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特表2023-510542生物特異的及び群間防御を促進する病原性生物の免疫原に対するユニバーサルワクチン
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-14
(54)【発明の名称】生物特異的及び群間防御を促進する病原性生物の免疫原に対するユニバーサルワクチン
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/00 20060101AFI20230307BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20230307BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20230307BHJP
   A61K 39/12 20060101ALI20230307BHJP
   A61K 39/02 20060101ALI20230307BHJP
   A61K 39/002 20060101ALI20230307BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230307BHJP
   C12N 15/33 20060101ALN20230307BHJP
【FI】
A61K39/00 A
A61P31/00 ZNA
A61P37/04
A61K39/12
A61K39/02
A61K39/002
A61K48/00
C12N15/33
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022542402
(86)(22)【出願日】2020-12-18
(85)【翻訳文提出日】2022-09-08
(86)【国際出願番号】 US2020066059
(87)【国際公開番号】W WO2021141758
(87)【国際公開日】2021-07-15
(31)【優先権主張番号】16/737,546
(32)【優先日】2020-01-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】521206305
【氏名又は名称】シーエヌ ユーエスエー バイオテック ホールディングス インコーポレイテッド
(71)【出願人】
【識別番号】322002447
【氏名又は名称】シュ ジャン チン
(71)【出願人】
【識別番号】322002458
【氏名又は名称】ジャン シャオ ヤン
(71)【出願人】
【識別番号】322002469
【氏名又は名称】ワン ジン
(71)【出願人】
【識別番号】322002470
【氏名又は名称】ズー リン ヤン
(71)【出願人】
【識別番号】522275614
【氏名又は名称】ルビット ビヴァリー ダブリュ
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100183379
【弁理士】
【氏名又は名称】藤代 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】シュ ジャン チン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン シャオ ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ワン ジン
(72)【発明者】
【氏名】ズー リン ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ルビット ビヴァリー ダブリュ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084MA59
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZB091
4C084ZB092
4C084ZB311
4C084ZB312
4C085AA03
4C085BA02
4C085BA07
4C085BA49
4C085BA51
4C085CC01
4C085DD62
4C085EE01
4C085GG03
4C085GG04
4C085GG10
(57)【要約】
本開示は、部分的に、保存されたウイルスエピトープを標的とする広範なT細胞応答を誘発するように調整された病原体に対するワクチンを開発するためのプライミング及びブースティングベクターベースのプラットフォームを提供する。ウイルス、細菌、真菌または原生動物から選択される感染性病原体の免疫原に対するユニバーサルワクチンが調製され、免疫原が、少なくとも1つのポリペプチド抗原またはその免疫原性断片をコードするオープンリーディングフレームを含む少なくとも1つのリボ核酸(RNA)ポリヌクレオチドを含み、ポリペプチド抗原またはその免疫原性断片は、CD8+T細胞認識抗原が豊富な保存された内部タンパク質を含む。プライミング及びブースティングプラットフォームの有効性は、完全機能ヒト免疫系を含むヒト化マウスモデルで試験される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルス、細菌、真菌または原生動物から選択される感染性病原体生物の免疫原に対するユニバーサルワクチンであって、ここで、前記免疫原が、少なくとも1つのポリペプチド抗原またはその免疫原性断片をコードするオープンリーディングフレームを含む少なくとも1つのリボ核酸(RNA)ポリヌクレオチドを含み、前記ポリペプチド抗原またはその前記免疫原性断片が、CD8+T細胞認識抗原が豊富な保存された内部タンパク質を含み、
(a)細胞傷害性Tリンパ球(CTL)エピトープが、8~11残基長のペプチドからなり、
(b)前記ワクチンに応答して誘発される免疫応答が、対照と比較して、
(i)前記ワクチン中に存在する少なくとも1つの抗原に向けられた1つ以上のT細胞集団を活性化すること;または
(ii)前記病原体の感染力を中和すること;または
(iii)前記病原体を破壊すること、前記病原体に感染した細胞を溶解すること、またはその両方を含む、抗原特異的応答すること、
のうちの1つ以上を含む、前記ユニバーサルワクチン。
【請求項2】
前記活性化された細胞集団が、活性化された細胞傷害性Tリンパ球(CTL)を含む、請求項1に記載のユニバーサルワクチン。
【請求項3】
前記活性化されたCTLが、NK細胞集団、NKT細胞集団、LAK細胞集団、CIK細胞集団、MAIT細胞集団、CD8+CTL集団、またはCD4+CTL集団のうちの1つ以上を含む、請求項2に記載のユニバーサルワクチン。
【請求項4】
前記保存された免疫原性ポリペプチドまたは免疫原性断片が、ウイルス内部マトリックスタンパク質、ウイルスカプシドタンパク質、ウイルス核タンパク質(viral nuclear protein)、ウイルス核タンパク質(viral nucleoprotein)、ウイルス糖タンパク質、ウイルスリン酸化タンパク質、ウイルスエンベロープタンパク質、ウイルスプロテアーゼ、逆転写酵素、またはウイルスポリメラーゼである、請求項1に記載のユニバーサルワクチン。
【請求項5】
請求項1に記載のユニバーサルワクチンであって、以下を含むプロセス:
a.コンセンサスアミノ酸配列から、感染性病原体の高度に保存された内部タンパク質またはCD8+T細胞認識抗原が豊富なその免疫原性断片を同定及び選択することと;
b.(a)で前記高度に保存された内部タンパク質の免疫原配列を構築することと;
c.
i.(b)の前記免疫原配列を含むストレプトマイセスファージSV1.0DNAベクター;
ii.(b)の前記免疫原配列を含むアデノウイルスベース(AdV)ベクター;
iii.(b)の前記免疫原配列を含む弱毒化された複製能力のある組換えワクシニアウイルスベース(VV)ベクター
を構築することと;
d.以下によって、前記感染性病原体による感染に対する治療的または予防的細胞媒介性免疫応答を誘発または刺激するのに有効な量で対象をインビボで免疫するために、(c)のコードされた免疫原を含む前記組換えベクターのそれぞれを別々に増殖させることと:
i.(c)(i)の前記ファージDNAベクターで免疫化することにより、完全ヒト免疫系をプライミングすること;
ii.(c)(ii)の前記AdVベクター後に(c)(iii)の前記VVベクター、または(c)(iii)の前記VVベクター後に(c)(ii)の前記AdVベクターにより免疫化することによって、前記完全ヒト免疫系をブーストすること;
によって調製される、前記ユニバーサルワクチン。
【請求項6】
前記保存された免疫原性タンパク質または免疫原性断片が、ウイルス内部マトリックスタンパク質、ウイルスカプシドタンパク質、ウイルス核タンパク質(viral nuclear protein)、ウイルス核タンパク質(viral nucleoprotein)、ウイルス糖タンパク質、ウイルスリン酸化タンパク質、ウイルスエンベロープタンパク質、ウイルスプロテアーゼ、逆転写酵素、またはウイルスポリメラーゼである、請求項5に記載のプロセスによって調製されるユニバーサルワクチン。
【請求項7】
少なくとも1つのポリペプチド抗原またはその免疫原性断片をコードするオープンリーディングフレームを含む少なくとも1つのRNAポリヌクレオチドをコードする操作された核酸であって、前記ポリペプチド抗原またはその前記免疫原性断片が、請求項1に記載のユニバーサルワクチンのCD8+T細胞認識抗原が豊富な保存された内部タンパク質を含む、前記操作された核酸。
【請求項8】
少なくとも1つのポリペプチド抗原またはその免疫原性断片をコードするオープンリーディングフレームを含む少なくとも1つのRNAポリヌクレオチドをコードする操作された核酸を含む発現ベクターであって、前記ポリペプチド抗原またはその前記免疫原性断片が、請求項1に記載のユニバーサルワクチンのCD8+T細胞認識抗原が豊富な保存された内部タンパク質を含む、前記発現ベクター。
【請求項9】
少なくとも1つのポリペプチド抗原またはその免疫原性断片をコードするオープンリーディングフレームを含む少なくとも1つのRNAポリヌクレオチドをコードする操作された核酸を含む宿主細胞であって、前記ポリペプチド抗原またはその前記免疫原性断片が、請求項1に記載のユニバーサルワクチンのCD8+T細胞認識抗原が豊富な保存された内部タンパク質を含む、前記宿主細胞。
【請求項10】
対象において免疫応答を誘導する方法であって、前記方法が、ウイルス、細菌、真菌または原生動物から選択される感染性病原体生物の免疫原に対するユニバーサルワクチンを前記対象に投与することを含み、前記免疫原が、少なくとも1つの抗原性ポリペプチドまたはその免疫原性断片をコードするオープンリーディングフレームを含む少なくとも1つのリボ核酸(RNA)ポリヌクレオチドを含み、前記抗原性ペプチドまたはその前記免疫原性断片が、CD8+T細胞認識抗原が豊富な保存された内部タンパク質を含み、
CD8+T細胞認識抗原は、長さが8~11残基のペプチドからなり、
前記ワクチンに応答して誘発される免疫応答が、対照と比較して、
(i)前記ワクチン中に存在する抗原(複数可)に向けられた1つ以上のT細胞集団を活性化すること;または
(ii)前記病原体の感染力を中和すること;または
(iii)前記感染性病原体生物の破壊を含む抗原特異的応答;前記感染性病原体に感染した細胞の溶解、またはその両方
のうちの1つ以上を含む、前記方法。
【請求項11】
CD8+T細胞認識抗原が豊富な保存された内部タンパク質をコードする第1の免疫原配列を含むストレプトミセス(Streptomyces)ファージSV1.0DNAベクターで前記対象をプライミングすること、次いで、CD8+T細胞認識抗原が豊富な保存された内部タンパク質をコードする第2の免疫原配列を含むアデノウイルスベース(AdV)ベクターまたは弱毒化された複製能力のある組換えワクシニアウイルスベース(VV)ベクターで前記対象をブーストすることを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
皮内注射、鼻腔内または筋肉内注射によって前記対象に前記ワクチンを投与することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記プライミング用量の投与様式及び前記ブースト用量の投与様式が異なる、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記対象が表現型NOD-scid γc-/-またはBALB/c Rag2-/- γc-/-のマウスである、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
表現型NOD-scid γc-/-の前記マウスを、新生児として前記NOD-scid γc-/-マウスに心臓内注射されたヒトC34+CD133+臍帯血細胞で再構成することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
表現型BALB/c Rag2-/-γc-/-の前記マウスを再構成することを含むことが、ヒト胎児肝臓から単離されたCD34+造血前駆細胞(HPC)を新生児BALB/c Rag2-/-γc-/-に肝内移植することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
完全ヒト機能的免疫系を含む動物モデルにおいて、インビボで汎インフルエンザ特異的細胞性免疫応答を誘導するための方法であって、
(1)コンセンサスアミノ酸配列から、CD8+T細胞認識抗原が豊富な複数の高度に保存された内部インフルエンザウイルスタンパク質を同定及び選択することと;
(2)(a)で前記高度に保存された内部インフルエンザウイルスタンパク質の連結免疫原配列を構築することと;
(3)
a.(b)の前記連結免疫原配列を含むストレプトマイセスファージSV1.0DNAベクター;
b.(b)の前記連結免疫原配列を含むアデノウイルスベース(AdV)ベクター;
c.(b)の前記連結免疫原配列を含む弱毒化された複製能力のある組換えワクシニアウイルスベース(VV)ベクター
を構築することと;
(4)(3)のコードされた免疫原を含む前記組換えベクターのそれぞれを別々に増殖させることと;
(5)前記完全ヒト機能的免疫系を含む前記動物モデルをインビボで免疫することと:
a.3(a)の前記ファージDNAベクターで免疫化することにより、前記完全ヒト免疫系をプライミングすることと;
b.3(b)の前記AdVベクター後に3(c)の前記VVベクター、または3(c)の前記VVベクター後に3(b)の前記AdVベクターにより免疫化することによって、前記完全ヒト免疫系をブーストすることと;
(6)(5)で免疫化後、A/PR8(H1N1)またはインフルエンザA/Shanghai(H7N9)ウイルスのいずれかのインフルエンザで、前記免疫化された完全ヒト機能免疫系を含む前記動物モデルにチャレンジすることと、
を含む、前記方法。
【請求項18】
皮内注射、鼻腔内または筋肉内注射によって前記対象に前記ワクチンを投与することを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記単回投与及び前記ブースト投与の投与様式が異なる、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記動物モデルが、表現型NOD-scid γc-/-またはBALB/c Rag2-/- γc-/-のマウスである、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
表現型NOD-scid γc-/-の前記マウスを、新生児として前記NOD-scid γc-/-マウスに心臓内注射されたヒトC34+CD133+臍帯血細胞で再構成することを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
表現型BALB/c Rag2-/-γc-/-の前記マウスを再構成することを含むことが、ヒト胎児肝臓から単離されたCD34+造血前駆細胞(HPC)を新生児BALB/c Rag2-/-γc-/-に肝内移植することを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項23】
前記動物モデルにおける前記汎インフルエンザ特異的細胞性免疫応答が、免疫されていない再構成されたマウスの集団における感染の拡散を低減するのに有効である、請求項17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2020年1月8日に出願された米国非仮出願第16/737,546号「Universal Vaccines Against Immunogens of Pathogenic Organisms That Provide Organism-Specific and Cross-Group Protection」(2018年9月11日に中国国家知識産権局に提出された国際特許出願番号PCT/CN2018/105020の一部継続出願である)に対する優先権の利益を主張する。
【0002】
記載された発明は、一般に、生物特異的及び群間防御を提供する病原性生物の免疫原に対するユニバーサルワクチンに関する。
【0003】
配列表
本出願は、ASCII形式で電子的に提出されている配列表を含有し、それにより、全体が参照により本明細書に組み込まれる。2020年12月17日に作成されたASCIIコピーは、130189-00420_SL.txtという名称であり、サイズが5,275バイトである。
【背景技術】
【0004】
既存の及び新たな病原体は、世界中で重大な罹患率及び死亡率を引き起こし続けている。1990年のみでも、推定1,600万人が感染症で死去した。それ以来、数多くの新規治療用製品が利用可能になったが、2010年には、感染による死亡者数はわずかに1,500万人まで減少した。これらの死の大部分は、1400ぐらいの認識されたヒト病原体及び寄生虫の中でも、少数の病原体のみによって引き起こされ、死の大部分は、呼吸器疾患、下痢、HIV/AIDS、TB、マラリア、髄膜炎、百日咳、麻疹、B型肝炎、及び性感染症(STD)によって引き起こされた(Dye C.After 2015:infectious diseases in a new era of health and development.(2014)Philosophical Transactions of the Royal Society of London.Series B,Biological Sciences,369(1645),20130426.doi:10.1098/rstb.2013.0426)。特定の疾患は、特に重要であると考えられており、これは、例えばHIV/AIDSは、発生時に、致死率が100%だったため、または、感染性ウイルス剤が、例えば、ジカウイルスの感染による先天性欠損症の出現等、当事者の感染以外の疾患を引き起こすためである。
【0005】
病原体と戦うために使用される治療用製品としては、ワクチン等の予防的免疫化、ならびに抗菌剤及び抗ウイルス剤等の感染後治療剤が挙げられる。ワクチンは、原因となる微生物剤または微生物またはウイルス体の1つまたはいくつかの特定の抗原と、受けている個体において免疫応答を誘発する及び/または病原体自体においての細胞性応答を誘導する抗原のセット全体から構成される治療剤である(Cassone,A.,&Rappuoli,R.(2010).Universal vaccines:shifting to one for many.Bio.1(1),e00042-10.doi:10.1128/mBio.00042-10)。ワクチンは、複製する病原体を迅速に制御すること、またはそれらの毒性成分を不活性化することができるエフェクターメカニズムを誘導することによって防御する。
【0006】
一般的に言えば、免疫応答は、個体及び異物、例えば感染性微生物との遭遇によって開始される。感染した個体は、免疫原の及び抗原決定基/エピトープに特異的な抗体分子の産生を伴う体液性免疫応答及び感染細胞を溶解することができるサイトカイン及びキラーT細胞を産生する細胞等、抗原特異的調節性Tリンパ球及びエフェクターTリンパ球の拡張及び分化を伴う細胞媒介性免疫応答に迅速に応答する。特定の微生物による一次免疫は、その微生物で見つかる抗原決定基/エピトープに特異的な抗体及びT細胞を誘発する。これらは通常、無関係の微生物によって発現される抗原性の低い決定基を認識できないかまたはこれらの決定基のみを認識できる(Paul,W.E.,「Chapter 1:The immune system:an introduction」Fundamental Immunology,4th Edition,Ed.Paul,W.E.,Lippicott-Raven Publishers,Philadelphia,(1999),at p.102)。
【0007】
この最初の応答の結果として、免疫された個体は、免疫記憶の状態を発達させる。同じまたは密接に関連する微生物に再び遭遇した場合、二次応答が生じる。この二次応答は、一般に、より迅速で、大きさが大きく、より高い親和性で抗原に結合し、身体から微生物を取り除くのにより効果的であり、同様に増強され、多くの場合、より効果的であるT細胞応答抗体からなる抗体応答からなる。しかし、感染性病原体に対する免疫応答が、常に病原体の排除を引き起こすものではない(Paul,W.E.,「Chapter1:The immune system:an introduction」Fundamental Immunology,4th Edition,Ed.Paul,W.E.,Lippicott-Raven Publishers,Philadelphia,(1999),at p.102)。
【0008】
ヒトの免疫系は、危険であると判断されたすべてのエレメントを取り除くことによって、生物の完全性を保存するために免疫恒常性を維持する細胞及び分子の複雑な配置である。免疫系における応答は、一般に、「自然免疫」及び「獲得免疫」と呼ばれる2つのアームに分けられ得る。免疫の2つのアームは、互いに独立して動作するのではなく、有効な免疫応答を誘発するために、連携して働く。
【0009】
免疫系の自然アームは、補体系及びケモカイン/サイトカイン系、複数の特殊な細胞型、例えば、肥満細胞、マクロファージ、樹状細胞(DC)、及びナチュラルキラー細胞(NK)等、複数の可溶性因子を介した初期炎症応答の主な原因である病原体に対する非特異的な速い応答である。
【0010】
獲得免疫アームには、特定の抗原に対する長期の免疫記憶を作り出す様々な細胞型による、特定の遅延した長期応答を含む。これらのアームは、細胞性及び体液性の分枝にさらに細分割させることができ、細胞性は、主にT細胞によって媒介され、体液性は、B細胞によって媒介される。このアームは、自然アームにエフェクター機能を有する適応性アームの細胞系統メンバーをさらに包含し、それにより、先天性免疫応答と適応免疫応答との間のギャップの橋渡しとなる。
【0011】
一般的に言えば、ワクチン接種は、適応T細胞とB細胞のメモリー応答を増強し、関連するウイルスによるその後の感染に対する迅速な防御を提供するために、自然免疫系及び適応免疫系の両方を教育する(Li,G.et al,「Memory T Cells in Flavivirus Vaccination」,Vaccines(2018)6:73)。
【0012】
ワクチン及びワクチン接種
ワクチン接種は、疾患を予防し、群レベルで感染の大発生を制御するための費用効果の高い手段を提供するが、現在市場に出ているワクチンには、重大な欠点があり、機能不全さえある。
【0013】
開発された最初のワクチンは、野生型疾患または関連疾患の野生型バージョンを「死滅させ」て送達されたものであった。このようなワクチンは、働くことが知られてはいたが、それらはレシピエントに重大なリスク、例えば、重篤な疾患または死亡さえもたらすこともあった。
【0014】
開発された2番目のタイプのワクチンは、弱毒化ワクチンであった。このワクチンは、感染したウサギの脳から得られ、不確実なプロセスである乾燥によって弱毒化された材料をベースとしており、このように調製されたワクチンは、多くの場合、重篤な副作用を引き起こした。弱毒化ワクチンは、現在、組織培養で成長させた不活化ウイルスをベースにしている。狂犬病は、実験室でヒトワクチンを作製するために弱毒化された最初のウイルスであった。組織培養でウイルスを長期間成長させる能力が得られたことは、麻疹、ポリオ、風疹、インフルエンザ、ロタウイルス、結核、及びチフスに対する弱毒化ワクチンの開発につながった。ワクチン成分は生きているので、ワクチン接種を受けていない対象に拡散され得、これによりワクチン接種の影響が地域社会全体に拡大される(一般に、Greenwood B.The contribution of vaccination to global health:past,present and future.(2014).Philosophical transactions of the Royal Society of London.Series B,Biological sciences,369(1645),20130433.doi:10.1098/rstb.2013.0433を参照されたい)。
【0015】
弱毒生ウイルスワクチンは、1930年代に黄熱病ウイルスワクチンYF-17Dで以前に一部成功したこともあり、好ましいワクチン接種戦略である(Ghaffar,K.A.et al「Fast Tracks and Roadblocks for Zika Vaccines」Vaccines(2018)6,77;doi:10.3390/vaccines040077)。例えば、YF-17Dワクチンの単回投与は、レシピエントの少なくとも95%に対して防御をもたらす高力価の中和抗体(nAb)を誘導することができる(上記、引用元Barrett A.D.,Teuwen D.E.Curr.Opin.Immunol.(2009)21:308-313.doi:10.1016/j.coi.2009.05.018;Bonaldo,MC et al.,Hum.Vaccin.Immunother.(2014)10:1256-1265.doi:10.4161/hv.28117)。この戦略は、ポリオ、麻疹、及びおたふく等、他の多くの疾患で採用されている(上記、引用元Plitnick L.M.Chapter 9-Global Regulatory Guidelines for Vaccines.:Plitnick L.M.,Herzyk D.J.,editors.Nonclinical Development of Novel Biologics,Biosimilars,Vaccines and Specialty Biologics.Academic Press;San Diego,CA,USA:(2013).pp.225-241)。さらに、弱毒化ワクチンの製造は、他のワクチン戦略と比較して、費用効果が高く、かなり簡素である。
【0016】
弱毒生ワクチンには、単回投与で免疫応答を誘発できる利点を有するが、欠点としては、副作用のリスクにより、免疫低下患者または妊娠患者での使用が制限されることである。実際、これらのワクチンには生ウイルスが含まれているため、経口ポリオワクチンで見られるように、弱毒化ワクチン株に変異が生じ得、病毒性に戻り、約200万人に1人のレシピエントにおいて、麻痺が生じる。さらに、これらは、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症の患者等の免疫不全患者に投与したときに、BCG(抗結核ワクチンカルメット・ゲラン菌)で見られるように、免疫障害のある対象に重大な疾患を引き起こす可能性がある。
【0017】
次に、研究者らは、病原体を死滅させ、その後使用される死菌ワクチンを開発した。これらのワクチンは、通常、免疫原性が低く、多くの場合、重大な副作用を引き起こしやすいことから、全細胞ワクチンは、他の種類のワクチンの中でも大部分は、サブユニットワクチンに取って代わる(一般的に、Greenwood B.The contribution of vaccination to global health:past,present and future.(2014).Philosophical transactions of the Royal Society of London.Series B,Biological sciences,369(1645),20130433.doi:10.1098/rstb.2013.0433を参照されたい)。サブユニットワクチンは、病原体の断片、すなわちタンパク質、またはペプチドを含む(Ghaffar,K.A.et al,「Fast Tracks and Roadblocks for Zika Vaccines」 Vaccines(2018)6,77;doi:10.3390/vaccines040077)。サブユニットワクチンは、免疫原性が低い傾向があるため、一般的に安全な選択肢であるが、アジュバント及び/または複数回の投与が必要である。
【0018】
mRNAワクチンの使用は、評判のよい、比較的新しい動向である(Ghaffar,K.A.et al,「Fast Tracks and Roadblocks for Zika Vaccines」(2018)Vaccines 6,77;doi:10.3390/vaccines040077引用元Plitnick L.M.Chapter 9-Global Regulatory Guidelines for Vaccines.:Plitnick L.M.,Herzyk D.J.,editors.Nonclinical Development of Novel Biologics,Biosimilars,Vaccines and Specialty Biologics.Academic Press;San Diego,CA,USA:(2013).pp.225-241)。最小の遺伝子構築物として、mRNAは、特定のコードされたタンパク質領域の発現に必要なエレメントのみを含む。さらに、mRNAは、ゲノムと相互作用できないが、代わりに、情報の一時的な担体としてのみ作用する。ワクチンプラットフォームとして使用する他の利点としては、その安全性プロファイルが挙げられる(上記、引用元Lundstrom,K.,Futre Sci.OA(2018)4:FSO300 doi:10.4155/fsoa-2017-0151)。しかし、ワクチン設計へのアプローチとしてmRNAを利用することの欠点のうちの1つは、リボヌクレアーゼによる急速な分解である。
【0019】
DNAワクチンは、ZIKV大発生後のヒトの臨床試験に提案された、最も初期のワクチンプラットフォームの1つである(同上)。体液性応答と細胞性応答の両方を誘導するための様々な抗原をコードする遺伝子操作されたDNAプラスミドの使用も、寄生体(上記、引用元Cherif,MS et al,Vaccine(2011)29:9038-9050;Cheng,PC et al.,PLoS Neg. Trop Dis.(2016)10:e00044594;doi:10.1371/journal.pntd.0004459)、細菌(上記、引用元Li,X.et al.,Clin.Vaccine Immunol.2012;19:723-730.doi:10.1128/CVI.05700-11;Albrecht,MT,et al.,Med.Microbiol.(2012)65:505-509 doi:10.1111/j.1574-695X.2012.00974.x)、及び他のウイルス(上記、引用元Donnelly,JJ et al.,Nature Med.(1995)1:583-597 doi:10.1038/nm0695-583;Porter,KR et al.,Vaccine(2012)30:36-341 doi:10.1016/j.vaccine.2011.10.085)によって引き起こされる様々な感染症に対して調査されている。
【0020】
ベクターが未知の抗原タンパク質を発現するアデノウイルスベクターは、遺伝子及び癌の治療及びワクチンについて十分に研究されてきた(同上)。その広範な安全性プロファイルとは別に、アデノウイルスベクターを利用することの利点は、比較的安定しており、高力価を達成するのが容易であり、その効力に起因する複数の細胞株に感染できることである。組換えアデノウイルスベクターは、その高い形質導入効率及び導入遺伝子発現により、現在広く使用されているが、集団のほとんどがアデノウイルスに曝露されているため、ベクターに対する既存の免疫である可能性がある(同上)。これは、ベクターベースのワクチンが、HIV-1複製に好ましい条件を提供するヒト免疫不全ウイルス(HIV-1)の第IIb相ワクチン試験において、有害であることが証明されている(上記、引用元Smaill,F.et al.,Sci.Transl.Med.(2013)5:205ra134.doi:10.1126/scitranslmed.3006843)。
【0021】
次世代のワクチンの開発は、標的となる生物の多くが複雑な構造及び生活環を有するか(例えば、マラリア寄生虫)、または抗原多様性を通じてヒトの免疫応答を打ち負かすのに非常に有効であるため、ますます困難になる(例えば、HIV及びインフルエンザウイルス)。デング熱または新規コロナウイルス等、他の重要な感染症標的に対する新しいワクチンの開発は、確立された技術を使用することにより理論的には容易になるはずであるが、近年試験されたデング熱ワクチンの適度な有効性は、より従来型のワクチンの開発にさえも課題が残っていることを強調している(Greenwood B.The contribution of vaccination to global health:past,present and future.(2014).Philosophical transactions of the Royal Society of London.Series B,Biological Sciences,369(1645),20130433.doi:10.1098/rstb.2013.0433を参照されたい)。
【0022】
その結果、上記の失敗に対処するために、他のワクチン接種戦略が開発されている。
【0023】
世界中の現在の人口が罹患している例示的な感染性病原体としては、以下が挙げられる。
【0024】
ウイルス
I)フラビウイルス科ウイルス
A)Flaviviridae科の概要
Flaviviridae科には、9~13k塩基のRNAゲノムを有する小さいエンベロープを含むプラス鎖ウイルスが含まれている。それらは、典型的には、宿主特異的かつ病原性である(Fermin,Gustavo,and Paula Tennant.Viruses:Molecular Biology,Host Interactions and Applications to Biotechnology,edited by Jerome E. Foster, Elsevier Science&Technology,2018.ProQuest Ebook Central,https://ebookcentral.proquest.com/lib/jhu/detail.action?docID=5322098)。
【0025】
この科の11kbゲノムは、コードし、翻訳、プロセシングして、3つの構造タンパク質(カプシド(C)、エンベロープ(E)、膜(M))及び7つの非構造(NS)タンパク質;NS1、NS2A、NS2B、NS3、NS4A、NS4B、及びNS5にする(Li,G.et al,「Memory T Cells in Flavivirus Vaccination」Vaccines(2018)6:73)。主要なビリオン表面タンパク質であるEタンパク質は、受容体結合及び膜融合に関与し、感染した宿主に中和抗体を誘導する。同上。
【0026】
フラビウイルスとしては、ジカウイルス(ZIKV)、デングウイルス(DENV)、黄熱病ウイルス(YFV)、ウエストナイルウイルス(WNV)、日本脳炎ウイルス(JEV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、及びダニ媒介性脳炎ウイルス(TBEV)が挙げられる。他の関連するウイルスとしては、これらに限定されないが、ペスチウイルス属のブタ熱ウイルス、及びペギウイルス属のウイルスが挙げられる。
【0027】
i)C型肝炎ウイルス(HCV)
C型肝炎ウイルス(HCV)は、Flaviviridae科のHepacivirus属に分類される。HCVは、世界中に分布しており、急性ウイルス性肝炎の21%を占める(Ma,MM,et al,In Antimicrobial Therapy and Vaccines.Yu,VL,Merigan,Jr,TC and Barriere,SL Eds,Williams&Wilkins,Baltimore,(2005),pgs.1234-1239)。ウイルスゲノムは、有意な遺伝的異質性を呈し、少なくとも第2の遺伝子型が存在し、そのそれぞれをさらに80を超える異なる亜型に細分化することができる。最も普及しているのは、亜型1a、1b、2a、2b、2c、3a、及び4aである。
【0028】
HCVは、単一の3010アミノ酸ポリタンパク質をコードするポジティブセンスRNAゲノムを有する。ポリタンパク質は、宿主プロテアーゼ及びウイルスプロテアーゼの両方によるプロセシングを必要とする。カプシド(C)タンパク質は保存されているが、エンベロープタンパク質(E1及びE2)は、より可変であり、HCVの異質性をもたらす(同上)。
【0029】
ii)デングウイルス(DENV)
デング熱は、デングウイルス(DENV)によって引き起こされる急性熱性疾患であり、ネッタイシマカの蚊によってヒトに伝播させる。25億人以上が危険にさらされている熱帯及び亜熱帯地域では、毎年5,000万人から1億人が感染していることが推定される。ウイルスには、4つの血清型DEN-1、DEN-2、DEN-3、またはDEN-4がある。各血清型内には、重要な遺伝的多様性が存在する(Fermin,Gustavo,and Paula Tennant.Viruses:Molecular Biology,Host Interactions and Applications to Biotechnology,edited by Jerome E.Foster,Elsevier Science&Technology,2018.ProQuest Ebook Central,https://ebookcentral.proquest.com/lib/jhu/detail.action?docID=5322098)。
【0030】
iii)黄熱病ウイルス(YFV)
黄熱病ウイルス(YFV)は、ヤブカ、ヘマゴグス、及びサベテスの蚊の咬傷によって、伝播するフラビウイルスである。この疾患の地理的範囲は、アフリカ、南アメリカ、中央アメリカ、及びカリブ海である。遺伝的多様性は、十分に研究されていないが、7つの遺伝子型が提唱されている:西アフリカの遺伝子型I及びII、東アフリカの遺伝子型、東/中央アフリカの遺伝子型、アンゴラ遺伝子型、及び南米の遺伝子型I及びII(Fermin,Gustavo,and Paula Tennant.Viruses:Molecular Biology,Host Interactions and Applications to Biotechnology,edited by Jerome E.Foster,Elsevier Science&Technology,2018.ProQuest Ebook Central, https://ebookcentral.proquest.com/lib/jhu/detail.action?docID=5322098)。
【0031】
iv)日本脳炎ウイルス(JEV)及びウエストナイルウイルス(WNV)
日本脳炎ウイルス(JEV)は、フラビウイルス属である。他の関連ウイルスとしては、マレーバレー脳炎ウイルス(MVEV)、セントルイス脳炎ウイルス(SLEV)、ウエストナイルウイルス(WNV)、ヤオンデウイルス(Yaounde virus)、カシパコアウイルス(Cacipacore virus)、コウタンゴウイルス(Koutango virus)、及びウスツウイルス(Usutu virus)が挙げられる。まとめて、これらは、日本脳炎(JE)群として知られている。JEは、典型的には、Culex種の蚊ベクターによって伝播し、地理的に、南アジア、東南アジア、東アジア、及び太平洋で発生する。JE群ウイルスの35,000~50,000の症例が、毎年確認され、年間最大15,000人が死亡している。
【0032】
WNVは、ウガンダのウエストナイル地区で最初に単離され、南欧州、アジア、オーストラリア、中東、及び北米に拡散された(Beth K.Schweitzer,Nora M.Chapman,Peter C.Iwen,Overview of the Flaviviridae With an Emphasis on the Japanese Encephalitis Group Viruses,Laboratory Medicine,Volume 40,Issue 8,August 2009,Pages 493-499,https://doi.org/10.1309/LM5YWS85NJPCWESW)。
【0033】
v)ジカウイルス(ZIKV)
ジカウイルス(ZIKV)は、ネッタイシマカによって及び性的相互作用によって、ヒトに伝播し得るアルボウイルスである。正鎖RNAのフラビウイルス科のメンバーとして、ZIKVは、デングウイルス(DENV)、黄熱病ウイルス(YFV)、ウエストナイルウイルス(WNV)、日本脳炎ウイルス(JEV)、及びダニ媒介性脳炎ウイルス(TBEV)等、いくつかの重要なヒト病原体と密接に関連している(Yang,C.et al.,「Development of neutralizing antibodies against Zika virus based on its envelope protein structure」Virologica Sinica(2019)34:168-174,引用元Wang Q,et al.J.Viorol.(2017)91:e01049-17)。DENVは、これらのフラビウイルスの中で、ZIKVに最も近いウイルスである。いくつかの研究では、DENVまたはZIKVによって感染した回復期の患者から単離された中和抗体が、交差中和能力を示したことが示されている(Yang,引用元Barba-Spaeth,G.et al.Nature(2016)536:48-53;Wang,Q.et al.,Sci.Trans.Med.(2016)8:3695a179)。ラテンアメリカでのZIKVの出現は、主にDENV流行地域で発生した。同上。
【0034】
B)フラビウイルスの構造ベースの機能分析
全体的なZIKV構造は、他のフラビウイルスの構造と類似している(Yang,C.et al.,「Development of neutralizing antibodies against Zika virus based on its envelope protein structure」Virologica Sinica(2019)34:168-174,引用元Kostyuchenko,VA,et al.,Nature.(2016)533:425-428.doi:10.1038/nature17994;Sirohi,D.et al.,Science.2016;352:467-470.doi:10.1126/science.aaf5316)。ビリオンは、典型的には、球形であり、カプシドで覆われたゲノムを有し、カプシドは、表面にエンベロープ糖タンパク質を有する脂質二重層に囲まれている。ビリオンは、典型的には、単一の小さい基本カプシド(C)タンパク質、2~3個のエンベロープタンパク質(E)、及び前膜/膜(prM/M)タンパク質を有する(Fermin,Gustavo,and Paula Tennant.Viruses:Molecular Biology,Host Interactions and Applications to Biotechnology,edited by Jerome E.Foster,Elsevier Science&Technology,2018.ProQuest Ebook Central, https://ebookcentral.proquest.com/lib/jhu/detail.action?docID=5322098)。フラビウイルスは、10.8kbのRNAゲノムを含む。RNAは、3つの構造タンパク質(カプシド(C)、その前駆体前膜(prM)から生成される膜(M)、及びエンベロープ(E)をコードする単一のポリタンパク質(長さ3423のアミノ酸)、及び7つの非構造タンパク質(NS1、NS2A、NS2B、NS3、NS4A、NS4B、及びNS5)に翻訳される(図1)。名前が示すように、構造タンパク質は、ウイルス粒子を形成する。非構造タンパク質は、ゲノムの複製及びパッケージング、及びウイルスに有利な宿主経路の破壊を支援する(Devika Sirohi,Richard J Kuhn,Zika Virus Structure,Maturation,and Receptors,The Journal of Infectious Diseases,Volume 216,Issue suppl_10,15 December 2017,Pages S935-S944,https://doi.org/10.1093/infdis/jix515)。
【0035】
ZIKVは、180コピーのEタンパク質で構成され、二十面体対称のコンパクトな粒子を形成する。Eタンパク質の各コピーには、そのエクトドメインにDI、DII、及びDIIIという名前の3つの異なるドメインが含まれている。ドメインI(DI)には、Eタンパク質のN末端が含まれ、ドメインII(DII)は、拡張された指状構造であり、二量体化ドメイン及びウイルス融合を媒介するpH感受性融合ループも含む。ドメインIII(DIII)は、標的細胞への付着を媒介する免疫グロブリン様ドメインである(上記、引用元Robbiani,DF et al.,Cell.(2017)169(597-609):e511)。これらの3つのドメインは、ステムアンカーと呼ばれる2つのヘリックスによって、ウイルス膜に接続されている。DI、DII及びDIIIは、DIを中央に配置し、DII及びDIIIが両側に隣接してモノマーを形成するように配置されている。Eモノマーは、隣接するモノマーと逆平行に相互作用してダイマーを形成する。3つのE-ダイマーは、互いに平行に置かれ、「ラフト」として知られる構造単位を形成する(上記、引用元Kostyuchenko,VA,et al.,Nature.(2016)533:425-428.doi:10.1038/nature17994;Sirohi,D.et al.,Science.(2016)352:467-470.doi:10.1126/science.aaf5316;Sevvana,M.et al.Structure.2018;26:1169-1177.doi:10.1016/j.str.2018.05.006)。
【0036】
宿主細胞に入るには、Eタンパク質は、標的細胞上のその受容体と相互作用する必要がある(上記、引用元Hasan,SS et al.,Nature Commun.(2017)8:14722.doi:10.1038/ncomms14722)。現在まで、ZIKVと宿主細胞との相互作用に特定の受容体が関与しているとは考えられないが、DENV及び他のフラビウイルスの研究では、Eタンパク質が、C型レクチン受容体、ラミニン受容体、T細胞免疫グロブリン及びムチンドメイン(TIM)及びTYRO3、AXL及びMER(TAM)受容体、及びインテグリンαvβ3等の多くの細胞因子に結合できることが示されている(上記、引用元Perera-Lecoin,M.et al.Viruses.(2013)6:69-88.doi:10.3390/v6010069;Sirohi,D.and Kuhn,RJ,Science.(2016)352:467-470.doi:10.1126/science.aaf5316)。受容体(複数可)に結合した後、ビリオンは、エンドソーム内で生じる、低pH依存性エンドサイトーシス及びEタンパク質のコンフォメーション再配列を受ける。次に、ウイルス膜は、宿主膜と融合し、ウイルスのRNAゲノムが細胞質に放出される(上記、引用元Stiasny,K.and Heinz,FX,J Gen Virol.(2006)87:2755-2766.doi:10.1099/vir.0.82210-0;Harrison,SC,Nat Commun.2017;8:14722.doi:10.1038/ncomms14722;Gerold,G.et al.Mol Cell Proteomics.(2017)16:S75-S91.doi:10.1074/mcp.R116.065649)。しかし、フラビウイルスが、宿主細胞に侵入する詳細なプロセスは、完全には理解されていない。
【0037】
C)フラビウイルス感染に対する免疫応答
ヒトフラビウイルス感染は、複合体抗体(Ab)応答を誘発し、これは、免疫及び病因においても中心的な役割を有する(Collins,M.H.,「Serologic Tools and Strategies to support intervention trials to combat Zika virus infection and disease」Trop Med.Infect.Dis.(2019)4,68;doi:10.3390/tropicalmed4010068,引用元Wahala,WMPB and De Silva,AM,Viruses(2011)3:2374-95;Mansfield,KL,et al.,J.Gen.Virol.(2011)92:2821-29;Allwinn,R.et al.,Med.Microbiol.Immunol.(2002)190:199-202;Rey,F.A.et al,EMBO Rep.(2018)19:206-224)。
【0038】
ZIKV感染は、多くの場合、不顕性であり、感染者の約20%が、殆どの場合、発疹、発熱、結膜炎、及び/または関節痛/筋肉痛を特徴とする自己限定性疾患を発症する(Collins,M.H.,「Serologic Tools and Strategies to support intervention trials to combat Zika virus infection and disease」,Trop Med.Infect.Dis.(2019)4,68;doi:10.3390/tropicalmed4010068,引用元Duffy,MR et al.,N.Engl.J.Med.(2009)360:2536-2543,Sampathkumar,P.,Mayo Clin.Proc.(2016)91:514-521,Brasil,P.et al.,N.Engl.J.Med.(2016)_375:2321-2334;Petersen,LR et al,N.Engl.J.Med.(2016)374:1552-1563)。潜伏期間は、1週間未満であると推定され、症状の持続期間は、ほとんどの場合、1週間未満である(上記、引用元Petersen,LR et al.,N.Engl.J.Med.(2016)374:1552-1563)。ウイルス血症は、典型的には、症状の発症後すぐに解消されるが、感染性ウイルスは、感染後数週間、精液から単離され(上記、引用元Polen,KD et al.,MMWR Morb.Mortal.Wkly Rep.(2018)67,868;Arsuaga,M.et al.,Lancet Infect.Dis.92016)16:1107;Garcia-Bujalance,S.et al.,J.Clin.Virol.(2017)96:110-115)、ZIKV RNAが、感染後、長期間、特に妊娠中、血液または膣分泌物中で検出でき(Id.,引用元Driggers,RW et al,N.Engl.J.Med.(2016)374:2142-2151,Nguyen,SM et al.,PLoS Pathog.(2017)13:e1006378;Reyes,Y.et al.,Emerg.Infect.Dis.(2019)25:808-810)、少なくとも6ヶ月間精液中(Id.,引用元Polen,KD et al.,MMWR.Morb.Mortal.Wkly.Rep.(2018)67:868;Nicastri,E.et al.,Euro Surveill.Bull.Eur.89Mal.Transm.Eur.Commun.Dis.Bull.(2016)21,El Sahly,HM et al.,Open Forum Infect.Dis.(2019)6,ofy352,Lustig,Y.et al.,Eurosurveillance(2016)21:30269;Rossini,G.et al.,J.Infect.(2017)75:242-245;Murray,KO,et al,Emerg.Infect.Dis.(2017)23,Fibriansah,G.et al.,Science(2015)349:88-91;Fibriansah,G.et al.,EMBO Mol.Med.(2014)6:358-71;Kiermayr,S.et al.,J.Virol.(2009)83:8482-91)で検出できる。小頭症及び他の先天性欠損症及び神経発達上の問題は、妊娠中に発生し、ウイルスが胎児に垂直伝播する場合のZIKV感染の症状として最も懸念される(上記、引用元Miranda-Filho,DdB;et al.,Am.J.Public Health(2016)106:5998-600;Reynolds,MR et al,Morb.Mortal.Wkly Rep.(2017)66:366-73;Guilland,A.,BMJ(2016)352:i657;De Melo,ASO,et al.,JAMA Neurol.(2016)73:1407;Rice,ME et al,MMWR Morb. Mortal.Wkly Rep.(2018)67:858)。さらに、ギランバレー症候群の発生率の上昇は、複数の国でのジカ熱の大発生後に一貫して指摘されている(上記、引用元Dos Santos,T.et al.,N.Engl.J.Med.(2016)375:1598-1601;Oehler,E.et al.,Euro Surveill.(2014)19:20720;Cao-Lormeau,V-M,et al,Lancet(2016)387:1531-39)。血小板減少から死亡に至るまで、他の合併症及び重篤な転帰はほとんど報告されておらず、これらは、通常、疾患の病原性に寄与している可能性のある追加の併存因子を有する患者において報告されている(上記、引用元Sarmiento-Ospina,A.et al.,Lancet Infect.Dis.(2016)16:523-24;Krow-Lucal,ER et al.,Emerg.Infect.Dis.(2017)23:1260-67;Colombo,TE et al.,J.Clin.Virol.(2017)96:20-25;Arauza-Ortega,L.et al.,Emerg. Infect.Dis.(2016)22:925-27)。
【0039】
ウイルスによる感染中、体液性免疫応答はそのクリアランスに重要な役割を果たす。抗体は、ウイルス中和またはFc媒介エフェクター機能(ADCC及びCDC等)によって防御効果を発揮する(Yang,C.et al.,「Development of neutralizing antibodies against Zika virus based on its envelope protein structure」Virologica Sinica(2019)34:168-174,引用元Lu,LL et al.Nat Rev Immunol.(2018)18:46-61.doi:10.1038/nri.2017.106)。
【0040】
ZIKVに対するヒト抗体応答の重要な特徴は、密接に関連するウイルスの広範な経験から定義されるかまたは推定されている。ZIKV反応性IgMは、症状の発症から4~7日以内に検出可能である。ZIKV IgM検査は、症候性感染症及び近年の無症候性感染症の診断に有用である(Collins,M.H.,「Serologic Tools and Strategies to support intervention trials to combat Zika virus infection and disease」 Trop Med.Infect.Dis. 2019)4,68;doi:10.3390/tropicalmed4010068,引用元Wahala,WMPB aqnd De Silva,AM,Viruses(2011)3:2374-95;Mansfield,KL,et al.,J.Gen.Virol.(2011)92:2821-29;Allwinn,R.et al.,Med.Microbiol.Immunol.(2002)190:199-202;Rey,F.A.et al,EMBO Rep.(2018)19:206-224,引用元Munoz-Jordan,JL,J.Infect. Dis.(2017)216:S951-S956)。IgM検査は、先天性ジカ症候群(CZS)の診断に引き続き有用であるが、ZIKVへの曝露の可能性がある非流行地域の無症候性妊婦の評価には推奨されていない(上記、引用元Adebanjo,T.,Morb.Mortal.Wkly Rep.(2017)66:1089-99)。陽性の検査は、ジカウイルス感染を裏付けるが、決定的なものではなく、確認的な中和を必要とし得る(上記、引用元Munoz-Jordan,JL,J.Infect.Dis.(2017)216:S951-S956,Adebanjo,T.,Morb.Mortal.Wkly Rep.(2017)66:1089-99)。抗ZIKV IgM応答の期間は不明であるが、場合によっては12週間を超えて持続する可能性がある(上記、引用元Munoz-Jordan,JL,J.Infect.Dis.(2017)216:S951-S956;Rabe,IB et al.,Morb.Mortal.Wkly Rep(2016)65:543-46;Pasquier,C.et al.,Diagn.Microbiol.Infect.Dis.(2018)90:26-30)。これにより、近年のZIKV感染を狭義に定義するために、このアッセイの信頼性が制限される。
【0041】
ZIKVに対するIgGは、他のフラビウイルスと同様に、10~14日で検出可能になり、おそらく数年間持続する(上記、引用元Peeling,RW et al.,Nat.Rev.Microbiol.(2010)8:S30-S38,Munoz-Jordan,JL,J.Infect.Dis.(2017)216:S951-S956,Wahala,WMPB aqnd De Silva,AM,Viruses(2011)3:2374-95,Pasquier,C.et al.,Diagn. Microbiol.Infect.Dis.(2018)90:26-30)。IgG応答の動態は、血清学的検査の性能に直接関係する。IgGを検出するアッセイは、発症後(DPO)最初の10~15日が経過するまでピーク感度に達しない可能性がある(上記、引用元Balmaseda,A.et al.,Proc.Natl Acad.Sci.USA(2017)114:8384-89)。さらに、交差反応性抗体(Abs)の大きさ及びそれらの相対的な存在量は、感染後早期に最も高くなり得る(上記、引用元Lanciotti,R.S,et al.,Emerg.Infect.Dis.(2008)14:1232-1239,Wahala,WMPB;de Silva,AM,Viruses(2011)3:2374-95,Premkumar,L.et al.,J.Clin.Microbiol.(2017)56(3);DOI:10.1128/JCM.01504-17)。これにより、回復期後期までアッセイの特異性が損われる。これらのAbの標的には、構造タンパク質及び非構造タンパク質(ns)、特にNS1が含まれる(上記、引用元Stettler,K.et al.,Science(2016)353(6301):823;Slon Campos,JL,et al,Nat.Immunol.(2018)19:1189-98)。180個のエンベロープタンパク質(E)モノマーが、ZIKVビリオンの表面を装飾し、頭から尾までのホモ二量体に組織化され、ヘリンボーン外観及び二十面体対称性を付与する高次構造にさらに配置される(上記、引用元Kostyuchenko,VA,et al.,Nature(2016)533:425-28;Sirohi,D.et al.,Science(2016)352:467-70)。ZIKV及びDENVEは、約50%保存されている(上記、引用元Primavada,L.et al.,Proc.Nat.Acad.Sci.USA(2016)113:7852-57;Stettler,K.et al.,Science(2016)353(6301):823,Kostyuchenko,VA,et al.,Nature(2016)533:425-28)が、相同性は均質ではない。EドメインIIの融合ループは、高度に保存されているが、EドメインIIIは最も分岐しており、ZIKV固有のAb応答の応答の標的となる可能性が高くなり得る(上記、引用元Stettler,K.et al.,Science(2016)353(6301):823;Robbiani,DF et al.,Cell(2017):597-609;Premkumar,L.et al.,J.Clin.Microbiol.(2017)DOI:10.1128/JCM.01504-17;Slon Campos,JL,et al,Nat.Immunol.(2018)19:1189-98;Yu,L.et al.,JCI Insight(2017)2:93042)。エピトープに加えて、フラビウイルス誘発抗体は、それらの特異性、動態、及び機能の点でも異なる。抗体は、1つのウイルスに非常に特異的であるか、2つ以上のウイルスと交差反応し得る(上記、引用元Allwinn,R.Et al.,Med.Microbiol.Immunol.(2002)190:199-202;Heinz,FX,Stiasny,K.,J.Clin.Virol.(2012)55:289-95;Calisher,Ch,et al.,J.Gen.Virol.(1989)70:37-43)。
【0042】
結合抗体のサブセットも中和特性を呈し、中和抗体(nAb)は、多くの場合、ウイルス粒子の三次元構造の完全性を必要とする血清型特異的エピトープに結合する傾向があることが示されている(上記、引用元Wahala,WMPB and de Silva,AM,Viruses(2011)3:2374-95;Fibransah,G.et al.,Science(2015)349:8-91;Fibriansah,G.et al.,EMBO Mol.Med.(2014)6:358-71;Kiermayr,S.et al.,J.Virol.(2009)83:8482-91;Teoh,EP etal.,Sci.Trans.Med.(2012)4:139ra83,Kaufman,B.et al.,Proc.Natl Acad.Sci.USA(2010)107:18950-18955;De Alwis,R.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(2012)109:7439-44)。DENV感染では、前駆体膜タンパク質(PrM)または融合ループ内のエピトープに頻繁に結合する、中和が不十分な交差反応性のAbが(上記、引用元Wahala,WMPB and de Silva,AM,Viruses(2011)3:2374-2395,Slon Campos,JL,et al,Nat.Immunol.(2018)19:1189-98)、Ab依存性増強(ADE)を介して、重度の疾患の病態生理学に関与している(上記、引用元Halstead,SB,FY1000Research(2015)4:F1000;Katzelnick,LC,et al,Science(2017)358:929-932)。以前のDENV感染によって誘発された非中和交差反応性Abが、ZIKV感染を悪化させ得る、または垂直感染を増強し得る懸念が依然としてある(上記、引用元Bardina,SV et al.,Science(2017)356:175-180;Brown,JA et al.,Immunity(2019)50(3):751-762.e5;Rathore,APS et al.,Sci.Adv.(2019)5:eaav3208;Zimmerman,MG et al.,Cell Host Microbe(2018)24:731-742 e6;Dejnirattisai,W.et al.,Nature Immunol.(2016)17:1102-1108;Castanha,PM et al.,J.Infect.Dis.(2016)215:jiw638)。しかし、これとは反対の非ヒト霊長類データがあり(上記、引用元Pantoja,P.et al.,Nat.Communic.(2017)8:15674;McCracken,MK et al,PLoS Pathog.(2017)13:e1006487)、ヒトにおける疫学データは、この仮説を裏付けるものではない(上記、引用元Halstead,SB Emerg. Infect.Dis.(2017)23:569;Gordon A.et al.,PLoS med.(2019)16:e1002726;Martin-Acebes,MA,et al.,Front.Cell Infect.Microbiol.(2018)8:44)。ZIKV感染がその後のDENV感染を増強する可能性については、あまり研究されていない。
【0043】
JE群のウイルスでは、感染した蚊の咬傷によって引き起こされる最初の疾患は、ウイルス複製が始まる皮膚の皮下領域に局在化していることが報告されている。その後、ウイルスは、リンパ系から循環器系、内臓(脳及び脊髄を含み得る)にまで拡大する。初期感染部位では、CD3+T細胞のサブセットであるγδT細胞が刺激され、疾患の初期段階で感染を制御するサイトカインインターフェロン-γ(IFN-γ)を産生することが示されている。疾患が進行するにつれて、これらのT細胞は、αβT細胞(CD4/CD8陽性細胞のサブセット)を刺激して、より多くのIFN-γを産生する。感染した細胞内でウイルス複製を抑制する試みにおいて、感染したヒト細胞内でウイルス特異的二本鎖RNAが検出されると、細胞は、刺激されて、より多くのIFN-α/β細胞を産生する。これにより、ウイルスが正常組織にさらに拡散するのを防ぐ。
【0044】
マクロファージ、B細胞、及び樹状細胞等の免疫細胞は、最初の曝露部位である皮膚に位置することから、JE群ウイルスに対するヒト免疫応答に関与する重要な抗原提示細胞、特に樹状細胞であることが示された。ウイルスが皮膚にベクター放出されると、これらの細胞は刺激されて、リンパ節に移動し、その後T細胞を活性化する。研究では、末梢血中のCD4+T細胞及び脳脊髄液中のCD8+T細胞は、組織からウイルスを取り除くのに有用であることが示されている。
【0045】
補体系はまた、感染細胞に対する膜侵襲複合体の細胞溶解活性を介してウイルスの拡散を防ぎ、感染に応答するようにB細胞をプライミングすることによって役割を果たす。体液性免疫系はさらに、初期感染からの防御及び再感染に対する長期免疫のための試みとして、抗体を産生する。IgM抗体は、急性疾患の間に産生される。
【0046】
しかし、一部の個体は、重度の疾患経過となり、軽度の疾患を発症するのみの場合もある。抗体産生は、免疫応答の重要な要素であるが、細胞性免疫系の助けなく、JE群感染を排除するには、抗体のみでは十分ではない(Beth K.Schweitzer,Nora M.Chapman,Peter C.Iwen,Overview of the Flaviviridae With an Emphasis on the Japanese Encephalitis Group Viruses,Laboratory Medicine,Volume 40,Issue 8,August 2009,Pages 493-499,https://doi.org/10.1309/LM5YWS85NJPCWESW)。
【0047】
B細胞及び特異的抗体は、播種性フラビウイルス感染の制御に重要であると考えられている(上記、引用元Diamond M.S.,et al.,J.Virol.(2003)77:2578-2586.doi:10.1128/JVI.77.4.2578-2586.2003;Roehrig J.T.,et al.,Ann.N.Y.Acad.Sci.(2001)951:286-297.doi:10.1111/j.1749-6632.2001.tb02704.x)。中和抗体力価は、フラビウイルスワクチンのワクチン免疫原性のFDA承認の主要エンドポイントであるが、中和抗体は、防御とわずかにのみ相関するが、T細胞媒介免疫は、中和抗体の非存在下で、防御的役割を果たし得ることを示唆するエビデンスが増加している(Li,G.et al,「Memory T Cells in Flavivirus Vaccination」,Vaccines(2018)6:73,引用元Akondy R.S.,Fitch M.,Edupuganti S.,Yang S.,Kissick H.T.,Li K.W.,Youngblood B.A.,Abdelsamed H.A.,McGuire D.J.,Cohen K.W.,et al.Origin and differentiation of human memory CD8 T cells after vaccination. Nature.(2017)552:362-367.doi:10.1038/nature24633;Halstead S.B.Achieving safe,effective,and durable Zika virus vaccines:Lessons from dengue.Lancet Infect.Dis.(2017)17:e378-e382.doi:10.1016/S1473-3099(17)30362-6;Sabchareon A.,et al.Lancet.(2012)380:1559-1567.doi:10.1016/S0140-6736(12)61428-7)。
【0048】
中和抗体は、主に、Eタンパク質のエピトープに会合しているが、ほとんどのT細胞エピトープは、フラビウイルスNSタンパク質にマッピングされている(上記、引用元Pierson T.C.,et al.,Cell Host Microbe.(2008)4:229-238.doi:10.1016/j.chom.2008.08.004;Weiskopf D.,Sette A.Front.Immunol.(2014)5:93.doi:10.3389/fimmu.2014.00093)。NSタンパク質は、小胞体(ER)の膜上で共翻訳的に集合し、複製能力のある複合体を形成すると考えられている。この複合体は、形態学的に異なり、機能及びNSタンパク質の組成の両方に関しても異なる、膜結合コンパートメントで構成されている(Bollati,M.et al.,Antiviral Res.(2010)87(2):125-148,引用元Mackenzie,J.,Traffic(2005)6:967-977)。CD4+及びCD8+エフェクター及びメモリーT細胞は両方とも、ウイルスクリアランス等、宿主の防御免疫応答に直接寄与し、B細胞及び抗体の成熟の補助となることが示されている(Li,G.et al,「Memory T Cells in Flavivirus Vaccination」,Vaccines(2018)6:73,引用元Bassi M.R.,et al.,J.Immunol.(2015)194:1141-1153.doi:10.4049/jimmunol.1402605;Michlmayr D.,et al.,J.Immunol.(2016)196:4622-4631.doi:10.4049/jimmunol.1502452,Elong Ngono A.,et al.,Cell Host Microbe.(2017)21:35-46.doi:10.1016/j.chom.2016.12.010;Larena M.,et al.,J.Virol.(2011);85:5446-5455.doi:10.1128/JVI.02611-10;Mathews J.H.,et al.,J.Virol.(1992)66:6555-6562;Sitati E.M.,Diamond M.S.,J.Virol.(2006)80:12060-12069.doi:10.1128/JVI.01650-06;Yauch L.E.,et al.,J.Immunol.(2009)182:4865-4873.doi:10.4049/jimmunol.0801974)。
【0049】
YFV-17Dワクチンは、黄熱病に対する強力な体液性免疫応答を誘発し、ワクチン接種後30年以上にわたって血清中に中和抗体が検出可能である。しかし、YFV四量体抗原に特異的なメモリーCD8+T細胞は、ワクチン接種後少なくとも10年でエフェクタープールに拡大し得る(上記、引用元Poland J.D.,Calisher C.H.,Monath T.P.,Downs W.G.,Murphy K.Persistence of neutralizing antibody 30-35 years after immunization with 17D yellow fever vaccine.Bull.World Health Organ.1981;59:895-900;Wieten R.W.,Jonker E.F.F.,Leeuwen E.M.M.V.,Remmerswaal E.B.M.,Berge I.J.M.T.,Visser A.W.D.,Genderen P.J.J.V.,Goorhuis A.,Visser L.G.,Grobusch M.P.,et al.A single 17D yellow fever vaccination provides lifelong immunity;characterization of yellow-fever-specific neutralizing antibody and T-cell responses after vaccination.PLoS ONE.2016;11:e0149871.doi:10.1371/journal.pone.0149871)。動物モデルからの近年のエビデンスでは、体液性免疫及び細胞性免疫の両方が連携して働き、YFV17Dワクチン接種後に見られる持続的免疫を生み出すことが示唆されている(上記、引用元Watson A.M.,Lam L.K.,Klimstra W.B.,Ryman K.D.The 17D-204 vaccine strain-induced protection against virulent yellow fever virus is mediated by humoral immunity and CD4+ but not CD8+ T cells.PLoS Pathog.2016;12:e1005786.doi:10.1371/journal.ppat.1005786)。
【0050】
D)フラビウイルスワクチンの開発及び課題または失敗
過去70年間にわたって、フラビウイルスワクチンを開発するために様々な戦略が利用されている。現在、効果的なワクチンは、YFV、JEV、DENV、及びTBEV感染と戦うために、ヒトへの使用が認可されている。これらのワクチンによって生成された中和抗体は、宿主防御をもたらす。しかし、T細胞性免疫の役割は、完全に理解されていない (同上)。
【0051】
ジカウイルスワクチンの開発のために追求された様々な戦略には、組換え弱毒生ワクチン、精製不活化ワクチン(PIV)、DNAワクチン、及びウイルスベクターワクチンが含まれる。現在、ZIKVに対するワクチンのほとんどは、長寿命の中和抗体(nAb)応答を誘導することに焦点を当てている。
【0052】
単一のZIKVワクチンの開発が進行中であるが、麻疹、おたふく、風疹、及び水痘(MMRV)ワクチンモデルに従った複数の抗原アプローチが、Chattopadhyayらによって調査された(上記、引用元Chattopadhyay A.et al.,Vaccine.(2018)36:3894-3900.doi:10.1016/j.vaccine.2018.05.095)。チクングニアウイルス(CHIKV)及びZIKVに対する組み合わせワクチンでは、CHIKVエンベロープポリタンパク質及びZIKV Eタンパク質を発現する組換え水疱性口内炎ウイルス(VSV)を利用した。組換えVSVワクチンの107PFUの単回投与で免疫化されたBALB/Cマウスの血清は、70%のZIKV(ブラジル系統PE243)を中和することができたが、2回のワクチン投与を受けたマウスは、80%のZIKVを中和することができた。さらに、単一免疫BALB/Cマウスからの血清は、VSVΔG-eGFP/CHIKV 疑似タイプの100%を中和することができた。ワクチンの予防効果を決定するために、MR766ジカウイルスまたはCHIKVのいずれかでチャレンジする前に、7週齢のA129マウスに筋肉内免疫を行った。ワクチン接種マウスはいずれも、いずれかのウイルスに感染した後に、ウイルス血症の徴候を示さなかった。著者らは、マウスが感染していないことを証明したが、チャレンジ時に、マウスは15週齢を過ぎていた。この特定のマウスモデルでは、ZIKV感染により、マウスが死亡することはなく、感染後に、一過性の疾患の徴候を示すのみであることが知られている。それにもかかわらず、CHIKVを与えられた陰性対照マウスは、3日目までに感染により死亡したが、免疫化されたマウスはすべて生存した。全体として、著者らは、感染の物理的徴候についてはいずれも言及していないが、この研究では、免疫低下マウスにおいて、ワクチンによりウイルス血症を予防できることを十分に証明できた。しかし、妊娠中の母動物において、ワクチンが、母体のnAbの産生を誘導する際に有用であり、新生児に対して防御をもたらすであろう証拠はなかった。
【0053】
予測アルゴリズムソフトウェアを利用して、Zhang et al.(上記、引用元Zhang W.,Li X.,Lin Y.,Tian D.Identification of three H-2Kd restricted CTL epitopes of NS4A and NS4B protein from Yellow fever 17D vaccine.、J.Virol.Methods.2013;187:304-313.doi:10.1016/j.jviromet.2012.10.002)は、YFV 17D免疫マウスにおいて、ロバストなIFN-γ+CD3+CD8+T細胞応答を誘発できるYFV NS4A及びNS4Bタンパク質から3つのノナメリック(nonameric)エピトープを同定した。これらのエピトープは、YFV 17Dワクチン株に加えて、YFVのいくつかの株間で高度に保存されていることも判明した。YFV 17D感染の過程でのヒトCD8+T細胞のエフェクター機能を特徴としている(上記、引用元Blom K.,Braun M.,Ivarsson M.A.,Gonzalez V.D.,Falconer K.,Moll M.,Ljunggren H.G.,Michaelsson J.,Sandberg J.K.Temporal dynamics of the primary human T cell response to yellow fever virus 17D as it matures from an effector- to a memory-type response.J.Immunol.2013;190:2150-2158.doi:10.4049/jimmunol.1202234)。Blomらは、感染後10、14、90日目に多機能エフェクターCD8+T細胞の減少が見られ、それぞれ、ピークCD4+、エフェクターCD8+、及びエフェクターメモリーCD8+T細胞応答に対応する。さらに、単機能CD8+T細胞は、CD4+T細胞応答のピーク時にCD107aを発現したが、その後、エフェクター分子としてTNF-αを産生するように切り替わった。YFV特異的メモリーCD8+T細胞は、CD45RA、CCR7、CD127、CD28等のナイーブCD8+T細胞と同様の表面分子を発現するが(これらはすべてエフェクターCD8+T細胞とは異なる)、メモリーT細胞は、ナイーブ細胞よりも増殖動態が有意に速くなる(上記、引用元Akondy R.S.,Fitch M.,Edupuganti S.,Yang S.,Kissick H.T.,Li K.W.,Youngblood B.A.,Abdelsamed H.A.,McGuire D.J.,Cohen K.W.,et al.Origin and differentiation of human memory CD8 T cells after vaccination.Nature.2017;552:362-367.doi:10.1038/nature24633)。
【0054】
ワクチン接種前の免疫状態及びウイルス複製の両方が、ワクチン接種時のメモリーT細胞の発達に寄与している。CD8+メモリーT細胞の特徴をさらに明らかにすることにより、メモリープールは、感染後の最初の2週間で広範囲に分裂し、1年に1回未満しか分裂しない静止細胞によって維持されていることも明らかになった。エフェクターCD8+T細胞とは異なり、メモリーCD8+T細胞は、細胞傷害性エフェクタータンパク質であるグランザイムBまたはパーフォリンを産生することはない。しかし、グランザイムB及びパーフォリンプロモーターでのCpGメチル化のパターンは、2つの細胞集団間で有意差はなく、これは、持続的なメモリーCD8+T細胞の維持におけるエピジェネティックな役割を示唆している(上記、引用元Akondy R.S.,Fitch M.,Edupuganti S.,Yang S.,Kissick H.T.,Li K.W.,Youngblood B.A.,Abdelsamed H.A.,McGuire D.J.,Cohen K.W.,et al.Origin and differentiation of human memory CD8 T cells after vaccination.Nature.2017;552:362-367.doi:10.1038/nature24633)。
【0055】
また、研究では、T細胞が、B型及びC型肝炎ウイルスのウイルスカプシドの存在下で、機能的免疫応答を生成するのに重要な役割を果たすことを示唆している(Garg,H.et al,Development of virus-like-particle vaccine and reporter assay for Zika Virus,J.Virol.(2017)91(20):doi.orag/10.1128/JCI.00834-17,引用元Duenas-Carrera S,Alvarez-Lajonchere L,Alvarez-Obregon JC,Herrera A,Lorenzo LJ,Pichardo D,Morales J.2000.)。
【0056】
同様に、デングウイルス4(DENV-4)の場合、カプシド内のエピトープは、他のデングウイルスの血清型と交差反応する細胞傷害性Tリンパ球(CTL)によって認識されることが示された(上記、引用元Gagnon,SJ et al.(1996)J.Virol.70:141-147)。実際、カプシドのみによる免疫化は、中和抗体とは独立しており、細胞性免疫に大きく依存する防御免疫応答を生成することが示された(上記、引用元Lazo L,Hermida L,Zulueta A,Sanchez J,Lopez C,Silva R,Guillen G,Guzman MG.2007.A recombinant capsid protein from dengue-2 induces protection in mice against homologous virusVaccine 25:1064-1070.doi:10.1016/j.vaccine.2006.09.068)。
【0057】
さらに、CD4 T細胞は、特殊なサブセットが、フラビウイルス感染細胞の溶解に関与しているため、防御にも関与している可能性がある(上記、引用元Gagnon SJ,Zeng W,Kurane I,Ennis FA.1996. Identification of two epitopes on the dengue 4 virus capsid protein recognized by a serotype-specific and a panel of serotype-cross-reactive human CD4+ cytotoxic T-lymphocyte clones.J Virol 70:141-147;Aihara H,Takasaki T,Matsutani T,Suzuki R,Kurane I.1998.Establishment and characterization of Japanese encephalitis virus-specific,human CD4(+)T-cell clones:flavivirus cross-reactivity,protein recognition,and cytotoxic activity.J Virol 72:8032-8036)。ウイルス様粒子(VLP)にカプシドを含めるには、機能的フラビウイルスプロテアーゼ(ここでは、WNV NS2B-3融合タンパク質)が必要である。NS2B-3融合タンパク質のコード配列自体は、約2kbの長さであり、VLPプラットフォーム、DNAワクチン、及び改変mRNAワクチンに含めることができる。
【0058】
II)パラミクソウイルス(PARAMYXOVIRIDAE)科及びニューモウイルス科(PNEUMONVIRINAE)ウイルス
A)パラミクソウイルス科及びニューモウイルス科の概要
Paramyxoviridae科は、2つの亜科に属する主要なヒト病原体を含む、エンベロープを有し、非分節化マイナス鎖RNAウイルスである。Pneumonvirinae亜科には、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)及びメタニューモウイルスが挙げられ、Paramyxovirinae亜科は、とりわけ、麻疹ウイルス(MeV)、モルビリウイルス属、Rubulavirus属のムンプスウイルス(MuV)、ヒトパラインフルエンザウイルス(hPIV1-4)、近年発現した、高病原性ヘニパウイルスヘンドラ(HeV)及びニパ(NiV)が挙げられる。両方の亜科のメンバーは、重大なヒトの罹患率及び死亡率の原因となる。特にMeVは、弱毒生ワクチンが入手可能であるにもかかわらず、依然として、世界中で乳幼児死亡の主な原因である(Plemper,R.et al.,Structural and Mechanistic Studies of Measles Virus Illuminate Paramyxovirus Entry.PLoS Pathog.2011 Jun;7(6):e1002058)。
【0059】
パラミクソウイルス粒子は多形性であり、脂質エンベロープ、負の極性の非分節化RNAゲノム、及びビリオン表面に密に詰まった糖タンパク質がある。ラブドウイルス、フィロウイルス、ボルナウイルス、及びニューモウイルスのように、パラミクソウイルスは、負の極性の一本鎖の非分節化RNAゲノムを有するエンベロープビリオンを特徴とするモノネガウイルス目を形成する(Cox,R.,and Plemper,R.Structure and Organization of Paramyxovirus Particles.Curr Opin Virol.2017 Jun;24:105-114)。
【0060】
i)麻疹ウイルス(MeV)
麻疹の原因物質である麻疹ウイルス(MeV)は、エアロゾルまたは呼吸器飛沫によって効率よく伝播する動物貯蔵庫のないヒトウイルスである(Griffin,D.The Immune Response in Measles:Virus Control,Clearance and Protective Immunity.Viruses(2016)8:282;doi:10.3390/v8100282)。
【0061】
ii)ムンプスウイルス(MuV)
おたふくは、エンベロープを有し、非分節化、ネガティブセンスRNAウイルスのParamyxoviridae科のメンバーであるムンプスウイルス(MuV)によって引き起こされる。これは、15,384ヌクレオチドの非分節化マイナス鎖RNA分子を含むエンベロープ粒子である。MuVは、感染した呼吸器飛沫または分泌物の吸入または経口接触によって呼吸経路を介して伝播する。おたふくは、耳下腺炎及び精巣炎等の痛みを伴う炎症症状を特徴とする。このウイルスは、非常に神経向性であり、約半数の症例において、中枢神経系(CNS)感染の実験室でのエビエンスがある。症候性CNS感染症は、発生する頻度は少ない。それにもかかわらず、定期ワクチン接種が導入される前は、MuVは、多くの先進国で無菌性髄膜炎及びウイルス性脳炎の主因であった(Rubin,S.et al.,Molecularbiology,pathogenesis and pathology of mumps virus,” J.Pathol.(2015)235(2):242-252)。
【0062】
B)パラミクソウイルスの構造ベースの機能分析
2つの膜糖タンパク質複合体、付着(H、HN、またはG)及び融合(F)タンパク質は、それぞれウイルスエンベロープと標的細胞膜の融合による受容体結合及び細胞侵入に関与し、パラミクソウイルス科のすべてのメンバーに共通である(Yanagi Y,Takeda M,Ohno S,Seki F.Measles virus receptors and tropism.(2006)Jpn J Infect Dis.59:1-5)。RNAゲノムは、ウイルスヌクレオカプシド(N)タンパク質によって内包化され、ウイルスリン-(P)及びラージ(L)タンパク質で構成される、ウイルスRNA依存性RNA-ポリメラーゼ複合体の鋳型として機能するらせんリボヌクレオタンパク質(RNP)複合体の形成がもたらされる。マトリックス(M)タンパク質は、RNP複合体内のNタンパク質と膜に埋め込まれた糖タンパク質複合体の両方との相互作用を通じて粒子の集合を編成する。ルブラウイルス属の病原体等、ファミリーの一部のメンバーには、これらの6つの構造タンパク質に加えて、小さい疎水性(SH)膜貫通タンパク質が含まれる。Jパラミクソウイルスのみが、4番目の内在性膜タンパク質である膜貫通(TM)をコードしており、これは細胞間融合を刺激するが、ウイルスの侵入は刺激しない(Li Z,Hung C,Paterson RG,Michel F,Fuentes S,et al.Type II integral membrane protein,TM of J paramyxovirus promotes cell-to-cell fusion.(2015)Proc Natl Acad Sci U S A.112:12504-12509)。
【0063】
すべてのパラミクソウイルス付着タンパク質のエクトドメインは、受容体結合を媒介する末端球状頭部を支える膜近位茎膜近位ストーク(membrane-proximal stalk)から構成されている(Plemper,R.et al.,Structural and echanistic Studies of Measles Vir s Illuminate Paramyxovirus Entry.PLoS Pathog.2011 Jun;7(6):e1002058)。
【0064】
MeVでは、標的細胞への侵入は、2つのウイルスエンベロープ糖タンパク質である付着(H)タンパク質及び融合(F)タンパク質によって媒介され、エンベロープと標的細胞膜との融合を実現する複合体を形成する(Plemper,R.et al.,Structural and Mechanistic Studies of Measles Virus Illuminate Paramyxovirus Entry.PLoS Pathog.2011 Jun;7(6):e1002058)。
【0065】
ムンプスウイルスのエンベロープ粒子は、100~600nmのサイズ範囲で多形性である。この構造の中には、MuVゲノムを含む長いコイル状の電子密度の高いリボ核タンパク質(RNP)がある。カプシドに包まれたゲノムには、7つの連携して連結された転写ユニットが次の順で含まれている:核酸-(N)、V/P/I(Vリン酸-/Iタンパク質)、マトリックス(M)、融合(F)、小さい疎水性(SH)、赤血球凝集素-ノイラミニダーゼ(HN)及びラージ(L)タンパク質。粒子の表面には、ウイルスのHN及びF糖タンパク質に対応する小さいスパイクが観察され得る。Mタンパク質は、エンベロープ、糖タンパク質、及びリボ核タンパク質(RNP)と相互作用する。V、I、及びSHタンパク質は、感染細胞内で発現するが、ビリオン内に組み込まれているとは考えられていない。
【0066】
ウイルスの複製及び転写の鋳型は、RNP複合体であり、Nタンパク質によってカプシド形成されたマイナス鎖ウイルスRNAで構成されている。Lタンパク質とPタンパク質との複合体であるRNA依存性RNAポリメラーゼは、レプリカーゼとして機能し、ゲノムの3‘末端にある単一のプロモーターに入ることによって、(-)RNPからmRNAを生成する転写酵素として、ネガティブセンス(-)RNAをポジティブセンス(+)RNAにコピーする。感染細胞では、HN及びF糖タンパク質は、小胞体及びゴルジ複合体を介して、細胞表面に輸送される。Mタンパク質は、ウイルスRNPをF及びHN糖タンパク質を発現する宿主細胞膜の領域に局在化させることに関与し、感染細胞からの感染性ビリオンの出芽を促進する。HN糖タンパク質は、ほとんどの動物細胞の表面に豊富に存在する受容体であるシアル酸を介して、新たに出芽したウイルスを隣接する細胞に確実に付着させる。HN糖タンパク質は、F糖タンパク質と協調して、ウイルスから細胞への融合及び細胞から細胞膜への融合を媒介し、ウイルスの拡散を促進する。SHタンパク質は、TNFα媒介アポトーシス経路を遮断することにより、宿主の抗ウイルス応答を回避する役割を果たすと考えられており、ウイルス複製に必須ではない。V及びIタンパク質は、Pタンパク質をコードする同じ転写ユニットによってコードされる。SHタンパク質と同様に、Vタンパク質も宿主の抗ウイルス応答の回避に関与しており、IFNの産生及びシグナル伝達を阻害する。Iタンパク質の役割は不明である(Rubin,S.et al.,「Molecular biology,pathogenesis and pathology of mumps virus」J Pathol.2015 Jan;235(2):242-252)。
【0067】
C)パラミクソウイルス感染に対する免疫応答
MeVを気道に導入した後、未成熟な肺樹状細胞(DC)または肺胞マクロファージがMeVを捕捉して局所リンパ節(LN)に輸送し、そこで免疫応答が開始され、ウイルスが増幅され、感染の拡散が促進される(Ludlow,M.;Lemon,K.;de Vries,R.D.;McQuaid,S.;Millar,E.L.;van Amerongen,G.;Yuksel,S.;Verburgh,R.J.;Osterhaus,A.D.;de Swart,R.L. Measles virus infection of epithelial cells in the macaque upper respiratory tract is mediated by subepithelial immune cells.J.Virol.2013,87,4033-4042);Mesman,A.W.;de Vries,R.D.;McQuaid,S.;Duprex,W.P.;de Swart,R.L.;Geijtenbeek,T.B.A prominent role for DC-SIGN+ dendritic cells in initiation and dissemination of measles virus infection in non-human primates.PLoS ONE 2012,7,e49573)。次に、感染した免疫細胞(B細胞、CD4+及びCD8+メモリーT細胞、単球)が循環に入り、ウイルスを複数のリンパ球(例えば、脾臓、胸腺、LN)及び非リンパ球(例えば、皮膚、結膜、腎臓、肺、肝臓)器官に拡散させ、それが内皮細胞、上皮細胞、リンパ球及びマクロファージ内で複製される(De Vries,R.D.;McQuaid,S.;van Amerongen,G.;Yuksel,S.;Verburgh,R.J.;Osterhaus,A.D.;Duprex,W.P.;de Swart,R.L.Measles immune suppression: Lessons from the macaque model.PLoS Pathog.2012,8,e1002885);(Moench,T.R.;Griffin,D.E.;Obriecht,C.R.;Vaisberg,A.J.;Johnson,R.T.Acute measles in patients with and without neurological involvement: Distribution of measles virus antigen and RNA.J.Infect.Dis.1988,158,433-442);(Nozawa,Y.;Ono,N.;Abe,M.;Sakuma,H.;Wakasa,H.An immunohistochemical study of Warthin-Finkeldey cells in measles.Pathol.Int.1994,44,442-447;McChesney,M.B.;Miller,C.J.;Rota,P.A.;Zhu,Y.D.;Antipa,L.;Lerche,N.W.;Ahmed,R.;Bellini,W.J.Experimental measles.I.Pathogenesis in the normal and the immunized host.Virology 1997,233,74-84;Lightwood,R.;Nolan,R.Epithelial giant cells in measles as an acid in diagnosis.J.Pediatr.1970,77,59-64;Esolen,L.M.;Takahashi,K.;Johnson,R.T.;Vaisberg,A.;Moench,T.R.;Wesselingh,S.L.;Griffin,D.E.Brain endothelial cell infection in children with acute fatal measles.J.Clin.Investig.1995,96,2478-2481;Takahashi,H.;Umino,Y.;Sato,T.A.;Kohama,T.;Ikeda,Y.;Iijima,M.;Fujisawa,R.Detection and comparison of viral antigens in measles and rubella rashes.Clin.Infect.3Dis.1996,22,36-39)。
【0068】
