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特表2023-510266合成アデノ随伴ウイルス逆位末端反復、およびプロモーターとしてのそれらの使用の方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-13
(54)【発明の名称】合成アデノ随伴ウイルス逆位末端反復、およびプロモーターとしてのそれらの使用の方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/11 20060101AFI20230306BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20230306BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20230306BHJP
   C12N 15/85 20060101ALN20230306BHJP
   C12N 15/861 20060101ALN20230306BHJP
   C12N 15/869 20060101ALN20230306BHJP
【FI】
C12N15/11 Z ZNA
C12N15/864 100Z
C12N7/01
C12N15/85 Z
C12N15/861 Z
C12N15/869 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022541983
(86)(22)【出願日】2021-01-07
(85)【翻訳文提出日】2022-09-07
(86)【国際出願番号】 US2021012514
(87)【国際公開番号】W WO2021142130
(87)【国際公開日】2021-07-15
(31)【優先権主張番号】62/957,882
(32)【優先日】2020-01-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500093834
【氏名又は名称】ザ・ユニヴァーシティ・オヴ・ノース・キャロライナ・アト・チャペル・ヒル
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100180231
【弁理士】
【氏名又は名称】水島 亜希子
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】サムルスキ,リチャード・ジュード
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA95X
4B065AB01
4B065BA01
4B065CA60
(57)【要約】
本発明は、アデノ随伴ウイルス(AAV)合成逆位末端反復(ITR)を含む方法および組成物であって、ITRは改変されたプロモーター転写機能を有し得る、方法および組成物を提供する。それを含むベクターおよびウイルス粒子、ならびにそれらの使用の方法が付加的に提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの合成アデノ随伴ウイルス(AAV)逆位末端反復(ITR)を含むポリヌクレオチドであって、前記ITRは、
(a)AAV rep結合エレメント(RBE);
(b)Bループ;
(c)Cループ;
(d)1つまたは複数のニッキング-ステムループ;
(e)D領域;
(f)AAV末端分解配列;および
(g)AAV RBE’エレメント
を含み、
(a)~(g)は、AAV2またはAAV3ではない任意のAAV血清型由来のものであり、
(i)前記RBE’エレメントは、ヌクレオチド位置73~75に相当する位置に非相補的ループTTT配列を含み、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づき;
(ii)前記Bループは、ヌクレオチド位置43~61に相当する位置に、ITR2もしくはITR3のBループのヌクレオチド配列と80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づき;
(iii)前記Cループは、ヌクレオチド位置65~83に相当する位置に、ITR2もしくはITR3のCループのヌクレオチド配列と80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づき;
(iv)前記D領域は、ヌクレオチド位置125~145に相当する位置に、ITR2もしくはITR3のD領域のヌクレオチド配列と80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づき;ならびに/または
(v)前記1つもしくは複数のニッキング-ステムループの少なくとも1つは、ヌクレオチド位置4に相当する位置にG置換および/もしくはヌクレオチド位置122に相当する位置にC置換を含み、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づく、
ポリヌクレオチド。
【請求項2】
前記ITRは、野生型(非改変)AAV血清型ITRと比べて増強した転写機能を有する、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項3】
少なくとも1つの合成アデノ随伴ウイルス(AAV)逆位末端反復(ITR)を含むポリヌクレオチドであって、前記ITRは、
(a)AAV rep結合エレメント(RBE);
(b)Bループ;
(c)Cループ;
(d)1つまたは複数のニッキング-ステムループ;
(e)D領域;
(f)AAV末端分解配列;および
(g)AAV RBE’エレメント
を含み;
(a)~(g)は、AAV1またはAAV6ではない任意のAAV血清型由来のものであり、
(i)前記RBE’エレメントは、ヌクレオチド位置73~75に相当する位置に非相補的ループTCT配列を含み、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づき;
(ii)前記Bループは、ヌクレオチド位置43~61に相当する位置に、ITR1もしくはITR6のBループのヌクレオチド配列と80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づき;
(iii)前記Cループは、ヌクレオチド位置65~83に相当する位置に、ITR1もしくはITR6のCループのヌクレオチド配列と80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づき;
(iv)前記D領域は、ヌクレオチド位置125~145に相当する位置に、ITR1もしくはITR6のD領域のヌクレオチド配列と80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づき;ならびに/または
(v)前記1つもしくは複数のニッキング-ステムループの少なくとも1つは、ヌクレオチド位置4に相当する位置にC置換および/もしくはヌクレオチド位置122に相当する位置にG置換を含み、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づく、
ポリヌクレオチド。
【請求項4】
前記ITRは、野生型(非改変)AAV血清型ITRと比べて低下した転写機能を有する、請求項3に記載のポリヌクレオチド。
【請求項5】
(a)~(g)は、同じAAV由来のものである、請求項1から4のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項6】
(a)~(g)は、異なるAAV由来のものである、請求項1から4のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項7】
前記ITRは非AAVシスエレメントをさらに含む、請求項1から6のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項8】
前記非AAVシスエレメントは、プロモーター、エンハンサー、クロマチン付着配列、テロメア配列、マイクロRNA、およびこれらの組合せからなる群から選択される、請求項7に記載のポリヌクレオチド。
【請求項9】
前記非AAVシスエレメントはプロモーターを含まない、請求項7に記載のポリヌクレオチド。
【請求項10】
1種または複数のインシュレーター配列をさらに含む、請求項1から9のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項11】
異種ヌクレオチド配列をさらに含む、請求項1から10のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを含む、ウイルスベクター。
【請求項13】
AAVベクターである、請求項12に記載のウイルスベクター。
【請求項14】
請求項1から11のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを含む、組換えAAV粒子。
【請求項15】
任意のAAV血清型由来のITRまたは請求項1から11のいずれか1項に規定の合成ITRを含むキメラAAV粒子であって、付加的なAAVシスエレメントは、前記ITRとは異なるAAV血清型由来のものである、キメラAAV粒子。
【請求項16】
請求項11に記載のポリヌクレオチドを細胞に導入することを含む、細胞において異種ヌクレオチド配列を転写する方法。
【請求項17】
前記ポリヌクレオチドは付加的な非AAVシスプロモーターを含まない、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
請求項14または15に記載の組換えAAV粒子を細胞に導入することを含む、細胞に核酸を送達する方法。
【請求項19】
組換えAAV鋳型の複製およびパッケージングに十分な条件下で、AAV複製に寛容な細胞に、
(a)(i)異種核酸および(ii)請求項1から11のいずれか1項に規定の合成ITR、を含む組換えAAV鋳型;ならびに
(b)Repコード配列およびCapコード配列を含むポリヌクレオチド
を提供するステップを含み、
それによって組換えAAV粒子が前記細胞において産生される、
組換えAAV粒子を産生する方法。
【請求項20】
組換えAAV鋳型の複製およびパッケージングに十分な条件下で、AAV複製に寛容な細胞に、
(a)(i)異種核酸および(ii)任意のAAV血清型由来の野生型ITRまたは請求項1から11のいずれか1項に規定の合成ITR、を含む組換えAAV鋳型;ならびに
(b)Repコード配列およびCapコード配列を含むポリヌクレオチドであって、前記RepおよびCapコード配列は、異なるAAV血清型由来のものである、ポリヌクレオチド
を提供するステップを含み、
それによって組換えAAV粒子が前記細胞において産生される、
組換えAAV粒子を産生する方法。
【請求項21】
前記Repコード配列およびCapコード配列は、前記組換えAAV粒子にパッケージされ得ない、請求項19または20に記載の方法。
【請求項22】
前記Repコード配列および/またはCapコード配列は、プラスミドによって提供される、請求項19から21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記Repコード配列および/またはCapコード配列は、ウイルスベクターによって提供される、請求項19から22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記ウイルスベクターは、アデノウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、エプスタイン・バールウイルスベクター、およびバキュロウイルスベクターからなる群から選択される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記Repコード配列は、前記細胞のゲノムに安定に組み込まれる、請求項19から24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記Capコード配列は、前記細胞のゲノムに安定に組み込まれる、請求項19から25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記組換えAAV鋳型は、プラスミドおよび/もしくはウイルスベクターによって提供される、またはプロウイルスとして前記細胞のゲノムに安定に組み込まれる、請求項19から25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
AAV粒子ベクターゲノムが細胞に入るのに十分な条件下で、請求項14または15に記載の組換えAAV粒子と接触している細胞を哺乳類対象に投与することを含む、哺乳類対象に核酸を投与する方法。
【請求項29】
前記細胞は、神経細胞、肺細胞、網膜細胞、上皮細胞、平滑筋細胞、骨格筋細胞、心臓筋細胞、膵臓細胞、肝細胞、腎臓細胞、心筋細胞、骨細胞、脾臓細胞、ケラチノサイト、線維芽細胞、内皮細胞、前立腺細胞、生殖細胞、前駆細胞、幹細胞、がん細胞、および腫瘍細胞からなる群から選択される、請求項19から28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
請求項14または15に記載の組換えAAV粒子を哺乳類対象に投与することを含む、哺乳類対象に核酸を投与する方法。
【請求項31】
前記組換えAAV粒子は、1×10vg/kg~約1×1015vg/kgの用量域で前記哺乳類対象に投与される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記哺乳類対象はヒト対象である、請求項28、30、または31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記AAV粒子は、経口、直腸、経粘膜、経皮、吸入、静脈内、皮下、皮内、頭蓋内、筋肉内、内皮内、硝子体内、網膜下、関節内投与、およびこれらの任意の組合せからなる群から選択される経路によって投与される、請求項28または30から32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
前記AAV粒子は、腫瘍、脳、骨格筋、平滑筋、心臓、横隔膜、気道上皮、肝臓、腎臓、脾臓、膵臓、皮膚、目、およびこれらの任意の組合せからなる群から選択される部位で前記対象に投与される、請求項28または30から33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
前記哺乳類対象は、請求項1から11のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを含まないAAV粒子と比較して、前記AAV粒子に対する低下した免疫応答を有する、請求項28または30から34のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
野生型(非改変)逆位末端反復(ITR)と比べて、アデノ随伴ウイルス(AAV)ITRのプロモーター機能を増強する方法であって、前記ITRは、
(a)AAV rep結合エレメント(RBE);
(b)Bループ;
(c)Cループ;
(d)1つまたは複数のニッキング-ステムループ;
(e)D領域;
(f)AAV末端分解配列;および
(g)AAV RBE’エレメント
を含み、
(a)~(g)は、
(i)ヌクレオチド位置73~75に相当する位置における非相補的ループTTT配列であり、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づく、非相補的ループTTT配列;
(ii)ヌクレオチド位置43~61に相当する位置にITR2もしくはITR3のBループのヌクレオチド配列と80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列であり、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づく、ヌクレオチド配列;
(iii)ヌクレオチド位置65~83にITR2もしくはITR3のCループのヌクレオチド配列と80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列であり、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づく、ヌクレオチド配列;
(iv)ヌクレオチド位置125~145にITR2もしくはITR3のD領域のヌクレオチド配列と80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列であり、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づく、ヌクレオチド配列;ならびに/または
(v)ヌクレオチド位置4におけるG置換および/もしくはヌクレオチド位置122におけるC置換であり、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づく、置換、
のうちの1つまたは複数を置換することを含む、AAV2またはAAV3ではない任意のAAV血清型由来のものである
方法。
【請求項37】
野生型(非改変)逆位末端反復(ITR)と比べて、アデノ随伴ウイルス(AAV)ITRのプロモーター機能を低下させる方法であって、前記ITRは、
(a)AAV rep結合エレメント(RBE);
(b)Bループ;
(c)Cループ;
(d)1つまたは複数のニッキング-ステムループ;
(e)D領域;
(f)AAV末端分解配列;および
(g)AAV RBE’エレメント
を含み、
(a)~(g)は、
(i)ヌクレオチド位置73~75に相当する位置における非相補的ループTCT配列であり、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づく、非相補的ループTCT配列;
(ii)ヌクレオチド位置43~61にITR1もしくはITR6のBループのヌクレオチド配列と80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列であり、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づく、ヌクレオチド配列;
(iii)ヌクレオチド位置65~83にITR1もしくはITR6のCループのヌクレオチド配列と80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列であり、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づく、ヌクレオチド配列;
(iv)ヌクレオチド位置125~145にITR1もしくはITR6のD領域のヌクレオチド配列と80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列であり、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づく、ヌクレオチド配列;ならびに/または
(v)ヌクレオチド位置4におけるC置換および/もしくはヌクレオチド位置122におけるG置換であり、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づく、置換、
のうちの1つまたは複数を置換することを含む、AAV1またはAAV6ではない任意のAAV血清型由来のものである
方法。
【請求項38】
改変前の前記(非改変)ITRは、高い転写活性を有した、請求項36に記載の方法。
【請求項39】
改変前の前記(非改変)ITRは、低い転写活性を有した、請求項37に記載の方法。
【請求項40】
前記ITR内のCpGアイランドおよび/またはC-Gジヌクレオチド頻度を改変することをさらに含む、請求項36から39のいずれか1項に記載の方法。
【請求項41】
ITR双方向性活性が弱められ、免疫応答が軽減される、請求項36から40のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権の声明
本出願は、米国特許法第119条(e)の下で、2020年1月7日に出願された米国仮出願第62/957,882号の利益を主張するものであり、その全内容は引用することにより本明細書の一部をなすものとする。
【0002】
政府支援の声明
本発明は、米国国立衛生研究所によって授与された助成金第RO1AI072176-06A号および第RO1AR064369-01A号の下で政府支援により行われた。政府は、本発明におけるある特定の権利を有する。
【0003】
配列表の電子出願に関する声明
2021年1月7日に作成された、サイズが3,464バイトの5470.875.WO_ST25.txtと題された、米国特許規則1.821の下で提出され、EFS-Webを介して出願されたASCIIテキスト形式での配列表が、紙複製物の代わりに提供される。この配列表は、その開示に対する本明細書への参照により本明細書によって本明細書に組み入れられる。
【0004】
本発明は、アデノ随伴ウイルス(AAV)由来の合成逆位末端反復(ITR)、ウイルスカプシド、およびそれを含むウイルスベクター、ならびにそれらの使用の方法に関する。
【背景技術】
【0005】
アデノ随伴ウイルスベクターは、効率的な遺伝子送達のために実験室および臨床設定において使用されている。これらのベクターでは、AAVゲノムの96%が、目的の遺伝子カセットで置き換えられ、145塩基対の逆位末端反復配列のみを残す。主としてAAV血清型2由来のこれらのシスエレメントは、ゲノムレスキュー、複製、パッケージング、およびベクター持続性に要される。AAV2 ITR配列は、治療的適用における意図される導入遺伝子発現を混乱させ得る固有の転写活性を有する。
【0006】
本発明は、改変されたプロモーター機能を有する合成逆位末端反復、これらのITRを含むAAVベクター、および遺伝子療法におけるそれらの使用のための方法を提供することによって、当技術分野におけるこれまでの欠点を克服する。
【発明の概要】
【0007】
本発明の第1の態様は、少なくとも1つの合成アデノ随伴ウイルス(AAV)逆位末端反復(ITR)を含むポリヌクレオチドであって、ITRは、(a)AAV rep結合エレメント(RBE);(b)Bループ;(c)Cループ;(d)1つまたは複数のニッキング-ステムループ;(e)D領域;(f)AAV末端分解配列(terminal resolution sequence);および(g)AAV RBE’エレメント、を含み、(a)~(g)は、AAV2またはAAV3ではない任意のAAV血清型由来のものであり、(i)RBE’エレメントは、ヌクレオチド位置73~75に相当する位置に非相補的ループTTT配列を含み、ヌクレオチド番号付けは配列番号1(AAV2)のヌクレオチド配列に基づき;(ii)Bループは、ヌクレオチド位置43~61に相当する位置に、ITR2もしくはITR3(すなわち、それぞれAAV2またはAAV3のITR)のBループのヌクレオチド配列と80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づき;(iii)Cループは、ヌクレオチド位置65~83に相当する位置に、ITR2もしくはITR3のCループのヌクレオチド配列と80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づき;(iv)D領域は、ヌクレオチド位置125~145に相当する位置に、ITR2もしくはITR3のD領域のヌクレオチド配列と80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づき;ならびに/または(v)1つもしくは複数のニッキング-ステムループの少なくとも1つは、ヌクレオチド位置4に相当する位置にG置換および/もしくはヌクレオチド位置122に相当する位置にC置換(例えば、C4Gおよび/またはG122C)を含み、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づく、ポリヌクレオチドを提供する。
【0008】
本発明の第2の態様は、少なくとも1つの合成アデノ随伴ウイルス(AAV)逆位末端反復(ITR)を含むポリヌクレオチドであって、ITRは、(a)AAV rep結合エレメント(RBE);(b)Bループ;(c)Cループ;(d)1つまたは複数のニッキング-ステムループ;(e)D領域;(f)AAV末端分解配列;および(g)AAV RBE’エレメント、を含み、(a)~(g)は、AAV1またはAAV6ではない任意のAAV血清型由来のものであり、(i)RBE’エレメントは、ヌクレオチド位置73~75に相当する位置に非相補的ループTCT配列を含み、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づき;(ii)Bループは、ヌクレオチド位置43~61に相当する位置に、ITR1もしくはITR6(すなわち、AAV1またはAAV6のITR)のBループのヌクレオチド配列と80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づき;(iii)Cループは、ヌクレオチド位置65~83に相当する位置に、ITR1もしくはITR6のCループのヌクレオチド配列と80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づき;(iv)D領域は、ヌクレオチド位置125~145に相当する位置に、ITR1もしくはITR6のD領域のヌクレオチド配列と80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づき;ならびに/または(v)1つもしくは複数のニッキング-ステムループの少なくとも1つは、ヌクレオチド位置4に相当する位置にC置換および/もしくはヌクレオチド位置122に相当する位置にG置換(例えば、G4Cおよび/またはC122G)を含み、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づく、ポリヌクレオチドを提供する。
【0009】
