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特表2023-510232ロドコッカス・ルーバーの細胞壁骨格の再生医学における用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-13
(54)【発明の名称】ロドコッカス・ルーバーの細胞壁骨格の再生医学における用途
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0775 20100101AFI20230306BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20230306BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230306BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20230306BHJP
   C12P 1/04 20060101ALI20230306BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20230306BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20230306BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230306BHJP
   A61K 35/74 20150101ALI20230306BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
C12N5/0775
C12N5/071
C12N5/10
C12N1/20 E
C12N1/20 C
C12P1/04 Z
A61P17/02
A61K35/28
A61P43/00 121
A61K35/74 C
A61K9/19
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022541262
(86)(22)【出願日】2021-01-20
(85)【翻訳文提出日】2022-07-04
(86)【国際出願番号】 CN2021072871
(87)【国際公開番号】W WO2021147899
(87)【国際公開日】2021-07-29
(31)【優先権主張番号】202010068249.1
(32)【優先日】2020-01-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521299927
【氏名又は名称】▲遼▼▲寧▼格瑞仕特生物制▲藥▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】盖 波
(72)【発明者】
【氏名】▲竇▼ 春▲艷▼
(72)【発明者】
【氏名】金 培生
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼ ▲軼▼
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼ 国英
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C076
4C087
【Fターム(参考)】
4B064CA02
4B064CA19
4B064CC01
4B064CC03
4B064CD21
4B064DA01
4B064DA03
4B065AA01X
4B065AA93X
4B065AB01
4C076AA30
4C076BB31
4C076CC18
4C076FF70
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB44
4C087BB64
4C087BC17
4C087MA44
4C087NA14
4C087ZA89
4C087ZC75
(57)【要約】
ロドコッカス・ルーバーの細胞壁骨格の、幹細胞の増殖の促進、幹細胞の成長の促進、幹細胞の分化の促進、幹細胞の遊走の促進、幹細胞の生存率の向上における用途を提供し、幹細胞は、成体幹細胞、iPSC、間葉系幹細胞から選択される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
幹細胞を調節する方法であって、
幹細胞をロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物に接触させるステップを含み、
幹細胞の数/ロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物の比率は、1~100個の幹細胞/1ngのロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物であり、好ましくは5~50個の幹細胞/1ngのロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物であり、
前記調節とは、幹細胞の増殖の促進、幹細胞の成長の促進、幹細胞の分化の促進、幹細胞の遊走の促進、幹細胞の生存率の向上から選択される1つ又はそれらの組み合わせを指し、
前記幹細胞は、成体幹細胞、iPSC、間葉系幹細胞から選択され、
好ましくは、前記成体幹細胞は、間葉系幹細胞であり、
前記間葉系幹細胞は、骨髄間葉系幹細胞、脂肪間葉系幹細胞、滑膜間葉系幹細胞、臍帯間葉系幹細胞、臍帯血間葉系幹細胞、胎盤間葉系幹細胞、羊膜間葉系幹細胞、肝臓間葉系幹細胞、筋肉間葉系幹細胞、肺間葉系幹細胞、膵臓間葉系幹細胞、歯髄間葉系幹細胞から選択され、
好ましくは、前記間葉系幹細胞は、脂肪間葉系幹細胞であり、
好ましくは、前記成体幹細胞は、上皮成体幹細胞である、方法。
【請求項2】
前記ロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物は、ロドコッカス・ルーバーの細胞壁又はその組成である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物は、
1)ロドコッカス・ルーバーを用意するステップと、
2)前記ロドコッカス・ルーバーを粉砕して、粉砕生成物を得るステップと、
3.1)必要に応じて、前記粉砕生成物に対して脂質除去操作を行うステップと、
3.2)必要に応じて、前記粉砕生成物に対して核酸除去操作を行うステップと、
3.3)必要に応じて、前記粉砕生成物に対してタンパク質除去操作を行うステップと、
3.4)ロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物を得るステップと、
4)必要に応じて、前記ロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物中の水を除去し、好ましくは前記ロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物を凍結乾燥させるステップと、
5)必要に応じて、個包装するステップと、を含む方法で得られ、
ステップ3.1)、3.2)、3.3)は、順序を入れ替えてもよく、同時に行ってもよく、ステップ4)とステップ5)は順序を入れ替えてもよい、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ロドコッカス・ルーバーは、2019年3月22日に番号CGMCC No.17431でCGMCCに寄託された、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
ロドコッカス・ルーバー(Rhodococcus ruber)の細胞壁由来の生成物の、試薬の製造における用途であって、
前記試薬は、幹細胞の増殖の促進、幹細胞の成長の促進、幹細胞の分化の促進、幹細胞の遊走の促進、幹細胞の生存率の向上から選択される1つ又はそれらの組み合わせに用いられ、
前記幹細胞は、成体幹細胞、iPSC、間葉系幹細胞から選択され、
好ましくは、前記成体幹細胞は、間葉系幹細胞であり、
前記間葉系幹細胞は、骨髄間葉系幹細胞、脂肪間葉系幹細胞、滑膜間葉系幹細胞、臍帯間葉系幹細胞、臍帯血間葉系幹細胞、胎盤間葉系幹細胞、羊膜間葉系幹細胞、肝臓間葉系幹細胞、筋肉間葉系幹細胞、肺間葉系幹細胞、膵臓間葉系幹細胞、歯髄間葉系幹細胞から選択され、
好ましくは、前記間葉系幹細胞は、脂肪間葉系幹細胞であり、
好ましくは、前記成体幹細胞は、上皮成体幹細胞である、用途。
【請求項6】
前記ロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物は、ロドコッカス・ルーバーの細胞壁又はその組成である、請求項5に記載の用途。
【請求項7】
前記ロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物は、
1)ロドコッカス・ルーバーを用意するステップと、
2)前記ロドコッカス・ルーバーを粉砕して、粉砕生成物を得るステップと、
3.1)必要に応じて、前記粉砕生成物に対して脂質除去操作を行うステップと、
3.2)必要に応じて、前記粉砕生成物に対して核酸除去操作を行うステップと、
3.3)必要に応じて、前記粉砕生成物に対してタンパク質除去操作を行うステップと、
3.4)ロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物を得るステップと、
4)必要に応じて、前記ロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物中の水を除去し、好ましくは前記ロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物を凍結乾燥させるステップと、
5)必要に応じて、個包装するステップと、を含む方法で得られ、
ステップ3.1)、3.2)、3.3)は、順序を入れ替えてもよく、同時に行ってもよく、ステップ4)とステップ5)は順序を入れ替えてもよい、請求項5又は6に記載の用途。
【請求項8】
前記ロドコッカス・ルーバーは、2019年3月22日に番号CGMCC No.17431でCGMCCに寄託された、請求項5又は6に記載の用途。
【請求項9】
ロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物を含み、
好ましくは、前記ロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物は、ロドコッカス・ルーバーの細胞壁又はその組成である、細胞培養媒体。
【請求項10】
前記ロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物は、
1)ロドコッカス・ルーバーを用意するステップと、
2)前記ロドコッカス・ルーバーを粉砕して、粉砕生成物を得るステップと、
3.1)必要に応じて、前記粉砕生成物に対して脂質除去操作を行うステップと、
3.2)必要に応じて、前記粉砕生成物に対して核酸除去操作を行うステップと、
