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特表2023-510806MAIT及び腫瘍細胞の両方に結合する多重特異性抗体
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  • 特表-MAIT及び腫瘍細胞の両方に結合する多重特異性抗体 図1
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  • 特表-MAIT及び腫瘍細胞の両方に結合する多重特異性抗体 図19
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  • 特表-MAIT及び腫瘍細胞の両方に結合する多重特異性抗体 図21
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-15
(54)【発明の名称】MAIT及び腫瘍細胞の両方に結合する多重特異性抗体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20230308BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20230308BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20230308BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20230308BHJP
   C07K 16/30 20060101ALI20230308BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20230308BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230308BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230308BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230308BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230308BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20230308BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230308BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230308BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C12N15/62 Z
C07K19/00
C07K16/46
C07K16/30
C07K16/28
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K39/395 T
A61P35/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022542421
(86)(22)【出願日】2021-01-08
(85)【翻訳文提出日】2022-08-18
(86)【国際出願番号】 EP2021050253
(87)【国際公開番号】W WO2021140190
(87)【国際公開日】2021-07-15
(31)【優先権主張番号】20305011.7
(32)【優先日】2020-01-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】20305012.5
(32)【優先日】2020-01-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522276068
【氏名又は名称】ビオミュネクス・ファーマシューティカルズ
(71)【出願人】
【識別番号】509181699
【氏名又は名称】アンスティテュ・クリー
(71)【出願人】
【識別番号】507002516
【氏名又は名称】アンセルム(アンスティチュート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル)
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】オリヴィエ・ランツ
(72)【発明者】
【氏名】セバスチャン・アミゴレーナ
(72)【発明者】
【氏名】ミシェル・サイタキス
(72)【発明者】
【氏名】モード・ギヨー-デロスト
(72)【発明者】
【氏名】ユージーン・ジュコフスキー
(72)【発明者】
【氏名】ピエール-エマニュエル・ジェラール
(72)【発明者】
【氏名】ムスタファ・ファロウディ
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B065AA91X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB31
4C085BB41
4C085CC22
4C085DD61
4C085EE01
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA22
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、粘膜関連インバリアントT(MAIT)細胞及び腫瘍細胞に同時に結合することのできる多重特異性分子であって、Vα7.2 T細胞受容体(TCR)に特異的に結合する少なくとも一つのドメイン及び腫瘍関連抗原(TAA)に特異的に結合する少なくとも一つのドメインを含む、多重特異性分子を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘膜関連インバリアントT(MAIT)細胞及び腫瘍細胞に同時に結合することのできる多重特異性分子であって、Vα7.2 T細胞受容体(TCR)に特異的に結合する少なくとも一つのドメイン、及び腫瘍関連抗原(TAA)に特異的に結合する少なくとも一つのドメインを含む、多重特異性分子。
【請求項2】
多重特異性の、好ましくは二重特異性の抗体又はその抗原結合フラグメントである、請求項1に記載の多重特異性分子。
【請求項3】
異なるCH1及びCLドメインを有する少なくとも二つのFabフラグメントを含む、少なくとも一つの多重特異性抗原結合フラグメントを含む、請求項1又は2に記載の多重特異性分子であって、前記Fabフラグメントは、任意の順序でタンデムに配置され、第一のFabフラグメントのCH1ドメインのC末端終端が、ポリペプチドリンカーを介して、その次に続くFabフラグメントのVHドメインのN末端終端に連結され、少なくとも一つのFabフラグメントはVα7.2に結合し、少なくとも一つの他のFabフラグメントはTAAに結合する、多重特異性分子。
【請求項4】
請求項3に定義する多重特異性抗原結合フラグメントからなる、請求項3に記載の多重特異性分子。
【請求項5】
それぞれが請求項3に定義する多重特異性抗原結合フラグメントからなる、二つの同一な抗原結合アームを含む、請求項3に記載の多重特異性分子であって、好ましくは以下:
- それぞれが請求項3に定義する多重特異性抗原結合フラグメントからなる、二つの同一な抗原結合アーム;
- 免疫グロブリンの二量化したCH2及びCH3ドメイン;
- 抗原結合アームのCH1ドメインのC末端終端をCH2ドメインのN末端終端に連結するIgA、IgG、又はIgDのヒンジ領域、
を含む免疫グロブリン様構造を有し、更に好ましくは少なくとも二つの重鎖及び四つの軽鎖を含み、それぞれの重鎖はさらにヒンジ-CH2-CH3ドメインを含む免疫グロブリンのFc領域を含む、多重特異性分子。
【請求項6】
Vα7.2 TCRに結合するドメインがVα7.2-Jα33、Vα7.2-Jα20又はVα7.2-Jα12に結合する、請求項1から5のいずれか一項に記載の多重特異性分子。
【請求項7】
モノクローナル抗体3C10と同じ又は実質的に同じVα7.2-Jα33ポリペプチドのエピトープに競合することができ、又はそれに結合する、請求項6に記載の多重特異性分子。
【請求項8】
抗Vα7.2ドメインの重鎖可変鎖が以下のCDR:
GFNIKDTH (配列番号4); TDPASGDT (配列番号5)及びCAHYYRDDVNYAMDY (配列番号6);
を含み、並びに/又は抗Vα7.2ドメインの軽鎖可変鎖が以下のCDR:
QNVGSN (配列番号7); SSS、及びQQYNTYPYT (配列番号8)
を含む、請求項6又は7に記載の多重特異性分子。
【請求項9】
TAAが、血液学的悪性細胞又は固形腫瘍細胞において発現される腫瘍細胞表面の抗原である、請求項1から8のいずれか一項に記載の多重特異性分子。
【請求項10】
TAAが、CD19、CD20、CD38、EGFR、HER2、VEGF、CD52、CD33、RANK-L、GD2、CD33、CEAファミリー(CEACAM抗原、例えばCEACAM1、CEACAM5;又はPSG抗原を含む)、MUC1、PSCA、PSMA、GPA33、CA9、PRAME、CLDN1、HER3、グリピカン-3、CD22、CD25、CD40、CD30、CD79b、CD138(シンデカン-1)、BCMA、SLAMF7(CS1、CD319)、CD56、CCR4、EpCAM、PDGFR-α、Apo2L/TRAIL、及びPD-L1からなる群から選択される、請求項9に記載の多重特異性分子。
【請求項11】
TAAがCD19である、請求項10に記載の多重特異性分子。
【請求項12】
TAAがEGFRである、請求項10に記載の多重特異性分子。
【請求項13】
TAAがHER2である、請求項10に記載の多重特異性分子。
【請求項14】
請求項2から13のいずれか一項に定義する抗原結合フラグメントの重鎖又は多重特異性抗体の重鎖を含み、好ましくはそれらから成る、ポリペプチド。
【請求項15】
請求項14に記載のポリペプチドをコードする配列を含む、ポリヌクレオチド。
【請求項16】
請求項15に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクターでトランスフェクトされた宿主細胞であって、好ましくは、二つの異なる軽鎖:前記重鎖の第一のVH/CH1領域と特異的に対となる第一の軽鎖;前記重鎖の第二のVH/CH1領域と特異的に対となる第二の軽鎖をコードする少なくとも二つのポリヌクレオチドで更にトランスフォームされた宿主細胞。
【請求項17】
請求項2から13のいずれか一項に定義する抗原結合フラグメント又は多重特異性抗体を生産するための方法であって、以下の工程:
a) 適切な培地及び培養条件において、請求項2から13のいずれか一項に定義する抗体の重鎖及び請求項2から13のいずれか一項に定義する抗体の軽鎖を発現する宿主細胞を培養する工程;並びに
b) 前記培養培地から又は前記培養された細胞から、前記の産生された抗体を回収する工程
を含む方法。
【請求項18】
患者における腫瘍の治療において使用するための、請求項1から13のいずれか一項に定義する多重特異性分子。
【請求項19】
腫瘍が固形腫瘍である、請求項18に記載の多重特異性分子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌を治療するために有用である多重特異性分子を提供する。
【背景技術】
【0002】
二重特異性抗体(BsAb)を使用するT細胞リダイレクション(redirection)のアプローチは、癌の免疫療法に著しい発展をもたらした。以下の二つのT細胞リダイレクティングBsAbは、規則当局の承認を受けた:悪性腹水の治療のためのカツマキソマブ(catumaxomab)及び急性リンパ芽球性白血病のためのブリナツモマブ(blinatumomab)。他の多数は、臨床試験段階である。
【0003】
T細胞リダイレクティングBsAbの根底にある承認された作用機序は、免疫学的シナプスの形成を介している(Offnerら、2006; Nagorsenら、2011)。このBsAbに媒介されるCD3受容体及びターゲット細胞の腫瘍関連抗原(TAA)のクロスリンクは、以下をもたらす:T細胞の活性化、その後に続く、細胞障害性顆粒から免疫学的シナプスの環境へのパーフォリン(perforin)及びグランザイム(granzyme)の放出、及びその後のアポトーシスによるターゲット細胞の最終的な破壊である。二重特異性T細胞誘導(BiTE)の場合において、形成された免疫学的シナプスは、天然の細胞障害性T細胞の認識の過程で誘導されるものと区別がつかないと思われる(Offnerら、2006)。これらのアポトーシス仲介役の送達は受動拡散により達成されるので、BsAbの抗CD3及び抗TAA部分の間の距離により定義される、シナプスのサイズは、細胞障害性の効能にとって極めて重要である。TAAエピトープ及びターゲット細胞膜の間の距離は、BiTEの活性を決定し、異なるT細胞リダイレクティングBsAbフォーマットの間の報告された細胞障害活性における違いを説明することができ、二つの細胞膜が最も接近しているときに腫瘍細胞の溶解は最も効率的であることが確かめられている。
【0004】
さらに、活性化されたT細胞は、腫瘍部位におけるそれらの増殖及び拡大を促進するインターロイキン(IL)-2及びインターフェロン(IFN)-γを産生し、T細胞を免疫反応の最も強力な仲介役とする。CD8+細胞は、最も早く増殖し、ターゲット細胞におけるそれらの細胞障害活性を発揮させる;しかしながら、CD4+細胞は短期間の遅延を伴って始まるが、観察される細胞障害性に等しく貢献する。
【0005】
T細胞リダイレクティングメカニズムに使用するための最適なTAAの選択は、困難である。T細胞の高い細胞障害性の効能のために、T細胞リダイレクティングのアプローチの治療域はかなり狭い。固形腫瘍の治療への適用は、主に健康な細胞及び組織における選択された腫瘍関連抗原の幅広い発現が原因で増加する毒性のために困難である(オンターゲット オフ腫瘍効果)。