本発明の付加的な態様は、本発明のポリヌクレオチドを含むベクター、組換えAAV粒子、およびキメラAAV粒子に関する。
【0010】
本発明の別の態様は、本発明のポリヌクレオチドを細胞に導入することを含む、細胞において異種ヌクレオチド配列を転写する方法を提供する。
【0011】
本発明の別の態様は、本発明の組換えAAV粒子を細胞に導入することを含む、細胞に核酸を送達する方法を提供する。
【0012】
本発明の付加的な態様は、組換えAAV鋳型の複製およびパッケージングに十分な条件下で、AAV複製に寛容な細胞に、(a)(i)異種核酸および(ii)本発明の合成ITR、を含む組換えAAV鋳型;ならびに(b)Repコード配列およびCapコード配列を含むポリヌクレオチド、を提供するステップを含み、それによって組換えAAV粒子が細胞において産生される、組換えAAV粒子を産生する方法を提供する。
【0013】
本発明の付加的な態様は、組換えAAV鋳型の複製およびパッケージングに十分な条件下で、AAV複製に寛容な細胞に、(a)(i)異種核酸および(ii)任意のAAV血清型由来の野生型ITRまたは本発明の合成ITR、を含む組換えAAV鋳型;ならびに(b)Repコード配列およびCapコード配列を含むポリヌクレオチドであって、RepおよびCapコード配列は、異なるAAV血清型由来のものである、ポリヌクレオチド、を提供するステップを含み、それによって組換えAAV粒子が細胞において産生される、組換えAAV粒子を産生する方法を提供する。
【0014】
本発明の別の態様は、AAV粒子ベクターゲノムが細胞に入るのに十分な条件下で、本発明の組換えAAV粒子と接触している細胞を哺乳類対象に投与することを含む、哺乳類対象に核酸を投与する方法を提供する。
【0015】
本発明の別の態様は、本発明の組換えAAV粒子を哺乳類対象に投与することを含む、哺乳類対象に核酸を投与する方法を提供する。
【0016】
本発明のさらなる態様は、野生型(例えば、非改変)逆位末端反復(ITR)と比べて、アデノ随伴ウイルス(AAV)ITRのプロモーター機能を増強する方法であって、ITRは、(a)AAV rep結合エレメント(RBE);(b)Bループ;(c)Cループ;(d)1つまたは複数のニッキング-ステムループ;(e)D領域;(f)AAV末端分解配列;および(g)AAV RBE’エレメント、を含み、(a)~(g)は、AAV2またはAAV3ではない任意のAAV血清型由来のものであり、(i)ヌクレオチド位置73~75に相当する位置における非相補的ループTTT配列であり、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づく、非相補的ループTTT配列;(ii)ヌクレオチド位置43~61に相当する位置に、ITR2もしくはITR3(すなわち、それぞれAAV2またはAAV3のITR)のBループのヌクレオチド配列と80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列であり、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づく、ヌクレオチド配列;(iii)ヌクレオチド位置65~83に、ITR2もしくはITR3のCループのヌクレオチド配列と80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列であり、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づく、ヌクレオチド配列;(iv)ヌクレオチド位置125~145に、ITR2もしくはITR3のD領域のヌクレオチド配列と80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列であり、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づく、ヌクレオチド配列;ならびに/または(v)ヌクレオチド位置4におけるG置換および/もしくはヌクレオチド位置122におけるC置換(例えば、C4Gおよび/またはG122C)であり、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づく、置換、のうちの1つまたは複数を置換することを含む、方法を提供する。
【0017】
本発明のさらなる態様は、野生型(例えば、非改変)逆位末端反復(ITR)と比べて、アデノ随伴ウイルス(AAV)ITRのプロモーター機能を低下させる方法であって、ITRは、(a)AAV rep結合エレメント(RBE);(b)Bループ;(c)Cループ;(d)1つまたは複数のニッキング-ステムループ;(e)D領域;(f)AAV末端分解配列;および(g)AAV RBE’エレメント、を含み、(a)~(g)は、AAV1またはAAV6ではない任意のAAV血清型由来のものであり、(i)ヌクレオチド位置73~75に相当する位置における非相補的ループTCT配列であり、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づく、非相補的ループTCT配列;(ii)ヌクレオチド位置43~61に、ITR1もしくはITR6(すなわち、AAV1またはAAV6のITR)のBループのヌクレオチド配列と80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列であり、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づく、ヌクレオチド配列;(iii)ヌクレオチド位置65~83に、ITR1もしくはITR6のCループのヌクレオチド配列と80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列であり、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づく、ヌクレオチド配列;(iv)ヌクレオチド位置125~145に、ITR1もしくはITR6のD領域のヌクレオチド配列と80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列であり、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づく、ヌクレオチド配列;ならびに/または(v)ヌクレオチド位置4におけるC置換および/もしくはヌクレオチド位置122におけるG置換(例えば、G4Cおよび/またはC122G)であり、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づく、置換、のうちの1つまたは複数を置換することを含む、方法を提供する。
【0018】
本発明のこれらのおよび他の態様は、下で示される本発明の説明においてより詳細に対処される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1A】血清型1~4、6、および7由来のAAV ITRの配列および構造の略図である。太字のRep結合エレメント(RBE)およびRBE’を有する、AAV2 ITR(「ITR2」)(配列番号1)の略図を示す。末端分解ニッキング部位TTジヌクレオチドは赤色である。
図1B】血清型1~4、6、および7由来のAAV ITRの配列および構造の略図である。コンセンサスITR配列(配列番号7)の略図を示す。ITR配列1~4、6~7間のヌクレオチド差の配置は、赤色で強調されている。赤色のヌクレオチドはIUPACコードにあり、YはCまたはTであり、RはAまたはGであり、SはGまたはCであり、WはAまたはTであり、KはGまたはTであり、MはAまたはCであり、BはGまたはTまたはCであり、VはGまたはCまたはAであり、Nは任意のヌクレオチドである。色付きの輪郭は、ITRにおけるA(黒色)、B(青色)、C(灰色)、およびD(緑色)領域を表す。
図1C】血清型1~4、6、および7由来のAAV ITRの配列および構造の略図である。ITR1(配列番号2)、3(配列番号3)、4(配列番号4)、6(配列番号5)、および7(配列番号6)の配列および構造の略図を示す。太字の文字は、ITR配列間の保存されていないヌクレオチドを表す。
図2A】AAV(1~4、6~7)/2-ITR-ルシフェラーゼベクターを感染させた細胞株からのルシフェラーゼ活性のグラフである。AAV2/2-ITR-ルシフェラーゼまたはAAV2/2-CBA-ルシフェラーゼを1E5vg/細胞で感染させたHEK293細胞のグラフを示す。感染の2日後に、細胞を溶解し、ルシフェラーゼ活性をルシフェリン基質を使用して測定した。示された値は、生のRLUである。
図2B】AAV(1~4、6~7)/2-ITR-ルシフェラーゼベクターを感染させた細胞株からのルシフェラーゼ活性のグラフである。AAV1/2-ITR-ルシフェラーゼ、AAV2/2-ITR-ルシフェラーゼ、またはAAV7/2-ITR-ルシフェラーゼを2E5vg/細胞で感染させた表示される細胞株のグラフを示す。感染の2日後に、細胞を溶解し、ルシフェラーゼ活性をルシフェリン基質を使用して測定した。RLU値を、BCAによって測定される、ルシフェラーゼアッセイに添加された総細胞タンパク質に対して正規化し、次いですべての値をITR2に対して正規化した。各AAVN/2-ITR-ルシフェラーゼを三つ組のバッチで作製し、一緒に力価測定し、次いで細胞を三つ組で感染させた。
図2C】AAV(1~4、6~7)/2-ITR-ルシフェラーゼベクターを感染させた細胞株からのルシフェラーゼ活性のグラフである。AAV1/2-ITR-ルシフェラーゼ、AAV2/2-ITR-ルシフェラーゼ、またはAAV7/2-ITR-ルシフェラーゼを2E5vg/細胞で感染させた表示される細胞株のグラフを示す。感染の2日後に、細胞を溶解し、ルシフェラーゼ活性をルシフェリン基質を使用して測定した。RLU値を、BCAによって測定される、ルシフェラーゼアッセイに添加された総細胞タンパク質に対して正規化し、次いですべての値をITR2に対して正規化した。各AAVN/2-ITR-ルシフェラーゼを三つ組のバッチで作製し、一緒に力価測定し、次いで細胞を三つ組で感染させた。
図2D】AAV(1~4、6~7)/2-ITR-ルシフェラーゼベクターを感染させた細胞株からのルシフェラーゼ活性のグラフである。AAV1/2-ITR-ルシフェラーゼ、AAV2/2-ITR-ルシフェラーゼ、またはAAV7/2-ITR-ルシフェラーゼを2E5vg/細胞で感染させた表示される細胞株のグラフを示す。感染の2日後に、細胞を溶解し、ルシフェラーゼ活性をルシフェリン基質を使用して測定した。RLU値を、BCAによって測定される、ルシフェラーゼアッセイに添加された総細胞タンパク質に対して正規化し、次いですべての値をITR2に対して正規化した。各AAVN/2-ITR-ルシフェラーゼを三つ組のバッチで作製し、一緒に力価測定し、次いで細胞を三つ組で感染させた。
図2E】AAV(1~4、6~7)/2-ITR-ルシフェラーゼベクターを感染させた細胞株からのルシフェラーゼ活性のグラフである。AAV1/2-ITR-ルシフェラーゼ、AAV2/2-ITR-ルシフェラーゼ、AAV3/2-ITR-ルシフェラーゼ、AAV4/2-ITR-ルシフェラーゼ、またはAAV6/2-ITR-ルシフェラーゼを2E5vg/細胞で感染させた表示される細胞株のグラフを示す。感染の2日後に、細胞を溶解し、ルシフェラーゼ活性をルシフェリン基質を使用して測定した。RLU値を、BCAによって測定される、ルシフェラーゼアッセイに添加された総細胞タンパク質に対して正規化し、次いですべての値をITR2に対して正規化した。各AAVN/2-ITR-ルシフェラーゼを三つ組のバッチで作製し、一緒に力価測定し、次いで細胞を三つ組で感染させた。p値は、*<0.0001、#<0.001、および^<0.01として表示されている。
図2F】AAV(1~4、6~7)/2-ITR-ルシフェラーゼベクターを感染させた細胞株からのルシフェラーゼ活性のグラフである。AAV1/2-ITR-ルシフェラーゼ、AAV2/2-ITR-ルシフェラーゼ、AAV3/2-ITR-ルシフェラーゼ、AAV4/2-ITR-ルシフェラーゼ、またはAAV6/2-ITR-ルシフェラーゼを2E5vg/細胞で感染させた表示される細胞株のグラフを示す。感染の2日後に、細胞を溶解し、ルシフェラーゼ活性をルシフェリン基質を使用して測定した。RLU値を、BCAによって測定される、ルシフェラーゼアッセイに添加された総細胞タンパク質に対して正規化し、次いですべての値をITR2に対して正規化した。各AAVN/2-ITR-ルシフェラーゼを三つ組のバッチで作製し、一緒に力価測定し、次いで細胞を三つ組で感染させた。p値は、*<0.0001、#<0.001、および^<0.01として表示されている。
図2G】AAV(1~4、6~7)/2-ITR-ルシフェラーゼベクターを感染させた細胞株からのルシフェラーゼ活性のグラフである。
図3】AAV1/1およびAAV2/1-ITR-ルシフェラーゼベクターを感染させたHEK293細胞からのルシフェラーゼ活性のグラフである。HEK293細胞に、AAV1/1、AAV2/1、AAV1/2、またはAAV2/2-ITR-ルシフェラーゼベクターの3つの生物学的複製物を2E5vg/細胞で三つ組で感染させた。感染の2日後に、細胞を溶解し、ルシフェラーゼ活性をルシフェリン基質を使用して測定した。RLU値を、BCAによって測定される、ルシフェラーゼアッセイに添加された総細胞タンパク質に対して正規化し、次いですべての値を各カプシド群内でITR2値に対して正規化した(すなわち、AAV1/1およびAAV2/1をAAV2/1に対して正規化した。AAV1/2およびAAV2/2をAAV2/2に対して正規化した)。AAV1/1対AAV1/2間に統計的な差はない。
図4A】ルシフェラーゼmRNAを促進したITR1~4、6、または7(配列番号1~6)由来の転写スタート部位(TSS)の略図である。HEK293細胞に、AAV(1~4、6、または7)/2-ITR-ルシフェラーゼを2E5vg/細胞で感染させ、感染の3日後に総RNAを収穫した。ルシフェラーゼ特異的プライマーを使用してRNAを逆転写した。最終cDNA産物をNGSによって分析した。黒色の矢印は、リード配列の1%またはそれよりも高い割合を有するTSSを表示している。RBE’およびRBEは太字で表示されている。trsは赤色で表されている。
図4B】ITR2(配列番号1)における推定転写因子結合部位を表示する略図である。
図4C】mRNAを促進したITR2(配列番号1)またはITR7(配列番号6)由来の転写スタート部位を同定する概略である。HEK293細胞に、AAV2/2(上)またはAAV7/2-ITR-ルシフェラーゼ(下)を感染させ、感染の3日後に総RNAを収穫した。ルシフェラーゼ特異的プライマーを使用してRNAを逆転写した。最終cDNA産物を次世代シーケンシングによって分析した。矢印はTSSを表示しており、矢印の上の数字は、その部位まで遡られ得た転写物の数を表示している。
図5A】ルシフェラーゼアッセイの画像である。AAV(1~4、6)/9-ITR-creリコンビナーゼを注射されたマウスからのルシフェラーゼ活性。4~6週齢の雄のFVB.129S6(B6)-Gt(ROSA)26Sortm1(Luc)Kael/Jマウスに、100μlの1E9vgのAAV(1~4、6)/9-ITR-creリコンビナーゼを注射した。AAV注射の3週間後に、マウスに100μlのルシフェラーゼ基質を腹腔内投与で与え、光子を記録した。
図5B】ルシフェラーゼアッセイの画像である。AAV(1~4、6)/9-ITR-creリコンビナーゼを注射されたマウスからのルシフェラーゼ活性。4~6週齢の雄のFVB.129S6(B6)-Gt(ROSA)26Sortm1(Luc)Kael/Jマウスに、100μlの1E9vgのAAV(1~4、6)/9-ITR-creリコンビナーゼを注射した。AAV注射の9週間後に、マウスに100μlのルシフェラーゼ基質を腹腔内投与で与え、光子を記録した。
【発明を実施するための形態】
【0020】
発明の詳細な説明
本発明は、ここで、本発明の代表的な実施形態が示される添付の図面を参照して記載されるであろう。しかしながら、本発明は、種々の形態で具体化され得、本明細書に示される実施形態に限定されると解釈されるべきではない。むしろ、これらの実施形態は、本開示が徹底的でありかつ完全であろうように、および本発明の範囲を当業者に十分に伝えるであろうように提供される。
【0021】
別様に定義されない限り、本明細書において使用されるすべての技術的および科学的用語は、本発明が属する当業者によって共通に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書における本発明の説明において使用される学術用語は、単に特定の実施形態を記載する目的のためのものであり、本発明を限定することを意図されるわけではない。本明細書において言及されるすべての刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献は、引用することにより本明細書の一部をなすものとする。
【0022】
定義
「a」、「an」、および「the」という単数形は、文脈上別様にはっきりと示されない限り、複数形も含むことを意図される。
【0023】
さらには、例えば、ポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列の長さの量、用量、時間、温度等の量等、測定可能な値に言及する場合に本明細書において使用される「約」という用語は、指定の量の±20%、±10%、±5%、±1%、±0.5%、またはさらに±0.1%の変動を包含することを意図される。
【0024】
また本明細書において使用するとき、「および/または」は、関連する列挙された品目のうちの1つまたは複数のありとあらゆる考え得る組合せ、ならびに選択肢(「または」)で解釈される場合には組合せがないことを指しかつ包含する。
【0025】
文脈上別様に示されない限り、本明細書に記載される本発明の様々な特質は、任意の組合せで使用され得ることが具体的に意図される。
【0026】
さらに、本発明は、本発明の一部の実施形態において、本明細書に示される任意の特質または特質の組合せが除外され得るまたは削除され得ることも企図する。
【0027】
さらに例示するために、例えば、本明細書が、特定のアミノ酸はA、G、I、L、および/またはVから選択され得ることを示す場合、この言葉は、該アミノ酸が、これらのアミノ酸の任意の部分集合、例えばA、G、I、またはL;A、G、I、またはV;AまたはG;Lのみ等から、あたかもそれぞれそのような部分的組合せが本明細書に明示的に示されるかのように選択され得ることも示す。さらに、そのような言葉は、指定のアミノ酸の1つまたは複数が放棄され得ることも示す。例えば、特定の実施形態において、あたかもそれぞれそのような考え得る放棄が本明細書に明示的に示されるかのように、アミノ酸はA、G、またはIではない;Aではない;GまたはVではない等。
【0028】
本明細書において使用するとき、「低下させる(reduce)」、「低下させる(reduces)」、「低下」という用語および同様の用語は、少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、35%、50%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、99%、100%、またはそれを上回る割合の減少を意味する。
【0029】
本明細書において使用するとき、「増強する(enhance)」、「増強する(enhances)」、「増強」という用語および同様の用語は、少なくとも約10%、20%、25%、50%、75%、100%、150%、200%、300%、400%、500%、またはそれを上回る割合の増加を示す。
【0030】
本明細書において使用するとき、「ポリペプチド」という用語は、別様に示されない限り、ペプチドおよびタンパク質の両方を包含する。
【0031】
本明細書において使用される「ポリヌクレオチド」、「核酸」、または「核酸分子」は、ヌクレオチド塩基の配列であり、RNA、DNA、またはDNA-RNAハイブリッド配列(天然に存在するおよび天然に存在しないヌクレオチドの両方を含む)であり得るが、代表的な実施形態では、一本鎖または二本鎖DNA配列のいずれかである。
【0032】
本明細書において使用するとき、「単離された」ポリヌクレオチド(例えば、「単離されたDNA」または「単離されたRNA」)とは、天然に存在する生物もしくはウイルスの他の構成要素、例えば細胞もしくはウイルスの構造的構成要素の少なくとも一部から、または該ポリヌクレオチドと結び付いて一般に見出される他のポリペプチドもしくは核酸から少なくとも部分的に分離されたポリヌクレオチドを意味する。代表的な実施形態において、「単離された」ヌクレオチドは、スタート材料と比較して、少なくとも約10倍、100倍、1000倍、10,000倍、またはそれを上回る割合で富化される。
【0033】
同じように、「単離された」ポリペプチドとは、天然に存在する生物もしくはウイルスの他の構成要素、例えば細胞もしくはウイルスの構造的構成要素の少なくとも一部から、または該ポリペプチドと結び付いて一般に見出される他のポリペプチドもしくは核酸から少なくとも部分的に分離されているポリペプチドを意味する。代表的な実施形態において、「単離された」ポリペプチドは、スタート材料と比較して、少なくとも約10倍、100倍、1000倍、10,000倍、またはそれを上回る割合で富化される。
【0034】
本明細書において使用するとき、ウイルスベクターを「単離する」または「精製する」(または文法的等価物)によって、ウイルスベクターが、スタート材料における他の構成要素の少なくとも一部から少なくとも部分的に分離されることを意味する。代表的な実施形態において、「単離された」または「精製された」ウイルスベクターは、スタート材料と比較して、少なくとも約10倍、100倍、1000倍、10,000倍、またはそれを上回る割合で富化される。
【0035】
本明細書において使用するとき、「キメラ」、「キメラの」、および/または「融合タンパク質」という用語は、他の構成要素の中でも、目的のタンパク質ならびに/またはその改変バリアントおよび/もしくは活性フラグメント(「骨格」)のアミノ酸配列を含む、意図的なヒト設計によって非天然に作出されるアミノ酸配列(例えば、ポリペプチド)を指し、ここで、目的のタンパク質は、任意選択で他のアミノ酸セグメントに連結された(融合タンパク質)、種々の野生型参照配列からの改変(例えば、単一残基および/またはアミノ酸残基の連続領域等の置換)(キメラ)を含む。設計されたタンパク質の種々の構成要素は、異なっているおよび/または組合せの機能を提供し得る。設計されたタンパク質の構造的および機能的構成要素は、異なるおよび/または複数の供給源材料から組み入れられ得る。設計されたタンパク質は対象に外因的に送達され得、それは、相当する内因性タンパク質と比較して外因性であろう。
【0036】
「治療用ポリペプチド」とは、細胞もしくは対象におけるタンパク質の非存在または欠陥により生じる症状を緩和し、低下させ、阻止し、および/もしくは安定させ得るポリペプチドもしくはペプチドであり、ならびに/または対象に別様に利益を与えるポリペプチドである。
【0037】
「治療する」、「治療すること」、または「の治療」という用語(およびその文法的変形)によって、対象の病状の重症度が低下する、少なくとも部分的に改善する、もしくは安定すること、および/または少なくとも1つの臨床症状における何らかの緩和、軽減、減少、もしくは安定化が達成され、および/または疾患もしくは障害の進行の遅延があることを意味する。
【0038】
「阻止する」、「阻止すること」、または「阻止」という用語(およびその文法的変形)は、対象における疾患、障害、および/もしくは臨床症状の発症の阻止および/もしくは遅延、ならびに/または本発明の方法の非存在下で生じるであろうものと比べた、疾患、障害、および/もしくは臨床症状の発症の重症度の低下を指す。阻止は、完全、例えば疾患、障害、および/または臨床症状の全くの非存在であり得る。阻止は、対象における疾患、障害、および/もしくは臨床症状の発生、ならびに/または発症の重症度が、本発明の非存在下で生じるであろうものよりも少ないような、部分的でもあり得る。
【0039】
本明細書において使用される「治療有効」、「治療的」、または「有効」量とは、対象に何らかの改善または利益を提供するのに十分である量である。代替的に述べると、「治療有効」、「治療的」、または「有効」量とは、対象における少なくとも1つの臨床症状における何らかの緩和、軽減、減少、または安定化を提供するであろう量である。当業者であれば、何らかの利益が対象に提供される限り、治療効果は完全または治癒的である必要はないことを解するであろう。
【0040】
本明細書において使用される「阻止有効」量とは、対象における疾患、障害、および/もしくは臨床症状の発症を阻止しおよび/もしくは遅延させるのに、ならびに/または本発明の方法の非存在下で生じるであろうものと比べて、対象における疾患、障害、および/もしくは臨床症状の発症の重症度を低下させおよび/もしくは遅延させるのに十分である量である。当業者であれば、何らかの利益が対象に提供される限り、阻止のレベルは完全である必要はないことを解するであろう。
【0041】
「異種ヌクレオチド配列」、「異種核酸」、または「異種核酸分子」という用語は、本明細書において互換可能に使用され、ウイルスにおいて天然に存在しない配列を指す。一般的に、異種核酸は、目的のポリペプチドまたは非翻訳RNA(例えば、細胞または対象への送達のための)をコードするオープンリーディングフレームを含む。
【0042】
本明細書において使用するとき、「ウイルスベクター」、「ベクター」、または「遺伝子送達ベクター」という用語は、核酸送達ビヒクルとして機能する、およびビリオン内にパッケージされたベクターゲノム(例えば、ウイルスDNA[vDNA])を含む、ウイルス(例えば、AAV)粒子を指す。代替的に、一部の文脈において、「ベクター」という用語は、ベクターゲノム/vDNAだけを指すために使用され得る。
【0043】
ウイルスに言及する場合に本明細書において使用するとき、「ベクター」、「粒子」、および「ビリオン」という用語は、互換可能に使用され得る。
【0044】
