であり、当該患者を治療有効量のファスジルで治療することを含む、方法を含む。
【0033】
さらなる実施形態では、発明は、患者を治療する方法であって、ファスジルでの治療時に、経路探索欠陥から、失踪、脱走、または境界違反への進行が遅延されるか、または防止される、方法を含む。
【0034】
別の実施形態では、発明は、徘徊について患者を治療する方法であって、治療が、抗精神病医薬品(例えば、アリピプラゾール、クロザピン、ハロペリドール、オランザピン、クエチアピン、リスペリドン、およびジプラシドン)の使用などの化学的拘束の使用を排除する、方法を含む。
【0035】
別の実施形態では、徘徊について治療される患者は、自宅から介護施設に移動したなどの、慣れない環境に置かれている。特定の実施形態では、ファスジルでの治療は、介護施設内の共同居住者の部屋への侵入を低減させる。
【0036】
さらなる実施形態では、治療される患者は、抗精神病医薬品、特にアカシジアを誘発するものを含む、医薬品の変化を最近受けている。
【0037】
別の実施形態では、徘徊について治療される特許は、うつ病、不安、または統合失調症の病歴を有する。
【発明を実施するための形態】
【0038】
発明は、rhoキナーゼ阻害剤を使用して、認知症が皮質下ではなく皮質性である認知症患者における徘徊を治療することができるという発見に基づく。多発梗塞性認知症は、皮質下への関与があり得る場合でさえも、皮質性認知症の1つのタイプであると考えられる。発明の好ましい実施形態は、皮質血管性認知症における徘徊の治療を企図する。発明の別の態様は、覚醒時間のうちの過剰な量の間、動作を行っている持続的な徘徊者である認知症患者における徘徊の治療を企図する。発明の追加の重要な態様は、経路探索欠陥を示さない認知症患者における徘徊を治療することを含む。
【0039】
ROCK阻害剤
発明の方法は、疾患または状態の治療におけるrhoキナーゼ(ROCK)阻害剤の投与を企図する。2つの哺乳類ROCK相同体、ROCK1(別名ROKβ、Rhoキナーゼβ、またはp160ROCK)およびROCK2(別名ROKα)が知られている(Nakagawa 1996)。ヒトでは、ROCK1およびROCK2の両方の遺伝子は、第18染色体上に位置する。2つのROCKアイソフォームは、それらの一次アミノ酸配列において64%の同一性を共有するが、キナーゼドメインにおける相同性はさらに高い(92%)(Jacobs 2006、Yamaguchi 2006)。両方のROCKアイソフォームは、セリン/スレオニンキナーゼであり、類似の構造を有する。
【0040】
多数の薬理学的ROCK阻害剤が、知られている(Feng,LoGrasso,Defert,&Li,2015)。イソキノリン誘導体は、好ましいクラスのROCK阻害剤である。イソキノリン誘導体ファスジルは、Asahi Chemical Industry(Tokyo,Japan)が開発した最初の小分子ROCK阻害剤である。ファスジルの特徴的な化学構造は、スルホニル基を介してホモピペラジン環に接続されたイソキノリン環からなる。ファスジルは、両方のROCKアイソフォームの強力な阻害剤である。インビボで、ファスジルは、その活性代謝産物ヒドロキシファスジル(別名M3)に肝代謝を施される。イソキノロン誘導ROCK阻害剤の他の例としては、ジメチルファスジルおよびリパスジルが挙げられる。
【0041】
他の好ましいROCK阻害剤は、4-アミノピリジン構造に基づくに基づく。これらは、Yoshitomi Pharmaceutical(Uehata et al.,1997)によって初めて開発され、Y-27632によって例示される。なお他の好ましいROCK阻害剤としては、インダゾール、ピリミジン、ピロロピリジン、ピラゾール、ベンズイミダゾール、ベンゾチアゾール、ベンザチオフェン、ベンズアミド、アミノフラザン、キナゾリン、およびホウ素誘導体が挙げられる(Feng et al.,2015)。
【0042】
いくつかの例示的なROCK阻害剤を以下に示す:
【化1】
【0043】
発明によるROCK阻害剤は、ROCK1またはROCK2のいずれかに対してより選択的な活性を有し得、通常、PKA、PKG、PKC、およびMLCKに変動するレベルの活性を有するであろう。いくつかのROCK阻害剤は、ROCK1またはROCK2に非常に特異的であり得、PKA、PKG、PKC、およびMLCKに対してはるかに低い活性を有する。
【0044】
特に好ましいROCK阻害剤は、ファスジルである。ファスジルは、遊離塩基または塩として存在し得、半水和物などの水和物の形態であり得る。本明細書で使用される場合、ROCK阻害剤の活性部分を特定する方法は、それらの遊離酸または遊離塩基、塩、水和物、多形体、およびプロドラッグ誘導体に等しく適用されることが理解されるであろう。
【0045】
【化2】
ヘキサヒドロ-1-(5-イソキノリンスルホニル)-1H-1,4-ジアゼピン一塩酸塩半水和物
【0046】
ファスジルは、ROCK、PKC、およびMLCKなどのプロテインキナーゼの選択的阻害剤であり、治療は、血管平滑筋の強力な弛緩を生じ、血流の向上を生じる(Shibuya 2001)。血管攣縮の特に重要な媒介物であるROCKは、ミオシン軽鎖(MLC)ホスファターゼのミオシン結合サブユニットをリン酸化し、したがって、MLCホスファターゼ活性を減少させ、血管平滑筋収縮を向上することによって、血管収縮を誘発する。さらに、ファスジルは、内皮一酸化窒素合成酵素のmRNAを安定化することによってeNOS発現を増加させ、それが強力な血管拡張薬一酸化窒素(NO)のレベルの増加に寄与し、それによって血管拡張を向上する証拠が存在する(Chen 2013)。
【0047】
ファスジルは、約25分の短い半減期を有するが、インビボでその1-ヒドロキシ(M3)代謝物に実質的に変換される。M3は、ファスジル親分子と同様の効果を有し、活性がわずかに向上し、半減期は約8時間である(Shibuya 2001)。したがって、M3は、分子のインビボでの薬理学的活性の大部分を担っている可能性が高い。M3は、以下に示す2つの互変異性体として存在する:
【化3】
【0048】
ファスジルなどの、発明で使用されるROCK阻害剤は、薬学的に許容される塩および水和物を含む。無機および有機酸との反応を介して形成され得る塩。それらの無機酸および有機酸としては、以下が挙げられる:塩酸、臭化水素酸塩酸(hydrobromide acid)、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、酢酸、マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸、シュウ酸、シュウ酸、酒石酸、リンゴ酸、マンデル酸、トリフルオロ酢酸、パントテン酸、メタンスルホン酸、またはパラ-トルエンスルホン酸。
