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▶ リージェンツ オブ ザ ユニヴァーシティ オブ カリフォルニアの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-13
(54)【発明の名称】共有結合性有機構造体
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/22 20060101AFI20230306BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20230306BHJP
   B01D 53/28 20060101ALI20230306BHJP
   B01D 53/62 20060101ALI20230306BHJP
   B01D 53/82 20060101ALI20230306BHJP
   B01D 53/83 20060101ALI20230306BHJP
   B01D 53/26 20060101ALI20230306BHJP
   C07C 211/43 20060101ALI20230306BHJP
   C07C 47/52 20060101ALI20230306BHJP
   F25B 17/08 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
B01J20/22 A ZAB
B01J20/30
B01D53/28
B01D53/62
B01D53/82
B01D53/83
B01D53/26 200
C07C211/43
C07C47/52
F25B17/08 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022542329
(86)(22)【出願日】2021-01-11
(85)【翻訳文提出日】2022-09-07
(86)【国際出願番号】 US2021013010
(87)【国際公開番号】W WO2021142474
(87)【国際公開日】2021-07-15
(31)【優先権主張番号】62/959,972
(32)【優先日】2020-01-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/023,107
(32)【優先日】2020-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/028,523
(32)【優先日】2020-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.パイレックス
(71)【出願人】
【識別番号】504256408
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニヴァーシティ オブ カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】THE REGENTS OF THE UNIVERSITY OF CALIFORNIA
【住所又は居所原語表記】1111 Franklin Street,12th Floor,Oakland,California 94607 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】ヤギー,オマー エム.
(72)【発明者】
【氏名】グエン,ハ エル.
(72)【発明者】
【氏名】ライル,スティーブン ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ハニケル,ニキータ
(72)【発明者】
【氏名】リュー,ハオ
(72)【発明者】
【氏名】シュー,ウェンタオ
【テーマコード(参考)】
3L093
4D002
4D052
4G066
4H006
【Fターム(参考)】
3L093NN03
4D002AA09
4D002BA04
4D002CA07
4D002CA09
4D002DA70
4D002EA07
4D002EA08
4D002FA01
4D052AA02
4D052CE00
4D052CE02
4D052GB03
4D052HA49
4G066AB05B
4G066AB10B
4G066AB12B
4G066AB13B
4G066AC11B
4G066BA03
4G066BA22
4G066BA26
4G066BA31
4G066BA36
4G066CA35
4G066CA43
4G066DA02
4G066DA03
4G066FA40
4H006AA01
4H006AB90
(57)【要約】
本開示の化学的にも熱的に安定な共有結合性有機構造体(COF)材料は、ガスおよび水を回収するための固体吸着材として構成され、その機能を有するものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性共有結合性有機構造体(COF)を含む組成物であって、該COFが、2次元または3次元(2Dまたは3D)のトポロジー(hcb、sql、kgm、fxt、kgd、もしくはbexの2Dトポロジー、またはdia、ctn、bor、pts、lon、srs、ffc、もしくはrraの3Dトポロジー)を有する、大気中の水分を捕集するためのCOFであり、該COFの結晶構造が、イミン結合、アミド結合、イミド結合、ヒドラゾン結合、アジン結合、イミダゾール結合、ベンゾオキサゾール結合、β-ケトエナミン結合、およびオレフィン結合から選択される結合を含み、該結合が、ジトピックリンカー、トリトピックリンカー、テトラトピックリンカー、ヘキサトピックリンカー、およびオクタトピックリンカーから選択される少なくとも2種の異なるリンカーの組み合わせにより生じる結合である、組成物。
【請求項2】
前記組み合わせが、テトラトピックリンカーとトリトピックリンカーの組み合わせである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記結合が、イミン(-CH=N-)結合である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物が、テトラトピックリンカーである1,1,2,2-テトラキス(4-アミノフェニル)エテン[ETTA、C26H16(NH2)4]とトリトピックリンカーである1,3,5-トリホルミルベンゼン[TFB、C6H3(CHO)3]から構成され、mtfトポロジーを示すCOF-432{[(ETTA)3(TFB)4]イミン}と称されるCOFを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の水分吸着性組成物を含む装置であって、例えば、大気水分捕集装置、ヒートポンプ、除湿器、吸着式冷蔵庫、または太陽熱冷却システムである装置。
【請求項6】
請求項1~4のいずれかに記載の組成物を製造する方法であって、異なるリンカーを縮合させて結晶構造を形成する工程を含む方法。
【請求項7】
請求項1~4のいずれかに記載の組成物を使用する方法であって、該組成物が空気から水分を吸着する条件下で、好ましくは空気中の相対湿度が20~40%である条件下で、該組成物を空気と接触させることを含む方法。
【請求項8】
化学的にも熱的にも安定な共有結合性有機構造体(COF)材料を含む組成物であって、該COF材料が、空気または燃焼後排ガス混合物から二酸化炭素を回収するための固体吸着材として構成され、その機能を有する材料であり、該COF材料が、図28に定義される置換基と、図27および図28で定義される側鎖とを有する図27に定義される有機構造単位が、図30に定義される結合により連結された構造を含み、該COF材料が、図31に示されるようなあらゆるトポロジー(例えば、sql、hcb、hxl、kgm、bex、kgd、tthおよびmtfの層状トポロジー、ならびにdia、lon、pcu、srs、pto、pts、tbo、bor、cntおよびdia-wの3Dトポロジー)を有しうる、組成物。
【請求項9】
吸着床、流動床、吸着材塗布型熱交換器、または膜として構成されるマトリックスに含まれている、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物が、吸着床、流動床、吸着材塗布型熱交換器、または膜として構成されるマトリックスに含まれており、該マトリックスが、その上部、周囲、および/または内部を空気または燃焼後排ガス混合物が通過するように構成された流路に配置されている、請求項8に記載の組成物。
【請求項11】
前記組成物が、水分を含む空気または燃焼後排ガス混合物を含み、前記COF材料が、該空気または該混合物から水分を捕集するように構成され、その機能を有する材料であり、該COF材料により、容易に水分捕集が行えるという第2の有益な機能が提供される、請求項8、9または10に記載の組成物。
【請求項12】
前記COFが、本明細書に開示された構造を有する、請求項8、9、10または11に記載の組成物。
【請求項13】
前記COFが、COF-366-F-Co、COF-316、COF-316-CONH2、COF-316-C(NOH)NH2、およびCOF-701から選択される、請求項8、9、10、11または12に記載の組成物。
【請求項14】
空気または燃焼後排ガス混合物からの二酸化炭素回収用のシステムであって、空気または燃焼後排ガス混合物から二酸化炭素とさらに任意で水とを回収するための固体吸着材として構成される請求項8に記載の組成物を含む吸着床などのマトリックスを含むシステム。
【請求項15】
請求項8、9、10、11、12または13に記載の組成物を、空気または燃焼後排ガス混合物から二酸化炭素とさらに任意で水とを回収するための固体吸着材として使用することを含む方法。
【請求項16】
水に対して安定な荷電性の共有結合性有機構造体(COF)材料を含む組成物であって、該COF材料が、空気または排気などの気体から水分を吸着または捕集するように構成され、その機能を有する材料であり、該COF材料が、細孔を形成するカチオン性またはアニオン性の骨格と、該細孔内に位置する有機対イオンまたは金属対イオンとを含む、組成物。
【請求項17】
荷電性官能基(例えば表1を参照)、対イオン(例えば表2を参照)、有機結合(例えば表3を参照)、および有機リンカー(例えば表4を参照)を含む、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
