(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-15
(54)【発明の名称】ICD STATシグナル伝達が改変されたCD122
(51)【国際特許分類】
C12N 15/12 20060101AFI20230308BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20230308BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230308BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20230308BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20230308BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20230308BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230308BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20230308BHJP
A61P 31/10 20060101ALI20230308BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20230308BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230308BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20230308BHJP
【FI】
C12N15/12 ZNA
C12N15/63 Z
C12N5/10
C12N5/0783
A61P37/04
A61K35/17 Z
A61P35/00
A61P31/12
A61P31/10
A61P31/04
A61K48/00
A61K31/7088
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022542896
(86)(22)【出願日】2021-01-14
(85)【翻訳文提出日】2022-09-05
(86)【国際出願番号】 US2021013519
(87)【国際公開番号】W WO2021146485
(87)【国際公開日】2021-07-22
(32)【優先日】2020-01-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522232064
【氏名又は名称】シンセカイン インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ペナフロル アスプリア ポール-ジョセフ
(72)【発明者】
【氏名】ルパルダス パトリック ジェイ.
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA92X
4B065AA92Y
4B065AA94X
4B065AA94Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA26
4B065CA44
4B065CA46
4C084AA13
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZB091
4C084ZB092
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZB331
4C084ZB332
4C084ZB351
4C084ZB352
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZB09
4C086ZB26
4C086ZB33
4C086ZB35
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB37
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZB09
4C087ZB26
4C087ZB33
4C087ZB35
(57)【要約】
本開示は、1つまたは複数のSTAT3結合モチーフを含む、改変型ヒトCD122に関する。いくつかの態様では、改変型ヒトCD122は、改変型オルソゴナルヒトCD122であり、これはコグネイトオルソゴナルIL2によって選択的に活性化され得る。改変型ヒトCD122は、コグネイトIL2リガンドに結合すると、ロバストで持続的なSTAT3およびSTAT5のシグナル伝達を刺激することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
改変型ヒトCD122をコードするポリヌクレオチドであって、該改変型ヒトCD122が1つまたは複数のSTAT3結合モチーフを含む、前記ポリヌクレオチド。
【請求項2】
改変型ヒトCD122が、1つまたは複数のSTAT3結合モチーフに融合されたオルソゴナルヒトCD122または天然ヒトCD122を含む、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項3】
オルソゴナルヒトCD122が、天然ヒトCD122と比べて、R41、R42、Q70、K71、T73、T74、V75、S132、H133、Y134、F135、E136、およびQ214から選択される1つまたは複数の残基で改変されている、請求項2に記載のポリヌクレオチド。
【請求項4】
オルソゴナルヒトCD122が、天然ヒトCD122と比べて、H133およびY134で改変されている、請求項2に記載のポリヌクレオチド。
【請求項5】
ヒトCD122が、2つまたは3つのSTAT3結合モチーフに連結されている、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項6】
改変型ヒトCD122が、SEQ ID NO: 1と少なくとも90%同一である配列を含み、かつ改変型ヒトCD122が、天然IL2ポリペプチドまたはオルソゴナルIL2ポリペプチドに結合する、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項7】
1つまたは複数のSTAT3結合モチーフがYX1X2Qの配列を含み、ここでX1およびX2が任意のアミノ酸である、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項8】
X1がL、R、F、Mからなる群より選択され、かつX2がR、K、HおよびPからなる群より選択される、請求項7に記載のポリヌクレオチド。
【請求項9】
STAT3認識モチーフが、
(a)YLRQ (SEQ ID NO: 11)、
(b)YLKQ (SEQ ID NO: 12)、
(c)YRHQ (SEQ ID NO: 13)、
(d)YLRQ (SEQ ID NO: 14)、
(e)YFKQ (SEQ ID NO: 15)、
(f)YLPQ (SEQ ID NO: 16)、
(g)YMPQ (SEQ ID NO: 17)、および
(h)YDKPH (SEQ ID NO: 18)
からなる群より選択される、請求項7に記載のポリヌクレオチド。
【請求項10】
1つまたは複数のSTAT3結合モチーフが、天然ヒトCD122またはオルソゴナルヒトCD122の細胞内ドメインのC末端に、任意でリンカーを介して融合されている、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項11】
STAT3結合モチーフの少なくとも1つが、天然ヒトCD122に対応する355位と364位の間に位置し、かつ天然ヒトCD122のYFTY、YDPY、またはYSEEのアミノ酸配列が、STAT3認識モチーフの少なくとも1つに置き換わっている、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項12】
改変型ヒトCD122が、天然ヒトCD122と比べて、R41、R42、Q70、K71、T73、T74、V75、S132、H133、Y134、F135、E136、およびQ214から選択される1つまたは複数の残基でさらに改変されている、請求項11に記載のポリヌクレオチド。
【請求項13】
リンカーがジヌクレオチドGGを含む、請求項10に記載のポリヌクレオチド。
【請求項14】
改変型CD122が、リンカーとSTAT3結合モチーフの少なくとも1つとを含むアミノ酸配列を含み、該アミノ酸配列が、
(i)GGYLRQ (SEQ ID NO: 3)、
(j)GGYLKQ (SEQ ID NO: 4)、
(k)GGYRHQ (SEQ ID NO: 5)、
(l)GGYLRQ (SEQ ID NO: 6)、
(m)GGYFKQ (SEQ ID NO: 7)、
(n)GGYLPQ (SEQ ID NO: 8)、
(o)GGYMPQ (SEQ ID NO: 9)、および
(p)GGYDKPH (SEQ ID NO: 10)
からなる群より選択される、請求項13に記載のポリヌクレオチド。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドを含む、発現ベクター。
【請求項16】
請求項1~14のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドを含む、細胞。
【請求項17】
キメラ抗原受容体(CAR)をさらに発現し、かつヒト免疫細胞である、請求項16に記載の細胞。
【請求項18】
CARが、CD19 CARおよびBCMA CARからなる群より選択される、請求項17に記載の細胞。
【請求項19】
細胞において受容体を選択的に活性化するためのキットであって、
(a)請求項1に記載のポリヌクレオチドによってコードされる改変型ヒトCD122を発現する細胞、および
(b)ヒトIL2ポリペプチド
を含む、前記キット。
【請求項20】
改変型ヒトCD122が、SEQ ID NO: 1によりコードされる天然ヒトCD122を含み、かつヒトIL2ポリペプチドが、SEQ ID NO: 2によりコードされる天然ヒトIL2ポリペプチドである、請求項19に記載のキット。
【請求項21】
改変型ヒトCD122が、オルソゴナルヒトCD122を含み、ヒトIL2ポリペプチドが、オルソゴナルヒトIL2ポリペプチドであり、かつ該オルソゴナルヒトIL2ポリペプチドが、天然ヒトCD122と比較して、改変型ヒトCD122に優先的に結合する、請求項19に記載のキット。
【請求項22】
オルソゴナルヒトIL2ポリペプチドが、天然ヒトCD122に対応する位置の残基T51、R81に、天然ヒトIL2ポリペプチドのアミノ酸以外のアミノ酸による少なくとも1つのアミノ酸置換を含むか、または天然ヒトCD122に対応する位置M23にアラニンを含み、かつ天然ヒトCD122に対応する位置E15、H16、L19およびD20の各々にアミノ酸置換を含む、請求項21に記載のキット。
【請求項23】
オルソゴナルヒトIL2ポリペプチドが、[E15D, E15T, E15A, E15S]、[H16N, H16Q]、[L19V, L19I, L19A]、[D20L, D20M]、[Q22S, Q22T, Q22E, Q22K, Q22E]、[M23A, M23W, M23H, M23Y, M23F, M23Q, M23Y]、[G27K, G27S]、[R81D, R81Y]、[N88E, N88Q]、[T51I]から選択される、天然ヒトIL2の位置に対応する1つまたは複数のアミノ酸置換を含む、請求項19に記載のキット。
【請求項24】
改変型ヒトCD122が、哺乳動物細胞によって発現される、請求項19に記載のキット。
【請求項25】
哺乳動物細胞が免疫細胞である、請求項24に記載のキット。
【請求項26】
免疫細胞がT細胞である、請求項25に記載のキット。
【請求項27】
T細胞が、キメラ抗原受容体(CAR)-T細胞である、請求項26に記載のキット。
【請求項28】
1つまたは複数のSTAT3結合モチーフを含む改変型ヒトCD122を発現する免疫細胞を刺激する方法であって、該免疫細胞をヒトIL2ポリペプチドと接触させる工程を含む、前記方法。
【請求項29】
刺激がエクスビボで行われる、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
刺激がインビボで行われる、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
改変型ヒトCD122が、1つまたは複数のSTAT3結合モチーフに融合されたオルソゴナルヒトCD122または天然ヒトCD122を含む、請求項28に記載の方法。
【請求項32】
STAT3結合モチーフの少なくとも1つが、天然ヒトCD122に対応する381位と390位の間に位置し、かつ天然ヒトCD122のYFTY、YDPY、またはYSEEのアミノ酸配列が、STAT3結合モチーフの少なくとも1つに置き換わっている、請求項28に記載の方法。
【請求項33】
1つまたは複数のSTAT3結合モチーフを含む改変型ヒトCD122を発現する免疫細胞を個体に導入する工程、および
該個体にヒトIL2ポリペプチドを投与し、それによって該個体における免疫応答を活性化する工程
を含む、請求項30に記載の方法。
【請求項34】
改変型ヒトCD122が、オルソゴナルヒトCD122を含み、ヒトIL2ポリペプチドが、オルソゴナルヒトIL2ポリペプチドであり、かつ該オルソゴナルヒトIL2ポリペプチドが、天然ヒトCD122に結合するよりも改変型ヒトCD122に優先的に結合して改変型ヒトCD122を活性化する、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
1つまたは複数のSTAT3結合モチーフがYX1X2Qの配列を含み、ここでX1およびX2が任意のアミノ酸である、請求項28に記載の方法。
【請求項36】
X1がL、R、FおよびMからなる群より選択され、かつX2がR、K、HおよびPからなる群より選択される、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
オルソゴナルヒトCD122が、
GGYLRQ (SEQ ID NO: 2)、
GGYLKQ (SEQ ID NO: 3)、
GGYRHQ (SEQ ID NO: 4)、
GGYLRQ (SEQ ID NO: 5)、
GGYFKQ (SEQ ID NO: 6)、
GGYLPQ (SEQ ID NO: 7)、
GGYMPQ (SEQ ID NO: 8)、および
GGYDKPH (SEQ ID NO: 9)
からなる群より選択される配列を含む、請求項34に記載の方法。
【請求項38】
免疫細胞がT細胞である、請求項33に記載の方法。
【請求項39】
T細胞がCAR-T細胞である、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
免疫細胞がCD8+ T細胞であり、個体が癌を有する、請求項33~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
免疫細胞がTreg細胞であり、個体が自己免疫疾患を有する、請求項33~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
個体が、ウイルス、細菌または真菌の感染症を有する、請求項33~39のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2020年1月14日に出願された米国仮出願第62/961,157号の優先権およびその恩典を主張するものである。当該仮出願の全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み入れられる。
【図面の簡単な説明】
【0002】
【
図1】細胞膜と会合しているオルソゴナルCD122(IL2Rb)ポリペプチドの概略図(左)、およびSTAT3モチーフYRHQを含むオルソゴナルCD122ペプチドの細胞内ドメインがグリシン-グリシンリンカーを介してカルボキシ末端に付加されている本開示の遺伝子操作された受容体の代表的な実施態様の一構成(右)を提供する。
【
図2】示されたオルソゴナルCD122(hoRb、中央パネル)および追加のSTAT3モチーフを含むオルソゴナルCD122(右パネル)が、3F8細胞において効率よく導入されて発現される効率的な形質導入と発現を確認するFACS研究の結果を提供する。
【
図3】示されたオルソゴナルCD122(hoRb)および追加のSTAT3モチーフを含むオルソゴナルCD122を導入された3F8 T細胞クローンが、オルソゴナルリガンドに応答して上昇したCD25とCD122の発現を有する相対的割合を評価するFACS研究の結果を提供する。
【
図4】wtIL2に応答してIL2 wtIL2Rb ICD(黒の四角)、オルソゴナルリガンドSTK-009の投与に応答してwt IL2R ICD(灰色の円)、およびオルソゴナルリガンドSTK-009の投与に応答して追加のSTAT3モチーフを含むIL2 wtIL2Rb ICD、を含むオルソゴナルhoRb受容体構築物を発現するように操作されたCD4+ T細胞(左上)、CD8+ T細胞(右上)におけるphosphoSTAT3(pSTAT3)レベル;ならびにwtIL2に応答してIL2 wtIL2Rb ICD(黒の四角)、オルソゴナルリガンドSTK-009の投与に応答してwt IL2R ICD(灰色の円)、およびオルソゴナルリガンドSTK-009の投与に応答して追加のSTAT3モチーフを含むIL2 wtIL2Rb ICD、を含むオルソゴナルhoRb受容体構築物を発現するように操作されたCD4+ T細胞(左下)、CD8+ T細胞(右下)におけるphosphoSTAT5(pSTAT5)レベルの評価結果を提供する。
【
図5】wtIL2に応答してIL2 wtIL2Rb ICD(黒の四角)、オルソゴナルリガンドSTK-009の投与に応答してwt IL2R ICD(灰色の円)、およびオルソゴナルリガンドSTK-009の投与に応答して追加のSTAT3モチーフを含むIL2 wtIL2Rb ICD、を含むオルソゴナルhoRb受容体構築物を発現するように操作されたCD4+ T細胞(左上)、CD8+ T細胞(右上)におけるpERKシグナル伝達レベル;ならびにwtIL2に応答してIL2 wtIL2Rb ICD(黒の四角)、オルソゴナルリガンドSTK-009の投与に応答してwt IL2R ICD(灰色の円)、およびオルソゴナルリガンドSTK-009の投与に応答して追加のSTAT3モチーフを含むIL2 wtIL2Rb ICD、を含むオルソゴナルhoRb受容体構築物を発現するように操作されたCD4+ T細胞(左下)、CD8+ T細胞(右下)におけるpS6K(pSTAT5)レベルの評価結果を提供する。
【
図6】追加のSTAT3シグナル伝達モチーフを有するオルソゴナルCD122(hoRb)受容体を含むCD19 CAR T細胞構築物を、野生型CD122細胞内ドメインを有するオルソゴナルCD122(hoRb)を含むCD19 CAR T細胞構築物と比較して、10:1~0.1:1の様々なエフェクター:標的(E:T;CAR T:Raji腫瘍細胞)比で、細胞傷害性を評価した結果のグラフ図を提供し、野生型CD122細胞内ドメインを有するオルソゴナルCD122(hoRb)を含むCD19 CAR T細胞と比較して、STAT3モチーフを発現する細胞内ドメイン(ICD)を有するhoRbを発現するCD19 CAR T細胞構築物のRaji腫瘍細胞に対する細胞傷害性が向上することを実証している。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
細胞、特に遺伝子工学的に改変された免疫細胞、の分化、発達および増殖の制御された操作は、臨床上の重大な関心事である。T細胞は、癌細胞、細胞内病原体、および自己免疫に関与する細胞を認識して殺傷するなどの治療用途で使用するために、遺伝子改変されてきた。癌の治療における遺伝子改変細胞療法の使用は、特定の機能を提供しかつ癌細胞を選択的に攻撃するように誘導された改変T細胞の選択的活性化と拡大によって促進される。養子免疫療法のいくつかの例では、T細胞は患者の血液から分離され、エクスビボで処理され、患者に再注入される。そのため、標的化された改変細胞集団の選択的活性化を可能にする組成物および方法が望まれる。
【0004】
細胞療法の製品の製造に伴う課題は、そのような「生きている薬」が生存能力と機能性を維持するためにそれらの環境の厳密な制御を必要とする、ということである。実際、分離された細胞は、患者(自家)由来であれ、単一のドナー源(他家)由来であれ、患者からまたは制御された培養条件から取り出されると、急速に機能を失い始める。分離された細胞の健康と機能を、患者または制御された培養条件の外にある間、維持することに成功すれば、その分離された細胞は、細胞製品の製造作業の流れまたは患者に再投入するための機能性に復帰することが可能である。
【0005】
さらに、改変T細胞療法の臨床応用に伴う課題は、これらの改変細胞を選択的に刺激して、それらの治療上の有効性を最大限引き上げることである。活性化された改変T細胞製品を継続的に維持するための典型的な手段は、IL2などのサイトカインの全身投与である。しかし、IL2の全身投与は、改変細胞の集団の域を越えた非特異的な刺激作用と関連しており、特に高用量で関連しており、ヒト患者においては重篤な毒性を伴っている。さらに、IL2はインビボでの寿命が短く、改変T細胞を活性化状態に維持するためには、IL2を頻繁に投与する必要がある。初期集団の初期投与からの改変細胞は、改変細胞製品の投与後数ヶ月間または数年間さえも検出可能であり得るが、これらの改変細胞のかなりの割合は静止状態に陥り、それらが大きな治療効果を示すためには再活性化が必要である。その結果、細胞ベースの治療法における課題は、内因性シグナル伝達経路から保護され、標的化されない内因性細胞に影響を与えず、かつ改変細胞集団を患者に投与した後で選択的に制御され得る、所望の制御可能な挙動を、移入された細胞に付与することである。
【0006】
CD122は、中親和性および高親和性IL2受容体複合体の構成要素である。CD122は天然STAT5認識モチーフを含んでいる。IL2が結合すると、該受容体はJAK(キナーゼ)を活性化し、これがCD122の細胞内ドメインにある特定のチロシンをリン酸化する。リン酸化されたCD122は、STAT5(STAT5Aおよび/またはSTAT5B)を動員してリン酸化する。その後、リン酸化されたSTAT5は、二量体化されて核内に移行し、自然および獲得免疫から細胞の増殖、分化、生存に至るまで、様々な経路で重要な機能を果たす標的遺伝子の転写を活性化する。Basham et al., Nucleic Acids Res. 2008 Jun; 36(11): 3802-3818(非特許文献1)。
【0007】
近年、組換えCD122で形質転換されたT細胞を用いた細胞療法が開発されている。Sockolosky et al.(Science (2018) 359: 1037-1042(非特許文献2))およびGarcia et al.(2018年8月16日に公開された米国特許出願公開US2018/0228841A1(特許文献1))は、オルソゴナル(orthogonal)CD122を発現するように操作された細胞の選択的刺激を促進するオルソゴナルIL2/CD122リガンド/受容体システムを記述している。オルソゴナルCD122を発現する改変T細胞と、そのようなオルソゴナルCD122の対応するオルソゴナルリガンド(「オルソゴナルIL2」)との接触は、そうした改変T細胞の特異的活性化を可能にする。特に、このオルソゴナルIL2受容体リガンド複合体は、細胞の混合集団、特にT細胞の混合集団において、該オルソゴナル受容体を発現するように操作された細胞の選択的拡大をもたらす。
【0008】
非改変型の中親和性(CD122/CD132)IL2受容体複合体または高親和性(CD25/CD122/CD132)IL2受容体複合体に対する親和性が低下したオルソゴナルIL2はまた、例えば自己免疫疾患の治療において、CD25の高発現を示す細胞に対してオルソゴナルIL2の活性を選択的に標的化するためにも有用である。また、天然の野生型CD122の細胞外ドメイン(ECD)への親和性が著しく低下しているが、CD25のECDへの結合を維持しているオルソゴナルIL2は、高親和性IL2受容体複合体の形成を阻害することにより野生型IL2の競合的アンタゴニストとして使用でき、結果として自己免疫疾患または移植片対宿主(GVH)病の治療に使用できる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】Garcia et al., 2018年8月16日に公開された米国特許出願公開US2018/0228841A1
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Basham et al., Nucleic Acids Res. 2008 Jun; 36(11): 3802-3818
【非特許文献2】Sockolosky et al., Science (2018) 359: 1037-1042
【発明の概要】
【0011】
発明の簡単な概要
本開示は、天然ヒトCD122と同様にSTAT5モチーフを保持するが、1つまたは複数のSTAT3結合モチーフを含むように操作された、改変型ヒトCD122に向けられる。いくつかの態様では、STAT3結合モチーフの存在は改変型CD122をより安定にし、このことは、コグネイト(cognate)IL2リガンドに結合した際に、持続的かつロバストなSTAT3とSTAT5のシグナル伝達を促進することができる。いくつかの態様では、改変型ヒトCD122は改変型オルソゴナルヒトCD122であり、これはコグネイトオルソゴナルIL2によって選択的に活性化され得る。かくして、本開示はまた、安定かつ持続的なIL2介在シグナル伝達を促進するために、改変型オルソゴナルヒトCD122を発現するように操作された免疫細胞の選択的活性化のための組成物および方法をも提供する。本明細書に記載の方法は、標準的なIL2療法に伴う重大な有害作用を引き起こすことなく、IL2療法を必要とする患者を効果的に治療するために使用することができる。
【0012】
