(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-13
(54)【発明の名称】筋萎縮性側索硬化症(ALS)および他の神経変性疾患の処置のための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/12 20150101AFI20230306BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230306BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20230306BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20230306BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20230306BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20230306BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20230306BHJP
A61P 31/16 20060101ALI20230306BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20230306BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20230306BHJP
A61P 39/06 20060101ALI20230306BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20230306BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20230306BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20230306BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20230306BHJP
A61K 47/20 20060101ALI20230306BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20230306BHJP
A61K 35/33 20150101ALI20230306BHJP
A61K 45/08 20060101ALI20230306BHJP
C12N 1/04 20060101ALI20230306BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20230306BHJP
C12N 5/02 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
A61K35/12
A61P43/00 105
A61P21/00 ZNA
A61P25/00
A61P25/28
A61P25/16
A61P25/14
A61P31/16
A61P31/14
A61P11/00
A61P39/06
A61K9/08
A61K47/18
A61K47/26
A61K47/42
A61K47/20
A61K47/02
A61K35/33
A61K45/08
C12N1/04
C12N5/071
C12N5/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022541231
(86)(22)【出願日】2020-08-21
(85)【翻訳文提出日】2022-08-10
(86)【国際出願番号】 US2020047359
(87)【国際公開番号】W WO2021141637
(87)【国際公開日】2021-07-15
(32)【優先日】2020-01-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-07-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522266003
【氏名又は名称】ザ サリー アスター バーディン ブレスト ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】エリオット, ロバート エル.
(72)【発明者】
【氏名】ジアン, シャンペン
(72)【発明者】
【氏名】シーガル, ブレント エム.
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065BD22
4B065CA44
4C076AA12
4C076BB13
4C076BB15
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4C084AA27
4C084MA05
4C084MA66
4C084NA03
4C084ZA021
4C084ZA151
4C084ZA161
4C084ZA941
4C084ZB211
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB48
4C087BB64
4C087CA04
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA02
4C087ZA15
4C087ZA16
4C087ZA94
4C087ZB21
(57)【要約】
本開示は、とりわけ、神経変性疾患(ND)および他のミトコンドリア障害の処置のための方法ならびに該方法に関連する組成物を提供する。筋萎縮性側索硬化症(ALS)などのNDの処置のためのミトコンドリア細胞小器官移植(MOT)を実証するインビトロ(細胞培養)およびインビボ(動物モデル)実験例が本明細書に記載されている。さらに、本明細書において論述されているとおり、5名のヒトALS患者においてMOTが行われ、患者の症状の測定可能な改善が観察され、有害事象が認められないという肯定的な結果が得られた。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト対象におけるミトコンドリアの同種移植のための方法であって、前記対象以外のドナーから単離されたミトコンドリアを含む組成物を前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項2】
前記対象が、ミトコンドリアの機能不全に関連する神経変性疾患または他の症状を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記対象が、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、パーキンソン病(PD)、PD関連障害、アルツハイマー病(AD)、レビー小体型認知症(LBD)、認知症、筋ジストロフィー(MD)、ミトコンドリア障害、プリオン病、運動ニューロン疾患(MND)、ハンチントン病(HD)、多発性硬化症(MS)、脊髄小脳失調症(SCA)、脊髄性筋萎縮症(SMA)、フリードライヒ運動失調症、バッテン病および致死性家族性不眠症からなる群から選択される疾患を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記対象が筋萎縮性側索硬化症(ALS)を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記組成物が、ヒトへの投与に安全なカリウムイオン濃度を有するミトコンドリア保存緩衝液をさらに含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記投与することが、少なくとも1単位用量の前記組成物を前記対象に非経口投与することを含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記投与することが、前記対象への前記組成物の筋肉内注射および静脈内注射の両方を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ドナーから前記ミトコンドリアを単離することをさらに含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記ドナーのミトコンドリアを単離することが、組織解離を介して前記ドナーの組織から細胞溶解物を調製することを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ドナーのミトコンドリアを単離することが、セリンプロテアーゼ阻害剤を含むミトコンドリア単離緩衝液を使用することを含む、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
抗生物質を使用せずに前記ドナーのミトコンドリアを単離することを含む、請求項8~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記ドナーおよび前記対象がHLA(ヒト白血球抗原)一致ではない、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記対象に投与される前記組成物が抗生物質を含まない、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記組成物が、前記ドナーのヒト初代線維芽細胞から単離されたミトコンドリアを含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記ドナーの組織から前記ミトコンドリアを単離することをさらに含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記単離することがミトコンドリア単離緩衝液組成物を使用して行われている、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記ミトコンドリア単離緩衝液組成物が、
緩衝剤と、
キレート剤と、
糖と、
膜安定剤および/または酸素ラジカル捕捉剤および/またはCa
2+の結合剤および/または遊離脂肪酸の結合剤として作用する作用因子と、
セリンプロテアーゼ阻害剤と
を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記組成物が抗生物質を含まない、請求項17に記載のミトコンドリア単離緩衝液組成物。
【請求項19】
前記単離されたミトコンドリアを-40℃未満の温度(例えば、-60℃未満、-70℃未満、または-80℃未満、例えば液体窒素を使用して)で保存することをさらに含む、請求項15~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
鉄キレート剤(例えば、デスフェリオキサミンまたはデフェラシロクス)を前記対象に投与することを含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
抗酸化剤および/またはプロバイオティクスを前記対象に投与することを含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
対象における筋機能を改善するための方法であって、筋機能を改善するのに十分な量で、ミトコンドリアを含む組成物を前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項23】
ミトコンドリアの機能不全に関連する神経変性疾患または他の症状の処置を必要とする対象においてミトコンドリアの機能不全に関連する神経変性疾患または他の症状を処置するための方法であって、前記神経変性疾患または他の症状を処置するのに十分な量で、前記対象以外のドナーから単離されたミトコンドリアを含む組成物を前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項24】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の処置を必要とする対象において筋萎縮性側索硬化症(ALS)を処置するための方法であって、前記ALSを処置するのに十分な量で、前記対象以外のドナーから単離されたミトコンドリアを含む組成物を前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項25】
ミトコンドリア損傷を引き起こすまたは引き起こし得る作用因子の投与により低下した対象の筋機能を改善するための方法であって、前記対象の筋機能を改善するのに十分な量で、前記対象以外のドナーから単離されたミトコンドリアを含む組成物を前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項26】
(i)ウイルス性肺炎などの肺関連障害、(ii)コロナウイルス感染症、例えば、SARS-Cov-1またはSARS-Cov-2または関連株を含む重症急性呼吸器症候群コロナウイルスの感染症、(iii)インフルエンザ、(iv)関連遺伝性障害、(v)慢性閉塞性肺疾患(COPD)、ならびに(vi)ミトコンドリア損傷が発生するおよび/または存在する別の疾患または症状からなる群の1またはそれを超えるメンバーによって、その筋機能が低下された対象を処置するための方法であって、前記対象の筋機能を改善するのに十分な量で、ミトコンドリア(例えば、対象以外のドナーから単離されたミトコンドリア)を含む組成物(例えば、薬学的組成物)を前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項27】
(i)ウイルス性肺炎などの肺関連障害、(ii)コロナウイルス感染症、例えば、SARS-Cov-1またはSARS-Cov-2および関連株を含む重症急性呼吸器症候群コロナウイルスの感染症、インフルエンザ、関連遺伝性障害、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、またはミトコンドリア損傷が発生するおよび/もしくは存在する別の疾患もしくは症状からなる群の1またはそれを超えるメンバーによって低下された対象の筋機能を改善するための方法であって、前記対象の筋機能を改善するのに十分な量で、前記対象以外のドナーから単離されたミトコンドリアを含む組成物を前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項28】
高い鉄レベルを有する対象を処置するための方法であって、前記対象の筋機能を改善するのに十分な量で、前記対象以外のドナーから単離されたミトコンドリアを含む組成物を前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項29】
高活性酸素種(ROS)を伴う適応症に対してヒドロキシクロロキンおよび/またはクロロキンなどの医薬品で処置されている対象を処置するための方法であって、前記対象以外のドナーから単離されたミトコンドリアを含む組成物を前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項30】
ミトコンドリア細胞小器官移植において使用するためのミトコンドリア単離緩衝液組成物であって、
緩衝剤と、
キレート剤と、
糖と、
膜安定剤および/または酸素ラジカル捕捉剤および/またはCa
2+の結合剤および/または遊離脂肪酸の結合剤として作用する作用因子と、
セリンプロテアーゼ阻害剤と
を含む、ミトコンドリア単離緩衝液組成物。
【請求項31】
前記緩衝剤が双性イオン性スルホン酸緩衝剤である、請求項30に記載のミトコンドリア単離緩衝液組成物。
【請求項32】
前記キレート剤が、エチレングリコール-ビス(β-アミノエチルエーテル)-N,N,N’,N’-四酢酸(EGTA)またはその塩である、請求項30または31に記載のミトコンドリア単離緩衝液組成物。
【請求項33】
前記糖がスクロースである、請求項30~32のいずれか1項に記載のミトコンドリア単離緩衝液組成物。
【請求項34】
膜安定剤および/または酸素ラジカル捕捉剤および/またはCa
2+の結合剤および/または遊離脂肪酸の結合剤として作用する前記作用因子がウシ血清アルブミン(BSA)である、請求項30~33のいずれか1項に記載のミトコンドリア単離緩衝液組成物。
【請求項35】
前記セリンプロテアーゼ阻害剤がフッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)である、請求項30~34のいずれか1項に記載のミトコンドリア単離緩衝液組成物。
【請求項36】
前記組成物が単離されたドナーミトコンドリアをさらに含む、請求項30~35のいずれか1項に記載のミトコンドリア単離緩衝液組成物。
【請求項37】
前記組成物が抗生物質を含まない、請求項30~36のいずれか1項に記載のミトコンドリア単離緩衝液組成物。
【請求項38】
ミトコンドリア細胞小器官移植において使用するためのミトコンドリア保存緩衝液組成物であって、
1またはそれを超える緩衝剤と、
マグネシウムイオンの供給源と、
キレート剤と、
糖と、
抗酸化剤と、
カルシウムイオンに結合する細胞保護剤と、
膜安定剤および/または酸素ラジカル捕捉剤および/またはCa
2+の結合剤および/または遊離脂肪酸の結合剤として作用する作用因子と
を含む、ミトコンドリア保存緩衝液組成物。
【請求項39】
前記1またはそれを超える緩衝剤が、双性イオン性スルホン酸緩衝剤および/または一カリウムリン酸塩(KH
2PO
4)を含む、請求項38に記載のミトコンドリア保存緩衝液組成物。
【請求項40】
前記マグネシウムイオンの供給源が塩化マグネシウム(MgCl
2)である、請求項38または請求項39に記載のミトコンドリア保存緩衝液組成物。
【請求項41】
前記キレート剤が、エチレングリコール-ビス(β-アミノエチルエーテル)-N,N,N’、N’-四酢酸(EGTA)またはその塩である、請求項38~40のいずれか1項に記載のミトコンドリア保存緩衝液組成物。
【請求項42】
前記糖がスクロースである、請求項38~41のいずれか1項に記載のミトコンドリア保存緩衝液組成物。
【請求項43】
前記抗酸化剤がタウリンである、請求項38~42のいずれか1項に記載のミトコンドリア保存緩衝液組成物。
【請求項44】
前記カルシウムイオンに結合する細胞保護剤が、ラクトビオナートまたはその塩である、請求項38~43のいずれか1項に記載のミトコンドリア保存緩衝液組成物。
【請求項45】
膜安定剤および/または酸素ラジカル捕捉剤および/またはCa
2+の結合剤および/または遊離脂肪酸の結合剤として作用する前記作用因子がウシ血清アルブミン(BSA)である、請求項38~44のいずれか1項に記載のミトコンドリア保存緩衝液組成物。
【請求項46】
前記組成物が単離されたドナーミトコンドリアをさらに含む、請求項38~45のいずれか1項に記載のミトコンドリア保存緩衝液組成物。
【請求項47】
前記組成物が抗生物質を含まない、請求項38~46のいずれか1項に記載のミトコンドリア保存緩衝液組成物。
【請求項48】
対象におけるミトコンドリアの機能不全に関連する神経変性疾患または他の症状を処置するのに有効な単位投与量でドナーミトコンドリア組成物を含むキットであって、
前記ドナーミトコンドリア組成物は、
ドナーの組織から単離されたミトコンドリア(例えば、線維芽細胞ミトコンドリア)と、
1またはそれを超える緩衝剤[例えば、双性イオン性スルホン酸緩衝剤、例えば、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)またはその塩、例えば、HEPESカリウム塩、(K-HEPES)][例えば、一カリウムリン酸塩(KH
2PO
4)]と、
マグネシウムイオンの供給源[例えば、塩化マグネシウム(MgCl
2)]と、
キレート剤[例えば、エチレングリコール-ビス(β-アミノエチルエーテル)-N,N,N’,N’-四酢酸(EGTA)またはその塩、例えば、K-EGTA)]と、
糖(例えば、スクロース)と、
抗酸化剤[例えば、タウリン]と、
カルシウムイオンに結合する細胞保護剤[例えば、ラクトビオナートまたはその塩、例えば、K-ラクトビオナート]と、
膜安定剤および/または酸素ラジカル捕捉剤および/またはCa
2+の結合剤および/または遊離脂肪酸の結合剤として作用する作用因子(例えば、ウシ血清アルブミン、BSA)と
を含む、キット。
【請求項49】
前記ドナーと前記対象がHLA(ヒト白血球抗原)一致ではない、請求項48に記載のキット。
【請求項50】
前記ドナーミトコンドリア組成物が抗生物質を含まない、請求項48または49に記載のキット。
【請求項51】
前記組成物の投与の用量および/または頻度および/または経路を最適化するための説明書をさらに含む、請求項48~50のいずれか1項に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
係属する出願への相互参照
本出願は、2020年1月8日に出願された「Compositions And Methods For Treatment Of Amyotrophic Lateral Sclerosis(ALS)And Other Neurodegenerative Diseases,and Associated Methods for Preparing Said Compositions」と題する米国仮特許出願第62/958,592号に基づく優先権および恩典を主張する2020年7月23日に出願された「Compositions And Methods For Treatment Of Amyotrophic Lateral Sclerosis(ALS)And Other Neurodegenerative Diseases,and Associated Methods for Preparing Said Compositions」と題する米国特許出願第16/937,388号に基づく恩典を主張し、これらの各々の内容は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
配列表
本願は、ASCIIフォーマットで電子的に提出された配列表を含有し、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。2020年8月14日に作成された前記ASCIIコピーは、2013631-0004_SL.txtと名付けられ、サイズは6,469バイトである。
【背景技術】
【0003】
背景