吸着床、流動床、吸着材塗布型熱交換器、または膜として構成されるマトリックスに含まれている、請求項16または17に記載の組成物。
【請求項19】
前記組成物が、吸着床、流動床、吸着材塗布型熱交換器、または膜として構成されるマトリックスに含まれており、該マトリックスが、その上部、周囲、および/または内部を空気または排気が通過するように構成された流路に配置されている、請求項16、17または18に記載の組成物。
【請求項20】
水分を含む空気または排気を含む、請求項16、17、18または19に記載の組成物。
【請求項21】
前記COFが、特に本明細書に開示された構造を含む、請求項16、17、18、19または20に記載の組成物。
【請求項22】
水分捕集機能が向上したシステム、または空気もしくは排気などの気体からの水分回収用のシステムであって、該システムが、該気体から水分を回収するための固体吸着材として構成された請求項16、17、18、19、20または21に記載の組成物を含み、該組成物が、低中域の相対湿度下における水分吸着容量が多く、水分吸着速度が速いという特性を有する、システム。
【請求項23】
請求項16、17、18、19、20または21に記載の組成物を、空気および排気などの気体から水分を回収するための固体吸着材として使用することを含む方法であって、該組成物が、低中域の相対湿度下における水分吸着容量が多く、水分吸着速度が速いという特性を有する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
序論
共有結合性有機構造体(COF)は、有機構造単位が2次元空間または3次元空間で共有結合により連結されて構成された結晶性の多孔性有機固体材料の一群である。COFは、ガスや水の吸着材として使用することができる。我々は、ガスおよび水を回収するための固体吸着材として構成され、その機能を有する、化学的にも熱的にも安定な共有結合性有機構造体(COF)材料を開示する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0002】
本発明により、ガスおよび水を回収するための固体吸着材として構成され、その機能を有する、化学的にも熱的にも安定な共有結合性有機構造体(COF)材料が提供される。
【0003】
態様1:大気中の水分を捕集するための多孔性共有結合性有機構造体
我々は、大気中の水分を捕集するように構成され、その用途に適した多孔性共有結合性有機構造体の多様な一群を開示する。一例として、その独特な構造により優れた水分吸着性を有する共有結合性有機構造体COF-432を開示する。COF-432は、空隙のある正方格子状のトポロジーを示す、多孔性かつ結晶性を有する2次元イミン結合型COFであり、この高い結晶性は、水の吸着過程でヒステリシス挙動を示さないか、示しても最小限に抑えられていることに反映されている。COF-432は、これまでに報告されている他のCOFとは異なり、低相対湿度域で急勾配の細孔充填過程を有するS字型の水分吸着等温線を示し、ヒステリシス挙動を示さないという、エネルギー効率の高い吸放湿に不可欠な特性を有しており、空気から水分を捕集するために必要な条件を満たしている。さらに、COF-432は、超低温での再生が可能で、加水分解安定性に優れている。これは、水分吸着・脱着サイクルを300回繰り返しても作業能力が維持されることからも実証されている。COF-432の20~40%RHでの水分吸着作業能力は0.23g gCOF -1である。さらに、この構造体は、優れた耐加水分解性を示し(室温の水中で少なくとも20日間)、少なくとも300回連続で水分吸着サイクルを実施した後でも作業能力が低下しない。また、COF-432は等量吸着熱が低い(約48kJ mol-1)ため、低温でエネルギー効率の高い再生が可能である。以上のことから、COF-432は、人々の飲料水や農作物の灌漑用水を供給するための水分吸着用途に最適な材料の一つであると考えられる。さらに、このCOFは、ヒートポンプ、除湿器、吸着式冷蔵庫、および太陽熱冷房システムなどにも使用することができる。
【0004】
一態様において、本発明は、多孔性共有結合性有機構造体(COF)を含む組成物であって、該COFが、2次元または3次元(2Dまたは3D)のトポロジー(hcb、sql、kgm、fxt、kgd、もしくはbexの2Dトポロジー、またはdia、ctn、bor、pts、lon、srs、ffc、もしくはrraの3Dトポロジー)を有する、大気中の水分を捕集するためのCOFであり、該COFの結晶構造が、イミン結合、アミド結合、イミド結合、ヒドラゾン結合、アジン結合、イミダゾール結合、ベンゾオキサゾール結合、β-ケトエナミン結合、およびオレフィン結合から選択される結合を含み、該結合が、ジトピックリンカー、トリトピックリンカー、テトラトピックリンカー、ヘキサトピックリンカー、およびオクタトピックリンカーから選択される少なくとも2種の異なるリンカーの組み合わせにより生じる結合である、組成物を提供する。図5および図6など参照。上記のトポロジー(3文字記号)は、網状化学で明確に定義されている24
【0005】
いくつかの実施形態において、前記組み合わせは、テトラトピックリンカーとトリトピックリンカーの組み合わせであり;前記結合は、イミン(-CH=N-)結合であり;かつ/または前記組成物は、テトラトピックリンカーである1,1,2,2-テトラキス(4-アミノフェニル)エテン[ETTA、C26H16(NH2)4]とトリトピックリンカーである1,3,5-トリホルミルベンゼン[TFB、C6H3(CHO)3]から構成され、mtfトポロジーを示すCOF-432{[(ETTA)3(TFB)4]イミン}と称されるCOFを含む。
【0006】
一態様において、本発明は、開示された水分吸着性組成物を含む装置、例えば、大気水分捕集装置、ヒートポンプ、除湿器、吸着式冷蔵庫、または太陽熱冷却システムを提供する。
【0007】
一態様において、本発明は、異なるリンカーを縮合させて結晶構造を形成する工程を含むことを特徴とする、開示された組成物を提供する。
【0008】
一態様において、本発明は、開示された組成物を、該組成物が空気から水分を吸着する条件下で、好ましくは空気中の相対湿度が20~40%である条件下で、空気と接触させることを含むことを特徴とする、開示された組成物を提供する。
【0009】
態様2:空気および排ガスからCO 2 およびH 2 Oを回収するための堅牢な共有結合性有機構造体
本発明は、化学的にも熱的にも安定な1種以上の共有結合性有機構造体(COF)材料を含む組成物であって、該COF材料が、空気または燃焼後排ガス混合物のような気体から二酸化炭素とさらに任意で水分とを回収するための固体吸着材として構成され、その機能を有する材料である、組成物を提供する。すべての変形例において、骨格となる構造単位の組成、非骨格官能基、結合、トポロジーが、合成プロセスによらず提供される。多くの変形例において、前記COF材料は、燃焼後回収(PCC)または直接空気回収(DAC)、あるいはその両方のプロセスに適したものとして提供されるが、これら2つの特定のプロセスに限定されない。基準(異なる使用状況下における「堅牢性」など)および特性評価方法は、本開示の一部として提供される。いくつかの変形例において、前記COF材料はH2O親和性が高く、前記ガス混合物がH2Oを含む場合(周囲空気など)のCOF材料のCO2回収容量は、増加、不変、わずかに減少のいずれかである。このような変形例においては、前記COF材料は、CO2の回収と同時に水分の捕集を行うことに適している。このアプローチにより、空気および燃焼後排ガス混合物からCO2を回収するためのエネルギー効率とコスト効率の高い解決策となるCOF材料の開発が可能になり、水が極めて不足している状況下でCO2とH2Oを同時に統合的に回収するための解決策も提供される。
【0010】
一態様において、本発明は、化学的にも熱的にも安定な共有結合性有機構造体(COF)材料を含む組成物であって、該COF材料が、空気または燃焼後排ガス混合物から二酸化炭素を回収するための固体吸着材として構成され、その機能を有する材料であり、該COF材料が、図2に定義される置換基と、図1および図2で定義される側鎖とを有する図1に定義される有機構造単位が、図4に定義される結合により連結された構造を含み、該COF材料が、図5に示されるようなあらゆるトポロジー(例えば、sql、hcb、hxl、kgm、bex、kgd、tthおよびmtfの層状トポロジー、ならびにdia、lon、pcu、srs、pto、pts、tbo、bor、cntおよびdia-wの3Dトポロジー)を有しうる、組成物を提供する。
【0011】
ただし、空気または燃焼後排ガス混合物からCO2を回収する条件下で化学的または熱的に安定でないCOFや結合は除外する。したがって、本発明は、(1) 特性評価により化学的にも熱的にも安定であることが確認されていること、ならびに (2) 空気および燃焼後排ガス混合物からCO2を回収するように構成され、その機能を有することを特徴とする、本願請求項で定義された特定の範囲のCOFに限定される。
【0012】
いくつかの実施形態において、前記組成物は、吸着床、流動床、吸着材塗布型熱交換器、または膜として構成されるマトリックスに含まれており、所望により、該マトリックスは、その上部、周囲、および/または内部を空気または燃焼後排ガス混合物が通過するように構成された流路に配置されていてもよく;前記組成物は、水分を含む空気または燃焼後排ガス混合物を含み、前記COF材料は、該空気または該混合物から水分を捕集するように構成され、その機能を有する材料であり、該COF材料により、該ガス混合物中に水分が存在する場合に生じ得る副次的成果として容易に水分捕集が行えるという第2の有益な機能が提供され、COFは、本明細書に開示された構造を有し;かつ/あるいは前記COFは、COF-366-F-Co、COF-316、COF-316-CONH2、COF-316-C(NOH)NH2、およびCOF-701から選択される。
【0013】
一態様において、本発明は、空気または燃焼後排ガス混合物からの二酸化炭素回収用のシステムであって、空気または燃焼後排ガス混合物から二酸化炭素とさらに任意で水とを回収するための固体吸着材として構成される主題の組成物を含む吸着床などのマトリックスを含むシステムを提供する。
【0014】
