(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-15
(54)【発明の名称】キメラデコイによる炎症抑制の延長及び/又は脊椎痛治療の延長に関連する方法及び組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/713 20060101AFI20230308BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20230308BHJP
A61P 19/04 20060101ALI20230308BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230308BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230308BHJP
A61K 47/69 20170101ALI20230308BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20230308BHJP
C12N 15/11 20060101ALN20230308BHJP
【FI】
A61K31/713
A61P19/02
A61P19/04
A61P29/00
A61P43/00 112
A61P43/00 111
A61P43/00 105
A61K47/69
A61K47/34
C12N15/11 Z ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022543456
(86)(22)【出願日】2021-01-14
(85)【翻訳文提出日】2022-09-06
(86)【国際出願番号】 US2021013404
(87)【国際公開番号】W WO2021146400
(87)【国際公開日】2021-07-22
(32)【優先日】2020-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506115514
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】The Regents of the University of California
(71)【出願人】
【識別番号】500409323
【氏名又は名称】アンジェス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】弁理士法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】舛田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】中澤 隆弘
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076BB11
4C076CC04
4C076EE24
4C076FF68
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA96
4C086ZB11
4C086ZB21
(57)【要約】
本出願は、脊椎痛の長期治療のための方法と組成物を提供する。具体的には、2種類の転写因子のDNA結合部位に結合可能な二本鎖オリゴヌクレオチドデコイが7日を超える期間にわたる脊椎痛の治療のために使用され、これらのデコイは、薬物送達系を使用せずに投与される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
椎間板変性症の治療のための方法であって、有効量の核内因子κB(NF-κB)のDNA結合部位とシグナル伝達性転写因子6(STAT6)のDNA結合部位に結合可能な二本鎖オリゴヌクレオチドデコイを含み、1週間以上にわたって有効である単回用量を必要とする対象へ投与することによって前記対象において椎間板変性症を治療することを含む前記方法。
【請求項2】
前記デコイのサイズが約13mer~約15merである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記デコイが配列番号1若しくは配列番号6によって表される配列、又はその配列と同等の配列を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記二本鎖オリゴヌクレオチドデコイ中の各ヌクレオチド間の結合の少なくとも一部がホスホロチオエート結合を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記デコイの5’末端がリンカーを介して又は直接的にPLGAナノ粒子に結合される、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
関節内注射を含む方法によって前記デコイが投与され、所望により前記対象の椎間関節内に直接的に前記デコイが投与される、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
椎間板内注射によって、又は椎間板注射によって、又は硬膜外注射によって前記デコイが投与される、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記単回用量が少なくとも約2週間、又は少なくとも約3週間、又は少なくとも約4週間、又は少なくとも約5週間、又は少なくとも約6週間、又は少なくとも約7週間、又は少なくとも約8週間、又は少なくとも約9週間、又は少なくとも約10週間、又は少なくとも約11週間、又は少なくとも約12週間、又は少なくとも約13週間、又は少なくとも約14週間、又は少なくとも約15週間、又は少なくとも約4か月、又は少なくとも約5か月、又は少なくとも約6か月、又は少なくとも約7か月、又は少なくとも約8か月、又は少なくとも約9か月、又は少なくとも約1年、又はそれ以上にわたって前記疾患の治療に有効である、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
軟骨細胞外マトリックスを回復するための方法であって、NF-κBのDNA結合部位とシグナル伝達性転写因子6(STAT6)のDNA結合部位に結合可能な二本鎖オリゴヌクレオチドデコイを含み、1週間以上にわたって有効である単回用量を必要とする対象へ投与することによって前記対象において軟骨細胞外マトリックスを回復することを含む前記方法。
【請求項10】
前記軟骨細胞外マトリックスが椎間板細胞外マトリックスである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記デコイのサイズが13mer~15merである、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記デコイが配列番号1又は6で表される配列を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記二本鎖オリゴヌクレオチドデコイ中の各ヌクレオチド間の結合の少なくとも一部がホスホロチオエート結合を含む、請求項9~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
関節内注射を含む方法によって前記デコイが投与され、所望により前記対象の椎間関節内に直接的に前記デコイが投与される、請求項9~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
椎間板内注射、椎間板注射、又は硬膜外注射のうちの1つ以上を含む方法によって前記デコイが投与される、請求項9~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記単回用量が少なくとも約2週間、又は少なくとも約3週間、又は少なくとも約4週間、又は少なくとも約5週間、又は少なくとも約6週間、又は少なくとも約7週間、又は少なくとも約8週間、又は少なくとも約9週間、又は少なくとも約10週間、又は少なくとも約11週間、又は少なくとも約12週間、又は少なくとも約13週間、又は少なくとも約14週間、又は少なくとも約15週間、又は少なくとも約4か月、又は少なくとも約5か月、又は少なくとも約6か月、又は少なくとも約7か月、又は少なくとも約8か月、又は少なくとも約9か月、又は少なくとも約1年、又はそれ以上にわたって有効である、請求項9~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
対象の椎間板細胞におけるプロテオグリカン合成を促進するための方法であって、NF-κBのDNA結合部位とシグナル伝達性転写因子6(STAT6)のDNA結合部位に結合可能な二本鎖オリゴヌクレオチドデコイを含み、1週間以上にわたって有効である単回用量を必要とする対象へ投与することによって前記対象の椎間板細胞においてプロテオグリカン合成を促進することを含む前記方法。
【請求項18】
前記椎間板細胞が髄核細胞及び/又は線維輪細胞を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記デコイのサイズが約13mer~約15merである、請求項17又は18に記載の方法。
【請求項20】
前記デコイが配列番号1若しくは配列番号6によって表される配列、又はその配列と同等の配列を有する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記二本鎖オリゴヌクレオチドデコイ中の各ヌクレオチド間の結合の少なくとも一部がホスホロチオエート結合を含む、請求項17~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
関節内注射を含む方法によって前記デコイが投与され、所望により前記対象の椎間関節内に直接的に前記デコイが投与される、請求項17~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
椎間板内注射、椎間板注射、又は硬膜外注射のうちの1つ以上を含む方法によって前記デコイが投与される、請求項17~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記単回用量が少なくとも約2週間、又は少なくとも約3週間、又は少なくとも約4週間、又は少なくとも約5週間、又は少なくとも約6週間、又は少なくとも約7週間、又は少なくとも約8週間、又は少なくとも約9週間、又は少なくとも約10週間、又は少なくとも約11週間、又は少なくとも約12週間、又は少なくとも約13週間、又は少なくとも約14週間、又は少なくとも約15週間、又は少なくとも約4か月、又は少なくとも約5か月、又は少なくとも約6か月、又は少なくとも約7か月、又は少なくとも約8か月、又は少なくとも約9か月、又は少なくとも約1年、又はそれ以上にわたって有効である、請求項17~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
脊椎痛又は腰痛の治療のための方法であって、NF-κBのDNA結合部位とシグナル伝達性転写因子6(STAT6)のDNA結合部位に結合可能な二本鎖オリゴヌクレオチドデコイを含み、1週間以上にわたって有効である単回用量を必要とする対象へ投与することによって前記対象において脊椎痛を治療することを含む前記方法。
【請求項26】
前記デコイのサイズが約13mer~約15merである、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記デコイが配列番号1若しくは配列番号6によって表される配列、又はその配列と同等の配列を有する、請求項25又は26に記載の方法。
【請求項28】
前記二本鎖オリゴヌクレオチドデコイ中の各ヌクレオチド間の結合の少なくとも一部がホスホロチオエート結合を含む、請求項25~27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記デコイの5’末端がリンカーを介して又は直接的にPLGAナノ粒子に結合される、請求項25~28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
関節内注射を含む方法によって前記デコイが投与され、所望により前記対象の椎間関節内に直接的に前記デコイが投与される、請求項25~29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
椎間板内注射、椎間板注射、又は硬膜外注射を含む方法によって前記デコイが投与される、請求項25~29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記単回用量が少なくとも約2週間、又は少なくとも約3週間、又は少なくとも約4週間、又は少なくとも約5週間、又は少なくとも約6週間、又は少なくとも約7週間、又は少なくとも約8週間、又は少なくとも約9週間、又は少なくとも約10週間、又は少なくとも約11週間、又は少なくとも約12週間、又は少なくとも約13週間、又は少なくとも約14週間、又は少なくとも約15週間、又は少なくとも約4か月、又は少なくとも約5か月、又は少なくとも約6か月、又は少なくとも約7か月、又は少なくとも約8か月、又は少なくとも約9か月、又は少なくとも約1年、又はそれ以上にわたって有効である、請求項25~31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
炎症反応を軽減又は抑制するための方法であって、NF-κBのDNA結合部位とシグナル伝達性転写因子6(STAT6)のDNA結合部位に結合可能な二本鎖オリゴヌクレオチドデコイを含み、1週間以上にわたって有効である単回用量を必要とする対象へ投与することによって前記対象において前記炎症反応を軽減又は抑制することを含む前記方法。
【請求項34】
前記炎症反応が、腰椎(所望により椎間板(所望により線維輪及び髄核から選択される)、傍脊椎筋、若しくは関節突起のうちの1つ以上から選択される)、又は椎間関節(所望により滑膜組織若しくは軟骨組織から選択される)のうちの1つ以上から選択される標的組織又は標的器官内の炎症反応である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記デコイのサイズが約13mer~約15merである、請求項33又は34に記載の方法。
【請求項36】
前記デコイが配列番号1若しくは配列番号6によって表される配列、又はその配列と同等の配列を有する、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記二本鎖オリゴヌクレオチドデコイ中の各ヌクレオチド間の結合の少なくとも一部がホスホロチオエート結合を含む、請求項33~36のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
前記デコイの5’末端がリンカーを介して又は直接的にPLGAナノ粒子に結合される、請求項33~37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
関節内注射を含む方法によって前記デコイが投与され、所望により前記対象の椎間関節内に直接的に前記デコイが投与される、請求項33~38のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
椎間板内注射、椎間板注射、又は硬膜外注射を含む方法によって前記デコイが投与される、請求項33~38のいずれか1項に記載の方法。
【請求項41】
前記単回用量が少なくとも約2週間、又は少なくとも約3週間、又は少なくとも約4週間、又は少なくとも約5週間、又は少なくとも約6週間、又は少なくとも約7週間、又は少なくとも約8週間、又は少なくとも約9週間、又は少なくとも約10週間、又は少なくとも約11週間、又は少なくとも約12週間、又は少なくとも約13週間、又は少なくとも約14週間、又は少なくとも約15週間、又は少なくとも約4か月、又は少なくとも約5か月、又は少なくとも約6か月、又は少なくとも約7か月、又は少なくとも約8か月、又は少なくとも約9か月、又は少なくとも約1年、又はそれ以上にわたって有効である、請求項33~40のいずれか1項に記載の方法。
【請求項42】
椎間変形性関節症(OA)の治療のための方法であって、NF-κBのDNA結合部位とシグナル伝達性転写因子6(STAT6)のDNA結合部位に結合可能な二本鎖オリゴヌクレオチドデコイを含み、1週間以上にわたって有効である単回用量を必要とする対象へ投与することによって前記対象において前記OAを治療することを含む前記方法。
【請求項43】
前記デコイのサイズが約13mer~約15merである、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記デコイが配列番号1若しくは配列番号6によって表される配列、又はその配列と同等の配列を有する、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記二本鎖オリゴヌクレオチドデコイ中の各ヌクレオチド間の結合の少なくとも一部がホスホロチオエート結合を含む、請求項42~44のいずれか1項に記載の方法。
【請求項46】
前記デコイの5’末端がリンカーを介して又は直接的にPLGAナノ粒子に結合される、請求項42~45のいずれか1項に記載の方法。
【請求項47】
関節内注射を含む方法によって前記デコイが投与され、所望により前記対象の椎間関節内に直接的に前記デコイが投与される、請求項42~46のいずれか1項に記載の方法。
【請求項48】
