IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ビイエヌエヌティ・エルエルシイの特許一覧

<>
  • 特表-結晶被覆BNNTシンチレータ 図1
  • 特表-結晶被覆BNNTシンチレータ 図2
  • 特表-結晶被覆BNNTシンチレータ 図3
  • 特表-結晶被覆BNNTシンチレータ 図4
  • 特表-結晶被覆BNNTシンチレータ 図5
  • 特表-結晶被覆BNNTシンチレータ 図6
  • 特表-結晶被覆BNNTシンチレータ 図7
  • 特表-結晶被覆BNNTシンチレータ 図8
  • 特表-結晶被覆BNNTシンチレータ 図9
  • 特表-結晶被覆BNNTシンチレータ 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-15
(54)【発明の名称】結晶被覆BNNTシンチレータ
(51)【国際特許分類】
   G01T 3/00 20060101AFI20230308BHJP
   G01T 1/20 20060101ALI20230308BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20230308BHJP
【FI】
G01T3/00 G
G01T1/20 B
C09K11/06 601
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022544118
(86)(22)【出願日】2021-01-21
(85)【翻訳文提出日】2022-08-29
(86)【国際出願番号】 US2021014288
(87)【国際公開番号】W WO2021150665
(87)【国際公開日】2021-07-29
(31)【優先権主張番号】62/963,828
(32)【優先日】2020-01-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516318891
【氏名又は名称】ビイエヌエヌティ・エルエルシイ
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ホイットニー,アール・ロイ
(72)【発明者】
【氏名】ヘンネバーグ,トーマス・ダブリュ
(72)【発明者】
【氏名】ハフ,クレイ・エフ
(72)【発明者】
【氏名】スキャメル,リンゼイ・アール
【テーマコード(参考)】
2G188
【Fターム(参考)】
2G188BB04
2G188BB09
2G188CC09
2G188CC13
2G188CC18
2G188CC21
2G188CC23
(57)【要約】
第2の発光材料、及びいくつかの実施形態では増強された10B含有量を有する、窒化ホウ素ナノチューブ(BNNT)を、効率的な熱中性子検出に使用できる。上記第2の発光材料は、上記ナノチューブ上の結晶コーティング、及び/又は上記BNNT材料内に分散された結晶であってよい。結晶被覆BNNT材料は、上記BNNT材料中の10B原子での熱中性子の吸収の崩壊生成物からの光を、発生した崩壊生成物が上記結晶コーティングを通過する際に検出することによって、熱中性子を検出することを可能にする。熱中性子検出器の実施形態を説明する。第2の発光材料を含むBNNTを調製する方法も説明する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のBNNTを含むBNNT材料、及び
結晶質発光材料
を含み、
前記結晶質発光材料は、前記BNNT上のコーティング、及び前記BNNT材料中に分散された状態のうちの少なくとも一方である、窒化ホウ素ナノチューブ(「BNNT」)ベースの発光材料。
【請求項2】
前記BNNT材料は、10Bの増強された割合を有するBNNTを含む、請求項1に記載の前記BNNTベースの発光材料。
【請求項3】
10Bの前記増強された割合は、少なくとも50重量%、60重量%、70重量%、80重量%、90重量%、及び95重量%のうちの1つである、請求項2に記載のBNNTベースの発光材料。
【請求項4】
前記結晶質発光材料は、アントラセン、スチルベン、及びナフタレンのうちの1つである、請求項1に記載のBNNTベースの発光材料。
【請求項5】
BNNT材料及び結晶質発光材料の第2の層を含み、前記結晶質発光材料は、前記BNNT上のコーティング、及び前記BNNT材料中に分散された状態のうちの少なくとも一方である、請求項1に記載のBNNTベースの発光材料。
【請求項6】
前記BNNT材料中の前記BNNTは、第1の方向に整列される、請求項1~4のいずれか1項に記載のBNNTベースの発光材料。
【請求項7】
前記BNNT材料はBNNTバッキーペーパーである、請求項1~4のいずれか1項に記載のBNNTベースの発光材料。
【請求項8】
前記BNNT材料は、20重量%未満、10重量%未満、1重量%未満、及び0.5重量%未満のうちの1つの残留ホウ素含有率を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載のBNNTベースの発光材料。
【請求項9】
チャンバ;
前記チャンバ内に位置決めされた、少なくとも1つの光子検出器;
前記チャンバ内に位置決めされた、BNNTベースの発光材料
を備え;
前記BNNTベースの発光材料は、BNNT材料及び結晶質発光材料を含み、前記結晶質発光材料は、前記BNNT上のコーティング、及び前記BNNT材料中に分散された状態のうちの少なくとも一方であり;
前記少なくとも1つの光子検出器は、前記チャンバ内で中性子の吸収によって生成される、前記発光材料を通過するイオンから放出される光子の少なくとも一部分の検出のために位置決めされる、窒化ホウ素ナノチューブ(「BNNT」)ベースの中性子検出器。
【請求項10】
前記BNNTベースの発光材料は、請求項2~4のいずれか1項に記載のBNNTベースの発光材料である、請求項9に記載のBNNTベースの中性子検出器。
【請求項11】
前記チャンバは更に、光子を前記少なくとも1つの光子検出器に向けて反射するように位置決めされた少なくとも1つの鏡面を備える、請求項9に記載のBNNTベースの中性子検出器。
【請求項12】
前記BNNTベースの発光材料は複数の層を含み、各層は、アントラセン、スチルベン、及びナフタレンから選択される結晶質発光材料のコーティングを有するBNNT材料を含む、請求項9に記載のBNNTベースの中性子検出器。
【請求項13】
前記BNNT材料はBNNTバッキーペーパーである、請求項9に記載のBNNTベースの中性子検出器。
【請求項14】
前記BNNT材料は、20重量%未満、10重量%未満、1重量%未満、及び0.5重量%未満の残留ホウ素含有率を有する、請求項9に記載のBNNTベースの中性子検出器。
【請求項15】
収集した光を前記少なくとも1つの光子検出器へと輸送するために位置決めされた少なくとも1つの光ファイバ逆サイドグロー(fiber optic inverse side‐glow:FOIS)ケーブルを更に備える、請求項9に記載のBNNTベースの中性子検出器。
【請求項16】
前記FOISケーブルは、結晶質発光材料の1つのコーティングと、結晶質発光材料のコーティングを有するBNNT材料とを有する、つや消し部分を備える、請求項15に記載のBNNTベースの中性子検出器。
【請求項17】
窒化ホウ素ナノチューブ(「BNNT」)ベースの発光材料を製造する方法であって、前記方法は:
BNNT材料を溶媒中に分散させるステップ;
結晶前駆体を前記溶媒中に分散させるステップであって、前記結晶前駆体は発光材料である、ステップ;
分散された前記BNNT材料と分散された前記結晶前駆体とを表面上に注ぐステップ;
前記溶媒を蒸発させて、前記表面上に結晶被覆BNNT発光材料を形成するステップ
を含む、方法。
【請求項18】
前記結晶前駆体は、アントラセン、スチルベン、及びナフタレンのうちの1つを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記溶媒は有機溶媒を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
分散された前記BNNT材料と分散された前記結晶前駆体とを表面上に注ぐ前記ステップ、及び前記溶媒を蒸発させて前記表面上に結晶被覆BNNT発光材料を形成する前記ステップを、複数回実施して、層状の結晶被覆BNNT発光材料を形成する、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記BNNT材料は、10Bの増強された割合を有するBNNTを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
前記BNNT材料は、20重量%未満、10重量%未満、1重量%未満、及び0.5重量%未満の残留ホウ素含有率を有する、請求項17に記載の方法。
【請求項23】
窒化ホウ素ナノチューブ(「BNNT」)ベースの発光材料を製造する方法であって、前記方法は:
結晶前駆体を溶媒中に分散させるステップであって、前記結晶前駆体は発光材料である、ステップ;
分散された前記結晶前駆体をBNNT材料上に注ぐステップ;
前記溶媒を蒸発させて、結晶被覆BNNT発光材料を形成するステップ
を含む、方法。
【請求項24】
前記結晶前駆体は、アントラセン、スチルベン、及びナフタレンのうちの1つを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記溶媒は有機溶媒を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
分散された前記結晶前駆体を前記BNNT材料上に注ぐ前記ステップ、及び前記溶媒を蒸発させる前記ステップを、複数回実施して、層状の結晶被覆BNNT発光材料を形成する、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
前記BNNT材料は、10Bの増強された割合を有するBNNTを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
前記BNNT材料は、20重量%未満、10重量%未満、1重量%未満、及び0.5重量%未満の残留ホウ素含有率を有する、請求項23に記載の方法。
【請求項29】
前記BNNT材料はBNNTバッキーペーパーを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項30】
窒化ホウ素ナノチューブ(「BNNT」)ベースの発光材料を製造する方法であって、前記方法は:
BNNT材料を第1の溶媒中に分散させて、第1の溶液を形成するステップ;
結晶前駆体を第2の溶媒中に分散させて、第2の溶媒を形成するステップであって、前記結晶前駆体は発光材料である、ステップ;
前記第1の溶液と前記第2の溶液とを所望の比率で組み合わせて、複合溶液を形成するステップ;
