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  • 特表-グラフェンを含むポリマー組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-13
(54)【発明の名称】グラフェンを含むポリマー組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 87/00 20060101AFI20230306BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
C08L87/00
C08K3/04
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022543031
(86)(22)【出願日】2020-01-14
(85)【翻訳文提出日】2022-08-12
(86)【国際出願番号】 CN2020072005
(87)【国際公開番号】W WO2021142616
(87)【国際公開日】2021-07-22
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518347543
【氏名又は名称】エボニック スペシャルティ ケミカルズ (シャンハイ) カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Evonik Specialty Chemicals (Shanghai) Co., Ltd.
【住所又は居所原語表記】No. 68 Lianhe Road, Chemical Industry Park, Shanghai 201507, China
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】チュンユエ ワン
(72)【発明者】
【氏名】ジュエン グオ
(72)【発明者】
【氏名】シャオジュエ チェン
(72)【発明者】
【氏名】ウアス ヴェルツ-ビアマン
(72)【発明者】
【氏名】ヂション ワン
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CE001
4J002DA016
4J002GC00
4J002GJ02
(57)【要約】
ポリマー組成物であって、該ポリマー組成物の総重量に対して、a)5~12個の炭素原子を有する少なくとも1つのシクロアルケンから誘導されたポリアルケナマーであって、該ポリアルケナマーの重量に対して50重量%を上回るトランス異性体含有率を有するポリアルケナマー40重量%~99重量%と、b)グラフェン1重量%~60重量%とを含むポリマー組成物が提供される。該ポリマー組成物から成形品を製造することができ、該成形品は、板、フィルム、ブリッスル、または発泡体であってよい。衣料品要素、スポーツ用品要素、シール材、導電性物品、摩擦制御要素、輸送要素、または構造要素としての成形品の使用も提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー組成物であって、前記ポリマー組成物の総重量に対して、
a)5~12個の炭素原子を有する少なくとも1つのシクロアルケンから誘導されたポリアルケナマーであって、前記ポリアルケナマーの重量に対して50重量%を上回るトランス異性体含有率を有するポリアルケナマー40重量%~99重量%と、
b)グラフェン1重量%~60重量%と
を含む、ポリマー組成物。
【請求項2】
前記グラフェンは、剥離グラフェン、熱還元型酸化グラフェン、官能化酸化グラフェン、機械化学的に製造されたグラフェン、またはそれらの混合物から選択される、請求項1記載のポリマー組成物。
【請求項3】
前記ポリアルケナマーは、ポリオクテナマーを含む、請求項1または2記載のポリマー組成物。
【請求項4】
前記ポリアルケナマーは、5℃より高い、好ましくは15℃より高い、より好ましくは30℃より高い融点を有する、請求項1から3までのいずれか1項記載のポリマー組成物。
【請求項5】
前記ポリマー組成物は、10Ωcm未満、好ましくは10Ωcm未満、より好ましくは100Ωcm未満の体積抵抗率を有する、請求項1から4までのいずれか1項記載のポリマー組成物。
【請求項6】
前記ポリマー組成物は、好ましくは、光安定剤、熱安定剤、難燃剤、可塑剤、充填剤、ナノ粒子、帯電防止剤、染料、顔料、離型剤、流動助剤、またはそれらの任意の混合物から選択される少なくとも1つの添加剤をさらに含む、請求項1から5までのいずれか1項記載のポリマー組成物。
【請求項7】
前記グラフェンは、前記ポリマー組成物の総重量に対して、4重量%~50重量%、好ましくは9重量%~45重量%、より好ましくは19重量%~40重量%の含有率を有する、請求項1から6までのいずれか1項記載のポリマー組成物。
【請求項8】
前記グラフェンは、造粒物、フレーク、粉末、膜、シート、ナノリボン、繊維、またはそれらの混合物の形態である、請求項1から7までのいずれか1項記載のポリマー組成物。
【請求項9】
前記グラフェンは、0.01g/cm~0.10g/cm、好ましくは0.01g/cm~0.08g/cm、より好ましくは0.01g/cm~0.05g/cmの範囲内の嵩密度を有する、請求項1から8までのいずれか1項記載のポリマー組成物。
【請求項10】