典型的には、RNAウイルス感染に対する自然免疫応答は、I型及びIII型IFNの感染細胞産生によって支配される。IFNの誘導は、toll様受容体による、または細胞質RNAヘリカーゼによるウイルスRNAまたはタンパク質の認識を通じて生じ、これが、細胞質転写因子IFN調節因子(IRF)-3及び活性化B細胞の核因子カッパ-軽鎖エンハンサー(NFκB)の活性化につながる。IRF-3及びNFκBの核への移行は、初期応答タンパク質のためのmRNAの転写、例えば、活性化の調節、正常なT細胞の発現、分泌/ケモカイン(CCモチーフ)リガンド5(RANTES/CCL5)、IRF-7及びIFN-β及びその後ミクソウイルス耐性(Mx)、RNA 1に作用するアデノシンデアミナーゼ(ADAR1)、ISG15、ISG56及びIFN-αを含む抗ウイルス活性を伴うIFN刺激遺伝子(ISG)を誘導し、これらは、ウイルス複製を抑制するために作用し得る(Randall,R.E.;Goodbourn,S.Interferons and viruses:An interplay between induction,signalling,antiviral responses and virus countermeasures.J.Gen.Virol.2008,89,1-47);(Yoneyama,M.;Fujita,T.Recognition of viral nucleic acids in innate immunity.Rev.Med.Virol.2010,20,4-22)。
【0069】
しかし、MeV P、C、及びVタンパク質の複合活性によるインターフェロン(IFN)応答の阻害により、初期の自然免疫応答が制限される。これにより、10~14日の臨床的にサイレントな潜伏期間中に広範なウイルス複製及び拡散が可能になる (Davis,M.E.;Wang,M.K.;Rennick,L.J.;Full,F.;Gableske,S.;Mesman,A.W.;Gringhuis,S.I.;Geijtenbeek,T.B.;Duprex,W.P.;Gack,M.U.Antagonism of the phosphatase PP1 by the measles virus V protein is required for innate immune escape of MDA5.Cell Host Microbe(2014)16,19-30;Kessler,J.R.;Kremer,J.R.;Muller,C.P.Interplay of measles virus with early induced cytokines reveals different wild type phenotypes.Virus Res.(2011)155,195-202;Li,Z.;Okonski,K.M.;Samuel,C.E.Adenosine deaminase acting on RNA 1(ADAR1)suppresses the induction of interferon by measles virus.J.Virol.(2012),86,3787-3794;Schuhmann,K.M.;Pfaller,C.K.;Conzelmann,K.K.The measles virus V protein binds to p65(RelA)to suppress NF-kappaB activity.J.Virol.(2011)85,3162-3171;Childs,K.;Randall,R.;Goodbourn,S.Paramyxovirus V proteins interact with the RNA helicase LGP2 to inhibit RIG-I-dependent interferon induction.J.Virol.(2012),86,3411-3421;Childs,K.S.;Andrejeva,J.;Randall,R.E.;Goodbourn,S.Mechanism of mda-5 Inhibition by paramyxovirus V proteins.J.Virol.(2009)83,1465-1473;Caignard,G.;Guerbois,M.;Labernardiere,J.L.;Jacob,Y.;Jones,L.M.;Infectious Mapping Project I-MAP;Wild,F.;Tangy,F.;Vidalain,P.O.Measles virus V protein blocks Jak1-mediated phosphorylation of STAT1 to escape IFN-alpha/beta signaling.Virology(2007)368,351-362;Ramachandran,A.;Parisien,J.P.;Horvath,C.M.STAT2 is a primary target formeasles virus V protein-mediated alpha/beta interferon signaling inhibition.J.Virol.(2008)82,8330-8338;Shivakoti,R.;Siwek,M.;Hauer,D.;Schultz,K.L.;Griffin,D.E.Induction of dendritic cell production of type I and type III interferons by wild-type and vaccine strains of measles virus:Role of defective interfering RNAs.J.Virol.(2013)87,7816-7827)with little to no evidence of IFN induction during measles(Shivakoti,R.;Hauer,D.;Adams,R.J.;Lin,W.H.;Duprex,W.P.;de Swart,R.L.;Griffin,D.E.Limited in vivo production of type I or type III interferon after infection of macaques with vaccine or wild-type strains of measles virus.J.Interferon Cytokine Res.(2015)35,292-301;Yu,X.L.;Cheng,Y.M.;Shi,B.S.;Qian,F.X.;Wang,F.B.;Liu,X.N.;Yang,H.Y.;Xu,Q.N.;Qi,T.K.;Zha,L.J.;et al.Measles virus infection in adults induces production of IL-10 and is associated with increased CD4+ CD25+ regulatory T cells.J.Immunol.(2008)181,7356-7366)。
【0070】
麻疹の最初の出現は、発熱、鼻水、咳、及び結膜炎の2~3日の前駆症状であり、その後、顔及び体幹から四肢に拡散する特徴的な斑丘疹状発疹が出現する。発疹は、MeV特異的適応細胞性免疫応答の症状であり、感染性ウイルスの除去と同時に起こる。しかし、血液及び組織からのウイルスRNAの除去は、感染性ウイルスの除去よりもはるかに遅く、発疹の解消後数週間から数ヶ月にわたって進行する。RNAの持続期間は、感染に対する宿主の耐性の低下と一致し、長期化し得る。回復は、MeVの再感染からの生涯にわたる防御に関連する(Mina,M.J.;Metcalf,C.J.;de Swart,R.L.;Osterhaus,A.D.;Grenfell,B.T.Long-term measles-induced immunomodulation increases overall childhood infectious disease mortality.Science(2015)348,694-699)。
【0071】
MeV感染によるストレス応答タンパク質及びインフラマソーム活性化の関与に関するエビデンスが存在する。抗原提示細胞(APC)では、DC特異的細胞間接着分子3を捕らえる非インテグリン(DC-SIGN)とのMeV相互作用が、RNAヘリカーゼの活性化を抑制し、これにより、感染がIFNを誘導することなくストレス誘導遺伝子の発現を増加させる(Shivakoti,R.;Siwek,M.;Hauer,D.;Schultz,K.L.;Griffin,D.E.Induction of dendritic cell production of type I and type III interferons by wild-type and vaccine strains of measles virus:Role of defective interfering RNAs.Virol.(2013)87,7816-7827;Mesman,A.W.;Zijlstra-Willems,E.M.;Kaptein,T.M.;de Swart,R.L.;Davis,M.E.;Ludlow,M.;Duprex,W.P.;Gack,M.U.;Gringhuis,S.I.;Geijtenbeek,T.B.Measles virus suppresses RIG-I-like receptor activation in dendritic cells via DC-SIGN-mediated inhibition of PP1 phosphatases.Cell Host Microbe(2014)16,31-42)。インビトロ研究では、骨髄細胞のMeV感染は、ミトフシン2依存性プロセスにおいて、NACHT、LRR、及びPYDドメイン含有タンパク質(NLRP3)インフラマソームの集合、カスパーゼ-1の活性化、ならびにその後の成熟インターロイキン(IL)-1β及びIL-18の切断及び分泌を刺激する(Ichinohe,T.;Yamazaki,T.;Koshiba,T.;Yanagi,Y.Mitochondrial protein mitofusin 2 is required for NLRP3 inflammasome activation after RNA virus infection.Proc.Natl.Acad.Sci.USA(2013)110,17963-17968;Komune,N.;Ichinohe,T.;Ito,M.;Yanagi,Y.Measles virus V protein inhibits NLRP3 inflammasome-mediated interleukin-1beta secretion.J.Virol.(2011)85,13019-13026)。MeV感染中の末梢血単核細胞(PBMC)の転写分析では、インフラマソームの活性化に必要なNLRP3及びIL-1βmRNAの発現が上方制御されていることを示している。麻疹中の自然免疫応答のさらなるインビボエビデンスには、NFκB誘導タンパク質IL-6及びIL-8/CXCL8(Zilliox,M.J.;Moss,W.J.;Griffin,D.E.Gene expression changes in peripheral blood mononuclear cells during measles virus infection.Clin.Vaccine Immunol.(2007)14,918-923;Phillips,R.S.;Enwonwu,C.O.;Okolo,S.;Hassan,A.Metabolic effects of acute measles in chronically malnourished Nigerian children.J.Nutr.Biochem.(2004)15,281-288)、及びインフラマソーム産物IL-1β及びIL-18(Zilliox,M.J.;Moss,W.J.;Griffin,D.E.Gene expression changes in peripheral blood mononuclear cells during measles virus infection.Clin.Vaccine Immunol.(2007)14,918-923);Okada,H.;Sato,T.A.;Katayama,A.;Higuchi,K.;Shichijo,K.;Tsuchiya,T.;Takayama,N.;Takeuchi,Y.;Abe,T.;Okabe,N.;et al.Comparative analysis of host responses related to immunosuppression between measles patients and vaccine recipients with live attenuated measles vaccines.Arch.Virol.(2001)146,859-874)の血漿レベルの上昇が含まれる。したがって、自然免疫応答は、IRF-3媒介I型またはIII型IFNの誘導は含まないが、適応免疫応答の開始に重要なNFκB及びインフラマソーム関連サイトカイン及びケモカインのサブセットの誘導は含む。
【0072】
パラミクソウイルスは、インターフェロンシグナル伝達経路を破壊することが示されているのみでなく、センダイウイルス(SeV)感染は、ヒト及びマウスの両方の細胞をIFN-α/βに対して応答しないようにする。
【0073】
ほとんどのパラミクソウイルスは、代替の開始コドン及びmRNA編集機序を使用して、同じ遺伝子からP、V、及びCタンパク質をコードする。Pタンパク質は、ウイルスRNAポリメラーゼの構造成分である一方で、V及びCタンパク質は、ウイルスにコードされた副因子であり、一部のパラミクソウイルスでの機能は、IFNα/βシグナル伝達経路の阻害である。DidcockらによるSV5(サルウイルス5)のVタンパク質に関する研究では、STAT1レベルは、感染後約4時間以降低下し、最終的には検出できなくなることを示した。Didcock,L.et al.,「The V protein of simian virus 5 inhibits interferon signaling by targeting STAT1 for proteasome-mediated degradation」J.Virol.(1999)73(12):9928-33)。STAT1を分解して、IFNシグナル伝達を遮断するSV5Vタンパク質の能力は、SV5Vタンパク質を構成的に発現する2fTGH細胞を使用して、Andrejeva et al.,によって確認された。Andrejeva,J,et al,「Degradation of STAT1 and STAT2 by the V proteins of simian virus 5 and human parainfluenza virus type 2,respectively:consequences for virus replication in the presence of alpha/beta and gamma interferons」J.Virol.(2002)76(5):2159-67)。これらの結果は、STAT1をプロテアソーム媒介分解の標的にすることにより、SV5Vタンパク質が、IFNシグナル伝達を遮断することを実証している。ムンプスウイルスのシステインリッチVタンパク質は、STAT1の分解を誘導することによって、JAK/STAT経路を阻害する(Rubin,S.et al.,「Molecular biology,pathogenesis and pathology of mumps virus.」J Pathol.2015 Jan;235(2):242-252)。
【0074】
STAT1は、カスパーゼ等の特定の遺伝子及び低分子ポリペプチド2(LMP2)等の構成的発現に関与する分子としても作用する。LMP2は、T細胞抗原のプロセシングに関与するプロテアソームのサブユニットである。MHCクラスI抗原は、細胞表面膜に内在性ウイルス抗原を提示するために必要である。ISGF-3複合体の誘導または活性化を介したIFN-γシグナル伝達経路が、MHCクラスI発現を調節することはよく知られている。したがって、STAT-1αの不活性化は、MHCクラスI発現の減少と相関している可能性があるとの仮説が立てられている。この減少により、ムンプスウイルスに持続的に感染した細胞は、宿主の免疫監視から逃れることができる。
【0075】
ムンプスウイルスは、特定のIgM及びIgG抗体の産生を誘発し、これらの抗体が高血清レベルであることは、免疫系がウイルス抗原へ曝露されたエビデンスである。
【0076】
ii)パラミオックスウイルス感染に対するT細胞の応答
数学的モデリングと組み合わせた個々のマカクにおけるRNAクリアランス及び免疫応答の詳細な定量的研究では、T細胞応答(IFN-γ産生細胞によって示される)が、血液からの感染性麻疹ウイルスのクリアランスと相関するが、抗体及びT細胞の両方が、ウイルスRNAの減少を説明するために必要であることを示している(Lin,W.H.;Kouyos,R.D.;Adams,R.J.;Grenfell,B.T.;Griffin,D.E.Prolonged persistence of measles virus RNA is characteristic of primary infection dynamics.Proc.Natl.Acad.Sci.USA(2012)109,14989-14994)。抗体は、ほとんどのウイルスタンパク質に誘導される(Graves,M.;Griffin,D.E.;Johnson,R.T.;Hirsch,R.L.;de Soriano,I.L.;Roedenbeck,S.;Vaisberg,A.Development of antibody to measles virus polypeptides during complicated and uncomplicated measles virus infections.J.Virol.(1984)49,409-412)が、異なる部位からのクリアランスに対する機能的に異なる抗体とT細胞との相対的な寄与については、知られていない。
【0077】
特に、CD4+T細胞の免疫活性化及びリンパ球増殖は、発疹が解消後、数ヶ月間、急激に現れる。この期間中に、1型T細胞サイトカイン(例えば、IFN-γ)から2型サイトカイン(例えば、IL-4、IL-10、IL-13)へのサイトカイン産生のシフト及びIL-17-産生細胞の出現がある(Lin,W.H.;Vilalta,A.;Adams,R.J.;Rolland,A.;Sullivan,S.M.;Griffin,D.E.Vaxfectin adjuvant improves antibody responses of juvenile rhesus macaques to a DNA vaccine encoding the measles virus hemagglutinin and fusion proteins.J.Virol.(2013)87,6560-6568);Ward,B.J.;Johnson,R.T.;Vaisberg,A.;Jauregui,E.;Griffin,D.E.Cytokine production in vitro and the lymphoproliferative defect of natural measles virus infection.Clin.Immunol.Immunopathol.(1991)61,236-248;Moss,W.J.;Ryon,J.J.;Monze,M.;Griffin,D.E.Differential regulation of interleukin(IL)-4,IL-5,and IL-10 during measles in Zambian children.J.Infect.Dis.(2002)186,879-887;Griffin,D.E.;Ward,B.J.Differential CD4 T cell activation in measles.J.Infect.Dis.(1993),168,275-281。このシフトは、B細胞の成熟を促進し、抗体分泌細胞の継続的な産生に寄与し得る(Nair,N.;Moss,W.J.;Scott,S.;Mugala,N.;Ndhlovu,Z.M.;Lilo,K.;Ryon,J.J.;Monze,M.;Quinn,T.C.;Cousens,S.;et al.HIV-1 infection in Zambian children impairs the development and avidity maturation of measles virus-specific immunoglobulin G after vaccination and infection.J.Infect.Dis.(2009)200,1031-1038)。結合力の増加によって証明されるように、抗体の質の継続的な改善は、リンパ組織の胚中心におけるT濾胞ヘルパー(THF)細胞の継続的な活性及びB細胞の選択を示唆している。長寿命の形質細胞の発達は、生涯にわたって形質抗体レベルを持続させるために必要である(Amanna,I.J.;Slifka,M.K.Mechanisms that determine plasma cell lifespan and the duration of humoral immunity.Immunol.Rev.(2010)236,125-138)。
【0078】
T細胞免疫はまた、抗体のレベルが低い個体を直接防御するものとしての関与が示されている(Ruckdeschel,J.C.;Graziano,K.D.;Mardiney,M.R.,Jr.Additional evidence that the cell-associated immune system is the primary host defense against measles(rubeola).Cell Immunol.(1975)17,11-18)。T細胞の抗ウイルス効果は、ウイルス複製を抑制するサイトカイン(例えば、IFN-γ等)の分泌、及び感染細胞の細胞傷害性排除の両方によって媒介され得る。T細胞は、感染を直接遮断するのではなく、感染が発生したときに、ウイルス感染細胞を制御または排除するために反応するため、中和抗体と比較して、防御に対するT細胞の寄与は、一般に小さいと考えられている。マカクにおける研究は、T細胞免疫のみではMeV感染または疾患から防御できないことが示されているが、チャレンジ感染後のRNAクリアランス及びロバストなT細胞及び抗体応答の生成を促進する(Lin,W.H.;Pan,C.H.;Adams,R.J.;Laube,B.L.;Griffin,D.E.Vaccine-induced measles virus-specific T cells do not prevent infection or disease but facilitate subsequent clearance of viral RNA.mBio(2014)5,e01047)。したがって、免疫性クリアランス及び長寿命防御の両方を生じさせるには、効果的で耐久性のあるMeV特異的抗体ならびにCD4+及びCD8+T細胞応答の開発が必要である。
【0079】
研究者らは、パラミクソウイルス科がT細胞レベルで交差反応するが、抗体レベルでは交差反応しないことを実証した(Ziola,B.,et al.,「T cell cross-reactivity among viruses of the paramyxoviridae.」Viral Immunol.(1987)1(2):111-9)。ムンプスウイルス及びパラインフルエンザウイルスは、血清学的に関連しているため、これらのウイルス間のT細胞反応性が予想される。これらの研究者は、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、麻疹ウイルス、及びムンプスウイルスの間の強力な双方向T細胞交差反応性を明らかにした。RSVは、典型的には、1歳未満の小児に感染するため、多くの小児は、MMRワクチン接種推奨年齢(12~15ヶ月)に達する前に、T細胞免疫を獲得する。これは、RSV誘発T細胞が、ムンプスウイルス抗原または麻疹ウイルス抗原との交差反応性を介して、これらのワクチンウイルスの一方または両方に対する免疫のその後の発達に影響を与える可能性があることを意味する(Ziola,B.,et al.,「T cell cross-reactivity among viruses of the paramyxoviridae.」Viral Immunol.(1987)1(2):111-9)。
【0080】
ルブラウイルスは、STAT1を分解の標的とすることが知られており、これはMHCクラスI発現の減少と相関し得る。この減少により、CTLの活性化が減少し、したがって、ムンプスウイルスの複製及び散布が促進される。ムンプスウイルスの感染における細胞性免疫の役割は、実験動物及びヒトから得られたデータによって裏付けられている。ムンプス髄膜炎は、ムンプスウイルス感染症の一般的な合併症であり、CNS中に蓄積されたMuV特異的CTLは、脳脊髄液(CSF)中で検出できる。研究者らは、ムンプス髄膜炎の急性期に、CD8+及びHLA-DR+細胞がCSF中で増加し、MuV抗原によって活性化された細胞傷害性サプレッサーT細胞が蓄積し得ることを実証した。他の研究者らは、感染性中枢神経系疾患の患者におけるT細胞受容体(TCR)遺伝子レパートリーに焦点を当てた。この研究者らは、ムンプス髄膜炎患者のTリンパ球におけるTCRVα遺伝子発現を評価し、CSFでの使用は拡大しているが、各患者において、3ファミリー以下に偏っていることを示した。Vα遺伝子の偏った使用は、優性Vα遺伝子を有するT細胞が、CNSに選択的に動員されたムンプス特異的Tリンパ球であり得ることを示唆している(Flynn,M.,Chapter 6:Immune Response to Mumps Viruses.Recent Research Developments in Virology,5(2003):97-115)。
【0081】
D)パラミクソウイルスワクチンの開発、課題または失敗
認可されたワクチンは、パラミクソウイルス用に存在し、通常、おたふく、麻疹、及び風疹(MMR)の小児用ワクチン製品の要素として製剤化され、世界中に広く配布されている。
【0082】
MMRワクチンは、通常、年長の乳児または1歳以上の小児にのみ推奨される。これらの小児は、もはや高力価の防御母体抗体を有しないため、麻疹ウイルス感染に対して特に脆弱である(Kowalzik F,Faber J,and Knuf M.MMR and MMRV vaccines.Vaccine(2017)(Epub ahead of print);DOI:10.1016/j.vaccine.2017.07.051)。したがって、母体の抗体は、幼児のワクチンを弱め得る(Jones BG,Sealy RE,Surman SL,et al.Sendai virus-based RSV vaccine protects against RSV challenge in an in vivo maternal antibody model.Vaccine(2014)32:3264-3273)。
【0083】
III)トガウイルス科及びマトナウイルス科ウイルス
A)トガウイルス科及びマトナウイルス科の概要
Togaviridae科は、4つの属:26種を含むAlphavirus、1種を含むRubivirus、3種を含むPestivirus、及び1種を含むArterivirusで構成されている。ヒトの疾患にとって重要なこの科ーのウイルスには、アルファウイルス属のチクングニアウイルス、東部ウマ脳炎ウイルス、ベネズエラウマ脳炎ウイルス、及び西部ウマ脳炎ウイルス及びルビウイルス属の風疹ウイルスが含まれる。
【0084】
トガウイルスには次の特徴がある:球状ウイルス粒子、直径50~70nm、通常はグリコシル化された2つまたは3つのポリペプチドを組み込んだ表面突起のあるエンベロープ、コアタンパク質及びポジティブセンスRNAの一本鎖を含むヌクレオカプシド(分子量約4x106)である。典型的には、成熟は、細胞質膜を介した、おそらく二十面体対称性を有する、直径30~35nmの球状ヌクレオカプシドの出芽によって起こる。構造タンパク質の翻訳は、サブゲノムメッセンジャーRNA(複数可)で起こる。ほぼすべてのアルファウイルス種が、蚊によって伝播する。伝播は、経卵巣的に(アルファウイルス)または経胎盤的に(ルビウイルス及びペスチウイルス)も起こる。属のメンバーは、血清学的に関連しているが、他の属のメンバーとは関連していない。
【0085】
i)チクングニアウイルス(CHIKV)
チクングニアウイルス(CHIKV)は、人獣共通感染症ウイルスであり、アフリカ及びアジア、近年では北米及び南米、ならびに欧州で確認されている。それは、ヤブカ属の感染した蚊の咬傷によって伝播する。感染した個体において十分に高レベルのウイルス血症が発症するため、都市部での伝播サイクルが考えられる。
【0086】
CHIKV感染症の病状は、2~10日間の潜伏期間から始まり、その後、急性期、次に慢性期に発展する。急性期には、多発性関節炎が報告されており、慢性期には慢性関節炎に発展する。急性期の臨床症状には、高熱、重度の関節と筋肉の痛み、皮膚の発疹、脱力感及び頭痛、リンパ球減少症、またはリンパ球数の減少、及び中等度の血小板減少症、または血小板数の減少も含まれる。
【0087】
ii)風疹ウイルス(RV)
Rubivirus属の一本鎖ポジティブセンスRNAウイルスである風疹ウイルス(RV)は、近年、トガウイルス科から新しい科のMatonaviridaeに移された。2つのクレードを表す合計13のRV遺伝子型が認識されているが、現在、1E及び2Bの2つの遺伝子型が、世界で最も一般的である(Perelygina L,Chen Mh,Suppiah S,Adebayo A,Abernathy E,et al.(2019) Infectious vaccine-derived rubella viruses emerge,persist,and evolve in cutaneous granulomas of children with primary immunodeficiencies.PLOS Pathogens 15(10):e1008080)。風疹は、季節的分布で世界中に発生する。ピーク感染発生率は、冬の後期または春の初期である。風疹は、1970年代に免疫化プログラムが実施される前は、米国での先天性欠損症の主因であった。1969年のワクチン接種が認可されて以来、米国では主要な大発生はなく、発生率は、99%減少している。先天性風疹の継続的な症例は、ワクチン未接種の感受性のある若い女性の感染によるものである(Parkman PD.Togaviruses:Rubella Virus.:Baron S,editor.Medical Microbiology.4th edition.Galveston(TX):University of Texas Medical Branch at Galveston;(1996)Chapter55.https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK8200/から入手可能)。
【0088】
この疾患は、呼吸器分泌物との直接または飛沫接触を介して伝播する。風疹ウイルスは、呼吸器系の細胞中で増殖する。この後、標的器官へのウイルス血症の拡散が生じる。先天性感染症は、経胎盤伝播する(Parkman PD.Togaviruses:Rubella Virus.:Baron S,editor.Medical Microbiology.4th edition.Galveston(TX):University of Texas Medical Branch at Galveston(1996)Chapter55.https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK8200/から入手可能)。
【0089】
風疹は、依然として公衆衛生上の懸念事項である。2013年上半期に11,000件以上の風疹が発生し、少なくとも13件の先天性風疹症候群(CRS)の症例が発生した日本での風疹の流行は、部分的なワクチン接種戦略が大発生につながるという事実を顕著に示している。日本での大発生における風疹症例の70%は、20歳から39歳の男性で発生しており、これは思春期の少女のみに風疹ワクチンを提供する初期戦略の脆弱性を示している。2012年には、ポーランド及びルーマニアでも風疹の大発生が生じ、当初は、女性のワクチン接種に焦点を当てていたワクチン接種戦略の結果として、主に男性に影響を及ぼした(Lambert,N.,「Rubella」Lancet.(2015)Jun 6;385(9984):2297-2307)。
【0090】
麻疹ウイルス及びムンプスウイルスと同様に、風疹ウイルスの免疫化速度は、世界的に顕著に低下している。
【0091】
既存の風疹ワクチンの普遍的な使用を制限する主な要因のうちの1つは、「逆説的効果」に関する懸念であった。乳児及び幼児における風疹免疫率が低いままであると、小児期の風疹への曝露が減少し、ワクチン接種前の時代と比較して、出産年齢の女性の感受性の上昇につながり得る。これは、それらの女性が、ワクチン接種を受けず、ウイルスにも曝露されていないためである(Lambert,N.,「Rubella」Lancet.(2015)Jun 6;385(9984):2297-2307)。
【0092】
さらに、ワクチンの失敗の発生は制限されており、これは、既存の抗体が、生ウイルスワクチン株を中和するときに発生すると考えられている。例えば、低レベルの免疫は、パルボウイルスまたはエプスタインバーウイルス感染等の以前の感染、またはRh因子の存在に起因する可能性がある(Lambert,N.,「Rubella」Lancet.(2015)Jun 6;385(9984):2297-2307)。
【0093】
B)トガウイルス及びマトンウイルスの構造ベースの機能分析
RVは、9.6kbの一本鎖ポジティブセンスRNAゲノムを有するエンベロープウイルスである。ビリオンは、600~800A(オームストロング)の範囲の粒子径を有し、ほとんどの球状ビリオンは、直径約700A(オームストロング)を有している。RVには、3つの構造タンパク質、すなわち、カプシドタンパク質(約31kDa)及び糖タンパク質E1(58kDa)及びE2(42~47kDa)が含まれている。カプシドタンパク質は、RNAゲノムと相互作用し、ヌクレオカプシドを形成する。ヌクレオカプシドは、E1及びE2が配置されている脂質膜に囲まれている。ウイルス複製に関与する2つの非構造タンパク質、p90及びp150も、ウイルスによってコードされている。
【0094】
アルファウイルス及びRVは、同様の遺伝子順序及び発現戦略を共有するが、アルファウイルスは、二十面体であり、それらのヌクレオカプシドは、細胞質中で集合し、ビリオンは、原形質膜から出芽する一方で、RVビリオンは、多形性であり、ヌクレオカプシドは、ゴルジ膜上で集合する。その後、この細胞小器官にウイルスが出芽する。RVビリオンの多形性は、ウイルス粒子の構造を決定する際の制限要因となっている。すべてのトガウイルスと同様に、RVの構造タンパク質は、宿主細胞中の小胞体に関連して、ポリタンパク質前駆体として合成される。ポリタンパク質は、宿主細胞のシグナルペプチダーゼによって同時翻訳により切断されるが、アルファウイルスカプシドタンパク質とは異なり、RVカプシドタンパク質は、疎水性のE2シグナルペプチドによって膜の細胞質側に付着したままである(Prasad,M.,et al.,Rubella virus capsid protein structure and its role in virus assembly and infection.Proc Natl Acad Sci USA(2013)Dec 10;110(50):20105-10)。
【0095】
風疹ウイルスは、球形の40~80nmのポジティブセンス一本鎖RNAウイルスであり、スパイク状の赤血球凝集素を含む表面突起を有する。電子密度30~35nmのコアは、リポタンパク質エンベロープに囲まれている。風疹ウイルスは、宿主由来の脂質膜に包まれた多形性ヌクレオカプシドを含む。2つのタンパク質性スパイク、E1及びE2は、膜の外層に固定されている。E1タンパク質は、受容体媒介エンドサイトーシスの原因であり、免疫優性抗原である。E1の中和ドメインに対する抗体の測定は、風疹ウイルスに対する防御の相関関係として使用できる。E2タンパク質は、膜に結合しており、E1タンパク質の列の間に接続を形成する(Lambert,N.,「Rubella」Lancet.(2015)Jun 6;385(9984):2297-2307)。
【0096】
ヒトは、風疹ウイルスの唯一の既知の貯蔵庫であり、出生後のヒトからヒトへの伝播は、感染したヒトの呼吸分泌物との直接接触または飛沫接触を介して発生する。感染を囲む初期のイベントは、完全にはその特徴が明らかにされていないが、ウイルスは、ほぼ確実に気道の細胞中で増殖し、局所リンパ節に広がり、その後、標的器官にウイルス血症の広がりを起こす。脾臓及びリンパ節等の選択された標的器官内でのその後の追加の複製は、風疹ウイルスの広範な分布を伴う二次ウイルス血症につながる。この時点で(感染から約7日後及び発疹の発症の7~10日前に)、ウイルスは、血液中及び呼吸器分泌物中で検出される。ウイルス血症は、発疹の発症直後に消失する。また、これは、循環する中和抗体の出現にも関連している。しかし、気道からのウイルスの排出は、発疹の発症後最大28日間継続し得る(Parkman PD.Togaviruses:Rubella Virus.:Baron S,editor.Medical Microbiology.4th edition.Galveston(TX):University of Texas Medical Branch at Galveston(1996).Chapter55.https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK8200/から入手可能)。
【0097】
C)トガウイルス科及びマトンウイルス科ウイルス感染に対する免疫応答
風疹における細胞性免疫の役割はまだ十分に定義されていないが、症候的には、トガウイルス科の感染症は、リンパ球減少症及び中等度の血小板減少症によって定義されている。
【0098】
D)トガウイルス科及びトガウイルス科のワクチン開発、課題または失敗
米国での使用が認可されている現在の生風疹ウイルスワクチン株は、MMRワクチンの一部として使用されるRA27/3株である。ワクチンは、免疫学的能力のある個体に限定された時間、持続することが知られており、成人女性において一過性の関節痛または関節炎等、軽度の合併症を引き起こす。フックスブドウ膜炎の病理へのワクチンウイルスの関与も疑われている。ワクチンウイルスは、先天性欠損症とは関連していないが、気づかぬ間に意図的でなく妊婦にワクチン接種した後、胎児の無症候性の持続感染が報告されてされている(Perelygina L,Chen Mh,Suppiah S,Adebayo A,Abernathy E,et al.(2019)Infectious vaccine-derived rubella viruses emerge,persist,and evolve in cutaneous granulomas of children with primary immunodeficiencies.PLOS Pathogens15(10):e1008080)。MMRワクチンに関するさらなる考察は、パラミクソウイルスの考察で確認できる。
【0099】
IV)フィロウイルス科ウイルス
A)Filoviridae科の概要
Filoviridae科は、3つの異なる属:単一特異性クウェバウイルス、エボラウイルス(EBOV)、及び単一特異性マールブルグウイルス(MARV)を含むエンベロープを有する一本鎖RNA(-)ウイルスの科である。フィロウイルスの名前は、極端な多形性を呈するフィラメント状または糸状のビリオンに由来し、ビリオンは、U字型、6字型、または円形に見える場合がある。それらの長さは変動し得るが、それらは一般的に均一な直径(約80nm)を有する。
【0100】
典型的なフィロウイルス粒子は、長さが約10nmの糖タンパク質スパイクで覆われた脂質エンベロープを有する。この脂質エンベロープの下には、らせん状のヌクレオカプシドがある。ゲノムは、長さ約19kbであり、ウイルスタンパク質NP、VP35、VP30、及びLが、ウイルスヌクレオカプシド構造を形成する7つの構造タンパク質で構成され、Lは、ウイルスの転写及び複製を行うRNA依存性RNAポリメラーゼでもある。GPは、表面ウイルス糖タンパク質であり、受容体の結合及び融合を介して、宿主細胞への侵入を媒介する。VP24及びVP40は、膜結合マトリックスタンパク質である(Fermin,Gustavo,and Paula Tennant.Viruses:Molecular Biology,Host Interactions and Applications to Biotechnology,edited by Jerome E.Foster,Elsevier Science&Technology,2018.ProQuest Ebook Central, https://ebookcentral.proquest.com/lib/jhu/detail.action?docID=5322098)。
【0101】
i)マールブルグマールブルグウイルス(MARV)
マールブルグマールブルグウイルス属には、2つの株:マールブルグウイルス(MARV)及びラヴンウイルス(RAVV)を含むビクトリア湖マールブルグウイルスという単一の種が含まれる。このウイルスは、マールブルク、ドイツ、ジンバブエ、南アフリカ、コンゴ民主共和国、及びアンゴラ等、地理的に大発生した事例はごくわずかである。
【0102】
ii)エボラウイルス(EBOV)
EBOVは、ブンディブギョエボラウイルス(BDBV)、ザイールエボラウイルス(ZEV)、スーダンエボラウイルス(SUDV)、タイフォレストエボラウイルス(TAFV)のヒトに病原性を有する種で構成されている。
【0103】
B)フラビウイルスの構造ベースの機能分析
フィロウイルスは、すべてのウイルスタンパク質をコードする7つのオープンリーディングフレームと共通のゲノム構成を共有している:核タンパク質(NP)、ウイルスタンパク質VP35及びVP40、表面糖タンパク質(GP)、ウイルスタンパク質VP30及びVP24、及び「ラージ」ポリメラーゼ(L)(Martin,B.,Filovirus proteins for antiviral drug discovery:Structure/function bases of the replication cycle.Antiviral Res.(2017)May;141:48-61)。
【0104】
フィロウイルスは、エンベロープ内の唯一のウイルス糖タンパク質であるGPの相互作用を介して細胞に侵入する。この糖タンパク質には、GP1及びGP2の2つの異なる領域がある。GP1は、クラスI膜融合タンパク質のように作用し、受容体結合領域(RBR)を有する。このRBRは、MARVとEBOVとの間で高いアミノ酸同一性を有し(約47%)、2つのフィロウイルス属によって共有されると考えられている細胞受容体に付着する。ウイルスは、システインプロテアーゼがウイルス糖タンパク質のGP1領域を切断するエンドサイトーシスによって細胞に侵入する。これにより、GP1は、ニーマンピックC1(NPC1)と呼ばれる内部エンドソームタンパク質受容体に結合することができる。これが発生すると、ウイルス膜とエンドソームとの融合がGP2領域によって促進され、ウイルスゲノムが細胞質に放出される。ウイルスゲノムのmRNAへの転写は、ウイルスヌクレオカプシドタンパク質VP30の結合によって開始され、3‘末端から始まる。ウイルスタンパク質Lは、RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)として作用し、その補因子VP35及び宿主細胞のDNAトポイソメラーゼと連携して、ゲノムの複製を調整する。ウイルスゲノムの翻訳は、ウイルスタンパク質の蓄積をもたらし、VP35及びNPは、アンチゲノムの産生を開始する。これらのアンチゲノムは、次に、追加のウイルスゲノムを生成するための鋳型として使用される。次に、ウイルスタンパク質が細胞膜に蓄積し、そこでウイルス糖タンパク質Gスパイクが、宿主細胞膜に挿入される。NPタンパク質の発現は、NPに加えて、タンパク質VP24、VP30、VP35、及びLも内包化し、細胞膜に埋め込まれたGタンパク質と結合する、宿主細胞内の封入体をもたらす。次に、これは、主にVP40の影響下で、細胞からの特徴的なフィラメント状ビリオンの出芽をもたらす(Fermin,Gustavo,and Paula Tennant.Viruses:Molecular Biology,Host Interactions and Applications to Biotechnology,edited by Jerome E.Foster,Elsevier Science&Technology(2018)ProQuest Ebook Central,https://ebookcentral.proquest.com/lib/jhu/detail.action?docID=5322098)。
【0105】
ウイルス糖タンパク質GPにより、単球及びマクロファージへの侵入が可能になり、これらの細胞へのその後の損傷が、発熱及び炎症に関連するサイトカインの産生をもたらす。また、内皮細胞へのウイルスの侵入が可能になり、これらへの損傷は、血管の完全性の喪失を直接もたらし、出血を引き起こす。他のウイルスタンパク質は、感染の様々なポイントで毒性因子として作用する。VP35は、ウイルスRNAを隔離し、これにより、外来ゲノムが自然免疫による検出を回避するのを助ける。このタンパク質はまた、IFN-β産生を妨げる宿主IFN調節因子の活性化を競合的に阻害する。VP24、VP30、及びVP40は、防御宿主RNAi経路のサプレッサーであり、自然免疫応答をさらに低下させることも示されている。EBOVはまた、細胞の免疫系を回避する。免疫系は、そのmRNAをキャッピング及びポリアデニル化することにより、自己RNA(キャップ付き)及び非自己RNA(キャップなし)を区別する。これは、VP35によって調整される別のプロセスである(Fermin,Gustavo,and Paula Tennant.Viruses:Molecular Biology,Host Interactions and Applications to Biotechnology,edited by Jerome E.Foster,Elsevier Science&Technology(2018)ProQuest Ebook Central)。
【0106】
フィロウイルス科ウイルス感染に対する免疫応答。エボラエンベロープ糖タンパク質を発現するヒトパラインフルエンザウイルス3型ベクターワクチンのエアロゾル投与は、中和抗体を誘発するのみでなく、マカクの肺におけるCD103+T細胞応答も誘発することができた。これらの組織常在メモリー(TRM)T細胞の大部分は多機能であり、これは、2つ以上の活性化マーカーに対して確実であることが実証されている。さらに、このワクチンの単回投与は、感染チャレンジに対する100%の防御をもたらした。近年のエボラ出血熱の流行における伝播の大部分は、皮膚接触によるものであったため、皮膚切除によるワクチン接種は、調査する価値があると考えられてきた(Muruganandah,V.,Sathkumara,H.D.,Navarro,S.,&Kupz,A.(2018).A Systematic Review:The Role of Resident Memory T Cells in Infectious Diseases and Their Relevance for Vaccine Development.Frontiers in Immunology,9,1574.doi:10.3389/fimmu.2018.01574)。
【0107】
C)フィロウイルス科ワクチンの開発、課題または失敗
EBOVまたはMARV感染に対して認可されているワクチンはなく、フィロウイルスに対して利用できる効果的な治療法もない。不活化された全ビリオンの使用に焦点を当てたフィロウイルスワクチンを生成する最初の試みは、非ヒト霊長類(NHP)モデルで様々な成功を収めた。その後の研究では、ワクチンプラットフォームとして、ウイルス様粒子、ウイルスベクター、またはフィロウイルス遺伝子を発現するプラスミドDNAの試験が開始された。ほとんどのプラットフォームは、フィロウイルス感染から防御する中和抗体を生成することを期待して、GPに対する免疫応答の生成をベースにしていた。しかし、フィロウイルス感染に対するワクチン接種を成功させるためにどのような種類の免疫応答を誘導する必要があるかは、依然として不明である(Bradfute,Steven B et al.「Filovirus vaccines.」Human vaccines vol.7,6(2011):701-11.doi:10.4161/hv.7.6.15398)。
【0108】
理論上の安全性の懸念から、弱毒生及び不活化ウイルスワクチン等、従来のワクチンプラットフォームがヒトで使用される可能性は低い。フィロウイルス感染の病因を研究し、ワクチン接種戦略の有効性を評価するために、いくつかの動物モデルが開発されたが、専門家は、動物モデル及びワクチン接種の取り組みとの不一致により、依然としてヒトでの広範なワクチン接種を正当化するものではないと考える。幅広い集団で安全かつ免疫原性のあるプラットフォーム等、免疫化の最も理想的な戦略を評価するには、さらなる研究が必要である(Sarwar,Uzma N et al.「Filovirus emergence and vaccine development:a perspective for health care practitioners in travel medicine.」Travel medicine and infectious disease vol.9,3(2011):126-34.doi:10.1016/j.tmaid.2010.05.003)。
【0109】
V)オルソミクソウイルス科ウイルス
A)オルソミクソウイルス科の概要
Orthomyxoviridae科は、5つの属:A型インフルエンザウイルス、B型インフルエンザウイルス、C型インフルエンザウイルス、イサウイルス、及びトゴトウイルスを有する分節化された一本鎖RNAウイルスで構成されている。この科は、ウイルスが細胞表面の粘液タンパク質に付着する能力(「myxo」は粘液を意味するギリシャ語)を特徴とするが、RNAウイルスの別の群であるパラミクソウイルス科と比較して、より「正統」であるため、そのように名付けられ(後述)、粘液産生細胞に付着する能力も特徴である。オルソミクソウイルス科の5つの属のうちの3つを表すA型、B型、及びC型インフルエンザウイルスは、分節化されたマイナス鎖RNAゲノムを特徴とする。シーケンシングにより、これらのウイルスが共通の遺伝的祖先を共有していることが確認されているが、それらは、遺伝的に分岐しており、これにより、再集合(ウイルス間のウイルスRNA分節の交換を意味する)が、各属またはタイプ内で発生するが、タイプ間では発生しないことが報告されている(Bouvier,Nicole M,and Peter Palese.「The biology of influenza viruses.」Vaccine vol.26 Suppl 4,Suppl 4(2008):D49-53.doi:10.1016/j.vaccine.2008.07.039)。
【0110】
i)A型、B型、及びC型インフルエンザウイルス
インフルエンザウイルスのゲノムは、時間の経過と共に徐々に変化し、複製サイクルを触媒するRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)のエラーが発生しやすい性質により、新しい変異が蓄積する可能性がある。遺伝子が徐々に変化するこのプロセスは、抗原ドリフトと呼ばれる。オルソミクソウイルスゲノムは、分節化されているため、ゲノムの再集合も可能である。例えば、2つの関連ウイルスに同時感染した細胞では、分節の交換が発生し得、生存可能で安定した亜型/新規遺伝的株が産生され得る。このような再集合は、自然界で発生し、遺伝的多様性の重要な原因である。また、A型インフルエンザウイルスは突然の大きな変化を経験し得る。例えば、動物集団からのインフルエンザウイルスが、ヒトに感染する能力を獲得した場合、新しいHAタンパク質、及び/またはヒトに感染するインフルエンザウイルス中の新しいHAタンパク質及びNAタンパク質をもたらし、これにより、新しい亜型のA型インフルエンザを産生する。このような「抗原シフト」は、2009年春に発生し、このとき、北米のブタ、ユーラシアのブタ、ヒト、トリの遺伝子を有するH1N1ウイルスが出現して、ヒトに感染し、急速に拡散され、パンデミックを引き起こした。
【0111】
インフルエンザ株は、典型的には、ウイルス粒子膜に埋め込まれたHAタンパク質及びNAタンパク質の抗原特性によって定義される。A型ウイルスは、赤血球凝集素(H1~H16)及びノイラミニダーゼ(N1~N9)の性質に応じて、血清学的亜型に分割される。菌株の分化には、起源の宿主生物、最初のウイルス単離の地理的位置、菌株番号、及び単離年がさらに含まれ、HA及びNAタンパク質の抗原性記述に対応する番号、例えばウイルスA/California/04/09(H1N1)、またはウイルスA/Swine/Iowa/15/30(H1N1)によって定義される(Fermin,Gustavo,and Paula Tennant.Viruses:Molecular Biology,Host Interactions and Applications to Biotechnology,edited by Jerome E.Foster,Elsevier Science&Technology,2018.ProQuest Ebook Central,https://ebookcentral.proquest.com/lib/jhu/detail.action?docID=5322098)。
【0112】
B)オルソミクソウイルスの構造ベースの機能分析
オルソミクソウイルス粒子は、球形または多形性であり、直径は80~120nmの範囲である。カプシドは、分節化された負の極性のRNA及び管状のらせん対称性を有する。典型的なオルソミクソウイルスゲノムは、分節化されており、ウイルス糖タンパク質及び非グリコシル化タンパク質が埋め込まれた膜によって囲まれた様々な長さ(50~150nm)のリボ核タンパク質で構成されている。次の膜関連ウイルスタンパク質がウイルス粒子の表面に存在する:赤血球凝集素(HA、宿主細胞の結合及びウイルスの侵入に関与)、ノイラミニダーゼ(NA、ウイルスの出芽及び放出に関与)、ならびにマトリックスタンパク質(M2;ウイルスゲノム複製に関与するイオンチャネル)。ビリオン内では、RNAゲノム分節は、ウイルスRNAポリメラーゼ複合体を形成するいくつかのウイルスタンパク質(RNAポリメラーゼ酸性、RNAポリメラーゼ塩基性1、及びRNAポリメラーゼ塩基性2)(RNP)と共に、核タンパク質(NP)に結合する。RNPの周囲は、RNPの核輸送に関与するマトリックスタンパク質1(M1)の層である。非構造タンパク質1及び2(NS1及びNS2)は、それぞれウイルスタンパク質の発現及び複製の調節に関与しており、NS2も少量存在する(Fermin,Gustavo,and Paula Tennant.Viruses:Molecular Biology,Host Interactions and Applications to Biotechnology,edited by Jerome E.Foster,Elsevier Science&Technology(2018)ProQuest Ebook Central,https://ebookcentral.proquest.com/lib/jhu/detail.action?docID=5322098)。
【0113】
A型及びB型インフルエンザウイルスは、一本鎖RNA(-)の8つのゲノム分節を有し、C型インフルエンザウイルスは、7つのゲノム分節を有する。RNA分節1、2、及び3は、それぞれPB2、PB1、及びPB-A(ウイルスポリメラーゼ複合体Pを含む)をコードし、分節4、5、及び6は、それぞれHA、NP、及びNAタンパク質をコードする。分節7及び8は、各々が重複するリーディングフレームを有する2つのタンパク質をコードする:M1/M2及びNS1/NS2。C型インフルエンザウイルスは、NA遺伝子を欠いているという点で、A型及びB型インフルエンザウイルスとは異なる。各分節は、転写、翻訳、複製、及び分節の新しいウイルス粒子への効率的なパッケージングに不可欠な50及び30の非翻訳領域(UTR)を有する。
【0114】
A型インフルエンザウイルス、B型インフルエンザウイルス、C型インフルエンザウイルスは、ウイルス複製の段階で類似点を共有している。最初の段階は、受容体N-アセチルノイラミン酸(NeuAc)またはシアル酸とウイルスHAとの相互作用による細胞へのウイルス吸着からなる。ヒトウイルスは、典型的には、グリコシドがα2,6タイプの結合でガラクトースに結合するNeuAc相互作用で存在する(トリウイルスは、典型的には、α2,3結合で存在する)。飲ウイルス作用と呼ばれるプロセスでは、ウイルスは、HAのHA1ドメインによって促進される受容体媒介エンドサイトーシスを介して宿主細胞に侵入する。その後、ウイルスは、細胞の小胞体(ER)に輸送される。エンドソーム内でのpHの低下は、HAのHA2ドメインのコンフォメーションの変化につながる。コンフォメーション変化は、ウイルスエンベロープとエンドソーム膜との間の融合を媒介し、その結果、RNPが細胞質に放出される。RNPは、感染した細胞の核に移動する。これは、ウイルスのNPタンパク質のいくつかの核局在化シグナルによって駆動される現象である。核内に入ると、複製イベントが始まり、それによって相補的なRNA(+)(cRNA)が合成され、新しいウイルスRNA(vRNA)を合成するための鋳型として機能すると同時に、ウイルスタンパク質を合成するためのメッセンジャーRNA(mRNA)の鋳型として機能する。mRNAの合成は、キャップスナッチングとして知られるプロセスを通じて行われ、これにより、ウイルスは、ウイルスのmRNA合成のプライマーとして使用するために、細胞のRNAからPAサブユニットを介してキャップを割り当てる。これには、細胞のDNA依存性RNAポリメラーゼ(Pol II)によるプレmRNAの継続的な産生が必要である。ウイルスは、この活性を欠いているため、さらに、いくつかのウイルス産物について、PolIIの転写物スプライシング能力を利用する。
【0115】
複製及び転写を担うウイルスタンパク質には、転写複合体の3つのサブユニット(PB1、PB2、及びPA)ならびにNPが含まれる。この3つのサブユニット複合体は、細胞タンパク質と順次相互作用して、vRNA及びcRNAを合成する。もう1つの重要なウイルスタンパク質はNS1であり、これは非常に早期に発現し、ウイルス遺伝子の発現を調節する上で重要な役割を果たす。これは、細胞性mRNAの合成、したがって感染細胞内での宿主タンパク質の合成を阻害する主要媒介因子である。最終的に、vRNAは、新しく合成されたRNPと会合し、次いで、マトリックスタンパク質(M1)に結合する。vRNA-RNP複合体は、ウイルスNS2タンパク質によって細胞質に輸送される。RNP-M1-NS2複合体は、細胞膜に向けられ、ウイルス表面タンパク質(H、N、及びM2)は、合成されたときに、それぞれ小胞体及びゴルジ体内に置かれる。新しいウイルス粒子の集合は、感染の開始からわずか8時間で、感染した上皮細胞の頂端極で行われる。表面タンパク質の内部キュー及びRNPの両方と相互作用するM1タンパク質は、ウイルス粒子の出芽において重要な役割を果たす。8つのRNA分節が各ウイルス粒子内に含まれる機序は、依然として不明である。NAのシアリダーゼ活性は、細胞表面からのウイルス粒子の放出に寄与する。これは、実際にHとNeuAcとの間の結合を破壊し、それにより凝集体の形成が回避される。典型的には、アポトーシスは、NAタンパク質、NS1タンパク質、及びPB1タンパク質によって誘導される(Fermin,Gustavo,and Paula Tennant.Viruses:Molecular Biology,Host Interactions and Applications to Biotechnology,edited by Jerome E.Foster,Elsevier Science&Technology(2018)ProQuest Ebook Central,https://ebookcentral.proquest.com/lib/jhu/detail.action?docID=5322098)。
【0116】
C)オルソミクソウイルス科感染に対する免疫応答
ヒトサンプルの分析により、インフルエンザ特異的TRMが肺組織内にかなりの数で見られることが明らかになり、これは、自然感染におけるそれらの役割が強調されている。グランザイムB及びCD107aを低レベルで発現しているにもかかわらず、これらのCD8+TRMは、多様なT細胞受容体(TCR)レパートリー、高い増殖能を有し、多機能であった(Muruganandah,V.,Sathkumara,H.D.,Navarro,S.,&Kupz,A.(2018).A Systematic Review:The Role of Resident Memory T Cells in Infectious Diseases and Their Relevance for Vaccine Development.Frontiers in Immunology,9,1574.doi:10.3389/fimmu.2018.01574)。インフルエンザの感染歴は、肺内にCD8+TRMが蓄積することにより、再感染に対する防御レベルが高くなる可能性が高いことを示唆している。さらに、アカゲザルモデルにおけるA型インフルエンザウイルス感染に対する自然免疫応答は、肺内で生成されたインフルエンザ特異的CD8+T細胞の大部分が、CD69+CD103+TRMとして表現型的に確認されたことを実証した。肺実質TRMとは異なり、気道CD8+TRMは、細胞溶解性が低く、迅速かつ強力なIFN-γ応答を生じさせることにより、初期のウイルス複製制御に関与する。バイスタンダーCD8+TRMは、抗原非特異的NKG2D媒介免疫による感染に対する初期免疫応答にも参加し得る。ヘテロ亜型インフルエンザ感染から防御する機能的TRMの生成は、CD4+T細胞からのシグナルに依存していると考えられる(Muruganandah,V.,Sathkumara,H.D.,Navarro,S.,&Kupz,A.(2018).A Systematic Review:The Role of Resident Memory T Cells in Infectious Diseases and Their Relevance for Vaccine Development.Frontiers in Immunology,9,1574.doi:10.3389/fimmu.2018.01574)。
【0117】
CD4+TRMの役割も報告されている。CD8+の対応物と同様に、CD4+TRMも、初期感染時に有意なIFN-γ応答を生み出す。TRMのCD8+及びCD4+サブセットの他に、肺内に存在するNK1.1+ダブルネガティブTメモリー細胞のサブセットも、インフルエンザ感染おいて役割を担っている。まとめると、これらの研究及び他の研究は、最適な防御にはTRMが必要であることを実証している。しかし、皮膚等の他の場所でのTRMとは異なり、肺TRMは、長期間維持されることはない。肺TRMが徐々に失われることが、インフルエンザ感染に対する異型免疫が失われる理由であると考えられる。肺TRMは、アポトーシスに対する感受性が高くなる転写プロファイルを呈する。エビデンスが矛盾するにもかかわらず、肺CD8+TRM集団の維持は、循環CD8+T細胞からの継続的な播種に依存すると考えられる。しかし、時間の経過と共に、循環CD8+T細胞は、TRMに分化する能力を低下させる転写プロファイルとなる。肺内でTRMを生成するための局所抗原の必要性に関しても矛盾するエビデンスがある。マウスモデルにおいて、弱毒生インフルエンザワクチン(FluMist(登録商標))を鼻腔内投与することにより、CD4+及びCD8+の両方のTRMが誘導され、TCM及び抗体とは無関係に、ある程度の系統間防御がもたらされた。PamCys2またはAdjuplex(商標)の鼻腔内投与は、インフルエンザ感染に対する自然応答と比較した場合、同様の数の防御的インフルエンザ特異的肺CD8+TRM及びIFN-γ分泌能を産生する能力を実証している(Muruganandah,V.,Sathkumara,H.D.,Navarro,S.,&Kupz,A.(2018).A Systematic Review:The Role of Resident Memory T Cells in Infectious Diseases and Their Relevance for Vaccine Development.Frontiers in Immunology,9,1574.doi:10.3389/fimmu.2018.01574)。
【0118】
D)オルソミクソウイルスワクチンの開発、課題または失敗
インフルエンザウイルスは、比較的単純なRNA含有ウイルスであり、強い免疫原性を有する表面タンパク質、特にHAを有する。しかし、分節化されたゲノム及びエラーが発生しやすいRNA依存性RNAポリメラーゼにより、これらのウイルスは抗原シフト及び抗原ドリフトを起こし、その結果、ヒト等の様々な哺乳動物及び鳥類の適応免疫応答が回避される。インフルエンザウイルスは、その適応能力のために、この疾患に対する長期持続ワクチンを産生するための取り組みを混乱させ続けている(Bouvier,Nicole M,and Peter Palese.「The biology of influenza viruses.」Vaccine vol.26 Suppl 4,Suppl 4(2008):D49-53)。
【0119】
現在のインフルエンザワクチンによってもたらされる防御は、ウイルス侵入を遮断するために、ウイルス表面タンパク質HAの球状頭部ドメインに対する中和抗体の誘導に大きく依存している。HAヘッドドメインは、インフルエンザウイルスの株(styrain)によって大きく異なるため、現在の季節性ワクチンは、十分に一致する循環ウイルス株に対してのみ有効である (Zhao,C.and Xu,J.,Curr.Op.Immunol.(2018)53:1-6)。
【0120】
他のワクチンについても、取り組みがなされてきた。例えば、タンデムリピートM2eエピトープを有するウイルス様粒子を含むワクチンは、抗体の誘導を通じて異型免疫を生成し、防御はIFN-γ分泌CD8+TRMと相関していた。保存されたインフルエンザ核タンパク質及びマトリックスタンパク質1を発現する改変ワクシニアアンカラベクターウイルスは、CD4+T細胞及びCD8+TRM応答を分泌するIFN-γを誘発した。複製欠陥アデノウイルスベクターを発現するインフルエンザ核タンパク質とによる4-1BBL(CD137シグナル)の鼻腔内経路を介する同時投与は、循環T細胞の動員により、肺CD8+TRM応答を刺激し、ブーストした。Fc融合IL-7の鼻腔内投与は、A型インフルエンザ感染前の前処理として用いられ、致死的チャレンジに対するマウスの防御能力が実証された。Fc融合IL-7は、ポリクローナル循環T細胞を肺に動員し、その後、肺組織に「TRM様細胞」として存在すると考えられる。抗原が、CD103+またはDNGR-1+樹状細胞に対するモノクローナル抗体に結合する抗体標的ワクチン接種戦略も、防御的CD8+TRM応答を誘発することが示されている(Muruganandah,V.,Sathkumara,H.D.,Navarro,S.,&Kupz,A.(2018).A Systematic Review:The Role of Resident Memory T Cells in Infectious Diseases and Their Relevance for Vaccine Development.Frontiers in Immunology,9,1574.doi:10.3389/fimmu.2018.01574)。
【0121】
VI)ポックスウイルス科ウイルス
A)ポックスウイルス科の概要
ポックスウイルスは、脊椎動物または無脊椎動物の細胞質内でのみ複製する、エンベロープを有する、遺伝的に関連し、大きいDNAウイルスの科を含む。最も集中的に研究されているポックスウイルスは、痘瘡ウイルス(天然痘の原因物質、自然から根絶された)、ワクシニアウイルス(VACV;現在ブラジルで流行している現代の天然痘ワクチン)、牛痘ウイルス(元の天然痘ワクチン、欧州原産、ヒトに感染する場合もある)、及びサル痘ウイルス(アフリカ原産、ヒト天然痘様疾患を引き起こす)等、Orthopoxvirus属に属している(Moss,Bernard.「Poxvirus cell entry:how many proteins does it take?」Viruses vol.4,5(2012):688-707.doi:10.3390/v4050688)。
【0122】
i)痘瘡ウイルス(天然痘)
ワクシニアウイルスは、痘瘡ウイルスと同じ科のオルトポックスウイルス属のポックスウイルスであり、通常、免疫適格個体において、非常に軽度であるかまたは無症候性の感染症を引き起こす。ワクシニアウイルスに対する免疫はまた、天然痘に対する十分な防御を提供し、これにより、生ワクシニアウイルス投与後のその根絶が可能になった。天然痘は、消失したにもかかわらず、ウイルスが生物兵器として使用される可能性があることを考慮して、依然として、世界的な議題の優先事項である。この理由及びベクターとして機能するその能力のために、ワクシニアウイルスは、研究において使用され続けている(Muruganandah,V.,Sathkumara,H.D.,Navarro,S.,&Kupz,A.(2018).A Systematic Review:The Role of Resident Memory T Cells in Infectious Diseases and Their Relevance for Vaccine Development.Frontiers in Immunology,9,1574.doi:10.3389/fimmu.2018.01574)。
【0123】
B)ポックスウイルスの構造ベースの機能分析
ポックスウイルス、具体的にはオルソポキシウイルスは、約200,000bp長であり、約200のタンパク質をコードする二本鎖DNAゲノムであり、そのほとんどは、種間で90%以上の配列同一性を有する。多数のVARV単離株及び他のOPXVの完全なゲノム配列が利用可能である。すべてのOPXVは、侵入、遺伝子発現、ゲノム複製、ビリオン集合等の重要な機能のために相同タンパク質をコードするが、免疫回避及び他の宿主相互作用に関与するタンパク質に関しては違いがある。基本的な感染性ポックスウイルス粒子は、成熟ビリオン(MV)であり、これはゲノムを含む核タンパク質コア及び完全な初期転写システムで構成され、側面に隣接し、リポタンパク質エンベロープに囲まれている。MVのサブセットは、改変されたゴルジまたはエンドソーム膜に囲まれ、微小管上の細胞周辺に輸送され、エンベロープビリオン(EV)としてエキソサイトーシスによって放出される。EVは、タンパク質組成に他の小さな違いはあるが、8つのEV特異的ウイルスタンパク質を含む追加のリポタンパク質膜を備えたMVからなる。ほとんどのEVは、依然として原形質膜に付着しており、動物の毒力にとって重要な長いアクチン含有微絨毛の先端で細胞間拡散を媒介する(Moss,Bernard.「Smallpox vaccines:targets of protective immunity.」Immunological Reviews vol.239,1(2011):8-26.doi:10.1111/j.1600-065X.2010.00975.x)。
【0124】
4つのタンパク質により、MVの細胞への付着が可能になる。A27タンパク質は、MVの表面に三量体及び六量体として存在し、ヘパラン及び細胞表面のプロテオグリカンに結合する。別のMV表面タンパク質であるH3も、ヘパラン及び細胞表面のプロテオグリカンに結合する。D8は、コンドロイチン硫酸に結合するMV表面タンパク質である。4番目の付着タンパク質であるA26は、A27と物理的に会合し、細胞表面のラミニンに結合する。細胞膜との融合及び細胞質へのコアの侵入には、侵入融合複合体またはEFCとして知られる複合体を形成する少なくとも12の追加のMV膜貫通タンパク質が必要である。いくつかの既知の侵入タンパク質が存在する。EVの外表面に露出している膜貫通タンパク質としては、A33、A34、A36、A56赤血球凝集素、及びB5が挙げられる(Moss,Bernard.「Smallpox vaccines:targets of protective immunity.」Immunological Reviews vol.239,1(2011):8-26.doi:10.1111/j.1600-065X.2010.00975.x)。
【0125】
C)ポックスウイルス科ウイルスに対する免疫応答
ポックスウイルス感染症は、一般に、良性の皮膚病変をもたらす限局性感染症、またはウイルスの播種及び通常は死をもたらす全身性感染症の2つの経路のいずれかに従う。伝染性軟腫症ウイルス(MCV)及びショープ線維腫ウイルス(SFV)感染の局所病因は十分に立証されている。感染に対する病因及び宿主の応答はかなり異なるが、両方のポックスウイルス病は、自己限定的であり、依然として、皮膚に限局している。しかし、一般的な感染症はいくつかの段階を特徴とし、ウイルス性病変の爆発で終結する。マウスのエクトロメリアウイルス感染は、通常は、足蹠からの皮膚の感染から始まる。ある程度の複製の後、ウイルスは、局所リンパ管を通って血流に拡散され、原発性ウイルス血症を引き起こす。その後、ウイルスは、脾臓及び肝臓内で、高力価まで複製され、その後、血液に再侵入し、二次ウイルス血症を引き起こす。最後に、ウイルスは皮膚に拡散され、潰瘍性病変の重度の発疹が、マウス上に非常に急速に広がる。ヒトにおける痘瘡ウイルス感染の疾患進行は、同様に起こり、高い死亡率を伴う(Smith,S.,and Kotwa,G.,「Immune Response to Poxvirus Infections in Various Animals.」Critical Reviews in Microbiology vol.28,3(2002):https://doi.org/10.1080/1040-840291046722)。
【0126】
脊椎動物の獲得免疫系の体液性免疫及び細胞性免疫(CMI)の両方の成分が、共同で感染に対する宿主の応答に関与するが、CMIは、ポックスウイルス感染細胞のクリアランスに特に重要である。効果的なCMI応答には、ナチュラルキラー(NK)細胞等の自然エフェクター細胞と、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)等の教育を受けたエフェクター細胞との両方が、ウイルスが複製及び拡散され得る前に、感染細胞を迅速に識別して排除する必要がある。一部のウイルスは、ウイルスステルス(virostealth)と呼ばれる戦略である、感染の外向きの徴候のマスキング等、CMI応答の効率を低下させる機序を進化させてきた(BT et al,Annu.Rev.Immunol(2003)21:377-423);DOI:10.1146/annurev.immunol.21.120601.141049を参照されたい)。ポックスウイルスは、インターフェロン、腫瘍壊死因子、インターロイキン、補体、及びケモカイン等、自然免疫の主要媒介因子の多くを標的とする。ポックスウイルスはまた、アポトーシス応答等、様々な細胞内シグナル伝達経路を操作する(同上)。
【0127】
マウスモデルは、TRMがワクシニアに応答して生成され、感染に対する防御を媒介する上で重要な役割を果たすことを示している。皮膚に存在するγδT細胞は、皮膚ワクシニア感染に対する免疫応答にも関与している。皮膚感染後、CD8+T細胞は、CD4T+細胞及びIFN-γとは独立して動員され、これらの多くは、その後TRM表現型を想定し、再刺激時に、強力な炎症応答を開始することができる。局所ワクシニア皮膚接種は、TRMが長期持続する遠隔部位であっても、皮膚組織に全体的に播種することができ、肺及び肝臓等、無関係な非リンパ器官でTRM応答を生じさせ得る。同族ウイルス抗原への複数回の曝露も、TRMを選択的に拡大させることが示されている(Muruganandah,V.,Sathkumara,H.D.,Navarro,S.,&Kupz,A.(2018).A Systematic Review:The Role of Resident Memory T Cells in Infectious Diseases and Their Relevance for Vaccine Development.Frontiers in Immunology,9,1574.doi:10.3389/fimmu.2018.01574)。
【0128】
ワクシニアの肺感染モデルでは、ウイルス負荷量の急速な減少によって示されるように、肺TRMの数が多いことは、その後の感染に対する防御の向上と相関する。TRMは、循環する対応部分と比較した場合、5-エチニル-2’-デオキシウリジン増殖アッセイによって示されるように、より急速に拡大し、感染部位に局在するようである。αCD8抗体の鼻腔内投与による肺CD8+T細胞の枯渇は、以前に防御されたマウスが感染に対する感受性が高くなる結果となり、これは、CD8+TRMが免疫の媒介に重要な役割を果たすことを示している。別の研究では、パラバイオーシス実験により、TRMは、TCMよりも短い時間枠でワクシニアウイルスの皮膚感染を除去するのに優れていることが示された。実際に、中和抗体及びセントラルメモリーT細胞(TCM)がなくても、皮膚TRMは、ワクシニア皮膚感染症を除去できると考えられる(Muruganandah,V.,Sathkumara,H.D.,Navarro,S.,&Kupz,A.(2018).A Systematic Review:The Role of Resident Memory T Cells in Infectious Diseases and Their Relevance for Vaccine Development.Frontiers in Immunology,9,1574.doi:10.3389/fimmu.2018.01574)。
【0129】
しかし、ワクシニア特異的CD8+皮膚TRMは、多菌性敗血症感染の間に循環エフェクター細胞を動員する能力が損なわれていると考えられる。ワクシニア肺感染症の研究により、すべてのTRMが等しく防御を付与ができるわけではないことが明らかになった。例えば、肺間質に存在するTRMは、組織血管系に関連して位置するTRMと比較した場合、接触依存的方法で、感染した肺細胞を迅速に死滅させるのに良好な位置にあった(Muruganandah,V.,Sathkumara,H.D.,Navarro,S.,&Kupz,A.(2018).A Systematic Review:The Role of Resident Memory T Cells in Infectious Diseases and Their Relevance for Vaccine Development.Frontiers in Immunology,9,1574.doi:10.3389/fimmu.2018.01574)。さらに、間質内に見られるTRMは、血管関連のTRMとは異なり、CD69の発現を上方制御することができ、初期感染中に応答する能力が強化されていることを示している可能性がある。皮膚の皮膚切除及び鼻腔内曝露等の上皮免疫経路は、防御的TRM応答を生じさせるための重要な有効性を示している(Muruganandah,V.,Sathkumara,H.D.,Navarro,S.,&Kupz,A.(2018).A Systematic Review:The Role of Resident Memory T Cells in Infectious Diseases and Their Relevance for Vaccine Development.Frontiers in Immunology,9,1574.doi:10.3389/fimmu.2018.01574)。
【0130】
D)ポックスウイルス科ワクチンの開発、課題または失敗
ポックスウイルス、特にワクシニアウイルスのワクチンが開発され、1980年に天然痘の世界的根絶につながった。しかし、これにより、天然痘に対するワクチン接種が停止され、それによって人口は、天然痘病に対する感受性が高まる可能性があった。また、動物の天然痘に対するワクチンとしてのVACCの製造中に、集団がVACVのスピルオーバーの影響を受けやすくなった。新たに出現したポックスウイルス感染、特にVACV様ウイルス、すなわちバッファロポックスウイルス(BPXV)、アラカトゥーバウイルス、カンタガロウイルス、グアラニウイルス、パサテンポウイルス、ベロホリゾンテウイルス、SPAn232ウイルス、BeAn 58058ウイルス(BAV)が、動物及びヒトにおいて報告されている。同様に、動物及びヒトにおけるサル痘ウイルス及びオルフウイルスが高頻度で記録されている。しかし、これらのウイルス用に開発されたワクチンは交差防御が奏功しないため、その後の感染の制御に実質的な影響を有さないことがわかっている(Veerkyathappa,B.,et a.,「Animal poxvirus vaccines:a comprehensive review.」Expert Review of Vaccines(2012)11(11):1355-1374を参照されたい)。
【0131】
さらに、皮膚切除によるワクチン接種は、臨床疾患(皮膚のポック病変)から防御できるが、全身経路(例えば、筋肉内及び腹腔内)を介してワクチン接種されたすべてのマウスが、ポック病変から防御されるわけではない。さらに、皮膚切除によって免疫化されたマウスは、抗体価の低下が生じたにもかかわらず、皮下または腹腔内により免疫化されたマウスと比較して、異種経路(鼻腔内)を介してチャレンジされた場合、疾患に対するより大きい耐性を示した(Muruganandah,V.,Sathkumara,H.D.,Navarro,S.,&Kupz,A.(2018).A Systematic Review:The Role of Resident Memory T Cells in Infectious Diseases and Their Relevance for Vaccine Development.Frontiers in Immunology,9,1574.doi:10.3389/fimmu.2018.01574)。
【0132】
VII)ラブドウイルス科ウイルス
A)Rhabdoviridaeの概要
ラブドウイルス科としては、ベシクロウイルス、エフェメロウイルス、リッサウイルス属が挙げられ、これらは、成人男性等、幅広い哺乳動物に感染し、伝播は、一般的にベクター媒介性であり、典型的には、吸血性の昆虫または動物(血液を食べるものを意味する)である。リッサウイルス属には、7つの認識された遺伝子型または種があり、ヒトにとって最も重要なのは、狂犬病ウイルス(RABV)である。
【0133】
ii)狂犬病ウイルス(RABV)
リッサウイルス属のメンバーである狂犬病ウイルスは、感染した動物によって、典型的には、損傷した皮膚の咬傷、引っ掻くこと、またはなめることによって、または粘膜に感染性物質(すなわち、唾液または涙液)を投射することによってヒトに伝播する。アフリカ及びアジアで高い有病率で見られるが、治療は、ほとんどない。毎年、狂犬病の疑いのある動物に曝露した後、少なくとも1,500万人が治療を受けている。しかし、WHOの推定によると、アジア及びアフリカでは、依然として55,000人が死亡している。この疾患の主な貯蔵庫は、イヌであるが、食肉目及び翼手目の他のいくつかの種は、リッサウイルスの異なる種(または遺伝子型)の貯蔵庫としても作用する。
【0134】
B)ラブドウイルスの構造ベースの機能分析
ラブドウイルスのようなすべてのモノネガウイルスは、約9kから19kbのサイズが2倍異なる単一部分ゲノムを用いている。モノネガウイルス目のアンチゲノムレプリカは、別個のオープンリーディングフレーム(ORF)内に置かれたいくつかの位置的に保存された遺伝子をコードしており、異なる系統に固有の遺伝子が散在している可能性がある。ゲノムの3‘-から5‘-末端までのバックボーン遺伝子の順序は、N-P-M-G-Lであり、ここで、Nは、核タンパク質であり、P-リンタンパク質、M-マトリックスタンパク質、G-糖タンパク質、L-ラージタンパク質(ポリメラーゼとしても知られている)である。最初の4つの遺伝子の産物は、エンベロープビリオンを形成する主要なタンパク質を生成し、一部のウイルスでは、他の名前で知られている場合がある。L遺伝子は、ビリオンに関連し、ウイルスゲノムの複製及び発現を媒介する推定上のRNA依存性RNAポリメラーゼを含むマルチドメインタンパク質をコードする。
【0135】
C)ラブドウイルス感染に対する免疫応答
リッサウイルス属のすべてのメンバーと同様に、狂犬病ウイルスは、神経向性であり、咬傷後、咬傷部位に近い末梢神経に感染する。次に、ウイルスは、逆行性軸索輸送によって後根神経節に移動し、そこでウイルス複製が検出可能になる。この移動は、非常に速くなり得る:培養ラット感覚ニューロン内の狂犬病ウイルスの軸索原形質輸送は、12~24mm/日に達する。それは、グリアに取り込まれることなく、二次以降のニューロンに渡される前に、末梢ニューロンによって逆行的に輸送される(Research Advances in Rabies,Elsevier Science&Technology(2011).ProQuest Ebook Central,https://ebookcentral.proquest.com/lib/jhu/detail.action?docID=710669 at pages 33-53)。
【0136】
見たところ、身体は、神経系(NS)に到達するまでRABVを検出しない。NS自然系は、ミクログリア、星状細胞、及びニューロン等の細胞で構成されており、toll様受容体(TLR)またはレチノイン酸誘導性遺伝子-1(RIG-1様受容体;RLR)等の受容体を発現し、RABVによってコードされた危険シグナル及びPAMPSを認識して応答することができ、それによってI型IFN(主に脳内のIFN-ベータであり、IFN-アルファ及びIII型IFN-ラムダはない)の産生を引き起こす(Research Advances in Rabies,Elsevier Science&Technology(2011)ProQuest Ebook Central,https://ebookcentral.proquest.com/lib/jhu/detail.action?docID=710669 at pages 33-53)。
【0137】
感染症は、高度な神経障害の原因であり、ワクチンの数回投与及び受動免疫予防からなる曝露後予防(PEP)の適時の投与がない場合は常に致死的である。しかし、症状が現れると、曝露後予防は無効になり、特定の治療法は利用できなくなる。さらに、PEPの開始と曝露との間に遅延がある場合には、PEP投与は、有効性が低下し、症状の発症後には有効性がなくなる。
【0138】
i)ラブドウイルス科ウイルス感染に対するT細胞応答
典型的には、神経系の感染は、T細胞に浸潤することによって制御される。例えば、感染したNSは、病原体に応答するCD8+細胞を引き付けるケモカインを産生する。感染では、狂犬病ウイルスに感染したニューロンでは、ウイルス抗原が大量に負荷されているにもかかわらず、移動するT細胞がアポトーシスを起こしていることが研究によって示されている(Research Advances in Rabies,Elsevier Science&Technology,(2011)ProQuest Ebook Central,https://ebookcentral.proquest.com/lib/jhu/detail.action?docID=710669 at page 34)。
【0139】
単核白血球、単球及びマクロファージは、感染時に神経系に動員される。活性化されると、表面接着分子を発現する末梢からのT細胞及びB細胞は、神経系に侵入する能力を有する。この侵入は、血液脳関門の完全性とは無関係である。神経系に侵入後、移動性免疫細胞は、生存にとって好ましくない状態に直面し、T細胞活性を制限する。T細胞の活性は、例えば、血管腸ペプチド、カルシトニン遺伝子関連ペプチド、ノルエピネフリン、及びα-メラノサイト刺激ホルモン等のニューロンによるいくつかの神経ペプチド及び神経伝達物質の分泌によって制限される可能性があり、これらはT細胞の活性を下方制御する。さらに、RABV感染脳は、カルシトニン関連遺伝子ペプチド、ソマトスタチン、及び血管腸ペプチドの発現を上方制御することが確認されている。これらの3つの分子は、NS内のT細胞活性の制限に寄与することが知られている。
【0140】
さらに、RABVは、T細胞の表面にある対応する死受容体、CD8、Fas、及びPD-1とそれぞれ相互作用する場合、活性化されたT細胞で死のシグナル伝達を引き起こす宿主細胞の表面上の死リガンドであるHLA-G、Fas-L、及びB7-H1の発現を上方制御することにより、T細胞免疫を回避する。RABVはまた、死の発現を上方制御することにより、T細胞をアポトーシス経路に駆動する。
【0141】
D)ラブドウイルスワクチンの開発
ワクチン接種は、ウイルスへの曝露の前または直後に投与された場合、疾患の予防に非常に効果的である。初期のRABVワクチンは、様々な動物源の神経組織に由来し、世界中で効果的で入手可能な金額であった。しかし、このタイプのワクチンに含まれるミエリン塩基性タンパク質の含有量が高いと、少数の致死的脳炎の症例が生じるため、これらのタイプのワクチンの使用は推奨されていない。
【0142】
現在のワクチンは、連続細胞株中で成長した不活化ウイルスからなる。英国では、Aventis Pasteurによって製造されたヒト二倍体細胞ワクチン(HDCV)及びChironによって製造された精製ニワトリ胚細胞ワクチン(PCECV)の2つのワクチンがヒト用に認可されている(Scott,T.P.,&Nel,L.H.(2016).Subversion of the Immune Response by Rabies Virus.Viruses,8(8),231.doi:10.3390/v8080231)。
【0143】
医療従事者及び実験室作業者、狂犬病流行地域への旅行者に与えるような曝露前ワクチン接種は、3回(0日、7日、及び28日)筋肉内投与する。免疫グロブリンM(IgM)は、HDCVの接種後4日以内に検出可能であり、IgGは7日目に現れる。追跡調査では、ワクチン接種後最大2年間応答が持続することが示されている。受動伝達研究は、おそらくIgMが組織に浸透できないために、IgGが疾患に対する最も効果的な防御を提供することを示唆している。狂犬病の予防には、曝露後の迅速な治療または予防(PEP)が、唯一の効果的な治療法である(Scott,T.P.,&Nel,L.H.(2016).Subversion of the Immune Response by Rabies Virus.Viruses,8(8),231.doi:10.3390/v8080231)。
【0144】
曝露前ワクチン接種とは異なり、世界保健機関(WHO)が曝露後予防(PEP)のために推奨するレジメンは、短期間のワクチンへの集中的再曝露からなる。例えば、標準的コースは、0日目、2日目、7日目、14日目、及び28日目に筋肉内接種を繰り返すことである。代替レジメンは、より少量のワクチンを使用できる皮内接種を使用するため、供給源が制限されている場合は、より費用効果が高くなる。このアプローチは、特にアジアで広く受け入れられている。筋肉内経路での皮内ワクチン接種に対する応答の改善は、皮膚からの抗原提示の改善に起因すると考えられているが、この説明は、RABVについては実験的に実証されていない(Scott,T.P.,&Nel,L.H.(2016).Subversion of the Immune Response by Rabies Virus.Viruses,8(8),231.doi:10.3390/v8080231)。
【0145】
ヒトモノクローナル抗体のカクテルが開発された(Bakker,A.B.,et al.(2005)。新規のヒトモノクローナル抗体の組み合わせは、天然の狂犬病ウイルスバリアント及び個々のインビトロエスケープ変異体を効果的に中和する9J Virol 79,9062-8)が、その安全性、忍容性、及び中和活性を確認するデータが不足している(Bakker,AB,et al,(2008)「First administration to humans of a monoclonal antibody cocktail against rabies virus:safety,tolerability,and neutralizing activity」Vaccine 26,5922-7;de Kruif,J.,et al.(2007).A human monoclonal antibody cocktail as a novel component of rabies postexposure prophylaxis.Annu Rev Med 58,359-68)。
【0146】
狂犬病患者に有効な治癒的治療法を開発するために多くの労力が費やされてきたが、これまでのところ効果的な治療法は見出されていない。これまでのところ、狂犬病ウイルスに対して活性を発揮する分子はほとんど報告されていない。
【0147】
II)ヘルペスウイルス科ウイルス
A)ヘルペスウイルス科の概要
ヘルペスウイルス科は、様々な宿主の主要な病原体を含む重要なウイルス科である。DNAウイルスとして知られるこの科には、ヒトに感染することが知られている少なくとも8種類のウイルスが含まれる。この科にはさらに、家畜産業及び競争産業等、世界中の経済にとって重要な他の哺乳動物に感染し、深刻な経済的損失を引き起こす可能性のある複数の種が含まれている(Sharma,V.,et al.,Comparative Genomics of Herpesviridae Family to Look for Potential Signatures of Human Infecting Strains.Int J Genomics. 2016;2016: 9543274)。
【0148】
ヘルペスウイルス科としては、アルファヘルペスウイルス亜科、例えば、口語体で水疱瘡及び帯状疱疹として知られている疾患を引き起こす水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)、ヒトヘルペスウイルス-1(HHV-1)、単純ヘルペスウイルス-1(HSV-1)、ヒトヘルペスウイルス-2(HHV-2)、単純ヘルペスウイルス-2(HSV-2)、ヒトヘルペスウイルス-3(HHV-3)、単純ヘルペスウイルス-3(HSV-3)、ウシヘルペスウイルス-1(BHV-1)、ウシヘルペスウイルス-5(BHV-5)、ウマヘルペスウイルス1(EHV-1)、ウマヘルペスウイルス3(EHV-3)、ウマヘルペスウイルス4(EHV-4)、ウマヘルペスウイルス8(EHV-8)、及びウマヘルペスウイルス9(EHV-9)のウイルスが挙げられる(Davison AJ.Overview of classification.:Arvin A,Campadelli-Fiume G,Mocarski E,et al.,editors.Human Herpesviruses:Biology,Therapy,and Immunoprophylaxis.Cambridge:Cambridge University Press(2007)Chapter 1.入手元:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK47406/)。
【0149】
さらに、ヘルペスウイルス科には、エプスタイン-バーウイルスとしても知られるヒトヘルペスウイルス-4(HHV-4)、ウマヘルペスウイルス2(EHV-2)、ウマヘルペスウイルス5(EHV-5)、及びウマヘルペスウイルス7(EHV-7)等のガンマヘルペスウイルス科の亜科のウイルスも含まれる(Davison AJ.Overview of classification.:Arvin A,Campadelli-Fiume G,Mocarski E,et al.,editors.Human Herpesviruses:Biology,Therapy,and Immunoprophylaxis.Cambridge:Cambridge University Press(2007)Chapter 1.入手元:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK47406/)。
【0150】
i)水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)
鶏痘の原因物質である水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)は、後根神経節内に潜伏期を確立し得るアルファヘルペスウイルスである。ウイルスの再活性化は、帯状疱疹と呼ばれる痛みを伴う疾患をもたらす(Muruganandah,V.,Sathkumara,H.D.,Navarro,S.,&Kupz,A.(2018).A Systematic Review:The Role of Resident Memory T Cells in Infectious Diseases and Their Relevance for Vaccine Development.Frontiers in Immunology,9,1574.doi:10.3389/fimmu.2018.01574)。
【0151】
ii)単純ヘルペスウイルス(HSV)
HSV-1及びHSV-2は、密接に関連しており、アミノ酸レベルで、80%を超える同一性を共有している。HSVは、肛門性器及び口腔域の皮膚及び粘膜内層に侵入する神経向性ウイルスである。HSVは、表皮、特に最外側の角質層が薄い場合(例えば、陰唇、内側包皮、顔の唇)、存在しない場合(例えば、直腸、子宮頸内膜、膣等)、または外傷性に破壊されている場合に浸透することができる(Sandgren,K.,et al.,「Understanding natural herpes simplex virus immunity to inform next-generation vaccine design.」(2016)Clinical&Translational Immunology5(7))。HSV-1伝播は、主に経口であり、HSV-2は、主に生殖器である。伝播には、密接な接触が必要である(Whitley RJ.Herpesviruses.:Baron S,editor.Medical Microbiology.4th edition.Galveston(TX):University of Texas Medical Branch at Galveston(1996).Chapter68.入手元:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK8157/)。
【0152】
HSV-1感染は、広範囲に及び、その血清陽性は、世界人口の70%以上を網羅している可能性がある。発展途上国では、HSV-1感染は、普遍的であり、幼児期の親密な接触から獲得される。HSV-1は、新生児の致命的な播種性疾患、口唇ヘルペス、眼疾患、及び成人の致死的脳炎等、人生のあらゆる段階で重篤な疾患を引き起こし得る(Zhang,Jie et al.「Immune response of T cells during herpes simplex virus type 1(HSV-1)infection.」Journal of Zhejiang University.Science.B vol.18,4(2017):277-288.doi:10.1631/jzus.B1600460)。HSV1/2によって引き起こされる性器ヘルペスは、現在最も一般的な性感染症であり、新生児に重篤な疾患を引き起こす。さらに、HSV1は、西欧諸国における感染性失明の主因である。以前のHSV2感染は、HIV感染のリスクを世界的に2倍から3倍増加させる(Sandgren,K.,et al.,「Understanding natural herpes simplex virus immunity to inform next‐generation vaccine design.」(2016)Clinical&Translational Immunology 5(7))。
