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特表2023-510863高い酸素移動性を有するセリウム-ジルコニウム酸化物系酸素イオン伝導体(CZOIC)材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-15
(54)【発明の名称】高い酸素移動性を有するセリウム-ジルコニウム酸化物系酸素イオン伝導体(CZOIC)材料
(51)【国際特許分類】
   C01G 25/02 20060101AFI20230308BHJP
   B01J 23/10 20060101ALI20230308BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20230308BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20230308BHJP
   H01M 8/1253 20160101ALI20230308BHJP
   H01M 8/126 20160101ALI20230308BHJP
【FI】
C01G25/02
B01J23/10 A
B01D53/94 241
B01D53/94 245
B01D53/94 280
B01D53/94 222
H01M8/12 101
H01M8/1253
H01M8/126
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022542763
(86)(22)【出願日】2021-01-14
(85)【翻訳文提出日】2022-09-12
(86)【国際出願番号】 US2021013358
(87)【国際公開番号】W WO2021154499
(87)【国際公開日】2021-08-05
(31)【優先権主張番号】62/966,590
(32)【優先日】2020-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513089291
【氏名又は名称】パシフィック インダストリアル デベロップメント コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バートン,アナトリー
(72)【発明者】
【氏名】バートン,ミラ
(72)【発明者】
【氏名】チャン,グン
(72)【発明者】
【氏名】シェパード,デイヴィッド
【テーマコード(参考)】
4D148
4G048
4G169
5H126
【Fターム(参考)】
4D148AA06
4D148AA13
4D148AA14
4D148AA18
4D148AB01
4D148AB02
4D148AB09
4D148BA08Y
4D148BA18Y
4D148BA19Y
4D148BA28Y
4D148BA30Y
4D148BA31Y
4D148BA33Y
4D148BA35Y
4D148BA36Y
4D148BA37Y
4D148BA38Y
4D148BA41Y
4D148BA42Y
4D148BB01
4D148CC47
4D148DA03
4D148DA11
4D148EA04
4G048AA03
4G048AB01
4G048AC06
4G048AC08
4G048AD03
4G048AD06
4G048AE05
4G169AA01
4G169AA03
4G169BA05A
4G169BA05B
4G169BB06A
4G169BB06B
4G169BC39A
4G169BC40A
4G169BC41A
4G169BC42A
4G169BC43A
4G169BC43B
4G169BC44A
4G169BC51A
4G169BC51B
4G169CA03
4G169CA07
4G169CA09
4G169CA14
4G169CA15
4G169CC32
4G169CD08
4G169DA05
4G169EA01Y
4G169EA02Y
4G169FC08
5H126AA06
5H126BB06
5H126GG12
5H126JJ00
5H126JJ05
5H126JJ08
5H126JJ10
(57)【要約】
