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特表2023-510784脳腫瘍を処置するための血液脳関門を横断する免疫療法剤を送達するための方法および組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-15
(54)【発明の名称】脳腫瘍を処置するための血液脳関門を横断する免疫療法剤を送達するための方法および組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/76 20150101AFI20230308BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230308BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230308BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230308BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230308BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230308BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20230308BHJP
   A61K 31/395 20060101ALI20230308BHJP
   A61K 31/175 20060101ALI20230308BHJP
   A61K 51/00 20060101ALI20230308BHJP
   C07K 14/005 20060101ALN20230308BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20230308BHJP
   C12N 15/33 20060101ALN20230308BHJP
   C12N 7/01 20060101ALN20230308BHJP
   C12N 15/864 20060101ALN20230308BHJP
【FI】
A61K35/76
A61K48/00
A61K45/00
A61P25/00
A61P35/00
A61P43/00 105
A61P37/02
A61K31/395
A61K31/175
A61K51/00 100
C07K14/005 ZNA
C12N15/13
C12N15/33
C12N7/01
C12N15/864 100Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022542135
(86)(22)【出願日】2021-01-08
(85)【翻訳文提出日】2022-08-25
(86)【国際出願番号】 US2021012746
(87)【国際公開番号】W WO2021142300
(87)【国際公開日】2021-07-15
(31)【優先権主張番号】62/959,625
(32)【優先日】2020-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.PLURONIC
(71)【出願人】
【識別番号】503146324
【氏名又は名称】ザ ブリガム アンド ウィメンズ ホスピタル インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】The Brigham and Women’s Hospital, Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100153693
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】ベイ,フェンフェン
(72)【発明者】
【氏名】チオッカ,イー.アントニオ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C086
4C087
4C206
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA95X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4B065CA24
4B065CA44
4C084AA12
4C084AA13
4C084AA19
4C084MA17
4C084MA55
4C084MA66
4C084NA05
4C084NA13
4C084NA14
4C084ZA021
4C084ZB071
4C084ZB211
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC712
4C086AA01
4C086CB05
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086ZB26
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BC83
4C087CA08
4C087CA12
4C087MA17
4C087MA55
4C087MA66
4C087NA13
4C087NA14
4C087ZA02
4C087ZB07
4C087ZB21
4C087ZB26
4C206HA28
4C206MA02
4C206MA04
4C206NA05
4C206ZB26
4H045AA30
4H045BA10
4H045DA75
4H045EA22
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】
本出願は、血液脳関門を横断する免疫療法剤の浸透を増強する配列、その配列を含む組成物、および脳腫瘍、例えば、膠芽腫(GBM)を処置するためのその使用方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象におけるがんに免疫療法剤を送達する方法であって、(i)配列TVSALFK(配列番号8);TVSALK(配列番号4);KLASVT(配列番号83);またはKFLASVT(配列番号84)からの少なくとも4個の連続するアミノ酸を含むアミノ酸配列を含むカプシドタンパク質と、(ii)免疫療法剤をコードする導入遺伝子とを含むアデノ随伴ウイルス(AAV)を、前記対象に投与するステップを含み、必要に応じて、がん細胞がヒト対象の脳内にある、前記方法。
【請求項2】
前記アミノ酸配列が、配列TVSALK(配列番号4);TVSALFK(配列番号8);KLASVT(配列番号83);またはKFLASVT(配列番号84)からの少なくとも5個の連続するアミノ酸を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アミノ酸配列が、配列TVSALK(配列番号4);TVSALFK(配列番号8);KLASVT(配列番号83);またはKFLASVT(配列番号84)からの少なくとも6個の連続するアミノ酸を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
対象におけるがんに免疫療法剤を送達する方法であって、(i)配列V[S/p][A/m/t/]L(配列番号79)、TV[S/p][A/m/t/]L(配列番号80)、TV[S/p][A/m/t/]LK(配列番号81)、またはTV[S/p][A/m/t/]LFK.(配列番号82)からの少なくとも4個の連続するアミノ酸を含むアミノ酸配列を含むカプシドタンパク質と、(ii)免疫療法剤をコードする導入遺伝子とを含むアデノ随伴ウイルス(AAV)を、前記対象に投与するステップを含み、必要に応じて、がん細胞がヒト対象の脳内にある、前記方法。
【請求項5】
標的化配列が、VPALR(配列番号1);VSALK(配列番号2);TVPALR(配列番号3);TVSALK(配列番号4);TVPMLK(配列番号12);TVPTLK(配列番号13);FTVSALK(配列番号5);LTVSALK(配列番号6);TVSALFK(配列番号8);TVPALFR(配列番号9);TVPMLFK(配列番号10)またはTVPTLFK(配列番号11)を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記免疫療法剤をコードする導入遺伝子が、PD-1またはPD-L1を標的化する抗体をコードする、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記対象が、哺乳動物対象である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記AAVが、AAV9である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記AAV9が、AAV9 VP1を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記標的化配列が、配列番号85を含むAAV9 VP1のアミノ酸588および589に対応する位置に挿入されている、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記細胞が、前記対象の脳内にあり、前記AAVが、非経口送達、脳内、または髄腔内送達によって投与される、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記非経口送達が、静脈内、動脈内、皮下、腹腔内、または筋肉内送達による、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記髄腔内送達が、腰椎注射、大槽注射、または実質内注射による、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
化学療法剤、放射線、および/または外科的切除を前記対象に投与するステップをさらに含む、請求項1から13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記化学療法剤が、テモゾラミド、ロムスチン、またはそれらの組合せを含む、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権の主張
本出願は、2020年1月10日に出願された米国仮特許出願第62/959,625号明細書の利益を主張する。前述の内容全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
血液脳関門を横断する免疫療法剤の浸透を増強する配列、その配列を含む組成物、および脳腫瘍、例えば、膠芽腫(GBM)を処置するためのその使用方法が、本明細書に記載される。
