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特表2023-510811血液サンプルにおける特異的なバイオマーカーの検出による大動脈解離の診断
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-15
(54)【発明の名称】血液サンプルにおける特異的なバイオマーカーの検出による大動脈解離の診断
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20230308BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20230308BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALI20230308BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20230308BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20230308BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/50 P
C12Q1/6851 Z
C12Q1/686 Z
C12N15/12 ZNA
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022542439
(86)(22)【出願日】2020-12-21
(85)【翻訳文提出日】2022-08-03
(86)【国際出願番号】 EP2020087418
(87)【国際公開番号】W WO2021140019
(87)【国際公開日】2021-07-15
(31)【優先権主張番号】20151237.3
(32)【優先日】2020-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522276194
【氏名又は名称】ドイチェス ヘルツェントラム ミュンヘン デス フライスターテス バイエルン クリニク アン デア テヒニシェン ウニベルジテート ミュンヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】リュディガー ランゲ
(72)【発明者】
【氏名】マルクス クラーネ
(72)【発明者】
【氏名】マルティナ ドレッセン
(72)【発明者】
【氏名】ハーラルト ラーム
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン ケーニヒ
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CA25
2G045CA26
2G045DA13
2G045DA14
2G045DA36
2G045FA37
2G045FA40
2G045FB01
2G045FB02
2G045FB03
2G045FB05
2G045FB06
2G045FB08
2G045GA10
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ03
4B063QQ08
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS32
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】
本発明は、サンプルにおける大動脈解離を診断するための方法に関する。本発明はさらに、サンプルにおける大動脈解離を診断するためのアグリカン又はその変異体のバイオマーカーとしての使用に関する。本発明はまた、サンプルにおける大動脈解離を診断するためのキットに関する。本発明はさらに、サンプルにおける大動脈解離の診断法を実行するためのポイントオブケア装置に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプルにおける大動脈解離の診断法であって、以下のステップ:
a)患者のサンプルを提供するステップであって、前記サンプルが血液サンプル、血清サンプル、及び/又は血漿サンプルである、前記ステップ、
b)アグリカン又はその変異体のレベルを測定するステップであって、場合により、アグリカン以外の少なくとも1つのさらなるバイオマーカーのレベルを測定する前記ステップ、
c)測定されたレベルを、大動脈解離に罹患していない健常者のそれぞれの参照値及び/又は参照サンプルと比較するステップ、
を含む前記方法。
【請求項2】
前記方法がさらに、アグリカンのレベル、場合により前記アグリカンの他のさらなるバイオマーカーのレベルが、前記サンプル中で参照値及び/又は参照サンプルと比較して増加した場合に、患者が大動脈解離を有することを判断するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記大動脈解離が、A型大動脈解離及びB型大動脈解離から選択され、好ましくはA型大動脈解離である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記サンプルが、ヒトサンプルである、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記アグリカンの他のバイオマーカーがOGN、LPYD、ITGA11、ANO1、BROX、C10orf11、CD47、CNN1、COMP、FBLN2、FBLN5、FMOD、FNDC1、GULP1、HAPLN1、HAPLN2、LOXL1、LTBP4、MRVI1、MYH9、NPNT、NPTXR、SNAP23、TAGLN2、TAGLN3、THBS2、VCAN、及びそれらの変異体から選択され、好ましくはOGN、LPYD、ITGA11、及びそれらの変異体から選択される、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記方法が、ELISA、PCR、qPCR、フローサイトメトリー、質量分析、抗体ベースのプロテインチップ、2次元ゲル電気泳動、ウェスタンブロット、タンパク質免疫沈降、ラジオイムノアッセイ、リガンド結合アッセイ、および液体クロマトグラフィーから選択され、好ましくはELISA、ラジオイムノアッセイ、および抗体ベースのプロテインチップから選択される方法により実施される、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記レベルがタンパク質及び/又は核酸を指す、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
サンプルにおける大動脈解離を診断するバイオマーカーとしてのアグリカン及びそれらの変異体の使用であって、前記サンプルが、血液サンプル、血清サンプル、及び/又は血漿サンプルである、前記使用。
【請求項9】
前記大動脈解離が、A型大動脈解離及びB型大動脈解離から選択され、好ましくはA型大動脈解離である、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
前記サンプルが、ヒトサンプルである、請求項8又は9に記載の使用。
【請求項11】
前記使用がさらに、サンプルにおける大動脈解離を診断するための少なくとも一つのアグリカンの他のバイオマーカーを含む、請求項8~10のいずれか一項に記載の使用であって、前記アグリカンの他のバイオマーカーがOGN、LPYD、ITGA11、ANO1、BROX、C10orf11、CD47、CNN1、COMP、FBLN2、FBLN5、FMOD、FNDC1、GULP1、HAPLN1、HAPLN2、LOXL1、LTBP4、MRVI1、MYH9、NPNT、NPTXR、SNAP23、TAGLN2、TAGLN3、THBS2、VCAN、及びそれらの変異体から選択され、より好ましくはOGN、LPYD、ITGA11、及びそれらの変異体から選択される、前記使用。
【請求項12】
前記バイオマーカーが、前記サンプルにおいてタンパク質及び/又は核酸、もしくはそれらの断片の形態で存在する、請求項8~11のいずれか一項に記載の使用。
【請求項13】
―アグリカンをバイオマーカーとして検出する試薬又は手段、好ましくは抗体又は抗原結合ペプチド、
―任意選択で、参照する手段、好ましくは、健常者又は規定量の組換えアグリカンの参照サンプル、
―任意選択で、アグリカンの他のバイオマーカーを検出する一つ以上の試薬又は手段、
―任意選択で、請求項1~7のいずれかに定義される方法を実行するための補助化合物、
―任意選択で、大動脈解離を診断するための指示書、特に、測定されたアグリカンレベル、任意選択で測定された少なくとも1つのさらなるバイオマーカーのレベルを、大動脈解離に罹患していない健常者の参照値及び/又は参照サンプルと比較するための指示書であって、前記アグリカンレベル、場合によりさらなるバイオマーカーのレベルの増加により、大動脈解離が示される前記指示書の含有、
を含む、サンプルにおける大動脈解離を診断するためのキット。
