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特表2023-511041フィッシャー・トロプシユ合成触媒の製造方法およびフィッシャー・トロプシュ開始プロセス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-16
(54)【発明の名称】フィッシャー・トロプシユ合成触媒の製造方法およびフィッシャー・トロプシュ開始プロセス
(51)【国際特許分類】
   B01J 33/00 20060101AFI20230309BHJP
   B01J 37/18 20060101ALI20230309BHJP
   B01J 37/14 20060101ALI20230309BHJP
   B01J 23/889 20060101ALI20230309BHJP
   C07C 1/04 20060101ALN20230309BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20230309BHJP
【FI】
B01J33/00 A
B01J37/18
B01J37/14
B01J23/889 M
C07C1/04
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022542114
(86)(22)【出願日】2021-01-08
(85)【翻訳文提出日】2022-09-08
(86)【国際出願番号】 EP2021050313
(87)【国際公開番号】W WO2021140227
(87)【国際公開日】2021-07-15
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2020/050586
(32)【優先日】2020-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】397035070
【氏名又は名称】ビーピー ピー・エル・シー・
(74)【代理人】
【識別番号】100064012
【弁理士】
【氏名又は名称】浜田 治雄
(72)【発明者】
【氏名】パターソン,アレクサンダー,ジェームズ
(72)【発明者】
【氏名】マーサー,リチャード,ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ウエスト,ジョン
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA08
4G169AA15
4G169BA01A
4G169BA02A
4G169BA03A
4G169BA04A
4G169BA04B
4G169BA05A
4G169BA06A
4G169BB02A
4G169BB02B
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BB18A
4G169BC17A
4G169BC19A
4G169BC35A
4G169BC42A
4G169BC43A
4G169BC51A
4G169BC58A
4G169BC59A
4G169BC60A
4G169BC62A
4G169BC62B
4G169BC64A
4G169BC66A
4G169BC67A
4G169BC67B
4G169BC68A
4G169BC70A
4G169BC71A
4G169BC72A
4G169BC75A
4G169BD03A
4G169CC23
4G169DA06
4G169EA01Y
4G169EA02Y
4G169EA06
4G169EB18Y
4G169EC02Y
4G169EC03Y
4G169EC04Y
4G169EC06Y
4G169EC07Y
4G169EC08Y
4G169EC13Y
4G169EC14Y
4G169EC15Y
4G169EE01
4G169FA02
4G169FA08
4G169FB14
4G169FB30
4G169FB40
4G169FB44
4G169FB78
4G169FC07
4G169FC08
4H006AC29
4H006BA20
4H006BA81
4H006BA82
4H006BE20
4H006BE40
4H039CA99
4H039CL35
(57)【要約】
【課題】 本発明は、その上の15~40モル%のコバルトが酸化コバルトの形態であるフィッシャー・トロプシュ合成触媒の製造方法に関する。
【解決手段】 本発明はまた、15~40モル%のコバルトが酸化コバルトの形成であり、触媒を合成ガス流と接触させることによって還元および不動態化触媒が活性化される、還元および不動態化コバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒のための起動プロセスに関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元および不動態化されたコバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒を製造するための方法であって、以下の工程を含み、
(a) 還元コバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒を生成するのに適した条件下で、コバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒を還元ガスと接触させること;
(b) 非酸化性雰囲気下で、還元コバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒の温度を0℃~200℃の範囲の温度に調整する;
(c) 還元および不動態化コバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒を生成するために、0℃~200℃の範囲の温度で、還元コバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒を、残部が不活性ガスである0.1 %v/v~5%v/v酸素を含む酸素含有ガス流と接触させる工程;
ここで、工程(c)において、酸素含有ガス流中の酸素の量、および温度は、15~40モル%のその上のコバルトが酸化コバルトの形成である、還元および不動態化コバルト含有フィッシャー-トロプシュ触媒を生成するように選択され、維持される方法。
【請求項2】
還元および不動態化されたコバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒上のコバルトの20~38モル%が酸化コバルトの形成であり、好ましくは、還元および不動態化されたコバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒上のコバルトの35モル%以下が酸化コバルトの形成、例えば32モル%以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
接触工程(c)が、還元されたコバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒を、5℃~150℃、好ましくは10℃~100℃、より好ましくは20℃~80℃、例えば30℃~60℃の温度で酸素含有流と接触させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記酸素含有流が、0.2 %v/v~2.5 %v/vの酸素、例えば0.3 %v/v~2%v/vの酸素を含む、前記請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記酸素含有流を、固定床反応器中で連続的に前記還元コバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒と接触させる、前記請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記酸素含有流を、1000~30000h-1、好ましくは5000~10000時間のGHSVで、前記還元コバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒と接触させる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記接触工程が、1bar絶対圧~31bar絶対圧、好ましくは1bar絶対圧~6bar絶対圧、例えば約大気圧の圧力で行われる、前記請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記酸素含有ガス流中の酸素の量、および前記温度は、のステップによって選択される、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法であって、
(i) 所定の組成を有するフィッシャー・トロプシュ触媒のための方法の工程(a)~(c)を、第一温度で所定の一組のプロセス条件下で実施し、第一酸素含有量を有する酸素含有ガス流を使用して試験触媒を製造する工程;
(ii) 試験触媒の温度プログラム還元を実施することによって、酸化コバルトの形態である試験触媒上のコバルトの割合を決定する工程;
(iii) 酸化コバルトの形態である試験触媒上のコバルトの割合が15~40モル%の範囲外である場合、第1の温度とは異なり、第2の温度で工程(i)および(ii)を繰り返し、第2の酸素含有量をおよび/またはし、第1の酸素含有量とは異なる方法。
【請求項9】
前記還元コバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒が担持触媒である、前記請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