前記複合溶液に、前記結晶前駆体が混和しない第3の溶媒を徐々に加えて、結晶の形成を誘発するステップ;
前記第1の溶媒、前記第2の溶媒、及び前記第3の溶媒を抽出して、結晶被覆BNNT材料を形成するステップ
を含む、方法。
【請求項31】
前記結晶前駆体は、アントラセン、スチルベン、及びナフタレンのうちの1つを含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記第3の溶媒は水を含む、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
前記第1の溶媒、前記第2の溶媒、及び前記第3の溶媒を抽出する前記ステップは、減圧ろ過を含み、前記結晶被覆BNNT材料は結晶被覆BNNTバッキーペーパーを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項34】
前記BNNT材料は、10Bの増強された割合を有するBNNTを含む、請求項30に記載の方法。
【請求項35】
前記BNNT材料は、20重量%未満、10重量%未満、1重量%未満、及び0.5重量%未満の残留ホウ素含有率を有する、請求項30に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
行政支援に関する声明
なし
【0002】
本開示は、電離放射線、より詳細には熱中性子及び高速中性子の検出に関する。
【背景技術】
【0003】
熱中性子検出器は通常、10B(10個の核子、即ち5個の陽子及び5個の中性子を有するホウ素)、又はHe(2個の陽子及び1個の中性子)を含む材料を用いる。157Gd、Li、及びいくつかの他の同位体も使用されることがあるが、これらを大容積の検出器に組み込む方法は、一部のLiベースのものに関する尽力を除いて、開発されていない。
【0004】
天然のホウ素は、およそ20%が10B、80%が11Bである。ほとんど全てのHeは核廃棄物の再処理に由来し、またHeの需要は高く、従ってHeは極めて高価となるため、10Bベースの検出器がより一般的である。ほとんどの10Bベースの検出器はBFを利用し、典型的には直径が数cmであり、BFは典型的には0.5~3気圧である。BFは有毒であり、慎重に閉じ込める必要がある。10B、He及びLiベースの検出器に関しては、そのほとんどが、イオンが周囲の媒体中で減速する際に生じる崩壊生成物によって生成される電離から生じる電子パルス又は光を検出するシステムを採用する。様々な電離箱、マルチワイヤ比例計数箱(multi wire proportional chamber:MWPC)、ガス電子増倍管(gas electron multiplier:GEM)、ストローチューブ、ソーラーブラインド型ストローチューブ、ソーラーブラインド型光電子増倍管、ソリッドステート光電子増倍管(solid state photomultiplier:SiPM)、リニアストリップセンサ等が使用される。BFベースの熱中性子検出器の典型的なサイズは、直径及び長さが数cmであり、1,500~2,000ボルトの高い電圧を伴う。Heベースの熱中性子検出器のサイズは、ほとんどの寸法が数cmのものから、科学研究用のものまであり、後者は面積が1メートル近く、厚さが数cmとなる場合もあり、また複数のHeチューブを含む場合もある。Liベースの検出器は典型的には、様々なプラスチックシンチレータ材料中にLiを分散させるが、一部は、崩壊生成物にガス中で電離光を発生させる。十分な感度を達成するために、Heベースの検出器は多くの場合、数気圧での動作、プロパン及びCF4等の他のガスの追加、並びにある範囲の高電圧を必要とする。
【0005】
Heは、熱中性子の吸収のために5,330バーンの大きな断面積を有し、反応は以下のように進行する:
n+He→p(0.573MeV)+H(0.191MeV)
Heは、比較的高い空間分解能を達成することに関して、いくつかの実装形態で特定の利点を有するものの、Heベースの検出は、大気圧でも0.001気圧~5気圧以上でも良好に動作できる大型で軽量の効率的な熱中性子検出器を作製することに関して限界があるため、欠点も有する。
【0006】
一部のLiベースの検出器に関する主な限界は、これらが典型的には固体又は液体のシンチレーション材料を必要とし、これが、環境中に存在し得る他の電離粒子からの望ましくないバックグラウンド信号をもたらすことである。より最近のLiベースの検出器は、シンチレーション光の生成に低圧ガスを利用する。更に、熱中性子の吸収のためのLiの断面積は、熱中性子の吸収のための10Bの断面積より小さい。
【0007】
10Bは、熱中性子の存在の検出に利用できる熱中性子の吸収のために、3,835バーンの大きな断面積を有する。この熱中性子吸収反応は、以下のように進行する:
94%:n+10B→11B*→He(1.47MeV)+Li(0.84MeV)+ガンマ(0.48MeV)
6%:n+10B→11B*→He(1.78MeV)+Li(1.02MeV)
11B*の状態は、約1E~12秒間持続する。ガンマが存在する場合、これは、Liの励起状態の崩壊に由来する。
【0008】
中性子の吸収後、He及びLiは、周囲の材料中での電離損失によってその運動エネルギを喪失し、ガンマが存在する場合は0.48MeVのガンマが周囲の材料に吸収される。10Bでの中性子の吸収の発生は、He及びLiイオンの、若しくは崩壊の94%に関する電離損失を検出することによって、又はガンマが存在する場合は0.48MeVのガンマを検出することによって、推定できる。一部のシステムはこれら両方を行う。例えば一部の媒体では、電離損失は光を生成し、この光は、光電子増倍管、ソーラーブラインド型光電子増倍管、SiPMアレイ、大面積アバランシェフォトダイオード(large area avalanche photodiode:LAAPD)等の光子検出器によって検出できる。周囲の媒体中で生成されたイオン対を収集するMWPC、GEM、ストローチューブ、及びリニアストリップ検出器も使用できる。
【0009】
位置及び時間に敏感な高速中性子の検出器は、多くの場合、散乱法(反跳法としても公知)を採用し、この方法では、高速中性子が陽子又はヘリウム(He)といった軽い核から散乱して、それぞれの反跳陽子又はヘリウムイオンを生成し、これらが周囲の材料を電離させる。その後、電離エネルギを、シンチレーション又は比例カウンタによって検出する。この方法論の問題点としては、効率が比較的低いこと、並びに信号に比較的低いエネルギ、即ち低速の中性子及び他の粒子が含まれることによる、バックグラウンドノイズが挙げられる。熱化高速中性子検出器は、最初に水素に富む減速材中で高速中性子を減速させた後で熱中性子を検出することによって、高速中性子の存在を推定する。これらの方法も全て、パルス形状の識別を含めるために様々な技法でガンマ線バックグラウンドを排除することによる問題を有する。更にこれらの熱化法は、1マイクロ秒よりはるかに小さくなり得る信号を、数十~数百マイクロ秒の期間に展開させる。更に、高速中性子の検出に関して熱中性子の生成に依存する方法は、典型的に存在するものである他の中性子の存在からのバックグラウンドを有する。比例カウンタ技術を典型的に使用する高速中性子核分裂電離箱が利用可能である。これらはガンマ線を良好に拒絶し、また238Uで作製された場合には主に高速中性子に対して感受性を有する。中性子核分裂電離箱は、良好なタイミング分解能を有することができるものの、典型的には、空間分解能及び総断面積が制限される。
【0010】
更に、発光材料は、x線、ガンマ線、並びに非相対論的及び相対論的電離粒子並びにそのビームの、位置及び強度の監視のために、一般的に使用される。場合によっては、Li、10B及び157Gd等の中性子吸収材料が、集積回路の一部として電子部品に埋め込まれ、吸収によって、上記部品のうちの1つの状態の変化が引き起こされ、これが中性子の検出につながる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで必要とされるのは、10Bを中性子吸収材料として十分に活用でき、多くの用途に必要とされる空間分解能及び総断面積を達成できる、シンチレータ、並びにこのような発光材料を高効率かつ低バックグラウンドノイズで使用できる検出デバイスである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示は、結晶被覆窒化ホウ素ナノチューブ(boron nitride nanotube:BNNT)発光材料の使用、並びに熱中性子及び高速中性子を含む電離放射線を最小のバックグラウンドノイズで効率的に検出するための、結晶被覆BNNT発光材料を用いた検出器に関する。本発明のアプローチでは、BNNT材料を放射線検出器のシンチレータとして使用する。本発明のアプローチのある実施形態では、上記BNNT材料は、第2の発光材料の微小結晶を含む。上記微小結晶は、上記BNNT材料中の個々のBNNTを被覆してよく、またいくつかの実施形態では、上記BNNT材料内に、及び上記BNNT材料を取り囲むように分散されていてよい。上記BNNT材料による上記微小結晶の包有により、中性子吸収イベントから出力される光が増強される。初期のプロトタイプでは、様々なフォームファクタの、製造されたままの状態のBNNT材料が、10B(ホウ素‐10)を発光材料(例えば固体、液体、又は気体)中に安定的に分布させるための足場として機能した。初期のプロトタイプは、「綿毛(puff ball)」状のフォームファクタを使用していたが、これは、BNNT, LLC(米国ヴァージニア州ニューポートニューズ)から入手可能な、高温、高圧を用いて合成される、製造されたままのBNNT材料の代表例である。それ以降のプロトタイプは、(高品質BNNT材料の不織マットとして定義される)BNNTバッキーペーパーを使用していた。BNNTバッキーペーパーの形成には様々な方法を利用できることを理解されたい。いくつかの好ましい実施形態では、BNNTバッキーペーパーは、BNNT材料を溶媒中に分散させるステップ、このBNNT分散物をろ過するステップ、フィルタ上のBNNTを回収するステップ、及び上記溶媒を乾燥させて上記フィルタ上で固体BNNT材料を形成するステップによって形成される。BNNTバッキーペーパーとしてのBNNT材料を特徴とするプロトタイプ検出器が電子ビーム中に置かれ、1マイクロアンペア近いビーム電流で光が観察された。しかしながら、相対論的電子の高い電流、及び観察に使用された単純なカメラのせいで、初めは、光がシンチレーションによるものか、光学遷移放射(optical transition radiation:OTR)によるものか、これら両方の組み合わせによるものかに関する不確実性が存在した。初期試験には自動調整カメラを使用したが、これは光の強度及びパルスのタイミングに関する情報を全く提供しなかった。使用された大半のカメラは白黒であったが、使用された少数のカラーカメラは、光がやや青いことを示しているように見えた。シンチレーション及びOTRはいずれも、試験条件下において青色光をもたらす可能性があった。ビームの監視のためにBNNTバッキーペーパーを用いたプロトタイプ作成及び評価作業は進行中である。しかしながら、本明細書に記載の、BNNTシンチレーションに関連する結果及び進歩は、信号検出の大幅な改善を提供する。