一態様において、本発明は、主題の組成物を、空気または燃焼後排ガス混合物から二酸化炭素とさらに任意で水とを回収するための固体吸着材として使用することを含む方法を提供する。
【0015】
態様3:荷電性の共有結合性有機構造体による水分捕集機能の向上
本発明は、低中域の相対湿度下におけるCOFの水分吸着容量を増大させると同時に水分吸着速度を増大させるための方法、組成物およびシステムを提供する。電荷中性の骨格を有する従来のCOFとは異なり、開示されたCOFは、カチオン性またはアニオン性の骨格と、該COFの細孔内に位置する対イオンとを含む。この対イオンは、有機イオンであってもよく、金属イオンであってもよい。
【0016】
主題のCOF材料は、空気から水分を捕集するために利用することができる。回収された水は、人々の飲料水や灌漑に利用することができる。さらに、このようなCOF材料は、ヒートポンプ、除湿器、吸着式冷蔵庫、太陽熱冷却システム、乾燥機、有機発光デバイス、二次電池装置など、水分吸着性を利用した他の用途への展開も可能である。
【0017】
一態様において、本発明は、水に対して安定な荷電性の共有結合性有機構造体(COF)材料を含む組成物であって、該COF材料が、空気または排気などの気体から水分を吸着または捕集するように構成され、その機能を有する材料であり、該COF材料が、細孔を形成するカチオン性またはアニオン性の骨格と、該細孔内に位置する有機対イオンまたは金属対イオンとを含む、組成物を提供する。
【0018】
いくつかの実施形態において、前記組成物は、荷電性官能基(本明細書において、例えば表1を参照)、対イオン(本明細書において、例えば表2を参照)、有機結合(本明細書において、例えば表3を参照)、および有機リンカー(本明細書において、例えば表4を参照)を含み;前記組成物は、吸着床、流動床、吸着材塗布型熱交換器、または膜として構成されるマトリックスに含まれており;前記組成物は、吸着床、流動床、吸着材塗布型熱交換器、または膜として構成されるマトリックスに含まれており、該マトリックスは、その上部、周囲、および/または内部を空気または排気が通過するように構成された流路に配置されており;前記組成物は、水分を含む空気または排気を含み;かつ/あるいは前記COFは、特に本明細書に開示された構造を含む。
【0019】
一態様において、本発明は、水分捕集機能が向上したシステム、または空気もしくは排気などの気体からの水分回収用のシステムであって、該システムが、該気体から水分を回収するための固体吸着材として構成された主題の組成物を含み、該組成物が、低中域の相対湿度下における水分吸着容量が多く、水分吸着速度が速いという特性を有する、システムを提供する。
【0020】
一態様において、本発明は、空気および排気などの気体から水分を回収するための固体吸着材としての主題の組成物であって、低中域の相対湿度下における水分吸着容量が多く、水分吸着速度が速いという特性を有する組成物を提供する。
【0021】
本発明は、本明細書に記載された個々の態様および実施形態のあらゆる組み合わせを包含するものであり、それらはすべて本明細書に記載されているものとする。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1a-1b】4-c unimodal (単一の節点) sql型ネットワーク (a) と (3,4,4)-c trinodal (3種類の節点) mtf型ネットワーク (b) を並べて表示したものである。mtf型ネットワークは、概念的にはsql型ネットワークから1/8の節点(橙色)を取り除いたものであり、空隙のあるsql型ネットワークとして認識できる。いずれのネットワークも節点は正方形で描写されている。青色の四角形は、4-cの節点を表し、黄色の四角形は、3-cの節点を表す。
図2a-2c】4-cの節点を表す1,1,2,2-テトラキス(4-アミノフェニル)エテン(ETTA)と3-cの節点を表す1,3,5-トリホルミルベンゼン(TFB)(a) の反応により、COF-432 (c) が得られる。この構造体は、拡張形態 (b) に示すように、(3,4,4)-c mtfトポロジーを示す。原子の色:C、灰色;N、青色;O、赤色。分かりやすくするために水素原子は省略してある。COF-432のねじれ形構造の2層目は薄橙色で描写されている。
図3】COF-432の広角X線散乱(WAXS)パターンとLe Bail解析。観測パターン(黒)、Le Bail法による精密化フィッティング(赤)、差分プロット(緑)、バックグラウンド(青)、およびブラッグ位置(ピンク)を示す。
図4a-4b】(a) 異なる温度(10℃、25℃、および40℃)で測定を行ったCOF-432の水分吸着分析。P:水蒸気圧。Psat:所与の温度における飽和水蒸気圧。(b) 水蒸気圧(1.7kPa)を一定とした条件下でCOF-432に対して吸着・脱着サイクルを300回行った水サイクル安定性試験。吸着は30℃(相対湿度(RH)40%)で行い、脱着は35℃(相対湿度(RH)30%)で行った。
図5】イミン結合、アミド結合、イミド結合、ヒドラゾン結合、アジン結合、イミダゾール結合、ベンゾオキサゾール結合、β-ケトエナミン結合、オレフィン結合など様々な連結型COFの合成戦略および化学構造。
図6】COFの2次元トポロジー構造。
図7】COFの3次元トポロジー構造。
図8】COF-432、TFB、およびETTAのFT-IRスペクトル。それぞれ赤、青、黒で表示されている。
図9】COF-432の13C CP-MAS固体NMRスペクトル。化学構造の原子の横に13C 化学シフト(ppm)の帰属が示されている。
図10a-10b】COF-432の相純度および均一なモルフォロジーを示すSEM画像 (a)。COF-432の結晶サイズは約300nmである (b)。
図11】COF-432の電子密度マップ。ETTAフラグメントに帰属する高電子密度領域を示す。
図12】観測されたCOF-432のWAXSパターンに対するLe Bail法による精密化。観測パターン(黒)および精密化フィッティング(赤)を示す。バックグラウンド(青)、差分プロット(緑)、およびブラッグ位置(ピンク)もあわせて示す。
図13】COF-432のシミュレーションWAXSパターン(橙)と観測されたWAXSパターン(黒)の比較。ブラッグ位置(ピンク色)もあわせて示す。
図14】活性化COF-432サンプル、細孔内にメタノールを含むCOF-432サンプル、および細孔内に水を含むCOF-432サンプルのWASXパターンの比較。
図15】COF-432の拡張mtf型ネットワーク。
図16】77Kにおける活性化COF-432のN2吸着等温線。中塗り丸印と中抜き丸印は、それぞれ吸着曲線と脱着曲線を示す。N2等温線の各点をつないだ線は、目安として引かれた線である。
図17】77Kにおける活性化COF-432のN2吸着等温線。中塗り丸印と中抜き丸印は、それぞれ吸着曲線と脱着曲線を示す。N2等温線の各点をつないだ線は、目安として引かれた線である。
図18】N2-DFTフィッティングによるCOF-432の細孔径測定の結果から、細孔幅は8.0Åであることが示された。
図19】窒素気流下におけるCOF-432の熱重量分析。
図20】COF-432を異なる時間(3日間、6日間、10日間、および20日間)水中に浸漬した後の粉末X線回折(PXRD)分析。
図21】水中に浸漬する前と90時間水中に浸漬した後の活性化COF-432を用いた77KにおけるN2吸着分析。中塗り丸印と中抜き丸印は、それぞれ吸着曲線と脱着曲線を示す。図中の各点をつないだ線は、目安として引かれた線である。
図22】4回連続で行った298KにおけるCOF-432の水分吸着測定。P:水蒸気分圧。Psat:298Kにおける飽和水蒸気圧。
図23】異なる温度(10℃、25℃、および40℃)で測定を行ったCOF-432の水分吸着分析。P:水蒸気分圧。Psat:各温度における飽和水蒸気圧。
図24】異なる温度(10℃、25℃、および40℃)で測定を行ったCOF-432の水分吸着等温線にクラウジウス・クラペイロンの式を適用して算出したCOF-432の等量吸着熱。
図25】水分吸着測定前と水分吸着測定を7回連続行った後の活性化COF-432を用いた77KにおけるN2吸着分析。中塗り丸印と中抜き丸印は、それぞれ吸着曲線と脱着曲線を示す。図中の各点をつないだ線は、目安として引かれた線である。
図26】水蒸気圧(1.7kPa)を一定とした条件下でCOF-432に対して吸着・脱着サイクルを300回行った水サイクル安定性試験。吸着は30℃(相対湿度(RH)40%)で行い、脱着は35℃(相対湿度(RH)30%)で行った。P:水蒸気圧。Psat:所与の温度における飽和水蒸気圧。
図27】有機構造単位の模式図。
図28a-28b】本開示で定義された範囲の有機構造単位を含む有機フラグメントを模式的に示した図。
図29】有機構造単位の構造例。
図30】本開示で定義された範囲のCOFにおける結合を模式的に示した図。
図31】COFトポロジーの例を模式的に示した図。
図32】本開示の実施形態で必要なブレークスルーシステムの例を模式的に示した図。
図33】COF-366-Co-Fの模式図。
図34】COF-366-F-Coの粉末試料のPXRD測定のPawley法によるフィッティング結果と高配向性熱分解グラファイト(HOPG)基板上のCOF-366-F-Co薄膜の微小角入射広角X線散乱(GIWAXS)測定結果。
図35】273K(丸)、283K(三角)および298K(四角)におけるCOF-366-F-CoのCO2吸着等温線。
図36a-36e】(a) COF-316の合成後修飾。(b, d) COF-316-CONH2とCOF-316-C(NOH)NH2のPXRDパターン。結晶性が保持されており、塩基中における長期安定性が示唆される。(c, e) COF-316-CONH2とCOF-316-C(NOH)NH213C CP-MAS固体NMRスペクトル。アスタリスクは、スピニングサイドバンドを示す。
図37】未処理のCOF-316、6M HClで処理したCOF-316、および6M NaOHで処理したCOF-316のPXRDパターン、FT-IRスペクトル、および77KにおけるN2等温線の比較。
図38】273KにおけるCOF-316(JUC-505)のCO2等温線と、CH4等温線およびN2等温線とを比較したもの。
図39】COF-701の模式図。