【背景技術】
【0003】
多形性膠芽腫(GBM)は、成人において最も一般的で致命的な脳腫瘍であり、全生存期間中央値は15ヶ月のみである。約12,000の新たなGBMの症例が、米国において毎年診断されており、発症率は人口100,000人当たり3.2人である。GBMの組織学、分子ランドスケープおよび腫瘍微小環境の理解において著しい進展があったにもかかわらず3~6、2005年以降、治療上の進歩はほとんどなかった。GBMに関する本発明者らの豊富な知識を、効果的な治療に転換させる際の1つの重大な障害は、GBM腫瘍部位への非効率な薬物送達である。GBM腫瘍は構造的に十分に血管形成されているので、静脈内投与は、理論上、良好な腫瘍適用範囲を達成することができる、便利で、広く適用可能な薬物投与経路である。しかしながら、血液脳関門(BBB)および/または血液腫瘍関門を超える薬物の設計は困難なままである。
【発明の概要】
【0004】
膠芽腫は、従来の方法を使用して処置することが困難である非常に致命的な脳腫瘍である。全身に投与されるがん遺伝子治療は、膠芽腫に取り組むための新しい治療パラダイムである。膠芽腫遺伝子治療のための血管内遺伝子送達プラットフォームを確立するように、例えば、膠芽腫の処置のためにPD-L1抗体を全身に送達するように、操作された脳透過性AAVウイルスベクターが本明細書に記載される。
【0005】
したがって、対象におけるがんに免疫療法剤を送達するための方法が本明細書に提供される。この方法は、(i)配列TVSALFK(配列番号8);TVSALK(配列番号4);KLASVT(配列番号83);またはKFLASVT(配列番号84)からの少なくとも4個の連続するアミノ酸を含むアミノ酸配列を含むカプシドタンパク質と、(ii)免疫療法剤をコードする導入遺伝子とを含むアデノ随伴ウイルス(AAV)を、対象に投与するステップを含み、必要に応じて、がん細胞はヒト対象の脳内にある。
【0006】
一部の実施形態では、アミノ酸配列は、配列TVSALK(配列番号4);TVSALFK(配列番号8);KLASVT(配列番号83);またはKFLASVT(配列番号84)からの少なくとも5個の連続するアミノ酸を含む。
【0007】
一部の実施形態では、アミノ酸配列は、配列TVSALK(配列番号4);TVSALFK(配列番号8);KLASVT(配列番号83);またはKFLASVT(配列番号84)からの少なくとも6個の連続するアミノ酸を含む。
【0008】
また、対象におけるがんに免疫療法剤を送達するための方法も本明細書に提供される。この方法は、(i)配列V[S/p][A/m/t/]L(配列番号79)、TV[S/p][A/m/t/]L(配列番号80)、TV[S/p][A/m/t/]LK(配列番号81)、またはTV[S/p][A/m/t/]LFK.(配列番号82)からの少なくとも4個の連続するアミノ酸を含むアミノ酸配列を含むカプシドタンパク質と、(ii)免疫療法剤をコードする導入遺伝子とを含むアデノ随伴ウイルス(AAV)を、対象に投与するステップを含み、必要に応じて、がん細胞がヒト対象の脳内にある。
【0009】
一部の実施形態では、標的化配列は、VPALR(配列番号1);VSALK(配列番号2);TVPALR(配列番号3);TVSALK(配列番号4);TVPMLK(配列番号12);TVPTLK(配列番号13);FTVSALK(配列番号5);LTVSALK(配列番号6);TVSALFK(配列番号8);TVPALFR(配列番号9);TVPMLFK(配列番号10)またはTVPTLFK(配列番号11)を含む。
【0010】
一部の実施形態では、免疫療法剤をコードする導入遺伝子は、PD-1またはPD-L1を標的化する抗体をコードする。
【0011】
一部の実施形態では、対象は、哺乳動物対象である。
【0012】
一部の実施形態では、AAVは、AAV9である。
【0013】
一部の実施形態では、AAV9は、AAV9 VP1を含む。
【0014】
一部の実施形態では、標的化配列は、配列番号85を含むAAV9 VP1のアミノ酸588および589に対応する位置に挿入されている。
【0015】
一部の実施形態では、細胞は、対象の脳内にあり、AAVは、非経口送達、脳内、または髄腔内送達によって投与される。
【0016】
一部の実施形態では、非経口送達は、静脈内、動脈内、皮下、腹腔内、または筋肉内送達による。
【0017】
一部の実施形態では、髄腔内送達は、腰椎注射、大槽注射、または実質内注射による。
【0018】
一部の実施形態では、この方法は、化学療法剤、放射線、および/または外科的切除を対象に投与するステップをさらに含む。
【0019】
一部の実施形態では、化学療法剤は、テモゾラミド(temozolamide)、ロムスチン、またはそれらの組合せを含む。
【0020】
別段の規定がない限り、本明細書において使用される技術的および科学的用語の全ては、本発明が属する分野の当業者により一般に理解されるのと同じ意味を有する。方法および材料は、本発明に使用するために本明細書に記載され、当該技術分野で公知の他の適切な方法および材料も使用されてもよい。材料、方法、および例は、単なる例示であり、限定することを意図するものではない。本明細書に述べられている全ての刊行物、特許出願、特許、配列、データベースエントリー、および他の参考文献は、それらの全体が参照により組み込まれる。矛盾する場合、定義を含めて、本明細書が優先する。
【0021】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および図面、ならびに特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1-1】図1A-1C:細胞透過性ペプチド(CPP)をそのカプシドに挿入することによってAAV9を操作する例示的なストラテジーを示す図である。図1Aは、AAV9ウイルスの3Dモデルである。アミノ酸588および589(VP1番号付け)の間でカプシドに挿入されている個々のCPPは、受容体結合がおそらく起こる3倍軸で表示される。図1Bは、個々のAAVの製造方法を例示する。pRC(操作されているか、または操作されていない)、pヘルパー、およびpAAVを含む3種のプラスミドを、HEK 293T細胞に共トランスフェクトし、AAVを回収し、イオジキサノール勾配を使用して精製する。図1Cは、抗PDL1抗体をコードする配列を含む例示的なベクターのベクター図である。
図1-2】(上記の通り。)
図2-1】図2A-2B:低用量の候補AAVの静脈内投与後のマウス脳切片の代表的な画像(図2A)およびそれらの定量分析(図2B)を示す図である。遺伝子背景が混在しているマウスを使用する。候補AAVは、それらの挿入されたCPPが異なるが(表3を参照されたい)、全てが、レポーターとして核赤色蛍光タンパク質(RFP)を発現する。製造収率が低い候補AAVは、さらなるスクリーニングのために除外される。AAVの用量は、1匹の動物当たり1×1010vg(ウイルスゲノム)である。図2Aの各々の白色の点は、RFP標識化細胞を表す。図2Bにおいて、AAV9に対して、p<0.05、ANOVA。
図2-2】(上記の通り。)
図2-3】図2C-2D:反復実験におけるAAV.CPP.11およびAAV.CPP.12の静脈内投与後のマウス脳切片の代表的な画像(図2C)およびそれらの定量分析(図2D)を示す図である。AAV.CPP.11およびAAV.CPP.12は、それぞれ、CPP BIP1およびBIP2を含む(表3を参照されたい)。AAVの用量は、1匹の動物当たり1×1011vgまで増加している。候補AAVは、レポーターとして核赤色蛍光タンパク質(RFP)を発現する。図2Cの各々の白色の点は、RFP標識化細胞を表す。図2Dにおいて、AAV9に対して、P<0.05、**P<0.01、ANOVA。
図2-4】(上記の通り。)
図3-1】図3A:より良好な脳形質導入に向けてAAV9をさらに操作するためのBIP標的化配列の最適化を示す図である。AAV9を、(AAV.CPP.11のように)より効率的に脳に形質導入することを可能にするBIP1(VPALR、配列番号1)は、ラットにおけるタンパク質Ku70に由来する。ヒト、マウス、およびラットのKu70タンパク質は、それらの正確なアミノ酸配列が異なる。AAV.CPP.12のようにBIP2(VSALK、配列番号2)は、BIP1に関連する「合成」ペプチドである。最終的な操作されたAAVの種特異性を最小限にすることを望んで、さらなる操作は、VSALK配列に焦点を当てている。新しい標的化配列を生成するために、目的のアミノ酸をVSALK配列に追加し、他の場合では、個々のアミノ酸の位置を切り替える。全ての新しいBIP2由来配列を、スクリーニングのための新しい候補AAVを生成するためにAAV9カプシドに再び挿入する。順に挙げられている配列は、配列番号69、70、71、1~6、72、7、および8である。
図3-2】図3B-3C:より多くの候補AAVの静脈内投与後のマウス脳切片の代表的な画像(図3B)およびそれらの定量分析(図3C)を示す図である。全ての候補AAVは、レポーターとして核赤色蛍光タンパク質(RFP)を発現する。AAVの用量は、1匹の動物当たり1×1011vgである。図3Bの各々の白色の点は、RFP標識化細胞を表す。AAV.CPP.16およびAAV.CPP.21を、脳形質導入が頑強であり、かつ広範囲であるトップヒットとして同定した。図3Cにおいて、AAV9に対して、P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、ANOVA。 図3D:候補AAVの静脈内投与後の肝臓における形質導入効率の定量分析を示す図である。形質導入された肝細胞の割合を表す。AAVの用量は、1匹の動物当たり1×1011vgである。AAV9に対して、***P<0.001、ANOVA。
図3-3】(上記の通り。)
図4-1】図4A-4E:ヒト血液脳関門のin vitroでのスフェロイドモデルにおける選択された候補AAVのスクリーニングを示す図である。図4Aは、表面に関門を形成するヒト微小血管内皮細胞、ならびにスフェロイド内部のヒト周皮細胞および星状膠細胞を含むスフェロイドを例示する。候補AAVを、周辺の培地からスフェロイドの内部に透過させて、内部で細胞に形質導入する、それらの能力について評価した。図4B~4Dは、AAV9(図4B)、AAV.CPP.16(図4C)およびAAV.CPP.21(図4D)で処理したスフェロイドの画像を示す。図4Eは、異なるAAVで処理したスフェロイドの相対的なRFP強度を示す。AAV9に対して、***P<0.001、ANOVA。
図4-2】(上記の通り。)
図4-3】(上記の通り。)