3.3)必要に応じて、前記粉砕生成物に対してタンパク質除去操作を行うステップと、
3.4)ロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物を得るステップと、
4)必要に応じて、前記ロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物中の水を除去し、好ましくは前記ロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物を凍結乾燥させるステップと、
5)必要に応じて、個包装するステップと、を含む方法で得られ、
ステップ3.1)、3.2)、3.3)は、順序を入れ替えてもよく、同時に行ってもよく、ステップ4)とステップ5)は順序を入れ替えてもよい、請求項9に記載の細胞培養媒体。
【請求項11】
前記ロドコッカス・ルーバーは、2019年3月22日に番号CGMCC No.17431でCGMCCに寄託された、請求項9に記載の細胞培養媒体。
【請求項12】
創傷治癒を促進する方法であって、
被験対象の創傷を治療有効量の幹細胞及びロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物に接触させるステップを含み、
前記幹細胞は、成体幹細胞、間葉系幹細胞、iPSCから選択され、
幹細胞の数/ロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物の比率は、1~100個の幹細胞/1ngのロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物であり、好ましくは5~50個の幹細胞/1ngのロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物であり、
前記間葉系幹細胞は、骨髄間葉系幹細胞、脂肪間葉系幹細胞、滑膜間葉系幹細胞、臍帯間葉系幹細胞、臍帯血間葉系幹細胞、胎盤間葉系幹細胞、羊膜間葉系幹細胞、肝臓間葉系幹細胞、筋肉間葉系幹細胞、肺間葉系幹細胞、膵臓間葉系幹細胞、歯髄間葉系幹細胞から選択され、好ましくは、前記間葉系幹細胞は、脂肪間葉系幹細胞であり、
好ましくは、前記成体幹細胞は、上皮成体幹細胞であり、
好ましくは、前記創傷は、糖尿病に関連する創傷である、方法。
【請求項13】
-幹細胞と、
-ロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物とを含み、
前記幹細胞は、成体幹細胞、間葉系幹細胞、iPSCから選択され、
幹細胞の数/ロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物の比率は、1~100個の幹細胞/1ngのロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物であり、好ましくは5~50個の幹細胞/1ngのロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物であり、
前記間葉系幹細胞は、骨髄間葉系幹細胞、脂肪間葉系幹細胞、滑膜間葉系幹細胞、臍帯間葉系幹細胞、臍帯血間葉系幹細胞、胎盤間葉系幹細胞、羊膜間葉系幹細胞、肝臓間葉系幹細胞、筋肉間葉系幹細胞、肺間葉系幹細胞、膵臓間葉系幹細胞、歯髄間葉系幹細胞から選択され、
好ましくは、前記間葉系幹細胞は、脂肪間葉系幹細胞であり、
好ましくは、前記成体幹細胞は、上皮成体幹細胞である、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2020年1月21日に提出した中国特許出願(出願番号CN202010068249.1)の優先権の利益を主張するものである。
【0002】
本願は、再生医学に関する。具体的には、ロドコッカス・ルーバー(特に細胞壁骨格)の、幹細胞の増殖及び分化の促進における用途に関する。
【背景技術】
【0003】
幹細胞は、自己複製能及び多系列分化能を有する始原細胞である。特定の条件下で、増殖し、かつ異なる機能細胞に指向性分化することができる。したがって、幹細胞の研究は、生命体の各組織及び器官の更新及び損傷修復に対して、非常に重要な役割を果たし、多くの治癒できない疾患、特に細胞及び組織の欠失又は損傷による疾患の治療の希望となる。
【0004】
幹細胞は、胚性幹細胞及び成体幹細胞を含む。胚性幹細胞は、倫理的問題のため、その応用が大幅に限定され、成体幹細胞は、機能細胞及び組織に分化できるため、幹細胞の広い応用に基礎を提供し、多くの疾患の細胞置換療法に新たな細胞供給源を提供する。したがって、成体幹細胞は、研究の重点となっている。
【0005】
しかしながら、正常な成体哺乳動物の幹細胞は、数が少なく、分化が様々な固有メカニズム及び微環境要因による影響を受け、インビトロでの長期間の大量培養、特に無血清増殖培養が困難であり、実際の治療に応用することができない。
【0006】
多くの疾患は、機能細胞の欠失又は損傷に起因することができ、細胞置換療法は、これらの疾患を治療する効果的な方法である。幹細胞医薬は、生体内の幹細胞の増殖及び分化を調節することにより、細胞の欠失又は損傷による疾患を予防治療することができる。幹細胞医薬を用いて幹細胞の増殖及び指向性分化能を調節することにより、損傷した機能細胞を再生し、その生物学的機能を回復させる。
【0007】
脂肪間葉系幹細胞(Ad-MSC)は、脂肪組織マトリックスから派生された成体幹細胞であり、非常に高い自己複製能を有し、様々なタイプの機能細胞に分化することができる。Ad-MSCが幹細胞に基づく慢性創傷治療において大きな潜在力を有することが証明された証拠は存在する。しかしながら、潜在細胞療法におけるAd-MSCの成功的な応用に対する1つの重大な障害は、移植後の細胞の生存率である。細胞を損傷された皮膚組織に移植する場合、それらが酸素欠乏、炎症、酸化ストレス又は他の不利な条件を経験するため、移植後の種細胞の生存率が不可避に低下し、Ad-MSCの治療効果が妨害される。
【0008】
ロドコッカス・ルーバー(Rhodococcus ruber)は、グラム陽性菌である。一般的にコロニーが円形で、黄みの橙色又は赤みの橙色を呈し、コロニーのサイズは、約1mm~2mmであり、細胞の形態は、球状又は短桿状であり、一次分枝した菌糸体を形成することができ、鞭毛はない。ロドコッカス・ルーバーは、好気性であり、従属栄養性である。
【0009】
現在、研究者によりロドコッカス・ルーバーの全ゲノム配列決定が行われている。例えば、樊欣らによりロドコッカス・ルーバーSD3株の全ゲノムの配列決定が行われ、生物情報学的分析が行われた。SD3株は、全ゲノムの長さが約5.37Mbであり、GC含有量が約70.63%であり、GenBank登録番号がCP029146である(樊欣、ロドコッカス・ルーバーSD3の全ゲノム配列決定及びその熱ショックタンパク質DnaKの発現の分析、ゲノム学と応用生物学、2019年1月)。
【0010】
ロドコッカス属(Rhodococcus)は、自体が非常に強い有機物耐性及び広い分解スペクトルを有するため、様々な生存環境に適応することができる。したがって、ロドコッカス属は、汚染の修復、有機化合物の分解、汚水の処理などの分野に広く応用される。現在、ロドコッカス・ルーバーは、主に環境整備の分野に応用され、CN108862590A、CN107151635A、CN102250796A、CN1519312A、CN103627653A、CN101033454A、CN108130288A、CN104830738A、CN101619299A、CN103509833A、CN106434466A、CN101580808A、CN102604875A、CN103160491A、CN106591168A、CN106591172A、CN105820982Aを参照されたい。
【0011】
CN109576180Aには広州市番禺区付近の郊外の赤土からスクリーニングした菌RDC-01が開示されており、16S rRNA遺伝子配列分析及び培養特性同定により、該菌株がロドコッカス・ルーバーであると同定された。該菌を不活化した後に、免疫アジュバントとして動物用の不活化ワクチンに添加すると、動物の抗体の産生を促進できることが示された。しかしながら、ロドコッカス・ルーバーをヒトの医学分野に応用するという報告はまだない。
【0012】
したがって、成体幹細胞の増殖及び分化を特異的に調節する活性成分を見つけることは、幹細胞医薬の研究ホットスポットである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】中国特許出願公開第108862590号明細書
【特許文献2】中国特許出願公開第107151635号明細書
【特許文献3】中国特許出願公開第102250796号明細書
【特許文献4】中国特許出願公開第1519312号明細書
【特許文献5】中国特許出願公開第103627653号明細書
【特許文献6】中国特許出願公開第101033454号明細書
【特許文献7】中国特許出願公開第108130288号明細書
【特許文献8】中国特許出願公開第104830738号明細書
【特許文献9】中国特許出願公開第101619299号明細書
【特許文献10】中国特許出願公開第103509833号明細書
【特許文献11】中国特許出願公開第106434466号明細書
【特許文献12】中国特許出願公開第101580808号明細書
【特許文献13】中国特許出願公開第102604875号明細書
【特許文献14】中国特許出願公開第103160491号明細書
【特許文献15】中国特許出願公開第106591168号明細書
【特許文献16】中国特許出願公開第106591172号明細書
【特許文献17】中国特許出願公開第105820982号明細書
【特許文献18】中国特許出願公開第109576180号明細書
【特許文献19】中国特許出願公開第101250490号明細書
【特許文献20】中国特許出願公開第101323865号明細書
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Rathur HMら著、「The diabetic foot」.ClinDermatol.2007、25(1):109-120
【非特許文献2】Guo WYら著、「Acceleration of diabetic wood healing by low-dose radiation is associated with peripheral mobilization of bone marrow stem cells」.Radiat Res.2010、174(4):467-479
【非特許文献3】Fiorina Pら著、「The mobilization and effect of endogenous bone marrow progenitor cells diabetic wound healing」.Cell Transplant.2010、19(11):1369-1381