【0013】
BNNT材料を用いた初期のプロトタイプ中性子検出器を、異なる複数の発光ガス(scintillating gas)を用いて試験した。これらの発光ガスは、アルゴン、窒素、及びキセノンを含んでいた。アルゴンは175nm(7.1eV)において発光し、キセノンは128nm(9.7eV)において発光する。これらの波長はいずれも、典型的な六方晶窒化ホウ素(h‐BN)材料のバンドギャップ励起波長である210nm(5.9eV)未満である。従って、これら2つのガスが、蓄積されたエネルギ1MeVあたり光子15,000~20,000個の範囲の光子の出力を有するにもかかわらず、自己吸収が多く、ごく少量の光しか観察されなかった。窒素は、300~400nm(4.1~3.1eV)、即ちh‐BNのバンドギャップより高い範囲にわたって発光するが、窒素は大気圧において、1MeVあたり光子およそ2,000個を有する。しかしながら、熱中性子吸収イベントは、発光ガスとしての窒素の更なる分析が正当なものとなるような十分なSN比で観察されたように見えた。窒素を用いる実施形態について、ガス圧を、大気圧を超えるもの(約101kPa)から大気圧未満(例えば80kPa、60kPa、40kPa、20kPa、10kPa、5kPa、3kPa、1kPa、0.5kPa、0.1kPa、0.05kPa、及び0.02kPa)まで変化させ、窒素が0.02~1kPaの範囲となるとSN比が改善された。しかしながら、光パルスは典型的には数マイクロ秒の幅を有していた。より狭いパルス幅が好ましい。
【0014】
BNNT材料を第2の発光材料に埋め込み、いくつかの実施形態では第2の発光材料で被覆すると、劇的な信号の増大が生じた。上記第2の発光材料は、いくつかの実施形態では、結晶化ポリマーシンチレータであった。このプロトタイプを用いた結果は、10Bに富むBNNT(「10BNNT」)を用いた熱中性子検出器が、Heベースの熱中性子検出器の発光性能に少なくとも匹敵し、いくつかの実施形態ではこれを超えることを示している。本発明のアプローチのBNNTベースのシンチレータにより、高効率、低電力、軽量の熱中性子検出装置及び方法を実現できる。様々なフォームファクタの10BNNTの更なる特性決定は進行中であり、10BNNTを利用した新たなジオメトリにより、経済的で高速の、ミリメートル未満の分解能での検出が可能となるだろう。これらの進歩は、本発明のアプローチの他の潜在的な用途の中でも、科学、ポータル監視、及び宇宙関連の用途において、放射線検出及び線源位置特定に適用できることを理解されたい。
【0015】
本発明のアプローチでは、大半の実施形態において、「高品質BNNT(high quality BNNT)」をBNNT材料として使用することが好ましい。本明細書中で使用される場合、高品質BNNTは、無触媒の高温高圧合成法で製造され、欠陥がわずかであり、触媒不純物を含まず、壁の数は1~10であり、壁の分布のピークは2であり、壁の数が多いほど迅速に減少する。BNNTの直径は典型的には1.5~6nmであるがこの範囲を超える場合もあり、また長さは典型的には数百(例えば約1~約5、いくつかの実施形態では約2~約5、いくつかの実施形態では約3~約5;ここでこの文脈における用語「約(about)」は±0.2を意味する)nm~数百ミクロンであるが、合成プロセス及び条件によっては、長さがこの範囲を超える場合がある。製造されたままの状態のBNNT材料に関して、高品質BNNTは典型的にはバルク材料の約50%を構成し、ホウ素粒子、非晶質BN、及びh‐BNが、合成プロセスの結果として存在し得る。本明細書中で使用される場合、「ホウ素粒子(boron particle(s))」は、他のホウ素種とは別に存在する遊離ホウ素を指す。合成操作条件を調整することによって、BNNT材料中に残る非晶質BN及びh‐Bn種に対するホウ素粒子の組成を変更できる。ホウ素粒子の含有率を低減すると、典型的には、バルクBNNT材料の光透過性が上昇し、これは本発明のアプローチのいくつかの実施形態にとって有利である場合がある。2017年11月29日出願の同時係属中の国際特許出願第2018/102423A1号で開示されているものを含む様々な純化プロセスを用いて、ホウ素微粒子、BN、及びh‐BNを除去でき、上記特許出願は参照によりその全体が本出願に援用される。非BNNT同素体の削減により、本発明のアプローチにおける検出器の感度を改善できるが、本発明のアプローチは、特に明記されていない限り、特定のBNNT材料の品質又は非BNNT種の相対含有率に限定されないことを理解されたい。
【0016】
本発明のアプローチの実施形態は、複数のBNNTで作製されたBNNT材料と結晶質発光材料とを含む、窒化ホウ素ナノチューブ(「BNNT」)ベースの発光材料の形態を取ることができる。上記結晶質発光材料は、上記BNNTのコーティングであってよく、及び/又は上記BNNT材料内に分散されていてよい。いくつかの実施形態では、上記BNNT材料は、10Bの割合が増強されたBNNTで作製される。10Bのこの増強された割合は、上記BNNT材料を被覆する前、及び/又は上記結晶質発光材料を上記BNNT材料中に分散させる前に決定した場合に、例えば少なくとも50重量%、60重量%、70重量%、80重量%、90重量%、及び95重量%であってよい。複数の有機及び無機結晶質発光材料が利用可能であることを理解されたい。例えば上記結晶質発光材料は、アントラセン、スチルベン、及びナフタレンのうちの1つであってよい。結晶質発光材料の他の例は以下で説明される。
【0017】
いくつかの実施形態は、BNNT材料及び結晶質発光材料の複数の層を特徴とし得る。いくつかの実施形態では、上記BNNTベースの発光材料は、第1の方向、例えばBNNTバッキーペーパーの形成によってもたらされる半径方向に整列されたBNNTを有してよい。いくつかの実施形態は、上記BNNT材料としてBNNTバッキーペーパーを使用してよい。いくつかの実施形態では、上記BNNT材料は、20重量%未満、又は10重量%未満、又は1重量%未満、又は0.5重量%未満の残留ホウ素含有率を有する。
【0018】
本発明のアプローチは、いくつかの実施形態では、BNNTベースの中性子検出器の形態を取ることができる。一般に、BNNTベースの中性子検出器は、少なくとも1つの光子検出器と、BNNT材料及び結晶質発光材料を含むBNNTベースの発光材料とを格納する、チャンバを有してよい。上記結晶質発光材料は、BNNTのコーティングであってよく、及び/又は上記BNNT材料内に分散されていてよい。上記光子検出器は、上記チャンバ内での中性子吸収の結果として上記発光材料を通過するイオンから放出される光子の検出のために位置決めされる。本明細書に記載のBNNT発光材料のいずれを、BNNTベースの中性子検出器に使用してよいことを理解されたい。いくつかの実施形態では、上記チャンバは、光子を上記光子検出器に向かって反射するように位置決めされた少なくとも1つの鏡面を含んでよい。いくつかの実施形態では、上記BNNTベースの中性子検出器は、収集した光を上記少なくとも1つの光子検出器へと搬送するように位置決めされた、1つ以上の光ファイバ逆サイドグロー(fiber optic inverse side‐glow:FOIS)ケーブルを含んでよい。FOISケーブルは、結晶質発光材料の1つのコーティングを有するつや消し部分を含んでよい。上記つや消し部分は、結晶質発光材料のコーティングを有するBNNT材料で被覆されていてよい。
【0019】
本発明のアプローチのいくつかの実施形態は、窒化ホウ素ナノチューブ(「BNNT」)ベースの発光材料の製造方法の形態を取ることができる。例えばいくつかの方法は、BNNT材料を溶媒中に分散させるステップ、発光材料の結晶前駆体を上記溶媒中に分散させるステップ、分散された上記BNNT材料と分散された上記結晶前駆体とを表面上に注ぐステップ、及び上記溶媒を蒸発させて上記表面上に結晶被覆BNNT発光材料を形成するステップを含んでよい。上記結晶前駆体は、アントラセン、スチルベン、及びナフタレンのうちの1つといった有機発光材料であってよい。上記結晶前駆体は、いくつかの実施形態では有機溶媒であり得る、使用される上記溶媒中に、溶解できるものでなければならないことを理解されたい。分散された上記BNNT材料と分散された上記結晶前駆体とを表面上に注ぐ上記ステップ、及び上記溶媒を蒸発させて上記表面上に結晶被覆BNNT発光材料を形成する上記ステップを繰り返すことによって、層状の結晶被覆BNNT発光材料を形成できる。上記BNNT材料は、本明細書に記載されているように、10Bの割合が増強されたBNNTを含んでよいことを理解されたい。上記BNNT材料は、20重量%未満、10重量%未満、1重量%未満、又は0.5重量%未満の残留ホウ素含有率を有してよいことも理解されたい。
【0020】
本発明のアプローチの他の実施形態では、BNNTベースの発光材料の製造方法は、結晶前駆体を溶媒中に分散させるステップであって、上記結晶前駆体は発光材料である、ステップ、分散された上記結晶前駆体をBNNT材料上に注ぐステップ、及び上記溶媒を蒸発させて結晶被覆BNNT発光材料を形成するステップを含んでよい。上記結晶前駆体は、本明細書に記載されているような結晶質発光材料であってよい。分散された上記結晶前駆体をBNNT材料上に注ぐステップ、及び上記溶媒を蒸発させて結晶被覆BNNT発光材料を形成するステップを複数回実施することによって、層状結晶被覆BNNT発光材料を形成できる。いくつかの実施形態では、上記BNNT材料は、10Bの割合が増強されたBNNTを含んでよい。いくつかの実施形態では、上記BNNT材料は、20重量%未満、又は10重量%未満、又は1重量%未満、又は0.5重量%未満の残留ホウ素含有率を有する。この方法のいくつかの実施形態では、上記BNNT材料はBNNTバッキーペーパーであってよい。
【0021】