前記単回用量が少なくとも約2週間、又は少なくとも約3週間、又は少なくとも約4週間、又は少なくとも約5週間、又は少なくとも約6週間、又は少なくとも約7週間、又は少なくとも約8週間、又は少なくとも約9週間、又は少なくとも約10週間、又は少なくとも約11週間、又は少なくとも約12週間、又は少なくとも約13週間、又は少なくとも約14週間、又は少なくとも約15週間、又は少なくとも約4か月、又は少なくとも約5か月、又は少なくとも約6か月、又は少なくとも約7か月、又は少なくとも約8か月、又は少なくとも約9か月、又は少なくとも約1年、又はそれ以上にわたって有効である、請求項42~47のいずれか1項に記載の方法。
【請求項49】
前記単回用量が、以下の前記椎間板変性症の治療、軟骨細胞外マトリックスの回復、椎間板細胞におけるプロテオグリカン合成の促進、脊椎痛の治療、腰痛の治療、炎症反応、所望により標的組織又は標的器官における炎症反応の軽減又は抑制、炎症誘発性サイトカイン(所望によりIL-1、IL-1β、IL-6、又はTNFαから選択される)の遺伝子発現の低下、椎間変形性関節症(OA)の治療、又は疼痛関連分子(所望により血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、プロスタグランジンエンドペルオキシドシンターゼ2(PTGS2)、及び神経成長因子(NGF)から選択される)、異化作用分子(場合によってはトロンボスポンジン・タイプ1モチーフ4を有するADAMメタロペプチダーゼ(ADAMTS4))、マトリックスメタロペプチダーゼ3(MMP3)、プロスタグランジンE2(PGE2)、若しくは一酸化窒素(NO)のうちの1つ以上の発現若しくは産生の低下のうちの1つ以上において有効である、請求項1~48のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2020年1月15日に出願された米国仮特許出願第62/961405号に対する米国特許法(35U.S.C.)第119条(e)に基づく優先権の利益を主張し、その内容の全体が全ての目的のために参照により本明細書に援用される。
【0002】
配列表
本出願は、ASCII形式で電子的に提出された配列表を含み、その配列表の全体が参照により本明細書に援用される。前記ASCIIコピーは2021年1月11日に作成され、114198-7090_SL_ST25という名称であり、2101バイトのサイズである。
【0003】
技術分野
本開示は、概してオリゴヌクレオチドデコイに関連し、より具体的には炎症及び/又は脊椎痛の長期治療のために2種類の転写因子のDNA結合部位に結合可能な二本鎖オリゴヌクレオチドデコイを使用することに関連する。
【背景技術】
【0004】
現代の米国では腰痛(LBP)は身体障碍の主要な原因である。腰痛は、多くの人々を一生のある時点において侵す一般的な症状であり、世界中の公衆衛生システムにとって最大の問題のうちの1つになっている(Balagueら著、Lancet誌、2012年、第379巻:482~91頁)。15~20%の米国人が3年間にわたって背部痛の医療を必要としている。背部痛の社会的コストは生産性の喪失と医療費のために500億ドルを超える。LBPは腰椎の多くの構成要素、特に椎間板(IVD)、傍脊椎筋、及び関節突起間関節、すなわち椎間関節を原因とする場合がある。椎間変形性関節症(OA)は腰痛の主要な原因である。最大で30%のLBPが椎間関節によって生じることが近年の研究から示唆されている。軟骨中の軟骨細胞は、同化作用と異化作用との間のバランスを維持することによりマトリックス代謝の恒常性を能動的に制御する。このバランスは、サイトカイン、増殖因子、酵素、及び酵素阻害因子を含む様々な物質によって傍分泌及び/又は自己分泌により厳格に制御される。炎症誘発性サイトカインがマトリックス分解酵素の刺激と細胞外マトリックス産生の抑制の両方によって発病に関与することが示されている。これらのサイトカインは発痛にも大いに関与している。椎間関節症がLBPの原因であることが近年になって示唆されているが、歴史的にはIVDの変性は背部痛と関連付けられており、IVD変性が椎間関節の変形性関節症(OA)に先行すると考えられている(Buckwalter JAら著、Spine誌、1995年、第20巻:1307~14頁)。しかしながら、椎間関節の変性とIVDとの間の関連はほとんど不明である。
【0005】
発痛を減少させるために様々な時点で同化作用と異化作用とのバランスを調節することによる、椎間OAに対する幾つかの異なる治療アプローチが考え得る。現在のところ、椎間関節OAの大半の治療法は理学療法、内側枝ブロック、関節内局所麻酔、ステロイド注射、又は高周波除神経に限られている。米国予防医学作業部会(USPSTF)の基準に基づくと内側枝ブロックのエビデンスレベルはI~II-1である。関節内椎間関節ブロック及び高周波除神経のエビデンスレベルはそれぞれII-1~2及びII-2~II-3である。外科的介入を支持する明確なエビデンスは無いが、外科手術も時折実施されている。近年、椎間関節疾患に対するヒアルロン酸の効果が調査されたが、この治療の有効性には議論の余地がある。
【0006】
炎症の特徴が椎間関節変性症の進行及び発痛に重要な役割を果たすことが知られている。炎症反応はIVD変性でも重要な役割を果たす(Frontana Gら著、Adv Drug Deliv Rev.誌、2015年、第84巻:146~58頁)。インターロイキン(IL)1及び腫瘍壊死因子α(TNFα)などの炎症誘発性サイトカインは、IVD変性におけるプロテオグリカン(PG)喪失の重要な因子として可能性のある候補であると考えられている。非外科的治療法を用いてこれらの患者を管理できることが、椎間関節に生じた慢性LBPを治療するための腰部椎間関節神経ブロックを使用した二重盲検比較治験の1年のフォローアップ試験から示唆されている。椎間関節注射は、コルチコステロイドの注射を含む一般的に使用される低侵襲法であるが、ステロイドには軟骨細胞によるマトリックス合成の抑制及び感染症などの副作用があることが知られている。
【0007】
したがって、椎間関節痛などのLBPを治療するための非侵襲的治療法の必要性が存在する。
【発明の概要】
【0008】
本開示は、単回用量のキメラデコイオリゴデオキシヌクレオチドが、例えば、以下の炎症誘発性サイトカインの遺伝子発現の低下、炎症反応の抑制、椎間板変性症の治療、軟骨細胞外マトリックスの回復、プロテオグリカンの合成の促進、椎間変形性関節症(OA)の治療、腰痛(LBP)の治療、並びに脊椎痛及び滑膜関節痛の治療のうちの1つ以上において7日を超える期間にわたって有効であるという発見に基づいている。
【0009】
よって、1つの態様では本開示は、脊椎痛の治療のための方法を提供する。前記方法は、有効量のNF-κBのDNA結合部位とシグナル伝達性転写因子6(STAT6)のDNA結合部位に結合可能な二本鎖オリゴヌクレオチドデコイからなる単回用量であって、1週間以上にわたって有効である前記単回用量を必要とする対象へ投与することによって前記対象において脊椎痛を治療することを含む(例えば、そのようにして治療することを含む、又はそのようにして治療することから基本的に成る、又はそのようにして治療することからさらに成る)。様々な実施形態において前記デコイのサイズは13mer~15merである。様々な実施形態において前記デコイは配列番号1又は6で表される配列を有する。様々な実施形態において前記二本鎖オリゴヌクレオチドデコイ中の各ヌクレオチド間の結合のうちの少なくとも一部にホスホロチオエート結合が含まれる。様々な実施形態において前記二本鎖オリゴヌクレオチドデコイ中の各ヌクレオチド間の結合のうちの少なくとも一部にホスホロチオエート結合が含まれる。様々な実施形態において前記デコイの5’末端はリンカーを介して、又は直接的にPLGAナノ粒子に結合している。様々な実施形態において前記デコイは、関節内注射を含む方法、又は関節内注射から基本的に成る方法、又は関節内注射からさらに成る方法により投与され、所望により前記対象の椎間関節内に直接的に投与される。様々な実施形態において前記デコイは、椎間板内注射、若しくは椎間板注射、若しくは硬膜外注射を含む方法、又は椎間板内注射、若しくは椎間板注射、若しくは硬膜外注射から基本的に成る方法、又は椎間板内注射、若しくは椎間板注射、若しくは硬膜外注射からさらに成る方法により投与される。様々な実施形態において前記単回用量は約2週間以上、例えば12週間にわたって有効である。
【0010】
別の態様では本開示は、対象の椎間板変性症及び滑膜関節変性を治療する方法を提供する。前記方法は、有効量のNF-κBのDNA結合部位とシグナル伝達性転写因子6(STAT6)のDNA結合部位に結合可能な二本鎖オリゴヌクレオチドデコイからなる単回用量であって、1週間以上にわたって有効である前記単回用量を必要とする対象へ投与することによって前記対象において椎間板変性症又は/及び滑膜関節変性を治療することを含む(例えば、そのようにして治療することを含む、又はそのようにして治療することから基本的に成る、又はそのようにして治療することからさらに成る)。様々な実施形態において前記デコイのサイズは13mer~15merである。様々な実施形態において前記デコイは配列番号1又は6で表される配列を有する。様々な実施形態において前記二本鎖オリゴヌクレオチドデコイ中の各ヌクレオチド間の結合のうちの少なくとも一部にホスホロチオエート結合が含まれる。様々な実施形態において前記二本鎖オリゴヌクレオチドデコイ中の各ヌクレオチド間の結合のうちの少なくとも一部にホスホロチオエート結合が含まれる。様々な実施形態において前記デコイの5’末端はリンカーを介して、又は直接的にPLGAナノ粒子に結合している。様々な実施形態において前記デコイは、関節内注射を含む方法、又は関節内注射から基本的に成る方法、又は関節内注射からさらに成る方法により投与され、所望により前記対象の椎間関節内に直接的に投与される。様々な実施形態において前記デコイは椎間板内注射、又は椎間板注射、又は硬膜外注射により投与される。様々な実施形態において前記単回用量は約2週間以上、例えば12週間にわたって有効である。
【0011】
別の態様では本開示は、対象における軟骨細胞外マトリックスの回復のための方法を提供する。前記方法は、有効量のNF-κBのDNA結合部位とシグナル伝達性転写因子6(STAT6)のDNA結合部位に結合可能な二本鎖オリゴヌクレオチドデコイからなる単回用量であって、1週間以上にわたって有効である前記単回用量を必要とする対象へ投与することによって前記対象において軟骨細胞外マトリックスを回復することを含む(例えば、そのようにして回復することを含む、又はそのようにして回復することから基本的に成る、又はそのようにして回復することからさらに成る)。様々な実施形態において前記軟骨細胞外マトリックスは椎間板細胞細胞外マトリックスである。様々な実施形態において前記デコイのサイズは13mer~15merである。様々な実施形態において前記デコイは配列番号1又は6で表される配列を有する。様々な実施形態において前記二本鎖オリゴヌクレオチドデコイ中の各ヌクレオチド間の結合のうちの少なくとも一部にホスホロチオエート結合が含まれる。様々な実施形態において前記二本鎖オリゴヌクレオチドデコイ中の各ヌクレオチド間の結合のうちの少なくとも一部にホスホロチオエート結合が含まれる。様々な実施形態において前記デコイの5’末端はリンカーを介して、又は直接的にPLGAナノ粒子に結合している。様々な実施形態において前記デコイは、関節内注射を含む方法、又は関節内注射から基本的に成る方法、又は関節内注射からさらに成る方法により投与され、所望により前記対象の椎間関節内に直接的に投与される。様々な実施形態において前記デコイは椎間板内注射、又は椎間板注射、又は硬膜外注射により投与される。様々な実施形態において前記単回用量は約2週間以上、例えば12週間にわたって有効である。
【0012】
別の態様では本開示は、対象の椎間板細胞におけるプロテオグリカン合成を促進するための方法を提供する。前記方法は、有効量のNF-κBのDNA結合部位とシグナル伝達性転写因子6(STAT6)のDNA結合部位に結合可能な二本鎖オリゴヌクレオチドデコイからなる単回用量であって、1週間以上にわたって有効である前記単回用量を必要とする対象へ投与することによって前記対象の椎間板細胞においてプロテオグリカン合成を促進することを含む(例えば、そのようにして促進することを含む、又はそのようにして促進することから基本的に成る、又はそのようにして促進することからさらに成る)。様々な実施形態において前記椎間板細胞は髄核細胞や線維輪細胞を含む、又は髄核細胞や線維輪細胞から基本的に成る、又は髄核細胞や線維輪細胞からさらに成る。様々な実施形態において前記デコイのサイズは13mer~15merである。様々な実施形態において前記デコイは配列番号1又は6で表される配列を有する。様々な実施形態において前記二本鎖オリゴヌクレオチドデコイ中の各ヌクレオチド間の結合のうちの少なくとも一部にホスホロチオエート結合が含まれる。様々な実施形態において前記二本鎖オリゴヌクレオチドデコイ中の各ヌクレオチド間の結合のうちの少なくとも一部にホスホロチオエート結合が含まれる。様々な実施形態において前記デコイの5’末端はリンカーを介して、又は直接的にPLGAナノ粒子に結合している。様々な実施形態において前記デコイは、関節内注射を含む方法、又は関節内注射から基本的に成る方法、又は関節内注射からさらに成る方法により投与され、所望により前記対象の椎間関節内に直接的に投与される。様々な実施形態において前記デコイは椎間板内注射、又は椎間板注射、又は硬膜外注射により投与される。様々な実施形態において前記単回用量は約2週間以上、例えば12週間にわたって有効である。
【0013】
さらに別の態様では炎症反応を軽減及び/又は抑制するための方法が提供される。前記方法は、有効量のNF-κBのDNA結合部位とシグナル伝達性転写因子6(STAT6)のDNA結合部位に結合可能な二本鎖オリゴヌクレオチドデコイからなる単回用量であって、1週間以上にわたって有効である前記単回用量を必要とする対象へ投与することによって前記対象において炎症反応を軽減及び/又は抑制することを含む(例えば、そのようにして軽減及び/若しくは抑制することを含む、又はそのようにして軽減及び/若しくは抑制することから基本的に成る、又はそのようにして軽減及び/若しくは抑制することからさらに成る)。様々な実施形態において前記デコイのサイズは13mer~15merである。様々な実施形態において前記デコイは配列番号1又は6で表される配列を有する。様々な実施形態において前記二本鎖オリゴヌクレオチドデコイ中の各ヌクレオチド間の結合のうちの少なくとも一部にホスホロチオエート結合が含まれる。様々な実施形態において前記二本鎖オリゴヌクレオチドデコイ中の各ヌクレオチド間の結合のうちの少なくとも一部にホスホロチオエート結合が含まれる。様々な実施形態において前記デコイの5’末端はリンカーを介して、又は直接的にPLGAナノ粒子に結合している。様々な実施形態において前記デコイは関節内注射により投与され、所望により前記対象の椎間関節内に直接的に投与される。様々な実施形態において前記デコイは椎間板内注射、又は椎間板注射、又は硬膜外注射により投与される。様々な実施形態において前記単回用量は約2週間以上、例えば12週間にわたって有効である。様々な実施形態において前記炎症反応は、腰椎(例えば、椎間板(例えば、線維輪及び髄核のどちらか又は両方)、傍脊椎筋、又は関節突起のうちの1つ以上)、又は椎間関節(例えば、滑膜組織又は軟骨組織)のうちの一方又は両方から選択される標的組織又は標的器官内の炎症反応である。
【0014】
椎間変形性関節症(OA)の治療のための方法も提供される。前記方法は、有効量のNF-κBのDNA結合部位とシグナル伝達性転写因子6(STAT6)のDNA結合部位に結合可能な二本鎖オリゴヌクレオチドデコイからなる単回用量であって、1週間以上にわたって有効である前記単回用量を必要とする対象へ投与することによって前記対象において前記OAを治療することを含む(例えば、そのようにして治療することを含む、又はそのようにして治療することから基本的に成る、又はそのようにして治療することからさらに成る)。様々な実施形態において前記デコイのサイズは13mer~15merである。様々な実施形態において前記デコイは配列番号1又は6で表される配列を有する。様々な実施形態において前記二本鎖オリゴヌクレオチドデコイ中の各ヌクレオチド間の結合のうちの少なくとも一部にホスホロチオエート結合が含まれる。様々な実施形態において前記二本鎖オリゴヌクレオチドデコイ中の各ヌクレオチド間の結合のうちの少なくとも一部にホスホロチオエート結合が含まれる。様々な実施形態において前記デコイの5’末端はリンカーを介して、又は直接的にPLGAナノ粒子に結合している。様々な実施形態において前記デコイは関節内注射により投与され、所望により前記対象の椎間関節内に直接的に投与される。様々な実施形態において前記単回用量は約2週間以上、例えば12週間にわたって有効である。
【0015】
本明細書において開示されるいずれかの態様の様々な実施形態において、前記単回用量は少なくとも約2週間、又は少なくとも約3週間、又は少なくとも約4週間、又は少なくとも約5週間、又は少なくとも約6週間、又は少なくとも約7週間、又は少なくとも約8週間、又は少なくとも約9週間、又は少なくとも約10週間、又は少なくとも約11週間、又は少なくとも約12週間、又は少なくとも約13週間、又は少なくとも約14週間、又は少なくとも約15週間、又は少なくとも約4か月、又は少なくとも約5か月、又は少なくとも約6か月、又は少なくとも約7か月、又は少なくとも約8か月、又は少なくとも約9か月、又は少なくとも約1年、又はそれ以上にわたって有効である。本明細書において開示されるいずれかの態様の様々な実施形態において、前記単回用量は、以下の前記椎間板変性症の治療、軟骨細胞外マトリックスの回復、椎間板細胞におけるプロテオグリカン合成の促進、脊椎痛の治療、腰痛の治療、炎症反応、所望により標的組織又は標的器官における炎症反応の軽減又は抑制、炎症誘発性サイトカイン(所望によりIL-1、IL-1β、IL-6、又はTNFαから選択される)の遺伝子発現の低下、椎間変形性関節症(OA)の治療、又は疼痛関連分子(所望により血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、プロスタグランジンエンドペルオキシドシンターゼ2(PTGS2)、及び神経成長因子(NGF)から選択される)、異化作用分子(場合によってはトロンボスポンジン・タイプ1モチーフ4を有するADAMメタロペプチダーゼ(ADAMTS4))、マトリックスメタロペプチダーゼ3(MMP3)、プロスタグランジンE2(PGE2)、若しくは一酸化窒素(NO)のうちの1つ以上の発現若しくは産生の低下のうちの1つ以上において有効である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】例となるペレットの顕微鏡画像一式を示す図である。