本発明のウイルスベクターは、さらに、国際特許公開公報WO01/92551(その開示は、引用することにより本明細書の一部をなすものとする)に記載される二重鎖AAV粒子であり得る。ゆえに、一部の実施形態において、二本鎖(二重鎖)ゲノムがパッケージされ得る。
【0045】
本明細書において使用するとき、「アデノ随伴ウイルス」(AAV)という用語は、これらに限定されないが、AAV1型、AAV2型、AAV2.5型、AAV3型(3A型および3B型を含む)、AAV4型、AAV5型、AAV6型、AAV7型、AAV8型、AAV9型、AAV10型、AAV11型、鳥類AAV、ウシAAV、イヌAAV、ウマAAV、ヒツジAAV、クレードF AAV、および現在公知のまたは後に発見される任意の他のAAVを含む。例えば、BERNARD N.FIELDS et al.,VIROLOGY,volume 2,chapter 69(4th ed.,Lippincott-Raven Publishers)を参照されたい。多数の比較的新しいAAV血清型およびクレードが同定されている(表1を参照されたい)。
【0046】
AAVの様々な血清型のゲノム配列、ならびに天然末端反復(TR)、Repタンパク質、およびカプシドサブユニットの配列は、当技術分野において公知である。そのような配列の例示的であるが非限定的な例は、文献において、またはGenBank(登録商標)データベース等の公的データベースにおいて見出され得る。例えば、GenBank(登録商標)アクセッション番号NC_002077.1、NC_001401.2、NC_001729.1、NC_001863.1、NC_001829.1、NC_006152.1、NC_001862.1、AF513851.1、AF513852.1を参照されたく、その開示は、パルボウイルスおよびAAV核酸およびアミノ酸配列を教示するために、引用することにより本明細書の一部をなすものとする。例えば、Srivistava et al.(1983)J.Virology 45:555;Chiorini et al.(1998)J.Virology 71:6823;Chiorini et al.(1999)J.Virology 73:1309;Bantel-Schaal et al.(1999)J.Virology 73:939;Xiao et al.(1999)J.Virology 73:3994;Muramatsu et al.(1996)Virology 221:208;Shade et al.(1986)J.Virol.58:921;Gao et al.(2002)Proc.Nat.Acad.Sci.USA 99:11854;国際特許公開公報WO00/28061、WO99/6160、およびWO98/11244;ならびに米国特許第6,156,303号も参照されたく;その開示は、パルボウイルスおよびAAV核酸およびアミノ酸配列を教示するために、引用することにより本明細書の一部をなすものとする。
【0047】
自律性パルボウイルスおよびAAVのカプシド構造は、BERNARD N.FIELDS et al.,Virology,Volume 2,Chapters 69&70(4th ed.,Lippincott-Raven Publishers)により詳細に記載される。AAV2(Xie et al.(2002)Proc.Nat.cad.Sci.99:10405-10)、AAV4(Padron et al.(2005)J.Virol.79:5047-58)、AAV5(Walters et al.(2004)J.Virol.78:3361-71)、およびCPV(Xie et al.(1996)J.Mol.Biol.6:497-520およびTsao et al.(1991)Science 251:1456-64)の結晶構造の説明も参照されたい。
【0048】
「rAAVベクターゲノム」または「rAAVゲノム」とは、1種または複数の異種核酸配列を含むAAVゲノム(すなわち、vDNA)である。rAAVベクターは、一般的に、ウイルスを作出するために、シスにある145塩基の逆位末端反復(ITR)のみを要する。典型的に、rAAVベクターゲノムは、ベクターによって効率的にパッケージされ得る導入遺伝子のサイズを最大限に高めるために、1つまたは複数のITR配列のみを保持するであろう。構造および非構造タンパク質コード配列は、トランスで提供され得る(例えば、プラスミド等のベクターから、またはパッケージング細胞に配列を安定に組み込むことによって)。本発明の実施形態において、rAAVベクターゲノムは、少なくとも1つのITR配列(例えば、AAV ITR配列)、任意選択で2つのITR(例えば、2つのAAV ITR)を含み、それは、典型的に、ベクターゲノムの5’および3’末端にあり、異種核酸に隣接しているであろうが、それと連続している必要はない。ITRは、互いと同じであり得るまたは異なり得る。
【0049】
「AAV逆位末端反復」または「AAV ITR」は、これらに限定されないが、血清型1、2、3a、3b、4、5、6、7、8、9、10、11、もしくは13、ヘビAAV、鳥類AAV、ウシAAV、イヌAAV、ウマAAV、ヒツジAAV、ヤギAAV、エビAAV、または現在公知のもしくは後に発見される任意の他のAAVを含む、任意のAAV由来のものであり得る(例えば、表1を参照されたい)。AAV ITRは、末端反復が、所望の機能、例えば複製、ウイルスパッケージング、持続性、および/またはプロウイルスレスキュー等を媒介し、機能に要される構造的構成要素(例えば、図1A~1Cに描写されるもの等)を含む限り、天然の末端反復配列を有する必要はない(例えば、天然AAV ITR配列は、挿入、欠失、切取り、および/またはミスセンス変異によって変更され得る)。
【0050】
本発明のウイルスベクターは、さらに、国際特許公開公報WO00/28004およびChao et al.,(2000)Mol.Therapy 2:619に記載される、「標的化」ウイルスベクター(例えば、指向性の向性を有する)および/または「ハイブリッド」AAV(すなわち、ウイルスITRおよびウイルスカプシドが、異なるAAV由来のものである)であり得る。
【0051】
さらに、ウイルスカプシドまたはゲノムエレメントは、挿入、欠失、および/または置換を含む他の改変を含有し得る。
【0052】
「鋳型」または「基質」という用語は、本明細書において、AAVウイルスDNAを産生するために複製され得るポリヌクレオチド配列を指すために使用される。ベクター産生の目的のために、鋳型は、典型的に、これらに限定されないが、プラスミド、裸のDNAベクター、細菌人工染色体(BAC)、酵母人工染色体(YAC)、またはウイルスベクター(例えば、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、エプスタイン・バールウイルス、AAV、バキュロウイルス、レトロウイルスベクター等)を含む、より大きなヌクレオチド配列または構築物内に埋め込まれるであろう。代替的に、鋳型は、パッケージング細胞の染色体に安定に組み入れられ得る。
【0053】
本明細書において使用するとき、AAV「Repコード配列」とは、ウイルス複製および新たなウイルス粒子の産生を媒介するAAV非構造タンパク質をコードする核酸配列を示す。AAV複製遺伝子およびタンパク質は、例えばFIELDS et al.,VIROLOGY,volume 2,chapters 69&70(4th ed.,Lippincott-Raven Publishers)に記載されている。
【0054】
「Repコード配列」は、AAV Repタンパク質のすべてをコードする必要はない。例えば、AAVに関して、Repコード配列は、4種すべてのAAV Repタンパク質(Rep78、Rep68、Rep52、およびRep40)をコードする必要はなく、実際、AAV5は、スプライスされたRep68およびRep40タンパク質を発現するのみと思われる。代表的な実施形態において、Repコード配列は、ウイルスゲノム複製および新たなビリオン内へのパッケージングに必要である少なくともそれらの複製タンパク質をコードする。Repコード配列は、一般的に、少なくとも1種の大きなRepタンパク質(すなわち、Rep78/68)および1種の小さなRepタンパク質(すなわち、Rep52/40)をコードするであろう。特定の実施形態において、Repコード配列は、AAV Rep78タンパク質、ならびにAAV Rep52および/またはRep40タンパク質をコードする。他の実施形態において、Repコード配列は、Rep68、ならびにRep52および/またはRep40タンパク質をコードする。なおさらなる実施形態において、Repコード配列は、Rep68およびRep52タンパク質、Rep68およびRep40タンパク質、Rep78およびRep52タンパク質、またはRep78およびRep40タンパク質をコードする。
【0055】
本明細書において使用するとき、「大きなRepタンパク質」という用語は、Rep68および/またはRep78を指す。特許請求される本発明の大きなRepタンパク質は、野生型または合成のいずれかであり得る。野生型の大きなRepタンパク質は、これらに限定されないが、血清型1、2、3a、3b、4、5、6、7、8、9、10、11、もしくは13、または現在公知のもしくは後に発見される任意の他のAAVを含む、任意のAAV由来のものであり得る(例えば、表1を参照されたい)。合成の大きなRepタンパク質は、挿入、欠失、切取り、および/またはミスセンス変異によって変更され得る。
【0056】
当業者であれば、複製タンパク質は、同じポリヌクレオチドによってコードされる必要はないことをさらに解するであろう。例えば、AAVに関して、p19プロモーターは不活性化され得、大きなRepタンパク質は1つのポリヌクレオチドから発現され得、小さなRepタンパク質は異なるポリヌクレオチドから発現され得る。しかしながら、典型的に、単一の構築物から複製タンパク質を発現させることがより好都合であろう。一部のシステムにおいて、ウイルスプロモーター(例えば、AAV p19プロモーター)は細胞によって認識され得ず、それゆえ、別個の発現カセットから大きなおよび小さなRepタンパク質を発現させる必要がある。他の場合には、大きなRepおよび小さなRepタンパク質を別個に、すなわち別個の転写および/または翻訳制御エレメントの制御下で発現させることが望ましくあり得る。例えば、小さなRepタンパク質に対する大きなRepタンパク質の比を減少させるように、大きなRepタンパク質の発現を制御することが望ましくあり得る。昆虫細胞の場合には、大きなRepタンパク質(例えば、Rep78/68)の発現を下方調節して、細胞への毒性を回避することが有利であり得る(例えば、Urabe et al.,(2002)Human Gene Therapy 13:1935を参照されたい)。
【0057】
本明細書において使用するとき、AAV「capコード配列」は、機能的AAVカプシド(すなわち、DNAをパッケージし得、標的細胞に感染し得る)を形成する構造タンパク質をコードする。典型的に、capコード配列は、AAVカプシドサブユニットのすべてをコードするであろうが、機能的カプシドが産生される限り、すべてに満たないカプシドサブユニットがコードされ得る。典型的に、しかし必ずではなく、capコード配列は、単一の核酸分子上に存在するであろう。
【0058】
AAVのカプシド構造は、BERNARD N.FIELDS et al.,VIROLOGY,volume 2,chapters 69&70(4th ed.,Lippincott-Raven Publishers)により詳細に記載される。
【0059】
本明細書において使用するとき、「合成AAV ITR」という用語は、野生型ITRとヌクレオチド配列が異なる天然に存在しないITR、例えば1つもしくは複数の欠失、付加、置換、またはこれらの任意の組合せに起因したAAV血清型2 ITR(ITR2)配列を指す。合成および野生型ITR(例えば、ITR2)配列間の差は、わずか1つのヌクレオチド変化、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、60、70、80、90、もしくは100個、またはそれを上回る数のヌクレオチド、またはこれらの中の任意の範囲の変化であり得る。一部の実施形態において、合成および野生型ITR(例えば、ITR2)配列間の差は、約100、90、80、70、60、50、45、40、35、30、25、20、15、10、9、8、7、6、5、4、3、2、もしくは1個を超えない数のヌクレオチド、またはこれらの中の任意の範囲であり得る。
【0060】
本発明は、望ましい特徴を有し、ITRを含むベクターの活性およびそれに対する細胞応答を操作するように設計され得る、少なくとも1つのAAV ITRを含むポリヌクレオチドを提供する。
【0061】
ゆえに、本発明の1つの態様は、少なくとも1つの合成アデノ随伴ウイルス(AAV)逆位末端反復(ITR)を含むポリヌクレオチドであって、ITRは、(a)AAV rep結合エレメント(RBE);(b)Bループ;(c)Cループ;(d)1つまたは複数のニッキング-ステムループ;(e)D領域;(f)AAV末端分解配列;および(g)AAV RBE’エレメント、を含み、(a)~(g)は、AAV2またはAAV3ではない任意のAAV血清型由来のものであり、(i)RBE’エレメントは、ヌクレオチド位置73~75に相当する位置に非相補的ループTTT配列を含み、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づき;(ii)Bループは、ヌクレオチド位置43~61に相当する位置に、ITR2もしくはITR3(すなわち、それぞれAAV2またはAAV3のITR)のBループのヌクレオチド配列と80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づき;(iii)Cループは、ヌクレオチド位置65~83に相当する位置に、ITR2もしくはITR3のCループのヌクレオチド配列と80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づき;(iv)D領域は、ヌクレオチド位置125~145に相当する位置に、ITR2もしくはITR3のD領域のヌクレオチド配列と80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づき;ならびに/または(v)1つもしくは複数のニッキング-ステムループの少なくとも1つは、ヌクレオチド位置4に相当する位置にCもしくはG置換、および/もしくはヌクレオチド位置122に相当する位置にCもしくはG置換(例えば、C4Gおよび/またはG122C)を含み、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づく、ポリヌクレオチドに関する。
【0062】
配列番号1.AAV2 ITR(ITR2)(NCBI参照配列NC_001401.2)
TTGGCCACTCCCTCTCTGCGCGCTCGCTCGCTCACTGAGGCCGGGCGACCAAAGGTCGCCCGACGCCCGGGCTTTGCCCGGGCGGCCTCAGTGAGCGAGCGAGCGCGCAGAGAGGGAGTGGCCAACTCCATCACTAGGGGTTCCT
【0063】
図1A~1Cに描写されるもの等、野生型(例えば、非改変)AAV血清型ITRは、これらに限定されないが、A領域、Rep結合エレメント(RBE)、RBE’、1つまたは複数のニッキング-ステムループ、末端分解部位(trs)、Bループ、Cループ、およびD領域を含む、複数の構造的特質を含む。
【0064】
ITR配列は、それ自身の上に折り畳まれて、BループおよびCループと称される領域を含むようなヘアピン構造を形成すると予測される(図1A~1B)。ITRのA領域におけるRBEは、RBEに結合するとゲノム複製を開始し得る大きなRepタンパク質(Rep78、Rep68)に対する結合部位である。この初期結合は、DNA鎖をほどき、ジヌクレオチドTT末端分解部位(trs)においてRepによって切断可能であるニッキングステムを形成するのを助ける。大きなRepタンパク質は、Cループの先端でもRBE’領域と接触する(図1A~1B)。
【0065】
AAV ITRのRBE、末端分解配列、およびRBE’エレメントの配列は、当技術分野において周知である。AAV2 ITRにおけるエレメントが図1Aに示されている。本発明のポリヌクレオチドに存在するエレメントのそれぞれは、天然に存在するAAV ITRにある正確な配列であり得る、またはエレメントの機能が、それが、天然に存在するAAV ITRにあるエレメントの機能と実質的に異ならない限り、わずかに異なり得る(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、または30個を超えない数のヌクレオチドの付加、欠失、および/または置換により異なる)。「実質的に異なる」という用語は、本明細書において、50%を上回る割合の機能(例えば、形質導入効率、Rep結合、ニッキング)の差として定義される。本明細書において定義されるRBE、末端分解配列、およびRBE’エレメントという用語は、それが、天然に存在するAAV ITRにあるエレメントの機能と実質的に異ならない機能を提供する、完全長エレメントのフラグメントおよび一部分を包含する。
【0066】
一部の実施形態において、本発明の合成ITR、例えば、(a)AAV RBE;(b)Bループ;(c)Cループ;(d)1つまたは複数のニッキング-ステムループ;(e)D領域;(f)AAV末端分解配列;および(g)AAV RBE’エレメント、を含み、(a)~(g)は、AAV2またはAAV3ではない任意のAAV血清型由来のものであり、(i)RBE’エレメントは、ヌクレオチド位置73~75に相当する位置に非相補的ループTTT配列を含み、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づき;(ii)Bループは、ヌクレオチド位置43~61に相当する位置に、ITR2もしくはITR3(すなわち、それぞれAAV2またはAAV3のITR)のBループのヌクレオチド配列と80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づき;(iii)Cループは、ヌクレオチド位置65~83に相当する位置に、ITR2もしくはITR3のCループのヌクレオチド配列と80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づき;(iv)D領域は、ヌクレオチド位置125~145に相当する位置に、ITR2もしくはITR3のD領域のヌクレオチド配列と80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づき;ならびに/または(v)1つもしくは複数のニッキング-ステムループの少なくとも1つは、ヌクレオチド位置4に相当する位置にCもしくはG置換、および/もしくはヌクレオチド位置122に相当する位置にCもしくはG置換(例えば、C4Gおよび/またはG122C)を含み、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づく、合成ITRは、野生型(例えば、非改変)AAV血清型ITRと比べて増強した転写機能を有し得る。
【0067】
本発明の別の態様は、少なくとも1つの合成アデノ随伴ウイルス(AAV)逆位末端反復(ITR)を含むポリヌクレオチドであって、ITRは、(a)AAV RBE;(b)Bループ;(c)Cループ;(d)1つまたは複数のニッキング-ステムループ;(e)D領域;(f)AAV末端分解配列;および(g)AAV RBE’エレメント、を含み、(a)~(g)は、AAV1またはAAV6ではない任意のAAV血清型由来のものであり、(i)RBE’エレメントは、ヌクレオチド位置73~75に相当する位置に非相補的ループTCT配列を含み、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づき;(ii)Bループは、ヌクレオチド位置43~61に相当する位置に、ITR1もしくはITR6(すなわち、AAV1またはAAV6のITR)のBループのヌクレオチド配列と80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づき;(iii)Cループは、ヌクレオチド位置65~83に相当する位置に、ITR1もしくはITR6のCループのヌクレオチド配列と80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づき;(iv)D領域は、ヌクレオチド位置125~145に相当する位置に、ITR1もしくはITR6のD領域のヌクレオチド配列と80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づき;ならびに/または(v)1つもしくは複数のニッキング-ステムループの少なくとも1つは、ヌクレオチド位置4に相当する位置にCもしくはG置換、および/もしくはヌクレオチド位置122に相当する位置にCもしくはG置換(例えば、G4Cおよび/またはC122G)を含み、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づく、ポリヌクレオチドを提供する。
【0068】
一部の実施形態において、合成ITR(例えば、(a)AAV RBE;(b)Bループ;(c)Cループ;(d)1つまたは複数のニッキング-ステムループ;(e)D領域;(f)AAV末端分解配列;および(g)AAV RBE’エレメント、を含み、(a)~(g)は、AAV1またはAAV6ではない任意のAAV血清型由来のものであり、(i)RBE’エレメントは、ヌクレオチド位置73~75に相当する位置に非相補的ループTCT配列を含み、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づき;(ii)Bループは、ヌクレオチド位置43~61に相当する位置に、ITR1もしくはITR6(すなわち、AAV1またはAAV6のITR)のBループのヌクレオチド配列と80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づき;(iii)Cループは、ヌクレオチド位置65~83に相当する位置に、ITR1もしくはITR6のCループのヌクレオチド配列と80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づき;(iv)D領域は、ヌクレオチド位置125~145に相当する位置に、ITR1もしくはITR6のD領域のヌクレオチド配列と80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づき;ならびに/または(v)1つまたは複数のニッキング-ステムループの少なくとも1つは、ヌクレオチド位置4に相当する位置にCもしくはG置換、および/もしくはヌクレオチド位置122に相当する位置にCもしくはG置換(例えば、G4Cおよび/またはC122G)を含み、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づく、合成ITR)は、野生型(例えば、非改変)AAV血清型ITRと比べて低下した転写機能を有し得る。
【0069】
本発明の合成ITRの構造的特質(a)~(g)は、これらに限定されないが、表1の任意のAAV血清型等の任意のAAV血清型由来のものであり得る。一部の実施形態において、本発明の合成ITRの(a)~(g)は、同じAAV由来のものである。一部の実施形態において、本発明の合成ITRの(a)~(g)は、異なるAAV由来のものである。本発明のポリヌクレオチドおよび/または合成ITRの産生は、例えば図1A~1Cにおいて同定されるように、別のAAV血清型から同定された改変の一部(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15個等)またはすべてを導入することによって行われ得る。本発明の合成ITRを産生するために、AAV ITRの特定の領域の一部として同定されたあらゆるヌクレオチドが置換されることを要されるわけではない。所望の機能的および/または構造的ITR特性を生み出すのに必要な置換の数は、本明細書における教示に従っておよび当技術分野において周知のプロトコールに従って、当業者によって容易に判定され得る。本明細書に示されるヌクレオチド配列において提供されるヌクレオチド番号付けは、本明細書において提供されるAAV2のITRの非改変(例えば、野生型)ヌクレオチド配列(配列番号1)に基づく。しかしながら、他のAAV血清型ITR配列または他のウイルスITR配列における等価のヌクレオチド位置が、本発明のポリヌクレオチドおよび/または合成ITRの産生において容易に同定され得かつ採用され得、本明細書において配列の節で開示されるもの等、および引用することにより本明細書の一部をなすものとするHewitt et a.,2009 J.Virol.83(8):3919-3929に開示されるもの等のアライメントを介して同定され得ることは当業者によって容易に理解されるであろう。
【0070】
一部の実施形態において、本発明の合成ITRは、付加的な非AAVシスエレメント、例えば転写を開始する、エンハンサー機能を媒介する、有糸分裂があり次第の複製および対称分布を可能にする、または形質導入されたゲノムの持続性およびプロセシングを変更するエレメントをさらに含み得る。そのようなエレメントは当技術分野において周知であり、限定されることなく、プロモーター、エンハンサー、クロマチン付着配列、テロメア配列、シス作用性マイクロRNA、およびこれらの組合せを含む。一部の実施形態において、本発明の合成ITRは、いかなる付加的な非AAVシスエレメントも明確に含まなくてもよい。例えば、一部の実施形態において、本発明の合成ITRはプロモーターを含まなくてもよい。
【0071】
一部の実施形態において、本発明のポリヌクレオチドは、1種または複数のインシュレーター配列をさらに含み得る。本明細書において使用するとき、「インシュレーター配列」という用語は、ITR転写活性を阻害し得および/または別様に弱め得る配列(例えば、ITRの外側にある配列)を指す。インシュレーター配列の例は、当技術分野において公知である。
