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特表2023-510074細菌の選択的溶解のためのキメラタンパク質
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-13
(54)【発明の名称】細菌の選択的溶解のためのキメラタンパク質
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20230306BHJP
   C12N 9/50 20060101ALI20230306BHJP
   C12N 15/57 20060101ALI20230306BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230306BHJP
   C12N 1/11 20060101ALI20230306BHJP
   C12N 1/13 20060101ALI20230306BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230306BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230306BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230306BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230306BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20230306BHJP
   C12P 21/00 20060101ALI20230306BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20230306BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20230306BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20230306BHJP
   A61L 15/32 20060101ALI20230306BHJP
   A61K 8/64 20060101ALI20230306BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C12N9/50 ZNA
C12N15/57
C12N15/63 Z
C12N1/11
C12N1/13
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C07K19/00
C12P21/00 C
C12N15/11 Z
A61K38/16
A61P31/04
A61L15/32 310
A61K8/64
A61Q19/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022525885
(86)(22)【出願日】2020-10-30
(85)【翻訳文提出日】2022-07-01
(86)【国際出願番号】 IN2020050918
(87)【国際公開番号】W WO2021084558
(87)【国際公開日】2021-05-06
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】520215072
【氏名又は名称】バクトクリア ホールディングス ピーティーイー エルティーディー.
(71)【出願人】
【識別番号】520215083
【氏名又は名称】アンバディ、アニシャ
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アンバディ、アニシャ
(72)【発明者】
【氏名】ポール、ヴィヴェック ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】サラヴァナン、アール.サンジーヴ
【テーマコード(参考)】
4B050
4B064
4B065
4C081
4C083
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4B050CC05
4B050FF11E
4B050LL01
4B064AG01
4B064AG20
4B064CA19
4B064CA21
4B064CC24
4B064CE11
4B064DA02
4B064DA03
4B065AA26X
4B065AB01
4B065BA02
4B065BD14
4B065BD16
4B065CA24
4B065CA33
4B065CA44
4C081AA12
4C081CD11
4C083AD411
4C083AD412
4C083CC02
4C083DD47
4C083EE13
4C083FF01
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA21
4C084BA22
4C084MA13
4C084MA16
4C084MA28
4C084MA32
4C084MA63
4C084NA14
4C084ZB35
4H045AA10
4H045BA09
4H045DA89
4H045EA29
(57)【要約】
本発明は、特定の標的細菌種の選択的抑制に有用であり、密接に関係する非標的細菌種にほとんど又は全く影響を与えない、キメラエクトリシンを提供する。また、特定の標的細菌種の選択的抑制のための組成物及び方法も提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2、6、又は8のアミノ酸配列を含むポリペプチド。
【請求項2】
配列番号2、6、又は8のアミノ酸配列からなる請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
配列番号2のアミノ酸配列を含むか、配列番号2のアミノ酸配列からなる、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項4】
配列番号6のアミノ酸配列を含むか、配列番号6のアミノ酸配列からなる、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項5】
配列番号8のアミノ酸配列を含むか、配列番号8のアミノ酸配列からなる、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を含む核酸。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を含む発現カセット。
【請求項8】
請求項7に記載の発現カセットを含むベクター。
【請求項9】
請求項7に記載の発現カセットまたは請求項8に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項10】
請求項8の発現カセット又は請求項8のベクターによりコードされるポリペプチドの発現を許容する条件下で、請求項9の宿主細胞を培養することを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のポリペプチドを組換え的に製造する方法。
【請求項11】
請求項1~5のいずれか1項に記載のポリペプチドと生理学的に許容可能な添加剤とを含む組成物。
【請求項12】
局所適用のために製剤化される、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
配列番号2、4、6、又は8のアミノ酸配列を含むポリペプチドの有効量を、S.aureus又はS.hominisと、S.epidermidisと、が存在する部位に適用することを含む、S.epidermidisの増殖を抑制せずにS.aureus及び/又はS.hominisの増殖を選択的に抑制する方法。
【請求項14】
前記ポリペプチドが患者の皮膚に適用される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ポリペプチドが、配列番号2を含むか、配列番号2からなる、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記ポリペプチドが、配列番号4を含むか、配列番号4からなる、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記ポリペプチドが、配列番号6を含むか、配列番号6からなる、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記ポリペプチドが、配列番号8を含むか、配列番号8からなる、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記ポリペプチドが患者の皮膚に適用される、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
前記ポリペプチドが、ペースト、クリーム、ローション、軟膏、スプレー、パッチ/包帯、又は創傷被覆材の形態で適用される、請求項13に記載の方法。
【請求項21】
配列番号2、4、6、又は8のアミノ酸配列を含むか、配列番号2、4、6、又は8のアミノ酸配列からなるポリペプチドの、S.epidermidisの増殖を抑制せずにS.aureus及び/又はS.hominisの増殖を選択的に抑制するための使用。
【請求項22】
配列番号2のアミノ酸配列を含むか、配列番号2のアミノ酸配列からなるポリペプチドの、S.epidermidisの増殖を抑制せずにS.aureus及び/又はS.hominisの増殖を選択的に抑制するための使用。
【請求項23】
配列番号4のアミノ酸配列を含むか、配列番号4のアミノ酸配列からなるポリペプチドの、S.epidermidisの増殖を抑制せずにS.aureus及び/又はS.hominisの増殖を選択的に抑制するための使用。
【請求項24】
配列番号6のアミノ酸配列を含むか、配列番号6のアミノ酸配列からなるポリペプチドの、S.epidermidisの増殖を抑制せずにS.aureus及び/又はS.hominisの増殖を選択的に抑制するための使用。
【請求項25】
配列番号8のアミノ酸配列を含むか、配列番号8のアミノ酸配列からなるポリペプチドの、S.epidermidisの増殖を抑制せずにS.aureus及び/又はS.hominisの増殖を選択的に抑制するための使用。
【請求項26】
配列番号2、4、6、又は8のアミノ酸配列を含むか、配列番号2、4、6、又は8のアミノ酸配列からなるポリペプチドの有効量を含有する組成物を含む第1の容器を含む、S.epidermidisの増殖を抑制せずにS.aureus及び/又はS.hominisの増殖を選択的に抑制するためのキット。