還元されたコバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒が、シリカ、アルミナ、シリカ/アルミナ、セリア、チタニア、ガリア、ジルコニア、マグネシア、酸化亜鉛およびそれらの混合物からなるリストから選択される担体材料上に担持され、好ましくはチタニア、酸化亜鉛、セリア、アルミナまたはジルコニアおよびそれらの混合物から選択され、より好ましくは担体がチタニアである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記還元コバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒が、1つまたはそれ以上促進剤、好ましくはルテニウム、パラジウム、プラチナ、ロジウム、レニウム、マンガン、クロム、ニッケル、鉄、モリブデン、ホウ素、タングステン、ジルコニウム、ガリウム、トリウム、ランタン、セリウムおよびそれらの混合物からなる一覧から選択され、好ましくはマンガン、レニウム、ルテニウムおよびそれらの混合物から選択される、を含む、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
還元および不動態化されたコバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒が、乾燥雰囲気下、好ましくは不活性雰囲気下で貯蔵され;および/または、還元および不動態化されたコバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒が、ワックスまたは炭化水素でコーティングされる、前記請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
(a)部分において、コバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒が、200℃~600℃、例えば300℃~500℃の温度で、触媒を水素の流れと接触させることによって還元される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載の方法により製造された還元および不動態化されたコバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒。
【請求項15】
フィッシャー・トロプシュ触媒のためのスタートアップ・プロセス方法であって、以下のステップを含み、スタートアップ・プロセス方法は:
(a) 触媒上の15~40モル%のコバルトが酸化コバルトの形成である、還元および不動態化コバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒を提供する段階;
(b) フィッシャー・トロプシュ合成のための触媒を活性化するのに適した条件下で、工程(a)からの触媒を合成ガス流と接触させる工程;
(c) 必要に応じて、工程(b)からの活性化触媒を用いてフィッシャー・トロプシュ合成を行うための所望の反応温度に温度を調整するスタートアップ・プロセス方法。
【請求項16】
工程(b)が、350℃未満、好ましくは300℃未満、より好ましくは250℃未満の温度で実施される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
工程(b)における合成ガス流が、約1:1~約3:1、好ましくは約1:1~約2.5:1、例えば約1.5:1~2:1のH2 :CO比率の水素および一酸化炭素を含む、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
工程(b)からの活性化触媒上のコバルトの10モル%未満が酸化コバルトの形態である、請求項15~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記工程(b)において、前記合成ガス流を、500~10000h-1、好ましくは1500~5000h-1のGHSVで前記触媒と接触させる、請求項15~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
工程(b)において、合成ガス流を、大気圧~絶対51バール、好ましくは絶対6バール~51バールの圧力で触媒と接触させる、請求項15~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
工程(c)において、温度が100℃~400℃、好ましくは150~350℃、およびより好ましくは150~250℃の温度に調節されるか;または工程(c)において、温度が工程(b)において使用される温度に維持される、請求項15~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
還元および不動態化されたコバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒上のコバルトの20~38モル%が酸化コバルトの形成であり、好ましくは、還元および不動態化されたコバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒上のコバルトの35モル%以下が酸化コバルトの形成、例えば32モル%以下である、請求項15~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
工程(a)における還元および不動態化されたコバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒が、担持された触媒であり、好ましくは請求項10に記載の担体物質に担持され、場合により、工程(a)における還元および不動態化されたコバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒が、請求項11に定義された1つまたはそれ以上促進剤を含む、請求項15~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
工程(a)における還元および不動態化されたコバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒が、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法によって製造される、請求項15~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記工程(a)で提供される前記還元型および不動態化されたコバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒が、前記起動プロセスが実行される異なる場所で生成される、請求項15~24のいずれか一項に記載のプロセス方法。
【請求項26】
前記還元および不動態化コバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒が、輸送中に乾燥または不活性雰囲気下で貯蔵される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
フィッシャー・トロプシュ合成プロセスにおけるCO転化および/または生産性を改善するための、請求項14、15、22または23のいずれかに記載の還元および不動態化コバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒の使用であって、好ましくは請求項16、17、19または20のいずれか1項に記載の条件下で、触媒を合成ガス流と接触させることによって、還元および不動態化触媒を活性化する使用方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィッシャー・トロプシュ合成触媒の製造方法に関する。特に、本発明は、15~40モル%のコバルトが酸化コバルトの形態である、還元および不動態化コバルト含有フィッシャー-トロプシュ触媒を調製するための方法に関する。本発明はまた、触媒上の15~40モル%のコバルトが酸化コバルトの形態である、還元および不動態化コバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒のための起動プロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
フィッシャー・トロプシュ法による合成気体の炭化水素への転換は、長年知られている。代替エネルギー源の重要性が高まっていることから、フィッシャー・トロプシュ法は、高品質輸送燃料へのより魅力的な直接的で環境的に受け入れ可能な経路の1つとして、新たな関心が高まっている。
【0003】
例えば、コバルト、ニッケル、鉄、モリブデン、タングステン、トリウム、ルテニウム、レニウムおよびプラチナのような多くの金属は、合成気体の炭化水素およびその酸素化誘導体への転化において、単独または組合せのいずれかで、触媒活性であることが知られている。
【0004】
フィッシャー・トロプシュ合成触媒の調製において、例えば有機金属または無機化合物であり得るコバルト含有化合物は、一般に、焼成/酸化工程に続いて、酸化コバルト(例えば、CoO、Co2 O3またはCo3 O4)を形成するように変換される。コバルト酸化物の生成に続いて、活性触媒種として純粋なコバルト金属を形成するために、還元工程が必要である。したがって、還元工程は、一般に活性化工程とも呼ばれる。
【0005】
