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特表2023-511057脳卒中及び関連疾患を治療するためのプラスミン耐性ペプチド
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-16
(54)【発明の名称】脳卒中及び関連疾患を治療するためのプラスミン耐性ペプチド
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/10 20060101AFI20230309BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230309BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20230309BHJP
   A61P 7/02 20060101ALI20230309BHJP
   A61P 25/20 20060101ALI20230309BHJP
   A61P 25/22 20060101ALI20230309BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230309BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230309BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20230309BHJP
   C07K 7/06 20060101ALN20230309BHJP
   C07K 7/08 20060101ALN20230309BHJP
【FI】
A61K38/10
A61K45/00
A61P9/10
A61P7/02
A61P25/20
A61P25/22
A61P29/00
A61P43/00 113
A61P25/28
C07K7/06 ZNA
C07K7/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022542365
(86)(22)【出願日】2021-01-08
(85)【翻訳文提出日】2022-09-08
(86)【国際出願番号】 IB2021050135
(87)【国際公開番号】W WO2021140485
(87)【国際公開日】2021-07-15
(31)【優先権主張番号】62/959,091
(32)【優先日】2020-01-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509011178
【氏名又は名称】ノノ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】ティミアンスキー, マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ガーマン, ジョナサン デイヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】メイヤー, ダイアナ
【テーマコード(参考)】
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA19
4C084BA01
4C084BA09
4C084BA18
4C084BA23
4C084BA41
4C084CA59
4C084MA56
4C084MA59
4C084MA66
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA021
4C084ZA051
4C084ZA161
4C084ZA162
4C084ZA361
4C084ZA542
4C084ZB111
4C084ZB112
4C084ZC132
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA01
4H045BA15
4H045BA16
4H045BA17
4H045EA20
4H045FA10
(57)【要約】
本発明によれば、脳卒中を治療するための前述した活性薬剤Tat-NR2B9cのバリアントが提供される。標的結合特性は、C末端にL-アミノ酸を含めることによって保持され、プラスミン耐性は、他の位置にD-アミノ酸を含めることによって付与される。例示的な薬剤は、配列ygrkkrrqrrrklssIETDV(配列番号62)を有する。得られた活性薬剤は、プラスミン消化による活性の顕著な低下なしに血栓溶解剤と同時に投与することを含むいくつかの利点を有する。得られた薬剤はまた、皮下、鼻腔内及び筋肉内などの静脈内注入の代替経路による投与、及び慢性疾患の治療のための複数回投与計画により適している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
阻害剤ペプチドに結合した内在化ペプチド又はバリアントを含む活性薬剤であって、
前記阻害剤ペプチドは、NOS及び/又はNMDAR2BへのPSD-95の結合を阻害し、前記内在化ペプチドは、YGRKKRRQRRR(配列番号1)を含むアミノ酸配列を有し、前記阻害剤ペプチドは、KLSSIESDV(配列番号2)を含む配列を有し、
前記バリアントは、前記内在化ペプチド及び前記阻害剤ペプチドに、合計5つまでの置換若しくは欠失があり、前記阻害剤ペプチドの少なくとも4つのC末端アミノ酸は、L-アミノ酸であり、全てのR残基及びK残基を含むアミノ酸の連続セグメントは、D-アミノ酸である、活性薬剤。
【請求項2】
最もC末端のR残基又はK残基のすぐ隣のC末端の残基もD-残基である、請求項1に記載の活性薬剤。
【請求項3】
前記内在化ペプチドのC末端は、前記阻害剤ペプチドのN末端に結合して融合ペプチドを形成する、請求項1又は2に記載の活性薬剤。
【請求項4】
前記阻害剤ペプチドは、C末端に[E/D/N/Q]-[S/T]-[D/E/Q/N]-[V/L](配列番号3)を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の活性薬剤。
【請求項5】
前記阻害剤ペプチドは、C末端にI-E-[S/T]-D-V(配列番号4)を含む、請求項1から4のいずれか1項に記載の活性薬剤。
【請求項6】
前記阻害剤ペプチドは、C末端にIESDV(配列番号5)を含む、請求項1に記載の活性薬剤。
【請求項7】
前記阻害剤ペプチドの5つのC末端アミノ酸は、それぞれL-アミノ酸である、請求項1から6のいずれか1項に記載の活性薬剤。
【請求項8】
前記活性薬剤の他の残基は、それぞれD-アミノ酸である、請求項7に記載の活性薬剤。
【請求項9】
アミノ酸配列ygrkkrrqrrrklssIESDV(配列番号6)、ygrkkrrqrrrkssIESDV(配列番号7)、ygrkkrrqrrrksIESDV(配列番号8)又はygrkkrrqrrrkIESDV(配列番号9)を有する、請求項1に記載の活性薬剤。
【請求項10】
アミノ酸配列ygrkkrrqrrrklssIESDV(配列番号6)を有し、ここで、小文字はD-アミノ酸、大文字はL-アミノ酸である、請求項1に記載の活性薬剤。
【請求項11】
Tat-NR2B9cと比較して向上した血漿中安定性を有する、請求項1から10のいずれか1項に記載の活性薬剤。
【請求項12】
Tat-NR2B9cと比較して向上したプラスミン耐性を有する、請求項1から11のいずれか1項に記載の活性薬剤。
【請求項13】
PSD-95に対する結合親和性は、Tat-NR2B9cの2倍以内である、請求項1から12のいずれか1項に記載の活性薬剤。
【請求項14】
NMDAR2BへのPSD-95の結合を阻害するIC50は、Tat-NR2B9cの2倍以内である、請求項1から13のいずれか1項に記載の活性薬剤。
【請求項15】
PSD-95への結合についてTat-NR2B9cと競合する、請求項1から14のいずれか1項に記載の活性薬剤。
【請求項16】
塩化物塩としての請求項1から15のいずれか1項に記載の活性薬剤。
【請求項17】
ヒスチジン及びトレハロースをさらに含む、請求項1から16のいずれか1項に記載の活性薬剤。
【請求項18】
リン酸緩衝液をさらに含む、請求項1から16のいずれか1項に記載の活性薬剤の製剤。
【請求項19】
請求項1から17のいずれか1項に記載の活性薬剤と、抗炎症薬とを含む、共製剤。
【請求項20】
前記抗炎症薬は、肥満細胞脱顆粒阻害剤又は抗ヒスタミン薬である、請求項19に記載の共製剤。
【請求項21】
請求項1から17のいずれか1項に記載の活性薬剤と、血栓溶解剤とを含む、共製剤。
【請求項22】
脳卒中、脳虚血、CNSの外傷性損傷、くも膜下出血、痛み、不安、癲癇から選択される病状に罹患しているか又は罹患するリスクがある被験体を治療する方法であって、
有効な投与計画の請求項1から17のいずれか1項に記載の活性薬剤を前記被験体に投与することを含む、方法。
【請求項23】
脳卒中に罹患しているか又は罹患するリスクがある被験体の虚血性脳卒中を治療する方法であって、
有効な投与計画を前記被験体に投与することを含み、
前記被験体に血栓溶解剤が共投与され、
前記活性薬剤は、阻害剤ペプチドに結合した内在化ペプチドを含み、前記阻害剤ペプチドは、NOS及び/又はNMDAR2BへのPSD-95の結合を阻害し、前記阻害剤ペプチドの少なくとも4つ C末端アミノ酸は、L-アミノ酸であり、前記活性薬剤の残りのアミノ酸の少なくとも1つは、D-アミノ酸であり、活性薬剤及び血栓溶解剤は、血栓溶解剤によって誘導される活性薬剤の切断が少なくとも1つのD-アミノ酸の含有によって低減されるのに十分に短い投与間隔で投与される、方法。
【請求項24】
前記内在化ペプチドは、そのN末端で前記阻害剤ペプチドのC末端に結合して融合タンパク質を形成する、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記阻害剤ペプチドは、[E/D/N/Q]-[S/T]-[D/E/Q/N]-[V/L](配列番号3)を最後の4つの残基として含む、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記阻害剤ペプチドは、[I]-[E/D/N/Q]-[S/T]-[D/E/Q/N]-[V/L](配列番号10)を最後の5つの残基として含み、それぞれがL-アミノ酸である、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
前記内在化ペプチドは、ペプチドである、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
