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特表2023-510962高い硬化深度を有する審美的歯科充填材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-15
(54)【発明の名称】高い硬化深度を有する審美的歯科充填材料
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/842 20200101AFI20230308BHJP
   A61K 6/836 20200101ALI20230308BHJP
   A61K 6/853 20200101ALI20230308BHJP
   A61K 6/878 20200101ALI20230308BHJP
   A61K 6/17 20200101ALI20230308BHJP
   A61K 6/15 20200101ALI20230308BHJP
【FI】
A61K6/842
A61K6/836
A61K6/853
A61K6/878
A61K6/17
A61K6/15
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022544091
(86)(22)【出願日】2021-01-25
(85)【翻訳文提出日】2022-07-20
(86)【国際出願番号】 EP2021051557
(87)【国際公開番号】W WO2021148667
(87)【国際公開日】2021-07-29
(31)【優先権主張番号】20153683.6
(32)【優先日】2020-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501151539
【氏名又は名称】イフォクレール ヴィヴァデント アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Ivoclar Vivadent AG
【住所又は居所原語表記】Bendererstr.2 FL-9494 Schaan Liechtenstein
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】ブッシュ, ズザンネ
(72)【発明者】
【氏名】ゲプハルト, ベンヤミン
【テーマコード(参考)】
4C089
【Fターム(参考)】
4C089AA06
4C089BA05
4C089BA11
4C089BA14
4C089BA20
4C089BD02
4C089BD05
(57)【要約】
少なくとも1種のラジカル重合性モノマー、少なくとも1種の放射線不透過充填剤、少なくとも1種のコンポジット充填剤、少なくとも1種の無機充填剤、および少なくとも1種のラジカル重合用開始剤を含有する、歯科材料。歯科材料は、歯科充填材料として特に適している。本発明の目的は、上記欠点を持たずかつ高い放射線不透過性を有する歯科材料であって、その結果、天然歯の物質と十分に区別することができる材料を、提供することである。さらに材料は、審美的に魅力のある修復物の単純化された生成を可能にしかつ歯科充填材料として特に適したものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科材料であって、前記歯科材料が
(a)少なくとも1種のラジカル重合性モノマー、
(b)少なくとも1種の放射線不透過充填剤、
(c)少なくとも1種の無機充填剤、
(d)少なくとも1種のコンポジット充填剤、および
(e)ラジカル重合のための少なくとも1種の開始剤、好ましくは光開始剤
を含むことを特徴とする、歯科材料。
【請求項2】
球状粒子を持つコンポジット充填剤を、成分(d)として含む、請求項1に記載の歯科材料。
【請求項3】
1,6-ビス-[2-メタクリロイルオキシエトキシカルボニルアミノ]-2,2,4-トリメチルヘキサン(RM3)、N-(2-メタクリロイルオキシエチル)カルバミン酸-(2-メタクリロイルオキシエチル)エステル(V837)、テトラメチルキシリレンジウレタンジメタクリレート(V380)、ビスフェノールAジメタクリレート、2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロピル)フェニル]プロパン(ビス-GMA)、エトキシ化またはプロポキシ化ビスフェノールAジメタクリレート、ビスフェノールAジメタクリレート2-[4-(2-メタクリロイルオキシエトキシエトキシ)フェニル]-2-[4-(2-メタクリロイルオキシエトキシ)フェニル]プロパン)(SR-348c、3エトキシ基)、2,2-ビス[4-(2-メタクリルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン、2-{[(2-(N-メチルアクリルアミド)-エトキシ)-カルボニル]-アミノ}-エチルメタクリレート(V850)、ビス-(3-メタクリロイルオキシメチル)トリシクロ-[5.2.1.02,6]デカン(TCP)、1,10-デカンジオールジメタクリレート(DMA)、2-([1,1’-ビフェニル]-2-オキシ)エチルメタクリレート、またはこれらの混合物を、ラジカル重合性モノマー(a)として含む、請求項1または2に記載の歯科材料。
【請求項4】
それぞれの場合に前記成分(a)の全質量に対して、
(a-1)少なくとも1種のウレタンジメタクリレートを20から80重量%、好ましくは30から70重量%、そして特に非常に好ましくは40から67重量%、
(a-2)少なくとも1種のビスフェノールA誘導体、好ましくはエトキシ化またはプロポキシ化ビスフェノールAジメタクリレート、特に非常に好ましくはSR-348cを、10から40重量%、好ましくは12から30重量%、そして特に非常に好ましくは14から25重量%、
(a-3)必要に応じて、少なくとも1種の三環式ジメタクリレート、好ましくはトリシクロデカンジメタノールジメタクリレート(TCP)を、最大40重量%、好ましくは5から30重量%、そして特に非常に好ましくは10から25重量%、および
(a-4)必要に応じて、最大20重量%、好ましくは4から20重量%、および特に好ましくは4から10重量%のその他のモノマー、即ち群(a-1)から(a-3)および(a-5)の1つに包含されないモノマー、好ましくはDMA、
(a-5)必要に応じて、少なくとも1種の連鎖調節剤を最大8重量%、好ましくは0.1から7重量%、そして特に好ましくは0.5から6重量%
の混合物を、ラジカル重合性モノマー(a)として含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の歯科材料。
【請求項5】
一般式1:
【化4】
(式中、
、R=それぞれの場合に互いに独立して、HC=C(-R)-C(=O)-O-またはHC=C(-R)-C(=O)-NR-;
=HまたはCH、好ましくはCH
=HまたはCH、好ましくはH;
=HまたはCH、好ましくはCH
n、m=それぞれの場合に互いに独立して、1から4の整数、好ましくは1から2、そして特に好ましくは2である)
の少なくとも1種の二官能性ウレタンを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の歯科材料。
【請求項6】
それぞれの場合に前記モノマー成分(a)の全質量に対して、
- 芳香族基を持つ少なくとも1種のウレタンジメタクリレートモノマー、好ましくはV380を、5から60重量%、好ましくは10から45重量%、そして特に好ましくは10から25重量%、
- 式1の少なくとも1種の二官能性ウレタンを、3から30重量%、特に好ましくは5から25重量%、そして特に非常に好ましくは6から20重量%、
- 少なくとも1種のさらなるウレタンジメタクリレート、好ましくはUDMAを、10から70重量%、好ましくは15から60重量%、そして特に好ましくは20から47重量%
含有するモノマー混合物を、成分(a-1)として含む、請求項5に記載の歯科材料。
【請求項7】
明細書に詳述されるように測定された体積平均粒径(D50値)が≦25nm、好ましくは10から24nmである三フッ化イッテルビウムを、放射線不透過充填剤(b)として含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の歯科材料。
【請求項8】
- 好ましくは体積平均粒径(D50値)が0.1から5μm、特に好ましくは0.3から2μm、そして特に非常に好ましくは0.4から0.9μmであるガラス粉末、および/または
- 好ましくは体積平均一次粒径(D50値)が2から100nm、特に好ましくは5から60nm、そして特に非常に好ましくは10から40nmである1つまたはそれより多くのケイ酸ジルコニウム、および/または
- 好ましくは体積平均一次粒径(D50値)が0.5から50nm、特に好ましくは1から20nm、そして特に非常に好ましくは2から10nmであるZrO粒子
を無機充填剤(c)として含み、
前記体積平均粒径は、明細書に詳述されるようにそれぞれ測定される、請求項1から7のいずれか一項に記載の歯科材料。
【請求項9】
コンポジット充填剤(d)を含有する、請求項1から8のいずれか一項に記載の歯科材料であって、前記コンポジット充填剤(d)は、それ自体が、明細書に詳述されるように測定された体積平均粒径(D50値)が≦25nmである三フッ化イッテルビウム粒子、および/またはケイ酸ジルコニウムなどの球状粒子を含有する、歯科材料。
【請求項10】
前記モノマー成分(a)の屈折率が、前記充填剤(c)の屈折率に一致するか、または最大で0.03、好ましくは0.002から0.02、そして特に好ましくは0.005から0.015大きく、そして/または前記モノマー成分(a)の屈折率が、前記充填剤(d)の屈折率に一致するか、または最大で0.025、好ましくは最大で0.02、および特に好ましくは最大で0.01大きい、請求項1から9のいずれか一項に記載の歯科材料。
【請求項11】
それぞれの場合に前記歯科材料の質量に対して、
- 少なくとも1種のラジカル重合性モノマー(a)を5から40重量%、好ましくは10から35重量%、特に好ましくは12から30重量%、
- 1から30重量%、好ましくは3から20重量%、特に好ましくは6から12重量%の三フッ化イッテルビウム粒子(b)、
- 20から90重量%、好ましくは30から70重量%、特に好ましくは40から65重量%の無機充填剤(c)、
- 5から60重量%、好ましくは10から50重量%、特に好ましくは15から40%のコンポジット充填剤(d)、および
- 0.005から3.0重量%、好ましくは0.01から2.0重量%、特に好ましくは0.1から1重量%のラジカル重合用開始剤(e)
を含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の歯科材料。
【請求項12】
それぞれの場合に前記歯科材料の全質量に対して
- 12から30重量%のラジカル重合性モノマー(a)、
- 明細書に詳述されるように測定された体積平均粒径(D50値)が≦25nmである、3から10重量%の三フッ化イッテルビウム粒子(b)、
- 45から65重量%の無機充填剤(c)、
- 15から40重量%のコンポジット充填剤(d)、および
- 0.01から0.5重量%の前記ラジカル重合用開始剤(e)
を含む、請求項11に記載の歯科材料。
【請求項13】