【0072】
一部の実施形態において、本発明のポリヌクレオチドは、異種ヌクレオチド配列(例えばコード配列、例えばタンパク質または機能的RNAをコードする)をさらに含み得る。
【0073】
野生型(例えば、非改変)AAV ITR配列は、CpGモチーフを含むことが公知である。一部の実施形態において、本発明の合成ITRにおける1つまたは複数のCpGモチーフは、ITR2等の天然に存在するAAV ITRの配列と比べて欠失され得および/または置換され得る。AAV ITR2は、16個のCpGモチーフを含有する。TLR-9はCpG配列モチーフに直接結合し、細胞性自然免疫の活性化をもたらす。CpGモチーフのメチル化が転写サイレンシングをもたらすことも周知である。ITRにおけるCpGモチーフの除去は、TLR-9認識の減少および/またはメチル化の減少、それゆえ導入遺伝子サイレンシングの減少をもたらし得る。
【0074】
加えて、最近の研究は、引用することにより本明細書の一部をなすものとするShao et al.2018 JCI Insight 3(12):e120474およびFaust et al.2013 JCI 123(7):2994-3001に記載されるように、二本鎖RNA(dsRNA)がdsRNAセンサーMDA5またはMAVSによって感知され得、免疫応答を誘発し得ることを示している。理論によって拘束されることを望まないものの、ITRにおけるCpGモチーフの除去/低下は、本発明のポリヌクレオチドおよび/または合成ITRを含む遺伝子療法の使用の間、dsRNA免疫応答の減少をもたらし得る。
【0075】
一部の実施形態において、少なくとも1つのCpGモチーフ、例えば4個もしくはそれを上回る、または8個もしくはそれを上回る数のCpGモチーフ、例えば少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、もしくは16個のCpGモチーフが欠失されおよび/または置換される。本明細書において使用される「欠失されおよび/または置換される」という語句は、CpGモチーフにおける一方または両方のヌクレオチドが欠失される、異なるヌクレオチドで置換される、または欠失および置換の任意の組合せであることを意味する。
【0076】
本発明は、本発明の合成ITRを含むポリヌクレオチドを含むベクターも提供する。ウイルスベクターは、パルボウイルスベクター、例えばAAVベクターであり得る。本発明は、本発明の合成ITRを含む組換えパルボウイルス粒子(例えば、組換えAAV粒子)をさらに提供する。一部の実施形態において、本発明は、任意のAAV血清型由来のITRまたは本発明の合成ITRを含むキメラAAV粒子であって、付加的なAAVシスエレメント(例えば、Repおよび/またはCap)は、ITRとは異なるAAV血清型由来のものである、キメラAAV粒子を提供する。ウイルスベクターおよびウイルス粒子は、下でさらに論じられる。
【0077】
本発明は、薬学的に許容される担体中に本発明のウイルスベクターを含む組成物も提供する。
【0078】
使用の方法
本発明は、本発明のポリヌクレオチド、核酸、合成ITR、ウイルス、ベクター、粒子、および/または組成物に対する使用の方法をさらに提供する。
【0079】
1つの態様において、本発明は、本発明のポリヌクレオチドを細胞に導入することを含む、細胞において異種ヌクレオチド配列を転写する方法を提供する。
【0080】
一部の実施形態において、細胞に導入される本発明のポリヌクレオチドは、これらに限定されないが、プロモーター、エンハンサー、クロマチン付着配列、テロメア配列、シス作用性マイクロRNA、およびこれらの組合せ等の付加的な非AAVシスエレメント、例えば転写を開始する、エンハンサー機能を媒介する、有糸分裂があり次第の複製および対称分布を可能にする、または形質導入されたゲノムの持続性およびプロセシングを変更するエレメントをさらに含み得る。一部の実施形態において、細胞に導入される本発明のポリヌクレオチドは、いかなる付加的な非AAVシスエレメントも明確に含まなくてもよい。一部の実施形態において、細胞に導入されるポリヌクレオチドは、付加的な非AAVシスプロモーターを含まない。
【0081】
本発明の組換えAAV粒子を細胞に導入することを含む、細胞に核酸を送達する方法がさらに提供される。
【0082】
本発明の別の態様は、組換えAAV鋳型の複製およびパッケージングに十分な条件下で、AAV複製に寛容な細胞に、(a)(i)異種核酸および(ii)本発明の合成ITR、を含む組換えAAV鋳型;ならびに(b)Repコード配列およびCapコード配列を含むポリヌクレオチド、を提供するステップを含み、それによって組換えAAV粒子が細胞において産生される、組換えAAV粒子を産生する方法を提供する。
【0083】
本発明の別の態様は、組換えAAV鋳型の複製およびパッケージングに十分な条件下で、AAV複製に寛容な細胞に、(a)(i)異種核酸および(ii)任意のAAV血清型由来の野生型ITRまたは本発明の合成ITR、を含む組換えAAV鋳型;ならびに(b)Repコード配列およびCapコード配列を含むポリヌクレオチドであって、RepおよびCapコード配列は、異なるAAV血清型由来のものである、ポリヌクレオチド、を提供するステップを含み、それによって組換えAAV粒子が細胞において産生される、組換えAAV粒子を産生する方法を提供する。
【0084】
一部の実施形態において、Repコード配列およびCapコード配列は、組換えAAV粒子にパッケージされ得ない。
【0085】
一部の実施形態において、Repコード配列および/またはCapコード配列は、プラスミドによって提供され得る。
【0086】
一部の実施形態において、Repコード配列および/またはCapコード配列は、ウイルスベクターによって提供され得る。ウイルスベクターは、これらに限定されないが、アデノウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、エプスタイン・バールウイルスベクター、およびバキュロウイルスベクターを含む、当技術分野において公知の任意のウイルスベクターであり得る。
【0087】
一部の実施形態において、Repコード配列は、細胞のゲノムに安定に組み込まれ得る。
【0088】
一部の実施形態において、Capコード配列は、細胞のゲノムに安定に組み込まれ得る。
【0089】
一部の実施形態において、組換えAAV鋳型は、プラスミドおよび/もしくはウイルスベクターによって提供され得る、またはプロウイルスとして細胞のゲノムに安定に組み込まれ得る。
【0090】
AAV粒子ベクターゲノムが細胞に入るのに十分な条件下で、本発明の組換えAAV粒子と接触している細胞を哺乳類対象に投与することを含む、哺乳類対象に核酸を投与する方法がさらに提供される。標的細胞の非限定的な例は、神経細胞、肺細胞、網膜細胞、上皮細胞、平滑筋細胞、骨格筋細胞、心臓筋細胞、膵臓細胞、肝細胞、腎臓細胞、心筋細胞、骨細胞、脾臓細胞、ケラチノサイト、線維芽細胞、内皮細胞、前立腺細胞、生殖細胞、前駆細胞、幹細胞、がん細胞、および腫瘍細胞を含む。
【0091】
本発明の組換えAAV粒子を哺乳類対象に投与することを含む、哺乳類対象に核酸を投与する方法が付加的に提供される。一部の実施形態において、組換えAAV粒子は、1×10vg/kg~約1×1015vg/kgの用量域、例えば約1×10、1×10、1×10、1×10、1×1010、1×1011、1×1012、1×1013、1×1014、1×1015vg/kg、またはその中の任意の値もしくは範囲で哺乳類対象に投与され得る。例えば、一部の実施形態において、組換えAAV粒子は、約1×10vg/kg~約5×1012vg/kg、約5×1010vg/kg~約1×1015vg/kgの用量域、または約1×10vg/kg、約5×10vg/kg、約5×1010vg/kg、約5×1012vg/kg、もしくは約1×1014vg/kgで哺乳類対象に投与され得る。
【0092】
一部の実施形態において、哺乳類対象はヒト対象であり得る。
【0093】
一部の実施形態において、AAV粒子は、経口、直腸、経粘膜、経皮、吸入、静脈内、皮下、皮内、頭蓋内、筋肉内、内皮内(intraendothelial)、硝子体内、網膜下、関節内投与、およびこれらの任意の組合せからなる群から選択される経路によって投与され得る。
【0094】
一部の実施形態において、AAV粒子は、腫瘍、脳、骨格筋、平滑筋、心臓、横隔膜、気道上皮、肝臓、腎臓、脾臓、膵臓、皮膚、目、およびこれらの任意の組合せからなる群から選択される部位で対象に投与され得る。
【0095】
一部の実施形態において、哺乳類対象は、本発明のポリヌクレオチドを含まないAAV粒子と比較して、前記AAV粒子に対する低下した免疫応答を有し得る。
【0096】
野生型(例えば、非改変)逆位末端反復(ITR)と比べて、アデノ随伴ウイルス(AAV)ITRのプロモーター機能を増強する方法であって、ITRは、(a)AAV rep結合エレメント(RBE);(b)Bループ;(c)Cループ;(d)1つまたは複数のニッキング-ステムループ;(e)D領域;(f)AAV末端分解配列;および(g)AAV RBE’エレメント、を含み、(a)~(g)は、AAV2またはAAV3ではない任意のAAV血清型由来のものであり、(i)ヌクレオチド位置73~75に相当する位置における非相補的ループTTT配列であり、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づく、非相補的ループTTT配列;(ii)ヌクレオチド位置43~61に相当する位置に、ITR2もしくはITR3(すなわち、それぞれAAV2またはAAV3のITR)のBループのヌクレオチド配列と80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列であり、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づく、ヌクレオチド配列;(iii)ヌクレオチド位置65~83に、ITR2もしくはITR3のCループのヌクレオチド配列と80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列であり、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づく、ヌクレオチド配列;(iv)ヌクレオチド位置125~145に、ITR2もしくはITR3のD領域のヌクレオチド配列と80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列であり、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づく、ヌクレオチド配列;ならびに/または(v)ヌクレオチド位置4におけるGもしくはC置換および/もしくはヌクレオチド位置122におけるGもしくはC置換(例えば、C4Gおよび/またはG122C)であり、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づく、置換、のうちの1つまたは複数を置換することを含む、方法が本明細書においてさらに提供される。
【0097】
本発明の別の態様は、野生型(例えば、非改変)逆位末端反復(ITR)と比べて、アデノ随伴ウイルス(AAV)ITRのプロモーター機能を低下させる方法であって、ITRは、(a)AAV rep結合エレメント(RBE);(b)Bループ;(c)Cループ;(d)1つまたは複数のニッキング-ステムループ;(e)D領域;(f)AAV末端分解配列;および(g)AAV RBE’エレメント、を含み、(a)~(g)は、AAV1またはAAV6ではない任意のAAV血清型由来のものであり、(i)ヌクレオチド位置73~75に相当する位置における非相補的ループTCT配列であり、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づく、非相補的ループTCT配列;(ii)ヌクレオチド位置43~61に、ITR1もしくはITR6(すなわち、AAV1またはAAV6のITR)のBループのヌクレオチド配列と80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列であり、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づく、ヌクレオチド配列;(iii)ヌクレオチド位置65~83に、ITR1もしくはITR6のCループのヌクレオチド配列と80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列であり、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づく、ヌクレオチド配列;(iv)ヌクレオチド位置125~145に、ITR1もしくはITR6のD領域のヌクレオチド配列と80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列であり、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づく、ヌクレオチド配列;ならびに/または(v)ヌクレオチド位置4におけるC置換および/もしくはヌクレオチド位置122におけるG置換(例えば、G4Cおよび/またはC122G)であり、ヌクレオチド番号付けは配列番号1のヌクレオチド配列に基づく、置換、のうちの1つまたは複数を置換することを含む、方法を提供する。
【0098】
一部の実施形態において、改変前の(非改変)ITRは、高い転写活性を有した。
【0099】
一部の実施形態において、改変前の(非改変)ITRは、低い転写活性を有した。
【0100】
一部の実施形態において、本発明の方法は、ITR内のCpGアイランドおよび/またはC-Gジヌクレオチド頻度を改変する(例えば、1つもしくは複数の[例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個等、またはそれを上回る数の]CpGアイランドおよび/もしくはC-Gジヌクレオチド配列を挿入する、ならびに/または1つもしくは複数の[例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個等、またはそれを上回る数の]CpGアイランドおよび/もしくはC-Gジヌクレオチド配列を欠失させる)ことをさらに含む。理論によって拘束されることを望まないものの、CpGおよび/またはC-Gジヌクレオチド頻度を改変することは、合成ITRの転写活性を改変し得る。一部の実施形態において、本発明の合成ITRは、少なくとも1つまたは複数のGpCおよび/またはC-Gジヌクレオチド配列を有し、野生型(非改変)ITRの機能的活性を保持する。
【0101】
一部の実施形態において、本発明の方法は、ITR双方向性活性が弱められ、免疫応答が軽減されることをさらに含む。理論によって拘束されることを望まないものの、引用することにより本明細書の一部をなすものとするShao et al.2018 JCI Insight 3(12):e120474に記載されるように、ITR双方向性活性は、dsRNA認識および免疫応答誘発を増強し得ると思われる。
【0102】
ウイルスベクターを産生する方法
本発明は、ウイルスベクターを産生する方法をさらに提供する。
【0103】
1つの実施形態において、本発明は、組換えAAV鋳型の複製およびパッケージングに十分な条件下で、AAV複製に寛容な細胞に、(a)(i)異種核酸および(ii)本発明の合成ITR、を含む組換えAAV鋳型;(b)Repコード配列およびCapコード配列を含むポリヌクレオチド、を提供するステップを含み、それによって組換えAAV粒子が細胞において産生される、組換えAAV粒子を産生する方法を提供する。
【0104】
組換えAAV鋳型の複製およびパッケージングに十分な条件は、例えば、AAV鋳型の複製およびAAVカプシド内へのカプシド化に十分なAAV配列(例えば、AAV rep配列およびAAV cap配列)、ならびにアデノウイルスおよび/またはヘルペスウイルス由来のヘルパー配列の存在であり得る。特定の実施形態において、AAV鋳型は、異種核酸配列に対する5’および3’に配置される2つのAAV ITR配列を含むが、それらはそれと直接連続している必要はない。
【0105】
一部の実施形態において、組換えAAV鋳型は、国際特許公開公報WO01/92551に記載される二重鎖AAVベクターを作製するために、Repによって分解されないITRを含む。
【0106】
核酸鋳型ならびにAAV repおよびcap配列は、AAVカプシド内にパッケージされた核酸鋳型を含むウイルスベクターが細胞において産生されるような条件下で提供される。方法は、細胞からウイルスベクターを回収することをさらに含み得る。ウイルスベクターは、培地からおよび/または細胞を溶解することによって回収され得る。
【0107】
細胞は、AAVウイルス複製に寛容である細胞であり得る。当技術分野において公知の任意の適切な細胞が採用され得る。特定の実施形態において、細胞は哺乳類細胞である。別の選択肢として、細胞は、複製欠陥ヘルパーウイルスから欠失された機能を提供するトランス補完パッケージング細胞株、例えば293細胞または他のE1aトランス補完細胞であり得る。
【0108】
AAV複製およびカプシド配列は、当技術分野において公知の任意の方法によって提供され得る。現在のプロトコールは、典型的に、単一のプラスミド上のAAV rep/cap遺伝子を発現させる。AAV複製およびパッケージング配列は一緒に提供される必要はないが、そうすることが好都合であり得る。AAV repおよび/またはcap配列は、任意のウイルスまたは非ウイルスベクターによって提供され得る。例えば、rep/cap配列は、ハイブリッドアデノウイルスまたはヘルペスウイルスベクターによって提供され得る(例えば、欠失されたアデノウイルスベクターのE1aまたはE3領域に挿入される)。AAV capおよびrep遺伝子を発現させるためにEBVベクターも採用され得る。この方法の1つの利点は、EBVベクターはエピソーム性であるが、それにもかかわらず、継続的な細胞分裂全体で高いコピー数を維持するであろうことである(すなわち、「EBVに基づく核エピソーム」と呼ばれる染色体外エレメントとして細胞内に安定に組み込まれる)。
【0109】
さらなる代替策として、rep/cap配列は、細胞内に安定に組み入れられ得る。
【0110】
典型的に、AAV rep/cap配列は、これらの配列のレスキューおよび/またはパッケージングを阻止するために、TRによって隣接されないであろう。
【0111】
核酸鋳型は、当技術分野において公知の任意の方法を使用して細胞に提供され得る。例えば、鋳型は、非ウイルス(例えば、プラスミド)またはウイルスベクターによって供給され得る。特定の実施形態において、核酸鋳型は、ヘルペスウイルスまたはアデノウイルスベクターによって供給される(例えば、欠失されたアデノウイルスのE1aまたはE3領域に挿入される)。別の例として、AAV TRによって隣接されたレポーター遺伝子を運ぶバキュロウイルスベクターが使用され得る。rep/cap遺伝子に関して上で記載されるように、鋳型を送達するためにEBVベクターも採用され得る。
【0112】
別の代表的な実施形態において、核酸鋳型は、複製性rAAVウイルスによって提供される。さらに他の実施形態において、核酸鋳型を含むAAVプロウイルスは、細胞の染色体に安定に組み込まれる。
【0113】
ウイルス力価を増強するために、生産性の高いAAV感染を促進するヘルパーウイルス機能(例えば、アデノウイルスまたはヘルペスウイルス)が細胞に提供され得る。AAV複製に必要なヘルパーウイルス配列は、当技術分野において公知である。典型的に、これらの配列は、ヘルパーアデノウイルスまたはヘルペスウイルスベクターによって提供されるであろう。代替的に、アデノウイルスまたはヘルペスウイルス配列は、別の非ウイルスまたはウイルスベクターによって、例えば効率的なAAV産生を促進するヘルパー遺伝子のすべてを運ぶ非感染性アデノウイルスミニプラスミドとして提供され得る。
【0114】
さらに、ヘルパーウイルス機能は、染色体に埋め込まれたまたは安定な染色体外エレメントとして維持されたヘルパー配列を有するパッケージング細胞によって提供され得る。一般的に、ヘルパーウイルス配列は、AAVビリオン内にパッケージされ得ず、例えばTRによって隣接されない。
【0115】
当業者であれば、単一のヘルパー構築物上にAAV複製およびカプシド配列ならびにヘルパーウイルス配列(例えば、アデノウイルス配列)を提供することが有利であり得ることを解するであろう。このヘルパー構築物は非ウイルスまたはウイルス構築物であり得る。1つの非限定的な例示として、ヘルパー構築物は、AAV rep/cap遺伝子を含むハイブリッドアデノウイルスまたはハイブリッドヘルペスウイルスであり得る。
【0116】
1つの特定の実施形態において、AAV rep/cap配列およびアデノウイルスヘルパー配列は、単一のアデノウイルスヘルパーベクターによって供給される。このベクターは核酸鋳型をさらに含み得る。AAV rep/cap配列および/またはrAAV鋳型は、アデノウイルスの欠失された領域(例えば、E1aまたはE3領域)に挿入され得る。
【0117】
さらなる実施形態において、AAV rep/cap配列およびアデノウイルスヘルパー配列は、単一のアデノウイルスヘルパーベクターによって供給される。この実施形態によれば、rAAV鋳型はプラスミド鋳型として提供され得る。
【0118】
別の例示的な実施形態において、AAV rep/cap配列およびアデノウイルスヘルパー配列は、単一のアデノウイルスヘルパーベクターによって提供され、rAAV鋳型は、プロウイルスとして細胞内に組み込まれる。代替的に、rAAV鋳型は、染色体外エレメントとして(例えば、EBVに基づく核エピソームとして)細胞内に維持されるEBVベクターによって提供される。
【0119】
さらなる例となる実施形態において、AAV rep/cap配列およびアデノウイルスヘルパー配列は、単一のアデノウイルスヘルパーによって提供される。rAAV鋳型は、別個の複製性ウイルスベクターとして提供され得る。例えば、rAAV鋳型は、rAAV粒子または第2の組換えアデノウイルス粒子によって提供され得る。
【0120】
前述の方法によれば、ハイブリッドアデノウイルスベクターは、典型的に、アデノウイルス複製およびパッケージングに十分なアデノウイルス5’および3’シス配列(すなわち、アデノウイルス末端反復およびPAC配列)を含む。AAV rep/cap配列、および存在する場合にはrAAV鋳型は、アデノウイルス骨格に埋め込まれ、5’および3’シス配列によって隣接され、それによりこれらの配列はアデノウイルスカプシド内にパッケージされ得る。上で記載されるように、アデノウイルスヘルパー配列およびAAV rep/cap配列は、一般的にTRによって隣接されず、それによりこれらの配列はAAVビリオン内にパッケージされない。
【0121】
Zhang et al.,((2001)Gene Ther.18:704-12)は、アデノウイルスならびにAAV repおよびcap遺伝子の両方を含むキメラヘルパーを記載する。
【0122】
ヘルペスウイルスも、AAVパッケージング法におけるヘルパーウイルスとして使用され得る。AAV Repタンパク質をコードするハイブリッドヘルペスウイルスは、拡張可能なAAVベクター産生スキームを有利に促し得る。AAV-2 repおよびcap遺伝子を発現するハイブリッド単純ヘルペスウイルスI型(HSV-1)ベクターが、例えば引用することにより本明細書の一部をなすものとするPCT公開公報WO00/17377号に記載されている。
【0123】
さらなる代替策として、本発明のウイルスベクターは、rep/cap遺伝子およびrAAV鋳型を送達するバキュロウイルスベクターを使用して昆虫細胞において産生され得る。
【0124】
ヘルパーウイルスを夾雑することのないAAVベクターストックは、当技術分野において公知の任意の方法によって獲得され得る。例えば、AAVおよびヘルパーウイルスは、サイズに基づいて容易に区別され得る。AAVは、ヘパリン基質に対するアフィニティーに基づいてもヘルパーウイルスから分離され得る。欠失された複製欠陥ヘルパーウイルスが使用され得、それによりいかなる夾雑ヘルパーウイルスも複製能がない。さらなる代替策として、AAVウイルスのパッケージングを媒介するためには、アデノウイルス初期遺伝子発現のみが要されることから、後期遺伝子発現を欠如するアデノウイルスヘルパーが採用され得る。後期遺伝子発現を欠陥したアデノウイルス変異体は、当技術分野において公知である(例えば、ts100Kおよびts149アデノウイルス変異体)。
【0125】
組換えウイルスベクター
本発明のウイルスベクターは、インビトロ、エクスビボ、およびインビボにおける細胞への核酸の送達に有用である。特に、ウイルスベクターを有利に採用して、例えば哺乳類細胞を含む動物細胞に核酸を送達し得るまたは移行させ得る。
【0126】
目的の任意の異種核酸配列が、本発明のウイルスベクターにおいて送達され得る。目的の核酸は、治療用(例えば、医学的または獣医学的使用のための)および/または免疫原性(例えば、ワクチンのための)ポリペプチドを含むポリペプチドをコードする核酸を含む。
【0127】