本出願には、WO 2019/104092およびUS 2018-0228842 A1)の開示内容を参照することにより、それらの全体が組み入れられる。
【0013】
いくつかの態様では、本開示は、改変型ヒトCD122をコードするポリヌクレオチドを提供し、ここで、改変型ヒトCD122は1つまたは複数のSTAT3結合モチーフを含んでいる。いくつかの態様では、改変型ヒトCD122は、1つまたは複数のSTAT3結合モチーフに融合されたオルソゴナルヒトCD122または天然ヒトCD122を含む。いくつかの態様では、オルソゴナルヒトCD122は、天然ヒトCD122と比べて、R41、R42、Q70、K71、T73、T74、V75、S132、H133、Y134、F135、E136、およびQ214から選択される1つまたは複数の残基において改変されている。いくつかの態様では、オルソゴナルヒトCD122は、天然ヒトCD122と比べて、H133およびY134で改変されている。いくつかの態様では、ヒトCD122は、2つまたは3つのSTAT3結合モチーフに連結されている。
【0014】
いくつかの態様では、改変型ヒトCD122は、SEQ ID NO: 1と少なくとも90%同一である配列を含み、改変型ヒトCD122は、天然IL2ポリペプチドまたはオルソゴナルIL2ポリペプチドに結合する。いくつかの態様では、1つまたは複数のSTAT3結合モチーフは、YX1X2Qの配列を含み、ここで、X1およびX2は任意のアミノ酸である。いくつかの態様では、X1は、L、R、F、Mからなる群より選択され、かつX2は、R、K、HおよびPからなる群より選択される。いくつかの態様では、STAT3認識モチーフは、YLRQ (SEQ ID NO :11)、YLKQ (SEQ ID NO: 12)、YRHQ (SEQ ID NO: 13)、YLRQ (SEQ ID NO: 14)、YFKQ (SEQ ID NO: 15)、YLPQ (SEQ ID NO: 16)、YMPQ (SEQ ID NO: 17)、およびYDKPH (SEQ ID NO: 18) からなる群より選択される。
【0015】
いくつかの態様では、1つまたは複数のSTAT3結合モチーフは、任意にリンカーを介して、天然ヒトCD122またはオルソゴナルヒトCD122の細胞内ドメインのC末端に融合されている。いくつかの態様では、STAT3結合モチーフの少なくとも1つは、天然ヒトCD122に対応する355位と364位の間に位置し、ここでは、天然ヒトCD122のYFTY、YDPY、またはYSEEのアミノ酸配列が、STAT3認識モチーフの少なくとも1つに置き換わっている。いくつかの態様では、リンカーは、ジヌクレオチド(GG)nを含み、ここでnは1~10である。
【0016】
いくつかの態様では、改変型ヒトCD122は、天然ヒトCD122と比べて、R41、R42、Q70、K71、T73、T74、V75、S132、H133、Y134、F135、E136、およびQ214から選択される1つまたは複数の残基においてさらに改変されている。
【0017】
いくつかの態様では、改変型CD122は、リンカーとSTAT3結合モチーフの少なくとも1つとを含むアミノ酸配列を含み、ここで、該アミノ酸配列は、GGYLRQ (SEQ ID NO :3)、GGYLKQ (SEQ ID NO: 4)、GGYRHQ (SEQ ID NO: 5)、GGYLRQ (SEQ ID NO: 6)、GGYFKQ (SEQ ID NO: 7)、GGYLPQ (SEQ ID NO: 8)、GGYMPQ (SEQ ID NO: 9)、およびGGYDKPH (SEQ ID NO: 10) からなる群より選択される。
【0018】
また、本明細書では、上記態様のいずれか1つに記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクターが提供される。
【0019】
また、本明細書では、上記態様のいずれか1つに記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクターが提供される。いくつかの態様では、細胞はキメラ抗原受容体(CAR)をさらに発現し、ここで、細胞はヒト免疫細胞である。いくつかの態様では、CARは、CD19 CARおよびBCMA CARからなる群より選択される。
【0020】
また、本明細書では、細胞における受容体の選択的活性化のためのキットが提供され、該キットは、(a)本明細書に開示されるポリヌクレオチドによりコードされる改変型ヒトCD122を発現する細胞と、(b)ヒトIL2ポリペプチドとを含む。いくつかの態様では、改変型ヒトCD122はSEQ ID NO: 1によりコードされる天然ヒトCD122を含み、ヒトIL2ポリペプチドはSEQ ID NO: 2によりコードされる天然ヒトIL2ポリペプチドである。いくつかの態様では、改変型ヒトCD122はオルソゴナルヒトCD122を含み、ヒトIL2ポリペプチドはオルソゴナルヒトIL2ポリペプチドであり、オルソゴナルヒトIL2ポリペプチドは、天然ヒトCD122と比較して、改変型ヒトCD122に優先的に結合する。
【0021】
いくつかの態様では、オルソゴナルヒトIL2ポリペプチドは、天然ヒトCD122に対応する位置の残基T51、R81に、天然ヒトIL2ポリペプチドのアミノ酸以外のアミノ酸による少なくとも1つのアミノ酸置換を含むか、または天然ヒトCD122に対応する位置M23にアラニンを含み、かつ天然ヒトCD122に対応する位置E15、H16、L19、およびD20の各々にアミノ酸置換を含む。
【0022】
いくつかの態様では、オルソゴナルヒトIL2ポリペプチドは、以下から選択される天然ヒトIL2の位置に対応する1つまたは複数のアミノ酸置換を含む:[E15D, E15T, E15A, E15S]、[H16N, H16Q]、[L19V, L19I, L19A]、[D20L, D20M]、[Q22S, Q22T, Q22E, Q22K, Q22E]、[M23A, M23W, M23H, M23Y, M23F, M23Q, M23Y]、[G27K, G27S]、[R81D, R81Y]、[N88E, N88Q]、[T51I]。
【0023】
いくつかの態様では、改変型ヒトCD122は哺乳動物細胞によって発現される。いくつかの態様では、哺乳動物細胞は免疫細胞である。いくつかの態様では、免疫細胞はT細胞である。いくつかの態様では、T細胞はキメラ抗原受容体(CAR)-T細胞である。
【0024】
また、1つまたは複数のSTAT3結合モチーフを含む改変型ヒトCD122を発現する免疫細胞を刺激する方法が提供され、該方法は、該免疫細胞をヒトIL2ポリペプチドと接触させる工程を含む。いくつかの態様では、刺激は、エクスビボで行われる。いくつかの態様では、刺激は、インビボで行われる。いくつかの態様では、改変型ヒトCD122は、1つまたは複数のSTAT3結合モチーフに融合されたオルソゴナルヒトCD122または天然ヒトCD122を含む。いくつかの態様では、STAT3結合モチーフの少なくとも1つは、天然ヒトCD122に対応する381位と390位の間に位置し、ここでは、天然ヒトCD122のYFTY、YDPY、またはYSEEのアミノ酸配列が、STAT3結合モチーフの少なくとも1つに置き換わっている。いくつかの態様では、該方法は、1つまたは複数のSTAT3結合モチーフを含む改変型ヒトCD122を発現する免疫細胞を個体に導入する工程、およびヒトIL2ポリペプチドを個体に投与し、それによって個体における免疫応答を活性化する工程を含む。いくつかの態様では、改変型ヒトCD122はオルソゴナルヒトCD122を含み、ヒトIL2ポリペプチドはオルソゴナルヒトIL2ポリペプチドであり、オルソゴナルヒトIL2ポリペプチドは天然ヒトCD122よりも改変型ヒトCD122に優先的に結合して、それを活性化する。いくつかの態様では、1つまたは複数のSTAT3結合モチーフは、YX1X2Qの配列を含み、ここで、X1およびX2は任意のアミノ酸である。いくつかの態様では、X1は、L、R、FおよびMからなる群より選択され、かつX2は、R、K、HおよびPからなる群より選択される。いくつかの態様では、オルソゴナルヒトCD122は、GGYLRQ (SEQ ID NO :2)、GGYLKQ (SEQ ID NO: 3)、GGYRHQ (SEQ ID NO: 4)、GGYLRQ (SEQ ID NO: 5)、GGYFKQ (SEQ ID NO: 6)、GGYLPQ (SEQ ID NO: 7)、GGYMPQ (SEQ ID NO: 8)、およびGGYDKPH (SEQ ID NO: 9) からなる群より選択される配列を含む。いくつかの態様では、免疫細胞はT細胞である。いくつかの態様では、T細胞はCAR-T細胞である。いくつかの態様では、免疫細胞はCD8+ T細胞であり、個体は癌を有する。いくつかの態様では、免疫細胞はTreg細胞であり、個体は自己免疫疾患を有する。いくつかの態様では、個体はウイルス、細菌または真菌の感染症を有する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
発明の詳細な説明
定義
本開示をより容易に理解するために、特定の用語および語句が、以下で、さらに本明細書全体を通して、定義される。本明細書に記載された定義は非限定的なものであり、当業者であれば知っているであろう知識を考慮して読まれるべきである。
【0026】
本発明の方法および組成物について記載する前に、本発明は、記載された特定の方法または組成物に限定されず、当然ながら、そうしたものは変化し得ることを理解すべきである。また、本明細書で使用される用語は、特定の態様を説明するためだけのものであって、限定することを意図したものではないことも理解されたい。
【0027】
ある範囲の値が提供される場合、その範囲の上限と下限の間に介在する各値も、文脈上別段の明確な指示がない限り下限の単位の10分の1まで、具体的に開示されていることが理解される。記載された範囲内の任意の記載値または介在値と、その記載された範囲内の任意の他の記載値または介在値との間の各小範囲は、本発明に包含される。これらの小範囲の上限および下限は、独立してその範囲に含まれることも除外されることもあり、上限および下限のいずれか一方または両方がその小範囲に含まれるか、どちらも含まれない場合の各範囲も、記載された範囲内の特に除外された上限/下限を条件として、本発明に包含される。記載された範囲が上限と下限の一方または両方を含む場合、それらの含まれる上限と下限の一方または両方を除外する範囲もまた、本発明に包含される。
【0028】
別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されているのと同じ意味を有する。本明細書に記載されたものと類似または同等の方法および材料はどれも、本発明の実施または試験に使用され得るが、可能性がありかつ好ましいいくつかの方法および材料がここに記載される。本明細書で言及される全ての刊行物は、その刊行物が引用されたことに関連する方法および/または材料を開示および説明するために、参照により本明細書に組み入れられる。
【0029】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される単数形の「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、文脈上別段の明確な指示がない限り、複数の指示対象を含むことに留意する必要がある。したがって、例えば、「1つの細胞(a cell)」の言及は、複数のそのような細胞を含み、「そのペプチド(the peptide)」の言及は、1つまたは複数のペプチドと、当業者に知られているポリペプチドなどのその等価物への言及を含む、といった具合である。
【0030】
本明細書で論じられる刊行物は、本出願の出願日前のそれらの開示のためにのみ提供される。本明細書のいかなるものも、先行発明という理由でそのような刊行物に本発明が先行する権利がないことを認めるものと解釈されるべきではない。さらに、提供された発行日は、実際の発行日とは異なることがあり、個別に確認する必要があり得る。
【0031】
別段の指示がない限り、部は重量部、分子量は重量平均分子量、温度は摂氏(℃)、圧力は大気圧またはそれに近い圧力である。以下のような標準的な略語が使用される:bp=塩基対;kb=キロベース;pl=ピコリットル;sまたはsec=秒;min=分;hまたはhr=時間;aa=アミノ酸;kb=キロベース;nt=ヌクレオチド;pg=ピコグラム;ng=ナノグラム;μg=マイクログラム;mg=ミリグラム;g=グラム;kg=キログラム;dlまたはdL=デシリットル;μlまたはμL=マイクロリットル;mlまたはmL=ミリリットル;lまたはL=リットル;μM=マイクロモル;mM=ミリモル;M=モル;kDa=キロダルトン;i.m.=筋肉内(に);i.p.=腹腔内(に);SCまたはSQ=皮下(に);QD=1日1回;BID=1日2回;QW=週1回;QM=月1回;HPLC=高速液体クロマトグラフィー;BW=体重;U=単位;ns=統計的に有意でない;PBS=リン酸緩衝生理食塩水;PCR=ポリメラーゼ連鎖反応;NHS=N-ヒドロキシスクシンイミド;HSA=ヒト血清アルブミン;MSA=マウス血清アルブミン;DMEM=ダルベッコ改変イーグル培地;GC=ゲノムコピー;EDTA=エチレンジアミン四酢酸。
【0032】
本開示全体を通して、アミノ酸への言及は1文字または3文字コードに従って行われることが理解されよう。読者の便宜のために、1文字および3文字のアミノ酸コードを以下の表1に示す:
(表1)アミノ酸の略語
【0033】
分子生物学における標準的な方法は、科学文献に記載されている(例えば、Sambrook and Russell (2001) Molecular Cloning, 3rd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.;および細菌細胞でのクローニングとDNA変異導入(Vol. 1)、哺乳動物細胞と酵母でのクローニング(Vol. 2)、複合糖質とタンパク質発現(Vol. 3)、バイオインフォマティクス(Vol. 4)について解説しているAusubel, et al. (2001) Current Protocols in Molecular Biology, Vols. 1-4, John Wiley and Sons, Inc. New York, N.Y.を参照されたい)。科学文献には、免疫沈降、クロマトグラフィー、電気泳動、遠心分離、および結晶化を含めた、タンパク質の精製方法、ならびに化学分析、化学修飾、翻訳後修飾、融合タンパク質の作成、およびタンパク質のグリコシル化のための方法が記載されている(例えば、Coligan, et al. (2000) Current Protocols in Protein Science, Vols. 1-2, John Wiley and Sons, Inc., NYを参照されたい)。
【0034】
別段の指示がない限り、次の用語は、以下に定める意味を有するものとする。その他の用語は、本明細書全体を通して他の箇所で定義されている。
【0035】
本明細書で使用する用語「活性化する」は、受容体または受容体複合体に関して、アゴニストリガンドの受容体への結合の生物学的効果を反映するために使用される。例えば、IL2アゴニストのIL2受容体への結合は、該受容体のシグナル伝達を「活性化」して、1つまたは複数の細胞内生物学的効果(例えば、STAT5のリン酸化)を生み出すと言われている。
【0036】
本明細書で使用する用語「活性」は、ある分子に関して、該分子の別の分子への結合の程度など、試験系または生物学的機能に関する該分子の特性を説明するために使用される。そのような生物学的機能の例としては、限定するものではないが、生物学的物質の触媒活性;細胞内シグナル伝達、遺伝子発現、細胞増殖を刺激する能力;炎症反応などの免疫学的活性を調節する能力が挙げられる。「活性」は、一般に、投与された物質の単位あたりの生物学的活性、例えば、[触媒活性]/[mgタンパク質]、[免疫活性]/[mgタンパク質]、活性の国際単位(IU)、[STAT5またはSTAT3リン酸化]/[mgタンパク質]、[T細胞増殖]/[mgタンパク質]、プラーク形成単位(pfu)などとして表される。用語「増殖活性」は、腫瘍性疾患、炎症性疾患、線維症、異形成、細胞形質転換、転移、および血管新生で見られるような無調節の細胞分裂を含めて、細胞分裂を促進する活性を包含する。
【0037】
用語「投与」および「投与する」は、本明細書では交換可能に使用され、対象のインビトロ、インビボまたはエクスビボでの細胞、組織、器官、または生体液を、物質(例えば、オルソゴナルIL2、CAR-T細胞、化学療法剤、抗体、もしくはモジュレーター、または前述の1つ以上を含む薬学的製剤)と接触させることを含めて、対象に接触させる行為を指す。物質の投与は、当技術分野で認められた様々な方法のいずれかにより達成することができ、例えば、限定するものではないが、局所、血管内注射(静脈内または動脈内注射を含む)、皮内注射、皮下注射、筋肉内注射、腹腔内注射、頭蓋内注射、腫瘍内注射、経皮、経粘膜、イオントフォレシス送達(iontophoretic delivery)、リンパ管内注入、胃内注入、前立腺内注入、嚢内注入(例:膀胱)、呼吸用吸入器、眼内注射、腹腔内注射、病巣内注射、卵巣内注射、脳内注入または注射、脳室内注射(ICVI)などがある。「投与」という用語には、細胞、組織または器官への物質の接触だけでなく、液体が細胞と接触している場合には、液体への物質の接触も含まれる。
【0038】
本明細書で使用する用語「親和性」は、第1の分子(例:リガンド)の第2の分子(例:受容体)への特異的結合の程度を指し、分子とその標的の間の解離定数(Koff)と、分子とその標的の間の会合定数(Kon)の比であるKdとして表される結合速度論によって測定される。
【0039】
本明細書で使用する用語「生物学的サンプル」または「サンプル」とは、対象から得られたまたはそれに由来するサンプルを指す。例として、生物学的サンプルは、体液、血液、全血、血漿、血清、粘液分泌物、唾液、脳脊髄液(CSF)、気管支肺胞洗浄液(BALF)、眼の体液(例:硝子体液、房水)、リンパ液、リンパ節組織、脾臓組織、骨髄、およびこれらの組織の1つ以上に由来する免疫グロブリン濃縮分画からなる群より選択される物質を含む。いくつかの態様では、サンプルは、同じ薬剤に繰り返し曝露されるなど、オルソゴナルIL2の薬学的製剤を含む治療的処置レジメンに曝露されている対象から取得される。他の態様では、サンプルは、オルソゴナルIL2に最近曝露されていない対象から得られるか、またはオルソゴナルIL2の計画的な投与の前に対象から得られる。
【0040】
本明細書で使用する用語「キメラ抗原受容体」および「CAR」は、交換可能に使用され、配列のアミノ末端からカルボキシ末端に配置された複数の機能性ドメインを含むキメラポリペプチドを指す:(a)抗原結合ドメイン(ABD)、(b)膜貫通ドメイン(TD)、および(c)1つまたは複数の細胞質シグナル伝達ドメイン(CSD);ここで、前述のドメインは、任意で、1つまたは複数のスペーサードメインにより連結されていてもよい。また、CARは、翻訳後プロセシングおよびCARをコードする核酸配列を含む発現ベクターで形質転換された細胞の細胞表面上でのCARの提示の間に通常除去される、シグナルペプチド配列をさらに含んでいてもよい。本発明の方法の実施に有用なCARは、当技術分野でよく知られた原理に従って作製することができる。例えば、Eshhaar et al. 米国特許第7,741,465 B1号, 2010年6月22日発行; Sadelain, et al (2013) Cancer Discovery 3(4):388-398; Jensen and Riddell (2015) Current Opinions in Immunology 33:9-15; Gross, et al. (1989) PNAS(USA) 86(24):10024-10028; Curran, et al. (2012) J Gene Med 14(6):405-15を参照されたい。本発明のオルソゴナル受容体を組み込むように改変することができる市販のCAR-T細胞製品の例としては、アキシカブタゲン シロルユーセル(axicabtagene ciloleucel)(Yescarta(登録商標)として販売,Gilead Pharmaceuticals社から入手可能)およびチサゲンレクルユーセル(tisagenlecleucel)(Kymriah(登録商標)として販売,Novartis社から入手可能)が挙げられる。
【0041】
本明細書で使用する用語「キメラ抗原受容体T細胞」および「CAR-T細胞」は、交換可能に使用され、キメラ抗原受容体を発現するように組換えにより改変されたT細胞を指す。本明細書で使用する場合、CAR-T細胞は、オルソゴナルCD122ポリペプチドを発現するように操作され得る。
【0042】
本明細書で使用する用語「インターロイキン-2」または「IL2」は、IL2活性を有する天然に存在するIL2ポリペプチドを指す。いくつかの態様では、IL2は成熟野生型ヒトIL2を指す。成熟野生型ヒトIL2(hIL2)は、Fujita, et.al., PNAS USA, 80, 7437-7441 (1983) に記載されるように、133アミノ酸ポリペプチド(追加の20個のN末端アミノ酸からなるシグナルペプチドを除く)として存在する。成熟野生型ヒトIL2(hIL2)の天然に存在するバリアントのアミノ酸配列は、以下の通りである:
【0043】
本明細書で使用する場合、残基の番号付けは、SEQ ID NO:2のものと同じである、シグナルペプチドを除くIL2配列UniProt ID P60568に基づくものである。
【0044】
本明細書で使用する用語「天然ヒトCD122」は、その天然に存在するバリアントを含めて、天然に存在するヒトCD122を指す。1つの天然に存在するヒトCD122バリアントのアミノ酸配列は、以下の通りである:
【0045】
本明細書で使用する用語「ヒトCD122」は、天然ヒトCD122またはオルソゴナルヒトCD122オルソログ(ortholog)であり得る。本明細書で使用する場合、ヒトCD122に関する残基の番号付けは、SEQ ID NO: 1に基づくものである。
【0046】
本明細書で使用する用語「ヒトオルソゴナルCD122」または「オルソゴナルヒトCD122」は、交換可能に使用され、少なくとも1つのオルソゴナルIL2に特異的に結合できる天然CD122ポリペプチドのバリアントを指す。いくつかの態様では、オルソゴナルヒトCD122は、hCD122ポリペプチドのECDのヒスチジン133(H133)とチロシン134(Y134)の位置にアミノ酸置換を含む。いくつかの態様では、オルソゴナルCD-122は、133位のヒスチジンからアスパラギン酸(H133D)、グルタミン酸(H133E)もしくはリジン(H133K)へのアミノ酸置換、および/または134位のチロシンからフェニルアラニン(Y134F)、グルタミン酸(Y134E)もしくはアルギニン(Y134R)へのアミノ酸置換を含む。いくつかの態様では、オルソゴナルCD122は、アミノ酸置換H133DおよびY134Fを有するhCD122分子である。
【0047】
本明細書で使用する用語「改変型ヒトCD122」は、ヒトCD122と1つまたは複数のSTAT3結合モチーフを含むタンパク質を指す。ヒトCD122は、ヒトオルソゴナルCD122または天然ヒトCD122であり得る。いくつかの態様では、改変型ヒトCD122は、天然ヒトCD122におけるようにSTAT5モチーフYYLSL(SEQ ID NO: 20)を保持する。
【0048】
本明細書で使用する用語「改変型ヒトオルソゴナルCD122」は、ヒトオルソゴナルCD122と1つまたは複数のSTAT3結合モチーフを含む、改変型ヒトCD122タンパク質の1つのタイプを指す。いくつかの態様では、改変型CD122は、STAT5モチーフYLSL(SEQ ID NO: 20)を保持する。
【0049】
本明細書で使用する場合、「由来する」という用語は、アミノ酸配列またはポリヌクレオチド配列(例えば、IL2ポリペプチドに「由来する」アミノ酸配列)との関連で、ポリペプチドまたは核酸が参照ポリペプチドまたは核酸(例えば、天然に存在するIL2ポリペプチドまたはIL2をコードする核酸)の配列に基づいた配列を有することを示すことを意味し、タンパク質または核酸が作られる供給源または方法に関して限定することを意味しない。例として、用語「由来する」には、参照アミノ酸配列またはDNA配列のホモログまたはバリアントが含まれる。
【0050】
本明細書で使用する用語「細胞外ドメイン」またはその略語「ECD」は、細胞の原形質膜の外側にある細胞表面タンパク質(例えば、細胞表面受容体)の部分を指す。ECDは、膜貫通タンパク質、細胞表面または膜結合タンパク質、分泌タンパク質、細胞表面標的タンパク質の細胞質外部分の全体を含むことができる。
【0051】
用語「IL2活性」は、細胞を有効量のIL2ポリペプチドと接触させることに応答する、細胞に対する1つまたは複数の生物学的効果を意味する。IL2活性は、例えばCTLL 2マウス細胞傷害性T細胞を用いた細胞増殖アッセイで、測定することができる;Gearing, A.J.H. and C.B. Bird (1987) in Lymphokines and Interferons, A Practical Approach. Clemens, M.J. et al. (eds): IRL Press. 295を参照されたい。組換えヒトIL2の比活性は約2.1×104 IU/μgであり、組換えヒトIL2 WHO国際標準品(NIBSCコード:86/500)に対して較正されている。いくつかの態様では、例えば、関心対象のIL2オルソゴナルポリペプチドがCD25に対する親和性の低下を示す(または親和性の低下を有するように操作される)場合、IL2活性は、IL2受容体を介したシグナル伝達を提供するためにCD25を必要とせず、むしろ中親和性CD122/CD132受容体を介してシグナル伝達することができるYT細胞などの、ヒト細胞で評価され得る。本開示のオルソゴナルヒトIL2は、同等のアッセイにおいて同様の濃度で評価した場合、WHO国際標準品(NIBSCコード:86/500)である野生型成熟ヒトIL2の活性の20%未満、あるいは約10%未満、あるいは約8%未満、あるいは約6%未満、あるいは約4%未満、あるいは約2%未満、あるいは約1%未満、あるいは約0.5%未満を有することができる。
