(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-15
(54)【発明の名称】必要とするヒト対象におけるストレス管理
(51)【国際特許分類】
A61K 31/11 20060101AFI20230308BHJP
A61P 25/18 20060101ALI20230308BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20230308BHJP
A61K 9/00 20060101ALI20230308BHJP
A61K 9/12 20060101ALI20230308BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20230308BHJP
A61K 9/72 20060101ALI20230308BHJP
A61K 47/06 20060101ALI20230308BHJP
A61Q 13/00 20060101ALI20230308BHJP
A61Q 90/00 20090101ALI20230308BHJP
A61K 8/31 20060101ALI20230308BHJP
A61K 8/33 20060101ALI20230308BHJP
【FI】
A61K31/11
A61P25/18
A61K9/08
A61K9/00
A61K9/12
A61K9/06
A61K9/72
A61K47/06
A61Q13/00 101
A61Q90/00
A61K8/31
A61K8/33
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022542702
(86)(22)【出願日】2021-01-13
(85)【翻訳文提出日】2022-08-12
(86)【国際出願番号】 IL2021050038
(87)【国際公開番号】W WO2021144792
(87)【国際公開日】2021-07-22
(32)【優先日】2020-01-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500018608
【氏名又は名称】イエダ リサーチ アンド ディベロップメント カンパニー リミテッド
【住所又は居所原語表記】at the Weizmann Institute of Science,PO Box 95,7610002 Rehovot,Israel
(74)【代理人】
【識別番号】100139723
【氏名又は名称】樋口 洋
(72)【発明者】
【氏名】ソーベル,ノーム
(72)【発明者】
【氏名】ミソール,エヴァ
(72)【発明者】
【氏名】エンデフェルト-シャピラ,ヤーラ
(72)【発明者】
【氏名】カラガッハ,シリ
(72)【発明者】
【氏名】ママ,ヤニフ
(72)【発明者】
【氏名】シャロン,イーガル
【テーマコード(参考)】
4C076
4C083
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA06
4C076AA11
4C076AA14
4C076AA24
4C076AA93
4C076BB25
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4C076CC01
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4C076FF12
4C083AC011
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4C083EE50
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4C206AA01
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4C206CB02
4C206MA02
4C206MA05
4C206MA33
4C206MA36
4C206MA37
4C206MA79
4C206MA83
4C206NA14
4C206ZA18
(57)【要約】
本発明は、ストレス管理におけるヘキサデカナールの使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト対象におけるストレスの管理に使用するためのヘキサデカナール(HEX)を含む組成物。
【請求項2】
唯一の活性物質としてHEXを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ストレスはヒトにより知覚されたストレスである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
ストレスの予防、知覚されたストレスに関連する症状の軽減もしくは緩和、またはストレスの再発の低減のための、請求項1~4のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
HEXは、吸入、においを嗅ぐこと、または鼻から吸い込むことによって投与される、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
無臭溶媒を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記無臭溶媒は鉱油である、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
HEXの量は0.2~2重量%である、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
固体組成物、液体組成物または溶液の形態である、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
エアロゾル製剤の形態である、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
噴射剤を含む、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
ネブライザー組成物またはアトマイザー組成物の形態である、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