【0049】
薬学的組成物
発明で使用可能なROCK阻害剤の薬学的組成物は、一般に経口であり、錠剤またはカプセル剤の形態であり得、即時放出性製剤であり得るか、または制御放出性製剤もしくは徐放性製剤であり得、トウモロコシデンプン、マンニトール、ポビドン、ステアリン酸マグネシウム、タルク、セルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、および同様の物質などの薬学的に許容される賦形剤を含有し得る。ROCK阻害剤および/またはその塩を含む薬学的組成物は、当該技術分野において既知である1つ以上の薬学的に許容される賦形剤を含み得る。製剤としては、経口フィルム、経口崩壊錠剤、発泡性錠剤、および食品に散布することができるか、またはスラリーとして液体と混合することができるか、または直接口に注いで流し込むことができる顆粒またはビーズが挙げられる。
【0050】
ROCK阻害剤、その塩および水和物を含有する薬学的組成物は、薬学の分野において既知の任意の方法によって調製され得る。一般に、そのような調製方法は、ROCK阻害剤またはその薬学的に許容される塩を、担体もしくは賦形剤、および/または1つ以上の他の付属成分と会合させるステップと、次いで、必要な場合および/または望ましい場合、製品を所望の単回用量単位または複数回用量単位に成形および/または包装するステップと、を含む。
【0051】
薬学的組成物は、単回単位用量として、および/または複数の単回単位用量として、バルクで調製、包装、および/または販売され得る。本明細書で使用される場合、「単位用量」は、所定量の活性成分を含む薬学的組成物の別個の量である。活性成分の量は、一般に、対象に投与されるであろう活性成分の投薬量、および/または例えば、そのような投薬量の2分の1または3分の1などのそのような投薬量の都合のよい分数に等しい。
【0052】
発明の薬学的組成物中の活性成分、薬学的に許容される賦形剤、および/または任意の追加の成分の相対量は、治療される対象の独自性、大きさ、および/または状態に応じて、さらには組成物が投与される経路に応じて変動するであろう。本発明の方法に従って使用される組成物は、0.001%~100%(w/w)の活性成分を含み得る。
【0053】
提供される薬学的組成物の製造に使用される薬学的に許容される賦形剤としては、不活性希釈剤、分散剤および/もしくは造粒剤、表面活性剤および/もしくは乳化剤、崩壊剤、結合剤、防腐剤、緩衝剤、潤滑剤、ならびに/または油が挙げられる。カカオバターおよび坐剤ワックス、着色剤、コーティング剤、甘味剤、香味剤、および香料剤などの賦形剤もまた、組成物中に存在し得る。
【0054】
ある特定の実施形態では、本発明の方法で使用される薬学的組成物は、希釈剤を含み得る。例示的な希釈剤としては、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、リン酸カルシウム、リン酸二カルシウム、硫酸カルシウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸ナトリウムラクトース、スクロース、セルロース、微結晶セルロース、カオリン、マンニトール、ソルビトール、イノシトール、塩化ナトリウム、乾燥デンプン、コーンスターチ、粉末糖、およびそれらの混合物が挙げられる。
【0055】
ある特定の実施形態では、本発明の方法で使用される薬学的組成物は、造粒剤および/または分散剤を含み得る。例示的な造粒剤および/または分散剤としては、ジャガイモデンプン、トウモロコシデンプン、タピオカデンプン、デンプングリコール酸ナトリウム、粘土、アルギン酸、グアーガム、柑橘類パルプ、寒天、ベントナイト、セルロース、および木製品、天然スポンジ、カチオン交換樹脂、炭酸カルシウム、ケイ酸塩、炭酸ナトリウム、架橋ポリ(ビニル-ピロリドン)(クロスポビドン)、カルボキシメチルデンプンナトリウム(デンプングリコール酸ナトリウム)、カルボキシメチルセルロース、架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム(クロスカルメロース)、メチルセルロース、部分アルファ化デンプン(デンプン1500)、微結晶デンプン、水不溶性デンプン、カルボキシメチルセルロースカルシウム、ケイ酸アルミニウムマグネシウム(VEEGUM)、ラウリル硫酸ナトリウム、四級アンモニウム化合物、ならびにそれらの混合物が挙げられる。
【0056】
ある特定の実施形態では、本発明の方法で使用される薬学的組成物は、結合剤を含み得る。例示的な結合剤としては、デンプン(例えば、コーンスターチおよびデンプンペースト)、ゼラチン、糖類(例えば、スクロース、グルコース、デキストロース、デキストリン、糖蜜、ラクトース、ラクチトール、マンニトールなど)、天然および合成ガム(例えば、アカシア、アルギン酸ナトリウム、アイリッシュモスの抽出物、パンワールガム(panwar gum)、ガッティガム(ghatti gum)、イサポールの殻(isapol husk)の粘液、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、微結晶セルロース、酢酸セルロース、ポリ(ビニル-ピロリドン)、ケイ酸アルミニウムマグネシウム(VEEGUM.RTM.)、およびカラマツ属アラボガラクタン(larch arabogalactan))、アルギン酸塩、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、無機カルシウム塩、ケイ酸、ポリメタクリレート、ワックス、水、アルコール、ならびに/またはそれらの混合物が挙げられる。
【0057】
ある特定の実施形態では、本発明の方法で使用される薬学的組成物は、防腐剤を含み得る。例示的な防腐剤としては、抗酸化剤、キレート剤、抗細菌防腐剤、抗真菌防腐剤、抗原虫(antiprotozoan)防腐剤、アルコール防腐剤、酸性防腐剤、および他の防腐剤が挙げられる。ある特定の実施形態では、防腐剤は、抗酸化剤である。他の実施形態では、防腐剤は、キレート剤である。
【0058】