商業プラントでのフィッシャー・トロプシユ触媒の活性化は、高価で時間がかかる。典型的には、触媒は、300℃を超える温度で水素下で金属を還元することによって活性化される。還元され活性化された触媒は空気中での酸化に敏感であるので、水素を用いた活性化は、一般に、フィッシャー・トロプシュ合成を行う前に、酸化された触媒上でその場で行われる。触媒は、金属を還元し、続いて輸送および貯蔵のために触媒を酸化することによって、それらの反応性を低下させるために不動態化することができる。次いで、不動態化された触媒は、フィッシャー-トロプシュ合成を行う前に、水素下でその場で活性化され得る。
【0006】
商業プラントでその場で触媒を活性化するための高温水素還元処理を提供するために、追加の装置および設備支出が必要である。触媒の活性化は、一般に、フィッシャー・トロプシユプロセスの介在操作中に必要とされない水素還元装置を用いて、1~5年毎に新しい触媒上で実施され得る。水素による酸化触媒の還元も水を生成し、これは、触媒床内で水が生成される場所の下流の触媒の活性を損傷し得る。このため、コンプレッサーは、製造時に水分をより迅速に除去するために、高い流量を提供するために使用される。
【0007】
フィッシャー・トロプシュ触媒活性化に伴う、頻繁に使用され、高価な装置および条件を回避することができるフィッシャー・トロプシュ触媒およびプロセスが依然として必要とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Brunauer, S, Emmett, P H, & Teller, E, J. Amer, Chem. Soc.60, 309, (1938)
【非特許文献2】Barrett, E P, Joyner, LG & Halenda P, J. Am Chem. Soc., 1951 73 373-380
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで驚くべきことに、コバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒を還元し、触媒の制御された部分酸化を行って、触媒上の15~40モル%のコバルトが酸化コバルトの形態である還元および不動態化触媒を与えることによって、触媒は、水素よりもむしろ合成ガスを使用して、および典型的に使用されるよりも穏やかな条件下で有利に活性化され得ることが見出された。
【課題を解決するための手段】
【0010】
したがって、本発明の態様は、還元および不動態化されたコバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒を製造するための方法を提供し、この方法は、以下の工程を含む:
(a) 還元コバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒を生成するのに適した条件下で、コバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒を還元ガスと接触させること;
(b) 非酸化性雰囲気下で、還元コバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒の温度を0℃~200℃の範囲の温度に調整する;
(c) 還元および不動態化コバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒を生成するために、0℃~200℃の範囲の温度で、還元コバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒を、残部が不活性ガスである0.1 %v/v~5%v/v酸素を含む酸素含有ガス流と接触させる工程;
ここで、工程(c)において、酸素含有ガス流中の酸素の量、および温度は、15~40モル%のその上のコバルトが酸化コバルトの形成である、還元および不動態化コバルト含有フィッシャー-トロプシュ触媒を生成するように選択され、維持される。
【0011】
触媒を不動態化するために使用されるガス流の温度および酸素含有量を制御して、その上の15~40モル%のコバルトが酸化コバルトの形態である還元および不動態化コバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒を生成することによって、触媒活性を保持しながら、比較的温和な条件下でフィッシャー・トロプシュ反応器および/または中で合成ガス下で有利に活性化され得る触媒を生成することができる。
【0012】
特定の理論に拘束されることを望まないが、酸化ガス流の温度および酸素含有量を制御して、酸化コバルト含有量を15~40モル%に制限することによって、触媒の穏やかな不動態化を提供することによって、触媒の表面を酸化して、輸送および貯蔵中の酸化から触媒を保護することができ、一方、表面下のバルク触媒の酸化を減少または回避すると考えられる。表面下でのバルク触媒のこのような酸化を回避することによって、高温で水素下で触媒を還元するための典型的な要件を回避することができると考えられる。
【0013】
方法の工程(a)において、コバルト含有フィッシャー-トロプシュ触媒は還元される。還元は、酸化コバルトを触媒活性コバルト金属に変換することができることを当業者が知っている任意の公知の手段によって実施することができる。還元工程は、固定床、流動床またはスラリー相反応器中でバッチ式または連続式で実施することができる。還元工程は、コバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒を、水素の流れ、例えば、本質的に水素からなるガス流と接触させることを含むことができる。他の例では、還元工程は、不活性ガスと組み合わせた水素を含むか、または本質的に水素からなる水素流を使用して実施することができる。適切には、水素流は、少なくとも80 %v/v水素、好ましくは少なくとも90 %v/v水素、例えば少なくとも95 %v/vまたは少なくとも99% v/v水素を含み得る。還元は、200℃~600℃、好ましくは300℃~500℃の温度で行うことができる。還元型コバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒は、好ましくは、触媒上のコバルトの10モル%以下が酸化コバルトの形成であり、好ましくは触媒上のコバルトの5モル%以下が酸化コバルトの形成であるように、工程(a)において還元されてもよい。
【0014】
本方法の工程(b)は、非酸化雰囲気下で、還元コバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒の温度を0℃~200℃の範囲の温度に調整することを含む。工程(b)は、任意の適切な長さの時間続くことができ、これは、触媒の温度を所望の値または範囲に調整するのに必要な時間、例えば、工程(a)において触媒の還元を実施するのに使用される温度から触媒を冷却させる時間に基づいて決定することができる。場合によっては、触媒の温度が所望の値または範囲に達したら、工程(c)を実施することができる。他の例では、触媒は、工程(c)が実施される前のある期間、所望の温度値または範囲で安定化され得る。
【0015】
非酸化性雰囲気は、任意の適切なガスまたはガスの混合物を含むことができる。場合によっては、非酸化性雰囲気は、工程(a)で使用される還元性ガスの少なくとも一部を含む雰囲気であってもよく、例えば、工程(b)で、部分(a)からの還元性雰囲気を維持してもよい。場合によっては、非酸化性雰囲気は、不活性雰囲気、例えば、本質的にアルゴンなどの他の不活性ガスをおよび/またはする窒素からなる雰囲気、または水素などの1つまたはそれ以上還元ガスとの1つまたはそれ以上不活性ガスの混合物であってもよい。好ましくは、触媒および反応器は、例えば、反応器から残留水素を除去するために、工程(b)の前または間に不活性ガスでパージされる。
【0016】
還元されたコバルト含有触媒を、工程(c)において酸素含有ガス流と接触させる。酸素含有ガス流は、0.1 %v/v~5%v/vの酸素を含み、残部は不活性ガスである。不活性ガスは、任意の不活性ガスまたはガスの混合物であってよく、例えば、不活性ガスは、窒素またはアルゴンであってよく、好ましくは、不活性ガスは窒素である。
【0017】
好ましくは、酸素含有ガス流は、0.2 %v/v~2.5 %v/v酸素、例えば、0.3 %v/v~2%v/v酸素または0.5 %v/v~2%v/v酸素を含む。いくつかの好ましい実施形態では、酸素含有ガス流は、1%v/v以下の酸素、例えば、1%v/v未満の酸素を含み、または酸素含有ガス流は、0.5 %v/v以下の酸素、例えば、0.5 %v/v未満の酸素を含む。
【0018】
還元されたコバルト含有フィッシャー・トロプシユ触媒を、工程(c)において0℃~200℃の範囲の温度で酸素含有ガス流と接触させる。好ましくは、還元されたコバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒は、5℃~150℃、好ましくは10℃~100℃、より好ましくは20℃~80℃、例えば30℃~60℃の温度で酸素含有流と接触される。
【0019】
触媒は、任意の適切な手段によって加熱することができる。例えば、触媒は、触媒に熱を加えるように配置された外部ヒータによって加熱されてもよく、例えば、触媒の上の気体の流れにおよび/またはして触媒を加熱するように配置された1つまたはそれ以上の電熱要素または熱交換器は、それ自身が加熱されてもよい。
【0020】
工程(c)で選択され維持される温度は、工程(b)で触媒が調整される温度であってもよい。温度の上昇は、還元コバルト含有触媒の還元コバルトを酸化する発熱反応から生じ得ることが理解される。したがって、触媒の温度は、好ましくは、温帯範囲、例えば、先に議論したような温度範囲内に維持される。例えば、工程(c)において、触媒の温度は、工程(c)の間に上昇され得るが、200℃を超えることを防止する。好ましくは、触媒の温度は、150℃、より好ましくは100℃、最も好ましくは80℃、例えば60℃を超えることが防止される。
