(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-13
(54)【発明の名称】サーファクタントタンパク質Lv-ラナスプミン-1(LV-RSN-1)の改変型の異種産生を行う遺伝的組換え微生物、このサーファクタントタンパク質の改変型、このサーファクタントタンパク質をコードする合成遺伝子、これらの合成遺伝子を含有する発現カセット、及びこれらの合成遺伝子を含有する発現ベクター
(51)【国際特許分類】
C12N 15/12 20060101AFI20230306BHJP
C07K 14/46 20060101ALI20230306BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20230306BHJP
C12N 15/78 20060101ALI20230306BHJP
C12N 15/81 20060101ALI20230306BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20230306BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20230306BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20230306BHJP
C09K 23/30 20220101ALI20230306BHJP
C12P 21/02 20060101ALN20230306BHJP
【FI】
C12N15/12 ZNA
C07K14/46
C12N15/63 Z
C12N15/78 Z
C12N15/81 Z
C12N1/21
C12N1/19
C12N1/15
C09K23/30
C12P21/02 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022536900
(86)(22)【出願日】2020-12-14
(85)【翻訳文提出日】2022-08-12
(86)【国際出願番号】 BR2020050541
(87)【国際公開番号】W WO2021119782
(87)【国際公開日】2021-06-24
(31)【優先権主張番号】BR1020190268670
(32)【優先日】2019-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】BR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】591005349
【氏名又は名称】ペトロレオ ブラジレイロ ソシエダ アノニマ - ペトロブラス
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【氏名又は名称】加藤 竜太
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100120684
【氏名又は名称】宮城 三次
(72)【発明者】
【氏名】マシエル メロ ヴァニア マリア
(72)【発明者】
【氏名】デ アブレウ ワルドウ ヴィニシウス
(72)【発明者】
【氏名】ノゲイラ モイセス ダヌザ
(72)【発明者】
【氏名】カヴァルカンテ ヒッサ デニス
(72)【発明者】
【氏名】デ ソウサ マイラ パウラ
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064CA02
4B064CA05
4B064CA06
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA16
4B065AA01X
4B065AA01Y
4B065AA57X
4B065AA57Y
4B065AA72X
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4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BD50
4B065CA56
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA09
4H045CA50
4H045EA35
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、ノースイースタンペッパーフロッグ(ラプトダクチルス・バスツス)からの巣泡のタンパク質抽出物の分析から配列が推定されたサーファクタントタンパク質Lv-ラナスプミン-1(Lv-Rsn-1)の予測アイソフォームの改変型の、微生物における異種産生に関する。より具体的には、本発明は、Lv-Rsn-1の予測アイソフォームの改変型からなる2種のサーファクタントタンパク質、Lv-Rsn-1の予測アイソフォームのこれらの改変型の1つをそれぞれコードする2種の合成遺伝子、Lv-Rsn-1の予測アイソフォームの改変型の1つをコードする合成遺伝子の1つをそれぞれ含む2種の発現カセット、Lv-Rsn-1の予測アイソフォームの改変型をコードする合成遺伝子の1つをそれぞれ含む2種の発現ベクター、並びにこれらの合成遺伝子の1つでそれぞれ形質転換されて、Lv-Rsn-1の予測アイソフォームの改変型の1つを異種的に産生する2種の遺伝子導入微生物、細菌及び酵母に関する。Lv-Rsn-1は、とりわけ界面活性、乳化特性及び分散特性を有し、その異種産生により、カエルの巣泡からLv-Rsn-1を抽出する必要なしに、様々な用途及び工業製品におけるその使用が可能になる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーファクタントタンパク質Lv-ラナスプミン-1(Lv-Rsn-1)のアイソフォームの予測配列をコードし、配列番号2からなることを特徴とするポリヌクレオチド。
【請求項2】
サーファクタントタンパク質Lv-ラナスプミン-1(Lv-Rsn-1)のアイソフォームの予測配列をコードし、細菌における発現のために最適化されたコドン頻度を有し、配列番号3からなることを特徴とするポリヌクレオチド。
【請求項3】
サーファクタントタンパク質Lv-ラナスプミン-1(Lv-Rsn-1)のアイソフォームの予測配列をコードし、酵母における発現のために最適化されたコドン頻度を有し、配列番号7からなることを特徴とするポリヌクレオチド。
【請求項4】
サーファクタントタンパク質Lv-ラナスプミン-1(Lv-Rsn-1)のアイソフォームの改変型であり、配列番号6からなることを特徴とするポリペプチド。
【請求項5】
サーファクタントタンパク質Lv-ラナスプミン-1(Lv-Rsn-1)のアイソフォームの改変型であり、配列番号10からなることを特徴とするポリペプチド。
【請求項6】
細菌における発現を導くプロモータに作動可能に連結された請求項2に記載のポリヌクレオチドを含むことを特徴とする発現カセット。
【請求項7】
真菌における、好ましくは酵母における発現を導くプロモータに作動可能に連結された請求項3に記載のポリヌクレオチドを含むことを特徴とする発現カセット。
【請求項8】
請求項6に記載の発現カセットを含むことを特徴とする発現ベクター。
【請求項9】
請求項7に記載の発現カセットを含むことを特徴とする発現及び形質転換ベクター。
【請求項10】
タンパク質を産生する細菌であって、前記タンパク質のコード配列が請求項6に記載のポリヌクレオチドを含む細菌であることを特徴とする遺伝子改変微生物。
【請求項11】
タンパク質を産生する酵母であって、前記タンパク質のコード配列が請求項7に記載のポリヌクレオチドを含む細菌であることを特徴とする遺伝子改変微生物。
【請求項12】
遺伝子改変生物の製造方法であって、請求項10に記載の細菌を与え、
a)細菌株を請求項6に記載の発現カセットで形質転換する工程と、
b)形質転換された細菌を選択する工程と
を含むことを特徴とする方法。
【請求項13】
遺伝子改変生物の製造方法であって、請求項11に記載の酵母を与え、
a)酵母株を請求項7に記載の発現カセットで形質転換する工程と、
b)形質転換された酵母を選択する工程と
を含むことを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項4に記載のポリペプチドを含むことを特徴とする産物。
【請求項15】
請求項5に記載のポリペプチドを含むことを特徴とする産物。
【請求項16】