【0153】
iii)ウシヘルペスウイルス(BHV)
感染性ウシ鼻気管炎ウイルスとしても知られるウシヘルペスウイルス1型(BHV-1)は、アルファヘルペスウイルス亜科に属し、HSV-1及びHSV-2と複数の生物学的特性を共有している。BHV-1感染症は、結膜炎、肺炎、生殖器障害、流産、及び輸送熱と呼ばれる上気道感染症を引き起こし得る。BHV-1は、輸送熱に関連する唯一の感染性病原体ではないが、感染したウシを免疫抑制することによって障害を開始させる。BHV-1誘導免疫抑制は、肺炎を引き起こす可能性のある二次的な細菌感染(例えば、Pasteurella haemolytica、Pasteurella multocida、及びHaemophilus somnus等)を高頻度で引き起こす(Clinton Jones,「Herpes Simplex Virus Type 1 and Bovine Herpesvirus 1 Latency」Clinical Microbiology Reviews.(2003)16(1)79-95)。
【0154】
米国のウシ産業では、BHV-1感染に、年間少なくとも5億ドルの費用を費やす。ワクチンは、入手可能であるが、ウイルスはまだ若いウシに疾患を引き起こし、ウシに流産を引き起こすことが知られている(同上)。
【0155】
iv)ウマヘルペスウイルス(EHV)
9種のEHVが報告されている。種EHV1、EHV3、EHV4、EHV8、及びEHV9は、Varicellovirus属、Alphaherpesvirinae亜科、Herpesvirales目Herpesviridae科に分類されている。EHV2及びEHV5種は、新しい属Percavirus、Gamaherpesvirinae亜科、Herpesvirales目Herpesviridae科に分類されている。種EHV6及びEHV7は、それぞれ、Alphaherpesvirinae亜科及びGammaherpesvirinae亜科の種として暫定的に置かれている。9つのヘルペスウイルスのうち5つのみ(すなわち、EHV1、2、3、4及び5)が、ウマにおいて、疾患を生じさせる能力を有する。EHV3は、媾疹の原因であり、EHV2及びEHV5は、特定の疾患とは関連していないが、上気道疾患、食欲不振、リンパ節症、免疫抑制、角結膜炎、全身倦怠感、及び活動度低下と引き続き関連し得る。EHV1及びEHV4はいずれも、世界中のウマの気道に影響を与える経済的に重要なウイルスである。しかし、EHV1のみが流産及び神経障害を引き起こす(Kapoor et al.,Equine Herpesviruses:A Brief Review.(2014)Advances in Animal and Veterinary Sciences 2(2S):46-54)。
【0156】
B)ヘルペスウイルス科ウイルスの構造ベースの機能分析
ヘルペスウイルス科のビリオンは、球形であり、コア、カプシド、テグメント、及びエンベロープの4つの主要な成分で構成されている。ビリオンの直径は、ウイルス種によって異なり、約200nmである。コアは、カプシドに高密度でパッケージされた線状の二本鎖DNA分子の単一コピーで構成されている(Davison AJ.Overview of classification.:Arvin A,Campadelli-Fiume G,Mocarski E,et al.,editors.Human Herpesviruses:Biology,Therapy,and Immunoprophylaxis.Cambridge:Cambridge University Press(2007)Chapter 1.入手元:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK47406/)。イコソヘドラルヘルペスウイルスカプシドは、5つのヘルペスウイルス保存タンパク質、主要カプシドタンパク質(MCP、HSV-1UL19遺伝子産物)、トリプレックスモノマー及びダイマータンパク質(それぞれTRI1及びTRI2、HSV-1 UL38及びUL18遺伝子産物)、最も小さいカプシドタンパク質(SCP、HSV-1 35遺伝子産物)及びポータルタンパク質(PORT、HSV-1 UL6遺伝子産物)で構成されている(Mocarski Jr.ES.Comparative analysis of herpesvirus-common proteins.:Arvin A,Campadelli-Fiume G,Mocarski E,et al.,editors.Human Herpesviruses:Biology,Therapy,and Immunoprophylaxis.Cambridge:Cambridge University Press(2007)Chapter 4.入手元:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK47403/)。
【0157】
HSV-1は、エンベロープを有し、核を複製する、大きい二本鎖DNAウイルスである。HSV-1のゲノムは、約152kbの線形二本鎖GCリッチDNA配列であり、少なくとも84のタンパク質をコードする長い固有領域(UL)及び短い固有領域(US)と呼ばれる2つの固有領域を含む。HSV-1のゲノムは、テグメントタンパク質のグループに囲まれたヌクレオカプシド内にある。ヌクレオカプシド及びテグメントタンパク質は、新しい感受性細胞への結合及び侵入に重要な糖タンパク質が点在する脂質エンベロープに囲まれている。HSV-1の生活環の主要ステップは、宿主細胞への侵入、ウイルス遺伝子の発現、ゲノムの複製、ビリオンの集合、及び新しい感染性ウイルスの放出である。HSV-1の遺伝子の3つのクラスは、前初期(IE)遺伝子、初期遺伝子、及び後期遺伝子を含む連続した方法で発現する。IE遺伝子産物は、初期遺伝子及び後期遺伝子の発現を調節する(Zhang,Jie et al.「Immune response of T cells during herpes simplex virus type 1(HSV-1)infection.」Journal of Zhejiang University.Science.B vol.18,4(2017):277-288.doi:10.1631/jzus.B1600460)。
【0158】
HSV-1の細胞への結合及び細胞への侵入は、ウイルス糖タンパク質と細胞因子によって媒介される。ウイルス侵入の細胞媒介因子(HveAまたはHVEM)は、主に活性化T細胞内で発現し、腫瘍壊死因子(TNF)受容体科に属する。HSV-1の上皮細胞及び他の非リンパ系細胞への侵入は、ポリオウイルス受容体(HveB及びHveC)に似ている無関係の膜糖タンパク質によって媒介される。HveCは、これまでに試験されたすべてのヘルペスウイルス(HSV-1、BHV-1、及び偽狂犬病ウイルス、PRV等)の侵入媒介因子として活性である。HveCは、ニューロンで豊富に発現しており、いくつかのニューロン様細胞株へのウイルス侵入を阻止できる。コーティングを外した後、ウイルスゲノムが核内に存在し、ウイルス遺伝子の発現が起こる。HSV-1遺伝子発現は、3つの異なる段階:前初期(IE)、初期(E)、及び後期(L)で一時的に調節される。IE RNAの発現は、タンパク質合成を必要とせず、テグメントタンパク質VP16及び活性サイクリン依存性キナーゼによって刺激される。E RNAの発現は、少なくとも1つのIEタンパク質に依存しており、一般にE遺伝子は、ウイルスDNA合成において、ある役割を担う非構造タンパク質をコードする。L RNAの発現は、ウイルスDNA複製後に最大になり、IEタンパク質の発現が必要である。ほとんどのLタンパク質が、ビリオン粒子を構成する構造タンパク質である(Clinton Jones,「Herpes Simplex Virus Type 1 and Bovine Herpesvirus 1 Latency」(2003)Clinical Microbiology Reviews,16(1)79-95)。
【0159】
C)ヘルペスウイルス科ウイルス感染に対する免疫応答
HSVは、表皮角化細胞及びランゲルハンス細胞(LC;樹状細胞(DC)の一種)に産生により感染する。次に、皮膚の神経終末に入り、軸索に沿って脊椎に近い神経細胞の集まりである後根神経節に輸送され、生涯潜伏感染を確立する。定期的な再活性化後、ウイルスは、ニューロンに沿って粘膜に戻され、そこで再発性病変を引き起こすか、無症状で排出される(Sandgren,K.,et al.,「Understanding natural herpes simplex virus immunity to inform next‐generation vaccine design.」(2016)Clinical&Translational Immunology 5(7))。
【0160】
鶏痘及び帯状疱疹の両方に対してワクチンが利用可能である、近年のエビデンスでは、TRM細胞が、現在のワクチンを改善するために活用され得る現象である、潜伏感染の制御において、重要な役割を果たし得ることが示唆されている。ある研究では、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)陽性が血清学的に確認された、様々な年齢のヒトドナーからの皮膚サンプルを分析した。サンプリングされた組織のT細胞の80~90%がCD69を発現しており、これは、皮膚のT細胞の大部分がTRM細胞であったことを示唆している。刺激されたVZV特異的T細胞からのIL-2応答は、宿主の年齢が応答細胞の数に影響を与えなかったことを実証するものであった。しかし、高齢ドナーの皮膚は、VZV抗原でチャレンジしたときに、臨床応答を開始する能力が低く、CD4+T細胞の浸潤が減少することがわかった。これは、Foxp3+細胞の比率が高いことと相関していた。さらに、古い皮膚のTRMは、PD-1をより多く発現した。まとめると、このデータは、VZV特異的TRMが年齢と共に抑制され得ることを示唆するものであり、これは、高齢個体におけるVZVの再活性化の高い発生率を説明し得る。ヒト三叉神経節のサンプルを利用した別の研究の結果は、TRMが三叉神経節の潜伏感染を制御する役割を担っていないことを示唆している(Muruganandah,V.,Sathkumara,H.D.,Navarro,S.,&Kupz,A.(2018).A Systematic Review:The Role of Resident Memory T Cells in Infectious Diseases and Their Relevance for Vaccine Development.Frontiers in Immunology,9,1574.doi:10.3389/fimmu.2018.01574)。
【0161】
HSV-1感染中に、ウイルス特異的CD8+TRM細胞が神経節及び粘膜の両方で作製される。CD8+TRM細胞は、非リンパ組織コンパートメント中に長期間存在し、脳、腎臓、関節、及び他の非バリア組織中に存在し、自然免疫及び獲得免疫を引き起し得る。理論に制限されるものではないが、CD8+TRM細胞は、エフェクター分子IFN-γ及びグランザイムB(GrB)を発現する可能性がある。これらの細胞は、循環しているCD8+T細胞プールからは補充されない(Zhang,Jie et al.「Immune response of T cells during herpes simplex virus type 1(HSV-1)infection.」Journal of Zhejiang University.Science.B vol.18,4(2017):277-288.doi:10.1631/jzus.B1600460)。
【0162】
マウスの眼のHSV-1感染時に、メモリーCD8T細胞は、潜在的に感染した感覚神経節に選択的に蓄積する。C57BL/6マウスでは、感覚神経節に見られるCD8T細胞の大部分は、糖タンパク質B由来のHSV-1エピトープ(gB-498-505)に特異的であり、エクスビボで培養された、潜伏感染した感覚神経節からのHSV-1再活性化を遮断することが示されている。CD8T細胞媒介防御の主要メカニズムは、IFN-γの分泌及び非細胞傷害性溶解性顆粒の放出によるものである。非移動性ウイルス特異的CD8T細胞の集団は、ウイルス抗原の非存在下で一次感染が解消したときに、皮膚に残ることが報告されている。これらの細胞は、TRMとして分類され、表皮に侵入すると、CD103の発現を上方制御し、表現型的には再循環する対応物とは異なり(CD69の高発現、CD62Lの低発現)、これらは、形態を視覚的に変化させ、樹状突起形状になる。主に皮膚の皮膚層に局在し、運動性が高く、血液と平衡状態にあるメモリーCD4 T細胞とは対照的に、TRMCD8 T細胞は、再循環せず、感染の制御後長く表皮内で見つかる。皮膚におけるメモリーT細胞の移動及び持続性、ならびにそれらのTRMへの変換は、同族抗原とは無関係であることが示されたが、これは、局所的炎症のみによって誘導され得る(Torti N,Oxenius A.T cell memory in the context of persistent herpes viral infections.Viruses.(2012)4(7):1116-1143.doi:10.3390/v4071116);(Mackay L.K.,Stock A.T.,Ma J.Z.,Jones C.M.,Kent S.J.,Mueller S.N.,Heath W.R.,Carbone F.R.,Gebhardt T.Long-lived epithelial immunity by tissue-resident memory T(TRM)cells in the absence of persisting local antigen presentation.Proc.Natl.Acad.Sci.USA.(2012)109:7037-7042)。
【0163】
マウスにおける膣HSV-2感染モデルを使用して、Nakanishi et al.は、ウイルス感染組織へのCD8Tリンパ球の動員には、CD4 T細胞の拡張を促進するのみでなく、IFNy産生を介して局所的なケモカイン分泌を誘導し、エフェクターCD8T細胞を感染部位に引き付けることによるCD4 T細胞の助けを必要とすることを示した(Nakanishi Y.,Lu B.,Gerard C.,Iwasaki A.CD8(+)T lymphocyte mobilization to virus-infected tissue requires CD4(+)T-cell help.Nature(2009)462:510-513)。
【0164】
HSV-1感染では、特定のCD8T細胞が、局所感染時に感染部位に蓄積して持続するが(皮膚、膣、及び眼の感染のモデルに示されている)、全身には蓄積せず、安静TCM表現型で少数存在する。しかし、全身のHSV-1感染に応答して、gB-498-505-CD8T細胞は、潜伏期間中に増加した数のTEM CD8T細胞の蓄積及び維持を示す。これらの細胞は、感染したマウスの生涯を通じて、一定の多い数で維持され、IFNγを分泌し、二次感染に応答して増殖する能力を失うことはない。KLRG1-集団は、そのKLRG1+の対応物よりも優れていたが、KLRG1-及びKLRG1+細胞は、リンパ球減少症の宿主に移されたときに非常に同程度に数が増加し、両方とも広範囲に分裂した。HSVによる再感染は、膨張性細胞の維持に関して抗原依存性ではないことが報告されている。具体的には、HSV特異的細胞は、ナイーブなレシピエントでは減少したが、全身感染HSV-1マウスでは減少せず、60日間にわたって安定した数で維持された(わずかに増加した)。さらに、抗ウイルス化合物であるファムシクロビルによるウイルス複製の遮断は、HSVのおけるメモリー膨張に大きな影響を有するが、感染前に治療を開始した場合には、メモリー膨張の完全な阻害が見られた(Torti N,Oxenius A.T cell memory in the context of persistent herpes viral infections.Viruses.(2012)4(7):1116-1143.doi:10.3390/v4071116)。
【0165】
二次感染に対する感受性の増加は、BHV-1感染後の細胞性免疫の低下と相関している。BHV-1は、CD4+T細胞に感染し、アポトーシスを誘導するため、子ウシの急性感染時には、CD4+T細胞の機能が損なわれる(Clinton Jones,「Herpes Simplex Virus Type 1 and Bovine Herpesvirus 1 Latency」(2003)Clinical Microbiology Reviews,16(1)79-95)。
【0166】
i)ヘルペスウイルス科ワクチン設計における課題
ヘルペスウイルス科のワクチン設計の開発により、部分的有効性のみ有するワクチンが得られた(Sandgren,K.,et al.,「Understanding natural herpes simplex virus immunity to inform next‐generation vaccine design.」(2016)Clinical&Translational Immunology 5(7))。
【0167】
III)ピコルナウイルス科ウイルス
A)ピコルナウイルス科の概要
ピコルナウイルス科は、多数の低分子RNAウイルスで構成されており、その多くは、ヒト及び家畜の重要な病原体である。最大のウイルス科のうちの1つであるピコルナウイルス科は、14属で構成されており、そのうちの6属には、ヒト病原体が含まれる。最もよく知られているピコルナウイルスは、エンテロウイルス(ポリオ、PV、及びライノウイルス等)、口蹄疫ウイルス(FMDV)、及びA型肝炎ウイルス(HAV)である。感染症は、多くの場合、軽度であるが、特定の菌株は、髄膜炎及び/または麻痺を伴うパンデミック大発生を引き起こし得る(Norder,H.et al.,「Picornavirus non-structural proteins as targets for new anti-virals with broad activity.」Antiviral Research 89(2011)204-218)。この科は、ポリオ、一般的な風邪、A型肝炎、口蹄疫等、様々なヒト及び動物の疾患を包含する。
【0168】
ピコルナウイルスは、約7,000~8,500ヌクレオチドの一本鎖ポジティブセンスRNAゲノムを含み、T=1(準T=3)の直径約30nmの二十面体タンパク質カプシド内の科全体で類似しているが同一ではない組織を有する。ゲノムの5’末端は、低分子ペプチド(VPg)に連結されており、3’末端は、ポリ(A)トラクトで終結する。両端に、非翻訳領域(UTR)が隣接する単一のオープンリーディングフレームが存在する。5’UTRは、特に長く(約600~1,200nts)、タンパク質翻訳の開始に直接関与する内部リボソーム侵入部位等、複数の重要な複製及び翻訳制御エレメントを含む。ゲノムは、単一のポリタンパク質に翻訳され、その後、ウイルスにコードされたプロテアーゼによって切断されて、成熟タンパク質産物になる。構造タンパク質は、ポリタンパク質の3分の1のN末端内にあり、残りには、ウイルス複製を最適化するための細胞環境の改変に関与するタンパク質、及び複製に直接関与するタンパク質を含む。一部のピコルナウイルス(例えば、エンテロウイルス)では、構造前駆体タンパク質がポリタンパク質のN末端に直接位置し、他のピコルナウイルス(例えば、アフトウイルス及びカルジオウイルス)では、構造前駆体の前に非構造タンパク質配列がある。ピコルナウイルスの大部分では、構造前駆体タンパク質(P1)のN末端は、粒子の集合及び細胞侵入プロセスの両方において、重要な役割を果たすと考えられているミリスチン酸残基の共有結合による付加によって改変されている。P1は、典型的には、約90kDであり、さらにタンパク質分解により、ウイルスカプシドに見られる成熟ウイルスタンパク質(VP1~4またはP1 A~D)へのプロセシングを受ける。VP指定系は、見かけの分子量に従って構造タンパク質を区別するために最初に使用されたが、P1系は、ウイルスゲノム上でのそれらの順序を記述する。したがって、P1Aは、VP4、P1Bは、VP2、P1Cは、VP3、P1Dは、VPに相当する。VP1~3は、一緒になってビリオンの二十面体(icosohedral)殻を形成し、VP4は、粒子の内面に分布する(Tuthill,Tobias J et al.「Picornaviruses.」(2010)Current Topics In Microbiology and Immunology Vol.343:43-89.doi:10.1007/82_2010_37)。
【0169】
i)ピコルナウイルス(FMDV)
口蹄疫ウイルス(FMDV;ピコルナウイルス科;アフトウイルス属)は、有蹄動物の伝染性の高い急性疾患を引き起こす。FMDは、宿主範囲が広いこと、最小感染量が低いこと、複製速度が速いこと、ウイルス排出レベルが高いこと、及び複数の伝播様式があることにより、制御及び根絶するのが困難で費用のかかる疾患である。反芻動物の急性感染後に発生する重要な無症状分岐によって状況はさらに複雑になる。一部の動物は、最大3年間無症状で感染したままであるが(「FMDVキャリア」)、他の動物は、1~2週間以内にウイルスを完全に除去する(「非キャリア」)。World Organisation for Animal Health(OIE)によって確立されたFMDVキャリアの定義は、感染後28日を超えて感染性FMDVを回復できる動物である(Eschbaumer,M.,「Systemic immune response and virus persistence after foot-and-mouth disease virus infection of naive cattle and cattle vaccinated with a homologous adenovirus-vectored vaccine.」(2016)BMC Veterinary Research Vol.12,Art.No.:205)。
【0170】
このウイルスは、遺伝的及び抗原的に異なる7つの血清型(O、A、C、アジア1、及び南部アフリカ地域(SAT)1~3)として発生する。各血清型は、各血清型内に複数の亜型を有する。
【0171】
B)ピコルナウイルスの構造ベースの機能分析
ピコルナウイルス科には、その科メンバー全体におけるいくつかの保存されたタンパク質がある。これらのタンパク質は、リーダータンパク質(Lゲノム領域)、カプシドタンパク質(P1ゲノム領域)、膜タンパク質(2B)、ヘリカーゼ(2C)、プロテアーゼ(3C)、及びポリメラーゼ(3D)として知られている。
【0172】
FMDV粒子は、二十面体カプシドに囲まれた約8,500ヌクレオチドのプラス鎖RNA分子で構成されている。ゲノムは、4つの構造タンパク質(P1A、P1B、P1C、及びP1D;それぞれVP4、VP2、VP3、及びVP1とも呼ばれる)及び9つの非構造タンパク質が、ウイルスプロテアーゼによって切断される固有のポリタンパク質をコードする(Guzman,E.,et al,Induction of a Cross-Reactive CD8+ T Cell Response following Foot-and-Mouth Disease Virus Vaccination.(2010)J.Virology,Vol.84,No.23,p.12375-12384)。
【0173】
具体的には、ウイルスゲノム長さは、約8.3kbであり、タンパク質カプシドに囲まれている。RNAゲノムは、P1ポリペプチド由来の4つのウイルス構造タンパク質(VP1、VP2、VP3、及びVP4)及びP2及びP3ポリペプチド由来の7つの非構造タンパク質(Lpro、2A、2B、2C、3A、3b、3Cpro、及び3Dpol)をコードする大きいオープンリーディングフレームを含む。5’及び3’非翻訳領域(UTR)は、ウイルスの複製及び翻訳に重要である。カプシドは、4つの異なる構造タンパク質(VP1-4)のそれぞれを、60コピーを含む。VP1-3は、表面に露出しているが、VP4は、内在化されている。FMDVカプシドの結晶構造により、免疫学的エピトープが構造エレメント間の表面指向の相互接続ループに主に見られることが明らかなった。G-Hループ内の高度に保存されたArg-Gly-Asp(RGD)アミノ酸モチーフは、宿主細胞へのウイルス侵入に主要な役割を担い、宿主の防御免疫に寄与する。インテグリン受容体のαVファミリーは、受容体媒介ウイルス侵入のためにG-Hループと結合する。宿主細胞にこの受容体が存在しないことにより、ウイルス侵入能力が低下する。忠実度の低いRNAポリメラーゼは、エラーが発生しやすいウイルス複製及びゲノム変異を引き起こす。免疫学的重要部位の関与は、FMDVの免疫学的バリアントの出現につながり得る(Singh,K.R.,et al.,(2019)「Foot-and-Mouth Disease Virus:Immunobiology,Advances in Vaccines and Vaccination Strategies Addressing Vaccine Failures-An Indian Perspective.」Vaccines 7(3),90)。
【0174】
C)ピコルナウイルス科ウイルス感染に対する免疫応答
体温が高いこと、口腔鼻粘膜、指間裂、冠状動脈帯、乳房、及び乳頭上皮の小胞性病変の出現が、この疾患の主な特徴である。FMDは、進行した妊娠中の動物の食欲及び体重、乳量、ドラフトパワー(draft power)の低下、ならびに流産を引き起こす(Singh,K.R.,et al.,(2019)「Foot-and-Mouth Disease Virus:Immunobiology,Advances in Vaccines and Vaccination Strategies Addressing Vaccine Failures-An Indian Perspective.」Vaccines 7(3),90)。具体的には、感受性の高い動物でのFMDV感染は、感染後1~3日でウイルス血症を引き起こし、その後2~10日の潜伏期間で臨床疾患が急速に発症する(Diaz-San Segundo F,Rodriguez-Calvo T,de Avila A,Sevilla N(2009)Immunosuppression during Acute Infection with Foot-and-Mouth Disease Virus in Swine Is Mediated by IL-10.PLoS One 4(5):e5659)。
【0175】
多くの場合、FMDVに対する防御は、血清中の高レベルの循環中和抗体の誘導に関連している。これらの中和抗体は、感染後4日ほどで発見できるが、この応答は、臨床的防御を保証するものではないが、中和抗体レベルが低い動物も、防御され得る。これは、細胞性免疫が、ウイルスの除去にある役割を担い得ることを示している。したがって、ウイルスへの曝露が、T細胞依存性中和IgGクラス抗体の産生、及びその後のT細胞依存性メモリーをもたらすことを考えると、CD4+細胞を刺激する必要があると考えられる(Diaz-San Segundo F,Rodriguez-Calvo T,de Avila A,Sevilla N(2009)Immunosuppression during Acute Infection with Foot-and-Mouth Disease Virus in Swine Is Mediated by IL-10.PLoS One 4(5):e5659)。
【0176】
D)ピコルナウイルス科ワクチンの開発
制御手段には、屠殺、家畜の移動の制限、感受性の高い動物へのワクチン接種が含まれる。経験的に開発された現在の不活化FMDワクチンは、主に中和抗体を介して短期の血清型特異的防御を生じさせ、防御は、一般に高レベルの中和抗体と相関している (Carr,B Veronica et al.(2013)「CD4+ T-cell responses to foot-and-mouth disease virus in vaccinated cattle.」J.General Virology vol.94,Pt 1:97-107.doi:10.1099/vir.0.045732-0)。
【0177】
世界中で進行中の取り組みは、既存のワクチンを改良するか、または効果的なワクチン接種のための代替ワクチン製剤を開発しようとしている。ウイルス様粒子、遺伝子欠失改変ウイルスワクチン、及びベクター媒介ワクチン等の近年のアプローチのいくつかは、様々な成功を収めて調査されてきた。提唱されている他の選択肢には、DNAワクチン、ペプチドワクチン、及びサブユニットワクチン等、生ウイルスを処理せずにワクチンを使用することが含まれる。現在、これらのワクチンはすべて実験段階にあり、現場で試験されていない(Singh,K.R.,et al.,(2019)「Foot-and-Mouth Disease Virus:Immunobiology,Advances in Vaccines and Vaccination Strategies Addressing Vaccine Failures-An Indian Perspective.」Vaccines 7(3),90)。
【0178】
ワクチンは、PV、HAV、及びFMDVに対して利用可能である。免疫低下個体に経口ワクチンを投与したときに、慢性的に感染する可能性があり、何年も依然として、ワクチン由来ウイルスバリアントの分泌因子である。これらまたは他のピコルナウイルスに利用できる有効な予防法はない。
【0179】
利用可能なワクチンは、一次感染を防ぐことなく、一般的な臨床疾患からの防御のみをもたらす。現在のワクチンの不利な点は、ウイルス排出の不十分な遮断、ウイルスキャリアを防ぐことができないこと、免疫期間が短いこと、及びワクチン接種された動物と感染した動物との区別が困難であることを含む(Carr,B Veronica et al.(2013)「CD4+T-cell responses to foot-and-mouth disease virus in vaccinated cattle」.J.General Virology Vol.94,Pt 1:97-107.doi:10.1099/vir.0.045732-0)。血清型O、A、及びアジア1に対する、現在の化学的に不活化された三価ワクチンは、ウイルス抗原の大量産生、熱安定性、及び短命の免疫のみのためのバイオセーフティレベルIII施設の要件等の制限を受けている(Singh,K.R.,et al.,(2019)「Foot-and-Mouth Disease Virus:Immunobiology,Advances in Vaccines and Vaccination Strategies Addressing Vaccine Failures-An Indian Perspective.」Vaccines 7(3),90)。
【0180】
さらに、ある血清型に対する免疫は、他の血清型に対して、または時には同じ血清型内のバリアントに対する防御をもたらさない(同上)。
【0181】
ワクチン接種を実施する上での主な困難のうちの1つは、ワクチン接種された動物をまだウイルスを排出している可能性のある感染/回復動物と区別できないことである(Guzman,E.,et al.(2010)「Induction of a Cross-Reactive CD8+ T Cell Response following Foot-and-Mouth Disease Virus Vaccination.」J.Virology,Vol.84,No.23,p.12375-12384)。
【0182】
IV)ヘパドナウイルス科ウイルス
A)ヘパドナウイルス科の概要
ヘパドナウイルス科は、そのメンバーの属にオルソヘパドナウイルス及びアビヘパドナウイルスを含み、球形で、時には多形性であり、直径42~50nmであり、ネガティブ染色後に明らかな表面突起はみられない。投影は、クライオEM写真で見ることができる。外側の洗浄剤に敏感なエンベロープは、表面タンパク質を含み、1つの主要なタンパク質種であるコアタンパク質で構成される二十面体ヌクレオカプシドコアを囲んでいる。ヌクレオカプシドは、ウイルスゲノム(DNA)、ウイルスDNAポリメラーゼ、及びウイルスDNA合成の開始にある役割を担うと考えられるプロテインキナーゼ及びシャペロン等の関連する細胞タンパク質(複数可)を封入している(King,Andrew.Virus Taxonomy:Ninth Report of the International Committee on Taxonomy of Viruses.Elsevier,2011)。
【0183】
ヘパドナウイルス感染は、ウイルスと一緒に多形性リポタンパク質粒子として血中に分泌される表面タンパク質の過剰産生を誘導する。ゲノムは、2本のDNA鎖の5‘末端間の凝集性オーバーラップで塩基対形成することにより環状コンフォメーションに保持されている部分的に二本鎖DNAからなる。凝集性オーバーラップ長は、オルソヘパドナウイルスで約240bp、アビヘパドナウイルスで50bpであり、ゲノムのサイズは、様々な科のメンバーにおいて3.0~3.3kbの範囲である。ビリオン及び空のサブウイルス粒子は、2つまたは3つの表面タンパク質を含み得、共通のC末端を有するが、翻訳開始部位が異なるため、N末端が異なる。コアタンパク質は、大きいN末端ドメイン及びC末端に小さいRNA結合ドメインを有する。しきい値濃度を超えるコアタンパク質は、他のウイルス成分の非存在下で、二量体を介して自己集合し、ヌクレオカプシドを完成させることができる(King,Andrew.Virus Taxonomy:Ninth Report of the International Committee on Taxonomy of Viruses.Elsevier,2011)。
【0184】
i)B型肝炎ウイルス(HBV)
B型肝炎ウイルス(HBV)は、オルソヘパドナウイルス属の一部である。慢性ウイルス性肝炎感染は、公衆衛生上の主要な懸念事項であり、世界中で推定2億9千万人がHBVに感染している。このウイルスは、30,000年を超えて、ヒト集団において、パッセンジャーであり、一部の環境では、依然として非常に流行している(Lumley,Sheila F et al.(2018)「Hepatitis B Virus Adaptation to the CD8+ T Cell Response:Consequences for Host and Pathogen.」Frontiers in Immunology vol.9 1561,doi:10.3389/fimmu.2018.01561)。
【0185】
B)ヘパドナウイルス科ウイルスの構造ベースの機能分析
HBVは、小さく、エンベロープを有する、主に肝指向性ウイルスである。ヌクレオカプシドコアの大部分は、直径約36nmであり、240個のコアタンパク質サブユニットを含むが、少数は、直径約32nmであり、わずかに180個のサブユニットからなる(King,Andrew.Virus Taxonomy:Ninth Report of the International Committee on Taxonomy of Viruses.Elsevier,2011)。
【0186】
わずか3,200bpで、HBVは、すべての既知の病原性ウイルスの中で最小のゲノムのうちの1つを有する。部分的二本鎖DNA(dsDNA)環状ゲノムは、X、ポリメラーゼ(P)、コア(C)、及び表面(S)の4つの遺伝子からなり、ゲノムの大部分が、重複するオープンリーディングフレームにコードされている。転写中に、部分的dsDNAゲノムが「完成」して、完全なdsDNA分子を形成し、その後スーパーコイル状になって、共有結合により閉鎖環状DNA(cccDNA)を形成する。このcccDNAは、3’-5’エキソヌクレアーゼの校正リーディング能力を欠く酵素であるHBV逆転写酵素(RT)によって逆転写され、これによって、複製の各ラウンド中にHBVゲノムに変異を導入する(アヒルヘパドナウイルスでは、変異率は次のように推定される;ヌクレオチド/複製あたり0.8x10-5~4.5x10-5の置換)。生成された変異は、密接に関連するHBVバリアントのクラウドに囲まれた優性遺伝子型(複数可)で構成されるウイルス準種をもたらす(Lumley,Sheila F et al.(2018)「Hepatitis B Virus Adaptation to the CD8+ T Cell Response:Consequences for Host and Pathogen.」Frontiers in Immunology vol.9,1561,doi:10.3389/fimmu.2018.01561)。
【0187】
C)ヘパドナウイルス科感染に対する免疫応答
HBVは、ヒトにおいて様々な程度の肝疾患を引き起こす。HBVの感染は、急性または慢性のいずれかであり、一方、成人の感染症は、比較的低い慢性化率を有し(約5%)、新生児感染症は、通常、高い持続率を有する。慢性感染症は、ほとんど無症候性であるが、HBVキャリアは、生命を脅かす肝硬変を発症し、後に肝癌を発症するリスクがある(Busca,Aurelia,and Ashok Kumar.(2014)「Innate immune responses in hepatitis B virus(HBV)infection.」Virology Journal vol.11 22,doi:10.1186/1743-422X-11-22)。
【0188】
ヒトドナー肝臓組織と対の血液サンプルを利用した2つの研究は両方とも、ウイルス性肝炎との関連でTRMの役割を分析した。1つの研究は、B型肝炎ウイルス感染症(HBV)の患者に焦点を合わせ、もう一方の研究は、HBVまたはC型肝炎ウイルス感染症の患者を含めた。健康対照と比較した場合、HBV感染の部分的制御を示した患者からの肝臓T細胞のより高い割合が、TRM表現型を有していた。健康な個体及びHBV感染個体の肝臓内でのT細胞の総数が類似していたことを考えると、TRM数のこの3倍の増加は、既存のTRMの拡張ではなく、ウイルス感染肝臓組織でのTRM表現型を採用するT細胞の素因の増加によるものだと考えられる。CD69及びCD103を同時発現するT細胞の数は、慢性C型肝炎患者において4倍増加した(Muruganandah,V.,Sathkumara,H.D.,Navarro,S.,&Kupz,A.(2018).A Systematic Review:The Role of Resident Memory T Cells in Infectious Diseases and Their Relevance for Vaccine Development.Frontiers in Immunology,9,1574.doi:10.3389/fimmu.2018.01574)。
【0189】
ウイルス負荷量と肝臓のTRM数との相互関係は、TRMが感染制御において重要な役割を果たしていることを示唆するものである。TRMのエクスビボ刺激は、異種抗原特異性を示し、複数のHBV抗原が、エフェクター応答を開始することが可能であった。しかし、ウイルスエンベロープペプチドは、IFNγ、TNFα、及びIL-2の産生を誘導する最大の能力を生み出すようであった。健康な肝臓組織からのTRMの分析では、非常在対応部分と比較した場合、グランザイムBの発現が著しく減少していることが明らかになった。これは、肝臓のTRMが循環するT細胞よりも細胞溶解能力が低いことを示唆している(同上)。
【0190】
しかし、慢性B型肝炎(CHB)患者の肝臓TRMは、健康対照と比較した場合、著しく多い量のグランザイムBを発現した。肝臓TRMは、非常在Tメモリー細胞と比較して、阻害性分子PD-1の発現の増加も示した。理論に制限されるものではないが、健康な肝臓組織におけるグランザイムBの下方制御及びPD-1の上方制御は、腸間膜循環から排出される大量の抗原をろ過する肝臓の役割を考えると、免疫病理学を防ぐことが意図された予防手段であり得る。免疫病理学は、肝硬変及び肝細胞癌につながるウイルス性肝炎の進行に大きく関与しているため、これはウイルス性肝炎感染症において非常に重要である。CHB患者におけるTRMによるグランザイム産生の増加は、劇症肝炎の病因の一部であり得る(同上)。
【0191】
D)ヘパドナウイルス科ワクチンの開発
最初のHBVワクチンは、HBVの無症候性キャリアの血漿から、精製された不活化HBsAg粒子の形態で、調製した。その後、優性免疫原性エピトープとして、親水性アミノ酸124~149に及ぶ主要低タンパク質を含むr-HBsAgワクチンが開発された。HBVワクチン接種は、主にAからHまでのすべてのHBV遺伝子型におけるHBsAgの「a」決定因子に向けられた中和抗体(抗HBs)を誘導する。r-HBsAgワクチンは、抗HBsの活発な合成、及び継続的な防御をもたらす免疫記憶の延長を誘発する。市販のキットにより測定した場合に抗HBsの検出ができなかった場合であっても、ブーストワクチン接種後の抗HBsレベルの大幅な急速な増加から5年以上にわたる持続的記憶が認められる。インビトロ酵素結合免疫吸着アッセイ(スポットELISA)を用いて、抗HBsを誘導することができるメモリーBリンパ球の数が、抗HBsレベルの低下と共に減少しないことが示された。ワクチン抗原の用量及び構造の両方が、一次抗体応答及び免疫記憶の発達に影響を及ぼす(Said,Zeinab Nabil Ahmed,and Kouka Saadeldin Abdelwahab.(2015)「Induced immunity against hepatitis B virus.」World Journal of Hepatology,Vol.7,12:1660-70.doi:10.4254/wjh.v7.i12.1660)。
【0192】
現在のワクチン接種及び治療アプローチは、不十分な診断及び治療へのアクセス、薬物及びワクチンエスケープ変異体、治療中止または免疫抑制に対するウイルスのリバウンド、及び治癒的治療の欠如によって妨げられている。
【0193】
V)レトロウイルス科ウイルス
A)レトロウイルス科の概要
Retroviridae科は、アルファレトロウイルス、ベータレトロウイルス、デルタレトロウイルス、イプシロンレトロウイルス、ガンマレトロウイルス、レンチウイルス、及びスプーマウイルス等の属を含む、エンベロープを有するRNAウイルスの多種多様なグループである。レトロウイルス科ウイルスには、レンチウイルス属のメンバーが含まれ、これは、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)等のヒト病原体、ウマ伝染性貧血(EIAV)、及びネコ免疫不全ウイルスを含む複雑なレトロウイルスである。他のレトロウイルス科には、ヒトTリンパ球向性ウイルス(HTLV)、及びB型肝炎(HVB)を含むヘパドナウイルス科が挙げられる。レトロウイルス科のメンバーは、逆転写酵素を用いた複製サイクル中に、RNAゲノムを線状二本鎖DNAに転写する能力を特徴としている。複製サイクル中、ウイルスdsDNAは、通常、DNAプロウイルスとして宿主ゲノムに組み込まれる。DNAプロウイルスは、サイレント(すなわち、潜伏している)のままであるか、転写的に活性となり、ビリオンを産生する(Fermin,Gustavo,and Paula Tennant.Viruses:Molecular Biology,Host Interactions and Applications to Biotechnology,edited by Jerome E.Foster,Elsevier Science&Technology,2018.ProQuest Ebook Central,https://ebookcentral.proquest.com/lib/jhu/detail.action?docID=5322098)。
【0194】
多くのレンチウイルスウイルスは、潜伏期間が長いこと、及びウイルスが宿主の免疫応答を回避する進行性の感染を特徴とし得る。レンチウイルスは、宿主細胞のデオキシリボ核酸(DNA)に遺伝情報を挿入し、分裂細胞及び非分裂細胞中で複製する独自の能力を有する。
【0195】
HIVを含むすべての複製能力のあるレトロウイルスは、以下の3つの遺伝子を含む:gag(グループ抗原、コア及びマトリックスタンパク質をコードする、p24及びp17)、pol(ポリメラーゼ、酵素タンパク質、逆転写酵素、RNAase、プロテアーゼ、及びインテグラーゼをコードする)及びenv(エンベロープ及び膜貫通糖タンパク質をコードする、gp120及びgp41)(Welles,L.and Yarchoan,R.,Antimicrobial Therapy and Vaccines.Yu,VL,Merigan,Jr,TC and Barriere,SL Eds,Williams&Wilkins,Baltimore,(2005),pgs.1264-1287)。それらは、抗原の存在、複製する能力、及びウイルスエンベロープを共有する。
【0196】
i)ヒト免疫不全ウイルス(HIV)
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)は、複雑なレトロウイルスであり、精液、膣粘液、肛門粘液、血液、及び乳汁等の体液をヒトの身体の切り口、開口部、粘膜を介して交換することにより、霊長類からヒト及びヒト間で伝播し得る。HIVは、急速に変異し、再結合するRNAウイルスであり、HIVタイプI(HIV-1)の主要なグループ内の9つの亜型、迅速な代謝回転率、及び持続性を備えたかなりの遺伝的多様性を呈する。HIV-1は、さらに4つのウイルスグループまたは単離株:M、N、O、及びPに分類できる。HIVの他の主要なグループは、HIVタイプ2(HIV-2)である(Moss,J.(2013)「HIV/AIDS Review」Radiologic Technology,Vol.84,No.3,247-267)。大多数のHIV/AIDS関連死は、南アフリカに集中しているが、HIV感染は、サハラ以南のアフリカ、米国、欧州、アジア等、世界的に見られる(同上)。
【0197】
B)レトロウイルスの構造ベースの機能分析
成熟したHIV粒子は、円形で、直径が約100nmで、外側の脂質膜がエンベロープになってい。エンベロープには、三量体のEnvタンパク質で構成される72個のノブを含む。gp120表面タンパク質(SU)の三量体は、膜貫通タンパク質gp41(TM)の三量体によって膜に固定されている。コンフォメーション依存性中和エピトープは、gp120タンパク質上に見られる。これらは、天然タンパク質上に存在するが、折りたたまれていない変性タンパク質上では、部分的にのみ発現している。ウイルスエンベロープは、脂質二重層で構成されており、成熟したウイルス粒子には、エンベロープタンパク質SU及びTMを含む。これは、マトリックスタンパク質(MA、p17)によって形成される対称的な外側カプシド膜を覆っている。コニカルカプシドは、内側のカプシドタンパク質p24(CA)から集合する。断面に応じて、カプシドは、円錐、リング、または楕円として表される。カプシドのテーパーポールは、外側のカプシド膜に付着している。ウイルスゲノムRNAの2つの同一分子が、カプシド、ならびに核酸に結合したウイルス酵素RT/RNase H及びINのいくつかの分子の内部にある。ウイルス粒子には、前駆体タンパク質のタンパク質分解プロセシングによるビリオンの成熟中に、細胞から放出された後に生成されるオリゴペプチドも存在する(p55、p160)(German Advisory Committee Blood(Arbeitskreis Blut),Subgroup ‘Assessment of Pathogens Transmissible by Blood’.(2016)「Human Immunodeficiency Virus(HIV).」Transfusion medicine and hemotherapy:offizielles Organ der Deutschen Gesellschaft fur Transfusionsmedizin und Immunhamatologie,Vol.43,3:203-22.doi:10.1159/000445852)。
【0198】
C)レトロウイルス感染に対する免疫応答
一次感染段階として知られる感染の最初の段階では、感染者の免疫系は、HIV抗体(HIV抗原に応答して、セロコンバージョンとして知られるプロセス)及び細胞傷害性リンパ球を生成することによってウイルスに応答し始める。セロコンバージョン後、臨床的に無症候性の期間は通常、最初のHIV感染後に生じ、末梢血中のHIVのレベルは低下するが、リンパ節中で高度に機能して、CD4リンパ球を破壊する。患者の免疫系が、組織及びリンパ節への過度の損傷、ウイルスの変異、破壊の増加、T細胞の置換の減少によって悪化するにつれて、免疫系は徐々に損傷する(Moss,J.(2013)「HIV/AIDS Review」Radiologic Technology,Vol.84,No.3,247-267を参照されたい)。第二段階では、検査結果は、血液1μLあたり14%~29%のCD4+T細胞を示し、軽度の症状が認められる。第三段階では、CD4+T細胞数は14%未満であり、進行した症状が見られる。第四段階までに、後天性免疫不全症候群が発症し、重度の症状が見られる。(同上)。
【0199】
T細胞の数が大幅に減少すると、免疫系が著しく弱まる。CD4リンパ球数が、血液200細胞/μL未満まで減少すると、症候性HIV感染は、免疫系によって通常防がれるであろう特定の日和見感染の出現によって引き起され得る。例としては、肺炎、下痢、眼の感染症、及び髄膜炎が挙げられる。HIV患者は、また、例えば、カポジ肉腫、非ホジキンリンパ腫、中枢神経系リンパ腫、HIV脳症、進行性多巣性白質脳症、リンパ性間質性肺炎、及びHIV消耗症候群等のがん及び疾患にかかりやすい。(同上)。
【0200】
HIVは、CD4+CCR5+T細胞に最初に感染する。次に、ウイルスは、血液を介して粘膜関連リンパ組織から他のリンパ組織に広がり、特に腸管関連リンパ組織では自由に複製することができる。上記を参照されたい。急性HIV-1感染では、特にウイルスによる直接標的化及びバイスタンダー活性化誘導細胞死の両方を伴う腸において、メモリーCD4+T細胞が、リンパ系から大量に枯渇する(Mattapallil JJ,Douek DC,Hill B,Nishimura Y,Martin M,Roederer M(2005) Massive infection and loss of memory CD4+T cells in multiple tissues during acute SIV infection.Nature 434:1093-1097を参照されたい;また、Douek DC,Brenchley JM,Betts MR,Ambrozak DR,Hill BJ,Okamoto Y,Casazza JP,Kuruppu J,Kunstman K,Wolinsky S,et al.(2002)HIV preferentially infects HIV-specific CD4+T cellsNature 417:95-98を参照されたい)。これはすべてのメモリーCD4+T細胞集団に当てはまるが、HIVに特異的な集団は、優先的に感染して破壊され得る(Douek DC,Roederer M,Koup RA(2009)Emerging concepts in the immunopathogenesis of AIDS.Annu Rev Med 60:471-484を参照されたい)。しかし、高レベルのウイルス血症の存在下でさえ、感染したHIV特異的CD4+T細胞の割合は、典型的には、ほんの数パーセント以下であり、これは、これらの細胞の大部分が、非常に高いウイルス血症の時に活性化されているにもかかわらず、なんらかの形で感染を回避することを示唆するものである。
【0201】
CD4+T細胞への初期の持続的な損傷、及び検出可能なHIV特異的CD4+Tヘルパー細胞の欠如にもかかわらず、感染したヒトにおけるHIVに対するCD8+T細胞応答の大きさ及び幅は、堅牢であり、AIDS患者の末梢血及び気管支肺胞洗浄液から新たに単離されたリンパ球中で容易に検出できるほどの大きさの直接的なエフェクター機能を備えていることがわかっている(Walker,B and McMichael,A.「The T-Cell Response to HIV.(2012 Nov)」Cold Spring Harb Perspect Med.2(11):a007054;引用元Murray,HW et al.(1984)「Impaired production of lymphokines and immune(γ)interferon in the acquired immunodeficiency syndrome.」N.Engl.J.Med.310:883-889;Lane,HC et al.(1985)「Qualitative analysis of immune function in patients with the acquired immunodeficiency syndrome;Evidence for a selective defect in soluble antigen recognition」N.Engl.J.Med.313:79-84)。急性期CD8+T細胞応答は、急性期タンパク質及び炎症性サイトカインの状況で生じる。初期応答は、ウイルスの中で最も変動しやすい領域であるEnv及びNef中のエピトープに狭い指向で主に向けられている。感染細胞の認識に関与するHLA対立遺伝子の数と同様に、応答の幅は時間の経過と共に増加する。動物モデルでの免疫化研究は、CD8+T細胞コンパートメントが、ナイーブCD4+、CD8+、またはB細胞集団のサイズに影響を与えることなく、その一方で、他の病原体に対するメモリーCD8+T細胞集団を維持しながら、巨大な拡張能力を有することを示している。HIV特異的CD8+T細胞応答は、疾患の経過を通じて依然として検出可能であり、実際には、制御された感染症よりも進行性感染症である場合の方が幅広く、多い(同上、引用元(Vezys,V.et al.(2009)「Memory CD8 T cell compartment grows in size with immunological experience」,Nature 457:196-199;Pereyra F.et al.(2008)「Genetic and immunologic heterogeneity among persons who control HIV infection in the absence of therapy」J.Infect. Dis.197:563-571)。
【0202】
感染慢性期における応答の特異性は、Gag標的化がウイルス負荷量の低下に関連していることを繰り返し示唆している(同上、引用元Edwards,BH et al.(2002)「Magnitude of functional CD8+ T-cell responses to the gag protein of human immunodeficiency virus type 1 correlates inversely with viral load in plasma.」J Virol 76:2298-2305;Zuniga,R.et al.(2006)Relative dominance of Gag p24-specific cytotoxic T lymphocytes is associated with human immunodeficiency virus control.J Virol 80:3122-3125 ;Kiepiela et al.(2007)「CD8+T-cell responses to different HIV proteins have discordant associations with viral load.」Nat Med13:46-53)。クレードCウイルス感染者の大規模研究では、Gag特異的応答が広いほどウイルス負荷量が少なくなり、逆説的に、Env特異的応答が広いほど、ウイルス負荷量が多くなる (上記;引用元Kiepiela et al.(2007)「CD8+T-cell responses to different HIV proteins have discordant associations with viral load.」Nat Med 13:46-53;Ngumbela,KC et al.(2008)「Targeting of a CD8 T cell env epitope presented by HLA-B*5802 is associated with markers of HIV disease progression and lack of selection pressure.」AIDS Res Hum Retroviruses 24:72-82)。
【0203】
一般に、HIV-1に感染した場合には、T細胞応答は、CD8+T細胞によって支配される。これらは、ウイルスによって損傷を受けたCD4+T細胞応答よりもはるかに強力である (上記、引用元(Ramduth,D et al.(2005)Differential immunogenicity of HIV-1 clade C proteins in eliciting CD8+and CD4+cell responses.J Infect Dis 192:1588-1596)。抗体注入によりまたは遺伝的にCD4+T細胞が枯渇しているマウスモデルでは、CD8+T細胞応答が大幅に損なわれる(上記、引用元(Janssen,EM et al.(2003)CD4+T cells are required for secondary expansion and memory in CD8+T lymphocytes.Nature 421:852-856;Shedlock,DJ and Shen,H(2003)Requirement for CD4 T cell help in generating functional CD8 T cell memory.Science 300:337-339;Sun,JC and Bevan,MJ(2003)Defective CD8 T cell memory following acute infection without CD4 T cell help.Science 300:339-342)。抗原刺激により、それらは急速に拡大して消耗し、長期メモリー集団へのIL-2依存性進行が無効になる(上記、引用元(Kamimura,D and Bevan,MJ(2007)Naive CD8+ T cells differentiate into protective memory-like cells after IL-2 anti IL-2 complex treatment in vivo.J Exp Med 204:1803-1812)。HIV-1感染では、CD4+T細胞は、大幅に枯渇しているが、完全に存在しないわけではなく、CD8+T細胞応答の発達の異常は、CD4+T細胞の助けの部分的喪失、残存している細胞の機能の喪失と一致し得る(同上、引用(Pitcher,CJ et al.(1999)HIV-1-specific CD4+T cells are detectable in most individuals with active HIV-1 infection,but decline with prolonged viral suppression.NatMed5:518-525)。
【0204】
慢性感染者の横断データは、強力なCD4+T細胞応答と有効なCD8+T細胞応答との関連を示している(同上、引用(Kalams,SA et al.(1999)Association between virus-specific cytotoxic T-lymphocyte and helper responses in human immunodeficiency virus type 1 infection.JVirol73:6715-6720)。近年のデータは、IL-21をCD8+応答の維持に特に重要なものにするCD4+T細胞を示唆している(同上、引用(Chevalier MF,Julg B,Pyo A,Flanders M,Ranasinghe S,Soghoian DZ,Kwon DS,Rychert J,Lian J,Muller MI,et al.HIV-1-specific interleukin-21+CD4+T cell responses contribute to durable viral control through the modulation of HIV-specific CD8+T cell function.(2011)J Virol85:733-741;Williams LD,Bansal A,Sabbaj S,Heath SL,Song W,Tang J,Zajac AJ,Goepfert PA Interleukin-21-producing HIV-1-specific CD8 T cells are preferentially seen in elite controllers.(2011)J Virol85:2316-2324))。初期の研究では、CD4+T細胞応答の欠如が示されていたが、患者が抗レトロウイルス薬で非常に早期に治療された場合、HIV抗原に対する強力なCD4+T細胞応答を救援できることが報告されている。
【0205】
抗ウイルスCD8+T細胞は、ウイルス感染細胞の溶解を媒介するT細胞として最初に同定され、多くの場合、細胞傷害性Tリンパ球と呼ばれる(同上、引用元Plata F.,et al.(1975)Primary and secondary in vitro generation of cytolytic T lymphocytes in the murine sarcoma virus system.Eur J Immunol 5:227-233)。ほとんどの抗原特異的CD8+T細胞が、この活性を有するが、さらに他のエフェクターメカニズムを使用することもできる。これらには、インターフェロン-γ、IL-2、TNF-α、MIP-1α(CCL3に改名)、MIP-1β(CCL4)、及びRANTES(CCL5)の産生が含まれる。しかし、このエフェクター機能は、常に存在するとは限らず、発現するまでに数日要し得る。対照的に、メモリーCD8+T細胞は、応答して、数時間以内にインターフェロン-γを迅速に産生する(同上、引用元Lalvani,A.et al.(1997)Rapid effector function in CD8+ memory T cells.J Exp Med 186:859-865)。溶解性顆粒の産生にはやや時間を要するが、一度活性化されると、エフェクターメモリーCD8+T細胞は、数分以内にパーフォリン及びグランザイムを放出できる(上記、引用元Barber,DL et al.(2003)Cutting edge:Rapid in vivo killing by memory CD8 T cells.J Immunol 171:27-31)。メモリーT細胞における溶解機能の活性化の遅れは、TCRが弱く結合する自己抗原に遭遇したときに、おそらく自己免疫攻撃から身体を防御する。
【0206】
溶解の可能性は依然として不可欠であり得るが、慢性感染中、ウイルスの設定値が確立されると、溶解の可能性は依然として不可欠であり得るが、CD8+T細胞の他の機能がより重要になり得る(同上、引用元(Betts,MR and Harari,A(2008)Phenotype and function of protective T cell immune responses in HIV.Curr Opin HIV AIDS 3:349-355)。うまくウイルス制御されている患者では、T細胞は、急性感染よりも静止状態にある。多くの研究により、HIV-1をうまく制御している場合のT細胞は多機能であり、細胞溶解の可能性のみでなく、サイトカイン及びケモカインを産生する能力も有することが示されているが、これが要因または結果であるかは明らかではない(Betts,MR and Harari,A(2008)Phenotype and function of protective T cell immune responses in HIV.Curr Opin HIV AIDS 3:349-355)。遅い進行の場合において起こるように、過度の活性化及び疲弊がない状態での長期にわたる抗原刺激は、複数の機能の発現に有利に働く可能性がある。IL-2の産生は、CD8+T細胞の長期持続に重要であり得、CD8+T細胞自体またはCD4+T細胞によって提供され得、疾患の進行が遅い場合には、はるかに良好に生存する (同上;引用元(Rosenberg,ES et al.(1997)Vigorous HIV-1-specific CD4+ T cell responses associated with control of viremia.Science 278:1447-1450;Zimmerli,SC et al.(2005)HIV-1-specific IFN-γ/IL-2-secreting CD8 T cells support CD4-independent proliferation of HIV-1-specific CD8 T cells.Proc Natl Acad Sci 102:7239-7244)。エリートコントローラーが比較的一般的であるHIV-2感染でも同様の観察がなされている (同上;引用元(Duvall,MG et al.(2008)Polyfunctional T cell responses are a hallmark of HIV-2 infection.Eur J Immunol 38:350-363)。これらの発見は、長期のCD8+T細胞記憶の維持におけるIL-2の重要性を示すCD4+T細胞枯渇マウスのデータと完全に一致している(上記;引用元Williams MA,Tyznik AJ,Bevan MJ(2006)Interleukin-2 signals during priming are required for secondary expansion of CD8+memory T cells.Nature 441:890-893))。
【0207】
エビデンスは、CD8+T細胞が初期のHIV感染を制御するのに極めて重要であることを示している。ヒト組織サンプルの研究は、TRMが胃腸管及び女性の生殖管等、複数の場所でHIV感染に応答して生成されることを明らかにした。さらに、感染が自然に制御されていると考えられる個体は、自然に制御されていない個体と比較した場合に、最高の多機能免疫応答を生み出すことができるTRMを有していた(Muruganandah,V.,Sathkumara,H.D.,Navarro,S.,&Kupz,A.(2018).A Systematic Review:The Role of Resident Memory T Cells in Infectious Diseases and Their Relevance for Vaccine Development.Frontiers in Immunology,9,1574.doi:10.3389/fimmu.2018.01574)。しかし、感染が制御された個体のHIV特異的CD8+T細胞コンパートメント内のTRM集団は、ウイルス血症の個体と比較した場合、過小評価されていた(同上)。
【0208】
様々な部位での他の感染症と同様に、HIVの状況におけるCD8+TRMは、CD103(ヒト粘膜リンパ球抗原1、アルファEベータ7インテグリンとも呼ばれる)の発現に基づいて2つのサブセットに細分できる。子宮膣部上皮及び月経血の分析により、HIV感染女性は、健康個体と比較してCD103-TRMを有する可能性が高いことが明らかになった。CD103のこの発現低下は、CD103の上方制御のためにCD8+T細胞に助けを提供するのに重要であると考えられるCD4+T細胞のHIV誘導枯渇によって説明され得る。外膣部のCD103-集団は、CD103+の対応物と比較した場合、上皮の基底膜の近くに存在していた。感染個体由来のCD103+集団は、より高いレベルのPD-1を発現していると考えられる。別の研究では、脂肪PD-1+CD4+TRMは、HIV感染中は、比較的不活性のままであると考えられ、HIVの貯蔵庫として機能し得る。そのため、慢性的に活性化されたTRM及び免疫調節環境(脂肪組織等)に曝露されたTRMは、完全なエフェクター応答を引き出すことができないため、HIV感染の進行に有利に働く可能性がある(Muruganandah,V.,Sathkumara,H.D.,Navarro,S.,&Kupz,A.(2018).A Systematic Review:The Role of Resident Memory T Cells in Infectious Diseases and Their Relevance for Vaccine Development.Frontiers in Immunology,9,1574.doi:10.3389/fimmu.2018.01574)。
【0209】
また、HIVには、CCR5媒介CD8+T細胞の子宮膣部粘膜への移動を破壊し、それによってTRM集団の発達を損なわせる能力を有すると考えられる。ヒト研究では、TRM、特にCD8+TRMは、HIV感染との闘いにおいて重要な役割を果たしていることが示唆されている。アカゲザルのサル免疫不全ウイルスモデルでは、SIVmac239Δnefの静脈内投与により、防御に関与する膣組織及び腸内にCD8+TRMの集団が生成された。マウスモデルにおいて、粘膜ワクチン接種戦略では、HIV-1Gagタンパク質p24を発現するインフルエンザベクターの鼻腔内投与後、膣内ブースターにより、膣内にCD8+TRMを誘導する。これらのCD8+TRMの抗原刺激により、B細胞、ナチュラルキラー細胞、及びCD4+T細胞が動員された。自然免疫細胞及び適応免疫細胞の動員は、初期のウイルスクリアランスに有益であり得るが、CD4+T細胞の動員は、HIVの標的であるため、HIVの状況では有害であり得る。したがって、プライム及びプルワクチン接種戦略によるHIV侵入部位(雌の生殖管及び直腸)へのCD4+T細胞の偶発的な動員は、意図せずに感染に対する感受性を高め得る(Muruganandah,V.,Sathkumara,H.D.,Navarro,S.,&Kupz,A.(2018).A Systematic Review:The Role of Resident Memory T Cells in Infectious Diseases and Their Relevance for Vaccine Development.Frontiers in Immunology,9,1574.doi:10.3389/fimmu.2018.01574)。
【0210】
D)レトロウイルス科ウイルスのワクチン開発
レトロウイルス、レンチウイルス、特にHIVのワクチン開発は、その多くが成功していない。抗体及び細胞傷害性Tリンパ球は両方とも、HIVに感染したときに生成される(Seabright,G.E.et al.,(2019)「Protein and Glycan Mimicry in HIV Vaccine Design」J.MOl/ Biol.431(12):2223-2247)。しかし、T細胞性免疫、多機能抗体応答、抗体依存性細胞傷害、及び広く中和する抗体(bNab)を引き起こすワクチンに対するいくつかの防御免疫応答があった(MacGregor,R.et al.(2002)「T-cell responses induced in normal volunteers immunized with a DNA-based cavvine containing HIV-1 env and rev.」AIDS16,2137-2143)。
【0211】
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)疾患の病因及びその主要な抗原標的の構造についての理解が深まっているにもかかわらず、HIVに対する効果的なワクチンを開発する取り組みは失敗し続けている。
【0212】
HIVのために開発されたT細胞性免疫を呼び出すDNAワクチンは、長期的な免疫応答を誘導する能力を依然として欠いている。例えば、env及びrevをコードするDNAワクチンは、CD4+T細胞応答を誘導し、CD8+T細胞応答の誘導は少ないことが示された(MacGregor,R.et al.(2002)「T-cell responses induced in normal volunteers immunized with a DNA-based cavvine containing HIV-1 env and rev.」AIDS16,2137-2143)。同様の結果が、gag遺伝子及びpol遺伝子をコードするDNAワクチンでも見られた(Tavel, J. A., et al.,(2007)「Safety and Immunogenecity of a Gag-Pol candidate HIV-1 DNA vaccine administered by a need-free device in HIV-1-seronegative subjects.」J.AIDS 44,601-605)。
【0213】
細菌
VI)コリネバクテリア科
A)コリネバクテリア科の概要
Corynebacteriaceaeは、ほぼ90種のコリネバクテリウム属及び単一特異性ツリセラ属(Turicella)で構成されている。属としてのツリセラ属の状態は、表現型の特徴によって裏付けられる。両方の分類群は、Corynebacteriales目で明確なクレードを形成し、関連する科であるDietziaceae科及びツカムレラ科から明確に分離されている。ほとんどのコリネバクテリウム種は、22~36個の炭素を有するミコール酸を含む。コリネバクテリア科のメンバーは、様々な環境で見られる。近縁種のCorynebacterium diphtheria、Corynebacterium ulcerans及びCorynebacterium pseudotuberculosisは、強力な外毒素、すなわちジフテリア毒素及びホスホリパーゼDを産生し得る唯一の種であり、いずれも病原性において重要な役割を果たす (Tauch A.,Sandbote J.(2014)The Family Corynebacteriaceae.Rosenberg E.,DeLong E.F.,Lory S.,Stackebrandt E.,Thompson F.(eds)The Prokaryotes.Springer,Berlin,Heidelberg)。
【0214】
C.ジフテリアは、主に小児に感染する疾患であるジフテリアを引き起こす。米国、欧州、及び東欧では、近年のジフテリアの発生は、主にアルコール中毒者及び/または薬物乱用者で大発生している(Murphy JR.Corynebacterium Diphtheriae.(1996):Baron S,editor.Medical Microbiology.4th edition.Galveston(TX):University of Texas Medical Branch at Galveston;Chapter32)。ジフテリアの症例は、インド、インドネシア、ネパール、アンゴラ、及びブラジルでさらに発生する。
【0215】
i)Corynebacterium diphtheria(C.diphtheria)
C.diphtheriaeは、ジフテリア毒素を産生することが知られている、運動性がなく、内包化されていない、クラブ型のグラム陽性バシラスである。毒素産生株は、ジフテリア毒素の構造遺伝子であるtoxを運ぶコリネバクテリオファージ科のうちの1つに対して溶原性である。C.ジフテリアは、コロニーの形態に応じてバイオタイプ(mitis、intermedius、及びgravis)に分類され、コリネバクテリオファージの感受性に基づいて溶菌型に分類される(Murphy JR.Corynebacterium Diphtheriae.(1996):Baron S,editor.Medical Microbiology.4th edition.Galveston(TX):University of Texas Medical Branch at Galveston;Chapter32)。最も重症な疾患は、重症バイオタイプに関連している。
【0216】
C.ジフテリアは、飛沫、分泌物、または直接接触によって拡散される。非毒素産生株の毒素産生表現型へのインサイチュ溶原変換が報告されている。毒素産生株がウマから単離されているが、感染は、ヒトのみに拡散されている。免疫化プログラムが維持されている地域では、例外的な疾患の大発生は、多くの場合、ジフテリアが限定的に流行している亜熱帯地域を最近訪れた保因者に関連する。能動免疫プログラムが維持されていない集団では、大規模な疾患の大発生が生じ得る(Murphy JR.Corynebacterium Diphtheriae.(1996):Baron S,editor.Medical Microbiology.4th edition.Galveston(TX):University of Texas Medical Branch at Galveston.Chapter32)。
【0217】
B)Cornebacteriaceae細菌の構造ベースの機能分析
ジフテリア毒素は、タンパク質分解により2つの断片:N末端断片A(触媒ドメイン)及び断片B(膜貫通ドメイン及び受容体結合ドメイン)に切断され得る。断片Aは、伸長因子2のNAD+依存性ADPリボシル化を触媒し、それによって真核細胞のタンパク質合成を阻害する。断片Bは、細胞表面受容体に結合し、断片Aのサイトゾルへの送達を促進する(Murphy JR.Corynebacterium Diphtheriae.(1996):Baron S,editor.Medical Microbiology.4th edition.Galveston(TX):University of Texas Medical Branch at Galveston.Chapter32)。
【0218】
C)Cornebacteriaceae細菌の感染に対する免疫応答
臨床的ジフテリアには、鼻咽頭及び皮膚の2つの型がある。咽頭ジフテリアの症状は、軽度の咽頭炎から偽膜による気道閉塞による低酸素症まで様々である。頸部リンパ節の関与は、首の重度の腫脹(牛頚ジフテリア)を引き起こす可能性があり、患者は、発熱(103°F以上)を有し得る。皮膚ジフテリアの皮膚病変は、通常、灰褐色の偽膜で覆われている。末梢運動ニューロン及び心筋に対するジフテリア毒素の作用の結果として、生命を脅かす全身性合併症、主に運動機能の喪失(例えば、嚥下困難)及びうっ血性心不全が発症し得る(Murphy JR.Corynebacterium Diphtheriae.(1996):Baron S,editor.Medical Microbiology.4th edition.Galveston(TX):University of Texas Medical Branch at Galveston.Chapter32)。
【0219】
無症候性鼻咽頭保菌は、ジフテリアが風土病である地域で一般的である。高感受性個体では、毒素産生株は、鼻咽頭または皮膚の病変のいずれかでジフテリア毒素を増殖及び分泌することによって疾患を引き起こす。ジフテリア性病変は、多くの場合、フィブリン、細菌、及び炎症細胞で構成される偽膜で覆われている。
【0220】
i)Cornebacteriaceae細菌の感染に対するT細胞の応答
Cornebacteriaceae細菌による感染に対するT細胞応答に関して入手可能な情報は限られている。これは主に、この細菌が、自然免疫応答を不能にする複数のメカニズムを有するためである。宿主防御系に関する病原性コリネバクテリアの逃避メカニズムは一般によく理解されていないが、ジフテリア菌等のコリネバクテリウム科細菌に由来する毒素がヒトの生来の免疫系と相互作用し、系障害を引き起こす可能性があることが理解されている(Weerasekera,D.,et al.,(2019)「Induction of Necrosis in Human Macrophage Cell Lines by Corynebacterium diphtheriae and Corynebacterium ulcerans Strains Isolated from Fatal Cases of Systemic Infections.」Int.J.Mol.Sci.20,4109)。
【0221】
自然免疫系が感染によって不能にされない可能性がある場合、T細胞応答は、Cornebacteriaceae細菌との戦いに不可欠であると見なすことができる。例えば、C.pseudotuberculosisは、細胞内病原体であり、宿主細胞内で複製し、宿主に対して選択的な利点を得ることができる。細菌に対する防御免疫応答は、TH1細胞性応答に基づいており、細菌の毒性株による感染は、IFN-γ等のTH1応答関連サイトカインの産生を誘導する。細菌によるマウス脾細胞の刺激後のIFN-γ及びTNFの産生は、MAPKp38及びERK1/2シグナル伝達経路の活性化によって駆動される。抗IFN-ガンマ抗体を接種したマウスは、臓器内の細菌増殖の増加を示し、抗TNF抗体を接種することにより、細菌血症の増加をもたらした(Oliverira et al.,「Insight of Genus Corynebacterium:Ascertaining the Role of Pathogenic and Non-pathogenic Species.」(2017)Front.Microbiol.,8:1937)。
【0222】
D)Cornebacteriaceバクテリアワクチン開発
ジフテリアトキソイド、破傷風トキソイド、及び百日咳抗原は、世界中の小児免疫に広く使用されているジフテリア-破傷風-百日咳ワクチン(DTP)と組み合わせた。DTPは、5価ワクチンとしてB型肝炎表面抗原(HBsAg)及びヘモフィラスインフルエンザb型(Hib)コンジュゲート等、ならびに6価ワクチンとして不活化ポリオワクチン(IPV)等の追加のワクチン抗原と組み合わせてもよい。破傷風-ジフテリア(Td、低用量ジフテリアトキソイド)製剤及び破傷風-ジフテリア-無細胞百日咳(Tdap)製剤は、それぞれ5歳及び3歳からの使用が認可されている。DTPを含むワクチンの3回接種プライムシリーズ後、94~100%の小児が防御的抗ジフテリア抗体レベル(>0.01 IU/mL)を有するが、継続的な防御を確実にするためにブースト投与が必要である。ワクチンの有効性は、大発生状況で確認できる。ワクチンの有効性に関する最新のデータは、旧ソビエト連邦の国々での1990年代の流行に由来している。ケースコントロール研究では、15歳未満の小児において、ジフテリアトキソイドの3回以上の投与により、95.5%(95%CI:92.1~97.4%)予防的有効性が誘導された。防御は、このワクチンを5回以上投与後、98.4%に増加した(95%CI:96.5~99.3%)(World Health Organization,(2017)「Summary of WHO Position Paper on Diphtheria Vaccines,August 2017」.参照元https://www.who.int/immunization/policy/position_papers/diphtheria/en/)。
【0223】
i)Cornebacteriaceae細菌ワクチン設計の課題
ジフテリアワクチンには、慢性感染ではなく急性感染を引き起こす微生物が含まれる。それらは、防御のための代理マーカーとして、定義されたしきい値を超える特定の抗体のレベルに依存する。細胞内生物に対する有効なワクチンを開発するために、主要なエフェクターアームである細胞性免疫(CMI)及び抗体の両方を刺激することの重要性が、ますます注目の的になっている(Salerno-Goncalves,R.,「Cell-mediated immunity and the challenges for vaccine development.」(2006)Trends Microbiol.Dec;14(12):536-42.Epub2006 Oct 19)。
【0224】
さらに、ジフテリア及び破傷風(Clostridium tetaniによって引き起こされる)はトキソイドであり、免疫原性を保持する熱または化学的に不活化された毒素であるが、宿主の損傷を誘導する天然毒素の能力を欠いている。トキソイドワクチンの使用により、ワクチン接種集団において、ジフテリア及び破傷風が実際に排除されたが、疾患の予防におけるそれらの成功は、ジフテリアまたは破傷風からの回復が、疾患の再発に対する免疫を確実に付与しないという事実とは、まったく対照的である。疾患から回復後、免疫が持続しないことは、毒素が損傷を誘導できる速さを反映している可能性があり、その損傷は、少量の毒素によって媒介され得る、及び/または天然毒素の免疫原性が高くなく、それぞれが毒素に対する防御抗体応答の発生を妨げる可能性があることによって媒介され得る。したがって、ジフテリアまたは破傷風からの回復には、トキソイドワクチン接種によって誘発されるものとは異なる免疫機構及び/または異なる決定因子に対する免疫応答が関与し得る。したがって、ジフテリアによる感染は、予測できない可能性がある(Casadevall,A.,et al.,「Exploiting the Redundancy in the Immune System」Journal of Experimental Medicine(2003)197(11)1401-1404)。
【0225】
VII)マイコバクテリア科
A)マイコバクテリア科の概要
マイコバクテリア科には、Mycobacterium属が1つのみ存在する。この属に属する生物には、Mycobacterium bovis及びMycobacterium tuberculosisが含まれ、いずれもヒト及び他の動物に結核(TB)を引き起こす。TBは、記録された最も古いヒトの苦悩のうちの1つであり、感染症の中で最大の殺人因子の1つであり、弱毒生ワクチン及びいくつかの抗生物質が世界中で使用されているにもかかわらず、毎年約200万人が死亡している。TBの地理的発生率は、北米、アジア、西ロシア、及び南部及び中央アフリカから拡散されている(Smith,Issar.「Mycobacterium tuberculosis pathogenesis and molecular determinants of virulence.」Clinical microbiology reviews vol.16,3(2003):463-96.doi:10.1128/cmr.16.3.463-496.2003)。
【0226】
i)ウシ型結核菌(Mbc)
Mycobacterium bovis(Mbv)は、牛のウシ結核菌の原因菌である。M.bovisは、汚染された低温殺菌されていない乳製品の消費、露出した傷口との接触、またはM.bovisに感染した動物が吐出した空気中の細菌の吸入によってヒトに伝播し得る。
【0227】
ii)結核菌(Mtb)
Mycobacterium tuberculosis(Mtb)は、抗酸性染色細胞内細菌であり、TBの原因菌である。致死的感染症は、肺外結核のみでなく、肺疾患としても現れ得る(Muruganandah,V.,Sathkumara,H.D.,Navarro,S.,&Kupz,A.(2018).A Systematic Review:The Role of Resident Memory T Cells in Infectious Diseases and Their Relevance for Vaccine Development.Frontiers in Immunology,9,1574.doi:10.3389/fimmu.2018.01574)。TBは、免疫低下個体において重要な疾患であり、例えば、HIV陰性個体の3分の1が感染し、この数の3~5%が、初年度に結核を発症する。これらの感染者のうちのさらなる3~5%が、後年にTBを発症する。非HIV感染患者のほとんどの成人TBは、既存の感染の再活性化によって引き起こされると考えられている。結核菌に感染したHIV陽性患者は、人生のある時点で再活性化(原発後)TBを発症する可能性が50%ある。免疫抑制されているこれらの個体及び他の個体も、新たに結核菌に感染する可能性があり、多くの場合、活動性疾患への急速な進行を示す(Smith,Issar.「Mycobacterium tuberculosis pathogenesis and molecular determinants of virulence.」Clinical microbiology reviews vol.16,3(2003):463-96.doi:10.1128/cmr.16.3.463-496.2003)。
【0228】
B)マイコバクテリウム科細菌の構造ベースの機能分析
マイコバクテリアは、抗酸菌であり、酸、アルカリ、及び脱水に耐性のある細長い湾曲した桿菌である。細胞壁には、複雑なワックス及び糖脂質が含まれている。インビトロでの濃縮培地での増殖は非常に遅く、倍加時間は、18~24時間である。臨床分離株は、成長するのに4~6週間要し得る。細胞エンベロープ(E)は、マイコバクテリアの細胞内成長への適応に重要である。それらはまた、細胞エンベロープの透過性バリア及び宿主細胞の食作用からの防御にとって重要なカプセル様構造を有することが知られている。カプセルは、外層タンパク質(OL)を含む表面抗原、及びカプセル構造(CAP)タンパク質を含む。他の重要な構造成分には、リン脂質(PL及びPIM)、壁タンパク質(P)、細胞壁骨格(CWS)、細胞膜(CM)からEを介して固定された長いサイズの両親媒性物質(LAM)のマトリックスが含まれる(Rastogi,N.,et al.,「The mycobacteria:an introduction to nomenclature and pathogenesis.」(2001)Rev.Sci.Tech.Off.Int.Epiz.,20(1),21-54)。
【0229】
C)マイコバクテリア科細菌感染に対する免疫応答
細菌は、空気中伝播によって肺胞に侵入する。これらは肺胞マクロファージによる破壊に抵抗し、増殖して、原発病変または結節を形成する。その後、それらは局所リンパ節に広がり、循環に入り、肺に再播種する(Smith,Issar.「Mycobacterium tuberculosis pathogenesis and molecular determinants of virulence.」(2003)Clinical Microbiology Reviews,Vol.16,3 463-96.doi:10.1128/cmr.16.3.463-496.2003)。組織破壊は、細胞性過敏反応の結果生じる。
【0230】
感受性は、遺伝的、民族的及び外因性の要因、例えば、免疫系への傷害及び宿主の栄養的及び生理学的状態によって影響を受ける。後天的耐性は、感染したマクロファージを直接溶解するか、可溶性メディエーター(例えば、ガンマIFN)を介してそれらを活性化して、細胞内寄生体を破壊するTリンパ球によって媒介され、抗体は防御的役割を果たさない。
【0231】
i)マイコバクテリア科細菌による感染に対するT細胞の応答
M.tuberculosisに感染したヒトでの研究は、マウスの実験的感染を使用して得られた結果の多くがヒトにも当てはまることを示している。細胞性応答が防御に重要であり、T細胞のいくつかの亜集団が関与していると考えられることは十分に確立されている。マイコバクテリアに対する防御免疫は、主にTヘルパー(インターフェロン-γ(IFN-γ)のTH1CD4+及びCD8+T細胞分泌)によって媒介されると考えられているが、γδT細胞及びナチュラルキラー(NK)T細胞等の他のT細胞集団も、おそらく関与している。具体的には、IFN-γ及び他のTh1サイトカインは、マクロファージ(Mφ)の抗菌機能を上方制御して、それらが保有する桿菌を死滅させる。活性化されたMφの殺菌及び静菌機能は、インビトロで実証され得るが、病原性マイコバクテリアを死滅させるのが困難であることは明らかである。病原性マイコバクテリアの死滅に従事するMφが関与するメカニズム以外のメカニズムが存在し得る。細胞傷害性Tリンパ球(CTL)は、結核菌に感染したヒト及びマウスのMφを死滅させる能力を有する(Skinner,Margot A et al.(2003)「Cytotoxic T-cell responses to Mycobacterium bovis during experimental infection of cattle with bovine tuberculosis.」Immunology,Vol.110,2:234-41.doi:10.1046/j.1365-2567.2003.01731.x)。
【0232】
ウシCTLは、他の細胞内病原体に感染した細胞を死滅させることが示されている。少なくともインビトロでは、CTLによるマイコバクテリアの直接死滅が実証されており、CTLの細胞傷害性顆粒におけるグラニュライシン等の分子の関与がこの死滅に関係している。CTLはまた、より効率的な抗原提示においてある役割を有する可能性があるため、感染細胞から放出された細胞内マイコバクテリアは、より熟練した抗原提示細胞によって取り込まれ得る(Skinner,Margot A et al.「Cytotoxic T-cell responses to Mycobacterium bovis during experimental infection of cattle with bovine tuberculosis.」(2003)Immunology,Vol.110,2:234-41.doi:10.1046/j.1365-2567.2003.01731.x)。ウシ型結核菌感染後6週間という早い時期に、CD4+TCM細胞(CD45RO+、CCR7+)が、ウシ型結核菌の特異的(すなわち、rESAT-6:CFP-10)または複合体(すなわち、PPDb)抗原によるリコール刺激により、長期の抗原刺激PBMC培養で検出された。ELISPOTまたは細胞内サイトカイン染色のいずれかを介して、IFN-γ産生によって検出された抗原特異的CD4細胞(主に長期PBMC培養内にある)は、主に(約76%)TCM細胞(CD45RO+/CCR7+)であり、残りはTEM細胞(CD45RO+/CCR7-、約23%)であった。長期培養内の細胞の抗原再刺激は、短期培養細胞の増殖を有意に超えるCD4+細胞の強力な増殖を誘導したため、ウシTCMは高増殖性であった。反復刺激培養のさらなる表現型分析は、ウシTCMの亜集団が、M.bovis抗原への反復曝露時にエフェクター(TEM及びTeffectorの両方)表現型に戻ることを示した(Maggioli MF,Palmer MV,Thacker TC,Vordermeier HM,Waters WR(2015)Characterization of Effector and Memory T Cell Subsets in the Immune Response to Bovine Tuberculosis in Cattle.PLOS ONE 10(4):e0122571)。
【0233】
CM及びエクスビボ応答は、M.tb感染患者で検出され、TCM応答の喪失(培養IFN-γELISPOTで測定)は、臨床疾患の進行と関連している。同様に、エクスビボでのIFN-γ産生の非存在下でのTCM応答は、自己治癒または抗マイコバクテリア療法のいずれかによる疾患の寛解を示し、Tcmの機能及び/または維持に対して病原体クリアランスが有する役割を強化する。TCM細胞が存在するにもかかわらず、治癒的治療を受けている患者は依然としてM.tbの再感染に対して感受性がある。例えば、子牛に関する1つの実験では、それぞれが軽度の進行性疾患を有し、培養及びエクスビボIFN-γELISPOTアッセイの両方でTB抗原に応答した。これは、軽度の活性形態のM.tb感染症のヒトで発生するものと同様である。フローサイトメトリー分析は、TEM細胞及びTCM細胞の両方が、感染後比較的早期(感染後3週間)に誘発されることを示した。疾患が進行するにつれて動物によるTCM応答が減少するかは不明であるが、感染後期の動物が細胞性免疫の測定にアネルギーになり、皮膚テストまたはエクスビボIFN-γアッセイで偽陰性結果をもたらすことが高頻度で報告されている(Maggioli MF,Palmer MV,Thacker TC,Vordermeier HM,Waters WR(2015)Characterization of Effector and Memory T Cell Subsets in the Immune Response to Bovine Tuberculosis in Cattle.PLOS ONE 10(4):e0122571)。
【0234】
リンパ球のホーミング及び炎症部位及びリンパ器官への輸送は、CCR7、CD62L、及びCD44等の多数の表面接着分子の発現によって媒介される。CD62Lは、末梢リンパ節血管アドレッシン(GlyCAM-1及びMAdCAM-1等)への細胞接着を媒介する。ナイーブT細胞及びメモリーT細胞上でのCD62Lの発現は、二次リンパ器官の内皮細胞上での細胞のローリングを容易にし、免疫応答の区画化に寄与する。T細胞でのCD44発現は、活性化時に上方制御され、それによってヒアルロン酸及びフィブロネクチンとの相互作用を介して細胞外マトリックスを通過する動きを促進する。抗原特異的T細胞のインビトロ刺激は、CD44を上方制御すると同時に、ヒト、マウス、及びウシでのCD62L発現を下方制御することが知られている。ヒトと同様に、エクスビボ刺激時にCD44を発現するウシT細胞は、CD62Lを下方制御しながら、CD45ROを高頻度で共発現する。研究によると、CD4細胞でのCD44の発現は、エクスビボまたは長期培養条件下でのTEMとエフェクター細胞との間で差がなかったことが示されている。研究によると、CD62Lの発現は、エフェクター細胞内で下方制御され、TEM細胞では中間であり、TCM細胞では高いことが示されている。TCM細胞は、CD62Lを高度に発現したが、これらの細胞は、高いCD44発現を維持した。メモリーT細胞によるCD44発現レベルの関連性は、マウス及びとヒトの両方で議論の余地がある。マウスからのデータは、CD44の発現は初期の拡張、輸送、及びTH1細胞のサイトカイン産生に必ずしも必要でないが、CD44の発現は、長期的な細胞生存及び再感染に対する既往性応答には必要であることを示唆している。ヒト及びマウスでは、CD62Lと共に、CCR7が二次リンパ器官(SLO)への細胞ホーミングに主要な役割を果たすことが知られている。ウシの場合、CD4T細胞のSLOへの移動にはCCR7の発現が必要であるが、γδT細胞のSLOへのホーミングは、CCR7の発現によって媒介されることはない。同様に、Mycoplasma mycoides感染症では、感染及び病原体の除去後に、Tcm特性を有するCD4細胞のサブセットが報告された。再刺激したときに、CD62Lを発現する細胞は、増殖性が高く、CCR7転写を下方制御する傾向が少なくなった。逆に、CD62Lを欠く細胞は、より多いIFN-γの産生、より少ない増殖、及びCCR7転写の下方制御を示した。研究によると、抗原刺激に応答して、Tcm細胞は強く増殖し、Tem及びエフェクター細胞に切り替えることができた(CCR7下方制御)(Maggioli MF,Palmer MV,Thacker TC,Vordermeier HM,Waters WR(2015)Characterization of Effector and Memory T Cell Subsets in the Immune Response to Bovine Tuberculosis in Cattle.PLoS One10(4):e0122571)。