【0052】
本明細書で使用する用語「治療を必要とする」とは、ある対象が治療を必要としている、または治療から利益を得る可能性があるという、対象に関して医師または他の医療提供者によりなされた判断を意味する。この判断は、医師または医療提供者の専門知識の領域にある様々な要因に基づいて行われる。
【0053】
本明細書で使用する用語「改変型CD122の細胞内ドメイン」または「ICD」は、膜貫通オルソゴナル受容体を発現している細胞の原形質膜の内側にある、そのような膜貫通オルソゴナル受容体の部分を指す。このICDは、1つまたは複数の「増殖シグナル伝達ドメイン」または「PSD」を含んでいてもよく、これは、有糸分裂に入って細胞増殖を開始するように細胞にシグナル伝達するタンパク質ドメインを指す。例を挙げると、ヤヌス(Janus)キナーゼ、例えば、限定するものではないが、JAK1、JAK2、JAK3、Tyk2、Ptk-2、他の哺乳動物または真核生物種からのヤヌスキナーゼファミリーの相同メンバー、IL2受容体β鎖および/またはγ鎖、ならびにヤヌスキナーゼファミリーのタンパク質と相互作用してシグナルを伝達し得るサイトカイン受容体スーパーファミリーのタンパク質からの他のサブユニット、あるいはそれらの部分、修飾体または組み合わせなどがある。シグナルの例には、STAT1、STAT3、STAT5a、および/またはSTAT5bの1つまたは複数を含むがこれらに限定されない、1つまたは複数のSTAT分子のリン酸化が含まれる。
【0054】
本明細書で使用する用語「リガンド」は、受容体への特異的結合を示す分子であって、それが結合する受容体の活性に変化をもたらすように、受容体の生物学的活性を変化させる分子を指す。一態様では、用語「リガンド」は、受容体のアゴニストまたはアンタゴニストとして作用することができる分子、またはその複合体を指す。本明細書で使用する場合、用語「リガンド」は、天然および合成リガンドを包含する。「リガンド」には、小分子、例えばサイトカインのペプチド模倣物および抗体のペプチド模倣物も包含される。リガンドと受容体の複合体は、「リガンド-受容体複合体」と呼ばれる。
【0055】
「配列同一性のパーセンテージ」は、最適にアラインメントされた2つの配列を比較ウィンドウで比較することにより決定され、ここで、比較ウィンドウ内のポリヌクレオチド配列の部分は、2つの配列の最適なアラインメントのために、参照配列(付加または欠失を含まない)と比較して付加または欠失(すなわち、ギャップ)を含んでいてもよい。このパーセンテージは、両配列において同一の核酸塩基またはアミノ酸残基が存在する位置の数を求めて一致した位置の数とし、一致した位置の数を比較ウィンドウ内の位置の総数で割り、その結果に100を乗じて配列同一性のパーセンテージとすることにより算出される。アミノ酸配列の実質的同一性とは、通常、少なくとも40%の配列同一性を意味する。ポリペプチドの同一性パーセントは、40%~100%の任意の整数、例えば、少なくとも40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、または99%であり得る。いくつかの態様では、「実質的に類似」するポリペプチドは、同一でない残基位置が保存的アミノ酸変化によって異なり得ることを除いて、上記のように配列を共有する。保存的アミノ酸置換とは、類似する側鎖を持つ残基の互換性を意味する。例えば、脂肪族側鎖を持つアミノ酸のグループは、グリシン、アラニン、バリン、ロイシンおよびイソロイシンである;脂肪族ヒドロキシル側鎖を持つアミノ酸のグループは、セリンおよびトレオニンである;アミド含有側鎖を持つアミノ酸のグループは、アスパラギンおよびグルタミンである;芳香族側鎖を持つアミノ酸のグループは、フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファンである;塩基性側鎖を持つアミノ酸のグループは、リジン、アルギニン、およびヒスチジンである;硫黄含有側鎖を持つアミノ酸のグループは、システインおよびメチオニンである。保存的アミノ酸置換のグループの例は、バリン-ロイシン-イソロイシン、フェニルアラニン-チロシン、リジン-アルギニン、アラニン-バリン、アスパラギン酸-グルタミン酸、およびアスパラギン-グルタミンである。
【0056】
配列同一性および配列類似性のパーセントを決定するのに適したアルゴリズムは、BLASTおよびBLAST 2.0アルゴリズムであり、これらは、それぞれ、Altschul et al., Nuc. Acids Res. 25:3389-3402 (1977)、およびAltschul et al., J. Mol. Biol. 215:403-410 (1990)に記載されている。BLAST解析を実行するためのソフトウェアは、National Center for Biotechnology Information(ncbi.nlm.nih.gov)を通じてウェブ上で一般に公開されている。このアルゴリズムは、最初に、データベース配列中の同じ長さのワード(word)とアラインメントしたときに、ある正の値の閾値スコアTと一致するか、それを満たす、クエリー配列中の長さWの短いワードを特定することによって、ハイスコアリング配列対(high scoring sequence pair)(HSP)を特定することを含む。Tは、隣接ワードスコア閾値(neighborhood word score threshold)と呼ばれる(Altschul et al., 上記)。これらの最初の隣接ワードヒットは、それらを含むより長いHSPを見つけるための検索を開始するシードとして作用する。ワードヒットは、累積アラインメントスコアを増やすことができる範囲で、各配列に沿って両方向に拡張される。累積スコアは、ヌクレオチド配列の場合、パラメータM(一致する残基のペアに対する報酬スコア;常に>0)およびN(不一致の残基に対するペナルティスコア;常に<0)を用いて計算される。アミノ酸配列の場合は、スコアリング行列を用いて累積スコアを算出する。各方向へのワードヒットの拡張は、以下の場合に停止される:累積アラインメントスコアがその最大達成数値から数量Xだけ低下する場合;1つまたは複数の負のスコアの残基アラインメントの蓄積により、累積スコアがゼロ以下になる場合;またはいずれかの配列の終端に到達する場合。BLASTアルゴリズムのパラメータW、T、およびXは、アラインメントの感度と速度を決定する。BLASTNプログラム(ヌクレオチド配列の場合)は、デフォルトとして、ワード長(W)11、期待値(E)10、M=5、N=-4、および両鎖の比較を使用する。アミノ酸配列の場合のBLASTPプログラムは、デフォルトとして、ワード長3、期待値(E)10、およびBLOSUM62スコアリング行列(Henikoff and Henikoff, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:10915, (1989)参照)アラインメント(B)50、期待値(E)10、M=5、N=-4、および両鎖の比較を使用する。
【0057】
BLASTアルゴリズムはまた、2つの配列間の類似性の統計的解析をも実行する(例えば、Karlin and Altschul, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-5787, (1993)を参照されたい)。BLASTアルゴリズムによって提供される類似性の1つの尺度は、最小和確率(smallest sum probability)(P(N))であり、これは2つのヌクレオチドまたはアミノ酸配列間の一致が偶然に起こる確率の指標を提供する。例えば、試験核酸と参照核酸の比較における最小和確率が約0.2未満、より好ましくは約0.01未満、最も好ましくは約0.001未満である場合、該核酸は参照配列に類似すると見なされる。
【0058】
本明細書においてポリペプチドの構造との関連で使用する場合、「N末端」(または「アミノ末端」)および「C末端」(または「カルボキシル末端」)は、それぞれ、ポリペプチドの最も端にあるアミノ終端およびカルボキシル終端を指し、一方、用語「N末端の」および「C末端の」は、それぞれ、N末端およびC末端の方に向かうポリペプチドのアミノ酸配列における相対的位置を指し、それぞれ、N末端およびC末端における残基を含み得る。「直接N末端に接して」(immediately N-terminal)または「直接C末端に接して」とは、第1および第2のアミノ酸残基が共有結合して連続したアミノ酸配列を提供する場合の、第2のアミノ酸残基に対する第1のアミノ酸残基の位置を指す。
【0059】
「核酸」、「核酸分子」、「ポリヌクレオチド」などの用語は、本明細書では交換可能に使用され、デオキシリボヌクレオチドもしくはリボヌクレオチドのいずれか、またはそれらの類似体の、任意の長さのヌクレオチドの重合形態を指す。ポリヌクレオチドの非限定的な例としては、直鎖状および環状の核酸、メッセンジャーRNA(mRNA)、相補的DNA(cDNA)、組換えポリヌクレオチド、ベクター、プローブ、プライマーなどが含まれる。
【0060】
本明細書において、「機能的に連結される」という用語は、単一の核酸配列へと組み合わされたときの、異なる機能をコードする核酸配列間の関係であって、細胞に導入されると、細胞内で特定の核酸配列の転写および/または翻訳に影響を与えることができる核酸を提供するという関係を指すために使用される。例えば、シグナル配列のDNAは、それがポリペプチドの分泌に関与するプレタンパク質として発現される場合、ポリペプチドのDNAに機能的に連結されている;プロモーターまたはエンハンサーは、それがコード配列の転写に影響を与える場合、コード配列に機能的に連結されている;あるいは、リボソーム結合部位は、それが翻訳を促進するように配置される場合、コード配列に機能的に連結されている。一般に、「機能的に連結される」とは、連結されているDNA配列が連続していること、分泌リーダーの場合は、連続しておりかつリーディングフェーズ(reading phase)が一致していることを意味する。しかし、エンハンサーのような特定の遺伝的要素は、それらが効果を発揮する配列に関して連続している必要はない。
【0061】
本明細書で使用する「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」という用語は、本明細書では交換可能に使用され、任意の長さのアミノ酸の重合形態を指し、これは、遺伝的にコードされたアミノ酸および遺伝的にコードされていないアミノ酸、化学的または生化学的に修飾または誘導体化されたアミノ酸、ならびに修飾されたポリペプチドバックボーンを有するポリペプチドを含むことができる。これらの用語には、融合タンパク質、例えば、限定するものではないが、異種アミノ酸配列との融合タンパク質、異種および相同リーダー配列との融合タンパク質、N末端メチオニン残基を有するまたは有しない融合タンパク質、免疫学的タグ付きタンパク質との融合タンパク質、免疫学的活性タンパク質(例えば、抗原性のジフテリアまたは破傷風毒素断片)の融合タンパク質などが含まれる。
【0062】
本明細書で使用する「予防する」、「予防すること」、「予防」などの用語は、一般に、遺伝的、経験的または環境的要因のために特定の疾患、障害または状態にかかりやすい素因を有する対象との関係において、疾患、障害、状態などを発症する対象のリスクを一時的または永久的に予防、抑制、阻止または低減する(例えば、臨床症状がないことによって判定される)、あるいはその発症を遅らせるように、疾患、障害、状態またはその症状の発症に先立って対象に関して開始される行動方針を指す。特定の場合には、用語「予防する」、「予防すること」、「予防」はまた、現在のその状態からより有害な状態への疾患、障害または状態の進行を遅らせることを指すためにも使用される。
【0063】
本明細書で使用する用語「受容体」は、リガンドと特異的に結合するドメインを有するポリペプチドを指し、該リガンドの結合が該ポリペプチドの少なくとも1つの生物学的特性の変化をもたらす。いくつかの態様では、受容体は、細胞表面と結合していない「可溶性」受容体である。hCD25の可溶性形態は、hIL2と特異的に結合する可溶性受容体の一例である。いくつかの態様では、受容体は、細胞外ドメイン(ECD)と、ECDを細胞表面に固定する役割を果たす膜結合ドメインとを含む、細胞表面受容体である。細胞表面受容体のいくつかの態様では、受容体は、一般的に膜貫通ドメイン(TM)と呼ばれる膜に架かるドメインによって連結された、細胞内ドメイン(ICD)と細胞外ドメイン(ECD)を含む膜貫通ポリペプチドである。リガンドが受容体に結合すると、受容体の立体構造変化が起こり、その結果として測定可能な生物学的効果が生じる。ある例では、受容体がECD、TMおよびICDを含む膜貫通ポリペプチドである場合、リガンドがECDに結合すると、リガンドのECDへの結合に応答してICDの1つまたは複数のドメインによって媒介される測定可能な細胞内生物学的効果が生じる。いくつかの態様では、受容体は、細胞内シグナル伝達を促進するための多成分複合体の構成要素である。例えば、リガンドは、単独ではいかなる細胞内シグナル伝達にも関連していない細胞表面分子に結合し得るが、リガンド結合時に、細胞内シグナル伝達カスケード(例えば、Jak/STAT経路)の活性化をもたらす、ヘテロ二量体(例えば、中親和性CD122/CD132 IL2受容体)、ヘテロ三量体(例えば、高親和性CD25/CD122/CD132 hIL2受容体)などのヘテロ多量体、またはホモ多量体(ホモ二量体、ホモ三量体、ホモ四量体)の複合体の形成を促進する。
【0064】
本明細書で使用する用語「組換え」または「遺伝子操作された」(engineered)は、組換えDNA技術を用いて作製されたポリペプチドを指す。組換えDNA技術の技法およびプロトコルは、当技術分野でよく知られている。
【0065】
用語「応答」、例えば、細胞、組織、器官、または生物の「応答」は、生化学的または生理学的挙動の変化、例えば、生体コンパートメント内の濃度、密度、接着、もしくは移動、遺伝子発現率、または分化状態の変化を包含し、その変化は、活性化、刺激、もしくは治療と、または遺伝的プログラミングなどの内部機構と相関している。特定の状況では、「活性化」、「刺激」などの用語は、外部または環境因子だけでなく、内部メカニズムによっても制御される細胞の活性化を指す;一方「抑制」、「ダウンレギュレーション」などの用語は、反対の効果を指す。
【0066】
本明細書で使用する「特異的に結合する」という用語は、ある分子が他の分子に結合する際の選択性または親和性の程度を意味する。結合対(例えば、リガンド/受容体、抗体/抗原、抗体/リガンド、抗体/受容体の結合対)の状況下では、結合対の第1の分子がサンプル中に存在する他の成分とかなりの量で結合しない場合、結合対の第1の分子は結合対の第2の分子に特異的に結合すると言える。結合対の第1の分子の第2の分子に対する親和性が、サンプル中に存在する他の成分に対する第1の分子の親和性より少なくとも2倍高い、あるいは少なくとも5倍高い、あるいは少なくとも10倍高い、あるいは少なくとも20倍高い、あるいは少なくとも100倍高い場合、結合対の第1の分子は結合対の第2の分子に特異的に結合すると言える。結合対の第1の分子が抗体である特定の態様では、抗体と結合対の第2の分子との間の平衡解離定数が、例えばスキャッチャード(Scatchard)分析(Munsen, et al. 1980 Analyt. Biochem. 107:220-239)で測定して、約106Mより大きい、あるいは約108Mより大きい、あるいは約1010Mより大きい、あるいは約1011Mより大きい、あるいは約1010Mより大きい、約1012Mより大きい場合、抗体は結合対の第2の分子(例:タンパク質、抗原、リガンド、または受容体)に特異的に結合する。リガンドがオルソゴナルIL2でありかつ受容体がオルソゴナルCD122 ECDを含む一態様では、IL2オルソログ/オルソゴナルCD122 ECDの平衡解離定数が約105Mより大きい、あるいは約106Mより大きい、あるいは約107Mより大きい、あるいは約108Mより大きい、あるいは約109Mより大きい、あるいは約1010Mより大きい、あるいは約1011Mより大きい場合、オルソゴナルIL2は特異的に結合する。特異的結合は、競合ELISA、BIACORE(登録商標)アッセイおよび/またはKINEXA(登録商標)アッセイを含むがこれらに限定されない、当技術分野で公知の技法を用いて評価することができる。
【0067】
「レシピエント」、「個体」、「対象」、および「患者」という用語は、本明細書では交換可能に使用され、診断、治療、または療法が望まれる任意の哺乳動物対象、特にヒトを指す。治療の目的での「哺乳動物」とは、哺乳動物として分類される任意の動物を指し、ヒト、家畜・畜産動物、ならびに動物園、スポーツ、またはペット動物、例えば、イヌ、ウマ、ネコ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタなどを含む。いくつかの態様では、哺乳動物はヒトである。
【0068】
本明細書で使用する用語「T-細胞」または「T細胞」は、その従来の意味で用いられ、胸腺で分化するリンパ球を指し、特定の細胞表面抗原受容体を保有しており、細胞性および液性免疫の開始または抑制を制御するものもあれば、抗原担持細胞を溶解するものもある。いくつかの態様では、T細胞には、限定するものではないが、ナイーブCD8+ T細胞、細胞傷害性CD8+ T細胞、ナイーブCD4+ T細胞、ヘルパーT細胞、例えば、TH1、TH2、TH9、TH11、TH22、TFH;制御性T細胞、例えばTR1、Treg、誘導性Treg;メモリーT細胞、例えは、セントラルメモリーT細胞、エフェクターメモリーT細胞、NKT細胞、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、ならびにそのようなT細胞の遺伝子操作バリアント、例えば、CAR-T細胞、組換え改変TILおよびTCR遺伝子導入細胞が含まれる。
【0069】
本明細書で使用する語句「治療上有効な量」は、単独でまたは薬学的組成物もしくは治療レジメンの一部として、単回投与でまたは一連の投与の一部として、対象に投与されたときに疾患、障害または状態の症状、様相もしくは特徴に対して検出可能なプラスの効果をもたらすことができる量で、薬剤を対象に投与することを指す。治療上有効な量は、関連する生理学的効果を測定することによって確認することができ、投与レジメンに関連して、また、対象の状態の診断分析などに応じて調整することが可能である。薬剤の治療上有効な量を決定するための評価パラメータは、以下のような指標を含むがこれらに限定されない当技術分野で認められた診断基準を用いて、医師によって決定される:年齢、体重、性別、一般的な健康状態、ECOGスコア、観察可能な生理学的パラメータ、血中濃度、血圧、心電図、コンピュータ断層撮影、X線など。代替的に、または追加的に、治療上有効な量の薬剤が対象に投与されたかどうかを判断するために、臨床現場で一般的に評価される、以下のような他のパラメータをモニタリングすることができる:体温、心拍数、血液化学の正常化、血圧の正常化、コレステロール値の正常化、あるいは疾患、障害または状態の症状、様相もしくは特徴、バイオマーカー(炎症性サイトカイン、IFN-□、グランザイムなど)、血清腫瘍マーカーの減少、固形腫瘍における奏効評価基準(Response Evaluation Criteria In Solid Tumors)(RECIST)の改善、免疫関連奏効判定基準(Immune-Related Response Criteria)(irRC)の改善、生存期間の延長、無増悪生存期間の延長、進行までの期間の延長、治療不成功までの期間の増加、イベントフリー生存期間の延長、次の治療までの期間の延長、客観的奏効率の改善、奏効期間の改善、腫瘍量の減少、薬剤の投与に応答した対象の状態の改善を評価するために当分野の臨床医が信頼している完全奏効、部分奏効、病勢安定など。本明細書で使用する場合、標的病変に関する「完全奏効(CR)」、「部分奏効(PR)」、「安定(SD)」および「進行(PD)」、ならびに非標的病変に関する「完全奏効(CR)」、「不完全奏効/安定(SD)」および「進行(PD)」という用語は、RECIST基準において定義される通りであると理解される。本明細書で使用する「免疫関連完全奏効(irCR)」、「免疫関連部分奏効(irPR)」、「免疫関連進行(irPD)」および「免疫関連安定(irSD)」という用語は、免疫関連奏効判定基準(irRC)に従って定義される通りである。本明細書で使用する用語「免疫関連奏効判定基準(irRC)」は、Wolchok, et al. (2009) Guidelines for the Evaluation of Immune Therapy Activity in Solid Tumors: Immune-Related Response Criteria, Clinical Cancer Research 15(23): 7412-7420に記載されるような、免疫療法への応答を評価するためのシステムを指す。治療上有効な量は、投与レジメンおよび/または対象の状態の評価ならびに前述の要因の変動に関連して、対象の治療経過にわたって調整され得る。一態様では、治療上有効な量とは、単独でまたは他の薬剤と組み合わせて使用した場合に、哺乳動物対象への投与の過程で非可逆的な重篤な有害事象をもたらさない薬剤の量である。
【0070】
用語「治療する」、「治療すること」、「治療」などとは、対象を苦しめている疾患、障害もしくは状態の根本原因の少なくとも1つ、または疾患、障害もしくは状態に伴う症状の少なくとも1つを、一時的または永久的に除去、低減、抑制、軽減、または改善するように、疾患、障害、状態またはその症状が対象において診断、観察などされた後に該対象に関して開始される行動方針(IL2、CAR-T細胞、またはそれを含む薬学的組成物の投与など)を指す。治療は、疾患に罹患している対象に関して取られる行動方針を含み、その行動方針は該対象における疾患の抑制(例えば、疾患、障害もしくは状態の発症の阻止、またはそれに伴う1つ以上の症状の改善)をもたらす。
【0071】
本明細書で使用する用語「制御性T細胞」または「Treg細胞」とは、エフェクターT細胞(Teff)を含むがこれに限定されない他のT細胞の応答を抑制することができるタイプのCD4+ T細胞を指す。Treg細胞は、CD4、IL2受容体のa-サブユニット(CD25)、および転写因子フォークヘッドボックスP3(forkhead box P3)(FOXP3)の発現によって特徴づけられる(Sakaguchi, Annu Rev Immunol 22, 531-62 (2004))。「通常型CD4+ T細胞」とは、制御性T細胞以外のCD4+ T細胞を意味する。
【0072】
野生型:本明細書において「野生型」または「WT」または「天然」とは、アレル変異を含めて、自然界に見られるアミノ酸配列またはヌクレオチド配列を意味する。WTタンパク質、ポリペプチド、抗体、免疫グロブリン、IgGなどは、人の手によって改変されていないアミノ酸配列またはヌクレオチド配列を有する。
【0073】
改変型ヒトCD122
本開示は、天然STAT5認識モチーフに加えて、1つまたは複数のSTAT3結合モチーフを含む、改変されたヒトCD122を提供する。追加のSTAT3結合モチーフを含めることで、シグナル伝達が促進され、IL2応答も安定化する。
【0074】
STATタンパク質とSTAT3結合モチーフ
STATタンパク質は、C末端の保存されたチロシン残基のリン酸化後に、核内に移行し、そこでDNAに結合して標的遺伝子の転写を活性化する、転写活性化因子として作用する。Hennighausen L, Robinson GW. Genes Dev. 2008; 22:711-21。このファミリーには、STAT1、STAT2、STAT3、STAT4、STAT5A、STAT5BおよびSTAT6の7つのSTATタンパク質があり、それらは、自然および獲得免疫から細胞の増殖、分化、生存に至るまで、様々な経路で機能している。Basham et al., Nucleic Acids Res. 2008 Jun; 36(11): 3802-3818。
【0075】
STAT結合モチーフは通常、サイトカイン受容体に存在し、それらに各サイトカインが結合すると、ヤヌスキナーゼ(JAK)ファミリーのチロシンキナーゼが活性化され、そのチロシンキナーゼが該受容体の細胞内ドメインの特定のチロシンをリン酸化する。リン酸化された受容体は、該受容体上のSTAT認識モチーフにSTATを動員して、リン酸化するようになる。リン酸化されたSTATは二量体化されて核内に移行し、重要な遺伝子の転写を活性化する;Hennighausen L, Robinson GW. Interpretation of cytokine signaling through the transcription factors STAT5A and STAT5B. Genes Dev. 2008;22:711-21。
【0076】
これらのSTATタンパク質のうち、STAT5は、IL2、IL-4、IL-7、IL-9、IL-15、IL21などのサイトカインにより、それらのコグネイト受容体への結合を介して、活性化され得る。Lara E. Kallal & Christine A. Biron (2013) Changing partners at the dance, JAK-STAT, 2:1, e23504, DOI: 10.4161/jkst.23504, Page 2, Col. 2。活性化されたSTAT5は認識モチーフのような遺伝子を標的化して、STAT5を動員することができ、これによりCis、spi2.1、およびSocs-1などの転写が活性化される。Basham et al., Nucleic Acids Res. 2008 Jun; 36(11): 3802-3818。例えば、IL2のβ受容体の別名でも知られる本開示の改変型CD122は、STAT5認識モチーフを含み、STAT5を動員して活性化することができる。
【0077】
STAT5モチーフは、YX1X2L(SEQ ID NO: 19)の配列を有する。X1およびX2は、任意の天然アミノ酸であり得る。ある場合には、X1とX2は同じアミノ酸残基である。ある場合には、X1とX2は異なるアミノ酸残基である。一態様では、STAT5は、YLSL(SEQ ID NO: 20)の配列を有する。