【0017】
【0018】
【
図3】NF-κBレポーター細胞株に関連する結果を示す図である。
図3Aは単層での蛍光C-デコイの形質移入の結果を示している。
図3Bはウミシイタケ-ホタル・ルシフェラーゼ・デュアルアッセイにおけるウミシイタケによる正規化発光度を示している。
図3CはLPSの効果(各群のLPS+/LPS-)を対照(PBS)に対する比率として示している。
図3Dはペレットの顕微鏡画像を示している。
【0019】
【
図4-1】ウサギ関節軟骨におけるC-デコイの効果を示す図である。
図4Aはプロテオグリカンの代謝回転速度を示している。デコイODNは、IL-1βによって刺激されたPG代謝回転を回復した。組織残留
35PGが100%で始まる線は対照(Ctrl)を表しているが、この対照の線の直下から始まる線はキメラ(10μM)+IL1処理群を表している。この対照の線及びキメラ(10μM)+IL1の線の直下の線はNF-κBデコイ(デコイ)(10μM)+ILによる治療群を表している。一番下の線はIL1単独治療群を表しているが、そのIL1単独の線の直上の線はキメラ(1μM)+IL1処理群を表している。
図4BはNO産生を示している。10μMのキメラデコイは、2日目と4日目においてIL-1βによって刺激されたNO産生を減少させた。各日について、4本のカラムが提示されている(左から右へ向かって、対照、IL1、キメラ(1)+IL1、及びキメラ(10)+IL1)。
図4CはMMP3産生を示している。2日目において培地を測定した。4群がプロットされている(左から右へ向かって、対照(0 0)、IL1(0 5)、キメラ(1μM)+IL1、及びキメラ(10μM)+IL1)。キメラデコイは、IL-1βによって刺激されたMMP3産生を有意に減少させる。
【0020】
【
図5】プロットされたNF-κBデコイのプロテオグリカン(PG)に対する効果を示す図であり、椎間関節軟骨外植片培養物によるPG合成(
図5A)及びPG代謝回転(
図5B)を示している(平均値±SE、Kakutani Kら著、Ortho Res Soc Trans誌:1781、2009年)。
【0021】
【
図6】PBS(各群の左のカラム)又はキメラデコイ(各群の右のカラム)で処理された滑膜外植片における正規化された遺伝子発現(
図6A)及び培地中のタンパク質レベル(
図6B)を示す図である。データを平均値及び標準誤差(SE)として表している。*はP<0.05であり、**はP<0.01である。
【0022】
【
図7】16週目における矯正スコアを示す図である。各群について4本のカラムが提示されている(左から右へ向かって、PBSのみ、100μgのNF-κBデコイ、10μgのキメラデコイ、及び100μgのキメラデコイ)。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本開示は、単回用量のキメラデコイオリゴデオキシヌクレオチドが、例えば、以下の炎症反応の抑制、椎間板変性症の治療、軟骨細胞外マトリックスの回復、プロテオグリカンの合成の促進、脊椎痛の治療、椎間変形性関節症(OA)の治療、滑膜関節変性若しくは滑膜関節痛の治療若しくは予防、及び/又は腰痛(LBP)の治療のうちの1つ以上において7日を超える期間にわたって有効であるという発見に基づいている。理論に捉われることを望むものではないが、本開示はサイトカイン阻害薬又はシグナル伝達経路阻害薬の注射によりサイトカインを阻害し、そうすることでマトリックスの異化作用を遅らせ、且つ、マトリックスの同化経路を促進する。Miyazaki Sら(Trans Orthop Res Soc:0387、2018年)は、滑膜組織をインビトロでキメラデコイ(C-デコイ)により24時間にわたって前処理することによりその後の48時間にわたって炎症反応が抑制されることを示した。しかしながら、単回の形質移入の長期効果は開示されなかった。実施例において示されているように、蛍光デコイの形質移入の成功が確認され、単回のキメラデコイの形質移入は、担体又はウイルスを全く使用しなくても1週間にわたって有効であった。幾つかの実施形態では本明細書において開示されるような長期炎症抑制効果に必要とされない薬物送達系は無く、こうすることで費用と開発の負担が軽減及び/又は排除される。
【0024】
よって、1つの態様では脊椎痛又は/及び滑膜関節変性若しくは滑膜関節痛の長期治療のためのキメラデコイの使用に関する方法を提供する。幾つかの実施形態では単回のキメラデコイの(椎間板内又は関節内)注射が長期、例えば1週間又は2週間にわたって有効である。その他の実施形態ではこの注射は、薬物送達系(担体又はウイルスなど)を使用しなくても1週間にわたって有効であり、これにより費用と開発の負担が軽減又は排除される。幾つかの実施形態では薬物送達系は長期炎症抑制効果にとって必要ではない。
【0025】
定義
当然のことながら、本明細書において使用されるような節又は小節の見出しはただ単に構成を目的としており、記載される内容を限定及び/又は分割していると解釈されてはならない。
【0026】
本組成物及び本方法を説明する前に、本開示は記載される特定の組成物、方法、及び実験条件に限定されず、したがって組成物、方法、及び条件が変わる場合があることを理解されたい。本開示の範囲は添付されている特許請求の範囲の中においてのみ限定されるため、本明細書中で使用される用語法は特定の実施形態の説明だけを目的としており、限定を意図したものではないことも理解されたい。
【0027】
本明細書及び添付される特許請求の範囲において使用される場合、単数形の「a」、「an」、及び「the」は文脈から明確に指示されない限り参照物の複数形を含む。したがって、例えば、「その方法」の参照は、当業者が本開示等を読むと明らかな本明細書に記載される種類の1つ以上の方法及び/又は工程を含む。
【0028】
「を含む(comprising)」という用語は「を含む(including)」、「を含む(containing)」、又は「を特徴とする(characterized by)」と互換的に使用され、その用語は包括的又は開放的な言葉であり、追加の列挙されていない要素又は方法工程を除外しない。「から成る(consisting of)」という言葉は特許請求項に明示されていないどのような要素、工程、又は成分も除外する。「から基本的に成る(consisting essentially of)」という言葉は、明示されている材料又は工程、及び本請求の発明の基本的且つ新規特徴に対して実質的に影響することがない材料又は工程に特許請求の範囲を限定する。本開示は本発明の組成物及び方法の実施形態がこれらの言葉の各々の範囲に対応することを期待している。したがって、列挙されている要素又は工程を含む組成物又は方法は、基本的にそれらの要素又は工程から、又はそれらの要素若しくは工程からこの組成物又はこの方法が構成される特定の実施形態を意図している。
【0029】
「任意の(optional)」又は「所望により(optionally)」は、続いて説明される状況が起こっても起こらなくてもよいことを意味しており、その結果、その説明はその状況が起きる場合の例とその状況が起きない場合の例を含む。
【0030】
本明細書において使用される場合、「及び/又は」は、それに関連する列挙された項目のうちの1つ以上からなるありとあらゆる組合せ,並びに二者択一(「又は」)として解釈されるときは組合せが無いことを意味し、且つ、それらを包含する。
【0031】
全ての数字表現、例えばpH、温度、時間、濃度、及び分子量は、それらの範囲を含み、それぞれに応じて1.0又は0.1の増分だけ(+)又は(-)に変化する近似値であるか、あるいは+/-15%の変量、あるいは10%の変量、あるいは5%の変量、あるいは2%の変量だけ変化する近似値である。常に明確に表示されるわけではないが、全ての数字表現には「約」という用語が前置されることを理解されたい。常に明確に表示されるわけではないが、本明細書に記載される試薬は単なる例であり、そのような試薬の均等物が当技術分野において知られていることも理解されたい。
【0032】
明確に述べられていない場合でも、別段の意図が示されている場合を除き、本技術がポリペプチド、タンパク質、ポリヌクレオチド、又は抗体に関連するときはそのようなものの均等物又は生物学的均等物も本技術の範囲内にあるとされると考えられる。
【0033】
別途定義されない限り、本明細書において使用される全ての技術用語と科学用語は本開示が属する技術分野の当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書に記載される方法及び材料と類似又は等価のあらゆる方法及び材料を本技術の実施又は試験において使用することができるが、好ましい方法、装置、及び材料をこれより説明する。
【0034】
本技術の実施は、別段の指示が無い限り、組織培養、免疫学、分子生物学、微生物学、細胞生物学、及び組換えDNAの従来技術を援用し、それらの技術は当分野の技術の範囲内にある。例えば、Green及びSambrook編(2012年)Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第4版、Ausubelら編(2015年)Current Protocols in Molecular Biologyシリーズ、Methods in Enzymology (Academic Press社、ニューヨーク)シリーズ、MacPhersonら著(2015年)PCR 1: A Practical Approach(Oxford University PressのIRL Press)、MacPhersonら著(1995年)PCR 2: A Practical Approach、McPhersonら著(2006年)PCR: The Basics (Garland Science)、Harlow及びLane編(1999年)Antibodies, A Laboratory Manual、Greenfield編(2014年)Antibodies, A Laboratory Manual、Freshney著(2010年)Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Technique、第6版、Gait編(1984年)Oligonucleotide Synthesis、米国特許第4683195号明細書、Hames及びHiggins編(1984年)Nucleic Acid Hybridization、Anderson著(1999年)Nucleic Acid Hybridization、Herdewijn編(2005年)Oligonucleotide Synthesis: Methods and Applications、Hames及びHiggins編(1984年)Transcription and Translation、Buzdin及びLukyanov編(2007年)Nucleic Acids Hybridization: Modern Applications; Immobilized Cells and Enzymes(IRL Press(1986年))、Grandi編(2007年)In Vitro Transcription and Translation Protocols、第2版、Guisan編(2006年)Immobilization of Enzymes and Cells、Perbal著(1988年)A Practical Guide to Molecular Cloning、第2版、Miller及びCalos編(1987年)Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells (Cold Spring Harbor Laboratory)、Makrides編(2003年)Gene Transfer and Expression in Mammalian Cells、Mayer及びWalker編(1987年)Immunochemical Methods in Cell and Molecular Biology (Academic Press、ロンドン)、Lundblad及びMacdonald編(2010年)Handbook of Biochemistry and Molecular Biology、第4版、及びHerzenbergら編(1996年)Weir’s Handbook of Experimental Immunology、第5版、並びに出願時において利用可能なそれらの各々の最近の版を参照されたい。
【0035】
本明細書において言及される全ての刊行物、特許、及び特許出願は、各々個々の刊行物、特許、又は特許出願が参照により本明細書に援用されると具体的且つ個別に表示される場合と同じ程度に参照により全体が本明細書に援用される。本明細書中の何物も、先願発明であるという理由によりこのような開示に本技術が先行すると主張する資格はないと認めるものと解釈されてはならない。
【0036】
本明細書において使用される場合、「デコイ」という用語は、ある特定の物質が本来結合又は作用するはずである構造体に似ている構造体を指す。本明細書において提示される場合、転写因子に対して使用されるデコイはゲノム遺伝子上のその転写因子の結合領域と同じDNA配列を有する二本鎖オリゴヌクレオチドであってよい。そのようなオリゴヌクレオチドデコイが存在する状態ではその転写因子分子の中にその転写因子分子が結合するはずだったそのゲノム遺伝子上の結合領域に結合する代わりにこのデコイオリゴヌクレオチドに結合するものがある。この結果として結合するはずだったそのゲノム遺伝子上の結合領域に結合している転写因子分子の数が減少し、この転写因子の活性が低下することになる。キメラデコイは1種類より多くの転写因子と結合するDNA配列を含んでいる。
【0037】
本明細書において使用される場合、「アロディニア」という用語は、通常では痛くない、多くの場合に反復的な刺激の後の中枢性疼痛感作(神経細胞応答の増加)を指す。アロディニアは通常では痛みを引き起こさない刺激から疼痛反応を引き起こし得る。
【0038】
本明細書において使用される場合、「椎間板起因性疼痛」は椎間板損傷に起因する、特に椎間板変性症に起因する疼痛を指す。
【0039】
脊柱の椎間板(IVD)は、椎間板の引張強度の理由であるコラーゲンに富む外側の線維輪(AF)と圧縮負荷に抗うために水を保持する大型のプロテオグリカン(PG)を含んでいる内側の髄核(NP)から構成される。生物学的にはAFとNPの両方の中の椎間板細胞はそれらの細胞の細胞外マトリックス(ECM)の同化作用と異化作用との間の均衡、すなわち代謝定常状態を維持しており、サイトカイン、酵素、それらの阻害因子、並びにインスリン様成長因子(IGF)、トランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)、及び骨形成タンパク質(BMP)などの成長因子を含む様々な物質によって調節される。様々な酵素、例えばマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)とサイトカインがこのマトリックスの異化処理又は分解に関係する。IVDの変性は、正常な椎間板では維持されている同化処理と異化処理との間の不均衡、すなわち代謝定常状態の喪失の結果として生じると考えられている。
【0040】
本明細書において使用される場合、「椎間関節」は、背中を曲げやすくし、対象が体を曲げたりねじったりできるようにする脊柱内の関節を指す。神経はこれらの関節を通って脊髄から体の他の部分へと出ている。健康な椎間関節には軟骨があり、この軟骨によって脊椎骨は磨砕されずに互いに対して滑らかに動ける。
【0041】
「対象」、「患者」、又は「宿主生物」という用語は、本明細書において互換的に使用される場合、本対象の方法が実施されるあらゆる個人又は患者を指す。当業者が理解するようにこの対象は動物であってもよいが、一般的にこの対象はヒトである。したがって、対象の定義の中にはげっ歯類動物(マウス、ラット、ハムスター、及びモルモットを含む)、ネコ、イヌ、ウサギ、ウシ、ウマ、ヤギ、ブタ等を含む家畜、スポーツ用動物、愛玩動物、及び霊長類動物(サル、チンパンジー、オラウータン、及びゴリラを含む)などの哺乳類動物を含む他の動物が挙げられる。本開示は、ヒトの治療に有用である他、哺乳類動物、げっ歯類動物を含むコンパニオンアニマル、エキゾチックアニマル、及び家畜の獣医学的治療にも有用である。本開示の1つの実施形態では前記ヒトは胎児、幼児、思春期前の対象、青年、小児患者、又は成人である。1つの態様では前記対象は発症前の哺乳類動物又はヒトである。別の実施形態では前記対象は前記疾患の最小限の臨床症状しか有しない。前記対象は雄性又は雌性、成体、幼児、又は小児対象であってよい。追加の態様では前記対象は成体である。幾つかの例では前記成体は成人、例えば18歳より上の成人である。
【0042】
本明細書において使用される場合、軟骨細胞は軟骨中の細胞を指す。疾患を持たない軟骨細胞は軟骨マトリックスを産生及び維持し、軟骨マトリックスは主にコラーゲン及びプロテオグリカン(PG)から構成される。間葉系幹細胞は軟骨細胞の天然の始原細胞である。他の幹細胞が適切な条件下で軟骨細胞を導出する場合があり、それらの条件の非限定的な例が実施例において示される。