【請求項27】
前記ポリペプチドが配列番号2のアミノ酸配列を含むか、配列番号2のアミノ酸配列からなる、請求項26に記載のキット。
【請求項28】
前記ポリペプチドが配列番号4のアミノ酸配列を含むか、配列番号4のアミノ酸配列からなる、請求項26に記載のキット。
【請求項29】
前記ポリペプチドが配列番号6のアミノ酸配列を含むか、配列番号6のアミノ酸配列からなる、請求項26に記載のキット。
【請求項30】
前記ポリペプチドが配列番号8のアミノ酸配列を含むか、配列番号8のアミノ酸配列からなる、請求項26に記載のキット。
【請求項31】
前記組成物が局所適用のために製剤化される、請求項26に記載のキット。
【請求項32】
スキンケア製品を含む第2の容器をさらに含む、請求項26に記載のキット。
【請求項33】
取扱説明書をさらに含む、請求項26に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
国際公開第2007/130655号に最初に開示されたように、ファージ由来のキメラエクトリシン(ectolysin)は、コアグラーゼ陽性Staphylococcus aureusや他のコアグラーゼ陰性スタフィロコッカス(CoNS)を含む広範なスタフィロコッカスのファミリーのメンバーを殺菌する広範なスペクトルの抗スタフィロコッカスタンパク質として作用する。国際公開第2007/130655号に詳細に記載されているP128と呼ばれるキメラタンパク質は、この性質を有する例示的なエクトリシンである。スタフィロコッカス種(Staphylococcus spp.)の細菌、特にCoNSは、医療機器にコロニーを形成する能力があり、許容される条件下では深刻な血流感染を引き起こす病原体としてふるまう。P128の広範な抗スタフィロコッカス特性は、これらの細菌群により引き起こされる全身感染症の治療に特に有用である。
【0002】
ヒトマイクロバイオームの役割の認識の高まりによって、健康なマイクロバイオームに最小限の影響しか及ぼさない化学物質/抗菌剤の探索が進められてきた。これは、正常な皮膚マイクロバイオーム、特に、ディスバイオーシスを予防するためにS.epidermidisなどの有益な皮膚フローラを維持し、S.aureusなどの問題のある細菌のみを選択的に排除することが有利である皮膚適応症の局所適用に最もよく例示される。特に、S.epidermidisは、S.aureusのコロニー形成を防ぐだけでなく、損傷後の炎症を軽減し、皮膚のT細胞の発達を促進し、宿主の抗菌ペプチドの発現を促進することにより、皮膚の免疫機能に役立つ、皮膚マイクロバイオームの非常に重要なメンバーである。したがって、有益なスタフィロコッカスを混乱させることなく問題のある細菌を除去するための、皮膚適用としての使用のための標的化医薬には高い価値がある。
【0003】
本発明者らは、触媒システインヒスチジン依存性アミノヒドロラーゼ/ペプチダーゼ(CHAP)ドメイン及びリゾスタフィンからの標的化Sh3bドメインを有するP128の変異体を含む、キメラ抗スタフィロコッカスリシン(溶解素;lysin)のライブラリーを構築した。これらの機能ドメインは両方とも抗菌活性に必要であり、ここで説明するすべてのバリアントで保持されている。選択的リシンを見つけるための最初のステップは、スクリーニングアッセイを開発することである。このアッセイを使用して、本発明者らは、ライブラリー中の病原体のみに選択的であるリシンをスクリーニングした。したがって、本発明は、特定の細菌種、特にスタフィロコッカス属の細菌種を、他の密接に関連する細菌種に重大な悪影響を与えることなく選択的に抑制することを可能にする新規の組成物及び方法を提供する。
【発明の概要】
【0004】
国際公開第2007/130655号は、細菌感染を伴う状況を含む、細菌の増殖を抑制するのに有用なキメラポリペプチドを提供する。キメラポリペプチドのうちいくつかは、細胞壁分解(muralytic)活性を提供するスタフィロコッカスミオウイルスKのorf56によりコードされるタンパク質の少なくとも一部と、標的細菌細胞結合活性を提供する溶解性スタフィロコッカスバクテリオシンであるリゾスタフィンの非触媒細胞壁結合ドメイン(CBD)の少なくとも一部と、を含むタンパク質である。本願は、S.epidermidisなどの同属の他の細菌種の増殖を抑制せずに、S.aureusやS.hominisなどのスタフィロコッカス属に属する特定の細菌種の増殖を選択的に抑制するための、いくつかの変異体又はバリアントを含む、国際公開第2007/130655号で最初に開示されたものに由来するキメラポリペプチドの使用の最初の開示を提供する。
【0005】
したがって、第1の態様では、本発明は、同属内の非標的細菌種に影響を与えることなく、特定の標的細菌種の増殖を選択的に抑制することができる新規のキメラポリペプチドを提供する。キメラポリペプチドは、配列番号2、6、又は8のアミノ酸配列を含み得る。いくつかの実施形態において、前記ポリペプチドは、配列番号2、6、又は8のアミノ酸配列からなり得る。例えば、前記ポリペプチドは、配列番号2のアミノ酸配列を含み得るか、配列番号2のアミノ酸配列からなり得る。前記ポリペプチドは、配列番号6のアミノ酸配列を含み得るか、配列番号6のアミノ酸配列からなり得る。前記ポリペプチドは、配列番号8のアミノ酸配列を含み得るか、配列番号8のアミノ酸配列からなり得る。また、局所適用のために製剤化されたものなどの、(1)上記及び本明細書に記載のポリペプチドの1又は複数と、(2)生理学的に許容可能な添加剤と、を含む組成物も提供される。
【0006】
本発明はまた、上記及び本明細書に記載のキメラポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列、それらの対応する発現カセット、ベクター、及び宿主細胞を提供する。いくつかの実施形態において、本発明は、配列番号2、6、又は8を含むか、配列番号2、6、又は8からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を含む核酸を提供する。いくつかの実施形態において、本発明は、そのようなポリヌクレオチド配列を含む発現カセット、又は前記発現カセットを含むベクター、又は上記若しくは本明細書に記載の前記発現カセット若しくはベクターを含む宿主細胞を提供する。
【0007】
いくつかの実施形態において、配列番号2、6、又は8のいずれか1つを含むか、配列番号2、6、又は8のいずれか1つからなるポリペプチドを組換えにより産生するための方法が提供され、この方法は、そのようなポリペプチドをコードする発現カセット(ベクターの一部など)を含む宿主細胞を、前記発現カセット又はベクターにコードされるポリペプチドの発現を許容する条件下で培養することを含む。
【0008】
第2の態様では、本発明は、他の非標的細菌種に顕著な影響を与えることなく、標的細菌種を特異的に抑制するための方法を提供する。例えば、請求される方法は、S.epidermidisの増殖は抑制せずに、S.aureus及び/又はS.hominisの増殖を選択的に抑制するためのものであり、配列番号2、4、6、又は8のアミノ酸配列を含むか、配列番号2、4、6、又は8のアミノ酸配列からなるポリペプチドの有効量を、S.aureus又はS.hominisが存在し、かつS.epidermidisが存在する部位に適用することによって、S.epidermidisの増殖に影響を与えることなくS.aureus及び/又はS.hominisの増殖を抑制することを含む。
【0009】
いくつかの実施形態において、前記ポリペプチドは、患者の皮膚に適用される。請求される方法で使用される前記ポリペプチドは、配列番号2を含むか、配列番号2からなり得る。又は、請求される方法で使用されるポリペプチドは、配列番号4を含むか、配列番号4からなり得る。又は、請求される方法で使用されるポリペプチドは、配列番号6を含むか、配列番号6からなり得る。又は、請求される方法で使用されるポリペプチドは、配列番号8を含むか、配列番号8からなり得る。いくつかの実施形態において、前記ポリペプチドは、患者の皮膚に適用され、例えば、前記ポリペプチドは、ペースト、クリーム、ローション、軟膏、スプレーの形態で、又はパッチ/包帯若しくは創傷被覆材の一部に組み込まれて適用される。
【0010】
関連する態様において、本発明は、キメラポリペプチドの新しい使用を提供する。例えば、配列番号2、4、6、又は8のアミノ酸配列を含むか、2、4、6、又は8のアミノ酸配列からなるポリペプチドの、S.epidermidisの増殖を抑制せずにS.aureus及び/又はS.hominisの増殖を選択的に抑制するための使用;又は、配列番号2、4、6、又は8のアミノ酸配列を含むか、2、4、6、又は8のアミノ酸配列からなるポリペプチドの、S.epidermidisの増殖を抑制せずにS.aureus及び/又はS.hominisの増殖を選択的に抑制するための使用を提供する。一実施形態において、前記ポリペプチドは配列番号2のアミノ酸配列を含むか、配列番号2のアミノ酸配列からなり、S.epidermidisの増殖を抑制せずにS.aureus及び/又はS.hominisの増殖を選択的に抑制するために使用される。一実施形態において、前記ポリペプチドは、配列番号2のアミノ酸配列を含むか、配列番号2のアミノ酸配列からなり、S.epidermidisの増殖を抑制せずにS.aureus及び/又はS.hominisの増殖を選択的に抑制するために使用される。一実施形態において、前記ポリペプチドは、配列番号4のアミノ酸配列を含むか、配列番号4のアミノ酸配列からなり、S.epidermidisの増殖を抑制せずにS.aureus及び/又はS.hominisの増殖を選択的に抑制するために使用される。一実施形態において、前記ポリペプチドは、配列番号6のアミノ酸配列を含むか、配列番号6のアミノ酸配列からなり、S.epidermidisの増殖を抑制せずにS.aureus及び/又はS.hominisの増殖を選択的に抑制するために使用される。一実施形態において、前記ポリペプチドは、配列番号8のアミノ酸配列を含むか、配列番号8のアミノ酸配列からなり、S.epidermidisの増殖を抑制せずにS.aureus及び/又はS.hominisの増殖を選択的に抑制するために使用される。
【0011】