前記歯科材料の全質量に対して、最大4重量%、好ましくは最大3重量%の添加剤をさらに含む、請求項11または12に記載の歯科材料。
【請求項14】
140%から350%Al、特に好ましくは160%から250%Alの放射線不透過率を有する、請求項1から13のいずれか一項に記載の歯科材料。
【請求項15】
60から75、特に好ましくは62から70、そして特に非常に好ましくは64から68のコントラスト値(CR値)と、8から25%、特に好ましくは9から22%、そして特に非常に好ましくは10から18%の透過率とを有する、請求項1から14のいずれか一項に記載の歯科材料。
【請求項16】
歯科材料であって、前記歯科材料が、
(a)少なくとも1種のラジカル重合性モノマー、
(b)放射線不透過充填剤として、明細書に詳述されるよう測定された体積平均粒径(D50値)が≦25nmである三フッ化イッテルビウム、
(c)少なくとも1種の無機充填剤、
(d)少なくとも1種のコンポジット充填剤、および
(e)ラジカル重合用の少なくとも1種の開始剤、好ましくは光開始剤
を含み、
前記歯科材料が、それぞれの場合に成分(a)の全質量に対して
(a-1)少なくとも1種のウレタンジメタクリレートを20から80重量%、
(a-2)少なくとも1種のビスフェノールA誘導体を10から40重量%、
(a-3)必要に応じて、少なくとも1種の三環式ジメタクリレートを最大40重量%、
(a-4)必要に応じて、その他のモノマー、即ち群(a-1)から(a-3)および(a-5)の1つに包含されないモノマーを、最大20重量%、および
(a-5)必要に応じて、少なくとも1種の連鎖調節剤を、最大8重量%
の混合物を含むラジカル重合性モノマー(a)を含有し、
前記モノマー成分(a)の屈折率が、前記充填剤(c)の屈折率に等しいかまたは前記充填剤(c)の屈折率より最大で0.03大きく、前記モノマー成分(a)の屈折率が、前記充填剤(d)の屈折率に等しいかまたは前記充填剤(d)の屈折率より最大で0.025大きい
ことを特徴とする、歯科材料。
【請求項17】
歯科用セメント、コーティング、またはベニア材料、好ましくは充填コンポジット、特に好ましくはバルクフィルコンポジットとしての治療施用のための、請求項1から16のいずれか一項に記載の歯科材料。
【請求項18】
インレー、オンレー、クラウン、およびブリッジを生成するための、請求項1から16のいずれか一項に記載の歯科材料の、非治療的使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大きい硬化深度を特徴としかつ審美的魅力のある歯科修復物を簡単に生成可能にする、放射線不透過性歯科材料に関する。前記材料は、歯科充填材料として特に適している。
【背景技術】
【0002】
歯科市場は、充填処置における全ての考えられる適応症に関してほとんど無数の充填材料を提供する。メタクリレート系充填材料の分野における開発は、現在、専門的に修復された歯を実際にその生来の対応物ともはや区別できなくなるような高いレベルに到達している。このことは、修復物と天然歯の物質との間で区別するのを難しくしており、特に後の処理において不利である。したがって、高い審美性に加えて高い放射線不透過性を有し、したがって天然歯の物質と明らかに区別することが可能な、歯科材料が求められている。
【0003】
審美的に魅力のある修復物の生成は、歯科医の多大な努力を伴う。現在、2種から4種の異なる物質が、失われた硬質歯科組織の生来の外観を可能な限り自然に模倣するために、審美的充填剤に一般に使用される。多様な天然歯の色を再現するために、様々な不透明度にある30色およびそれよりも多い種々のシェードを持つカラーパレットが提供され、そこからそれぞれの処置のケースに最適な材料の組合せを選択しなければならない。材料コストがさらに低い、審美的に魅力のある修復物の生成を可能にする、利用可能な材料を有することが望ましいと考えられる。
【0004】
メタクリレートをベースにした歯科充填材料は、しばしば、プラスチック充填剤またはより正確にコンポジットと呼ばれる。コンポジット材料は、重合性有機母材および充填剤ならびに様々な添加剤、例えば安定化剤、開始剤、および顔料を含有する。充填剤の含量は、かなりの程度まで、所望の意図される使用に依存し、90重量%までとすることができる。
【0005】
歯科充填コンポジットおよび接着剤の重合性有機母材は、その大部分が、架橋剤として高粘性ビス-GMAを通常含有するジメタクリレートの混合物をベースとしている。ビス-GMAは、収縮が比較的ほとんどない良好な機械的性質をもたらす。しかしながら市販のビス-GMAは、しばしば、ビスフェノールAを不純物として含有する。頻繁に使用されるジメタクリレートのさらなる例は、ウレタンジメタクリレートおよび低粘度ジメタクリレートであって希釈モノマーとして通常使用されるもの、ビス(メタクリロイルオキシメチル)-トリシクロ[5.2.1.]デカン(TCDMA)、デカンジオール-1,10-ジメタクリレート(DMA)、およびトリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)である。
【0006】
原則として、上記材料は、ラジカル重合用に開始剤を含有し、今日では、光開始剤を含有する光硬化材料が、充填処置における有力な位置を占める。光硬化材料の欠点は、硬化に必要な光が材料内を限られた深さまでしか透過できないので、特に大きい充填剤を配置するのに時間がかかることである。したがって、いわゆる増分技法では、充填剤がコンポジット材料から層に構築され、層はそれぞれの場合に約2mmの厚さを有し、個々に硬化しなければならない。
【0007】
層当たり約4mmの硬化深度を可能にする、いわゆるバルク充填材料は、この欠点を克服する。しかしながら、これらの材料はしばしば、所望の審美的性質を持たず、したがって前歯の修復に適しておらずまたはその修復の限られた程度でしか適していない。硬化の深さは、材料の半透明性に相関し、高い半透明度および良好な硬化深度は、使用される有機母材および充填剤が対応する屈折率を有する場合に実現される。ここでの欠点は、それらの高い半透明性により、そのようなコンポジットが下にある象牙質を不十分にしか覆わないことであり、これは象牙質の色が目に見える歯科エナメルの色とは異なるので、審美的な理由で問題である。
【0008】
WO 2016/026915 A1は、高い硬化深度と良好な審美的性質とを組み合わせた、ラジカル重合性歯科材料を開示する。材料は、その調製に使用されるモノマー混合物が1.50から1.70の屈折率nを有し、硬化前のモノマー混合物の屈折率が、充填剤の屈折率に一致するか、または充填剤の屈折率より最大0.013大きく、しかし硬化後は充填剤の屈折率より少なくとも0.02大きいことが、特徴付けられる。重合前、歯科材料は高い半透明性を有し、したがって大きい硬化深度を有する。半透明性は重合中に低下する。材料は、例えば放射線不透過性のガラスまたはフッ化イッテルビウムなど、粒径が0.050から2.0μmである放射線不透過充填剤を含有することができる。材料は、バルク充填材料として適しているが、その易流動性によりパック可能ではない。
【0009】
米国特許第4,629,746号は、放射線不透過充填剤として、一次粒径が5から700nm、好ましくは50から300nmの三フッ化イッテルビウムなどの希土類金属フッ化物を含有する、マイクロ充填歯科材料を開示する。放射線不透過充填剤に加え、材料は、沈殿したまたは発熱性のシリカなどの非放射線不透過充填剤を含有することができる。材料は、高い放射線不透過率および良好な透過率を有するものである。
【0010】
EP 1 234 567 A2は、定められた粒径分布を持つプレポリマーを開示し、このプレポリマーは、サイズが10μm未満の微細に粉砕された粒子をごく少ない割合で含有するものである。これらの充填剤は、低い重合収縮および良好な研磨可能性、表面の滑らかさ、および摩耗耐性を持つ、重合性組成物をもたらすものである。放射線透過性を増大させるため、プレポリマーは、粒径が300nmの三フッ化イッテルビウムなどの放射線不透過充填剤を含有することができる。
【0011】
WO 2017/149242 A1は、粒径が100nm未満のフッ化イッテルビウムのコロイド状懸濁液の調製と、その歯科材料の調製のための使用とを開示する。
【0012】
米国特許第9,833,388(B2)号は、粒径が25から120nmの間のフッ化イッテルビウムを含有する歯科材料を開示する。これらは、デジタルボリュームトモグラフィの場合に少ない数の人工産物を示すと言われる。
【0013】
コンポジットの絶対的収縮に加え、益々大きくなる重要性はその収縮力にある。歯科コンポジットのラジカル重合では、使用されるモノマーの重合収縮(ΔV)が、体積の縮小をもたらし、それが充填コンポジットの場合に周辺隙間の非常に不利な形成に至る可能性がある。一官能性メタクリレートの重合では、形成される高分子の流れによって体積の低減を補償することができるので、重合中の収縮は重合収縮応力(PSS)の構築に至らない。しかしながら、多官能性メタクリレートの架橋重合の場合、既に数秒以内に三次元ポリマー網状構造が形成され、粘性流を防止し、その結果、かなりのPSSが構築される。
EP 2 965 741 A1は、歯科材料中のPSSを低減させるための連鎖調節剤として、2-(トルエン-4-スルホニルメチル)アクリル酸ラウリルエステルなどのラジカル重合性硫黄含有モノマーを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】国際公開第2016/026915号
【特許文献2】米国特許第4,629,746号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第1234567号明細書
【特許文献4】国際公開第2017/149242号
【特許文献5】米国特許第9,833,388号明細書
【特許文献6】欧州特許公開第2965741号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の目的は、上記欠点を持たずかつ高い放射線不透過性を有する歯科材料であって、その結果、天然歯の物質と十分に区別することができる材料を、提供することである。さらに材料は、審美的に魅力のある修復物の単純化された生成を可能にしかつ歯科充填材料として特に適したものである。
【0016】
この目的は、
(a) 少なくとも1種のラジカル重合性モノマー、
(b) 少なくとも1種の放射線不透過充填剤、
(c) 少なくとも1種の無機充填剤、
(d) 少なくとも1種のコンポジット充填剤、および
(e) ラジカル重合のための少なくとも1種の開始剤
を含有する歯科材料により本発明により達成される。
【0017】
コンポジット充填剤(d)の粒子は、好ましくは球形を有する。
【0018】
上記要件を満たす歯科材料は、それ自体が公知の物質の目標とする選択を経て調製できることが見出された。
【0019】
ラジカル重合性の多官能性モノマー、特に(メタ)アクリルアミドおよび(メタ)アクリレートはモノマー(a)として好ましい。多官能性、特に二官能性のメタクリレート、ならびに多官能性、特に二官能性の混成モノマーが、特に好ましい。混成モノマーは、(メタ)アクリルアミドおよび(メタ)アクリレート基の両方を含有するモノマーである。多官能性モノマーとは、2個またはそれよりも多く、好ましくは2から4個、特に2個のラジカル重合性基を持つ化合物を意味する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