【0235】
Mtb感染の免疫制御は、CD4+T細胞によるIFNγの産生に大きく依存する。これは、持続する細胞内Mtbのマクロファージによる死滅を増加させ、細菌複製部位の周囲に肉芽腫の形成をもたらす。臨床研究により、以前に結核に曝露された個体は、Mtb抗原の再曝露に応答してIFN-γを放出する肺常在TH1エフェクターメモリー細胞の集団を有する可能性が高いことが明らかになった。しかし、一次感染中のTB特異的T細胞の活性化及び肺への動員の遅延により、Mtbが増殖し、その結果、細菌負荷が高くなった。結核に対する防御を媒介する上での気道常在メモリーT細胞(当時は気道内腔細胞と呼ばれていた)の重要性は、TRMが現れるかなり前に記述されていた。しかし、これらの細胞は、ほとんどの場合、同じ細胞型を示す。粘膜ワクチン接種によって誘発された肺TRMは、細菌複製の早期制御を制限するのに有効であることが示されている。TBの制御におけるCD4+T細胞の定義された役割にもかかわらず、ワクチン研究の近年のエビデンスでは、CD8+肺TRMも、Mtbに対する防御において重要な役割を果たしていることが示唆されている。BCGの粘膜投与のみが、CD8+TEMよりもIFN-γ等の高レベルの炎症誘発性サイトカインを産生する気道TRMの生成をもたらした。
【0236】
BCGワクチン接種マウスの選別された気道CD8+TRMの養子移入は、レシピエントマウスにおけるMtbチャレンジに対して、防御が強化されていることが実証された。CD8+TRMの移入により、肺胞マクロファージの数が減少し、感染肺組織内のCD4+T細胞及びB細胞の数は増加した。CD8+TRMは、Mtb感染肺胞マクロファージを死滅させ、それによって細菌の細胞内貯蔵庫を枯渇させ、肺実質への侵入を制限すると仮定した。同様に、鼻腔内経路を介して投与されたウイルスベクターワクチンSeV85AB及びAdAg85Aも、CD4+TRMではなくCD8+の産生に有利な免疫応答を誘発することが示されている。アカゲザルモデルでは、様々なMtb抗原を送達するサイトメガロウイルスベクター(RhCMV/TB)は、おそらく、病原体特異的CD4+及びCD8+を循環する、さらに重要なことにVLA-1を選択的に発現する常在メモリーT細胞を生成し、維持する能力を通じて、結核に対する有意な防御をもたした。
【0237】
最後に、sigHを欠く弱毒化Mtb株によるエアロゾルワクチン接種は、CD69を発現するT細胞の肺気道への大量流入(TRMを含む可能性が高い)のみでなく、毒性Mtbチャレンジに対する有意な長期防御ももたらした。まとめると、これらの研究は、肺内で、肺CD4+TRM及びCD8+TRMの両方を誘導することにより、感染の確立を防止すること、及び/またはMtbに対する殺菌免疫を提供することが可能になることを示している(Muruganandah,V.,Sathkumara,H.D.,Navarro,S.,&Kupz,A.(2018).A Systematic Review:The Role of Resident Memory T Cells in Infectious Diseases and Their Relevance for Vaccine Development.Frontiers in Immunology,9,1574.doi:10.3389/fimmu.2018.01574)。
【0238】
D)マイコバクテリア科細菌ワクチンの開発
現在、ウシ型結核菌BCG(bacillus Calmette-Guerin、カルメットとゲランの菌)は、TBに対する唯一の認可されたワクチンであり、小児での播種を防ぐ。しかし、BCGは、成人における肺結核に対して十分な免疫力を提供しないため、伝播が可能になる(Muruganandah,V.,Sathkumara,H.D.,Navarro,S.,&Kupz,A.(2018).A Systematic Review:The Role of Resident Memory T Cells in Infectious Diseases and Their Relevance for Vaccine Development.Frontiers in Immunology,9,1574.doi:10.3389/fimmu.2018.01574)。TBを予防できるワクチン及びTBを治療できる薬物(イソニアジド、リファンピン、エタンブトール、ピラジナミド等)があるが、TBは、現在の医薬品に対して、徐々に耐性の増加を示している。
【0239】
VIII)バシラス科
A)バシラス科の概要
内生胞子を形成する棒状細菌からなるバシラス科は、2つの主要な細分化;クロストリジウム属の嫌気性胞子形成細菌、及び多くの場合ASB(好気性の胞子保有者)として知られるバシラス属の好気性または通性嫌気性胞子形成細菌を有する(Turnbull PCB.Bacillus.(1996):Baron S,editor.Medical Microbiology.4th edition.Galveston(TX):University of Texas Medical Branch at Galveston;Chapter15)。
【0240】
i)炭疽菌(B.anthracis)
バシラス属の種は、棒状の内生胞子形成好気性または通性嫌気性のグラム陽性菌である。一部の種培養では、年齢と共にグラム陰性菌に変わり得る。この属の多くの種は、あらゆる自然環境での生存を可能にする幅広い生理学的能力を呈する。細胞ごとに1つの内生胞子のみが形成される。胞子は、熱、寒さ、放射線、乾燥、及び消毒剤に耐性がある(Turnbull PCB.Bacillus.(1996):Baron S,editor.Medical Microbiology.4th edition.Galveston(TX):University of Texas Medical Branch at Galveston.Chapter15)。
【0241】
炭疽菌は、炭疽の原因菌であり、歴史を通じて人類を苦しめてきた。ヒトは、感染した動物または動物製品との接触の結果として炭疽菌を取得する。また、潜在的なバイオテロ剤である。ヒトの場合、この疾患は、感染経路に応じて、3つの形態のうちの1つを取る。世界中の症例の95%以上を占める皮膚炭疽菌は、皮膚病変を介した感染に起因する。腸炭疽菌は、通常は感染した肉中に含まれる胞子の摂取に起因する。肺炭疽病は、胞子の吸入に起因する(Turnbull PCB.Bacillus.(1996):Baron S,editor.Medical Microbiology.4th edition.Galveston(TX):University of Texas Medical Branch at Galveston;Chapter15)。
【0242】
B)Bacillaceae細菌の構造ベースの機能分析
B anthracisの病原性は、2つの病原性因子:ポリ-y-D-グルタミン酸ポリペプチドカプセル(宿主の防御食細胞による食作用から炭疽菌を防御する)、及び対数成長期に産生される毒素に依存する。この毒素は、3つのタンパク質:防御抗原(PA)(82.7kDa)、致死因子(LF)(90.2kDa)、及び浮腫因子(EF)(88.9kDa)で構成されている。血液中及び真核細胞表面上の宿主プロテアーゼは、20kDaの分節を切り出し、LF及びEFの結合部位を露出させることにより、防御抗原を活性化する。活性化された63kDaPAポリペプチドは、宿主細胞表面上の特定の受容体に結合し、それによってLFとEFとが競合する二次結合部位を作り出す。複合体(PA+LFまたPA+EF)は、エンドサイトーシスによって内在化され、その後エンドソームが酸性化され、LFまたはEFは、PA媒介イオン伝導チャネルを介して膜を通過して、サイトゾルに入る。これは、PAがB(結合)部分として振る舞うコレラ毒素のA-B構造-機能モデルに類似している。炭疽菌の特徴的な浮腫の原因となるEFは、カルモジュリン依存性のアデニル酸シクラーゼである(カルモジュリンは、真核細胞の主要な細胞内カルシウム受容体である)。他の唯一の既知の細菌性アデニル酸シクラーゼは、Bordetella pertussisによって産生されるが、2つの毒素は、わずかな相同性のみ共有する。LFは、亜鉛依存性メタロプロテアーゼであると考えられるが、その基質及び作用機序は、まだ解明されていない。炭疽菌の毒素及びカプセルは、それぞれpXO 1(110MDa)及びpX02(60MDa)と呼ばれる2つの大きいプラスミドにコードされている。
【0243】
110-MDa pXO1プラスミドには、防御抗原(PA)、致死因子(LF)、及び浮腫因子(EF)の病原性因子をコードする遺伝子pagA、lef、及びcyaが含まれている。LFは、宿主のMAPK経路を不活性化する亜鉛媒介メタロプロテアーゼである。EFは、アデニル酸シクラーゼであり、カルモジュリンによる活性化時に、宿主内でのサイクリックAMPの細胞内濃度を上昇させる。PAは、宿主細胞上の毒素受容体に結合し、LFまたはEFのいずれかに結合できる七量体構造を形成する。PA/LF/EF複合体は、次に、炭疽菌毒素と総称される致死毒素(LT)または浮腫毒素(ET)として細胞に組み込まれ得る(Beierlein,J M,and A C Anderson.(2011)「New developments in vaccines,inhibitors of anthrax toxins,and antibiotic therapeutics for Bacillus anthracis.」Current Medicinal Chemistry vol.18,33:5083-94)。
【0244】
C)バシラス科細菌感染に対する免疫応答
炭疽菌は、依然として最もよく知られているバシラス病であるが、近年、膿瘍、菌血症/敗血症、創傷及び火傷の感染症、耳の感染症、心内膜炎、髄膜炎、眼炎、骨髄炎、腹膜炎、ならびに呼吸器及び尿路感染症等、幅広い感染症に他のバシラス種が関係することがますます増加している。これらのほとんどは、免疫不全または免疫低下の宿主(アルコール依存症及び糖尿病患者等)の二次感染または混合感染として生じるが、かなりの割合が、他の点では健康個体における一次感染である。これらのタイプの感染症を誘発する種には、B cereus、B licheniformis及びB subtilisが挙げられる。Bacillus alvei、B brevis、B circulans、B coagulans、B macerans、B pumilus、B sphaericus、及びB thuringiensisは、感染を引き起こすことがある。二次侵入因子として、Bacillus種は、治療を妨げる組織損傷性毒素またはペニシリナーゼ等の代謝物のいずれかを産生することにより、既存の感染症を悪化させ得る(Turnbull PCB.Bacillus.(1996):Baron S,editor.Medical Microbiology.4th edition.Galveston(TX):University of Texas Medical Branch at Galveston.Chapter15)。
【0245】
皮膚炭疽菌は通常、切り傷または擦り傷の汚染によって発生するが、一部の国では、ハエの咬傷も疾患を伝播し得る。2~3日間の潜伏期間後、接種部位に小さい吹出物または丘疹が現れる。小胞の周囲の輪が発達する。次の数日で、中央の丘疹は潰瘍化し、乾燥し、黒くなり、特徴的痂皮を形成する。病変は無痛であり、ある程度の距離に伸長し得る顕著な浮腫に囲まれている。膿及び疼痛は、病変が化膿性微生物によって感染した場合にのみ現れる。同様に、顕著なリンパ管炎及び発熱は、通常、二次感染を示す。ほとんどの場合、疾患は、最初の病変に限定されたままで、自然に解消する。主な危険性は、顔または首の病変が膨張して、気道を閉塞し得る、または続発性髄膜炎を引き起こし得ることである。しかし、宿主の防御では、感染を封じ込めることができない場合、劇症敗血症が発症する。皮膚炭疽病の未治療症例の約20パーセントが、致死的敗血症に進行する。しかし、B anthracisは、ペニシリン及び他の一般的な抗生物質に対して感受性が高いため、ほとんどの場合、有効な治療が可能である(Turnbull PCB.Bacillus.(1996):Baron S,editor.Medical Microbiology.4th edition.Galveston(TX):University of Texas Medical Branch at Galveston.Chapter15)。
【0246】
腸炭疽菌は、皮膚炭疽菌に類似しているが、腸粘膜に発生する。肺炭疽菌では、吸入された胞子は、肺胞マクロファージによって縦隔リンパ節に輸送され、そこで発芽して増殖し、全身性疾患を開始する。胃腸炭疽病及び肺炭疽病はいずれも皮膚形態よりも危険である。それらは通常、治療が有効となるには遅すぎると特定されるからである。
【0247】
D)バシラス科ワクチンの開発、課題または失敗
現在、ワクチンは、一般に利用可能ではなく、吸入炭疽の治療のためにFDAによって承認された抗生物質はほとんどない。抗生物質に対して、自然または人工の細菌耐性の脅威がある。
【0248】
開発されたワクチンには、家畜での炭疽菌に対する生の無毒性ワクチンが含まれる。旧U.S.S.R等一部の国では、生胞子ワクチンがヒトへのワクチン接種に使用されているが、残留毒性に関する懸念のため、米国及び英国等の西側諸国は、ヒトへの胞子ベースのワクチンの使用を承認していない。代わりに、免疫を誘導するために防御的抗原を使用する無細胞ワクチンが開発された。非内包化Sterne株B.anthracisの水酸化アルミニウム沈殿によって調製されたワクチン(AVA(Anthrax Vaccine Adsorbed、現在はBiothrax(登録商標)として公知である)は、米国で唯一のFDA承認の炭疽菌ワクチンである。しかし、集中投薬レジメンと、調製の容易さ及び均質性に関する問題とが組み合わさって、ワクチンの備蓄を少なく維持し、一般集団への投与が阻止されている。現在の形態では、ワクチンは、4℃で保存する必要がある。これにより、保存コストが増加し、場所が制限される。さらに、調製方法に固有のワクチンは、PA、ならびに他の細胞成分(LF及びEF等)の含有量がロットごとに異なり得る。これは、ワクチンに関連する反応原性の一部の原因であり得る(Beierlein,J M,and A C Anderson.「New developments in vaccines, inhibitors of anthrax toxins, and antibiotic therapeutics for Bacillus anthracis.」Current Medicinal Chemistry Vol.18,33(2011):5083-94.doi:10.2174/092986711797636036)。
【0249】
IX)エルシニア科
A)エルシニア科の概要
「エンテロバクター」目は、Gammaproteobacteria綱内のグラム陰性、通性嫌気性、非胞子形成、棒状細菌の多様な大きいグループである。このグループのメンバーは、複数の異なる生態学的地位に生息しており、土壌、水のほか、植物、昆虫、動物、及びヒト等の生物と関連して発見されている。Enterobacterialeshaveの多くのメンバーは、Escherichia coli、Salmonella enterica、及びYersinia pestis等の種等、ヒト及び動物内の病原体として関係している (Adeolu,M.,et al.,「Genome-based phylogeny and taxonomy of the ‘Enterobacteriales’:proposal for Enterobacterales ord.nov.divided into the families Enterobacteriaceae,Erwiniaceae fam.nov.,Pectobacteriaceae fam.nov.,Yersiniaceae fam.nov.,Hafniaceae fam.nov.,Morganellaceae fam.nov.,and Budviciaceae fam.」(2016)Intl J.Systemic&Evolutionary Microbiol.66(12):引用元https://www.microbiologyresearch.org/content/journal/ijsem/10.1099/ijsem.0.001485#abstract_content)。
【0250】
i)Yersinia pestis(Y.pestis、ペスト菌)
グラム陰性菌であるYersinia pestis及びペスト病原体は、バイオテロのカテゴリーAの病原菌に分類される。これは、何億人もの人々を殺した歴史の中で3つの大規模なパンデミックを引き起こしたことからその悪名を得ている。その形態の1つである肺ペストは、疾患の進行速度(典型的な潜伏期間は1~3日)のために治療が困難であり、個体が症候性になるまでに、多くの場合、死に近づく(Adeolu,M.,et al.,「Genome-based phylogeny and taxonomy of the ‘Enterobacteriales’:proposal for Enterobacterales ord.nov.divided into the families Enterobacteriaceae,Erwiniaceae fam.nov.,Pectobacteriaceae fam.nov.,Yersiniaceae fam.nov.,Hafniaceae fam.nov.,Morganellaceae fam.nov.,and Budviciaceae fam.」(2016)Intl J.Systemic&Evolutionary Microbiol.66(12):引用元https://www.microbiologyresearch.org/content/journal/ijsem/10.1099/ijsem.0.001485#abstract_content)。
【0251】
B)エルシニア科細菌の構造ベースの機能分析
Y.pestisには、十分に特徴が明らかになっている3つの病原性プラスミドpYV/pCD1、pPla/pPCP1、及びpFra/pMT1に加えて、疾患を引き起こすために染色体にコードされた病原性因子が必要である。
【0252】
C)エルシニア科細菌感染に対する免疫応答
【0253】
Y.pestis感染は、ノミの咬傷または呼吸器飛沫による汚染のいずれかによって、免疫応答及び臨床症状の欠如から、体内に豊富な細菌を伴う破裂性炎症及び致死的敗血症への残忍な移行を示す。この遅延期間は「前炎症期」と呼ばれ、リンパ節(腺ペスト)または肺(肺ペスト)に向かって移動して静かに増殖するY.pestisに利益をもたらす。適切な抗菌薬で治療しない場合には、この細菌は、リンパ節内の封じ込めから急速に脱出し、血液を通って全身に広がり、致死的敗血症を引き起こす(Demeure,C.E.,Dussurget,O.,Mas Fiol,G.et al.(2019)Yersinia pestis and plague:an updated view on evolution,virulence determinants,immune subversion,vaccination,and diagnostics.Genes Immun 20,357-370 doi:10.1038/s41435-019-0065-0)。
【0254】
i)エルシニア科細菌による感染に対するT細胞の応答
細菌に対する細胞媒介防御は、多くの場合、IFN-γ及びTNF-αを分泌する病原体特異的T細胞の拡張、及びCD8+細胞傷害性Tリンパ球応答を特徴とする1型免疫応答の発生に依存する。Trudeau Instituteの研究によれば、細胞性免疫の重要な要素であるIFN-γ、TNF-α、及び一酸化窒素シンターゼ2が、致死的な肺Y.pestis感染に対する体液性防御中に重要な防御的機能を提供することが示された。生Y.pestis(KIM5 pCD1+、pMT+、pPCP+、pgm-)によるワクチン接種では、致死的な肺Y.pestis感染に対して相乗的に防御するCD4及びCD8T細胞をプライミングする。さらに、Y.pestisプライミングT細胞をナイーブμ-MTマウスに移すことにより、致死的なY.pestisの鼻腔内チャレンジから防御される。これらの研究では、抗体の非存在下での細胞性免疫が、肺のY.pestis感染から動物を防御できることが確認されている(Li,B.,et al.(2008)「Interaction between Yersinia pestis and the Host Immune System.」Infection and Immunity Apr,76(5)1804-1811)。
【0255】
しかし、Yersiniaは、Tリンパ球の活性化を直接抑制することによって適応免疫に影響を与える能力を有する。YopHは、細胞培養モデルで適応免疫応答を阻害する最初に文書で報告されたエフェクタータンパク質である。それは、ミトコンドリアによって調節されたプログラム細胞死を受けるように細胞を誘導することによって、T細胞を急速に麻痺させるが、防御免疫応答を誘導するために、確実に細胞が回復されない。Y.pseudotuberculosis YopPの機能分析は、マウス感染モデルにおけるCD8T細胞応答の発生を抑制できることを示している。
【0256】
D)エルシニア科細菌ワクチンの開発
【0257】
ペストに対しては、3種類のワクチン、すなわち、死滅全細胞(KWC)ワクチン、弱毒生ワクチン(EV76)、及び組換えサブユニットワクチンが開発されている。KWC及びEV76ワクチンは、動物モデルでのペストに対する防御を提供するが、いずれも副作用を有し、ヒトにおいて免疫を発達させるためには、繰り返し免疫化する必要がある。これらは、西欧社会のヒトには使用されていない。EV76は、現在でも中国のヒトに選択されているワクチンである。莢膜タンパク質F1及びIII型分泌システムタンパク質のうちの1つであるLcrVに基づくサブユニットワクチンは、近年の取り組みの焦点となっている。このサブユニットワクチンは、ペスト菌による呼吸器感染症からマウスを防御することが示されており、第II相試験への参加が報告されている。しかし、アフリカのサバンナモンキーを肺ペストから適切に防御することはできなかった(Li,Bei et al.(2012)「Humoral and cellular immune responses to Yersinia pestis infection in long-term recovered plague patients.」Clinical and vaccine immunology :CVI vol.19,2:228-34.doi:10.1128/CVI.05559-11)。
【0258】
X)エンテロバクター科
A)エンテロバクター科の概要
Enterobacteriaceaeは、グラム陰性、通性嫌気性、非胞子形成性の桿菌の科である。この科の特徴としては、運動性、カタラーゼ陽性、及びオキシダーゼ陰性であること;硝酸塩の亜硝酸塩への還元;グルコース発酵からの酸生成が挙げられる。しかし、多くの例外も存在する。現在、この科は、51属238種で構成されている。属ごとの種の数は、1~22の範囲である。ゲノムサイズは、わずか362個のORFをコードする422,434bpから、5,909個のORFをコードする6,450,897bpの範囲である。Enterobacteriaceaeは、自然界に遍在している。多くの種は、陸生環境及び水生環境の両方の多様な生態学的地位に自由生活として存在する可能性があり、一部は、動物、植物、または昆虫のみに関連している。多くは、重要なヒト、他の動物、及び/または様々な感染症を引き起こす植物病原体である(Octavia S.,Lan R.(2014)The Family Enterobacteriaceae.Rosenberg E.,DeLong E.F.,Lory S.,Stackebrandt E.,Thompson F.(eds)The Prokaryotes.Springer,Berlin,Heidelberg)。
【0259】
i)サルモネラ菌(S.enterica、S.Typhii)
サルモネラ菌は、Enterobacteriaceae細菌の細菌属であり、多数の動物宿主に感染する能力を有する遺伝的に類似した生物の大規模なグループで構成されている。動物及びヒトの臨床疾患の大部分は、サルモネラエンテリカ亜種内の血清型によって引き起こされ、これは局所胃腸炎から致死的播種性疾患にまで及ぶ可能性がある(Pham,Oanh H,and Stephen J McSorley.(2015)「Protective host immune responses to Salmonella infection.」Future Microbiology,Vol.10,1:101-10.doi:10.2217/fmb.14.98)。
【0260】
Salmonella enterica serovar Typhi(S.Typhi)は、腸チフスの原因菌であり、唯一の自然宿主であるヒトの腸粘膜を迅速かつ効率的に通過して、細網内皮系に到達する侵襲性細菌である。2000年には、腸チフスの約21,650,000回のエピソード及びこの疾患による216,500人の死亡が流行地域で発生したと推定されている。腸チフスにかかるリスクは、臨床微生物学者及びこの疾患が風土病である地域への旅行者の間で増加している(Pham,Oanh H,and Stephen J McSorley.(2015)「Protective host immune responses to Salmonella infection.」Future Microbiology,Vol.10,1:101-10.doi:10.2217/fmb.14.98)。疾患の伝播は、汚染された水及び食物の摂取、不十分な衛生状態、生乳製品、フレーバードリンク、及びアイスクリームの摂取により、糞口経路を介して発生する。この疾患は、下水及び肥料で灌漑された畑で栽培された生の果物及び野菜の消費によっても拡散し得る (Marathe,S.,et al.(2012)「Typhoid fever&vaccine development:a partially answered question.」Indian J Med Res.Feb;135(2):161-169)。
【0261】
B)エンテロバクター科細菌の構造ベースの機能分析
シーケンシングされたすべての腸内細菌は、通常4.3~5.0Mbのサイズの単一の染色体を有する。異なる株はまた、プラスミドの形態で、染色体外DNAを保有し得る。プラスミドは、多くの場合、病原性または抗生物質耐性に関連する遺伝子を保持しており、急速に進化している遺伝子プールと見なすことができる。異なる腸内細菌の染色体を比較することにより、一般に腸内種間で共有される、いわゆる「コア遺伝子」の共通セットが同定される。これらのコア遺伝子は、腸のコロニー形成及び伝播(環境生存)という共通の共有ライフスタイルに関連する「家庭」機能を実施する遺伝子と見なすことができる。コアゲノムは主に、これらの遺伝子が単一の染色体に沿って同じ保存された順序で整列して構成されている。これは「シンテニー」と呼ばれる特徴である (Stephen Baker,Gordon Dougan,(2007)The Genome of Salmonella enterica Serovar Typhi,Clinical Infectious Diseases,Volume 45,Issue Supplement_1,,Pages S29-S33)。
【0262】
ほとんどの腸チフス分離株は、Vi多糖カプセルを発現する。Viカプセルの生成は、SPI-7として指定された新しい遺伝子アイランド内にある一連の遺伝子に関連付けられている。このアイランドの長さは134kbであり、Vi遺伝子座、SPI-1のsopEエフェクタータンパク質をコードするファージ、IV型線毛、及びIV型分泌系等、様々な推定病原性関連遺伝子クラスターをコードしている。SPI-7は、水平方向に取得されたDNAに関連する多くの典型的な機能を有し、その構造はいくつかの独立した組み込みイベントを示す。SPI-7が、共役トランスポゾンと同様の方法で作用でき得るいくつかのエビデンスもある (Stephen Baker,Gordon Dougan,(2007)The Genome of Salmonella enterica Serovar Typhi,Clinical Infectious Diseases,Volume 45,Issue Supplement_1,,Pages S29-S33)。
【0263】
さらに、YfdXは、チフス菌(Salmonella enterica serovar Typhi)等いくつかの病原菌によってコードされる原核生物のタンパク質である(Lee,H.S.,et al.,(2019)「Structural and Physiological Exploration of Salmonella Typhi YfdX Uncovers Its Dual Function in Bacterial Antibiotic Stress and Virulence.」Front.Microbiol.,9:3329.doi:10.3389/fmicb.2018.03329)。
【0264】
C)エンテロバクター科細菌感染に対する免疫応答
サルモネラ感染の正確な臨床転帰は、関与する個々の血清型、感染した宿主種、及び個体の免疫学的状態に大きく依存する(Marcelo B.Sztein,(2007)Cell-Mediated Immunity and Antibody Responses Elicited by Attenuated Salmonella enterica Serovar Typhi Strains Used as Live Oral Vaccines in Humans,Clinical Infectious Diseases,Volume 45,Issue Supplement_1,Pages S15-S19)。腸チフスは、ヒト特有グラム陰性病原菌であるSalmonella enterica serovar Typhi(S.Typhi)によって引き起こされる全身性疾患である。サルモネラ菌によって引き起こされる腸外感染症は、致死的である。腸チフスの発生率は、貧困地域で非常に高いままであり、多剤耐性の出現が、状況を悪化させている(Marathe,S.,et al.(2012)「Typhoid fever&vaccine development:a partially answered question.」Indian J Med Res.Feb;135(2):161-169)。
【0265】
疾患の潜伏期間は、通常10~14日であり、8~15日とかなり異なるが、接種材料のサイズ及び宿主の防御状態に応じて、最短で5日、最長で30日または35日になり得る。疾患の発生は、患者のチフス菌またはパラチフス菌のいずれかの病原体の存在によって確認する必要がある。これには、血液、便、または骨髄からの細菌の単離が必要である。発熱の持続時間が長くなると、検査の感度が低下する。別の方法は、ウィダール検査であり、発病後2週目にのみ現れる血清中のサルモネラ特異的O(体細胞)及びH(べん毛)抗原に対する抗体の存在を特定する(Marathe,S.,et al.(2012)「Typhoid fever&vaccine development:a partially answered question.」Indian J Med Res.Feb;135(2):161-169)。
【0266】
チフス菌は、最初に小腸上皮細胞に浸透し、次に血流を介して脾臓、肝臓、及び骨髄等の他の臓器に拡散し、そこでこの細菌が増殖して再び血流に入り、高熱等の症状を引き起こす(Lee,H.S.,et al.,(2019)「Structural and Physiological Exploration of Salmonella Typhi YfdX Uncovers Its Dual Function in Bacterial Antibiotic Stress and Virulence.」Front.Microbiol.,9:3329.doi:10.3389/fmicb.2018.03329)。
【0267】
CD4 T細胞の活性化は、パイエル板(PP)と呼ばれるリンパ系構造を覆う特殊なマイクロフォールド細胞(M細胞)集団中で最初に検出され、次に腸チフスの口腔感染後、腸管流入リンパ節(MLN)中で検出された。これらの腸チフス特異的CD4T細胞は、表面CD69を発現するように活性化され、数時間後に最大レベルのインターロイキン-2(IL-2)を産生した。研究によると、S.Typhiに最初に感染後、CD4クローンの拡張度が非常に大きく、これは、末梢T細胞の50%以上が活性化し、エフェクター機能を獲得しているエビデンスを示すものである。これらの拡張したT細胞集団は、感染組織に移動し、エフェクターサイトカインを分泌する能力も獲得する。近年の研究では、このエフェクター応答の誘発は、直接の同族のTCR刺激に加えて、非同族の刺激に応答して起こり得ることが示唆されている。T細胞の非同族活性化は、ウイルス特異的CD8 T細胞について広く研究されており、IL-12及びIL-18等の炎症性サイトカインが関与していることが示されている。さらに、近年の研究では、OVA特異的記憶CD8 T細胞は、S.Typhi感染時に非同族シグナルを介して刺激され得ることが示されている。このメカニズムは、CD8α+DCによるNLRC4インフラマソーム活性化及びIL-18放出を必要とすることが観察された(Pham,Oanh H,and Stephen J McSorley.(2015)「Protective host immune responses to Salmonella infection.」Future Microbiology vol.10,1:101-10.doi:10.2217/fmb.14.98)。
【0268】
D)エンテロバクター科細菌ワクチンの開発
現在、2つのみの腸チフスの認可されたワクチン、サブユニット(Vi PS)及び弱毒生チフス菌株(Ty21a)が市販されている(Marathe,S.,et al.(2012)「Typhoid fever&vaccine development:a partially answered question.」Indian J Med Res.Feb;135(2):161-169)。
【0269】
1896年に、熱殺菌されたフェノールが保存され、アセトンで殺菌され凍結乾燥された注射可能な全細胞チフス菌ワクチンが生成され、英国及び独国で使用された。このワクチンの有効性は、1960年にユーゴスラビア、USSR、ポーランド、及びガイアナで行われた試験で評価された。このワクチンは、依然としていくつかの国で使用されているが、ほとんどの国は副作用のためにこのワクチンの使用を中止している。不活化全細胞ワクチンは、レシピエントの9~34%に局所炎症、疼痛、全身性発熱、不定愁訴、及び疾患様症状を引き起こす(Marathe,S.,et al.(2012)「Typhoid fever&vaccine development:a partially answered question.」Indian J Med Res.135(2):161-169)。
【0270】
次に、注射可能なサブユニットワクチンVi-多糖ワクチンが開発された(Sanofi PasteurからTyphim Viとして、GlaxoSmithKlineからTypherixとして販売されている)。このワクチンは、ある欠点を有し、2歳未満の小児においては、非免疫原性であり、ブースター効果を誘導できない。多くのチフス菌株は、Vi多糖類が陰性であるか、またはVi抗原を喪失する。そのような場合、Vi-PSワクチンでは、患者を防御できないであろう(Marathe,S.,et al.(2012)「Typhoid fever&vaccine development:a partially answered question.」Indian J Med Res.135(2):161-169)。
【0271】
Ty21aは、最初の経口弱毒化サルモネラ生ワクチン(Berna Biotech、現在はCrucellによってVivotifとして販売)であり、野生型チフス株Ty2の化学変異誘発によってスイスで開発された。この株は、機能的なガラクトースエピメラーゼ(galE)遺伝子及びVi抗原の両方を欠き、高度に弱毒化されている。しかし、Ty21aは、特定の欠点を有する。十分な免疫を得るためには、経口投与ついては多数(109)の細菌が必要であり、5~6歳以上の小児にのみ使用することが推奨されている。このワクチンは、酸に非常に不安定であるため、Ty21aを経口投与する場合は、胃の酸性度を中和するか回避する必要がある(Marathe,S.,et al.(2012)「Typhoid fever&vaccine development:a partially answered question.」Indian J Med Res.135(2):161-169)。
【0272】
現在利用可能な腸チフスワクチンはいずれも理想的ではない。Ty21a(唯一認可された弱毒生経口ワクチン)及び精製されたVi莢膜多糖体ワクチンは、忍容性は良好であるが、予防効果は中程度のみである。
【0273】
チフス菌の多剤耐性菌の出現は、疾患の状況及び既存の抗生物質による治療をさらに複雑にした(Pham,Oanh H,and Stephen J McSorley.(2015)「Protective host immune responses to Salmonella infection.」Future Microbiology vol.10,1:101-10.doi:10.2217/fmb.14.98)。
【0274】
パラチフスに有効な認可ワクチンは存在しない。サルモネラ菌の多剤耐性菌の出現の増加は、既存の抗生物質による治療をさらに複雑にした。
【0275】
XI)リケッチア科
A)リケッチア科の概要
リケッチアは、ダニ、シラミ、ノミ、ダニ、ツツガムシ、及び哺乳動物に見られる、偏性細胞内グラム陰性菌の多様なコレクションである。それらには、属である、Rickettsiae、Ehrlichia、Orientia、及びCoxiellaが含まれる。これらの人獣共通感染症の病原体は、血液中の多くの臓器に広がる感染症を引き起こす(Walker DH.Rickettsiae.(1996):Baron S,editor.Medical Microbiology.4th edition.Galveston(TX):University of Texas Medical Branch at Galveston.Chapter38.入手元:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK7624/)。リケッチア属のメンバーは、2つの主要なグループ:伝統的に斑点熱群(SFG)及びチフス群(TG)に分類され、既知の種のほとんどは、SFGに属している。Rickettsia typhi及びRickettsia prowazekiiの2種がTGを構成している。リケッチア生物は、南極大陸を除くすべての大陸で発見されている。ほとんどのリケッチア種は、気候条件及びベクター及び自然の宿主の制約のために地域固定(region-locked)されている。しかし、Rickettsiafelis及びRickettsiatyphi等、世界中に分布しているリケッチアが存在する。これらの2種のリケッチアは、ノミによって伝播し、ダニの地理的分布に限定される傾向があるダニベクターを必要とするほとんどのリケッチアからは有意に逸脱している。リケッチアを宿し、伝播することが知られている他のベクターは、ダニ(Rickettsia akari)及びシラミ(Rickettsia prowazekii)である(Mohammad Yazid Abdad,Rita Abou Abdallah,Pierre-Edouard Fournier,John Stenos,Shawn Vasoo,(2018)「A Concise Review of the Epidemiology and Diagnostics of Rickettsioses:Rickettsia and Orientia spp.」Journal of Clinical Microbiology 56(8)e01728-17)。
【0276】
i)Rickettsia prowazekii(R.prowazekii)
古典的な発疹チフスの病原体であるR prowazekiiは、ヒトの身体(衣類)のヒトジラミPediculus humanus(アタマジラミではない)によって、活動的なヒトの症例から、または健康な保因者、または亜臨床症例、いわゆるブリル-ジンサー病から伝播する。典型的な状況は、1995年にN’Goziの刑務所で始まり、中央高地(1500m以上)の難民キャンプの栄養不良の住民に拡散され、死亡率2.6%の5万人以上の死亡者を出したブルンジの大発生で明らかであった。コロモジラミの糞便中の感染性病原体は、通常、シラミの咬傷部位を引っ掻くことによって接種されるが、閉鎖的なコミュニティでの流行では、乾燥したシラミの糞便のエアロゾルが吸入される場合がある。生物のゲノムは近年配列決定され、これにより、リケッチアと一般的な細胞内ミトコンドリアとの間の進化的関係の新しいエビデンスが提供されている(Cowan,G.(2000)「Rickettsial diseases:the typhus group of fevers--a review.」Postgraduate Medical J.vol.76,895:269-72.doi:10.1136/pmj.76.895.269)。
【0277】
i)Rickettsia typhi(R.typhi)
R.typhi感染は、発疹チフスに似ているが、それよりも軽度の疾患を引き起こす。未治療の場合、致死率は5%以下である。発疹熱の原因物質であるRmooseri(R typhi)は、ラットノミXenopsylla cheopisによって運ばれ、典型的には、市場、穀物店、醸造所、及びゴミ置き場でヒトに感染する。多くの場合、軽度の疾患であるが、難民キャンプではより攻撃的になり得、致死的とさえなり得る(Cowan,G.(2000)「Rickettsial diseases:the typhus group of fevers--a review.」Postgraduate Medical Journal vol.76,895:269-72.doi:10.1136/pmj.76.895.269)。
【0278】
B)リケッチア科細菌の構造ベースの機能分析
R.typhiは、偏性細胞内病原体である。生存し、増殖し、感染を成功裏に確立させるために、Rickettsiaeは、標的宿主細胞に付着し、侵入する必要がある。紅斑熱群のリケッチア細菌(Rickettsia aeschlimanii、Rickettsia africae、R. conorii、Rickettsia heilongjiangensis、Rickettsia helvetica、Rickettsia honei、Rickettsia japonica、Rickettsia massiliae、Rickettsia montanensis、Rickettsia parkeri、Rickettsia peacockii、Rickettsia rhipicephali、R. rickettsii、Rickettsia sibirica、及びRickettsia slovaca)は、よく特徴が明らかになっている表面に露出した2つのタンパク質を有する。これらは、OmpA及びOmpBとして知られており、OmpAは、発疹チフス群の生物には見られない。R.conorii中の遺伝子Adr1(RC1281)及びR.prowazekii中のAdr2(RP828)によってコードされる他の推定リケッチアアドヘシンは、その後、プロテオミクスベースの分析によって同定され、リケッチア宿主浸潤に関与することが提唱された。宿主細胞受容体へのリケッチア接着に関与する、オートトランスポータータンパク質に類似したタンパク質をコードする少なくとも17の表面細胞抗原(Sca)が存在する。4つ(Sca0(OmpA)、Sca1、Sca2、及びSca5(OmpB))は、リケッチアの接着、浸潤、またはその両方で重要な役割を果たすことが示されている。リケッチアのSca4は、接着斑の部位で細胞内のビンキュリンと共局在し、すべてのリケッチア種で保存されている2つのビンキュリン結合部位を介してビンキュリンに結合して活性化する。Ku70は、細胞質及び原形質膜に局在する核DNA依存性プロテインキナーゼのサブユニットであり、リケッチアOmpBの受容体として作用し、したがって、リケッチアの内在化において重要な役割を果たす。リケッチアは、ファゴソーム膜を破壊し、宿主のサイトゾルにアクセスするために、それぞれtlyC及びpldA遺伝子によってコードされる膜溶解タンパク質溶血素C及びホスホリパーゼDを利用する可能性がある。ホスホリパーゼA2(PLA2)様活性は、宿主細胞へのリケッチア侵入にも関与している。R.typhi中の遺伝子RT0522(pat2)は、PLA2活性をコードしている。さらに、R.typhiによってコードされるRT0590(pat1)は、感染中の宿主細胞への付着及び侵入に必要なPLA2活性を有することも示されている。リケッチアゲノムの76%で偽遺伝子化されていると考えられるRT0522(pat2)とは異なり、R.typhi pat1は、すべてのリケッチアゲノムに遍在し、発現され、宿主サイトゾルに分泌され、そのPLA2の活性のために、未確認の宿主活性化因子(複数可)によって機能的に活性化される。
【0279】
エフェクターの標的宿主細胞への送達を達成する、IV型分泌系(T4SS)として知られる原型の膜関連トランスポーター系は、11個のVirBタンパク質(VirB1~VirB11)及びVirD4で構成されている。これらの分泌系は、遺伝子物質の細胞外環境からの獲得及び細胞外環境からの放出、ならびに毒素(複数可)、病原性因子または他のエフェクターメディエーターの宿主の細胞質への注射の両方において、他の細菌及び宿主細胞へのDNAの移動にある役割を担うことが知られている。R.typhiは、VirD4、VirB3、VirB10、VirB11のオルソログ、VirB4、VirB8、及びVirB9の各2コピー、及びVirB6と相同性のある5つの異なる遺伝子のオルソログをコードする。1型分泌系の3つの主要な構造的特徴は、TolC科に属する外膜タンパク質、ペリプラズム膜融合タンパク質、及び内部タンパク質に関連するATP結合トランスポーターである。さらに、リケッチアアンキリンリピートタンパク質-1(RARP-1)は、すべてのリケッチアゲノム間で保存されており、仮想タンパク質をコードする隣接遺伝子RT0217及びRT0216(TolC)と共転写され、R.typhiによってTolC依存的に分泌され、リケッチアの病原性のメカニズムの一部となると仮説が立てられている(Sahni,Sanjeev K et al.(2013)「Recent molecular insights into rickettsial pathogenesis and immunity.」Future microbiology vol.8,10:1265-88)。
【0280】
リケッチア科細菌の生存可能なリケッチアによる感染に対する免疫応答は、最初の感染後数ヶ月または数年の間、宿主組織に潜伏したままであり得る。リケッチアに対する免疫応答には、最初は自然免疫応答を伴い、その後に体液性免疫応答及び細胞性適応免疫応答の両方が続く。適応免疫応答は、発達するのに時間を要するが、自然免疫応答は、最初の感染部位でリケッチアに積極的に関与している。感染の初期段階における樹状細胞(DC)及びプロ食細胞の役割は理解されていないが、リケッチアは、不活化マクロファージ中で成長すると考えられる。感染した内皮細胞と共に抗原提示細胞(樹状細胞及び単球細胞)は、感染初期のリケッチアの全身拡散の手段であり得、十分な制御手段ではない可能性がある。しかし、時間の経過と共に、内皮細胞、食細胞、DC、及びナチュラルキラー(NK)細胞は、侵入するリケッチアによって活性化され、感染にうまく対処するように自然免疫応答を強化するために必要なサイトカイン及びケモカインが豊富な環境を作り出す。
【0281】
受動移入研究で実証されているように、抗体のみではリケッチア感染の制御には有効でない。しかし、リケッチアの抗体コーティングは、インビトロでのリケッチアの食作用及び消化を増強する。細胞性免疫応答は、受動移入研究で示されているとおり、様々なリケッチアによる感染から宿主を防御することができる。特に、必要なのはTリンパ球である。すなわち、CD8+T-リンパ球は、リケッチアに対する効果的な免疫応答には必須である(Richards,A.L.(2004)Rickettsial vaccines:The old and the new.Expert Review of Vaccines,3(5),541-55)。
【0282】
C)リケッチア科細菌ワクチン開発
最初のチフスワクチンは、殺され、粉砕された感染したシラミの腸を利用した。次に、殺された感染マウス肺ワクチンが、発疹チフスリケッチアのホルマリンで殺し、分画遠心分離によって抽出された肺組織調製物から大規模に開発された。しかし、感染した肺から調製されたワクチンにおける、実験室で取得されたチフスの重大な危険性のため(くしゃみをする実験室動物が、感染性エアロゾルを生成する)、代替ワクチンが求められた(Richards,A.L.(2004).Rickettsial vaccines:The old and the new.Expert Review of Vaccines,3(5),541-55)。
【0283】
ニワトリ胚の卵黄嚢で培養されたCoxワクチン(R.prowazekii Breinl)(エーテル抽出及びホルマリン死菌)は、米国での製造が認可された主要ワクチンであった。しかし、このワクチンは、感染からの完全な防御をもたらさなかったが、しかし疾患をより短く、より穏やかにし、流行性チフスによる死を防いだと考えられた。さらに、ワクチンの有効性及び有害な副作用(注射部位の痛み及び圧痛、高エンドトキシン含有量による発熱、及び卵黄嚢含有量に対する過敏応答)に関する標準化、適切な情報の欠如により、細菌ワクチンの最新の基準を満たすことを妨げるであろう(Richards,A.L.(2004).Rickettsial vaccines:The old and the new.Expert Review of Vaccines,3(5),541-55)。その後、生ワクチンが研究されたが、標準化されておらず、十分な免疫応答を獲得するのに理想的でもなかった。
【0284】
リケッチア死菌ワクチンは、短命で不完全な相同免疫を生み出すために、大量の抗原、複数回の投与、及び時間を必要とした(Richards,A.L.(2004).Rickettsial vaccines:The old and the new.Expert Review of Vaccines,3(5),541-55)。単一のワクチンでは、リケッチア剤のいずれかに対して長期的な防御をもたらすことはできなかった。
【0285】
PROTOZOAN PARASITES
XII)プラスモジウム科
A)プラスモジウム科の概要
Plasmodidae科は、Haemosporidida目の科であり、Plasmodiumを含む。これは、ヒトの健康に重要な属である。Plasmodiumは、マラリア原虫を含む。プラスモジウムは、その生活環の中で2つの偏性宿主を有し、蚊の宿主は脊椎動物宿主へのベクターとしても作用する。これまでに調べられたすべてのプラスモジウム種は、14の染色体、1つのミトコンドリア及び1つの色素体を有する。アピコンプレックス門の他の寄生体と同様に、プラスモジウムには、ミクロネーム、ロプトリー、及び密な顆粒として知られる頂端細胞小器官の特殊な複合体がある。これらはまた、独自のゲノム及び遺伝子発現機構を有する退化した色素体細胞小器官、アピコプラストを有する(World Health Organization(2014)「Malaria and Some Polyomaviruses(SV40,BK,JC,and Merkel Cell Viruses)」IARC Monographs on the Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans Volume 104 pps.41-120)。
【0286】
i)熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)(P.falciparum)、三日熱マラリア原虫(P. vivax)、四日熱マラリア原虫(P.malariae)、卵形マラリア原虫(P.ovale)、及びサルマラリア原虫(P.knowlesi)
【0287】
ヒトにマラリアを引き起こすプラスモジウム(P)は、5種類ある:P.falciparum、P.vivax、P.malariae、P.ovale及びP.knowlesi。P.falciparumは、はるかに最も致命的である。年間5億人のマラリアが発生しており、そのうち約1~200万人がマラリアで死亡している。この疾患は、主に5歳未満の小児に見られ、年間約100万人の小児が死亡している(Todryk,Stephen M,and Michael Walther.(2005)「Building better T-cell-inducing malaria vaccines.」Immunology,Vol.115,2:163-9.doi:10.1111/j.1365-2567.2005.02154.x)。
【0288】
B)プラスモジウム科寄生虫の構造ベースの機能分析
感染したメスのハマダラカ属蚊の血粉の間に、5~20個のスポロゾイトがハエの唾液腺から注入される。それらが血流に侵入し、30分~1時間以内に肝細胞に急速に浸潤する。スポロゾイトは、いくつかの表面タンパク質を発現し、そのうちの2つは、高度に発現する抗原:サーカムスポロゾイト(circumsporozoite)(CS)及びトロンボスポンジン関連接着タンパク質(TRAP)である。肝細胞内に入ると、肝臓段階抗原-1(LSA-1)及びLSA-3等、追加の抗原が発現し、エクスポートされる(Exp)-1。メロゾイトの発生には約1週間を要し、肝細胞の破裂後に血流に放出されるメロゾイトは、典型的には、元のスポロゾイトあたり20,000~40,000である。メロゾイトは、スポロゾイトとは大きく異なる一連の血液段階の抗原を発現し、例えば、メロゾイト表面タンパク質(MSP)-1、-2、及び-3、頂端膜抗原(AMA)-1、及びグルタミン酸リッチタンパク質(GLURP)であり、赤血球に浸潤し、複製し、赤血球の破裂を引き起こし、より多くのメロゾイトを放出する。数回の血液段階サイクルの後、メロゾイトの一部が雄及び雌の生殖母体に分化し、血粉の間に蚊が摂取すると、蚊の腸内にオーシストを形成し、新しい宿主に感染できるスポロゾイトを生じさせる。感染の血液段階は宿主の重篤な疾患、場合によっては死につながり得るが、臨床免疫は、繰り返し曝露後に発達し、重篤な形態の疾患から防御するのみでなく、最終的に寄生虫血症レベルを低下させる。しかし、再感染に対する防御を示す無菌免疫(sterile immunity)はほとんど見られない。肝臓段階に対するワクチン接種の目的は、特に最もリスクにさらされている幼児において、無菌免疫または血液段階に到達する寄生虫数の十分な減少のいずれかを誘導して、疾患を軽減することである。後者の効果はまた、有益な自然免疫が発達する機会を提供する(Todryk,Stephen M,and Michael Walther.(2005)「Building better T-cell-inducing malaria vaccines.」Immunology,Vol.115,2:163-9.doi:10.1111/j.1365-2567.2005.02154.x)。
【0289】
プラスモジウム科寄生虫感染に対する免疫応答プラスモジウム感染に対する自然免疫には、体液性のCD4+、及びCD8+T細胞応答の混合物が含まれる。しかし、肝臓のTRMは、マラリアから防御するための有望な標的として明らかになっている。肺、腸、及び皮膚等の上皮のTRMとは異なり、肝臓-TRMは、実質組織ではなく、洞様血管(肝臓の血管)中に常在すると考えられる。これらの血管の大量の有窓構造及び明確な遅い血液の流れにより、TRMは循環に送られることなく器官を通過できる(Muruganandah,V.,Sathkumara,H.D.,Navarro,S.,&Kupz,A.(2018).A Systematic Review:The Role of Resident Memory T Cells in Infectious Diseases and Their Relevance for Vaccine Development.Frontiers in Immunology,9,1574.doi:10.3389/fimmu.2018.01574)。
【0290】
肝洞様血管は、TRM、ならびにクッパー細胞及び樹状細胞等の抗原提示細胞との密接な相互作用のための主要なニッチを提供する。これにより、抗原の迅速な検出が可能になる。各肝細胞は洞様血管とも密接に関連しているため、表面抗原提示を評価するために肝臓のTRMへ容易にアクセスできるようになる。生体内イメージングにより、これらのTRMは、毎分約10μmを通過し、皮膚のHSV-1感染で報告されているとおり、TRMは、肝臓の抗原を調べるために、アメーバ状形態をとり、樹状突起を伸長することが明らかになった。組織の常在を維持するためにCD103-αEインテグリン相互作用に依存するのではなく、肝臓TRMは、接着分子LFA-1を利用していると考えられる。スポロゾイト免疫を評価したアカゲザルP.knowlesi感染モデルでは、肝臓TRMを生成する能力を実証した。これらのTRMは、それらの枯渇が免疫の喪失をもたらしたため、防御的であると考えられる(Muruganandah,V.,Sathkumara,H.D.,Navarro,S.,&Kupz,A.(2018).A Systematic Review:The Role of Resident Memory T Cells in Infectious Diseases and Their Relevance for Vaccine Development.Frontiers in Immunology,9,1574.doi:10.3389/fimmu.2018.01574)。この戦略によって生じた免疫は、CD8+肝臓TRMの数の増加に起因するものだった。
【0291】
C)プラスモジウム科ワクチンの開発及び課題または失敗
広範な研究及びいくつかのワクチン設計を利用するいくつかの候補にもかかわらず、プラスモジウム科寄生虫に対する公的に利用可能なワクチンは1つのみである。組換えベース、DNAベース、及びトランスジェニックベース等のほとんどのワクチンは、最終的には有効性が限られており、長期的な免疫を生み出すことができなかったことが示された(James,S.,「Malaria Vaccine Development Status Report」Foundation for the National Institute of Health(1999)available at www.researchgate.net/publication/266879756_Malaria_Vaccine_Development_Status_Report)。その欠点にもかかわらず、RTS,S/AS01 Mosquirix(商標)としても知られるワクチンは、世界で最初に承認されたマラリアワクチンである(Bharati,K.(2019)「Malaria Vaccine Development:Challenges and Prospects.」Journal of Clinical and Diagnostic Research.Aug,Vol 13(8):AB01-AB03.)
【0292】
研究者たちは、寄生虫のゲノムが、細菌及びウイルのスゲノムよりも複雑であるため、マラリアワクチンの開発は困難であると仮説を立てている。さらに、寄生虫は、生活環のいくつかの段階、及び標的抗原が変化する生殖段階を経る(Bharati,K.(2019)「Malaria Vaccine Development:Challenges and Prospects.」Journal of Clinical and Diagnostic Research.Aug,Vol 13(8):AB01-AB03)。
【0293】
ワクチン接種媒介防御及びその欠点
ワクチン誘導免疫エフェクターは、本質的に抗体であり、Bリンパ球によって産生され、毒素または病原体に特異的に結合することができる。他の潜在的なエフェクターは、細胞傷害性CD8+Tリンパ球であり、感染細胞を認識して死滅させるか、または特定の抗ウイルスサイトカイン及びCD4+Tヘルパー(TH)リンパ球を分泌することによって、感染性病原体の拡散を制限し得る。これらのTH細胞は、サイトカイン産生を介して防御に寄与し、B及びCD8+T細胞応答の生成及び維持をサポートし得る。エフェクターCD4+TH細胞は、それぞれ、主なサイトカイン産生(インターフェロン-γまたはインターロイキン[IL)-4))に応じて、最初はTヘルパー1(TH1)またはTヘルパー2(TH2)サブセットに細分化された。TH細胞は、明確なサイトカイン産生及びホーミング能力を備えた多数のサブセットを含むことがますます示されている。例えば、濾胞Tヘルパー(fTH)細胞は、強力なB細胞の活性化及び抗体分泌細胞への分化をサポートするために、リンパ節に特別に装備され位置付けられている。これらは、抗体応答を直接制御し、アジュバント作用を媒介するものとして同定された。Tヘルパー17(TH17)は、皮膚及び粘膜にコロニーを形成する細胞外細菌を本質的に防御し、これにより、好中球を動員して局所炎症を促進する。これらのエフェクターは、免疫寛容の維持に関与する制御性T細胞(Treg)によって制御される。
【0294】
ワクチンの性質は、誘発される免疫エフェクターの種類に直接影響を及ぼすが、免疫化プロセスにより抗原特異的免疫エフェクター(及び/または免疫記憶細胞)が誘導されることは、結果として生じる抗体、細胞、またはサイトカインが、ワクチン有効性を代理することまたはその有効性と相関することを意味するものではない(Rueckert C, Guzman CA (2012) Vaccines: From Empirical Development to Rational Design.PLoS Pathog 8(11):e1003001.doi:10.1371/journal.ppat.1003001)。
【0295】
現在のワクチン接種の取り組みによって提供され防御は、中和抗体の誘導に大きく依存している。ウイルスの抗体媒介中和は、ウイルス粒子への抗体のドッキングによって生じるウイルス感染性の直接阻害である。中和は、細胞表面受容体に結合するビリオンのプロセスが阻害された場合、またはビリオンと細胞のエンドソームまたは原形質膜との融合プロセスが破壊された場合に発生する。中和抗体は、特定の抗原を正確に標的とする。抗体は、ウイルスの細胞への侵入を直接妨害することに加えて、Fc断片を介してウイルス感染をさらに打ち消して、ADCC、抗体依存性細胞傷害(ADCP)、及びCDCC等の免疫調節メカニズムを引き起こすことができる。
【0296】
しかし、中和抗体防御は、制限を有する。第一に、動物モデルが入手できない等、ワクチン開発自体のプロセスに複数の問題がある。第二に、病原体は、多くのバリアントで現れ、免疫回避を可能にするために変異を受け得る。第三に、ワクチン誘導免疫は、長期的免疫を付与するのに十分に有効でない可能性がある。第四に、実験モデルにもかかわらず、いくつかのワクチンは、望ましい機能的応答を引き起こさない可能性がある。第五に、ワクチンに対する免疫応答を変え得る集団特有の課題が複数ある。第六に、防御のメカニズム、及び標的化メカニズムの十分な活性化に必要な抗原/エピトープに関する情報が不十分である。
【0297】
第一に、ワクチン開発は、複雑で長期のプロセスであり、十分な動物モデルがないため難航している。例えば、Flaviviridae科ウイルスを標的とする場合、現在、前臨床試験にとって完全である小動物モデルはない。これまでのところ、ウイルスの自然の貯蔵庫の1つである非ヒト霊長類(NHP)は、Lee&Ngによって深く議論されている最良の前臨床モデルである(上記、引用元、CYP,Ng,LFP,(2018)Microbes Infect.doi:10.1016/j.micinf.2018.02.009)。しかし、NHPでワクチンの試験を行い、その維持に要する費用は非常に高く、ワクチン開発において大きなハードルが生じる。
【0298】
第二に、病原体は、高頻度で抗原シフトまたは抗原ドリフトを引き起こす複数の株及びバリアントを有する。インフルエンザウイルスは、RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)を利用して、複製サイクルを触媒する。RdRpは、エラーが発生しやすいため、「抗原ドリフト」と呼ばれるプロセスで新しい変異が蓄積され、時間の経過と共にゲノムを変化させる(Fermin,Gustavo,and Paula Tennant.(2018)Viruses:Molecular Biology,Host Interactions and Applications to Biotechnology,edited by Jerome E.Foster,Elsevier Science&Technology.ProQuest Ebook Central,https://ebookcentral.proquest.com/lib/jhu/detail.action?docID=5322098)。抗原シフトではまた、トリインフルエンザで近年観察されたように、いくつかのインフルエンザ株が新しい種に適応することが可能になる。さらに、オルソミクソウイルスのような分節化されたゲノムは、ゲノムの再集合を受ける可能性がある。さらに、タンパク質抗原が異なる株間で大きく変動する場合、産生される抗体は中和されない(Stanley A.Plotkin,(2015)Increasing Complexity of Vaccine Development,The Journal of Infectious Diseases,Volume 212,Issue Suppl_1,Pages S12-S16,https://doi.org/10.1093/infdis/jiu568)。
【0299】
ラブドウイルス科に対するウイルスワクチンの開発において、これらのウイルスの急速な進化及びその結果としての高い多様性及びその適応度は、ウイルスの病原性、向性、宿主範囲、伝播、したがってそれらの永続化の主要な駆動力である。この遺伝的多様性の重要な決定要因は、RNA依存性RNAポリメラーゼのエラーが発生しやすい性質であり、これにより、ウイルス複製中に、RNAゲノム間の変異、配列の欠失、挿入、及び組換えの割合が高くなり得る。RNAレプリカに関連する効率的な校正及び複製後の修復活性がないため、RNAウイルスの変異率は、ヌクレオチドコピーあたり約103~105の置換の間で変動すると推定されている。その結果として、ウイルス集団は、常に進化の駆動力によって形成され、遺伝子の多様化は、ウイルスの進化における一般的なプロセスである。長期的には、これにより、新しいバリアント、種、または属の分離につながり、ラブドウイルスワクチンの達成における課題となる(Scott,T.P.,&Nel,L.H.(2016).Subversion of the Immune Response by Rabies Virus.Viruses,8(8),231.doi:10.3390/v8080231)。
【0300】
Picornaviridaeワクチンの開発を考慮する場合、口蹄疫ウイルスの血清型O、A、及びアジア1に対する現在の化学的に不活化された三価ワクチンは、熱安定性等の制限を受け、免疫が短期である(Singh,K.R.,et al.,(2019)「Foot-and-Mouth Disease Virus:Immunobiology,Advances in Vaccines and Vaccination Strategies Addressing Vaccine Failures-An Indian Perspective.」Vaccines,7(3),90)。さらに、ある血清型に対する免疫は、他の血清型に対して、または時には同じ血清型内のバリアントに対してさえも防御をもたらさない(同上)。
【0301】
Retroviridae科のメンバーであるヒト免疫不全ウイルス(HIV)の極端な多様性は、異なる亜型に属する株がenvタンパク質等の一部のタンパク質中で最大35%異なり得るため、ワクチン開発における大きな障害である。したがって、一部のワクチンは、一部のウイルスクレードに対して有効であり得るが、他のクレードに対しては有効ではない可能性がある(Hsu,D.et al,(2017)「Progress in HIV vaccine development」Human Vaccines&Immunotherapeutics 13(5):1018-1030を参照されたい)。
【0302】
第三に、現在のワクチンは、部分的な有効性及び短いエフェクターメモリーの徴候を示している。例えば、ヘルペスウイルス科のワクチン設計の開発により、部分的有効性のみ有するワクチンが生じた(Sandgren,K.,et al.,(2016)「Understanding natural herpes simplex virus immunity to inform next‐generation vaccine design.」Clinical&Translational Immunology 5(7))。
【0303】
Pertussis無細胞ワクチンは、不活化全細菌ワクチンに取って代わり、反応原性(免疫反応を引き起こし得る)の問題が解決されたが、pertussis(百日咳)は、これらのワクチンが先進国で標準的に使用されるようになった後、再燃した。菌株の変化がある役割を担い得るが、主な問題は、特に百日咳毒素に対する抗体の急速な衰退である(Stanley A.Plotkin,(2015)Increasing Complexity of Vaccine Development,The Journal of Infectious Diseases,Volume 212,Issue suppl_1,July Pages S12-S16,https://doi.org/10.1093/infdis/jiu568)。
【0304】
Yersiniaceae細菌ワクチン(EV76)で免疫化された対象は、約6~12ヶ月の防御のみ獲得した(Li,Bei et al.(2012)「Humoral and cellular immune responses to Yersinia pestis infection in long-term recovered plague patients.」 Clinical and Vaccine Immunology:CVI vol.19,2:228-34.doi:10.1128/CVI.05559-11)。
【0305】
単一のワクチンでは、リケッチア剤のいずれに対しても長期的な防御をもたらすことができなかったことも知られている(Osterloh,Anke.(2017)「Immune response against rickettsiae:lessons from murine infection models.」Medical microbiology and immunology vol.206,6:403-417)。
【0306】
第五に、ワクチン接種が望ましい免疫応答を生み出すかどうかは予測できない可能性がある。例えば、アルボウイルスZIKVに対する治療用モノクローナル抗体ワクチンを設計する場合、それらの間の配列及び抗原の類似性のために、異種フラビウイルス感染の抗体依存性増強(ADE)のリスクがある。デング熱及びウエストナイル免疫血清によるZIKVのADEは、インビトロで示され、デング熱及びウエストナイル免疫血清によって免疫抑制マウスに誘導されるSairol,CA et al(2018),Trends in Microbiol.26(3):186-190。この現象の間に、FcRを担持する細胞は、抗体でコーティングされたウイルスを取り込み、内在化し、さらに感染され得る(Yang,C.et al.,(2019)「Development of neutralizing antibodies against Zika virus based on its envelope protein structure」Virologica Sinica 34:168-174,引用元Dowd,KA and Pierson,TC,(2011)Virology.411:306-315.doi:10.1016/j.virol.2010.12.020)。mAbがウイルスを中和せず、代わりに感染を増強する理由を説明するために、いくつかの要因が提唱されている:(1)これらのmAbの中和活性が弱いため、ウイルスを中和できない。(2)Eタンパク質の遮断部位は、ウイルス感染能力に影響を及ぼすことはない。(3)これらの中和mAbの濃度が低いため、ウイルスを中和できない。
【0307】
第五に、集団特有の要因もワクチンの有効性に影響を与え得る。例えば、複製を達成する前のインビボでのウイルスワクチンの中和及び/または身体内のエフェクター機能が、ワクチン有効性の低下を説明している場合もある(Stanley A.Plotkin(2015)Increasing Complexity of Vaccine Development,The Journal of Infectious Diseases,Volume 212,Issue Suppl_1,Pages S12-S16,https://doi.org/10.1093/infdis/jiu568)。
【0308】
ロタウイルスワクチンは、先進国では乳児胃腸炎に対して非常に有効であることが報告されているが、熱帯の貧しい国では、その有効性は、大幅に低下している(上記参照)。
【0309】
同様に、Togaviridaeウイルスでは、例えば、ワクチンの失敗の発生は、既存の抗体が生ウイルスワクチン株を中和するときに生じると考えられている。例えば、低レベルの免疫は、パルボウイルスまたはエプスタインバーウイルス感染等の以前の感染、またはRh因子の存在に起因し得ることが示唆されている(Lambert,N.,(2015)「Rubella」 Lancet.Jun6;385(9984):2297-2307)。
【0310】
他の集団要因としては、免疫低下または脆弱集団が挙げられる。例えば、パラミクソウイルスでは、いくつかのワクチンが存在するが、MMRワクチンは通常、高力価で防御母体抗体を保有しなくなったため、麻疹ウイルス感染に対して特に脆弱な1歳以上の年長の乳児または小児にのみ推奨される(Kowalzik F,Faber J,and Knuf M.(2017)MMR and MMRV vaccines.Vaccine.(Epub ahead of print);DOI:10.1016/j.vaccine.2017.07.051)。したがって、母体抗体は、幼児のワクチンを弱め得る(Jones BG,Sealy RE,Surman SL,et al.(2014)Sendai virus-based RSV vaccine protects against RSV challenge in an in vivo maternal antibody model.Vaccine 32:3264-3273)。CD4 T細胞に影響を及ぼす免疫不全(例えば、HIV感染)及びIL-12/IFN-γ/STAT1シグナル伝達経路は、ヒトの結核菌に感染したときに、より重篤な疾患となる(Maggioli MF,Palmer MV,Thacker TC,Vordermeier HM,Waters WR(2015)Characterization of Effector and Memory T Cell Subsets in the Immune Response to Bovine Tuberculosis in Cattle.PLOS ONE 10(4):e0122571)。
【0311】
パラミクソウイルス及びニューモウイルスは、多くの場合、最年少の乳児の気道を攻撃する。気道への過剰な細胞流入は、呼吸を遮断する可能性があるため(1960年代にFI-RSVワクチンにより生じたことである)、小児気道の炎症の恐れが認められる(Chin J,Magoffin RL,Shearer LA,et al.(1969)Field evaluation of a respiratory syncytial virus vaccine and a trivalent parainfluenza virus vaccine in a pediatric population.Am J Epidemiol 89:449-463)。FIワクチンで観察されたものと同様の結果を回避するために、新しい呼吸器ウイルスワクチンは、バランスの取れた炎症応答を誘導する必要がある。これは、急速なウイルスクリアランスをサポートする、ならびに組織損傷及びそれに伴う炎症応答の増強を回避するための、呼吸器組織における強力かつ急性の局所免疫応答であるが、呼吸器組織への最初の細胞動員は、気道を収縮させるほど大きいものであってはならない(Penkert RR,Surman SL,Jones BG,et al.(2016)Vitamin A deficient mice exhibit increased viral antigens and enhanced cytokine/chemokine production in nasal tissues following respiratory virus infection despite the presence of FoxP3+T cells.Int Immunol 28:139-152)。
【0312】
もう1つの課題は、地域社会の認識の欠如である。パラミクソウイルス及びニューモウイルスの感染によって引き起こされる罹患率及び死亡率が過小評価されているために、潜在的予防ワクチンの価値は、理解されていない。最年少の小児における急性下気道ウイルス感染症は、ほとんどの場合、パラミクソウイルスまたはニューモウイルスによって引き起こされる(Nair H,Nokes DJ,Gessner BD,et al.(2010)Global burden of acute lower respiratory infections due to respiratory syncytial virus in young children:a systematic review and meta-analysis.Lancet 375:1545-1555);(Shi T,McAllister DA,O’Brien KL,et al.(2017)Global,regional,and national disease burden estimates of acute lower respiratory infections due to respiratory syncytial virus in young children in 2015:a systematic review and modelling study.Lancet 390:946-958)。実際、ワクチン接種に対する哲学的及び宗教的反対と共に、安全性に関する楽観及び懸念により、多くの先進国で麻疹が風土病として再度確立されている(Griffin,D.(2016)The Immune Response in Measles:Virus Control,Clearance and Protective Immunity.Viruses 2016,8,282;doi:10.3390/v8100282)。
【0313】
さらに、近年の傾向では、パラミクソウイルスのワクチン誘導免疫の衰退が示唆されている(de Wit,J.et al.(2019)「The Human CD4+T Cell Response against Mumps Virus Targets a Broadly Recognized Nucleoprotein Epitope.」Journal of Virology,93(6)e01883-18;DOI:10.1128/JVI.01883-18)。例えば、弱毒生MuVワクチンの高いワクチン接種率にもかかわらず、過去10年間に、世界中で、特にワクチン接種を受けた若い成人の間で、おたふく風邪の大発生がいくつか報告されている(3、4)。さらに、発展途上国における現在の大規模な作戦戦略を維持する上での物流的及び財政的困難により、MMRワクチンによって以前に予防された疾患に関連する死亡が再燃した。
【0314】
最後に、防御のメカニズム、ウイルスの複製及び構造、ならびに標的防御メカニズムの十分な活性化に必要な抗原/エピトープに関する知識の欠如が、ワクチン開発を複雑にし得る。例えば、近年のデータでは、デングウイルスの構造は、ウイルスの複製が行われる温度によって異なることが示されている。細胞培養または37℃のヒトでは、ウイルスの構造が拡大するが、蚊において、体温が低い場合には、粒子はよりコンパクトになる。ワクチンウイルスに曝露されたエピトープは、蚊チャレンジウイルスに曝露され得ず、したがって、中和されることなく細胞に侵入できることが示唆されている (Stanley A.Plotkin,(2015)Increasing Complexity of Vaccine Development,The Journal of Infectious Diseases,Volume 212,Issue Suppl_1,Pages S12-S16,https://doi.org/10.1093/infdis/jiu568)。
【0315】
ウイルス複製のみが同型抗体(型特異的免疫応答を意味する)を誘導することが報告されているが、デング熱型1、2、3、及び4を標的とするデング熱ワクチンでは、ワクチンはそれ自体に対する同型抗体及びデング熱型2に対する異型抗体(異なる型と交差反応することを意味する)を誘導する。それでも、2型ウイルスは複製しないため、同型抗体を誘導することはない。したがって、ユニバーサル中和抗体を作製する試みは、防御に重要なエピトープ特異性の違いを伴う可能性があるため、同型抗体と異型抗体の違いを説明する必要があり得る(Stanley A.Plotkin(2015)Increasing Complexity of Vaccine Development, The Journal of Infectious Diseases,Volume 212,Issue Suppl_1,July 2015,Pages S12-S16,https://doi.org/10.1093/infdis/jiu568)。
【0316】
さらに、多くのワクチンは非常に特異的であり、単一の病原体または疾患にのみ焦点を当てている。多数のワクチンを別々に使用した場合には、訪問回数、投与回数、副作用、及び費用の増加が必要となるため、集団によるワクチンの容認可能性が低下する。新しいワクチンが承認されると、ワクチン接種の遵守に影響を与えることなく、確立されたワクチン接種スケジュールに挿入することが問題になり得る(Dye C.(2014)After 2015:infectious diseases in a new era of health and development.Philosophical transactions of the Royal Society of London.Series B,Biological sciences,369(1645),20130426.doi:10.1098/rstb.2013.0426)。
【0317】
現在の免疫化/ワクチン接種スケジュールの範囲内でさえ、定期的免疫化による症例数及び死亡者数を最小限に抑えることに重点を置いているほとんどのワクチン接種プログラムは、根絶作戦ではない。それでも、例えば、利用可能なワクチン(例えば、B型肝炎及びヒトパピローマウイルス、それぞれ、肝臓がん及び子宮頸がんの原因である)を受けるのに十分な免疫系がまだ発達していない乳児及び青年期等、利用可能なワクチンによって設定されたスケジュールに対して脆弱になる集団の大部分が存在する。年長の小児、青年、及び成人等、集団の他の部分は、乳児のワクチン接種(例えば、pertussis)から制限された防御期間をわずかに獲得しているか、または乳児期のワクチン接種を受けなかったことにより、ワクチン接種の防御を有さない。さらに、インフルエンザ等の生命を脅かす感染症に対する免疫系が弱っている高齢者が増えている(Dye C(2014).After 2015:infectious diseases in a new era of health and development.Philosophical transactions of the Royal Society of London.Series B,Biological sciences,369(1645),20130426.doi:10.1098/rstb.2013.0426)。
【0318】
要約すると、ワクチンの開発にもかかわらず、世界中での病原体による罹患率及び死亡率は、実際には減少していない。ワクチンを合理的に設計するための広く受け入れられている戦略及びツールはなく、ワクチン開発は、一般に、長く続き、費用のかかる経験的プロセスである。多くの場合、防御のメカニズムに関する知識が不十分なため、合理的に設計されたワクチンは、成功していない。病原体と戦うための免疫クリアランスメカニズムのレパートリーは知られているが、様々なエフェクターメカニズムの特定の寄与は、少数の病原体についてのみ十分に特徴が明らかになっている。また、病原体によって提供されるすべての可能な抗原選択肢の中で、特定のエピトープの免疫原性及び選択を決定するものはほとんど不明である。例えば、いずれの要因が優性であるかまたはバランスの取れた免疫応答を決定するのか、及び個々の病原体の長期的な防御につながるメカニズムは何かであるかは、不明である(Dye C.(2014).After 2015:infectious diseases in a new era of health and development.Philosophical transactions of the Royal Society of London.Series B,Biological sciences,369(1645),20130426.doi:10.1098/rstb.2013.0426)。
【0319】
細胞性反応は、特定のT細胞と、MHC分子のクラスIまたはIIのいずれかの状況で、特定の抗原を示す標的細胞または抗原提示細胞との間の直接的な相互作用に依存する。
【0320】
CD4+及びCD8+T細胞エピトープは、多くのウイルスタンパク質中に存在する(Jaye,A.;Herberts,C.A.;Jallow,S.;Atabani,S.;Klein,M.R.;Hoogerhout,P.;Kidd,M.;van Els,C.A.;Whittle,H.C.(2003)Vigorous but short-term gamma interferon T-cell responses against a dominant HLA-A*02-restricted measles virus epitope in patients with measles.J.Virol.,77,5014-5016);(Ota,M.O.;Ndhlovu,Z.;Oh,S.;Piyasirisilp,S.;Berzofsky,J.A.;Moss,W.J.;Griffin,D.E.(2007)Hemagglutinin protein is a primary target of the measles virus-specific HLA-A2-restricted CD8+ T cell response during measles and after vaccination.J.Infect.Dis.195,1799-1807);(Schellens,I.M.;Meiring,H.D.;Hoof,I.;Spijkers,S.N.;Poelen,M.C.;van Gaans-van den Brink,J.A.;Costa,A.I.;Vennema,H.;Ke,smir,C.;van Baarle,D.;et al.(2015)Measles virus epitope presentation by HLA:Novel insights into epitope selection,dominance,and microvariation.Front.Immunol.6,546)。また、MeV特異的細胞傷害性CD8+Tリンパ球、IFN-γ産生1型CD4+及びCD8+T細胞は、T細胞活性化の可溶性指標因子(例えば、β2ミクログロブリン、サイトカイン及び可溶性CD4、CD8、及びFas)と共に、感染性ウイルスが除去されているときの発疹期に循環中にある(Lin,W.H.;Kouyos,R.D.;Adams,R.J.;Grenfell,B.T.;Griffin,D.E.(2012)Prolonged persistence of measles virus RNA is characteristic of primary infection dynamics.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 109,14989-14994);(Griffin,D.E.;Moench,T.R.;Johnson,R.T.;Lindo de Soriano,I.;Vaisberg,A.(1986)Peripheral blood mononuclear cells during natural measles virus infection:Cell surface phenotypes and evidence for activation.Clin.Immunol.Immunopathol.40,305-312);Griffin,D.E.;Ward,B.J.;Juaregui,E.;Johnson,R.T.;Vaisberg,A.(1992)Immune activation during measles:Beta 2-microglobulin in plasma and cerebrospinal fluid in complicated and uncomplicated disease.J.Infect.Dis.166,1170-1173);Griffin,D.E.;Ward,B.J.;Jauregui,E.;Johnson,R.T.;Vaisberg,A.(1990)Immune activation during measles:Interferon-gamma and neopterin in plasma and cerebrospinal fluid in complicated and uncomplicated disease.J.Infect.Dis.161,449-453;Griffin,D.E.;Ward,B.J.;Jauregui,E.;Johnson,R.T.;Vaisberg,A.(1989)Immune activation in measles.N.Engl.J.Med.320,1667-1672;Ward,B.J.;Johnson,R.T.;Vaisberg,A.;Jauregui,E.;Griffin,D.E.(1990)Spontaneous proliferation of peripheral mononuclear cells in natural measles virus infection:Identification of dividing cells and correlation with mitogen responsiveness.Clin.Immunol.Immunopathol.55,315-326;Jaye,A.;Magnusen,A.F.;Sadiq,A.D.;Corrah,T.;Whittle,H.C.(1998)Ex vivo analysis of cytotoxic T lymphocytes to measles antigens during infection and after vaccination in Gambian children.J.Clin.Investig.,102,1969-1977)。実験的に感染させたマカクからのCD8+T細胞の枯渇は、より高く、より長期のウイルス血症がもたらされる(Permar,S.R.;Klumpp,S.A.;Mansfield,K.G.;Kim,W.K.;Gorgone,D.A.;Lifton,M.A.;Williams,K.C.;Schmitz,J.E.;Reimann,K.A.;Axthelm,M.K.;et al.(2003)Role of CD8(+)lymphocytes in control and clearance of measles virus infection of rhesus monkeys.J.Virol.77,4396-4400)and CD8+ T cells can control virus spread in vitro(De Vries,R.D.;Yuksel,S.;Osterhaus,A.D.;de Swart,R.L.(2010)Specific CD8(+)T-lymphocytes control dissemination of measles virus.Eur.J.Immunol.40,388-395)。CD4+及びCD8+T細胞が、ウイルス複製部位に浸潤したときに(Polack,F.P.;Auwaerter,P.G.;Lee,S.H.;Nousari,H.C.;Valsamakis,A.;Leiferman,K.M.;Diwan,A.;Adams,R.J.;Griffin,D.E.(1999)Production of atypical measles in rhesus macaques:Evidence for disease mediated by immune complex formation and eosinophils in the presence of fusion-inhibiting antibody.Nat.Med.5,629-634)、感染性ウイルスは、検出できないレベルまで急速に減少し、発疹は消えていき、解熱する。
【0321】
記載された発明は、病原体に対するワクチンを開発するためのプライミング及びブースティングベクターベースのプラットフォームを提供し、これは、病原体タンパク質の保存された配列を発現することによって、保存されたウイルスエピトープを標的とする広範なT細胞応答を誘発するように調整されている。
【発明の概要】
【0322】
一態様によれば、本明細書は、ウイルス、細菌、真菌または原生動物から選択される感染性病原体の免疫原に対するユニバーサルワクチンを提供し、ここで、免疫原は、少なくとも1つのポリペプチド抗原またはその免疫原性断片をコードするオープンリーディングフレームを含む少なくとも1つのリボ核酸(RNA)ポリヌクレオチドを含み、ポリペプチド抗原またはその免疫原性断片は、CD8+T細胞認識抗原が豊富な保存された内部タンパク質を含み、(a)細胞傷害性Tリンパ球(CTL)エピトープは、長さ8~11残基のペプチドからなり;(b)ワクチンに応答して誘発される免疫応答は、対照と比較して、(i)ワクチン中に存在する少なくとも1つの抗原に向けられた1つ以上のT細胞集団の活性化;(ii)病原体の感染力の中和;または(iii)病原体の破壊を含む抗原特異的応答、病原体に感染した細胞の溶解、またはその両方のうちの1つ以上を含む。
【0323】
ユニバーサルワクチンの一実施形態によれば、活性化された細胞集団は、活性化された細胞傷害性Tリンパ球(CTL)を含む。いくつかの実施形態によれば、活性化されたCTLは、NK細胞集団、NKT細胞集団、LAK細胞集団、CIK細胞集団、MAIT細胞集団、CD8+CTL集団、またはCD4+CTL集団のうちの1つ以上を含む。
【0324】
いくつかの実施形態によれば、保存された免疫原性ポリペプチドまたは免疫原性断片は、ウイルス内部マトリックスタンパク質、ウイルスカプシドタンパク質、ウイルス核タンパク質(viral nuclear protein)、ウイルス核タンパク質(viral nucleoprotein)、ウイルス糖タンパク質、ウイルスリン酸化タンパク質、ウイルスエンベロープタンパク質、ウイルスプロテアーゼ、逆転写酵素、またはウイルスポリメラーゼである。
【0325】
いくつかの実施形態によれば、ユニバーサルワクチンは、以下を含むプロセスによって調製される;a.コンセンサスアミノ酸配列から、感染性病原体の高度に保存された内部タンパク質またはCD8+T細胞認識抗原が豊富なその免疫原性フ断片を同定及び選択することと;
b.(a)の高度に保存された内部タンパク質の免疫原配列を構築することと;
c.i.(b)の免疫原配列を含むストレプトマイセスファージSV1.0DNAベクター;ii.(b)の免疫原配列を含むアデノウイルスベースの(AdV)ベクター;
iii.(b)の免疫原配列を含む、弱毒化された複製可能な組換えワクシニアウイルスベース(VV)ベクターを構築することと;
感染性病原体による感染に対する治療的または予防的な細胞媒介性免疫応答を誘発または刺激するのに有効な量で対象をインビボで免疫するために、(c)でコードされた免疫原を含む組換えベクターのそれぞれを別々に増殖させることであって、(c)(i)のファージDNAベクターで免疫することにより、完全なヒト免疫系をプライミングすること;及びii.(c)(ii)のAdVベクター、その後(c)(iii)のVVベクター、または(c)(iii)のVVベクター、その後(c)(ii)のAdVベクターで免疫化することにより、完全ヒト免疫系をブーストすることを含む、増殖させること。いくつかの実施形態によれば、保存された免疫原性タンパク質または免疫原性断片は、ウイルス内部マトリックスタンパク質、ウイルスカプシドタンパク質、ウイルス核タンパク質(viral nuclear protein)、ウイルス核タンパク質(viral nucleoprotein)、ウイルス糖タンパク質、ウイルスリン酸化タンパク質、ウイルスエンベロープタンパク質、ウイルスプロテアーゼ、逆転写酵素、またはウイルスポリメラーゼである。
【0326】
別の態様によれば、記載された本発明は、少なくとも1つのポリペプチド抗原またはその免疫原性断片をコードするオープンリーディングフレームを含む少なくとも1つのRNAポリヌクレオチドをコードする操作された核酸を提供し、ポリペプチド抗原またはその免疫原性断片は、ユニバーサルワクチンのCD8+T細胞認識抗原が豊富な保存された内部タンパク質を含む。
【0327】
別の態様によれば、記載された本発明は、少なくとも1つのポリペプチド抗原またはその免疫原性断片をコードするオープンリーディングフレームを含む少なくとも1つのRNAポリヌクレオチドをコードする操作された核酸を含む発現ベクターを提供し、ポリペプチド抗原またはその免疫原性断片は、ユニバーサルワクチンのCD8+T細胞認識抗原が豊富な保存された内部タンパク質を含む。
【0328】
別の態様によれば、記載された本発明は、少なくとも1つのポリペプチド抗原またはその免疫原性断片をコードするオープンリーディングフレームを含む少なくとも1つのRNAポリヌクレオチドをコードする操作された核酸を含む宿主細胞を提供し、ポリペプチド抗原またはその免疫原性断片は、ユニバーサルワクチンのCD8+T細胞認識抗原が豊富な保存された内部タンパク質を含む。
【0329】
