(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-13
(54)【発明の名称】CD38抗体の製剤およびその使用
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20230306BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20230306BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20230306BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20230306BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20230306BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20230306BHJP
A61K 47/14 20170101ALI20230306BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20230306BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20230306BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230306BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20230306BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20230306BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20230306BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20230306BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20230306BHJP
【FI】
A61K39/395 D ZNA
A61K39/395 N
A61K47/22
A61K47/10
A61K47/26
A61K9/06
A61K47/12
A61K47/14
A61K47/18
A61K47/24
A61P35/00
A61P35/02
A61P19/02
A61K47/02
C07K16/28
C12N15/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022543383
(86)(22)【出願日】2021-01-15
(85)【翻訳文提出日】2022-09-12
(86)【国際出願番号】 EP2021050867
(87)【国際公開番号】W WO2021144457
(87)【国際公開日】2021-07-22
(32)【優先日】2020-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】507316398
【氏名又は名称】ジェンマブ エー/エス
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】クラウスン ヤコプ ディー.
(72)【発明者】
【氏名】ヒバート リチャード
(72)【発明者】
【氏名】ダルガード マイケル ビー.
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076BB13
4C076BB16
4C076CC09
4C076CC27
4C076DD01
4C076DD23
4C076DD37F
4C076DD41
4C076DD46F
4C076DD49F
4C076DD59F
4C076DD60
4C076DD63F
4C076DD67
4C076EE23
4C076FF70
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB11
4C085EE01
4C085GG02
4C085GG04
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA22
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、CD38に結合する抗体を含む薬学的製剤、ならびにがんおよび他の症状の治療における該製剤の使用を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)・SEQ ID NO:2に記載の配列を有するVH CDR1、SEQ ID NO:3に記載の配列を有するVH CDR2、SEQ ID NO:4に記載の配列を有するVH CDR3、SEQ ID NO:6に記載の配列を有するVL CDR1、配列AASを有するVL CDR2、およびSEQ ID NO:7に記載の配列を有するVL CDR3を含む、抗原結合領域、ならびに
・ヒトIgG1重鎖中のE430、E345およびS440に対応する群から選択される1つまたは複数のアミノ酸残基の変異を含む、Fc領域であって、該アミノ酸残基がEUインデックスに従って番号付けされる、Fc領域
を含む、1~200 mg/mLのヒトCD38に結合する抗体;
(b)5~40 mMのヒスチジンまたは酢酸;
(c)100~400 mMのソルビトールまたはスクロース;ならびに
(d)界面活性剤
を含む、薬学的組成物。
【請求項2】
(a)、(b)、(c)および(d)から本質的になる、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項3】
水溶液中の(a)、(b)、(c)および(d)からなる、請求項1または2記載の薬学的組成物。
【請求項4】
前記抗体が、
・SEQ ID NO:1を含むか、またはSEQ ID NO:1に対して少なくとも80%の同一性、例えば90%、95%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、可変重鎖(VH)領域;ならびに/または
・SEQ ID NO:5を含むか、またはSEQ ID NO:5に対して少なくとも80%の同一性、例えば90%、95%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、可変軽鎖(VL)領域
を含む、請求項1~3のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項5】
前記抗体において、
・VHが、アミノ酸残基の12個以下の変異、例えば11、10、9、8、7、6、5、4、3、2もしくは1個の変異、例えば置換、挿入もしくは欠失によって、SEQ ID NO:1と異なる;かつ/または
・VLが、アミノ酸残基の12個以下の変異、例えば11、10、9、8、7、6、5、4、3、2もしくは1個の変異、例えば置換、挿入もしくは欠失によって、SEQ ID NO:5と異なる、
請求項4記載の薬学的組成物。
【請求項6】
前記抗体が、SEQ ID NO:1の配列を含むVH領域およびSEQ ID NO:5の配列を含むVL領域を含む、前記請求項のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項7】
前記抗体において、1つまたは複数のアミノ酸残基の変異が、E430G、E345K、E430S、E430F、E430T、E345Q、E345R、E345Y、S440YおよびS440Wからなる群より選択され、例えばE430G、E345K、E430SおよびE345Qに対応する群より選択される、前記請求項のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項8】
前記1つまたは複数のアミノ酸残基の変異が、E430Gを含むか、またはE430Gからなる、前記請求項のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項9】
前記Fc領域が、ヒトIgG1重鎖中のE430、E345およびS440に対応するアミノ酸残基以外のアミノ酸残基の1つまたは複数のさらなる変異を含み、かつ
該1つまたは複数のさらなる変異が、該1つまたは複数のさらなる変異を含まない抗体によって誘導される補体依存性細胞傷害(CDC)および/または抗体依存性細胞介在性細胞傷害(ADCC)を低下させない、
前記請求項のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項10】
前記1つまたは複数のさらなる変異が、アミノ酸残基の12個以下の変異、例えば11、10、9、8、7、6、5、4、3、2または1個の変異、例えば置換、挿入または欠失である、請求項9記載の薬学的組成物。
【請求項11】
前記抗体において、ヒトIgG1重鎖中の447位のLys(K)に対応するアミノ酸残基が存在せず、該アミノ酸残基がEUインデックスに従って番号付けされる、前記請求項のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項12】
前記Fc領域が、記載された変異を除いて、ヒトIgG1、IgG2、IgG3もしくはIgG4のアイソタイプ、またはそれらの混合アイソタイプである、前記請求項のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項13】
前記Fc領域が、記載された変異を除いて、ヒトIgG1 Fc領域、例えばヒトIgG1m(f)、IgG1m(a)、IgG1m(x)、IgG1m(z)のアロタイプ、またはそれらの任意の2つ以上の混合アロタイプである、前記請求項のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項14】
前記Fc領域が、記載された変異を除いて、SEQ ID NO:19、SEQ ID NO:20、SEQ ID NO:21、SEQ ID NO:22、SEQ ID NO:23またはSEQ ID NO:45のアミノ酸残基99~329(直接番号付け)を含むヒトIgG1 Fc領域である、前記請求項のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項15】
前記Fc領域が、SEQ ID NO:24、SEQ ID NO:25、SEQ ID NO:26、SEQ ID NO:27、SEQ ID NO:28、SEQ ID NO:29、SEQ ID NO:30、SEQ ID NO:31、SEQ ID NO:32、SEQ ID NO:33またはSEQ ID NO:46のアミノ酸残基99~329を含むヒトIgG1 Fc領域である、前記請求項のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項16】
(a)・SEQ ID NO:2に記載の配列を有するVH CDR1、SEQ ID NO:3に記載の配列を有するVH CDR2、SEQ ID NO:4に記載の配列を有するVH CDR3を含むVH領域と、E430、E345およびS440のうちの1つまたは複数に変異を有するヒトIgG1 CH領域とを含む、重鎖であって、該アミノ酸残基がEUインデックスに従って番号付けされる、重鎖、ならびに
・SEQ ID NO:6に記載の配列を有するVL CDR1、配列AASを有するVL CDR2、およびSEQ ID NO:7に記載の配列を有するVL CDR3を含むVL領域を含む、軽鎖
を含む、1~200 mg/mLのヒトCD38に結合する抗体;
(b)5~40 mMのヒスチジンまたは酢酸;
(c)100~400 mMのソルビトールまたはスクロース;ならびに
(d)界面活性剤
を含む、薬学的組成物。
【請求項17】
(a)、(b)、(c)および(d)から本質的になる、請求項16記載の薬学的組成物。
【請求項18】
水溶液中の(a)、(b)、(c)および(d)からなる、請求項16または17記載の薬学的組成物。
【請求項19】
前記抗体が、
・SEQ ID NO:1を含むVH領域と、E430、E345およびS440のうちの1つまたは複数に変異を有するヒトIgG1 CH領域とを含む、重鎖であって、該アミノ酸残基の番号付けがEUインデックスに従う、重鎖、ならびに
・SEQ ID NO:5を含むVLを含む、軽鎖
を含む、請求項16~18のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項20】
前記変異が、E430Gを含むか、またはE430Gからなる、請求項16~19のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項21】
前記ヒトIgG1 CH領域が、記載された変異を除いて、ヒトIgG1m(f)、IgG1m(a)、IgG1m(x)もしくはIgG1m(z)のアロタイプ、またはそれらの任意の2つ以上の混合アロタイプである、請求項16~20のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項22】
前記ヒトIgG1 CH領域が、記載された変異を除いて、SEQ ID NO:19、SEQ ID NO:20、SEQ ID NO:21、SEQ ID NO:22、SEQ ID NO:23、またはSEQ ID NO:45のアミノ酸配列を含む、請求項16~21のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項23】
前記ヒトIgG1 CH領域が、ヒトIgG1重鎖中のE430、E345およびS440に対応するアミノ酸残基以外のアミノ酸残基の1つまたは複数のさらなる変異を含み、該アミノ酸残基がEUインデックスに従って番号付けられ、任意で、該1つまたは複数のさらなる変異が、アミノ酸残基の12個以下の変異、例えば11、10、9、8、7、6、5、4、3、2または1個の変異、例えば置換、挿入または欠失である、請求項22記載の薬学的組成物。
【請求項24】
前記CH領域が、SEQ ID NO:24~SEQ ID NO:33およびSEQ ID NO:46からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、請求項15~23のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項25】
前記CH領域が、SEQ ID NO:24またはSEQ ID NO:46を含み、任意で、前記軽鎖が、SEQ ID NO:37を含むCLを含む、請求項24記載の薬学的組成物。
【請求項26】
ヒトIgG1重鎖中の447位のLys(K)に対応するアミノ酸残基が存在せず、該アミノ酸残基がEUインデックスに従って番号付けされる、請求項16~25のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項27】
2価抗体である、請求項16~26のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項28】
前記抗体が、記載された変異を除いて、ヒトモノクローナル全長単一特異性2価IgG1m(f),κ抗体である、前記請求項のいずれか一項記載の抗体。
【請求項29】
(a)が、1~80 mg/mL、例えば1~60 mg/ml、1~40 mg/mL、1~30 mg/mlもしくは1~25 mg/ml;2~80 mg/mL、例えば2~40 mg/mLもしくは2~30 mg/ml;または10~80 mg/mL、例えば10~40 mg/mLもしくは10~30 mg/ml;または15~80 mg/ml、例えば15~40 mg/ml、例えば15~25 mg/ml、例えば2 mg/ml、4 mg/mL、6 mg/mL、8 mg/mL、10 mg/mL、12 mg/mL、14 mg/mL、16 mg/mL、18 mg/mL、20 mg/mL、22 mg/mL、24 mg/mL、26 mg/mL、28 mg/mL、30 mg/mL、32 mg/mL、34 mg/mL、36 mg/mL、38 mg/mL、40 mg/mLもしくは50 mg/mL;好ましくは約20 mg/mL、例えば20 mg/mLの抗体である、前記請求項のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項30】
(b)が、5~30 mM、例えば5~25 mM、例えば10 mM、11 mM、12 mM、13 mM、14 mM、15 mM、16 mM、17 mM、18 mM、19 mM、20 mM、21 mM、22 mM、23 mM、24 mM、25 mM、26 mM、27 mM、28 mM、29 mMまたは30 mM;好ましくは約20 mM、例えば20 mMのヒスチジンまたは酢酸;例えばヒスチジンである、前記請求項のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項31】
(c)が、100~350 mM、例えば100~300 mM、100~260 mM、100~200 mM、150~350 mM、200~300 mM、200~260 mM、200~350 mM、200~300 mM、200~260 mM、230~350 mM、230~300 mM、230~260 mMまたは240~260 mM;例えば245 mM、246 mM、247 mM、248 mM、249 mM、250 mM、251 mM、252 mM、253 mM、254 mMまたは255 mM、好ましくは約250 mM、例えば250 mMのソルビトールまたはスクロース、例えばソルビトールである、前記請求項のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項32】
前記薬学的組成物のpHが、5.0~6.5、例えば5.5~6.5、例えば5.6~6.5、5.7~6.5、5.8~6.5、5.9~6.5、6.0~6.5、5.5~6.4、5.5~6.3、5.5~6.2、5.5~6.1、5.5~6.0、5.7~6.3、5.8~6.2、5.9~6.1、例えば約6、例えば6または6.0である、前記請求項のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項33】
前記界面活性剤が、グリセロールモノオレアート、塩化ベンゼトニウム、ドクサートナトリウム、リン脂質、ポリエチレンアルキルエーテル、ラウリル硫酸ナトリウムおよびトリカプリリン、塩化ベンザルコニウム、シトリミド(citrimide)、塩化セチルピリジニウムおよびリン脂質、αトコフェロール、グリセロールモノオレアート、ミリスチルアルコール、リン脂質、ポロキサマー、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体、ポリオキシエチレンソルビンタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンステアラート、ポリオキシルヒドロキシステアラート、ポリオキシルグリセリド、ポリソルベート、プロピレングリコールジラウラート、プロピレングリコールモノラウラート、ソルビタンエステルスクロースパルミタート、スクロースステアラート、トリカプリリン、およびTPGSを含む群から選択される、前記請求項のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項34】
前記界面活性剤がポリソルベートである、前記請求項のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項35】
前記界面活性剤が、ポリソルベート20または80、例えばポリソルベート80である、前記請求項のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項36】
前記界面活性剤の濃度が、約0.005%~0.5% w/v、例えば約0.01~0.1% w/v、例えば約0.01~0.09% w/v、例えば約0.01~0.06% w/v、例えば約0.01~0.05% w/v、例えば0.02% w/v、または0.03% w/v、または0.04% w/v、または0.05% w/v、または0.06% w/v、例えば約0.04% w/vまたは0.04% w/vである、前記請求項のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項37】
5.9~6.1のpH、例えば約6または6.0のpHを有し、かつ
(a)1~80 mg/mLの抗体
(b)15~40 mMのヒスチジン
(c)200~300 mMのソルビトール
(d)0.01%~0.1% w/vの界面活性剤、好ましくはポリソルベート、例えばポリソルベート20またはポリソルベート80、例えばポリソルベート80
を含むか、またはそれらから本質的になる、
前記請求項のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項38】
5.9~6.1のpH、例えば約6または6.0のpHを有し、かつ
(a)10~40 mg/mLの抗体、
(b)15~40 mMのヒスチジン、
(c)200~300 mMのソルビトール、
(d)0.02%~0.06% w/vの界面活性剤、好ましくはポリソルベート、例えばポリソルベート20またはポリソルベート80、例えばポリソルベート80
を含むか、またはそれらから本質的になる、
前記請求項のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項39】
5.9~6.1のpH、例えば約6または6.0のpHを有し、かつ
(a)10~40 mg/mLの抗体
(b)15~25 mMのヒスチジン
(c)240~260 mMのソルビトール
(d)0.02%~0.06% w/vの界面活性剤、好ましくはポリソルベート、例えばポリソルベート20またはポリソルベート80、例えばポリソルベート80
を含むか、またはそれらから本質的になる、
前記請求項のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項40】
少なくとも8週間の期間にわたり、例えば1~60ヶ月、1~48ヶ月、1~36ヶ月、1~30ヶ月、1~24ヶ月、1~18ヶ月、1~12ヶ月または1~6ヶ月の期間にわたり;例えば2~60ヶ月、2~48ヶ月、2~36ヶ月、2~30ヶ月、2~24ヶ月、2~18ヶ月、2~12ヶ月または2~6ヶ月にわたり;例えば3~60ヶ月、3~48ヶ月、3~36ヶ月、3~30ヶ月、3~24ヶ月、3~18ヶ月、3~12ヶ月または3~6ヶ月にわたり、例えば48ヶ月、36ヶ月、30ヶ月、24ヶ月、18ヶ月、12ヶ月または6ヶ月にわたり安定である、前記請求項のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項41】
前記組成物が、5℃±3℃、25℃±5℃または40℃±10℃で、例えば5℃±3℃、約25℃±5℃または約40℃で、例えば5℃±3℃で保存された時に、安定性が決定される、請求項40記載の薬学的組成物。
【請求項42】
前記安定性が、
(a)サブビジブル(sub-visible)粒子数;
(b)pH;
(c)タンパク質濃度;
(d)サイズ排除クロマトグラフィー;
(e)等電点分離法;
(f)還元条件下での電気泳動;
(g)非還元条件下での電気泳動;および/または
(h)目視検査
によって評価される、請求項40または41記載の薬学的組成物。
【請求項43】
前記安定性が、
(a)任意で実施例12において提供される、マイクロフローイメージング(micro-flow imaging)(MFI)顕微鏡を用いたサブビジブル粒子数;
(b)任意で実施例11において提供される、pH;
(c)任意で実施例11において提供される、280 nmでの吸光度(A
280)を用いたタンパク質濃度;
(d)任意で実施例11において提供される、サイズ排除クロマトグラフィーを用いた、組成物中に存在する抗体単量体、高分子量(HMW)種および低分子量(LMW)種の和と比較した、抗体単量体の相対量;
(e)任意で実施例11において提供される、イメージングキャピラリー等電点分離法(icIEF)による、抗体、抗体の酸性バリアントおよび抗体の塩基性バリアントの和と比較した、抗体の相対量;
(f)任意で実施例11により提供される、還元キャピラリー電気泳動による、軽鎖、重鎖および非グリコシル化重鎖の和と比較した、軽鎖および重鎖の和の相対量;
(g)抗体、抗体ピークより低い分子量を有するピークおよび抗体ピークより高い分子量を有するピークの和と比較した、抗体ピークの相対量;ならびに/または
(h)任意で実施例11において提供される、視覚的外観
を決定することによって評価される、請求項40~42のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項44】
前記抗体が、SEQ ID NO:39に示されるような、Hisタグ付きヒトCD38に結合することができる、前記請求項のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項45】
前記抗体が、ヒトCD38のシクラーゼ活性に対して阻害効果を有する、前記請求項のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項46】
前記抗体が、ヒトCD38のシクラーゼ活性を少なくとも約40%、例えば少なくとも約50%、例えば少なくとも約60%阻害し、任意で、シクラーゼ活性の阻害が、
(a)マルチウェルプレートで、ウェルあたり100μLの20 mM Tris-HCL中の200,000個のDaudi細胞もしくはWien133細胞を播種する段階、またはウェルあたり100μLの20 mM Tris-HCL中の0.6μg/mLのHisタグ付き可溶性ヒトCD38(SEQ ID NO:39)を播種する段階;
(b)各ウェルに1μg/mLのCD38抗体と80μMのNGDを添加する段階;
(c)プラトーに達するまで(例えば、5分、10分または30分)蛍光を測定する段階;ならびに
(d)アイソタイプ対照抗体とインキュベートしたウェルなどの対照と比較して、阻害の割合を決定する段階
を含むアッセイにより決定される、請求項45記載の薬学的組成物。
【請求項47】
前記抗体が、Fc架橋抗体の存在下でアポトーシスを誘導するが、Fc架橋抗体の非存在下では誘導しない、前記請求項のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項48】
前記抗体が、ヒトCD38を発現する細胞のCDC、ADCC、抗体依存性細胞貧食(ADCP)、トロゴサイトーシス、またはそれらの任意の組み合わせを誘導する、前記請求項のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項49】
前記抗体が、ヒトCD38を発現する細胞のCDCを誘導する、前記請求項のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項50】
前記抗体が、Daudi細胞(ATCC番号CCL-213)またはRamos細胞(ATCC番号CRL-1596)に対してCDCを誘導し、その結果、Fc領域に前記1つまたは複数の変異が存在しないことのみが異なる参照抗体で得られる最大溶解よりも、少なくとも50%、例えば少なくとも60%、例えば少なくとも70%高い最大溶解をもたらす、前記請求項のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項51】
前記CDCが、
(a)マルチウェルプレートで、ウェルあたり0.2%のBSAを添加した培養培地40μLに100,000個のCD38発現細胞をプレーティングする段階;
(b)細胞を、40μLの段階希釈したCD38抗体(0.0002~10μg/mL)と共に20分間プレインキュベートする段階;
(c)各ウェルを、20%のプールした正常ヒト血清と共に37℃で45分間インキュベートする段階;
(d)生死判別色素を添加し、フローサイトメーターで細胞溶解の割合を測定する段階;
(e)非線形回帰を用いて最大溶解を決定する段階
を含むアッセイにより決定される、請求項50記載の薬学的組成物。
【請求項52】
前記抗体が、2本の重鎖および2本の軽鎖を含むか、それらからなるか、またはそれらから本質的になる、全長2価抗体であり、
・各重鎖が、VH領域およびCH領域を含み、該VH領域がSEQ ID NO:1を含み、および該CH領域がSEQ ID NO:24またはSEQ ID NO:46を含み、かつ
・各軽鎖が、VL領域およびCL領域を含み、該VL領域がSEQ ID NO:5を含み、および該CL領域がSEQ ID NO:37を含む、
前記請求項のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項53】
約6のpHを有し、かつ
(a)約20 mg/mLのヒトCD38に結合する抗体、
(b)約20 mMのヒスチジン、
(c)約250 mMのソルビトール、および
(d)約0.04% w/vのポリソルベート80
を含むか、またはそれらから本質的になる、薬学的組成物であって、
該抗体が、2本の重鎖および2本の軽鎖を含むか、それらからなるか、またはそれらから本質的になる、全長2価抗体であり、
・各重鎖が、VH領域およびCH領域を含み、該VH領域がSEQ ID NO:1を含み、および該CH領域がSEQ ID NO:24またはSEQ ID NO:46を含み、かつ
・各軽鎖が、VL領域およびCL領域を含み、該VL領域がSEQ ID NO:5を含み、および該CL領域がSEQ ID NO:37を含む、
前記薬学的組成物。
【請求項54】
約6のpHを有し、かつ水溶液中の
(a)20 mg/mLの抗体、
(b)20 mMのヒスチジン、
(c)250 mMのソルビトール、および
(d)0.04% w/vのポリソルベート80
を含むか、それらからなるか、またはそれらから本質的になる、請求項53記載の薬学的組成物。
【請求項55】
前記抗体が、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞において産生される、請求項52~54のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項56】
前記抗体が、CHO細胞において重鎖および軽鎖を発現させる段階を含む方法によって取得されるかまたは取得可能である、請求項52~55のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項57】
静脈内または皮下への注射または注入のための、前記請求項のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項58】
例えば0.9% NaCl(生理食塩水)またはデキストロース溶液、任意で5% w/vデキストロース溶液中で希釈される濃縮物である、前記請求項のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項59】
医薬として使用するための、前記請求項のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項60】
CD38を発現する細胞が関与する疾患の治療に使用するための、前記請求項のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項61】
CD38を発現する細胞を含む腫瘍に対するCDC応答の誘導に使用するための、前記請求項のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項62】
ヒトCD38を発現する細胞を含む対象におけるがんの治療または予防に使用するための、前記請求項のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項63】
CD38抗体、プロテアソーム阻害剤(PI)および免疫調節薬(IMiD)のうちの1つまたは複数を含む以前の治療に難治性のがんの治療に使用するための、前記請求項のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項64】
CD38抗体、PIおよびIMiDのうちの1つまたは複数を含む以前の治療の後に再発したがんの治療に使用するための、前記請求項のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項65】
前記CD38抗体がダラツムマブである、請求項63または64記載の使用のための薬学的組成物。
【請求項66】
前記がんが血液のがんである、請求項62~65のいずれか一項記載の使用のための薬学的組成物。
【請求項67】
前記がんが、多発性骨髄腫、慢性リンパ性白血病(CLL)、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(成人)(AML)、B細胞リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、および骨髄異形成症候群(MDS)からなる群より選択され、任意で、該ALLがB細胞急性リンパ芽球性白血病(B-ALL)である、請求項62~65のいずれか一項記載の使用のための薬学的組成物。
【請求項68】
前記B細胞リンパ腫が、マントル細胞リンパ腫、バーキットリンパ腫、および濾胞性リンパ腫(FL)からなる群より選択される、請求項66または67記載の使用のための薬学的組成物。
【請求項69】
前記血液のがんが、多発性骨髄腫(MM)、慢性リンパ性白血病(CLL)、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(成人)(AML)、マントル細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫(FL)、およびびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)からなる群より選択される、請求項66記載の使用のための薬学的組成物。
【請求項70】
前記がんが固形腫瘍を含む、請求項62~65のいずれか一項記載の使用のための薬学的組成物。
【請求項71】
前記固形腫瘍が、メラノーマ、肺がん、扁平上皮非小細胞肺がん(NSCLC)、非扁平上皮NSCLC、結腸直腸がん、前立腺がん、去勢抵抗性前立腺がん、胃がん(stomach cancer)、卵巣がん、胃がん(gastric cancer)、肝臓がん、膵臓がん、甲状腺がん、頭頸部の扁平上皮がん、食道もしくは胃腸管のがん、乳がん、卵管がん、脳腫瘍、尿道がん、尿生殖器がん、子宮内膜がん、子宮頸がん、肺腺がん、腎細胞がん(RCC)(例えば、腎明細胞がんまたは腎乳頭状細胞がん)、中皮腫、鼻咽頭がん(NPC)、食道もしくは胃腸管のがん、またはそれらのいずれかの転移性病変である、請求項70記載の使用のための薬学的組成物。
【請求項72】
前記固形腫瘍が、検出可能なCD38発現を欠いている、請求項70または71記載の使用のための抗体。
【請求項73】
前記がんが、CD38を発現するT制御性細胞を含む患者におけるがんである、請求項62~72のいずれか一項記載の使用のための抗体。
【請求項74】
関節リウマチの治療または予防に使用するための、請求項1~58のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項75】
CD38を発現する細胞を含む疾患を治療するための方法であって、請求項1~58のいずれか一項記載の薬学的組成物を、それを必要とする患者に投与する段階を含む、前記方法。
【請求項76】
前記薬学的組成物が、治療上有効な量でかつ/または前記疾患を治療するために十分な期間にわたり投与される、請求項75記載の方法。
【請求項77】
請求項59~73のいずれか一項記載の特徴をさらに含む、請求項75または76記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
抗CD38抗体を含む薬学的組成物、および例えばがんの治療または予防における、医薬としてのそれらの使用。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
CD38はII型膜貫通糖タンパク質であり、通常は造血細胞に見られ、固形組織には低レベルで存在する。造血細胞でのCD38の発現は、該細胞の分化および活性化状態によって決まる。分化系列決定がなされた造血細胞は該タンパク質を発現するが、それは成熟細胞によって失われ、活性化されたリンパ球で再び発現される。CD38はB細胞にも発現しており、形質細胞は特に高レベルのCD38を発現している。休止状態のNK細胞と単球の約80%はCD38を低レベルで発現しており、リンパ節胚中心リンパ芽球、濾胞内細胞、樹状細胞、赤血球、血小板など、他のさまざまな血液細胞タイプも同様に発現している(Lee and Aarhus 1993; Zocchi, Franco et al. 1993; Malavasi, Funaro et al. 1994; Ramaschi, Torti et al. 1996)。固形組織に関して、CD38は、腸内では上皮内細胞と粘膜固有層リンパ球によって、脳内ではプルキンエ細胞と神経原線維タングル(neurofibrillary tangle)によって、前立腺では上皮細胞、膵臓ではβ細胞、骨では破骨細胞、眼では網膜細胞、および平滑筋と横紋筋の筋鞘によって発現されている。
【0003】
CD38は多数の血液悪性腫瘍において発現されている。発現は、特に多発性骨髄腫(MM)(Lin, Owens et al. 2004)および慢性リンパ性白血病(CLL)(Damle 1999)の悪性細胞で観察されており、また、ワルデンストレームマクログロブリン血症(Konoplev, Medeiros et al. 2005)、原発性全身性アミロイドーシス(Perfetti, Bellotti et al. 1994)、マントル細胞リンパ腫(Parry-Jones, Matutes et al. 2007)、急性リンパ芽球性白血病(Keyhani, Huh et al. 2000)、急性骨髄性白血病(Marinov, Koubek et al. 1993; Keyhani, Huh et al. 2000)、NK細胞白血病(Suzuki, Suzumiya et al. 2004)、NK/T細胞リンパ腫(Wang, Wang et al. 2015)、および形質細胞白血病(van de Donk, Lokhorst et al. 2012)でも報告されている。
【0004】
CD38の発現が関与している可能性のある他の疾患には、例えば、肺の気管支上皮がん、乳がん(乳房の管および小葉の上皮内層の悪性増殖から発生する)、β細胞から発生する膵臓腫瘍(インスリノーマ)、腸の上皮から発生する腫瘍(例えば、腺がんおよび扁平上皮がん)、前立腺のがん腫、精巣のセミノーマ、卵巣がん、および神経芽細胞腫が含まれる。他の開示もまた、グレーブス病、甲状腺炎などの自己免疫(Antonelli, Fallahi et al. 2001)、1型および2型糖尿病(Mallone and Perin 2006)、ならびに喘息での気道平滑筋細胞の炎症(Deshpande, White et al. 2005)におけるCD38の役割を示唆している。さらに、CD38の発現はHIV感染にも関連している(Kestens, Vanham et al. 1992; Ho, Hultin et al. 1993)。
【0005】
CD38は多機能タンパク質である。CD38に起因する機能には、接着およびシグナル伝達事象における受容体媒介と(エクト)酵素活性との両方が含まれる。エクト酵素として、CD38は、NAD+をサイクリックADPリボース(cADPR)およびADPRの形成の基質として使用するが、ニコチンアミドおよびニコチン酸-アデニンジヌクレオチドリン酸(NAADP)の形成にも使用する。cADPRは、小胞体からのCa2+動員のセカンドメッセンジャーとして機能することが示されている。
【0006】
いくつかの抗CD38抗体は文献に記載されており、例えば、WO 2006/099875 A1、WO2008037257 A2、WO 2011/154453 A1、WO 2007/042309 A1、WO 2008/047242 A1、WO2012/092612 A1; Cotner, Hemler et al. 1981; Ausiello, Urbani et al. 2000; Lande, Urbani et al. 2002; de Weers, Tai et al. 2011; Deckert, Wetzel et al. 2014; Raab, Goldschmidt et al. 2015; Eissler, Filosto et al. 2018; Roepcke, Plock et al. 2018; およびSchooten 2018に記載される。
【0007】