治療用ポリペプチドは、これらに限定されないが、嚢胞性線維症膜貫通調節タンパク質(CFTR)、ジストロフィン(ミニおよびマイクロジストロフィンを含む、例えばVincent et al.(1993)Nature Genetics 5:130;米国特許公開第2003017131号;PCT公開公報第WO/2008/088895号、Wang et al.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97:13714-13719(2000);およびGregorevic et al.Mol.Ther.16:657-64(2008)を参照されたい)、ミオスタチンプロペプチド、フォリスタチン、アクチビンII型可溶性受容体、IGF-1、IカッパBドミナント変異体等の抗炎症ポリペプチド、サルコスパン、ユートロフィン(Tinsley et al.(1996)Nature 384:349)、ミニユートロフィン、凝固因子(例えば、第VIII因子、第IX因子、第X因子等)、エリスロポエチン、アンギオスタチン、エンドスタチン、カタラーゼ、チロシンヒドロキシラーゼ、スーパーオキシドディスムターゼ、レプチン、LDL受容体、リポタンパク質リパーゼ、オルニチントランスカルバミラーゼ、β-グロビン、α-グロビン、スペクトリン、α1-アンチトリプシン、アデノシンデアミナーゼ、ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ、β-グルコセレブロシダーゼ、スフィンゴミエリナーゼ、リソソームヘキソサミニダーゼA、分枝鎖ケト酸デヒドロゲナーゼ、RP65タンパク質、サイトカイン(例えば、α-インターフェロン、β-インターフェロン、インターフェロン-γ、インターロイキン-2、インターロイキン-4、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、リンホトキシン等)、ペプチド成長因子、神経栄養因子およびホルモン(例えば、ソマトトロピン、インスリン、インスリン様成長因子1および2、血小板由来成長因子、上皮成長因子、線維芽細胞成長因子、神経成長因子、神経栄養因子-3および-4、脳由来神経栄養因子、骨形成タンパク質[RANKLおよびVEGFを含む]、グリア由来成長因子、トランスフォーミング成長因子-αおよび-β等)、リソソーム酸α-グルコシダーゼ、α-ガラクトシダーゼA、受容体(例えば、腫瘍壊死成長因子α可溶性受容体)、S100A1、パルブアルブミン、アデニリルシクラーゼ6型、カルシウム処理をモジュレートする分子(例えば、SERCA2A、PP1およびそのフラグメントの阻害剤1[例えば、PCT公開公報第WO2006/029319号および第WO2007/100465号])、切り取られた構成的に活性なbARKct等のGタンパク質共役受容体キナーゼ2型ノックダウンを生じさせる分子、IRAP等の抗炎症因子、抗ミオスタチンタンパク質、アスパルトアシラーゼ、モノクローナル抗体(単鎖モノクローナル抗体を含む;例となるMabはHerceptin(登録商標)Mabである)、神経ペプチドおよびそのフラグメント(例えば、ガラニン、神経ペプチドY(米国特許第7,071,172号を参照されたい)、バゾヒビンおよび他のVEGF阻害剤等の血管新生阻害剤(例えば、バゾヒビン2[PCT公開公報WO JP2006/073052を参照されたい])を含む。他の例示的な異種核酸配列は、自殺遺伝子産物(例えば、チミジンキナーゼ、シトシンデアミナーゼ、ジフテリア毒素、および腫瘍壊死因子)、がん療法において使用される薬物に対する耐性を付与するタンパク質、腫瘍抑制因子遺伝子産物(例えば、p53、Rb、Wt-1)、TRAIL、FASリガンド、およびそれを必要とする対象において治療効果を有する任意の他のポリペプチドをコードする。AAVベクターを使用して、モノクローナル抗体および抗体フラグメント、例えばミオスタチンに向けられた抗体または抗体フラグメントも送達し得る(例えば、Fang et al.Nature Biotechnology 23:584-590(2005)を参照されたい)。
【0128】
ポリペプチドをコードする異種核酸配列は、レポーターポリペプチド(例えば、酵素)をコードするものを含む。レポーターポリペプチドは当技術分野において公知であり、これらに限定されないが、緑色蛍光タンパク質(GFP)、β-ガラクトシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ルシフェラーゼ、およびクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子を含む。
【0129】
任意選択で、異種核酸は、分泌ポリペプチド(例えば、その天然状態において分泌ポリペプチドである、または当技術分野において公知であるように、例えば分泌シグナル配列との作動的な結び付きによって分泌されるように操作されている、ポリペプチド)をコードする。
【0130】
代替的に、本発明の特定の実施形態において、異種核酸は、アンチセンス核酸、リボザイム(例えば、米国特許第5,877,022号に記載される)、スプライセオソーム媒介性トランススプライシングを生じさせるRNA(Puttaraju et al.(1999)Nature Biotech.17:246;米国特許第6,013,487号;米国特許第6,083,702号を参照されたい)、遺伝子サイレンシングを媒介する、siRNA、shRNA、またはmiRNAを含む干渉RNA(RNAi)(Sharp et al.(2000)Science 287:2431を参照されたい)、および例えば「ガイド」RNA等の他の非翻訳RNA(Gorman et al(1998)Proc.Nat.Acad.Sci.USA 95:4929;Yuanらに対する米国特許第5,869,248号)等をコードし得る。例となる非翻訳RNAは、多剤耐性(MDR)遺伝子産物に対するRNAi(例えば、腫瘍を治療しおよび/もしくは阻止するための、ならびに/または化学療法による損傷を阻止するための心臓への投与のための)、ミオスタチンに対するRNAi(例えば、デュシェンヌ型筋ジストロフィーに対する)、VEGFに対するRNAi(例えば、腫瘍を治療しかつ/または阻止するための)、ホスホランバンに対するRNAi(例えば心血管疾患を治療するための、例えばAndino et al.J.Gene Med.10:132-142(2008)およびLi et al.Acta Pharmacol Sin.26:51-55(2005)を参照されたい);ホスホランバンS16E等のホスホランバン阻害性分子またはドミナントネガティブ分子(例えば心血管疾患を治療するための、例えばHoshijima et al.Nat.Med.8:864-871(2002)を参照されたい)、アデノシンキナーゼに対するRNAi(例えば、てんかんに対する)、ならびに病原性生物およびウイルス(例えば、B型および/またはC型肝炎ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、CMV、単純ヘルペスウイルス、ヒトパピローマウイルス等)に向けられたRNAiを含む。
【0131】
さらに、選択的スプライシングを指揮する核酸配列が送達され得る。例示するために、ジストロフィンエクソン51の5’および/または3’スプライス部位に相補的なアンチセンス配列(または他の阻害性配列)を、U1またはU7核内低分子(sn)RNAプロモーターと併せて送達して、このエクソンのスキッピングを誘導し得る。例えば、アンチセンス/阻害性配列に対して5’に配置されるU1またはU7 snRNAプロモーターを含むDNA配列が、本発明の改変カプシドにおいてパッケージされ得かつ送達され得る。
【0132】
ウイルスベクターは、宿主染色体上の遺伝子座と相同性を共有しかつ組み換わる異種核酸も含み得る。この手法を利用して、例えば宿主細胞における遺伝子欠陥を修正し得る。
【0133】
本発明は、例えばワクチン接種のための、免疫原性ポリペプチドを発現するウイルスベクターも提供する。核酸は、これらに限定されないが、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、サル免疫不全ウイルス(SIV)、インフルエンザウイルス由来の免疫原、HIVまたはSIV gagタンパク質、腫瘍抗原、がん抗原、細菌抗原、ウイルス抗原等を含む、当技術分野において公知の目的の任意の免疫原をコードし得る。
【0134】
ワクチンベクターとしてのパルボウイルスの使用は、当技術分野において公知である(例えば、Miyamura et al.,(1994)Proc.Nat.Acad.Sci USA 91:8507;Youngらに対する米国特許第5,916,563号、Mazzaraらに対する米国特許第5,905,040号、米国特許第5,882,652号、Samulskiらに対する米国特許第5,863,541号)。抗原は、パルボウイルスカプシド内に提示され得る。代替的に、抗原は、組換えベクターゲノムに導入された異種核酸から発現され得る。本明細書に記載されるおよび/または当技術分野において公知である目的の任意の免疫原が、本発明のウイルスベクターによって提供され得る。
【0135】
免疫原性ポリペプチドは、免疫応答を引き出すのに適切な、ならびに/またはこれらに限定されないが、微生物性、細菌性、原虫性、寄生虫性、真菌性、および/またはウイルス性感染症および疾患を含む、感染症および/もしくは疾患から対象を防御するのに適切な任意のポリペプチドであり得る。例えば、免疫原性ポリペプチドは、オルトミクソウイルス免疫原(例えば、インフルエンザウイルスヘマグルチニン(HA)表面タンパク質もしくはインフルエンザウイルス核タンパク質等のインフルエンザウイルス免疫原、またはウマインフルエンザウイルス免疫原)またはレンチウイルス免疫原(例えば、HIVまたはSIVエンベロープGP160タンパク質、HIVまたはSIVマトリックス/カプシドタンパク質、ならびにHIVまたはSIV gag、pol、およびenv遺伝子産物等、ウマ感染性貧血ウイルス免疫原、サル免疫不全ウイルス(SIV)免疫原、またはヒト免疫不全ウイルス(HIV)免疫原)であり得る。免疫原性ポリペプチドは、アレナウイルス免疫原(例えば、ラッサ熱ウイルスヌクレオカプシドタンパク質および/またはラッサ熱エンベロープ糖タンパク質等、ラッサ熱ウイルス免疫原)、ポックスウイルス免疫原(例えば、ワクシニアL1またはL8遺伝子産物等、ワクシニアウイルス免疫原)、フラビウイルス免疫原(例えば、黄熱病ウイルス免疫原または日本脳炎ウイルス免疫原)、フィロウイルス免疫原(例えば、NPおよびGP遺伝子産物等、エボラウイルス免疫原またはマーブルグウイルス免疫原)、ブニヤウイルス免疫原(例えば、RVFV、CCHF、および/またはSFSウイルス免疫原)、またはコロナウイルス免疫原(例えば、ヒトコロナウイルスエンベロープ糖タンパク質等の感染性ヒトコロナウイルス免疫原、またはブタ伝染性胃腸炎ウイルス免疫原、または鳥類感染性気管支炎ウイルス免疫原)でもあり得る。免疫原性ポリペプチドは、さらに、ポリオ免疫原、ヘルペスウイルス免疫原(例えば、CMV、EBV、HSV免疫原)、ムンプスウイルス免疫原、麻疹ウイルス免疫原、風疹ウイルス免疫原、ジフテリア毒素もしくは他のジフテリア免疫原、百日咳抗原、肝炎(例えば、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎等)免疫原、および/または当技術分野において現在公知のもしくは免疫原として後に同定される任意の他のワクチン免疫原であり得る。
【0136】
代替的に、免疫原性ポリペプチドは、任意の腫瘍またはがん細胞抗原であり得る。任意選択で、腫瘍またはがん抗原は、がん細胞の表面に発現される。例となるがんおよび腫瘍細胞抗原は、S.A.Rosenberg(Immunity 10:281(1991))に記載される。他の例示的ながんおよび腫瘍抗原は、これらに限定されないが、BRCA1遺伝子産物、BRCA2遺伝子産物、gp100、チロシナーゼ、GAGE-1/2、BAGE、RAGE、LAGE、NY-ESO-1、CDK-4、β-カテニン、MUM-1、カスパーゼ-8、KIAA0205、HPVE、SART-1、PRAME、p15、黒色腫腫瘍抗原(Kawakami et al.(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:3515;Kawakami et al.(1994)J.Exp.Med.,180:347;Kawakami et al.(1994)Cancer Res.54:3124)、MART-1、gp100、MAGE-1、MAGE-2、MAGE-3、CEA、TRP-1、TRP-2、P-15、チロシナーゼ(Brichard et al.(1993)J.Exp.Med.178:489);HER-2/neu遺伝子産物(米国特許第4,968,603号)、CA125、LK26、FB5(エンドシアリン)、TAG72、AFP、CA19-9、NSE、DU-PAN-2、CA50、SPan-1、CA72-4、HCG、STN(シアリルTn抗原)、c-erbB-2タンパク質、PSA、L-CanAg、エストロゲン受容体、乳脂肪グロブリン、p53腫瘍抑制因子タンパク質(Levine,(1993)Ann.Rev.Biochem.62:623);ムチン抗原(PCT公開公報第WO90/05142号);テロメラーゼ;核マトリックスタンパク質;前立腺酸性ホスファターゼ;パピローマウイルス抗原;ならびに/あるいは黒色腫、腺がん、胸腺腫、リンパ腫(例えば、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫)、肉腫、肺がん、肝臓がん、結腸がん、白血病、子宮がん、乳がん、前立腺がん、卵巣がん、子宮頸がん、膀胱がん、腎臓がん、膵臓がん、脳腫瘍、および任意の他のがん、または現在公知のもしくは後に同定される悪性病状(例えば、Rosenberg,(1996)Ann.Rev.Med.47:481-91を参照されたい)と関連することが現在公知のまたは後に発見される抗原、を含む。
【0137】
さらなる代替策として、異種核酸は、インビトロ、エクスビボ、またはインビボで細胞において望ましく産生される任意のポリペプチドをコードし得る。例えば、ウイルスベクターは培養細胞に導入され得、発現した核酸産物はそこから単離され得る。
【0138】
目的の異種核酸は、適当な制御配列と作動的に結び付けられ得ることが当業者によって理解されるであろう。例えば、異種核酸は、転写/翻訳制御シグナル、複製の起点、ポリアデニル化シグナル、内部リボソーム進入部位(IRES)、プロモーター、および/またはエンハンサー等の発現制御エレメントと作動的に結び付けられ得る。
【0139】
さらに、目的の異種核酸の調節された発現は、例えば、特異的部位でのスプライシング活性を選択的に遮断するオリゴヌクレオチド、小分子、および/もしくは他の化合物の存在または非存在によって種々のイントロンの選択的スプライシングを調節することによって、転写後レベルで達成され得る(例えば、PCT公開公報第WO2006/119137号に記載される)。
【0140】
当業者であれば、様々なプロモーター/エンハンサーエレメントが、所望されるレベルおよび組織特異的発現に応じて使用され得ることを解するであろう。プロモーター/エンハンサーは、所望される発現のパターンに応じて、構成的または誘導性であり得る。プロモーター/エンハンサーは、在来または外来であり得、天然または合成配列であり得る。外来によって、転写開始領域が導入される野生型宿主において転写開始領域が見出されないことが意図される。
【0141】
特定の実施形態において、プロモーター/エンハンサーエレメントは、治療されるべき標的細胞または対象に対して在来であり得る。代表的な実施形態において、プロモーター/エンハンサーエレメントは、異種核酸配列に対して在来であり得る。プロモーター/エンハンサーエレメントは、一般的に、それが目的の標的細胞において機能するように選定される。さらに、特定の実施形態において、プロモーター/エンハンサーエレメントは哺乳類プロモーター/エンハンサーエレメントである。プロモーター/エンハンサーエレメントは構成的または誘導性であり得る。
【0142】
誘導性発現制御エレメントは、典型的に、異種核酸配列の発現を上回る調節を提供することが望ましいそれらの適用において有利である。遺伝子送達のための誘導性プロモーター/エンハンサーエレメントは、組織特異的または優先的プロモーター/エンハンサーエレメントであり得、筋肉特異的もしくは優先的(心臓筋、骨格筋、および/または平滑筋特異的または優先的を含む)、神経組織特異的もしくは優先的(脳特異的または優先的を含む)、目特異的もしくは優先的(網膜特異的および角膜特異的を含む)、肝臓特異的もしくは優先的、骨髄特異的もしくは優先的、膵臓特異的もしくは優先的、脾臓特異的もしくは優先的、および/または肺特異的もしくは優先的プロモーター/エンハンサーエレメントを含む。他の誘導性プロモーター/エンハンサーエレメントは、ホルモン誘導性および金属誘導性エレメントを含む。例となる誘導性プロモーター/エンハンサーエレメントは、これらに限定されないが、Tetオン/オフエレメント、RU486誘導性プロモーター、エクジソン誘導性プロモーター、ラパマイシン誘導性プロモーター、およびメタロチオネインプロモーターを含む。
【0143】
異種核酸配列が標的細胞において転写され、次いで翻訳される実施形態において、挿入されたタンパク質コード配列の効率的な翻訳のために、特異的開始シグナルが一般的に含まれる。ATG開始コドンおよび近接配列を含み得るこれらの外因性翻訳制御配列は、天然でも合成でも、様々な起源のものであり得る。
【0144】
本発明に従ったウイルスベクターは、分裂および非分裂細胞を含む広範な細胞に異種核酸を送達するための手段を提供する。例えばインビトロで細胞に目的の核酸を送達するために、例えばインビトロでポリペプチドを産生するために、またはエクスビボ遺伝子療法のために、ウイルスベクターが採用され得る。ウイルスベクターは、例えば免疫原性および/もしくは治療用ポリペプチドならびに/または機能的RNAを発現させるために、それを必要とする対象に核酸を送達する方法において付加的に有用である。このように、ポリペプチドおよび/または機能的RNAは、対象においてインビボで産生され得る。対象はポリペプチドの欠損を有するため、対象はポリペプチドを必要とし得る。さらに、対象におけるポリペプチドおよび/または機能的RNAの産生は何らかの有益な効果を与え得るため、方法は実践され得る。
【0145】
ウイルスベクターを使用して、培養細胞においてまたは対象においても目的のポリペプチドおよび/または機能的RNAを産生し得る(例えば、ポリペプチドを産生するための、および/または、例えばスクリーニング法との関連で、対象に対する機能的RNAの効果を観察するための、バイオリアクターとして対象を使用する)。
【0146】
概して、本発明のウイルスベクターを採用して、ポリペプチドおよび/または機能的RNAをコードする異種核酸(例えば治療用ポリペプチド、例えば治療用核酸)を送達して、例えばそれを必要とする対象であって、例えば対象は疾患状態または障害を有するまたはその危険性がある対象に、治療用ポリペプチドおよび/または機能的RNAを送達することが有益である任意の疾患状態もしくは障害を治療し得および/または阻止し得る。一部の実施形態において、疾患状態はCNS疾患または障害である。一部の実施形態において、対象は、疾患もしくは障害と関連した疼痛を有するまたは有する危険性がある。一部の実施形態において、対象はヒトである。一部の実施形態において、対象は子宮内にいる。
【0147】
例示的な疾患状態は、これらに限定されないが、嚢胞性線維症(嚢胞性線維症膜貫通調節タンパク質)および肺の他の疾患、血友病A(第VIII因子)、血友病B(第IX因子)、サラセミア(β-グロビン)、貧血(エリスロポエチン)、および他の血液障害、アルツハイマー病(GDF;ネプリライシン)、多発性硬化症(β-インターフェロン)、パーキンソン病(グリア細胞株由来神経栄養因子[GDNF])、ハンチントン病(リピートを除去するRNAi)、筋萎縮性側索硬化症、てんかん(ガラニン、神経栄養因子)、および他の神経学的障害、がん(エンドスタチン、アンギオスタチン、TRAIL、FASリガンド、インターフェロンを含むサイトカイン;VEGFまたは多剤耐性遺伝子産物に対するRNAiを含むRNAi、mir-26a[例えば、肝細胞癌腫に対する])、糖尿病(インスリン)、デュシェンヌ型を含む筋ジストロフィー(ジストロフィン、ミニジストロフィン、インスリン様成長因子I、サルコグリカン[例えば、α、β、γ]、ミオスタチンに対するRNAi、ミオスタチンプロペプチド、フォリスタチン、アクチビンII型可溶性受容体、IカッパBドミナント変異体等の抗炎症ポリペプチド、サルコスパン、ユートロフィン、ミニユートロフィン、エクソンスキッピングを誘導するためのジストロフィン遺伝子におけるスプライス接合部に対するアンチセンスまたはRNAi[例えば、PCT公開公報第WO/2003/095647号を参照されたい]、エクソンスキッピングを誘導するためのU7 snRNAに対するRNAi[例えば、PCT公開公報第WO/2006/021724号を参照されたい]、およびミオスタチンまたはミオスタチンプロペプチドに対する抗体または抗体フラグメント)、およびベッカー、ゴーシェ病(グルコセレブロシダーゼ)、ハーラー病(α-L-イズロニダーゼ)、アデノシンデアミナーゼ欠損症(アデノシンデアミナーゼ)、グリコーゲン蓄積症(例えば、ファブリー病[α-ガラクトシダーゼ]およびポンペ病[リソソーム酸α-グルコシダーゼ])、および他の代謝障害、先天性肺気腫(α1-アンチトリプシン)、レッシュ・ナイハン症候群(ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ)、ニーマン・ピック病(スフィンゴミエリナーゼ)、テイ・サックス(Tays Sachs)病(リソソームヘキソサミニダーゼA)、メープルシロップ尿症(分枝鎖ケト酸デヒドロゲナーゼ)、網膜変性疾患(ならびに、目および網膜の他の疾患;例えば、黄斑変性症に対するPDGF、および/または例えばI型糖尿病における、網膜障害を治療する/阻止するためのバゾヒビンもしくはVEGFの他の阻害剤もしくは他の血管新生阻害剤)、脳(パーキンソン病[GDNF]、星状細胞腫[エンドスタチン、アンギオスタチン、および/またはVEGFに対するRNAi]、膠芽腫[エンドスタチン、アンギオスタチン、および/またはVEGFに対するRNAi])、肝臓、腎臓、鬱血性心不全もしくは末梢動脈疾患(PAD)を含む心臓等の固形臓器の疾患(例えば、プロテインホスファターゼ阻害剤I(I-1)およびそのフラグメント(例えば、I1C)、serca2a、ホスホランバン遺伝子を調節するジンクフィンガータンパク質、Barkct、β2-アドレナリン受容体、β2-アドレナリン受容体キナーゼ(BARK)、ホスホイノシチド-3キナーゼ(PI3キナーゼ)、S100A1、パルブアルブミン、アデニリルシクラーゼ6型、切り取られた構成的に活性なbARKct等のGタンパク質共役受容体キナーゼ2型ノックダウンを生じさせる分子;カルサルシン(calsarcin)、ホスホランバンに対するRNAi;ホスホランバンS16E等のホスホランバン阻害性分子またはドミナントネガティブ分子等を送達することによる)、関節炎(インスリン様成長因子)、関節障害(インスリン様成長因子1および/または2)、内膜過形成(例えば、enos、inosを送達することによる)、心臓移植の生存期間を改善する(スーパーオキシドディスムターゼ)、AIDS(可溶性CD4)、筋肉消耗(インスリン様成長因子I)、腎臓欠損症(エリスロポエチン)、貧血(エリスロポエチン)、関節炎(IRAPおよびTNFα可溶性受容体等の抗炎症因子)、肝炎(α-インターフェロン)、LDL受容体欠損症(LDL受容体)、高アンモニア血症(オルニチントランスカルバミラーゼ)、クラッベ病(ガラクトセレブロシダーゼ)、バッテン病、SCA1、SCA2、およびSCA3を含む脊髄脳性運動失調症、フェニルケトン尿症(フェニルアラニンヒドロキシラーゼ)、自己免疫疾患、先天性神経変性障害(例えば、単一遺伝子神経変性障害)、例えばムコ多糖症(これらに限定されないが、ムコ多糖症I型(ハーラー症候群、ハーラー・シェイエ症候群、またはシェイエ症候群としても知られる、IDUA、アルファ-L-イズロニダーゼ)、ムコ多糖症II型(ハンター症候群としても知られる、IDS、I2L酵素)、ムコ多糖症III型(サンフィリポ症候群としても知られる、GNS[N-アセチルグルコサミン-6-スルファターゼ]、HGSNAT[ヘパラン-アルファ-グルコサミニドN-アセチルトランスフェラーゼ]、NAGLU[アルファ-N-アセチルグルコサミニダーゼ]、および/またはSGSH[スルファミダーゼ])、ムコ多糖症IV型(モルキオ症候群としても知られる、GALNS[ガラクトサミン(galatosamine)(N-アセチル)-6-スルファターゼ]および/またはGLB1[ベータ-ガラクトシダーゼ])、ムコ多糖症V型(シェイエ症候群、現在I型の下位群としても知られる、またIDUA、アルファ-L-イズロニダーゼ)、ムコ多糖症VI型(マロトー・ラミー症候群としても知られる、ARSB、アリールスルファターゼB)、ムコ多糖症VII型(スライ症候群としても知られる、GUSB、ベータ-グルクロニダーゼ)、ムコ多糖症IX型(ナトウィック(Natowicz)症候群としても知られる、HYAL1、ヒアルロニダーゼ)を含む)、ならびに/または白質ジストロフィー(これらに限定されないが、成人発症常染色体優性白質ジストロフィー(ADLD;LMNB1、ラミンB1)、エカルディ・グティエール症候群(TREX1、RNASEHSB、RNASEH2C、および/またはRNASEH2A)、アレキサンダー病(FRAP、グリア線維性酸性タンパク質)、CADASIL(Notch3)、カナバン病(ASPA、アスパルトアシラーゼ)、CARASIL(HTRA1、セリンプロテアーゼHTRA1)、脳腱黄色腫症(「CTX」、CYP27A1、ステロール27-ヒドロキシラーゼ)、小児期運動失調症および大脳白質形成不全症(CACH)/白質消失症(VWMD)(eIF2B、真核性開始因子2B)、ファブリー病(GLA、アルファ-ガラクトシダーゼA)、フコシドーシス(FUCA1、アルファ-L-フコシダーゼ)、GM1ガングリオシドーシス(GLB1、ベータ-ガラクトシダーゼ)、L-2-ヒドロキシグルタル酸尿症(L2HDGH、L-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼ)、クラッベ病(GALC、ガラクトセレブロシダーゼ)、皮質下嚢胞を有する大脳型白質脳症(megalencephalic leukoencephalopathy)(「MLC」、MLC1および/またはHEPACAM)、異染性白質ジストロフィー(ASA、アリールスルファターゼ(arylsulphatase)A)、マルチプルスルファターゼ欠損症(「MSD」、SUMF1、すべてのスルファターゼ酵素に影響を及ぼすスルファターゼ修飾因子1)、ペリツェウス・メルツバッハー病(「X連鎖痙性対麻痺」としても知られる、PLP1[X連鎖プロテオリピドタンパク質1]および/またはGJA12[ギャップ結合タンパク質12])、Pol III関連白質ジストロフィー(POLR3Aおよび/またはPOLR3B)、レフサム病(PHYH、[フィタノイル-CoAヒドロキシラーゼ]および/またはPex7[ペルオキシソームへのPHYHインポーター])、サラ病(「遊離シアル酸蓄積症」としても知られる、SLC17A5、シアル酸トランスポーター)、シェーグレン・ラルソン症候群(ALDH3A2、アルデヒドデヒドロゲナーゼ)、X連鎖副腎白質ジストロフィー(「ALD」、ABCD1、ペルオキシソームATPase結合カセットタンパク質)、ツェルウェーガー症候群スペクトラム障害(ペルオキシソーム生合成障害としても知られる、PEX1、PEX2、PEX3、PEX4、PEX5、PEX10、PEX11B、PEX12、PEX13、PEX14、PEX16、PEX19、PEX26)を含む)等を含む。本発明を臓器移植後にさらに使用して、移植の成功を増加させ得かつ/または臓器移植もしくは補助療法のマイナスの副作用を低下させ得る(例えば、サイトカイン産生を遮断する免疫抑制剤または阻害性核酸を投与することによる)。別の例として、がん患者において、例えば骨折(break)または外科的除去後に、骨形成タンパク質(BNP2、7等、RANKL、および/またはVEGFを含む)が骨同種移植片とともに投与され得る。