好ましい実施形態によれば、本発明による材料は、単官能性モノマーを含有しない。一官能性モノマーとは、1個のラジカル重合性基を持つ化合物を意味する。独占的に多官能性の、特に二官能性のメタクリレートを成分(a)として含有する材料が、好ましい。
【0021】
単一モノマーまたは好ましくはモノマー混合物は、成分(a)として使用することができる。本発明によれば、重合中に屈折率に大きな変化を示すモノマーおよびモノマー混合物が、好ましい。モノマー成分(a)は、好ましくは1.495から1.520、特に好ましくは1.505から1.515の屈折率を有する。モノマー混合物の屈折率は、好ましくは、硬化前に充填剤(c)の屈折率に一致するようにまたは最大でそれよりも0.03高くなるように設定される。モノマーまたはモノマー混合物の屈折率は、充填剤(c)の屈折率よりも好ましくは0.002から0.02大きく、特に好ましくは0.005から0.015大きい。成分(a)の屈折率は、種々の屈折率を持つモノマーを混合することによって設定することができる。
【0022】
重合前、本発明による歯科材料は、モノマーおよび充填剤の屈折率が互いにごく僅かしか異ならないので、高い半透明度を有する。したがって重合に使用される光は、材料中を深く浸透し、大きな硬化深度を保証する。重合中、モノマーの屈折率は増大し、一方、1種または複数種の充填剤の屈折率は変化しないままである。それによってモノマーと充填剤との間の屈折率の差は増大し、それに応じて半透明度が低下する。このことは、より深く存在する異なる着色の歯の層を、より良好に覆うことができるので、審美的理由上、有利である。
【0023】
成分(a)として使用されるモノマーは、好ましくは、非重合および重合状態の間の屈折率の差が少なくとも0.015、好ましくは少なくとも0.02になるように選択される。特に好ましい実施形態によれば、屈折率の差は0.015から0.04、特に好ましくは0.021から0.035、特に非常に好ましくは0.025から0.030である。
【0024】
本発明により特に好ましいモノマーは:1,6-ビス-[2-メタクリロイルオキシエトキシカルボニルアミノ]-2,2,4-トリメチルヘキサン(RM3;2-ヒドロキシエチルメタクリレートと2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートとの付加生成物)、N-(2-メタクリロイルオキシエチル)カルバミン酸-(2-メタクリロイルオキシエチル)エステル(V837;CAS No.:139096-43-8)、テトラメチルキシリレンジウレタンジメタクリレート(V380)、ビスフェノールAジメタクリレート、2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロピル)フェニル]プロパン(ビス-GMA)、エトキシ化またはプロポキシ化ビスフェノールAジメタクリレート、例えばビスフェノールAジメタクリレート2-[4-(2-メタクリロイルオキシエトキシエトキシ)フェニル]-2-[4-(2-メタクリロイルオキシエトキシ)フェニル]-プロパン)(SR-348c;3個のエトキシ基を含有する)、2,2-ビス[4-(2-メタクリルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン、2-{[(2-(N-メチルアクリルアミド)-エトキシ)-カルボニル]-アミノ}-エチルメタクリレート(V850、CAS番号:2004672-68-6)、ビス-(3-メタクリロイルオキシメチル)トリシクロ-[5.2.1.02,6]デカン(TCP)、1,10-デカンジオールジメタクリレート(DMA)、2-([1,1’-ビフェニル]-2-オキシ)エチルメタクリレート、およびこれらの混合物である。
【0025】
本発明による歯科材料は、好ましくは、モノマー成分(a)として種々のモノマーの混合物を含有する。特に好ましい実施形態によれば、成分(a)は、ウレタンジ(メタ)アクリレート、特にウレタンジメタクリレートの群からの1種または複数種のモノマーを含有する。
【0026】
芳香族基を持つモノマーは、ウレタンジメタクリレートとして好ましく、特にEP 0 934 926 A1に記載される1,3-ビス(1-イソシアナト)-1-メチルエチル)ベンゼンのウレタンジ(メタ)アクリレート誘導体であり、テトラメチルキシリレンジウレタンジ(メタ)アクリレート(V380)が特に好ましい:
【化1】
【0027】
図示される式において、Rラジカルは、互いに独立しHまたはCHであり、ラジカルは、同じ意味または異なる意味を有することができる。混合物は、好ましくは両方のラジカルがHである分子、両方のラジカルがCHである分子、および1個のラジカルがHであり他のラジカルがCHである分子を含有するものが使用される。そのような混合物は、例えば1,3-ビス(1-イソシアナト-1-メチルエチル)ベンゼンとヒドロキシプロピルメタクリレートおよび2-ヒドロキシエチルメタクリレートとを反応させることによって得ることができる。テトラメチルキシリレンジウレタンジメタクリレート(R=CH)が、特に非常に好ましい。
【0028】
芳香族基を持つウレタンジメタクリレートモノマーは、モノマー成分(a)の質量に対して好ましくは5から60重量%、特に好ましくは10から45重量%、特に非常に好ましくは10から25重量%の総量で使用される。
【0029】
本発明による組成物は、1種または複数種の混成モノマーをさらに含有することができる。このタイプの好ましいモノマーは、EP 3 064 192 A1に開示される混成モノマーであり、メタクリルアミドおよびメタクリレート基を持つモノマーが特に好ましい。ウレタン基をさらに有する混成モノマーが、特に非常に好ましい。
【0030】
本発明によれば、少なくともウレタンジ(メタ)アクリレートモノマーおよび/または混成モノマーであって一般式1:
【化2】
(式中、
、R=互いに独立して、それぞれの場合にHC=C(-R)-C(=O)-O-またはHC=C(-R)-C(=O)-NR-であり;
=HまたはCH、好ましくはCH
=HまたはCH、好ましくはH;
=HまたはCH、好ましくはCH
n、m=互いに独立して、それぞれに場合に1から4の、好ましくは1から2の、特に好ましくは2の整数である)
を有するものを含有する歯科材料が特に好ましい。
【0031】
式1のモノマーは、以下において、二官能性ウレタンとも呼ばれる。
【0032】
1.450から1.510の、特に好ましくは1.460から1.505の、特に非常に好ましくは1.460から1.500の屈折率を有する式1の二官能性ウレタンが好ましい。
【0033】
式1の特に好ましい二官能性ウレタンは、2-{[(2-(N-メチルアクリルアミド)-エトキシ)-カルボニル]-アミノ}-エチルメタクリレート(V850、CAS番号:2004672-68-6)、特にN-(2-メタクリロイルオキシエチル)カルバミン酸-(2-メタクリロイルオキシエチル)エステル(V837、CAS No.:139096-43-8):
【化3】
である。
【0034】
式1のウレタンは、重合中に屈折率の著しい増大を示すことを特徴とする。例えば、V850の屈折率は、重合前の1.500から重合後の1.537に変化し、V837の場合は、重合前の1.476から重合後の1.518に変化する。したがって式1のウレタンは、モノマー混合物の屈折率の変化を増大させるのに最も良く適している。V850は、非常に低い毒性であることをさらに特徴とする(細胞毒性:XTT50=1085.6μg/mL(L929マウス細胞系);Ames試験:陰性(Salmonella typhimurium株TA 1535、TA 1537、TA 98、TA 100、およびEscherichia coli WP2 uvrA))。
【0035】
式1による二官能性ウレタンは、好ましくは、モノマー成分(a)の質量に対して3から30重量%、特に好ましくは5から25重量%、特に非常に好ましくは6から20重量%の総量で使用される。
【0036】
既に挙げられた式1のウレタンジ(メタ)アクリレートおよび二官能性ウレタンに加え、本発明による歯科材料は、有利にはさらなるウレタンジ(メタ)アクリレート、好ましくはウレタンジメタクリレートを含有することができる。これらは、好ましくは、モノマー成分(a)の質量に対して10から70重量%の量で、特に好ましくは15から60重量%の量で、特に非常に好ましくは20から47重量%の量で使用される。好ましいウレタンジメタクリレートは、7,7(9)9-トリメチル-4,3-ジオキソ-3,14-ジオキサ-5,12-ジアゾヘキサデカン-1,16-ジイルジメタクリレート(RM3)である。
【0037】
式1のウレタンジ(メタ)アクリレートおよび二官能性ウレタンの総量は、モノマー成分(a)の質量に対して好ましくは20から80重量%の範囲、好ましくは30から70重量%の範囲、特に好ましくは40から67重量%の範囲にある。
【0038】
挙げられたモノマーに加え、モノマー成分(a)は、好ましくは1つまたはそれより多くのラジカル重合性ビスフェノールA誘導体、例えば2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロピル)フェニル]プロパン(ビス-GMA)、好ましくはビスフェノールAジメタクリレート、特に好ましくはエトキシ化またはプロポキシ化ビスフェノールAジメタクリレート、そして特に非常に好ましくは2-[4-(2-メタクリロイルオキシエトキシエトキシ)フェニル]-2-[4-(2-メタクリロイルオキシエトキシ)-フェニル]-プロパン(SR-348c、3個のエトキシ基を含有する)も含有する。ビス-GMAは、メタクリル酸およびビスフェノールAジグリシジルエーテルの付加生成物である。商業的に得ることが可能なビス-GMAはビスフェノールAで頻繁に汚染されるので、本発明によれば、ビス-GMAを含有しない材料が好ましい。
【0039】
ビスフェノールA誘導体は、モノマー成分(a)の質量に対して好ましくは10から40重量%の、特に好ましくは12から30重量%の、特に非常に好ましくは14から25重量%の総量で使用される。
【0040】
成分(a)は、有利には、三環式ジメタクリレートの群からのメタクリレート、特にトリシクロデカンジメタノールジメタクリレート、特に非常に好ましくはトリシクロデカンジメタノールジメタクリレートTCP(CAS番号:42594-17-2)をさらに含有することができる。TCPの屈折率は、重合中に1.501から1.531まで変化する。三環式ジメタクリレートは、モノマー成分(a)の質量に対して好ましくは1から40重量%、特に好ましくは5から30重量%、特に非常に好ましくは10から25重量%の総量で使用される。
【0041】
挙げられたモノマーに加え、モノマー成分(a)は、有利には1種または複数種のいわゆる連鎖調節剤も含有することができる。これらは、重合中に連鎖成長を制御するモノマーである。これにより収縮力の低減が実現される。本発明により特に好ましい連鎖調節剤は、2-[(1-エトキシ-2-メチル-1-オキソプロパン-2-イル)オキシ]アクリル酸エチルエステルである。さらに、EP 2 965 741 A1に開示されるラジカル重合性の硫黄含有モノマーが好ましく、2-(トルエン-4-スルホニルメチル)-アクリル酸エチルエステルが特に好ましい。連鎖調節剤は、モノマー成分(a)の質量に対して好ましくは0から8重量%、特に好ましくは0.1から7重量%、特に非常に好ましくは0.5から6重量%の量で使用される。低収縮力は、充填剤の周縁封止に対して有利な効果を発揮する。