図40a-40f】ブレンステッド酸 (a)、ブレンステッド塩基 (b)、有機リチウム試薬 (c, d)、およびルイス酸 (e, f) を用いたCOF-701の化学的安定性試験。処理材料のWAXSパターン (a, c, e)(拡大挿入図を含む)とFT-IRスペクトル (b, d、1900-1200cm-1;f、1900-900cm-1) から、COF-701の結晶性と化学組成が保たれていることがわかる。
図41】298Kで測定されたCOF-701のH2O等温線。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下の記載および本明細書全体を通して、別異に解される場合または別段の記載がある場合を除き、「a」および「an」という用語は1以上を意味し、「または」という用語は「および/または」を意味する。本明細書に記載されている実施例および実施形態は、単に本発明を説明するためのものであり、これらの実施例および実施形態に基づいて、様々な変形または変更が可能であることは当業者には明らかであり、またそのような変形または変更は本願の精神および範囲ならびに添付の請求項の範囲に含まれるものである。本明細書に引用されたすべての出版物、特許および特許出願、またこれらに記載の引用文献は、あらゆる目的のために、その全体が参照により本明細書に援用される。
【0024】
態様1:大気中の水分を捕集するための多孔性共有結合性有機構造体
空気から水分を捕集するための新材料の開発は、世界的な水危機に対処するための重要な取り組みの1つである1。このような材料は、理想的には、以下のようなものであることが望ましい。(i) 長期の吸放湿サイクルにおいて、加水分解安定性が高く、吸着容量が保持される。(ii) 低相対湿度域(相対湿度(RH)40%未満)において、急勾配の細孔充填過程を有する「S」字型の水分吸着等温線(IUPAC分類のタイプIVまたはV)を示し、ヒステリシスが全く生じないか、生じても最小限に抑えられている。(iii) 再生温度が低く、低温加熱により材料から水分子を容易に放出することができる2
【0025】
有機金属構造体(MOF)や共有結合性有機構造体(COF)などの網状構造体は、その優れた多孔性、化学組成の多様性や利用可能なトポロジーの多様性から、水不足の危機を対処するのに適した理想的な構造体である。また、これらの構造体の水分吸着性は、様々な方法で調整することができる2,3。実際、MOFは空気から水分を捕集するための材料として同定され、研究され、実用化されている2,4-9。しかし、COFは、この用途において、ほとんど検討されていない10。これは、COF、特に加水分解的に強固な結合で形成されたCOFの結晶性が比較的低いこと11に起因していると思われる。結晶性が低いと、S字型の水分等温プロファイルを得るための重要な前提条件である、多孔性構造内の規則性の高い分子水ネットワークの形成が妨げられる。
【0026】
そこで本研究において、COFを水分捕集用材料として検討することを試みた。具体的には、テトラトピックリンカーである1,1,2,2-テトラキス(4-アミノフェニル)エテン[ETTA、C26H16(NH2)4]とトリトピックリンカーである1,3,5-トリホルミルベンゼン[TFB、C6H3(CHO)3]から構成される新規の高結晶性構造体について報告する。これは、COF-432{[(ETTA)3(TFB)4]イミン}と称されるCOFであり、COF化学においてこれまで報告されていないネットワークであるmtfトポロジーを示す(図111-13。このCOFは、低相対湿度域(<40%RH)でヒステリシス挙動を伴わない急勾配の細孔充填過程を有する水分吸着等温線を示し、極めて高い水分吸着サイクル安定性と低い吸着熱を示す。これらのことから、COF-432は、再生に必要なエネルギーが少なくて済み、低分圧範囲内で比較的高い作業能力を有する、すなわち、小さな温度勾配を利用して吸放湿サイクルを効率的に行うことができる、加水分解的に長期間安定な水分捕集用材料であることがわかる。
【0027】
クロロホルム、メタノール、および酢酸水溶液の混合液中で、溶媒熱合成によりETTAとTFBを縮合させてCOF-432を得た(図2、補足情報(SI)、セクションS2)。COF-432の構造は、粉末X線回折(PXRD)法で決定し、元素分析(EA)、フーリエ変換赤外吸収(FT-IR)分光法、13C交差偏光マジック角回転核磁気共鳴(CP-MAS NMR)分光法、熱重量分析(TGA)、およびN2吸着分析により裏付け確認を行った。COF-432のFT-IR分析結果から、出発物質のETTAとTFBに存在するアルデヒド(νC=O = 1692cm-1)伸縮振動とアミン(νN-H = 3352cm-1)伸縮振動が存在しないことが確認された。また、イミン(νC=N = 1628cm-1)伸縮振動の出現により、拡張されたイミン結合ネットワークが形成されていることが分かった(SI、セクションS3)。イミン結合の形成は、13C CP-MAS NMR分光法によっても確認され、158ppmに特徴的な13Cイミン共鳴が観測された(SI、セクションS4)。
【0028】
COF-432は結晶サイズが小さいため(約100×100×300nm3、SI、セクションS5)、PXRDパターン解析により構造を決定した(SI、セクションS6)。TOPAS 4.2ソフトウェア14を用いてPXRDパターンの指数付けを行い、その結果、空間群I41/a(No.88)が同定された。次に、チャージフリッピング法15によりCOF-432の電子密度マップ(EDM)を計算し、対応する空間群で有効な結果が得られた。そして、EDMで観測されたETTAフラグメントの位置を特定し(SI、セクションS6)、これを拡張ネットワークに連結することによって、COF-432の構造が決定された。この構造では、構造単位であるETTAとTFB(図2a)がイミン結合で連結され、3種類の頂点と2種類の辺を持つmtfトポロジーの拡張2次元フレームワークが形成されている(図1図2b、SI、セクションS7)。興味深いことに、この2次元ネットワークトポロジーは、予想される3次元ネットワーク12や、最近報告された三角形状リンカーと四角形状のテトラトピックリンカーを組み合わせた2次元bexトポロジー16とは異なっており、COF化学で観測されるトポロジーの範囲を広げるものである。COF-432の単位胞パラメータは、広角X線散乱(WAXS)データを用いてLe Bail法により精密化した(I41/a;a = 30.65Å、c = 12.85Å)。残差因子は、Rp = 2.88%およびRwp = 3.96%であった(図3;SI、セクション6)。
【0029】
COF-432の単層(図2c)には、(ファンデルワールス半径に基づく)直径が約10.0Åと約21.0Åの2種類の四角形の細孔が存在する。隣接する2次元の層がねじれて配置されているため、直径約7.5Åの1次元円柱状の細孔構造が形成されている(図2c)。COF-432は永続的多孔性を有し、BET比表面積は895m2 g-1である。この値は、N2をプローブ吸着物質として用い、分子がアクセス可能な面積で近似した構造モデルから算出した理論値(900m2 g-1)に近い値である(動径 = 3.6Å)17。COF-432のN2吸着等温線から求めた細孔容積(0.43cm3 g-1)は、PLATONの空隙率計算機能を用いて構造モデルから予測した細孔容積(0.45cm3 g-1)と良い一致を示した。さらに、COF-432のN2吸着等温線から計算した細孔径分布は、直径8.0Åの単一細孔であり、提案された結晶構造と良い一致を示した(SI、セクションS8)。この構造モデルをさらに検証するために、COF-432の元素分析を行った結果、計算で得られたこの構造体の予想元素比率と良い一致を示した(SI、セクションS2)。
【0030】
COF-432については、まず加水分解安定性を調べるために、活性化したCOF-432を水に浸漬した。浸漬前後のそれぞれのCOF-432のPXRDパターンから、少なくとも20日間、COF-432の結晶性が維持されていることが確認された。さらに、COF-432を長時間水に浸漬しても(撹拌下90時間;SI、セクションS10)、COF-432の表面積は減少しなかった。このイミン系COFの優れた加水分解安定性から、次に、その水分吸着性を検討することにした。
【0031】
COF-432は、34%RHで急勾配の細孔充填過程を有するS字型の水分吸着等温線を示す(25℃;図4a)。最大水分吸着量はP/Psat = 0.95で30wt%(0.3g gCOF -1)に達し、相対湿度20~40%における作業能力は0.23g gCOF -1である。COF-432よりも高い水分吸着容量を示すMOFも報告されているが2、大気中の水分捕集に適した材料群の範囲を拡大することは、この技術にとって非常に有益であると強く信じている。COF-432は他のCOFと異なり、ヒステリシスな水分吸着挙動を示さない。これは、COF-432の再生に必要なエネルギーが抑えられるという点で、魅力的な特性である。水分子とこのCOFの相互作用をさらに調べるために、異なる温度(10℃、25℃、および40℃;図4a)での水分吸着等温線を用いて、COF-432における水分の等量吸着熱(Qst)を算出した。等量吸着熱は、約48kJ mol-1と推定され(SI、セクションS11)、これは、水の蒸発エンタルピー(25℃で44kJ mol-1)に近い値であった。このことは、細孔充填過程では水-水相互作用が支配的であることを示唆している2。実際にCOF-432の細孔表面は大部分が非極性であり、低相対湿度域(<40%RH)における細孔充填過程は、この小さな構造体への強い閉じ込め効果に起因していると考えられる。
【0032】
重要なことに、COF-432は7回連続で水分吸着測定を行った後でも、結晶性、BET比表面積、水蒸気容量はいずれも維持されていた(SI、セクションS12)。文献によれば、有望な水分吸着材として報告されている他のCOFは、水との接触後および/または水分吸着後に表面積が減少していることから、これは素晴らしい特徴であると言える20-23。この結果から、次に、COF-432の長期の水分吸着・脱着サイクル試験を行うことにした。熱重量測定装置において、COF-432を定圧(1.7kPa)下で水蒸気と接触させ、30~35℃(それぞれ40~30%RHに相当)の範囲で温度を変化させて水分を吸着・脱着させた。急勾配の細孔充填過程により、温度勾配が非常に小さい(5℃)条件下で、0.23g gCOF -1という高い作業能力を達成することができた。合計300回の吸放湿サイクルを行ったが、その間、作業能力に変化はなかったことから(図4b)、多孔性が保持されており、水サイクル安定性が優れていることが示唆された。