CD38抗体は、CD38発現腫瘍細胞に以下の作用機序のうちの1つまたは複数によって影響を与える可能性がある:補体依存性細胞傷害(CDC)、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、抗体依存性細胞貧食(ADCP)、プログラム細胞死、トロゴサイトーシス(trogocytosis)、免疫サプレッサー細胞の排除、および酵素活性の調節(van de Donk, Janmaat et al. 2016; Krejcik, Casneuf et al. 2016; Krejcik, Frerichs et al. 2017; Chatterjee, Daenthanasanmak et al. 2018; van de Donk 2018)。しかしながら、2014年に、CD38抗体は、効果的なCDC、ADCC、ADCPを誘導できるだけでなく、CD38酵素活性を効果的に阻害できるものが、これまでに記載されたことはない、と提案された(Lammerts van Bueren, Jakobs et al. 2014)。
【0008】
エフェクター機能の最適化は、例えば、抗原発現細胞に対する免疫応答を引き出す抗体の能力を改善するために、がんまたは他の疾患を治療するための治療用抗体の有効性を向上させることができる。そのような努力は、例えば、以下に記載されている:WO 2013/004842 A2; WO 2014/108198 A1; WO 2018/031258 A1; Dall'Acqua, Cook et al. 2006; Moore, Chen et al. 2010; Desjarlais and Lazar 2011; Kaneko and Niwa 2011; Song, Myojo et al. 2014; Brezski and Georgiou 2016; Sondermann and Szymkowski 2016; Zhang, Armstrong et al. 2017; Wang, Mathieu et al. 2018。
【0009】
しかしながら、当技術分野におけるこれらおよび他の努力にもかかわらず、効力が調節されたCD38治療用抗体およびそれを含む製剤の必要性が存在している。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、ヒトIgG1重鎖中のE430、E345またはS440に対応する群から選択される1つまたは複数のアミノ酸残基の変異を含むFc領域(該アミノ酸残基はEUインデックスに従って番号付けされる)を含むCD38抗体Cを含む、薬学的組成物などの組成物に関する。
【0011】
したがって、一局面では、本発明は、
(a)・SEQ ID NO:2に記載の配列を有するVH CDR1、SEQ ID NO:3に記載の配列を有するVH CDR2、SEQ ID NO:4に記載の配列を有するVH CDR3、SEQ ID NO:6に記載の配列を有するVL CDR1、配列AASを有するVL CDR2、およびSEQ ID NO:7に記載の配列を有するVL CDR3を含む、抗原結合領域、ならびに
・ヒトIgG1重鎖中のE430、E345およびS440に対応する群から選択される1つまたは複数のアミノ酸残基の変異を含む、Fc領域であって、該アミノ酸残基がEUインデックスに従って番号付けされる、Fc領域
を含む、1~200 mg/mLのヒトCD38に結合する抗体;
(b)5~40 mMのヒスチジンまたは酢酸;
(c)100~400 mMのソルビトールまたはスクロース;ならびに
(d)界面活性剤
を含む、薬学的組成物に関する。
【0012】
一局面では、本発明は、
(a)・SEQ ID NO:2に記載の配列を有するVH CDR1、SEQ ID NO:3に記載の配列を有するVH CDR2、SEQ ID NO:4に記載の配列を有するVH CDR3を含むVH領域と、E430、E345およびS440のうちの1つまたは複数に変異を有するヒトIgG1 CH領域とを含む重鎖であって、該アミノ酸残基がEUインデックスに従って番号付けされる、重鎖、ならびに
・SEQ ID NO:6に記載の配列を有するVL CDR1、配列AASを有するVL CDR2、およびSEQ ID NO:7に記載の配列を有するVL CDR3を含むVL領域を含む、軽鎖
を含む、1~200 mg/mLのヒトCD38に結合する抗体;
(b)5~40 mMのヒスチジンまたは酢酸;
(c)100~400 mMのソルビトールまたはスクロース;ならびに
(d)界面活性剤
を含む、薬学的組成物に関する。
【0013】
本発明のこれらのおよび他の局面および態様を、以下でより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】ヒトIgG1重鎖の残基P247~K447に対応するヒトIgG1m(a)、IgG1m(f)、IgG2、IgG3およびIgG4 Fcセグメントについての、Clustal 2.1ソフトウェアを用いたアミノ酸配列アラインメントを示し、ここで、アミノ酸残基はKabatに記載されるEUインデックスに従って番号付けされる。示したアミノ酸配列は、IgG1m(za)(SEQ ID NO:64; UniProtアクセッション番号P01857)、IgG1m(f)(SEQ ID NO:65)、IgG1m(z)(SEQ ID NO:66)、IgG1m(a)(SEQ ID NO:67)およびIgG1m(x)(SEQ ID NO:68)と指定されたヒトIgG1のアロタイプバリアントの重鎖定常領域の残基130~330;IgG2重鎖定常領域の残基126~326(SEQ ID NO:79; UniProtアクセッション番号P01859);IgG3重鎖定常領域の残基177~377(SEQ ID NO:80; UniProtアクセッション番号P01860);およびIgG4重鎖定常領域の残基127~327(SEQ ID NO:81; UniProtアクセッション番号P01861)に対応する。
【
図2】CD38抗体IgG1-A-E430G、IgG1-B-E430GおよびIgG1-C-E430GのCD38発現NALM16細胞への結合を、CD38抗体IgG1-A、IgG1-B、IgG1-C、およびアイソタイプ対照抗体と比較して示す。詳細については、実施例2を参照されたい。
【
図3】CD38抗体IgG1-A-E430G、IgG1-B-E430GおよびIgG1-C-E430Gの、カニクイザルPBMC上に発現されたCD38(A)または高コピー数のヒトCD38を発現するDaudi細胞(B)への結合を、アイソタイプ対照抗体と比較して示す。詳細については、実施例2を参照されたい。
【
図4】CDCアッセイにおけるRamos (A)、Daudi (B)、Wien-133 (C)、NALM-16 (D)、REH (E)、RS4;11 (F)、U266 (G)およびRC-K8 (H)腫瘍細胞株の、CD38抗体IgG1-A-E430G、IgG1-B-E430GおよびIgG1-C-E430Gによって誘導された溶解の割合を、CD38抗体IgG1-A、IgG1-BおよびIgG1-Cと比較して示す。詳細については、実施例3を参照されたい。
【
図5】全血で実施されたCDCアッセイにおいてCD38抗体IgG1-A-E430G、IgG1-B-E430GおよびIgG1-C-E430Gが生存NK細胞(A)、T細胞(B)およびB細胞(C)の数に及ぼす影響を、CD38抗体IgG1-A、IgG1-BおよびIgG1-Cと比較して示す。詳細については、実施例3を参照されたい。
【
図6】クロム放出ADCCアッセイにおいてCD38抗体IgG1-A-E430G、IgG1-B-E430GおよびIgG1-C-E430Gによって誘導されたDaudi細胞の溶解の割合を、CD38抗体IgG1-A、IgG1-B、IgG1-Cおよびアイソタイプ対照抗体と比較して示す。詳細については、実施例4を参照されたい。
【
図7】ADCCレポーターアッセイにおけるCD38抗体IgG1-A-E430G、IgG1-B-E430GおよびIgG1-C-E430Gの用量依存的なFcγRIIIa架橋を、CD38抗体IgG1-A、IgG1-B、IgG1-Cおよびアイソタイプ対照抗体と比較して示す。詳細については、実施例4を参照されたい。
【
図8】ADCPアッセイにおいてCD38抗体IgG1-A-E430G、IgG1-B-E430GおよびIgG1-C-E430GがPKH-29
pos、CD14
posおよびCD19
negマクロファージの割合に及ぼす影響を、CD38抗体IgG1-A、IgG1-B、IgG1-Cおよびアイソタイプ対照抗体と比較して示す。詳細については、実施例5を参照されたい。
【
図9】Fc架橋抗体を用いて(C、E、G)または用いずに(A、B、D、F)実施したアポトーシスアッセイにおいてCD38抗体IgG1-A-E430G、IgG1-B-E430GおよびIgG1-C-E430Gによって誘導されたRamos (A)、Daudi (B,C)、Wien-133 (D,E)およびNALM-16 (F,G)腫瘍細胞株の溶解の割合を、CD38抗体IgG1-A、IgG1-B、IgG1-Cおよびアイソタイプ対照抗体と比較して示す。詳細については、実施例6を参照されたい。
【
図11】CD38抗体IgG1-A-E430G、IgG1-B-E430GおよびIgG1-C-E430GがHisCD38 (A)、Daudi細胞(B)およびWien-133細胞(C)のシクラーゼ活性に及ぼす影響を、経時的なNDG変換%に反映させて、CD38抗体IgG1-A、IgG1-B、IgG1-Cおよびアイソタイプ対照抗体と比較して示す。
【
図12】CD38抗体IgG1-A-E430G、IgG1-B-E430GおよびIgG1-C-E430Gがマクロファージと45分間共培養した後のDaudi細胞上のCD38発現に及ぼす影響を、CD38抗体IgG1-A、IgG1-B、IgG1-Cおよびアイソタイプ対照抗体と比較して示す。マクロファージはドナーA(A,B)またはドナーB(B,D)からのものであり、抗体オプソニン化細胞はCD38発現(A,B)またはヒトIgG染色(C,D)について試験された。
【
図13】CD38抗体IgG1-B-E430GおよびIgG1-C-E430GがPBMCを含むまたは含まないT制御性細胞上のCD38発現に及ぼす影響を、IgG1-Bと比較して示す。
【
図14-1】CDCアッセイにおいてCD38抗体IgG1-A-E430G(黒三角)、IgG1-B-E430G(黒丸)およびIgG1-C-E430G(黒四角)によって誘導された、さまざまなB細胞腫瘍細胞株の溶解の割合を、CD38抗体IgG1-B(白丸)およびアイソタイプ対照抗体(白菱形)と比較して示す。詳細については、実施例3を参照されたい。
【
図15】表4に示されたEC50値のいくつかの要約を示す。20種の異なるB細胞腫瘍細胞株で抗体IgG1-B、IgG1-B-E430GおよびIgG1-C-E430Gによって誘導されたCDCのEC50値が示される。各正方形、三角形または円は、異なるB細胞腫瘍細胞株を表している。AML細胞株ではIgG1-B-E430Gの試験を行わなかったため、AML細胞株で得られるEC50値は含まれていない。
【
図16-1】CDCアッセイにおいてCD38抗体IgG1-C-E430G(黒丸)によって誘導されたさまざまなAML腫瘍細胞株の溶解の割合を、CD38抗体IgG1-B(白丸)およびアイソタイプ対照抗体(黒四角)と比較して示す。詳細については、実施例3を参照されたい。
【
図17】CDCアッセイにおいてCD38抗体IgG1-B-E430G(黒丸)およびIgG1-C-E430G(黒四角)によって誘導されたT制御性細胞の溶解の割合を、CD38抗体IgG1-B(白丸)と比較して示す。詳細については、実施例3を参照されたい。
【
図18】クロム放出ADCCアッセイにおいてCD38抗体IgG1-B-E430G、IgG1-C-E430Gによって誘導されたDaudi細胞、Wien-133細胞、Granta 519細胞、およびMEC-2細胞の溶解の割合を、CD38抗体IgG-B、IgG1-CおよびIgG1-b12-E430Gと比較して示す。詳細については、実施例4を参照されたい。
【
図19】T制御性細胞を用いたADCCレポーターアッセイにおけるCD38抗体IgG1-A-E430G、IgG1-B-E430GおよびIgG1-C-E430Gの用量依存的なFcγRIIIa架橋を、CD38抗体IgG1-A、IgG1-B、IgG1-Cおよびアイソタイプ対照抗体と比較して示す。詳細については、実施例4を参照されたい。
【
図20】CD38抗体IgG1-C-E430GまたはPBS(陰性対照)のいずれかで処理されたマウスの腫瘍サイズ(mm
3)を示す。詳細については、実施例9を参照されたい。
【
図21】トロゴサイトーシスを測定するためのアッセイのセットアップを示す。1)Daudi細胞をPKH-26(膜染色)およびセルトレース(cell trace)バイオレット(サイトゾル染色)で標識し、CD38抗体でオプソニン化した。2)標識したDaudi細胞とマクロファージを37℃で2時間共培養して、マクロファージを付着させた。3)Daudi細胞からマクロファージへの細胞膜の移動またはトロゴサイトーシス。4)マクロファージ-Daudi相互作用の分離およびマクロファージ内でのDaudi細胞膜の分解。詳細については、実施例8を参照されたい。
【
図22】新たに診断されたMM患者3名(A、B、およびD)と再発/難治性MM患者1名(C)からの骨髄単核細胞におけるIgG1-C-E430GまたはDarzalex(登録商標)による補体依存性細胞傷害を示す。
【
図23】CDCアッセイにおいてCD38抗体IgG1-C-E430G(黒丸)によって誘導されたさまざまなMM腫瘍細胞株の溶解の割合を、CD38抗体IgG1-B(白丸)およびアイソタイプ対照抗体(黒四角)と比較して示す。詳細については、実施例3を参照されたい。
【発明を実施するための形態】
【0015】
発明の詳細な説明
本発明の態様を説明する際には、明確にするために特定の用語が使用される。しかし、本発明は、そのように選択された特定の用語に限定されることを意図したものではなく、各特定の用語は、同様の目的を達成するために同様の方法で動作する全ての技術的等価物を含むことが理解される。
【0016】
本発明は、抗CD38抗体Cの少なくともVH CDR1~3およびVL CDR1~3、ならびにヒトIgG1重鎖中のE430、E345およびS440に対応する群から選択される1つまたは複数のアミノ酸残基の変異を含むFc領域を含む抗体を含む、薬学的組成物に関する。
【0017】
実施例3に示されるように、E430G変異を導入すると、試験した3つ全てのCD38 IgG1抗体、A、B、およびCについてCDCが増強された。しかし、驚くべきことに、CDC増強の大きさは、試験した抗体クローンの間で異なっていた。E430G変異なしで、IgG1-BはすでにCDCの良好な誘導因子であったが、IgG1-CおよびIgG1-Aは、それぞれCDCを中程度に誘導し、およびCDCを誘導しなかった。しかし、それにもかかわらず、E430G変異の導入後に、IgG1-C-E430Gは、IgG1-B-E430Gと比較してより効果的なCDCを誘導した。CD38発現レベルがより低い腫瘍細胞およびT制御性細胞では、IgG1-C-E430GのEC50値は、IgG1-B-E430GのEC50値よりも低かった。
【0018】
抗体はまた、ADCCも実証することができる。例えば、実施例4に示されるように、IgG1-Cは、51Cr放出アッセイでIgG1-Bと比較してより高い最大溶解パーセントを達成し、かつIgG1-Bと比較してADCCレポーターアッセイでFcγRIIIa結合の増加を達成した。E430G変異の導入は、3つ全ての抗体について、51Cr放出アッセイで最大溶解パーセントを低下させ、かつADCCレポーターアッセイでFcγRIIIa結合を低下させた。IgG1-C-E430Gは、IgG1-B-E430GおよびIgG1-A-E430Gと比較して、51Cr放出アッセイで同様の最大溶解パーセントを誘導し、かつADCCレポーターアッセイで同様のFcγRIIIa結合を誘導した。
【0019】
さらに、CD38シクラーゼ活性を阻害する抗CD38抗体の能力は、保持され得る。例えば、実施例7に示されるように、IgG1-C-E430Gは、IgG1-B-E430Gと比較してCD38シクラーゼ活性のより強い阻害を示し、前者は約40%の阻害を、後者は約25%の阻害を結果としてもたらした。理論に限定されるものではないが、CD38シクラーゼ活性のより強い阻害は、細胞質ゾルからのCa2+動員を調節する強力なセカンドメッセンジャーであるcADPRの産生を低下させる可能性があり、ひいては、Ca2+動員の減少と、増殖およびインスリン分泌などのさまざまな生物学的プロセスを制御する下流経路のシグナル伝達の低下につながる可能性がある。それゆえ、理論に限定されるものではないが、CD38シクラーゼ活性のより強い阻害は、免疫応答を抑制する免疫サプレッサー細胞の能力に影響を与える、例えば、低下させる可能性がある。
【0020】
調節することができる他の機能性には、トロゴサイトーシスが含まれる。具体的には、Daudi細胞上のCD38発現は、マクロファージおよびCD38抗体との共培養によって有意に低下した;しかし、CD38発現の低下は、E430G変異型抗体で最も強かった(実施例8)。驚くべきことに、PBMCと共培養したT制御性細胞上のCD38発現は、E430G変異型CD38抗体とのインキュベーション後にのみ低下し;T制御性細胞を抗体Bとインキュベートした場合には、CD38発現のいかなる低下も見られなかった。理論に限定されるものではないが、CD38を発現する非がん性免疫細胞、特に免疫抑制細胞のトロゴサイトーシスを誘導する抗体の能力は、腫瘍細胞がCD38を発現しているか否かにかかわらず、がん患者において腫瘍細胞に対する免疫応答の増加を結果としてもたらす可能性がある。
【0021】
抗体はまた、実施例9に示されるように、インビボで腫瘍細胞を殺傷できる可能性もあり、実施例9では、IgG1-C-E430Gの週2回の投与が、最高のCD38 mRNA発現を有する試験した5つのDLBCL PDXモデルのうち2つにおいて、腫瘍増殖を低減させた。
【0022】
定義
本明細書で使用する用語「CD38」は、一般にSEQ ID NO:38に記載の配列を有するヒトCD38(UniProtKB - P28907 (CD38_HUMAN))を指すが、文脈と矛盾しない限り、そのバリアント、アイソフォームおよびオルソログを指すこともある。S274、Q272R、T237AまたはD202G変異を有するヒトCD38のバリアントは、WO 2006/099875 A1およびWO 2011/154453 A1に記載されている。
【0023】
用語「免疫グロブリン」は、2対のポリペプチド鎖、つまり1対の低分子量軽(L)鎖と1対の重(H)鎖からなる構造的に関連した糖タンパク質のクラスを指し、4本の鎖は全てジスルフィド結合によって相互連結される可能性がある。免疫グロブリンの構造はよく特徴付けられている。例えば、Fundamental Immunology 第7章 (Paul, W.編, 第2版 Raven Press, N.Y. (1989))を参照されたい。簡単に説明すると、各重鎖は典型的には、重鎖可変(VH)領域と重鎖定常(CH)領域から構成される。CH領域は通常、CH1、CH2およびCH3の3つのドメインからなる。重鎖は一般的に、いわゆる「ヒンジ領域」でジスルフィド結合を介して相互連結されている。各軽鎖は典型的には、軽鎖可変(VL)領域と軽鎖定常領域から構成され、後者は通常、1つのドメインCLからなる。VHおよびVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる、より保存された領域の間に挟まれた、相補性決定領域(CDR)とも呼ばれる、超可変性の領域(つまり、配列および/または構造的に定義されたループの形態が超可変性であり得る超可変領域)にさらに細分することができる。各VHおよびVL領域は典型的には、3つのCDRと4つのFRで構成され、アミノ末端からカルボキシ末端へ次の順序で配置されている:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4(Chothia and Lesk J. Mol. Biol. 196, 901 917 (1987)も参照されたい)。
【0024】
特に明記しない限り、または文脈と矛盾しない限り、本明細書のCDR配列は、DomainGapAlignを使用してIMGTルールに従って同定される(Lefranc MP., Nucleic Acids Research 1999;27:209-212およびEhrenmann F., Kaas Q. and Lefranc M.-P. Nucleic Acids Res., 38, D301-307 (2010);インターネットhttpアドレスwww.imgt.org/も参照されたい)。
【0025】
特に明記しない限り、または文脈と矛盾しない限り、本発明におけるCHまたはFc領域/Fcドメインのアミノ酸位置への言及は、EU番号付けに従う(Edelman et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 1969 May;63(1):78-85; Kabat et al., Sequences of proteins of immunological interest. 第5版 - 1991 NIH発行番号91-3242)。しかし、ヒトIgG1とは別のアイソタイプのCHのアミノ酸残基は、代替的に、アミノ酸残基がEUインデックスに従って番号付けされる野生型ヒトIgG1重鎖の対応するアミノ酸位置で言及されてもよい。具体的には、対応するアミノ酸位置は、
図1に示されるように、すなわち、(a)非IgG1定常領域(またはそのセグメント)のアミノ酸配列を、アミノ酸残基がEUインデックスに従って番号付けされたヒトIgG1重鎖(またはそのセグメント)のアミノ酸配列とアラインメントし、(b)そのアミノ酸残基がIgG1重鎖中のどのアミノ酸位置にアラインメントされるかを特定することによって、同定することができる。したがって、そのようなアミノ酸残基の位置は、本明細書では「に対応する位置のアミノ酸残基」と称することができ、その後に、EUインデックスに従って番号付けされた野生型ヒトIgG1重鎖のアミノ酸位置が続く。いくつかの異なるアミノ酸位置のうちの1つまたは複数を指す場合、これは、本明細書では、「に対応する位置からなる群より選択される位置の1つまたは複数のアミノ酸残基の変異」、「に対応する位置の1つまたは複数のアミノ酸残基の変異」、または単に「に対応する群から選択される1つまたは複数のアミノ酸残基の変異」と称することができ、その後に、アミノ酸残基がEUインデックスに従って番号付けされたヒト野生型IgG1重鎖の2つ以上のアミノ酸位置(例えば、E430、E345およびS440)が続く。
【0026】
本明細書で使用する用語「ヒンジ領域」は、免疫グロブリン重鎖のヒンジ領域を指すことを意図している。それゆえ、例えば、ヒトIgG1抗体のヒンジ領域は、EU番号付けに従ってアミノ酸216-230に対応する。
【0027】
本明細書で使用する用語「CH2領域」または「CH2ドメイン」は、免疫グロブリン重鎖のCH2領域を指すことを意図している。それゆえ、例えば、ヒトIgG1抗体のCH2領域は、EU番号付けに従ってアミノ酸231-340に対応する。しかしながら、CH2領域はまた、本明細書に記載される他のサブタイプのいずれであってもよい。
【0028】
本明細書で使用する用語「CH3領域」または「CH3ドメイン」は、免疫グロブリン重鎖のCH3領域を指すことを意図している。それゆえ、例えば、ヒトIgG1抗体のCH3領域は、EU番号付けに従ってアミノ酸341-447に対応する。しかしながら、CH3領域はまた、本明細書に記載される他のサブタイプのいずれであってもよい。
【0029】
本発明の文脈における用語「抗体」(Ab)は、抗原に特異的に結合する能力を有する、免疫グロブリン分子、免疫グロブリン分子のフラグメント、またはそれらのいずれかの誘導体を指す。本発明の抗体は、免疫グロブリンのFc領域(本明細書では「Fcドメイン」とも呼ばれる)と抗原結合領域とを含む。抗体は一般に、2つのCH2-CH3領域と連結領域、例えばヒンジ領域を含み、例えば、少なくともFcドメインを含む。こうして、本発明の抗体は、Fc領域と抗原結合領域とを含むことができる。免疫グロブリン分子の重鎖と軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含む。抗体の定常領域または「Fc」領域は、免疫系のさまざまな細胞(エフェクター細胞など)、補体活性化の古典的経路の最初の成分であるC1qなどの補体系の成分を含めて、宿主組織または因子への免疫グロブリンの結合を媒介することができる。本明細書で使用する場合、文脈と矛盾しない限り、免疫グロブリンのFc領域は、典型的には、免疫グロブリンCHの少なくともCH2ドメインとCH3ドメインを含み、かつ連結領域、例えばヒンジ領域を含んでもよい。Fc領域は、典型的には、例えば、2つのヒンジ領域を連結するジスルフィド架橋および/または2つのCH3領域間の非共有結合的相互作用を介して、二量体化された形態である。二量体は、ホモ二量体(2つのFc領域単量体のアミノ酸配列が同一である)またはヘテロ二量体(2つのFc領域単量体のアミノ酸配列が1つまたは複数のアミノ酸で異なる)であり得る。好ましくは、二量体はホモ二量体である。全長抗体のFc領域フラグメントは、例えば、当技術分野でよく知られるように、全長抗体をパパインで消化することによって生成することができる。本明細書で定義される抗体は、Fc領域と抗原結合領域に加えて、免疫グロブリンCH1領域およびCL領域のいずれか一方または両方をさらに含み得る。抗体はまた、二重特異性抗体または類似の分子などの、多重特異性抗体であり得る。用語「二重特異性抗体」は、少なくとも2つの異なる、典型的には重複しない、エピトープに対する特異性を有する抗体を指す。そのようなエピトープは、同じ標的上にあってもよいし、異なる標的上にあってもよい。エピトープが異なる標的上にある場合、そのような標的は、同じ細胞または異なる細胞もしくは細胞タイプ上にあり得る。上記のように、特に明記しない限り、または文脈と明らかに矛盾しない限り、本明細書での抗体という用語は、Fc領域の少なくとも一部を含みかつ抗原に特異的に結合する能力を保持する、抗体のフラグメントを含む。そのようなフラグメントは、酵素的切断、ペプチド合成および組換え発現技術などの、任意の公知技術によって提供され得る。抗体の抗原結合機能は、全長抗体のフラグメントによって遂行され得ることが示されている。「Ab」または「抗体」という用語に含まれる結合フラグメントの例には、限定するものではないが、以下が含まれる:1価の抗体(Genmab社によるWO2007059782に記載);2本の重鎖のみで構成される重鎖抗体であって、ラクダなどに天然に存在する抗体(例えば、Hamers-Casterman (1993) Nature 363:446);ThioMab(Roche社, WO2011069104);非対称的で二重特異性抗体様の分子である、鎖交換改変ドメイン(strand-exchange engineered domain)(SEEDまたはSeed-body)(Merck社, WO2007110205);Triomab(Pharma/Fresenius Biotech社, Lindhofer et al. 1995 J Immunol 155:219; WO2002020039);FcΔAdp(Regeneron社, WO2010151792);Azymetric Scaffold(Zymeworks/Merck社, WO2012/058768);mAb-Fv(Xencor社, WO2011/028952);Xmab (Xencor社);二重可変領域抗体(Abbott社, DVD-Ig, 米国特許第7,612,181号);デュアルドメインダブルヘッド抗体(Unilever社; Sanofi Aventis社, WO20100226923);ジ-ダイアボディ(ImClone/Eli Lilly社);ノブ・イントゥ・ホール(Knob-into-hole)抗体フォーマット(Genentech社, WO9850431);DuoBody(Genmab社, WO 2011/131746);二重特異性IgG1およびIgG2(Pfizer/Rinat社, WO11143545);DuetMab(MedImmune社, US2014/0348839);静電ステアリング(Electrostatic steering)抗体フォーマット(Amgen社, EP1870459およびWO 2009089004; Chugai社, US201000155133; Oncomed社, WO2010129304A2);二重特異性IgG1およびIgG2(Rinat neurosciences Corporation, WO11143545);CrossMAb(Roche社, WO2011117329);LUZ-Y(Genentech社);Biclonic(Merus社, WO2013157953);デュアルターゲティングドメイン抗体(GSK/Domantis社);2つの標的を認識するツー・イン・ワン抗体またはデュアルアクションFab(Genentech社, NovImmune社, Adimab社);架橋Mab(Karmanos Cancer Center);共有結合で融合したmAb(AIMM社);CovX-body(CovX/Pfizer社);FynomAb(Covagen/Janssen ilag社);DutaMab(Dutalys/Roche社);iMab(MedImmune社);IgG様二重特異性(ImClone/Eli Lilly社, Shen, J., et al. J Immunol Methods, 2007. 318(1-2): p. 65-74);TIG-body、DIG-bodyおよびPIG-body(Pharmabcine社);デュアルアフィニティリターゲティング分子(Fc-DARTまたはIg-DART, Macrogenics社による, WO/2008/157379, WO/2010/080538);BEAT(Glenmark社);Zybody(Zyngenia社);共通の軽鎖を用いたアプローチ(Crucell/Merus社, US7262028)または共通の重鎖を用いたアプローチ(NovImmune社によるκλBody, WO2012023053);ならびにscFv-融合体のようなFc領域を含む抗体フラグメントに融合させたポリペプチド配列を含む融合タンパク質、例えば、ZymoGenetics/BMS社によるBsAb,Biogen Idec社によるHERCULES(US007951918),Emergent BioSolutions/Trubion社およびZymogenetics/BMS社によるSCORPIONS,Ts2Ab(MedImmune/AZ社,Dimasi, N., et al. J Mol Biol, 2009. 393(3): p. 672-92),Genentech/Roche社によるscFv融合体,Novartis社によるscFv融合体,Immunomedics社によるscFv融合体,Changzhou Adam Biotech社によるscFv融合体(CN 102250246),Roche社によるTvAb(WO 2012025525, WO 2012025530),f-Star社によるmAb2(WO2008/003116),およびデュアルscFv-融合体。抗体という用語は、特に明記しない限り、以下を含むことを理解されたい:モノクローナル抗体(ヒトモノクローナル抗体など)、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、単一特異性抗体(2価の単一特異性抗体など)、二重特異性抗体、任意のアイソタイプおよび/またはアロタイプの抗体;例えばSymphogenとMerusが開発した技術(Oligoclonics)によって作成された、抗体混合物(組換えポリクローナル)、WO2015/158867に記載される多量体Fcタンパク質、およびWO2014/031646に記載される融合タンパク質。これらの異なる抗体フラグメントおよびフォーマットは一般に抗体の意味に含まれるが、それらは集合的にかつそれぞれ独立して、本発明のユニークな特徴であり、異なる生物学的特性および有用性を示す。
【0030】
本明細書に記載の「CD38抗体」または「抗CD38抗体」は、抗原CD38に特異的に結合する抗体である。
【0031】
本明細書で使用する用語「ヒト抗体」は、ヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域と定常領域を有する抗体を含むことを意図している。本発明のヒト抗体は、ヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基(例えば、インビトロでのランダムもしくは部位特異的変異誘発によって、またはインビボでの体細胞変異によって導入された変異、挿入または欠失)を含んでもよい。しかし、本明細書で使用する用語「ヒト抗体」は、マウスなどの別の哺乳動物種の生殖細胞系列に由来するCDR配列がヒトフレームワーク配列にグラフトされている抗体を含むことを意図していない。
【0032】
本明細書で使用する用語「モノクローナル抗体」、「モノクローナルAb」、「モノクローナル抗体組成物」、「mAb」などは、単一分子組成のAb分子の調製物を指す。モノクローナル抗体組成のAb分子は、特定のエピトープに対する単一の結合特異性および親和性を示す、単一特異性であり得、または二重特異性などの多重特異性であり得る。したがって、用語「ヒトモノクローナル抗体」は、ヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域と定常領域を有する、単一特異性または多重特異性Abを指す。ヒトmAbはハイブリドーマから産生させることができ、該ハイブリドーマは、機能性ヒト抗体を産生するように再配列された、ヒト重鎖トランスジーンレパートリーと軽鎖トランスジーンレパートリーを含むゲノムを有する、トランスジェニックマウスまたはラットなどの、トランスジェニックまたはトランスクロモソーマル非ヒト動物から得られたB細胞を、不死化細胞に融合させたものである。ヒトmAbは、組換え手段によって産生させることもできる。
【0033】
本明細書で使用する「アイソタイプ」は、重鎖定常領域遺伝子によってコードされる免疫グロブリンクラスを指し、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgD、IgA1、IgA2、IgEおよびIgM、ならびにそれらの任意のアロタイプ、例えばIgG1m(z)、IgG1m(a)、IgG1m(x)、IgG1m(f)など、およびそれらの混合アロタイプ、例えばIgG1m(za)、IgG1m(zax)、IgG1m(fa)などを含む(例えば、de Lange, Experimental and Clinical Immunogenetics 1989;6(1):7-17を参照されたい)。
【0034】
さらに、各重鎖アイソタイプは、カッパ(κ)またはラムダ(λ)軽鎖のいずれかと組み合わせることができる。本明細書で使用する用語「混合アイソタイプ」は、あるアイソタイプの構造的特徴を別のアイソタイプからの類似領域と組み合わせてハイブリッドアイソタイプを生成することによって得られる免疫グロブリンのFc領域を指す。混合アイソタイプは、次のIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgD、IgA1、IgGA2、IgEまたはIgMから選択される2つ以上のアイソタイプからなる配列を有するFc領域を含み、それにより、例えばIgG1/IgG3、IgG1/IgG4、IgG2/IgG3、IgG2/IgG4またはIgG1/IgAなどの組み合わせを生成することができる。
【0035】
本明細書で使用するときの用語「全長抗体」とは、任意の記載された変異を除いて、問題のアイソタイプの野生型抗体に通常見られるものに対応する、全ての重鎖および軽鎖の定常ドメインと可変ドメインを含む抗体を指す。
【0036】
本明細書で使用するときの「全長2価単一特異性モノクローナル抗体」とは、1対の同一のHCと1対の同一のLCによって形成された2価の単一特異性抗体を指し、定常ドメインと可変ドメインは、任意の記載された変異を除いて、問題の特定のアイソタイプの抗体に通常見られるものに対応する。
【0037】
本明細書で使用する「抗原結合領域」、「結合領域」または抗原結合ドメインという用語は、抗原に結合することができる抗体の領域を指す。この結合領域は、典型的には、抗体のVHドメインとVLドメインによって定義され、これらのドメインは、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる、より保存された領域の間に挟まれた、相補性決定領域(CDR)とも呼ばれる超可変性の領域(つまり、配列および/または構造的に定義されたループの形態が超可変性であり得る超可変領域)にさらに細分することができる。抗原は、例えば細胞上に存在する、ポリペプチドなどの、任意の分子であり得る。
【0038】
本明細書で使用する用語「標的」は、抗体の抗原結合領域が結合する分子を指す。標的には、産生された抗体に対する任意の抗原が含まれる。用語「抗原」および「標的」は、抗体との関連で交換可能に使用することができ、本発明の任意の局面または態様に関して同じ意味および目的を構成し得る。
【0039】
用語「エピトープ」は、抗体可変ドメインに特異的に結合することができるタンパク質決定基を意味する。エピトープは通常、アミノ酸、糖側鎖、またはそれらの組み合わせなどの分子の表面グルーピングからなり、通常は特定の3次元構造特性ならびに特定の電荷特性を有する。立体構造エピトープと非立体構造エピトープは、変性溶媒の存在下で前者への結合は失われるが後者への結合は失われないという点で区別される。エピトープは、結合に直接関与するアミノ酸残基(エピトープのイムノドミナント成分とも呼ばれる)および結合に直接関与しない他のアミノ酸残基を含み得る。
【0040】
本明細書で使用する「バリアント」は、1つまたは複数のアミノ酸残基が参照配列とは異なっているタンパク質配列またはポリペプチド配列を指す。バリアントは、例えば、参照配列に対して少なくとも80%、例えば、90%、95%、97%、98%、または99%の配列同一性を有し得る。さらに、または代替的に、バリアントは、アミノ酸残基の12個以下の変異、例えば11、10、9、8、7、6、5、4、3、2または1個の変異、例えば置換、挿入または欠失によって参照配列と異なっていてもよい。
【0041】
本発明との関係において、保存的置換は、以下のアミノ酸のクラス内の置換として定義され得る:
- 酸性残基:Asp (D)およびGlu (E)
- 塩基性残基:Lys (K)、Arg (R)、およびHis (H)
- 親水性非荷電残基:Ser (S)、Thr (T)、Asn (N)、およびGln (Q)
- 脂肪族非荷電残基:Gly (G)、Ala (A)、Val (V)、Leu (L)、およびIle (I)
- 非極性非荷電残基:Cys (C)、Met (M)、およびPro (P)
- 芳香族残基:Phe (F)、Tyr (Y)、およびTrp (W)
【0042】
代替の保存的アミノ酸残基置換クラス:
1. A S T
2. D E
3. N Q
4. R K
5. I L M
6. F Y W
【0043】
アミノ酸残基の代替の物理的および機能的分類:
- アルコール基含有残基:SおよびT
- 脂肪族残基:I、L、V、およびM
- シクロ-アルケニル関連残基:F、H、W、およびY
- 疎水性残基:A、C、F、G、H、I、L、M、R、T、V、W、およびY
- 負に荷電した残基:DおよびE
- 極性残基:C、D、E、H、K、N、Q、R、S、およびT
- 正に荷電した残基:H、K、およびR
- 小さな残基:A、C、D、G、N、P、S、T、およびV
- 非常に小さな残基: A、G、およびS
- ターン形成に関与する残基:A、C、D、E、G、H、K、N、Q、R、S、P、およびT
- 柔軟性のある残基:Q、T、K、S、G、N、D、E、およびR
【0044】
本明細書で使用する「配列同一性」は、2つの配列の最適なアラインメントのために導入する必要があるギャップの数と、各ギャップの長さを考慮に入れて、2つの配列によって共有される同一の位置の数の関数としての2つの配列間の同一性パーセントを指す(すなわち、相同性パーセント=同一位置の数/位置の総数×100)。2つのヌクレオチドまたはアミノ酸配列間の同一性パーセントは、例えば、ALIGNプログラム(バージョン2.0)に組み込まれたE. Meyers and W. Miller, Comput. Appl. Biosci 4, 11-17 (1988)のアルゴリズムを使用して、PAM 120 weight residue table、gap length penalty 12およびgap penalty 4を用いて、決定することができる。さらに、2つのアミノ酸配列間の同一性パーセントは、Needleman and Wunsch, J. Mol. Biol. 48, 444-453 (1970)のアルゴリズムを使用して決定することができる。配列アラインメントのための他のツールはインターネット上で公開されており、EMBL-EBIウェブサイトwww.ebi.ac.uk上のClustal OmegaおよびEMBOSS Needleが含まれるが、これらに限定されない。通常、デフォルト設定が使用され得る。