第3の態様では、本発明は、他の関連する非標的種に顕著に影響を与えることなく、標的細菌種を選択的に抑制するためのキットを提供する。典型的には、S.epidermidisを抑制することなくS.aureus及び/又はS.hominisの増殖を選択的に抑制するためのキットは、配列番号2、4、6、又は8のアミノ酸配列を含むか、配列番号2、4、6、又は8のアミノ酸配列からなるポリペプチドの有効量を含有する組成物を含む第1の容器を含む。いくつかの実施形態では、前記ポリペプチドは配列番号2のアミノ酸配列を含むか、配列番号2のアミノ酸配列からなる。いくつかの実施形態では、前記ポリペプチドは配列番号4のアミノ酸配列を含むか、配列番号4のアミノ酸配列からなる。いくつかの実施形態では、前記ポリペプチドは配列番号6のアミノ酸配列を含むか、配列番号6のアミノ酸配列からなる。いくつかの実施形態では、前記ポリペプチドは配列番号8のアミノ酸配列を含むか、配列番号8のアミノ酸配列からなる。いくつかの実施形態では、前記組成物は局所適用のために製剤化され、例えば、ペースト、クリーム、ローション、軟膏、スプレーの形態で、又はパッチ/包帯若しくは創傷被覆材の一部に組み込まれて適用される。いくつかの実施形態では、前記キットは、スキンケア製品を含む第2の容器をさらに含む。いくつかの実施形態では、前記キットは、ユーザーに取り扱い情報を提供する取扱説明書をさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、選択性についての異なるエクトリシンのスクリーニングを示す。それぞれのスポット番号のタンパク質は、表1に示される通りである。
【0013】
図2図2は、S.aureus及びS.epidermidisに対するP552の接触殺菌アッセイによる選択性試験を示す。
【0014】
図3図3は、S.hominis及びS.epidermidisに対するP158の接触殺菌アッセイによる選択性試験を示す。
【0015】
図4図4は、S.aureus及びS.epidermidisに対するP751の接触殺菌アッセイによる選択性試験を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
「核酸」又は「ポリヌクレオチド」という用語は、一本鎖又は二本鎖形態のデオキシリボ核酸(DNA)又はリボ核酸(RNA)及びそれらのポリマーを指す。特に限定されない限り、この用語は、参照核酸と同様の結合特性を有し、天然ヌクレオチドと同様の方法で代謝される天然ヌクレオチドの既知の類似体を含む核酸を包含する。別段の指示がない限り、特定の核酸配列は、明示的に示された配列に加えて、その保存的に改変されたバリアント(例えば、縮重コドン置換)、対立遺伝子、オルソログ、SNP、及び相補的配列も暗黙的に包含する。具体的には、縮重コドン置換は、1つ又は複数の選択された(又はすべての)コドンの第3の位置が混合塩基及び/又はデオキシイノシン残基で置換されている配列を生成することによって達成され得る(Batzer et al., Nucleic Acid Res. 19:5081 (1991); Ohtsuka et al., J. Biol. Chem. 260:2605-2608 (1985); Rossolini et al., Mol. Cell. Probes 8:91-98 (1994))。核酸という用語は、遺伝子、cDNA、及び遺伝子によってコードされるmRNAと互換的に使用される。
【0017】
「遺伝子」という用語は、ポリペプチド鎖の生成に関与するDNAのセグメントを意味する。これには、コーディング領域の前後の領域(リーダーとトレーラー)、及び個々のコーディングセグメント(エクソン)の間に介在する配列(イントロン)が含まれ得る。
【0018】
「アミノ酸」という用語は、天然アミノ酸及び合成アミノ酸、並びに天然アミノ酸と同様に機能するアミノ酸類似体及びアミノ酸模倣物を指す。天然アミノ酸は、遺伝的コードによりコードされるアミノ酸、及び後で修飾されるアミノ酸(例えば、ヒドロキシプロリン、γ-カルボキシグルタメート、及びO-ホスホセリン)である。アミノ酸類似体とは、天然アミノ酸と同じ基本的な化学構造、すなわち、水素、カルボキシル基、アミノ基、及びR基に結合するα炭素を有する化合物(例えば、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウム)を指す。このような類似体は、修飾されたR基(例えば、ノルロイシン)又は修飾されたペプチド骨格を有するが、天然アミノ酸と同じ基本的な化学構造を保持している。「アミノ酸模倣物」とは、アミノ酸の一般的な化学構造とは異なる構造を有するが、天然アミノ酸と同様に機能する化合物を指す。
【0019】
非天然アミノ酸誘導体又は非天然アミノ酸類似体を部位特異的にポリペプチド鎖に組み込むことを可能にする当技術分野での様々な既知の方法がある。例えば、国際公開第02/086075号を参照のこと。
【0020】
アミノ酸は、本明細書では、一般に知られる3文字記号又はIUPAC-IUB生化学命名委員会によって推奨される1文字記号のいずれかによって参照される場合がある。同様に、ヌクレオチドは、一般的に受け入れられている1文字記号で参照される場合がある。
【0021】
「保存的に改変されたバリアント」は、アミノ酸配列及び核酸配列の両方に適用される。特定の核酸配列においては、「保存的に改変されたバリアント」は、同一又は本質的に同一のアミノ酸配列をコードする核酸、又は前記核酸がアミノ酸配列をコードしない場合には本質的に同一の配列を指す。遺伝コードの縮重により、機能的に同一の多数の核酸が任意のタンパク質をコードする。例えば、コドンGCA、GCC、GCG、及びGCUはすべてアミノ酸のアラニンをコードしている。したがって、アラニンがコドンによって指定されるすべての位置で、コードされたポリペプチドを変更することなく、コドンを記載された対応するコドンのいずれかに変更することができる。このような核酸のバリエーションは「サイレントバリエーション」であり、保存的に改変されたバリエーションの一種である。ポリペプチドをコードする本明細書のすべての核酸配列は、核酸のすべての可能なサイレントバリエーションも説明するものである。当業者は、核酸の各コドン(通常メチオニンの唯一のコドンであるAUG、及び通常トリプトファンの唯一のコドンであるTGGを除く)を修飾して、機能的に同一の分子を生成できることを認識するであろう。したがって、ポリペプチドをコードする核酸の各サイレントバリエーションは、記載された各配列に暗黙的に示されている。
【0022】
アミノ酸配列に関し、当業者は、1つのアミノ酸又はコードされる配列のうち低割合のアミノ酸を変化、追加、又は欠失させる核酸、ペプチド、ポリペプチド、又はタンパク質配列に対する個別の置換、欠失、又は追加は、その改変によりアミノ酸が化学的に類似するアミノ酸に置換される「保存的に改変されたバリアント」であることを認識するであろう。機能的に類似するアミノ酸を提供する保存的置換表は、当技術分野でよく知られている。そのような保存的に改変されたバリアントは、本発明の多型バリアント、種間ホモログ、及び対立遺伝子に追加されるものであり、また本発明の多型バリアント、種間ホモログ、及び対立遺伝子を除外するものではない。
【0023】
以下の8群はそれぞれ、互いに保存的置換であるアミノ酸を含む:
1)アラニン(A)、グリシン(G);
2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);
3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);
4)アルギニン(R)、リジン(K);
5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);
6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W);
7)セリン(S)、スレオニン(T); 及び
8)システイン(C)、メチオニン(M)
(例えば、Creighton, Proteins, WH Lreeman and Co., NY(1984)を参照)。
【0024】
本明細書では、アミノ酸は、それらの一般的に知られている3文字記号、又はIUPAC-IUB生化学命名委員会によって推奨される1文字記号のいずれかによって参照される場合がある。同様に、ヌクレオチドは、一般的に受け入れられている1文字記号で参照される場合がある。
【0025】
本願において、アミノ酸残基は、改変されていない野生型ポリペプチド配列において、1の番号が付される最も左の残基からの相対位置に従って番号が付されている。
【0026】
「ポリペプチド」、「ペプチド」、及び「タンパク質」は、アミノ酸残基のポリマーを指すために本明細書で交換可能に使用される。3つの用語はすべて、1又は複数のアミノ酸残基が対応天然アミノ酸の人工的な化学的模倣物であるアミノ酸ポリマーにも、天然アミノ酸ポリマー及び非天然アミノ酸ポリマーにも適用される。本明細書で使用される場合、これらの用語は、アミノ酸残基が共有ペプチド結合によって連結されている、全長タンパク質も含む任意の長さのアミノ酸鎖を包含する。
【0027】
細胞、又は核酸、タンパク質、又はベクターなどに関して使用される場合の「組換え体」という用語は、細胞、核酸、タンパク質、又はベクターが、異種の核酸、若しくはタンパク質の導入により、又は天然の核酸若しくはタンパク質の変更により、改変されていること、又は、細胞がそのように改変された細胞に由来することを示す。したがって、例えば、組換え細胞は、細胞の天然(非組換え)形態内にはみられない遺伝子を発現するか、他の状況下では異常発現したり、低発現であったり、発現しなかったりする天然遺伝子を発現する。
【0028】
「プロモーター」は、ポリヌクレオチド配列の転写を指示する数々の核酸制御配列として定義される。本明細書で使用される場合、プロモーターは転写の開始部位の近くに必要なポリヌクレオチド配列を含む(例えば、ポリメラーゼII型プロモーターの場合、TATAエレメントなど)。プロモーターはまた、任意に、転写開始部位から数千塩基対までにも位置しうる遠位エンハンサーエレメント又は遠位リプレッサーエレメントを含む。「構成的」プロモーターは、ほとんどの環境及び発達条件下で活性を示すプロモーターである。「誘導性」プロモーターは、環境又は発達の調節下で活性を示すプロモーターである。「作動可能に連結された」という用語は、ポリヌクレオチド発現制御配列(プロモーター、又は数々の転写因子結合部位など)と第2のポリヌクレオチド配列との間の機能的連結を表し、ここで前記発現制御配列は前記第2の配列に対応するポリヌクレオチド配列の転写を指示するものである。
【0029】
「発現カセット」は、宿主細胞における特定のポリヌクレオチド配列の転写を可能にする一連の特定のポリヌクレオチドエレメントを用いて、組換え又は合成的に生成された核酸構築物である。発現カセットは、プラスミド、ウイルスゲノム、又は核酸フラグメントの一部であり得る。典型的には、発現カセットは、プロモーターに作動可能に連結される、転写されるポリヌクレオチドを含む。