【0021】
触媒の温度を制御するために、触媒温度を下げてもよいし、温度の上昇を遅くしてもよいし、停止して一定の温度を維持してもよい。触媒の温度は、任意の適切な手段によって特定の温度を超えることを防止することができる。例えば、ヒータによって触媒に印加される加熱を停止または減少させてもよく、または酸素含有流の酸素含有量を減少させてもよい。いくつかの例において、酸素含有流は、温度上昇を防止するために、希釈され得るか、または不活性ガス流で置き換えられ得る。いくつかの例では、触媒は、例えば、触媒から熱を引き出すように配置された1つまたはそれ以上熱交換器を使用して、または酸素含有ガス流の温度を積極的に低下させることによって、積極的に冷却され得る。場合によっては、触媒上の酸素含有ガス流の流量を増加させて、ガスによる触媒から離れた熱伝達を増加させることができる。
【0022】
特定の理論に拘束されることを望まないが、触媒の温度が制御されない場合、例えば、適用される温度および/またはで酸素含有ガス流の酸素含有量を選択することによって、不動態化プロセス中の発熱は、表面酸化に加えて、触媒上のコバルトの有意なバルク酸化を引き起こし得ると考えられる。これは、触媒の全体的な酸化コバルト含有量の増加を引き起こし、触媒を活性化するために、水素下での高温還元の必要性をもたらし得る。
【0023】
酸素含有ガス流中の酸素の量、および工程(c)における温度は、15~40モル%のその上のコバルトが酸化コバルトの形態である、還元および不動態化コバルト含有フィッシャー-トロプシュ触媒を生成するように選択される。驚くべきことに、不動態化工程中の酸化が、15~40モル%のコバルトが酸化コバルトの形態である還元および不動態化コバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒を与えるように制御される場合、触媒は、および/または比較的温和な条件下で、水素流ではなく合成ガス流下で活性化され得ることが見出された。これは、商業的なフィッシャー・トロプシュプラントにおいて水素還元装置の費用を回避することを可能にし得る。低レベルの酸化はまた、水を除去し、触媒床の末端での触媒失活を防止するために、還元中に触媒上に高い流れを提供するための圧縮機の必要性を回避し得る。
【0024】
好ましい実施形態では、還元および不動態化コバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒上の20~38モル%のコバルトは、酸化コバルトの形態である。好ましくは、還元および不動態化されたコバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒上のコバルトの35モル%以下が、酸化コバルトの形態、例えば、33モル%以下または30モル%以下である。
【0025】
温度および酸素含有量は、触媒の酸化コバルト含有量を達成するために、以前に定義された範囲内で変化させることができることが理解される。
【0026】
還元および不動態化コバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒の酸化コバルト含有量は、任意の適切な手段によって決定することができ、このような方法は、当技術分野で公知である。
【0027】
例えば、還元および不動態化触媒の酸化コバルト含有量は、当技術分野で周知の温度プログラム還元(以下、TPRと呼ぶ)によって測定することができる。例えば、触媒のサンプルは、水素などの還元ガスの流れの下で温度を上昇させるステップアップにおいて、低温(例えば、周囲温度)から固定床チューブ反応器中で加熱されてもよい。還元ガスは、例えば窒素中の1 %v/v~20%v/v水素、例えば窒素中の1 %v/v~10%v/v水素などの不活性ガス中で希釈することができる。温度範囲は、約周囲温度、例えば、約25℃から、触媒のさらなる還元が観察されない最高温度まで、例えば、約550℃まで、または600℃付近までを含むことができる。温度プロファイルを横切る還元の間に触媒によって消費される水素の量は、触媒上に存在した酸化コバルトの量を示すために測定される。これを問題の触媒の既知の総コバルト含有量と比較して、酸化コバルトの形態の触媒上のコバルトの割合を決定することができる。消費される水素量は、例えば、触媒後の水素濃度と、触媒に供給されるガス中の水素濃度とを比較することによって直接的に測定されてもよく、または、消費される水素量は、例えば、触媒上のコバルト酸化物の水素による還元から生成される水の量を測定することによって間接的に測定されてもよい。任意の適切な測定装置を使用して、水素消費を測定することができ、例えば、質量分析または熱伝導率検出が挙げられる。
【0028】
例えば、TPR分析は、集積熱伝導度検出器(TCD)およびCirrius 2四重極質量分析計と組み合わせたMicromeritics 2920 AutoChem II分析器などの分析器を用いて実施されてもよい。約50mgの触媒サンプルを、サンプルチューブ、例えば石英ガラスU-チューブに装填し、窒素またはアルゴンなどの不活性ガスを流しながら乾燥させることができる。次いで、試料を5℃/分で室温から110℃に加熱し、15分間保持することができる。次いで、サンプルを不活性雰囲気下で室温に冷却することができる。TPR分析は、例えば、アルゴン中の4%v/v水素(30ml/分)を使用し、5℃/分の速度で室温から550℃に加熱することを使用して実施され得る。
【0029】
還元量は、TPR試験中の温度の関数として測定することができる。触媒のバルク酸化は、200℃以上で起こる還元についてのTPR試験においてブロードなピークの存在によっても示され得る。例えば、約200℃~300℃の範囲の広いピークは、バルクCo3 O4のCoOへの還元を示し得るが、約300℃~500℃の範囲の広いピークは、バルクCoOのCo金属への還元を示し得る。対照的に、表面酸化コバルトの還元は、約150~200℃の範囲内の1つまたはそれ以上の比較的狭いピークとして観察され得る。好ましくは、TPR試験において、還元および不動態化コバルト含有触媒は、250℃より高い温度、より好ましくは230℃、例えば200℃で触媒の還元を示さない。
【0030】
触媒の表面酸化は、X線回折によっても観察することができ、過剰に酸化された触媒については、酸化コバルトに対応するピークを観察することができ、これは、触媒中のコバルトのバルク酸化を示す。表面不動態化触媒が調製される場合、X線回折スペクトルにおける酸化コバルトピークは、表面下のバルクコバルト金属のみが観察され得、表面上の酸化コバルトの層は観察され得ないので、存在し得ない。
【0031】
好ましい実施形態において、酸素含有ガス流中の酸素の量、および温度は、のステップによって選択される:
(i) 所定の組成を有するフィッシャー・トロプシュ触媒のための方法の工程(a)~(c)を、第一温度で所定の一組のプロセス条件下で実施し、第一酸素含有量を有する酸素含有ガス流を使用して試験触媒を製造する工程;
(ii) 試験触媒の温度プログラム還元を実施することによって、酸化コバルトの形態である試験触媒上のコバルトの割合を決定する工程;
(iii) 酸化コバルトの形態である試験触媒上のコバルトの割合が15~40モル%の範囲外である場合、第1の温度とは異なり、第2の温度で工程(i)および(ii)を繰り返し、第2の酸素含有量をおよび/またはし、第1の酸素含有量とは異なる。
【0032】
好ましくは、還元および不動態化触媒は、工程(i)において調製され得、その還元および不動態化触媒からの試験触媒サンプルは、工程(ii)において分析される。工程(iii)における15~40モル%の範囲が、本明細書中に先に記載されたような好ましい範囲であり得ることが、適切であり得ることが理解される。
【0033】
ステップ(ii)に記載されているような温度プログラム還元は、当該技術分野で周知であり、本明細書に先に記載されているように実施することができる。あるいは、酸化コバルトの形態である試験触媒上のコバルトの割合は、当業者に公知の任意の他の適切な方法によって決定され得る。
【0034】
工程(i)で生成される触媒の酸化コバルト含有量が酸化コバルト含有量の所望の範囲よりも高い場合、工程(i)および(ii)を、第1の温度よりも低い温度、および/または第1の酸素含有量よりも低い酸素含有ガス流の酸素含有量を使用して繰り返すことができる。同様に、工程(i)で生成される触媒の酸化コバルト含有量が、酸化コバルト含有量の所望の範囲よりも低い場合、工程(i)および(ii)を、第1の温度よりも高い温度、および/または第1の酸素含有量よりも高い酸素含有ガス流の酸素含有量を用いて繰り返すことができる。
【0035】
工程(i)および(ii)を繰り返す際に使用される触媒は、最初の例において工程(ii)で試験されたのと同じ触媒であってもよく、この場合、その触媒は、次いで、異なる条件下で再還元および再不動態化される。あるいは、工程(i)および(ii)を繰り返す際に使用される触媒は、異なるが等価な触媒サンプル、例えば、同じ方法でまたは同じ触媒バッチから製造された触媒、またはそれらの混合物であってもよい。
【0036】
酸素含有ガス流の温度および酸素含有量が言及されるが、所与の温度および酸素含有量について、他の条件もまた、触媒の酸化レベルに影響し得ることが理解される。したがって、酸素含有ガス流の温度および酸素含有量以外の条件は、ステップ(i)とステップ(iii)との間で一定であってもよい。例えば、酸素含有ガス流の圧力および/またはでの触媒上の酸素含有ガス流のGHSVは、工程(i)と工程(iii)との間で一定であり得る。あるいは、圧力および/またはのGHSVは、酸化のレベルを制御するために、酸素含有ガス流の酸素含有量を温度および/またはすることに加えて、それぞれ増加または減少させてもよい。