請求項1から請求項15のいずれか1項に記載の遺伝子改変生物から得られる生物系サーファクタントタンパク質を用いる高度な油回収方法及び貯留槽流体力学の改善であって、前記遺伝子改変生物は、生物系サーファクタントタンパク質Lv-ラナスプミン-1を合成することができることを特徴とする高度な油回収方法及び貯留槽流体力学の改善。
【請求項17】
請求項1から請求項15のいずれか1項に記載の遺伝子改変生物から得られる生物系サーファクタントタンパク質を用いる、油のバイオレメディエーション方法であって、前記遺伝子改変生物は、生物系サーファクタントタンパク質Lv-ラナスプミン-1を合成することができることを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項1から請求項15のいずれか1項に記載の遺伝子改変生物から得られる生物系サーファクタントタンパク質を用いる、石油ガス産業におけるタンク洗浄方法であって、前記遺伝子改変生物は、生物系サーファクタントタンパク質Lv-ラナスプミン-1を合成することができることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、サーファクタントタンパク質Lv-ラナスプミン-1(Lv-ranaspumina-1又はLv-ranaspumin-1、Lv-Rsn-1)の予測アイソフォームの改変型の、微生物における異種産生に関する。このサーファクタントタンパク質は、ノースイースタンペッパーフロッグ(ra-pimenta-do-Nordeste、Northeastern Pepper Frog)(ラプトダクチルス・バスツス(Leptodactylus vastus))の泡巣において単離及び発見されたものであり、このサーファクタントタンパク質は、抽出によって得ることができず、様々な用途におけるその使用を妨げている。より具体的には、本特許出願は、それぞれがLv-Rsn-1アイソフォームの予測アミノ酸配列の改変型をコードする2種の合成遺伝子の発明、これらの合成遺伝子の1つをそれぞれ含む2種の発現カセットの発明、発現カセットに挿入されたこれらの合成遺伝子の1つをそれぞれ含む2種の発現ベクターの発明、Lv-Rsn-1の改変型の1つを異種的に産生する2つの遺伝子改変(組換え)微生物(細菌及び酵母)の発明、並びにLv-Rsn-1サーファクタントタンパク質の改変型からなる2種のタンパク質の発明に関する。Lv-Rsn-1は、とりわけ、界面活性、乳化及び分散特性を有し、その異種産生により、様々な用途及び製品におけるその使用が可能になる。
【背景技術】
【0002】
界面活性剤は、両親媒性分子のクラスを構成する。つまり、それらの分子構造は、極性部分(親水性及び疎油性)及び非極性部分(疎水性及び親油性)を同時に提示し、このため、これらの分子は、系の表面及び界面上に蓄積し、それらの表面及び界面の自由エネルギーを低下させる特性を有する。この文脈では、「表面」は、通常、液体/固体又は液体/気体の間の境界を指し、「界面」は、通常、2つの非混和性液体の間の境界を指す。
【0003】
界面活性剤は、とりわけ、農業、食品、織物、医薬品、化粧品、家庭用衛生、石油及びガスの産業においていくつかの用途を有する。これらの用途は、これらの表面活性分子の異なる活性を探求する。主なものは、乳化、脱乳化、可溶化及び洗浄力(液体-液体相互作用に関連する活性)、濡れ性及び分散性の変化(固液相互作用に関連する活性)、並びに発泡性(液体-気体相互作用に関連する活性)である。
【0004】
石油ガス産業において、界面活性剤は、例えば、(1)炭化水素を動員し、炭化水素を生分解性生物に生物学的に利用可能にするために使用される場合の汚染領域のバイオレメディエーション(生物学的環境修復)、(2)油膜を分散させるために使用される場合の流出油の浄化、(3)貯蔵タンクの内部からの油性残留物の除去、(4)殺生物剤及び防汚剤として使用される場合の有害微生物の防除;(5)濾過膜の中に含浸した鉱物堆積物及びバイオフィルムを除去するために使用される場合の濾過膜の浄化、並びに(6)リザーバ内の残留油を動員し、回収率を増加させるために使用される場合の先進的な油回収、等の目的のために使用することができる。
【0005】
いわゆる化学系界面活性剤は、生命体の代謝によって合成されるものである生物系界面活性剤とは対照的に、化石前駆体(石油化学物質)又は植物(油脂化学物質)から人工的に合成されるものである。化学系界面活性剤は、現在、界面活性剤市場を支配しているが、近年、生物系界面活性剤の使用は、以下の特性により、ますます魅力的な代替物と考えられてきた:(1)より高い界面活性;(2)最大の界面活性度に達するのに必要とされる最低濃度が低いこと(すなわち、低い臨界ミセル濃度、すなわちCMCを有する);(3)低い生態毒性;(4)より大きい生分解性;(5)より広いpH、塩分、及び温度の範囲にわたる増加した界面活性安定性;(6)より穏やかな製造条件;並びに(7)再生可能な原材料から製造することができること。
【0006】
世界的な界面活性剤市場は、2016年に306億米ドルと推定されたが、2021年までに398億米ドルまで増加すると予測され、2016年と2021年との間の年平均成長率(CAGR)は5.4%である。この分野内で、生物系界面活性剤は、2017年に42億米ドルを占め、予測は、2022年までに55億米ドルまで増加し、2017年と2022年との間のCAGRは5.6%になるというものである。
【0007】
化学系界面活性剤に関して報告されたすべての興味深い特性及び多数の利点にもかかわらず、生物系界面活性剤の工業生産は、依然として高い製造コストという課題を抱えており、これは、現在、界面活性剤についての様々な応用分野における生物系界面活性剤のより広範な使用に対する最大の障害である。この高い製造コストは主に以下の理由による:(1)原料の高いコスト、(2)製造プロセスの低い収率、及び(3)生物系界面活性剤の精製に関連するコスト。
【0008】
生物系界面活性剤の工業生産は、2つの異なるアプローチによって行うことができる。第1のアプローチは、生物系界面活性剤が発見された種を生産プラットフォームとして使用することである。これは、2種類の生物系界面活性剤によって支配されている生物系界面活性剤産業における現在の最も多く採用されているアプローチであり、この2種類の生物系界面活性剤は、両方とも糖脂質のクラスのものである:(1)シュードモナス・エルジノーサ(緑膿菌、Pseudomonas aeruginosa)種の細菌によって産生されるラムノリピド(ラムノ脂質、RL)及び(2)スターメレラ(カンジダ)・ボンビコーラ(Starmerella(Candida) bombicola)種の酵母によって産生されるソホロリピド(ソホロ脂質、SL)。少量では、糖脂質クラスの生物系界面活性剤の2つの他のタイプも商業的に生産されている:(1)シュードザイマ(Pseudozyma)属の酵母によって産生されるマンノシルエリスリトール脂質(MEL)、及び(2)ウスティラゴ・メイディス(トウモロコシ黒穂病菌、Ustilago maydis)及びシュードザイマ・フロキュローサ(Pseudozyma flocculosa)種の酵母によって産生されるセロビオース脂質(CL)。最後に、両方ともバチルス・スブチリス(枯草菌、Bacillus subtilis)種の細菌によって産生されるリポペプチド(とりわけフェンジシン(fengicina)、イツリン(iturina)、リケニシン(liquenisina)、マイコスブチリン(micosubtilina)及びサーファクチン(surfactina))の混合物又は単離されたサーファクチンの商業的生産も存在する。
【0009】