【0043】
本明細書において使用される場合、「動物」という用語は、哺乳類及び鳥類等を含むカテゴリーである多細胞脊椎動物を指す。「哺乳類動物」という用語はヒト及び非ヒト哺乳類動物の両方を含む。
【0044】
「治療有効量」又は「有効量」という用語は、研究者、獣医師、医師、又は他の臨床家が求めている組織、系、動物、又はヒトの生物学的又は医学的応答を誘発する化合物又は医薬組成物の量を意味する。したがって、「治療有効量」という用語は、一定の期間にわたって繰り返し患部に適用されると疾患状態の実質的な改善を引き起こす製剤のあらゆる量を表すために本明細書において使用される。その量は、治療されている状態(例えば、治療される対象の年齢、体重等)、その症状の進行ステージ、及び適用される製剤の種類と濃度によって変化する。どんな事例でも適切な量は当業者には容易に明らかになり、又は日常の実験によって決定できる。
【0045】
幾つかの事例では低下は特定のアッセイの検出レベル未満に、例えば基準レベルの約5%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約85%、約90%、約95%、約99%、又は約100%まで減少させることであると理解されているため、本明細書において使用される場合、「軽減する」及び「抑制する」という用語は一緒に使用される。したがって、発現レベル又は活性がアッセイの検出レベル未満に「低下」しているのか、又は完全に「阻害」されているのかは常に明らかというわけではない。それでも本方法に従う治療法の後にはこれは明確に決定可能になる。
【0046】
本明細書において使用される場合、「治療」又は「治療すること」は、望ましくない状態を有する対象又は系に組成物を投与して所望の薬理学的効果及び/又は生理学的効果することを意味する。「治療」の例には障害になりやすい可能性があるが、まだその障害を有すると診断されていない対象においてその障害が発生することを防止すること、障害を抑制すること、すなわちその障害の発生を阻止すること、及び/又は障害の症状を軽減若しくは改善することが挙げられるがこれらに限定されない。1つの態様では治療は、疾患又は障害、例えば癌の症状の発生の阻止である。幾つかの実施形態では治療は、(1)疾患の症状を示す傾向がある若しくは疾患の症状をまだ示していない対象においてそれらの症状又はその疾患が生じることを防止すること、(2)その疾患を抑制すること若しくはその疾患の発生を阻止すること、又は(3)その疾患若しくはその疾患の症状を改善すること若しくはその退縮を引き起こすことを指す。当技術分野において理解されているように、「治療」は、臨床成果を含む利益のある結果又は所望の結果を得るためのアプローチである。本技術の目的のため、利益のある結果又は所望の結果は、検出できるにしても検出できないにしても、1種類以上の症状の軽減若しくは改善、症状(疾患を含む)の程度の縮減、症状(疾患を含む)の状態の安定化(すなわち、悪化させないこと)、症状(疾患を含む)の遅延化、症状(疾患を含む)、状態、及び(部分又は完全)寛解の進行、改善、若しくは緩和のうちの1つ以上を含み得るがこれらに限定されない。本開示の組成物及び方法を含む治療は、第1、第2、第3、第4、第5に選択される治療法であり得、単独療法として用いられること又は他の適切な治療法と組み合わせて用いられることが意図されている。1つの態様では「治療」又は「治療すること」という用語は防止又は予防を除外している。
【0047】
「予防」又は「予防すること」は望ましくない状態になるリスクがある対象又は系に組成物を投与することを意味する。その状態には疾患又は障害へのなりやすさが含まれ得る。その対象への組成物の(治療的及び/又は予防的)投与の効果は、限定されないが、前記状態の1つ以上の症状の停止、前記状態の1つ以上の症状の抑制又は防止、前記状態の重症度の低下、前記状態の完全な除去、特定の事象若しくは特徴の発生若しくは進行の安定化若しくは遅延化、又は特定の事象若しくは特徴が生じる機会の最小化であり得る。
【0048】
「第1選択」又は「第2選択」又は「第3選択」は患者が受ける治療の順序を指す。第1選択療法は最初に加えられる治療であり、第2選択療法又は第3選択療法はそれぞれその第1選択療法の後又はその第2選択療法の後に加えられる。
【0049】
その状態には症状、疾患、又は障害が含まれ得る。1つの実施形態では本明細書において使用される「疾患」又は「障害」という用語は、脊椎痛、腰痛(LBP)、椎間板(IVD)変性、椎間変形性関節症(OA)、軟骨細胞外マトリックス変性、椎間板細胞等におけるプロテオグリカン合成の減少や抑制、炎症応答、又は脊椎痛や腰痛の他のあらゆる原因、このような疾患であると診断されている状態、このような疾患であると疑われている状態、又はこのような疾患を有するリスクが高い状態のうちの1つ以上を指す。
【0050】
炎症反応は、本明細書において炎症と互換的に使用される場合、組織が細菌、外傷、毒素、熱、又は他のあらゆる原因によって損傷を受けたときに生じる免疫応答を指す。損傷を受けた組織は、ヒスタミン、ブラジキニン、及びセロトニンをはじめとする化合物を放出する。炎症は急性応答(すなわち、炎症過程が活発である応答)及び慢性応答(すなわち、緩やかな進行及び新しい結合組織の形成を特徴とする応答)の両方を指す。急性炎症及び慢性炎症は、関与する細胞の種類によって区別可能である。急性炎症には多形核好中球が関与することが多く、一方で慢性炎症はリンパ組織球性応答及び/又は肉芽腫性応答を特徴とすることが通常である。炎症には特異的防御機構と非特異的防御機構の両方の反応が含まれる。特異的防御機構反応は抗原(場合によっては自己抗原を含む)に対する特異的な免疫機構の反応応答である。非特異的防御機構反応は、免疫記憶が不可能な白血球及び/又はサイトカインが介在する炎症反応である。これらのような細胞には顆粒球、マクロファージ、好中球、及び好酸球が含まれる。びまん性炎症、病巣性炎症、クループ性炎症、間質性炎症、閉塞性炎症、実質性炎症、反応性炎症、特異性炎症、毒素性炎症、及び外傷性炎症が特定の炎症の種類の例として挙げられる。
【0051】
幾つかの実施形態では前記炎症反応は、少なくとも部分的には、本明細書に記載されるような1種類以上の疾患、例えば脊椎痛、腰痛(LBP)、椎間板(IVD)変性、椎間変形性関節症(OA)、軟骨細胞外マトリックス変性、及び/又は椎間板細胞等におけるプロテオグリカン合成の減少や抑制の原因になる。加えて、又はあるいは、前記炎症反応は標的組織及び/又は標的器官の炎症、例えば椎間板(IVD)、傍脊椎筋、及び関節突起などの腰椎又は椎間関節の炎症である。幾つかの実施形態では前記炎症反応は標的組織及び/又は標的器官のうちの1つ以上の内部のみの炎症であり、全身性炎症及び/又はびまん性炎症ではない。
【0052】
幾つかの実施形態では炎症反応は、1種類以上の炎症誘発性サイトカインの遺伝子発現を含む、又は1種類以上の炎症誘発性サイトカインの遺伝子発現から基本的に成る、又は1種類以上の炎症誘発性サイトカインの遺伝子発現からさらに成る。その他の実施形態では炎症反応の軽減及び/又は抑制は、1種類以上の炎症誘発性サイトカインの遺伝子発現の低下や抑制を含む、又は1種類以上の炎症誘発性サイトカインの遺伝子発現の低下や抑制から基本的に成る、又は1種類以上の炎症誘発性サイトカインの遺伝子発現の低下や抑制からさらに成る。本明細書において使用される場合、インターロイキン(IL)-1、IL-1β、IL-6、及び腫瘍壊死因子-α(TNFα)などの炎症誘発性サイトカインは免疫細胞(活性化マクロファージなど)、標的組織/標的器官、及び/又は軟骨細胞によって産生され、炎症の上方制御に関与する。
【0053】
本明細書において使用される場合、標的組織/標的器官は、本明細書において開示されるような疾患の症状を示す組織/器官及び/又は本明細書において開示されるような疾患を引き起こす組織/器官を指す。幾つかの実施形態では標的組織/標的器官における炎症反応は、少なくとも部分的には、本明細書において開示されるような疾患を引き起こす。加えて、又はあるいは、本明細書において開示されるような治療方法の標的が標的組織/標的器官である。幾つかの実施形態では標的組織/標的器官は、椎間板(IVD)、傍脊椎筋、及び関節突起などの腰椎又は椎間関節のうちの1つ以上から選択される。その他の実施形態では標的組織/標的器官は、線維輪を含み、又は線維輪から基本的に成り、又は線維輪からさらに成り、その線維輪は柔らかい内側の中核部、すなわち髄核を取り囲む椎間板の硬い円形の外縁部である。加えて、又はあるいは、標的組織/標的器官は、椎間板の髄核を含む、又は椎間板の髄核から基本的に成る、又は椎間板の髄核からさらに成る。さらにその他の実施形態では標的組織/標的器官は、滑膜組織や軟骨組織、例えば椎間関節の滑膜組織や軟骨組織を含む、又は滑膜組織や軟骨組織、例えば椎間関節の滑膜組織や軟骨組織から基本的に成る、又は滑膜組織や軟骨組織、例えば椎間関節の滑膜組織や軟骨組織からさらに成る。幾つかの実施形態では標的組織/標的器官は、軟骨細胞を含む、又は軟骨細胞から基本的に成る、又は軟骨細胞からさらに成る。
【0054】
「ポリペプチド」、「ペプチド」、及び「タンパク質」という用語はアミノ酸残基からなる重合体を指すために本明細書において互換的に使用される。この用語は天然アミノ酸重合体及び非天然アミノ酸重合体に適用されるのと同様に1つ以上のアミノ酸残基が対応する天然アミノ酸の人工化学模倣物であるアミノ酸重合体にも適用される。これらの残基はペプチド結合によって連結され得る。別の態様では前記サブユニットは他の結合、例えばエステル結合、エーテル結合等によって連結され得る。タンパク質又はペプチドは少なくとも2残基のアミノ酸を含まなくてはならず、タンパク質又はペプチドの配列を構成し得るアミノ酸の最大の数には制限が無い。
【0055】
「アミノ酸」という用語は天然アミノ酸及び合成アミノ酸、並びに天然アミノ酸と同様に機能するアミノ酸類似体及びアミノ酸模倣物を指す。天然アミノ酸は遺伝コードによってコードされているアミノ酸、並びに後で修飾される天然アミノ酸、例えばヒドロキシプロリン、α-カルボキシグルタミン酸、及びO-ホスホセリンである。アミノ酸類似体は、天然アミノ酸と同じ基本化学構造を有する化合物、すなわち水素に結合しているα炭素、カルボキシル基、アミノ基、及びR基を有する化合物、例えば、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルフオキシド、メチオニンメチルスルホニウムを指す。このような類似体は修飾型のR基(例えばノルロイシン)又は修飾型のペプチド骨格を有しているが、天然アミノ酸と同じ基本化学構造を保持している。アミノ酸模倣物は、アミノ酸の一般的な化学構造と異なる構造体を有しているが、天然アミノ酸と同様に機能する化合物を指す。本明細書において使用される場合、「アミノ酸」という用語はD-光学異性体とL-光学異性体との両方を指す。
【0056】
本明細書ではアミノ酸を一般的に知られている三文字略号、又はIUPAC-IUB生化学命名委員会が推奨する一文字略号のどちらかによって指し示す場合がある。同様にヌクレオチドを一般的に受け入れられている一文字略号によって指し示す場合がある。
【0057】
本明細書において使用される場合、「遺伝子」という用語は構造遺伝子のコード領域を含むデオキシリボヌクレオチド配列を意味する。「遺伝子」は、全長mRNAの長さに相当するように5’末端と3’末端の両方にコード領域に隣接して位置する非翻訳配列も含む場合がある。そのコード領域の5’側に位置し、且つ、そのmRNA上に存在する配列は5’非翻訳配列と呼ばれる。そのコード領域の3’側又は下流に位置し、且つ、そのmRNA上に存在する配列は3’非翻訳配列と呼ばれる。「遺伝子」という用語はcDNAとゲノム型遺伝子の両方を包含する。ゲノム型遺伝子又は遺伝子クローンは「イントロン」又は「介在領域」又は「介在配列」と呼ばれる非コード配列によって中断されるコード領域を含む。イントロンはヘテロ核RNA(hnRNA)に転写される遺伝子の区域であり、イントロンはエンハンサーなどの調節性要素を含む場合がある。イントロンはその核内転写物又は初期転写物から除去又は「スプライスアウト」されるため、イントロンはメッセンジャーRNA(mRNA)転写物には存在しない。このmRNAは翻訳時に新生ポリペプチド内のアミノ酸の配列又は順序を指定するように機能する。
【0058】
核酸の「配列」はその核酸中のヌクレオチドの順序と正体を指す。配列は5’から3’への方向に読まれることが典型的である。2つ以上の核酸配列又はポリペプチド配列という背景の中での「同一である」という用語又はパーセント「同一性」という用語は、例えば当業者に利用可能な配列比較アルゴリズムのうちの1つを使用して、又は目視検査によって測定される場合のように最大の一致度になるように比較及び整列したときに同一である2つ以上の配列若しくは小配列、又は指定された同一のアミノ酸残基若しくはヌクレオチドのパーセンテージを有する2つ以上の配列若しくは小配列を指す。パーセント配列同一性及び配列類似性の決定に適切な例となるアルゴリズムは、例えば、それぞれ参照により援用されるAltschulら著、(1990年)、“Basic local alignment search tool” J. Mol. Biol.誌、第215巻:403~410頁、Gishら著、(1993年)、“Identification of protein coding regions by database similarity search” Nature Genet.誌、第3巻:266-272頁、Maddenら著、(1996年)、“Applications of network BLAST server” Meth. Enzymol.誌、第266巻:131~141頁、Altschulら著、(1997年)、“Gapped BLAST and PSI-BLAST: a new generation of protein database search programs” Nucleic Acids Res.誌、第25巻:3389~3402頁、及びZhangら著、(1997年)、“PowerBLAST: A new network BLAST application for interactive or automated sequence analysis and annotation” Genome Res.誌、第7巻:649~656頁に記載されているBLASTプログラムである。他の多くの適切な整列アルゴリズムも当技術分野において知られており、場合によってはパーセント配列同一性を決定するために利用される。
【0059】
本明細書において使用される場合、「機能するように連結されている」及び「機能可能であるように連結されている」という用語は互換的に使用され、2つ以上のDNA区域間の機能的関係、特に発現される遺伝子配列とそれらの遺伝子配列の発現を制御する配列との間の機能的関係を指す。例えば、プロモーター/エンハンサー配列は、cis作用性転写制御エレメントのあらゆる組合せを含み、適切な宿主細胞又は他の発現系の中でコード配列の転写を刺激又は調節する場合、そのコード配列に機能可能であるように連結されている。転写されるその遺伝子配列に機能可能であるように連結されているプロモーター調節性配列はその転写配列に物理的に隣接している。
【0060】
「保存的改変型変異体」はアミノ酸配列と核酸配列の両方に適用される。特定の核酸配列に関して保存的改変型変異体は同一又は基本的に同一のアミノ酸配列をコードする核酸を指し、その核酸がアミノ酸配列をコードしていない場合では基本的に同一の配列を指す。遺伝コードの縮重のため、大多数の機能的に同一な核酸はあらゆる所与のタンパク質をコードする。例えば、GCA、GCC、GCG及びGCUというコドンは全てアミノ酸アラニンをコードする。したがって、コドンによってアラニンが指定される各位置においてそのコドンは対応する記載のコドンのうちのいずれかに変更可能であり、コードされるポリペプチドを変更させることはない。このような核酸変異は「サイレント変異」であり、保存的改変型変異の一種である。ポリペプチドをコードする本明細書中の各核酸配列はその核酸の全ての可能なサイレント変異も記述している。当業者は核酸中の各コドン(通常ではメチオニンの唯一のコドンであるAUGと通常ではトリプトファンの唯一のコドンであるTGGを除く)を改変して機能的に同一の分子を生じさせられることを理解する。したがって、ポリペプチドをコードする核酸の各サイレント変異は記載されている各配列に暗に示されている。
【0061】
アミノ酸配列に関し、当業者は、核酸配列、ペプチド配列、ポリペプチド配列、又はタンパク質配列に対するそのコード配列中の単一のアミノ酸又はわずかな割合のアミノ酸を変更、付加、又は欠失する個々の置換、欠失、又は付加は、その変更の結果としてアミノ酸が化学的に類似のアミノ酸によって置換される場合には「保存的改変型変異体」であることを理解する。機能的に類似するアミノ酸を提示する保存的置換表は当技術分野においてよく知られている。このような保存的改変型変異体は本開示の多型変異体、種間相同体、及びアレルに付け加えられるものであり、本発明の多型変異体、種間相同体、及びアレルを除外しない。
【0062】
本明細書において使用される場合、「ベクター」という用語は、異なる宿主間での移転のために設計された核酸構築物を指し、プラスミド、ウイルス、コスミド、ファージ、BAC、YAC等を含むがこれらに限定されない。幾つかの実施形態では前記ベクターは非ウイルスベクター、例えば市販のベクターから調製され得るプラスミドベクターである。他の実施形態では前記ベクターはウイルスベクター、例えば当技術分野において知られている技術に従ってバキュロウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、AAV等から作製されるウイルスベクターである。1つの実施形態では前記ウイルスベクターはレンチウイルスベクターである。