【請求項14】
―血液サンプル、血清サンプル、及び/又は血漿サンプルから選択されるサンプルとポイントオブケア装置とを接触させるためのサンプル流入口、
―前記サンプルにおけるアグリカンレベルを測定するための、場合により前記サンプルにおける少なくとも1つのアグリカンの他のバイオマーカーをさらに測定するための分析ユニット、
―アグリカンレベルを検出するための検出器であって、アグリカンレベルを示す出力信号を生成する前記検出器を備える評価ユニット:
を備える、請求項1~7のいずれかに定義される大動脈解離の診断法を実行するためのポイントオブケア装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サンプルにおける大動脈解離を診断するための方法に関する。本発明はさらに、サンプルにおける大動脈解離を診断するためのアグリカン又はその変異体のバイオマーカーとしての使用に関する。本発明はまた、サンプルにおける大動脈解離を診断するためのキットに関する。本発明はさらに、サンプルにおける大動脈解離の診断法を実行するためのポイントオブケア装置に関する。
【背景技術】
【0002】
大動脈解離、例えばA型大動脈解離は、大動脈の最内層の損傷、いわゆる内膜裂傷により血液が大動脈壁の層間を流れるようになり、それによって層を強制的に離れさせるときに起こる、生命を脅かす病気である。現在、診断は主に、解離の確認及び評価に使用されるコンピュータ断層撮影や超音波などの医用画像に基づいている。大動脈解離は、基本的に、内膜裂傷の解剖学的な範囲によるスタンフォード分類の後、A型及びB型の2つの主要なタイプに分類される。スタンフォードA型解離では内膜裂傷が左鎖骨下動脈の前方にあり、スタンフォードB型解離ではそれに応じて内膜裂傷が左鎖骨下動脈の向こう側にある。
【0003】
大動脈の致命的な破裂は、急性大動脈解離、特にA型解離において最も壊滅的な合併症である。したがって、大動脈が即時に外科的回復しない場合、A型大動脈解離を有する患者の死亡率は約1~5%/時間である。大動脈解離、特にA型大動脈解離のこの非常に急性で生命を脅かす特性のために、即時診断およびその後の外科的処置が必要である。
【0004】
患者の入院時の臨床症状は、大動脈解離を診断するための主要な役割を果たす。前記臨床症状は、胸部及び/又は背中の急性な激しい痛みを含み得る。心臓発作の臨床症状は大動脈解離の臨床症状に類似し得るため、A型大動脈解離の重要な鑑別診断を行わなければならない。現在、血液サンプル中の心臓発作を診断するために使用することができる複数の信頼できるバイオマーカーが存在する。しかしながら、大動脈解離、特にA型大動脈解離については、このようなバイオマーカーが現在存在しない。したがって、急性胸痛を有する患者において、心筋損傷および大動脈解離の可能性のためのバイオマーカーは、直ちに基本的なルーチンとして評価されるはずである。このアルゴリズムは、責任医師が患者に誤った薬を処方することを防ぐ。急性冠動脈症候群の治療薬として一般的に使用される抗凝固薬は、急性大動脈解離を有する患者において致命的である。さらに急性心筋梗塞が除外された後には、急性大動脈解離の診断を見逃す可能性は、有意に減少する。さらに、診断から確定治療までの時間が大幅に短縮される。適切なバイオマーカーによる基礎疾患プロセスの早期の表示は、より早く適切なさらなる診断検査を促す。したがって、大動脈解離、特にA型大動脈解離に好適なバイオマーカー、及び大動脈解離の診断方法が必要である。
【0005】
大動脈解離の鑑別診断を行うためには高解像度の画像データが必要であるため、多くの診療所では、鑑別診断検査を適時に行うことができない。したがって、患者におけるA型大動脈解離の発生の最初かつ早期の指標である特定のバイオマーカーが必要であり、その後のそれぞれの検診を標的化方式で適時に行うことができる。
【0006】
非特異的な症状のために、大動脈解離は全く診断されない、又は非常に遅れて診断されることが多い。現在、A型大動脈解離の診断は、複雑で労働集約的で高費用の検診、例えば造影剤を含むコンピュータ断層撮影法などに基づいている。したがって、血液サンプルにおける検出のような、単純かつ迅速な技術のみを含むA型大動脈解離の診断法が、非常に望ましい。
【0007】
Cikachらは、大動脈解離を有する患者の大動脈サンプル中に、アグリカンを検出した[1]。米国特許2005/0124071 A1号は、関節炎や関節疾患などの疾患のバイオマーカーとしてのアグリカンに関する。欧州特許2019318 A1は、腹部大動脈瘤などの心血管疾患に罹患している可能性のある患者のプラーク試料を分析するための、バイオマーカーとしてのアグリカンに関する。しかしながら、患者の血液サンプルにおける大動脈解離を検出するためのバイオマーカーは、現在は存在しない。
【0008】
それゆえ、本発明の目的は、A型大動脈解離に罹患している患者の血液中で検出可能であるバイオマーカーを用いて、大動脈解離、好ましくはA型大動脈解離を診断する方法を提供することである。さらに、本発明の目的は、大動脈解離、好ましくはA型大動脈解離を容易に、確実に、及び適時に診断する方法を提供することである。
【発明の概要】
【0009】
以下において、本発明の要素が説明される。これらの要素は、特定の実施形態と共に列挙されるが、それらは、追加の実施形態を創造するために、任意の方法および任意の数で組み合わせることができることを理解されたい。様々な記載された実施例及び好ましい実施形態は、本発明を例示的に記載された実施形態のみに制限すると解釈されるべきでない。本記述は、2つ以上の例示的に記載された実施形態を組み合わせる、又は1つ以上の例示的に記載された実施形態と任意の数の開示された及び/又は好ましい要素とを組み合わせる実施形態を支持及び包含すると理解されるべきである。さらに、本出願において記載されたすべての要素の任意の交換及び組み合わせは、文脈に別段の指示がない限り、本出願の記載によって開示されると考慮されるべきである。
【0010】
最初の態様において、本発明はサンプルにおける大動脈解離を診断する方法に関し、以下のステップを含む:
a)前記サンプルが、血液サンプル、血清サンプル、及び/又は血漿サンプルである、患者のサンプルを提供するステップ、
b)アグリカン又はその変異体のレベルを測定し、場合により、少なくとも一つのアグリカンの他のさらなるバイオマーカーのレベルを測定するステップ、
c)測定されたレベルを、大動脈解離に罹患していない健常者のそれぞれの参照値及び/又は参照サンプルと比較するステップ。
【0011】
一実施形態において、前記方法は、アグリカンレベル、場合によりアグリカンの他の前記さらなるバイオマーカーのレベルが、参照値及び/又は参照サンプルと比較して前記サンプル中で増加する場合、患者が大動脈解離を有すると判定するステップをさらに含む。
【0012】
一実施形態において、前記大動脈解離はA型大動脈解離及びB型大動脈解離から選択され、好ましくはA型大動脈解離である。
【0013】
一実施形態において、前記サンプルはヒトサンプルである。
【0014】
一実施形態において、前記アグリカンの他のバイオマーカーは、OGN、LPYD、ITGA11、ANO1、BROX、C10orf11、CD47、CNN1、COMP、FBLN2、FBLN5、FMOD、FNDC1、GULP1、HAPLN1、HAPLN2、LOXL1、LTBP4、MRVI1、MYH9、NPNT、NPTXR、SNAP23、TAGLN2、TAGLN3、THBS2、VCAN、及びそれらの変異体から選択され、好ましくはOGN、LPYD、ITGA11、及びそれらの変異体から選択される。
【0015】
一実施形態において、前記測定は、ELISA、PCR、qPCR、フローサイトメトリー、質量分析、抗体ベースのプロテインチップ、2次元ゲル電気泳動、ウェスタンブロット、タンパク質免疫沈降、ラジオイムノアッセイ、リガンド結合アッセイ、および液体クロマトグラフィーから選択され、好ましくはELISA、ラジオイムノアッセイ、および抗体ベースのプロテインチップから選択される方法により実施される。
【0016】
一実施形態において、前記レベルはタンパク質及び/又は核酸を指す。
【0017】
本発明はさらにサンプルにおける大動脈解離を診断する方法に関し、以下のステップを含む:
i)前記サンプルが、血液サンプル、血清サンプル、及び/又は血漿サンプルである、患者のサンプルにおけるアグリカン又はその変異体のレベルを測定し、場合により、前記サンプルにおける、少なくとも一つのアグリカンの他のさらなるバイオマーカーのレベルを測定するステップ、
ii)測定されたレベルを、大動脈解離に罹患していない健常者のそれぞれの参照値及び/又は参照サンプルと比較するステップ。
【0018】
一実施形態において、前記方法は、アグリカンレベル、場合によりアグリカンの他の前記さらなるバイオマーカーのレベルが、参照値及び/又は参照サンプルと比較して前記サンプル中で増加する場合、前記患者が大動脈解離を有すると判定するステップをさらに含む。
【0019】