【0148】
ゆえに、一部の実施形態において、本発明は、治療用核酸が対象において発現される条件下で、本発明のウイルスベクターおよび/または組成物を対象に投与することによって、対象の細胞に治療用核酸を導入することを含む、それを必要とする対象における疾患を治療する方法を提供する。
【0149】
本発明は、誘導多能性幹細胞(iPS)を産生するためにも使用され得る。例えば、本発明のウイルスベクターを使用して、成体の線維芽細胞、皮膚細胞、肝臓細胞、腎細胞、脂肪細胞、心臓細胞、神経細胞、上皮細胞、内皮細胞等の非多能性細胞に幹細胞関連核酸を送達し得る。幹細胞と関連した因子をコードする核酸は、当技術分野において公知である。幹細胞および多能性と関連したそのような因子の非限定的な例は、Oct-3/4、SOXファミリー(例えば、SOX1、SOX2、SOX3、および/またはSOX15)、Klfファミリー(例えば、Klf1、Klf2、Klf4、および/またはKlf5)、Mycファミリー(例えば、C-myc、L-myc、および/またはN-myc)、NANOG、および/またはLIN28を含む。
【0150】
本発明は、代謝障害、例えば糖尿病(例えば、インスリン)、血友病(例えば、第IX因子または第VIII因子)、リソソーム蓄積症、例えばムコ多糖症障害(例えば、スライ症候群[β-グルクロニダーゼ]、ハーラー症候群[α-L-イズロニダーゼ]、シェイエ症候群[α-L-イズロニダーゼ]、ハーラー・シェイエ症候群[α-L-イズロニダーゼ]、ハンター症候群[イズロン酸スルファターゼ]、サンフィリポ症候群A[ヘパランスルファミダーゼ]、B[N-アセチルグルコサミニダーゼ]、C[アセチル-CoA:α-グルコサミニドアセチルトランスフェラーゼ]、D[N-アセチルグルコサミン6-スルファターゼ]、モルキオ症候群A[ガラクトース-6-硫酸スルファターゼ]、B[β-ガラクトシダーゼ]、マロトー・ラミー症候群[N-アセチルガラクトサミン-4-スルファターゼ]等)、ファブリー病(α-ガラクトシダーゼ)、ゴーシェ病(グルコセレブロシダーゼ)、もしくはグリコーゲン蓄積症(例えば、ポンペ病;リソソーム酸α-グルコシダーゼ)を治療しおよび/または阻止するためにも実践され得る。
【0151】
遺伝子移入は、疾患状態を理解しかつそれに対する療法を提供するための実質的な潜在的使用を有する。欠陥遺伝子が公知であり、クローニングされている多数の遺伝性疾患がある。一般的に、上記の疾患状態は、2つのクラス:一般的に劣性様式で受け継がれる、通常では酵素の欠損状態、および調節または構造タンパク質を伴い得、典型的には優性様式で受け継がれる不均衡状態、に分類される。欠損状態の疾患に関しては、遺伝子移入を使用して、置き換え療法のために罹患組織に正常遺伝子を持ち込み得、ならびにアンチセンス変異を使用して疾患に対する動物モデルを創出し得る。不均衡な疾患状態に関しては、遺伝子移入を使用して、モデルシステムにおいて疾患状態を創出し得、次いでそれを使用して疾患状態に対抗し得る。ゆえに、本発明に従ったウイルスベクターは、遺伝子疾患の治療および/または阻止を可能にする。
【0152】
本発明に従ったウイルスベクターを採用して、インビトロまたはインビボで細胞に機能的RNAを提供もし得る。細胞における機能的RNAの発現は、例えば細胞による特定の標的タンパク質の発現を低減させ得る。したがって、機能的RNAを投与して、それを必要とする対象における特定のタンパク質の発現を減少させ得る。機能的RNAをインビトロで細胞に投与して、遺伝子発現および/または細胞生理を調節して、例えば細胞もしくは組織培養システムを最適化し、またはスクリーニング法も最適化し得る。
【0153】
加えて、本発明に従ったウイルスベクターは、診断法およびスクリーニング法において使用を見出し、それによって、目的の核酸は、細胞培養システムまたは代替的にトランスジェニック動物モデルにおいて一過性にまたは安定に発現される。
【0154】
本発明のウイルスベクターは、当業者に明白であろうように、これらに限定されないが、遺伝子標的化、クリアランス、転写、翻訳等を査定するプロトコールにおける使用を含む、様々な非治療的目的のためにも使用され得る。ウイルスベクターは、安全性(拡散、毒性、免疫原性等)を評価する目的のためにも使用され得る。そのようなデータは、臨床的有効性の評価の前に、規制当局承認プロセスの一部として米国食品医薬品局によって考慮される。
【0155】
さらなる態様として、本発明のウイルスベクターを使用して、対象において免疫応答を生み出し得る。この実施形態によれば、免疫原性ポリペプチドをコードする異種核酸配列を含むウイルスベクターが対象に投与され得、免疫原性ポリペプチドに対して、能動免疫応答が対象によって始められる。免疫原性ポリペプチドは、上で記載されるとおりである。一部の実施形態において、防御免疫応答が引き出される。
【0156】
代替的に、ウイルスベクターはエクスビボで細胞に投与され得、変更された細胞が対象に投与される。異種核酸を含むウイルスベクターが細胞に導入され、細胞は対象に投与され、そこで免疫原をコードする異種核酸は発現され得かつ免疫原に対して対象において免疫応答を誘導し得る。特定の実施形態において、細胞は抗原提示細胞(例えば、樹状細胞)である。
【0157】
「能動免疫応答」または「能動免疫」は、「免疫原との遭遇後の宿主組織および細胞の参加によって特徴付けられる。それは、リンパ細網組織における免疫能力のある細胞の分化および増殖を伴い、それは、抗体の合成もしくは細胞媒介性反応性の発生、またはその両方につながる」。Herbert B.Herscowitz,Immunophysiology:Cell Function and Cellular Interactions in Antibody Formation,in IMMUNOLOGY:BASIC PROCESSES 117(Joseph A.Bellanti ed.,1985)。代替的に述べると、能動免疫応答は、感染によるまたはワクチン接種による免疫原への曝露後に宿主によって始められる。能動免疫は、「能動免疫された宿主から非免疫宿主へのあらかじめ形成された物質(抗体、トランスファー因子、胸腺移植片、インターロイキン-2)の移入」により取得される受動免疫と対比され得る。同上。
【0158】
本明細書において使用される「防御」免疫応答または「防御」免疫とは、免疫応答が、それが疾患の出現を阻止するまたは低下させるという点において、対象に何らかの利益を付与することを示す。代替的に、防御免疫応答または防御免疫は、疾患、特にがんもしくは腫瘍の治療および/または阻止において有用であり得る(例えば、がんもしくは腫瘍形成を阻止することによって、がんもしくは腫瘍の退縮を引き起こすことによって、および/または転移を阻止することによって、および/または転移結節の成長を阻止することによって)。治療の利益がその任意の不利を上回る限り、防御効果は完全であっても部分的であってもよい。
【0159】
特定の実施形態において、異種核酸を含むウイルスベクターまたは細胞は、本明細書に記載される免疫原的(immunogenically)有効量で投与され得る。
【0160】
本発明のウイルスベクターは、がん細胞に対する免疫応答を生み出す1種もしくは複数のがん細胞抗原(または免疫学的に同様の分子)または任意の他の免疫原を発現するウイルスベクターの投与によるがん免疫療法のためにも投与され得る。例示するために、免疫応答は、がん細胞抗原をコードする異種核酸を含むウイルスベクターを投与することによって、対象におけるがん細胞抗原に対して生み出されて、例えばがんを有する患者を治療し得および/または対象においてがんが発生するのを阻止し得る。ウイルスベクターは、本明細書に記載されるように、インビボでまたはエクスビボ法を使用することによって、対象に投与され得る。代替的に、がん抗原は、ウイルスカプシドの一部として発現され得る、またはウイルスカプシドと別様に結び付けられ得る(例えば、上で記載されるように)。
【0161】
別の代替策として、当技術分野において公知の任意の他の治療用核酸(例えば、RNAi)またはポリペプチド(例えば、サイトカイン)を投与して、がんを治療しおよび/または阻止し得る。
【0162】
本明細書において使用するとき、「がん」という用語は腫瘍形成がんを包含する。同じように、「がん性組織」という用語は腫瘍を包含する。「がん細胞抗原」は腫瘍抗原を包含する。
【0163】
「がん」という用語は、例えば、身体の遠位部位に拡散する(すなわち、転移する)潜在性を有する組織の制御されない成長という、当技術分野におけるその理解された意味を有する。例となるがんは、これらに限定されないが、黒色腫、腺がん、胸腺腫、リンパ腫(例えば、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫)、肉腫、肺がん、肝臓がん、結腸がん、白血病、子宮がん、乳がん、前立腺がん、卵巣がん、子宮頸がん、膀胱がん、腎臓がん、膵臓がん、脳腫瘍、および任意の他のがん、または現在公知のもしくは後に同定される悪性病状を含む。代表的な実施形態において、本発明は、腫瘍形成がんを治療しおよび/または阻止する方法を提供する。
【0164】
「腫瘍」という用語は、また、当技術分野において、例えば多細胞生物内の未分化細胞の異常な塊としても理解される。腫瘍は悪性または良性であり得る。代表的な実施形態において、本明細書に開示される方法を使用して、悪性腫瘍を阻止しかつ治療する。
【0165】
「がんを治療すること」、「がんの治療」という用語および等価の用語によって、がんの重症度が低下するもしくは少なくとも部分的に排除される、ならびに/または疾患の進行が減速しおよび/もしくは制御される、ならびに/または疾患が安定することが意図される。特定の実施形態において、これらの用語は、がんの転移が阻止されるもしくは低下するもしくは少なくとも部分的に排除されること、および/または転移結節の成長が阻止されるもしくは低下するもしくは少なくとも部分的に排除されることを示す。
【0166】
「がんの阻止」または「がんを阻止すること」という用語および等価の用語によって、方法が、がんの出現および/または発症の重症度を少なくとも部分的に排除しもしくは低下させならびに/または遅延させることが意図される。代替的に述べると、対象におけるがんの発症は、可能性もしくは確率が低下し得および/または遅延し得る。
【0167】
特定の実施形態において、細胞は、がんを有する患者から取り出され得、本発明に従ったがん細胞抗原を発現するウイルスベクターと接触され得る。次いで、改変された細胞は対象に投与され、それによってがん細胞抗原に対する免疫応答が引き出される。この方法は、インビボで十分な免疫応答を始めることができない(すなわち、十分な分量の増強抗体を産生することができない)免疫欠陥のある対象とともに有利に採用され得る。
【0168】
免疫応答は、免疫調節性サイトカイン(例えば、α-インターフェロン、β-インターフェロン、γ-インターフェロン、ω-インターフェロン、τ-インターフェロン、インターロイキン-1α、インターロイキン-1β、インターロイキン-2、インターロイキン-3、インターロイキン-4、インターロイキン5、インターロイキン-6、インターロイキン-7、インターロイキン-8、インターロイキン-9、インターロイキン-10、インターロイキン-11、インターロイキン12、インターロイキン-13、インターロイキン-14、インターロイキン-18、B細胞成長因子、CD40リガンド、腫瘍壊死因子-α、腫瘍壊死因子-β、単球走化性タンパク質-1、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、およびリンホトキシン)によって増強され得ることが当技術分野において公知である。したがって、免疫調節性サイトカイン(好ましくは、CTL誘導性サイトカイン)は、ウイルスベクターと併せて対象に投与され得る。
【0169】
サイトカインは、当技術分野において公知の任意の方法によって投与され得る。外因性サイトカインが対象に投与され得、または代替的に、サイトカインをコードする核酸が、適切なベクターを使用して対象に送達され得、サイトカインはインビボで産生され得る。
【0170】
対象、薬学的製剤、および投与の様態
本発明に従ったウイルスベクターおよびカプシドは、獣医学的および医学的適用の両方において使用を見出す。適切な対象は、鳥類および哺乳類の両方を含む。本明細書において使用される「鳥類」という用語は、これらに限定されないが、ニワトリ、アヒル、ガチョウ、ウズラ、シチメンチョウ、キジ、オウム、インコ等を含む。本明細書において使用される「哺乳類」という用語は、これらに限定されないが、ヒト、非ヒト霊長類、ウシ、ヒツジ、山羊、ウマ、ネコ、イヌ、ウサギ等を含む。ヒト対象は、子宮内(例えば、胚、胎児)、新生児、幼児、年少者、成人、および高齢者対象を含む。
【0171】
代表的な実施形態において、対象は、本発明の方法「を必要とし」、ゆえに一部の実施形態において、「それを必要とする対象」であり得る。
【0172】
特定の実施形態において、本発明は、薬学的に許容される担体中の本発明のウイルスベクターおよび/またはカプシド、ならびに任意選択で、他の薬用作用物質、薬学的作用物質、安定剤、緩衝剤、担体、アジュバント、希釈剤等を含む薬学的組成物を提供する。注射に関して、担体は、典型的に液体であろう。投与の他の方法に関して、担体は、固体または液体のいずれかであり得る。吸入投与に関して、担体は呼吸に適していると考えられ、任意選択で固体または液体微粒子形態であり得る。
【0173】
「薬学的に許容される」によって、それは、有毒でないまたは別様に望ましくない材料が意図され、すなわち材料は、いかなる望ましくない生物学的効果を引き起こすことなく、対象に投与され得る。
【0174】
本発明の1つの態様は、インビトロで細胞に核酸を移入する方法である。ウイルスベクターは、特定の標的細胞に適切な標準的形質導入法に従って、適当な感染多重度で細胞に導入され得る。投与するウイルスベクターの力価は、標的細胞タイプおよび数、ならびに特定のウイルスベクターに応じて変動し得、過度の実験なしに当業者によって判定され得る。代表的な実施形態において、少なくとも約10感染単位、任意選択で少なくとも約10感染単位が細胞に導入される。
【0175】
ウイルスベクターが導入される細胞は、これらに限定されないが、神経細胞(末梢および中枢神経系の細胞、特にニューロンおよびオリゴデンドロサイト等の脳細胞を含む)、肺細胞、目の細胞(網膜細胞、網膜色素上皮、および角膜細胞を含む)、上皮細胞(例えば、腸および呼吸器上皮細胞)、筋肉細胞(例えば、骨格筋細胞、心臓筋細胞、平滑筋細胞、および/または横隔膜筋細胞)、樹状細胞、膵臓細胞(膵島細胞を含む)、肝細胞、心筋細胞、骨細胞(例えば、骨髄幹細胞)、造血幹細胞、脾臓細胞、ケラチノサイト、線維芽細胞、内皮細胞、前立腺細胞、生殖細胞等を含む、任意のタイプのものであり得る。代表的な実施形態において、細胞は、任意の前駆細胞であり得る。さらなる実施形態として、細胞は、幹細胞(例えば、神経幹細胞、肝臓幹細胞)であり得る。なおさらなる実施形態として、細胞は、がんまたは腫瘍細胞であり得る。さらに、細胞は、上で示されるように、任意の起源の種由来のものであり得る。
【0176】
ウイルスベクターは、改変された細胞を対象に投与する目的のために、インビトロで細胞に導入され得る。特定の実施形態において、細胞は対象から取り出されており、ウイルスベクターはその中に導入され、次いで細胞は対象に戻し投与される。対象への戻し導入が後に続く、エクスビボでの操縦のために対象から細胞を取り出す方法は、当技術分野において公知である(例えば、米国特許第5,399,346号を参照されたい)。代替的に、組換えウイルスベクターは、ドナー対象由来の細胞に、培養細胞に、または任意の他の適切な供給源由来の細胞に導入され得、細胞は、それを必要とする対象(すなわち、「レシピエント」対象)に投与される。
【0177】
エクスビボ核酸送達のための適切な細胞は、上で記載されるとおりである。対象に投与する細胞の投薬量は、対象の年齢、病状、および種、細胞のタイプ、細胞によって発現されている核酸、投与の様態等によって変動するであろう。典型的に、少なくとも約10~約10個細胞または約10~約10個細胞が、薬学的に許容される担体中にて投薬あたり投与されるであろう。特定の実施形態において、ウイルスベクターを形質導入された細胞は、薬学的担体との組合せで治療有効量または阻止有効量で対象に投与される。
【0178】
一部の実施形態において、ウイルスベクターを細胞に導入し、細胞を対象に投与して、送達されたポリペプチド(例えば、導入遺伝子としてまたはカプシドにおいて発現される)に対する免疫原性応答を引き出し得る。典型的に、薬学的に許容される担体との組合せでの免疫原的有効量のポリペプチドを発現する細胞の分量が投与される。「免疫原的有効量」とは、薬学的製剤が投与される対象においてポリペプチドに対する能動免疫応答を惹起するのに十分である、発現されるポリペプチドの量である。特定の実施形態において、投薬量は、防御免疫応答(上で定義される)を生み出すのに十分である。免疫原性ポリペプチドを投与することの利益がその任意の不利を上回る限り、付与される防御の程度は、完全であるまたは永続的である必要はない。
【0179】
一部の実施形態において、対象は、例えば別のAAVウイルスベクター(例えば、表1に列挙される任意のAAV血清型)と接触した場合の対照と比較して、本発明のウイルスベクターと接触した場合に免疫学的プロファイル(例えば免疫学的応答、例えば抗原交差反応性)の低下を有し得る。
【0180】
本発明のさらなる態様は、対象にウイルスベクターおよび/またはウイルスカプシドを投与する方法である。それを必要とするヒト対象または動物への本発明に従ったウイルスベクターおよび/またはカプシドの投与は、当技術分野において公知の任意の手段によるものであり得る。任意選択で、ウイルスベクターおよび/またはカプシドは、薬学的に許容される担体中にて治療有効用量または阻止有効用量で送達され得る。
【0181】
本発明のウイルスベクターおよび/またはカプシドをさらに投与して、免疫原性応答(例えば、ワクチンとして)を引き出し得る。典型的に、本発明の免疫原性組成物は、薬学的に許容される担体との組合せで、免疫原的有効量のウイルスベクターおよび/またはカプシドを含む。任意選択で、投薬量は、防御免疫応答(上で定義される)を生み出すのに十分である。
【0182】
対象に投与されるべきウイルスベクターおよび/またはカプシドの投薬量は、投与の様態、治療されおよび/または阻止される対象となる疾患もしくは病状、個々の対象の条件、特定のウイルスベクターもしくはカプシド、送達される対象となる核酸に依存し、ルーチン的な様式で決定され得る。治療効果を達成するための例となる用量は、少なくとも約10、10、10、10、10、1010、1011、1012、1013、1014、1015形質導入単位、任意選択で約10~1013形質導入単位の力価である。
【0183】
特定の実施形態において、1回を上回る回数の投与(例えば、2、3、4回、またはそれを上回る回数の投与)を採用して、様々な間隔、例えば毎日、週1回、月1回、年1回等の期間にわたって所望のレベルの遺伝子発現を達成し得る。
【0184】
例となる投与の様態は、経口、直腸、経粘膜、鼻腔内、吸入(例えば、エアロゾルを介して)、口腔(例えば、舌下)、膣内、くも膜下腔内、眼球内、経皮、子宮内(または卵内)、非経口(例えば、静脈内、皮下、皮内、筋肉内[骨格筋、横隔膜筋、および/または心臓筋への投与を含む]、皮内、胸膜内、脳内、および関節内)、局部(例えば、気道表面を含む皮膚表面および粘膜表面の両方への、ならびに経皮投与)、リンパ内等、ならびに直接的な組織または臓器注射(例えば、肝臓、骨格筋、心臓筋、横隔膜筋、または脳への)を含む。投与は、腫瘍への(例えば、腫瘍またはリンパ節におけるまたはその付近における)ものでもあり得る。任意の所与の場合における最も適切な経路は、治療されかつ/または阻止されている病状の性質および重症度、ならびに使用されている特定のベクターの性質に依存するであろう。
【0185】
本発明に従った骨格筋への投与は、これらに限定されないが、肢(例えば、上腕、前腕、上腿、および/または下腿)、背部、頸部、頭部(例えば、舌)、胸部、腹部、骨盤/会陰、および/または指における骨格筋への投与を含む。適切な骨格筋は、これらに限定されないが、小指外転筋(手における)、小指外転筋(足における)、母趾外転筋、第五中足骨外転筋、短母指外転筋、長母指外転筋、短内転筋、母趾内転筋、長内転筋、大内転筋、母指内転筋、肘、前斜角筋、膝関節筋、上腕二頭筋、大腿二頭筋、上腕筋、腕橈骨筋、頬筋、烏口腕筋、皺眉筋、三角筋、口角下制筋、下唇下制筋、顎二腹筋、背側骨間筋(手における)、背側骨間筋(足における)、短橈側手根伸筋、長橈側手根伸筋、尺側手根伸筋、小指伸筋、指伸筋、短趾伸筋、長趾伸筋、短母趾伸筋、長母趾伸筋、示指伸筋、短母指伸筋、長母指伸筋、橈側手根屈筋、尺側手根屈筋、短小指屈筋(手における)、短小指屈筋(足における)、短趾屈筋、長趾屈筋、深指屈筋、浅指屈筋、短母趾屈筋、長母趾屈筋、短母指屈筋、長母指屈筋、前頭筋、腓腹筋、オトガイ舌骨筋、大臀筋、中臀筋、小臀筋、薄筋、頸腸肋筋、腰腸肋筋、胸腸肋筋、腸骨筋(illiacus)、下双子筋、下斜筋、下直筋、棘下筋、棘間筋(interspinalis)、横突間筋(intertransversi)、外側翼突筋、外側直筋、広背筋、口角挙筋、上唇挙筋、上唇鼻翼挙筋、上眼瞼挙筋、肩甲挙筋、長回旋筋(long rotator)、頭最長筋、頸最長筋、胸最長筋、頭長筋、頸長筋、虫様筋(手における)、虫様筋(足における)、咬筋、内側翼突筋、内側直筋、中斜角筋、多裂筋、顎舌骨筋、下頭斜筋、上頭斜筋、外閉鎖筋、内閉鎖筋、後頭筋、肩甲舌骨筋、小指対立筋、母指対立筋、眼輪筋、口輪筋、掌側骨間筋、短掌筋、長掌筋、恥骨筋、大胸筋、小胸筋、短腓骨筋、長腓骨筋、第3腓骨筋、梨状筋、底側骨間筋、足底筋、広頸筋、膝窩筋、後斜角筋、方形回内筋、円回内筋、大腰筋、大腿方形筋、足底方形筋、前頭直筋、外側頭直筋、大後頭直筋、小後頭直筋、大腿直筋、大菱形筋、小菱形筋、笑筋、縫工筋、最小斜角筋、半膜様筋、頭半棘筋、頸半棘筋、胸半棘筋、半腱様筋、前鋸筋、短回旋筋(short rotator)、ヒラメ筋、頭棘筋、頸棘筋、胸棘筋、頭板状筋、頸板状筋、胸鎖乳突筋、胸骨舌骨筋、胸骨甲状筋、茎突舌骨筋、鎖骨下筋、肩甲下筋、上双子筋、上斜筋、上直筋、回外筋、棘上筋、側頭筋、大腿筋膜張筋、大円筋、小円筋、胸郭、甲状舌骨筋、前脛骨筋、後脛骨筋、僧帽筋、上腕三頭筋、中間広筋、外側広筋、内側広筋、大頬骨筋、および小頬骨筋、ならびに当技術分野において公知の任意の他の適切な骨格筋を含む。
【0186】
ウイルスベクターおよび/またはカプシドは、静脈内投与、動脈内投与、腹腔内投与、肢灌流(任意選択で、脚および/または腕の分離式肢灌流;例えば、Arruda et al.(2005)Blood 105:3458-3464を参照されたい)、および/または直接筋肉内注射によって骨格筋に送達され得る。特定の実施形態において、ウイルスベクターおよび/またはカプシドは、肢灌流、任意選択で分離式肢灌流(例えば、静脈内または関節内投与による)によって、対象(例えば、DMD等の筋ジストロフィーを有する対象)の肢(腕および/または脚)に投与される。本発明の実施形態において、本発明のウイルスベクターおよび/またはカプシドは、「流体力学的」技法を採用することなく有利に投与され得る。ベクターの組織送達(例えば、筋肉への)は、血管系における圧力を増加させかつ内皮細胞バリアを乗り越えるベクターの能力を促す流体力学的技法(例えば、大容量の静脈内/静脈内投与)によってしばしば増強される。特定の実施形態において、本発明のウイルスベクターおよび/またはカプシドは、高容量の注入および/または血管内圧の上昇(例えば正常な収縮期圧を上回る、例えば正常な収縮期圧と比べて血管内圧の5%、10%、15%、20%、25%未満またはそれに等しい増加)等の流体力学的技法の非存在下で投与され得る。そのような方法は、浮腫、神経損傷、および/またはコンパートメント症候群等、流体力学的技法と関連した副作用を低下させ得るまたは回避し得る。
【0187】
心臓筋への投与は、左心房、右心房、左心室、右心室、および/または中隔への投与を含む。ウイルスベクターおよび/またはカプシドは、静脈内投与、大動脈内投与等の動脈内投与、直接心臓注射(例えば、左心房、右心房、左心室、右心室への)、および/または冠動脈灌流によって心臓筋に送達され得る。
【0188】
横隔膜筋への投与は、静脈内投与、動脈内投与、および/または腹腔内投与を含む、任意の適切な方法によるものであり得る。
【0189】
標的組織への送達は、ウイルスベクターおよび/またはカプシドを含むデポーを送達することによっても達成され得る。代表的な実施形態において、ウイルスベクターおよび/もしくはカプシドを含むデポーは、骨格筋、心臓筋、および/または横隔膜筋組織に植え込まれる、または組織は、ウイルスベクターおよび/もしくはカプシドを含むフィルムもしくは他のマトリックスと接触され得る。そのような植え込み可能なマトリックスまたは基板は、例えば米国特許第7,201,898号に記載される。