ある特定の実施形態では、本発明の方法で使用される薬学的組成物は、抗酸化剤を含み得る。例示的な抗酸化剤としては、アルファトコフェロール、アスコルビン酸、パルミチン酸アコルビル、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、モノチオグリセロール、メタ重亜硫酸カリウム、プロピオン酸、ギ酸プロピル、アスコルビン酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、および亜硫酸ナトリウムが挙げられる。
【0059】
ある特定の実施形態では、本発明の方法で使用される薬学的組成物は、キレート剤を含み得る。例示的なキレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)ならびにその塩および水和物(例えば、エデト酸ナトリウム、エデト酸二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、エデト酸カルシウム二ナトリウム、エデト酸二カリウムなど)、クエン酸ならびにその塩および水和物(例えば、クエン酸一水和物)、フマル酸ならびにその塩および水和物、リンゴ酸ならびにその塩および水和物、リン酸ならびにその塩および水和物、ならびに、酒石酸ならびにその塩および水和物が挙げられる。例示的な抗細菌防腐剤としては、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、ベンジルアルコール、ブロノポール、セトリミド、塩化セチルピリジニウム、クロルヘキシジン、クロロブタノール、クロロクレゾール、クロロキシレノール、クレゾール、エチルアルコール、グリセリン、ヘキセチジン、イミド尿素、フェノール、フェノキシエタノール、フェニルエチルアルコール、硝酸フェニル水銀、プロピレングリコール、およびチメロサールが挙げられる。
【0060】
ある特定の実施形態では、薬学的組成物は、ROCK阻害剤またはその塩と一緒に緩衝剤を含み得る。例示的な緩衝剤としては、クエン酸緩衝液、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、塩化アンモニウム、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、クエン酸カルシウム、グルビオン酸カルシウム、グルセプト酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、D-グルコン酸、グリセロリン酸カルシウム、乳酸カルシウム、プロパン酸、レブリン酸カルシウム、ペンタン酸、リン酸二カルシウム、リン酸、リン酸三カルシウム、リン酸水酸化カルシウム(calcium hydroxide phosphate)、酢酸カリウム、塩化カリウム、グルコン酸カリウム、カリウム混合物、リン酸二カリウム、リン酸一カリウム、リン酸カリウム混合物、酢酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸一ナトリウム、リン酸ナトリウム混合物、トロメタミン、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、アルギン酸、パイロジェンフリーの水、等張食塩水、リンゲル液、エチルアルコール、およびそれらの混合物が挙げられる。
【0061】
ある特定の実施形態では、本発明の方法で使用される薬学的組成物は、潤滑剤を含み得る。例示的な潤滑剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸、シリカ、タルク、麦芽、ベハン酸グリセリル(glyceryl behanate)、水添植物油、ポリエチレングリコール、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、ロイシン、ラウリル硫酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、およびそれらの混合物が挙げられる。
【0062】
他の実施形態では、ROCK阻害剤またはその塩を含有する薬学的組成物は、液体剤形として投与されるであろう。経口および非経口投与のための液体剤形としては、薬学的に許容されるエマルション、マイクロエマルション、溶液、懸濁液、シロップ、およびエリキシル剤が挙げられる。活性成分に加えて、液体剤形は、例えば、水または他の溶媒などの当技術分野で一般的に使用される不活性希釈剤、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジメチルホルムアミド、油(例えば、綿の実、ラッカセイ、トウモロコシ、胚芽、オリーブ、ヒマシ、およびゴマ油)、グリセロール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ポリエチレングリコール、およびソルビタンの脂肪酸エステルなどの可溶化剤および乳化剤、ならびにそれらの混合物を含み得る。不活性希釈剤の他に、経口組成物は、湿潤剤、乳化剤および懸濁剤、甘味剤、香味剤、および香料剤などのアジュバントを含み得る。非経口投与のためのある特定の実施形態では、発明のコンジュゲートは、Cremophor(商標)、アルコール、油、改質油、グリコール、ポリソルベート、シクロデキストリン、ポリマー、およびそれらの混合物などの可溶化剤と混合される。
【0063】
経口投与のための固体剤形としては、カプセル剤、錠剤、丸剤、粉末、および顆粒が挙げられる。そのような固体剤形では、活性成分は、クエン酸ナトリウムもしくはリン酸二カルシウムなどの少なくとも1つの不活性で薬学的に許容される賦形剤もしくは担体、および/または(a)デンプン、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトール、およびケイ酸などの充填剤もしくは増量剤、(b)例えば、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩、ゼラチン、ポリビニルピロリジノン、スクロース、およびアカシアなどの結合剤、(c)グリセロールなどの保湿剤、(d)寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモもしくはタピオカデンプン、アルギン酸、ある特定のケイ酸塩、および炭酸ナトリウムなどの崩壊剤、(e)パラフィンなどの溶解遅延剤(solution retarding agent)、(f)四級アンモニウム化合物などの吸収促進剤、(g)例えば、セチルアルコールおよびモノステアリン酸グリセロールなどの湿潤剤、(h)カオリンおよびベントナイト粘土などの吸収剤、ならびに(i)タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム、およびそれらの混合物などの潤滑剤と混合される。カプセル剤、錠剤、および丸剤の場合、剤形は、緩衝剤を含み得る。