【0006】
現在のT細胞リダイレクティングBsAbは、CD3を標的とし、従って、CD8+(ターゲット細胞の殺傷を媒介する主要なエフェクター細胞集団である)、CD4+(この療法の主な副作用の一つである、サイトカインストームを引き起こす可能性がある)、及び望ましくないTreg(ターゲット組織に局在しているとき、免疫抑制サイトカインを分泌しCTLの阻害経路を活性化することにより、免疫反応を減少させCD8+エフェクター細胞を抑制する)を含む腫瘍部位で全てのCD3+ T細胞を動員する(Koristka S、ら、2012; Koristkaら、2013)。
いくつかのグループは、単離されたTregは細胞障害活性を促進することができると報告している(Choiら、2013)。しかしながら、Tregの存在が、異種移植モデルにおいて、前立腺肝細胞抗原を標的とするT細胞リダイレクティングBsAb(PSCA/CD3)を用いた治療の間に、in vivoでの腫瘍の成長を促進するということもまた証明された(Koristkaら、2012)。あるレポートはTregの増殖がCD33/CD3 T細胞リダイレクティングBsAbのヒトex vivo研究において全く観察されないことを示しているが(Krupkaら、2014)、CTLのみのリダイレクションは、治療の利益を提供し、更にこのクラスの薬物の臨床的有効性を高めることができる。この目的を達成するために、ある研究(Michalkら、 2014)は、PSCA/CD8 BiTE分子が、予め活性化されたCD8+ T細胞が細胞障害性を示しただけではあるが、強力な抗腫瘍応答を発揮することができるということを証明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2008/087219号
【特許文献2】国際公開第2007/147901号
【特許文献3】米国特許第2014/0200331号明細書
【特許文献4】米国特許第2014/150973号明細書
【特許文献5】米国特許第2014/0154254号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、より効率的でより安全なT細胞リダイレクションのための新しいアプローチが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、インバリアント/セミインバリアントT細胞受容体(TCR)を有する免疫細胞、例えば粘膜関連インバリアントT(MAIT)細胞を標的化して、及びこれらの特定のT細胞を、腫瘍細胞を殺傷するように向かわせる(リダイレクトする)T細胞リダイレクションのアプローチを提供する。
【0010】
より特には、本発明は、MAIT細胞及び腫瘍細胞に同時に結合することのできる多重特異性分子を提供し、多重特異性分子は、少なくとも一つの抗Vα7.2ドメイン、すなわちVα7.2 TCRに特異的に結合するドメイン、及び少なくとも一つの抗腫瘍関連抗原ドメイン(TAA)、すなわちTAAに特異的に結合するドメインを含む。
【0011】
本発明によると、上記多重特異性分子を用いたT細胞受容体のクロスリンクは、MAIT細胞を活性化して腫瘍細胞を殺傷する。図1を参照。
【0012】
このアプローチは、a)標的細胞に対する細胞障害性細胞のみを活性化する、b)CD4+ T細胞を活性化せず、それ故にサイトカインストーム及び自己反応性のリスクがより少ない、及びc)Tregを腫瘍部位へと向かわせない(リダイレクトしない)、という利点を有する。さらに、MAIT細胞はヒトの末梢組織、特には肝臓及び粘膜組織、例えば肺及び腸において豊富であるので、固形腫瘍への移動に都合が良い。
【0013】
分子は、好ましくは多重特異性の、好ましくは二重特異性の抗体又はその抗原結合フラグメントである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明による二重特異性抗体が腫瘍細胞表面のTAA及びインバリアントTCR、すなわちα鎖Vα7.2をどのように標的とするのかを示す概要図である。
図2図2は、本発明の抗体の例の概要図である。
図3図3Aは、四つの独立した実験を代表する、CD19+ Raji細胞における抗Vα7.2/抗CD19 Fab-Fabの結合プロファイルを示す。図3Bは、三つの異なるドナーを代表する、Vα7.2+細胞における抗Vα7.2/抗CD19 Fab-Fabの結合プロファイルを示す。
図4図4Aは、CD8+ T細胞活性化を決定するためのフローサイトメトリーのゲーティング戦略を示す。図4Bは、二つのドナーを代表する、抗Vα7.2/抗CD19 Fab-Fab、又は抗CD3、又は抗Vα7.2のいずれかの異なるモル濃度でコートされたウェルにおける、CD25+、CD69+及びダブルポジティブ(CD25+CD69+) CD8+TCRγδ- T細胞の割合を示す。
図5図5Aは、MAIT細胞活性化を決定するためのフローサイトメトリーのゲーティング戦略を示す。図5Bは、二つのドナーを代表する、抗Vα7.2/抗CD19 Fab-Fab、又は抗CD3又は抗Vα7.2のいずれかの異なるモル濃度でコートされたウェルにおける、CD25+、CD69+及びダブルポジティブ(CD25+CD69+) MAIT (CD8+TCRγδ-CD161hiIL18RA+)細胞の割合を示す。
図6図6は、異なる濃度の抗Vα7.2/抗CD19 Fab-Fab及び異なるエフェクター:ターゲット比で48時間共培養するときのRaji細胞の特異的溶解の割合を示す。
図7図7Aは、CD19+ NALM-6腫瘍細胞における、抗Vα7.2/抗CD19 Fab-Fab及び抗CD19/抗Vα7.2 Fab-Fab抗体の結合プロファイル、並びにネガティブコントロールであるFab-Fab抗体の結合プロファイルを示す。三つの独立した実験の中央値が示される。図7Bは、CD19+ NALM-6腫瘍細胞における、抗Vα7.2/抗CD19 BiXAb及び抗CD19/抗Vα7.2 BiXAb抗体の結合プロファイル、並びにネガティブコントロールであるBiXAb抗体の結合プロファイルを示す。三つの独立した実験の中央値が示される。
図8図8は、CD8+濃縮細胞内のMAIT細胞結合を決定するためのフローサイトメトリーのゲーティング戦略を示す。一つの代表的な実験がVα7.2/CD19 BiXAb抗体について示される。
図9図9は、Vα7.2+ CD8+ MAIT細胞における、抗Vα7.2/抗CD19 BiXAb及び抗CD19/抗Vα7.2 BiXAb抗体の結合プロファイル、並びにネガティブコントロールであるBiXAb抗体の結合プロファイルを示す。三つの独立した実験の中央値が示される。
図10】抗Vα7.2/抗CD19 BiXAb若しくは抗CD19/抗Vα7.2 BiXAb抗体、又はネガティブコントロールであるBiXAb抗体でコートされたウェルにおける、CD69+ MAIT細胞の割合を示す。二つの独立した実験の内、一つの代表的な実験が示される。
図11図11は、細胞障害性アッセイの概要図である。
図12図12は、抗Vα7.2/抗CD19 BiXAb若しくは抗CD19/抗Vα7.2 BiXAb抗体、又はネガティブコントロールであるBiXAb抗体の存在下で、濃縮したCD8 T細胞及びA-549腫瘍細胞を用いた細胞障害性アッセイの間のCD69+ MAIT細胞の割合を示す。二つの独立した実験の内、一つの代表的な実験が示される。
図13図13は、抗Vα7.2/抗CD19 Fab-Fab若しくは抗CD19/抗Vα7.2 Fab-Fab抗体、又はネガティブコントロールであるFab-Fab抗体の存在下で、rhIL-12を含むアッセイ培地においてCD8+ T細胞と48時間共培養させるときのA-549腫瘍細胞の特異的溶解の割合を示す。アッセイは、6:1のエフェクター:ターゲット比で実施された。二つの独立的な実験の内、一つの代表的な実験が示される。
図14図14Aは、Her2+ A-549腫瘍細胞における、抗Her2/抗Vα7.2 Fab-Fab抗体の結合プロファイル、及びネガティブコントロールであるFab-Fab抗体の結合プロファイルを示す。三つの独立した実験の中央値が示される。図14Bは、Her2+ A-549腫瘍細胞における、抗Vα7.2/抗Her2 BiXAb及び抗Her2/抗Vα7.2 BiXAb抗体、並びにネガティブコントロールであるBiXAb抗体の結合プロファイルを示す。三つの独立した実験の中央値が示される。
図15図15は、Vα7.2+ CD8+ MAIT細胞における、抗Vα7.2/抗Her2 BiXAb及び抗Her2/抗Vα7.2 BiXAb抗体の結合プロファイル、並びにネガティブコントロールであるBiXAb抗体の結合プロファイルを示す。三つの独立した実験の中央値が示される。
図16図16Aは、A-549腫瘍細胞及び抗Vα7.2/抗Her2 Fab-Fab若しくは抗Her2/抗Vα7.2 Fab-Fab抗体、又はネガティブコントロールであるFab-Fab抗体を用いた細胞障害性アッセイの間のダブルポジティブCD69+CD25+ MAIT細胞の割合を示す。三つの独立した実験の一つの代表的な実験が示される。図16Bは、A-549腫瘍細胞及び抗Vα7.2/抗Her2 BiXAb 若しくは抗Her2/抗Vα7.2 BiXAb抗体、又はネガティブコントロールのBiXAb抗体を用いた細胞障害性アッセイの間のCD69+ MAIT細胞の割合を示す。三つの独立した実験の内、一つの代表的な実験が示される。
図17図17Aは、抗Vα7.2/抗Her2 Fab-Fab若しくは抗Her2/抗Vα7.2 Fab-Fab抗体又はネガティブコントロールであるFab-Fab抗体の存在下で、rhIL-12を含むアッセイ培地においてCD8+ T細胞と共に48時間共培養させたときの、A-549腫瘍細胞の特異的溶解の割合を示す。アッセイは、6:1のエフェクター:ターゲット比で実施された。三つの独立した実験の一つの代表的な実験が示されている。図17Bは、抗Vα7.2/抗Her2 BiXAb若しくは抗Her2/anti-Vα7.2 BiXAb抗体又はネガティブコントロールであるBiXAb抗体の存在下で、rhIL-12を含むアッセイ培地においてCD8+ T細胞と48時間共培養させるときのA-549腫瘍細胞の特異的溶解の割合を示す。アッセイは、6:1のエフェクター:ターゲット比で実施された。三つの独立した実験の内、一つの代表的な実験が示されている。
図18図18は、EGFR+ A-549腫瘍細胞における、抗Vα7.2/抗EGFR BiXAb、抗EGFR/抗Vα7.2 BiXAb抗体の結合プロファイル、及びネガティブコントロールであるBiXAb抗体の結合プロファイルを示す。二つの独立した実験の中央値が示される。
図19図19は、Vα7.2+ CD8+ MAIT細胞における、抗Vα7.2/抗EGFR BiXAb、抗EGFR/抗Vα7.2 BiXAb抗体の結合プロファイル、及びネガティブコントロールであるBiXAb抗体の結合プロファイルを示す。二つの独立した実験の中央値が示される。
図20図20は、in vivo実験計画の概要図である。
図21図21Aは、NSGマウスにおける抗Vα7.2/抗CD19 Fab-Fab又は抗 抗Vα7.2/抗HER2 Fab-Fab抗体のin vivo効率を示す;動物は、0日目にHER2及びCD19を発現するA-549/ルシフェラーゼ腫瘍細胞系列、並びにその後1日目及び4日目にPBMCを接種した。データは、各マウスからの平均的な生物発光シグナルとして報告された。図21Bは、NSGマウスにおける抗Vα7.2/抗CD19 BiXAb又は抗Vα7.2/抗HER2 BiXAb抗体のin vivo効率を示す;動物は、0日目にHER2及びCD19を発現するA-549/ルシフェラーゼ腫瘍細胞系列、並びにその後1日目及び4日目にPBMCを接種した。データは、各マウスからの平均的な生物発光シグナルとして報告される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
定義
天然に生じる[抗体分子]の基本的な構造は、非共有相互作用及び鎖間のジスルフィド結合により結びついた、二つの同一な重鎖及び二つの同一な軽鎖からなるY字型の四量体の四つ一組の構造である。
【0016】
哺乳類の種において、5種類の重鎖:α、δ、ε、γ及びμが存在し、これらは、それぞれ、免疫グロブリンの種類(アイソタイプ): IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMを決定する。重鎖のN末端可変ドメイン(VH)は、その後に、γ、α及びδの重鎖においては、三つのドメイン(N末端からC末端へCH1、CH2及びCH3とナンバリングされる)を含む、定常領域が続く。一方で、μ及びεの重鎖の定常領域は4つのドメイン(N末端からC末端へCH1、CH2、CH3及びCH4とナンバリングされる)で構成されている。IgA、IgG及びIgDのCH1及びCH2ドメインは、柔軟性のあるヒンジ(flexible hinge)により分けられ、それは異なるクラス間で長さが多様であり、IgA及びIgGの場合は、異なるサブタイプ間で、IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4は、それぞれ15、12、62(又は77)、及び12アミノ酸のヒンジ、並びにIgA1及びIgA2は、それぞれ20及び7アミノ酸のヒンジを有する。
【0017】
二つの型の軽鎖:λ及びκが存在し、それらは任意の重鎖のアイソタイプと結合することができるが、これらは、所定の抗体分子においては、ともに同じ型となる。両方の軽鎖は機能的に同じであるように思われる。それらのN末端可変ドメイン(VL)は、その後に、CLと名付けられた一つのドメインからなる定常領域が続く。
【0018】
CH1及びCLドメイン間、並びにVH及びVLドメイン間のタンパク質/タンパク質相互作用によって、重鎖及び軽鎖が対となり、二つの重鎖は、それらのCH3ドメイン間のタンパク質/タンパク質相互作用により結合する。
【0019】