本発明のアプローチの更に別の実施形態では、BNNTベースの発光材料の製造方法は、BNNT材料を第1の溶媒中に分散させて第1の溶液を形成するステップ;結晶前駆体を第2の溶媒中に分散させて第2の溶液を形成するステップであって、上記結晶前駆体は発光材料である、ステップ;上記第1の溶液と上記第2の溶液とを所望の比率で組み合わせて、複合溶液を形成するステップ;上記複合溶液に、上記結晶前駆体が混和しない第3の溶媒を徐々に加えて、結晶の形成を誘発するステップ;並びに上記第1の溶媒、上記第2の溶媒、及び上記第3の溶媒を抽出して、結晶被覆BNNT材料を形成するステップを含んでよい。上記結晶前駆体は、本明細書に記載されているような結晶質発光材料であってよい。いくつかの実施形態では、上記BNNT材料は、10Bの割合が増強されたBNNTを含んでよい。いくつかの実施形態では、上記BNNT材料は、20重量%未満、又は10重量%未満、又は1重量%未満、又は0.5重量%未満の残留ホウ素含有率を有する。上記第1の溶媒、上記第2の溶媒、及び上記第3の溶媒を抽出する上記ステップは、いくつかの実施形態では減圧ろ過によって達成でき、また上記結晶被覆BNNT材料は結晶被覆BNNTバッキーペーパーを含む。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、10Bでの中性子吸収を示し、これは、周囲材料中で光を放出する、イオンのHe‐Liペアを生成する。
図2図2は、発光性結晶が埋め込まれたBNNT材料を示す。
図3図3は、直径21.5cmのBNNTバッキーペーパーの画像である。
図4図4は、鉛筆の上にあるBNNTバッキーペーパーの画像である。
図5図5は、発光性結晶が埋め込まれ、かつ発光性結晶で被覆された、BNNTバッキーペーパーの断片を示し、いくつかのセクションはUV光照明下にある。
図6図6は、BNNTバッキーペーパー上のアントラセン結晶の光学顕微鏡画像を示す。
図7図7は、チューブ内でのバッキーペーパーとしての発光性結晶被覆BNNT材料を示し、SiPM又はPMTで収集される。
図8図8は、本発明のアプローチのある実施形態による、1つの端部に光検出器を備えたFOIS中性子検出器を示す。
図9図9は、本発明のアプローチのある実施形態による、2つの端部に光検出器を備えたFOIS中性子検出器を示す。
図10図10は、本発明のアプローチのある実施形態による、FOIS中性子検出器の1つの端部を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明のアプローチは、第2の発光材料を含むBNNT材料、特に高品質BNNT材料の有利な使用に関する。上記第2の発光材料は例えば発光性結晶質ポリマーであってよく、BNNTを被覆してよく、及び/又はBNNT材料内に分散されていてよい。いくつかの実施形態は、BNNT材料中のBNNT上のコーティングとして上記第2の材料を含んでよく、またいくつかの実施形態は、BNNT材料内に分散された上記第2の発光材料を含んでよく、またいくつかの実施形態は、BNNT上のコーティングとしての上記第2の材料と、BNNT材料内に分散された上記第2の発光材料との両方を含んでよいことを理解されたい。
【0024】
本発明のアプローチの実施形態における高品質BNNT材料の利用には、多数の利点が存在する。例えば、ホウ素粒子の含有率を1重量%未満、いくつかの実施形態では0.2重量%未満に低減する適切な精製、及びいくつかの実施形態では非BNNT、BN同素体の一部を30重量%未満、いくつかの実施形態では10重量%未満まで除去することによって、BNNT材料は光学的に半透明となり、発光性結晶又はBNNT自体が生成した光を、光子検出器(例えばSiPM又はPMT光子検出器)に到達させることができる。いくつかの実施形態では、上記BNNT材料は真空又は部分真空下にある。しかしながら、本発明のアプローチの好ましい実施形態の別の利点は、結晶形態の第2の発光材料が空気中で安定しており、空気は多くの発光性結晶の波長に対して透過性であることである。いくつかの実施形態では、上記BNNT材料は、ナノチューブ内に、増強された濃度の10Bを含む。ホウ素は天然には、安定した同位体10B及び11Bとして発生するが、11Bは天然ホウ素の約80%を占める。11Bに対する10Bの相対濃度を上昇させると、中性子吸収のための場所が増加する。例えばいくつかの実施形態では、BNNT材料中のホウ素の少なくとも50%が10Bを含んでよく、いくつかの実施形態では少なくとも60%、いくつかの実施形態では少なくとも70%、いくつかの実施形態では少なくとも75%、いくつかの実施形態では少なくとも80%、いくつかの実施形態では少なくとも85%、いくつかの実施形態では少なくとも90%、いくつかの実施形態では少なくとも95%、いくつかの実施形態では少なくとも99%が10Bを含んでよい。(なお、特段の記載がない限り、材料中の成分の百分率は重量百分率である。)10Bを含むホウ素の百分率に対する言及は、BNNTの合成に使用されるホウ素原材料に関するものであり、従って製造されたままの状態のBNNT材料の同位体含有率である。例えば、「BNNT材料中のホウ素の少なくとも50%が10Bである」とは、BNNT材料の合成に使用されるホウ素原材料の少なくとも50%が10Bであったことを意味する。以下の記述は、様々な実施形態の文脈における本発明のアプローチを説明する。
【0025】
本発明のアプローチでは、BNNTは、10Bを原子番号が小さい発光材料の中に分布させるメカニズムを提供する。図1は、結晶被覆BNNT材料13を含む発光用チャンバ18の図である。図1に示されているように、BNNT材料は、コーティングとして、及び/又はBNNT材料全体に分散された、結晶化した第2の発光材料を含む(結晶被覆BNNT材料13と呼ばれる)。中性子11が、存在する何らかの発光性結晶を含む結晶被覆BNNT材料13中のBNNT又は他のホウ素、非晶質BN、若しくはh‐BN種中の10B原子12と相互作用すると、Heイオン14及びLiイオン15(並びに場合によってはガンマ)が生成され、周囲の結晶被覆BNNT材料13内へと進入する。結晶被覆BNNT材料13中のBNNT、ホウ素、非晶質BN、及びh‐BNは、中性子吸収イベントによって最小限しか変化しない又は影響を受けないが、これは、平均的な構造完全性が維持され、光透過性が損なわれない限り、中性子吸収が大半の実施形態で5重量%を超えず、いくつかの実施形態では20%もの高さとなるためである。上記範囲は材料を所定の位置に維持する要素を有する(従って閾値が比較的高く、例えば約20%である)いくつかの実施形態に関するものであり、他の実施形態では、材料は指示構造体の一部であり、従って閾値はより低い(例えば約5%)。Heイオン14は電子を獲得し、結晶被覆BNNT材料13中に可動ガス種として残るが、Liイオン15は、BNNT、ホウ素、非晶質BN、若しくはh‐BNに結合でき、又は場合によっては、周囲のシンチレーション材料が希ガス若しくは窒素ガス以外のものである場合にはこの周囲のシンチレーション材料に結合できる。Liの結合は、ホウ素種及びシンチレータに対して、影響があったとしてもごくわずかな影響しか与えないが、これは、平均的な構造完全性が維持される限り、Liと結合したホウ素種がバルク材料のわずかな割合しか占めない(例えば5%未満、BNNT材料の支持体を有する実施形態では20%未満)ためである。大半の実施形態では、Liと結合するホウ素種の量は、実施形態中に存在する結晶被覆BNNT材料の量を理由として、これらの閾値よりはるかに小さい。Liイオン15はあるいは、周囲のガス又は格納容積18内に存在し得る他の材料(容積18自体を含む)と相互作用する場合がある。Liイオン15の相互作用は、検出器を原子炉の炉心の直近に配置する場合のように、吸収される中性子の量、即ちイベントの数が極めて多い場合に、問題となり得る。一部のBFシステムでは、崩壊信号の検出の一部のモードと干渉する、足場からのフッ素原子の放出という、関連する問題が存在することに留意されたい。フッ素原子の放出は、BNNTベースの検出器に比べて相対的に少ないイベント数で、BFにとって問題となり得る。0.48MeVのガンマはほとんどの材料に対して高い貫通性を有し、ガンマを止めるように明確に設計されていない検出器からはその大半が逃げてしまう。
【0026】
図1に示されている実施形態を参照すると、中性子は、以下の4ステップのプロセスに基づいて検出できる:1)10Bでの中性子の吸収(「イベント」);2)得られた励起状態の11B*の崩壊;3)He及びLiの崩壊生成物による、周囲のBNNT及び発光性結晶の通過並びにこれらの電離;並びに4)得られたシンチレーション光子の検出。プロセス1)及び2)は、以下のように進行する:
94%:n+10B→11B*→He(1.47MeV)+Li(0.84MeV)+ガンマ(0.48MeV)
6%:n+10B→11B*→He(1.78MeV)+Li(1.02MeV)
【0027】
11B*の状態は、約10-12秒間持続する。ガンマが存在する場合、これはLiの励起状態の崩壊に由来する。得られる総電離エネルギは、ガンマの吸収がないと仮定しての2.31MeV(94%)、又は2.80MeV(6%)のいずれかである。
【0028】
いくつかの実施形態では、10B12での中性子11の吸収、即ちイベントにおいて生成される、Heイオン14及びLiイオン15の検出は、以下の2ステップのプロセスで達成できる:1)BNNT材料13中のBNNT、並びにいずれのホウ素、非晶質BN、及びh‐BN不純物を、第2の発光材料16(例えば固体、気体、又は液体シンチレータ)で取り囲むことにより、Heイオン14及びLiイオン15が第2の発光材料の電離によってエネルギを喪失する際に、電離経路17に沿って光が放出されるようにする;並びに2)放出された光を収集し、これを適切な電子信号に変換する(光子検出器は図示されていない)。上記第2のステップは当該技術分野で一般に知られており、光の収集、電子信号への光の変換、及び信号の測定のための好適な技法が、当業者には利用可能である。しかしながら、以下に記載される実施形態は、現代の別の選択肢に比べて改善された光の収集を提供する。第2の発光材料16は、固体、液体、又は気体であってよい。本明細書に記載の好ましい実施形態では、第2の発光材料は結晶コーティングであり、またいくつかの実施形態ではBNNT材料内に分散される。Heイオン14及びLiイオン15は、第2の発光材料中でのエネルギの喪失に加えて、BNNT材料13中で、そのホウ素、非晶質BN、及びh‐BN不純物によって、エネルギの一部を喪失し得る。いくつかの実施形態では、熱中性子検出器は、第2の発光材料の質量をBNNT材料の質量より高くすることによって、電離の大半が第2の発光材料中で発生し、相対的に少量の電離がBNNT材料13中で発生するように、設計できる。第2の発光材料に対するBNNT材料中での電離の比率は、材料の原子番号を多少調整することにより、存在する材料それぞれの質量の比率によって制御される。
【0029】
図1のジオメトリに見られるように、イオンのうちの少なくとも1つは、そのエネルギを常に結晶被覆BNNT材料13中に蓄積する。従って、バルク10BNNT材料が約1mg/cmより厚い場合、10BNNT中には少なくとも0.84MeVが蓄積され、一部のイベントに関しては2.8MeVも蓄積される場合がる。2019年8月28日出願、2020年7月28日発行の、参照によりその全体が本出願に援用される米国特許第10,725,187号は、光の生成、及び1つ以上の光検出器での十分な割合の光の収集の両方のための厚さの最適化に対処している。これらの技法を本発明のアプローチの実施形態において使用してよい。