【0030】
2つのエレメントの相対的位置を説明する文脈で使用される「異種」という用語は、ポリヌクレオチド配列(例えば、プロモーター又はタンパク質/ポリペプチドをコードする配列)、又はポリペプチド配列(例えば、配列番号2、4、6、及び8から選択されるキメラエクトリシン配列、又はキメラエクトリシン配列との融合パートナーとして機能する他のペプチド配列)などの、天然には同じ相対的位置にみられない2つのエレメントを指す。したがって、遺伝子の「異種プロモーター」は、天然にはその遺伝子に作動可能に連結されていないプロモーターを指す。同様に、キメラエクトリシン又はそのコード配列に対する「異種ポリペプチド」又は「異種ポリヌクレオチド」は、ファージKのORF56及びリゾスタフィンのCBD以外の起源に由来するもの、又はORF56若しくはリゾスタフィンCBD遺伝子に由来するが天然には同じ様式でキメラエクトリシンの一部に連結されていないものである。キメラエクトリシン(又はそのコード配列)の異種ポリペプチド(又はポリヌクレオチド配列)への融合は典型的には同じ生物学的活性(例えば標的細菌種の選択的殺菌など)を保持するより長いポリペプチド(又はポリヌクレオチド配列)となるはずである。
【0031】
本明細書で使用される「阻害(inhibit/inhibiting/inhibition)」又は「抑制(suppress/suppressing/suppression)」との用語は、細菌細胞増殖又は細菌細胞の存在などの、標的となる生物学的プロセスに対する検出可能な負の効果を指す。典型的には、阻害は、阻害物質(例えば、配列番号2、4、6、又は8に示されるキメラ酵素のいずれか1つ)の適用時に、阻害剤が適用されていない対照と比較して、標的となるプロセス(例えば、S.aureusなどの該当する細菌の増殖速度又は増殖レベル)における少なくとも10%、20%、30%、40%、又は50%の減少に反映される。
【0032】
本明細書で使用される「選択的抑制」という用語は、所定の細菌種(例えばS.aureus又はS.hominisなど)を特異的に標的とし、十分な量のキメラエクトリシンに曝露された領域において、その増殖速度及び/又は細菌の存在量/レベルに負の影響を与えながらも、同じ領域で非標的細菌(例えばS.epidermidisなど)の増殖速度及び/又は細菌存在量/レベルにはほとんど又は全く検出可能な負の影響を与えない、本発明のキメラエクトリシンの能力を指す。典型的には、「選択的抑制」を達成するには、同レベルの選択的阻害剤で処理した場合、標的細菌は非標的細菌と比較してその増殖速度において1/10、1/100、又は1/300、又は1/500、又は1/1000、又はそれより低いレベルにまで抑制されなければならない。
【0033】
本願で使用される「治療する(treat)」又は「治療する(treating)」という用語は、関連する状態の症状の発症又は再発の排除、減少、緩和、逆転、又は予防又は遅延をもたらす行為を表す。つまり、状態を「治療する」ことは、その状態に対する治療的介入と予防的介入の両方を包含する。
【0034】
本明細書で使用される「有効量」という用語は、所望の効果を生み出すのに十分な量の所与の物質の量を指す。例えば、S.aureusなどの特定の細菌種の増殖を抑制するためのキメラエクトリシンの有効量は、細菌の存在を伴う状態のためにキメラ酵素を与えられたレシピエントから採取された試料中のS.aureusのレベルの低下(検出不可能なレベルを含む)を達成するためのキメラタンパク質の量であり、例えばレシピエントからの試料の種類の中に反映される又は測定されるものである。治療の文脈において、意図された効果を達成するのに十分な量は、「治療有効量」として定義される。用量の範囲は投与される治療剤の性質並びに投与経路及び患者の状態の重篤度などの他の要因によって異なる。
【0035】
本明細書で使用される場合、「宿主細胞」は、発現ベクターを含み、発現ベクターの複製又は発現を支持する細胞である。宿主細胞は、大腸菌(E.coli)などの原核細胞、又は酵母、昆虫、両生類、若しくは哺乳動物細胞(CHO、HeLaなど)などの真核細胞であり得、例えば培養細胞、外植片、及びインビボ細胞であり得る。
【0036】
本明細書で使用される場合、「約」という用語は、所定の値の±10%を包含する範囲を意味する。例えば、「約10」は、9~11の範囲を意味する。
【0037】
I.緒論
以前より、標的細菌の細胞壁の溶解により細菌を殺すことで、細菌、特にスタフィロコッカス属の増殖を抑制する活性を有するキメラポリペプチドが開示されている(例えば、国際公開第2007/130655号を参照)。これらのキメラポリペプチドは、一般に、ORF56のムレイン分解触媒ドメインと、溶解性スタフィロコッカスバクテリオシンであるリゾスタフィンの非触媒性細胞壁結合ドメイン(CBD)とを含む。
【0038】
本発明者らは、スタフィロコッカス属内の特定の標的細菌種に対する選択的溶解活性の非常に独特で非常に価値のある特性を有し、同じ属内の他の細菌種に対しては溶解活性をほとんど又は実質的にまったく示さない、同じ一般的な構造的特徴を有するキメラポリペプチドを構築及び同定した。本開示は、選択的抗細菌活性を有するこれらの新たに同定されたキメラポリペプチドに基づく組成物及び使用方法に関する。
【0039】
II.キメラポリペプチドの生産
A.一般的な組換え技術
組換え遺伝学の分野における一般的な方法及び技術を開示する基礎的なテキストとしては、Sambrook and Russell, Molecular Cloning, A Laboratory Manual (3rd ed. 2001); Kriegler, Gene Transfer and Expression: A Laboratory Manual (1990); Ausubel et al., eds., Current Protocols in Molecular Biology (1994)が挙げられる。
【0040】
核酸の場合、サイズはキロベース(kb)又は塩基対(bp)のいずれかで与えられる。これらは、アガロース又はアクリルアミドゲル電気泳動、配列決定された核酸、又は公開されているDNA配列から得られる推定値である。タンパク質の場合、サイズはキロダルトン(kDa)又はアミノ酸残基数で示される。タンパク質のサイズは、ゲル電気泳動、配列決定されたタンパク質、得られたアミノ酸配列、又は公開されているタンパク質配列から推定される。
【0041】
市販されていないオリゴヌクレオチドは(例えば、最初にBeaucage & Caruthers, Tetrahedron Lett. 22: 1859-1862 (1981)に記載された固相ホスホロアミダイトトリエステル法に基づいて、Van Devanter et. al., Nucleic Acids Res. 12: 6159-6168 (1984)に記載されるように自動シンセサイザーを用いて)化学的に合成し得る。オリゴヌクレオチドの精製は、当技術分野で認識されている任意の戦略(例えば、Pearson & Reanier, J. Chrom. 255: 137-149 (1983)に記載されるように、天然アクリルアミドゲル電気泳動、又は陰イオン交換HPLC)を用いて行われる。
【0042】
キメラポリペプチド及びそのバリアントをコードするポリペプチドの配列は、例えばWallace et al., Gene 16: 21-26 (1981)の二本鎖テンプレートを配列決定するための鎖終結法を用いて、クローニング又はサブクローニングの後に検証することができる。
【0043】
B.キメラポリペプチドのコード配列のクローニング及びサブクローニング
キメラタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列は、それらのアミノ酸配列(例えば、配列番号2、4、6、及び8のいずれか1つ)、及び以前の出版物(例えば、国際公開第2007/130655号)からの入手可能な情報に基づいて決定することができる。
【0044】
キメラポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を取得した後、コード配列は(例えば、親和性タグ(例えば、6×Hisタグ又はGSTタグ)などの異種タグのコード配列を追加することによって、又はさらに変異させることで)適宜改変することができ、その後、ベクター(例えば発現ベクター)にサブクローニングし、(例えば、トランスフェクション、及びコード配列に作動可能に連結されたプロモーターにより指示される組換えタンパク質発現を許容する条件下での宿主細胞の培養の後に)得られた構築物から組換えキメラポリペプチドが生産されるようにすることができる。
【0045】
C.宿主生物における優先コドン使用のための核酸の修飾
キメラエクトリシンポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列は、特定の宿主の優先コドン使用と一致するようにさらに変更することができる。例えば、細菌細胞の1つの株の優先コドン使用を用いて、本発明のキメラエクトリシンをコードし、その株に好まれるコドンを含むポリヌクレオチドを誘導することができる。宿主細胞が示す優先コドン使用の頻度は、宿主細胞が発現する多数の遺伝子の優先コドン使用頻度を平均することで算出できる(例えば、かずさDNA研究所(日本)のウェブサイトからの計算サービスが利用可能である)。この分析は、宿主細胞によって高度に発現される遺伝子に限定されることが好ましい。
【0046】
改変の完了時に、コード配列は、配列決定によって検証され、次いで、キメラエクトリシンポリペプチドの組換え体産生のための適切な発現ベクターにサブクローニングされる。
【0047】
IV.組換えにより生産されたポリペプチドの発現及び精製
コード配列の検証に続いて、本発明のキメラポリペプチドは、本明細書に開示されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列に依存して、組換え遺伝学の分野における通常の技術を使用して生産することができる。
【0048】
A.発現システム