前記tatペプチドの少なくとも8つの残基は、D-アミノ酸である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記tatペプチドのそれぞれの残基は、D-アミノ酸である、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
N末端で阻害剤ペプチドとしてのKLSSIESDV(配列番号2)又はKLSSIETDV(配列番号12)に結合して融合タンパク質を形成する内在化ペプチドとしてのYGRKKRRQRRR(配列番号1)を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項31】
前記活性薬剤は、K残基及びR残基のそれぞれを含むD-残基の連続セグメントを含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記活性薬剤は、ygrkkrrqrrrklssIESDV(配列番号6)を含み、ここで、小文字はD-アミノ酸、大文字はL-アミノ酸を表す、請求項23に記載の方法。
【請求項33】
前記血栓溶解剤は、前記活性薬剤が投与される前の60、30又は15分間のウィンドウ以内で投与される、請求項22から32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
前記活性薬剤と血栓溶解剤は、同時に投与される、請求項22から33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
被験体に活性薬剤を送達する方法であって、
請求項1から17に記載の活性薬剤を非静脈経路により投与することを含み、
前記活性薬剤は、治療レベルで血漿に送達される、方法。
【請求項36】
前記活性薬剤は、皮下投与される、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記活性薬剤は、筋肉内投与される、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
前記活性薬剤は、鼻腔内又は肺内投与される、請求項35に記載の方法。
【請求項39】
用量は、3mg/kgを超える、請求項35に記載の方法。
【請求項40】
用量は、10mg/kgを超える、請求項35に記載の方法。
【請求項41】
用量は、20mg/kgを超える、請求項35に記載の方法。
【請求項42】
用量は、10mg/kg未満であり、前記活性薬剤は、肥満細胞脱顆粒阻害剤又は抗ヒスタミン薬の共投与なしで投与される、請求項35に記載の方法。
【請求項43】
用量は、10mg/kgを超え、前記活性薬剤は、投与される、請求項35に記載の方法。
【請求項44】
前記被験体は、脳卒中、脳虚血、CNSの外傷性損傷、痛み、不安、癲癇、くも膜下出血、アルツハイマー病及びパーキンソン病から選択される病状に罹患しているか、又は罹患するリスクがある、請求項35に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年1月9日に出願された米国特許第62/959,091号の優先権を主張し、その全体がすべての目的で参照により組み込まれる。
【0002】
配列表
本出願は、2021年1月7日に作成されたファイル名が695323WOのテキストファイル(20キロバイト)における配列を含み、それが参照によりここに組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
Tat-NR2B9c(NA-1としても知られている)は、PSD-95を阻害することでN-メチル-D-アスパラギン酸塩受容体(NMDAR)及び神経型一酸化窒素合成酵素(nNOS)へのPSD-95の結合を干渉し、脳虚血による興奮毒性を低下させる薬剤である。治療により、脳損傷及び神経変性疾患のモデルにおける梗塞サイズ及び機能障害が軽減される。Tat-NR2B9cは、第II相試験(WO2010144721;Aarts et al.,Science 298,846-850(2002),Hill et al.,Lancet Neurol.11:942-950(2012))及び第III相試験(Hill et al,Lancet395:878-887(2020))に成功した。
【0004】
グリシンを除いて、すべての標準的なα-アミノ酸は、L-及びD-アミノ酸と呼ばれる他の互いに鏡像である2つの光学異性体のいずれかで存在することができる。タンパク質及びほとんどの天然ペプチドは、完全にL配置のアミノ酸で形成される。D-アミノ酸は、ごく少数の天然ペプチドで検出されている。これらのD-アミノ酸は、L-アミノ酸が翻訳後修飾を受けるときに形成される。D-アミノ酸は自然界では希少であるため、一般に、少なくともL-アミノ酸と同程度でL-タンパク質によって認識されない。D-アミノ酸を単に Lに置き換えるだけでは、標的部位に対する側鎖の向きが変わるため、親分子の模倣物を作成するのに効果的ではない。L 又はD-アミノ酸を置換し、アミノ酸の順序を逆にすると、親分子と同様の側鎖トポロジーが得られるが、左巻きヘリックスに適合する反転したアミドペプチド結合を有するのに対し、L-ペプチドは右巻きヘリックスに適合する。したがって、標的結合は依然として失われたり変更されたりする可能性がある。
【発明の概要】
【0005】
本発明によれば、活性薬剤又はそのバリアントが提供される。前記活性薬剤は、阻害剤ペプチドに結合した内在化ペプチドを含む。前記阻害剤ペプチドは、NOS及び/又はNMDAR2BへのPSD-95の結合を阻害する。前記内在化ペプチドは、YGRKKRRQRRR(配列番号1)を含むアミノ酸配列を有し、前記阻害剤ペプチドは、KLSSIESDV(配列番号2)を含む配列を有する。前記バリアントは、内在化ペプチド及び阻害剤ペプチドに、合計最大で5つまでの置換若しくは欠失がある。阻害剤ペプチドの少なくとも4つのC末端アミノ酸は、L-アミノ酸であり、R及びK残基を含むアミノ酸の連続セグメントは、D-アミノ酸である。選択的に、最もC末端のR又はK残基のすぐ隣のC末端の残基もD-残基である。選択的に、内在化ペプチド のC末端は、阻害剤ペプチドのN末端に結合して融合ペプチドを形成する。選択的に、阻害剤ペプチドは、C末端に[E/D/N/Q]-[S/T]-[D/E/Q/N]-[V/L](配列番号3)を含む。選択的に、阻害剤ペプチドは、C末端にI-E-[S/T]-D-V(配列番号4)を含む。選択的に、阻害剤ペプチドは、C末端にIESDV(配列番号5)を含む。
【0006】
選択的に、阻害剤ペプチドの5つのC末端アミノ酸は、それぞれL-アミノ酸である。選択的に、活性薬剤の他の各残基は、D-アミノ酸である。選択的に、活性薬剤は、ygrkkrrqrrrklssIESDV(配列番号6)、ygrkkrrqrrrkssIESDV(配列番号7)、ygrkkrrqrrrksIESDV(配列番号8)又はygrkkrrqrrrkIESDV(配列番号9)のアミノ酸配列を有する。選択的に、活性薬剤は、ygrkkrrqrrrklssIESDV(配列番号6)のアミノ酸配列を有し、ここで、小文字はD-アミノ酸、大文字はL-アミノ酸である。
【0007】
選択的に、前記活性薬剤は、血漿中の安定性がTat-NR2B9cよりも高い。選択的に、前記活性薬剤は、プラスミン耐性がTat-NR2B9cよりも高い。選択的に、前記活性薬剤は、PSD-95に対する結合親和性がTat-NR2B9cの2倍以内である。選択的に、前記活性薬剤は、NMDAR2BへのPSD-95の結合を阻害するIC50がTat-NR2B9cの2倍以内である。
【0008】
選択的に、活性薬剤は、塩化物塩である。
【0009】
本発明によれば、ヒスチジン及びトレハロースをさらに含む上記のいずれか1つの前記活性薬剤の製剤がさらに提供される。
【0010】
本発明によれば、リン酸緩衝液をさらに含む上記のいずれか1つの活性薬剤の製剤がさらに提供される。
【0011】
本発明によれば、上記のいずれか1つの活性薬剤と、抗炎症薬とを含む共製剤がさらに提供される。選択的に、前記抗炎症薬は、肥満細胞脱顆粒阻害剤又は抗ヒスタミン薬である。
【0012】
本発明によれば、上記のいずれか1つの活性薬剤と、血栓溶解剤とを含む共製剤がさらに提供される。
【0013】
本発明によれば、被験体に有効な投与計画のいずれかの上記活性薬剤を投与することを含む、脳卒中、脳虚血、CNSの外傷性損傷、くも膜下出血、痛み、不安、癲癇から選択される症状に罹患しているか又は罹患するリスクがある被検体を治療する方法がさらに提供される。
【0014】
本発明によれば、脳卒中に罹患しているか又は罹患するリスクがある患者の虚血性脳卒中を治療する方法がさらに提供される。この方法は、前記被験体に有効な投与計画の活性薬剤を投与することを含み、ここで、前記被験体に血栓溶解剤を共投与する。前記活性薬剤は、阻害剤ペプチドに結合した内在化ペプチドを含み、前記阻害剤ペプチドは、NOS及び/又はNMDAR2BへのPSD-95を阻害する。阻害剤ペプチドの少なくとも4つのC末端アミノ酸は、L-アミノ酸であり、活性薬剤の残りのアミノ酸の少なくとも1つは、D-アミノ酸である。活性薬剤及び血栓溶解剤は、血栓溶解剤によって誘導される活性薬剤の切断が少なくとも1つのD-アミノ酸の含有によって低減されるのに十分に短い投与間隔で投与される。選択的に、内在化ペプチドは、そのN末端で阻害剤ペプチドのC末端に結合されて融合タンパク質を形成する。選択的に、阻害剤ペプチドは、[E/D/N/Q]-[S/T]-[D/E/Q/N]-[V/L](配列番号3)を最後の4つの残基として含む。選択的に、阻害剤ペプチドは、[I]-[E/D/N/Q]-[S/T]-[D/E/Q/N]-[V/L](配列番号10)をそれぞれL-アミノ酸である最後の5つの残基として含む。選択的に、内在化ペプチドは、tatペプチドである。選択的に、tatペプチド少なくとも8つの残基は、D-アミノ酸である。選択的に、tatペプチドのそれぞれの残基は、D-アミノ酸である。選択的に、内在化ペプチドは、N末端で阻害剤ペプチドとしてのKLSSIESDV(配列番号2)又はKLSSIETDV(配列番号12)に結合して融合タンパク質を形成するGRKKRRQRRR(配列番号11)を含む。選択的に、活性薬剤は、K残基及びR残基のそれぞれを含むD-残基の連続セグメントを含む。選択的に、活性薬剤は、ygrkkrrqrrrklssIESDV(配列番号6)を含み、小文字はD-アミノ酸を表し、大文字はL-アミノ酸を表す。選択的に、血栓溶解剤は、活性薬剤の60分間、30分間又は15分間前のウィンドウ(window)内で投与される。選択的に、活性薬剤及び血栓溶解剤は、同時に投与される。
【0015】