Y字型構造のアームに対応する抗原結合領域は、それぞれが、重鎖のVH及びCH1ドメインとペアになる完全な軽鎖からなり、Fabフラグメント(フラグメント抗原結合(Fragment antigen binding)のために)と呼ばれる。Fabフラグメントは、まず、鎖間のジスルフィド結合のアミノ末端側において、ヒンジ領域における抗体分子を開裂し、二つの同一の抗原結合アームを放出するパパイン分解により、天然の免疫グロブリン分子から産生される。他のプロテアーゼ、例えばペプシンもまた、ヒンジ領域において抗体分子を開裂するが、鎖間ジスルフィド結合のカルボキシ末端側における開裂であり、二つの同一なFabフラグメントからなるフラグメントを放出し、ジスルフィド結合を介してつながったままであり;F(ab')2フラグメントにおけるジスルフィド結合の還元によってFab'フラグメントを産生する。
【0020】
VH及びVLドメインに相当する抗原結合領域の一部は、Fvフラグメント(可変のフラグメント(Fragment variable)のために)と呼ばれる;それは、CDR(相補性決定領域)を含み、抗原結合部位(パラトープとも呼ばれる)を形成する。
【0021】
免疫細胞においてエフェクター分子への結合の原因となる抗体のエフェクター領域は、Y字型構造の幹に相当し、重鎖の、対になったCH2及びCH3ドメイン(又は抗体の種類に依存して、CH2、CH3及びCH4ドメイン)を含み、Fc(フラグメント結晶化(Fragment crystallisable)のために)領域と呼ばれる。
【0022】
二つの重鎖及び二つの軽鎖の同一性のために、天然に生じる抗体分子は、二つの同一の抗原結合部位を有し、従って二つの同一のエピトープに同時に結合する。
【0023】
本発明の文脈において、「多重特異性抗原結合フラグメント(multispecific antigen-binding fragment)」は、本明細書において、それぞれが異なるエピトープを認識する二つ以上の抗原結合領域を有する分子として定義される。異なるエピトープは、同じ抗原分子又は異なる抗原分子により、担われることができる。用語「認識している(recognizing)」又は「認識する(recognizes)」は、フラグメントがターゲットの抗原に特異的に結合することを意味する。
【0024】
抗体は、他の物質に結合するよりも、より優れた親和性、結合活性、より直ちに、及び/又はより優れた持続性で結合する場合、ターゲット抗原に「特異的に結合する(specifically binds)」。「特異的な結合(specific binding)」又は「優先的な結合(pregferential binding)」は、必ずしも排他的な結合を要さない(含むことはできるが)。一般的に、必ずしもではないが、結合への言及は、優先的な結合を意味する。好ましくは、分子は、その特異的なターゲット以外のリガンドへの有意な結合を全く示さず(例えば、約100倍低い親和性)、すなわち最小の交差反応性を示す。
【0025】
「親和性(affinity)」は、二つの分子、例えば抗原及び抗体の結合相互作用の強さとして定義され、それは、一より多くの結合部位を有する抗体及び他の分子に対して、一つの規定された結合部位におけるリガンドの結合の強さとして定義される。リガンドの抗体への非共有結合は典型的に共有結合ほど強くないが、「高い親和性」は、約106 to 1011 M-1の親和性定数(Ka)を有する抗体に結合するリガンドを対象とする。
【0026】
用語「対象(subject)」、「個人(individual)」及び「患者(patient)」は、本明細書において同義で使用され、治療について評価された、及び/又は治療された哺乳類を指す。対象はヒトである可能性があるが、他の哺乳類、特にはヒトの疾患のための研究モデルとして有用な哺乳類、例えばマウス、ラット、ウサギ、イヌ等である。
【0027】
用語「治療(treatment)」又は「治療すること(treating)」は、処置、適用又は療法を指し、ヒトを含む対象は、直接的又は非直接的に、対象の容態を改善させる目的で医学的補助を受ける。特には、前記用語は、いくつかの実施形態において、発症を減少させ、又は症状を和らげ、再発を排除し、再発を防止し、発症を防止し、症状を改善させ、予後を改善させ、又はその組み合わせを指す。当業者は、治療が必ずしも症状の完全な不在又は除去をもたらすわけではないことを理解するであろう。例えば、癌に関しては、「治療」又は「治療すること」は、腫瘍性若しくは悪性の細胞の成長、増殖若しくは転移を遅らせること、腫瘍性若しくは悪性の細胞の成長、増殖若しくは転移の発達の防止若しくは先延ばし、又はそのいくつかの組み合わせを指すことができる。
【0028】
[粘膜関連インバリアントT(MAIT)細胞]は、標準的なMHCにより制限されることのない非従来型のT細胞であり、血管及び組織において見られ、そこでは免疫をバリアすることに貢献する。それらは、発現研究(Salouら、2019)及びin vitroアッセイ(Le Bourhisら、2013)に基づいた、細胞障害性の方向を向け直す能力を有する。MAIT細胞は、高度に進化的に保存されたMHCクラスIb分子であるMR1により示されるビタミンB2前駆体を認識するセミインバリアントTCR(Vα7.2と呼ばれる)を発現する(Franciszkiewiczら、2016; Salouら、2017)。この受容体は、免疫システムのT細胞受容体(TCR)遺伝子区分のためのWHO-IUIS命名法においてTRAV1/TRAJともまた指定されるとBull World Health Organ. 1993; 71(1): 113-115において報告された。
【0029】
MAIT細胞は、血液中のT細胞の1から10%辺りを示すが、組織及び器官、例えば肺、肝臓、肌及び結腸にもまた存在する。さらに、MAIT細胞は、細胞障害性活性を有し、活性化でIFNγ及びTNFαを産生することができる(Dusseauxら、2011)。
【0030】
[Vα7.2]は、MAIT細胞により発現されるT細胞受容体のα鎖である。この用語は、Vα7.2-Jα33、Vα7.2-Jα20又はα7.2-Jα12のα鎖を含む。ヒトにおいて、それらは、TCR-α相補性決定領域3(CDR3α)接続点において、n個のヌクレオチド付加が全くないかほとんどない、TRAJ33、TRAJ20又はTRAJ12に繋がるTRAV1-2からなる。本明細書において使用される場合、「Vα7.2-Jα33/20/12」は、任意のバリアント、誘導体、又は再配置されたVα7.2-Jα33/20/12の遺伝子若しくはコードされたタンパク質のアイソフォームを含む。ヒト及びマウスのVα7.2-Jα33のアミノ酸配列は、Tilloyら、1999において記載されており、一方でVα7.2-Jα20及びVa7.2-Jα12はReantragoonら、2013において記載されている。ヒトのVα7.2-Jα33の配列は配列番号1に示した通りである。Vα7.2-Jα12の配列は、配列番号2、及びJα20は、配列番号3に示す通りである。
【0031】
用語「癌(cancer)」は、異常な細胞の制御されていない(及びしばしば急速である)成長により特徴付けられる疾患を指す。癌細胞は、局所的に又は血流及びリンパ系を介して身体の他の部位へ広がる可能性がある。
【0032】
用語「腫瘍(tumor)」は、本明細書における用語「癌」と同義で使用され、例えば両方の用語が固体の及び液体の、例えば広がる又は循環する、腫瘍を包含する。本明細書で使用される場合、用語「癌」又は「腫瘍」は、前悪性の及び悪性の癌及び腫瘍を含む。
【0033】
本明細書で使用される場合、用語「腫瘍関連抗原(tumor-associated antigen)」又は「TAA」は、完全に又はフラグメントとして(例えば、MHC/peptide)のいずれかで、癌細胞の表面に発現される(又は通常の組織に対して過剰に発現される)分子(典型的にはタンパク質、糖、脂質又はその組み合わせ)を指す。本明細書で使用される場合、用語「癌細胞(cancerous cell)」は、制御されていない増殖を経験している又は経験したことのある細胞を指す。いくつかの実施形態において、TAAは通常の細胞及び癌細胞の両方により発現されるマーカーであり、例えば、以下のより詳細に記載される、CD19である。いくつかの実施形態において、TAAは、通常の細胞と比較して癌細胞において過剰発現される細胞表面分子であり、例えば、通常の細胞/組織と比較して2倍の過剰発現、3倍の過剰発現又はそれより多くの発現をする。いくつかの実施形態において、TAAは癌細胞において不適切に合成される細胞表面の分子であり、例えば、通常の細胞において発現される分子と比較して、欠失、付加又は変異を有する分子(例えばEGFRvIII)である。いくつかの実施形態において、TAAは、完全に又はフラグメントとして(例えば、MHC/peptide)、癌細胞の細胞表面において独占的に発現され、通常細胞の表面では合成又は発現されない。従って、用語「TAA」は、癌細胞に特異的な細胞抗原、時には腫瘍特異的抗原(「TSA」)として当該技術において知られている。
【0034】
抗Vα7.2ドメイン
本発明の多重特異性分子は、Vα7.2、例えばVα7.2-Jα33、Vα7.2-Jα20及び/又はVα7.2-Jα12に結合する少なくとも一つのドメインを含む。
【0035】
前記結合ドメインは、任意の抗Vα7.2抗体に由来することができる。前記抗体を生産するための方法は、当該技術において知られている。前記抗体の例は、国際公開第2008/087219号において公開されている。
【0036】
本発明の多重特異性分子は、Vα7.2-Jα33、Vα7.2-Jα20及び/又はVα7.2-Jα12ポリペプチド、例えば、Vα7.2-Jα33/Vβ2又はVα7.2-Jα33/Vβ2ポリペプチドの任意の部位を認識することができると理解されているであろう。例えば、Voc7、Voc7.2、Joc33、そのフラグメント、又は任意のこれらのポリペプチド若しくはフラグメントの任意の組み合わせは、抗体を産生させるための免疫原として使用されることができ、本発明の抗体は、Vα7.2-Joc33(又は、例えば、Vα7.2-Jα33/Vβ2又はVα7.2-Jα33/Vβ2)ポリペプチド内の任意の場所においてエピトープを認識することができる。好ましくは、認識されたエピトープは、細胞表面に存在し、すなわち、それらは細胞外に存在する抗体に接触することができる。
【0037】
特定の実施形態において、Vα7.2に結合するドメインは、国際公開第2008/087219号において記載されるモノクローナル抗体3C10と競合することができる、又は前記抗体と同じ若しくは実質的に同じ、Vα7.2-Jα33ポリペプチドのエピトープに結合することができる、抗Vα7.2抗体由来の抗原結合フラグメントである。抗体又は因子が、特定のモノクローナル抗体(例えば、3C10)と「競合する」又は「実質的に同じエピトープに結合する」と言われるとき、それは、抗体又は因子がリコンビナントVα7.2-Joc33分子又は表面で発現されたVα7.2-Joc33分子のいずれかを使用した結合アッセイにおいてモノクローナル抗体と競合することを意味する。例えば、試験抗体又は試験因子が、結合アッセイにおいて3C10のVα7.2-Joc33ポリペプチドへの結合を減少させる場合、抗体又は因子は、3C10又は1A6のそれぞれと「競合する」と言われる。
【0038】
特定の実施形態において、本発明の多重特異性分子は、
3C10抗体の以下のCDR:
GFNIKDTH (配列番号4); TDPASGDT (配列番号5)及びCAHYYRDDVNYAMDY (配列番号6)
を含む重鎖可変鎖; 並びに/又は
3C10抗体の以下のCDR:
QNVGSN (配列番号7); SSS、及びQQYNTYPYT (配列番号8)
を含む軽鎖可変鎖を含む。
【0039】
抗TAAドメイン
本発明の多重特異性分子は、TAAに結合する少なくとも一つのドメインを含む。前記TAAの特定の例は、CD19、CD20、CD38、EGFR、HER2、VEGF、CD52、CD33、RANK-L、GD2、CD33、CEAファミリー(CEACAM抗原、例えばCEACAM1、CEACAM5;又はPSG抗原を含む)、MUC1、PSCA、PSMA、GPA33、CA9、PRAME、CLDN1、HER3及びグリピカン-3、並びにCD22、CD25、CD40、CD30、CD79b、CD138(シンデカン-1)、BCMA、SLAMF7(CS1、CD319)、CD56、CCR4、EpCAM、PDGFR-α、Apo2L/TRAIL、PD-L1を含む。
【0040】
CD19、EGFR、HER2が特に好まれる。
【0041】
CD19、EGFR又はHER2に結合する前記多重特異性抗体は、以下に、より詳細に記載される。
【0042】
一般的に言えば、任意の当業者は、任意の前記TAAに特異的に結合する抗体をどのように生産するかを知っている。多くは、商業化されている。
【0043】
好まれる実施形態において、本発明の多重特異性分子は、ヒト化又はキメラ抗原結合フラグメントを含む。
【0044】
多重特異性抗体のデザイン
本明細書において、多重特異性抗原結合フラグメント及び前記フラグメントを含む多重特異性抗体コンストラクトが提供され、それぞれの多重特異性抗原結合フラグメントは、本質的にタンデムに配置されたFabフラグメントからなる。
【0045】
前記フラグメント及びコンストラクトは、好ましくはヒト免疫グロブリン、好ましくはIgG、更に好ましくはIgG1由来の鎖を含む。
【0046】
二つより多くの異なるFabフラグメントを含む多重特異性抗原結合フラグメントの場合において、Fabフラグメントを隔てるポリペプチドリンカーは、同一である又は異なることができる。
【0047】
好まれる実施形態によると、二つの同一の抗原結合アームを含む多重特異性抗体であって、それぞれのアームは上記で定義されるような多重特異性抗原結合フラグメントからなる、多重特異性抗体が提供される。抗原結合アームは、多様な方法で互いにつながることができる。
【0048】
Fcにより媒介される効果のない抗体又は標的とする二つの抗原それぞれに対して一価の抗体を得たいと願う場合、抗体はFc領域を全く含まないであろう。この場合において、二つの抗原結合アームは、例えば:
- Fabフラグメントを隔てるポリペプチドリンカーにより提供される鎖間のジスルフィド結合を介した、抗原結合アームのホモ二量体化により;及び/又は