別の態様によれば、記載された発明は、対象において免疫応答を誘導する方法を提供し、本方法は、ウイルス、細菌、真菌または原生動物から選択される感染性病原体生物の免疫原に対するユニバーサルワクチンを対象に投与することを含み、ここで、免疫原は、少なくとも1つの抗原性ポリペプチドまたはその免疫原性断片をコードするオープンリーディングフレームを含む少なくとも1つのリボ核酸(RNA)ポリヌクレオチドを含み、ここで、抗原性ペプチドまたはその免疫原性断片は、CD8+T細胞認識抗原が豊富な保存された内部タンパク質を含み、CD8+T細胞認識抗原は、長さ8~11残基のペプチドからなり;ワクチンに応答して生じる免疫応答は、対照と比較して、(i)ワクチン中に存在する少なくとも1つの抗原に向けられた1つ以上のT細胞集団の活性化;(ii)病原体の感染力の中和;または(iii)感染性病原体生物の破壊を含む抗原特異的応答、感染性病原体生物に感染した細胞の溶解、またはその両方のうちの1つ以上を含む。一実施形態によれば、この方法は、CD8+T細胞認識抗原に豊富に含まれる保存された内部タンパク質をコードする第1の免疫原配列を含むストレプトミセス(Streptomyces)ファージSV1.0DNAベクターで対象をプライミングすること、次いで、CD8+T細胞認識抗原が豊富な保存された内部タンパク質をコードする第2の免疫原配列を含むアデノウイルスベース(AdV)ベクターまたは弱毒化された複製能力のある組換えワクシニアウイルスベース(VV)ベクターで対象をブーストすることを含む。いくつかの実施形態によれば、この方法は、皮内注射、鼻腔内、または筋肉内注射によって対象にワクチンを投与することを含む。いくつかの実施形態によれば、プライミング用量の投与様式及びブースト用量の投与様式は異なる。いくつかの実施形態によれば、対象は、表現型NOD-scid γc-/-またはBALB/c Rag2-/-γc-/-のマウスである。いくつかの実施形態によれば、この方法は、表現型NOD-scid γc-/-のマウスを、新生児としてNOD-scid γc-/-マウスに心臓内注射されたヒトC34+CD133+臍帯血細胞で再構成することを含む。
【0330】
別の態様によれば、記載された発明は、完全ヒト機能的免疫系を含む動物モデルにおいて、インビボで汎インフルエンザ特異的細胞性免疫応答を誘導するための方法を提供し、本方法は、以下を含む:(1)コンセンサスアミノ酸配列から、CD8+T細胞認識抗原が豊富な、複数の高度に保存された内部インフルエンザウイルスタンパク質を同定及び選択することと;(2)(a)の高度に保存された内部インフルエンザウイルスタンパク質の連結免疫原配列を構築することと;(3)(b)の連結された免疫原配列を含むストレプトマイセスファージSV1.0DNAベクター;(b)の連結された免疫原配列を含むアデノウイルスベースの(AdV)ベクター;(b)の連結された免疫原配列を含む、弱毒化された複製可能な組換えワクシニアウイルスベース(VV)ベクターを構築することと;(4)(3)においてコードされた免疫原を含む組換えベクターのそれぞれを別々に増殖させることと;(5)a.3(a)のファージDNAベクターで免疫化することにより、完全なヒト免疫系をプライミングすること;b.3(b)のAdVベクター後に3(c)のVVベクター、または3(c)のVVベクター後に3(b)のAdVベクターで免疫化することにより、完全なヒト免疫系をブーストすることによってインビボで完全に機能するヒト免疫系を含む動物モデルを免疫化することと;(6)(5)の免疫化後、免疫された完全に機能するヒト免疫系を含む動物モデルに、A型インフルエンザ/PR8(H1N1)またはA型インフルエンザ/Shanghai(H7N9)ウイルスのいずれかをチャレンジすること。
【0331】
一実施形態によれば、この方法は、皮内注射、鼻腔内、または筋肉内注射によって対象にワクチンを投与することを含む。いくつかの実施形態によれば、単回投与及びブースト投与の投与様式は異なる。いくつかの実施形態によれば、動物モデルは、表現型NOD-scid γc-/-またはBALB/c Rag2-/-γc-/-のマウスである。いくつかの実施形態によれば、方法は、表現型NOD-scid γc-/-のマウスを、新生児としてNOD-scid γc-/-マウスに心臓内注射されたヒトC34+CD133+臍帯血細胞で再構成することを含む。いくつかの実施形態によれば、この方法は、表現型BALB/c Rag2-/-γc-/-のマウスを再構成することを含み、ヒト胎児肝臓から単離されたCD34+造血前駆細胞(HPC)を新生児BALB/c Rag2-/-γc-/-に肝内移植することを含む。いくつかの実施形態によれば、動物モデルにおける汎インフルエンザ特異的細胞性免疫応答は、非疫化されていない再構成マウスの集団における感染の拡散を減少させるのに有効である。
【図面の簡単な説明】
【0332】
図1】A~Cは、3つの異なるワクチンプラットフォームを介した免疫原の設計及び発現を示す図である。Aは、インフルエンザMI、M2、NP、PA、PB1、PB2配列のアミノ酸保存及びCD8+T細胞エピトープ予測に基づいて設計された2つの合成免疫原PB1PAM1(配列番号1)及びPB2NPM2(配列番号2)の概略図である。図1Aは、「(GGGGS)3」を配列番号28として開示している。図1B及び図1Cは、ウエスタンブロッティングによる免疫原の発現を示している。Bは、DNAベクターpSV1.0、アデノウイルスベクターAdC68及びワクシニアベクターTTVが効果的に免疫原配列番号1を発現したことを確認したウェスタンブロットの結果を示す。インフルエンザマトリックスタンパク質1抗体とのインキュベーション後、免疫原配列番号1の配列を含まない空のベクターpSV1.0、AdC68、及びTTVには特定のバンドは見られなかった一方で、免疫原配列番号1の配列を含むベクターには有意な約130kDのバンドが見られ、これは、DNAベクターpSV1.0、アデノウイルスベクターAdC68、及びワクシニアベクターTTVが免疫原配列番号1を効果的に発現したことを示している。β-アクチン抗体とのインキュベーション後、約42kDのタンパク質バンドが検出され、実験ステップが正確であり、結果が信頼できることがさらに確立された。Cは、DNAベクターpSV1.0、アデノウイルスベクターAdC68及びワクシニアベクターTTVが効果的に免疫原配列番号2を発現できることを確認したウェスタンブロットの結果を示す。インフルエンザマトリックスタンパク質2抗体とのインキュベーション後、免疫原配列番号2の配列を含まない空のベクターpSV1.0、AdC68、及びTTVには特定のバンドは見られなかった一方で、免疫原配列番号2の配列を含むベクターには有意な約130kDのバンドが見られ、これは、DNAベクターpSV1.0、アデノウイルスベクターAdC68、及びワクシニアベクターTTVが免疫原配列番号2を効果的に発現したことを示している。β-アクチン抗体とのインキュベーション後、約42kDのタンパク質バンドが検出され、実験ステップが正確であり、結果が信頼できることがさらに確立された。
図2A】DNAプライムウイルスベクターワクチンブーストによって生じたインフルエンザ特異的T細胞免疫応答を示す図である。免疫化レジメンの概略図である。
図2B】DNAプライムウイルスベクターワクチンブーストによって生じたインフルエンザ特異的T細胞免疫応答を示す図である。ワクチン接種されたマウスで誘発された細胞性応答を示す。
図2C】DNAプライムウイルスベクターワクチンブーストによって生じたインフルエンザ特異的T細胞免疫応答を示す図である。ワクチン接種されたマウスで誘発された細胞性応答を示す。
図2D】DNAプライムウイルスベクターワクチンブーストによって生じたインフルエンザ特異的T細胞免疫応答を示す図である。ワクチン接種されたマウスで誘発された細胞性応答を示す。ワクチン接種されたC57マウスの脾細胞は、ワクチン接種の4週間後に単離され、IFN-γELISpotアッセイ(図2B)及び細胞内サイトカイン染色アッセイ(図2C図2D)の両方を行った。IFN-γELISpotアッセイは、単一のA型インフルエンザウイルス特異的ペプチドによる刺激に応答して実施し、106個の脾細胞あたりのスポット形成細胞(SFC)の数として記述した。合計16のペプチドの試験を行った(表4)。細胞内サイトカイン染色アッセイは、16個のペプチドすべてで構成されるペプチドプールでの刺激時に実施し、IFN-γ、TNF-α、及びCD107aの発現に対してシングルポジティブまたはダブルポジティブであったCD8+T細胞のパーセンテージとして表した。すべての実験を3回実施した。エラーバーは標準偏差(SD)として表す。***は、p<0.001;**は、p<0.01;*は、p<0.05を示す。
図3A】DNAプライムウイルスベクターワクチンブースト戦略により、ワクチン接種されたマウスにおいて、PR8/(H1N1)及びH7N9ウイルスに対する防御が得られたことを示す図である。マウスは、図2Aに概説したスケジュールに従って免疫化し、4週間後、500 50%組織培養感染用量(TCID50)のA/PR8(H1N1)または100TCID50A/Shanghai/4664T/2013(H7N9)インフルエンザウイルスのいずれかでチャレンジした。感染後、マウス(各群n=5)は、体重(図3A図3D)、生存(図3B図3E)、またはRNA発現(図3C図3F)について毎日モニターした。各群5匹のマウスを感染後5日目に屠殺して、RNA抽出のために肺組織を単離し、その後ウイルスRNAのRT-PCR定量を行って、相対的ウイルス負荷量を決定した。エラーバーは標準偏差(SD)を表す。***は、p<0.001;**は、p<0.01;*は、p<0.05を示す。
図3B】DNAプライムウイルスベクターワクチンブースト戦略により、ワクチン接種されたマウスにおいて、PR8/(H1N1)及びH7N9ウイルスに対する防御が得られたことを示す図である。マウスは、図2Aに概説したスケジュールに従って免疫化し、4週間後、500 50%組織培養感染用量(TCID50)のA/PR8(H1N1)または100TCID50A/Shanghai/4664T/2013(H7N9)インフルエンザウイルスのいずれかでチャレンジした。感染後、マウス(各群n=5)は、体重(図3A図3D)、生存(図3B図3E)、またはRNA発現(図3C図3F)について毎日モニターした。各群5匹のマウスを感染後5日目に屠殺して、RNA抽出のために肺組織を単離し、その後ウイルスRNAのRT-PCR定量を行って、相対的ウイルス負荷量を決定した。エラーバーは標準偏差(SD)を表す。***は、p<0.001;**は、p<0.01;*は、p<0.05を示す。
図3C】DNAプライムウイルスベクターワクチンブースト戦略により、ワクチン接種されたマウスにおいて、PR8/(H1N1)及びH7N9ウイルスに対する防御が得られたことを示す図である。マウスは、図2Aに概説したスケジュールに従って免疫化し、4週間後、500 50%組織培養感染用量(TCID50)のA/PR8(H1N1)または100TCID50A/Shanghai/4664T/2013(H7N9)インフルエンザウイルスのいずれかでチャレンジした。感染後、マウス(各群n=5)は、体重(図3A図3D)、生存(図3B図3E)、またはRNA発現(図3C図3F)について毎日モニターした。各群5匹のマウスを感染後5日目に屠殺して、RNA抽出のために肺組織を単離し、その後ウイルスRNAのRT-PCR定量を行って、相対的ウイルス負荷量を決定した。エラーバーは標準偏差(SD)を表す。***は、p<0.001;**は、p<0.01;*は、p<0.05を示す。
図3D】DNAプライムウイルスベクターワクチンブースト戦略により、ワクチン接種されたマウスにおいて、PR8/(H1N1)及びH7N9ウイルスに対する防御が得られたことを示す図である。マウスは、図2Aに概説したスケジュールに従って免疫化し、4週間後、500 50%組織培養感染用量(TCID50)のA/PR8(H1N1)または100TCID50A/Shanghai/4664T/2013(H7N9)インフルエンザウイルスのいずれかでチャレンジした。感染後、マウス(各群n=5)は、体重(図3A図3D)、生存(図3B図3E)、またはRNA発現(図3C図3F)について毎日モニターした。各群5匹のマウスを感染後5日目に屠殺して、RNA抽出のために肺組織を単離し、その後ウイルスRNAのRT-PCR定量を行って、相対的ウイルス負荷量を決定した。エラーバーは標準偏差(SD)を表す。***は、p<0.001;**は、p<0.01;*は、p<0.05を示す。
図3E】DNAプライムウイルスベクターワクチンブースト戦略により、ワクチン接種されたマウスにおいて、PR8/(H1N1)及びH7N9ウイルスに対する防御が得られたことを示す図である。マウスは、図2Aに概説したスケジュールに従って免疫化し、4週間後、500 50%組織培養感染用量(TCID50)のA/PR8(H1N1)または100TCID50A/Shanghai/4664T/2013(H7N9)インフルエンザウイルスのいずれかでチャレンジした。感染後、マウス(各群n=5)は、体重(図3A図3D)、生存(図3B図3E)、またはRNA発現(図3C図3F)について毎日モニターした。各群5匹のマウスを感染後5日目に屠殺して、RNA抽出のために肺組織を単離し、その後ウイルスRNAのRT-PCR定量を行って、相対的ウイルス負荷量を決定した。エラーバーは標準偏差(SD)を表す。***は、p<0.001;**は、p<0.01;*は、p<0.05を示す。
図3F】DNAプライムウイルスベクターワクチンブースト戦略により、ワクチン接種されたマウスにおいて、PR8/(H1N1)及びH7N9ウイルスに対する防御が得られたことを示す図である。マウスは、図2Aに概説したスケジュールに従って免疫化し、4週間後、500 50%組織培養感染用量(TCID50)のA/PR8(H1N1)または100TCID50A/Shanghai/4664T/2013(H7N9)インフルエンザウイルスのいずれかでチャレンジした。感染後、マウス(各群n=5)は、体重(図3A図3D)、生存(図3B図3E)、またはRNA発現(図3C図3F)について毎日モニターした。各群5匹のマウスを感染後5日目に屠殺して、RNA抽出のために肺組織を単離し、その後ウイルスRNAのRT-PCR定量を行って、相対的ウイルス負荷量を決定した。エラーバーは標準偏差(SD)を表す。***は、p<0.001;**は、p<0.01;*は、p<0.05を示す。
図4A】AdC68の鼻腔内投与が、有意により強力な呼吸器常在及びより少ない全身性メモリーT細胞応答を誘発することを示す図である。免疫化レジメンの概略図である。対照群は、1用量の対照pSV1.0ベクター(100μg)で、筋肉内(im)経路を介して免疫され、対照AdC68空ベクター(1x1011vp)2用量で、別々に筋肉内(im)及び鼻腔内(in)経路を介して免疫された。実験群は、示された順にDNA、AdC68、及びTTVで順次免疫化させ、筋肉内経路は、デフォルトとして省略し、鼻腔内投与は「in」と示した。インフルエンザ特異的免疫応答を測定するために、ワクチン接種の4週間後に脾細胞及び気管支肺胞洗浄(BAL)を単離した。
図4B】AdC68の鼻腔内投与が、有意により強力な呼吸器常在及びより少ない全身性メモリーT細胞応答を誘発することを示す図である。単一の示されたインフルエンザ特異的エピトープペプチドによる刺激に応答した脾細胞のIFN-γ ELISpotアッセイに対する結果を示す。
図4C】AdC68の鼻腔内投与が、有意により強力な呼吸器常在及びより少ない全身性メモリーT細胞応答を誘発することを示す図である。NP-1及びPB2-1ペプチドによる刺激に応答したBALのIFN-γ ELISpotアッセイの結果を示す。
図4D】AdC68の鼻腔内投与が、有意により強力な呼吸器常在及びより少ない全身性メモリーT細胞応答を誘発することを示す図である。ペプチドプールで刺激した後のIFN-γ、TNF-αまたはその両方を分泌するCD8+細胞の誘導を測定するための細胞内サイトカイン染色アッセイの結果を示す。
図4E】AdC68の鼻腔内投与が、有意により強力な呼吸器常在及びより少ない全身性メモリーT細胞応答を誘発することを示す図である。ペプチドプールで刺激した後のCD8+細胞及びCD107a発現細胞の誘導を測定するための細胞内サイトカイン染色アッセイの結果を示す。すべての測定は3回行い、エラーバーは標準偏差(SD)を表す。***は、p<0.001;**は、p<0.01;*は、p<0.05を示す。
図5A】AdC68の鼻腔内投与が、インフルエンザの致死的チャレンジからより良好な防御をもたらしたことを示す図である。ウイルスチャレンジマウスの体重曲線(n=5)を示す。マウスは、図4Aに概説したスキームに従って、異なる組み合わせの免疫化を行い、4週間後、致死量のPRSまたはH7N9A型インフルエンザウイルスに感染させた。
図5B】AdC68の鼻腔内投与が、インフルエンザの致死的チャレンジからより良好な防御をもたらしたことを示す図である。ウイルス感染マウスの生存曲線(n=5)を示す。マウスは、図4Aに概説したスキームに従って、異なる組み合わせの免疫化を行い、4週間後、致死量のPRSまたはH7N9A型インフルエンザウイルスに感染させた。
図5C】AdC68の鼻腔内投与が、インフルエンザの致死的チャレンジからより良好な防御をもたらしたことを示す図である。インフルエンザ特異的RNAのRT-PCR定量化によって測定されたウイルスチャレンジ後5日目の相対的な肺ウイルス負荷量(n=5)を示す。マウスは、図4Aに概説したスキームに従って、異なる組み合わせの免疫化を行い、4週間後、致死量のPRSまたはH7N9A型インフルエンザウイルスに感染させた。
図5D】AdC68の鼻腔内投与が、インフルエンザの致死的チャレンジからより良好な防御をもたらしたことを示す図である。ウイルスチャレンジマウスの体重曲線(n=5)を示す。マウスは、図4Aに概説したスキームに従って、異なる組み合わせの免疫化を行い、4週間後、致死量のPRSまたはH7N9A型インフルエンザウイルスに感染させた。
図5E】AdC68の鼻腔内投与が、インフルエンザの致死的チャレンジからより良好な防御をもたらしたことを示す図である。ウイルス感染マウスの生存曲線(n=5)を示す。マウスは、図4Aに概説したスキームに従って、異なる組み合わせの免疫化を行い、4週間後、致死量のPRSまたはH7N9A型インフルエンザウイルスに感染させた。
図5F】AdC68の鼻腔内投与が、インフルエンザの致死的チャレンジからより良好な防御をもたらしたことを示す図である。インフルエンザ特異的RNAのRT-PCR定量化によって測定されたウイルスチャレンジ後5日目の相対的な肺ウイルス負荷量(n=5)を示す。マウスは、図4Aに概説したスキームに従って、異なる組み合わせの免疫化を行い、4週間後、致死量のPRSまたはH7N9A型インフルエンザウイルスに感染させた。エラーバーは標準偏差(SD)を表す。***は、p<0.001;**は、p<0.01;*は、p<0.05を示す。
図6A】呼吸器の常在メモリーT細胞及び全身メモリーT細胞が両方とも、完全な防御に不可欠であることを示す図である。マウスの逐次免疫化及びウイルスチャレンジは、本質的に図5Aに記載のとおり実施した。ただし、すべてのマウスは、チャレンジ中に2μl/mlの溶解したFTY720を含む飲料水に自由に曝露したことは除く。ウイルスチャレンジ中のPR8感染マウスの体重曲線(n=5)を示す。
図6B】呼吸器の常在メモリーT細胞及び全身メモリーT細胞が両方とも、完全な防御に不可欠であることを示す図である。マウスの逐次免疫化及びウイルスチャレンジは、本質的に図5Aに記載のとおり実施した。ただし、すべてのマウスは、チャレンジ中に2μl/mlの溶解したFTY720を含む飲料水に自由に曝露したことは除く。H7N9感染マウスの生存曲線(n=5)を示す。
図6C】呼吸器の常在メモリーT細胞及び全身メモリーT細胞が両方とも、完全な防御に不可欠であることを示す図である。マウスの逐次免疫化及びウイルスチャレンジは、本質的に図5Aに記載のとおり実施した。ただし、すべてのマウスは、チャレンジ中に2μl/mlの溶解したFTY720を含む飲料水に自由に曝露したことは除く。インフルエンザ特異的RNAのRT-PCR定量化によって測定されたウイルスチャレンジ後5日目の感染マウスにおける相対的な肺ウイルス負荷量(n=5)を示す。
図6D】呼吸器の常在メモリーT細胞及び全身メモリーT細胞が両方とも、完全な防御に不可欠であることを示す図である。マウスの逐次免疫化及びウイルスチャレンジは、本質的に図5Aに記載のとおり実施した。ただし、すべてのマウスは、チャレンジ中に2μl/mlの溶解したFTY720を含む飲料水に自由に曝露したことは除く。ウイルスチャレンジ中のPR8感染マウスの体重曲線(n=5)を示す。
図6E】呼吸器の常在メモリーT細胞及び全身メモリーT細胞が両方とも、完全な防御に不可欠であることを示す図である。マウスの逐次免疫化及びウイルスチャレンジは、本質的に図5Aに記載のとおり実施した。ただし、すべてのマウスは、チャレンジ中に2μl/mlの溶解したFTY720を含む飲料水に自由に曝露したことは除く。H7N9感染マウスの生存曲線(n=5)を示す。
図6F】呼吸器の常在メモリーT細胞及び全身メモリーT細胞が両方とも、完全な防御に不可欠であることを示す図である。マウスの逐次免疫化及びウイルスチャレンジは、本質的に図5Aに記載のとおり実施した。ただし、すべてのマウスは、チャレンジ中に2μl/mlの溶解したFTY720を含む飲料水に自由に曝露したことは除く。インフルエンザ特異的RNAのRT-PCR定量化によって測定されたウイルスチャレンジ後5日目の感染マウスにおける相対的な肺ウイルス負荷量(n=5)を示す。エラーバーは標準偏差(SD)を表す。***は、p<0.001;**は、p<0.01;*は、p<0.05を示す。
図7】インフルエンザウイルス特異的抗体免疫応答を高めるために、保存されたインフルエンザエピトープを送達する際のDNAプライム-AdC68ブースト及びDNAプライム-TTVブースト戦略の比較を示す図である。免疫化後の免疫化マウスの血清中の抗M2及び抗NPIgGレベル。対照群は、3用量の対照ベクターpSV1.0i.m.(100ug)で免疫化した。実験群は、2用量のDNAワクチン及び1用量のAdC68またはTTVワクチンで免疫化した。ワクチン接種後4週間で血清を採取し、ELISAを使用して抗M2及び抗NPIgG力価の試験を行った。エラーバーは標準偏差(SD)を表す。***は、p<0.001;**は、p<0.01;*は、p<0.05を示す。
図8】筋肉内経路及び鼻腔内経路の両方を介したDNA、AdC68及びTTVワクチンによる組み合わせ免疫化によって誘導されるインフルエンザウイルス特異的抗体免疫応答の評価を示す図である。抗M2及び抗NPIgGレベルは、免疫化後の免疫化マウスの血清中で決定した。対照群は、1用量の対照ベクターpSV1.0i.m(100μg)及び2用量の対照ベクターAdC68-空i.n./i.m.(1x1011vp)で免疫化した。実験群は、示された順序で、DNA、AdC68、及びTTVで順次免疫化した。2つのAdC68投与経路については、鼻腔内経路のみは、i.n.として示し、筋肉内経路は、デフォルトとして扱い、何も示していない。ワクチン接種後4週間で血清を採取し、ELISAを使用して抗M2及び抗NPIgG力価の試験を行った。エラーバーは標準偏差(SD)を表す。***は、p<0.001;**は、p<0.01;*は、p<0.05を示す。
図9A】インフルエンザ特異的T細胞免疫応答についての免疫原ベースアッセイを示す図である。ELISpotアッセイによって決定されたマウス脾臓細胞におけるインフルエンザ特異的T細胞免疫応答のレベルを示している。結果は、対照マウスがスポット形成細胞を示さず、インフルエンザ特異的T細胞免疫応答を示さなかったこと;アデノウイルス群は、NP-2及びPB2-1エピトープの両方に対してより高いレベルの細胞性応答を呈したこと;ワクシニア群のマウスは、NP-2、NP-3、PB1-1、PB1-3、PA-3及び他のエピトープに対して、より高いT細胞免疫応答を有することを示した。図9Bは、細胞内サイトカインインターフェロンγ(IFNγ)及び腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)染色による、マウス脾臓細胞におけるインフルエンザ特異的免疫応答のレベルの検出を示す。
図9B】インフルエンザ特異的T細胞免疫応答についての免疫原ベースアッセイを示す図である。IFNγ及びTNFαを発現するT細胞が対照群では観察されなかったが、アデノウイルス群及びワクシニア群で観察されたことが示され、これは、したがってインフルエンザの特徴を伴うT細胞免疫応答を示した。
図9C】インフルエンザ特異的T細胞免疫応答についての免疫原ベースアッセイを示す図である。細胞内因子CD107a染色による、マウス脾臓細胞におけるインフルエンザ特異的免疫応答のレベルの検出を示す。図9Cに示す結果では、CD107a発現T細胞が、対照群では観察されなかったが、アデノウイルス群では観察されたことを示し、したがって、インフルエンザの特徴を伴うT細胞免疫応答を有していたことを示す。
図10A】免疫原に基づくH1N1及びH7N9インフルエンザウイルスに対する防御効果の評価を示す図である。マウスの体重曲線を示している。
図10B】免疫原に基づくH1N1及びH7N9インフルエンザウイルスに対する防御効果の評価を示す図である。マウスの体重曲線を示している。H1N1及びH7N9インフルエンザウイルスに感染後、対照群の体重は、減少を続けたが、アデノウイルス群及びワクシニア群では、体重は最初に減少し、次に増加した。
図10C】免疫原に基づくH1N1及びH7N9インフルエンザウイルスに対する防御効果の評価を示す図である。マウスの生存曲線を示す。
図10D】免疫原に基づくH1N1及びH7N9インフルエンザウイルスに対する防御効果の評価を示す図である。マウスの生存曲線を示す。H1N1インフルエンザウイルスに感染した後、対照群のすべてのマウスが死亡したが、アデノウイルス群及びワクシニア群のマウスは、14日まで生存した。
図10E】免疫原に基づくH1N1及びH7N9インフルエンザウイルスに対する防御効果の評価を示す図である。感染後5日目のマウスの肺におけるウイルス負荷量の検出を示す。
図10F】感染後5日目のマウスの肺におけるウイルス負荷量の検出を示す。H1N1及びH7N9インフルエンザウイルスに感染後、アデノウイルス群及びワクシニア群の肺ウイルス負荷量は、対照群よりも少なかった。
図11A】異なる免疫化方法によって誘導されたインフルエンザ特異的T細胞免疫応答の検出を示す図である。ELISpotアッセイによって決定されたマウス脾臓細胞におけるインフルエンザ特異的T細胞免疫応答のレベルを示す。対照群1のマウスではインフルエンザ特異的T細胞免疫応答は観察されなかった。一方、対照群2、3及び実験群1、2では高レベルのT細胞免疫応答が見られた(対照群及び実験群は、表5に記載する)。
図11B】異なる免疫化方法によって誘導されたインフルエンザ特異的T細胞免疫応答の検出を示す図である。ELISpotアッセイによるマウス肺洗浄細胞におけるインフルエンザ特異的免疫応答のレベルを示す。ペプチドNP-2及びPB2-1の刺激下では、対照群1、2、及び3に斑点細胞は見られず、これらの群の肺では、インフルエンザ特異的免疫応答は確立できなかった。実験群1及び2では、より多くの斑点細胞が観察され、これは、高レベルのインフルエンザ特異的T細胞免疫応答を示す。
図11C】異なる免疫化方法によって誘導されたインフルエンザ特異的T細胞免疫応答の検出を示す図である。細胞内サイトカインIFNγ及びTNFα染色によるマウス脾臓細胞におけるインフルエンザ特異的免疫応答のレベルの検出を示す。結果は、IFNγ及びTNFαを発現するT細胞が、対照群1では観察されなかったが、対照群2、3及び実験群1及び2で観察され、したがって、これは、A型インフルエンザによって誘導されたT細胞免疫応答を示したことを示した。
図11D】異なる免疫化方法によって誘導されたインフルエンザ特異的T細胞免疫応答の検出を示す図である。CD107a染色によるマウス脾臓細胞におけるインフルエンザ特異的免疫応答のレベルの検出を示す。結果は、対照群3及び実験群2のT細胞がCD107aを発現できることを示しており、したがってインフルエンザの特徴を備えたT細胞免疫応答を示す。
図12A】H1N1及びH7N9インフルエンザウイルスに感染したマウスに対する異なる方法による免疫化の防御効果を示す図である。マウスの体重曲線を示す。
図12B】H1N1及びH7N9インフルエンザウイルスに感染したマウスに対する異なる方法による免疫化の防御効果を示す図である。マウスの体重曲線を示す。組み合わせ免疫化を行った場合、実験群1及び2のマウスは、H1N1及びH7N9インフルエンザウイルス感染後に回復し、その後リバウンドした。これは、対照群1、2、及び3よりも良好な結果であった。
図12C】H1N1及びH7N9インフルエンザウイルスに感染したマウスに対する異なる方法による免疫化の防御効果を示す図である。マウスの生存曲線を示す。
図12D】H1N1及びH7N9インフルエンザウイルスに感染したマウスに対する異なる方法による免疫化の防御効果を示す図である。マウスの生存曲線を示す。組み合わせ免疫化を受けた場合、実験群1及び2のマウスは、H1N1及びH7N9インフルエンザウイルス感染後14日まで生存した。対照的に、対照群1、2、及び3のマウスは、14日目より前に死亡した。
図12E】H1N1及びH7N9インフルエンザウイルスに感染したマウスに対する異なる方法による免疫化の防御効果を示す図である。H1N1及びH7N9インフルエンザチャレンジ後5日目のマウスの肺におけるウイルス負荷量の検出を示す。
図12F】H1N1及びH7N9インフルエンザウイルスに感染したマウスに対する異なる方法による免疫化の防御効果を示す図である。H1N1及びH7N9インフルエンザチャレンジ後5日目のマウスの肺におけるウイルス負荷量の検出を示す。示されているように、ウイルスチャレンジ後、実験群1及び2のマウスのウイルス負荷量は、対照群1、2、及び3のウイルス負荷量よりもわずかに低かった。
図13A】インフルエンザウイルスチャレンジ後の鼻免疫ブーストにおけるマウスの防御効果の評価を示す図である。マウスの体重曲線を示す。
図13B】インフルエンザウイルスチャレンジ後の鼻免疫ブーストにおけるマウスの防御効果の評価を示す図である。マウスの体重曲線を示す。H1N1及びH7N9インフルエンザウイルスチャレンジ後、実験群1のマウス+FTY720(フィンゴリモド)及び実験群2のマウス+FTY720は、最初に体重の減少を示し、その後上昇した。これは、対照群1+FTY720と比較して、より良い結果であった。
図13C】インフルエンザウイルスチャレンジ後の鼻免疫ブーストにおけるマウスの防御効果の評価を示す図である。マウスの生存曲線を示す。
図13D】インフルエンザウイルスチャレンジ後の鼻免疫ブーストにおけるマウスの防御効果の評価を示す図である。マウスの生存曲線を示す。H1N1及びH7N9インフルエンザウイルスに感染した後、実験群1の一部のマウス+FTY720及び実験群2+FTY720は、14日まで生存し、結果は、対照群+FTY720マウスよりも良好であった。
図13E】インフルエンザウイルスチャレンジ後の鼻免疫ブーストにおけるマウスの防御効果の評価を示す図である。ウイルスチャレンジ後5日目の肺ウイルス負荷量の検出を示す。
図13F】インフルエンザウイルスチャレンジ後の鼻免疫ブーストにおけるマウスの防御効果の評価を示す図である。ウイルスチャレンジ後5日目の肺ウイルス負荷量の検出を示す。H1N1及びH7N9インフルエンザウイルスチャレンジ後、実験群1のマウス+FTY720及び実験群2のマウス+FTY720のウイルス負荷量は、対照群のマウス+FTY720よりも少なかった。
【発明を実施するための形態】
【0333】
ウイルス感染に対する体液性免疫を改善することは、多くの現在の従来のワクチン、例えばインフルエンザワクチンの目標であるが、そのようなワクチンは、一般に交差防御的ではない。さらに、ほとんどの保存されたウイルスタンパク質は、ウイルス内にあるため、抗体が届かないところにある。ウイルス感染中に抗原提示細胞によって自然に生成されるペプチドエピトープを決定することにより、強力で交差反応性のT細胞応答を誘導できる他のワクチン製剤(すなわち、ペプチドベース)の開発が可能になる。本開示は、保存されたウイルスT細胞エピトープを標的とするユニバーサルワクチンについて記載している。本開示は、部分的に、広範囲の抗ウイルス効果を有し、重要なことに、異なるウイルス亜型に感染した細胞を殺すことができる、ウイルス特異的CD8+T細胞を同定することに基づく。
【0334】
記載されている免疫原、及びそれを含むワクチンは、現在のワクチン戦略に比べて複数の利点をもたらす。このような利点の1つは、免疫原が、ヒトMHCクラスI分子に高い親和性で結合する、高度に保存されたウイルスCD8+T細胞エピトープを含み、広範囲の高レベルのウイルス特異的T細胞免疫を誘導できることである。特に、広範な免疫応答は、抗原ドリフト及び抗原シフトによる宿主免疫応答からのウイルスの逃避に効果的に応答することができ、さらに、異なるウイルス亜型において交差防御効果を付与し得る。本明細書に記載の免疫化方法は、いくつかの実施形態では、連続免疫化のための複数の異なるベクターを使用し、異なる接種方法を使用して、局所的及び全身的の両方で広域スペクトルT細胞免疫応答を効果的に活性化し、異なるウイルス亜型での免疫応答を増強する。したがって、本開示は、より広くより効果的なウイルス防御を提供するために戦略的に組み合わされる様々な異なるワクチンベクターを介して、免疫系をより包括的、効果的、かつ永続的に刺激する組成物及び方法を提供する。
【0335】
定義
別段定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術的及び科学的用語は、本開示の属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本開示の実施形態の実施または試験に際し、本明細書に記載される方法及び材料と類似または同等の任意のものを使用することができるが、ここでその好ましい方法、デバイス、及び材料を記載する。本明細書で言及される刊行物はすべて参照により組み込まれる。本明細書のいかなる記載も、本発明が先行開示を理由としてかかる開示に先行する権利がないことを承認するとして解釈されるべきではない。
【0336】
明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」及び「the」には、文脈で特に明確に指示されない限り、複数の指示対象が含まれる。
【0337】
本明細書で、量、持続時間等のような測定可能な値に言及する際に使用される用語「約」は、規定した値から±20%、±10%、±5%、±1%、±0.9%、±0.8%、±0.7%、±0.6%、±0.5%、±0.4%、±0.3%、±0.2%または±0.1%の変動であって、開示方法を実施するのに適切な変動を包含することを意図する。
【0338】
本明細書及び特許請求の範囲で使用される語句「及び/または」、それにより接続されている要素の「いずれか、または両方」、すなわち、要素が、ある場合には結合的に存在し、別の場合には選言的に存在すること意味すると理解されるべきである。「及び/または」節で具体的に特定される要素以外に任意選択で他の要素が存在してよく、他の意味が別段明示されない限り、それらの具体的に特定された要素との関連を問わない。したがって、非限定的な例として、「A及び/またはB」への言及は、「含む(comprising)」等のオープンエンド言語と組み合わせて使用される場合、いくつかの実施形態では、Aを含みBを含まない(任意により、B以外の要素を含む);いくつかの実施形態では、Bを含みAを含まない(任意により、A以外の要素を含む);さらに別の実施形態では、A及びBの両方(任意により、他の要素を含む)等を指すことができる。
【0339】
本明細書及び特許請求の範囲で使用される場合、「または」は、上記で定義した「及び/または」と同じ意味を有すると理解されるべきである。例えば、列挙されている項目を分ける場合、「または」または「及び/または」は包含的である、すなわち、いくつかまたは列挙の要素、及び、任意選択で、列挙されていない追加項目のうち、少なくとも1つが包含されるが、2つ以上も包含されと解釈されるものとする。「のうち1つのみ」または「のうち正確に1つ」のように他の意味を明示する用語、または特許請求の範囲で使用される場合の「からなる」に限り、いくつかまたは列挙の要素のうちの正確に1つの要素の包含を指す。一般に、本明細書で使用される用語「または」は、「いずれか」、「のうち1つ」、「のうち1つのみ」、または「のうち正確に1つ」という排他性の用語が先行する場合は、排他的な代替(すなわち、「一方または他方であるが両方ではない」)を示すという解釈に限られるものとし、特許請求の範囲で使用される「本質的に~からなる」は、それが特許法分野において使用される通常の意味を有するものとする。
【0340】
本明細書で使用される場合、語句「XからYまでの整数」とは、その端点を含めた任意の整数を意味する。すなわち、ある範囲が開示されている場合、その端点を含む範囲内の各整が数開示される。例えば、語句「XからYまでの整数」では、1~5という範囲同様、1、2、3、4、または5が開示される。
【0341】
本明細書で製品、組成物及び方法を定義するために使用される場合、用語「含んでいる(comprising)」(ならびに 「含む(comprise)」及び「含む(comprises)」等、含んでいる(comprising)の任意の形)、「有している(having)」(ならびに 「有する(have)」及び「有する(has)」等、有している(having) の任意の形)、「含まれている(including)」(ならびに「含まれる(includes)」及び「含まれる(include)」等、含まれている(including)の任意の形)または「含有している(containing)」(ならびに「含有する(contains)」及び「含有する(contain)」等、含有している(containing)の任意の形)は、非限定的であり、記述されていない追加の要素または方法ステップを除外するものではない。したがって、あるアミノ酸配列が、あるポリペプチドの最終アミノ酸配列の一部であることが考えられる場合、そのポリペプチドはそのアミノ酸配列を「含む」。そのようなポリペプチドは、追加の最大数百のアミノ酸残基(例えば、本明細書で言及されるようなタグ及び標的指向性ペプチド)を有し得る。「本質的に~からなる」とは、任意の本質的な意義のある他の構成要素またはステップを除外することを意味する。したがって、本質的に記述構成要素からなる組成物の場合、微量の汚染物質及び薬学的に許容される担体は除外されない。あるポリペプチドが、あるアミノ酸配列「から本質的になる」とは、そのようなアミノ酸配列が最終的に少数の追加アミノ酸残基しか含まずに存在する場合である。「からなる」とは、他の構成要素またはステップの微量以上の要素を除外することを意味する。例えば、ポリペプチドはアミノ酸配列「からなる」とは、そのポリペプチドが、記述アミノ酸配列以外のいかなるアミノ酸も含有しない場合である。
【0342】
本明細書で使用される場合、「実質的に同等」とは、所与の測定基準で異常または正常な範囲と相関することが知られている範囲内にあることを意味する。例えば、対照試料が罹患患者からのものである場合、実質的に同等とは、異常範囲内にあることである。対照試料が、試験される状態を有していないことが分かっている患者からのものである場合、実質的に同等とは、その所与の測定基準の正常範囲内にあることである。
【0343】
特に明記しない限り、本明細書で使用されるすべての技術的及び科学的用語は、本開示が属する技術分野の当業者に共通して理解される意味と同一の意味を有する。本発明の試験の実施に際し、本明細書に記載される方法及び材料と類似または同等の任意のものを使用できるが、好ましい材料及び方法を本開示に記載する。
【0344】
「活性化させる」、「刺激する」、「増強させる」「増大させる」及び/または「誘導する」という用語(及び同等の用語)は同じ意味で使用され、一般に、濃度、レベル、機能、活性、または挙動を、天然のもの、予測されるもの、もしくは平均的なものに対して、または対照状態に対して、直接であれ間接的であれ改善または増大させる行為を指す。「活性化させる」とは、細胞表面部分の結合により誘導される一次応答を指す。例えば、受容体との関連において、そのような刺激では、受容体の結合及びそれに続くシグナル伝達事象を伴う。さらに、刺激事象により、細胞が活性化されて、分子の発現もしくは分泌が上方制御または下方制御され得る。したがって、細胞表面部分の結合は、直接的なシグナル伝達事象が存在しない場合であっても、細胞骨格構造の再構成、または細胞表面部分の融合を生じさせる場合があり、その各々が、その後の細胞性応答の増強、調節、または変化を担い得ると考えられる。
【0345】
本明細書で使用される「CD8+T細胞を活性化する」または「CD8+T細胞活性化」という用語は、CD8+T細胞(CTL)の1つ以上の細胞性応答を引き起こす、またはもたらすプロセス(例えば、シグナル伝達事象)を指すことを意味し、これは、増殖、分化、サイトカイン分泌、細胞傷害性エフェクター分子の放出、細胞傷害活性、及び活性化マーカーの発現から選択される。本明細書で使用される場合、「活性化CD8+T細胞」とは、活性化シグナルを受け取っており、したがって、増殖、分化、サイトカイン分泌、細胞傷害性エフェクター分子の放出、細胞傷害活性、及び活性化マーカーの発現から選択される、1つ以上の細胞性応答を示すCD8+T細胞を指す。CD8+T細胞の活性化を測定する好適なアッセイは、当該技術分野で公知であり、本明細書に記載される。
【0346】
本明細書で使用される「NK細胞を活性化すること」または「NK細胞活性化」という用語は、MHCクラスI発現の欠損を有する細胞を死滅させ得るNK細胞を引き起こすまたはもたらすプロセス(例えば、シグナル伝達事象)を指すことを意味する。本明細書で使用される場合、「活性化NK細胞」は、活性化シグナルを受け取ったNK細胞を指し、したがって、MHCクラスI発現の欠損を有する細胞を死滅させることができる。NK細胞の活性化を測定するための好適なアッセイは、当技術分野で知られており、本明細書に記載されている。
【0347】
本明細書で使用される「能動免疫化」という用語は、能動免疫が生じることを指し、自然獲得された感染または意図的なワクチン接種(人工能動免疫)から生じる免疫を意味する。
【0348】
「養子免疫」及び「獲得免疫」という用語は、免疫細胞源からの生リンパ球の移動によって生じる受動細胞媒介免疫を指すために交換可能に使用される。
【0349】
本明細書で使用される「アジュバント」という用語は、製剤中で、特定の免疫原(例えば、VLP)と組み合わせて使用される場合、結果として生じる免疫応答を増強するか、さもなければ変更または改変する化合物を指すことを意味する。免疫応答の改変には、抗体及び細胞性免疫応答の一方または両方の特異性の強化または拡大が含まれる。免疫応答の改変は、特定の抗原特異的免疫応答を減少または抑制することを意味する場合もある。
【0350】
本明細書で使用される用語「投与」及びその様々な文法上の形は、哺乳類、細胞、組織、器官、または生体液に適用される場合、外因性のリガンド、試薬、プラセボ、小分子、医薬剤、治療剤、診断用薬、または組成物と、対象、細胞、組織、器官、または生体液等との接触を指すことを意味するが、これに限定されない。「投与」は、例えば、治療的、薬物動態学的、診断用、研究、プラセボ、及び実験的な方法を指し得る。「投与」はまた、試薬、診断用、結合用組成物によるかまたは別の細胞による、インビトロ及びエキソビボでの処理、例えば、細胞の処理をも包含する。
【0351】
本明細書において、「アミノ酸残基」または「アミノ酸」または「残基」という用語は、限定されないが、天然に存在するアミノ酸及び天然に存在するアミノ酸と同じように機能し得る天然アミノ酸の既知のアナログを含む、タンパク質、ポリペプチド、またはペプチドに組み込まれるアミノ酸を指すために互換的に使用される。アミノ酸は、L-アミノ酸またはD-アミノ酸であってよい。アミノ酸は、ペプチドの半減期を増加させるために、またはペプチドの効力を増加させるために、またはペプチドの生物学的利用能を増加させるために、変更される合成アミノ酸により置き換えられてもよい。本明細書では、アミノ酸の単一文字の指定が主に使用されている。このような1文字の指定は、次のとおりである。Aは、アラニンである。Cは、システインである。Dは、アスパラギン酸である。Eは、グルタミン酸である。Fは、フェニルアラニンである。Gは、グリシンである。Hは、ヒスチジンである。Iは、イソロイシンである。Kは、リジンである。Lは、ロイシンである。Mは、メチオニンである。Nは、アスパラギンである。Pは、プロリンである。Qは、グルタミンである。Rは、アルギニンである。Sは、セリンである。Tは、スレオニンである。Vは、バリンである。Wは、トリプトファンである。及びYは、チロシンである。以下は、互いに保存的置換であるアミノ酸の群を表す。1)アラニン(A)、セリン(S)、スレオニン(T);2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);4)アルギニン(R)、リジン(K);5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);及び6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)。
【0352】
本明細書で使用される「抗原」という用語は、宿主の免疫系を刺激して、体液性及び/または細胞性抗原特異的応答させる1つ以上のエピトープ(線形、立体配座、またはその両方)を含む分子を指すことを意味する。この用語は、「免疫原」という用語と同じ意味で使用される。通常、B細胞エピトープには、少なくとも約5個のアミノ酸が含まれるが、3~4個のアミノ酸まで小さくすることもできる。CTLエピトープ等のT細胞エピトープは、少なくとも約7~9個のアミノ酸を含み、ヘルパーT細胞エピトープは、少なくとも約12~20個のアミノ酸を含むであろう。通常、エピトープは、9、10、12または15アミノ酸等の約7~15個のアミノ酸を含む。この用語は、タンパク質が本明細書で定義される免疫学的応答を誘発する能力を維持する限り、天然配列と比較して、欠失、付加及び置換(一般に本質的に保存的である)等の改変を含むポリペプチドを含む。これらの改変は、部位指向的変異誘発等による意図的なものである場合もあれば、抗原を産生する宿主の変異等による偶発的なものである場合もある。
【0353】
本明細書で使用される場合、用語「抗原提示」とは、MHC分子に結合しているペプチド断片の形態で抗原を細胞表面に提示することを指す。
【0354】
本明細書で使用される「抗原提示細胞(APC)」という用語は、その表面上の主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子と会合して外来抗原をプロセシングし、表示することができる細胞を指すことを意味する。
【0355】
「Bリンパ球」または「B細胞」という用語は、抗体分泌細胞の前駆体である幅広いクラスのリンパ球を指すために交換可能に使用される。B細胞の受容体である免疫グロブリンは、可溶性分子または粒子表面の個々のエピトープに結合する。B細胞受容体は、天然分子の表面に発現するエピトープに遭遇する。抗体及びB細胞受容体は、細胞外液中で微生物に結合し、微生物から防御するために進化した。
【0356】
「結合」という用語及び他の文法形式は、化学物質間の永続的な引き付けを意味する。「結合特異性」は、特定のパートナーに結合すること、及び他の分子に結合しないことの両方を含む。機能的に重要な結合は、低から高の親和性の範囲で生じ得、設計要素は、望ましくない相互作用を抑制し得る。翻訳後修飾も、相互作用の化学的性質及び構造も変更し得る。「無差別結合」は、ある程度の構造的可塑性を伴ってもよく、これは、異なるパートナーへの結合に重要な残基の異なるサブセットが生じ得る。「相対的結合特異性」は、生化学的システムにおいて、分子がその標的またはパートナーと異なって相互作用し、それにより、個々の標的またはパートナーの同定に応じて、それらに明確に影響を与えるという特徴である。
【0357】
本明細書で使用される「クレード」という用語は、共通の祖先の子孫である関連する生物を指す。
【0358】
本明細書で使用される「細胞株」という用語は、単一の細胞から開発され、したがって無期限に増殖する均一な遺伝子構成を有する細胞からなる恒久的に確立された細胞培養物を指すことを意味する。
【0359】
本明細書で使用される「コード領域」という用語は、その自然のゲノム環境において、その遺伝子の発現産物を自然にまたは通常コードする遺伝子の部分、すなわち、遺伝子の天然の発現産物をインビボでコードする領域を指すことを意味する。コード領域は、正常な、突然変異した、または改変された遺伝子に由来することができ、あるいはDNA合成の当業者に周知の方法を使用して、実験室で完全に合成されたDNA配列または遺伝子に由来することさえできる。「コード配列」または選択されたポリペプチドを「コードする」配列は、適切な調節配列(または「制御要素」)の制御下に置かれたときに、インビボでポリペプチドに転写され(DNAの場合)及び翻訳される(mRNAの場合)核酸分子である。コード配列の境界は、5’(アミノ)末端の開始コドンと3’(カルボキシ)末端の翻訳停止コドンとによって決定される。コード配列には、これらに限定されないが、ウイルス、原核生物または真核生物のmRNAからのcDNA、ウイルスまたは原核生物のDNAからのゲノムDNA配列、さらには合成DNA配列が含まれ得る。転写終結配列は、コード配列の3’側に位置していてもよい。
【0360】
本明細書で使用される場合、用語「構成要素」とは、構成部分、要素または成分を指すことが意図される。
【0361】
用語「組成物」とは、2つ以上の物質の混合により形成される材料を指すことが意図される。
【0362】
本明細書で使用される用語「状態(condition)」とは、様々な健康の状態(state)を指し、任意の基礎にある機序または障害によって生じる障害もしくは疾患が含まれることを指すことを意味する。
【0363】
本明細書で使用される場合、「コンセンサス配列」という用語は、理論的に代表的なヌクレオチドまたはアミノ酸配列を説明するために使用され、各ヌクレオチドまたはアミノ酸は、自然界で発生する異なる配列内でのその部位において最も頻繁に発生するものである。この句は、理論上のコンセンサスに近似している実際の配列も指す。例えば、コンセンサス配列を使用して、ポリペプチド中のアミノ酸の配列、または複数の種において類似しているDNAまたはRNA中のヌクレオチドの配列である既知の保存された配列セットを表すことができる。
【0364】
本明細書で使用される場合、用語「接触」及びその様々な文法上の形は、触れるかまたは直近であるかまたは局所的に近接している、状態(state)または状態(condition)を指すことが意図される。組成物と標的とする目的部位との接触は、当業者に知られている任意の投与手段により起こり得る。
【0365】
本明細書で使用される「制御エレメント」という用語は、転写因子の結合による遺伝子発現の調節を可能にする遺伝子に隣接する(または遺伝子内の)プロモーターまたはエンハンサー等のDNAの領域の総称である。典型的な「制御エレメント」には、これらに限定されないが、転写プロモーター、転写エンハンサーエレメント、転写終止シグナル、ポリアデニル化配列(翻訳終止コドンの3‘に位置する)、翻訳開始の最適化のための配列(コード配列に対して、5’に位置する)、及び翻訳終止配列;及び/またはオープンクロマチン構造を制御する配列エレメントが挙げられる。例えば、McCaughan et al.(1995)PNAS USA 92:5431-5435;Kochetov et al(1998)FEBS Letts.440:351-355.を参照されたい。
【0366】
本明細書で使用する場合、「交差防御」という用語は、1つのサブグループ、亜型、株、及び/またはそのバリアントによる1回の接種による、ウイルス、細菌、寄生体または他の病原体の少なくとも2つのサブグループ、亜型、株及び/またはバリアントに対する免疫を説明するために使用される。
【0367】
本明細書で使用される場合、用語「培養」及びその他の文法上の形は、細胞の集団を人工培地において基材上で成長及び増殖させる過程を指すことが意図される。
【0368】
本明細書で使用される「細胞傷害性Tリンパ球」(CTL)という用語は、エフェクターCD8+T細胞を指すことを意味する。細胞傷害性T細胞は、標的にアポトーシスを起こすように誘導することによって死滅する。それらは、外因性及び内因性経路を介してプログラム細胞死を受けるように標的細胞を誘導する。
【0369】
本明細書で使用される場合、用語「樹状細胞」または「DC」とは、T細胞に外来抗原を提示する、様々なリンパ組織及び非リンパ組織に見られる形態の類似している細胞型の多様な集団を指すことを意味し、Steinman,Ann.Rev.Immunol.9:271-296(1991)を参照にされたい。
【0370】
本明細書で使用される場合、「由来する」という用語は、起源の供給源から何かを受け、それを得、またはそれを改変するための任意の方法を包含することを意味する。
【0371】
用語「検出可能マーカー」とは、選択可能マーカー及びアッセイマーカーの両方を含む。
【0372】
本明細書で使用される場合、用語「検出可能な応答」とは、検出試薬の有無を問わず実施され得る、アッセイで検出され得る任意のシグナルまたは応答を指すことが意図される。検出可能な応答としては、放射性崩壊及びエネルギー(例えば、蛍光、紫外線、赤外線、可視光)放出、吸収、偏光、蛍光、燐光、伝達、反射または共鳴伝達、が挙げられるが、これらに限定されない。検出可能な応答としてはまた、クロマトグラフィー移動度、濁度、電気泳動移動度、質量スペクトル、紫外線スペクトル、赤外線スペクトル、核磁気共鳴スペクトル、及びX線回折が挙げられる。別法として、検出可能な応答は、融点、密度、伝導率、弾性表面波、触媒活性または元素組成等、生物学的物質の1つ以上の特性を測定するアッセイの結果であり得る。「検出試薬」は、目的物質の有無を示す検出可能な応答を発生する任意の分子である。検出試薬としては、抗体、核酸配列及び酵素等の様々な分子のいずれも含まれる。検出を容易にするため、検出試薬はマーカーを含み得る。
【0373】
本明細書で使用される「分化する」という用語及びその様々な文法形式は、より特殊な機能を伴う、細胞または組織の組織化または複雑さのレベルの増加を伴う発達のプロセスを指すことを意味する。
【0374】
本明細書で使用される場合、用語「用量」とは、一度に摂取するよう処方されている治療用物質の量を指すことが意図される。
【0375】
本明細書で使用される「有効用量」という用語は、一般に、本明細書に記載の感染性病原体もしくは病原体の内部保存タンパク質もしくはその免疫原性断片を含む免疫原、または免疫原を含むワクチンの免疫を誘導するため、感染を予防及び/または改善するため、または感染症の少なくとも1つの症状を軽減するため、及び/または免疫原または免疫原を含むワクチンの別の用量の有効性を増強するために十分な量を指す。有効用量とは、感染の発症を遅らせるか最小限に抑えるのに十分な免疫原または免疫原を含むワクチンの量を指し得る。有効用量はまた、感染症の治療または管理において、治療上の利益を提供する免疫原または免疫原を含むワクチンの量を指し得る。さらに、有効用量は、感染症の治療または管理において治療上の利益を提供する、本開示の免疫原を単独で、または他の治療法と組み合わせて含む免疫原またはワクチンに関する量である。有効用量はまた、感染性病原体へのその後の曝露に対する対象(例えば、ヒト)自身の免疫応答を増強するのに十分な量であり得る。例えば、プラークの中和、補体固定、酵素結合免疫吸着剤、またはマイクロ中和アッセイによって、例えば、中和分泌及び/または血清抗体の量を測定することによって監視できる。ワクチンの場合、「有効用量」は、疾患を予防するかつ/または症状の重症度を軽減するものである。
【0376】
本明細書で使用される「有効量」という用語は、免疫原または所望の生物学的効果を実現するために必要または十分な免疫原を含むワクチンの量を指すことを意味する。組成物の有効量は、選択された結果を達成する量であり、そのような量は、当業者によって、日常的な実験のこととして決定することができる。例えば、感染を予防、治療及び/または改善するための有効量は、免疫系の活性化を引き起こすのに必要な量であり得、その結果、本開示の免疫原または免疫原を含むワクチンへの曝露時に、抗原特異的免疫応答の発生がもたらされる。この用語は「十分な量」とも同義である。
【0377】
本明細書で使用される「エフェクター細胞」という用語は、最終的な応答または機能を実行する細胞を指す。例えば、免疫系の主なエフェクター細胞は、活性化されたリンパ球及び食細胞である。
【0378】
本明細書で使用される場合、用語「濃縮する」とは、ある細胞集団において、例えば、細胞の亜型の相対的頻度をその天然での頻度と比較して増大させるために、所望の物質の割合を増加させることを指す。正の選択、負の選択、またはその両方は、一般に、あらゆる濃縮スキームに必要であると考えられる。選択方法には、限定することなく、磁気分離及びFACSが含まれる。濃縮に使用される特定の技術にかかわらず、分化ステージ及び活性化特異的応答は細胞の抗原特性を変化させ得るため、選択工程で使用される特異的マーカーは極めて重要である。
【0379】
本明細書で使用される「CD8+T細胞の拡張」または「CD8+T細胞の拡張」という用語は、CD8+T細胞の集団が一連の細胞分裂を受け、それによって細胞数が増加するプロセスを指すことを意味する。「拡張したCD8+T細胞」という用語は、CD8+T細胞の拡張によって得られたCD8+T細胞に関する。T細胞の拡張を測定する好適なアッセイは、当該技術分野で公知であり、本明細書に記載される。
【0380】
本明細書で使用される「NK細胞の拡張」または「NK細胞の拡張」という用語は、NK細胞の集団が一連の細胞分裂を受け、それによって細胞数が増加するプロセスを指すことを意味する。「拡張されたNK細胞」という用語は、NK細胞の拡張によって得られるNK細胞に関する。NK細胞の拡張を測定する好適なアッセイは、当該技術分野で公知であり、本明細書に記載される。
【0381】
「I型NKT細胞の集団を拡張すること」または「I型NKT細胞の拡張」という用語は、INKT型細胞の集団が一連の細胞分裂を受け、それによって細胞数が拡張するプロセスを指すことを意味する(例えば、インビトロ培養による)。
【0382】
本明細書で使用される用語「発現する」または「発現」は、mRNAの生合成、ポリペプチド生合成、ポリペプチド活性化(例えば、翻訳後修飾による)、または細胞内位置を変化させるかもしくはクロマチンへの動員による発現の活性化を含むことを意味する。発現は、ポリペプチドをコードする遺伝子の数を増加させること、遺伝子の転写を増加させること(遺伝子を構成的プロモーターの制御下に置くことによる等)、遺伝子の翻訳を増加させること、競合遺伝子をノックアウトさせること、またはこれら及び/または他のアプローチの組み合わせ等、多くのアプローチによって増加させ得る。
【0383】
本明細書で使用される「発現ベクター」という用語は、宿主細胞で発現される遺伝子を含むDNA分子を指すことを意味する。典型的には、遺伝子発現は、これらに限定されないが、プロモーター、組織特異的調節エレメント、及びエンハンサー等、特定の調節エレメントの制御下に置かれる。このような遺伝子は、調節エレメントに「作動可能に連結している」と言われる。
【0384】
本明細書で使用される場合、用語「フローサイトメトリー」とは、細胞の表現型及び特徴を調べるためのツールを指すことが意図される。これは、細胞または粒子が液体流中を移動する際に、感知領域を過ぎたレーザー(放射の誘導放出による光の増幅)/光線を介してそれらを感知する。微視的粒子の相対的光散乱及び色分けされた蛍光を測定する。フロー解析及び細胞の鑑別は、大きさ、粒度に基づく他、細胞が抗体または色素のいずれかの形態で蛍光分子を担持しているか否かに基づく。細胞がレーザー光線を通過する際、光は全方向に散乱し、軸から低角度(0.5~10°)で前方に散乱する光は、球体の半径の二乗に比例するため、細胞または粒子の大きさに比例する。光は細胞に入り得るため、90°の光(直角、側方)散乱は、蛍光色素結合抗体で標識されているか、または蛍光膜、細胞質用色素、または核用色素で染色されている可能性がある。したがって、細胞型の鑑別、膜受容体及び抗原の存在、膜電位、pH、酵素活性、及びDNA含量が容易になり得る。フローサイトメーターはマルチパラメータであり、それぞれの細胞についていくつかの測定値を記録し、したがって、異種集団内の同種亜集団を識別することが可能である(Marion G. Macey,Flow cytometry: principles and applications,Humana Press,2007)。蛍光活性化セルソーティング(FACS)は、物理特性が非常に類似しているためにサイズまたは密度によって分離することができない別個の細胞集団の分離を可能にするもので、差次的に発現されている表面タンパク質を検出するために蛍光タグを使用するため、物理的に均一な細胞集団内での微細な区別をすることができる。
【0385】
用語「機能的同等物」または「機能的に同等な」は、本明細書では同じ意味で使用され、同様または同一の効果または使用を有する物質、分子、ポリヌクレオチド、タンパク質、ペプチド、またはポリペプチドを指す。
【0386】
本明細書で使用される場合、「遺伝子」という用語は、所与のRNAまたはタンパク質の発現に関連する核酸の任意のセグメントを指すために広く使用される。したがって、遺伝子には、発現されたRNA(典型的には、ポリペプチドコード配列を含む)をコードする領域、及び多くの場合、それらの発現に必要な調節配列が含まれる。遺伝子は、目的の供給源からのクローニング、または既知のもしくは予測される配列情報から合成されたもの等、様々な供給源から得ることができ、特に所望のパラメータを有するように設計された配列を含み得る。
【0387】
本明細書で使用される「集団免疫」という用語は、他へのワクチン接種及び感染のために自然の貯蔵庫の減少によって生じた集団におけるワクチン接種していない個体に付与される防御を指す。
【0388】
本明細書で使用される「ヘテロ亜型免疫」(「HIS」)という用語は、すべてのウイルス株において保存されている抗原の免疫認識に基づく免疫を指す。
【0389】
本明細書で使用される「異型」という用語は、異なるまたは通常でない型または形態(例えば、ウイルス、細菌、寄生体または他の病原体の異なるサブグループ、亜型、株及び/またはバリアント)であることを指すために使用される。
【0390】
本明細書で使用される「同型」という用語は、ウイルス、細菌、寄生体または他の病原体の同じ型または形態、例えば、同じサブグループ、亜型、株及び/または変種であることを指すために使用される。
【0391】
本明細書で使用される場合、用語「免疫応答」及び「免疫媒介性」は本明細書では同じ意味で使用されることを意味し、外来性または自己の抗原に対する、対象の免疫系のあらゆる機能発現を指すことが意図され、これらの応答の結果が対象にとって有益であるか有害であるかは問わない。本明細書で使用される抗原または組成物に対する「免疫学的応答」という用語は、目的の組成物中に存在する抗原に対する体液性免疫応答及び/または細胞性免疫応答の対象における発達を指すことを意味する。本開示の目的のために、「体液性免疫応答」は、抗体分子によって媒介される免疫応答を指し、「細胞性免疫応答」は、Tリンパ球及び/または他の白血球によって媒介されるものである。細胞性免疫の重要な態様の1つは、細胞傷害性T細胞(「CTL」)による抗原特異的応答である。CTLは、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)によってコードされ、細胞の表面に発現するタンパク質と会合して提示されるペプチド抗原に特異性を有する。CTLは、細胞内微生物の破壊、またはそのような微生物に感染した細胞の溶解を誘導し、促進するのに役立つ。細胞性免疫の別の態様には、ヘルパーT細胞による抗原特異的応答を伴う。ヘルパーT細胞は、その表面にMHC分子と会合してペプチド抗原を表示する細胞に対して、非特異的エフェクター細胞の機能を刺激し、その活性を集中させるのを助けるように作用する。「細胞性免疫応答」は、サイトカイン、ケモカイン及びCD4+及びCD8+T細胞に由来するもの等の活性化されたT細胞及び/または他の白血球によって産生される他のそのような分子の産生も指す。したがって、免疫学的応答には、以下の効果:B細胞による抗体の産生;及び/または目的の組成物またはワクチン中に存在する抗原または複数の抗原に特異的に向けられたサプレッサーT細胞及び/またはγΔT細胞の活性化のうちの1つ以上が含まれ得る。これらの応答は、感染力を中和すること、及び/または抗体補体または抗体依存性細胞傷害(ADCC)を媒介して、免疫化された宿主に防御を提供するのに役立ち得る。このような応答は、当技術分野でよく知られている標準的なイムノアッセイ及び中和アッセイを使用して決定することができる。
【0392】
本明細書で使用される「ゲノムに組み込まれる」という用語は、宿主細胞のゲノムを含むゲノムDNAに付随して連結される組換えDNA配列を指す。
【0393】
本明細書で使用される「単離された」という用語は、材料が元の環境(例えば、それが自然に発生している場合は自然環境)から除去されることを指すことを意味する。例えば、生きている動物に存在する天然に存在するポリヌクレオチドまたはポリペプチドは単離されないが、天然系に共存する材料のいくつかまたはすべてから分離された同じポリヌクレオチドまたはポリペプチドは、単離される。いくつかの実施形態によれば、特定の細胞型の単離された集団とは、10%超純粋である、20%超純粋である、30%超純粋である、40%超純粋である、50%超純粋である、60%超純粋である、70%超純粋である、80%超純粋である、90%超純粋である、または95%超純粋であることを指す。
【0394】
本明細書で使用される用語「標識すること」とは、追跡可能な構成成分を導入することによって、化合物、構造、タンパク質、ペプチド、抗体、細胞または細胞成分を区別する方法を指す。一般的な追跡可能構成成分としては、蛍光抗体、フルオロフォア、色素または蛍光色素、染色または蛍光染色、マーカー、蛍光マーカー、化学染色、分別染色、分別標識、及び放射性同位体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0395】
本明細書で使用される「リンパ球」という用語は、全身のリンパ組織及び正常な成体において形成され、疾患に対する身体の防御に大きな役割を果たす循環血液中の白血球の総数の約22~28%を構成する小さい白血球を指す。個々のリンパ球は、構造的に関連する限られた抗原のセットに応答することを確約するという点で専門化されている。免疫系が特定の抗原と最初に接触する前に存在するこのような確約は、抗原上の決定基(エピトープ)に特異的な受容体がリンパ球の表面膜に存在することによって表される。各リンパ球は、受容体の集団を保有しており、そのすべてが、同一の結合部位を有する。リンパ球の1つのセット、すなわちクローンは、その受容体の結合領域の構造が別のクローンとは異なるため、認識できるエピトープが異なる。リンパ球は、受容体の特異性のみでなく、機能も互いに異なる。
【0396】
用語「マーカー」または「細胞表面マーカー」は、本明細書では同じ意味で使用され、特定の細胞型の表面で見られる抗原決定基またはエピトープを指す。細胞表面マーカーにより、細胞型の特徴付け、その同定、及び最終的にその単離を容易にすることができる。細胞分類技術は細胞バイオマーカーに基づいており、細胞表面マーカー(複数可)が、陽性選択または陰性選択、すなわち、細胞集団からの包含または排除のいずれにも使用され得る。
【0397】
「媒介する」という用語及び本明細書で使用されるその様々な文法形式は、結果をもたらすことを指すことを意味する。
【0398】
本明細書で使用される場合、用語「MHC(主要組織適合遺伝子複合体)分子」とは、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)の遺伝子によりコードされる、広く分布する細胞表面糖タンパク質の大きなファミリーの一つを指すことを意味する。それらは外来抗原のペプチド断片と結合し、それらをT細胞に提示して免疫応答を誘導する」。一連の多型性の高い遺伝子によりコードされるクラスI MHC分子はほとんどすべての細胞型で存在し、ウイルスペプチドをウイルス感染細胞表面に提示し、そこで、細胞傷害性T細胞により認識される。MHCクラスIの機序では、外来ペプチドは取り込まれて抗原提示細胞内で輸送される。その後、外来タンパク質の少なくとも一部は細胞質プロテアソームによるタンパク質分解を受けて短いペプチドを形成し、それらは、抗原提示細胞の小胞体の内腔内へ輸送される。そこで、外来ペプチドがMHCクラスI分子に担持され、小胞により抗原提示細胞の細胞表面へ輸送され、CD8+細胞傷害性T細胞により認識される。例えば、がん細胞でのMHC I発現は、T細胞による検出及び破壊に必要であり、細胞傷害性Tリンパ球(CTL、CD8+)は、自己と非自己を明らかにするために、MHCクラスI分子による標的細胞上での腫瘍抗原提示を必要とする。腫瘍が宿主免疫応答を回避する最も一般的な手段の一つは、腫瘍がMHC Iを低発現することにより、内因性または治療による抗腫瘍T細胞応答を無効にするというような、腫瘍細胞によるMHCクラスI分子発現の下方制御によるものである(Haworth et al.,Pediatr Blood Cancer.2015 Apr;62(4):571-576)。ほとんどの場合、腫瘍細胞でのMHC発現の消失は、エピジェネティックなイベントならびにMHC遺伝子座及び/または抗原プロセシング装置の転写下方制御により媒介される。空のMHC分子は細胞表面で安定ではないため、プロセシングされたペプチド抗原の不足はMHC発現の減少をもたらす。
【0399】
プロフェッショナル抗原提示細胞上に存在するクラスII MHC分子は、外来ペプチドをヘルパーT細胞に提示する。外来ペプチドはエンドソームの酸性環境に取り込まれて分解されるが、これは、ペプチドが、サイトゾルで一度も提示されずに、形態的に細胞外間隙と同等な細胞内区画内に残ることを意味する。ペプチドは、特殊化したエンドソーム区画内であらかじめ構築されているMHCクラスIIタンパク質に結合し、次いで、担持MHCクラスII分子は抗原提示細胞の原形質膜へ輸送され、CD4+ヘルパーT細胞に提示される(Alberts et al. Molecular Biology of the Cell 4th Ed.,Garland Science,New York(2002)p.1407)。抗原はまた、ドナー細胞表面からのMHCクラスII分子の獲得によって抗原提示細胞上にも担持され得る。ペプチド-MHC輸送(「クロスドレッシング(cross-dressing)」)では、ドナー細胞内部でのペプチド-MHCクラスII複合体の生成、及びそれに続くそれらの複合体のレシピエント抗原提示細胞への輸送を伴い、その後、それらの細胞は、プロセシングを受けていない無傷の大きなペプチド-MHCクラスII複合体をヘルパーT細胞に提示することができる(Campana,S.et al.,Immunol. Letters(2015)168(2):349-54)。内因性抗原はまた、オートファジーを介して分解される場合にもMHCクラスIIにより提示され得る.(Schmid,D.et al.(2007)Immunity 26(1):79-92)。
【0400】
「改変する」という用語及び本明細書で使用されるその様々な文法形式は、その形式または品質を変更することを指すことを意味する。
【0401】
本明細書で使用される場合、用語「調節する」及びそれらの様々な文法上の形は、ある程度の量または割合に、制御する、改変する、適応させる、または調節することを指すことが意図される。このような調節は、検出できない変更を含む、任意の変更であり得る。
【0402】
腫瘍細胞に対する免疫応答に関して本明細書で使用される「改変された」または「調節された」という用語は、免疫細胞が腫瘍細胞を認識し、殺傷することができるよう、1つ以上の組換えDNA技術を介して腫瘍細胞に対する免疫応答の形態または特性を変化させることを指すことが意図される。
【0403】
本明細書で使用される場合、用語「ナチュラルキラー(NK)細胞」とは、グループI自然リンパ球に分類される、T細胞及びB細胞と同じファミリーのリンパ球を指すことが意図される。それらは、プライミングまたは事前活性化がなくても腫瘍細胞を殺傷する能力を有し、抗原提示細胞によるプライミングを必要とする細胞傷害性T細胞とは対照的である。NK細胞は、IFNγ及びTNFα等のサイトカインを分泌し、マクロファージ及び樹状細胞のような他の免疫細胞に対して作用し、免疫応答を増強させる。NK細胞表面の活性化受容体は、がん細胞及び感染細胞の表面で発現されている分子を認識し、NK細胞のスイッチを入れる。抑制性受容体は、NK細胞による殺傷のチェックとして作用する。ほとんどの健康な正常細胞は、「自己」の印を付けるMHCI受容体を発現する。NK細胞表面の抑制性受容体は同族MHCIを認識し、これにより、NK細胞のスイッチが切られ、殺傷されないようにしている。一旦殺傷の決定が下されると、NK細胞はパーフォリン及びグランザイムを含有する細胞傷害性顆粒を放出し、標的細胞の溶解をもたらす。サイトカイン分泌及び細胞傷害性を含むナチュラルキラーの反応性は、キラー免疫グロブリン様受容体(KIR)と細胞傷害性受容体(NCR)等、生殖細胞系列でコードされるいくつかの抑制性受容体と活性化受容体のバランスにより制御される。標的細胞上でのMHCクラスI分子の存在は、NK細胞上のMHCクラスI特異的受容体であるキラー細胞免疫グロブリン様受容体(KIR)の、上記のような抑制性リガンドとして働く。KIR受容体の会合は、NK活性化を阻害し、逆説的に、不活性化シグナルを誘発して、それらが以降の遭遇に応答する能力を保持する。したがって、KIRが、MHCクラスIに十分に結合することができる場合、この会合が殺傷のためのシグナルに優先して標的細胞の生存を可能にすることができる。対照的に、NK細胞が標的細胞上のMHCクラスIに十分に結合できない場合、標的細胞の殺傷が進行し得る。結果として、MHCクラスIを低発現し、かつ、T細胞媒介性の攻撃を回避することができると考えられている腫瘍は、代わりに、NK細胞媒介性の免疫応答に感受性であり得る。
【0404】
本明細書で使用される場合、用語「ナチュラルキラーT細胞」または「NKT」とは、I型NKT細胞としても知られるインバリアントナチュラルキラーT(iNKT)細胞、ならびにCD3及びαβT細胞受容体(TCR)(本明細書では「ナチュラルキラーαβT細胞」と呼ばれる)またはγΔTCR(本明細書では「ナチュラルキラーγΔT細胞」と呼ばれる)を発現する、非インバリアント(Vα24-及びVα24+)ナチュラルキラーT細胞の全サブセットを指し、そのいずれもCD1抗原により提示される非タンパク質抗原に対する応答能が実証されているものを指すことが意図される。記載の本開示の方法により包含される非インバリアントNKT細胞は共通して、一般的にナチュラルキラー(NK)細胞に起因する表面受容体の発現、ならびにαβまたはγΔのTCR遺伝子座再構成/組換えのTCRの発現をI型NKT細胞と共有する。
【0405】
本明細書で使用される「不変ナチュラルキラーT細胞」という用語は、用語「iNKT」と同義的に使用されることが意図され、ヒトにおいて、これは、例えば、Vβ11 TCRβ鎖と連結しているVα24-Ja18 TCRα鎖で構成される、制限されたTCRレパートリーを発現するT細胞受容体(TCR)α発現細胞のサブセットを指すことが意図される。iNKTは、CD3+Vα24+I型NKT細胞(CD3+CD4+CD8-Vα24+、CD3+CD4- CD8-+Vα24-/+、及びCD3+CD4-CD8-Vα24+)、ならびに遺伝子発現または他の免疫プロファイリングによってI型NKT細胞であることが確認できるが、Vα24の表面発現が下方制御している(CD3+Vα24-)細胞のすべてのサブセットを含むことが意図される。これには、調節性転写因子FOXP3を発現する細胞も、発現しない細胞も含まれる。大部分がMHC分子により提示されるペプチド抗原を認識する通常型T細胞とは異なり、iNKT細胞は、非多型MHCクラス1様CD1dにより提示される糖脂質抗原を認識する。
【0406】
本明細書で使用される場合、用語「非拡張」とは、細胞集団内での細胞数を増加するために、培養で(インビトロで)は成長させていない細胞集団を指すことが意図される。
【0407】
「非複製」または「複製障害(replication-impaired)」ウイルスという用語は、正常な哺乳動物細胞または正常な初代ヒト細胞の大部分において有意な程度まで複製することができないウイルスを指す。
【0408】
本明細書で使用される「核酸」という用語は、一本鎖または二本鎖形態のデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドポリマーを指すことが意図され、別途限定されない限り、天然に存在するヌクレオチドと同様の仕方で一本鎖核酸(例えば、ペプチド核酸)にハイブリダイズするという点で天然ヌクレオチドの本質的な性質を有する既知のアナログを包含する。本開示の方法において有用な核酸分子には、本開示のポリペプチドまたはその断片をコードする任意の核酸分子が含まれる。このような核酸分子は、内因性核酸配列と100%同一である必要はないが、典型的には実質的な同一性を呈するであろう。内因性配列に対して「実質的な同一性」を有するポリヌクレオチドは、典型的には、二本鎖核酸分子の少なくとも1本の鎖とハイブリダイズすることができる。本開示の方法において有用な核酸分子には、本開示のポリペプチドまたはその断片をコードする任意の核酸分子が含まれる。このような核酸分子は、内因性核酸配列と100%同一である必要はないが、典型的には実質的な同一性を呈するであろう。内因性配列に対して「実質的な同一性」を有するポリヌクレオチドは、典型的には、二本鎖核酸分子の少なくとも1本の鎖とハイブリダイズすることができる。「ハイブリダイズ」とは、種々のストリンジェント条件下で、相補的なポリヌクレオチド配列(例えば、本明細書に記載の遺伝子)またはその一部間で二本鎖分子を形成するように対合することを意味する(例えば、Wahl,G.M.and S.L.Berger(1987)Methods Enzymol.152:399;Kimmel,A.R.(1987)Methods Enzymol.152:507を参照されたい)。2本の鎖がアニールする速度を定量化することによって、塩基不適合の効果を測定することにより、アニールされる2本の鎖間の塩基配列の類似性に関する情報が得られる。選択的にハイブリダイズする核酸は、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、非標的核酸配列へのハイブリダイゼーションよりも検出可能な程度に大きくなるまで(例えば、バックグラウンドの少なくとも2倍)、かつ非標的核酸を実質的に排除するまで、核酸配列の特定の核酸標的配列へのハイブリダイゼーションを受ける。
【0409】
本明細書で使用される「ヌクレオチド配列」という用語は、デオキシリボヌクレオチドのヘテロポリマーを指すことを意味する。特定のペプチド、オリゴペプチド、またはポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、天然に存在していてもよく、または合成的に構築されてもよい。
【0410】
本明細書で使用される「オープンリーディングフレーム」という用語は、ペプチドまたはタンパク質をコードする可能性を有するDNA分子中のヌクレオチドの配列を指すことを意図する:これは、開始トリプレット(ATG)で始まり、その後にトリプレットストリングが続き、それぞれがアミノ酸をコードし、終止トリプレット(TAA、TAGまたはTGA)で終わる。
【0411】
本明細書で使用される「作動可能に連結された」という句は、(1)第1の配列(複数可)もしくはドメインが、第2の配列(複数可)もしくはドメイン、またはその第2の配列もしくはドメインの制御下にある領域に影響を及ぼすことができるように、第2の配列(複数可)またはドメインに十分に近接して位置する第1の配列(複数可)またはドメイン、及び(2)プロモーターと第2の配列との間の機能的連結であって、ここで、プロモーター配列が、第2の配列に対応するDNA配列の転写を開始及び媒介する連結、を指す。一般に、作動可能に連結されているとは、連結される核酸配列が隣接しており、2つのタンパク質コード領域を繋げる必要がある場合、同じリーディングフレーム内にあることを意図する。いくつかの実施形態によれば、「作動可能に連結された」という句は、2つ以上のタンパク質ドメインまたはポリペプチドが、組換えDNA技術または化学反応によって連結されるかまたは組み合わされ、これにより、得られた融合タンパク質の各タンパク質ドメインまたはポリペプチドが、元の機能を保持するようになる連結を指す。
【0412】
本明細書で使用される「最適化されたウイルスポリペプチド」という用語は、天然に存在するウイルスペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質ではない免疫原性ポリペプチドを指すことを意図する。最適化されたウイルスポリペプチド配列は、最初に、哺乳動物(例えば、ヒト)の免疫化時(例えば、本開示のワクチンに組み込まれた場合)に生じる抗ウイルス免疫応答(細胞性または体液性免疫応答)の幅、強度、深さ、または寿命を増大させるために、1つ以上の天然に存在するウイルス遺伝子産物(例えば、ペプチド、ポリペプチド、及びタンパク質)のアミノ酸配列を改変することによって、生成される。したがって、最適化されたウイルスポリペプチドは、「親」ウイルス遺伝子配列に対応し得る。あるいは、最適化されたウイルスポリペプチドは、特定の「親」ウイルス遺伝子配列に対応しない場合があるが、ウイルスの様々な株または準種からの類似の配列に対応する場合がある。最適化されたウイルスポリペプチドに含めることができるウイルス遺伝子配列への改変には、アミノ酸の付加、置換、及び欠失が含まれる。本開示のいくつかの実施形態によれば、最適化されたウイルスポリペプチドは、2つ以上の天然に存在するウイルス遺伝子産物(例えば、天然または臨床ウイルス単離株)の複合または併合(merged)アミノ酸配列であり、各潜在的なエピトープ(例えば、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、またはそれ以上の長さのアミノ酸の各連続または重複アミノ酸配列)が、結果として得られる最適化されたウイルスポリペプチドの免疫原性を改善するために、分析され、改変される。異なるウイルス遺伝子産物に対応する最適化されたウイルスポリペプチドもまた、本開示のワクチンへの組み込みを容易にするために融合させることができる。最適化されたウイルスポリペプチドを生成する方法は、例えば、Fisher et al.(2007)「Polyvalent Vaccine for Optimal Coverage of Potential T-CeIl Epitopes in Global HIV-I Variants」 Nat.Med.13(1):100-106及び国際特許出願公開WO2007/024941に記載されており、これらは、参照により本明細書に組み込まれる。最適化されたウイルスポリペプチド配列が生成されると、対応するポリペプチドは、本明細書に記載される標準的技術によって生成され得るかまたは投与され得る。
【0413】
本明細書で使用される場合、用語「全生存期間」(OS)とは、がん等の疾患についての診断日または処置開始日からの、その疾患の診断をされた患者が生存している時間の長さを指すことが意図される。
【0414】
本明細書で使用される用語「非経口」及びその文法上の他の形は、口以外の身体または消化管に行う物質の投与を指すことが意図される。例えば、本明細書で使用される用語「非経口」とは、注射による体内への導入(すなわち、注射による投与)を指し、これには、例えば、皮下注射(すなわち、皮下注射)、筋肉内注射(すなわち、筋肉内への注射)、静脈内注射(すなわち、静脈内への注射)、髄腔内注射(すなわち、脊髄周囲の空隙または脳のくも膜下への注射)、胸骨内注射、または注入という手法が含まれる。
【0415】
本明細書で使用される用語「パターン認識受容体」または「PRR」とは、細胞外病原体を認識するよう細胞表面に存在し、エンドソームでは、細胞内侵入者を感知し、最終的に細胞質で感知する受容体を指すことを意図する。それらは、微生物に特異的な、その生存に必須の病原体関連分子パターン(PAMP)と呼ばれる、病原体の保存された分子構造を認識する。PRRは、4つのファミリー、すなわち、toll様受容体(TLR);ヌクレオチドオリゴマー化受容体(NLR);C型レクチン受容体(CLR)、及びRIG-1様受容体(RLR)に分けられる。
【0416】
「ペプチド」という用語は、本明細書では、典型的には隣接するアミノ酸のアルファ-アミノ基とカルボニル基との間のペプチド結合によって互いに接続された一連のアミノ酸残基を示すために使用される。ペプチドは、典型的には、9アミノ酸長であるが、短い8アミノ酸長から、長い14アミノ酸長にすることもできる。一連のアミノ酸は、アミノ酸長が約14アミノ酸より長く、典型的には、最大約30~40残基の長さである場合、「オリゴペプチド」と見なされる。アミノ酸残基の長さが40アミノ酸残基を超える場合、一連のアミノ酸残基は「ポリペプチド」と呼ばれる。
【0417】
そのような分子をコードするペプチド、オリゴペプチド、ポリペプチド、タンパク質、またはポリヌクレオチドは、「免疫原性」であり、したがって、免疫応答を誘導することができる場合、本開示内の免疫原である。本開示において、免疫原性は、より具体的には、CTL媒介性応答を誘導する能力として定義される。したがって、免疫原は、免疫応答を誘導できる分子であり、本開示では、CTL応答を誘導することができる分子である。免疫原は、同等の生物学的及び免疫学的活性を有する1つ以上のアイソフォームまたはスプライスバリアントを有し得、したがって、本開示の目的のために、元の天然ポリペプチドの免疫原性同等物であるとも見なされる。
【0418】
本開示によれば、「パーセント同一性」または「パーセント同一」という用語は、配列を指す場合、比較される配列(「比較配列」)のアラインメント後に、配列が特許請求されたまたは記載された配列(「参照配列」)と比較されることを意味する。次に、パーセント同一性は、次式に従って決定される:
パーセント同一性=100[1-(C/R)]
式中、Cは、参照配列と比較配列の間のアラインメントの長さでの、参照配列と比較配列の間の差異の数である。ここで、(i)比較配列中の対応する整列した塩基またはアミノ酸を有さない参照配列中の各塩基またはアミノ酸、(ii)参照配列中の各ギャップ、及び(iii)比較配列中で整列された塩基またはアミノ酸とは異なる、参照配列中の整列された各塩基またはアミノ酸により、差異が作られる。Rは、比較配列とのアラインメントの長さでの参照配列中の塩基またはアミノ酸の数であり、参照配列中で作られたギャップも、塩基またはアミノ酸としてカウントされる。
【0419】
本明細書で使用される「医薬組成物」という用語は、標的の状態、症候群、障害または疾患を予防するか、強度を低減させるか、治癒するか、または他の方法で処置するために用いられる組成物を指すことが意図される。
【0420】
本明細書で使用される用語「薬学的に許容される担体」とは、従来より医薬品の投与に使用可能な実質的に非毒性の任意の担体であって、本開示の単離されたポリペプチドを安定かつ生物学的に利用可能に維持するものを指すことが意図される。薬学的に許容される担体は、処置される哺乳類への投与に適するものにするために、十分に高純度であり、十分に低毒性でなければならない。これは、さらに、活性剤の安定性及び生物学的利用能を維持しなければならない。薬学的に許容される担体は、液体または固体であり得、計画された投与様式を考慮に入れて、所与の組成物の活性物質及び他の構成要素を組み合わせた際に所望のバルク、一貫性等を提供するよう選択される。
【0421】
本明細書で使用される場合、本明細書で使用される用語「薬学的に許容される塩」とは、正当な医学的判断の範囲内で、過渡の毒性、刺激、アレルギー応答等を伴うことなくヒト及び下等動物の組織と接触する使用に好適であり、妥当なベネフィット/リスク比に見合う塩を指すことが意図される。医薬品に使用する場合、塩は薬学的に許容されるべきであるが、その薬学的に許容される塩を調製するために非薬学的に許容される塩が好都合に使用される場合がある。このような塩としては、次の酸から調製されたものが挙げられるが、これらに限定されない:塩酸、臭化水素酸塩、硫酸、硝酸、リン酸、マレイン酸、酢酸、サリチル酸、p-トルエンスルホン酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、ギ酸、マロン酸、コハク酸、ナフタレン-2-スルホン酸、及びベンゼンスルホン酸。また、そのような塩は、カルボン酸基のナトリウム塩、カリウム塩またはカルシウム塩等、アルカリ金属塩またはアルカリ土類塩として調製され得る。「薬学的に許容される塩」は、正当な医学的判断の範囲内で、過渡の毒性、刺激、アレルギー応答等を伴うことなくヒト及び下等動物の組織と接触する使用に好適であり、妥当なベネフィット/リスク比に見合う塩が意図される。薬学的に許容される塩は当該技術分野で周知である。例えば、P.H.Stahlらは、「’Handbook of Pharmaceutical Salts:Properties,Selection,and Use」(Wiley VCH,Zurich,Switzerland:2002)において薬学的に許容される塩について詳述している。塩は、本開示内または別々に記載される化合物の最終単離及び精製の際に、遊離塩基官能基と好適な有機酸とを反応させることによってインサイチュで調製され得る。代表的な酸付加塩としては、酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、クエン酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、重硫酸塩、酪酸塩、樟脳酸塩、樟脳スルホン酸塩、ジグルコン酸塩、グリセロリン酸塩、ヘミスルフィン酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、フマル酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、2-ヒドロキシエタンスルホン酸塩(イセチオン酸塩)、乳酸塩、マレイン酸塩、メタンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、2-ナフタレンスルホン酸塩、シュウ酸塩、パモ酸塩、ペクチン酸塩、過硫酸塩、3-フェニルプロピオン酸塩、ピクリン酸塩、ピバリン酸塩、プロピオン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、リン酸塩、グルタミン酸塩、炭酸水素塩、p-トルエンスルホン酸塩、及びウンデカン酸塩が挙げられるが、これらに限定されない。また、塩基性窒素含有基は、例えば、メチル、エチル、プロピル、及びブチル塩化物、臭化物、及びヨウ化物等の低級ハロゲン化アルキル、例えば、ジメチル、ジエチル、ジブチル、及びジアミル硫酸塩等の硫酸ジアルキル、例えば、デシル、ラウリル、ミリスチル、及びステアリル塩化物、臭化物、及びヨウ化物等の長鎖ハロゲン化物、例えば、ベンジル及びフェネチル臭化物等のハロゲン化アラルキル、ならびにその他のもの等の薬剤を用いて、四級化することができる。それによって、水または油溶性または分散性生成物が得られる。薬学的に許容される酸付加塩を形成するために使用できる酸の例としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸及びリン酸等の無機酸、ならびにシュウ酸、マレイン酸、コハク酸及びクエン酸等の有機酸が挙げられる。塩基性付加塩は、カルボン酸含有部分を、薬学的に許容される金属カチオンの水酸化物、炭酸塩、または重炭酸塩等の適切な塩基と、またはアンモニアもしくは有機一級、二級または三級アミンと反応させることによって、本開示に記載の化合物の最終的な単離及び精製中にその場で調製することができる。薬学的に許容される塩としては、これらに限定されないが、アルカリ金属またはアルカリ土類金属、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、及びアルミニウム塩等に基づくカチオン、ならびに無毒の第四級アンモニア及びアミンカチオン、例えば、アンモニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジエチルアミン、エチルアミン等が挙げられる。塩基付加塩の形成に有用な他の代表的な有機アミンとしては、エチレンジアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ピペリジン、ピペラジン等が挙げられる。薬学的に許容される塩はまた、当技術分野で周知の標準的な手順を使用して、例えば、アミン等の十分に塩基性の化合物を適切な酸と反応させて、生理学的に許容されるアニオンを与えることによって得ることができる。カルボン酸のアルカリ金属(例えば、ナトリウム、カリウムまたはリチウム)塩またはアルカリ土類金属(例えば、カルシウムまたはマグネシウム)塩も作られ得る。
【0422】
ポリペプチドに関して本明細書で使用される場合、「部分」、「分節」、及び「断片」という用語は、配列がより大きい配列のサブセットを形成する、アミノ酸残基等の残基の連続配列を指すことが意図される。例えば、ポリペプチドが、トリプシンまたはキモトリプシン等の一般的なエンドペプチダーゼのいずれかで処理された場合、そのような処理から生じるオリゴペプチドは、出発ポリペプチドの部分、分節、または断片を表すことになる。ポリヌクレオチドに関して使用される場合、そのような用語は、ポリヌクレオチドをエンドヌクレアーゼで処理することによって産生される産生物を指す。
【0423】
本明細書で使用される「予防」という用語は、動物、特に哺乳動物、及び最も特にヒトが、疾患のプロセスの誘導または発症の前に本開示の免疫原に曝露される予防のプロセスを指すことが意図される。これは、インフルエンザパンデミック地域での生活またはそれらの地域への旅行に基づいて、個体がインフルエンザ感染のリスクが高い場合に行うことができる。あるいは、免疫原は、あらゆる感染症で高頻度で行われるように、一般の人々に投与することができるであろう。あるいは、「抑制」という用語は、疾患プロセスがすでに開始しているが、その状態の明らかな症状がまだ実現されていない状態を説明するために多くの場合使用される。したがって、個体の細胞は、感染している可能性があるが、疾患の外部の徴候は、まだ臨床的に認識されていない。いずれの場合も、予防という用語は、予防及び抑制の両方を含むように適用され得る。
【0424】
本明細書で使用される用語「増殖する」及びその様々な文型形態とは、細胞数の増加をもたらす過程を指すことが意図され、細胞分裂と細胞死または分化による細胞消失との調和により定義される。
【0425】
本明細書で言及されるように、対象を疾患を発症することから、または感染症に対して感受性を高くすることから「防御する」または「の防御」という用語は、対象を部分的または完全に防御することを意図する。本明細書で使用される場合、「完全に防御する」とは、治療される対象が、ウイルス、細菌、真菌、原生動物、蠕虫、及び寄生虫等の剤によって引き起こされる、またはがん細胞によって引き起こされる疾患または感染症を発症しないことを意味する。本明細書で使用される「部分的に防御する」とは、対象の特定のサブセットが治療後に疾患または感染症を発症することから完全に防御され得ること、または対象が未治療対象と同じ重症度の疾患または感染症を発症しないことを意味する。
【0426】
本明細書で使用される「防御免疫応答」または「防御応答」という用語は、脊椎動物(例えば、ヒト)によって示される、感染性病原体に対する抗体によって媒介される免疫応答を指すことが意図され、これは、感染またはその少なくとも1つの症状を予防するまたは改善する。本開示のワクチンは、例えば、感染性病原体を中和する、感染性病原体が細胞に侵入するのを遮断する、感染性病原体の複製を遮断する、及び/または感染及び破壊から宿主細胞を防御する抗体の産生を刺激することができる。この用語はまた、脊椎動物(例えば、ヒト)によって示される、感染性病原体に対するTリンパ球及び/または他の白血球によって媒介される免疫応答を指す場合もある。これは、ウイルス感染を予防または改善するか、またはその少なくとも1つの症状を軽減する。
【0427】
核酸分子を説明するために本明細書で使用される「組換え」という用語は、その起源または操作のために、ゲノム、cDNA、半合成、または合成起源のポリヌクレオチドを指すことを意味し、(1)自然界で会合しているポリヌクレオチドのすべてまたは一部と会合していない、及び/または(2)自然界で連結している者以外のポリヌクレオチドに連結している。タンパク質またはポリペプチドに関して使用される「組換え」という用語は、組換えポリヌクレオチドの発現によって産生されるポリペプチドを意味する。「組換え宿主細胞」、「宿主細胞」、「細胞」、「細胞株」、「細胞培養物」、及び単細胞実体として培養された原核生物微生物または真核生物細胞株を示す他のこのような用語は、同義的に使用され、組換えベクターまたは他の転写DNAのレシピエントとして使用できる、または使用されている細胞を指し、トランスフェクトされた元の細胞の子孫を含む。単一の親細胞の子孫は、偶発的または意図的な変異のために、形態またはゲノムまたは全DNA補体が元の親と必ずしも完全に同一であるとは必要はないことが理解される。所望のペプチドをコードするヌクレオチド配列の存在等、関連する特性を特徴とするように親に十分に類似している親細胞の子孫は、この定義によって意図される子孫に含まれ、上記の用語を網羅する。
【0428】
本明細書で使用されるDNAプラスミド、疑似型レンチウイルスまたはレトロウイルスベクター等の「組換え」ベクターという用語は、材料(例えば、核酸またはコードされたタンパク質)が、人工的または合成(非天然)により、ヒトの介入によって変更されるベクターを指すことが意図される。この変更は、その自然環境または自然状態内で、またはそれらから取り除かれた材料に対して行うことができる。具体的には、例えば、インフルエンザウイルスに由来するタンパク質は、組換え核酸の発現によって産生される場合、組換えである。例えば、「組換え核酸」は、例えば、クローニングまたは他の手順の間に核酸を組換えることによって、または化学的もしくは他の突然変異誘発によって作られるものである。「組換えポリペプチド」または「組換えタンパク質」は、組換え核酸の発現によって産生されるポリペプチドまたはタンパク質である。組換え核酸のいくつかの実施形態は、HA、NA、及び/またはプロテアーゼをコードするオープンリーディングフレームを含み、非コード調節配列及びイントロンをさらに含むことができる。
【0429】
本明細書で使用される「レポーター遺伝子」(「レポーター」)または「アッセイマーカー」という用語は、検出または容易に同定及び測定できる遺伝子及び/またはペプチドを指すことが意図される。レポーターの発現は、RNAレベルまたはタンパク質レベルのいずれかで測定され得る。実験的アッセイプロトコルで検出され得る遺伝子産物としては、これらに限定されないが、マーカー酵素、抗原、アミノ酸配列マーカー、細胞表現型マーカー、核酸配列マーカー等が挙げられる。研究者らは、レポーター遺伝子を、細胞培養、細菌、動物、または植物において、目的の別の遺伝子に付着させ得る。例えば、一部のレポーターは、選択可能マーカーであるか、またはそれらを発現する生物に特性を付与して、生物を容易に同定及びアッセイできるようにする。レポーター遺伝子を生物に導入するために、研究者らは、レポーター遺伝子及び目的の遺伝子を同じDNA構築物内に配置して、細胞または生物に挿入させてもよい。培養中の細菌または真核細胞の場合、これはプラスミドの形態であってもよい。一般的に使用されるレポーター遺伝子としては、これらに限定されないが、蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ、ベータガラクトシダーゼ、及びクロラムフェニコール及びカノマイシン等の選択可能マーカーが挙げられる。