【0063】
「ウイルスベクター」は、宿主細胞にインビボで、エクスビボで、又はインビトロで送達されるポリヌクレオチドを含む組換え技術で作製されたウイルス又はウイルス粒子として定義される。ウイルスベクターの例としてはレトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、アルファウイルスベクター等が挙げられる。アルファウイルスベクター、例えばセムリキフォレストウイルス系ベクター及びシンドビスウイルス系ベクターも遺伝子療法及び免疫療法での使用のために開発された。Schlesinger及びDubensky著(1999年)Curr. Opin. Biotechnol.誌、第5巻:434~439頁、及びYingら著(1999年)Nat. Med.誌、第5巻(第7号):823~827頁を参照されたい。
【0064】
レンチウイルスベクターが遺伝子導入に介在する態様において、ベクター構築物は、レンチウイルスゲノム又はその部分と治療遺伝子を含むポリヌクレオチドを指す。本明細書において使用される場合、「レンチウイルス介在性遺伝子導入」又は「レンチウイルス性形質導入」は同じ意味を有し、細胞に侵入し、そのゲノムを宿主細胞のゲノムに組み込むウイルスの力によって遺伝子又は核酸配列を安定的に宿主細胞に移入する過程を指す。このウイルスは、その通常の感染機構を介して宿主細胞に侵入することができ、又はこのウイルスが異なる宿主細胞の表面受容体若しくはリガンドに結合してその細胞に侵入するように改変されてもよい。レトロウイルスはそれらの情報をRNAの形で有するが、一旦そのウイルスが細胞に感染すると、そのRNAが逆転写されて感染細胞のゲノムDNA中に組み込まれるDNAになる。その組み込まれたDNAはプロウイルスと呼ばれる。本明細書において使用される場合、レンチウイルスベクターは、ウイルス侵入機構又はウイルス様の侵入機構を介して細胞の中に外来性核酸を導入することができるウイルス粒子を指す。「レンチウイルスベクター」は、他のレトロウイルスベクターと比較すると非分裂細胞を形質導入する点で利点を有する当技術分野においてよく知られているレトロウイルスベクターの種類である。Trono D.著(2002年)Lentiviral vectors、ニューヨーク、Spring-Verlag Berlin Heidelberg社を参照されたい。
【0065】
本開示のレンチウイルスベクターはオンコレトロウイルス(MLVを含むレトロウイルスの亜群)及びレンチウイルス(HIVを含むレトロウイルスの亜群)に基づく、又は由来する。レンチウイルスベクター粒子産生系のパッケージング成分とベクター成分に全て分けられているASLV、SNV、及びRSVが例として挙げられる。本開示のレンチウイルスベクター粒子は、特定のレトロウイルスの遺伝的改変型又は(例えば、パッケージングセルシステムの特定の選択による)他の方式による改変型に基づいてもよい。
【0066】
本開示のベクター粒子が特定のレトロウイルスを「基礎」としているということは、前記ベクターがその特定のレトロウイルスに由来していることを意味する。前記ベクター粒子のゲノムは、そのレトロウイルスに由来する要素を骨格として含む。前記ベクター粒子は、前記RNAゲノムに適合する必須のベクター成分を含み、それらの成分には逆転写系及び組込み系が含まれる。これらには前記の特定のレトロウイルスに由来するgagタンパク質及びpolタンパク質が含まれることが通常である。したがって、前記ベクター粒子の構成成分の大部分は、所望の有用な特性を生じさせるよう遺伝的又は他の方式で改変されたものである可能性もあるが、そのレトロウイルスに由来することが通常である。しかしながら、ある特定の構成成分、特にenvタンパク質は異なるウイルスに期限を有するものであってよい。ベクターが感染する、又はベクターで形質導入される宿主の範囲及び宿主細胞の種類は、ベクター粒子の産生系に異なるenv遺伝子を使用してベクター粒子に異なる特異性を与えることで改変され得る。
【0067】
「ポリヌクレオチド」及び「オリゴヌクレオチド」という用語は互換的に使用され、デオキシリボヌクレオチド又はリボヌクレオチド又はそれらの類似体のあらゆる長さの重合体を指す。ポリヌクレオチドはいずれかの三次元構造を有することができ、既知又は未知であるいずれかの機能を実行する場合がある。以下のもの、すなわち遺伝子又は遺伝子断片(例えば、プローブ、プライマー、EST、又はSAGEタグ)、エクソン、イントロン、メッセンジャーRNA(mRNA)、トランスファーRNA、リボソーマルRNA、RNAi、リボザイム、cDNA、組換えポリヌクレオチド、分岐鎖ポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、あらゆる配列の単離DNA、あらゆる配列の単離RNA、核酸プローブ、及び核酸プライマーはポリヌクレオチドの非限定的な例である。ポリヌクレオチドは、メチル化ヌクレオチド及びヌクレオチド類似体などの修飾型ヌクレオチドを含むことができる。修飾が存在する場合、ポリヌクレオチドに組み立てる前、又は組み立てた後にヌクレオチド構造に修飾を加えることができる。ヌクレオチド配列を非ヌクレオチド成分で中断することができる。ポリヌクレオチドは重合後に、例えば、標識成分との結合によってさらに修飾され得る。この用語はまた、二本鎖分子と一本鎖分子の両方を指す。別段の指示又は要求が無い限り、ポリヌクレオチドである本技術のどの態様も二本鎖及びその二本鎖を構成することが知られている又は予測される2本の相補的な一本鎖の各々の両方を包含する。
【0068】
「検出可能標識」、「標識」、「検出可能マーカー」、又は「マーカー」は互換的に使用され、それらには放射性同位体、フルオロクローム、化学発光化合物、染料、及び酵素を含むタンパク質が含まれるがこれらに限定されない。検出可能標識は、本明細書に記載されるポリヌクレオチド、ポリペプチド、抗体、又は組成物に結合させることもできる。検出可能マーカーの遺伝子発現に関連する幾つかの実施形態ではこのような検出可能マーカーは遺伝子から転写されるポリヌクレオチド、及び/又は遺伝子から翻訳されるペプチド/タンパク質(酵素及び/又は蛍光タンパク質など)であり得る。
【0069】
本明細書において使用される場合、「検出可能マーカー」という用語は、検出可能シグナルを直接的または間接的に生成することができる少なくとも1種類のマーカーを指す。このマーカーの非包括的なリストは色度測定、蛍光、発光等により検出可能なシグナルを生成するホースラディッシュペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼなどの酵素、蛍光などのクロモフォア、発光染料、電子顕微鏡法又は導電率、アンペロメトリー、ボルタンメトリー、インピーダンスなどの電気的特性により検出される高電子密度基、検出可能な基、例えば物理的及び/又は化学的特性に検出可能な修飾を引き起こすために充分な大きさの分子を有する検出可能な基を含み、このような検出は回折、表面プラズモン共鳴、表面変化、接触角変化などの光学的方法、又は原子間力分光法、トンネル効果などの物理的方法、又は32P、35S、若しくは125Iなどの放射性分子によって達成され得る。この用語は、挿入配列の発現時にシグナルを生成するポリヌクレオチド、例えば緑色蛍光タンパク質(GFP)等に結合した配列も含む。この標識は、それ自体で検出可能であってよく(例えば、放射性同位体標識又は蛍光標識)、酵素標識の場合では基質化合物又は基質組成物の検出可能な化学変化を触媒し得る。これらの標識は小規模の検出に適切であり得、又はハイスループットスクリーニングにとってより適切であり得る。したがって、適切な標識には磁気同位体、非放射性同位体、放射性同位体、フルオロクローム、化学発光化合物、染料、及び酵素を含むタンパク質が挙げられるがこれらに限定されない。前記標識は単に検出されるだけでもよく、定量されてもよい。単に検出されるだけの反応は、存在が単に確認されるだけの反応を含むことが一般的であり、定量される反応は、強度、分極、及び/又は他の特性などの定量可能な(例えば、数値で報告可能な)値を有する反応を含むことが一般的である。発光分析又は蛍光分析では前記検出可能反応は、結合に実際に関与するアッセイ成分と結合しているルミノフォア又はフルオロフォアを使用して直接的に生成される場合もあれば、別の成分(例えば、レポーター成分又は指標成分)と結合しているルミノフォア又はフルオロフォアを使用して間接的に生成される場合もある。シグナルを生成する発光標識の例には生物発光及び化学発光が挙げられるがこれらに限定されない。検出可能な発光反応は、発光シグナルの変化又は発光シグナルの発生を含むことが一般的である。アッセイ成分を発光標識するための適切な方法とルミノフォアは当技術分野において知られており、例えばHaugland, Richard P.著(1996年)Handbook of Fluorescent Probes and Research Chemicals(第6版)に記載されている。発光プローブの例にはイクオリン及びルシフェラーゼが挙げられるがこれらに限定されない。
【0070】
適切な蛍光標識の例にはフルオレセイン、ローダミン、テトラメチルローダミン、エオシン、エリスロシン、クマリン、メチルクマリン、ピレン、マラカイトグリーン、スチルベン、ルシファーイエロー、カスケードブルー(商標)、及びテキサスレッドが挙げられるがこれらに限定されない。他の適切な光学染料はHaugland, Richard P.著(1996年)Handbook of Fluorescent Probes and Research Chemicals(第6版)に記載されている。
【0071】
「組成物」は、活性薬剤、例えば化合物又は組成物と天然又は非天然の不活性(例えば、検出可能な薬剤又は標識)又は活性担体、例えばアジュバント、希釈剤、結合剤、安定化剤、緩衝剤、塩、親油性溶媒、保存剤、アジュバント、又はそれらのようなものからなる組合せ物を意図することが典型的であり、薬学的に許容可能な担体を含む。担体としては医薬賦形剤及び添加材、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、脂質、及び炭水化物(例えば、単糖類、二糖類、三糖類、四糖類、及びオリゴ糖類、アルジトール、アルドン酸などの誘導体化糖類、エステル化糖類等、並びに多糖類又は糖重合体を含む糖類)も挙げられ、それらの担体は単独で存在しても組み合わされて存在してもよく、1~99.99重量%又は体積%の割合で単独で存在しても組み合わされて存在してもよい。例となるタンパク質賦形剤としてはヒト血清アルブミン(HSA)、組換えヒトアルブミン(rHA)などの血清アルブミン、ゼラチン、カゼイン等が挙げられる。炭水化物賦形剤も本技術の範囲内にあるとされ、それらの賦形剤の例にはフルクトース、マルトース、ガラクトース、グルコース、D-マンノース、ソルボース等の単糖類、ラクトース、ショ糖、トレハロース、セロビオース等の二糖類、ラフィノース、メレチトース、マルトデキストリン、デキストラン、デンプン等の多糖類、及びマンニトール、キシリトール、マルチトール、ラクチトール、キシリトールソルビトール(グルシトール)及びミオイノシトールなどのアルジトールが挙げられるがこれらに限定されない。
【0072】
本明細書において使用される場合、「薬学的に許容可能な担体」は標準的な医薬担体、例えばリン酸緩衝生理食塩水溶液、水、及び水中油型乳液又は油中水型乳液などの乳液、及び様々な種類の湿潤剤のうちのいずれかを包含する。前記組成物は安定化剤及び保存剤を含むこともできる。安定化剤及びアジュバントである担体の例についてはMartin (1975) Remington’s Pharm. Sci.、第15版(Mack Publ.社、イーストン)を参照されたい。幾つかの実施形態では薬学的に許容可能な担体(又は媒体)という用語は、生物学的に適合可能な担体又は媒体という用語と互換的に使用されてもよく、この用語は、治療のために投与を受ける細胞及び他の因子と適合するだけでなく、合理的なベネフィットリスク比に見合って過度の中毒、刺激、アレルギー反応、又は他の併発症を引き起こさずに妥当な医学的判断の範囲内でヒト及び動物の組織と接触させて使用するのに適切でもある試薬、細胞、化合物、材料、組成物、及び/又は剤形を指す。本開示において使用するのに適切な薬学的に許容可能な担体には液体、半固体材料(例えばゲル)、及び固体材料(例えば細胞スキャフォルド及びマトリックス、チューブ、シート、及び当技術分野において知られており、本明細書においてさらに詳細に説明されている他の材料)が挙げられる。これらの半固体及び固体の材料は、体内での分解に対して抵抗するように設計されていても(非生物分解性)、体内で分解するように設計されていても(生物分解性、生物侵食性)よい。生物分解性材料はさらに、生物再吸収性又は生物吸収性であってもよく、すなわち、溶解して体液に吸収されてもよく(水溶性移植物は一例である)、又は他の物質への変換によるか、若しくは天然の経路を介した分解と排除によって分解し、最終的には体から排除されてもよい。
【0073】
「医薬組成物」は、本明細書において開示されるようなデコイなどの活性化合物とインビトロ、インビボ、又はエクスビボでの診断用途又は治療用途に適切な組成物を作製する担体、例えば固体担体などの薬学的に許容可能な不活性又は活性担体との組合せ物を含むものとされる。
【0074】
化合物、例えば本明細書において開示されるようなデコイ、及び同化合物を含む組成物の「投与」又は「送達」は1用量で治療経過を通して連続的又は断続的に達成され得る。最も効果的な投与手段及び投与量の決定方法が当業者に知られており、治療に使用される組成物、治療の目的、治療を受ける標的細胞(軟骨細胞等)、及び治療を受けている対象によって変化する。治療担当医師又は動物の場合では治療担当獣医が選択する用量レベルと投与パターンで単回投与又は複数回投与が実施され得る。前記薬剤の適切な剤形及び投与方法が当技術分野において知られている。投与経路を決定することもでき、最も効果的な投与経路の決定方法が当業者に知られており、治療に使用される組成物、治療も目的、治療を受ける対象の健康状態又は疾患段階、及び標的細胞又は標的組織によって変化する。投与経路の非限定的な例には経口投与、腹腔内輸液、経鼻投与、吸入、注射、及び局所塗布が挙げられる。幾つかの実施形態では前記投与経路は椎間板内注射、又は関節内注射、又は椎間板注射、又は硬膜外注射のうちの1つ以上から選択される。
【0075】
本開示を実施するための形態
デコイ
転写因子に対する結合親和性を示す様々な二本鎖オリゴヌクレオチドデコイは、転写因子に対するデコイを投与して目的のその転写因子の活性を低下させることによりその転写因子が原因の疾患を治療又は予防することで知られている。近年では第1転写因子に対する第1結合部位と第2転写因子に対する第2結合部位を含む二本鎖オリゴヌクレオチドデコイが説明されている(例えば、各々の全体が参照により本明細書に援用される米国特許出願公開第2018/0298381号明細書、国際公開第2020/138047号パンフレット、及び国際公開第2017/043639号パンフレットを参照されたい)。簡単に説明すると、第1結合部位のセンス鎖を含む第1鎖と第2結合部位のセンス鎖を含む第2鎖がハイブリダイズして二重鎖が形成している。さらに、第1結合部位のセンス鎖と第2結合部位のセンス鎖が少なくとも部分的にハイブリダイズしている。
【0076】
核内因子κB(NF-κB)は、炎症応答/免疫応答において中心的な役割を果たす誘導性転写因子である。例えば、Vallabhapurapu Sら著、2009年、Annu Rev Immunol誌、第27巻:693~733頁を参照されたい。NF-κBの核内移行によってこの転写因子は、炎症性サイトカイン及びマトリックス分解酵素の遺伝子を含む多くの遺伝子のプロモーター領域中のそのコンセンサス結合部位に結合することができる(Marcu, KB ら著、Curr Drug Targets.誌、第11巻:599~613頁、2010年)。NF-κBによるサイトカインのインビトロ阻害及びインビボ阻害が幾つかの研究において有効であることが示されている(Akedaら、Orthop Res Soc.、2006年、413、Fujiwara Tら、ISSLSミーティング、2013年、Shoji Sら、ISSLSミーティング、2015年、及びKato Kら、Orthop Res Soc.、2016年)。NF-κB経路の状態を評価するため、ホタルルシフェラーゼ(Carlsen Hら著、2002年、J Immunol誌、第168巻:1441~6頁)又はeGFP(Magness STら著、2004年、J Immunol誌、第173巻:1561~70頁)などのレポーター遺伝子の発現を引き起こすNF-κB応答エレメントを用いる幾つかのレポーターシステムを使用してNF-κBの活性化が研究された。経路センサ細胞株の一時的形質導入又は構築のためにレンチウイルスレポーターシステムを使用することによりこれを達成することができる(Landman EBら著、2014年、Cartilage誌、第5巻:181~9頁)。本明細書において開示されるように、経路センサ細胞の無限増殖を実現する幹細胞にNF-κBレポーターシステムを適用した。これにより、前記レポーターシステムを含む幹細胞、幹細胞に由来する細胞(幹細胞に由来する軟骨細胞など)、それらの各々の細胞株、その細胞集団、又はその三次元(3D)細胞培養物が、NF-κB経路の状態(活性が有るか又は無いかなど)をインビトロで例えば一定の期間にわたって、例えば少なくとも約1日、少なくとも約2日、少なくとも約3日、少なくとも約4日、少なくとも約5日、少なくとも約6日、少なくとも約7日、少なくとも約10日、少なくとも約2週間、少なくとも約3週間、少なくとも約1か月、少なくとも約2か月、少なくとも約3か月、少なくとも約4か月、少なくとも約6か月、少なくとも約1年、又はそれ以上にわたって評価するために使用され得る。ある実施形態では前記NF-κBレポーターシステムは、検出可能マーカー(例えば、生物発光を生成する酸化酵素であるルシフェラーゼ)の遺伝子発現を引き起こすNF-κB応答エレメントを含む、又はNF-κB応答エレメントから基本的に成る、又はNF-κB応答エレメントからさらに成るベクター(例えば、レンチウイルス)を含む、又はそのようなベクターから基本的に成る、又はそのようなベクターからさらに成る。幾つかの実施形態では前記幹細胞は強力な軟骨細胞の資質を有し、すなわち、適切な培養条件下で軟骨細胞を導出し、且つ、産生することができる。その他の実施形態では前記細胞はヒト胚性幹細胞由来始原(hEP)細胞(4D20.8)である。4D20.8は、微量培養系では強力な軟骨細胞の資質を有すること(Sternberg Hら著、2014年、Regen Med誌、第9巻:53~66頁)、及び30継代を超える期間にわたって軟骨形成能と共に持続的増殖能を有することが示されている。Yamada Jら著、Orthop Res Soc. Trans.誌、494、2018年に加えて本明細書において提示される実施例において示されるように、ヒト胚性幹細胞由来始原細胞(hEP)-NF-κBレポーター細胞株が構築された。このhEP細胞株(4D20.8)は、特定の培地条件と微量培養系条件の下で軟骨形成能を有する(Burns TCら著、Expert Opin Biol Ther.誌、第11巻:447~61頁、2011年)。