【0042】
最後に、モノマー成分(a)は、例えば屈折率を設定するために、上記群のいずれにも包含されない1種または複数種のさらなるラジカル重合性モノマーを含有することができる。好ましいさらなるモノマーは、(メタ)アクリルアミド、例えばN-二置換(メタ)アクリルアミド、例えばN,N-ジメチルアクリルアミド、ならびにビス(メタ)アクリルアミド、例えばN,N’-ジエチル-1,3-ビス(アクリルアミド)-プロパン、1,3-ビス(メタクリルアミド)-プロパン、1,4-ビス(アクリルアミド)-ブタン、および1,4-ビス(アクリロイル)ピペラジンである。一官能性メタクリレート、例えば2([1,1’-ビフェニル]-2-オキシ)エチルメタクリレートがさらに好ましく、多官能性、特に二官能性メタクリレートが特に好ましく、例えばジ-、トリ-、またはテトラエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ならびにグリセロールジメタクリレート、およびグリセロールトリメタクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,10-デカンジオールジメタクリレート(DMA)、1,12-ドデカンジオールジメタクリレート、およびこれらの混合物である。
【0043】
モノマー1,10-デカンジオールジメタクリレート(DMA)が特に好ましい。モノマーおよびポリマー形態の間の屈折率の大きな差(1.460から1.500)を特徴とする。さらに、非常に低い屈折率を有し、したがってモノマー成分(a)の低屈折率を設定するのに特に適している。
【0044】
そのようなさらなるモノマーは、モノマー成分(a)の質量に対して好ましくは最大で20質量%、特に好ましくは2から20重量%、特に非常に好ましくは4から10重量%からの総量で使用される。
【0045】
ラジカル重合性モノマーの総量は、歯科材料の全質量に対して好ましくは5から40重量%、特に好ましくは10から35重量%、特に非常に好ましくは12から30重量%の範囲にある。
【0046】
本発明によれば、成分(a)が下記のモノマーの混合物を含有する歯科材料が特に好ましい:
それぞれの場合に成分(a)の全質量に対して
(a-1) 少なくとも1種のウレタンジメタクリレートを20から80重量%、好ましくは30から70重量%、特に非常に好ましくは40から67重量%、
(a-2) 少なくとも1種のビスフェノールA誘導体、好ましくはエトキシ化またはプロポキシ化ビスフェノールAジメタクリレート、特に非常に好ましくはSR-348cを10から40重量%、好ましくは12から30重量%、特に非常に好ましくは14から25重量%、
(a-3) 少なくとも1種の三環式ジメタクリレート、好ましくはトリシクロデカンジメタノールジメタクリレート(TCP)を必要に応じて40重量%まで、好ましくは5から30重量%、特に非常に好ましくは10から25重量%、および
(a-4) 他のモノマー、即ち群(a-1)から(a-3)および(a-5)の1つに包含されないモノマー、好ましくはDMAを必要に応じて20重量%まで、好ましくは4から20重量%、特に好ましくは4から10重量%、
(a-5) 少なくとも1種の連鎖調節剤を必要に応じて8重量%まで、好ましくは0.1から7重量%、特に好ましくは0.5から6重量%。
【0047】
全ての場合において、個々のモノマーまたはいくつかのモノマーの混合物は、成分(a-1)から(a-5)として使用することができる。
【0048】
モノマー(a-1)から(a-5)は、好ましくは、上記定義された物質から選択され、成分(a)が独占的に列挙されたモノマーを含有するそれらの歯科材料が、本発明により特に好ましい。
【0049】
成分(a-1)として、モノマー混合物は、それぞれの場合にモノマー成分(a)の全質量に対して
- 芳香族基を持つ少なくとも1種のウレタンジメタクリレートモノマー、好ましくはV380を5から60重量%、好ましくは10から45重量%、特に好ましくは10から25重量%、
- 式1の少なくとも1種の二官能性ウレタンを3から30重量%、特に好ましくは5から25重量%、特に非常に好ましくは6から20重量%、
- 少なくとも1種のさらなるウレタンジメタクリレート、好ましくはUDMAを10から70重量%、好ましくは15から60重量%、特に好ましくは20から47重量%
含有するものが好ましくは使用される。
放射線不透過充填剤(b)
【0050】
本発明による材料は、成分(b)として、少なくとも1種の放射線不透過充填剤、好ましくは酸化タンタル(V)、硫酸バリウム、SiOと酸化イッテルビウム(III)または酸化タンタル(V)との混合酸化物、三フッ化イッテルビウム、またはこれらの混合物を含有し、三フッ化イッテルビウムが特に好ましい。
【0051】
放射線不透過充填剤は、粒状形態で存在し、好ましくは平均一次粒径≦25nm、特に好ましくは10から24nmを有し、粒子は、非凝集および非集塊形態で存在する。粒径が≦25nmの粒子は、本明細書ではナノスケールと呼ばれる。
【0052】
本発明による材料は、特に非常に好ましくは平均一次粒径が≦25nm、好ましくは10から24nm、特に好ましくは14から22nm、特に約20nmのYbF粒子を含有し、粒子は好ましくは非凝集および非集塊形態で存在する。
【0053】
他に指示しない限り、全て粒径は体積平均粒径(D50値、即ち粒子の50%が記述される値よりも小さい)である。0.1μmから1000μmの範囲内の粒径決定は、好ましくは静的光散乱(SLS)を用いて、例えばLA-960静的レーザー散乱粒径分布分析器(堀場製作所、日本)を使用してまたはMicrotrac S100粒径分析器(Microtrac、USA)を使用して行われる。この場合、波長が655nmであるレーザーダイオードおよび波長が405nmのLEDが、光源として使用される。異なる波長を持つ2つの光源の使用は、ただ1回の測定通過で試験片の粒径分布全体を測定するのを可能にし、この測定は湿式測定として実施される。この目的で、充填剤の水性分散液が調製され、その散乱光はフローセル内で測定される。粒径および粒径分布を計算するための散乱光分析は、DIN/ISO 13320によるMie理論に従い行われる。5nmから0.1μmの範囲の粒径の測定は、好ましくは水性粒子分散液の動的光散乱(DLS)により、好ましくは波長が633nmのHe-Neレーザーを使用して、散乱角度90°および25℃で、例えばMalvern Zetasizer Nano ZS(Malvern Instruments、Malvern、UK)を使用して行われる。
【0054】
サイズが25nmよりも小さいYbF粒子は、材料の放射線不透過率を増大させるのを可能にするが、組成物の屈折率に対してごく僅かな影響しか及ぼさないことが見いだされた。したがって放射線不透過性ガラスとは異なって、良好な半透明性を保証するために高屈折率のモノマーの使用を必要としない。ナノスケールのYbF粒子の使用により、放射線不透過充填剤としてのバリウム含有ガラスを使用せずに済む。さらにナノスケールYbF粒子は、ペーストの目に見える不透明化をもたらさないことが有利である。
【0055】
好ましい実施形態によれば、YbF粒子は表面修飾される。この目的で、好ましくは、YbF粒子の表面に結合することができる官能基を有する有機化合物で処理される。好ましい官能基は、ホスフェート、ホスホネート、カルボキシル、ジチオホスフェート、およびジチオホスホネート基である。表面修飾剤は、好ましくは、有機成分(a)との架橋を可能にするラジカル重合性基も有する。
【0056】
好ましい表面修飾剤は、P-7,10,13,16-テトラオキサヘプタデカ-1-イル-ホスホン酸、P-[6-[2-[2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ]エトキシ]ヘキシル]ホスホン酸、2,3-ジ-(メタクリロイルオキシ)-プロピル-1-ホスホン酸、2,3-ジ-(メタクリロイルオキシ)-プロピル-1-ビスホスホン酸、および3-O-ベンジルオキシ-2-メタクリロイルオキシ-プロピル-1-ビスホスホン酸である。
【0057】
本発明による歯科材料は、歯科材料の質量に対して好ましくは1から30重量%、特に好ましくは3から20重量%、特に非常に好ましくは6から12重量%のナノスケールYbF粒子を含有する。
無機充填剤(c)
【0058】
好ましい無機充填剤(c)は、ガラス粉末、好ましくはバリウムを含まないガラス粉末、特にストロンチウムガラス粉末、および/またはジルコニウム含有ガラス粉末である。特に非常に好ましいガラスは、CAS番号65997-17-3のガラスである。ガラス粉末は、好ましくは0.1から5μm、特に好ましくは0.3から2μm、特に非常に好ましくは0.4から0.9μmの平均粒径を有する。
【0059】
さらに、屈折率が1.54よりも低い、特に好ましくは1.52よりも低い、特に非常に好ましくは1.51よりも低いガラスが、本発明により好ましい。ガラスの屈折率は、好ましくは1.49から1.54、特に好ましくは1.49から1.52、特に非常に好ましくは1.49から1.51の範囲にある。意外にも、これらのガラスは特に良好な硬化深度をもたらす。
【0060】
無機ガラスは、歯科材料の全質量に対して好ましくは20から80重量%、特に好ましくは25から70重量%、特に非常に好ましくは30から60重量%の量で使用される。
【0061】
さらに好ましい無機充填剤(c)は、例えば一次粒径が2から100nm、好ましくは5から60nm、特に好ましくは10から40nm、特に非常に好ましくは20から30nmのケイ酸ジルコニウムである。一次粒子は球状であり、凝集して、サイズが0.5から20μm、好ましくは1から10μm、特に好ましくは1から7μm、特に非常に好ましくは2から6μmの二次粒子を形成する。米国特許第8,617,306(B2)号に従い調製することができる。
【0062】
本発明による組成物の研磨性は、ケイ酸ジルコニウムの添加を通して改善することができる。ケイ酸ジルコニウムの屈折率は、好ましくは1.490から1.510の範囲にある。ケイ酸ジルコニウムは、歯科材料の全質量に対して好ましくは1から30重量%、特に好ましくは3から25重量%、特に非常に好ましくは5から20重量%の量で使用される。
【0063】
さらに、好ましくは平均一次粒径が0.5から50nm、特に好ましくは1から20nm、特に非常に好ましくは2から10nmのZrO粒子が、無機充填剤として好ましい。
【0064】
材料の放射線不透過性は、ZrO粒子の添加を通してさらに増大させる可能性がある。ZrO粒子は、材料の屈折率の著しい増大ももたらす。したがってこの効果を補償するために、ZrO粒子は、好ましくは低屈折率を有するモノマーと組み合わせて使用される。TCPなどの低粘度メタクリレートモノマー、式1のモノマー、特にDMA(RI=1.460)が好ましい。
【0065】