- それぞれの抗原結合アームのC末端側終端における、鎖間のジスルフィド結合の形成をもたらすシステイン残基を含むポリペプチド伸長の付加、及びヒンジ様の構造をもたらす前記ポリペプチド伸長のホモ二量体化を介して(例を制限しないために、前記ポリペプチド伸長は、例えばIgG1、IgG2又はIgG3のヒンジ配列であることができる);
- 二つの抗原結合アームの重鎖のC末端終端を接続して一つのポリペプチド鎖を形成し、前記抗原結合アームを互いに十分な距離で維持するリンカー、好ましくは半剛体のリンカーを介して;
互いに接続することができる。
【0049】
代替的には、エフェクターの機能、例えば抗体依存性細胞介在性細胞障害(ADCC)、補体依存性細胞障害(CDC)及び/若しくは抗体依存性食作用(ADP)又は二つの抗原のそれぞれに対する二価結合が望まれる場合、本発明の多重特異性抗体は、これらのエフェクター機能を提供するFcドメインをさらに含むことができる。Fcドメインの選択は、望まれるエフェクター機能の型に依存するであろう。
【0050】
この場合において、本発明の多重特異性抗体は、免疫グロブリン様の構造を有し、以下:
- 上記で定義されるような、二つの同一な多重特異性抗原結合アーム;
- 免疫グロブリンの二量化したCH2及びCH3ドメイン;
- 抗原結合アームのCH1ドメインのC末端終端をCH2ドメインのN末端終端につなぐIgA、IgG、又はIgDのヒンジ領域のいずれか(又は代替的に、CH3ドメインに続くCH4ドメインがIgM若しくはIgE由来であるときに、抗原結合アームのCH1ドメインのC末端終端が、CH2ドメインのN末端終端に直接つながることができる)
を含む。
【0051】
好ましくは、CH2及びCH3ドメイン、ヒンジ領域及び/又はCH4ドメインは、抗原結合アームのCH1ドメインと同じ免疫グロブリン又は同じアイソタイプ及びサブクラスの免疫グロブリンに由来する。
【0052】
天然の免疫グロブリン由来のCH2、CH3、及び任意にはCH4ドメイン、並びにヒンジ領域が使用されることができる。望まれる場合は、例えば抗体のエフェクター機能を調節するために、それらを変異させることもまた可能である。いくつかの例において、CH2又はCH3ドメインの全体又は部分は、削除されることができる。
【0053】
本発明は、より特には、標的のそれぞれに対する二つの結合部位、並びにエフェクター機能、例えば抗体依存性細胞介在性細胞障害(ADCC)及び食作用の活性化をもたらす機能的Fcドメインを含む、二重特異性の四価抗体を提供する。前記の好まれる抗体は、全長の抗体である。しかしながら、好まれる抗体は、Fcガンマ受容体への結合を避ける又は減少させるために、Fcドメインにおける変異を保因する。
【0054】
抗体は、好ましくは、ヒト免疫グロブリン、好ましくはIgG、より好ましくはIgG1由来の重鎖及び軽鎖を含む。
【0055】
軽鎖は、ラムダ(lambda)又はカッパ(kappa)軽鎖であることができ;それらは好ましくはカッパ軽鎖である。
【0056】
好まれる実施形態において、リンカーは、テトラFab二重特異性抗体のフォーマットにおいてIgG Fabドメインをつなぎ、そのアミノ酸配列は、前記ポリペプチドリンカーにより接続される少なくとも二つのFabドメイン、その後に続く天然のヒンジ配列、その後に続くIgG Fc配列という重鎖配列であって、適切なIgG軽鎖配列と共発現する重鎖配列を含む。
【0057】
BiXAb抗体と名付けられ、IgG様構造を有する、本発明の抗体の例は、図2において説明される。
【0058】
特定の実施形態において、本発明の二重特異性抗体は、
- Fc(ヒンジ-CH2-CH3)に続く、
- 抗体1のFab重鎖(CH1-VH)及び抗体2のFab重鎖(CH1-VH)(後者はポリペプチドリンカー配列、例えば以下のより詳細に記載されたリンカーにより接続される)
から構成される連続的な重鎖を含み、
- タンパク質発現の間、結果として生じる重鎖は、共発現した抗体1及び抗体2の軽鎖(VL-CL)がそれらの同種の重鎖と会合しながら、ダイマーを形成し、最終的なタンデムF(ab)’2-Fc分子を形成し、
抗体1(Ab1)及び抗体2(Ab2)は異なる。
【0059】
好まれる実施形態において、
a) ヒトのIgG1/Kappaに由来するCH1及びC-Kappaドメイン並びにAb1のVH及びVLドメインを有する、Fabフラグメント
b) ヒトのIgG1/Kappaに由来するCH1及びC-Kappaドメイン並びにAb2のVH及びVLドメイン
を有する、Fabフラグメント
c) ヒトのKappa定常領域に由来する、変異した軽鎖のCL定常ドメイン
d) 変異した重鎖のCH1定常ドメイン
からなる、CH1及びCLドメインを有する2つのFabフラグメントを含む二重特異性抗体を記載し、
Fabフラグメントは、以下の順番:
- ポリペプチドリンカーを通してAb2 FabフラグメントのVHドメインのN末端終端につながるAb1 FabフラグメントのCH1ドメインのC末端終端
- Ab2フラグメントのCH1ドメインのC末端終端をCH2ドメインのN末端へとつなげるヒトIgG1のヒンジ領域
- ヒトIgG1の二量化したCH2及びCH3ドメインであって、好ましくはFcガンマ受容体との相互作用を減少させる又は取り除く一つ又は複数の変異を有するドメイン
でタンデムに配置されたFabフラグメントである。
【0060】
本発明によると、Ab1及びAb2は、独立して、Vα7.2に特異的に結合する抗体(例えば上記でより詳細に記載された抗体)であり、及び腫瘍関連抗原に特異的に結合する抗体であり、又は逆の場合もまた同様である。
【0061】
本発明の好まれるコンストラクトは、多重特異性抗原結合フラグメントFab-Fabであり、それはFcドメインを含まない。本発明による特定のFab-Fabコンストラクトは、実施例1において記載される。
【0062】
前記Fab-Fabコンストラクトは、典型的に二つの異なるFabドメインを含む。それらは、対応するBiXAb抗体におけるものと同じ軽鎖を有する;しかしながら、Fab-Fabの重鎖は、前記の方法で短くされるので、それらの最もC末端の残基は、システイン-220である(EUの番号付けにおいて)。
【0063】
Fabドメインの会合は、ペプチドリンカーを使用することなく、軽鎖及び重鎖が自然に対になることを介して達成される。
【0064】
軽鎖及び重鎖の間の同種の対合の傾向を最大化するために、Fabフラグメントにおける軽鎖及び重鎖の境界面(CL/CH1境界面)における変異の導入を熟考することができる。
【0065】
好まれる実施形態において、それぞれのCH1ドメインは少なくとも一つの変異を有し、それぞれのCL1ドメインもまた少なくとも一つの変異を有し、変異はCH1及びCL1ドメインの的確な同種の対合が改良されるように選択される。
【0066】
これらの変異は、以下のリスト:
- de novo導入されたイオン対、又はFabフラグメントの重鎖及び軽鎖の境界面に既に存在する天然のイオン対が逆極性で帯電する変異;
- 「knobs-into-holes」変異;
- Fabフラグメントにおける重鎖及び軽鎖の境界面の向かい合う定常領域の表面を新しく作り替え、それらを強い極性から高度な疎水性へ、又はその逆に変える変異
から選択されることができる。
【0067】
変異のいくつかのセットは、従って、以下でより詳細に記載されるように適切である。
【0068】
特には、本説明を通して、CH1及びCLドメインのための本明細書で使用されるアミノ酸配列及び配列位置番号は、Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、5th Ed. Public Health Service、National Institutes of Health, Bethesda、Md. (1991)によって定義される。
【0069】
VLドメインにおいて変異する可能性のある残基は、例えばD 1、W 36、Q 38、A 43、P 44、T 85、F 98及びQ 100 (例えばQ100C)からなる群から選択される可能性がある。
【0070】
CL kappaドメインにおいて変異する可能性のある残基は、例えばS 114、F 116、F 118、E 123 (例えばE123K)、Q 124、T 129、S 131、V 133、L 135、N 137、Q 160、S 162、S 174、S 176、T 178及びT 180からなる群から選択される可能性がある。
【0071】
CL lambdaドメインにおいて変異する可能性のある残基は、例えばS 114、T 116、F 118、E 123、E 124、K 129、T 131、V 133、L 135、S 137、V 160、T 162、A 174、S 176、Y 178及びS 180からなる群から選択される可能性がある。
【0072】
VHドメインにおいて変異する可能性のある残基は、例えばV 37、Q 39、G 44 (例えばG44C)、R 62、F 100、W 103及びQ 105からなる群から選択される可能性がある。
【0073】
CH1ドメインにおいて変異する可能性のある残基は、L 124、A 139、L 143、D 144、K 145、D 146、H 172、F 174、P 175、Q 179、S 188、V 190、T 192、及びK 221 (例えばK221E)からなる群から選択される可能性がある。
【0074】
特定の変異は、米国特許第2014/0200331号明細書、米国特許第2014/150973号明細書、米国特許第2014/0154254号明細書、及び国際公開第2007/147901号において記載され、全てが参照により本明細書に包含される。
【0075】
好まれる実施形態において、相互作用している極性界面の残基の対は、中性で且つ塩の架橋を形成する残基の対と交換される。CH1鎖においてThr192をグルタミン酸又はアスパラギン酸により置換し、CL鎖においてAsn137をLysで置換することは、選択されることができ、任意に前記CLドメインの114番のセリン残基をアラニン残基で置換することを伴う。
【0076】
ある変異のセットにおいて、CHIドメインのLeu143がGin残基により置換されることができる一方で、CL鎖における対面している残基であるVal33がThr残基により置換される。この最初の二重変異は、疎水性から極性への相互作用のスイッチを構成する。同時に、二つの相互作用するセリン(CH1鎖におけるSer188及びCL鎖におけるSer176)のバリン残基への変異は、極性から疎水性への相互作用のスイッチを達成することができる。
【0077】
更にある実施形態において、変異は、CH1ドメインの位置124におけるロイシン残基のグルタミンへの置換及びCH1ドメインの位置188におけるセリン残基のバリン残基への置換;並びにCLドメインの位置133におけるバリン残基のスレオニン残基への置換及び前記CLドメインの位置176におけるセリン残基のバリン残基への置換を含むことができる。
【0078】
「knob into holes」変異は、CH1ドメインのLeu 124及びLeu 143がそれぞれAla及びGlu残基により置換される一方で、CL鎖のVal 33がTrp残基により置換される変異のセット(KH1)を含む一方で、H2と呼ばれる変異のセットにおいて、CH1ドメインのVal 90はAla残基により置換され、CL鎖のLeu135及びAsn137はそれぞれTrp及びAla残基により置換される。
【0079】
好まれる変異は、以下に公開される:
【0080】
【表1】
【0081】
特定の実施形態において、多重特異性抗体は、二重変異、例えばCR3変異を有する一つのアーム及びMut4変異を有するもう一方のアームを有することができる。
【0082】
特定の実施形態において、多重特異性抗体は、ヒンジ-CH2-CH3ドメインを含む免疫グロブリンのFc領域を更に含み、Fc領域は、抗原結合アームのCH1ドメインのC末端終端をCH2ドメインのN末端終端へとつなげる、前記ヒンジドメインにより、両方の抗原結合アームとつながる。
【0083】
FcのCH3又はCH2ドメインにおける境界面の特定の変異を検討すれば、二つの重鎖の天然のホモ二量体化の代わりに、それらのヘテロ二量化をもたらすことができるようになる。
【0084】
前記変異は、以下のリスト:
- de novo導入されたイオン対、又はFcドメインの二つの重鎖の境界面に既に存在する天然のイオン対における逆極性で帯電された変異;
- 当該技術分野においてよく知られ記載されている、knobs-into-holes型の変異;
- 二つの対面する重鎖の境界面を新しい境界面に作り替える変異(例えば強い極性から高い疎水性へとそれらを変え、又はその逆もまた同様である)
から選択されることができる。
【0085】
また、Fcガンマ受容体への結合を減少させる又は取り除く、IgG1 Fcドメインにおける特定の変異は、利用されることができ、制限されることなく以下:
- L234A/L235A
- N297A (N-結合型グリコシル化部位を取り除く)
- L234A/L235A/G237A/P238S/H268A/A330S/P331S
- 又は任意の以下の残基:L234A、L235A、G236R、G237A、P238S、H268A、L328R、A330S、P331S(EU番号付け)の位置置換の特定の組み合わせ
を含む。
【0086】
本明細書に記載される任意の分子は、例えばPEG化、ハイパーグリコシル化などにより、当該技術分野において知られており容易に利用可能な更なる非タンパク性の部分を含むように改変されることができる。血中半減期又はタンパク質分解に対する安定性を高めることのできる改変が対象である。
【0087】
本発明の抗体は、グリコシル化される若しくはされないことができ、又は多様なグリコシル化プロファイルを示すことができる。好まれる実施形態において、抗体は、重鎖の可変領域ではグリコシル化されないが、Fc領域ではグリコシル化される。
【0088】