化粧品製剤である、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
対象の皮膚領域への適用のための、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記皮膚領域のにおいを嗅ぐことによって対象の肺に入るように適合させた、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
ローション、クリーム、スプレー、香り付き布、香水、コロン、スクラッチ・アンド・スニッフ香りパッチ、ブリスターパック、固体芳香剤、空調用ポプリ、お香、電球リング、またはキャンドルの形態である、請求項1に記載の組成物。
【請求項17】
ヘキサデカナール(HEX)、およびストレス管理における使用説明書を含むキット。
【請求項18】
ヒト対象におけるストレスを管理する方法におけるヘキサデカナール(HEX)の使用。
【請求項19】
前記ストレスはヒトにより知覚されたストレスである、請求項18に記載の使用。
【請求項20】
ヒト対象におけるストレスを管理する方法であって、有効量のヘキサデカナール(HEX)を対象に投与し、それによって対象におけるストレスを管理することを含む、方法
【請求項21】
前記ストレスはヒトにより知覚されたストレスである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記投与は、吸入、においを嗅ぐこと、または鼻から吸い込むことによる、請求項21に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、ヒト対象におけるストレス管理に関する。
【背景技術】
【0002】
ストレスは心の心理状態であり、様々な状況で発生し、また様々な原因によって引き起こされる。ストレスの原因は対象間で異なり、ストレス応答も同様に異なり得る。生理学的指標によってストレスを測定することを試みる実験がある。しかしながら、ストレス応答およびストレストリガーの変動を含む様々な理由により、ストレスと心拍数などの様々な生理学的指標との間の相関は、ストレスの不良な指標であることが見出された。したがって、ストレスの心理学的指標は、より信頼性が高く、主観的であり得るが信頼性がありかつストレスに直接関連付けられる。
【0003】
Kleinら(非特許文献1)は、それぞれ長鎖脂肪族アルデヒドのペンタデカナール、ヘキサデカナールおよびヘプタデカナールによって活性化されることが示されたマウスOR37受容体サブタイプA、BおよびCについて研究および報告した。これら化合物の生物学的供給源の探索は、同種からの身体分泌物がOR37A、BおよびC糸球体を活性化したことを示した。同時に、視床下部の室傍核(PVN)であるOR37糸球体からの投射ニューロンの標的領域における細胞の活性は、対照(クリーンテストボックス)と比較して低下した。クリーンテストボックスに入れたマウスのPVNにおける多数の活性化細胞がコルチコトロピン放出ホルモン細胞であり、新規環境によるストレス軸の誘導を示した。同種由来の身体分泌物で富化されたボックス中のマウスの活性化細胞の数がはるかに少ないことは、ストレス応答の低減を示した。同種からの身体分泌物はOR37系を活性化し、同時にPVNのストレス誘導活性化を低減させたので、OR37受容体に対するリガンドがこの効果を誘導し得るかどうかを試験した。実際に、クリーンテストボックスで維持して、空気流を介して送達したOR37リガンドの混合物に曝露させたマウスにおいて、同様に低下したPVNの活性が見られた。これらのデータは、OR37系が社会的緩衝作用(social buffering)と呼ばれる現象を媒介するのに役割を果たし得ることを示す。
【0004】
ストレスに関連することが多い様々な精神状態間の違いを理解することが重要である。攻撃、覚醒、恐怖は、ストレスと誤って解釈されるかまたはストレスと誤って関連付けられ得る。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】B. Klein et al., European Journal of Neuroscience 41, 793-801 (2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ストレスを管理するための既知の方法、例えば、薬物療法、アロマセラピー、瞑想(meditation)、心理療法などは、既知の欠点を有する。ストレスを軽減するための薬物療法の使用における欠点は様々であり、ほとんどが、例えば認知能力障害、依存症および乱用などの副作用に関連する。アロマセラピーおよび瞑想は、例えば、密室や静かな領域などの特定の環境を必要とし、また心理療法は、長期の処置を必要とし、その効果は対象によって異なり得る。したがって、ストレスを管理するための新しい方法論、すなわち、既存の方法の欠点を克服し、適切かつ改善された代替案を提供することができ、すなわち、容易に投与することができ、特定の環境を必要とせず、ほぼ即効性があり、かつ報告された副作用を有さない方法論が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ストレスと心拍数などの様々な生理学的指標とを相関させることに関連する不正確さを迂回するために、本明細書に開示される技術の発明者らは、本明細書に開示される方法論によって管理することができるストレスの状態を決定するための新規の方法論を開発した。ストレス、特に知覚されたストレスは、ヘキサデカナール(本明細書ではHEXと称される)で処置された対象において低減または軽減されることが実証されている。以下に示されているデータが示すように、ヘキサデカナールの使用は、プラセボと比較して有意に低い程度のストレスを示し、認知能力に影響を及ぼさなかった。
【0008】
したがって、本明細書に開示される技術の第1の態様によれば、本発明は、ヒト対象におけるストレス、例えば、知覚されたストレスの管理に使用するためのHEXを含む組成物を開示する。いくつかの実施形態では、組成物はHEXからなる。いくつかの実施形態では、本発明の組成物および方法は、唯一の活性物質としてのHEXの使用を含む。いくつかの実施形態では、ペンタデカナールおよびヘプタデカナールなどの他のアルデヒド化合物が本発明の組成物から除外される。
