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特表2023-510274D型肝炎ウイルスによる感染を処置するためのFXRアゴニストの使用
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  • 特表-D型肝炎ウイルスによる感染を処置するためのFXRアゴニストの使用 図1
  • 特表-D型肝炎ウイルスによる感染を処置するためのFXRアゴニストの使用 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-13
(54)【発明の名称】D型肝炎ウイルスによる感染を処置するためのFXRアゴニストの使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20230306BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20230306BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20230306BHJP
   A61K 31/439 20060101ALI20230306BHJP
   A61K 31/4162 20060101ALI20230306BHJP
   A61K 31/4439 20060101ALI20230306BHJP
   A61K 31/42 20060101ALI20230306BHJP
   A61K 31/575 20060101ALI20230306BHJP
   A61K 31/64 20060101ALI20230306BHJP
   A61K 31/454 20060101ALI20230306BHJP
   A61K 31/165 20060101ALI20230306BHJP
   A61K 31/55 20060101ALI20230306BHJP
   A61K 31/496 20060101ALI20230306BHJP
   A61K 38/21 20060101ALI20230306BHJP
   A61K 47/60 20170101ALI20230306BHJP
   A61K 31/7056 20060101ALI20230306BHJP
   A61K 31/426 20060101ALI20230306BHJP
   A61K 31/435 20060101ALI20230306BHJP
   A61K 31/506 20060101ALI20230306BHJP
   A61K 31/675 20060101ALI20230306BHJP
   A61K 31/7064 20060101ALI20230306BHJP
   A61K 31/522 20060101ALI20230306BHJP
   A61K 31/397 20060101ALI20230306BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20230306BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20230306BHJP
   C07K 14/56 20060101ALN20230306BHJP
   C12N 15/11 20060101ALN20230306BHJP
【FI】
A61K45/00 ZNA
A61P31/14
A61P1/16
A61K31/439
A61K31/4162
A61K31/4439
A61K31/42
A61K31/575
A61K31/64
A61K31/454
A61K31/165
A61K31/55
A61K31/496
A61K38/21
A61K47/60
A61K31/7056
A61K31/426
A61K31/435
A61K31/506
A61K31/675
A61K31/7064
A61K31/522
A61K31/397
A61K31/7088
A61K38/16
C07K14/56
C12N15/11 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022542012
(86)(22)【出願日】2021-01-14
(85)【翻訳文提出日】2022-07-07
(86)【国際出願番号】 EP2021050625
(87)【国際公開番号】W WO2021144330
(87)【国際公開日】2021-07-22
(31)【優先権主張番号】20305024.0
(32)【優先日】2020-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507002516
【氏名又は名称】アンセルム(アンスティチュート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル)
(71)【出願人】
【識別番号】514077888
【氏名又は名称】エコール ノルマル シュペリウール ドゥ リヨン
(71)【出願人】
【識別番号】503161615
【氏名又は名称】ウニベルシテ クロード ベルナール リヨン 1
(71)【出願人】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(71)【出願人】
【識別番号】520299784
【氏名又は名称】ウエヌイグレックオ・ファーマ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ラファエル・ダルテイユ
(72)【発明者】
【氏名】ジュリー・ルシフォラ
(72)【発明者】
【氏名】ダヴィド・デュランテル
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ・ラミエーレ
(72)【発明者】
【氏名】ブノワ・ラコンブ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァンサン・ロトー
(72)【発明者】
【氏名】パトリス・アンドレ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
4C206
4H045
【Fターム(参考)】
4C076CC16
4C076CC35
4C076CC41
4C076EE59
4C084AA02
4C084AA17
4C084BA44
4C084DA22
4C084MA02
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA75
4C084ZB33
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC02
4C086BC27
4C086BC42
4C086BC67
4C086BC82
4C086CB05
4C086CB11
4C086CB22
4C086DA11
4C086DA21
4C086DA38
4C086EA16
4C086EA17
4C086GA02
4C086GA05
4C086GA07
4C086GA08
4C086GA09
4C086GA10
4C086GA12
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA75
4C086ZB33
4C206AA01
4C206AA02
4C206GA06
4C206GA28
4C206MA01
4C206MA02
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZA75
4C206ZB33
4H045AA10
4H045BA57
4H045CA40
4H045DA15
4H045DA16
4H045EA20
(57)【要約】
本発明は、D型肝炎感染の処置のためのファルネソイドX受容体(FXR)アゴニストの使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
必要としている対象におけるD型肝炎ウイルス(HDV)の感染の処置のためのファルネソイドX受容体(FXR)アゴニスト。
【請求項2】
前記対象が慢性HDV感染に罹患している、請求項1に記載のFXRアゴニスト。
【請求項3】
選択的なFXRアゴニストである、請求項1又は2に記載のFXRアゴニスト。
【請求項4】
LJN452 (トロピフェキソール)(Tropifexor)、LMB763(ニデュフェキソール)(Nidufexor)、GS-9674(シロフェキソール)(Cilofexor)、PX-102(PX-20606)、PX-104(フェネックス 104)(Phenex 104)、OCA(オカリバ)(Ocaliva)、EDP-305、TERN-101(LY2562175)、MET-409、GW4064、WAY362450(ツロフェキソラートイソプロピル)(Turofexorate isopropyl)、フェキサラミン(Fexaramine)、AGN242266(AKN-083)、BAR502及びEYP001からなる群から選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載のFXRアゴニスト。
【請求項5】
EYP001である、請求項1から3のいずれか一項に記載のFXRアゴニスト。
【請求項6】
好ましくはIFN-α1a、IFN-α1b、IFN-α2a、IFN-α2b及びIFN-λ1a又はそのペグ化形態、より好ましくはPEG-IFN-α2a(例えば、ペガシス(Pegasys))、PEG-IFN-α2b(例えば、ビラフェロンPeg(ViraferonPeg)若しくはイントロンa(Introna))又はPEG-IFN-λ1aから選択される、インターフェロンアルファ(IFN-α)、インターフェロンラムダ又はそのペグ化形態と組み合わせて使用される、請求項1から5のいずれか一項に記載のFXRアゴニスト。
【請求項7】
抗HDV剤、好ましくはヌクレオシドアナログ又はファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤と組み合わせて使用される、請求項1から6のいずれか一項に記載のFXRアゴニスト。
【請求項8】
前記抗HDV剤がリバビリン(ribavirin)、リトナビル(ritonavir)、ロナファルニブ(lonafarnib)及びEBP 921からなる群から選択される、請求項7に記載のFXRアゴニスト。
【請求項9】
抗HBV剤、好ましくはヌクレオシドアナログと組み合わせて使用される、請求項1から8のいずれか一項に記載のFXRアゴニスト。
【請求項10】
前記ヌクレオシドアナログがラミブジン(lamivudine)、アデホビル(adefovir)、テルビブジン(telbivudine)、エンテカビル(entecavir)、テノホビル(tenofovir)及びエムトリシタビン(emtricitabine)からなる群から選択される、請求項9に記載のFXRアゴニスト。
【請求項11】
抗HBV/HDV剤、好ましくはヌクレオシドアナログ、核酸ポリマー又はNTCP阻害剤と組み合わせて使用される、請求項1から8のいずれか一項に記載のFXRアゴニスト。
【請求項12】
前記抗HBV/HDV剤がエゼチミブ(ezetimibe)、ミルクルデックスB(myrcludex B)、核酸ポリマーREP 2139及び核酸ポリマーREP 2165から選択される、請求項11に記載のFXRアゴニスト。
【請求項13】
前記対象がHDV感染に対する以前の処置に応答することができなかったことのある対象である、請求項1から9のいずれか一項に記載のFXRアゴニスト。
【請求項14】
前記以前の処置がPEG-IFNαを用いた処置である、請求項13に記載のFXRアゴニスト。
【請求項15】
前記以前の処置が抗HDV剤を用いた処置である、請求項13に記載のFXRアゴニスト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医学の領域、特には肝臓病学及びウイルス学、より特には、D型肝炎ウイルス(HDV)による感染の処置に関する。
【背景技術】
【0002】