リファレンスの非ヒト抗体のヒト化形態を使用することができる。ヒト化のアプローチにおいて、ドナーの可変領域由来の相補性決定領域(CDR)及び特定の他のアミノ酸は、ヒトの可変受容体領域に移植され、その後ヒト定常領域に接合される。例えば、Riechmannら、Nature 332:323-327 (1988); U.S. Pat. No. 5、225、539を参照。
【0089】
リンカーのデザイン
特定の実施形態において、ポリペプチドリンカーは、Vα7.2に結合するFabフラグメント及び腫瘍関連抗原に結合するFabフラグメントをつなげるために使用される。
【0090】
それは、「ヒンジ由来ポリペプチドリンカー配列(hinge-derived polypeptide linker sequence)」又は「偽性のヒンジリンカー(pseudo hinge linker)」ともまた呼ばれ、好ましくはヒト由来のIgA、IgG、及びIgDから選択される一以上の免疫グロブリンのヒンジ領域の配列の全て又は一部を含む。前記ポリペプチドリンカーは、ただ一つの免疫グロブリンのヒンジ領域の配列の全て又は一部を含むことができる。この場合において、前記免疫グロブリンは、隣接するCH1ドメインの由来である免疫グロブリンと同じアイソタイプ及びサブクラス、又は異なるアイソタイプ若しくはサブクラスに属することができる。代替的には、前記ポリペプチドリンカーは、異なるアイソタイプ又はサブクラスである、少なくとも二つの免疫グロブリンのヒンジ領域の配列の全て又は一部を含むことができる。この場合において、ポリペプチドリンカーのN末端部分は、CH1ドメインに直接続き、好ましくは前記CH1ドメインの由来である免疫グロブリンと同じアイソタイプ及びサブクラスに属する免疫グロブリンのヒンジ領域の全て又は一部からなる。
【0091】
選択的には、前記ポリペプチドリンカーは、免疫グロブリンのCH2ドメインの2から15まで、好ましくは5から10までのN末端アミノ酸の配列を更に含むことができる。
【0092】
ポリペプチドリンカー配列は、典型的には、80未満のアミノ酸、好ましくは60未満のアミノ酸、更に好ましくは40未満のアミノ酸からなる。
【0093】
いくつかの場合において、天然のヒンジ領域由来の配列が使用されることができる;他の場合には、点変異、特には不必要な鎖内の又は鎖間のジスルフィド結合を避けるための、アラニン又はセリンによる天然のIgG1、IgG2又はIgG3のヒンジ配列における一以上のシステイン残基の置換が、これらの配列にもたらされる可能性がある。
【0094】
特定の実施形態において、ポリペプチドリンカー配列は、アミノ酸配列EPKX1CDKX2HX3X4PPX5PAPELLGGPX6X7PPX8PX9PX10GG(配列番号9)を含み又はからなり、X1、X2、X3、X4、X5、X6、X7、X8、X9、X10は、同一に又は異なって、任意のアミノ酸である。特には、ポリペプチドリンカー配列は、
EPKSCDKTHTSPPAPAPELLGGPGGPPGPGPGGG (配列番号10);
EPKSCDKTHTSPPAPAPELLGGPAAPPAPAPAGG (配列番号11);
EPKSCDKTHTSPPAPAPELLGGPAAPPGPAPGGG (配列番号12);
EPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSTPPTPSPSGG (配列番号13)及び
EPKSCDKTHTSPPSPAPELLGGPSTPPTPSPSGG (配列番号14)
からなる群から選択される配列を含む又はからなる可能性がある。
【0095】
特定の実施形態において、X1、X2及びX3は、同一に又は異なって、トレオニン(T)又はセリン(S)である。
【0096】
ある特定の実施形態において、X1、X2及びX3は、同一に又は異なって、Ala (A)、Gly (G)、Val (V)、Asn (N)、Asp (D)及びIle (I)からなる群から選択され、更に好ましくは、X1、X2及びX3は、同一に又は異なって、Ala (A)又はGly (G)であることができる。
【0097】
代替的には、X1、X2及びX3は、同一に又は異なって、Leu (L)、Glu (E)、Gln (Q)、Met (M)、Lys (K)、Arg (R)、Phe (F)、Tyr (T)、His (H)、Trp (W)、好ましくはLeu (L)、Glu (E)又はGln (Q)であることができる。
【0098】
特定の実施形態において、X4及びX5は、同一に又は異なって、セリン(S)、システイン(C)、アラニン(A)及びグリシン(G)からなる群から選択される任意のアミノ酸である。
【0099】
好まれる実施形態において、X4はセリン(S)又はシステイン(C)である。
【0100】
好まれる態様において、X5はアラニン(A)又はシステイン(C)である。
【0101】
特定の実施形態において、X6、X7、X8、X9、X10は、同一に又は異なって、トレオニン(T)又はセリン(S)以外の任意のアミノ酸である。好ましくは、X6、X7、X8、X9、X10は、同一に又は異なって、Ala (A)、Gly (G)、Val (V)、Asn (N)、Asp (D)及びIle (I)からなる群から選択される。
【0102】
代替的には、X6、X7、X8、X9、X10は、同一に又は異なって、Leu (L)、Glu (E)、Gln (Q)、Met (M)、Lys (K)、Arg (R)、Phe (F)、Tyr (T)、His (H)、Trp (W)、好ましくはLeu (L)、Glu (E)又はGln (Q)である可能性がある。
【0103】
好まれる実施形態において、X6、X7、X8、X9、X10は、同一に又は異なって、Ala (A)及びGly (G)からなる群から選択される。
【0104】
更に好まれる実施形態において、X6及びX7は同一であり、好ましくはAla (A)及びGly (G)からなる群から選択される。
【0105】
好まれる実施形態において、ポリペプチドリンカー配列は、配列番号9の配列
(配列中、
X1、X2及びX3は、同一に又は異なって、トレオニン(T)、セリン(S)であり;
X4は、セリン(S)又はシステイン(C)であり;
X5は、アラニン(A)又はシステイン(C)であり;
X6、X7、X8、X9、X10は、同一に又は異なって、Ala (A)及びGly (G)からなる群から選択される)
を含み又はからなる。
【0106】
ある好まれる実施形態において、ポリペプチドリンカー配列は、配列番号9
(配列中、
X1、X2及びX3は、同一に又は異なって、Ala (A)又はGly (G)であり;
X4は、セリン(S)又はシステイン(C)であり;
X5は、アラニン(A)又はシステイン(C)であり;
X6、X7、X8、X9、X10は、同一に又は異なって、Ala (A)及びGly (G)からなる群から選択される)
を含み又はからなる。
【0107】
抗体が、異なるFabフラグメントを含む実施形態において、Fabフラグメントを隔てているポリペプチドリンカーは、同一である又は異なっていることができる。
【0108】
多重特異性抗体の生産
本発明における抗体の重鎖及び軽鎖をコードする核酸は、発現ベクターに挿入される。軽鎖及び重鎖は、同一の又は異なる発現ベクターにおいてクローニングされることができる。免疫グロブリンの鎖をコードするDNA断片は、免疫グロブリンのポリペプチドを確実に発現させる発現ベクターにおけるコントロール配列に操作可能につながっている。前記コントロール配列は、シグナル配列、プロモーター、エンハンサー及び転写終結配列を含む。発現ベクターは、典型的には、宿主染色体DNAのエピソーム又は不可欠な部分のいずれかとして、宿主生物において複製することができる。共通して、発現ベクターは、選択マーカー、例えばテトラサイクリン又はネオマイシンを含み、望まれるDNA配列でトランスフォームされたそれらの細胞の検出を可能にするであろう。
【0109】
一つの例において、重鎖及び軽鎖の両方がコードしている配列(例えば、VH及びVL、VH-CH1又はVL-CL)は、一つの発現ベクターに含まれる。ある例において、抗体の重鎖及び軽鎖のそれぞれは、個別のベクターにクローニングされる。後者の場合において、重鎖及び軽鎖をコードしている発現ベクターは、両方の鎖の発現のために一つの宿主細胞にトランスフェクトされることができ、重鎖及び軽鎖はin vivo又はin vitroのいずれかで無傷の抗体を形成するために会合することができる。
【0110】
特定の実施形態において、宿主細胞は、三つの独立した発現ベクター、例えばプラスミドに共トランスフェクトされ、三つ全ての鎖(すなわち重鎖HC、並びに二つの軽鎖LC1及びLC2のそれぞれ)の共生産及び多重特異性抗体の分泌をもたらす。
【0111】
より特には、三つのベクターは、以下の分子比3:2:2(HC : LC1 : LC2)において有利に使用されることができる。
【0112】
本明細書で記載される抗体の発現のためのリコンビナントベクターは、典型的には、構成的又は誘導性プロモーターのいずれかに操作可能につながる抗体のアミノ酸配列をコードする核酸を含む。ベクターは、原核生物、真核生物又は両方における、複製及び組込みに適切であることができる。典型的なベクターは、抗体をコードする核酸の発現の調節に有用である、転写及び翻訳ターミネーター、開始配列、並びにプロモーターを含む。ベクターは、選択的に、少なくとも一つの独立したターミネーター配列、真核生物及び原核生物の両方におけるカセットの複製を可能にする配列、すなわちシャトルベクター、並びに原核生物系及び真核生物系の両方のための選択マーカーを含む、一般的な発現カセットを含む。
【0113】
本明細書において記載される多重特異性抗体は、原核生物又は真核生物の発現系、例えば細菌、酵母、糸状菌、昆虫及び哺乳類細胞において生産されることができる。本発明のリコンビナント抗体は、真核生物の細胞においてグリコシル化又は発現される必要はない;しかしながら、哺乳類細胞における発現は、一般的に好まれる。有用な哺乳類の宿主細胞系列の例は、ヒトの胚性腎臓系列(293細胞)、ベビーハムスター腎臓細胞(BHK細胞)、チャイニーズハムスター卵巣細胞/-又は+ DHFR (CHO、CHO-S、CHO-DG44、Flp-in CHO細胞)、アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO細胞)、及びヒト肝臓細胞(Hep G2細胞)である。
【0114】
哺乳類組織の細胞培養が、ポリペプチドを発現及び産生するのに好まれる。なぜならば、CHO細胞系列、多様なCos細胞系列、HeLa細胞、好ましくは骨髄腫細胞系列、若しくはトランスフォームされたB細胞又はハイブリドーマを含む、無傷の免疫グロブリンを分泌することができるのに適した多数の宿主細胞系列が、当該技術分野において開発されているからである。
【0115】
最も好まれる実施形態において、本発明の多重特異性、好ましくは二重特異性抗体は、CHO細胞系列、最も有利にはCHO-S細胞系列を使用して生産される。
【0116】
これらの細胞のための発現ベクターは、発現制御配列、例えば複製起点、プロモーター及びエンハンサー、並びに必要なプロセシング情報部位、例えばリボソーム結合部位、RNAスプライス部位、ポリアデニル化部位、並びに転写ターミネーター配列を含むことができる。好まれる発現制御配列は、免疫グロブリン遺伝子、SV40、アデノウイルス、ウシパピローマウイルス、サイトメガロウイルスなどである。
【0117】
対象のポリヌクレオチド配列を含むベクター(例えば、配列をコードする重鎖及び軽鎖並びに発現制御配列)は、既知の方法により宿主細胞へトランスファーすることができ、それは細胞の宿主の型に依存して多様である。例えば、リン酸カルシウム処理又はエレクトロポレーションは、他の細胞の宿主のために使用されることができる。(一般的に、Sambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual (Cold Spring Harbor Press、2nd ed.、1989)を参照)。重鎖及び軽鎖が別の発現ベクターにクローニングされるとき、ベクターは、共トランスフェクトされ、無傷な免疫グロブリンの発現及び会合を得る。
【0118】
宿主細胞は、ベクターでトランスフォーム又はトランスフェクトされ(例えば、化学的なトランスフェクション又はエレクトロポレーション法により)、プロモーターを誘導し、形質転換細胞を選択し、又は望ましい配列をコードする遺伝子を増大するために、従来型の栄養培地において培養される(又は適切に改変される)。
【0119】
一度発現すると、本発明の抗体全体、それらの二量体、それぞれの軽鎖及び重鎖、又は他の免疫グロブリン形態が、更に単離又は精製され、更なる分析及び応用のための実質的に均質である調製物を得る。当該技術分野において知られる標準的なタンパク質精製方法が使用されることができる。例えば、適した精製手順は、イムノアフィニティカラム又はイオン交換カラム、エタノール沈殿、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)、硫酸アンモニウム沈殿及びゲル濾過を用いた分画を含むことができる(一般的に、Scopes、Protein Purification (Springer-Verlag、N.Y.、1982)を参照)。医薬的使用のために、少なくとも約90から95%の均一性を有する実質的に純粋な免疫グロブリンが好まれ、及び98から99%又はそれより多い均一性が最も好まれる。
【0120】
in vitroでの産生は、本発明の望ましい多重特異性、好ましくは二重特異性抗体を大量に提供するためのスケールアップを許容する。前記方法は、例えばエアリフトリアクター又は連続攪拌リアクターにおける、均一な懸濁培養、又は、例えば、中空糸内、マイクロカプセル内、アガロースマイクロビーズ上若しくはセラミックカードリッジ上における、固定された若しくは捕捉された細胞培養を使用することができる。
【0121】
治療的適用
本発明の更なる態様は、本発明による多重特異性分子、より特には抗体を含む医薬組成物である。本発明のある態様は、本発明による多重特異性分子、より特には抗体の、医薬組成物の製造のための使用である。本発明の更なる態様は、本発明による多重特異性分子、より特には抗体を含む、医薬組成物の製造方法である。