図5-1】図5A-5B:C57BL/6J近交系マウスにおけるAAV9、AAV.CPP.16およびAAV.CPP.21の静脈内投与後の脳切片の代表的な画像(図5A)およびそれらの定量分析(図5B)を示す図である。全ての候補AAVは、レポーターとして核赤色蛍光タンパク質(RFP)を発現する。AAVの用量は、1匹の動物当たり1×1012vgである。図5Aの各々の白色の点は、RFP標識化細胞を表す。図5Bにおいて、P<0.05、***P<0.001、ANOVA。
図5-2】(上記の通り。)
図6-1】図6A-6B:BALB/cJ近交系マウスにおけるAAV9、AAV.CPP.16およびAAV.CPP.21の静脈内投与後の脳切片の代表的な画像(図6A)およびそれらの定量分析(図6B)を示す図である。全ての候補AAVは、レポーターとして核赤色蛍光タンパク質(RFP)を発現する。AAVの用量は、1匹の動物当たり1×1012vgである。図6Aの各々の白色の点は、RFP標識化細胞を表す。図6Bにおいて、***P<0.001、ANOVA。
図6-2】(上記の通り。)
図7-1】図7A-7B:C57BL/6J近交系マウスにおける高用量のAAV.CPP.16およびAAV.CPP.21の静脈内投与後の脳切片の代表的な画像(図7A)およびそれらの定量分析(図7B)を示す図である。両方の候補AAVは、レポーターとして核赤色蛍光タンパク質(RFP)を発現する。AAVの用量は、1匹の動物当たり4×1012vgである。図7Aの各々の白色の点は、RFP標識化細胞を表す。図7Bにおいて、P<0.05、スチューデント検定。
図7-2】(上記の通り。)
図8-1】図8A:AAV.CPP.16およびAAV.CPP.21が、大脳皮質、中脳、および海馬を含む、マウスにおける複数の脳領域にわたって成熟神経細胞(NeuN抗体によって標識した)を形質導入することを示す図である。形質導入された神経細胞を、NeuN抗体およびRFPによって共標識する。4×1012vgのAAVを、成体のC57BL/6Jマウス(6週齢)に静脈内投与した。
図8-2】(上記の通り。)
図8-3】図8B:AAV.CPP.16およびAAV.CPP.21が、マウスにおける脊髄および運動神経細胞の標的化において、AAV9に対して増強した能力を示すことを示す図である。4×1010vgのAAVを、新生仔マウス(生後1日)に静脈内投与した。脊髄の前角における運動神経細胞を、CHAT抗体染色を使用して可視化した。RFPおよびCHATシグナルの共局在化は、運動神経細胞の特定の形質導入を示唆している。
図9-1】図9A:AAV.CPP.16が、成体マウスにおける心臓の標的化において、AAV9に対して増強した能力を示すことを示す図である。1×1011vgのAAVを、成体のC57BL/6Jマウス(6週齢)に静脈内投与した。全てのDAPI染色細胞に対するRFP標識化細胞の割合を表す。P<0.05、スチューデント検定。
図9-2】図9B:AAV.CPP.16が、成体マウスにおける骨格筋の標的化において、AAV9に対して増強した能力を示すことを示す図である。1×1011vgのAAVを、成体のC57BL/6Jマウス(6週齢)に静脈内投与した。全てのDAPI染色細胞に対するRFP標識化細胞の割合を表す。P<0.05、スチューデント検定。
図9-3】図9C:AAV.CPP.16が、成体マウスにおける後根神経節(DRG)の標的化において、AAV9に対して増強した能力を示すことを示す図である。1×1011vgのAAVを、成体のC57BL/6Jマウス(6週齢)に静脈内投与した。全てのDAPI染色細胞に対するRFP標識化細胞の割合を表す。P<0.05、スチューデント検定。
図10-1】図10A:AAV.CPP.16およびAAV.CPP.21が、非ヒト霊長類における静脈内投与後、一次視覚野における脳細胞に形質導入する、AAV9に対して増強した能力を示すことを示す図である。2×1013vg/kgのAAV-CAG-AADC(レポーター遺伝子として)を、既存の中和抗体が少ない、3ヶ月齢のカニクイザルに静脈内注射した。AAV形質導入細胞(黒色で示す)を、AADCに対する抗体染色を使用して可視化した。左パネルの四角の領域は、右パネルのように拡大されている。AAV.CPP.16は、AAV9に対して有意に多くの細胞に形質導入した。AAV.CPP.21もまた、AAV9に対して多くの細胞に形質導入したが、その効果は、AAV.CPP.16と比較してあまり明らかではなかった。
図10-2】図10B:AAV.CPP.16およびAAV.CPP.21が、非ヒト霊長類における静脈内投与後、頭頂葉皮質における脳細胞に形質導入する、AAV9に対して増強した能力を示すことを示す図である。2×1013vg/kgのAAV-CAG-AADC(レポーター遺伝子として)を、既存の中和抗体が少ない、3ヶ月齢のカニクイザルに静脈内注射した。AAV形質導入細胞(黒色で示す)を、AADCに対する抗体染色を使用して可視化した。左パネルの四角の領域は、右パネルのように拡大されている。AAV.CPP.16は、AAV9に対して有意に多くの細胞に形質導入した。AAV.CPP.21もまた、AAV9に対して多くの細胞に形質導入したが、その効果は、AAV.CPP.16と比較してあまり明らかではなかった。
図10-3】図10C:AAV.CPP.16およびAAV.CPP.21が、非ヒト霊長類における静脈内投与後、視床における脳細胞に形質導入する、AAV9に対して増強した能力を示すことを示す図である。2×1013vg/kgのAAV-CAG-AADC(レポーター遺伝子として)を、既存の中和抗体が少ない、3ヶ月齢のカニクイザルに静脈内注射した。AAV形質導入細胞(黒色で示す)を、AADCに対する抗体染色を使用して可視化した。左パネルの四角の領域は、右パネルのように拡大されている。AAV.CPP.16は、AAV9に対して有意に多くの細胞に形質導入した。AAV.CPP.21もまた、AAV9に対して多くの細胞に形質導入したが、その効果は、AAV.CPP.16と比較してあまり明らかではなかった。
図10-4】図10D:AAV.CPP.16およびAAV.CPP.21が、非ヒト霊長類における静脈内投与後、小脳における脳細胞に形質導入する、AAV9に対して増強した能力を示すことを示す図である。2×1013vg/kgのAAV-CAG-AADC(レポーター遺伝子として)を、既存の中和抗体が少ない、3ヶ月齢のカニクイザルに静脈内注射した。AAV形質導入細胞(黒色で示す)を、AADCに対する抗体染色を使用して可視化した。左パネルの四角の領域は、右パネルのように拡大されている。AAV.CPP.16およびAAV.CPP.21の両方は、AAV9に対して有意に多くの細胞に形質導入した。
図11図11A-11B:AAV.CPP.16およびAAV.CPP.21が、LY6Aに結合しないことを示す図である。LY6Aは、AAV.PHP.B、およびAAV.PHP.eB(米国特許第9102949号明細書、米国特許出願公開第20170166926号明細書のように)を含むそのバリアントに対する受容体として機能し、ある特定のマウス株においてBBBを超える際のAAV.PHP.eBの頑強な効果を媒介する(Hordeaux et al. Mol Ther 2019 27(5):912-921; Huang et al. 2019, dx.doi.org/10.1101/538421)。培養された293細胞におけるマウスLY6Aの過剰発現は、細胞表面へのAAV.PHP.eBの結合を有意に増加させる(図11A)。対照的に、LY6Aの過剰発現は、AAV9、AAV.CPP.16またはAAV.CPP.21に対するウイルス結合を増加させない(図11B)。これは、AAV.CPP.16またはAAV.CPP.21が、受容体としてAAV.PHP.eBとLY6Aを共有しないことを示唆している。
図12-1】図12A-12C:AAV.CPP.21が、膠芽腫(GBM)のマウス様式において脳腫瘍に治療遺伝子を全身送達するために使用され得ることを示す図である。図11Aのように、静脈内投与したAAV.CPP.21-H2BmCherryは、腫瘤、特に、腫瘍が拡がるフロンティアを標的とすることを示した(図12A)。図11B(画像)および図11C(定量分析)において、「自殺遺伝子」HSV.TK1を全身に送達するためにAAV.CPP.21を使用すると、プロドラッグのガンシクロビルと組み合わせた場合に脳腫瘤の縮小が生じる。HSV.TK1は、その他の方法で「休眠」しているガンシクロビルを腫瘍死滅薬へと変える。P<0.05、スチューデント検定。
図12-2】(上記の通り。)
図12-3】(上記の通り。)
図13-1】成体マウスの脳に局所的に注射した場合、AAV.CPP.21は、AAV9と比較して脳組織のより広範で頑強な形質導入を生じたことを示す図である。AAV(1×1011vg)の脳内注射を成体マウス(>6週齢)に実施し、AAV注射から3週間後に脳組織を採取し、調べた。**P<0.01、スチューデント検定。
図13-2】(上記の通り。)
図14図14:AAV9(上)およびAAV.CPP16(下)を使用したマウスモデルにおけるGBM腫瘍微小環境への送達効率を比較する画像のセットである。挿入図(右)に見ることができるように、AAV.CPP16は、より優れた送達効果を提供した。
図15-1】図15A-C:AAV.CPP.16抗PD-L1媒介性免疫療法が、マウスGBMモデルにおいて生存期間を延長したことを示す図である。図15A、実験プロトコールの概要。図15B、示したように処置した動物の生存期間。図15C、AAV.CPP16-抗PDL1で処置した動物の長期生存期間。LTS:長期生存期間。
図15-2】(上記の通り。)
図16-1】図16A-C:GBM腫瘍が、長期生存マウスの全てにおいて根絶されたことを示す図である。図16A、腫瘍注射部位の後方および前方の両方の脳切片のH&E染色。どの切片にも残存GBMは存在しない。図16B、最初の腫瘍移植の成功を示唆する、腫瘍移植から7日後の生物発光画像化。図16C、瘢痕状組織を有するGBM腫瘍移植部位。
図16-2】(上記の通り。)
図17-1】図17A-17B:ウェスタンブロッティングによって測定したGBM腫瘍におけるHAタグ化抗PD-L1抗体の発現を示す図である。1e12vgのAAVまたはPBSを、マウスにおいて腫瘍移植から5日後に静脈内注射した。腫瘍組織を、IV注射から14日後に採取した。HAタグ染色の強度(図17A)を、抗PD-L1抗体発現の尺度として定量した(図17B)。
図17-2】(上記の通り。)
【発明を実施するための形態】
【0023】