好ましい実施形態によれば、ZrO粒子は、低粘度モノマー中に懸濁させられる。例えば、30から50重量%のZrO粒子は、モノマーの顕著な曇りを見ることなしに、DMA中に懸濁することができる。平均サイズが8nmである50重量%のZrO粒子を含有するDMA中の懸濁液の屈折率は、例えば1.524であり;平均サイズが3nmである粒子の40重量%の懸濁液の屈折率は、1.494である。純粋なZrOは、2.150の屈折率を有する。
【0066】
ZrOは、好ましくは、材料の全質量に対して0.3から5重量%、特に好ましくは0.4から4重量%、特に非常に好ましくは0.5から2重量%の量で使用される。
【0067】
無機充填剤(c)の総量は、歯科材料の全質量に対して好ましくは20から90重量%、特に好ましくは30から70重量%、特に非常に好ましくは40から65重量%である。
【0068】
本発明による歯科材料の高い硬化深度を実現するには、充填剤(c)のおよびモノマー成分(a)の屈折率が好ましくは互いに一致している。モノマー成分(a)は、好ましくは、充填剤(c)の屈折率と同一の屈折率に設定され、または最大0.03大きい。モノマー成分(a)の屈折率は、特に好ましくは、充填剤(c)の屈折率よりも0.002から0.02大きく、特に非常に好ましくは0.05から0.015大きい。
【0069】
本発明による材料は、充填剤(c)として、充填剤または充填剤混合物を含有することができる。充填剤混合物が使用されるとき、成分(c)として、その屈折率が列挙された範囲にあるような充填剤を、成分(c)の全質量に対して、主に、即ち50重量%よりも多い、特に好ましくは80重量%よりも多い、特に非常に好ましくはそのような充填剤のみを、含有する材料が好ましい。
【0070】
屈折率は、使用される光の波長、温度、圧力、および物質の純度に依存する物質定数である。他に指示しない限り、屈折率とは、本明細書の全ての場合に、標準照明D65により室温で測定された屈折率(n)を意味する。液体モノマーおよびモノマー混合物の屈折率の決定は、市販のAbbe屈折計で行うことができる。
【0071】
例えば無機充填剤または複合充填剤などの固体物質の屈折率(RI)の決定は、浸漬方法により行われる。物質は、室温で種々の屈折率を持つ液体の混合物(いわゆる浸漬液)中に分散される。プロセスでは、固体粒子の輪郭は、液体の固体との間の屈折率の差が大きくなるほど、より明瞭に見える。液体の屈折率が、ここで固体の屈折率に近付くように変化する場合、粒子の輪郭は、屈折率が一致したときにより弱くなり完全に消失するようになる。公知の屈折率を持つ液体、例えばサリチル酸ベンジル(n 20=1.536)およびトリアセチン(n 20=1.431)またはブロモナフタレン(n 20=1.657)の混合物は、浸漬液として適切である。これらの物質の割合を変化させることにより、混合物の屈折率は、測定されることになる固体の屈折率に一致させることができる。屈折率が一致したとき、浸漬液の屈折率は、屈折計を使用して決定される。
【0072】
充填剤粒子と重合母材との間の結合を改善するには、充填剤が好ましくは表面修飾され、特に好ましくはシラン化により、特に非常に好ましくはラジカル重合性シランで、特に3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランで修飾される。非シリケート充填剤の、例えばZrOまたはTiOの表面修飾では、官能化酸性ホスフェート、例えば10-メタクリロイルオキシデシル二水素ホスフェートなどを使用することもできる。
複合充填剤(d)
【0073】
本発明による材料は、成分(d)として、少なくとも1種の複合充填剤を含有する。複合充填剤とは、それ自体が無機充填剤で充填される有機ポリマー粒子を意味する。平均粒径が5から100μm、特に好ましくは15から60μm、特に非常に好ましくは20から40μmの複合充填剤が好ましい。
【0074】
複合充填剤の場合、硬化したポリマー母材の屈折率は、好ましくは、その内部に含有される無機充填剤の屈折率に一致するように、またはそれと最大で±0.2、好ましくは最大で±0.1、特に好ましくは最大で±0.01異なるように選択され、その結果、複合充填剤の粒子は高い半透明性を有する。1種超の無機充填剤が、複合充填剤の調製に使用される場合、無機充填剤の大部分、即ち無機充填剤の質量に対して50重量%超、特に好ましくは80重量%超が、好ましくは列挙された範囲の屈折率を有する。
【0075】
複合充填剤は、好ましくは、1種または複数種のラジカル重合性モノマーと1種または複数種の無機充填剤とを含有する複合ペーストを硬化することによって調製される。
【0076】
複合充填剤の調製では、成分(a)として挙げられるモノマー、成分(b)および(c)として挙げられる充填剤、ならびに成分(e)として挙げられる開始剤が、好ましい。複合充填剤の調製のための成分(a)、(b)、(c)、および(e)のそのような混合物は、同様に本発明の対象である。
【0077】
複合充填剤の調製に特に好ましいラジカル重合性モノマーは、ジ(メタ)アクリレート、特に非常に好ましくはグリセロールジメタクリレート(GDMA、RI=1.477)、アルキレンジメタクリレート、例えば1,10-デカンジオールジメタクリレート(DMA、RI=1.460)およびトリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA、RI=1.461)など、ならびにウレタンジメタクリレート、例えばRM3およびV837、特に芳香族基を持つウレタンジメタクリレート、特に好ましくはV380、およびこれらの混合物である。
【0078】
1,10-デカンジオールジメタクリレートは、特に低い屈折率(RI)を特徴とする。屈折率が1.485であるウレタンジメタクリレートRM3も、低屈折率のモノマーの中にある。1.513の屈折率では、V380は、1.552のビス-GMAよりも著しく低い屈折率を有するが、複合体に対してその良好な機械的効果を発揮する。
【0079】
複合充填剤の調製に好ましい充填剤は、バリウムを含まないガラス粉末、特にストロンチウムガラスおよび/またはジルコニウム含有ガラス充填剤である。ストロンチウムガラス充填剤が特に好ましく、粒径が0.4から1μmのストロンチウムガラス粉末が特に非常に好ましい。上記定義されたケイ酸ジルコニウムは、さらに特に好ましい。さらに、成分(b)として使用される上記定義されたZrO粒子およびナノスケール三フッ化イッテルビウムは、複合充填剤の調製に特に非常に好ましい無機充填剤である。
【0080】
凝集したまたは集塊した粒子の場合、一次粒径はTEM画像を使用して決定することができる。透過型電子顕微鏡法(TEM)は、加速電圧300kVで、Philips CM30 TEMを使用して好ましくは実施される。試験片の調製では、粒子分散体の液滴が50Åの厚さの銅グリッド(メッシュサイズ 300メッシュ)上に堆積され、炭素でコーティングされ、次いで溶媒を蒸発させる。粒子をカウントし、算術平均を計算する。
【0081】
複合充填剤の調製に使用される無機充填剤は、好ましくは1.48から1.55、特に好ましくは1.50から1.53の屈折率を有する。
【0082】
下記の組成を有する複合充填剤が、本発明により好ましい:
- 8から50重量%、好ましくは10から30重量%のラジカル重合性モノマー、
- 1から20重量%、好ましくは2から15重量%の、平均粒径が≦25nmの三フッ化イッテルビウム粒子、
- 40から90重量%、好ましくは60から80重量%の、さらなる無機充填剤、および
- 0.01から2重量%、好ましくは0.1から1重量%の、ラジカル重合用開始剤。
【0083】
パーセンテージの値は、複合充填剤の全質量に対するものである。
【0084】
組成物は、重合し、ミリングし、粉末として使用することができる。重合は、好ましくは熱によりまたは光化学的に行われる。原則として、ミリングされた粒子は破片状の形を有する。ミリングされた複合充填剤は、好ましくは10から50μm、特に好ましくは10から40μm、特に非常に好ましくは30から40μmの平均粒径を有する。それらは好ましくは、ミリングされた複合充填剤の質量に対して、平均粒径が<10μmの粒子を最大で10重量%含有する。このタイプの好ましい複合充填剤およびそれを調製するためのプロセスは、EP 1 234 567 A2に記載されている。
【0085】
特に好ましい実施形態によれば、複合充填剤の粒子は球形を有し、完全な球形を持たない粒子も本明細書では意味する。球状粒子は、例えばいわゆるインフライト重合(エアロゾル重合)を使用して調製することができる。この目的で、複合充填剤を調製するための非重合出発材料が、小滴の形で重合チャンバー内に噴霧され、次いで適切な波長の光、好ましくは青色範囲の光による照射を経て重合する。必要に応じて、粒径を設定するために、噴霧する前に適切な溶媒で重合性混合物を希釈することができる。
【0086】
成分(e)として列挙された光開始剤は、光硬化用の開始剤として適切であり、特に4,4’-ジクロロベンジルまたはその誘導体、ならびにカンファーキノンを、好ましくは促進剤としてのアミン、例えばエチル4-(ジメチルアミノ)ベンゾエートなど、ならびにジベンゾイルゲルマニウム誘導体、例えばビス-(4-メトキシベンゾイル)ジエチルゲルマニウムと組み合わせたものである。
【0087】
球状複合充填剤は、無機充填剤として上記物質を含有することもでき、ストロンチウムガラス充填剤、ナノスケールYbF、および/または特に上記定義されたケイ酸ジルコニウムが本明細書では好ましい。ストロンチウムガラス粉末は、好ましくは0.4から1μm、特に好ましくは0.5から0.8μmの範囲の粒径を有する。
【0088】
重合された球状複合充填剤は、好ましくは5から100μm、特に好ましくは10から80μm、特に非常に好ましくは20から50μmの平均粒径を有する。
【0089】
意外にも本発明によれば、球状複合充填剤(d)、特にそれ自体がケイ酸ジルコニウムなどの球状粒子および/またはYbFなどのナノスケール放射線不透過性物質を含有するものは、歯科材料の硬化深度および曲げ強さを著しく改善することを見出した。さらに、球状複合充填剤の添加は、歯科材料の研磨性および光沢安定度を改善する。さらにこれらの充填剤は、ペーストの取扱いおよび安定性を改善する。
【0090】
充填剤(d)およびモノマー成分(a)の屈折率は、好ましくは成分(a)の屈折率が充填剤(d)の屈折率に対応するように互いに一致し、または最大で0.025大きい。モノマー成分(a)の屈折率は、充填剤(d)の屈折率よりも好ましくは最大で0.02大きく、特に好ましくは最大で0.01大きい。
【0091】
本発明による材料は、充填剤または充填剤混合物を、充填剤(d)として含有することができる。充填剤混合物が使用されるとき、前記材料は、それぞれの場合に成分(d)の全質量に対して、主に、即ち50重量%よりも多く、特に好ましくは80重量%よりも多くの、特に好ましくは独占的に、その屈折率が列挙された条件を満足させるような複合充填剤を、成分(d)として含有するものが好ましい。
【0092】
複合充填剤(d)は、好ましくは、歯科材料の全質量に対して5から60重量%、特に好ましくは10から50重量%、特に非常に好ましくは15から40重量%の量で使用される。
ラジカル重合用開始剤(e)
【0093】
本発明による材料は、成分(e)として、ラジカル重合用の少なくとも1種の開始剤、好ましくは光開始剤を含有する。
【0094】