しかしながら、生物系界面活性剤が発見されたのと同じ種の生物を使用することは常に可能であるとは限らず、この場合、採用されてもよい第2のアプローチは、目的の生物系界面活性剤を異種的に産生するようないくつかの微生物の遺伝子形質転換(遺伝子組換え)である。バイオ製品一般の異種産生のためのプラットフォームとして工業的に最も使用される微生物株は、大規模な工業的培養及び遺伝子形質転換技術がすでによく習得されているものであり、主なものは以下の通りである:バチルス・スブチリス、コリネバクテリウム(ミクロコッカス)・グルタミクム(Corynebacterium(Micrococcus) glutamicum)及び大腸菌(エシェリキア・コリ、Escherichia coli)種の細菌、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、クリベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)、コマガタエラ・ファフィ(Komagataella phaffii)(ピキア・パストリス(Pichia Pastoris))、サッカロマイセス・セレビシエ(出芽酵母、Saccharomyces cerevisiae)及びヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)種の酵母、並びにアスペルギルス・オリゼ(ニホンコウジカビ、Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ニガー(クロコウジカビ、Aspergillus niger)、ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenume)及びトリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)種の糸状菌。
【0010】
しかしながら、これらの種における生物系界面活性剤の異種産生は、困難を呈する。現在工業規模で生産されている最も科学的に知られた生物系界面活性剤は、脂肪酸から構成される非極性部分と、それぞれ炭水化物及びペプチドから構成される極性部分とを有する糖脂質及びリポペプチドのクラスに属する。これらの生物系界面活性剤の生合成は、いくつかの遺伝子が関与する複雑な代謝経路に依存し、この生合成の複雑さのアイデアを有するために、関与する遺伝子を4つの主要な組にグループ分けすることができる:(1)ペプチド又は炭水化物からなる親水性部分の生合成に関与する遺伝子;(2)脂肪酸からなる疎水性部分の生合成に関与する遺伝子;(3)親水性部分を疎水性部分に共有結合させることに関与する遺伝子;及び(4)他の3つのグループに属する遺伝子の発現調節に関与する遺伝子。
【0011】
それを考慮すると、生物工学的な生産プロセスにおいて伝統的に使用される種における糖脂質及びリポペプチドタイプの生物系界面活性剤の異種産生に関連する遺伝子工学及び代謝工学の課題がさらに大きくなる可能性がある。これは、これらの種における異種産生が、多数の遺伝子の挿入、並びに挿入された遺伝子の発現の正確な調節及びこれらの代謝経路への前駆体の適切な供給を必要とするからである。これらの困難は、上述の種の使用を困難にするので、生物系界面活性剤の工業生産は、現在、これらの生物系界面活性剤を天然に産生する種に限定される。
【0012】
生物系界面活性剤を天然に合成する微生物によって産生されなければならないという制限に加えて、これらの生物系界面活性剤は、それらが異なるアイソフォーム(又は同族体)の混合物として産生され、これらのアイソフォームが、その疎水性部分及び親水性部分の両方の組成における変動に起因して、それらの特性における差異を示すというさらなる困難も抱える。例えば、ラムノリピドは、その極性部分に1つ又は2つのL-ラムノース型糖、及びその非極性部分に8~16の偶数個の炭素を含有する1つ又は2つのβ-ヒドロキシル化脂肪酸を有する可能性がある。各アイソフォームの割合に関する生物系界面活性剤の混合物の組成は、同じ微生物株を用いて同じ培養条件下で産生されたバッチ間でさえ、かなり変動する。また、異なるアイソフォームの特性に変動があるため、生成される混合物中に存在する異なるアイソフォームの割合は、最終生成物の特性に影響を及ぼし、その標準化を困難にする。
【0013】
しかしながら、別のクラスの生物系界面活性剤、いわゆるサーファクタントタンパク質が存在し、そのメンバーは、いくつかの遺伝子を挿入する必要性を回避すること、及び単一のアイソフォームを産生することをより容易にすることの両方という二重の利点を有する。サーファクタントタンパク質は、単一の遺伝子によってコードされるアミノ酸のポリマーであり、この遺伝子は、遺伝子コードに従って、DNA配列をmRNAに転写し、mRNAをリボソーム上でタンパク質に翻訳する古典的経路によって発現される。このようにして、単一の遺伝子を宿主微生物に挿入し(これは、遺伝子形質転換の作業を容易にする)、従って、単一のアイソフォームの異種産生を行う(これは、最終産物の標準化を容易にする)ことができる。
【0014】
サーファクタントタンパク質の公知の天然供給源の中で、近年探索されているものはカエルの巣由来の泡であり、これは環境中でのその持続性に顕著である。この供給源から単離された最初のサーファクタントタンパク質は、トゥンガラガエル(ra-tungara)(フィサラエムス(=エンジストモプス)・プスツロサス(Physalaemus(=Engystomops) pustulosus))によって産生されたものであった。このカエル由来の巣の泡から単離された6つのタンパク質(これらはラナスプミンと名付けられ、1~6の番号が付与された)のうち、Ep-ラナスプミン-2(Ep-Rsn-2)は、97個のアミノ酸から構成され、11.0kDaの分子量を有する(GenBank AAP48831)、界面活性剤活性を示した唯一のタンパク質であった。Ep-Rsn-2は、10μg/mLの濃度で水/空気表面張力を72nM/mから50nM/mに低下させることができた。
【0015】
第2の種類のサーファクタントタンパク質は、本発明の出願人らによって、ノースイースタンペッパーフロッグ(ラプトダクチルス・バスツス)の巣泡から単離された。このタンパク質は、クロマトグラフィー技術によって泡流体から単離され、得られた2つの画分のうちの1つにおいて、密で明確なバンドが約20kDaの分子量で検出され、これは0.1mg/mLで乳化活性(57%の乳化指数)を示した。このタンパク質はLv-ラナスプミン-1(Lv-Rsn-1)と命名された。
【0016】
泡流体から単離されたLv-Rsn-1タンパク質は、そのアミノ酸配列が変性ゲル電気泳動による各バンドの分子量23.5kDaの情報と、このバンドの酵素消化により得られた36個のペプチド断片の質量分析による配列決定と、X線結晶学により得られた電子密度マップとの交叉から推測され、その結果、217個のアミノ酸の予測配列が得られた。このLv-Rsn-1タンパク質の結晶についての2つの予測された三次元構造は、受入コード4K82及び4K83の下でRCSB PDB(https://www.rcsb.org/)に提出された。
【0017】
三次元構造がすでに公開されているEp-Rsn-2及びLv-Rsn-1の2つのアイソフォームを比較すると、両者は、わずか38%のアミノ酸配列類似性しか示さず、それらの三次元構造は全く異なる。Lv-Rsn-1は13束のαヘリックスとクランプを構成する2つの逆平行βシートを有するのに対して、Ep-Rsn-2は4つの逆平行βシートで構成され、αヘリックスがその面の1つを垂直に取り囲んでいる。それゆえ、両方ともカエルの巣泡に由来するのでラナスプミンと命名されているが、それらは2つの明確に異なるタンパク質である。
【0018】
ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって、及びペプチド断片の配列決定によって、Lv-Rsn-1を含有するL.バスツス(L.vastus)巣泡の画分を分析したときに得られた結果は、異なるサイズ及び組成のアミノ酸配列を有する他のアイソフォームの発生を示唆する。しかしながら、L.バスツスのゲノムも、Lv-Rsn-1のいずれのアイソフォームをコードするいかなる遺伝子も、今日まで配列決定されておらず、そのため、これらの他のアイソフォームの配列はまだ不明である。
【0019】