D型肝炎(HDV)の感染は、肝臓関連死及び肝細胞ガンへと向かう急速な進行のために、慢性ウイルス性肝炎の最も深刻な形態である。世界保健機関(WHO)は、1500万~2000万人の人々がHDVに感染していると推定している(www.who.int/en/news-room/fact-sheets/detail/hepatitis-d)。HDVの負担についての最近のメタ解析は、D型肝炎の流行の過小評価を示唆している;実際に、血清陽性率は、世界の人口の0.98%及び世界の慢性B型肝炎患者の10.58%と同じくらい高い可能性がある(Chen H-Y ら、Gut 2019;68:512-521)。特定の抗HDV療法が存在しない中で、最近のガイドラインは、ペグ化インターフェロン α-2a(Pegylated-interferon-alpha-2a)(PEG-IFN-α2a)の皮下注入を一般的に推奨している。それは、非特異的な免疫刺激剤であり、ある程度毒性があり、患者からあまり支持されていない。それは、しばしばヌクレオシドアナログに加えて使用され、HBVウイルス血症を制御する。持続するウイルス学的な反応の全体の割合は低い。実際には、処置の約25%の反応率及び処置の停止後の高いレベルの再発が報告されている。従って、HDVによる感染の処置のための新しい治療剤及び方法について、未だ対処されていない必要性がある。しかしながら、上記の患者のための治療剤の開発には、いくつかの困難がある。
【0003】
HDVゲノムは、二つのウイルスのタンパク質:小さな及び大きなデルタ抗原(HDAg-S及びHDAg-L)、をコードする一つのオープンリーディングフレームを含む、負極性の一本鎖RNA(≒ 1700 ヌクレオチド)である。HDVのRNAゲノムの複製は、感染した細胞の核において行われ、ローリングサークルメカニズムにより生じ、その後、内因性のリボザイムによる開裂及びライゲーションが行われ、結果として、アンチゲノムの円状のモノマーの形成を生じる。上記の円状のアンチゲノムのモノマーから、同様のメカニズムにより、新しいゲノムの円状のRNAモノマーが生じる。HDVは、ゲノム複製の工程の間、DNA依存的な宿主のRNAポリメラーゼを乗っ取ると推測される。HDVは、ウイルスのmRNAの複製及び転写の両方のために、少なくともRNAポリメラーゼIIを使用するが、RNAポリメラーゼI及びIIIの役割もまた示唆されている(Mentha N ら、J Adv Res. 2019 May; 17:3-15)。この工程の間、ウイルスの線状のmRNAもまた合成され、HDAg-S及びHDAg-Lの合成をもたらす。HDAg-S(195アミノ酸)と比較して、HDAg-L(214アミノ酸)はそのC末端に、HDAg-S遺伝子のストップコドンに相当する位置でADAR-1の媒介する、アンチゲノムHDV RNAのRNA編集によって生じた、19~20の追加のアミノ酸ドメインを含む(Wong SK, Lazinski DW. Proc Natl Acad Sci U S A. 2002 Nov 12;99(23):15118-23)。
【0004】
HDAg-Sは、複製工程の間、HDVの蓄積に関与している。特には、HDAg-Sは多数の細胞タンパク(100以上の同定された反応体)と相互作用し、転写制御に関与する細胞タンパク質、例えばYin Yang 1(YY1)、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)、p300 Creb結合タンパク質(p300/CBP)及びselectivity factor 1 (SL1)に関連した核複合体に存在すると考えられ、それはRNAポリメラーゼIの前初期複合体に属する(Huang W-H ら、 J Virol. 2008 Aug;82(15):7313-24; Li Y-J ら、 J Virol. 2006 Jul;80(13):6478-86)。HDAg-Sと細胞のヒストンH1.4との相互作用は、ウイルスの複製に与える影響でもまた記載される(Lee C-Z, Sheu J-C. Virology. 2008 May 25;375(1):197-204)。HDAg-Sが主に複製工程に関与する一方で、HDAg-Lはビリオン出芽に対して必要不可欠である。HDAg-Lにおける19~20のアミノ酸付加ドメインは、細胞のファルネシルトランスフェラーゼの基質であるCXXX-boxモチーフを含み、ファルネシルトランスフェラーゼは、前記CXXX-boxのシステインにファルネシル基を付加する。このファルネシル化の方法は、ビリオンのアセンブリに必要不可欠であると示された(Glenn J ら、 Science. 1992 May 29;256(5061):1331-3)。この工程の間、HDVは、自身の使用、及び、感染を広げる又は維持することができる感染性のHDVビリオンの分泌のために、HBV表面の抗原を乗っ取る。HBV及びHDVのビリオンは、同じエンベロープタンパク質を含み、液性反応の観点からは区別がつかない。その結果、HBV及びHDVは、同じエントリー受容体、すなわち、肝細胞のバソラテラル膜における胆汁酸の主なトランスポーターである、ナトリウム-タウロコール酸共輸送ポリペプチド(NTCP)を共有する(Yan H ら、 eLife [インターネット]. 2012 Nov 13 [2019 Sep 3現在];1. https://elifescielife.org/articles/00049から入手可能)。上記のウイルスの共生関係の結果として、HDVの伝染は、一般に、HBVの共感染又は重複感染を通して生じる。しかしながら、肝細胞エントリーのためのHB抗原(HBAgs)の重要な役割の他に、上記のHDVライフサイクルの他の工程、特には、複製工程は、HBVに非依存的であり、それ自体が疾患の重大性並びに肝硬変及びHCCに向かう急速な進化に寄与する。加えて、HDVの重複感染の典型的な経過において、HBV感染のマーカーは、検査で陰性反応を示す可能性のあるIgM 抗-HBc及びHBV DNAにより、通常阻害される(Romeo R, Perbellini R. World J Hepatol 2015;7:2389-95; Schaper M ら、J Hepatol. 2010;52:658-64)。しかしながら、HBVの複製は、通常、HDV感染の急速な段階の間に低レベルに抑制される。この抑制は、慢性D型肝炎の成立の場合において持続的である。
【0005】
HDV及びHBVの共感染は、それぞれのウイルスに特異的な特徴及び両方に共通するいくつかの特徴を混合する複雑な状態である。重要なことに、最近の研究は、PEG-IFN-2aを用いたHDVの標準治療の処置への、ヌクレオチドのアナログによってHBV特異的なポリメラーゼを阻害する、HBV処置のための標準治療の付加は、処置の終了時におけるHDV反応率を改善させないことを報告している(Wedemeyer H ら、 Lancet Infect. Dis. 2019;19:275-286; Mentha Nら、J. Adv. Res. 2019;17:3-17)。これらの発見は、D型肝炎にとっては、HDVの複製工程を標的とする代替的な処置オプションが必要であるということを明確に強調する。実際には、ビリオンのアセンブリにおける必須の工程である、酵素ファルネシルトランスフェラーゼの阻害剤であるロナファルニブ(lonafarnib)は、HBVから独立したHDVの複製を抑制する(米国特許第2011/0129549A1号; Mentha N, Clnts.google.com/patAlfaiate D. J. Adv. Res. 2019;17:3-17)。しかしながら、その毒性は、抗HDV療法におけるその幅広い用途を妨げる。HBV HBsAgとのHDVの相互作用を標的とするいくつかの他の抗ウイルス分子は、現在開発下にある:NTCPへのHBsAgの結合を阻害することにより肝細胞へのHDVのエントリーを阻害するミルクルデックスB(Myrcludex B)、HBsAg mRNAを含むHBV mRNAをサイレンシングするsiRNA、及び肝細胞からのHBsAgの放出を阻害しデルタ型肝炎抗原と相互作用すると考えられているREP 2139(Ye X ら、ACS Infect. Dis. 2019;5:738-5:7; Mentha N ら、J. Adv. Res. 2019;17:3-17)。
【0006】
従って、抗HDV処置は、少なくとも一つのHDV複製工程を阻害しなければならない。複製工程は、HDAg-Lのプレニル化のためにHDV特異的である、又はHBsAgの合成、放出若しくは機能を阻害することによりHBVと共有される可能性がある。理想的には、D型肝炎の処置は、それぞれのウイルス特異的な複製工程を阻害することにより、HDVの複製だけではなくHBVの複製もまた抑制するべきである。両方のウイルスの共通のHBsAg依存性を標的とする化合物以外には、HDVの複製及びHBVの複製の両方を特異的に抑制することのできる上記のような化合物は、これまで報告されていない。二つのウイルスを阻害する分子は、活発な研究対象である。なぜならば、処置が一つのみのウイルスを標的としている時に、二つ目のウイルスがどのように反応するかを予想するのが困難であるからである。一方が阻害される際に、他方のウイルスの活性化又は再活性化のリスクがある。例えば、HCVに対する抗ウイルス剤の開発において、HBVに共感染した対象において、HCVが標的とされた時に、HBVの再活性化が生じると観察されている(Ma ら、Gastroenterology, 2018, 154, 795-798)。従って、HBV及びHDVに共感染した患者は、一般的に臨床試験から除外される。実際には、2016年におけるレビューは、HDVに共感染した1000人未満の患者が臨床試験に含まれていると報告している(Guglielmi Sら、2016, Revue medicale Suisse, 12, 1415-1418)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第2011/0129549A1号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者は、HDVの単独感染のモデルにおける、HDVのRNAゲノムの複製を防ぐためのいくつかのFXRアゴニストの能力を同定した。この結果は、特に驚くべきである。なぜならば、もしFXRアゴニストがHBVのcccDNA形成及び翻訳の既知の阻害剤であるならば(Mouzannar K ら、FASEB J. 2018;33:2472-33:2)、HDVへの影響は、HBVの存在から独立しているからである。FXRアゴニストのHDVにおける作用のメカニズムは、従って新しく新規であり、特異的なHDVの複製工程に作用する。加えて、本発明者は、複数のFXRアゴニストが二つのHDVタンパク質、すなわち短いD型肝炎の抗原(HDAg-S)及び長いD型肝炎の抗原(HDAg-L)の産生を阻害する能力を実証した。HBV及びHDVの共感染のモデルにおいて、本発明者は、FXRのアゴニストが両方のウイルスの複製及び産生を抑制することを示した。従って、これらの発見は、HDV及びHBVの複製を特異的に及び独立して阻害する新規の抗ウイルスのクラスの分子を用いて、D型肝炎の感染、特には慢性D型肝炎の感染を処置するための新規の方法を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、それを必要としている対象におけるD型肝炎ウイルス(HDV)の感染の処置のために使用するための、ファルネソイドX受容体(farnesoid X receptor)(FXR)アゴニストに関する。
【0010】
任意に、対象は、慢性HDV感染に罹患している。
【0011】
任意に、FXRアゴニストは、選択的なFXRアゴニストである。
【0012】
特定の態様において、FXRアゴニストは、LJN452 (トロピフェキソール)(Tropifexor)、LMB763(ニデュフェキソール)(Nidufexor)、GS-9674(シロフェキソール)(Cilofexor)、PX-102(PX-20606)、PX-104(フェネックス 104)(Phenex 104)、OCA(オカリバ)(Ocaliva)、EDP-305、TERN-101(LY2562175)、MET-409、GW4064、WAY362450(ツロフェキソラートイソプロピル)(Turofexorate isopropyl)、フェキサラミン(Fexaramine)、AGN242266(AKN-083)、BAR502及びEYP001からなる群から選択される。
【0013】