前記ポリアルケナマーは、10%より大きい、好ましくは20%より大きい、より好ましくは25%より大きい結晶化度を有する、請求項1から9までのいずれか1項記載のポリマー組成物。
【請求項11】
請求項1から10までのいずれか1項記載のポリマー組成物から製造された成形品。
【請求項12】
前記成形品は、板、フィルム、ブリッスル、または発泡体である、請求項11記載の成形品。
【請求項13】
前記成形品は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、天然ゴム、ポリブタジエン、スチレン・ブタジエンゴム、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン、エチレン・プロピレン・ジエンモノマーゴム、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリオキシメチレン、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸、ポリカーボネート、エチレン酢酸ビニル、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリアミド、ポリエーテルブロックアミド、ポリイミド、ポリオキシメチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリウレタン、およびポリウレアから選択される少なくとも1つを含むポリマーマトリックスから製造される、請求項11または12記載の成形品。
【請求項14】
前記成形品は、フィラメント溶融積層、光造形、バインダー噴射、材料噴射、粉末床溶融、カレンダー処理、圧縮成形、発泡、押出成形、共押出成形、ブロー成形、3Dブロー成形、共押出ブロー成形、共押出3Dブロー成形、共押出サクションブロー成形、または射出成形により製造される、請求項11から13までのいずれか1項記載の成形品。
【請求項15】
衣料品要素、スポーツ用品要素、シール材、導電性物品、摩擦制御要素、輸送要素、または構造要素としての、請求項11から14までのいずれか1項記載の成形品の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、グラフェンを含むポリマー組成物、その製造方法およびその使用に関する。
【0002】
背景
グラフェンは、炭素原子がハニカム状の構造を形成する炭素の2次元同素体である。これは、高い弾性率、優れた電気伝導性および熱伝導性など、傑出した特性を有する。グラフェンは、ポリマーの汎用的な充填剤や修飾剤として提案されている。
【0003】
グラフェンは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなど、様々なポリマーへのコンパウンディングが可能であることがわかっている。しかし、グラフェン、特にグラフェンナノシートは凝集しやすいため、高い導電性と高い機械的強度といった異なる特性を同時に有するポリマーが必要とされる幾つかの用途では、ポリマーにおけるグラフェンの分散性がボトルネックとなっている。
【0004】
韓国公開特許第2012091709号公報には、修飾酸化グラフェンとノルボルネンポリマーとを共有結合させて形成したポリノルボルネン/酸化グラフェン複合材料が示されている。修飾酸化グラフェンは、一端に酸化グラフェンの表面に存在するエポキシ基と反応可能なアミン基を有し、他端にノルボルネンポリマーの無水物基と反応可能な官能基を有する化合物で酸化グラフェンの表面を修飾することにより得られるものである。ポリノルボルネンは、触媒を用いた開環反応によって製造される。
【0005】
Felix Kirschvinkは、標題“Semikristalline Blockcopolymere, Graphen- und Gibbsit Nanokomposite durch Kettenuebertragung bei der ringoeffnenden Metathesepolymerisation von cis-Cycloocten”(http://d-nb.info/1125905557/34, KATALOG DER DEUTSCHEN NATIONALBIBLIOTHEKより入手可能)なる博士論文において、シス-シクロオクテンのイン・サイチュ開環メタセシス重合を用いた連鎖移動によるポリマー・グラフェンナノコンポジットの合成を教示している。シス-シクロオクテンのイン・サイチュ重合により、熱還元型酸化グラファイト、ウンデカン酸官能化熱還元型酸化グラファイト、または粉砕グラファイトを含む異なるナノコンポジットが得られている。この合成では、触媒として遷移金属化合物が使用され、溶媒としてトルエンが使用されている。グラフェンを充填剤として含むか、または含まないポリオクテナマーは融点が0℃未満であることが報告されており、これはシス異性体が優勢であることを示している。さらに、コンポジット中の充填剤の重量百分率は非常に低いものであった。充填剤の含有率は、熱還元型酸化グラファイトについては7重量%未満であり、ウンデカン酸修飾熱還元型酸化グラファイトについては9重量%未満であり、粉砕グラファイトについてはわずか5重量%であった。
【0006】
また、グラフェンや剥離グラファイトを溶媒によりポリマーに分散させることも、当技術分野では知られている。このアプローチは、グラフェンおよびポリマーを溶媒に溶解させ、次いで溶媒を除去する際に資源および/またはエネルギーを消費するため、工業的な応用には適さない。