セリウム-ジルコニウム酸化物系イオン伝導体(CZOIC)材料であって、CZOIC材料の総質量を基準にして、5wt.%~最大95wt.%の範囲の量の酸化ジルコニウムと、95wt.%~5wt.%の範囲の酸化セリウムと、30wt.%以下の範囲の少なくとも1種類の酸化物または希土類金属と、を含む、材料。CZOIC材料は、1つ以上の膨張した単位格子と、秩序だったナノドメインを有する複数の結晶子とを含む構造を示す。CZOIC材料の構造は、SAED技術を用いて複数の(hkl)位置で測定された、歪みを示すd値によって定義される結晶格子を示し、同一の(hkl)位置のd値が、同じ(hkl)位置で基準セリウム-ジルコニウム材料について測定されたd値から約2%~約5%変動している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セリウム-ジルコニウム酸化物系イオン伝導体(CZOIC)材料であって、前記CZOIC材料の総質量を基準にして、5wt.%~最大95wt.%の範囲の量の酸化ジルコニウムと、95wt.%~5wt.%の範囲の酸化セリウムと、30wt.%以下の範囲のセリウム以外の希土類金属の少なくとも1種類の酸化物と、を含み、
前記CZOIC材料は、1つ以上の膨張した単位格子と、秩序だったナノドメインを有する複数の結晶子とを含む構造を示す、CZOIC材料。
【請求項2】
セリウム/ジルコニウムの質量比(Ce:Zr)が約0.2~約1.0である、請求項1に記載のCZOIC材料。
【請求項3】
前記希土類金属は、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、プラセオジム(Pr)、イットリウム(Y)およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1または2に記載のCZOIC材料。
【請求項4】
前記CZOIC材料の構造が、SAED技術を用いて複数の(hkl)位置で測定された、歪みを示すd値によって定義される結晶格子を示し、同一の(hkl)位置のd値が、同じ(hkl)位置で基準セリウム-ジルコニウム材料について測定されたd値から約2%~約5%変動している、請求項1~3のいずれか1項に記載のCZOIC材料。
【請求項5】
CZOIC材料が、TPR-Hで測定されるTmaxが250℃以下の温度で生じることで示される高い酸素イオン移動度および伝導率を示す、請求項1~4のいずれか1項に記載のCZOIC材料。
【請求項6】
該CZOIC材料は、1000℃で6時間の時効後、TPR-Hで測定されるTmaxが250℃以下の温度で生じることで示される高い酸素イオン移動度および伝導率を示す、請求項1~5のいずれか1項に記載のCZOIC材料。
【請求項7】
400℃未満の温度でTPR-Hによって測定される還元性酸素が少なくとも80%以上存在することで示される高い酸素イオン移動度および伝導率を示す、請求項1~6のいずれか1項に記載のCZOIC材料。
【請求項8】
500℃未満で炭素煤または炭化水素を酸化する能力によって示される高い酸素イオン移動度および伝導率を示す、請求項1~7のいずれか1項に記載のCZOIC材料。
【請求項9】
300℃以下で酸素貯蔵能(OSC)の少なくとも10%を一酸化炭素(CO)の酸化に利用可能であることによって示される高い酸素イオン移動度および伝導率を示す、請求項1~8のいずれか1項に記載のCZOIC材料。
【請求項10】
前記炭化水素を酸化する能力は、300℃未満で飽和炭化水素を酸化する能力を表す、請求項8に記載のCZOIC材料。
【請求項11】
三元触媒、四元触媒またはディーゼル酸化触媒における、請求項1~10のいずれか1項に記載のCZOIC材料の使用。
【請求項12】
酸素貯蔵材料を含む三元変換(TWC)触媒であって、前記酸素貯蔵材料が、請求項1~10のいずれか1項に記載のCZOIC材料を含む、触媒。
【請求項13】
電解質を有する固体酸化物形燃料電池(SOFC)であって、電解質は、請求項1~10のいずれか1項に記載のCZOIC材料を含む固体酸化物形燃料電池(SOFC)。
【請求項14】
速い酸素イオン移動性および高い伝導率を有する触媒であって、
少なくとも1種類の白金族金属(PGM)と、
セリウム-ジルコニウム酸化物系イオン伝導体(CZOIC)材料であって、前記CZOIC材料の総質量を基準にして、5wt.%~最大95wt.%の範囲の量の酸化ジルコニウムと、95wt.%~5wt.%の範囲の酸化セリウムと、30wt.%以下の範囲のセリウム以外の希土類金属の少なくとも1種類の酸化物と、を含む、前記CZOIC材料と、を含み、
前記CZOIC材料は、1つ以上の膨張した単位格子と、秩序だったナノドメインを有する複数の結晶子とを含む構造を示す、触媒。
【請求項15】
前記CZOIC材料は、セリウム/ジルコニウムの質量比(Ce:Zr)が約0.2~約1.0である、請求項14に記載の触媒。
【請求項16】