BBBを横断する送達に関連する困難さが、がんを含む脳障害を処置するための治療剤の開発を妨げてきた。アデノ随伴ウイルス(AAV)が、脳、脊髄および眼に治療遺伝子を送達するための重要な研究および臨床手段として浮上した。例えば、米国特許第9102949号明細書;米国特許第9585971号明細書;および米国特許出願公開第20170166926号明細書を参照されたい。AAVによって媒介される遺伝子治療は、ラクスターナ(Luxturna)およびゾルゲンスマ(Zolgensma)の最近の承認により大幅な進歩をした。2歳未満の脊髄性筋萎縮症患者の血管内処置に対するゾルゲンスマの承認は、それが、中枢神経系(CNS)の全身遺伝子治療のためにBBBを超えるAAVベクターを使用する実現可能性を実証しているため、特に有望である。若い患者でのその成功にもかかわらず、ゾルゲンスマに使用されるAAV血清型であるAAV9は、特に成人においてBBBを超える低い効率に悩まされており、他のCNS疾患に対するその適用を制限している8、9。齧歯動物および非ヒト霊長類の両方において現在の工業標準(すなわち、AAV9)より少なくとも5~10倍の増強を達成し、GBMがん遺伝子治療のために新しいBBBを超えるAAVプラットフォームのために使用され得る、次世代の脳透過性AAVベクター(すなわち、AAV.CPP16)が本明細書に記載される。
【0024】
公知の細胞透過性ペプチド(CPP)に基づく合理的な設計および標的化スクリーニング(例えば、Gomez et al., Bax-inhibiting peptides derived from Ku70 and cell-penetrating pentapeptides. Biochem. Soc. Trans. 2007;35(Pt 4):797-801を参照されたい)を通じて、AAVのカプシドへと操作されると、脳への遺伝子送達の効率が最大3桁まで改善した標的化配列が発見されている。これらの方法は、膠芽腫の動物モデルにおいて腫瘍サイズを劇的に減少させるAAVベクターを操作するために使用された。
【0025】
さらに、脳は、GBMの免疫療法を困難にする、「免疫特権」を持っている。免疫学的に「冷たい」GBM腫瘍を免疫原性の「熱い」GBM腫瘍に変えるために免疫応答を「プライミング」することが望ましい。本方法は、まさにこれを達成し得る免疫療法剤、例えば、抗PD-L1抗体を送達するために本明細書に記載されるベクターを使用する。理論に束縛されることを望むものではないが、AAVベクター自体は、細胞傷害性T細胞の腫瘍浸潤を増加させることによって免疫系を「プライミング」するが、腫瘍部位、および全体としてCNSにおいて発現された抗PD-L1抗体は、その他の方法で「枯渇した」T細胞を活性化すると考えられる。
【0026】
標的化配列
本方法は、例えば、AAV、例えば、AAV1、AAV2、AAV8、またはAAV9のカプシド内に挿入されると、または化学的にもしくは融合タンパク質としての発現により、生物学的因子、例えば、抗体もしくは他の大きな生体分子にコンジュゲートすると、BBBを通過する浸透性を増強する複数の可能性のある標的化ペプチドを同定した。
【0027】
一部の実施形態では、標的化ペプチドは、少なくとも5個のアミノ酸の配列を含む。一部の実施形態では、アミノ酸配列は、少なくとも4個、例えば、配列VPALR(配列番号1)およびVSALK(配列番号2)の5個の連続するアミノ酸を含む。
【0028】
一部の実施形態では、標的化ペプチドは、Xの配列を含み、
(i)X、X、X、Xは、V、A、L、I、G、P、S、T、またはMの内の任意の4個の同一ではないアミノ酸であり、
(ii)Xは、K、R、H、D、またはEである(配列番号73)。
【0029】
一部の実施形態では、標的化ペプチドは、少なくとも6個のアミノ酸の配列を含む。一部の実施形態では、アミノ酸配列は、少なくとも4個、例えば、配列TVPALR(配列番号3)、TVSALK(配列番号4)、TVPMLK(配列番号12)、およびTVPTLK(配列番号13)の5個または6個の連続するアミノ酸を含む。
【0030】
一部の実施形態では、標的化ペプチドは、Xの配列を含み、
(i)Xは、Tであり、
(ii)Xは、V、A、L、I、G、P、S、T、またはMの内の任意の4個の同一ではないアミノ酸であり、
(iii)Xは、K、R、H、D、またはEである(配列番号74)。
【0031】
一部の実施形態では、標的化ペプチドは、Xの配列を含み、
(i)Xは、V、A、L、I、G、P、S、T、またはMからの任意の4個の同一ではないアミノ酸であり、
(ii)Xは、K、R、H、D、またはEであり、
(iii)Xは、EまたはDである(配列番号75)。
【0032】
一部の実施形態では、標的化ペプチドは、少なくとも7個のアミノ酸の配列を含む。一部の実施形態では、アミノ酸配列は、少なくとも4個、例えば、配列FTVSALK(配列番号5)、LTVSALK(配列番号6)、TVSALFK(配列番号8)、TVPALFR(配列番号9)、TVPMLFK(配列番号10)、およびTVPTLFK(配列番号11)の5個、6個、または7個の連続するアミノ酸を含む。一部の他の実施形態では、標的化ペプチドは、Xの配列を含み、
(i)Xは、F、L、W、またはYであり、
(ii)Xは、Tであり、
(iii)X、X、X、Xは、V、A、L、I、G、P、S、T、またはMの内の任意の4個の同一ではないアミノ酸であり、
(iv)Xは、K、R、H、D、またはEである(配列番号76)。
【0033】
一部の実施形態では、標的化ペプチドは、Xの配列を含み、
(i)Xは、Tであり、
(ii)X、X、X、Xは、V、A、L、I、G、P、S、T、またはMの内の任意の4個の同一ではないアミノ酸であり、
(iii)Xは、K、R、H、D、またはEであり、
(iv)Xは、EまたはDである(配列番号77)。
【0034】
一部の実施形態では、標的化ペプチドは、Xの配列を含み、
(i)X、X、X、Xは、V、A、L、I、G、P、S、T、またはMの内の任意の4個の同一ではないアミノ酸であり、
(ii)Xは、K、R、H、D、またはEであり、
(iii)Xは、EまたはDであり、
(iv)Xは、AまたはIである(配列番号78)。
【0035】
一部の実施形態では、標的化ペプチドは、V[S/p][A/m/t/]Lの配列(配列番号79)を含み、大文字がその位置で好ましい。一部の実施形態では、標的化ペプチドは、TV[S/p][A/m/t/]Lの配列(配列番号80)を含む。一部の実施形態では、標的化ペプチドは、TV[S/p][A/m/t/]LKの配列(配列番号81)を含む。一部の実施形態では、標的化ペプチドは、TV[S/p][A/m/t/]LFK.の配列(配列番号82)を含む。
【0036】
一部の実施形態では、標的化ペプチドは、VPALR(配列番号1)またはVSALK(配列番号2)からならない。
【0037】
上述の5個、6個、または7個のアミノ酸配列を含む具体的な例示的なアミノ酸配列は、表1に列挙される。
【0038】
【表1-1】
【0039】
【表1-2】
【0040】
反転した配列を含む標的化ペプチド、例えば、KLASVT(配列番号83)およびKFLASVT(配列番号84)も使用されてもよい。
【0041】
本明細書に開示される標的化ペプチドは、ペプチド模倣物を製造するための当該技術分野で公知の方法に従って改変され得る。例えば、Qvit et al., Drug Discov Today. 2017 Feb; 22(2): 454-462; Farhadi and Hashemian, Drug Des Devel Ther. 2018; 12: 1239-1254; Avan et al., Chem. Soc. Rev., 2014,43, 3575-3594; Pathak, et al., Indo American Journal of Pharmaceutical Research, 2015. 8; Kazmierski, W.M., ed., Peptidomimetics Protocols, Human Press (Totowa NJ 1998); Goodman et al., eds., Houben-Weyl Methods of Organic Chemistry: Synthesis of Peptides and Peptidomimetics, Thiele Verlag (New York 2003);およびMayo et al., J. Biol. Chem., 278:45746 (2003)を参照されたい。一部の場合、本明細書に開示されるペプチドおよび断片のこれらの改変されたペプチド模倣物型は、非ペプチド模倣物のペプチドと比較して、in vivoで増強した安定性を示す。
【0042】
ペプチド模倣物を作製するための方法は、ペプチド配列におけるアミノ酸の1つまたは複数、例えば、全てを、D-アミノ酸エナンチオマーで置換することを含む。そのような配列は、本明細書では「レトロ」配列と称される。別の方法では、元のペプチドのN末端からC末端のアミノ酸残基の順序が、改変されたペプチド模倣物においてC末端からN末端のアミノ酸残基の順序になるように、アミノ酸残基のN末端からC末端の順序が反転されている。そのような配列は、「インベルソ」配列と称され得る。
【0043】
ペプチド模倣物は、レトロおよびインベルソ型の両方、すなわち、本明細書に開示されるペプチドの「レトロ-インベルソ」型であり得る。新しいペプチド模倣物は、ペプチド模倣物におけるN末端からC末端のアミノ酸残基の順序が、元のペプチドにおけるC末端からN末端のアミノ酸残基の順序に対応するように配置されたDアミノ酸から構成され得る。
【0044】
ペプチド模倣物を作製するための他の方法は、ペプチドにおける1つまたは複数のアミノ酸残基を、アミノ酸の化学的に異なるが、認識された機能的類似体、すなわち、人工アミノ酸類似体で置き換えることを含む。人工アミノ酸類似体には、β-アミノ酸、β-置換β-アミノ酸(「β-アミノ酸」)、∀-アミノホスホン酸および∀-アミノホスフィン酸などのアミノ酸の亜リン酸類似体、ならびに非ペプチド結合を有するアミノ酸が含まれる。人工アミノ酸は、ペプトイドオリゴマー(例えば、ペプトイドアミドまたはエステル類似体)、β-ペプチド、環状ペプチド、オリゴ尿素もしくはオリゴカルバメートペプチドなどのペプチド模倣物;または複素環分子を作製するために使用され得る。例示的なレトロ-インベルソ標的化ペプチド模倣物は、KLASVTおよびKFLASVTを含み、その配列は全てのDアミノ酸を含む。これらの配列は、例えば、アミノ末端のビオチン化およびカルボキシ末端のアミド化によって改変され得る。
【0045】
AAV
本方法および組成物に使用するためのウイルスベクターには、本明細書に記載される標的化ペプチドおよび必要に応じて、標的組織で発現するための導入遺伝子を含む、組換えレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、アルファウイルス、およびレンチウイルスが含まれる。
【0046】