【0078】
STAT3結合モチーフは、天然ヒトCD122には存在しない。それは通常、IL-6、IL-10、IL21、IFNαβ、IFNγ、およびIFNλに結合する受容体に存在する。活性化されると、STAT3はBcl-XL、サバイビン(survivin)、サイクリンD1、および活性化c-mycを標的とする。Lara E. Kallal & Christine A. Biron (2013) Changing partners at the dance, JAK-STAT, 2:1, e23504, DOI: 10.4161/jkst.23504, page 3。STAT3は、IL-6およびIL21、オンコスタチンM(OSM)、白血病抑制因子(LIF)など、様々なサイトカイン(それらの受容体はgp130鎖を共有する)によって、チロシンリン酸化を介して活性化される[2]。STAT3は、発癌、血管新生、腫瘍転移、抗アポトーシスなど、様々な生物学的機能に関与している。Wei Sun et al., FEBS Lett. 2006 Oct 30;580(25):5880-4. Epub 2006 Oct 2.およびFukada et al. Immunity, 1 November 1996, 449-460 Vol. 5, issue 5を参照されたい。このように、STAT3シグナル伝達は細胞に抗アポトーシス作用を付与し、その結果、改変型ヒトCD122を発現する細胞の半減期を延長させる。
【0079】
本開示では、ヒトCD122(インタクトなSTAT5モチーフを含む)は、1つまたは複数のSTAT3結合モチーフを導入するように改変されており、そのように作製された改変型ヒトCD122は、STAT5認識モチーフを保持し、かつ1つまたは複数のSTAT3結合モチーフを獲得している。
【0080】
いくつかの態様では、改変型CD122は、1つ、2つ、3つ、またはそれ以上のSTAT3結合モチーフを含むことができる。STAT3認識モチーフは、YX1X2Q(SEQ ID NO: 21)の配列を有する。いくつかの態様では、X1は、L、R、F、Mからなる群より選択され、かつX2は、R、K、HおよびPからなる群より選択される。いくつかの態様では、STAT3配列は、YLRQ (SEQ ID NO :11); YLKQ (SEQ ID NO: 12); YRHQ (SEQ ID NO: 13); YLRQ (SEQ ID NO: 14); YFKQ (SEQ ID NO: 15); YLPQ (SEQ ID NO: 16); YMPQ (SEQ ID NO: 17)およびYDKPH (SEQ ID NO: 18)からなる群より選択される。
【0081】
ヒトCD122(天然ヒトCD122およびヒトCD122オルソログを含む)
STAT3結合モチーフに加えて、改変型ヒトCD122はヒトCD122を含み、ヒトCD122は天然ヒトCD122またはヒトオルソゴナルCD122であり得る。
【0082】
いくつかの態様では、改変型ヒトCD122は、オルソゴナルヒトCD122を含む。このオルソゴナルヒトCD122は、オルソゴナルIL2に特異的に結合するが、天然IL2には特異的に結合しないように、天然CD122の残基を変異させることによって作製される。例えば、オルソゴナルIL2への結合親和性はより高く、例えば、天然CD122に対する天然IL2の親和性の2倍、3倍、4倍、5倍、10倍またはそれ以上である。いくつかの態様では、コグネイトオルソゴナルCD122に対するオルソゴナルIL2の親和性は、天然CD122に対する天然IL2の親和性に匹敵する親和性を示し、例えば、天然IL2に対する天然CD122の結合親和性の少なくとも約1%、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約25%、少なくとも約50%、少なくとも約75%、少なくとも約100%である親和性を有する。いくつかの場合には、オルソゴナルCD122は、天然ヒトCD122と比べて、R41、R42、Q70、K71、T73、T74、V75、S132、H133、Y134、F135、E136、およびQ214から選択される1つまたは複数の残基において改変される。いくつかの態様では、オルソゴナルヒトCD122は、H133およびY134で改変される。いくつかの態様では、オルソゴナルヒトCD122は、H133DおよびY134Fの置換を含む。いくつかの態様では、オルソゴナルヒトCD122は、天然ヒトCD122タンパク質と比べて、Q70、T73、H133、およびY134におけるアミノ酸置換を含む。いくつかの態様では、オルソゴナルヒトCD122は、アミノ酸置換H133およびY134を含む。いくつかの態様では、アミノ酸置換は、酸性アミノ酸、例えばアスパラギン酸および/またはグルタミン酸に対して行われる。具体的なアミノ酸置換には、天然ヒトCD122と比べて、Q70Y;T73D;T73Y;H133D;H133E;H133K;Y134F;Y134E;Y134Rが含まれるが、これらに限定されない。オルソロガス(orthologous)サイトカインの選択は、オルソロガス受容体の選択によって変化し得る。
【0083】
いくつかの態様では、天然ヒトCD122に対して上記の置換を有することに加えて、オルソゴナルヒトCD122は、天然CD122の全長配列(SEQ ID NO: 2)と少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%同一である配列を有する。
【0084】
オルソゴナルIL2:
改変型オルソゴナルヒトCD122を使用する場合には、オルソゴナルIL2を用いて、改変型オルソゴナルCD122を発現するように操作された細胞の選択的刺激を促進することができる。改変型オルソゴナルCD122を発現するように操作されたT細胞と、該オルソゴナルCD122の対応するオルソゴナルリガンドとの接触は、そのように操作されたT細胞の特異的活性化を可能にする。特に、このオルソゴナルIL2受容体リガンド複合体は、細胞の混合集団、特にT細胞の混合集団において、オルソゴナル受容体を発現するように操作された細胞の選択的拡大(増殖)を提供する。IL2オルソゴナルリガンドは、CD122オルソゴナル受容体の細胞外ドメイン、特にアミノ酸置換H133DおよびY134Fを含むヒトCD122の細胞外ドメインを含む受容体を介した選択的結合およびシグナル伝達を提供する。野生型CD122を発現する細胞に対するオルソゴナルIL2のIL2活性は、オルソゴナルCD122を発現する細胞に対するオルソゴナルIL2の活性と比較して、大幅に低下する。それゆえ、操作された細胞集団に対してオルソゴナルIL2を用いた、オルソゴナルIL2の細胞外ドメインを含む受容体を発現するように操作された細胞の選択的活性化および/または拡大が提供される。
【0085】
オルソゴナルIL2は、その一次構造に修飾を組み込むことで、以下の特性を示すポリペプチドバリアントを提供する:(a)その天然CD122(すなわち、オルソゴナルIL2の由来となる天然IL2の天然受容体)に対する親和性が著しく低下する;および(b)天然CD122のバリアントである改変型オルソゴナルCD122に特異的に結合する。オルソゴナルIL2がオルソゴナルCD122(組換え改変された細胞内でオルソゴナル受容体の発現をもたらす制御要素に機能的に連結された、オルソゴナル受容体をコードする核酸配列を組み込むように、組換えDNA技法により改変された細胞の表面に発現される)に結合すると、活性化されたオルソゴナルCD122は、天然の細胞成分を介して伝達されるシグナリングを開始して、コグネイトの天然応答を模倣するものの、オルソゴナル受容体を発現する組換え改変細胞集団に特異的である生物学的活性を提供する。本発明のいくつかの態様では、オルソログは、天然CD122受容体と比較して、オルソゴナルCD122に対する顕著な選択性を有し、任意で、天然CD122に対して大幅に低下した効力を有する。選択性は、一般に、リガンド/受容体結合に応答して誘導された活性に特徴的なアッセイで測定される、活性により評価される。いくつかの態様では、オルソログIL2は、同じアッセイで測定されたEC50において、少なくとも5倍、あるいは少なくとも10倍、あるいは少なくとも20倍、あるいは少なくとも30倍、あるいは少なくとも40倍、あるいは少なくとも50倍、あるいは少なくとも100倍、あるいは少なくとも200倍の差がある。
【0086】
IL2オルソログは、オルソログCD122の細胞外ドメイン、例えば133位と134位に修飾を組み込んだヒトCD122、に対して特異的な結合を示す。
【0087】
IL2オルソログ
様々な態様において、本開示の方法は、以下の式1のアミノ酸配列を含むオルソゴナルIL2の使用を含む:
式中、
・ AA1は、A(野生型)であるか、または欠失される;
・ AA2は、P(野生型)であるか、または欠失される;
・ AA3は、T(野生型)、C、A、G、Q、E、N、D、R、KもしくはPであるか、または欠失される;
・ AA4は、S(野生型)であるか、または欠失される;
・ AA5は、S(野生型)であるか、または欠失される;
・ AA6は、S(野生型)であるか、または欠失される;
・ AA7は、T(野生型)であるか、または欠失される;
・ AA8は、K(野生型)であるか、または欠失される;
・ AA9は、K(野生型)であるか、または欠失される;
・ AA13は、Q(野生型)もしくはWであるか、または欠失される;
・ AA14は、L(野生型)、MもしくはWであるか、または欠失される;
・ AA15は、E(野生型)、K、D、T、A、S、QもしくはHであるか、または欠失される;
・ AA16は、H(野生型)、NもしくはQであるか、または欠失される;
・ AA18は、L(野生型)、R、L、G、M、F、E、H、W、K、Q、S、V、I、Y、H、DまたはTである;
・ AA19は、L(野生型)、A、VもしくはIであるか、または欠失される;
・ AA20は、D(野生型)、T、S、MもしくはLであるか、または欠失される;
・ AA22は、Q(野生型)、F、E、G、A、L、M、F、W、K、S、V、I、Y、H、R、N、D、TもしくはFであるか、または欠失される;
・ AA23は、M(野生型)、A、W、H、Y、F、Q、S、V、LもしくはTであるか、または欠失される;
・ AA27は、G(野生型)、KもしくはSであるか、または欠失される;
・ AA38は、R(野生型)、WまたはGである;
・ AA39は、M(野生型)、LまたはVである;
・ AA42は、F(野生型)またはKである;
・ AA51は、T(野生型)もしくはIであるか、または欠失される;
・ AA55は、H(野生型)またはYである;
・ AA74は、Q(野生型)、N、HまたはSである;
・ AA80は、L(野生型)、FまたはVである;
・ AA81は、R(野生型)、I、D、YもしくはTであるか、または欠失される;
・ AA85は、L(野生型)またはVである;
・ AA86は、I(野生型)またはVである;
・ AA88は、N(野生型)、EもしくはQであるか、または欠失される;
・ AA89は、I(野生型)またはVである;
・ AA91は、V(野生型)、RまたはKである;
・ AA92は、I(野生型)またはFである;
・ AA97は、K(野生型)またはQである;
・ AA104は、M(野生型)またはAである;
・ AA109は、D(野生型)、Cまたは活性化された側鎖を持つ非天然アミノ酸である;
・ AA113は、T(野生型)またはNである;
・ AA125は、C(野生型)、AまたはSである;
・ AA126は、Q(野生型)、H、M、K、C、D、E、G、I、R、SまたはTである;ならびに/または
・ AA130は、S(野生型)、TまたはRである。
【0088】
いくつかの態様では、本開示は、以下のアミノ酸修飾のセットを含むhIL2ポリペプチドであるオルソゴナルIL2を提供する:
【0089】
Cys125:
いくつかの態様では、本開示は、125位の不対システイン残基を除去し、かつ/または直接発現されたIL2ポリペプチドのN末端Metならびに1位のアラニンを、内因性細菌プロテアーゼによる翻訳後プロセシングにより除去することによって、細菌細胞における組換え発現を促進するオルソゴナルIL2を提供する。1つのアミノ酸が欠けると、それは「des」と呼ばれる。いくつかの態様では、125位のシステインは、アラニンまたはセリンで置換される(C125AまたはC125S)。このような変異は、一般に、細菌で組換え発現させて、封入体から分離するとき、タンパク質のミスフォールディングを回避するために用いられる。例えば、「des-Ala1」は、1位のアラニンがIL2ポリペプチドに存在しないことを意味する。いくつかの態様では、本発明のオルソゴナルIL2は、以下のアミノ酸修飾のセットのうちの1つを含む:
【0090】
CD122親和性を高める変異
いくつかの態様では、オルソゴナルIL2は、hCD122に接触するhIL2配列の位置、またはCD122に接触する他の位置の向きを変えるhIL2配列の位置に、1つまたは複数の変異を含み、該変異は、CD122に対する親和性が増加したオルソゴナルIL2をもたらす。IL2とCD122との結合に関与していることが確認されているIL2残基には、L12、Q13、H16、L19、D20、M23、Q74、L80、R81、D84、L85、I86、S87、N88、I89、V91、I92およびE95が含まれる。いくつかの態様では、オルソゴナルIL2は、次のアミノ酸置換の1つまたは複数を含む:Q74N、Q74H、Q74S、L80F、L80V、R81D、R81T、L85V、I86V、I89V、I92F、またはこれらの組み合わせ。いくつかの態様では、オルソゴナルIL2は、アミノ酸置換:L80F、R81D、L85V、I86VおよびI92Fの1つまたは複数を含む。いくつかの態様では、オルソゴナルIL2は、アミノ酸置換:N74Q、L80F、R81D、L85V、I86V、I89V、およびI92Fの1つまたは複数を含む。いくつかの態様では、オルソゴナルIL2は、アミノ酸置換:Q74N、L80V、R81T、L85V、I86V、およびI92Fの1つまたは複数を含む。いくつかの態様では、オルソゴナルIL2は、アミノ酸置換:Q74H、L80F、R81D、L85V、I86V、およびI92Fの1つまたは複数を含む。いくつかの態様では、オルソゴナルIL2は、アミノ酸置換:Q74S、L80F、R81D、L85V、I86VおよびI92Fの1つまたは複数を含む。いくつかの態様では、オルソゴナルIL2は、アミノ酸置換:Q74N、L80F、R81D、L85V、I86VおよびI92Fの1つまたは複数を含む。いくつかの態様では、オルソゴナルIL2は、アミノ酸置換:Q74S、R81T、L85V、およびI92Fの1つまたは複数を含む。いくつかの態様では、オルソゴナルIL2は、[L80F-R81D-L85V-I86V-I92F]を含む。いくつかの態様では、本開示は、以下のアミノ酸修飾のセットのうちの1つを含むオルソゴナルIL2を提供する:
【0091】
いくつかの態様では、オルソログは、CD122に対するIL2の親和性を増加させるとして同定されている置換L85Vを含む。いくつかの態様では、本開示は、以下のアミノ酸修飾のセットのうちの1つを含むhIL2ポリペプチドであるオルソゴナルIL2を提供する:
【0092】
CD25親和性の調節
いくつかの態様では、オルソゴナルIL2は、CD25に接触するIL2配列の位置、またはCD25に接触する他の位置の向きを変えるIL2配列の位置に、CD25に対する親和性を低下させる1つまたは複数の変異を含む。該変異は、公開された結晶構造に基づいて、CD25に近接していることが知られている領域内またはその近傍に存在し得る(Wang, et al Science 310:1159 2005)。CD25に接触すると考えられるIL2残基は、K35、R38、T41、F42、K43、F44、Y45、E61、E62、K64、P65、E68、V69、L72、およびY107である。いくつかの態様では、本開示のオルソゴナルIL2は、R38A、F41AおよびF42A(Suave, et al (1991) PNAS(USA)88:4636-4640);P65L(Chen et al. Cell Death and Disease (2018) 9:989);F42A/G/S/T/Q/E/N/R/K、Y45A/G/S/T/Q/E/N/D/R/K/および/またはL72G/A/S/T/Q/E/N/D/R/K(2012年9月27日公開のAst, et al米国特許出願公開第2012/0244112A1号、2016年2月23日発行の米国特許第9266938B2号)の点変異の1つまたは複数を含む。特定の置換の組み合わせは、CD25との結合を低下させることが確認されている。いくつかの態様では、本開示のオルソゴナルIL2は、Carmenate, et al (2013) J Immunol 190:6230-6238 に記載されるような置換のセット[R38A-F42A-Y45A-E62A];[F42A-Y45A-L72G](Roche RG7461 (RO6874281));および/または[T41P-T51P](Chang, et al (1995) Molecular Pharmacology 47:206-211)のうちの1つまたは複数を含む。いくつかの態様では、本開示は、以下のアミノ酸修飾のセットのうちの1つを含むhIL2ポリペプチドであるオルソゴナルIL2を提供する:
【0093】
本発明のいくつかの態様では、オルソゴナルIL2は、CD132に接触するIL2配列の位置、またはCD132に接触する他の位置の向きを変えるIL2配列の位置に、CD132への結合を変化させる1つまたは複数の変異を含む。例示的なオルソゴナルIL2は、CD132に接触するIL2配列の位置、またはCD122に接触する他の位置の向きを変えるIL2配列の位置に、CD132への結合を変化させる1つまたは複数の変異を含む。CD132に接触すると考えられるIL2残基には、Q11、L18、Q22、E110、N119、T123、Q126、S127、I129、S130、およびT133が含まれる。いくつかの態様では、IL2は、L18に修飾を含み、AA18は、L(野生型)またはR、L、G、M、F、E、H、W、K、Q、S、V、I、Y、H、DもしくはTである;AA126は、Q(野生型)またはH、M、K、C、D、E、G、I、R、SもしくはTである;および/またはAA22は、Q(野生型)またはF、E、G、A、L、M、F、W、K、S、V、I、Y、H、R、N、D、TもしくはFである。
【0094】
いくつかの態様では、本開示は、以下のアミノ酸修飾のセットのうちの1つを含むhIL2ポリペプチドであるオルソゴナルIL2を提供する:
【0095】
細菌発現系でリーダー配列の非存在下に直接組換えにより産生させると、内因性プロテアーゼがN末端のMet-Ala1残基を欠失させて、「desAla1」オルソゴナルIL2をもたらす。いくつかの態様では、本開示は、以下のアミノ酸修飾のセットのうちの1つを含むhIL2ポリペプチドであるオルソゴナルIL2を提供する:
【0096】
保存的アミノ酸置換
CD122オルソゴナル受容体に対するオルソゴナルIL2の活性および選択性に寄与する前述の修飾に加えて、オルソゴナルIL2は、IL2活性に最小限の影響を与える1つまたは複数のその一次構造に対する修飾を含むことができる。いくつかの態様では、本開示のオルソゴナルIL2は、野生型IL-2アミノ酸配列内に1つまたは複数の保存的アミノ酸置換をさらに含んでいてもよい。そのような保存的置換には、DayhoffによりThe Atlas of Protein Sequence and Structure 5 (1978)に記載されたもの、およびArgosによりEMBO J., 8:779-785 (1989)に記載されたものが含まれる。保存的置換は、一般に、表3に示される以下のチャートに従って行われる。
【0097】
【0098】
機能または免疫学的固有性の実質的な変化は、表3に示したものより保存的でないアミノ酸置換を選択することによって行うことができる。例えば、ポリペプチド骨格の構造に大きな影響を与える置換、または二次もしくは三次要素を破壊する置換を行うことができ、これには、小さな非荷電側鎖を持つアミノ酸(例:グリシン)の、大きな嵩高の荷電側鎖を持つアミノ酸(アスパラギン)による置換が含まれる。特に、CD25、CD122および/またはCD123の1つまたは複数と相互作用するアミノ酸に関与するIL2残基の置換は、記載されるように、その受容体に結合しているIL2の結晶構造から見つけることができる。
【0099】
CD122オルソゴナル受容体に対するオルソゴナルIL2の活性および選択性に寄与する前述の修飾に加えて、オルソゴナルIL2は、その一次構造に対する1つまたは複数の修飾を含むことができる。上記のような一次構造への修飾は、任意で、オルソゴナルIL2のIL2活性を実質的に低下させない修飾をさらに含むことができ、例えば、以下の置換が含まれるが、これらに限定されない:N30E、K32E、N33D、P34G、T37I、M39Q、F42Y、F44Y、P47G、T51I、E52K、L53N、Q57E、M104A(米国特許第5,206,344号参照)。
【0100】
グリコシル化部位の除去
本開示のオルソゴナルIL2は、CHO細胞またはHEK細胞などの哺乳動物細胞でオルソゴナルIL2を発現させる場合に、非グリコシル化(aglycosylated)オルソゴナルIL2の産生を促進するために、その位置Thr3におけるO-グリコシル化部位を排除する修飾を含むことができる。そのため、特定の態様では、オルソゴナルIL2は、ヒトIL-2の残基3に対応する位置にIL-2のO-グリコシル化部位を除去する修飾を含む。一態様では、ヒトIL-2の残基3に対応する位置でIL-2のO-グリコシル化部位を除去する修飾は、アミノ酸置換である。例示的なアミノ酸置換には、生物活性を失うことなく3位のグリコシル化部位を除去するT3A、T3G、T3Q、T3E、T3N、T3D、T3R、T3K、およびT3Pが含まれる(米国特許第5,116,943号;Weiger et al., (1989) Eur. J. Biochem., 180:295-300を参照されたい)。具体的な態様では、該修飾はアミノ酸置換T3Aである。いくつかの態様では、本開示は、以下のアミノ酸修飾のセットのうちの1つを含むhIL2ポリペプチドであるオルソゴナルIL2を提供する:
【0101】
オルソゴナルIL2は、最初の2つのアミノ酸の欠失(desAla1-desPro2)と、選択的なN末端修飾、特にシステインのスルフヒドリル基のPEG化、を促進するためのシステイン残基によるThr3グリコシル化の置換を含むことができる(例えば、1993年4月27日発行のKatre, et al. 米国特許第5,206,344号を参照されたい)。いくつかの態様では、本開示は、以下のアミノ酸修飾のセットのうちの1つを含むhIL2ポリペプチドであるオルソゴナルIL2を提供する:
【0102】
酸化安定型M104A
本明細書に開示されるオルソゴナルIL2は、任意で、位置M104における修飾、一態様では、より酸化抵抗性の高いオルソログを提供するメチオニン104のアラニン残基による置換(M104A)をさらに含むことができる(1988年6月21日発行のKoths, et al. 米国特許第4,752,585号を参照されたい)。
【0103】
N末端の欠失
細菌発現系でリーダー配列の非存在下に直接組換えにより産生させると、内因性プロテアーゼがN末端のMet-Ala1残基を欠失させて、「desAla1」オルソゴナルIL2をもたらす。本明細書に開示されるオルソゴナルIL2は、最初の2つのアミノ酸の欠失(desAla1-desPro2)と、N末端修飾、特にシステインのスルフヒドリル基のPEG化、を促進するためのシステイン残基(T3C)によるThr3グリコシル化の置換を含むことができる(例えば、1993年4月27日発行のKatre, et al. 米国特許第5,206,344号を参照されたい)。
【0104】
オルソゴナルIL2は、1~9位、あるいは1~8位、あるいは1~7位、あるいは1~6位、あるいは1~5位、あるいは1~4位、あるいは1~3位、あるいは1~2位の1つまたは複数の位置でN末端アミノ酸の除去をさらに含むことができる。いくつかの態様では、本開示は、以下のアミノ酸修飾のセットのうちの1つを含むhIL2ポリペプチドであるオルソゴナルIL2を提供する:
【0105】
血管漏出症候群の最少化
本開示のいくつかの態様では、オルソゴナルIL2は、有効性の実質的な損失なしに、ヒトにおけるIL2療法の使用の重大な用量制限のある副作用である血管漏出症候群(vascular leak syndrome)を回避するために、アミノ酸置換を含む。2009年4月7日発行のEpstein, et al. 米国特許第7,514,073B2号を参照されたい。本開示のオルソゴナルIL2に含まれるそのような修飾の例として、R38W、R38G、R39L、R39V、F42K、およびH55Yの1つまたは複数が挙げられる。
【0106】
親和性成熟:
いくつかの態様では、オルソゴナルIL2は、オルソゴナルCD122に対するその活性を高めるために、親和性成熟を行うことができる。「親和性成熟」を行ったポリペプチドは、1つまたは複数の残基に1つまたは複数の改変を有するポリペプチドであって、こうした改変を持たない親ポリペプチドと比較して、コグネイトオルソゴナル受容体に対するオルソゴナルポリペプチドの親和性、またはその逆の改善をもたらすものである。親和性成熟は、オルソゴナルIL2の結合親和性を、「親」ポリペプチドと比較して、少なくとも約10%、あるいは少なくとも約50%、あるいは少なくとも約100%、あるいは少なくとも約150%、または1~5倍増加させるために行うことができる。本発明の遺伝子操作されたオルソゴナルIL2は、上述のようにそのコグネイトオルソゴナル受容体を活性化するが、適切なアッセイ条件下で十分な量の分子を用いてELISAおよび/またはFACS解析によって評価した場合、野生型IL2受容体の結合および活性化が大幅に低下している。
【0107】
インビボでの作用持続時間を延長するための改変
上述したように、本開示の組成物は、インビボでの寿命の延長および/または対象における作用持続時間の延長を提供するように改変されたオルソゴナルIL2を含む。寿命および/または作用持続時間の延長のためのそうした改変には、オルソゴナルIL2の一次配列に対する修飾、キャリア分子へのコンジュゲーション(例えば、アルブミン、アシル化、PEG化)、およびFc融合が含まれる。