Lv-Rsn-1は、様々な用途に対して優れた可能性を有するサーファクタントタンパク質の1種であり、その工業生産を可能にすることは、その商業化及び様々な目的のための応用を達成するために克服される必要がある障害である。しかしながら、Lv-Rsn-1が、多細胞性で、感覚があり、環境立法により保護される動物生物由来の生物系界面活性剤であることを考慮すると、産生生物自体を使用するアプローチは、技術的経済的理由及び倫理的法律的問題の両方のために実行不可能である。同様の理由から、ノースイースタンペッパーフロッグの巣からの泡からの抽出によってLv-Rsn-1を得ることも実行不可能である。検証が可能な範囲では、あらゆる種のカエルの巣の泡からのサーファクタントタンパク質の異種産生に言及する特許はない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本開示に鑑みて、本発明は、Lv-Rsn-1サーファクタントタンパク質の改変型を異種様式で産生する能力を有する2種の遺伝子改変微生物(細菌及び酵母)からなる。この2種の遺伝子改変微生物に加えて、本発明は、以下の他の発明も企図する:(1)サーファクタントタンパク質Lv-ラナスプミン-1(Lv-Rsn-1)の予測アイソフォームの改変型からなる2種のタンパク質、(2)配列が細菌及び酵母における発現のためにそれぞれ最適化されており、Lv-Rsn-1サーファクタントタンパク質の予測アイソフォームの2つの改変型の1つをコードする2種の合成遺伝子、(3)Lv-Rsn-1サーファクタントタンパク質の予測アイソフォームの改変型の1つをコードする合成遺伝子の1つをそれぞれ含む2つの細菌発現カセット及び酵母発現カセット、並びに(4)Lv-Rsn-1サーファクタントタンパク質の予測アイソフォームの2つの改変型の1つをコードする合成遺伝子の1つを含む、細菌及び酵母それぞれにおける発現のための2種の発現ベクター。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、ノースイースタンペッパーフロッグ(ラプトダクチルス・バスツス)によって産生されるタンパク質Lv-ラナスプミン-1(Lv-Rsn-1)の界面活性剤活性の特定に基づいており、このタンパク質はいくつかの工業的応用の可能性を有する。従って、本発明は、いずれも天然には存在しない、Lv-Rsn-1サーファクタントタンパク質のアイソフォームの1つの予測配列の改変型からなる2種のタンパク質を企図する。
【0022】
本発明の別の要素は、Lv-Rsn-1サーファクタントタンパク質のアイソフォームの予測配列の改変型の1つをそれぞれコードする2種の合成遺伝子に関し、その配列は、遺伝子改変された細菌微生物及び真核微生物における発現をそれぞれ標的とするコドンの使用頻度について最適化されたものである。
【0023】
本発明の別の要素は、2種の発現カセットであって、各々が、それぞれ遺伝子改変された細菌及び酵母における複製及び発現のための発現ベクターへの挿入を目的とする、活性プロモータに作動可能に連結されたLv-Rsn-1サーファクタントタンパク質の予測配列の改変型をコードする合成遺伝子の1つを含有する2種の発現カセットに関する。
【0024】
本発明の別の要素は、2種の発現ベクターであって、各々が、それぞれ遺伝子改変された細菌及び酵母における複製及び発現を標的とする、Lv-Rsn-1サーファクタントタンパク質のアイソフォームの予測配列の改変型をコードする合成遺伝子の1つを含む2種の発現ベクターに関する。
【0025】
本発明の別の要素は、Lv-Rsn-1サーファクタントタンパク質のアイソフォームの予測配列のバージョンをコードする合成遺伝子を有する発現カセットを含むそれぞれの発現ベクターでそれぞれ形質転換され、この遺伝子の発現及びこのサーファクタントタンパク質の異種産生を標的とする2種の遺伝子改変微生物、細菌及び酵母に関する。
【0026】
本発明の他の対象、詳細及び利点は、以下の図面、配列、説明及び実施例から明白となるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1は、Lv-Rsn-1サーファクタントタンパク質の予測アイソフォームの1つの改変型をコードする遺伝子(配列番号3)を含む細菌pPBUFCBac-LvRsn1(配列番号5)における発現のためのベクターマップを示す。マップ上には、以下のものが表されている:T7プロモータ配列(T7プロモータ);lacOオペレータ配列(lacオペレータ);NdeIエンドヌクレアーゼのための2つの制限酵素部位(NdeI)及びエンドヌクレアーゼEcoRIのための1つの制限酵素部位(EcoRI);ポリヒスチジンタグコード配列(6xHis);TEVプロテアーゼによる切断部位についてのコード配列(TEV部位);大腸菌における発現のために最適化されたコドン頻度を有するLv-ラナスプミン-1タンパク質のコード配列(Lv-Rsn-1);XhoIエンドヌクレアーゼのための制限酵素部位;T7転写終結配列(T7ターミネータ);アンピシリン耐性についてのマーカー遺伝子のためのプロモータ(AmpRプロモータ)及びコード化(AmpR)配列;プラスミドpBR322の複製起点配列(ori);可動化の基礎(basis of mobility)エレメント(bom);プライマーのリプレッサー(rop)タンパク質のコード配列;並びにlacI調節タンパク質遺伝子のプロモータ(lacIプロモータ)及びコード(lacI)配列。
【
図2】
図2は、Lv-Rsn-1サーファクタントタンパク質の予測アイソフォームの1つの改変型の遺伝子(配列番号7)を含む酵母pPBUFCYea-LvRsn1(配列番号9)における発現のためのベクターマップを示す。マップ上には、以下のものが表されている:AOX1プロモータ配列(AOX1プロモータ);エンドヌクレアーゼSacIのための制限酵素部位(SacI);α分泌因子のコード配列(α分泌因子シグナル);PstIエンドヌクレアーゼのための制限酵素部位(PstI);K.ファフィ(K.phaffii)における発現のために最適化されたコドン頻度を有するLv-ラナスプミン-1タンパク質コード配列(Lv-Rsn-1);TEVプロテアーゼによる切断部位についてのコード配列(TEV部位);NotIエンドヌクレアーゼのための制限酵素部位(NotI);c-Mycタグコード配列(Myc);ポリヒスチジンタグコード配列(6xHis);転写終結配列AOX1(AOX1ターミネータ);TEF1プロモータ配列(TEF1プロモータ);EM7プロモータ配列(EM7プロモータ);ゼオシン(zeocin)耐性についてのマーカー遺伝子のためのコード配列(BleoR);CYC1転写終結配列(CYC1ターミネータ);及びpUCプラスミド複製起点配列(ori)。
【
図3】
図3は、遺伝子改変細菌によって産生された封入体の再可溶化及びニッケルカラムによる精製後のLv-Rsn-1サーファクタントタンパク質の予測アイソフォームの1つの改変型の存在を評価するために実施された、ドデシル硫酸ナトリウムを含むポリアクリルアミドゲル中のタンパク質の電気泳動(SDS-PAGE)の写真を示す。「洗浄後」試料は、Triton-X-100洗浄剤及び尿素を含有する緩衝液を含む不溶性画分を指す。試料「洗浄」は、保持されていないピークの洗浄を指し、「MM」は、分子量マーカーを指す。矢印は、Lv-Rsn-1サーファクタントタンパク質に対応するバンドを示す。
【
図4】
図4は、大腸菌において産生されたLv-Rsn-1サーファクタントタンパク質の予測アイソフォームの1つの改変型0.1mg/mLを用いた水/ケロシン乳化アッセイの写真を示す。
【
図5】
図5は、異なる濃度(単位:ppm)で大腸菌細菌において発現されたLv-Rsn-1サーファクタントタンパク質の予測アイソフォームの1つの改変型によって促進された水/空気表面張力(単位:mN/m)に対する界面活性剤効果のグラフを示す。
【
図6】
図6は、細菌中で発現されたLv-Rsn-1サーファクタントタンパク質の予測アイソフォームの1つの改変型1.0mg/Lによる海水中の油分散アッセイの写真を示す(1.0mg/Lのウシ血清アルブミンタンパク質 - BSAを参照として使用した)。
【
図7】
図7は、細菌中で発現されたLv-Rsn-1サーファクタントタンパク質の予測アイソフォームの1つの改変型50mg/Lによる、シクロヘキサンペンタン酸を含浸させたカルサイト(方解石)粉末の濡れ性反転アッセイの写真を示す。陰性対照として海水が使用され、陽性対照として25mg/LのArquad C-50カチオン性界面活性剤が使用された。
【
図8】
図8は、0.5%(v/v)のメタノールの添加の24時間、48時間、72時間及び96時間後の5リットルバイオリアクター中での遺伝子改変K.ファフィの培養のバット上清中及び泡中のLv-Rsn-1サーファクタントタンパク質の予測アイソフォームの1つの改変型の存在を評価するためのトリシンドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(トリシン-SDS-PAGE)の写真を示す。MM=分子マーカー、C+=大腸菌によって産生されたLv-Rsn-1タンパク質のバージョン、赤色矢印は、K.ファフィによって産生されたLv-Rsn-1タンパク質アイソフォームの1つの改変型に対応するバンドを指す。
【