【非特許文献4】Kato Yら著、「Creation and transplantation of an adipose-derived stem cell(ASC)sheetin a diabetic wound-healing model」.Jove-J Vis Exp.2017、12(6):1-10
【非特許文献5】Rehman Jら著、「Secretion of angiogenic and anti-apoptotic factors by human adipose stromal cells」.Circulation.2004、109:1292-8
【非特許文献6】Ebrahimian TGら著、「Cell therapy based on adipose tissue-derived stromal cells promotes physiological and pathological wound healing」.Arterioscler Thromb Vasc Biol.2009、29(4):503-510
【非特許文献7】Kim WSら著、「Wound healing effect of adipose-derived stem cells:a critical role of secretory factors on human dermal fibroblasts」.J Dermatol Sci.2007、48:15-24
【非特許文献8】Unnikrishnan Sら著、「Constitution of fibrin-based niche for in vitro differentiation of adipose-derived mesenchymal stem cells to keratinocytes」.Biores Open Access.2014、3(6):339-347
【非特許文献9】Li Qら著、「Stromal cell-derived factor-1promotes human adipose tissue-derived stem cell survival and chronic wound healing」.Exp Ther Med.2016、12:45-50
【発明の概要】
【0015】
本願は、幹細胞を調節するための活性成分及びその応用を提供する。
【0016】
本開示のいくつかの実施形態において、単離されたロドコッカス・ルーバー(Rhodococcus ruber)を提供する。
【0017】
本開示のいくつかの具体的な実施形態において、2019年3月22日に中国微生物菌種保存管理委員会普通微生物センター(China General Microbiological Culture Collection Center、北京市朝陽区北辰西路1号院3号、中国科学院微生物研究所、郵便番号:100101)に寄託した、寄託番号CGMCC No.17431のロドコッカス・ルーバーを提供する。該寄託は、「特許手続上の微生物の寄託の国際承認に関するブダペスト条約(Budapest Treaty on the International Recognition of the Deposit of Microorganisms for the Purposes of Patent Procedure)」の規定を満たす。
【0018】
本開示のいくつかの実施形態において、ロドコッカス・ルーバー及びその派生製品を提供する。前記派生製品は、ロドコッカス・ルーバー由来で、ロドコッカス・ルーバーの組成成分(例えば、タンパク質、核酸、脂質、細胞壁及びその組成成分、炭水化物、代謝物)を含む。
【0019】
具体的な実施形態において、単離されたロドコッカス・ルーバーの細胞壁を提供する。
【0020】
具体的な実施形態において、単離されたロドコッカス・ルーバーの細胞壁を提供し、前記ロドコッカス・ルーバーは、寄託番号がCGMCC No.17431の株のことを指す。
【0021】
具体的な実施形態において、ロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物を提供する。
【0022】
具体的な実施形態において、単離されたロドコッカス・ルーバーの細胞壁骨格を提供する。
【0023】
具体的な実施形態において、単離されたロドコッカス・ルーバーの細胞壁骨格を提供し、前記ロドコッカス・ルーバーは、寄託番号がCGMCC No.17431の株のことを指す。
【0024】
本開示のいくつかの実施形態において、本開示におけるロドコッカス・ルーバーの細胞壁又はロドコッカス・ルーバーの細胞壁骨格を含む医薬組成物を提供する。
【0025】
本開示のいくつかの実施形態において、ロドコッカス・ルーバーを粉砕して得られた生成物を含む、ロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物を提供する。
【0026】
本開示の別のいくつかの実施形態において、ロドコッカス・ルーバーを粉砕してから精製(脂質除去、核酸除去、タンパク質除去)して得られた生成物を含む、ロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物を提供する。
【0027】
本開示の別のいくつかの実施形態において、ロドコッカス・ルーバーの細胞壁を含む、ロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物を提供する。
【0028】
本開示の別のいくつかの実施形態において、ロドコッカス・ルーバーの細胞壁骨格を含む、ロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物を提供する。
【0029】
本開示のいくつかの実施形態において、ロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物を含む医薬組成物又は医療装置を提供する。
【0030】
本開示の別のいくつかの実施形態において、ロドコッカス・ルーバーを粉砕してから精製(脂質除去、及び/又は核酸除去、及び/又はタンパク質除去)して得られた生成物を含む医薬組成物又は医療装置を提供する。
【0031】
本開示の別のいくつかの実施形態において、ロドコッカス・ルーバーの細胞壁を含む医薬組成物又は医療装置を提供する。
【0032】
本開示の別のいくつかの実施形態において、ロドコッカス・ルーバーの細胞壁骨格を含む医薬組成物又は医療装置を提供する。
【0033】
本開示の別のいくつかの実施形態において、上記ロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物を含む医薬組成物又は医療装置を提供する。
【0034】
具体的な実施形態において、医薬組成物は、薬学的に許容される賦形剤をさらに含む。
【0035】
いくつかの実施形態において、医薬組成物中の前記ロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物は、1重量部であり、薬学的に許容される賦形剤は、50~5000重量部(例えば、50、100、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、500、600、700、1000、1500、2000、2500、3000、3500、4000、4500、5000及び任意の2つの数値の間の任意の値)である。
【0036】
別のいくつかの実施形態において、医薬組成物中のロドコッカス・ルーバーの細胞壁は、1重量部であり、前記薬学的に許容される賦形剤は、50~5000重量部(例えば、50、100、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、500、600、700、1000、1500、2000、2500、3000、3500、4000、4500、5000及び任意の2つの数値の間の任意の値)である。
【0037】
さらにいくつかの実施形態において、医薬組成物中のロドコッカス・ルーバーの細胞壁骨格は、1重量部であり、前記薬学的に許容される賦形剤は、50~5000重量部(例えば、50、100、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、500、600、700、1000、1500、2000、2500、3000、3500、4000、4500、5000及び任意の2つの数値の間の任意の値)である。
【0038】
いくつかの実施形態において、医薬組成物は、液体(液体製剤)として製造されてもよい。
【0039】
別のいくつかの実施形態において、医薬組成物は、固体(乾燥粉末製剤又は凍結乾燥粉末製剤)として製造されてもよい。
【0040】
当業者は、本開示の医薬組成物について、液体製剤及び乾燥粉末製剤(又は凍結乾燥粉末製剤)のどちらも相互に変換でき、含水量のみで相違するということを理解することができる。液体製剤中のほとんど又は全ての水を除去して、乾燥粉末製剤(又は凍結乾燥粉末製剤)を得る。乾燥粉末製剤(又は凍結乾燥粉末製剤)を溶解(又は再溶解)させた後に、液体製剤を得る。
【0041】
いくつかの実施形態において、医薬又は医薬組成物は、膏剤、クリーム剤、乳液、懸濁剤、ペースト剤、ゲル剤、洗浄剤、チンキ剤、オイル剤、錠剤、エアロゾル剤、噴霧剤、リニメント剤、粉剤から選択される剤形として製造され、前記膏剤は、軟膏剤、硬膏剤、クリーム剤から選択される。
【0042】
いくつかの実施形態において、薬学的に許容される賦形剤は、充填剤、安定剤、矯味剤、崩壊剤、接着剤、潤滑剤であるが、これらに限定されない。
【0043】
いくつかの実施形態において、前記薬学的に許容される賦形剤には、例えば、デキストラン、ラクトース、微結晶性セルロース、トレハロース、グリシン、キシリトール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、エリスリトール、ゼラチン、ステアリン酸マグネシウム、噴射剤、保湿剤、溶媒、可溶化剤、乳化剤、酸化防止剤、pH調整剤、防腐剤であるが、これらに限定されない。具体的には、非限定的な例は、白色ワセリン、カルボマー、ヒプロメロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、キトサン、スクラルファートキトサン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ヒアルロン酸ナトリウム、ジメチルエーテル、テトラフルオロエタン、ヒドロフルオロアルカン、グリセロール、プロピレングリコール、脱イオン水、注射用水、蒸留水、エタノール、セタノール、ステアリルアルコール、p-アミノ安息香酸、アセトアミド、イソプロパノール、トゥイーン、ポリオキシエチレン水素化ヒマシ油、ステアリン酸、モノステアリン酸グリセリル、モノステアリン酸トリグリセロール、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ソルビタントリステアレート、ミリスチン酸イソプロピル、コレステロール、スクアレン、スクアラン、n-ブタノール、エチレングリコール、エタノール、プロピレングリコール、ポリグリセロールエステル、亜硫酸塩、システイン酸、ジ-tert-ブチルヒドロキシトルエン、ソルビン酸カリウム、リン酸緩衝液、トリエタノールアミン、水酸化ナトリウム、エチレンジアミン、ラウリルアミン、重炭酸ナトリウム、塩酸、パラベン類、チメロサール、クロロクレゾール、クロロブタノール、安息香酸及びそのナトリウム塩をさらに含む。