【0045】
本発明の文脈においては、特に指示のない限り、変異を説明するために以下の表記法が使用される:変異しているアミノ酸の名前、その後に変異している位置番号が続き、その変異が何を含むかが続く。こうして、変異が置換である場合は、前のアミノ酸を置き換えるアミノ酸の名前が含まれ、アミノ酸が欠失される場合は「*」で示され、変異が付加である場合は、付加されるアミノ酸がオリジナルのアミノ酸の後に含まれる。アミノ酸名は1文字コードであっても、または3文字コードであってもよい。したがって、例えば、430位のグルタミン酸のグリシンによる置換はE430Gと示され、430位のグルタミン酸の任意のアミノ酸による置換はE430Xと示され、430位のグルタミン酸の欠失はE430*と示され、E430位のグルタミン酸の後のプロリンの付加はE430EPと示される。
【0046】
本明細書で使用する「免疫抑制細胞」とは、例えば、エフェクターT細胞の活性を抑制しかつ/またはT細胞の増殖を阻害することによって、対象における免疫応答を抑制し得る免疫細胞を指す。そのような免疫抑制細胞の例には、制御性T細胞(Treg)、制御性B細胞(Breg)、および骨髄由来サプレッサー細胞(MDSC)が含まれるが、これらに限定されない。さらに、免疫抑制性NK細胞、NKT細胞、マクロファージおよび抗原提示細胞(APC)が存在する。免疫抑制性NK細胞の表現型の一例は、CD56brightCD16-である。
【0047】
「制御性T細胞」または「Tregs」もしくは「Treg」は、他のT細胞および/または他の免疫細胞の活性を、通常はそれらの活性を抑制することによって、調節するTリンパ球を指す。Treg表現型の一例は、CD3+CD4+CD25+CD127dimである。TregはさらにFoxp3を発現する可能性がある。Tregはこの表現型に完全に制限され得ないことを理解されたい。
【0048】
「エフェクターT細胞」または「Teffs」もしくは「Teff」は、腫瘍細胞を殺傷する、および/または体内からの腫瘍細胞のクリアランスをもたらす抗腫瘍免疫応答を活性化するなど、免疫応答の機能を遂行するTリンパ球を指す。Teff表現型の例には、CD3+CD4+およびCD3+CD8+が含まれる。Teffは、IFNγ、グランザイムB、ICOSなどのマーカーを分泌、含有、または発現することができる。Teffはこれらの表現型に完全に制限され得ないことを理解されたい。
【0049】
「骨髄由来サプレッサー細胞」または「MDSCs」もしくは「MDSC」は、マクロファージ/単球マーカーCD11bおよび顆粒球マーカーGr-1/Ly-6Gを発現する造血系統の細胞の特定の集団を指す。MDSC表現型の一例は、CD11b+HLA-DR-CD14-CD33+CD15+である。MDSCはまた、典型的には、成熟抗原提示細胞マーカーMHCクラスIIおよびF480の低発現または検出不能な発現を示す。MDSCは骨髄系統の未成熟細胞であり、マクロファージ、好中球、樹状細胞、単球、顆粒球などの他の細胞タイプにさらに分化し得る。MDSCは、ヒトと動物の正常な成体骨髄に、または脾臓などの正常な造血部位に自然に見られる。
【0050】
「制御性B細胞」または「Breg」もしくは「Bregs」は、免疫応答を抑制するBリンパ球を指す。Breg表現型の一例は、CD19+CD24+CD38+である。Bregは、Bregが分泌するIL-10によって媒介されるT細胞の増殖を阻害することで、免疫応答を抑制し得る。当然ながら、他のBregサブセットが存在しており、例えば、Ding et al., (2015) Human Immunology 76: 615-621に記載されている。
【0051】
本明細書で使用する用語「エフェクター細胞」は、免疫応答のエフェクター相(effector phase)に関与する免疫細胞を指す。例示的な免疫細胞には、骨髄またはリンパ系起源の細胞、例えばリンパ球(B細胞および細胞溶解性T細胞(CTL)を含むT細胞など)、キラー細胞、ナチュラルキラー細胞、マクロファージ、単球、好酸球、多形核細胞、例えば好中球、顆粒球、マスト細胞、好塩基球などが含まれる。一部のエフェクター細胞は、Fc受容体(FcR)または補体受容体を発現して、特定の免疫機能を果たしている。いくつかの態様では、例えばナチュラルキラー細胞のようなエフェクター細胞は、ADCCを誘導することができる。例えば、FcRを発現する単球、マクロファージ、好中球、樹状細胞、およびクッパー細胞は、標的細胞の特異的殺傷および/または免疫系の他の成分への抗原の提示、および/または抗原を提示する細胞への結合に関与している。いくつかの態様では、ADCCは抗体駆動の古典的補体活性化によってさらに増強され、結果として、活性化されたC3フラグメントの標的細胞上への沈着をもたらし得る。C3切断産物は、骨髄細胞上に発現される補体受容体(CR)、例えばCR3、のリガンドである。エフェクター細胞上のCRによる補体フラグメントの認識は、Fc受容体介在性ADCCの増強を促進する可能性がある。いくつかの態様では、抗体駆動の古典的補体活性化は、標的細胞上にC3フラグメントを導く。これらのC3切断産物は、直接的な補体依存性細胞傷害(CDCC)を促進し得る。いくつかの態様では、エフェクター細胞は標的抗原、標的粒子または標的細胞を貪食することができるが、これは抗体結合に依存し、かつエフェクター細胞により発現されるFcγRによって媒介され得る。エフェクター細胞上の特定のFcRまたは補体受容体の発現は、サイトカインなどの体液性因子によって制御され得る。例えば、FcγRIの発現は、インターフェロンγ(IFNγ)および/またはG-CSFによってアップレギュレートされることがわかっている。この増強された発現は、標的に対するFcγRI保有細胞の細胞傷害性を増加させる。エフェクター細胞は、標的抗原を貪食したり、標的細胞を貪食または溶解したりすることができる。いくつかの態様では、抗体駆動の古典的補体活性化によって、標的細胞上にC3フラグメントがもたらされる。こうしたC3切断産物は、エフェクター細胞による直接的な貧食を促進するか、抗体介在性貧食を増強することによって間接的に促進することができる。
【0052】
本明細書で使用する用語「Fcエフェクター機能」は、ポリペプチドまたは抗体が細胞膜上の、抗原などの、その標的に結合した結果である機能を指すことを意図しており、そこでは、Fcエフェクター機能がポリペプチドまたは抗体のFc領域に依存している。Fcエフェクター機能の例には、以下が含まれる:(i)C1q結合、(ii)補体活性化、(iii)補体依存性細胞傷害(CDC)、(iv)抗体依存性細胞介在性傷害(ADCC)、(v)Fcγ受容体結合、(vi)抗体依存性細胞貧食(ADCP)、(vii)補体依存性細胞傷害(CDCC)、(viii)補体増強細胞傷害、(ix)抗体によって媒介されるオプソニン化抗体の補体受容体への結合、(x)オプソニン化、(xi)トロゴサイトーシス、および(xii)(i)~(xi)のいずれかの組み合わせ。
【0053】
本明細書で使用する用語「補体活性化」とは、表面上の抗体-抗原複合体に結合するC1と呼ばれる大きな高分子複合体によって開始される古典的補体経路の活性化を指す。C1は、6つの認識タンパク質C1qとセリンプロテアーゼのヘテロ四量体C1r2C1s2で構成される複合体である。C1は、C4のC4aとC4bへの切断、およびC2のC2aとC2bへの切断から始まる一連の切断反応を伴う、古典的補体カスケードの初期イベントにおける最初のタンパク質複合体である。C4bは沈着し、C2aと共にC3コンバターゼと呼ばれる酵素活性コンバターゼを形成する;C3コンバターゼは補体成分C3をC3bとC3aに切断し、C5コンバターゼを形成する。このC5コンバターゼはC5をC5aとC5bに分割し、最後の成分が膜に沈着する;それが次に補体活性化の後期イベントを引き起こし、そのイベントでは終末補体成分C5b、C6、C7、C8、C9が集合して膜侵襲複合体(membrane attack complex)(MAC)になる。この補体カスケードの結果、細胞膜に細孔が形成され、補体依存性細胞傷害(CDC)としても知られる細胞の溶解が起こる。補体活性化は、C1qの効力、CDC動態CDCアッセイ(WO2013/004842、WO2014/108198に記載される)を用いて、またはBeurskens et al., J Immunol April 1, 2012 vol. 188 no. 7, 3532-3541に記載される方法Cellular deposition of C3b and C4bにより評価することができる。
【0054】
本明細書で使用する用語「補体依存性細胞傷害」(CDC)とは、抗体が結合している細胞の溶解をもたらす抗体介在性補体活性化のプロセスを指すことを意図しており、このプロセスは、理論に拘束されるものではないが、いわゆる膜侵襲複合体(MAC)の集合によって形成された膜の細孔の結果であると考えられる。CDCを評価するための適切なアッセイは当技術分野で知られており、例えば、実施例3に記載されるような、正常ヒト血清を補体源として使用するインビトロアッセイが含まれる。CD38抗体によって媒介されるCD38発現細胞の最大溶解、またはEC50値を決定するためのアッセイの非限定的な例は、以下の段階を含み得る:
(a)マルチウェルプレートで、ウェルあたり0.2%のBSAを添加した培地40μLに約100,000個のCD38発現細胞をプレーティングする段階;
(b)細胞を40μLの段階希釈したCD38抗体(0.0002~10μg/mL)と共に20分間プレインキュベートする段階;
(c)各ウェルを20%のプールした正常ヒト血清と共に37℃で45分間インキュベートする段階;
(d)生死判別色素を添加し、フローサイトメーターで細胞溶解の割合を測定する段階;
(e)最大溶解を決定し、かつ/または非線形回帰を用いてEC50値を計算する段階。
【0055】
本明細書で使用する用語「抗体依存性細胞介在性細胞傷害」または「抗体依存性細胞傷害」(「ADCC」)とは、結合した抗体の定常領域を認識するFc受容体を発現する細胞による抗体被覆標的細胞の殺傷メカニズムを指すことを意図している。ADCCを評価するための適切なアッセイは当技術分野で知られており、例えば、実施例4に記載のアッセイが含まれる。CD38抗体によって媒介されるCD38発現細胞のADCCを調べるためのアッセイの非限定的な例は、以下に記載される51Cr放出アッセイまたはレポーターアッセイの段階を含み得る。
【0056】
51
Cr放出アッセイによるADCC
(a)マルチウェルプレートで、ウェルあたり0.2%のBSAを添加した50μLの培地に約5,000個の51Cr標識CD38発現細胞(例えば、Daudi細胞)をプレーティングする段階;
(b)50μLの段階希釈したCD38抗体(0.0002~10μg/mL)と共に細胞を15分間プレインキュベートする段階;
(c)各ウェルを、ウェルあたり500,000個の新たに分離した末梢血単核細胞(PBMC)と共に37℃で4時間インキュベートする段階;
(d)ガンマカウンターで75μLの上清中の51Crの放出量を測定する段階;
(e)細胞溶解の割合を(cpmサンプル-cpm自然溶解)/(cpm最大溶解-cpm自然溶解)として計算する段階、ここで、cpmは1分あたりのカウント数である。
【0057】
レポーターアッセイによるADCC
(a)光学的読み取りに適したマルチウェルプレート(例えば、PerkinElmer社からの384ウェルOptiPlates)で、25%の低IgG血清を添加した標準培地(例えば、RPMI 1640)に、10μL中の約5,000個のCD38発現細胞(例えば、Daudi細胞)をプレーティングする段階;
(b)各ウェルを、エフェクター細胞としてFcγRIIIa受容体、V158(高親和性)バリアント、およびホタルルシフェラーゼの発現を駆動するNFAT応答エレメントを安定して発現する10μLの遺伝子操作したJurkat細胞、ならびに10μLの段階希釈したCD38抗体(0.0002~10μg/mL)と共に、37℃で6時間インキュベートする段階;
(c)各ウェルを30μLのルシフェラーゼ基質と共に室温で5分間インキュベートして、発光を測定する段階。
【0058】
本明細書で使用する用語「抗体依存性細胞貧食」(「ADCP」)とは、食細胞による内在化によって抗体被覆標的細胞を排除するメカニズムを指すことを意図している。内在化された抗体被覆標的細胞はファゴソーム(phagosome)と呼ばれる小胞内に含まれ、ファゴソームはその後1つまたは複数のリソソームと融合してファゴリソソーム(phagolysosome)を形成する。ADCPを評価するための適切なアッセイは当技術分野で知られており、例えば、エフェクター細胞としてマクロファージを用いるインビトロ細胞傷害アッセイ、およびvan BijらによりJournal of Hepatology Volume 53, Issue 4, October 2010, Pages 677-685に記載されるビデオ顕微鏡法、および実施例5に記載されるインビトロ細胞傷害アッセイが含まれる。CD38抗体によって媒介されるCD38発現細胞のADCPを調べるためのアッセイの非限定的な例は、以下の段階を含み得る:
(a)新たに分離した単球を、GM-CSF含有培地で5日間インキュベートすることにより、マクロファージに分化させる段階;
(b)マルチウェルプレートでウェルあたり約100,000個のマクロファージをGM-CSF含有樹状細胞培地にプレーティングする段階;
(c)ウェルあたり20,000個の一般的な蛍光膜色素で標識したCD38抗体オプソニン化CD38発現細胞(例えば、Daudi細胞)を37℃で45分間添加する段階;
(d)フローサイトメーターでCD14陽性、CD19陰性、膜色素陽性のマクロファージの割合を測定する段階。
【0059】
本明細書で使用する「トロゴサイトーシス」とは、ドナー細胞から、エフェクター細胞などのアクセプター細胞への、細胞表面分子の移動を特徴とするプロセスを指す。典型的なアクセプター細胞には、T細胞、B細胞、単球/マクロファージ、樹状細胞、好中球、およびNK細胞が含まれる。細胞表面分子、例えばCD38などの、ドナー細胞からアクセプター細胞へのトロゴサイトーシスを介した移動はまた、抗体-抗原複合体のドナー細胞からアクセプター細胞への移動、すなわち、抗体が細胞表面分子に結合している抗体-抗原複合体の移動をもたらすことができる。特に、アクセプター細胞がFcγ受容体(FcγR)を発現するエフェクター細胞である場合は、特殊な形態のトロゴサイトーシスが発生する可能性がある;こうしたアクセプター細胞は、通常は抗体のFc領域にFcγRが結合した後、ドナー細胞上の標的抗原に結合した特定の抗体から成るドナー細胞関連免疫複合体を取り込んで、内在化し得る。トロゴサイトーシスを評価するための適切なアッセイは当技術分野で知られており、例えば、実施例8に記載のアッセイが含まれる。CD38抗体によって媒介されるCD38発現細胞のトロゴサイトーシスを調べるためのアッセイの非限定的な例は、以下を含む。
【0060】
トロゴサイトーシス(Daudi細胞):
(a')新たに分離した単球を、5日間のGM-CSFにより、マクロファージに分化させる段階;
(b')ウェルあたり約100,000個のマクロファージをGM-CSF含有樹状細胞培地にプレーティングする段階;
(c')ウェルあたり約20,000個の、一般的な蛍光膜色素で標識した、CD38抗体オプソニン化Daudi細胞を37℃で45分間添加する段階;
(d')フローサイトメーターでDaudi細胞上のCD38発現を測定する段階、ここで、対照と比較してCD38抗体オプソニン化Daudi細胞上のCD38の減少は、トロゴサイトーシスを示す。
【0061】
トロゴサイトーシス(Treg):
(a)細胞培養培地に、ウェルあたり約500,000個の新たに分離したPBMCを37℃で一晩プレーティングする段階;
(b)ウェルあたり約100,000個の、一般的な蛍光細胞内アミン色素で標識した、CD38抗体オプソニン化Tregを37℃で一晩添加する段階;および
(c)フローサイトメーターでTreg上のCD38発現を測定する段階であって、対照と比較して、CD38抗体オプソニン化Treg上のCD38の減少はトロゴサイトーシスを示す、段階。
【0062】
対照は、問題になっている研究またはアッセイの特定の目的に基づいて、当業者により選択され得る。しかし、対照の非限定的な例としては、(i)抗体の非存在、および(ii)アイソタイプ対照抗体が挙げられる。アイソタイプ対照抗体の一例は、表1に記載されるVH配列とVL配列を有する抗体b12である。本明細書に記載の抗体のトロゴサイトーシス効果を評価することが望まれるいくつかの態様では、対照は、(iii)異なる抗原結合領域および/もしくは異なるFc領域を有する参照抗体であり得る。
【0063】
いくつかの態様では、段階(b)において、蛍光細胞内アミン色素に加えて、またはその代わりに、Tregは一般的な蛍光膜色素で標識される。
【0064】
いくつかの態様では、上で概説したトロゴサイトーシスアッセイの段階(d’)および(c)において、ドナー細胞上のCD38抗体の減少も測定され得る。例えば、CD38抗体がヒトIgG(huIgG)抗体である場合、二次抗体を用いてhuIgGを検出することができる。
【0065】
Daudi細胞(ATCC CCL-213)のほかに、第1のアッセイに適した腫瘍細胞には、表2に記載されるもの、特に高いCD38発現を有するものが含まれるが、これらに限定されない。
【0066】
Tregのほかに、第2のアッセイに適したCD38発現細胞には、例えば、NK細胞、B細胞、T細胞、単球などの免疫細胞、および表2に記載される腫瘍細胞、特に低いCD38発現レベルを有するものが含まれる。
【0067】
本明細書で使用する用語「ベクター」は、ベクターに連結された核酸セグメントの転写を誘導することができる核酸分子を指すことを意図している。ベクターの1つのタイプは「プラスミド」であり、これは環状の二本鎖DNAループの形をしている。別のタイプのベクターはウイルスベクターであり、この場合には核酸セグメントをウイルスゲノムに連結することができる。ある種のベクターは、そのベクターが導入された宿主細胞内で自律複製する能力がある(例えば、細菌の複製起点を有する細菌ベクター、およびエピソーマル哺乳動物ベクター)。その他のベクター(例えば、非エピソーマル哺乳動物ベクター)は、宿主細胞への導入時に宿主細胞のゲノムに組み込まれ、それにより、宿主ゲノムと共に複製される。さらに、ある種のベクターは、そのベクターに機能的に連結された遺伝子の発現を誘導する能力がある。そのようなベクターは、本明細書では「組換え発現ベクター」(または単に「発現ベクター」)と呼ばれる。一般に、組換えDNA技術で有用な発現ベクターは、プラスミドの形をしていることが多い。本明細書では、プラスミドは最も一般的に使用されるベクターの形であるため、「プラスミド」と「ベクター」は交換可能に使用され得る。しかし、本発明は、同等の機能を果たす、ウイルスベクター(例えば、複製欠損レトロウイルス、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルス)などの、そのような他の形の発現ベクターを含むことを意図している。
【0068】
本明細書で使用する用語「組換え宿主細胞」(または単に「宿主細胞」)は、1つまたは複数の発現ベクターが導入されている細胞を指すことを意図している。例えば、本明細書に記載のCD38抗体のHCおよびLCは、両方とも、同じ発現ベクターによってコードされていてよく、宿主細胞はその発現ベクターでトランスフェクションされる。あるいは、本明細書に記載のCD38抗体のHCおよびLCは、異なる発現ベクターによってコードされていてよく、宿主細胞はそれらの発現ベクターでコトランスフェクションされる。当然のことながら、「宿主細胞」という用語は、特定の対象細胞だけでなく、そのような細胞の子孫をも指すことを意図している。突然変異または環境の影響により、ある種の改変が後続の世代で起こり得るため、そのような子孫は、実際には親細胞と同一ではない可能性があるが、それにもかかわらず本明細書で使用する用語「宿主細胞」の範囲内に含まれる。組換え宿主細胞には、例えば、CHO細胞、HEK-293細胞、PER.C6細胞、NS0細胞、リンパ球細胞などのトランスフェクトーマ、大腸菌(E. coli)などの原核細胞、および植物細胞、真菌などの他の真核細胞宿主が含まれる。
【0069】
本明細書で使用する用語「トランスフェクトーマ」(transfectoma)は、Abまたは標的抗原を発現する組換え真核宿主細胞、例えば、CHO細胞、PER.C6細胞、NS0細胞、HEK-293細胞、植物細胞、または酵母細胞などの真菌を含む。
【0070】
用語「治療」は、症状または病状を緩和、改善、阻止または根絶(治癒)することを目的として、有効量の本発明の薬学的組成物を投与することを指す。
【0071】
用語「有効量」または「治療上有効な量」は、所望の治療結果を達成するための、必要な投与量および期間にわたる、有効な量を指す。抗体の治療上有効な量は、個体の病状、年齢、性別、および体重、ならびに個体において所望の応答を引き出す抗体の能力などの要因により変化し得る。治療上有効な量はまた、薬学的組成物の治療上有益な効果がその毒性または有害作用に上回る量である。
【0072】
発明の具体的な態様
一局面では、
(a)・SEQ ID NO:2に記載の配列を有するVH CDR1、SEQ ID NO:3に記載の配列を有するVH CDR2、SEQ ID NO:4に記載の配列を有するVH CDR3、SEQ ID NO:6に記載の配列を有するVL CDR1、配列AASを有するVL CDR2、およびSEQ ID NO:7に記載の配列を有するVL CDR3を含む、抗原結合領域、ならびに
・ヒトIgG1重鎖中のE430、E345およびS440に対応する群から選択される1つまたは複数のアミノ酸残基の変異を含む、Fc領域であって、該アミノ酸残基がEUインデックスに従って番号付けされる、Fc領域
を含む、1~200 mg/mLのヒトCD38に結合する抗体;
(b)5~40 mMのヒスチジンまたは酢酸;
(c)100~400 mMのソルビトールまたはスクロース;ならびに
(d)界面活性剤
を含む、薬学的組成物が提供される。
【0073】
一局面では、
(a)・SEQ ID NO:2に記載の配列を有するVH CDR1、SEQ ID NO:3に記載の配列を有するVH CDR2、SEQ ID NO:4に記載の配列を有するVH CDR3、SEQ ID NO:6に記載の配列を有するVL CDR1、配列AASを有するVL CDR2、およびSEQ ID NO:7に記載の配列を有するVL CDR3を含む、抗原結合領域、ならびに
・ヒトIgG1重鎖中のE430、E345およびS440に対応する群から選択される1つまたは複数のアミノ酸残基の変異を含む、Fc領域であって、該アミノ酸残基がEUインデックスに従って番号付けされる、Fc領域
を含む、1~200 mg/mLのヒトCD38に結合する抗体;
(b)5~40 mMのヒスチジンまたは酢酸;
(c)100~400 mMのソルビトールまたはスクロース;ならびに
(d)界面活性剤
から本質的になる、薬学的組成物が提供される。
【0074】
一局面では、水溶液中の
(a)・SEQ ID NO:2に記載の配列を有するVH CDR1、SEQ ID NO:3に記載の配列を有するVH CDR2、SEQ ID NO:4に記載の配列を有するVH CDR3、SEQ ID NO:6に記載の配列を有するVL CDR1、配列AASを有するVL CDR2、およびSEQ ID NO:7に記載の配列を有するVL CDR3を含む、抗原結合領域、ならびに
・ヒトIgG1重鎖中のE430、E345およびS440に対応する群から選択される1つまたは複数のアミノ酸残基の変異を含む、Fc領域であって、該アミノ酸残基がEUインデックスに従って番号付けされる、Fc領域
を含む、1~200 mg/mLのヒトCD38に結合する抗体;
(b)5~40 mMのヒスチジンまたは酢酸;
(c)100~400 mMのソルビトールまたはスクロース;ならびに
(d)界面活性剤
からなる、薬学的組成物が提供される。
【0075】
一局面では、
(a)・SEQ ID NO:2に記載の配列を有するVH CDR1、SEQ ID NO:3に記載の配列を有するVH CDR2、SEQ ID NO:4に記載の配列を有するVH CDR3を含むVH領域と、E430、E345およびS440のうちの1つまたは複数に変異を有するヒトIgG1 CH領域とを含む重鎖であって、該アミノ酸残基がEUインデックスに従って番号付けされる、重鎖、ならびに
・SEQ ID NO:6に記載の配列を有するVL CDR1、配列AASを有するVL CDR2、およびSEQ ID NO:7に記載の配列を有するVL CDR3を含むVL領域を含む、軽鎖
を含む、1~200 mg/mLのヒトCD38に結合する抗体;
(b)5~40 mMのヒスチジンまたは酢酸;
(c)100~400 mMのソルビトールまたはスクロース;ならびに
(d)界面活性剤
を含む、薬学的組成物が提供される。
【0076】
一局面では、
(a)・SEQ ID NO:2に記載の配列を有するVH CDR1、SEQ ID NO:3に記載の配列を有するVH CDR2、SEQ ID NO:4に記載の配列を有するVH CDR3を含むVH領域と、E430、E345およびS440のうちの1つまたは複数に変異を有するヒトIgG1 CH領域とを含む重鎖であって、該アミノ酸残基がEUインデックスに従って番号付けされる、重鎖、ならびに
・SEQ ID NO:6に記載の配列を有するVL CDR1、配列AASを有するVL CDR2、およびSEQ ID NO:7に記載の配列を有するVL CDR3を含むVL領域を含む、軽鎖
を含む、1~200 mg/mLのヒトCD38に結合する抗体;
(b)5~40 mMのヒスチジンまたは酢酸;
(c)100~400 mMのソルビトールまたはスクロース;ならびに
(d)界面活性剤
から本質的になる、薬学的組成物が提供される。
【0077】
一局面では、水溶液中の
(a)・SEQ ID NO:2に記載の配列を有するVH CDR1、SEQ ID NO:3に記載の配列を有するVH CDR2、SEQ ID NO:4に記載の配列を有するVH CDR3を含むVH領域と、E430、E345およびS440のうちの1つまたは複数に変異を有するヒトIgG1 CH領域とを含む重鎖であって、該アミノ酸残基がEUインデックスに従って番号付けされる、重鎖、ならびに
・SEQ ID NO:6に記載の配列を有するVL CDR1、配列AASを有するVL CDR2、およびSEQ ID NO:7に記載の配列を有するVL CDR3を含むVL領域を含む、軽鎖
を含む、1~200 mg/mLのヒトCD38に結合する抗体;
(b)5~40 mMのヒスチジンまたは酢酸;
(c)100~400 mMのソルビトールまたはスクロース;ならびに
(d)界面活性剤
からなる、薬学的組成物が提供される。
【0078】
本発明の薬学的組成物のいくつかの態様では、(a)は、1~80 mg/mL、例えば1~60 mg/ml、1~40 mg/mL、1~30 mg/ml、もしくは1~25 mg/ml;2~80 mg/mL、例えば2~40 mg/mLもしくは2~30 mg/ml;または10~80 mg/mL、例えば10~40 mg/mLもしくは10~30 mg/ml;または15~80 mg/ml、例えば15~40 mg/ml、例えば15~25 mg/ml、例えば2 mg/ml、4 mg/mL、6 mg/mL、8 mg/mL、10 mg/mL、12 mg/mL、14 mg/mL、16 mg/mL、18 mg/mL、20 mg/mL、22 mg/mL、24 mg/mL、26 mg/mL、28 mg/mL、30 mg/mL、32 mg/mL、34 mg/mL、36 mg/mL、38 mg/mL、40 mg/mL、もしくは50 mg/mLの抗体であり得る。一態様では、(a)は、約20 mg/mLの抗体である。特に企図される態様では、(a)は、20 mg/mLの抗体である。
【0079】
本発明の薬学的組成物のいくつかの態様では、(b)は、5~30 mM、例えば5~25 mM、例えば10 mM、11 mM、12 mM、13 mM、14 mM、15 mM、16 mM、17 mM、18 mM、19 mM、20 mM、21 mM、22 mM、23 mM、24 mM、25 mM、26 mM、27 mM、28 mM、29 mM、または30 mMのヒスチジンまたは酢酸であり得る。一態様では、(b)は、約20 mM、例えば20 mMのヒスチジンまたは酢酸である。一つの具体的な態様では、(b)は酢酸である。特に企図される態様では、(b)はヒスチジンである。
【0080】
本発明の薬学的組成物のいくつかの態様では、(c)は、100~350 mM、例えば100~300 mM、100~260 mM、100~200 mM、150~350 mM、200~300 mM、200~260 mM、200~350 mM、200~300 mM、200~260 mM、230~350 mM、230~300 mM、230~260 mM、または240~260 mM;例えば245 mM、246 mM、247 mM、248 mM、249 mM、250 mM、251 mM、252 mM、253 mM、254 mM、または255 mMのソルビトールまたはスクロースであり得る。一態様では、(c)は、約250 mM、例えば250 mMのソルビトールまたはスクロースである。一態様では、(c)はスクロースである。特に企図される態様では、(c)はソルビトールである。
【0081】
薬学的組成物は、例えば、5.0~6.5、例えば5.5~6.5、例えば5.6~6.5、5.7~6.5、5.8~6.5、5.9~6.5、6.0~6.5、5.5~6.4、5.5~6.3、5.5~6.2、5.5~6.1、5.5~6.0、5.7~6.3、5.8~6.2、5.9~6.1のpHを有する。一態様では、pHは約6である。一態様では、pHは6、例えば6.0である。
【0082】
薬学的組成物に適した界面活性剤は、当技術分野で公知であり、例えば、グリセロールモノオレアート、塩化ベンゼトニウム、ドクサートナトリウム、リン脂質、ポリエチレンアルキルエーテル、ラウリル硫酸ナトリウムおよびトリカプリリン、塩化ベンザルコニウム、シトリミド(citrimide)、塩化セチルピリジニウムおよびリン脂質、αトコフェロール、グリセロールモノオレアート、ミリスチルアルコール、リン脂質、ポロキサマー、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体、ポリオキシエチレンソルビンタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンステアラート、ポリオキシルヒドロキシステアラート、ポリオキシルグリセリド、ポリソルベート、プロピレングリコールジラウラート、プロピレングリコールモノラウラート、ソルビタンエステルスクロースパルミタート、スクロースステアラート、トリカプリリン、およびTPGSを含む群から選択され得る。一つの特定の態様では、界面活性剤はポリソルベートである。好ましくは、界面活性剤はポリソルベート20または80である。一態様では、界面活性剤はポリソルベート20(PS20)である。特に企図される態様では、界面活性剤はポリソルベート80(PS80)である。
【0083】
界面活性剤の濃度は、典型的には、約0.005%~0.5% w/v、例えば約0.01~0.1% w/v、例えば約0.01~0.09% w/v、例えば約0.01~0.06% w/v、例えば約0.01~0.05% w/v、例えば0.02% w/v、または0.03% w/v、または0.04% w/v、または0.05% w/v、または0.06% w/vである。一態様では、界面活性剤の濃度は、約0.04% w/v、例えば0.04% w/vである。
【0084】
一態様では、薬学的組成物は、5.9~6.1のpH、例えば約6または6.0のpHを有し、かつ
(a)1~80 mg/mLの抗体、
(b)15~40 mMのヒスチジン、
(c)200~300 mMのソルビトール、
(d)0.01%~0.1% w/vの界面活性剤
を含むか、またはそれらから本質的になる。
【0085】
一態様では、薬学的組成物は、5.9~6.1のpH、例えば約6または6.0のpHを有し、かつ
(a)10~40 mg/mLの抗体、
(b)15~40 mMのヒスチジン、
(c)200~300 mMのソルビトール、
(d)0.02%~0.06% w/vの界面活性剤
を含むか、またはそれらから本質的になる。
【0086】
一態様では、薬学的組成物は、5.9~6.1のpH、例えば約6または6.0のpHを有し、かつ
(a)10~40 mg/mLの抗体、
(b)15~25 mMのヒスチジン、
(c)240~260 mMのソルビトール、
(d)0.02%~0.06% w/vの界面活性剤
を含むか、またはそれらから本質的になる。
【0087】
特定の態様では、(d)における界面活性剤は、ポリソルベート、例えばポリソルベート20またはポリソルベート80である。一態様では、界面活性剤はポリソルベート20である。一つの特に企図される態様では、界面活性剤はポリソルベート80である。
【0088】
本発明による薬学的組成物は、長期の期間にわたり、例えば少なくとも8週間の期間にわたり、例えば1~60ヶ月、1~48ヶ月、1~36ヶ月、1~30ヶ月、1~24ヶ月、1~18ヶ月、1~12ヶ月または1~6ヶ月の期間にわたり;例えば2~60ヶ月、2~48ヶ月、2~36ヶ月、2~30ヶ月、2~24ヶ月、2~18ヶ月、2~12ヶ月または2~6ヶ月にわたり;例えば3~60ヶ月、3~48ヶ月、3~36ヶ月、3~30ヶ月、3~24ヶ月、3~18ヶ月、3~12ヶ月または3~6ヶ月にわたり、例えば48ヶ月、36ヶ月、30ヶ月、24ヶ月、18ヶ月、12ヶ月または6ヶ月にわたり安定であることができる。好ましくは、薬学的組成物は、組成物が、5℃±3℃、25℃±5℃または40℃±10℃で、例えば5℃±3℃、約25℃±5℃または約40℃で、例えば5℃±3℃で保存された時に、そのような長期の期間にわたり安定である。
【0089】
薬学的組成物の安定性はまた、典型的には、組成物が、5℃±3℃、25℃±5℃または40℃±10℃で、例えば5℃±3℃、約25℃±5℃または約40℃で、例えば5℃±3℃で保存された時に決定される。しかし、薬学的組成物の安定性は、さらに、または代替的に、25℃/60%相対湿度(RH)で保管された時および/または40℃/75% RHで保管された時に決定することができる。
【0090】
抗体を含む薬学的組成物の安定性を決定するための方法は、当技術分野で周知であり、典型的には、初期の時点から1つまたは複数のその後の所定の時点まで、1つまたは複数の安定性パラメータの変化を決定する。しかし、好ましくは、安定性は、
(a)サブビジブル(sub-visible)粒子数;
(b)pH;
(c)タンパク質濃度;
(d)サイズ排除クロマトグラフィー;
(e)等電点分離法;
(f)還元条件下での電気泳動;
(g)非還元条件下での電気泳動;および/または
(h)目視検査
のうちの1つまたは複数によって評価される。
【0091】
例えば、安定性は、
(a)任意で実施例12において提供される、マイクロフローイメージング(micro-flow imaging)(MFI)顕微鏡を用いたサブビジブル粒子数;
(b)任意で実施例11において提供される、pH;
(c)任意で実施例11において提供される、280 nmでの吸光度(A280)を用いたタンパク質濃度;
(d)任意で実施例11において提供される、サイズ排除クロマトグラフィーを用いた、組成物中に存在する抗体単量体、高分子量(HMW)種および低分子量(LMW)種の和と比較した、抗体単量体の相対量;
(e)任意で実施例11において提供される、イメージングキャピラリー等電点分離法(icIEF)による、抗体、抗体の酸性バリアントおよび抗体の塩基性バリアントの和と比較した、抗体の相対量;
(f)任意で実施例11により提供される、還元キャピラリー電気泳動による、軽鎖、重鎖および非グリコシル化重鎖の和と比較した、軽鎖および重鎖の和の相対量;
(g)任意で実施例11により提供される、非還元キャピラリー電気泳動による、抗体、抗体ピークより低い分子量を有するピークおよび抗体ピークより高い分子量を有するピークの和と比較した、抗体ピークの相対量;ならびに/または
(h)任意で実施例11において提供される、視覚的外観
を決定することによって評価され得る。
【0092】
一つの特定の例は、約6のpHを有し、かつ
(a)約20 mg/mLの抗体、
(b)約20 mMのヒスチジン、
(c)約250 mMのソルビトール、および
(d)約0.04% w/vのポリソルベート80
を含むか、またはそれらから本質的になる、薬学的組成物である。
【0093】
別の特定の例は、6のpHを有し、かつ水溶液中の
(a)20 mg/mLの抗体、
(b)20 mMのヒスチジン、
(c)250 mMのソルビトール、および
(d)0.04% w/vのポリソルベート80
を含むか、それらからなるか、またはそれらから本質的になる、薬学的組成物である。
【0094】
別の特定の例は、約6のpHを有し、かつ
(a)約20 mg/mLの抗体、
(b)約20 mMのヒスチジン、
(c)約250 mMのソルビトール、および
(d)約0.04% w/vのポリソルベート20
を含むか、またはそれらから本質的になる、薬学的組成物である。
【0095】
別の特定の例は、6のpHを有し、かつ水溶液中の
(a)20 mg/mLの抗体、
(b)20 mMのヒスチジン、
(c)250 mMのソルビトール、および
(d)0.04% w/vのポリソルベート20
を含むか、それらからなるか、またはそれらから本質的になる、薬学的組成物である。
【0096】
別の特定の例は、約6のpHを有し、かつ
(a)約20 mg/mLの抗体、
(b)約20 mMのヒスチジン、
(c)約250 mMのスクロース、および
(d)約0.04% w/vのポリソルベート80
を含むか、またはそれらから本質的になる、薬学的組成物である。
【0097】
別の特定の例は、6のpHを有し、かつ水溶液中の
(a)20 mg/mLの抗体、
(b)20 mMのヒスチジン、
(c)250 mMのスクロース、および
(d)0.04% w/vのポリソルベート80
を含むか、それらからなるか、またはそれらから本質的になる、薬学的組成物である。
【0098】
別の特定の例は、約5.5のpHを有し、かつ
(a)約20 mg/mLの抗体、
(b)約20 mMの酢酸、
(c)約250 mMのソルビトール、および
(d)約0.04% w/vのポリソルベート80
を含むか、またはそれらから本質的になる、薬学的組成物である。
【0099】
別の特定の例は、約5.5のpHを有し、かつ水溶液中の
(a)20 mg/mLの抗体、
(b)20 mMの酢酸、
(c)250 mMのソルビトール、および
(d)0.04% w/vのポリソルベート80
を含むか、それらからなるか、またはそれらから本質的になる、薬学的組成物である。
【0100】
別の特定の例は、約6のpHを有し、かつ
(a)約20 mg/mLの抗体、
(b)約20 mMのヒスチジン、
(c)約250 mMのスクロース、および
(d)約0.04% w/vのポリソルベート20
を含むか、またはそれらから本質的になる、薬学的組成物である。
【0101】
別の特定の例は、6のpHを有し、かつ水溶液中の
(a)20 mg/mLの抗体、
(b)20 mMのヒスチジン、
(c)250 mMのスクロース、および
(d)0.04% w/vのポリソルベート20
を含むか、それらからなるか、またはそれらから本質的になる、薬学的組成物である。
【0102】
別の特定の例は、約5.5のpHを有し、かつ
(a)約20 mg/mLの抗体、
(b)約20 mMの酢酸、
(c)約250 mMのソルビトール、および
(d)約0.04% w/vのポリソルベート20
を含むか、またはそれらから本質的になる、薬学的組成物である。
【0103】
別の特定の例は、5.5のpHを有し、かつ水溶液中の
(a)20 mg/mLの抗体、
(b)20 mMの酢酸、
(c)250 mMのソルビトール、および
(d)0.04% w/vのポリソルベート20
を含むか、それらからなるか、またはそれらから本質的になる、薬学的組成物である。
【0104】
別の特定の例は、約5.5のpHを有し、かつ
(a)約20 mg/mLの抗体、
(b)約20 mMの酢酸、
(c)約250 mMのスクロース、および
(d)約0.04% w/vのポリソルベート80
を含むか、またはそれらから本質的になる、薬学的組成物である。
【0105】
別の特定の例は、5.5のpHを有し、かつ水溶液中の
(a)20 mg/mLの抗体、
(b)20 mMの酢酸、
(c)250 mMのスクロース、および
(d)0.04% w/vのポリソルベート80
を含むか、それらからなるか、またはそれらから本質的になる、薬学的組成物である。
【0106】
別の特定の例は、約5.5のpHを有し、かつ
(a)約20 mg/mLの抗体、
(b)約20 mMの酢酸、