【0064】
発明のいくつかの組成物は、徐放性製剤または制御放出性製剤に関する。これらは、例えば、拡散制御製品、溶解制御製品、侵食製品、浸透圧ポンプシステム、またはイオン性樹脂系であり得る。拡散制御製品は、水の流れおよびその後の剤形から溶解した薬物の流出を制御する水不溶性ポリマーを含む。溶解制御製品は、ゆっくり可溶化するポリマーを使用することによって、または薬物のマイクロカプセル化-変動する厚さを使用して放出を制御することによって、薬物の溶解速度を制御する。侵食製品は、担体マトリックスの侵食速度によって薬物の放出を制御する。浸透圧ポンプシステムは、半透過性の膜を通り、浸透剤を含有するリザーバーへの一定の水の流入に基づいて薬物を放出する。イオン交換樹脂は、薬物に結合するために使用され得るので、摂取されると、薬物の放出が消化管内のイオン環境によって決定される。
【0065】
認知症を有するある特定の患者は、嚥下障害を呈し、半固体剤形(ゲルおよびゼリー)、経口崩壊錠剤、または舌下剤形などの製剤を必要とし得る。
【0066】
治療する方法
認知症は、広義には、脳の2つの領域:大脳皮質(cortex)(別名、大脳皮質(cerebral cortex))および大脳皮質下のうちの1つへの損傷から生じる。認知症の(大脳皮質の)皮質型と(大脳皮質下部の)皮質下型の区別は、多くの場合、欠損を観察し、欠損をその機能に関連する脳構造に関係付けることによって行うことができる。
【0067】
大脳皮質下部は、3つの主要な部門からなる。1つ目は、基底神経節であり、運動制御およびスキル学習に関与する。この領域における欠陥は、運動減少または運動過剰の問題のいずれかを引き起こす。パーキンソン病およびハンチントン病は、基底神経節に影響を与える。2つ目は、辺縁系であり、主に感情の検出および表現において機能する。恐怖または脅威的な対象を検出する扁桃体、および笑いに関与する海馬からなる。扁桃体、視床(間脳の一部)、および海馬の間の接続は、ポジティブな感情に関連する。海馬はまた、学習、記憶、および新規性の検出に重要な役割を果たす。3つ目は、視床および視床下部からなる間脳である。視床は、感覚器官間の、嗅覚を除くすべての感覚の主要な感覚伝達部である。視床下部は、体温、空腹、性行動、および喉の渇きを調節する。
【0068】
大脳皮質は、大脳の最外層である。4つの葉で構成されており、記憶、注意、知覚認識、「思考」、言語、および意識を含む複雑な脳機能に関与する。また、自発的な運動機能を制御する。したがって、大脳皮質は、多くの場合、その主要な感覚領域および運動領域の観点における機能によって説明される。
【0069】
頭頂葉、側頭葉、および後頭葉は、目で見るもの、耳で聞くもの、および他の感覚器官が身体の異なる部分の位置について知らせ、それらを環境内の他の物体の位置に関連付けるものから生じる知覚の生成に関与する。特に左半球の頭頂-側頭-後頭複合体は、言語の理解および使用を担う。前頭葉は、行動および動作の計画、ならびに抽象的な思考に関与する。辺縁部は、感情および記憶に関与する
【0070】
運動領域は、大脳皮質の両半球に位置する。一次運動野は、自発的な動作の実行を制御する。補足運動野および運動前野は、自発的な動作の選択に関与する。後頭頂大脳皮質は、空間における自発的な動作を導く。背外側前頭前野は、高次の指示、規則、および自己生成された思考に従って、どの自発的な動作をするかの決定に関与する。
【0071】
以下の表は、認知症の皮質型対皮質下型で見られる欠陥の間のいくつかの大まかな違いを示している。
【表1】
【0072】
皮質性認知症の例としては、アルツハイマー型(AD)、血管性認知症、レビー小体(LBD)、前頭側頭葉(FTD、ピック病)、前頭側頭葉(FTD、原発性進行性失語症(PPA))が挙げられる。
【0073】
皮質下認知症の例としては、ビンスワンガー病(BD、ラクナ型認知症)、パーキンソン病(PD)、ハンチントン病(HD)および多発性硬化症(MS)が挙げられる。
【0074】
認知症が単一の状態ではないのと同様に、認知症の様々な根底にある形態から生じる徘徊も、明らかに単一の状態ではない。徘徊は、単純な認知機能低下ではない。実際、認知障害は、徘徊サイクルの頻度と相関するが、他の領域の徘徊とは相関しない(Algase 2001b)。いくつかの一連の証拠は、徘徊が、認知症のタイプ、またはさらにはサブタイプの特定の根底にある病理の反映であることを実証している。
【0075】
第1に、ある特定のタイプの認知症では、他のタイプよりも徘徊が一般的である。Cooper(1993)は、1312人の認知症患者の研究において、徘徊は、VaDの17%に対してAD患者のうちの26%に発生し、その差は統計的有意性に達し、徘徊の重症度は認知症の進行に関連しているが、VaDに対してADでの徘徊の有病率がより高いことは、疾患の初期、中期、後期の間で一致していたことを見出した。Klein(1999)は、638人のコミュニティ居住の認知症患者の研究において、認知症の異なる形態間での徘徊率の違いを確認し、VaD患者のうちの14.1%で、ADでは21.4%で徘徊を観察した。Knuffman(2001)は、徘徊は、ADよりもDLBにおいてはるかに一般的であることを見出した。
【0076】
第2に、認知症の異なる形態における徘徊パターンの違いは、病態の違いが原因であることを示している。反復的な歩き回りおよび周回のような日常化した徘徊は、FTDでは非常に一般的であり、ADでは徘徊は、稀でありパターン化されていない傾向があり、VaDではパターン化された徘徊は、ADまたはFTDのいずれかよりもさらに稀である(Bathgate 2001)。疾患が進行すると、定まった経路に発展する反復的な歩き回りおよび周回は、FTDが強く予測され、これを使用してFTDをADから区別するのに役立てることができる(Nakaoka 2010)。さらに、AD患者は、VaD患者よりもはるかに高い割合(41%対20%)で家の外で迷子になる(Ballard 1991)。ADの形態間でさえも、パターンは異なり得る。Nakaoka(2010)は、過剰な(>1日当たり10km)のパターン化されていない徘徊は、有意なレベルの認知障害を有する若年性AD患者に限定されていることを観察した。
【0077】