本発明によれば、被験体に活性薬剤を送達する方法がさらに提供される。この方法は、非静脈経路を介して上述した活性薬剤を投与することを含む。活性薬剤は、治療レベルで血漿に送達される。選択的に、活性薬剤は、皮下投与される。選択的に、活性薬剤は、筋肉内投与される。選択的に、活性薬剤は、鼻腔内又は肺内投与される。選択的に、用量は3mg/kgを超える。選択的に、用量は10mg/kgを超える。選択的に、用量は20mg/kgを超える。選択的に、用量は10mg/kg未満であり、バリアントは、肥満細胞脱顆粒阻害剤又は抗ヒスタミン薬の共投与がなしで投与される。選択的に、用量は10mg/kgを超え、バリアントは投与される。選択的に、前記被験体は、脳卒中、脳虚血、CNSの外傷性損傷、痛み、不安、癲癇、くも膜下出血、アルツハイマー病及びパーキンソン病から選択される疾患に罹患しているか又は罹患するリスクがある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】NA-1上のプラスミン切断部位(配列番号58)。
図2】rt-PAと同時に投与する場合、ラット血漿中のNA-1含有量は顕著に減少する。
図3】rt-PAと同時に投与する場合、ヒト血漿中のNA-1含有量は顕著に減少する。
図4】rt-PA(5.4mg/kg)と同時に投与する場合、NA-1 Cmax及びAUCは顕著に減少する。
図5】D-Tat-L-NR2B9cはNA-1と比較して、rt-PAの存在下でラット血漿中で優れた安定性を示す。
図6】D-Tat-L-NR2B9cは、ヒト血漿にrt-PAを注入する際にタンパク質分解に耐性を有する。
図7】TNKと同時に投与する場合、ヒト血漿中のNA-1含有量は減少するが、D-Tat-L-NR2B9c含有量は維持される。
図8】TNKと同時に投与する場合、ラット血漿中のNA-1含有量は減少するが、D-Tat-L-NR2B9c含有量は維持される。
図9】D-Tat-L-NR2B9cはPBS培地中でのプラスミン切断に耐性を有する。
図10】結果として、D-Tat-L-NR2B9cは、ラット脳ライセート内で形成されたNR2B:PSD95複合体を解離する。
図11】D-Tat-L-NR2B9c及びD-Tat-L-IESDV(配列番号6)は、標的タンパク質PSD95-PDZ2に効果的に結合する。
図12】結果として、NA-1及びD-Tat-L-NR2B9cは、PSD95-PDZ2ドメインに対して高い結合親和性を有する。
図13】皮下NA-1は、IV NA-1と類似した血漿曝露を達成した。
図14】皮下NA-3は、皮下NA-1と比較してより高い血漿濃度及びより多い血漿曝露を達成した。
図15図15A(表)及び図15B(グラフ)は、皮下NA-3がSQ NA-1と比較してよりも多い血漿曝露を達成したことを示す。
図16】D-NA-1及びNA-3の肺内点滴注入は、肺内NA-1と比較してより高い血漿濃度及びより多い血漿曝露を達成した。
図17】8.3mg/kg又は2.8mg/kgの用量でNA-3を皮下投与した後、ヒスタミン放出が顕著に減少した。
図18】D-Tat-L-NR2B9c(7.6mg/kg)とロドキサミド(0.6mg/kg)の共製剤を静脈内投与した後、顕著なヒスタミン放出がなかった。
図19】脳卒中発症の1時間後のD-Tat-L-NR2B9c及びロドキサミドの静脈内投与は、eMCAoモデル動物の梗塞体積及び半球腫脹を減少させた。
図20】D-Tat-L-NR2B9c及びロドキサミドの投与は、脳卒中発症の24時間後に神経学的転帰を改善した。
図21】梗塞体積に対する皮下NA-3及びネリネチドの効果。
図22】皮下投与後の15分間時点でのネリネチド及びNA-3の血漿濃度。
図23】ネリネチドIV注入と比較して、25mg/kgの皮下NA-3は、より高いCmax及びAUCをもたらした。
図24】皮下投与後のNA-3の薬物動態プロファイル。
【発明を実施するための形態】
【0017】
定義
「医薬製剤」又は組成物は、活性薬剤が有効であり、その製剤を投与する被験体にとって毒である追加の構成成分を含まない調製品である。
【0018】
大文字の1文字のアミノ酸コードの使用は、文脈で別段の指示がない限り、D-又はL-アミノ酸のいずれかを指すことができる。小文字の1文字コードは、D-アミノ酸を示すために使用される。グリシンにはD型とL型がないため、大文字及び小文字で交換可能に表すことができる。
【0019】
濃度又はpH等の数値は、値を測定可能な精度を反映している許容範囲内で与えられる。文脈上別段の解釈を要する場合を除き、微小な値は、最も近い整数に丸められる。文脈上別段の解釈を要する場合を除き、値の範囲の説明は、任意の整数、又は、使用可能な範囲内のサブ範囲を意味する。
【0020】
用語「疾患」及び「状態」は、被験体の正常構造又は機能に関する任意の破壊又は停止を示すものとして同義的に用いられる。
【0021】
明示の用量は、一般的な病院の設備で用量を計量することができる精度に固有の誤差を含むものとして理解すべきである。
【0022】
「単離」又は「精製」との用語は、対象種(例えばペプチド)が、対象種を含有する天然源由来の試料などの、試料に存在する混入物質から精製されていることを意味する。対象種が、単離又は精製された場合、それは試料における主たる高分子(例えばポリペプチド)種であり(つまり、モル基準で、その組成物において他の個々の種のどれよりも多い)、好ましくは、対象種は、存在する全高分子種の少なくとも50%(モル基準)を含む。一般に、単離された、精製された又は実質的に純粋な組成物は、組成物に存在する全高分子種の80~90%よりも多くを含む。より好ましくは、対象種は、組成物が本質的に単一の高分子種で構成される、本質的な均一度(つまり、従来の検出法で組成物中の混入種を検出することができない)にまで、精製される。単離された又は精製されたという用語は、単離された種との組み合わせで作用するように意図された他の成分の存在を、必ずしも排除するものではない。例えば、内在化ペプチドは、活性ペプチドに連結されるにもかかわらず、単離されていると記載される。
【0023】
「ペプチド模倣体」は、天然アミノ酸で構成されるペプチドと実質的に同じ構造及び/又は機能特性を有する、合成の化学物質を指す。ペプチド模倣体は、完全に合成の非天然のアミノ酸アナログを包含することができ、又は、部分的に天然のペプチドアミノ酸と部分的に非天然のアミノ酸アナログとのキメラ分子であり得る。ペプチド模倣体は、また、天然アミノ酸の保存的置換を、その置換が模倣体の構造及び/又は阻害活性もしくは結合活性を実質的に変更することもない限り、いくらでも取り込むことができる。ポリペプチド模倣組成物は、一般に次の3つの構造群に由来する非天然の構造成分の、あらゆる組み合わせを含有することができる:a)天然のアミド結合(「ペプチド結合」)連結以外の残基連結群;b)天然に存在するアミノ酸残基に代わる非天然残基;又は、c)2次構造模倣を誘導する残基、つまり、例えば、ベータターン、ガンマターン、ベータシート、アルファへリックスコンホメーションなどの2次構造を誘導又は安定化する残基。活性ペプチド及び内在化ペプチドを含むキメラペプチドのペプチド模倣体において、活性部分及び内在化部分の一方又は両方は、ペプチド模倣体であり得る。
【0024】
特異的結合」の用語は、2つの分子、例えばリガンド及び受容体、の間の結合であって、多くの他の様々な分子が存在するときでも、一方の分子(リガンド)が他方の特異的分子(受容体)に会合する能力、つまり、分子の異種混合物における1つの分子の他の分子に対する優先的結合を示す能力、によって特徴付けられる結合を指す。受容体へのリガンドの特異的結合は、また、検出可能に標識されたリガンドの受容体への結合が、過剰の非標識リガンドの存在下で低下すること(つまり、結合競合アッセイ)によっても証明される。
【0025】
興奮毒性は、神経細胞と周囲の細胞が、NMDA受容体、例えば、NMDAR2Bサブユニットを持つNMDA受容体などの、興奮性神経伝達物質グルタメートの受容体の過剰活性化によって、損傷を受けて死ぬ病理過程である。
【0026】
「被験体」との用語には、ヒト、ならびに、哺乳動物などの獣医学動物及び前臨床試験で使用されるマウス又はラットなどの実験動物が含まれる。
【0027】
tatペプチドは、RKKRRQRRR(配列番号13)からなる又はRKKRRQRRR(配列番号13)を含むペプチドであって、その配列内で5つ以下の残基が削除、置換又は挿入され、連結したペプチド又は他の薬剤を細胞に取り込むことを促進する能力を維持しているペプチドを意味する。好ましくは、あらゆるアミノ酸変化は、保存的置換である。好ましくは、会合体におけるあらゆる置換、削除又は内部挿入は、好ましくは上記の配列のものに類似する、正味正電荷をペプチドに残す。このようなこれは、例えば、R又はK残基を置換しないことによって、又はR及びK残基の合計を同じに保持することによって達成することができる。tatペプチドのアミノ酸は、炎症反応を低減するために、ビオチン又は類似の分子によって誘導体化することができる。
【0028】
薬理活性薬剤の共投与は、それらの薬剤の検出可能な量が血漿中に同時に存在するために、及び/又は、それらの薬剤が疾患の同じエピソードに対する治療効果を奏する、もしくは、それらの薬剤が疾患の同じエピソードに対して協働的又は相乗的に作用するために十分に近接した時間に、それらの薬剤が投与されることを意味する。例えば、抗炎症薬は、tatペプチドを含む薬剤と、両薬剤が内在化ペプチドによって誘導され得る抗炎症反応を抗炎症薬が抑止し得るだけ十分に近い時間に投与されるとき、協働的に作用する。
【0029】
統計的に有意であるとは、p値が<0.05、好ましくは<0.01、最も好ましくは<0.001でることを指す。
【0030】
疾患のエピソードとは、疾患の兆候又は症状が存在する期間であって、その兆候及び/又は症状が存在しないもしくはより低い程度で存在する、より長い期間が隣接することによって、間歇的に存在する期間を意味する。
【0031】
「NMDA受容体」又は「NMDAR」の用語は、以下に記載する種々のサブユニット型を含むNMDAと相互作用することが知れられている、膜結合タンパクを指す。このような受容体は、ヒトのものであることも、ヒトのものでない(例えば、ラット、ウサギ、サル)こともあり得る。
【0032】
特定の特徴を含むものとしての対象への言及は、特定の特徴からなる、又は本質的にそれからなる対象を代替的に開示するものとして理解されるべきである。同様に、特徴からなる、又は特徴からなる対象への言及は、代わりに、特徴を含む又は本質的に特徴からなる対象を開示するものとして理解されるべきである。同様に、特徴から本質的に構成される対象への言及は、代わりに、特徴から構成される又は特徴を含む対象を開示するものとして理解されるべきである。発明の基本的及び新規な特徴を参照するために慣習に従って、本質的に構成するという表現が使用される。
【0033】
I.概要
【0034】