【0037】
任意の適切な反応器を本方法に使用することができ、好ましくは、工程(a)~(c)は、反応器への異なるガスの流れを調整することによって、同じ反応器中で連続的に行われる。例えば、プロセスは、固定床、流動床またはスラリー相反応器中で実施され得る。好ましくは、工程(a)~(c)において、還元ガス、酸素含有流をおよび/またはする非酸化性雰囲気を、固定床反応器中で連続的にコバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒と接触させる。
【0038】
好ましくは、酸素含有流を、1000~30000h-1、好ましくは5000~10000h-1のGHSVで、還元コバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒と接触させる。好ましくは、触媒上の酸素含有ガス流のGHSVは、1000h-1(例えば、少なくとも2000h-1)を超える。触媒上の酸素含有ガス流のGHSVが工程(c)の間により高いレベルにある場合、流速は、触媒に冷却効果を有し、発熱の減少および過剰酸化の可能性の減少をもたらし得る。
【0039】
好ましくは、接触工程は、1bar絶対圧~31bar絶対圧、好ましくは1bar絶対圧~6bar絶対圧、最も好ましくは約大気圧の圧力で行われる。より高い圧力では、還元された触媒の酸化が促進され得、これは、場合によっては、発熱の増加および不動態化された触媒の過剰酸化をもたらし得る。
【0040】
接触工程(c)は、触媒の所望の酸化を可能にするために、任意の適切な長さの時間にわたって実施され得る。例えば、接触工程(c)は、5分間~168時間、5分間~120時間、5分間~72時間、5分間~48時間、または好ましくは5分間~24時間行うことができる。好ましくは、接触工程(c)は、少なくとも15分間、好ましくは少なくとも30分間、例えば少なくとも45分間、または少なくとも1時間行われる。いくつかの好ましい実施形態において、接触工程(c)は、30分間~4時間、例えば30分間~2時間行われる。
【0041】
いったん還元および不動態化触媒が製造されると、触媒は、貯蔵条件に応じて、活性の有意な損失なしに貯蔵、例えば、少なくとも数週間または数ヶ月間の貯蔵のために安定であり得る。好ましくは、還元および不動態化コバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒は、乾燥雰囲気下、より好ましくは窒素またはアルゴン雰囲気下などの不活性雰囲気下で貯蔵される。
【0042】
いくつかの実施形態において、還元および不動態化コバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒は、ワックスまたは炭化水素でコーティングされ得、これは、触媒の安定性を増強し得る。
【0043】
本発明の方法に従って使用するためのコバルト含有触媒は、新たに調製された触媒材料であってもよい。あるいは、コバルト含有触媒は、フィッシャー・トロプシユ反応を触媒するために以前に使用されたコバルト含有材料から得ることができる。必要に応じて、フィッシャー・トロプシユ反応を触媒するために以前に使用されたコバルト含有物質は、本方法で使用される前にか焼されるおよび/またはに適切に還元され得る。
【0044】
コバルト含有フィッシャー・トロプシユ触媒は、従来の耐火物担体材料上に担持されていないか、または好ましくは担持されていてもよい。例えば、還元コバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒は、好ましくは、シリカ、アルミナ、シリカ/アルミナ、セリア、チタニア、ガリア、ジルコニア、マグネシア、酸化亜鉛およびそれらの混合物からなるリストから選択される担体材料上に担持され、好ましくはチタニア、酸化亜鉛、セリア、アルミナまたはジルコニアおよびそれらの混合物から選択され、より好ましくはチタニアである。
【0045】
支持材料上のコバルト負荷のレベルは、任意の適切な負荷であり得る。好ましくは、担体材料上のコバルトの装填は、還元触媒の重量に基づいて5~25重量%のコバルトであってもよく、特に担体材料上のコバルトの装填は、10~15重量%であってもよい。
【0046】
好ましい担体物質は、系の触媒活性に悪影響を及ぼし得る外部からの成分を実質的に含まない。したがって、好ましい支持材料は、少なくとも95重量%の純度、より好ましくは少なくとも98重量%の純度、および最も好ましくは少なくとも99重量%の純度である。支持体の純度は、一般に、支持体材料の組成を指してもよく、材料の異なる相が依然として存在してもよいことが理解される。例えば、支持体は、特定の割合の材料、例えば、チタニアまたはアルミナを含むが、その材料の異なる相、例えば、チタニアまたはアルファ、デルタ、ガンマ相のアナターゼおよびルチル相を含有し得るという点で純粋であり得る。不純物は、好ましくは1重量%未満、より好ましくは0.50重量%未満、最も好ましくは0.25重量%未満である。支持体の細孔容積は、好ましくは0.150ml/g超、より好ましくは0.25ml/g超、例えば0.5ml/g超である。支持材の平均径(浸透前)は10~500A、できれば15~100A、より望ましくは20~80A、そして最も望ましくは25~40Aの間であろう。BET表面積は、2~1000m2/gが適当であり、好ましくは10~600m2/g、より好ましくは15~100m/g、最も好ましくは30~60m2/gである。
【0047】
BET表面積、細孔容積、細孔径分布および平均細孔径は、Micromeritics TRISTAR 3000静的容積吸着分析器を使用して77Kで決定される窒素吸着等温線から決定され得る。使用することができる手順は、英国標準法BS4359:Part 1:1984「ガス吸着に関する勧告(BET)法」およびBS7591:Part 2:1992、「材料の気孔率および細孔径分布」-ガス吸着による評価方法の適用である。得られたデータは、BET方法(圧力範囲0.05~0.20 P/Poにわたって)およびBarrett, Joyner & Halenda (BJH)方法(細孔径20~1000Åに対して)を用いて減少させ、それぞれ表面積および細孔径分布を生じさせることができる。
【0048】
上記のデータ低減方法のための適切な参考文献は、非特許文献1および非特許文献2に示される。
【0049】
工程(a)で使用される担持コバルト含有フィッシャー-トロプシュ触媒は、当業者が認識する任意の適切な方法によって調製することができる。例えば、含浸、沈殿またはゲル化によって調製することができる。適切なフィッシャー・トロプシュ触媒はまた、シリカ、アルミナ、シリカ/アルミナ、セリア、チタニア、ガリア、ジルコニア、マグネシアまたは酸化亜鉛などの担体材料を、可溶性または不溶性コバルト化合物のいずれかと混練または混練してから、生成物を押し出し、乾燥およびか焼することによって調製することができる。
【0050】
適切な含浸方法は、例えば、支持材料に、酸化物形態に熱分解可能であるコバルトの化合物を含浸させることを含む。当技術分野で周知の初期湿潤技術または過剰溶液技術を含む任意の適切な含浸技術を使用することができる。初期湿潤技術はいわゆるものであるが、それは、過剰な液体を伴わずに、支持体の全表面をちょうど湿潤させるのに必要な最小体積の溶液を提供するように、含浸溶液の体積を予め決定することを必要とするからである。名前が示すような過剰な溶液技術は、過剰の含浸溶液を必要とし、溶媒は、その後、通常、蒸発によって除去される。
【0051】
含浸溶液は、熱分解性コバルト化合物の水溶液または非水、有機溶液のいずれであってもよい。好適な非水性有機溶媒としては、例えば、アルコール、ケトン、流動パラフィン炭化水素およびエーテルが挙げられる。あるいは、熱分解性コバルト化合物の有機水溶液、例えばアルコール水溶液を使用することができる。
【0052】
好適な可溶性化合物としては、例えば、コバルトの硝酸塩、酢酸塩またはアセチルアセトナート、好ましくは硝酸塩が挙げられる。コバルトのハロゲン化物の使用は、これらが触媒に有害であり得るので、回避することが好ましい。
【0053】
含浸は、粉末、顆粒またはペレット化形態である支持材料で行ってもよい。あるいは、含浸は、成形押出物の形態である支持材料で行われてもよい。
【0054】
予め形成された支持体または押出物が含浸される場合、支持体は、例えば、真空含浸、初期湿潤または過剰液体への浸漬を含む任意の適切な手段によって含浸溶液と接触され得ることが理解される。
【0055】
担体材料の粉末または顆粒が含浸される場合、粉末または顆粒は、含浸溶液の容器に粉末または顆粒を添加し、撹拌するなど、当業者が知っている任意の適切な手段によって、含浸溶液と混合されてもよい。押出工程が粉末または顆粒の含浸に直ちに続く場合、粉末または顆粒および含浸溶液の混合物は、押出に適した形態ではない場合には、さらに処理されてもよい。例えば、混合物を混練して、容易には押し出されないかもしれないより大きな粒子の存在を減少させてもよく、またはその存在がさもなければ、得られる押し出し物の物理的特性を損なうであろう。マリングは、典型的には、押出による成形に適したペーストを形成することを含む。当業者が知っている任意の適切なマルチングまたは混練装置を、本発明の文脈において、マルチングのために使用することができる。例えば、ある用途では乳棒および乳鉢を好適に使用することができ、あるいはSimpson mullerを好適に使用することができる。 マリングは、典型的には、3~90分の期間、好ましくは5分~30分の期間行われる。マリングは、周囲温度を含む一連の温度にわたって適切に行うことができる。マルチングのための好ましい温度範囲は、15℃~50℃である。マリングは、適切には、周囲圧力で実施され得る。含浸溶液からの結合した溶媒の完全な除去は、押出後に完全な沈殿をもたらすために実施され得ることが理解される。