【0007】
グラフェンは、様々なポリマー用途で有望な修飾剤として認められているため、様々なポリマーマトリックスに容易に分散可能なグラフェンを高濃度で有するポリマー組成物を製造することが望まれている。しかし、粉末状のグラフェンは非常に飛散性が高いため、ポリマーへの添加は依然として技術的な課題となっている。
【0008】
概要
このため、本開示の課題は、グラフェンを高濃度で含むポリマー組成物を提供することであった。
【0009】
この課題は、ポリマー組成物であって、該ポリマー組成物の総重量に対して、a)5~12個の炭素原子を有する少なくとも1つのシクロアルケンから誘導されたポリアルケナマー40重量%~99重量%と、b)グラフェン1重量%~60重量%とを含み、前記ポリアルケナマーが、該ポリアルケナマーの重量に対して50重量%を上回るトランス異性体含有率を有するポリマー組成物により解決された。
【0010】
好ましい一実施形態において、グラフェンは、剥離グラフェン、熱還元型酸化グラフェン、官能化酸化グラフェン、機械化学的に製造されたグラフェン、またはそれらの混合物から選択される。
【0011】
好ましい一実施形態において、ポリアルケナマーは、ポリオクテナマーを含む。
【0012】
好ましい一実施形態において、ポリアルケナマーは、5℃より高い、好ましくは15℃より高い、より好ましくは30℃より高い融点を有する。
【0013】
好ましい一実施形態において、ポリマー組成物は、10Ωcm未満、好ましくは10Ωcm未満、より好ましくは100Ωcm未満の体積抵抗率を有する。
【0014】
好ましい一実施形態において、ポリマー組成物は、好ましくは、光安定剤、熱安定剤、難燃剤、可塑剤、充填剤、ナノ粒子、帯電防止剤、染料、顔料、離型剤、流動助剤、またはそれらの任意の混合物から選択される少なくとも1つの添加剤をさらに含む。
【0015】
好ましい一実施形態において、グラフェンは、ポリマー組成物の総重量に対して、4重量%~50重量%、好ましくは9重量%~45重量%、より好ましくは19重量%~40重量%の含有率を有する。
【0016】
好ましい一実施形態において、グラフェンは、造粒物、フレーク、粉末、膜、シート、ナノリボン、繊維、またはそれらの混合物の形態である。
【0017】
好ましい一実施形態において、グラフェンは、0.01g/cm~0.10g/cm、好ましくは0.01g/cm~0.08g/cm、より好ましくは0.01g/cm~0.05g/cmの範囲内の嵩密度を有する。
【0018】
好ましい一実施形態において、ポリアルケナマーは、10%より大きい、好ましくは20%より大きい、より好ましくは25%より大きい結晶化度を有する。
【0019】
本開示は、ポリマー組成物から製造された成形品をさらに提供する。
【0020】
好ましい一実施形態において、成形品は、好ましくは、成形体、フィルム、ブリッスル、または発泡体である。
【0021】
好ましい一実施形態において、成形品は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、天然ゴム、ポリブタジエン、スチレン・ブタジエンゴム、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン、エチレン・プロピレン・ジエンモノマーゴム、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリオキシメチレン、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸、ポリカーボネート、エチレン酢酸ビニル、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリアミド、ポリエーテルブロックアミド、ポリイミド、ポリオキシメチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリウレタン、およびポリウレアから選択される少なくとも1つを含むポリマーマトリックスから製造される。
【0022】
好ましい一実施形態において、成形品は、フィラメント溶融積層(fused filament fabrication)、光造形、バインダー噴射、材料噴射、粉末床溶融、カレンダー処理、圧縮成形、発泡、押出成形、共押出成形、ブロー成形、3Dブロー成形、共押出ブロー成形、共押出3Dブロー成形、共押出サクションブロー成形、または射出成形により製造される。
【0023】
好ましい一実施形態において、本開示は、衣料品要素、スポーツ用品要素、シール材、導電性物品、摩擦制御要素、輸送要素、または構造要素としての成形品の使用をさらに提供する。
【0024】
本明細書を通じて、添付の図面が参照される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】上から下にそれぞれ、44.87重量%のグラフェンを含有する組成物、29.31重量%のグラフェンを含有する組成物、19.53重量%のグラフェンを含有する組成物、9.90重量%のグラフェンを含有する組成物、および4.98重量%のグラフェンを含有する組成物の5つの熱重量曲線を示す図である。
【0026】
詳細な説明
以下の説明は、単に説明のために用いられるものであり、本開示の範囲を限定するものではない。