【0077】
NF-κBデコイは、NF-κBサブユニットを捕捉するNF-κB結合部位(Morishita, Rら著、Nat Med.誌、1997年、第3巻:894~9頁)を含むオリゴデオキシヌクレオチドである。2種類の異なる転写因子(すなわち、NF-κB及びEts又はE2F)に対する結合配列を含むキメラデコイオリゴデオキシヌクレオチド(CDODN、CD-ODN、又はキメラデコイ)は、複数の経路における内在性転写制御を調節することにより前記デコイオリゴデオキシヌクレオチド(ODN)(Mariana KOら著、Adv Polym Sci.、2012年)の効力を改善するために開発された。この戦略に基づき、NF-κB結合部位及びシグナル伝達性転写因子6(STAT6)結合部位の両方に結合する新規キメラデコイODN(以後、キメラデコイと呼ぶ)が開発された(Mariana KOら著、Adv Polym Sci.、2012年)。
【0078】
米国特許出願公開第2018/0298381号明細書に記載されている例となる二本鎖オリゴヌクレオチドデコイはNF-κB/STAT6-15mer-Bデコイであり、これは以下の式I(配列番号1)で表される。
【表1】
【0079】
したがって、式[I]によって表される構造を有するNF-κB/STAT6-15mer-Bについて、第1転写因子はNF-κBであり、第2転写因子はSTAT6である。これらの第1鎖と第2鎖は相補的であり、したがってこの第2鎖はこの第1鎖の相補鎖である。この第1鎖では大文字で示される配列GGGATTTCCT(配列番号2)がNF-κBの結合部位であり、この第2鎖では大文字で示される配列TTCCCAGGAAA(配列番号3)(この配列は相補鎖であるため式[I]では3’末端を左にして書かれており、したがってこの配列と式[I]に示されている配列は反対の方向で書かれているが実際には同一である)がSTAT6の結合部位である。
【0080】
転写因子のコンセンサス配列は一般式で表されることが多い。NF-κBのコンセンサス配列はGGGRHTYYHC(配列番号4)であり(RはA又はGを表し、YはC又はTを表し、HはA、C、又はTを表す)、STAT6のコンセンサス配列はTTCNNNNGAA(配列番号5)である(NはA、G、T、又はCを表す)。したがって、この第1鎖中のNF-κBの結合部位GGGATTTCCT(配列番号2)は3’末端の1塩基だけがNF-κBのコンセンサス配列とミスマッチしていることを除いてNF-κBのコンセンサス配列と同じである。この第2鎖中のSTAT6の結合部位TTCCCAGGAAA(配列番号3)はSTAT6のコンセンサス配列の全体を含む。前記転写因子の結合部位及び前記転写因子のコンセンサス配列は二本鎖であるが、塩基配列が記載されるときはセンス鎖の塩基配列が記載される。したがって、上記の結合部位及びコンセンサス配列の塩基配列は全てセンス鎖の塩基配列である。したがって、前記第1鎖はNF-κBの結合部位のセンス鎖を含み、前記第2鎖はSTAT6の結合部位のセンス鎖を含む。
【0081】
追加の例となるオリゴヌクレオチドデコイNF-κB/STAT6-15mer-A)は式II(配列番号6)として提示される。
【表2】
【0082】
したがって、式[II]によって表される構造を有するNF-κB/STAT6-15mer-Bについて、第1転写因子はNF-κBであり、第2転写因子はSTAT6である。これらの第1鎖と第2鎖は相補的であり、したがってこの第2鎖はこの第1鎖の相補鎖である。この第1鎖では大文字で示される配列GGGACTTCCC(配列番号7)がNF-κBの結合部位であり、この第2鎖では大文字で示される配列TTCATGGGAAG(配列番号8)(この配列は相補鎖であるため式[II]では3’末端を左にして書かれており、したがってこの配列と式[II]に示されている配列は反対の方向で書かれているが実際には同一である)がSTAT6の結合部位である。
【0083】
本開示のキメラデコイは単純な二重鎖であってよく、又は各鎖の一端又は両端がスペーサーを介して結合しているヘアピン型若しくはダンベル(ステープル)型のデコイであってよい。ヘアピン型及びダンベル型のデコイはそれらのより高い安定性のために好ましい。転写因子への結合活性と安定性を包括的に評価するとヘアピン型デコイが最も好ましい。このようなヘアピン型二重鎖キメラデコイの作製方法及び他のヌクレアーゼ耐性修飾は、米国特許出願公開第2018/0298381号明細書に記載されているようによく知られている。
【0084】
方法及び前記方法において使用される組成物
NF-κBデコイODNの形質移入がウサギ穿刺椎間板変性症モデル及びウサギ線維輪(anular)(当技術分野では(annular)とも呼ぶ)穿刺モデル(Akeda Kら著、Orthop Res Soc. Trans.誌、45、2005年、及びAkedaら、Orthop Res Soc.、2006年、413)において椎間板変性症を防止し、又は椎間板変性症の回復すらし、インビトロ4D20.8微量培養物では細胞外マトリックス合成(例えば細胞外マトリックス遺伝子のmRNA発現及びプロテオグリカン合成)の刺激も行う(Kato Kら著、Orthop Res Soc. Trans.誌、1368、2016年)ことがこれまでの研究から示されている。CDODNは、キメラデコイ形質移入の直後に4D20.8細胞微量培養物においてリポ多糖(LPS)により活性化されたNF-κB経路を抑制することが示されている(Yamada Jら著、Orthop Res Soc. Trans.誌、494、2018年)。このCDODNは、様々な組織においてサイトカイン発現及びマトリックス分解を阻害することも示された。キメラデコイODN形質移入がIL-1刺激ウサギ滑膜組織及び骨関節炎患者に由来するヒト滑膜組織において炎症過程をインビトロで阻害することがこれまでの研究から示されている(Miyazaki Sら、Orthop Res Soc.、2017年、538、及びMiyazaki Sら、Orthop Res Soc.、2018年、387)。
【0085】
様々な実施形態において関節中での薬剤(例えばデコイ)の半減期は短く、例えば1時間~約10時間である。例えば、各々の全体が参照により本明細書に援用されるJones IA,ら著、Nat Rev Rheumatol.誌、2019年2月、第15巻(第2号):77~90頁、Schumacher HR Jr.著、Arthritis Rheum.誌、2003年6月15日、第49巻(第3号):413~20頁、Gerwin N,ら著、Adv Drug Deliv Rev.誌、2006年5月20日、第58巻(第2号):226~42頁、及びOwen SG,ら著、Br J Clin Pharmacol.誌、1994年10月、第38巻(第4号):349~55頁を参照されたい。本明細書において開示されるように、驚くことに前記デコイは、短期間でも存在すると炎症反応の減少又は抑制及び本明細書において開示されるような他の効果の達成に依然として有効である。理論に捉われることを望むものではないが、薬剤(例えばデコイ)は、例えば対象の他の部分と比較して滑液(本明細書において関節液とも呼ばれる)を含む、又は滑液から基本的に成る、あるいは滑液から成る腔所の中により速く拡散することができ、したがってそのような腔所では半減期が短くなる。当業者は、本明細書において開示されるような投与は滑液を含む、又は滑液から基本的に成る、あるいは滑液から成る腔所の中への投与であり得ることを理解し、本開示は、そのような腔所における薬剤(例えばデコイ)の半減期が短くてもそのような腔所への単回の投与が長期にわたる効果を有することを本明細書において教示する。
【0086】
しかしながら、単回のデコイODNの形質移入の効果がどのくらい長く継続するかは依然として不明である。すなわち、効果がピークに到達した時点以降の長期の治療利益、又は初期炎症及び急性炎症が減少若しくは抑制された後の長期の治療利益は予期されていない。理論に捉われることを望むものではないが、細胞へのCDODNの単回曝露の生物学的効果が炎症反応を抑制するほど充分に長い場合、関節内注射又は椎間板注射などの単回の注射が疾患状態の調節及び/又は疾患の治療のために効果的であり得ることが本明細書において仮説として提唱され、検討される。複数のサイトカインシグナル伝達経路の妨害により変性IVD細胞におけるPG分解に対して今日旅行な阻害効果が加えられること、及びCDODNによりIVDにいて炎症反応が抑制され、それによりNF-κBデコイよりも効果的に椎間板変性が抑制されることが本明細書においてさらに仮説として提唱され、示される。したがって、前記キメラデコイの効果がどのくらい長く継続するか本hEP-NF-κBレポーターシステムを使用して調べる実施例が本明細書に提示されており、椎間板切除術を受けている患者のヒト線維輪(AF)組織におけるPG分解に対するキメラデコイODNの効果に関連する結果、並びにウサギ線維輪穿刺椎間板変性症モデルにおける形態学的変化及び組織学的変化に対するCD-ODN及びNF-κBデコイの効果を比較する結果が示される。
【0087】
よって、本開示は、本明細書において開示されるような疾患、例えば脊椎痛、腰痛、IVD変性、椎間変形性関節症(OA)、若しくは前記疾患の各々を引き起こす炎症の治療のための方法、軟骨細胞外マトリックス、滑膜関節変性、若しくは滑膜関節痛の回復のための方法、及び/又はプロテオグリカンの合成促進のための方法を提供する。前記方法は、有効量の本明細書において開示されるようなデコイ、例えばNF-κBのDNA結合部位とシグナル伝達性転写因子6(STAT6)のDNA結合部位に結合可能な二本鎖オリゴヌクレオチドデコイを含む、又はそのようなデコイから基本的に成る、又はそのようなデコイからさらに成る単回用量を(例えば関節内注射又は椎間板注射により)必要とする対象へ投与することによって前記対象において前記疾患、例えば脊椎痛を治療することを含む。
【0088】
本明細書において開示されるいずれかの態様に関連する様々な実施形態又は他の実施形態において単回用量は、一回の注射で投与される一用量を指す。その他の実施形態では前記注射はある特定の期間にわたる輸液であってよく、例えば約1日未満、約12時間未満、約8時間未満、約7時間未満、約6時間未満、約5時間未満、約4時間未満、約3時間未満、約2時間未満、約1時間未満、又はそれより短いきかんにわたる輸液であってよい。様々な実施形態において単回用量は、各関節、例えば椎間関節への一回の注射で投与される1用量を指す。
【0089】
本明細書において開示されるいずれかの態様に関連する様々な実施形態又は他の実施形態において投与は、滑液を含む、又は滑液から基本的に成る、あるいは滑液から成る腔所の中への投与である。その他の実施形態ではそのような腔所におけるデコイの半減期が短くても、例えば約1時間~約10時間であってもそのような腔所への単回の投与によって長期にわたる効果が生じる。
【0090】
様々な実施形態において前記単回用量は約1日、約2日、約3日、約4日、約5日、約6日、約7日、約8日、約9日、約10日、約11日、約12日、約13日、約14日、約21日、約28日、約1週間、約2週間、約3週間、約4週間、約5週間、約6週間、約7週間、約8週間、約9週間、約10週間、約11週間、約12週間、約13週間、約14週間、約15週間、約1か月、約2か月、約3か月(又は約12週間)、約4か月、約5か月、約6か月、約7か月、約8か月、約9か月、約1年、又はそれより長期にわたって疾患を治療するために、例えば脊椎痛を制御するために有効である。様々な実施形態において前記単回用量は少なくとも約1日、少なくとも約2日、少なくとも約3日、少なくとも約4日、少なくとも約5日、少なくとも約6日、少なくとも約7日、少なくとも約8日、少なくとも約9日、少なくとも約10日、少なくとも約11日、少なくとも約12日、少なくとも約13日、少なくとも約14日、少なくとも約21日、少なくとも約28日、少なくとも約1週間、少なくとも約2週間、少なくとも約3週間、少なくとも約4週間、少なくとも約5週間、少なくとも約6週間、少なくとも約7週間、少なくとも約8週間、少なくとも約9週間、少なくとも約10週間、少なくとも約11週間、少なくとも約12週間、少なくとも約13週間、少なくとも約14週間、少なくとも約15週間、少なくとも約1か月、少なくとも約2か月、少なくとも約3か月(又は約12週間)、少なくとも約4か月、少なくとも約5か月、少なくとも約6か月、少なくとも約7か月、少なくとも約8か月、少なくとも約9か月、少なくとも約1年、又はそれより長期にわたって疾患を治療するために、例えば脊椎痛を制御するために有効である。したがって、前記二本鎖オリゴヌクレオチドデコイの効果は少なくとも1週間以上、例えば2週間以上、3週間以上、4週間以上、5週間以上、6週間以上、7週間以上、8週間以上、9週間以上、10週間以上、11週間以上、12週間以上、13週間以上、14週間以上、15週間以上、16週間以上、1か月以上、2か月以上、3か月以上、4か月以上、5か月以上、6か月以上、7か月以上、8か月以上、9か月以上、又は1年以上にわたって持続する。
【0091】
幾つかの実施形態では有効性という用語又はその文法的変異は対応する疾患の1種類以上の治療効果、例えば炎症誘発性サイトカインの遺伝子発現の低下、炎症反応の抑制、椎間板変性症の治療、軟骨細胞外マトリックスの回復、プロテオグリカンの合成の促進、椎間変形性関節症(OA)の治療、腰痛(LBP)の治療、及び/又は脊椎痛の治療を指す。ある実施形態では治療効果は、炎症誘発性サイトカイン、疼痛関連分子(血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、プロスタグランジンエンドペルオキシドシンターゼ2(PTGS2)、及び神経成長因子(NGF)等)、異化作用分子(トロンボスポンジン・タイプ1モチーフ4を有するADAMメタロペプチダーゼ(ADAMTS4)等)、マトリックスメタロペプチダーゼ3(MMP3)、プロスタグランジンE2(PGE2)、及び/又は一酸化窒素(NO)のうちの1つ以上の発現、産生及び/又はレベルの低下を含む、又はそのような低下から基本的に成る、又はそのような低下からさらに成る。
【0092】
様々な実施形態において前記デコイのサイズは約13mer~約15merである。様々な実施形態において前記デコイは、配列番号1若しくは6によって表される配列、又はその配列と同等の配列を有する。様々な実施形態において前記二本鎖オリゴヌクレオチドデコイ中の各ヌクレオチド間の結合のうちの少なくとも一部にホスホロチオエート結合が含まれる。様々な実施形態において前記二本鎖オリゴヌクレオチドデコイ中の各ヌクレオチド間の結合のうちの少なくとも一部にホスホロチオエート結合が含まれる。様々な実施形態において前記デコイの5’末端は、リンカーを介して、又は直接的にPLGAナノ粒子に結合している。様々な実施形態において前記デコイは、前記対象の椎間関節内に直接的に投与される。様々な実施形態において前記デコイは、椎間板内注射、又は関節内注射、又は椎間板注射、又は硬膜外注射によって投与される。様々な実施形態において前記単回用量は約2週間以上、例えば12週間にわたって有効である。
【0093】
本開示の前記キメラデコイはそのまま投与可能であり、又は適切な薬物送達系(DDS)を構成する物質と複合体化させた後に投与されてもよい。したがって、様々な実施形態において前記キメラデコイは、DDSを使用せずに投与されることで全体的な治療コストを減少させる。
【0094】
オリゴヌクレオチド向けのDDSの例にはカチオン性物質含有性リポソーム、細胞膜透過性ペプチド、これらを含有する重合体、及びアテロコラーゲンが挙げられる。これらの他に前記キメラデコイをPLGA(ポリ乳酸/グリコール酸共重合体)ナノ粒子に複合体化して投与することも可能である。PLGAナノ粒子はPLGAから構成される数十ナノメートル~数百ナノメートルの直径を有する粒子である。前記キメラデコイがPLGAナノ粒子に結合している場合には前記キメラデコイの第1鎖の5’末端がジスルフィドリンカー及びアミノリンカーを介してPLGAナノ粒子に結合していることが好ましい。これは、例えば、PLGA-NHSエステルを前記キメラデコイと反応させてPLGA結合キメラデコイを得て、さらにマランゴニ効果を利用してこれをナノサイズの粒子にすることにより実施され得る。