【0056】
含浸粉体又は顆粒体に対して仮焼工程を行い、これにより含浸液の溶剤を完全に除去する実施形態には、押出成形に適した混合物を形成するために、仮焼粉体又は顆粒体をさらに加工してもよい。例えば、押出成形可能なペーストは、焼成粉末または顆粒を適切な溶媒、例えば含浸に使用される溶媒、好ましくは水性溶媒と組み合わせ、上記のように混練することによって形成することができる。
【0057】
いくつかの実施形態では、押出物または予備成形された支持体は、粉末または顆粒に変換される。これは、当業者が知っている任意の適切な手段によって達成することができる。例えば、いくつかの実施形態において乾燥押出物であり得る含浸支持物質は、粉砕/粉砕および/またはに粉砕されてもよい。好ましい実施形態では、形成される粉末は、50μm未満、好ましくは25μm未満のメジアン粒径(d50)を有する。かわりに顆粒が形成される場合、顆粒のメジアン粒径(d50)は、好ましくは300~600μmである。粒子径(d50)は、適切には、粒子径分析器(例えば、Microtrac S3500粒子径分析器)によって決定され得る。
【0058】
コバルト含有触媒を製造するための適切な沈殿方法は、例えば、(1)水酸化アンモニウム、炭酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム、水酸化テトラアルキルアンモニウムまたは有機アミンを含む沈殿剤を使用して、コバルトをその不溶性熱分解性化合物の形成で0℃~100℃の範囲の温度で沈殿させる工程、および(2)工程(1)で得られた沈殿物を回収する工程を含む。
【0059】
含浸法とは対照的に、コバルトの任意の可溶性塩を使用することができる。適切な塩には、例えば、カルボン酸塩、塩化物および硝酸塩が含まれる。コバルト塩の水溶液を使用することが好ましいが、必要に応じて、例えば、水性アルコール溶液を使用することができる。
【0060】
沈殿剤に関しては、炭酸アンモニウム、重炭酸アンモニウムおよび水酸化アンモニウムに加えて、水酸化テトラアルキルアンモニウムおよび有機アミンを使用することもできる。テトラアルキルアンモニウムヒドロキシドのアルキル基は、アルキル基をC4するC1であることが適当である。適当な有機アミンはシクロヘキシルアミンである。実験は、アルカリ金属沈殿剤の使用が非常に劣った触媒をもたらし得ることを示した。したがって、触媒組成物中のアルカリ金属の存在を避けることが好ましい。アルカリ金属を含まない組成物は、沈殿剤として炭酸アンモニウムまたは炭酸水素アンモニウム、さらにより好ましくは炭酸水素アンモニウムのいずれかを使用して好適に製造することができる。炭酸アンモニウムは、炭酸水素アンモニウムと炭酸アンモニウムとの混合物を含む市販の形態で好適に使用することができる。予め形成された炭酸塩または重炭酸塩を使用する代わりに、これらの塩の前駆体、例えば、可溶性塩および二酸化炭素を使用することが可能である。
【0061】
コバルト含有材料を調製するための方法にかかわらず、コバルト含有材料は、本方法に従って、その後の還元のために、酸化物形態のコバルトを含む触媒に変換されてもよい。焼成は、例えば、以前に形成されたコバルトの熱分解性化合物の熱分解を引き起こすことによって、酸化物形態のコバルトを含む触媒を得るために使用され得る。焼成は、当業者に公知の任意の方法によって、例えば、流動床またはロータリーキルン中で、200℃~700℃の範囲の適切な温度で行うことができる。一部の実施形態では、工程(a)で同じ反応器内で還元が行われる前に、焼成が統合された工程の一部として行われてもよい。
【0062】
焼成触媒上の酸化コバルト結晶子の結晶子サイズは、粒子サイズの所望の上限(例えば、20nm未満、好ましくは16nm未満、例えば12nm未満または10nm未満)未満であり得るか、または担体材料上に含浸された結晶子の酸化コバルト結晶子サイズが、粒子サイズの所望の範囲(例えば、6~12nm、好ましくは7~10nm、例えば約8nm)内に実質的にあることを確実にし得る。
【0063】
好ましい実施形態において、コバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒は、1つまたはそれ以上促進剤、分散助剤、強度助剤および/または結合剤を含むことができる。
【0064】
好ましくは、コバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒は、1つまたはそれ以上促進剤、好ましくはルテニウム、パラジウム、プラチナ、ロジウム、レニウム、マンガン、クロム、ニッケル、鉄、モリブデン、ホウ素、タングステン、ジルコニウム、ガリウム、トリウム、ランタン、セリウムおよびそれらの混合物からなる一覧から選択され、好ましくはマンガン、レニウム、ルテニウムおよびそれらの混合物から選択される。
【0065】
プロモーターは、コバルト対プロモーター原子比が250:1まで、およびより好ましくは125:1まで、例えば25:1まで、または10:1までで使用され得る。促進触媒は、含浸、押出、沈殿またはゲル化を含む種々の方法によって調製することができる。
【0066】
助触媒は、以下を含む触媒調製段階の1つまたはそれ以上時に添加することができる:可溶性化合物としての沈殿中;初期湿潤含浸による沈殿;または沈殿を含むコバルトの焼成後。
【0067】
コバルト含有触媒はまた、例えばUS 4,826,800に記載されているように、酸化亜鉛を追加的に含む組成物であってもよい。このような組成物は、好ましくは、そこに記載される好ましいプロセスによって作製される。
【0068】
さらなる態様は、還元および不動態化されたコバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒を製造するための方法を提供し、この方法は以下を含む:
【0069】
少なくとも0℃の温度で還元型コバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒を、不活性ガスおよび0.1 %v/v~5%v/v酸素を含む酸素含有ガス流と接触させる工程;
【0070】
ここで、触媒の温度は、接触工程の間に増加されるが、200℃を超えることを防止する。
【0071】
上記のプロセスを使用することによって、不動態化中の触媒上のコバルトの実質的なバルク酸化を回避することが可能であり得る。例えば、還元および不動態化コバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒上の15~40モル%のコバルトが酸化コバルトの形態である還元および不動態化コバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒を製造することができる。好ましくは、還元および不動態化コバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒上のコバルトの20~38モル%は、酸化コバルトの形成であり、例えば、還元および不動態化コバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒上のコバルトの35モル%以下が酸化コバルトの形成であり、例えば、還元および不動態化コバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒上のコバルトの33モル%以下または30モル%以下が酸化コバルトの形成である。
【0072】
好ましくは、この方法は、少なくとも5℃、少なくとも10℃、少なくとも20℃、またはより好ましくは少なくとも30℃の温度で、還元されたコバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒を接触させることを含む。
【0073】
好ましくは、触媒の温度は、150℃、より好ましくは100℃、最も好ましくは80℃、例えば60℃を超えることが防止される。
【0074】
還元コバルト含有フィッシャートロプシュ触媒、酸素含有ガス流および接触工程中の条件は、実質的に本明細書中で先に定義された通りであり得ることが理解される。
【0075】
さらなる態様は、本明細書中で先に定義された方法によって生成された還元および不動態化コバルト含有フィッシャー-トロプシュ触媒を提供する。
【0076】
本明細書中で先に記載された還元および不動態化フィッシャー・トロプシュ触媒は、合成ガスの流れの下で反応器中でフィッシャー・トロプシュ合成のために有利に活性化され得る。理解されるように、フィッシャー・トロプシュ合成は、例えば、ディーゼルまたは航空燃料またはその前駆体の製造における、合成ガスからの炭化水素の不均一触媒製造に関する。例示として、合成ガスからのアルカンのフィッシャー・トロプシュ合成は、式1によって表され得る:
【化1】
【0077】
典型的には、酸化コバルトの形態のコバルトを含むコバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒は、300℃を超える温度、場合によっては400℃を超える温度で、水素流下でコバルト金属に還元することによって活性化される。しかし、還元および不動態化されたコバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒上の15~40モル%のコバルトが酸化コバルトの形態である還元および不動態化されたコバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒を提供することによって、驚くべきことに、フィッシャー・トロプシュ合成のための触媒の活性化が、水素流ではなく合成ガス流下で、典型的に使用されるよりも穏やかな条件で実施され得ることが見出された。
