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特表2023-510681細胞培養システムおよびその使用方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-15
(54)【発明の名称】細胞培養システムおよびその使用方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20230308BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20230308BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20230308BHJP
   C12N 5/077 20100101ALI20230308BHJP
   C12N 5/0793 20100101ALI20230308BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20230308BHJP
【FI】
C12M3/00 A
C12M1/00 C
C12N1/00 B
C12N5/077
C12N5/0793
C12N5/071
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022528952
(86)(22)【出願日】2019-11-19
(85)【翻訳文提出日】2022-07-11
(86)【国際出願番号】 CN2019119485
(87)【国際公開番号】W WO2021097672
(87)【国際公開日】2021-05-27
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522194267
【氏名又は名称】ホー,ジェニファー フイ-チュン
(71)【出願人】
【識別番号】522194278
【氏名又は名称】リー,オスカー クアン-シェン
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(71)【出願人】
【識別番号】522300709
【氏名又は名称】ナショナル ヤン ミン チアオ トゥン ユニバーシティー
(72)【発明者】
【氏名】ホー,ジェニファー フイ-チュン
(72)【発明者】
【氏名】リー,オスカー クアン-シェン
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029CC02
4B065AA93X
4B065CA44
4B065CA46
(57)【要約】
混入のリスクを低減し、大規模で細胞を自動的に培養することができる、封入された培養条件を提供する細胞培養自動化システムが提供される。詳細には、細胞培養システムは、(i) 1個以上の取り外し可能なマイクロ流体マイクロウェル、および(ii) 該マイクロ流体マイクロウェルを保持する培養デバイス、を備え、各マイクロ流体マイクロウェルは、区画化され、かつ該マイクロ流体マイクロウェル全体にわたって底部を有しないマイクロ流体チャンネルを含む、1つまたは複数の中空部を有し、該マイクロ流体チャンネルは1箇所以上の細胞インレットを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i) 1個以上の取り外し可能なマイクロ流体マイクロウェル、および(ii) 該マイクロ流体マイクロウェルを保持する培養デバイス、を備える細胞培養システムであって、各マイクロ流体マイクロウェルが、区画化され、かつ該マイクロ流体マイクロウェル全体にわたって底部を有しないマイクロ流体チャンネルを含む、1つまたは複数の中空部を有し、該マイクロ流体チャンネルは1箇所以上の細胞インレットを含む、上記細胞培養システム。
【請求項2】
(i) 複数の取り外し可能なマイクロ流体マイクロウェル、および(ii) 該マイクロ流体マイクロウェルを保持する培養デバイス、を備える請求項1に記載の細胞培養システムであって、各マイクロ流体マイクロウェルが、区画化され、かつ該マイクロ流体マイクロウェル全体にわたって底部を有しないマイクロ流体チャンネルを含む、1つまたは複数の中空部を有し、該マイクロ流体マイクロウェルの該マイクロ流体チャンネルの表面積は徐々に拡大し;最小表面積を有する該複数のマイクロ流体マイクロウェルの該マイクロ流体チャンネルと比較して、該複数のマイクロ流体マイクロウェルの該マイクロ流体チャンネルの表面積は、2n、3nまたは4nのサイズ増加を示し、nは該複数のマイクロ流体マイクロウェルの個数よりも1小さい整数であり;かつ該マイクロ流体チャンネルは1箇所以上の細胞インレットを含む、上記細胞培養システム。