【0009】
本発明はさらに、それを必要とするヒト対象におけるストレスを管理する方法におけるHEXの使用を提供する。
【0010】
また、ヒト対象におけるストレスを管理する方法であって、有効量のHEXを対象に投与し、それによって対象におけるストレスを管理することを含む方法も提供される。以下でさらに説明されるように、ヒト対象へのHEXの投与は、例えば、吸入デバイスの使用を通して、能動的であってもよく、または例えば、ある量のHEXを含む環境(例えば、空気)中のある量のHEXを正常に呼吸するまたはにおいを嗅ぐ(または正常な呼吸により取り込む)ことを通して、受動的であってもよい。
【0011】
「嗅覚ブルー(olfactory blue)」または「OB」としても知られるヘキサデカナール、HEXは、以下の構造を有する:
【化1】
【0012】
用語「ストレス」は、要求が、対象が動員することができるかまたは動員することを期待される個人的および社会的資源を超えることを対象が知覚するときに経験する状態または感覚を指す。したがって、本発明の文脈において、この用語は、具体的には、対象のストレスの知覚、ヒトに固有であることが知られているヒトの特性(trait)を指し、「知覚されたストレス(perceived stress)」と呼ばれる。典型的には、ストレスは、ある人のコーピング(対処)資源を超える何らかの外部要求から生じる。しばしば、ストレスは、病態または環境の何らかの種類の変化に現れる。いくつかの場合において、ストレスは、慢性疾患、例えば、代謝機能、免疫機能、呼吸機能、および心血管機能に関連している。
【0013】
動物、例えば実験動物においてストレスと混同され得る不安状態の増大とは異なり、ヒトは、ある特定の状況をストレスの多いまたはストレスを引き起こすものとして解釈または知覚する能力を有する。そのようにヒトによって知覚されるストレスの多い状態は、動物では同じようには現れない。したがって、知覚されたストレスは、ヒトに特有の特性であり、非ヒト種では完全に不在である。いくつかの方法論が、知覚されたストレスを評価または決定するために提供されてきたが、特性メタムード尺度(trait meta-mood scale)(TMMS)は、人々がどのようにその気分を熟考するかを評価するために設計され、したがって、知覚された心の知能指数の指標と考えられた。その尺度は、3つの下位尺度スコア:気分への注目(情動のモニタリングに関連する);気分の明瞭さ(情動を識別する能力に関連する);および気分の転換(不快な気分を調節する能力または快適な気分を維持する能力に関する)を提供する3つの因子を有する(Personality and Individual Differences 47 (2009) 116-121)。本明細書で実証されるように、そのような尺度に従って測定された知覚されたストレスは、本発明によるHEXを投与されたヒト対象において、生理学的パラメータまたは薬理学的パラメータに頼るまたは依存する必要なく、軽減するか、緩和されるか、または低減されることが示された。
【0014】
理論に束縛されることを望むものではないが、ストレス応答は、視床下部-下垂体-副腎(HPA)軸および交感神経系(SNS)の活性化を通して調節され、HPA軸およびSNS活性の両方がコルチゾールおよびα-アミラーゼなどのタンパク質の唾液濃度の変化に反映され得るため、これらは同時に介入する。α-アミラーゼは、ヒトにおける主要な唾液酵素の1つであり、交感神経刺激に応答して唾液腺から分泌される。唾液中のその濃度は、カテコールアミン、特にノルエピネフリンの血中レベルを反映する。唾液α-アミラーゼ(sAA)は、内因性アドレナリン作動活性の評価尺度(measure)であり、したがって、SNS活性を評価するための有用なツールと考えられる。IgAは、ストレスに対して高度に感受性であり、その変化は、同じ精神的ストレス事象後の唾液コルチゾールにおける変化よりも顕著である。コルチゾールは、HPA軸を介して副腎皮質から分泌されるステロイドホルモンであり、ストレッサーに応答して増加する。別の生理学的マーカーは、実験室でストレスを測定するために通常使用される心拍変動(HRV)である。
【0015】
攻撃、覚醒および恐怖(これらは動物の行動を説明し得る)は、ストレスと誤って解釈され、またはストレスと誤って関連付けられ得る。したがって、本明細書で定義される「ストレス」または「知覚されたストレス」は、攻撃、覚醒および恐怖の表示を除外する。言い換えれば、この用語は、攻撃、すなわち、人身傷害または特性の破壊をもたらす挙動のいかなる表示も含まない。ストレスおよび攻撃は、いくつかの共通の挙動、例えば覚醒を共有することができるが、本明細書におけるストレスの定義は、ストレスの状態と攻撃の状態とを区別することを目的とする。
【0016】
ストレスの知覚は、非ヒト対象には存在しないヒトの特性であるので、「対象」という用語は、本明細書では単に、その現在の状態をストレスが多いと経験または知覚することができるヒト対象を指す。前記ヒト対象によるストレスの発現は、ヒト対象間で異なることがあり、ストレスに苦しむ傾向がある対象または所与の条件下でストレスを感じると予想する対象間で異なって発現され得る。いくつかの実施形態では、対象は、ストレスで苦しむリスクを有するか、またはストレスで苦しむ傾向がある対象である。
【0017】
いくつかの実施形態では、対象は、概して健康であるか、またはストレスと関連してもしなくてもよい他の背景の病態に罹患している。いくつかの実施形態では、対象は自閉症に罹患しておらず、他の実施形態では、対象は攻撃性を示さない。
【0018】
対象は、男性であっても女性であってもよく、任意の年齢であってよい。いくつかの実施形態では、対象は男性対象である。
【0019】
いくつかの実施形態では、対象は成人対象(18歳以上)である。いくつかの実施形態では、対象は18歳未満の小児患者である。
【0020】