【0027】
「ポリマー」なる用語は、オリゴマー、ホモポリマー、コポリマー、ターポリマーなどを指すが、これらに限定されるものではない。ポリマーは、規則的、不規則的、交互、周期的、ランダム、ブロック、グラフト、線状、分岐、アイソタクチック、シンジオタクチック、アタクチックなどを含むが、これらに限定されない様々な構造を有し得る。
【0028】
「グラフェン」なる用語は、元のものであれ、化学的に官能化されたものであれ(例えば、酸化グラフェン、グラフェン酸化物)、単層または数層のグラファイトを指し、これには、機械的方法、ソルボサーマル法、超音波法、または熱還元的方法によって剥離されたグラファイト、化学蒸着もしくは熱分解によって製造された単層もしくは数層のsp炭素、または基材上に成長させたものが含まれるが、これらに限定されない。
【0029】
[グラフェン]
本明細書で使用されるグラフェンは、好ましくは、剥離グラフェン、熱還元型酸化グラフェン、官能化酸化グラフェン、機械化学的に製造されたグラフェン、またはそれらの混合物から選択される。より好ましくは、グラフェンは、剥離グラフェン、熱還元型酸化グラフェン、官能化グラフェン、またはそれらの混合物である。様々な官能化グラフェンの中でも、ハロゲン原子またはアミノ基、アミド基、メルカプト基、カルボキシル基、カルボキシルエステル基、カルボニル基、エポキシ基、またはヒドロキシ基を有するグラフェンがポリマー組成物において好ましく使用される。これらの官能基は、例えば、ハロゲン化、酸化、アミノ置換、メルカプト置換、エステル化、エステル交換、還元、水素化、またはそれらの組み合わせによってグラフェンに導入されることが好ましい。
【0030】
本開示で使用されるグラフェンは、80重量%より大きい、好ましくは90重量%より大きい、なお好ましくは95重量%より大きい炭素含有率を有する。
【0031】
本開示によるグラフェンは、単層または数層グラフェンである。数層グラフェンの中でも、2~10層の共平面状炭素-炭素ネットワークを有するものが好ましく用いられる。グラフェンは、10nm未満、好ましくは5nm未満、より好ましくは3nm未満の厚さを有する。
【0032】
本明細書で用いられるグラフェンは、好ましくは0.01g/cm~0.10g/cm、より好ましくは0.01g/cm~0.08g/cm、さらにより好ましくは0.01g/cm~0.05g/cmの範囲内の嵩密度を有する。
【0033】
グラフェンは、好ましくは、造粒物、フレーク、粉末、膜、シート、ナノリボン、繊維、またはそれらの混合物の形態である。
【0034】
グラフェンは、例えば、「グラフェン」、「酸化グラフェン」、「グラフェン酸化物」、「単層グラフェン膜」、「グラフェンナノプレートレット」などの様々な商品名で様々な業者から商業的に購入することができる。
【0035】
[ポリアルケナマー]
本開示によるポリアルケナマーは、触媒の存在下で1つ以上のシクロアルケンを開環重合することによって製造される。好ましくは、ポリアルケナマーは、二重結合の配置がトランス位であるトランス異性体含有率を含む。トランス異性体含有率は、ポリアルケナマーの重量に対して50重量%より大きく、好ましくは60重量%より大きく、より好ましくは70重量%より大きい。
【0036】
ポリアルケナマーの例としては、ポリペンテナマー、ポリヘプテナマー、ポリノルボルネン、ポリオクテナマー、ポリデセナマー、ポリジシクロペンタジエン、およびポリドデセナマーが挙げられる。また、それらのポリアルケナマーは、例えば、Evonik Resource Efficiency GmbHよりVestenamer(登録商標)6213およびVestenamer(登録商標)8012の商品名で、またはAstrotech Advanced Elastomerproducts GmbHよりNorsorex(登録商標)の商品名で市販されている。好ましい種は、Evonik Resource Efficiency GmbH製のVestenamer(登録商標)8012の商品名のポリオクテナマーである。
【0037】
好ましくは、本開示によれば、ポリアルケナマーは、5℃より高い、好ましくは15℃より高い、より好ましくは30℃より高い融点を有する。
【0038】
ポリアルケナマーは、10%より大きい、好ましくは20%より大きい、より好ましくは25%より大きい結晶化度を有する。
【0039】
本明細書において、トランス異性体含有率とは、ポリアルケナマーの全重量に対するトランス異性体の重量パーセンテージを意味する。一般に、ポリアルケナマーにおけるトランス異性体含有率は、ポリアルケナマーの結晶化度に影響する。トランス異性体含有率が高いほど結晶化度が高くなり、その結果、得られる融解温度も高くなる。
【0040】
好ましくは、ポリアルケナマーは、100,000より大きい、より好ましくは120,000より大きい、なおより好ましくは140,000より大きい数平均分子量を有する。数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーなどの各種方法を用いて測定することができる。
【0041】
[ポリマー組成物]