本発明のキメラエクトリシンポリペプチドをコードする核酸の高レベルの発現を得るために、典型的には、ポリペプチドをコードするポリペプチドを、強力なプロモーター(典型的には異種、すなわち非ファージ起源のもの)を含む発現ベクターにサブクローニングして、転写、翻訳/転写ターミネーター、及びリボソーム結合部位を転写開始に向かわせる。適切な細菌プロモーターは当技術分野で周知であり、例えば、上記のSambrook and Russell、及び上記のAusubel et al.に記載されている。組換えポリペプチドを発現するための細菌発現システムは、例えば、E.coli、Bacillus sp.、Salmonella、及びCaulobacterで利用可能である。このような発現システム用のキットは市販されている。哺乳類細胞、酵母、及び昆虫細胞用の真核生物発現システムは当技術分野でよく知られており、これらも市販されている。一実施形態では、真核生物発現ベクターは、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ベクター、又はレトロウイルスベクターである。
【0049】
異種核酸の発現を指示するために使用されるプロモーターは、特定の用途に依存する。プロモーターは、任意に、異種の転写開始部位から、その天然条件下での転写開始部位からの距離とほぼ同じ距離に配置される。しかしながら、当技術分野で知られているように、プロモーター機能を失うことなくこの距離の多少の変動を受け入れることができる。
【0050】
プロモーターに加えて、発現ベクターは、典型的には、宿主細胞におけるキメラポリペプチドの発現に必要なすべての追加のエレメントを含む転写ユニットまたは発現カセットを含む。したがって、典型的な発現カセットは、コード配列及び効率的な転写物のポリアデニル化に必要なシグナルに作動可能に連結されたプロモーター、リボソーム結合部位、及び翻訳終結部位を含む。キメラポリペプチドをコードする核酸配列は、形質転換細胞による組換えポリペプチドの分泌を促進するために、切断可能なシグナルペプチド配列に連結されていてもよい。そのようなシグナルペプチドとしては、特に、組織プラスミノーゲン活性化因子、インスリン、及びニューロン成長因子、並びにHeliothis virescensの幼若ホルモンエステラーゼからのシグナルペプチドが挙げられる。カセットのさらなるエレメントとしては、エンハンサー、並びに、構造遺伝子としてゲノムDNAが用いられる場合には、機能的なスプライシングドナー部位及びアクセプター部位を有するイントロンが挙げられる。
【0051】
プロモーター配列に加えて、発現カセットはまた、効率的な終結を提供するために、構造遺伝子の下流に転写終結領域を含み得る。終結領域は、プロモーター配列と同じ遺伝子から得られてもよく、異なる遺伝子から得られてもよい。
【0052】
遺伝情報を細胞に輸送するために使用される特定の発現ベクターは特に重要ではない。真核細胞又は原核細胞での発現に使用される従来のベクターの任意のものを使用することができる。標準的な細菌発現ベクターとしては、pBR322系プラスミド、pSKF、pET23Dなどのプラスミド、及びGSTやLacZなどの融合発現システムが挙げられる。c-mycなどの便利な単離方法を提供するために、エピトープタグを組換えタンパク質に追加することもできる。
【0053】
真核生物ウイルス由来の調節エレメントを含む発現ベクターは、典型的には、真核生物発現ベクター、例えば、SV40ベクター、パピローマウイルスベクター、及びエプスタインバーウイルス由来のベクターで使用される。他の例示的な真核生物ベクターとしては、pMSG、pAV009/A、pMTO10/A、pMAMneo-5、バキュロウイルスpDSVE、及び、SV40初期プロモーター、SV40後期プロモーター、メタロチオネインプロモーター、マウス乳癌ウイルスプロモーター、ラウス肉腫ウイルスプロモーター、ポリヘドリンプロモーター、又は真核細胞での発現に有効であることが示されている他のプロモーターの指示の下でタンパク質の発現を可能にする他の任意のベクターが挙げられる。
【0054】
いくつかの発現系は、チミジンキナーゼ、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ、及びジヒドロ葉酸レダクターゼなどの、遺伝子増幅を提供するマーカーを有する。あるいは、ポリヘドリンプロモーター又は他の強力なバキュロウイルスプロモーターの指示下でキメラポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を有する、昆虫細胞におけるバキュロウイルスベクターなどの、遺伝子増幅を伴わない高収量発現システムも適切である。
【0055】
発現ベクターに典型的に含まれるエレメントとしては、E.coliで機能するレプリコン、組換えプラスミドを保有する細菌の選択を可能にする抗生物質耐性をコードする遺伝子、及び、真核生物配列の挿入を可能にする、プラスミドの非必須領域における固有の制限酵素切断部位も挙げられる。選択される特定の抗生物質耐性遺伝子は重要ではなく、当技術分野で知られている多くの耐性遺伝子のいずれも好適である。原核生物の配列は、任意に、必要に応じて、真核細胞におけるDNAの複製を妨害しないように選択される。抗生物質耐性選択マーカーと同様に、既知の代謝経路に基づく代謝選択マーカーも、形質転換された宿主細胞を選択するための手段として使用することができる。
【0056】
組換えタンパク質(例えば、本発明のキメラエクトリシンポリペプチド)のペリプラズム発現が望まれる場合、発現ベクターは、E.coliのOppA(ペリプラズムオリゴペプチド結合タンパク質)分泌シグナル又はその改変版などの、分泌シグナルをコードする配列をさらに含み、これは発現されるタンパク質のコード配列の5’に直接接続される。このシグナル配列は、細胞質で産生された組換えタンパク質を細胞膜を介してペリプラズム空間に誘導する。発現ベクターは、組換えタンパク質がペリプラズム空間に入るときにシグナル配列を酵素的に切断することができるシグナルペプチダーゼ1のコード配列をさらに含み得る。組換えタンパク質のペリプラズム産生に関するより詳細な説明は、例えば、Gray et al., Gene 39: 247-254 (1985)、米国特許第6,160,089号明細書、及び米国特許第6,436,674号明細書に見出すことができる。
【0057】
B.トランスフェクション法
標準的なトランスフェクション法を使用して、大量の組換えポリペプチドを発現する細菌、哺乳動物、酵母、昆虫、又は植物の細胞系を作製し、次に標準的な技術を使用して精製する(例えば、Colley et al., J. Biol. Chem. 264: 17619-17622 (1989); Guide to Protein Purification, in Methods in Enzymology, vol. 182 (Deutscher, ed., 1990)を参照)。真核細胞及び原核細胞の形質転換は、標準的な技術に従って行われる(例えば、Morrison, J. Bact. 132: 349-351 (1977); Clark-Curtiss & Curtiss, Methods in Enzymology 101: 347-362 (Wu et al., eds, 1983)を参照)。
【0058】
外来ヌクレオチド配列を宿主細胞に導入するための周知の手順のいずれも使用することができる。これらには、リン酸カルシウムトランスフェクション、ポリブレン、プロトプラスト融合、エレクトロポレーション、リポソーム、マイクロインジェクション、プラズマベクター、ウイルスベクター、及び、クローニングされたゲノムDNA、cDNA、合成DNA、又はその他の外来遺伝物質を宿主細胞に導入するための他の公知の方法の使用が含まれる(例えば、上記Sambrook and Russellを参照)。使用される特定の遺伝子工学手順が、少なくとも1つの遺伝子を、組換えポリペプチドを発現することができる宿主細胞に首尾よく導入することができればよい。
【0059】
C.宿主細胞におけるキメラエクトリシンの組換え発現の検出
発現ベクターが適切な宿主細胞に導入された後、トランスフェクトされた細胞は、キメラエクトリシンポリペプチドの発現に有利な条件下で培養される。次に、細胞を組換えポリペプチドの発現についてスクリーニングし、その後、標準的な技術を使用して培養物から回収する(例えば、Scopes, Protein Purification: Principles and Practice (1982); 米国特許第4,673,641号明細書; Ausubel et al.、上記;及びSambrook and Russell、上記、を参照)。
【0060】
遺伝子発現をスクリーニングするためのいくつかの一般的な方法は、当業者の間でよく知られている。第一に、遺伝子発現は核酸レベルで検出することができる。核酸ハイブリダイゼーション技術を使用する特定のDNA及びRNA測定の様々な方法が一般的に使用されている(例えば、Sambrook and Russell、上記)。電気泳動分離を伴う方法もあるが(例えば、DNAを検出するためのサザンブロットやRNAを検出するためのノーザンブロット)、DNA又はRNAの検出は電気泳動なしで行うこともできる(ドットブロットなど)。トランスフェクトされた細胞におけるキメラエクトリシンポリペプチドをコードする核酸の存在は、配列特異的プライマーを用いたPCR又はRT-PCRによっても検出することができる。
【0061】
第二に、遺伝子発現は、ポリペプチドレベルで検出することができる。遺伝子産物のレベルを測定するために様々な免疫学的アッセイが当業者によって日常的に使用されており、特に、本発明のキメラエクトリシンと特異的に反応するポリクローナル又はモノクローナル抗体を使用して行われる(例えば、Harlow and Lane, Antibodies, A Laboratory Manual, Chapter 14, Cold Spring Harbor, 1988; Kohler and Milstein, Nature, 256: 495-497 (1975))。このような技術は、キメラエクトリシンに対して高い特異性を有する抗体を選択することによる抗体の準備を必要とする。ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体を産生する方法は十分に確立されており、それらの説明は文献に記載されている。例えば、Harlow and Lane、上記; Kohler and Milstein, Eur. J. Immunol., 6: 511-519 (1976)を参照のこと。
【0062】
D.組換えにより生産されたキメラエクトリシンの精製
トランスフェクトされた宿主細胞における組換えキメラエクトリシンポリペプチドの発現が確認されたら、次に、組換えポリペプチドを精製する目的で、宿主細胞を適切なスケールで培養する。
【0063】
1.細菌からの組換え生産されたポリペプチドの精製