本発明に従い活性HEXを使用することにより、定義されるように、ストレスの管理の成功が実証された。本明細書中で使用される場合、用語「ストレスを管理する」またはその任意の言葉の変化は、本発明の組成物および方法が、ストレスの知覚を処置もしくは予防もしくは緩和する、ストレスと直接もしくは間接的に関連する症状を軽減もしくは緩和する、またはストレスの再発を低減する能力を指す。活性物質を投与することによってストレスを管理することによって、所望の薬理学的および/または生理学的効果が達成され得る。その効果は、ストレスもしくはその症状を完全にもしくは部分的に予防するという点で予防的であり得、ならびに/あるいはストレスおよび/またはストレスに起因する有害作用の部分的もしくは完全な治癒という点で治療的であり得る。「処置(treatment)」は、対象におけるストレスの任意の処置を包含し、以下を含む:(a)ストレスを受けやすい可能性があるがまだストレスを有すると診断されていない対象においてストレスが生じるのを防止すること;(b)ストレスを阻害する、すなわち、その発生を阻止すること;および(c)ストレスを緩和する、すなわちストレスの退行を引き起こすおよび/または1つまたは複数のストレス症状を緩和すること。
【0021】
HEXは、ストレスを低減させ、ストレスの再発を低減させ、ストレスを感じる感受性を低下させ、したがって、ストレスに直接的または間接的に関連する症状の出現および重症度を低減させる。ストレスの低減または軽減は、処置前のものと比較してストレスそれ自体または関連する病態を測定する任意の所与のストレスアッセイを利用することによって評価および定量化することができる。低減または軽減は、処置前に測定されたストレスの少なくとも10%である。幾つかの実施形態において、低減または軽減は、少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%または90%である。いくつかの実施形態では、低減は、ストレスの完全な治癒または予防を体現する。
【0022】
HEXは、ストレスの発症時、「ストレスを感じる」期間中の任意の段階、またはストレスの不快感が進展し得る任意の時点で対象に投与され得る。
【0023】
本発明の組成物ならびにそれを対象に投与する方法は、有効量の活性物質を含む。有効量は、当技術分野において公知であり得るような考慮事項によって決定され得る。その量は、とりわけ、処置されるストレスエピソードの種類および重症度ならびに処置レジメンに応じて、一部を上記で述べたような所望の効果を達成するのに有効でなければならない。有効量は、典型的には、適切に設計された臨床試験(用量範囲試験)において決定され、当業者は、有効量を決定するためにそのような試験を適切に行う方法を知っているであろう。一般に知られているように、有効量は、受容体に対するリガンドの親和性、体内でのその分布プロファイル、体内での半減期などの様々な薬理学的パラメータ、望ましくない副作用(存在する場合)、年齢および性別などの要因等を含む、様々な要因に依存する。
【0024】
本発明の組成物は、医薬組成物、栄養補助(nutraceutical)組成物、OTC組成物、補足組成物または他の添加剤組成物であり得るが、HEXを含む組成物または製剤は、任意の投与様式(mode of administration)に適合させることができる。いくつかの実施形態では、投与様式は吸入によるものである。活性物質は、記憶テストまたはストループテスト(Stroop test)によって測定されるような対象の認知能力に影響を及ぼさないので、吸入による投与が有利であることが見出された。本明細書で使用される場合、「吸入」という用語は、呼吸によって、またはにおいを嗅ぐこと(smelling)によって、または鼻から吸い込むこと(sniffing)によって、または一般にある量の化合物を摂取することによって、ある量のHEXまたはその組成物が対象の肺に送達される任意の送達様式を含む。
【0025】
したがって、本発明は、吸入に適合させたHEXを含む組成物または製剤をさらに提供する。活性成分、すなわちHEXとは別に、これらの組成物または製剤は、許容される担体、ビヒクル、アジュバント、賦形剤、または希釈剤をさらに含んでもよく、これらはすべて当業者に周知であり、容易に一般に利用可能である。担体の選択は、組成物を投与するために使用される特定の方法、または活性物質もしくはそれを含む組成物を吸入するために使用される特定の方法によって部分的に決定される。
【0026】
いくつかの実施形態では、HEXは、鉱油などの無臭溶媒に溶解される。いくつかの実施形態では、活性物質は、無臭であるか否かにかかわらず溶媒(例えば、プロピレングリコール)に溶解される。いくつかの実施形態において、溶媒は、マスキング剤と組み合わせて使用され得る。
【0027】
いくつかの実施形態において、本発明の組成物中のHEXの量は、0.2~2重量%であり得る。本発明の組成物が、周囲環境、すなわちある体積の空気中への放出に適合する場合、HEXの量はより多くてもよく、環境中へのHEXの有効な放出を可能にする。
【0028】
いくつかの実施形態では、HEXを含む組成物は、吸入によって投与されるエアロゾル製剤の形態で提供される。エアロゾル製剤は、ジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素などの加圧された許容される噴射剤に入れることができる。組成物はまた、ネブライザーまたはアトマイザーなどにおける、非加圧調製物用に製剤化されてもよい。いくつかの実施形態では、加圧デバイス、ネブライザー、またはアトマイザーは、自動化され得る。
【0029】
エアロゾル分散デバイスは、それ自体で、ならびにHVACシステムと併せて動作することができる。
【0030】
吸入による投与は、加圧レセプタクル、ネブライザーもしくはアトマイザーなどのデバイスを介して、または活性物質もしくはその組成物を皮膚領域に適用して、連続モードもしくは必要ごとのモードでの吸入を可能にすることによるものであってよい。したがって、いくつかの実施形態では、活性物質またはそれを含む組成物は、対象の皮膚領域に適用され、後でそこから放出されて、呼吸またはにおいを嗅ぐことを介して連続的または必要ごとの投与を可能にし得るローション、クリーム、または任意の他の化粧品製剤にすることができる。いくつかの実施形態では、活性物質は、蓋付き容器に含まれる固体または液体、スプレー、ガス、香り付き布、ローション(例えば、化粧用ローション)、クリーム(例えば、化粧用ローション)、香水、コロン、前記ヘキサデカナールを含むマイクロカプセルを含むスクラッチ・アンド・スニフ香りパッチ(scratch-and sniff odor patch)、活性物質を含むブリスターパック、ソリッドエアフレッシュナー(固体芳香剤)、空調用ポプリ(air-conditioning potpourri)、お香、電球リング(lightbulb ring)、キャンドルおよびこれらの組み合わせから選択される形態で投与される。