【0122】
ある態様において、本発明は、医薬担体と共に処方される、本明細書において定義される多重特異性分子、より特には抗体を含む、組成物、例えば医薬組成物を提供する。
【0123】
本発明の組成物は、当該技術分野において知られる、多様な方法により投与されることができる。静脈内の、経口の、皮下の、皮内の又は粘膜の投与を含む、投与の任意の適切な経路が包含される。ある特定の実施形態において、腫瘍部位又はその近傍への直接的な注入は、熟考される。
【0124】
本発明の組成物は、腫瘍を治療するために有用であり、特には固体の腫瘍、例えば、肺癌(例えば、小細胞肺癌、非小細胞肺癌)、皮膚癌、メラノーマ、乳癌、結腸直腸癌、胃癌、卵巣癌、子宮頸癌、前立腺癌、腎癌、肝癌、膵癌、頭頸部癌、上咽頭癌、食道癌、膀胱癌、尿路上皮癌、胃癌、グリオーマ、グリオブラストーマ、精巣の、甲状腺の、骨の、胆嚢及び胆管の、子宮の、副腎の、癌、肉腫からなる群から選択される癌を治療するために有用である。血液学的悪性腫瘍(例えばリンパ腫、白血病、多発性骨髄腫)もまた包含される。
【0125】
このように上記で一般的に記載された本発明は、以下の実施例の参照により、より容易に理解されるが、実施例は、説明の目的で提供され、本発明に制限することを意図しない。
【実施例
【0126】
[実施例]
本発明による多重特異性コンストラクトの例が生産される。以下の実施例に記載されるように生産及び試験されたコンストラクトの配列は、以下表2において示される。
【0127】
【表2】
【0128】
[実施例1: 抗Vα7.2/抗CD19 IgG1及びFab-Fabの生産]
[遺伝子合成]
抗Vα7.2及び抗CD19モノクローナル抗体の可変領域のアミノ酸配列は、GeneScriptプログラムを使用して、哺乳類での発現のためのコドン最適化の後にDNA配列をデザインするために使用された。重鎖のために、シグナルペプチド、Fab1の可変領域及び定常CH1ドメインに続いて、ヒンジリンカー並びにFab2の可変領域及び定常CH1ドメインを、制限酵素の切断のためのフランキング配列と共にコードするDNAが、GeneScriptにより合成された。軽鎖のために、シグナルペプチド並びに可変及び定常カッパ領域をコードするDNAが、GeneScriptにより合成された。
【0129】
PfuTurbo Hot Startを使用するPCR反応は、重鎖及び軽鎖それぞれに対して、NotI + ApaI及びNotI + HindIIIによりその後切断される挿入断片を増幅させるために実施された。ダブルダイジェストされた重鎖断片は、Fcを含む分子のために、ヒトのIgG1 CH1 + ヒンジ + CH2 + CH3ドメインが既に挿入されているIcosagen所有のpQMCF発現ベクターであって、NotI + ApaIで切断されたベクターとライゲーションされた。Fab-Fab分子の発現のために、ストップコドンは、C201(Kabatによる番号付け)のすぐ下流に挿入された。タブルダイジェストされた軽鎖断片は、NotI + HindIII処理されたIcosagen所有のベクターにライゲーションされた。プラスミドDNAは、二重鎖DNAのシークエンシングにより確認された。
【0130】
[発現、精製及び特徴付け]
50 mLスケールの発現のために、Icosagen所有のpQMCFベクター(重鎖25 μg + LC1及びLC2、それぞれの軽鎖12.5 μg)における全体で50 μgのプラスミドDNAは、1.5 mLエッペンドルフチューブ内のIcosagen所有のtransfection Reagent 007を含む1 mLのCHO TF (Xell AG)生育培地において混合され、RTで20分間インキュベートされた。混合物は、125mL 振盪フラスコ内のCHO TF (Xell AG)生育培地において、1-2 x 106 細胞/mLで49 mLのCHOEBNALT85 1E9細胞にロードされた。細胞は、37℃で4日間及び30℃でもう6日間振とうされた。上清は、3,000rpmで15分間細胞を遠心することにより採取された。Fc-を含むBiXAb抗体から採取された上清は、Protein A樹脂により精製され(MabSelect SuRe 5 mLカラム)、Fab-Fab抗体由来の上清は、CaptureSelect IgGCH1樹脂により精製された。我々が更に、Superdex 200 HiLoad 26/60 pg分取カラムを使用するゲルろ過クロマトグラフィーを使用して精製したBiXAb Fcを含む抗体、一方でSuperdex 200 Increase 10/300 GLを使用して精製されたFab-Fab抗体;全ての抗体がPBS pH7.4へバッファー交換された。全てのサンプルは、0.2 μm ULTRA Capsule GFを使用して滅菌ろ過された。電気泳動は、10% SDS-PAGEを使用して還元条件及び非還元条件の下で実施された。サンプルは、精製された抗体を2X SDSサンプルバッファーと組み合わせ、95℃で5分間加熱することにより調製された。還元されたサンプルの調製は、加熱の前に、最終濃度100mMになるDTT添加を含んだ。見かけのMWは、Ladder Precision Plus Protein Unstained Standards (Biorad)を使用して決定された。
【0131】
Vα7.2 3C10-ML1軽鎖は、配列番号15に示した通りである。
【0132】
Vα7.2 3C10-ML1-AP-CD19-CC1重鎖は、配列番号16に示した通りである。
【0133】
CD19軽鎖は、配列番号17に示した通りである。
【0134】
及びVα7.2 3C10-ML1-AP-CD19-CC1重鎖は、配列番号18に示した通りである。
【0135】
[実施例2: CD19+細胞及びVα7.2+ T細胞における抗Vα7.2/抗CD19 Fab-Fabの結合]
実施例1において生産された抗Vα7.2/抗CD19 Fab-Fabは、まずCD19+ Raji細胞における結合を試験された。アッセイは、フローサイトメトリーにより実施された。簡潔には、Raji細胞はPBSでウォッシュされ、Fixable Viability Dye (eFluorTM 780, ThermoFisher)及びhuman Fc block reagent (BD)を用いて染色された(PBS内、25分間、4℃)。細胞は、その後FACS buffer (PBS、2 mM EDTA、0.5% BSA)でウォッシュされ、異なる濃度の抗Vα7.2/抗CD19 Fab-Fab(表1、nM及びμg/mlの両方で示される)で、4℃で1時間染色された。無関係のFab-Fabがネガティブコントロールとして使用された。ウォッシング(5x)に続き、Raji細胞はPhycoerythrin (Jackson Immunoresearch)とコンジュゲートされた二次ヤギ抗ヒト抗体と共に4℃で45分間染色された。細胞は、その後、MACSquant flow cytometer (Miltenyi Biotec)において解析された。
【0136】
結果は、無関係のFab-Fabが全く結合を示さなかった一方で、抗Vα7.2/抗CD19 Fab-FabのCD19+ Raji細胞における用量依存的な結合を示す。図3Aは、4つの独立した実験を代表する、標準化された幾何学的平均蛍光強度として表される、CD19+ Raji細胞における抗Vα7.2/抗CD19 Fab-Fabの結合プロファイルを示す。
【0137】
抗Vα7.2/抗CD19 Fab-Fabは、その後、Vα7.2+CD8+ T細胞における結合を試験された。アッセイは、フローサイトメトリーにより実施された。ヒトCD8+ T細胞は、精製された末梢血単核細胞(PBMC)から単離された。簡潔には、健康なドナー由来の白血球アフェレーシスパック(leukapheresis pack)は、フィコール勾配において遠心され、PBMCが収集された。CD8+ T細胞はその後、商用のnegative selection kit (Miltenyi Biotec)を用いて単離された。これらの細胞はその後、Vα7.2+細胞における抗Vα7.2/抗CD19末梢血単核細胞の結合を決定するために使用された。細胞は、PBSでウォッシュされ、Fixable Viability Dye (eFluorTM 780、 ThermoFisher)及びhuman Fc block reagent(BD)を用いて染色された(PBS内、25分間、4℃)。細胞はその後、FACS buffer (PBS、2 mM EDTA、0.5% BSA)でウォッシュされ、異なる濃度の抗Vα7.2/抗CD19 Fab-Fab(表3、nM及びμg/mlの両方で示される)で、4℃で1時間染色された。無関係のFab-Fabがネガティブコントロールとして使用された。ウォッシング(5x)に続き、Raji細胞はPhycoerythrin (Jackson Immunoresearch)とコンジュゲートされた二次ヤギ抗ヒト抗体及び抗CD8抗体(Biolegend)と共に4℃で45分間染色された。細胞は、その後、MACSquant flow cytometerにおいて解析された。
【0138】
ドナーに依存して、Vα7.2+細胞は、CD8+ T細胞の1から10%の間に及ぶ。結果は、無関係のFab-Fabは検出することができない一方で、抗Vα7.2/抗CD19 Fab-Fabは、Vα7.2+集団を特異的に検出することができるということを示した。図3Bは、3つの独立したドナーを代表する、標準化された幾何学的平均蛍光強度として表される、Vα7.2+細胞における抗Vα7.2/抗CD19 Fab-Fabの結合プロファイルを示す。2つの実験から計算されるEC50は、3.49±0.2 nMであった。
【0139】
結論として、抗Vα7.2/抗CD19 Fab-Fabは、生きている細胞の表面において発現される両方の分子ターゲット(CD19及びVα7.2)に特異的に結合することができる。
【0140】
【表3】
【0141】
[実施例3: 抗Vα7.2/抗CD19 Fab-Fabによる、特異的なMAIT細胞の活性化、しかし最小限である全体のCD8+ T細胞活性化]
CD8+ T細胞及び特異的なMAIT細胞(それはCD8+TCRγδ-CD161hiIL18RA+である)の活性化を媒介するための抗Vα7.2/抗CD19 Fab-Fabの効果は、in vitroで評価された。簡潔には、抗Vα7.2/抗CD19 Fab-Fab並びに二つの抗体、抗Vα7.2及び抗CD3は、表3において示されるモル濃度で平底の96穴プレートにコートされた(PBS内、一晩中、4℃)。抗Vα7.2抗体は、3C10クローンであり(国際公開第2008/087219号において記載される)、それは抗Vα7.2/抗CD19 Fab-Fabの抗Vα7.2配列の由来である。抗CD3抗体は、T細胞活性化アッセイ(Saitakisら、2017)において共通して使用される抗体である、OKT3クローンである。細胞を添加する前に、ウェルはPBSを用いて少なくとも二回ウォッシュされた。
【0142】
CD8+ T細胞は、実施例2におけるように単離され、平底の96穴プレートに添加された(100 μlのRPMI 1640内に1ウェル当たり100,000細胞、10% FBS)。ウェルは、異なるモル濃度の抗Vα7.2/抗CD19 Fab-Fab、又は抗CD3又は抗Vα7.2抗体のいずれかでコートされた(表3)。プレートは、37℃のインキュベーター及び5% CO2内で16時間置かれた。培養に続き、細胞は採取され、PBSでウォッシュされ、最初にFixable Viability Dye (eFluorTM 780, ThermoFisher)及びhuman Fc Block reagent(BD)(PBS内、25分間、4℃)、並びにその後、以下の抗体(1/100希釈のFACSバッファー内、45分間、4°C):抗CD8-PerCP-Cy5.5、抗TCRγδ-FITC、抗CD161-PE、抗IL18RA-APC、抗CD25-PE-Cy5及び抗CD69-APC-Cy7 (Biolegend)で染色された。細胞はその後、MACSquant flow cytometer(Miltenyi Biotec)において解析された。
【0143】
CD25及びCD69の上方制御は、T細胞活性化の評価基準である。従って、活性化に続いて、我々は、CD25、CD69又は両方を発現した細胞の割合を調査した。図4Aは、全体のCD8+ T細胞活性化を決定するためのフローサイトメトリーゲーティング戦略を示す。図4Bは、2つのドナーを代表する、異なるモル濃度の抗Vα7.2/抗CD19 Fab-Fab、又は抗CD3又は抗Vα7.2抗体のいずれかでコートされたウェルにおける、CD25+、CD69+及びダブルポジティブ(CD25+CD69+) CD8+TCRγδ- T細胞の割合を示す。抗CD3抗体は、CD25+、CD69+及びダブルポジティブT細胞の画分の増加において最も効率的であり、一方で、抗Vα7.2/抗CD19 Fab-Fabは、全体のCD8+TCRγδ- T細胞のよくても4から5倍少ない活性化を示した。
【0144】
図5Aは、MAIT細胞活性化を決定するためのフローサイトメトリーゲーティング戦略を示す。図5Bは、2つのドナーを代表する、異なるモル濃度の抗Vα7.2/抗CD19 Fab-Fab、又は抗CD3又は抗Vα7.2抗体のいずれかでコートされたウェルにおける、CD25+、CD69+及びダブルポジティブ(CD25+CD69+) MAIT (CD8+TCRγδ-CD161hiIL18RA+)細胞の割合を示す。抗Vα7.2/抗CD19 Fab-Fabは、両方の単一特異性抗体よりも、CD25+、CD69+及びダブルポジティブMAIT細胞の画分の増加においてより効率的であった。
【0145】
結論として、抗Vα7.2/抗CD19 Fab-Fabは、MAIT細胞を特異的に活性化し、全体のCD8+ T細胞を最小限に活性化する。
【0146】
[実施例4: 抗Vα7.2/抗CD19 Fab-Fabにより媒介される細胞障害性]
