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特表2023-510003治療に使用するためのカンナビノイド
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-10
(54)【発明の名称】治療に使用するためのカンナビノイド
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20230303BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20230303BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20230303BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230303BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230303BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230303BHJP
   A61K 31/05 20060101ALI20230303BHJP
   A61K 31/352 20060101ALI20230303BHJP
   A61K 36/185 20060101ALI20230303BHJP
   A61K 135/00 20060101ALN20230303BHJP
   A61K 127/00 20060101ALN20230303BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P1/16
A61P3/04
A61P35/00
A61P43/00 111
A61P29/00
A61K31/05
A61K31/352
A61K36/185
A61K135:00
A61K127:00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022542922
(86)(22)【出願日】2021-01-14
(85)【翻訳文提出日】2022-09-09
(86)【国際出願番号】 IL2021050046
(87)【国際公開番号】W WO2021144799
(87)【国際公開日】2021-07-22
(31)【優先権主張番号】272078
(32)【優先日】2020-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IL
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521292962
【氏名又は名称】キャン-ファイト バイオファーマ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Can-Fite Biopharma Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】フィシュマン,プニナ
(72)【発明者】
【氏名】イツァク,インバル
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4C088
4C206
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084AA19
4C084NA14
4C084ZA70
4C084ZA75
4C084ZB11
4C084ZB26
4C084ZC41
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA08
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA70
4C086ZA75
4C086ZB11
4C086ZB26
4C086ZC41
4C088AB12
4C088AC05
4C088CA03
4C088NA14
4C088ZA70
4C088ZA75
4C088ZB11
4C088ZB26
4C088ZC41
4C206AA01
4C206AA02
4C206CA19
4C206DA19
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZA70
4C206ZA75
4C206ZB11
4C206ZB26
4C206ZC41
(57)【要約】
アデノシン受容体(AAR)の活性化因子によって治療可能な疾患または障害の治療にカンナビノイドが使用される。カンナビノイドの効果は、AARを介して発揮される。カンナビノイドは、天然、植物性カンナビノイド、植物性カンナビノイドの合成誘導体、大麻植物の抽出物などから選択することができる。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
A3アデノシン受容体(AAR)のアゴニストによって治療可能な疾患または障害を治療するための製剤であって、前記疾患または障害を治療または改善するのに有効な量の少なくとも1のカンナビノイドを含むことを特徴とする製剤。
【請求項2】
請求項1に記載の製剤において、
前記カンナビノイドが、主にAARを介してその効果を発揮することを特徴とする製剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の製剤において、
前記カンナビノイドが、AARのアンタゴニストによって低減される前記疾患または障害に対する生理学的効果または治療効果を有することを特徴とする製剤。
【請求項4】
請求項1~3の何れか一項に記載の製剤において、
少なくとも1のカンナビノイドが、AAR活性化因子作用を有することを特徴とする製剤。
【請求項5】
請求項4に記載の製剤において、
少なくとも1のカンナビノイドが、AARアゴニスト活性を有することを特徴とする製剤。
【請求項6】
請求項1~5の何れか一項に記載の製剤において、
前記疾患または障害が、前記疾患または障害に罹患していない対象の同じ系統の細胞または組織と比較した、細胞または組織におけるAARの発現レベルの上昇と関連していることを特徴とする製剤。
【請求項7】
請求項1~6の何れか一項に記載の製剤において、
前記疾患または障害が、癌、炎症性疾患、NAFLDなどの肝疾患または肥満であることを特徴とする製剤。
【請求項8】
請求項1~7の何れか一項に記載の製剤において、
(i)テトラヒドロカンナビノール酸(THCA)、テトラヒドロカンナビノール(THC)、カンナビジオール酸(CBDA)、カンナビジオール(CBD)、カンナビノール(CBN)、カンナビゲロール(CBG)、カンナビクロメン(CBC)、テトラヒドロカンナビバリン(THCV)、カンナビディバリン(CBDV)と、
(ii)(i)のカンナビノイドの化学誘導体と、
(iii)大麻植物の抽出物と
からなる群のなかから選択される少なくとも1のカンナビノイドを含むことを特徴とする製剤。
【請求項9】
請求項1~8の何れか一項に記載の製剤において、
ARの活性化因子をさらに含むことを特徴とする製剤。