徘徊は、一般に、2つの領域によって特徴付けることができる。第1の領域は、一般に、患者に障害があり、例えば、車椅子生活を送っていない限り、歩行の形態での動作である。第2の領域は、通常、境界違反および/または経路探索の問題の形態の、問題のある行動である。これは、しかしながら、歩き回りまたは周回行動などの動作自体に反映される場合がある。これは、介護者への不適切な後追いを含み得る。一般的な問題行動は、脱走または失踪の試みである。ある特定の量の動作はまた、問題のある行動とみなされ得る。正常な人は、覚醒時間のうちのおよそ10%で動作を行っているので、この閾値量を超える動作は、問題のある行動とみなされ得る。覚醒時間のうちの少なくとも20%、しかし好ましくは覚醒時間のうちの30%超の間、動作を行っている場合、患者は、徘徊を患っているとみなされるであろう。患者がより多くの時間を動作に費やす場合、疲労のリスクがあり、したがって、転倒および重傷を負うリスクがあるので、その行動は特に問題になる。したがって、一部の徘徊患者は、覚醒時間のうちの40%または50%、一部は60%、70%、またはさらには80%超の間、より多く動作を行っている。
【0078】
徘徊は、持続的または散発的であり得ることが提唱されており、本方法は、いずれかの集団を治療するために使用され得る。持続的な徘徊者は、ほぼ毎日、典型的には週当たり少なくとも4~5日、過度の動作を呈する。一方、散発的な徘徊者は、過度な動作は呈さず、むしろ、一般に、典型的には失踪、境界違反、脱走、または経路探索欠陥に関連する、不定期な動作を伴ってじっとしている。散発的な徘徊者は、頻繁ではなく毎月、または頻繁に週当たり2回、3回、もしくはさらには4回、5回、6回、もしくはそれ以上その行動を呈し得る。持続的な徘徊者とは異なり、散発的な徘徊者は、異常に多くの時間を動作に費やさない。発明の好ましい一実施形態では、治療される患者は、任意の形態の認知症に起因して徘徊し、経路探索欠陥を示さず、そのような患者は、持続的または散発的な徘徊者であり得る。
【0079】
1つの特定の実施形態では、ファスジルでの治療は、患者における徘徊する反復的な動作(例えば、周回、歩き回り)の量を、少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、または50%低減する。別の実施形態では、ファスジルでの治療は、徘徊する反復的な動作の量を50%以上低減する。好ましい実施形態では、ファスジルでの治療は、反復的な動作を少なくとも75%低減する。好ましい実施形態では、ファスジルでの治療は、徘徊する反復的な動作の量を覚醒時間中に規範的な10%の動作まで低減する。
【0080】
さらなる実施形態では、ファスジルでの治療は、1日当たりの徘徊する反復的な動作が発生する回数を1日当たり少なくとも1回、好ましくは少なくとも2回、より好ましくは1日当たり少なくとも3回低減する。
【0081】
さらなる実施形態では、ファスジルでの治療は、徘徊する反復的な動作が発生する日数を週当たり少なくとも1日、好ましくは週当たり少なくとも2日、より好ましくは週当たり少なくとも3日低減する。
【0082】
別の特定の実施形態では、ファスジルでの治療は、持続的な徘徊を少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、または50%低減する。別の実施形態では、ファスジルでの治療は、持続的な徘徊を50%以上低減する。好ましい実施形態では、ファスジル塩酸塩半水和物での治療は、持続的な徘徊を少なくとも75%低減する。好ましい実施形態では、ファスジルでの治療は、覚醒時間中の規範的な10%の動作まで持続的な徘徊を低減する。
【0083】
さらなる実施形態では、ファスジルでの治療は、持続的な徘徊において発生する徘徊の日数を週当たり少なくとも1日、好ましくは週当たり少なくとも2日、より好ましくは週当たり少なくとも3日低減する。
【0084】
別の実施形態では、ファスジルでの治療は、散発的な徘徊を少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、または50%低減する。別の実施形態では、ファスジルでの治療は、散発的な徘徊を50%以上低減する。好ましい実施形態では、ファスジルでの治療は、散発的な徘徊を少なくとも75%低減する。好ましい実施形態では、ファスジルでの治療は、覚醒時間中に規範的な10%の動作まで散発的な徘徊を低減する。
【0085】
別の実施形態では、ファスジルでの治療は、歩き回りまたは周回を少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、または50%低減する。別の実施形態では、ファスジルでの治療は、歩き回りまたは周回を50%以上低減する。好ましい実施形態では、ファスジルでの治療は、歩き回りまたは周回を少なくとも75%低減する。
【0086】
別の実施形態では、ファスジルでの治療は、失踪行動を少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、または50%低減する。別の実施形態では、ファスジルでの治療は、失踪行動を50%以上低減する。好ましい実施形態では、ファスジルでの治療は、失踪行動を少なくとも75%低減する。
【0087】
別の実施形態では、ファスジルでの治療は、空間的見当識障害を少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、または50%低減する。別の実施形態では、ファスジルでの治療は、空間的見当識障害を50%以上低減する。好ましい実施形態では、ファスジルでの治療は、空間的見当識障害を少なくとも75%低減する。
【0088】
別の実施形態では、ファスジルでの治療は、徘徊に関連する介護者負担を、少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、または50%低減する。別の実施形態では、ファスジルでの治療は、徘徊に関連する介護者負担を50%以上低減する。好ましい実施形態では、ファスジルでの治療は、徘徊に関連する介護者負担を少なくとも75%低減する。
【0089】
別の実施形態では、ファスジルでの治療は、持続的な徘徊、歩き回り、失踪、および空間的見当識障害のうちの1つ以上に関連する介護者負担を、少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、または50%低減する。別の実施形態では、ファスジルでの治療は、持続的な徘徊、歩き回り、失踪、および空間的見当識障害のうちの1つ以上に関連する介護者負担を50%以上低減する。好ましい実施形態では、ファスジルでの治療は、持続的な徘徊、歩き回り、失踪、および空間的見当識障害のうちの1つ以上に関連する介護者負担を少なくとも75%低減する。