【0030】
本発明のアプローチの実施形態は、様々なタイプのBNNTを使用できるが、高品質BNNT材料を用いた実施形態が、その光透過性を理由として、最高の信号検出を有することになる。BNNT, LLC(ヴァージニア州ニューポートニューズ)は、高温高圧(HTP)法によって、本発明のアプローチの実施形態で使用できる高品質BNNT材料を製造している。上記合成プロセスは触媒を使用せず、上記プロセスはホウ素及び窒素ガスのみを原材料として使用する。高品質BNNT材料中のBNNTは欠陥をほとんど有さず、1~10個の壁を有し、壁の分布のピークは2~3であり、壁の数が多いほど迅速に減少する。これらの材料のBNNTの直径は典型的には1.5~6nmであり、上記直径はこの範囲を超える場合もある。これらの材料のナノチューブの長さは典型的には数百nm~数百ミクロンであり、上記長さはこの範囲を超える場合もある。
【0031】
以下のいくつかの段落は、製造されたままの状態のBNNT材料に言及し、これは本明細書中で使用される場合、BNNT,LLCから入手可能な高品質BNNT材料を指す。製造されたままの状態のBNNT材料に関して、上記材料の組成は、合成パラメータに大きく依存し、高品質BNNT、ホウ素粒子、非晶質窒化ホウ素(a‐BN)、六方晶BN(h‐BN)、h‐BNナノケージ、及びh‐BNナノシートの混合物である。製造されたままの状態の上記材料の非BNNT成分は典型的には、サイズが数十nm未満(例えば約10~約50nm、いくつかの実施形態では約20~約50nm、いくつかの実施形態では約30~約50nm;ここでこの文脈における用語「約」は±0.3を意味する)であるが、上記サイズはこの範囲を超える場合もある。HTPプロセスの製造パラメータを調整することにより、a‐BN及びh‐BN種に比べてホウ素を多く又は少なくすることができる。
【0032】
製造されたままの状態のBNNT材料は、1リットルあたりおよそ0.5グラム(0.5g/L)であり、±50%変動し得る。「タップ密度(tap density)」のこの値は、h‐BNに関する密度2,100g/Lと比較できる。製造されたままの状態のBNNT材料は「綿毛(cotton ball又はpuffball)」の外見を有する。BNNT材料は、天然のホウ素又は10B又は11Bを用いて、同じように良好に作製できる。いくつかの実施形態では、BNNT材料は、増強された濃度の10Bをナノチューブ内に含む。例えばBNNT, LLC(ヴァージニア州ニューポートニューズ)は、96重量%富化ホウ素原材料を利用して、10B含有BNNT材料を製造している。増強された濃度の10Bは、全て重量に関して、25%を超える10B、30%を超える10B、35%を超える10B、40%を超える10B、45%を超える10B、50%を超える10B、55%を超える10B、60%を超える10B、65%を超える10B、70%を超える10B、75%を超える10B、80%を超える10B、85%を超える10B、90%を超える10B、又は95%を超える10Bを含み得ることを理解されたい。本明細書は、10BNNTを略称とする、増強された10B濃度を有するBNNT材料について言及する。様々なレベルの10Bに富む原材料が利用可能であり、本発明のアプローチから逸脱することなく、他の割合も使用可能であることを理解されたい。
【0033】
10BNNTの綿毛状のフォームファクタは、初期プロトタイプ作成に利用されたが、放射線及び熱中性子検出器のいくつかの実施形態にとって構造的な制限を有する場合がある。更に、BNNT材料中のホウ素粒子は、関心対象の波長に対する吸収性を有するため、除去することが好ましい。2017年11月29日出願の、参照によりその全体が本出願に援用される国際特許出願第2018/102423A1号を含む、様々な純化及び精製プロセスを用いて、高品質BNNT材料中のホウ素微粒子を除去できる(「除去」は本明細書中で使用される場合、量の大幅な削減を含む)。一般に、BNNT材料の残留ホウ素粒子含有率の低減により、シンチレータとしてのBNNT材料の使用が改善される。いくつかの実施形態では、純化後に残っている残留ホウ素粒子は、BNNT材料の20重量%未満を構成し、いくつかの実施形態では、残留ホウ素粒子は、BNNT材料の10重量%未満を構成し、いくつかの実施形態では、残留ホウ素粒子は、BNNT材料の5重量%未満を構成し、いくつかの実施形態では、残留ホウ素粒子は、BNNT材料の1重量%未満を構成し、いくつかの実施形態では、残留ホウ素粒子は、BNNT材料の0.5重量%未満を構成する。更に、精製プロセスを微調整することによって、a‐BNの大半、並びに必要に応じてh‐BNナノケージ及びh‐BNナノシートの一部を、特にその縁部に沿って及びいずれの欠陥の付近において、更に除去することもできる。当該技術分野の他の精製プロセスとは異なり、本明細書で言及される精製プロセスは酸ベースではなく、最終的なBNNT材料にいかなる金属も導入しない。以下の記述は、合成されたばかりの状態のBNNT材料をベータ、ホウ素粒子が除去された(即ち少なくとも20重量%未満である)BNNT材料をガンマ又はR、BN同素体がある程度除去されたBNNT材料をゼータ又はRXと呼ぶ。
【0034】
BNNT, LLC(ヴァージニア州ニューポートニューズ)からの合成されたばかりの状態の10BNNT材料の、3つの異なる形態について、ここで説明する。最初のP1シリーズは、オリジナルの、製造されたままの状態のBNNT材料を表す。P2シリーズは、より多くのホウ素粒子を有する一方でh‐BNナノシートが大幅に少ないというトレードオフを表す。SP‐10シリーズは、高スループットHTPプロセスで製造されることを除いて、P2と同様である。以下で報告される最初の10BNNTシンチレーションの結果は、P1‐ベータBNNT材料によるものであり、このベータという標識は、材料が、いずれのホウ素粒子の除去のために純化されなかったことを示している。
【0035】
本発明のアプローチに好適なBNNT材料のフォームファクタに関して、製造されたままの状態の綿毛状、からBNNTマットやBNNTバッキーペーパーに至るまでの様々なものを使用できる。BNNTバッキーペーパーは、本発明のアプローチの多くの実施形態に非常に好適である。BNNTバッキーペーパーは、BNNT材料を溶媒中に分散させ、このBNNT分散物をろ過し、フィルタ上のBNNTを回収し、溶媒を乾燥させて、フィルタ上でBNNTバッキーペーパーを形成することによって、形成できる。BNNTバッキーペーパーは、多様なサイズで、本明細書で言及される様々なBNNT材料(例えばP1、P2、SP‐10、ベータ、ガンマ及びゼータ、R及びRX)の全てから、製造された。様々な実施形態で使用されるBNNTバッキーペーパーは、10~200ミクロンの厚さを有する。1mg/cm付近の面密度に関して、厚さは典型的には10~20ミクロンであるが、他の実施形態はこの範囲を超える場合もある。高圧縮力下に置かれたBNNTバッキーペーパーに関して、圧縮後の厚さはわずか0.7ミクロンとなり得るが、本明細書で議論される実施形態で使用されたBNNTバッキーペーパーは、外圧を受けなかった。10ミクロンの10BNNTバッキーペーパーは、典型的には1mg/cm付近であり、表面に衝突する熱中性子の10%を吸収する。
【0036】
BNNTバッキーペーパーを採用した様々なプロトタイプを評価した。直径3.5cm及び7cmのBNNTバッキーペーパーを、多くのプロトタイプで使用したが、他の実施形態では他の寸法を使用する場合もある。図2は例えば、BNNT, LLCからのBNNT材料を用いて形成された、直径21.5cmのBNNTバッキーペーパー21を示す。BNNTバッキーペーパー21は、ろ紙22及びアルミホイルのシート23の上にある。BNNTバッキーペーパーは、図3に示されているような本発明のアプローチに好適な光学特性を有し、図3では30mmの小ささの、1mg/cm、直径30mmのP2ゼータBNNTバッキーペーパー31が、鉛筆32の一部分を覆っている。図3で確認できるように、BNNTバッキーペーパー31を通して鉛筆32を視認できる。製造されたままの状態のBNNT材料によって異なるものの、ここで説明されるプロトタイプで使用されたBNNT材料に関しては95重量%を超えると推定される、ホウ素粒子の大半を、精製プロセスで除去することによって、可視光は、わずかにすりガラス加工されたガラスを通過する光と同様に、わずかな歪みでバッキーペーパーを通過している。
【0037】
図4は、BNNTナノチューブ43と、BNNTナノチューブ43の端部に存在し得るh‐BNの結節44と、並びに一体に接合してh‐BNの結節を形成し得るa‐BN、h‐BNナノケージ、h‐BNナノシート、及びいくつかの実施形態ではホウ素粒子の様々な微粒子45とで構成された、BNNT材料への、発光性結晶42の混合41を示す。これらのBN同素体は全て、熱中性子の吸収のための10Bに寄与する。いくつかの実施形態では、発光性結晶42でBNNT材料を事前に被覆してよく、またいくつかの実施形態では、発光性結晶42をBNNT材料上に形成し、かつBNNT材料内に分散させてよい。
【0038】
以下のいくつかの段落は、発光性結晶42をBNNT材料に導入するための4つの実証的アプローチを説明する。当業者は、代替的なアプローチを用いて、第2の発光材料でBNNT材料を被覆する、及び/又は第2の発光材料をBNNT材料内に分散させることもできることを理解されたい。第1の例では、結晶前駆材料を、BNNTが分散された溶液に入れてよい。例としてアントラセンを使用し、アントラセンを、エタノール及びイソプロピルメチルアルコール(IPA)等の有機溶媒中に分散させてよく、その後、BNNTをこの溶液に入れて撹拌してよい。本発明のアプローチにおける好ましい第2の発光材料であるアントラセンは、所与のレベルの電離に対して、有機シンチレータの中で最も高いシンチレーション光出力を有する。当業者には理解されるように、BNNTの形状因子(例えばBNNTが綿毛状であるか粉末であるか)に応じて、混合物の撹拌又は超音波処理のレベルは変化することになる。発光性前駆体とBNNT材料との質量比は、実施形態、並びにHe及びLiイオンの電離損失の平衡に応じて、変更できる。典型的には、上記質量比は最大2倍だけ変化するが、この範囲を超える実施形態も、その比が結晶被覆BNNT材料を通した光の伝播に利する場合には利用可能である。例えばアントラセンは、室温においてエタノール1リットルあたり2グラム溶解し、また、綿毛状であっても粉末であっても、2グラムのBNNT材料は、BNNT材料をしっかりと撹拌することによって、エタノール中に容易に分散させることができる。次に、アントラセン‐BNNT‐エタノール混合物を、金属又はプラスチック表面等の標的表面上に置くことができる。いくつかの実施形態では、上記表面は、結晶被覆BNNT材料を所望のフォームファクタに成形するための型であってよい。エタノール溶媒を蒸発等によって除去して、BNNTを被覆したアントラセン結晶、及びBNNT材料内に分散されたアントラセン結晶を残すことができる。このプロセスを1つの表面に対して必要に応じて複数回繰り返すことで、特定の厚さの結晶被覆BNNT材料層を製造できる。