本方法における核酸の送達に有用な好ましいウイルスベクター系は、アデノ随伴ウイルス(AAV)である。AAVは、25nmのカプシドを有する小さな非エンベロープウイルスである。野生型ウイルスに関連する疾患は知れていないか、または示されていない。AAVは、一本鎖DNA(ssDNA)ゲノムを有する。AAVは、長期のエピソーム導入遺伝子発現を提示することが示されており、AAVは、脳、特に神経細胞において優れた導入遺伝子発現を実証した。わずかに300塩基対のAAVを含むベクターはパッケージングされ得、組み込むことができる。外因性DNAについての空間は、約4.7kbに制限されている。Tratschin et al., Mol. Cell. Biol. 5:3251-3260 (1985)に記載されているようなAAVベクターは、DNAを細胞に導入するために使用され得る。様々な核酸が、AAVベクターを使用して異なる細胞型に導入されている(例えば、Hermonat et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:6466-6470 (1984); Tratschin et al., Mol. Cell. Biol. 4:2072-2081 (1985); Wondisford et al., Mol. Endocrinol. 2:32-39 (1988); Tratschin et al., J. Virol. 51:611-619 (1984);およびFlotte et al., J. Biol. Chem. 268:3781-3790 (1993)を参照されたい)。多くの代替のAAVバリアントが存在し(100超がクローニングされている)、AAVバリアントは、所望の特徴に基づいて同定されている。一部の実施形態では、AAVは、AAV1、AAV2、AAV4、AAV5、AAV6、AV6.2、AAV7、AAV8、AAV9、rh.10、rh.39、rh.43またはCSp3であり;CNSでの使用では、一部の実施形態では、AAVは、AAV1、AAV2、AAV4、AAV5、AAV6、AAV8、またはAAV9である。一例として、AAV9は、ある程度効率的に血液脳関門を超えることが示されている。本方法を使用して、AAVカプシドは、カプシドタンパク質への、例えば、アミノ酸588および589の間のAAV9カプシドタンパク質VP1への、本明細書に記載される標的化配列の挿入によって、BBBを横断するか、または特定の組織内への浸透を増加させるように遺伝子操作され得る。
【0047】
例示的な野生型AAV9カプシドタンパク質VP1(Q6JC40-1)配列は、以下の通りである:
【0048】
【化1】
【0049】
したがって、本明細書に記載される標的化ペプチド配列の1つまたは複数を含むAAV、例えば、本明細書に記載される標的化配列を含むカプシドタンパク質、例えば、配列番号1を含むカプシドタンパク質を含むAAVが本明細書に提供され、標的化ペプチド配列は、例えば、アミノ酸588および589の間の配列に挿入されている。
【0050】
免疫療法導入遺伝子
一部の実施形態では、AAVはまた、例えば、本明細書に記載されるか、または当該技術分野で公知のような、免疫療法剤をコードする導入遺伝子配列(すなわち、異種配列)を含む。導入遺伝子は、好ましくは、標的組織における導入遺伝子の発現を促進/駆動する配列に連結される。
【0051】
免疫療法剤として使用するための例示的な導入遺伝子は、免疫チェックポイント阻害抗体またはその抗原結合断片、例えば、チェックポイント阻害剤として作用する一本鎖可変断片(scFv)抗体をコードするものを含む。
【0052】
免疫療法の例には、限定されないが、がん細胞を認識するためにTリンパ球を誘導するように設計された養子T細胞療法またはがんワクチン製剤、および抗CD137抗体(例えば、BMS-663513)、抗PD1抗体(例えば、ニボルマブ、ペンブロリズマブ/MK-3475、ピジリズマブ(CT-011))、抗PDL1抗体(例えば、BMS-936559、MPDL3280A)、または抗CTLA-4抗体(例えば、イピルミマブ(ipilumimab);例えば、Kruger et al. (2007) Histol Histopathol. 22(6): 687-96; Eggermont et al. (2010) Semin Oncol. 37(5): 455-9; Klinke (2010) Mol. Cancer. 9: 242; Alexandrescu et al. (2010) J. Immunother. 33(6): 570-90; Moschella et al. (2010) Ann N Y Acad Sci. 1194: 169-78; Ganesan and Bakhshi (2010) Natl. Med. J. India 23(1): 21-7;およびGolovina and Vonderheide (2010) Cancer J. 16(4): 342-7を参照されたい)などのチェックポイント阻害剤が含まれる。
【0053】
本明細書に記載される方法に使用され得る例示的な抗PD-1抗体には、ヒトPD-1に結合するものが含まれ、例示的なPD-1タンパク質配列は、NCBI受託番号NP_005009.2で提供される。例示的な抗体は、米国特許第8,008,449号明細書;同第9,073,994号明細書;および米国特許出願公開第2011/0271358号明細書に記載されており、例えば、PF-06801591、AMP-224、BGB-A317、BI754091、JS001、MEDI0680、PDR001、REGN2810、SHR-1210、TSR-042、ペムブロリズマブ、ニボルマブ、アベルマブ、セミプリマブ、スパルタリズマブ、カムレリズマブ、シンチリマブ、ピジリズマブ、チスレリズマブ、トリパリマブ、AMP-224、AMP-514、およびアテゾリズマブが含まれる。
【0054】
本明細書に記載される方法に使用され得る例示的な抗CD40抗体には、ヒトCD40に結合するものが含まれ、例示的なCD40タンパク質前駆体配列は、NCBI受託番号NP_001241.1、NP_690593.1、NP_001309351.1、NP_001309350.1およびNP_001289682.1で提供される。例示的な抗体には、国際公開第2002/088186号パンフレット;国際公開第2007/124299号パンフレット;国際公開第2011/123489号パンフレット;国際公開第2012/149356号パンフレット;国際公開第2012/111762号パンフレット;国際公開第2014/070934号パンフレット;米国特許出願公開第2013/0011405号明細書;同第2007/0148163号明細書;同第2004/0120948号明細書;同第2003/0165499号明細書;および米国特許第8,591,900号明細書に記載されているものが含まれ、例えば、ダセツズマブ、ルカツムマブ、ブレセルマブ、テネリキシマブ、ADC-1013、CP-870、893、Chi Lob 7/4、HCD122、SGN-4、SEA-CD40、BMS-986004、およびAPX005Mが含まれる。一部の実施形態では、抗CD40抗体は、CD40アゴニストであり、CD40アンタゴニストではない。
【0055】
本明細書に記載される方法に使用され得る例示的な抗PD-L1抗体には、ヒトPD-L1に結合するものが含まれ、例示的なPD-L1タンパク質配列は、NCBI受託番号NP_001254635.1、NP_001300958.1、およびNP_054862.1で提供される。例示的な抗体は、米国特許出願公開第2017/0058033号明細書;国際公開第2017/118321A1号パンフレット;国際公開第2016/061142A1号パンフレット;国際公開第2016/007235A1号パンフレット;国際公開第2014/195852A1号パンフレット;および国際公開第2013/079174A1号パンフレットに記載されており、例えば、BMS-936559(MDX-1105)、FAZ053、KN035、アテゾリズマブ(テセントリク、MPDL3280A)、アベルマブ(バベンチオ)、デュルバルマブ(イミフィンジ、MEDI-4736)、エンバフォリマブ(KN035)、CK-301、CS-1001、SHR-1316(HTI-1088)、CBT-502(TQB-2450)、BGB-A333、およびBMS-986189が含まれる。非抗体ペプチド阻害剤、例えば、AUNP12、CA-170も使用され得る。Akinleye & Rasool, Journal of Hematology & Oncology 12:92 (2019) doi:10.1186/s13045-019-0779-5も参照されたい。
【0056】
一部の実施形態では、免疫療法剤は、抗PD-L1抗体の抗原結合部分、例えば、ヒトPD-L1タンパク質(PD-L1.Hu)に対する一本鎖可変断片(scFv)抗体であるか、またはそれらを含み、抗PDL1抗体scFvをコードする例示的な配列は、配列番号105に示されるか、または例えば、シグナルペプチド、HA-タグ、およびMyc-タグの1つ、2つまたはそれ以上を欠き、例えば、配列番号105のアミノ酸(aa)31~513を含む、その部分である。
【0057】
例示的な抗PDL1 scFv配列(シグナルペプチド(aa1~21);HA-タグ、aa21~30;Myc-タグ、aa514~523)
【0058】
【化2】
【0059】
以下は、例示的な抗PD-L1核酸配列(シグナルペプチド(nt1~63);HA-タグ、nt64~90;Myc-タグ、nt1540~1569)である
【0060】
【化3】
【0061】
他の抗体、およびそのような抗体をコードする核酸を生成するための方法は、当該技術分野で公知であり、例えば、Li et al., Int J Mol Sci. 2016 Jul; 17(7): 1151; Engeland et al., Mol Ther. 2014 Nov; 22(11): 1949-1959、および上記の参考文献を参照されたい。
【0062】