(c)約250 mMのスクロース、および
(d)約0.04% w/vのポリソルベート20
を含むか、またはそれらから本質的になる、薬学的組成物である。
【0107】
別の特定の例は、5.5のpHを有し、かつ水溶液中の
(a)20 mg/mLの抗体、
(b)20 mMの酢酸、
(c)250 mMのスクロース、および
(d)0.04% w/vのポリソルベート20
を含むか、それらからなるか、またはそれらから本質的になる、薬学的組成物である。
【0108】
本発明はまた、約6のpHを有し、かつ
(a)約20 mg/mLのヒトCD38に結合する抗体、
(b)約20 mMのヒスチジン、
(c)約250 mMのソルビトール、および
(d)約0.04% w/vのポリソルベート80
を含むか、またはそれらから本質的になる、薬学的組成物であって、
該抗体が、2本の重鎖および2本の軽鎖を含むか、それらからなるか、またはそれらから本質的になる、全長2価抗体であり、
・各重鎖が、VH領域およびCH領域を含み、該VH領域がSEQ ID NO:1を含み、および該CH領域がSEQ ID NO:24またはSEQ ID NO:46を含み、かつ
・各軽鎖が、VL領域およびCL領域を含み、該VL領域がSEQ ID NO:5を含み、および該CL領域がSEQ ID NO:37を含む、
前記薬学的組成物も提供する。
【0109】
一態様では、薬学的組成物は、約6のpHを有し、かつ水溶液中の
(a)20 mg/mLの抗体、
(b)20 mMのヒスチジン、
(c)250 mMのソルビトール、および
(d)0.04% w/vのポリソルベート80
を含むか、それらからなるか、またはそれらから本質的になる。
【0110】
薬学的組成物は、任意の適切な経路および方法によって、対象または患者に投与され得る。一態様では、本発明の薬学的組成物は、非経口的に投与される。本明細書で使用する「非経口的に投与される」とは、通常は注射による、経腸および局所投与以外の投与方法を意味し、表皮、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、腱鞘内、経気管、皮下、表皮下、関節内、皮膜下、クモ膜下、脊髄内、頭蓋内、胸腔内、硬膜外、および胸骨内への注射および注入が含まれる。
【0111】
一態様では、薬学的組成物は、静脈内または皮下への注射または注入によって投与される。特定の態様では、薬学的組成物は、静脈内注射または注入によって投与される。
【0112】
いくつかの態様では、本発明による薬学的組成物は、典型的には対象または患者への投与の前にまたはそれに関連して、希釈される濃縮物である。適した希釈剤は、当技術分野で公知である。好ましい希釈剤には、生理食塩水(0.9% NaCl)および水溶液中デキストロース(例えば、5% w/v)が含まれるが、これらに限定されない。
【0113】
本発明はまた、本発明による薬学的組成物を含む治療における同時使用、個別使用、または逐次使用のためのキット・オブ・パーツ(kit-of-parts)にも関し、任意で、該キット・オブ・パーツは、2つ以上の投与量の薬学的組成物を含有する。
【0114】
一態様では、キット・オブ・パーツは、1つまたは複数の容器、好ましくはバイアル中の、本発明による薬学的組成物を含む。
【0115】
一態様では、キット・オブ・パーツは、治療における同時使用、個別使用、または逐次使用のための、2つ以上の本発明による薬学的組成物を含む。
【0116】
本明細書の任意の局面または態様による薬学的組成物は、以下に記載されるような、他のまたは追加の特徴によってさらに特徴付けられるCD38抗体を含み得る。
【0117】
CD38抗体
抗原結合領域および可変領域
抗原結合領域は、VH領域およびVL領域などの、CD38への特異的結合を可能にする1つまたは複数の抗体可変ドメインを含む。同様に、重鎖および軽鎖は、それぞれVH領域およびVL領域を含む。以下において、抗原結合領域中の配列への言及は、本発明による抗体の重鎖および/または軽鎖の配列にも同様に適用され得る。
【0118】
有利には、CDR、VH領域および/またはVL領域は、表1に記載されるように、抗体Cのそれらと同様または同一である。好ましくは、抗原結合領域、ならびに/または重鎖および/もしくは軽鎖は、SEQ ID NO:2(VH-3003-C_CDR1)、SEQ ID NO:3(VH-3003-C_CDR2)、SEQ ID NO:4(VH-3003-C_CDR3)、SEQ ID NO:6(VL-3003-C_CDR1)、AAS(VL-3003-C_CDR2)、およびSEQ ID NO:7(VL-3003-C_CDR3)として記載される、抗体CのCDRを含む。
【0119】
したがって、いくつかの態様では、抗体は、SEQ ID NO:2に記載の配列を有するVH CDR1、SEQ ID NO:3に記載の配列を有するVH CDR2、SEQ ID NO:4に記載の配列を有するVH CDR3、SEQ ID NO:6に記載の配列を有するVL CDR1、配列AASを有するVL CDR2、およびSEQ ID NO:7に記載の配列を有するVL CDR3を含む、抗原結合領域を含む。
【0120】
いくつかの態様では、抗体は、SEQ ID NO:2に記載の配列を有するVH CDR1、SEQ ID NO:3に記載の配列を有するVH CDR2、SEQ ID NO:4に記載の配列を有するVH CDR3を含むVH領域を含む重鎖、ならびにSEQ ID NO:6に記載の配列を有するVL CDR1、配列AASを有するVL CDR2、およびSEQ ID NO:7に記載の配列を有するVL CDR3を含むVL領域を含む軽鎖を含む。
【0121】
好ましい態様では、抗体は、抗体CのVH領域およびVL領域のアミノ酸配列を含み、すなわち、VH領域はSEQ ID NO:1(VH-3003-C)の配列を含み、かつVL領域はSEQ ID NO:5(VL-3003-C)の配列を含む。
【0122】
しかし、例えば、抗体のその標的抗原に対する親和性を増大させるために、その潜在的な免疫原性を低下させるために、かつ/または宿主細胞によって発現される抗体の収量を増加させるために、抗体のVHおよびVLにおいて変異を行えることが、当技術分野で周知である。したがって、いくつかの態様では、抗体CのCDR、VH、および/またはVL配列中の変異を含む抗体もまた、企図される。特に、そのような抗体は、例えば、1つまたは複数のCDRにおいて、1つまたは複数のアミノ酸が抗体CのVHおよび/またはVL配列と比較して異なっていてよいが、その抗原結合領域は、好ましくは、抗体Cの親和性および/または特異性の少なくともかなり大きな割合(少なくとも約50%、60%、70%、80%、90%、95%またはそれ以上)を保持する。典型的には、そのような抗体のVHおよび/またはVL配列は、抗体CのVHおよび/またはVL配列に対して有意の配列同一性を保持する。例えば、抗体のVHおよび/またはVL領域配列は、アミノ酸残基の12個以下の変異、例えば11、10、9、8、7、6、5、4、3、2または1個の変異、例えば置換、挿入または欠失によって、抗体Cの対応するVHおよび/またはVL領域配列と異なっていてもよい。いくつかの態様では、そのような抗体のVHおよび/またはVLおよび/またはCDR領域配列は、主に保存的アミノ酸置換によって、抗体Cの対応するVHおよび/またはVLおよび/またはCDR領域配列と異なっていてもよい;例えば、バリアント中のアミノ酸置換の12個、例えば11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、または1個は、保存的であることができる。場合によっては、抗体CのVHおよび/またはVL中の変異を含む抗体は、抗体Cよりも高い親和性および/または特異性を伴う可能性がある。本発明の目的では、抗体Cとの比較で、CD38へのその結合における抗体の親和性および特異性の保持または改善を可能にする、抗体CのVHおよび/またはVL領域配列中の変異を含む抗体が、特に好ましい。
【0123】
例えば、WO 2011/154453 A1は、CDR、VHおよびVL領域のアミノ酸配列における適切な変異を含むCD38抗体を開示しており、そこでは、特定の位置のアミノ酸残基が表1に示される抗体CのCDR、VHおよびVLのものとは異なっている。かくして、これらの位置は、CD38への抗体の結合において該抗体の親和性および特異性を保持または改善しつつ、CDR、VHおよびVL配列の変異を行うことができる候補位置を表している。特に、抗体CのVHおよびVLにおいて変異され得るVHおよびVL CDR中の位置は、SEQ ID NO:40~43に示される。
【0124】
したがって、いくつかの態様では、1つまたは複数の特定の変異は、SEQ ID NO:40~43に記載されるCDRにおいて行われ、すなわち、VHおよび/またはVL領域は、SEQ ID NO:40 (VH CDR1)、SEQ ID NO:41 (VH CDR2)、SEQ ID NO:42 (VH CDR3)、およびSEQ ID NO:44 (VL CDR3)の1つまたは複数に記載されるCDRの変異を含む。そのような抗体のVHおよびVL領域は、任意で、抗体Cの元のフレームワーク領域を維持していてよい。一つの特定の態様では、抗原結合領域は、X1がSであるSEQ ID NO:40 (VH CDR1)、X1がR、X2がK、X3がAであるSEQ ID NO:41 (VH CDR2)、X1がA、X2がD、X3がVであるSEQ ID NO:42 (VH CDR3)、SEQ ID NO:43 (VL CDR1)、AAS (VL CDR2)、およびX1がSであるSEQ ID NO:44 (VL CDR3)に記載されるCDRを含む。一つの特定の態様では、抗原結合領域は、X1がRであるSEQ ID NO:40 (VH CDR1)、X1がV、X2がK、X3がTであるSEQ ID NO:41 (VH CDR2)、X1がT、X2がA、X3がFであるSEQ ID NO:42 (VH CDR3)、SEQ ID NO:43 (VL CDR1)、AAS (VL CDR2)、およびX1がNであるSEQ ID NO:44 (VL CDR3)に記載されるCDRを含む。一つの特定の態様では、抗原結合領域は、X1がSであるSEQ ID NO:40 (VH CDR1)、X1がR、X2がK、X3がTであるSEQ ID NO:41 (VH CDR2)、X1がA、X2がD、X3がVであるSEQ ID NO:42 (VH CDR3)、SEQ ID NO:43 (VL CDR1)、AAS (VL CDR2)、およびX1がSであるSEQ ID NO:44 (VL CDR3)に記載されるCDRを含む。一つの特定の態様では、抗原結合領域は、X1がRであるSEQ ID NO:40 (VH CDR1)、X1がV、X2がK、X3がVであるSEQ ID NO:41 (VH CDR2)、X1がT、X2がA、X3がFであるSEQ ID NO:42 (VH CDR3)、SEQ ID NO:43 (VL CDR1)、AAS (VL CDR2)、およびX1がNであるSEQ ID NO:44 (VL CDR3)に記載されるCDRを含む。
【0125】
アミノ酸置換は、例えば、本明細書の他の箇所に記載されるような保存的アミノ酸置換であり得る。
【0126】
VHおよび/またはVL領域の配列が抗体Cのものと異なる態様について特に企図されるのは、VHおよび/またはVL領域のアミノ酸配列が、1つまたは複数のフレームワーク領域(FR)のアミノ酸配列においてのみ抗体Cのものと異なっている、抗体である。そのような態様では、抗体は、SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:3、SEQ ID NO:4に記載のVH CDR配列、ならびにSEQ ID NO:6、AAS、およびSEQ ID NO:7に記載のVL CDR配列を保持する。
【0127】
したがって、いくつかの態様では、抗体結合領域は、SEQ ID NO:2に記載の配列を有するVH CDR1、SEQ ID NO:3に記載の配列を有するVH CDR2、SEQ ID NO:4に記載の配列を有するVH CDR3を含むVH領域、ならびにSEQ ID NO:6に記載の配列を有するVL CDR1、配列AASを有するVL CDR2、およびSEQ ID NO:7に記載の配列を有するVL CDR3を含むVL領域を含んでもよく、該VH領域は、SEQ ID NO:1に対して少なくとも80%の同一性を有し、かつ該VL領域は、SEQ ID NO:5に対して少なくとも80%の同一性を有する。
【0128】
一つの具体的な態様では、抗体は、
・SEQ ID NO:1を含むか、またはSEQ ID NO:1に対して少なくとも80%の配列同一性、例えば90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、VH領域;ならびに/または
・SEQ ID NO:5を含むか、またはSEQ ID NO:5に対して少なくとも80%の配列同一性、例えば90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、VL領域
を含む。
【0129】
別の具体的な態様では、抗体において、
・VHは、アミノ酸残基の12個以下の変異、例えば11、10、9、8、7、6、5、4、3、2もしくは1個の変異、例えば置換、挿入もしくは欠失によって、SEQ ID NO:1と異なる;かつ/または
・VLは、アミノ酸残基の12個以下の変異、例えば11、10、9、8、7、6、5、4、3、2もしくは1個の変異、例えば置換、挿入もしくは欠失によって、SEQ ID NO:5と異なる。
【0130】
具体的な態様では、抗体は、
・SEQ ID NO:1を含むVH領域と、E430、E345およびS440のうちの1つまたは複数に変異を有するヒトIgG1 CH領域とを含む、重鎖であって、該アミノ酸残基の番号付けがEUインデックスに従う、重鎖、ならびに
・SEQ ID NO:5を含むVLを含む、軽鎖
を含む。
【0131】
別の具体的な態様では、抗体は、2本の重鎖および2本の軽鎖を含むか、それらからなるか、またはそれらから本質的になる、全長2価抗体であり、
・各重鎖は、VH領域およびCH領域を含み、該VH領域はSEQ ID NO:1を含み、および該CH領域はSEQ ID NO:24またはSEQ ID NO:46を含み、かつ
・各軽鎖は、VL領域およびCL領域を含み、該VL領域はSEQ ID NO:5を含み、および該CL領域はSEQ ID NO:37を含む。
【0132】
Fc領域およびCH領域
ヒトIgG1重鎖中のE430、E345およびS440に対応する位置のアミノ酸残基の変異(該アミノ酸残基はEUインデックスに従って番号付けされる)は、CDCを誘導する抗体の能力を向上させることができる(例えば、実施例3を参照)。理論に拘束されるものではないが、これらの位置の1つまたは複数のアミノ酸を置換することにより、抗体のオリゴマー化が刺激され、それにより、例えば、C1q結合、補体活性化、CDC、ADCP、内在化、またはインビボ効力をもたらし得る他の関連する機能を増加させるように、エフェクター機能を調節することができると考えられる。
【0133】
本発明の薬学的組成物は、アミノ酸残基がEUインデックスに従って番号付けされる場合、E430、E345およびS440のうちの1つまたは複数に変異を含むFc領域またはヒトIgG1 CH領域を含む抗体を含む。以下において、Fc領域の変異への言及は、ヒトIgG1 CH領域の変異にも同様に適用され得、逆もまた同じである。
【0134】
本明細書に記載されるように、Fc領域またはヒトIgG1 CH領域において変異されるべきアミノ酸の位置は、EUインデックスに従って番号付けされる場合、天然に存在する(野生型)ヒトIgG1重鎖におけるその位置に関連して(すなわち、「対応して」)提供され得る。したがって、Fc領域がすでに1つまたは複数の変異を含む場合、および/またはFc領域が例えばIgG2、IgG3またはIgG4 Fc領域を含む場合、例えばEUインデックスに従って番号付けされたヒトIgG1重鎖のE430などの、アミノ酸残基に対応するアミノ酸の位置は、アラインメントによって決定することができる。具体的には、Fc領域を野生型ヒトIgG1重鎖配列とアラインメントして、ヒトIgG1重鎖配列中のE430に対応する位置の残基を同定する。この目的には、表1に記載される異なるヒトIgG1アロタイプのいずれか1つを含む、任意の野生型ヒトIgG1定常領域アミノ酸配列が有用であり得る。これは
図1に示されており、この図は、2つの異なるヒトIgG1アロタイプ(IgG1m(f)およびIgG1m(a))と野生型ヒトIgG2、IgG3およびIgG4との間のアラインメントを示しており、特にヒトIgG1重鎖の残基P247からK447に対応するセグメントのアラインメントを示している;前記アミノ酸残基はEUインデックスに従って番号付けされる。
【0135】
したがって、このセクションの残りの段落および本明細書の他の箇所において、特に明記しない限り、または文脈と矛盾しない限り、言及されるアミノ酸位置は、野生型ヒトIgG1重鎖のアミノ酸残基に対応するものであり、その場合に、アミノ酸残基はEUインデックスに従って番号付けされる。
【0136】
別個のかつ特定の態様では、Fc領域および/またはヒトIgG1 CH領域は、E430、E345およびS440のうちの1つのみに、E430とE345の両方に、E430とS440の両方に、E345とS440の両方に、またはE430、E345およびS440の全てに変異を含む。いくつかの態様では、Fc領域および/またはヒトIgG1 CH領域は、E430、E345およびS440のうちの1つのみに、E430とE345の両方に、E430とS440の両方に、E345とS440の両方に、またはE430、E345およびS440の全てに変異を含むが、ただし、S440における変異はS440WまたはS440Yである。他の別個のかつ特定の態様では、前記変異はアミノ酸置換である。一態様では、変異は、E430X、E345XおよびS440Xのうちの1つのみ、E430XとE345Xの両方、E430XとS440Xの両方、E345XとS440Xの両方、またはE430X、E345XおよびS440Xの全てのアミノ酸置換であるが、ただし、S440Xの変異はS440YまたはS440Wであることが好ましい。より好ましくは、E430X、E345XおよびS440X変異は、E430G、E345K、E430S、E430F、E430T、E345Q、E345R、E345Y、S440YおよびS440Wから別個に選択される。
【0137】
いくつかの態様では、抗体において、1つまたは複数のアミノ酸残基の変異は、E430G、E345K、E430S、E430F、E430T、E345Q、E345R、E345Y、S440YおよびS440Wからなる群より選択される。
【0138】
一態様では、抗体において、1つまたは複数のアミノ酸残基の変異は、E430G、E345K、E430SおよびE345Qに対応する群から選択される。
【0139】
一態様では、変異は、例えばE430G、E430S、E430F、またはE430Tに対応するものから選択されるアミノ酸置換E430Xなどの、E430に対応するアミノ酸残基の変異である。一つの好ましい態様では、前記1つまたは複数のアミノ酸残基の変異は、E430Gを含む。別の好ましい態様では、前記1つまたは複数のアミノ酸残基の変異は、E430Sを含み、任意で、E345およびS440に対応するアミノ酸残基では変異が行われない。特定の態様では、前記1つまたは複数のアミノ酸残基の変異は、E430Gを含むかまたはE430Gからなる。特に好ましい態様では、前記1つまたは複数のアミノ酸残基の変異は、E430Gからなり、すなわち、E345およびS440に対応するアミノ酸残基では変異が行われない。
【0140】
一態様では、変異は、例えばE345K、E345Q、E345RおよびE345Yに対応するものから選択されるアミノ酸置換E345Xなどの、E345に対応するアミノ酸残基の変異である。一つの好ましい態様では、前記1つまたは複数のアミノ酸残基の変異は、E345Kを含む。別の好ましい態様では、前記1つまたは複数のアミノ酸残基の変異はE345Qを含み、任意で、E430およびS440に対応するアミノ酸残基では変異が行われない。特に好ましい態様では、前記1つまたは複数のアミノ酸残基の変異はE345Kからなり、すなわち、E430およびS440に対応するアミノ酸残基では変異が行われない。
【0141】
一態様では、変異は、典型的にはS440YおよびS440Wに対応するものから選択されるアミノ酸置換S440Xなどの、S440に対応するアミノ酸残基の変異である。一つの好ましい態様では、前記1つまたは複数のアミノ酸残基の変異はS440Wを含み、任意で、E430およびE345に対応するアミノ酸残基では変異が行われない。一つの好ましい態様では、前記1つまたは複数のアミノ酸残基の変異はS440Yを含み、任意で、E430およびE345に対応するアミノ酸残基では変異が行われない。
【0142】
好ましくは、EUインデックスに従って番号付けされた場合にヒトIgG1重鎖中のE430、E345およびS440に対応する1つまたは複数のアミノ酸残基の変異を含むFc領域は、任意の記載された変異を除いて、ヒトIgG1、IgG2、IgG3およびIgG4 Fc領域からなる群より選択されるヒトIgG Fc領域である。好ましくは、Fc領域は、任意の記載された変異を除いて、天然に存在する(野生型)ヒトIgG Fc領域、例えば、ヒト野生型IgG1、IgG2、IgG3もしくはIgG4 Fc領域、またはそれらの混合アイソタイプである。一態様では、Fc領域および/またはヒトIgG1 CH領域は、任意の記載された変異を除いて、野生型ヒトIgG1アイソタイプである。
【0143】
したがって、ヒトIgG1重鎖中のE430、E345およびS440に対応する1つまたは複数のアミノ酸残基の変異を含むFc領域またはCH領域は、任意の記載された変異を除いて、ヒトIgG1、IgG2、IgG3もしくはIgG4アイソタイプ、またはそれらの混合アイソタイプであり得る。一態様では、Fc領域またはCH領域は、任意の記載された変異を除いて、ヒトIgG1 Fc領域である。
【0144】
具体的な態様では、ヒトIgG1重鎖中のE430、E345およびS440に対応する1つまたは複数のアミノ酸残基の変異を含むFc領域および/またはヒトIgG1 CH領域は、任意の記載された変異を除いて、ヒト野生型IgG1m(f)、IgG1m(z)、IgG1m(a)、またはIgG1m(x)アイソタイプである。具体的な態様では、Fc領域および/またはヒトIgG1 CH領域は、任意の記載された変異を除いて、混合アロタイプのヒト野生型IgG1、例えば、IgG1m(za)、IgG1m(zax)、IgG1m(fa)などである。具体的な態様では、Fc領域および/またはヒトIgG1 CH領域は、任意の記載された変異を除いて、ヒト野生型IgG1m(za)アイソタイプである。
【0145】
したがって、ヒトIgG1重鎖中のE430、E345およびS440に対応する1つまたは複数のアミノ酸残基の変異を含むFc領域および/またはヒトIgG1 CH領域は、任意の記載された変異を除いて、ヒトIgG1m(f)、IgG1m(a)、IgG1m(x)、IgG1m(z)アロタイプ、またはそれらのいずれか2つ以上の混合アロタイプであり得る。
【0146】
野生型ヒトIgGアイソタイプおよびIgG1アロタイプの具体的な例のCH領域アミノ酸配列を、表1に示す。いくつかの態様では、ヒトIgG1重鎖中のE430、E345およびS440に対応する1つまたは複数のアミノ酸残基の変異を含むFc領域は、任意の記載された変異を除いて、そのような野生型CH領域アミノ酸配列のCH2-CH3、または任意で、ヒンジ-CH2-CH3セグメントを含む。
【0147】
したがって、具体的な態様では、ヒトIgG1重鎖中のE430、E345およびS440に対応する1つまたは複数のアミノ酸残基の変異を含むFc領域は、任意の記載された変異を除いて、EU番号付けに従ってヒトIgG1重鎖の231-447に対応するアミノ酸残基を含む、ヒト野生型IgG1アイソタイプである。例えば、Fc領域は、任意の記載された変異を除いて、SEQ ID NO:19、SEQ ID NO:20、SEQ ID NO:21、SEQ ID NO:22、およびSEQ ID NO:23からなる群より選択される配列のアミノ酸残基114~330(直接番号付け)を含み得る。具体的な態様では、Fc領域は、任意の記載された変異を除いて、EU番号付けに従ってヒトIgG1重鎖の216-447に対応するアミノ酸残基を含む、ヒト野生型IgG1アイソタイプである。例えば、Fc領域は、任意の記載された変異を除いて、SEQ ID NO:19、SEQ ID NO:20、SEQ ID NO:21、SEQ ID NO:22、およびSEQ ID NO:23からなる群より選択される配列のアミノ酸残基99~330(直接番号付け)を含み得る。治療用抗体の生産について本明細書の他の箇所に記載されるように、C末端アミノ酸K447は、時には、欠失していてもよく(すなわち、存在しなくてもよく)、または除去されていてもよい。それゆえ、Fc領域は、任意の記載された変異を除いて、SEQ ID NO:45のアミノ酸残基114~329(直接番号付け)またはアミノ酸残基99~329(直接番号付け)を含み得る。
【0148】
具体的な態様では、ヒトIgG1重鎖中のE430、E345およびS440に対応する1つまたは複数のアミノ酸残基の変異を含むFc領域は、任意の記載された変異を除いて、EU番号付けに従ってヒトIgG1重鎖の231-447または231-446に対応するアミノ酸残基を含む、ヒト野生型IgG1アイソタイプである。例えば、Fc領域は、SEQ ID NO:24、SEQ ID NO:25、SEQ ID NO:26、SEQ ID NO:27、SEQ ID NO:28、SEQ ID NO:29、SEQ ID NO:30、SEQ ID NO:31、SEQ ID NO:32、およびSEQ ID NO:33からなる群より選択される配列のアミノ酸残基114~330(直接番号付け)を含み得る。別の態様では、Fc領域は、SEQ ID NO:24、SEQ ID NO:25、SEQ ID NO:26、SEQ ID NO:27、SEQ ID NO:28、SEQ ID NO:29、SEQ ID NO:30、SEQ ID NO:31、SEQ ID NO:32、SEQ ID NO:33、およびSEQ ID NO:46からなる群より選択される配列のアミノ酸残基114~329(直接番号付け)を含み得る。さらに別の態様では、Fc領域は、SEQ ID NO:46のアミノ酸残基114~329(直接番号付け)を含み得る。
【0149】
具体的な態様では、ヒトIgG1重鎖中のE430、E345およびS440に対応する1つまたは複数のアミノ酸残基の変異を含むFc領域は、任意の記載された変異を除いて、EU番号付けに従ってヒトIgG1重鎖の216-447または216-446に対応するアミノ酸残基を含む、ヒト野生型IgG1アイソタイプである。例えば、Fc領域は、SEQ ID NO:24、SEQ ID NO:25、SEQ ID NO:26、SEQ ID NO:27、SEQ ID NO:28、SEQ ID NO:29、SEQ ID NO:30、SEQ ID NO:31、SEQ ID NO:32、およびSEQ ID NO:33からなる群より選択される配列のアミノ酸残基99~330(直接番号付け)を含み得る。別の態様では、Fc領域は、SEQ ID NO:24、SEQ ID NO:25、SEQ ID NO:26、SEQ ID NO:27、SEQ ID NO:28、SEQ ID NO:29、SEQ ID NO:30、SEQ ID NO:31、SEQ ID NO:32、SEQ ID NO:33、およびSEQ ID NO:46からなる群より選択される配列のアミノ酸残基99~329(直接番号付け)を含み得る。さらに別の態様では、Fc領域は、SEQ ID NO:46のアミノ酸残基99~329(直接番号付け)を含み得る。
【0150】
したがって、本発明は、ヒトIgG1重鎖、例えば、SEQ ID NO:19(IgGm(za))を含むヒトIgG1 CH領域のアミノ酸配列を含むヒトIgG1重鎖を有する抗体分子に適用することができる。それゆえ、ヒトIgG1 CH領域は、任意の記載された変異を除いて、SEQ ID NO:19の配列を含み得る。
【0151】
本発明はまた、ヒトIgG1重鎖、例えば、SEQ ID NO:20(IgGm(f))またはSEQ ID NO:45を含むヒトIgG1 CH領域のアミノ酸配列を含むヒトIgG1重鎖を有する抗体分子にも適用することができる。それゆえ、ヒトIgG1 CH領域は、任意の記載された変異を除いて、SEQ ID NO:20の配列を含み得る。別の態様では、ヒトIgG1 CH領域は、任意の記載された変異を除いて、SEQ ID NO:45の配列を含み得る。
【0152】
本発明はまた、ヒトIgG1重鎖、例えば、SEQ ID NO:21(IgGm(z))を含むヒトIgG1 CH領域のアミノ酸配列を含むヒトIgG1重鎖を有する抗体分子にも適用することができる。それゆえ、ヒトIgG1 CH領域は、任意の記載された変異を除いて、SEQ ID NO:21の配列を含み得る。
【0153】
本発明はまた、ヒトIgG1重鎖、例えば、SEQ ID NO:22(IgGm(a))を含むヒトIgG1 CH領域のアミノ酸配列を含むヒトIgG1重鎖を有する抗体分子にも適用することができる。それゆえ、ヒトIgG1 CH領域は、任意の記載された変異を除いて、SEQ ID NO:22の配列を含み得る。
【0154】
本発明はまた、ヒトIgG1重鎖、例えば、SEQ ID NO:23(IgG1m(x))を含むヒトIgG1 CH領域のアミノ酸配列を含むヒトIgG1重鎖を有する抗体分子にも適用することができる。それゆえ、ヒトIgG1 CH領域は、任意の記載された変異を除いて、SEQ ID NO:23の配列を含み得る。
【0155】
一態様では、ヒトIgG1 CH領域は、任意の記載された変異を除いて、SEQ ID NO:19、SEQ ID NO:20、SEQ ID NO:21、SEQ ID NO:22、SEQ ID NO:23、またはSEQ ID NO:45の配列を含む。
【0156】
他の別個のかつ具体的な態様では、ヒトIgG1 CH領域は、SEQ ID NO:24~SEQ ID NO:33およびSEQ ID NO:46からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む。
【0157】
具体的な態様では、ヒトIgG1 CH領域は、SEQ ID NO:24(IgG1m(f)-E430G)またはSEQ ID NO:46(IgG1m(f)-E430G、K447を含まない)を含み、任意で、軽鎖は、SEQ ID NO:37を含むCLを含む。
【0158】
具体的な態様では、抗体は、アミノ酸配列が同一である2本のHC、およびアミノ酸配列が同一である2本のLCを含む単一特異性抗体である。
【0159】
しかし、1つまたは複数のさらなる変異、すなわち、EUインデックスに従って番号付けされた場合にヒトIgG1重鎖中のE430、E345およびS440に対応するアミノ酸残基以外の1つまたは複数の他のアミノ酸残基の変異を含む、Fc領域またはヒトIgG1 CH領域もまた、本明細書に開示される抗体について企図される。したがって、一態様では、E430、E345およびS440に対応する1つまたは複数のアミノ酸残基の変異を含むFc領域またはCH領域はまた、ヒトIgG1重鎖中のE430、E345およびS440に対応するアミノ酸残基以外のアミノ酸残基の1つまたは複数のさらなる変異も含み、該アミノ酸残基はEUインデックスに従って番号付けされる。さらに、または代替的に、Fc領域は、混合アイソタイプであってもよく、例えば、この場合、異なるCH領域は異なるIgGアイソタイプに由来する。したがって、以下でより詳細に説明するように、Fc領域は、E430、E345およびS440に対応する1つまたは複数のアミノ酸残基の変異に加えて、野生型(天然に存在する)または混合アイソタイプのヒトIgG Fc領域と比較して、1つまたは複数のさらなる変異を含み得る。
【0160】
一態様では、E430、E345およびS440に対応する1つまたは複数のアミノ酸残基の変異を含むFc領域は、例えば、SEQ ID NO:19、SEQ ID NO:20、SEQ ID NO:21、SEQ ID NO:22、SEQ ID NO:23、SEQ ID NO:34、SEQ ID NO:35、およびSEQ ID NO:36のうちの1つに記載されるような、野生型ヒトIgG1、IgG2、IgG3およびIgG4のFc領域と比較して1つまたは複数のさらなる変異を含む、ヒトIgG Fc領域である。代替の方法で発現されると、E430、E345およびS440に対応する1つまたは複数のアミノ酸残基の変異を含むFc領域はまた、例えば、SEQ ID NO:19、SEQ ID NO:20、SEQ ID NO:21、SEQ ID NO:22、SEQ ID NO:23、SEQ ID NO:34、SEQ ID NO:35、およびSEQ ID NO:36のうちの1つに記載されるような、野生型ヒトIgG1、IgG2、IgG3およびIgG4のFc領域とは、1つまたは複数のさらなる変異の点で異なる可能性もある。例えば、Fc領域は、E430、E345およびS440に対応する群から選択される1つまたは複数のアミノ酸残基の変異に加えて、アミノ酸残基の12個以下の変異、例えば11、10、9、8、7、6、5、4、3、2または1個の変異、例えば置換、挿入または欠失によって、野生型Fc領域と異なっていてもよい。
【0161】
例えば、447位(Eu番号付け)のC末端アミノ酸Lys(K)は、存在しない可能性がある。抗体の産生に使用されるいくつかの宿主細胞は、447位のLysを除去することができる酵素を含有する可能性があり、かつそのような除去は均質ではないかもしれない。したがって、産物の均質性を増大させるために、治療用抗体を、C末端Lys(K)を含まずに産生させてもよい。C末端Lys(K)を含まない抗体を産生させるための方法は、当業者に周知であり、該抗体を発現する核酸の遺伝子操作、酵素的方法、および特定の宿主細胞の使用を含む。それゆえ、抗体が、K447残基を欠いている重鎖をコードする組換え核酸から発現されるように、例えば、Fc領域は、E430、E345およびS440に対応する1つまたは複数のアミノ酸残基の変異を除いて、SEQ ID NO:45に記載の配列を含み得る。
【0162】
好ましくは、任意のそのような1つまたは複数のさらなる変異は、本明細書に開示されるような抗体、すなわち、ヒトIgG1重鎖中のE430、E345およびS440に対応する群から選択される1つまたは複数のアミノ酸残基の変異を含む抗体の、CDCおよび/またはADCCを誘導する能力を低下させない。より好ましくは、任意のそのような1つまたは複数のさらなる変異は、CDCを誘導する抗体の能力を低下させない。すなわち、1つまたは複数のさらなる変異を含むFc領域を含む抗体は、該1つまたは複数のさらなる変異を含まない抗体と比較して、低下したCDCおよび/またはADCCを有さない。最も好ましくは、任意のそのような1つまたは複数のさらなる変異は、CDCおよびADCCのいずれか1つを誘導する抗体の能力を低下させない。1つまたは複数のさらなる変異の候補は、例えば、本明細書の実施例3および4などに開示されるように、例えば、CDCまたはADCCアッセイで試験することができる。例えば、本明細書に記載の抗体、例えばIgG1-C-E430GのCDCは、CDCを誘導する抗体の能力に対するさらなる変異候補の効果を確かめるために、1つまたは複数のさらなる変異の特定の候補を伴っておよび伴わずに、実施例3のアッセイまたは次のセクションに記載のアッセイ(または同様のアッセイ)で試験することができる。同様に、本明細書に記載の抗体、例えばIgG1-C-E430GのADCCは、ADCCを誘導する抗体の能力に対するさらなる変異候補の効果を確かめるために、さらなる変異の特定の候補を伴っておよび伴わずに、実施例4のアッセイまたは次のセクションに記載のアッセイ(または同様のアッセイ)で試験することができる。
【0163】
好ましくは、2本のHCおよび2本のLCを含む抗体において、第1および第2のHCのFc領域は、アミノ酸配列が同一であり、結果として、二量体化形態のFc領域はホモ二量体である。
【0164】
しかし、いくつかの態様では、2本のHCおよび2本のLCを含む抗体において、第1のHCのFc領域は、1つまたは複数のアミノ酸が第2のHCのFc領域と異なっていてもよく、結果として、二量体化形態のFc領域はヘテロ二量体である。例えば、ヒトIgG1重鎖中のE430、E345およびS440に対応する群から選択される1つまたは複数のアミノ酸残基の変異(該アミノ酸残基はEUインデックスに従って番号付けされる)は、Fc領域の一方にのみ存在し得る。したがって、いくつかの態様では、一方のFc領域は、SEQ ID NO:45であるか、またはSEQ ID NO:19、SEQ ID NO:20、SEQ ID NO:21、SEQ ID NO:22、SEQ ID NO:23、SEQ ID NO:34、SEQ ID NO:35、およびSEQ ID NO:36から選択されるヒト野生型IgG Fc領域であり得、他方のFc領域は、ヒトIgG1重鎖中のE430、E345およびS440に対応する群から選択される前記1つまたは複数のアミノ酸残基の変異を除いて、同一であり得る。
【0165】
一態様では、本明細書の任意の局面または態様による抗体は、任意の記載された変異を除いて、ヒト抗体である。
【0166】
一態様では、本明細書の任意の局面または態様による抗体は、任意の記載された変異を除いて、全長抗体、例えばヒト全長抗体である。
【0167】
一態様では、本明細書の任意の局面または態様による抗体は、任意の記載された変異を除いて、2価抗体、例えばヒト2価抗体、例えばヒト2価全長抗体である。
【0168】
一態様では、本明細書の任意の局面または態様による抗体は、任意の記載された変異を除いて、モノクローナル抗体、例えばヒトモノクローナル抗体、例えばヒト2価モノクローナル抗体、例えばヒト2価全長モノクローナル抗体である。
【0169】
好ましい態様では、本明細書の任意の局面または態様による抗体は、任意の記載された変異を除いて、IgG1抗体、例えば全長IgG1抗体、例えばヒト全長IgG1抗体、任意でヒトモノクローナル全長2価IgG1,κ抗体、例えばヒトモノクローナル全長2価IgG1m(f),κ抗体である。
【0170】
本発明による抗体は、有利には、同じエピトープに結合する2つの抗原結合領域を含む、2価の単一特異性フォーマットである。しかし、抗原結合領域の一方が異なるエピトープに結合する二重特異性フォーマットもまた、企図される。したがって、本明細書の任意の局面または態様による抗体は、文脈と矛盾しない限り、単一特異性抗体または二重特異性抗体のいずれかであることができる。
【0171】
一態様では、本明細書の任意の局面または態様による抗体は、単一特異性抗体、例えばヒト単一特異性抗体、例えばヒト全長単一特異性抗体、例えばヒト全長単一特異性2価モノクローナル抗体である。任意で、抗体は、任意の記載された変異を除いて、ヒト全長単一特異性2価IgG1,κモノクローナル抗体、例えばヒト全長単一特異性2価IgG1m(f),κモノクローナル抗体であり得る。
【0172】
別の態様では、本明細書の任意の局面または態様による抗体は、多重特異性抗体、例えば全長二重特異性2価抗体、例えばヒト全長二重特異性2価抗体、例えばヒト全長二重特異性2価モノクローナル抗体である。任意で、抗体は、任意の記載された変異を除いて、ヒト全長二重特異性2価IgG1,κモノクローナル抗体、例えばヒト全長二重特異性2価IgG1m(f),κモノクローナル抗体であり得る。
【0173】
特定の態様では、本明細書の任意の局面または態様による薬学的組成物は、2本の同一重鎖(HC)のアミノ酸配列および2本の同一軽鎖(LC)のアミノ酸配列を含むか、それらからなるか、またはそれらから本質的になる抗体を含み、各HCアミノ酸配列は、SEQ ID NO:1を含むVH領域およびSEQ ID NO:46を含むCH領域を含み、かつ各LCアミノ酸配列は、SEQ ID NO:5を含むVL領域およびSEQ ID NO:37を含むCL領域を含む。
【0174】
機能の調節
本明細書の任意の局面または態様による抗体は、ヒトCD38に結合することができ、かつ典型的には、典型的に補体およびエフェクター細胞の存在下で、ヒトCD38を発現する標的細胞のCDC、ADCC、ADCP、Fc架橋剤の非存在下ではなく存在下でのアポトーシス、トロゴサイトーシス、またはそれらの任意の組み合わせのうちの1つまたは複数、好ましくは全てを誘導することができる。本明細書の任意の局面または態様による抗体はまた、典型的には、CD38の酵素活性も調節し得る。
【0175】
したがって、一態様では、本明細書の任意の局面または態様による抗体は、CDC、ADCC、ADCP、Fc架橋剤の非存在下ではなく存在下でのアポトーシス、トロゴサイトーシスのうちの1つまたは複数を誘導し得、かつCD38の酵素活性を調節し得、またはそれらの任意の組み合わせである。
【0176】