図9】
図9は、K.ファフィにおいて産生されたLv-Rsn-1サーファクタントタンパク質の予測アイソフォームの1つの改変型の異なる濃度を用いた水/ケロシン乳化アッセイの写真を示す。陰性対照は、pH6.0のBMMH培地からなる。
【
図10】
図10は、異なる濃度(単位:mg/mL)におけるK.ファフィ酵母において発現されたLv-Rsn-1サーファクタントタンパク質の予測アイソフォームの1つの改変型によって促進された水/空気表面張力(単位:mN/m)に対する界面活性剤効果のグラフを示す。
【
図11】
図11は、細菌中で発現されたLv-Rsn-1サーファクタントタンパク質の予測アイソフォームの1つの改変型50mg/Lによる、シクロヘキサンペンタン酸を含浸させたカルサイト粉末の反転濡れ性アッセイの写真を示す。陰性対照として海水が使用され、陽性対照として25mg/Lのアニオン性界面活性剤ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)が使用された。
【0028】
生物学的配列表の簡単な説明
配列番号1は、ノースイースタンペッパーフロッグ(ラプトダクチルス・バスツス)の巣泡に存在するLv-Rsn-1サーファクタントタンパク質アイソフォームの1つの予測アミノ酸配列である。
配列番号2は、配列番号1の逆翻訳から生じるヌクレオチド配列である。
配列番号3は、参照種として大腸菌を使用して、細菌における発現のために最適化されたコドン使用頻度を有した後の配列番号2から得られるヌクレオチド配列である。
配列番号4は、エンドヌクレアーゼのための制限酵素部位、ポリヒスチジンタグについてのコード配列、及びTEVプロテアーゼ切断部位コード配列を付加した配列番号3を含むヌクレオチド配列である。
配列番号5は、配列番号3を含む発現カセットを含む、pPBUFCBac-LvRsn1と命名された、細菌における発現のためのベクターのヌクレオチド配列である。
配列番号6は、配列番号4によってコードされるLv-Rsn-1サーファクタントタンパク質の予測アイソフォームの改変型のアミノ酸配列である。
配列番号7は、参照種としてコマガタエラ・ファフィ(ピキア・パストリス)を使用して、酵母における発現のために最適化されたコドン使用頻度を有した後の配列番号2から得られるヌクレオチド配列である。
配列番号8は、分泌因子αコード配列、TEVプロテアーゼ切断部位コード配列、Mycタグコード配列及びポリヒスチジンタグのコード配列を付加した配列番号7を含むヌクレオチド配列である。
配列番号9は、配列番号7を含む発現カセットを含む、pPBUFCYea-LvRsn1と命名された、酵母における発現のためのベクターのヌクレオチド配列である。
配列番号10は、配列番号8によってコードされるLv-Rsn-1サーファクタントタンパク質の予測アイソフォームの改変型のアミノ酸配列である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、サーファクタントタンパク質Lv-ラナスプミン-1(Lv-Rsn-1)の予測アイソフォームの1つの改変型を異種的に産生する2種の遺伝子改変微生物であって、一方は細菌であり、他方は酵母であるものの構築に関する。加えて、本発明は、Lv-Rsn-1の2つの改変型、これらのLv-Rsn-1の改変型をそれぞれコードする2種の合成遺伝子、これらのLv-Rsn-1の改変型をコードする合成遺伝子をそれぞれ含む2種の発現カセット、これらのLv-Rsn-1の改変型をコードするこれらの合成遺伝子の1つをそれぞれ含有する2種の発現ベクターに関する。
【0030】
本発明で用いるアミノ酸配列(配列番号1)は、ラプトダクチルス・バスツスの巣の泡沫のタンパク質抽出物をポリアクリルアミドのゲル電気泳動及びペプチド断片の配列決定による分析に基づいて予測されたLv-Rsn-1タンパク質のアイソフォームの配列に相当する。Lv-Rsn-1サーファクタントタンパク質のこのアイソフォームの216アミノ酸及び23.3kDaの分子量の予測配列は、そのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(配列番号2)を得るために、Sequence Manipulation Suite(配列操作スイート)(http://www.bioinformatics.org/sms2/rev_trans.html)のReverse Translation(逆翻訳)ツールを使用して逆翻訳に供された。
【0031】
次いで、このようにして得られたヌクレオチド配列は、Integrated DNA Technologies(インテグレーテッド・ディーエヌエー・テクノロジーズ)(http://www.idtdna.com)からのCodon Optimization Tool(コドン最適化ツール)を用いて、細菌における発現については参照種として大腸菌を使用して(配列番号3)、そして酵母における発現については参照種としてコマガタエラ・ファフィ(ピキア・パストリス)を使用して(配列番号7)コドン使用頻度に関して最適化された。
【0032】
細菌における発現のために最適化されたヌクレオチド配列(配列番号3)を使用して、エンドヌクレアーゼのための部位(発現ベクターへのヌクレオチドの挿入を容易にする)及びさらなるアミノ酸配列をコードする配列(発現タンパク質の精製を容易にする)からなる配列番号3の下流及び上流に付加されたヌクレオチドを有する遺伝子が設計された。
【0033】
この遺伝子が人工的に合成され、この合成遺伝子と細菌における発現のためのベクターの両方が2つのエンドヌクレアーゼで消化された(遺伝子が発現カセット中のプロモータに対して正しい向きで挿入されるようにする)後、DNAリガーゼで連結された。このようにして得られた発現ベクターは、細菌において活性なプロモータに作動可能に連結された合成遺伝子を有する発現カセットを含み、この発現カセットは、このベクターから除去されることが可能で、そしてエンドヌクレアーゼによる消化及びDNAリガーゼによる結合によって、細菌における発現のための他のベクター中に挿入されることができる。
【0034】
細菌株が、Lv-Rsn-1サーファクタントタンパク質の予測アイソフォームの改変型をコードする合成遺伝子を含む発現ベクターで遺伝子形質転換された。遺伝子改変された細菌は、その複製及びLv-Rsn-1のこのバージョンの発現のために適切な培養培地中で培養された。
【0035】
酵母については、酵母における発現のために最適化されたヌクレオチド配列(配列番号7)を使用して、エンドヌクレアーゼのための部位(発現ベクターへのヌクレオチドの挿入を容易にする)及びさらなるアミノ酸配列をコードする配列(発現タンパク質の精製を容易にする)からなる配列番号3の下流及び上流に付加されたヌクレオチドを有する遺伝子が設計された。
【0036】
この遺伝子が人工的に合成され、この合成遺伝子と酵母における発現のためのベクターの両方が2つのエンドヌクレアーゼで消化された(遺伝子が発現カセット中のプロモータに対して正しい向きで挿入されるようにする)後、DNAリガーゼで連結された。このようにして得られた発現ベクターは、細菌において活性なプロモータに作動可能に連結された合成遺伝子を有する発現カセットを含み、この発現カセットは、このベクターから除去されることが可能で、そしてエンドヌクレアーゼによる消化及びDNAリガーゼによる結合によって、酵母における発現のための他のベクター中に挿入されることができる。
【0037】
酵母株が、Lv-Rsn-1サーファクタントタンパク質の予測アイソフォームの改変型をコードする合成遺伝子を含む発現ベクターで遺伝子形質転換された。遺伝子改変酵母は、その複製及びLv-Rsn-1のこのバージョンの発現のために適切な培養培地中で培養された。
【実施例】
【0038】
本発明は、以下の実施例によってよりよく理解されてもよい。本発明は、言及された実施例に限定されず、記載されるすべての応用例において、又は任意の他の等価な変形形態において使用することができるということに留意されたい。
【0039】
実施例1:細菌におけるLv-Rsn-1の産生のためのベクターの取得