光増感剤、とりわけα-ジケトン、例えば9,10-フェナントレンキノン、1-フェニル-プロパン-1,2-ジオン、ジアセチルまたは4,4’-ジクロロベンジルまたはその誘導体、特に好ましくはカンファーキノン(CQ)およびその誘導体、ならびにこれらの混合物が、好ましい光開始剤である。
【0095】
光開始剤は、好ましくは促進剤と組み合わせて使用される。第三級アミン、例えば第三級芳香族アミンなど、特にN,N-ジアルキル-アニリン、-p-トルイジン、または-3,5-キシリジン、p-(N,N-ジアルキルアミノ)-フェニルエタノール、-安息香酸誘導体、-ベンズアルデヒド、-フェニル酢酸エステル、および-フェニルプロピオン酸エステルが、促進剤として特に適切である。その特定の例は、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N,3,5-テトラメチルアニリン、N,N-ジメチルアミノ-p-ベンズアルデヒド、p-(ジメチルアミノ)-安息香酸エチルエステル、またはp-(ジメチルアミノ)-ベンゾニトリルである。第三級脂肪族アミン、例えばトリ-n-ブチルアミン、ジメチルアミノエタン-2-オール、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジメチルベンジルアミン、または複素環式アミンなど、例えば1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジンおよびアミノ酸誘導体など、例えばN-フェニルグリシンなども適切である。あるいは、アミンを含まない促進剤、例えばスルフィン酸およびスルフィネート、ボレート、エノレート、ホスフィン、または活性水素原子を含有するその他の化合物など、例えばモルホリン誘導体または1,3-ジオキソランなどの複素環式化合物を使用することができる。
【0096】
特に好ましい光開始剤は、アシル-またはビスアシルゲルマニウム化合物、特にEP 1 905 413 A1に開示されるモノアシルトリアルキル-およびビスアシルジアルキルゲルマニウム化合物、例えばベンゾイルトリメチルゲルマニウム、ビスベンゾイルジエチルゲルマニウム、またはビス(4-メトキシベンゾイル)ジエチルゲルマニウムなどである。アシル-およびビスアシルゲルマニウム化合物には、照射後に脱色し(漂白効果)、したがって硬化した材料の透過率を損なわないという利点がある。さらに、それらは単分子光開始剤であり、即ち完全な活性に到達するために促進剤を必要としない。
【0097】
さらに特に好ましい光開始剤は、アシル-またはビスアシルホスフィンオキシド、特にEP 0 007 505、EP 0 073 413、EP 0 184 095、およびEP 0 615 980に記載されている開始剤である。好ましい例は、市販されている化合物2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド(Lucirin(登録商標)TPO、BASF)およびビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(Irgacure(登録商標)819、Ciba)である。アシル-およびビスアシルホスフィンオキシドは、単分子光開始剤の群にも属しかつ低い固有の吸収を特徴とする。
【0098】
列挙された開始剤の1種を含有する、本発明による組成物は、例えば青色光(400から500nmの波長範囲)を照射することによって、好ましくは電力定格が1200mW/cmから3050mW/cmの間であるLEDランプを照射することによって硬化することができる。
【0099】
開始剤は、歯科材料の全質量に対して好ましくは0.005から3.0重量%、特に好ましくは0.01から2.0重量%、特に好ましくは0.1から1重量%の量で使用される。
さらなる構成要素
【0100】
本発明による組成物は、さらなる添加剤、最も顕著にはレオロジー調節剤、安定化剤、例えば重合安定化剤など、着色剤、即ち顔料および/または染料、抗菌活性化合物、フッ化物イオン放出添加剤、蛍光増白剤、蛍光剤、UV吸収剤、破壊靭性を改善するための物質、および/または作用物質を含有することもできる。添加剤の総量は、材料の全質量に対して好ましくは最大で4重量%、特に好ましくは最大で3重量%である。
【0101】
本発明による歯科材料は、好ましくは:
- 少なくとも1種のラジカル重合性モノマー(a)を5から40重量%、好ましくは10から35重量%、特に好ましくは12から30重量%、
- 1から30重量%、好ましくは3から20重量%、特に好ましくは6から12重量%の三フッ化イッテルビウム粒子(b)、
- 20から90重量%、好ましくは30から70重量%、特に好ましくは40から65重量%の無機充填剤(c)、
- 5から60重量%、好ましくは10から50重量%、特に好ましくは15から40%の複合充填剤(d)、および
- 0.005から3.0重量%、好ましくは0.01から2.0重量%、特に好ましくは0.1から1重量%のラジカル重合用開始剤(e)
を含有する。
【0102】
下記の組成を有する歯科材料が、特に好ましい:
- 12から30重量%のラジカル重合性モノマー(a)、
- 3から10重量%の三フッ化イッテルビウム粒子(b)、
- 45から65重量%の無機充填剤(c)、
- 15から40重量%の複合充填剤(d)、および
- 0.01から0.5重量%のラジカル重合用開始剤(e)。
【0103】
パーセンテージの値は、それぞれの場合に歯科材料の全質量に対するものである。
【0104】
成分(b)で指定された量は、成分(d)中に必要に応じて含有された三フッ化イッテルビウムを含まない。
【0105】
当然ながら、それらの材料は、成分(a)から(e)が上記定義された好ましい材料、および特に好ましい材料から選択されたものが好ましい。
【0106】
それぞれの場合に特に非常に好ましいのは、モノマー成分(a)が、それぞれの場合にモノマー成分(a)の全質量に対して全体として1から25重量%、好ましくは2から20重量%、特に非常に好ましくは5から12重量%のV850および/またはV837、1から60重量%、好ましくは5から30重量%、特に非常に好ましくは10から25重量%のウレタンジメタクリレートであって芳香族基を持つもの、好ましくはV380、および1から70重量%、好ましくは2から66重量%、特に非常に好ましくは5から46重量%のさらなるウレタンジメタクリレート、好ましくはRM3を含有する材料である。モノマー成分(a)は、好ましくはさらに、2から40重量%、好ましくは4から30重量%、特に非常に好ましくは6から25重量%のSR348Cを含有する。さらに、モノマー成分(a)は、好ましくはさらに、2から40重量%、好ましくは7から30重量%、特に非常に好ましくは10から25重量%のTCPを含有する。
【0107】
本発明による歯科材料は、歯科材料の全質量に対して、好ましくは、全体で30から95重量%、特に好ましくは50から90重量%、特に非常に好ましくは65から85重量%の充填剤(成分(b)、(c)、および(d))を含有する。
【0108】
本発明による歯科材料は、高い放射線不透過率を特徴とする。これは天然歯物質との明らかな区別を可能にする。放射線不透過率は、ISO規格4049に従い決定される。ここでステップ高さが1mmのアルミニウムステップウェッジと一緒に、重合した歯科材料で作製された試験片を、X線カメラを使用して写真撮影した。画像の暗度を比較し、放射線不透過率をAl%で示し;100%の放射線不透過度は、アルミニウム1mmの暗度に一致する。本発明による材料は、好ましくは、140%から350%Al、特に好ましくは160%から250%Alの放射線不透過率を有する。
【0109】
放射線不透過率は、好ましくは、平均粒径が≦25nmであるナノスケールYbF粒子の添加を経て得られる(成分b)。歯科材料は、複合充填剤(d)がさらに、平均粒径が≦25nmであるナノスケールYbF粒子も含有するものが、特に好ましい。本発明による歯科材料は、好ましくは全体として、即ち成分(b)および(d)中に、材料の全質量に対して2から30重量%、特に好ましくは3から20重量%、特に非常に好ましくは4から12重量%のナノスケールYbFを含有する。
【0110】
本発明による歯科材料はさらに、大きい硬化深度を特徴とする。硬化深度は、DIN EN ISO 4049:2018-04により決定され、好ましくは3mmまたはそれよりも大きく、特に好ましくは3.5から5mmである。これらの硬化深さは、僅か3秒の短い曝露時間(3050mW/cm)で本発明による材料の場合に実現できることが有利である。
【0111】
本発明による歯科材料の特定の利点は、それらの優れた審美的性質である。これらはただ1つの材料の全ての点に関して審美的に納得のいく歯科修復をもたらすことを可能にする。魅力ある修復をもたらすためにいくつかの材料を互いに組み合わせることは、必ずしも必要ではない。さらに、ヒトの歯の自然に生じる色空間全体は、ごく僅かなシェードで網羅することができる。
【0112】
この効果は、コントラスト値(CR値)の透過率に対する特定の比を通して達成される。本発明による歯科材料は、好ましくは60から75、特に好ましくは62から70、特に非常に好ましくは64から68のCR値を有する。着色材料の透過率は、好ましくは8から25%の間、特に好ましくは9から22%の間、特に非常に好ましくは10から18%の間にある。全てのデータは、硬化した材料に関する。
【0113】
CR値とは、透過率測定値の、白色および黒色バックグラウンドに対する比を意味する。値は不透明度とも呼ばれる。コントラスト値CRは、分光光度計(例えば、Minolta CM-3700d)を使用して、BS 5612(英国規格)に従い決定される。コントラスト値の決定は、2つの個々の測定値からなる。この目的で、分析される試験片は、最大反射率が4%である黒色セラミック本体の正面に配置構成され、次いで最小反射率が86%である白色セラミック本体の正面に配置構成され、次いでこれらは比色測定により分析される。高度に透明な試験片が使用されるとき、反射/吸収は主にセラミックバックグラウンドにより引き起こされ、それに対して試験片による反射は、不透明な材料が使用されるときに引き起こされる。黒色バックグラウンドの正面の反射光の、白色バックグラウンドの正面の反射光に対する比は、コントラスト値に関する尺度であり、完全な透過がコントラスト値0をもたらし、完全な不透明度がコントラスト値100をもたらす。
【0114】
CR値と透過率との相互作用は、傑出した審美的性質を持つ材料をもたらす。本発明による範囲の透過率は、周囲光を材料に透過させ、生きているように見せることが可能である。同時に、本発明によるCR値を持つ材料では、周囲の硬質歯科組織の色が、材料内に放射され、屈折して、その材料が硬質歯科組織に類似する色を有するように見えることを可能にする。
【0115】
これらの性質の結果、本発明による材料は、天然歯の色の色空間を完全にカバーすることができ、これは通常、数個のシェードと共に、VITAクラシカルA1-D4(登録商標)シェードガイドの16シェードを含む。本発明による材料の場合、各シェードは、通常の16シェードのいくつかのシェードをカバーするが、それは定義されたCR値および定義された透過率を、その特定のシェードおよび明度の設定と組み合わせたものによる。材料は、理想的な手法で天然歯内にブレンドされるが、それは一方では周囲の硬質歯科組織の色を帯びるからであり、同時に無彩色の外観が回避されるのに十分な色および不透明度を有するからである。