一実施形態において、前記患者のサンプルは、患者から得られたサンプルである。一実施形態において、前記大動脈解離、前記サンプル、前記バイオマーカー、前記測定、及び前記レベルは、上記で定義するものである。
【0020】
さらなる態様において、本発明は、サンプルにおける大動脈解離を診断するためのバイオマーカーとしての、アグリカン又はその変異体の使用に関し、前記サンプルは血液サンプル、血清サンプル、及び/又は血漿サンプルである。
【0021】
一実施形態において、前記大動脈解離はA型大動脈解離及びB型大動脈解離から選択され、好ましくはA型大動脈解離である。
【0022】
一実施形態において、前記サンプルはヒトサンプルである。
【0023】
一実施形態において、前記方法は、サンプルにおける大動脈解離を診断するための、少なくとも一つのアグリカンの他のバイオマーカーをさらに含み、前記アグリカンの他のバイオマーカーは、好ましくはOGN、LPYD、ITGA11、ANO1、BROX、C10orf11、CD47、CNN1、COMP、FBLN2、FBLN5、FMOD、FNDC1、GULP1、HAPLN1、HAPLN2、LOXL1、LTBP4、MRVI1、MYH9、NPNT、NPTXR、SNAP23、TAGLN2、TAGLN3、THBS2、VCAN、及びそれらの変異体から選択され、より好ましくはOGN、LPYD、ITGA11、及びそれらの変異体から選択される。
【0024】
一実施形態において、前記バイオマーカーは、前記サンプル中にタンパク質及び/又は核酸、もしくはそれらの断片の形態で存在する。
【0025】
本態様において、前記アグリカン、前記変異体、前記バイオマーカー、前記診断、前記大動脈解離、及び前記サンプルは、上記で定義するものである。
【0026】
さらなる態様において、本発明はサンプルにおける大動脈解離を診断するキットに関し、
―アグリカンをバイオマーカーとして検出する試薬又は手段、好ましくは抗体又は抗原結合ペプチド、
―任意選択で、参照する手段、好ましくは、健常者又は規定量の組換えアグリカンの参照サンプル、
―任意選択で、アグリカンの他のバイオマーカーを検出する一つ以上の試薬又は手段、
―任意選択で、上記の実施形態のいずれかに定義される方法を実行するための補助化合物、
―任意選択で、大動脈解離を診断するための指示書、特に、測定されたアグリカンレベル、任意選択で測定された少なくとも1つのさらなるバイオマーカーのレベルを、大動脈解離に罹患していない健常者の参照値及び/又は参照サンプルと比較するための指示書であって、前記アグリカンレベル、場合によりさらなるバイオマーカーのレベルの増加により、大動脈解離が示される前記指示書の含有、
を含む。
【0027】
本態様において、前記アグリカン、前記バイオマーカー、前記診断、前記大動脈解離、前記測定、及び前記サンプルは、上記で定義するものである。
【0028】
さらなる態様において、本発明は、上記の実施形態のいずれかで定義された大動脈解離を診断する方法を実行するためのポイントオブケア装置に関し、前記装置は、
―血液サンプル、血清サンプル、及び/又は血漿サンプルから選択されるサンプルと前記ポイントオブケア装置とを接触させるためのサンプル流入口、
―前記サンプルにおけるアグリカンレベルを測定するための、場合により前記サンプルにおける少なくとも1つのアグリカンの他のバイオマーカーをさらに測定するための分析ユニット、
―アグリカンレベルを検出するための検出器であって、アグリカンレベルを示す出力信号を生成する前記検出器を備える評価ユニット:
を備える。
【0029】
本態様において、前記方法、前記診断、前記大動脈解離、前記サンプル、前記アグリカン及び前記バイオマーカーは、上記で定義するものである。
【0030】
さらなる態様において、本発明はまた、大動脈解離、好ましくはA型大動脈解離の治療方法に関し、上記で定義した大動脈解離の診断法を用いて、前記大動脈解離、好ましくは前記A型大動脈解離を診断することを含む。
【0031】
本態様において、前記大動脈解離及び前記診断法は、上記で定義するものである。
【0032】
さらなる態様において、本発明はさらに、大動脈解離、好ましくはA型大動脈解離の診断及び/又は治療のための医薬を製造するための、少なくとも1つのバイオマーカーの使用に関し、前記少なくとも1つのバイオマーカーは、アグリカン及び場合により、OGN、LPYD、ITGA11、ANO1、BROX、C10orf11、CD47、CNN1、COMP、FBLN2、FBLN5、FMOD、FNDC1、GULP1、HAPLN1、HAPLN2、LOXL1、LTBP4、MRVI1、MYH9、NPNT、NPTXR、SNAP23、TAGLN2、TAGLN3、THBS2、及びVCANから任意に選択される。
【0033】
本態様において、前記バイオマーカー、前記診断、及び前記大動脈解離は、上記で定義するものである。
【0034】
さらなる態様において、本発明はさらに、大動脈解離、好ましくはA型大動脈解離の診断のための、アグリカン、及び場合により、OGN、LPYD、ITGA11、ANO1、BROX、C10orf11、CD47、CNN1、COMP、FBLN2、FBLN5、FMOD、FNDC1、GULP1、HAPLN1、HAPLN2、LOXL1、LTBP4、MRVI1、MYH9、NPNT、NPTXR、SNAP23、TAGLN2、TAGLN3、THBS2、及びVCANから選択されるアグリカンの他の追加の任意のバイオマーカーの使用に関する。
【0035】
本態様において、前記バイオマーカー、前記診断、及び前記大動脈解離は、上記で定義するものである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明により、患者の血液サンプルにおける、大動脈解離、特にA型大動脈解離を診断することが可能になる。本発明者らは、本明細書において、アグリカンが大動脈解離、好ましくはA型大動脈解離を診断する方法において使用するのに好適なバイオマーカーであることを開示する。特に、本発明者らは、A型解離に罹患していない被験者と比較して、A型解剖に罹患している患者の血液サンプルにおいてアグリカンレベルが増加していることを検出した。
【0037】
本発明の方法は、血液サンプル中の急性A型大動脈解離を診断することを思いがけず可能にする。特に、本発明の方法の利点は、迅速、容易、かつ非侵襲的に分析することができるアグリカンなどのバイオマーカーを提供することである。アグリカンが患者の血漿または血清中で増加していることが検出された場合、患者は、コンピュータ断層撮影などのさらなる検診に迅速に誘導され得、及び/又は即時に手術を行うことができる。アグリカンをバイオマーカーとして用いて大動脈解離を診断する方法のさらなる利点は、例えば本発明のキットおよび/またはポイントオブケア装置を使用することによって、緊急治療室または応急処置の任意の場所において容易かつ迅速な診断を可能にすることである。本発明の方法は、大動脈解離の迅速かつ信頼性の高い診断を、好ましくは3,5時間未満、より好ましくは1時間未満の速さで提供する。
【0038】
本明細書で使用される「診断する」、又は「診断」という用語は、患者の健康状態を検査することに関し、好ましくはどの疾患又は状態が人の症状及び/又は健康状態を引き起こすか判定することに関する。一実施形態において、診断することは人が大動脈解離、例えばA型大動脈解離を有するかどうか判定することに関する。一実施形態において、本発明の診断は、患者が心臓発作、大動脈解離を有しているか、又はこれら2つのいずれも有していないかどうかを判定する鑑別診断を含む。一実施形態において、本発明に記載の診断法は、対象が大動脈解離を有するかどうかを決定するためにアグリカン及びOGN、LPYD、ITGA11、ANO1、BROX、C10orf11、CD47、CNN1、COMP、FBLN2、FBLN5、FMOD、FNDC1、GULP1、HAPLN1、HAPLN2、LOXL1、LTBP4、MRVI1、MYH9、NPNT、NPTXR、SNAP23、TAGLN2、TAGLN3、THBS2、及びVCANから選択される任意のバイオマーカーを使用することを含み、場合により、対象が心臓発作を有するかどうかを決定するためにトロポニンI、トロポニンT、hsトロポニン、及びCK-MBから選択される任意のバイオマーカーを使用することをさらに含む。一実施形態において、サンプルにおける大動脈解離を診断する方法は、体外で行われ;特に、アグリカンまたはその変異体のレベルを測定して、場合により、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーのレベルを測定するステップ(b)は、体外で行われる。一実施形態において、大動脈解離を診断する方法は、患者から得られた血液サンプルを用いて体外で行われる。
【0039】
一実施形態において、本発明に記載の診断法により大動脈解離を有する患者が示された場合、前記診断法は、外科的処置を行う前に、コンピュータ断層撮影法または超音波などによって、前記患者をイメージングする後続の工程をさらに含む。
【0040】