本開示によるポリマー組成物は、その総重量に対して、1重量%~60重量%、好ましくは4重量%~50重量%、より好ましくは9重量%~45重量%、なおより好ましくは19重量%~40重量%のグラフェンを含む。これに対応して、ポリマー組成物は、総重量に対して、40重量%~99重量%、好ましくは50重量%~96重量%、より好ましくは55重量%~91重量%、なおより好ましくは60重量%~81重量%のポリアルケナマーを含む。グラフェンが高濃度であることは、必要な保管用スペースが少なくなり、またグラフェンマスターバッチを使用して対象のポリマーを修飾する際にポリアルケナマーの導入量が著しく減少することを意味する。
【0042】
本開示によるポリマー組成物は、様々な方法により実現可能である。二本ロールミル、混練機、または二軸押出機を使用することができる。しかし、当業者によれば、ポリマーまたはゴムをコンパウンディングするための他の公知の技術またはプロセスが意図される。
【0043】
特定の一実施形態においては、グラフェンとポリアルケナマーとのコンパウンディングに二本ロールミルを使用した。二本ロールミルを30℃~50℃の温度範囲に予熱した。次いで、このミルに、ペレットの形態で予め計算された量のポリアルケナマーを加えて、シートに成形した。このミルにグラフェン粉末をバッチ式で加え、約40℃~70℃に昇温させた。黒色のシートが得られ、次にそれをペレタイザーに供給して、グラフェンを含むペレットを生成した。
【0044】
本開示によれば、ポリマー組成物は、10Ωcm未満、好ましくは10Ωcm未満、より好ましくは100Ωcm未満の体積抵抗率を有する。抵抗率が低いことにより、導電性ポリマー系の分野における広範な応用が有望となった。
【0045】
本開示によるポリマー組成物は、構成要素として、a)およびb)による成分に加えて、好ましくは、光安定剤、熱安定剤、難燃剤、可塑剤、充填剤、ナノ粒子、帯電防止剤、染料、顔料、離型剤、または流動助剤から選択されるさらなる添加剤を、ポリマー組成物の総重量に対して10重量%以下、好ましくは5重量%以下の総量で含むことができる。
【0046】
好ましくは、本開示によるポリマー組成物は、上記で規定した構成要素からなる。
【0047】
[マスターバッチ]
本開示によるポリマー組成物は、ポリマーマトリックスにグラフェンを導入するためのグラフェンマスターバッチとして機能し得る。マスターバッチとは、熱処理中にキャリア樹脂に封入される添加剤または修飾剤の濃縮混合物であり、このキャリア樹脂は、次いで冷却され、粒状に切断されるか、またはペレット化される。マスターバッチにより、加工業者は製造プロセス時に原料ポリマーを経済的に修飾することができる。グラフェンは通常、粉末、フレーク、プレートレット、ナノリボン、またはその他の低密度の形態をとるため、グラフェンマスターバッチを用いることで、グラフェンの保管に必要なスペースの縮小、コンパウンディング工程の簡略化および迅速化、ならびに/または最終混合物の均質化の促進などの多くの利点がもたらされる。
【0048】
グラフェンの存在が求められるポリマー組成物では、マスターバッチをポリマーマトリックスに添加してコンパウンディングすることで、グラフェンの均質かつ簡便な分散を実現することが可能である。ポリマーマトリックスは、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、天然ゴム(NB)、ポリブタジエン(ブタジエンゴム、BR)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)、エチレン・プロピレン・ジエンモノマーゴム(EPDM)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリケトン、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリ乳酸(PLA)、ポリカーボネート(PC)、エチレン酢酸ビニル(EVA)、ポリ(メタクリル酸メチル)(PMMA)、ポリアミド(PA)、ポリエーテルブロックアミド(PEBA)、ポリイミド(PI)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリウレタン(PU)、ポリウレアなどの1つ以上のポリマーで形成されていてよい。グラフェンマスターバッチは、電気伝導性、熱伝導性、および機械的強度において優れた性能をポリマーマトリックスに導入することができる。ポリアルケナマーの低融点と多数のポリマーへの高分散性とによって、グラフェンをポリマー混合物中に均一に分散させることができ、凝集を制御して低減させることができる。
【0049】
ポリアルケナマーの多数のポリマーへの良好な分散性に加えて、マスターバッチは、ポリアルケナマーの弾性およびレジリエンスを、マスターバッチが添加されるポリマーマトリックスにもたらすことができる。場合によっては、ポリアルケナマーは、グラフェンがポリマーマトリックスの伸び、弾性、レジリエンス、またはその他の機械的特性に与える悪影響を低減する。ポリアルケナマーは加工助剤または可塑剤としても機能するため、マスターバッチの添加により、最終組成物の加工性を向上させることができる。
【0050】
本開示のポリマー組成物、具体的にはグラフェンマスターバッチペレットの形態のポリマー組成物は、様々な方法、例えば、ドライブレンド、バンバリー型混合、共回転二軸押出成形、または他の任意の適切な方法により上記ポリマーとコンパウンディングすることができる。コンパウンディングプロセス中に、ミキサー、押出機、またはブレンダーのような装置を使用することができる。コンパウンディングの間、グラフェンマスターバッチペレットを、バッチ式で添加してもよいし、一度に添加してもよい。最終的に、グラフェンを含む成形用組成物が得られる。