前記希土類金属は、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、プラセオジム(Pr)、イットリウム(Y)およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項14または15に記載の触媒。
【請求項17】
前記CZOIC材料の構造が、SAED技術を用いて複数の(hkl)位置で測定された、歪みを示すd値によって定義される結晶格子を示し、同一の(hkl)位置のd値が、同じ(hkl)位置で基準セリウム-ジルコニウム材料について測定されたd値から約2%~約5%変動している、請求項14~16のいずれか1項に記載の触媒。
【請求項18】
前記CZOIC材料が、
(i)TPR-Hで測定されるTmaxが250℃以下の温度で生じること、
(ii)400℃未満の温度でTPR-Hによって測定される還元性酸素が少なくとも80%以上存在すること、
(iii)500℃未満で炭素煤または炭化水素を酸化する能力、
(iv)300℃以下で酸素貯蔵能(OSC)の少なくとも10%を一酸化炭素(CO)の酸化に利用可能であること
のうちの少なくとも1つによって示される高い酸素イオン移動度および伝導率を示す、請求項14~17のいずれか1項に記載の触媒。
【請求項19】
前記CZOIC材料が、1000℃で6時間時効後に、
(i)TPR-Hで測定されるTmaxが250℃以下の温度で生じること、
(ii)400℃未満の温度でTPR-Hによって測定される還元性酸素が少なくとも80%以上存在すること、
(iii)500℃未満で炭素煤または炭化水素を酸化する能力、
(iv)300℃以下で酸素貯蔵能(OSC)の少なくとも10%を一酸化炭素(CO)の酸化に利用可能であること
のうちの少なくとも1つによって示される高い酸素イオン移動度および伝導率を示す、請求項14~18のいずれか1項に記載の触媒。
【請求項20】
前記炭化水素を酸化する能力は、300℃未満で飽和炭化水素を酸化する能力を表す、請求項18または19に記載の触媒。
【請求項21】
前記触媒は、三元触媒、四元触媒またはディーゼル酸化触媒である、請求項14~20のいずれか1項に記載の触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、広義には、酸素センサーや触媒として、あるいは固体酸化物燃料電池中で、あるいは速い酸素移動性と伝導率とを必要とする他の用途において使用されるセリウム-ジルコニウム酸化物系イオン伝導体(CZOIC)材料に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術の記載内容は、単に本開示に関連する背景情報を提供するものにすぎず、先行技術を構成しない場合もある。三元変換(TWC)触媒では、酸素貯蔵材料としてセリウム-ジルコニウム酸化物系イオン伝導体(CZOIC)材料が広く用いられている。この用途で活用するために、CZOIC材料には、酸素貯蔵能が高く、例えば1150℃までの広い温度範囲で焼結せず、効果的な物質輸送特性を発揮するためにメソ多孔性になり、貴金属と共存できることが求められる。CZOIC材料に対するもうひとつの重要な要件に、容易に酸素移動できることがあげられる。酸素移動性は、特に加速時におけるCO/HCブレークスルーを防止する上で、排ガスに生じる急激な環境変化の過程での酸素の放出と再吸着の両方に重要である。
【0003】
CZOIC材料での酸素移動性は、酸化物の組成、存在する希土類ドーパントの種類と量、結晶相(正方晶、立方晶、パイロクロアなど)、結晶子の大きさなど、複数の要因の相互作用に依存する。過去25年間に実施されたCZOIC材料の酸素移動性に関する広範な研究により、300~600℃の温度範囲においてTWC触媒の効率的な動作を可能にする材料が開発されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、CO、NO、HCおよび煤の排出水準に関する新たな厳しい要件により、材料の格子構造内での酸素の移動度とCeOの還元の両方について、相当に低い温度、理想的には周囲温度で実現しやすい性質を示す新たなCZOIC材料の探索が必要になっている。このような酸素移動が速い新たなCZOIC材料の開発は、TWC触媒の用途にかぎらず、低温での高い伝導率が求められる固体酸化物燃料電池(SOFC)の電解質として使用するためにも重要である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書の説明から、応用可能なさらに別の領域が明らかになるだろう。この説明と具体例は、例示のみを目的としており、本開示の範囲を限定することを意図していない旨を理解されたい。