本明細書で使用される「大動脈解離」という用語は、大動脈の内層が引き裂かれる重篤な病状を指す。血液は、大動脈の内層および中層を引き裂く原因となる裂傷を通って押し寄せ得る。大動脈解離は、心臓に流れる血液の不足、又は大動脈の完全な破裂のために致命的になり得る。スタンフォード分類は、上行大動脈が関与しているかどうかに応じて、2種類の大動脈解離、すなわちA型とB型の大動脈解離が記載されている。A型は、上行大動脈及び/又は大動脈弓を含み、場合により下行大動脈を含む。B型は、上行大動脈を伴わずに、下行大動脈または弓(左鎖骨下動脈の末端)を含む。A型上行大動脈解離は、一般に主要な外科的治療を必要とするが、B型解離は初回治療として一般に医薬で治療され、合併症が発生した場合に手術または治療介入が用いられる。
【0041】
本明細書で使用される「A型大動脈解離」という用語は、裂傷が典型的に、大動脈の上口部分において起こる大動脈解離を指す。A型大動脈解離はまた、任意の大動脈根、大動脈弓、及び大動脈全体に影響し得る。A型解離は、高血圧症、遺伝性結合組織衰弱及び/又は動脈瘤から生じ得る。急性A型大動脈解離を有する被験者は典型的に、首、顎または背中に広がり得る、重度の胸痛の突然の発症を経験する。息切れ、意識喪失などの症状、及び突然の発話困難、視力低下、並びに脱力感などの脳卒中に似た症状が起こり得る。A型大動脈解離は、診断及び手術を緊急に必要とする。治療しなければ、スタンフォードA型解離患者の約50%が3日以内に死亡する。一実施形態において、A型大動脈解離において役割を果たす嚢胞性中膜変性は、平滑筋細胞の変性をもたらし、補填組織及び/又はタンパク質、例えばアグリカンの産生をもたらす。
【0042】
本明細書で使用される「サンプル」という用語は、患者のサンプル、好ましくは血液サンプルを指す。一実施形態において、前記サンプルは血液サンプル、血清サンプル、及び/又は血漿サンプルである。一実施形態において、「血液サンプル」という用語は、血液サンプル、血清サンプル、及び/又は血漿サンプル全体に関する。一実施形態において、前記患者はヒトである。本発明の利点は、本発明に記載の診断法が、非常に少量の血液サンプル、例えば10~1,000μl、好ましくは500μl未満の血液、より好ましくは100μl以下の血液のみで実行できる点である。一実施形態において、「患者のサンプル」という用語は、患者から得られるサンプル、好ましくは血液サンプルを指す。一実施形態において、患者のサンプルは、低侵襲及び/又は非侵襲的採血、好ましくは非侵襲採血によって得られる。一実施形態において、患者のサンプルを提供すること及び/又は患者からサンプルを得ることは、低侵襲的及び/又は非侵襲的技術のみを、好ましくは非侵襲的技術を伴う。一実施形態において、患者のサンプルを提供すること及び/又は患者からサンプルを得ることは、軽微な介入のみを含み、及び前記患者にとって重大な健康リスクを含まない危険性の低い方法のみを伴う。
【0043】
本明細書で使用される「測定する」という用語は、サンプルにおけるパラメータを定量すること、特にアグリカンなどのバイオマーカーのレベルを定量することを指す。一実施形態において、バイオマーカーのレベルを測定することは、任意の方法、例えばELISA、PCR、qPCR、フローサイトメトリー、質量分析、抗体ベースのプロテインチップ、2次元ゲル電気泳動、ウェスタンブロット、タンパク質免疫沈降、ラジオイムノアッセイ、リガンド結合アッセイ、および液体クロマトグラフィーなどを用いて実行され、好ましくはELISA;ラジオイムノアッセイ、および抗体ベースのプロテインチップから選択される。一実施形態において、アグリカン及び場合により一つ以上のその他のバイオマーカーが測定される。一実施形態において、アグリカン、及びオステオグリシン、リジルピリジノリン、並びにインテグリンα11のいずれかのレベルが測定される。
【0044】
本明細書で使用される「レベル」という用語は、サンプルにおけるバイオマーカーのタンパク質及び/又は核酸のレベルを指す。一実施形態において、バイオマーカーのレベルは、サンプル中のバイオマーカーの濃度及び/又は量の指標である。一実施形態において、サンプル中のバイオマーカーの存在に言及する場合、バイオマーカーの「レベル」、「濃度」、および「量」という用語は、互換的に使用され得る。一実施形態において、レベルは、ELISAアッセイを用いて測定される。
【0045】
本明細書で使用される「アグリカン」という用語は、プロテオグリカン及び細胞外マトリックスの成分を指す。アグリカンは主に硝子軟骨中に存在する。アグリカン(ACAN)は、軟骨特異的プロテオグリカンコアタンパク質(CSPCP)、又はコンドロイチン硫酸プロテオグリカン1としても知られており、ヒトにおけるACAN遺伝子によってコードされるタンパク質である。ヒト型のアグリカンタンパク質は、選択的スプライシングのために複数のアイソフォーム、特にアイソフォーム1(配列番号1)、2(配列番号2)、および3(配列番号3)で発現し得る。アイソフォーム1、2、及び3のアミノ酸配列は、それぞれ2,431 a.a.、2,530 a.a.、2,568 a.a.を含む。ACAN遺伝子における変異は、まれな疾患である脊椎骨端形成異常をもたらし得る。血管系におけるアグリカン沈着は、血管剛性の増加をもたらし得る。一実施形態において、「アグリカン」という用語は、生物学的に活性なアグリカン断片、並びにその変異体をさらに含む。一実施形態において、アグリカンは、大動脈解離、好ましくはA型大動脈解離を診断するためのバイオマーカーとして使用される。
【0046】
本明細書で使用される「変異体」という用語は、バイオマーカー、例えば断片、アイソフォーム、アイソフォーム断片、代替的にスプライシングされた変異体、変異種(mutated variant)、翻訳後修飾された変異体、又はそれらの断片の任意の誘導体を指す。一実施形態において、変異体は、核酸及び/又はタンパク質の形態であるバイオマーカーの変異体に関する。一実施形態において、バイオマーカーの変異体は、前記バイオマーカーの生物学的に活性な誘導体、例えば生物学的に活性な断片などである。一実施形態において、アグリカンの変異体は、アグリカン断片、アグリカンのアイソフォーム(配列番号1~3)又はその断片、代替的にスプライシングされた変異体、変異種(mutated variant)、及び翻訳後修飾された変異体のいずれかである。一実施形態において、アグリカンの他のバイオマーカーの変異体は、前記バイオマーカーの断片、アイソフォーム、アイソフォーム断片、代替的にスプライシングされた変異体、変異種(mutation variant)、翻訳後修飾された変異体のいずれかである。
【0047】
本明細書で使用される「バイオマーカー」という用語は、特定の病理学的又は生理学的プロセス及び/又は疾患を同定することができる天然に存在する分子、遺伝子、タンパク質、及び/又は特性を指す。一実施形態において、バイオマーカーは、大動脈解離、好ましくは、及びA型大動脈解離の存在を診断するために用いられる。一実施形態において、本発明の方法に従って大動脈解離を診断することに用いられるバイオマーカーは、アグリカン(ACAN)、オステオグリシン(OGN)、リジルピリジノリン(LPYD)、インテグリンサブユニットα11(ITGA11)、アノクタミン(ANO1)、BROX(BRO1ドメイン及びCAAXモチーフを含む)、ロイシンリッチメラノサイト分化関連物(LRMDA/C10orf11)、CD47分子(CD47)、カルポニン1(CNN1)、軟骨オリゴマーマトリックスタンパク質(COMP)、フィブリン2(FBLN2)、フィブリン5(FBLN5)、フィブロモジュリン(FMOD)、フィブロネクチン1を含むIII型ドメイン(FNDC1)、抱き込みアダプター1を含むGULP PTBドメイン(GULP1)、ヒアルロン酸およびプロテオグリカンリンクタンパク質1(HAPLN1)、ヒアルロナン及びプロテオグリカン連結タンパク質2(HAPLN2)、リジルオキシダーゼ様1(LOXL1)、潜在形質転換成長因子β結合タンパク質4(LTBP4)、マウスレトロウイルス組み込み部位1ホモログ(MRVI1)、ミオシン重鎖9(MYH9)、ネフロネクチン(NPNT)、ニューロンペントラキシン受容体(NPTXR)、シナプトソーム関連タンパク質23(SNAP23)、トランスゲリン2(TAGLN2)、トランスゲリン3(TAGLN3)、トロンボスポンジン2(THBS2)、バーシカン(VCAN)、およびそれらの変異体から選択される任意のバイオマーカーである。一実施形態において、本発明に記載の診断法は、バイオマーカーアグリカンのレベルを測定すること、及び場合により追加で少なくとも一つのアグリカンの他のバイオマーカーのレベルを測定することを含む。一実施形態において、バイオマーカーアグリカンのレベルは、A型大動脈解離を有する患者の血液サンプルにおいて、健常者の血液サンプルにおけるアグリカンレベルと比較して増大する。一実施形態において、アグリカンの、及びOGN、LPYD、並びにITGA11から選択される少なくとも一つのその他のバイオマーカーのレベルA型大動脈解離を有する患者の血液サンプルにおいて、健常者におけるレベル、及び/又はA型大動脈解離以外の疾患に罹患している患者におけるレベルと比較して増大する。