【0051】
コンパウンディングは、インターナルミキサー、ハイシアミキサー、ダイナミックインラインミキサー、ホモジナイザー、インテンシブインラインミキサー、二本ロールミキシングミル、ホモミキサー、ボールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミル、混合用ノズル、またはメルトブレンダーなどのプラスチックまたはゴム加工用の分散装置を用いて実現することができる。
【0052】
コンパウンディング後、成形用組成物は、板、フィルム、ブリッスル、発泡体、または他の任意の形状もしくは形態などの成形品の製造に使用することができる。
【0053】
好ましくは、成形品は、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、天然ゴム(NB)、ポリブタジエン(ブタジエンゴム、BR)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)、エチレン・プロピレン・ジエンモノマーゴム(EPDM)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリケトン、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリ乳酸(PLA)、ポリカーボネート(PC)、エチレン酢酸ビニル(EVA)、ポリ(メタクリル酸メチル)(PMMA)、ポリアミド(PA)、ポリエーテルブロックアミド(PEBA)、ポリイミド(PI)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリウレタン(PU)、ポリウレアから選択される少なくとも1つを含むポリマーマトリックスから製造される。グラフェンマスターバッチは、修飾剤または添加剤として、上記のポリマーに添加することができる。
【0054】
製造は、フィラメント溶融積層、光造形、バインダー噴射、材料噴射、粉末床溶融、カレンダー処理、圧縮成形、発泡、押出成形、共押出成形、ブロー成形、3Dブロー成形、共押出ブロー成形、共押出3Dブロー成形、共押出サクションブロー成形、または射出成形などの1つ以上の方法により実現することができる。
【0055】
成形品は、衣料品要素(布地、靴底など)、スポーツ用品要素(身体保護具、ヘルメット、スキーまたはスノーボード用のトップシート、サッカーまたはバスケットボールなどの空気入りボール、ゴルフボール)、シール材(Oリング、支持リング、リップシールなど)、導電性物品(ワイヤ、導電膜、導電板など)、摩擦制御要素(グライドリング、ブッシング、ベアリング、摩耗部材)、輸送要素(タイヤ、ベルト、ロープ、ガスケット、ABSエアバッグ、シートマット)、または構造要素(フレーム、ロッド、ブロック、フォームなど)として使用することが可能である。
【0056】
本開示は、以下に本発明による例および比較例によって説明される。
【0057】
[実施例]
Vestenamer(登録商標)8012およびKNG(登録商標)-G2グラフェンから、ポリオクテナマー中のグラフェン濃度が異なる5つの試料を製造した。これら5つの試料について、体積抵抗率試験および熱重量分析(TGA)を行った。各試料のグラフェン含有率は、残留重量を測定することによりTGAに従って求められる。
【0058】
Evonik Resource Efficiency GmbHより入手可能なVestenamer(登録商標)8012は、トランス異性体を主成分とし、大環状ポリマーを高い割合で含む半結晶性ポリオクテナマーである。
【0059】
KNG(登録商標)-G2は、Xiamen Knano Graphene Technology Corporation Limited製のグラフェン製品であり、大半が単層シート、少数が高アスペクト比の数層グラフェンからなる。製造方法は剥離に基づくものであり、酸化・還元処理を行わないため、グラフェンの面状ハニカム構造が十分に保たれ、良好な導電性および安定性が得られる。嵩密度は約0.01~0.02g/cmである。平均炭素含有率は約98重量%である。
【0060】
グラフェンを含むポリアミド12組成物およびゴム組成物の試料を、それらの比較試料とともに製造した。すべての試料について、機械的特性および電気的特性の試験を行った。
【0061】
Vestamid(登録商標)L1600は、Evonik Resource Efficiency GmbH製の低粘度のポリアミド12である。
【0062】
Buna(登録商標)VSL 4526-2は、Arlanxeo Deutschland GmbH製の高性能タイヤ用溶液型スチレン・ブタジエンゴム(S-SBR)である。
【0063】
Taipol(登録商標)BR 0150は、Taiwan Synthetic Rubber Corporation製のチーグラーコバルト系触媒を用いた溶液重合により得られた1,3-ポリブタジエンゴムである。96%がシス配置であり、非汚染性安定剤を含有する。
【0064】
Ultrasil(登録商標)7000 GRは、Evonik Resource Efficiency GmbH製のゴム産業において補強充填剤として使用される沈降シリカである。