【請求項3】
前記培養デバイスが培養プレートまたは培養フラスコである、請求項1または2に記載の細胞培養システム。
【請求項4】
前記中空部が、円形または3~8個の角を有する多角形のパターンになっている、請求項1または2に記載の細胞培養システム。
【請求項5】
前記中空部が、三角形、四角形、五角形、六角形、八角形または九角形のパターンになっている、請求項1または2に記載の細胞培養システム。
【請求項6】
前記中空部が、六角形のパターンになっている、請求項1または2に記載の細胞培養システム。
【請求項7】
少なくとも3個の取り外し可能なマイクロ流体マイクロウェルを備える、請求項1または2に記載の細胞培養システム。
【請求項8】
少なくとも5個の取り外し可能なマイクロ流体マイクロウェルを備える、請求項1または2に記載の細胞培養システム。
【請求項9】
3~15個の取り外し可能なマイクロ流体マイクロウェルを備える、請求項1または2に記載の細胞培養システム。
【請求項10】
前記複数の取り外し可能なマイクロ流体マイクロウェルが、前記培養デバイス中で互いに連結する、請求項1または2に記載の細胞培養システム。
【請求項11】
前記マイクロ流体チャンネルが、複数の細胞インレットを含む、請求項1または2に記載の細胞培養システム。
【請求項12】
前記中空部の前記マイクロ流体チャンネルが、互いに流体連絡している、請求項1または2に記載の細胞培養システム。
【請求項13】
(1) 請求項1または2に記載の細胞培養システムの取り外し可能なマイクロ流体マイクロウェルの前記マイクロ流体チャンネル上の前記細胞インレットへと細胞をロードするステップ、および(ii) 細胞の増殖のために好適な条件下で該細胞を培養するステップ、を含む、細胞を培養するための方法。
【請求項14】
前記細胞が接着(anchorage)依存性細胞である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記細胞が、幹細胞、神経細胞または線維芽細胞である、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記細胞が、最小表面積を有する前記複数のマイクロ流体マイクロウェルの前記マイクロ流体チャンネル上の前記細胞インレットへとロードされる、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記細胞が、30%コンフルエンスの密度でロードされる、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記細胞が、前記培養デバイスが傾斜または遠心分離される状況下で前記マイクロ流体チャンネル上の前記細胞インレットへとロードされる、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
傾斜角が、三角形および六角形において120度、240度もしくは360度であるか、または四角形および八角形において90度、180度、270度、360度である、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
細胞が50%超のコンフルエンスに達するときに、先行するマイクロ流体マイクロウェルが取り外され、かつ後続のマイクロ流体マイクロウェルが請求項1または2に記載の前記細胞培養システムの前記培養デバイス中へと追加される、請求項13に記載の方法。
【請求項21】
前記細胞ロードステップが、未滅菌(unsterile)環境とのいかなる接触もせずに、滅菌条件下で行なわれる、請求項13に記載の方法。
【請求項22】
前記細胞ロードステップが、未滅菌環境とのいかなる接触もせずに、滅菌条件下で行なわれる、請求項13に記載の方法。
【請求項23】
大規模で細胞を自動的に培養することができる、請求項13に記載の方法。
【請求項24】
臨床規模の細胞増殖のために用いることができる、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、細胞培養の分野に関する。詳細には、本開示は、細胞培養の自動化のためのマイクロウェルアレイを提供する。