ミトコンドリアの機能不全は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)を含む神経変性疾患(ND)に関連する。研究者らは、多くのミトコンドリアを標的とする作用因子の治療有効性を試験してきたが、結果は、疾患の生存率に大きな影響を及ぼすことなく期待外れであった。いくつかのグループは、単離されたミトコンドリアの欠陥細胞へのミトコンドリアの導入を実証しているが、この研究の臨床応用への橋渡しは限定的であった。
【0004】
ルー・ゲーリック病として知られるALSは、上位運動ニューロン変性および下位運動ニューロン変性の両方を伴う。ALSは、孤発性および家族性のバリアントを有し、孤発性がより一般的である。よく知られている形態は、Cu、Znスーパーオキシドジスムターゼ(SOD1)の変異によるものである。運動ニューロン変性は、骨格筋萎縮、麻痺および死をもたらす。
【0005】
ミトコンドリアの機能不全は、パーキンソン病、アルツハイマー病およびハンチントン病などの複数のNDに関与している。ミトコンドリアは、多くの必須の細胞機能、例えばエネルギー産生、活性酸素種(ROS)の調節、代謝、細胞シグナル伝達、アポトーシス、オートファジーおよび鉄代謝に関与する動的で重要な細胞内小器官である。これらの機能のいずれかの小さな欠陥は、ミトコンドリアの機能不全を引き起こし得る。例えば、過剰なROSは、ミトコンドリアDNA(mtDNA)に対する酸化的損傷ならびに膜電位の崩壊およびエネルギー産生の著しい減少が付随する鉄-硫黄クラスタの分解をもたらすフリーラジカルを引き起こす。このカスケードは運動ニューロンの死をもたらす。
【0006】
現在、NDは治癒不能であり、利用可能な処置は症候を管理し、または進行を遅らせるにすぎない。多くのNDは極めて衰弱性であり、現在の処置は、これらの疾患を有する患者の症状の十分な改善を提供するには不十分である。NDを有する患者の症状を改善する処置が必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
要旨
本開示は、とりわけ、神経変性疾患(ND)および他のミトコンドリア障害の処置のための方法ならびに該方法に関連する組成物を提供する。筋萎縮性側索硬化症(ALS)などのNDの処置のためのミトコンドリア細胞小器官移植(MOT)を実証するインビトロ(細胞培養)およびインビボ(動物モデル)実験例が本明細書に記載されている。さらに、本明細書において論述されているとおり、5名のヒトALS患者においてMOTが行われ、患者の症状の測定可能な改善が観察され、有害事象が認められないという肯定的な結果が得られた。
【0008】
本明細書に記載されるミトコンドリアの単離および保存のプロトコルは、細胞株および患者におけるその後のミトコンドリア細胞小器官移植のために生きたミトコンドリアを十分に精製および維持することを確認する証拠が提示されている。驚くべきことに、ヒト線維芽細胞のミトコンドリアはHLA抗原を発現しないことが見出された。したがって、ヒトミトコンドリアは、ヒト白血球抗原(HLA)が適合するドナーを必要とせずに、同種異系ミトコンドリア細胞小器官移植のために使用され得る。さらに、ヒト線維芽細胞ミトコンドリアは、健常細胞に入るより、欠陥のあるミトコンドリアを有する細胞に入りやすいことが発見された。したがって、病変組織および器官は、健常組織より多くの線維芽細胞ミトコンドリアを取り込む。さらに、本明細書に記載されるMOT処置方法において使用されるべきミトコンドリアの単離および保存のためにヒト線維芽細胞を培養するためには、抗生物質(哺乳動物細胞のミトコンドリアに対して毒性を有する)は必要でないことが発見された。これらの発見は、本明細書に提示される詳細と相まって、本明細書に記載されている、神経変性疾患(ND)および他のミトコンドリア障害の処置のための方法、ならびに該方法に関連する組成物を可能にした。
【0009】
一局面において、本発明は、ヒト対象におけるミトコンドリアの同種移植のための方法であって、前記対象以外のドナーから単離されたミトコンドリアを含む組成物(例えば、薬学的組成物)を前記対象に投与することを含む、方法に関する。
【0010】
ある特定の態様において、対象は、ミトコンドリアの機能不全に関連する神経変性疾患または他の症状(例えば、該疾患または症状を処置するために、前記方法が実施される)を有する。ある特定の態様において、対象は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、パーキンソン病(PD)、PD関連障害、アルツハイマー病(AD)、レビー小体型認知症(LBD)、認知症、筋ジストロフィー(MD)、ミトコンドリア障害、プリオン病、運動ニューロン疾患(MND)、ハンチントン病(HD)、多発性硬化症(MS)、脊髄小脳失調症(SCA)、脊髄性筋萎縮症(SMA)、フリードライヒ運動失調症、バッテン病および致死性家族性不眠症からなる群から選択される疾患を有する。ある特定の態様において、対象は筋萎縮性側索硬化症(ALS)を有する。
【0011】
ある特定の態様において、組成物は、ヒトへの投与に安全なカリウムイオン濃度を有するミトコンドリア保存緩衝液をさらに含む(例えば、前記ミトコンドリア保存緩衝液は、薬学的に許容され得る担体を含む)。
【0012】
ある特定の態様において、投与することは、少なくとも1単位用量の前記組成物を(例えば、筋肉内および静脈内注射によって)前記対象に非経口投与することを含む。ある特定の態様において、投与することは、前記対象への前記組成物の筋肉内注射および静脈内注射の両方を含む。
【0013】
ある特定の態様において、本方法は、前記ドナーから前記ミトコンドリアを単離することをさらに含む。ある特定の態様において、前記ドナーミトコンドリアを単離することは、(例えば、ビーズチューブ振盪ホモジナイザーを使用する)組織解離を介してドナーの組織(または他の生物学的試料)から細胞溶解物を調製することを含む。ある特定の態様において、前記ドナーミトコンドリアを単離することは、(例えば、消化酵素からのドナーミトコンドリアの損傷を防止または低減するために)セリンプロテアーゼ阻害剤(例えば、フッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF))を含むミトコンドリア単離緩衝液を使用することを含む。ある特定の態様において、本方法は、抗生物質を使用せずに前記ドナーミトコンドリアを単離することを含む。
【0014】
ある特定の態様において、ドナーおよび対象は、HLA(ヒト白血球抗原)一致ではない[例えば、(例えば、8個または10個の試験されたHLAマーカーの一致に基づいて)同一の一致ではないおよび/または(例えば、8個または10個の試験されたHLAマーカーの一致に基づいて)ハプロタイプ一致ではない、および/または不確定な一致状態(例えば、投与する工程より前にHLAマーカーが試験されていない)]。
【0015】
ある特定の態様において、対象に投与される組成物は、抗生物質を含まない(例えば、対象が抗生物質を投与されていない場合)。
【0016】
ある特定の態様において、組成物は、ドナーのヒト初代線維芽細胞から単離されたミトコンドリアを含む。
【0017】
ある特定の態様において、本方法は、ドナーの組織からミトコンドリア(例えば、線維芽細胞ミトコンドリア)を単離することをさらに含む。ある特定の態様において、単離することは、ミトコンドリア単離緩衝液組成物(例えば、本明細書中に記載されるミトコンドリア単離緩衝溶液)を使用して行われる。ある特定の態様において、(例えば、ミトコンドリア細胞小器官移植において使用するための)ミトコンドリア単離緩衝液組成物(例えば、水溶液)は、緩衝剤[例えば、双性イオン性スルホン酸緩衝剤、例えば、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)またはその塩、例えば、HEPESカリウム塩、(K-HEPES)];キレート剤[例えば、エチレングリコール-ビス(β-アミノエチルエーテル)-N,N,N’,N’-四酢酸(EGTA)またはその塩、例えば、K-EGTA)];糖(例えば、スクロース);膜安定剤および/または酸素ラジカル捕捉剤および/またはCa2+の結合剤および/または遊離脂肪酸の結合剤として作用する作用因子(例えば、ウシ血清アルブミン、BSA);ならびにセリンプロテアーゼ阻害剤(例えば、フッ化フェニルメタンスルホニルとも呼ばれるフッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF))を(例えば、組成物が、単離されたドナーミトコンドリア、例えば線維芽細胞ミトコンドリアをさらに含む場合に)含む。ある特定の態様において、ミトコンドリア単離緩衝液組成物は抗生物質を含まない。ある特定の態様において、本方法は、単離されたミトコンドリアを-40℃未満の温度(例えば、-60℃未満、-70℃未満、または-80℃未満、例えば液体窒素を使用して)で保存することをさらに含む。
【0018】
ある特定の態様において、本方法は、鉄キレート剤(例えば、デスフェリオキサミンまたはデフェラシロクス)を対象に投与することを含む(例えば、さらに含む)。
【0019】
ある特定の態様において、本方法は、抗酸化剤および/またはプロバイオティクスを対象に投与することを含む(例えば、さらに含む)
【0020】
ある特定の態様において、組成物は薬学的組成物である。ある特定の態様において、組成物は、薬学的に許容され得る担体をさらに含む。ある特定の態様において、ミトコンドリアは、治療有効量で存在する、組成物の治療剤である。
【0021】
別の局面において、本発明は、対象における筋機能を改善するための方法であって、筋機能を改善するのに十分な量でミトコンドリア(例えば、対象以外のドナーから単離されたミトコンドリア)を含む組成物(例えば、薬学的組成物)を前記対象に投与することを含む、方法に関する。ある特定の態様において、組成物は、薬学的に許容され得る担体をさらに含む。ある特定の態様において、ミトコンドリアは、治療有効量で存在する、組成物の治療剤である。
【0022】
別の局面において、抗生物質、抗マラリア薬、抗ウイルス薬またはミトコンドリアの損傷を引き起こすもしくは引き起こし得る別の処置からなる群の1またはそれを超えるメンバーの投与のために対象の筋機能が低下している場合、本発明は、例えば、筋肉が肺機能に関連する場合に、筋機能を改善するのに十分な量でミトコンドリア(例えば、対象以外のドナーから単離されたミトコンドリア)を含む組成物(例えば、薬学的組成物)を前記対象に投与することを含む方法に関する。
【0023】
別の局面において、(i)ウイルス性肺炎などの肺関連障害、(ii)コロナウイルス感染症、例えば、SARS-Cov-1またはSARS-Cov-2または関連株を含む重症急性呼吸器症候群コロナウイルスの感染症、(iii)インフルエンザ、(iv)関連遺伝性障害、(v)慢性閉塞性肺疾患(COPD)、ならびに(vi)ミトコンドリア損傷が発生するおよび/または存在する別の疾患または症状からなる群の1またはそれを超えるメンバーによって、対象の筋機能が低下している場合、本発明は、例えば、筋肉が肺機能に関連する場合に、筋機能を改善するのに十分な量でミトコンドリア(例えば、対象以外のドナーから単離されたミトコンドリア)を含む組成物(例えば、薬学的組成物)を前記対象に投与することを含む方法に関する。
【0024】
別の局面において、本発明は、(i)ウイルス性肺炎などの肺関連障害、(ii)コロナウイルス感染症、例えば、SARS-Cov-1またはSARS-Cov-2および関連株を含む重症急性呼吸器症候群コロナウイルスの感染症、インフルエンザ、関連遺伝性障害、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、またはミトコンドリア損傷が発生するおよび/もしくは存在する別の疾患もしくは症状からなる群の1またはそれを超えるメンバーによって低下した対象の筋機能を改善するための方法であって、対象の筋機能を改善するのに十分な量でミトコンドリア(例えば、対象以外のドナーから単離されたミトコンドリア)を含む組成物(例えば、薬学的組成物)を前記対象に投与することを含む、方法に関する。
【0025】
別の局面において、例えば0.25mg~2.5mg/mLの範囲の血清フェリチンとして測定された対象の鉄レベルが、当業者によって理解される正常より高い場合、本発明は、例えば、デスフェリオキサミン(デフェロキサミン)などの1またはそれを超える鉄キレート化合物を投与してまたは投与せずに(例えば、別個に投与する)、筋機能を改善するのに十分な量でミトコンドリア(例えば、対象以外のドナーから単離されたミトコンドリア)を含む組成物(例えば、薬学的組成物)を前記対象に投与することを含む、方法に関する。
【0026】
別の局面において、対象が、関節リウマチなどの高活性酸素種(ROS)を伴う適応症に対してヒドロキシクロロキンおよび/またはクロロキンなどの医薬品で処置されている場合、本発明は、筋機能を改善するのに十分な量でミトコンドリア(例えば、対象以外のドナーから単離されたミトコンドリア)を含む組成物(例えば、薬学的組成物)を前記対象に投与することを含む方法に関する。
【0027】
当業者は、対象の筋機能を評価するための様々な公知の方法および技術が存在することを理解するであろう。様々な態様において、筋機能は骨格筋機能を指すことができる。ある特定の態様において、筋機能は、心筋機能および/または平滑筋機能を指すことができる。様々な態様において、筋機能は、上肢筋、下肢筋、脚筋、脛骨筋(下腿)、足筋(例えば、踵)、四頭筋、大腿屈筋、上腕、二頭筋、三頭筋、前腕、頸筋および/または臀筋を含むが、これらに限定されない1またはそれを超える筋肉において試験することができる。筋機能には、例えば、強度(例えば、力発生能力、例えば、最大随意収縮、1反復最大抵抗および/または筋力計によって測定された握力)、持久力(例えば、時間をかけて特定の作業を維持または繰り返す能力)、易疲労性(例えば、所与の作業中に生じる力の可逆的低下)、萎縮の程度、線維の種類、酸化能力および/または毛細血管形成が含まれ得る。筋力試験には、例えば、膝持ち上げ、下腿持ち上げ、大腿屈筋および踵圧迫試験が含まれる。その他の機能的強度試験としては、例えば、非支持上肢運動試験、階段駆け上がりパワーテスト、簡易身体能力バッテリー、4メートル歩行速度試験、タイムド・ゲットアップ・アンド・ゴー試験、5反復椅子立ち上がり試験が挙げられる。
【0028】
別の局面において、本発明は、ミトコンドリアの機能不全に関連する神経変性疾患または他の症状の処置を必要とする対象においてミトコンドリアの機能不全に関連する神経変性疾患または他の症状を処置するための方法であって、前記神経変性疾患または他の症状を処置するのに十分な量でミトコンドリア(例えば、対象以外のドナーから単離されたミトコンドリア)を含む組成物(例えば、薬学的組成物)を前記対象に投与することを含む、方法に関する。ある特定の態様において、組成物は、薬学的に許容され得る担体をさらに含む。ある特定の態様において、ミトコンドリアは、治療有効量で存在する、組成物の治療剤である。
【0029】
別の局面において、本発明は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の処置を必要とする対象において筋萎縮性側索硬化症(ALS)を処置するための方法であって、前記ALSを処置するのに十分な量でミトコンドリア(例えば、対象以外のドナーから単離されたミトコンドリア)を含む組成物(例えば、薬学的組成物)を前記対象に投与することを含む、方法に関する。ある特定の態様において、組成物は、薬学的に許容され得る担体をさらに含む。ある特定の態様において、ミトコンドリアは、治療有効量で存在する、組成物の治療剤である。
【0030】
別の局面において、本発明は、(例えば、本明細書に記載される方法の実施において使用するための、例えば、ミトコンドリア細胞小器官移植において使用するための)ミトコンドリア単離緩衝液組成物(例えば、水溶液)であって、緩衝剤[例えば、双性イオン性スルホン酸緩衝剤、例えば、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)またはその塩、例えば、HEPESカリウム塩、(K-HEPES)];キレート剤[例えば、エチレングリコール-ビス(β-アミノエチルエーテル)-N,N,N’,N’-四酢酸(EGTA)またはその塩、例えば、K-EGTA)];糖(例えば、スクロース);膜安定剤および/または酸素ラジカル捕捉剤および/またはCa2+の結合剤および/または遊離脂肪酸の結合剤として作用する作用因子(例えば、ウシ血清アルブミン、BSA);ならびにセリンプロテアーゼ阻害剤(例えば、フッ化フェニルメタンスルホニルとも呼ばれるフッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF))を(例えば、組成物が、単離されたドナーミトコンドリア、例えば線維芽細胞ミトコンドリアをさらに含む場合に)含む、ミトコンドリア単離緩衝液組成物に関する。ある特定の態様において、ミトコンドリア単離緩衝液組成物は抗生物質を含まない。
【0031】
別の局面において、本発明は、(例えば、本明細書に記載される方法の実施において使用するための、例えば、ミトコンドリア細胞小器官移植において使用するための)ミトコンドリア保存緩衝液組成物(例えば、水溶液)であって、1またはそれを超える緩衝剤[例えば、双性イオン性スルホン酸緩衝剤、例えば、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)またはその塩、例えば、HEPESカリウム塩、(K-HEPES)][例えば、一カリウムリン酸塩(KH2PO4)];マグネシウムイオン源[例えば、塩化マグネシウム(MgCl2)];キレート剤[例えば、エチレングリコール-ビス(β-アミノエチルエーテル)-N,N,N’,N’-四酢酸(EGTA)またはその塩、例えば、K-EGTA)];糖(例えば、スクロース);抗酸化剤[例えば、タウリン];カルシウムイオンに結合する細胞保護剤[例えば、ラクトビオナートまたはその塩、例えば、K-ラクトビオナート];ならびに膜安定剤および/または酸素ラジカル捕捉剤および/またはCa2+の結合剤および/または遊離脂肪酸の結合剤として作用する作用因子(例えば、ウシ血清アルブミン、BSA)を(例えば、組成物が、単離されたドナーミトコンドリア、例えば線維芽細胞ミトコンドリアをさらに含む場合に)含む、ミトコンドリア保存緩衝液組成物に関する。ある特定の態様において、ミトコンドリア保存緩衝液組成物は抗生物質を含まない。
【0032】
別の局面において、本発明は、対象におけるミトコンドリアの機能不全に関連する神経変性疾患または他の症状を処置するのに有効な単位投与量でドナーミトコンドリア組成物(例えば、水性組成物)を含むキットであって、前記ドナーミトコンドリア組成物は、ドナーの組織から単離されたミトコンドリア(例えば、線維芽細胞ミトコンドリア);1またはそれを超える緩衝剤[例えば、双性イオン性スルホン酸緩衝剤、例えば、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)またはその塩、例えば、HEPESカリウム塩、(K-HEPES)][例えば、一カリウムリン酸塩(KH2PO4)];マグネシウムイオン源[例えば、塩化マグネシウム(MgCl2)];キレート剤[例えば、エチレングリコール-ビス(β-アミノエチルエーテル)-N,N,N’,N’-四酢酸(EGTA)またはその塩、例えば、K-EGTA)];糖(例えば、スクロース);抗酸化剤[例えば、タウリン];カルシウムイオンに結合する細胞保護剤[例えば、ラクトビオナートまたはその塩、例えば、K-ラクトビオナート];ならびに膜安定剤および/または酸素ラジカル捕捉剤および/またはCa2+の結合剤および/または遊離脂肪酸の結合剤として作用する作用因子(例えば、ウシ血清アルブミン、BSA)を含む、キットに関する。
【0033】
ある特定の態様において、ドナーおよび対象は、HLA(ヒト白血球抗原)一致ではない[例えば、(例えば、8個または10個の試験されたHLAマーカーの一致に基づいて)同一の一致ではないおよび/または(例えば、8個または10個の試験されたHLAマーカーの一致に基づいて)ハプロタイプ一致ではない、および/または不確定な一致状態(例えば、投与することより前にHLAマーカーが試験されていない)]。
【0034】
ヒトは、HLA-A、HLA-BおよびHLA-Cとして知られる3つの主要なMHCクラスI遺伝子座を有し、各個体は各遺伝子座に2つの対立遺伝子を保有する。ヒトは、HLA-DPA1、HLA-DPB1、HLA-DQA1、HLA-DQB1、HLA-DRAおよびHLA-DRB1として知られる6つの主要なMHCクラスII遺伝子座を有し、各個体は各遺伝子座に2つの対立遺伝子を保有する。一般に、ドナーおよび対象は、HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-DRB1、HLA-DQB1および/またはHLA-DPB1などの1またはそれを超えるHLA遺伝子座にドナーおよび対象中に存在する対立遺伝子に基づいて一致するであろう。HLA適合のための様々な標準が当技術分野で公知である。HLA-A、HLA-B、HLA-CおよびHLA-DRB1遺伝子座における8つすべての対立遺伝子の適合は、8/8一致と称することができる。HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-DRB1およびHLA-DQB1遺伝子座における10個すべての対立遺伝子の適合は、10/10一致と称することができる。特定の移植のために、様々な程度の対立遺伝子ミスマッチが許容され得る。したがって、例えば、ドナーおよび対象は、例えば、HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-DRB1およびHLA-DQB1における10のうち10、9、8、7、6、5、4、3、2、1もしくは0個の対立遺伝子において、または8個のHLA-A、HLA-B、HLA-CおよびHLA-DRB1のうち8、7、6、5、4、3、2、1もしくは0個の対立遺伝子において一致し得る。本明細書に開示されているように、様々な態様において、ミトコンドリア移植のドナーおよび対象は、HLA(ヒト白血球抗原)が一致している[例えば、(例えば、8個または10個の試験されたHLAマーカーの一致に基づいて)同一の一致ではないおよび/または(例えば、8個または10個の試験されたHLAマーカーの一致に基づいて)ハプロタイプ一致ではない、および/または不確定な一致状態(例えば、投与する工程より前にHLAマーカーが試験されていない)]必要はないことが見出されている。
【0035】
ある特定の態様において、ドナーミトコンドリア組成物は抗生物質を含まない。