【0006】
本開示が十分に理解されるように、以下、例として与えられる本開示の様々な形態について、添付の図面を参照しながら説明する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、1000℃で6時間時効後のセリア-ジルコニア基準材料(CZ-Reference)と比較した、平均粒度(d50)の異なる本開示の2種類のCZOIC材料(CZ-1、CZ-2)のTPR-Hプロファイルを示すグラフである。
図2図2は、実測Tmaxの安定性を決定するために連続して実行されたCZOIC材料(CZ-1)のTPR-Hプロファイルを示すグラフである。
図3図3は、本開示のCZOIC材料またはセリア-ジルコニア基準材料の存在下および非存在下でのカーボンブラックの酸化についての微分熱重量測定(DTG)曲線を示すグラフである。
図4図4は、制限視野電子回折(SAED)によって測定した、セリア-ジルコニア基準材料の結晶学的構造を示す図である。
図5図5は、制限視野電子回折(SAED)によって測定した、本開示のCZOIC材料の結晶学的構造を示す図である。
図6図6は、制限視野電子回折(SAED)によって測定した、本開示の別のCZOIC材料の結晶学的構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書で説明する図面は、例示のためだけのものであり、どのような形であっても本開示の範囲を限定することを意図したものではない。
【0009】
以下の説明は、本質的には単なる例にすぎず、決して本開示またはその用途もしくは使用法を限定することを意図したものではない。例えば、本明細書に含まれる教示内容に従って製造および使用されるセリウム-ジルコニウム酸化物系イオン伝導体(CZOIC)材料については、本開示全体を通して、その組成および使用法を一層完全に例示するために、車両の排ガスを低減するのに使用される三元触媒(TWC)との関連で説明する。そのようなCZOIC材料を、ガソリンまたはディーゼルエンジンからHCやCO、NOおよび煤を除去するための他の触媒、ディーゼル酸化触媒および他の酸化触媒、あるいは固体酸化物燃料電池(SOFC)で用いられる酸素センサーまたは電解質などの他の用途に取り入れて使用することは、本開示の範囲内にあると考えられる。明細書と図面の全体を通して、対応する参照数字は、同様のまたは対応する部分および特徴を示すことを理解されたい。
【0010】
本開示は主に、1つ以上の膨張した単位格子と、秩序だったナノドメインを有する複数の結晶子とを含む構造を示すセリウム-ジルコニウム酸化物系イオン伝導体(CZOIC)材料を提供する。CZOIC材料は、酸化ジルコニウムの酸化物、酸化セリウムの酸化物、およびセリウム以外の少なくとも1種類の希土類金属の酸化物を含むものであってもよいし、実質的にこれらの酸化物からなるものであっても、これらの酸化物からなるものであってもよい。CZOIC材料は、セリウム対ジルコニウムの質量比(Ce:Zr)が約0.2~約1.0になるように、酸化セリウムと酸化ジルコニウムとを含んでもよい。あるいは、Ce:Zr比は、0.3~0.9の範囲であり、あるいは0.4~0.8の範囲である。
【0011】
本開示の目的で、要素での「少なくとも1つ」および「1つ以上の」という表現を同義に使用しており、これらの表現が同じ意味を持つ場合もある。単一の要素または複数の要素を含むことを示すこれらの表現を、要素の最後に接尾辞「(s)」を付して表す場合もある。例えば、「少なくとも1種の単位格子」、「1種類以上の単位格子」および「単位格子(s)」を同義に用いることができ、これらの語が同じ意味を持つことを意図している。
【0012】
本開示の目的で、本明細書では、「約」および「実質的に」という語は、当業者に知られた予想されるばらつき(例えば、測定における限界および変動)による測定可能な値および範囲に関して使用される。
【0013】
さらに、本明細書で「[第1の数]と[第2の数]との間」または「[第1の数]から[第2の数]の間」であると述べるパラメータの範囲はいずれも、言及された数を含むことを意図している。すなわち、範囲は、「[第1の数]から[第2の数字]まで」として示した範囲と同様に解釈されることを意図している。
【0014】