【0039】
第2の発光材料をBNNTに導入する第2の方法では、溶液中の結晶前駆材料をBNNTバッキーペーパーに導入してよい。この方法では、BNNTバッキーペーパーは、上述のようにしてBNNT材料から調製され、図2、3に図示されている。結晶前駆体の溶液をBNNTバッキーペーパー上に注ぎ、典型的には蒸発プロセスによって溶媒が除去されるまで、溶液をそのままとし、これにより、第2の発光材料の被覆及び分散の両方が得られる。BNNTバッキーペーパー中のBNNTの被覆、及びBNNT材料内での結晶シンチレータの分散を繰り返すことにより、BNNT上及びBNNTバッキーペーパー内における所望の結晶装入量を達成できる。上述のように、アントラセンは好ましい第2の発光材料であり、結晶被覆BNNT材料を形成するこの方法で使用できる。この方法は室温で実施できるが、材料を約10~50℃だけ昇温するとより迅速に進行させることができる。このプロセスの何らかの時点で、アントラセン‐エタノール溶液はBNNTバッキーペーパーへの侵入を停止することになり、アントラセン結晶が表面上だけで成長することになる。結晶の成長は、フェルト様のBNNTバッキーペーパー表面の微小構造が、アントラセン結晶のコーティングによって、よりなめらかに、ただしまだら模様になることによって、観察できる。このプロセスからの一例が図5に示されており、ここではアントラセン‐エタノール溶液は、BNNTバッキーペーパーの幅およそ1cmの小さな断片の左側52及び右側53に沿ってのみ、配置された。結晶被覆プロセスの初期段階では、アントラセン‐エタノール溶液はBNNTバッキーペーパー中に入り込むだけであり、BNNTバッキーペーパーの表面を被覆しなかった。面質量密度の比率は、10部のBNNT材料に対して約1部のアントラセン結晶であった。BNNTバッキーペーパーを形成する結晶被覆BNNT材料の左側エリア52及び右側エリア53は、図5の画像では、この断片の中央部分に比べて明るいが、これは、照明にほとんどUVである光が使用されており、これらの側部が、中央部分のアントラセン結晶を含まないBNNTバッキーペーパー51に比べて青色に発光するためである。
【0040】
図6は、BNNTバッキーペーパー上のアントラセン結晶61の光学顕微鏡画像を示す。これらの結晶のサイズは数ミクロン~約50ミクロンであるが、一部はこの範囲を逸脱する場合がある。この画像では、結晶被覆BNNT材料の表面上のアントラセン結晶61を視認できる。上記プロセス後に形成された結晶61は、更におよそ1mg/cmのアントラセン結晶61が使用されたBNNTバッキーペーパーの表面に追加されるレベルで、繰り返された。確認できるように、上記結晶のサイズは典型的には数ミクロン~50ミクロン(例えば約1~約5μm、いくつかの実施形態では約2~約5μm、いくつかの実施形態では約3~約5μm;ここでこの文脈における用語「約」は±0.3を意味する)であり、結晶の一部はこの範囲を超えて成長する。典型的には、素粒子及び核物理実験では、アントラセンがシンチレータとして使用される場合、長さ数センチメートルの大きな結晶を成長するために多大な努力が払われる。しかしながら、図5に示されているように、また以下で説明されるように、BNNT材料内のミクロンスケール(例えば最大約50ミクロン、場合によってはそれを超える)のアントラセン結晶はシンチレータとして機能し、ミクロンスケールの結晶は本発明のアプローチにとって好ましい。
【0041】
第2の発光材料をBNNTに導入する第3の実証的方法では、発光性結晶は、ミリング、及びブレンダー内でのしっかりとした撹拌といった1つ以上のプロセスによって、BNNT材料に乾式混合される。このプロセスは、シンチレータ材料を所望のフォームファクタに成形することに関して、及び容易に溶液にならない第2の発光材料、例えばヨウ化ナトリウムの溶解に典型的に使用される水の中ではタリウムを失う可能性があるタリウムドープヨウ化ナトリウム、又は例えば1700℃を超える温度で形成され、溶媒に溶解しない、セリウムドープルテチウムアルミニウムガーネット(Ce:LuAG)セラミックを扱うことに関して、利点を有し得る。第2の発光材料の他の非限定的な例は、以下に記載される。この方法の、いくつかの実施形態に関する潜在的な欠点は、得られる材料が、検出器装置の光子検出部品にシンチレーション光を効率的に到達させるために十分な透明性を有しない可能性がある点である。
【0042】
発光材料をBNNT材料に導入する第4の実証的方法は、第1の方法のバリエーションであり、いくつかの実施形態について好ましい方法である。アントラセンを、使用される温度(例えば多くの場合は室温)でのその飽和量の30重量%以内となるレベルで、撹拌によってIPA又はエタノール、メタノール、ヘキサン、アセトン、クロロホルム、若しくはジエチルエーテルといった別の溶液に溶解させる。これとは別個に、BNNT材料を、IPA、エタノール、メタノール、ヘキサン、アセトン、クロロホルム、ジエチルエーテル、又は他の適切な溶媒であってよい同一の又は適合する溶媒に入れ、BNNTの綿毛又は他の開始材料を崩壊させて懸濁させるために十分な時間にわたって(例えば約50時間、約60時間、約70時間、約80時間、約90時間、又は約96時間、又は約100時間にわたって;ここでこの文脈における用語「約」は±2時間を意味する)撹拌する。続いてBNNT開始材料の溶液を、浴での超音波処理又はプローブでの超音波処理を含むがこれらに限定されない別の機械的分散技法に供してよい。典型的には、溶媒1mLあたり0.01~2mgのBNNT材料が存在する。次に、BNNT材料の分散物とアントラセン溶液とを、混合物中でのBNNT対アントラセンの目標質量比(例えば1:1~1:2、ただし所望の結果に応じて他の比を用いてもよい)で、組み合わせる。次に、水、又はアントラセンが混和しない別の溶媒(典型的には、関心対象の温度において0.5mg/mL未満)を、BNNT、アントラセン及びIPAの十分な量の混合物に滴下し、撹拌によってアントラセンを沈殿させる。続いてこの混合物を、結晶の形成を可能とするよう、十分に(例えば50~100時間、例えば約50時間、約60時間、約70時間、約80時間、約90時間、又は約100時間、又は約96時間;ここでこの文脈における用語「約」は±2時間を意味する)撹拌する。当業者であれば、モル画分、溶媒導入の速度、及び温度が、溶媒ベースの結晶成長法における結晶のサイズ及び品質に影響することを理解するだろう。上述のパラメータ空間での試験は、15秒~1分以内に重量%比2:3で水を導入することにより、典型的には5ミクロン未満のサイズのアントラセン結晶が生成され、結晶の大半は、中性子検出器での光の生成のために機能する1ミクロン未満のサイズであることを示した。その後、減圧ろ過を利用して、BNNT材料、アントラセン、及びアントラセンで被覆されたBNNT材料の混合物の抽出を行ってよく、これにより、結晶コーティングと、BNNT材料内に分散された結晶とを有する、BNNTバッキーペーパーが得られる。このアプローチを用いて調製されるBNNTバッキーペーパーの厚さは10~100ミクロンであり、体積密度は0.1~0.8g/cmであるが、他の実施形態ではこれらの範囲を超える場合もある。アントラセンを用いたこのアプローチは、適切な溶媒系を用いて溶液中で沈殿させることができる他の第2の発光材料にも有効であることを理解されたい。
【0043】
第2のシンチレータ材料として使用できる様々なシンチレータ材料が存在する。有機結晶に関しては、様々な相互連結パターンのベンゼン環を有する芳香族炭化水素が多い。有機結晶シンチレータの例としては、アントラセン、スチルベン、及びナフタレンが挙げられる。アントラセンは、上述のように、所与のレベルの蓄積された電離に対して他のどの有機シンチレータよりも多くの光を生成するため、本明細書に記載の例で使用され、またエタノール及びIPAに容易に溶解し、研究室環境での作業が容易であるため、初期試験で使用された。しかしながら、一般に使用される有機シンチレータは他に20種以上存在し、また、Hilger Crystals(マサチューセッツ州コンコード)及びSaint‐Gobain Crystals(ニューハンプシャー州ミルフォード)から入手可能なもの等、利用できる無機シンチレータも概ね同数存在する。他の例としては、ゲルマニウム酸ビスマス(BGO)‐Bi4Ge3O12、タングステン酸カドミウム‐CdWO4、CLYC‐Cs2LiYCl6(Ce)、ユーロピウムドープフッ化カルシウム‐CaF2(Eu)、GLuGAG‐(Gd,Lu)3,(GaAl)5,O12(Ce)、ルテニウムイットリウムシリケート(Lutetium Yttrium Silicate:LYSO)、ナトリウムドープヨウ化セシウム‐CsI(Na)、ヨウ化ナトリウム‐NaI、タリウムドープヨウ化セシウム‐CsI(Tl)、タリウムドープヨウ化ナトリウム‐NaI(Tl)、イットリウムアルミニウムガーネット(Yttrium Aluminium Garnet:YAG)、イットリウムアルミニウムペロブスカイト(Yttrium Aluminium Perovskite:YAP)、及びタングステン酸亜鉛が挙げられる。以下で説明される、結晶被覆BNNT発光材料を形成するための第3の方法は、これらの無機結晶発光材料に適したものであり得ることを理解されたい。アントラセンは、結晶被覆BNNT材料を、加速器の粒子ビームライン内といった超高真空(ultra‐high vacuum:UHV)中に置く必要がある環境、又は上記材料を、地表から数キロメートル下となり得るダウンザホール掘削システム内といった高温下に置く必要がある環境には、好ましくない場合がある。幸いにも、BNNT材料は、ほとんどの環境で700℃超の温度に耐え、また多くの場合、真空、又はアルゴン及び窒素等の非反応性ガスといったいくつかの環境で、遥かに高い温度、例えば1500℃に耐える。その結果、これらの環境に適した発光性結晶を利用でき、蒸着等のより高温の成長系を利用でき、又は第3の方法として上述した混合方法を利用でき、これは、セラミックシンチレータをBNNT材料の結晶コーティングに使用する場合に適したものであり得る。アントラセンについての更なるコメントは、アントラセンは空気中、及び化学的に相互作用しない他のいずれの環境で、良好に機能するということである。これにより、検出器の製造性が支援される。
【0044】