【0108】
インビボでの作用持続時間を延長するための配列修飾
上述したように、オルソゴナルIL2という用語は、インビボでの寿命の延長および/または対象における作用持続時間の延長を提供するためのオルソゴナルIL2の改変を含む。
【0109】
いくつかの態様では、オルソゴナルIL2は、インビボ寿命の長期化をもたらす特定のアミノ酸置換を含むことができる。例えば、Dakshinamurthi, et al.(International Journal of Bioinformatics Research (2009) 1(2):4-13)は、IL2ポリペプチドにおける置換V91R、K97EおよびT113Nの1つまたは複数が、増強された安定性および活性を有するIL2バリアントをもたらすと述べている。いくつかの態様では、本開示のオルソゴナルIL2は、V91R、K97EおよびT113N修飾のうちの1つ、2つまたは3つ全てを含む。
【0110】
コンジュゲートおよびキャリア分子
いくつかの態様では、オルソゴナルIL2は、オルソゴナルIL2に特定の性質(例えば、対象における作用持続時間の延長)を提供するように改変され、これは、半減期の延長などの所望の薬理学的性質を提供するキャリア分子へのコンジュゲーションによって達成され得る。いくつかの態様では、オルソゴナルIL2は、IgGのFcドメイン、アルブミン、または半減期を延長するための他の分子に、例えば、当技術分野で知られるようなPEG化、グリコシル化、脂肪酸アシル化などによって、共有結合することができる。
【0111】
アルブミン融合
いくつかの態様では、オルソゴナルIL2は、インビボでの長期間曝露を促進することが当技術分野で知られているアルブミン分子(例えば、ヒト血清アルブミン)との融合タンパク質として発現される。
【0112】
本発明の一態様では、hIL2アナログは、アルブミンにコンジュゲートされ、本明細書では「オルソゴナルIL2アルブミン融合体」と呼ばれる。hIL2アナログアルブミン融合体との関連で使用される用語「アルブミン」には、ヒト血清アルブミン(HSA)、カニクイザル(cyno)血清アルブミン、ウシ血清アルブミン(BSA)などのアルブミンが含まれる。いくつかの態様では、HSAは、野生型HSA配列と比べて、C34SまたはK573Pアミノ酸置換を含む。本開示によれば、アルブミンは、カルボキシル末端、アミノ末端、カルボキシル末端とアミノ末端の両方、または内部でオルソゴナルIL2にコンジュゲートされ得る(例えば、米国特許第5,876,969号および第7,056,701号を参照されたい)。本開示によって企図されるHSA-オルソゴナルIL2ポリペプチドコンジュゲートでは、様々な形態のアルブミン、例えば、アルブミン分泌プレ配列とそのバリアント、その断片とバリアント、およびHSAバリアントを使用することが可能である。このような形態は、一般に、1つまたは複数の所望のアルブミン活性を保持している。追加の態様では、本開示は、アルブミン、アルブミン断片、またはアルブミンバリアントなどに直接もしくは間接的に融合されたhIL2アナログポリペプチドを含む融合タンパク質を含み、ここで、該融合タンパク質は未融合薬物分子よりも高い血漿安定性を有しており、かつ/または該融合タンパク質は未融合薬物分子の治療活性を保持している。いくつかの態様では、間接融合体は、以下でさらに詳しく論じるように、ペプチドリンカーまたはその修飾バージョンなどのリンカーによってもたらされる。
【0113】
あるいは、hIL2アナログアルブミン融合体は、アルブミン結合ドメイン(ABD)ポリペプチド配列とオルソゴナルIL2ポリペプチドを含む融合タンパク質であるオルソゴナルIL2を含む。上記で示唆したように、アルブミン結合ドメイン(ABD)ポリペプチド配列とhIL2アナログポリペプチドを含む融合タンパク質は、例えば、HSAをコードする核酸またはその断片が1つまたは複数のオルソゴナルIL2配列をコードする核酸に結合されるような、遺伝子操作によって達成することができる。いくつかの態様では、アルブミン結合ペプチドは、アミノ酸配列DICLPRWGCLW(SEQ ID #6)を含む。
【0114】
オルソゴナルIL2ポリペプチドはまた、以下のような、大きくて徐々に代謝される高分子にコンジュゲート化させることも可能である:タンパク質;多糖類、例えば、セファロース、アガロース、セルロース、またはセルロースビーズ;アミノ酸重合体、例えば、ポリグルタミン酸、ポリリジン;アミノ酸共重合体;不活性化ウイルス粒子;不活性化細菌毒素、例えば、ジフテリア、破傷風、コレラのトキソイド、またはロイコトキシン;不活性化細菌、樹状細胞、サイログロブリン;破傷風トキソイド;ジフテリアトキソイド;ポリアミノ酸、例えばポリ(D-リジン:D-グルタミン酸);ロタウイルスのVP6ポリペプチド;インフルエンザウイルスヘマグルチニン、インフルエンザウイルス核タンパク質;キーホールリンペットヘモシアニン(KLH);およびB型肝炎ウイルスのコアタンパク質と表面抗原。このようなコンジュゲート形態は、所望により、本開示のポリペプチドに対する抗体を作成するために使用することができる。
【0115】
いくつかの態様では、オルソゴナルIL2は、PEG化に似た持続時間の延長を提供するXTENと(化学的にまたは融合タンパク質として)コンジュゲート化され、大腸菌(E. coli)において組換え融合タンパク質として産生され得る。本開示のオルソゴナルIL2と共に使用するのに適したXTENポリマーは、Podust, et al. (2016) “Extension of in vivo half-life of biologically active molecules by XTEN protein polymers”, J Controlled Release 240:52-66およびHaeckel et al. (2016) “XTEN as Biological Alternative to PEGylation Allows Complete Expression of a Protease- Activatable Killin-Based Cytostatic” PLOS ONE | DOI:10.1371/journal.pone.0157193 June 13, 2016に提供される。XTENポリマー融合タンパク質は、XTENポリペプチドとオルソゴナルIL2との間に、MMP-2切断部位などのプロテアーゼ感受性切断部位を組み込んでもよい。
【0116】
コンジュゲーションのための追加の候補成分および分子には、単離または精製に適したものが含まれる。特定の非限定的な例には、結合分子、例えば、ビオチン(ビオチン-アビジン特異的結合対)、抗体、受容体、リガンド、レクチン、または固体支持体(例えば、プラスチックまたはポリスチレンビーズ、プレートまたはビーズ、磁気ビーズ、テストストリップ、メンブレンなど)を含む分子が含まれる。
【0117】
いくつかの態様では、IL-2ムテインはまた、治療用化合物、例えば、抗炎症化合物または抗腫瘍剤、治療用抗体(例:ハーセプチン)、免疫チェックポイント調節剤、免疫チェックポイント阻害剤(例:抗PD1抗体)、本開示の他の箇所に記載される癌ワクチンなどの、追加の治療薬に連結され得る。抗微生物剤には、アミノグリコシド系、例えばゲンタマイシン;抗ウイルス化合物、例えば、リファンピシン、3'-アジド-3'-デオキシチミジン(AZT)、アシロビルなど;抗真菌剤、例えば、フルコナゾールなどのアゾール系、アムホテリシンBなどのポリエンマクロライド系、カンジシジンなど;抗寄生虫化合物、例えばアンチモン剤などが含まれる。オルソゴナルIL2は、追加のサイトカイン、例えば、CSF、GSF、GMCSF、TNF、エリスロポエチンなど;免疫調節因子またはサイトカイン、例えば、インターフェロン、インターロイキンなど;神経ペプチド;生殖ホルモン、例えば、HGH、FSH、LHなど;甲状腺ホルモン;神経伝達物質、例えばアセチルコリンなど;ホルモン受容体、例えばエストロゲン受容体などにコンジュゲート化されてもよい。また、非ステロイド性抗炎症薬、例えば、インドメタシン、アセチルサリチル酸、イブプロフェン、スリンダク、ピロキシカム、ナプロキセンなど、および麻酔薬または鎮痛薬も含まれる。また、治療だけでなく画像診断にも有用なラジオアイソトープなども含まれる。
【0118】
本開示のオルソゴナルIL2は、周知の化学的コンジュゲーション法を用いて、そのようなキャリア分子に化学的にコンジュゲート化され得る。この目的のためには、当技術分野において周知のホモ官能性およびヘテロ官能性架橋試薬のような二官能性架橋試薬を使用することができる。使用する架橋試薬のタイプは、IL-2ムテインにカップリングさせる分子の性質に依存し、当業者であれば容易に特定することが可能である。代替的に、または追加的に、オルソゴナルIL2および/またはそれがコンジュゲート化されることになっている分子は、やはり当技術分野でよく知られるように、これら2つを別個の反応でコンジュゲート化できるように化学的に誘導体化することができる。
【0119】
PEG化:
いくつかの態様では、オルソゴナルIL2は、1つまたは複数の水溶性ポリマーにコンジュゲート化される。本発明の実施に有用な水溶性ポリマーの例としては、以下が挙げられる:ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、多糖類(ポリビニルピロリドン、エチレングリコールとプロピレングリコールのコポリマー、ポリ(オキシエチル化ポリオール)、ポリオレフィンアルコール、多糖類、ポリα-ヒドロキシ酸、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリホスファゼン、ポリオキサゾリン(POZ)、ポリ(N-アクリロイルモルフォリン)、またはこれらの組み合わせ。
【0120】
いくつかの態様では、オルソゴナルIL2は、1つまたは複数のポリエチレングリコール分子にコンジュゲート化される、つまり「PEG化」される。オルソゴナルIL2へのPEG結合の方法または部位は異なっていてよいが、特定の態様では、PEG化はオルソゴナルIL2の活性を変化させないまたは最小限にしか変化させないものである。
【0121】
いくつかの態様では、特定の化学を用いてN末端のPEG化を促進するために、3位のトレオニンの代わりにシステイン(3TC)を使用することができる。
【0122】
いくつかの態様では、オルソゴナルIL2の選択的PEG化(例えば、Ptacin, et al.(2018年8月3日出願され、2019年2月7日に国際公開番号WO 2019/028419Alとして公開されたPCT国際出願番号PCT/US2018/045257)に記載されるような、選択的PEGコンジュゲーション化学を促進するための側鎖を持つ非天然アミノ酸の組み込みによる)を利用して、IL2受容体複合体の1つまたは複数のサブユニット(例:CD25、CD132)に対する親和性を低下させたオルソゴナルIL2を生成することができる。例えば、CD25と相互作用すると同定されたアミノ酸34~45、61~72および105~109を含むIL2の配列または残基に、PEG化可能な特定部分を有する非天然アミノ酸を組み込んだオルソゴナルIL2は、一般的に、CD25への結合が低下したオルソゴナルIL2を提供する。同様に、hCD132と相互作用すると同定されたアミノ酸18、22、109、126、または119~133を含むIL2の配列または残基に、PEG化可能な特定部分を有する非天然アミノ酸を組み込んだオルソゴナルIL2は、hCD132への結合が低下したオルソゴナルIL2を提供する。
【0123】
特定の態様において、半減期の増加は、生物学的活性の低下を越えている。ポリペプチド配列とのコンジュゲーションに適したPEGは、一般に室温で水に可溶性であり、一般式R(O-CH2-CH2)nO-Rを有する;ここで、Rは水素または保護基、例えばアルキル基、アルカノール基などであり、nは1~1000の整数である。Rが保護基である場合、それは一般に炭素数1~8である。ポリペプチド配列にコンジュゲート化されるPEGは、直鎖状でも分岐状でもよい。分岐状PEG誘導体である「スターPEG」(star-PEG)およびマルチアームPEGが本開示によって企図される。
【0124】
本開示で用いられるPEGの分子量は、特定の範囲に制限されない。PEG-オルソゴナルIL2のPEG成分は、約5kDa超、約10kDa超、約15kDa超、約20kDa超、約30kDa超、約40kDa超、または約50kDa超の分子質量を有することができる。いくつかの態様では、分子質量は、約5kDa~約10kDa、約5kDa~約15kDa、約5kDa~約20kDa、約10kDa~約15kDa、約10kDa~約20kDa、約10kDa~約25kDa、または約10kDa~約30kDaである。直鎖状または分岐状PEG分子は約2,000~約80,000ダルトン、あるいは約2,000~約70,000ダルトン、あるいは約5,000~約50,000ダルトン、あるいは約10,000~約50,000ダルトン、あるいは約20,000~約50,000ダルトン、あるいは約30,000~約50,000ダルトン、あるいは約20,000~約40,000ダルトン、あるいは約30,000~約40,000ダルトンの分子量を有する。本発明の一態様では、PEGは、2本の20kDアームを含む40kDの分岐状PEGである。
【0125】
本開示はまた、コンジュゲートの組成物を企図しており、この場合、PEGは異なるn値を有し、したがって、様々な異なるPEGが特定の比率で存在する。例えば、いくつかの組成物は、n=1、2、3および4であるコンジュゲートの混合物を含む。いくつかの組成物において、n=1であるコンジュゲートの割合は18~25%、n=2であるコンジュゲートの割合は50~66%、n=3であるコンジュゲートの割合は12~16%、n=4であるコンジュゲートの割合は最大5%である。このような組成物は、当技術分野で公知の反応条件および精製方法によって製造することができる。クロマトグラフィーを用いてコンジュゲート画分を分離し、その後、例えば所望の数のPEGが結合したコンジュゲートを含む画分を、未修飾タンパク質配列および他の数のPEGが結合したコンジュゲートから精製して同定することができる。
【0126】
ポリペプチド配列とのコンジュゲーションに適したPEGは、一般に室温で水に可溶性であり、一般式R(O-CH2-CH2)nO-Rを有する;ここで、Rは水素または保護基、例えばアルキル基、アルカノール基などであり、nは1~1000の整数である。Rが保護基である場合、それは一般に炭素数1~8である。
【0127】
2つの広く使用されている第一世代の活性化モノメトキシPEG(mPEG)は、スクシンイミジルカーボネートPEG(SC-PEG;例えば、Zalipsky, et al. (1992) Biotehnol. Appl. Biochem 15:100-114参照)とベンゾトリアゾールカーボネートPEG(BTC-PEG;例えば、Dolence, et al. 米国特許第5,650,234号参照)であり、これらはリジン残基と優先的に反応してカルバメート結合を形成するが、ヒスチジン残基およびチロシン残基と反応することも知られている。PEG-アルデヒドリンカーの使用は、還元的アミノ化を介してポリペプチドのN末端の単一部位を標的とする。
【0128】
PEG化は、ポリペプチドのN末端の□-アミノ基、リジン残基の側鎖のε-アミノ基、およびヒスチジン残基の側鎖のイミダゾール基で最も頻繁に起こる。ほとんどの組換えポリペプチドは単一のαアミノ基と多数のεアミノ基およびイミダゾール基を持っているため、リンカー化学に応じて多数の位置異性体が生成される可能性がある。本明細書では、当技術分野で公知の一般的なPEG化戦略が適用され得る。
【0129】
PEGは、ポリペプチド配列の1つ以上の遊離アミノまたはカルボキシル基とポリエチレングリコールとの間の結合を仲介する末端反応性基(「スペーサー」)を介して、本開示のオルソゴナルIL2に結合させることができる。遊離アミノ基に結合できるスペーサーを有するPEGとしては、N-ヒドロキシコハク酸イミドポリエチレングリコールが挙げられ、これはポリエチレングリコールのコハク酸エステルをN-ヒドロキシコハク酸イミドで活性化することにより調製することができる。
【0130】
いくつかの態様では、オルソゴナルIL2のPEG化は、部位特異的PEG化を促進するために、ユニークな側鎖を持つ非天然アミノ酸を組み込むことによって促進される。ポリペプチドに非天然アミノ酸を組み込んで機能的な部分を提供し、そのようなポリペプチドの部位特異的PEG化を達成することは、当技術分野で知られている。例えば、Ptacin, et al.(2018年8月3日出願され、2019年2月7日に国際公開番号WO 2019/028419Alとして公開されたPCT国際出願番号PCT/US2018/045257)を参照されたい。一態様において、本発明のオルソゴナルIL2では、オルソゴナルIL2のD109の位置に非天然アミノ酸が組み込まれる。本発明の一態様では、オルソゴナルIL2は、約20kD、あるいは約30kD、あるいは約40kDの分子量を有するPEG分子に、オルソゴナルIL2の109位でPEG化される。
【0131】
ポリペプチド配列にコンジュゲート化されるPEGは、直鎖状でも分岐状でもよい。分岐状PEG誘導体である「スターPEG」およびマルチアームPEGが本開示によって企図される。本発明の実施に有用なPEGの具体例には、以下が含まれる:10kDa直鎖PEG-アルデヒド(例えば、Sunbright(登録商標)ME-100AL, NOF America Corporation, One North Broadway, White Plains, NY 10601 USA)、10kDa直鎖PEG-NHSエステル(例えば、Sunbright(登録商標)ME-100CS, Sunbright(登録商標)ME-100AS, Sunbright(登録商標)ME-100GS, Sunbright(登録商標)ME-100HS, NOF社)、20kDa直鎖PEG-アルデヒド(例えば、Sunbright(登録商標)ME-200AL, NOF社)、20kDa直鎖PEG-NHSエステル(例えば、Sunbright(登録商標)ME-200CS, Sunbright(登録商標)ME-200AS, Sunbright(登録商標)ME-200GS, Sunbright(登録商標)ME-200HS, NOF社)、20kDa 2アーム分岐PEG-アルデヒド(この20kDa PEG-アルデヒドは2本の10kDa直鎖PEG分子を含む;例えば、Sunbright(登録商標)GL2-200AL3, NOF社)、20kDa 2アーム分岐PEG-NHSエステル(この20kDa PEG-NHSエステルは2本の10kDa直鎖PEG分子を含む;例えば、Sunbright(登録商標)GL2-200TS, Sunbright(登録商標)GL200GS2, NOF社)、40kDa 2アーム分岐PEG-アルデヒド(この40kDa PEG-アルデヒドは2本の20kDa直鎖PEG分子を含む;例えば、Sunbright(登録商標)GL2-400AL3)、40kDa 2アーム分岐PEG-NHSエステル(この40kDa PEG-NHSエステルは2本の20kDa直鎖PEG分子を含む;例えば、Sunbright(登録商標)GL2-400AL3, Sunbright(登録商標)GL2-400GS2, NOF社)、直鎖30kDa PEG-アルデヒド(例えば、Sunbright(登録商標)ME-300AL)および直鎖30kDa PEG-NHSエステル。
【0132】
先に述べたように、PEGはオルソゴナルIL2に直接、またはリンカー分子を介して結合させることができる。適切なリンカーには、「柔軟性リンカー」が含まれ、これは、一般に、修飾されたポリペプチド配列と連結された成分および分子との間のいくらかの動きを可能にするのに十分な長さのものである。リンカー分子は、一般に原子数約6~50の長さである。リンカー分子はまた、例えば、アリールアセチレン、2~10モノマー単位を含むエチレングリコールオリゴマー、ジアミン、二酸、アミノ酸、またはそれらの組み合わせであり得る。適切なリンカーは容易に選択でき、適切であればどのような長さのものでもよく、例えば、1アミノ酸(例:Gly)、2、3、4、5、6、7、8、9、10、10~20、20~30、30~50または50超のアミノ酸であり得る。柔軟性リンカーの例には、グリシンポリマー(G)n、グリシン-セリンポリマー、グリシン-アラニンポリマー、アラニン-セリンポリマー、およびその他の柔軟性リンカーが含まれる。グリシンポリマーとグリシン-セリンポリマーは比較的構造化されていないため、成分間の中立的テザー(neutral tether)として機能し得る。柔軟性リンカーのさらなる例には、グリシンポリマー(G)n、グリシン-アラニンポリマー、アラニン-セリンポリマー、グリシン-セリンポリマーが含まれる。グリシンポリマーとグリシン-セリンポリマーは比較的構造化されていないため、成分間の中立的テザーとして機能し得る。これらのリンカー配列の多量体(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、10~20、20~30、または30~50)は、一緒に連結されて柔軟性リンカーを提供し、これは、本明細書に開示されるポリペプチドに異種アミノ酸配列をコンジュゲート化させるために使用することができる。
【0133】
さらに、このようなリンカーは、本明細書に記載されるように、オルソゴナルIL2を追加の異種ポリペプチド成分に連結するために使用され得る;異種アミノ酸配列は、シグナル配列および/または融合パートナー、例えばアルブミン、Fc配列などであってよい。
【0134】
本開示の一態様では、オルソゴナルIL2は、式2のヒトオルソゴナルIL2である:
40kD分岐PEG-リンカー-desAla1-hIL2[E15S-H16Q-L19V-D20L-Q22K-M23A]-COOH。
【0135】
本発明の別の態様では、オルソゴナルIL2は、式3のヒトオルソゴナルIL2である:
式中、n=0または1。
【0136】
アシル化
いくつかの態様では、本開示のオルソゴナルIL2は、Resh (2016) Progress in Lipid Research 63: 120-131に記載されるように、脂肪酸分子へのコンジュゲーションによってアシル化され得る。コンジュゲート化される脂肪酸の例としては、ミリスチン酸、パルミチン酸、およびパルミトレイン酸が挙げられる。ミリストイル基は通常、N末端グリシンに連結されるが、リジンもミリストイル化され得る。パルミトイル化は通常、遊離システイン-SH基の酵素的修飾により、例えばS-パルミトイル化を触媒するDHHCタンパク質により達成される。セリンおよびトレオニン残基のパルミトレイル化は通常、PORCN酵素を用いて酵素的に達成される。
【0137】
アセチル化
いくつかの態様では、IL-2ムテインは、N末端アセチルトランスフェラーゼおよび例えばアセチルCoAとの酵素反応によって、N末端でアセチル化される。代替的に、またはN末端アセチル化に加えて、IL-2ムテインは、例えばリジンアセチルトランスフェラーゼとの酵素反応によって、1つまたは複数のリジン残基でアセチル化される。例えば、Choudhary et al. (2009) Science 325 (5942):834L2 ortho840を参照されたい。
【0138】
Fc融合
いくつかの態様では、IL2融合タンパク質は、IgG重鎖可変領域を欠く抗体のIgGサブクラス由来のFc領域を組み込むことができる。「Fc領域」は、IgGをパパインで消化することによって生成されるIgG C末端ドメインと相同性のある天然または合成ポリペプチドであり得る。IgG Fcは分子量約50kDaである。変異型IL-2ポリペプチドは、Fc領域全体、またはより小さな部分(それが一部となるキメラポリペプチドの循環半減期を延長する能力を保持する)を含むことができる。さらに、全長または断片化Fc領域は、野生型分子のバリアントであり得る。つまり、それらは、ポリペプチドの機能に影響を与えたり、与えなかったりすることがある変異を含み得る;以下でさらに説明するように、天然の活性が全ての場合に必要なわけでも、望ましいわけでもない。特定の態様では、IL-2ムテイン融合タンパク質(例えば、本明細書に記載のIL-2部分アゴニストまたはアンタゴニスト)は、IgGl、IgG2、IgG3、またはIgG4 Fc領域を含む。例示的なFc領域は、補体結合(complement fixation)およびFc受容体結合を阻害する変異を含み得るか、またはそれは溶解性であり得る、すなわち、補体と結合できるか、または抗体依存性補体溶解(ADCC)などの別のメカニズムを介して細胞を溶解できる。
【0139】
いくつかの態様では、オルソゴナルIL2は、Fc融合キメラポリペプチド分子の機能性ドメインを含む。Fc融合コンジュゲートは、バイオ医薬品の全身半減期を延長することが示されており、そのためバイオ医薬品の投与頻度がより少なくて済む可能性がある。Fcは、血管の内側を覆う内皮細胞の新生児Fc受容体(FcRn)に結合し、結合すると、Fc融合分子は分解から保護されて循環中に再放出され、分子をより長く循環させておく。このFc結合は、内因性IgGがその長い血漿半減期を維持するメカニズムであると考えられる。最近のFc融合技術は、1コピーのバイオ医薬品を抗体のFc領域に結合させて、従来のFc融合コンジュゲートと比較して、そのバイオ医薬品の薬物動態学的および薬力学的特性を最適化させるものである。Fc融合体の調製に有用な「Fc領域」は、IgGをパパインで消化することによって生成されるIgG C末端ドメインと相同性のある天然または合成のポリペプチドであり得る。IgG Fcは分子量約50kDaである。オルソゴナルIL2は、Fc領域全体、またはより小さな部分(それが一部となるキメラポリペプチドの循環半減期を延長する能力を保持する)を提供し得る。さらに、全長または断片化Fc領域は、野生型分子のバリアントであり得る。典型的な提示では、二量体Fcの各単量体は異種ポリペプチドを担持し、該異種ポリペプチドは同一であるか、または異なっている。
【0140】