CZOIC材料では、酸化ジルコニウムの含有量が、CZOIC材料の総重量に対して約5重量%~95wt.%である。望ましい場合には、CZOIC材料の酸化ジルコニウム含有量は、CZOIC材料の総重量に対して、10重量%~90重量%の範囲、あるいは約20wt.%~約80wt.%の範囲であってもよい。CZOIC材料の酸化セリウム含有量は、CZOIC材料の総重量に対して、5重量%~95重量%の範囲、あるいは約10wt.%~約90wt.%の範囲、あるいは約20wt.%~約80wt.%の範囲であってもよい。
【0015】
本開示の目的のために、「重量」という語は、グラム、キログラムなどの単位で表記されるような質量値を意味する。さらに、端点による数値範囲の記載は、端点およびその数値範囲内のすべての数を含む。例えば、40重量%~60重量%(40wt.%~60wt.%とも表記)の範囲の濃度は、40重量%、60重量%およびその間のすべての濃度(例えば、40.1%、41%、45%、50%、52.5%、55%、59%など)を含む。
【0016】
本開示の別の態様によれば、CZOIC中に存在するセリウム(Ce)以外の少なくとも1種類の希土類金属としては、ジスプロシウム(Dy)、エルビウム(Er)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ホルミウム(Ho)、ランタン(La)、ルテチウム(Lu)、ネオジム(Nd)、プラセオジム(Pr)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、スカンジウム(Sc)、テルビウム(Tb)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、イットリウム(Y)またはこれらの混合物があげられる。あるいは、CZOIC材料中に存在するセリウム以外の希土類金属は、ランタン、ネオジム、プラセオジム、イットリウムまたはこれらの組み合わせからなる群から選択される。CZOIC中のこれらの希土類金属の含有量は、CZOIC材料の総重量に対して、0wt.%を超えて最大35重量%まで、あるいは、30wt.%未満、あるいは、約5wt.%から25wt.%までの範囲であってよい。OSM中に存在する希土類金属の量は、CZOIC材料の結晶格子を安定化させるのに十分な量である。
【0017】
望ましい場合、CZOIC材料は、銅、鉄、ニッケル、コバルト、マンガンまたはそれらの組み合わせからなる群から選択されるがこれらに限定されるものではない、1種類以上の遷移金属をさらに含んでもよい。CZOIC材料中に存在するこれらの任意の遷移金属の量は、0重量%から最大8重量%の範囲、あるいは約1wt.%~約7wt.%の範囲、あるいは約2wt.%~約5wt.%の範囲であってもよい。
【0018】
CZOIC材料が示す酸素移動性は、典型的な排ガス混合物中でのCe4+とCe3+との間で酸化還元反応が生じやすい性質と、CZOIC材料の結晶格子構造中に存在する異価イオン(La3+、Nd3+、Y3+など)の組み合わせに起因している。このような異価イオンが存在することで、格子構造に酸素空孔が形成され、酸素が結晶子の塊から表面に移動したり、逆に表面からバルクに移動したりすることができるようになる。
【0019】
酸化セリウムは、非化学量論的なCeO2-x表面欠陥サイトを形成する能力を有し、これが酸素空孔と表面活性酸素種の形成につながる。酸化ジルコニウムも、同様の効果を示す。酸化セリウムと酸化ジルコニウムの両方を組み合わせてCZOIC材料を形成すると、この効果はさらに高まる。また、酸化ジルコニウムは、Ce4+からCe3+への還元性を高めることで、表面酸素の移動度だけでなく、格子酸素種の移動度も増加させる。立方晶の酸化セリウム格子に酸化ジルコニウムを導入すると、セリウム-ジルコニウム酸化物系イオン伝導体(CZOIC)材料に欠陥の発生が増加し、格子酸素の移動が促進されるため、表面で生じる酸化還元反応がCZOIC材料の内部でも起こるようになる。また、酸化ジルコニウムは、高温での使用時に結晶構造を安定させる機能も有する。
【0020】
以下の具体例は、本開示の教示内容に従って作製したセリウム-ジルコニウム酸化物系イオン伝導体(CZOIC)とその特性を説明するためのものであり、本開示の範囲を限定するように解釈されるべきではない。当業者であれば、本開示に照らして、本開示の意図または範囲から逸脱したりこれを越えたりすることなく、本明細書に開示した特定の実施形態に多くの変更を加えることが可能であり、それでもなお同様の結果または類似の結果を得ることができる旨を理解するであろう。また、当業者であれば、本明細書で報告した特性はいずれも、日常的に測定され、複数の異なる方法で得られる特性を表していることも、理解するであろう。本明細書で説明した方法は、そのような方法の1つを表しており、本開示の範囲を越えることなく、他の方法を用いることができる。