【0430】
用語「選択可能マーカー」とは、発現構築物で形質転換された細胞が、それについて選択またはスクリーニングされ得る様々な遺伝子産物を指すことが意図され、それらとしては、薬物耐性マーカー、蛍光活性化セルソーティングにおいて有用な抗原マーカー、選択的接着を可能にする接着リガンドの受容体等の接着マーカー等が挙げられる。
【0431】
「対象」という用語は、本明細書において使用される場合、ヒト、ならびにアカゲザル、チンパンジー及び他の類人猿及びサル種等の非ヒト霊長類を含む他の霊長類;ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ及びウマ等の家畜;イヌ及びネコ等の家庭用哺乳類;マウス、ラット及びモルモット等のげっ歯類を含む実験動物;ニワトリ、シチメンチョウ及びその他の家禽、カモ、ガン等の、家畜、野生及び狩猟鳥を含む鳥等を制限なく含む、脊索動物亜門の任意のメンバーを指す。この用語は、特定の年齢を示さない。したがって、成体及び新生個体が両方とも含まれることが意図される。上記のシステムは、これらすべての脊椎動物の免疫システムが同様に作動するため、上記の脊椎動物種のいずれかでの使用を意図している。
【0432】
本明細書で使用される「それを必要とする対象」という句は、句の文脈及び使用法が別段の指示をしない限り、(i)記載された開示に従ってワクチンが投与される、(ii)記載された開示に従ってワクチンを受けている、または(iii)記載された開示に従ってワクチンを受けた患者を指すことが意図される。
【0433】
本明細書で使用される「免疫細胞を刺激する」または「免疫細胞を刺激すること」という用語は、免疫細胞、例えば、CD8+T細胞の活性化及び/または拡張等の細胞性応答を引き起こすまたはもたらすプロセス(例えば、シグナル伝達事象または刺激を伴う)を指すことが意図される。
【0434】
本明細書で使用される用語「実質的に同一」とは、ポリペプチドまたは核酸分子が、参照アミノ酸配列(例えば、本明細書に記載のアミノ酸配列のいずれか1つ)または核酸配列(例えば、本明細書に記載の核酸配列のいずれか1つ)に対して少なくとも50%の同一性を示すことが意図される。例えば、このような配列は、比較のために使用した配列と、アミノ酸レベルまたは核酸で、少なくとも60%、少なくとも61%、少なくとも62%、少なくとも63%、少なくとも64%、少なくとも65%、少なくとも66%、少なくとも67%、少なくとも68%、少なくとも69%、少なくとも70%、少なくとも71%、少なくとも72%、少なくとも73%、少なくとも74%、少なくとも75%、少なくとも76%、少なくとも77%、少なくとも78%、少なくとも79%、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一である。
【0435】
配列同一性は、通常、配列分析ソフトウェア(例えば、Sequence Analysis Software Package of the Genetics Computer Group,University of Wisconsin Biotechnology Center,1710 University Avenue,Madison,Wis.53705,BLAST,BESTFIT,GAPまたはPILEUP/PRETTYBOX programs)を用いて測定される。かかるソフトウェアは、種々の置換、欠失、及び/または他の修飾に相同性の程度を割り当てることによって、同一または類似の配列を一致させる。保存的置換は、通常、以下の群、すなわち、グリシン、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、リジン、アルギニン、及びフェニルアラニン、チロシン内の置換を含む。同一性の程度を測定する例示的な方法では、e-3~e-100の確率スコアが密接に関連した配列を示すBLASTプログラムが使用される場合がある。
【0436】
「Tリンパ球」または「T細胞」という用語は、B細胞が抗体産生細胞に発達するのを助ける能力、単球/マクロファージの殺菌作用を高める能力、特定のタイプの免疫応答の阻害、標的細胞の直接殺傷、及び炎症応答の動員等、幅広い免疫機能を媒介する細胞を指すために同義的に使用される。これらの効果は、特定の細胞表面分子の発現及びサイトカインの分泌に依存する。T細胞は、他の細胞の表面上の抗原を認識し、これらの抗原提示細胞(APC)と相互作用し、その挙動を変化させることによって、その機能を媒介する。T細胞は、ヘルパーT細胞としての機能に基づいて、細胞性免疫の誘導に関与するT細胞;サプレッサーT細胞;及び細胞傷害性T細胞に分類することもできる。
【0437】
本明細書で使用される「T細胞抗原」という用語は、プロセシングして、ペプチドにすることができるタンパク質またはその断片を指すことが意図される。これらは、クラスI MHC、クラスII MHC、非古典的MHC、またはCD1ファミリー分子(集合的に抗原提示分子)のいずれかに結合することができ、また、この組み合わせで、T細胞上のT細胞受容体に係合することができる。
【0438】
本明細書で使用される「T細胞エピトープ」という用語は、クラスIまたはIIのMHC分子に結合し、その後T細胞によって認識される短いペプチド分子を指すことが意図される。クラスIMHC分子に結合するT細胞エピトープは、典型的には8~14アミノ酸長であり、最も典型的には、9アミノ酸長さである。クラスII MHC分子に結合するT細胞エピトープは、典型的には、12~20アミノ酸長である。クラスII MHC分子に結合するエピトープの場合、同じT細胞エピトープが、共通のコア分節を共有し得るが、カルボキシ末端及びアミノ末端の隣接配列の長さが異なる。これは、ペプチド分子の末端が、クラスI MHC分子のペプチド結合間隙にあるため、クラスII MHC分子のペプチド結合間隙の構造に埋もれないためである。
【0439】
本明細書で使用される用語「T細胞媒介性免疫応答」は、抗原提示細胞の細胞表面上の抗原提示分子に結合した、T細胞上の共刺激分子とAPCとの間の他の相互作用により連結した、T細胞抗原の認識の結果として生じる応答を指すことが意図される。この応答は、T細胞の増殖、移動、及びサイトカイン及び細胞を損傷し得る他の因子等のエフェクター分子の産生を誘導するのに機能する。
【0440】
本明細書で使用される用語「T細胞受容体」(TCR)とは、抗原に応答してT細胞の活性化に関与する内在性膜タンパク質の複合体を指すことが意図される。大部分のT細胞により発現されるTCRは、α鎖及びβ鎖からなる。小数のグループのT細胞はγ鎖及びδ鎖で構成される受容体を発現する。α/βT細胞には、2つの下位系列(sublineage)、すなわち、共受容体分子CD4を発現するもの(CD4+細胞)、及びCD8を発現するもの(CD8+細胞)がある。これらの細胞は、それらが抗原を認識する様態ならびにそれらのエフェクター及び調節性の機能において異なる。CD4+T細胞は、免疫系の主要な制御性細胞である。それらの制御機能は、T細胞が活性化されると発現が誘導されるCD40リガンド等の細胞表面分子の発現、及び活性化されたときに分泌する様々なサイトカインの両方に依存する。サイトカインは、標的細胞に直接毒性を及ぼすことができ、強力な炎症メカニズムを動員する可能性がある。CD8+T細胞は、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)に発達することができ、これにより、このCTLによって認識される抗原を発現する標的細胞が効率的に溶解され得る。
【0441】
本明細書で使用される「治療」という用語は、(i)従来のワクチン内で等、感染または再感染の予防、(ii)症状の軽減または排除、及び(iii)問題の病原体の実質的または完全な排除のうちのいずれかを指すことが意図される。治療は、予防的(感染前)または治療的(感染後)に行い得る。
【0442】
ある活性物質の「治療量」、「治療的有効量」、「有効な量」、または「薬学的有効量」という用語は同じ意味で使用され、意図される治療利益を提供するために十分な量を指す。ただし、投与量レベルは、損傷の種類、患者の年齢、体重、性別、医学的状態、状態の重症度、投与経路、及び使用される個別の活性物質を含め、多種多様な因子に基づく。したがって、投与レジメンは大きく変動し得るが、標準的方法を使用して医師が日常的に決定することができる。さらに、用語「治療量」、「治療的有効量」及び「薬学的有効量」には、記載の本開示の組成物の予防的(prophylactic)または予防的(preventative)量が含まれる。記載の開示の予防的(prophylactic)または予防的(preventative)適用では、医薬組成物または薬物は、疾患、障害もしくは状態に罹患し易いか、そうでなければ罹患リスクのある患者に対し、疾患、障害もしくは状態の生化学的、組織学的及び/または行動上の症状、その合併症、ならびに疾患、障害もしくは状態の発症中に現れている病理学的中間表現型が挙げられる疾患、障害もしくは状態の、リスクを排除する、もしくは低減させるか、重症度を軽減するか、または発症を遅延させるのに十分な量で投与される。一般に、最大用量、すなわち、何らかの医学的判断によると最も安全な用量を使用することが好ましい。用語「用量」及び「投与量」は本明細書では同じ意味で使用される。
【0443】
本明細書で使用される用語「治療効果」とは、治療がもたらす結果であり、その結果が望ましく、かつ有益であると判断されるものを指すことが意図される。治療効果には、直接的でも間接的でも、疾患の症状発現の停止、軽減、または消失が含まれ得る。治療効果にはまた、直接的でも間接的でも、疾患の症状発現の進行の停止、軽減または消失も含まれ得る。
【0444】
本明細書に記載されるいかなる治療剤の場合も、治療的有効量は、最初に、予備的インビトロ研究及び/または動物モデルにより決定され得る。治療的有効用量はまた、ヒトデータによっても決定され得る。適用される用量は、投与される化合物の相対的なバイオアベイラビリティ及び効力に基づいて調整することができる。上記方法及び他の周知の方法に基づいて、最大効力を達成するための用量を調節することは、当業者の能力の範囲内である。
【0445】
参照により本明細書に組み込まれるChapter 1 of Goodman and Gilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics,10th Edition,McGraw-Hill(New York)(2001)に見出され得る、治療効果を決定するための一般原則を以下に概説する。
【0446】
薬物動態学の原則により、忍容できない有害作用が最小である、所望の程度の治療有効性を得るための投与レジメンの変更についての基礎が提供される。薬物の血漿中濃度が、測定可能であり、かつ治療濃度域に関連する状況の場合は、投与量変更について追加の手引きを得ることができる。
【0447】
製剤は、それらが同じ活性成分を含有し、強度または濃度、剤形、及び投与経路が同一である場合は医薬同等物と見なされる。薬学的に同等な2つの製剤は、2剤の活性成分の生物学的利用能の率及び程度が、好適な試験条件下で顕著な差がない場合は生物学的に同等であると見なされる。
【0448】
本明細書で使用される「治療ウィンドウ」という用語は、許容できない毒性なく、治療効果を提供する濃度範囲を指すことが意図される。ある用量の薬物の投与後、その効果は、通常、特徴的な時間的パターンを示す。薬物濃度が所望の効果のための最小有効濃度(「MEC」)を超える前に、遅延期間が存在する。応答の開始後に、薬物が吸収され、分布され続けるにつれて、効果の強度が増加する。これはピークに達し、その後薬物の消失により、効果の強度が低下し、薬物濃度がMECを下回ったときに、消滅する。したがって、薬物の作用持続時間は、濃度がMECを超える期間によって決定される。治療目標は、最小限の毒性で望ましい応答を得るために、治療ウィンドウ内の濃度を得て、維持することである。望ましい効果について、MEC未満での薬物応答は、治療量以下であるのに対し、副作用の場合、毒性の確率は、MECを超えると、上昇する。薬物投与量の増減により、応答曲線が強度スケールを上下にシフトし、薬物の効果を調整するために使用される。用量を増加させることにより、薬の作用期間も長くなるが、副作用の可能性が高まるリスクがある。したがって、薬物が無毒でない限り、用量の増加は、薬物の作用期間を延長するには、有用な戦略ではない。
【0449】
代わりに、治療ウィンドウ内の濃度を維持するために、別の用量の薬物を投与する必要がある。一般に、薬物の治療範囲の下限は、考えられる最大治療効果の約半分を生じさせる薬物濃度にほぼ等しいと考えられ、治療範囲の上限は、約5%~約10%の患者が、毒性効果を経験する範囲である。これらの数値は、大きく変動する可能性があり、一部の患者は、治療範囲を超える薬物濃度から大きい恩恵を受け、その一方で、はるかに低い値で、重大な毒性に苦しむ患者もいる。治療目標は、治療ウィンドウ内で定常状態の薬物レベルを維持することである。ほとんどの薬物では、この望ましい範囲に関連する実際の濃度は不明であり、知る必要はない。有効性及び毒性が、一般に濃度依存性であり、薬物投与量及び投与頻度が、薬物レベルに与える影響を理解するのみで十分である。有効性及び毒性をもたらす濃度の差が小さい(2~3倍)少数の薬物については、効果的な治療に関連する血漿濃度範囲が定義されている。
【0450】
この場合、目標レベルの戦略は、合理的であり、有効性及び最小の毒性に関連する薬物の望ましい目標定常状態濃度(通常は血漿中)が選択され、この値を達成することが予測される投与量が計算される。その後、薬物濃度が測定され、必要に応じて投与量が調整されて、目標をより厳密に近似する。
【0451】
ほとんどの臨床状況では、薬物は一連の反復投与で、または治療ウィンドウに関連する薬物の定常状態濃度を維持するための持続注入として投与される。選択された定常状態または目標濃度(「維持用量」)を維持するために、投入速度が損失速度と等しくなるように薬物投与速度が調整される。臨床医が所望の薬物血漿中濃度を選択し、特定の患者におけるその薬物クリアランス及び生物学的利用能がわかっている場合、適切な用量及び投与間隔を計算することができる。
【0452】
本明細書で使用される「ワクチン接種された」という用語は、ワクチンで治療されることを指すことが意図される。
【0453】
本明細書で使用される「ワクチン接種」という用語は、ワクチンによる治療を指すことを意味する。
【0454】
本明細書で使用される「ワクチン」という用語は、脊椎動物に投与することができ、免疫を誘導する、感染症を予防する及び/または改善する及び/または感染症の少なくとも1つの症状を軽減する、及び/または製剤の別の用量の有効性を高めるのに十分な防御免疫応答を誘導する形態である製剤を指すことが意図される。典型的には、ワクチンは、本開示の組成物が懸濁または溶解されている従来の生理食塩水または緩衝水溶液媒体を含む。この形態において、本開示の組成物は、ウイルス感染を予防、改善、またはさもなければ治療するために簡便に使用することができる。宿主に導入されると、ワクチンは、これらに限定されないが、抗体及び/またはサイトカインの産生及び/または細胞傷害性T細胞、抗原提示細胞、ヘルパーT細胞、樹状細胞の活性化等の免疫応答及び/または他の細胞性応答を誘発することができる。
【0455】
本明細書で使用される「ワクチン療法」という用語は、腫瘍または感染性微生物を破壊するように免疫系を刺激するために物質または物質の群を使用する治療の種類を指すことが意図される。
【0456】
本明細書で使用されるペプチドまたはDNA配列に関する「バリアント」または「誘導体」という用語は、その元の配列から改変された同一でないペプチドまたはDNA配列を指すことを意味する。配列の違いは、変更の結果、設計、配列、または構造により得る。設計された変更は、特定の目的のために特別に設計され、配列に導入され得る。このような特定の変更は、様々な変異誘発技術を使用して、インビトロで行ってもよい。特に生成されたそのような配列バリアントは、元の配列の「変異体」または「誘導体」と呼ばれることがある。本明細書で使用される細胞に関する「バリアント」または「誘導体」という用語は、その起源の細胞株から改変された(例えば、組換えDNA配列を発現するように改変された)細胞株を指す。
【0457】
本明細書で使用される「ベクター」という用語は、下流の遺伝子またはコード領域に作動可能に連結されたプロモーター(例えば、ポリペプチドまたはポリペプチド断片をコードするcDNAまたはゲノムDNA断片)を含むDNA構築物を指すことが意図される。レシピエント細胞(例えば、原核細胞または真核細胞、例えば、発現ベクター内のプロモーターに応じて、細菌、酵母、昆虫細胞、または哺乳動物細胞)または生物(例えば、ヒト等)へベクターを導入することにより、細胞がベクターによってコードされたmRNAを発現することが可能になり、次いで、本開示のコードされた最適化されたウイルスポリペプチドに翻訳される。インビトロ転写/翻訳のためのベクターも当技術分野において周知であり、本明細書にさらに記載されている。ベクターは、例えばバクテリオファージ、アデノウイルス、レトロウイルス、ポックスウイルス、またはヘルペスウイルスに由来する遺伝子操作されたプラスミド、ウイルス、または人工染色体であり得る。
【0458】
本明細書で使用される「ウイルス様粒子」または「VLP」という用語は、複製しないウイルス殻を指すことが意図される。VLPは、一般に、これらに限定されないが、カプシド、コート、殻、表面及び/またはエンベロープタンパク質と呼ばれるタンパク質、またはこれらのタンパク質に由来する粒子形成ポリペプチド等、1つ以上のウイルスタンパク質から構成される。VLPは、適切な発現系でタンパク質を組換え発現させたときに、自然に形成される。特定のVLPを産生するための方法は、当技術分野で知られており、以下でより完全に論じる。ウイルスタンパク質の組換え発現後のVLPの存在は、例えば、電子顕微鏡法、生物物理学的特性評価等によって、当技術分野で知られている従来の技術を使用して検出することができる。例えば、Baker et al.,Biophys.J.(1991)60:1445-1456;Hagensee et al.,J.Virol.(1994)68:4503-4505を参照されたい。例えば、VLPは、密度勾配遠心分離によって単離できる、及び/または特徴的な密度バンド形成によって同定できる(例えば、実施例)。あるいは、極低温電子顕微鏡法は、問題のVLP調製物のガラス化された水性サンプルに対して実行され、画像は適切な曝露条件下で記録される。VLP精製の追加の方法としては、これらに限定されないが、親和性、イオン交換、サイズ排除、及び逆相手順等のクロマトグラフィー技術が挙げられる。
【0459】
本明細書で使用される「野生型」という用語は、生物、株、遺伝子、タンパク質、核酸、または自然界で発生する特徴の典型的な形態を指すことが意図される。野生型とは、自然集団内で最も一般的な表現型を指す。「野生型」及び「天然」という用語は、同義的に使用される。
【0460】
組成物
一態様によれば、本開示は、感染性病原体の内部保存タンパク質を使用することによって、本明細書に記載の感染性病原体の内部CD8+T細胞エピトープに対して設計された免疫原またはその免疫原性部分を提供する。本明細書の説明及び実施例を通してより詳細に記載されるように、コンセンサスアミノ酸配列は、例えば、Genbankデータベースで利用可能なウイルス株から推定することができ、アミノ酸配列の各位置で最も高い出現頻度を有するアミノ酸は、その部位でコンセンサスアミノ酸として使用され得る。したがって、得られたタンパク質配列は、各部位の共有アミノ酸を構成し、公開されているオンラインCD8+T細胞エピトープ予測ソフトウェア及びtools.immuneepitope.org/main/tcell/を使用して分析できる(利用可能なオンラインsyfpeithi.de、Singh H,et al..(2003)Bioinformatics;19:1009-1014及びMoutaftsi M,et al.(2006)Nat Biotechnol.24:817-819に記載されている。それぞれの内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。次に、最適化された哺乳動物のコドン使用法に従って、配列を改変できる。
【0461】
いくつかの実施形態によれば、感染性病原体は、これらに限定されないが、フラビウイルス科、パラミクソウイルス科、トガウイルス科、フィロウイルス科、オルソミクソウイルス科、ラブドウイルス科及びレトロウイルス科からなる群から選択されるウイルス科に属するウイルスである。いくつかの実施形態によれば、Flaviviridae科に由来するウイルスは、Flaviviru属に由来するウイルスから選択される。いくつかの実施形態によれば、Flaviviridae科に由来するウイルスは、Hepacivirus属に由来するウイルスから選択される。いくつかの実施形態によれば、フラビウイルス科に由来するウイルスは、Pegivirus属に由来するウイルスから選択される。いくつかの実施形態によれば、Flaviviridae科に由来するウイルスは、Pestivirus属に由来するウイルスから選択される。いくつかの実施形態によれば、Paramyxoviridae科に由来するウイルスは、Pneumonvirinae亜科に由来するウイルスから選択される。いくつかの実施形態によれば、Paramyxoviridae科に由来するウイルスは、Paramyxovirinae亜科に由来するウイルスから選択される。いくつかの実施形態によれば、Togaviridae科に由来するウイルスは、Alphavirus属に由来する。いくつかの実施形態によれば、Togaviridae科に由来するウイルスは、Rubivirus属に由来する。いくつかの実施形態によれば、Togaviridae科に由来するウイルスは、Pestivirus属に由来する。いくつかの実施形態によれば、Togaviridae科に由来するウイルスは、Arterivirus属に由来する。いくつかの実施形態によれば、Filoviridae科に由来するウイルスは、Cuevavirus属に由来する。いくつかの実施形態によれば、Filoviridae科に由来するウイルスは、Ebolavirus属(EBOV)に由来する。いくつかの実施形態によれば、Filoviridae科に由来するウイルスは、Marburgvirus属(MARV)に由来する。いくつかの実施形態によれば、Orthomyxoviridae科に由来するウイルスは、InfluenzavirusA属に由来する。いくつかの実施形態によれば、Orthomyxoviridae科に由来するウイルスは、InfluenzavirusB属に由来する。いくつかの実施形態によれば、Orthomyxoviridae科に由来するウイルスは、InfluenzavirusC属に由来する。いくつかの実施形態によれば、Orthomyxoviridae科に由来するウイルスは、Isavirus属に由来する。いくつかの実施形態によれば、Rhabdoviridae科に由来するウイルスは、Vesiculovirus属に由来する。いくつかの実施形態によれば、Rhabdoviridae科に由来するウイルスは、Ephemerovirus属に由来する。いくつかの実施形態によれば、Rhabdoviridae科に由来するウイルスは、Lyssavirus属に由来する。いくつかの実施形態によれば、Retroviridae科に由来するウイルスは、Alpharetrovirus属に由来する。いくつかの実施形態によれば、Retroviridae科に由来するウイルスは、Betaretrovirus属に由来する。いくつかの実施形態によれば、Retroviridae科に由来するウイルスは、Deltaretrovirus属に由来する。いくつかの実施形態によれば、Retroviridae科に由来するウイルスは、Epsilonretrovirus属に由来する。いくつかの実施形態によれば、Retroviridae科に由来するウイルスは、Gammaretrovirus属に由来する。いくつかの実施形態によれば、Retroviridae科に由来するウイルスは、Lentivirus属に由来する。いくつかの実施形態によれば、Retroviridae科に由来するウイルスは、Spumavirus属に由来する。
【0462】
例示的な保存ウイルスタンパク質及び対応するRefSeq番号を、実施例1Aの表1に示す。表1は単なる例示であり、GenBankで公的に入手可能な任意の所望のウイルスの任意の内部保存タンパク質を、本明細書に記載の方法で使用できることを理解されたい。
【0463】
いくつかの実施形態によれば、タンパク質全体ではなく免疫原性ドメインを発現する核酸が提供される。これらの部分(または断片)は、免疫原性または抗原性であるのに十分な任意の長さであり得る。免疫原性は、本明細書に記載のアッセイのいずれかを使用して決定することができる。断片は、少なくとも4アミノ酸長、または例えば5~9アミノ酸長であり得るが、例えば10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、30、40、50、60、70、80、90、100、500アミノ酸以上の長さ、またはその間の任意の長さであり得る。細菌、ウイルス、真菌、原生動物等の病原体に対する防御免疫応答を誘導するエピトープは、サイトカイン、インターフェロン1型、ガンマインターフェロン、コロニー刺激因子、インターロイキン1、-2、-4、-5、-6、-12等の免疫調節活性を有するタンパク質をコードする異種遺伝子配列と組み合わせてもよい。
【0464】
本明細書に記載の免疫原は、本明細書に記載の方法に従って生成され、選択された感染性病原体の内部抗原の保存されたCD8+T細胞エピトープを含むアミノ酸配列を有するポリペプチドを含み、免疫原は、この感染性病原体に感染した細胞の様々な株に対する細胞傷害性Tリンパ球(CTL)媒介性免疫応答を促進する。また、本開示によって提供されるのは、エピトープペプチドを含むポリペプチドをコードする核酸分子であり、これはまた、感染細胞に対する免疫応答を促進するために使用することができる。
【0465】
本開示は、本明細書に記載のポリペプチドをコードするポリペプチド及び核酸分子を含む組成物を提供し、これにより、そのような免疫原のオリゴペプチド及びポリペプチドは、本明細書に記載の方法に従って生成及び選択され、クラスIMHCタンパク質に会合して提示される感染性病原体の内部抗原の保存されたCD8+T細胞エピトープを含むタンパク質を発現する細胞に対するCTL応答を誘導することができ、ここで、細胞は、感染性病原体の様々な株に感染している。あるいは、本開示の免疫原を使用して、インビトロでCTL応答を誘導することができる。次に、生成されたCTL集団(複数可)は、感染性病原体によって引き起こされた感染症の患者に導入することができる。あるいは、インビトロにおいて、CTLを生成する能力は、感染性病原体による感染の診断として機能し得る。
【0466】
本明細書に記載の免疫原は、参照免疫原と同じ生物学的活性を維持する断片またはその一部を含む。例えば、本明細書に記載の免疫原またはその断片は、ヒトMHCクラスI分子に高親和性で結合して、CD8+T細胞応答を誘発する感染性病原体特異的CD8+エピトープを含む。
【0467】
免疫原
保存されたT細胞エピトープを標的とするユニバーサルワクチンを同定し、生成するために本明細書に記載の方法を使用して、これらに限定されないが、以下に記載されるもの等、広範囲の感染性病原体に対して免疫化できるものとする。
【0468】
いくつかの実施形態によれば、免疫原(すなわち、本明細書に記載の保存された免疫原)は、免疫応答を誘導することにより、感染症を阻害し、例えば、感染症の原因または症状を減少させるもしくは軽減するか、または感染症に関連するパラメータの値を改善する。
【0469】
いくつかの実施形態によれば、本開示の免疫原は、通常の当業者に周知の方法を使用して化学的に合成及び精製することができる。免疫原は、免疫原は、よく知られている組換えDNA技術によって合成することもできる。いくつかの実施形態によれば、本開示の免疫原性ペプチド及びポリペプチドは、合成的に、または組換えDNA技術を伴うそれらの技術等、当技術分野で知られている任意の手段によって調製される。
【0470】
いくつかの実施形態によれば、本明細書で企図されるペプチドのコード配列は、市販の自動DNAシンセサイザーで合成するか、または所望のアミノ酸置換に改変することができる。コード配列は、好適な宿主に形質転換またはトランスフェクトされて、所望の融合タンパク質を産生することができる。
【0471】
構築物の免疫原性を増強するためのコドン最適化、RNA最適化、及び高効率の免疫グロブリンリーダー配列の付加等の遺伝的改変が、企図されてもよい。
【0472】
ウイルス免疫原
いくつかの実施形態によれば、本開示のワクチンは、オルソミクソウイルス科ウイルスに対して免疫化する。例えば、オルソミクソウイルス科ウイルスは、A型インフルエンザウイルス、B型インフルエンザウイルス、C型インフルエンザウイルス、またはD型インフルエンザウイルスである。いくつかの実施形態によれば、A型インフルエンザウイルスは、H1N1、H2N2、H3N2、H5N1、H7N7、H1N2、H9N2、H7N2、H7N3、またはH10N7である。いくつかの実施形態によれば、オルソミクソウイルス科ウイルスは、トリインフルエンザ、ブタインフルエンザ、ウシインフルエンザ等の原因物質である。
【0473】
いくつかの実施形態によれば、本開示のワクチンは、アデノウイルス科ウイルスに対して免疫化する。いくつかの実施形態によれば、アデノウイルス科ウイルスは、マストアデノウイルス、トリアデノウイルス、ヒトアデノウイルス種HAdV-AからGにおけるヒトアデノウイルスタイプHAdV-1~57等である。
【0474】
いくつかの実施形態によれば、本開示のワクチンは、パラミクソウイルスまたはニューモウイルス科ウイルスに対して免疫化する。例えば、パラミクソウイルス科またはニューモウイルス科ウイルスは、麻疹ウイルス、ムンプスウイルス、ヒト呼吸器合胞体ウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、毒性ニューカッスル病、パラミクソウイルス、パラインフルエンザウイルス1、メタニューモウイルス、トリニューモウイルス及びヒトメタニューモウイルス等である。
【0475】
いくつかの実施形態によれば、本開示のワクチンは、フラビウイルス科ウイルスに対して免疫化する。例えば、フラビウイルスは、C型肝炎ウイルス、デングウイルス、黄熱病ウイルス、セントルイス脳炎ウイルス、日本脳炎ウイルス、ウエストナイルウイルス、ジカウイルス、ラクロスウイルス等である。
【0476】
いくつかの実施形態によれば、本開示のワクチンは、パピローマウイルス(Pappilomarviridae)科またはポリオーマウイルス科ウイルスに対して免疫化する。例えば、パピローマウイルスまたはポリオーマウイルス科ウイルスは、ヒトパピローマウイルス1~18、ヒトポリオーマウイルス1~14等である。
【0477】
いくつかの実施形態によれば、本開示のワクチンは、ヘルペスウイルス科ウイルスに対して免疫化する。いくつかの実施形態によれば、ヘルペスウイルス科ウイルスは、アルファヘルペスウイルス科ウイルス、ベータヘルペスウイルス科ウイルス、またはガンマヘルペスウイルス科ウイルスである。例えば、アルファヘルペスウイルス科ウイルスは、ワリセロウイルス、シンプレックスウイルス、伝染性喉頭気管炎ウイルス等である。例えば、ワリセロウイルスは、水痘帯状疱疹ウイルス、ウシヘルペスウイルス、ウマヘルペスウイルス、偽狂犬病ウイルス等である。例えば、シンプレックスウイルスは、単純ヘルペスウイルス1~6等である。例えば、ガンマヘルペスウイルス科ウイルスは、エプスタインバーウイルスである。
【0478】
いくつかの実施形態によれば、本開示のワクチンは、レトロウイルス科ウイルスに対して免疫化する。例えば、レトロウイルス科ウイルスは、レンチウイルス、レトロウイルス、スピューマレトロウイルス科ウイルス等である。例えば、レンチウイルスは、ヒト免疫不全ウイルス1及びヒト免疫不全ウイルス2である。例えば、レトロウイルスは、哺乳動物B型レトロウイルス、哺乳動物C型レトロウイルス、トリC型レトロウイルス、D型レトロウイルス群、BLV-HTLVレトロウイルス等である。例えば、スピューマレトロウイルス科ウイルスは、スプーマウイルス等である。
【0479】
いくつかの実施形態によれば、本開示のワクチンは、ラブドウイルス科ウイルスに対して免疫化する。例えば、ラブドウイルス科ウイルスは、ベシクロウイルス、リッサウイルス、エフェメロウイルス、サイトラブドウイルス、及びネクレオラブドウイルス等である。例えば、リッサウイルスは、狂犬病ウイルスである。
【0480】
いくつかの実施形態によれば、本開示のワクチンは、ピコルナウイルス科ウイルスに対して免疫化する。例えば、ピコルナウイルス科ウイルスは、アフトウイルス、カルジオウイルス、エンテロウイルス、ライノウイルス、ヘパトウイルス等である。例えば、アフトウイルスは、ウシ鼻炎ウイルス、ウマ鼻炎ウイルス、口蹄疫ウイルス等である。例えば、ヘパトウイルスは、ヘパトウイルスAである。例えば、エンテロウイルスは、ポリオウイルスである。
【0481】
いくつかの実施形態によれば、本開示のワクチンは、レオウイルス科ウイルスに対して免疫化する。例えば、レオウイルス科ウイルスは、オルソレオウイルス、オルビウイルス、ロタウイルス、サイポウイルス、フィジーウイルス、ファイトレオウイルス、オリザウイルス等である。例えば、ロタウイルスは、ロタウイルス胃腸炎である。
【0482】
いくつかの実施形態によれば、本開示のワクチンは、Poxyviridaeウイルスに対して免疫化する。例えば、(例えば、コードポックスウイルス(chordopoxyirinae)、パラポックスウイルス、アビポックスウイルス、カプリポックスウイルス、レポリポックスウイルス、スイポックスウイルス、モラスキポックスウイルス、及びエントモポックスウイルス)。
【0483】
いくつかの実施形態によれば、本開示のワクチンは、ヘパドナウイルス科ウイルスに対して免疫化する。例えば、ヘパドナウイルス科ウイルスは、B型肝炎である。
【0484】
いくつかの実施形態によれば、本開示のワクチンは、トガウイルス科ウイルスまたはマトナウイルス科ウイルスに対して免疫化する。例えば、トガウイルス科ウイルスは、アルファウイルスまたはルビウイルスである。例えば、アルファウイルスは、シンドビスウイルス、ベネズエラウマ脳炎ウイルス等である。例えば、ルビウイルスは、チクングニアウイルス、風疹ウイルス等である。
【0485】
いくつかの実施形態によれば、本開示のワクチンは、アレナウイルス科ウイルスに対して免疫化する。例えば、アレナウイルス科ウイルスは、レナウイルス、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス、イッピーウイルス(ippy virus)、ラッサウイルス等である。
【0486】
いくつかの実施形態によれば、本開示のワクチンは、コロナウイルス科ウイルスに対して免疫化する。例えば、コロナウイルス科ウイルスは、コロナウイルス、トロウイルス、SAR様コロナウイルス等である。
【0487】
いくつかの実施形態によれば、本開示のワクチンは、フィロウイルス科ウイルスに対して免疫化する。例えば、フィロウイルス科フィロウイルスは、エボラウイルス、マールブルグマールブルグウイルス等である。
【0488】
いくつかの実施形態によれば、本開示のワクチンは、ハンタウイルス科ウイルスに対して免疫化する。例えば、ハンタウイルス科ウイルスは、ハンタウイルスである。
【0489】
いくつかの実施形態によれば、本開示のワクチンは、レビウイルス科ウイルスに対して免疫化する。例えば、レビウイルス科ウイルスは、レビウイルス、アロレヴィウイルス等である。
【0490】
いくつかの実施形態によれば、本開示のワクチンは、ブタウイルスに対して免疫化する。例えば、ブタウイルスとしては、ブタロタウイルス、ブタパルボウイルス、ウシウイルス性下痢、新生子牛下痢ウイルス、ブタコレラウイルス、アフリカブタ熱ウイルス、ブタインフルエンザ等が挙げられる。
【0491】
いくつかの実施形態によれば、本開示のワクチンは、ウマウイルスに対して免疫化する。例えば、ウマウイルスとしては、ウマインフルエンザウイルス、ウマヘルペスウイルス、ベネズエラウマ脳脊髄炎ウイルス等が挙げられる。
【0492】
いくつかの実施形態によれば、本開示のワクチンは、ウシまたはウシ属ウイルスに対して免疫化する。例えば、ウシウイルスとしては、ウシ呼吸器合胞体ウイルス、ウシパラインフルエンザウイルス、ウシウイルス性下痢ウイルス、伝染性ウシ鼻気管炎ウイルス、口蹄疫ウイルス、プンタトロウイルス(punta toro virus)等が挙げられる。
【0493】
本開示の一態様によれば、複数の異なるベクターにおいて、抗インフルエンザワクチン免疫原またはその免疫原性断片またはそれらの組み合わせを使用することによって発現し、構築される抗インフルエンザウイルス組換えベクターワクチンが提供される。
【0494】
いくつかの実施形態によれば、本開示の免疫原は、オルソミクソウイルス科ウイルスの少なくとも1つの保存されたタンパク質またはその免疫原性断片を含む。例えば、オルソミクソウイルス科ウイルスは、A型インフルエンザウイルス、B型インフルエンザウイルス、C型インフルエンザウイルス、またはD型インフルエンザウイルスである。いくつかの実施形態によれば、A型インフルエンザウイルスは、H1N1、H2N2、H3N2、H5N1、H7N7、H1N2、H9N2、H7N2、H7N3、またはH10N7である。いくつかの実施形態によれば、オルソミクソウイルス科ウイルスは、トリインフルエンザ、ブタインフルエンザ、ウシインフルエンザ等の原因物質である。いくつかの実施形態によれば、本開示の免疫原は、マトリックスタンパク質(M1、M2)、核タンパク質(NP)、アルカリ性ポリメラーゼ(PB1、PB2)、及び酸性ポリメラーゼから選択される少なくとも1つのインフルエンザウイルス内部保存タンパク質(PA)またはその免疫原性断片を含む。いくつかの実施形態によれば、本開示は、広域スペクトル抗インフルエンザウイルス免疫原もしくはその免疫原性断片、またはそれらの組み合わせ、ならびに免疫化方法を提供を提供し、ここで、免疫原は、マトリックスタンパク質(M1、M2)、核タンパク質(NP)、アルカリ性ポリメラーゼ(PB1、PB2)、及び酸性ポリメラーゼ(PA)またはそれらの免疫原性断片から選択される少なくとも1つのインフルエンザウイルス内部保存タンパク質を含むことを特徴とする。一実施形態によれば、本開示の免疫原のコンセンサス配列(複数可)は、当技術分野及び公的に入手可能な文献(例えば、Genbankデータベース、Genbankアクセッション番号JO2132;Air,1981,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 78:7639-7643;Newton et al.,1983,Virology 128:495-501;ZHAO,CHEN,AND JIANQING XU.Towards Universal Influenza Virus Vaccines:from Natural Infection to Vaccination Strategy.Vol.53,no.1,2018,pp.1-6.,doi:10.1016/j.coi.2018.03.2020;またはDalrymple et al.,1981,in Replication of Negative Strand Viruses,Bishop and Compans(eds.),Elsevier,N.Y.,p.167)において知られている方法によって見出すことができる。
【0495】
いくつかの実施形態によれば、本開示の免疫原は、アデノウイルス科ウイルスの少なくとも1つの保存されたタンパク質を含む。例えば、アデノウイルス科ウイルスは、マストアデノウイルス、トリアデノウイルス、ヒトアデノウイルス種HAdV-AからGにおけるヒトアデノウイルスタイプHAdV-1~57等である。いくつかの実施形態によれば、本開示の免疫原は、少なくとも1つのアデノウイルス科ウイルス保存E1A、E1B、E2、E3、E4、E5、L1、L2、L3、L4、L5タンパク質を含む。
【0496】
いくつかの実施形態によれば、本開示の免疫原は、フラビウイルス科ウイルスの少なくとも1つの保存されたタンパク質またはその免疫原性断片を含む。例えば、フラビウイルスは、ジカウイルス、デングウイルス等である。いくつかの実施形態によれば、本開示の免疫原は、少なくとも1つのジカウイルス保存カプシドタンパク質(C)、膜タンパク質(prM/M)、エンベロープタンパク質(E)、ポリメラーゼ(NS5)または非構造タンパク質(複数可)(NS1、NS2A-B、NS3、NS4A-4B)またはそれらの免疫原性断片を含む。フラビウイルス科ウイルスの科、例えば、ジカウイルス中の保存されたタンパク質(複数可)のコンセンサス配列は、先行技術で知られている。コンセンサス配列はまた、上記で論じられたように、または以下の文献に見られるように生成できる。Shrivastava et al.,「Whole genome sequencing,variant analysis,phylogenetics,and deep sequencing of Zika virus strains.」Nature:Scientific Reports(2018)8:15843。これは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0497】
いくつかの実施形態によれば、本開示の免疫原は、少なくとも1つのデングウイルス保存タンパク質、例えば、保存されたカプシドタンパク質(C)、マトリックスタンパク質(M)等を含む。フラビウイルス科ウイルスの科、例えばデングウイルスの保存されたタンパク質のコンセンサス配列は、先行技術で知られている。コンセンサス配列はまた、上記で議論されたように、または以下の文献に見出されるように生成され得る。例えば、Genbankアクセッション番号 M19197;Hahn et al.,(1988),Virology 162:167-180。
【0498】
いくつかの実施形態によれば、本開示の免疫原は、パラミクソウイルス科またはニューモウイルス科ウイルスの少なくとも1つの保存されたタンパク質、またはその免疫原性断片を含む。例えば、パラミクソウイルスまたはニューモウイルスは、麻疹ウイルスである。いくつかの実施形態によれば、本開示の免疫原は、少なくとも1つの麻疹ウイルスの保存された内部マトリックスタンパク質(M)、ヌクレオカプシドタンパク質(N)、ラージタンパク質(L)、またはリンタンパク質(P)、赤血球凝集素(HA)、またはそれらの免疫原性断片を含む。一実施形態によれば、本開示の免疫原のコンセンサス配列は、当技術分野において公知である方法により、及び公的に入手可能な文献、例えば、RADECKE F.,BILLETER M.A.(1995)Appendix:Measles Virus Antigenome and Protein Consensus Sequences.:V.ter Meulen et al(eds)Measles Virus.Current Topics in Microbiology and Immunology,vol 191.181-192 Springer,Berlin,Heidelberg;(HA)Genbank accession no.M81899;またはRota et al.(1992),Virology 188:135-142に見出すことができる。
【0499】
別の例では、パラミクソウイルスまたはニューモウイルスは、ヒト呼吸器合胞体ウイルスである。いくつかの実施形態によれば、本開示の免疫原は、少なくとも1つの保存された糖タンパク質(G)、ウイルスタンパク質(VP)、F糖タンパク質(FG)、またはそれらの免疫原性断片を含む。一実施形態によれば、本開示の免疫原のコンセンサス配列は、当技術分野において知られている方法により及び公的に入手可能な文献、例えば、Genbank((G):アクセッション番号Z33429)、Garcia et al.(1994)J.Virol.;Collins et al.,(1984)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:7683)に見出すことができる。これらは参照により本明細書に組み込まれる。
【0500】
いくつかの実施形態によれば、本開示の免疫原は、パピローマウイルス科またはポリオーマウイルス科ウイルスの少なくとも1つの保存されたタンパク質、またはその免疫原性断片を含む。例えば、パピローマウイルスまたはポリオーマウイルス科ウイルスは、ヒトパピローマウイルス1~18、ヒトポリオーマウイルス1~14である。いくつかの実施形態によれば、本開示の免疫原は、少なくとも1つの保存されたE1、E2、E3、E4、E5a、E5b、E6、E7、E8、L1、L2タンパク質を含む。
【0501】
いくつかの実施形態によれば、本開示の免疫原は、トガウイルス科ウイルスの少なくとも1つの保存されたタンパク質またはその免疫原性断片を含む。例えば、トガウイルスは、ルビウイルスまたは風疹ウイルスである。いくつかの実施形態によれば、本開示の免疫原は、少なくとも1つの風疹ウイルス保存カプシドタンパク質(C)、エンベロープタンパク質(E1、E2)、及び非構造タンパク質(p90及びp150)、またはそれらの免疫原性断片を含む。
【0502】
いくつかの実施形態によれば、本開示の免疫原は、フィロウイルス科ウイルスの少なくとも1つの保存されたタンパク質またはその免疫原性断片を含む。例えば、フィロウイルスは、エボラウイルスまたはマールブルグウイルスである。いくつかの実施形態によれば、本開示の免疫原は、少なくとも1つのエボラウイルス保存核タンパク質(NP)、ウイルスタンパク質(VP35、VP24)、表面糖タンパク質(GP)、及びラージポリメラーゼ(L)、またはそれらの免疫原性断片を含む。一実施形態によれば、本開示の免疫原のコンセンサス配列は、当技術分野で知られている方法を介して、及び公的に入手可能な文献、例えば、JUN,SE-RAN,et al.Ussery(2015)Ebolavirus comparative genomics.FEMS Microbiology Reviews,Volume 39,Issue 5,Pages 764-778.https://doi.org/10.1093/femsre/fuv031;or in HARDICK,J.,et al.,(2016)Sequencing Ebola and Marburg Viruses Genomes Using Microarrays. J.Med.Virol.88:1303-1308 https://doi.org/10.1002/jmv.24487に見出すことができる。
【0503】
いくつかの実施形態によれば、本開示の免疫原は、少なくとも1つのマールブルグウイルス保存タンパク質、例えば、少なくとも1つの保存核タンパク質(NP)、ウイルスタンパク質(VP)、表面糖タンパク質(GP)、及びラージポリメラーゼ(L)、またはそれらの免疫原性断片を含む。一実施形態によれば、本開示の免疫原のコンセンサス配列は、当技術分野で知られている方法を介して、及び公的に入手可能な文献、例えば、HARDICK,J.,et al.,(2016)Sequencing Ebola and Marburg Viruses Genomes Using Microarrays.J.Med.Virol.88:1303-1308.https://doi.org/10.1002/jmv.24487に見出すことができる。
【0504】
いくつかの実施形態によれば、本開示の免疫原は、ポックスウイルス科ウイルスの少なくとも1つの保存されたタンパク質またはその免疫原性断片を含む。例えば、ポックスウイルスは、痘瘡ウイルスである。いくつかの実施形態によれば、本開示の免疫原は、少なくとも1つの痘瘡ウイルス保存膜タンパク質(A13、A17、A27、A28、A33、B5、D8、H3、L1)またはその免疫原性断片を含む。一実施形態によれば、本開示の免疫原のコンセンサス配列は、当技術分野で知られている方法を介して、及び公的に入手可能な文献、例えば、MORIKAWA,S.,et al.(2005)An Attenuated LC16m8 Smallpox Vaccine:Analysis of Full-Genome Sequence and Induction of Immune Protection.Journal Of Virology,Vol.79,No.18.11873-11891.doi:10.1128/JVI.79.18.11873-11891.2005に見出すことができる。
【0505】
いくつかの実施形態によれば、本開示の免疫原は、ラブドウイルス科ウイルスの少なくとも1つの保存されたタンパク質またはその免疫原性断片を含む。例えば、ラブドウイルスは、狂犬病ウイルスである。いくつかの実施形態によれば、本開示の免疫原は、少なくとも1つの狂犬病ウイルス保存核タンパク質(N)、リンタンパク質(P)、マトリックスタンパク質(M)、糖タンパク質(G)、ラージポリメラーゼ(L)またはそれらの免疫原性断片を含む。一実施形態によれば、本開示の免疫原のコンセンサス配列は、当技術分野において知られている方法を介して及び公的に入手可能な文献、例えば、TORDO,N.&KOUKNETZOFF,A.(1993)The rabies virus genome:an overview.Onderstepoort Journal of Veterinary Research,60:263-269;またはBORUCKI MK,et al.(2013)Ultra-Deep Sequencing of Intra-host Rabies Virus Populations during Cross-species Transmission. PLoS Negl Trop Dis 7(11):e2555.https://doi.org/10.1371/journal.pntd.0002555に見出すことができる。
【0506】
いくつかの実施形態によれば、本開示の免疫原は、ヘルペスウイルス科ウイルスの少なくとも1つの保存されたタンパク質またはその免疫原性断片を含む。例えば、ヘルペスウイルスは、単純ヘルペスウイルスである。いくつかの実施形態によれば、本開示の免疫原は、少なくとも1つの単純ヘルペスウイルス保存カプシドタンパク質(MCP、SCP)、ポータルタンパク質(PORT)、及びトリプレックスモノマーまたは二量体タンパク質(TRI1、TRI2)、またはそれらの免疫原性断片を含む。別の例では、いくつかの実施形態によれば、本開示の免疫原は、少なくとも1つの保存単純ヘルペスウイルス2型糖タンパク質gB、gB、gC、gD、及びgE、HIV(GP-120、p17、GP-160、gag、po1、qp41、gp120、vif、tat、rev、nef、vpr、vpu、vpx抗原)、リボヌクレオチドレダクターゼ、α-TIF、ICP4、ICP8、1CP35、LAT-関連タンパク質、gB、gC、gD、gE、gH、gI、gJ、及びdD抗原等を含む。一実施形態によれば、本開示の免疫原のコンセンサス配列は、当技術分野で知られている方法を介して及び公的に入手可能な文献、例えば、Genbankアクセッション番号M14923;及び、Bzik et al.(1986),Virology 155:322-333に見出すことができる。
【0507】
別の例では、ヘルペスウイルスは、偽狂犬病ウイルスである。いくつかの実施形態によれば、本開示の免疫原は、少なくとも1つの偽狂犬病ウイルス保存g50タンパク質(gpD)、gpB、gI11タンパク質(gpC)、糖タンパク質H、糖タンパク質E、またはそれらの免疫原性断片を含む。
【0508】
別の例では、ヘルペスウイルスは、伝染性喉頭気管炎ウイルスである。いくつかの実施形態によれば、本開示の免疫原は、少なくとも1つの伝染性喉頭気管炎ウイルス保存糖タンパク質Gまたは糖タンパク質1タンパク質またはその免疫原性断片を含む。
【0509】
いくつかの実施形態によれば、本開示の免疫原は、レオウイルス科ウイルスの少なくとも1つの保存されたタンパク質を含む。例えば、レオウイルス科ウイルスは、ロタウイルス、例えば、ロタウイルス胃腸炎である。いくつかの実施形態によれば、本開示の免疫原は、少なくとも1つの保存ロタウイルス胃腸炎糖タンパク質、マトリックスタンパク質、またはそれらの免疫原性断片を含む。
【0510】
いくつかの実施形態によれば、本開示の免疫原は、ピコルナウイルス科ウイルスの少なくとも1つの保存されたタンパク質またはその免疫原性断片を含む。例えば、ピコルナウイルスは、口蹄疫ウイルスである。いくつかの実施形態によれば、本開示の免疫原は、少なくとも1つの口蹄疫ウイルス保存カプシドタンパク質(P1)、膜タンパク質(2B)、ヘリカーゼ(2C)、プロテアーゼ(3C)、及びポリメラーゼ(3D)またはその免疫原性断片を含む。
【0511】
別の例では、ピコルナウイルスは、ポリオウイルスである。いくつかの実施形態によれば、本開示の免疫原は、少なくとも1つのポリオウイルス保存ウイルスタンパク質またはその免疫原性断片を含む。一実施形態によれば、本開示の免疫原のコンセンサス配列は、当技術分野で知られている方法を介して及び公的に入手可能な文献、例えば、Emin et al.(1983)Nature 304:699に見出すことができる。
【0512】
いくつかの実施形態によれば、本開示の免疫原は、ヘパドナウイルス科ウイルスの少なくとも1つの保存されたタンパク質またはその免疫原性断片を含む。例えば、ヘパドナウイルスは、B型肝炎ウイルスである。いくつかの実施形態によれば、本開示の免疫原は、少なくとも1つのB型肝炎ウイルス保存エンベロープまたは表面タンパク質(L、M、S)、コアタンパク質(C)、Xタンパク質(X)、及びポリメラーゼ(P)またはその免疫原性断片を含む。別の実施形態において、本開示の免疫原は、少なくとも1つのB型肝炎ウイルス保存B型肝炎表面抗原(gp27S、gp36S、gp42S、p22c、po1、x)、B型肝炎ウイルスコアタンパク質、及び/またはB型肝炎ウイルス表面抗原またはその免疫原性断片を含む。一実施形態によれば、本開示の免疫原のコンセンサス配列は、当技術分野で知られている方法を介して及び公的に入手可能な文献、例えば、1980年6月4日に公開された英国特許公開第GB 2034323A、Ganem and Varmus(1987)Ann.Rev.Biochem.56:651-693;Tiollais et al.,(1985)Nature 317:489-495;and in Itoh et al.,(1986)Nature 308:19;Neurath et al.(1986)Vaccine 4:34に見出すことができる。
【0513】
いくつかの実施形態によれば、本開示の免疫原は、レトロウイルス科ウイルスの少なくとも1つの保存されたタンパク質またはその免疫原性断片を含む。例えば、レトロウイルスは、ヒト免疫不全ウイルスである。いくつかの実施形態によれば、本開示の免疫原は、少なくとも1つのヒト免疫不全ウイルス保存カプシドタンパク質(gag)、エンベロープタンパク質(env)、ポリメラーゼタンパク質(pol)、またはプロテアーゼタンパク質(pro)またはそれらの免疫原性断片を含む。
【0514】
いくつかの実施形態によれば、本開示の免疫原は、少なくとも1つのブタウイルスの少なくとも1つの保存されたタンパク質を含む。例えば、ブタウイルスとしては、ブタロタウイルス、ブタパルボウイルス、ウシウイルス性下痢、新生子牛下痢ウイルス、ブタコレラウイルス、アフリカブタ熱ウイルス、ブタインフルエンザ等が挙げられる。いくつかの実施形態によれば、本開示の免疫原は、ブタウイルスの少なくとも1つの保存されたタンパク質、例えば、ブタロタウイルスまたはブタパルボウイルス保存糖タンパク質38、ブタカプシドタンパク質、セルプリナヒドロジセンテリア防御抗原、ウシウイルス性下痢糖タンパク質55、新生子牛下痢ウイルス(Matsuno and Inouye(1983)Infection and Immunity 39:155)、ブタコレラウイルス、アフリカブタ熱ウイルス、ブタインフルエンザ:ブタインフルエンザ赤血球凝集素及びブタインフルエンザノイラミニダーゼ、またはそれらの免疫原性断片を含む。
【0515】
いくつかの実施形態によれば、本開示の免疫原は、少なくとも1つのウマウイルスの少なくとも1つの保存されたタンパク質を含む。例えば、ウマウイルスには、ウマインフルエンザウイルス、ウマヘルペスウイルス、ベネズエラウマ脳脊髄炎ウイルス等が挙げられる。いくつかの実施形態によれば、本開示の免疫原は、ウマウイルスの少なくとも1つのウマ保存タンパク質、例えば、ウマインフルエンザウイルスまたはウマヘルペスウイルス等のウマインフルエンザ:ウマインフルエンザウイルスA型/アラスカ91ノイラミニダーゼ、ウマインフルエンザウイルスA型/マイアミ63ノイラミニダーゼ、ウマインフルエンザウイルスA型/ケンタッキー81ノイラミニダーゼ、ウマヘルペスウイルス1型糖タンパク質B、ウマヘルペスウイルス1型糖タンパク質D、またはその免疫原性断片を含む。
【0516】
いくつかの実施形態によれば、本開示の免疫原は、少なくとも1つのウシウイルスの少なくとも1つの保存されたタンパク質を含む。例えば、ウシウイルスとしては、ウシ呼吸器合胞体ウイルス、ウシパラインフルエンザウイルス、ウシウイルス性下痢ウイルス、伝染性ウシ鼻気管炎ウイルス、口蹄疫ウイルス、プンタトロウイルス(punta toro virus)等が挙げられる。いくつかの実施形態によれば、本開示の免疫原は、ウシウイルスの少なくとも1つのウシ保存タンパク質、例えば、ウシ呼吸器合胞体ウイルスまたはウシパラインフルエンザウイルス:ウシ呼吸器合胞体ウイルス付着タンパク質(BRSV G)、ウシ呼吸器合胞体ウイルス融合タンパク質(BRSV F)、ウシ呼吸器合胞体ウイルスヌクレオカプシドタンパク質(BRSV N)、ウシパラインフルエンザウイルス3型融合タンパク質、及びウシパラインフルエンザウイルス3型赤血球凝集素ノイラミニダーゼ)、ウシウイルス性下痢ウイルス糖タンパク質48または糖タンパク質53、伝染性ウシ鼻気管炎ウイルス:伝染性ウシ鼻気管炎ウイルス糖タンパク質Eまたは糖タンパク質G、口蹄疫ウイルス、プンタトロウイルス(Dalrymple et al.,1981,Replication of Negative Strand Viruses,Bishop and Compans(eds.),Elsevier, N.Y.,p.167)またはその免疫原性断片を含む。
【0517】
本明細書で論じられるように、いくつかの実施形態によれば、本開示の保存されたタンパク質は、中和抗体エピトープの同時投与を回避する最高度の防御を達成することによって選択される病原体抗原配列を含む保存された配列として表される。さらに、そのような配列は、高い突然変異率と、初期の病原体亜型に対して生じた免疫応答に耐性のある新しい遺伝子バリアントに耐え、本明細書に記載のペプチド-リガンド現象の変化によって生成された免疫応答を覆すことができなければならない。したがって、いくつかの実施形態によれば、本明細書で利用される保存されたタンパク質配列は、病原体のゲノム変化を克服するために生成されるであろう。さらに、いくつかの実施形態によれば、本明細書で利用される保存されたタンパク質配列はまた、複数の株、バリアント、群(クレード、血清型または亜型)を有する病原体に対する、及び関連する病原性種、関連する病原性属、及び/または関連する病原性科に対する交差防御を達成するためにも生成される。
【0518】
いくつかの実施形態によれば、保存された配列は、本開示の本発明で利用されるコンセンサス配列として表され、異なる株、変異体、群、クレード、血清型、亜型、種、属、及び/または科に由来する病原体保存タンパク質の複数の配列アラインメントを通じて生成される。
【0519】
細菌性免疫原
いくつかの実施形態によれば、抗原性または免疫原性タンパク質断片またはエピトープは、以下を含むがこれらに限定されない病原性細菌に由来し得る:
【0520】
炭疽、
【0521】
クラミジア:クラミジアプロテアーゼ様活性因子(CPAF)、主要な外膜タンパク質(MOMP)
【0522】
マイコバクテリア、
【0523】
レジオネラ(Legioniella):レジオネラペプチドグリカン関連リポタンパク質(PAL)、mip、べん毛、OmpS、hsp60、主要分泌タンパク質(MSP)
【0524】
ジフテリア:ジフテリア毒素(Audibert et al.,1981,Nature 289:543)
【0525】
Streptococcus 24Mエピトープ(Beachey,1985,Adv.Exp.Med.Biol.185:193)
【0526】
淋菌:淋菌ピリン(Rothbard and Schoolnik,1985,Adv.Exp.Med.Biol.185:247)、
【0527】
マイコプラズマ:マイコプラズマ性肺炎、
【0528】
ヒト型結核菌:結核菌抗原85A、85B、MPT51、PPE44、結核菌65kDa熱ショックタンパク質(DNA-hsp65)、6kDa初期分泌型抗原標的(ESAT-6)
【0529】
腸チフス菌
【0530】
炭疽菌B.炭疽菌防御抗原(PA)
【0531】
ペスト菌:ペスト菌低カルシウム応答タンパク質V(LcrV)、F1及びF1-V融合タンパク質
【0532】
野兎菌
【0533】
発疹熱リケッチア
【0534】
梅毒トレポネーマ
【0535】
サルモネラ菌:SpaO及びH1a、外膜タンパク質(OMP);
【0536】
緑膿菌:P.aeruginosa OMP、PcrV、OprF、OprI、PilA及び変異ToxA
【0537】
いくつかの実施形態によれば、本開示の免疫原は、Cornebacteriaceae細菌の少なくとも1つの保存されたタンパク質またはその免疫原性断片を含む。例えば、cornebacteriaは、cornebacteriaジフテリアである。いくつかの実施形態によれば、本開示の免疫原は、少なくとも1つのCornebacteriumジフテリア保存ジフテリア毒素(tox)、ジフテリア毒素リプレッサー(dtxR)、ピリンタンパク質(複数可)(spaA、spaB、spac)またはそれらの免疫原性断片を含む。
【0538】
いくつかの実施形態によれば、本開示の免疫原は、マイコバクテリウム科細菌の少なくとも1つの保存されたタンパク質またはその免疫原性断片を含む。例えば、マイコバクテリア科細菌は、ヒト型結核菌である。いくつかの実施形態によれば、本開示の免疫原は、少なくとも1つのSeタンパク質(secA)を含む。
【0539】
いくつかの実施形態によれば、本開示の免疫原は、バシラス科細菌の少なくとも1つの保存されたタンパク質またはその免疫原性断片を含む。例えば、バシラス科は、炭疽菌である。いくつかの実施形態によれば、本開示の免疫原は、少なくとも1つの炭疽菌保存カプセルタンパク質(capA)、s層タンパク質(例えば、sapまたはEA1)、毒性タンパク質(例えば、pX01、px02)、及びシグマタンパク質(例えば、PA、ECF)またはその免疫原性断片を含む。
【0540】
いくつかの実施形態によれば、本開示の免疫原は、エルシニア科細菌の少なくとも1つの保存されたタンパク質またはその免疫原性断片を含む。例えば、エルシニア科細菌は、ペスト菌である。いくつかの実施形態によれば、本開示の免疫原は、少なくとも1つのペスト菌保存外膜タンパク質(bamA、Yops)、内桿菌タンパク質(Yscl)、毒性タンパク質(Lcru)、または針状タンパク質(needle protein)(YscF)またはその免疫原性断片を含む。
【0541】
いくつかの実施形態によれば、本開示の免疫原は、エンテロバクター科細菌の少なくとも1つの保存されたタンパク質またはその免疫原性断片を含む。例えば、エンテロバクター科細菌、サルモネラエンテリカ血清型Typhiである。いくつかの実施形態によれば、本開示の免疫原は、少なくとも1つの保存された外膜タンパク質(例えば、STIV、Tolc)、毒性タンパク質(例えば、Vi)、ファージタンパク質、閉塞性毒素ファミリータンパク質(例えば、Zot)、またはその免疫原性断片を含む。
【0542】
いくつかの実施形態によれば、本開示の免疫原は、リケッチア属細菌の少なくとも1つの保存されたタンパク質またはその免疫原性断片を含む。例えば、リケッチア属細菌は、発疹チフスリケッチアである。
【0543】
真菌免疫原
いくつかの実施形態によれば、抗原性または免疫原性タンパク質断片またはエピトープは、以下を含むがこれらに限定されない病原性真菌に由来し得る:
【0544】
Coccidioides immitis:コクシジオイデスAg2/Pra106、Prp2、ホスホリパーゼ(P1b)、α-マンノシダーゼ(Amn1)、アスパラギン酸プロテアーゼ、ゲル
【0545】
Blastomyces dermatitidis:ブラストミセス・デルマティティディス表面アドヘシンWI-1
【0546】
Cryptococcus neoformans:クリプトコッカスネオフォルマンス:クリプトコッカスネオフォルマンスGXM及びそのペプチドミモトープ、及びマンノプロテイン、クリプトスポリジウム表面タンパク質gp15及びgp40、Cp23抗原、p23
【0547】
Candida albicans、
【0548】
Aspergillus種:アスペルギルスAsp f 16、Asp f 2、Der p 1、及びFel d 1、rodlet A、PEP2、アスペルギルスHSP90、90kDaカタラーゼ
【0549】
原生生物の免疫原
いくつかの実施形態によれば、抗原性または免疫原性タンパク質断片またはエピトープは、以下を含むがこれらに限定されない病原性原生生物に由来し得る:
【0550】
Plasmodium falciparum、Plasmodium vivax、Plasmodium ovale、Plasmodium malariae、原虫頂端膜抗原1(AMA1)、25-kDa性期タンパク質(Pfs25)、赤血球膜タンパク質1(PfEMP1)、スポロゾイト表面タンパク質(CSP)、メロゾイト表面タンパク質-1(MSP1)。
【0551】
Leishmania species:リーシュマニアシステインプロテイナーゼIII型(CPC)
【0552】
Trypanosome種(アフリカ及びアメリカ):T. pallidum外膜リポタンパク質、トリパノソームベータチューブリン(STIB 806)、微小管関連タンパク質(MAP p15)、システインプロテアーゼ(CP)
【0553】
クリプトスポリジウム、
【0554】
イソスポーラ種、
【0555】
Naegleria fowleri、
【0556】
Acanthamoeba species,
【0557】
Balamuthia mandrillaris,
【0558】
Toxoplasma gondii、または
【0559】
Pneumocystis carinii:ニューモシスチス肺炎主要表面糖タンパク質(MSG)、p55抗原
【0560】
バベシア
【0561】
住血吸虫症:Schistosomiasis mansoni Sm14、21.7及びSmFim抗原、テグメントタンパク質Sm29、26 kDa GST、Schistosoma japonicum、SjCTPI、SjC23、Sj22.7、またはSjGST-32
【0562】
トキソプラズマ症:ゴンディ表面抗原1(TgSAG1)、プロテアーゼ阻害剤-1(TgPI-1)、表面関連タンパク質MIC2、MIC3、ROP2、GRA1-GRA7。
【0563】
いくつかの実施形態によれば、本開示の免疫原は、プラスモジウム寄生虫の少なくとも1つの保存されたタンパク質を含む。例えば、プラスモジウムは、熱帯熱マラリア原虫である。いくつかの実施形態によれば、本開示の免疫原は、少なくとも1つの保存されたスポロゾイト表面タンパク質(CS)タンパク質及びトロンボスポンジン関連接着タンパク質(TRAP)またはその免疫原性断片を含む。
【0564】
T細胞エピトープ予測
T細胞は、自己部分(クラスI MHC)及び外来部分(短いペプチド)で構成されるエピトープを認識する。T細胞エピトープの外来ペプチド部分は、8~11残基長のペプチドで構成されていることが知られている。簡潔に言えば、T細胞エピトープは、病原体のサンプルを分解して様々なペプチドに対するT細胞の活性化をテストするか、または病原体のT細胞エピトープを予測するバイオインフォマティクスツールを介して導出できる。
【0565】
バイオインフォマティクスツール
上記に記載され、当技術分野で知られているように(例えば、Khan et al.,「A systematic bioinformatics approach for selection of epitope based vaccine targets.」Cell Immunol.(2006)December;244(2):141-147;and Soriera-Guerra,et al.,(2015)「An overview of bioinformatics tools for epitope prediction:Implications on vaccine development.」Journal of Biomedical Informatics 53:405-414;その全体が参照により本明細書に組み込まれる)、T細胞免疫応答は、細胞膜発現MHC分子に結合した外来ペプチド抗原の認識によって引き起こされる。T細胞認識は、MHC分子によって提示されるペプチドに限定されるため、MHC分子に結合できるペプチドの予測は、MHC分子中多型残基によって条件付けられた特定の化学的及び物理的環境に適合しなければならないMHC分子に結合するT細胞エピトープの予測の基礎となる。その結果、異なるMHC分子は、異なるペプチド結合特異性を有する。さらに、同じMHC分子に結合するペプチドは、配列類似性によって関連付けられる。ペプチド-MHCバインダー(アンカー残基)のアミノ酸の選好を反映する配列パターンは、ペプチド-MHC結合モチーフの定義及びペプチド-MHC結合の予測に日常的に使用されている。このデータは、当技術分野で知られており、MHCペプチドモチーフ、MHCリガンド、T細胞エピトープ、及びMHC分子のアミノ酸配列を含むデータベースに収集されている。
【0566】
データベースは、MHCクラスIまたはクラスII結合、MHCクラスI処理及び免疫原性等の実験の結果を予測する予測ツールとして使用できる。T細胞プロセシング予測は、MHC結合をMHCクラスI細胞経路の他の部分、すなわちプロテアソーム切断及びTAP輸送と組み合わせ、独立した実験データセットから生成される。MHC結合及びMHCプロセシング提示経路からのシグナルのオーバーレイを提供する溶出MHCリガンドで訓練された予測因子もある。処理予測ツールは、MHC結合予測のみを使用する場合と比較して、比較的小さいが統計的に有意な精度の向上を提供する。
【0567】
結合予測法により、潜在的なエピトープの選択が容易になる。当技術分野で利用可能な方法は、機械学習アルゴリズムをトレーニングするために、様々なMHC対立遺伝子の実験的ペプチド結合データを使用して開発された。このアルゴリズムを使用して、任意のペプチドの結合可能性または結合親和性を予測できる。
【0568】
所与のペプチド配列に対する親和性結合の予測及び測定は、例えば、スコアリングマトリックスの計算により、分析することができる。一般に、マトリックスは、既知のバインダーの異なる位置でのアミノ酸頻度または定量的MHC結合データを使用して構築される。アミノ酸頻度は、ペプチド配列のMHC分子への結合可能性を示し、定量的MHC結合データは、ペプチド結合親和性を定量化する手段を提供する。結合親和性スコアリングマトリックスでは、配列の結合親和性は、アミノ酸及び結合溝内のその位置に基づいて計算される。配列内の各残基の値を合計して、配列全体の全体的な結合を算出する。位置特異的スコアマトリックスは、既知の測定されたペプチドの合計が測定された親和性に近似するまで、マトリックスの値を変化させることによって導出される。コンセンサススコアは、マトリックス係数を合計、乗算、または平均化することによって得られ、所定のしきい値と比較する。しきい値は、事前に決定され、機械学習を可能にするために予測ツールに合わせて較正させる。
【0569】
MHCクラスI結合予測の生成
ペプチド結合データセットは、公開されている多数の予測Webサイト、例えば、SYFPEITHI(http://syfpeithi.de/BMI-AInfos.htmlで見られる)及びBIMAS(http://www-bimas.cit.nih.gov/molbio/hla_bind/で見られる)等、単一または複数の異なる予測アルゴリズムで検索できる。ここでは、測定された結合親和性スコアと各アルゴリズムの予測スコア(SYFPEITHIでは、発見的スコアまたはBIMASでは、結合スコアの半減期)との相関関係が計算される。結合親和性スコアは、MHCと単離されたペプチドとの間の親和性であり、通常は、IC50濃度として表され、IC50値が低い場合には、親和性の高いバインダーであることを意味する。
【0570】
結合親和性しきい値較正
しきい値により、真陰性、真陽性、偽陰性、及び偽陽性の数を計算できる。予測スコアのしきい値を低から高に体系的に変化させることにより、真陽性及び偽陽性の割合がしきい値の関数として計算され、ROC(受信者動作特性)曲線が導出される。このROC曲線下面積が、AUC値である。AUC値は、マトリックスのランクを比較し、バインダーと非バインダーとの比率が異なる等、データセットの構成に依存しないため、予測スケールに依存しない。AUC値は、本質的に、1つはバインダー、他方は非バインダーの、2つのペプチドが与えられた場合に、非バインダーと比較してバインダーの予測スコアが高くなる確率を記録する。AUC値0.5は、ランダム予測と同等であり、AUC値1.0は、完全な予測と同等である。
【0571】
エピトープの選択
潜在的なバインダーを選択するには、3つの主要な戦略がある。第1は、効力の尺度であるIC50値(最大阻害濃度の半分を意味する(すなわち、参照標準と比較して、特定の強度の阻害効果を生み出すのに必要な量)が、しきい値である500nM未満(以前は免疫原性に関連していた)であるペプチドをすべて選択することである。第2の戦略は、対立遺伝子と長さの組み合わせについて、上位1%のペプチドを選択することである。第3の戦略は、パーセンタイルランクが1%未満のペプチドを選択することである。
【0572】
ワクチン
いくつかの態様によれば、本開示は、タンパク質及び保存された内部CD8+T細胞エピトープを有するタンパク質をコードする遺伝子構築物を提供することによって生成されるワクチンを提供する。これにより、これらのタンパク質は、広範囲のウイルスに対する免疫応答を誘導できる免疫原として特に効果的になる。いくつかの実施形態によれば、ワクチンは、治療的または予防的免疫応答を誘導するために提供され得る。
【0573】
いくつかの実施形態によれば、免疫原を送達するための手段は、DNAワクチン、組換えワクチン、タンパク質サブユニットワクチン、免疫原を含む組成物、弱毒化ワクチンまたは死菌ワクチンである。いくつかの実施形態によれば、ワクチンは、1つ以上のDNAワクチン、1つ以上の組換えワクチン、1つ以上のタンパク質サブユニットワクチン、免疫原を含む1つ以上の組成物、1つ以上の弱毒化ワクチン及び1つ以上の死菌ワクチンから選択される組み合わせを含む。
【0574】
いくつかの実施形態によれば、本開示によるワクチンを個体に送達して、個体の免疫系の活性を調節し、それにより、ウイルス、細菌、真菌、または原虫感染に対する免疫応答を増強することができる。タンパク質をコードする核酸分子が個体の細胞に取り込まれたときに、ヌクレオチド配列が細胞中で発現し、それによってタンパク質が個体に送達される。
【0575】
いくつかの実施形態によれば、組換えワクチンは、上記の免疫原を有する複数の異なるワクチンベクターを使用することによって構築され、各免疫化は、異なる組換えベクターワクチンが順次ワクチン接種される。各組換えワクチンは、少なくとも1回接種され、ワクチン接種プログラムには、少なくとも1回の呼吸器免疫化及び1回の全身免疫化が含まれる。組換えベクターワクチンと接種法との組み合わせは、呼吸器系及び全身系で高レベルのT細胞免疫応答を達成することができ、それによってワクチンレシピエントがウイルスの異なる亜型に対する免疫を獲得することができる。
【0576】
いくつかの実施形態によれば、これらに限定されないが、フラビウイルス科、パラミクソウイルス科、トガウイルス科、フィロウイルス科、オルソミクソウイルス科、ラブドウイルス科及びレトロウイルス科からなる群から選択されるウイルス科に対して、個体を予防的及び/または治療的に免疫化する組成物及び方法が提供される。
【0577】
ウイルスベクターワクチン
いくつかの実施形態によれば、ワクシニアウイルス等の弱毒化された複製欠損ウイルスを使用して、細胞媒介性免疫応答を誘発または刺激するのに有効な量で、本明細書に記載の外因性ウイルス、細菌、真菌または原生免疫原を送達する。本明細書に記載されているように、任意の1つ以上の目的の免疫原を、本明細書に記載のとおりウイルスベクターに挿入することができる。
【0578】
ポックスウイルスベクター
ポックスウイルスは、大きいゲノムを有するため、複数の遺伝子等、幅広い遺伝子物質を送達するために容易に使用できる(すなわち、多価ベクターとして作用する)。ポックスウイルスゲノムのサイズは、ウイルス株に応じて、最大300個の遺伝子を含む約130kbp~約300kbpの範囲である。したがって、これらのウイルスに外来DNAの大きい断片を挿入し、ウイルスゲノムの安定性を維持することが可能である。
【0579】
ポックスウイルスは、例えば、免疫応答を生成するワクチン、新しいワクチンの開発、目的のタンパク質の送達、及び遺伝子療法等、様々な用途に役立つベクターである。ポックスウイルスベクターの利点としては、(i)生成及び産生の容易さ、(ii)複数の遺伝子の挿入を可能にする大きいサイズのゲノム(すなわち、多価ベクターとして)、(iii)例えば、抗原提示細胞等、複数の細胞型への遺伝子の効率的な送達、(iv)高レベルのタンパク質発現、(v)免疫系への抗原の最適な提示、(vi)細胞媒介性免疫応答及び抗体応答を誘発する能力、(vii)免疫学的に交差反応性がないため、異なる属のポックスウイルスの組み合わせを使用する能力、及び(viii)このベクターをヒトにおいて、天然痘ワクチンとして使用することにより得られた長期的経験が挙げられる。
【0580】
ポックスウイルスは、よく知られている細胞質ウイルスである。そのようなウイルスベクターによって発現される遺伝子物質は、典型的には、細胞質に残存し、特定のステップが行われない限り、遺伝子物質が宿主細胞遺伝子に不注意に組み込まれる可能性はない。ポックスウイルスの組み込まれない細胞質の性質の結果として、ポックスウイルスベクター系は、他の細胞内で長期間持続することはない。したがって、ベクター及び形質転換された細胞は、標的細胞から離れた場所にある宿主動物の細胞に悪影響を及ぼさないであろう。さらに、ポックスウイルスのゲノムが大きいことにより、大きい遺伝子をポックスベースのベクターに挿入することができる。
【0581】
ポックスウイルスは、ウイルスの複製能力を損なうか否かにかかわらず、異種DNAを含み、発現するように遺伝子操作することができる。いくつかの実施形態によれば、DNAは、本明細書に記載の方法を使用して決定された1つ以上の免疫原をコードする。いくつかの実施形態によれば、そのような異種DNAは、1つ以上の感染性病原体に対する防御を誘導する抗原、共刺激分子等の免疫調節タンパク質、または酵素タンパク質等の広範囲のタンパク質をコードすることができる。
【0582】
いくつかの実施形態によれば、本明細書に記載のワクチン組成物は、ポックスウイルスベクターに基づく。
【0583】
例えば、弱毒化ワクシニアウイルス株である改変ワクシニアアンカラ(MVA)及びWyeth(Cepko et al.,(1984)Cell 37:1053 1062;Morin et al.(1987)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84:4626 4630;Lowe et al.,(1987)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,84:3896 3900;Panicali&Paoletti,(1982)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,79:4927 4931;Mackett et al.,(1982)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,79:7415 7419)等、複数のポックスウイルスが、異種タンパク質の発現のための生ウイルスベクターとして開発されてきた。他の弱毒化ワクシニアウイルス株としては、WR株、NYCBH株、ACAM2000、Lister株、LC16 m8、Elstree-BNm、コペンハーゲン株、及びTiantan株が挙げられる。
【0584】
ワクシニアウイルスは、オルソポックスウイルス属の原型である。これは、二本鎖DNA(デオキシリボ核酸)ウイルスであり、実験条件下で広い宿主範囲を有する(Fenner et al.1989 Orthopoxviruses.San Diego,Calif.:Academic Press,Inc.;Damaso et al.,(2000)Virology 277:439-49)。改変ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)またはその誘導体は、ニワトリ胚線維芽細胞上でのワクシニアウイルス(CVA)のアンカラ株の長期連続継代によって生成された(概説については、Mayr,A.,et al.,(1975)Infection,3:6-14を参照されたい)。MVAウイルス自体は、多くの公開リポジトリソースから入手できる。例えば、MVAは、1987年12月15日にCNCM(Institut Pasteur,Collection Nationale de Cultures Microorganisms,25,rue du Docteur Roux,75724 Paris Cedex 15)において、ブダペスト条約の要件に準拠して、寄託者番号No.1-721(米国特許第5,185,146号)で寄託された。MVAウイルスは、1994年1月27日に、European Collection of Cell Cultres(ECACC)(CAMR,Porton Down,Salisbury,SP4 OJG,UK)において、ブダペスト条約に準拠して、寄託番号V94012707で寄託された(米国特許第6,440,422号及び米国特許公開第2003/0013190号)。また、米国特許公開番号2003/0013190では、さらに、寄託番号99101431、及びECACC暫定アクセッション番号01021411で、ECACCに寄託された特定のMVA株について開示している。市販のベクターとしては、THERION-MVA、THERION PRIFREEベクター、及びTHERION M-SERIESベクター(Therion Biologics Corporation,MA)が挙げられる。
【0585】
MVAは、ワクシニアウイルス(CVA)のアンカラ株のニワトリ胚線維芽細胞での516回の連続継代によって生成された(Mayr,A.,et al.[1975]Infection 3,6-14)。これらの長期継代の結果として、約31kbのゲノム配列がウイルスから欠失され(欠失I、II、III、IV、V、及びVI)、したがって、結果として生じるMVAウイルスは、鳥類細胞に限定された宿主細胞として高度であると記載されていた(Meyer,H.et al.,[1991]J.Gen.Virol.72,1031-1038)。得られたMVAが有意に無毒性であることが様々な動物モデルで示された(Mayr,A.&Danner,K.[1978]Dev.Biol.Stand.41:225-34)。さらに、このMVA株は、ヒト天然痘疾患に対して免疫化するワクチンとして臨床試験でテストされている(Mayr et al.,[1987]Zbl.Bakt.Hyg.I,Abt.Org.B 167,375-390,Stickl et al.,[1974]Dtsch.med.Wschr.99,2386-2392)。これらの研究では、高リスクの患者を含む12万人以上のヒトを対象として、ワクシニアベースのワクチンと比較して、MVAが、毒性または感染性を低下させる一方で、優れた特異的免疫応答を誘導することを証明した。一般に、ウイルス株は、その能力を失った場合、または宿主細胞内で生殖的に複製する能力が低下した場合にのみ弱毒化されたと見なされる。
【0586】
野生型VV及びMVAの両方のゲノムの配列決定が行われているため、複製特性に関してMVAとある程度の類似を有するが、MVAとは遺伝的に異なるウイルスをクローン化することが可能である。これらは同じ目的を果たす可能性があるか、または複製の欠陥のために同じように安全でありながら、MVAよりも免疫原性が高い可能性がある。
【0587】
いくつかの実施形態によれば、ウイルスは、野生型ウイルスと比較して、5%以下、または1%以下の複製能力を有する。非複製ウイルスは、正常な初代ヒト細胞において、100%複製欠損である。
【0588】
ウイルス複製アッセイは、当技術分野で知られており、例えば初代角化細胞上のワクシニアウイルスに対して実施することができ、これは、Liu et al.J.Virol.2005,79:12,7363-70に記載されている。非複製または複製障害のあるウイルスは、非常に自然に(すなわち、自然からそのように単離され得る)、または人工的に、例えば、インビトロでの繁殖または遺伝子操作、例えば複製に重要な遺伝子の欠失によって生じる可能性がある。MVA用のCEF細胞等、ウイルスが成長できる細胞型は、一般に、1つまたは複数ある。
【0589】
いくつかの実施形態によれば、ウイルスの変化としては、例えば、ウイルスの遺伝子発現プロファイルの変化が挙げられる。いくつかの実施形態によれば、改変ウイルスは、ポックスウイルスに対して外来性であるペプチドまたはポリペプチドをコードする遺伝子または遺伝子の一部を発現し得る、すなわち、それらは野生型ウイルスには見られないであろう。これらの外来、異種または外因性ペプチドまたはポリペプチドは、例えば、細菌、ウイルス、真菌、及び原生生物の抗原等の免疫原性である配列、またはウイルスベクター以外のウイルスに由来する抗原配列を含み得る。遺伝子物質は、組換えウイルスが生存し続けるためにウイルスゲノム内の適切な部位に挿入され得る。すなわち、遺伝子物質は、ウイルスDNAの部位(例えば、ウイルスDNAの非必須部位)に挿入させて、確実に、組換えウイルスが、外来細胞に感染し、DNAを発現する能力を保持しながら、望ましい免疫原性及び毒性の低下を維持するようにする。例えば、上記のように、MVAには、挿入部位として機能することが実証されている6つの自然な欠失部位が含まれる。例えば、米国特許第5,185,146号、及び米国特許第6,440,422号を参照されたい。これらは、参照により本明細書に組み込まれる。いくつかの実施形態によれば、所望の抗原をコードする遺伝子は、親ウイルスタンパク質の正常な補体の発現と共にそれらがそのウイルスによって発現され得るような方法で、ポックスウイルスのゲノムに挿入される。
【0590】
改変ポックスウイルスは、標的細胞中での複製効率が低く、これにより、他の細胞の持続的な複製及び感染を防ぐ。いくつかの実施形態によれば、改変ポックスウイルスはまた、標的細胞特異性、感染経路、感染速度、複製速度、ビリオン集合速度、及び/またはウイルスの拡散率等、ウイルスの生活環の態様に関する変化した特徴を有し得る。
【0591】
いくつかの実施形態によれば、本明細書に記載の方法を使用して決定された免疫原をコードする挿入遺伝子(複数可)は、挿入遺伝子を発現するためにプロモーターに作動可能に連結され得る。プロモーターは、当技術分野で周知であり、宿主及び標的にしたい細胞型に応じて容易に選択することができる。例えば、ポックスウイルスでは、ワクシニア7.5K、40K、鶏痘等のポックスウイルスプロモーターを使用することができる。特定の実施形態では、エンハンサーエレメントはまた、発現のレベルを増加させるために組み合わせて使用され得る。特定の実施形態では、当技術分野でも周知である誘導性プロモーターを使用することができる。代表的なポックスウイルスプロモーターとしては、エントモポックス(entomopox)プロモーター、アビポックスプロモーター、またはオルトポックスプロモーター、例えば、ワクシニアプロモーター、例えば、HH、11KまたはPiが挙げられる。例えば、ワクシニアのAva IH領域からのPiプロモーターは、Wachsman et al.,J.of Inf.Dis.155,1188-1197(1987)に記載されている。このプロモーターは、LバリアントWRワクシニア株のAva IH(Xho IG)断片に由来し、プロモーターは、右から左への転写を指示する。プロモーターのマップ位置は、AvaIHの5’末端から約1.3Kbp(キロベース対)、ワクシニアゲノムの5’末端から約12.5Kbp、及びHindIIIC/Nジャンクションの約8.5Kbp5’である。Hind III Hプロモーター(本明細書では「HH」及び「H6」)配列は、Rosel et al.,(1986)J.Virol.60,436-449によるオープンリーディングフレームH6の上流である。11Kプロモーターは、Wittek,(1984)J.Virol.49,371-378)及びBertholet,C.et al.,(1985)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82,2096-2100)によって記載のとおりである。プロモーターが初期または後期のプロモーターであるか否かを用いて、特定の遺伝子の発現の時間を計ることができる。
【0592】
いくつかの実施形態によれば、本明細書に記載のワクチン組成物は、ワクシニアウイルスベクターに基づく。いくつかの実施形態によれば、ワクシニアウイルスベクターは、ワクシニアウイルスTiantan株(ワクチンウイルスTianTan株、VTT)である。ワクシニアウイルスTiantan株は、1920年代に中国の科学者によって単離されて以来、天然痘ワクチンとして中国で広く接種され、最終的には中国で天然痘を破壊した。Tiantan株の接種数は、10億以上に達し、その安全性は、長期にわたって、実際に十分に検証されている。Tiantan株ワクチンの副作用の発生率は、近年米国のバイオテロで使用されているNew York株等、国際的に使用されている他の天然痘ワクチン株の発生率よりも有意に低くなっている。TianTanワクシニアベクターは、広い宿主範囲を有し、生殖力価が高く、誘導された免疫応答は、非常に長期持続し、外来遺伝子を挿入する能力は非常に大きく、理論的には最大25~50kbである。Tiantan株担体は、高い安全性及び高い免疫原性を有し、インビボで強い体液性免疫及び細胞性免疫を誘導することができ、免疫反応の持続時間は、非複製ベクターよりもはるかに長くなる。
【0593】
いくつかの実施形態によれば、プロモーターは、外部因子またはキューによって調節され、その外部因子またはキューを活性化することによって、ベクターによって産生されるポリペプチドのレベルの制御が可能になる。例えば、熱ショックタンパク質は、プロモーターが温度によって調節される遺伝子によってコードされるタンパク質である。金属含有タンパク質メタロチオネインをコードする遺伝子のプロモーターは、Cd+イオンに応答する。また、このプロモーターまたは外部のキューによる影響を受ける別のプロモーターを組み込むことにより、抗原を含むポリペプチドの産生を調節できるようになる。
【0594】
いくつかの実施形態によれば、例えば本明細書に記載の免疫原をコードする少なくとも1つの目的の遺伝子をコードする核酸は、「誘導性」プロモーターに作動可能に連結されている。誘導システムにより、遺伝子発現を注意深く調節することが可能になる。Miller and Whelan,Human Gene Therapy,8:803-815(1997)を参照されたい。本明細書で使用される「誘導性プロモーター」または「誘導性システム」という句は、プロモーター活性が、外部に送達される剤を用いて調節され得るシステムを含む。そのようなシステムには、例えば、E.coli由来のlacリプレッサーを転写モジュレーターとして使用して、lacオペレーターを担持する哺乳動物細胞プロモーターからの転写を調節するシステム(Brown et al.Cell,49:603-612,1987);テトラサイクリンリプレッサー(tetR)を使用するシステム(Gossen and Bujard,1992 Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:5547-5551;Yao et al.,1998 Human Gene Ther.9:1939-1950,;Shokelt et al.,1995 Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92.6522-6526)が含まれる。他のそのような系には、カストラジオール、RU486/ミフェプリストン、ジフェノールムリステロンまたはラパマイシンを使用するFK506二量体、VP16またはp65が含まれる。別の例は、エクジソン誘導システムである(例えば、Karns et al,2001 MBC Biotechnology 1:11,を参照されたい)。誘導性システムは、例えば、Invitrogen、Clontech、及びAriadから入手可能である。オペロンと共にリプレッサーを使用するシステムが好ましい。これらのプロモーターは、哺乳動物プロモーターの代わりにpoxプロモーターの一部を使用することによって適合させることができる。
【0595】
いくつかの実施形態によれば、「転写調節エレメント」または「TRE」は、目的の遺伝子の調節のために導入される。TREは、RNAポリメラーゼによる作動可能に連結されたポリヌクレオチド配列の転写を調節して、RNAを形成するポリヌクレオチド配列、好ましくはDNA配列である。TREは、TREが機能できるようになる宿主細胞における作動可能に連結されたポリヌクレオチド配列の転写を増加させる。TREは、エンハンサーエレメント及び/またはウイルスプロモーターエレメントを含み、これらは同じ遺伝子に由来しても由来しなくてもよい。TREのプロモーター及びエンハンサー成分は、目的のコード配列から任意の方向及び/または距離にあってもよく、所望の転写活性が得られる限り、前述の多量体を含む。
【0596】
いくつかの実施形態によれば、目的の遺伝子を調節するための「エンハンサー」が提供される。このエンハンサーは、任意の遺伝子に由来するポリヌクレオチド配列であり、プロモーターに作動可能に連結された遺伝子の転写を、遺伝子に作動可能に連結された場合にプロモーター自体によってもたらされる転写活性化よりも多い程度まで増加させる。すなわち、プロモーターからの転写を増加させる。
【0597】
TREまたはエンハンサー等の調節エレメントの活性は、一般に、転写調節因子が存在すること及び/または転写調節阻害剤が存在しないことに依存する。転写活性化は、当技術分野で知られている複数の方法によって測定することができるが、一般に、調節エレメントの制御下にある(すなわち、作動可能に連結された)コード配列のmRNAまたはタンパク質産物の検出及び/または定量化によって測定される。調節エレメントは、様々な長さ、及び様々な配列組成のものであり得る。転写活性化により、転写が標的細胞の基礎レベルよりも、少なくとも約2倍、好ましくは少なくとも約5倍、好ましくは少なくとも約10倍、より好ましくは少なくとも約20倍増加することが意図される。より好ましくは少なくとも約50倍、より好ましくは少なくとも約100倍、さらにより好ましくは、少なくとも約200倍、さらにより好ましくは、少なくとも約400倍~約500倍、さらにより好ましくは、少なくとも約1000倍。基礎レベルは、一般に、非標的細胞における活性のレベル(ある場合には)であるか、または標的細胞型で試験された目的のTREまたはエンハンサーを欠くレポーター構築物の活性のレベル(ある場合には)である。
【0598】
TREの配列内の特定の点突然変異は、転写因子の結合及び遺伝子の活性化を低下させる。当業者であれば、既知の転写因子結合部位内及びその周辺の塩基のいくつかの変化が、遺伝子活性化及び細胞特異性に悪影響を与える可能性が高いが、転写因子結合に関与しない塩基の変化は、そのような影響を有する可能性ほどではないことを認識するであろう。特定の変異も、TRE活性を増加させる。塩基の変化の効果の試験は、移動度シフトアッセイ、またはTRE機能細胞及びTRE非機能細胞におけるこれらの変化を含むトランスフェクションベクター等、当技術分野で知られている任意の方法によってインビトロまたはインビボで実施することができる。さらに、当業者であれば、転写を調節する配列の能力を変えることなく、TRE配列に対して、点突然変異及び欠失を行うことができることを認識するであろう。
【0599】
アデノウイルスベクター
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、複製欠損パルボウイルスであり、その一本鎖DNAゲノムは、約4.7kb長であり、145ヌクレオチドの末端逆位配列(ITR)を含む。例えば、AAV血清型2(AAV2)ゲノムのヌクレオチド配列は、Srivastava et al.,(1983)J.Virol.,45:555-564に示され、Ruffing et al.,(1994)J Gen. Virol.,75:3385-3392.ウイルスDNA複製(rep)、カプシド形成/パッケージング、及び宿主細胞染色体組み込みを指示するシス作用性配列は、ITR内に含まれる。3つのAAVプロモーター(それらの相対的なマップ位置からp5、p19、及びp40と呼ばれる)は、rep及びcap遺伝子をコードする2つのAAV内部オープンリーディングフレームの発現を駆動する。これら2つのrepプロモーター(p5及びp19)は、単一のAAVイントロン(例えば、ヌクレオチド2107及び2227における)の選択的スプライシングを伴って、rep遺伝子由来の4つのrepタンパク質(Rep78、Rep68、Rep52、及びRep40)の産生をもたらす。Rep78及びRep68は、それぞれp5プロモーターで開始する非スプライシング転写物及びスプライシング転写物から発現し、Rep52及びRep40は、p19プロモーターで開始する非スプライシング転写物及びスプライシング転写物からそれぞれ発現する。repタンパク質は、最終的にウイルスゲノムの複製を担う複数の酵素特性を保有する。Rep78及び68は、AAV DNA複製及びAAVプロモーターの調節に関与していると考えられ、Rep52及び40は、一本鎖AAV DNAの形成に関与していると考えられる。cap遺伝子は、p40プロモーターから発現され、3つのカプシドタンパク質VP1、VP2、及びVP3をコードする。選択的スプライシング及び非コンセンサス翻訳開始部位は、この3つの関連するカプシドタンパク質の産生に関与する。単一のコンセンサスポリアデニル化部位は、AAVゲノムのマップ位置95に位置する。AAVの生活環及び遺伝学は、Muzyczka,(1992)Current Topics in Microbiology and Immunology,158:97-129に概説されている。