発現は構成的であり得るが典型的にはプロモーター誘導後に、本発明のキメラエクトリシンポリペプチドが、形質転換された細菌によって組換えにより大量に生産される場合、ポリペプチドは不溶性凝集体を形成し得る。タンパク質封入体の精製に適したプロトコルがいくつかある。例えば、凝集体タンパク質(以下、封入体と呼ぶ)の精製は、典型的には、(例えば、約100~150μg/mlのリゾチーム及び非イオン性界面活性剤である0.1%Nonidet P40の緩衝液中でのインキュベーションによる)細菌細胞の破壊による、封入体の抽出、分離、及び/又は精製を伴う。細胞懸濁液は、Polytronグラインダー(Brinkman Instruments、ニューヨーク州ウェストベリー)を使用して粉砕することができる。あるいは、細胞を氷上で超音波処理することもできる。細菌を溶解する別の方法は、上記のAusubel et al.及びSambrook and Russellに記載されており、当業者に明らかであろう。
【0064】
細胞懸濁液は、一般に、遠心分離され、封入体を含むペレットは、封入体を溶解せずに洗浄する緩衝液(例えば、20mM Tris-HCl(pH7.2)、1mM EDTA、150mM NaCl、及び非イオン性界面活性剤である2%Triton-X 100)に再懸濁される。できるだけ多くの細胞破片を除去するために、洗浄ステップを繰り返さなければならない場合がある。残った封入体のペレットは、適切な緩衝液(例えば、20mMリン酸ナトリウム、pH6.8、150mM NaClなど)に再懸濁することができる。他の適切な緩衝液は、当業者に明らかであろう。
【0065】
洗浄工程に続いて、封入体は、強力な水素受容体及び強力な水素供与体の両方である溶媒(又はこれらの特性の一方を有する溶媒の組み合わせ)の添加によって可溶化される。次に、封入体を形成したタンパク質は、適合性のある緩衝液で希釈又は透析することによって再生することができる。適切な溶媒としては、尿素(約4M~約8M)、ホルムアミド(少なくとも約80%、体積/体積基準)、及び塩酸グアニジン(約4M~約4M)が挙げられるが、これらに限定されない。SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)や70%ギ酸などの、凝集体形成タンパク質を可溶化可能な一部の溶媒は、免疫原性及び/又は活性の喪失を伴うタンパク質の不可逆的な変性の可能性があるため、本手順に用いるには不適切な場合がある。塩酸グアニジン及び類似の薬剤は変性剤であるが、この変性は不可逆的ではなく、変性剤の(例えば透析による)除去又は希釈により再生が起こり、免疫学的及び/又は生物学的に活性な目的タンパク質の再形成が可能となる。可溶化後、タンパク質は標準的な分離技術によって他の細菌タンパク質から分離することができる。細菌封入体からの組換えポリペプチドの精製の詳細については、例えば、Patra et al., Protein Expression and Purification 18: 182-190 (2000)を参照のこと。
【0066】
あるいは、細菌ペリプラズムから組換えポリペプチド(例えばキメラエクトリシンポリペプチド)を精製することが可能である。組換えタンパク質が細菌のペリプラズムに輸送される場合、細菌のペリプラズム画分は、当業者に公知の他の方法に加えて、低温浸透圧ショックによって単離することができる(例えば、上記のAusubel et al.を参照)。ペリプラズムから組換えタンパク質を単離するために、細菌細胞を遠心分離してペレットを形成する。ペレットを20%スクロースを含むバッファーに再懸濁する。細胞を溶解するために、細菌を遠心分離し、ペレットを氷冷した5mM MgSOに再懸濁し、氷浴に約10分間保持する。細胞懸濁液を遠心分離し、上清をデカントして保存する。上清中に存在する組換えタンパク質は当業者に公知の標準的な分離技術により宿主のタンパク質から分離することができる。
【0067】
2.精製のための標準的なタンパク質分離技術
組換えポリペプチド(例えば、本発明のキメラポリペプチド)が宿主細胞において可溶形態で発現する場合、その精製は、以下に記載される標準的なタンパク質精製手順に従うことができる。
【0068】
i.可溶性分画
多くの場合、最初のステップとして、またタンパク質混合物が複雑である場合、最初の塩分画は、目的の組換えタンパク質から望ましくない宿主細胞タンパク質(又は細胞培養培地に由来するタンパク質)の多くを分離することができる。好ましい塩は硫酸アンモニウムである。硫酸アンモニウムは、タンパク質混合物中の水分量を効果的に減らすことによってタンパク質を沈殿させる。次に、タンパク質は溶解度に基づいて沈殿する。タンパク質の疎水性が高いほど、より低い硫酸アンモニウム濃度で沈殿しやすい。典型的なプロトコルでは、飽和硫酸アンモニウムを、硫酸アンモニウム濃度が20~30%となるようにタンパク質溶液に添加する。これにより、最も疎水性の高いタンパク質が沈殿する。(目的のタンパク質が疎水性でなければ)沈殿物を廃棄し、目的のタンパク質が沈殿することが知られている濃度となるまで硫酸アンモニウムを上清に添加する。次に、沈殿物を緩衝液に可溶化し、必要に応じて、透析又は透析ろ過により過剰の塩を除去する。冷エタノール沈殿などのタンパク質の溶解度に依存する他の方法は当業者に公知であり、複雑なタンパク質混合物を分画するために使用することができる。
【0069】
ii.サイズ差ろ過
計算された分子量に基づいて、様々な孔径の膜(例えば、アミコン又はミリポア膜)を介した限外ろ過を使用して、より大きなサイズ及びより小さなサイズのタンパク質を単離することができる。最初のステップとして、タンパク質混合物は、目的のタンパク質(例えば、本発明のキメラポリペプチド)の分子量よりも低い分子量カットオフを有する孔径の膜を通して限外ろ過される。次に、限外ろ過の保持液を、目的のタンパク質の分子量よりも大きい分子カットオフを有する膜に対して限外ろ過する。組換えタンパク質は膜を通過してろ液に流入する。次に、ろ液を以下に記載するようにクロマトグラフィーにかけることができる。
【0070】
iii.カラムクロマトグラフィー
目的のタンパク質(本発明のキメラポリペプチドなど)はまた、それらのサイズ、正味の表面電荷、疎水性、又はリガンドに対する親和性に基づいて、他のタンパク質から分離することができる。さらに、キメラエクトリシンに対して生産された抗体をカラムマトリックスに結合させ、キメラエクトリシンポリペプチドを免疫精製することができる。これらの方法はすべて当技術分野で公知である。
【0071】
クロマトグラフィー技術は、任意の規模で、多くの様々な製造業者(例えば、Pharmacia Biotech)からの装置を使用して実施できることは、当業者に明らかであろう。
【0072】
V.製剤化及び投与
種特異的酵素活性の様々な用途はすぐに認識することができる。重要な用途の1つは、通常の使用では汚染される可能性のある物品の抗菌処理である。標的細菌が公衆衛生上の危険因子となり得る場所、機器、環境などを、そのようなものを使用して処理することができる。目的となる場所としては、標的細菌を含む物質を扱う目的又は機会が存在する公衆衛生施設が挙げられる。これらの物質としては、液体、固体、空気などの廃棄物が挙げられる。液体廃棄物処理施設は、酵素物質で直接処理することによって、又はこれを生成する細胞を放出することによって、排水から標的を排除するために、そのようなものを組み込むことができる。固体廃棄物処理施設は、標的宿主の流行の可能性を最小限に抑えるためにそのようなものを導入することができる。逆に、食品調理場又は機器は定期的に清掃する必要があり、本発明は、標的細菌を効果的に排除するための組成物及び手段を提供する。汚染の対象となる医療及びその他の公共環境は、標的微生物の増殖と拡散を最小限に抑えるための同様の手段を必要とする場合がある。この方法は、集中治療室用の空気ろ過システムなど、標的細菌の滅菌除去が望まれる状況で使用することができる。
【0073】
代替の用途としては、獣医学的又は医学的状況での使用が含まれる。特定の細菌の存在を判断する、又は特定の標的を特定するための手段において、その集団や培養物に対する選択的薬剤の効果が利用できる可能性がある。動物やペットの洗浄を含め、洗浄剤に静菌活性又は抗菌活性を含ませることが望まれる場合がある。
【0074】
本発明のキメラエクトリシンポリペプチドは、潜在的に有益な他の種の細菌を保存しつつ、例えばヒト又は動物における、特定の有害な細菌種によって引き起こされる感染症を治療するために使用することができる。これらのキメラポリペプチドは、予防的に投与することができ、又は細菌感染症にかかった対象に投与することができる。一実施形態では、キメラポリペプチドは、S.aureus又はS.hominisなどのスタフィロコッカス種の1又は複数の細菌によって引き起こされる感染症(例えば、皮膚感染症)を治療するために使用され、同時に、他の潜在的に有益な細菌種、特に同じ場所に存在する可能性のあるS.epidermidisなどの別のスタフィロコッカス種には最低限の影響しか与えない。
【0075】
一実施形態では、これらのキメラタンパク質(例えば、配列番号2、4、6、及び8のいずれか1つ)は、S.aureusに感染しているヒト又は他の動物を治療するために使用される。別の実施形態では、キメラタンパク質は、S.hominisに感染したヒト又は他の動物を治療するために使用される。いずれの場合も、成長抑制は特にS.aureus又はS.hominisを特異的に標的とするが、S.epidermidisは標的としない。
【0076】
投与経路及び投与量は、感染する細菌株、感染の部位及び程度(例えば、局所的又は全身的)、及び治療される対象によって異なるであろう。投与経路としては、経口、エアロゾル、又は肺への送達のための他の装置、点鼻スプレー、静脈内(IV)、筋肉内、腹腔内、髄腔内、眼内、膣、直腸、局所、腰椎穿刺、髄腔内、並びに脳及び/又は髄膜への直接適用が挙げられる。治療薬を送達するためのビヒクルとして使用することができる添加剤は、当業者には明らかであろう。例えば、キメラエクトリシンは凍結乾燥形態であり、静脈内注射による投与の直前に溶解することができる。投与量は、宿主感染症の細菌あたり、約0.03、0.1、0.3、1、3、10、30、100、300、1000、3000、10000以上の酵素分子の範囲内にあることが想定される。それ自体がタンデムに結合していたり、複数のサブユニット形態(二量体、三量体、四量体、五量体など)をとっていたり、1又は複数の他の実体(例えば、異なる特異性を有する酵素又は断片)と組み合わせられていたりし得るタンパク質のサイズに応じて、用量は、約100万~約10兆/kg/日、好ましくは約1兆/kg/日であり得る。
【0077】