Lv-Rsn-1サーファクタントタンパク質のアイソフォームのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列であって、細菌における発現のために最適化されたヌクレオチド配列(配列番号3)にヌクレオチドが付加されて、その結果、5’から3’への向きに読んだ場合、以下の組成を有する合成遺伝子(配列番号4)が得られた:(1)3’末端にチミンを付加したEcoRIエンドヌクレアーゼのための制限酵素部位配列(5’-GAATTCT-3’);(2)TEVプロテアーゼ切断部位(ENLYFQGS)をコードする配列(5’-GAAAACTTGTATTTCCAGGGCAGC-3’);(3)NdeIエンドヌクレアーゼのための制限酵素部位配列(5’-CATATG-3’);(4)開始コドン(5’-ATG-3’);(5)細菌における発現のために最適化されたコドン頻度を有するLv-Rsn-1サーファクタントタンパク質の予測アイソフォームのためのアミノ酸配列をコードする配列(配列番号3);(6)終止コドン(5’-TAA-3’);及び(7)XhoIエンドヌクレアーゼのための制限酵素部位配列(5’-CTCGAG-3’)。
【0040】
この合成遺伝子(配列番号4)及び細菌発現における発現のためのベクターを共にEcoRI及びXhoIエンドヌクレアーゼで消化した後、DNAリガーゼで連結した。pPBUFCBac-LvRsn1と命名された発現ベクターの最終配列(配列番号5)を
図2に示す。
【0041】
発現ベクターpPBUFCYea-LvRsn1(配列番号5)中に存在する遺伝子によってコードされるLv-Rsn-1サーファクタントタンパク質の予測アイソフォームの改変型は、236個のアミノ酸及び25.8kDaの分子量を有し(配列番号6)、そのN末端部分に20個のアミノ酸の配列を加えたことによって予測アイソフォームとは異なり、このアミノ酸の配列は、ポリヒスチジン尾部(HHHHHH)及びTEVプロテアーゼによる切断部位(ENLYFQG)を含有する。Lv-Rsn-1サーファクタントタンパク質のアイソフォームのこの改変型がTEVプロテアーゼによって消化される場合、それは、そのN末端部分における5つのアミノ酸(GSHMM)の存在によって予測アイソフォームとは異なる。
【0042】
実施例2:遺伝子改変細菌の取得
大腸菌細菌株をpPBUFCBac-LvRsn1ベクター(配列番号5)でエレクトロポレーションにより遺伝子形質転換した。使用した菌株は大腸菌K-12株由来の菌株であり、この由来の菌株は以下の通りであった:(1)ロイシンアミノ酸に対して栄養要求性であり、カナマイシン抗生物質に対して感受性である、(2)この菌株は、グルタチオンレダクターゼ(gor)及びチオレドキシンレダクターゼ(trxB)遺伝子に突然変異を有する、並びに(3)この菌株は、テトラサイクリン抗生物質耐性のための遺伝子を有する。
【0043】
大腸菌細胞を10%(m/v)グリセロール溶液で3回洗浄してエレクトロコンピテントにした後、1.0μLのこの溶液にpPBUFCBac-LvRsn1ベクター(50ηg/μL)を加えた。細胞混合物をベクターと共に氷上で1分間維持した後、この混合物を0.2cmエレクトロポレーションキュベットに移し、2.5kVのショックに供した。エレクトロポレーション後、960μLのSOC培地(20g/L トリプトン、5g/L 酵母エキス、10mM NaCl、2.5mM KCl、10mM MgCl2、10mM MgSO4、20mM グルコース)を加え、混合物を150rpm、37℃で1時間インキュベートした。インキュベーション時間後、培養物50μLをLB寒天培地(10g/L トリプトン、5g/L 酵母エキス、5g/L NaCl、15g/L 寒天)を含むペトリ皿に接種した。
【0044】
その後、得られたコロニーを、12.5μg/mLのテトラサイクリン(この鎖の細胞のみを選択し、汚染細菌の増殖を防ぐため)及び100μg/mLのアンピシリン(形質転換細胞のみを選択し、非形質転換細胞の増殖を防ぐため)を補充したLB培地中で培養した。
【0045】
得られたコロニーの発現ベクターpPBUFCBac-LvRsn1による遺伝子形質転換を、これらのコロニーからDNAを抽出し、抽出したDNAを制限酵素EcoRI及びXhoIで消化し、アガロースゲル1%(m/v)で電気泳動することにより評価して、予想される692bp断片の存在を確認した。発現ベクターpPBUFCBac-LvRsn1による大腸菌の遺伝子形質転換は、いくつかのコロニー、並びに世代にわたるpPBUFCBac-LvRsn1の複製及び安定な遺伝について確認した。
【0046】
実施例3:遺伝子改変細菌によるLv-Rsn-1の産生
pPBUFCBac-LvRsn1ベクターで形質転換した大腸菌細胞を、lacIタンパク質と相互作用してそれをlacOオペレータから脱離させ、その結果、Lv-Rsn-1サーファクタントタンパク質のアイソフォームの改変型をコードする遺伝子の発現を誘導するアロラクトースの構造類似体であるイソプロピル-β-D-1-チオガラクトピラノシド(IPTG)を補充したLB培地中で培養した。
【0047】
単離したコロニーを、2種の抗生物質(12.5μg/mLのテトラサイクリン及び100μg/mLのアンピシリン)を補充した10mLのLBブロスに移し、次いで250rpm及び37℃で16時間インキュベートすることによって、遺伝子形質転換細胞の接種前駆体(pre-inoculo、又はpre-inoculum)を得た。次いで、1mLの体積の培養物を、100μg/mLのアンピシリンを補充した100mLのLB培地を含有するフラスコに移し、37℃及び250rpmで、増殖の対数期(600nmにおける光学密度は0.5~0.7である)に達するまでインキュベートした。フラスコを室温で15分間静置した。次いで、IPTGを0.5mMの最終濃度まで添加し、培養物を200rpm及び37℃で3時間インキュベートした。この期間の後、培養物を7,800g、4℃で13分間遠心分離し、上清を捨て、沈殿物を0.1M NaClで洗浄し、7,800g、4℃で1時間遠心分離した。
【0048】
発現がIPTGによって誘導されるLv-Rsn-1サーファクタントタンパク質の予測アイソフォームの改変型を精製するために、細胞を5mLの再懸濁緩衝液(50mM Tris-HCl pH8.0及び150mM NaCl)に再懸濁し、氷浴中で5分間及び40%の振幅の3サイクルにわたって超音波処理した。超音波処理後、細胞を、15,000g、4℃で45分間遠心分離して、可溶性(上清)画分と不溶性(沈殿物)画分を分離した。
【0049】
不溶性画分(封入体を含有する沈殿物)からのLv-Rsn-1サーファクタントタンパク質の予測アイソフォームの改変型の精製を、再可溶化及び再生プロトコルを使用して行った。これについて、不溶性画分を洗浄緩衝液(100mM Tris-HCl pH8.0、5mM EDTA、5mM DTT、2M 尿素及び2%Triton X-100)に再懸濁し、22,000g、4℃で30分間遠心分離した。この調製物を15%SDS-PAGEによって分析して、Triton X-100洗浄剤及び尿素を含有する緩衝液での2回の洗浄が、封入体からLv-Rsn-1サーファクタントタンパク質の予測アイソフォームの改変型のほとんどを抽出するのに充分であるかどうかを確認した。
【0050】
Triton X-100及び尿素での洗浄の上清からのLv-Rsn-1サーファクタントタンパク質の予測アイソフォームの改変型の精製を、超純水に対する透析、続いて50mM Tris-HCl pH8.0及び100mM NaClで予め平衡化したシリカ樹脂を含有するニッケルカラムでの適用によって行った。Lv-Rsn-1の溶出は、50mM Tris-HCl pH8.0、500mM NaCl、及び250mM イミダゾールに相当する溶出緩衝液を用いて行った。
【0051】
SDS-PAGEによる分析は、Lv-Rsn-1サーファクタントタンパク質の予測アイソフォームの改変型が実際に大腸菌において発現されることを示した。
図3は、封入体の再可溶化及びニッケルカラム精製プロセス(Lv-Rsn-1の改変型に存在するポリヒスチジン尾部との相互作用による)後のタンパク質抽出物の電気泳動の結果を示す。「洗浄後」は、Triton-X-100洗浄剤及び尿素を含有する緩衝液を用いた不溶性画分を指し、「洗浄」は、保持されないピークの洗浄を指し、「MM」は分子タグを指す。矢印は、Lv-Rsn-1に対応するバンドを示す。
【0052】
pPBUFCBac-LvRsn1ベクター(配列番号5)で遺伝的に形質転換した細菌の培養により、このベクターが数世代の細胞にわたって安定的に遺伝し、これがベクターを複製し、IPTGの存在下で、Lv-Rsn-1サーファクタントタンパク質の予測アイソフォームの改変型をコードする遺伝子を発現し始め、このタンパク質が封入体中に濃縮されたことが実証された。