特に特定の態様において、FXRアゴニストは、EYP001である。
【0014】
任意に、FXRアゴニストは、好ましくはIFN-α1a、IFN-α1b、IFN-α2a、IFN-α2b及びIFN-λ1a又はそのペグ化形態、より好ましくはPEG-IFN-α2a(例えば、ペガシス(Pegasys))、PEG-IFN-α2b(例えば、ビラフェロンPeg(ViraferonPeg)若しくはイントロンa(Introna))又はPEG-IFN-λ1aから選択される、インターフェロンアルファ(IFN-α)、インターフェロンラムダ又はそのペグ化形態と組み合わせて使用される。
【0015】
任意に、FXRアゴニストは、抗HDV剤、好ましくはヌクレオシドアナログ又はファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤と組み合わせて使用される。特定の態様において、前記抗HDV剤は、リバビリン(ribavirin)、リトナビル(ritonavir)、ロナファルニブ(lonafarnib)及びEBP 921からなる群から選択される。
【0016】
任意に、FXRアゴニストは、抗HBV剤、好ましくはヌクレオシドアナログと組み合わせて使用される。特定の態様において、前記ヌクレオシドアナログは、ラミブジン(lamivudine)、アデホビル(adefovir)、テルビブジン(telbivudine)、エンテカビル(entecavir)、テノホビル(tenofovir)及びエムトリシタビン(emtricitabine)からなる群から選択される。
【0017】
任意に、FXRアゴニストは、抗HBV/HDV剤、好ましくはヌクレオシドアナログ、核酸ポリマー又はNTCP阻害剤と組み合わせて使用される。特定の態様において、前記抗HBV/HDV剤は、エゼチミブ(ezetimibe)、ミルクルデックスB(myrcludex B)、核酸ポリマーREP 2139及び核酸ポリマーREP 2165から選択される。
【0018】
任意に、対象はHDV感染に対する以前の処置に応答することができなかったことがある。第一の態様において、以前の処置は、PEG-IFNαを用いた処置である。ある特定の態様において、以前の処置は、抗HDV剤を用いた処置である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、それを必要としている対象におけるD型肝炎ウイルス(HDV)の感染の処置において使用するための、ファルネソイドX受容体(farnesoid X receptor)(FXR)アゴニストに関する。
【0020】
本発明は、治療的に効果のある量のファルネソイドX受容体(FXR)アゴニストの対象への投与を含む方法であって、それを必要としている対象におけるD型肝炎ウイルス(HDV)の感染の処置のための方法に関する。
【0021】
本発明は、D型肝炎ウイルス(HDV)の処置のための医薬の製造のための、FXRアゴニストの使用に関する。
【0022】
本発明は、FXRアゴニストを含む医薬組成物であって、それを必要としている対象におけるD型肝炎ウイルス(HDV)の感染の処置における使用のための、医薬組成物に関する。
【0023】
[患者]
本明細書で使用される場合、「D型肝炎ウイルス感染患者(Hepatitis D virus infected patient)」は、任意の遺伝子型のB型肝炎ウイルス、例えば、遺伝子型1、2、3、4、5、6、7、8に感染した患者を意味する。
【0024】
本発明によると、用語「対象(subject)」又は「患者(patient)」及び「それを必要としている対象(subject in need thereof)」又は「それを必要としている患者(patient in need thereof)」は、D型肝炎ウイルスに感染する又は感染する可能性の高い、ヒト又は非ヒトの哺乳類を意図する。本発明のいくつかの態様において、対象は、慢性HDV感染に罹患する。
【0025】
用語「共感染患者(coinfected patients)」は、HBV及びHDVに同時に感染したことのある個体を参照する。用語「超感染患者(super-infected patients)」は、最初にHBVに感染し、その後HDVに感染したことのある個体を参照する。
【0026】
本発明の態様によると、用語「処置失敗患者(Treatment failure patients)」は、HDV感染のための以前の処置に失敗したことのある個体を参照する。従って、本明細書で使用される「処置失敗患者」は、一般に、処置への応答ができなかったHDV感染患者(「非応答者(non-responders)」として参照される)又は最初は処置に応答したが、治療応答が維持されなかったHDV感染患者(「再発者(relapsers)」として参照される)を参照する。
【0027】
より特には、HDVに対する効果的処置はなく、又は慢性HDVの処置のためのFDA承認薬品は全くないが、ペグ化された免疫システムモジュレーターであるインターフェロンアルファ(PEG-IFN-α)は、現在臨床業務において使用されており、従って、HDV感染のための標準治療であると認められている。結果として、本明細書で使用される「処置失敗患者」は、一般に、PEG-IFN-αの処置に応答することができなかったHDV感染患者(「非応答者」として参照される)又は、最初はPEG-IFN-αの処置に応答したが、治療応答が維持されなかったHDV感染患者(「再発者」として参照される)を参照する。
【0028】
[処置]
本明細書で使用される場合、用語「処置(treatment)」又は「処置する(treat)」は、予防する(prophylactic)又は防止する(preventive)処置及び治療の(curative)又は疾患修飾性の(disease modifying)処置の両方を参照し、疾患に罹る又は疾患に罹った疑いがあるというリスクのある患者、及び体調が悪い又は疾患若しくは医学的状態に罹患している診断されたことのある患者の処置を含み、並びに臨床的再発の抑制を含む。処置は、疾患若しくは再発性疾患の一つ以上の症状を予防する、治療する、発症を遅らせる、重症度を軽減する若しくは改善する、又は前記治療の存在しない条件で期待される生存を超えて対象の生存を延ばすために、医学的障害を有する対象又は最終的に障害を獲得する可能性のある対象に投与される可能性がある。
【0029】
処置の効果は、標準的なプロトコールを使用してモニターすることができる。実際には、処置に続いて、血清におけるHDVのレベル(ウイルス量)の決定及び血清のアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)のレベルの測定がある可能性がある。例えば、患者は、彼らの血清におけるHDV RNAの存在を評価することができる。HDV RNA (IU/mL)は、処置の間に規則的な間隔で測定することができる(例えば、1日(投与前及び投与後4、8及び12時間)並びに投与前2日、3日、8日、15日、29日並びに12週、24週、36週、48週、72週(適用可能なとき)、並びに更に後のタイミング)。従って、処置の効果は、国際的に認められたパラメーターを使用してモニターすることができる: a)血清HDV RNAレベルは、精密な定量RT-PCRを基礎としたアッセイを使用してモニターされ、ウイルスの複製に与える影響を評価される。b) ALT及び/又はアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)の血清レベルは、モニターされ、肝臓の炎症及び肝臓細胞の死に与える影響を評価される。
【0030】
処置は、ただ1つのFXRアゴニストが投与される単剤処置、又はある治療剤、例えばあるFXRアゴニスト又は抗ウイルス剤との組み合わせ療法に対応することができる。
【0031】
処置は、HDV感染と診断されたことのある個体に投与することができる。任意の上記の処置計画は、以前のHDV感染のための処置に失敗したことのある個体(処置失敗患者)に投与することができる。
【0032】
[FXRアゴニスト]
用語「FXR」は、超生理学的レベルのファルネソールにより活性化される核内受容体である、ファルネソイドX受容体を参照する(Formanら、Cell, 1995,81,687-693)。FXRは、NR1H4、レチノイドX受容体相互作用タンパク質14(RIP14)及び胆汁酸受容体(BAR)としても知られている。保存されたDNA結合ドメイン(DBD)及びC末端リガンド結合ドメイン(LBD)を含み、FXRは、主要な胆汁酸であるケノデオキシコール酸(CDCA)並びにそのタウリン及びグリシンの複合体を含む、天然に発生した多様な胆汁酸(BAs)に結合し、活性化される。活性化のときに、FXR-RXRのヘテロダイマーが標的遺伝子のプロモーター領域に結合し、胆汁酸のホメオスタシスに関与するいくつかの遺伝子の発現を調節する。肝臓のFXR標的遺伝子は、二つの主要なグループに分類される。第一のグループは、エクスポートを増大させ合成を減少させることにより、肝臓の胆汁酸の濃度を減少させるために働く。FXR標的遺伝子の第二のグループ、例えばリン脂質輸送タンパク質PLTP及びアポリポタンパク質は、血清中のリポタンパク質レベルを調節し、血漿のトリグリセリド濃度を減少させる。FXRが調節する遺伝子のより詳細なリストは、例えば国際公開第03/016288号の22~23ページで参照することができる。米国特許第6,005,086号は、哺乳類のFXRタンパク質に対する核酸配列コードを公開する。FXRのヒトポリペプチド配列は、アクセッション番号NM_005123、Q96RI1、NP_005114 AAM53551、AAM53550、AAK60271の下でヌクレオチド及びタンパク質データベースに蓄積されている。
【0033】
本明細書において、用語「FXRアゴニスト」は、当該技術分野における一般的な意味を有し、特にファルネソイドX受容体(FXR)を標的にして結合することによって機能し、及びMaloneyら(J. Med. Chem. 2000, 43:2971-2974)に記載されるアッセイにおいて、バックグラウンドの少なくとも40%を超えてFXRを活性化する化合物を参照する。
【0034】
いくつかの実施形態において、本発明のFXRアゴニストは、選択的なFXRアゴニストである。本明細書で使用されるように、用語「選択的なFXRアゴニスト(selective FXR agonist)」は、LXRα、LXRβ、PPARα、PPARγ、PPARδ、RXRα、RARγ、VDR、PXR、ERα、ERβ、GR、AR、MR及びPRからなる、理想的に実質的に全ての、核内受容体のパネルの一つ以上に対して有意な交差反応を示さないFXRアゴニストを参照する。有意な交差反応を決定する方法は、J. Med. Chem. 2009, 52, 904-907に記載されている。
【0035】
FXRアゴニストは、当業者によく知られている。
【0036】
例えば、当業者は以下の公表文献からFXRアゴニストを容易に同定することができる(参照により本明細書に包含される公開):
【表AA】
【表AB】
【表AC】
【0037】
典型的には、FXRアゴニストは、ステロイドFXRアゴニスト及び非ステロイドFXRアゴニストのクラスを含む。
【0038】
本発明の特定の実施形態において、FXRアゴニストは、以下の公表文献で公開された、FXRモジュレーターとして働く小さな分子化合物から選択される:
欧州特許第1392714号; 欧州特許第1568706号; 特許2005281155号; 米国特許第20030203939号; 米国特許第2005080064号; 米国特許第2006128764号; 米国特許第20070015796号; 米国特許第20080038435号; 米国特許第20100184809号; 米国特許第20110105475号; 米国特許第6,984,560号; 国際公開第2000037077号; 国際公開第200040965号; 国際公開第200076523号; 国際公開第2003015771号; 国際公開第2003015777号; 国際公開第2003016280号; 国際公開第2003016288号; 国際公開第2003030612号; 国際公開第2003016288号; 国際公開第2003080803号; 国際公開第2003090745号; 国際公開第2004007521号; 国際公開第2004048349号; 国際公開第2004046162号; 国際公開第2004048349号; 国際公開第2005082925号; 国際公開第2005092328号; 国際公開第2005097097号; 国際公開第2007076260号; 国際公開第2007092751号; 国際公開第2007140174号; 国際公開第2007140183号; 国際公開第2008002573号; 国際公開第2008025539号; 国際公開第2008025540号; 国際公開第200802573号; 国際公開第2008051942号; 国際公開第2008073825号; 国際公開第2008157270号; 国際公開第2009005998号; 国際公開第2009012125号; 国際公開第2009027264号; 国際公開第2009080555号; 国際公開第2009127321号; 国際公開第2009149795号; 国際公開第2010028981号; 国際公開第2010034649号; 国際公開第2010034657号; 国際公開第2017218330号; 国際公開第2017218379号; 国際公開第2017201155号; 国際公開第2017201152号; 国際公開第2017201150号; 国際公開第2017189652号; 国際公開第2017189651号; 国際公開第2017189663号; 国際公開第2017147137号; 国際公開第2017147159号; 国際公開第2017147174号; 国際公開第2017145031号; 国際公開第2017145040号; 国際公開第2017145041号; 国際公開第2017133521号; 国際公開第2017129125号; 国際公開第2017128896号; 国際公開第2017118294号; 国際公開第2017049172号; 国際公開第2017049176号; 国際公開第2017049173号; 国際公開第2017049177号; 国際公開第2016173397号; 国際公開第2016173493号; 国際公開第2016168553号; 国際公開第2016161003号; 国際公開第2016149111号; 国際公開第2016131414号; 国際公開第2016130809号; 国際公開第2016097933号; 国際公開第2016096115号; 国際公開第2016096116号; 国際公開第2016086115号; 国際公開第2016073767号; 国際公開第2015138986号; 国際公開第2018152171号; 国際公開第2018170165号, 国際公開第2018170166号, 国際公開第2018170173号, 国際公開第2018170182号, 国際公開第2018170167号; 国際公開第2017078928号; 国際公開第2014184271号; 国際公開第2013007387号; 国際公開第2012087519号; 国際公開第2011020615号; 国際公開第2010069604号; 国際公開第2013037482号; 米国特許第2017275256号; 国際公開第2005080064号; 国際公開第2018190643号; 国際公開第2018215070号; 国際公開第2018215610号; 国際公開第2018214959号; 国際公開第2018081285号; 国際公開第2018067704号; 国際公開第2019007418号; 国際公開第2018059314号; 国際公開第2017218337号; 国際公開第2020231917号; 国際公開第2020211872号; 国際公開第2020168143号; 国際公開第2020168148号; 国際公開第2020156241号; 国際公開第2020150136号; 国際公開第2020114307号; 国際公開第2020061118号; 国際公開第2020061114号; 国際公開第2020061112号; 国際公開第2020061113号; 国際公開第2020061116号, 国際公開第2020061117号; 国際公開第2020011146号; 国際公開第2020001304号; 国際公開第2019160813号; 国際公開第2019120088号; 国際公開第2019118571号; 国際公開第2019089667号; 国際公開第2019089672号; 国際公開第2019089665号; 国際公開第2019089664号; 国際公開第2019089670号;
これらの公開は、参照により本明細書に包含される。
【0039】
ある態様において、FXRアゴニストは、以下の特許出願で公開される任意のFXRアゴニストであることができる:
国際公開第2017/049172号、国際公開第2017/049176号、国際公開第2017/049173号、国際公開第2017/049177号、国際公開第2018/170165号、国際公開第2018/170166号、国際公開第2018/170173号、国際公開第2018/170182号及び国際公開第2018/170167号。
【0040】
FXRアゴニストの特定の実施例は、EYP001、GW4064(国際公開第00/37077号又は米国特許第2007/0015796号で公開されている)、6-エチル-ケノデオキシコール酸(6-ethyl-chenodeoxycholic acids)、特に3α, 7α-ジヒドロキシ 7α-ジヒドロキシ-6α-エチル-5β-コラン-24-オイン酸(3α, 7α-dihydroxy 7α-dihydroxy-6α-ethyl-5β-cholan-24-oic acid)、INT-747としてもまた参照される;INT-777;6-エチル-ウルソデオキシコール酸(6-ethyl-ursodeoxycholic acids)、INT-1103、UPF-987、WAY-362450、MFA-1、GW9662、T0901317、フェキサラミン(fexaramine)、3β-アジド-6α-エチル-7α-ヒドロキシ-5β-コラン-24-オイン酸(3β-azido-6α-ethyl-7α-hydroxy-5β-cholan-24-oic acid)、トロピフェキソール(Tropifexor)(LJN452)、フェキサラミン-3(fexaramine-3)(Fex-3)、BAR502、BAR704、PX20606、PX20350、3α,7α,11β-トリヒドロキシ-6α-エチル-5β-コラン-24-オイン酸(3α,7α,11β-Trihydroxy-6α-ethyl-5β-cholan-24-oic Acid)(TC-100)、6-(4-{[5-シクロプロピル-3-(2,6-ジクロロフェニル)イソオキサゾール-4-イル]メトキシ}ピペリジン-1-イル)-1-メチル-1H-インドール-3-カルボン酸(6-(4-{[5-Cyclopropyl-3-(2,6-dichlorophenyl)isoxazol-4-yl]methoxy}piperidin-1-yl)-1-methyl-1H-indole-3-carboxylic Acid)、3,6-ジメチル-1-(2-メチルフェニル)-4-(4-フェノキシフェニル)-4,8-ジヒドロ-1H-ピラゾロ[3,4-e][1,4]チアゼピン-7-オン(3,6-dimethyl-1-(2-methylphenyl)-4-(4-phenoxyphenyl)-4,8-dihydro-1H-pyrazolo[3,4-e][1,4]thiazepin-7-one); オベチコール酸(obeticholic acid)、コール酸(cholic acid)、デオキシコール酸(deoxycholic acid)、グリココール酸(glycocholic acid)、グリコデオキシコール酸(glycodeoxycholic acid)、タウロコール酸(taurocholic acid)、タウロジヒドロフシデート(taurodihydrofusidate)、タウロデオキシコール酸(taurodeoxycholic acid)、コレート(cholate)、グリココレート(glycocholate)、デオキシコレート(deoxycholate)、タウロコレート(taurocholate)、タウロデオキシコレート(taurodeoxycholate)、ケノデオキシコール酸(chenodeoxycholic acid)、ウルソデオキシコール酸(ursodeoxycholic acid)、タウロウルソデオキシコール酸(tauroursodeoxycholic acid)、グリコウルソデオキシコール酸(glycoursodeoxycholic acid)、7-B-メチルコール酸(7-B-methyl cholic acid)、メチルリトコール酸(methyl lithocholic acid)、GSK-8062 (CAS No. 943549-47-1)を含むが、これらに制限されない。いくつかの実施形態において、FXRアゴニストは、天然の胆汁酸、好ましくはケノデオキシコール酸(chenodeoxycholic acid)[CDCA]又はタウリン-若しくはグリシン-コンジュゲートCDCA(taurine- or glycine-conjugated CDCA)[tauro-CDCA又はglyco-CDCA]及び天然の胆汁酸の合成誘導体、好ましくは6-エチル-CDCA(6-Ethyl-CDCA)又はタウリン-若しくはグリシン-コンジュゲート6-エチル-CDCA(taurine- or glycine-conjugated 6-Ethyl-CDCA)、天然の非ステロイドアゴニスト、好ましくはジテルペノイド(Diterpenoids)、例えばカフェストール(Cafestol)及びカーウェオール(Kahweol)、又は合成非ステロイド性FXRアゴニストから選択される。
【0041】
いくつかの実施形態において、FXRアゴニストは、オベチコール酸(obeticholic acid) (Intercept Pharma)、コール酸(cholic acid) (CT-RS); GS-9674 (シロフェキソール(Cilofexor)) (Phenex Pharmaceuticals AG)、トロピフェキソール(Tropifexor)(LJN452) (Novartis Pharmaceuticals)、EYP001、EDP-305、ステロイド性の非カルボン酸FXRアゴニスト (Enanta Pharmaceuticals)、ツロフェキソラートイソプロピル(Turofexorate Isopropyl) (Pfizer)、INT-767 (Intercept Pharmaceuticals)、LY-2562175 (Lilly)、AGN-242266 (かつてのAKN-083, Allergan)、EP-024297 (Enanta Pharmaceuticals)、M-480 (Metacrine)、MET-409 (Metacrine)、RDX-023 (Ardelyx)、GW6046、カフェストール(Cafestol)、フェキサラミン(Fexaramine)及びCAS No. 1192171-69-9により同定される(国際公開第2009127321号に記載されている)化合物PXL007(EYP001又はEYP001aとも呼ばれる)からなる群から選択される。特定の実施形態において、FXRアゴニストは、INT-747、EDP-305ステロイド性の非カルボン酸FXRアゴニストにより同定される化合物 (Enanta Pharmaceuticals)及びCAS No. 1192171-69-9により同定される化合物(国際公開2009127321に記載されている)からなる群から選択される。
【0042】
特定の態様において、FXRアゴニストは、LJN452(トロピフェキソール(Tropifexor))、GS-9674(シロフェキソール(Cilofexor))、LMB763(ニデュフェキソール(Nidufexor))、OCA(オカリバ(Ocaliva))、EDP-305、TERN-001及びPXL007(EYP001とも呼ばれる)からなる群から選択される。
【0043】
特定の態様において、FXRアゴニストは表1に公開される化合物からなる群から選択される。
【表1A】
【表1B】
【表1C】
【表1D】
及び任意のその薬学的に許容される塩。
【0044】
本発明の好まれる態様において、FXRアゴニストはEYP001である。
【0045】