一態様では、抗体は、SEQ ID NO:39に示されるような、Hisタグ付きヒトCD38に結合することができる。
【0177】
一態様では、抗体は、ヒトCD38のシクラーゼ活性に対して阻害効果を有する。例えば、抗体は、ヒトCD38のシクラーゼ活性を少なくとも約40%、例えば少なくとも約50%、例えば少なくとも約60%阻害し得る。シクラーゼ活性の阻害は、
(a)マルチウェルプレートで、ウェルあたり100μLの20 mM Tris-HCL中の200,000個のDaudi細胞もしくはWien133細胞を播種する段階、またはウェルあたり100μLの20 mM Tris-HCL中の0.6μg/mLのHisタグ付き可溶性ヒトCD38(SEQ ID NO:39)を播種する段階;
(b)各ウェルに1μg/mLのCD38抗体と80μMのNGDを添加する段階;
(c)プラトーに達するまで(例えば、5分、10分または30分)蛍光を測定する段階;および
(d)アイソタイプ対照抗体とインキュベートしたウェルなどの対照と比較して、阻害の割合を決定する段階
を含むアッセイにより決定することができる。
【0178】
一態様では、抗体は、Fc架橋抗体の存在下でアポトーシスを誘導するが、Fc架橋抗体の非存在下では誘導しない。
【0179】
一態様では、抗体は、ヒトCD38を発現する細胞のCDC、ADCC、抗体依存性細胞貧食(ADCP)、トロゴサイトーシス、またはそれらの任意の組み合わせを誘導する。
【0180】
一態様では、抗体は、ヒトCD38を発現する細胞のCDCを誘導する。例えば、抗体は、Daudi細胞(ATCC番号CCL-213)またはRamos細胞(ATCC番号CRL-1596)に対してCDCを誘導し、その結果、Fc領域に該1つまたは複数の変異が存在しないことのみが異なる参照抗体で得られる最大溶解よりも、少なくとも50%、例えば少なくとも60%、例えば少なくとも70%高い最大溶解をもたらし得る。CDCは、
(a)マルチウェルプレートで、ウェルあたり0.2%のBSAを添加した培養培地40μLに100,000個のCD38発現細胞をプレーティングする段階;
(b)細胞を、40μLの段階希釈したCD38抗体(0.0002~10μg/mL)と共に20分間プレインキュベートする段階;
(c)各ウェルを、20%のプールした正常ヒト血清と共に37℃で45分間インキュベートする段階;
(d)生死判別色素を添加し、フローサイトメーターで細胞溶解の割合を測定する段階;および
(e)非線形回帰を用いて最大溶解を決定する段階
を含むアッセイにより決定することができる。
【0181】
機能の調節に関するより詳細な態様を、以下で説明する。
【0182】
補体依存性細胞傷害(CDC):
一態様では、本明細書に開示される抗体は、CDCを誘導する。特に、抗体は、例えばCD38発現細胞の表面または細胞膜上の、CD38に結合した場合に、対照と比較して増大したCDCを媒介することができる。対照は、例えば、ヒトIgG1重鎖におけるE430、E345およびS440に対応する群より選択される1つまたは複数のアミノ酸残基の変異を除いて、抗体と同一のアミノ酸配列(典型的には重鎖および軽鎖アミノ酸配列)を有する参照抗体であり得る。あるいは、対照は、異なるVHおよびVL配列を除いて、抗体と同一のアミノ酸配列(典型的には重鎖および軽鎖アミノ酸配列)を有する参照抗体であり得る。そのような参照抗体は、例えば、表1に示すような、抗体Bまたは抗体AのVHおよびVL配列を代わりに有することができる。好ましくは、参照抗体のVHおよびVL配列は、抗体Bのものである。あるいは、参照抗体は、同じ標的に結合するが、異なるアミノ酸配列を有する抗体であり得る。あるいは、対照は、例えばVHおよびVL配列が表1に示される抗体b12のものであるような、アイソタイプ対照抗体であり得る。
【0183】
したがって、一態様では、本明細書に開示される任意の局面または態様による抗体は、CD38発現標的細胞に対して参照抗体よりも高いCDCを誘導し、ここで、該参照抗体は、抗体CのVHおよびVL領域の配列、すなわち、それぞれSEQ ID NO:1およびSEQ ID NO:5と、E430、E345および/またはS440の1つまたは複数の変異を除いて、抗体と同一のCHおよびCL領域の配列とを含む。
【0184】
別の態様では、本明細書に開示される任意の局面または態様による抗体は、CD38発現標的細胞に対して参照抗体よりも高いCDCを誘導し、ここで、該参照抗体は、抗体CのVHおよびVL領域の配列、すなわち、それぞれSEQ ID NO:1およびSEQ ID NO:5と、それぞれSEQ ID NO:20 (IgGm(f))およびSEQ ID NO:37(κ)のCHおよびCL領域の配列とを含む。
【0185】
別の態様では、本明細書に開示される任意の局面または態様による抗体は、CD38発現標的細胞に対して参照抗体よりも高いCDCを誘導し、ここで、該参照抗体は、抗体BのVHおよびVL領域の配列、すなわち、それぞれSEQ ID NO:8およびSEQ ID NO:9と、抗体と同一のCHおよびCL領域の配列とを含む。
【0186】
別の態様では、本明細書に開示される任意の局面または態様による抗体は、CD38発現標的細胞に対して参照抗体よりも高いCDCを誘導し、ここで、該参照抗体は、抗体AのVHおよびVL領域の配列、すなわち、それぞれSEQ ID NO:10およびSEQ ID NO:11と、抗体と同一のCHおよびCL領域の配列とを含む。
【0187】
別の態様では、本明細書に開示される任意の局面または態様による抗体は、CD38発現標的細胞に対して参照抗体よりも高いCDCを誘導し、ここで、該参照抗体は、抗体b12のVHおよびVL領域の配列、すなわち、それぞれSEQ ID NO:12およびSEQ ID NO:16と、抗体と同一のCHおよびCL領域の配列とを含む。
【0188】
一つの特定の態様では、CDC応答は最大溶解として記載され、ここで、より高い最大溶解はCDCの増大を反映する。一つの特定の態様では、CDC応答はEC50(最大溶解の半分が観察される濃度)として記載され、ここで、より低いEC50はCDCの増大を示す。一つの特定の態様では、CD38発現標的細胞は、腫瘍細胞、例えばリンパ腫細胞である。リンパ腫標的細胞の非限定的な例としては、以下が挙げられる(括弧内に、商業的供給源を示す):
- Daudi細胞(ATCC CCL-213);
- Ramos細胞(ATCC CRL-1596);
- REH細胞(DSMZ ACC 22);
- Wien-133細胞(BioAnaLab, Oxford, U.K.);
- RS4;11細胞(DSMZ ACC 508);
- NALM-16(DSMZ ACC 680);
- U266(ATCC TIB-196);
- RC-K8(DSMZ ACC 561);
- SU-DHL-8;
- Oci-Ly-7;
- Oci-Ly-19;
- Oci-Ly-18;
- Raji;
- DOHH-2;
- SU-DHL-4;
- WSU-DLCL-2;
- Z-138;
- JVM-13;
- Jeko-1;
- 697;
- Granta 519;
- DB;
- Pfeiffer。
【0189】
CD38を発現する標的細胞はまた、AML細胞であってもよく、例えば、THP1、monomac6、Oci-AML3、KG-1、ML2、U937、Nomo-1、AML-193、MEGAL、MOLM13、HL-60、Oci-M1からなる群より選択されるものであるが、これらに限定されない。
【0190】
CD38を発現する標的細胞はまた、MM細胞であってもよく、例えば、LP-1、NCI-H929、OPM-2、およびARH77からなる群より選択されるものであるが、これらに限定されない。
【0191】
別の特定の態様では、CD38発現標的細胞は、腫瘍細胞、例えばリンパ腫細胞または白血病細胞または骨髄腫細胞であり、細胞あたりのCD38分子のおおよその平均数は、任意で、実施例1に記載のように測定された場合、以下の範囲のいずれかである:
- 150,000~250,000、例えば約200,000;
- 200,000~300,000、例えば約260,000;
- 80,000~180,000、例えば約130,000;
- 50,000~150,000、例えば約100,000;
- 40,000~120,000、例えば約80,000;
- 30,000~70,000、例えば約50,000;
- 10,000~20,000、例えば約15,000;
- 5,000~15,000、例えば約10,000。
【0192】
一態様では、本明細書に開示される任意の局面または態様による抗体は、参照抗体と比較して、CD38発現標的細胞に対する増大したCDCを誘導し、ここで、該参照抗体は、抗体BのVHおよびVL領域の配列、すなわち、それぞれSEQ ID NO:8およびSEQ ID NO:9と、抗体と同一のCHおよびCL領域の配列とを含む;ここで、CDC応答はEC50であり、CD38発現標的細胞はNALM-16(DSMZ ACC 680)、U266(ATCC TIB-196)およびRC-K8(DSMZ ACC 561)から選択される。
【0193】
好ましい態様では、本明細書に開示される任意の局面または態様による抗体は、参照抗体と比較して、CD38発現標的細胞に対する増大したCDCを誘導し、ここで、該参照抗体は、抗体CのVHおよびVL領域の配列、すなわち、それぞれSEQ ID NO:1およびSEQ ID NO:5と、それぞれSEQ ID NO:20 (IgGm(f))およびSEQ ID NO:37 (κ)のCHおよびCL領域の配列とを含む;ここで、CDC応答は最大溶解であり、CD38発現標的細胞はDaudi細胞(ATCC CCL-213)およびRamos細胞(ATCC CRL-1596)から選択される。該抗体は、特に、参照抗体よりも少なくとも50%、例えば少なくとも60%または少なくとも70%高い最大溶解をもたらす可能性がある。
【0194】
CD38発現標的細胞に対してCDCを誘導するIgG抗体などの抗体の能力を評価するために適した、当業者に公知のインビトロまたはインビボの方法またはアッセイはどれも、使用することができる。好ましくは、そのようなアッセイは、関連部分において、実施例3に記載されるCDCアッセイの段階を含む。
【0195】
CD38抗体によって媒介されるCD38発現細胞の最大溶解またはEC50値を測定するためのアッセイの非限定的な例は、以下の段階を含み得る:
(a)マルチウェルプレートで、ウェルあたり0.2%のBSAを添加した培養培地40μLに約100,000個のCD38発現細胞をプレーティングする段階;
(b)細胞を40μLの段階希釈したCD38抗体(0.0002~10μg/mL)と共に20分間プレインキュベートする段階;
(c)各ウェルを20%のプールした正常ヒト血清と共に37℃で45分間インキュベートする段階;
(d)生死判別色素を添加し、フローサイトメーターで細胞溶解の割合を測定する段階;
(e)最大溶解を決定し、かつ/または非線形回帰を用いてEC50値を計算する段階。
【0196】
このアッセイに適した腫瘍細胞には、Daudi細胞(ATCC CCL-213)など、表2に記載されたものが含まれるが、これらに限定されない。
【0197】
特定の態様では、抗体は、Daudi細胞(ATCC番号CCL-213)またはRamos細胞(ATCC番号CRL-1596)に対してCDCを誘導し、参照抗体で得られる最大溶解よりも少なくとも50%、例えば少なくとも60%、例えば少なくとも70%高い細胞溶解をもたらす;該参照抗体は、ヒトIgG1重鎖中のE430、E435およびS440に対応する群から選択される1つまたは複数のアミノ酸残基に変異がないことのみで異なっており、該アミノ酸残基はEUインデックスに従って番号付けされる。一態様では、参照抗体は、抗体CのVHおよびVL領域の配列、すなわち、それぞれSEQ ID NO:1およびSEQ ID NO:5と、それぞれSEQ ID NO:20(IgGm(f))およびSEQ ID NO:37(κ)のCHおよびCL領域の配列とを含む。
【0198】
抗体依存性細胞介在性傷害(ADCC):
一態様では、本明細書の任意の局面または態様による抗体は、ADCCを誘導する。いくつかの態様では、抗体は、例えばCD38発現細胞の表面または細胞膜上の、CD38に結合した場合に、ADCCを媒介することができる。E430G変異を含む抗CD38抗体は、E430G変異のない同じ抗体と比較して、やや低いレベルのADCCを誘導することが見出された。抗体は、例えばCD38発現細胞の表面または細胞膜上の、CD38に結合した場合に、対照よりも高いADCCを媒介する可能性がある;ここで、対照は、例えば、異なるVHおよびVL配列を除いて、抗体と同一のアミノ酸配列(典型的には重鎖および軽鎖アミノ酸配列)を有する参照抗体であり得る。そのような参照抗体は、例えば、表1に示すような、抗体Bまたは抗体AのVHおよびVL配列を代わりに有することができる。好ましくは、参照抗体のVHおよびVL配列は、抗体Bのものである。あるいは、対照は、例えばVHおよびVL配列が表1に示される抗体b12のものであるような、アイソタイプ対照抗体であり得る。
【0199】
したがって、一態様では、本明細書に開示される任意の局面または態様による抗体は、CD38発現標的細胞に対して参照抗体よりも高いADCCを誘導し、ここで、該参照抗体は、抗体BのVHおよびVL領域の配列、すなわち、それぞれSEQ ID NO:8およびSEQ ID NO:9と、抗体と同一のCHおよびCL領域の配列とを含む。一つの特定の態様では、ADCC応答は最大溶解であり、より高い最大溶解はより高いADCCを反映する。一つの特定の態様では、ADCC応答は、FcγRIIIa結合を測定するアッセイで評価され、ここで、より高い結合はより高いADCCを示す。一つの特定の態様では、CD38発現標的細胞は腫瘍細胞である。標的細胞の非限定的な例には、Daudi、Wien-133、Granta 519、MEC-2、および表2に記載される腫瘍細胞株が含まれる。
【0200】
一態様では、本明細書に開示される任意の局面または態様による抗体は、参照抗体と比較して、CD38発現Daudi細胞に対するより高いADCCを誘導し、ここで、該参照抗体は、抗体BのVHおよびVL領域の配列、すなわち、それぞれSEQ ID NO:8およびSEQ ID NO:9と、抗体と同一のCHおよびCL領域の配列とを含み、任意で、ADCC応答は最大溶解またはFcγRIIIa結合である。
【0201】
一態様では、本明細書に開示される任意の局面または態様による抗体は、参照抗体と比較して、CD38発現Daudi細胞に対するより高いADCCを誘導し、ここで、該参照抗体は、抗体b12のVHおよびVL領域の配列、すなわち、それぞれSEQ ID NO:12およびSEQ ID NO:16と、抗体と同一のCHおよびCL領域の配列とを含み、任意で、ADCC応答は最大溶解またはFcγRIIIa結合である。
【0202】
CD38発現標的細胞に対するADCCを誘導するIgG抗体などの抗体の能力を評価するために適した、当業者に公知のインビトロまたはインビボの方法またはアッセイはどれも、使用することができる。好ましくは、該アッセイは、関連部分において、実施例4に記載の51Cr放出抗体依存性細胞傷害アッセイまたはADCCレポーターバイオアッセイの段階を含む。CD38抗体によって媒介されるCD38発現細胞のADCCを調べるためのアッセイの非限定的な例は、以下に記載される51Cr放出アッセイまたはレポーターアッセイの段階を含み得る。
【0203】
51Cr放出によるADCC:
(a)マルチウェルプレートで、ウェルあたり0.2%のBSAを添加した培養培地50μLに約5,000個の51Cr標識CD38発現細胞(例えば、Daudi細胞)をプレーティングする段階;
(b)細胞を50μLの段階希釈したCD38抗体(0.0002~10μg/mL)と共に15分間プレインキュベートする段階;
(c)各ウェルを、ウェルあたり500,000個の新たに分離した末梢血単核細胞(PBMC)と共に37℃で4時間インキュベートする段階;
(d)ガンマカウンターで75μLの上清中の51Crの放出量を測定する段階;
(e)細胞溶解の割合を(cpmサンプル-cpm自然溶解)/(cpm最大溶解-cpm自然溶解)として計算する段階、ここで、cpmは1分あたりのカウント数である。
【0204】
レポーターアッセイによるADCC:
(a)光学的読み取りに適したマルチウェルプレート(例えば、PerkinElmer社からの384ウェルOptiPlates)で、25%の低IgG血清を添加した標準培地(例えば、RPMI 1640)に、10μL中の約5,000個のDaudi細胞をプレーティングする段階;
(b)各ウェルを、エフェクター細胞としてFcγRIIIa受容体、V158(高親和性)バリアント、およびホタルルシフェラーゼの発現を駆動するNFAT応答エレメントを安定して発現する10μLの遺伝子操作したJurkat細胞、ならびに10μLの段階希釈したCD38抗体(0.0002~10μg/mL)と共に、37℃で6時間インキュベートする段階;
(c)各ウェルを30μLのルシフェラーゼ基質と共に室温で5分間インキュベートして、発光を測定する段階。
【0205】
抗体依存性細胞貧食(ADCP):
一態様では、本明細書の任意の局面または態様による抗体は、ADCPを誘導する。いくつかの態様では、抗体は、例えばCD38発現細胞の表面または細胞膜上の、CD38に結合した場合に、ADCPを媒介することができる。抗体は、例えばCD38発現細胞の表面または細胞膜上の、CD38に結合した場合に、対照よりも高いADCPを媒介することができ、ここで、該対照は、例えばVHおよびVL配列が表1に示される抗体b12のものであるような、アイソタイプ対照抗体である。
【0206】
したがって、一態様では、本明細書に開示される任意の局面または態様による抗体は、CD38発現標的細胞に対して参照抗体よりも高いADCPを誘導し、ここで、該参照抗体は、抗体のE430、E345および/またはS440の1つまたは複数の変異においてのみ抗体と異なっている。別の態様では、参照抗体は、抗体b12のVHおよびVL領域の配列、すなわち、それぞれSEQ ID NO:12およびSEQ ID NO:16と、抗体と同一のCHおよびCL領域の配列とを含む。
【0207】
一つの特定の態様では、CD38発現標的細胞は、骨髄腫細胞またはリンパ腫細胞などの、腫瘍細胞である。腫瘍細胞である標的細胞の非限定的な例には、表2に記載されるものが含まれる。
【0208】
CD38発現標的細胞に対してADCPを誘導するIgG抗体などの抗体の能力を評価するために適した、当業者に公知のインビトロまたはインビボの方法またはアッセイはどれも、使用することができる。好ましくは、該アッセイは、関連部分において、実施例5に記載されるマクロファージベースのADCPアッセイの段階を含む。特に、CD38抗体によって媒介されるCD38発現細胞のADCPを測定するためのアッセイは、以下に記載される段階を含み得る:
【0209】
ADCP:
(a)新たに分離した単球を、GM-CSF含有培地で5日間インキュベートすることにより、マクロファージに分化させる段階;
(b)マルチウェルプレートでウェルあたり約100,000個のマクロファージをGM-CSF含有樹状細胞培地にプレーティングする段階;
(c)ウェルあたり20,000個の一般的な蛍光膜色素で標識したCD38抗体オプソニン化CD38発現細胞(例えば、Daudi細胞)を37℃で45分間添加する段階;
(d)フローサイトメーターでCD14陽性、CD19陰性、膜色素陽性のマクロファージの割合を測定する段階。
【0210】
アポトーシス:
本明細書の任意の局面または態様に従った抗体は、一態様では、Fc架橋剤の非存在下ではアポトーシスを誘導し得ない。さらなる態様では、抗体は、Fc架橋剤の存在下でアポトーシスを誘導し得るが、Fc架橋剤の非存在下ではアポトーシスを誘導し得ない。
【0211】
一態様では、Fc架橋剤は抗体である。
【0212】
一態様では、アポトーシスは、実施例6に記載されるように測定することができる。
【0213】
トロゴサイトーシス:
一態様では、本明細書に開示される抗体は、トロゴサイトーシスを誘導し、例えば、ドナーCD38発現細胞からアクセプター細胞へのCD38のトロゴサイトーシスを誘導する。代表的なアクセプター細胞には、T細胞、B細胞、単球/マクロファージ、樹状細胞、好中球、およびNK細胞が含まれる。好ましくは、アクセプター細胞は、Fcガンマ(Fcγ)受容体を発現するリンパ球、例えば、マクロファージまたはPBMCなどである。特に、抗体は、対照と比較して増加したトロゴサイトーシスを媒介し得る。対照は、例えば、抗体のE430、E345および/またはS440の1つまたは複数の変異を除いて、抗体と同一のアミノ酸配列(典型的には重鎖および軽鎖アミノ酸配列)を有する参照抗体であり得る。別の態様では、対照は、異なるVHおよびVL配列を除いて、抗体と同一のアミノ酸配列(典型的には重鎖および軽鎖アミノ酸配列)を有する参照抗体である。例えば、対照は、例えばVHおよびVL配列が表1に示される抗体b12のものであるような、アイソタイプ対照抗体であり得る。
【0214】
トロゴサイトーシスを評価するための適切なアッセイは当技術分野で公知であり、例えば、実施例8に記載のアッセイを含む。CD38抗体によって媒介されるCD38発現細胞のトロゴサイトーシスを測定するためのアッセイの非限定的な例は、以下の段階を含む。
【0215】
トロゴサイトーシス(Daudi細胞):
(a')新たに分離した単球を、5日間のGM-CSFにより、マクロファージに分化させる段階;
(b')ウェルあたり約100,000個のマクロファージをGM-CSF含有樹状細胞培地にプレーティングする段階;
(c')ウェルあたり約20,000個の一般的な蛍光膜色素で標識したCD38抗体オプソニン化Daudi細胞を37℃で45分間添加する段階;
(d')フローサイトメーターでDaudi細胞上のCD38発現を測定する段階、ここで、対照と比較してCD38抗体オプソニン化Daudi細胞上のCD38の減少は、トロゴサイトーシスを示す。
【0216】
トロゴサイトーシス(Treg):
(a)細胞培養培地に、ウェルあたり約500,000個の新たに分離したPBMCを37℃で一晩プレーティングする段階;
(b)ウェルあたり約100,000個の一般的な蛍光細胞内アミン色素で標識したCD38抗体オプソニン化Tregを37℃で一晩(O/N)添加する段階;および
(c)フローサイトメーターでTreg上のCD38発現を測定する段階であって、対照と比較してCD38抗体オプソニン化Treg上のCD38の減少は、トロゴサイトーシスを示す、段階。
【0217】
Daudi細胞(ATCC CCL-213)のほかに、第1のアッセイに適する腫瘍細胞には、表2に記載される細胞、特に高いCD38発現を有するものが含まれるが、これらに限定されない。さらに、第2のアッセイに適するCD38発現細胞には、Tregのほかに、例えば、NK細胞、B細胞、T細胞、単球などの免疫細胞、および表2に記載される腫瘍細胞、特に低いCD38発現レベルを有するものが含まれる。
【0218】
したがって、一態様では、本明細書に開示される任意の局面または態様による抗体は、参照抗体よりも高いレベルのCD38発現標的細胞のトロゴサイトーシスを誘導し、ここで、該参照抗体は、抗体CのVHおよびVL領域の配列、すなわち、それぞれSEQ ID NO:1およびSEQ ID NO:5と、E430、E345および/またはS440の1つまたは複数の変異を除いて抗体と同一のCHおよびCL領域の配列とを含む。
【0219】
いくつかの態様では、本明細書に開示される任意の局面または態様による抗体は、参照抗体よりも高いレベルのCD38発現標的細胞のトロゴサイトーシスを誘導し、ここで、該参照抗体は、抗体BのVHおよびVL領域の配列、すなわち、それぞれSEQ ID NO:8およびSEQ ID NO:9と、抗体と同一のCHおよびCL領域の配列とを含む。
【0220】
いくつかの態様では、本明細書に開示される任意の局面または態様による抗体は、参照抗体よりも高いレベルのCD38発現標的細胞のトロゴサイトーシスを誘導し、ここで、該参照抗体は、抗体AのVHおよびVL領域の配列、すなわち、それぞれSEQ ID NO:10およびSEQ ID NO:11と、抗体と同一のCHおよびCL領域の配列とを含む。
【0221】
いくつかの態様では、本明細書に開示される任意の局面または態様による抗体は、参照抗体よりも高いレベルのCD38発現標的細胞のトロゴサイトーシスを誘導し、ここで、該参照抗体は、抗体b12のVHおよびVL領域の配列、すなわち、それぞれSEQ ID NO:12およびSEQ ID NO:16と、抗体と同一のCHおよびCL領域の配列とを含む。
【0222】
CD38酵素活性の調節:
本明細書の任意の局面または態様による抗体は、典型的には、ヒトCD38の1つまたは複数の酵素活性を調節することができる。一態様では、本明細書に開示される抗体は、例えば、抗体b12のようなアイソタイプ対照抗体などの対照と比較して、CD38シクラーゼ活性に対する阻害効果を有する。例えば、抗体は、腫瘍細胞などの細胞によって発現されたCD38のシクラーゼ活性に対する阻害効果、および/またはCD38の可溶性断片(例えば、SEQ ID NO:39)などの単離されたCD38に対する阻害効果を有し得る。
【0223】
CD38シクラーゼ活性を阻害する抗CD38抗体の能力を評価するために適した、当業者に公知のインビトロまたはインビボの方法またはアッセイはどれも、使用することができる。CD38シクラーゼ活性を試験するための適切なアッセイは、例えば、WO 2006/099875 A1およびWO 2011/154453 A1に記載されている。好ましくは、この方法は、関連部分において、実施例6に記載される特定のアッセイの段階を含み、CD38の基質としてニコチンアミドグアニンジヌクレオチドナトリウム塩(NGD)を用いてシクラーゼ活性を試験する。非蛍光性であるNGDは、CD38によって、蛍光性のcADPRアナログであるサイクリックGDPリボースに環化される(例えば、Comb, Chem High Throughput Screen. 2003 Jun;6(4):367-79Aを参照)。非限定的なアッセイの例は、CD38シクラーゼ活性の阻害を測定するための以下の段階を含む:
(a)マルチウェルプレートで、ウェルあたり100μLの20mM Tris-HCL中の200,000個のDaudi細胞もしくはWien133細胞を播種する段階、またはウェルあたり100μLの20mM Tris-HCL中の0.6μg/mLのHisタグ付き可溶性CD38(SEQ ID NO:39)を播種する段階;
(b)各ウェルに1μg/mLのCD38抗体と80μMのNGDを添加する段階;
(c)プラトーに達するまで(例えば、5分、10分または30分)蛍光を測定する段階;ならびに
(d)アイソタイプ対照抗体とインキュベートしたウェルなどの対照と比較して、阻害の割合を決定する段階。
【0224】
一態様では、そのようなアッセイにおいて、抗体は、対照、典型的にはアイソタイプ対照抗体の存在下でのCD38シクラーゼ活性と比較して、少なくとも約40%、例えば少なくとも約50%、例えば少なくとも約60%、例えば約40%から約60%の間で、CD38のシクラーゼ活性、具体的には最大NGD変換パーセントを阻害することができる。例えば、アイソタイプ対照抗体は、抗体b12のVHおよびVL領域の配列、すなわち、それぞれSEQ ID NO:12およびSEQ ID NO:16と、抗体と同一のCHおよびCL領域の配列とを含み得る。特定の態様では、このアッセイは、シクラーゼ活性を測定するためにhisCD38(SEQ ID NO:39)を利用する。
【0225】
いくつかの態様では、本明細書に開示される任意の局面または態様による抗体は、参照抗体と比較して、CD38シクラーゼ活性の増大した(すなわち、より効果的な)阻害を有し、ここで、該参照抗体は、抗体BのVHおよびVL領域の配列、すなわち、それぞれSEQ ID NO:8およびSEQ ID NO:9と、抗体と同一のCHおよびCL領域の配列とを含む。
【0226】
いくつかの態様では、本明細書に開示される任意の局面または態様による抗体は、参照抗体と比較して、CD38シクラーゼ活性の増大した(すなわち、より効果的な)阻害を有し、ここで、該参照抗体は、抗体AのVHおよびVL領域の配列、すなわち、それぞれSEQ ID NO:10およびSEQ ID NO:11と、抗体と同一のCHおよびCL領域の配列とを含む。
【0227】
さらに、いくつかの態様では、本明細書に記載される抗体は、Fc架橋剤の存在下でCD38発現細胞のアポトーシスを誘導するが、Fc架橋剤の非存在下ではアポトーシスを誘導しない。これらの機能性は両方とも、関連部分において、実施例6に記載のアポトーシスアッセイの段階を含むアッセイで測定することができる。一態様では、アポトーシスアッセイは、以下の段階を含み得る:
(a)ウェルあたり100μLの0.2%BSAを添加した培養培地に100,000個のCD38発現腫瘍細胞をプレーティングする段階;
(b)各ウェルを、段階希釈したCD38抗体(0.0002~10μg/mL)および10μg/mLのヤギ抗ヒトIgG1と共に37℃で一晩インキュベートする段階;
(c)フローサイトメーターで死細胞の割合を測定する段階。
【0228】
親和性:
CD38に結合する抗体の親和性を評価するための方法は、当技術分野で周知であり、本明細書に記載される抗体の親和性を評価するために使用することができる。本明細書に記載される抗体の結合親和性を評価するための特に適切なアッセイは、実施例13に記載されるものである。例えば、実施例13のアッセイを使用して、本明細書に開示される任意の局面または態様による抗体の親和性を、参照抗体と比較して決定することができる。いくつかの態様では、本明細書に開示される任意の局面または態様による抗体は、ヒトCD38への結合において参照抗体より増大した親和性(すなわち、より低いKD)を有する。一態様では、参照抗体はIgG1-Bである。一態様では、参照抗体はIgG1-Cである。一態様では、参照抗体はIgG1-Aである。
【0229】
いくつかの態様では、本明細書に開示される任意の局面または態様による抗体は、CD38への結合において参照抗体より増大した親和性(すなわち、より低いKD)を有し、該参照抗体は、抗体BのVHおよびVL領域配列、すなわち、それぞれSEQ ID NO:8およびSEQ ID NO:9、ならびにIgG1 Fc領域、すなわち、IgG1-Bを含む。
【0230】
いくつかの態様では、本明細書に開示される任意の局面または態様による抗体は、1つもしくは複数の変異によってSEQ ID NO:1と異なるVHを含み、かつ/または1つもしくは複数の変異によってSEQ ID NO:5と異なるVLを含む抗体であり、かつ、CD38への結合において参照抗体より増大した親和性(すなわち、より低いKD)を有し、該参照抗体は、抗体CのVHおよびVL領域配列、すなわち、それぞれSEQ ID NO:1およびSEQ ID NO:5、ならびに該抗体と同一のCHおよびCL領域配列を含む。好ましい態様では、抗体は、VHおよび/またはVLの1つまたは複数の変異が、1つまたは複数のFR領域に位置するように、SEQ ID NO:2に記載の配列を有するVH CDR1、SEQ ID NO:3に記載の配列を有するVH CDR2、SEQ ID NO:4に記載の配列を有するVH CDR3、SEQ ID NO:6に記載の配列を有するVL CDR1、配列AASを有するVL CDR2、およびSEQ ID NO:7に記載の配列を有するVL CDR3を含む。
【0231】
抗体産生
本明細書に開示されるような抗体は、典型的には、組換え宿主細胞などの宿主細胞において産生される。ほとんどの態様では、抗体は、重鎖および軽鎖の両方を含有し、それゆえ、宿主細胞は、典型的には、同じかまたは異なるベクター上の、重鎖をコードする構築物および軽鎖をコードする構築物の両方を発現する。宿主細胞は、例えば、細胞ゲノム中に安定に組み込まれた第1および第2の核酸構築物を含んでもよく、第1の核酸構築物は、本明細書に開示されるような抗体の重鎖をコードし、第2の核酸構築物は、その軽鎖をコードする。別の態様では、本発明は、上で示されたような第1および第2の核酸構築物を含む、プラスミド、コスミド、ファージミド、または線状発現エレメントなどの、非組込み型核酸を含む細胞を提供する。
【0232】
したがって、本発明は、抗体が、宿主細胞において重鎖および軽鎖を発現させる段階を含む方法によって取得されるかまたは取得可能である、薬学的組成物を提供する。異なる宿主細胞は、異なるレパートリーのグリコシル化酵素およびトランスポーターを発現し、それが、グリコシル化における特異性および不均一性に寄与し得るため、抗体を産生するために使用される宿主細胞株は、抗体のグリコシル化プロファイルに影響を及ぼす場合がある(Goh and Ng, Critical Reviews in Biotechnology, 2018;38:851-67)。
【0233】
請求項の組換え宿主細胞は、例えば、真核細胞、原核細胞、または微生物細胞、例えば、トランスフェクトーマであることができる。特定の態様では、宿主細胞は真核細胞である。宿主細胞の他の例には、酵母、細菌、および植物細胞が含まれる。好ましくは、宿主細胞は、哺乳動物細胞、例えば、CHO、CHO-S、HEK、HEK293、HEK-293F、Expi293F、PER.C6、NS0細胞、Sp2/0細胞、またはリンパ球細胞である。特定の態様では、宿主細胞はチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である。
【0234】
宿主細胞は、タンパク質のAsn結合型グリコシル化が可能である細胞、例えば、真核細胞、例えば哺乳動物細胞、例えばヒト細胞であることができる。例えば、宿主細胞は、ヒト様グリコシル化またはヒトグリコシル化を有する糖タンパク質を産生するように遺伝子操作されている、非ヒト細胞であることができる。そのような細胞の例は、遺伝子改変されたピキア・パストリス(Pichia pastoris)(Hamilton et al., Science 301 (2003) 1244-1246;Potgieter et al., J. Biotechnology 139 (2009) 318-325)、および遺伝子改変されたコウキクサ(Lemna minor)(Cox et al., Nature Biotechnology 12 (2006) 1591-1597)である。
【0235】
宿主細胞はまた、グリコシル化機構が改変された細胞であることもできる。そのような細胞は、当技術分野で記載されており、本発明の抗体を発現させ、それによってグリコシル化が改変された抗体を産生する宿主細胞として使用することができる。例えば、Shields, R.L. et al. (2002) J. Biol. Chem. 277:26733-26740;Umana et al. (1999) Nat. Biotech. 17:176-1、ならびにEP1176195;WO03/035835;およびWO99/54342を参照されたい。操作されたグリコフォームを生成するためのさらなる方法は、当技術分野で公知であり、以下に記載されるものを含むが、これらに限定されない:Davies et al., 2001, Biotechnol Bioeng 74:288-294;Shields et al, 2002, J Biol Chem 277:26733-26740;Shinkawa et al., 2003, J Biol Chem 278:3466-3473;US6602684;WO00/61739A1;WO01/292246A1;WO02/311140A1;WO 02/30954A1;Potelligent(商標)技術(Biowa, Inc. Princeton, N.J.);GlycoMAb(商標)グリコシル化操作技術(GLYCART biotechnology AG, Zurich, スイス);US 20030115614;Okazaki et al., 2004, JMB, 336: 1239-49、ならびにWO2018/114877、WO2018/114878、およびWO2018/114879に記載されるもの。
【0236】
宿主細胞はまた、抗体重鎖からC末端リジン残基を効率的に除去することができない宿主細胞であってもよい。例えば、Liu et al. (2008) J Pharm Sci 97: 2426(参照により本明細書に組み入れられる)の表2は、いくつかのそのような抗体産生系、例えば、Sp2/0、NS/0、またはトランスジェニック乳腺(ヤギ)を記載しており、そこでは、C末端リジン残基の部分的な除去のみが得られる。あるいは、本明細書の他の箇所に記載されるように、抗体の重鎖をコードする核酸配列は、C末端リジン、例えば、ヒトIgG1重鎖のK447に対応するリジン残基(該アミノ酸残基はEUインデックスに従って番号付けられる)をコードするコドンを欠いていてもよい。
【0237】
特定の態様では、本発明による薬学的組成物は、
・VHおよびCHを含む重鎖であって、該VHがSEQ ID NO:1を含み、および該CHがSEQ ID NO:24またはSEQ ID NO:46を含む、重鎖、ならびに
・VLおよびCLを含む軽鎖であって、該VLがSEQ ID NO:5を含み、および該CLがSEQ ID NO:37を含む、軽鎖
を含むか、それらからなるか、またはそれらから本質的になる全長2価抗体を含み、該抗体は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞において産生される。
【0238】
特定の態様では、本発明による薬学的組成物は、
・VHおよびCHを含む重鎖であって、該VHがSEQ ID NO:1を含み、および該CHがSEQ ID NO:24またはSEQ ID NO:46を含む、重鎖、ならびに
・VLおよびCLを含む軽鎖であって、該VLがSEQ ID NO:5を含み、および該CLがSEQ ID NO:37を含む、軽鎖
を含むか、それらからなるか、またはそれらから本質的になる全長2価抗体を含み、該抗体は、CHO細胞において該重鎖および該軽鎖を発現させる段階を含む方法によって取得されるかまたは取得可能である。
【0239】
治療的応用
本発明の薬学的組成物は、CD38を発現する細胞、例えば、CD38を発現する腫瘍細胞または免疫細胞が関与する疾患および障害の治療を含む、数多くの治療的有用性を有する。例えば、薬学的組成物は、例えばインビトロもしくはエクスビボで、培養中の細胞に投与されてもよく、またはさまざまな障害および疾患を治療もしくは予防するために、例えばインビボで、ヒト対象に投与されてもよい。本明細書で使用する用語「対象」は、抗体の恩恵を受けるか、または抗体に応答する可能性があるヒトおよび非ヒト動物を含むことを意図している。対象には、例えば、酵素活性などのCD38の機能を調節することによって、かつ/またはCD38発現細胞の溶解を誘導すること、および/もしくはCD38発現細胞の数を除去/低下させることによって、かつ/または細胞膜上のCD38の量を低下させることによって、矯正または改善され得る疾患または障害を有する、ヒト患者が含まれ得る。したがって、薬学的組成物は、以下の生物学的活性のうちの1つまたは複数をインビボまたはインビトロで引き出すために使用され得る:補体の存在下でのCD38を発現する細胞のCDC;CD38シクラーゼ活性の阻害;ヒトエフェクター細胞の存在下でのCD38を発現する細胞の貧食またはADCC;および腫瘍細胞または免疫細胞などのCD38発現細胞のトロゴサイトーシス。
【0240】
したがって、一局面では、本発明は、医薬として使用するための、本発明による薬学的組成物に関する。
【0241】
一局面では、本発明は、疾患または障害を治療または予防するための医薬の調製における、本発明による薬学的組成物の使用に関する。
【0242】
一局面では、本発明は、疾患または障害の治療または予防に使用するための、例えば、CD38を発現する細胞が関与する疾患または障害の治療または予防に使用するための、例えば、CD38を発現する細胞が関与する疾患の治療に使用するための、本発明による薬学的組成物に関する。
【0243】
一局面では、本発明は、本発明による薬学的組成物を、それを必要とする対象に投与する段階を含む、疾患または障害の治療方法に関する。
【0244】
一局面では、本発明は、疾患または障害の治療または予防に使用するための、本発明による薬学的組成物に関する。
【0245】
一局面では、本発明は、疾患または障害を治療する方法に関し、該方法は、本発明による薬学的組成物を、それを必要とする対象に、典型的には治療上有効な量でかつ/または該疾患または障害を治療するために十分な期間にわたり投与する段階を含む。
【0246】
一局面では、本発明は、疾患または障害を治療する方法に関し、該方法は、
・該疾患または障害を患っている対象を選択する段階、および
・該対象に、本発明の薬学的組成物を、典型的には治療上有効な量でかつ/または該疾患または障害を治療するために十分な期間にわたり投与する段階
を含む。
【0247】
一態様では、CD38を発現する細胞が関与する疾患または障害は、がん、すなわち腫瘍形成性障害、例えばCD38を発現する腫瘍細胞または免疫細胞の存在により特徴付けられる障害であり、例えば、B細胞リンパ腫、形質細胞悪性腫瘍、T/NK細胞リンパ腫、骨髄性悪性腫瘍などの血液のがん、ならびに固形腫瘍の悪性腫瘍が含まれる。