【請求項10】
請求項9に記載の製剤において、
前記活性化因子が、AARアゴニストであることを特徴とする製剤。
【請求項11】
A3アデノシン受容体(AAR)のアゴニストによって治療可能な疾患または障害を治療するためのカンナビノイド。
【請求項12】
請求項11に記載のカンナビノイドにおいて、
主にAARを介してその効果を発揮することを特徴とするカンナビノイド。
【請求項13】
請求項11または12に記載のカンナビノイドにおいて、
ARのアンタゴニストによって低減される前記疾患または障害に対する生理学的効果または治療効果を有することを特徴とするカンナビノイド。
【請求項14】
請求項13に記載のカンナビノイドにおいて、
AR活性化因子作用を有することを特徴とするカンナビノイド。
【請求項15】
請求項14に記載のカンナビノイドにおいて、
ARアゴニスト活性を有することを特徴とするカンナビノイド。
【請求項16】
請求項11~15の何れか一項に記載のカンナビノイドにおいて、
前記疾患または障害が、前記疾患または障害に罹患していない対象の同じ系統の細胞または組織と比較した、細胞または組織におけるAARの発現レベルの上昇と関連していることを特徴とするカンナビノイド。
【請求項17】
請求項16に記載のカンナビノイドにおいて、
前記疾患または障害が、癌、炎症性疾患、NAFLDなどの肝疾患または肥満であることを特徴とするカンナビノイド。
【請求項18】
請求項11~17の何れか一項に記載のカンナビノイドにおいて、
(i)テトラヒドロカンナビノール酸(THCA)、テトラヒドロカンナビノール(THC)、カンナビジオール酸(CBDA)、カンナビジオール(CBD)、カンナビノール(CBN)、カンナビゲロール(CBG)、カンナビクロメン(CBC)、テトラヒドロカンナビバリン(THCV)、カンナビディバリン(CBDV)と、
(ii)(i)のカンナビノイドの化学誘導体と、
(iii)大麻植物の抽出物と
からなる群のうちの1または複数であることを特徴とするカンナビノイド。
【請求項19】
請求項11~18の何れか一項に記載のカンナビノイドにおいて、
ARの活性化因子と組み合わせて投与するためのものであることを特徴とするカンナビノイド。
【請求項20】
請求項19に記載のカンナビノイドにおいて、
前記活性化因子が、AARのアゴニストであることを特徴とするカンナビノイド。
【請求項21】
A3アデノシン受容体(AAR)のアゴニストによって治療可能な疾患または障害の治療方法であって、前記疾患または障害、または前記疾患または障害の結果として対象によって示される症状を改善するのに有効な量の少なくとも1のカンナビノイドを、前記疾患または症状を有する対象に投与するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項22】
請求項21に記載の方法において、
前記カンナビノイドが、主にAARを介してその効果を発揮することを特徴とする方法。
【請求項23】
請求項21または22に記載の方法において、
前記カンナビノイドが、AARのアンタゴニストによって低減される前記疾患または障害に対する生理学的効果または治療効果を有することを特徴とする方法。
【請求項24】
請求項21~23の何れか一項に記載の方法において、
少なくとも1のカンナビノイドが、AAR活性化因子作用を有することを特徴とする方法。
【請求項25】
請求項24に記載の方法において、
少なくとも1のカンナビノイドが、AARアゴニスト活性を有することを特徴とする方法。
【請求項26】
請求項21~25の何れか一項に記載の方法において、
前記疾患または障害が、前記疾患または障害に罹患していない対象の同じ系統の細胞または組織と比較した、細胞または組織におけるAARの発現レベルの上昇と関連していることを特徴とする方法。
【請求項27】
請求項21~26の何れか一項に記載の方法において、
前記疾患または障害が、癌、炎症性疾患、NAFLDなどの肝疾患または肥満であることを特徴とする方法。
【請求項28】
請求項21~27の何れか一項に記載の方法において、
(i)テトラヒドロカンナビノール酸(THCA)、テトラヒドロカンナビノール(THC)、カンナビジオール酸(CBDA)、カンナビジオール(CBD)、カンナビノール(CBN)、カンナビゲロール(CBG)、カンナビクロメン(CBC)、テトラヒドロカンナビバリン(THCV)、カンナビディバリン(CBDV)と、
(ii)(i)のカンナビノイドの化学誘導体と、
(iii)大麻植物の抽出物と
からなる群のなかから選択される少なくとも1のカンナビノイドを対象に投与するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項29】
請求項21~28の何れか一項に記載の方法において、
ARの活性化因子をさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項30】
請求項29に記載の方法において、
前記活性化因子が、AARアゴニストであることを特徴とする方法。
【請求項31】
対象の疾患または障害を治療する方法であって、
対象の組織または細胞におけるAARの発現レベルに関するデータを取得するステップと、
前記データが、前記疾患または症状を患っていない対象の同じ系統の細胞または組織におけるAARの発現レベルと比較して発現レベルが上昇していることを示す場合に、前記疾患または症状の改善を達成するのに有効な量の少なくとも1のカンナビノイドを対象に投与するステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項32】
請求項31に記載の方法において、
前記カンナビノイドが、主にAARを介してその効果を発揮することを特徴とする方法。
【請求項33】
請求項31または32に記載の方法において、
前記カンナビノイドが、AARのアンタゴニストによって低減される前記疾患または障害に対する生理学的効果または治療効果を有することを特徴とする方法。
【請求項34】
請求項31~33の何れか一項に記載の方法において、
少なくとも1のカンナビノイドが、AAR活性化因子作用を有することを特徴とする方法。
【請求項35】
請求項34に記載の方法において、
少なくとも1のカンナビノイドが、AARアゴニスト活性を有することを特徴とする方法。
【請求項36】
請求項31~35の何れか一項に記載の方法において、
前記疾患または障害が、前記疾患または障害に罹患していない対象の同じ系統の細胞または組織と比較した、細胞または組織におけるAARの発現レベルの上昇と関連していることを特徴とする方法。
【請求項37】
請求項31~36の何れか一項に記載の方法において、
前記疾患または障害が、癌、炎症性疾患、NAFLDなどの肝疾患または肥満であることを特徴とする方法。
【請求項38】
請求項31~37の何れか一項に記載の方法において、
(i)テトラヒドロカンナビノール酸(THCA)、テトラヒドロカンナビノール(THC)、カンナビジオール酸(CBDA)、カンナビジオール(CBD)、カンナビノール(CBN)、カンナビゲロール(CBG)、カンナビクロメン(CBC)、テトラヒドロカンナビバリン(THCV)、カンナビディバリン(CBDV)と、