【0031】
具体的な実施態様において、HEXは、液体溶液、エアロゾルスプレー、固体、マイクロカプセルの形態で、または対象が鼻から吸い込むために微量の活性物質を送達することが知られている任意の他の好適な形態を介して送達することができる。活性物質は、鉱油または水などの無臭液体担体と組み合わせて投与することができ、エアロゾル化を可能にするのに有効な粘度で製剤化することができる。ヘキサデカナールは、例えば、活性物質でコーティングまたは浸漬された布材料によって、蓋付き容器に含まれる固体または液体形態として、エアロゾルまたはポンプ型スプレーデバイスから、鼻スプレーとして、マイクロスフェアの形態のヘキサデカナールを含むブリスターパックまたはスクラッチ・アンド・スニフ香りパッチを開くことによって、吸い上げ材料に吸着させた液体形態の活性物質を含むペン様ディスペンサーからなどの手段によって、分配することができる。
【0032】
いくつかの実施形態によると、HEXを送達するために、ユーザは、携帯可能で、かつ傍観者の混乱を最小限にするデバイスを採用することができる。HEXはまた、限定された領域(例えば、車両、車)内の人の集団に、例えば、活性物質を含む空気を通気口から送り込むことにより、または活性物質をエアロゾルまたは非エアロゾルスプレーを用いてミストまたは乾燥粉末として空気中に噴霧することなどにより、投与することができる。
例えば、空気ベントを通して活性物質を含有する空気をポンピングすること、エアロゾルまたは非エアロゾルスプレーを使用してミストまたは乾燥粉末として活性物質を空気中に噴霧することなどによって投与することができる。
【0033】
HEXは、ストレス管理に使用するための製品またはキットの一部としてパッケージングすることができる。キットは、例えば、非反応性の生体適合性担体中の有効量の活性物質および/または所望により、抗酸化剤、保存剤などの任意選択の添加剤;ならびに、バイアル、ジャー、ポーチ、缶、瓶(ボトル)、布、エアロゾル缶、ブリスターパック、スクラッチ・アンド・スニフ香りパッチ、ペン様デバイス等の、活性物質を収容するための手段等を、関連付けて含むことができる。収容手段は、エアロゾル化またはポンピングによる噴霧のための手段を含むことができる。キットは、ヘキサデカナールの使用についてユーザに指示するための手段を、包装に取り付けられたラベルまたはタグおよび/または印刷された添付文章の形態でさらに含むことができる。キットの部品は、箱または袋などの包装材料内に含まれるか、または別々にパッケージングされてもよい。
【0034】
HEXの吸入またはにおいを嗅ぐことがストレスを軽減することが証明されているため、およびストレスが生活の多くの側面に影響を及ぼすため、本発明の活性物質は、様々なさらなる適応症において利用され得る。したがって、本発明は、以下のような1つまたは複数の健康上の利益の達成におけるHEXの使用を提供する:
-回復力を高め、病気に対する脆弱性を低減する;
-疾患状態に関連する症状の重症度を低減または軽減する;
-糖尿病患者に共通する症状を低減または軽減する;
-心臓疾患の進展に対するストレスの影響を低減する;
-治癒過程を短縮する;
-受胎の可能性を高める;
-情動状態、行動状態、認知状態または身体的状態を改善する;
-情動状態、または情動療法、心理学的療法もしくは認知療法の処置プロセスまたはプロトコルを支援する;
-認知能力を改善する;
-ストレスに関連するまたはストレスに誘発された状況下でパフォーマンスを改善する;
-性的能力を改善する;
-筋肉の緊張を緩和する;
-睡眠の質を改善する;
-パニック発作、喘息発作、情動的摂食、タバコ、アルコール、薬物または医薬の使用のようなストレス関連症状を軽減する;
-喫煙、アルコール使用、薬物および医薬の乱用などを止めることを支援する;
-ストレスによってまたはストレスにより引き起こされる症状のいずれかによって生じる副作用のいずれかを軽減または予防する;
-暴力または暴力的威嚇行動を低減する;
-囚人、兵士などの特別な集団におけるストレスを軽減する;
-労働者のパフォーマンスを改善する。
【0035】
いくつかの実施形態では、上記の適応症またはさらなる使用のいずれかは、ストレスの管理において、本発明の組成物および方法に関して本明細書で定義されるように活性物質を使用する実施形態である。
【0036】
本明細書における活性物質に対する全ての言及において、活性物質はHEXである。
【0037】
添付の図面を参照して、本発明のいくつかの実施形態を単なる例として本明細書に記載する。ここで図面を詳細に参照すると、示された詳細は、例示のためであり、本発明の実施形態の例示的な考察の目的のためであることが強調される。この点に関して、図面と共に行われる説明は、本発明の実施形態がどのように実施され得るかを当業者に明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】ヘキサデカナール(「ブルー」と称する)処置群対プラセボ群のストレスレベルを示すグラフである。
【
図2】OB処置群対プラセボ群における認知能力の評価尺度としてのストループテストによる注意評価尺度(attention measure)を示す棒グラフである。
【
図3】OB処置群対プラセボ群における認知能力の評価尺度としての記憶パラメータを示す棒グラフである。
【
図4A】男性の実験に沿ったストレス結果を示す。カラムはp値を表す。
【
図4B】女性のストレス結果を示す。カラムはp値を表す。
【
図5】実験に沿った平均HRを示す。条件間の全被験者にわたる差異は顕著であり、統計的に有意である(p<0.0001)。
【発明を実施するための形態】
【0039】
世界保健機関によれば、ストレスは現代の重大な問題であり、人々の身体的および精神的健康の両方に影響を及ぼす。ストレス対処法は、ストレスに対処するための認知的、行動的、心理的な取り組みであり、薬物療法、アロマセラピー、瞑想、心理療法などが含まれるが、これらに限定されない。ストレスを軽減するための薬物療法の使用における欠点は多く、ほとんどが認知能力障害、依存症、および乱用などの副作用に関連する。アロマセラピーや瞑想は密室や静かな領域など特定の環境を必要とし、また心理療法は長期間の処置が必要であり、その有効性は対象によって異なり得る。したがって、既知の方法および組成物の欠点を克服する、すなわち、容易に投与することができ、特定の環境を必要とせず、ほぼ即効性があり、既知の副作用を有さないストレス管理方法および組成物が必要とされている。