【0033】
我々は、以下のような魅力的な水分吸着性を示す、COF-432などの新規COFを合成した。(i) 吸放湿サイクルにおいて優れた長期安定性を示す。(ii) 低相対湿度域で急勾配の吸着過程を有する、ヒステリシスのない水分吸着等温線を示す。(iii) 吸着熱が低く、低温エネルギー源による再生が可能である。このようなCOFは、空気からの水分捕集に適した材料、およびヒートポンプシステムや乾燥剤を用いる除湿器での使用に適した材料である。
【0034】
参考文献
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【0035】
分析手法
元素マイクロ分析(EA)は、LECO CHNS-932 CHNS元素分析装置を用いて行った(セクションS2)。フーリエ変換赤外吸収(FT-IR)スペクトルは、1回反射ダイヤモンドATRモジュール付属のBruker ALPHA Platinum ATR-FT-IR分光計を用いて収集した(セクションS3)。固体核磁気共鳴(NMR)スペクトルは、7.05T磁石とTecmag Discovery分光計を用いて、1Hは300.13MHzで、13Cは75.48MHzで収集した(セクションS4)。走査電子顕微鏡(SEM)画像は、FEI Quanta 3D FEG走査電子顕微鏡を用いて、加速電圧10kV、作動距離10.0mmで記録した(セクションS5)。粉末X線回折(PXRD)データは、Bruker D8 Advance回折計(Bragg-Brentano型)を用いて、Niフィルターを通したCuKα線(λ = 1.54059Å)を照射することにより収集した(セクションS6)。広角X線散乱(WAXS)パターンは、放射光施設Advanced Light Source(ALS)のビームライン7.3.3とPilatus 2M検出器を用いて取得した(セクションS6)。N2吸着測定は、Micromeritics 3Flex表面特性評価装置(セクションS8)およびASAP 2420システム(セクション10)を用いて行った。77Kでの測定には液体窒素バスを使用した。熱重量分析(TGA)曲線は、TA Q500熱分析システムを用いて、乾燥窒素気流下で記録した(セクションS9)。
【0036】
水分吸着等温線は、BEL Japan BELSORP-aqua3を用いて測定した(セクション11)。吸着実験を行う前に、凍結/ポンプ/融解サイクルを5回繰り返して水(分析対象物)の脱気を行った。測定温度は、水循環装置を用いて制御した。水分吸着・脱着サイクル安定性(セクション12)は、TA Instruments SDT Q600シリーズ熱重量分析装置(TGA)を用いて調べた。第1のガス導入口は、乾燥窒素タンクに接続されている。第2のガス導入口は、加湿窒素の供給用である。加湿窒素は、水を満たしたガス洗浄瓶(2L)に乾燥窒素ガスを通過させて生成した。温度と相対湿度(RH)は、TGAチャンバー下流にある高精度熱電対と湿度センサーを用いてモニターした。目的のRHは、乾燥窒素ガス流量と加湿窒素ガス流量の合計流量を250mL min-1に保ちながら、両者の比率を調整することで得られた。
【0037】
1,1,2,2-テトラキス(4-アミノフェニル)エテン(ETTA)の合成
1,1,2,2-テトラキス(4-アミノフェニル)エテン(ETTA)を既報の方法に従って合成した1
【0038】
COF-432の合成と活性化
10×8mm(o.d×i.d)のパイレックスチューブに、ETTA(12mg、0.031mmol)、トリメチルベンゼン(TFB)(7.3mg、0.046mmol)、およびクロロホルム/メタノールの混合液(0.6mL:0.4mL)を入れた。この溶液を5分間超音波処理した後、酢酸水溶液(0.2mL、6M)を加えた。このチューブを液体窒素下、77Kで瞬間凍結し、内圧が100mTorrになるまで減圧した後、炎で炙って密封処理を行い、約15cmの長さにした。反応液を120℃で3日間加熱し、黄色固体のCOF-432を得た。この固体をろ過により単離し、メタノールで5回洗浄し、ソックスレー抽出器を用いてクロロホルムへの溶媒交換を24時間かけて行った。得られたCOF-432を、室温で3時間、その後、85℃で12時間、動的真空下で活性化させた。COF-432の元素分析:C114H72N12・6H2Oとしての計算値:C 79.70%;H 4.93%;N 9.78%。分析値:C 78.35%;H 4.94%;N 10.01%。
【0039】
粉末X線回折(PXRD)データの収集
PXRD測定は、LynxEye検出器を備えたBruker D8 Advance回折計を用いて、Bragg-Brentano型の対称反射法により、Niフィルターを通したCuKαフォーカス線源(1.54059Å、1.54439Å)を出力1600W(40kV、40mA)で照射して行った。回折角(2θ)3~50°の範囲において、ステップ幅0.02°のステップスキャンにより、1ステップあたり10秒の照射時間でサンプリングを行うことで最良の計数統計が得られた。この測定は室温、大気圧下で行った。
【0040】
COF-432の構造解析
単位胞の決定
単位胞パラメータは、TOPAS 4.2.2を用いてPXRDパターンを指数付けすることにより決定した。COF-432は、空間群I41/a(No.88)の体心正方格子であることが分かった。2θ = 5~50°のデータを用いて、パターン全体のプロファイルフィッティングと積分強度の抽出を行った。20変数のチェビシェフ多項式関数を用いて、バックグラウンド補正を行った。
【0041】
電子密度の計算
Superflip3を用いて、チャージフリッピング法によりCOF-432の電子密度マップを計算した。まず、PXRDパターンの指数付けを行った。その結果、正方晶系格子と同定され、次に、Pawley法によるフィッティングにより精密化した。Superflipにパラメータを入力し、P1空間群における電子密度マップを計算した。成功率70%で、I41/a空間群を提案する収束結果が得られた。
【0042】
構造モデル
COF-432の構造モデルは、Materials Studio(Materials Studio ver.7.0、Accelrys Software Inc.)に含まれるMaterials Visualizerモジュールを用いて、以下のようにして作成した。まず、ETTAリンカーを電子密度マップで示された位置に配置した。次に、ETTAリンカーをTFB構造単位と連結した。I41/aの対称性のために、ETTAの1つは不規則に配列していた。構造モデルを完成させた後、Materials StudioのForciteモジュールに組み込まれたuniversal force fieldを用いてエネルギー最小化計算を行った。この過程で、単位胞パラメータも適切に収束するまで最適化された(エネルギーの収束基準は10-4kcal mol-1に設定した)。
【0043】
構造モデルの精密化
観測されたWAXSパターンに対して、2θ = 2~45°でLe Bail法によるパターン全体のプロファイルフィッティングを行った。計算されたPXRDパターンは、低い残差値(Rwp = 3.96%、Rp = 2.88%)で収束したフィッティング結果から明らかなように、観測されたPXRDパターンと良い一致を示し、最終的な単位胞パラメータ(a = 30.65Å、c = 12.85Å)が得られた。
【0044】
COF-432の部分原子座標と精密化された単位胞パラメータを表S1に示す。また、結晶学的な情報を表S2に示した。
【0045】
【0046】
【0047】
ゲスト分子のPXRDパターンに与える影響の検討
COF-432をメタノールと水にそれぞれ2日間浸漬した。この湿った状態のサンプルを用いて、WAXSパターンを収集した。
【0048】
トポロジー解析
COF-432のトポロジーをToposProソフトウェアにより決定した4。TFBは3-cの節点として、ETTAは4-cの節点として解釈され、これらが連結されて2次元(2D)mtf型ネットワークが形成される。このネットワークは、3種類の頂点と2種類の辺を持ち、頂点同士が連結して4員環と8員環を形成している。
【0049】
N 2 吸着分析
77KにおけるN2吸着分析により、活性化COF-432が永続的多孔性を有することが示された。
【0050】
熱重量分析(TGA)
COF-432の熱安定性を熱重量分析により調べた。COF-432(4mg)を窒素気流下(60mL min-1)で、30℃から800℃まで5℃ min-1の温度勾配をかけて加熱した。
【0051】
加水分解安定性試験
活性化COF-432を室温で水に浸漬した。様々な時間間隔で(3日後、6日後、10日後、および20日後)PXRD分析を行った。それぞれのPXRDパターンを比較した結果、COF-432は少なくとも20日間、水中で結晶性を維持することがわかった。
【0052】
参考文献
(1) Lu, J.; Zhang, J. Facile synthesis of azo-linked porous organic frameworks via reductive homocoupling for selective CO2 capture. J. Mater. Chem. A, 2014, 2, 13831-13834
(2) Bruker AXS GmbH, TOPAS Manual: DOC-M88-EXX065 V4.2 - 01.2009.
(3) Palatinus, L.; Chapuis, G. SUPERFLIP-A Computer program for the solution of crystal structures by charge flipping in arbitrary dimensions. J. Appl. Crystallogr. 2007, 40, 786-790.
(4) Blatov, V. A.; Shevchenko, A. P.; Proserpio, D. M. Applied topological analysis of crystal structures with the program package ToposPro. Cryst. Growth Des. 2014, 14, 3576-3586.