(ii)(i)のカンナビノイドの化学誘導体と、
(iii)大麻植物の抽出物と
からなる群のなかから選択される少なくとも1のカンナビノイドを対象に投与するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項39】
請求項31~38の何れか一項に記載の方法において、
ARの活性化因子をさらに含むことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、カンナビノイドの医学的使用に関する。
【0002】
背景技術文献
本開示の主題の背景として関連すると考えられる文献を以下に挙げる。
・「Pharmaceutical administration of adenosine agonists」という名称の米国特許第6,790,839号
・「A3AR agonists for the treatment of inflammatory arthritis」という名称の米国特許第7,141,553号
・「Use of an adenosine A3 receptor agonist for inhibition of viral replication」という名称の米国特許第7,589,075号
・「Pharmaceutical composition including an A3 adenosine receptor agonist ... for treatment of psoriasis」という名称の米国特許第8,987,228号
・「Use of a3 adenosine receptor agonist in osteoarthritis treatment」という名称の国際特許出願公開第2007/063538号
・「Method for inducing hepatocyte proliferation and uses thereof」という名称の国際特許出願公開第2009/050707号
・「An a3 adenosine receptor ligand for use in treating ectopic fat accumulation」という名称の国際特許出願公開第2017/090036号
・「Treatment of liver conditions」という名称の国際特許出願公開第2013/111132号
・「7-hydroxy cannabidiol(7-oh-cbd) for use in the treatment of non-alcoholic fatty liver disease(nafld)」という名称の国際特許出願公開第2009/093018号
【0003】
本明細書における上記文献の確認は、それらが本開示の主題の特許性に何らかの形で関連していることを意味するものとして推論されるべきではない。
【背景技術】
【0004】
Giタンパク質関連細胞表面であるA3アデノシン受容体(AAR)は、様々な疾患または障害の治療に効果的な標的として実証されている。さらに、AARは、癌細胞だけでなく、炎症性細胞や、関節リウマチ、乾癬およびクローン病などの様々な自己免疫性炎症性疾患の患者由来の末梢血単核細胞(PBMC)においても過剰発現していることが説明されている。
【0005】
ARアゴニストである3-ヨードベンジル-5’-N-メチルカルボキサミドアデノシン(ピクリデノスン)および2-クロロ-N-(3-ヨードベンジル)-アデノシン-5’-N-メチルウロンアミド(ナモデノソン)などの非常に特異性の高いリガンドによるAARの活性化は、がんの治療(米国特許第6,790,839号および国際特許出願公開第2013/111132号)、炎症性疾患の治療(米国特許第7,141,553号、米国特許第8,987,228号、国際特許出願公開第2007/063538号)、ウイルス複製の阻害(米国特許第7,589,075号)、肝細胞増殖の誘導(国際特許出願公開第2009/050707号)、異所性脂肪蓄積の抑制(国際特許出願公開第2017/090036号)などに効果があることが見出されている。
【0006】
また、カンナビノイドは、様々なヒトの疾患および障害の治療におけるそれらの潜在的な医薬的用途についても説明されている。例としては、CBDの代謝物である7-ヒドロキシカンナビジオール(7-OH-CBD)を使用した非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の治療がある(国際特許出願公開第2009/093018号)。
【発明の概要】
【0007】
本開示は、その第1の態様によれば、Aアデノシン受容体(AAR)の活性化因子によって治療可能な疾患または障害を治療するための製剤であって、疾患または障害を治療または改善するのに有効な量の少なくとも1のカンナビノイドを含む製剤を提供する。
【0008】
本開示の別の態様によれば、AAR活性化因子によって治療可能な疾患または障害を治療するためのカンナビノイドが提供される。
【0009】
また、本開示のさらなる態様によれば、AAR活性化因子によって治療可能な疾患または障害を治療する方法であって、前記疾患または障害を有する対象に、前記疾患または障害または前記疾患または障害の結果として対象が示す症状を改善するのに有効な量の少なくとも1のカンナビノイドを投与するステップを含む方法が提供される。
【0010】
また、本開示の追加の態様によれば、対象の疾患または障害を治療する方法であって、対象の組織または細胞におけるAARの発現レベルに関するデータを取得するステップと、前記データが、前記疾患または症状を患っていない対象の同じ系統の細胞または組織におけるAARの発現レベルと比較して発現レベルが上昇していることを示す場合に、前記疾患または症状の改善を達成するために有効な量の少なくとも1のカンナビノイドを対象に投与するステップとを含む方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
本明細書に開示の主題をよりよく理解し、それが実際にどのように実施され得るのかを例示するために、以下に、添付の図面を参照しながら、単なる非限定的な例により実施形態を説明することとする。
図1図1A図1Cは、星細胞の増殖に対する、ナノモル濃度のCBD/THCを含むカンナビノイド抽出物の効果を示し(図1A)、これは、CBD/THC製剤がpM濃度(図1C)で与えられる場合であっても、AARアンタゴニストによって無効にされる(図1B)。
図2図2は、ヒトHep-3b肝細胞癌細胞の増殖抑制に対する、ナノモル濃度のCBD/THCを含むカンナビノイド抽出物の効果を示している。
図3図3は、Wnt経路に沿った様々なマーカーの発現レベル(Aアデノシン受容体のレベルを含み、具体的には、Aアデノシン受容体のレベル)に対するナノモル濃度のCBD/THCを含むカンナビノイド抽出物の効果を示している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示の知見として、特に、カンナビジオール(CBD)およびテトラヒドロカンナビノール(THC)を含むカンナビノイド抽出物をnMあるいはpMの濃度で暴露すると、星細胞の増殖が著しく阻害されるという知見がある。肝細胞癌細胞を同じカンナビノイド抽出物に暴露した場合にも同様の阻害効果が示されたが、この効果は、同じ細胞をAアデノシン受容体(AAR)アンタゴニストに暴露すると無効になることが判明した。これらの驚くべき知見は、カンナビノイド抽出物が少なくとも部分的に、AARを介してこの効果を発揮することを示唆している。