【0040】
本発明の態様を考えながら、本発明者らは、記憶テストおよびストループアッセイによってアッセイされるような認知パラメータに影響を及ぼすことなく、ストレス改善においてヘキサデカナールを効果的に使用することができることを発見した。
【0041】
認知力に影響を及ぼすことなくストレスを管理する能力は、ストレス処置モダリティの開発の中核をなし、ヘキサデカナールを有望な臨床ツールとする。
【0042】
本明細書で使用するとき、用語「約」は±10%を指す
【実施例】
【0043】
ここで以下の実施例を参照するが、これらの実施例は、上記の説明と共に、本発明のいくつかの実施形態を非限定的な様式で示す。
【0044】
概して、本明細書で使用される命名法および本発明で利用される実験手順は、分子技術、生化学的技術、微生物学的技術および組換えDNA技術を含む。このような技術は、文献において完全に説明されている。例えば、“Molecular Cloning: A laboratory Manual” Sambrook et al., (1989); “Current Protocols in Molecular Biology” Volumes I-III Ausubel, R. M., ed. (1994); Ausubel et al., “Current Protocols in Molecular Biology”, John Wiley and Sons, Baltimore, Maryland (1989); Perbal, “A Practical Guide to Molecular Cloning”, John Wiley & Sons, New York (1988); Watson et al., “Recombinant DNA”, Scientific American Books, New York; Birren et al. (eds) “Genome Analysis: A Laboratory Manual Series”, Vols. 1-4, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York (1998); 米国特許第4,666,828号;同第4,683,202号;同第4,801,531号;同第5,192,659号;および同第5,272,057号に記載の方法論;“Cell Biology: A Laboratory Handbook”, Volumes I-III Cellis, J. E., ed. (1994); “Culture of Animal Cells - A Manual of Basic Technique” by Freshney, Wiley-Liss, N. Y. (1994), Third Edition; “Current Protocols in Immunology” Volumes I-III Coligan J. E., ed. (1994); Stites et al. (eds), “Basic and Clinical Immunology” (8th Edition), Appleton &Lange, Norwalk, CT (1994); Mishell and Shiigi (eds), “Selected Methods in Cellular Immunology”, W. H. Freeman and Co., New York (1980);を参照されたい;利用可能なイムノアッセイは、特許および科学文献に広く記載されており、例えば、米国特許第3,791,932号号;同第3,839,153; 3,850,752号;同第3,850,578号;同第3,853,987号;同第3,867,517号;同第3,879,262号;同第3,901,654号;同第3,935,074号;同第3,984,533号;同第3,996,345号;同第4,034,074号;同第4,098,876号;同第4,879,219号;同第5,011,771号;および同第5,281,521号; “Oligonucleotide Synthesis” Gait, M. J., ed. (1984); “Nucleic Acid Hybridization” Hames, B. D., and Higgins S. J., eds. (1985); “Transcription and Translation” Hames, B. D., and Higgins S. J., eds. (1984); “Animal Cell Culture” Freshney, R. I., ed. (1986); “Immobilized Cells and Enzymes” IRL Press, (1986); “A Practical Guide to Molecular Cloning” Perbal, B., (1984) and “Methods in Enzymology” Vol. 1-317, Academic Press; “PCR Protocols: A Guide To Methods And Applications”, Academic Press, San Diego, CA (1990); Marshak et al., “Strategies for Protein Purification and Characterization - A Laboratory Course Manual” CSHL Press (1996);を参照されたい;これらの全ては、参照により本明細書に完全に記載されているかのように取り込まれる。他の一般的な参考文献は、本明細書を通して提供される。その中の手順は、当技術分野において周知であると考えられ、読む者の便宜のために提供される。その中に含まれる全ての情報は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0045】