【0036】
ある特定の態様において、キットは、対象への組成物の投与のための説明書を含む。ある特定の態様において、キットは、組成物の投与の用量(例えば、単位用量)および/または頻度および/または経路を最適化するための説明書をさらに含む。
【0037】
ある特定の態様において、キットは、ミトコンドリア単離緩衝液組成物(例えば、水溶液)であって、緩衝剤[例えば、双性イオン性スルホン酸緩衝剤、例えば、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)またはその塩、例えば、HEPESカリウム塩、(K-HEPES)];キレート剤[例えば、エチレングリコール-ビス(β-アミノエチルエーテル)-N,N,N’,N’-四酢酸(EGTA)またはその塩、例えば、K-EGTA)];糖(例えば、スクロース);膜安定剤および/または酸素ラジカル捕捉剤および/またはCa2+の結合剤および/または遊離脂肪酸の結合剤として作用する作用因子(例えば、ウシ血清アルブミン、BSA);ならびにセリンプロテアーゼ阻害剤(例えば、フッ化フェニルメタンスルホニルとも呼ばれるフッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF))を(例えば、組成物が、単離されたドナーミトコンドリア、例えば線維芽細胞ミトコンドリアをさらに含む場合に)含む、ミトコンドリア単離緩衝液組成物を含む。
【0038】
本発明の一局面に関して記載された限定は、ある特定の態様においては、本発明の別の局面に関して実施され得る。例えば、本明細書に提示されたある特定の独立請求項から直接的または間接的に従属する請求項の限定は、1またはそれを超える他の独立請求項のさらなる従属請求項に提示されている限定に対するサポートとして機能する。
【0039】
本明細書を通じて、組成物が特定の成分を有する、含む(including)もしくは含む(comprising)と記載される場合、または方法が特定の工程を有する、含む(including)もしくは含む(comprising)と記載される場合、さらに、列挙された成分から本質的になる、または列挙された成分からなる本発明の組成物が存在すること、および列挙された工程から本質的になる、または列挙された工程からなる本発明による方法が存在することが企図される。
【0040】
ある特定の態様において、本明細書中に記載される組成物は、疾患または症状を処置するために使用される。ある特定の態様において、本明細書中に記載される組成物は、例えば、疾患または症状(例えば、ND)に罹患しやすい対象において、前記疾患または症状の発症および/または進行を予防するために使用される。ある特定の態様において、本明細書に記載される組成物の1またはそれを超える成分のバリアントが、前記1またはそれを超える成分の代わりに使用される。
【0041】
本発明が依然として実施可能である限り、工程の順序またはある特定の動作を実行するための順序は重要ではないことを理解されたい。さらに、2またはそれを超える工程または動作は同時に行われ得る。
【0042】
以下の説明は、本開示の実例および例示のためのものにすぎず、記載された特定の態様に本発明を限定することを意図するものではない。
【0043】
例えば背景技術の節における任意の刊行物の本明細書における言及は、その刊行物が本明細書に提示された請求項のいずれかに関して先行技術としての役割を果たすことを認めるものではない。背景技術のセクションは、明確にするために提示されており、いずれかの請求項に関する先行技術の記載として意図されたものではない。
定義
【0044】
AまたはAn:冠詞「a」および「an」は、本明細書では、冠詞の文法的目的語の1つまたは1つを超える(すなわち、少なくとも1つ)を表すために使用される。例として、「1つの要素(an element)」は、1つの要素(one element)または1を超える要素(more than one element)を表す。
【0045】
投与:本明細書で使用される場合、「投与」という用語は、典型的には、例えば組成物中に含まれるまたは組成物によってその他送達される作用因子の送達を達成するための、対象または系への組成物の投与を指す。投与の非限定的な例としては、経口投与;非経口投与(例えば、皮下、筋肉内、静脈内または硬膜外注射によって、例えば、無菌溶液もしくは懸濁液または徐放性製剤などとして);局所適用(例えば、例えば皮膚、肺または口腔に適用されるクリーム、軟膏、パッチまたはスプレーとして);膣内または直腸内投与(例えば、ペッサリー、坐剤、クリームまたは泡として);眼投与;経鼻または肺投与などが挙げられる。
【0046】
作用因子:本明細書で使用される場合、用語「作用因子」は、実体(例えば、例えば細胞、ミトコンドリアもしくは他の細胞小器官などの細胞の成分、小分子、ペプチド、ポリペプチド、核酸、脂質、多糖、複合体、組み合わせ、混合物、系、または熱、電流、電場、磁力、磁場などの現象)を指す。
【0047】
同種:本明細書で使用される場合、「同種」という用語は、ある対象(ドナー)に由来し、別の対象に移植される任意の材料を指す。同種移植の例としては、同種T細胞移植、同種幹細胞移植および本明細書中で論じられるような同種ミトコンドリア移植が挙げられる。
【0048】
改善:本明細書で使用される場合、「改善」という用語は、対象の状態の予防、軽減、緩和または改善を指す。改善には、疾患、障害または症状の完全な回復または完全な予防が含まれるが、必要ではない。
【0049】
抗生物質:本明細書で使用される場合、「抗生物質」という用語は、体内または身体上の細菌を死滅させまたはその増殖を阻害することによって感染症を処置するまたは予防するために使用され、経口、局所または注射によって投与され、ある特定の微生物(真菌など)の培養物から単離されるまたは半合成もしくは合成起源のものである、ペニシリン、ゲンタマイシン、ストレプトマイシン、セファロスポリン、シプロフロキサシンなどの抗菌物質を指す。
【0050】
生物学的試料:本明細書で使用される場合、「生物学的試料」という用語は、典型的には、本明細書に記載されるように、関心対象の生物源(例えば、組織または生物または細胞培養物)から得られたまたは関心対象の生物源(例えば、組織または生物または細胞培養物)に由来する試料を指す。いくつかの態様において、例えば、本明細書に記載されるように、生物源は、動物またはヒトなどの生物である、または生物を含む。いくつかの態様において、例えば、本明細書に記載されるように、生物学的試料は、生物学的組織もしくは流体である、または生物学的組織もしくは流体を含む。いくつかの態様において、例えば、本明細書に記載されるように、生物学的試料は、細胞、組織(例えば、皮膚組織、筋肉またはその他の組織)もしくは体液であり得、またはこれらを含み得る。いくつかの態様において、例えば、本明細書に記載されるように、生物学的試料は、血液、血球、無細胞DNA、遊離浮遊核酸、腹水、生検試料、外科標本、細胞含有体液、痰、唾液、糞便、尿、脳脊髄液、腹腔液、胸水、リンパ、婦人科体液、分泌物、排泄物、皮膚スワブ、膣スワブ、口腔スワブ、鼻スワブ、洗浄液(washings)または管洗浄液もしくは気管支肺胞洗浄液などの洗浄液(lavages)、吸引物、擦過物、骨髄であり得、またはこれらを含み得る。いくつかの態様において、例えば、本明細書に記載されるように、生物学的試料は、単一の対象からもしくは複数の対象から得られた細胞であり、または単一の対象からもしくは複数の対象から得られた細胞を含む。試料は、生物源から直接得られる「一次試料」であり得、または「処理された試料」であり得る。生物学的試料は、「試料」とも称され得る。
【0051】
改善された、増加したまたは低下した:本明細書で使用される場合、これらの用語または文法的に同等の比較用語は、同等の基準測定値と比較した値を示す。例えば、いくつかの態様において、例えば、本明細書に記載されるように、関心対象の作用因子で達成される評価値は、同等の参照作用因子でまたは作用因子なしで得られる評価値と比較して「改善」され得る。これに代えてまたはこれに加えて、いくつかの態様において、例えば、本明細書に記載されるように、関心対象の対象または系における評価値は、異なる条件下もしくは異なる時点で(例えば、関心対象の作用因子の投与などの事象の前または後で)同じ対象もしくは系において得られた、または異なる同等の対象において(例えば、関心対象の特定の疾患、障害もしくは症状の1もしくはそれを超える指標の存在において、または症状もしくは作用因子などへの事前の曝露において関心対象の対象または系とは異なる同等の対象または系において)得られた評価値と比較して「改善」され得る。いくつかの態様において、例えば、本明細書に記載されるように、比較用語は、統計的に妥当な差(例えば、統計的妥当性を達成するのに十分な割合および/または規模の差)を指す。当業者は、与えられた状況において、そのような統計的有意性を達成するために必要なまたは十分な差の程度および/または割合を知っており、または容易に決定することができるであろう。
【0052】
単離された:本明細書で使用される場合、「単離された」とは、(a)(自然界であれ、ドナーなどの対象であれ、および/または実験環境であれ)最初に産生されたときに付随していた成分の少なくともいくつかから分離された、ならびに/または(b)人の手によって設計、産生、調製および/もしくは製造された物質および/または実体(例えば、1またはそれを超えるミトコンドリアを含む)を指す。単離された物質および/または実体は、それらと一緒に最初に付随していた他の成分の少なくとも約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、または約99%超から分離され得る。いくつかの態様において、単離された物質および/または実体は、少なくとも約80%、約85%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、または約99%超純粋である。本明細書で使用される場合、物質および/または実体は、他の成分を実質的に含まなければ、「純粋」である。いくつかの態様において、当業者によって理解されるように、物質および/または実体は、例えば、1またはそれを超える担体または賦形剤(例えば、緩衝液、溶媒、水など)などのある特定の他の成分と組み合わされた後もなお「単離された」または「純粋」と考えられ得る。そのような態様では、物質および/または実体のパーセント単離または純度は、そのような担体または賦形剤を含まずに計算される。単に一例を挙げると、いくつかの態様において、自然界に存在するミトコンドリアは、(a)ミトコンドリアと一緒に自然界で付随していた成分の一部または全部を含まない組成物中に、例えばミトコンドリアが由来したドナー中に、ミトコンドリアが存在する、(b)ミトコンドリアは、ミトコンドリアが由来したドナー生物の他の細胞小器官を実質的に含まない;(c)ミトコンドリアが由来したドナー生物とは異なる細胞または系中に、ミトコンドリアが存在する場合に、「単離された」と呼ぶことができる。したがって、例えば、第2の異なる対象への移植のためにドナーから取り出されたミトコンドリアは、「単離された」と呼ぶことができる。
【0053】
神経変性疾患:本明細書で使用される場合、「神経変性疾患」(「変性神経疾患」とも呼ばれる)という用語は、主にヒトの脳内のニューロンに影響を及ぼす症状の総称である。ある特定の例では、神経変性疾患は、脳および/または末梢器官における物理化学的特性の変化を示すタンパク質の沈着を伴うニューロンの進行性喪失を特徴とする。神経変性疾患には、例えば、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、パーキンソン病(PD)およびPD関連障害、アルツハイマー病(AD)、レビー小体型認知症(LBD)、認知症の他の形態、筋ジストロフィー(MD)、ミトコンドリア障害、プリオン病、運動ニューロン疾患(MND)、ハンチントン病(HD)、多発性硬化症(MS)、脊髄小脳失調症(SCA)、脊髄性筋萎縮症(SMA)、フリードライヒ運動失調症、バッテン病、致死性家族性不眠症などが含まれる。
【0054】
薬学的組成物:本明細書で使用される場合、「薬学的組成物」という用語は、1またはそれを超える薬学的に許容され得る担体とともに、活性作用因子がその中に付与される組成物を表す。いくつかの態様において、例えば、本明細書に記載されるように、活性作用因子は、例えば、適切な集団に投与された場合に所定の治療効果を達成する統計学的に有意な確率を示す治療レジメンにおける、対象への投与に適した単位用量量で存在する。いくつかの態様において、例えば、本明細書に記載されるように、薬学的組成物は、特定の形態で(例えば、固体形態または液体形態で)投与するために製剤化することができ、および/または例えば:経口投与(例えば、例えば頬側、舌下または全身吸収のために特に製剤化することができる、水薬(水性または非水性の溶液または懸濁液)、錠剤、カプセル、ボーラス、粉末、顆粒、ペーストなど);非経口投与(例えば、例えば無菌溶液もしくは懸濁液、または徐放性製剤などとして皮下、筋肉内、静脈内または硬膜外注射による);局所適用(例えば、例えば皮膚、肺または口腔に適用されるクリーム、軟膏、パッチまたはスプレーとして);膣内もしくは直腸内投与(例えば、ペッサリー、坐剤、クリームまたは泡として);眼投与;経鼻もしくは肺投与などに特に適合させることができる。
【0055】
薬学的に許容され得る:本明細書で使用される場合、本明細書に開示される組成物を製剤化するための1もしくはそれを超えるまたはすべての成分に適用される「薬学的に許容され得る」という用語は、各成分が組成物の他の成分と適合性でなければならず、そのレシピエントに有害であってはならないことを意味する。
【0056】
薬学的に許容され得る担体:本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体」という用語は、作用因子、例えば医薬品の製剤化を容易にし、および/またはその生物学的利用能を改変する、液体もしくは固体増量剤、希釈剤、賦形剤または溶媒封入材料などの薬学的に許容され得る材料、組成物、またはビヒクルを指す。薬学的に許容され得る担体として機能することができる材料のいくつかの例としては、ラクトース、グルコースおよびスクロースなどの糖;トウモロコシデンプンおよびジャガイモデンプンなどのデンプン;セルロースならびにカルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロースおよび酢酸セルロースなどのその誘導体;粉末化されたトラガント;麦芽;ゼラチン;タルク;カカオバターおよび坐剤ワックスなどの賦形剤;落花生油、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油および大豆油などの油;プロピレングリコールなどのグリコール;グリセリン、ソルビトール、マンニトールおよびポリエチレングリコールなどのポリオール;オレイン酸エチルおよびラウリン酸エチルなどのエステル;寒天;水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウムなどの緩衝剤;アルギン酸;発熱物質を含まない水;等張生理食塩水;リンガー液;エチルアルコール;pH緩衝化された溶液;ポリエステル、ポリカーボナートおよび/またはポリ無水物;ならびに薬学的製剤において使用される他の非毒性適合性物質が挙げられる。
【0057】
予防するまたは予防:疾患、障害または症状の発生に関連して本明細書で使用される「予防する」および「予防」という用語は、疾患、障害もしくは症状を発症するリスクを低下させること;疾患、障害もしくは症状の発症を遅延させること;疾患、障害もしくは症状の1もしくはそれを超える特徴もしくは症候の発症を遅延させること;および/または疾患、障害もしくは症状の1もしくはそれを超える特徴もしくは症候の頻度および/もしくは重症度を低下させることを指す。予防は、特定の対象における予防または対象の集団に対する統計的影響を指すことができる。疾患、障害または症状の発症が事前に定められた期間遅延された場合、予防は完了したと考えることができる。
【0058】
予後:本明細書で使用される場合、「予後」という用語は、少なくとも1つの可能性のある将来の結果または事象の定性的または定量的確率を決定することを指す。本明細書で使用される場合、予後は、対象における癌などの疾患、障害もしくは症状の起こり得る経過の決定、対象の平均余命に関する決定、または治療、例えば特定の治療に対する応答に関する決定であり得る。
【0059】
参照:本明細書で使用される場合、それに対して比較が行われる標準または対照を記載する。例えば、いくつかの態様において、例えば、本明細書に記載されるように、関心対象の作用因子、対象、動物、個体、集団、試料、配列または値は、参照または対照の作用因子、対象、動物、個体、集団、試料、配列または値と比較される。いくつかの態様において、例えば、本明細書に記載されるように、参照またはその特徴は、関心対象の試料中の特徴の試験または決定と実質的に同時に試験および/または決定される。いくつかの態様において、例えば、本明細書に記載されるように、参照は、必要に応じて有形的媒体で具体化された過去の参照である。典型的には、当業者によって理解されるように、参照は、例えば、試料に関して、評価されている条件または状況と同等の条件または状況下で決定され、または特性評価される。当業者は、特定の可能な参照または対照への信頼および/または比較を妥当とするのに十分な類似性が存在する場合を理解するであろう。
【0060】
試料:本明細書で使用される場合、「試料」という用語は、典型的には、関心対象の供給源から取得される、または関心対象の供給源に由来する材料の分割量を指す。いくつかの態様において、例えば、本明細書に記載されるように、関心対象の供給源は生物学的または環境的供給源である。いくつかの態様において、例えば、本明細書に記載されるように、試料は、関心対象の供給源から直接得られた「一次試料」である。いくつかの態様において、例えば、本明細書に記載されるように、文脈から明らかなように、「試料」という用語は、一次試料の処理によって(例えば、一次試料の1もしくはそれを超える成分を除去することによって、および/または一次試料に1もしくはそれを超える作用因子を添加することによって)得られる調製物を指す。
【0061】
~に罹患しやすい:疾患、障害または症状「に罹患しやすい」個体は、前記疾患、障害または症状を発症するリスクがある。いくつかの態様において、例えば、本明細書に記載されるように、疾患、障害または症状に罹患しやすい個体は、前記疾患、障害または症状のいずれの症候も示さない。いくつかの態様において、例えば、本明細書に記載されるように、疾患、障害または症状に罹患しやすい個体は、前記疾患、障害および/または症状と診断されたことがない。いくつかの態様において、例えば、本明細書に記載されるように、疾患、障害または症状に罹患しやすい個体は、疾患、障害もしくは症状の発症に関連する状態に曝露されたことがある個体、または疾患、障害もしくは症状の発症に関連するバイオマーカー状態を示す個体である。いくつかの態様において、例えば、本明細書に記載されるように、疾患、障害および/または症状を発症するリスクは、集団ベースでのリスク(例えば、疾患、障害または症状に罹患している個体の家族)である。
【0062】
対象:本明細書で使用される場合、「対象」という用語は、生物、典型的には哺乳動物(例えば、ヒト)を指す。いくつかの態様において、例えば、本明細書に記載されるように、対象は、疾患、障害または症状に罹患している。いくつかの態様において、例えば、本明細書に記載されるように、対象は、疾患、障害または症状に罹患しやすい。いくつかの態様において、例えば、本明細書に記載されるように、対象は、疾患、障害または症状の1またはそれを超える症候または特徴を示す。いくつかの態様において、例えば、本明細書に記載されるように、対象は、疾患、障害または症状に罹患していない。いくつかの態様において、例えば、本明細書に記載されるように、対象は、疾患、障害または症状のいずれの症候または特徴も示さない。いくつかの態様において、例えば、本明細書に記載されるように、対象は、疾患、障害もしくは症状に対する易罹患性または疾患、障害もしくは症状のリスクに特徴的な1またはそれを超える特徴を有するものである。いくつかの態様において、例えば、本明細書に記載されるように、対象は患者である。いくつかの態様において、例えば、本明細書に記載されるように、対象は、診断が実施された個体および/または治療が施された個体である。いくつかの事例では、例えば、本明細書に記載されるように、ヒト対象は、「個体」と互換的に呼ばれ得る。
【0063】
治療剤、医薬品および活性作用因子:本明細書で使用される場合、「治療剤」、「医薬品」および「活性作用因子」という用語は交換可能であり、それぞれ、対象に投与された場合に所望の薬理学的効果を誘発する任意の作用因子を指す。いくつかの態様において、例えば、本明細書に記載されるように、作用因子は、適切な集団にわたって統計学的に有意な効果を示せば、治療剤であると考えられる。いくつかの態様において、例えば、本明細書に記載されるように、適切な集団は、モデル生物の集団またはヒト集団であり得る。いくつかの態様において、例えば、本明細書に記載されるように、適切な集団は、ある特定の年齢群、性別、遺伝的背景、既存の臨床症状などの様々な基準によって定義することができる。いくつかの態様において、例えば、本明細書に記載されるように、治療剤は、疾患、障害または症状の処置のために使用することができる物質である。いくつかの態様において、例えば、本明細書に記載されるように、治療剤は、ヒトへの投与のために市販可能となる前に、政府機関によって承認されたまたは承認される必要がある作用因子である。いくつかの態様において、例えば、本明細書に記載されるように、治療剤は、ヒトへの投与のために医学的処方が必要とされる作用因子である。
【0064】
治療有効量:本明細書で使用される場合、「治療有効量」という用語は、そのために投与される所望の効果を生じる量を指す。いくつかの態様において、例えば、本明細書に記載されるように、本用語は、治療的投薬レジメンに従って、疾患、障害または症状に罹患しているまたは罹患しやすい集団に投与された場合に、疾患、障害または症状を処置するのに十分な量を指す。当業者は、治療有効量という用語が実際には特定の個体において成功した処置が達成されることを必要としないことを理解するであろう。むしろ、治療有効量は、そのような処置を必要とする個体に投与された場合に、かなりの数の対象において特定の所望の薬理学的応答を提供する量であり得る。いくつかの態様において、例えば、本明細書に記載されるように、治療有効量への言及は、1またはそれを超える特定の組織(例えば、疾患、障害または症状によって影響を受ける組織)または体液(例えば、血液、唾液、血清、汗、涙、尿など)において測定される量への言及であり得る。当業者は、いくつかの態様において、治療有効量の特定の作用因子は単回用量で製剤化および/または投与することができることを理解するであろう。いくつかの態様において、例えば、本明細書に記載されるように、治療上有効な作用因子は、例えば、複数用量の投薬レジメンの一部として、複数の用量で製剤化および/または投与することができる。