【0053】
態様2:空気および排ガスからCO 2 およびH 2 Oを回収するための堅牢な共有結合性有機構造体
膨大な量の二酸化炭素(CO2)の人為的な排出は、地球規模の気候危機を高める要因となっている。エネルギーの生成、生産、輸送などの重要な産業活動は、今後も長期にわたって化石燃料に依存し続けることが予想されるため、排出されたCO2を人的努力で回収すること(一般に炭素回収と言われている)で問題を軽減することが急務となっている。CO2混合物の供給源により、炭素回収のプロセスは、(a) 化石燃料燃焼点源からの燃焼後回収(PCC)と、(b) 大気からの直接空気回収(DAC)の2つに大別される。
【0054】
いずれの場合も、(a) ガス混合物からCO2を選択的に回収すること、(b) 吸着容量を最大化し、エネルギー損失を最小化することで、効率的に回収すること、(c) 回収用材料の長期安定性を実現することが大きな課題となっている。以下のような組成と構造を備えたCOFは、固体吸着材として上記の課題を解決する最も有望な候補の一つであると期待される: (a) 有機化学による官能基化により実現した化学吸着と物理吸着によりCO2に対する親和性と選択性が高い。(b) 比表面積が非常に大きく、概して密度が低いため、吸着重量が大きい。(c) 熱容量が低いことからエネルギー消費量が低く、連通空隙構造により物質移動が容易である。(d) 材料の骨格に存在する強固で不活性な共有結合により、水や不純物に対して安定である。このような特性を同時に実現することは、他の種類の材料ではほぼ不可能である。
【0055】
態様2の特定の実施形態の説明
本発明は、空気および燃焼後排ガス混合物から二酸化炭素を回収するための固体吸着材として、化学的にも熱的にも安定な共有結合性有機構造体(COF)材料を用いて、CO2回収性能を獲得および調整するための一般化された実行可能な方法を提供する。このような吸着材の物理的・化学的特性により、水蒸気や気体状不純物の有無にかかわらず、高容量、低エネルギー損失、および長期サイクル性を達成することが可能である。供給されるガス混合物中に水分が存在する態様において、この吸着材は、CO2回収プロセスと並行して該ガス混合物から水分を捕集することができるため、このシステムにより、容易に水分捕集が行えるという第2の有益な機能が提供される。
【0056】
堅牢な共有結合性有機構造体は、直接空気回収や燃焼後回収などの炭素回収プロセスや、それ以外にも天然ガスからのCO2分離などにおいて、有効かつ効率的な固体吸着材として有用である。共有結合性有機構造体のプロトタイプは、以下の文献に記載されている。
(1) Zhang, B.; Wei, M.; Mao, H.; Pei, X.; Alshmimri, S. A.; Reimer, J. A.; Yaghi, O. M. Crystalline Dioxin-Linked Covalent Organic Frameworks from Irreversible Reactions. J. Am. Chem. Soc., 2018, 140, 12715-12719;および
(2) Lyu, H.; Diercks, C. S.; Zhu, C.; Yaghi, O. M. Porous Crystalline Olefin-Linked Covalent Organic Frameworks. J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 6848-6852
【0057】
特定の共有結合性有機構造体
共有結合性有機構造体は、有機構造単位が結合により連結されて拡張された2次元または3次元の構造体である。変更可能な構造単位と結合部を組み合わせて無限に拡張された構造は、トポロジーによって数学的に定義される。
【0058】
有機構造単位は、図1の拡張点の数による分類で定義されているが、これに限定されるものではない。定義された範囲において、分類されたそれぞれの有機構造単位は、有機フラグメントRmとm個の拡張点LmまたはLbで構成されている。Rmの上付き文字mは、フラグメントRmがm個の拡張点を持っていることを表している。
【0059】
拡張点は、拡張点に隣接する2つの原子間の共有結合として定義される。多くの変形例において、このような原子は、有機構造単位に1つ、結合部に1つ存在する。別のいくつかの変形例において、フラグメント(R2)には原子が含まれず、2つの原子はいずれも結合部に由来する原子である。別のいくつかの変形例において、結合部には原子が含まれず、2つの原子はいずれも有機構造単位に由来する原子である。拡張点は、単座で連結する(1つの拡張点が1つの共有結合を介して1つの結合部に連結、Lmと表示)か、二座で連結する(2つの拡張点がペアになって2つの共有結合を介して1つの結合部に連結、それぞれLbと表示)かのいずれかである。
【0060】
本発明は、図2のRm基の反復置換として定義されるすべての可能なフラグメントも包含する。
【0061】
各例において、フラグメントRmの式中に存在する任意のRnが、上記で定義したRnのフラグメントのいずれかに置換される。このプロセスは、構造式にRmが存在しなくなるまで繰り返される。いくつかの変形例において、閉環の場合は空R、結合部が直接連結されている場合は空R2など、特別な反復が行われる。いくつかの変形例において、対イオンは、表示の明瞭化のために省略しているが、共有結合性有機構造体材料の一部とみなす。いくつかの変形例において、前記フラグメント中に金属化合物が存在し、金属イオン、金属錯体(一部の配位子は金属にのみ配位結合している)、および金属クラスターはまとめてMと表示する。
【0062】
好適な有機構造単位のいくつかの例を図3に示す。
【0063】
前記結合部は、例えば、図4に規定されたものとして定義されるが、これらに限定されない。
【0064】
トポロジーとは、1次元空間、2次元空間、または3次元空間に無限に拡張された構造を、有機構成単位間の共有結合と結合部により形成される連通空隙構造(open framework)として数学的に記載したものである。構造トポロジーの定義および説明の完全な一覧は、RCSR(Reticular Chemistry Structure Resource)データベースで提供されており、トポロジーはネットワーク記号で表される。図5は、COFのトポロジーの一般的な例、すなわちsql、hcb、hxl、kgm、kgd、bex、tth、mtf、srs、dia、lon、bor、ctn、pts、tbo、pto、pcu、およびdia-wを模式的に表したものである。ここでの定義におけるCOFのトポロジーは、図5に示した範囲に限定されるものではない。
【0065】
いくつかの変形例において、前記COFは、フレームワークが多重に存在し、同じ連結性を持つフレームワーク同士が鎖状に連なるか、交錯している相互貫入構造を含む。いくつかの変形例において、前記COFは、フレームワークが多重に相互貫入した構造を有しているが、すべてのフレームワークが同じ連結性を有していないこともある。
【0066】
いくつかの変形例において、前記COFは、単純なネットワークから派生した形態のトポロジーを有する結晶を形成する。この場合、トポロジーの等価な節点に、同じ連結性を有する2つ(またはそれ以上)のリンカーが交互に現れるバイナリ構造(またはトリナリ構造など)をとることがある。いくつかの変形例において、トポロジーの節点は、絡み合った糸状構造に置換され、構造単位が閉環構造(インターロッキング構造)または無限糸状構造(ウィービング構造)を形成していることがある。
【0067】
いくつかの変形例において、前記COFは、トポロジーの等価な節点または辺に、1種類の構造単位または結合部のみを含む。別の変形例において、前記COFは、同じバルク材料のトポロジーの等価な節点または辺に、複数種の構造単位または結合部を含むが、明確な周期性を有していない。このようなCOFは、同じトポロジーとして記載されるが、多成分COFと称される。
【0068】
つまり、本明細書で用いるCOFは、上記の構造単位の範囲内で構成され、上記の共有結合を介して連結され、上記のトポロジーの連結性で拡張された多孔性結晶性材料である。さらなる基準を以下の項で説明する。この基準は、本開示で使用されるCOFの請求範囲を規定するものである。
【0069】
本開示で定義された炭素回収用COFの特性評価
すべての変形例において、定義された組成物の結晶性を確認するために、すなわち周期構造を確認するために、粉末X線回折(PXRD)法、単結晶X線回折(SXRD)法、広角X線散乱(WAXS)法、小角X線散乱(SAXS)法、中性子散乱法、電子回折(ED)法、高分解能透過電子顕微鏡法(HRTEM)、走査透過電子顕微鏡法(STEM)、高分解能走査電子顕微鏡法(HRSEM)、およびこれらの変法、例えば、微小角入射広角X線散乱(GIWAXS)法などの手法のうちの1つまたは2つ以上の組み合わせが用いられる。すべての変形例において、繰り返し単位のブラッグ回折や長期の連続画像の観測を行い、これらが提案されたCOFの構造モデルと一致することを確認する必要がある。
【0070】
すべての変形例において、COFの化学組成を確認するために、フーリエ変換赤外吸収(FT-IR)分光法、ラマン分光法、UV/Vis分光法、フォトルミネセンス分光法、円二色性分光法(CD)、および固体核磁気共鳴(NMR)法などの手法のうちの1つまたは2つ以上の組み合わせが用いられる。このような分光シグナルは、化学元素、原子、基、または構造的特徴の存在を示唆するものである。いくつかの変形例において、前記COFの同位体濃縮されたサンプルを上記の特性評価に使用した場合、当該COFサンプルは、対応する同位体効果を示す。
【0071】
すべての変形例において、COF材料の永続的多孔性および内部へのアクセス性を確認するために、気体(N2、O2、Ar、CO2、H2O、および他の溶媒蒸気など)吸着実験および液相ゲスト吸着実験などの手法のうちの1つまたは2つ以上の組み合わせが用いられる。等量吸着熱(Qst)は、異なる温度で実施した対象となる気体の等温吸着測定の結果を数学的にフィッティングすることにより得られる。
【0072】
CO2回収用COFの特定の実施形態において、使用時の温度とCO2分圧におけるCO2の吸着量は、所望の回収容量を実現するのに十分な量である必要がある。また、並行して水分捕集を行う変形例において、使用時の温度と湿度におけるH2Oの吸着量は、所望の容量を実現するのに十分な量である必要がある。
【0073】