細胞障害性アッセイは、抗Vα7.2/抗CD19 Fab-Fabを用いたMAIT細胞リダイレクティングの細胞障害性の能力を評価するために設定された。簡潔には、ヒトCD8+ T細胞は、実施例2に記載されたように精製されたPBMCから単離された。これらの細胞は、ルシフェラーゼを発現するよう操作された、CD19+ Raji細胞との共培養において使用された。50,000のRaji細胞はまず、50 μlのRPMI 1640 10% FBS内でU底の96穴プレートに添加された。異なるエフェクター:ターゲット細胞比に対応する、異なる数のT細胞(100 μlのRPMI 1640 10% FBS内)がその後添加された(表4)。最後に、異なる濃度の抗Vα7.2/抗CD19 Fab-Fab(表3にあるような最終モル濃度)を含む50 μlのRPMI 1640 10% FBSが添加され、共培養は37℃で5% CO2と共に48時間インキュベートされた。ウェルは、マルチピペットで混合され、100 μlが白いポリスチレンの96穴プレートに移された。最終濃度0.1 mg/mlのluciferine(Pierce)を有する50 μlのPBSは、それぞれのウェルに添加され、バイオルミネセンスは、SpectraMax ID3 plate reader (BioTek)において測定された。
【0147】
CD8+ T細胞の間で9%のMAIT細胞を有するドナーにおいて、抗Vα7.2/抗CD19 Fab-Fabは、用量が増加するにつれて及びエフェクター:ターゲット比が増加するにつれて、特異的な細胞障害性を促進した。図6は、異なる濃度の抗Vα7.2/抗CD19 Fab-Fab及び異なるエフェクター:ターゲット比で、48時間Raji細胞を培養した後の特異的溶解の割合を示す。
【0148】
結論として、抗Vα7.2/抗CD19 Fab-Fabは、CD19+ Raji細胞に対するMAIT細胞のin vitro細胞障害性を促進することができる。
【0149】
【表4】
【0150】
[実施例5: 腫瘍細胞におけるCD19又はT細胞におけるVα7.2 TCR鎖への、抗CD19/抗Vα7.2をベースとする二重特異性抗体の結合]
抗CD19/抗Vα7.2をベースとする二重特異性抗体、すなわち抗CD19/抗Vα7.2 Fab-Fab、抗Vα7.2/抗CD19 Fab-Fab、抗CD19/抗Vα7.2 BiXAb及び抗Vα7.2/抗CD19 BiXAbの、NALM-6腫瘍細胞の細胞表面で発現するCD19タンパク質への結合能力は、フローサイトメトリーを使用して測定された。簡潔には、腫瘍細胞は採取され、RPMI 1640 (Gibco)、10% FBS (Eurobio)、0.1% Penicillin/Streptomycin (P/S) (Gibco)を用いてウォッシュされた。細胞はその後、FACS buffer (PBS、2 mM EDTA、0.5% BSA) を用いてウォッシュされ、播種され、抗CD19/抗Vα7.2をベースとする又はネガティブコントロールである二重特異性抗体の系列希釈(0から66 nMまでに及ぶ濃度)と共に、4℃で45分間インキュベートされた。細胞は、ウォッシュされ、結合した二重特異性抗体を検出するために、Phycoerythrinとコンジュゲートされた二次抗体(Jackson ImmunoResearch)と共に4℃で1時間インキュベートされた。Phycoerythrinとコンジュゲートされた抗ヒトFc (Jackson ImmunoResearch、109-116-098)二次抗体は、結合したBiXAb分子の検出のために使用され、Phycoerythrinとコンジュゲートされた抗ヒトFab (Jackson ImmunoResearch,109-116-097)抗体は、結合したFab-Fab分子の検出のために使用された。細胞は、ウォッシュされ、DAPI (Sigma)を含むFACSバッファーにおいて再懸濁され、MACSquant flow cytometer (Miltenyi Biotec)を使用して解析された。
【0151】
結合アッセイの結果は、Fab-Fab及びBiXAb分子それぞれについて図7A及び7Bにおいて示される。データは、ポジティブな細胞の割合として表される。結果は、抗CD19/抗Vα7.2をベースとするFab-Fab及びBiXAb二重特異性抗体が、用量依存的な様式で、NALM-6細胞において発現したCD19に結合することを証明した。結合は、ネガティブコントロールのFab-Fab又はBiXAb抗体では全く観察されなかった。
【0152】
抗CD19/抗Vα7.2をベースとするBiXAb抗体―すなわち抗CD19/抗Vα7.2 BiXAb及び抗Vα7.2/抗CD19 BiXAb―は、その後、Vα7.2+CD8+ MAIT細胞において発現するVα7.2 TCR鎖への結合を試験された。結合は、フローサイトメトリーを使用して決定された。ヒトのCD8+ T細胞は、精製された末梢血単核細胞(PBMC)から単離された。簡潔には、健康なドナーから得られた白血球アフェレーシスパック(leukapheresis pack)は、フィコール勾配において遠心され、PBMCは回収された。CD8+ T細胞は、製造業者の指示に従って、positive selection kit (REAlease CD8 microbead kit、Human、Miltenyi Biotec、130-117-036)を使用してPBMCから単離された。これらの細胞はその後、Vα7.2+CD8+ MAIT細胞における、異なるBiXAb抗体の結合を評価するために使用された。この目的に向けて、細胞はFACS buffer (PBS、2 mM EDTA、0.5% BSA)でウォッシュされ、BiXAb又はネガティブコントロールの二重特異性抗体の系列希釈(0から66 nMまでに及ぶ濃度)と共に、4℃で45分間インキュベートされた。細胞は、ウォッシュされ、結合した二重特異性抗体を検出するためにPhycoerythrinとコンジュゲートされた二次抗体(Jackson ImmunoResearch)と共に、4℃で1時間インキュベートされた。細胞は、ウォッシュされ、マウスの血清を含むFACSバッファーにおいて室温で30分間インキュベートされ、再度ウォッシュされ、以下の抗体パネル:抗ヒトCD161-PE/Cy7 (Biolegend、HP-3G10)、抗ヒトVα7.2-APC/Cy7 (Biolegend、3C10)、抗ヒトIL18Ra-APC (Biolegend、H44)を用いて4℃で30分間染色された。その後、細胞は、ウォッシュされ、DAPI (Sigma)を用いて染色され、MACSquant flow cytometer (Miltenyi Biotec)を使用して解析された。結合の結果は、図8に示した通り、Vα7.2+ CD161+ IL-18RA細胞におけるゲーティングにより得られた。結合は、Vα7.2+細胞集団外では全く観察されなかった。
【0153】
結果は、ポジティブな細胞の割合として示され、図9において表された。抗CD19/抗Vα7.2及び抗Vα7.2/抗CD19 BiXAbは、用量依存的な様式でVα7.2+ CD8+ MAIT細胞に結合することが分かった。ネガティブコントロールであるBiXAb抗体は、結合を全く示さなかった。
【0154】
結合アッセイの結果は、抗CD19/抗Vα7.2をベースとする二重特異性抗体が、生きた細胞の表面において発現される、CD19及びTCR Vα7.2鎖の両方に特異的に結合することができることを示した。
【0155】
[実施例6: MAIT細胞は、プレートに結合した抗CD19/抗Vα7.2をベースとするBiXAbとのインキュベーションに続いて活性化される]
抗CD19/抗Vα7.2をベースとするBiXAb抗体―すなわち抗CD19/抗Vα7.2 BiXAb及び抗Vα7.2/抗CD19 BiXAb―のMAIT細胞活性化を誘導する能力は、プレートに結合したBiXAb抗体を用いたin vitro刺激の後の、活性化マーカーCD69の表面での発現を考慮することにより評価された。簡潔には、抗CD19/抗Vα7.2をベースとするBiXAbは、0から66nMまでの範囲の濃度で平底96穴プレートにコーティングされた(in PBS、37°Cで2時間)。細胞を添加する前に、プレートは、結合していない抗体を取り除くためにPBSでウォッシュされた(x4)。CD8+ T細胞は、実施例5のように健康なドナーのPBMCから単離され、予めコーティングされた平底96穴プレートに添加された(100 μlのRPMI 1640 (Gibco)、10% FBS (EUROBIO)、0.1% P/S (Gibco)内で1ウェル当たり100,000細胞)。37℃、5% CO2での16時間のインキュベーションの後、細胞は採取され、FACS bufferでウォッシュされ、Fixable Viability Dye (Aqua、eBioscience、65-0866-14)及び以下の抗体パネル:抗CD3-BUV395 (BDBiosciences、UCHT1)、抗CD4-BUV737 (BDBiosciences、SK3)、抗CD8-PerCP-Cy5.5 (Biolegend、SK1)、抗TCRγδ-FITC (Biolegend、B1)、抗CD161-PE(Biolegend、HP-3G10)、抗IL18RA-APC (Biolegend、H44)、抗CD25-BV421 (Biolegend、BC96)及び抗CD69-PE/Cy7 (BDBiosciences, L78)を用いて4℃で30分間染色された。細胞はその後、ウォッシュされ、活性化マーカーCD69の発現のためにCytoflex flow cytometer (Beckman Coulter)を使用して解析された。予想どおり、このアッセイの設定におけるT細胞の活性化は、細胞表面からのTCRの下方制御をもたらした。結果として、MAIT細胞は、CD3+ CD8+ CD161hi Vα7.2+細胞として同定された。このサブセットの活性化プロファイルは、図10において示される。結果は、CD69+ MAIT細胞の割合として示される。ネガティブコントロールの抗体は、MAIT細胞におけるCD69の上方制御を誘導しなかった。対照的に、抗CD19/抗Vα7.2をベースとするBiXAb二重特異性抗体は、図10に示される通り、MAIT細胞におけるCD69の発現の用量依存的な増加を誘導した。結論として、プレートに結合した抗CD19/抗Vα7.2 BiXAb及び抗Vα7.2/抗CD19 BiXAb抗体は、二重特異性抗体の抗Vα7.2アームの、MAIT細胞におけるVα7.2 TCR鎖との関与を通してMAIT細胞を活性化した。
【0156】
[実施例7: MAIT細胞におけるVα7.2 TCR鎖及び腫瘍細胞におけるCD19へ、抗CD19/抗Vα7.2をベースとする二重特異性抗体が架橋結合した時の、CD19+腫瘍細胞を殺傷するように向かう(リダイレクトする)MAIT細胞の細胞障害性]
抗CD19/抗Vα7.2をベースとする二重特異性抗体、すなわち抗CD19/抗Vα7.2 Fab-Fab、抗Vα7.2/抗CD19 Fab-Fab、抗CD19/抗Vα7.2 BiXAb及び抗Vα7.2/抗CD19 BiXAbは、A-549腫瘍細胞におけるCD19への抗CD19部分の結合を介してコンストラクトが架橋結合した時の、CD19を発現する腫瘍細胞においてMAIT細胞により媒介されるアポトーシスを誘導する能力を解析された。加えて、MAIT細胞の活性化を誘導する二重特異性抗体の能力は、活性化マーカーであるCD69及びCD25の表面での発現を考慮することにより評価された。簡潔には、ヒトのCD8+ T細胞は、実施例5に記載される通り、精製されたPBMCから単離された。これらの細胞は、CD19及びルシフェラーゼを発現するように設計されたA-549腫瘍細胞と共培養された。105A-549腫瘍細胞は、まず50 μlのRPMI 1640 (Gibco)、10% FBS (EUROBIO) 0.1% P/S (Gibco)内で白いポリスチレン96穴プレートに添加された。その後、100 μlのRPMI 1640 (Gibco)、10% FBS (EUROBIO)、0.1% P/S (Gibco)、リコンビナントヒトインターロイキン12 (rhIL-12) 30 ng/mL (Peprotech)内で、6x105 CD8+ T細胞が6:1のエフェクター:ターゲット細胞比に対応して添加された。最終的には、異なる濃度の二重特異性抗体(0から66 nMまでに及ぶ最終的なモル濃度)を含む50 μlのRPMI 1640 (Gibco)、10% FBS (Eurobio)、0.1% P/S (Gibco)、IL-12 30 ng/mL (Peprotech)が添加された。プレートは、37℃、5% CO2で48時間インキュベートされた。上清は捨てられ、細胞はPBSにおいてウォッシュされた。その後、細胞は、50μlのRPMI 1640 (Gibco)、10% FBS (Eurobio)、0.1% P/S (Gibco)内で、白いポリスチレン96穴プレートにおいて再懸濁された。luciferine (Perkin elmer)を含む最終濃度0.1 mg/mlである50μlのPBSは、それぞれのウェルに添加され、バイオルミネセンスは、SpectraMax ID3 plate reader (BioTek)において測定された。実験の設定の概観は、図11において示される。CD8+ T細胞及び腫瘍細胞の共培養は、フローサイトメトリーもまた使用して解析された。その目的のために、細胞は採取され、FACSバッファーでウォッシュされ、Fixable Viability Dye (Aqua、eBioscience、65-0866-14)及び以下の抗体パネル:抗CD3-BUV395 (BDBiosciences UCHT1)、抗CD4-BUV737 (BDBiosciences、SK3)、抗CD8-PerCP-Cy5.5 (Biolegend, SK1)、抗TCRγδ-FITC (Biolegend、B1)、抗CD161-PE (Biolegend、HP-3G10)、抗IL18RA-APC (Biolegend、H44)、抗CD25-BV421 (Biolegend、BC96)及び抗CD69-PE/Cy7 (BDBiosciences、L78)をを用いて4℃で30分間染色された。細胞はその後、ウォッシュされ、MAIT細胞において、活性化マーカーであるCD69及びCD25の発現を測定するためにflow cytometry (Cytoflex、Beckman Coulter)により解析された。