【0065】
Irganox(登録商標)1098は、BASF SE製のベンゼンプロパンアミド、N,N’-1,6-ヘキサンジイルビス[3,5-ビス-4-ヒドロキシ]の商品名であり、主にポリマー、特にポリアミドの安定化に使用される。
【0066】
グラフェンを含むポリアミドコンポジット造粒物の製造
1.グラフェンマスターバッチとPA12とのコンパウンディング:
市販のポリアミド12、29.31重量%のグラフェンマスターバッチ、および熱安定剤をドライブレンドし、Coperion社製共回転二軸押出機ZSK26mcのメインポートに供給し、次いで250℃で混合した。この混合物をペレタイザーに送ってペレット化した後、ポリアミドコンポジット造粒物を得た。
【0067】
2.グラフェン粉末とPA12とのコンパウンディング:
グラフェン粉末は飛散性が非常に高く、押出機に直接供給することができなかった。まず、10部(重量ベース)のグラフェン粉末を90部のポリアミド粉末とドライブレンドした。次いで、この混合物を、サイドフィーダーを通じて押出機に供給した。他の造粒物および熱安定剤をドライブレンドし、押出機のメインポートに供給し、250℃で溶融させた。この混合物をペレット化した後、ポリアミドコンポジット造粒物を得た。
【0068】
グラフェンを含むゴムコンポジット造粒物の製造
工程1.グラフェンマスターバッチおよびゴムのコンパウンディング
第1段階
市販のゴムBUNA(登録商標)VSL 4526-2、Taipol(登録商標)BR 0150、19.53重量%のグラフェンマスターバッチ、ULTRASIL(登録商標)7000 GRシリカ、酸化防止剤、およびその他の助剤をドライブレンドし、W & P Model GK 1.5N Internal Rotor Mixer(バンバリー型ミキサー)に供給し、次いで150℃~160℃で混合した。ロータ速度は80rpmであった。第1段階は、12時間~48時間であった。
【0069】
第1段階終了後、ミキサーにより黒色のゴムシートが排出された。次いで、このゴムシートを第2段階で使用した。
【0070】
第2段階
第1段階で製造したゴムシートおよび加硫添加剤を、第1段階と同じミキサーで混合した。回転数を95rpmまで上げ、温度はほぼ同じままとした。第2段階は、2時間~48時間であった。
【0071】
第3段階
本段階では、加硫のためにゴムシートに硫黄および促進剤を添加した。バッチ温度は約90℃~120℃であった。ミキサーにより最終的なゴムシートが排出された。この混合物を、加硫の前に12時間保管した。ゴムシートを熱間圧縮してゴムコンポジット試料を得た。
【0072】
工程2.グラフェン粉末およびゴムのコンパウンディング
グラフェン粉末およびゴムからゴムコンポジット試料を製造する工程は、グラフェンマスターバッチをグラフェン粉末に置き換えたことを除き、工程1と同様であった。
【0073】
工程3.グラフェン粉末、ポリオクテナマーおよびゴムのコンパウンディング
グラフェン粉末、ポリオクテナマーおよびゴムからゴムコンポジット試料を製造する工程は、グラフェンマスターバッチをグラフェン粉末およびポリオクテナマーに置き換えたことを除き、工程1と同様であった。
【0074】
[試験手順]
各グラフェンマスターバッチ試料について、熱重量測定装置を用いて熱重量分析を行った。試料を、窒素雰囲気下に10℃/分の速度で室温から約650℃まで連続的に加熱し、熱安定性およびグラフェンの重量パーセンテージを測定した。
【0075】
すべてのマスターバッチ試料について、熱間圧縮により厚さ2mmのプレートを製造した。このプレートを、試料の抵抗率が属する範囲に応じて、60mm×60mm×2mm(高抵抗)または80mm×10mm×2mm(低抵抗)に切断した。
【0076】
60mm×60mm×2mmの高抵抗の試料の測定規格は、ZC46A高絶縁抵抗試験装置によるIEC 62631-3-1であった。80mm×10mm×2mmの低抵抗試料の測定規格は、半導電性ゴムおよびプラスチック材料用の体積抵抗率試験装置によるISO 3915である。
【0077】
PA12組成物については、射出成形により60mm×60mm×2mmのプレートを製造し、グラフェンマスターバッチと同じ装置を用いてIEC 62631-3-1規格に準拠して測定した。一方、ゴム組成物については、熱間圧縮により厚さ2mmの試料を製造し、次いで60mm×60mm×2mmのプレートに切断して試験し、その体積抵抗率を、グラフェンマスターバッチと同じ装置を用いてIEC 62631-3-1規格に準拠して測定した。
【0078】
引張弾性率、引張降伏応力、引張破断応力、および破断伸びを、ISO 527に準拠して、Zwick Z020材料試験機により、170mm×10mm×4mmの1A型のISO引張試験体について温度(23±2)℃、相対湿度(50±10)%で測定した。ノッチ付き衝撃強さについては、ISO 179-1に記載されているように、完全破断のタイプを用いた。
【0079】
ムーニー粘度計を使用して、ゴムのムーニー粘度を測定した。加硫系を含むゴムコンパウンドを、ミルで6~8mm厚のシートとして成形する。このシートから直径45mmの円形状の試料を切り出す。ロータシャフトが通過できるように、試料の中央を穿孔する。測定開始前に、機器を所定の温度まで加熱する。試料の導入後、1分で試料が熱平衡に達し、次いでロータを始動させる。