【0065】
処置:本明細書で使用される場合、「処置」という用語は(同様に「処置する」または「処置している」も)、特定の疾患、障害もしくは症状を部分的にもしくは完全に軽減する、改善する、緩和する、阻害する、その開始を遅延させる、その進行を停止させる、その進行を遅延させる、その進行を逆転させる、その重症度を低下させる、ならびに/または特定の疾患、障害もしくは症状の1もしくはそれを超える症候、特徴および/もしくは原因の発生率を低下させる、または任意のこのような結果を達成する目的で投与される治療の投与を指す。いくつかの態様において、例えば、本明細書に記載されるように、そのような処置は、関連する疾患、障害もしくは症状の徴候を示さない対象および/または疾患、障害もしくは症状の初期徴候のみを示す対象の処置であり得る。これに代えてまたはこれに加えて、そのような処置は、関連する疾患、障害および/または症状の1またはそれを超える確立された徴候を示す対象の処置であり得る。いくつかの態様において、例えば、本明細書に記載されるように、処置は、関連する疾患、障害および/または症状に罹患していると診断された対象の処置であり得る。いくつかの態様において、例えば、本明細書に記載されるように、処置は、関連する疾患、障害または症状の発症の増加したリスクと統計的に相関する1またはそれを超える易罹患性因子を有することが知られている対象の処置であり得る。様々な例において、処置は癌の処置である。
【0066】
単位用量:本明細書で使用される場合、「単位用量」という用語は、薬学的組成物の単回用量としておよび/または物理的に分離した単位で投与される量を指す。多くの態様において、例えば、本明細書に記載されるように、単位用量は、所定量の活性作用因子を含有する。いくつかの態様において、例えば、本明細書に記載されるように、単位用量は、作用因子の全単回用量を含有する。いくつかの態様において、例えば、本明細書に記載されるように、総単回用量を達成するために、1単位より多い用量が投与される。いくつかの態様において、例えば、本明細書に記載されるように、意図された効果を達成するために、複数の単位用量の投与が必要とされる、または必要とされると予想される。単位用量は、例えば、所定量の1またはそれを超える治療部分を含有するある体積の液体(例えば、許容され得る担体)、固体形態の所定量の1またはそれを超える治療部分、所定量の1またはそれを超える治療部分を含有する持続放出製剤または薬物送達装置などであり得る。単位用量は、治療剤に加えて様々な成分のいずれかを含む製剤中に存在し得ることが理解されよう。例えば、許容され得る担体(例えば、薬学的に許容され得る担体)、希釈剤、安定剤、緩衝剤、保存剤などが含まれ得る。多くの態様において、例えば、本明細書に記載されるように、特定の治療剤の適切な総1日投与量は、単位用量の一部または複数を含むことができ、例えば健全な医学的判断の範囲内で医師によって決定することができることが当業者には理解されよう。いくつかの態様において、例えば、本明細書に記載されるように、任意の特定の対象または生物に対する具体的な有効用量レベルは、処置されている障害および障害の重症度;使用される具体的な活性化合物の活性;使用される具体的な組成;対象の年齢、体重、全般的な健康状態、性別および食事;投与の時間および使用される具体的な活性化合物の排泄の速度;処置の期間;使用される具体的な化合物と組み合わせてまたは同時に使用される薬物および/または追加の治療、ならびに医学の分野で周知の同様の要因を含む様々な要因に依存し得る。
【0067】
バリアント:本明細書で使用される場合、「バリアント」という用語は、参照実体と著しい構造的同一性を示すが、参照実体と比較して1またはそれを超える化学部分の存在、非存在またはレベルが参照実体と構造的に異なる実体を指す。いくつかの態様において、例えば、本明細書に記載されるように、バリアントはまた、その参照実体と機能的に異なる。一般に、特定の実体が参照実体の「バリアント」であると適切に考えられるかどうかは、参照実体とのその構造的同一性の程度に基づく。バリアントは、参照と同等であるが、同一ではない分子であり得る。例えば、バリアントペプチドは、アミノ酸配列の1またはそれを超える相違において参照ペプチドと異なり得る。いくつかの態様において、例えば、本明細書に記載されるように、バリアントペプチドは、少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%または99%である参照ペプチドとの全体的な配列同一性を示す。
【0068】
図面の簡単な説明
本開示の前述のおよび他の目的、局面、特徴および利点は、添付の図面と併せて以下の説明を参照することによってより明らかになり、よりよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【
図1】
図1は、例示的な態様による、線維芽細胞のGFP標識されたミトコンドリアを示す画像である。ヒト線維芽細胞あたり337±80個のミトコンドリアが存在する。ミトコンドリアを計数し、Olympus IX83蛍光顕微鏡およびCellsenseソフトウェアによって分析した。
【0070】
【
図2】
図2は、例示的な態様による、線維芽細胞から単離された生きたミトコンドリアの画像である。ミトコンドリアは膜電位勾配を維持し、JC-1を能動的に濃縮し、明るい赤色蛍光凝集体(J凝集体)を形成する。
【0071】
【
図3】
図3A~Dは、例示的な態様による、HLA-I抗原の免疫蛍光染色を示す一連の画像である。
図3Aは、線維芽細胞の位相差画像を示す。
図3Bは、線維芽細胞の細胞表面上の緑色蛍光染色を示す。
図3Cは、線維芽細胞からの単離されたミトコンドリアの位相差画像を示す。
図3Dは、線維芽細胞からの単離されたミトコンドリア中に陽性染色を示さない。
図3A、3C:位相差;
図3B,3D:蛍光;
図3A、3B線維芽細胞;
図3C、3D:線維芽細胞からの単離されたミトコンドリア。
【0072】
【
図4】
図4は、例示的な態様による、ミトコンドリアをMCF-7癌細胞に導入する線維芽細胞の画像である。矢印が示す細胞は、線維芽細胞およびMCF-7の両方からのミトコンドリアを有する。したがって、ミトコンドリアはオレンジ色の蛍光を示す。
【0073】
【
図5】
図5は、例示的な態様によって、NSC-34ρ
0細胞がミトコンドリアDNAを失ったことを示す画像である。MT-CO1およびMT-ND1遺伝子は、NSC-34ρ
0細胞において増幅されない。ゲノム遺伝子ACTBは、親NSC-34細胞と同じである。
【0074】
【
図6】
図6Aおよび
図6Bは、例示的な態様によって、NSC-34のミトコンドリアおよびNSC-34ρ
0細胞に移植された初代線維芽細胞を示す一連の画像である。NSC-34および線維芽細胞のミトコンドリアをMitoTrackerレッドで標識し、単離し、NSC-34ρ
0細胞と24時間共培養した。
図6Aは、NSC-34ミトコンドリアを移植した。
図6Bは、線維芽細胞ミトコンドリアを移植した。
【0075】
【
図7】
図7は、例示的な態様によって、自己NSC-34ミトコンドリアがNSC-34ρ
0細胞のミトコンドリアDNAを補充することを示す画像である。ミトコンドリア移植(MT)の1、3および6日後にMT-CO1増幅のバンドが存在する。
【0076】
【
図8】
図8は、例示的な態様によって、自己NSC-34ミトコンドリアがNSC-34ρ
0細胞のMT-CO1およびMT-ND1遺伝子発現を回復させることを示す画像である。NSC-34ρ
0細胞を、NSC-34細胞から単離されたミトコンドリアと共培養した(1個のNSC-34ρ
0細胞+10個のNSC-34細胞からのミトコンドリア)。遺伝子発現をqPCRによって測定する。
【0077】
【
図9】
図9は、例示的な態様によって、自己NSC-34ミトコンドリアがNSC-34ρ
0細胞の解糖遺伝子の発現を逆転させることを示す画像である。NSC-34ρ
0細胞を、NSC-34細胞から単離されたミトコンドリアと共培養した(1個のNSC-34ρ
0細胞+10個のNSC-34細胞からのミトコンドリア)。遺伝子発現をqPCRによって測定する。
【0078】
【
図10】
図10は、例示的な態様によって、EpH4-EvのMitoTrackerオレンジで標識されたミトコンドリアが、マウス中で増殖された4T1細胞に首尾よく移植されることを実証する画像である。ミトコンドリアの注射の24時間後に、腫瘍塗抹スライド上の4T1細胞中にオレンジ色の蛍光が観察された。
【0079】
【
図11】
図11は、例示的な態様によって、単離されたミトコンドリアが赤色蛍光(J凝集体)を示し、膜電気化学的ポテンシャルを保持している画像である。線維芽細胞中のミトコンドリアをJC-1によって標識し、単離し、ミトコンドリア保存緩衝液中に再懸濁させる。
【0080】
【
図12】
図12Aおよび
図12Bは、例示的な態様による、HLAクラスI抗原の免疫蛍光染色を示す画像である。
図12A:HLA-A/B/C、緑色の蛍光が主に細胞表面上に見られる;
図12B:MitoTracker Redにより標識されたミトコンドリア、赤色蛍光は主に細胞質中にある。
【0081】
【
図13-1】
図13A~
図13Dは、MitoTracker Redによって標識されたヒト線維芽細胞からの単離されたミトコンドリアが、例示的な態様によって、共培養の12時間後にマウス運動神経NSC-34細胞中に導入されることを示す画像である。
図13A、13B:NSC-34、
図13A-位相差、
図13B-蛍光;
図13C、13D:EtBrで処理されたNSC-34、
図13C-位相差、
図13D-蛍光。
【0082】
【
図14】
図14は、例示的な態様によって、ヒト線維芽細胞ミトコンドリアの注射がALS患者における脚四頭筋の筋力を改善することを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0083】
詳細な説明
本明細書に記載される方法および組成物は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、パーキンソン病およびアルツハイマー病などの他の神経変性疾患、脳卒中、ならびにミトコンドリア損傷に起因する低下した筋機能をもたらす他の症状および疾患の処置のための、ドナーミトコンドリアの供給源としてのヒト初代線維芽細胞の使用を実証する。線維芽細胞は、間葉系幹細胞(MSC)と多くの特徴を共有しており、初代線維芽細胞からの同種ミトコンドリアは、低い免疫原性を示すか、または免疫原性を示さず、ミトコンドリア移植においてHLAタイピング(tying)の一致を必要としないことが本明細書において見出される。本明細書に記載されるミトコンドリア呼吸緩衝液(MRB)溶液(本明細書では、ミトコンドリア保存緩衝液組成物とも呼ばれる)は、ミトコンドリアの良好な生存性を維持し、ヒト患者における静脈内および筋肉内注射に安全である。一態様において、MRBは、pH7.2の240mMスクロース、2mM KH2PO4、3mM MgCl2、10mM K-HEPES、1mM K-EGTA、20mMタウリン、15mM K-ラクトビオナートおよび0.1%ヒト血清アルブミン(HSA)を含む。
【0084】
本明細書でさらに詳しく論述されているように、ミトコンドリアの投与量は、特定の対象に対して決定することができる。ミトコンドリアの数を推定するために、線維芽細胞の数を使用することができる。一態様において、5000万個の初代線維芽細胞から単離された出発ミトコンドリア用量を使用することができる。
【0085】
例えば、ALS患者のための例示的な臨床投与プロトコルによれば、所与の処置において、5000万個の初代線維芽細胞からのミトコンドリアの半分が静脈内注射され、残りの半分が病変した筋の複数の部位に筋肉内注射される。例えば、いくつかの態様において、疾患が主に下肢を冒す場合、下肢への注射が必要とされ、発生筋および嚥下筋などとともに、症候が主に上肢に発生する場合、ミトコンドリアは上肢および頸筋に注射される。
【0086】
別の例では、パーキンソン病もしくはアルツハイマー病などの別の神経変性疾患に罹患している患者または脳卒中に罹患した患者のための例示的な臨床投与プロトコルに従って、5000万個の初代線維芽細胞からのすべてのミトコンドリアは静脈内に注射される。
【0087】
本明細書でさらに詳しく論述されているように、ミトコンドリア細胞小器官移植(MOT)の一部としてのミトコンドリア(mitrochondria)の投与に加えて、患者には鉄キレート剤(例えば、デスフェリオキサミンまたはデフェラシロクス)、抗酸化剤および/またはプロバイオティクスが投与され得る。いくつかの態様において、移植されたミトコンドリアに対する潜在的な有害作用故に、抗生物質の投与が回避される。
【0088】
ヒト神経変性疾患におけるミトコンドリア移植研究を準備するために、線維芽細胞が間葉系間質細胞(MSC)と多くの特徴を共有するので、ヒト線維芽細胞をミトコンドリアのドナーとして選択した。ヒト初代線維芽細胞を単離し、ミトコンドリアDNA(mtDNA)枯渇マウス運動ニューロンNSC-34細胞(NSC-34ρ0細胞)を発生させた。線維芽細胞およびNSC-34細胞のミトコンドリアをNSC-34ρ0細胞と共培養した。蛍光顕微鏡法によってミトコンドリア移植を観察した。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)およびリアルタイムPCR(qPCR)によって遺伝子発現を決定した。また、乳腺癌4T1細胞を有するマウス中にミトコンドリアを注射した。以下の結果が見出された:1)線維芽細胞には豊富なミトコンドリアが存在する(線維芽細胞あたり337±80個のミトコンドリア)。分画遠心分離を使用することによって、42.4%の生きたミトコンドリアが得られた。共培養後、単離されたミトコンドリアをNSC-34ρ0細胞中に積極的に移植した。2)線維芽細胞はヒト乳腺癌MCF-7細胞にミトコンドリアを導入する;3)線維芽細胞のミトコンドリア中にはHLA-I抗原の発現が存在せず、線維芽細胞のミトコンドリアはHLA抗原の一致なしで同種ミトコンドリア移植のために使用できることを示す;4)PCRおよびqPCRは、NSC-34ρ0細胞が、ミトコンドリアにコードされたシトクロムcオキシダーゼI(MT-CO1)およびミトコンドリアにコードされたNADHデヒドロゲナーゼ1(MT-ND1)を失い、解糖関連遺伝子であるヘキソキナーゼ(HK2)、グルコーストランスポーター1(SLC2A1)および乳酸デヒドロゲナーゼA(LDHA)の発現を上方制御することを示す;5)NSC-34ミトコンドリアの移植は、MT-CO1およびMT-ND1を回復させ、HK2、SLC2A1およびLDHAの遺伝子発現をダウンレギュレートする;6)正常な乳腺上皮ミトコンドリアは、マウス中の4T1細胞に首尾よく入る。ミトコンドリアの皮下注射はマウスにとって安全である。ミトコンドリア移植はmtDNAを補充し、ミトコンドリアの機能不全を有する病変細胞の好気性呼吸を救済する。ヒト初代線維芽細胞は、ヒト神経変性疾患におけるミトコンドリア移植研究のための適切なミトコンドリアのドナーである。
【0089】
真核細胞では、ミトコンドリアは、酸素の存在下で酸化的リン酸化(OXPHOS)によってATPを生成する。ミトコンドリアはまた、鉄-硫黄(Fe-S)クラスタの合成、脂肪酸のβ酸化、ヘム補欠分子族の合成、尿素サイクル、ならびにカルシウム、鉄および活性酸素種(ROS)の恒常性において重要な役割を果たす。ミトコンドリアは、頻繁に融合および分裂する高度に動的な細胞小器官である。ミトコンドリアの融合/分裂は、損傷したミトコンドリアの分離、損傷したミトコンドリアを除去するためのマイトファジーおよび損傷が重度であれば最終的に細胞死を可能にする。さらに、ミトコンドリアは細胞間を移動することができる。細胞は、それらの生体エネルギーおよび生合成の必要性を満たすために、他の細胞から機能的ミトコンドリアを取得することが可能であり得る。いかなる特定の理論にも拘束されることを望むものではないが、可能な機構には、トンネルナノチューブ、細胞外小胞および部分的または完全な細胞融合が含まれる。
【0090】
ミトコンドリアの機能不全は、神経変性疾患、心疾患および癌などの多くの疾患に寄与する。当技術分野において公知であるように、ミトコンドリアの機能不全は、細胞、組織、生物またはこれらの試料のミトコンドリアが、(1)ATP産生の減少した速度、量もしくは効率;(2)ミトコンドリアの減少した膜電位;(3)ミトコンドリアの減少した数もしくは濃度;および/または(4)参照と比較して増加したROS産生の速度もしくは量によって特徴付けられる状態を広く含む。いくつかの態様において、参照は、健康な対象(例えば、典型的なミトコンドリアの機能を有するおよび/またはミトコンドリアの機能に影響を及ぼすことが知られている診断された医学的症状を有しない同等の対象)を代表する測定値または値である。いくつかの態様において、参照は、健康な対象の集団を代表する測定値または値である。いくつかの態様において、参照は、より早期の対象を代表する測定値または値である。ミトコンドリアのATP産生、ミトコンドリアの膜電位、ミトコンドリアの数もしくは濃度、および/またはROS産生を測定するための方法および技術は、当技術分野において公知である。
【0091】
ミトコンドリアの機能不全は、例えば、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、アルツハイマー病(AD)およびパーキンソン病(PD)において文献で報告されている。ニューロンは、そのエネルギーの必要性のためにミトコンドリア内の好気性OXPHOSに高度に依存するので、ミトコンドリアは神経機能に不可欠である。ニューロンにおけるミトコンドリアの呼吸およびATP産生の欠陥は、神経の機能不全および変性をもたらす。ミトコンドリアはROSも産生する。ROSの酸化ストレスが、ほとんどはスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、カタラーゼ(CAT)およびグルタチオンペルオキシダーゼ(GPX)からの抗酸化的防御を圧倒すれば、ROSはニューロンのタンパク質、脂質およびDNA損傷を引き起こす。さらに、ミトコンドリアのカルシウムおよび鉄の過剰は、ATP産生ならびにミトコンドリアおよびニューロンの構造を損なう。スーパーオキシドジスムターゼ1(SOD1)、TAR DNA結合タンパク質(TARDBP;TDP-43)、Fused in sarcoma(FUS)、第9染色体オープンリーディングフレーム72(C9orf72)およびジペプチドリピートタンパク質(DPR)を含む、遺伝子変異からのいくつかのタンパク質が家族性ALSおよび孤発性ALSに関連付けられており、これらは、ALSマウスモデルおよびヒト患者においてミトコンドリアと相互作用することが示されている。
【0092】
ミトコンドリアは、心臓細胞の増加したエネルギー需要のために心臓細胞中に高度に存在する。ミトコンドリアの機能不全は、アテローム性動脈硬化症、虚血-再灌流傷害、高血圧、心肥大および心不全などの多数の心疾患の発症に関連する。
【0093】
ミトコンドリアの機能の欠陥は腫瘍形成にも関連付けられてきた。例えば、癌細胞は、「ワールブルグ効果」として知られるOXPHOSの増加なしに、酸素の存在下で解糖および乳酸産生の増加を有することが観察されている。多くの癌は、ミトコンドリアの欠陥および機能不全を有する。解糖阻害剤は、動物モデルおよび臨床試験において腫瘍増殖を抑制することが見出されている。
【0094】
細胞培養およびマウスにおける欠陥ニューロンおよび腫瘍細胞へのミトコンドリア移植(MT)、ならびにマウスにおけるミトコンドリア注射の安全性の実験例が以下に記載されている。ミトコンドリアは、共培養後に、ヒト線維芽細胞と乳癌細胞の間で移行することが明らかとなった。ヒト線維芽細胞から単離されたミトコンドリアは、マウスmtDNA枯渇ニューロンへの移植の候補である。マウス運動神経ミトコンドリアの移植はmtDNAを補充し、マウスmtDNA枯渇ニューロンの好気呼吸を救済する。さらに、マウス正常乳腺上皮から単離されたミトコンドリアは、マウスモデルにおいて乳腺癌細胞中に組み込まれる。外因性ミトコンドリアの注射は、実験マウスにとって安全である。
【実施例】
【0095】
実験例1
ヒト線維芽細胞の単離、初代培養および凍結保存
すべてのプロトコルは、クラスII、タイプA2層流フード内で無菌技術を使用した。すべての培養プラスチック材料および外科用メスは無菌であり、廃棄した。ヒト皮膚組織は、インフォームドコンセントに署名した若年健常男性によって提供された。外来診療センターで皮膚組織を外科的に収集し、15mlの無菌0.9%塩化ナトリウム注射液を含有する50ml廃棄無菌遠心管に落とした。皮膚(0.5cm×2cm)を冷無菌生理食塩水で洗浄した。脂肪組織を切り取った。無菌廃棄100mm培養皿内で、無菌廃棄メスを使用して、皮膚を小片に切断した。すべての組織片および生理食塩水を、蓋および撹拌棒を備えた滅菌ガラス試験容器中に移した。4.5mlの3%コラゲナーゼ3型(Worthington Biochemical Corporation、Lakewood、NJ、USA)を試験容器に加えた。最終体積は20mlであった。消化のために、37℃のオーブン中の磁気撹拌機上に試験容器を置いた。組織片が消失するまで穏やかに撹拌しながら組織を5時間消化した。無菌50ml遠心管中に液体を移し、400×gで5分間遠心分離した。上清を吸引した。次いで、以下のものを添加した:5%ヒト血小板可溶化液(HPL)(Biological Industries、Cromwell、CT、USA)および0.05mg/mlゲンタマイシン(GIBCO、Carlsbad、CA、USA)を含有する20mlの予熱した(37℃)完全α最小必須培地(αMEM)(GIBCO、Carlsbad、CA、USA)。次いで、細胞ペレットを再懸濁し、細胞懸濁液を182cm2フラスコに移した。5%CO2インキュベータを用いて、37℃で一晩、フラスコを培養した。翌日、培地および浮遊細胞を吸引した。20mlの新鮮な培地をフラスコに添加した。培養のためにフラスコをインキュベータに戻し、3~4日ごとに培地を新しいものに交換した。細胞増殖が80%の集密度になったら、1:10希釈によって細胞を新しいフラスコに継代培養した。2回目および3回目の継代の初代線維芽細胞を収集し、Nutrifreez D10凍結保存培地(Biological Industries、Cromwell、CT、USA)中に再懸濁し、凍結保存用バイアル中に1×106細胞を含有する1mlに当量分割し、凍結し、液体窒素中で保存した。