【0053】
上記の開示から、当該発明が、Lv-Rsn-1サーファクタントタンパク質の予測アイソフォームの改変型の、細菌における異種産生を技術的に可能にし、現在の技術水準に対する解決手段を提示することが明らかである。それは、ノースイースタンペッパーフロッグ(ラプトダクチルス・バスツス)の巣から泡を収集及び抽出する必要なく、かつこの収集及び抽出から生じるすべてのコスト及び環境影響を伴わずに、動物起源のこのサーファクタントタンパク質の産生を可能にするからである。
【0054】
実施例4:細菌によって産生されたLv-Rsn-1の活性
遺伝的に形質転換した大腸菌細胞において発現されたLv-Rsn-1サーファクタントタンパク質の予測アイソフォームの改変型を精製し、その乳化、水/空気表面張力低下活性、油分散、及び濡れ性の反転を評価するために、様々なアッセイに供した。
【0055】
0.01~10.0mg/mLの濃度における大腸菌において発現されたLv-Rsn-1サーファクタントタンパク質の予測アイソフォームの改変型の水/ケロシン混合物に対する乳化効果を
図4に示す。
【0056】
大腸菌において発現されたLv-Rsn-1サーファクタントタンパク質の予測アイソフォームの改変型による水/空気表面張力の低下。0.15mg/mLの濃度のLv-Rsn-1は、
図5に示すように、水の表面張力を72mN/mから39mN/mに低下させる。
【0057】
1.0mg/Lの濃度における大腸菌中で発現されたLv-Rsn-1サーファクタントタンパク質の予測アイソフォームの改変型による、海水中に流出した油層の分散を
図6に示す。同じ
図6は、Lv-Rsn-1の添加前の油層、及び参照として使用したウシ血清アルブミン(BSA)タンパク質の同じく1mg/Lの濃度での分散活性の不存在も示す。
【0058】
50mg/Lの濃度における大腸菌中で発現されたLv-Rsn-1サーファクタントタンパク質の予測アイソフォームの改変型による、シクロヘキサンペンタン酸を含浸させたカルサイト粉末(CaCO
3)の濡れ性の反転を
図7に示す。濡れ性の反転は、陰性対照(海水)と比較して、試験管の底部におけるより多量のカルサイト粉末の存在によって測定する。
【0059】
上記の開示から、大腸菌において発現されたLv-Rsn-1サーファクタントタンパク質の予測アイソフォームの改変型が、界面活性剤、乳化剤、分散剤及び濡れ性反転剤として作用し、これらの活性に関連する様々な目的に適用することができるということは明らかである。
【0060】
実施例5:酵母におけるLv-Rsn-1の産生のためのベクターの取得
酵母における発現のために最適化されたヌクレオチド配列(配列番号7)にヌクレオチドが付加されて、その結果、5’から3’への向きに読んだ場合、以下の組成を有する合成遺伝子(配列番号8)が得られた:(1)PstIエンドヌクレアーゼのための制限酵素部位(5’-CTGCAG-3’);(2)Lv-Rsn-1コード配列をα分泌因子と同じ翻訳フレームに配置するための2つのヌクレオチド(5’-GN-3’);(3)酵母発現のために最適化されたコドン頻度を有するLv-Rsn-1サーファクタントタンパク質をコードする配列(配列番号7);(4)TEVプロテアーゼ切断部位(ENLYFQG)をコードする配列(5’-GAGAACCTTTACTTTCAGGGA-3’);及び(5)NotIエンドヌクレアーゼのための制限酵素部位(5’-GCGGCCCC-3’)。
【0061】
この合成遺伝子(配列番号79)及び細菌における発現のためのベクターを共にPstI及びNotIエンドヌクレアーゼで消化した後、DNAリガーゼで連結した。pPBUFCYea-LvRsn1と命名された発現ベクターの最終配列(配列番号9)を
図3に示す。
【0062】
発現ベクターpPBUFCYea-LvRsn1(配列番号9)中に存在する遺伝子によってコードされるLv-Rsn-1サーファクタントタンパク質の予測アイソフォームの改変型は、341個のアミノ酸及び36.7kDaの分子量を有し(配列番号10)、そのN末端部分における分泌因子αプラス2個のアミノ酸、並びにC末端部分におけるTEVプロテアーゼによる切断部位、プラス6アミノ酸、c-Mycタグ、プラス5アミノ酸、及びポリヒスチジン尾部を加えたことによって予測アイソフォームとは異なる。Lv-Rsn-1サーファクタントタンパク質の予測アイソフォームのこの改変型がTEVプロテアーゼによって消化される場合、それは、そのN末端部分の91個のアミノ酸及びそのC末端部分の6個のアミノ酸の存在によって予測アイソフォームとは異なる。
【0063】
実施例6:遺伝子改変酵母の取得
コマガタエラ・ファフィ種の酵母株を、エレクトロポレーションによってベクターpPBUFCYea-LvRsn1(配列番号9)で遺伝的に形質転換した。使用した株は、コマガタエラ・ファフィGS115/ATCC 20864株であり、この株は、ヒスチジンアミノ酸(HIS4-)に対して栄養要求性であり、AOX1及びAOX2に対する活性遺伝子(Mut+)を有するので、栄養素としてメタノールを使用することができる。
【0064】
単離したコロニーを5.0mLのYPD培地(10g/Lの酵母エキス、20g/Lのペプトン、及び20g/Lのグルコース)に接種し、それらを250rpm、30℃で16時間インキュベートすることによってK.ファフィ細胞を調製した。次いで、250μLの培養物を2.0L容器中の500mLのYPDブロスに移し、600nmで1.3~1.6の光学密度が得られるまで、250rpm、30℃で約16時間インキュベートした。次いで、培養物を1,500g、4℃で5分間遠心分離した。上清を捨て、細胞を含む沈殿物を氷冷超純水500mlに穏やかに再懸濁した。次いで、細胞を再度遠心分離し、沈殿物を250mlの氷冷超純水に再懸濁した。細胞を遠心分離し、ペレットを20mlの氷冷1.0M D-ソルビトールに再懸濁した。最後に、細胞を遠心分離し、1.0mlの氷冷1.0M D-ソルビトールに再懸濁し、これによりエレクトロコンピテント細胞を得て、これを遺伝子形質転換に使用した。
【0065】
遺伝子形質転換のための調製では、ベクターpPBUFCYea-LvRsn1(配列番号9)をSacIエンドヌクレアーゼで線状化した後、この線状化したベクターを酢酸カリウム沈殿プロトコルを用いて精製した。この目的のために、3.0M酢酸カリウムpH5.5を0.3Mの最終濃度まで添加し、続いて2体積量の100%エタノールを添加し、-20℃で30分間インキュベートした。次いで、この混合物を12,000g、4℃で10分間遠心分離し、沈殿物を70%エタノールで洗浄し、再度遠心分離した。プラスミドを37℃で10分間乾燥した後、それを超純水に再懸濁し、分光光度法によって定量し、-20℃で冷凍庫に保存した。
【0066】
遺伝子形質転換のために、エレクトロコンピテントのK.ファフィ細胞を含有する90μL容量の溶液を、600μLマイクロチューブ中で線状化した5~10μgのpPBUFCYea-LvRsn1ベクターDNA(配列番号9)と混合し、最終容量を、氷上で予め冷却した0.2cmエレクトロポレーションキュベットに移した。細胞及び線状化ベクターを含むキュベットを氷上で5分間インキュベートし、次いでエレクトロポレーター中で2.5kVのパルスに供した。直ちに1.0mLの氷冷1.0M D-ソルビトールをキュベットに加え、次いで内容物を15mLチューブに移した。このチューブを撹拌せずに30℃で2時間インキュベートした。次いで、100μg/mLのゼオシン抗生物質を補充したYDPS寒天培地(10g/L 酵母エキス、20g/L ペプトン、20g/L グルコース、182.2g/LのD-ソルビトール及び15g/Lの寒天)を含有するプレート上に、200μLの体積の上記チューブ内容物を接種した。このプレートをオーブン中30℃で3~10日間、コロニーが出現するまでインキュベートした。形質転換したクローンをYPD培地中で培養し、20%(v/v)グリセロールを補充した後、-80℃で保存した。形質転換したクローンを、pPBUFCYea-LvRsn1ベクター(配列番号9)の複数のコピーを含有する形質転換体を選択するために、YPD寒天培地中の漸増濃度のゼオシン(500μg/mL、1000μg/mL及び2000μg/mL)に順次供した。
【0067】