【0248】
いくつかの態様では、前記疾患または障害は、CD38を発現する腫瘍細胞が関与するがんである。
【0249】
いくつかの態様では、前記疾患または障害は、CD38を発現する免疫抑制細胞、例えばCD38を発現する非がん性の免疫抑制細胞が関与するがんである。
【0250】
いくつかの態様では、前記疾患または障害は、CD38を発現する腫瘍細胞と免疫抑制細胞の両方が関与するがんである。
【0251】
いくつかの態様では、前記疾患または障害は、CD38を発現する免疫抑制細胞とCD38を発現しない腫瘍細胞が関与するがんである。
【0252】
さらに他の態様では、前記疾患または障害は、CD38を発現する細胞が関与する炎症性および/または自己免疫性の疾患または障害である。
【0253】
さらに他の態様では、前記疾患または障害は、CD38を発現する細胞が関与する代謝障害である。
【0254】
薬学的組成物は、本明細書の他の箇所に記載されるように、任意の適切な経路および方法により対象または患者に投与され得る。特定の態様では、薬学的組成物は、静脈内注射または注入によって投与される。薬学的組成物は、任意で、静脈内注射または注入の前にまたはそれに関連して、適切な希釈剤で希釈されてもよい。
【0255】
血液のがん:
一局面では、前記疾患または障害は、血液のがんである。そのような血液のがんの例には、以下が含まれる:B細胞リンパ腫/白血病、例えば、前駆B細胞リンパ芽球性白血病/リンパ腫およびB細胞非ホジキンリンパ腫;急性前骨髄球性白血病、急性リンパ芽球性白血病、および成熟B細胞新生物、例えば、B細胞慢性リンパ性白血病(CLL)/小リンパ球性リンパ腫(SLL)、B細胞急性リンパ球性白血病、B細胞前リンパ球性白血病、リンパ形質細胞性リンパ腫、マントル細胞リンパ腫(MCL)、濾胞性リンパ腫(FL)、例えば、低悪性度、中悪性度、高悪性度のFL、皮膚濾胞中心リンパ腫、辺縁帯B細胞リンパ腫(MALT型、リンパ節および脾臓型)、有毛細胞白血病、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、バーキットリンパ腫、形質細胞腫、形質細胞骨髄腫、形質細胞白血病、移植後リンパ増殖性疾患、ワルデンストレームマクログロブリン血症、形質細胞白血病、および未分化大細胞リンパ腫(ALCL)。
【0256】
B細胞非ホジキンリンパ腫の例は、リンパ腫様肉芽腫症、原発性滲出性リンパ腫、血管内大細胞型B細胞リンパ腫、縦隔大細胞型B細胞リンパ腫、重鎖病(γ鎖病、μ鎖病、およびα鎖病を含む)、免疫抑制剤による治療によって誘発されるリンパ腫、例えば、シクロスポリン誘発性リンパ腫、およびメトトレキサート誘発性リンパ腫である。
【0257】
本発明の一態様では、CD38発現細胞が関与する障害は、ホジキンリンパ腫である。
【0258】
CD38発現細胞が関与する障害の他の例には、以下を含むT細胞およびNK細胞に由来する悪性腫瘍が含まれる:成熟T細胞およびNK細胞新生物、例えば、T細胞前リンパ球性白血病、T細胞大顆粒リンパ球性白血病、アグレッシブNK細胞白血病、成人T細胞白血病/リンパ腫、節外性NK/T細胞リンパ腫、鼻型、腸管症型T細胞リンパ腫、肝脾T細胞リンパ腫、皮下脂肪織炎様T細胞リンパ腫、芽球性NK細胞リンパ腫、菌状息肉腫/セザリー症候群、原発性皮膚CD30陽性T細胞リンパ増殖性疾患(原発性皮膚未分化大細胞リンパ腫C-ALCL、リンパ腫様丘疹症、境界病変)、血管免疫芽球性T細胞リンパ腫、非特定型末梢性T細胞リンパ腫、および未分化大細胞リンパ腫。
【0259】
骨髄細胞に由来する悪性腫瘍の例には、急性骨髄性白血病、例えば急性前骨髄球性白血病、および慢性骨髄増殖性疾患、例えば慢性骨髄性白血病が含まれる。
【0260】
いくつかの態様では、血液のがんは、多発性骨髄腫(MM)、慢性リンパ性白血病(CLL)、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(成人)(AML)、マントル細胞リンパ腫(MCL)、濾胞性リンパ腫(FL)、およびびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)からなる群より選択される。一態様では、ALLは、B細胞急性リンパ芽球性白血病(B-ALL)である。
【0261】
いくつかの態様では、前記がんは、多発性骨髄腫(MM)、慢性リンパ性白血病(CLL)、マントル細胞リンパ腫(MCL)、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、急性骨髄性白血病(成人)(AML)、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、および濾胞性リンパ腫(FL)からなる群より選択される。
【0262】
いくつかの態様では、血液のがんは、多発性骨髄腫(MM)、B細胞リンパ腫、および急性骨髄性白血病(AML)からなる群より選択される。B細胞リンパ腫の非限定的な例には、例えば、マントル細胞リンパ腫(MCL)、バーキットリンパ腫、濾胞性リンパ腫(FL)、およびB細胞急性リンパ芽球性白血病(B-ALL)が含まれる。
【0263】
いくつかの態様では、血液のがんは、多発性骨髄腫、慢性リンパ性白血病(CLL)、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(成人)(AML)、B細胞リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、および骨髄異形成症候群(MDS)からなる群より選択される。一態様では、B細胞リンパ腫は、マントル細胞リンパ腫、バーキットリンパ腫、および濾胞性リンパ腫(FL)から選択される。一態様では、ALLは、B細胞急性リンパ芽球性白血病(B-ALL)である。血液のがんの治療または予防に使用するための薬学的組成物は、例えば、静脈内注射または注入によって対象または患者に投与され得る。薬学的組成物は、任意で、静脈内注射または注入の前にまたはそれに関連して、適切な希釈剤で希釈されてもよい。
【0264】
ある態様では、前記がんは、多発性骨髄腫(MM)である。
【0265】
ある態様では、前記がんは、B細胞リンパ腫である。
【0266】
ある態様では、前記がんは、慢性リンパ性白血病(CLL)である。
【0267】
ある態様では、前記がんは、マントル細胞リンパ腫(MCL)である。
【0268】
ある態様では、前記がんは、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)である。
【0269】
ある態様では、前記がんは、濾胞性リンパ腫(FL)である。
【0270】
ある態様では、前記がんは、急性骨髄性白血病(成人)(AML)である。
【0271】
ある態様では、前記がんは、急性リンパ芽球性白血病(ALL)である。
【0272】
ある態様では、前記がんは、B細胞急性リンパ芽球性白血病(B-ALL)である。
【0273】
ある態様では、前記がんは、バーキットリンパ腫である。
【0274】
ある態様では、前記がんは、骨髄異形成症候群(MDS)である。
【0275】
固形腫瘍の悪性腫瘍:
一局面では、前記疾患または障害は、固形腫瘍を含むがんである。すなわち、がんを患っている患者には、固形腫瘍がある。
【0276】
固形腫瘍の例には、限定するものではないが、以下が含まれる:メラノーマ、肺がん、扁平上皮非小細胞肺がん(NSCLC)、非扁平上皮NSCLC、結腸直腸がん、前立腺がん、去勢抵抗性前立腺がん、胃がん(stomach cancer)、卵巣がん、胃がん(gastric cancer)、肝臓がん、膵臓がん、甲状腺がん、頭頸部の扁平上皮がん、食道または胃腸管のがん、乳がん、卵管がん、脳腫瘍、尿道がん、尿生殖器がん、子宮内膜がん、子宮頸がん、肺腺がん、腎細胞がん(RCC)(例えば、腎明細胞がんまたは腎乳頭状細胞がん)、中皮腫、鼻咽頭がん(NPC)、食道または胃腸管のがん、またはそれらのいずれかの転移性病変。
【0277】
一つの好ましい態様では、固形腫瘍は、Tregなどの免疫抑制細胞を含みかつCD38を発現するがんに由来する。T制御性細胞(Treg)はCD38を高発現することができ、CD38を高発現するTregは、CD38を中程度に発現するTregと比較して、より免疫抑制性である(Krejcik J. et al. Blood 2016 128:384-394)。したがって、理論に限定されるものではないが、トロゴサイトーシスを介してTregに発現されたCD38の量を減少させる本発明による薬学的組成物に含まれる抗体の能力は、特に、TregがCD38を発現している患者の固形腫瘍の治療を可能にする。Treg上のCD38発現が、対照と比較して、例えば、周知の方法を用いて抗CD38抗体で検出された発現とアイソタイプ対照抗体で検出された発現とを比較して、統計的に有意である場合、TregはCD38を発現している。これは、例えば、血液サンプル、骨髄サンプル、または腫瘍生検などの生物学的サンプルを採取することによって、試験することができる。
【0278】
したがって、一局面では、本発明は、CD38を発現するTregを含む対象における固形腫瘍の治療または予防に使用するための、薬学的組成物を含む薬学的組成物に関する。
【0279】
別の局面では、本発明は、CD38を発現するTregを含む対象における固形腫瘍を治療する方法に関し、この方法は、本発明に係る薬学的組成物を、典型的には治療上有効な量でかつ/または該疾患または障害を治療するために十分な期間にわたり、投与する段階を含む。
【0280】
ある態様では、前記固形腫瘍は、メラノーマである。
【0281】
ある態様では、前記固形腫瘍は、肺がんである。
【0282】
ある態様では、前記固形腫瘍は、扁平上皮非小細胞肺がん(NSCLC)である。
【0283】
ある態様では、前記固形腫瘍は、非扁平上皮NSCLCである。
【0284】
ある態様では、前記固形腫瘍は、結腸直腸がんである。
【0285】
ある態様では、前記固形腫瘍は、前立腺がんである。
【0286】
ある態様では、前記固形腫瘍は、去勢抵抗性前立腺がんである。
【0287】
ある態様では、前記固形腫瘍は、胃がん(stomach cancer)である。
【0288】
ある態様では、前記固形腫瘍は、卵巣がんである。
【0289】
ある態様では、前記固形腫瘍は、胃がん(gastric cancer)である。
【0290】
ある態様では、前記固形腫瘍は、肝臓がんである。
【0291】
ある態様では、前記固形腫瘍は、膵臓がんである。
【0292】
ある態様では、前記固形腫瘍は、甲状腺がんである。
【0293】
ある態様では、前記固形腫瘍は、頭頸部の扁平上皮がんである。
【0294】
ある態様では、前記固形腫瘍は、食道または胃腸管のがんである。
【0295】
ある態様では、前記固形腫瘍は、乳がんである。
【0296】
ある態様では、前記固形腫瘍は、卵管がんである。
【0297】
ある態様では、前記固形腫瘍は、脳腫瘍である。
【0298】
ある態様では、前記固形腫瘍は、尿道がんである。
【0299】
ある態様では、前記固形腫瘍は、尿生殖器がんである。
【0300】
ある態様では、前記固形腫瘍は、子宮内膜がんである。
【0301】
ある態様では、前記固形腫瘍は、子宮頸がんである。
【0302】
いくつかの態様では、固形腫瘍の腫瘍細胞は、検出可能なCD38発現を欠いている。固形腫瘍の腫瘍細胞は、固形腫瘍から分離された腫瘍細胞上のCD38発現が、対照と比較して、例えば、周知の方法を用いて抗CD38抗体で検出された発現とアイソタイプ対照抗体で検出された発現とを比較して、統計的に有意でない場合、検出可能なCD38発現を欠いている。これは、例えば、腫瘍から生検などの生物学的サンプルを採取することによって、試験することができる。
【0303】
いくつかの態様では、前記がんは、CD38を発現するT制御性細胞を含む患者におけるがんである。
【0304】
特定の態様では、薬学的組成物は、治療上有効な量でかつ/またはがんを治療するために十分な期間にわたり投与される。
【0305】
代謝障害:
一局面では、前記疾患または障害は、代謝障害である。すなわち、患者は代謝障害を患っている。
【0306】
いくつかの態様では、代謝障害はアミロイドーシスである。アミロイドーシスは、組織内に不溶性タンパク質の沈着物が存在することによって定義される疾患の広大なグループである。その診断は組織学的所見に基づいて行われる。さらなる態様では、前記アミロイドーシスは、ALアミロイドーシスであり得る。
【0307】
患者:
いくつかの態様では、本発明の薬学的組成物は、多発性骨髄腫と新たに診断された患者における多発性骨髄腫の治療に使用するためのものであり得る。
【0308】
いくつかの態様では、本発明の薬学的組成物は、1つまたは複数の化合物による疾患または障害に対する少なくとも1つの治療を以前に受けたことがある対象における同じ疾患または障害の治療または予防に使用するためのものであり得、該1つまたは複数の化合物は、本発明の薬学的組成物とは異なっている。疾患または障害は、本明細書に記載される任意の疾患または障害、例えば、CD38を発現する細胞が関与するがん、炎症性および/もしくは自己免疫性の疾患もしくは障害、またはCD38を発現する細胞が関与する代謝障害であり得る。
【0309】
例えば、いくつかの態様では、本発明の薬学的組成物は、プロテアソーム阻害剤(PI)および/または免疫調節薬(IMiD)による治療を以前に受けたことがある対象における疾患または障害の治療または予防に使用するためのものであり得る。プロテアソーム阻害剤の例としては、ボルテゾミブ、カルフィルゾミブ、およびイキサゾミブが挙げられるが、これらに限定されない。IMiDの例としては、サリドマイド、レナリドマイド、およびポマリドマイドが挙げられるが、これらに限定されない。さらなる態様では、前記疾患または障害は、がんまたは腫瘍、例えば、多発性骨髄腫、マントル細胞リンパ腫、または骨髄異形成症候群(MDS)であり得る。それゆえ、対象は、がん患者、例えば、多発性骨髄腫、マントル細胞リンパ腫、または骨髄異形成症候群(MDS)の患者であり得る。具体的な態様では、本発明の薬学的組成物は、プロテアソーム阻害剤(PI)および/または免疫調節薬(IMiD)による治療を以前に受けたことがある対象または患者における多発性骨髄腫の治療または予防に使用するためのものである。薬学的組成物は、例えば、静脈内注射または注入によって対象または患者に投与され得る。薬学的組成物は、任意で、静脈内注射または注入の前にまたはそれに関連して、適切な希釈剤で希釈されてもよい。
【0310】
本発明の薬学的組成物は、抗CD38抗体による治療を以前に受けたことがない対象における疾患または障害の治療または予防に使用するためのものであり得る。典型的には、そのような対象または患者は、抗CD38抗体ナイーブ患者と呼ばれる。一態様では、抗CD38抗体はダラツムマブである;すなわち、対象または患者は、ダラツムマブによる治療を以前に受けたことがない。それゆえ、一態様では、対象または患者は、ダラツムマブナイーブ対象/患者である。疾患または障害は、本明細書に開示される任意の局面または態様による、がんもしくは腫瘍、またはアミロイドーシスなどの代謝性疾患であり得る。具体的な態様では、本発明の薬学的組成物は、ダラツムマブナイーブ対象または患者における多発性骨髄腫(MM)の治療または予防に使用するためのものである。特定の態様では、薬学的組成物は、静脈内注射または注入によって対象または患者に投与される。薬学的組成物は、任意で、静脈内注射または注入の前にまたはそれに関連して、適切な希釈剤で希釈されてもよい。
【0311】
本発明はまた、CD38抗体を含む少なくとも1つの治療を以前に受けたことがある対象における疾患または障害の治療または予防に使用するための薬学的組成物を提供する。
【0312】
本発明はまた、CD38抗体を含む少なくとも1つの治療を以前に受けたことがあるがん患者を治療する際に使用するための薬学的組成物を提供する。本発明はまた、CD38抗体を含む少なくとも1つの治療を以前に受けたことがある、アミロイドーシスなどの代謝性疾患の患者を治療する際に使用するための薬学的組成物を提供する。そのような以前の治療は、CD38抗体を含む計画された治療プログラムの1つまたは複数のサイクル、例えば、単剤療法または併用療法でのCD38抗体の1つまたは複数の計画されたサイクル、ならびに計画的に投与される一連の治療であった可能性がある。一態様では、以前の治療はCD38抗体単剤療法であった。一態様では、以前の治療はCD38抗体を含む併用療法であった。例えば、以前の治療は、プロテアソーム阻害剤(PI)および免疫調節剤と併用するCD38抗体であった可能性がある。ある態様では、CD38抗体はダラツムマブである。
【0313】
いくつかの局面では、がん患者はまた、単剤療法としてのダラツムマブの投与が限定的な効果を有する患者であり得る。
【0314】
いくつかの局面では、前記がんは、以前の治療に対して「難治性」または「再発性」であるがんとして特徴付けることができる。さらなる態様では、以前の治療は、PI、IMiD、およびCD38抗体のうちの1つまたは複数を含むことができ、例えば、CD38抗体はダラツムマブである。典型的には、これは、以前の治療が完全奏効(CR)に達しなかったこと、例えば、がんがCD38抗体の単剤療法または併用療法に非応答性であったこと、またはがんがCD38抗体療法の終了後の所定の期間内に進行したこと、を示している。そのような併用療法の例には、CD38抗体とPIもしくはIMiDとの組み合わせ、またはPIとIMiDとの組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。同様に、それは、以前の治療が完全奏効(CR)に達しなかったこと、例えば、がんがPI、IMiD、またはそれらの併用療法に非応答性であったこと、またはがんが該治療の終了後の所定の期間内に進行したこと、を示すかもしれない。当業者は、がんが以前の治療に対して難治性であるかどうかを、利用可能な各がんのガイドラインを含めて、当技術分野で知られていることに基づいて、判断することができる。
【0315】
例えば、多発性骨髄腫では、難治性および再発性疾患は、国際骨髄腫ワークショップコンセンサスパネルを代表してRajkumar、Harousseauらが発表したガイドライン、Consensus recommendations for the uniform reporting of clinical trials: report of the International Myeloma Workshop Consensus Panel, Blood 2011;117:4691-4695に従って特定することができる。
【0316】
難治性骨髄腫は、一次療法またはサルベージ療法中に非応答性である疾患、または最後の治療から60日以内に進行する疾患と定義することができる。非応答性の疾患は、治療中に最小限の奏効しか達成できないか、または進行性疾患(PD)を発症するとして定義される。難治性骨髄腫には、「再発・難治性骨髄腫」と「原発性難治性骨髄腫」の2つのカテゴリーが存在し得る。
【0317】
再発・難治性骨髄腫は、サルベージ療法中に非応答性である疾患、または以前にある時点で最小奏効(MR)以上の奏効を達成したが、その後疾患の経過中に進行した患者において最後の治療から60日以内に進行する疾患、として定義することができる。
【0318】
原発性難治性骨髄腫は、どのような治療を行っても最小奏効以上の奏効を達成したことがない患者において、非応答性である疾患として定義することができる。それには、MR以上を決して達成しない患者であって、Mタンパク質に有意な変化がなくかつ臨床的進行の証拠がない患者、ならびに患者が真のPDの基準を満たす原発性難治性のPDが含まれる。原発性難治性患者の治療効果を報告する際には、これら2つのサブグループ(「非応答・非進行性」および「進行性」)における有効性を個別に記載する必要がある。
【0319】
再発骨髄腫は、以前に治療を受けた骨髄腫であって、進行してサルベージ療法の開始を必要とするが、「原発性難治性骨髄腫」または「再発・難治性骨髄腫」のいずれのカテゴリーの基準も満たさない骨髄腫と定義することができる。
【0320】
多発性骨髄腫における特定の応答(CR、PRなど)およびそれらの試験方法の詳細については、Rajkumar, Harousseau et al., 2011 (前出)を参照されたい。
【0321】
したがって、いくつかの態様では、本明細書の任意の局面または態様による薬学的組成物は、PI、IMiDおよびCD38抗体のうちの1つまたは複数を含む以前の治療に対して難治性であるがんの治療に使用するためのものである。一態様では、以前の治療はCD38抗体を含む。一態様では、以前の治療は、PIおよび/またはIMidを含む。一態様では、以前の治療は、CD38抗体およびPIおよびIMidのうちの2つ以上を含む。具体的な態様では、がんは、使用前に難治性がんであると特定される。
【0322】
別の態様では、対象におけるがんを治療するための方法が提供され、該方法は、
(i)PI、IMiD、およびCD38抗体のうちの1つまたは複数を含む以前の治療に対して難治性であるとして該対象を特定する段階、ならびに
(ii)該対象に、治療上有効な量の、本明細書の任意の局面または態様による薬学的組成物を投与する段階
を含む。
【0323】
一態様では、以前の治療はCD38抗体を含む。一態様では、以前の治療は、PIおよび/またはIMidを含む。一態様では、以前の治療は、CD38抗体、PI、およびIMidのうちの2つ以上を含む。
【0324】
別の態様では、対象における、PI、IMiD、およびCD38抗体のうちの1つまたは複数を含む以前の治療に対して難治性のがんを治療するための方法が提供され、該方法は、該対象に、治療上有効な量の、本明細書の任意の局面または態様による薬学的組成物を投与する段階を含む。一態様では、以前の治療はCD38抗体を含む。一態様では、以前の治療は、PIおよび/またはIMidを含む。一態様では、以前の治療は、CD38抗体、PI、および/またはIMidのうちの2つ以上を含む。
【0325】
いくつかの態様では、PIは、ボルテゾミブ、カルフィルゾミブ、およびイキサゾミブからなる群より選択される。
【0326】
いくつかの態様では、IMiDは、サリドマイド、レナリドマイド、およびポマリドマイドからなる群より選択される。
【0327】
いくつかの態様では、CD38抗体はダラツムマブである。
【0328】
いくつかの態様では、本明細書の任意の局面または態様による薬学的組成物は、PI、IMiDおよびCD38抗体のうちの1つまたは複数を含む以前の治療の後で再発したがんの治療に使用するためのものである。一態様では、以前の治療はCD38抗体を含む。一態様では、以前の治療は、PIおよび/またはIMidを含む。一態様では、以前の治療は、CD38抗体、PI、およびIMidのうちの2つ以上を含む。具体的な態様では、がんは、使用前に再発したと特定される。
【0329】
別の態様では、対象におけるがんを治療するための方法が提供され、該方法は、
(i)PI、IMiD、およびCD38抗体のうちの1つまたは複数を含む以前の治療の後で再発しているとして該対象を特定する段階、ならびに
(ii)該対象に、治療上有効な量の、本明細書の任意の局面または態様による薬学的組成物を投与する段階
を含む。
【0330】
一態様では、以前の治療はCD38抗体を含む。一態様では、以前の治療は、PIおよび/またはIMidを含む。一態様では、以前の治療は、CD38抗体、PI、およびIMidのうちの2つ以上を含む。
【0331】
別の態様では、対象における、PI、IMiD、およびCD38抗体のうちの1つまたは複数を含む以前の治療の後で再発したがんを治療するための方法が提供され、該方法は、該対象に、治療上有効な量の、本明細書の任意の局面または態様による薬学的組成物を投与する段階を含む。一態様では、以前の治療はCD38抗体を含む。一態様では、以前の治療は、PIおよび/またはIMidを含む。一態様では、以前の治療は、CD38抗体、PI、およびIMidのうちの2つ以上を含む。
【0332】
いくつかの態様では、PIは、ボルテゾミブ、カルフィルゾミブ、およびイキサゾミブからなる群より選択される。
【0333】
いくつかの態様では、IMiDは、サリドマイド、レナリドマイド、およびポマリドマイドからなる群より選択される。
【0334】
いくつかの態様では、CD38抗体はダラツムマブである。
【0335】
具体的な態様では、本発明による薬学的組成物は、治療上有効な量でかつ/または難治性がんまたは再発がんを治療するために十分な期間にわたり投与される。
【0336】
いくつかの態様では、難治性がんまたは再発がんは、血液のがんである。
【0337】
いくつかの態様では、難治性がんまたは再発がんは、多発性骨髄腫(MM)、慢性リンパ性白血病(CLL)、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(成人)(AML)、マントル細胞リンパ腫(MCL)、濾胞性リンパ腫(FL)、およびびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)からなる群より選択される。
【0338】
いくつかの態様では、難治性がんまたは再発がんは、多発性骨髄腫(MM)、慢性リンパ性白血病(CLL)、マントル細胞リンパ腫(MCL)、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、および濾胞性リンパ腫(FL)からなる群より選択される。
【0339】
ある態様では、難治性がんまたは再発がんは、多発性骨髄腫(MM)である。
【0340】
ある態様では、難治性がんまたは再発がんは、慢性リンパ性白血病(CLL)である。
【0341】
ある態様では、難治性がんまたは再発がんは、マントル細胞リンパ腫(MCL)である。
【0342】
ある態様では、難治性がんまたは再発がんは、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)である。
【0343】
ある態様では、難治性がんまたは再発がんは、濾胞性リンパ腫(FL)である。
【0344】
具体的な態様では、本明細書の任意の局面または態様による薬学的組成物は、PI、IMiD、またはその両方を含む以前の治療の後の対象または患者における、難治性のまたは再発した多発性骨髄腫(MM)の治療に使用するためのものである。特定の態様では、薬学的組成物は、静脈内注射または注入によって対象または患者に投与される。薬学的組成物は、任意で、静脈内注射または注入の前にまたはそれに関連して、適切な希釈剤で希釈されてもよい。
【0345】
ある態様では、難治性がんまたは再発がんは、固形腫瘍である。いくつかの態様では、難治性または再発がんは、メラノーマ、肺がん、扁平上皮非小細胞肺がん(NSCLC)、非扁平上皮NSCLC、結腸直腸がん、前立腺がん、去勢抵抗性前立腺がん、胃がん(stomach cancer)、卵巣がん、胃がん(gastric cancer)、肝臓がん、膵臓がん、甲状腺がん、頭頸部の扁平上皮がん、食道または胃腸管のがん、乳がん、卵管がん、脳腫瘍、尿道がん、尿生殖器がん、子宮内膜がん、子宮頸がんからなる群より選択される。
【0346】
ある態様では、難治性がんまたは再発がんは、メラノーマである。
【0347】
ある態様では、難治性がんまたは再発がんは、肺がんである。
【0348】
ある態様では、難治性がんまたは再発がんは、扁平上皮非小細胞肺がん(NSCLC)である。
【0349】
ある態様では、難治性がんまたは再発がんは、非扁平上皮NSCLCである。
【0350】
ある態様では、難治性がんまたは再発がんは、結腸直腸がんである。
【0351】
ある態様では、難治性がんまたは再発がんは、前立腺がんである。
【0352】
ある態様では、難治性がんまたは再発がんは、去勢抵抗性前立腺がんである。
【0353】
ある態様では、難治性がんまたは再発がんは、胃がん(stomach cancer)である。
【0354】
ある態様では、難治性がんまたは再発がんは、卵巣がんである。
【0355】
ある態様では、難治性がんまたは再発がんは、胃がん(gastric cancer)である。
【0356】
ある態様では、難治性がんまたは再発がんは、肝臓がんである。
【0357】
ある態様では、難治性がんまたは再発がんは、膵臓がんである。
【0358】
ある態様では、難治性がんまたは再発がんは、甲状腺がんである。
【0359】
ある態様では、難治性がんまたは再発がんは、頭頸部の扁平上皮がんである。
【0360】
ある態様では、難治性がんまたは再発がんは、食道または胃腸管のがんである。
【0361】
ある態様では、難治性がんまたは再発がんは、乳がんである。
【0362】
ある態様では、難治性がんまたは再発がんは、卵管がんである。
【0363】
ある態様では、難治性がんまたは再発がんは、脳腫瘍である。
【0364】
ある態様では、難治性がんまたは再発がんは、尿道がんである。
【0365】
ある態様では、難治性がんまたは再発がんは、尿生殖器がんである。
【0366】
ある態様では、難治性がんまたは再発がんは、子宮内膜がんである。
【0367】
ある態様では、難治性がんまたは再発がんは、子宮頸がんである。
【0368】
自己免疫性および炎症性の疾患および障害:
本発明の別の態様では、CD38を発現する細胞が関与する疾患は、CD38を発現するB細胞、マクロファージ、形質細胞、単球およびT細胞が関与する免疫疾患、例えば、炎症性疾患および/または自己免疫疾患である。CD38を発現するB細胞、形質細胞、単球およびT細胞が関与する免疫疾患の例としては、以下が挙げられる:自己免疫疾患、例えば、乾癬、乾癬性関節炎、皮膚炎、全身性強皮症および硬化症、炎症性腸疾患(IBD)、クローン病、潰瘍性大腸炎、呼吸窮迫症候群、髄膜炎、脳炎、ブドウ膜炎、糸球体腎炎、湿疹、喘息、アテローム性動脈硬化症、白血球接着不全症、多発性硬化症、レイノー症候群、シェーグレン症候群、若年性糖尿病、ライター病、ベーチェット病、免疫複合体腎炎、IgA腎症、IgM多発性神経障害、免疫介在性血小板減少症、例えば急性特発性血小板減少性紫斑病および慢性特発性血小板減少性紫斑病、溶血性貧血、重症筋無力症、ループス腎炎、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ(RA)、アトピー性皮膚炎、天疱瘡、グレーブス病、橋本甲状腺炎、ウェゲナー肉芽腫症、オーメン症候群、慢性腎不全、急性感染性単核球症、多発性硬化症、HIV、およびヘルペスウイルス関連疾患。さらなる例は、重度の急性呼吸窮迫症候群および脈絡網膜炎である。さらに、エプスタイン・バーウイルス(EBV)などのウイルスによるB細胞の感染によって引き起こされるかまたは媒介されるものなど、他の疾患および障害が含まれる。
【0369】
一態様では、CD38を発現する細胞が関与する障害は、関節リウマチである。
【0370】
自己抗体および/または過剰なBおよびTリンパ球活性が顕著であり、かつ本発明に従って治療することができる炎症性疾患、免疫疾患および/または自己免疫疾患のさらなる例としては、以下が挙げられる:血管炎および他の血管障害、例えば顕微鏡的多発血管炎、チャーグ・ストラウス症候群、および他のANCA関連血管炎、結節性多発動脈炎、本態性クリオグロブリン血症性血管炎、皮膚白血球破砕性血管炎、川崎病、高安動脈炎、巨細胞性関節炎、ヘノッホシェーンライン紫斑病、原発性または孤立性脳血管炎、結節性紅斑、閉塞性血栓動脈炎、血栓性血小板減少性紫斑病(溶血性尿毒症症候群を含む)、および続発性血管炎、例えば皮膚白血球破砕性血管炎(例:B型肝炎、C型肝炎、ワルデンストレームマクログロブリン血症、B細胞新生物、関節リウマチ、シェーグレン症候群、または全身性エリテマトーデスに続発する);さらなる例は、結節性紅斑、アレルギー性血管炎、脂肪織炎、ウェーバー・クリスチャン病、高グロブリン血症性紫斑病、およびバージャー病である;皮膚障害、例えば接触性皮膚炎、線状IgA皮膚症、白斑、壊疽性膿皮症、後天性表皮水疱症、尋常性天疱瘡(瘢痕性類天疱瘡および水疱性類天疱瘡を含む)、円形脱毛症(全身性脱毛症および全頭脱毛症を含む)、疱疹状皮膚炎、多形紅斑、および慢性自己免疫性蕁麻疹(血管神経性浮腫および蕁麻疹様血管炎を含む);免疫介在性血球減少症、例えば自己免疫性好中球減少症、および純赤血球無形成症;結合組織障害、例えばCNSループス、円板状エリテマトーデス、CREST症候群、混合性結合組織病、多発性筋炎/皮膚筋炎、封入体筋炎、続発性アミロイドーシス、クリオグロブリン血症I型およびII型、線維筋痛症、リン脂質抗体症候群、二次性血友病、再発性多発軟骨炎、サルコイドーシス、スティフマン症候群、およびリウマチ熱;さらなる例は好酸球性筋膜炎である;関節炎、例えば強直性脊椎炎、若年性慢性関節炎、成人スティル病、およびSAPHO症候群;さらなる例は仙腸骨炎、反応性関節炎、スティル病、および痛風である;血液障害、例えば再生不良性貧血、原発性溶血性貧血(寒冷凝集素症を含む)、CLLまたは全身性エリテマトーデスに続発する溶血性貧血;POEMS症候群、悪性貧血、およびワルデンシュトレーム高グロブリン血症性紫斑病;さらなる例は、無顆粒球症、自己免疫性好中球減少症、フランクリン病、セリグマン病、ガンマ重鎖病、胸腺腫およびリンパ腫に続発する腫瘍随伴症候群、胸腺腫およびリンパ腫に続発する腫瘍随伴症候群、および第VIII因子阻害剤の形成である;内分泌疾患、例えば多腺性内分泌障害、およびアジソン病;さらなる例は、自己免疫性低血糖症、自己免疫性甲状腺機能低下症、自己免疫性インスリン症候群、ド・ケルバン甲状腺炎、およびインスリン受容体抗体介在性インスリン抵抗性である;肝胃腸障害、例えばセリアック病、ウィップル病、原発性胆汁性肝硬変、慢性活動性肝炎、および原発性硬化性胆管炎;さらなる例は自己免疫性胃炎である;腎症、例えば急速進行性糸球体腎炎、溶連菌感染後腎炎、グッドパスチャー症候群、膜性糸球体腎炎、およびクリオグロブリン血症性腎炎;さらなる例は微小変化型疾患である;神経障害、例えば自己免疫性ニューロパシー、多発性単神経炎、ランバート・イートン筋無力症候群、シデナム舞踏病、脊髄癆、およびギラン・バレー症候群;さらなる例は、脊髄症/熱帯性痙性麻痺、重症筋無力症、急性炎症性脱髄性多発神経炎、および慢性炎症性脱髄性多発神経炎である;多発性硬化症;心臓および肺の障害、例えばCOPD、線維性肺胞炎、閉塞性細気管支炎、アレルギー性アスペルギルス症、嚢胞性線維症、レフラー症候群、心筋炎、および心膜炎;さらなる例は過敏性肺炎、および肺がんに続発する腫瘍随伴症候群である;アレルギー性疾患、例えば気管支喘息および高IgE症候群;さらなる例は一過性黒内障である;眼科障害、例えば特発性脈絡網膜炎;感染性疾患、例えばパルボウイルスB感染症(ハンド・アンド・ソックス(hands-and-socks)症候群を含む);婦人科-産科疾患、例えば反復流産、習慣性流産、および子宮内胎児発育遅延;さらなる例は婦人科腫瘍に続発する腫瘍随伴症候群である;男性生殖障害、例えば精巣腫瘍に続発する腫瘍随伴症候群;ならびに移植由来の疾患、例えば同種移植拒絶反応、異種移植拒絶反応、および移植片対宿主病。
【0371】
一態様では、前記疾患または障害は、関節リウマチである。
【0372】
【実施例】
【0373】
本発明は、限定として解釈されるべきではないが、以下の実施例によってさらに例示される。
【0374】
実施例1:抗体および細胞株
抗体発現構築物
本明細書で使用するヒト抗体およびヒト化抗体の発現のために、可変重鎖(VH)および可変軽鎖(VL)配列を遺伝子合成(GeneArt遺伝子合成;ThermoFisher Scientific社)により調製し、ヒトIgG重鎖の定常領域(HC)(定常領域ヒトIgG1m(f) HC:SEQ ID NO:20)および/またはヒトκ軽鎖の定常領域(LC):SEQ ID NO:37を含むpcDNA3.3発現ベクター(ThermoFisher Scientific社)中にクローニングした。所望の変異を遺伝子合成により導入した。本願のCD38抗体は、以前に記載されたCD38抗体IgG1-A(WO 2006/099875 A1, WO 2008/037257 A2, WO 2011/154453 A1;VH:SEQ ID NO:10;VL:SEQ ID NO:11)、IgG1-B(WO 2006/099875 A1, WO 2008/037257 A2, WO 2011/154453 A1;VH:SEQ ID NO:8;VL:SEQ ID NO:9)、およびIgG1-C(WO 2011/154453 A1;VH:SEQ ID NO:1;VL:SEQ ID NO:5)に由来するVHおよびVL配列を有する。一部の実験では、HIV gp120特異的抗体であるヒトIgG1抗体b12を陰性対照として使用した(Barbas et al., J Mol Biol. 1993 Apr 5;230(3):812-23;VH:SEQ ID NO:12;VL:SEQ ID NO:16)。
【0375】
一過性発現の抗体構築物
抗体の重鎖と軽鎖の両方をコードするプラスミドDNA混合物を、本質的にVinkら(Vink et al., 2014 Methods 65(1):5-10)によって記載されるように、293fectin(Life Technologies社)を用いてExpi293F細胞(Gibco社, カタログ番号A14635)に一過性にトランスフェクトした。上清中の抗体濃度を280nmでの吸光度により測定した。抗体含有上清をインビトロアッセイで直接使用するか、または抗体を以下に記載するように精製した。
【0376】
抗体の精製と品質評価
抗体は、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーにより精製した。培養上清を0.20μMデッドエンド(dead-end)フィルターでろ過し、5mLのMabSelect SuReカラム(GE Healthcare社)にロードし、洗浄して、0.02Mクエン酸ナトリウム-NaOH、pH3で溶出した。溶出物を精製直後にHiPrep Desaltingカラム(GE Healthcare社)にロードし、抗体を12.6mM NaH2PO4、140mM NaCl、pH7.4バッファー(B.Braun社またはThermo Fisher社)にバッファー交換した。バッファー交換後、サンプルを0.2μmデッドエンドフィルターで滅菌ろ過した。精製したタンパク質を、ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲルでのキャピラリー電気泳動(CE-SDS)、高性能サイズ排除クロマトグラフィー(HP-SEC)などの、いくつかの生物学的アッセイにより分析した。濃度を280nmでの吸光度で測定した。精製した抗体は2~8℃で保存した。
【0377】
実施例で使用した細胞株を以下の表2に記載する。細胞あたりのCD38およびCD59分子の平均数は、定量的フローサイトメトリー(Qifi, DAKO社)で測定した。
【0378】
(表2)細胞株の概要およびCD38とCD59の発現
ABC=細胞あたりに結合した抗体(Antibodies Bound per Cell)
【0379】
【0380】
実施例2:細胞表面に発現されたヒトおよびカニクイザルCD38へのCD38抗体の結合
Daudi細胞およびNALM16細胞上ならびにカニクイザル由来のPBMC上の細胞表面に発現したCD38への結合は、フローサイトメトリーで測定した。0.2%BSAを含むRPMIに再懸濁した細胞を、ポリスチレン製の96ウェル丸底プレート(Greiner bio-one社)に100,000細胞/ウェルで播種し、300×g、4℃で3分間遠心分離した。CD38抗体または対照抗体の段階希釈液(3倍段階希釈での最終抗体濃度0.005~10μg/mL)を加え、細胞を4℃で30分間インキュベートした。プレートをFACSバッファー(PBS/0.1%BSA/0.01%アジ化Na)を用いて2回洗浄/遠心分離した。次に、カニクイザルPBMCの分析のために、PBS/0.1%BSA/0.01%アジ化Naで1/100に希釈したR-フィコエリトリン(PE)結合ヤギ抗ヒトIgG F(ab')2(Jackson社)またはFITC結合ヤギ抗ヒトIgG(Southern Biotech社)と共に4℃で30分間インキュベートした。細胞を、FACSバッファーを用いて2回洗浄/遠心分離し、FACSバッファーに再懸濁し、FACS_Fortessa(BD社)を使用して平均蛍光強度を測定することで分析した。結合曲線は、GraphPad Prism V6.04ソフトウェア(GraphPad Software社)内の非線形回帰(可変傾斜を有するシグモイド用量-反応)分析を使用して作成した。
【0381】
図2は、CD38抗体であるIgG1-B、IgG1-CおよびIgG1-AがCD38を発現するNALM16細胞に用量依存的に結合することを示す。これらの抗体に六量体化を促進するE430G変異を導入しても、結合に影響はなかった。
【0382】