細胞培養
【0096】
ヒト乳腺癌細胞株MCF-7、マウス乳腺癌細胞株4T1およびマウス乳腺上皮細胞株EpH4-Evは、American Type Culture Collection(ATCC)(Manassas、VA、USA)から購入した。MCF-7、4T1およびヒト初代線維芽細胞を液体窒素から回収し、10%ウシ胎児血清(FBS)を含有するアルファMEM(GIBCO、Carlsbad、CA、USA)中で培養した。EpH4-Ev細胞は、10%FBSおよび1.2μg/mLピューロマイシン(Sigma Aldrich、St.Louis、MO、USA)を含有するアルファMEM中で培養した。NSC-34は、運動ニューロンを濃縮した胚性マウス脊髄細胞のマウス神経芽腫との融合によって産生されるハイブリッド細胞株である。NSC-34は、Cedarlane corporation(Ontario、Canada)から購入し、10%FBSを含有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(GIBCO、Carlsbad、CA、USA)中で培養した。細胞がフラスコ内で満杯の80%まで増殖したら、TrypLE発現溶液(GIBCO、Carlsbad、CA、USA)で細胞を消化し、37℃および5%CO2で継代培養した。
ミトコンドリアの単離
【0097】
ミトコンドリアを分画遠心分離によって単離した。すべての試薬は無菌であった。TrypLe発現溶液で細胞を採取し、400×gおよび4℃で5分間の遠心分離によってペレット化した。溶液および培地の吸引後、氷冷した300mMスクロースミトコンドリア単離緩衝液(MIB)(Sigma Aldrich、St.Louis、MO、USA)中に細胞ペレットを再懸濁し、ビーズビーティングによってホモジナイズした(Bead Ruptor 12、Omni International Homogenizer社(Kennesaw、GA、USA)。細胞溶解物を700×gおよび4℃で10分間遠心分離した。次いで、上清を新しい遠心管に移し、9,000×gおよび4℃で10分間遠心分離した。上清を除去した。240mMスクロースミトコンドリア呼吸緩衝液(MRB)(Sigma Aldrich、St.Louis、MO、USA)でミトコンドリアペレットを再懸濁した。単離されたミトコンドリアの数を決定するために、10μlのJC-1染色されたミトコンドリアをスライドガラス上に置き、22mm×22mmのカバーガラス(面積4.84×108μm2)で覆った。20倍対物レンズを通してミトコンドリアを観察し、写真画像を5視野で撮影し、Olympus IX83蛍光顕微鏡(Olympus、Tokyo、Japan)のCellsenseソフトウェアによって、ミトコンドリア数を各写真中でカウントした。各写真のオブジェクト面積は、写真のスケールバー(μm)を使用することによって計算した。10μl中のミトコンドリアの数は、以下のように:(カバースリップ面積4.84×108μm2÷1写真当たりのμm2単位でのオブジェクト面積)×1写真当たりのミトコンドリア数の平均として計算した。次いで、単離されたミトコンドリアの総数を算出した。
ミトコンドリアタンパク質の測定
【0098】
ミトコンドリアのタンパク質含有量は、ミトコンドリアの数を推定するために使用することができる。タンパク質含有量の測定のためにミトコンドリアを使用した場合、タンパク質を含まないMRBによってミトコンドリアを2回洗浄した。ミトコンドリアを再懸濁し、RIPA緩衝液(Thermofisher Scientific、Waltham、MA、USA)によって溶解した。40mg(≦5×106細胞)の湿潤ペレットに対して、1mlのRIPA緩衝液を使用した。ミトコンドリアを氷上で30分間穏やかに振盪した。次いで、14,000×gで10分間、ミトコンドリアの可溶化液を遠心分離して残屑をペレット化した。タンパク質含有量測定のために上清を1.5mlバイアルに移した。Pierce BCAタンパク質アッセイキット(Thermo Scientific、Rockford、IL、USA)によって、タンパク質を定量した。手順はアッセイキットのプロトコルに従う。手短に言えば、指示は、25μlの標準または試料を複製ウェルにピペットで移し、200μlのBCR作業試薬を各ウェルに添加し、プレートを30秒間十分に混合し、プレートを37℃で30分間インキュベートし、プレートを室温に冷却し、プレートリーダーで562nmの吸光度を測定することである。4パラメータロジスティック曲線によって、試料のタンパク質濃度を計算した。
初代線維芽細胞およびミトコンドリア中のヒト白血球抗原I(HLA I)の免疫蛍光染色
【0099】
2万個の初代線維芽細胞をガラス底細胞培養皿で一晩培養した。5×106個の線維芽細胞からミトコンドリアを単離した。皿の中の線維芽細胞および1.5mlエッペンドルフ遠心管中のミトコンドリアを4%パラホルムアルデヒド溶液で室温にて15分間固定した。ウサギ抗ヒトHLA-ABCポリクローナル抗体(Thermofisher Scientific、Waltham、MA、USA)は、HLAI抗原のすべてのタイプ(HLA-A、-Bおよび-C)に反応する(略語HLAは、ヒト白血球抗原を意味する)。免疫蛍光染色の簡潔な手順は以下のとおりである:1×リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2回洗浄し、1×PBS中5%ヤギ血清でブロックし、1回洗浄し、200μlのウサギ抗ヒトHLA-ABCポリクローナル抗体の1:400希釈物とともに4℃で一晩インキュベートし、1×PBSで3回洗浄し、ヤギ抗ウサギIgG-Alexa488とともに室温で1時間インキュベートし、1×PBSで3回洗浄し、300μlの1×PBSを皿および管に添加し、1.5mlエッペンドルフ管中にミトコンドリアを再懸濁し、100μlのミトコンドリアを新しいガラス底皿のガラス領域に添加し、OlympusIX83蛍光顕微鏡下で蛍光を観察する。すべての写真は1秒の露光で撮影した。
JC-1またはMitoTracker色素によるミトコンドリアの染色
【0100】
プロトンポンプによって生成されるミトコンドリアの膜電位は、OXPHOS中のエネルギー貯蔵の過程における重要な構成要素であることが見出されている。JC-1(5,5’,6,6’-テトラクロロ-1,1’,3,3’-テトラエチルベンゾイミダゾロカルボシアニンヨージド)およびMitoTracker色素(ロサミンまたはcyCarbocyanine系プローブ)などの膜電位依存性色素は、ミトコンドリアを染色し、ミトコンドリアの電位をモニターするために使用されてきた。JC-1染色のために、ミトコンドリア染色キット(Sigma CS0390、St.Louis、MO、USA)でミトコンドリアを染色した。簡潔な手順は以下のとおりである:試験管中で4mLの超純水に25μlの200×JC-1 Stock Solutionを混合する;試験管を閉じ、試験管を短時間反転またはボルテックスすることによって溶液を混合する;試験管を室温で2分間インキュベートしてJC-1を完全に溶解させる;試験管を開け、1mlのJC-1 Staining Buffer 5×を添加する;反転によって混合する;次いで、細胞増殖のために染色混合物を等体積の完全培地と混合する;フラスコから増殖培地を吸引し、細胞に上記の混合物を重層する;1cm2の増殖表面当たり0.2~0.4mlの混合物を添加する;5%CO2を含有する加湿された雰囲気中、37℃で20分間、細胞をインキュベートする;混合物を吸引する;次いで、冷増殖培地で2回、細胞を洗浄する。OlympusIX83蛍光顕微鏡を使用して蛍光を観察した。電気化学的ポテンシャル勾配を維持する細胞では、色素はミトコンドリア中に濃縮され、そこで明るい赤色蛍光凝集体(J凝集体)を形成した。細胞が膜電位を維持できなかった場合、JC-1は細胞全体に分散し、赤色蛍光から緑色蛍光(JC-1モノマー)へのシフトをもたらした。
【0101】
MitoTracker色素については、培養培地を吸引した。150nMのMitoTracker OrangeまたはRed色素(Thermofisher Scientific、Waltham、MA、USA)を含有する新鮮な培地で細胞を覆い、37℃および5%CO2で30分間培養した。その後、染色溶液を除去した。細胞を1回洗浄し、新鮮な培地で覆い、蛍光顕微鏡下で観察した。
線維芽細胞と癌MCF-7細胞の間でのミトコンドリアの移行
【0102】
CellLight Mitochondria-RFPまたは-GFP、BacMam2.0をInvitrogen(Carlsbad、CA、USA)から購入した。CellLight Mitochondria-RFPまたは-GFP、BacMam2.0は蛍光性であり、現在、生細胞ミトコンドリアの画像化においてミトコンドリアへの正確かつ特異的な標的化を提供する(ミトコンドリアマトリックス中の)E1αピルビン酸デヒドロゲナーゼ融合物のリーダー配列である。細胞は培養皿上で70%の集密度まで増殖した。生成物のプロトコルに従って、細胞の数に対するCellLight試薬の適切な体積を計算した。CellLightミトコンドリア-RFPまたは-GFPの該体積を細胞に添加した。37℃で少なくとも16時間、細胞をインキュベートし、OlympusIX83蛍光顕微鏡によって観察した。線維芽細胞あたりのミトコンドリアの平均数をCellsenseソフトウェアによって決定した。腺癌細胞MCF-7と線維芽細胞の間でのミトコンドリアの移行を試験するために、MCF-7および線維芽細胞のミトコンドリアを、それぞれCellLightミトコンドリア-RFPまたは-GFPで少なくとも16時間標識した。培地を除去した。予め加温した新鮮な培地で細胞を2回洗浄し、TrypLE express試薬で剥離させた。同数のMCF-7と線維芽細胞を混合し、37℃および5%CO2で24時間共培養した。OlympusIX83蛍光顕微鏡によって、細胞中の蛍光を観察した。
臭化エチジウムによるNSC-34のミトコンドリアDNAを枯渇させる
【0103】
DNA/RNA合成の阻害剤である低用量(0.1~2μg/ml)の臭化エチジウム(EtBr)による細胞の長期処理は、核DNAの複製および転写に影響を及ぼすことなく、mtDNAなどの染色体外遺伝要素の複製および転写を特異的に抑制すると考えられている。2μg/mlのEtBrを含有する完全DMEM培地中でNSC-34細胞を維持し、3~4日ごとに新しい培地に交換しながら毎週継代培養した。3ヶ月後、NSC-34の全DNAをQIAamp DNAミニキット(Qiagen、Hilden、Germany)で単離した。MT-CO1およびMT-ND1をPCRによって試験した。PCRは、2μlのPCR Masterミックス(Thermofisher Scientific、Waltham、MA、USA)、0.5μlの100μMフォワードプライマーおよびリバースプライマー、ならびに200ngDNA鋳型を含む合計25μlの体積で行った。MT-CO1の増幅のために使用したプライマーは、5’-CTAGCCGCAGGCATTACTATAC-3’(配列番号1)および5’-TGTCAAGGGATGAGTTGGATAAA-3’(配列番号2)であった。MT-ND1に対するプライマーは、5’-GCCGTAGCCCAAACAATTTC-3’(配列番号3)および5’-CGTAACGGAAGCGTGGATAA-3’(配列番号4)であった。マウスβ-アクチン(mACTB)をゲノム遺伝子の対照として使用した。mACTB増幅のためのプライマーは、5’-CTGAGTCTCCCTTGGATCTTTG-3’(配列番号5)および5’-AGGGCAGGTGAAACTGTATG-3’(配列番号6)であった。増幅手順は、T100 Thermal Cycle(Bio-Rad、Hercules、CA、USA)での、95℃で3分間の初期DNA変性、次いで95℃で30秒間の35サイクルの変性、50℃で30秒間のプライマーアニーリングおよび72℃で60秒間の伸長、ならびに72℃で10分間の最終伸長を含んだ。PCR産物を2%アガロースゲル上で泳動し、臭化エチジウム蛍光によって画像化した。
mtDNAが枯渇されたNSC-34(NSC-34ρ0)へのミトコンドリア移植
【0104】
マウスNSC-34細胞からミトコンドリアを単離した。(1×106細胞からの)ミトコンドリアを1×105個のNSC-34ρ0細胞と共培養した(10個のNSC-34細胞からのミトコンドリア+1個のNSC-34ρ0細胞)。正常なNSC-34を対照として使用した。24時間の共培養後、ミトコンドリアを含有する培地を除去した。細胞を2回洗浄し、新鮮な完全DMEMを補充し、連続的に培養した。PCRおよびリアルタイムPCR検査のための移植後、それぞれ1日、3日および6日に、細胞のDNAおよびRNAを単離した。ミトコンドリア移植の画像化のために、NSC-34細胞および初代線維芽細胞のミトコンドリアをMitoTracker Redで標識し、単離し、NSC-34ρ0細胞とともに24時間共培養した(10個のNSC-34細胞または線維芽細胞からのミトコンドリア+1個のNSC-34ρ0細胞)。標識されたミトコンドリアを含有する培地の除去後、細胞を蛍光顕微鏡下で観察した。
リアルタイムPCR(qPCR)
【0105】
ミトコンドリアおよび解糖関連遺伝子のmRNAレベルを測定するために、定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)を使用した。以下のものを調べた:ミトコンドリアのOXPHOS遺伝子、MT-CO1およびMT-ND1、ならびに解糖関連遺伝子HK2、SLC2A1およびNADHによるピルビン酸の還元を触媒してラクタートを形成するLDHA。すべての遺伝子発現定量は、実証済みの5’ヌクレアーゼベースのリアルタイムPCR化学であるTaqMan Gene Expression Assayを用いて行った。プライマーおよびプローブ(PrimeTime Mini qPCRアッセイ)は、Integrated DNA Technologies(IDT、Coralville、Iowa)によって合成した(表1、配列番号7~24)。内在性遺伝子対照としてβ-アクチン(ACTB)を使用して、逆転写反応に添加されるRNAの量についてPCRを正規化した。プローブは、蛍光性レポーター色素としてFAM(6-カルボキシフルオレセイン)を5’末端に含有し、蛍光性二重消光剤としてZEN(商標)/Iowa Black FQを内部および3’末端に含む。qPCR反応は、7900HTリアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems,Grand Island,NY)を用いて行った。標準モードは、50°Cで2分および95°Cで10分、ならびに40サイクル(95°Cで15秒、60°Cで1分)として動作した。実験された群中の標的転写物のシグナルを対照のシグナルに関連付ける相対的定量によって、標的遺伝子発現を決定した。RQ Manager1.2.1ソフトウェア(Applied Biosystems,Grand Island,NY,USA)を用いて相対的定量を分析した。
マウス中の乳腺癌4T1細胞へのミトコンドリア移植
【0106】
動物実験委員会(IACUC)プロトコルを提出し、LSU School of Veterinary Medicineによって承認された。雌マウスは16~18グラム(平均17.3g)および8週齢であった。0.2mlの0.9%NaCl中の1×105個のマウス乳腺癌4T1細胞を各マウスの皮下に注射した。腫瘍が直径1cmに成長したら、1.0×106個のEpH4-Ev細胞からの0.2mlの単離されたミトコンドリア(5×107個のミトコンドリア)を腫瘍中に直接注射した。正常な上皮EpH4-EvのミトコンドリアをMitoTrackerオレンジ色素で予め標識し、単離し、氷上のMRB中に保存した。24時間後、腫瘍を生検し、スライドガラス上に塗抹した。腫瘍塗抹スライドを蛍光顕微鏡下で観察して、標識されたミトコンドリアが4T1腫瘍細胞中に入ったかどうかを確認した。腫瘍細胞に対する正常なミトコンドリアの阻害を調べるために、0.2mlのMRB中の1×105個の4T1細胞とミトコンドリア(5×107個のミトコンドリア)細胞の混合物をマウスの背側頸部領域に皮下注射した(1個の腫瘍4T1細胞+10個のEpH4-Ev細胞からのミトコンドリア)。対照群マウスには、マウスあたり0.2mlのMRB中の1×105個の4T1細胞のみを注射した。対照群およびミトコンドリア処置群は、それぞれ10匹および11匹のマウスを含んだ。注射の18日後、マウスを屠殺し、剖検した。腫瘍塊ならびに肺、肝臓、心臓、脾臓および腎臓を含む臓器を取り出し、重量を測定した。組織学的研究のために、すべての組織を4%ホルマリン溶液中で固定した。
統計解析
【0107】
スチューデントのt検定を用いて統計学的有意性を検定した。0.05未満のp値を統計学的に有意と判定した。
結果
単離されたミトコンドリアの数、タンパク質含有量および生存性
【0108】
ヒト初代線維芽細胞の寿命はおよそ80日であることが明らかとなった。増殖の倍加時間は40±6時間である。線維芽細胞のミトコンドリアをCellLight Mitochondria-GFPで標識し、Olympus IX83蛍光顕微鏡のCellsenseソフトウェアを使用して、30の異なる視野で線維芽細胞あたりのミトコンドリアの数をカウントした。ヒト線維芽細胞あたり337±80個のミトコンドリア(平均±標準偏差)が存在した。
図1は、線維芽細胞のGFP標識されたミトコンドリアを示す。ミトコンドリアの蛍光プローブを使用して、ミトコンドリアの生存性を評価した。単離されたミトコンドリアは、膜電位勾配を維持し、JC-1を活発に濃縮し、明るい赤色の蛍光性凝集体(J凝集体)を形成することが見出された。
図2は、線維芽細胞から単離された生存したミトコンドリアを示す。この知見は、単離されたミトコンドリアが生存可能であり、電気化学的ポテンシャル勾配を維持することを示唆している。細胞中に合計(3.37±80)×10
9個のミトコンドリアを有する1×10
7個の線維芽細胞から合計(1.43±0.33)×10
9個のミトコンドリアを単離することができた。ミトコンドリアの単離プロトコルは、42.4%[(1.41×10
9)÷(3.37×10
9)×100%]の線維芽細胞ミトコンドリアを得ることができる。ミトコンドリアのタンパク質含有量は、ミトコンドリアの数を推定するための代替方法である。1×10
7個の線維芽細胞から単離された(1.43±0.33)×10
9個のミトコンドリアは、190±45μgのタンパク質含有量を有する。単離されたミトコンドリアの数を推定するために、線維芽細胞数およびミトコンドリアのタンパク質含有量の両方を使用することができる。
線維芽細胞のミトコンドリアはHLA-I抗原を発現しない
【0109】
緑色蛍光は、ヒト線維芽細胞の細胞表面上に見られる。緑色蛍光の分布は不均一である。この知見は、HLAクラスI抗原が主にヒト線維芽細胞の細胞表面上に発現することを示唆している。単離されたミトコンドリアは緑色蛍光染色を有さない。これらの結果は、ヒト線維芽細胞のミトコンドリアがHLA抗原を発現せず、HLA抗原一致なしに同種ミトコンドリア移植に使用され得ることを示唆する。例示のために、
図3A~Dは、HLA-I抗原の免疫蛍光染色を示す。線維芽細胞の細胞表面上には緑色蛍光染色が存在するが(
図3B)、単離されたミトコンドリアには陽性染色は存在しない(
図3D)。
図3A、3Cは位相差画像を示す;
図3B、3Dは蛍光を示す;
図3A、3Bは線維芽細胞を示す;
図3C、3Dは、線維芽細胞からの単離されたミトコンドリアを示す。
ヒト線維芽細胞と乳腺癌MCF-7の間でのミトコンドリアの移行
【0110】
CellLight Mitochondria-GFPで標識された線維芽細胞をCellLight Mitochondria-RFPで標識されたMCF-7と24時間共培養した。線維芽細胞(緑色)とMCF-7細胞(赤色)の間を移動するミトコンドリアは、一部の細胞においてオレンジ色の蛍光をもたらした(
図4の矢印参照)。
図4は、線維芽細胞がMCF-7癌細胞にミトコンドリアを移行させたことを示す。矢印によって示される細胞は、線維芽細胞およびMCF-7癌細胞の両方からのミトコンドリアを有する。したがって、ミトコンドリアはオレンジ色の蛍光を示す。
NSC-34ρ
0細胞への正常なミトコンドリアの移植
【0111】
2μg/mlのEtBrによるNSC-34の3ヶ月間の処理後に、PCRは、ミトコンドリア遺伝子MT-CO1およびMT-ND1の増幅が存在しないことを示した。処理はゲノム遺伝子ACTB増幅に対して影響を及ぼさなかった。例えば、
図5は、NSC-34ρ
0細胞がミトコンドリアDNAを失ったことを示す。MT-CO1およびMT-ND1遺伝子は、NSC-34ρ
0細胞において増幅されなかった。ゲノム遺伝子ACTBは、親NSC-34細胞と同じである。結果は、長期EtBr処理がNSC-34細胞のmtDNAを枯渇させたことを示唆する。NSC-34ρ
0細胞は、親NSC-34よりはるかにゆっくりと増殖する。NSC-34ρ
0細胞の増殖は、親NSC-34のおよそ10%である。NSC-34細胞または初代線維芽細胞からの単離された、MitoTrackerレッドで標識されたミトコンドリアをNSC-34ρ
0細胞と共培養した。培養後24時間で、赤色蛍光を有するミトコンドリアがNSC-34ρ
0細胞中に観察された(例えば、
図6Aおよび6Bを参照されたい)。
図6Aおよび
図6Bは、NSC-34および初代線維芽細胞のミトコンドリアがNSC-34ρ
0細胞中に移植されたことを示す。NSC-34および線維芽細胞のミトコンドリアをMitoTrackerレッドで標識し、単離し、NSC-34ρ
0細胞と24時間共培養した。
図6Aは、NSC-34ミトコンドリアが細胞に移植されたことを示す。
図6Bは、線維芽細胞ミトコンドリアが細胞に移植されたことを示す。これらの結果は、単離された自己ミトコンドリアおよび異種ミトコンドリアが、欠陥のあるNSC-34ρ
0細胞に移植されることを示唆する。
NSC-34のミトコンドリアはmtDNAを補充し、NSC-34ρ