【0116】
歯科材料は、特に歯科用セメント、コーティングまたはベニア材料として、および非常に特別には充填コンポジットとして、およびいわゆるバルクフィルコンポジットとして、主に損傷した歯の修復(治療施用)のための歯科医による口内施用に適している。
【0117】
本発明による材料は、高い安定性および低い粘着性を有し、充填可能である。これは加工しかつ窩洞内に導入し、アマルガムと同様に手法で圧密化できることを意味する。したがってそれらは、特に直接および間接的に全ての種類の前歯および奥歯を充填するための、歯の充填材料として、すばらしく適切である。これらの性質は、モノマー、本発明による充填剤のタイプおよび充填剤の量の選択を経て、実現される。
【0118】
本発明による歯科材料は、性質の有利な組合せを特徴とする。本発明は、材料の硬化深度および審美的性質を損なうことなく、歯の充填材料に有利な高い充填剤含量を持つ材料の調製を可能にする。したがってそれらの光学的性質により、本発明による材料は、大きい層厚で光を使用して非常にうまく硬化することができる。したがってバルクフィルコンポジットとして使用するのに特に適切である。バルクフィルコンポジットとは、厚さが3mmよりも大きい、好ましくは4mmよりも大きい、特に4から5mmである層内で光を使用して硬化することができる歯科充填材料を意味する。僅か1から2層でさらに大きい歯の充填をもたらすのを可能にする。
【0119】
本発明による材料は、口外で(非治療的に)、例えば歯科修復の生成または修復(非治療的施用)で使用することもできる。それらは特に、インレー、オンレー、クラウン、またはブリッジを生成するための材料として適している。
本発明を、図および実施例を用いてさらに詳細に説明する:
【図面の簡単な説明】
【0120】
図1図1は、窩洞底部が濃く着色された、ヒト大臼歯の2級窩洞を示す。
【0121】
図2図2は、実施例6からの本発明による歯科材料で充填された、図1からのヒト大臼歯を示す。
【0122】
図3図3は、実施例8からの球状粒子の走査型電子顕微鏡写真を示す。
【0123】
図4図4は、実施例10からの歯科材料を使用して配置された、3級近心頬側および遠心頬側充填剤による、漂白したヒト前歯を示す。充填剤は、歯の内部に自然にブレンドされ、実際に目に見えない。
【0124】
図5図5は、実施例14からの歯科材料を使用して配置された、3級近心頬側および遠心頬側充填剤によるヒト前歯を示す。充填剤は、歯の内部に自然にブレンドされ、実際に目に見えない。
【実施例
【0125】
下記の実施形態の実施例に示される配合物を使用して、歯科材料を調製し、記述されるように試験した。成分を、磁気撹拌子、混練機(LPM 0.5 SP機、Linden製)を使用して、または遠心分離混合機(Speedmixer DAC 600.2、Hauschild製)を使用して、互いに混合した。
【0126】
材料の透過率を決定するため、硬化した丸みを帯びた試験片(直径:20mm、h=1mm)を生成し、分光光度計(CM-5分光光度計、Minolta)の助けを借りて比色測定により測定した。重合は、LEDランプ(3秒、3050mW/cm)で行った。
【0127】
曲げ強さおよび硬化深度の測定を、ISO 4049:2009:歯科-ポリマー系修復材料(Dentistry - Polymer-based restorative materials)に従い行った。ここで硬化深度(DOC)に関して記述される値は、測定値の半分に一致する。DOC/2≧3.5mmの測定値から、材料は、バルク充填可能であると言われてもよく、歯科条件下で少なくとも4mmの硬化深度が保証されると考えられる。
【0128】
Vickers硬さは、Zwick(ZHV 0.2)からのVickers硬さ試験機を使用して決定した。さらに、中間まで横方向に突き砕かれた重合済み試験片のVickers硬さが依然として表面硬さの80%に達する硬化深度[単位 mm]が、示される。
【0129】
放射線不透過率およびCR値を、説明で述べた手法で決定した。
実施例では、下記の材料を使用した:
促進剤 4-(ジメチルアミノ)安息香酸エチル(CAS No.10287-53-3)
ビス-GMA ビスフェノールAグリシジルメタクリレート(CAS No.1565-94-2)
BHT ブチルヒドロキシトルエン
TCP トリシクロデカンジメタノールジアクリレート(CAS No.42594-17-2)
MA 1,10-デカンジオールジメタクリレート
MA836 2-([1,1’-ビフェニル]-2-オキシ)エチルメタクリレート
Ge光開始剤 ビス(4-メトキシベンゾイル)ジエチルゲルマニウム(CAS No.1469766-31-1)
ホスフィンオキシド ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド(光開始剤)
ガラス充填剤1 バリウムを含まないSr-、Al-、およびF-含有歯科ガラスであって、6%のシラン化があり、平均粒径が0.7μm、屈折率1.50であるもの(ガラスG018-163)
ガラス充填剤2 放射線不透過性歯科ガラス粉末であって、6%のシラン化があり、屈折率1.50であるもの(SchottガラスG018-430)
連鎖調節剤 2-(トルエン-4-スルホニルメチル)アクリル酸エチルエステル
RM3 7,7(9)9-トリメチル-4,3-ジオキソ-3,14-ジオキサ-5,12-ジアゾヘキサデカン-1,16-ジイルジメタクリレート
ケイ酸ジルコニウム 球状ケイ酸ジルコニウム粒子、平均一次粒径:20nm、二次粒径:3.44μm、屈折率1.50
SR-348C エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート(CAS No.41637-38-1)
V380 芳香族基を持つウレタンジメタクリレート
V850 メタクリル酸-2-{[2-(N-メチルアクリルアミド)-エトキシカルボニル]-アミノ}-エチルエステル
nYbF ナノスケール三フッ化イッテルビウム、平均粒径14nm
YbF 粉末化三フッ化イッテルビウム、平均粒径100nm
ZrO 一次粒径が8nmである非集塊ZrO粒子
V837 N-(2-メタクリロイルオキシエチル)カルバミン酸-(2-メタクリロイルオキシエチル)エステル(CAS No.139096-43-8)
(実施例1)
コンポジット充填剤の調製(比較例)
【0130】
表1に示す組成のコンポジット材料を、EP 1 234 567 A2の実施例1に記述される手法で調製した。材料を熱硬化し、その後、粗く破砕し、次いでボールミルを使用してミリングして、平均粒径25μmにした。使用したモノマー混合物の屈折率は、重合前は1.484であり、重合後は1.509であった。コンポジット充填剤の屈折率は、1.506であった。
【表1】
【0131】
(実施例2)
放射線不透過性コンポジット充填剤の調製
表2に示される組成を持つコンポジット材料を、EP 1 234 567 A2の実施例1に記載される手法で調製した。この目的で、最初にモノマーを互いに混合し、次いで三フッ化イッテルビウムをモノマー混合物の一部分に組み込んだ。これを残りのモノマーと混合し、その後、ガラス充填剤を、得られた混合物中に均質に組み込んだ。材料を熱硬化し、その後、粗く破砕し、次いでボールミルを使用してミリングして、25μmの平均粒径にした。使用したモノマー混合物の屈折率は、1.482であった。重合後、屈折率は1.514であった。コンポジット充填剤は、1.506の屈折率を有していた。
【表2】
【0132】
(実施例3)
実施例1からのコンポジット充填剤(比較例)をベースにした歯科材料
【0133】
表3に示される組成を持つ歯科材料の調製では、成分の全てを溶解させるために、最初に列挙されたモノマーを互いに12時間撹拌した。次いで粉末化成分を添加し、混合機(Speedmixer DAC 600.2 VAC-P、Hauschild製)を使用して均質に混合してペーストを形成した。未硬化モノマー混合物の屈折率は1.510であった。
【表3】
【0134】
硬化深度(DOC/2)、透過率、曲げ強さ、弾性率、および放射線不透過率を、上述のように測定した。結果を表5に示す。
(実施例4)
実施例2からのコンポジット充填剤をベースにした歯科材料
【0135】
表4に示される組成の歯科材料の調製では、まず最初に列挙されたモノマーを撹拌しながら均質に混合し、次いでYbFを混合物の一部分に組み込み、その結果、透明な液体が得られた。その後、残りのモノマーを、次いで粉末化成分を添加し、均質に混合してペーストを形成した。実施例2からのYbFに富む充填剤を、コンポジット充填剤として使用した。未硬化モノマー混合物の屈折率は1.508であった。
【表4】
【0136】
材料を、上述の手法で分析した。結果を表5に示す。
【表5】
【0137】
表5は、ナノ粒状YbFの添加が、ペーストの性質に対して負の影響を及ぼさないことを示す。本発明によるペーストは、著しく高い放射線不透過率にもかかわらず、高い硬化深度および透過率を有する。
(実施例5)
実施例2からのコンポジット充填剤をベースにした歯科材料
【0138】
表6に示した組成の歯科材料の調製では、まず最初にモノマービス-GMA、RM3、およびSr-348Cを撹拌しながら均質に混合し、次いでYbFを混合物に組み込み、その結果、透明な液体が得られた。この混合物の屈折率は、重合の前が1.509であり重合の後が1.533であった。これらの値の間の差は0.024であった。その後、残りのモノマーを、次いで粉末化成分を添加し、均質に混合してペーストを形成した。
【0139】
材料を、上述の手法で分析した。結果を表7に示す。全ての値は、歯科規格EN-ISO 4049の要件を超える。
【表6】
【表7】
【0140】
(実施例6)
実施例5からの歯科材料の着色
実施例5からのコンポジットペーストを、顔料Sicotransレッドの段階的添加により、下記のL、a、b、CR値に設定し、激しく混合した。次いでペーストを、遠心分離混合機(SpeedMixer、Hauschild & Co.KG、Germany)で5分間、23,500回転/分および100mbarで脱気した。
【表26】
【0141】
色は、DIN EN ISO 11664-4に該当するL色モデルにより決定した。色測定は、市販の測定機器(Minolta CM-3700d分光光度計)で実施した。硬化深度(DOC/2)は3.7mmであった。
【0142】
カバー挙動をチェックするために、VitaシェードA3.5に該当する摘出されたヒト奥歯に穿孔し、窩洞底部を、2種の易流動性効果材料(Empress Direct Color GreyおよびEmpress Direct Color Brown;Ivoclar Vivadent AG製)を使用して、灰色がかった黒に着色した。図1は、着色された窩洞底部を示し、図2は、上記歯科材料が充填された同じ歯を示す。変色は、ほとんど透けて見えず;歯は非常に自然に見える。良好な硬化深度の結果、材料は、4mm深さの窩洞内で1層に硬化することができる。
(実施例7)
ナノスケールおよび従来のYbFを持つ歯科材料の比較
【0143】