【0013】
このため、本開示によれば、カンナビノイドは、単一のカンナビノイドであっても、カンナビノイドの混合物であっても、AAR活性化因子(AARアゴニストまたはアロステリックモジュレータ)によって治療可能な疾患、障害または症状を治療するために使用され得る。以下、「病態」という用語は、上記疾患、障害または症状を集合的に示すために使用される。「治療」または「治療する」という用語は、本開示によれば、上記病態を有する対象にカンナビノイドを治療的に投与することを指すために本明細書で使用されている。そのような治療の特定のサブセットは、病態が、健康な対象(すなわち、上記病態を有すると診断されていない対象)のAARの発現と比較して、AARの発現の上昇と関連しているような対象の治療である。
【0014】
治療可能という用語は、特に、(i)上記病態、その生理学的兆候またはそれに関連する症状が、ピクリデノソンまたはナモデノソン(IB-MECAおよびCl-IB-MECAとしても科学文献でもそれぞれ知られている)などのAARのアゴニストなどのAAR活性化因子の投与により制御(典型的には減少)され得ること、(ii)そのような投与後の(医師の評価または患者自身の評価による)一般健康スコアの改善(例えば、関節リウマチ患者におけるACRスコアの改善、乾癬におけるPASIまたはPGAスコアの改善など)、または(iii)そのような投与により、治療された対象の生活の質の改善がもたらされることを意味している。カンナビノイドは、本開示によれば、AAR活性化因子で治療可能な病態の治療のために使用され、カンナビノイドによる治療は、AAR活性化因子の代替であるか、それに追加して行われる。
【0015】
このため、少なくとも1のカンナビノイドが、本開示によれば、AAR活性化因子として作用する。
【0016】
具体的には、本開示によれば、上記病態の治療に使用するための少なくとも1のカンナビノイドを含む製剤、そのような治療に使用するためのカンナビノイド、並びに、そのような治療のための方法が提供される。
【0017】
以下において、製剤の要素に言及する場合、本明細書に開示の使用または方法の要素を等しく規定するものとして理解されるべきであり、逆の場合も同様であり、本明細書に開示の方法に関する記述は、本明細書に開示の製剤を、等しく、そして必要な変更を加えて規定するものとみなされるべきである。
【0018】
本開示の文脈で使用される製剤は、少なくとも1のカンナビノイドを含む。製剤は、カンナビスオイル、カンナビス濃縮物、カンナビス抽出物、天然単離カンナビノイド、天然カンナビノイドの任意の化学誘導体または合成カンナビノイドを含むことができる。植物性カンナビノイド、すなわち大麻などの植物に由来するカンナビノイドは、本開示において使用されるカンナビノイドの具体例である。THC(テトラヒドロカンナビノール)またはCBD(カンナビジオール)およびそれらの誘導体を含む少なくとも113種類の既知の植物性カンナビノイドが存在する。
【0019】
カンナビノイドは、化学的に異なる化学クラス:THCまたはCBDに構造的に関連する古典的カンナビノイドと、アミノアルキルインドール、1,5-ジアリールピラゾール、キノリンおよびアリールスルホンアミドを含む非古典的カンナビノイド(カンナビミメティクス)と、その他とに分類することが可能である。
【0020】
本開示において潜在的に使用され得る植物性カンナビノイドの非限定的な例としては、テトラヒドロカンナビノール酸(THCA)、テトラヒドロカンナビノール(THC)、カンナビジオール酸(CBDA)、カンナビジオール(CBD)、カンナビノール(CBN)、カンナビゲロール(CBG)、カンナビクロメン(CBC)、カンナビシクロール(CBL)、カンナビバリン(CBV)、カンナビクロメバリン(CBCV)、カンナビゲロバリン(CBGV)、カンナビゲロールモノメチルエーテル(CBGM)、カンナビエルソイン(CBE)、カンナビシトラン(CBT)、テトラヒドロナビバリン(THCV)およびカンナビディバリン(CBDV)からなる群のなかから選択されるものが挙げられる。また、それらの植物性カンナビノイドの合成誘導体も、本開示における使用が企図されている。カンナビノイドは、以下に説明するように、それらのAARアゴニスト活性に基づいて選択され得る。
【0021】
本開示によれば、製剤は、上述した非限定的な例のカンナビノイドのうちのn種のカンナビノイド(nは、1、2、3、4、5、6、7、8、9などの整数)の1つまたは任意の組合せを含むことができる。
【0022】
本開示の文脈において、植物性カンナビノイド、または植物由来のカンナビノイド(1または複数)に言及する場合、植物抽出物、植物濃縮物、植物分離物、植物由来オイルおよび/または植物材料から分離された1または複数のカンナビノイド化合物を含む植物由来材料の何れか一つであると理解されるべきであり、植物は、典型的には(排他的ではないが)大麻植物である。CBDおよびTHCは、精製されたものであれ、合成のものであれ、あるいは植物由来の材料の形態で提供されたものであれ、植物性カンナビノイドの一例である。
【0023】
本開示の製剤は、AAR活性化因子、例えばピクリデノソンまたはナモデノソンなどのAARアゴニストによって治療可能な病態の治療のために使用される。治療に使用するカンナビノイドの選択は、適切なin vitroまたは動物疾患モデルで実施される実験を通じて、または適切なヒト臨床実験の実施を通じて行うことができる。カンナビノイドは、そのような実験で比較対象として使用されるAAR活性化因子で達成される効果と同様の効果を有するものについて、そのような実験でスクリーニングすることができる。選択したカンナビノイドがAARを介して作用することを確実にするために、その受容体のアンタゴニストを用いて、カンナビノイドによって発揮される効果が、当該アンタゴニストによって減少するか、あるいは消滅するか否かを調べることができる。AARに対するアンタゴニストの有無による効果を比較することにより、AARを介して特異的にまたは少なくとも主に発揮される効果を有するカンナビノイドを選択することができる。
【0024】
本開示の一実施形態において、使用されるカンナビノイドは、主にAARを介してその効果を発揮するものであり、特に、AAR活性化因子作用を有し、この受容体に結合して受容体を活性化することができるものである。しかしながら、この実施形態において使用される少なくとも1のカンナビノイドは、主にAAR活性化因子作用を通じてその効果を発揮するが、カンナビノイドは、例えば、同じ細胞または他の細胞の他の受容体を介して発揮される、平行効果を有する可能性があることに留意されたい。例えば、本実施形態において使用されるカンナビノイドは、AAR受容体を介して発揮される、病態の疾患症状を軽減する効果、例えば、抗炎症効果または抗癌効果を有し、痛みを軽減する効果、対象の一般的健康状態に対する効果、または別の一般的効果も平行して有する場合がある。