図3は、CD38抗体のIgG1-A-E430Gが、カニクイザルPBMC上に発現したCD38に用量依存的に結合するが、IgG1-B-E430GおよびIgG1-C-E430Gは結合しないことを示す(A)。カニクイザルB細胞、T細胞およびNK細胞上に発現したCD38への平均結合が示され、FSCおよびSSCに基づいてゲーティングされる。陽性対照として、高コピー数のヒトCD38を発現するDaudi細胞への結合も示される(B)。
【0383】
実施例3:E430G変異型CD38抗体による補体依存性細胞傷害(CDC)
腫瘍細胞株に対するCDC
Daudi細胞、Wien133細胞、Ramos細胞、NALM16細胞、U266細胞、およびRC-K8細胞を、0.2%BSAを含むRPMIに再懸濁し、ポリスチレン製96ウェル丸底プレート(Greiner bio-one社)に1×105細胞/ウェル(40μL/ウェル)の密度でプレーティングした。CD38抗体およびアイソタイプ対照抗体を段階希釈し(3倍段階希釈での最終抗体濃度0.0002~10μg/mL)、ウェルあたり40μLの希釈した抗体を添加した。細胞と抗体を室温で20分間プレインキュベートした後、プールした正常ヒト血清(Sanquin社)20μLを各ウェルに添加し、37℃でさらに45分間インキュベートした。その後、プレートを遠心分離し(3分、1200rpm)、上清を廃棄した。細胞ペレットを、0.25μMのtopro-3ヨウ化物(Life Technologies社)を添加したFACSバッファーに再懸濁し、FACS_Fortessa(BD社)でtopro-3ヨウ素陽性細胞の割合を測定することで溶解を検出した。CDCは溶解パーセントとして表された。示したデータは、N=3(DaudiおよびNALM16)、N=2(Wien133細胞およびU266細胞)、またはN=1(RC-K8およびRamos)である。アイソタイプ対照抗体は、Daudi細胞およびWien133細胞にのみ含めた。
【0384】
図4は、E430G変異のないCD38抗体B、CおよびAが、Ramos細胞およびDaudi細胞の約85%、約50%および0%の溶解を誘導することを実証する。これらのCD38抗体による顕著な溶解は、試験した他の細胞株のいずれにも見られなかった。これらのCD38抗体にE430G変異を導入すると、著しく低い抗体濃度で、より高いCDC活性が得られた。E430G変異を持つ3種の抗体はいずれも、Ramos細胞およびDaudi細胞の最大100%の溶解を誘導した。さらに、CD38発現がより低い細胞株では、E430G変異型CD38抗体は最大限の(Wien133)または部分的な(NALM16およびU266)CDCを誘導できたが、E430G変異のないCD38抗体はCDCを誘導しなかった。これらの結果は、E430G変異を持つCD38抗体が、E430G変異のないCD38抗体と比較して、より強いCDCを誘導し、かつ必要なCD38発現がより少なくて済むことを示している。CD38発現レベルが低い腫瘍細胞(NALM-16、RS4;11、およびREH)では、IgG1-C-E430GはIgG1-B-E430Gと比較して低いEC50値を示した。
【0385】
(表3)溶解のEC50値
一部の細胞株は1回だけ試験された(Ramos、RS4;11、REH)。
【0386】
上記のCDCアッセイを、B細胞腫瘍、例えば、DLBCL、バーキットリンパ腫、FL、MCL、B-ALL、CLL、またはMMに由来する、いくつかのさらなる腫瘍細胞株と、抗体IgG1-B、IgG1-B-E430G、IgG1-C-E430G、IgG1-A-E430Gおよびアイソタイプ対照抗体とを用いて、繰り返した。溶解の割合を抗体濃度に対してプロットし、最大溶解パーセントとEC50値をGraphpad Prism(GraphPad Software社;バージョン8.1.0)ソフトウェアを用いて計算し、表4に示した。これらの結果は
図14にも示される。
【0387】
図14は、野生型CD38 mAb IgG1-Bが、高CD38発現細胞株:SU-DHL-8、Oci-LY-7、Oci-LY-19、Ramos、Daudi、Oci-LY-18およびRajiの溶解を誘導したが、膜上にCD38分子をあまり発現しない他の細胞株では誘導しなかったことを示す。IgG1-BにE430G変異を導入すると、野生型IgG1-Bにすでに感受性であった細胞株では著しく低いAb濃度で高いCDC活性が得られ、また、IgG1-B誘導CDCに非感受性であったCD38コピー数のより低い追加の細胞株(例:DOHH2、SU-DHL-4、WSU-DLCL2、Z-138、JVM-13、REH、Jeko-1、Wien-133、697、RS4;11、NALM-16およびJVM-3)の溶解が生じた。CD38発現が非常に低い細胞株(RC-K8およびPfeiffer)またはCD59発現が非常に高い細胞株(DBおよびGranta-519)は、IgG1-BおよびIgG1-B-E430Gへの曝露時に溶解を示さなかった。試験したほぼ全ての細胞株において、IgG1-C-E430GはIgG1-B-E430Gと比較して低い抗体濃度で細胞溶解を誘導したのに対し、IgG1-A-E430Gははるかに高いAb濃度で溶解を誘導した。これは、表4のIgG1-A-E430Gのより高いEC50値にも反映されている。これは、E430G変異型CD38 mAbが野生型CD38抗体と比較してより強力なCDCを誘導し、かつ野生型CD38抗体がCDCを誘導しないCD38発現レベルの低い腫瘍細胞に対してCDCを誘導することを示している。さらに、CDCを誘導するE430G変異型CD38抗体の効力は、さまざまなCD38ターゲティング抗体クローン間で異なっている可能性がある。
【0388】
図15は、表4に示されたEC50値のいくつかの概要を示す。20種の異なるB細胞腫瘍細胞株で抗体IgG1-B、IgG1-B-E430GおよびIgG1-C-E430Gによって誘導されたCDCのEC50値が示される。各正方形、三角形または円は、異なるB細胞腫瘍細胞株を表している。IgG1-B-E430GはAML細胞株で試験されなかったため、AML細胞株で得られたEC50値を含めなかった。
【0389】
IgG1-C-E430GによるCDCはまた、いろいろな急性骨髄性白血病(AML)細胞株で評価された(
図16)。それはB細胞腫瘍細胞株について上述したように行われ、唯一の違いは腫瘍細胞株であった。
【0390】
図16は、CDCが全てのCD38発現AML細胞株でIgG1-C-E430Gによって誘導されたのに対し、CD38陰性AML細胞株ではCDCが観察されなかったことを示している。IgG1-C-E430GによるCDCは、IgG1-Bと比較してはるかに低いEC50値で起こったが、最大細胞溶解は、IgG1-Bと比較してIgG1-C-E430Gの方が高かった(表4)。
【0391】
さらに、IgG1-C-E430GによるCDCは、追加の多発性骨髄腫(MM)細胞株で評価された(
図23)。実験はB細胞腫瘍細胞株について上述したように行われ、唯一の違いは腫瘍細胞株であった。
【0392】
図23は、IgG1-C-E430GがLP-1細胞の最大100%の溶解を誘導したことを示している。より低いCD38発現レベルを有するNCI-H929細胞で、IgG1-C-430Gは部分的なCDCを誘導したのに対し、2つのMM細胞株OPM-2およびARH77では、CDCが観察されなかった。2つの感受性MM細胞株において、IgG1-C-E430Gによって誘導されたCDCは、IgG1-Bと比較して低いEC50値で起こったが、NCI-H929細胞株において、最大細胞溶解は、IgG1-Bと比較してIgG1-C-E430Gの方が高かった(表4)。
【0393】
(表4)最大溶解および溶解のEC50値
ND=未測定;NT=未試験。
【0394】
さらに、野生型およびE430G変異型CD38抗体によるT制御性細胞を用いたCDCの誘導についても調べた。T制御性細胞を、実施例8(T制御性細胞からのCD38のトロゴサイトーシス)に記載されるように作成して、腫瘍細胞株について上述したようにCDCアッセイで試験した。溶解の割合をEC50値と共に
図17に示す。
【0395】
図17は、IgG1-BがT制御性細胞の溶解を実質的に誘導しなかったことを示している;一方、IgG1-B-E430GおよびIgG1-C-E430GはT制御性細胞の溶解を誘導し、その場合にIgG1-C-E430GはIgG1-B-E430Gと比較して低いEC50値を示した。
【0396】
全血におけるCDC
健康なドナーからの全血をヒルジンチューブに収集し、生理的カルシウムレベル(CDCに必要)に干渉することなく凝固を防止した。50μL/ウェルを96ウェル平底組織培養プレート(Greiner bio-one社)にプレーティングした。CD38抗体および対照抗体を、0.2%BSAを含むRPMIで段階希釈し(5倍段階希釈での最終抗体濃度0.016~10μg/mL)、ウェルあたり50μLの希釈抗体を添加して37℃で一晩インキュベートした。B細胞に対するCDCの陽性対照として、CD20 Ab IgG1-7D8を、CDCをブロックするための60μg/mLのエクリズマブの存在下および非存在下で、試験した。細胞をポリスチレン製96ウェル丸底プレート(Greiner bio-one社、遠心分離型)に移し、遠心分離し(3分、1200rpm)、ウェルあたり150μLのPBS(B.Braun社)で1回洗浄した。細胞ペレットを、1000倍希釈したアミン反応性生死判別色素(BD社)を含む80μLのPBSに再懸濁し、4℃で30分間インキュベートした。次に、細胞を150μLのPBSで洗浄し、リンパ球フェノタイピング抗体のカクテル(1:200マウス抗ヒトCD3-EF450[OKT3、ebioscience社]、1:50マウス抗ヒトCD19-BV711[HIB19、Biolegend社]および1:100マウス抗ヒトCD56-PE/CF594[NCAM16.2、BD社])を含む80μLのPBSと共に4℃で30分間インキュベートした。細胞を150μLのPBSで洗浄し、150μLの赤血球溶解液(10mM KHCO3[Sigma社]、0.01mM EDTA[Fluka社]、155mM NH4Cl[Sigma社]を1LのH2O[B.Braun社]に溶解して、pH7.2に調整した)と共に4℃で10分間インキュベートした。細胞を150μLのFACSバッファーで洗浄し、100μLのFACSバッファーに再懸濁し、FACS_Fortessa(BD社)で分析した。生存NK細胞(CD56
pos、CD3
neg、アミン反応性生死判別色素
neg)、T細胞(CD3
pos、アミン反応性生死判別色素
neg)、およびB細胞(CD19
pos、アミン反応性生死判別色素
neg)の数を
図5に示す。データは、試験した5人のうち1人の代表的なドナーからのデータが示されている。
【0397】
図5は、E430G変異を含むCD38抗体が、健康な血液リンパ球の最小限のCDCを誘導することを示している。陽性対照CD20 Ab IgG1-7D8は、CD20陽性B細胞の特異的CDCを実証したが、これはCDC阻害剤エクリズマブによって完全にブロックされた。野生型IgG1 CD38抗体はB細胞、T細胞およびNK細胞のCDCを誘導しなかった。E430G変異を含むクローンBおよびCと共にインキュベートした後のNK細胞では、いくらかのCDC(IgG1-B-E430Gの最高濃度で約40%のNK細胞溶解)が観察されたが、B細胞とT細胞では観察されなかった。
【0398】
全体として、これらの結果は、E430G変異型CD38抗体が、可変的なCD38発現を有する腫瘍細胞株のパネルに対して幅広いCDC活性を有することを示している。E430G変異を含むCD38抗体はまた、健康なドナーから得られたリンパ球に対しても試験されたが、NK細胞の最大40%の溶解を誘導するにすぎないことが示された。NK細胞は平均15,000のCD38/細胞を発現しており、これはMM細胞株U266に類似している。どちらの細胞型もE430G変異型CD38抗体によるCDCに等しく感受性であり、E430G変異型CD38抗体によるCDCがCD38発現と相関していることが示される。理論に限定されるものではないが、これらのデータに基づいて、E430G変異型CD38抗体によるCDCの閾値は、約15,000のCD38分子/細胞であると考えられる。ほとんどのB細胞腫瘍細胞株は15,000~400,000のCD38分子/細胞の範囲の高レベルのCD38を発現しているが、健康なリンパ球はたった2,000~15,000のCD38分子/細胞を発現しているにすぎないため、これらの細胞はE430G変異型CD38抗体によるCDCに対して傷つきにくくなる。
【0399】
実施例4:E430G変異型CD38抗体による抗体依存性細胞傷害(ADCC)
抗体依存性細胞傷害(ADCC)を誘導するE430G変異型CD38抗体の能力を、クロム放出アッセイにより調べた。Daudi細胞を2mLの培養培地(0.2%BSAを添加したRPMI 1640)に採取し(5×106細胞/mL)、それに100μCiの51Cr(クロム-51; PerkinElmer社)を添加した。細胞を37℃の水浴中で振盪しながら1時間インキュベートした。細胞を洗浄(PBS中1500rpm、5分で2回)した後、細胞を培養培地に再懸濁し、トリパンブルー排除によりカウントした。細胞を1×105細胞/mLの密度に希釈し、96ウェル丸底マイクロタイタープレート(Greiner Bio-One社)にピペットで移し、培養培地で希釈した、50μLの濃度系列(3倍希釈での最終濃度0.005~10μg/mL)のCD38抗体またはアイソタイプ対照抗体を添加した。細胞をAbと共に室温(RT)で15分間プレインキュベートした。
【0400】
その間に、健康なボランティア由来の末梢血単核細胞(PBMC)(Sanquin社)を、メーカーの指示に従ってリンパ球分離培地(Bio Whittaker社)を用いて、45mLの採血したてのヘパリン血液(バフィーコート)から分離した。細胞を培養培地に再懸濁した後、トリパンブルー排除により細胞をカウントし、1×107細胞/mLの密度に希釈した。
【0401】
標的細胞とAbとをプレインキュベートした後、50μLのエフェクター細胞を添加して、エフェクター細胞対標的細胞比を100:1にした。細胞を37℃、5%CO2で4時間インキュベートした。最大溶解を測定するために、50μLの51Cr標識Daudi細胞(5,000個)を100μLの5%Triton-X100とインキュベートした;自然溶解(バックグラウンド溶解)を測定するために、5,000個の51Cr標識Daudi細胞を、抗体またはエフェクター細胞を含まない培地150μL中でインキュベートした。抗体非依存性細胞溶解のレベルは、5,000個のDaudi細胞を抗体なしで500,000個のPBMCとインキュベートすることによって測定した。プレートを遠心分離し(1200rpm、10分)、75μLの上清をマイクロニックチューブに移し、その後、放出された51Crをガンマカウンターを用いてカウントした。抗体を介した溶解の割合は、次のように計算した:
特異的溶解%=(cpmサンプル-cpm自然溶解)/(cpm最大溶解-cpm自然溶解)
ここで、cpmは1分あたりのカウント数である。
【0402】
図6は、アイソタイプ対照(IgG1-b12-E430G)と比較して、CD38抗体で見られた溶解の増加によって示されるように、全てのCD38抗体がDaudi細胞の溶解を誘導できたことを示している。すでに最低の抗体濃度で細胞溶解が認められ、用量依存的効果を観察するために抗体をさらに希釈する必要があったことを示唆している。E430G変異を含むCD38抗体は、野生型抗体と比較して、より低い最大溶解を示した。
【0403】
上記のクロム放出アッセイを、さまざまな健康なボランティア由来の末梢血単核細胞(エフェクター細胞)、次の標的細胞:Daudi、Wien-133、Granta 519およびMEC-2、ならびに抗体IgG1-B-E430G、IgG1-B、IgG1-C-E430G、IgG1-CおよびIgG1-b12-E430Gを用いて繰り返した。それらの結果を
図18に示す。
【0404】
図18は、アイソタイプ対照(IgG1-b12-E430G)と比較して、CD38抗体で見られた溶解の増加によって示されるように、全てのCD38抗体がDaudi細胞、Wien-133細胞、Granta 519細胞およびMEC-2細胞の溶解を誘導できたことを示している。ほとんどの場合、用量依存的な標的細胞の溶解が見られたが、異なるPBMCドナー間でいくらかの変動が観察された。
【0405】
ADCCを誘導するCD38抗体の能力は、ADCCのサロゲートとして、FcγRIIIa(CD16)架橋を検出する発光ADCCレポーターバイオアッセイ(Promega社,カタログ番号G7018)を用いて、さらに評価された。エフェクター細胞として、キットは、高親和性FcγRIIIa(V158)と、ホタルルシフェラーゼの発現を駆動する活性化T細胞の核因子(NFAT)応答エレメントとを安定して発現するように改変されたJurkatヒトT細胞を提供する。簡潔に述べると、Daudi細胞またはT制御性細胞(5,000細胞/ウェル)を、384ウェル白色Optiplates(Perkin Elmer社)に、ADCCアッセイバッファー[3.5%の低IgG血清を添加したRPMI-1640培地(Lonza社,カタログ番号BE12-115F)]で播種し、抗体濃度系列(3.5倍希釈での最終濃度0.5~250ng/mL)および解凍したADCCバイオアッセイエフェクター細胞を含む総量30μLで、37℃/5%CO2にて6時間インキュベートした。プレートを室温(RT)へと15分間調整した後、30μLのBio Gloアッセイルシフェラーゼ試薬を添加し、プレートをRTで5分間インキュベートした。ルシフェラーゼ産生を、EnVisionマルチラベルリーダー(Perkin Elmer社)での発光読み取りによって定量化した。バックグラウンドレベルは、標的細胞と抗体のみを添加したウェル(エフェクター細胞なし)から測定した。陰性対照として、標的細胞とエフェクター細胞のみを含むウェル(抗体なし)を使用した。
【0406】
図7は、Daudi細胞で得られた結果を示しており、これは、CD38抗体がレポーターアッセイで測定される用量依存的なFcγRIIIa架橋を誘導するために非常に効果的であることを示している。E430G変異を含むCD38抗体は、それぞれの野生型抗体と比較して、より低い最大架橋を示し、これは、クロム放出アッセイで得られた結果と一致していた。
【0407】
図19は、T制御性細胞で得られた結果を示しており、これは、CD38抗体がレポーターアッセイで測定される用量依存的なFcγRIIIa架橋を誘導するために非常に効果的であることを示している。E430G変異を含むCD38抗体は、それぞれの野生型抗体と比較して、より低い最大架橋を示した。
【0408】
実施例5:E430G変異型CD38抗体による抗体依存性細胞貧食(ADCP)
抗体依存性細胞貧食を誘導するE430G変異型CD38抗体の能力は、Overdijk M.B. et al. mAbs 7:2,311-320から適合させた。マクロファージを、メーカーの指示に従ってリンパ球分離培地(Bio Whittaker社)を用いて、健康なボランティア由来のPBMC(Sanquin社)を分離することによって取得した。PBMCから、Dynabeads Untouchedヒト単球分離キット(Invitrogen社)を用いて、ネガティブセレクションにより単球を分離した。分離した単球を、50ng/mLのGM-CSF(Invitrogen社)を添加した無血清樹状細胞培地(CellGenix Gmbh)で3日間培養した後、100ng/mLのGM-CSFを添加した無血清樹状細胞培地で2日間培養して、マクロファージの分化を誘導した。分化したマクロファージを、バーゼン液(Life Technologies社)と細胞スクレイピングを用いて剥離させ、CD1a-FITC(BD社)、CD14-PE/Cy7(BD社)、CD40-APC/H7(BD社)、CD80-APC(Miltenyi biotec社)、CD83-PE(BD社)およびCD86-PerCP-Cy5.5(Biolegend社)による染色についてフローサイトメトリーで特徴付けた。マクロファージを96ウェル平底培養プレート(Greiner bio-one社)にウェルあたり100,000細胞で播種し、100ng/mLのGM-CSFを添加した無血清樹状細胞培地中37℃で一晩付着させた。
【0409】
標的細胞(Daudi)を、メーカーの指示に従ってPKH-26(Sigma社)で標識し、10μg/mLのCD38抗体でオプソニン化し(4℃で30分)、FACSバッファーで3回洗浄し、エフェクター:標的(E:T)比5:1でマクロファージに添加した。プレートを300rpmで短時間回転させてエフェクター細胞と標的細胞を近接させ、37℃で45分間インキュベートした。次に、バーゼン液を用いてマクロファージを収集し、CD14-BV605(biolegend社)およびCD19-BV711(biolegend社)で染色した。貧食は、フローサイトメーター(BD社)で測定して、CD14陽性であり、PKH-26に対しても陽性であるが、CD19に対して陰性である(Daudi細胞にのみ付着しているマクロファージを除外するため)マクロファージの割合として表した。
【0410】
図8は、アイソタイプ対照(IgG1-b12およびIgG1-b12-E430G)と比較して、CD38 Abで見られたPKH-29
pos、CD14
posおよびCD19
negマクロファージの割合の増加によって示されるように、全てのCD38 AbがDaudi細胞のADCPを誘導できたことを示している。使用したドナーに応じて、E430G変異を含むCD38抗体は、野生型抗体と比較して、PKH-29
pos、CD14
posおよびCD19
negマクロファージのより高い割合を示し、E430G変異を導入することによってCD38-Ab介在性貧食が増加され得ることを示唆している。
【0411】
実施例6:腫瘍細胞株でのCD38抗体によるアポトーシスの誘導
CD38抗体によるアポトーシス誘導は、腫瘍細胞株をCD38抗体と一晩インキュベートした後、フローサイトメーターで生細胞/死細胞解析を行うことにより調べた。0.2%BSAを含むRPMIに再懸濁した細胞を、96ウェル平底組織培養プレート(Greiner bio-one社)に100,000細胞/ウェルで播種した。CD38抗体または対照抗体の段階希釈液(4倍段階希釈での最終抗体濃度0.01~10μg/mL)を、10μg/mLのヤギ抗ヒトIgG1(Jackson社)の非存在下または存在下で添加して、追加のFc架橋をもたらした。細胞を37℃で一晩インキュベートし、FACSバッファー(PBS/0.1%BSA/0.01%アジ化Na)を用いて2回洗浄/遠心分離し、1:4000希釈のTopro-3ヨウ素(Life Technologies社)を添加したFACSバッファーに再懸濁した。細胞の生死判別についてFACS_Fortessa(BD社)で解析し、アポトーシス(Topro-3ヨウ素陽性)細胞の割合として表した。
【0412】
図9は、野生型CD38抗体およびE430G変異型CD38抗体が単独ではアポトーシスを誘導しなかったが、Fc架橋抗体の添加により約30%のアポトーシスが誘導されたことを示している。野生型CD38抗体とE430G変異型CD38抗体との間に差は見られなかった。
【0413】
実施例7:PBMCの非存在下でのCD38酵素活性の阻害
CD38シクラーゼ活性の阻害
CD38は、NADをcADPRとADPRに変換するエクト型酵素である。こうした活性は、H2Oの存在に依存する。H2Oが存在すると、NADはADPRに変換され(グリコヒドロラーゼ活性)、cADPRはADPRに変換される(ヒドロラーゼ活性)。NADの約95%は(グリコ)ヒドロラーゼ活性を介してADPRに変換される。H2Oの非存在下では、CD38はそのシクラーゼ活性を利用してNADをcADPRに変える。CD38酵素活性の阻害を測定するために、CD38によって処理された後に蛍光を発するNAD誘導体を用いた。
【0414】
【0415】
まず、CD38の基質としてニコチンアミドグアニンジヌクレオチドナトリウム塩ホスホジエステラーゼ(NGD,Sigma社)を用いて、CD38シクラーゼ活性の阻害を測定した。CD38の供給源として、異なるCD38発現レベルを有する腫瘍細胞株だけでなく、組換えhisタグ付きCD38細胞外ドメイン(hisCD38)をも使用した。腫瘍細胞(DaudiおよびWien133)を採取し、20mM Tris-HCLで洗浄した。細胞を20mM Tris-HCLに再懸濁し、200,000細胞/ウェルを96ウェル白色不透明プレート(PerkinElmer社)に100μL/ウェルで播種した。hisCD38は、100μL/ウェルの20mM Tris-HCL中に0.6μg/mLで播種した。CD38抗体を20mM Tris-HCLで100μg/mLに希釈し、10μLを細胞およびhisCD38(最終濃度は9μg/mL)に加えて、室温で20分間インキュベートした。対照ウェルは、CD38抗体の代わりにb12抗体を用いて、または抗体を全く用いずに、インキュベートした。次に、20mM Tris-HCLで希釈した10μL(80μM)のNGDをプレートに添加し、直ちにEnvisionマルチラベルリーダー(PerkinElmer社)で励起340nmおよび発光430nmを用いて、蛍光を測定した。NGDの変換は、
図11に示された時点で蛍光を測定することにより、プラトーに達するまで、リアルタイムで追跡した。hisCD38では、蛍光を3分ごとに27分間測定し、Daudi細胞では、蛍光を5、15、30、60、120および185分後に測定し、Wien133細胞では、蛍光を5、15、30、60、150、220、300および360分後に測定した。CD38シクラーゼ活性の阻害は、対照と比較した阻害パーセントとして表した;ここで、対照は、hisCD38とNGDを含むが、Abを含まないサンプルである。試験した各条件につき1つの代表的な実験が示される。
【0416】
図11Aは、NGDがhisCD38シクラーゼ活性によって急速に変換されたことを示している。この変換は約9分後に完了した。CD38 Ab Bの存在下では、NGDの最大変換パーセントは約25%減少し、CD38 Ab Cの存在下では、NGDの最大変換パーセントは約50%減少したが、CD38 Ab AはNGDの総代謝回転に影響を与えなかった。CD38シクラーゼ活性の阻害は、E430G変異の存在によって影響されなかった。同様の結果が
図11Bおよび11Cで見られたが、そこでは、Daudi細胞およびWien133細胞上に存在するCD38によるNGDの変換率が測定された。NGD変換の反応速度は、Daudi細胞、特にWien133細胞で少し遅かったが、これは、より少ないCD38分子の存在と相関している可能性がある。それにもかかわらず、CD38シクラーゼ活性の25%阻害がAb Bによって誘導され(約25%阻害)、また、CD38シクラーゼ活性の約40%阻害がAb Cによって誘導されたが、Ab Aは何の効果も示さなかった。野生型抗体とE430G変異型抗体は同様の結果を示し、このことは、抗体により媒介されるCD38シクラーゼ活性の阻害にE430G変異が影響を与えないことを示している。
【0417】
実施例8:E430G変異型CD38抗体による抗体依存性トロゴサイトーシス
Daudi細胞でのE430G変異型CD38抗体によるトロゴサイトーシス
Daudi細胞でのトロゴサイトーシスを誘導するE430G変異型CD38抗体の能力を評価した。マクロファージを、メーカーの指示に従ってリンパ球分離培地(Bio Whittaker社)を用いて、健康なボランティア由来のPBMC(Sanquin社)を分離することによって取得した。PBMCから、Dynabeads Untouchedヒト単球分離キット(Invitrogen社)を用いて、ネガティブセレクションにより単球を分離した。分離した単球を、50ng/mLのGM-CSF(Invitrogen社)を添加した無血清樹状細胞培地(CellGenix Gmbh)で3日間培養した後、100ng/mLのGM-CSFを添加した無血清樹状細胞培地で2日間培養して、マクロファージの分化を誘導した。分化したマクロファージを、バーゼン液(Life Technologies社)と細胞スクレイピングを用いて剥離させ、CD1a-FITC(BD社)、CD14-PE/Cy7(BD社)、CD40-APC/H7(BD社)、CD80-APC(Miltenyi biotec社)、CD83-PE(BD社)およびCD86-PerCP-Cy5.5(Biolegend社)による染色についてフローサイトメトリーで特徴付けた。マクロファージを96ウェル平底培養プレート(Greiner bio-one社)にウェルあたり100,000細胞で播種し、100ng/mLのGM-CSFを添加した無血清樹状細胞培地中37℃で一晩付着させた。
【0418】
標的細胞(Daudi)を、メーカーの指示に従ってPKH-26(Sigma社)で標識し、10μg/mLのCD38抗体でオプソニン化し(4℃で30分)、FACSバッファーで3回洗浄し、エフェクター:標的(E:T)比5:1でマクロファージに添加した。プレートを300rpmで短時間回転させてエフェクター細胞と標的細胞を近接させ、37℃で45分間インキュベートした。
【0419】
図21は、トロゴサイトーシスを測定するために使用されるアッセイのセットアップを示す。
【0420】
CD38発現およびヒトIgG染色は、それぞれFITC結合CD38クローンAおよびヤギ抗ヒトIgG-FITC(Southern Biotech社)とインキュベートすることによって、Daudi細胞上で測定した。CD38を染色するためにCD38クローンAを使用したが、それは、このAbがクローンBおよびCと比較してCD38上の非重複エピトープを認識するためである。
【0421】
図12は、マクロファージおよびCD38抗体との45分間の共培養を行った後に、Daudi細胞上のCD38発現が著しく低下したことを示している。CD38発現の低下は、E430G変異型CD38抗体で最も強かった。同じ傾向が、抗体オプソニン化Daudi細胞でのヒトIgG染色でも見られた。
【0422】
T制御性細胞でのE430G変異型CD38抗体によるトロゴサイトーシス
CD38発現が高いT制御性細胞(Treg)は、CD38発現が中程度のTregと比較して免疫抑制性が高い(Krejcik J. et al. Blood 2016 128:384-394)。そのため、Treg上のCD38発現を低下させる戦略は、これらの細胞の免疫抑制効果を低減させる可能性がある。本発明者らは、E430G変異型CD38抗体がトロゴサイトーシスを介してTregでのCD38発現を低下させることができるかどうかを検討した。Tregは、メーカーの指示に従ってリンパ球分離培地(Bio Whittaker社)を用いて、健康なボランティア由来のPBMC(Sanquin社)から分離した。PBMCから、ネガティブセレクションを介してCD4+ T細胞を分離し、続いてTreg分離キット(Miltenyi社)をメーカーの指示に従って用いて、CD4+ CD25+ T制御性細胞を濃縮した。その後、Tregを、5%ヒト血清(Sigma社)、1000U/mL IL-2(peprotech社)、100ng/mLラパマイシン(Sigma社)およびCD3/CD28コーティングビーズ(Gibco社)を添加した無血清樹状細胞培地中5×104細胞/mLで、ビーズ:細胞比4:1にて、37℃で20日間増殖させた。3~4日ごとに、1000U/mLのIL-2および100ng/mLのラパマイシンを添加した無血清樹状細胞培地を用いて、細胞密度を5×105細胞/mLに調整した。T制御性表現型は、以下の抗体を用いたフローサイトメトリー染色を用いて、経時的に追跡した:CCR7-BV785 (Biolegend社)、CD62L-FITC (BD社)、CD4-APC/efluor780 (e-biosciences社)、CD25-PerCP/Cy5 (Biolegend社)、Foxp3-PE/CF594 (BD社)、CTLA4-efluor660 (e-biosciences社)、CD127-PE/CY7およびCD38-GV605 (Biolegend社)。
【0423】
TregからのCD38のAb誘導トロゴサイトーシスを評価するために、Treg(標的細胞)をPBMC(エフェクター細胞)と共培養して、CD38の発現をTreg上でモニターした。簡潔に述べると、PBMCを、リンパ球分離培地(Bio Whittaker社)をメーカーの指示に従って用いてバフィーコート(Sanquin社)から分離し、0.2%BSAを添加したRPMI-1640培地(Lonza社)にウェルあたり5×105細胞の密度で播種し、単球を付着させるために3日間培養した。Tregを、メーカーの指示に従って0.25μMのCellTrace far red(CTFR)で標識し、E430G変異型CD38 Abと37℃で10分間プレインキュベートした。Tregを洗浄し、ウェルあたり1×105個のAbオプソニン化細胞をPBMCと共にプレートに移した。PBMCとTregを300rpmで短時間回転させて細胞を近接させ、37℃で23時間インキュベートした。CD38のトロゴサイトーシスは、CTFR陽性Treg上でFITC結合CD38クローンAを用いてCD38発現をフローサイトメトリーで解析することにより測定した。
【0424】
図13は、T制御性細胞でのCD38発現が、E430G変異型CD38抗体およびPBMCとのインキュベーション後に低下したことを示している。PBMCなしでは、T制御性細胞でのCD38発現の低下は見られず、このことはトロゴサイトーシスを強く示唆している。さらに、PBMCの存在下で、IgG1-BはCD38のトロゴサイトーシスを誘導しなかったが、E430G変異型BおよびCでは強力なCD38発現の低下が誘導された。これは、E430G変異型CD38抗体がCD38のトロゴサイトーシスの増強を引き出すことを示唆している。
【0425】
実施例9:患者由来のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫モデルにおけるE430G変異型CD38抗体Cの抗腫瘍活性
患者由来のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)細胞をCB17.SCIDマウスに皮下接種し、腫瘍の平均体積が約150~250mm
3に達した時点で抗体治療(5mg/kgのIgG1-C-E430Gを週2回、静脈内注射;PBSを陰性対照として使用)を開始した。腫瘍体積はキャリパーを用いて2次元で測定され、体積は、次式:V=(L×W×W)/2[式中、Vは腫瘍体積、Lは腫瘍の長さ(最長の腫瘍寸法)、Wは腫瘍の幅(Lに垂直な最長の腫瘍寸法)である]を用いてmm
3で表され、
図20に経時的に示される。各治療群は1匹のマウスからなる。応答値を計算するために、次式を使用した:(X日目のIgG1-C-E430G治療マウスの腫瘍体積-0日目のIgG1-C-E430G治療マウスの腫瘍体積)/(X日目の対照マウスの腫瘍体積-0日目の対照マウスの腫瘍体積)
X=両方の動物が生きておりかつ腫瘍測定が行われた7日目から25日目までの期間の最終日。
【0426】
応答値は、CD38 mRNA発現と同様に表5に示される。CD38 mRNAレベルが最も高かったモデルはまた、最良の応答を示した。これは、
図20のグラフからも見て取れる。したがって、IgG1-C-E430Gの週2回投与は、CD38 mRNA発現が最も高かった5つの試験したDLBCL PDXモデルのうち2つで腫瘍増殖を低減させた。
【0427】
(表5)5つのDLBCL PDXモデルについてのCD38 mRNA発現および算出された応答値の概要
低い応答値は腫瘍の退縮を示す。
【0428】
実施例10:IgG1-C-E430Gは、新たに診断されたMM患者由来の骨髄単核細胞において強力な補体依存性細胞傷害を誘導する
骨髄単核細胞(BM-MNC)は、新たに診断されたMM患者3名と再発/難治性MM患者1名由来の全骨髄穿刺液からFicoll-Hypaque密度勾配法により分離し、使用するまで-80℃で凍結保存した。使用当日にBM-MNCを解凍し、生細胞をカウントして96ウェルプレートに播種した。細胞をIgG1-C-E430GまたはDarzalex(登録商標)の段階希釈液(0.01~10μg/mL)と共に、プレートシェーカー上で室温で15分間インキュベートした。陰性対照として、細胞を未処理にするか、10μg/mLのIgG1-b12とインキュベートした。補体の供給源として、20%の正常ヒト血清を45分間添加し、その後FACS測定で、細胞の絶対数を、フローサイトメトリー用カウントビーズを定数として用いて決定した。全体的な溶解の割合を決定するために、未処理の対照ウェルを対照値として使用した。多発性骨髄腫細胞の溶解の割合は、次式を用いて対照に対して決定された:
細胞溶解%=(1-(抗体処理サンプル中の生存細胞数/未処理対照中の生存細胞数)×100%
【0429】
図22Aおよび22Bは、IgG1-C-E430Gが、Darzalex(登録商標)と比較して、新たに診断されたMM患者由来の2つのBM-MNCサンプルにおいて高レベルの溶解を誘導したことを示す。IgG1-C-E430Gにより誘導された最大溶解は84~90%の範囲であったのに対し、Darzalex(登録商標)により誘導された最大溶解は31~55%の範囲であった。他の2つのBM-MNCサンプル、すなわち、以前の治療の一環としてDarzalex(登録商標)を投与されなかった再発/難治性MM患者に由来するもの(
図22C)と、新たに診断されたMM患者に由来するもの(
図22D)では、IgG-C-E430GまたはDarzalex(登録商標)を用いてもCDCの誘導は認められなかった(
図22Cおよび22D)。
【0430】
実施例11:抗体製剤
IgG1-C-E430Gのタンパク質安定性に対するバッファー正体、溶液pH、および賦形剤の効果を評価するために、研究を行った。SEQ ID NO:1を含むVH、SEQ ID NO:5を含むVL、SEQ ID NO:46を含むCH、およびSEQ ID NO:37を含むCLを有するIgG1-C-E430Gを、CHO細胞において発現させた。
【0431】
方法
生物物理学的研究:
生物物理学的研究は、異なるバッファー/賦形剤/pHの組み合わせでIgG1-C-E430G(2 mg/mL)を評価した。4つのタイプの賦形剤(NaCl、アルギニン、スクロース、ソルビトール)を伴う、2つのバッファータイプ(酢酸およびヒスチジン)、pH 5.5~6.5を、研究のために調製した(表5)。
【0432】
IgG1-C-E430Gの熱安定性および立体構造安定性を、示差走査蛍光定量法(DSF)によって評価し、凝集物プロファイルおよび粒子サイジング(sizing)を、動的光散乱(DLS)によって決定した。
【0433】
【0434】
物理学的ストレスおよび界面活性剤の研究:
生物物理学的研究に続いて、IgG1-C-E430Gの凍結融解サイクルおよび撹拌中に提供される保護を決定するために、6つの選択製剤を評価した。ポリソルベート80(PS80)を6つの製剤の各々に加えて、合計で12の評価用製剤を結果として生じることによって、製剤中の界面活性剤の効果もまた評価した(表6)。
【0435】
IgG1-C-E430Gを、遠心ろ過によりバッファー交換して6つの製剤にし、5回の凍結融解サイクル、または卓上プレートシェーカーでの400 RPMで48時間の撹拌のいずれかに供した。RTで48時間、ベンチトップに保持された第3のセットのサンプルを、対照として使用した。界面活性剤製剤には、PS80をバッファー交換後に加えた。
【0436】
サンプルを、以下の分析技術を用いて分析した:外観、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)、A280、DLS、およびA550。
【0437】
【0438】
安定性研究:
表7に示された製剤を、最大12週間の規準条件(2~8℃)ならびに加速条件(25℃/60%相対湿度(RH)および40℃/75% RH)下での、20 mg/mLのIgG1-C-E430Gの評価のために選択した。物理学的ストレス後の最適な製剤の製品品質を確認するために、初期条件で、1つの追加のサンプルは5回の凍結融解サイクルを受け、1つのサンプルは撹拌(400 RPMで48時間) を受けた。
【0439】
以下の分析技術を用いた:外観、pH決定、A280(単一複製)、SEC、イメージングキャピラリー等電点分離法(icIEF)、ならびに還元および非還元キャピラリー電気泳動。
【0440】
【0441】
分析法
示差走査蛍光定量法(DSF):
DSF分析は、タンパク質のアンフォールディングを誘導して、熱安定性およびコロイド安定性を評価するために、熱ストレスを増大させることを利用する。熱ストレスの増大によって引き起こされるアンフォールディングした状態への移行は、環境条件の変化時の埋もれた疎水性残基の露出によるタンパク質の固有蛍光の変化によって検出される。トリプトファン残基が露出されるにつれて、最大発光波長は、より長い波長に移動する。蛍光発光スペクトルが均等に分割される波長である重心平均(BCM)をプロットし、これは、温度によるタンパク質の立体構造変化を示す。DSF分析は、BCM曲線から生成される、アンフォールディング開始温度(Tonset)および融解温度(Tm)の値を提供する。Tonsetは、タンパク質がアンフォールディングし始める、計算された温度を提供する。Tm値は、タンパク質のフォーディングした状態からアンフォールディングした状態への計算された温度依存性の移行中間点である。