【0157】
共培養に続くMAIT細胞の活性化は、実施例6において記載されるように解析された。BiXAb抗体の結果は、それぞれ図12において報告される。結果は、シングルポジティブCD69 MAIT細胞の割合として示される。ネガティブコントロールであるBiXAb抗体の共培養への添加は、MAIT細胞におけるCD69の上方制御が見られないことにより示される通り、MAIT細胞を活性化しなかった。図12に示される通り、抗CD19/抗Vα7.2をベースとするBiXAbの添加は、試験された濃度におけるMAIT細胞の活性化を促進した。同様に、抗CD19/抗Vα7.2をベースとするFab-Fabは、MAIT細胞における活性化マーカーであるCD69及びCD25の上方制御を誘導した。
【0158】
加えて、CD19+ A-549腫瘍細胞の溶解の割合は、培養液へのルシフェリンの添加及び共培養ウェルにおいて生きている腫瘍細胞におけるルシフェラーゼ活性のレベルを測定することにより評価された。溶解の割合は、Fab-Fab二重特異性抗体について図13において報告される。最大で30%の割合の溶解は、0.06 nMという低い抗CD19/抗Vα7.2 Fab-Fab、抗Vα7.2/抗CD19 Fab-Fabの濃度で到達した。同様に、共培養への抗CD19/抗Vα7.2 BiXAb及び抗Vα7.2/抗CD19 BiXAbの添加は、0.06 nMという低い濃度で最大30%の腫瘍の溶解を誘導する。
【0159】
まとめると、これらの結果は、抗CD19をベースとする二重特異性抗体は、MAIT細胞の細胞障害性を、CD19を発現する腫瘍細胞へと向かわせるということを示す。
【0160】
[実施例8: Vα7.2、EGFR又はHER2を標的とするIgG1(BiXAb)及びFab-Fabの産生]
抗Vα7.2、抗EGFR及び抗HER2モノクローナル抗体の可変領域のアミノ酸配列は、以下のIgG1 BiXAb及びFab-Fab二重特異性抗体:
・抗Vα7.2/抗EGFR Fab-Fab
・抗EGFR/抗Vα7.2 Fab-Fab
・抗Vα7.2/抗EGFR BiXAb
・抗EGFR/抗Vα7.2 BiXAb
・抗Vα7.2/抗HER2 Fab-Fab
・抗HER2/抗Vα7.2 Fab-Fab
・抗Vα7.2/抗HER2 BiXAb
・抗HER2/抗Vα7.2 BiXAb
を設計するために使用された。
【0161】
名称は、それぞれの結合部位の位置を反映する:例えば、抗Vα7.2/抗TAA Fab-Fab又はBixAbは、抗Vα7.2結合フラグメントがN末端に位置することを意味する(図1を参照)。反対に、抗TAA/抗Vα7.2 Fab-Fab又はBixAbは、抗TAA結合フラグメントがN末端に位置することを意味する。
【0162】
配列の参考のために表2を参照。
【0163】
加えて、ネガティブコントロールであるBiXAb及びFab-Fab抗体は、ヒト化モノクローナル抗体である抗RSV、MEDI-493の可変領域の配列を使用して産生された。全てのBiXAbは、CH2ドメインにおいてLALA変異を含んだ。ヒトIgG1のCH2ドメインにおけるLALA変異の導入は、Fcγ受容体結合を減少させると知られている(Bruhnsら、2009及びHezarehら、2001)。
【0164】
これらの二重特異性抗体の遺伝子合成、発現、精製及び特徴付けを実施するために使用された方法は、実施例1において記載された。
【0165】
[実施例9: 腫瘍細胞におけるHER2又はT細胞におけるVα7.2 TCR鎖への抗HER2/抗Vα7.2をベースとする二重特異性抗体の結合]
抗HER2/抗Vα7.2をベースとする二重特異性抗体、すなわち抗HER2/抗Vα7.2 Fab-Fab、抗HER2/抗Vα7.2 BiXAb及び抗Vα7.2/抗HER2 BiXAbが、A-549腫瘍細胞の細胞表面において発現するHER2タンパク質及びVα7.2+CD8+ MAIT細胞において発現するVα7.2 TCR鎖に結合する能力は、フローサイトメトリーを使用して測定された。実験は、実施例5に記載される通り実施された。
【0166】
抗HER2/抗Vα7.2をベースとする二重特異性分子の、HER2を発現する腫瘍細胞への結合の結果は、Fab-Fab及びBiXAb分子について、それぞれ図14A及び14Bにおいて示される。結果は、ポジティブ細胞の割合として示される。ネガティブコントロールであるFab-Fab又はBiXAb抗体が結合を全く示さなかった一方、全ての抗HER2/抗Vα7.2をベースとする二重特異性抗体は、HER2+ A-549細胞において用量依存的な結合を示す。
【0167】
加えて、図15に示した通り、両方の抗HER2/抗Vα7.2をベースとするBiXAb二重特異性抗体は、抗体の抗Vα7.2アームを介したVα7.2+CD8+ MAIT細胞への用量依存的な結合を証明した。ネガティブコントロールであるBiXAb抗体は、細胞結合を全く示さなかった。結果は、ポジティブ細胞の割合として示される。
【0168】
まとめると、結合アッセイの結果は、抗HER2/抗Vα7.2をベースとする二重特異性抗体は、HER2発現腫瘍細胞及びMAIT細胞の表面でそれぞれ発現する、HER2及びTCR Vα7.2鎖の両方に特異的に結合することができることを証明した。
【0169】
[実施例10: MAIT細胞は、プレート結合抗HER2/抗Vα7.2をベースとするBiXAbとのインキュベーションに続いて活性化される]
抗HER2/抗Vα7.2をベースとするBiXAb、すなわち抗HER2/抗Vα7.2 BiXAb及び抗Vα7.2/抗HER2 BiXAbの、MAIT細胞を活性化する能力は、実施例6に記載される通り、in vitroでプレート結合BiXAb抗体を用いて評価された。
【0170】
抗HER2/抗Vα7.2をベースとするBiXAbを用いたMAIT細胞の刺激が、活性化マーカーであるCD69及びCD25の用量依存的な上方制御を誘導することは、プレート結合抗HER2/抗Vα7.2 BiXAb及び抗Vα7.2/抗HER2 BiXAb抗体が、二重特異性抗体の抗Vα7.2アームの、MAIT細胞におけるVα7.2 TCR鎖との関与を介してMAIT細胞をex vivoで活性化したことを証明する。
【0171】
[実施例11: MAIT細胞のVα7.2及び腫瘍細胞のHER2の両方へ、抗HER2/抗Vα7.2をベースとする二重特異性抗体が架橋結合した時の、HER2+細胞を殺傷するように向かう(リダイレクトされる)MAIT細胞の細胞障害性]
実施例7に記載されるものと同じプロトコールに従って、細胞障害性アッセイは、異なる抗HER2/抗Vα7.2をベースとする二重特異性抗体、すなわち抗HER2/抗Vα7.2 Fab-Fab、抗Vα7.2/抗HER2 Fab-Fab、抗HER2/抗Vα7.2 BiXAb及び抗Vα7.2/抗HER2 BiXAbの、腫瘍標的細胞に対するMAIT細胞の細胞障害性活性を活性化し及び殺傷へと向かわせる(リダイレクトする)能力を評価するために実施された。ルシフェラーゼを発現するように設計されたA-549腫瘍細胞系列は、標的細胞系列として使用された。
【0172】
共培養に続くMAIT細胞の活性化は、CD8+ T細胞について上記のように解析された。図16A及び16Bは、Fab-Fab抗体及びBiXAb抗体それぞれの結果を示す。結果は、ダブルポジティブCD25+CD69+又はシングルポジティブCD69+ MAIT細胞の割合として示される。共培養における、ネガティブコントロールであるFab-Fab又はBiXAb抗体の添加は、MAIT細胞におけるCD69及びCD25の上方制御が起こらないことにより示されるように、MAIT細胞を活性化しなかった。対照的に、共培養における、抗HER2/抗Vα7.2をベースとする二重特異性抗体の添加は、試験された用量でのMAIT細胞の活性化を促進した。BiXAb分子は、0.06nMという低い濃度において最大反応を誘導した。
【0173】
加えて、HER2+ A-549腫瘍細胞溶解の割合は、共培養ウェルにおいて生きた腫瘍細胞にルシフェリンを添加し、ルシフェラーゼ活性を測定することにより評価された。溶解の割合は、Fab-Fab及びBiXAbそれぞれについて図17A及び17Bにおいて報告された。最大31%の割合の溶解には、0.06nMという低い濃度の抗HER2/抗Vα7.2 Fab-Fab又はBiXAb、抗Vα7.2/抗HER2 Fab-Fab又はBiXAbで到達した。
【0174】
まとめると、これらの結果は、抗HER2/抗Vα7.2をベースとする二重特異性抗体は、HER2を発現する腫瘍細胞へと、MAIT細胞による細胞障害性を向かわせる(リダイレクトする)ことを示す。
【0175】
[実施例12: 腫瘍細胞におけるEGFR又はT細胞におけるVα7.2 TCR鎖への抗EGFR/抗Vα7.2をベースとする二重特異性抗体の結合]
抗EGFR/抗Vα7.2をベースとする二重特異性抗体、すなわち抗Vα7.2/抗EGFR BiXAb及び抗EGFR/抗Vα7.2 BiXAbの、A-549腫瘍細胞の細胞表面において発現されるEGFRタンパク質及びVα7.2+CD8+ T細胞において発現されるVα7.2 TCR鎖へ結合する能力が、フローサイトメトリーを使用して測定された。実験は、実施例5に記載される通りに実施された。
【0176】
EGFRを発現する腫瘍細胞への、抗EGFR/抗Vα7.2をベースとする二重特異性抗体の結合の結果は、図18において示される。結果は、ポジティブ細胞の割合として示される。抗EGFR/抗Vα7.2をベースとする二重特異性抗体は、用量依存的な様式で、細胞表面に発現したEGFRに結合することが発見された。ネガティブコントロールであるBiXAb抗体は、結合を全く示さなかった。
【0177】
加えて、図19に示す通り、抗EGFR/抗Vα7.2をベースとするBiXAb二重特異性抗体は、CD8+ MAIT細胞により発現されるVα7.2 TCR鎖に結合することが発見された。ネガティブコントロールであるBiXAb抗体は、結合を全く示さなかった。結果は、ポジティブ細胞の割合として示される。
【0178】
結合アッセイの結果は、抗EGFR/抗Vα7.2をベースとする二重特異性抗体が、生きた細胞の表面で発現される、EGFR及びTCR Vα7.2鎖の両方に特異的に結合することができることを示した。
【0179】
[実施例13: MAIT細胞におけるVα7.2及び腫瘍細胞におけるEGFRの両方へ、抗EGFR/抗Vα7.2をベースとする二重特異性抗体が架橋結合した時の、EGFR+腫瘍細胞を殺傷するように向かう(リダイレクトされる)MAIT細胞の細胞障害性]
実施例7において記載されるものと同じプロトコールに従って、細胞障害性アッセイは、抗EGFR/抗Vα7.2をベースとする二重特異性抗体の、腫瘍標的細胞に対するMAIT細胞の細胞障害性活性を活性化し殺傷へと向かわせる(リダイレクトする)能力を評価するために実施された。ルシフェラーゼを発現するように設計された、EGFRを発現しているA-549腫瘍細胞系列は、標的細胞系列として使用された。
【0180】
共培養への抗Vα7.2/抗EGFR BiXAbの添加は、0.6nMという低い濃度で腫瘍細胞に対してMAIT細胞を殺傷へと向かわせる(リダイレクトする)ことにより、MAIT細胞の細胞溶解機能を誘発した。最大49%の最大特異的溶解は、6nMの濃度で達成された。
【0181】
[実施例14: MAIT細胞は、in vivoで腫瘍細胞に対する細胞障害性効果を示した]
6匹の8から12週齢のメスのNSGマウス(非肥満糖尿病重症複合免疫不全ガンマ[NOD.Cg-Prkdcscid IL2rgtm1Wjl/SzJ))をそれぞれのグループについて使用した。同じ処置グループ由来の全てのマウスは、同じケージ内で共飼育された。この実験のために、PBMCは一つの健康的なドナーから得られた。腫瘍の移植の後(CD19及びルシフェラーゼを発現する1x106のHER2+ A-549腫瘍細胞、PBS中100μl、尾静脈へ注入)、マウスは、図20に記載されるように、2日目及び4日目にPBS中100μlの5x106ヒトPBMCの静脈内注入により、及び抗体の腹腔内注入(PBS中100μlでの注入当たり10μgの抗体、2、5、7、9、10及び18日目において全体で5回の注入)により処置された。マウスは、体重減少を2~3日おきに、及び健康全般を毎日観察された。腫瘍の進行は、移植された腫瘍細胞のルシフェラーゼ活性を観察することにより一週間に二回観察された。簡潔には、マウスはPBS中100μLのD-ルシフェリンホタルカリウム塩を腹腔内注入され(30mg/kg、Perkin Elmer Ref. 122 799)、バイオルミネセンスの画像は、IVIS(登録商標) Lumina II In Vivo Imaging Systemを使用して取得し、ルシフェラーゼの発現は、Living Image(登録商標) software (Perkin Elmer)を用いて解析された。この過程の間、マウスは全身麻酔下にあった。マウスは、体重減少が20%を超えたとき、屠殺された。処置に関連した毒性は、実験を通してマウスにおいて全く観察されなかった。
【0182】
図21A及び図21Bにおいて示されるように、抗体の処置を全くせずにPBMCを注入した、腫瘍を有するマウスにおいて、バイオルミネセンスシグナルは、ほとんどのマウスで経時的に増加した。対照的に、抗Vα7.2/抗CD19 Fab-Fab、抗Vα7.2/抗HER2 Fab-Fab、抗Vα7.2/抗CD19 BiXAb、抗Vα7.2/抗HER2 BiXAbで処置された動物において、腫瘍は腫瘍移植後17日目に退行する前に、よりゆっくりとした成長を示した。17日目に、二重特異性抗体で処置された大多数の動物は、弱いバイオルミネセンスシグナルを示し、又はバイオルミネセンスを示さなかった。
【0183】
[参考文献]
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【配列表】
2023510806000001.app
【国際調査報告】