実施例1
嗅覚ブルー(ヘキサデカナール)試験プロトコル
ヘキサデカナール
3つの化学物質(ペンタデカナール、ヘキサデカナール、およびヘプタデカナール)は全てTCIヨーロッパから購入した。両方ともTCIからのペンタデカナール、ヘキサデカナール、およびヘプタデカナールは、Caymen(CAS#629-80-1)からのものであった。
【0046】
販売業者によって指定されているように、ヘキサデカナールは冷凍庫内において-20℃で保管した。ペンタデカナールおよびヘプタデカナールについては、これは指示されていないので、それらを冷蔵庫内において+4℃で保管した。使用前のより良好な取り扱いのために、(密閉ボトル中の)化学物質を室温に20~30分間移した。化学物質を粉末として、または1,2-プロパンジオールで希釈して(振盪しながら37℃で溶解させ)使用した。使用後、酸化を避けるために、ボトル内で化学物質をN2で覆い、パラフィルムでボトル内に密封し、指示された温度で保管した。
【0047】
実験のために、プロピレングリコールに溶解した0.083Mのヘキサデカナール(HEX)を使用した。数分間加熱すると、プロセスが容易になる(37℃で充分である)。実験前に1日分を解凍するように、混合物を1日分に分注した。参加者は、100μlの0.083M HEXをジャーから10回連続で鼻から吸い込んだ後、30μlを含むバンドエイドを上唇にテープで貼り付け、曝露させた。バンドエイドは、実験中、曝露を確実にするために留めた。プロピレングリコールにはにおいがあるため、マスキング臭気(masking odor)を使用した。
【0048】
別の可能な希釈剤は、知覚されるにおいを有さない鉱油であり、したがって、マスキング臭気の必要はない。希釈は同じ(0.083M)である。
【0049】
初期有効性試験のためのプロトコル
設定
・30人の男性被験者、15人は嗅覚ブルー(OB-ヘキサデカナール)を使用し、15人はプラセボを使用する。参加者を、OB条件またはプラセボ条件のいずれかに無作為に割り当てた(二重盲検、被験者設計間)。
・2人の実験者-主実験者およびアシスタント(二重盲検実験を容易にするため)
・ストレスを上昇させるために被験者を制御された認知的ストレッサー(操作(manipulation))に曝す。
・OB/プラセボを被験者に提示して実際の試験開始前ににおいを嗅がせる。
・二重盲検実験-実験者および被験者は、OBとプラセボを識別しない。
・オフィス環境で実験を行う、被験者はコンピュータの前に座る-全ての試験がコンピュータ上で行われる。
・ストレスレベルを生理学的センサ(HR、顔面パラメータ)により監視する。
・標準的な認知機能検査-記憶テストおよびストループテストによって認知能力を測定する
・加えて、試験全体を通して-各ステップの前後に-主観的フィードバックを質問表に記録する。
・実験全体を参照のためにビデオ記録する。
【0050】
装置
・テストスクリプトおよび認知機能検査を有するコンピュータ/ラップトップ
・HRリストモニタおよび中央ユニット
・ビデオカメラ
・2×50mlの同一のボトル-1つはOB(溶媒+ヘキサデカナール)を含み、1つはジプロピレングリコール(DPG)のみを含む
【0051】
目標およびKPI
これらの試験の目標(ゴール)は、認知能力を損なうことなくストレスを軽減することにおける嗅覚ブルー(OB)の有効性を検証することである。
【0052】
KPI
1.主観的報告ストレスにおける群間の有意差-OB群についてより低い主観的ストレス
2.両方の試験で、パフォーマンスにおける群間の差はない:
a.記憶テスト-両方の条件間で思い出されるワード数に差はない
b.ストループテスト-両方の条件における匹敵するストループ効果
【0053】
試験設定
・被験者-男性のみ[平均年齢:24.97(SD=1.92)]。
・隔離されたオフィス空間(被験者の注意散漫を回避するため)には、テーブルおよび椅子が準備される。
・コンピュータ、Modifyスタンドアロンおよびビデオ記録が位置決めおよび準備される。
【0054】
試験運転
・被験者を案内し、コンピュータの前で行うように依頼する
・実験者は、一般的に試験手順について被験者に要点を説明する
・被験者は同意書(GDPR同意を含む)を記入し、金銭の受領書に署名する(添付文書を参照)
・被験者は、コンピュータ上で個人データを記入する
・実験者は、アシスタント(どのボトルが与えられたかを記録する)によって与えられた香りボトル(OBまたはプラセボ)を被験者に提示して、1分以内に5回鼻で吸い込んでにおいを嗅がせる(ボトル中の2%)
・被験者は、0(全くストレスなし)~10(極度のストレス)のスケールで自分の主観的ストレスレベルについて尋ねられる-コンピュータ上の質問表
・実験者はブリーフィングを完了し、被験者に3つの割り当て(assignment)を紹介する:記憶課題、ストループ課題、ストレス操作-被験者は与えられた3つのトピックスのうちの1つについて聴衆に5分間レクチャーする必要がある-ストレッサー
・被験者は、コンピュータ上の指示に従って実験を開始する:
1.主観的ストレスレベル
2.時間制限を伴う記憶テスト-認知機能検査#1
3.主観的ストレスレベル
4.ストループテスト-認知機能検査#2
5.主観的ストレスレベル
6.レクチャーの準備のために被験者に5分間与える
7.主観的ストレスレベル
8.実験の終了
・実験者は被験者に結果(感想)を聞く-一般的意見および気持ちを尋ねる
・主観的ストレスレベル
・試験終了
【0055】
測定
以下の生理学的測定値を記録する:
1.HR-心拍数;スタンドアロン測定およびHR手首モニターによる。以下の心理学的/主観的測定値を記録する:
2.記憶テスト-いくつかの単純な数学的課題を実行した後、次々と目にする一連の単語を記憶する能力;正しく記憶された単語の数をカウントすることによってスコア化する。
3.ストループテスト-文字の色に対応する色付きキーを正確に押す能力[Rosenbaum, D., Mama, Y., & Algom, D. (2017). Stand by your Stroop: Standing up enhances selective attention and cognitive control. Psychological science, 28(12), 1864-1867]。