【0025】
AR活性化因子またはAAR活性化因子作用は、AARに直接(例えば、アデノシン結合部位を介して)または間接的に(例えば、アロステリック結合部位を介して)作用して、それにより、この受容体の完全または部分的な活性化を含む、AARを活性化する作用を示す。このため、AAR活性化因子作用は、(i)受容体のアデノシン結合部位を介したアゴニスト活性化により、受容体の直接活性化を誘導することによる、または(ii)アロステリック結合部位を介した受容体のアロステリック調節による、AARの活性の増強である。
【0026】
AR活性化因子作用は、上述したように、この受容体のアンタゴニストによって減少し、時には完全に除去されることがある。これは、当該作用の典型的な特徴の1つであり、AARを発現する細胞を用いてin vitroで試験することができる。
【0027】
本開示に係るカンナビノイドによって治療可能な病態のサブセットは、疾患または障害に罹患していない対象の同じ系統の細胞または組織と比較して、細胞または組織におけるAARの発現のレベルが上昇しているものである。そのような上昇したレベルは、病態に罹患している対象の上記細胞または組織におけるAARの平均発現レベルであってもよく、これは、当該病態に罹患していない対象の同じ系統の細胞または組織におけるAARの平均発現レベルの少なくとも1.5倍である。病態は、AAR発現レベルのこのような平均的な増加によって治療対象として選択され得るが、患者は、AARレベルの治療前の検査に基づいて、本開示に係るカンナビノイドベースの治療の受け手として個別に選択されるものであってもよく、この受容体の発現レベルが当該病態に罹患していない対象のそれに対して上昇している対象のみを選択することができる。AARの上昇した発現レベルは、当該病態に罹患していない対象の少なくとも1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、または少なくとも2倍であってよいが、場合によっては、当該病態に罹患していない対象の少なくとも2.5または少なくとも3倍であってもよい。
【0028】
一実施形態では、AAR発現の上昇を示す細胞または組織は、罹患器官の細胞または組織、または疾患に関連する異常を有する組織であり、例えば、癌細胞、炎症細胞、免疫系の細胞、脂肪細胞、肝細胞などである。いくつかの病態において、上昇したAARの発現は、他の細胞、例えば、循環中の血液細胞、例えば、単核細胞であってもよい。
【0029】
本開示において治療可能な病態は、例えば、癌、炎症性疾患、NAFLDなどの肝疾患、または肥満である。
【0030】
少なくとも1のカンナビノイドを含む製剤は、in vitroアッセイにおいて、非常に低い濃度、たとえpMの範囲であっても有効であることが見出されている。このため、投与の形態に関係なく、いくつかの例によれば、製剤中の少なくとも1のカンナビノイドの濃度は、投与後、少なくとも1のカンナビノイドのピーク血中濃度を、0.01~100nMの範囲内、場合によっては0.01~50nMの範囲内、場合によっては50nM未満、場合によっては0.1pM~10nM、場合によっては10pM~1nM、場合によっては1pM~20nM、または1pM~100nMの範囲内で誘導するのに十分である。
【0031】
本開示の一実施形態によれば、少なくとも1のカンナビノイドが、ピクリデノソンまたはナモデノソンなどのAARアゴニストと組み合わせて対象に投与される。そのような組合せは、AARアゴニストが、例えば、同じ製剤内で少なくとも1のカンナビノイドと同時に投与されること、または同じ治療レジメント内で対象に投与され、例えば、一方が1日1回、2回または3回投与され、他方が異なる時間に1日1回、2回または3回投与されることを意味する。
【0032】
少なくとも1のカンナビノイドの経口投与は、1つの例示的な投与形態である。別の投与形態は非経口である。このため、少なくとも1のカンナビノイドは、それぞれ、経口および非経口の送達に適した投薬形態で製剤化され得る。送達形態の他の例は、吸入、口腔粘膜または舌下投与、局所投与または直腸投与によるものである。
【0033】
本開示に係る治療は、1日、数日または数週間の短期間であってもよく、あるいは数ヶ月から数年の長期間に渡る長期治療であってもよい。長期治療は、(1回の投与とは対照的に)長期間にわたって少なくとも1のカンナビノイドを日常的に投与することを含むと理解されるべきである。
【0034】
本開示に係る治療可能な病態には、例えば、炎症、癌、例えば肝臓癌、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)または他の肝臓疾患、肥満、線維症、例えば肝臓線維症、神経因性疼痛が含まれる。
【0035】
AR活性化因子作用は、AARアゴニスト作用またはAARアロステリックモジュレータ作用を包含する。
【0036】
ARアゴニスト作用は、この受容体のアデノシン結合部位に結合することにより発揮され、それによってAアデノシン受容体を完全にまたは部分的に活性化する作用を意味する。
【0037】
ARアロステリックモジュレータ作用に言及する場合、受容体のアロステリック部位(内因性リガンドまたはそのアゴニストの結合部位とは異なる場合がある)での結合を通じて発揮され、それによって受容体の活性に正の調節を与える作用を意味する。そのような調節は、(i)受容体のアデノシン結合部位(オルソステリック結合部位)へのアデノシンまたはAARアゴニストの結合に対する親和性の増加、および/または(ii)オルソステリック結合部位へのアデノシンまたはAARリガンドの解離速度の低下であり得る。
【0038】
また、本明細書に開示の方法は、本発明によれば、対象が治療に適していることを判定するために、治療される疾患または症状の存在を示す組織または細胞におけるAARの発現レベルに関する情報を取得するステップを含むことができる。このため、少なくとも1のカンナビノイドの投与に先立って、対象または対象の治療に責任を負う医師は、対象の組織または細胞におけるAARの発現レベルを示すデータを知っているか/または所有しており、発現レベルが予め定められた基準レベルを超えている場合、すなわち、予め定められたパラメータによって治療を必要とする上昇したレベルであると考えられる場合にのみ、対象は少なくとも1のカンナビノイドの投与を受ける。
【0039】
本明細書で使用される場合、「a」、「an」および「the」という形式は、文脈が明らかにそうでないことを示さない限り、単数および複数の言及を含む。例えば、「カンナビノイド」というは、1または複数のカンナビノイドを含む。
【0040】
さらに、本明細書で使用される場合、「含む」という用語は、組成物が記載の活性剤、すなわちカンナビノイドを含むが、生理学的に許容される担体および賦形剤、あるいは他の活性剤などの他の要素を除外しないことを意味することが意図される。
【0041】