【背景技術】
【0002】
細胞移植に焦点を当てた多数の臨床試験が、有望な結果を報告している。慣用の研究室での実験と比較して、臨床試験は通常、多数の細胞を必要とし、このことが、細胞を培養する際の新規な難題を生み出し得る。安全性および効率の両方を考慮すると、現行の細胞生産技術は、未熟なままである。臨床的な細胞生産は、外科的組織回収、サンプル処理(解剖、解離および分散)、および細胞播種をはじめとする多くの複雑かつ経験に基づくステップを含む。患者細胞間の多大な個体差を考えれば、細胞生産のためのこれらのステップのそれぞれが、標準化されたプロトコールを用いて安定的に実行することが極めて困難である。大多数の臨床症例では、再生細胞療法のための細胞加工は、大部分が熟練者の技能および経験に依存する。したがって、再生医療の産業化のために顕著な技術的進展が必要とされる。
【0003】
米国特許第10,233,415号は、心筋細胞または心筋細胞前駆体などの細胞を培養するためのマイクロ流体デバイス;および該デバイスを用いて細胞を培養する方法を提供する。米国特許出願公開第20190185808号は、培養溶液中で細胞を培養するための培養タンクを含む培養ユニット;培養ユニット中での細胞の培養を自動的に制御する自動細胞培養デバイス;および培養ユニットの輸送時に培養ユニット中での細胞の培養を制御する、輸送用細胞培養デバイス、を含む細胞培養システムを提供する。しかしながら、この細胞培養デバイスは、細胞培養の自動化を達成できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第10,233,415号
【特許文献2】米国特許出願公開第20190185808号
【発明の概要】
【0005】
一態様では、本開示は、(i) 1個以上の取り外し可能なマイクロ流体マイクロウェル、および(ii) マイクロ流体マイクロウェルを保持する培養デバイス、を備える細胞培養システムを提供し、このとき、各マイクロ流体マイクロウェルは、区画化され、かつマイクロ流体マイクロウェル全体にわたって底部を有しないマイクロ流体チャンネルを含む、1つまたは複数の中空部を有し、マイクロ流体チャンネルは1箇所以上の細胞インレットを含む。
【0006】
一実施形態では、細胞培養システムは、(i) 複数の取り外し可能なマイクロ流体マイクロウェル、および(ii) マイクロ流体マイクロウェルを保持する培養デバイス、を備え、このとき、各マイクロ流体マイクロウェルは、区画化され、かつマイクロ流体マイクロウェル全体にわたって底部を有しないマイクロ流体チャンネルを含む、1つまたは複数の中空部を有し、マイクロ流体マイクロウェルのマイクロ流体チャンネルの表面積は徐々に拡大し;最小表面積を有する複数のマイクロ流体マイクロウェルのマイクロ流体チャンネルと比較して、複数のマイクロ流体マイクロウェルのマイクロ流体チャンネルの表面積は、2n、3nまたは4nのサイズ増加を示し、このときnは複数のマイクロ流体マイクロウェルの個数よりも1小さい整数であり;かつマイクロ流体チャンネルは1箇所以上の細胞インレットを含む。
一部の実施形態では、培養デバイスは培養プレートまたは培養フラスコである。
【0007】
一実施形態では、中空部は、円形または3~8個の角を有する多角形のパターンになっている。一部の実施形態では、中空部は、三角形、四角形、五角形、六角形、八角形または九角形のパターンになっている。さらなる実施形態では、中空部は六角形のパターンになっている。
【0008】
一実施形態では、少なくとも3個の取り外し可能なマイクロ流体マイクロウェルがある。一実施形態では、少なくとも5個の取り外し可能なマイクロ流体マイクロウェルがある。一部の実施形態では、3~15個の取り外し可能なマイクロ流体マイクロウェルがある。
一実施形態では、複数の取り外し可能なマイクロ流体マイクロウェルは、培養デバイス中で互いに連結する。
一実施形態では、マイクロ流体チャンネルは、複数の細胞インレットを含む。
一実施形態では、中空部のマイクロ流体チャンネルは、互いに流体連絡している。
【0009】
本開示は、(i) 細胞培養システムの取り外し可能なマイクロ流体マイクロウェルのマイクロ流体チャンネル上の細胞インレットへと細胞をロードするステップ、および(ii) 細胞の増殖のために好適な条件下で細胞を培養するステップ、を含む、細胞を培養するための方法を提供する。