【0090】
さらなる実施形態では、ファスジルでの治療は、散発的な徘徊において発生する徘徊の日数を、週当たり少なくとも1日、好ましくは週当たり少なくとも2日、より好ましくは週当たり少なくとも3日低減する。
【0091】
別の実施形態では、ファスジルでの治療は、日没、または夕方中に発生する徘徊を低減する。別の実施形態では、ファスジルでの治療は、夜間中に発生する徘徊を低減する。一実施形態では、低減を決定するための徘徊の量は、Fitbitなどのフィットネストラッカーを含む、電子機器による動作および/または活動の追跡デバイスを使用して測定され得る。フィットネストラッカーは、位置を測定するために単独で、またはGPSデバイスと組み合わせて使用することができる。
【0092】
Revised Algase Wandering Scale(Long Term Care Version)は、徘徊を測定するのに好ましい器具である(NelsonおよびAlgase 2006)。3つの主要な徘徊の類型:持続的な徘徊(PW)、失踪行動(EB)、および空間的見当識障害(SD)に基づいて、3つの異なる領域に分類される。各領域は、1~4のスコアで定量化することができる尺度で個々の項目を評価する。
【0093】
領域全体のスコアは、有効な回答のある質問の数に基づいて計算される。したがって、個々のスコアを合計し、有効な回答があった領域における質問の数で除算する。領域の項目のうちの少なくとも75%が有効な応答を有することが非常に好ましい。結果は、1~4のスコアになるであろう。
【0094】
同様に、3つの領域の各々を平均化することによって、1~4の総合的なスコアを生じる全体的な尺度スコアを得ることができる。あるいは、最高レベルの細分性でのドメイン内の各個々の項目を、個々に評価してもよい。
【0095】
RAWSは、スタッフまたは介護者が記入してもよい。
【0096】
PW領域は、絶対的な観点で、かつ他の同様の状況の患者と比較した、徘徊の挑発を示し得る、自発的な歩行の量、歩き回りおよび落ち着きのない歩行(興奮を示し得る)、ならびに食事時間に対する徘徊のタイミングに注目する、9つの個々の項目からなる。
【0097】
EB領域は、4つの項目からなる。これは、逃走、許可されていないエリアへの進入、許可されたエリアを離れること、および気付かれずに離れた後に許可されたエリアに戻ることを測定する。
【0098】
SD領域は、6つの項目からなり、迷子になること、目的のない歩行、人および物への衝突、ならびにある特定の部屋の位置を見つけることができないことを評価する。
【0099】
ある特定の実施形態では、発明に従って治療した患者は、RAWSの少なくとも1つの項目において改善を示すであろう。好ましい実施形態では、患者は、RAWSの少なくとも1つの領域において改善を示すであろう。特に好ましい実施形態では、患者は、RAWSのPWおよび/またはEB領域において改善を示すであろう。そのような改善は、一般に、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、または50%の範囲であろう。
【表2】
【0100】
徘徊のための別の有用な測定ツールは、以下に提示されるWoolsey Wandering Questionnaire(WWQ)である。WWQの有意な特色は、徘徊行動についての介護者の負担も捕捉することである。この負担は、総合的な印象として、また各領域に対して全体的に評価される。これは、毎週実施される。質問1は、負担についての総合的な印象である。質問2は、持続的または自発的な徘徊に具体的に注目する。質問3は、特に失踪に注目する。質問4は、興奮に関連し得る自発的な歩行の一種である、歩き回りに注目する。質問5は、空間的見当識障害に関する。
【0101】
各応答には数値が割り当てられ、より問題のある行動(第1の応答)にはより高いスコアが割り当てられる。したがって、質問1は、例えば、非常に問題のある行動では4、徘徊が観察されなかった場合は1としてスコアリングされるであろう。質問2は、5点尺度でスコアリングされ、座らず平均を上回る歩行では5が割り当てられ、明確に平均未満の歩行は1が割り当てられるであろう。この方式で、各質問を個別に評価しても、ツールを全体的に評価してもよい。総合的な評価は、全体的なスコア(すべての質問)、または負担スコア(介護者負担の質問のみ)、または徘徊スコア(質問2~5の行動部分のみ)の観点であり得る。
【表3】
【0102】
本発明の治療方法によれば、1日1回以上投与するための有効量のROCK阻害剤またはその薬学的に許容される塩は、約10mg~約1000mgを構成し得る。ファスジル塩酸塩半水和物は、例えば、1日約10mg~約500mg、約10mg~約400mg、約10mg~約200mg、約10mg~約100mg、約20mg~約10mgの量で好適に投与される。1つの好ましい用量レジメンは、即時放出性製剤を使用して、75~120mgの1日の総用量として1日3回、25、30、または40mgのファスジル塩酸塩半水和物での治療を含む。最も好ましい用量は、60mgの1日の用量を超え、最も好ましい1日の用量の範囲は、70mg~120mgであり、1日の間に3回の等しい量で投与される。特に好ましい1日の用量は、1日当たり90mgである。さらなる用量レジメンは、即時放出性製剤を使用して、70~120mgの1日の総用量として、1日当たり2回のみの35~60mgのファスジル塩酸塩半水和物での治療を含む。好ましい実施形態は、即時放出性製剤を使用して、1日当たり2回、45mgのファスジル塩酸塩半水和物である。発明によるROCK阻害剤は、前述に従って、即時放出性製剤を使用して経口投与されることが最も好ましい。
【0103】
腎障害患者および/または高齢の患者(例えば、65歳以上)などのある特定の患者サブ集団は、即時放出性製剤の代わりに、より低い用量または徐放性製剤を必要とし得る。ファスジル塩酸塩半水和物は、腎疾患を有する患者に通常の用量で与えた場合、より高い定常濃度を有し得、Cmaxを低下させるかまたはCmaxに至るまでの時間を遅延させる(Tmaxを増加させる)ためにより低い用量を必要とし得る。
【0104】
腎機能障害は、肝硬変、慢性腎臓疾患、急性腎臓傷害(例えば、造影剤の投与に起因する)、糖尿病(1型または2型)、自己免疫疾患(狼瘡およびIgA腎症など)、遺伝性疾患(多嚢胞性腎臓疾患など)、腎症候群、(前立腺肥大、腎臓結石、および一部のがんなどの状態からの)尿路の問題、心臓発作、違法薬物使用および薬物乱用、虚血性腎臓状態、尿路問題、高血圧、糸球体腎炎、間質性腎炎、膀胱尿管、腎盂腎炎、敗血症を含む多数の障害の結果として、年齢と共に発生する。腎臓機能障害は、腎臓機能障害と共に発生し得る非腎臓関連疾患、例えば、なかでも、肺動脈高血圧症、心不全、および心筋症を含む、他の疾患および症候群で発生し得る。