さらに、例えば、有効成分として少なくとも1のカンナビノイドを含む製剤を構成する要素の量または範囲に言及する場合、すべての数値は、記載の値から最大20%、場合によっては最大10%、(+)または(-)に変動する近似値である。すべての数値表記の前には「約」という語があることを、常に明示されていなくても、理解されたい。
【0042】
実施形態
以下の番号付けされた段落に規定されるものは、本明細書における開示の実施形態である。これらの実施形態は、上記の開示を追加することを意図しており、限定することを意図していない。
【0043】
1.A3アデノシン受容体(AAR)のアゴニストによって治療可能な疾患または障害を治療するための製剤であって、前記疾患または障害を治療または改善するのに有効な量の少なくとも1のカンナビノイドを含む、製剤。
【0044】
2.前記カンナビノイドが、主にAARを介してその効果を発揮する、実施形態1に記載の製剤。
【0045】
3.前記カンナビノイドが、AARのアンタゴニストによって低減される前記疾患または障害に対する生理学的効果または治療効果を有する、実施形態1または2に記載の製剤。
【0046】
4.標的細胞に対して発揮される効果が、AARのアンタゴニストによって低減される、実施形態1~3の何れか1つに記載の製剤。
【0047】
5.前記カンナビノイドが、AARのアンタゴニストによって低減されるin vitroの細胞に対する生理学的効果を発揮する、実施形態1~4の何れか1つに記載の製剤。
【0048】
6.少なくとも1のカンナビノイドが、AAR活性化因子作用を有する、実施形態1~5の何れか1つに記載の製剤。
【0049】
7.AAR活性化因子作用が、受容体のオルソステリックまたはアロステリック結合部位を介して発揮される、実施形態6に記載の製剤。
【0050】
8.少なくとも1のカンナビノイドが、AARアゴニスト活性を有する、実施形態7に記載の製剤。
【0051】
9.疾患または障害が、当該疾患または障害に罹患していない対象の同じ系統の細胞または組織と比較した、細胞または組織におけるAARの発現レベルの上昇と関連する、実施形態1~8の何れか1つに記載の製剤。
【0052】
10.上昇したレベルが、前記疾患または症状を患っている対象の前記細胞または組織におけるAARの平均発現レベルであり、前記疾患または症状を患っていない対象の同じ系統の細胞または組織におけるAARの平均発現レベルの少なくとも1.5倍である、実施態様9に記載の製剤。
【0053】
11.発現の上昇を示す細胞または組織が、罹患器官の細胞または組織、または疾患に関連する異常を有する組織である、実施態様10または11に記載の製剤。
【0054】
12.罹患細胞が、癌細胞、炎症細胞、免疫系の細胞、脂肪細胞、肝細胞である、実施態様11に記載の製剤。
【0055】
13.疾患または障害が、癌、炎症性疾患、NAFLDなどの肝疾患または肥満である、実施形態1~12の何れか1つに記載の製剤。
【0056】
14.(i)テトラヒドロカンナビノール酸(THCA)、テトラヒドロカンナビノール(THC)、カンナビジオール酸(CBDA)、カンナビジオール(CBD)、カンナビノール(CBN)、カンナビゲロール(CBG)、カンナビクロメン(CBC)、テトラヒドロカンナビバリン(THCV)、カンナビディバリン(CBDV)と、(ii)(i)のカンナビノイドの化学誘導体とからなる群のなかから選択される少なくとも1のカンナビノイドを含む、実施形態1~13の何れか1つに記載の製剤。
【0057】
15.大麻植物の抽出物を含む、実施形態1~14の何れか1つに記載の製剤。
【0058】
16.前記少なくとも1のカンナビノイドが、投与後、0.01~100ナノモルの範囲内の前記少なくとも1のカンナビノイドの血中濃度を誘導するのに十分な量である、実施形態1~15までの何れか1つに記載の製剤。
【0059】
17.前記少なくとも1のカンナビノイドが、0.01~1ナノモルの前記少なくとも1のカンナビノイドの血中濃度を誘導するのに十分な量である、実施形態1~16の何れか1つに記載の製剤。
【0060】
18.AAR活性化因子も含み、例えば、受容体のオルソステリックまたはアロステリック結合部位を通じて受容体に結合して受容体を活性化する、実施形態1~17の何れか1つに記載の製剤。
【0061】
19.AAR活性化因子が、AARアゴニスト、例えば、ピクリデノソンまたはナモデノソンである、実施形態18に記載の製剤。
【0062】
20.経口送達に適した剤形である、実施形態1~19の何れか1つに記載の製剤。
【0063】
21.A3アデノシン受容体(AAR)のアゴニストによって治療可能な疾患または障害を治療するためのカンナビノイド。
【0064】
22.主にAARを介してその効果を発揮する、実施形態21に記載のカンナビノイド。
【0065】
23.AARのアンタゴニストによって低減される、前記疾患または障害に対する生理学的効果または治療効果を有する、実施形態21または22に記載のカンナビノイド。
【0066】
24.AARのアンタゴニストによって低減される標的細胞に対する効果を有する、実施形態21~23の何れか1つに記載のカンナビノイド。
【0067】
25.AARのアンタゴニストによって低減されるin vitroでの細胞に対する生理学的効果を有する、実施形態21~24の何れか1つに記載のカンナビノイド。
【0068】
26.AAR活性化因子作用を有する、実施形態21~25の何れか1つに記載のカンナビノイド。
【0069】
27.AAR活性化因子作用が、受容体のオルソステリックまたはアロステリック結合部位を介して発揮される、実施形態26に記載のカンナビノイド。
【0070】
28.AARアゴニスト活性を有する、実施態様27に記載のカンナビノイド。
【0071】
29.疾患または障害が、当該疾患または障害に罹患していない対象の同じ系統の細胞または組織と比較した、細胞または組織におけるAARの発現レベルの上昇と関連している、実施形態21~28の何れか1つに記載のカンナビノイド。
【0072】
30.上昇したレベルが、前記疾患または症状を患っている対象の前記細胞または組織におけるAARの平均発現レベルであり、前記疾患または症状を患っていない対象の同じ系統の細胞または組織におけるAARの平均発現レベルの少なくとも1.5倍である、実施形態29のカンナビノイド。
【0073】
31.発現の上昇を示す細胞または組織が、罹患器官の細胞または組織、または疾患に関連する異常を有する組織である、実施態様29または30に記載のカンナビノイド。
【0074】
32.罹患細胞が、癌細胞、炎症細胞、免疫系の細胞、脂肪細胞、肝細胞である、実施態様31に記載のカンナビノイド。
【0075】
33.疾患または障害が、癌、炎症性疾患、NAFLDなどの肝疾患、または肥満である、実施形態21~32の何れか1つに記載のカンナビノイド。
【0076】
34.(i)テトラヒドロカンナビノール酸(THCA)、テトラヒドロカンナビノール(THC)、カンナビジオール酸(CBDA)、カンナビジオール(CBD)、カンナビノール(CBN)、カンナビゲロール(CBG)、カンナビクロメン(CBC)、テトラヒドロカンナビバリン(THCV)、カンナビディバリン(CBDV)と、(ii)(i)のカンナビノイドの化学誘導体とからなる群から選択される少なくとも1のカンナビノイドを含む、実施形態21~33の何れか1つに記載のカンナビノイド。