本発明のキメラエクトリシンの少なくとも1つを含む治療用組成物は、典型的には、標的病原性細菌の除去が成功するまで投与される。したがって、本発明は、本発明の組成物の単一投与剤形及び複数投与剤形、並びにそのような単一投与剤形及び複数投与剤形の送達のための徐放性手段を達成するための方法を企図している。
【0078】
肺又は他の粘膜表面へのエアロゾル投与に関して、治療用組成物は、投与用に特別に設計されたエアロゾル製剤に組み込まれる。多くのそのようなエアロゾルが当技術分野で公知であり、本発明は特定の製剤に限定されない。このようなエアロゾルの例としては、シェリング・プラウ社製のProventil吸入器が挙げられ、その噴射剤には、トリクロロモノフルオロメタン、ジクロロジフルオロメタン、及びオレイン酸が含まれている。他の実施形態としては、対象又は患者の鼻及び副鼻腔への投与のために設計された吸入器が挙げられる。噴射剤成分と乳化剤の濃度は、必要に応じて、治療に使用される特定の組成に基づいて調整される。
【0079】
本発明のキメラエクトリシンの殺菌能力を評価するための方法は、無傷の複製ファージの殺能力を評価する際に使用される多くの方法と類似することが多い。総細菌数を生存可能コロニーユニットと比較することで、細菌のどの部分が実際に生存可能であるか、及び暗にどの部分が殺菌構造体に感受性であったかを確立することができる。静止活性を評価するための他の手段は、天然又は負荷された細胞内内容物の放出、又は天然の細胞壁構造に対応する規定された又は調製された基質に対する酵素活性を含み得る。
【0080】
典型的には、殺菌は、キメラエクトリシンへ曝露しない対照と比較した場合に、細菌の複製能力を約1/3以下に減少させ、これを約1/10、1/30、1/100、1/300までなど、大きな桁数まで影響又は減少させ得る。しかしながら、殺菌ではなく細菌の複製速度を遅くすることでも、治療上又は商業上重要な価値があり得る。好ましい遺伝的不活化効率は、0.1、0.2、0.3、0.5、0.8、1、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4、5、6、7、8、又はそれ以上のログ単位であり得る。
【0081】
本発明はさらに、本明細書に記載の少なくとも1つのキメラエクトリシン及び生理学的又は薬学的に許容される添加剤を含む医薬組成物を企図している。したがって、本発明の組成物は、S.aureus又はS.hominisなどの1つの細菌を特異的に標的とし、S.epidermidisなどの他の密接に関連する種を標的としない、単離されたキメラポリペプチドを含む製剤を含む。場合によっては、キメラポリペプチドの2つ、3つ、又は4つの混合物を使用して、患者に潜在的な利益をもたらす可能性のある他の非標的細菌種に顕著な影響を与えることなく、種特異的な殺菌を強化することができる。このようにして、本発明の組成物は、患者のニーズに合わせて調整することができる。化合物又は組成物は、通常、無菌又はほぼ無菌である。
【0082】
本明細書における「治療有効量」とは、投与の目的となる、静菌性、又は好ましくは殺菌性の効果をもたらす用量を意味する。正確な用量は治療目的に依存し、公知の技術を用いて当業者が確認することができる。例えば、Ansel, et al. Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery; Lieberman (1992) Pharmaceutical Dosage Forms (vols. 1-3), Dekker, ISBN 0824770846, 082476918X, 0824712692, 0824716981; Lloyd (1999) The Art, Science and Technology of Pharmaceutical Compounding; Pickar (1999) Dosage Calculationsを参照のこと。当技術分野で公知のように、タンパク質分解、全身送達対局所送達、及び新規プロテアーゼ合成速度、並びに年齢、体重、一般健康状態、性別、食事、投与時間、薬物相互作用、コロニー中の細菌成分スペクトル、及び状態の重篤度のための調節が必要な場合があり、当業者はいくつかの実験により確認できるであろう。
【0083】
様々な生理学的又は薬学的に許容される添加剤が当技術分野で公知である。本明細書で使用される場合、「生理学的又は薬学的に許容される添加剤」は、組成物の有効成分と組み合わされたときに、レシピエントにおいて検出可能な生理学的反応を引き起こすことなく、成分がその生物学的活性を保持することを可能にする材料を指す。そのような添加剤には、安定剤、防腐剤、塩、又は糖複合体若しくは糖結晶などが含まれ得る。
【0084】
例示的な薬学的担体としては、無菌の水性又は非水性の溶液、懸濁液、及びエマルジョンが挙げられる。例えば、リン酸緩衝生理食塩水、水、油/水エマルジョンなどのエマルジョン、及び各種湿潤剤などの標準的な薬学的添加剤が挙げられるが、これらに限定されない。非水性溶媒としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油などの植物油、及びオレイン酸エチルなどの注射可能な有機エステルが挙げられる。水性担体としては、水、アルコール溶液/水溶液、エマルジョン又は懸濁液が挙げられ、生理食塩水及び緩衝培地が挙げられる。非経口ビヒクルとしては、塩化ナトリウム溶液、デキストロース加リンゲル液(Ringer’s dextrose)、デキストロース及び塩化ナトリウム、乳酸リンゲル液(lactated Ringer’s)、又は固定油が挙げられる。静脈内ビヒクルとしては、水分補給剤、栄養補給剤、電解質補給剤(デキストロース加リンゲル液ベースのものなど)などが挙げられる。他の実施形態では、組成物は、徐放性粒子、ガラスビーズ、包帯、眼への挿入物などの固形マトリクスに組み込まれたり、クリーム、ペースト、ローション、軟膏、溶液又は懸濁液を含む液体又は半液体等の局所用形態に組み込まれるか、パッチ、包帯、又は各種創傷被覆材に組み込まれる。
【0085】
本発明のキメラ酵素を含む組成物はまた、当技術分野で周知の手段を用いて、例えば後の再構成及び本発明による使用のために、凍結乾燥することができる。
【0086】
リポソーム送達のための製剤、及び糖結晶を含むマイクロカプセル化酵素を含む製剤も興味深い。そのような添加剤を含む組成物は、従来の周知の方法によって製剤化される(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences, Chapter 43, 14th Ed., Mack Publishing Col, Easton PA 18042, 米国 を参照)。
【0087】
一般に、医薬組成物は、顆粒、錠剤、ピル、坐剤、カプセル(例えば、経口送達に適合)、マイクロビーズ、ミクロスフェア、リポソーム、懸濁液、軟膏、ローションなどの様々な形態で調製することができる。経口及び局所使用に適した医薬品グレードの有機又は無機の担体及び/又は希釈剤を使用して、治療的活性のある化合物を含む組成物を構成することができる。当技術分野で公知の希釈剤としては、水性媒体、植物性油脂及び動物性油脂が挙げられる。製剤には、安定剤、湿潤剤、及び乳化剤、浸透圧を変化させるための塩、又は適切なpH値を確保するための緩衝液を組み込むことができる。
【0088】
VI.キット
本発明はまた、本発明の方法により、特に標的細菌種に密接に関連し得る(例えば、同じ属に属する)他の非標的細菌種の存在下で、特定の標的細菌種の増殖を選択的に抑制するためのキットを提供する。キットは、典型的には、配列番号2、4、6、及び8から選択されるアミノ酸配列を含むか、配列番号2、4、6、及び8から選択されるアミノ酸配列からなる有効量のポリペプチドを含有する組成物を含む第1の容器を含む。前記ポリペプチドは、典型的には局所適用のために製剤化された組成物中に(例えば、皮膚表面に容易に適用できるクリーム、ペースト、ローション、軟膏、スプレーなどの形態で、又は、患者の皮膚に使用するための皮膚パッチ、包袋、若しくは創傷被覆材に組み込まれて)存在する。
【0089】
キットは、任意に、保湿剤、日焼け止めなどのスキンケア製品、又はスキンファンデーション若しくはメイクアップなどの化粧品を含む第2の容器を含み得る。任意に、キットにはさらに、特定の標的細菌種の選択的抑制を行うためのキットの使い方についてのユーザー用の説明書を含む情報材料を含み得る。
【実施例
【0090】
以下の実施例は例示として提供されているにすぎず、制限的に提供されるものではない。当業者は、本質的に類似の結果をもたらすように変更又は改変され得る重要でない様々なパラメーターを容易に認識するであろう。
【0091】
[実施例1]
選択的抗菌活性についてのP158及びP552の同定
方法
キメラ抗スタフィロコッカスリシンのライブラリーの構築
キメラコード配列を作製するために、PCRベースの方法を使用することにより、様々な構築物のライブラリーが生成された。例えば、P128のDNAコード配列は、まず16kDaのorf56をコードするDNAセグメントとリゾスタフィン3h3b領域を融合し、融合配列をT7プロモーター系E.coli発現システムにクローニングした。同様に、P158は、19kDaのorf56領域をリゾスタフィンSh3bドメインに融合することによって構築された。様々な構築物を生成するための特定の変異は、市販のキット(Agilent technologies)を用いて部位特異的変異誘発により行った。加えて、P128変異も、P128の融合コード配列のPCRベースのランダム変異誘発、当該ランダム変異の発現ベクターへのショットガンクローニング、及び目的の特性を有する得られた変異体のスクリーニングにより生成された。
【0092】
スタフィロコッカスファージKのORF56の配列は、アクセッション番号YP_024886に記載されている。ORF56内のシステイン-ヒスチジン依存性アミノヒドロラーゼ/ペプチダーゼ(CHAP)ドメインは、アミノ酸残基690~805のセグメントに対応する。ORF56の16kDaのフラグメントは、アミノ酸残基669~808のセグメントに対応し、ORF56の19kDaのフラグメントは、アミノ酸残基629~808のセグメントに対応する。
【0093】
選択性についてスクリーニングされた様々な構築物を以下の表1にリストする。
【表1】
【0094】
選択性についてのキメラエクトリシンのスクリーニング