0細胞の好気性呼吸を救済する
【0112】
NSC-34ρ
0細胞を単離されたNSC-34ミトコンドリアと24時間共培養した後、PCRは、MT-CO1DNA遺伝子がNSC-34ρ
0細胞中で増幅されることを示す。さらに、MT-CO1は、ミトコンドリア移植後3日および6日での増幅後も残存する(
図7)。
図7は、自己NSC-34ミトコンドリアがNSC-34ρ
0細胞のミトコンドリアDNAを補充することを示す。ミトコンドリア移植(MT)の1、3および6日後において明瞭なMT-CO1増幅のバンドが存在する。ゲノム遺伝子ACTBの増幅は、ミトコンドリア移植によって変化しない。遺伝子発現レベルは、以下の式によって計算される:(NSC-34ρ
0の遺伝子発現÷NSC-34細胞の遺伝子発現)×100%。qPCRは、NSC-34ρ
0細胞はミトコンドリア遺伝子MT-CO1およびMT-ND1の極めて低いレベルのmRNA発現レベルを有するが(親NSC-34細胞のおよそ10%)、ミトコンドリア移植後3日でmRNA発現を正常なNSC-34のレベルに回復させることを示す(
図8)。
図8は、自己NSC-34ミトコンドリアが、NSC-34ρ
0細胞のMT-CO1およびMT-ND1遺伝子発現を回復させることを示す。NSC-34ρ
0細胞を、NSC-34細胞からの単離されたミトコンドリアと共培養した(1個のNSC-34ρ
0細胞+10個のNSC-34細胞からのミトコンドリア)。遺伝子発現をqPCRによって測定した。解糖遺伝子HK2、LDHAおよびSLC2A1の発現は、NSC-34ρ
0細胞中で上方制御される。これらは、欠陥ミトコンドリアを有するNSC-34ρ
0細胞が好気性解糖を増加させて細胞エネルギーATPを産生することを示唆する。ミトコンドリア移植は、解糖関連遺伝子の発現を下方制御する。
【0113】
HK2、LDHAおよびSLC2A1遺伝子発現のレベルは、NSC34ミトコンドリアの移植後3日で正常に戻る(
図9)。
図9は、自己NSC-34ミトコンドリアがNSC-34ρ
0細胞の解糖遺伝子の発現を逆転させることを示す。NSC-34ρ
0細胞を、NSC-34細胞からの単離されたミトコンドリアと共培養した(1個のNSC-34ρ0細胞+10個のNSC-34細胞からのミトコンドリア)。遺伝子発現をqPCRによって測定した。これらの結果は、単離されたNSC-34ミトコンドリアがミトコンドリアDNAを効果的に補充し、NSC-34ρ
0細胞の好気性呼吸を救済することができることを示唆する。この研究では、10個のNSC-34細胞のミトコンドリアが、欠陥のあるミトコンドリアを有する1個のNSC-34ρ
0細胞を救済することができる。
【0114】
したがって、上記の実験は、ヒト線維芽細胞からの異種ミトコンドリアがNSC-34ρ
0細胞に首尾よく入ることを実証している(例えば、
図6Bおよび上記の説明を参照)。
マウス4T1腫瘍モデルにおけるミトコンドリア移植
【0115】
正常なEpH4-Ev細胞のMitoTrackerオレンジで標識されたミトコンドリアを腫瘍塊中に注射した24時間後に、オレンジ色の蛍光が4T1細胞中に観察された(
図10)。
図10は、EpH4-EvのMitoTrackerオレンジで標識されたミトコンドリアが、マウス中で増殖させた4T1細胞に首尾よく移植されることを示す。ミトコンドリアの注射の24時間後に、腫瘍塗抹スライド上の4T1細胞中にオレンジ色の蛍光が観察された。この結果は、EpH4-Ev細胞のミトコンドリアが腫瘍4T1細胞中に首尾よく移植されることを示唆する。実験の18日目に、マウスを剖検した。正常なEpH4-Evミトコンドリアを受けた群における腫瘍重量は、対照群の腫瘍重量と異ならない(p>0.05)。肉眼的検査は、すべてのマウスが両方の群において肺転移を有することを示す。しかしながら、ミトコンドリアを受けた群の肺重量は、差はさほど有意ではない(p=0.06)としても、対照群の肺重量より小さい(下記の考察のサブセクションの表2を参照)。これらの結果は、外因性の正常なミトコンドリアが肺における転移性負荷を減少させ得ることを示唆する。
【0116】
ミトコンドリア[マウスあたり5×107個のミトコンドリア(6.6μgタンパク質)]およびMRB(0.2ml/マウス)の皮下注射は、マウスにおいていかなる副反応も引き起こさなかった。マウスにおける用量は、式:1キログラム(kg)体重当たりのヒトの用量=体重1kg当たりのマウス用量×0.081として体表面積に基づいてヒトの用量に変換することができる。この研究では、マウスの平均体重は17.3gである。マウスの用量は、0.38mg/kg[0.0066mg(ミトコンドリアタンパク質)÷0.0173kgマウス体重]、または2.89×109ミトコンドリア/kg(5×107ミトコンドリア÷0.0173kgマウス体重)である。ヒト用量の等価な量は、タンパク質で0.031mg/kg(マウスにおける0.38mg/kg×0.081)または2.34×108ミトコンドリア/kg(マウスにおける2.89×109×0.081)となる。これらの用量は、臨床試験の開始用量として使用することができる。他の用量も使用され得る。0.2mlのMRBの皮下注射はマウスにとって安全である。MRB体積のヒトへの変換は、部位あたり2~5mlの筋肉内注射または250ml未満の静脈内注射となる。
考察
【0117】
ほとんどの神経変性疾患(ND)の正確な病因は不明のままである。NDに対する現在の有効な処置は限られている。NDは、ミトコンドリアの機能不全を伴うことが多い。したがって、ミトコンドリアが関連する病態形成を標的とすることが、ND処置に対してますます注目を集めている。伝統的な薬物または遺伝子標的化作用因子は、ミトコンドリアの特定の亜区画に容易に到達しない(または到達しない)。さらに、患者間でのミトコンドリア変異の多様性は、1つの疾患を治癒するために1つの薬物を開発することを不可能にし得る。近年、ミトコンドリア移植は、神経変性疾患、脳卒中およびCNS損傷のためにニューロンの生存および再生に利益をもたらす治療的介入の新たな光を投げかけている。本明細書に提示されるように、外因性の健康なミトコンドリアが欠陥のあるニューロンに移植され、ニューロンの生存性、活動および神経突起の再成長を促進することが見出される。本研究では、mtDNAが枯渇された運動ニューロンNSC-34(NSC-34ρ
0)細胞は、親NSC-34細胞よりもはるかに遅く成長する。NSC-34ρ
0細胞は、OXPHOSよりATP生成効率が低い経路である好気性解糖を増加させる(
図9参照)。NSC-34ρ
0細胞は、運動ニューロンのミトコンドリア欠陥モデルであり得る。ALS患者においては、脳および脊髄の運動ニューロンに欠陥があり、適切に機能しなくなる。NSC-34ρ
0細胞は、ALSのミトコンドリア病態形成研究のための有用なツールである。NSC-34ミトコンドリアの移植は、PCRによって確認されたNSC-34ρ
0細胞のmtDNAを補充する(
図7~8)。ミトコンドリア移植後、解糖遺伝子HK2、LDHAおよびSLC2A1の発現は1日目で減少し、3日目でNSC-34細胞の正常レベルまで減少する(
図9)。
【0118】
ClinicalTrials.gov’’Transplantation of Autologously Derived Mitochondria Following Ischemia’’(https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT02851758)におけるミトコンドリア移植に関する登録された研究は、骨格筋のヒト自己ミトコンドリアが虚血性心筋に注射される予定であることを記載する。心筋と同様に、骨格筋は横紋筋である。さらに、骨格筋はヒトにおいて豊富である。したがって、骨格筋は、心虚血後のミトコンドリア移植のための合理的なミトコンドリアドナー組織である。しかしながら、神経系の自己修復および再生は限定的であるため、ミトコンドリアドナーとして同種または自己のニューロンを見出すことは困難である。本明細書に記載される研究では、以下の理由のために、ヒトNDに対するミトコンドリア移植におけるミトコンドリアのドナーとしてヒト線維芽細胞を選択した:1)線維芽細胞は豊富な組織供給源を有し、ヒトにおいて再生することができる;2)線維芽細胞は、しばしば、ニューロンを含む他の細胞とミトコンドリアを交換する;3)線維芽細胞は、間葉系間質細胞/幹細胞(MSC)と多くの特徴を共有する。MSC細胞療法は、それらの免疫調節能、免疫抑制能および再生能により、炎症性疾患、免疫媒介性疾患および変性疾患に対する試験において使用されてきた;4)ヒト線維芽細胞は、機能性ニューロンに誘導することができる。本明細書中に示される研究において、ヒト初代線維芽細胞は容易に単離され、迅速に増殖することが見出された。ミトコンドリアは、連続的な分裂および融合を伴う動的細胞小器官である。しかしながら、細胞は、正常な生理学的状況において比較的安定した数のミトコンドリアを有する。細胞内のミトコンドリアの数は、器官、組織および細胞型によって大きく異なり得る。例えば、赤血球はミトコンドリアを有しないが、肝細胞はそれぞれ2000を超えるミトコンドリアを有することができる。ヒト線維芽細胞は、豊富なミトコンドリア(線維芽細胞あたり平均337個のミトコンドリア)を有する。本明細書に記載される研究では、ヒト線維芽細胞がミトコンドリアをヒト乳腺癌細胞株MCF-7に移行させることが見出された(
図4参照)。線維芽細胞と癌の間でのミトコンドリアの移行は、癌の増殖に有益であり得る。しかしながら、正常な細胞との線維芽細胞ミトコンドリアの移行は、損傷した細胞の好気性呼吸を救済し、組織の修復および再生に有益であり得る。本明細書に記載されるミトコンドリアの単離のプロトコルは、線維芽細胞の細胞内ミトコンドリアの42.4%をもたらした。単離されたミトコンドリアの寿命が短い(氷上で数時間未満)ため、線維芽細胞数は、ミトコンドリア移植試験中にミトコンドリア数を推定する迅速な方法として使用することができる。1×10
7個の線維芽細胞から、単離されたミトコンドリアの最終的な数は1.43×10
9個である(1×10
7×337×42.4%=1.43×10
9)。ミトコンドリアのタンパク質含有量は、ミトコンドリアの数を決定するための代替的方法であるが、この手順はしばしば数時間を要する。したがって、ミトコンドリアタンパク質含有量は、ミトコンドリア移植試験においてミトコンドリアの数を推定するためには、細胞数より実用的でない。単離されたミトコンドリアは膜電位勾配を維持する。ミトコンドリアの膜電位は、プロトンポンプ(複合体I、IIIおよびIV)によって生成され、ATPを作製するためにATP合成酵素によって使用されるエネルギー貯蔵の中間形態としての役割を果たす。膜電位はまた、ミトコンドリアの生存性を決定する因子であり、その一部はミトコンドリアの生存性にとって必須である帯電した化合物を輸送するための駆動力である。ミトコンドリアの膜電位の喪失は、損傷したミトコンドリアを排除するためのマイトファジーを誘導する。したがって、ミトコンドリアの膜電位は、単離されたミトコンドリアの生存性のマーカーである。ミトコンドリアの膜電位は、JC-1、MitoTracker色素、テトラメチルローダミンエチル(TMRE)またはメチル(TMRM)エステルなどのミトコンドリア蛍光プローブによって決定することができる。単離されたミトコンドリアの生存性は、ミトコンドリア蛍光プローブを使用することによって迅速かつ容易に決定することができる。単離された線維芽細胞のミトコンドリアは、欠陥のあるマウス運動ニューロンであるNSC-34ρ
0細胞に首尾よく移植された(
図6B)。これは、異種ミトコンドリアが、異なる種からのレシピエント細胞に移植することができることを示す。総合すると、ヒト初代線維芽細胞は、NDに対するミトコンドリア移植のための生存したかつ潜在的に理想的なミトコンドリアドナーであることが見出される。
【0119】
同種組織ドナーは、HLAタイプの一致を必要とする。ヒト白血球抗原(HLA)系または複合体は、ヒトにおける主要組織適合複合体(MHC)遺伝子複合体によってコードされる一群の関連タンパク質である。HLAI分子は、すべての有核細胞の細胞表面上に存在するMHC分子の2つの主要クラスのうちの1つであり、HLA-A、HLA-BおよびHLA-Cを含む。HLAIIは、樹状細胞およびB細胞などのプロフェッショナル抗原提示細胞上にのみ見られる。免疫系は、自己細胞を非自己細胞から区別するためにHLAを使用する。線維芽細胞とMSCの類似性のため、線維芽細胞は、低レベルのHLAI抗原を発現し得る。本明細書に記載される結果は、初代線維芽細胞は細胞表面上にHLA-I抗原を発現するが、線維芽細胞から単離されたミトコンドリアはHLA-I抗原を一切発現しないことを示す(
図3)。これらの結果は、同種ミトコンドリアが低い免疫原性を示す、または免疫原性を示さず、ミトコンドリア移植においてHLAタイプ(tying)の一致を必要としないことを示唆する。線維芽細胞ミトコンドリアは、生物療法のための「直ちに使用可能な」製品として使用され得ることが可能である。
【0120】
さらに、ミトコンドリア移植は、癌治療に対する可能性を有し得る。正常な乳腺上皮MCF-12Aから単離されたミトコンドリアはヒト乳癌腫細胞株に移植され、解糖酵素の遺伝子発現を下方制御し、癌薬物感受性を増加させることが見られる。本明細書に記載される研究では、正常なミトコンドリアは、腫瘍塊へのミトコンドリア注射の24時間後にマウス中の腫瘍4T1細胞に首尾よく入ることが見出されている(
図10)。マウスの他の群では、正常なミトコンドリア(10個のEpH4-Ev細胞からのミトコンドリア+1個の腫瘍4T1細胞)は、腫瘍増殖を阻害することができない。正常なミトコンドリアは肺重量を減少させるが、対照群と比較してその差はそれほど有意ではない(p=0.06)。腫瘍細胞に対する正常なミトコンドリアの阻害効果は、ミトコンドリアの投与量に依存し得る。0.2mlのミトコンドリアおよびMRBの皮下注射がマウスにとって安全であることが見出された。マウスにおけるミトコンドリア数およびMRB体積は、臨床試験のための開始用量の推定としてヒト用量に変換することができる。
【0121】
本実験例では、ヒト初代線維芽細胞が、ヒト神経変性疾患の処置のためのミトコンドリア移植のための好適なミトコンドリアドナーであることが見出されている。さらに、ミトコンドリア移植はmtDNAを補充し、欠陥のあるミトコンドリアを有する細胞の好気性呼吸を救済することができることが見出されている。
表1.qPCRのためのプライマーおよびプローブ配列のリスト
【表1】
表1は、表1に示される順序で、配列番号7~24に対応する配列を含む。
表2.EpH4-Ev乳腺上皮のミトコンドリアで皮下処置された、4T1乳腺癌を有するマウスにおける腫瘍および肺の重量。
【表2】
*平均+標準偏差(マウスの数)
&Studentのt検定、0.05未満を統計学的に有意であると判断した。
実験例II
【0122】
線維芽細胞は、若年男性成人の皮膚組織から得た。ドナーは健康であり、ウイルス感染症を有しない。ドナーは、自身の組織の使用に関する譲渡書類に署名した。250mgの外科的に除去された皮膚組織を無菌のメスで刻み、6.25%ウシ胎児血清(GIBCO Invitrogen,Carlsbad,CA,USA)、0.56%コラゲナーゼ(Worthington Biomedical,Lakewood,NJ)および0.004%DNase(Sigma Aldrich,St.Louis,MO)を含有するα-MEM中、37°Cで5時間消化した。次いで、細胞混合物を400gで5分間遠心分離した。上清を除去した。10%ウシ胎児血清および1mMグルタミン(GIBCO Invitrogen,Carlsbad,CA,USA)が補充された完全α-MEM中に細胞ペレットを再懸濁し、5%CO2とともに37°Cでインキュベートした。大きな線維芽細胞コロニーが出現した後、このコロニーをフラスコから無菌セルスクレーパーで取り出し、新鮮な培養培地(上記と同じ組成)を含有する新しいフラスコに移した。線維芽細胞がフラスコ内で満杯の80%まで増殖したら、0.05%トリプシンおよび0.53mM EDTAで消化した。ゲンタマイシン、ペニシリンおよびストレプトマイシンなどの抗生物質を補充しない培地中で細胞を増殖させた。多数の初代線維芽細胞を凍結し、将来の使用のために液体窒素中で保存した。培養培地中の抗生物質は、哺乳動物細胞のミトコンドリアに対する毒性を有する。したがって、MOTのために、10%ウシ胎児血清および1mMグルタミンを補充された抗生物質非含有の完全α-MEM中において、37°Cで、5%CO2とともにヒト線維芽細胞を培養した。
ミトコンドリア単離緩衝液および保存緩衝液
【0123】
本実験例におけるミトコンドリア単離緩衝液は、300mMスクロース、10mM K-HEPES、1mM K-EGTA、0.1%BSAおよび0.25mM PMSF(Sigma Aldrich,St Louis,MO,USA)からなる。緩衝液のモル浸透圧濃度は325mOsmである。カリウムイオンの濃度は11mMである。ウシ血清アルブミン(BSA)は、膜安定剤、酸素ラジカル捕捉剤であり、Ca2+および遊離脂肪酸を結合する。フッ化フェニルメタンスルホニルとも呼ばれるフッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)は、細胞溶解物の調製において使用されるセリンプロテアーゼ阻害剤である。リソソームは、過剰なまたは衰弱した細胞小器官を消化する消化酵素を含有する細胞小器官である。細胞ホモジナイゼーションの手順中に、一部のリソソームが損傷され、消化酵素を細胞可溶化物に放出し得る。消化酵素からのミトコンドリアの損傷を防ぐために、本発明者らは単離緩衝液中にPMSFを含める。
【0124】
本実験におけるミトコンドリア保存緩衝液は、240mMスクロース、2mM KH2PO4、3mM MgCl2、10mM K-HEPES、20mMタウリン、1mM K-EGTA、0.1%BSAおよび15mM K-ラクトビオナート(Sigma Aldrich,St Louis,MO,USA)からなる。タウリンは、ミトコンドリアによって生成されたフリーラジカル種を捕捉する抗酸化剤として作用し、膜安定化、浸透圧調節およびイオンチャネル調節にも関与する。ラクトビオナートは細胞保護特性を有し、ミトコンドリアの膨潤を防止する。ラクトビオナートはまた、カルシウムイオンに高い親和性で結合し、カルシウムキレート剤として作用する。ミトコンドリア保存緩衝液のモル浸透圧濃度は325mOsmである。緩衝液は、28mMのカリウムイオンを含有する。0.22μmフィルターを通して濾過することによって緩衝液を滅菌し、小型バイアルに一定量で分割し、-80℃で保存する。
【0125】
後述する臨床用途では、保存緩衝液中の線維芽細胞ミトコンドリアは、ヒト患者に筋肉内および静脈内投与される。高いカリウムイオン濃度は、ヒトへの注射にとって危険である(例えば、緩衝液B2(PLOS One https://doi.org/10.1371/journal.pone.0187523)からの91mMのカリウムイオン濃度)。本実験では、低下した濃度のすべてのK+塩を使用した(2mM KH2PO4、10mM K-HEPESおよび15mM K-ラクトビオナート)。実験で使用した保存緩衝溶液中のK+の最終濃度は28mEqであり、塩化カリウムを含む臨床静脈内溶液と同様である(20mEqおよび40mEq)。モル浸透圧濃度を同様に保つために、スクロースの濃度を増加させた。
ミトコンドリアの単離
【0126】
好ましい態様において、冷却および迅速な単離の使用が重要であることが観察される。ミトコンドリア単離のすべての材料および試薬は、氷上で予め冷却される。すべての工程は0℃~4℃で行われる。簡潔な手順は以下のとおりである:線維芽細胞をフラスコから消化し、遠心分離によってペレット化する。線維芽細胞ペレットをミトコンドリア単離緩衝液中に再懸濁し、1.0mmビーズを含む2mlの無菌チューブに移す。ビーズチューブを4000rpmで2分間振盪して線維芽細胞をホモジナイズする。細胞ホモジネートを40μm細胞ろ過器に注ぎ、氷上の50ml収集チューブ中にろ過し、5mlのミトコンドリア単離緩衝液で洗浄し、この過程を1回繰り返す。ホモジネートを10μm細胞ろ過器上に添加し、氷上の50ml収集チューブ中にろ過する。ホモジネートを9000gで10分間、4℃で遠心分離する。ミトコンドリア保存緩衝液中にミトコンドリアペレットを再懸濁し、氷上で保存するか、または直ちに使用する。
ヒト線維芽細胞およびミトコンドリア中のHLAクラスIの免疫蛍光染色
【0127】
ヒト白血球抗原(HLA)複合体には、クラスI(HLA-A、B、C)およびクラスII(HLA-DPA1、DPB1、DQA1、DQB1、DRAおよびDRB1)が含まれる。HLAクラスI抗原は、ほとんどすべての細胞の表面上に存在する。HLAクラスII抗原は、ほとんど専ら、ある特定の免疫系細胞の表面上に存在する。ドナーとレシピエントの間でのHLA抗原の不一致は、しばしば、細胞療法および臓器移植後に細胞および臓器の拒絶をもたらす。染色工程のために、20,000個の線維芽細胞を35mmガラス底皿上で一晩培養する。線維芽細胞のミトコンドリアをMitoTracker Red(Molecular Probes、Eugene、OR)によって染色する。MitoTracker Redは、ミトコンドリアの膜電位に依存した蓄積により、生きた細胞内のミトコンドリアを標識する。MitoTrackerは化学的に反応性であり、ミトコンドリア内のチオール基に結合する。この色素はミトコンドリアに永続的に結合するようになり、したがって、細胞が死滅した後または固定された後に残存する。4%パラホルムアルデヒド溶液によって細胞を室温にて15分間固定し、リン酸緩衝溶液(PBS)によって洗浄する。室温で1時間、タンパク質ブロッカーとともに細胞をインキュベートし、PBSで3回洗浄し、ウサギ抗ヒトHLA-ABCポリクローナル抗体(Invitrogen、Carlsbad、CA)によって4℃で一晩インキュベートする。ブランク対照皿中の細胞を、HLA抗体を含まないPBSとともにインキュベートする。皿をPBSで4回洗浄し、室温で1時間ヤギ抗ウサギIgG-Alexa488とともにインキュベートし、さらに再度4回洗浄する。0.4mlのPBSによって細胞を覆い、OlympusIX83蛍光顕微鏡(Tokyo、Japan)下で蛍光を観察する。さらに、単離されたミトコンドリアを固定し、線維芽細胞のように抗体とともにインキュベートし、免疫蛍光染色を観察する。
単離されたミトコンドリアの生存性
【0128】