【0095】
本方法は、前記デコイの投与後に治療有効性を決定するために腰痛(LBP)のレベルを決定又は測定することを包含する。幾つかの実施形態では本方法は、前記対象のLBPを充分に治療するために必要なデコイの量を確定するために治療前の前記椎間板障害のレベルを決定又は測定することを含むことがある。様々な実施形態において線維軟骨分解因子又はそれらの前駆体、例えばプロ酵素、mRNA等のレベルを測定して線維軟骨分解の量が確認され得る。線維軟骨分解因子には存在すると椎間板内の線維軟骨組織の分解を引き起こすあらゆる化合物が包含されることが一般的である。この線維軟骨分解因子は線維軟骨細胞又は線維軟骨組織に対して直接的に作用して分解を引き起こすか、線維軟骨組織を直接的に分解する化合物に影響を与えるか、又は線維軟骨組織を分解する化合物の修飾因子に影響を与える場合がある。線維軟骨分解因子には軟骨マトリックスを直接的に分解する酵素、並びにIL-1などのサイトカインをはじめとする軟骨分解を刺激する他の化学物質が挙げられる。IL-1は少なくともマトリックスメタロプロテアーゼ活性を上方制御することにより線維軟骨分解を間接的に引き起こすようである。線維軟骨分解因子を評価する方法の非限定的な例には一酸化窒素(NO)産生の測定、プロテアーゼの検出、又はそれらの両方が挙げられる。
【0096】
ある特定の線維軟骨分解因子グループを占めるプロテアーゼは正常な椎間板と病気の椎間板で検出可能である。これらのプロテアーゼにはマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)及びADAMTSファミリーメンバーが含まれるがこれらに限定されない。プロテアーゼをはじめとする線維軟骨分解因子は当技術分野において知られているいずれかの方法によって検出可能である。これらの方法にはウエスタンブロット分析、免疫組織化学、RNA転写物の検出、及びザイモグラフィーが挙げられる。椎間板の線維軟骨又は線維軟骨細胞を線維軟骨分解因子の測定前に線維軟骨保護剤で処理してもよい。また、検出は線維軟骨分解因子の接触前、接触後、又は接触前と接触後の両方に実施してよい。様々な実施形態において前記線維軟骨分解因子は天然の因子である。
【0097】
前記キメラデコイの投与経路は特に限定されないが、好ましくは静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮膚投与、又は標的器官若しくは標的組織への直接的投与などの非経口投与であってよい。投与量は、例えば、標的とする疾患、患者の症状、及び投与経路に応じて適切に選択されるが、成人に対して1日当たり通常では0.1~10000nmol、好ましくは1~1000nmol、より好ましくは10~100nmolが投与され得る。
【0098】
前記キメラデコイなどの転写因子阻害化合物の医薬組成物は、様々な椎間板障害、LBP、及び/又は本明細書において開示されるような別の疾患を治療するため、回復に向かわせるため、又は改善するための1種類以上の転写因子阻害化合物を薬学的に許容可能な担体、賦形剤、結合剤、希釈剤、又はそのようなものと混合することにより調製され得る。治療有効用量は、椎間板障害及び/又は本明細書において開示されるような別の疾患の症状の改善を引き起こすために充分な1種類以上の転写因子阻害化合物の量を指す。また、有効用量は、椎間板障害、LBP、及び/又は本明細書において開示されるような別の疾患の予防を引き起こすために充分な1種類以上の転写因子阻害剤化合物の量を指してもよい。幾つかの実施形態ではこの有効用量は、椎間板障害、LBP、及び/又は本明細書において開示されるような別の疾患を部分的にしか予防しない。これらの事例ではこの椎間板障害及び/又は本明細書において開示されるような別の疾患は、依然として存在するかもしれないが、治療されなかった場合に予期される椎間板障害及び/又はこの他の疾患よりも軽い。
【0099】
前記医薬組成物は、何よりも従来の顆粒化処理、混合処理、溶解処理、カプセル封入処理、凍結乾燥処理、乳化処理、又は湿式粉砕処理などの当技術分野においてよく知られている方法によって製造可能である。ある特定の実施形態では前記転写因子阻害化合物、例えば前記キメラデコイは、全身投与よりもむしろ局所投与で、例えば持続放出製剤として注射で投与され得る。幾つかの実施形態では前記転写因子阻害化合物の有効量は、リン酸緩衝溶液(PBS)などのいずれかの申し分ない生理的緩衝液又は5%ラクトース溶液に入れられて病気の椎間板に投与され得る。本明細書において開示される剤形は例として提示され、本開示を限定するものと解釈されてはならない。
【0100】
前記転写因子阻害化合物、例えば前記キメラデコイの製剤は、以下に記載されるように短期作用性、急速放出性、長期作用性、及び持続放出性であるように設計され得る。したがって、前記医薬製剤は生物分解性のマトリックス又は担体内に含有されるなど、制御放出用又は徐放用にも製剤可能である。
【0101】
本組成物中の前記転写因子阻害剤/デコイはミセル又はリポソーム又は他の何らかの封入材の中に存在してもよく、又は長期貯蔵及び/若しくは送達作用を実現するために徐放性の形態で投与できる。したがって、前記医薬製剤はペレット状又は円柱状に圧縮可能であり、且つ、徐放性製剤として移植可能である。このような移植物はシリコーン重合体及び生物分解性重合体などの公知の不活性材料を用いることができる。
【0102】
転写因子阻害剤、例えば前記キメラデコイの治療有効用量は投与経路及び剤形に応じて変化し得る。正確な用量は治療を受ける患者の状態を考慮して医師により選択される。用量と投与は充分なレベルの有効部分が提供されるように、又は所望の効果が維持されるように調節される。具体的な投与量は、疾患の状態、対象の年齢、体重、一般健康状態、性別、及び食事、投与間隔、投与経路、排出率、及び併用する薬品の組合せに応じて調節可能である。持続作用性医薬組成物は、具体的な製剤の半減期及び排除速度に応じて3~4日毎、毎週、又は2週間に1回(月に2回)などのある特定の間隔で反復投与される場合がある。具体的な用量及び送達方法についての指針は当技術分野において知られている刊行物において提示されている。有効量を含む上記剤形のうちのいずれも充分に日常の実験の範囲内であり、したがって充分に本開示の範囲内である。
【0103】
その他の態様では本明細書において開示される方法において使用される組成物であって、本明細書において開示されるようなキメラデコイ、前記キメラデコイをコードするポリヌクレオチド、及び/又は前記ポリヌクレオチドを含むベクターのうちの1つ以上、並びに担体、例えば薬学的な許容可能担体を含む、又はそれらから基本的に成る、又はそれらからさらに成る前記組成物が提供される。さらにその他の態様では本明細書において開示される1種類以上のキメラデコイ及び本明細書において開示される方法に使用される指示書を含む、又はそれらから基本的に成る、又はそれらからさらに成るキットが提供される。その他の実施形態では前記キットは、本方法の実施を容易にするために1種類以上の試薬、緩衝液、媒体、タンパク質、分析物、被検体、標識、細胞、結果を分析するためのコンピュータープログラム、及び/又は培養皿若しくはマルチウェルプレートなどの使い捨て実験用品を含む場合もある。固形支持体にはビーズ、培養皿、マルチウェルプレート等が含まれ得る。
【実施例】
【0104】
以下の実施例は本開示を例示することを目的としており、本開示を限定することを目的とするものではない。
【0105】
実施例1:ハイスループット三次元システムで培養された軟骨形成細胞のキメラデコイ単回形質移入処理の長期効果の評価
方法
hEP-NF-κBレポーター細胞株:
ホタルルシフェラーゼ発現NF-κBレポーターレンチウイルスベクター(Cignal Lenti C Reporter (Luc)、Qiagen社)及びウミシイタケルシフェラーゼ構成的発現レンチウイルスベクター(Cignal Lenti Renilla Control (luc)、Qiagen社)の形質移入により4D20.8細胞株からレポーター細胞株を導出した。
【0106】
微量培養:
20%のウシ胎児血清(FBS)及び2mMのL-グルタミンを含むDMEM中に10%のO2で4D20.8細胞(P7)を培養した。細胞(P11)のトリプシン処理後に培地中の細胞懸濁液(20μl中に0.2×106細胞)を微量液滴として非組織培養用被覆済み96ウェルプレート(V底型)上に蒔き、5%O2で培養した。24時間後に10ng/mlの骨形成タンパク質4(BMP4)及び10ng/mlのトランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)を含む100μlの軟骨形成培地(BioTime、アラメダ、カリフォルニア州)を各ウェルに添加して軟骨形成分化を誘導した(Kato Kら著、Orthop Res Soc. Trans.誌、1368、2016年)。
【0107】
細胞ペレットのキメラデコイODN形質移入:
14日間にわたる微量培養の後にリン酸緩衝生理食塩水(PBS)又はCDODN(10μM)(アンジェス株式会社、大阪、日本)で細胞ペレットを24時間にわたって前処理した。
【0108】
LPS刺激:
PBS又はCDODNを用いる前処理の後に細胞を2小群(形質移入直後群と形質移入1週間後群)にさらに分割した。LPS(1μg/ml)を含む、又は含まない同じ培地の中で細胞を1日目に12時間にわたって培養した。LPS刺激の後に細胞溶解緩衝液により細胞ペレットを破壊し、その上清をルシフェラーゼアッセイに使用した。ODNが存在しない状態での形質移入後培養の1週間後に同じ実験を反復してCDODNの効果を評価した。
【0109】
ホタルルシフェラーゼアッセイ:
ホタル向けのD-ルシフェリン(ThermoFisher Scientific社)を使用してルシフェラーゼアッセイを実行した。Synergy HTX(BioTek社)を使用して発光を測定した。
【0110】
結果
微量培養:
前記細胞は接種から24時間後に凝集の兆候を示し始めた。これらの細胞は培養1週間後に全てのウェルの中で典型的な球状のペレット構造を示した。ペレットのサイズは2週間目の時点でわずかに減少した(
図1)。
【0111】
LPS刺激後のルシフェラーゼ活性(
図2):
0時:
LPSを使用した対照群においてルシフェラーゼ活性はLPSによって有意に刺激を受けた(対照培養物の274%、p<0.01)。CDODNでこれらの細胞を前処理するとこの活性は有意に低下した(対照群の47%まで抑制、P<0.01)。ルシフェラーゼの構成的活性はCDODNで変化しなかった。他の3群の間では有意差が存在しなかった。
【0112】
7日目:
0時における結果と同様に、LPSを使用した対照群のルシフェラーゼ活性は他の全ての群のルシフェラーゼ活性よりも有意に高かった。この対照培養物はLPSによる刺激を受けて163%までになった。この効果は24時間にわたるCDODNを使用する単回処理によって完全に消失した(対照群の82%まで抑制、P<0.01)。
【0113】
考察
長期効果を達成するには対象にODNが長期間にわたり存在することが必要であると考えられた。しかしながら、驚くべきことに1回の曝露が少なくとも1週間以上の期間にわたって有効であることが本実施例の結果から示されている。この結果は、単回のODN形質移入の長期効果を軟骨細胞において評価した初めてのものである。CDODNの効果が1週間以上の期間にわたって持続したことが結果から示されている。hEPベースのペレット培養システムをレポーター遺伝子のレンチウイルス形質移入と共に使用することによりこのアプローチが達成された。この細胞株は、容易に凍結保存することができ、アッセイに使用することができ、このペレット培養物は4週間以上の期間にわたって維持可能であるため、さらに長期の分析を実施することが可能である。
【0114】
デコイODNの単回注射の後にこの半減期第1相(分布)は11.9時間であることが示され、デコイODNの単回注射後のこの半減期第2相(消失)は618時間であることが示された(Kato Kら著、Orthop Res Soc. Trans.誌、1368、2016年)。CDODNの半減期は、その分子構造に基づくとデコイODNの半減期と同じであることが予想される。重要なことに、CDODNへの単回曝露は7日以上の期間にわたって有効であることが本研究からさらに明らかになった。これらの結果は、デコイODN又はCDODNの単回注射が臨床に適用される本開示の実施形態を裏付けるものである。
【0115】
hEP-NF-κBシステムを使用するとキメラデコイの効果は少なくとも1週間にわたって持続した。この結果は臨床業務におけるキメラデコイODNの有用性を示している。
【0116】
実施例2:キメラデコイの効果
本研究は、初めて、軟骨形成能を有する4D20.8ヒト胚性始原細胞を使用してhEP-NF-κBレポーター細胞株を構築した。FAMキメラODNをインキュベートして3時間の間にFAMキメラデコイ(C-デコイ)が大半の細胞の細胞質に見られることが蛍光顕微鏡像(
図3A)から明らかにされた(Yamada J著、Trans Orthop Res Soc誌、0494、2018年)。C-デコイの形質移入に成功し、LPS刺激によってNF-κB経路が明確に活性化され(
図3B~3C)、前記レポーターシステムの有効性が確認された。C-デコイはNF-κB活性化を有意に抑制した。このことはこのシステムがNF-κB経路調節因子の効果の検証に使用可能であることを示唆している(
図3B)。このhEP-NF-κBレポーター細胞株は、持続的に増殖させることができ、且つ、3Dペレット培養に使用することができ、これにより軟骨細胞の特性が維持される。これらの結果から、適切な生物学的条件下で様々な生物製剤/化合物を試験することができるハイスループット3D・NF-κBレポーターシステムが実現される。本研究ではC-デコイの抑制効果の持続期間を特定するためにこの構築されたレポーター細胞株が利用されている。この結果から細胞に取り込まれたC-デコイの生物活性が明らかにされ、したがって、C-デコイの椎間関節への単回注射の長期効果を判定することができる。
【0117】
単層群についてはhEP-NF-κBレポーター細胞(2.0×104細胞/ウェル)を単層培養物として96ウェルプレートに播種する。80%の集密度の時点で細胞を単層培養群として使用する。ペレット培養については培養したhEP-NF-κBレポーター細胞のトリプシン処理の後に細胞懸濁液(20μl中の0.5×106細胞)を非組織培養用被覆済み96ウェルプレート(V底型)の各ウェルの中に接種し、ペレットを形成するために遠心分離することなく5%CO2/5%O2で培養する。2時間後に10ng/mlの骨形成タンパク質4(BMP4)及び10ng/mlトランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)を含む100μlの軟骨形成培地を各ウェルに添加して軟骨形成分化を誘導し、且つ、14日間にわたって培養する。
【0118】
形質移入のためにPBS又はC-デコイ(10μM)が存在する状態で細胞又はペレットを24時間にわたって培養する。前処理の後に細胞を完全培地の中で6時間、1日、3日、7日、14日、21日、及び28日にわたって培養する。培養期間の最後の時点でリポ多糖(LPS)を含む(1μg/ml)、又は含まない無血清培地(ITSを含む)の中で細胞をインキュベートする。LPS刺激の後に細胞溶解緩衝液により細胞を破壊し、そして凍結融解サイクルにかける。ホタルルシフェラーゼ向けのD-ルシフェリン(ThermoFisher Scientific社)を使用してルシフェラーゼアッセイを実行する。選択的実験のためにはウミシイタケルシフェラーゼを共形質移入した細胞株を使用する。ウミシイタケルシフェラーゼ(ThermoFisher Scientific社)にはセレンテラジンを使用する。Synergy HTX(BioTek社)を使用して発光を測定する。ウミシイタケは正規化対照として使用される。
【0119】
ウサギ関節軟骨を使用して軟骨細胞の炎症反応におけるSTAT6とNF-κBの役割(
図4)を調査するため、IL-1刺激ウサギ関節軟骨におけるプロテオグリカン(PG)代謝回転並びにマトリックスメタロプロテイナーゼ3(MMP3)及び一酸化窒素(NO)の産生に対するキメラデコイの効果を調査するため、及びNF-κB結合部位(NF-κBデコイ)のみを含む従来のNF-κBデコイODNの効果に対してこれらを比較するために研究を実施した。
【0120】
10μMのキメラデコイを使用する処理により、IL-1βによって刺激された炎症反応が効果的に抑制された。驚くべきことに、IL-1βにより促進されたPG代謝回転は10μMのキメラデコイを用いる処理によりほとんど完全に対照レベルにまで回復し(
図4)、一方で1μMのキメラデコイを用いる処理ではほとんど効果が無かった。IL-1βによって刺激されたNO及びMMP3などの炎症マーカーもキメラデコイによって減少した(
図4B~4C)。
【0121】
IL-1及びTNF-αのシグナル伝達に関与するNF-κBデコイを用いてシグナル伝達経路を操作することで椎間関節の関節軟骨変性を遅らせる又は抑制することが分かった。
【0122】
完全培地中での2日間の前培養期間の後にNF-κBデコイ(10μM)又はスクランブルデコイ(10μM、陰性対照として、アンジェスMG社、日本)が存在しない又は存在する10%FBSを含むDMEM/F12の中で軟骨外植片を7日間にわたり、毎日培地を交換しながら培養した。この7日間の培養期間の最後の時点でPGの合成、含量、及び代謝回転を評価した。
【0123】
対照と比較して、7日間にわたるNF-κBデコイを使用する軟骨外植片の処理により乾燥重量当たりで表されるPG合成が有意に活性化された(+74%、p<0.01、n=8ドナー)。スクランブルデコイはPG合成に対して効果を示さなかった(