いくつかの態様では、オルソゴナルIL2がFc融合体の形態で投与される場合、特にFc二量体の各サブユニットにコンジュゲート化されたポリペプチド鎖が異なる状況では、Fc融合体は「ノブ-イント-ホール修飾」(knob-into-hole modification)を有するように操作することができる。ノブ-イント-ホール修飾は、Ridgway, et al. (1996) Protein Engineering 9(7):617-621および1998年3月24日発行の米国特許第5,731,168号に詳細に記載されている。ノブ-イント-ホール修飾とは、CH3ドメインの2つの免疫グロブリン重鎖間の界面での修飾を指し、ここで、i)第1の重鎖のCH3ドメインでは、アミノ酸残基を、より大きな側鎖を持つアミノ酸残基(例えば、チロシンまたはトリプトファン)により置き換えて、表面からの突起(「ノブ」)を作成すること、ii)第2の重鎖のCH3ドメインでは、アミノ酸残基を、より小さな側鎖を持つアミノ酸残基(例えば、アラニンまたはトレオニン)により置き換え、それによって、第2のCH3ドメインの界面に空洞(「ホール」)を作成すること、その範囲内で第1のCH3ドメインの突出した側鎖(「ノブ」)が第2のCH3ドメインの空洞によって受け取られる。一態様では、「ノブ-イント-ホール修飾」は、抗体重鎖の一方にアミノ酸置換T366Wおよび任意でアミノ酸置換S354Cを含み、抗体重鎖の他方にアミノ酸置換T366S、L368A、Y407Vおよび任意でY349Cを含む。さらに、FcドメインはS354とY349の位置でのシステイン残基の導入により修飾することができ、これは、Fe領域の2つの抗体重鎖間に安定化ジスルフィド架橋をもたらす(Carter, et al. (2001) Immunol Methods 248, 7-15)。ノブ-イント-ホール形式は、「ノブ」修飾を有する第1のFc単量体上の第1のポリペプチド(例えば、オルソゴナルIL2)と「ホール」修飾を有する第2のFc単量体上の第2のポリペプチドの発現を容易にして、ヘテロ二量体ポリペプチドコンジュゲートの発現を促進するために使用される。
【0141】
Fc領域は、「溶解性」(lytic)でも「非溶解性」(non-lytic)でもよいが、通常は非溶解性である。非溶解性のFc領域は、一般に、高親和性Fc受容体結合部位とClq結合部位を欠く。マウスIgG Fcの高親和性Fc受容体結合部位は、IgG Fcの235位にLeu残基を含む。したがって、該Fc受容体結合部位は、Leu 235を変異または欠失させることによって阻害され得る。例えば、Leu 235をGluに置換すると、高親和性Fc受容体に結合するFc領域の能力が阻害される。マウスClq結合部位は、IgGのGlu 318、Lys 320、およびLys 322残基を変異または欠失させることによって、機能的に破壊され得る。例えば、Glu 318、Lys 320、およびLys 322をAla残基に置換すると、IgG1 Fcが抗体依存性補体溶解を誘導できなくなる。対照的に、溶解性IgG Fc領域は、高親和性Fc受容体結合部位とClq結合部位を持つ。高親和性Fc受容体結合部位にはIgG Fcの235位のLeu残基が含まれ、Clq結合部位にはIgG 1のGlu 318、Lys 320、およびLys 322残基が含まれる。溶解性IgG Fcは、これらの部位に野生型残基または保存的アミノ酸置換を有する。溶解性IgG Fcは、抗体依存性細胞傷害または補体依存性細胞溶解(CDC)のために細胞を標的とすることができる。ヒトIgGの適切な変異も知られている(例えば、Morrison et al., The Immunologist 2:119-124, 1994;およびBrekke et al., The Immunologist 2: 125, 1994を参照されたい)。
【0142】
特定の態様では、本開示のオルソゴナルIL2のアミノ末端またはカルボキシル末端は、免疫グロブリンFc領域(例えば、ヒトFc)と融合させて、融合コンジュゲート(または融合分子)を形成することが可能である。Fc融合コンジュゲートは、バイオ医薬品の全身半減期を延長することが示されており、そのため、こうしたバイオ医薬品はより少ない投与頻度で済むようになる。Fcは、血管の内側を覆う内皮細胞の新生児Fc受容体(FcRn)に結合し、結合すると、Fc融合分子は分解から保護されて循環中に再放出され、該分子をより長く循環させておく。このFc結合は、内因性IgGがその長い血漿半減期を維持するメカニズムであると考えられる。最近のFc融合技術は、1コピーのバイオ医薬品を抗体のFc領域に結合させて、従来のFc融合コンジュゲートと比較して、そのバイオ医薬品の薬物動態学的および薬力学的特性を最適化させるものである。
【0143】
いくつかの態様では、Fcドメイン単量体は、米国特許第US10259859B2号(その教示全体が参照により本明細書に組み入れられる)に記載されるように、野生型ヒトIgG1、IgG2、またはIgG4 Fc領域と比べて少なくとも1つの変異を含む。そこに開示されるように、Fcドメイン単量体は、以下の変異を含む:
(a)野生型ヒトIgG1と比べて以下のアミノ酸置換のうちの1つ:
あるいは
(b)(i)ヒトIgG1 Fc領域と比べてN297A変異;
(ii)ヒトIgG1 Fc領域と比べてL234A、L235A、およびG237A変異;
(iii)ヒトIgG1 Fc領域と比べてL234A、L235A、G237A、およびN297A変異;
(iv)ヒトIgG2 Fc領域と比べてN297A変異;
(v)ヒトIgG2 Fc領域と比べてA330SおよびP331S変異;
(vi)ヒトIgG2 Fc領域と比べてA330S、P331S、およびN297A変異;
(vii)ヒトIgG4 Fc領域と比べてS228P、E233P、F234V、L235A、およびdelG236変異;または
(Viii)ヒトIgG4 Fc領域と比べてS228P、E233P、F234V、L235A、delG236、およびN297A変異。
【0144】
いくつかの態様では、Fcドメイン単量体は、以下の変異を含む:
(a)野生型ヒトIgG1と比べて以下のアミノ酸置換のうちの1つ:
および
(b)該Fcドメイン単量体は、以下の変異をさらに含む:
(i)ヒトIgG1 Fc領域と比べてN297A変異;
(ii)ヒトIgG1 Fc領域と比べてL234A、L235A、およびG237A変異;
(iii)ヒトIgG1 Fc領域と比べてL234A、L235A、G237A、およびN297A変異;
(iv)ヒトIgG2 Fc領域と比べてN297A変異;
(v)ヒトIgG2 Fc領域と比べてA330SおよびP331S変異;
(vi)ヒトIgG2 Fc領域と比べてA330S、P331S、およびN297A変異;
(vii)ヒトIgG4 Fc領域と比べてS228P、E233P、F234V、L235A、およびdelG236変異;または
(Viii)ヒトIgG4 Fc領域と比べてS228P、E233P、F234V、L235A、delG236、およびN297A変異。
【0145】
いくつかの態様では、ポリペプチドは、野生型ヒトIgG Fc領域を有するポリペプチドと比較して、食作用アッセイにおいて食作用の減少を示す。いくつかの態様では、Fcドメイン単量体は、Fcドメイン二量体を形成するために、第2のFcドメイン単量体を含む第2のポリペプチドに連結される。
【0146】
キメラポリペプチド/融合タンパク質
いくつかの態様では、オルソゴナルIL2は、キメラポリペプチドの機能性ドメインを含み得る。本開示のオルソゴナルIL2融合タンパク質は、当技術分野で公知の技術による組換えDNA方法論によって容易に作製することができ、オルソゴナルIL2をコードする核酸配列と、オルソゴナルIL2のN末端またはC末端のいずれかに融合パートナーをコードする核酸配列をインフレーム(in frame)で含み、任意で、リンカーまたはスペーサーポリペプチドをコードする核酸配列をインフレームで含む、核酸配列を含む組換えベクターを構築することによって作製される。
【0147】
Flagタグ
他の態様では、オルソゴナルIL2は、FLAG配列などの抗原性タグとして機能する追加のポリペプチド配列を含むように修飾することができる。FLAG配列は、本明細書に記載されるように、ビオチン化された、高度に特異的な、抗FLAG抗体によって認識される(例えば、Blanar et al. (1992) Science 256:1014およびLeClair, et al. (1992) PNAS-USA 89:8145を参照されたい)。いくつかの態様では、オルソゴナルIL2ポリペプチドは、C末端のc-mycエピトープタグをさらに含む。
【0148】
Hisタグ
いくつかの態様では、本発明のオルソゴナルIL2(そのようなオルソゴナルIL2の融合タンパク質を含む)は、1つまたは複数の遷移金属キレートポリペプチド配列との融合タンパク質として発現される。そのような遷移金属キレートドメインを組み込むと、1986年2月11日発行のSmith, et al. 米国特許第4,569,794号に記載されるように、固定化金属アフィニティクロマトグラフィー(IMAC)による精製が容易になる。本発明の実施に有用な遷移金属キレートポリペプチドの例は、Smith, et al. 前掲および1995年5月10日発行のDobeli, et al. 米国特許第5,320,663号に記載されており、その教示全体が参照により本明細書に組み入れられる。本発明の実施に有用な特定の遷移金属キレートポリペプチドは、6-ヒスチジンペプチド(His)6のような3~6個連続したヒスチジン残基を含むペプチドであり、当技術分野ではしばしば「Hisタグ」と呼ばれている。
【0149】
標的化されたオルソゴナルIL2融合タンパク質:
いくつかの態様では、オルソゴナルIL2は、特定の細胞タイプまたは組織(標的指向性ドメインに特異的に結合する細胞表面分子を発現する)への選択的結合を促進するためのポリペプチド配列(「標的指向性ドメイン」)との融合タンパク質として提供され、任意で、融合タンパク質は、オルソゴナルIL2配列と標的指向性ドメイン配列との間に1~40(あるいは2~20、あるいは5~20、あるいは10~20)アミノ酸のリンカー分子を組み込んでいてもよい。
【0150】
他の態様では、変異型IL-2と抗体またはその抗原結合部分を含むキメラポリペプチドが作製され得る。キメラタンパク質の抗体または抗原結合成分は、標的指向性モチーフとして機能することができる。例えば、それは、キメラタンパク質を特定の細胞サブセットまたは標的分子に局在させるために使用される。サイトカイン-抗体キメラポリペプチドを作製する方法は、例えば、米国特許第6,617,135号に記載されている。
【0151】
いくつかの態様では、オルソゴナルIL2融合タンパク質の標的指向性ドメインは、腫瘍細胞の細胞表面分子に特異的に結合する。CAR-T細胞のCARのECDがCD-19に特異的に結合する一態様では、オルソゴナルIL2は、CD-19標的指向性部分との融合タンパク質として提供され得る。例えば、CAR-T細胞のCARのECDがCD-19への特異的結合を提供するscFv分子である一態様では、オルソゴナルIL2は、CD-19に特異的に結合する単鎖抗体(例えば、scFvまたはVHH)などのCD-19標的指向性部分との融合タンパク質として提供される。
【0152】
いくつかの態様では、融合タンパク質は、IL-2ムテインと抗CD19 sdFv FMC63を含む(Nicholson, et al. (1997) Mol Immunol 34: 1157-1165)。同様に、CAR-T細胞のCARのECDがBCMAに特異的に結合するいくつかの態様では、オルソゴナルIL2は、Kalled, et al.(2015年5月9日発行の米国特許第9,034,324号)に記載された抗BMCA抗体のCDRを含む抗体、またはBrogdon, et al.(2019年1月8日発行の米国特許第10,174,095号)に記載されたCDRを含む抗体などの、BCMA標的指向性部分との融合タンパク質として提供される。いくつかの態様では、オルソゴナルIL2は、Cheung, et al.(2016年4月19日発行の米国特許第9,315,585号)に記載されるCDRを含む抗体、またはME36.1(Thurin et al., (1987) Cancer Research 47:1229-1233)、14G2a、3F8(Cheung, et al., 1985 Cancer Research 45:2642-2649)、hu14.18、8B6、2E12、もしくはic9に由来するCDRを含む抗体などの、GD2標的指向性部分との融合タンパク質として提供される。
【0153】
別の態様では、本開示の標的化されたオルソゴナルIL2は、CAR-T細胞療法と組み合わせて投与され、抗FMC63抗体などによるCAR-T細胞の細胞外受容体に基づいたCAR-T細胞へのオルソゴナルIL2の標的化送達を提供して、IL2活性をCAR-T細胞へ標的化しかつ消耗したCAR-T細胞をインビボで回復させることができる。その結果、本開示の態様には、CAR-T細胞の特定の細胞表面分子と相互作用するように設計された抗体またはリガンドへのオルソゴナルIL2のコンジュゲーションによるオルソゴナルIL2の標的化送達が含まれる。そのような分子の例としては、抗FMC63-オルソゴナルIL2が挙げられる。
【0154】
その他の態様では、キメラポリペプチドは、変異型IL-2ポリペプチドと異種ポリペプチドとを含み、該異種ポリペプチドは、例えばAga2pアグルチニンサブユニットのような、変異型IL-2ポリペプチドの発現を増強するまたはその細胞局在化を誘導するように機能するものである(例えば、Boder and Wittrup, Nature Biotechnol. 15:553-7, 1997を参照されたい)。
【0155】
タンパク質導入ドメイン融合タンパク質
いくつかの態様では、オルソゴナルIL2は、「タンパク質導入ドメイン」(Protein Transduction Domain)つまり「PTD」をさらに含む。PTDは、脂質二重層、ミセル、細胞膜、オルガネラ膜、または小胞膜を通過しやすくするポリペプチド、ポリヌクレオチド、糖質、有機分子、または無機分子である。オルソゴナルIL2にPTDが組み込まれると、該分子の膜通過が促進される。いくつかの態様では、PTDは、オルソゴナルIL2のアミノ末端またはカルボキシ末端に共有結合で連結される。いくつかの態様では、PTDは、PTD-オルソゴナルIL2融合タンパク質の一部として、該分子のN末端またはC末端のいずれかに組み込まれる。
【0156】
例示的なタンパク質導入ドメインには、限定するものではないが、以下が含まれる:最小のデカペプチドタンパク質導入ドメイン(HIV-1 TATの残基47~57に対応);細胞への侵入を誘導するのに十分な数のアルギニン残基(例えば、3、4、5、6、7、8、9、10、または10~50個のアルギニン)を含むポリアルギニン配列;VP22ドメイン(Zender et al. (2002) Cancer Gene Ther. 9(6):489-96);ショウジョウバエ(Drosophila)アンテナペディアタンパク質導入ドメイン(Noguchi et al. (2003) Diabetes 52(7):1732-1737);切断型ヒトカルシトニンペプチド(Trehin et al. (2004) Pharm. Research 21:1248-1256);ポリリジン(Wender et al. (2000) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97:13003-13008);トランスポータン(Wierzbicki, et al., (2014) Folio Histomchemica et Cytobiologica 52(4): 270-280およびPooga, et al., (1998) FASEB J 12(1)67-77に記載され、AnaSpec社からカタログ番号AS-61256として市販);KALA(Wyman et al., (1997) Biochemistry 36(10) 3008-3017に記載され、AnaSpec社からカタログ番号AS-65459として市販);アンテナペディアペプチド(Pietersz et al., (2001) Vaccine 19:1397に記載され、AnaSpec社からカタログ番号AS-61032として市販);TAT 47-57(AnaSpec社からカタログ番号AS-60023として市販)。
【0157】
いくつかの態様では、IL-2コンジュゲートは、ヒト対象における血漿半減期が4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間、12時間、18時間、24時間、2日、3日、4日、5日、6日、7日、10日、14日、または30日を超えている。
【0158】
改変型CD122のオルソゴナルIL2特異的構成
STAT3結合モチーフは、ヒトCD122(例えば、ヒトオルソゴナルCD122または天然ヒトCD122)の細胞内ドメインのC末端に存在するか、または内部配列として存在し得る。
【0159】
ヒトCD122のC末端に融合された1つまたは複数のSTAT3結合モチーフを含む改変型CD122の実施態様
いくつかの場合には、改変型ヒトCD122は、ヒトCD122の細胞内ドメインのC末端に融合された1つまたは複数のSTAT3結合モチーフを含む。ヒトCD122は、天然ヒトCD122(SEQ ID NO: 1)または上記に開示されるようなオルソゴナルヒトCD122であり得る。
【0160】
(表1)例示的な融合タンパク質、以下:
用語「オルソCD122」は、本明細書に開示されるオルソゴナルヒトCD122タンパク質のいずれかを指す。
【0161】
場合によっては、改変型ヒトCD122は、リンカーを介してヒトCD122に連結されたSTAT3結合モチーフを含む。リンカーは、天然に存在するタンパク質または合成配列に由来し得る。リンカーを設計する方法は当技術分野でよく知られており、例えば、Chen et al. Adv. Drug. Deliv. Rev. 2013 Oct 15; 65(10): 1357-1369に開示されており、その関連部分は参照により本明細書に組み入れられる。いくつかの場合には、リンカーは、1~20アミノ酸残基、1~10アミノ酸残基、または1~5アミノ酸残基からなる。いくつかの態様では、リンカーはジヌクレオチドGnを含み、ここでnは1~10、または1~5、例えば2~4であり得る。
【0162】
改変型ヒトCD122は、1つまたは複数のSTAT3結合モチーフと1つまたは複数のリンカー配列を含むことができる。リンカー配列は、ヒトCD122とSTAT3結合モチーフの1つを接続してもよいし、個々のSTAT3結合モチーフを接続してもよい。1つまたは複数のリンカー配列は、同じまたは異なる配列であり得る。
【0163】
CD122の細胞内ドメインの内部配列としてSTAT3認識モチーフを含む改変型CD122の実施態様
いくつかの態様では、1つまたは複数のSTAT3結合モチーフは、CD122の内部(すなわち、C末端でもN末端でもない)配列として存在する。この構成の改変型ヒトCD122は、STAT3結合モチーフをコードするように変異させることができる天然ヒトCD122またはヒトオルソゴナルCD122のコード配列内の適切な領域を特定することによって作製され得る。一態様では、その領域は、STAT3結合モチーフに類似する配列を有し、例えば、チロシン残基で始まる4ヌクレオチド配列を含む領域である。天然ヒトCD122のそのような領域の1つは、天然ヒトCD122タンパク質の355位と364位の間に位置するYFTYDPYSEEの配列をコードしている。いくつかの態様では、本明細書に開示される改変型ヒトCD122を作製するために、この領域に含まれるYFTY、YDPY、またはYSEEの1つまたは2つがSTAT3認識モチーフで置換される。
【0164】
改変型ヒトCD122は、コグネイトIL2リガンドと結合すると、STAT3およびSTAT5シグナル伝達を誘導することができ、その能力は、例えばSTAT3およびSTAT5のリン酸化を検出することで、確認することができる。例えば、改変型ヒトCD122をT細胞に導入して発現させることができ、phospho-STAT5およびphosphor-STAT3に特異的な抗体を用いて、STAT3およびSTAT5のリン酸化を検出する。STAT3およびSTAT5シグナル伝達を誘導する組換えタンパク質の能力を検出するための1つの例示的な方法は、Kagoya et al. Nat Med. 2018 March ; 24(3): 352-359. doi:10.1038/nm.4478, p7に記載されている。
【0165】
ポリヌクレオチドと発現ベクター
改変型ヒトCD122をコードするポリヌクレオチドは、当技術分野で周知の技術を用いて作製することができる。いくつかの場合には、改変型ヒトCD122は、組換えまたは固相合成を含む任意の従来方法により作製され得る。ある態様では、改変型ヒトCD122が、組換え法によって作製される。コード核酸配列は、発現ベクターに挿入され、遺伝子操作される細胞に導入される。改変型ヒトオルソゴナルCD122をコードするDNAは、遺伝子工学的プロセスの間に設計された様々な供給源から入手可能である。本開示の改変型ヒトCD122を得るための天然ヒトCD122ポリペプチドのアミノ酸配列バリアントは、本明細書に記載されるように、適切なヌクレオチド変化をコード配列に導入することによって調製される。そのようなバリアントは、記載された残基の挿入、置換、および/または特定の欠失を表す。挿入、置換、および/または特定の欠失の任意の組み合わせを行って、最終構築物へと到達させる;ただし、その最終構築物は本明細書に定義されるような所望の生物学的活性を保持することを条件とする。
【0166】
改変型CD122を発現させるためには、改変型CD122をコードする核酸を複製可能な発現ベクターに挿入する。多くのそのようなベクターが利用可能である。ベクターの構成要素には、一般に、複製起点、1つまたは複数のマーカー遺伝子、エンハンサー要素、プロモーター、および転写終結配列のうちの1つ以上が含まれるが、これらに限定されない。ベクターとしては、ウイルスベクター、プラスミドベクター、組込み型ベクターなどが挙げられる。プラスミドは非ウイルスベクターの一例である。標的細胞のトランスフェクションを促進するために、標的細胞は、非ウイルスベクターの取込みを容易にする条件下で、非ウイルスベクターに直接曝露され得る。哺乳動物細胞による外来核酸の取込みを容易にする条件の例は、当技術分野でよく知られており、化学的手段(例えば、Lipofectamine(登録商標)、Thermo-Fisher Scientific社)、高塩、および磁場(エレクトロポレーション)などがあるが、これらに限定されない。
【0167】
改変型CD122は、直接的に組換え生産されるだけでなく、異種ポリペプチド(例えば、シグナル配列、または成熟タンパク質もしくはポリペプチドのN末端に特定の切断部位を有する他のポリペプチド)との融合ポリペプチドとしても組換え生産され得る。一般に、シグナル配列はベクターの構成要素であってもよいし、ベクターに挿入されるコード配列の一部であってもよい。選択される異種シグナル配列は、好ましくは、宿主細胞によって認識されかつプロセシングされる(すなわち、シグナルペプチダーゼによって切断される)ものである。哺乳動物細胞の発現では、天然シグナル配列を使用することができるが、他の哺乳動物のシグナル配列が適していることがあり、例えば、同一または関連種の分泌ポリペプチドからのシグナル配列、およびウイルス分泌リーダー、例えば単純ヘルペスgDシグナルなどが適している。
【0168】
また、改変型CD122をコードするポリヌクレオチドを細胞内に導入するために使用できる発現ベクターも提供される。様々なベクターが当技術分野で知られており、この目的のために使用することができる;例えば、ウイルスベクター、プラスミドベクター、ミニサークルベクターなどである。発現ベクターは通常、選択マーカーとも呼ばれる選択遺伝子を含んでいる。この遺伝子は、選択培地で培養された形質転換宿主細胞の生存または成長に必要なタンパク質をコードする。選択遺伝子を含むベクターで形質転換されていない宿主細胞は、培地中で生存できない。典型的な選択遺伝子は、(a)抗生物質もしくは他の毒素、例えばアンピシリン、ネオマイシン、メトトレキサート、テトラサイクリンに対する耐性を付与するタンパク質、(b)栄養要求性の欠乏を補完するタンパク質、または(c)複合培地からは入手できない重要な栄養分を供給するタンパク質をコードする。
【0169】
発現ベクターは、宿主生物によって認識されかつオルソゴナルタンパク質のコード配列に機能的に連結されるプロモーターを含む。プロモーターは、構造遺伝子の開始コドンの上流(5')に位置する非翻訳配列(一般に約100~1000bp以内)であり、それが機能的に連結された特定の核酸配列の転写および翻訳を制御する。そうしたプロモーターは通常、誘導型と構成型の2つのクラスに分類される。誘導型プロモーターは、培養条件の何らかの変化、例えば栄養分の有無または温度の変化、に応答して、その制御下にあるDNAからの増大したレベルの転写を開始するプロモーターである。様々な潜在的宿主細胞によって認識される多数のプロモーターがよく知られている。
【0170】
哺乳動物宿主細胞におけるベクターからの転写は、例えば、ポリオーマウイルス、鶏痘ウイルス、アデノウイルス(例:ヒトアデノウイルス血清型5)、ウシ乳頭腫ウイルス、トリ肉腫ウイルス、サイトメガロウイルス、レトロウイルス(例:マウス幹細胞ウイルス)、B型肝炎ウイルス、最も好ましくはシミアンウイルス40(SV40)などのウイルスのゲノムから得られたプロモーター、異種哺乳動物プロモーター、例えば、アクチンプロモーター、PGK(ホスホグリセレートキナーゼ)、または免疫グロブリンプロモーター、熱ショックプロモーターにより制御され得る;ただし、このようなプロモーターが宿主細胞系に適合することを条件とする。SV40ウイルスの初期および後期プロモーターは、SV40ウイルスの複製起点をも含むSV40制限断片として都合よく入手することができる。
【0171】