【0021】
ここで図1を参照すると、平均粒度(d50)の異なる本開示の2種類のCZOIC材料(CZ-1、CZ-2)について1000℃で6時間時効後に得られるTPR-Hプロファイルと、1000℃で6時間時効後のセリア-ジルコニア基準材料(CZ-Reference)のTPR-Hプロファイルを示すグラフが提供されている。Micromeritics Autochem 2920 II装置を用いて、25℃から900℃の温度範囲で、ランプ速度を10℃/分、90%Ar/10%Hガスの流速を5cm/分の一定にして、温度プログラム還元(TPR)試験を実施した。TPR-Hは、金属酸化物の還元過程に関わる工程と活性酸素種の量とを示すことができる測定値である。CZ-1とCZ-2の違いは、CZOIC材料の平均粒度(D50)である。具体的には、CZ-1のCZOIC材料のD50は1.1マイクロメートル(μm)、CZ-2のD50は0.5μmである。CZ-Referenceは、例えば、内容全体を本明細書に援用する欧州特許第1527018号に記載された実施例で説明されているものなど、従来のセリア-ジルコニア材料を表す。
【0022】
高温で生じる還元プロセスは、通常、金属酸化物の構造を有する酸素原子の移動度に関連している。本開示のCZOIC材料は、酸素イオン移動度と伝導率が高い。このことは、TPR-Hで測定されるTmaxが250℃以下の温度で生じることからも明らかである(CZ-1、CZ-2を参照のこと)。一方、CZ-Referenceでは、TPR-Hで測定されるTmaxが約475℃の温度で生じる。本開示のCZOIC材料についてTPR-Hで測定されるTmaxは、1000℃で6時間の時効後にも250℃以下の温度にとどまっている。さらに、本開示のCZOIC材料(CZ-1、CZ-2)のTPR-H2プロファイルは、400℃未満の温度で還元性酸素が少なくとも80%以上存在することを示している。最後に、図2に示すように、CZ-1についてTPR-H2を連続的に(1回目~6回目)測定することで、本開示のCZOIC材料でのTmaxの発生が、わずかに高温側にシフトするだけで比較的一定であることが示される。
【0023】
ここで図3を参照すると、本開示のCZOIC材料(CZ-1)またはセリア-ジルコニア基準材料(CZ-Reference)の存在下および非存在下でのカーボンブラックの酸化についての微分熱重量測定(DTG)曲線を示すグラフが提供されている。カーボンブラックは、ディーゼルエンジンから排出される煤を模した模擬煤として使用される。本開示のCZOIC材料(CZ-1)およびセリア-ジルコニア基準材料(CZ-Reference)のDTG曲線は、混合酸化物材料(CZ-1またはCZ-Reference)95%と混合した5%のカーボンブラックを用いて得られる。DTG曲線は、25℃から700℃まで10℃/分のランプレートで加熱したSeiko EXTAR 7300 TG/DTA/DSC装置を用いて、CZOIC材料の試料25mgについて測定される。
【0024】
DTG曲線は、指定された温度または時間にわたる加熱等温線または冷却等温線での重量の減少または増加(-dm/dt)の測定値を表す。複数の分解過程の発生が重なる場合があり、例えば、ある分解反応が終了する前に第2の(より高温の)分解過程が始まる場合がある。しかしながら、ほとんどの場合、TG曲線の一次微分(DTG曲線)を測定しなければ、信頼できる定性的評価や定量的評価は不可能である。任意の温度におけるDTG曲線のピークの高さが、質量損失の割合を示す。
【0025】
図3において、本開示のCZOIC材料(CZ-1)は、500℃未満で炭素煤または炭化水素を酸化する能力によって現れる高い酸素イオン移動度と伝導率を示す。対照的に、セリア-ジルコニア基準材料(CZ-Reference)は、500℃を超える温度で炭素煤または炭化水素を酸化するか、あるいは300℃未満で飽和炭化水素を酸化する能力である。CZOIC材料がない場合のカーボンブラックは、600℃に近い温度で酸化することがわかっている。さらに、DTG曲線は、300℃以下で酸素貯蔵能(OSC)の少なくとも10%を一酸化炭素(CO)の酸化に利用可能であることを示している。
【0026】