本発明によれば、脳卒中を治療するための前述した活性薬剤(Tat-NR2B9c)のバリアントが提供される。前記バリアントは、C末端にある4つ又は5つのアミノ酸がL-アミノ酸であり、残りのアミノ酸の1つ以上がD-アミノ酸である。D-アミノ酸を含むことにより、特にプラスミンによる薬剤のタンパク質分解が抑制される。プラスミンは、血漿中に自然に存在し、血栓溶解剤の投与によって誘導される。残りの分子の一部又は全部にD-アミノ酸の存在が有無にもかかわらず、C末端でのL-アミノ酸の保持は、Tat-NR2B9cの結合及び阻害特性を保持するのに十分である。得られた活性薬剤は、半減期の延長及び共投与又は共製剤化された血栓溶解剤により誘導されるプラスミンに対する耐性を含むいくつかの利点を有する。得られた薬剤は、静脈内注入の代替経路(例えば、皮下、鼻腔内及び筋肉内投与)による投与にも適している。これは、この薬剤のより長い半減期がこれらの経路によって必要とされる血漿中の治療濃度に達するまでのより長い時間を補うことができるためである。このような経路による投与により、顕著なヒスタミンの放出がなくより高い用量で投与できるとともに、医療施設よりも現場での実施により適する。 本発明の活性薬剤のより長い半減期により、当該薬剤は、複数回投与計画において長期間にわたって治療濃度を維持するのにより適する。このような投与計画は、脳卒中に起因する病理学的障害及び認知障害からの回復を促進し、初期障害を軽減するのに役立つ。複数回投与計画は、アルツハイマー病やパーキンソン病などの慢性疾患の治療にも役立つ。
【0035】
II.活性薬剤
【0036】
本発明の活性薬剤は、PSD-95(例えばStathakism,Genomics 44(1):71-82(1997))に特異的に結合することでNMDAR2B(例えばGenBank ID 4099612)及び/又はNOS(例えば、ニューロン又はnNOS Swiss-Prot P29475)を含むNMDA受容体2サブユニットへのPSD-95の結合を阻害するペプチド阻害剤と、ペプチド阻害剤が細胞膜及び血液脳関門を通過することを促進する内在化ペプチドとを含む。好ましいペプチドは、ヒト被験体において使用されるヒト形態のPSD-95 NMDAR 2B及びNOSを阻害する。しかし、阻害は、タンパク質の種バリアントから示され得る。いくつかのペプチド阻害剤は、それらのC末端に[E/D/N/Q]-[S/T]-[D/E/Q/N]-[V/L](配列番号3)を含むアミノ酸配列を有する。例示的なペプチドは、ESDV(配列番号14)、ESEV(配列番号15)、ETDV(配列番号16)、ETAV(配列番号17)、ETEV(配列番号18)、DTDV(配列番号19)及びDTEV(配列番号20)をC末端アミノ酸として含む。いくつかのペプチドは、それらのC末端に[I]-[E/D/N/Q]-[S/T]-[D/E/Q/N]-[V/L](配列番号10)を含むアミノ酸配列を有する。例示的なペプチドは、IESDV(配列番号5)、IESEV(配列番号21)、IETDV(配列番号22)、IETAV(配列番号23)、IETEV(配列番号24)、IDTDV(配列番号25)及びIDTEV(配列番号26)をC末端アミノ酸として含む。いくつかの阻害剤ペプチドは、C末端にX-[T/S]-XV(配列番号27)を含むアミノ酸配列を有する。ここで、[T/S]は、代替アミノ酸であり、Xは、E、Q、A及びそれらの類似体から選択され、Xは、A、Q、D、N、N-Me-A、N-Me-Q、N-Me-D、N-Me-N及びそれらの類似体から選択される(Bach,J.Med.Chem.51,6450-6459(2008);及びWO2010/004003)。選択的に、前記ペプチドは、P3位置(C末端から3番目のアミノ酸、即ち、[T/S] が占める位置)でN-アルキル化される。このペプチドは、シクロヘキサン又は芳香族置換基によってN-アルキル化され、ペプチド又はペプチド類似体の置換基と末端アミノ基との間にスペーサー基をさらに含み得る。前記スペーサー基は、アルキル基であり、好ましくは、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基から選択される。芳香族置換基は、ナフタレン-2-イル部分、或いは1つ又は2つのハロゲン及び/又はアルキル基で置換された芳香環であり得る。いつかの阻害剤ペプチドは、C末端にIX-[T/S]-XV(配列番号28)を含むアミノ酸配列を有する。例示的な阻害剤ペプチドは、IESDV(配列番号5)、IETDV(配列番号22)、KLSSIESDV(配列番号2)及びKLSSIETDV(配列番号12)の配列を有する。阻害剤ペプチドは、通常、3-25個のアミノ酸(内在化ペプチドなし)を含み、5-10個のアミノ酸、特に9個のアミノ酸(内在化ペプチドなし)のペプチド長が好ましい。
【0037】
内在化ペプチドは、多くの細胞タンパク又はウイルスタンパクが膜を横断するのを可能にする、比較的短いペプチドの周知のクラスである。それらは細胞膜又は血液脳関門を通過する連結ペプチドの通過を促進することもできる。内在化ペプチドは、細胞膜形質導入ペプチド、タンパク質形質導入ドメイン、脳シャトル又は細胞透過性ペプチドとしても知られ、例えば5~30個のアミノ酸を有し得る。このようなペプチドは、一般に、アルギニン残基及び/又はリジン残基の上記の通常の表記から、(一般のタンパクと比べて)正電荷を有し、このことが膜透過を促進すると信じられている。いくつかのこのようなペプチドは、少なくとも5,6,7又は8個のアルギニン残基及び/又はリジン残基を有する。例には、アンテナペディアタンパク(Bonfanti,Cancer Res.57,1442-6(1997))(及びそのバリアント)、ヒト免疫不全ウイルスのtatタンパク、タンパクVP22,ヘルペスシンプレックスウイルスタイプ1のUL49遺伝子の産生物、ペネトラチン、SynB1及び3、トランスポータン(Transportan)、アンフィパシック(Amphipathic)、gp41NLS、polyArg、ならびに、リシン、アブリン、モデシン、ジフテリア毒素、コレラ毒素、炭疽毒素、易熱性毒素、及び、緑膿菌外毒素A(ETA)などの、いくつかの植物及び細菌タンパク毒素が含まれる。他の例は、次の文献に記載されている(Temsamani,Drug Discovery Today,9(23):1012-1019,2004;De Coupade,Biochem J.,390:407-418,2005;Saalik Bioconjugate Chem.15:1246-1253,2004;Zhao,Medicinal Research Reviews 24(1):1-12,2004;Deshayes,Cellular and Molecular Life Sciences 62:1839-49,2005);Gao,ACS Chem.Biol.2011,6,484-491,SG3(RLSGMNEVLSFRWL)(配列番号29)),Stalmans PLoS ONE 2013,8(8)e71752,1-11 and supplement;Figueiredo et al.,IUBMB Life 66,182-194(2014);Copolovici et al.,ACS Nano,8,1972-94(2014);Lukanowski,Biotech J.8,918-930(2013);Stockwell,Chem.Biol.Drug Des.83,507-520(2014);Stanzl et al.,Accounts.Chem.Res/ 46,2944-2954(2013);Oller-Salvia et al.,Chemical Society Reviews 45:10.1039/c6cs00076b(2016); Behzad Jafari et al.,(2019)Expert Opinion on Drug Delivery,16:6,583-605(2019)(すべて参照によって組み込まれる)。さらに別の戦略では、追加の方法又は組成物を使用して、PSD-95 阻害剤などのカーゴ分子の脳への送達を強化する(Dong,Theranostics 8(6):1481-1493(2018)。
【0038】
好ましい内在化ペプチドは、HIVウイルス由来のtatである。先の研究で報告したtatペプチドは、HIVtatタンパクに見られる標準的アミノ酸配列YGRKKRRQRRR(配列番号1)を含み、又はこの配列からなる。RKKRRQRRR(配列番号13)及びGRKKRRQRRR(配列番号11)も使用することができる。このようなtatモチーフに隣接する追加の残基が(薬理活性薬剤の他に)存在する場合、その残基は、例えば、tatタンパク由来のこのセグメントに隣接する天然アミノ酸、もしくは、2つのペプチドドメインを結合するのに一般に使用される種類のスペーサ又はリンカーアミノ酸、例えば、gly(ser)4(配列番号30)、TGEKP(配列番号31)、GGRRGGGS(配列番号32)、もしくはLRQRDGERP(配列番号33)(例えば、Tang et al.(1996),J.Biol.Chem.271,15682-15686;Hennecke et al.(1998),Protein Eng.11,405-410)を参照)であり、又は、隣接残基なしでバリアントの取り込みをもたらす能力を大きく減じることのない他のあらゆるアミノ酸であり得る。好ましくは、活性ペプチド以外の隣接アミノ酸の数は、YGRKKRRQRRR(配列番号1)のどちら側においても10を超えない。ただし、好ましくは、隣接アミノ酸は存在しない。YGRKKRRQRRR(配列番号1)のC末端に隣接する追加のアミノ酸残基を含む1つの好適なtatペプチド又は他の阻害剤ペプチドは、YGRKKRRQRRRPQ(配列番号34)である。使用可能な他のtatペプチドには、GRKKRRQRRRPQ(配列番号35)及びGRKKRRQRRRP(配列番号36)が含まれる。
【0039】
N型カルシウムチャンネルに結合する能力が低い上記tatペプチドのバリアントは、国際特許出願公開公報第WO/2008/109010号に記載されている。そのようなバリアントは、アミノ酸配列XGRKKRRQRRR(配列番号37)を含み、又はこのアミノ酸配列からなり、ここで、Xは、Y以外のアミノ酸であり、或いはアミノ酸配列GRKKRRQRRR(配列番号11)を含むか、又はこのアミノ酸配列からなり得る。好ましいtatペプチドは、N末端のY残基がFで置換されている。したがって、FGRKKRRQRRR(配列番号3)を含む、又はこの配列からなるtatペプチドが好ましい。他の好ましい変異tatペプチドは、GRKKRRQRRR(配列番号1)からなる。他の好ましいtatペプチドは、RRRQRRKKRG又はRRRQRRKKRGY(配列番号9のアミノ酸1~10又は1~11)を含み、又はこの配列からなる。N型カルシウムチャンネルを阻害することなく薬理活性薬剤の取り込みを促進する他のtat由来ペプチドには、次の表1に示したものが含まれる。