【0078】
さらなる態様では、フィッシャー・トロプシュ触媒のための起動プロセスが提供され、起動プロセスは以下のステップを含む:
(a) 触媒上の15~40モル%のコバルトが酸化コバルトの形成である、還元および不動態化コバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒を提供する段階;
(b) フィッシャー・トロプシュ合成のための触媒を活性化するのに適した条件下で、工程(a)からの触媒を合成ガス流と接触させる工程;
(c) 必要に応じて、工程(b)からの活性化触媒を用いてフィッシャー・トロプシュ合成を行うための所望の反応温度に温度を調整する。
【0079】
触媒上の15~40モル%のコバルトが酸化コバルトの形態であり、合成ガス流で触媒を活性化する還元および不動態化コバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒を提供することによって、触媒活性を保持しながら、通常使用されることが少なく、高価な水素還元装置および典型的な触媒活性化に関連する条件を回避することができる。
【0080】
また、驚くべきことに、触媒床を横切るより均一な活性が、活性化に続いて達成され得ることが見出された。いかなる特定の理論にも束縛されることを望まないが、本スタートアッププロセスでは、触媒の活性化の間に生成される水が少なく、これは、触媒床の下流端における触媒の活性を低減する触媒床の上流端の活性化からの水の効果を低減すると考えられる。このようにして、触媒の活性化の間に水が生成されるので、より迅速に水を除去するために、高流量を提供するために典型的に使用される圧縮機は、回避され得る。さらに、いかなる特定の理論にも束縛されることを望まないが、本スタートアッププロセスでは、触媒床の下流端での触媒の活性を低下させる触媒床の上流端の活性化からの水の影響を低減する、触媒の活性化中に生成される水が少ないと考えられるので、本スタートアッププロセスは、典型的な触媒活性化を使用するスタートアッププロセスに供されるフィッシャー・トロプシュプロセスと比較して生産性および/または選択性が増加したフィッシャー・トロプシュプロセスを提供することができ、また、典型的な触媒活性化を使用するスタートアッププロセスに供されるフィッシャー・トロプシュプロセスと比較して触媒寿命が増加したフィッシャー・トロプシュプロセスを提供することができる。
【0081】
本スタートアッププロセスで使用される還元および不動態化コバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒は、触媒上のコバルトの15~40モル%が酸化コバルトの形態であるならば、任意の適切なプロセスによって調製することができる。特に、還元および不動態化コバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒は、本明細書中で先に定義されたプロセスによって適切に製造され得る。
【0082】
したがって、本スタートアッププロセスで使用される還元および不動態化コバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒は、および/または製造方法に関連して、本明細書中で先に定義された触媒の物理的特性および組成物に関連して、本明細書中で先に実質的に定義された通りであり得る。例えば、いくつかの例では、本スタートアッププロセスで使用される還元および不動態化コバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒は、本明細書で先に定義されたプロセスによって製造され得るが、いくつかの例では、還元および不動態化のステップは、先に定義されたものとは異なり得る。
【0083】
また、本スタートアッププロセスで使用される還元および不動態化コバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒は、スタートアッププロセスおよびフィッシャー・トロプシュ合成が実施される異なる場所で製造されてもよく、スタートアッププロセスが還元および不動態化コバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒の製造に続いて実施されるプラントに輸送されてもよいことが理解されるであろう。例えば、還元および不動態化コバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒は、本明細書中で先に記載したように、輸送中に乾燥または不活性雰囲気下で貯蔵することができる。
【0084】
合成ガス流下で触媒を活性化することに加えて、本スタートアッププロセスの活性化は、有利には、フィッシャー・トロプシュ触媒活性化において典型的に使用されるものよりも低い温度で行うことができる。従って、好ましい実施形態処理(b)において、起動処理は、350℃未満、好ましくは300℃未満、より好ましくは250℃未満の温度で実施される。
【0085】
本スタートアッププロセスで使用される合成ガスは、任意の適切な合成ガス流であり得る。好ましい実施形態では、工程(b)における合成ガス流は、約1:1~約10:1、例えば、約1:1~約8:1または1:1~約5:1のH 2 :CO比率の水素および一酸化炭素を含む。いくつかの好ましい実施形態では、工程(b)における合成ガス流は、約0.8:1~約3:1、好ましくは約1:1~約2.5:1、例えば約1.5:1~2:1のH 2 :CO比率の水素および一酸化炭素を含む。有利には、触媒活性化工程は、触媒上でフィッシャー・トロプシュ組成物のために続いて使用され得る組成物ガスと同じ組成を有する組成物ガス流を使用して実施され得る。他の実施形態では、工程(b)における合成ガス流は、次のフィッシャー・トロプシュ合成で使用されるものとは構成が異なっていてもよい。
【0086】
スタートアッププロセスのステップ(b)で使用される合成ガス流は、本質的に合成ガスからなり得るか、または希釈され得る。いくつかの好ましい実施形態では、工程(b)で使用される合成ガス流は、不活性ガス、好ましくは窒素で希釈された合成ガスを含む。例えば、工程(b)における合成ガス流は、合成ガスおよび不活性ガスを含むか、または本質的に含んでもよく、ここで、合成ガスは、流れの少なくとも20 %v/v、好ましくは少なくとも30 %v/v、例えば少なくとも40 %v/vを構成する。
【0087】
スタートアッププロセスのステップ(b)において、合成ガス流は、任意の好適な流量、例えば、100~15000h-1のGHSVで触媒と接触され得る。好ましくは、工程(b)において、合成ガス流を、500~12000h-1、より好ましくは3000~10000時間のGHSVで触媒と接触させる。典型的なフィッシャー・トロプシユ触媒還元と比較して、本スタートアッププロセス中の触媒の還元によって生成される水が少ないので、生成された水を追い出す必要がないので、比較的低い流速を使用することができる。
【0088】
スタートアッププロセスのステップ(b)における合成ガス流の圧力は、任意の適切な圧力とすることができ、活性化触媒を使用する次のフィッシャー・トロプシュ合成に所望されるのと実質的に同じ圧力とすることができる。例えば、工程(b)における合成ガス流の圧力は、大気圧からその後のフィッシャー・トロプシュ合成のために望まれる圧力まで圧力を上昇させるために、時間と共に増加する圧力を含むことができる。好ましくは、工程(b)において、合成ガス流は、大気圧~絶対51バール、好ましくは絶対6バール~51バールの圧力で触媒と接触される。
【0089】
好ましくは、起動工程の工程(b)からの活性触媒上のコバルトの20モル%未満が酸化コバルトの形態であり、より好ましくは10モル%未満、例えば5モル%未満である。
【0090】
スタートアッププロセスのステップ(c)において、温度は、ステップ(b)からの活性化触媒を用いてフィッシャー・トロプシュ合成を実施するための所望の反応温度に任意に調整される。当然のことながら、本スタートアッププロセスは、比較的低い温度で実施されてもよいので、ステップ(b)が実施される温度は、好適には、次のフィッシャー・トロプシュ合成で使用される温度と実質的に同じであってもよい。このようにして、触媒の活性化からフィッシャー・トロプシュ合成を行うまでに特定の温度変化を必要としない場合がある。いくつかの好ましい実施形態では、工程(b)は、引き続いてフィッシャー・トロプシュ合成を実施するために触媒を所望の温度にするために、適当な温度上昇法を実施しながら、工程(a)からの触媒を合成ガス流と接触させることを含むことができる。例えば、触媒温度を約150℃に上昇させ、続いて60℃/hの速度で150℃から160℃に、10℃/hの速度で160から180に、5℃/hの速度で180から190に増加させてから、1℃/hで最終的に増加させてCO転化率の所望の温度および/または水準に達することができる。
【0091】
好ましい実施形態では、起動工程の工程(c)において、温度は、100℃~400℃、好ましくは150~350℃、およびより好ましくは150~250℃の温度に調整される。いくつかの好ましい実施形態では、温度は、工程(b)で使用される温度、例えば、工程(b)の温度上昇工程から生じる温度に維持される。
【0092】
いくつかの実施形態形態では、起動プロセスは、ステップ(b)からの活性化触媒を使用してフィッシャー・トロプシュ合成を実行するステップをさらに含む。
【0093】