【0442】
DSF分析中に、静的光散乱(SLS)測定値を266 nmおよび473 nmで決定して、タンパク質コロイド安定性を評価する。サンプルを照射するために用いられるレーザーからの静的光散乱の強度は、入射光と同じ桁の粒子の存在に比例する。したがって、この分析は、温度ランプにわたるタンパク質凝集に対して感度が高い。静的光散乱を、より小さい凝集物粒子サイズを検出するために266 nmで、およびより大きな凝集物種の検出のために473 nmで測定する。タンパク質が凝集し始める温度である凝集開始温度(Tagg)を、これらのデータから決定する。これらのデータは、カウント強度の大きな変化によって最も良好に分析され、より高いカウントは、タンパク質凝集物の会合により、より多くの光が散乱されたことを示す。上昇する温度ランプにわたって、103スケールでのSLSカウントデータの変化は、典型的には、有意なタンパク質凝集に起因し、SLSカウントの最小の変化は、部分的な凝集に起因し、温度ランプにわたってSLSカウントに変化がないことは、無視できるタンパク質凝集を示す。
【0443】
動的光散乱(DLS):
DLS分析は、室温でタンパク質のサイズおよび凝集を評価する。DLS分析のためには、散乱光の時間自己相関関数を決定し、単一粒子サイズを、データの単一指数キュムラントフィッティングで想定する。キュムラントフィットは、溶液中の粒子のサイズ分布を決定するために使用される。報告可能な値は、多分散性および流体力学的半径(直径)である。単量体の単一分布で構成されるタンパク質サンプルの場合、サンプルは単分散と考えられるが、複数の粒子サイズの集団を含有するサンプルの場合、サンプルは多分散と考えられる。多分散度(polydispersity index)は、粒子サイズ分布の幅の尺度であり、多分散度が高ければ高いほど、粒子の分布は幅広い。したがって、PDIが高いサンプルは、典型的には、より高次のポリマーまたは大きい凝集物を含有することが見出されている。非球状タンパク質粒子の流体力学的半径は、粒子と同じ並進拡散速度を有する球の直径である。拡散係数は、粒子の分子量、表面構造、ならびに製剤中のイオンの濃度およびタイプに依存する。単分散サイズ分布におけるより大きい流体力学的半径は、大きな凝集物ではなく、溶液中のより高次のオリゴマー(例えば、四量体)の存在に起因し得る。
【0444】
本発明の分析のために、各サンプルについてのDSFおよびDLSのデータを、Uncle機器(Unchained Labs)での同じランで収集した。簡潔に述べると、2 mg/mLの抗体溶液(それぞれの製剤バッファーで希釈)のサンプルを、典型的にはランあたり48サンプルで分析した。DLSデータは、最低温度、典型的には25℃で収集した。次いで、DFSデータのために、典型的には1℃/分で熱ランプを開始し、蛍光を、各サンプルについて継続的に、温度ランプを通して測定した。
【0445】
視覚的外観:
抗体サンプルを、室温に平衡化した。ガラスバイアルを点検して、それらがきれいであり、傷または異物がないことを確認した。適用可能である場合には、1 mLのサンプルを、適切なガラスバイアルに移した。同様のガラスバイアル中の1 mLの水を、比較のために使用した。外観を、ラボの周囲照明で、きれいな白および黒の背景に対して評価した。色は、水と比較して、白い背景に対して評価した。透明度は、水と比較して、白および黒の背景に対して評価した。粒子状物質を、気泡が入らないように確実にして、バイアルを静かに反転させること、次いで、白および黒の背景の前で約5秒間観察することによって評価した。
【0446】
pH:
サンプルを、室温に平衡化した。典型的には、100~250μLのサンプルを、23~27℃で、pH測定用のチューブに移した。pHプローブをサンプルに浸し、pHを測定する。pHプローブは、毎日較正した。
【0447】
UV A280によるタンパク質濃度:
タンパク質濃度を、UV/Vis分光光度計(Agilentまたは同等のシステム) を使用して、サンプルの280 nmでの吸光度(A280)を測定し、参照波長として320 nm(A320)を用いることによって決定した。サンプルを、希釈バッファー(12.6 mMリン酸二水素ナトリウム、140 mM塩化ナトリウム、pH 7.3)を用いて約0.6 mg/mLに希釈し、UVette使い捨てキュベット(Eppendorf)に移した。分光光度計は、製剤バッファーをブランクに用い、次いで、ブランクおよび調製したサンプルについて240~400 nmの範囲にわたる全ての波長の吸光度を測定するために使用した。A280およびA320の結果を使用し、Beer-Lambertの法則を用いて総タンパク質濃度を決定した。
【0448】
A550による濁度
濁度は、UV/Vis分光光度計(Agilent 8453もしくは8454、または同等のシステム)を使用して、希釈されていない材料を含む1 cmキュベット(UVette使い捨てキュベット;Eppendorf)においてバックグラウンド補正なしでサンプルの550 nmでの吸光度を測定することによって決定した。
【0449】
サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)
SECを使用して、薬品の初期純度、ならびに低分子量(LMW)種として観察される断片化の程度、および高分子量(HMW)種として観察される凝集の程度を評価する。DADによって生じたクロマトグラムの相対ピーク面積を使用して、単量体の前に溶出する(HMW)種および単量体の後に溶出する(LMW)種に対する単量体の純度を決定する。この方法で報告される結果は、単量体純度%、総HMW種%としての単量体の前に溶出された全てのピークの合計、総LMW種%として報告される単量体の後に溶出する全てのピークの合計、および総不純物%として報告される全ての非単量体種の合計である。
【0450】
SECによる純度評価を、100 mMリン酸ナトリウム、100 mM硫酸ナトリウム、pH 6.8の移動相およびTOSOH TSK-gel G3000SWxl(7.8×300 mm)カラム固定相(Sigma)を有する高速液体クロマトグラフィー(HPLC)システム(Agilent 1100/1200シリーズまたは等価物)を用いて行った。サンプル調製は、移動相での1.0 mg/mLへの希釈からなった。機器パラメータは、50μL(50μgロード)のサンプル注入体積、1.0 mL/分の流速、27.5℃のカラム温度、5±3℃のオートサンプラー温度、および20分のサンプルラン時間からなった。データは、ダイオードアレイ検出器(DAD)を用いて8 nmの帯域幅で、280 nmの波長で収集した。
【0451】
イメージングキャピラリー等電点分離法(icIEF)
イメージングキャピラリー等電点分離法を使用して、抗体サンプルの電荷不均一性および等電点を決定した。icIEFは、全キャピラリーUV検出器を用いて、集中したタンパク質帯を検出する。icIEF分離中には、サンプル、pI(等電点)マーカー、メチルセルロース、およびタンパク質種のそのpIによる分離を可能にする担体両性電解質を充填したコーティングされたキャピラリーに、電圧を印加する。分離キャピラリーは、陽極(酸性)タンクおよび陰極(塩基性)タンクに位置する中空糸膜を用いて、入口および出口キャピラリーに接続されている。これにより、タンクと分離キャピラリーの内部体積との間の電気通信が可能になる。タンクにわたって印加される高電圧により、タンパク質種の電荷ベースの分離が可能になる。この方法を使用して、安定性研究の経過にわたって、脱アミドなどの化学変化による製剤化された抗体の電荷不均一性の変化を観察する。
【0452】
分離の最後に捕捉される、結果として生じた電気泳動図(吸光度対pH)を使用して、総面積と比較した各ピークの相対面積の割合に基づいて、電荷不均一性の結果を生成する。この方法で報告される結果には、メインピーク%、総酸性バリアント(メインピークよりも低いpIを有するバリアント)%、および総塩基性バリアント(メインピークよりも高いpIを有するバリアント)%が含まれる。さらに、既知のpI値を有する2つのタンパク質マーカーを使用して、各ピークのpIを決定し、メインピークのpIを報告する。
【0453】
分析は、ProteinSimple由来のcIEFカートリッジおよびMaurice cIEF Chemical Test Kitを利用した。サンプルおよび参照標準を、精製水(MilliQまたは等価物)で3 mg/mLに希釈した。マスターミックスは、すべてのサンプルに十分な体積を調製するようにスケール変更した処方で、以下に示す成分リストに従って調製した。
【0454】
次いで、10μLのサンプルを90μLのマスターミックスと合わせることによって、サンプルをその最終濃度(0.3 mg/mL)に希釈した。サンプルの代わりに10μLの水を用いて、ブランクもまた調製した。試験キット由来のMaurice cIEFシステム適合性標準を、製造業者の説明書に従って調製した。次いで、全ての調製物を、以下の順序で2枚のMaurice 96ウェルプレートに移した:システム適合性、ブランク、参照標準、サンプル調製物。バッファーバイアルの調製は、0.5 mLの蛍光較正標準、2 mLのMilliQ水、2 mLの0.5%メチルセルロースを含有する、ProteinSimple圧力キャップ(pressure capped)2mLバイアル、および空のバイアル、ならびに2 mLのMilliQ水を有するバイアルおよび透明スクリューキャップを調製することからなった。次いで、これらのバイアルを、ソフトウェアの説明に従って機器にロードした。2 mLの陰極液を赤いポートに、2 mLの陽極液を白いポートにロードすることによって、カートリッジを調製した。
【0455】
キャピラリー電気泳動(CE)
CEにおいては、電場の影響下でのゲルを通した移動によって、タンパク質種が分離される。ゲルは、分子ふるいとして作用する架橋ポリマーネットワークを含有し、より小さい分子は、ゲルを通してより速く移動する。
【0456】
SDSを、タンパク質をアンフォールディングするため、および均一の電荷を印加して電場での移動を可能にするために使用する。還元剤(DTT)を、ジスルフィド結合を破壊するために添加する。Protein Express Dyeは、タンパク質に結合して、強い光に曝露された時に蛍光を発し、これが、断片がセンサーを通過する際に機器によって検出される。
【0457】
還元マイクロチップキャピラリー電気泳動(R CE-SDS)
関心対象の各ピークの相対面積を、全てのピークの総面積と比較することによって、結果を決定する。報告される結果は、軽鎖%(%LC)、重鎖%(%HC)、非グリコシル化重鎖%(%NGHC)、純度%(%LC+%HC)、および総関連物質/不純物%(%LCおよび%HCを除外する全てのピークの和)である。
【0458】
分析は、Caliper Lab Chip CXIIシステム、Protein Express Assay Lab Chip、およびCaliper Protein Express Reagentキット(全てPerkin Elmer由来)を利用して、還元剤としてジチオスレイトール(DTT)を用いたLab on a Chip(LoC)キャピラリー電気泳動ドデシル硫酸ナトリウム(CE-SDS)による純度評価を行った。サンプルおよび参照標準を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)pH 7.4で1 mg/mLに希釈した。還元作業溶液を、24.5μLの1M DTTを700μLのHT Protein Express Sample Bufferで希釈して、33.8 mMの最終濃度にすることによって調製した。微量遠心チューブにおいて5μLの希釈サンプルを7μLの還元作業溶液と合わせること、その後の3000×gで1分間の遠心分離およびヒートブロック上で3分間の70±2℃での加熱によって、サンプルを還元した。次いで、サンプルを室温まで冷却し、その後、3000×gで1分間の遠心分離を行った。次いで、サンプル調製物を32μLのMilliQ水で希釈し、96ウェルプレートに移した。ブランクを、5μLのPBS pH 7.4および同じサンプル調製手順を用いて調製して、いかなる干渉ピークもないことを確実にした。
【0459】
チップの調製を、lab chipに試薬を添加して行った。Gel-Dye mixを、18μLのHT Protein Express Dye Solutionを520μLのHT Protein Express Gel Matrix に添加すること、その後の提供されたスピンフィルターにおける9300×gでの5分間の遠心分離によって調製した。脱染溶液を、250μLのHT Protein Express Gel Matrixをスピンフィルター中に添加すること、および9300×gで5分間遠心分離することによって調製した。HT Express Ladderは、12μLをヒートブロック上で5分間、100±2℃で加熱すること、その後の冷却および120μLのMilliQ水の添加によって調製した。ラダーを、0.2 mL PCRチューブに移し、機器の指定された位置にロードした。チップの調製は、96ウェルプレートを泳動するために十分である。チップおよびサンプルプレートを、機器にロードし、サンプルを泳動する。
【0460】
非還元マイクロチップキャピラリー電気泳動(NR CE-SDS)
関心対象の各ピークの相対面積を、全てのピークの総面積と比較することによって、結果を決定する。報告される結果は、メインピークの純度%、前側関連物質/不純物(メインピークより低い分子量を有するピーク)%、後ろ側関連物質/不純物(メインピークより高い分子量を有するピーク)%、および総関連物質/不純物%(%TRS/I)である。
【0461】
分析は、Perkin Elmer Caliper Lab Chip CXIIシステム、Protein Express Assay Lab Chip、およびCaliper Protein Express Reagentキットを利用して、Lab on Chip(LoC)キャピラリー電気泳動ドデシル硫酸ナトリウム(CE-SDS)による純度評価を行った。サンプルおよび参照標準を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)pH 7.4で1 mg/mLに希釈した。非還元作業溶液を、122.5μLのヨードアセトアミド(IAM)を3500μLのHT Protein Express Sample Bufferで希釈して、8.5 mMの最終濃度にすることによって調製した。微量遠心チューブにおいて5μLの希釈サンプルを7μLの非還元作業溶液と合わせること、その後の3000×gで1分間の遠心分離およびヒートブロック上で3分間の70±2℃での加熱によって、サンプルを調製した。次いで、サンプルを室温まで冷却し、その後、3000×gで1分間の遠心分離を行った。次いで、サンプル調製物を32μLの水で希釈し、96ウェルプレートに移した。ブランクを、5μLのPBS pH 7.4および同じサンプル調製手順を用いて調製して、いかなる干渉ピークもないことを確実にした。チップ調製については、上記のR CE-SDSを参照されたい。
【0462】
第1の安定性研究(実施例11)においては、非還元CE-SDSサンプル調製を、IAMなしで行った(7μLのHT Protein Express sample bufferを5μLの希釈サンプルと合わせる)。方法を、実施例12において報告される安定性研究の前にIAMを含むように更新し、SDSとサンプルとの相互作用によって引き起こされる純度の人工的な変化により観察される変動性を低減させた。
【0463】
第2の安定性研究においては、SDSの添加によって引き起こされる遊離スルフヒドリルの存在に起因する純度の変動性を減少させるために、IAMを非還元作業溶液に添加した。スルフヒドリルは、新しいピークとして観察される、ジスルフィド結合のスクランブルによる新しい種の形成を誘導し、サンプル純度の自然な減少を結果としてもたらす場合がある。IAMは、スルフヒドリルをブロックし、ジスルフィド結合のスクランブルを防ぐことができるアルキル化剤である。
【0464】
結果および考察
生物物理学的試験:
生物物理学的試験を、DSFおよびDLSにより行って、IgG1-C-E430Gの安定性に対するバッファー正体、溶液pH、および賦形剤の効果を評価した。評価した製剤を、表5に示す。DSFおよびDLS分析から得られた結果を、表8に示す。
【0465】
(表8)
生物物理学的研究‐DSFおよびDLSの結果
T
m:融解温度;T
onset:凝集の開始;T
agg:凝集温度;Avg Z-Ave:平均 Z平均;Dia:直径;PDI:多分散度;Avg Pk 1:平均ピーク1。
【0466】
DSFおよびDLSから得られたデータに基づくと、より高いTonset値およびより高いTagg値によって示されるように、バッファータイプに関して、酢酸は、ヒスチジンと比較してより良好な熱安定性を提供した。しかし、上昇した温度下で266 nmおよび473 nmの両方での増加したSLSカウントによって観察されるように、凝集の程度は、酢酸製剤において有意により高かった。溶液pHとTonsetおよびTaggの両方とには正の相関が観察され、より高いpHで、より高い熱安定性が示された。しかし、溶液pHと266 nmおよび473 nmでのSLSカウントとの間にも正の相関が観察され、より低いpH溶液は、より高いコロイド安定性を溶液中のIgG1-C-E430Gに付与し得ることが示された。スクロース製剤は、この賦形剤で観察された、より高いpk 1直径(すなわち、DLS分析におけるメインピークのサイズ)および多分散値のために、より大きなIgG1-C-E430Gの凝集物を生成するように見えた。
【0467】
選択製剤を、凍結融解サイクルおよび連続的な物理学的撹拌を伴う物理学的ストレススクリーニングに供した後、さらにスクリーニングした。界面活性剤であるPS80の添加もまた、IgG1-C-E430Gの安定性に対してそれが有する影響についてスクリーニングした。
【0468】
物理学的ストレスおよび界面活性剤の研究:
12種類の製剤をスクリーニングして、溶液pH、賦形剤、および界面活性剤がIgG1-C-E430Gの安定性に対して有する効果を評価した。物理学的ストレスおよび界面活性剤の研究のためにスクリーニングした製剤を、表6に示す。アルギニンを含む製剤は、DSF分析において観察された生物物理学的結果のため、除外した。各分析アッセイの結果を、以下の表に示す。
【0469】
(表9)
物理学的ストレス研究‐外観の結果
1恐らくちり粒子
【0470】
(表10A)
物理学的ストレス研究‐DLSの結果
%Pd=多分散性パーセント
【0471】
【0472】
【0473】
(表12)
物理学的ストレス研究‐濁度の結果
1この製剤での2つのストレスを受けたサンプルは、より低いA550値を有していたため、恐らく外れ値
【0474】
【0475】
バッファー正体に関しては、20 mM酢酸、150 mM NaCl、pH 5.5の製剤のみが、48時間の連続的撹拌への曝露後に可視の粒子を示した。20 mM酢酸、150 mM NaCl、pH 5.5、および20 mM酢酸、250 mMスクロース、pH 5.5、および20 mMヒスチジン、250 mMソルビトール、pH 6.0は、5回の凍結融解サイクル後に粒子状物質を形成することが観察された唯一の製剤であった。しかし、これらの製剤を、0.04%(w/v)PS80を含有するそれらの対応物と比較すると、いかなる粒子状物質も観察されず、これは、IgG1-C-E430Gの製剤中にPS80を含めることが、粒子状物資の形成に対して保護する手助けをし得ることを示した。
【0476】
賦形剤に関して、SLSのデータ(表8)は、荷電賦形剤(NaCl、アルギニン)を含む製剤が、糖賦形剤のSLSカウントと比較して、上昇した温度で266 nmおよび473 nmの両方で有意により高いSLSカウントを有していたことを実証し、これは、糖が、より高いコロイド安定性をIgG1-C-E430Gに提供することを示した。
【0477】
20 mM酢酸、150 mM NaCl、pH 5.5は、5回の凍結融解サイクル後に、物理学的ストレス後の純度の減少が観察された唯一の製剤であった。しかし、製剤中にPS80を含めると、凍結融解後でさえも純度が一貫したままであるため、凍結融解後の凝集物の増大を防ぐように見える。
【0478】
スクロースを含む製剤では、凍結融解サイクル後に、IgG1-C-E430GのA280において変化が観察された。
【0479】
これらの集計された結果に基づいて、20 mMヒスチジン、250 mMソルビトール、0.04%(w/v)PS80、pH 6.0を、IgG1-C-E430G用の最適な製剤として選択した。
【0480】
安定性研究
次いで、IgG1-C-E430Gについて特定された製剤である、20 mMヒスチジン、250 mMソルビトール、0.04% PS80、pH 6.0(表7)の安定性を、20 mg/mLで8週間にわたって、5±3℃、25±2℃/60±5% RH、および40±2℃/75±5% RHの保管条件で評価した。初期サンプルを、外観、pH、A280、SE-HPLC、icIEF、マイクロチップCE-SDS(還元および非還元)によって試験した。追加のサンプルを、初期時点で調製し、5回の凍結融解サイクルおよび物理学的撹拌(400 RPMで48時間)に供して、物理学的ストレス研究の結果を確認した。選択した分析の結果を、以下の表に示す。
【0481】
(表14)
安定性研究‐LoC-NRの結果
1恐らく、サンプル調製物におけるアルキル化剤の欠如による遊離スルフヒドリル基によって触媒された制御されないジスルフィド結合スクランブルのための、前側関連不純物(断片)の変動性
【0482】
【0483】
【0484】
安定性研究から得られたデータに基づくと、保管条件にかかわらず、溶液の外観または粒子含有量に対していかなる影響もなかった。経時的に増加することが観察された40±2℃/70±5% RHでのA280を除いて、研究の持続期間にわたる保管条件にかかわらず、溶液のpHまたはA280に対していかなる影響もないように見えた。このA280の増加は、より高い保管温度での蒸発に起因する可能性があり得る。
【0485】
SE-HPLCの結果は、凍結融解サイクルまたは48時間もしくは連続的な撹拌の物理学的ストレスの後に、IgG1-C-E430Gの純度に対していかなる影響もなかったことを示した。各条件は、研究の経過にわたって単量体純度に関して同様の傾向を示し、各時点で純度が減少したが、純度に対する効果は、40±2℃/70±5% RHの加速保管条件でより有意であった。温度ストレス条件下では、LMW IgG1-C-E430G種およびHMW IgG1-C-E430G種の両方が、経時的に増加した。5±3℃および25±2℃/60±5% RHの条件では、%LMWの増加のみが、8週間を通して観察された。
【0486】
LoC-NR分析によっては、IgG1-C-E430Gの純度のいかなる有意な変化も観察されなかった。還元条件下では、IgG1-C-E430Gの純度は減少し、断片化の増加が8週間まで全ての条件について観察されたが、変化は、加速保管条件下でより顕著であった。
【0487】
icIEFの結果は、規準条件(5±3℃)では、IgG1-C-E430Gの電荷不均一性にいかなる変化もなかったが、両方の加速保管条件(25±2℃/60±5% RHおよび40±2℃/70±5% RH)では変化があったことを示した。酸性バリアント%の増加が、各々の連続時点で観察され、これは恐らく、加速保管条件下でのタンパク質の脱アミドの結果である。研究全体にわたって、保管条件にかかわらず、メインピークのpIにはいかなる変化もなかった。
【0488】
結論
生物物理学的研究、物理学的ストレス研究、および界面活性剤研究から得られた結果より、20 mMヒスチジン、250 mMソルビトール、0.04% PS80、pH 6.0(表7)が、規準条件および加速保管条件での製品安定性の評価について、IgG1-C-E430G用の最適な製剤として特定された。
【0489】
最初の生物物理学的研究は、IgG1-C-E430Gの熱安定性および立体構造安定性に対するバッファータイプ、賦形剤、およびpHの効果を評価した。DSFおよびDLSから得られた結果に基づくと、酢酸は、ヒスチジンと比較してより良好な熱安定性を提供するように見え、より高いTonsetおよびTaggの値が観察されたが、上昇した温度で266 nmおよび473 nmでのSLS カウントによって観察されたように、凝集の程度は、酢酸製剤において有意により高かった。20 mMヒスチジン、250 mMソルビトール、pH 5.5を除いて、酢酸製剤は、一般に、より小さいz-avg粒子直径を有するように見えた。しかし、酢酸製剤はまた、ヒスチジンと比較してより高いavg pk 1多分散性%を有するようにも見え、これは、酢酸製剤に存在するより大きな凝集物を示す。
【0490】
溶液pHに関しては、ヒスチジン製剤とTagg値との間に正の相関が観察され、これは、より高い溶液pHが、タンパク質凝集の開始の温度を上げ得ることを示した。しかし、SLSカウントは、高いpHの溶液において、凝集の程度がより高いことを実証し、これは、より低いpHの製剤が、より高いコロイド安定性を有することを示した。DLSの結果は、高いpH(6.5)の製剤において、pk 1多分散性が最も高かったことを示し、これは、より高いpHの溶液が、潜在的に、より多いIgG1-C-E430Gのオリゴマー、例えば二量体および三量体の集団を有し得ることを示した。
【0491】
賦形剤に関して、SLSのデータは、荷電賦形剤(NaCl、アルギニン)を含む製剤が、糖賦形剤のSLSカウントと比較して、上昇した温度で266 nmおよび473 nmの両方で有意により高いSLSカウントを有していたことを実証し、これは、糖が、より高いコロイド安定性をIgG1-C-E430Gに提供することを示した。スクロース製剤は、一般に、最も高いpk 1直径およびpk 1多分散性を有し、これは、これらの製剤が、より多い小さなオリゴマーの集団を含有していたことを示した。z平均粒子直径は、いくつかの製剤において、二次集団の存在のために(マルチモーダル)より大きかったが、これらのサンプルにおけるピーク1の全体的な質量%は、非常に高く(>99%)、これは、二次直径の全体的な寄与が最小であることを示した。
【0492】
生物物理学的研究から選択された6つの最良の製剤を、物理学的ストレッサーの存在下(400 RPMで48時間の撹拌および5回の凍結融解サイクル)でさらに評価した。界面活性剤がIgG1-C-E430G製剤に対していずれかの恩恵をもたらすかどうかを判定するために、これらの製剤をまた、PS80を添加して評価した。外観試験は、ストレス条件への曝露後に、色または透明度に関していかなる違いも示さなかった。しかし、粒子状物質の形成が、48時間の撹拌に曝露された後に、20 mM酢酸、150 mM NaCl、pH 5.5の製剤において観察された。20 mM酢酸、150 mM NaCl、pH 5.5と、20 mM酢酸、250 mMスクロース、pH 5.5と、20 mMヒスチジン、250 mMソルビトール、pH 6.0は、5回の凍結融解サイクル後に粒子状物質を示す唯一の製剤であった。製剤にPS80を含めることは、全てのサンプルについて、凍結融解または撹拌の物理学的ストレス後の粒子状物質の形成を防ぐ手助けをするように見えた。DLSの結果から、NaClを含む製剤は、より高いz平均粒子直径を示したことが観察された。z平均粒子直径の有意な減少が、0.04%(w/v)PS80が製剤に含まれた場合に観察された20 mMヒスチジンおよび糖(250 mMソルビトールおよび250 mMスクロース)の製剤を除いて、PS80を含む製剤と含まない製剤との間で、z平均粒子直径のいかなる違いもないように見えた。これは、PS80が、潜在的に、ヒスチジンおよび糖の製剤においてIgG1-C-E430Gの凝集を防ぐ手助けをすることを示した。SE-HPLCの結果は、NaClを含む酢酸について、凍結融解サイクル後に純度が減少し、これはHMW種%の増大に起因したが、この純度の落下は、溶液中にPS80を添加することによって緩和され、物理学的ストレッサー後にいかなる純度の落下も観察されなかったことを示した。生成されたDLS、外観、およびSE-HPLCのデータに基づいて、20 mMヒスチジン、250 mMソルビトール、0.04% PS80、pH 6.0が、安定性に移動させるための最適な製剤であることが示された。
【0493】
最後に、最適なIgG1-C-E430G製剤(20 mMヒスチジン、250 mMソルビトール、0.04% PS80、pH 6.0)を20 mg/mLで評価する、安定性研究を行った。サンプルを、規準条件(5±3℃)、ならびに2つの加速条件(25±2℃/60±5% RHおよび40±2℃/70±5% RH)で8週間インキュベートした。インキュベーション後に、サンプルを、外観、pH、A280、SE-HPLC、LoC、およびicIEFによって試験した。凍結融解サイクルおよび物理学的撹拌を、この安定性研究の初期時点で評価した。
【0494】
外観、pH、およびA280の試験は、保管条件の間でいかなる違いも示さず、いかなる可視の粒子も8週間まで観察されなかった。
【0495】
SE-HPLCの結果は、各条件での各時点について単量体純度の減少を示したが、影響は、加速条件において最も有意であった。加速条件(40±2℃/70±5% RH) はまた、HMW種%の増加を示す唯一のサンプルであり、他の2つの条件は、LMW種%の増加のみを示した。
【0496】
LoC-NRの結果から、純度の初期の落下が、2週間の時点までに各サンプルにおいて観察されたが、不純物は、平衡に達し、さらには増加しない可能性がある。しかし、この仮説を確認するためには、さらなる時点を分析する必要があるであろう。
【0497】
icIEFの結果は、メインピーク%、酸性バリアント%、および塩基性バリアント%が、規準条件(5±3℃)の研究にわたって同様であることを示した。しかし、加速条件(25±2℃/60±5% RHおよび40±2℃/70±5% RH)では、メインピーク%の分解が、酸性バリアント%の増加をもたらし、これは、より高い温度でのIgG1-C-E430Gの潜在的な脱アミノを示した。
【0498】
実施例12:抗体製剤‐第2の安定性研究
20 mg/mLのIgG1-C-E430G製剤(20 mMヒスチジン、250 mMソルビトール、pH 6.0、0.04% PS80中)の第2の安定性研究を行った。
【0499】
方法
以下に提供されるものを除いて、使用した方法は、実施例11に記載されている。
【0500】
マイクロフローイメージング(Micro-Flow Imaging)(MFI):
この方法は、ProteinSimpleマイクロフローイメージング(MFI)顕微鏡を利用して、サブビジブル粒子の画像を収集し、その特徴決定を可能にする。1 mLの各サンプルを、96ウェルEppendorf Deepwellプレートのウェル中に移すことによって、サンプル分析を行う。機器の方法は、MFI View System Software(MVSS)を用いて作成する。1ミクロン以上かつ100ミクロン以下の円相当径(ECD)を有する全ての粒子の画像を、機器によって収集する。
【0501】
サンプル分析後に、MVSSソフトウェアを使用して、収集した画像に形態学的フィルターを適用し、共通の特徴に基づいて粒子を集団に群分けする。画像を、ECDによって以下の群に選別する:ECD≧2ミクロン、ECD≧5ミクロン、ECD≧10ミクロン、および≧25ミクロン。縦横比形態学的フィルターを、0.85以上のカットオフで、5ミクロン以上の集団に適用し、これは、円形粒子および非円形粒子を含有する画像を識別する。非円形粒子(AR<0.85)は、起源がタンパク質性である傾向があるのに対して、円形粒子(AR≧0.85)は、気泡およびシリコーンオイルで構成されている傾向がある。
【0502】
次いで、円形粒子を含有する画像を、MVSSソフトウェアが粒子内の最も明るいピクセルの強度として定義する最小強度(intensity min)に基づいて、気泡としてまたはシリコーン粒子に特徴付けることができる。フィルターを使用して、最小強度が75より大きい丸い粒子を気泡として、最小強度が75以上かつ300以下の粒子をシリコーン粒子として群分けする。次いで、シリコーンおよび円形の割合を、シリコーンまたは円形であると決定された粒子の数を、同じECDを有する粒子の総数で割ることによって決定することができる。
【0503】
この方法の結果を、形態学的特徴によって決定される所望の特徴決定群のmLあたりの粒子数として報告する。MFIからの結果を使用して、製剤化された抗体の安定性を、安定性研究の経過にわたる粒子数の変化の観察を介して評価することができる。MFIは、粒子の組成の直接的な測定としてではなく、粒子の間接的な特徴決定としてのみ使用される。
【0504】
結果
第2の安定性研究からの結果を、以下の表に示す。
【0505】
【0506】
【0507】
【0508】
【0509】
【0510】
【0511】
【0512】
【0513】
実施例13:バイオレイヤー干渉法を用いて決定される結合親和性
ヒトCD38特異的抗体であるIgG1-C-E430GおよびIgG1-Bの標的結合親和性を、Octet HTX機器(ForteBio)で無標識バイオレイヤー干渉法(BLI)によって決定した。実験は、1,000 RPMで振盪しながら30℃で実施した。
【0514】
Anti-Human IgG Fc Capture(AHC)バイオセンサー(ForteBio、カタログ番号18-5060)を、10 mMグリシンバッファー、pH 1.7(Riedel-de Haen、カタログ番号15227)への5秒間の曝露、その後のSample Diluent(ForteBio、カタログ番号18-1104)における5秒間の中和によってプレコンディショニングし、両方の段階を5回繰り返した。次に、AHCセンサーに、抗体(Sample Diluent中1μg/mL)を600秒間ロードした。Sample Diluentにおけるベースライン測定(100秒)の後、組換えHis-CD38(Genmab)の会合(200秒)および解離(1,000秒)を、Sample Diluentでの2倍希釈段階を伴う0.78~50 nM(0.02~1.53μg/ml)の濃度範囲を用いて決定した。アミノ酸配列に基づくHis-CD38の理論分子量(30.5 kDa)を、計算に使用した。各抗体について、参照センサーを使用し、これは、抗原の代わりにSample Diluentとインキュベートした。
【0515】
データを、Data Acquisition Software v9.0.0.49d(ForteBio)を用いて獲得し、Data Analysis Software v9.0.0.14(ForteBio)で分析した。参照センサーを差し引くことによって、データトレースを抗体ごとに修正した。Y軸を、ベースラインの最後の10秒に整列させ、解離に対するInterstep CorrectionアライメントおよびSavitzky-Golayフィルタリングを適用した。応答が0.04 nm未満のデータトレースを、分析から除外した。それぞれ、200秒および1,000秒に設定した会合時間および解離時間について関心対象のウィンドウを用いて、データを、1:1モデルにフィッティングした。
【0516】
「KD」(M)は、抗体-抗原相互作用の解離平衡定数を指し、kdをkaで割ることによって得られる。「kd」(sec-1)は、抗体-抗原相互作用の解離速度定数を指す。これは、時には、koff値またはオフレートとも呼ばれる。「ka」(M-1×sec-1)は、抗体-抗原相互作用の会合速度定数を指す。これは、時には、kon値またはオンレートとも呼ばれる。
【0517】
表25は、3回の独立した実験の結果を示す。His-CD38に対するIgG1-C-E430Gの平均親和性(解離平衡定数、KD)は、1.1±0.17 nMであった。His-CD38に対するIgG1-Bの親和性は、3.9±0.48 nMであった。
【0518】
(表25)
His-CD38に対するCD38抗体の結合親和性
【0519】
実施例14:抗体製剤‐さらなる安定性研究
さらなる安定性研究を、20 mMヒスチジン、250 mMソルビトール、0.04% PS80、pH 6.0において製剤化された、20 mg/mlのIgG1-C-E430Gを含むAおよびBの異なるバッチに対して実施した。結果を以下の表に記載し、これは、6ヶ月までのさまざまな保管温度を含む。評価したパラメータは、外観、色、乳光、サブビジブル粒子状物質、CE-SDS(還元)(R CE-SDS)、CE-SDS(非還元)(NR CE_SDS)、icIEF、SE-HPLC、ELISA、効力、A280、およびpHであり、実施例11および12において上述した通りの、ならびにさらに下記の通りの方法を用いて評価した。以下の結果は、IgG1-C-E430Gが、製剤において安定であり、医学的使用に適していると考えられることを確認する。
【0520】
色および乳光を、薬局方(欧州薬局方(Ph.Eur.)および日本薬局方(JP))に記載されている標準化された方法に従って、目視検査によって評価した。色は、「黄色」(Y)、「茶色」(B)、または「茶黄色」(BY)などの色標準に対して、1から7の刻みで評価した(1が最も濃い溶液である)。乳光は、一連の参照懸濁液に対して評価した(RSI、RSII、RSIII、およびRSIV;後者が最も乳白色の溶液である)。
【0521】
サブビジブル粒子状物質を、薬局方(米国薬局方(USP)、欧州薬局方(Ph.Eur.)、および日本薬局方(JP))に記載されている標準化された方法に従って、自由に浮遊するサブビジブル粒子により引き起こされる光遮蔽を分析することによって評価した。サブビジブル粒子の粒子数を、いくつかのバイアルをプールした後に測定した。結果を、計算し、バイアルあたりの粒子として示す。
【0522】
効力を、CellTiter-Glo読み取りシステムを用いて評価した補体依存性細胞傷害(CDC)によって決定した。この方法は、生存細胞の尺度である、ATPの存在下でのルシフェリンの発光オキシルシフェリンへの触媒作用に基づく。簡潔に述べると、Daudi標的細胞を、解凍し、アッセイ培地で白色不透明96ウェル培養プレートに105細胞/ウェルで播種し、室温(RT)で60分間静置した。HexaBody-CD38 の段階希釈液を、別々の希釈プレートにおいてアッセイ培地で調製し、細胞に添加して、RTで30分間インキュベートする。プールした正常ヒト血清を、補体エフェクタータンパク質の供給源としてウェルあたり25%の最終濃度で添加し、RTで30分間インキュベートした。次いで、プレートを、透明ホイルに包み、37℃、5% CO2で2.5時間インキュベートした。30分間のRTへの平衡化の後に、CellTiter-Glo試薬を添加した。プレートを、400 rpmで30秒間振盪し、RTで10分間インキュベートして、マルチプレートリーダーを用いて発光を測定した。
【0523】
CD38結合を、以下のようにELISAによって決定した。標的抗原への結合を、リガンド結合ELISAを用いて評価した。標的抗原(HIS-CD38)を、PBSで希釈し、Nunc Maxisorp ELISAプレートをコーティングして、4℃で16~20時間インキュベートした。アッセイプレートを、あらゆる段階の間に、ELISAウォッシャーを用いてPBS-Tween-20(0.05%)で3回洗浄した。アッセイプレートを、PBS-Tでブロッキングし、続いて、温度制御されたシェーカーで、25℃および300 rpmで60分間インキュベートした。PBS-Tで調製したサンプルの段階希釈液を、プレートに添加して、温度制御されたシェーカーで、25℃および300 rpmで90分間インキュベートした。洗浄後に、PBS-Tで予め希釈したヤギ抗ヒトIgG Fcγ-HRPを添加し、温度制御されたシェーカーで、25℃および300 rpmで60分間インキュベートした。検出のために、プレートを洗浄した後、ABTSをアッセイプレートに添加し、続いて、温度制御されたシェーカーで、25℃および300 rpmで30分間インキュベートした。酵素反応を停止するために、2%シュウ酸を添加した(洗浄なし)。読み取りおよび分析は、405 nmで行った。
【0524】
(表26)
IgG1-C-E430Gの安定性データ、バッチ番号A、保管温度5±3℃‐直立
【0525】
(表27)
IgG1-C-E430Gの安定性データ、バッチ番号A、保管温度5±3℃‐倒立
【0526】
(表28)
IgG1-C-E430Gの安定性データ、バッチ番号A、保管温度25±2℃/60±5% RH
【0527】
(表29)
IgG1-C-E430Gの安定性データ、バッチ番号B、保管温度≦-65℃
【0528】
(表30)
IgG1-C-E430Gの安定性データ、バッチ番号B、保管温度5±3℃
【0529】
(表31)
IgG1-C-E430Gの安定性データ、バッチ番号B、保管温度25±2℃/60±5% RH
【0530】
参考文献リスト
このリストの各文献、または本明細書の他の箇所で引用された各文献は、その全体が参照により本明細書に明確に組み入れられる。
【配列表】
【国際調査報告】