【0190】
特定の実施形態において、本発明に従ったウイルスベクターおよび/またはウイルスカプシドは、骨格筋、横隔膜筋、および/または心臓筋に投与される(例えば、筋ジストロフィー、心臓疾患[例えば、PADまたは鬱血性心不全]を治療しおよび/または阻止するために)。
【0191】
代表的な実施形態において、本発明は、骨格筋、心臓筋、および/または横隔膜筋の障害を治療しならびに/または阻止するために使用される。
【0192】
代表的な実施形態において、本発明は、それを必要とする対象における筋ジストロフィーを治療しおよび/または阻止する方法であって、方法は、哺乳類対象に本発明のウイルスベクターの治療または阻止有効量を投与するステップを含み、ウイルスベクターは、ジストロフィン、ミニジストロフィン、マイクロジストロフィン、ミオスタチンプロペプチド、フォリスタチン、アクチビンII型可溶性受容体、IGF-1、IカッパBドミナント変異体等の抗炎症ポリペプチド、サルコスパン、ユートロフィン、マイクロジストロフィン、ラミニン-α2、α-サルコグリカン、β-サルコグリカン、γ-サルコグリカン、δ-サルコグリカン、IGF-1、ミオスタチンもしくはミオスタチンプロペプチドに対する抗体もしくは抗体フラグメント、および/またはミオスタチンに対するRNAiをコードする異種核酸を含む、方法を提供する。特定の実施形態において、ウイルスベクターは、本明細書における他の箇所に記載されるように、骨格筋、横隔膜筋、および/または心臓筋に投与され得る。
【0193】
代替的に、本発明は、骨格筋、心臓筋、または横隔膜筋に核酸を送達するために実践され得、それは、通常では血中を循環するポリペプチド(例えば、酵素)もしくは機能的RNA(例えば、RNAi、マイクロRNA、アンチセンスRNA)の産生のための、または障害(例えば、代謝障害、例えば糖尿病[例えば、インスリン]、血友病[例えば、第IX因子または第VIII因子]、ムコ多糖症障害[例えば、スライ症候群、ハーラー症候群、シェイエ症候群、ハーラー・シェイエ症候群、ハンター症候群、サンフィリポ症候群A、B、C、D、モルキオ症候群、マロトー・ラミー症候群等]、またはリソソーム蓄積症、例えばゴーシェ病[グルコセレブロシダーゼ]もしくはファブリー病[α-ガラクトシダーゼA]、またはグリコーゲン蓄積症、例えばポンペ病[リソソーム酸α-グルコシダーゼ])を治療しかつ/もしくは阻止するための他の組織への全身送達のためのプラットフォームとして使用される。代謝障害を治療しかつ/または阻止するための他の適切なタンパク質は、本明細書に記載される。目的の核酸を発現させるためのプラットフォームとしての筋肉の使用は、米国特許公開第20020192189号に記載される。
【0194】
ゆえに、1つの態様として、本発明は、それを必要とする対象における代謝障害を治療しおよび/または阻止する方法であって、方法は、対象の骨格筋に本発明のウイルスベクターの治療または阻止有効量を投与するステップを含み、ウイルスベクターは、ポリペプチドをコードする異種核酸を含み、代謝障害は、ポリペプチドにおける欠損および/または欠陥の結果である、方法をさらに包含する。例示的な代謝障害、およびポリペプチドをコードする異種核酸は、本明細書に記載される。任意選択で、ポリペプチドは分泌される(例えば、その天然状態において分泌ポリペプチドである、または当技術分野において公知であるように、例えば分泌シグナル配列との作動的な結び付きによって分泌されるように操作されている、ポリペプチド)。本発明の任意の特定の理論によって限定されることなく、この実施形態によれば、骨格筋への投与は、全身循環へのポリペプチドの分泌および標的組織への送達をもたらし得る。骨格筋にウイルスベクターを送達する方法は、本明細書により詳細に記載される。
【0195】
本発明は、全身送達のためのアンチセンスRNA、RNAi、または他の機能的RNA(例えば、リボザイム)を産生するためにも実践され得る。
【0196】
本発明は、それを必要とする対象における先天性心不全またはPADを治療しおよび/または阻止する方法であって、方法は、哺乳類対象に本発明のウイルスベクターの治療または阻止有効量を投与するステップを含み、ウイルスベクターは、例えば筋小胞体(sarcoplasmic endoreticulum)Ca2+-ATPase(SERCA2a)、血管新生因子、ホスファターゼ阻害剤I(I-1)およびそのフラグメント(例えば、I1C)、ホスホランバンに対するRNAi;ホスホランバンS16E等のホスホランバン阻害性分子またはドミナントネガティブ分子、ホスホランバン遺伝子を調節するジンクフィンガータンパク質、β2-アドレナリン受容体、β2-アドレナリン受容体キナーゼ(BARK)、PI3キナーゼ、カルサルカン(calsarcan)、β-アドレナリン受容体キナーゼ阻害剤(βARKct)、プロテインホスファターゼ1の阻害剤1およびそのフラグメント(例えば、I1C)、S100A1、パルブアルブミン、アデニリルシクラーゼ6型、切り取られた構成的に活性なbARKct等のGタンパク質共役受容体キナーゼ2型ノックダウンを生じさせる分子、Pim-1、PGC-1α、SOD-1、SOD-2、EC-SOD、カリクレイン、HIF、チモシン-β4、mir-1、mir-133、mir-206、mir-208、および/またはmir-26aをコードする異種核酸を含む、方法も提供する。
【0197】
一部の実施形態において、本発明は、それを必要とする対象における先天性神経変性障害(例えば、単一遺伝子神経変性障害)を治療しおよび/または阻止する方法であって、方法は、対象の神経組織(例えば、神経細胞)に本発明のウイルスベクターの治療または阻止有効量を投与するステップを含み、ウイルスベクターは、ポリペプチドをコードする異種核酸を含み、先天性神経変性障害は、ポリペプチドにおける欠損および/または欠陥の結果である、方法をさらに包含する。例示的な先天性神経変性障害、およびポリペプチドをコードする異種核酸は、本明細書に記載される。任意選択で、ポリペプチドは分泌される(例えば、その天然状態において分泌ポリペプチドである、または当技術分野において公知であるように、例えば分泌シグナル配列との作動的な結び付きによって分泌されるように操作されている、ポリペプチド)。一部の実施形態において、対象はヒトである。一部の実施形態において、対象は子宮内にいる。一部の実施形態において、対象は、先天性(例えば、単一遺伝子性)神経変性障害を有するまたはその危険性がある。一部の実施形態において、対象は、ムコ多糖症(mucopolysacharidosis)または白質ジストロフィーを有するまたはその危険性がある。
【0198】
注射物質は、液体溶液もしくは懸濁液、注射前の液体状の溶液もしくは懸濁液に適切な固体形態として、または乳濁液として、従来の形態で調製され得る。代替的に、全身的よりもむしろ局所的な様式で、例えばデポーまたは持続放出製剤で本発明のウイルスベクターおよび/またはウイルスカプシドを投与し得る。さらに、ウイルスベクターおよび/またはウイルスカプシドは、外科的に植え込み可能なマトリックスに接着させて送達され得る(例えば、米国特許公開第20040013645号に記載される)。
【0199】
本明細書に開示されるウイルスベクターおよび/またはウイルスカプシドは、任意の適切な手段によって、任意選択で、対象が吸入する、ウイルスベクターおよび/またはウイルスカプシドから構成される呼吸に適した粒子のエアロゾル懸濁液を投与することによって、対象の肺に投与され得る。呼吸に適した粒子は、液体または固体であり得る。ウイルスベクターおよび/またはウイルスカプシドを含む液体粒子のエアロゾルは、当業者に公知であるように、圧力駆動型エアロゾル噴霧器または超音波噴霧器等を用いた任意の適切な手段によって産生され得る。例えば、米国特許第4,501,729号を参照されたい。ウイルスベクターおよび/またはカプシドを含む固体粒子のエアロゾルは、医薬の技術分野において公知の技法によって、任意の固体微粒子医薬エアロゾル発生器を用いて同じように産生され得る。
【0200】
ウイルスベクターおよびウイルスカプシドは、中枢神経系(CNS)(例えば、脳、目)の組織に投与され得、本発明の非存在下で観察されるであろうよりも、ウイルスベクターまたはカプシドのより広い分布を有利にもたらし得る。
【0201】
特定の実施形態において、本発明の送達ベクターは、遺伝子障害、神経変性障害、精神障害、および腫瘍を含む、CNSの疾患を治療するために投与され得る。CNSの例示的な疾患は、これらに限定されないが、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、カナバン病、リー病、レフサム病、トゥレット症候群、原発性側索硬化症、筋萎縮性側索硬化症、進行性筋萎縮症、ピック病、筋ジストロフィー、多発性硬化症、重症筋無力症、ビンスワンガー病、脊髄もしくは頭部傷害に起因した外傷、テイ・サックス病、レッシュ・ナイハン(Lesch-Nyan)病、てんかん、脳梗塞、気分障害(例えば、うつ病、双極性感情障害、持続性感情障害、二次性気分障害)、統合失調症、薬物依存症(例えば、アルコール依存症および他の物質依存症)、神経症(例えば、不安、強迫性障害、身体表現性障害、解離性障害、悲嘆、産後うつ病)、精神病(例えば、幻覚および妄想)を含む精神障害、認知症、パラノイア、注意欠陥障害、精神性的障害、睡眠障害、疼痛性障害、摂食もしくは体重障害(例えば、肥満、悪液質、神経性食欲不振症、および過食症)、CNSのがんおよび腫瘍(例えば、下垂体腫瘍)、ならびに先天性神経変性障害、例えばムコ多糖症(これらに限定されないが、ムコ多糖症I型(ハーラー症候群、ハーラー・シェイエ症候群、またはシェイエ症候群としても知られる、IDUA、アルファ-L-イズロニダーゼ)、ムコ多糖症II型(ハンター症候群としても知られる、IDS、I2L酵素)、ムコ多糖症III型(サンフィリポ症候群としても知られる、GNS[N-アセチルグルコサミン-6-スルファターゼ]、HGSNAT[ヘパラン-アルファ-グルコサミニドN-アセチルトランスフェラーゼ]、NAGLU[アルファ-N-アセチルグルコサミニダーゼ]、および/またはSGSH[スルファミダーゼ])、ムコ多糖症IV型(モルキオ症候群としても知られる、GALNS[ガラクトサミン(N-アセチル)-6-スルファターゼ]および/またはGLB1[ベータ-ガラクトシダーゼ])、ムコ多糖症V型(シェイエ症候群、現在I型の下位群としても知られる、またIDUA、アルファ-L-イズロニダーゼ)、ムコ多糖症VI型(マロトー・ラミー症候群としても知られる、ARSB、アリールスルファターゼB)、ムコ多糖症VII型(スライ症候群としても知られる、GUSB、ベータ-グルクロニダーゼ)、ムコ多糖症IX型(ナトウィック症候群としても知られる、HYAL1、ヒアルロニダーゼ)を含む)、ならびに/または白質ジストロフィー(これらに限定されないが、成人発症常染色体優性白質ジストロフィー(ADLD;LMNB1、ラミンB1)、エカルディ・グティエール症候群(TREX1、RNASEHSB、RNASEH2C、および/またはRNASEH2A)、アレキサンダー病(FRAP、グリア線維性酸性タンパク質)、CADASIL(Notch3)、カナバン病(ASPA、アスパルトアシラーゼ)、CARASIL(HTRA1、セリンプロテアーゼHTRA1)、脳腱黄色腫症(「CTX」、CYP27A1、ステロール27-ヒドロキシラーゼ)、小児期運動失調症および大脳白質形成不全症(CACH)/白質消失症(VWMD)(eIF2B、真核性開始因子2B)、ファブリー病(GLA、アルファ-ガラクトシダーゼA)、フコシドーシス(FUCA1、アルファ-L-フコシダーゼ)、GM1ガングリオシドーシス(GLB1、ベータ-ガラクトシダーゼ)、L-2-ヒドロキシグルタル酸尿症(L2HDGH、L-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼ)、クラッベ病(GALC、ガラクトセレブロシダーゼ)、皮質下嚢胞を有する大脳型白質脳症(「MLC」、MLC1および/またはHEPACAM)、異染性白質ジストロフィー(ASA、アリールスルファターゼA)、マルチプルスルファターゼ欠損症(「MSD」、SUMF1、すべてのスルファターゼ酵素に影響を及ぼすスルファターゼ修飾因子1)、ペリツェウス・メルツバッハー病(「X連鎖痙性対麻痺」としても知られる、PLP1[X連鎖プロテオリピドタンパク質1]および/またはGJA12[ギャップ結合タンパク質12])、Pol III関連白質ジストロフィー(POLR3Aおよび/またはPOLR3B)、レフサム病(PHYH、[フィタノイル-CoAヒドロキシラーゼ]および/またはPex7[ペルオキシソームへのPHYHインポーター])、サラ病(「遊離シアル酸蓄積症」としても知られる、SLC17A5、シアル酸トランスポーター)、シェーグレン・ラルソン症候群(ALDH3A2、アルデヒドデヒドロゲナーゼ)、X連鎖副腎白質ジストロフィー(「ALD」、ABCD1、ペルオキシソームATPase結合カセットタンパク質)、ツェルウェーガー症候群スペクトラム障害(ペルオキシソーム生合成障害としても知られる、PEX1、PEX2、PEX3、PEX4、PEX5、PEX10、PEX11B、PEX12、PEX13、PEX14、PEX16、PEX19、PEX26)を含む)等を含む。
【0202】
CNSの障害は、網膜、背側路(posterior tract)、および視神経に関わる眼科障害(例えば、網膜色素変性症、糖尿病性網膜症、および他の網膜変性疾患、ブドウ膜炎、加齢黄斑変性症、緑内障)を含む。
【0203】
すべてではないが、ほとんどの眼科疾患および障害は、3つのタイプの兆候:(1)血管新生、(2)炎症、および(3)変性、のうちの1つまたは複数と関連する。本発明の送達ベクターを採用して、抗血管新生因子;抗炎症因子;細胞変性を遅らせる、細胞温存(sparing)を促進する、または細胞成長を促進する因子、および前述のものの組合せを送達し得る。
【0204】
糖尿病性網膜症は、例えば血管新生によって特徴付けられる。糖尿病性網膜症は、眼球内に(例えば、硝子体液に)または眼周囲に(例えば、テノン嚢下領域に)、1種または複数の抗血管新生因子を送達することによって治療され得る。1種または複数の神経栄養因子も、眼球内に(例えば、硝子体内に)または眼周囲に共送達され得る。
【0205】
ブドウ膜炎は炎症を伴う。1種または複数の抗炎症因子が、本発明の送達ベクターの
眼球内(例えば、硝子体液または前房)投与によって投与され得る。
【0206】
網膜色素変性症は、比較すると、網膜変性によって特徴付けられる。代表的な実施形態において、網膜色素変性症は、1種または複数の神経栄養因子をコードする送達ベクターの眼球内(例えば、硝子体投与)によって治療され得る。
【0207】
加齢黄斑変性症は、血管新生および網膜変性の両方を伴う。この障害は、1種もしくは複数の神経栄養因子をコードする本発明の送達ベクターを眼球内に(例えば、硝子体)、および/または1種あるいは複数の抗血管新生因子を眼球内にもしくは眼周囲に(例えば、テノン嚢下領域に)投与することによって治療され得る。
【0208】
緑内障は、眼圧の増加および網膜神経節細胞の喪失によって特徴付けられる。緑内障の治療は、本発明の送達ベクターを使用した、興奮毒性損傷から細胞を防御する1種または複数の神経保護剤の投与を含む。そのような作用物質は、眼球内に、任意選択で硝子体内に送達されるN-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)アンタゴニスト、サイトカイン、および神経栄養因子を含む。
【0209】
他の実施形態において、本発明は、発作を治療するために、例えば発作の発症、出現、および/または重症度を低下させるために使用され得る。発作に対する治療的処置の有効性は、行動的(例えば、震え、目または口のカチカチという音(tick))および/または電子写真的手段(ほとんどの発作は、シグネチャー的な電子写真的異常を有する)によって査定され得る。ゆえに、本発明は、経時的な複数回の発作を特徴とするてんかんを治療するためにも使用され得る。
【0210】
1つの代表的な実施形態において、本発明の送達ベクターを使用してソマトスタチン(またはその活性フラグメント)を脳に投与して、下垂体腫瘍を治療する。この実施形態によれば、ソマトスタチン(またはその活性フラグメント)をコードする送達ベクターは、下垂体への微量注入によって投与される。同じように、そのような治療を使用して、先端肥大症(下垂体からの異常な成長ホルモン分泌)を治療し得る。ソマトスタチンの核酸配列(例えば、GenBankアクセッション番号J00306)およびアミノ酸配列(例えば、GenBankアクセッション番号P01166;プロセシングされた活性ペプチドのソマトスタチ-28およびソマトスタチン-14を含有する)は、当技術分野において公知である。
【0211】
特定の実施形態において、ベクターは、例えば米国特許第7,071,172号に記載される分泌シグナルを含み得る。
【0212】
本発明の代表的な実施形態において、ウイルスベクターおよび/またはウイルスカプシドは、CNS(例えば、脳にまたは目に)投与される。ウイルスベクターおよび/またはカプシドは、脊髄、脳幹(延髄、橋)、中脳(視床下部、視床、視床上部、下垂体、黒質、松果腺)、小脳、終脳(線条体、後頭葉、側頭葉、頭頂葉、および前頭葉を含む大脳、大脳皮質、大脳基底核、海馬、ならびに扁桃体(portaamygdala))、辺縁系、新皮質、線条体、大脳、および/または下丘に導入され得る。ウイルスベクターおよび/またはカプシドは、網膜、角膜、および/または視神経等、目の種々の領域にも投与され得る。
【0213】
ウイルスベクターおよび/またはカプシドは、送達ベクターのより分散した投与のために脳脊髄液に送達され得る(例えば、腰椎穿刺によって)。ウイルスベクターおよび/またはカプシドは、血液脳関門が乱されている状況(例えば、脳腫瘍または脳梗塞)において、CNSにさらに血管内投与され得る。
【0214】
ウイルスベクターおよび/またはカプシドは、これらに限定されないが、くも膜下腔内、脳内、脳室内、静脈内(例えば、マンニトール等の糖類の存在下で)、鼻腔内、耳内、眼球内(例えば、硝子体内、網膜下、前房)、および眼周囲(例えば、テノン嚢下領域)送達、ならびに運動ニューロンへの逆行性送達を用いた筋肉内送達を含む、当技術分野において公知の任意の経路によってCNSの所望の領域に投与され得る。
【0215】
一部の実施形態において、本発明のウイルスベクターまたは組成物は、腸内、非経口、くも膜下腔内、嚢内、脳内、脳室内、鼻腔内、耳内、眼球内、眼周囲、直腸内、筋肉内、腹腔内、静脈内、経口、舌下、皮下、および/または経皮経路を介して送達され得る。一部の実施形態において、本発明のウイルスベクターまたは組成物は、頭蓋内におよび/または髄腔内に送達され得る。
【0216】
特定の実施形態において、ウイルスベクターおよび/またはカプシドは、CNSにおける所望の領域またはコンパートメントへの直接注射(例えば、定位注射)によって液体製剤で投与される。他の実施形態において、ウイルスベクターおよび/またはカプシドは、所望の領域への局部適用によって、またはエアロゾル製剤の鼻腔内投与によって提供され得る。目への投与は、液滴の局部適用によるものであり得る。さらなる代替策として、ウイルスベクターおよび/またはカプシドは、絶え間のない徐放性製剤として投与され得る(例えば、米国特許第7,201,898号を参照されたい)。
【0217】
さらに付加的な実施形態において、ウイルスベクターは、運動ニューロンに関わる疾患および障害(例えば、筋萎縮性側索硬化症(ALS);脊髄性筋萎縮症(SMA)等)を治療しおよび/または阻止するために逆行性輸送に使用され得る。例えば、ウイルスベクターは筋肉組織に送達され得、そこからそれはニューロンに移動し得る。
【0218】
本発明を記載してきたが、それは、単に例示目的のために本明細書に含まれ、本発明を限定することを意図されない以下の実施例においてさらに詳細に説明されるであろう。
【実施例
【0219】
[実施例1]
標準的アデノ随伴ウイルス(AAV)血清型2の野生型ウイルスゲノムは、およそ4,700ヌクレオチドの一本鎖(ss)DNAゲノムであり、重複するリーディングフレームを有した複数の遺伝子を含有する。ゲノムの末端は、それ自身の上に折り畳まれてヘアピン構造を形成すると予測される145ヌクレオチドの逆位末端反復(ITR)配列によって隣接される(図1A~1B)。Cap遺伝子はカプシドVPタンパク質を産生し、カプシドの会合を助けるAAPに対するリーディングフレームも含有する。AAV2 Rep遺伝子は、それらのおよその重量で名付けられたRep78、Rep68、Rep50、およびRep42という4種のタンパク質を産生する。小さなRep50および42は、あらかじめ形成されたカプシドに新生ゲノムをパッケージする運動タンパク質として作用し得る。大きなRep78および68は、ゲノム複製に使用されるエンドヌクレアーゼおよびATP依存的ヘリカーゼ機能を有する。これらの大きなRepは、ITRのA領域においてRep結合エレメント(RBE)に結合することによって、ゲノム複製を開始し得る。この初期結合は、DNA鎖をほどき、ジヌクレオチドTT末端分解部位(trs)においてRepによって切断されるニッキングステムを形成するのを助け得る。加えて、大きなRepタンパク質は、Cループの先端でもRBE’領域と接触する(図1A~1B)。ITRは、複製起点、パッケージングシグナル、および感染後のAAVゲノムに持続性を付与する能力を含有することによって、AAVのライフサイクルにおいて基本的役割を果たす。
【0220】
AAV血清型1~4および6~7に関して、ITRの予測構造は類似しているが、全体にわたって、とりわけRBEにおけるGAGCリピートの数、RBE’でのTTTまたはTCT、ヘアピンループにおけるヌクレオチド、およびニッキングステムの形成に参加しない、D領域におけるヌクレオチドに配列の差がある(図1A~1C)。これらの差を有してさえ、AAV2 Repは複製し得、かつ血清型1、3、4、および6由来のゲノムを数々の非AAV2カプシド内に交差パッケージし得る。
【0221】
現在、組換えAAV(rAAV)ベクター産生プラットフォームは、AAV2 Rep-AAV2 ITR複製およびパッケージングシステムに依存する。rAAVにおいて、AAVの内部遺伝子は除去され、治療用カセットに隣接するITRのみを残す。ゆえに、臨床設定において、遺伝子療法を受けている患者は、カプシドタンパク質だけでなく、天然ウイルスAAV2 ITR配列にも曝露される。細胞におけるこれらの配列の影響は歴史的に十分に研究されていない(understudied)が、AAV ITRは、いくつかの宿主タンパク質と相互作用し得、抗ウイルスおよびDNA損傷応答経路を刺激し得ることが公知である(Julien et al.2018 Sci.Rep.8:210;Qing et al.2001 J.Virol.75:8968-76;Satkunanathan et al.2017 Virology 510:46-54;Raj et al.2001 Nature 412:914-7;Hirsch et al.2011 PLoS One 6)。
【0222】
本研究では、様々な細胞株に、AAV血清型1、2、3、4、6、および7由来のITR配列を含有するAAVベクターを感染させ、ルシフェラーゼ発現を促進するそれらの能力をインビトロで測定した。付加的に、ITR 1~4、6、または7に対する転写スタート部位(TSS)を、ルシフェラーゼ特異的cDNAの増幅を使用して判定した。最後に、floxed-ルシフェラーゼマウスに、ITR-creリコンビナーゼベクターを注射して、マウスモデルにおけるITRプロモーター能を査定して、非ITR2配列もインビボで導入遺伝子発現を引き出し得るかどうかを判定した。
【0223】
プラスミド構築:AAV血清型1~4&6~7配列由来のITR配列を、下流のクローニングのために配列に隣接する独自の制限酵素部位を有して、Genscriptから注文した。これらのITRは、合成および伝播の間の潜在的分子間組換えを阻止するように、プラスミドあたり1つのITRを有して注文された。これらのプラスミドを、SURE Electroporation-Competent Cells(Agilent、200227)にエレクトロポレーションした。コロニープラスミドを、ITR遺伝子型に特異的な制限酵素を使用して、無傷ITR配列についてスクリーニングし、次いで、ラムダファージDNAから無作為に選定された20ヌクレオチドのスタッファー(stuffer)配列、それに続くルシフェラーゼまたはcreリコンビナーゼに対するリーディングフレーム、SV40初期ポリAシグナル、およびラムダファージDNAスタッファー配列の2172ヌクレオチドを有するpUC19骨格にクローニングして、AAVベクターゲノムの完全長をそれぞれ4395または3778塩基にした。プラスミド構築の後、ITR配列を、illustra TempliPhi Sequence Resolver Kit(GE Life Sciences、28903529)、それに続くサンガーシーケンシングを使用して検証した。配列確認の後、あらゆる後続のプラスミドプレップを、複数のITR特異的制限酵素で消化して、ITR配列の存在および安定性を確保した。
【0224】