【0048】
本明細書で使用される「オステオグリシン」という用語は、OGN遺伝子によってコードされるヒトタンパク質を指す。OGN遺伝子は、形質転換成長因子βと併せて異所性骨形成を誘導するタンパク質をコードする。オステオグリシンタンパク質は、タンデム型ロイシンリッチリピート(LRR)を含む小さなプロテオグリカンである。OGNの発現レベルは、心臓の拡大、及びより具体的には左心室肥大と相関している。
【0049】
本明細書で使用される「リジルピリジノリン」及び「LPYD]という用語は、典型的にはコラーゲン中の、2つのヒドロキシリジン残基、及びリジン残基から形成される架橋に関する。
【0050】
本明細書で使用される「参照」、「参照値」又は「参照サンプル」という用語は、バイオマーカーレベルの標準レベルを示す対照値及び/又は対照サンプルを指す。一実施形態において、参照値および参照サンプルは、それぞれ、健常者において検出された値および健常者から得られたサンプルである。一実施形態において、参照値及び/又は参照サンプルは、目的のバイオマーカーレベルについて健常者において同定された期待値の指標である。一実施形態において、参照値及び/又は参照サンプルにより、患者において検出されたバイオマーカーレベルを、健常者において期待された及び/又は検出されたバイオマーカーレベルと比較することが可能になる。一実施形態において、参照サンプルは参照値を得るために使用される。一実施形態において、患者のアグリカンレベルは、アグリカンレベルの参照値と比較され、そして前記患者において、前記参照値と比較して増大したアグリカンレベルは、前記患者が大動脈解離、特にA型大動脈解離を有することを示す。一実施形態において、患者のバイオマーカーレベルは、前記バイオマーカーレベルの参照値と比較されて、前記参照値と比較して逸脱するバイオマーカーレベル、好ましくは増加したバイオマーカーレベルは、前記患者が大動脈解離、特にA型大動脈解離を有することを示す。一実施形態において、参照は、大動脈解離に罹患していない健常者に由来する。一実施形態において、「参照」及び「参照値及び/又は参照サンプル」という用語は、互換的に使用される。一実施形態において、用語「含む」は、「から成る」に関連し得る。
【0051】
本明細書で使用される「患者」という用語は、大動脈解離を有する、大動脈解離を受ける危険性がある、及び/又は大動脈解離を有する疑いのある対象、好ましくはヒト対象に関する。本明細書で使用される「健常者」という用語は、大動脈解離に罹患していない人を指し、好ましくは心血管疾患に罹患しておらず、より好ましくは疾患に全く罹患していない。
【0052】
本明細書で使用される「キット」という用語は、発明に記載の、サンプルにおける大動脈解離の診断法を実行するために必要な試薬の一式に関するものを指す。一実施形態において、本発明のキットは、本発明の方法を実施するために、例えば測定方法としてELISA、ラジオイムノアッセイ、または抗体ベースのプロテインチップを用いた方法を実施するために必要なすべての成分(血液サンプルを除く)を含むキットである。一実施形態において、本発明のキットは、本発明の大動脈解離の診断法において、患者の血液サンプルを分析するために、本発明のポイントオブケア装置と共に使用され得る。
【0053】
本明細書で使用される「診断するための試薬又は手段」という用語は、バイオマーカー、例えばアグリカン及び/又はアグリカンの他のバイオマーカーを検出するために適している任意の試薬又は手段を指す。一実施形態において、前記バイオマーカーのタンパク質レベルは、抗体、抗原結合ペプチド、例えばFab断片、scFv断片、二重特異性抗体、及びFab2断片、又はアプタマーのいずれかである試薬又は手段を用いて検出される。一実施形態において、前記バイオマーカーの核酸レベルは、プローブ及びプライマーのいずれかである試薬または手段を用いて検出される。
【0054】
本明細書で使用される「ポイントオブケア装置」という用語は、患者ケアの場所で、又はその近くで医学的診断検査を行うための装置を指す。一実施形態において、ポイントオブケア装置は、患者の血液サンプルを分析するために使用される。一実施形態において、ポイントオブケア装置は、血液サンプル、例えば血液サンプル全体、血清サンプル、又は血漿サンプルを分析するために使用される。一実施形態において、ポイントオブケア装置を用いて実施される単一の測定において分析される血液の量は、1mL未満、好ましくは500μl未満の血液、より好ましくは100μl未満の血液である。一実施形態において、本発明のポイントオブケア装置を用いて実施される分析の結果は、5時間以内、好ましくは3,5時間以内、より好ましくは分析開始後60分以内で利用可能である。一実施形態において、ポイントオブケア装置は、取り扱いが容易であり並びに持ち運び可能であって、移動式集中治療室内で使用され得る。
【0055】
本明細書で使用される「サンプル流入口」という用語は、大動脈解離を診断する方法を実行するために、サンプルとポイントオブケア(POC)装置とを接触させるための流入口に関する。一実施形態において、サンプル流入口は、大動脈解離を有する疑いのある患者のサンプルをPOC装置に接続するために毛細管力を用いる。一実施形態において、サンプル流入口は、血液サンプルを注射、浸漬、吸収、圧力、過膨張、真空、及び/又は毛細管力のいずれかによって受け取る。一実施形態において、サンプル流入口は、大動脈解離を有する疑いのある患者の血液サンプルを受け取って、POC装置の分析ユニットへ移送する。
【0056】
本明細書で使用される「分析ユニット」という用語は、アグリカンなどのバイオマーカーのレベルを測定することにより、サンプルを分析することができるユニットを指す。
【0057】
本明細書で使用される「評価ユニット」という用語は、分析ユニットで行われたバイオマーカー分析の結果を検出することができる検出器を含むユニットを指す。一実施形態において、評価ユニットはアグリカンレベルを検出して、場合によりアグリカンの他のバイオマーカーのレベルをさらに検出して、そして前記検出の結果を出力信号として与える。一実施形態において、分析ユニットおよび評価ユニットは、1つのユニットに含まれてもよく、及び/又は両方の機能を実行することができる1つのユニットであってもよい。
【0058】
本明細書で使用される「検出器」という用語は、本明細書で使用される場合、ELISA、PCR、qPCR、フローサイトメトリー、質量分析、抗体ベースのプロテインチップ、2次元ゲル電気泳動、ウェスタンブロット、タンパク質免疫沈降、ラジオイムノアッセイ、リガンド結合アッセイ、および液体クロマトグラフィーのいずれかを用いて行われるバイオマーカーレベルの分析の結果を検出することができるモジュールを指す。一実施形態では、検出器は、バイオマーカーレベルを示す出力信号を生成する。
【0059】
本明細書で使用される「出力信号」という用語は、アグリカンレベル、及び/又はアグリカンの他のバイオマーカーのレベルの分析結果を示す信号を指す。
【図面の簡単な説明】
【0060】
本発明は、以下の図を参照してさらに説明される。
【0061】
以下の図の説明で言及する全ての方法は、実施例に詳述するように実施した。
【0062】
図1図1は、異なる外科的生検における遺伝子発現を示す。Skel:骨格筋(n=5)、fat:皮下脂肪(n=5)、LA:左心房(n=5)、AoT:A型解離からの大動脈(n=6)、AoC:冠状動脈バイパス移植片からの大動脈(n=6)、V:大静脈サフェナ・マグナ(n=5)、IMA:動脈マンマリア・インターナ(n=5)。バイオマーカー候補であるヒアルロナン及びプロテオグリカン連結タンパク質1(HAPLN1)、インテグリンα-11(ITGA11)、オステオグリシン(OGN)、及びアグリカン(ACAN)のRNA発現データが示される。値は平均値±SEMを表す。差の有意性は一元配置分散分析検で検定された。
図2図2は、4つのバイオマーカー候補ACAN、ITGA11、LPYD、およびOGNの血漿中濃度を示す;A型解離(ao type A、グループ1、n=14)、健常者対照群(ctrl、グループ5、n=7)、僧帽弁不全(MKP、グループ2、n=10)。値は平均値±SEMを表す。差の有意性は一元配置分散分析検定で検定された。
図3図3は、バイオマーカー候補ACANの血漿中濃度を示す;A型解離(ao type A、実験1のグループ1、n=11、n=4の新規サンプル)、健常者対照群(ctrl、グループ5、n=5)、動脈瘤(Aneurysma verum)(真性動脈瘤、グループ3、n=7)、及び外科的凍結切除(MAZE、グループ4、n=5)。差異の有意性は、一元配置分散分析検定で検定した。
図4図4は、対照群(グループ5)の平均濃度と比較した個々のサンプルにおけるバイオマーカー候補ACANの血漿中濃度の倍率変化を示す。示されているのは、2つの独立したアッセイからの各患者のそれぞれの重複測定である。