【0044】
本開示のいくつかの実施形態において、
1)ロドコッカス・ルーバーを用意するステップと、
2)必要に応じて、前記ロドコッカス・ルーバーを培養するステップと、
3)必要に応じて、培養したロドコッカス・ルーバーを収集するステップと、
4)培養した前記ロドコッカス・ルーバーを粉砕して、粉砕生成物を得るステップと、
5.1)必要に応じて、前記粉砕生成物に対して脂質除去操作を行うステップと、
5.2)必要に応じて、前記粉砕生成物に対して核酸除去操作を行うステップと、
5.3)必要に応じて、前記粉砕生成物に対してタンパク質除去操作を行うステップと、
5.4)精製生成物を得るステップと、
6)必要に応じて、前記精製生成物中の水を除去し、好ましくは凍結乾燥により前記精製生成物中の水を除去するステップと、
7)必要に応じて、個包装するステップと、
8)前記ロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物を得るステップと、を含むか又はそれらのステップで構成される、ロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物の製造方法を提供する。
【0045】
ステップ5.1)、5.2)、5.3)は、順序を入れ替えてもよく、同時に行ってもよく、ステップ6)とステップ7)は順序を入れ替えてもよい。
【0046】
必要に応じて、ステップ5)は、(例えば非イオン性界面活性剤で)細胞膜を除去するステップを含んでもよい。
【0047】
ロドコッカス・ルーバーの培養は、具体的な培地及び培養パラメータに限定されなく、当業者は、公知の適切な方式で培養を行うことができ、製造規模に応じてシャーレ、培養フラスコ、発酵タンクを用いることができる。
【0048】
ロドコッカス・ルーバーの粉砕の目的は、細胞内の物質を除去することであるため、超音波破砕、リゾチームなどの技術を用いることができる。当業者は、グラム陽性菌を破砕することに適用される任意の既知又は将来的な方法のどれを用いても、本開示の技術的解決手段に適用するということを理解できる。
【0049】
当業者は、活性成分(細胞壁及びその組成成分)の後続の投与(例えば内服、注射、外用など)に応じて、培養、破砕、単離、収集、不純物除去、個包装の具体的なパラメータ及び機器を調整することで、後続の投与に影響を与える要因が製造ステップに導入されないようにする能力がある。
【0050】
いくつかの実施形態において、破砕した生成物中の脂質を有機溶媒で除去する。いくつかの実施形態において、破砕した生成物中のDNA及びRNAをヌクレアーゼで除去する。いくつかの実施形態において、破砕した生成物中のタンパク質をヒドロラーゼで分解する。いくつかの実施形態において、破砕した生成物中の細胞膜を界面活性剤で除去する。
【0051】
いくつかの実施形態において、粉砕後の平均粒径は、10nm~1000nmであり、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190nm±10nm及び上記任意の2つの数値の間の範囲であってもよい。粒径の測定方法は多数ある(胡松青ら、現代の粒径測定技術、現代化工、2002年22:1)。
【0052】
いくつかの具体的な実施形態において、粉砕後の平均粒径は、10nm~800nmである。
【0053】
別のいくつかの具体的な実施形態において、粉砕後の平均粒径は、10nm~500nmである。
【0054】
いくつかの実施形態において、前記個包装とは、容器又は固体支持体に個包装することを指す。前記容器は、ボトル、チューブ、パック、袋、プレート、アンプル、注射装置、アルミ箔包装、ドレッシング材、カプセルから選択される。
【0055】
例えば、具体的な実施形態において、前記個包装とは、ボトル/アンプルに個包装することを指す。投与前に、ボトル/アンプルに溶媒を添加する。
【0056】
本開示のいくつかの具体的な実施形態において、本開示における方法で製造される、ロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物を提供する。
【0057】
本開示のいくつかの実施形態において、本開示における方法で製造されるロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物を含む医薬組成物又は医療装置を提供する。
【0058】
本開示のいくつかの実施形態において、成体幹細胞を調節するための、単離されたロドコッカス・ルーバーの細胞壁を提供する。前記調節とは、幹細胞の増殖の促進、幹細胞の成長の促進、幹細胞の分化の促進、幹細胞の遊走の促進、幹細胞の生存率の向上から選択される1つ又はそれらの組み合わせを指し、前記幹細胞は、成体幹細胞、iPSC、間葉系幹細胞から選択される。
【0059】
いくつかの実施形態において、前記間葉系幹細胞は、骨髄間葉系幹細胞、脂肪間葉系幹細胞、滑膜間葉系幹細胞、臍帯間葉系幹細胞、臍帯血間葉系幹細胞、胎盤間葉系幹細胞、羊膜間葉系幹細胞、肝臓間葉系幹細胞、筋肉間葉系幹細胞、肺間葉系幹細胞、膵臓間葉系幹細胞、歯髄間葉系幹細胞から選択される。
【0060】
本開示のいくつかの実施形態において、成体幹細胞を調節するための、ロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物を提供する。
【0061】
本開示のいくつかの実施形態において、成体幹細胞を調節するための医薬組成物又は医療装置を提供する。
【0062】
本開示のいくつかの実施形態において、本開示におけるロドコッカス・ルーバーの細胞壁の、成体幹細胞の調節における用途を提供する。
【0063】
本開示におけるロドコッカス・ルーバーの細胞壁の、成体幹細胞を調節するための医薬/医療装置の製造における用途をさらに提供する。
【0064】
本開示のいくつかの実施形態において、本開示におけるロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物の、成体幹細胞の調節における用途を提供し、本開示におけるロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物の、成体幹細胞を調節するための医薬/医療装置の製造における用途をさらに提供する。
【0065】
本開示のいくつかの実施形態において、本開示における医薬組成物の、成体幹細胞の調節における用途を提供し、本開示における医薬組成物の、成体幹細胞を調節するための医薬/医療装置の製造における用途をさらに提供する。
【0066】
本開示のいくつかの実施形態において、
-本開示におけるロドコッカス・ルーバー、
-本開示における単離されたロドコッカス・ルーバーの細胞壁、
-本開示におけるロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物、
-本開示における医薬組成物、から選択されるいずれか1つの、医薬(又は医療装置)の製造における用途を提供する。
【0067】
いくつかの具体的な実施形態において、前記医薬は、成体幹細胞を調節するために用いられる。
【0068】
いくつかの具体的な実施形態において、前記医療装置(例えば、ドレッシング材、貼付剤、包帯、フィルム、貼付剤など)は、成体幹細胞を調節するために用いられる。
【0069】
本開示のいくつかの実施形態において、被験対象を、
-本開示における単離されたロドコッカス・ルーバーの細胞壁、
-本開示におけるロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物、
-本開示における医薬組成物、
-本開示における医療装置から選択される治療有効量(又は予防有効量)、のいずれか1つに接触させること、を含む、成体幹細胞を調節する方法をさらに提供する。
【0070】
いくつかの具体的な実施形態において、幹細胞をロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物に接触させるステップを含む、幹細胞を調節する方法を提供する。
【0071】
いくつかの具体的な実施形態において、幹細胞の数/ロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物の比率は、1~1000個の幹細胞/1ngのロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物であり、好ましくは5~50個の幹細胞/1ngのロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物である。例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、1000個の幹細胞/1ngのロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物、及びその間の任意の範囲であるが、これらに限定されない。
【0072】
いくつかの実施形態において、被験対象の創傷を治療有効量の間葉系幹細胞及びロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物に接触させるステップを含む、創傷治癒を促進する方法を提供する。
【0073】
いくつかの実施形態において、間葉系幹細胞の数/ロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物の比率は、1~100個の幹細胞/1ngのロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物であり、好ましくは5~50個の幹細胞/1ngのロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物である。いくつかの具体的な実施形態において、前記創傷は、糖尿病に関連する創傷である。
【0074】
いくつかの具体的な実施形態において、病巣の面積及び深さの違いに応じて、医薬(又は医療装置)を用いて病巣に投与する。例えば、
-ロドコッカス・ルーバーの細胞壁骨格を含む医薬を塗り、或いは
-ロドコッカス・ルーバーの細胞壁骨格を浸漬した貼付剤(フィルム又はガーゼ)で病巣を被覆し、或いは
-ロドコッカス・ルーバーの細胞壁骨格を含む凍結乾燥粉末を病巣に直接的に投与し、或いは
-ロドコッカス・ルーバーの細胞壁骨格を含む膏体/クリームを病巣に投与するが、これらに限定されない。
【0075】