一実施形態では、細胞は、接着(anchorage)依存性細胞である。一部の実施形態では、細胞は、幹細胞、神経細胞または線維芽細胞である。
一実施形態では、細胞は、最小表面積を有する複数のマイクロ流体マイクロウェルのマイクロ流体チャンネル上の細胞インレットへとロードされる。
一実施形態では、細胞は、30%コンフルエンスの密度でロードされる。
【0010】
一実施形態では、細胞は、培養デバイスが傾斜している状況下でマイクロ流体チャンネル上の細胞インレットへとロードされる。一部の実施形態では、傾斜角は、三角形および六角形において120度、240度もしくは360度であるか、または四角形および八角形において90度、180度、270度、360度である。
【0011】
一実施形態では、必要とされる量に細胞が達するときに、先行するマイクロ流体マイクロウェルが取り外され、かつ後続のマイクロ流体マイクロウェルが、本開示の細胞培養システムの培養デバイス中へと追加される。
一実施形態では、細胞ロードステップは、未滅菌(unsterile)環境とのいかなる接触もせずに、滅菌条件下で行なわれる。
一実施形態では、方法は、大規模で細胞を自動的に培養することができる。
一実施形態では、方法は、臨床規模の細胞増殖のために用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】マイクロ流体デバイスの実施形態の3次元模式表現を示す図である。
図2】複数の取り外し可能なマイクロ流体マイクロウェルの上面図を示す図である。
図3】マイクロ流体デバイスの実施形態の組立図を示す図である。
図4】本発明の細胞培養システム中の、同じ細胞数(A)または同じ密度(30%)-2単位(B)を用いるMSC播種を示す図である。(A) 同じ播種細胞数を用いて、細胞培養システム上の総細胞数は、慣用の培養フラスコ中でのものよりも高かった。(B) 同じ初期播種密度(30%コンフルエンス)を用いて、培養フラスコにおいてより少ない播種細胞数が得られ、培養フラスコでの細胞数の倍率は、5日間の培養後に慣用のフラスコよりも高かった。
図5】本開示の細胞培養システムでのMSCの表現型を示す図である。本開示の細胞培養システムおよび慣用の(Ctrl)フラスコ培養の両方が、CD90、CD105、CD73についての高陽性ならびにCD45、CD34、CD11b、CD19およびHLA-DRについての陰性を有するMSC表現型を維持する。
図6-1】本開示の細胞培養システムでのMSCの三系統分化能を示す図である。本開示の細胞培養システム内で培養されたMSCを、続いて、分化のために刺激した。本開示の細胞培養システムおよび慣用の(Ctrl)フラスコ培養の両方が、MSCの三系統分化能力を維持する。細胞は、(A) 骨形成誘導の21日後にアルカリホスファターゼおよびアリザリンレッド、(B) 脂肪形成誘導の21日後にオイルレッドO、および(C) 軟骨形成誘導の6日後にアルシアンブルーを用いて、それぞれ陽性に染色される。
図6-2】図6-2の続き。
図7A-1】本開示の細胞培養システムでの傍分泌および自己分泌のMSC強化を示す図である。(A) マイクロ流体マイクロウェルの交換時に馴化培地を回収した。慣用のフラスコでは、同じ時点で馴化培地を回収した。細胞培養システムおよび慣用のフラスコ中の馴化培地中のエクソソームの濃度を測定した((A)-1および(A)-2)。
図7A-2】図7A-1の続き。
図7B】本開示の細胞培養システムでの傍分泌および自己分泌のMSC強化を示す図である。(B) 傍分泌および自己分泌関連遺伝子SDF-1、S1PR1、CXCR4およびVEGFの発現を、QPCRを用いて検出した。
【発明を実施するための形態】
【0013】
別途示さない限り、本明細書および特許請求の範囲で用いられる成分、反応条件などの量を表現するすべての数は、用語「約」によりすべての例で修飾されているものとして理解されるべきである。したがって、反対であると示されない限り、本発明の明細書および特許請求の範囲に示される数値パラメータは、おおよそ、本発明により取得されることが模索される所望の特性に応じて変わり得る。
【0014】
本明細書中および添付の特許請求の範囲で用いる場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈がそうでないことを明確に指示しない限り、複数の指示対象を含む。
【0015】
本明細書中で用いる場合、用語「~と流体連絡している」または「~と流体連結された」とは、2つの空間的領域間を液体が流れ得るように構成されている2つの空間的領域を意味する。