【0077】
35.大麻植物の抽出物と組み合わせて治療する形態である、実施形態21~34の何れか1つに記載のカンナビノイド。
【0078】
36.投与後、0.01~100ナノモルの範囲内の前記少なくとも1のカンナビノイドの血中濃度を誘導するのに十分な量の、実施形態21~35の何れか1つに記載のカンナビノイド。
【0079】
37.0.01~1ナノモルの前記少なくとも1のカンナビノイドの血中濃度を誘導するのに十分な量の、実施形態21~36の何れか1つに記載のカンナビノイド。
【0080】
38.AAR活性化因子作用を発揮し、例えば、受容体のオルソステリックまたはアロステリック結合部位を通じて受容体に結合して受容体を活性化する、実施形態21~37の何れか1つに記載のカンナビノイド。
【0081】
39.AAR活性化因子が、AARアゴニスト、例えば、ピクリデノソンまたはナモデノソンである、実施形態38に記載のカンナビノイド。
【0082】
40.経口送達に適した剤形である、実施形態18~33の何れか1つに記載のカンナビノイド。
【0083】
41.A3アデノシン受容体(AAR)のアゴニストによって治療可能な疾患または障害の治療方法であって、前記疾患または症状を有する対象に、前記疾患または障害、または前記疾患または障害の結果として対象によって示される症状を改善するのに有効な量の少なくとも1のカンナビノイドを投与することを含む、方法。
【0084】
42.前記カンナビノイドが、主にAARを介してその効果を発揮する、実施形態35に記載の方法。
【0085】
43.前記カンナビノイドが、AARのアンタゴニストによって低減される前記疾患または障害に対する生理学的効果または治療効果を有する、実施形態35または36に記載の方法。
【0086】
44.標的細胞に発揮される効果が、AARのアンタゴニストによって低減される、実施形態35~37の何れか1つに記載の方法。
【0087】
45.前記カンナビノイドが、AARのアンタゴニストによって低減されるin vitroでの細胞への生理学的効果を発揮する、実施形態35~38の何れか1つに記載の方法。
【0088】
46.少なくとも1のカンナビノイドが、AAR活性化因子作用を有する、実施形態41~45の何れか1つに記載の方法。
【0089】
47.AAR活性化因子作用が、受容体のオルソステリックまたはアロステリック結合部位を介して発揮される、実施形態46に記載の製剤。
【0090】
48.少なくとも1のカンナビノイドが、AARアゴニスト活性を有する、実施態様47に記載の製剤。
【0091】
49.疾患または障害が、当該疾患または障害に罹患していない対象の同じ系統の細胞または組織と比較した、細胞または組織におけるAARの発現の上昇したレベルと関連する、実施形態41~48の何れか1つに記載の方法。
【0092】
50.前記上昇したレベルが、前記疾患または症状を患っている対象の前記細胞または組織におけるAARの平均発現レベルであり、前記疾患または症状を患っていない対象の同じ系統の細胞または組織におけるAARの平均発現レベルの少なくとも1.5倍である、実施態様49に記載の方法。
【0093】
51.発現の上昇を示す細胞または組織が、罹患器官の細胞または組織、または疾患に関連する異常を有する組織である、実施形態41または50に記載の方法。
【0094】
52.罹患細胞が、癌細胞、炎症細胞、免疫系の細胞、脂肪細胞、肝細胞である、実施態様51に記載の方法。
【0095】
53.疾患または障害が、癌、炎症性疾患、NAFLDなどの肝疾患または肥満である、実施形態41~52の何れか1つに記載の方法。
【0096】
54.(i)テトラヒドロカンナビノール酸(THCA)、テトラヒドロカンナビノール(THC)、カンナビジオール酸(CBDA)、カンナビジオール(CBD)、カンナビノール(CBN)、カンナビゲロール(CBG)、カンナビクロメン(CBC)、テトラヒドロカンナビバリン(THCV)、カンナビディバリン(CBDV)と、(ii)(i)のカンナビノイドの化学誘導体とからなる群のなかから選択される少なくとも1のカンナビノイドを含む、実施形態41~53の何れか1つに記載の方法。
【0097】
55.大麻植物の抽出物を含む、実施形態41~54の何れか1つに記載の方法。
【0098】
56.前記少なくとも1のカンナビノイドが、投与後、0.01~100ナノモルの範囲内の前記少なくとも1のカンナビノイドの血中濃度を誘導するのに十分な量である、実施形態41~55の何れか1つに記載の方法。
【0099】
57.前記少なくとも1のカンナビノイドが、0.01~1ナノモルの前記少なくとも1のカンナビノイドの血中濃度を誘導するのに十分な量である、実施形態41~56の何れか1つに記載の方法。
【0100】
58.受容体のオルソステリックまたはアロステリック結合部位を通じて受容体に結合して受容体を活性化するAAR活性化因子を対象に投与することも含む、実施形態41~57の1つに記載の方法。
【0101】
59.AAR活性化因子が、AARアゴニスト、例えば、ピクリデノソンまたはナモデノソンである、実施形態58に記載の方法。
【0102】
60.前記カンナビノイドが経口投与される、実施形態41~59の何れか1つに記載の方法。
【0103】
61.対象の疾患または障害を治療する方法であって、対象の組織または細胞におけるAARの発現レベルに関するデータを取得するステップと、前記データが、前記疾患または症状を患っていない対象の同じ系統の細胞または組織におけるAARの発現レベルと比較して発現レベルが上昇していることを示す場合に、前記疾患または症状の改善を達成するために有効な量の少なくとも1のカンナビノイドを対象に投与するステップとを含む、方法。
【0104】
62.前記カンナビノイドが、主にAARを介してその効果を発揮する、実施態様61に記載の方法。
【0105】
63.前記カンナビノイドが、AARのアンタゴニストによって低減される前記疾患または障害に対する生理学的効果または治療効果を有する、実施形態61または62に記載の方法。
【0106】
64.標的細胞に発揮される効果が、AARのアンタゴニストによって低減される、実施形態61~54の何れか1つに記載の方法。
【0107】
65.前記カンナビノイドが、AARのアンタゴニストによって低減されるin vitroでの細胞への生理学的効果を発揮する、実施形態61~64の何れか1つに記載の方法。
【0108】
66.少なくとも1のカンナビノイドが、AAR活性化因子作用を有する、実施形態61~65の何れか1つに記載の方法。
【0109】
67.AAR活性化因子作用が、受容体のオルソステリックまたはアロステリック結合部位を介して発揮される、実施形態66に記載の製剤。
【0110】
68.少なくとも1のカンナビノイドが、AARアゴニスト活性を有する、実施形態67に記載の製剤。
【0111】