CO2回収用COFの特定の実施形態において、水分捕集の有無にかかわらず、固体吸着材として長期間使用するためには、熱的安定性と化学的安定性が求められる。
【0074】
このようなすべての変形例において、使用条件の温度範囲におけるCOFの挙動を調べるために、熱重量分析(TGA)、TGA-GC、TGA-RGA、およびTGA-MSならびに他のin-situ測定などの手法のうちの1つまたは2つ以上の組み合わせが用いられる。プロセスの前後に化学分解、化合物の放出(例えば、細孔からのゲスト放出など)、または結晶性もしくは多孔性の損失がないことを確認するために、NMR、FT-IR、GC、GC-MS、XRD、および吸着実験などの手法のうちの1つまたは2つ以上の組み合わせが用いられる。
【0075】
このようなすべての変形例において、調製条件および使用条件の範囲におけるCOFの化学的安定性を調べるために、調製条件、保管条件、輸送条件および作業条件において、気体、液体、溶液または固体の形態で使用される化学物質(CO2、O2、H2O、SO2、SO3、NO、NO2、塩基、酸、酸化剤、還元剤など)にCOFを短期間および長期間接触させる。プロセスの前後に化学分解、化合物の放出(例えば、細孔からのゲスト放出など)、または結晶性もしくは多孔性の損失がないことを確認するために、NMR、FT-IR、GC、GC-MS、XRD、および吸着実験などの手法のうちの1つまたは2つ以上の組み合わせが用いられる。多くの変形例において、H2Oを含むガス混合物からCO2およびH2Oを回収するためのCOFは、CO2とH2Oに対して安定性を有する必要がある。調製、保管、輸送、および回収のプロセスでH2Oが存在しない別の変形例においては、H2Oに対する安定性を必ずしも確認する必要はない。
【0076】
特定の実施形態において、動的回収容量は、ブレークスルーシステムによって評価される。このシステムで最低限必要なものとして、動的回収のすべての段階における、使用するガスの組成(CO2、H2O、O2など)、ガスの流量、動的圧力、および温度を、適用の規模に適した精度と反応時間でシミュレーションすることが挙げられる。当該システムに、プロセスに関わるガス(CO2、H2O、O2など)を追跡するためのガス分析システムが、適用の規模に適した精度と反応時間で作動するよう装備されている必要がある。一例を図6のスキームに示す。COFを活性吸着材として膜に使用するいくつかの変形例において、膜式交換器がブレークスルーシステムの吸着床の代わりに使用されるか、別の連続フローシミュレーションシステムによる試験で使用される。
【0077】
炭素回収プロセスにおけるCOFの利用
燃焼後回収(PCC)
特定の実施形態において、COFは、天然ガスまたは石炭の燃焼後の排ガスからCO2を回収する際の固体吸着材として用いられる。多くの変形例において、供給される排ガス中のCO2濃度は4%~16%であり、供給される排ガスの温度は40℃未満である。
【0078】
いくつかの変形例において、COFは、純粋な形で、他の材料と均質に混合された状態で、または粉体の形状因子である他の材料に支持された状態で用いられる。いくつかの変形例において、COFは、純粋な形で、他の材料と均質に混合された状態で、または成形体の形状因子である他の材料に支持された状態で用いられる。この場合、粉体または成形体は、吸着床、流動床、吸着材塗布型熱交換器、または膜などに用いられる。
【0079】
この場合、COFからのCO2分離は、加熱、圧力変化、ガス掃気、もしくは洗浄などにより、またはこれらの一部もしくはすべての組み合わせにより行われる。
【0080】
この場合、以下のような特性を有するCOFが用いられる。
【0081】
吸着条件および再生条件に応じた化学吸着(該当する場合)と物理吸着の組み合わせにより、CO2に対して特異的に高い作業能力を有する。
【0082】
化学吸着に関しては、-NH2、-NHRなどの反応性官能基を有する。
【0083】
物理吸着に関しては、表面積が大きく、-OH、-Fなどの極性官能基を有する。
【0084】
このようなCOFの動的容量測定としての、ブレークスルー実験は、ガス混合物を4%~16%で供給しながら、対応する湿度および温度で行われる。
【0085】
H2Oの存在下でも十分な作業能力を保持できる十分なCO2親和性を有する。
【0086】
堅牢性:化学組成、結晶性、吸着容量、および多孔性の保持など、吸着条件および再生条件におけるH2O、O2、CO2、および不純物に対する化学的安定性。使用温度範囲における熱的安定性。
【0087】
永続的多孔性を有する連通空隙構造であり、効率的な物質移動が可能である。
【0088】
再生に加熱を用いるいくつかの変形例において、熱容量が小さい。
【0089】
COFが成形体であるか、他の材料で支持された状態であるいくつかの変形例において、強固な結合により機械的安定性が得られる。
【0090】
いくつかの変形例において、COFは、純粋な形で、他の材料と均質に混合された状態で、または膜の形状因子である他の材料に支持された状態で用いられる。この場合、粉体または成形体は、膜ろ過、膜式交換器、またはカートリッジ式交換器などに用いられる。
【0091】
分離条件下における化学吸着(該当する場合)と物理吸着の両方により、膜への溶解性を向上させる、CO2に対する高い選択的親和性を有する。
【0092】
化学吸着に関しては、COFの一部として、-NH2、-NHRなどの反応性官能基が含まれる。
【0093】
物理吸着に関しては、COFの一部として、-OH、-Fなどの極性官能基が含まれる。
【0094】
このようなCOFの動的容量測定としての、ブレークスルー実験または膜の連続試験は、ガス混合物を4%~16%で供給しながら、対応する湿度および温度で行われる。
【0095】
H2Oの存在下でも十分な作業能力を保持できる十分なCO2親和性を有する。
【0096】
堅牢性:化学組成、結晶性、吸着容量、および多孔性の保持など、吸着条件および再生条件におけるH2O、O2、CO2、および不純物に対する化学的安定性。使用温度範囲における熱的安定性。
【0097】
COFが膜を形成する他の材料で支持された状態であるいくつかの変形例において、支持体との強固な結合により機械的安定性が得られる。
【0098】
再生に加熱を用いるいくつかの変形例において、熱容量が小さい。
【0099】
直接空気回収(DAC)
特定の実施形態において、COFは、周囲空気からCO2を直接回収する際の固体吸着材として用いられる。多くの変形例において、供給される排ガス中のCO2濃度は、大気圧濃度(1気圧で約400ppm。いくつかの変形例において、圧縮空気を使用する場合は、CO2濃度>400ppm)であるか、圧縮によってもしくは閉鎖された非環境条件のチャンバーにおいては大気圧濃度よりわずかに高い濃度であり、供給されるガスの温度は、環境温度である。
【0100】
いくつかの変形例において、COFは、純粋な形で、他の材料と均質に混合された状態で、または粉体の形状因子である他の材料に支持された状態で用いられる。いくつかの変形例において、COFは、純粋な形で、他の材料と均質に混合された状態で、または成形体の形状因子である他の材料に支持された状態で用いられる。この場合、粉体または成形体は、充填床、カートリッジ式交換器、または流動床などに用いられる。
【0101】
この場合、COFからのCO2分離は、加熱、圧力変化、ガス掃気、もしくは洗浄などにより、またはこれらの一部もしくはすべての組み合わせにより行われる。
【0102】
この場合、以下のような特性を有するCOFが用いられる。
【0103】
吸着条件および再生条件に応じた化学吸着により、CO2に対して特異的に高い作業能力を有する。
【0104】
化学吸着に関しては、-NH2、-NHRなどの反応性官能基の重量密度または体積密度が高い。
【0105】
物理吸着に関しては、CO2親和性が高くなるように、表面積が大きく、-OH、-Fなどの極性官能基を有する。
【0106】
このようなCOFの動的容量測定としての、ブレークスルー実験は、ガス混合物を約400ppmで供給しながら、対応する湿度および温度で行われる。
【0107】
H2Oの存在下でも十分な作業能力を保持できる十分なCO2親和性を有する。
【0108】
堅牢性:化学組成、結晶性、吸着容量、多孔性の保持など、吸着条件および再生条件におけるH2O、O2、CO2、および不純物に対する化学的安定性。使用温度範囲における熱的安定性。
【0109】
永続的多孔性を有する連通空隙構造であり、効率的な物質移動が可能である。
【0110】
再生に加熱を用いるいくつかの変形例において、熱容量が小さい。
【0111】
COFが成形体であるか、他の材料で支持された状態であるいくつかの変形例において、強固な結合により機械的安定性が得られる。
【0112】
並行して行う水分捕集
いくつかの変形例において、COF吸着材は、PCCまたはDACと同時にCO2とH2Oの両方に対して高い吸着量を示す。そのため、CO2とH2Oは、同じ工程で分離してもよく、条件の異なる別々の工程で分離してもよい。また、このようなCOF吸着材を使用した際には、さらに容易な精製工程を経ることで、空気または排ガスからのCO2回収の副産物として高純度の水を製造することができる。この場合、以下のような特性を有するCOFが用いられる。
【0113】
吸着条件および再生条件に応じた物理吸着により、H2Oに対して特異的に高い作業能力を有する。
【0114】
このようなCOFの動的容量測定としての、ブレークスルー実験は、ガス混合物を供給しながら、所望の湿度および温度で行われる。
【0115】
CO2の存在下でも十分な作業能力を保持できる十分なH2O親和性を有する。
【0116】
堅牢性:化学組成、結晶性、吸着容量、および多孔性の保持など、吸着条件および再生条件におけるH2O、O2、CO2、および不純物に対する化学的安定性。使用温度範囲における熱的安定性。
【0117】
永続的多孔性を有する連通空隙構造であり、効率的な物質移動が可能である。
【0118】
再生に加熱を用いるいくつかの変形例において、熱容量が小さい。
【0119】
COFが成形体であるか、他の材料で支持された状態であるいくつかの変形例において、強固な結合により機械的安定性が得られる。
【実施例
【0120】
COF-366-F-Co