ウイルスはまた、導入遺伝子の発現を促進する1つまたは複数の配列、例えば、1つもしくは複数のプロモーター配列;エンハンサー配列、例えば、5’非翻訳領域(UTR)もしくは3’UTR;ポリアデニル化部位;および/またはインスレーター配列を含み得る。一部の実施形態では、プロモーターは、脳組織特異的プロモーター、例えば、神経細胞特異的またはグリア特異的プロモーターである。ある特定の実施形態では、プロモーターは、神経核(NeuN)、グリア線維酸性タンパク質(GFAP)、MeCP2、大腸腺腫症(APC)、イオン化カルシウム結合アダプター分子1(Iba-1)、シナプシンI(SYN)、カルシウム/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼII、チューブリンアルファI、神経細胞特異的エノラーゼおよび血小板由来成長因子ベータ鎖から選択される遺伝子のプロモーターである。一部の実施形態では、プロモーターは、汎細胞型プロモーター、例えば、サイトメガロウイルス(CMV)、ベータグルクロニダーゼ(GUSB)、ユビキチンC(UBC)、またはラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーターである。ウッドチャック肝炎ウイルス転写後応答エレメント(WPRE)も使用され得る。一部の実施形態では、ヒトシグナルまたはリーダー配列、例えば、IgKリーダー配列が使用される。一部の実施形態では、以下の表に示されるように、ヒトシグナル配列が代わりに使用される(表は、novoprolabs.com/support/articles/commonly-used-leader-peptide-sequences-for-efficient-secretion-of-a-recombinant-protein-expressed-in-mammalian-cells-201804211337.htmlから編集した)。
【0063】
【表2】
【0064】
一部の実施形態では、例えば、von Heijne, J Mol Biol. 1985 Jul 5;184(1):99-105; Kober et al., Biotechnol. Bioeng. 2013; 110: 1164-1173; Tsuchiya et al., Nucleic Acids Research Supplenzent No. 3 261 -262 (2003)に記載されているように、抗体の分泌を促進する分泌配列が使用される。
【0065】
一部の実施形態では、AAVはまた、標的組織、例えば、CNSへの送達を増加させるか、もしくは組織のオフターゲティングを低減させる1つもしくは複数のさらなる変異、例えば、CNS、心臓、もしくは筋肉送達が意図される場合、肝臓送達を減少させる変異(例えば、Pulicherla et al. (2011) Mol Ther 19:1070-078に記載されている);または例えば、Chen et al. (2008) Nat Med 15:1215-1218もしくはXu et al., (2005) Virology 341:203-214もしくは米国特許第9102949号明細書;米国特許第9585971号明細書;および米国特許出願公開第20170166926号明細書に記載されているように、他の標的化ペプチドの追加を有する。また、sfn.org/~/media/SfN/Documents/Short%20Courses/2011%20Short%20Course%20I/2011_SC1_Gray.ashxで入手可能な、Gray and Samulski (2011) “Vector design and considerations for CNS applications,” in Gene Vector Design and Application to Treat Nervous System Disorders ed. Glorioso J., editor. (Washington, DC: Society for Neuroscience;) 1-9も参照されたい。
【0066】
使用方法
本明細書に記載される方法および組成物は、免疫療法組成物を、組織、例えば、中枢神経系(脳)、心臓、筋肉、または後根神経節もしくは脊髄(末梢神経系)に送達するために使用され得る。一部の実施形態では、方法は、特定の脳領域、例えば、大脳皮質、小脳、海馬、黒質、または扁桃体への送達を含む。一部の実施形態では、方法は、神経細胞、星状膠細胞、および/またはグリア細胞への送達を含む。
【0067】
一部の実施形態では、方法および組成物、例えば、AAVは、免疫療法剤をコードする核酸配列を、脳腫瘍を有する対象に送達するために使用される。脳腫瘍には、神経膠腫(例えば、多形性膠芽腫(GBM))、転移(例えば、肺がん、乳がん、黒色腫、または結腸がんから)、髄膜腫、下垂体腺腫、および聴神経腫が含まれる。したがって、方法は、本明細書に記載される標的化ペプチドを含み、免疫療法剤をコードするAAV(例えば、AAV9)(例えば、本明細書ではAAV.CPP16としても称される、CPP16が挿入されたAAV9)を、脳腫瘍と診断された対象に、全身、例えば、静脈内投与することを含み得る。
【0068】
一部の実施形態では、方法はまた、化学療法剤を同時投与することを含む。一部の実施形態では、化学療法剤は、限定されないが、テモゾラミド、ロムスチン、またはそれらの組合せを含む、毒素または細胞傷害性薬物である。例えば、Herrlinger et al., Lancet. 2019 Feb 16;393(10172):678-688を参照されたい。方法はまた、放射線、外科的切除、またはその両方を投与することを含み得る。
【0069】
医薬組成物および投与方法
本明細書に記載される方法は、(i)標的化ペプチド、および(ii)有効成分として免疫療法剤をコードする配列を含むAAVを含む医薬組成物の使用を含む。
【0070】
医薬組成物は、典型的に、薬学的に許容される担体を含む。本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体」という言語は、医薬投与と適合する、生理食塩水、溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などを含む。
【0071】
医薬組成物は、典型的に、その意図する投与経路と適合するように製剤化される。投与経路の例には、非経口、例えば、静脈内、動脈内、皮下、腹腔内、筋肉内、または注射もしくは注入投与が含まれる。したがって、送達は、全身的であってもよいか、または局所的であってもよい。
【0072】
適切な医薬組成物を製剤化する方法は、当該技術分野で公知であり、例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 21st ed., 2005;およびシリーズのDrugs and the Pharmaceutical Sciences: a Series of Textbooks and Monographs (Dekker, NY)の書籍を参照されたい。例えば、非経口適用のために使用される溶液または懸濁液は以下の成分を含むことができる:注射用水、生理食塩水、不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたは他の合成溶媒などの滅菌希釈剤;ベンジルアルコールまたはメチルパラベンなどの抗菌剤;アスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウムなどの抗酸化剤;エチレンジアミン四酢酸などのキレート剤;酢酸塩、クエン酸塩またはリン酸塩などの緩衝剤および塩化ナトリウムまたはデキストロースなどの等張性調整剤。pHは、塩酸または水酸化ナトリウムなどの酸または塩基で調整することができる。非経口製剤は、アンプル、使い捨て注射器またはガラスもしくはプラスチック製の複数回投与バイアルに封入することができる。
【0073】
注射用使用に適した医薬組成物は、滅菌水溶液(水溶性の場合)または分散系および滅菌注射溶液もしくは分散系の即時調製のための滅菌粉末を含むことができる。静脈内投与について、適切な担体には、生理食塩水、静菌水、Cremophor EL(商標)(BASF、Parsippany、NJ)またはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)が含まれる。全ての場合、組成物は滅菌されていなければならず、容易に注射可能である限りにおいて流体であるべきである。これは、製造および貯蔵の条件下で安定であるべきであり、細菌および真菌などの微生物の汚染作用に対して保護されなければならない。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、およびそれらの適切な混合物を含む溶媒または分散媒であってもよい。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用によって、分散系の場合、必要な粒径の維持によって、および界面活性剤の使用によって維持され得る。微生物の作用の阻止は、様々な抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどによって達成され得る。多くの場合、等張剤、例えば、糖、マンニトール、ソルビトールなどの多価アルコール、塩化ナトリウムを組成物中に含むことが好ましい。注射用組成物の持続的吸収は、吸収遅延剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを組成物中に含めることによってもたらされ得る。
【0074】
滅菌注射溶液は、必要に応じて、上記に列挙した成分の1つまたは組合せを含む適切な溶媒中に必要量の活性化合物を組み込み、続いて滅菌濾過することによって調製され得る。一般に、分散系は、基本的な分散媒および上記に列挙したものから必要な他の成分を含む滅菌ビヒクルに活性化合物を組み込むことによって調製される。滅菌注射溶液を調製するための滅菌粉末の場合、好ましい調製方法は、真空乾燥および凍結乾燥であり、これにより、有効成分に加えて、以前に滅菌濾過されたその溶液から任意のさらなる所望の成分の粉末が得られる。
【0075】
一実施形態では、治療用化合物は、インプラントおよびマイクロカプセル化送達システムを含む、制御放出製剤などの身体からの急速な排出から治療用化合物を保護する担体により調製される。エチレン酢酸ビニル、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸などの、生分解性、生体適合性ポリマーが使用されてもよい。このような製剤は、標準的な技術を使用して調製され得るか、または例えば、Alza Corporation and Nova Pharmaceuticals,Inc.から商業的に得られ得る。リポソーム懸濁液(細胞性抗原に対するモノクローナル抗体により選択された細胞を標的とするリポソームを含む)も、薬学的に許容される担体として使用され得る。これらは、例えば、米国特許第4,522,811号明細書に記載されているように、当業者に公知の方法に従って調製され得る。
【0076】
医薬組成物は、投与のための使用説明書と一緒にキット、容器、パック、またはディスペンサーに含まれ得る。
【実施例
【0077】
本発明は、特許請求の範囲に記載される本発明の範囲を限定しない、以下の実施例にさらに記載される。
【0078】
材料および方法
以下の材料および方法を以下の実施例において使用した。
【0079】
1.カプシドバリアントの生成