【0040】
【表1】
【0041】
Xは、遊離アミノ末端、1つ以上のアミノ酸又は結合部分であり得る。
【0042】
本発明の活性薬剤は、典型的には阻害剤ペプチドと、内在化ペプチドとを含む。前記阻害剤ペプチドが遊離C末端と、内在化ペプチドのC末端に結合したN末端とを有する。このような薬剤において、阻害剤ペプチドの少なくとも4つのC末端残基、好ましくは阻害剤ペプチドの5つのC末端残基はL アミノ酸であり、阻害剤ペプチド及び内在化ペプチドにおける残りの残基の少なくとも1つはD-残基である。D-残基を含める位置は、D-残基が任意の塩基性残基(即ち、アルギニン又はリジン)の直後(即ち、C末端側)に現れるように選択することができる。プラスミンは、このような塩基性残基のC末端側のペプチド結合を切断することにより作用する。切断部位に隣接する部位、特に塩基性残基のC末端側にD-残基を含めることにより、ペプチド切断は減少するか又はなくされる。塩基性残基のC末端側にある残基の一部又は全部はD-残基であり得る。任意の塩基性残基もD-アミノ酸であり得る。
【0043】
例として、図1は、Tat-NR2B9cにおける実際及び潜在的なプラスミン切断部位の図を示す。 7つの実際の部位(切断が検出された部位)及び2つの潜在的な部位(プラスミン切断が発生する可能性がある部位)がある。いくつかの活性薬剤は、内在化ペプチド及び阻害剤ペプチドの両方に少なくとも1つのD-アミノ酸を含む。いくつかの活性薬剤は、内在化ペプチドの各位置にD-アミノ酸を含む阻害剤ペプチドを有する。いくつかの活性薬剤は、L-アミノ酸である4つ又は5つのC末端残基以外の阻害剤ペプチドの各位置にD-アミノ酸を含む。いくつかの活性薬剤は、内在化ペプチドの各位置、及びL-アミノ酸である最後の4つ又は5つのC末端アミノ酸残基以外の阻害剤ペプチドの各位置に、D-アミノ酸を含む。
【0044】
Tat-NR2B9cは、NA-1又はネリネチドとしても知られており、アミノ酸配列YGRKKRRQRRRKLSSIESDV(配列番号58)を有する。本発明の好ましい活性薬剤は、ESDV(配列番号14)又はIESDV(配列番号5)がL-アミノ酸であり、残りのアミノ酸の少なくとも1つがD-アミノ酸である上記配列のバリアントである。いくつかの活性薬剤において、少なくともC末端から8及び9番目の位置にあるL及び/又はK残基はD-残基である。いくつかの活性薬剤において、N末端から6番目、7番目、8番目、10番目及び11番目の位置を占めるR、R、Q、R、R残基の少なくとも1つはD-残基である。いくつかの活性薬剤において、これらの残基は全てD-残基である。いくつかの活性薬剤において、残基4-8及び残基10-13はそれぞれD-アミノ酸である。いくつかの活性薬剤において、残基4-13又は3-13はそれぞれD-アミノ酸である。いくつかの活性薬剤において、内在化ペプチドの11個の残基は、それぞれD-アミノ酸である。いくつかの例示的な活性薬剤は、ygrkkrrqrrrklssIESDV(配列番号6)(NA-3とも呼ばれる)、ygrkkrrqrrrklssiESDV(配列番号59)、ygrkkrrqrrrklsSIESDV(配列番号60)、ygrkkrrqrrrklSSIESDV(配列番号61)、ygrkkrrqrrrkssIESDV(配列番号7)、ygrkkrrqrrrksIESDV(配列番号8)又はygrkkrrqrrrkIESDV(配列番号9)を含む。他の活性薬剤は、C末端から3番目の位置にあるSがTで置換された上記配列のバリアント(ygrkkrrqrrrklssIETDV(配列番号62)、ygrkkrrqrrrklssiETDV(配列番号63)、ygrkkrrqrrrklsSIETDV(配列番号64)、ygrkkrrqrrrkssIETDV(配列番号65)、ygrkkrrqrrrksIETDV(配列番号66)及びygrkkrrqrrrkIETDV(配列番号67))を含む。活性薬剤は、ygrkkrrqrrrIESDV(配列番号68)(D-Tat-L-2B5c)及びygrkkrrqrrrIETDV(配列番号69)を含む。
【0045】
本発明は、例えば、阻害剤ペプチドに結合して融合ペプチドを形成する内在化ペプチドと、阻害剤ペプチドとを含む活性薬剤、或いは内在化ペプチドと阻害剤ペプチドの全体に最大1、2、3、4若しくは5つの置換又は欠失を有する前記活性薬剤のバリアントをさらに含む。阻害剤ペプチドは、NOS及び/又はNMDAR2BへのPSD-95の結合を阻害する。内在化ペプチドは、YGRKKRRQRRR(配列番号1)、GRKKRRQRRR(配列番号11)又はRKKRRQRRR(配列番号13)を含むアミノ酸配列を有する。阻害剤ペプチドは、KLSSIESDV(配列番号2)を含む配列を有する。このような活性薬剤において、阻害剤ペプチドの少なくとも4つ又は5つのC末端アミノ酸はL-アミノ酸であり、全てのR残基及びK残基を含むアミノ酸の連続セグメント並びに最もC末端のR残基又はK残基のすぐ隣のC末端の残基はD-アミノ酸である。このように、配列YGRKKRRQRRRKLSSIESDV(配列番号58)を含むペプチドにおいて、1番目のRからL-残基までの連続セグメントはD-アミノ酸である。
【0046】
許容される置換の一例は、阻害剤ペプチドのC末端にあるモチーフ[E/D/N/Q]-[S/T]-[D/E/Q/N]-[V/L](配列番号3)によって提供される。例えば、C末端から3番目のアミノ酸は、S又はTであり得る。好ましくは、阻害剤ペプチドの5つのC末端アミノ酸はそれぞれL-アミノ酸である。選択的に、活性薬剤ygrkkrrqrrrklssIESDVと同様に、他のアミノ酸はそれぞれD-アミノ酸である。ここで、小文字はD-アミノ酸、大文字はL-アミノ酸である。
【0047】
好ましい活性薬剤は、Tat-NR2B9c又は他の点では同一の全L-活性薬剤と比較して、ラット又はヒト血漿中での向上した安定性を有する(例えば、半減期により判断)。安定性は実施例に記載のように測定することができる。好ましい活性薬剤は、Tat-NR2B9c又は他の点では同一の全L-活性薬剤と比較して向上したプラスミン耐性を有する。プラスミン耐性は実施例に記載のように測定することができる。活性薬剤は、好ましくはTat-NR2B9c(全L)又は他の点では同一の全L-ペプチドと比較して1.5倍、2倍、3倍又は5倍以内でPSD-95に結合するか、或いは実験誤差内で区別できない結合を有する。好ましい活性薬剤は、結合についてTat-NR2B9c又はPSD-95に結合するためのPDZ結合ドメインを含むNMDA受容体サブユニット2配列の最後の15-20個のアミノ酸を含むペプチドと少なくとも10%、25%又は50%競合する(例えば、10倍過剰の活性薬剤はTat-NR2B9c結合を減少させる)。この競合は、活性薬剤がTat-NR2B9cと同じ又は重複する結合部位に結合することを示唆している。同じ又は重複する結合部位を有することは、PSD-95のアラニン変異導入によっても示され得る。残基の同一又は重複セットの変異導入が活性薬剤及びTat-NR2B9cの結合を減少させる場合、活性薬剤及びTAT-NR2B9cはPSD-95上の同一又は重複する部位に結合する。
【0048】
本発明の活性薬剤は、修飾アミノ酸残基(例えば、Nアルキル化された残基)を含むことができる。N末端アルキル修飾は、例えば、N-メチル、N-エチル、N-プロピル、N-ブチル、N-シクロヘキシルメチル、N-シクロヘキシルエチル、N-ベンジル、N-フェニルエチル、N-フェニルプロピル、N-(3、4-ジクロロフェニル)プロピル、N-(3,4-ジフルオロフェニル)プロピル、そして、N-(ナフタレン-2-イル)エチル)を挙げることができる。活性薬剤は、レトロペプチドを含んでもよい。レトロペプチドは、逆アミノ酸配列を有する。ペプチド模倣物は、アミノ酸の順序が逆であるレトロインベルソペプチドも含むため、元のC末端アミノ酸はN末端に現れ、D-アミノ酸はL-アミノ酸の代わりに使用される(例えば、RI-NA-1としても知られているアミノ酸vdseisslkrrrqrrkkrgy)。
【0049】
ペプチド、ペプチド模倣体又は他の薬剤の適当な薬理活性は、所望の場合、霊長類及び本出願に記載の臨床試験における試験に先立ち、前述の脳卒中のラットモデルを用いて、確認することができる。ペプチド又はペプチド模倣体は、PSD-95とNMDAR2Bとの相互作用を阻害する能力について、米国特許出願公開公報第US20050059597号に記載のアッセイを用いて、スクリーニングすることも可能であり、この公報は参照によって組み込まれる。有用なペプチドは、一般に、そのようなアッセイにおいて、50μM,25μM,10μM,0.1μM又は0.01μMのIC50値を有している。好ましいペプチドは、一般に、0.001~1μMのIC50値を、より好ましくは、0.001~0.05,0.05~0.5μM又は0.05~0.1μMのIC50値を有している。ペプチド又は他の薬剤が1つの相互作用、例えば、NMDAR2BへのPSD-95の相互作用、の結合を阻害するとして特徴付けられるとき、そのような表現は、ペプチド又は薬剤が、他の相互作用、例えば、nNOSへのPSD-95の結合、の相互作用をも阻害することを排除するものではない。
【0050】
上述のようなペプチドは、随意的に、誘導体化(例えば、アセチル化、リン酸化、ミリストイル化、ゲラニル化、ペグ化及び/又はグリコシル化)して、阻害剤への結合親和性を高め、阻害剤の細胞膜を透過する能力を高め、又は安定性を高めることが可能である。具体的な例として、C末端から3番目の残基がS又はTである阻害剤については、この残基は、そのペプチドを使用する前に、リン酸化することができる。
【0051】
内在化ペプチドは、従来法によって阻害剤ペプチドに取り付けることができる。例えば、上記阻害剤ペプチドは、化学結合によって(例えば、結合又は接合薬剤を介して)内在化ペプチドに結合することができる。多数のかかる薬剤は、商業的に入手可能であり、S.S.Wong,Chemistry of Protein Conjugation and Cross-Linking, CRC Press(1991)によって検討されている。架橋試薬のいくつか例として、J-スクシンイミジル3-(2-ピリジルジチオ)プロピオナート(SPDP)又はN,N'-(1,3-フェニレン)ビスマレイミド;N,N'-エチレンビス-(ヨードアセトアミド)又は6~11個の炭素メチレンブリッジ(スルフヒドリル基に比較的特異的)を有する他のかかる試薬;そして、1,5-ジフルオロ-2,4-ジニトロベンゼン(それは、不可逆結合をアミノ基とチロシン基が不可逆結合を形成)が挙げられる。他の架橋試薬として、p,p'-ジフルオロ-m,m'-ジニトロジフェニルスルホン(アミノ基とフェノール基が不可逆架橋を形成);ジメチルアジプイミド酸(アミノ基に特異的);フェノール-1,4-ジスルホニルクロリド(主にアミノ基と反応);ヘキサメチレンジイソシアナート又はジイソチオシアネート又はアゾフェニル-p-ジイソシアナート(主にアミノ基と反応);グルタルアルデヒド(いくつかの種々の側鎖と反応)及びジスジアゾベンジジン(disdiazobenzidine)(主にチロシン及びヒスチジンと反応)が挙げられる。