【0016】
細胞加工のために必要とされる安全性および安定性を考慮すると、細胞培養の自動化は、細胞療法に対して多大な利点を提供する。第1に、安全性の領域では、ヒューマンエラー、感染性混入物のリスク、またはサンプルの相互混入が、実際上排除できるであろう。第2に、細胞加工の自動化は、各操作での変動の減少を約束する。第3に、自動化ハードウェアがさらに普及すると、作業コストは、技能を有する技術者を雇用するコストよりも少なくなり、かつ初代細胞のより効率的な生産をもたらすであろう。
【0017】
したがって、本開示は、混入のリスクを低減し、かつ大規模で細胞を自動的に培養することができる封入された培養条件を提供する、細胞培養自動化システムを提供する。詳細には、細胞培養システムは、(i) 1個以上の取り外し可能なマイクロ流体マイクロウェル、および(ii) 該マイクロ流体マイクロウェルを保持する培養デバイス、を備え、このとき、各マイクロ流体マイクロウェルは、区画化され、かつマイクロ流体マイクロウェル全体にわたって底部を有しないマイクロ流体チャンネルを含む、1つまたは複数の中空部を有し、マイクロ流体チャンネルは1箇所以上の細胞インレットを含む。
【0018】
複数の取り外し可能なマイクロ流体マイクロウェルを細胞培養システム中で用いる場合、該システムは、(i) 複数の取り外し可能なマイクロ流体マイクロウェル、および(ii) 該マイクロ流体マイクロウェルを保持する培養デバイス、を備え、このとき、各マイクロ流体マイクロウェルは、区画化され、かつマイクロ流体マイクロウェル全体にわたって底部を有しないマイクロ流体チャンネルを含む、1つまたは複数の中空部を有し、マイクロ流体マイクロウェルのマイクロ流体チャンネルの表面積は徐々に拡大し;最小表面積を有する複数のマイクロ流体マイクロウェルのマイクロ流体チャンネルと比較して、複数のマイクロ流体マイクロウェルのマイクロ流体チャンネルの表面積は、2n、3nまたは4nのサイズ増加を示し、このときnは複数のマイクロ流体マイクロウェルの個数よりも1小さい整数であり;かつマイクロ流体チャンネルは1箇所以上の細胞インレットを含む。
【0019】
ここで図1を参照すると、マイクロ流体デバイスの実施形態の3次元模式表現が示される。描画されるデバイスは、4個のマイクロ流体マイクロウェル2、3、4および5を保持する培養デバイス1を含む。マイクロ流体マイクロウェル2、3、4および5のそれぞれの中には、区画化された複数の六角形中空部21、31、41、51を有し、かつマイクロ流体マイクロウェル全体にわたって底部を有しないマイクロ流体チャンネル22、32、42、52を含む。マイクロ流体マイクロウェル2中のマイクロ流体チャンネル22は最小表面積を有し;マイクロ流体マイクロウェル3、4および5中のマイクロ流体チャンネル32、42、52の表面積は、それぞれ、マイクロ流体マイクロウェル2中のマイクロ流体チャンネル22のものの2倍、4倍および8倍である。各マイクロ流体チャンネルの表面上には、複数の細胞インレットがあり、細胞インレット23の例がマイクロ流体マイクロウェル2中に描画される。
【0020】
ここで図2を参照すると、複数の取り外し可能なマイクロ流体マイクロウェル2、3、4および5の上面図が示される。各マイクロ流体マイクロウェルは、複数の六角形中空部21、31、41、51および複数のマイクロ流体チャンネル22、32、42、52を含む。各マイクロ流体チャンネルの表面上には、複数の細胞インレットがあり、細胞インレット23の例がマイクロ流体マイクロウェル2中に描画される。
【0021】
ここで図3を参照すると、マイクロ流体デバイスの実施形態の組立図が示される。描画されるデバイスは、4個のマイクロ流体マイクロウェル2、3、4および5を保持する培養デバイス1を含む。
【0022】
マイクロ流体マイクロウェルを保持するための培養デバイスは、いずれかの好適なデバイスであり得る。培養デバイスは、1個以上の取り外し可能なマイクロ流体マイクロウェルを保持するために用いられる。取り外し可能なマイクロ流体マイクロウェルは、区画化され、かつマイクロ流体マイクロウェル全体にわたって底部を有しないマイクロ流体チャンネルを含む、1つまたは複数の中空部を有する。マイクロ流体チャンネルは、その上部に、1箇所以上の細胞ロードインレットを含む。細胞は、インレットからマイクロ流体チャンネルへとロードすることができる。マイクロ流体チャンネルは、互いに流体連絡しており、それにより、チャンネルが細胞の成長および増殖を支持するための培地で満たされる。