表8に示す組成の材料(材料AおよびC)は、実施例3に記述される手法で調製した。これに並行して、表8に同様に示される組成を持つ放射線不透過性歯科材料(材料B)を、実施例5に記述される手法で調製した。材料を、上述の手法で分析した。結果を表9に示す。
【表8】
【0144】
上記材料は同様の組成を有し、相違点として材料AはYbFを含有せず、材料BはナノスケールYbF(nYbF)を含有し、材料Cは、平均粒径が100nmのYbF粉末を含有する。材料AおよびBは、それぞれ4.3mmおよび4.2mmの同等の硬化深度DOC/2を有する。これはナノスケールYbFの添加が硬化深度を著しく損なわないことを示す。したがって十分に広い範囲が材料の着色に関して存在する。顔料およびその他の色素は、3.5mmのバルクフィル材料に関する閾値まで添加することができる。対照的に、材料Cは、3.8mmのDOC/2を有するだけである。ここでは、ごく僅かな範囲が着色に利用可能である。より大きいYbF粒子のクラウド効果がここで明らかになる。さらに、硬化の前と後での透過率の差は、材料Bの場合よりも材料Cの場合に著しく低く、それが本発明により好ましい。したがって材料Cは、バルクフィル材料としてそれほど十分に適していない。対照的に、材料AおよびBの比較は、ナノスケールYbFの添加が、硬化前後の透明度の差に小さな影響しか及ぼさないことを示す。このことは、ナノスケールフッ化イッテルビウムが、かなりの程度まで材料の光学的性質を損なうことなく、放射線不透過率の増大に最も良く適していることを示す。
【表9】
【0145】
(実施例8)
球状粒子を持つコンポジット充填剤の調製
【0146】
表10に示される組成のコンポジット充填剤の調製では、まず最初に表に列挙されたモノマーを互いに混合し、次いでケイ酸ジルコニウムをモノマー混合物に組み込んだ。分散は、6から24時間穏やかに撹拌しながらガラスシリンダー内で行った。次いで0.3重量%のカンファーキノンおよび0.6重量%のエチル4-(ジメチルアミノ)ベンゾエートを添加し、さらに、開始剤成分が溶解するまで撹拌した。次いで混合物を20ml/分で噴霧ノズル内にポンプ送出し、窒素下で2.1barの圧力で操作した。微細に噴霧化された液滴を、波長470nmの6個の100ワットLEDランプを使用して重合させた。硬化した粒子のサイズを、レーザー回折(Microtrac X100粒径分析器)を用いて決定した。粒子は、球状構造および20μmの平均粒径を有した。粒径は、噴霧前にモノマー混合物にアセトンを添加することによって制御することができる(0から25%)。図4は、球状粒子の走査型電子顕微鏡写真を示す。コンポジット充填剤は、1.506の屈折率を有した。
【表10】
【0147】
(実施例9)
球状粒子を持つ放射線不透過性コンポジット充填剤の調製
実施例8に記述された手法と同様に、表11に記述される組成の球状コンポジット充填剤を調製した。充填剤はさらにナノスケールYbF粒子を含有する。コンポジット充填剤の調製では、表に列挙されたモノマーを互いに混合し、次いで三フッ化イッテルビウムを混合し、その後、さらなる充填剤をモノマー混合物に組み込んだ。モノマー混合物は、1.478の屈折率を有し、50%のモノマー混合物および50%のYbFで作製された混合物の屈折率は、1.481の屈折率を有した。YbFの屈折率は1.54であった。
【表11】
【0148】
(実施例10)
実施例8からのコンポジット充填剤をベースにした歯科材料
表12に示される組成の歯科材料の調製では、まず最初に列挙されたモノマーを撹拌しながら均質に混合し、次いでYbFを混合物の一部分に組み込み、その結果、大部分が透明な液体を得た。次いで残りのモノマーを、その後、粉末化成分を添加し、均質に混合してペーストを形成した。材料を、上述の手法で分析した。結果を表13に示す。
【0149】
上記ペーストは、非常に良好な硬化深度を有する。これはVickers硬さの80%で硬化深度が約7mmの良好な値にも反映される。このタイプのペーストは、そのバルクフィル特性を失わずに、問題なく着色することができる。実施例5と比較すると、曲げ強さの著しい改善は、実施例2からのミリングされたコンポジット充填剤の代わりに実施例8からの球状コンポジット充填剤を使用することによって実現できた。
【表12】
【表13】
【0150】
(実施例11)
実施例9からのコンポジット充填剤をベースにしたビス-GMAを含まない歯科材料
表14に示される組成の、ビス-GMAを含まない歯科材料の調製では、まず最初に表に列挙されたモノマーを互いに混合し、次いで三フッ化イッテルビウムをモノマー混合物に組み込んだ。その後、粉末化成分を添加し、均質に混合してペーストを形成した。材料を、上述の手法で分析した。結果を表15に示す。
【表14】
【表15】
【0151】
上記ペーストは、非常に良好な曲げ強さおよび優れた硬化深度を有する。硬化前後の透過率の大きな差は、当初は非常に透明なペースト内に光を深く透過させ、かつその深さであっても試験片を硬化させる。硬化後、材料は、より低い透過率を有し、したがって審美上の理由で有利である。
(実施例12)
シェードブリーチにおける実施例11からのペーストの着色
【0152】
実施例11からのコンポジットペーストを、白色顔料を段階的に添加することにより、下記のL、a、b、CR値に設定した。次いで透過率、硬化深度、およびVickers硬さを測定した。
【表27】
【0153】
DOC/2は、規格に対する適合を実現し、5.5mmの深さで、材料は依然として表面硬さの80%を有する。
【0154】
図4は、着色コンポジットペーストを使用して配置された、3級近心頬側および遠心頬側充填剤を持つ、漂白されたヒト前歯を示す。充填剤は、歯の内部に自然にブレンドされる。それらは拡大表示によってのみ全て見ることができる。会話をする距離では、充填剤は目に見えない。
【0155】
ブリーチシェードを持つ充填材料は、例えば乳歯または漂白した歯など、非常に輝く歯に適している。ブリーチシェードに対する着色は、輝く印象を創出するためにかなりの白色顔料を必要とするので、より少ない顔料を必要とするその他のシェードよりも、硬化深度により大きな損失をもたらす。この理由で、この着色を持つ材料は通常、低い硬化深度しか持たない。上記結果は、このシェードにより、本発明による材料が比較的高い硬化深度を有し、バルクフィル材料としての使用に十分であることを示す。したがって、十分な硬化深度を持つその他のシェードを生成することも可能である。
(実施例13)
実施例9からのコンポジット充填剤およびZrOをベースにした歯科材料
【0156】
表16に示される組成の歯科材料の調製は、既に記述された実施例と同様に行った。さらに、モノマー混合物はモノマーDMAを含有していた。ZrOをDMA中に懸濁させ、次いでこの懸濁液をその他の構成成分と混合した。ペーストを3050mW/cmで3秒間重合し、次いで実施例3に記述される手法で分析した。結果を表17に示す。
【0157】
上記コンポジットペーストは、良好な硬化深度を有する。透過率は、実施例8と比較して低い。さらにCR値は、YbFの増大した含量およびZrOの添加を通して増大させることができた。
【表16】
【表17】
【0158】
(実施例14)
黒ずんだ歯に適したシェードでの実施例13からのペーストの着色
実施例13からのコンポジットペーストは、顔料SicotransレッドおよびXerogelイエローの段階的な添加によって、以下のL、a、b、CR値に設定した。次いで透過率、硬化深度、およびVickers硬さを測定した。
【表28】
【0159】
DOC/2は、規格に対する適合を実現し、5.5mmの深さでは、材料は依然として表面硬さの80%を有する。
【0160】
図5は、シェードA3.5の充填剤(Vitaシェード系)で通常は修復され得るヒト前歯を示し、着色されたコンポジットペーストを使用して配置された3級近心頬側および遠心頬側充填剤を含む。充填剤は、歯に自然にブレンドされる。それらは拡大表示によってのみ全て見ることができる。会話をする距離では、充填剤は目に見えない。
【0161】
黒ずんだ歯に向けた歯科材料は、シェードを設定するために比較的多量の顔料を必要とする。この理由で、そのような材料は通常、低い硬化深度しか持たない。上記結果は、本発明による材料が比較的高い硬化深度を有し、バルクフィル材料としての使用に十分であることを示す。したがって、十分な硬化深度を持つその他のシェードを生成することも可能である。
(実施例15)
実施例9からのコンポジット充填剤およびケイ酸ジルコニウムをベースにした歯科材料
【0162】
実施例13と同様に、歯科材料は、さらに充填剤としてのケイ酸ジルコニウムとより高い割合のZrOとを含有するものを調製した。組成を表18に示す。ペーストを、3050mW/cmで3秒間、重合し、次いで実施例3で記述した手法で分析した。結果を表19に示す。測定結果は、良好な放射線不透過率を持つバルク化可能なペーストとしてコンポジットを特定する。
【表18】
【表19】
【0163】
(実施例16)
種々の粒径のYbFを持つ材料
実施例15に示される組成の3種のペーストを、調製した。ここで実施例15で使用したYbFを、それぞれの場合に、異なる粒径:ペーストA:20nm、ペーストB:40nm、およびペーストC:60nmを持つYbFにより置き換えた。4.4mmの硬化深度DOC/2は、ペーストAで実現することができた。より粗い粒子は、僅か3.8mmの硬化深度をもたらした。
【0164】
(実施例17)
実施例9からのコンポジット充填剤およびZrOをベースにしたビス-GMAを含まない歯科材料
表20に示される組成のビス-GMAを含まない歯科材料の調製では、まず最初に表に列挙されたモノマーを互いに混合し、次いで三フッ化イッテルビウムをモノマー混合物に組み込んだ。その後、粉末化成分を添加し、均質に混合して、ペーストを形成した。材料を、上述の手法で分析した。結果を表21に示す。
【0165】
上記ペーストは、重合中の透過率の非常に良好な低減と、硬さの80%で硬化深度の高い値とを示す。したがって、バルクフィル材料としてはすばらしく適切である。
【表20】
【表21】
(実施例18)
代替のモノマー混合物をベースにした歯科材料
【0166】
表22に示される組成の歯科材料の生成では、最初に表に列挙されるモノマーを一緒に混合し、次いで三フッ化イッテルビウムをモノマー混合物に組み込んだ。次いで粉末化成分を添加し、均質に混合してペーストを形成した。材料を、上述の手法で分析した。結果を表23に示す。未硬化モノマー混合物の屈折率は1.508であった。充填剤の屈折率は1.50であった。
【0167】
上記ペーストは、重合による透過率の良好な低下と、硬さの80%での硬化深度に関する非常に高い値とを示した。
【表22】
【0168】
【表23】
【0169】
(実施例19)
モノマーMA836を持つ歯科材料
表24に示される組成の歯科材料の生成では、最初に表に列挙されるモノマーを一緒に混合し、次いで三フッ化イッテルビウムをモノマー混合物に組み込んだ。次いで粉末化成分を添加し、均質に混合してペーストを形成した。材料を、上述の手法で分析した。結果を表25に示す。未硬化モノマー混合物の屈折率は1.511であった。充填剤の屈折率は1.50であった。
【0170】
上記ペーストは、重合による透過率の非常に高い低下を、硬さ80%での硬化深度に関する非常に高い値と組み合わせて示す。
【表24】
【表25】
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】