細胞株およびウイルス産物:HEK293、HeLa、およびHuh7細胞を、10%仔ウシ血清および1%ペニシリン-ストレプトマイシンを有するダルベッコ改変イーグル培地中で5%CO2にて37℃で維持した。組換えAAVベクターを、3重トランスフェクション法を使用して産生した。簡潔には、15cmプレートの約80%コンフルエンシーのHEK293細胞に、ITR含有ルシフェラーゼまたはcreリコンビナーゼベクタープラスミド、AAV2 RepおよびAAV1、2、または9 Cap遺伝子を含有するAAVヘルパープラスミド、ならびにAdヘルパープラスミドpXX6-80をトランスフェクトした。トランスフェクションの2日後に、細胞を回収し、溶解し、CsCl勾配超遠心分離に供した。最も高い濃度のウイルスに相当する画分を採取し、PBS中に透析した(Slide-A-Lyzer Dialyses Cassettes MWCO 30,000、Thermo Fisher、#66003)。ウイルス力価を、導入遺伝子またはスタッファー配列特異的プライマー、および同じ導入遺伝子またはスタッファー配列を含有するウイルス標準物質を使用して、定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)によって三つ組で判定した。あらゆる三つ組実験に対して、新しいバッチのウイルスを作製し、ウイルスを、それらが一緒に産生されかつ力価測定された場合に同じ実験においてのみ使用し、5個のバッチのウイルスを3回作製して、合計15個のバッチのウイルスに対してAAV1~4&6 ITRを三つ組で試験した。
【0225】
インビトロ感染およびルシフェラーゼアッセイ:AAV2/2-ITR-ルシフェラーゼおよびAAV2/2-CBA-ルシフェラーゼの比較のために、3.2E5個のHEK293細胞を12ウェルプレート中にウェルごとに播種し、翌日1E5vg/細胞で感染させた。感染の2日後に、細胞を、200ulのPassive Lysis Buffer(PLB)中にて室温で20分間溶解した。AAV2/2-CBA-ルシフェラーゼ由来の細胞溶解液を、PLB中1:50に希釈した。25ulの細胞溶解液を、96ウェル不透明白色アッセイプレートにおいて100ulのルシフェリンと組み合わせ(Luciferase Assay System、Promega、E1500)、発光をPerkin Elmer Victorプレートリーダーを用いて測定した。AAV2/2-CBA-ルシフェラーゼからの相対発光量(Relative Light Unit)(RLU)値に、それらの希釈倍数を掛けた。ITRおよびカプシド血清型を表すためにここで使用された命名法は、AAVN/NがAAV(ITR遺伝子型)/カプシド血清型であるというものである。ITR-ルシフェラーゼベクターの比較のために、HEK293、HeLa、およびHuh7細胞を、6ウェルプレートに個々に播種した。翌日、細胞に、2E5vg/細胞のAAV(N)/2-ITR-ルシフェラーゼ、式中Nは表示されるITR遺伝子型である、を感染させた。2日後、培地を除去し、細胞を、350ulのPassive Lysis Buffer中にて室温で20分間溶解した。溶解液を1.5mlチューブに移し、13,000gにて4℃で10分間スピンした。25ulの溶解液をBCA(Pierce(商標)BCA Protein Assay Kit、23225)アッセイにおいて使用して、総細胞タンパク質濃度を判定した。100ulの細胞溶解液を、96ウェル不透明白色アッセイプレートにおいて100ulのルシフェリンと組み合わせ(Luciferase Assay System、Promega、E1500)、発光をPerkin Elmer Victorプレートリーダーを用いて測定した。相対発光量を、添加された総タンパク質に対して正規化した。
【0226】
転写スタート部位の同定:HEK293細胞に、AAV(1~4、6、または7)/2-ITR-ルシフェラーゼを2E5vg/細胞で感染させ、Qiagen RNeasyキットを使用したRNA収穫の前に3日間培養した。5’/3’RACE 2nd generation kit(Roche、3353621001)からのメーカーの使用説明書に従って、およそ750ngのRNAを、ルシフェラーゼコード配列内に配置されたプライマー(5’-GTGACGAACGTGTACATCGAC-3’;配列番号8)を使用して逆転写した。合成されたcDNAを、次いでQIAquick PCR purification kit(QIAGEN、28104)を使用して精製し、ポリAテールをメーカーの使用説明書によりターミナルトランスフェラーゼによって付加した。次いで、供給された順方向プライマー、5’-GACCACGCGTATCGATGTCGACTTTTTTTTTTTTTTTTV-3’配列番号9)、およびルシフェラーゼコード配列におけるネステッド逆方向プライマー、5’-CTTAGAACCGGTCGAACACCACGGTAGGCT-3’(配列番号10)を使用して、PCRを行った。結果として生じたPCR産物を精製し、キットに供給された順方向プライマー5’-GACCACGCGTATCGATGTCGAC-3’(配列番号11)およびルシフェラーゼ配列内の別のネステッド逆方向プライマー5’-TTAGTTGGATCCGGTTCCATCTTCCAGCGG-3’(配列番号12)を用いた付加的なPCR反応に対する鋳型として使用した。産物を精製し、20ng/ul EBバッファーに対して正規化し、25ulを、Genewizによる次世代シーケンシング(NGS)を使用したEZアンプリコンシーケンシングのために送った。結果として生じたNGSデータは、参照ゲノムに対してリードをアラインするSTAR v2.7.0aを使用して、UNC Lineberger Bioinformatics Core(Dobin et al.,2013)によって分析された。bamファイルをRで処理して、アライメントスタート部位の頻度を表にした。アライメントがミスマッチの前または後にスタートするべきかどうかを本発明者らが推論し得ないように、アライメントの最初の10塩基内に複数のミスマッチ(>3)を有する配列にフィルターをかけた。予想(1000bp)よりも大きいインサートサイズを有するリードペアも除去した。
【0227】
動物研究:本研究において実施された動物実験は、FVB.129S6(B6)-Gt(ROSA)26Sortm1(Luc)Kael/J mice22(Jackson Laboratoriesストック番号:005125)を用いて行われた。UNC動物実験委員会(IACUC、プロトコール番号19.023-1)によって承認されるように、米国国立衛生研究所ガイドラインに従ってマウスを維持した。雄のマウスを、乱闘に起因して個々に飼育した。各マウスに、100ulの1E9ウイルスゲノムを尾静脈を介して注射した。D-ルシフェリン基質(XenoLight D-ルシフェリン、122799、Perkin Elmer、Waltham、MA)の100ulの腹腔内注射後に、IVIS Kinetic(Caliper Lifesciences、Waltham、MA)を使用して、ルシフェラーゼ発現を撮像した。Living Image(PerkinElmer、Waltham、MA)を使用して、生物発光画像を分析した。光子値を使用して、Living Imageソフトウェアバージョン2.20を使用して、取得を実施した。
【0228】
統計:すべての統計的算出を、統計ソフトウェア(GraphPad Prism 8.2)を使用して実施した。データは、群平均とともに個々の点として提示される。単一比較に対するデータを、対応のない両側t検定を使用して評価した。p値が0.05未満である場合、異なる群間の差を統計的に有意であると見なした。
【0229】
ITR血清型配列は、インビトロでルシフェラーゼ発現を促進する可変的能力を有する。様々なAAV遺伝子型由来のITRのプロモーター活性を判定するために、AAV ITR配列をプロモーターとして使用して、ルシフェラーゼレポーターベクタープラスミドを構築した。ベクタープラスミドにおいて、ITR配列を複数の制限酵素を用いて査定して、ITRの存在およびそれらの遺伝子型素性を確認した。最初に、ITR2の活性を、「強力な」CBAプロモーターと比較した。AAV2-ITR-ルシフェラーゼおよびAAV2-CBA-ルシフェラーゼをAAV2カプシド内にパッケージし、それを使用してHEK293細胞に1E5vg/細胞で感染させた。感染の2日後に、ルシフェラーゼ活性を測定し、ITR2促進ルシフェラーゼと比較して、CBA促進ルシフェラーゼから4対数を上回って高いことが見出された(図2A)。このことは、ITR2プロモーター活性が、ルシフェラーゼレポーターシステムを使用して上手く測定され得ることを実証した。
【0230】
AAV2 RepパッケージングシステムにおけるITR7の使用は、文献においてまだ報告されていない。AAV2 RepおよびAAV2カプシドとの組合せでITR7を使用することの実現可能性を試験するために、ITR7含有ベクターを、アデノウイルスヘルパーおよびpXR2とともにHEK293細胞にトランスフェクトした。結果として生じたウイルスをqPCRによって力価測定した。ITR7ベクターは、同じ時に作製されたITR1およびITR2ベクターと同様の力価を有した(表2)。HEK293、HeLa、およびHuh7細胞に、AAV1/2、AAV2/2、およびAAV7/2-ITR-ルシフェラーゼを2E5vg/細胞で感染させた。感染の2日後に、ルシフェラーゼ活性を測定した。相対発光量(RLU)を、BCAアッセイによって判定される、ルシフェラーゼアッセイに添加された細胞タンパク質の総量に対して正規化し、次いでITR2 RLU値に対してさらに正規化した(図2B~2D)。ITR1促進ルシフェラーゼからのRLUは、3種すべての細胞株にわたるITR2のものよりも一貫して低かった(p<0.0001)。HEK293細胞において、ITR1は、ITR2と比較して平均29%の活性を有した(図2B)。この活性は、HeLa細胞において35%で(図2C)およびHuh7細胞において32%で(図2D)わずかに高かった。対照的に、ITR7は、細胞株にわたって異なるプロモーター活性を呈示した。Huh7細胞において、ITR7およびITR1は、ITR2と比較して、それぞれ33%および31%という同じ発現レベルを有したが(図2D)、ITR7は、HeLa細胞において62%で、ITR1よりも高い発現を有した(p<0.0001)(図2C)。HEK293細胞において、ITR7促進ルシフェラーゼ活性は、ウイルスの1つの調製物が、ウイルスの他の2つの調製物と比較して低下した活性を有して、平均83%まで上がったが(図2B)、これは、すべての活性にわたって、ITR2のものよりも依然として低かった(p=0.0029)。
【0231】
ITR3、4、および6もこれらの細胞株においてプロモーター活性を呈示するかどうかを判定するために、ITR-ルシフェラーゼプラスミドを使用して、AAVN/NがAAV(ITR遺伝子型)/カプシド血清型であるAAV(1~4、6)/2-ITR-ルシフェラーゼベクターを創出した。すべてのITRは、AAV2 Repによって複製され得かつパッケージされ得、バッチ力価は互いの4倍以内であった。注目すべきは、これらの複製、パッケージング、および精製条件下で、ITR2含有ベクタープラスミドからの力価が大抵最も高く、一方でITR6またはITR7は常に最も低かった(表2)。
【0232】
HEK293、HeLa、およびHuh7細胞に、AAV(1~4、6、または7)/2-ITR-ルシフェラーゼベクターを2E5vg/細胞で感染させた。ルシフェラーゼ活性を、上で記載されるように測定した。ITR3、4、および6も、試験された細胞株においてルシフェラーゼ活性をもたらしたが、様々な程度でであった(図2E~2G)。3種すべての細胞株において、ITR2およびITR3は、最も高いルシフェラーゼ活性をもたらした。Huh7細胞においてのみ、ITR2およびITR3の間に有意な差があり(p=0.0082)、ITR3は、ITR2よりも平均すると30%大きい活性となった(図2G)。29%と比較して19%の平均を有してITR1がITR6よりも10%低い(p<0.0001)HEK293細胞においてを除いて、すべての細胞タイプにわたって、ITR1およびITR6は、最も低い活性を有し、互いと統計的に異ならなかった(図2E)。ITR4は、ITR2と比較して62~66%のルシフェラーゼ活性を一貫して有し(図2E~2G)、3種すべての細胞株において同じくITR3よりも有意に低かった(p<0.01)。ゆえに、ITRからの観察された活性は、3つのクラス:最も高い相対的活性を有するクラスIのITR:ITR2およびITR3、中間レベルの活性を有するクラスII:ITR4、ならびに最も低い活性を有したクラスIII:ITR1およびITR6、に分類された。試験されたすべてのITRのうち、ITR7のみが細胞特異的活性を示した(図2B~2D)。
【0233】
ITR配列1~4、6からの種々のレベルのルシフェラーゼ活性は、ITR配列それ自体がルシフェラーゼ活性の重大な決定因子(determinate)であることを暗示したが、代替的に、ITR2含有ベクターからの高いルシフェラーゼ活性は、このITRがその同種カプシドと対合することから、カプシド特異的相互作用に起因するものであり得た。それらの相当するカプシド内にパッケージされたITR配列がルシフェラーゼ産生に影響するかどうかを試験するために、ITR1およびITR2ルシフェラーゼベクターをAAV1カプシド内にパッケージし、それを使用してHEK293細胞に2E5vg/細胞で感染させた。全体的活性は、AAV1/2およびAAV2/2と比較して低下したものの、AAV1/1-ITR-ルシフェラーゼベクターからのルシフェラーゼ活性は、AAV2/1ベクターよりも依然として低かった。AAV2に対して正規化した場合、使用されたカプシドにかかわらず、活性は等価であった(図3)。それゆえ、ITR1は、その同種カプシドと対合した場合でさえ、依然としてクラスIIIのITRである。
【0234】
ITR配列は、複数の転写スタート部位(TSS)を含有する。試験されたすべての遺伝子型のITR配列は、CG含有量が高く(64~70%)、伝統的なTATAボックスコンセンサス配列を欠如する。ルシフェラーゼ転写産物が、単一の集中したTSSまたは複数の分散したTSSを起源とするかどうかを判定するために、cDNA末端の5’急速増幅(rapid amplification of cDNA ends)(RACE)を採用して、起源となるヌクレオチド位置を見出した。HEK293細胞に、AAV(1~4、6、または7)/2-ITR-ルシフェラーゼを2E5vg/細胞で感染させた。感染の3日後に、総RNAを単離し、cDNA末端の5’急速増幅(RACE)キットを使用して逆転写した。ルシフェラーゼ特異的cDNAを増幅し、次世代シーケンシング(NGS)によって分析した。すべてのITRに関して、複数のTSSが各配列内に見出され、RBEにおいてクラスター化する傾向があったが、とはいえITR1は、他のITRよりも幅広いスタート部位を有した(図4A)。各ITRに関して、3~4個のヌクレオチドがその大多数のリードであったが、これらのホットスポットは各ITRに関して異なった。これらの結果は、ITR促進ルシフェラーゼに対する転写産物が、ITR内の複数のスタート部位を起源とし得ることを示す。
【0235】
ITR配列1~6によって推進されるcreリコンビナーゼは、インビボでルシフェラーゼ産生を活性化し得る。インビトロの知見がどのようにインビボモデルに転換されるかを見るために、ITRプロモーター活性をfloxedルシフェラーゼレポーターマウス系統において試験した。FVB.129S6(B6)-Gt(ROSA)26Sortm1(Luc)Kael/Jマウス株は、ROSA26遺伝子座に挿入されたルシフェラーゼオープンリーディングフレームを含有する。ルシフェラーゼ発現はloxP-ストップ-LoxP配列によって阻止され、それはcreリコンビナーゼによって除去され得る。4~6週齢の雄のマウスに、100ulの1E9vgのAAV(1~4、6)/9-ITR-creリコンビナーゼを尾静脈を介して注射した(N=2)。AAV9を、ほとんどの組織に高度に形質導入するその能力、ゆえに、もしあればITRプロモーター間の組織特異的な差を同定するのにおそらく最善であるように選定した。陽性対照として、2匹のマウスにAAV2/9-CMV-Creベクターを注射した。注射の3、5、7、および9週間後に、マウスを撮像した。注射の3週間後までに、ルシフェラーゼ活性はすべてのマウスの腹部エリアにおいて観察され得た(図5A)。予想どおり、CMV促進creリコンビナーゼを注射されていた陽性対照マウスは、ルシフェラーゼを発現するより多くの組換え細胞を有し、同じ撮像設定下で、これらのマウスはカメラを完全に飽和状態にした。注射の4週間後までに、AAV2/9-ITR-creリコンビナーゼを注射されたマウスの1匹からのルシフェラーゼシグナルは、もはや検出され得なかった。9週間の時間経過の間、残りのマウスにおいて、ルシフェラーゼシグナルは不変のままであった(図5B)。AAV2/9-ITR-creリコンビナーゼを注射されたマウスからの発現の喪失は、おそらくカプシド抗原反応性CD8+ T細胞に起因するものであったが、このことは具体的に調べられなかった。
【0236】
ITR血清型配列は、インビトロでプロモーター活性に影響する。ITR1~4および6に対するITRプロモーター活性は、それらを、Iが最も高い活性である3つのクラス:I、II、およびIIIに分け得るのに十分に一貫していた。各細胞株にわたって、ITR2およびITR3(クラスI)は、ルシフェラーゼ活性に対して最も高い値を一貫して有し、これらの配列が、試験された他のITRよりも高いプロモーター活性も有することを暗示し、一方でITR1およびITR6(クラスIII)は最低を有した(図2A~2G)。D領域における最後のヌクレオチドのみおよびD領域の外側にある4個のヌクレオチドのみが互いと異なる2つの配列間の高い程度の類似性を考慮すると、ITR1およびITR6に対する同様の発現値は予想どおりであったであろう(図1C)。クラスIおよびクラスIII配列間の配列分析は、異なる活性を説明し得るいくつかの点の相違を明らかにした(図1C)。具体的には、ITR2およびITR3は、RBE’においてTTT配列を含有し、一方でITR1およびITR6はTCTを含有する。Bループ(位置45:59および46:60)およびCループ(68:80および70:78)における一貫した差、ならびに位置3および122におけるニッキングステムループの先端におけるCからGへの変化もあった。ITR7もITR1配列と類似しているが、異なるプロモーター活性プロファイルを有した(図2B~2D)。ITR1およびITR7間で異なるほんのわずかなヌクレオチドがあることから、変異分析は、様々な細胞タイプにおけるITR7促進ルシフェラーゼの差示的発現に関わる特異的配列を見出し得る。位置110:15でのITR7におけるT:Aペアは、ITR3、4、および6で見られる同じペアであり(図1C)、そのため、それは、本発明者らが、試験された細胞タイプにわたって観察した様々なレベルのルシフェラーゼ活性に関わりそうにない。ITR2、3、および4のように、ITR7も位置3におけるニッキング部位の近くにG、および位置122においてCを有し、そのため、これらのヌクレオチドはプロモーター強度に影響し得る。ITRの中でルシフェラーゼ発現に影響している可能性がある目的の別の可変領域は、CTAGモチーフのみが保存されているD領域の最後の11個のヌクレオチドであるが、ITRの異なるクラス間に容易に判別可能なパターンはない。それでもなお、いくつかの宿主タンパク質はITR2のD領域と相互作用することが示されていることから、この領域は目的であり得た。どの配列が導入遺伝子産生に対して影響を有するかについての疑問は、位置特異的ITR変異体を用いて対処され得るが、複雑なDNA二次構造が、転写において多様な役割を果たし得ることを考慮すると、この疑問は十分に解明されるのが困難であり得る。
【0237】
ここで使用された条件下で、ITR1は、AAV1カプシド内にパッケージされた場合でさえ、依然としてクラスIIIであった。このことは、プロモーター活性に対して強力な影響を有するものとしてのITR-カプシド相互作用と相反する。本研究では、AAV2 Repが使用され、そのため、これらのITR配列に対する同種Repを有することが、rAAVの複製、パッケージング、および形質導入単位の様々な態様に影響し得た可能性が依然としてある。
【0238】
ITR促進ルシフェラーゼ転写産物に対するスタート部位。以前の仕事は、ITR2促進GFP導入遺伝子発現に重要なものとしてITR2のA領域を同定した(Haberman et al.2000 J.Virol.74:8732-8739)。本明細書で、A領域は転写活性に対するホットスポットであることも見出されたが、NGSを使用することによって、RBEを含む40塩基対領域内に主として集中した、ITR配列全体にわたる複数のスタートおよび転写因子結合部位を同定することができた(図4A~4C)。規定のITR配列内に伝統的なTATAボックスを欠如するが、シトシンおよびグアニンに富むため、これらの配列は、脊椎動物ゲノムに見出される転写的に活性なCpGアイランド(CGI)との顕著な類似性を持つ。CGIは、脊椎動物ゲノムにおいて最もよく見られるプロモータータイプであり、注釈付きの遺伝子の60~70%に存在すると現在解されている。CGIは、50%よりも大きいC+G比、および60%またはそれよりも高い割合の観察対予想CpGジヌクレオチドを有する配列として一般に定義される。AAV ITR配列は、C+G含有量およびCpG頻度の両方においてこの定義に適合する(表3)。CGIは、複製の起点であることが多く、一般的に、50~100塩基対領域にわたって分散する複数のTSSと関連している。このことは、TATAボックス、INR、TCT、およびXCPEモチーフを含む、特異的に位置付けられるコアプロモーターエレメントとより一般に関連している、単一の集中したTSSを有するプロモーターと対照的である。本研究からのデータは、検討されたAAV遺伝子型由来のITR配列が、導入遺伝子促進という文脈においてCGIタイププロモーターとして機能しているという仮説を支持する。とはいえ、このデータの別の解釈は、これらのTSSが別々のかつ可変的なエピソーム性配列から実際には生じているというものであり得た。感染後に2つのITR末端の組換えにより生じる、結果として生じた配列は可変的であることから、各エピソームは、異なるスタート部位を有する可能性がある。
【0239】
ITR1~4、6は、マウスモデルにおいてcreリコンビナーゼを促進し得る。インビボデータは、ITR1~4、6が、組換えおよびルシフェラーゼ産生を誘導するのに十分に高いレベルのcreリコンビナーゼを促進し得たことを実証する。マウスのこの系統において、すべてのITR配列1~4、6は活性プロモーターであり、このことは、遺伝子療法適用に対する重要な暗示を有し得る。これらのマウスに、5E12vg/kgとおよそ等価であり、ゆえに臨床的に関連する用量である1E11vgを注射した。強力な普遍的プロモーターの文脈において、これらのITR配列は、全体的導入遺伝子産生に対して効果を有しなさそうであったが、AAV送達creリコンビナーゼまたはCRISPRを使用する場合等、より標的化されたまたは高感度の適用が影響を受け得るというシナリオがある。
【0240】
より重要なことには、ITR2プロモーターの双方向性活性は、dsRNA応答経路を誘導している可能性がある。先行研究は、感染の8日後の時点で、AAV形質導入が、2000ヌクレオチド長にわたってdsRNA産物を認識するdsRNA応答タンパク質であるMDA5を刺激することを見出した(Shao et al.2018 JCI insight 3(12):e120474)。エピソーム性立体構造(confirmation)にある場合のITRのプロモーター活性は、プラス鎖RNAに結合し得かつ形質導入された細胞において蓄積し得るマイナス鎖RNA産生を推進している可能性があることが提唱された。このシナリオでは、あまり活性を有しないプロモーターが、自然免疫応答のこのアームを鈍らせるのを助けることが望ましいであろう。ITRにおけるすべてのCpGアイランドを排除することは、5つのCpGを有するRBE配列を、Repがもはやそれに効率的に結合し得ないように変化させることを必要とするであろう。転写が読み飛ばされるのを阻止するために、ITRに隣接するインシュレート配列を付加する等の他のストラテジーが有意義であり得る。
【0241】
本明細書で提示されるデータは、AAV血清型1~4、6、および7由来のITR配列が、固有のプロモーター活性を有し、このプロモーター活性は、ITRの間で等しい強度にないことを示している。具体的には、ITR2およびITR3配列は、ITR1、4、および6と比較した場合に、複数の細胞タイプにわたってより高いルシフェラーゼ発現をもたらした。ITR7は、ルシフェラーゼ発現において細胞特異的な差を呈示する唯一のITRであった。TSSは、各ITR配列内の複数の配置にマッピングされ、そのうちの大半は、RBEを含有する40塩基対領域を起源とした。インビボにおいて、試験されたすべてのITRは、注射の3週間後までにcre媒介性組換えを誘導するのに十分に高いレベルでcreリコンビナーゼを促進する能力を有した。これらのデータは、高感度のまたは細胞特異的な療法が必要とされる場合に、ベクター設計ストラテジーに情報を与えるのを助け得る。ゆえに、本研究は、AAV1~4、6、および7に対するITR配列が、インビトロで導入遺伝子発現を促進する様々な能力を有すること、ならびにこれらの配列が複数のTSSを含有することを初めて示している。付加的に、高感度レポーターマウス系統を利用して、臨床的に関連する用量で、ITR1~4&6は、細胞レベルでの生物学的効果を有するように、インビボでcreリコンビナーゼタンパク質を十分に促進する能力を有することを実証した。
【0242】
前述は本発明の例示であり、それを限定するものとして受け取られるべきではない。
【0243】
【表1】
【0244】
【表2】
【0245】
【表3】
【0246】
C+G含有量を、(C+G)/N、式中、Cは、表示されるAAV血清型の5’ITR配列におけるシトシンの数であり、Gはグアニンの数であり、Nはヌクレオチドの数である、で算出した。観察対予想CpG比を、Gardiner-Garden et al 1987による式:((CpGs)/(C*G))*N、式中、CpGは、配列における観察されたCpGの数であり、Cはシトシンの数であり、Gはグアニンの数であり、Nはヌクレオチドの数である、を使用して算出した。
【0247】
【化1】
【0248】
【化2】
図1A
図1B
図1C-1】
図1C-2】
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図2G
図3
図4A-1】
図4A-2】
図4B
図4C
図5A
図5B
【配列表】
2023510266000001.app
【国際調査報告】