【0600】
野生型AAVがヒト細胞に感染すると、ウイルスゲノムが19番染色体に組み込まれ、細胞の潜伏感染を引き起こす。細胞がヘルパーウイルス(例えば、アデノウイルスまたはヘルペスウイルス)に感染しない限り、感染性ウイルスの産生は起こらない。アデノウイルスの場合、遺伝子E1A、E1B、E2A、E4及びVAがヘルパー機能を提供する。ヘルパーウイルスに感染すると、AAVプロウイルスがレスキューされて増幅され、AAV及びアデノウイルスの両方が産生される。
【0601】
AAVは、例えば、遺伝子療法ベクターまたは免疫化ベクターとして、臨床用途において、DNAを細胞に送達するために、魅力的な独自の機能を保有する。培養細胞のAAV感染は、非細胞変性であり、ヒト及び他の動物の自然感染は、無症状及び無症候である。さらに、AAVは多くの哺乳類細胞に感染するため、インビボで多くの異なる組織を標的にすることが可能になる。AAVのプロウイルスゲノムは、プラスミドにクローン化されたDNAとして感染性であり、これにより、組み換えゲノムの構築が可能になる。さらに、AAVの複製、ゲノムのカプシド形成及び組み込みを指示するシグナルがAAVゲノムのITR内に含まれているため、このゲノムの内部約4.3kbの一部またはすべて(複製及び構造カプシドタンパク質、rep-capをコードする)は、外来DNA、例えば、プロモーター、目的のDNA及びポリアデニル化シグナルを含む遺伝子カセットと交換され得る。rep及びcapタンパク質は、トランスで提供され得る。AAVの別の重要な特徴は、これが非常に安定した豊富なウイルスであるということである。アデノウイルスの不活化に使用される条件(56°~65℃で数時間)に容易に耐えるため、AAVベクターの低温保存はそれほど重要ではない。AAVは、凍結乾燥される場合もある。最後に、AAVに感染した細胞は、重複感染に対して耐性はない。
【0602】
rAAVの産生には、AAVrep78/68及びrep52/40遺伝子とその遺伝子産物の発現、AAV ITRが隣接する目的のDNA、AAVヘルパーウイルスによって提供されるヘルパー機能、及びAAVの複製が可能なこれらの成分を含む細胞株を必要とする。ヘルパーウイルス機能の例は、アデノウイルス遺伝子E1、E2A、E4、及びVAである(Carter,Adeno-associated virus helper functions.(1989)「Handbook of Parvoviruses」Vol I(P.Tjissen,ed.)CRC Press,Boca Raton,pp 255-282)。野生型AAV(wt AAV)は、AAV及びアデノウイルスによる細胞感染後のウイルスの中で最大のバーストサイズのうちの1つを有する。これは、細胞あたり100,000個の粒子をはるかに超えるのに十分であろう(Aitken et al.,2001 Hum Gene Therapy,12:1907-1916)。その一方で、一部のrAAV産生システムでは、細胞あたり10e3または10e4の粒子を達成することが報告されている。Repタンパク質は、wt AAV及びrAAVの両方の複製及び無傷の感染性粒子との集合に絶対に必要であり、このことは、Carter et al.,AAV vectors for gene therapy.(2004)「Gene and Cell Therapy:Therapeutic Mechanisms and Strategies」Second Edition(Ed.N.Templeton-Smith),pp53-101,Marcel Dekker,New York)にまとめられている。AAV産生の複製間でのrepタンパク質の発現は、自動調節され、転写レベルで高度に調整されており、これは、正及び負の両方の調節活性を呈する。WTA AVVと同等のrAAVベクター産生レベルを達成するために必要なrepタンパク質の相対比は、完全には理解されていない。Li et al.,(1997)J Virol.,71:5236-5243;Xiao et al.,(1998)J Virol,72:2224-2232;Matushita et al.,(1998)Gene Therapy,5:938-945;and Carter et al.,AAV vectors for gene therapy,「Gene and Cell Therapy:Therapeutic Mechanisms and Strategies」,Second Edition(Ed.N.Templeton-Smith),pp53-101,Marcel Dekker,New Yorkを参照されたい。それぞれのプロモーターの調節を切り離すことによって、rep52/40及びrep78/68の相対比を変更した多数のベクター産生方法が記載されている。例えば、Natsoulis,米国特許第5,622,856号;Natsoulis et al.,米国特許第6,365,403号;Allen et al.,米国特許第6,541,258号;Trempe et al.,米国特許第5,837,484号;Flotte et al.,米国特許第5,658,776号;Wilson et al.米国特許第6,475,769号;Fan and Dong,(1997)Human Gene Therapy,8:87-98;及びVincent et al.,(1997)J Virol,71:1897-1905を参照されたい。転写における大小のrepタンパク質のこうした切り離しは、ネイティブp5、p19、及びp40ネイティブAAVプロモーターを完全に、または異種プロモーター、誘導性プロモーターとのいくつかの組み合わせで置き換える;または、例えば、これらに限定されないが別個のプラスミド等、別個の遺伝子エレメント上に構成要素を配置する;またはアデノウイルスもしくはヘルペスウイルス等の担体アウイルス等、許容細胞株を形質導入もしくはトランスフェクトするための別個の遺伝子構築物を利用する、追加のスペーサー要素を挿入する、または単一の遺伝子構築物内で、rep遺伝子もしくはその調節配列を物理的に再配置する、等いずれかの物理的手段による、等、複数の方法で達成されている。これらの戦略は、構成要素のうちの1つ以上が、プラスミドトランスフェクション、組換えアデノウイルス、ヘルペスウイルス、またはバキュロウイルス等のハイブリッドウイルス感染を介して許容細胞株に導入される一過性の産生システム、または、HELA及び293細胞等、AAV産生を許容する形質転換癌細胞からの産生を利用した安定細胞株アプローチのいずれにも採用されている。
【0603】
いくつかの実施形態によれば、本明細書に記載のワクチン組成物は、アデノウイルス(Ad)ベクターに基づく。
【0604】
いくつかの実施形態によれば、本明細書に記載のワクチン組成物は、Ad血清型5(AdHu5)に基づく。AdHu5ベースのベクターは、過去数十年にわたって研究所及び験で広く研究されてきた(Alonso-Padilla et al.2016 Mol Ther.;24:6-16)。AdHu5ベクターは、前臨床試験及び臨床試験の両方で、強力な抗原特異的免疫応答を誘発できることが実証されている(Alonso-Padilla 2016 Mol Ther.;24:6-16;Abbink et al.2007 J Virol.;81:4654-4663)。しかし、AdHu5ベクターは、常に効率的であることが示されているが、AdHu5感染は、ヒトに固有のものである。したがって、異なる種から単離されたアデノウイルスベクターの試験が行われてきた。特に、チンパンジーアデノウイルス(AdC)は、ヒト胎児腎臓293細胞(HEK293)等のヒト細胞株中で培養でき、ヒトで循環することがほどんどないことから、ヒト集団での血清有病率が低いため、使用に魅力的である。さらに、一部のAdCは、AdHu5等の一般的に使用されるヒトAd血清型に匹敵するT細胞及びB細胞の免疫応答を誘導できる(Quinn et al.2013 J Immunol.;190:2720-2735;Ledgerwood et al.2017 N Engl J Med.;376:928-938)。
【0605】
いくつかの実施形態によれば、本明細書に記載のワクチン組成物は、チンパンジーに由来するアデノウイルス(Ad)ベクターに基づく。いくつかの実施形態によれば、アデノウイルスベクターは、チンパンジーアデノウイルス単離Y25に基づく(Hillis et al.(1969)J Immunol 103:1089-109)。いくつかの実施形態によれば、アデノウイルスベクターは、AdC68(Sad-V25とも呼ばれる;Farina SF,et al.(2001)Journal of Virology 75:11603-11613、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に基づく。
【0606】
チンパンジーアデノウイルス単離株Y25は、Hillis et al.((1969)J Immunol 103:1089-1095)によって最初に記述された。ウイルスゲノムは、GenBankアクセッション番号JN254802で表され、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。ゲノム配列データでは、このアデノウイルスが、ヒトアデノウイルスEウイルスであるHAdV-4に関連しているという初期の血清学的兆候が確認される(Wigand R,et al.(1989)Intervirology 30:1-9)。大型類人猿から単離されたサルアデノウイルス(SAdV)は、系統学的にヒトアデノウイルス(HAdV)と区別されず、同じウイルス種(ヒトアデノウイルスB、C、及びE)にグループ化される(Roy S,et al.(2009)PLoS pathogens 5:e1000503)。HAdV-4は、ヒト由来のヒトアデノウイルスEの唯一の代表例であるが、チンパンジーアデノウイルスの多くは、ワクチンベクター候補ChAd63、AdC68(SAdV-25)、AdC7(SAdV-24)、及びAdC6(SAdV-23)等、E種内に系統学的にグループ化される(Farina SF,et al.(2001)Journal of virology 75:11603-11613;Roy S.et al.(2004)Virology 324:361-372;Roy S.,et al.(2004)Human gene therapy 15:519-530;Reyes-Sandoval et al.(2010)Infection and immunity 78:145-153;前述のすべての内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。系統発生分析は、チンパンジーアデノウイルスY25もヒトアデノウイルスEウイルスとグループ化することを示している。
【0607】
Y25ゲノムからの例示的な配列は、GenBankアクセッション番号によって以下に記載されている:
【0608】
ChAd3 CS479276;ChAd63 CS479277;HAdV-5 AC_000008;SAdV-22 AY530876;SAdV-25 AF394196、HAdV-1 AF534906;HAdV-2 J01917;HAdV-4 AY458656;HAdV-6 FJ349096;HAdV-12 X73487;HAdV-16 AY601636;;HAdV-30 DQ149628;HAdV-10 AB369368、AB330091;HAdV-17 HQ910407;HAdV-9 AJ854486;HAdV-37 AB448776;HAdV-8 AB448767;HAdV-7 AB243119、AB243118;HAdV-11 AC_000015;HAdV-21 AY601633;HAdV-34 AY737797;HAdV-35 AC_000019;HAdV-40 NC_001454;HAdV-41 DQ315364;SAdV-21 AC_000010;SAdV-23 AY530877;SAdV-24 AY530878;HAdV-3 DQ086466;HAdV-18 GU191019;HAdV-31 AM749299;HAdV-19 AB448774;SAdV-25.2 FJ025918;SAdV-30 FJ025920;SAdV-26 FJ025923;SAdV-38 FJ025922;SAdV-39 FJ025924;SAdV-36 FJ025917;SAdV-37.1 FJ025921;HAdV-14 AY803294;SAdV-27.1 FJ025909;SAdV-28.1 FJ025914;SAdV-33 FJ025908;SAdV-35.1 FJ025912;SAdV-31.1 FJ025906;SAdV-34 FJ025905;SAdV-40.1 FJ025907;SAdV-3 NC_006144;Y25 JN254802。
【0609】
チンパンジーアデノウイルス68型に対する抗体は、ヒトの身体内にほとんど存在せず、このアデノウイルスは、肺細胞、肝細胞、骨細胞のほか、血管、筋肉、脳、中枢神経中の細胞等の分裂細胞及び非分裂細胞の両方に感染し得る。さらに、良好な遺伝子安定性を有し、外来遺伝子を発現させる優れた能力を有する。これは、HEK293細胞によって産生され、エイズ、エボラ、インフルエンザ、マラリア、及びC型肝炎等のワクチンの研究に広く使用されている。
【0610】
Adベクターの産生、精製、品質管理の手順は、十分に確立されている(Tatsis&Ertl,2004 Mol Ther 10:616-29)。Adベクターは、自然免疫応答を誘導し、アジュバントの添加の必要性を改善する。これらはまた、非常に強力なB及びCD8 T細胞応答を誘導し、ベクターの持続性が低レベルであるために、著しく持続する(Tatsis et al.,2007,Blood 110:1916-23)。ワクチンの有効性に影響を与える血清型5等のAdウイルスの一般的なヒト血清型に対する既存の中和抗体は、チンパンジー等の他の種の血清型を使用することにより容易に回避でき、これは、典型的には、ヒト内において循環せず、ヒト血清型と交差反応することもない (Xiang et al.,2006 Emerg Infect Dis 12:1596-99,)。十分な効力の免疫応答を達成するためにプライムブーストレジメンが必要な場合、異なるAd血清型に基づくベクターが利用可能である(Tatsis&Ertl,2004 Mol Ther 10:616-29)。Adウイルス及びAdベクターは、許容された診療所で広く使用されている。それらは、気道等の粘膜経路(Xiang et al.,2003 J Virol 77:10780-89,)を含む様々な経路を介して、または米軍で使用されているAdウイルス4及び7に対するワクチンで示されているように、カプシド形成時に経口(Lyons et al.,2008 Vaccine 26:2890-98)であっても適用できる。
【0611】
単純ヘルペスウイルスベクター
いくつかの実施形態によれば、本明細書に記載のワクチン組成物は、単純ヘルペスウイルス(HSV)ベクターに基づく。
【0612】
HSVベクター株を産生するために、必須遺伝子と非必須遺伝子との組み合わせをゲノムから除去して、ウイルスが非病原性で細胞傷害性が最小になるようにすることができる。ベクターウイルスは、多くの場合、2つの必須前初期遺伝子ICP4及びICP27の一方または他方または両方の欠失によって産生される。これらは、欠失遺伝子を発現する細胞株での成長を必要する。細胞傷害性を低下させるために、さらに欠失させ得る。潜伏期間中に遺伝子発現を可能にするウイルスの産生については、この期間中も遺伝子発現を継続できるようにするプロモーターを設計する必要があり、これは、HSVベクター開発の分野でかなりの課題であることが証明されている。しかし、HSV潜伏関連転写物(LAT)領域の異なるエレメントをそれぞれ組み込んだ、いくつかの異なるプロモーターシステムは、潜伏中に様々なレベルの効率まで遺伝子発現を示す。これらは、LATプロモーター(LAP1またはLAP2;Goins et al.,1994J of Virology.68(4):2239-2252)のいずれかを使用して、潜伏期間中に遺伝子発現を直接駆動するか、またはLAT領域由来のDNA断片を使用して、個々のプロモーターまたはプロモーターのペアに長期的な活性を付与するかのいずれかである。本明細書でLATP2(LAP2及び他の上流配列を含む;(nts118866-112019-GenBank HE1CG))と呼ばれるこのエレメントは、その後、真のプロモーターとしてではなく、その近くに配置された異種プロモーターに長期活性を付与することが示されている。これらのプロモーターは、単独で使用された場合、潜伏期間中、活性ではない。
【0613】
いくつかの実施形態によれば、本開示の単純ヘルペスウイルスは、例えば、HSV1またはHSV2株、またはHSV1等のその誘導体に由来し得る。誘導体には、HSV1及びHSV2株からのDNAを含む型間組換え体が含まれる。例えば、誘導体は、HSV1またはHSV2ゲノムのいずれかに対して少なくとも70%、例えば、少なくとも80%、例えば、少なくとも90%または95%の配列相同性を有する。本開示のウイルスを得るために使用され得る他の誘導体には、ICP4及び/またはICP27のいずれか中にすでに変異を有する株(例えば、ICP4に欠失を有する株d120等)が含まれる(DeLuca et al.,1985 J.Virol.56(2):558-70)。ICP27に欠失を有するHSV株も産生される。例えば、Reef Hardy and Sandri-Goldin,1994 J.Virol.68(12):7790-99 and Rice and Knipe,1990 J.Virol.64(4):1704-15(strain d27-1)。ICP4及びICP27の両方内に欠失を有する株は、米国特許第5,658,724号、及びSamaniego et al. 1995 J.Virol. 69:5705-15(strain d92)に記載されている。
【0614】
サイトメガロウイルス
いくつかの実施形態によれば、本明細書に記載のワクチン組成物は、サイトメガロウイルスウイルス(CMV)ベクターに基づく。
【0615】
CMVは、ヘルペスウイルス科のベータサブクラスのメンバーである。これは、生涯にわたる潜伏感染または持続感染を確立する、大きい(230kbのゲノムを含む)二本鎖DNAウイルスである。米国等の先進国では、人口の約70%がCMVに感染している。エプスタインバーウイルス及びカポジ肉腫関連ヘルペスウイルス等のガンマヘルペスウイルスとは対照的に、CMVは、非形質転換及び非発癌性である。
【0616】
組換え抗原に対する免疫応答を生じる組換え生CMVの能力は、いくつかの報告で実証されている(Hansen et al,2009 Nat.Med.15:293-299;Karrer et al,2004 J.Virol.78:2255-2264,)。さらに、自己タンパク質を発現するように設計された組換え複製能のあるCMVは、自己タンパク質を発現する細胞に対して長期持続するCD8+T細胞ベースの免疫を生成することが実証されている(Lloyd et al,2003 Biol.Reprod.68:2024-2032,)。Hanson et al.は、SIV抗原を発現する組換えアカゲザルCMVを使用して、アカゲザルをSIVに対して免疫化した(Hansen et al.,2009 Nat.Med.15:293-299)。この免疫化では、末梢組織中のSIVに特異的な多数の活性化エフェクターメモリーCD8+T細胞を誘導し、これは研究の複数年の全期間にわたって持続した。免疫化されたサルは、活性化されたエフェクターメモリーT細胞の存在に起因するSIVチャレンジから実質的に防御された。この研究はまた、CMVに対する既存の免疫では、組換えCMVが新しい免疫応答を誘導する能力を妨げなかったことを示した。
【0617】
いくつかの実施形態によれば、本明細書に開示されるワクチン組成物は、本開示の免疫原をコードする異種核酸を含む組換え複製欠損サイトメガロウイルスを含む。いくつかの実施形態によれば、ウイルス潜伏は対象において確立され、その潜伏により、抗原に対する反復的に刺激された免疫応答がもたらされる。特定の実施形態では、繰り返し刺激される免疫応答は、CD8+T細胞免疫応答を含む。いくつかの実施形態によれば、異種免疫原は、ウイルスまたは腫瘍由来のポリペプチドを含む。
【0618】
いくつかの実施形態によれば、組換え複製欠損サイトメガロウイルスは、ノックアウト変異によって不活化されるgL糖タンパク質等の、不活化されたgB、gD、gH、またはgL糖タンパク質遺伝子を含む。いくつかの実施形態によれば、免疫原をコードする核酸は、構成的プロモーターに作動可能に連結される。いくつかの実施形態によれば、免疫原をコードする核酸は、誘導性プロモーターに作動可能に連結される。いくつかの実施形態によれば、組換え複製欠損サイトメガロウイルスは、マウスサイトメガロウイルスである。他の実施形態では、組換え複製欠損サイトメガロウイルスは、CMVのAD169、Davis、ToledoまたはTowne株等のヒトサイトメガロウイルスである。
【0619】
ウイルス様粒子(VLP)ベクター
いくつかの実施形態によれば、本開示は、真核細胞の原形質膜からのウイルス様粒子(VLP)を提供し、本明細書に記載のとおり、VLPは、それらの表面に免疫原性ウイルスタンパク質を運ぶ。VLPは、単独で、または1つ以上の追加のVLP及び/またはアジュバントと組み合わせて、ウイルス感染から防御する免疫応答を刺激する。
【0620】
いくつかの実施形態によれば、VLPは、マトリックスタンパク質M(M1としても知られる)及び任意によりM2タンパク質をコードする遺伝子の天然及び/または変異核酸配列から産生されるウイルスタンパク質を含む。マトリックスタンパク質Mは、すべての可能な多価サブウイルス構造ワクチンの組み合わせを形成するための普遍的な成分である。M1及びM2タンパク質は、任意のウイルスに由来し得る。例えば、いくつかの実施形態によれば、VLPのM1及び/またはM2タンパク質は、インフルエンザマトリックスタンパク質に由来する。他の実施形態では、VLPのM1及び/またはM2タンパク質は、RSVまたはトゴトウイルスに由来する。M1及び/またはM2タンパク質は、例えば、本明細書または米国特許公開第2008/0031895号及び同第2009/0022762号に開示されているように改変(変異)させ得る。これらは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0621】
VLPは、標準的組換え技術を使用して調製され得る。VLP形成タンパク質(複数可)をコードするポリヌクレオチドは、宿主細胞に導入され、タンパク質が細胞内で発現すると、それらはVLPに集合する。VLPを形成する、及び/またはVLPに組み込まれる分子(構造ポリペプチド及び/または抗原ポリペプチド、例えば、改変抗原性ポリペプチド)をコードするポリヌクレオチド配列は、組換え法を用いて、例えば、遺伝子を発現する細胞からcDNA及びゲノムライブラリーをスクリーニングすることによって、またはこれらを含むことが知られているベクターから遺伝子を誘導することによって、得ることができる。例えば、天然に存在するまたは改変された細胞産物をコードする配列を含むプラスミドは、A.T.C.C.等の寄託機関から、または商業的供給源から入手することができる。目的のヌクレオチド配列を含むプラスミドは、適切な制限酵素で消化することができ、このヌクレオチド配列を含むDNA断片は、標準的分子生物学技術を使用して、遺伝子導入ベクターに挿入することができる。
【0622】
あるいは、cDNA配列は、フェノール抽出及びcDNAまたはゲノムDNAのPCR等の標準的技術を使用して、この配列を発現しているかまたはこの配列を含む細胞から得ることができる。DNAを得て、単離するために使用される技術の説明については、例えば、Sambrook et al.,(上記)を参照されたい。簡潔に言えば、目的の遺伝子を発現する細胞からのmRNAは、オリゴdTまたはランダムプライマーを使用して、逆転写酵素で逆転写することができる。。次に、一本鎖cDNAを、所望の配列のいずれかの側の配列に相補的なオリゴヌクレオチドプライマーを使用するPCRによって増幅することができる(米国特許第4,683,202号、同第4,683,195号及び第4,800,159を参照されたい。また、PCR Technology:Principles and Applications for DNA Amplification,Erlich(ed.),Stockton Press,1989)も参照されたい)。
【0623】
目的のヌクレオチド配列は、DNAシンセサイザー(例えば、an Applied Biosystems Model 392 DNA Synthesizer(入手元ABI,Foster City,Calif.))を使用して、クローン化ではなく、合成により産生され得る。ヌクレオチド配列は、所望の発現産物に適切なコドンで設計することができる。完全な配列は、標準的方法によって調製された重複オリゴヌクレオチドから組み立てられ、完全なコード配列に組み立てられる。例えば、Edge(1981)Nature 292:756;Nambair et al.(1984)Science 223:1299;Jay et al.(1984)J.Biol.Chem.259:6311を参照されたい。
【0624】
いくつかの実施形態によれば、マトリックスコード配列は、RSVマトリックスタンパク質である。他の実施形態では、マトリックスコード配列は、インフルエンザマトリックスタンパク質である。マトリックスコード配列が、1つ以上の変異(改変)、例えば、米国特許公開第2008/0031895号及び同第2009/0022762号に記載されている改変マトリックスタンパク質を含み得ることも明らかであろう。本明細書に記載のVLPは、追加のインフルエンザタンパク質(野生型、改変(変異体)、及び/または野生型もしくは変異体のハイブリッド)をさらに含み得る。
【0625】
本明細書に記載のVLP中で使用されるタンパク質はいずれも、ハイブリッド(またはキメラ)タンパク質であり得る。ポリペプチドの全部または一部が、他のウイルス由来の配列及び/または他のインフルエンザ株由来の配列で置換できることは明らかであろう。いくつかの例示的な実施形態によれば、VLPのタンパク質のいずれも、膜貫通ドメイン及び/または細胞質尾部ドメイン、例えばHAまたはNA等のインフルエンザタンパク質由来のドメインをコードする異種配列を含むという点で、ハイブリッドであり得る。例えば、米国特許公開第2008/0031895号及び同第2009/0022762号を参照されたい。
【0626】
例示的な実施形態では、インフルエンザVLPを形成するために使用される配列は、天然ウイルスポリヌクレオチド配列に対して、約60%~80%(それらの間の任意の値、例えば、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%及び79%等)の配列同一性を呈する、及びより好ましくは、配列は、天然ウイルスポリヌクレオチド配列に対して、80%~100%(またはそれらの間の任意の値、例えば、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%及び99%)の配列同一性を呈する。
【0627】
本明細書に記載の配列のいずれも、追加の配列をさらに含み得る。例えば、ワクチンの効力をさらに高めるために、ハイブリッド分子が発現され、サブウイルス構造に組み込まれる。これらのハイブリッド分子は、マトリックスタンパク質遺伝子をコードする配列を、アジュバントまたは免疫調節部分をコードする配列とDNAレベルで連結することによって生成される。サブウイルス構造の形成中に、これらのハイブリッドタンパク質は、M1または任意のM2がアジュバント分子を運ぶか否かに応じて、粒子内または粒子上に組み込まれる。VLPを形成するために、本明細書に記載の配列へ1つ以上のポリペプチド免疫調節ポリペプチド(例えば、アジュバント)を組み込むことにより、効力を増強させ得、したがって、防御免疫応答を刺激するために必要な抗原の量を減少させ得る。あるいは、1つ以上の追加の分子(ポリペプチドまたは低分子)が、本明細書に記載の配列からVLPを産生後、VLP含有組成物に含まれ得る。
【0628】
これらのサブウイルス構造は、感染性ウイルス核酸を含まず、感染性ではないため、化学的不活化が不要になる。化学的処理がないことにより、天然のエピトープとタンパク質とのコンフォメーションが保持され、これにより、ワクチンの免疫原性が向上する。
【0629】
本明細書に記載の配列は、任意の組み合わせで互いに作動可能に連結させ得る。例えば、1つ以上の配列は、同じプロモーター及び/または異なるプロモーターから発現され得る。以下に説明するように、配列は、1つ以上のベクターに含まれ得る。
【0630】
発現ベクター
VLPに組み込まれることが望まれるポリペプチド(複数可)をコードする配列を含む構築物が合成されると、これらは、発現のために任意の好適なベクターまたはレプリコンにクローン化され得る。多数のクローニングベクターが当業者に知られており、当業者であれば、本明細書の教示及び発現に関する当技術分野で知られている情報を考慮して、任意の特定の宿主細胞型に対して適切なベクター及び制御エレメントを容易に選択することができる。一般に、Ausubel et al(上記)または上記のSambrook et al(上記)を参照されたい。
【0631】
本明細書に記載のVLPに集合する配列を発現するために使用できるベクターの非限定的な例としては、ウイルスベースのベクター(例えば、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス)、バキュロウイルスベクター(実施例を参照)、プラスミドベクター、非ウイルスベクター、哺乳動物ベクター、哺乳動物人工染色体(例えば、リポソーム、粒子状担体等)及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0632】
発現ベクター(複数可)は、典型的には、好適な宿主におけるコード領域の発現を可能にするコード配列及び発現制御エレメントを含む。制御エレメントは、一般に、プロモーター、翻訳開始コドン、ならびに翻訳及び転写終結配列、ならびにインサートをベクターに導入するための挿入部位を含む。翻訳制御エレメント、以下等によって概説されているM.Kozak(例えば、Kozak, M.,Mamm.Genome 7(8):563-574,1996;Kozak,M.,Biochimie 76(9):815-821,1994;Kozak,M.,J Cell Biol 108(2):229-241,1989;Kozak,M.,and Shatkin,A.J.,Methods Enzymol 60:360-375,1979)。
【0633】
例えば、哺乳動物細胞発現の典型的なプロモーターには、SV40初期プロモーター、CMV即時初期プロモーター等のCMVプロモーター(CMVプロモーターは、イントロンAを含むことができる)、RSV、HIV-LTR、マウス乳腺腫瘍ウイルスLTRプロモーター(MMLV-LTR)、FIV-LTR、アデノウイルス主要後期プロモーター(Ad MLP)、及び単純ヘルペスウイルスプロモーター等が挙げられる。他の非ウイルスプロモーター、例えば、マウスメタロチオネイン遺伝子に由来するプロモーター等も、哺乳動物の発現に使用されることがわかる。典型的には、転写終止及びポリアデニル化配列も存在し、翻訳終止コドンの3’側に位置する。好ましくは、コード配列の5’に位置する、翻訳の開始を最適化するための配列も存在する。転写ターミネーター/ポリアデニル化シグナルの例としては、SV40由来のもの(Sambrook,et al.,上記)、ならびにウシ成長ホルモンターミネーター配列が挙げられる。スプライスドナー及びアクセプター部位を含むイントロンもまた、本明細書に記載のとおり、構築物に設計され得る(Chapman et al.,Nuc.Acids Res.(1991)19:3979-3986)。
【0634】
エンハンサーエレメントはまた、哺乳動物構築物の発現レベルを増加させるために本明細書で使用され得る。例としては、SV40 初期遺伝子エンハンサー(Dijkema et al.,EMBO J.(1985)4:761に記載)、ラウス肉腫ウイルスの長い末端反復(LTR)に由来のエンハンサー/プロモーター(Gorman et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1982b)79:6777に記載)、及びヒトCMV由来のエレメント(Boshart et al.,Cell(1985)41:521に記載)、例えばCMVのイントロンA配列に含まれるエレメント(Chapman et al.,Nuc.Acids Res.(1991)19:3979-3986)が挙げられる。
【0635】
いくつかの実施形態によれば、1つ以上のベクターは、VLPに組み込まれるタンパク質をコードする1つ以上の配列を含み得る。例えば、単一のベクターは、VLP内に見られるすべてのタンパク質をコードする配列を運ぶことができる。あるいは、複数のベクター(例えば、それぞれが単一のポリペプチドコード配列をコードする複数の構築物、またはそれぞれが1つ以上のポリペプチドコード配列をコードする複数の構築物)を使用することができる。単一のベクターが複数のポリペプチドコード配列を含む実施形態では、配列は、同じベクター内の同じまたは異なる転写制御エレメント(例えば、プロモーター)に作動可能に連結され得る。さらに、ベクターは、導入遺伝子サイレンシングを防ぎ、染色体組み込み部位に関係なく、一貫し、安定し、かつ高レベルの遺伝子発現が得られるクロマチンオープニングエレメントを含む追加の遺伝子発現制御配列を含み得る。これらは、ハウスキーピング遺伝子の近位に位置するDNA配列モチーフであり、染色体内の導入遺伝子の位置に関係なく、ベクター内で、組み込まれた導入遺伝子の周囲に転写活性のあるオープンクロマチン環境を作り出し、転写及びタンパク質の発現を最大化する。
【0636】
さらに、非ウイルス性免疫原、例えば、非インフルエンザタンパク質をコードする1つ以上の配列を発現させ、VLPに組み込むことができる。これには、これらに限定されないが、免疫調節分子(例えば、以下に記載のアジュバント)、例えば、免疫調節オリゴヌクレオチド(例えば、CpG)、サイトカイン、無毒化細菌毒素等を含む及び/またはこれらをコードする配列が挙げられる。
【0637】
VLPの産生
次に、本明細書に記載の配列及び/またはベクターを使用して、適切な宿主細胞を形質転換する。本明細書に記載のVLPを形成するタンパク質をコードする構築物(複数可)は、これらに限定されないが、昆虫、真菌(酵母)及び哺乳動物の細胞等、様々な異なる細胞型を使用して、インフルエンザVLPを産生するための効率的な手段を提供する。
【0638】
いくつかの実施形態によれば、サブウイルス構造ワクチンは、当業者に公知であるとおり、トランスフェクション、連続細胞株の樹立(標準プロトコルを使用)、及び/または目的の免疫原性遺伝子(例えば、インフルエンザ遺伝子)を運ぶDNA構築物による感染の後に、真核細胞内で産生される。サブウイルス構造の形成に必要なタンパク質の発現レベルは、選択された遺伝子の転写を駆動する真核生物またはウイルスプロモーターの配列最適化によって最大化される。サブウイルス構造ワクチンは、培養培地に放出され、そこから精製され、その後ワクチンとして製剤化される。サブウイルス構造は、感染性ではないため、一部の死滅ウイルスワクチンの場合のように、VLPの不活化は不要である。
【0639】
本明細書に記載の配列から発現される免疫原性ポリペプチドが、表面に提示された抗原性糖タンパク質を有するVLPに自己集合する能力により、これらのVLPは、所望の配列の同時導入によって多くの宿主細胞で産生され得る。配列(複数可)(例えば、1つ以上の発現ベクター中)は、宿主細胞に様々な組み合わせで安定的に及び/または一時的に組み込まれてもよい。
【0640】
好適な宿主細胞としては、これらに限定されないが、細菌、哺乳動物、バキュロウイルス/昆虫、酵母、植物及びツメガエル細胞が挙げられる。
【0641】
例えば、複数の哺乳動物細胞株が当技術分野で知られており、American Type Culture Collection (A.T.C.C.)から入手可能な一次細胞及び不死化細胞株、これらに限定されないが、例えば、MDCK、BHK、VERO、MRC-5、WI-38、HT1080、293、293T、RD、COS-7、CHO、Jurkat、HUT、SUPT、C8166、MOLT4/クローン8、MT-2、MT-4、H9、PM1、CEM、骨髄腫細胞(例えば、SB20細胞)及びCEMX174(そのような細胞株は、例えば、ATCCから入手可能である)が挙げられる。
【0642】
同様に、E.coli、Bacillus subtilis、及びStreptococcus spp.等の細菌宿主は、現在の発現構築物で使用される。
【0643】
本開示において有用な酵母宿主としては、とりわけ、Saccharomyces cerevisiae、Candida albicans、Candida maltosa、Hansenula polymorpha、Kluyveromyces fragilis、Kluyveromyces lactis、Pichia guillerimondii、Pichia pastoris、Schizosaccharomyces pombe、及びYarrowia lipolyticaが挙げられる。真菌宿主としては、例えば、アスペルギルスが挙げられる。
【0644】
バキュロウイルス発現ベクターで使用する昆虫細胞としては、とりわけ、ネッタイシマカ(Aedes aegypti)、オートグラファカリフォルニカ(Autographa californica)、カイコ(Bombyx mori)、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)、ツマジロクサヨトウ(Spodoptera frugiperda)、及びトリコプルシア・ニ(Trichoplusia ni)が挙げられる。Latham&Galarza(2001)J.Virol.75(13):6154-6165;Galarza et al.(2005)Viral.Immunol.18(1):244-51;及び米国特許公開第200550186621号及び同第20060263804号を参照されたい。
【0645】
上記の配列の1つ以上を発現する細胞株は、VLPのタンパク質をコードする1つ以上の発現ベクター構築物を安定して組み込むことによって、本明細書で提供される開示を前提として容易に生成することができる。安定して組み込まれたインフルエンザ配列(複数可)の発現を調節するプロモーターは、構成的または誘導的であり得る。したがって、本明細書に記載の配列(例えば、ハイブリッドタンパク質)を宿主細胞に導入し、ポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質を発現させたときに、マトリックスタンパク質の1つ以上が、両方とも安定して組み込まれる細胞株を生成することができ、抗原性糖タンパク質を提示する非複製ウイルス粒子が形成される。
【0646】
VLP産生細胞株が由来する親細胞株は、例えば、哺乳動物、昆虫、酵母、細菌の細胞株等、上記の任意の細胞から選択することができる。例示的実施形態において、細胞株は、哺乳動物細胞株(例えば、293、RD、COS-7、CHO、BHK、MDCK、MDBK、MRC-5、VERO、HT1080、及び骨髄腫細胞)である。哺乳動物細胞を使用してインフルエンザVLPを産生することにより、(i)VLPの形成(ii)翻訳後改変(グリコシル化、パルミトイル化)及び出芽の修正;(iii)非哺乳動物細胞汚染物質の不在、及び(iv)精製の容易さがもたらされる。
【0647】
細胞株を作製することに加えて、免疫原コード配列はまた、宿主細胞において一時的に発現され得る。好適な組換え発現宿主細胞系としては、これらに限定されないが、細菌、哺乳動物、バキュロウイルス/昆虫、ワクシニア、セムリキ森林ウイルス(SFV)、アルファウイルス(シンドビス、ベネズエラウマ脳炎(VEE)等)、哺乳動物、酵母、ツメガエル発現系が挙げられ、当該分野において周知である。特に好ましい発現系は、哺乳動物細胞株、ワクシニア、シンドビス、昆虫及び酵母系である。
【0648】
例えば、以下を含む多くの好適な発現系が市販されている:バキュロウイルス発現(Reilly,P.R.,et al.,(1992)BACULOVIRUS EXPRESSION VECTORS:A LABORATORY MANUAL;Beames,et al.,(1991)Biotechniques 11:378;Pharmingen;Clontech,Palo Alto,Calif.))、ワクシニア発現系(Earl,P.L.,et al.,「Expression of proteins in mammalian cells using vaccinia」(1991)In Current Protocols in Molecular Biology(F.M.Ausubel,et al.Eds.),Greene Publishing Associates&Wiley Interscience,New York;Moss,B.,et al.,米国特許第5,135,855号、issued Aug.4,1992)、細菌での発現(Ausubel,F.M.,et al.,CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY,John Wiley and Sons,Inc.,Media Pa.;Clontech)、酵母での発現(Rosenberg,S.and Tekamp-Olson,P.,U.S.Pat.No.RE35,749,issued,Mar.17,1998,参照により本明細書に組み込まれる;Shuster,J.R.,米国特許第5,629,203号,issued May 13,1997,参照により本明細書に組み込まれる;Gellissen,G.,et al.,(1992)Antonie Van Leeuwenhoek,62(1-2):79-93;Romanos,M.A.,et al.,(1992)Yeast 8(6):423-488;Goeddel,D.V.,(1990)Methods in Enzymology 185;Guthrie,C.,and G.R.Fink,(1991)Methods in Enzymology 194)、哺乳動物細胞での発現(Clontech;Gibco-BRL,Ground Island,N.Y.;e.g.,Chinese hamster ovary(CHO)cell lines(Haynes,J.,et al.,(1983)Nuc.Acid.Res.1983 11:687-706;Lau,Y.F.,et al.,(1984)Mol.Cell.Biol.4:1469-1475;Kaufman,R.J.,「Selection and coamplification of heterologous genes in mammalian cells,」(1991)in Methods in Enzymology,vol.185,pp 537-566.Academic Press,Inc.,San Diego Calif.)、及び植物細胞での発現(植物クローニングベクター,Clontech Laboratories,Inc.,Palo-Alto,Calif.,及びPharmacia LKB Biotechnology,Inc.,Piscataway,N.J.;Hood,E.,et al.,(1986)J.Bacteriol.168:1291-1301;Nagel,R.,et al.,(1990)FEMS Microbiol.Lett.67:325;An,et al.,「Binary Vectors」and others(1988)Plant Molecular Biology Manual A3:1-19;Miki,B.L.A.,et al.,pp.249-265、and others(1987)Plant DNA Infectious Agents(Hohn,T.,et al.,eds.)Springer-Verlag,Wien,Austria;1997Plant Molecular Biology:Essential Techniques,P.G.Jones and J.M.Sutton,New York,J.Wiley;Miglani,1998 Gurbachan Dictionary of Plant Genetics and Molecular Biology,New York,Food Products Press,;Henry,R.J.,1997 Practical Applications of Plant Molecular Biology,New York,Chapman&Hall)。
【0649】
選択された発現系及び宿主に応じて、VLPは、粒子形成ポリペプチド(複数可)が発現され、VLPが形成され得る条件下で、発現ベクターによって形質転換された宿主細胞を成長させることによって産生される。適切な成長条件の選択は、当業者の範囲内である。VLPが形成され、細胞内に保持される場合、細胞は、化学的、物理的、または機械的手段を使用して破壊され、これにより、細胞は溶解するが、VLPは、実質的に無傷に維持される。このような方法は当業者に知られており、例えば、Protein Purification Applications:A Practical Approach(E.L.V.Harris and S.Angal,Eds.,1990)に記載されている。あるいは、VLPを分泌し、周囲の培養培地から採取することもできる。
【0650】
次に、粒子は、その完全性を保持する方法を使用して、例えば、密度勾配遠心分離、例えば、ショ糖勾配、PEG沈殿、ペレット化等(例えば、Kirnbauer et al.(1993)J.Virol.67:6929-6936を参照されたい)、ならびに例えば、標準的精製技術、例えば、イオン交換及びゲル濾過クロマトグラフィーによって、単離(または実質的に精製)される。
【0651】
細菌ベクターワクチン
いくつかの実施形態によれば、本明細書に記載のワクチン組成物は、細菌ベクターに基づく。
【0652】
遺伝子工学技術により、重要な病原性遺伝子を同定して欠失させることが可能になり、これにより、病原性細菌の弱毒化が可能になり、病原性形態に戻ることができないベクターが作製された。サルモネラエンテリカの異なる血清型(それぞれS.typhi及びS.typhimuriumと呼ばれる血清型Typhi及びTyphimuriumについていくつかの変異が報告されており、最も頻繁に使用されるのはaroA変異(及びaroC及びaroD)であり、これにより、微生物が芳香族化合物を合成する能力が遮断される。これにより、細菌は宿主内で再生できなくなるが、小腸に侵入し、抗原を産生して効果的な免疫応答を誘発するのに十分な時間感染し続ける能力を保持する(Cardenas and Clements,1992 Clin Microbiol Rev 5:328-342)。病原性を減弱できる他の有用な変異は、ヌクレオチドアデニン(pur)及びグアニン(guaBA)、ならびに外膜タンパク質C及びF(ompC、ompF)の生合成、ならびにcAMP受容体(cya/crp)の発現、UDP-ガラクトースからUDP-グルコース(galE)への変換、DNAの組換え及び修復(recA、recBC)、ならびに毒性遺伝子の調節(phoP、phoQ)の生合成(Mastroeni et al.,2001 Vet J 161:132-164)に影響を与える。
【0653】
リステリア・モノサイトゲネス感染症(リステリア症)は、細菌血症、髄膜炎、胎児の喪失、及び死亡を引き起こす可能性のある、まれかつ予防可能な食中毒であり、高齢者、妊婦、及び免疫不全状態のヒトにとっても最も高いリスクとなる。ワクチン目的のリステリア菌の弱毒化は、栄養要求性変異株(Zhao et al.,2005 Infect Immun 73:5789-5798)、または遺伝子actA及びインターナリンB(inlB)等の病原性因子の欠失(Brockstedt et al.,2004 Proc Natl Acad Sci U S A 101:13832-13837)を用いて達成されている。
【0654】
異種抗原送達について研究されている他の細菌種としては、以下が挙げられる:ストレプトコッカス・ゴルドニイ(Streptococcus gordonii)(Lee 2003,Curr Opin Infect Dis.2003;16:231-235;Oggioni et al.,1995,Vaccine 13:775-779),コレラ菌(Vibrio cholerae)(Kaper and Levine 1990,Res Microbiol.1990;141:901-906;Silva et al.,2008 Biotechnol Lett 30:571-579),ウシ型結核菌(Mycobacterium bovis)(BCG)(Bastos et al.,2009 Vaccine.2009;27:6495-6503;Nasser Eddine and Kaufmann,2005,Microbes Infect 7:939-946)、エルシニア・エンテロコリティカ(Yersinia enterocolitica)(Leibiger et al.,2008,Vaccine 26:6664-6670)、及びフレクスナー赤痢菌(Shigella flexnery)(Barry et al.,2006,Vaccine 24:3727-3734)。ワクチンベクターとしての使用が調査されている他の種としては、以下が挙げられる;緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)(Epaulard et al.,2006 Mol Ther.2006;14:656-661)、枯草菌(Bacillus subtilis)(Duc et al.,2003,Infect Immun 71:2810-2818;Isticato et al.,2001,J Bacteriol 183:6294-6301)及びスメグマ菌(Mycobacterium smegmatis)(Lu et al.,2009 Vaccine.2009;27:972-978)。獣医学の分野では、異種抗原及びベクター自体に対して、二重の防御免疫応答を発生させるために他の細菌が使用されてきた。それらの細菌としては、豚丹毒菌(Erysipelothrix rhusiopathiae)(Ogawa et al.,2009,Vaccine 27:4543-4550)、マイコプラズマガリセプティカム(Mycoplasma gallisepticum)(Muneta et al.,2008,Vaccine.2008;26:5449-5454)、及びコリネバクテリウム・シュードツベルクロシス(Corynebacterium pseudotuberculosis)(Moore et al.,1999,Vaccine.1999;18:487-497)が挙げられる。複数の弱毒生細菌ワクチンが獣医用に認可されている。例えば、ローソニアイントラセルラリス(Lawsonia intracellularis)、ストレプトコッカスエクイ(Streptococcus equi)(aroA遺伝子中で欠失)、クラミドフィラ・アボルタス(Chlamydophila abortus)、マイコプラズマシノビアエ(Mycoplasma synoviae)、マイコプラズマガリセプティカム(Mycoplasma gallisepticum)(温度感受性変異体)、及びボルデテラアビウム(Bordetella avium)等である。菌株のほとんどは、弱毒化されたものとして選択されたが、弱毒化を促進するために正確に変異されておらず、異種抗原を保有していない(Meeusen et al.,2007,Clin Microbiol Rev 20:489-510)。
【0655】
遺伝子ワクチン
いくつかの実施形態によれば、本開示は、調節エレメントに作動可能に連結された、本明細書に記載の保存された免疫原性タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子を送達するための組成物に関する。本開示の態様は、本開示のタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む組換えワクチンを送達するための組成物、本開示のタンパク質をコードする、及び/または本開示のタンパク質を含む弱毒生病原体;本開示のタンパク質を含む死滅病原体;または、本開示のタンパク質を含むリポソームまたはサブユニットワクチン等の組成物に関する。本開示はさらに、組成物を含む注射可能な医薬組成物に関する。
【0656】
本明細書に記載のとおり、本開示によるワクチンは、個体の免疫系の活性を調節するために個体に送達され、それによって免疫応答を増強する。タンパク質をコードする核酸分子が個体の細胞に取り込まれたときに、ヌクレオチド配列が細胞内で発現され、それによってタンパク質が個体に送達される。組換えワクチンの一部として、及び弱毒化ワクチンの一部として、単離されたタンパク質またはベクターのタンパク質部分として、プラスミド等、核酸分子上のタンパク質のコード配列を送達する方法も本明細書に記載されている。
【0657】
DNAワクチンは、米国特許第5,593,972号、第5,739,118号、第5,817,637号、第5,830,876号、第5,962,428号、第5,981,505号、第5,580,859号、第5,703,055号、第5,676,594号に記載され、その中で引用されている優先権出願は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれている。これらの出願で説明されている送達プロトコルに加えて、DNAを送達する代替方法が、米国特許第4,945,050号及び同第5,036,006号に記載され、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0658】
本開示のいくつかの実施形態による遺伝子免疫化は、感染性病原体または感染性ベクターを使用することなく、効果的な免疫応答を誘発する。通常CTL応答を生じさせるワクチン接種技術は、感染性病原体の使用を通じて行う。完全で広範な免疫応答は、一般に、死菌ワクチン、不活化ワクチン、またはサブユニットワクチンで免疫化された個体では呈示されない。本開示のいくつかの実施形態は、感染性病原体を使用するワクチン接種に関連するリスク及び問題なく、安全な方法で、免疫応答の完全な補完を達成する。
【0659】
本開示のいくつかの実施形態によれば、本明細書に記載の保存された免疫原性タンパク質をコードするDNAまたはRNAは、それが発現される個体または対象の細胞に導入され、したがって標的タンパク質を産生する。DNAまたはRNAは、個体の細胞での発現に必要な調節エレメントに連結している。DNAの調節エレメントには、プロモーター及びポリアデニル化シグナルが含まれる。さらに、コザック領域等の他のエレメントも遺伝子構築物に含まれ得る。
【0660】
遺伝子ワクチンの遺伝子構築物は、遺伝子発現に必要な調節エレメントに作動可能に連結された、本明細書に記載の保存された免疫原性タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む。したがって、生細胞へのDNAまたはRNA分子の組み込みは、標的タンパク質をコードするDNAまたはRNAの発現をもたらし、したがって、標的タンパク質の産生をもたらす。
【0661】
細胞に取り込まれると、調節エレメントに作動可能に連結された本明細書に記載の保存された免疫原性タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む遺伝子構築物は、機能する染色体外分子として細胞内に存在し続けるか、または細胞の染色体DNAに組み込まれ得る。DNAは、細胞に導入され、プラスミドの形態で別個の遺伝子物質として残存する。あるいは、染色体に組み込まれ得る線状DNAを細胞に導入することができる。DNAを細胞に導入する場合、染色体へのDNAの組み込みを促進する試薬を添加してもよい。組み込みを促進するのに有用なDNA配列もまた、DNA分子に含まれ得る。染色体DNAへの組み込みは必然的に染色体の操作を必要とするので、複製または非複製の染色体外分子としてDNA構築物を維持することが好ましい。これにより、ワクチンの有効性に影響を与えることなく、染色体にスプライシングすることによって、細胞を損傷するリスクが軽減される。あるいは、RNAを細胞に投与することもできる。セントロメア、テロメア及び複製起点等の線状ミニ染色体として、遺伝子構築物を提供することも企図される。
【0662】
遺伝子ワクチンの遺伝子構築物の必要なエレメントには、本明細書に記載の保存された免疫原性タンパク質をコードするヌクレオチド配列、及びワクチン接種された個体の細胞におけるその配列の発現に必要な調節エレメントが含まれる。調節エレメントは、発現を可能にするために標的タンパク質をコードするDNA配列に作動可能に連結されている。
【0663】
本明細書に記載の保存された免疫原性タンパク質をコードする分子は、タンパク質に翻訳されるタンパク質をコードする分子である。このような分子には、標的タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むDNAまたはRNAが含まれる。これらの分子は、cDNA、ゲノムDNA、合成DNAまたはそれらのハイブリッド、あるいはmRNA等のRNA分子であり得る。したがって、本明細書で使用される場合、「DNA構築物」、「遺伝子構築物」、「核酸分子」、「核酸」及び「ヌクレオチド配列」という用語は、DNA及びRNA分子の両方を指すことが意図される。
【0664】
本開示の免疫原をコードする核酸は、例えば、コード配列が裸のDNAとして投与されるDNAワクチンの成分として使用することができるか、または、例えば、免疫原をコードするミニ遺伝子は、ウイルスベクター中に存在することができる。コード配列は、例えば、マイコバクテリウム、組換えキメラアデノウイルス、または組換え弱毒化水疱性口内炎ウイルス内で発現させることができる。コード化配列はまた、例えば、複製または非複製アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、弱毒化結核菌ベクター、バシラスカルメットゲリン(BCG)ベクター、ワクシニアまたは改変ワクシニアアンカラ(MVA)ベクター、別のポックスウイルスベクター、組換えポリオ及び他の腸内ウイルスベクター、サルモネラ種細菌ベクター、シゲラ種細菌ベクター、ベネズエラウマ脳炎ウイルス(VEE)ベクター、セムリキ森林ウイルスベクター、またはタバコモザイクウイルスベクター内に存在し得る。コード配列はまた、例えば、CMVプロモーター等の活性プロモーターを有するDNAプラスミドとして発現させ得る。他の生ベクターを使用して、本開示の配列を表現することもできる。本開示の免疫原の発現は、好ましくはヒト細胞における発現を最適化するコドン及びプロモーターを使用して、免疫原をコードする核酸をそれらの細胞に導入することによって、患者自身の細胞において誘導され得る。DNAワクチンを作製し、使用する方法の例は、米国特許第5,580,859号、第5,589,466号、及び第5,703,055号に開示されている。
【0665】
DNA分子の遺伝子発現に必要な調節エレメントとしては、プロモーター、開始コドン、終止コドン、及びポリアデニル化シグナルが挙げられる。さらに、多くの場合、エンハンサーは、遺伝子発現に必要である。これらのエレメントは、ワクチン接種を受けた個体において作動可能である必要がある。さらに、これらのエレメントは、ヌクレオチド配列がワクチン接種された個体の細胞で発現され得、したがって標的タンパク質が産生され得るように、標的タンパク質をコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結される必要がある。
【0666】
開始コドン及び終止コドンは、一般に、標的タンパク質をコードするヌクレオチド配列の一部であると考えられている。しかし、これらのエレメントは、ワクチン接種を受けた個体内で機能的である必要がある。
【0667】
同様に、使用されるプロモーター及びポリアデニル化シグナルは、ワクチン接種された個体の細胞内で機能的でなければならない。
【0668】
特にヒト用の遺伝子ワクチンの産生において、本開示のいくつかの実施形態を実施するのに有用なプロモーターの例としては、これらに限定されないが、サルウイルス40(SV40)由来のプロモーター、マウス乳腺腫瘍ウイルス(MMTV)プロモーター、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、例えば、HIVロングターミナルリピート(LTR)プロモーター、モロニーウイルス、ALV、サイトメガロウイルス(CMV)、例えば、CMV即時初期プロモーター(CMV IE)、エプスタインバーウイルス(EBV)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)、ならびに、ヒトアクチン、ヒトミオシン、ヒトヘモグロビン、ヒト筋肉クレアチン、ヒトメタロチオネイン等のヒト遺伝子由来のプロモーターが挙げられる。
【0669】
本開示のいくつかの実施形態を実施するのに有用なポリアデニル化シグナルの例としては、特にヒト用の遺伝子ワクチンの産生において、これらに限定されないが、SV40ポリアデニル化シグナル及びLTRポリアデニル化シグナルが挙げられる。特に、SV40ポリアデニル化シグナルと呼ばれる、pCEP4プラスミド(Invitrogen,San Diego Calif.)中にあるSV40ポリアデニル化シグナルを使用することができる。さらに、ウシ成長ホルモン(bgh)ポリアデニル化シグナルは、この目的に役立ち得る。
【0670】
DNA発現に必要な調節エレメントに加えて、他のエレメントもDNA分子に含まれ得る。そのような追加のエレメントには、エンハンサーが含まれる。エンハンサーは、これらに限定されないが、ヒトアクチン、ヒトミオシン、ヒトヘモグロビン、ヒト筋肉クレアチン、及びCMV、RSV、及びEBV由来のもの等のウイルスエンハンサー(CMV IEエンハンサー等)を含む群から選択され得る。
【0671】
遺伝子構築物は、構築物を染色体外に維持し、細胞内に構築物の複数のコピーを産生するために、哺乳動物の複製起点を提供することができる。Invitrogen(San Diego,Calif.)のプラスミドpCEP4及びpREP4には、エプスタインバーウイルスの複製起点及び核抗原EBNA-1コード領域が含まれており、組み込むことなく、高コピーのエピソーム複製を産生する。
【0672】
何らかの理由で遺伝子構築物を受け取る細胞を排除することが望ましい場合、細胞破壊の標的として機能する追加のエレメントを追加することができる。発現可能な形態のヘルペスチミジンキナーゼ(tk)遺伝子を遺伝子構築物に含めることができる。構築物が細胞に導入されたときに、tkが産生される。ガンシクロビルという薬物は、個体に投与することができ、その薬物は、tkを産生するあらゆる細胞の選択的死滅を引き起こす。したがって、ワクチン接種された細胞の選択的破壊を可能にするシステムを提供することができる。
【0673】
機能的遺伝子構築物であるためには、調節エレメントは、標的タンパク質をコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結されなければならない。したがって、開始及び終止コドンが、コード配列とインフレームである必要がある。
【0674】
目的のタンパク質及び別のまたは他の目的のタンパク質をコードするオープンリーディングフレーム(ORF)を、同じベクターまたは異なるベクター上で細胞に導入することができる。ベクター上のORFは、別々のプロモーターまたは単一のプロモーターによって制御され得る。ポリシストロン性メッセージを生じさせる後者の配置では、ORFは、翻訳停止及び開始シグナルによって分離される。これらのORF間に内部リボソーム侵入部位(IRES)部位が存在することにより、バイシストロン性またはポリシストロン性mRNAの翻訳の内部開始により、目的の2番目のORFまたは3番目のORF等に由来する発現産物の産生が可能になる。
【0675】
細胞に取り込まれたときに、遺伝子構築物(複数可)は、機能する染色体外分子として細胞内に存在し続ける可能性がある、及び/または細胞の染色体DNAに組み込まれる。DNAは、細胞に導入され、プラスミド(複数可)の形態で別個の遺伝子物質として残存する。あるいは、染色体に組み込まれ得る線状DNAを細胞に導入することができる。DNAを細胞に導入する場合、染色体へのDNAの組み込みを促進する試薬を添加してもよい。組み込みを促進するのに有用なDNA配列もまた、DNA分子に含まれ得る。あるいは、RNAを細胞に投与してもよい。セントロメア、テロメア及び複製起点等の線状ミニ染色体として、遺伝子構築物を提供することも企図される。遺伝子構築物は、細胞内に生存する、弱毒化された生きた微生物または組み換え微生物ベクター中の、遺伝子物質の一部のままであってもよい。遺伝子構築物は、遺伝子物質が細胞の染色体に組み込まれるか、染色体外のままである組換えウイルスワクチンのゲノムの一部であってもよい。遺伝子構築物は、核酸分子の遺伝子発現に必要な調節エレメントを含む。エレメントとしては、プロモーター、開始コドン、終止コドン、及びポリアデニル化シグナルが挙げられる。さらに、エンハンサーは、多くの場合、標的タンパク質または免疫調節タンパク質をコードする配列の遺伝子発現に必要とされる。これらのエレメントは、所望のタンパク質をコードする配列に作動可能に連結され、調節エレメントは、それらが投与される個体において作動可能である必要がある。
【0676】
いくつかの実施形態によれば、タンパク質産生を最大化するために、構築物が投与される細胞における遺伝子発現に十分に適した調節配列を選択してもよい。さらに、細胞内で最も効率よく転写されるコドンを選択してもよい。当業者は、細胞内で機能的であるDNA構築物を産生することができる。
【0677】
タンパク質が使用されるいくつかの実施形態によれば、例えば、当業者は、周知の技術を使用して、本開示のタンパク質を産生し、単離することができる。タンパク質が使用されるいくつかの実施形態によれば、例えば、当業者は、周知の技術を使用して、本開示のタンパク質をコードするDNA分子を、周知の発現系で使用するために、市販の発現ベクターに挿入することができる。例えば、市販のプラスミドpSE420(Invitrogen, San Diego, Calif.)は、E.coli中でのタンパク質の産生に使用され得る。市販のプラスミドpYES2(Invitrogen,San Diego,Calif.)は、例えば、酵母のS.cerevisiae株中での産生に使用され得る。市販のMAXBAC(商標)完全バキュロウイルス発現系(Invitrogen,San Diego,Calif.)は、例えば、昆虫細胞における産生のために使用してもよい。市販のプラスミドpcDNA1またはpcDNA3(Invitrogen,San Diego,Calif.)は、例えば、チャイニーズハムスター卵巣細胞等の哺乳動物細胞における産生のために使用してもよい。当業者は、これらの市販の発現ベクター及び系または他のものを使用して、日常的な技術及び容易に入手可能な出発材料によってタンパク質を産生することができる(例えば、Sambrook et al.,(1989)Molecular Cloning a Laboratory Manual,Second Ed.Cold Spring Harbor Press.を参照されたい)。したがって、所望のタンパク質は、原核生物系及び真核生物系の両方内で調製することができ、その結果、タンパク質の処理された形態のスペクトルが得られる。
【0678】
当業者は、他の市販の発現ベクター及び系を使用するか、または周知の方法及び容易に入手可能な出発材料を使用して、ベクターを産生することができる。プロモーター及びポリアデニル化シグナル等の必要な制御配列、及び好ましくはエンハンサーを含む発現系は、容易に入手可能であり、様々な宿主について当技術分野で知られている。例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning a Laboratory Manual,Second Ed.Cold Spring Harbor Press(1989)を参照されたい。遺伝子構築物は、構築物がトランスフェクトされる細胞株において機能的であるプロモーターに作動可能に連結されたタンパク質コード配列を含む。構成的プロモーターの例としては、サイトメガロウイルスまたはSV40由来のプロモーターが挙げられる。誘導性プロモーターの例としては、マウス乳腺白血病ウイルスまたはメタロチオネインプロモーターが挙げられる。当業者は、容易に入手可能な出発材料から、本開示のタンパク質をコードするDNAで細胞をトランスフェクトするのに有用な遺伝子構築物を容易に産生することができる。タンパク質をコードするDNAを含む発現ベクターは、適合性のある宿主を形質転換するために使用され、その後、外来DNAの発現が起こる条件下で培養され、維持される。
【0679】
産生されたタンパク質は、細胞を溶解することによって、または適宜、かつ必要に応じて、当業者に公知である培養培地から分泌される場合、培養物から回収される。当業者は、周知の技術を使用して、そのような発現系を使用して産生されるタンパク質を単離することができる。上記のように特定のタンパク質に特異的に結合する抗体を使用して、天然源からタンパク質を精製する方法は、組換えDNA方法論によって産生されるタンパク質の精製に等しく適用することができる。
【0680】
組換え技術によるタンパク質の産生に加えて、自動ペプチドシンセサイザーを使用して、単離された本質的に純粋なタンパク質を産生することもできる。そのような技術は、当業者によく知られており、DNAにコードされたタンパク質の産生において提供されていない置換を有する誘導体である場合に有用である。
【0681】
本開示のいくつかの実施形態によれば、遺伝子ワクチンは、免疫化される個体に直接投与され得るか、または投与後に再移植される個体の除去された細胞にエクスビボで投与され得る。いずれの経路でも、遺伝子物質は、個体の身体内に存在する細胞に導入される。
【0682】
核酸分子は、DNA注射(DNAワクチン接種とも呼ばれる)、組換えアデノウイルス、組換えアデノウイルス関連ウイルス及び組換えワクシニア等の組換えベクター等、いくつかの周知の技術のいずれかを使用して送達され得る。
【0683】
遺伝子ワクチンの投与経路としては、これらに限定されないが、筋肉内、経皮内、腹腔内、皮内、皮下、静脈内、動脈内、眼内及び経口、ならびに局所的、経皮的、吸入もしくは座剤による、または粘膜組織への投与、例えば、膣、直腸、尿道、頬側及び舌下組織の洗浄が挙げられる。好ましい投与経路としては、筋肉内、腹腔内、皮内及び皮下注射が挙げられる。遺伝子構築物は、これらに限定されないが、従来の注射器、無針注射装置、または「微粒子遺伝子銃(microprojectile bombardment gene gun)」等の手段によって投与され得る。
【0684】
いくつかの実施形態によれば、核酸分子は、ポリヌクレオチド機能増強剤または遺伝子ワクチン促進剤(「GVF」)剤の投与と併用して、細胞に送達される。ポリヌクレオチド機能増強剤は、米国特許第5,593,972号、同第5,962,428号、及び国際出願PCT/US94/00899(1994年1月26日出願)に記載されている。遺伝子ワクチン促進剤は、米国特許第021,579号(1994年4月1日に出願)に記載されている。核酸分子と併用して投与される助剤は、核酸分子との混合物として投与するか、または核酸分子の投与の前または後に別々に同時に投与してもよい。加えて、トランスフェクション剤及び/または複製剤及び/または炎症剤として機能し得る、及びGVFと同時投与され得る他の剤としては、成長因子、サイトカイン及びリンフォカイン、例えば、α-インターフェロン、γ-インターフェロン、GM-CSF、血小板由来成長因子(PDGF)、TNF、上皮成長因子(EGF)、IL-1、IL-2、IL-4、IL-6、IL-10、IL-12、及びIL-15、線維芽細胞成長因子、免疫刺激複合体(ISCOMS)等の界面活性剤、フロイント不完全アジュバント、モノホスホリルリピドA(WL)等のLPS類似体、ムラミルペプチド、スクアレン及びスクアレン等のキノン類似体及び小胞が挙げられ、ヒアルロン酸は、遺伝子構築物と組み合わせて投与されてもよい。いくつかの実施形態によれば、免疫調節タンパク質をGVFとして使用することができる。いくつかの実施形態によれば、核酸分子は、送達/取り込みを増強するためにPLGと関連して提供される。
【0685】
本開示のいくつかの実施形態による遺伝子ワクチンは、約1ナノグラム~約1000マイクログラムのDNAを含む。いくつかの例示的な実施形態によれば、ワクチンは、約10ナノグラム~約800マイクログラムのDNAを含む。いくつかの例示的な実施形態によれば、ワクチンは、約0.1~約500マイクログラムのDNAを含む。いくつかの例示的な実施形態によれば、ワクチンは、約1ナノグラム~約350マイクログラムのDNAを含む。いくつかの例示的な実施形態によれば、ワクチンは、約25~約250マイクログラムのDNAを含む。いくつかの例示的な実施形態によれば、ワクチンは、約100マイクログラムのDNAを含む。
【0686】
遺伝子構築物は、任意により、以下のような1つ以上の応答増強剤と共に製剤化され得る:トランスフェクションを増強する化合物、すなわち、トランスフェクション剤;細胞分裂を刺激する化合物、すなわち複製剤;投与部位への免疫細胞の移動を刺激する化合物、すなわち炎症剤;免疫応答を増強する化合物、すなわち、アジュバント、またはこれらの活性のうちの2つ以上を有する化合物。
【0687】
いくつかの実施形態によれば、周知の市販の医薬化合物であるブピバカインは、遺伝子構築物の前、同時、または後に投与される。ブピバカイン及び遺伝子構築物は、同じ組成物中で製剤化され得る。ブピバカインは、組織に投与されたときのその多くの特性及び活性の観点から、細胞刺激剤として特に有用である。ブピバカインは、細胞による遺伝子物質の取り込みを促進し、容易にする。このように、ブピバカインは、トランスフェクション剤である。ブピバカインと併用させた遺伝子構築物を投与することにより、細胞への遺伝子構築物の侵入が容易になる。ブピバカインは、細胞膜を破壊するか、さもなければ、細胞膜の透過性を高めると考えられている。細胞分裂及び複製は、ブピバカインによって刺激される。したがって、ブピバカインは、複製剤として作用する。また、ブピバカインを投与することにより、組織が刺激され、損傷する。このように、ブピバカインは、投与部位への免疫細胞の移動及び走化性を誘発する炎症剤として作用する。投与部位に通常存在する細胞に加えて、炎症剤に応答してその部位に移動する免疫系の細胞は、投与された遺伝子物質及びブピバカインと接触することができる。トランスフェクション剤として作用するブピバカインは、免疫系のそのような細胞による遺伝子物質の取り込みを促進するためにも利用できる。
【0688】
ブピバカインに加えて、メピバカイン、リドカイン、プロカイン、カルボカイン、メチルブピバカイン、及び他の同様に作用する化合物を、応答増強剤として使用することができる。このような剤は、細胞への遺伝子構築物の取り込みを促進し、細胞複製を刺激するのみでなく、投与部位で炎症応答を開始する細胞刺激剤として作用する。
【0689】
トランスフェクション剤として機能し得る他の企図された応答増強剤及び/または複製剤及び/または投与され得る炎症剤としては、レクチン、成長因子、サイトカイン、及びリンフォカイン、例えば、アルファインターフェロン、ガンマインターフェロン、血小板由来成長因子(PDGF)、gCSF、gMCSF、TNF、表皮成長因子(EGF)、IL-1、IL-2、IL-4、IL-6、IL-8、IL-10及びIL-12、ならびにコラゲナーゼ、線維芽細胞成長因子、エストロゲン、デキサメタゾン、サポニン、表面活性剤、例えば、免疫刺激複合体(ISCOMS)、フロイントの不完全なアジュバント、LPS類似体、例えば、モノホスホリル脂質A(MPL)、ムラミルペプチド、キノン類似体、ならびに小胞、例えば、スクアレン及びスクアラン、ヒアルロン酸及びヒアルロニダーゼが挙げられ、これらもまた、遺伝子構築物と併用して投与され得る。いくつかの実施形態によれば、これらの剤の組み合わせは、遺伝子構築物と併用して同時投与される。他の実施形態では、これらの剤をコードする遺伝子は、剤の共発現のために同じまたは異なる遺伝子構築物(複数可)中に含まれる。
【0690】
脂質免疫原
本明細書に開示される免疫原(例えば、保存された免疫原)はまた、以下に直接、またはスペーサーまたはリンカーを介して連結され得る:免疫原性キャリア、例えば、血清アルブミン、破傷風トキソイド、キーホールリンペットヘモシアニン、デキストラン、または組換えウイルス粒子等;Tヘルパー細胞型免疫応答を刺激することが知られている免疫原性ペプチド;サイトカイン、例えば、インターフェロンガンマまたはGMCSF等の;標的化剤、例えば、抗体または受容体リガンド;安定化剤、例えば、脂質;または分岐したリジンコア構造への複数のエピトープのコンジュゲート、いわゆる「複数の抗原性ペプチド」等(Posenett et. al.,に記載。参照によりその全体が本明細書に組み込まれる);ペプチドの半減期を延長するための化合物、例えば、ポリエチレングリコール;または追加のアミノ酸、例えば、リーダーもしくは分泌配列、または成熟配列の精製に使用される配列。スペーサー及びリンカーは、典型的には、比較的小さい中性分子で構成される。さらに、そのようなリンカーは、アミノ酸で構成されている必要はないが、本開示の所望のレベルの免疫原の免疫原性活性を最適化するために、それらが正しい間隔をもたらす限り、任意のオリゴマー構造も同様に機能する。したがって、免疫原は、CTL応答を誘発することができる任意の形態をとることができる。
【0691】
当業者は、本明細書に提供される教示を理解すれば、本明細書に記載されるワクチン組成物が多数の分子を包含し、いくつかは単一のプロモーター/調節配列の制御下で、または複数のそのような配列の制御下のいずれかで発現されることを理解するであろう。さらに、本開示は、様々なワクチンが、異なる分子をコードする本開示の1つ以上のワクチンを投与することを包含する。すなわち、様々な分子(例えば、保存された免疫原、共刺激リガンド、サイトカイン等)は、シスで(すなわち、同じワクチンベクター内で、及び/または同じ連続核酸によってコードされるか、または同じワクチンベクター内の別個の核酸分子上で)、またはトランスで(すなわち、様々な分子が異なるワクチンによって発現する)働くことができる。
【0692】
免疫応答を決定するための方法
ワクチン接種に関連するほとんどの免疫応答は、エフェクター抗体、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)の生成、または自然免疫エフェクター細胞の活性化を仲介するCD4+ヘルパー表現型の特定のT細胞によって制御される。結果として生じる抗原特異的T細胞応答は、ヘルパーT細胞(TH細胞、サイトカイン及び共刺激分子を発現する)、及び/または細胞傷害性Tリンパ球(CTL)を伴う適切なタイプである必要があり、記憶能力及びホーミング能力を有し、ネガティブフィードバックまたは免疫チェックポイントを介して消耗する、またはアネルギー化することはないものとする。適切なT細胞応答を生成する製剤(抗原、ビヒクル、アジュバント;それらの比率)及びレジメン(免疫化の数及び免疫化間の間隔、及びワクチン接種経路等)が必要である。これらのT細胞の測定及び特性評価により、免疫原性及び有効性の有用なマーカーがもたらされ、さらなるワクチン開発のメカニズムについて情報が提供される。
【0693】
免疫応答を決定するための方法は、当技術分野で知られている。いくつかの実施形態によれば、ウイルス病変は、ウイルス及び/または抗原に対する免疫応答の発生を決定するために検査することができる。いくつかの実施形態によれば、インビトロアッセイを使用して、免疫応答の発生を決定することができる。このようなインビトロアッセイの例としては、ELISAアッセイ及び細胞傷害性T細胞(CTL)アッセイが挙げられる。いくつかの実施形態によれば、免疫応答は、抗原を含む生、改変、非複製または複製障害のあるポックスウイルスを投与することによって治療された対象の血清中の抗原を特異的に認識する抗体の相対量を、未処置の対象における抗体の量と比較して、検出及び/または定量化することによって測定される。
【0694】
サンプル中の抗体をアッセイするための技術は、当技術分野で知られており、例えば、サンドイッチアッセイ、ELISA及びELISpotが挙げられる。ポリクローナル血清は、好適な実験動物に有効量の免疫エフェクターまたはその抗原性部分を注射すること、動物から血清を収集すること、既知の免疫吸着技術のいずれかによって特定の血清を単離することによって、比較的容易に調製される。この方法で産生された抗体は、事実上あらゆるタイプのイムノアッセイで利用できる。
【0695】
イムノアッセイでのモノクローナル抗体の使用は、それらを大量に産生する能力及び産物の均質性のために好ましい。不死の細胞株及び免疫原性調製物に対して感作されたリンパ球を融合することによって誘導されるモノクローナル抗体を産生するためのハイブリドーマ細胞株の調製は、当技術分野で周知の技術によって達成することができる。他の実施形態では、ELISAアッセイを使用して、当技術分野で知られている方法を使用して、アイソタイプ特異的抗体のレベルを決定することができる。
【0696】
CTLアッセイは、特定の抗原を発現する標的細胞の特異的溶解を測定して、CTLの溶解活性を決定するために使用できる。免疫アッセイは、サンプル免疫細胞の活性化(例えば、活性化の程度)を測定するために使用することができる。「サンプル免疫細胞」とは、ヒト患者、ヒトドナー、動物、または組織培養細胞株等、あらゆる供給源からのサンプルに含まれる免疫細胞を指す。免疫細胞サンプルは、末梢血、リンパ節、骨髄、胸腺のほか、インサイチュまたは切除された腫瘍等の他の組織源、または組織もしくは器官の培養物由来であってもよい。サンプルは、分析前に特定の免疫細胞サブセットを生成または濃縮するために分画または精製することができる。免疫細胞は、標準的技術によって、それらの供給源から分離し、単離することができる。
【0697】
免疫細胞としては、非休止細胞と休止細胞の両方、アッセイ可能な免疫系の細胞、これらに限定されないが、Bリンパ球、Tリンパ球、ナチュラルキラー(NK)細胞、不変NKT(iNKT)細胞、リンフォカイン-活性化キラー(LAK)細胞、単球、マクロファージ、好中球、顆粒球、マスト細胞、血小板、ランゲルハンス細胞、幹細胞、樹状細胞、及び末梢血単核細胞が挙げられる。
【0698】
測定可能な免疫細胞活性としては、これらに限定されないが、(1)細胞またはDNAの複製を測定することによる細胞増殖;(2)サイトカイン産生の増強、例えば、サイトカイン、例えば、γIFN,GM-CSF、またはTNF-α、IFN-α、IL-6、IL-10、IL-12の特定の測定等;(3)細胞媒介性標的の死滅または溶解;(4)細胞分化;(5)免疫グロブリンの産生;(6)表現型の変化;(7)走化性因子の産生または走化性、走化性を有するケモタクチンに応答する能力を意味する;(8)他の免疫細胞型の活性を阻害することによる免疫抑制;(9)IP-10等のケモカイン分泌;(10)共刺激分子(例えば、CD80、CD86)及び成熟分子(例えば、CD83)の発現;(12)クラスII MHC発現の上方制御;及び(13)アポトーシスが挙げられ、これは、異常な活性化の兆候として、特定の状況下で活性化された免疫細胞が断片化することを指す。
【0699】
レポーター分子は、記載されている免疫アッセイの多くに使用され得る。「レポーター分子」とは、本明細書で使用される場合、その化学的性質により、抗原結合抗体の検出を可能にする、分析によって同定可能なシグナルを提供する分子を意味する。検出は、定性的または定量的のいずれかであり得る。この種のアッセイにおいて最も一般的に使用されるレポーター分子は、酵素、フルオロフォア、または放射性核種を含有する分子(すなわち、放射性同位体)、及び化学発光分子のいずれかである。酵素イムノアッセイの場合において、酵素は、一般にグルタルアルデヒドまたは過ヨウ素酸塩によって第2の抗体に結合される。しかしながら、容易に認識されるであろう通り、多岐にわたる異なる結合技法が存在し、これらは当業者であれば容易に利用できる。一般に使用される酵素には、特に西洋ワサビペルオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、ベータガラクトシダーゼ、及びアルカリホスファターゼが含まれる。特定の酵素と共に使用する基質は、概して、検出可能な色の変化の、対応する酵素による加水分解の際の産出に対して選択される。好適な酵素の例には、アルカリホスファターゼ及びペルオキシダーゼが含まれる。上述の発色基質ではなく、蛍光産物を生む蛍光基質を用いることも可能である。全ての場合において、酵素標識した抗体を第1の抗体-抗原複合体に添加し、結合させた後、過剰な試薬を洗い流す。その後、適切な基質を含有する溶液を抗体-抗原-抗体の複合体に添加する。基質は、第2の抗体に連結された酵素と反応して、定性的視覚シグナルが得られ、これを通常は分光光度により、さらに定量化して、サンプル中に存在していた抗原の量の指標を付与することができる。交互に、フルオレセイン及びローダミン等の蛍光化合物を、その結合性能を改変することなく抗体に化学的に結合させても良い。特定の波長の光を用いた照射によって活性化されると、蛍光色素で標識した抗体は、分子中の可励起性状態を含む光エネルギーを吸収し、続いて、光学顕微鏡で視覚的に検出可能な特徴的な色の光を放射する。蛍光標識した抗体は、第1の抗体-抗原複合体に結合することができる。非結合試薬を洗い落とした後、次いで残っている三次複合体を適切な波長の光に曝露すると、観察された蛍光は目的の抗原の存在を示す。
【0700】
ワクチン接種に関連してメモリーT細胞を測定する能力は、ワクチンの免疫原性を確立するために重要であり、感染及び/または疾患からの防御と正の関連を有することによる、有効性のバイオマーカーであり得る。T細胞応答の測定における重要な要因は、測定する方法、これらの測定をいつ実施するか、及び測定を実施する場所である。ワクチン接種レジメン中に循環PBMCで測定されたT細胞応答は、適応免疫応答の典型的なパターンに従う傾向がある。すなわち、最初の曝露の後に遅滞期が続き、次に約1~2週間で応答のピーク(抗原特異的IFNγ応答等)が続く。これが、最終的にはナイーブな応答よりも上昇した応答となる。プライミングによって生じた記憶が要因で、ブーストによる2回目の曝露により、より迅速で優れた応答が得られる。エフェクターT細胞(TE)の消耗により、この応答は、ブースト前よりも高いレベルになる。したがって、ブーストの目的は、T細胞を推定上の「防御」レベルに到達させることである。現在まで、T細胞応答と、感染及び疾患からの防御の程度との間の直接的な相関関係は、臨床使用においては、確立されていない。「Quantiferon(商標)」及びELIspot検査は、特定のTB抗原に反応する末梢T細胞によるIFNγ分泌の検出を通じて、リスクのある個体の潜在的なMycobacterium tuberculosis感染を検出することができる。しかし、TBのワクチン接種後のそのような応答は、感染からの防御とは関連していない。PBMCが特定の組織(粘膜等)で作用する必要がある反応性T細胞を検出するのに理想的な場所ではない場合でも、輸送中の前駆体(TEM及びTCM等)は、特殊な技術または改変された技術で測定可能である。全血またはPBMCのエクスビボには、ワクチン抗原への曝露及び応答の測定が含まれ、典型的には、1日以内に行われる。このような検査の中で最も一般的なのは、血球からの大量のサイトカイン分泌(全血アッセイ/ELISA)、及びフローサイトメトリー及び酵素結合免疫スポット(ELISpot)によるサイトカイン測定である。これは、単一細胞レベルで応答細胞を同定するために行う。利用可能なフローサイトメトリーパラメータの数が拡大することは、単一細胞の質量サイトメトリー及びRNAシーケンスを使用して、細胞が多数の分子を分泌または発現していることを同定できることを意味し、したがって、エフェクター表現型、記憶表現型、及びそれ以外での特性評価が可能になる。ワクチン接種に関連する血液中の分子シグネチャは、T細胞の防御に引き続き関与している。より煩雑であるが、血液細胞の培養期間を抗原及び他の要因に組み込むことにより、培養がTEM及び/またはTEへの分化を促進するため、TCM等の特定の記憶細胞を明らかにすることができる。正確なワクチン製剤(アジュバント中の抗原+TLRリガンド)と一緒に培養された全血による1つのアプローチ(Hakimi J.et al.,2017 Hum Vaccin Immunother.Sep 2;13(9):2130-2134)では、有意に高いT細胞サイトカイン分泌が明らかになった。これらの結果は、全血成分がワクチンの成分と相互作用して、インビボイベントをエミュレートし得る方法で、T細胞の再活性化を促進することを示唆している。このようなアッセイでは、効力について、ワクチン製剤を監視するのみでなく、ワクチンレシピエントが、インビボでワクチンに応答する可能性について検査することができる。異所性リンパ構造(メモリーデポ)をエミュレートできることは、インビトロでワクチン応答を再現及び研究する1つの方法を提供し得る。
【0701】
他の例示的な免疫アッセイは、本明細書で以下に記載されている。
【0702】
細胞増殖アッセイ:活性化された免疫細胞の増殖は、細胞数、細胞重量によって、または放射性標識された核酸、アミノ酸、タンパク質、または他の前駆体分子の取り込みによって測定される、細胞数、細胞成長、細胞分裂、または細胞増殖の増加を含むことを意図する。一例として、DNA複製は、放射性同位体標識の組み込みによって測定される。いくつかの実施形態によれば、刺激された免疫細胞の培養物は、新たに合成されたDNAに組み込まれるヌクレオシド前駆体であるトリチウム化チミジン(3H-Tdr)で培養物をパルス標識することによる、DNA合成によって測定することができる。チミジンの取り込みは、DNA合成の速度の定量的測定値となる。これは通常、細胞分裂の速度に直接比例する。培養細胞の複製DNAに組み込まれた3H標識チミジンの量は、液体シンチレーション分光光度計でのシンチレーションカウンティングによって決定される。シンチレーションカウンティングは、1分あたりのカウント数(cpm)でデータを生成し、免疫細胞の応答性の標準的な尺度として使用できる。休止免疫細胞培養物のcpmは、プライミングされた免疫細胞のcpmから減算するか、またはcpmに除算することができる。これにより、刺激指数比が得られる。
【0703】
フローサイトメトリーは、光散乱、コールターボリューム、及び蛍光を用いてDNAを測定することにより増殖を測定するためにも使用できる。これらはすべて、当技術分野でよく知られている技術である。
【0704】
強化されたサイトカイン産生アッセイ: 免疫細胞刺激の尺度は、サイトカイン、リンフォカイン、または他の成長因子を分泌する細胞の能力である。サイトカイン産生は、γIFN、GM-CSF、またはTNF-α等のサイトカインの特定の測定等、ラジオイムノアッセイ(RIA)、酵素免疫測定法(ELISA)、バイオアッセイ、またはメッセンジャーRNAレベルの測定によって行うことができる。一般に、これらのイムノアッセイでは、測定されるサイトカインに対するモノクローナル抗体を使用して、サイトカインに特異的に結合し、したがってサイトカインを同定する。イムノアッセイは、当技術分野で周知であり、フォワードサンドイッチイムノアッセイ、リバースサンドイッチイムノアッセイ及び同時イムノアッセイ等の競合アッセイ及び免疫測定アッセイの両方を含むことができる。
【0705】
上記の各アッセイにおいて、サンプル含有サイトカインは、サイトカインがモノクローナル抗体に結合することを可能にするのに十分な条件下、十分な時間で、サイトカイン特異的モノクローナル抗体と共にインキュベートされる。一般に、シグナルを最大化するため、可能な限り多くのサイトカイン及び抗体を結合するのに十分なインキュベーション条件を提供することが望ましい。当然ながら、抗体の特定の濃度、インキュベーションの温度及び時間、ならびに他のそのようなアッセイ条件は、サンプル中のサイトカインの濃度、サンプルの性質等、様々な要因に応じて変えることができる。当業者は、日常的な実験を採用することにより、各決定のための有効かつ最適なアッセイ条件を決定することができるであろう。
【0706】
細胞性標的細胞溶解アッセイ:免疫細胞活性化の程度の別のタイプの指標は、免疫細胞媒介標的細胞溶解であり、これは、細胞傷害性Tリンパ球活性、アポトーシス、及び刺激されて活性化された非休止免疫細胞から分泌される分子による標的溶解の誘導等、あらゆるタイプの細胞殺傷を包含することを意味する。細胞性リンパ溶解技術では、典型的には、刺激された免疫細胞が、51Cr標識標的細胞を溶解する能力を測定する。細胞傷害性は、対照の標的細胞から放出された51Crの割合(パーセンテージ)と比較した、特定の標的細胞で放出された51Crの割合として測定される。細胞死滅はまた、標的細胞数を数えることによって、または標的細胞成長の阻害を定量化することによって測定され得る。
【0707】
細胞分化アッセイ:免疫細胞活性の別の指標は、免疫細胞の分化及び成熟である。細胞分化は、いくつかの異なる方法で評価することができる。そのような方法の1つは、細胞の表現型を測定することである。免疫細胞の表現型及び任意の表現型の変化は、様々な様々な免疫細胞型に特徴的な膜タンパク質に結合するモノクローナル抗体を使用した、免疫蛍光染色後のフローサイトメトリーによって評価できる。
【0708】
細胞分化を評価する第2の手段は、細胞機能を測定することである。これは、細胞内のまたは細胞から分泌される酵素、mRNA、遺伝子、タンパク質、または他の代謝物の発現を測定することによって、生化学的に行うことができる。バイオアッセイは、機能的な細胞分化を測定するためにも使用できる。
【0709】
免疫細胞は、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗血清のいずれかで検出できる様々な様々な細胞表面分子を発現する。分化または活性化を受けた免疫細胞は、培養細胞の固定塗抹標本での直接免疫蛍光による特徴的な細胞表面タンパク質の存在を染色することによって、数えることもできる。
【0710】
成熟B細胞は、例えば、CD19及びCD20等の細胞表面抗原によって、イムノアッセイで測定でき、蛍光色素または酵素で標識されたモノクローナル抗体をこれらの抗原に使用できる。形質細胞に分化したB細胞は、培養細胞の固定塗抹標本での直接免疫蛍光による細胞内免疫グロブリンの染色によって数えることができる。
【0711】
免疫グロブリン産生アッセイ: B細胞の活性化により、少量ではあるが検出可能な量のポリクローナル免疫グロブリンが得られる。培養の数日後、これらの免疫グロブリンは、ラジオイムノアッセイまたは酵素結合免疫吸着測定(ELISA)法によって測定することができる。
【0712】
免疫グロブリンを産生するB細胞は、逆溶血性プラークアッセイによっても定量化できる。このアッセイでは、赤血球は、ヤギまたはウサギの抗ヒト免疫グロブリンでコーティングされている。これらの免疫グロブリンは、活性化された免疫グロブリン産生リンパ球及び半固形寒天と混合され、補体が添加される。溶血性プラークの存在は、免疫グロブリン産生細胞が存在することを示している。
【0713】
走化性因子アッセイ:走化性因子は、細胞移動因子等、血管、組織、もしくは器官への、または血管、組織、もしくは器官からの免疫細胞の移動を誘導または阻害する分子である。免疫細胞の走化性因子は、アッセイされる走化性因子(複数可)に対する標識モノクローナル抗体を使用するフローサイトメトリーによってアッセイすることができる。走化性因子はまた、ELISAまたは他のイムノアッセイ、バイオアッセイ、メッセンジャーRNAレベルによって、及び特殊な遊走チャンバー内の免疫細胞の動きの細胞計数等の直接測定によってアッセイすることができる。
【0714】
アドバックアッセイ(Addback Assay):新鮮な末梢血単核細胞に添加すると、自己エクスビボ活性化細胞は、末梢血単核細胞が以前に曝露された抗原である「リコール」抗原に対して増強された応答を呈する。プライミングまたは刺激された免疫細胞は、一緒に培養したときに、「リコール」抗原に対する他の免疫細胞の応答を強化する。これらのアッセイは、「ヘルパー」または「アドバック」アッセイと呼ばれる。このアッセイでは、プライミングまたは刺激された免疫細胞を未処理の、通常は自己免疫細胞に添加して、未処理の細胞の応答を決定する。追加されたプライミング細胞は、それらの増殖を防ぐために照射され得、未処理の細胞の活性の測定を簡素化する。これらのアッセイは、ウイルスに曝露された血液について細胞を評価するのに特に有用であり得る。アドバックアッセイは、本明細書に記載のとおり、増殖、サイトカイン産生、及び標的細胞溶解を測定することができる。
【0715】
免疫応答を決定するための上記の方法及び他の追加の方法は、当技術分野でよく知られている。
【0716】
使用方法
本開示のさらなる実施形態によれば、本開示によるワクチン接種に適した感染性病原体による感染のリスクを低下させるための方法が提供される。いくつかの実施形態によれば、方法は、それを必要とする対象に、感染のリスクを低減するのに十分な量の免疫原またはそのタンパク質を投与することを含む。
【0717】
本開示のさらなる実施形態によれば、予防方法、例えば、ウイルス感染、例えば、インフルエンザ感染に対して対象をワクチン接種し、免疫化する方法が提供され、例えば、これらに限定されないが、インフルエンザ感染から対象を防御して、対象におけるインフルエンザ感染もしくは病状の可能性を減少もしくは低下させる対象のインフルエンザ感染または病状に対する感受性を減少または低下させる、対象においてインフルエンザ感染を阻害もしくは予防する、または影響を受けやすい集団での拡散のリスクを軽減する。
【0718】
別の実施形態によれば、この方法は、ウイルス感染細胞によって発現されるウイルス抗原に特異的な細胞性免疫応答をインビトロで誘導するためのプロセスを含み、CTL前駆体リンパ球を、本開示のウイルスポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを発現している抗原提示細胞と接触させることを含み、ここで、ポリヌクレオチドは、プロモーターに作動可能に連結されている。刺激因子APC上に発現するMHC分子に結合した外来ウイルス抗原は、病原体感染細胞を死滅させる能力を呈する細胞の集団を含む応答Tリンパ球に対する活性化刺激として機能し、そのような死滅作用に対する耐性を示す。病原体感染細胞を死滅させる能力は、細胞溶解または細胞傷害性活性を介して、直接的である場合もあれば、病原性細胞を標的とする他の細胞及びタンパク質の免疫調節を介して間接的である場合もある。このエフェクター機能を示すことができる細胞には、例えば、NK細胞、NKT細胞、LAK細胞、CIK細胞、MAIT細胞、CD8+CTL、CD4+CTL(総称して「CTL」)等、複数の種類がある。次に、応答するTリンパ球の増殖を測定することができる。
【0719】
活性化されたCTLの活性をアッセイするための様々な技術が存在し、以下に説明する。
【0720】