69.上昇したレベルは、前記疾患または症状を患っている対象の前記細胞または組織におけるAARの平均発現レベルであり、前記疾患または症状を患っていない対象の同じ系統の細胞または組織におけるAARの平均発現レベルの少なくとも1.5倍である、実施形態61~68の何れか1つに記載の方法。
【0112】
70.発現の上昇を示す細胞または組織が、罹患器官の細胞または組織、または疾患に関連する異常を有する組織である、実施形態61~69の何れか1つに記載の方法。
【0113】
71.罹患細胞が、癌細胞、炎症細胞、免疫系の細胞、脂肪細胞、肝細胞である、実施態様70に記載の方法。
【0114】
72.疾患または障害が、癌、炎症性疾患、NAFLDなどの肝疾患または肥満である、実施形態61~71の何れか1つに記載の方法。
【0115】
73.(i)テトラヒドロカンナビノール酸(THCA)、テトラヒドロカンナビノール(THC)、カンナビジオール酸(CBDA)、カンナビジオール(CBD)、カンナビノール(CBN)、カンナビゲロール(CBG)、カンナビクロメン(CBC)、テトラヒドロカンナビバリン(THCV)、カンナビディバリン(CBDV)と、(ii)(i)のカンナビノイドの化学誘導体とからなる群のなかから選択される少なくとも1のカンナビノイドを含む、実施形態61~72の何れか1つに記載の方法。
【0116】
74.大麻植物の抽出物を含む、実施形態61~73の何れか1つに記載の方法。
【0117】
75.前記少なくとも1のカンナビノイドが、投与後、0.01~100ナノモルの範囲内の前記少なくとも1のカンナビノイドの血中濃度を誘導するのに十分な量である、実施形態61~74の何れか1つに記載の方法。
【0118】
76.前記少なくとも1のカンナビノイドが、0.01~1ナノモルの前記少なくとも1のカンナビノイドの血中濃度を誘導するのに十分な量である、実施形態61~75の何れか1つに記載の方法。
【0119】
77.受容体のオルソステリックまたはアロステリック結合部位を通じて受容体に結合して受容体を活性化するAAR活性化因子を対象に投与することも含む、実施形態61~76のうちの1つに記載の方法。
【0120】
78.AAR活性化因子が、AARアゴニスト、例えば、ピクリデノソンまたはナモデノソンである、実施形態77に記載の方法。
【0121】
79.前記カンナビノイドが経口投与される、実施形態61~78の何れか1つに記載の方法。
【0122】
非限定的な実施例の詳細な説明
次に、本明細書の教示に従って実施された実験の以下の説明において本開示を例示する。これらの実施例は、限定ではなく、例示の性質であることが意図されていることを理解されたい。上記の教示に鑑みて、明らかに、これらの実施例の多くの修正および変形が可能である。
【0123】
CBD/THC抽出物によるヒト肝細胞癌およびヒト肝星細胞の増殖の阻害
材料および方法
細胞の培養:Hep-3B肝細胞癌細胞およびLX-2肝星細胞を、MeM-Eagle培地で増殖させた。すべての培地には、ペニシリン(10ユニット/ml)、ストレプトマイシン(10μg/ml)、L-グルタミン(2mM)および10%ウシ胎児血清(FBS)が含まれていた。細胞は、37℃、5%のCOのインキュベータにおいてT-75フラスコ内で維持し、週に2回、新しく調製した培地に移した。すべての実験において、血清飢餓細胞を使用した。FBSは、18時間培養から省き、実験は、37℃、5%のCOのインキュベータにおいて、1%のFBSを添加したDMEM培地中の細胞の単層で実施した。異なる比率(C15/T3、C3/T15)のCBD/THCを100pM、1、10、100nMの濃度で培養系に導入した(元のオイルからDMSOで100mMの原液を調製し、さらに培養液で希釈して実験系でnM濃度に到達するようにした。)
【0124】
H-チミジン取り込みアッセイ:細胞増殖を評価するために、H-チミジン取り込みアッセイを使用した。96ウェルプレートで細胞(5000細胞/ウェル)を異なる濃度のT3/C15、T15/C3とともに、48/72時間インキュベートした。各ウェルを1μCiH-チミジンで最後の24時間パルスした。細胞を採取し、LKB液体シンチレーションカウンタ(LKB、米国ニュージャージー州ピスカタウェイ)でH-チミジンの取り込みを測定した。これらの実験を、少なくとも4回繰り返した。
【0125】
ウェスタンブロット分析:細胞株からのタンパク質抽出物を利用した。プロテアーゼホスファターゼ阻害剤カクテル(Thermo scientific;1861281)を含む氷冷したRIPA溶解バッファ(Thermo scientific;89900)でサンプルを均質化した。7500gで10分間の遠心分離により細胞残屑を除去した。上澄みをウェスタンブロット(WB)分析に利用した。タンパク質濃度は、NanoDrop(ThermoFisher Scientific、米国マサチューセッツ州)を用いて測定した。4~12%ポリアクリルアミドゲルを使用して、等量のサンプル(50μg)をSDS-PAGEによって分離した。分離したタンパク質を、ニトロセルロースメンブレン(Pall Corporation、米国フロリダ州)にエレクトロブロットした。メンブレンを5%ウシ血清アルブミンでブロッキングし、所望の一次抗体(Santa cruz;A3AR sc-13938,PI3K sc-1637,GSK-3β sc-9166,β-カテニン sc-7963,サイクリンD1 sc-8396,NF-κB sc-372,LEF-1 sc-374522,α-SMA sc-32251 およびβ-アクチン sc-47778 希釈1:1000)とともに4℃で24時間インキュベートした。次に、ブロットを洗浄し、二次抗体(Abcam;Mouse ab97020,Rabbit ab97048)とともに室温で1時間インキュベートした。BCIP/NBT発色キット(Promega、米国ウィスコンシン州マディソン)を用いてバンドを記録した。タンパク質発現の濃度測定は、β-アクチンに対して正規化し、対照に対する%として表した。
【0126】
結果
図1Aは、CBD/THC含有抽出物が、2つのカンナビノイドの比率に関係なく、ナノモル濃度で星細胞の増殖を抑制する効果があることを示している。
【0127】
図1Bおよび図1Cは、(pMおよびnM濃度における)CBD/THC含有抽出物の阻害効果が、AARアンタゴニストMRS1523を添加すると無効化されることを示しており、抽出物の効果がアゴニストとして作用することを示している。
【0128】
また、図2は、CBD/THCを異なる比率(C15/T3、C3/T15)で含むカンナビノイド抽出物が、10nM濃度でヒトHep-3b肝細胞癌細胞の増殖抑制に有効であることを示している。
【0129】
図3は、CBD/THC含有抽出物、特にC15/C3がAアデノシン受容体のレベルを低下させることを示しており、それによりC15/T3がAARを介して抗増殖効果を誘導することを実証している。また、C15/T3で処理すると、追加の細胞シグナル伝達分子も、pAKT、NF-κBおよびβ-カテニンとともに、ダウンレギュレートされ、NF-κBおよびWnt/β-カテニン経路の両方が、カンナビノイドによる抗癌および肝抗線維化効果の媒介に関与していることが示された。
図1
図2
図3
【国際調査報告】