図5図5は、対照群(グループ5)の平均濃度と比較したバイオマーカー候補ACANの血漿中濃度の倍率変化を示す。示されているのは、2つの独立した実験の平均±SEM値である。アッセイ1:ctrl n=7、ao type A n=14、アッセイ2:ctrl n=5、ao type A n=15。結果は平均±SEM値を表す。差の有意性は、等分散検定又は正規性検定が失敗した場合には(アッセイ1)、不対の両側スチューデントt検定(アッセイ2)、もしくはマン-ホイットニー順位和検定で検定した。
図6図6は、急性A型大動脈解離患者のための候補マーカーを同定するための例示的なワークフロー、及びヒト心臓領域並びに外科的生検における選択された候補遺伝子の発現を示す。A)候補バイオマーカーの選択及び測定のための戦略。B)ヒト心臓の異なる領域におけるACANのタンパク質発現。Ao:大動脈、AV:大動脈弁、RCA:右冠状動脈、LA:左心房、LCA:左冠状動脈、LV:左心室、MV:僧帽弁、PA:肺動脈、PV:肺弁、Pve:肺静脈、RA:右心房、RV:右心室、SepA:心房中隔、SepV:心室中隔、TV:三尖弁、IVC:下大静脈。
図7図7は、急性A型大動脈解離(ATAAD)を伴わない患者の血漿サンプルにおいてACANレベルが増強されないことを示す。ATAAD(type A、n=33)、上行大動脈の無症候性慢性動脈瘤(aneurysm、n=13)、急性ST上昇を伴う心筋梗塞(MI)(STEMI、n=18)を伴う患者、既知の冠状動脈疾患のない患者(N-CAD、n=15)、及び健常者(control、n=12)の血漿におけるACAN濃度。値は平均値±SEMを表す。差の有意性は一元配置分散分析検定で検定された。
図8図8は、ATAAD患者のACANレベルが、基本的な人口統計学的パラメータまたはATAADの経過の影響を受けないことを示す。A)女性(n=15)および男性(n=18)ATAAD患者におけるACANレベル。B)40~49歳(n=3)、50~59歳(n=6)、60~69歳(n=12)、70~79歳(n=9)及び80歳以上(n=3)のATAAD患者のACANレベル。C)ドベーキーI型(n=14)又はII型(n=12)のATAAD患者におけるACANレベル。D)ATAADの発症後、6(n=8)、12(n=8)、24(n=6)、48(n=3)、又は72時間(n=2)でのACANレベル。差の有意性は、ウィルコクソン-マン-ホイットニー検定(A及びC)、又は一元配置分散分析検定に続いてダン法またはホルム-シダック法(B及びD)で検定した。
図9図9は、ACANレベルがCK-MBまたはcTnT濃度と相関しないことを示す。A)個々のATAAD患者のCK-MBレベル。B) ACAN レベルと CK-MB レベルの相関関係。C)個々のATAAD患者のcTnTレベル。D) ACAN レベルと cTnT レベルの相関関係。ACAN:アグリカン、CK-MB:クレアチンキナーゼ-脳筋アイソフォーム、cTnT:心筋トロポニンT、STEMI:ST-上昇-心筋梗塞。
図10図10は、ATAADを検出するためのACANの感度および特異度を示す。A)ATAADを有するすべての患者(n=33)対すべての対照被験者(n=63)の受信者-操作特性曲線。B)ATAAD患者におけるACANレベル(n=33)。C)STEMI患者におけるACANレベル(n=18)。D)動脈瘤患者のACANレベル(n=13)。E)外科的対照(MVR)(丸、n=9)、冠状動脈疾患(N-CAD)のない対照(菱形、n=15)および健常者(四角、n=12)におけるACANレベル。破線は、ROC分析によって決定された14.3ng/mLの最適弁別レベルを示す。誤ってグループ化されたサンプルは灰色で表示される。ACAN:アグリカン、ATAAD:急性胸部大動脈解離、MVR:僧帽弁修復、N-CAD:冠動脈疾患のない、ROC:受信者-操作-曲線、STEMI:ST-上昇-心筋梗塞。
【0063】
以下では、実施例を参照するが、これらは例示するために与えられ、本発明を限定するものではない。
【実施例
【0064】
実施例1:qRT-PCRによる組織生検における遺伝子発現の解析
【0065】
手術の間に組織サンプルを取得し、液体窒素中で直ちに瞬間凍結した。前記サンプルは、さらに使用するまで-196°Cに保持した。RNeasy Plus Universal kit(Qiagen, Hilden, Germany)を使用して、メーカーの推奨に従ってRNAを抽出した。cDNAは、M-MLV逆転写酵素(100U)、250ngランダムヘキサマープライマー、10mM DTT、dNTPs(それぞれ0.5mM)、15mM MgCl2、375mM KCl及び250mM Tris-HCl pH 8.3を用いて、合計100 ngのRNAから最終容量30 μLで合成した。qRT-PCR分析は、Quant Studio 3(ThermoFisher, Germering, Germany)で、以下の条件を用いて行った:0.3 μMの各プライマーを使用して、95°Cで10分間、95°Cで15秒間及び60°Cで1分間を40サイクル。ACTB(β-アクチン)の発現は、個々のサンプルにおける発現レベルを正規化するために使用された。すべての組織タイプについて、5生検をao type A (n=6)及びao CABG(n=9)を除いて分析した。以下の部位の組織サンプルを分析した:
・左心房 (LA)
・骨格筋(skel.muscle)
・皮下脂肪組織(fat)
・大静脈サフェナ・マグナ(vein)
・動脈胸部インターナ(IMA)
・大動脈(A型解離) (ao type A)
・大動脈(冠状動脈バイパス移植片、CABG) (ao CABG / AoC)
【0066】
プロテオミクス試験で検出されたバイオマーカー候補の遺伝子発現を解析した。図1は、バイオマーカー候補であるオステオグリシン(OGN)、ヒアルロナンおよびプロテオグリカン連結タンパク質1(HAPLN1)、インテグリンα-11(ITGA11)及びアグリカン(ACAN)のRNA発現データを示す。これらの4つのバイオマーカー候補は、A型大動脈解離を有する患者由来の大動脈組織(ao type A)において、他の組織タイプと比較して発現の増加を示した。β-アクチンは、対照ハウスキーピング遺伝子として用いた。GOI=目的の遺伝子。
【0067】
OGN、HAPLN1、ITGA11、およびACANの他にプロテオミクス試験で検出された25のバイオマーカー候補のバイオマーカー候補は、大動脈特異的なRNA発現を示さなかった。
【0068】
実施例2:血液サンプル中のバイオマーカーの評価
【0069】
A型大動脈解離を有する患者の血液サンプル(血漿または血清など)中の4つの同定されたバイオマーカー候補、すなわちOGN、LPYD、ITGA11、及びACAN、又はそれらの断片もしくは代謝産物を検出できるかどうかを分析した。予め外科的に得られた種々の対象集団の血漿サンプルを分析した。特に、ELISA実験は、4つの患者群及び1つの対照群からのサンプルを用いて行った。
【0070】
血漿サンプル中のアグリカン濃度は、以下のようにメーカーの指示に従って酵素結合免疫吸着アッセイキット(Cloud-Clone Corporation, Katy, TX)を用いて決定した。ACAN標準または血漿(それぞれ100μl)を各ウェルにピペットで注入して、37°Cで1時間インキュベートした。上清を吸引し、検出試薬Aを100μL添加して、サンプルを37°Cで1時間インキュベートした。サンプルを300μL洗浄液で3回洗浄し、100μLの検出試薬Bを加え、サンプルを暗所にて37℃で30分間インキュベートした。サンプルを300μL洗浄液で3回洗浄し、90μL TMB基質溶液を加えた。サンプルを暗所にて37°Cで10~20分間インキュベートした。その後、50μLの停止溶液を各ウェルに添加して、OD 450 nmをELISAリーダーで測定した。
【0071】
グループ3と4に関しては、アグリカンのみが特定された。実験1及び実験2は、使用したサンプルを除いて同様の実験プロトコールに従って行った。
【0072】
グループ1:急性A型大動脈解離を有する患者。
急性A型大動脈解離が、コンピュータ断層撮影によってこの群の患者について診断された。実験1:n=14;実験2:n=15。
【0073】
グループ2:孤立性僧帽弁不全を有する患者。
この群の患者は、他の重篤な疾患を有さずに孤立性僧帽弁不全に罹患した。この群の予め外科的に得られたサンプルを分析した。この群は、対照群として機能した。実験1:n=10。
【0074】
グループ3:主動脈の動脈瘤を有する患者。
この群の患者は、大動脈解離を有さずに大動脈の大動脈瘤に罹患した。この群の患者は、大動脈の急性な組織外傷性破裂を有さなかった。この群の予め外科的に得られたサンプルを分析した。この群は、対照群として機能した。実験1:n=7。
【0075】
グループ4:心房細動における心房の外科的凍結切除を有する患者。