本発明において有用な追加のFXRアゴニストは、アッセイ、例えば国際公開第2000/37077号に記載されるアッセイに基づいて、当業者により通常の方法により同定されることができ、その内容は、参照によって完全に本明細書に包含される。典型的には、FXRアゴニストは核内受容体-ペプチドアッセイを使用して同定される。当該アッセイは、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を使用し、推定のリガンドがFXRに結合するかどうかを試験するために使用することができる。FRETアッセイは、転写の活性化に必要とされるコアクチベータータンパク質との相互作用を促進する核内受容体における立体配置の変化をリガンドが誘導するという原則に基づいている。FRETにおいて、蛍光ドナー分子は、非放射性の双極子-双極子相互作用を介して、通常は蛍光分子である、アクセプター分子へとエネルギーを移動させる。
【0046】
典型的には、本発明のFXRアゴニストは、治療的に効果的な量で対象に投与される。上記「治療的に効果的な量(therapeutically effective amount)」のFXRアゴニストは、任意の医学的処置に適用できる合理的な利益/リスクの比でD型肝炎ウイルスの感染を処置するために、十分な量のFXRアゴニストを意味する。しかしながら、本発明の化合物及び組成物の全体的な毎日の使用は、健全な医学的判断の範囲内で主治医により決定されると理解される。任意の特定の患者のための個別の治療的に効果的な用量レベルは、処置される障害及び障害の重症度;使用される特定の化合物の活性;使用される特定の組成物、患者の年齢、体重、全身の健康、性別及び食事;投与の時間、投与経路、使用される特定の化合物の排出率、処置の継続期間、使用される特定のアゴニストと組み合わせて使用される薬品;及び医学の技術分野においてよく知られた類似の因子を含む多様な因子に依存する。例えば、望まれる治療的効果を達成するのに必要とされる用量よりも低いレベルの化合物の用量で始め、望まれる効果が達成されるまで次第に用量を増やすことは、当業者によく知られている。しかしながら、製品の毎日の投与は、成人一日当たり0.01~1,000 mgの広い範囲に渡り、多様であることができる。好ましくは、組成物は、0.01、0.05、0.1、0.5、1.0、2.5、5.0、10.0、15.0、25.0、50.0、100、250及び500 mgの、処置される患者に対する用量の、症状に応じた調節のための有効成分を含む。医薬は、典型的に約0.01 mgから約500 mgの有効成分、好ましくは1 mgから約100 mgの有効成分を含む。効果的な量の薬品は、一日当たり体重の0.0002 mg/kgから約20 mg/kg、特には一日当たり体重の0.001 mg/kgから7 mg/kgまでの用量レベルで通常供給される。
【0047】
[組み合わせ療法]
本発明の態様によると、本発明によるFXRアゴニストは、少なくとも一つの他の治療剤と組み合わせて、好ましくは少なくとも一つの他の抗ウイルス剤と組み合わせて、より好ましくは免疫システム調節剤、抗HDV剤、抗HBV剤、抗HDV/HBV剤及びその任意の組み合わせからなる群から選択される少なくとも一つの他の抗ウイルス剤と組み合わせて対象に投与させることができる。これらの作用剤は、より特定して以下に定義される。
【0048】
従って、本発明は、
- 少なくとも一つの他の治療剤と組み合わせて、HDV感染、特には慢性HDV感染を処置するための、FXRアゴニスト;又は
- 少なくとも一つの他の治療剤と組み合わせて、HDV感染、特には慢性HDV感染を処置するための、FXRアゴニストを含む医薬組成物;又は
- HDV感染、特には慢性HDV感染を処置するための、FXRアゴニスト及び少なくとも一つの他の治療剤を含む医薬組成物;又は
- HDV感染、特には慢性HDV感染を処置するための、同時に、別々に又は連続して使用をするために組み合わせられた調製物としてのFXRアゴニスト及び少なくとも一つの他の治療剤を含むキット;又は
- 治療的に効果的な量のFXRアゴニスト及び治療的に効果的な量の少なくとも一つの他の治療剤の投与を含む、対象におけるHDV感染、特には慢性HDV感染の処置方法;又は
- 治療的に効果的な量のFXRアゴニスト及び治療的に効果的な量の少なくとも一つの他の治療剤を含む薬学的組成物の投与を含む、対象におけるHDV感染、特には慢性HDV感染の処置方法。
【0049】
用語「免疫システムモジュレーター(Immune system modulators)」は、インターフェロン型(IFN)のシグナリングタンパク質、好ましくはインターフェロンアルファ(IFN-α)又はインターフェロンラムダ(IFN-λ)、より好ましくはペグ化インターフェロンアルファ(PEG-IFN-α)又はペグ化インターフェロンラムダ(PEG-IFN-λ)、及びさらにより好ましくはPEG-IFN-α2a、PEG-IFN-α2b又はPEG-IFN-λ1aを参照する。
【0050】
一つの態様において、IFNは、コンセンサスIFN-α (例えば、INFERGEN(登録商標)、Locteron(登録商標))、IFN-α1b(例えば、HAPGEN(登録商標))、IFN-α2a(Roferon-A(登録商標)、MOR-22、Inter 2A、Inmutag、Inferon)、ペグ化IFN-α2a(例えば、PEGASYS(登録商標)、YPEG-IFNα-2a、PEG-INTRON(登録商標)、Pegaferon)、IFN-α2b(例えば、INTRON A(登録商標)、Alfarona、Bioferon、Inter 2B、citpheron、Zavinex、Ganaparなど)、ペグ化IFN-α2b (例えば、Pegintron (登録商標)、Albuferon、AOP2014/P1101、Algeron、Pai Ge Bin)、IFN-α2c(例えば、Berofor Alpha)及びIFN様タンパク質(例えば、Novaferon, HSA-IFN-α2a融合タンパク質, HSA-IFN-α2b融合タンパク質)からなる群から選択される。
【0051】
IFNは、毎日、毎週又は毎週2、3、4、5又は6回投与されることができる。処置期間は、一般に長く、例えば2週間から数ヶ月間である。例えば、期間は、3~4ヶ月間から最大24ヶ月間である。用量は、100万ユニットから2000万ユニットまで変化させることができ、例えば、200万、300万、400万、500万、600万、700万、800万、900万、1000万、1100万、1200万、1300万、1400万、1500万、1600万、1700万、1800万、又は1900万ユニットである。IFNは、皮下の、筋肉内の、静脈内の、経皮の又は腫瘍内の投与により、好ましくは皮下の又は筋肉内の投与のために、投与されることができる。
【0052】
特定の態様において、IFNは処置の最初にFXRアゴニストと組み合わせて使用される。任意に、IFNを用いた処置は停止され、一方でFXRアゴニストを用いた処置は維持される。例えば、FXRアゴニスト及びIFNを用いた第一の処置期間は、数日間又は数週間続く可能性があり(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8若しくは9日間、又は1、2、3、4、5、6、7、8若しくは9週間)、その後、IFNが存在しない状況下でのFXRアゴニストを用いた処置期間が続く。当該第二工程は、数日間、数週間又は数か月間続く可能性がある。
【0053】
特定の態様において、IFNは、IFNα2a、IFNα2b又はそのペグ化形態であり、例えば1 μgから500 μgまで、好ましくは10 μgから500 μgまで、より好ましくは100 μgから250 μgまで、例えば100、110、120、130、140、150、160、170、180、190又は200 μg、及び2~4ヶ月から最大24ヶ月の間で変化する用量で、皮下に一週に一度投与される。特に特定の態様において、処置は12から52週まで、好ましくは45から52週まで、例えば48週続く。より特定の態様において、IFNはIFNα2a又はそのペグ化形態である。
【0054】
用語「抗HDV剤」は、HDV複製、HDVビリオンのアセンブリ又は感染性細胞へのHDVビリオンのエントリーを阻害することによって、HDV感染を処置する任意の化合物を参照する。いくつかの抗HDV剤は、当業者に知られている(Deterdingら、2019, AIDS Rev., 21, 126-134; Gilmanら、2019), World J Gastroenterol., 25, 4580-4597を参照)。好ましくは、抗HDV剤は、リバビリン、リトナビル、ロナファルニブ及びEBP 921からなる群から選択される。
【0055】
特には、HDV複製の阻害は、感染した細胞において複製されるHDV RNAのコピー数の約10、20、30、40、50、60、70、80、90 %又は100 %の減少に相当する。コピー数を測定する技術、特にはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に基づく技術は、当業者によく知られている。好ましくは、HDV複製を阻害する抗HDV剤は、ヌクレオシドアナログである。
【0056】
特には、HDVビリオンのアセンブリの阻害は、感染した細胞においてアセンブリするHDVビリオン量の約10、20、30、40、50、60、70、80、90又は100 %の減少に相当する。ビリオン量を定量化するための技術、特には酵素結合免疫吸着測定方法(ELISA)に基づく技術は、当業者によく知られている。好ましくは、HDVビリオンのアセンブリを阻害する抗HDV剤は、ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤である。
【0057】
特には、感染性細胞へのHDVビリオンエントリーの阻害は、感染性細胞におけるHDVビリオンエントリー量の約10、20、30、40、50、60、70、80、90又は100 %の減少に相当する。
【0058】
用語「抗HBV剤」は、HBV複製を阻害する、HBVビリオンのアセンブリを阻害する、又は感染性細胞へのHBVビリオンのエントリーを阻害することによって、HBV感染を処置する化合物を参照する。抗HBV剤は当業者に知られており、例えば従来型のインターフェロン、ペグ化インターフェロン、ヌクレオシド及びヌクレオチドアナログである(Terraultら、2018 を参照)。好ましくは、HBV複製を阻害する抗HBV剤は、ヌクレオシドアナログ、より好ましくはヌクレオシドアナログ逆転写酵素阻害剤、及び更により好ましくは、抗HBV剤はラミブジン、アデホビル、テルビブジン、エンテカビル、テノホビル及びエムトリシタビンからなる群から選択される。
【0059】
特には、HBV複製の阻害は、感染性細胞において複製されたHBV DNA量の約10、20、30、40、50、60、70、80、90 %又は100 %の減少に相当する。
【0060】
より低レベルのHBV DNA複製は、HBVビリオンのアセンブリのレベルを減少させるのに役立ち、これにより、他の標的細胞のより低レベルの感染が誘導される。従って、それはHBVの抗原をHDVビリオンのアセンブリに供給する可能性を減少させる。
【0061】
特には、HBVビリオンのアセンブリの阻害は、感染性細胞においてアセンブリするHBVビリオン量の約10、20、30、40、50、60、70、80、90又は100 %の減少に相当する。
【0062】
HBVビリオンのより低レベルのHBVビリオンのアセンブリは、他の標的細胞のより低レベルの感染を誘導し、従って、HBVの抗原をHDVビリオンのアセンブリに供給する可能性を減少させる。
【0063】
特には、感染性細胞へのHBVビリオンのエントリーの阻害は、感染性細胞におけるHBVビリオンのエントリー量の約10、20、30、40、50、60、70、80、90又は100 %の減少に相当する。
【0064】
用語「感染性細胞」は、細胞へのHDVビリオン又はHBVビリオンのエントリーに必要とされるNTCP受容体を発現する、ビリオンに接触する可能性のある細胞を参照する。細胞、特に宿主細胞は、循環しているビリオンとの接触を防ぐための生物学的又は物理的バリアが無い時に、接触する可能性があると考えられている。
【0065】
HBV及びHDVビリオンは同じエントリー受容体、すなわちNTCPを共有するので、抗HBV剤によるNTCPのドッキングを介した妨害は、HBVビリオンの細胞エントリーを効果的に妨害し、HDVビリオンの細胞エントリーもまた阻害する。