抗原特異的CTLの拡張後、活性化されたCTLは養子的に患者に戻され、そこで特定の標的細胞を破壊する。T細胞を患者に再注入するための方法論はよく知られており、Honski, et al.,の米国特許第4,844,893号及びRosenbergの米国特許第4,690,915号に例示されている。
【0721】
ペプチド特異的に活性化されたCTLは、患者に注入する前に刺激細胞から精製することができる。例えば、CTL上に存在する細胞表面タンパク質CD8に向けられたモノクローナル抗体は、抗体パニング、フローサイトメトリーソーティング、及び磁気ビーズ分離等の様々な様々な単離技術と組み合わせて使用して、任意の残存している非ペプチド特異的リンパ球または刺激細胞からペプチド特異的CTLを精製することができる。
【0722】
したがって、本開示のいくつかの実施形態によれば、病原体による感染のリスクを低下させる、集団における感染の拡大のリスクを低減する、またはその両方のためのプロセスは、インビトロで産生される活性化CTLを、病原体に感染した細胞を直接的またはサイトカインの合成によって間接的に破壊するのに十分な量で、投与することを含む。
【0723】
本開示の別の実施形態は、病原体に感染するリスクのある対象を治療する、または集団における感染拡大のリスクを軽減する、またはその両方のためのプロセスに関し、ここで、感染は、本明細書に記載の方法を使用して決定される、任意のクラスIMHC分子及び内部CD8+T細胞エピトープを発現する病原体感染細胞を特徴とし、本プロセスは、インビトロでエピトープまたは元のタンパク質に特異的な活性化CTLを産生すること、及び活性化されたCTLを、直接溶解によって感染細胞を破壊するのに十分な量で投与するか、またはサイトカインの合成によって間接的に感染細胞を破壊するのに十分な量で投与することを含む。
【0724】
いくつかの実施形態によれば、エクスビボで生成された活性化CTLを使用して、ペプチドに特異的なT細胞受容体分子を同定し、単離することができる。T細胞受容体のアルファ鎖及びベータ鎖をコードする遺伝子は、発現ベクター系にクローン化され、末梢血からのナイーブT細胞、リンパ節からのT細胞、または骨髄からのTリンパ球前駆細胞に移されて発現され得る。ペプチド特異的T細胞受容体を発現するであろうこれらのT細胞は、抗ウイルス反応性を有し、ウイルスの複数の異種亜型に対する感染の養子療法に使用できる。
【0725】
治療または予防目的でのそれらの使用に加えて、本開示の免疫原性ペプチドは、スクリーニング及び診断剤として有用である。したがって、本開示の免疫原性ペプチドは、CTLスクリーニングの最新の技術と共に、ウイルス感染、曝露及び免疫応答の検査として、これらのペプチドに特異的なT細胞の存在について患者をスクリーニングすることが可能になる。そのようなスクリーニングの結果は、本開示の免疫原を使用して、本明細書に開示される治療レジメンを進めることの有効性を決定するのに役立ち得る。
【0726】
本開示の免疫原のうちの1つ以上を含む組成物の治療有効量は、集団における疾患の進行を予防、治癒、または阻止するための効果的なCTL応答を誘導するのに十分な量である。したがって、この用量は、とりわけ、使用される免疫原の同一性、疾患状態の性質、疾患状態の重症度、それがまだ検出されていないそのような状態を予防するあらゆる必要性の程度のほか、そのような投与を必要とする状況、そのような投与を受ける個体の体重及び健康状態、ならびに臨床医または研究者の健全な判断によって決定される投与方法に依存するであろう。
【0727】
医薬組成物
一般的に、ワクチンは、水溶液または懸濁液の形態で、注射剤として調製される。有効成分と適合性があり、医薬用途に許容される医薬担体、希釈剤及び賦形剤を一般に添加することができる。
【0728】
当業者に知られている任意の好適な担体を本開示のワクチン組成物中に使用することができるが、担体の種類は、投与様式に応じて変化するであろう。本開示の組成物は、例えば、局所、経口、経鼻、静脈内、頭蓋内、腹腔内、皮下または筋肉内投与等、任意の適切な投与方法のために製剤化され得る。皮下注射等の非経口投与の場合、担体は、好ましくは、水、生理食塩水、アルコール、脂肪、ワックスまたは緩衝液を含む。経口投与の場合、上記の担体のいずれか、またはマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、タルカム、セルロース、グルコース、スクロース、及び炭酸マグネシウム等の固体担体を使用することができる。生分解性ミクロスフェア(例えば、ポリ乳酸ポリグリコレート)もまた、本開示の医薬組成物のための担体として使用され得る。好適な生分解性ミクロスフェアは、例えば、米国特許第4,897,268号;同第5,075,109号;同第5,928,647号;同第5,811,128号;同第5,820,883号;同第5,853,763号;同第5,814,344号及び同第5,942,252号に開示されている。WO/9940934に記載のもの等、改変されたB型肝炎コアタンパク質担体系もまた好適である。及びそこに引用されている参考文献はすべて、参照により本明細書に組み込まれる。米国特許第5,928,647号に記載されている粒子状タンパク質複合体を含む担体を使用することもでき、これは、宿主においてクラスI制限細胞傷害性Tリンパ球応答を誘導することができる。
【0729】
そのような組成物はまた、緩衝液(例えば、中性緩衝生理食塩水またはリン酸緩衝生理食塩水)、炭水化物(例えば、グルコース、マンノース、スクロースまたはデキストランス)、マンニトール、タンパク質、ポリペプチド、またはグリシン等のアミノ酸、抗酸化剤、殺菌剤、キレート剤、例えば、EDTAまたはグルタチオン、アジュバント(例えば、水酸化アルミニウム)のほか、製剤をレシピエントの血液と等張、低張または弱高張にする溶質、懸濁剤、増粘剤及び/または防腐剤を含み得る。あるいは、本開示の組成物は、凍結乾燥物として製剤化され得る。化合物はまた、周知の技術を使用してリポソーム内に内包化され得る。
【0730】
様々な免疫刺激剤のいずれかを、本開示のワクチンに任意により使用することができる。例えば、アジュバントが含まれ得る。ほとんどのアジュバントには、水酸化アルミニウムまたはミネラルオイル等の急速な異化作用から抗原を防御するように設計された物質、及びリピドA、百日咳菌(Bortadella pertussis)、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)由来のタンパク質等の免疫応答の刺激物質が含まれている。例示的なアジュバントは、例えば、フロイントの不完全アジュバント及び完全アジュバント(Difco Laboratories,Detroit,MI);Merck Adjuvant 65(Merck and Company,Inc.,Rahway,NJ);AS-2(SmithKline Beecham,Philadelphia,PA);アルミニウム塩、例えば、水酸化アルミニウムゲル(ミョウバン)またはリン酸アルミニウム;カルシウム、鉄または亜鉛の塩;アシル化チロシンの不溶性懸濁液;アシル化糖;カチオン性またはアニオン性に誘導体化された多糖類;ポリホスファゼン;生分解性ミクロスフェア;モノホスホリルリピドA及びキルAとして市販されている。サイトカイン、例えば、GM-CSFまたはインターロイキン-2、-7、もしくは-12等もアジュバントとして使用できる。本明細書で提供されるHCMVベース及びRhCMVベースのワクチンベクターの文脈内で、アジュバント組成物は任意であるが、含まれる場合、主にTHI型の免疫応答を誘導するように設計される。高レベルのTHI型サイトカイン(例えば、IFN-γ、TNFα、IL-2及びIL-12)は、投与された抗原に対する細胞媒介性免疫応答の誘導に有利に働く傾向がある。対照的に、高レベルのTH2型サイトカイン(例えば、IL-4、IL-5、IL-6及びIL-10)は、体液性免疫応答の誘導に有利に働く傾向がある。本明細書で提供されるワクチンの適用後、患者は、THI型及びTH2型応答を含む免疫応答を支持するであろう。例えば、応答が主にTHI型である実施形態では、THI型サイトカインのレベルは、TH2型サイトカインのレベルよりも大幅に増加するであろう。これらのサイトカインのレベルは、標準的アッセイを使用して容易に評価され得る。サイトカインファミリーの概説については、Mosmann and Coffman,Ann.Rev.Immunol.7:145-173,1989を参照されたい。
【0731】
いくつかの実施形態によれば、主にTHI型応答を誘発するのに使用するためのアジュバントが使用される。そのようなアジュバントには、例えば、モノホスホリルリピドA、好ましくは3-デ-O-アシル化モノホスホリルリピドA(3D-MPL)とアルミニウム塩との組み合わせが含まれる。MPLアジュバントは、Corixa Corporation(Seattle,WA;米国特許第4,436,727号;同第4,877,611号;同第4,866,034号及び同第4,912,094号を参照されたい)から入手可能である。CpG含有オリゴヌクレオチド(CpGジヌクレオチドがメチル化されていない)も、主にTHI応答を誘導する。そのようなオリゴヌクレオチドはよく知られており、例えば、WO96/02555、WO99/33488ならびに米国特許第6,008,200号及び同第5,856,462号に記載されている。免疫刺激性DNA配列はまた、例えば、Sato et al.,Science273:352,1996に記載されている。別の例示的なアジュバントは、サポニン、例えば、QS21(Aquila Biopharaiaceuticals Inc.,Framingham,MA)であり、これは、単独で、または他のアジュバントと組み合わせて使用することができる。例えば、増強された系は、モノホスホリルリピドAとサポニン誘導体との組み合わせ、例えば、WO94/00153に記載のQS21と3D-MPLとの組み合わせ、または、WO96/33739に記載のQS21がコレステロールでクエンチされる低反応原性組成物を含む。他の例示的な製剤は、水中油型エマルジョン及びトコフェロールを含む。水中油型エマルションにQS21、3D-MPL、及びトコフェロールを含む特に強力なアジュバント製剤は、WO95/17210に記載されている。他の例示的なアジュバントとしては、Montanide ISA 720(Seppic,France)、SAF(Chiron,California,United States),ISCOMS(CSL)、MF-59(Chiron)、SBASシリーズのアジュバント(例えば、SBAS-2またはSBAS-4、SmithKline Beecham,Rixensart,Belgiumから入手可能)、Detox(Corixa,Hamilton,MT)、RC-529(Corixa,Hamilton,MT)及び他のアミノアルキルグルコサミニド4-リン酸(AGP)、例えば、係留中の米国特許出願第08/853,826号及び同第09/074,720号に記載されているもの等(その開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)が挙げられる。他の例示的なアジュバントは、WO99/52549 Alに記載されているもの等のポリオキシエチレンエーテルを含む。
【0732】
本明細書で提供される任意のワクチンは、ベクター、任意の免疫応答増強剤、及び好適な担体または賦形剤の組み合わせをもたらす周知の方法を使用して調製することができる。本明細書に記載の組成物は、徐放性製剤(すなわち、投与後に化合物の徐放をもたらすカプセル、スポンジまたはゲル(例えば、多糖類から構成される)等の製剤)の一部として投与することができる。そのような製剤は、一般に、周知の技術を使用して調製することができ(例えば、Coombes et al.,Vaccine 74:1429-1438,1996を参照されたい)、例えば、経口、直腸もしくは皮下移植によって、または所望の標的部位での移植によって投与される。徐放性製剤は、担体マトリックスに分散したポリペプチド、ポリヌクレオチド、または抗体を含み得る、及び/または速度制御膜に囲まれた貯蔵庫内に含まれる。
【0733】
そのような製剤内で使用するための担体は、生体適合性であり、生分解性でもあり得る。好ましくは、製剤は、比較的一定レベルの活性成分放出をもたらす。そのような担体には、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)、ポリアクリレート、ラテックス、デンプン、セルロース、デキストラン等の微粒子が含まれる。他の遅延放出担体としては、非液体親水性コア(例えば、架橋多糖またはオリゴ糖)、及び任意により、リン脂質等の両親媒性化合物を含む外層を含む超分子バイオベクターが挙げられる(例えば、米国特許第5,151,254号及びPCT出願WO94/20078,WO/94/23701及びWO96/06638を参照されたい)。徐放性製剤中に含まれる活性化合物の量は、移植部位、放出の速度及び予想される期間、ならびに治療または予防される状態の性質に依存する。
【0734】
与えられた組成物の性質に関係なく、追加のワクチン組成物もまた、本開示の免疫原を伴う可能性がある。したがって、感染を予防または治療する目的(例えば、予防ワクチンまたは治療ワクチン)で、本明細書に開示される免疫原を含む組成物は、さらに、他のワクチン医薬品を含み得る。複数の有効成分を含むそのような組成物の使用は、臨床医の裁量に任されている。
【0735】
いくつかの実施形態によれば、医薬製剤中の本開示の免疫原性ポリペプチドの濃度は、0.01重量%未満~50重量%以上までのいずれかを含む、広い変動の対象となる。得られる組成物の体積及び粘度等の要因も考慮しなければならない。そのような組成物に使用される溶媒または希釈剤としては、水、ジメチルスルホキシド、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)、または生理食塩水自体、または他の可能な担体もしくは賦形剤が挙げられる。
【0736】
いくつかの実施形態によれば、本開示による医薬組成物は、約1ナノグラム~約2000マイクログラムのDNAを含む。いくつかの好ましい実施形態によれば、本開示による医薬組成物は、約5ナノグラム~約1000マイクログラムのDNAを含む。いくつかの好ましい実施形態によれば、医薬組成物は、約10ナノグラム~約800マイクログラムのDNAを含有する。いくつかの好ましい実施形態によれば、医薬組成物は、約0.1~約500マイクログラムのDNAを含有する。いくつかの好ましい実施形態によれば、医薬組成物は、約1~約350マイクログラムのDNAを含有する。いくつかの好ましい実施形態によれば、医薬組成物は、約25~約250マイクログラムのDNAを含有する。いくつかの好ましい実施形態によれば、医薬組成物は、約100~約200マイクログラムのDNAを含有する。
【0737】
本開示のペプチド及びポリペプチドはまた、エクスビボで調製された樹状細胞等の専門的な抗原提示細胞に添加することができる。
【0738】
投与
本開示による免疫原性組成物は、様々な経路による個体または集団への投与によって感染性病原体に対して使用することができる。組成物は、非経口的または経口的に投与することができ、非経口的である場合は、全身的または局所的のいずれかに投与することができる。非経口経路としては、皮下、静脈内、皮内、筋肉内、腹腔内、鼻腔内、経皮、または頬側の経路が挙げられる。1つ以上のそのような経路が使用され得る。非経口投与は、例えば、ボーラス注射または経時的な漸進的灌流によることができる。
【0739】
いくつかの実施形態によれば、本開示は、本開示の免疫原が、本明細書に開示されるポリペプチドまたは活性断片をコードするポリヌクレオチドの形態で、送達または投与され、それによってペプチドまたはポリペプチドまたは活性断片がインビボで産生されるワクチンを提供する。ポリヌクレオチドは、好適な発現ベクターに含まれ、薬学的に許容される担体と組み合わされ得る。多種多様なベクターが利用可能であり、当技術分野の当業者には明らかである。免疫化プロトコルにおいて有用なワクシニアベクター及び方法は、米国特許第4,722,848号に記載されている。その開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0740】
本明細書に記載の組成物は、他のワクチンの送達の前、同時、または後に投与することができる。また、投与部位は、投与されている他のワクチン組成物と同じであっても異なっていてもよい。
【0741】
組成物による投与量治療は、単回投与スケジュールまたは複数回投与スケジュールであり得る。複数回投与スケジュールとは、ワクチン接種の主要なコースが1~10回の個別の投与であり、その後、免疫応答を維持する及び/または強化するために選択された、後続の時間間隔で他の投与が行われ得るスケジュールであり、例えば、2回目の投与では1~4ヶ月、必要に応じて次の投与が数ヶ月後である。投与レジメンはまた、少なくとも、モダリティの効力、使用されるワクチン送達、対象の必要性によって決定され、開業医の判断に依存するであろう。
【0742】
本開示の特定の実施形態では、各注射は、上記のワクチンの免疫化中に、異なるベクター源からの組換えワクチンを含む。
【0743】
プライムブースト
本開示のいくつかの実施形態によれば、上記のワクチン免疫化プロセスにおいて、ワクチンは、「プライムアンドブースト」免疫化戦略で免疫化され、各組換えワクチンは、少なくとも1回接種される。いくつかの実施形態によれば、本開示は、プライミング組成物の投与によって誘導される免疫応答が、ブースト組成物の投与によってブーストされる「プライム及びブースト」免疫化レジメンに関する。例えば、効果的なブーストは、遺伝子またはDNAプラスミドワクチンでプライミングした後、サブユニットまたはタンパク質ワクチンを使用して達成することができる。本開示のいくつかの実施形態は、遺伝子またはDNAプラスミドワクチンを使用して抗原にプライミングされた免疫応答にブーストをもたらすためにサブユニットまたはタンパク質ワクチンを使用する。
【0744】
本開示の実施形態の使用により、サブユニットまたはタンパク質ワクチンが、DNAワクチンによってプライミングされた免疫応答をブーストすることが可能になる。一価または他の多価ワクチンも使用できる。
【0745】
有利には、プライム及びブーストの両方に筋肉内免疫化を使用するワクチン接種レジメンを使用することができ、例えば、ヒトにおいて免疫応答を誘導するのに好適である一般的な免疫化レジメンを構成する。
【0746】
様々な態様及び実施形態における本開示のいくつかの実施形態では、抗原をコードする核酸の以前の投与によってプライミングされた抗原に対する免疫応答をブーストするためのサブユニットまたはタンパク質ワクチンを使用する。
【0747】
いくつかの実施形態によれば、本開示は、抗原に対する免疫応答をブーストするためのサブユニットまたはタンパク質ワクチンの使用を提供する。
【0748】
いくつかの実施形態によれば、本開示は、個体において抗原に対する免疫応答を誘導する方法を提供し、この方法は、HA等の抗原をコードするDNAワクチンを含むプライミング組成物を個体に投与し、次いで、サブユニットまたはタンパク質ワクチンを含むブースト組成物を投与することを含む。
【0749】
いくつかの実施形態によれば、本開示は、プライミングするための遺伝子ワクチン及びブーストするためのサブユニットまたはタンパク質ワクチンの使用を提供する。
【0750】
プライミング組成物は、抗原をコードするDNAを含み得、そのようなDNAは、例えば、哺乳動物細胞において複製することができない環状プラスミドの形態である。選択可能マーカーは、臨床的に使用される抗生物質に耐性があるべきではないため、例えば、カナマイシン耐性がアンピシリン耐性よりも好まれる。抗原の発現は、哺乳動物細胞中で活性のあるプロモーター、例えばサイトメガロウイルス即時初期(CMV IE)プロモーターによって駆動されるものとする。
【0751】
本開示のいくつかの実施形態によれば、プライミング組成物の投与後に、第1及び第2のブースト組成物によるブーストを行い、第1及び第2のブースト組成物は、例えば、以下に例示するように、互いに同じであるかまたは異なる。さらに、本開示のいくつかの実施形態から逸脱することなく、ブースト組成物を使用することができる。
【0752】
プライミング及びブースト組成物のいずれかまたは両方は、α-インターフェロン、ガンマ-インターフェロン、血小板由来成長因子(PDGF)、顆粒球マクロファージ-コロニー刺激因子(gM-CSF)、顆粒球-コロニー刺激因子(gCSF)、腫瘍壊死因子(TNF)、表皮成長因子(EGF)、IL-1、IL-2、IL-4、IL-6、IL-8、IL-10及びIL-12、またはそのためのコード核酸等のアジュバントまたはサイトカインを含み得る。
【0753】
ブースト組成物の投与は、一般に、プライミング組成物の投与後数週間または数ヶ月、好ましくは約2~3週間または4週間、または8週間、または16週間、または20週間、または24週間、または28週間、または32週間である。いくつかの実施形態によれば、ブースト組成物は、プライミング組成物の投与後、約1週間、または2週間、または3週間、または4週間、または5週間、または6週間、または7週間、または8週間、または9週間、または16週間、または20週間、または24週間、または28週間、または32週間投与するために製剤化される。
【0754】
与えられた組成物の性質に関係なく、追加のワクチン組成物もまた、本開示の免疫原を伴う可能性がある。したがって、ウイルス感染を予防または治療する目的で(例えば、予防または治療用ワクチン)、本明細書に開示される免疫原を含む組成物は、さらに他のワクチン医薬品を含み得る。複数の有効成分を含むそのような組成物の使用は、臨床医の裁量に任されている。
【0755】
対象
いくつかの実施形態によれば、治療を必要とする対象は、感染症を有するかまたは感染するリスクのある対象(例えば、ウイルス、細菌、真菌または原虫感染症を有するかまたは感染するリスクのある対象)である。
【0756】
免疫抑制中のウイルス感染は、移植、リウマチ、及び他の免疫不全状態(HIV等)での主要な合併症である。したがって、本開示の養子免疫に基づく実施形態に従って治療され得る対象には、免疫低下対象が含まれる。
【0757】
いくつかの実施形態によれば、「感染症を有する対象」は、体内で急性または慢性の検出可能なレベルの微生物を有する感染性微生物に曝露された対象、または感染性微生物の徴候及び症状を有する対象である。対象における感染症を評価及び検出する方法は、当業者に知られている。「感染のリスクのある対象」は、感染性微生物と接触することが予測され得る対象である。そのような対象の例は、医療従事者または感染の発生率が高い、世界の一部に旅行する人々である。いくつかの実施形態によれば、対象は、感染を有するための1つ以上のリスク因子を有するため、対象は、感染のリスクが高い。感染のリスク因子の例としては、例えば、免疫抑制、免疫不全、年齢、外傷、火傷(例えば、熱傷)、手術、異物、がん、新生児、特に早産新生児が挙げられる。感染のリスクの程度は、対象が有するリスク因子が多数であること、重症度または大きさによって異なる。リスクチャート及び予測アルゴリズムは、リスク要因の存在及び重症度に基づいて、対象の感染のリスクを評価するために利用できる。対象における感染のリスクを評価する他の方法は、当業者によって知られている。いくつかの実施形態によれば、感染のリスクが高い対象は、明らかに健康な対象であり得る。「明らかに健康な対象」とは、疾患の徴候または症状を有さない対象である。
【0758】
いくつかの実施形態によれば、ワクチン接種の標的集団に関連する年齢以外の要因が考慮される。これらの要因には、これらに限定されないが、併存疾患、地理的要因(微生物の流行等)、栄養状態、及び医原性免疫抑制が挙げられる。
【0759】
キット
本開示の方法及び組成物の使用を容易にするために、ワクチン成分及び/または組成物のいずれか、例えば、様々な製剤中のウイルス等、及び実験的または治療的ワクチン目的のためのパッケージングに有用な緩衝液、細胞、培養培地等の追加の成分は、キットの形態でパッケージングすることができる。典型的には、キットは、上記の構成要素に加えて、例えば、開示の方法を実施するための説明書、パッケージング材料、及び容器を含むことができる追加の材料を含む。
【0760】
値の範囲が提供される場合、範囲の上限と下限と間の、文脈に別途明示のない限り、下限の単位の10分の1までの各介在値、及び他の任意の記載値またはその記載範囲の介在値が発明に含まれることが理解される。より小さな範囲に独立して含まれ得るこれらのより小さな範囲の上限及び下限もまた、本発明に含まれ、記載の範囲において特に除外された限界に従う。記載の範囲が、限界の一方または両方を含む場合、限界に含まれるものの両方を除外する範囲も本発明に含まれる。
【0761】
別途記載のない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する当業者により一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載されているものと類似または同等の任意の方法及び材料も、本発明の実施または試験に使用することができるが、例示的な方法及び材料が記載されている。本明細書で言及される全ての刊行物は、刊行物が引用されることに関連する方法及び/または材料を開示及び説明するために、参照により本明細書に組み込まれる。単数形が使用される本開示全体を通して、複数形が推論され得、逆もまた同様であり、いずれかの使用が限定的であると見なされるべきではないことも理解されるべきである。
【0762】
本明細書で考察される刊行物は、本出願の出願日の前の、それらの開示のためにのみ提供され、それぞれは、全体が参照により組み込まれる。本明細書では、本発明が、先行発明であることをもって、そのような刊行物に先行する権利がないことを認めるものと解釈されるべきではない。さらに、提供される発行日は、個別に確認する必要があり得る実際の発行日とは異なることがある。
【実施例
【0763】
以下の実施例は、当業者らに、本発明の製造及び使用方法の完全な開示及び説明を提供するために記載され、説明を提供するために提示されており、発明者らが自らの発明と見なす範囲を制限することを意図するものもなく、以下の実験が実施された全てまたは唯一の実験であることを表すことを意図するものでもない。使用される数値(例えば、量、温度等)に関して正確さを保証するための取り組みがなされているが、いくつかの実験誤差及び偏差を考慮に入れなければならない。別途指示のない限り、部は、重量部であり、分子量は、重量平均分子量であり、温度は、セ氏温度であり、圧力は、大気圧または大気圧付近である。
【0764】
実施例1:保存されたタンパク質のコンセンサス配列の生成
実施例1A:
ほんの一例として、保存されたタンパク質のコンセンサス配列(複数可)の使用は、保存された配列の調製された病原性ライブラリーから複数の配列アラインメントを実施し、それについて同定されたコンセンサス配列を達成することによって達成することができる。
【0765】
病原体ライブラリーの調整
いくつかの実施形態によれば、病原体ライブラリーは、参照ゲノムまたは保存されたタンパク質配列、ならびに類似のゲノムまたは保存されたタンパク質配列を含むであろう。
【0766】
参照ゲノムまたはタンパク質配列を含むDNAライブラリーの調製は、当技術分野で知られている方法を介して生成することができる。
【0767】
例えば、参照ゲノム/タンパク質配列は、本明細書に記載されているように見つけることができる。簡単に言えば、National Center of Biotechnology Information (NCBI)(参照:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/)、等のデータベース、具体的には、例えば、NCBIのGenBank、EMBLのヌクレオチド配列データベース、Universal Protein Resource(UniProt)、及びProtein Data Bank(PDB)で、選択した病原体の参照ゲノムを検索し、発現した保存されたタンパク質をフィルタリングして、コード遺伝子配列を指定できる。NCBIデータベースにアクセスして、[all databases(すべてのデータベース)]ドロップダウンボックスで、[Genome(ゲノム)]を選択する。目的の病原体の種名を検索フィールドに入力し、送信する。参照ゲノムオプションを選択する。次に、[Related Topics(関連トピック)]ヘッダーの下の[Gene(遺伝子)]オプションを選択する。次に、結果をフィルタリングして、タンパク質コード配列を生成する。次に、カスタムフィルタが作成され、タンパク質配列に関連付けられた遺伝子レコードに関連付けられた遺伝子レコード、バリエーション情報、相同性データ、及び/または保存されたドメインを含むように計算されたタンパク質をフィルタリングする。あるいは、Genome Overview table(ゲノム概要表)から、保存された発現タンパク質を表示するためにProtein Details(タンパク質の詳細)を選択することもできる。所望の各レコードを選択することにより、マルチプルアラインメントで使用される識別番号または配列が生成される。
【0768】
同様のゲノムまたはタンパク質配列は、当技術分野で知られている方法を介して生成することができる。例えば、調査中の病原体のリファレンスゲノムレコードの[(Related Topics)関連トピック]ヘッダーで[(Other Genomes)その他のゲノム]を選択すると、様々な異なる株、バリアント、グループ、クレード、血清型、及び亜型の他の関連ゲノムが生成される。あるいは、病原体種の様々な異なる株、バリアント、グループ、クレード、血清型、及び亜型のゲノム及びタンパク質配列は、Organism or the Protein record(生物またはタンパク質レコード)を選択することにより、参照ゲノムレコードからGenome Assembly(ゲノムアセンブリ)及びAnnotation Report(注釈レポート)から取得できる。
【0769】
あるいは、同様の保存されたタンパク質配列の検索は、当技術分野で知られているアルゴリズムを介して生成することができ、FASTA(参照元https://www.ebi.ac.uk/Tools/sss/fasta/)、ClustalW(参照元https://www.ebi.ac.uk/Tools/msa/clustalw2/)、HMMER((参照元http://hmmer.org/)、MMseqs2(参照元https://github.com/soedinglab/mmseqs2)、及びBasic Local Alignment Search Tool(BLAST;参照元ありますhttps://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)を利用して、同様のゲノムまたはタンパク質配列を生成することができる。BLASTでは、配列アラインメントを実行してスコアリングし、特定のクエリ配列に対して、類似したヌクレオチドまたはタンパク質配列を見つける。検索は、大規模データベース(典型的には、nrデータベース)に対して実行され、アルゴリズムでは、スコアリングされた出力一致の統計的有意性も定量化する。
【0770】
検索は、特定のスコアリングマトリックス及びギャップペナルティが与えられた場合に、配列間の類似性を定量化するスコアを最大化する。広く使用されているスコアリングマトリックスは、当技術分野で知られており、Point Accepted Mutation(PAM)マトリックス及びBLOcks SUbstitution Matrices(BLOSUM)が含まれる。これらのマトリックスは、アミノ酸のすべてのペア間の類似性を定量化するため、同じまたは類似のアミノ酸のペアは、高いスコアを有し、異なるアミノ酸のペアは、低いスコアに関連付けられるようになる。ギャップペナルティは、ギャップ(オープニング)に対するものであり、類似性スコアを最大化するためにアラインメントされた配列の1つに挿入される。ギャップペナルティは、すでに存在しているギャップの拡張と比較した場合、新しいギャップの方が大きくなる。BLASTは、異なるスコアリングマトリックス及びギャップペナルティを使用するようにパラメータ化できるため、同じ配列に対して異なるアラインメントが得られる。例えば、パラメータにより、整列された(類似の)ターゲット配列の最大数が制限され、最大E‐値を設定できる。E‐値は、類似性の統計的有意性を定量化し、値が低いほど、類似性が高くなる。パラメータフィルタには、クエリとデータベースシーケンスと間のワード一致を見つけることも含み、小さいワードサイズを使用すると、検索の感度が高くなる。「maximal matches in a query range(クエリ範囲内の最大一致)」パラメータでは、一致の数が制限される。
【0771】
送信されたときに、この検索により類似タンパク質が生成される。保存されたタンパク質の同定は、見つかった類似配列が参照配列と一致している割合(パーセント)、例えば、50~100%、70~100%、80~100%、または90~100%を示す、限定された同定一致を選択することにより、フィルタリングできる。次に、病原体ライブラリーは、プレーンテキストまたはFASTA形式で所望の配列または識別番号を選択することによって調製できる。
【0772】
配列アラインメント
ゲノム/タンパク質参照用の配列及びその類似配列を含むライブラリーは、配列が整列される。例えば、以下の表1を参照されたい。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【0773】
本明細書に記載のとおり、複数の配列を整列させる複数の公的に利用可能なツールが存在する。ClustalOmegaは、マルチプルアラインメント(MSA)を作成するために使用される。これは、異なる配列からの相同残基が、列に可能な限り整列するように、3つ以上の相同ヌクレオチドまたはアミノ酸配列を一緒に整列させるための手順である。配列アラインメントには、2つの種類があり、すなわち、一連の文字またはパターンについて2つ(ペアワイズ)またはそれ以上の配列(複数)を比較する。配列は、プログラムによって段階的に(最初の2つの配列、次に1つずつ)整列される。配列がグループにアラインメントされている場合、または2つの配列グループ間にアラインメントがある場合、最も高いアラインメントスコアを有するアラインメントが実行される。アライメントのギャップ記号は、アスタリスク等の中立的な文字に置き換えられる。
【0774】
コンセンサス配列の同定
コンセンサス配列(複数可)は、データを分析し、配列のすべてにわたってほぼまたは完全に均一である領域を認識することによって同定される。最も保存されたコンセンサス配列が、エピトープ予測のために選択される。
【0775】
ほんの一例として、レトロウイルス科ウイルスの科の保存されたタンパク質(複数可)、例えば、ヒト免疫不全ウイルスのコンセンサス配列は、先行技術において知られており、GenBank(登録商標)、DNA DataBank of Japan(DDBJ)またはEuropean Nucleotide Archive(ENA)等のデータベースを研究することによって見つけることができ、その中の各ウイルスバリアントに提供された配列からコンセンサス配列を決定する。例えば、ヒト免疫不全ウイルスのゲノム及びその血清型はマッピングされ、GenBankに送信する。National Center for Biotechnology Information(NCBI)のゲノムデータベース(参照元https://www.ncbi.nlm.nih.gov/genome)の検索では、例えば、HIV-1の代表的なゲノム情報を提供する。メインページには、各mRNAの記録、及びゲノムによってコードされるタンパク質配列が表示される。重要なことに、記録されるのは、上記の表1に列挙されているような保存されたタンパク質配列である。
【0776】
種のすべて(この送信時は499)の参照または代表的なゲノムのリストまたはゲノムアセンブリ及び注釈レポートを選択すると、すべてのゲノムバリアント、及び各ゲノムバリアントのGenBankアクセッション番号またはRefSeqアクセッション番号のいずれかリストが表示される(アセンブリ列)。
【0777】
最初のGenBankアクセッション番号を選択すると、各mRNAのレコード、及び最初のゲノムバリアントによってコードされたタンパク質配列が表示される。第2のGenBankアクセッション番号を選択すると、各mRNAのレコード、及び第2のゲノムバリアントによってコードされたタンパク質配列が表示される。全ゲノムバリアントまたはタンパク質配列バリアントの選択は、すべてまたはすべての所望のバリアントが見つかるまで繰り返すことができる。
【0778】
ゲノムまたはタンパク質の配列アラインメントの次の配列アラインメントは、ClustalW2(参照元https://www.ebi.ac.uk/Tools/msa/clustalw2/)等、複数の配列をアラインメントする機能を備えた配列アラインメントデータベースを含む、任意の公開されているソフトウェアにすべてのバリアントを入力することによって、見つけることができる。配列タイプとしてDNAを選択して配列をインポートすると、アスタリスクが付いたバリアントにおける相同性を示す配列のアラインメントが生成される。
【0779】
次に、すべてのバリアントにおいてほぼまたは完全に均一である領域の同定は、コンセンサス配列の同一性をもたらす。一塩基多型が存在する場合、点突然変異は、https://www.bioinformatics.org/sms/iupac.html.から取得できる適切なIUBWobbleベースコードに置き換えることができる。
【0780】
あるいは、Galaxy(参照元usegalaxy.org)等のツールを使用してもよく、データをダウンロードして適切なフィルタを選択したときに、コンセンサス配列が取得され得る。
【0781】
別の代替案では、ウイルス固有の配列データベースが存在し、例えば、HIV-1の場合、https://www.hiv.lanl.gov/content/sequence/HIV/CONSENSUS/Consensus.htmlから取得できる。コンセンサス配列は、適切なダウンロード形式、コンピュータータイプ、領域、及び整列したタンパク質オプションを選択することによって得られる。この場合、入力アラインメントは、https://www.hiv.lanl.gov/content/sequence/HIV/mainpage.htmlから取得されたHIVシーケンスデータベースWebアラインメントである。これらの配列は、取得後に追加のアノテーションが付けられている。具体的には、コンセンサス配列の疑問符が解決され、グリコシル化部位が整列されている。入力により、コンセンサス配列は、コンセンサスWebサイトを使用して構築した。コンセンサス配列は、アラインメント内に3つ以上(4つ以上ではなく)の配列を有するすべての亜型グループに対して計算されたことを除いて、コンセンサスWebサイトのデフォルト値に従って計算した。亜型グループの列に同数の2つの異なる文字が含まれている場合、Mグループ全体で同じ列を調べ、最も一般的な文字をコンセンサスとして使用することによって、同点を解決した。DNAコンセンサス配列内の大文字は、コンセンサスを作り出すために使用されるすべての配列内で、ヌクレオチドがその位置に完全一致で保存されていることを示す。非一致の場合、最も一般的なヌクレオチドは、小文字で示される。複数の挿入及び欠失にまたがる領域を整列させることは困難である。したがって、アラインメントは、グリコシル化部位のそのような領域内に固定され、そのような領域にまたがる最小のエレメントを保存する。タンパク質コンセンサス配列は、常に大文字であり、その位置にある最も一般的なアミノ酸を示す。
【0782】
実施例1B:
タンパク質、DNA、及び/またはRNA配列を導出する複数の公的に利用可能なデータバンクがあり、例えば、NCBIのGenBank、EMBLのNucleotide Sequence Database、Universal Protein Resource(UniProt;)、及びProtein Data Bank(PDB)が挙げられる。
【0783】
病原体ライブラリーの調整
参照ゲノムまたはタンパク質、及び既知の保存されたタンパク質の類似の配列を含むDNAライブラリーの調製物は、当技術分野で知られている方法によって生成することができる。例えば、NCBIで「A型インフルエンザウイルス」(A/Shanghai/02/2013(H7N9)を検索し、及び参照ゲノム「A型インフルエンザウイルス」(RefSeq No.NC_026422.1)を選択し、保存されたタンパク質のタンパク質配列または識別番号を選択した。
【0784】
第2の参照ゲノムのタンパク質配列も選択し、複数の配列アラインメントが取得される。NCBIは、参照ゲノム「A型インフルエンザウイルス(A/Puerto Rico/8/1934(H1N1))」(RefSeqアクセッション番号 NC_002018)を検索した。
【表2】
【0785】
あるいは、BLASTP(クエリタンパク質配列を特定のタンパク質データベース内の配列と比較する汎用タンパク質配列アラインメントプログラムである)では、選択された保存タンパク質に類似したコンセンサス配列を検索する。「Enter Query Sequence(クエリ配列の入力)」ボックスに、選択したタンパク質参照配列を入力する(テキストボックスに直接入力する、またはファイルを介してアップロードする)。配列(複数化)は、FASTA形式で提供されるか、またはクエリタンパク質が、NCBIデータベース内で見られるアクセッション番号またはNCBIgi番号のいずれかで同定されるかのいずれかである。「Choose Search Set(検索セットの選択)」ボックスで、ターゲット生物(病原体)を選択する(データベースには、現在利用可能な、includenr、RefSeq、PDB、SWISS-PROT等がある)。「Program Selection(プログラム選択)」ボックスでは、確実にBLASTPを選択する。BLASTパラメータは、事前に選択したデフォルトパラメータに設定する。アラインされたターゲット配列の最大数のデフォルト値が使用される(値=100)。デフォルトのE-値は10である。これは、類似した配列の約10が偶然に見つかることが予想されることを意味する。タンパク質のデフォルトのワードサイズが使用される(値=6)。「maximal matches in a query range(クエリ範囲内の最大一致)」パラメータは、デフォルト値の0に設定され、これは、制限がないことを意味する。デフォルトのスコアリングマトリックス及びギャップペナルティのデフォルト設定は、ギャップを開くためのBLOSUM62及び11、ギャップの拡張を行うための1として使用される。送信されると、保存されたタンパク質(複数可)の類似の配列または識別番号が検索され、生成され、その上でDNAライブラリーが調製される。
【0786】
配列アラインメント
整列させる配列は、テキストボックスに直接入力するか、ファイルとしてアップロードする。配列は、プレーンテキストまたはFASTA形式で入力する。ClustalW2が実行され、配列全体で均一性を有する領域のグラフィック表現が生成される。
【0787】
コンセンサス配列の同定
コンセンサス配列(複数可)は、データを分析し、すべての配列においてほぼまたは完全に均一である領域を認識することによって同定される。最も保存されたコンセンサス配列が、エピトープ予測のために選択される。
【0788】
実施例2:エピトープ予測
病原体のT細胞エピトープは、公開されている複数のデータベースを使用して予測可能である。SYFPEITHIを利用するImmune Epitope Database and Analysis Resource(IEDB)(参照元http://syfpeithi.de/BMI-AInfos.html)では、T細胞エピトープを予測する。
【0789】
MHCクラスI結合予測の生成
クラスI結合予測を実行するために、特定の保存されたタンパク質の少なくとも1つのコンセンサス配列をIEDBに入力する(配列は、プレーンテキストとして入力し、配列を空白で区切って、FASTA形式で、またはタンパク質を含むファイルを指定することによる)。検索のコンセンサス方法(複数可)を選択する。ヒトとしてのMHC種は、複数の対立遺伝子及びエピトープ長(例えば、9、10、11、12、13、14)を含む選択されたオプションにより指定される。
【0790】
結合親和性しきい値の較正
結合親和性のデータの品質を確保するために、検索を較正して、500nM未満のIC50値で結合するペプチドを予測するようにする。これは、すべてのエピトープのうちの80~90%の免疫原性に関連する確立されたしきい値である。
【0791】
検索が送信されると、タンパク質配列が指定された長さのすべての可能なペプチドに構文解析され、それぞれの予測される結合親和性が計算される。このツールは、予測された親和性をランダムに選択されたペプチドの大規模なセットの親和性と比較し、パーセンタイルランクを割り当てる(パーセンタイルランクが低いほど、高い結合親和性に相当する)。予測ツールは、対立遺伝子、ペプチドの開始位置及び終了位置、ペプチド長さ、ペプチド配列、使用された方法(複数可)、及びパーセンタイルランクの列を含む結果テーブルを生成する。結果は、デフォルトで、予測パーセンタイルランクごとに並べ替えられて表示されるが、配列位置ごとに並べ替えることもできる。
【0792】
エピトープの選択
対立遺伝子及び長さの組み合わせごとに、最上位1%のペプチドが選択される。
【0793】
実施例3
以下の実施例は、これらに限定されないが、以下の材料及び方法を使用して実施した。
【0794】
免疫原配列の設計及び最適化
コンセンサスアミノ酸配列は、Genbankデータベースで入手可能なA型インフルエンザウイルスの約40,000株から推定した。簡潔に説明すると、インフルエンザウイルスの約40,000株のM1、M2、NP、PB1、PB2、及びPAタンパク質のアミノ酸配列を計算して分析した。アミノ酸配列の各位置で、最も出現頻度の高いアミノ酸をその部位のコンセンサスアミノ酸として使用した。タンパク質配列は、各部位の共有アミノ酸を構成し、それにより、M1、M2、NP、PB1、PB2、及びPAタンパク質のコンセンサスアミノ酸配列を取得する。
【0795】
上記のように取得したPB1、PB2及びPAのコンセンサスアミノ酸配列は、以下を使用して分析した:オンラインCD8+T細胞エピトープ予測ソフトウェアsyfpeithi.de/(Singh H,Raghava GP.ProPredl:prediction of promiscuous MHC Class-I binding sites.Bioinformatics.2003;19:1009-1014)及びtools.immuneepitope.org/main/tcell/(Moutaftsi M, et al.A consensus epitope prediction approach identifies the breadth of murine T(CD8+)-cell responses to vaccinia virus.Nat Biotechnol.2006;24:817-819)。以下の最適化された哺乳動物のコドン使用法に従って、配列を改変させた。
【0796】
ワクチンの構築
2つの連結された免疫原配列を生成した。1つは、PAPB1M1(配列番号1)と呼ばれ、部分的なPA及びPB1配列及び完全長のM1配列で構成されていた。もう1つは、NPPB2M2(配列番号2)と呼ばれ、部分的なPB2配列及び完全長のNP及びM2配列で構成されていた。2つの免疫原配列は、ワクチン構築のために3種類のベクターにクローン化した。DNAワクチンについては、pSV1.0ベクターをバックボーンベクターとして使用した。アデノウイルスベースワクチンの場合、免疫原配列は、最初にp-Shuttleベクターにクローン化し、その後、E1/E3欠失AdC68ベクターにサブクローン化した。得られたベクターは、それぞれ、AdC68-配列番号1、及びAdC68-配列番号2と名付けた。AdC68-配列番号1及びAdC68-配列番号2を線形化し、HEK293細胞にトランスフェクトしてアデノウイルスを生成し、CsCl勾配遠心分離によって上清から精製した後、UV吸光度によってウイルス粒子数を測定した。TTVワクシニアベースのワクチンについては、ペプチドp2aを使用して、免疫原配列番号1及び配列番号2を連結し、pSC65シャッフルベクターにクローン化し、TK143細胞にトランスフェクトした(本明細書ではTTV-配列番号1/2と呼ばれる)。続いて、トランスフェクトされた細胞を組換え野生型Tiantanウイルスに感染させ、その後BrdUスクリーニングを行い、Vero細胞を使用して増幅された組換えウイルスを得た。
【0797】
免疫原発現におけるワクチンの検証
DNAベースのワクチンベクターをHEK293細胞にトランスフェクトした。AdC68ベース及びTTVワクシニアベースのウイルスワクチンを使用して、それぞれHEK293細胞及びVero細胞に感染させた。トランスフェクトまたは感染した細胞を24時間または48時間後に回収した。ウエスタンブロットを使用して、抗M1モノクローナル抗体(abeam,ab22396)または抗M2モノクローナル抗体(Santa Cruz,sc-52026)を使用して、ワクチンコード免疫原の発現を分析した。
【0798】
抗インフルエンザワクチン免疫原の発現を検出するためのウエスタンブロッティングアッセイの具体的な手順は次のとおりである。
【0799】
実験サンプルの準備
pSV1.0-配列番号1及びpSV1.0-配列番号2を293T細胞(Cell Resource Center of Shanghai Institutes for Biological Sciences,Chinese Academy of Sciencesから購入)にトランスフェクトし、48時間後に293T細胞を収集した。細胞を75μlの細胞溶解物に再懸濁し、25μlのタンパク質添加バッファを添加し、100℃で10分間インキュベートした。
【0800】
293A細胞をAdC68-配列番号1及びAdC68-配列番号2で感染させ、24時間後に収集した。細胞を75μlの細胞溶解物に再懸濁し、25μlのタンパク質添加バッファを添加し、100℃で10分間インキュベートした。
【0801】
TK143細胞は、TTV-配列番号1/2で感染させ、48時間後に収集した。細胞を75μlの細胞溶解物に再懸濁し、25μlのタンパク質添加バッファを添加し、100℃で10分間インキュベートした。
【0802】
(2)ウエスタンブロッティング実験は、8%ポリアクリルアミド分離ゲルで実施した。室温で30分間静置後、10%ポリアクリルアミド濃縮ゲルを添加し、コームをゲルに静かに挿入し、ゲルが固化するまで30分間待機した。電気泳動バッファを注ぎ、コームをゆっくりと取り除き、調製したサンプルを順番に添加する。電気泳動は、70ボルトで30分間行い、次に電圧を90ボルトに調整して1.5時間継続した。ポリフッ化ビニリデン(PVDF)メンブレンをメタノール中で30秒間活性化させた後、スポンジ、ろ紙、PVDFメンブレンをタンパク質転写液に浸漬させ、順番に置いた。転写装置及びアイスバッグを転写タンクに入れた。転写プロセスは、一定流量200mAで、2.5時間維持した。タンパク質を転写後、メンブレンを取り出し、5%スキムミルクで1時間遮断した。インフルエンザマトリックスタンパク質1抗体Shanghai Aibo Kang Trading Co.,Ltd.から購入)及びインフルエンザマトリックスタンパク質2抗体(Santa Cruz Biotechnology(Shanghai)Co.,Ltd.から購入)をそれぞれ、1:1000及び1:250で添加した。シェーカーで、室温で2時間一次抗体とインキュベート後、メンブレンをTween-20を含むリン酸緩衝液で、各回5分間ずつ3回洗浄した。西洋ワサビペルオキシダーゼ標識ヤギ抗マウスIgG二次抗体を1:5000で、メンブレンに添加し、室温で1時間インキュベートした。インキュベーション後、メンブレンを5回、各洗浄5分間、洗浄した。基質溶液とインキュベート後、発光を検出した。
【0803】
筋肉内免疫によるマウスモデルにおけるDNAワクチンプライムウイルスベクターブースト戦略
6~8週齢の雌C57BL/6マウスは、B&K Universal Group Limited(Shanghai, China)から購入し、特定病原体除去(SPF)条件下で、animal facilities of Shanghai Public Health Clinical Center,Fudan University(Shanghai,China)に収容されている。マウスを2つの対照群及び2つの実験群に分けた。示されたベクターの組み合わせをマウスに筋肉内免疫した。2つの実験群(1)DNA+AdC68群及び(2)DNA+TTV群では、動物は、pSV1.0-PAPB1M1(50μg)及びpSV1.0-NPPB2M2(50μg)をプライムとして2回受け、2週間後にAdC68-PAPB1M1(5x1010vp)/AdC68-NPPB2M2(5x1010vp)またはTTV-2a(1x107pfu)をそれぞれブーストとして受けた。2つの対照群では、プライミングベクターのみを空のベクターに置き換えるか、またはプライミングベクター及びブーストベクターを両方とも空のベクターに置き換えた。ワクチン接種4週間後、IFN-γELISpotアッセイ及びサイトカインの細胞内染色を使用した免疫原性評価のために、各群3匹のマウスを屠殺した。
【0804】
筋肉内経路または鼻腔内経路のいずれかを介して投与されたAdC68によるDNA、AdC68及びTTVワクチンの組み合わせ免疫化
6~8週齢の雌C57BL/6マウスは、5つの群に分けた。対照群は上記と同じであった。4つの実験群は、筋肉内(i.m.)経路または鼻腔内(i.n.)経路のいずれかを介して投与された、AdC68ワクチンを3種類のワクチンの異なる配列で免疫化した。群名は、ワクチンの種類、その後に経路を続く順番で示した(鼻腔内経路は、「i.n.」と省略し、デフォルトの筋肉内経路は、示さなかった)。ワクチン接種4週間後、IFN-γELISpotアッセイ及びサイトカインの細胞内染色を使用した免疫原性評価のために、各群3匹のマウスを屠殺した。
【0805】
IFN-γELISpotアッセイ
酵素結合免疫吸着スポット(ELISpot)アッセイは、マウスIFN-γELISpotキット(BD Bioscience、カタログ番号551083)を使用して実施した。対照またはワクチン接種マウスを屠殺し、気管支肺胞洗浄細胞及び脾細胞を単離した。2x105個の脾細胞を、5μg/mlの精製抗マウスIFN-γでプレコートした96ウェルプレートに3連で播種し、その後、最終5μg/ml濃度で、6つのウイルス免疫原(M2、M1、NP、PA、PB1、PB2)のうちの1つに特異的なペプチドで刺激した[表1]。合計16のペプチドが使用され、1つはM2に、3つは残りの5つの免疫原に使用した。24時間刺激後、細胞を脱イオン水で洗浄し、100μlのビオチン化抗マウスIFN-γ(2μg/ml)に室温で2時間曝露し、その後100μlのストレプトアビジンHRPを添加する前に徹底的に洗浄した。室温で1時間インキュベート後、細胞を洗浄し、100μlの基質溶液を添加して、スポットを発生させた。反応を水で停止させ、スポット形成細胞(SFC)の数を自動ELISPOTソフトウェア(Saizhi,Beijing,China)を使用して測定した。
【0806】
サイトカインの細胞内染色
脾細胞は、上記のように調製した。2x106脾細胞を、抗マウスCD107a-PE(BioLegend)抗体の存在下で、等量の上記の16個のペプチドすべてからなるペプチドプールで1時間刺激後、6時間、1μl/mlブレフェルディン(BD Bioscience)に曝露した。次に、細胞を洗浄し、表面特異的マウス抗体LIVE/DEAD-AmyCan,CD3-PerCP-cy5.5,CD8-PB(BioLegend)で染色した。その後、BD Cytofix/Cytopermキットを使用して細胞を透過処理し、FITC抗マウスIFN-γ抗体及びPECy7抗マウスTNFa抗体(BioLegend)によって、細胞内サイトカインを染色する。Fortessa Flowサイトメーター(BD Bioscience)を使用してサンプルを測定し、FlowJo 10.0.6ソフトウェア(Tree Star)を使用してデータを分析した。
【0807】
A型インフルエンザウイルスによる感染チャレンジ
ワクチン接種の4週間後、マウスは、いずれかのインフルエンザA/PR8(H1N1)ウイルスまたはインフルエンザA/Shanghai/4664T/2013(H7N9)ウイルスでチャレンジした。体重及び生存率は、チャレンジ後14日間モニターした。各群5匹のマウスをチャレンジ後5日目に屠殺して、ウイルス力価を測定し、肺の病理学的変化を評価した。チャレンジの全過程で、対照群及び2つの鼻腔内群の半数のマウスを、溶解したFTY720を濃度2μl/mlで含む飲料水に自由に曝露させた。H7N9ウイルスに関連するすべての実験は、Institutional Biosafety Committee at Shanghai Public Health Clinical Center, Fudan Universityによって承認された標準操作プロトコルに従って、バイオセーフティレベル3の実験室で実施された。
【0808】
肺のウイルス負荷量の決定
全RNAを肺組織から抽出し、インフルエンザウイルス特異的プライマーを使用して、TaqManリアルタイム逆転写PCR(RT-PCR)を行い、ウイルス負荷の相対レベルを決定した。正規化のために、グリセルアルデヒドリン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)を参照遺伝子として使用した。使用したサーモサイクリング条件は、次のとおりである:42℃で10分、95℃で1分、95℃で15秒、60℃で45秒の45サイクル(Keskin DB,et al.Proc Natl Acad Sci US A.2015;112(7):2151-2156)。REALPLE32.2ソフトウェア(Eppendorf)を使用して、データを分析した。プライマー配列は、以下のとおりであった:
H7N9ウイルス検出の場合:
F-5’-GAAGAGGCAATGCAAAATAGAATACA-3’(配列番号3)、
R-5’-CCCGAAGCT AAACCARAGT ATCA--3’(配列番号4)、
プローブ -5’-CCAGTCAAACTAAGCAGYGGCTACAAA-3’(配列番号5);
PR8ウイルス検出の場合:
F-5’-GACCGATCCTGTCACCTCTGA-3’(配列番号6)、
R-5’-AGGGCATTCTGGACAAAGCGTCTA-3’(配列番号7);
プローブ-5’-TGCAGTCCTCGCTCACTGGGCACG-3’(配列番号8);
GAPDH参照検出の場合:
F-5’-CAATGTGTCCGTCGTGGATCT-3’(配列番号9)、
R-5’-GTCCTCAGTGT AGCCCAAGA TG-3’(配列番号10)、
プローブ-5’-CGTGCCGCCTGGAGAAACCTGCC-3’(配列番号11)
【0809】
統計分析
すべての統計分析は、GraphPad Prism6.0(GraphPad Software,Inc)を使用して実施した。2つの群間比較は、t検定またはマンホイットニー検定のいずれかによって分析した。3つ以上の群間比較は、一元配置分散分析によって分析した。有意差は、p<0.05として定義した。
【0810】
実施例4.インフルエンザ内部遺伝子ベースワクチンの構築
インフルエンザワクチンは、ウイルス内部抗原の保存されたCD8+T細胞エピトープを含むように設計した。インフルエンザM1、M2、NP、PA、PB1、PB2免疫原のコンセンサスアミノ酸配列は、Genebankデータベースで入手可能なA型インフルエンザウイルスの約40,000株から推定した。免疫原設計をより効率的にするために、syfpeithi.de/(スコア>:29)及びtools.immuneepitope.org/main/tcell/(パーセンタイルランク<0.1)にあるオンライン予測ツールに基づいて、PA、PB1、及びPB2のCD8+T細胞エピトープを豊富に含む配列のみを含めた。その結果、2つの免疫原配列が生成された。1つは、PAPB1M1免疫原(配列番号1)として示され、完全長M1配列と、選択されたPA及びPB1配列とを含む。他方は、PB2NPM2免疫原(配列番号2)として示され、選択されたPB2分節及び完全長NP、M2配列(図1A)を含む。
【0811】
ワクチンは、DNAベクター、E1/E3-欠失複製欠損チンパンジーアデノウイルス(AdC68)、及び組換えTiantanワクシニアウイルス(TTV)等の3つのプラットフォームで、2つの免疫原を発現するように構築した。最初の2つのプラットフォームでは、2つの免疫原が別々に発現し、その結果、2つのDNAベースのワクチン(pSV1.0-PAPBIM1(配列番号1)及びpSV1.0-PB2NPM2(配列番号2))及び2つのAdC68ベースのワクチン(AdC68-PAPB1M1(配列番号1)及びAdC68-PB2NPM2(配列番号2))となり;TTVプラットフォームでは、2つの免疫原が単一のワクシニアワクチン、すなわちTTV-2aから発現した。得られたワクチンは、トランスフェクションまたは感染のいずれかによって培養細胞に導入し、細胞溶解物中のコードされた免疫原の発現は、A型インフルエンザM1またはM2抗原に特異的なモノクローナル抗体を使用したウエスタンブロッティングによって決定した。
【0812】
免疫原発現のためのウエスタンブロッティングアッセイの結果を図1B及び図1Cに示す。DNAベクターpSV1.0、アデノウイルスベクターAdC68及びワクシニアベクターTTVはすべて、免疫原PAPBIM1(配列番号1)を効率よく発現した。インフルエンザマトリックスタンパク質1抗体とのインキュベーション後、免疫原配列番号1の配列を含まない空ベクターpSV1.0、AdC68、及びTTVには特定のバンドは見られなかった。その一方で、免疫原配列番号1の配列を含むベクターでは、約130kDのバンドが見られた。これは、DNAベクターpSV1.0、アデノウイルスベクターAdC68及びワクシニアベクターTTVが、免疫原配列番号1を効率よく発現できることを実証している。インフルエンザマトリックスタンパク質2抗体とのインキュベーション後、免疫原PB2NPM2(配列番号2)の配列を含まない空ベクターpSV1.0、AdC68、及びTTVにおいて特異的なバンドは見出されなかった。その一方で、免疫原配列番号2の配列を含むベクターでは、約130kDのバンドが見られた。これは、DNAベクターpSV1.0、アデノウイルスベクターAdC68及びワクシニアベクターTTVが、免疫原配列番号2を効率よく発現できることを実証している。β-アクチン抗体とのインキュベーション後、タンパク質サイズが約42kDの有意なバンドが観察され、これは、実験ステップが正確であり、結果が信頼できることをさらに証明している。
【0813】
実施例5.抗インフルエンザワクチン免疫原に基づくワクチン免疫原性検出
DNAベクターワクチン、アデノウイルスベクターワクチン、及びワクシニアベクターワクチンは、実施例1に記載のとおり、本開示における免疫原を使用して構築した。マウスは、組換えインフルエンザワクチンで免疫化し、組換えインフルエンザワクチンの免疫原性評価は、免疫化完了後4週間で実施した。
【0814】
6週齢C57BL/6マウスは、ランダムに3つの群:対照群、アデノウイルス群及びワクシニア群に分けた。具体的な免疫化手順を以下の表3に示す。免疫化は、pSV1.0の用量100μg、AdC681011ウイルス粒子の用量、pSV1.0-配列番号1及びpSV1.0-配列番号2の接種用量、それぞれ50μg、AdC68-配列番号1及びAdC68-配列番号2の接種量、それぞれ5x1010ウイルス粒子、ならびにTTV-配列番号1/2の接種量、プラーク形成単位107で、筋肉内注射によって行った。ワクチンは、2週間に1回接種させた。
【表3】
【0815】
ELISpot及びサイトカインの細胞内染色(ICS)を使用して、マウスの脾臓細胞における組換えインフルエンザワクチンの免疫原性を検出した。
【0816】
配列番号1及び配列番号2のエピトープ予測、報告されている一般的に使用されるインフルエンザT細胞エピトープに基づいて、マウスT細胞免疫応答の刺激用に16のエピトープ単一ペプチドを選択し、それぞれM1-1、M1-2、M1-3、M2、NP-1、NP-2、NP-3、PB1-1、PB1-2、PB1-3、PB2-1、PB2-2、PB2-3、PA-1、PA-2、PA-3と名付けた。
【0817】
ワクチン免疫原性試験の結果を図9A図9Cに示す。ELISpotアッセイの結果は、対照マウスがスポット形成細胞を示さず、インフルエンザ特異的T細胞免疫応答を示さなかったこと;アデノウイルス群は、NP-2及びPB2-1エピトープの両方に対してより高いレベルの細胞性応答を呈したこと;ワクシニア群のマウスは、NP-2、NP-3、PB1-1、PB1-3、PA-3及び他のエピトープに対して、より高いT細胞免疫応答を呈することを示した。
【0818】
IFNγ、TNFα、及びCD107a等の細胞内サイトカイン染色を使用して、マウス脾臓細胞におけるインフルエンザ特異的免疫応答のレベルを検出した。IFNγ、TNFα、及びCD107aを発現するT細胞は、対照群では観察されなかったが、アデノウイルス群及びワクシニア群で観察されたため、インフルエンザの特徴を備えたT細胞免疫応答を示した。
【0819】
まとめると、この実験により、異なるワクチンベクターによって、抗インフルエンザワクチン免疫原の配列番号1及び配列番号2の発現が確認され、すべてが有意なT細胞免疫応答を誘導した。
【0820】
実施例6.DNAプライム及びウイルスベクターワクチンブーストは、インフルエンザ特異的CD8+T細胞応答を効率よく備える
次に、インフルエンザ特異的な細胞性免疫応答を誘導するために新しく開発されたワクチンの能力をマウスで調べた。マウスを3つの群に分けた。対照群は、2用量の対照ベクターpSV1.0(100ug)及び1用量の対照ベクターAdC68-空(1x1011vp)で筋肉内免疫化した。DNA+AdC68群及びDNA+TTV群と名付けた2つの実験群は、pSV1.0-PAPB1MI(50μg)/pSV1.0-NPPB2M2(50μg)の2回の投与で筋肉内免疫化させ、続いてAdC68-PAPB1M1(5x1010vp)/AdC68-NPPB2M2(5x1010vp)またはTTV-2a(1x107pfu)をそれぞれ1回投与して、筋肉内ブーストした(図2A)。ワクチン接種の4週間後、各群3匹のマウスを安楽死させ、脾細胞を単離して、IFN-γELISpotアッセイ(図2B)及び細胞内サイトカイン染色(ICS)アッセイ(図2C図2D)によって、インフルエンザ特異的CD8+T細胞応答を測定した。
【0821】
データは、検査した16のインフルエンザ特異的エピトープペプチドすべての中で(表4)、NP-2及びPB2-1ペプチドが、両方の実験群のIFN-γ産生免疫細胞の誘導において優勢であることを示した。しかし、DNA+AdC68群は、DNA+TTV群よりも、これら2つのペプチドのいずれかに対して著しく高い細胞性応答を呈した(NP-2ペプチドでは、p=0.006、PB2-1ペプチドではp=0.007)(図2B)。さらに、16個のペプチドすべてから構成されるペプチドプールで刺激後、DNA+TTV群と比較して、有意に多くのIFN-γ+/TNF-α+、IFN-γ+細胞、及びCD107a+細胞がDNA+AdC68群に現れた(IFN-γ+/TNF-α,+細胞ではp=0.007、IFN-γ+細胞ではp=0.029、CD107a+細胞ではp=0.049)(図2C及び図2D)。対照的に、DNA+TTV群は、より広い細胞性応答を呈した(図2B)。これは、この群からの免疫細胞において、より多くのペプチド、例えば、M2、NP-3、PB1-1、PB1-3、PA-1、PA-3が、わずかではあるが検出可能なIFN-γ誘導を誘発することが可能であったという事実によって示される。したがって、これらの結果は、DNA+AdC68レジメンは、免疫優性T細胞応答を高めるのにより効果的であったが、DNA+TTVレジメンは、免疫優性以下のT細胞応答を誘発するのに優れていると考えられることを示す。
【表4】
【0822】
実施例7.マウスモデルにおけるDNAプライム/ウイルスベクターブーストレジメンは、異種インフルエンザウイルスチャレンジに対する防御をもたらした。
次に、DNAプライム/ウイルスベクターによるブーストレジメンの防御効果を判断することを目的として、インフルエンザチャレンジのマウスモデルを使用した。マウスを上記のように偽の対照またはワクチンで免疫化し、2つの群に分け、4週間後に500の50%組織培養感染量(TCID50)のA/PRS(H1N1)または100TCID50 A/Shanghai/4664T/2013(H7N9)インフルエンザウイルスいずれかでチャレンジした。次に体重を14日間モニターし、生存率も計算した。肺ウイルス負荷量測定のため、各群5匹のマウスを、チャレンジ後5日目に安楽死させた。
【0823】
A/PR8(H1N1)ウイルスによる致死的チャレンジ後、偽対照群のマウスでは、急速かつ継続的に体重が減少した(図3A)。その結果、これらのマウスは、7日目から12日目までの間に死亡した(図3B)。対照的に、2つのワクチン接種群の体重もまた、PR8チャレンジ後に最初の減少を経験したが、それらは、8日目に最下点に達し、その後、その後リバウンドした(図3A)。したがって、すべてのマウスが生存していた(図3B)。PR8チャレンジからのワクチン接種マウスの防御は、対照群と比較して、肺ウイルス負荷量の減少によってさらに確認された(DNA-AdC68群p=0.07及びDNA-TTV群p=0.04)(図3C)。興味深いことに、DNA+TTV群のマウスは、DNA-AdC68群と比較して、体重の減少がより遅く、かつより少ないものであり(図3A)、これは、わずかに低いウイルス負荷量と一致して(図3C)おり、DNA+TTVレジメンが、PR8チャレンジに対して、より良い防御をもたらし得ることを示唆している。まとめると、これらのデータは、適切に設計されたT細胞ワクチンが、PR8(H1N1)A型インフルエンザウイルスの致死的チャレンジに対して、防御をもたし得ることを実証している。
【0824】
次に、両方のレジメンが、H7N9による致死的チャレンジから防御できなかったため、非致死的H7N9チャレンジモデルを使用した(図3E)(データは示していない)。興味深いことに、両方のワクチン接種群は、対照群と比較して、より少ない初期の減少失及びより早い体重の回復を示し(図3D)、これは、肺におけるウイルス複製の阻害と一致した(DNA-AdC68群p=0.4、DNA-TTV群p=0.16)(図3F)。したがって、保存されたインフルエンザ特異的CD8+T細胞エピトープを送達することにより、DNA+AdC68レジメン及びDNA+TTVレジメンは両方とも、マウスモデルにおいて、群間防御を備えることができた。
【0825】
実施例8.アデノウイルスベクターワクチンの鼻腔内投与は、併用レジメンにおいて活発な呼吸器常在性T細胞応答を誘発する。
インフルエンザチャレンジからの防御を改善するために、気道及び肺常在メモリーT細胞をさらに強化するために、TTV筋肉内免疫化前後のAdC68の鼻腔内接種を、DNA筋肉内プライミングとの組み合わせレジメンにおいて、試験を行った。AdC68の筋肉内投与を対照として採用した。すべての群は、図4Aで予定しているように免疫化した。各群3匹のマウスは、IFN-γ ELISpotアッセイ及び細胞内IFN- γ染色ベースのフローサイトメトリーアッセイを使用して、免疫原性評価のためにワクチン接種の4週間後に屠殺した。ワクチン接種されたマウスから単離された脾細胞における全身性T細胞応答を最初に分析した。IFN-γELISpotアッセイの結果は、4つの試験群の中で、DNA+TTV+AdC68群は、同等の応答を示した他の3つの群よりも、免疫優性のNP-2及びPB21エピトープペプチドに対して、有意に高い細胞性応答がマウントされる(NP-2ペプチドp=0.002、PB2-1ペプチドp=0.008の場合)ことを示した(図4B及び図4E)。対照的に、DNA+AdC68+TTV及びDNA+AdC68i.n.+TTVのレジメンでは、他の2つのレジメンのものよりも、サブドミナントエピトープに対して、より強力なT細胞免疫応答を引き起こした(図4B)。機能性は、ペプチドプールで刺激した後、脾細胞における細胞内サイトカイン染色ベースのフローサイトメトリーアッセイでさらに分析した。図4Dに示すとおり、AdC68の筋肉内投与では、それらの鼻腔内対応物より、よりインフルエンザ特異的IFN-γ+、TNF-α+及びIFN-γ+TNF-α+ダブルポジティブT細胞にマウントされた。さらに、4つの群すべての中で、DNA+TTV+AdC68群は、CD107a+細胞の最も高い誘導を示した(p=0.049)(図4E)。まとめると、これらの結果は、筋肉内経路が、大きさ及び機能の両方において、全身性免疫応答を引き起こすより良好な経路であるという結論に至った。
【0826】
次に、IFN-γELISpot分析を気管支肺胞洗浄(BAL)リンパ球に拡張した。驚くべきことに、DNA+AdC68 i.n.+TTV及びDNA+TTV+AdC68i.n.群でのみ、NP-2(DNA+AdC68 i.n.+TTVでは、p=0.02、DNA+TTV+AdC68 i.n群では、p=0.006)及びPB2-1エピトープペプチド(DNA+AdC68 i.n.+TTVではp=0.034、DNA+TTV+AdC68 i.n群では、p=0.047)による刺激に応答して、堅牢なBALT細胞免疫細胞を示した(図4C)。したがって、AdC68の鼻腔内投与は、気道及び肺に常在するT細胞の誘導において、筋肉内投与よりも顕著な利点を有していた。
【0827】
実施例9.AdC68の鼻腔内投与が、インフルエンザの致死的チャレンジからより良好な防御をもたらした。
次に、PR8及びH7N9チャレンジからのコンビナトリアル免疫レジメンの予防効果を評価した。図4に記載のとおり、ワクチン接種を受けたマウスは、最後の接種から4週間後に500TCID50のPR8インフルエンザウイルスまたは500TCID50のH7N9インフルエンザウイルスのいずれかでチャレンジを受けた。
【0828】
PR8チャレンジに応答して、2つのAdC68鼻腔内免疫化群は、2つの筋肉内免疫化群よりも重篤ではなかったが、同様の体重減少を経験した(図5A)。これは、後者の群の10日目と比較して、9日目の初期の減少が遅く、体重のリバウンドが早いことを特徴とし、リバウンド前の最下点の体重が高くなった。生存率は、体重曲線の確証となり、2つの鼻腔内免疫化群では100%であったのに対し、2つの筋肉内免疫化群では、60~80%であった(図5B)。対照的に、偽対照群のすべてのマウスが、10日目から13日目までの間に死亡し、上記の以前の実験と一致した(図5B)。さらに、鼻腔内投与は、肺ウィルス負荷量のより減少をもたらすように考えられることが見出され、これは特にDNA+Adc68i.n.+TTV群(p=0.046)において明らかである(図5C)。したがって、4つのコンビナトリアル免疫レジメンすべてがPR8感染に対する防御を付与できたが、鼻腔内AdC68ワクチン接種による2つのレジメンで、より効果的であった。
【0829】
致死的なH7N9チャレンジモデルに関する研究は、上記の観察をさらに裏付けるものであった。鼻腔内経路は、筋肉内経路と比較して、優れた防御効果を備えていた。この優位性は、体重の変化によって最初に反映され、DNA+Adc68 i.n.+TTVとDNA+TTV+Adc68群とでは、両方とも、PR8チャレンジで観察されたものと同様の体重減少曲線を呈し、体重は9日目に最下点に達し、その後リバウンドした。対照的に、DNA+Adc68+TTV及びDNA+TTV+Adc68の群は両方とも、偽の対照群と類似して、回復することなく、より急速かつ継続的に体重減少を受けた(図5D)。その結果、2つの鼻腔内免疫化群のすべての動物が生存したが、2つの筋肉内免疫化群では、すべてではないが、ほとんどが死亡した(図5E)。
【0830】
チャレンジ後5日目の肺ウイルス負荷量の測定では、筋肉内ワクチン接種に対して、鼻腔内ワクチン接種での利点のみがわずかに明らかになった(図5F)。理論に拘束されるものではないが、誘導された細胞性免疫が、ウイルス複製の抑制に加えて、例えば肺の炎症を軽減するために、病原性を減弱する追加のメカニズムを発揮し得ると推測するのは妥当である。全体として、H7N9チャレンジ研究では、T細胞ベースのインフルエンザワクチン(複数可)の予防効果を改善する上で、筋肉内免疫よりも鼻腔内免疫の利点がさらに強調されている。
【0831】
実施例10.呼吸器の常在メモリーT細胞及び全身メモリーT細胞が両方とも、完全な防御に不可欠である。
DNA+AdC68 i.n.+TTV及びDNA+TTV+Adc68 i.n.+TTVレジメンの両方が、呼吸性メモリーT細胞及び全身性メモリーT細胞を両方とも上昇させることができたので、これら2つのT細胞亜集団の防御免疫への寄与を分析するために、スフィンゴシン-1-リン酸を標的とする免疫調節薬であるフィンゴリモド(FTY720)を使用して、リンパ節または脾臓からのT細胞の流出を防いだが、呼吸性常在メモリーT細胞には影響はなかった(Masopust D,et al.J Exp Med.201’0;207(3):553-64)。
【0832】
致命的なPR8チャレンジ中にFTY720に曝露された場合、DNA+AdC68 i.n.+TTVとDNA+TTV+Adc68 i.n.群が両方とも、体重曲線(図6A)及び生存曲線(図6B)の両方によって証明されるように、対照群と比較して、部分的な防御を付与した。防御効果は、FTY720がない場合よりも低く、より急速な体重減少及びその後の体重回復が見られた。重要なことに、DNA+AdC68 i.n+TTV群及びDNA+TTV+AdC68 i.n.において、生存率がそれぞれ、100%から80%及び60%に低下し(図6B)、ウイルス複製の強力でない抑制が観察された(図5C及び図6C)。それにもかかわらず、同様の部分的な防御がH7N9チャレンジに対しても観察され、DNA+TTV+AdC68 i.n.群では、生存率がさらに大きく低下した(図6D図6E図6F)。FTY720に曝露されるときは、DNA+AdC68 i.n+TTVレジメンでは、致命的なPR8及びH7N9チャレンジから、DNA+TTV+AdC68 i.n.よりもより優れた生存をもたらしたことに留意されたい(図6A、B、D及びE)。まとめると、これらのデータは、DNA+AdC68 i.n.+TTV+FTY720群で示されるとおり、鼻腔内免疫のみによって誘導された呼吸器常在T細胞が、インフルエンザのチャレンジに対して顕著な群間防御を提供できることを示唆している。さらに、FTY720治療は、特にDNA+AdC68 i.n.+TTV群の生存率の低下をもたらし、これは、完全な防御効果には、呼吸器常在性T細胞及び全身性T細胞の両方が不可欠であることを主張するものである。
【0833】
実施例11:抗インフルエンザ免疫原に基づく防御効果の評価
DNAワクチン、アデノウイルスベクターワクチン、及びワクシニアベクターワクチンは、実施例1に記載の本開示の免疫原を使用して構築され、実施例1に記載の組換えインフルエンザワクチンで免疫化し、組換えインフルエンザワクチンのチャレンジ防御効果を、免疫化の完了から4週間後に評価した。
【0834】
H1N1及びH7N9インフルエンザチャレンジモデルを使用して、免疫原の防御効果を評価した。H1N1インフルエンザチャレンジ実験は、バイオセーフティレベル2の実験室で実施し、H7N9インフルエンザチャレンジ実験は、バイオセーフティレベル3の実験室で実施した。
【0835】
各マウスに50μlの10%抱水クロラールを腹腔内注射し、50μlのインフルエンザウイルスでチャレンジした。H1N1インフルエンザウイルスの組織感染量の半分は、マウス1匹あたり500ウイルスであった。H7N9インフルエンザウイルスの組織感染量の半分は、マウス1匹あたり100ウイルスであった。チャレンジ後5日目に、各群5匹のマウスを屠殺し、ウイルス負荷量の測定のために肺を採取した。
【0836】
感染チャレンジ実験の結果を図10A図10Fに示す。致死量のH1N1インフルエンザウイルスでチャレンジ後、対照群のマウスは体重減少が継続し、12日目に死亡した。アデノウイルスマウスの体重は、9日目に上昇し始め、すべて14日まで生存した。ワクシニア群の体重減少は、著しく遅くなり、体重は、9日目に増加し始め、すべてのマウスは14日まで生存した。
【0837】
非致死量のH7N9インフルエンザウイルスでチャレンジ後、対照マウスの体重は20%近く減少し、9日目に体重が増加した。アデノウイルス群及びワクシニア群のマウスの体重減少は10%未満であり、体重は、7日目に急速にリバウンドした。
【0838】
この実験では、異なるワクチンベクターによる抗インフルエンザワクチン免疫原配列番号1及び配列番号2の発現が、H1N1及びH7N9インフルエンザウイルスに対して交差防御効果を有し得ることを実証している。すなわち本開示における2つの免疫原は、インフルエンザウイルスの様々な亜型に対して幅広い防御を有する。
【0839】
実施例12:異なる免疫化方法に基づくインフルエンザワクチンの免疫原性検出
DNAワクチン、アデノウイルスベクターワクチン、及びワクシニアベクターワクチンは、実施例2に記載のとおり、本開示の抗インフルエンザ免疫原を使用して構築した。マウス免疫化は、本開示の免疫化方法によって実施した。免疫化完了から4週間後、実施例3に記載のとおり、免疫原性試験を実施した。
【0840】
6週齢C57BL/6マウスをランダムに5つの群:対照群1、対照群2、対照群3、実験群1及び実験群2に分けた。ここで実験群1及び実験群2は、本発明の免疫化方法を用いた。具体的な免疫化手順を表5に示す。pSV1.0の投与量は100μgであり、AdC68の投与量は、1011ウイルス粒子であり、pSV1.0の投与量-配列番号1及びpSV1.0-配列番号2は各50μg、AdC68-配列番号1及びAdC68-配列番号2接種用量は、5x1010ウイルス粒子、TTV及びTTV-配列番号1/2接種量は、107プラーク形成単位であった。ワクチンは、2週間に1回接種させた。
【表5】
【0841】
ワクチン免疫原性試験の結果を図11A図11Dに示す。ELISpotアッセイの結果は、マウス脾臓細胞では、対照群1のマウスでインフルエンザ特異的T細胞免疫応答が観察されなかったことを示した。一方、対照群2、3及び実験群1、2では、高レベルのT細胞免疫応答が見られた。マウス肺洗浄液では、対照群1、2、3で斑点細胞は見られず、インフルエンザ特異的免疫応答は、肺で確立され得ることはなかった。実験群1及び2は、より多くのスポット形成細胞を示した。すなわち、実験群1及び2は、本開示におけるワクチン接種法を使用して、非常に高レベルのインフルエンザ特異的T細胞免疫応答を示した。
【0842】
IFNγ、TNFα、及びCD107aの細胞内サイトカイン染色を使用して、マウス脾臓細胞におけるインフルエンザ特異的免疫応答のレベルを検出した。結果は、IFNγ及びTNFαを発現するT細胞は、対照群1では観察されなかったが、対照群2、3及び実験群1及び2で観察されたため、A型インフルエンザによって誘導されたT細胞免疫応答を示した。
【0843】
この実験により、呼吸器免疫及び全身免疫を組み合わせた、異なる組換えベクターワクチンを用いた実験群1と実験群2の連続免疫法が、系全体及び肺において高レベルのインフルエンザ特異的免疫応答を効果的に確立できることが確認された。これは、対照群よりも優れていた。
【0844】
実施例13:異なる免疫化方法に基づくウイルスチャレンジからのインフルエンザワクチンの防御効果の評価
本明細書に記載のとおりマウスを免疫化し、H1N1及びH7N9インフルエンザチャレンジモデルを使用して、マウスにおける最後のワクチン免疫4週間後の免疫原の防御効果を評価した。H1N1インフルエンザチャレンジ実験は、バイオセーフティレベル2の実験室で実施され、H7N9インフルエンザチャレンジ実験は、バイオセーフティレベル3の実験室で実施した。
【0845】
各マウスに、50μlの10%抱水クロラールを腹腔内注射し、50μlのインフルエンザウイルスでチャレンジした。H1N1インフルエンザウイルスの組織感染量の半分は、マウス1匹あたり500ウイルスであった。H7N9インフルエンザウイルスの組織感染量の半分は、マウス1匹あたり500ウイルスであった。チャレンジ後5日目に、各群5匹のマウスを屠殺し、ウイルス負荷量の測定のために肺を採取した。
【0846】
ウイルスチャレンジ実験からの防御の結果を図12A図12Dに示す。H1N1インフルエンザウイルスチャレンジ後、対照群1のマウスはすべて、13日目に死亡したが、対照群2及び3のマウスは、部分的防御効果を示し、マウスの80%及び60%が、それぞれ14日目まで生存した。実験群1及び2のマウスの体重は、10日目に増加し、本開示のワクチン免疫化法を使用して、すべてが14日目まで生存した。また、実験群2のウイルス負荷量は、有意に減少し、優れた防御効果を示した。
【0847】
H7N9インフルエンザウイルスチャレンジ後、本開示のワクチン接種法を使用した実験群1及び2の体重は、10日目に急速に増加し、すべてのマウスは14日目まで生存し、これら2つの実験群で、優れた防御効果を示した。他の群のマウスには、有意な防御効果はなかった。
【0848】
この実験は、呼吸器免疫化及び全身免疫化と組み合わせた異なる組換えベクターワクチンによる連続免疫化により、本開示のワクチン免疫化法を使用する実験群1及び実験群2が、H1N1及びH7N9インフルエンザウイルスに対して優れた交差防御効果を示したことを確認した。これらの2つの群に見られる防御効果は、筋肉内注射経路のみを使用する対照群2及び3の防御効果よりも優れている。さらに、組換えワクシニアベクターワクチンが最後のワクチンとして免疫化される場合、ワクチンは、最高の防御効果を有する。
【0849】
実施例14:マウスにおける鼻腔内免疫化によるインフルエンザウイルスチャレンジの防御効果の評価
本明細書に記載のとおりマウスを免疫化し、H1N1及びH7N9インフルエンザチャレンジモデルを使用して、マウスにおける最後のワクチン免疫4週間後の免疫原の防御効果を評価した。インフルエンザチャレンジからの防御は、実施例6に記載のとおりである。チャレンジの全期間中、マウスは、2μg/ml FTY720(免疫抑制剤)を含む水を飲み続け、末梢循環リンパ球の数を効果的に減少させたが、呼吸器常在メモリーT細胞に影響を与えることはできなかった。FTY720は、致死量のH1N1及びH7N9インフルエンザウイルスのチャレンジ中に使用し、鼻腔内免疫法が増強効果を有するかを評価した。
【0850】
実験結果を図13A図13Fに示す。マウスが、H1N1及びH7N9インフルエンザウイルスにチャレンジ後、実験群のマウス1+FTY720及び実験群2+FTY720のすべてが、部分的防御を示した。マウスの体重は、11日目に増加し始め、14日目まで生存し、ウイルス負荷量は減少した。防御効果は、対照群1+FTY720よりも良好であった。
【0851】
この実験により、ワクチンの気道接種法が、H1N1及びH7N9インフルエンザウイルスに対するワクチン免疫の防御効果を効果的に増強することが確認された。
【0852】
現在のインフルエンザワクチンは、株特異的HA及びNA糖タンパク質に対する体液性免疫を高めることによって機能する。その結果、それらはヒトにおいて交差防御を付与することができず、循環インフルエンザ株と一致するように毎年再処方する必要がある[39]。交差防御を可能にするユニバーサルA型インフルエンザワクチンを開発する緊急性が高まっている[40]。交差反応性インフルエンザワクチンの開発は、保存されたHAステムまたはM2eに対する免疫応答の体液性アームと、表面ウイルス糖タンパク質よりもはるかに多く保存されている内部ウイルスタンパク質を標的とするその細胞性アームの両方で調査されている[41]。T細胞ベースのワクチンの可能性は、H7N9感染患者の近年の研究によってさらに裏付けられ、ヒトのH7N9感染を克服する上での効果的かつタイムリーなCD8+T細胞応答の極めて中心的な役割が明らかになった。本明細書で提供されるのは、交差群間防御が可能な広域スペクトルT細胞応答を誘導するための、交差保存されたインフルエンザ特異的エピトープの効果的な送達に焦点を合わせた新しいワクチン接種戦略である。
【0853】
この新しい戦略の最初のステップは、ウイルス内部抗原の保存されたT細胞エピトープを含むように免疫原を設計することであった。これは、A型インフルエンザウイルスの約40,000株からインフルエンザの6つの内部構造タンパク質すべてのコンセンサスアミノ酸配列を推定することによって達成され、PA、PB1、及びPB2の場合、予測されるCD8+T細胞エピトープを豊富に含む配列のみを含めた。その結果、2つのユニバーサルT細胞エピトープアンサンブル免疫原、すなわち本明細書ではPAPB1M1及びPB2NPM2が生成された。PAPB1M1免疫原及びPB2NPM2免疫原が一緒になって、A型インフルエンザウイルスの内部で、保存されたT細胞エピトープをほぼ完全にカバーすることが期待される。実際、DNAプライムのモダリティに2つの免疫原を同時導入した後、AdC68またはTTVウイルスベクターブーストを行うことにより、免疫優性エピトープに対する強力なT細胞応答のみでなく、免疫優性下のエピトープに対する識別可能なT細胞応答も誘発された。これは、TTVがブーストとして機能する場合、より明らかになる。このようなT細胞免疫の幅の拡大が、マウスインフルエンザ感染モデルにおけるDNAプライム/ウイルスベクターブーストワクチン接種モダリティによって付与される群間防御の根底にあるかは不明であるが、ユニバーサルヒトインフルエンザワクチンの可能性にとっては、確実に重要である。
【0854】
T細胞ベースのユニバーサルインフルエンザワクチンの開発における主要な課題の1つは、認識のためにT細胞に表示されるウイルスペプチドの数が制限されている主に多様なHLA対立遺伝子(ヒトにおけるMHCの代替命名法)を所有することにより、同じインフルエンザ感染またはワクチンに対するT細胞応答が、個体間で大きく異なる可能性があることである[42]。HLAが制限されている場合、多数の保存されたウイルスエピトープを組み込んだインフルエンザワクチンは、特定の保存されたエピトープに集中したものよりも優れた集団適応範囲(population coverage)をもたらす可能性が高くなる。したがって、設計された新しいワクチンは、ヒトの環境において、HLAの課題を克服する可能性を有し、ユニバーサルインフルエンザワクチンの1つの重要な基準に適合する。本明細書に記載のとおり、PAPBIMI及びPB2NPM2免疫原を発現するための3種類のワクチンを構築することにより、3つのワクチンを組み合わせた連続免疫戦略の試験が可能になった。ウイルスベクターワクチンの場合、ほとんどの場合、1回目のブーストによって発生した既存のベクター免疫のため、同じワクチンによる2回目のブーストが有益でなかったため、これはまれな機会である。特に肺内に局在するインフルエンザ特異的組織常在メモリー(Trm)がインフルエンザチャレンジに対する交差防御に必要であるという近年の発見に照らして[43,44]、AdC68ベースのワクチンの投与に筋肉内経路または鼻腔内経路のいずれかを使用して、メモリーT細胞の誘導及び予防効果への影響を分析した。結果は、筋肉内免疫が全身性CD8+T細胞応答を引き起こすのにより効果的であったが、鼻腔内免疫のみが、効率的な肺Trmを誘発することができたことを示した。
【0855】
その結果、致死的PR8及びH7N9チャレンジからの完全な防御は、鼻腔内免疫化群でのみ観察された。興味深い観察の1つは、感染の初期段階での肺ウイルス負荷量のレベルが、体重減少及び生存率の観点から、防御効果とわずかに相関していたことである。理論に制限されるものではないが、これは、ウイルス感染細胞を直接除去するのみでなく、サイトカインを分泌してウイルスの拡散を阻止する敵対的な局所環境を作り出すことに従事するTrmの多機能性によって説明される可能性がある[45]。Trmが循環免疫細胞を病変組織に動員するのを助け得るエビデンスもある[46]。
【0856】
最後に、本明細書に提供する結果は、全身性T細胞応答が鼻腔内免疫化によって提供される防御も媒介するという発見を説明している。損傷した末梢組織への循環T細胞のホーミングを防ぐFTY720治療は、防御効果を損なうものであった。興味深いことに、近年の複数の研究で、循環メモリーT細胞が、肺に動員され、Trmに変換され得るため、Trmの持続的維持には不可欠であることが明らかになった。この新しい啓示は、全身性及び呼吸性の常在メモリーT細胞が独立して作用するのではなく、インフルエンザ感染に対する効果的な防御をマウントする際に共に連携し得ることを示唆するものである。
【0857】
結論として、本明細書に記載の例は、保存された内部ウイルスタンパク質配列に埋め込まれた交差防御エピトープを送達するための新規の連続免疫化戦略の開発及び実施を示している。全身及び肺に常在するメモリーT細胞の両方を増加させ、これにより、ワクチン接種されたマウスに致命的なインフルエンザチャレンジに対する交差群間防御が付与されるこの戦略の能力を実証することにより、将来のユニバーサルインフルエンザワクチンの開発に向けた新しい道としてのこの戦略の候補を確認した。
【0858】
実施例15. ワクチン候補を評価するためのヒト免疫系成分で再構成されたNSGマウスの使用
NSG(NOD-scid11.2Rγnull)マウス(The Jackson Laboratory,jax.org/jax-mice-and-services/find-and-order-jax-mice/nsg-portfolio)に次のようにヒトPBMCを移植させる。防腐剤を含まないヘパリンで収集された健康な成体ドナーの新鮮な全血は、低エンドトキシンPBS(PBSle)(Biochrom)標準的フィコール勾配遠心分離を使用して濃縮された白血球画分で希釈する(1:3)。界面を収集し、PBSleで2回洗浄する。9週間再構成プロトコルでは、ヒトPBMC1x106の静脈内注射の1日前に、亜致死量100cGyをマウスに照射する。4週間プロトコルでは、照射せず、10x106PBMCの単回静脈内注射を使用する。マウスは、以下のように、それぞれ、再構成後42日目または14日目に最初にワクチン接種する。完全ヒト機能免疫系を含むマウスは、実施例3に記載のPSV1.0ファージDNAベクターで完全ヒト免疫系をプライミングし、次いで、AdVベクターまたはAAVベクターで免疫することにより完全ヒト免疫系をブーストし、その後、VVベクター、またはVVベクターの後にAdVベクターまたはAAVベクターで免疫化することによって、免疫化される。
【0859】
実施例16免疫応答の評価及び免疫細胞亜型の選択的拡張
実施例15で再構成されたNSGマウスで達成された免疫応答の質を評価し、その後CTL細胞サブセットの選択的拡張が行われる。
【0860】
簡潔に説明すると、ヒトまたはマウス由来のPBMC、脾細胞、または骨髄細胞を単離し、適切な抗体カクテルを使用して、暗所、4℃で1時間染色させる。洗浄後(1%(v/v)FBS含有PBS)、細胞は、固定バッファ(1%(v/v)FBS、4%(w/v)PFA含有PBS)、暗所、4℃で30分間固定する。フローサイトメトリー分析を実施し、フローサイトメトリーデータは、FlowJoソフトウェア(TreeStar,Ashland,OR)を使用して分析する。すべてのヒト化マウスモデルのキメラ現象は、以下のヒト集団を定量化することにより、各実験前に評価する:ヒトCD45+;ヒトCD45+マウスCD45-;T細胞、CD45+CD3+;CD4+T細胞;CD45+CD3+CD4+;CD8+T細胞;CD45+CD3+CD8+;CD45+CD16+白血球;B細胞、CD45+CD19;従来の樹状細胞;CD45+CD11c+;CD45+CD11c+;NK/NKT細胞;CD45+CD56+;単球;CD45+CD14+。マウス免疫細胞サブセットは、次のようにゲートさせる:マウスCD45+,ヒトCD45-マウスCD45+;従来の樹状細胞、CD45+CD3-CD19-NK1.1-TER119-Ly-6G/Gr1-CD11c+;形質細胞様樹状細胞、CD45+CD3-CD19-NK1.1-TER119-Ly-6G/Gr1-CD317+;単球、CD45+CD3-CD19-NK1.1-TER119-Ly-6G/Gr1-CD11b+CD11c-F4/80-;マクロファージ、CD45+CD3-CD19-NK1.1-TER119-Ly-6G/Gr1-CD11b+F4/80+。ヒト免疫細胞サブセットは、次のようにゲートさせる:ヒトCD45+,ヒトCD45+マウスCD45-;T細胞、CD45+CD3+;CD4+T細胞、CD45+CD3+CD4+;CD8+T細胞、CD45+CD3+CD8+;骨髄細胞、CD45+CD3-CD19-(CD56+)CD33+;顆粒球、CD45+CD66b+;B細胞、CD45+CD3-CD19+;ナチュラルキラー細胞、CD45+CD3-(CD19-)CD56+;ナチュラルキラーT細胞及びγδT細胞、CD45+CD3+(CD19-)CD56+;従来の樹状細胞、CD45+CD3-CD19-(CD56-)(CD33+)CD11c+(BDCA1/3+);CD45+CD3-CD19CD123+,単球、形質細胞様樹状細胞、好塩基球及び骨髄前駆細胞で構成されるグループ;形質細胞様樹状細胞、CD45+CD3-CD19-(CD56-)BDCA-2+CD123+;単球、CD45+CD3-CD19-(CD56-)CD14+;マクロファージ、CD45+CD3-CD19-(CD56-)CD68+。
【0861】
抗体のフローサイトメトリーフルオロフォア補正は、AbC(商標)Anti-Mouse Bead Kit(Life Technologies,Invitrogen,Foster City,CA,USA)を使用して実施する。カウントビーズは、フローサイトメトリー分析前に、各サンプルに追加される(AccuCheck Counting Beads,Life Technologies,Invitrogen,Foster City,CA,USA)。
【0862】
CD3+T細胞のパーセンテージとして示されるCD4+及びCD8+T細胞を除いて、各細胞画分の頻度は、CD45+細胞のパーセンテージとして示される。重要な骨髄サブセット(CD14+単球及びCD11c+樹状細胞)及びCD56+NK細胞の頻度も決定される。
【0863】
本発明が、その特定の実施形態を参照して説明されているが、様々な変更がなされ得ること、ならびに、均等物が、本発明の真の趣旨及び範囲から逸脱することなく置き換えられ得ることを、当業者らは理解すべきである。加えて、本発明の客観的な精神及び範囲に、特定の状況、材料、物質の組成、プロセス、プロセスステップ(複数可)を採用する多くの改変がなされてもよい。そのような全ての変更は、本明細書に添付された特許請求の範囲内にあることが意図される。
【0864】
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図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図10A
図10B
図10C
図10D
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図10F
図11A
図11B
図11C
図11D
図12A
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図13A
図13B
図13C
図13D
図13E
図13F
【配列表】
2023510542000001.app
【国際調査報告】