本開示におけるCOFの定義を説明するためのCOF材料の例として、また、COF材料のCO2回収能力を示すための例として、COF-366-F-Coを掲示する。COFは、テトラトピック構造単位である5,10,15,20-テトラフェニルポルフィナト]コバルト (II) とジトピック構造である1,2,4,5-テトラフルオロベンゼンがイミン(-CH=N-)結合で連結されて構成された構造体である。COF-366-F-Coは、2次元のsqlトポロジーを持つ拡張構造体である。この構造体の結晶性は、COF-366-F-CoのPXRDと高配向性熱分解グラファイト(HOPG)基板上のCOF-366-F-Co薄膜のGIWAXSにより確認されている(図8)。
【0121】
COF-366-F-Coの永続的多孔性は77KにおけるN2等温実験によって確認されており、この実験結果から、BET表面積は1901m2/gであることがわかった。273K、283K、および298KにおけるCO2吸着等温線を測定し(図9)、その結果から、Qstは24.2kJ/molであることがわかった。298Kにおけるこの材料のCO2吸着では、物理吸着挙動が観測された。吸着容量は、15%CO2、298Kで約5cm3/gであり、約400ppm、298Kでは極めて微量であった。この材料は、他の方法(電気化学反応)を用いない限りDACには適さず、PCCにおける実用性はやや低い。
【0122】
COF-316、COF-316-CONH 2 およびCOF-316-C(NOH)NH 2
COF-316、COF-316-CONH2、およびCOF-316-C(NOH)NH2を、官能基の異なる様々なCOFを得るためのアプローチとして合成後修飾を行った例として、また、安定性とCO2回収能力を他のガスと比較検証した例として紹介する。COF-316(別名JUC-505)は、トリトピック構造単位であるトリフェニレン(二座拡張点6個)とジトピック構造単位である1,4-ジシアノベンゼン(二座連結点4個)がダイオキシン結合で連結された構造体である。COF-316をNaOHで処理することによりCOF-316-CONH2が合成され、COF-316をNH2OHで処理することによりCOF-316-C(NOH)NH2が合成される。これらのCOFの結晶性と化学的同一性は、PXRDと固体NMRによって確認されている(図10)。
【0123】
COF-316の無機酸および無機塩基の存在下における化学的安定性は、それぞれCOF-316を6M HCl水溶液および6M NaOH水溶液と接触させることにより調べた。PXRD、FT-IR、および77KにおけるN2等温線を処理の前後で比較した(図11)。その結果、COF-316は6M HClと6M NaOHの水溶液と接触した後も結晶性と多孔性はほぼ維持されることが確認された。6M NaOH処理後の生成物のFT-IRからは、COF-316が化学的に不安定であることが示された。これは、COF-316-CONH2の合成時と同様に、化学的同一性が変化したことを示唆している。
【0124】
COF-316(JUC-505)について、273Kにおいて0~1barの範囲でCO2等温線、CH4等温線、およびN2等温線を測定した(図12)。COF-316(JUC-505)は273KでCO2に対して物理吸着挙動を示し、0.05barより高いCO2濃度では、同じ分圧(および補完的な分圧)のCH4とN2よりも吸着量が有意に多かった。この測定結果から、COF-316(JUC-505)は273KにおいてCO2/N2およびCO2/CH4の乾燥した2成分混合物からCO2を分離することが可能であることが示された。ただし、298K以上や湿度の高い条件下でのPCCやDACでの実用性を示唆するものではない。
【0125】
COF-701
COF-701を、化学的に安定な結合を有し、環境温度での水分捕集性能を有する構造体の例として提示する。COF-701は、トリトピック構造単位である1,3,5-トリアジンとジトピック構造単位であるビフェニルが無置換オレフィン(-CH=CH-)で連結された構造体である。COF-701は、ブレンステッド酸、ブレンステッド塩基、有機リチウム試薬、またはルイス酸を溶解した水溶液または有機溶液との接触前後で測定したWAXSおよびFT-IRにより、各試薬に対して結晶性と化学組成を保持することが示された(図14)。
【0126】
COF-701の水蒸気等温線測定を298Kで行った(図15)。その結果、COF-701は、50%より高い相対湿度(RH)では、RHの値に依存して水分を吸着することがわかった。70%RHでは、COF-701は400cm3/g(29.4wt%)の水蒸気を吸着し、100%RH(一部の石炭や天然ガスの排ガスに存在する)では、560cm3/g(41.2wt%)の水蒸気を吸着した。この結果から、298Kの湿性空気または湿性排ガスなどの高湿な気体混合物からH2Oを回収する材料として有望であることが示唆される。
【0127】
参考文献
Diercks, C. S.; Lin, S.; Kornienko, N.; Kapustin, E. A.; Nichols, E. M.; Zhu, C.; Zhao, Y.; Chang, C. J.; Yaghi, O. M. Reticular Electronic Tuning of Porphyrin Active Sites in Covalent Organic Frameworks for Electrocatalytic Carbon Dioxide Reduction. J. Am. Chem. Soc. 2018, 140, 1116-1122.
Zhang, B.; Wei, M.; Mao, H.; Pei, X.; Alshmimri, S. A.; Reimer, J. A.; Yaghi, O. M. Crystalline Dioxin-Linked Covalent Organic Frameworks from Irreversible Reactions. J. Am. Chem. Soc. 2018, 140, 12715-12719.
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Lyu, H.; Diercks, C. S.; Zhu, C.; Yaghi, O. M. Porous Crystalline Olefin-Linked Covalent Organic Frameworks. J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 6848-6852.
【0128】
態様3:荷電性の共有結合性有機構造体による水分捕集機能の向上
共有結合性有機構造体(COF)は、強固な共有結合で連結された結晶性多孔性材料である。COFは、水分捕集用の水分吸着材として使用することができる。COFは細孔径が大きいため、その水分吸着重量は理論的には大きいと考えられる。しかし、COFの細孔内が疎水性環境であるため、大気中の水分を捕集するための基本的な要件である、低中域の相対湿度下における当該細孔内での水のクラスター形成が妨げられるという問題があった。
【0129】
特定の実施形態の説明
主題のCOFは軽原子のみで構成されており、低RH域において、これまで報告された中で最も大きい水分吸着重量を示す。現在、大気中の水分を捕集するために利用されているMOF吸着材と異なり、COFは、合成時に(重)金属を使用しない。(重)金属を使用しないことで、それに関わる追加コストを回避することができるだけでなく、一部の金属カチオンに関連する毒性の可能性も回避することができる。
【0130】
細孔の全体的な親水性を高める試みとして、COFの骨格への極性官能基の導入が行われている。しかし、細孔径の大きいCOFにおいて、極性官能基の付加による十分な親水性は得られていない。水分吸着量が多いことが予想される細孔径の大きいCOFは、特に関心の高い材料である。本発明では、荷電性構造体を用いることで、細孔における強力かつ広範囲な分極により、水と荷電性構造体の相互作用を大幅に増加させるとともに、結果として、吸着性能も向上させることに成功した。
【0131】
これまでの研究では、多孔性の中性マトリックス材料(シリカゲルなど)に塩が組み込まれた材料が報告されている。しかし、このような材料は、マトリックスからの塩の漏出や、細孔内での塩の凝集という問題があった。本発明では、クーロン相互作用により対イオンを骨格に固定化する。これにより、塩の潮解や溶液のキャリーオーバーを避けることができる。開示されたCOF材料においては、電荷間の平均距離が、イオンが密に充填されている従来の乾燥剤よりも格段に大きくなっている。このようにカチオン間の距離が大きいと、水がクラスターを形成する空間が広がり、イオンが結晶化して水和塩になるのを防ぐことができるため、水の吸着・脱離の速度が効果的に上昇する。
【0132】
好ましい荷電性構造体の説明
以下、このような荷電性構造体を生成するための様々な戦略について説明する。COFへの荷電基の導入は、合成時、または合成後修飾により行うことができる。一般に、荷電性骨格と対イオンにより、水分子に強固な水素結合とイオン双極子相互作用が付与されることで、COFの親水性が高まり、水分吸着能力が向上する。付与された親水性と、概して細孔径が大きいという特性から、COFは低中域のRHでの水分吸着に適しており、同時に水分吸着速度の点でも優れた性能を発揮する。
【0133】
COFの合成時に荷電基を導入した例を以下に示す。
【化1】
【0134】
COFの合成後修飾による荷電基の導入例を以下に示す。
【化2】
【0135】
【化3】
【0136】
主題の共有結合性有機構造体は、表1に示すような荷電性官能基を含み、このような荷電性官能基が骨格に付加されている。
【化4】
【0137】
主題の共有結合性有機構造体は、表2に示すような対イオンを含む。
【0138】
無機対イオンの例を以下に示す。
【化5】
【0139】
有機対イオンの例を以下に示す。
【化6】
【0140】
主題の共有結合性有機構造体は、表3に示すような有機結合を含む。
【化7】
【0141】
主題の共有結合性有機構造体は、表4に示すような有機リンカーを含む。
【化8】
図1a-1b】
図2a-2c】
図3
図4a-4b】
図5
図6
図7
図8
図9
図10a-10b】
図11
図12
図13
図14
図15
図16
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図18
図19
図20
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図26
図27
図28a
図28b
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36a-36e】
図37
図38
図39
図40a-40d】
図40e-40f】
図41
【国際調査報告】