【0066】
用語「抗HBV/HDV剤」は、HBV及びHDVのビリオンのアセンブリを阻害する、又は感染性細胞へのHBV及びHDVビリオンのエントリーを阻害することによって、HDV及び/又はHBVの感染を処置する化合物を参照する。好ましくは、抗HBV剤は、エゼチミブ、ミルクルデックスB、核酸ポリマーREP 2139及び核酸ポリマーREP 2165又はその任意の組み合わせからなる群から選択される。
【0067】
特には、HBV及びHDVビリオンのアセンブリのそれぞれの阻害は、感染性細胞においてアセンブリするHBVビリオン又はHDVビリオン量の約10、20、30、40、50、60、70、80、90又は100 %の減少に相当する。好ましくは、HBV又はHDVビリオンのアセンブリを阻害する抗HBV/HDV剤は、核酸ポリマー、より好ましくはHBAgs分泌をブロックする核酸ポリマーである。
【0068】
特には、感染性細胞へのHBVビリオン及びHDVビリオンのエントリーの阻害は、感染性細胞におけるHBVビリオン又はHDVビリオンのエントリー量の約10、20、30、40、50、60、70、80、90又は100 %の減少に相当する。好ましくは、感染性細胞におけるHBV又はHDVのエントリーを阻害する抗HBV/HDV剤は、NTCP阻害剤、より好ましくはNTCPドッキング阻害剤である。
【0069】
本発明の好ましい態様によると、本発明によるFXRアゴニストは、上記で定義された免疫システムモジュレーター、抗HDV剤、抗HBV剤、抗HDV/HBV剤及びその任意の組み合わせからなる群から選択される、少なくとも一つの他の抗ウイルス剤と組み合わせて対象へ投与されることができる。好ましくは、前記他の抗ウイルス剤は、インターフェロン型の免疫システムモジュレーター、ヌクレオシドアナログ、ヌクレオチドアナログ、核酸ポリマー、ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤、プロテアーゼ阻害剤、NTCP阻害剤及びその任意の組み合わせからなる群から選択される。
【0070】
より好ましくは、本発明によるFXRアゴニストは、PEG-IFN-α2a、PEG-IFN-α2b又はPEG-IFN-λ1a、リバビリン、リトナビル、ロナファルニブ及びEBP 921、ラミブジン、アデホビル、テルビブジン、エンテカビル、テノホビル及びエムトリシタビン、エゼチミブ、ミルクルデックスB、核酸ポリマーREP 2139及び核酸ポリマーREP 2165並びにその任意の組み合わせと組み合わせて対象に投与されることができる。
【0071】
特定の態様によると、本発明によるFXRアゴニストは、PEG-IFN-α2aと組み合わせて対象に投与されることができる。
【0072】
代替的に、本発明によるFXRアゴニストは、ミルクルデックスBと組み合わせて対象に投与されることができる。
【0073】
代替的に、本発明によるFXRアゴニストは、リトナビルと組み合わせて対象に投与されることができる。
【0074】
代替的に、本発明によるFXRアゴニストは、ロナファルニブと組み合わせて対象に投与されることができる。
【0075】
代替的に、本発明によるFXRアゴニストは、アデホビルと組み合わせて対象に投与されることができる。
【0076】
代替的に、本発明によるFXRアゴニストは、PEG-IFN-α2a及びもう一つの作用剤、好ましくはPEG-IFN-α2a及びミルクルデックスBを組み合わせて対象に投与されることができる。
【0077】
代替的に、本発明によるFXRアゴニストは、PEG-IFN-α2a及びリトナビルを組み合わせて対象に投与されることができる。
【0078】
代替的に、本発明によるFXRアゴニストは、PEG-IFN-α2a及びロナファルニブを組み合わせて対象に投与されることができる。
【0079】
代替的に、本発明によるFXRアゴニストは、PEG-IFN-α2a及びアデホビルを組み合わせて対象に投与されることができる。
【0080】
本発明の一つの態様において、組み合わせ療法の投与は同時であり、FXRアゴニスト及び少なくとも一つの他の作用剤は同時に対象に投与される。
【0081】
本発明のもう一つの態様において、組み合わせ療法の投与は連続的であり、FXRアゴニスト及び少なくとも一つの他の作用剤は、好ましくは約1から10日、より好ましくは約1から24時間、さらにより好ましくは約1から12時間、決められた時間遅らせて、連続して対象に投与される。
【0082】
特定の態様において、FXRアゴニストは、インターフェロンと組み合わせて使用されない。
【0083】
本発明は、以下の図面及び実施例により更に説明される。しかしながら、これらの実施例及び図面は、本発明の範囲を制限していると、どのような方法においても解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0084】
図1】FXRαアゴニストは、HBV-HDVが共感染したdHepaRG細胞においてHDVの複製を阻害する。分化したHepaRG細胞は、MOI 100 GE/cellのHBV及びMOI 10 GE/cellのHDVで感染させた。感染後3日目から13日目までに、細胞は10 μMのGW4064、インターフェロン α-2a(1000 IU/mL)又はビヒクルで処置された。細胞及び上清は、細胞内のHBV及びHDVのRNA並びに分泌された抗原の定量化のために13日目に採取された。結果は、3回の生物学的な反復で行われた2つの実験の平均値 +/- SDである。
図2】FXRαアゴニストは、HDVに重複感染したHBV感染dHepaRGにおけるHDVの複製を阻害する。分化したHepaRG細胞は、MOI 100 GE/cellのHBVで感染させ、7日後にMOI 10 GE/cellのHDVで感染させた。HBV感染後10日目から17日目までに、細胞は1、5又は10 μMのGW4064、インターフェロン α-2a (1000 IU/mL)又はビヒクルで処置された。細胞及び上清は、細胞内のHDV RNAの定量化のために17日目に採取された。結果は、3回の生物学的な反復で行われた3つの実験(dHepaRGにおける)の平均値 +/- SDである。
図3】FXRαアゴニストは、HDVに重複感染したHBV感染PHHにおけるHDVの複製を阻害する。PHHは、MOI 100 GE/cellのHBVで感染させ、4日後にMOI 10 GE/cellのHDVで感染させた。HBV感染後7日目から14日目までに、細胞は1、5又は10 μMのGW4064、インターフェロン α-2a (1000 IU/mL)又はビヒクルで処置された。細胞及び上清は、細胞内のHDV RNA定量化のためにHBV感染後14日目に採取された。結果は、3回の生物学的な反復で行われた1つの実験の平均値 +/- SDである。
図4】FXRαアゴニストは、HDVに重複感染したHBV感染dHepaRGにおけるHDVタンパク質の産生を阻害する。分化したHepaRG細胞は、MOI 100 GE/cellのHBVで感染させ、7日後にMOI 10 GE/cellのHDVで感染させた。HBV感染後10日目から17日目までに、細胞は1、5又は10 μMのGW4064、インターフェロン α-2a (1000 IU/mL)又はビヒクルで処置された。細胞は、HBV感染後17日目に採取され、タンパク質の抽出及びWB解析のために溶解された。グラフは、それぞれのブロットの濃度測定解析を示し、結果はB-チューブリンのレベルで標準化されたHDAgsの比として示される。
図5】FXRαアゴニストは、HDVに重複感染したHBV感染PHHにおけるHDVタンパク質の産生を阻害する。PHHは、MOI 100 GE/cellのHBVで感染させ、4日後にMOI 10 GE/cellのHDVで感染させた。HBV感染後7日目から14日目までに、細胞は1、5又は10 μMのGW4064、インターフェロン α-2a (1000 IU/mL)又はビヒクルで処置された。細胞及び上清は、HBV感染後14日目に細胞内のHDV RNA定量化のために採取され、タンパク質の抽出及びWB解析のために溶解された。グラフは、それぞれのブロットの濃度測定解析を示し、結果はB-チューブリンのレベルで標準化されたHDAgsの比として示される。
図6】FXRαアゴニストは、単一感染したdHepaRG細胞におけるHDVの複製を阻害する。分化したHepaRG細胞は、MOI 25 GE/cellのHDVで感染させた。感染後4日目から11日目までに、細胞は1又は10 μMのGW4064、10 μMの6-ECDCA及び1 μMのトロピフェキソールで処置された。HDV感染後11日目に、細胞は採取され、全体の細胞内HDV RNAはqPCRにより定量化された。
図7】FXRαアゴニストは、単一感染したdHepaRG細胞におけるHDVゲノムRNAの量を減少させる。分化したHepaRG細胞は、MOI 25 GE/cellでHDVで感染させた。感染後4日目から11日目まで、細胞は1又は10 μMのGW4064、10 μMの6-ECDCA及び1 μMのトロピフェキソールで処置された。HDV感染後11日目に、細胞は採取され、HDVゲノムRNAはノーザンブロットにより解析された。
図8】FXRαアゴニストで処置されたHBV/HDV共感染dHepaRGにおける新生HDV RNAのレベルの減少。dHepaRGは、HBV(100 vge/cell)及びHDV(10 vge/cell)で共感染させた。6日後に、細胞はGW4064(10 μM)又はインターフェロン α-2a(1000 U/mL)で4日間処置された。細胞はラベルされたウリジン又はそうでないもの(mock-EU)で2時間インキュベートされ、ウォッシュされ採取された。全体の細胞内HDV RNA及びEUでラベルされたHDV RNA(新生の細胞内HDV RNA)は、単離され、RT-qPCR解析により定量された。コントロールとして、細胞は、新生RNAの転写をブロックするために、ラベルされたウリジンとのインキュベーション20分前に、アクチノマイシン D (10 μg/mL, ActD)で処置された。結果は、3回の生物学的な反復で行われた1つの実験の平均値 +/- SDである。
図9】GW4064は、HDV粒子の感染力を減少させた。dHepaRG細胞は、HBVに対して500 vge/cell及びHDVに対して50 vge/cellで、HBV及びHDVで共感染させた。細胞は、3日後にGW4064 (10 μM)、IFN-α (500 UI/mL)又はラミブジン(LAM, 10 μM)で10日間処置された又は処置されなかった。(A)感染したdHepaRG細胞の上清が採取され、PEG沈殿により濃縮され、細胞外のHDV RNAのレベルはqRT-PCR解析により評価された。(B-C)ナイーブなHuH7.5-NTCP細胞は、(B)500 vge/cellで又は(C)に示されたように、異なる濃縮された上清で感染させた。6日後に、細胞内のHDV RNAのレベルは、RT-qPCR解析により評価された。RT-qPCRの結果は、3回の生物学的な反復で行われた互いに独立した3つの実験の平均値 +/- SDである。
【実施例
【0085】
[結果]
FXRアゴニストがHDV感染に与える影響を決定するために、分化したHepaRG細胞(dHepaRG)及び初代ヒト肝細胞(PHH)において、in vitro感染が行われた。
【0086】
分化の後、HepaRG細胞は、単一感染、又はHBVとの共感染及び重複感染のいずれかで、in vitroで産生されたHDVビリオンで感染を起こしやすい。HBV/HDVが共感染した又は重複感染した細胞の場合において、このモデルによって、細胞への浸透、核へのウイルスゲノムの転座、ウイルスゲノムの複製及びウイルスmRNAの合成、並びにHBV HBsエンベロープタンパク質を有する感染性ビリオンのアセンブリ及び分泌を伴うウイルスサイクルの後期段階を含む、HDV複製サイクルの全ての工程の研究が可能となる。HDVに単一感染した細胞において、ウイルスサイクルの全ての工程は、調べることができる(ただし、新しく合成されたHBVエンベロープタンパク質が不足しているので、アセンブリプロセスは除かれる)。
【0087】
PHHもまた、単一感染、又はHBVとの共感染及び重複感染のいずれかで、in vitroで産生されたHDVビリオンで感染を起こしやすい。