いくつかの具体的な実施形態において、接触させるサイクルは、2日間~2ヶ月間又はそれ以上である。具体的には、例えば、2、4、6、8、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60日間であり、また例えば、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、8週間、9週間、10週間、11週間、12週間、13週間、14週間、15週間、16週間、17週間、18週間であってもよい。具体的な実施形態において、被験対象に3~4週間にわたって活性成分を投与する。
【0076】
いくつかの実施形態において、1日に1~3回、2日に1~6回、3日に1~9回、1週間に1~14回、1ヶ月に1~60回の頻度で投与する。いくつかの実施形態において、1日に2回、又は1日に1回、又は2日に1回投与する。
【0077】
1回あたりの投与量は、被験対象の具体的な状況に応じて異なる投与量を採用し、一般的に1μg~1000μg/単位投与量/1回で投与し、具体的には、例えば、1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200μg/単位投与量/1回及び前述の任意の2つの数値の間の範囲で投与する。
【0078】
いくつかの具体的な実施形態において、接触は、例えば、内服、粘膜投与、経皮投与、腹腔内投与、穿刺、点鼻、点眼、坐剤、舌下投与の方式で実現されるが、これらに限定されない。
【0079】
いくつかの具体的な実施形態において、被験対象は、ヒト以外の動物であり、例えば、農場の動物、愛玩動物、使役動物、観賞動物、産業動物である。
【0080】
具体的な実施形態において、被験対象は、ヒトである。
【0081】
いくつかの具体的な実施形態において、被験対象は、目標疾患又はその症状を有すると疑われるか、有すると診断されるか、すでに有しているか、又は罹患しやすい対象である。
【0082】
いくつかの実施形態において、
-本開示におけるロドコッカス・ルーバー、
-本開示における単離されたロドコッカス・ルーバーの細胞壁、
-本開示におけるロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物、
-本開示における医薬組成物、から選択される1つ又はそれらの組み合わせを含む細胞培養媒体を提供する。
【0083】
いくつかの具体的な実施形態において、幹細胞(特に間葉系幹細胞)を培養することに適用される本分野の公知の他の成分をさらに含む細胞培養媒体を提供する。ヒトに応用される場合、より安全な細胞を提供するために、培養過程において異種動物成分を含まないもの、例えば、無血清培養媒体が推奨される。
【0084】
いくつかの具体的な実施形態において、当業者は、必要(例えば、乾燥性の維持又は分化の促進)に応じて、細胞培養媒体にサイトカイン、例えば、FGF、PDGF、TGF-β、HGF、EGF、CTGF、VEGF、インスリン、インスリン様成長因子のうちの1種又はそれらの組み合わせを添加することができる。
【0085】
いくつかの具体的な実施形態において、FGFの含有量(最終濃度で計算する)は、好ましくは0.1~100ng/mlである。FGFとは、線維芽細胞成長因子ファミリーに属する成長因子を指し、好ましくはFGF-1、FGF-2(bFGF)である。
【0086】
いくつかの具体的な実施形態において、PDGFの含有量(最終濃度で計算する)は、好ましくは0.5~100ng/mlである。PDGFとは、血小板由来成長因子ファミリーに属する成長因子を指し、好ましくはPDGF-BB又はPDGF-ABである。
【0087】
いくつかの具体的な実施形態において、TGF-βの含有量(最終濃度で計算する)は、好ましくは0.5~100ng/mlである。TGF-βとは、形質転換成長因子-βファミリーに属する成長因子を指し、好ましくはTGF-β3である。
【0088】
いくつかの具体的な実施形態において、HGFの含有量(最終濃度で計算する)は、好ましくは0.1~50ng/mlである。
【0089】
いくつかの具体的な実施形態において、EGFの含有量(最終濃度で計算する)は、好ましくは0.5~200ng/mlである。
【0090】
いくつかの具体的な実施形態において、少なくとも1種のリン脂質及び/又は少なくとも1種の脂肪酸をさらに含む細胞培養媒体を提供する。
【0091】
リン脂質としては、例えば、ホスファチジン酸、リゾホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリン及びホスファチジルグリセロールが挙げられる。リン脂質の総含有量(最終濃度で計算する)は、好ましくは0.1~30μg/mlである。
【0092】
脂肪酸としては、例えば、リノール酸、オレイン酸、リノレン酸、アラキドン酸、テトラデカン酸、パルミトレイン酸、パルミチン酸及びステアリン酸などが挙げられる。脂肪酸の総含有量は、好ましくは培地の1/1000~1/10である。
【0093】
いくつかの具体的な実施形態において、コレステロールをさらに含む細胞培養媒体を提供する。
【0094】
いくつかの具体的な実施形態において、アスコルビン酸をさらに含む細胞培養媒体を提供する。
【0095】
いくつかの具体的な実施形態において、酸化防止剤をさらに含む細胞培養媒体を提供する。酸化防止剤としては、例えば、DL-α-トコフェロール酢酸エステル(ビタミンE)が挙げられる。
【0096】
いくつかの具体的な実施形態において、トランスフェリンをさらに含む細胞培養媒体を提供する。
【0097】
いくつかの具体的な実施形態において、セレン酸塩をさらに含む細胞培養媒体を提供する。
【0098】
いくつかの具体的な実施形態において、細胞を維持するために必要なアミノ酸、ヌクレオチド及び微量元素をさらに含む細胞培養媒体を提供する。
【0099】
具体的な実施例において、既知の市販されている間葉系幹細胞培養媒体に本願の組成物を添加し、市販されている間葉系幹細胞培養媒体は、例えば、MesenPRO RSTM、StemPro(登録商標)MSC SFM、StemPro(登録商標)MSC SFM XenoFee、StemPro(登録商標)ヒト脂肪由来幹細胞培地から選択される。
【0100】
いくつかの実施形態において、
-間葉系幹細胞と、
-ロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物と、を含む治療組成物を提供する。
【0101】
いくつかの治療組成物の実施形態において、間葉系幹細胞の数/ロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物の比率は、1~100個の幹細胞/1ngのロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物であり、好ましくは5~50個の幹細胞/1ngのロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物である。
【0102】
いくつかの治療組成物の実施形態において、間葉系幹細胞は、骨髄間葉系幹細胞、脂肪間葉系幹細胞、滑膜間葉系幹細胞、臍帯間葉系幹細胞、臍帯血間葉系幹細胞、胎盤間葉系幹細胞、羊膜間葉系幹細胞、肝臓間葉系幹細胞、筋肉間葉系幹細胞、肺間葉系幹細胞、膵臓間葉系幹細胞、歯髄間葉系幹細胞から選択される。
【0103】
いくつかの実施形態において、幹細胞を有効量の上記ロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物に接触させるステップを含む、幹細胞のアポトーシスを改善する方法を提供する。
【0104】
いくつかの実施形態において、幹細胞を有効量の上記ロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物に接触させるステップを含む、幹細胞の生存率を向上させる方法を提供する。
【0105】
本願の文脈では、医薬又は医療装置における唯一の治療性(又は予防性)活性成分は、ロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物であり、特にロドコッカス・ルーバーの組成成分(例えば、タンパク質、核酸、脂質、細胞壁及びその組成成分、炭水化物、代謝物)を含む製品であり、具体的には、ロドコッカス・ルーバーの細胞壁(さらに好ましくはロドコッカス・ルーバーの細胞壁骨格又はその組成)を含む製品である。
【図面の簡単な説明】
【0106】
図1】10μg/mlの本願の組成物1をAd-MSCに作用し、24h、48h、72h、96h後にCCK-8を用いてAd-MSCを検出し、450nmの波長下で酵素結合免疫検出装置を用いて吸光度値(OD)を測定する。
図2】10μg/ml、50μlの本願の組成物1をAd-MSCsに作用し、72h、96h後にEDUキットを用いてEdU取り込み分析を行い、各群の細胞の増値率を統計し分析し、実験を3回繰り返し、データについてエラーバーグラフ平均値±SDを示す(P<0.05、**P<0.01、vs.対照)。
図3A】フローサイトメーターを用いて48h、72hのブランク対照群、高グルコース群、本願の組成物で処理された群の幹細胞のアポトーシス率を検出する。実験を3回繰り返し、データについてエラーバーグラフで平均値±SDを示す(**P<0.01、vs.高グルコース)。
図3B】フローサイトメーターを用いて48h、72hのブランク対照群、高グルコース群、本願の組成物で処理された群の幹細胞のアポトーシス率を検出する。実験を3回繰り返し、データについてエラーバーグラフで平均値±SDを示す(**P<0.01、vs.高グルコース)。
図4A】細胞に高グルコースを添加して細胞アポトーシスを誘導し、Westernブロット実験を行い、c-カスパーゼ-3、Baxのタンパク質発現レベルを検出する。実験を3回繰り返し、データについてエラーバーグラフで平均値±SDを示す(P<0.05、**P<0.01、vs高グルコース)。
図4B】細胞に高グルコースを添加して細胞アポトーシスを誘導し、Westernブロット実験を行い、c-カスパーゼ-3、Baxのタンパク質発現レベルを検出する。実験を3回繰り返し、データについてエラーバーグラフで平均値±SDを示す(P<0.05、**P<0.01、vs高グルコース)。
図5A】細胞を糖尿病マウスの創傷に接種した後、0、2、7日目に蛍光色素CM-Dilで標識された細胞に基づいてAd-MSCの各群における生存率を観察する。CM-Dilで標識された細胞の蛍光束結果を統計し分析する。
図5B】各群の創傷治癒率を測定し計算する(P<0.05、**<0.01、vsブランク)。
【発明を実施するための形態】
【0107】
「単離」とは、本開示のロドコッカス・ルーバーを当初の成長環境から脱離させることを指す。
【0108】
当業者にとって、グラム陽性菌とグラム陰性菌の細胞壁の構造が異なることは既知である。具体的には、グラム陽性菌の方が細胞壁が厚く(一般的に20nm~80nmである)、約90%のペプチドグリカン及び約10%のタイコ酸(アルコール分子とリン酸分子で形成されるポリマーであり、一般的に糖エステル又はアミノ酸エステルの形態で存在する)を含む。ペプチドグリカン層は、緻密で、多い場合は20層に達する。しかしながら、グラム陰性菌の細胞壁は、グラム陽性菌の細胞壁よりはるかに薄く、構造が複雑で、外膜(outer membrane)とペプチドグリカン層(一般的に2nm~3nmである)に分けられる。