高等真核生物による転写は、しばしば、エンハンサー配列をベクターに挿入することで増大される。エンハンサーは、プロモーターに作用してその転写を増加させるDNAのシス作用エレメントであって、通常約10~300bp程度のものである。エンハンサーは比較的方向および位置に依存せず、転写単位の5'および3'に、イントロン内に、ならびにコード配列それ自体内に見出されている。現在、多くのエンハンサー配列が哺乳動物の遺伝子(グロビン、エラスターゼ、アルブミン、α-フェトプロテイン、およびインスリン)から知られている。しかし、一般的には、真核細胞ウイルスに由来するエンハンサーを使用することになる。例としては、複製起点の後期側のSV40エンハンサー、サイトメガロウイルス初期プロモーターエンハンサー、複製起点の後期側のポリオーマエンハンサー、およびアデノウイルスエンハンサーが挙げられる。エンハンサーは、コード配列の5'または3'位置で発現ベクターにスプライシングされ得るが、好ましくはプロモーターから5'部位に位置づけられる。真核宿主細胞で用いられる発現ベクターには、転写の終了とmRNAの安定化に必要な配列も含まれることになる。そのような配列は、真核生物またはウイルスのDNAもしくはcDNAの5'、場合によっては3'、の非翻訳領域から一般的に入手可能である。上記の構成要素の1つまたは複数を含む適切なベクターの構築には、標準的な技法が使用される。
【0172】
改変型CD122のコード配列のクローニングまたは発現に適した宿主細胞は、上記の原核生物、酵母、または高等真核生物の細胞である。いくつかの態様では、宿主細胞は、ヒト免疫細胞、例えばT細胞である。いくつかの態様では、宿主細胞は、以下でさらに説明されるように、CAR-T細胞である。
【0173】
いくつかの態様では、宿主細胞は、例えば、以下の哺乳動物宿主細胞株である:マウスL細胞(L-M[TK-],ATCC#CRL-2648)、SV40により形質転換されたサル腎臓CV1株(COS-7,ATCC CRL1651);ヒト胚性腎臓株(293細胞または懸濁培養での増殖のためにサブクローニングされた293細胞);ベビーハムスター腎臓細胞(BHK,ATCC CCL 10);チャイニーズハムスター卵巣細胞/-DHFR(CHO);マウスセルトリ細胞(TM4);サル腎臓細胞(CV1 ATCC CCL 70);アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO-76,ATCC CRL-1 587);ヒト子宮頸癌細胞(HELA,ATCC CCL 2);イヌ腎臓細胞(MDCK,ATCC CCL 34);バッファローラット肝細胞(BRL 3A,ATCC CRL 1442);ヒト肺細胞(W138,ATCC CCL 75);ヒト肝細胞(Hep G2,HB 8065);マウス乳腺腫瘍(MMT 060562,ATCC CCL51);TRI細胞;MRC 5細胞;FS4細胞;およびヒト肝癌株(Hep G2)。
【0174】
改変型CD122のコード配列を含む宿主細胞は、プロモーターの誘導、形質転換体の選択、または所望の配列をコードする遺伝子の増幅のために適宜改変された、従来の栄養培地で培養され得る。哺乳動物宿主細胞は、様々な培地で培養することができる。ハムF10(Sigma社)、最小必須培地((MEM),Sigma社)、RPMI 1640(Sigma社)、およびダルベッコ変法イーグル培地((DMEM),Sigma社)などの市販の培地は、宿主細胞の培養に適している。これらの培地のいずれにも、必要に応じて、以下を補充することができる:ホルモンおよび/または他の成長因子(例:インスリン、トランスフェリン、上皮成長因子)、塩類(例:塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、リン酸塩)、緩衝剤(例:HEPES)、ヌクレオシド(例:アデノシン、チミジン)、抗生物質、微量元素、およびグルコースまたは同等のエネルギー源。その他の必要なサプリメントも、当業者に知られるような適切な濃度で含めることができる。温度、pHなどの培養条件は、発現用に選択された宿主細胞と共に以前に使用されたものであり、当業者には明らかであろう。
【0175】
いくつかの態様では、T細胞などの宿主細胞は、改変型CD122をコードする核酸配列を含む発現ベクターで形質転換される。IL2リガンド(例えば、オルソゴナルIL2)は、対応する改変型ヒトCD122(例えば、改変型オルソゴナルCD122)を発現するように操作された改変T細胞(例えば、ヒトT細胞)を選択的に拡大培養する方法において使用され得る。本明細書に記載の構築物で操作するのに有用なT細胞には、ナイーブT細胞、セントラルメモリーT細胞、エフェクターメモリーT細胞またはそれらの組み合わせが含まれる。上記のような遺伝子操作を行うためのT細胞は、対象またはドナーから採取され、目的の細胞を濃縮する技術によって細胞混合物から分離されるか、分離せずに遺伝子操作および培養され得る。あるいは、遺伝子操作用のT細胞は、他の細胞から分離され得る。正確な分離を提供する技術には、蛍光活性化セルソーターが含まれる。細胞は、死細胞に関連する色素(例えば、ヨウ化プロピジウム)を使用することで、死細胞から選択することができる。分離された細胞は、細胞の生存能力を維持する適切な培地中に回収され、通常、回収チューブの底には血清のクッションがある。様々な培地が市販されており、細胞の性質に応じて使用することができ、例えば、dMEM、HBSS、dPBS、RPMI、イスコフ培地などがあり、しばしばウシ胎児血清(FCS)が補充される。採取され、任意で濃縮された細胞集団は、遺伝的改変に直ちに使用してもよいし、液体窒素温度で凍結保存し、融解後に再使用できるようにしてもよい。細胞は通常、10%DMSO、50%FCS、40%RPMI 1640培地中に保存される。
【0176】
改変型CD122を発現するように操作された免疫細胞
本明細書では、改変型ヒトCD122を発現する免疫細胞も提供される。免疫細胞は、例えば、T細胞(例:CD4+ 細胞、CD8+ 細胞)およびNK細胞であり得る。いくつかの態様では、T細胞には、限定するものではないが、以下の細胞が含まれる:ナイーブCD8+ T細胞、細胞傷害性CD8+ T細胞、ナイーブCD4+ T細胞、ヘルパーT細胞、例えばTH1、TH2、TH9、TH11、TH22、TFH;制御性T細胞、例えばTR1、Treg、誘導性Treg;メモリーT細胞、例えばセントラルメモリーT細胞、エフェクターメモリーT細胞、NKT細胞、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、および上記T細胞の遺伝子操作変異体(CAR-T細胞、組換え改変TIL、TCR導入細胞などを含むが、これらに限らない)。いくつかの態様では、遺伝子操作細胞は、免疫細胞の複雑な混合物、例えば、治療を必要とする個体から分離された腫瘍浸潤リンパ球(TIL)を含む。例えば、Yang and Rosenberg (2016) Adv Immunol. 130:279-94, “Adoptive T Cell Therapy for Cancer; Feldman et al (2015) Seminars in Oncol. 42(4):626-39 “Adoptive Cell Therapy-Tumor-Infiltrating Lymphocytes, T-Cell Receptors, and Chimeric Antigen Receptors”; Clinical Trial NCT01174121, “Immunotherapy Using Tumor Infiltrating Lymphocytes for Patients With Metastatic Cancer”; Tran et al. (2014) Science 344(6184)641-645, “Cancer immunotherapy based on mutation-specific CD4+ T cells in a patient with epithelial cancer”を参照されたい。
【0177】
CAR-T細胞
いくつかの態様では、遺伝子操作される免疫細胞はまた、キメラ抗原受容体(CAR)を発現する。CARは、免疫細胞が病変細胞、例えば腫瘍細胞、上の抗原に結合することを可能にし、したがって、その病変細胞を特異的に殺傷することができる。CARの抗原結合ドメイン(ABD)は、1価または多価であってよく、細胞表面腫瘍抗原に特異的に結合する1つまたは複数(例えば1、2、または3つ)のポリペプチド配列(例えば、scFv、VHH、および/リガンド)を含み得る。いくつかの態様では、腫瘍抗原と、そのような細胞表面腫瘍抗原に選択的に結合するABDを含むCARは、当技術分野で公知である(例えば、Dotti, et al., Immunol Rev. 2014 January; 257(1)を参照されたい)。本開示の方法および組成物は、CARのABDが、CD123、CD19、CD20、BCMA、CD22、CD30、CD70、Lewis Y、GD3、GD3、メソテリン(mesothelin)、ROR CD44、CD171、EGP2、EphA2、ErbB2、ErbB3/4、FAP、FAR、IL11Ra、PSCA、PSMA、NCAMなどを含むがこれらに限らない、腫瘍抗原に特異的に結合するCAR療法と併せて有用である。これらの標的と反応する抗体は文献上よく知られており、当業者であれば、CARのABDに組み込むことができる単鎖抗体(例えば、scFv、CDRグラフト化VHHなど)のポリペプチド配列の構築のために、そのような抗体からCDRを単離することができる。
【0178】
本発明の一態様では、遺伝子操作された免疫細胞は、改変型CD122を発現し、さらにキメラ抗原受容体をも発現するT細胞である。この細胞は「CAR-T」細胞として知られている。
【0179】
CARは通常、抗原結合ドメイン(ABD)を含み、標的細胞の表面に発現された抗原に特異的に結合することができる。ABDは、標的細胞の表面に発現される1つまたは複数の抗原に特異的に結合する任意のポリペプチドであり得る。CARは、ABD(または使用される場合はリンカー)をCARの細胞内細胞質ドメインに接合する膜貫通ドメインをさらに含むことができる。膜貫通ドメインは、真核生物の細胞膜において熱力学的に安定な任意のポリペプチド配列からなる。膜貫通ドメインは、天然に存在する膜貫通タンパク質の膜貫通ドメインに由来してもよいし、合成であってもよい。合成の膜貫通ドメインを設計する際には、αヘリックス構造を好むアミノ酸が好適である。CARの構築に有用な膜貫通ドメインは、αヘリックス二次構造を有するコンフォメーションに好都合である約10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、22、23、または24アミノ酸からなる。αヘリックスコンフォメーションに有利なアミノ酸は、当技術分野で周知である。例えば、Pace, et al. (1998) Biophysical Journal 75: 422-427を参照されたい。αヘリックスコンフォメーションに特に有利なアミノ酸としては、メチオニン、アラニン、ロイシン、グルタミン酸、およびリジンが挙げられる。いくつかの態様では、CAR膜貫通ドメインは、CD3ζ、CD4、CD8、CD28などのI型膜貫通タンパク質からの膜貫通ドメインに由来し得る。
【0180】
CARポリペプチドの細胞質ドメインは、1つまたは複数の細胞内シグナルドメインを含む。一態様では、細胞内シグナルドメインは、T細胞受容体(TCR)と、抗原受容体係合後にシグナル伝達を開始する補助受容体(co-receptor)との細胞質配列、その機能的誘導体およびサブフラグメントを含む。T細胞受容体ζ鎖に由来するものなどの細胞質シグナル伝達ドメインは、CARの一部として使用され、キメラ受容体と標的抗原との係合に続いてTリンパ球増殖およびエフェクター機能のための刺激性シグナルを発生させる。細胞質シグナル伝達ドメインの例には、限定するものではないが、以下が含まれる:CD27の細胞質ドメイン、CD28の細胞質ドメインS、CD137(4-1BBおよびTNFRSF9とも呼ばれる)の細胞質ドメイン、CD278(ICOSとも呼ばれる)の細胞質ドメイン、PI3キナーゼのp110α、β、δの触媒サブユニット、ヒトCD3 ζ鎖、CD134(OX40およびTNFRSF4とも呼ばれる)の細胞質ドメイン、FcεR1γおよびβ鎖、MB1(Igα)鎖、B29(Igβ)鎖など)、CD3ポリペプチド(δ、Δおよびε)、sykファミリーチロシンキナーゼ(Syk、ZAP 70など)、srcファミリーチロシンキナーゼ(Lck、Fyn、Lynなど)、およびCD2、CD5、CD28などのT細胞シグナル伝達に関与する他の分子。
【0181】
いくつかの態様では、CARは、共刺激ドメインを提供することもできる。用語「共刺激ドメイン」とは、二次非特異的活性化機構(これを介して一次特異的刺激が伝播される)を提供するCARの刺激性ドメイン、通常はエンドドメインを指す。共刺激ドメインは、メモリー細胞の増殖、生存または発達を促進するCARの部分を指す。共刺激の例には、T細胞受容体を介した抗原特異的シグナル伝達後の抗原非特異的T細胞共刺激、およびB細胞受容体を介したシグナル伝達後の抗原非特異的B細胞共刺激が含まれる。共刺激、例えばT細胞の共刺激、および関与する因子は、Chen & Flies. (2013) Nat Rev Immunol 13(4):227-42に記載されている。本開示のいくつかの態様では、CSDは、TNFRスーパーファミリーのメンバーの1つまたは複数、CD28、CD137(4-1BB)、CD134(OX40)、Dap10、CD27、CD2、CD5、ICAM-1、LFA-1(CD11a/CD18)、Lck、TNFR-I、TNFR-II、Fas、CD30、CD40またはそれらの組み合わせを含む。
【0182】
CARは、第1世代、第2世代、第3世代、または第4世代と呼ばれることが多い。第1世代CARという用語は、細胞質ドメインが単一のシグナル伝達ドメイン(例えば、高親和性IgE受容体のFcεR1□またはCD3ζ鎖に由来するシグナル伝達ドメイン)のみを介して抗原結合からのシグナルを伝達するCARを指す。このドメインは、抗原依存性T細胞活性化のための免疫受容体チロシンベース活性化認識モチーフ(immunoreceptor tyrosine-based activating recognition motif)(ITAM)を1つまたは3つ含む。ITAMベースの活性化シグナルは、T細胞に、標的腫瘍細胞を溶解しかつ抗原結合に応答してサイトカインを分泌する能力を与える。第2世代CARは、CD3ζシグナルに加えて、共刺激シグナルを含む。送達された共刺激シグナルの同時送達は、CAR導入T細胞によって誘導されるサイトカイン分泌と抗腫瘍活性を増強する。共刺激ドメインは通常、CD3ζドメインに対して膜近位にある。第3世代CARは、例えばCD28、CD3ζ、OX40または4-1BBシグナル伝達領域からなる、3部分(tripartite)シグナル伝達ドメインを含む。第4世代、すなわち「武装化CAR」(armored car)では、CAR T細胞は、IL-12、IL-18、IL-7、および/またはIL-10;4-1BBリガンド、CD-40リガンドなどの、免疫活性を高める分子および/または受容体を発現またはブロックするようにさらに改変される。
【0183】
本発明のCARに組み込まれ得る細胞内シグナル伝達ドメインの例には、以下が含まれる(アミノからカルボキシへ):CD3ζ;CD28 - 41BB - CD3ζ;CD28 - OX40 - CD3ζ;CD28 - 41BB - CD3ζ;41BB - CD-28 - CD3ζおよび41BB - CD3ζ。
【0184】
本明細書で使用するCARという用語には、限定するものではないが、スプリットCAR、オンスイッチ(ON-switch)CAR、二重特異性またはタンデムCAR、阻害性CAR(iCAR)および人工多能性幹(iPS)CAR-T細胞などの、CARバリアントも含まれる。
【0185】
用語「スプリットCAR」とは、CARの細胞外部分、ABD、および細胞質シグナル伝達ドメインが2つの別々の分子上に存在するCARのことを指す。CARバリアントには、条件付きで活性化可能なCARであるオンスイッチCARも含まれ、例えば、スプリットCARの2つの部分の条件付きヘテロ二量体化が薬理学的に制御されるスプリットCARを含む。CAR分子およびその誘導体(すなわち、CARバリアント)は、例えば、PCT出願番号US2014/016527、US1996/017060、US2013/063083;Fedorov et al. Sci Transl Med (2013) ;5(215):215ra172;Glienke et al. Front Pharmacol (2015) 6:21;Kakarla & Gottschalk 52 Cancer J (2014) 20(2):151-5;Riddell et al. Cancer J (2014) 20(2):141-4;Pegram et al. Cancer J (2014) 20(2):127-33;Cheadle et al. Immunol Rev (2014) 257(1):91-106;Barrett et al. Annu Rev Med (2014) 65:333-47;Sadelain et al. Cancer Discov (2013) 3(4):388-98;Cartellieri et al., J Biomed Biotechnol (2010) 956304に記載されており、それらの開示内容は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0186】
用語「二重特異性またはタンデムCAR」とは、一次CARの活性を増幅または阻害することができる二次CAR結合ドメインを含むCARを指す。
【0187】
用語「阻害性キメラ抗原受容体」または「iCAR」は、本明細書では交換可能に使用され、結合するiCARが、二重抗原ターゲティングを用いて、二次CAR結合ドメインの阻害性シグナル伝達ドメインを備えた第2抑制性受容体の係合を介して活性CARの活性化をシャットダウンし、一次CAR活性化の阻害をもたらすCARを指す。阻害性CAR(iCAR)は、阻害性受容体のシグナル伝達モジュールの活性化を介してCAR-T細胞の活性を制御するように設計される。このアプローチは、2つのCARの活性を組み合わせるものであり、そのうちの一方は、活性化受容体によって活性化されたCAR-T細胞の反応を制限するドミナントネガティブシグナルを発生する。iCARは、正常な組織にのみ発現される特定の抗原に結合すると、対抗するアクチベーターCARの反応をオフにすることができる。このようにして、iCAR-T細胞は癌細胞と健康な細胞とを識別し、形質導入T細胞の機能を抗原選択的な方法で可逆的にブロックすることができる。iCARのCTLA-4またはPD-1細胞内ドメインは、Tリンパ球に対する抑制シグナルを誘導し、サイトカイン産生の低下、標的細胞溶解の効率低下、およびリンパ球運動の変化をもたらす。
【0188】
「タンデムCAR」または「TanCAR」という用語は、2つの異なる腫瘍関連抗原の独立した係合に応答して刺激シグナルまたは共刺激シグナルを送達するように設計された、2つのキメラ受容体の係合を介してT細胞の二重特異的活性化を媒介するCARを指す。
【0189】
一般的には、キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T細胞)は、上記の教示に実質的に従って、CARをコードする発現ベクターを導入することによって組換え的に改変されたT細胞である。
【0190】
キット
また、本開示では、免疫細胞を活性化するために使用できるキットが提供される。いくつかの態様では、改変型ヒトCD122をコードするコード配列を含むベクターが提供され、ここで、該コード配列は、所望の細胞内で活性があるプロモーターに機能的に連結されている。様々なベクターが当技術分野で知られており、この目的のために使用することができる;例えば、ウイルスベクター、プラスミドベクター、ミニサークルベクターがあり、これらは標的細胞のゲノムに組み込まれるか、またはエピソームとして維持される。改変型CD122をコードするベクターは、該受容体に結合して、それを活性化するサイトカインをコードするベクターと組み合わせて、キットとして提供することが可能である。いくつかの態様では、サイトカインのコード配列は、高発現プロモーターに機能的に連結されて、生産のために最適化され得る。他の態様では、オルソゴナル受容体をコードするベクターを、患者への投与のために包装された、例えば単位用量での、コグネイトサイトカインの精製組成物と共に提供する、キットが提供される。
【0191】
エクスビボでの活性化方法
いくつかの態様では、本開示は、1つまたは複数のSTAT3結合モチーフを含む改変型ヒトCD122を発現するように操作された免疫細胞を刺激する方法を提供し、この方法は、該免疫細胞を、改変型ヒトCD122に結合するヒトIL2ポリペプチドと接触させ、それによって、該免疫細胞を刺激する工程を含む。
【0192】
また、改変型ヒトオルソゴナルCD122を発現するように操作された免疫細胞を、該操作免疫細胞と天然免疫細胞を含む細胞集団の混合物から選択的に活性化する方法も提供され、この方法は、免疫細胞の混合物を、改変型オルソゴナルヒトCD122に特異的に結合するオルソゴナルヒトIL2と接触させ、それによって、該操作された免疫細胞を選択的に活性化する工程を含む。
【0193】
治療方法
いくつかの場合には、治療方法が提供され、この方法は、本開示で提供されるような改変型ヒトCD122(例えば、改変型オルソゴナルヒトCD122)を発現するように操作された細胞の集団を、それを必要とする対象に導入することを含む。該操作細胞の集団は、エクスビボで操作することができ、通常、対象に関して自己由来または同種他家由来である。該操作細胞の集団を導入した後に、その導入された細胞集団をインビボでコグネイトIL2リガンド(例えば、IL2オルソログ)と接触させる。
【0194】
ある場合には、対象が癌を有し、操作された免疫細胞は、改変型ヒトCD122(例えば、改変型オルソゴナルヒトCD122)を発現するCD8+ T細胞である。ある場合には、対象は自己免疫疾患を有し、免疫細胞は、改変型ヒトCD122を発現するTreg細胞である。ある場合には、操作された免疫細胞はCAR-T細胞(例えば、1つまたは複数のCARを発現するCD8+ T細胞またはTreg細胞)である。
【0195】
改変型ヒトCD122を発現する免疫細胞の導入
いくつかの態様では、遺伝子改変T細胞は、治療される個体に関して同種他家である。Graham et al. (2018) Cell 7(10) E155。いくつかの態様では、同種他家の遺伝子改変T細胞は、完全にHLA適合である。しかし、全ての患者に完全適合ドナーがいるわけではないので、HLA型に関係なく全患者に適した細胞製品が代替製品を提供する。
【0196】
細胞製品は対象自身のT細胞から構成され得るため、対象に投与される細胞の集団は必然的に変動し、そのような薬剤に対する反応も変化する可能性がある。そのため、該細胞の最適濃度を特定するには、治療関連毒性を継続的に監視・管理する必要がある。通常、少なくとも1□106細胞/kg、少なくとも1□107細胞/kg、少なくとも1□108細胞/kg、少なくとも1□109細胞/kg、少なくとも1□1010細胞/kg、またはそれ以上が投与されることになるが、通常は採取時に得られるT細胞の数により制限される。場合によっては、患者は、CAR-T細胞治療を実施する前に、薬理学的免疫抑制またはB細胞枯渇を数回にわたって受ける。遺伝子改変細胞は、任意の生理学的に許容される培地中で、任意の適切な投与経路で、通常は血管内に、対象に注入され得るが、該細胞が増殖に適した部位を見つけることができる他の経路で導入することも可能である。
【0197】
T細胞が同種他家T細胞である場合、そうした細胞は移植片対宿主病を軽減するように改変することができる。例えば、本発明の改変細胞は、遺伝子編集技術によって達成されたTCRαβ受容体ノックアウトであり得る。TCRαβはヘテロ二量体であり、それが発現するにはα鎖とβ鎖の両方が存在する必要がある。単一の遺伝子がα鎖(TRAC)をコードするのに対し、β鎖をコードする遺伝子は2つあるため、TRAC遺伝子座KOがこの目的のために欠失された。この欠失を達成するために、多くの異なるアプローチが用いられてきた;例えば、CRISPR/Cas9;メガヌクレアーゼ;遺伝子改変I-CreIホーミングエンドヌクレアーゼなどである。例えば、Eyquem et al. (2017) Nature 543:113-117(TRACコード配列がCARコード配列により置き換えられる);およびGeorgiadis et al. (2018) Mol. Ther. 26:1215-1227(CARをTRAC遺伝子座に直接組み込むことなく、クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(clustered regularly interspaced short palindromic repeats)(CRISPR)/Cas9によるTRAC破壊とCAR発現を関連付けた)を参照されたい。GVHDを予防するための代替戦略は、例えばCD3ζの切断型をTCR阻害分子として用いて、TCRαβシグナル伝達の阻害剤を発現するようにT細胞を改変することである。
【0198】
オルソゴナルIL2の投与
改変型ヒトCD122を発現するように操作された免疫細胞の集団の導入に続いて、コグネイトIL2リガンドをコードする核酸構築物を対象に投与して、コグネイトIL2リガンドへの対象の連続曝露を達成することにより、コグネイトIL2リガンドを対象に提供することができる。いくつかの場合には、該操作された免疫細胞が改変型オルソゴナルヒトCD122を発現し、コグネイトのオルソゴナルIL2をコードする組換えベクターが、対象へのオルソゴナルIL2の延長送達と、そのようなオルソゴナルIL2に関連するコグネイトのオルソゴナル受容体を発現するように操作された対応する細胞の長期活性化とを提供するために導入される。
【0199】
非ウイルス:
一態様では、オルソゴナルIL2は、非ウイルスベクター中のオルソゴナルIL2の核酸発現構築物の形態で対象に投与することができ、非ウイルス送達システムにおいて提供され得る。非ウイルス送達システムは、典型的には、核酸カーゴによる標的細胞の形質導入を促進するための複合体であり、核酸は、カチオン性脂質(DOTAP、DOTMA)、界面活性剤、生体物質(ゼラチン、キトサン)、金属(金、磁性鉄)、合成ポリマー(PLG、PEI、PAMAM)などの物質と複合体化される。非ウイルス送達システムの多数の実施態様が当技術分野でよく知られており、例えば、脂質ベクターシステム(Lee et al. (1997) Critical Reviews of Therapeutic Drug Carrier Systems 14:173-206);ポリマーコーティングリポソーム(Marin et al. 米国特許第5,213,804号,1993年5月25日発行;Woodle, et al. 米国特許第5,013,556号,1991年5月7日発行);カチオン性リポソーム(Epand et al. 米国特許第5,283,185号,1994年2月1日発行;Jessee, J. A. 米国特許第5,578,475号,1996年11月26日発行;Rose et al. 米国特許第5,279,833号,1994年1月18日発行;Gebeyehu et al. 米国特許第5,334,761号,1994年8月2日発行)などがある。一態様では、IL2受容体をコードする非ウイルスベクターシステム中の核酸配列は、調節プロモーター、誘導プロモーター、組織特異的もしくは腫瘍特異的プロモーター、または時間的に調節されたプロモーターの制御下にある。
【0200】
ウイルスベクター:
別の態様では、オルソゴナルIL2は、オルソゴナルIL2をコードするウイルスベクター中の核酸発現構築物の形態で対象に投与することができる。「ウイルスベクター」および「ウイルス」という用語は、本明細書では交換可能に使用され、タンパク質合成機構またはエネルギー生成機構を持たない偏性の細胞内寄生体のいずれかを指す。ウイルスゲノムは、脂質膜のタンパク質のコーティングされた構造内に含まれるRNAまたはDNAであり得る。ウイルスおよびウイルスベクターという用語は、本明細書では交換可能に使用される。本発明の実施に有用なウイルスは、組換えにより改変された、エンベロープのあるまたはエンベロープのないDNAおよびRNAウイルスを含み、好ましくは、バキュロウイルス科、パルボウイルス科、ピコルナウイルス科、ヘルペスウイルス科、ポックスウイルス科、またはアデノウイルス科から選択される。ウイルスは、外因性トランスジーン(例えば、オルソゴナルIL2をコードする核酸配列)の発現を含むように組換えDNA技術によって改変され、複製欠損であるか、条件付き複製であるか、または複製能を有するように操作され得る。ウイルス骨格がウイルスベクターのパッケージングに必要な配列のみを含み、任意でトランスジーン発現カセットを含み得る最小のベクターシステムもまた使用することができる。用語「複製欠損」とは、野生型哺乳動物細胞での複製が高度に弱められているベクターを指す。そのようなベクターを大量に生産するために、プロデューサー細胞株は、一般に、ヘルパーウイルスとの同時トランスフェクションによって作製されるか、または欠落している機能を補完するようにゲノム改変される。用語「複製能のあるウイルスベクター」とは、感染、DNA複製、パッケージングおよび感染細胞の溶解が可能なウイルスベクターを指す。「条件付き複製ウイルスベクター」という用語は、本明細書では、特定の細胞型において選択的発現を達成するように設計された複製能のあるベクターを指すために用いられる。そのような条件付き複製は、組織特異的、腫瘍特異的、細胞型特異的、または他の選択的に誘導される調節制御配列を初期遺伝子(例えば、アデノウイルスベクターのE1遺伝子)に機能的に連結することによって達成され得る。組換えウイルスまたは非ウイルスベクターによる対象の感染は、対象におけるオルソゴナルIL2の長期発現を提供し、また、CD122オルソゴナル受容体を発現するように操作されたT細胞の継続的かつ選択的な維持を提供することができる。一態様では、IL2受容体をコードするウイルスベクターシステム中の核酸配列は、調節プロモーター、誘導プロモーター、組織特異的もしくは腫瘍特異的プロモーター、または時間的に調節されたプロモーターの制御下にある。
【0201】
薬学的製剤
遺伝子改変されたT細胞は、治療用、例えばヒトの治療に適した薬学的組成物として提供され得る。そのような細胞を含む治療用製剤は、凍結されるか、または生理学的に許容される担体、賦形剤もしくは安定剤(Remington's Pharmaceutical Sciences 第16版, Osol, A. 編 (1980))を用いて、水溶液の形態で、投与するために調製され得る。該細胞は、適切な医療行為と一致する方法で製剤化され、投与され、管理される。これとの関連で考慮すべき要素には、治療される特定の障害、治療対象となる特定の哺乳動物、個々の患者の臨床状態、障害の原因、薬剤の送達部位、投与方法、投与スケジュール、および医療従事者には公知の他の要素が含まれる。
【0202】
前記細胞は、任意の適切な手段で、通常は非経口的に、投与され得る。非経口注入には、筋肉内、静脈内(ボーラスまたは緩徐な注入)、動脈内、腹腔内、髄腔内または皮下投与が含まれる。典型的な実施では、遺伝子改変T細胞は、生理学的に許容される培地中で、通常は血管内に、対象に注入されるが、該細胞が増殖に適した部位を見つけることができる他の便利な部位に導入することも可能である。通常、少なくとも1×105細胞/kg、少なくとも1×106細胞/kg、少なくとも1×107細胞/kg、少なくとも1×108細胞/kg、少なくとも1×109細胞/kg、またはそれ以上が投与されることになるが、通常は採取時に得られるT細胞の数により制限される。
【0203】
例えば、本発明の方法の実施において使用するための遺伝子改変免疫細胞の典型的な投与範囲は、治療の1コースあたり約1×105~5×108生細胞/kg対象体重の範囲である。その結果、体重について調整すると、ヒト対象における生細胞の典型的な投与範囲は、治療の1コースあたり約1×106~約1×1013生細胞、あるいは約5×106~約5×1012生細胞、あるいは約1×107~約1×1012生細胞、あるいは約5×107~約1×1012生細胞、あるいは約1×108~約1×1012生細胞、あるいは約5×108~約1×1012生細胞、あるいは約1×109~約1×1012生細胞の範囲となる。一態様では、細胞の投与量は、治療の1コースあたり2.5~5×109生細胞の範囲である。
【0204】
1コースの治療は、単回投与または一定期間にわたる複数回投与であり得る。いくつかの態様では、細胞は単回投与で投与される。いくつかの態様では、細胞は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、21、28、30、60、90、120または180日の期間にわたって投与される2回以上の分割用量で投与される。そのような分割投薬プロトコルで投与される遺伝子改変細胞の量は、各投与で同じであってもよいし、異なるレベルで提供されてもよい。ある期間にわたる複数日投薬プロトコルは、当業者(例えば、医師)が、上記のように、治療の有害作用およびそれらの調節を含む治療に対する対象の応答を考慮に入れて、細胞の投与を監視することによって提供され得る。
【0205】
本開示の組成物および方法はまた、事前のリンパ球枯渇を行わないで、T細胞療法(特にCAR T細胞療法)により対象を治療する方法を提供する。リンパ球枯渇は、通常、CAR T細胞療法と併用して対象に実施される。なぜならば、その後の混合細胞集団の投与と、細胞療法製品の投与と組み合わせた、対象において遺伝子改変細胞集団を拡大するための非特異的薬剤(例:IL2)の投与は、広範囲の活性化をもたらす薬剤の投与による免疫細胞の広範囲の増殖および活性化から、ならびに細胞療法製品自体に含まれる非改変細胞のかなりの割合の存在から生じる、重大な全身毒性(サイトカイン放出症候群または「サイトカインストーム」を含む)の結果となるからである。本開示の方法および組成物は、この重大なハードルを以下により回避する;すなわち、前述のエクスビボ方法が採用される場合、非改変細胞による汚染をほとんど排除した実質的に精製された改変細胞の集団の提供、および/またはIL2などの非特異的増殖剤の標的外(off-target)効果の実質的低減をもたらす本発明のオルソゴナルIL2による改変T細胞の選択的活性化および拡大、の両方(またはいずれか一方)により回避する。
【0206】
例えば、CAR-T細胞療法の現在の臨床診療では、CAR-T細胞は、宿主の免疫回復に先立ってCAR-T細胞の拡大を促進するために、一般にリンパ球枯渇(例えば、アレムツズマブ(モノクローナル抗CD52)、プリン類似体などの投与による)と組み合わせて投与される。いくつかの態様では、CAR-T細胞は、アレムツズマブに対する耐性に向けて改変され得る。本発明の一局面では、CAR-T療法に関連して現在採用されているリンパ球枯渇は、オルソゴナルリガンドを発現する本発明のCAR-Tによって回避または軽減され得る。上述したように、リンパ球枯渇は、CAR-T細胞の拡大を可能にするために一般的に採用されている。しかし、このリンパ球枯渇は、CAR-T細胞療法の主要な副作用にも関連している。オルソゴナルリガンドは特定のT細胞集団を選択的に拡大する手段を提供するため、オルソゴナルリガンドを発現するCAR-Tの投与前のリンパ球枯渇の必要性を低減させることができる。本発明の方法は、オルソゴナルリガンドを発現するCAR-Tの投与前に、リンパ球枯渇なしで、またはリンパ球枯渇を減らして、CAR-T細胞療法を実施することを可能にする。
【0207】
一態様では、本開示は、オルソゴナルリガンドCAR-Tの投与前のリンパ球枯渇の非存在下で、オルソゴナルリガンドを発現するCAR-Tを投与することによって、CAR-T細胞療法による治療に適している疾患、障害または状態(例えば、癌)を患っている対象を治療する方法を提供する。一態様では、本開示は、1つまたは複数の表面抗原(例えば、腫瘍抗原)の発現により特徴付けられる異常な細胞集団(例えば、腫瘍)の存在に関連する疾患、障害を患っている哺乳動物対象の治療方法を提供し、該方法は、(a)個体からT細胞を含む生物学的サンプルを取得する工程;(b)生物学的サンプルをT細胞の存在について濃縮する工程;(c)CARをコードする核酸配列とオルソゴナルCD122受容体をコードする核酸配列を含む1つまたは複数の発現ベクターでT細胞をトランスフェクトする工程、ここで、CARの抗原標的化ドメインは、異常な細胞集団上に存在する少なくとも1つの抗原に結合可能であること;(d)オルソゴナル受容体を発現するCAR-T細胞の集団を、オルソゴナルIL2によりエクスビボで拡大培養する工程;(e)薬学的有効量のオルソゴナル受容体発現CAR-T細胞を哺乳動物に投与する工程;および(f)CAR-T細胞上に発現されたオルソゴナルCD122受容体に選択的に結合するオルソゴナルIL2の治療有効量を投与することによって、オルソゴナルCD122受容体発現CAR-T細胞の増殖を調節する工程を含む。一態様では、前記方法は、CAR-T細胞療法のコースを開始する前に、哺乳動物のリンパ球枯渇または免疫抑制と関連している。別の態様では、前記方法は、哺乳動物のリンパ球枯渇および/または免疫抑制の非存在下で実施される。
【0208】
治療薬の併用:
本開示の組成物および方法は、追加の治療薬と併用することができる。例えば、治療すべき疾患、障害または状態が腫瘍性疾患(例えば、癌)である場合、本開示の方法は、従来の化学療法剤または他の生物学的抗癌剤、例えばチェックポイント阻害剤(例:PD1またはPDL1阻害剤)もしくは治療用モノクローナル抗体(例:アバスチン、ハーセプチン)と併用され得る。
【0209】
腫瘍性疾患の治療に有用であると当技術分野で確認された化学薬剤の例としては、限定するものではないが、以下が挙げられる:アビトレキサート、アドリアマイシン、アドルシル、アムサクリン、アスパラギナーゼ、アントラサイクリン、アザシチジン、アザチオプリン、ビクヌ、ブレノキサン、ブスルファン、ブレオマイシン、カンプトサル、カンプトテシン、カルボプラチン、カルムスチン、セルビジン、クロラムブシル、シスプラチン、クラドリビン、コスメゲン、シタラビン、サイトサル(cytosar)、シクロホスファミド、サイトキサン、ダクチノマイシン、ドセタキセル、ドキソルビシン、ダウノルビシン、エレンス(ellence)、エルスパール(elspar)、エピルビシン、エトポシド、フルダラビン、フルオロウラシル、フルダラ、ゲムシタビン、ゲムザール、ヒカムチン、ヒドロキシ尿素、ハイドレア、イダマイシン、イダルビシン、イホスファミド、イフェックス(ifex)、イリノテカン、ランビス、ロイケラン、ロイスタチン、マチュラン(matulane)、メクロレタミン、メルカプトプリン、メトトレキサート、マイトマイシン、ミトキサントロン、ミトラマイシン、ムタマイシン、マイレラン、マイロサール(mylosar)、ナベルビン、ニペント(nipent)、ノバントロン、オンコビン、オキサリプラチン、パクリタキセル、パラプラチン、ペントスタチン、プラチノール、プリカマイシン、プロカルバジン、プリネトール、ラリトレキセド、タキソテール、タキソール、テニポシド、チオグアニン、トムデックス、トポテカン、バルビシン、ベルバン、ベペシド、ビンブラスチン、ビンデシン、ビンクリスチン、ビノレルビン、VP-16、およびブモン(vumon)。
【0210】
本開示の組成物は、以下からなる群より選択される1つまたは複数の追加の治療薬と組み合わせて投与され得る:チロシンキナーゼ阻害剤、例えば、イマチニブメシル酸塩(販売名:Gleevec(登録商標),別名:STI-571)、ゲフィチニブ(Iressa(登録商標),別名:ZD1839)、エルロチニブ(販売名:Tarceva(登録商標))、ソラフェニブ(Nexavar(登録商標))、スニチニブ(Sutent(登録商標))、ダサチニブ(Sprycel(登録商標))、ラパチニブ(Tykerb(登録商標))、ニロチニブ(Tasigna(登録商標))、ボルテゾミブ(Velcade(登録商標))、Jakafi(登録商標)(ルキソリチニブ);ヤヌスキナーゼ阻害剤、例えばトファシチニブ;ALK阻害剤、例えばクリゾチニブ;Bcl-2阻害剤、例えば、オバトクラックス、ベンクレクタ(venclexta)、ゴシポール;FLT3阻害剤、例えばミドスタウリン(Rydapt(登録商標));IDH阻害剤、例えばAG-221;PARP阻害剤、例えば、イニパリブ、オラパリブ;PI3K阻害剤、例えばペリホシン;VEGFレセプター2阻害剤、例えばアパチニブ;AN-152 (AEZS-108)、ドキソルビシンを[D-Lys(6)]-LHRHに連結したもの;Braf阻害剤、例えば、ベムラフェニブ、ダブラフェニブ、LGX818;MEK阻害剤、例えばトラメチニブ;CDK阻害剤、例えばPD-0332991、LEE011;Hsp90阻害剤、例えばサリノマイシン;および/または低分子薬物コンジュゲート、例えばビンタフォリド;セリン/トレオニンキナーゼ阻害剤、例えば、テムシロリムス(Torisel(登録商標))、エベロリムス(Afinitor(登録商標))、ベムラフェニブ(Zelboraf(登録商標))、トラメチニブ(Mekinist)、ダブラフェニブ(Tafinlar(登録商標))。
【0211】
いくつかの態様では、特にCARの腫瘍抗原結合部分がBCMAに向けられている場合、遺伝子改変されたCAR-T細胞は、Pont, et al. (2019) “γ-secretase inhibition increases efficacy of BCMA-specific chimeric antigen receptor T cells in multiple myeloma” Blood doi.org/10.1182/blood.2019000050に記載されるように、γセクレターゼ阻害剤(GSI)と組み合わせて投与される。
【0212】
腫瘍性疾患の治療に有用であると当技術分野で確認された生物薬剤の例としては、限定するものではないが、以下が挙げられる:サイトカインまたはサイトカイン拮抗薬、例えば、IL-12、INFα、または抗上皮成長因子受容体、放射線療法、イリノテカン;テトラヒドロ葉酸系代謝拮抗薬、例えばペメトレキセド;腫瘍抗原に対する抗体、モノクローナル抗体と毒素の複合体、T細胞アジュバント、骨髄移植、抗原提示細胞(例:樹状細胞療法)、抗腫瘍ワクチン、複製能のあるウイルス、シグナル伝達阻害剤(例:Gleevec(登録商標)またはHerceptin(登録商標))、または腫瘍増殖の相加的もしくは相乗的抑制を達成する免疫調節剤、シクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)阻害剤、ステロイド、TNF拮抗薬(例:Remicade(登録商標)、Enbrel(登録商標))、インターフェロン-β1a(Avonex(登録商標))、インターフェロン-β1b(Betaseron(登録商標))、ならびに当技術分野の臨床医によって容易に理解される公知の化学療法治療レジメンで実施される前述の1つまたは複数の組み合わせ。
【0213】
遺伝子改変された細胞と組み合わせて投与され得る腫瘍特異的モノクローナル抗体には、限定するものではないが、リツキシマブ(販売名:MabTheraまたはRituxan)、アレムツズマブ、パニツムマブ、イピリムマブ(Yervoy)などが含まれる。
【0214】
いくつかの態様では、本開示の組成物および方法は、免疫チェックポイント療法と併用することができる。免疫チェックポイント療法の例には、PDL1および/またはPDL2へのPD1の結合を阻害するものが含まれる。PDL1および/またはPDL2に対するPD1阻害剤は当技術分野で周知である。PDL1および/またはPDL2へのPD1の結合を妨害する市販のモノクローナル抗体の例としては、ニボルマブ(Opdivo(登録商標),BMS-936558,MDX1106,BristolMyers Squibb社(Princeton NJ)から市販)、ペムブロリズマブ(Keytruda(登録商標)MK-3475,ラムブロリズマブ,Merck and Company(Kenilworth NJ)から市販)、およびアテゾリズマブ(Tecentriq(登録商標),Genentech/Roche社,South San Francisco CA)が挙げられる。PD1阻害抗体の追加の例としては、デュルバルマブ(MEDI4736,Medimmune/AstraZeneca社)、ピディリズマブ(CT-011,CureTech社)、PDR001(Novartis社)、BMS-936559(MDX1105,Bristol Myers Squibb社)、アベルマブ(MSB0010718C,Merck Serono/Pfizer社)、およびSHR-1210(Incyte社)が挙げられるが、これらに限らない。追加の抗体PD1経路阻害剤は、米国特許第8,217,149号(Genentech社)、2012年7月10日発行;米国特許第8,168,757号(Merck Sharp and Dohme社)、2012年5月1日発行;米国特許第8,008,449号(Medarex社)、2011年8月30日発行;米国特許第7,943,743号(Medarex社)、2011年5月17日発行に記載されている。さらに、PDL1および/またはPDL2に対する低分子PD1阻害剤が当技術分野で知られている。例えば、Sasikumar, et al. WO2016142833A1およびSasikumar, et al. WO2016142886A2、BMS-1166およびBMS-1001(Skalniak, et al (2017) Oncotarget 8(42): 72167-72181)を参照されたい。
【実施例】
【0215】
実施例1: CD19 CAR_T2A_hoRbおよびCD19 CAR_T2A_hoRB_GGYRHQ T細胞の作製
この研究で使用されたCD19キメラ抗原受容体タンパク質(以下「CD19_28z」という)は、次の構造を有する:GMCSF受容体シグナルペプチド、FMC63抗CD19 scFv、AAAリンカー、CD28ヒンジ/膜貫通/共刺激ドメインおよびCD3ζ。CD19_28zのアミノ酸配列は以下の通りである:
【0216】
これらの実施に使用されたオルソゴナルT細胞は、分離したT細胞をレンチウイルスベクターでトランスフェクトすることによって、当技術分野で公知の技術により作製された;前述のCD19_28z CAR、T2AリンカーポリペプチドおよびヒトオルソゴナルCD122オルソゴナル受容体(hoCD122)は、アミノ酸配列:
を有し、CD19 CAR_T2A_hoRbとも呼ばれる。野生型ICDを有するhoRBについて、hoRBは、次のアミノ酸配列:
を有する。
【0217】
T2Aリンカーを使用すると、単一のレンチウイルスプラスミドを用いてオルソゴナルCAR-T細胞を作製することが可能になる。
【0218】
初代CD4およびCD8濃縮T細胞を抗CD3抗体と抗CD28抗体で刺激し、形質導入後2日間までWT IL-2中で培養した。細胞には、CD19 CAR_T2A_hoRbまたはCD19 CAR_T2A hoRb_GGYRHQをコードするレンチウイルスを導入した。2日後、細胞を洗浄し、40Kd PEG化オルソゴナルリガンドSTK-009(100nM)を含むT細胞増殖培地に切り替えた。細胞を回収する10日目まで、細胞をT細胞培地+STK-009中に1E6細胞/mlの細胞密度で維持した。
【0219】
実施例2: オルソゴナルリガンドSTK-009
これらの研究で使用されたhoCD122受容体のオルソゴナルコグネイトリガンド(以後STK-009)は、N末端アラニン残基の欠失を含み、かつアミノ酸置換L18R、Q22EおよびQ126K(成熟野生型hIL2に従って番号付けされた)を含み、さらにN末端プロリン残基にアルデヒドリンカーを有する40kD分岐(2×20kD)PEG分子、40kDaの2アーム分岐PEG-アルデヒド、2本の20kDA直鎖PEG分子を含む40kDA PEG-アルデヒド(Sunbright(登録商標)GL2-400AL3, NOF America Corporation, One North Broadway, White Plains, NY 10601 USA)を付加することにより修飾された、hIL2ムテインの化合物である。
【0220】
実施例3: ホスホ-シグナル伝達アッセイ:
CD19 CAR_T2A_hoRbまたはCD19 CAR_T2A hoRb_GGYRHQを安定的に導入されたT細胞を、RPMI培地+10%FBS中で1時間休ませた。次に、WT IL-2またはSTK-009のいずれかの用量漸増(dose titration)により細胞を20分間刺激し、様々なリン酸化抗原(phospho-antigen)について染色した。その後、細胞をフローサイトメトリー解析にかけた。これらの研究の結果を添付図面の
図4および
図5に示す。示されるように、CAR T細胞のhoCD122受容体にSTAT3モチーフを追加すると、pERK、pS6Kの増大した活性化およびpSTAT3のより高いベースラインが生じる。
【0221】
実施例4: 細胞傷害性共培養アッセイ
CD19 CAR_T2A_hoRbまたはCD19 CAR_T2A hoRb_GGYRHQを安定的に導入されたT細胞を、CD19標的細胞株であるRaji-ルシフェラーゼと、示されたエフェクター:標的細胞(E:T)の比率で一晩共培養した。細胞生存率は、D-ルシフェリンの光への変換により評価し、生物発光プレートリーダーで読み取った。データは、100%×(自然死RLU - 試験RLU)/(自然死RLU - 最大殺傷RLU)として算出される特異的溶解(specific lysis)として示される。この研究の結果を添付図面の
図6に示す。このデータは、CAR T細胞のオルソ受容体にSTAT3モチーフを追加することで、優れた細胞傷害活性が得られることを実証している。
【0222】
ヒトオルソRb(hoRb、hoCD122)受容体の細胞内ドメインにSTAT3シグナル伝達ドメインを追加することの有益な機能的効果は、wt hoCD122受容体を発現する細胞と、hoCD122のICDのカルボキシ末端にSTAT3シグナル伝達ドメイン(YRHQ)を組み込むように改変されたhoCD122受容体を発現する細胞の効果を評価する一連の研究で実証された。受容体構造の説明図を添付図面の
図1に示す。野生型ICDおよびSTAT3改変ICDを含むhoRB受容体を安定的に発現する細胞株を作製し、野生型IL2とオルソゴナルリガンドSTK-009を用いて試験した(実施例2)。
図2および
図3に示されるように、野生型ICDおよびSTAT3改変ICDを含むhoRB受容体は、改変型細胞において機能的であった。該受容体を発現している細胞は、実質的に実施例3に従って、種々のリン酸化リガンド(phosphor ligand)の発現について評価した。その結果を
図4と
図5に示す。
図4および
図5に示されるように、CAR T細胞のhoCD122受容体にSTAT3モチーフを追加すると、pERK、pS6Kの活性化が増大し、pSTAT3のベースラインレベルがより高くなった。
【0223】
STAT3改変型オルソゴナルCD122を発現するCAR-T細胞の増強された効果を評価するために、CAR-T細胞を、Raji腫瘍細胞株を用いた細胞傷害性実験で評価した。追加のSTAT3シグナル伝達モチーフを有するオルソゴナルCD122(hoRb)受容体を含むCD19 CAR T細胞構築物の細胞傷害性に対するSTAT3の効果を、実質的に実施例4の教示に従って、様々なエフェクター:標的(E:T;CAR T:Raji腫瘍細胞)の比率において、野生型CD122細胞内ドメインを有するオルソゴナルCD122(hoRb)を含むCD19 CAR T細胞構築物と比較検討した。この研究の結果を添付図面の
図6に示す。
図6に示したデータは、野生型CD122細胞内ドメインを有するオルソゴナルCD122(hoRb)を含むCD19 CAR T細胞と比較して、STAT3モチーフを含むように改変された細胞内ドメイン(ICD)を有するhoRbを発現するCD19 CAR T細胞構築物のRaji腫瘍細胞に対する細胞傷害性が向上した、ことを実証している。前述のデータは、本開示のSTAT3モチーフ改変型受容体の有益な特性を実証するものである。
【0224】
以上、本発明について十分に説明してきたが、当業者であれば、本発明の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更および修飾を行うことができることが明らかであろう。
【0225】
配列の説明:
SEQ ID NO: 22(天然ヒトCD122,全長タンパク質)
最初の下線のある領域はシグナルペプチドである
【配列表】
【国際調査報告】