【0023】
中空部は、いずれかの好適な形状であり得る。例えば、中空部は、円形、三角形、四角形、五角形、六角形、八角形または九角形としてパターン化することができる。
【0024】
好ましい実施形態では、複数の取り外し可能なマイクロ流体マイクロウェルが、細胞培養システム中で用いられる。そのような場合には、マイクロ流体マイクロウェルのマイクロ流体チャンネルの表面積は徐々に拡大し;最小表面積を有する複数のマイクロ流体マイクロウェルのマイクロ流体チャンネルと比較して、複数のマイクロ流体マイクロウェルのマイクロ流体チャンネルの表面積は、2n、3nまたは4nのサイズ増加を示す。nの数は、複数のマイクロ流体マイクロウェルの個数よりも1小さい。複数の取り外し可能なマイクロ流体マイクロウェルは、培養デバイス中で互いに連結する。取り外し可能なマイクロ流体マイクロウェルのマイクロ流体チャンネルへと細胞がロードされた後、マイクロ流体チャンネル中で細胞を均一に分布させるためにデバイスを傾斜させるかまたは遠心分離し、続いて、必要な量または密度まで成長および増殖させて、取り外し可能なマイクロ流体マイクロウェルを一層毎に取り外すことができ、それにより細胞を回収できる。そのようにして、細胞を自動的に培養することができ、別個の機械化プロトコールによりそれぞれの個々の手動ステップを置き換えることは不要である。
【0025】
パターン化されたマイクロ流体マイクロウェルは、ユーザーのニーズに応じて様々なサイズを有する様々なパターン(円形、三角形、正方形、六角形、または八角形)を形成するためのレーザー切断技術を用いて作製できる。
以下の実施例は、例示のために提供されるが、特許請求される発明を限定しない。
【実施例
【0026】
材料および方法
細胞培養システム
細胞培養システムは、複数の取り外し可能なマイクロ流体マイクロウェル(4個のマイクロウェルなど)および該マイクロ流体マイクロウェルを保持する培養デバイスを含む。マイクロ流体マイクロウェルを保持する培養デバイスは、細胞培養分野で用いられる公知の培養ディッシュである。本開示の取り外し可能なマイクロ流体マイクロウェルは、ポリジメチルシロキサン(PDMS)で製造された。レーザー切断技術を用いて、様々なサイズの様々なパターン(円形、三角形、正方形、六角形、または八角形)を、マイクロ流体マイクロウェルの底層につくり出した。細胞ロード導入口のための中央の穴を有する薄いカバープレートを、パターンの上部に固定した。
【0027】
細胞播種プロセスは、未滅菌環境との接触の必要性がない、高度な滅菌条件下で行なうべきである。外径は150mmであり、高さは10mmであり、かつ細胞培養培地体積は1mLである。同じディッシュ中の単離された個別のおよびグループ化された初代培養細胞を捕捉するために、遠心分離を行なった。この非侵襲的システムを利用することにより、捕捉直後に長期間の継続的なモニタリングが可能になり、細胞の成長および動態を、細胞培養システム中で成功裏に観察できた。培地および液体交換は、さらなる遠心分離を必要とせず、その代わりに毛細管流動のみを利用する。スキャホールドがチャンバーの内部に挿入される。細胞播種チャンバーは培養培地で満たされ、その中に、細胞培養インレットを通じて、細胞が注入される。システム全体を、通常の加湿インキュベーター内部に固定することができる。播種後、細胞-ポリマー構築物を含むシステムは、未滅菌環境へと構築物を曝露することなく、動的組織培養システムへと変換される。
【0028】
細胞
間葉系幹細胞(MSC)は、ヒト眼窩脂肪幹細胞であり、それらの成長用培地キット(MesenPro)中で維持された。細胞は、製品説明書に従えば、三系統分化能力を有し、CD29、CD44、CD73、CD90、CD105、CD166について陽性であり、かつCD14、CD31、CD45について陰性である。図4に示される通り、本開示の細胞培養システムおよび慣用の(Ctrl)培養フラスコの両方が、CD90、CD105、CD73についての高陽性ならびにCD45、CD34、CD11b、CD19およびHLA-DRについての陰性を有するMSC表現型を維持する。
【0029】
細胞培養チャンバーおよびローディングステップ