【0080】
ムーニー粘度測定ML(1+4)を、大型ロータを用いて100℃で行い、ロータが4分間回転したときのトルクを記録した。ロータを始動させる前に、ストックを100℃で1分間予熱した。この値は、一般的にゴムコンパウンドの加工挙動を示す。
【0081】
スコーチタイムMS t5は、130℃でのムーニースコーチ測定において、ムーニー単位が5単位増加するのに必要な時間である。これは、押出成形などの加工時にコンパウンド粘度が上昇する速度を予測する指標として使用される。t5値はコンパウンドの予備加硫傾向を示すと考えられている。
【0082】
[結果]
各試料について熱重量分析(TGA)を行い、各温度下での重量減少を測定した。図1において、500℃未満で加熱した後、ポリオクテナマー成分が分解または気化し、グラフェンのみが固相に残ることが示唆された。また、分析により、試料中のグラフェン濃度を確認した。グラフェンは、揮発性でも熱的に不安定でもないため、温度が600℃超に達した後の残留重量はグラフェンであった。また、TGA曲線は、本開示のポリマー組成物の300℃未満での優れた熱安定性を示している。
【0083】
マスターバッチの結果を表1に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
上記の表から、本発明による例E5と比較例CE1とを比較すると、グラフェンの濃度が低い場合、マスターバッチの体積抵抗率は、ポリオクテナマーの体積抵抗率から逸脱しないことが明らかである。グラフェン濃度の増加に伴い、ポリマー組成物の体積抵抗率は著しく減少する。グラフェン含有率が30重量%程度に達すると、体積抵抗率は半導体や海水と同程度になる。グラフェンのポリオクテナマーへの分散性が不均一であることを考慮すると、特に30重量%という高濃度では、電気伝導度に関する大きな変化が顕著であり、特に電気産業分野への新たな応用が期待される。
【0086】
他のポリマーとの適合性を調べるため、2つの異なるポリマーであるポリアミドおよびポリブタジエンにグラフェンマスターバッチを添加した。機械的試験を行い、グラフェンマスターバッチがポリマーマトリックスにもたらす影響を分析した。具体的には、29.31重量%のグラフェンマスターバッチをポリアミドであるVestamid(登録商標)L1600に添加して、それぞれ約1重量%および2重量%のグラフェンを含む2種類のポリアミド組成物を製造した。19.53重量%のグラフェンマスターバッチをポリブタジエンに添加して、約1重量%のグラフェンを含むゴム組成物を製造した。
【0087】
グラフェンを含むポリアミド成形用組成物
表2に、ポリアミド成形用組成物の配合および特性を示す。
【0088】
【表2】
【0089】
例E6が予め混合したグラフェン・ポリオクテナマーマスターバッチとポリアミドとを混合して製造したものであるのに対し、例CE4は同量のグラフェン、ポリオクテナマーおよびポリアミドを同時に混合して製造したものであるが、例E6およびCE4は、いずれもほぼ同じ化学組成を有する。例E7およびCE5についても同様である。
【0090】
グラフェンを単独のグラフェンまたはグラフェンマスターバッチの形で導入した後、ポリマー組成物の破断伸びが著しく低下する(未修飾ポリアミドであるVestamid(登録商標)L1600のデータはここには示していない)。しかし、例E6またはE7の破断伸びは例CE4またはCE5よりも高く、これはレジリエンスがより良好であることを示している。
【0091】
ノッチ付き衝撃強さは、ポリマー組成物中のグラフェン含有率が増加するにつれて高くなる。さらに、例E6またはE7のノッチ付き衝撃強さは、例CE4またはCE5よりも高く、これは耐衝撃性がより高いことを示している。
【0092】
理論にとらわれることを望むものではないが、より高いレジリエンスおよび耐衝撃性は、ポリオクテナマーとグラフェンとの予備混合によるポリアミドマトリックス内でのグラフェンの高分散性に起因していると考えられる。
【0093】
グラフェンを含むゴム成形用組成物
表3に、ゴム成形用組成物の配合および特性を示す。
【0094】
【表3】
【0095】
例E8が予め混合したグラフェン・ポリオクテナマーマスターバッチとゴムおよびその他の添加剤とを混合して製造したものであるのに対し、例CE8は同量のグラフェン、ポリオクテナマー、ゴムおよびその他の添加剤を同時に混合して製造したものであるが、例E8およびCE8は、いずれもほぼ同じ化学組成を有する。
【0096】
グラフェンを単独のグラフェンまたはグラフェンマスターバッチの形で導入した後、ポリマー組成物の引張強さは、例CE6と比較して大きく増加する。しかし、例E8の引張強さは、例CE8よりもわずかに高かった。粘度データから、グラフェンマスターバッチの添加が、粘度や動的特性に悪影響を与えないことが確認された。
【0097】
理論にとらわれることを望むものではないが、高い引張強さは、ポリオクテナマーとグラフェンとの予備混合によるゴムマトリックス内でのグラフェンの高分散性に起因していると考えられる。
【0098】
本開示を詳細に説明したが、本開示の趣旨および範囲から逸脱することなく、当業者には実施形態の様々な修正形態および変更形態が明らかであろう。本開示は、本明細書に記載された例示的な実施形態に限定されないことが理解されるべきである。
図1
【国際調査報告】