【0105】
腎臓機能は、ほとんどの場合、血清(および/または尿)クレアチニンを使用して評価される。クレアチニンは、筋細胞内のクレアチンリン酸の分解産生物であり、一定の速度で産生される。これは、変化せず主に糸球体濾過を通じて、腎臓によって排泄される。したがって、血清クレアチニンの上昇は、腎臓機能障害のマーカーであり、糸球体濾過速度を推定するために使用される。
【0106】
血液中のクレアチニンの正常レベルは、成人男性ではおよそ0.6~1.2mg/dL、成人女性では0.5~1.1mg/dLである。クレアチニンレベルがこれらの数字を超える場合、対象は、腎機能障害を有しており、したがって、発明に従って治療可能である。軽度の腎障害/機能障害は、1.2mg/dL~1.5mg/dLの範囲で発生する。中等度の腎障害/機能障害は、1.5mg/dLを超えるクレアチニンレベルで発生すると考えられる。腎不全とみなされるものを含む重度の腎障害は、≧2.0mg/dLの血清クレアチニンレベル、または腎代替療法(透析など)の使用として定義される。軽度、中等度、および重度の腎障害を有する対象を治療することが具体的に企図される。
【0107】
示されるように、クレアチニンレベルは、糸球体濾過速度の代用物と考えられ、血清クレアチニンレベルのみを使用して、Cockroft-Gault等式を使用して糸球体濾過速度を推定してもよい。
【0108】
一般に、60mL/分未満のクレアチニンクリアランス(>1.2mg/dLのクレアチニンに概ね相当する)は、中等度の腎機能障害とみなされる。40mL/分(1.5mg/dLを超えるクレアチニンレベルにおよそ相当する)、または特に30mL/分未満の糸球体濾過速度は、重度の腎機能障害とみなされる。
【0109】
一般に、クレアチニンクリアランス(推定糸球体濾過速度)は、Cockroft-Gault等式を使用して血清クレアチニンから直接導出することができる:
クレアチニンクリアランス=(((140-年齢)×(kgでの体重))×1.23)/(μmol/Lでの血清クレアチニン)
【0110】
女性の場合、計算結果に、0.85を乗算する。
【0111】
また、血清クレアチニンおよび尿クレアチニンレベルに注目することによって、経験に従って測定したクレアチニンクリアランスは、糸球体濾過速度の推定値として直接使用され得る。具体的には、尿を24時間にわたって収集し、以下の等式を適用してクレアチニンクリアランスを確認する:
クレアチニンクリアランス(mL/分)=尿クレアチニン濃度(mg/mL)*24時間尿量(mL)/血漿クレアチニン濃度(mg/mL)*24時間*60分
【0112】
一実施形態では、軽度~中等度の腎障害に対するファスジルの用量は、1日当たり50~80mgに低減される。別の実施形態では、ファスジルの用量は、低減されないが、徐放性剤形で1日1回投与される。
【0113】
別の実施形態では、用量は、軽度~中等度の腎障害では、低減されない。
【0114】
一実施形態では、ファスジルの用量は、重度の腎障害では、30~45に低減される。別の実施形態では、ファスジルの用量は、低減されないが、代わりに、徐放性剤形で1日1回投与される。
【0115】
さらなる実施形態では、用量は、血清クレアチニン(SCr)が>2、および/またはSCrのベースラインからの増加が>1.5倍、および/またはeGFRのベースラインからの減少が>25%である場合、低減される。
【0116】
患者の大きさは、腎機能のクレアチニンに基づく推定値を使用する場合に考慮すべき重要な要素である。薬物クリアランスの単位は、体積/時間(mL/分)であり、一方慢性腎疾患の推定GFRの単位は、体積/時間/標準的な大きさ(mL/分/1.73m2)である。一般に、用量は、小柄な患者では下方(例えば、1日当たり40~50mg)、肥満患者では大柄な患者では上方(例えば、1日当たり120mg)に調整され得る。小柄な男性は、約160ポンド以下であろう。小柄な女性患者の体重は、約130ポンド以下であろう。30以上のボディマス指数を有する患者は、肥満とみなされる。
【0117】
加えて、高齢の患者は、開始時により低い用量を必要とし、数日または数週間後に推奨用量まで徐々に増加させてもよい。別の実施形態では、高齢の患者は、治療の継続期間の間、より低い用量を必要とし得る。高齢集団としては、65~74歳の「前期高齢者」、75~84歳の「後期高齢者」、および85歳以上の「寝たきり高齢者」が挙げられる。例えば、2週間の間1日当たり30mgの開始用量、続いて4週間の間1日当たり60mg、次いで1日当たり90mgである。滴定によって、さらには1日当たり最大約120mgまで保証され得る。
【0118】
別の実施形態は、徐放性剤形で1日1回、60~120mgのファスジル塩酸塩半水和物での治療を含む。1日1回90mgの1日の総用量の徐放性ファスジル塩酸塩半水和物での治療が好ましい。本明細書に記載の用量範囲は、提供される薬学的組成物を成人に投与するためのガイダンスを提供していることが理解されるであろう。例えば、子供または青少年に投与される量は、医師または当業者によって決定され得、成人に投与される量よりも低いか、または同じであり得る。
【0119】
発明による組成物を投与する方法は、一般に、少なくとも1日間継続されるであろう。いくつかの好ましい方法は、最大30日間、または最大60日間、またはさらには最大90日間、またはさらにそれ以上治療する。60日間を超える治療が好ましく、少なくとも6ヶ月間の治療が特に好ましい。治療の正確な継続期間は、患者の状態および治療に対する応答に依存するであろう。
【0120】
発明に従って治療可能な患者は、典型的には、ミニメンタルステート検査(MMSE)などの認知スケールでのスコアが低いであろう。MMSEでの≦23の閾値は、認知症に対して設定され、≦15のスコアは、重度の認知症を表す。したがって、発明は、特に、16~23のMMSEスコアを有する中等度認知症患者、および≦15のMMSEスコアを有する重度患者を含む、MMSEスコア≦23を有する患者の治療を企図する。一般に、患者が9未満のMMSEスコアを有すると、歩行に問題を発症し得、5未満のMMSEを有する患者の治療は好ましくない。MMSEが15を下回ると、Severe Impairment Battery(SIB)も有用な評価基準である。発明の方法を使用する治療は、一般に、認知機能の改善を生じる。患者は、一般的に、治療の初期段階の間に、MMSEおよびSIBに少なくとも3ポイントの改善を示し、認知の低下は、対照患者と比較して遅い。