この群の患者(実験2:n=5)は、心房細動の形式でリズム障害に罹患し、実質的な心房心筋の領域が選択的に破壊される外科的凍結切除によって治療された。この群の手術後に得られたサンプル、すなわち集中治療室への入院時に得られたサンプルを分析した。この群は、対照群として機能した。
【0076】
グループ5:健常対象者
この対照群は、心血管疾患のない健常者からなる。実験1:n=7;実験2:n=5。
【0077】
4つの最も有望なバイオマーカー候補、すなわちACAN、OGN、LPYD、及びITGA11の血漿レベルを測定した。図2は、グループ1、グループ2、及びグループ5の血漿中の各バイオマーカー候補の測定された血漿レベルを示す。ELISAを用いると、グループ1において有意に増加したACAN濃度が特異的に検出された。OGN及びLPYDはまた、グループ1において有意に増加した濃度を示した。ITGA11に関して有意差は検出されなかった。
【0078】
さらに、グループ3及び4を、ELISAを用いてACANの血漿レベルに関して分析した。A型大動脈解離を有する患者のサンプル(グループ1)はまた、グループ3と比較してACAN濃度の増加を示した。所望の重度の心房損傷が術中に起こる外科的凍結切除を有する患者のグループ4において、有意に増加した血漿濃度が検出された。特に、グループ4(MAZE)は、ctrlと比較して約9.9倍増加して、ao type Aと比較して約2.1倍増加したACANレベルを示した(図3)。この群におけるACAN濃度の増加は、心房損傷、手術中の心肺装置の使用、又は手術自体の外傷に関連し得る。
【0079】
実施例3:アッセイ間比較
【0080】
11人の患者のグループ1サンプルを用いたACAN血漿濃度の反復分析により、実験1及び2の直接のアッセイ間比較が可能になる。図4は、ACAN血漿濃度の増加について同様の結果を示す。したがって、実験の実施に使用されるELISAキットは、ACAN濃度の信頼性と再現性のある測定を可能にする。図5は、実験1及び2の平均値、すなわちグループ5と比較したグループ1におけるACAN血漿濃度の平均の増加を示す。
【0081】
実施例4:材料と方法
【0082】
血液サンプル及び生検
【0083】
ATAAD患者 (n=33) の血液サンプルを収集した。入院直後にサンプルを直接採取して、2,000×gで4℃で10分間遠心分離した。血漿を200μLの一定分量に分配して、入院後30分以内に-80℃で直ちに保存して、さらに使用するまで保存した。他のすべての実験群の血漿サンプルは、ドイツ心臓センターミュンヘンによって供給された。ヒト生検(骨格筋、脂肪組織、左心房、ATAADまたは冠状動脈バイパス移植片患者からの大動脈組織、大静脈サフェナ・マグナ、及び動脈マンマリア・インターナ)は、外科的処置中に取得し、直接瞬間凍結して、さらに使用するまで液体窒素中に保存した。
【0084】
qRT-PCRによるヒト生検における遺伝子発現の評価
【0085】
凍結生検は、Ultraturrax MICCRA D-8(ART Moderne Labortechnik, Mullheim, Germany)を使用して900μL QIAzol溶解試薬で30秒間均質化して、メーカーの推奨に従ってRNeasy Plus Universal Mini Kit(QIAGEN, Hilden, Germany)で処理した。100 ngの総RNAを、M-MLV逆転写酵素(150 U, Invitrogen, Carlsbad, CA)、ランダムヘキサマープライマー(375 ng)、dNTPs(各10 mM)、10 mM DTT、及び1×first strand bufferと共に、最終容量30 μLで37°Cで50分間cDNAに逆転写した。酵素を70℃で15分間失活させた。1μL cDNAの遺伝子特異的増幅は、0.3 μMの各プライマー及びPower SYBR Green Mastermix (ThermoFisher)と共に、Quant Studio 3(ThermoFisher, Dreieich, Germany)で、以下のサイクル条件を用いて行った:95°Cで10分間Taqポリメラーゼを活性化し、続いて95 ℃で15秒間、60 ℃で60秒間を40サイクル行った。相対的遺伝子発現は、参照としてACTB(β-アクチン)発現で標準化した。
【0086】
ELISAによる血漿サンプルにおけるACAN、OGN、及びITGA11の測定
【0087】
メーカーの指示に従って市販のELISAキットを用いて、血漿サンプル中のアグリカン(ACAN)(Cat.No. SEB908Hu, Cloud Clone Corp., Katy, TX) 、オステオグリシン (OGN) (Cat.No. LSF22608, LifeSpan Biosciences Inc., Seattle, WA) 、及びインテグリン α 11(ITGA11) (Cat.No. CSBEL011863HU, Cusabio, Houston, TX)の濃度を決定した。簡単に言うと、すべての成分及びサンプルを室温にして、100μLの希釈されていない血漿サンプルを加え、処理して、プレートを450nmで読み取った。各アッセイにおいて、個々のサンプル中の濃度を決定するために標準曲線が含まれていた。
【0088】
統計分析
【0089】
遺伝子発現における差は、マン-ホイットニー順位和検定又は一元配置分散分析検定により決定した。複数のグループに対するACANタンパク質濃度における差の有意性は、ウィルコクソン-マン-ホイットニー、クラスカル・ウォリス、または一元配置分散分析検定によって推定された。いずれの場合も、0.05未満のp値は、有意であると考えられた。値は、平均±平均の標準誤差 (SEM)、95%信頼区間(CI)、及び必要に応じて倍率変化として表される。
【0090】
実施例5:急性のA型大動脈解離を診断するための候補遺伝子の選定
【0091】
本発明者らは、ヒト心臓の大動脈における8,699のタンパク質を以前に同定した。バイオマーカー候補の可能性のある数を制限するために、本発明者らは2つのアプローチを実施した。まず、本発明者らは、必ずしも大動脈組織に限定されずに、最も多量に発現していたタンパク質を選択した。第二に、本発明者らは、他のすべての15の心臓領域と比較して大動脈組織において優先的に発現されたタンパク質を選択した。これらの予備選択基準に続いて、発明者らは23の潜在的候補のリストを定めた(図6A)。ヒト心臓の16の領域にわたる候補マーカーのタンパク質発現を見ると、いくつかの候補が大動脈および冠状動脈において高い発現を示し、血管系の有望なマーカーとして示唆された。ヒト心臓の16の領域すべてにわたって、動脈血管に対して高い特異性を有する有望な候補である、ACANタンパク質の濃度が図6Bに示されている。次に、本発明者らは、冠状動脈バイパス患者由来の大動脈組織と比較した、ATAAD患者由来の大動脈組織における全ての候補のmRNA発現を測定した。さらに、本発明者らは左心房組織、静脈及び動脈血管におけるmRNAを測定して、本発明者らは脂肪および骨格筋などの心臓外組織における発現を解析した。図1は、HAPLN1(ヒアルロナンおよびプロテオグリカン結合タンパク質1)、ITGA11(インテグリンα-11)、OGN(オステオグリシン)及びACAN(アグリカン)の4つの候補遺伝子の発現を示す。すべての場合において、mRNAの量はATAAD患者の大動脈で最も高く、冠状動脈バイパス移植片患者の大動脈組織とは有意に異なる(図1)。
【0092】
実施例6:ACANタンパク質濃度は、急性のA型大動脈解離患者の血漿において増強される。
【0093】
タンパク質および遺伝子発現に関するデータは、本発明者らが、病院到着直後に得られたATAAD患者の血漿サンプルにおけるACAN、OGN及びITGA11のタンパク質濃度を決定することを促進した。比較のために、本発明者らは、低侵襲で、孤立性僧帽弁修復(MVR)を受けた健常者および患者の血漿を分析した。実際、ACANレベルは有意に上昇し、両方の対照群と比較して4~5倍高い濃度であった(図2)。平均血漿ACANレベルは50.16±5.43 ng/mLであった。健常者(対照)およびMVR群の平均血漿レベルは、それぞれ10.33±1.42ng/mL及び11.92±1.77ng/mLであった。OGNのレベルはまた、平均値が25.34±1.46ng/mLであったATAADサンプルにおいて、それぞれ17.65±2.58ng/mL及び18.75±2.65ng/mLであった対照及びMVRサンプルと比較して有意に増強された。しかしながら、ATAAD患者群と対照群との間の差ははるかに小さかった(図2)。対照的に、血漿サンプル中のITGA11値は、ATAAD群で5.59±3.79ng/mLと最も低く、2つの参照群(対照及びMVR)で19.31±11.54ng/μL及び22.84±17.88ng/mLと類似していた(図2)。したがって、ACANはATAADを診断するための最も有望な候補である。
【0094】
実施例7:ACAN血漿レベルは急性の心筋梗塞及び動脈瘤患者において増強されない。
【0095】