【0088】
[FXRモジュレーターによる処置は、HBV/HDVに共感染したHepaRG細胞におけるHDV複製を阻害する。]
本発明者は、in vitroで共感染したdHepaRG細胞におけるHDVの複製にFXRαアゴニストが与える影響を最初に評価した。細胞は、HBV及びHDVで同時に感染させた。感染後3日目に、細胞は、10 μMのFXRアゴニストGW4064又は1000 IU/mLのインターフェロン α-2aで10日間処置された。感染後13日目に、細胞及び上清が採取された。HDV及びHBV RNAの細胞内量は、分泌されたHBe及びHBs抗原と同様に定量された。
【0089】
全体の細胞内HDV RNAの量は、10μMのGW4064によってHepaRGにおいて60 %減少した(図1)。このウイルスRNAの減少は、インターフェロン α-2aで観察される減少に匹敵する。以前に記載された、GW4064の抗HBV活性は、細胞内のHBV RNA並びに分泌されたHBs及びHBe抗原の量に基づいて確かめられた(図1B、1C及び1D)。
【0090】
[FXRモジュレーターによる処置は、HBV及びHDVに重複感染した細胞におけるHDV複製を阻害する。]
FXRαアゴニストがHDV複製に与える影響は、HBVに感染した肝細胞(dHepaRG細胞及びPHHの両方)のHDV重複感染のin vitroモデルにおいてもまた評価された。細胞は連続的に、HBVに感染し7日後にHDVで感染させた。HDV感染の3日後、細胞は、1、5及び10 μMのGW4064又は1000 UI/mLのインターフェロン α-2aにより7日間処置された。全体のHDV RNAの細胞内の量は、RT-qPCRにより定量化された。
【0091】
dHepaRG細胞及びPHHの両方において、FXRアゴニストGW4064による処置は10 μMで、HepaRG細胞において最大60 %まで(図2)及びPHHにおいて最大45%まで(図3)、全体の細胞内HDV RNA量を減少させた。効果は、1 μMで既に非常に顕著であった。このウイルスRNAの減少は、1000 IU/mLのインターフェロン α-2aで観察された減少に匹敵した。
【0092】
重要なことには、GW4064による処置は、ウエスタンブロット解析により検出されたように、重複感染したdHepaRG細胞(図4)及びPHH(図5)の両方においてHDV抗原(HDAg)の量もまた減少させた。注目すべきことには、FXRαアゴニストは、同じ割合、すなわち両方のモデルにおけるHDV抗原量の75%の減少で、HDAg-L(大きなHDV抗原)及びHDAg-S(小さなHDV抗原)の両方を減少させた。HDAgsの阻害は、1000 IU/mLのインターフェロン α-2aにより得られたものよりも、10 μMのGW4064による処置の後に、わずかにより大きな阻害であった。総合すると、これらの結果は、FXRαアゴニストGW4064は、HDVをmRNAレベルで阻害する可能性が高く、タンパク質レベルでの非常に強い阻害をもたらすということを示す。
【0093】
[FXRモジュレーターによる処置は、HDVに単一感染した細胞におけるHDV複製を阻害する。]
FXRαが媒介する、HDVの阻害がHBVに非依存的であるかどうかを決定するために、本発明者は、HDVに単一感染したdHepaRG細胞におけるFXRαアゴニストの影響を解析した。HDV単独感染の4日後に、細胞は三つの異なるFXRαアゴニスト: 10 μMの6-ECDCA、1及び10 μMのGW4064並びに1 μMのトロピフェキソールで7日間処置された。処置が全体のHDV RNA量に与える影響は、RT-qPCRにより解析された。ゲノムHDV RNA量にFXRアゴニストが与える特異的な影響は、ノーザンブロット解析により評価された。
【0094】
10 μMのGW4064、6-ECDCA及びトロピフェキソールの全ては、RT-qPCRにより測定された通り、全体のHDV RNA量を約60 %減少させ(図6)、及びノーザンブロットにより検出されたゲノムRNA量もまた減少させた(図7)。
【0095】
総合すると、これらの結果は、FXRαアゴニストがそれらのHBV感染への阻害効果から独立した方法で、HDV感染を阻害することを示す。さらに、異なった構造を有する三つの異なるFXRαアゴニストは、HDV阻害において同等な効果を示した。
【0096】
[FXRモジュレーターによる処置は、新生HDV RNAの合成を阻害する。]
FWRアゴニストがHDVに与える作用機序の最初の洞察を得るために、本発明者は、HBV/HDVが共感染したdHepaRG細胞においてRun-ON解析を行い、新生HDV RNAもまた、全体のHDV RNA量で示されたように阻害されるのかどうかを決定した。dHepaRG細胞は、HBV及びHDVに同時に感染させた。感染後6日目に、細胞は、Run-ON実験の前に4日間、10 μMのGW4064により処置された。結果は、10 μMのGW4064はラベルされたウリジンでの染色の2時間以内にHDV RNAの合成を実際に阻害することができることを示し、従ってHDV mRNAの開始及び/又は伸長が影響を受けることができることを提唱する(図8)。
【0097】
[FXRモジュレーターによる処置は、分泌されたHDVウイルス粒子の特異的な感染力を阻害する。]
FXRαアゴニストがHDVウイルス粒子の分泌及び特異的な感染力に与える影響は、in vitroで共感染したdHepaRG細胞において評価された。感染後3日目に、細胞は、10μMのFXRアゴニストGE4064又は1000 IU/mLのインターフェロン α-2a又は10μMのラミブジンで10日間処置された。上清は、採取され、8 % PEG 8000を使用して濃縮された。第一に、HDV RNAの分泌量は、RT-qPCRにより定量化された。結果は、HDV RNAの分泌が10 μMのGW4064により65 %減少することを示した(図9A)。このウイルスRNAの減少は、インターフェロン α-2aで観察された減少(50 %)と比較して、わずかにより顕著であった。予想どおり、コントロールとして使用された、HBVポリメラーゼ阻害剤ラミブジンは、HDV RNAの分泌を有意には変化させなかった。
【0098】
その後、分泌されたHDV粒子の特異的な感染力を決定するために、dHepaRGの上清から採取された、濃縮されたHDVウイルス粒子は、それぞれの条件で同じvge/cellを使用して、ナイーブHuh7.5-NTCP細胞を感染させるために使用された。感染後6日目に、全体の細胞内HDV RNAがRT-qPCRにより定量化された。結果は、500 vge/cellによる感染に続き、細胞内のHDV RNA量が、インターフェロン α-2a条件における70 %の減少と比べて、FRXアゴニストGW4064により処置されたdHepaRGから得られた上清により感染させた細胞において95%を超えて減少したことを示した(図9B)。HDV粒子の特異的な感染力は、ラミブジンによる処置によって変化しなかった。
【0099】
最後に、ナイーブHuh7.5-NTCP細胞は、同様に濃縮された上清を用いて、しかし、それぞれの条件に対して100及び500 vge/cellの二つの異なるHDV接種材料を使用して感染させた。感染後6日目の細胞内HDV RNAの定量化は、ビヒクル、インターフェロン α-2a又はラミブジンのいずれかにより処置されたdHepaHGから採取された上清により感染させた細胞において、HDV RNAレベルの用量依存的な増加を示した(図9C)。しかしながら、これは、FXRアゴニストGW4064により処置されたdHepaRG細胞から採取された上清を使用しているケースには当てはまらなかった。なぜならば、ナイーブHuh7.5-NTCPが100又は500 vge/cellのいずれかで感染させた時に、有意な差は観察されなかったからである。最後に、これらの結果は、FXRアゴニストGW4064が、分泌されたHDV粒子の感染性の特性を大幅に減少させることを示す。
【0100】
[結果]
本発明者は、FXRアゴニストが、HDV感染のin vitro研究のための最も関連のある二つのモデルであるdHepaRG及びPHHにおける、HDV複製の阻害剤であることを発見した。この抗ウイルス効果は、三つの異なるFXRアゴニスト、すなわち一つの胆汁酸アナログ(6-ECDCA)及び二つの合成アゴニスト(GW4064及びトロピフェキソール)により実証された。
【0101】
HDVに単一感染した細胞において行われた実験から得られる現在の結果は、HDV複製にFXRアゴニストが与える阻害の影響は、以前に同定された、HBVにこのクラスの分子が与える影響から独立していることを明確に実証する。HDVが肝細胞へのエントリーのためにHBVの表面のタンパク質に依存する一方で、ウイルスサイクルの複製工程は、HBVから独立して生じる。本発明者は、ゲノム形態のHDV RNA及び新生RNA両方の量が処置の後に減少することを観察したので、FXRアゴニストは、HDVライフサイクルの複製工程を標的とすることができる。
【0102】
さらに、本発明者は、FXRアゴニストがdHepaRG細胞におけるHDV分泌及び分泌されたウイルス粒子の特異的な感染力の阻害剤でもあることを示した。この抗ウイルス効果は、合成アゴニストGW4064で実証された。
【0103】
結論として、本発明者は、HDV感染を特異的に制御する(阻害する)新規の分子(すなわち、FXRアゴニスト)を同定した。これは、既に臨床試験にあるFXRアゴニストを用いて、動物モデル又は直接ヒトにおいて試験をすることができる候補の選択を可能とする。
【0104】
[材料及び方法]
[細胞系]
HepaRG
ヒト細胞の肝臓癌に由来するHepaRG細胞系は、定義された条件下での4週間の培養の後に分化し、肝細胞の多くの表現型形質を再び獲得することができる1。HepaRG細胞は、以前に記載された通り、培養、分化及びHBV及びHDVにより感染させた2,3。簡潔には、分化のために、細胞は標準培地中で2週間、その後1.8%のDMSOを補った標準培地で少なくとも2週間維持された。標準培地の組成は、以下の通りであった: 10% HyCLone FetalClone IIセラム(Thermo Fisher Scientific)、ペニシリン/ストレプトマイシン、L-グルタミン、インスリン-トランスフェリン-セレニウム (Gibco)及び50 μM ヘミコハク酸ヒドロコルチゾンを補充したWilliam’s E培地。
【0105】
初代ヒト肝細胞
初代ヒト肝細胞(PHH)は、以前に記載された通り、フランス政府の承認(AC 2013-1871, DC 2013 - 1870, AFNOR NF 96 900 sept 2011)付きで、Centre Leon Berard (Lyon)から得られたヒト肝臓の摘出から新鮮な状態で調製された4
【0106】
Huh7.5NTCP
Huh7.5細胞は、C.M. Rice(Rockefeller University, USA)により親切にも提供された。派生するHuh7.5NTCP細胞は、以前に記載されたレンチウイルス形質導入により生み出された(Niら, Gastroenterology, 2014; 146(4):1070-83. doi: 10.1053/j.gastro.2013.12.024. Epub 2013 Dec 19. PMID: 24361467)。
【0107】
[ウイルス]
HDVストック(遺伝子型 1, Genbank ID M21012)は、以前に記載された通り、共感染したHuh7細胞に由来する上清から調製された3,5。感染性のHDV粒子の産生のために使用されたプラスミドpSVLD3及びpT7HB2.7は、親切にもCamille Sureauにより提供された(Laboratoire de virologie moleculaire, Inserm UMR S_1134, Institut National de Transfusion Sanguine, Paris, France)。
【0108】
HBVストック(遺伝子型D, Genbank ID U95551)は、以前に記載されたプロトコールに従ってHepAD38細胞系を使用して調製された7
【0109】
HBV又はHDV粒子を含む上清は、清澄化され(0.45 μm filter)、8% PEG 8000 (Sigma-Aldrich)で濃縮された。
【0110】