【0052】
リンカー(例えばポリエチレングリコールリンカー)は、ペプチド又はペプチド模倣体の活性部分を二量化して、タンデムPDZドメインを含有するタンパクに対する、その親和性及び選択性を向上させるのに使用することができる。Bach et al.,(2009)Angew.Chem.Int.Ed.48:9685-9689及び国際特許出願公開公報第WO2010/004003号を参照。PLモチーフ含有ペプチドは、好ましくは、2つの分子のN末端を結合して二量化され、C末端は自由のままとされる。Bachは、さらに、NMDAR2BのC末端由来の五量体ペプチドIESDV(配列番号5)が、PSD-95へのNMDAR2Bの結合の阻害に有効であることを報告している。IETDV(配列番号22)もIESDV(配列番号5)の代わりに使用することができる。選択的に、PEGの2~10個のコピーは、直列に結合してリンカーとすることができる。選択的に、リンカーは、内在化ペプチドに結合するか、脂質化して細胞取り込みを強化することもできる。例示的な二量体阻害剤の例を以下に示す(Bach et al.,PNAS 109(2012)3317-3322)。本明細書に開示されているPSD-95阻害剤のいずれもIETDVの代わりに使用することができ、任意の内在化ペプチド又は脂質化部分はtatの代わりに使用することができる。示されている他のリンカーも使用できる。
【0053】
内在化ペプチドは、阻害剤ペプチドに結合して融合ペプチドを形成することもでき、好ましくは内在化ペプチドのC末端で阻害剤ペプチドのN末端に結合され、阻害剤ペプチドのC末端は遊離末端となる。
【0054】
ペプチドを内在化ペプチドに連結することに代えて、又は加えて、そのようなペプチドは脂質に連結して(脂質付加)、複合体の疎水性をペプチド単独よりも高め、これによって、連結ペプチドが細胞膜及び/又は脳関門を透過するのを促進することができる。脂質付加は、好ましくは、N末端アミノ酸において実施されるが、PSD-95とNMDAR2Bとの相互作用を阻害するペプチドの能力が、50%を超えて低下しないことを条件に、内部アミノ酸においても実施することが可能である。好ましくは、脂質付加は、最もC末端の4個のアミノ酸の1つ以外のアミノ酸において実施される。脂質は、水よりもエーテルに溶け易い有機分子であり、脂肪酸、グリセリド及びステロイドを含む。脂質付加の好適な形態は、ミリストイル化、パルミトイル化、又は、ラウリル酸及びステアリン酸などの、好ましくは10~20炭素の鎖長を有する他の脂肪酸の付加のほか、ゲラニル化、ゲラニルゲラニル化及びイソプレニル化である。天然タンパクの翻訳後の変更で生じる種類の脂質付加が、好ましい。ペプチドのN末端アミノ酸のアルファアミノ基へのアミド結合の形成を介する、脂肪酸での脂質付加も好ましい。脂質付加は、予め脂質付加されたアミノ酸を含むペプチド合成により行うことができ、インビトロで酵素的に、又は、遺伝子組み換え発現によって、化学架橋によって、もしくはペプチドの化学的誘導体化によって、実施することができる。ミリストイル化によって変更されたアミノ酸及び他の脂質変更体は、市販されている。内在化ペプチドの代わりに脂質を使用することにより、プラスミン切断部位を提供するK及びR残基の数が減少する。いくつかの例示的な脂質付加分子には、好ましくはN末端に脂質付加を有するKLSSIESDV(配列番号2)、klSSIESDV(配列番号70)、lSSIESDV(配列番号71)、LSSIESDV(配列番号72)、SSIESDV(配列番号73)、SIESDV(配列番号74)、IESDV(配列番号5)、KLSSIETDV(配列番号12)、klSSIETDV(配列番号75)、lSSIETDV(配列番号76)、LSSIETDV(配列番号77)、SSIETDV(配列番号78)、SIETDV(配列番号79)、IETDV(配列番号22)が含まれる。
【0055】
阻害剤ペプチド、選択的に内在化ペプチドに融合された阻害剤ペプチドは、固相合成又は遺伝子組み換え法によって合成することができる。ペプチド模倣体は、科学文献及び特許文献、例えば、Organic Syntheses Collective Volumes,Gilman et al.(Eds)John Wiley&Sons,Inc.,NY,al-Obeidi(1998)Mol.Biotechnol.9:205-223;Hruby(1997)Curr.Opin.Chem.Biol.1:114-119;Ostergaard(1997)Mol.Divers.3:17-27;Ostresh(1996)Methods Enzymol.267:220-234、に記載されている様々な手順及び手法を用いて合成することができる。
【0056】
III.塩
【0057】
上述のタイプのペプチドは、一般的に、固相合成によって作られる。固相合成では、トリフルオロアセテート(TFA)を用いて保護基を除去するか樹脂からペプチドを除去するため、ペプチドは一般的に、トリフルオロ酢酸塩として最初は生産される。トリフルオロアセテートは、例えば、固体担体(例えばカラム)にペプチドを結合するステップと、カラムを洗浄して既存のカウンターイオンを取り除くステップと、新たなカウンターイオンを含む溶液でカラムを平衡化させるステップと、例えば、疎水性溶媒(例:アセトニトリル)をカラムに導入することによってペプチドを溶出させるステップによって、別のアニオンと置換することができる。アセテートへのトリフルオロアセテートの置換は、ペプチドを別の従来の固相合成法で溶出させる前に、最終工程としてアセテート洗浄で行なうことができる。トリフルオロアセテート又はアセテートをクロライドで置換することは、塩化アンモニウムで洗浄し、その次に溶出させることによって行なうことができる。疎水性担体の使用が好ましく、調製用逆相HPLCは、特にイオン交換式が好ましい。トリフルオロアセテートは、クロライドで直接置換することもできるし、最初にアセテートで置換して、次に、アセテートをクロライドで置換することもできる。
【0058】
トリフルオロアセテート、アセテート又はクロライドに関わらず、カウンターイオンは、Tat-NR2B9c及びそのDバリアント、特にN末端アミノ基並びにアルギニン及びリジン残基のアミノ側鎖上の正に荷電する原子に結合する。本発明の実施に、Tat-NR2B9cの塩及びそのDバリアントにおけるアニオンに対するペプチドの正確な化学量を理解する必要はないが、最高約9つのカウンターイオン分子が塩の分子当たりに存在しているものと考えられる。
【0059】
あるイオンによるそのカウンターイオンとの置換は効率的に生じるが、最終的なカウンターイオンの純度は100%未満であってもよい。したがって、TAT-NR2B9c又はそのDバリアントの塩化物塩に関する言及は、塩の調製品において、クロライドは、塩の凝集体に存在する全ての他のアニオンに対して、重量(又は、モル)当たりで主要なアニオンであることを意味する。言い換えると、クロライドは、塩に存在する全てのアニオンの50重量又はモル%超、好ましくは75重量又はモル%、95重量又はモル%超、99重量又はモル%超又は99.9重量又はモル%超で構成されている。かかる塩又はこの塩から調製された製剤において、アセテート及びトリフルオロアセテート単独及び組み合わせは、重量又はモルで、塩又は製剤中のアニオンの50%、25%、5%、0.5%又は0.1未満で構成させている。
【0060】
IV.製剤
【0061】
活性薬剤は、液体製剤又は凍結乾燥製剤に製剤化することができる。液体製剤は、緩衝液、塩及び水を含み得る。好ましい緩衝液はリン酸ナトリウムである。好ましい塩は塩化ナトリウムである。pHは、例えばpH7.0又は生理的レベルであり得る。
【0062】
凍結乾燥製剤は、活性薬剤、緩衝剤、増量剤及び水を含む未凍結乾燥製剤から調製され得る。他の構成成分、例えば、凍結又は凍結乾燥保存剤、医薬的に許容可能なキャリア等が存在していても存在していなくてもよい。好ましい活性薬剤は、ygrkkrrqrrrklssIESDV(配列番号6)の塩化物塩である。好ましい緩衝剤は、ヒスチジンである。好ましい増量剤は、トレハロースである。トレハロースは、凍結又は凍結乾燥保存剤としての役割も果す。例示的な未凍結乾燥製剤は、活性薬剤、ヒスチジン(例えば、10-100mM、15-100mM、15-80mM、40-60mM又は15-60mM、例えば、20mM又は任意に50mM、又は、20-50mM)及びトレハロース(50-200mM、好ましくは80-160mM、100-140mM、より好ましくは、120mM)を含む。pHは、5.5~7.5、より好ましくは6-7、より好ましくは6.5である。活性薬剤の濃度は、20-200mg/ml、好ましくは50-150mg/ml、より好ましくは70-120mg/ml又は90mg/mlである。したがって、例示的な未凍結乾燥製剤は、20mMのヒスチジン、120mMのトレハロース及び90mg/mlの活性薬剤の塩化物塩である。任意に、US10,206,878にて説明しているように、製剤中の任意の残余アセテート又はトリフルオロアセテートを更に減らすために、アセチル化スカベンジャー(例えばリジン)を含めることができる。
【0063】
凍結乾燥後、凍結乾燥製剤は、重量当たりの水分含量が低く、好ましくは約0%-5%水、より好ましくは2.5%未満である。凍結乾燥製剤は、フリーザー(例えば、-20又は-70℃)、冷蔵庫(0-40℃)、又は、室温(20-25℃)で保存することができる。
【0064】