細胞培養のための六角形形状のマイクロウェル。1000個のMSCを、15cm培養ディッシュの層1パターン(L1)内へと播種した。同じ個数のMSCを、対照(Ctrl)として慣用の15cm培養ディッシュ中に同様に播種した。図4に示される通り、同じ播種細胞数を用いて、細胞培養システムでの総細胞数は、慣用の培養フラスコ中の細胞数を超えていた(A)。同じ初期播種密度(30%コンフルエンス)を用いて、パターン培養でより少ない播種細胞数が得られ、パターン化培養での細胞数の倍率は、5日間の培養後に慣用のフラスコでの倍率を超えていた(B)。
【0030】
フローサイトメトリー
第N継代細胞でのMSCの割合を特性決定するために、フローサイトメトリーアッセイを行なった。培養した細胞を、PBS中の1mM EDTAを用いて回収し、1,500rpmで5分間遠心分離し、1mLのMemsen PRO中に再懸濁した。1×105個の細胞をポリスチレン丸底チューブ(BD Biosciences)に移し、1,500rpmで3分間遠心分離し、モノクローナル抗体(mAb)を含有する100μLのFACSバッファー中に再懸濁した。4℃で20分間のインキュベーション後、1mL FACSバッファーを用いて細胞を洗浄し、300μLのPBS中の1%パラホルムアルデヒド中で固定した。サンプル当たり5万個の細胞を取得し、FACSCanto II機器(BD Biosciences)およびFlow Joを用いて分析した。CDマーカー(CD44、CD73、CD90、CD105、CD11 b、CD19、CD34、CD45、およびHLA-DR;BD Stemflow hMSC分析キット;BD Biosciences, San Jose, CA, USA)の発現。図5に示される通り、パターン培養および慣用の(Ctrl)フラスコ培養の両方が、CD90、CD105、CD73についての高陽性ならびにCD14、CD34、CD11およびHLA-DRについての陰性を有するMSC表現型を維持する。
【0031】
MSCの多能性の確認
脂肪形成のために、第1または第2継代での1.9×104個の細胞を、24ウェルプレートにプレーティングし、1mL Memsen PRO中で培養した。続いて、細胞が100%コンフルエントになったら、培地を、1mLの完全STEMPRO脂肪形成分化培地(Invitrogen, Carlsbad, CA, USA)に切り替えた。週2回の培地交換を伴って3週間、脂肪形成培地中で細胞を維持した。脂肪形成培養物を、RTにて1時間、10%ホルマリン(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO, USA)中で固定し、新鮮なオイルレッドO溶液(ストック:イソプロパノール中0.3%、3部のストックを2部の水に混合し、0.2mフィルターを通してろ過した;Sigma-Aldrich)を用いてRTにて1時間染色した。続いて、洗浄液が透明になるまで、細胞を水で洗浄した。光学顕微鏡を用いて細胞を可視化し、撮影した。脂肪形成性分化を定量化するために、RTにて10分間、100%イソプロパノール(Sigma-Aldrich)を添加することにより、オイルレッドO染色を溶出させた。490nmでの吸光度を、3回反復で読み取った。骨形成のために、1×104個の細胞を24ウェルプレートにプレーティングし、1mL Memsen PRO中で培養した。細胞が50~70%コンフルエントになったら、1mLの完全STEMPRO骨形成分化培地(Invitrogen)を用いて培地を置き換えた。週2回の培地交換を伴って3週間、骨形成性培地中で細胞を維持した。骨形成培養物を、4℃にて1時間、1mLの氷冷70%エタノール(Sigma-Aldrich)中で固定し、RTにて10分間、蒸留水中の4mMアリザリンレッドS(水酸化アンモニウムを用いてpHを4.2に調整した;Sigma-Aldrich)を用いて染色した。過剰な色素を除去し、水で4回洗浄した。光学顕微鏡を用いて細胞を撮影した。骨形成性分化を定量化するために、400mLの10%(vol/vol)酢酸を各ウェルに添加し、振盪しながら30分間インキュベートした。セルスクレイパーを用いて細胞を穏やかにかき取り、10%(vol/vol)酢酸(Sigma-Aldrich)と共に1.5mL微量遠沈管へと移した。パラフィルムを用いてチューブを密封し、30秒間しっかりとボルテックスにかけ、85℃まで10分間加熱し、続いて氷に5分間移した。20,000gで15分間の遠心分離後、上清を新しい1.5mL微量遠沈管に移した。