【0121】
MMSEは、Folstein(1975、1987、2007)にすべて記載されている。一般に、24~30のMMSEスコアは、認知障害がないことを示し、18~23のスコアは、軽度の認知障害を示し、0~17は、重度の認知障害を示す。
【0122】
発明の方法はまた、認知症または認知症の他の症状を治療するために使用される他の化合物と共にROCK阻害剤を投与することを企図する。それらは、組み合わせて、単一剤形で、一般的な用量レジメンで投与されても、異なる用量レジメンを使用して、1日のうちの異なる時間に同じ患者に投与されてもよい。
【0123】
いくつかの実施形態では、患者は、限定されないが、コリンエステラーゼ阻害剤およびNMDA受容体拮抗剤を含む、皮質性認知症を治療するために承認された他の活性剤と組み合わせて、ファスジルを投与される。一実施形態では、コリンエステラーゼ阻害剤は、ドネペジル、リバスチグミン、およびガランタミンからなる群から選択される。コリンエステラーゼ阻害剤の例示的な用量としては、1日当たり3~25mg、より好ましくは1日当たり6~12mgが挙げられる別の実施形態では、NMDA受容体拮抗剤は、メマンチンである。特定の実施形態では、メマンチンは、1日当たり5~28mg、好ましくは1日当たり15~20mgの用量で投与される。さらなる実施形態では、同時投与される活性は、28mgのメマンチンおよび10mgのドネペジルの用量でのドネペジルとメマンチンとの組み合わせである。
【0124】
特定の実施形態では、ファスジルとコリンエステラーゼ阻害剤との組み合わせは、タンパク質症に関連する皮質性認知症を有する徘徊患者に投与される。さらなる実施形態では、ファスジルとコリンエステラーゼ阻害剤との組み合わせは、混合型認知症を有する徘徊患者に投与される。さらにさらなる実施形態では、ファスジルとコリンエステラーゼ阻害剤との組み合わせは、血管性皮質性認知症のみを有する徘徊患者には投与されない。
【0125】
デキストロメトルファン臭化水素酸塩は、別の競合しないNMDA受容体拮抗薬であり、シグマ-1受容体作動薬としての活性も有する。キニジン硫酸塩(CYP450 2D6阻害剤)と組み合わせて市販されている製品ニューデキスタ(Nudexta)は、認知症の多くの形態で発生する情動調節障害の治療について示されている。
【0126】
さらなる実施形態では、ファスジルで治療される患者はまた、気分安定剤、ベンゾジアゼピン、抗精神病薬、抗興奮薬、または睡眠補助剤を含む活性剤で治療されていない。特定の実施形態では、ファスジルで治療される患者は、リスペリドン、アリピプラゾール、クエチアピン、カルバマゼピン、ガバペンチン、プラゾシン、トラゾドン、またはロラゼパムで治療されていない。
【0127】
さらなる実施形態では、ファスジルで治療される患者は、うつ病について治療されている。特定の実施形態では、患者は、シタロプラムまたはエスシタロプラムなどの抗うつ剤で治療されている。
【0128】
実施例1
アルツハイマー型認知症(AD)および皮質血管性認知症(VaD)を有する患者の徘徊の頻度の低減における経口ファスジルの有効性を決定するために、臨床試験を行う。
【0129】
徘徊者を特徴とする10人のAD患者および10人のVaD患者(MRIにより確認)の20人の患者を研究に登録し、2週間観察して徘徊行動を確認する。確認された徘徊者に、90mg/日(30mg TID)で6週間の期間、非盲検でファスジルを投与して、徘徊への効果を評価し、次いで、二重盲検相に入り、試験薬90mg/日(30mg TID)または一致するプラシーボ(TID)を6週間投与する。二重盲検相の後には、6週間の別の治療期間、反対の治療割り当て(食品と一緒に服用したプラシーボまたは試験薬)が続く。
【0130】
以下の包含基準を適用する:
1.50歳から90歳までの患者。
2.少なくとも6ヶ月間の認知症(ADまたはVaDまたは混合型)の診断。
3.観察期間の間、および非盲検治療期間の間:
徘徊者:
a.同じ年齢および能力の他の人よりも、明確に平均を超えた歩行、ならびに/または
b.治験責任医師の意見による、1週間当たり≧3回の失踪行動
第1の二重盲検治療期間に入るための基準:
徘徊者:
a.観察期間で測定された平均距離の半分未満の歩行、および/または
b.治験責任医師の意見による、1週間当たり<1回の失踪行動、および/または
c.徘徊は、治験責任医師の意見では改善されている。
4.観察期間の間、および非盲検治療期間の間:
a.10~25のMMSE。
【0131】
徘徊は、電子追跡デバイスを使用して、動作を行っている時間および移動距離(継続的な徘徊の測定値)、試みられ成功した境界違反(失踪の測定値)、ならびに周回する歩き回り(継続的な徘徊および/または興奮もしくは不安を示す)のようなパターンの観点で測定する。典型的な追跡デバイスは、屋内環境ではRFIDまたはBluetooth、屋外ではGPSのようなテクノロジーを使用して、加速度測定と位置決定との組み合わせを使用するであろう。他の経路探索、見当識、および記憶に関連する徘徊事例を観察し、手動で記録する。
【0132】
Mini Mental State Exam(MMSE)、Woolsey Wandering Questionnaire、およびRevised Algase Wandering Scaleは、ベースラインおよび各治療期間の終了時に実施する。研究中の動作に影響を与え得る抗精神病薬または抗不安薬の使用の変更は、強く推奨されない。
【0133】
ファスジルでの治療は、RAWSおよび/またはWWQの少なくとも1つの項目での徘徊の有意な低減と関連する。持続的な徘徊者は、プラシーボと比較して、薬物使用中の活動レベルを約50%低減し、これは、3ポイント超のMMSEスコアにおける平均的な増加を伴う。散発的な徘徊者は、薬物使用中の経路探索エラーおよび他の問題のある行動において有意な低減を示し、MMSEでも同様の改善を示している。介護者負担の尺度もまた、有意な効果を示し、徘徊による問題が少なくなったことを示している。
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【0134】
本明細書に記載の各参考文献の開示は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【国際調査報告】