本発明者らはさらに、上昇したACAN血漿レベルがATAADに特異的であるかどうかという問題に取り組んだ。最初の有望な結果をさらに実証するために、発明者らはATAAD患者の数を増員した(n=33)。この拡張された群を用いて、本発明者らは、38.59±4.08ng/mLの平均血漿レベルを有するATAAD患者のACAN血漿レベルにおいて、4.45±0.90 ng/mLの平均値を有する上行大動脈の無症候性慢性動脈瘤患者からのサンプルと比較して、約10倍の有意な増加を検出した(図7)。本発明者らは次に、ATAADの正診を混乱させる可能性がある、急性ST-上昇心筋梗塞(STEMI)患者のACAN血漿レベルを分析した。ここでも、ATAAD患者のACANタンパク質濃度は、11.77±1.89ng/mLの平均値を示したSTEMI患者と比較して、明確かつ有意に上昇した(図7)。さらに、冠状動脈疾患(N-CAD)のない患者のACANタンパク質レベルは、ATAAD患者と比較して有意に低いが、健常対照またはSTEMI患者と有意に異ならない。N-CAD群は、8.88±1.8 ng/mLの平均値を示した(図7)。健常対照群の平均値は8.05±1.38 ng/mLであった。したがって、循環系におけるATAAD患者のACANタンパク質レベルは、健常対照およびMIを含む重要な心臓鑑別診断を有する患者と比較して有意に上昇し、ATAADを検出するための信頼性および特異的バイオマーカーとしてのACANの使用を支持する。
【0096】
実施例8:ACAN血漿濃度と人口統計学的パラメータ及びATAADの重症度の関連性
【0097】
発明者らはさらに、ACANの循環系への放出が、性別や年齢などの基本的な人口統計学的パラメータによって影響を受けるかどうかという問題に取り組んだ。しかしながら、性別及び年齢はACAN血漿レベルに有意な影響を及ぼさなかった(図8A及びB)。女性および男性のサンプルの平均ACAN血漿レベルは、36.06±5.74ng/mLおよび40.69±5.80ng/mLであった。年齢の関連性のために、ATAADサンプルを5つの年齢群に分けた。若年者から高齢者までを編制した5つの年齢群の平均ACAN血漿濃度は、23.60±6.38 ng/mL、44.49±7.94 ng/mL、36.63±6.69 ng/mL、41.28±8.37 ng/mL及び41.21 ng/mLであった(図8B)。第1群(40~49歳)の平均ACANレベルは、23.60ng/mLと他の4つの年齢群の平均ACANレベルと比較して相当に低かったにもかかわらず、0.715のp値を有する一元配置分散分析検定によれば、5つの群すべての間にACAN血漿レベルの統計的に有意な差はなかった。さらに、発明者らは、ドベーキー分類によるATAADの程度が血漿中のACAN濃度によって反映される可能性があるかどうかを検討した。しかしながら、ドベーキーI及びII型ATAAD患者(図8C)との間で、平均ACANレベルは32.79±4.43ng/mL及び36.27±6.51ng/mLと大きな差はなかった。最後に、発明者らは、ACANレベルの動態及びATAADの症状の発症から血液試料の採取までの期間を確立した。ACANレベルは、発症後最大72時間、いずれの時点でも大きな差はなく、明らかに上昇したままであった(図8D)。5つの時点でのACAN血漿レベルは、昇順に43.2±10.84 ng/mL、34.0±6.67 ng/mL、35.3±9.06 ng/mL、53.2±12.39 ng/mL及び47.1±9.03 ng/mLであった(p=0.709)。
【0098】
実施例9:ACANは急性A型大動脈解離を高い特異度及び感度で検出する
【0099】
発明者らは次に、ATAADを有する患者の血漿サンプルにおける、臨床MIバイオマーカー、CK-MB及びcTnTのレベルを評価した。両マーカーについて、大多数のサンプルにおいて、値は心筋細胞損傷を定義する確立された臨床基準限界を下回ったままであった(図9A及びC)。さらに、ACANとCK-MB(図9B)又はcTnT(図9D)の血漿レベルとの間に相関は見られなかった。確立された臨床閾値を超える心臓酵素レベルを有するすべてのATAADサンプルは、冠状動脈骨のおそらく連続的な狭窄又は閉塞を伴う大動脈根を併発した。それゆえ、ATAAD患者の末梢循環系におけるACANの増加は、CK-MB及びcTnTの両方から完全に独立して明らかに起こる。すべてのATAAD患者(n=33)対すべての対照被験者(n=63)の受信者-操作特性(ROC)曲線分析の曲線下面積は0.947であった(図10A)。ROC曲線分析に基づくと、血漿中の14.3ng/mLのACAN濃度が最適な弁別限界であり、感度は97%、特異度は81%であった。この閾値を下回るACAN濃度を示したのは1つのATAADサンプルのみであった(図10B)。心臓の合併症(STEMI及び動脈瘤、図10C及び10D)を有する患者におけるACANレベルを分析すると、80%を超える特異度が示された。加えて、異なる実験対照群(図10E)において、同様の特異度が得られた。したがって、このデータは、ATAADを高感度かつ特異度で検出するための、血漿サンプルにおける信頼性の高いバイオマーカーとしてのACANの可能性を明確に示している。
【0100】
実施例10:考察
【0101】
ATAAD患者は、ATAADの診断を隠す及び複雑にする、付随の併存疾患で入院することが多く、信頼性の高いバイオマーカーに対して高い特異性を要求する。本発明者らは、ATAAD患者の末梢血液中のACANレベルを測定した。このデータは、健常者および異なる心血管疾患に罹患している患者の血漿サンプルと比較して、ATAAD患者の血漿中でACAN濃度が、有意に増加したことを明らかに示している。ATAAD患者のACANレベルは、ROC曲線分析に基づいて計算された閾値である14.3ng/mLを超えて上昇した。対照的に、MI患者の大多数のACAN血漿レベルは、この値を下回ったままであった。加えて、上行胸部大動脈の動脈瘤性変化もまた、ACAN血漿レベルの上昇をもたらさなかった。したがって、本試験は、動脈瘤性の胸部大動脈疾患のスクリーニングマーカーとしてACANを明確に排除する可能性がある。要約すると、それゆえ二次心血管診断は、ATAADの特定の診断のための血漿中のACANのレベルに影響を及ぼさなかったと言ってもよい。基本的な人口統計学的パラメータ(年齢、性別)、疾患の程度、およびATAADの発症から入院までの時間は末梢ACANレベルに影響を及ぼさず、ATAADの外傷性事象のみがACAN放出につながることを示唆する。ROC曲線分析に基づいて、ATAAD患者、健康な被験者、及び他の心血管診断(MVR、N-CAD)患者の群全体で14.3ng/mLの最適な識別限界を適用すると、すべての実験対照群を考慮した場合、97%以上の特異度及び81%の感度が得られた。発明者が臨床患者に焦点を当てて、健常者を除外した場合でも、発明者は、なお81%より大きい感度に終わった。カルポニンおよびDダイマーは、ATAADの診断ツールとして提案されている。上記の結果をこれら2つのマーカーと比較して、本発明者らは、ATAADおよびMIを判別するためのACANの優れた特異度を見出した(約73%)。重要なことに、ACANレベルはCK-MB又はcTnT濃度と相関しなかった。それゆえ、ACANとこれらのマーカーとの組み合わせは、感度をさらに高めるのに有益であり得る。したがって、緊急時にATAADマーカーとMIマーカーを併用することで、治療医は、決定的な確認のために適切で、より侵襲的で、時間のかかる診断試験を実行することを促進するはずである。それゆえ、必要のない治療遅延が防止される。カルポニンのレベルはATAADで増加するが、発症後12時間を超えると減少する。対照的に、病院に到着時に、ACANレベルは上昇したままであり、ATAADの発症後72時間まで実質的に変化しなかった。これは、その期間より前にATAADが発症した場合に特に重要になり得る。ACANの性能をDダイマー及びカルポニンなどの既存のマーカーと比較すると、ACANの優位性が明確に強調される。
【0102】
要約すると、本発明者らは、ATAADの存在を検出するための信頼できるバイオマーカーとしてACAN血漿レベルを同定した。本マーカーは、ATAAD患者を非常に高感度な方法で確実に検出した。同時に、前記バイオマーカーは、MIの存在によって混同されない、満足のいく特異度を示した。
【0103】
参考文献
【0104】
[1] Cikach et al., Massive aggrecan and versican accumulation in thoracic aortic aneurysm and dissection; JCI Insight.
2018;3(5):e97167. https://doi.org/10.1172/jci.insight.97167.
【0105】
本明細書、特許請求の範囲、及び/又は添付の図に開示された本発明の特徴は、別々に、及びそれらの任意の組み合わせの両方で、その様々な形態で本発明を実現するための材料であり得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
2023510811000001.app
【国際調査報告】