1モルの10B(10g)の熱中性子断面積(thermal neutron cross section area:TNCSA)は、原子6.022×1023個/mol×3835バーン/原子=0.23m/molであり、ここで1バーン=10-28である。比較として、HeのTNCSAは0.32m/molである。高品質BNNT材料は少なくとも、1平方メートルあたりに必要な量に基づくとHeよりもコスト効率が高くなる。更に10BNNT材料は、より効率的に配備できる。熱中性子検出器は多くの場合、cps/nv(1秒あたりの計数/1平方センチメートル・1秒あたりの1中性子束)で評価される。この尺度を用いると、単純に検出器のサイズを大きくすれば、cps/nvの評価が向上する。材料の利用率に対する熱中性子の効率の評価、即ちTNEは、cps/nvの評価を、この評価を達成するために必要なTNCSAで除算することで作成できる。このTNE評価により、利用可能な情報に基づくと、典型的な円筒状He検出器のTNEは、2.7気圧検出器(内部圧力が一部の国の輸送安全限界である40psi(276kPa)未満であるため、容易に輸送できる検出器)に関して、4,635~4,676である。降圧He検出器は、10気圧のHeで3,334、20気圧のHeで1,795のTNE評価しか有しない。このように高圧において性能が低くなるのは、検出器の中心としてのHeガスが、表面付近のガスによって遮蔽されているためである。本発明のアプローチによる製造可能な10BNNT熱中性子検出器のTNE評価は、少なくとも5,000を超えるものとなる。
【0045】
アントラセンベースの結晶被覆BNNT材料の初期試験に使用した検出器のジオメトリを図7に示す。上述の第2の方法を用いて、1mg/cmをわずかに超えるBNNTバッキーペーパー71に、エタノールの蒸発後におよそ同一の面密度のアントラセン結晶72となるまで、アントラセンを含むエタノールを注入し、その後、上述の第2の方法によって、更におよそ1mg/cmのアントラセン結晶で被覆した。この追加のアントラセン結晶のみの層72は、結晶被覆バッキーペーパーの外側表面をチャンバの方向に離れる、イベントからのHe及びLiイオンが、全て通過した後、発光性結晶中で停止させられるようにするためのものである。イベントからの光はチャンバ73内で散乱し、複合パラボラ集光器(compound parabolic concentrator:CPC)によって、SiPM又はPMTである光検出器75へと向けられる。チャンバ73及びCPCの両方の内側表面はアルミニウムである。これは、この材料が、アントラセンがシンチレーションプロセスにおいて主に放出する光の青色波長を略99%反射するためである。
【0046】
以下のいくつかの段落は、プロトタイプの中性子試験を説明する。使用したADCはCAEN DT5730であった。光検出器は、SensL ArrayC‐60035 quad SiPM及びHamamatsu R6094 PMTであった。これらはいずれも青色の光子に対して感受性を有する。これらの試験のための中性子源は、AmBe源及び天然のバックグラウンドであった。地表付近の大気及び物質との宇宙線の相互作用は、地表での熱中性子の主要な発生源である。この熱中性子束は、ヴァージニア州ニューポートニューズで7中性子/m/sと推定されているが、周囲の物質、標高、緯度、及びその他の場所固有の条件に応じて、大幅に、この範囲を超えて変化する可能性がある。天然のバックグラウンドは、試験されたPMT構成では、0.4カウント/分(CPM)を与えると予想された。AmBe源は較正されなかったため、全ての測定値は相対値である。AmBe源からのガンマ線バックグラウンドを排除するために、鉄、鉛、及びタングステンの組み合わせで検出器を遮蔽した。AmBe源からの熱外中性子及び高速中性子を熱化するために、3つの量の高密度ポリエチレン(high density polyethylene:HDPE):0、1”、2”を検出器の周りに置いた。PMTに関して、測定されたレートを表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
AmBe源からの中性子を熱化するHDPEの厚さによる、観察されたレートの変動が示すように、PMT検出器は熱中性子を効率的に検出した。源なしの場合のレートである7CPMが、予想された天然のバックグラウンドの場合のレートを上回ることによって観察されるように、システム全体にバックグラウンドが存在した。観察されたパルスの半値全幅は典型的には、10~20ナノ秒であった。これは、複数のイベントを有するセグメント化された検出器に関する、10ナノ秒未満の一致性能を示す。
【0049】
SiPM検出器システム内のアントラセン結晶被覆BNNT材料は、PMTシステムで使用される結晶被覆BNNT材料の量の約半分未満であり、10Bの量の約半分が存在するエリアのおよそ1/3を覆った。使用されたSiPMは、クアッドSiPMの4つの要素それぞれにおいて極めて高いノイズレートを有していたため、一定分数弁別を利用してこれらを一致させた。上記4つの要素のうちの少なくとも2つが、イベントを示す信号を有している必要があった。上記一致は、10ナノ秒のウインドウ内で発生した。SiPMの要素間のランダムな一致からベースレートを決定するために、周囲から光を収集できないようにSiPMを覆い、これらの条件下で、119CPMを計数した。このレートは、SiPMに印加されるバイアス電圧に依存していた。SiPMの高いノイズレートの課題は、これを用いて作業を行う当業者には公知であり、将来計画されている作業は、この用途のためにノイズがはるかに少なくなったSiPMで行われる。
【0050】
表2は、SiPMの結果を示す。イベントレートは、PMTレートの1/4付近であった。これは極めて大まかに言って、予想されたレートの1/2である。イベントレートがノイズ一致レートの1/10よりも低かったため、この不一致はたいてい、システムにおける上述のノイズの問題の要因であると考えられる。観察されたパルスの半値幅は、100ナノ秒付近であった。ここでもまた、SiPMシステムは測定のために十分に最適化されておらず、タイミングは10ナノ秒よりも優れていたものの、パルス幅は理想的には更に狭い。しかしながら、HDPEの0”、1”及び2”の間のレートの変動の、PMTで見られたパターンが、よく観察された。
【0051】
【表2】
【0052】
実証されたように、PMTは、結晶被覆BNNT材料中の熱中性子の効果的な検出器として使用できるものの、比較的大型で重いという欠点があり、またこれらは、高い電圧、例えば典型的には500~1000ボルト、及び非常に高い電力を必要とする。SiPMは小型であり、100V未満(典型的にはわずか25V~50V)しか必要なく、低電力で動作する。PMT及びSiPMはいずれも、10ナノ秒未満のタイミング性能を有することができる。しかしながらSiPMは、光子に対する感度が高い一方で、上述のようにPMTよりも高いノイズレベルを有する。
【0053】
PMT及びSiPMの立ち上がり時間感度は10ナノ秒未満である。回復時間は、使用される結晶のシンチレーション時間、及びプリアンプの入力のSiPMの静電容量によって決まる。アントラセンを結晶発光材料として用いると、パルスの合計時間は数百ナノ秒を大きく下回る。その結果、最大検出レートは1MHzに近いものとなり得る。一部の発光性結晶ははるかに長い崩壊時間を有し、最大検出レートはより小さくなる。
【0054】
2020年に計画された全範囲の測定はパンデミックによって中断されたが、図7に示されているジオメトリを有する上述のSiPMと、上述の第4の方法をSP10‐R BNNT材料と共に用いて調製されたアントラセン被覆BNNT材料とを用いた測定が達成された。この改良された材料は、上述の第2の方法で調製された従来の材料のおよそ4倍優れた性能を発揮した。これは、上記改良された材料が、PMTの性能に近いレベルの性能を発揮したことを示す。
【0055】
発光材料の改良に加えて、本発明のアプローチの下で優れた中性子検出器を達成することの別の態様は、光の収集、及び発光プロセスからSiPM又はPMTへの光の輸送を最適化することである。光ファイバサイドグローケーブルは典型的には特殊な照明に使用され、この特殊な照明では典型的には、つや消し加工された又は表面処理された光ファイバケーブルの端部にLEDが配置され、光がつや消しセクションに沿って放出される。いくつかの実施形態では、この構成の逆バージョンを使用してよく、ここでは光ファイバケーブルはつや消しセクション、又は部分つや消しセクションを有し、光はケーブルのつや消しセクションから、ケーブルの非つや消しセクションへと流れる。これらのケーブルは、ガラス、又はPMMAやポリスチレン等のポリマー、又は内部全反射ではないにしても高い内部反射を有する他の材料で、作製されていてよい。この実施形態は、光ファイバ逆サイドグロー(FOIS)構成と呼ばれる。つや消しセクションに入る光について、この光の一部分は、内部全反射して輸送された光子の流れとしてケーブルの非つや消しセクションに入り、これは、SiPM又はPMT等の光検出器によって検出できる。結晶被覆BNNT材料中でイベントから大量の光が観察されるため、このような実施形態は実用的である。一部の熱中性子の検出の要件は、イベントの位置のmm未満の分解能、又は大面積検出器についてはセンチメートル以上の分解能の恩恵を受ける。結晶被覆BNNT材料が源であることによって、FOIS構成での熱中性子イベントの位置特定が可能となる。
【0056】