ヒト線維芽細胞から単離されたミトコンドリアの生存性を決定するために、5,5,6,6’-テトラクロロ-1,1’,3,3’テトラエチルベンゾイミダゾイルカルボシアニンヨージド(JC-1)色素(Sigma Aldrich、St Louis、MO、USA)を使用することを含む技術を使用して、ミトコンドリアの膜電位(ΔΨM)を検出する。正常なΔΨMを有する細胞の場合、JC-1色素は、電圧が生じ、負に帯電したミトコンドリアに進入して蓄積し、自発的に赤色蛍光J凝集体を形成する。対照的に、不健康な細胞またはアポトーシス細胞では、ミトコンドリアの内側は膜透過性の増加のために陰性度が低く、電気化学的ポテンシャルの喪失をもたらすため、JC-1色素は同じくミトコンドリアに入るが、程度はより低い。この条件下では、JC-1は、J凝集体の形成を引き起こすのに十分な濃度に達しないため、その元の緑色蛍光を保持する。JC-1は、無傷の単離されたミトコンドリアおよび組織の両方においてΔΨMを評価するために使用することができる。JC-1(Sigma Aldrich、St Louis、MO)によって線維芽細胞を染色する。JC-1で染色されたミトコンドリアを上記のプロトコルによって単離する。単離されたミトコンドリアの蛍光を蛍光顕微鏡下で観察する。赤色蛍光は、単離されたミトコンドリアが膜電気化学的ポテンシャルを維持し、生きていることを示唆する。
マウス神経運動細胞株NSC-34におけるミトコンドリア細胞小器官移植(MOT)
【0129】
NSC-34は、運動ニューロンが豊富な胚性マウス脊髄細胞のマウス神経芽腫(Cellutions Biosystems Inc.、Burlington、Ontario、L7L 5R2、Canada)との融合によって産生されるハイブリッド細胞株である。10%ウシ胎児血清を含有する完全DMEM培地中でNSC-34細胞を培養する。ヒト線維芽細胞ミトコンドリアをMitoTracker Redで標識し、単離し、5%CO2を加え、37℃で12時間、NSC-34細胞と共培養する。培養培地を吸引する。予め加温したDMEMで細胞を3回洗浄し、0.5mlの新鮮なDMEM培地によって覆う。Olympus IX83蛍光顕微鏡(Tokyo、Japan)下でNSC-34細胞の蛍光を観察する。さらに、2,000ng/mlの臭化エチジウム(EtBr)を含有するDMEM培地でNSC-34細胞を培養する。EtBrは、二本鎖DNAにインターカレートし(すなわち、鎖間にそれ自体を挿入する)、DNAを変形させ、DNA複製および転写を含むDNA生物学的過程に影響を及ぼす。EtBrはミトコンドリアのDNA欠陥を引き起こし、最終的にはNSC-34細胞のミトコンドリアDNAを枯渇させる。EtBrで処理された病気のNSC-34細胞および健康なNSC-34において、線維芽細胞ミトコンドリアのMOTを試験する。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)におけるMOTの調製
【0130】
ミトコンドリアを80~100×106個のヒト線維芽細胞から単離した。11mlのミトコンドリア保存緩衝液中にミトコンドリアを再懸濁した。4mgのキメラミトコンドリア透過性ペプチドを2mlのミトコンドリア保存緩衝液中に溶解し、0.22μmフィルターを介してろ過することによって滅菌した。ペプチドは、アルギニンに富むペプチドを有するミトコンドリアアルデヒドデヒドロゲナーゼ(ALDH2)のリーダーペプチドからなっていた。ペプチドのアミノ酸配列は、MLRAAARFGPRLGRRLLSARKKRRQRRRであった。(配列番号25)。リーダーペプチドは、タンパク質トランスロカーゼ外膜(Tom)を介してミトコンドリア外膜に結合することができ、アルギニンに富む配列は細胞膜中に挿入することができる。したがって、キメラペプチドは、外因性ミトコンドリアが細胞内に入る可能性を増大させ得る。ペプチド溶液を11mlの線維芽細胞ミトコンドリア中に添加し、氷上で30分間インキュベートした。8つの1mlシリンジおよび1つの5mlシリンジ中にミトコンドリアを引き込んだ。シリンジを氷上に置き、30分以内に筋肉内注射および静脈内注射のために使用した。
結果
単離されたミトコンドリアは、膜の電気化学的ポテンシャルおよび生存性を維持する。
【0131】
単離されたミトコンドリアは、JC-1色素を濃縮し、J凝集体を形成することができる。したがって、赤色蛍光がミトコンドリアコロニー中に見出される(
図11)。この知見は、ミトコンドリアの単離および保存のプロトコルが、細胞株および患者における以下のMOTのために生きたミトコンドリアを精製および維持することができることを確認する。
ヒトミトコンドリアはHLA抗原を発現しない
【0132】
緑色蛍光は、ヒト線維芽細胞の細胞表面上に見られる。緑色蛍光の分布は不均一である(
図12A)。この知見は、HLAクラスI抗原が主にヒト線維芽細胞の細胞表面上に発現することを示唆している。MitoTracker Redにより標識されたミトコンドリアの赤色蛍光は、主に細胞質中に見られる(
図12B)。これらの所見は、ミトコンドリアがHLAクラスI抗原の発現を有しないか、または極めて低い発現を有することを示す。さらに、同じ免疫蛍光技術を使用して、線維芽細胞の単離されたミトコンドリアのHLAクラスI抗原を調べた。ミトコンドリア中に陽性の緑色蛍光は存在しなかった。これらの結果は、ヒト線維芽細胞のミトコンドリアはHLA抗原を発現せず、HLA抗原の一致を必要とせずに同種MOTのために使用できることを示唆する。
【0133】
ヒト白血球抗原(HLA)は、臓器または細胞移植の拒絶または受容に関連する。ドナーとレシピエントの間でのHLAの不一致は、しばしば、幹細胞療法および臓器移植後に細胞および臓器の拒絶をもたらす。本明細書に記載される実験では、ミトコンドリアにはHLAの発現が存在しないことが見出された。したがって、任意の健常ドナーからのミトコンドリアをHLAの一致なしにレシピエントに移植することが可能である。ドナー源の問題は存在しない。これは、ドナーとレシピエントのHLA適合を必要とする幹細胞療法および臓器移植を上回る顕著な利点である。
ヒト線維芽細胞ミトコンドリアは、健康なNSC-34よりも容易にミトコンドリアDNA欠損NSC-34の中に入る
【0134】
NSC-34細胞株は、インビトロ研究のための運動神経モデルを提供する。NSC-34細胞を、MitoTracker Redによって標識された単離されたミトコンドリアと12時間共培養した後に、NSC-34細胞中に赤色蛍光が見出される(
図13A、13B)。これは、ヒト線維芽細胞ミトコンドリアがマウス運動神経NSC-34中に入ることを示唆する。さらに、より高い強度の蛍光が、EtBrで処理されたNSC-34細胞中に見出された(
図13C、13D)。これは、線維芽細胞ミトコンドリアがミトコンドリアDNA欠損NSC-34細胞中により容易に移行することを示す。これらの結果は、病気の組織および器官が健康な組織よりも多くの線維芽細胞ミトコンドリアを取り込むことを明らかにする。
【0135】
健康な細胞と比較した、欠陥のある細胞によるミトコンドリアの優先的な更新は以下のように定量化することが可能である。予め標識されたミトコンドリアの蛍光強度は、欠陥のある細胞および健康な細胞と予め標識された単離されたミトコンドリアの共培養後に、蛍光顕微鏡法によってこれらの細胞において測定することができる。次いで、欠陥のある細胞と健康な細胞の間で強度を比較することができる。
臨床試験I
筋萎縮性側索硬化症(ALS)を有する2人のヒト患者におけるミトコンドリア細胞小器官移植(MOT)の初期臨床結果
【0136】
2名のALS患者(1名は女性、1名は男性)において、ミトコンドリア細胞小器官移植(MOT)を最初に行った。女性患者は、(処置の開始時に)3年以上にわたって進行性ALSを有していた58歳の白人女性である。彼女は、以前のすべての処置に失敗していた。手順および可能性のある有効性に対する原理証明の研究上の証拠についての数回の長い協議の後に、彼女はこの実験的治療についてのインフォームドコンセントに署名した。男性は、進行性ALSを(処置の開始時に)3年間有する48歳の白人男性である。彼は十分に説明を受け、MOTを試みることを望み、詳細な同意書に署名した。
【0137】
この女性患者に対するこの一連の初期臨床結果(臨床処置A)には、2019年6月に開始した6つのMOT手順が記載されている。これらの手順を約5~6週間間隔で実施した。処置前に、彼女は脚の筋肉、四頭筋および大腿屈筋の筋力試験を受けた。最初の4回の移植は、脚および上腕の筋肉においてのみ行った。本発明者らの緩衝された保存溶液中の生きた単離された同種線維芽細胞ミトコンドリアの複数回の注射を、複数の領域内の筋肉中に与えた。第5および第6の手順では、彼女は筋肉注射を受け、保存溶液中の5mlの単離されたミトコンドリアを静脈内にも与えられた。
【0138】
患者は有害事象を有さず、拒絶、自己免疫または感染の徴候は存在しなかった。筋力(
図14)および可動性が改善され、希望および気分が大幅に改善されていた。最大の改善は、彼女の知覚性感覚の改善であった。出頭時に、彼女は腕および脚にほとんど感覚がなく、筋肉注射のための局所麻酔を必要としなかった。3回目の移植後、感覚および感覚刺激が復活し、正常な状態を保った。感覚の復活が運動ニューロンの機能に役立ったと考えられる。MOTの素晴らしい結果は、疾患の進行が停止し、彼女の感覚、力および可動性が改善したことである。彼女の処置は進行中の研究であり、MOTは、感覚刺激およびミトコンドリアの健康のための栄養補助剤によって補完される。運動ニューロンの鉄過剰の指標である血清フェリチンが高いために、彼女は毎週鉄キレート剤を与えられている。彼女の次のMOTは、最後のMOTから3ヶ月の間隔を置いた後、2020年3月半ばに計画されている。彼女の結果は、MOTがALSにおける運動ニューロン変性を緩和し、安定化させ、おそらく元に戻し得ることを明らかにする。本発明者らの知る限りでは、この女性は、ALSのために同種線維芽細胞ミトコンドリアのMOTを受ける最初のヒトである。
【0139】
男性患者は、(処置の開始時に)進行性ALSを3年以上有する48歳の白人男性である。彼は、球ALSバリアントを伴う重度の全身性筋力低下を有する。彼は非常にゆっくりと話し、彼が話すときに彼を理解することは非常に困難である。彼は2019年12月11日に最初のMOT処置を受けた。彼には、脚、上腕および後頸部の筋肉に単離された線維芽細胞ミトコンドリアを複数回注射した。彼にはまた、保存溶液中の2mlの単離されたミトコンドリアが静脈内に与えられた。彼は有害事象を有しておらず、処置の2時間以内に、彼はより速く、より強く話しており、理解することができた。5日後、彼は介助なしにベッドから出て、介助なしにトイレまで歩くことができた。彼は、自分の息子と一緒にシカ狩りに行ったが、特別な椅子を使用した。彼の気分、精神状態および態度は改善しており、彼はより積極的であり、MOTを継続することを切望している。彼は、活力が極めて急激に増大したと述べている。彼は常に背筋を伸ばして頭を上げることができず、うなだれていたが、今ではうなだれることはない。
【0140】
上記の2人の患者におけるミトコンドリア移植の7つの手順(臨床処置A)では、最初の4回の注射は筋肉内であった。最後の3回の注射は、筋肉内(およそ1億個の線維芽細胞由来の2/3のミトコンドリア)と静脈内(およそ1億個の線維芽細胞由来の1/3ミトコンドリア)の組み合わせであった。最後の3回の注射は、より良好な応答を示す(筋力、感覚、活力)。
【0141】
要約すると、臨床処置Aにおけるこれら2名のALS患者でのMOTによる経験は、彼らの疾患の処置および/または彼らの疾患の進行の停止に関して有益であった。重要な知見のいくつかは以下のとおりである。(1)同種ミトコンドリアは、HLA抗原の一致なしでヒトに安全に移植することができる。(2)同種ミトコンドリアは自己免疫を引き起こさない。(3)ALS症候は改善される。(4)MOTは、寿命または緩和を延長して、おそらくはALSを治癒させ得る。ならびに、(5)MOTは、パーキンソン病、アルツハイマー病、筋ジストロフィーおよび他のミトコンドリア障害などの他の神経変性疾患の処置のために実施され得る。
臨床試験II
ALSを有する5名のヒト患者におけるMOTの長期臨床結果
【0142】
合計5名の患者がミトコンドリア細胞小器官移植(MOT)処置を受け、これまでの処置は合計21回であった(ここに記載されている臨床試験IIは、5名の患者のうち上記2名が関与した最初の試験である臨床試験Iを包含する。)。患者コード番号A5は、およそ1年前に処置を受け、現在まで有害作用はない。すべての患者は有害作用を報告しておらず、注射手順中に疼痛がいくつか報告されている。
【0143】
すべての事例で、患者は、改善された筋力、制御および運動を通して、多数の課題を実行する能力の増加を報告している。さらに、彼らはすべて、MOT処置後に、より高い活力レベルおよび改善された気分を報告する。これらの報告は、ビデオ、試験、臨床訪問中の診察を通して検証され、臨床医の臨床ノートによってさらに裏付けられている。
【0144】
いくつかの事例では、患者は、全体的な疾患進行が停止したことを報告しており、これは、臨床チームからの観察で観察され、文書に記録されている。5名の患者のうち3名では、改善された健康および機能性の様々な尺度について臨床チームと行われたビデオ撮影されたセッションは、疾患の進行が停止したことを示している。
患者コード番号A5
【0145】
従前は健康状態が良好であり、既知の既存の症状がなかった南部出身の58歳の女性に、2019年6月にALSの確定診断が与えられた。ミトコンドリア細胞小器官移植(MOT)による処置を開始する3年前の2016年に、彼女は診断された。定期的な身体検査では、顕著な徴候は存在しなかった。彼女は、下半身、より少ない程度で右腕、さらに少ない程度で左腕に主な症候を示した。彼女は、腰から下の感覚または運動制御がほとんどまたは全くなかったが、腕および手はかなり使用し、声は良好であった。
【0146】
2019年6月3日-患者受け入れ検査
【0147】
受け入れ検査は身体検査を終え、彼女はALSを除いて良好な状態であるように見受けられた。ベースラインとして筋力試験を完了した。
【0148】
2019年6月4日-第1回目の処置
【0149】
本発明者らの知るところでは、線維芽細胞からの単離されたアレルゲン性ミトコンドリアを受けた最初の患者。
【0150】
処置の前に、本発明者らは彼女の許可を得てビデオを撮影し、筋力試験を完了し、注射のための18の領域を特定した。各位置に印を付けて準備し、1%キシロカインを使用して注射部位に麻酔をかけた。18箇所のそれぞれに、3/10ccのミトコンドリア溶液を投与した。穿刺創傷からの出血は最小限であり、Betadineで洗浄し、無菌包帯で包んだ。患者は3時間にわたって観察され、有害事象はなかった。アレルギーの徴候はなく、これらのミトコンドリアは線維芽細胞ヒト細胞株からの同種異系であった。
【0151】
観察中、以前は感じていなかった脚と右下腿上に暖かさと熱に気付き始めた。彼女は、診療室を立ち去る前に何らかの感覚を持ち始め、左脚にそれをより強く感じると述べ、彼女は困難なく左脚を持ち上げ、屈曲させ、伸ばすことができた。毒性または有害事象は観察されなかった。この患者は、次の2日のそれぞれで経過観察が予定された。
【0152】
2019年6月5日-処置経過観察後1日目
【0153】
患者は、経過観察のために午前中に到着した。最初の兆候は好ましく、彼女は気分が良くなったと報告した。患者は、両脚に刺痛および温感を報告した。彼女は朝一人でベッドから出ることができたが、これは以前には彼女ができなかったことであり、彼女は立っていた。筋力を試験したところ、表3a-処置1に示されるように改善した。彼女は、有害作用、毒性および発熱を示さなかった。本発明者らは、四頭筋に注射されたMOTがALS患者においてその筋力を改善したという客観的な証明を達成した。
【0154】
2019年6月6日-処置経過観察後2日目
【0155】
患者は到着し、有害作用、毒性および発熱を報告しなかった。本発明者らは、筋力を試験および記録し、彼女が帰宅したときの自己モニタリングの指針について議論し、彼女の次の処置の予定を6月27日に決めた。退出後、処置のために再訪する前に数回患者に電話をかけたが、有害作用は報告されなかった。
【0156】
2019年6月27日-2回目の処置
【0157】
血清フェリチンレベルは処置前に228ng/mLとして記録され、トランスフェリンは293mg/dL(基準範囲200~360)であった。到着時に、本発明者らは彼女の身体状態を評価し、再び筋力試験を行った。結果は、6月4日における最初のベースラインよりもわずかに良好な処置前ベースラインを示した。
【0158】
6月28日の経過観察中に試験すると、数値は、6月27日の処置前より全体的にわずかに良好であった。改善の領域は、1回目の処置の翌日ほど劇的ではなかったが、表3a-処置2に示されるように全体的に改善された。
【0159】
経験された有害作用、毒性および発熱は存在せず、この処置の夜に、患者は、ベッドから出てずっと容易に歩くことができたことを示すテキストメッセージを送信した。
【0160】
以前に観察されたように、彼女は脚にいくらかの刺痛および熱感を経験したが、劇的ではなかった。
【0161】
発明者らは、CBCおよび鉄の精密検査を彼女に行った。CBCは良好であった。興味深いことに、鉄の精密検査では、鉄結合能、飽和血清、ならびに不飽和鉄結合能(IBC)および計算された鉄飽和における総IBCはすべて正常レベル内(WNL)であった。しかしながら、彼女の血清フェリチンは高かった。
【0162】
その後の処置および患者については、鉄代謝が観察されている。デフェロキサミンなどを用いたキレート療法が考えられる。患者にすべての試験結果を通知し、次の治療処置を8月の第1週に予定した。
【0163】
彼女の進行および症候を追跡するために、定期的な経過観察を患者に行った。6月30日の電話は、彼女および彼女の家族が2回目の処置以来、改善に気付いたことを示した。
【0164】
2019年7月7日-ファイル中の特記
【0165】
筋力試験の詳細な再検討がチームによって完了し、本発明者らは、これらのチャートを彼女のファイルに追加した。好ましいニュースは、たとえある特定の時点でいくらかの変動が存在するとしても、全体的な傾向は、処置中に注射されたすべての領域において筋力が増加することである。
【0166】
2019年8月8日-3回目の処置
【0167】
処置前に、表3a~処置3に示されるように筋力を試験した。患者および患者の家族は、患者が6月上旬に処置を開始する前より明らかに良くなったことを示した。患者は、彼女が今ではより容易にベッドから起き上がり、助けを借りずにベッドで寝返りを打つことができることを観察した。
【0168】
この移植のために、選択された両脚の四頭筋、いくつかの大腿屈筋および臀部、ならびに両腕および前腕中にいくつかの領域が存在した。処置後、経験された有害事象または毒性は存在しなかった。処置後の夕方の間に、様子を確認したところ、彼女は調子が良かった。彼女は自分の左手で自分のボトルを握ることができ、これはさらなる改善であった。夜間にコールまたは問題は存在しなかった。
【0169】
処置の翌日の経過観察中に、筋力を試験したところ、わずかな低下を示すが、元のベースラインよりも依然として高い。
【0170】
処置診察の間に、有害作用または問題は報告されなかったが、日常能力のいくらかの継続的な改善があった。
【0171】
2019年10月2日-4回目の処置
【0172】
彼女の最新の研究室での研究CBCは、好酸球WNLが存在することを示した。この処置のために、彼女には四頭筋、大腿屈筋、臀部および前腕ならびに右二頭筋領域の1つの領域に30の注射が与えられた。本発明者らは、IVポートを通して5ccをゆっくり投与するために、有害事象に備えて配置されたhep-lockを初めて利用した。有害作用は報告されず、彼女は処置の全体的な進捗および自己の改善に非常に満足して、経過観察に戻った。処置前および経過観察の翌日に筋力を試験し、表3a-処置4に示されるように全体的にわずかに改善した。
【0173】
処置間の確認中、彼女は有害事象または問題を報告しなかった。11月初めまでに、彼女は依然として両足に良好な感覚を報告したが、手および腕には報告しなかった。彼女は脚の筋力を維持した。好酸球がいくらかの割合で上昇していたが、絶対数を測定すると正常であった。彼女は、次の処置のために6日に戻る予定であった。
【0174】
2019年11月6日-第5回目の処置
【0175】
2019年10月30日 血清フェリチンレベルを処置前に362ng/mLとして記録した。
【0176】
彼女は、本日5回目のMOTのために来訪した。彼女は調子がよい。疾患はかなり安定しており、いくつかの領域では、特に知覚および感覚が著しく改善されている。最初のMOT処置の間、彼女は筋肉内注射を感じるのに十分な感覚を有していなかったが、処置が継続するにつれて、彼女は増大するレベルで注射を感じることを確認した。処置の前に、筋力試験を完了した。この処置のために、本発明者らは、単離培養液中の5ccの冷ミトコンドリアを6分間にわたってゆっくり投与することから始めた。非常に寒かったので、彼女は、すぐに頭痛を発症し、若干違和感を覚えたが、深刻な有害反応はなかった。彼女を寝かせたところ、バイタルサインは良好であった。本発明者らが彼女の脚を上げると、およそ30分間にわたって症候は鎮静化した。筋肉内注射のために、四頭筋に注射したが、両脚とも前回ほどの量ではなく、本発明者らは両脚の大腿屈筋に注射し、今回、本発明者らは両脚の脛骨筋に向けて下方に注射した。二頭筋にも注射した。彼女は調子がよく、退出させるまで3.5時間にわたって観察されたが、有害事象または問題はなかった。11月7日の経過観察中に、本発明者らは、表3a-処置5に示される比較のために筋力試験を完了した。いくつかの場所は改善され、いくつかは安定しており、いくつかはわずかに悪化していた。本発明者らは次回の処置の予定を12月11日に決定し、その後、症状および症候を監視しながら3~4ヶ月の処置の休止を設ける。今が、本発明者らのプロトコルに別の患者を追加すべき時であると思われる。
【0177】
11月8日~10日の3日の間に、本発明者らは数回話し、彼女は極めて調子がよいと報告したが、何回か頭のふらつきとめまいを感じることがあった。彼女は、これまでより脚の力が強くなったと報告した。11月11日の時点で、彼女は、めまいはなく、気分がよいと報告した。6回目の処置の前の追加の通話では、彼女は副作用または有害事象を報告しなかったが、特に脚および腕で強度が持続した。
【0178】
2019年12月11日-第6回目の処置
【0179】
2019年12月4日 血清フェリチンレベルは処置前に290ng/mLとして記録され、トランスフェリンは271mg/dLであった。
【0180】