HDV RNAは、以前に記載された通りRT-qPCRにより定量化され6、HBV DNAは、AmpliPrep/COBAS(登録商標) TaqMan(登録商標) HBV Test (Roche)を使用して定量化された。
【0111】
[化学物質]
GW4064 [3-(2,6-ジクロロフェニル)-4-(3-カルボキシ-2-クロロ-スチルベン-4-イル)-オキシメチル-5-イソプロピル イソオキサゾール]([3-(2,6-dichlorophenyl)-4-(3-carboxy-2-chloro-stilben-4-yl)-oxymethyl-5-isopropyl isoxazole])はFXRアゴニスト (EC50 90 nM)であり、in vivo及びin vitroの両方で有効である8。制限されたバイオアベイラビリティを示すものの、GW4064は強力な及び選択的なFXRアゴニストとして広く普及した使用を獲得し、当該分野における「参照化合物(reference compound)」の地位を獲得した。
【0112】
6-ECDCA (6-エチル-ケノ-デオキシコール酸)(6-ethyl-cheno-deoxycholic acide)は、胆汁塩の誘導体及び強力なFXRアゴニスト(EC50 99 nM)であり、Sigma-Aldrichから入手された9
【0113】
トロピフェキソール(2-[(1R,3r,5S)-3-({5-シクロプロピル-3-[2-(トリフルオロメトキシ)フェニル]-1,2-オキサゾール-4-イル}メトキシ)-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-8-イル]-4-フルオロ-1,3-ベンゾチアゾール-6-カルボン酸) (2-[(1R,3r,5S)-3-({5-cyclopropyl-3-[2-(trifluoromethoxy)phenyl]-1,2-oxazol-4-yl}methoxy)-8-azabicyclo[3.2.1]octan-8-yl]-4-fluoro-1,3-benzothiazole-6-carboxylic acid)は、合成FXRアゴニストであり、in vitro及びin vivoにおいて有効であり、Caymanから入手された10
【0114】
GW4064、6-ECDCA及びトロピフェキソールは、全て10 mMでDMSOに溶解し、ストック溶液を調製した。
【0115】
インターフェロン アルファ-2(ROFERON-A)は、Rocheから購入された。
【0116】
アクチノマイシンDは、Sigma-Aldrichから購入された。
【0117】
ラミブジン(LAM)は、Selleckchemから購入された。
【0118】
[ウエスタンブロット]
細胞は、プロテアーゼ阻害剤(Sigma-Aldrichからのタンパク質カクテル阻害剤、NaF 10 mM、オルトバナジン酸ナトリウム 10 mM)を含むRIPA lysis バッファー(NaCl 150 mM、Tris HCl pH = 8.0 50 mM、SDS 0.1%、NP40 1%、デオキシコール酸Na 0.5%)において採取された。清澄化した溶解物は、10% SDS-PAGE及び、製造業者(Biorad)に従ってTransTurbo Blot装置を使用した、PVDF又はニトロセルロース膜へのウエスタンブロットトランスファーに供した。一次抗体は、HDVAg抗体(Dr Alain Kayによる親切な贈与品)及びベータ-チューブリン抗体(Abcam)である。二次HRP抗体は、Sigma-Aldrichから購入された。HRPシグナル検出は、Ozyme - Syngene PXi Image systemを使用して電気的に決定され、パラメーターは飽和点の下で厳しく設定された。
【0119】
[ノーザンブロット]
全体のRNAは、Tri Reagent(登録商標)(TR118、Molecular Research Center)を使用して、感染させた細胞から抽出された。それぞれのサンプルに対して、全体のRNAの2 μgが1.2%アガロースのゲルにおいて電気泳動に供された。帯電したナイロン膜(Roche)への電気トランスファーの後に、ゲノムHDV RNAの配列は、製造業者の指示に従ってDig RNA Labeling kit (Sp6/T7) (Roche)及びDIG luminescent detection kit (Roche)を使用して合成された鎖特異的なRNAプローブを使用することにより検出された。シグナルの定量化は、ImageLabを用いて行われた。
【0120】
抽出されたRNAの量及び質の内部コントロールとして、膜は、ストリップ状に切断され、ヒトの18S rRNA及び28S rRNAに特異的なラベルされたオリゴヌクレオチドを使用することにより、再ハイブリダイズされた。
【0121】
[HBs及びHBeの定量化]
細胞の上清において分泌されたHBs及びHBe抗原は、必要な希釈の後に、製造業者のプロトコールに従ってVidas HBs and Vidas HBE/HBET kits (bioMerieux、France)又はAutobio kits (AutoBio, China)を用いて、Mini Vidas装置で定量化された。
【0122】
[qPCRによるウイルスRNAの定量化]
全体のRNAは、NucleoSpin RNA Plus (Macherey-Nagel)を使用して調製された。TURBO DNase (Ambion)を用いたDNA消化の後、最大1000 ngのRNAがHigh-Capacity RNA-to-cDNA kit (Thermo Fisher Scientific)を使用して逆転写された。定量PCRは、全体のHDV RNAの定量化のために、プライマーHDV-F (5’-GCCTCTCCTTGTCGGTGAAT -3’, SEQ ID NO: 1)及びHDV-R (5’-CCTGGCTGGGGAACATCAAA-3’, SEQ ID NO: 2)並びにプレゲノム/プレコアHBV RNAの定量のためにHBV-F (5’-AGCTACTGTGGAGTTACTCTCGT-3’, SEQ ID NO: 3)及びHBV-R (5’-CAAAGAATTGCTTGCCTGAGTG-3’, SEQ ID NO: 4)を用いて行われた。cDNAは、LightCycler(登録商標) 480 instrument (Roche)でQuantiFast SYBR(登録商標) Green PCR kit (Qiagen)を使用して45 PCRサイクルにて定量PCR(qPCR)により解析された。全てのアッセイは、三反復で行われた。相対的な定量化は、プライマーS9-F (5’-CCGCGTGAAGAGGAAGAATG-3’, SEQ ID NO: 5)及びS9-R (5’-TTGGCAGGAAAACGAGACAAT-3’, SEQ ID NO: 6)を使用して、それぞれの遺伝子の発現をS9ハウスキーピング遺伝子で標準化することにより決定された。
【0123】
[Run-On 解析]
HDVに感染したHepaRG細胞は、ラベルされたウリジン又はそうでないもの(mock-EU)と共に2時間インキュベートされ、ウォッシュ及び採取された。全体の細胞内HDV RNA及びEUラベル化HDV RNA(新生の細胞内HDV RNA)は、製造業者の説明に従ってClick-iTTM Nascent RNA Capture Kit (Thermofisher Scientific)を使用して単離された。コントロールとして、細胞は新生RNAの転写をブロックするために、ラベルされたウリジンとのインキュベーションの20分前に、10 μg/mLのアクチノマイシン Dで処置された。
【0124】
[HDV分泌及び特異的な感染力の解析]
HDVビリオン特異的な感染力の解析のために、HBV及びHDVの両方に感染したdHepaHG由来の上清は、8% PEG 8000を使用して濃縮された。HDV RNAは、濃縮物中でRT-qPCRにより定量化され、Huh7.5NTCP細胞は、それぞれの処置条件のために濃縮されたウイルスと同等のウイルスゲノム(vge)を使用して感染させた。感染後6日目に、全体の細胞RNAは抽出され、HDV RNAはRT-qPCRにより定量された。
[参考文献]
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
2023510274000001.app
【手続補正書】
【提出日】2022-07-20
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファルネソイドX受容体(FXR)アゴニストを含む、必要としている対象におけるD型肝炎ウイルス(HDV)の感染の処置のための組成物
【請求項2】
前記対象が慢性HDV感染に罹患している、請求項1に記載の組成物
【請求項3】
前記FXRアゴニストが選択的なFXRアゴニストである、請求項1又は2に記載の組成物
【請求項4】
前記FXRアゴニストがLJN452 (トロピフェキソール)(Tropifexor)、LMB763(ニデュフェキソール)(Nidufexor)、GS-9674(シロフェキソール)(Cilofexor)、PX-102(PX-20606)、PX-104(フェネックス 104)(Phenex 104)、OCA(オカリバ)(Ocaliva)、EDP-305、TERN-101(LY2562175)、MET-409、GW4064、WAY362450(ツロフェキソラートイソプロピル)(Turofexorate isopropyl)、フェキサラミン(Fexaramine)、AGN242266(AKN-083)、BAR502及びEYP001からなる群から選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物
【請求項5】
前記FXRアゴニストがEYP001である、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物
【請求項6】
好ましくはIFN-α1a、IFN-α1b、IFN-α2a、IFN-α2b及びIFN-λ1a又はそのペグ化形態、より好ましくはPEG-IFN-α2a(例えば、ペガシス(Pegasys))、PEG-IFN-α2b(例えば、ビラフェロンPeg(ViraferonPeg)若しくはイントロンa(Introna))又はPEG-IFN-λ1aから選択される、インターフェロンアルファ(IFN-α)、インターフェロンラムダ又はそのペグ化形態と組み合わせて投与される、請求項1から5のいずれか一項に記載の組成物
【請求項7】
抗HDV剤、好ましくはヌクレオシドアナログ又はファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤と組み合わせて投与される、請求項1から6のいずれか一項に記載の組成物
【請求項8】
前記抗HDV剤がリバビリン(ribavirin)、リトナビル(ritonavir)、ロナファルニブ(lonafarnib)及びEBP 921からなる群から選択される、請求項7に記載の組成物
【請求項9】
抗HBV剤、好ましくはヌクレオシドアナログと組み合わせて投与される、請求項1から8のいずれか一項に記載の組成物
【請求項10】
前記ヌクレオシドアナログがラミブジン(lamivudine)、アデホビル(adefovir)、テルビブジン(telbivudine)、エンテカビル(entecavir)、テノホビル(tenofovir)及びエムトリシタビン(emtricitabine)からなる群から選択される、請求項9に記載の組成物
【請求項11】
抗HBV/HDV剤、好ましくはヌクレオシドアナログ、核酸ポリマー又はNTCP阻害剤と組み合わせて投与される、請求項1から8のいずれか一項に記載の組成物
【請求項12】
前記抗HBV/HDV剤がエゼチミブ(ezetimibe)、ミルクルデックスB(myrcludex B)、核酸ポリマーREP 2139及び核酸ポリマーREP 2165から選択される、請求項11に記載の組成物
【請求項13】
前記対象がHDV感染に対する以前の処置に応答することができなかったことのある対象である、請求項1から9のいずれか一項に記載の組成物
【請求項14】
前記以前の処置がPEG-IFNαを用いた処置である、請求項13に記載の組成物
【請求項15】
前記以前の処置が抗HDV剤を用いた処置である、請求項13に記載の組成物
【国際調査報告】