図5A)。7日間にわたるNF-κBデコイを使用する処理は、軟骨外植片からPGが消失する速度を有意に遅くした(NF-κBデコイを使用する処理の5日目で+11%、n=4ドナー、p<0.01)。スクランブルデコイはPG代謝回転の効果を有しなかった(
図5B)。MMP-3の放出はNF-κBデコイを使用する処理によって有意に抑制され(-65%、p<0.05)、培地中のNOレベルも同様の傾向を示した(-73%、p=0.067)。これらの結果から、NF-κBデコイはヒト椎間関節軟骨の外植片培養系においてPG合成を促進且つPGの分解を阻害し得ることが示される。スクランブルデコイはPG代謝回転に対して効果を有しなかった(
図5B)。本明細書において開示される前記キメラデコイは、比較物として働くNF-κBデコイを所望により有する同じ実験設定を用いて検査される。データを得てプロットする。
【0124】
ウサギ(Miyazaki Sら著、Trans Orthop Res Soc:0538、2017年)及びヒトの変形性関節症の滑膜(Miyazaki Sら著、Trans Orthop Res Soc:0387、2018年)における炎症誘発性サイトカイン及び疼痛マーカーの遺伝子発現及びタンパク質放出に対するキメラデコイの炎症抑制効果を評価するため、及び将来の臨床適用の可能性を解明するためにさらに研究を実施した。2種類の結合部位(NF-κB、STAT6)を有するキメラデコイを使用する処理により、炎症性サイトカインであるIL-1β、IL-6、及びTNFα並びに疼痛関連分子であるVEGF、PTGS2、及びNGF、同様に異化作用分子であるADAMTS4の遺伝子発現が顕著に阻害される(
図6A)ことが本研究により示された(Miyazaki Sら著、Trans Orthop Res Soc:0387、2018年)。滑膜におけるMMP3、NO、及びTNFαの産生は、キメラデコイを使用する処理によって有意に抑制された(
図6B)。キメラデコイは、ヒトにおいて血管形成、神経刺激伝達、及び異化作用因子を促進する炎症誘発性因子及び疼痛関連分子の阻害に有効であることがこのデータより示唆された。
【0125】
しかしながら、C-デコイの単回曝露の効果がどのくらい長く継続するかは不明である。しがたって、患者由来のヒト椎間関節組織及び変形性関節症の滑膜組織を使用して長期効果研究を実施する。
【0126】
滑膜組織から放出されるNO及びサイトカイン、及びPGE2に対するC-デコイの長期効果、並びにTNF-α、IL-1、IL-6、異化作用酵素、及びマトリックス成分のmRNA発現に対するC-デコイの長期効果を検討する。加えて、注射後の軟骨代謝を解明するためにヒト屍体組織における椎間軟骨代謝に対するC-デコイの効果を評価する。患者由来の(容易に入手可能な)ヒト滑膜組織若しくは滑膜細胞又はドナー由来のヒト椎間軟骨、関節組織を使用してこれらの疑問を明らかにするために2つのアプローチが取られる。
【0127】
人工膝関節置換を受けている患者から膝の変形性関節症(OA)の滑膜を得る。ウェル当たり約100~200mgの滑膜外植片をDMEM/F12/10%ウシ胎児血清(FBS)培地の中で前培養する。この前培養の後に培地の中にC-デコイが存在する/存在しない状態で滑膜を24時間にわたって培養し、その後に完全培地の中で様々な長さの時間にわたって培養する。1週間、2週間、及び4週間の後に滑膜をDMEM/F12/1%インスリン・トランスフェリン・セレナイト(ITS)培地の中で2時間にわたって血清飢餓の状態にし、その後にPBS(ベヒクル)又はIL-1が存在する同培地の中で24時間にわたって培養する。凍結保存した変形性関節症(OA)の滑膜細胞の単層培養物を用い、同じプロトコルで幾つかの実験を実施する。
【0128】
24時間の処理の後にステンレス鋼のビーズを使用して組織を破壊し、RNeasyリピッド・ティシュー・ミニキット(Qiagen社)を使用して全RNAを抽出する。単層についてはRNeasyミニキットを使用して組織シュレッダーにより全RNAを抽出する。QuantiTectホール・トランスクリプトーム・キット(Qiagen社)を使用して全トランスクリプトームcDNAライブラリーを合成する。あるいは、QuantiTect逆転写キット(Qiagen社)を使用してcDNAを合成する。定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)を標準物質と共に使用してIL-1β、IL-6、TNFα、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、プロスタグランジンエンドペルオキシドシンターゼ2(PTGS2)、神経成長因子(NGF)、マトリックスメタロプロテイナーゼ-3(MMP3)、並びにトロンボスポンジン様モチーフ4を有するディスインテグリン及びメタロプロテイナーゼ(ADAMTS4)の遺伝子発現を分析する。内在性対照として18Sを使用する。
【0129】
24時間後に条件培地中のMMP3、一酸化窒素(NO)、TNFα、及びプロスタグランジンE2(PGE2)のレベルをELISA(R&D社)により測定し、組織湿潤重量により正規化する。
【0130】
全てのデータが平均値及び標準誤差(SE)として表されている。正規化された遺伝子発現を対数変換の後に分析する。二元配置ANOVA(患者:変量要因、処理:固定要因)を用いてこのデータを分析する。0.05未満のP値を統計的に異なると判断する。
【0131】
合計で6~10シリーズのヒト屍体脊椎組織(軟骨及び滑膜)を使用してTNF-α、IL-1、IL-6、及び異化作用酵素のmRNA発現(他のパラメータは要求に応じてAnges MG社により評価され得る)に対するC-デコイの効果を検討する。プロテオグリカン合成及びプロテオグリカン代謝回転に対するC-デコイの効果も評価する。C-デコイの長期効果を評価する。
【0132】
地域の臓器バンクを介してスポンサーからヒト脊椎(6~10ドナー)が提供され、単純X線により椎間板及び椎間関節の変性のグレードを評価する。ランボット骨ノミを使用して椎弓根を切断することにより傍脊椎筋及び後方部分を取り外した後に椎間関節包を鋭く切開することにより椎間関節を露出させる。関節の表面を大まかに調べた後に外科用メスにより正常な軟骨又は軽く変性した軟骨を鋭く切開する。滑膜組織による汚染を回避することに特に注意する。一人のドナーの8椎間関節又は10椎間関節に由来する組織を集め、5mm×5mmの小片に切断し、そして培地(10%のウシ胎児血清(FBS)及び25μg/mlのアスコルビン酸を添加したDMEM/F12)の中で一晩にわたって培養する。滑液包も培養する。組織を24時間にわたってC-デコイ又はスクランブルデコイで処理し、そして1~28日間にわたってさらに培養する。培養の最後の時点でITSを含む無血清培地に培地を交換し、そして24~48時間にわたって培養する。幾つかの実施形態では予備実験の結果に基づいてIL-1(10ng/ml)で組織を刺激する。MMP3、NO、及び他のタンパク質の分析のために培地を収集する。
【0133】
組織を粉砕又は磨砕し、Qiazol/クロロホルムを使用してmRNAを抽出し、続いてMiniEluteカラムにより精製する。QuantiTect逆転写キット又はQuantiTectホール・トランスクリプトーム・キットのどちらかを使用してcDNAを作製する。サイトカイン(IL-1β、TNF-α、IL-6)、マトリックス分解酵素(トロンボスポンジンモチーフ-4(TS4)を有するディスインテグリン及びメタロプロテイナーゼ、並びにMMP3))、及び疼痛分子(神経成長因子(NGF))に対する遺伝子特異的プライマーを使用してqPCRを実施する。18s rRNAを内部対照として使用する。
【0134】
タンパク質レベルでの結果を確認するために市販のキットを使用して培地中のMMP-3、PGE2、及びTNF-αのレベルを測定する。市販のキットを使用してNOのレベルを測定する。
【0135】
35S-硫酸塩(20μCi/ml)を含む完全培地の中で軟骨を16時間にわたってインキュベートする。取り込まれなかった放射性同位体を取り除くために洗浄した後にIL-1β(5ng/ml)を含む/含まない同位体非含有培地の中で前記組織を6日間にわたって培養する。全ての事例の培地を交換し、そして35S-PGの測定のために収集する。培養の最後の時点で組織を回収し、急速濾過アッセイ(Masuda Kら著、Anal Biochem誌、第217巻:167~75頁、1994年)を用いてその組織中及び使用済み培地中の35S-PGの含量を測定する。各設定の条件(すなわち、デコイを含む又は含まない)について、組織の中に残っている放射性標識済みPGの量をチェイス時間に対してプロットして組織中の35S-PGの平均半減期を測定する。単一指数関数的減衰方程式であるy=ae-bx+ce-dx+eにデータを当てはめ、b及びdに基づいて半減期を計算する(Mok SSら著、Biol Chem誌、第269巻:33021~7頁、1994年)。
【0136】
放射性標識された35S-PGの含量を決定することにより以前に説明されたように軟骨組織の外植片においてPGの合成を評価する。
【0137】
実施例3:新規改変型キメラデコイオリゴデオキシヌクレオチド及びヒト椎間板におけるプロテオグリカン分解
方法
腰椎の外科手術を受けている患者から器官培養のために線維輪(AF)組織を得る。この組織を洗浄し、3mmの小片に切断し、そして20%のウシ胎児血清(FBS)及び2mMのL-グルタミンを含むDMEM中において5%のO2で外植片としてインキュベートする。試料数は、採取された椎間板(IVD)組織の大きさに応じて各群につき3から5の範囲である。
【0138】
PG代謝回転:
PG分解を評価するために前記AF組織を16時間にわたって20μCi/mlの35S-硫酸塩で前もって標識する。標識後に1.5mMのSO4を含むDMEM/F12で10分間ずつ5回にわたって試料を洗浄する。NF-κBデコイODN(10μM)(アンジェス株式会社、東京、日本)又はキメラデコイODN(10μM)(アンジェス株式会社)が存在する又は存在しない20%ウシ胎児血清(FBS)を含むDMEM/F-12培地の中で前記外植片を約24時間にわたって培養し、そして前記処理を含まずに約5日間にわたって培地中で培養する。比較設定として、NF-κBデコイODN(10μM)(アンジェス株式会社、東京、日本)又はキメラデコイODN(10μM)(アンジェス株式会社)が存在する又は存在しない20%ウシ胎児血清(FBS)を含むDMEM/F-12培地の中で前記外植片を最大で6日間にわたって培養する。前記培地を2日に1度同じ処理培地と交換し、その使用済みの培地を回収した。その培地を回収する。培養期間の最後の時点で前記組織を回収し、パパインで消化する。培地中及び消化物中の35S-PGの量を急速アルシアンブルー濾過アッセイ(Masuda Kら著、J Orthop Res.誌、2003年、第21巻:922~30頁)により測定する。残留している35S-PGを合成された35S-PG全体に対して評価する。治療群の平均値を対照群の平均値で除算することにより各患者についての対照に対する比率を計算する。PG及びPG合成の消失を評価する。
【0139】
実施例1及び実施例2において説明されているようにNF-κBの活性化とLPS刺激を実施し、評価する。
【0140】
統計分析:
ポストホック検定としてのフィッシャーのPSLD検定付き一元配置ANOVA及び二元配置ANOVA
結果は平均値±標準誤差として表されている。
【0141】
実施例4:キメラデコイオリゴデオキシヌクレオチド及びウサギ線維輪穿刺モデルにおける椎間板変性症
方法
ウサギ穿刺椎間板変性モデル(Masuda Kら著、Spine誌、2005年、第30巻:5~14頁):
外科手術及びCD-ODNの注射:
全身麻酔下で雌のニュージーランド白ウサギ(n=64、5か月齢)の腰椎椎間板(IVD)を露出させ、2つの連続しない椎間板(L2/3及びL4/5)において線維輪穿刺(18ゲージ、5mmの深さ)を実施し、それらの穿刺された椎間板の間の椎間板(L3/4)を対照として無傷で残す。最初の穿刺から4週間後にMS*GFN25注射筒(株式会社伊藤製作所)に取り付けられたファインチップ26ゲージの注射針(XX*MS16、株式会社伊藤製作所、静岡、日本)を使用してベヒクル(リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、椎間板当たり10μL)、NF-κBデコイODN(椎間板当たり10μLのPBS中に100μg)、又はCD-ODN(椎間板当たり10μLのPBS中に10μg又は100μg)のいずれかを髄核(NP)の中央に注入する。最初の線維輪穿刺から16週間後(前記注射から12週間後)の時点でウサギを安楽死させる。上に開示されるように処理された他の組のウサギを最初の線維輪穿刺から16週間を超える時点(前記注射から12週間を超える時点)、例えば最初の線維輪穿刺から約5か月後、約6か月後、約7か月後、約8か月後、約9か月後、又は約1年後、又はそれ以上の時点(すなわち、前記注射から約4か月後、約5か月後、約6か月後、約7か月後、約8か月後、又は約11か月後、又はそれ以上の時点)で安楽死させる。
【0142】
椎間板高インデックス(DHI)のエックス線撮影分析:
最大で16週間又はそれ以降、例えば最初の穿刺から上で提示されたような時点まで2週間の間隔で腰椎の横方向のエックス線写真を得る。IVD高は、以前に記載された(Mwale Fら著、Arthritis Res Ther.誌、2011年、第13巻:120頁)にようにDHIとして表される。注射された椎間板(L2/3とL4/5の両方)のDHIの平均変化率は、それぞれの術後椎間板について術前DHIに対する比率(%DHI=(術後DHI/術前DHI)×100)として計算され、穿刺されなかった椎間板(L3/4)のDHIに対してさらに正規化される(正規化%DHI=(穿刺%DHI/非穿刺%DHI)×100)(Mwale Fら著、Arthritis Res Ther.誌、2011年、第13巻:120頁)。全てのエックス線写真は、本実験について知らない観察者によって評価される。
【0143】
磁気共鳴画像法(MRI)分析:
16週間又はそれ以降、例えば上で提示されたような時点での殺処理の後に7-Tesla BioSpec 70/30(BRUKER社、ビレリカ、マサチューセッツ州、米国)を使用してMRI検査を単離された脊椎の部分に対して実施する。T2強調矢状断面像を用いて注射済み椎間板(L2/3及びL4/5)の平均変性等級をフィルマングレード(Pfirrmann CWら著、Spine誌、2001年、第26巻:1873~8頁)に従って算出し、実験群について知らない2人の観察者によって評価がなされる。
【0144】
組織学的分析:
16週間又はそれ以降、例えば上で提示されたような時点での殺処理に由来する各被験IVDの正中矢状断面(5μm)をヘマトキシリンエオシン又はサフラニンOで染色する。本実験について知らない観察者によってこれらの組織学的切片が分析され、確立したプロトコル(Chujo Tら著、Spine誌、2006年、第31巻:2909~17頁)を用いてそれらの切片から等級が決定される。加えて、細胞クローニング、又は内側若しくは外側の線維輪(AF)のどちらか若しくはNPにおける軟骨細胞様の細胞の存在を含む細胞の変化を矯正スケール(Chujo Tら著、Spine誌、2006年、第31巻:2909~17頁)として分析する。16週間の時点において得られたデータについての例となる結果を
図7にプロットしてある。
【0145】
均等論
別途定義されない限り、本明細書において使用される全ての技術用語と科学用語は、本技術が属する技術分野の当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。
【0146】
本明細書において例示的に記載される本技術は、本明細書において具体的に開示されていないどんな要素または複数の要素、限定または複数の限定が無くても適切に実施され得る。したがって、例えば、「含む(comprising)」、「含む(including)」、「含む(containing)」等の用語は開放的に制限なく読解されるものとする。さらに、本明細書において用いられた用語と表現は説明的な用語として使用されており、限定的な用語としては使用されておらず、示され、且つ、記載されている複数の特徴またはそれらの特徴の一部のあらゆる等価物を排除することはそのような用語および表現の使用に意図されておらず、請求される本発明の範囲内で様々な改変が可能であることが理解される。
【0147】
したがって、本明細書において提示された材料、方法、及び実施例は好ましい態様を表し、例示であり、本技術の範囲の限定を意図されたものではないことを理解されたい。
【0148】
本明細書において本技術を広範に、一般的に説明してきた。その一般的な開示の範囲内にあるより限られた種及び下位の分類も本技術の一部を形成する。これには、抽出された材料が本明細書において具体的に列挙されているかどうかにかかわらず、いずれかの内容を分類群から取り除く条件又は消極的限定を付けて本技術を一般的に説明することが含まれる。
【0149】
加えて、本技術の特徴または態様がマーカッシュグループの表現で説明されている場合、当業者は本技術がそのマーカッシュグループのあらゆる個々の要素、又はそのマーカッシュグループの複数の要素からなる下位群によっても説明されることを理解する。
【0150】
本明細書において言及される全ての刊行物、特許出願公開、特許、及び他の参照文献は、各々が個々に援用される場合と同じ程度に参照により全体が明確に援用される。矛盾がある場合は、定義を含め、本明細書が優先される。
【0151】
他の態様が以下の特許請求の範囲の中に示される。
【0152】
上記の実施例を参照して本開示を説明してきたが、改変と変更が本開示の主旨と範囲の内に包含されることを理解されたい。したがって、本開示は以下の特許請求の範囲によってのみ限定される。
【配列表】
【国際調査報告】