彼女は、6回目の移植および生物療法のために本日来訪した。彼女は、はるかに調子が良く、前月と比べても、特に足に、大きく感覚が戻っていると報告した。彼女は筋力の増加を報告し、スタミナも良好に見えた。四頭筋、大腿屈筋および上腕に注射し、IVを通してゆっくり5ccを与えた。患者は、頭痛およびめまいの発症を再び経験したが、11月と同様に一過性のものであった。処置後の観察中に有害作用は認められず、その晩は退出させた。夕方の通話の際に、彼女は、気分がはるかに良く、昼寝をしたと述べた。
【0181】
処置の翌日、経過観察のために12月12日に到着したとき、患者は、気分がよく、活力があり、過去数週間よりも良好であると報告した。本発明者らは、鉄キレート剤の摂取についても話し合った。本発明者らは、ミトコンドリアの機能不全に寄与している可能性がある、これらのニューロンにおける鉄代謝の役割について調査している。本発明者らは、彼女の地元の開業医からの注射によって投与される500mgのデフェロキサミンを4~6週間、週に1回彼女に与えることを提案し、これは完了した。
【0182】
処置の間での患者とのやり取り
【0183】
本発明者らは、この患者と、場合によっては彼女の家族と、彼女の症状および進行について話した。有害事象および重度のめまいまたは頭痛の発症は報告されていない。彼女は元々、2020年3月11日に戻る予定であったが、COVID-19のパンデミックのために、4月半ばまで延期された。
【0184】
3月3日に、電話での長い診察が行われた。彼女は、疾患の進行が安定し、昨年の6月からの進展に満足していると報告したが、まだ活動的ではない期間がある。彼女は、まだ理学療法を行っており、筋肉刺激を受けていると報告した。
【0185】
4月10日に血清フェリチン試験を受け、正常範囲に戻った。この良い知らせを知らせるために、患者に電話をかけた。
【0186】
血液検査の反復を依頼し、週の終わりに受け取った。血清フェリチンは正常範囲の181.8まで低下している。彼女は、若干の改善の遅れを報告したが、全体的には、彼女は順調であった。
【0187】
2020年4月15日-第7回目の処置
【0188】
彼女は、最後の手順から4ヶ月後、7回目の移植のために4月15日に来訪した。彼女は最近、疲労が少し増えたと報告した。本発明者らは、本発明者らが彼女の急速な進行を止めたと考えているが、彼女はいくらかの脱力感の増大を感じており、彼女は自分が若干退行しているかもしれないと考えていた。彼女は移植を受けることを切望していた。本発明者らはIVを開始し、筋肉中の注射のために選択されたすべての領域に印を付け、シリンジ中にほぼ8ccのミトコンドリア単離液を入れて、一定期間にわたってIVを通してゆっくりと与えた。本発明者らは、3~4/10ccのミトコンドリア単離液を各注射部位に注射し、領域の右および左の後方の各側に2回注射した。本発明者らは、両側の前腕に3回の注射を投与し、両側の四頭筋に5回の注射、すなわち、両側に、中心に1回および前側に1回外側に2回および内側に2回投与した。処置は忍容された。
【0189】
翌朝の経過観察において、彼女は、より活力が増したように感じると報告し、自分の左側がはるかに良好で、力強くなったと述べた。状況は彼女にとって正しい方向に動いており、本発明者らは、この治療がこの患者におけるALSの急速な進行を停止させたと考える。
【0190】
彼女は、帰宅後に気分がよく、4月15日の最後の移植はより良い移植の1つであったように感じるというメールを送信した。彼女は、自分にとってすべてが上手くいっており、活力が増大していると報告した。本発明者らは、著しい改善を観察し、彼女の疾患の進行が停止したと考えている。彼女は、このプロトコルを継続したいという希望を報告し、本発明者らは、6週間間隔での少なくとも2回のさらなる処置後にさらに3~4ヶ月休止することがこの患者にとって優れたプロトコルであり得ると提案した。
【0191】
2020年6月17日-第8回目の処置
【0192】
2020年6月17日、患者は、2019年6月4日に行われた最初の処置から1年後に第8回目の移植手順のために到着した。この年の間に、本発明者らは、進行の停止を含め、この患者を助ける多くのことを達成した。この処置のために、発明者らはIVを開始し、発明者らが注射を予定する領域の計画を立て、注射の領域を示す図を彼女のチャート中に作成した。本発明者らは、若干後方の両側の頸部上部に2つを注射した。上腕、下腕および手および親指領域ならびに四頭筋および大腿屈筋領域およびふくらはぎに、いくつかの追加の注射を行った。たとえIV注入が冷たくても、本発明者らがIV注入を与えたとき、彼女は処置に十分に耐えた。本発明者らはIV注入を極めてゆっくりと与え、彼女は以前のように頭痛およびめまいのいずれも発症しなかった。これは、頭痛およびめまいなしに与えられた最初のIVであった。処置後の観察中、彼女は脚に温かさおよび刺痛(彼女が呼ぶところのうなる感覚)に気付き始めた。この観察結果は、この患者では良好な徴候であると考えられた。
【0193】
本発明者らは、IVを取り外す前に新しいフェリチン読み取りのために血液を採取した。報告された有害作用または事象は存在しなかった。翌日の経過観察中に、彼女はより力強くなったように感じると報告し、調子がよいように見えた。本発明者らは、この1年間の彼女の進歩について、彼女および彼女の夫と長い議論を行った。彼らは、彼女の研究結果と併せて使用するために、我々の議論をビデオ文書化することに同意した。
【0194】
患者の進行は、次の処置のために彼女がおよそ6週間後に再訪するまで電話でモニターされる。
【0195】
以下の表3aに記録されているように、ActivForce Digital Dynamometer Systemを使用して、最初の5つの処置について、注射の前および後に筋力試験を行った。
【表3-1】
【表3-2】
【0196】
表3bは、患者A5について、同じく2019年6月~2020年4月にフェリチンと同日またはほぼ同日に行われた差を伴う全血球計算(CBC)(全血球パネル)を示す。
【表3-3】
患者コード番号A4
【0197】
以前は健康に優れていた南東部の48歳の男性は、立派に米国軍で軍務に服し、運輸配達の大企業に勤務し、地元で娯楽のリーグ野球を指導した。彼は、ALSの確定診断を得て、処置のため、2019年12月半ばに来訪した。彼は2016年から症候を経験し、2018年に診断された。彼は、ALSに対してリルゾールおよびエダラボンを処方されてきたが、顕著な効果を感じていない。彼は、アルプラゾラム、ナプロキセン、フルオキセチンHCL、チレノールおよびメラトニンも服用している。12月9日の試験は、彼の血清フェリチンレベルが319ng/mLであり、トランスフェリンが264mg/dLであることを示した。
【0198】
2019年12月17日に完全な評価を行った。彼は、著しい身体障害を有し、会話が非常に困難で、実質的に腕および手のいずれも使用せず、首が座らず、脚および下半身に著しい衰弱を有する。
【0199】
処置のために、患者は左手のIVを開始した。適切な静脈を見つけることは困難であったが、本発明者らは左側に静脈を確保することに成功し、非常時に備えて、および処置をより容易にすために、彼の安全のためにMedポートを継続して設置することを検討するように提案した。本発明者らは、両側の腕の三角筋および三頭筋領域、前腕、両側の後頸部領域、ならびに四頭筋およびふくらはぎに注射した。彼は、合計およそ30の筋肉内注射と、hep-lock IVを介して2ccのMOTを受けた。患者は有害事象または作用を有していなかった。彼は、経過観察においてはるかに気分が良くなったと報告し、彼はより力強くなったと信じていた。主に介護者との電話による処置後経過観察は、この患者がよくなっていることを示した。彼は、活力が大きく増大し、歩行が上手くなり、腕をより良く動かすことができ、シャワーのノブをひねって水を出すことができた。彼のMedポートは1月10日に設置された。経過観察の通話は、彼が順調であることを示した。最初のMOT処置の5週間後、患者は2回目の処置のために到着した。患者を観察する際に、本発明者らは、彼がどれだけよくなったように見えるか、および最初の処置が持続したことに注目した。
【0200】
患者は、可動性が向上し、自分でベッドから出ることができ、自分でトイレに行き、活力が増大し、頭と首は第1回目の処置前のようにもはや前傾していない。彼は依然として発話に関して重大な問題を抱えていたが、発話は改善され、依然として非常に遅く、発音が不明瞭ではあったが、彼をよりよく理解することができ、話し方は若干より力強い。この処置のために、両側の四頭筋、両側のふくらはぎの内側、両側の前腕の二頭筋、および両側の後頸部筋に注射を行った。彼はMedポートを有していたため、アクセスが容易になり、5~6分間、ゆっくりと2ccのMOTのIVプッシュを受けた。彼は処置を十分に忍容し、観察は有害事象または副作用を示さなかった。彼は経過観察のために翌朝報告を行い、彼は体調が良くなかった。検査の際に、本発明者らは、彼が多くの炭水化物を含む2回の大量の食事を取り、大量のビールを飲んだと判断した。彼はGatoradeで水分を補給し、本発明者らは彼に休息し、大食せず、明日再訪するように指示した。彼は、MOT後の2日目の午前中に、前日よりはるかに気分が良いと報告した。彼は、自分の改善について極めて前向きに受け止めると報告した。実際、昨夜、彼は非常に体調が良かったので、患者は踊りを踊る自分の短い動画を作成したが、これは長い間行われていなかったことである。患者は、常に水分を補給するように求められた。
【0201】
処置電話会議の間、患者は有害事象、副作用を報告しなかったが、様々なレベルでの彼の症状の改善が継続した。彼は、先週末に地元で集会に参加したことを報告し、以前よりも多くのことを行うことができた。彼は、次の移植について心を躍らせていると報告し、オロチン酸リチウムが彼のプロトコルに追加された。
【0202】
3月18日に、患者は4回目のMOT移植のために戻り、本発明者らは、いくぶん手こずりながら彼のmedポートにアクセスした。本発明者らは、何とかよい結果を得ることができ、それを安定化させた。本発明者らは、IVポートを通してほぼ5ccの単離液体MOTを彼に与えた。筋肉内注射のために、彼の首の右側および左側、三角筋および三頭筋の両方の領域および筋肉、二頭筋および前腕の筋肉、本発明者らは、四頭筋のいくつかの領域の両側に彼の最も弱い領域である左側により多く、および両方のふくらはぎに注射した。彼は、処置を十分に忍容した。経過観察は、処置間電話診察の場合と同様、有害事象をもたらさなかった。
【0203】
4月22日、患者は5回目のMOT移植について報告した。彼らは、COVID-19のパンデミックのために移動が極端に困難であった。患者は処置の前夜に空港に滞在しており、処置の当日には疲れていたが、気分は良かった。すべての通常の処置準備を行った。手順の一部として、主な注射位置であった頸部、上腕、前腕、ふくらはぎおよび大腿部を含むこの処置のための注射部位を示すために、チャートには図が含められる。本発明者らは、8~10分間にわたって、IV Medポートを通じておよそ8ccのMOTを投与した。所定の位置のいずれにおいても、悪影響は明らかではなかった。患者は筋肉内注射を受け、次いで、IV液および水分補給用の水を受けながらおよそ1.5時間観察された。本発明者らは、事故なしで彼を退出させ、有害事象または作用は観察されなかった。しかしながら、以前の処置と同様に、処置のIV送達中に、この患者は、IV処置送達のほぼ中間で腰に現れる疼痛を有していた。各処置中に同時に発生するこの領域中のこの疼痛についての具体的な説明は存在しない。1つの可能な説明は、彼が彼の脊椎に有する問題のために、ミトコンドリアが、彼の身体のこの領域に直ちに進むことである。夕方の間、彼の様子を確認したところ、彼は体調が良かった。午前6時の航空便で出発するために、彼は、通常の翌日経過観察のために診察室を訪れなかった。何か問題があれば電話するように指示した。
【0204】
処置間の複数回の電話診察中、患者は有害事象、副作用および発熱を報告しなかったが、改善を経験し続けている。
【0205】
彼は、5月27日に6回目のMOT処置について報告した。12月半ばに処置を開始して以来、彼は多くの進歩を遂げ、多くの点で改善している。彼は依然として発話が困難なときがあり、確実に理解することは困難であるが、彼の発話は6ヶ月前よりもはるかに改善されている。患者は、任意のMOT処置の前に自宅で行われたVA理学療法試験が12のスコアであったことを報告した。彼はおよそ2週間前に再試験され、スコアは28であった。これはおよそ6ヶ月での著しい改善である。
【0206】
この処置のために、彼は、MOTの34の筋肉内注射それぞれ3~4/10ccおよびおよそ10分間にわたるゆっくりとしたIVプッシュを通じた8ccを受けた。IVを介した以前の処置(静脈内に約4cc)と同様に、彼は再び腰部脊椎領域に強い痛みを経験したが、今回の痛みはより激しく見えた。本発明者らは注射をしばらく停止し、筋肉内に移動し、次いで処置の終了時にIV投与を終了した。観察中に有害事象は経験または報告されなかった。夕方近くおよび夜に確認したところ、彼は調子がよかった。彼は翌朝、有害反応が存在しなかったと報告した。彼は、体調がよく、力強くなり、今では無理なく首が座っている。彼は、常に水分を補給し、問題があれば直ちに報告するように指示された。この患者との電話診察は引き続き建設的である。彼は、MOTを通じて得た活力および彼の可動機能を維持している。彼は依然として重大な問題を抱えているが、彼の全体的な生活の質および彼の日常活動に対する制御は、彼が昨年12月に最初に本発明者らに報告したときから彼に有利に劇的に変化した。本発明者らは、電話による経過観察を維持し、彼が次回のMOTの予定をいつにすべきかという本発明者らの考えに関して、まもなく意見を聞く予定である。
患者コード番号A3
【0207】
以前は健康状態がかなり良好であった南部からの68歳の男性が、2019年12月に下されたALSの確定診断を有して来訪した。退職前、彼は20年以上にわたって警察官であった。彼は2型糖尿病を有するが、制御されていないわけではなく、高血圧の処置を受けており、同じく制御されていないわけではない。彼は、診断前に、主に左腕と手に2年間症候を経験した。彼は、症候の発症をおそらく関節炎が発症したものとして片づけた。診断前期間が優に2年目に入るにつれて、彼は他の症候、主に筋攣縮または線維束攣縮を有し始めた。彼は、アラバマ州ハンツビルおよびジョージア州アトランタの幾人かの医師による検査と診察を受け、医師らは診断を確定し、彼の症状を改善するための有意義な処置が存在しないことを確認した。彼はリルゾールを処方されていたが、他の患者と同様に、実質的な利益はほとんどまたは全く見られていない。彼はまた、アムロジピン、アルプラゾラム、ヒドロクロロチアジド、メトホルミンおよびトプロールXLを他の既存の症状のために服用している。彼のトランスフェリンは241ng/mLとして記録された。
【0208】
彼の最大の困難は、左腕と手の使用、これより程度は低いが右腕と脚の使用であるので、発明者らは、彼の現在の症候に対処するために注射部位を特定し、すべて準備を整えた。彼は、ゆっくりとしたIVプッシュを通じて2.5ccを与えられ、肩、腕、手および脚に3/10ccの筋肉内注射を与えられた。部位は、左腕および手に重点を置き、三頭筋と二頭筋に重点を置いて右腕より多くの注射を行った。本発明者らは、両脚の四頭筋およびふくらはぎに鏡像位置で注射した。彼は、処置後2時間超、監視および水分補給を受け、有害事象または反応は存在しなかった。
【0209】
翌日の経過観察の予約は、副作用または有害事象を明らかにしなかった。翌週の電話診察において、彼は、自分がまだ体調がよく、左手の握る能力がはるかに向上したと述べた。以降の経過観察の通話は、ゆっくりとした継続的な改善を示した。
【0210】
彼は4月1日に2回目のMOTを予定していたが、現在のCOVID-19のパンデミックにより遅延を余儀なくされた。彼は、最初のMOTから3か月半を超えた後の5月20日に再訪した。彼は初期の改善のいくつかを失ったが、なお最初の処置以前よりもよくなっていた。本発明者らは、標準的な準備を完了し、処置の準備としてhep-lockIVを開始した。以前に処置された領域のすべてが使用され、脚、腕および親指と人差し指の間を含む左手の追加の位置が使用された。合計30の注射を与え、9分間にわたってIVを介して8ccを与えた。処置は十分に忍容され、有害事象または副作用はなかった。翌日、彼が再訪したとき、彼は非常に改善されており、昨日および今朝の処置後に、1年以上できなかった左手で車のドアを開けることができたことを喜んで報告した。
【0211】
彼の3回目のMOT処置は6月24日であった。患者は、最後のMOTから得られた効果が保持されていると感じ、より力強いと感じ、線維束攣縮がまれにしか起こらないと報告した。彼は、左腕および左手を非常に上手く使えることを報告した。患者の観察は、呼吸が良好で、歩行が良好であり、以前に報告されたよりよく睡眠を取っていたことを示した。第2の処置の注射およびゆっくりとしたIVプッシュを繰り返したが、これは有害事象または反応なしに忍容された。彼の経過観察の予約により、全体的に体調がさらによくなり、腕、手および脚の力強さが改善し続けていることが確認された。彼は進捗に満足していると報告し、この処置プロトコルを継続することを希望している。彼は4~6週間で再訪する予定である。
患者コード番号A2
【0212】
以前は健康状態が良好であった南部からの73歳の男性が、ALSの確定診断を受けて2020年4月8日に来訪した。彼は、ALS患者における症候の進行を遅らせる可能性のために現在利用可能な薬物であるリルゾールを処方されている。彼は、この薬物の使用による症候の進行の著しい遅延を経験していなかった。処置前に、彼の症候を再検査し、ALS機能評価スケールを完了した。彼のスコアはこのスケールで37であり、12の基準のうち6つが影響を受けていた。彼の最大の障害は右腕と手であり、これらは衰弱の程度が最大で、使用不能である。彼は、他の四肢に問題を抱えているが、程度はより低い。第1の処置は、右腕および手ならびに両脚の四頭筋および大腿に重点を置いた。標準的な部位の準備と特定を完了し、hep lock IVを開始した。3/10ccのおよそ20の筋肉内注射およびIVでの5ccのゆっくりとしたプッシュ送達を投与した。処置は十分に忍容され、診察室での観察期間中または退出後に有害作用は経験されなかった。本発明者らが開始してからおよそ2時間後、第1回目の処置後に診察室を立ち去る際、彼の妻は、彼がより容易かつ安定して歩行していることを観察した。経過観察の翌日および処置間におけるこの患者の診察からは、肯定的な結果が得られ、脚ならびに右腕および右手の力強さと機能性の両方にいくつかの改善が認められた。血清フェリチンは190ng/mLと報告され、トランスフェリンは259mg/dLであった。
【0213】
この患者は、5月6日および6月10日に追加の処置を受け、両処置は、8ccのゆっくりしたプッシュIVおよび30の筋肉内注射からなった。注射領域は、後頸部のそれぞれの側、両側の上腕、手および親指、両脚の大腿部領域、四頭筋、大腿屈筋およびふくらはぎを含んだ。有害事象または副作用は存在しなかった。処置は十分に忍容され、力強さおよび機能性の継続的な漸進的改善がこの患者によって自覚された。患者は、処置プロトコルを継続したいという希望を表明し、本発明者らは4~6週間ごとに彼のスケジュールを立てるように取り組む予定である。
患者コード番号A1
【0214】
西海岸からの30歳の男性が、ALSの診断を受けて2020年5月に処置のために来訪した。彼は2019年3月に症候を経験し、MRI、血液検査および筋電図検査(EMG)を含む検査後、2019年8月に診断された。彼はリルゾールを処方されていたが、症候の進行の低下を経験しなかった。彼は、幹細胞処置も受けていたが、良い結果はほとんどまたは全くなかった。彼の血清フェリチンレベルは処置前に381ng/mLとして記録され、トランスフェリンは239mg/dLとして記録された。定型的な身体検査では、顕著な徴候は存在しなかった。彼は、ALS機能評価スケールで44のスコアを示し、主な症候は左手および腕であり、より程度は低いが、右手および腕、さらにより低い程度で両脚であった。彼はよく歩くことができた。以下の表4に記録されているように、ミトコンドリア細胞小器官移植(MOT)による処置の前および後に、ActivForce Digital Dynamometer Systemを使用して筋力試験を行った。
【表4-1】
【表4-2】
【0215】
この患者の第1回目の処置時に、IVを開始し、8ccのミトコンドリア細胞小器官移植(MOT)を9分間にわたってIVによって投与した。MTの筋肉内注射のために特定された領域に印を付けて、準備した(注射部位を麻痺させるためのキシロカインの投与を含む)。この患者の場合、注射部位は、後頸部、肩、手首の周りの上腕、手および前腕、大腿部およびふくらはぎを含んでいた。これらの筋肉領域に3/10ccの約29の注射を投与した。問題は観察されなかった。彼には、さらに250ccの液体のプッシュIVが与えられた。処置後の観察の間、およそ1.5時間、hep-lock静脈内(IV)カテーテルを所定の場所に置いたままにした。観察中、彼は水を飲むように促され、有害事象は観察されず、hep-lockを取り外し、後にその晩に取り外すために加圧包装で包んだ。彼の予定された24時間の経過観察検査において、筋力を再試験したところ、全体的な改善の徴候を示した。彼の歩行はさらによくなり、彼は、前の2日間には親指を伸ばすこと、または「親指を立てる」ことができなかったが、経過観察後の当日中に親指を伸ばすことまたは「親指を立てる」ことが可能となり、左の親指で「親指を立てる」能力を取り戻したと報告した。左手での彼の握持もまた、前の2日間から大幅に改善された。
【0216】
この患者との処置後電話経過観察は良好であり、第1回目の処置からの改善は安定し続けていた。彼の2回目のMOTは7月下旬を予定している。
配列番号(ヌクレオチド配列)
【化1-1】
【化1-2】
【化1-3】
【化1-4】
配列(アミノ酸配列)
【化2】
その他の態様
【0217】
本発明者らはいくつかの態様を記載してきたが、本発明者らの基本的な開示および実施例は、本明細書に記載の組成物および方法を利用するまたは本明細書に記載の組成物および方法によって包含される他の態様を提供し得ることは明らかである。したがって、その範囲は、例として表された特定の態様によってではなく、本開示および添付の特許請求の範囲から理解され得るものによって定義されるべきであることが理解されよう。
【0218】
本明細書で引用されるすべての参考文献は、参照により本明細書に組み込まれる。
【配列表】
【国際調査報告】