ここで図4図6を参照すると、制限視野電子回折(SAED)を用いて測定した、セリア-ジルコニア基準材料(図4)および本開示のCZOIC材料(図5および図6)の結晶学的構造が提供されている。制限視野電子回折(SAED)は、結晶学的な実験手法であり、透過電子顕微鏡(TEM)で電子が試料を透過するように薄い結晶子試料(厚さ100nm程度)に高エネルギー電子の平行ビームを照射する。電子の波長は通常数千分ナノメートルであり、結晶子試料の原子間隔はその約100倍大きいため、電子は回折格子として作用する原子で回折される。このため、電子の一部は試料の結晶構造によって決まる特定の角度に散乱され、残りの電子が偏向せずに試料を通過する。その結果、得られるTEM像100(図4~6参照)には、回折パターンを構成する一連のスポットになる。これらのスポットは、それぞれ試料の結晶構造の回折条件に対応する。SAEDは、結晶構造を特定したり、結晶欠陥111(図4図6参照)を調べたりするのに使用される。この点、SAEDはX線回折と似ているが、X線回折では通常、大きさが数センチメートルの領域を調べるのに対し、SAEDでは数百ナノメートルという小さな領域を調べることができる点が異なる。
【0027】
本開示のCZOIC材料の構造(図5および図6)は、SAED技術を使用して複数の(hkl)位置で測定されたd値によって定義される結晶格子を示す。より具体的には、図5および図6において、異なる晶帯軸に沿ってCZ-1の異なる結晶子が示されている。本開示のCZOIC材料で測定されたd値は、歪みを示す。CZ-Referenceおよび本開示のCZOIC材料について、複数の(hkl)位置で測定したd値を表1に示す。本開示のCZOIC材料の同一の(hkl)位置でのd値は、同一の(hkl)位置で基準セリウム-ジルコニウム材料で測定されたd値から約2%~約5%変動している。
【0028】
【表1】
【0029】
本開示の別の態様によれば、少なくとも1種類の白金族金属(PGM)と、上述し、かつ本明細書でさらに定義するようなセリウム-ジルコニウム酸化物系イオン伝導体(CZOIC)材料とを含む触媒が提供される。この触媒は、三元触媒、四元触媒またはディーゼル酸化触媒であってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0030】
CZOIC材料は、三元触媒(TWC)の組成の重要な部分を担っている。なぜなら、CZOIC材料が燃料のリーン条件下およびリッチ条件下での酸素の貯蔵と放出に重要な役割を果たし、それによってCOや揮発性有機物の酸化とNOの還元が可能になるためである。また、触媒性能の効率のよさは、比表面積が大きく、熱的安定性が高く、酸素貯蔵能が高いことにも関連する。
【0031】
触媒組成物には、この触媒組成物全体の質量に対して約0.01wt.%~10wt.%の量で1種類以上の白金族金属(PGM)を取り入れる。あるいは、PGMは、約0.05wt.%~約7.5wt.%、あるいは1.0wt.%~約5wt.%の範囲の量で存在する。白金族金属としては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)およびロジウム(Rh)があげられるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
以上、本明細書において、明確かつ簡潔な明細書を書くことができるような方法で実施形態を説明してきたが、本発明から逸脱することなく、これらの実施形態を様々に組み合わせたり、分離したりすることが意図され、また理解されるであろう。例えば、本明細書に記載したすべての好ましい特徴は、本明細書に記載した本発明のすべての態様に適用可能であることが理解されるであろう。
【0033】
本発明の様々な形態についての上述した説明は、例示および説明の目的で提示されたものである。網羅的であることや、開示された厳密な形態に本発明を限定することは、意図されていない。上記の教示内容に照らして、多数の改変または変形を施すことが可能である。ここに示す形態は、本発明の原理およびその実用的な用途を最もよく示すことで、当業者が、考えられる特定の用途に適した様々な改変を施して様々な形態で本発明を利用できるようにするために選択され、説明されたものである。このようなすべての改変および変形は、特許請求の範囲が公正かつ適法に、公平に与えられる範囲に従って解釈されると、添付の特許請求の範囲によって決定される本発明の範囲内である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】