10%(vol/vol)水酸化アンモニウム(Sigma-Aldrich)を用いて、pHを4.1~4.5に調整した。415nmでの吸光度を、3回反復で読み取った。軟骨形成のために、1.65×105個の細胞を15mLコニカルチューブに入れ、1500rpmで5分間遠心分離した。ペレットを、0.5mLの完全STEMPRO軟骨形成分化培地(Invitrogen)中で1週間培養した。サイズ分析のための定規と共に、ペレットの写真を撮った。ペレットを、4%パラホルムアルデヒド中で最大2日間固定し、続いて1mLの30%スクロース中に4℃で1日間置いた。凍結切片(10μm)をスライドに載せ、トルイジンブルーO(Sigma-Aldrich)を用いて染色した。光学顕微鏡を用いて写真を撮った。軟骨形成性分化を定量化するために、4%パラホルムアルデヒドを用いて15分間、ペレットを固定し、1×PBSを用いて2回洗浄し、トルイジンブルーOを用いて15分間染色した。1×PBSを用いて細胞を再度洗浄し、未結合の色素を除去した。1%SDSを用いて色素を抽出し、595nmでの吸光度を3回反復で読み取った。図6に示される通り、パターン内で培養されたMSCを、続いて、分化のために刺激した。パターン化培養および慣用の(Ctrl)フラスコ培養の両方が、MSCの三系統分化能力を維持した。細胞は、(A) 骨形成誘導の21日後にアルカリホスファターゼおよびアリザリンレッド、(B) 脂肪形成誘導の21日後にオイルレッドO、および(C) 軟骨形成誘導の6日後にアルシアンブルーを用いて、それぞれ陽性に染色された。
【0032】
OFSC細胞株の培養培地からのエクソソームの抽出
製造業者のプロトコールに従って、分離試薬(培養培地からのエクソソーム単離キット;Invitrogen, Carlsbad, CA, USA)を用いて、エクソソームを培養培地から単離した。細胞を、10%のエクソソーム不含FBSを含有するMesenPro(System Biosciences)を用いて、1×106細胞/ディッシュの濃度で、10cmディッシュへと播種した。48時間のインキュベーション後、エクソソーム抽出のために馴化培地を回収した。培養培地を2,000×gで30分間遠心分離し、細胞および残渣を除去した。続いて、上清を220nmフィルターに通し、新しいチューブに移し、試薬を添加した。インキュベーション後、サンプルを10,000×gで1時間遠心分離し、上清を廃棄した。エクソソームはチューブの底にペレット化され、ペレットを、蛍光イメージングのためにリン酸緩衝生理食塩液(PBS)中に再懸濁した。
【0033】
定量的PCR
自己分泌および傍分泌関連遺伝子の発現を、QPCRを用いて検出した。SDF-1(F:5'-GCCAAAAAGGACTTTCCGCT-3'(配列番号1)、R:5'-GCCCGATCCCAGATCAATGT-3'(配列番号2))。
【0034】
S1PR1(F:5'-TTTCCTGGACAGTGCGTCTC-3'(配列番号3)、R:5'-ACTGACTGCGTAGTGCTCTC-3'(配列番号4))。CXCR4(F:5'-CGTCTCAGTGCCCTTTTGTTC-3'(配列番号5)、R:5'-TGAAGTAGTGGGCTAAGGGC-3'(配列番号6))。VEGF(F:5'-TACCGGGAAACTGACTTGGC-3'(配列番号7)、R:5'-ACCACATGGCTCTGCTTCTC-3'(配列番号8))。図7は、(A) マイクロ流体マイクロウェルを交換する際に馴化培地が回収されたことを示す。慣用のフラスコに関して、馴化培地が同じタイミングで回収された。本開示の細胞培養システム中の馴化培地でのエクソソームの濃度は、マイクロ流体マイクロウェルを交換する各時点で、慣用のフラスコ中の馴化培地でのエクソソームの濃度よりも顕著に増加しており、かつ細胞培養システム中の馴化培地でのエクソソームの全体濃度は、4回のマイクロ流体マイクロウェルの交換後の慣用のフラスコ中の濃度の2倍超であった(7(A)-1および7(A)-2)。(B) 傍分泌および自己分泌関連遺伝子SDF-1、S1PR1、CXCR4およびVEGFの発現を、QPCRを用いて検出した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6-1】
図6-2】
図7A-1】
図7A-2】
図7B
【配列表】
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【国際調査報告】