4.主観的ストレスレベル-被験者がその瞬間に感じるストレスレベル;コンピュータに記録される。
【0056】
全てのデータは、後で分析するために、被験者を明確に割り当てて記録される。実験者のアシスタントは、各被験者について香りの種類-OBまたはプラセボ-を内密に記録する。
【0057】
データ分析を行って、OB群とプラセボ群を以下のパラメータについて比較する:
1.HR測定値
2.記憶テストのスコア
3.ストループテストのスコア
4.報告された主観的ストレスレベルおよび進展
【0058】
OB実験-第1の結果
図1は、実験に沿った全ての参加者にわたる主観的ストレス報告を示す。青色のカラムはブルー条件(OB)を表し、オレンジ色のカラムはプラセボ条件を表す。ストレススコアは、0(ストレスなし)~10(極限のストレス)であった。アスタリスクは有意差を示す(p<0.01)。*-有意差(p<0.01)
【0059】
X軸は、実験の異なる段階における5つの主観的ストレス報告を表す:
ストレス0-ベースライン
ストレス1-(ストレスを誘発する)割り当てを得て、物質のにおいを嗅いだ後
ストレス2-記憶テスト後
ストレス3-ストループテスト後(レクチャーの直前)
ストレス4-終了(レクチャーがないことを伝えられた後)
【0060】
図1の結果は、ストレス0(ベースライン)およびストレス4(終了)において群間に差がないことを示す。ブルー=DPG(溶媒)+ヘキサデカナール。プラセボ=DPG(溶媒)。しかしながら、他の全ての報告は、条件間で高度に有意な差を示す。3つの報告すべてにおいて、ブルー群は、プラセボ群よりも有意に低い程度のストレスを示した。
【0061】
認知能力:
ヘキサデカナールの使用は、ストープテストによって証明されるように、プラセボと比較して認知能力に影響を及ぼさない(
図2)。ストループは、注意力測定のゴールドスタンダードである。ブルー条件とプラセボ条件との間において、反応時間またはエラー数のいずれにおいても差は見られなかった。
【0062】
自由再生割り当てにおいて、条件間で差異は見られなかった(
図3参照)。
【0063】
本発明をその特定の実施形態と併せて説明してきたが、多くの代替形態、修正形態、および変形形態が当業者には明らかであることは明らかである。したがって、添付の特許請求の範囲の精神および広い範囲内に入るすべてのそのような代替形態、修正形態、および変形形態を包含することが意図される。
【0064】
本明細書において言及される全ての刊行物、特許および特許出願は、あたかも各個々の刊行物、特許または特許出願が具体的かつ個別に参照により本明細書に組み込まれることが示されるのと同程度に、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。さらに、本出願における任意の参考文献の引用または特定は、そのような参考文献が本発明の先行技術として利用可能であることを認めるものとして解釈されるべきではない。セクションの見出しが使用される限りにおいて、それらは必ずしも限定的であると解釈されるべきではない。加えて、本出願の任意の優先権書類は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0065】
実施例2
この試験の目的は、男性に対して以前に試験したHEXの女性被験者に対する効果を試験することであった。HEXは男性の中でストレスを軽減することが見出され、現在の実験では、男性被験者で行った試験を女性参加者で再現した。
【0066】
平均年齢27.34歳(SD4.65)の64人の参加者(35人の女性)において、半分がHEX群に参加し、残りの半分がプラセボ群に参加した。試験は、ラップトップコンピュータを使用して、レンタルオフィスにおいてイスラエルのRa’ananaで実施した。
【0067】
参加者は別々にRA’ananaフィスに入り、リサーチアシスタント(RA)が出迎えた。簡単な説明の後、参加者は液体の入ったボトルを紹介され、1分間そのボトルのにおいを嗅ぐよう求められた(通常の呼吸をするよう指示された)。においを嗅いだ後、RAは3つの課題(記憶、注意、人前で話すこと-ストレッサー)について説明した。参加者は各割り当ての前後でストレスレベルを報告した(7回)。最後の課題の直前に、参加者はこの課題がキャンセルされたことを知らされ、最後のストレスレベルを報告するように指示された。
【0068】
結果
最初のストレス報告は、操作前に与えられた;したがって、参加者の一般的なストレスレベルを明らかにすることができる。最初のストレス報告の平均スコアは、男性では3.32(SD 1.68)、女性では2.59(SD 1.76)であった。4人の参加者(女性2人)は、異常値回答のため分析から除外された:1人は極度のあがり症であることを報告し、1人は人前で話すのが好きであることを報告し、2人はまだストレスがないと報告した-彼らのストレスレベル報告は一致せず、実験を通して9~10であった。
【0069】
平均ストレス(スケール2~6)を従属変数とし、性別と香りの状態を独立変数とする二元配置分散分析を実施した。その結果は、性別の有意な主効果を示し、女性は男性よりも有意にストレスが低かった(それぞれ3.61と4.44)、F(1,56)=4.63、 p=0.03であった。香りの主効果も有意であり、F(1,56)=5.1、p=0.03であった。交互作用は認められなかった(F<0.1)。
図4は、実験に沿ったストレスレベルを示している。この結果は、男女ともに、HEXがストレスレベルに対してポジティブな生理的効果を有することを明確に裏付けている。
【0070】
図5は、HEX群における平均HRがプラセボ群におけるHRよりも低い2つの群間の差異を明確に示す平均HRデータ(男性および女性を合わせたもの)を示す。認知機能検査である記憶(自由再生)および注意(ストループテスト)の両方が群間で相違しなかった。
【0071】
HEXフレグランスは、身体的(HR)および心理学的(自己報告)の両方において、ストレスに対して連続的かつ安定した効果を有しているようである。この効果は、男性および女性の両方で同等であると思われた。認知機能検査後のストレス報告の低減は、結果の重要性を証明する。
【参考文献】
【0072】
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【国際調査報告】