【0109】
ペプチドグリカン層は、細菌の細胞壁中の特有の成分であり、ヘテロ多糖の誘導体である。各ペプチドグリカンのモノマーは、糖ユニット(例えば、少なくとも2種の糖分子がグリコシド結合で接続されて、ペプチドグリカンの骨組み構造を構成するもの)、ペプチド末端(複数のアミノ酸が接続されて構成された短ペプチド鎖であり、N-アセチルムラミン酸分子に接続されるもの)、及びペプチドブリッジ(隣接する「ペプチド末端」を架橋して高強度のネットワーク構造を形成するもの)という3つの部分を含む。細菌が異なれば、ペプチドブリッジ、ペプチド末端、架橋方式も異なる。
【0110】
単離されたロドコッカス・ルーバーの細胞壁
本開示において、「単離されたロドコッカス・ルーバーの細胞壁」とは、完全な細胞壁として理解されてもよく、不完全な細胞壁(例えば、破砕されたもの、又は部分的に分解されたもの)として理解されてもよい。本開示の教示に基づき、当業者は、所望の活性を示す成分がロドコッカス・ルーバーの細胞壁(例えば、細胞壁自体又はその組成)由来のものであると理解することができる。したがって、臨床での応用において完全な細胞壁、破砕された細胞壁、細胞壁の不完全な分解生成物、細胞壁の組成成分、細胞壁の抽出物などの様々な形態を用いることができ、これらは、いずれも本開示の範囲に含まれる。
【0111】
細胞壁骨格
細胞壁の主な構造を構成する組成成分であるが、細胞壁の中の実体的な架橋ネットワークのみを表すとは理解すべきではなく、当業者は、実体的な架橋ネットワークに吸着、結合、保持される他の細胞壁成分が排除されないと理解することができる。
【0112】
ロドコッカス・ルーバー
本開示の実施形態において用いられるロドコッカス・ルーバーとは、ロドコッカス属(Rhodococcus)のロドコッカス・ルーバー種(Rhodococcus ruber)を指し、特定の細胞株に限定されない。
【0113】
非限定的な例は、TOY7株(南京農業大学農業環境微生物菌種保存センター)、CGMCC No.4795、DSM43338、CCTCC No.2012035、CGMCC No.16640、CGMCC No.17431を含む。
【0114】
ロドコッカス・ルーバーの同定
既知又は未知の微生物同定技術により、当業者は、細菌株に分類学的同定を行うことができ、例えば、利用可能な同定技術は、形態学的特徴、生理生化学的特徴、16S rRNAなどを含む。当業者は、科学技術の発展に伴い、同定技術が様々な手段に関連し、早い段階で主に形態学的同定方式及び生化学的同定方式を用いていたが、これらの方法の信頼性が低いことを理解することができる。配列決定技術が出現した後、当業者は、信頼性がより高い方式で菌株を同定することができる。例えば、16S rRNAのDNA配列が97%以上の相同性を有を有すると同定された場合、2つの菌が同じ種に属すると判定される(華苟根ら、ロドコッカス属の分類及び応用研究の進展、微生物学通報、2003:30(4))。ロドコッカス・ルーバーについて、国際(又は国立)菌種保存センターに寄託された既知の菌株をモデル菌株として、比較する。
【0115】
剤形
本開示の医薬又は医薬組成物又は活性成分又は製品は、軟膏剤、クリーム剤、硬膏剤、ゲル剤、洗浄剤、チンキ剤、リニメント剤、オイル剤、ペースト剤、凍結乾燥粉末、エアロゾル剤、坐剤、貼付剤、懸濁液、内服液、トローチ剤、スキンケア用品(洗顔料、化粧水、美容液、乳液、フェイスクリーム、フェイスマスク)の形態であってもよいが、これらに限定されない。
【0116】
製剤ユニット
本開示の医薬又は医薬組成物又は活性成分又は製品は、単位製剤(ユニット製剤)の形態で製造されてもよい。
【0117】
いくつかの実施形態において、上記医薬(又は製剤、又は治療薬、又は医療装置)中の単位投与量は、
-1μg~1000μgの上記ロドコッカス・ルーバーの細胞壁由来の生成物、又は
-1μg~1000μgの上記ロドコッカス・ルーバーの細胞壁、又は
-1μg~1000μgの上記ロドコッカス・ルーバーの細胞壁骨格を含む。
【0118】
単位投与量の具体例は、1、2、5、10、15、20、25、30、40、50、55、56、57、58、59、60、61、62、63、65、66、67、68、69、70、80、90、100、150、200、250、300、350、400、450、500mg±10%及び上記任意の2つの数値の間の範囲である。
【0119】
「投与」、「与え」、「提供」、「処理」という語は、動物、ヒト、細胞、組織、器官又は生物サンプルに用いられる場合、医薬又は医療装置が動物、ヒト、細胞、組織、器官又は生物サンプルに接触することを指す。
【0120】
「治療」とは、被験対象に医薬(治療薬、活性成分又は組成物)(例えば、本開示におけるロドコッカス・ルーバーの細胞壁又はその医薬組成物)又は医療装置を内服又は外用するように与え、治療する被験対象(又は集団)の1つ以上の疾患症状を、臨床で測定可能な程度まで緩和(軽減、遅延、改善、治癒)することを指し、上記被験対象は、1つ以上の疾患又はその症状をすでに有しているか、有すると疑われるか、又は罹患しやすい対象である。
【0121】
任意の疾患の症状を効果的に緩和する医薬(治療薬、活性成分又は組成物)の量は、治療有効量という。それは、様々な要因、例えば、被験対象の疾患の状態、年齢及び体重に応じて変化することができる。単一の被験対象の目標疾患又はその症状を緩和させる際に、医薬(治療薬、活性成分又は組成物)が効果を発揮しない可能性があるが、本分野の既知の任意の統計学的検定方法(例えば、Student T検定、カイ二乗検定、マン・ホイットニーのU検定)により、医薬(治療薬、活性成分又は組成物)が目標疾患又はその症状に対して統計学的に有効であると確定できると理解すべきである。
【0122】
「必要に応じて」とは、後文に記載の事項が発生する可能性があるが、必ずしも発生するとは限らず、状況に応じて設定する必要があるということを意味する。例えば、「必要に応じて、個包装する」とは、製品を個包装することが許容されるが、必ずしも個包装する必要がなく、個包装するか否かは、技術的効果の達成に影響しないということを意味する。
【0123】
「1つ」、「一」、「単一」、「該」は、明確な説明がなければ、複数の形態を含む。
【0124】
以下の実施例、製造例及び試験例を組み合わせて、本開示をさらに説明する。しかしながら、これらの実施例、製造例及び試験例は、本開示の範囲を限定するものではない。具体的な条件が明記されない場合、一般的な条件、及び原料供給業者が提案する条件に従って操作する。具体的な供給源が明記されない試薬は、市場で購入した一般的な試薬である。
【0125】
実施例
実施例1.菌株の由来
以下の実施例に用いられるロドコッカス・ルーバーは、CGMCC No.17431であり、2019年3月22日に北京市朝陽区北辰西路1号院3号(Institute of Microbiology Chinese Academy of Sciences、No.1 West Beichen Road、Chaoyang District、Beijing China)、中国微生物菌種保存管理委員会普通微生物センター(China General Microbiological Culture Collection Center、CGMCC)に寄託された。
【0126】
当業者であれば特に理解されるように、以下の具体的な例は、特定の細胞株を用いるが、技術的効果の実現は、該特定の細胞株に限定されなく、ロドコッカス・ルーバー種(Rhodococcus ruber)に属する任意の種は、いずれも適用される。
【0127】
実施例2.菌株の同定
1.コロニー形態の特徴の肉眼での観察
グリセロール寒天培地で、30~37℃(具体的には32~35℃)で12~72(具体的には36~60、例えば40~50)時間培養すると、以下が分かった。
【0128】
-コロニーが隆起し、
-赤みの橙色を呈し(光線、培地の色などの影響で、僅かな違いもある)、
-表面が乾燥してひび割れ、僅かに光沢を有し(培養条件の違いにより、僅かな違いもある)、
-軽く触れると砕けやすく、
-コロニーのサイズが約1mm~2mmである(培養条件の違いにより、僅かな違いもある)。
【0129】
2.顕微鏡での観察
-菌体が分枝状を呈し、横隔膜を有し、菌糸体を形成している(培養条件の違いにより、僅かな違いもある)、
-菌糸が分裂して、短くて太い規則的な細胞を形成している(培養条件の違いにより、僅かな違いもある)、
-4~5日間培養すると、菌体が短桿状又は球状になった(培養条件の違いにより、僅かな違いもある)。
【0130】
3.染色性
グラム染色法によれば、陽性であった。
【0131】
4.生化学的反応
グリセロール寒天傾斜培地を用意し、30~37℃(具体的には32~35℃)で12~72(具体的には、36~60、例えば、40~50)時間培養した。次に、培養物に対して以下の各試験を行った。
【0132】
4.1炭水化物の酸産生
表1.酸産生試験
【表1】
【0133】
4.2酵素活性の測定(API ZYM)
表2.酵素活性の測定
【表2】
【0134】
4.3硝酸塩還元反応で陽性、カタラーゼで陽性、チロシナーゼで陽性、アミラーゼで陰性、オキシダーゼで陰性、ゼラチン液化で陰性を呈した。
【0135】
4.4唯一の炭素源
表3.炭素源
【表3】
【0136】
4.5.16S rRNA同定
作業用シードチューブ内の単離された15株の菌及び当初のシードチューブ内の単離された10株の異なる菌株に対して、ゲノム抽出、16Sr RNA増幅及び配列決定を行った。合計25株の菌の16Sr RNA遺伝子相同性は、100%であった。
【0137】
また、Kimura2-パラメータアルゴリズムで構築されたneighbor-joining菌株の系統樹によれば、菌株がRhodococcus ruberに属するという結果が示された。
【0138】
製造例
製造例1.培養方法
1.一般的な微生物生産方法でロドコッカス・ルーバーを培養することができる。
【0139】
2.培養方法は、固体培養であってもよく、液体培養であってもよい。
【0140】
3.培地中の栄養源に対して特に規定はなく、微生物培養に一般的に用いられる炭素源、窒素源及び他の栄養源を培地中に含んでもよい。
【0141】
-炭素源は、ロドコッカス・ルーバーが利用できる任意の炭素源であり、例えば、フルクトース、グルコースなどである。
【0142】
-窒素源は、ブイヨン、ペプトン、アンモニウム塩、硝酸塩及び他の有機又は無機窒素含有化合物であってもよい。
【0143】
-他の栄養源として、いくつかの無機塩類、例えば、NaCl、リン酸塩類を適切に添加することができる。
【0144】
4.培養条件(温度、時間など)に対して厳格な限定はなく、当業者は、初歩的な小規模のパイロット試験データに基づいて、生産量を最も多くする条件を自ら選択することができる。
【0145】