カプシドバリアントプラスミドを生成するために、細胞透過性ペプチド(表3)をコードするDNA断片を合成し(GenScript)、CloneEZシームレスクローニング技術(GenScript)を使用してアミノ酸位置588および589(VPAアミノ酸番号付け)の間でAAV9 Rep-capプラスミド(pRC9)の主鎖に挿入した。CPP BIP1(VPALR、配列番号1)およびBIP2(VSALK、配列番号2)、ならびにそれらの誘導体、例えば、AAV.CPP.16におけるTVSALK(配列番号4)およびAAV.CPP.21におけるTVSALFK(配列番号8)は、Ku70タンパク質に由来し、その配列は以下に提供される:
【0080】
【化4】
【0081】
さらに、AAV9、AAV.CPP.16およびAAV.CPP.21についてのVP1タンパク質配列は、以下に提供される:
【0082】
【化5-1】
【0083】
【化5-2】
【0084】
2.組換えAAVの製造
標準的な3プラスミド共トランスフェクションプロトコール(pRCプラスミド、pヘルパープラスミド、およびpAAVプラスミド)を使用して、組換えAAVをパッケージングした。導入遺伝子(例えば、ユビキタスEF1aプロモーターにより駆動される核指向性(nucleus-directed)RFP H2B-mCherry)を有するpRC9(またはそのバリアント)、pヘルパー、およびpAAVを、ポリエチレンイミン(PEI、Polysciences)を使用して、HEK 293T細胞に共トランスフェクトした。rAAVベクターを、トランスフェクションの72時間および120時間後に血清フリー培地から回収し、ならびにトランスフェクションの120時間後に細胞から回収した。この培地中のAAV粒子を、8%のPEG-8000(重量/体積)によるPEG沈殿法を使用して濃縮した。ウイルス粒子を含む細胞ペレットを再懸濁させ、超音波処理により溶解させた。PEG沈殿および細胞溶解物から組み合わせたウイルスベクターを、30分にわたり37℃でDNアーゼおよびRNアーゼにより処理し、次いで超遠心分離(VTi 50ローター、40,000r.p.m、18℃、1時間)によるイオジキサノール勾配(15%、25%、40%、および60%)によって精製した。次いで、rAAVを、Millipore Amiconフィルタユニット(UFC910008、100K MWCO)を使用して濃縮し、0.001%のPluronic F68(Gibco)を含むDulbeccoのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で製剤化した。
【0085】
3.AAV滴定
ウイルス力価を、定量PCRを使用してDNアーゼ耐性ゲノムコピーを測定することにより決定した。pAAV-CAG-GFPをPVUII(NEB)で消化してプラスミドITR用のフリー末端を生成し、標準曲線の生成に使用した。ウイルス試料をDNアーゼIと共にインキュベートして夾雑DNAを除去し、続いて水酸化ナトリウム処理してウイルスカプシドを溶解させてウイルスゲノムを放出させた。定量PCRを、ITRフォワードプライマー5’-GGAACCCCTAGTGATGGAGTT(配列番号91)およびITRリバースプライマー5’-CGGCCTCAGTGAGCGA(配列番号92)を使用して実施した。ベクター力価を、rAAV-2参照標準物質(RSM、ATCC、カタログ番号:VR-1616、Manassas、VA)に対して正規化した。
【0086】
4.マウスでのAAVの投与
静脈内投与のために、滅菌生理食塩水(0.2ml)で希釈したAAVを、成体マウス(6週齢超)で尾静脈注射により投与した。次いで、動物を3週間にわたり生存させた後、安楽死させて組織を採取した。脳内注射のために、PBS(10ul)で希釈したAAVを、十字縫合から1.0mm右、0.3後方、2.6mm深さの座標に、Hamiltonシリンジを使用して注射した。全ての動物実験を、IACUCにより承認されたAAALAC認定施設で実施した。
【0087】
5.マウス組織の処理
麻酔した動物に、冷リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を経心的に灌流させ、続いて4%パラホルムアルデヒド(PFA)を経心的に灌流させた。組織を、一晩4%PFAで後固定し、次いで、2日にわたり30%ショ糖溶液に浸漬した後、OCTに埋め込んでスナップ凍結させた。典型的には、80um厚の脳切片を、自然蛍光の画像化のために切断し、40um厚の脳切片を、IHCのために切断した。
【0088】
6.in vitroでのヒトBBBスフェロイドモデル
熱い1%アガロース(重量/体積、50ul)を96ウェルプレートに入れて、冷却した/固化させた。次いで、このアガロースゲル上に、初代ヒト星状膠細胞(Lonza Bioscience)、ヒト脳微小血管周皮細胞(HBVP、ScienCell Research Laboratories)、およびヒト脳微小血管内皮細胞(hCMEC/D3;Cedarlane)を、1:1:1の比(各タイプ1500個の細胞)で播種した。細胞を、48~72時間にわたり5%CO2インキュベータ中において37℃で培養して、多細胞BBBスフェロイドの自発的構築を可能にした。このスフェロイドの周辺では、BBBを模倣する多細胞による関門が形成されることが報告された。この培養培地にAAV-H2B-mCherryを添加し、4日後に、全てのスフェロイドを、4%PFAを使用して固定し、Nunc Lab-Tek II薄ガラス8ウェルチャンバーカバーガラス(Thermo Scientific)に移し、Zeiss LSM710共焦点顕微鏡を使用して画像化した。このスフェロイド内のRFPシグナルの強度を調べて、「リードアウト」として使用した。
【0089】
7.非ヒト霊長類(NHP)でのAAV投与
全てのNHP試験を、IACUCにより承認されたAAALAC認定施設でCROにより実施した。カニクイザルを、AAV9に対する中和抗体がほぼ存在しないかまたは存在しないかに関して予めスクリーニングした(<1:5の力価)。PBS/0.001%F68で希釈したAAVを、蠕動ポンプを使用して(橈側皮静脈または大腿静脈を介して)静脈内注射した。3週間後、動物にPBSを経心的に灌流させ、続いて4%PFAを経心的に灌流させた。次いで、組織を回収し、パラフィン埋め込みおよび切片化のために処理した。
【0090】
8.免疫組織化学
10%ロバ血清および2%Triton X-100を含むPBSで希釈した一次抗体により、マウス組織切片のフローティング染色を実施した。使用した一次抗体には、ニワトリ抗GFP(1:1000);ウサギ抗RFP(1:1000);マウス抗NeuN(1:500);ラット抗GFAP(1:500);ヤギ抗GFAP(1:500);マウス抗CD31(1:500)が含まれる。Alexa Fluor 488、Alexa Fluor 555、またはAlexa Fluor 647のフルオロフォアにコンジュゲートした二次抗体を、1:200の希釈で、一次抗体の宿主種に対して適用した。
【0091】
NHP組織のパラフィン切片の場合には、DAB染色を実施して、AAV-AADCにより形質導入された細胞を可視化した。ウサギ抗AADC抗体(1:500、Millipore)を、一次抗体として使用した。
【0092】
9.AAV結合アッセイ
HEK293T細胞を、5%CO2インキュベータ中において37℃で培養した。1つのウェル当たり250,000個の細胞の密度での24ウェルプレートへのHEK293T細胞の播種の1日後に、200ulのDMEM(31053028;Gibco)、1ugのDNAプラスミド、および3ugのPEIのトランスフェクション混合物を使用して、この細胞に、LY6AのcDNAプラスミドを一過的にトランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後、細胞を氷上に置いて10分にわたり冷却した。次いで、培地を、10000のMOIでrAAV-mCherryを含む500ulの氷冷血清フリーDMEM培地に交換した。1時間にわたる氷上でのインキュベーション後、おそらくAAVが表面に結合している細胞を冷PBSで3回洗浄し、次いでゲノムDNAを単離した。細胞に結合しているウイルス粒子を、mCherryに特異的なプライマーによるqPCRを使用することにより定量し、参照としてヒトGCGを使用してHEK293Tゲノムに対して正規化した。
【0093】
10.膠芽腫のマウスモデル
全ての実験を、Brigham and Women’s Hospital and Harvard Medical SchoolにてAnimal Care and Use Committees(IACUC)により承認されたプロトコールに従って実施した。20+/-1g(Envigo)の重量の同系免疫応答性C57BL/6雌マウスを使用した。2μlのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に再懸濁させたGL261-Luc(100,000個のマウス膠芽腫細胞)を、26ゲージ針(80075;Hamilton)を備えた10μlのシリンジを使用して、頭蓋内に注射した。定位固定フレームを使用して、移植部位の位置を決めた(十字縫合からの座標(mm):2右、0.5前方、大脳皮質への3.5の深さで)。7日後、200ulのAAV-HSV-TK1(1E+12個のウイルスゲノム、IV)を1回投与し、ガンシクロビル(50mg/kg)を10日にわたり毎日投与した。
【0094】
[実施例1]
AAV9カプシドの改変
血液脳関門を横断する生体分子またはウイルスの浸透を増強するであろうペプチド配列を同定するために、AAVペプチドディスプレイ技術を使用した。表3で列挙されている個々の細胞透過性ペプチドを、図1Aに例示されているように、アミノ酸588および589(VP1番号付け)の間でAAV9カプシドに挿入した。この挿入を、AAVパッケージングのために共トランスフェクトされる3種のプラスミドの内の1つであるRCプラスミドを改変することにより実行し、図1Bは、この実験の例示的な模式図を示す。個々のAAVバリアントを、別々に製造してスクリーニングした。さらなる詳細に関しては、材料および方法#1~3を参照されたい。
【0095】
【表3】
【0096】
[実施例2]
in vivoでのスクリーニングの最初のラウンド
核RFP(H2B-RFP)を発現するAAVを、C57BL/6遺伝子背景およびBALB/c遺伝子背景が混在している成体マウスに静脈内注射した。3週間後、脳組織を採取して切片化して、RFP標識細胞を明らかにした(図2Aおよび図2Cでの白色の点、それぞれ図2Bおよび図2Dで定量されている)。CPP BIP1およびBIP2を、それぞれAAV.CPP.11およびAAV.CPP.12のカプシドに挿入した。さらなる詳細に関しては、材料および方法#4~5を参照されたい。
【0097】
[実施例3]