抗スタフィロコッカス活性のスペクトルを決定し、ライブラリー中のエクトリシンの選択性及び特異性を評価するために、本発明者らは適切なスクリーニング方法を開発した。スクリーニング用の様々な構築物のプラスミドDNAを熱ショック法によりE.coli発現株BL21A1に形質転換し、適切な抗生物質を含むLB寒天培地にプレーティングし、形質転換体コロニーを選択するために37℃で18~20時間インキュベートした。これらのコロニーを適切な抗生物質を含む5mLのLBブロスに接種し、37℃で6~8時間インキュベートした後、0.2%L(+)アラビノースと0.5mMのIPTGを含むLB寒天培地に各培養液5μLをスポット配置し、風乾させ、タンパク質発現のために常温で18時間インキュベートした。次に、発現したタンパク質を細胞から放出するために、プレートをクロロホルム蒸気に15分間さらして、S.aureus、S.hominis、及びS.epidermidisを含む軟寒天で別々に覆い、37℃で18時間インキュベートした。各スポット周囲の溶解ゾーンを視覚化して、選択性を決定した(図1)。
【0095】
結果と考察
図1に見られるように、スポット#7及び#10は溶解ゾーンを示さず、検出可能な活性がないことが示されている。スポット#1、#2、#3、#4、及び#6は、3つのスタフィロコッカス種のすべてにおいて溶解ゾーンが示され、明らかな選択性のない、広い活性が示されている。しかしながら、構築物P552及びP158に対応する、ハイライトされたスポット#5及び#9では、S.aureus及びS.hominisにおいて溶解ゾーンが示されたが、S.epidermidisでは溶解ゾーンが見られず、選択性が示されている。
【0096】
P128(スポット#1)は、試験した3つのスタフィロコッカスのすべてで溶解ゾーンを示した一方、構築物P158及びP552は、S.epidermidisでは溶解ゾーンを示さず、S.aureus及びS.hominisで溶解ゾーンを示し、これらの抗菌活性の選択性を示している。S.aureusとS.hominisは標的であり、S.epidermidisは標的ではない。これらの2つのキメラタンパク質P158及びP552は、さらなる試験に供された。
【0097】
[実施例2]
P552のさらなる特性評価
P552の構築
P552は、K61E、Q135L、E143D、及びY210Hの4つの変異を有するP128のバリアントである。この変異のうちの2つであるK61EとQ135LはCHAPドメインに存在し、E143Dはリンカー領域に存在し、Y210H変異はSh3bドメインに存在する。このP128バリアントは、S.aureusに対するより高い特異的活性及び選択性を示す変異体のスクリーニングのためのP128コード配列のPCRベースのランダム変異誘発後に単離された。
【0098】
P552の抗菌活性と選択性
図1に見られるように、P552は、S.aureus及びS.hominisでは溶解ゾーンを示し、S.epidermidisでは溶解ゾーンを示さなかった。スクリーニングアッセイで観察された選択性を確認するため、精製したP552を用いて、S.aureus及びS.epidermidisに対して接触殺菌アッセイ及びMICアッセイが行われた。
【0099】
接触殺菌アッセイでは、分離株をミューラーヒントンブロス(MHB)で増殖させ、10CFU/mLの両分離株を5μg/mL及び10μg/mLの精製P552と混合し、37℃で1時間インキュベートした。LB寒天プレートに希釈プレーティングして残留CFU/mLをカウントすることで、致死率(log-kill)を推定した。細菌増殖のため、プレートを37℃で18~24時間インキュベートした。
【0100】
結果
P552は、S.aureusの殺菌には非常に強力であった。5μg/mLのP552はS.aureusの4超のlog-killを得るのに十分であったが、10μg/mLのP552でも、S.epidermidis細胞のlog-killは1未満であった(図2)。
【0101】
接触殺菌アッセイに加えて、S.aureusとS.epidermidisのそれぞれの1つの株に対して、MHB培地中でP552を用いて標準的なMICアッセイを行った。5×10細胞のこれらの株を、精製P552の2倍ごとの希釈液で処理し、35℃で18~20時間インキュベートした。S.aureusに対するP552のMICは7μg/mLであり、S.epidermidisに対しては、試験した最高濃度である115μg/mLを超えていた。
【0102】
したがって、P552の抗菌活性は選択的であることが示される。これはS.aureusに対して強力な活性を有する一方、S.epidermidisに対する活性は低い。
【0103】
[実施例3]
P158のさらなる特徴付け
P158の構築
上述のように、P158を発現する構築物は、S.epidermidisには影響することなく、S.aureus及びS.hominisに対しては溶解ゾーンを示した。P158は19kDaのORF56の、リゾスタフィンの細胞壁結合ドメイン(CBD)とのキメラ融合体である(国際公開第2007/130655号の「構築物2」又は配列番号6を参照)。19kDaのORF56領域は、触媒的システイン-ヒスチジン依存性アミノヒドロラーゼ/ペプチダーゼ(CHAP)ドメインを有する一方、リゾスタフィンのCBDはSh3bドメインを有する。
【0104】
このキメラ融合体をE.coli発現ベクターにクローニングし、IPTGで誘導し、イオン交換クロマトグラフィーを用いて30.3kDaのキメラタンパク質を均一になるまで精製した。
【0105】
P158の選択性試験
S.hominisの1株とS.epidermidisの3株に対する接触殺菌アッセイにより、精製P158の抗菌活性及び選択性を決定した。これらの4つの分離株をミューラーヒントンブロス(MHB)で増殖させ、10CFU/mLの各分離株を10μg/mLの精製P158と混合し、37℃で2時間インキュベートした。LB寒天プレートに希釈プレーティングして残留細胞をカウントすることで、log-killを推定した。細菌増殖のため、プレートを37℃で18~24時間インキュベートした。試験開始時(CC-0hr)及び2時間のインキュベーション終了時(CC-2hrs)の細胞コントロールもカウントした。
【0106】
結果
P158は、10μg/mLタンパク質で、S.hominisを3超の細胞log-killで効率的に殺菌したが、S.epidermidisの株に対するその活性は、同濃度でlog-killが約1と弱かった(図3)。したがって、P158は、S.epidermidisに顕著に影響することなく、S.hominisを非常に効率的に殺菌することが示され、これは、S.hominisを選択的に殺菌するための有用性を示している。
【0107】
[実施例4]
P158バリアントであるP751のさらなる特徴付け
P751の構築
PI58のN末端領域は一連のグリシン残基を有しており、これは、CHAPドメインのグリシンに富む残基に対する指向性のため、自己切断の基質となる可能性がある。タンパク質の安定性に影響し得る潜在的な自己切断を防ぐために、30、35、及び40位のグリシン残基をアラニン置換により改変した。これはPCR増幅中のプライマー配列に必要な改変を導入し、キメラ遺伝子に再クローニングすることにより行った。30、35、及び40位にアラニンを有する前記改変P158を、E.coli発現ベクターpET26bにクローンニングして、P751を作製した。
【0108】
P751の選択性試験
S.aureus及びS.epidermidisのそれぞれ1つの株に対する接触殺菌アッセイによって、精製されたP751の抗菌活性及び選択性を決定した。分離株をミューラーヒントンブロス(MHB)で4~5時間増殖させ、それぞれの10CFU/mLを5μg/mL及び10μg/mLの精製P751と混合し、37℃で1時間インキュベートした。LB寒天プレートに希釈プレーティングして残留CFU/mLをカウントすることでlog-killを推定した。細菌増殖のために、プレートを37℃で18~24時間インキュベートした。
【0109】
結果
S.aureusに対し、5μg/mLでは3のlog-kill、10μg/mLのP751では4の細胞log-killを与える殺菌活性が観察された。一方、S.epidermidisに対しては、10μg/mLであっても,log-killは1しか得られなかった(図4)。したがって、P751は、S.epidermidisへの影響は最小限に抑えつつ、効率的にS.aureusを殺菌することが示されている。
【0110】
[実施例5]
P158バリアントであるP752のさらなる特徴付け
P752の構築
P751の128位のグルタミンをグルタミン酸置換により改変した。これは、P751構築物の部位特異的変異誘発を用いてP752を生成することで行った。
【0111】
P752の選択性試験
CLSIプロトコルに従った標準的なMICアッセイを実施して、P752の抗菌活性及び選択性を決定し、P158と比較した。本アッセイはS.aureus、S.hominis、及びS.epidermidisのそれぞれ1つの株で実施した。
【0112】
結果
P752は、S.epidermidisに対して250μg/mLという非常に高いMICを有し、S.aureusとS.hominisとの間でそれぞれ0.5μg/mL、31μg/mLという非常に良好な選択性の幅を有していた。同様に、P158はS.epidermidisに対する非常に高いMICを示し、S.aureusとS.hominisとの間で4倍という選択性を示した(表2)。したがって、P752は、S.epidermidisへの影響は最小限に抑えつつ、効率的にS.aureusを殺菌できることが示されている。
【表2】
【0113】
本願で引用されたすべての特許、特許出願、並びにGenBankアクセッション番号又は同等物を含む他の刊行物は、あらゆる目的のためにそれらの内容全体が参照により組み込まれる。
【0114】
配列表
配列番号1:P128のアミノ酸配列(国際公開第2007/130655号より)
【化1】
【0115】
配列番号2:P552のアミノ酸配列(理論的pI/Mw:9.66/26516.02)
【化2】
【0116】
配列番号3:P552のDNA配列
【化3】
【0117】
配列番号4:P158のアミノ酸配列(理論的pI/Mw:9.43/30372.02;ドメイン境界:1-180=19kDa ORF56領域;183-279=リゾスタフィンBD)
【化4】
【0118】
配列番号5:P158のDNA配列
【化5】
【0119】
配列番号6:P751のアミノ酸配列(理論的pI/Mw:9.43/30414.10;ドメイン境界:1-180=19kDa ORF56領域;183-279=リゾスタフィンBD)
【化6】
【0120】
配列番号7:P751のDNA配列
【化7】
【0121】
配列番号8:P752のアミノ酸配列(理論的pI/Mw:9.37/30415.08)
【化8】
【0122】
配列番号9:P752のDNA配列
【化9】
図1
図2
図3
図4
【配列表】
2023510074000001.app
【国際調査報告】