遺伝子形質転換の成功を確認するために、2,000μg/mLのゼオシンに耐性のある細胞のコロニーから、セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)プロトコルを用いてゲノムDNAを抽出した。抽出の最後に、得られたDNAを、20μg/μLのリボヌクレアーゼを補充した50μLの10mM Tris-HCl pH8.0に溶出した。試料を定量し、分光光度計における230nm、260nm及び280nmでの吸光度測定によって評価し、その後、-20℃で冷凍庫に保存した。形質転換クローンにおけるLv-Rsn-1サーファクタントタンパク質の改変型をコードする遺伝子の存在の検出を、プライマーAOX1-fwd(5’-GACTGGTTCCAATTGACAAGC-3’)及びAOX1-rev(5’-GCAAATGGCATTCTGACATCC-3’)を使用するポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術を使用して行った。PCR反応は、50ngのゲノムDNA、20mM Tris-HCl(pH8.4)、3.0mM MgCl2、0.2mMの各dNTP、0.5μMの各プライマー、及び1.0単位のTaq DNAポリメラーゼを含有する25μLの最終容量で行った。反応は、最初の変性工程(94℃で5分)、続いて94℃で1分、52℃で1分及び72℃で1.5分の30サイクルのためにプログラムされたサーモサイクラー中で実施した。最後のサイクルの後、72℃で10分の最終伸長を行った。PCR産物を1.0%(m/v)アガロースゲル電気泳動で可視化した。このゲルは、SYBR Greenで染色され、参照として1kbマーカーを有していた。発現ベクターpPBUFCYea-LvRsn1(配列番号9)によるK.ファフィの遺伝子形質転換、並びに世代にわたるこの形質転換の安定した遺伝を確認した。
【0068】
実施例7:酵母によるLv-Rsn-1産生の確認
pPBUFCYea-LvRsn1ベクター(配列番号9)で形質転換したK.ファフィ細胞を、100μg/mLの抗生物質ゼオシンを補充したYPD寒天培地(10g/L 酵母エキス、20g/Lのペプトン、20g/Lのグルコース、及び15g/Lの寒天)を含有するプレート上で30℃で培養した。この接種前駆体のために、純粋なコロニーを、200mLのBMGH培地(13.4g/Lの、硫酸アンモニウムを含みアミノ酸を含まない酵母エキス、10mL/Lのグリセロール、100mL/Lのリン酸緩衝液1.0M pH6.0、2.0mL/Lの0.02%ビオチン、10mL/Lの0.4%ヒスチジン、及び100μg/Lのゼオシン)中で、約2.0の600nmにおける光学密度を達成するまで、250rpm、29℃で16時間培養した。次いで、培養物を3,500rpmで5分間遠心分離し、沈殿物をBMMH培地(13.4g/Lの、硫酸アンモニウムを含みアミノ酸を含まない酵母エキス、100mL/Lの1.0Mリン酸緩衝液pH6.0、2.0mL/Lの0.02%ビオチン、10mL/Lの0.4%ヒスチジン、及び0.5%v/vメタノール)で2回洗浄して、接種前駆体に用いたBMGH培地中に存在するグリセロールを除去した。
【0069】
この工程の後、細胞を再懸濁し、600nmにおける光学密度1.0まで、50mLのBMMHを含有する500mLフラスコに接種した。培養物を250rpmで撹拌しながら29℃で96時間インキュベートし、600nmにおける光学密度を24時間毎にモニターし、その時、培養物に0.5%(v/v)メタノールを補充した。96時間の終わりに、培養物を3,000gで5分間遠心分離した。
【0070】
K.ファフィによるLv-Rsn-1サーファクタントタンパク質の予測アイソフォームの改変型の発現をトリシン-SDS-PAGEによってモニターした。電気泳動ゲルに加える前に、上清からの試料をアセトンで沈殿させ、沈殿物からの試料(0.3mg)を0.3mLの試料緩衝液(10mLの最終容量について、2mLのSDS、1.2mLのグリセロール、0.2mLのβ-メルカプトエタノール、1.0mgのクマシーブリリアントブルー(Coomassie Brilliant Blue)G-250、及び0.5mLのTris-HCl pH6.8)と混合し、100℃で10分間インキュベートした。得られた結果は、Lv-Rsn-1サーファクタントタンパク質の予測アイソフォームの改変型がK.ファフィによって発現され、この特徴が世代にわたって維持されることを示した。
【0071】
続いて、pPBUFCYea-LvRsn1ベクターで形質転換した同じK.ファフィ細胞を、5.0Lの容量のバイオリアクター中で培養した。接種前駆体のために、純粋なコロニーを、100μg/mLアンピシリンを補充した200mLのBMGH培地を含有する6つの2.0Lフラスコ中で、約2.0の600nmにおける光学密度に達するまで、250rpm、29℃で16時間培養した。これらの培養物をプールし、最終体積を3,000rpmで5分間遠心分離し、沈殿物をBMMH発現培地で2回洗浄して、残留するグリセロールを除去した。その後、細胞を100mlのBMMH培地に再懸濁し、この体積をバイオリアクターに移し、約1.5の600nmにおける光学密度を得た。
【0072】
培養は、100μg/mLのゼオシンを補充した3.0LのBMMH発現培地の最大容量を用いて29℃、500rpm及び1vvmの通気でバッチで行った。最初の600nmにおける光学密度を記録し、培養物に0.5%(v/v)メタノールを与えた。この手順を96時間まで24時間毎に繰り返した。24時間毎に、Mariotte(マリオット)フラスコに溢れた泡の体積を収集した。このMariotteフラスコは、バイオリアクターに接続して、バットから溢れた泡を収集するようにしていた。この液化泡沫を9,000rpm、4℃で10分間遠心分離した。泡タンパク質濃度を定量し、タンパク質プロファイルをトリシン-SDS-PAGE 15%によって分析した。得られた結果は、
図8に見られるように、5.0Lのバイオリアクター中でK.ファフィによって産生されたLv-Rsn-1の改変型が泡沫中に濃縮されたことを示した。
【0073】
実施例8:酵母によって産生されたLv-Rsn-1の活性
5.0Lバイオリアクター中で培養した遺伝的に形質転換したK.ファフィ細胞中で発現したLv-Rsn-1サーファクタントタンパク質の予測されたアイソフォームの改変型を精製し、その乳化活性、水/空気表面張力の低下、及び濡れ性の反転を評価するために様々なアッセイに供した。
【0074】
0.03~0.24mg/mLの濃度におけるK.ファフィにおいて発現されたLv-Rsn-1サーファクタントタンパク質の予測アイソフォームの改変型の水/ケロシン混合物に対する乳化効果を
図9に示す。
【0075】
K.ファフィにおいて発現されたLv-Rsn-1サーファクタントタンパク質の予測アイソフォームの改変型による水/空気表面張力の低下。0.24mg/mLの濃度のLv-Rsn-1は、
図10に示すように、水の表面張力を72mN/mから35mN/mに低下させる。
【0076】
50mg/Lの濃度におけるK.ファフィ中で発現されたLv-Rsn-1サーファクタントタンパク質の予測アイソフォームの改変型による、シクロヘキサンペンタン酸を含浸させたカルサイト粉末(CaCO
3)の濡れ性の反転を
図11に示す。濡れ性の反転は、陰性対照(海水)と比較して、試験管の底部におけるより多量のカルサイト粉末の存在によって測定する。陽性対照として、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を2,500mg/Lの濃度で使用した。
【0077】
上記の開示から、K.ファフィにおいて発現されたLv-Rsn-1サーファクタントタンパク質の予測アイソフォームの改変型が、界面活性剤、乳化剤、分散剤及び濡れ性反転剤として作用し、これらの活性に関連する様々な目的に適用することができるということは明らかである。
【0078】
当業者は、本出願の保護の範囲に焦点を当てた多数の変形形態が許容され、そのことが本発明が上述の特定の構成及び実施形態に限定されないという事実を強化するということを理解するであろう。
【0079】
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
【表7】
【表8】
【表9】
【表10】
【表11】
【表12】
【表13】
【表14】
【表15】
【表16】
【表17】
【表18】
【表19】
【表20】
【表21】
【表22】
【表23】
【表24】
【表25】
【表26】
【配列表】
【国際調査報告】