図8は、FOIS中性子検出器のある実施形態を示す。複数の個別のFOISケーブル81が、チャンバ82内に配置される。FOISケーブル81は、1mm未満(例えば約0.5~約5mm、いくつかの実施形態では約2~約5mm、いくつかの実施形態では約3~約5mm;ここでこの文脈における用語「約」は±0.3を意味する)の直径を有することができるため、これらはチャンバの長さにわたって柔軟なものとなることができ、チャンバはFOISケーブル81を支持するいずれの長さを含むいずれの形状のものとすることができる。FOISケーブルのつや消しセクション83は、シンチレータ結晶コーティング及び/又は結晶被覆BNNT材料84で覆われる。いくつかの実施形態では、BNNT材料を伴わないシンチレータ結晶コーティングを最初にFOISケーブル81上に直接堆積させる場合、ケーブル自体のつや消し処理は不要となり、上記シンチレータ結晶コーティングがFOISケーブル自体のつや消し処理と同等の光学的条件を生成することになる。結晶被覆BNNT材料84中の光と、FOISケーブルのつや消し処理又はFOISケーブルの結晶コーティングによる初期の被覆との間の、光結合のレベルは、つや消しセクション83の長さを決定する。He及びLiイオンの全てのエネルギがFOISケーブルに到達する前に収集されるように、結晶コーティングの厚さは1mg/cm付近である必要がある。典型的には、大半のシンチレータに関して、結晶コーティングの厚さはわずか5~20ミクロンである。直径4mmのFOISケーブルを用いた試験では、長さ10cmの50%つや消しセクションについての完全に内部に閉じ込められるモードに対して、出力に輸送される光の変動はわずか20%であることが観察された。この10cmの長さを100%つや消し処理した場合、上記変動は50%付近まで上昇した。この測定に関するつや消し処理は、サンドブラストによって行われた。FOISケーブルからの光の最も効率的な収集は、つや消し処理のレベルをケーブルの表面上の発光性結晶と合わせたものが、サイドグロー構成で動作させた場合にFOISケーブルの一方の端部に入る光の50%が上記ケーブルのつや消し領域において上記ケーブルから出るようなものである場合に、発生する。この基準により、FOISケーブルの結晶コーティング及びつや消し処理のレベルを容易に試験できる。ある所与の実施形態では、つや消し処理のレベル、つや消しセクション83におけるFOISケーブル81の表面への結晶コーティングの適用、及びFOISケーブル81の直径を、光出力についての特定の検出器要件を満たすために試験しなければならない。サイドグロー光ファイバケーブルを用いて作業を行う当業者には公知であるように、これらのケーブルは、数センチメートルから数メートルに及ぶ多様な距離にわたってグロー効果を効率的に生成できるよう、様々なレベルのつや消し処理で入手できる。FOISは、この概念の逆を用いて光を逆方向にポンピングするものであり、サンドブラスト、化学的手段、結晶コーティング、又は結晶被覆BNNT材料84の直接適用によるつや消し処理のレベルを最適化するために、上述のパラメータの測定を実施しなければならない。最適なレベルのつや消し処理は、FOISケーブル81のつや消しセクションの周囲の結晶被覆BNNT材料84中で、イベントからの光を最大量収集する。更に、1mg/cmの結晶コーティング85を検出器のつや消しセクションの領域の外層として蒸発させることにより、全てのHe及びLiイオンがチャンバ82の壁に到達する前にシンチレータ結晶と相互作用することを保証できる。第2の発光材料にアントラセンを用いる場合、チャンバ82の内側は通常、上述のように高い光反射率を理由として、アルミニウムである。更に、この内側の結晶層85は、チャンバのアルミニウム内層に直接適用でき、また多くの場合チャンバ自体をアルミニウムとすることができるが、これは必須ではない。更に、FOISケーブルの端部87をアルミニウム等の反射性材料で被覆することにより、光を反射して戻し、この光を光子検出器86の方向に輸送する。
【0057】
図9は、SiPM又はPMTを利用したFOISベースの検出器のある実施形態を示す。結晶被覆BNNT材料及びつや消しケーブルのセクション92を備えたFOISケーブル91が、光をSiPM又はPMT95へと運ぶ集光器94を有する、アルミニウム等の反射性チャンバ93内にある。この実施形態の全体のサイズは、幅1cm未満から幅数メートルまで変化させることができ、FOISケーブルの直径は上述の範囲全体をカバーできる。いくつかの実施形態では、SiPM若しくはPMTをセグメント化して、又は複数のSiPM及びPMTを利用して、検出したイベントの空間分解能を改善でき、またいくつかの実施形態では、複数の層の方向を交互に、複数の角度のものとすることによって、イベントの検出の二次元的な空間分解能を可能にすることができる。更にいくつかの実施形態では、セグメント化されたフォトカソードを備えたPMTを利用してもよい。
【0058】
図10は、図8、9に示されているジオメトリを有するFOIS検出器の結晶被覆BNNT材料104のセクションの垂直断面図を示す。図10に示されている実施形態では、FOISケーブル101は、FOISケーブル101の断面に沿って50%つや消し処理102されている。更にFOISケーブル101は、He及びLiイオンの全てのエネルギがFOISケーブル101に到達する前に収集されるように、1mg/cmの結晶被覆103を施されている。この実施形態では、結晶被覆BNNT材料104は蒸発させられるか、FOISケーブル101上に堆積させてFOISケーブル101の周りで蒸発させられる。更に、1mg/cmの結晶コーティング105を外層として蒸発させることにより、全てのHe及びLiイオンがチャンバ106の壁に到達する前にシンチレータ結晶と相互作用することを保証する。結晶にアントラセンを用いる場合、チャンバ106の内側は通常、上述のように高い光反射率を理由として、アルミニウムである。更に、この内側の結晶層105は、チャンバのアルミニウム内層に直接適用でき、また多くの場合チャンバ自体がアルミニウムである。存在する空気又は他のガスの量を最小限に抑えることに注意を払う必要がある。これは、1cmの空気はHe及びLiイオンを停止させることになり、従ってアントラセンを用いた検出器内に空気があることに問題はないものの、結晶被覆BNNT材料105の付近の領域においてその体積を最小限に抑える必要があるためである。
【0059】
図8、9、10に示されているFOISケーブルのジオメトリは、互いに整列された複数のFOISケーブルを有する。別のジオメトリも利用可能である。例えばいくつかの実施形態では、複数の層を交互に、互いに対して90°とすることによって、X‐Y FOIS中性子検出器を作製できる。熱中性子キャプチャイベントからのシンチレーション光の半分がX軸FOIS要素に入り、半分がY軸要素に入る。位置感受性PMT又はSiPMを利用して、FOISケーブルごとの光強度を集めることによって、X、Y及びZ位置を決定でき、ここでZは、イベントの源から検出器内の場所までの距離を指す。実施形態が直径1mm付近のFOISケーブルを利用する場合、イベントからの光は複数のFOISケーブルへと向かうことになり、X‐Y座標は、検出器内のイベントの場所からX、Y及びZにおいて1mm以下で決定できる。
【0060】
BNNT材料上の結晶コーティングの合計が、BNNTを含むBN同素体の含有量に関して11mg/cm付近である場合、厚さは、FOISケーブルを含まずに0.5~1mm付近となる。この面密度では、検出器に衝突する熱中性子のおよそ63%がイベントを発生させる。BN同素体の厚さを2倍(又はいくつかの実施形態では3倍)にすると、イベントの効率は87%(又は95%)付近まで上昇する。その結果、例えば数メートル四方以上の大きな面積が検出器によってカバーされ得る一方で、厚さをわずか数mm(例えば約~約5mm、又はいくつかの実施形態では約2~約5mm、又はいくつかの実施形態では約3~約5mm;ここでこの文脈における用語「約」は±0.3を意味する)とすることができる。これは、大面積のポータルモニタ、宇宙放射線検出器、及び一部の化学的測定装置を作製するにあたって重要となり得る。更に、材料を大気圧、並びにこの圧力より上又は下とすることができ、材料は軽量かつ無毒である。ダウンザホールシステム等のように高温が必要である場合、結晶は無機とすることができ、FOISケーブルはガラスとすることができ、また上記ケーブルの長さを数キロメートルとすることができ、これによって温度感受性光検出器を地面/地表レベルとする。更に上述のように、特定の用途にとって重要である場合には、イベントのタイミングを10ナノ秒未満とすることができる。
【0061】
これらの薄型結晶被覆BNNT材料FOISケーブル層を3つ、平面状とする場合、これら3つの平面を互いに直交させることによって、指向性検出器を作成できる。このジオメトリを用いて、1つ以上の源の方向を決定できる。例えばこれは、地球の表面を観測する衛星の用途にとって有用となり得る。厚さ数センチメートル(例えば約1~約5cm、いくつかの実施形態では約2~約5cm、いくつかの実施形態では約3~約5cm;ここでこの文脈における用語「約」は±0.2を意味する)の、HDPE等の材料の水素に富む層を、上記層の平面内において上記層の間及び外側に配置すると、高速中性子は減衰及び減速されて熱中性子となる。複数のイベントのマッピングを用いて、ポータルモニタ及び衛星観測の用途において高速中性子の源の方向を決定できる。
【0062】
以上の説明が、本発明のアプローチの多数の実施形態を特定したことを理解されたい。実際には、この技術によって多数のジオメトリが可能である。
・10気圧までのHe圧力のための既存のHeフォームファクタと適合する、標準的な円筒状フォーマット。
・体積性能が最大27%向上する、He円筒状フォーマットの長方形バージョン。これらは、円筒状フォーマットの10BNNT検出器と共に、軽量であり、ハンドヘルドデバイス及びバックパックデバイスからドローンデバイス、大面積のポータルモニタに至るまで、多様な用途に有用である。
・高空間分解能検出器のためのFOISコンポーネント。例としては以下が挙げられる。
衛星、破砕中性子源での科学実験、及び場合によってはポータルモニタで使用するための、10BNNT FOIS指向性熱中性子検出器。
気孔率、塩度、元素組成、並びに酸素、水、及び炭化水素含有量情報を含む、局所的な物質含有量及び特徴を決定するための、深井戸採掘用のFOIS高温ダウンザホール中性子検出器。これらの検出器にとっての重要な課題は、高温での動作が必要であることである。検出器のつや消しFOISセクションは、いずれの長さ、例えば数センチメートル~数メートルとすることができ、光ケーブル光ファイバセクションは数kmとすることができる。検出器はセグメント化できる。上述のように、全ての電子部品は、地表上、即ち大気条件下とすることができる。深部にある全てのものはパッシブ式であり、少なくとも700℃までの高温で動作できる。
典型的には地上測定に利用される、AmBe源によって生成された高速中性子から熱化された中性子から、水分含有量を測定するための、FOIS中性子プローブ。宇宙線によって生成された大気中の中性子は、典型的には数百メートル規模のエリアにわたる地下水含有量を決定するためにも利用される。
幸いにも、BNNTベースの中性子検出器の技術は、これらの様々な規模に拡張される。BNNTベースのアイテムをR&D段階で展開する場合、追加の認証は不要である。
図7に関して説明したFOIS技術及び中性子吸収材料のシートは、BNNT材料でないBN材料にも適用できる。例えば、BN粉末及びBNシート(BNNS)も、中性子検出器として機能できる。BNの薄い層は、蒸発及びCVDプロセスによって、金属及びプラスチック両方の表面に堆積させることができる。次にこれらを、発光性結晶で結晶被覆できる。上述のように、非BNNT同素体を発光性結晶と混合できる。しかしながらBNNT材料が一般的に好ましい実施形態となる。というのは、これが典型的には、BN粉末、十分に厚いBNNS及び他のBNの同素体の層に比べて、より半透明となるためである。
【0063】
当業者には理解されるように、本発明のアプローチは、これらの様々な実施形態で開示されているもの以外の形態で具現化できる。従ってこれらの実施形態は、あらゆる点において、限定ではなく例示的なものとみなされるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【国際調査報告】