改変AAV9カプシドの最適化
BIP標的化配列を最適化することにより、AAV.CPP.11およびAAV.CPP.12をさらに操作した。BIPインサートは、タンパク質Ku70に由来した(完全な配列に関しては、図3Aおよび材料/方法#1を参照されたい)。「合成」起源であるBIP配列VSALKを、操作AAVベクターの潜在的な種特異性を最小限に抑えるための研究焦点として選択した。AAVを製造し、AAV9と比較して脳形質導入効率に関して別々に試験した(図3B~Cを参照されたい)。レポーター遺伝子RFPを送達するいくつかのAAVバリアントのIV注射後3週間でのマウス肝臓における細胞形質導入の割合を、図3Dに示す。さらなる詳細に関しては、材料および方法#1~5を参照されたい。
【0098】
[実施例4]
in vitroモデル-BBB浸透スクリーニング
AAVバリアントの一部を、in vitroでのスフェロイドBBBモデルを使用して、ヒトBBBを超える能力に関してスクリーニングした。このスフェロイドは、表面で関門を形成するヒト微小血管内皮細胞と、ヒト周皮細胞および星状膠細胞とを含む。レポーターとして核RFPを有するAAVを、周囲の培地からこのスフェロイドの内部に透過させて内部で細胞に形質導入する能力に関して評価した。図4Aは、実験の概要を示す。図4B~Dは、wt AAV9、AAV.CPP.16、およびAAV.CPP.21それぞれの結果を示し、これらのおよび他のペプチドを図4Eで定量する。このモデルでは、ペプチド11、15、16、および21が、スフェロイドへの最大の浸透を引き起こした。さらなる詳細に関しては、材料および方法#6を参照されたい。
【0099】
[実施例5]
in vivoでのBBB浸透スクリーニング
実施例2に関して上述したように実施した実験において、in vivoでのモデルでのさらなる評価のために、AAV.CPP.16およびAAV.CPP.21を選択した。全てのAAVが、レポーターとして核RFPを有した。両方とも、C57BL/6J成体マウス(図5Aでの脳切片における白色の点、図5Bで定量されている)およびBALB/c成体マウス(図6Aでの脳切片における白色の点、図6Bで定量されている)において、AAV9に対して、静脈内投与後に脳細胞に形質導入する能力の増強を示した。
【0100】
高用量のAAV.CPP.16およびAAV.CPP.21(1匹のマウス当たり4×1012vg、IV投与)により、マウスでは広範な脳形質導入がもたらされた。両方のAAVが、レポーターとして核RFPを有した(図7Aでの脳切片における白色の点、図7Bで定量されている)。
【0101】
[実施例6]
改変AAVのin vivoでの分布
図8Aで示すように、AAV.CPP.16およびAAV.CPP.21は、大脳皮質、中脳、および海馬を含む、マウスにおける複数の脳領域にわたり、神経細胞(NeuN抗体により標識されている)を優先的に標的とした。両方のAAVが、レポーターとして核RFPを有した。
【0102】
AAV.CPP.16およびAAV.CPP.21はまた、マウスにおける脊髄および運動神経細胞の標的化において、AAV9に対して能力の増強も示した。全てのAAVがレポーターとして核RFPを有しており、新生仔マウスに静脈内投与された(4×1010vg)。運動神経細胞を、CHAT抗体染色を使用して可視化した。図8BでのRFPシグナルおよびCHATシグナルの共局在化は、運動神経細胞の特異的な形質導入を示唆した。
【0103】
マウスにおける様々な組織に形質導入するAAV-CAG-H2B-RFPおよびAAV.CPP.16-CAG-H2B-RFPの相対能力も評価した。1×1011vgを静脈内注射した。形質導入された細胞の数を、DAPI核染色により標識された全細胞の数に対して正規化した。この結果は、AAV.CPP.16が、マウスにおける心臓組織(図9A);骨格筋組織(図9B)、および後根神経節組織(図9C)の標的化において、AAV9と比べて効率的であることを示した。
【0104】
[実施例7]
非ヒト霊長類モデルでのBBB浸透
2×1013vg/kgのAAVs-CAG-AADC(レポーター遺伝子として)を、3カ月齢のカニクイザルに静脈内注射した。AAV形質導入細胞(黒色で示す)を、AADCに対する抗体染色を使用して可視化した。図10A~Dに示すように、AAV.CPP.16およびAAV.CPP.21は、AAV9に対して、非ヒト霊長類での静脈内投与後に脳組織に形質導入する能力の増強を示した。AAV.CPP.16は、一次視覚野(図10A)、頭頂葉皮質(図10B)、視床(図10C)、および小脳(図10D)において、wt AAV9と比べて有意に多くの細胞に形質導入した。さらなる詳細に関しては、材料および方法#7~8を参照されたい。
【0105】
[実施例8]
AAV.CPP.16およびAAV.CPP.21はLY6Aに結合しない
LY6AはAAV.PHP.eBの受容体として機能し、ある特定のマウス株でのBBBの横断におけるAAV.PHP.eBの頑強な効果を媒介する。培養された293細胞におけるマウスLY6Aの過剰発現により、細胞表面へのAAV.PHP.eBの結合が有意に増加した(図11Aを参照されたい)。逆に、LY6Aの過剰発現により、AAV9、AAV.CPP.16、またはAAV.CPP.21に関するウイルス結合は増加しない(図11Bを参照されたい)。このことは、AAV.CPP.16またはAAV.CPP.21が受容体としてLY6AをAAV.PHP.eBと共有しないことを示唆する。さらなる詳細に関しては、材料および方法#9を参照されたい。
【0106】
[実施例9]
AAV.CPP.21を使用する脳への治療用タンパク質の送達
AAV.CPP.21を使用して、脳腫瘍のマウスモデルにおいて「自殺遺伝子」HSV.TK1を全身送達した(材料および方法#10)。HSV.TK1は、その他の方法で「休眠」しているガンシクロビルを腫瘍死滅剤へと変える。静脈内投与されたAAV.CPP.21-H2BmCherry(図12A、左下および右中央のパネル)は、腫瘤、特に、腫瘍が拡がるフロンティアを標的とすることが示された。図12B~Cに示すように、「自殺遺伝子」HSV.TK1を全身送達するためのAAV.CPP.21の使用により、プロドラッグであるガンシクロビルと併用した場合に、脳腫瘤の縮小がもたらされた。これらの結果は、AAV.CPP.21を使用して脳腫瘍に治療用遺伝子を全身送達し得ることを示す。さらなる詳細に関しては、材料および方法#10を参照されたい。
【0107】
[実施例10]
AAV.CPP.21の脳内投与
(例えば実施例2での)全身投与に加えて、本明細書で記載されているAAVを、マウス脳に局所的に投与した。AAV9-H2B-RFPおよびAAV.CPP.21-H2B-RFPの脳内注射(図13)により、AAV9で処置された脳切片に対して、AAV.CPP.21で処置された脳切片において広範なかつ高強度のRFPシグナルが生じた。さらなる詳細に関しては、材料および方法#4を参照されたい。
【0108】
[実施例11]
膠芽腫腫瘍微小環境へのAAV.CPP.16の全身送達
(例えば実施例2での)全身投与を使用して、本明細書に記載されているAAVを、同所性免疫応答性マウスの膠芽腫モデル(GL261モデル)の脳へ送達する(材料および方法#10に記載されている)。図14に示すように、AAV.CRP16は、腫瘍および周囲の微小環境の両方への有意な送達に関して、AAV9をはるかに上回った。
【0109】
この送達の効率の増加が、治療効果の改善につながるかどうかを判断するために、マウスGBMモデルに様々な処置を投与した。図15Aは、実験プロトコールの概要を提供する。その結果を図15B~Cに示し、AAV.CPP.16抗PD-L1媒介性免疫療法が、マウスGBMモデルの生存期間を有意に延長したことを実証した。図15Bに示すように、AAV9抗PD-L1で処置した8匹のマウスの内の1匹が長期間生存したが、AAV.CPP.16抗PD-L1で処置した6/8マウスが長期間生存した(100日より長い)。図15Cは、長期間生存したものの6匹全てが(AAV.CPP.16-抗PD-L1で処置した5匹と、AAV9-抗PD-L1で処置した1匹;AAV.CPP.16-抗PD-L1で処置した長期間生存したものの内の1匹は、技術的な理由のために再チャレンジ手術の間に死んだ)、腫瘍移植後200日でも生存していたことを示す。したがって、マウスPD-L1を標的化する抗体を発現するAAV.CPP.16の静脈内注射により、マウスの75%においてGBM腫瘍が根絶したが、未処置のマウスは、腫瘍移植から1ヶ月以内に死んだ。
【0110】
長期間生存マウスを200日目に屠殺し、それらの脳を調べた。図16Aに示すように、腫瘍の証拠は存在しなかった。図16Bは、生存期間を延長したマウスの内の1匹から撮影した生物発光画像を示し、移植後7日目に腫瘍細胞が存在したことを示す。図16Cは、最初の腫瘍移植が残存腫瘍を欠き、グリオーシス瘢痕組織のみが存在したことを示し、完全な腫瘍根絶を示す。
【0111】
さらに、免疫組織化学により、CB8+細胞傷害性T細胞が、GBM腫瘍部位にも存在し、免疫反応についてのさらなる証拠が示された。
【0112】
[実施例12]
GBM腫瘍におけるHAタグ化抗PD-L1抗体の発現
ウェスタンブロッティングによって測定したGBM腫瘍におけるHAタグ化抗PD-L1抗体の発現を、図17A~17Bに示す。マウスでの腫瘍移植から5日後に1e12vgのAAVまたはPBSを静脈内注射した。IV注射から14日後に腫瘍組織を採取した。HAタグ染色の強度(図17A)を、抗PD-L1抗体発現の尺度として定量した(図17B)。
【0113】
参考文献
【0114】
【表4-1】
【0115】
【表4-2】
【0116】
他の実施形態
本発明を、その詳細な説明と併せて記載しているが、上記の記載は、添付の特許請求の範囲により画定される本発明の範囲を例示することが意図されており限定することは意図されていないことを理解しなければならない。他の態様、利点、および改変は、下記の特許請求の範囲内である。
図1-1】
図1-2】
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図2-4】
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図4-1】
図4-2】
図4-3】
図5-1】
図5-2】
図6-1】
図6-2】
図7-1】
図7-2】
図8-1】
図8-2】
図8-3】
図9-1】
図9-2】
図9-3】
図10-1】
図10-2】
図10-3】
図10-4】
図11
図12-1】
図12-2】
図12-3】
図13-1】
図13-2】
図14
図15-1】
図15-2】
図16-1】
図16-2】
図17-1】
図17-2】
【配列表】
2023510784000001.app
【国際調査報告】