活性薬剤は、水溶液、好ましくは注射用の水又は任意に通常の生理食塩水(0.8-1.0%の生理食塩水及び好ましくは0.9%の生理食塩水)において再構成され得る。再構成品は、未凍結乾燥製剤と同一若しくは類似の量又はそれよりも多い量とすることができる。好ましくは、上記量は、再構成品のほうが再構成前のものよりも多い(例えば、3-6倍多い)。例えば、3-5mlの未凍結乾燥量は、10mL、12mL、13.5ml、15mL若しくは20mL又は特に10-20mLの量として再構成することができる。再構成後、ヒスチジンの濃度は、好ましくは2-20mM(例えば、2-7mM、4.0-6.5mM、4.5mM又は6mM)であり、トレハロースの濃度は、好ましくは15-45mM又は20-40mM又は25-27mM又は35-37mMである。リジンの濃度は、好ましくは100-300mM(例えば、150-250mM、150-170mM又は210-220mM)である。活性薬剤は、好ましくは10-30mg/ml、例えば15-30、18-20、20mg/mlの活性薬剤又は25-30、26-28若しくは27mg/mLの活性薬剤の濃度である。再構成後の例示的な製剤は、4-5mMのヒスチジン、26-27mMのトレハロース、150-170mMのリジン及び20mg/mlの活性薬剤(最も近い整数に丸めた濃度)を有する。再構成後の第二の例示的な製剤は、5-7mMのヒスチジン、35-37mMのトレハロース、210-220mMのリジン及び26-28mg/mlの活性薬剤(最も近い整数に丸めた濃度)を有する。再構成製剤は、例えば、通常の生理食塩水が入っている流体バッグに加えることによって投与前に更に希釈することができる。
【0065】
IV.疾患
【0066】
活性薬剤は、様々な疾患、特に神経疾患及び特に興奮毒性によって部分的には媒介される疾患を治療するのに有効である。かかる疾患及び病状として、脳卒中、てんかん、低酸素症、くも膜下出血、脳卒中(例えば外傷性脳損傷及び脊髄損傷)と関連していないCNSに対する外傷、他の脳虚血、アルツハイマー病及びパーキンソン病が挙げられる。そのような病状には、網膜症、網膜虚血関連の他の眼障害、又は耳鳴りを含む目若しくは耳の障害又は疾患も含まれ得る。興奮毒性と関連していることが知られていない、本発明の活性薬剤によって治療可能な他の神経疾患には、不安及び痛みが含まれる(神経障害性又は炎症性)。
【0067】
脳卒中は、原因によらず、CNSにおける血流障害の結果の疾患である。原因となり得るものには、塞栓症、出血及び血栓症がある。血流の障害の結果として、いくつかのニューロン細胞が直ちに死ぬ。これらの細胞は、グルタメートを含むそれらの成分分子を放出し、これはNMDA受容体を活性化し、NMDA受容体は、細胞内カルシウムレベル及び細胞内酵素レベルを上昇させて、さらなるニューロン細胞の死を招く(興奮毒性カスケード)。CNS組織の死は、梗塞と呼ばれる。梗塞体積(つまり、脳において脳卒中の結果死んだニューロン細胞の体積)は、脳卒中に起因する病理学的損傷の程度の指標として使用することができる。症候性作用は、梗塞の体積及びそれが脳の何処に位置するかの、双方に依存する。ランキンストロークアウトカムスケール(Rankin,Scott Med J;2:200-15(1957))及びバーセルインデックスなどの障害指数は、症候的損傷の測定に使用することができる。ランキンスケールは、以下のように、患者の全体的状態を直接評価することに基づいている。
【0068】
0:完全に無症状。
1:症状にかかわらず重大な障害はない;通常の職務及び動作を行うことができる。
2:軽度の障害;従前のすべての動作を行うことはできないが、介助なしで自分の世話をすることができる。
3:中度の障害;いくらかの援助を必要とするが、介助なしで歩くことができる。
4:中度ないし重度の障害;介助なしでは歩くことができず、介助なしでは自分の身体の世話をすることができない。
5:重度の障害;寝たきりで、失禁を起こし、看護及び注意を常時必要とする。
【0069】
バーセルインデックスは、日常生活の10の基本的動作を行う患者の能力についての一連の質問に基づいており、結果は0~100のスコアで表され、低いスコアは障害が重いことを示す(Mahoney et al.,Maryland State Medical Journal 14:56-61(1965))。
【0070】
代替の脳卒中重度/転帰は、ワールドワイドウェブninds.nih.gov/doctors/NIH Stroke Scale Booklet.pdfにて入手可能な、NIHストロークスケールを用いて測定することができる。
【0071】
このスケールは、患者の意識、運動、知覚及び言語機能のレベルの評価を含む、11群の機能を行う患者の能力に基づいている。
【0072】
虚血性脳卒中とは、より具体的には、脳への血流の妨害によって引き起こされる種類の脳卒中を指す。この種の妨害の基礎疾患は、血管壁を内張りする脂肪性沈着物の成長が、最も普通である。この疾患は、アテローム性動脈硬化と呼ばれる。これらの脂肪性沈着物は、2種類の妨害を引き起こし得る。脳血栓症とは、血管の詰まった部分に成長する血栓(血液塊)を指す。「脳塞栓」とは、一般に、循環系の他の場所、通常、心臓又は胸郭上部及び頸部の大動脈、で形成された血液塊を指す。次いで、血液塊の一部が抜け出して血流に入り、脳の血管を通って、最終的に、通り抜けるには小さすぎる血管に達する。塞栓の第2の重要な原因は、心房細動として知られる不規則な心拍である。これは、血液塊が心臓で形成され、遊離して脳に達する状況を生成する。虚血性脳卒中の原因となり得るさらなるものには、出血、血栓形成、動脈又は静脈の切開、心拍停止、出血を含むあらゆる原因のショック、及び、脳血管又は脳に達する血管の外科手術又は心臓手術などの医原生の原因が含まれる。虚血性脳卒中はすべての脳卒中の症例の、約83%を占める。
【0073】
一過性脳虚血発作(TIA)は、小脳卒中又は警告脳卒中である。TIAにおいては、虚血性脳卒中を示す状態が存在し、一般的な脳卒中の警告信号が現れる。ただし、妨害(血液塊)は、短時間生じて、通常の機構で自然に消える傾向にある。心臓手術を受ける患者は、一過性脳虚血発作の危険性が特に高い。
【0074】
出血性脳卒中は、脳卒中症例の約17%を占める。これは、弱くなった血管が破裂して周囲の脳に出血した結果で生じる。血液は鬱積し、周囲の脳組織を圧迫する。出血性脳卒中の2つの一般な種類は、脳内出血及びくも膜下出血である。出血性脳卒中は、弱くなった血管の破裂の結果である。弱くなった血管の破裂の原因となり得るものには、高い血圧が血管の破裂を引き起こす高血圧性出血、又は、弱くなった血管の他の根本原因、例えば、脳動脈瘤を含む破裂性脳血管奇形、動静脈奇形(AVM)もしくは海綿状奇形など、が含まれる。出血性脳卒中は、梗塞部の血管を弱める虚血性脳卒中の出血性変化、又は、異常に弱い血管を包含するCNSにおける原発性もしくは転移性の腫瘍からの出血によっても生じ得る。出血性脳卒中は、脳血管への直接の外科的損傷などの、医原生の原因からも生じ得る。動脈瘤は、血管の弱った領域の膨張である。放置すると、動脈瘤は弱くなり続け、最終的に破裂して脳に出血する。動静脈奇形(AVM)は、異常に形成された血管の房である。海綿状奇形は、弱くなった静脈構造からの出血を引き起こし得る静脈異常である。これらの血管のいずれも、破裂して、脳への出血を引き起こし得る。出血性脳卒中は、物理的な外傷によっても発生する可能性がある。脳の一部分における出血性脳卒中は、出血性脳卒中で失われる血液の不足を通じて、他の部分に虚血性脳卒中をもたらし得る。
【0075】
治療に適する1つの患者のクラスは、脳に供給している血管に関与する若しくは関与する可能性がある、そうでなければ脳若しくはCNSに関与する若しくは関与する可能性がある外科手術処置を受けている患者である。いくつかの例では、心肺バイパス、頚動脈ステント術、脳又は大動脈弓の冠状動脈の診断的血管造影、脈管外科的処置及び神経外科的処置を受けている患者である。かかる患者の更なる例は、上記セクションIVにて述べている。脳動脈瘤患者が特に適している。かかる患者は、動脈瘤を留め血液を閉ざすこと、又は、小さいコイルを用いて若しくは動脈瘤が現れている血管にステントを導入して若しくはマイクロカテーテルを挿入して動脈瘤を遮断する血管内手術を実行することを含む様々な外科的処置によって治療することができる。血管内処置は、動脈瘤を留めることより侵襲性が低く、より良好な患者の転帰と関連しているが、この転帰は小さい梗塞の発生率がそれでも高い。かかる患者は、上述のNMDAR 2BとのPSD95の相互作用の阻害剤及び、とりわけ、上記薬剤を用いて治療することができる。手術を実行することに対する投与のタイミングは、上記の通り、治験による可能性がある。
【0076】
治療を受けやすい他のクラスの患者は、動脈瘤を伴う又は伴わないくも膜下出血を有する患者である。(US61/570,264参照)。他のクラスの患者は、ESCAPE-NA1 試験など凝血塊を除去するための血管内血栓切除術に適した虚血性脳卒中の患者である(NCT02930018)。薬物は、手術の前後に投与して凝塊を除去することができ、脳卒中自体と、上記の手順に関連する潜在的な医原性脳卒中の両方の結果を改善することが期待され得る。別の例は、画像診断基準を使用せずに脳卒中の可能性があると診断され、脳卒中発症後の数時間以内、好ましくは脳卒中発症後の最初の3時間以内、選択的に、最初の6、9又は12時間以内に治療を受ける患者である(NCT02315443に類似)。
【0077】
IV.有効な投与計画
【0078】
活性薬剤は、治療する疾患を患っている患者の疾患の少なくとも一つの兆候又は症状の更なる悪化を治癒するか、低減させるか、又は阻害するのに有効な量、頻度及び投与経路にて投与されるように投与される。治療有効量(投与前)又は投与後の治療有効血漿濃度は、著しく本発明の薬剤で治療されない、疾患又は状態を患っている患者(又は、動物モデル)のコントロール群の損傷と比較して、本発明の薬剤で治療される疾患を患っている患者(又は、動物モデル)群において治療される疾患又は状態の少なくとも一つの兆候又は症状の更なる悪化を治癒するか、低減させるか又は阻害するのに十分な活性薬剤の量又はレベルを意味する。上記量又はレベルは、個々に治療した患者が本発明の方法によって治療されていない比較患者のコントロール群における平均転帰より良好な転帰を達成する場合、治療的に有効であるとも考えられる。治療的に有効な投与計画には、本発明の目的を達成するのに必要な投与頻度及び経路で治療的に有効な量を投与することが含まれる。
【0079】
脳卒中又は他の虚血性状態を患っている患者に関して、活性薬剤は、脳卒中又は他の虚血性状態の損傷の影響を低減させるのに有効な用量、頻度及び経路を含む投与計画にて投与される。治療を必要とする状態が脳卒中である場合、転帰は、梗塞体積又は障害指数によって決定することができ、個々に治療した患者がRankinスケールが2又は2未満及びより少ないもの及びBarthelスケールが75又は75超の障害度を示す場合、又は、治療した患者群が比較未治療群よりも障害度のスコア分布が大幅に改善した(すなわち、障害がより小さい)ことを示す場合、用量は治療的に有効であると考えられる(Lees et at L, N Engl J Med 2006;354:588-600を参照)。単回用量の薬剤で、脳卒中の治療には充分であってもよい。
【0080】