スタートアッププロセスに続くフィッシャー・トロプシュプロセスをおよび/またはするスタートアッププロセスは、好ましくは、固定床、流動床またはスラリー相反応器中で連続的に実行される。一部または全部の実施形態では、コバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒を用いて行われるフィッシャー・トロプシュ法は、固定床フィッシャー・トロプシュ法である。固定床法でコバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒を使用する場合、粒子サイズは、触媒床上で適切な圧力低下が達成されるような形状および寸法であり得る。当業者は、このような固定床反応器での使用に最適な粒子寸法を決定することができる。所望の形および寸法の粒子は、例えば、必要に応じて押出助剤および/または結合剤が添加され得るスラリーの押出によって得ることができる。
【0094】
活性化触媒を用いるフィッシャー-トロプシュ合成は、任意の適切な条件下で行うことができる。例として、合成ガス中の水素対一酸化炭素の体積比は、好ましくは0.5:1~5:1、より好ましくは1:1~3:1、最も好ましくは1.5:1~2.5:1の範囲である。フィッシャー・トロプシュ合成の間の合成ガス流は、先に定義されたスタートアップ・プロセスのステップ(b)で使用されるものと同じであってもよく、窒素、二酸化炭素、水、メタンおよび他の飽和および/または不飽和軽炭化水素などの他のガス状成分も含み、各々が好ましくは30体積%未満の濃度で存在する。フィッシャー・トロプシュ反応の温度は、好ましくは100~400℃、より好ましくは150~350℃、最も好ましくは150~250℃の範囲である。圧力は、好ましくは大気圧~100bar絶対圧、より好ましくは5~75bar絶対圧、最も好ましくは10~50bar絶対圧の範囲である。
【0095】
本スタートアッププロセスは、有利には、触媒を活性化するために合成ガス流を使用して実施され得るが、水素はまた、典型的に使用されるよりも穏やかな条件下で触媒を活性化するために使用され得る。したがって、さらなる態様は、フィッシャー・トロプシュ触媒のためのスタートアップ・プロセスを提供し、このスタートアップ・プロセスは、以下のステップを含む:
(a) 触媒上の15~40モル%のコバルトが酸化コバルトの形成である、還元および不動態化コバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒を提供する段階;
(b) フィッシャー・トロプシユ合成のための触媒を活性化するのに適した条件下で、工程(a)からの触媒を300℃未満の温度で還元ガス流と接触させる工程;
(c) 必要に応じて、工程(b)からの活性化触媒を用いてフィッシャー・トロプシュ合成を行うための所望の反応温度に温度を調整する。
【0096】
具体的には、合成ガスの代わりに還元ガスを使用することとは別に、スタートアッププロセスは、実質的に本明細書中で先に定義された通りであってもよい。
【0097】
好ましくは、前記還元性ガスは水素である。例えば、還元ガス流は、少なくとも80 %v/vの水素、好ましくは少なくとも90%v/vの水素を含むことができ、例えば、還元ガスは、本質的に水素からなることができる。
【0098】
好ましい実施形態において、工程(a)からの触媒が、工程(b)における還元性気体流と接触される温度は、250℃未満であり得る。
【0099】
さらなる態様は、フィッシャー・トロプシュ合成工程におけるCO転化および/または生産性を改善するための、本明細書中で先に定義された還元および不動態化コバルト含有フィッシャー・トロプシュ触媒の使用を提供し、ここで、還元および不動態化触媒は、300℃未満の温度で触媒を合成ガス流および/またはと接触させることによって活性化される。好ましくは、その使用は、本明細書中で先に定義されたようなプロセス条件下で触媒を活性化することを含む。
【0100】
次に、本発明を、以下の非限定的な実施例および添付の図を参照することによって説明する:
【図面の簡単な説明】
【0101】
図1】本発明に係る触媒を還元するために直列に接続された4つの触媒床の配置の概略図を示す。
図2】本発明に係るフィッシャー・トロプシユ合成を実施するために並列に接続された4つの触媒床の配置を概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0102】

触媒の合成と不動態化
初期触媒材料は、P25チタニア担体に硝酸コバルト六水和物および酢酸マンガン四水和物を含有する溶液を含浸させることによって調製し、担体上に10重量%のコバルトおよび1重量%のマンガンを含む触媒材料を得た。支持材を成形し、活性成分を含浸させた後、乾燥し、焼成した。
【0103】
一連の触媒を、以下の表1に従って不動態化した。触媒は、先ず固定床管状反応器中の10gの触媒を100%水素流と300℃、大気圧で15時間接触させて触媒材料上のコバルトを還元し、続いて特定の温度に調整することによって、上記触媒材料を使用して調製した。次いで、触媒を、2000h-1のGHSVおよび大気圧で2時間、酸素含有ガス流と接触させた。触媒の温度は、触媒床中の熱電対によってモニターした。
【0104】
次いで、触媒サンプルを温度プログラム還元(TPR)によって分析して、触媒サンプル中に存在する酸化コバルトの割合を決定した。TPR試験は、統合熱伝導度検出器(TCD)およびCirrius 2四重極質量分析計と組み合わせたMicromeritics 2920 AutoChem II分析器を使用して、約50mgの触媒サンプルについて行った。試料を石英ガラスU管に装填し、流動アルゴン下で乾燥し、室温から5℃/分で110℃に加熱し、温度を15分間保持した。次いで、試料をアルゴン下で室温に冷却した。TPR分析はアルゴン中4 %v/v水素(30ml/min)を用い、室温から550°Cまで5°C/minの速度で加熱した。
【表1】
【0105】
表1に見られるように、酸素含有流の温度および酸素含有量は、還元および不動態化触媒上の酸化コバルトの割合を変化させるために変化させることができる。
フィッシャー-トロプシュ合成
実施例6(比較)
【0106】
上記の手順に従って不動態化されていない1.5mlの仮焼触媒をマイクロリアクターに充填し、H2流(15時間、300℃、100 % H2、1bar絶対、5000h-1のGHSV)下で還元した。冷後、触媒上のガス流を合成ガス(H2/CO = 1.8)と60%窒素の混合物に切り替え、圧を43bar絶対に維持した。約60%のCO転化率(約215℃)に達するまで、130℃から10℃/時間で温度を上昇させた。
実施例7
【0107】
実施例1および5に従う不動態化触媒を使用し、触媒を合成ガス流と接触させ、130℃から約215℃まで10℃/時間で温度を上昇させる前に、水素下での還元を実施しなかった以外は、実施例6の手順に従った。
【0108】
表2は、実施例1および5、ならびに実施例6の触媒について、流れ上で約400~450時間後の定常状態でのフィッシャー・トロプシユ合成の結果を示す。
【表2】
【0109】
表2に見られるように、フィッシャー・トロプシユ反応で使用される合成ガス流下で活性化された還元および不動態化触媒は、驚くべきことに、in situで水素で還元された触媒に匹敵する活性を示す。
【0110】
酸化コバルト含有量39%の上記手順に従って不動態化したさらなる触媒を使用して、さらなるフィッシャー・トロプシユ反応も行った。触媒はフィッシャー・トロプシユ合成に活性であることが見出されたが、上記実施例1および5の触媒よりも比較的低い活性を示すことが見出された。
触媒床均一性試験
【0111】
4つの接続された触媒床の配置を使用して、本開示による焼成コバルト含有触媒および還元および不動態化触媒(50% H2 /N2、GHSV 8000hr-1、大気圧、300℃で還元された焼成触媒;次いで<30℃で1% O2 /N2で不動態化された焼成触媒)について触媒床均一性を試験した。 以下の一般手順に従って、以下の表3に示すように3つの試験を実施した。 1つの試験は、100% H2下で活性化されたか焼触媒(実施例8)、50% H2 /N2下で活性化されたか焼触媒を使用するさらなる試験(実施例9)、および50% H2 /N2下で活性化された還元および不動態化触媒を使用する最終試験(実施例10)を使用して行った。
触媒活性化
【0112】
図1に示すように直列に接続された4つの固定ベッドに、カタログ上のコバルトを減らすために、ストリーム(100% H2または50% H2 /N2のいずれか)が含まれているガスを、カタログベッド1からベッド2~4(GHSV 8000 h-1 absolute、1bar absolute、300°C)まで、カタログベッド上に通した。
フィッシャー-トロプシュ合成
【0113】
上記の活性化を実施し、触媒床を冷却した後、51%窒素中の合成ガス(H2/CO = 1.8)の混合物を、図2(GHSV 8795h-1、31bar絶対圧)に示すように、並行して触媒床に別々に供給した。このようにして、活性化中のその相対位置に関連して、触媒床tの各々の活性を分析することが可能であった。温度を215℃まで上昇させ、215℃での定常状態でのCO転化率を4つの触媒床の各々について記録し、以下の表3に示す。マッチング転化率に達するのに必要であった各触媒床における温度も測定し、以下の表3に示す。
【表3】
【0114】
表3からわかるように、本開示に従って還元および不動態化される触媒が使用される場合(実施例10)、4つの触媒床を横切る活性は、焼成触媒が使用される場合よりも均一である。類似性によって、単一の触媒床を使用する反応器はまた、床の上流端から下流端までの改善された触媒床均一性の同じ傾向を示すことが予想され得る。
【0115】
いかなる特定の理論にも束縛されることを望まないが、本開示による還元および不動態化触媒を使用することによって、触媒床の下流端部に対する触媒の活性化中に生成される水の効果は、従来の触媒還元と比較して最小限に抑えられると考えられる。
図1
図2
【国際調査報告】