5.一例として、以下の培養条件でロドコッカス・ルーバーを発酵させた。
【0146】
(1)培地組成は、
ペプトン、ビーフブイヨン、塩化ナトリウム、リン酸塩、グリセロール(及び固体培養の場合、必要に応じて寒天)を含む。
【0147】
(2)培養の方法パラメータ:
作業用菌種を再生した後、固体培養媒体に移して3~5日間維持し、次に液体に移して培養し(30~37℃で、3~5日間維持する)、補助材料半連続バッチ供給モードを用いてもよく、バッチ供給モードを用いてもよい。培養期間にpH、細菌密度、溶存酸素、炭素源の消費をモニタリングした。
【0148】
製造例2.菌体の破砕
製造例1で得られた菌を収集し、細胞を粉砕した(例えば、超音波により破砕するが、それに限定されない)。本分野で任意の適切な公知の方法、例えば、CN101250490A又はCN101323865Aにおける方法で菌体を破砕することができる。
【0149】
顕微鏡下で粉砕の状況をチェックし、視野ごとの形状を保った菌の数が5個を超えてはならず、複数(10~30個)の視野をチェックしていずれもこの基準を満たしていれば、合格とする。
【0150】
製造例3.核酸除去、脂質除去、夾雑タンパク質除去、細胞膜除去
1.核酸除去:
破砕後の上澄液を遠心分離し、得られた沈殿物にDNA分解酵素及びRNA分解酵素を添加し、酵素の供給業者が提案する操作に従って核酸を除去した。
【0151】
2.タンパク質除去:
沈殿物に一般的なプロテアーゼ(例えば、トリプシン)を添加し、酵素の供給業者が提案する操作に従ってタンパク質を除去した。
【0152】
3.脂質除去:
沈殿物に有機試薬(例えば、アセトン、エーテル、エタノールのうちの1つ又はそれらの組み合わせであるが、それらに限定されない)を添加し、本分野の一般的な操作に従って脂質を除去した。
【0153】
4.細胞膜除去:
沈殿物にTritonX-100を添加し、本分野の一般的な操作に従って、遠心分離して沈殿物を収集し、PBSで洗浄した。
【0154】
不純物を除去する上記ステップの間で、当業者は、ステップの間に互換性を持たせるように、順序を調整することができると理解すべきである。
【0155】
細胞壁以外の成分を除去した後に、沈殿物を注射用水に再溶解し、使用に備えた。必要に応じて、115℃で20~30分間滅菌し、細胞壁骨格の原液(主に細胞壁骨格及びその組成成分を含む)とすることができる。
【0156】
製造例4.医薬組成物の製造方法
1.液体組成物
製造例3で得られた生成物に賦形剤(例えば、デキストラン40、マンニトール又はトレハロース)を添加した。容器に充填した後、医薬組成物を得た。
【0157】
表4.医薬組成物の製造可能な複数の形態
【表4】
【0158】
2.凍結乾燥粉末組成物
第1項の医薬組成物を凍結乾燥させることで、凍結乾燥粉末(番号がそれぞれ凍結乾燥粉末組成物1~7である)を得た。
【0159】
3.品質検定(凍結乾燥粉末組成物1を例とする)
表5.品質検定項目
【表5】
【0160】
試験例
材料及び方法
1.ヒトAd-MSCの単離培養及び継代
被験対象の脂肪吸引物(年齢範囲25~35歳)から脂肪組織サンプルを取得し、かつAd-MSCを単離培養した。被験対象は、徐州医科大学付属病院の整形外科手術を受けた患者であり、倫理委員会により承認され、患者インフォームドコンセントを得た。
【0161】
得られた新鮮な脂肪組織抽出液を0.25%のパンクレアチン-EDTAで消化し、濾過し、遠心分離して細胞沈殿層を保留し、10%のFBSウシ胎児血清(Gibco)及び1%のペニシリン/ストレプトマイシンを含むDMEM(Invitrogen)培地に添加し、細胞培養シャーレを37℃で、5%COを含むインキュベーターに入れて培養した。その後に、細胞が80%に成長して継代するまで、2~3日ごとにPBSで洗浄した後に培地を交換した。
【0162】
2.細胞活性の測定
対数増殖期のAd-MSCを4×10/ウェルで96ウェルプレートに接種し、DMEM+10%のウシ胎児血清+1%のペニシリン/ストレプトマイシンで共培養し、本願の組成物(組成物1)をPBS液で溶解し、10μg/mlに希釈した。Ad-MSCが接着した後、各測定対象物を、対照、25μl、50μl、75μlの4つの実験群に分けた。それぞれ24h、48h、72h、96h後に各ウェルに10μLのCCK-8試薬を添加し、続いて2hインキュベートした後に450nmの波長下で、酵素結合免疫検出装置を用いて各ウェルの吸光度を測定した。培養時間を横軸とし、細胞数(吸光度)を縦軸として、細胞成長曲線を描画した。
【0163】
3.EdU取り込み実験
Cell-Light EdU 567インビトロイメージングキット(RiboBio)を用いてEdU取り込み分析を行った。対数増殖期のAd-MSCを4×10/ウェルで96ウェルプレートに接種し、10μg/ml、50μlの本願の組成物をAd-MSCに作用し、72h、96h後に各ウェルに100μlのEDU培地を添加し、2時間インキュベートし、PBSで1~2回洗浄した。各ウェルに4%のパラホルムアルデヒド固定液を添加し、室温で30minインキュベートした。次に2mg/mlのグリシン溶液を添加し、5分間振とうした。PBSで洗浄した後、浸透剤を添加し、10min振とうし、PBSで洗浄した。Apollo染色反応液を添加し、暗所で室温で30分間インキュベートした。染色反応溶液を除去し、浸透剤(0.5%のTritonX-100のPBS)を添加し、2~3回振とうし、毎回10分間であり、浸透剤を除去した。PBSで再び洗浄し、Hoechest 33342反応液を添加し、暗所で室温で30分間インキュベートし、反応液を除去した。PBSで1~3回洗浄した後、蛍光顕微鏡で陽性細胞を観察した。
【0164】
4.細胞アポトーシス検出
4.1 フローサイトメトリー:
Ad-MSCが80%成長し融合した場合、1×10/ウェルの密度で6ウェルプレートに接種した。実験を4群に分け、細胞が接着した後、各実験群に100μlの50%ショ糖を添加してAd-MSCの細胞アポトーシスを誘導し、そのうちの2つの実験群にそれぞれ100μl、250μlの10μg/mlの本願の組成物を添加し、48h、72h後に各群の細胞の上澄液をフローサイトメトリーチューブに収集し、接着細胞をEDTAを含まないパンクレアチンで消化して同じ群のフローサイトメトリーチューブに収集し、2000rpmで5min遠心分離し、PBS緩衝液で2回洗浄し、振動して均一に混合し、各チューブに500μlの結合緩衝液(Annexin V-FITC細胞アポトーシス検出キット、上海碧雲天生物技術有限公司)、5μlのFITC、5μlのPIを順に添加し、振動して均一にし、暗所で4℃で5~15minインキュベートし、フローサイトメーターで検出し(BD Biosciences)、結果を分析した。
【0165】
4.2 TUNEL法:
数枚の18mm×18mmのカバーガラスを75%エタノールで浸漬して消毒し、使用時にカバーガラスを6ウェルプレート内に置き、エタノール残留液が完全に除去されるまでPBS緩衝液で数回繰り返して洗浄し、Ad-MSCを6ウェルプレートに培養し、各ウェルの細胞密度が1×10個であり、フローサイトメトリーと同様に実験の群分けを行い、細胞をPBS緩衝液で3回洗浄し、4%パラホルムアルデヒドで室温で30min固定し、細胞をPBS緩衝液で3回洗浄し、0.1%TritionX-100で2℃~8℃の条件下で10minインキュベートし、細胞をPBS緩衝液で3回洗浄し、500μlのTUNEL反応液(TUNELアポトーシスキット、ロシュ社)を調製し、50μlの酵素溶液及び450μlの標識溶液を混合して試薬Aとし、陰性対照群に50μlの試薬Aを添加し、37℃のインキュベーターに置いて暗所で60minインキュベートし、陽性対照群にDNA分解酵素Iを添加し、室温で10minインキュベートし、細胞をPBS緩衝液で3回洗浄し、TUNEL反応混合液を50μl/ウェルで添加し、インキュベーターにおいて暗所で37℃で60minインキュベートし、細胞をPBS緩衝液で3回洗浄し、DAPI染色液を50μl/ウェルで添加し、室温で3minインキュベートし、試料を蛍光顕微鏡下に置いて撮影して分析し、検出用光波長の範囲は570~620nm(最大波長580nm)にする。
【0166】
5.Westernブロット分析
処理済みの細胞を取り出し、各シャーレに300μlの細胞溶解混合液(氷上でPIPA細胞溶解バッファーを溶解し、100:1の比率でPMSFを添加する)を添加し、次に氷上に置いて十分に溶解した後、接着細胞を掻き取り、Centrifuge-5810R凍結高速遠心機を用いて4℃の条件下で、12000rpmで20min遠心分離し、上澄液を収集した。
【0167】
SDS-ポリアクリルアミドゲルで細胞抽出物を分離し、次にタンパク質をニトロセルロースフィルムに移し、かつウサギ抗ヒトカスパーゼ-3モノクローナル抗体(1:400、米国CST社)、ウサギ抗ヒトBaxモノクローナル抗体(1:400、米国CST社)一次抗体と共にインキュベートし、インキュベートが終了した後、5min×3回洗浄し、次に希釈された二次抗体(1:10000)を添加し、暗所で室温で2hインキュベートし、二次抗体を除去して、5min×3回洗浄し、それぞれECL発光液のA液とB液を等量で均一に混合して、ECL作業液として調製した。フィルムにECL作業液を均一に滴下し、TANONゲルイメージング装置に入れて露光現像を行い、撮影し、ImageJソフトウェアで分析した。
【0168】
6.糖尿病性創傷を有する動物モデルの確立
実験動物は、4週齢のBALB/c無胸腺ヌードマウスであり、SPFレベルである。全ての動物研究は、いずれも動物保護及び使用委員会により承認された。実験マウスは、SPFレベルの動物飼育室で飼育する。モデル作成前に、マウスを12h絶食させ、体重を称量し、かつ記録し、2%のSTZ(Sigma)を150mg/kgの投与量で腹腔内注射して、糖尿病マウスを誘導した。
【0169】
注射した後の7日目に血糖を測定し、尾静脈から採血し、血糖計でマウスの血糖濃度を測定し、かつ記録した。7日目からマウスの血糖濃度が16.7mmol/Lより大きく、かつ「多飲、多食、多尿、体重減少」という糖尿病の典型的な症状が現れ、モデル作成が成功したと見なされた。
【0170】
実験動物を、
-ブランク対照群と、
-Ad-MSC群と、
-本願の組成物+Ad-MSC群と、の3群(各群に5匹ある)に分けた。
【0171】
糖尿病マウスのモデルの確立が成功した後、マウスを麻酔し、直径が1.5cmの創傷を作り、前処理されたAd-MSCを複数の部位で皮内注射方式で各群のマウスの皮膚に注入し、各創傷に6つの部位を選択し、各部位に0.1mlの細胞を注射した。表面を無菌ガーゼで覆い、飼育し続けて観察し、LB983生体イメージングシステムを用いて、創傷細胞の生存状況及びマウス皮膚の治癒状況を観察した。
【0172】
7.CM-Dil活細胞染色剤による染色
注射前にCM-DilでAd-MSCを標識した。供給業者が提案する方法に従って、CM-Dil活細胞染色剤を添加し、30分間インキュベートし、遠心分離した後に上澄液を除去して、PBS緩衝液で3回洗浄し、最後に適量のPBSを添加し、均一に混合し、標識されたAd-MSCをアイスボックスに置いて使用に備えた。
【0173】
8.組織に対する免疫蛍光染色
組織パラフィン切片に対して脱パラフィンを行い、3%Hで室温で5~10minインキュベートして、内因性ペルオキシダーゼの活性を除去した。切片を蒸留水で洗浄し、PBSで5min/回で2回浸漬し、10%の正常なヤギ血清(PBSで希釈される)で室温で10min密封し、密封液を除去し、洗浄しない。CD31一次抗体(希釈比率1:300)作業液を滴下し、一晩越した。切片をPBSで5min/回で3回洗浄した。ビオチンで標識された蛍光二次抗体作業液(希釈比率1:400)(暗所)を適量滴下し、暗所で37で1hインキュベートした後、PBSで5min/回で3回洗浄し、適量のDAPI染色液を滴下し、暗所で室温で3minインキュベートし、PBSで5min/回で3回洗浄した。最後に各切片に褪色防止封入液を滴下し、カバーガラスをカバーした後、固定し、暗所で保存した。
【0174】
9.統計分析
SPSSソフトウェア(SPSS16.0)を用いて統計分析を行い、実験結果を平均値±SDで示し、2群の間の比較は、独立サンプルt検定を用い、複数群の平均値の比較は、一元配置分散分析(One-way ANOVA)を用いた。α=0.05を有意水準とし、P<0.05を、統計的有意差があったと見なす。
【0175】
試験例1.ヒトAd-MSCの形態学、表面標識及び分化誘導能力の同定
コラゲナーゼ消化法を用いて、脂肪組織抽出液から抽出して得られた初代Ad-MSCを細胞シャーレに接種し、細胞が80%に成長し融合して継代し、継代後の細胞は、増殖速度が明らかに速くなり、細胞形態が均一で一致し、紡錘状を呈した。P3世代のよく成長したAd-MSCをそれぞれ脂肪生成誘導分化及び骨形成誘導分化に用いた。2週間後、オイルレッドで染色し、顕微鏡で観察し、細胞内にサイズが明らかに一致しない赤色脂肪滴が存在することを示し、アリザリンレッドS染色液で染色すると、明らかな赤色カルシウム結節堆積物を見ることができた。これは、単離して抽出された細胞が幹細胞分化能の特性を有することを示した。
【0176】
フローサイトメーターを用いて6種類の異なる細胞表面標識物を検出した。結果は、CD105、CD90及びCD44が陽性を呈し、CD31、CD34、CD106が陰性を呈することを示した。Ad-MSC免疫表現型の特徴に合致した。
【0177】
試験例2.本願の組成物のAd-MSC活性及び増殖に対する影響
本願の組成物のAd-MSC活性に対する影響を検出するために、それぞれ本願の組成物1がAd-MSCに作用した後の24h、48h、72h、96hに、CCK-8試薬を用いて幹細胞を検出し、450nmの波長下で、酵素結合免疫検出装置を用いて吸光度値を測定した。結果は、濃度が10μg/mlで、体積が50μlである本願の組成物が幹細胞に作用する場合、72h及び96hにAd-MSCの活力が顕著に増強されることを示した(図1)。
【0178】
本願の組成物のAd-MSCの増殖に対する影響を検証するために、10μg/ml、50μlの本願の組成物を幹細胞に作用させた。それぞれ72h、96h後にEDUキットを用いてEdU取り込み分析を行い、蛍光顕微鏡で陽性細胞を観察し、結果は、本願の組成物がAd-MSCの増殖率を向上させることができることを示した(図2)。
【0179】
試験例3.本願の組成物の、高グルコースで誘導されるAd-MSC細胞のアポトーシスに対する抑制
Ad-MSC細胞に高グルコースを添加して細胞アポトーシスを誘導し、それぞれ異なる濃度の本願の組成物1で処理し、48h、72h後にFITC-PIフローサイトメトリーアポトーシス検出キットを用いて細胞アポトーシス状況を検出した。
【0180】
結果は、本願の組成物が高グルコースで誘導される幹細胞のアポトーシスを抑制することができることを示した(図3A図3B)。
【0181】
試験例4.アポトーシス標識物のタンパク質発現レベルの検出
細胞に高グルコースを添加して細胞アポトーシスを誘導し、異なる濃度の本願の組成物でそれぞれ48h、72h処理し、細胞タンパク質を抽出し、Westernブロット実験を行うことにより、c-カスパーゼ-3、Bax(2種の主なアポトーシス標識物)のタンパク質発現レベルを検出し、β-actinを内部標準とした。結果は、本願の組成物で処理された後のc-カスパーゼ-3、Baxのタンパク質発現レベルが低下することを示した(図4A図4B)。
【0182】
試験例5.本願の組成物による、ヌードマウス体内におけるAd-MSCの生存率の向上、創傷治癒の加速
Ad-MSCが糖尿病性創傷を修復し治癒することに対する本願の組成物の影響をさらに研究するために、糖尿病ヌードマウスの体にヒト皮膚の創傷修復メカニズムを模擬する創傷モデルを確立した。
【0183】
糖尿病マウスモデルの確立が成功した後、マウスを麻酔し、直径が1.5cmの創傷を作り、蛍光色素CM-Dilで標識された前処理された細胞を皮内注射方式で処理群のマウスの創傷皮膚に注入し、LB983生体イメージングシステムを用いて、細胞の生存率を検出した。
【0184】
結果は、本願の組成物で処理された処理群のAd-MSCは、単にAd-MSCを用いたAd-MSC群よりも高い生存率を有することを示した(図5A)。また、糖尿病マウスの創傷をAd-MSCで治療する14日間の治癒過程を評価した。ブランク群と比較すると、Ad-MSCで処理されたマウスの創傷の治癒状況が良好であり、本願の組成物で処理された処理群の治癒状況がさらに良好であり、創傷の治癒が加速し(図5B)、創傷の治癒率が向上した(表6)。
【0185】
表6.術後の14日目の創傷治癒状況(平均値±SD、n=3)
【表6】
【0186】
糖尿病性創傷の治癒しにくい原因は多くある。例えば、正常な創傷の治癒過程に必要な細胞及び分子信号が欠失する。また、末梢神経障害、末梢循環損傷、プロテアーゼバランスの乱れは、いずれも糖尿病性創傷が治癒しにくい要因である(Rathur HMら、The diabetic foot.ClinDermatol.2007、25(1):109-120)。更に、高血糖環境下で血管の微環境が異常であり、細胞の成長環境の異常を引き起こし、最終的に創傷の局所的な血管の再構成を妨害する可能性がある(Guo WYら、Acceleration of diabetic wood healing by low-dose radiation is associated with peripheral mobilization of bone marrow stem cells.Radiat Res.2010、174(4):467-479)。また、糖尿病の高血糖状態で創傷組織中の線維芽細胞の数の減少、糖化タンパク質の増加、異常成長因子の発現、炎症過程の遅延及び終末糖化産物の堆積は、いずれも骨髄由来細胞の遊走及び機能に影響を与える(Fiorina Pら、The mobilization and effect of endogenous bone marrow progenitor cells diabetic wound healing.Cell Transplant.2010、19(11):1369-1381)。
【0187】
Ad-MSCは、脂肪組織から抽出された多系列分化能を有する幹細胞である(Kato Yら、Creation and transplantation of an adipose-derived stem cell(ASC)sheetin a diabetic wound-healing model.Jove-J Vis Exp.2017、12(6):1-10)。Ad-MSCは、分化能により損傷部位に遊走し、分化された細胞で損傷皮膚を修復し、様々な成長因子を分泌し(Rehman Jら、Secretion of angiogenic and anti-apoptotic factors by human adipose stromal cells.Circulation.2004、109:1292-8)、創傷血管の生成を加速し、創傷の治癒を促進することができる(Ebrahimian TGら、Cell therapy based on adipose tissue-derived stromal cells promotes physiological and pathological wound healing.Arterioscler Thromb Vasc Biol.2009、29(4):503-510)。
【0188】
また、Ad-MSCが線維芽細胞に分化することができ、形態類似性を表現するだけでなく、線維芽細胞表面タンパク質(ビメンチン及びフィブロネクチンを含む)を発現できる能力を有することを発見した研究者がいる(Kim WSら、Wound healing effect of adipose-derived stem cells:a critical role of secretory factors on human dermal fibroblasts.J Dermatol Sci.2007、48:15-24)。また、Ad-MSCは、線維芽細胞及びケラチノサイトに直接的に変換して創傷を修復することができる(Unnikrishnan Sら、Constitution of fibrin-based niche for in vitro differentiation of adipose-derived mesenchymal stem cells to keratinocytes.Biores Open Access.2014、3(6):339-347)。しかしながら、前の研究によると、多くのAd-MSCが糖尿病マウスの創傷に注射された後にアポトーシスが発生し、創傷治癒の遅延をもたらすことを発見した。高グルコース環境下で培養されたAd-MSC細胞は、アポトーシスが発生し、かつ時間依存性を有する(Li Qら、Stromal cell-derived factor-1promotes human adipose tissue-derived stem cell survival and chronic wound healing.Exp Ther Med.2016、12:45-50)を有する。
【0189】
本試験例において、CCK-8、EdUにより、本願の組成物のAd-MSCのインビトロ活性、増殖能力に対する影響を検出した。結果は、本願の組成物がAd-MSCの活性及び増殖能力を向上させることができることを示した。フローサイトメトリーで細胞のアポトーシス状況を検出し、本願の組成物が高グルコースで誘導されたAd-MSCのアポトーシスを抑制し、かつ時間及び濃度依存性を有することを発見した。
【0190】
動物体内で本願の組成物のAd-MSCの生存率に対する影響を検出し、結果は、本願の組成物で処理された後のAd-MSCを用いると、単にAd-MSCを応用する場合より生存率が高く、創傷の治癒速度がより速いことを示した。
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
【国際調査報告】