本発明は、障害のリスクがある被験体における障害の予防のための方法及び製剤も提供する。通常、かかる被験体は、コントロール群と比較して障害(例えば、状態、病気、障害又は疾患)が進行する可能性が高い。コントロール群には、例えば、診断も受けておらず障害の家族歴もない母集団(例えば、年齢、性別、人種及び/又は民族がマッチした母集団)から選択される1又は複数の個人を含めることができる。被験体は、障害と関連する「危険因子」がその被験体と関連しているとことが見出された場合、障害のリスクがあると考えることができる。危険因子には、被験体群に対する統計学的又は疫学的調査を通じた、所定の障害に伴う任意の活量、形質、事象又は特性を含めることができる。したがって、被験体は、根底にある危険要因を同定する調査が具体的に被験体を含まなかった場合であっても、障害のリスクがあるとして分類することができる。例えば、心臓手術を受けている被験体は、心臓手術を受けた被験体群とそれを受けなかった被験体群と比較して一過性脳虚血発作の頻度が増加するため、一過性脳虚血発作のリスクにさらされている。
【0081】
脳卒中に関する他の一般的な危険要因には、年齢、家族歴、性別、脳卒中、一過性脳乏血発作又は心臓発作の事前の発病率、高血圧、喫煙、糖尿病、頸動脈又は他の動脈疾患、心房細動、他の心臓病(例えば心臓病、心不全、拡張心筋症、心臓弁疾患及び/又は先天性心臓の欠陥)、高血液コレステロール及び飽和脂肪、トランス脂肪又はコレステロールが高い食事が含まれる。
【0082】
予防において、活性薬剤は、疾患のリスクがあるがまだ疾患を患っていない患者に、疾患の少なくとも一つの兆候又は症状の進行を防止、遅延又は阻害するのに十分な量、頻度及び経路で投与される。投与前の予防有効量又は投与後の血漿中濃度は、著しく本発明の活性薬剤で治療されていない疾患のリスクがある患者(又は、動物モデル)のコントロール群と比較して、薬剤で治療した疾患のリスクがある患者(又は、動物モデル)の群における疾患の少なくとも一つの兆候又は症状を防止、阻害又は遅延させるのに十分な薬剤の量又はレベルを意味する。上記量又はレベルは、個々に治療した患者が本発明の方法によって治療されていない比較患者のコントロール群における平均転帰より良好な転帰を達成する場合、予防的に有効であるとも考えられる。予防的に有効な投与計画には、本発明の目的を達成するのに必要な投与頻度及び経路で予防的に有効な量を投与することが含まれる。脳卒中の差し迫ったリスクがある患者(例えば、心臓手術を受けている患者)における脳卒中の予防に関して、単回用量の薬剤で通常充分である。
【0083】
薬剤に応じて、投与は、非経口、静脈内、肺内、経鼻、経口的、皮下、動脈内、脳内、髄腔内、腹膜内、局所、鼻腔内、筋肉内であってもよい。
【0084】
従来、Tat-NR2B9cは2.6mg/kgで単回静脈内注入によりヒトに投与されている。本発明の活性薬剤は、Tat-NR2B9cと比較して、皮下、鼻腔内又は筋肉内などの非静脈経路により投与される場合、より高いCMax及びAUCを得ることができる。より長い半減期は、活性薬剤が血漿に到達するのに必要な追加の時間を補うためである。このような非静脈内経路による投与はまた、肥満細胞の脱顆粒による顕著な量のヒスタミン放出がなく、より高い用量で投与することを可能にする。例えば、約10mg/kgまでの用量は顕著なヒスタミンの放出がなく使用することができ、25mg/kgまでの用量では検出可能なヒスタミンが放出されるが、同じ用量の静脈内投与よりもはるかに少ない。
【0085】
投与経路及びヒスタミン放出又はその下流効果を低減するために抗炎症薬と共投与されるか否かに応じて、様々な用量で投与することができる。静脈内投与の場合では、本発明の薬剤は、抗炎症薬と共投与されない場合、Tat-NR2B9cと同様の用量(例えば、3mg/kg以下、0.1-3mg/kg、2-3mg/kg若しくは2.6mg/kg)で投与することができ、或いは抗炎症薬と共投与される場合、より高い用量(例えば、5以上、10、15、20若しくは25mg/kg)で投与することができる。皮下、鼻腔内、肺内又は筋肉内などの経路の場合では、抗炎症薬と共投与されない場合、用量は最大10、15又は20mg/kgになる可能であり、抗炎症薬と共投与される場合、用量は10、15、20、25又は50mg/kgを超える。より高い用量で抗炎症薬を投与する必要性は、より長期間にわたる活性薬剤の投与によって減少又は排除することができる(例えば、1分間未満、1~10分間、及び10分間を超える投与は、一定量のヒスタミン放出及び抗炎症薬の必要性が経時的に減少又は排除される代替的な投与計画を構成する)。
【0086】
活性薬剤は、単回投与又は複数回投与計画として投与することができる。単回投与計画は、急性虚血性脳卒中などの急性病状の治療に使用して梗塞及び認知障害を軽減することができる。このような用量は、神経血管手術を受けている被験体などの病状のタイミングが予測可能な場合、病状の発症前に投与することができ、或いは病状が発症した後のウィンドウ内(例えば、最大1、3、6又は12時間後)で投与することができる。
【0087】
複数回投与計画は、長期間(例えば、少なくとも1、3、5若しくは10日、又は少なくとも、1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月若しくは無期限)にわたって活性薬剤が血漿中で検出可能なレベルに維持されるように設計することができる。例えば、活性薬剤は、毎時間、1日2、3、4、6、又は12回、毎日、隔日、毎週などに投与することができる。このような投与計画は、単回投与の場合のように、急性病状から初期障碍を軽減し、その後、まだ進行している病状からの回復を促進することができる。このような投与計画は、アルツハイマー病やパーキンソン病などの慢性疾患の治療にも使用することができる。活性薬剤は、放出制御製剤に組み込まれて複数回投与計画に使用されることがある。
【0088】
活性薬剤は、制御製剤又はコーティングなど、身体からの急速な排出から化合物を保護する担体を用いて調製することができる。このような担体については、修飾、遅延、持続若しくは徐放又は胃貯留剤形としても知られており、例えば、Depomed GRTMシステムでは、薬剤は、胃の中で膨潤し、多くの薬剤の毎日の投与に十分な約 8 時間保持するポリマーによってカプセル化される。放出制御システムには、マイクロカプセル化送達システム、インプラント、生分解性及び生体適合性ポリマー(例えば、コラーゲン、エチレンビニルアセテート、ポリ無水物、ポリグリコール酸、ポリオルトエステル、ポリ乳酸)、マトリックス型放出制御デバイス、浸透圧型放出制御デバイス、多粒子放出制御デバイス、イオン交換樹脂、腸溶コーティング、多層コーティング、ミクロスフェア、ナノ粒子、リポソーム、及びそれらの組み合わせが含まれる。活性薬剤の粒子サイズを変えることにより、活性薬剤の放出速度を変更することもできる。修飾した放出の例として、例えば米国特許3,845,770、916,899、3,536,809、3,598,123、4,008,719、5,674,533、5,059,595、5,591,767、5, 120,548、5,073,543、5,639,476、5,354,556、5,639,480、5,733,566、5,739,108、5,891,474、5,922,356、5,972,891 、5,980,945、5,993,855、6,045,830、6,087,324、6, 113,943、6, 197,350、6,248,363、6,264,970、6,267,981 、6,376,461 、6,419,961 、6,589,548、6,613,358、and 6,699,500に記載のものが挙げられる。
【0089】
V.抗炎症薬との共投与
【0090】
用量及び投与経路に応じて、本発明の活性薬剤は、肥満細胞の脱顆粒、並びにヒスタミンの放出及びその続発症を特徴とする炎症反応を誘導する可能性がある。例えば、IV投与では少なくとも 3mg/kgの用量、他の経路では少なくとも10mg/kgの用量がヒスタミンの放出を引き起こす。
【0091】
炎症反応の1つ又は複数の側面を阻害するための抗炎症薬は多くあり、容易に入手可能である。抗炎症薬の好ましいクラスは、肥満細胞脱顆粒阻害剤である。このクラスの化合物は、クロモリン(5,5'-(2-ヒドロキシプロパン-1,3-ジイル)ビス(オキシ)ビシ(4-オキシ-4H-クロメン-2-カルボン酸)(クロモグリケートとしても知られている)、2-カルボキシラートクロモン-5'-イル-2-ヒドロキシプロパン誘導体、例えば、ビス(アセトキシメチル)、クロモグリケート二ナトリウム、ネドクロミル(9-エチル-4,6-ジオキソ-10-プロピル-6,9-ジヒドロ-4H-ピラノ[3,2-g]キノリン-2,8-ジ-カルボン酸)、トラニラスト(2-{[(2E)-3-(3,4-ジメトキシフェニル)プロプ-2-エノイル]アミノ})、及びロドキサミド(2-[2-クロロ-5-シアノ-3-(オキサロアミノ)アニリノ]-2-オキソ酢酸)を含む。特定の化合物は、その化合物の薬学的に許容される塩を含む。クロモリンは、経鼻、経口、吸入、又は静脈内投与用の製剤として容易に入手可能である。本発明の実施はメカニズムの理解に依存しないが、これらの薬剤は、内在化ペプチドによって誘導される炎症反応の初期段階で作用するため、血圧の一時的な低下を含む続発症の発生を阻害するのに最も効果的であると考えられている。後述する他のクラスの抗炎症薬は、肥満細胞の脱顆粒に起因する1つ以上の下流イベントを阻害し、例えば、H1又はH2受容体へのヒスタミンを阻害するが、肥満細胞脱顆粒の全ての続発症を阻害することができないか、又はより高い用量若しくは併用が必要とされる。以下の表2は、本発明と併用可能ないくつかの肥満細胞脱顆粒阻害剤の名称、化学式及びFDA状態を示す。
【表2】
【0092】
抗炎症薬の別のクラスは、抗ヒスタミン化合物である。このような薬剤は、ヒスタミンとその受容体との相互作用を阻害することにより上記炎症の続発症を阻害する。多くの抗ヒスタミン薬は市販されており、一部はOTCである。抗ヒスタミン薬の例として、アザタジン、アゼラスチン、バーフロリン、セチリジン、シプロヘプタジン、ドキサントロゾール、エトドロキシジン、フォルスコリン、ヒドロキシジン、ケトチフェン、オキサトミド、ピゾチフェン、プロキシクロミル、N,N'-置換ピペラジン又はテルフェナジンが挙げられる。抗ヒスタミン薬は、CNS及び末梢受容体の抗ヒスタミンをブロックする能力が異なり、第 2 世代及び第 3 世代の抗ヒスタミン薬は末梢受容体に対して選択性を持っています。アクリバスチン、アステミゾール、セチリジン、ロラタジン、ミゾラスチン、レボセチリジン、デスロラタジン及びフェキソフェナジンは、第 2 世代及び第 3 世代の抗ヒスタミン薬の例である。抗ヒスタミン薬は、経口製剤及び局所製剤として広く入手可能である。使用可能な他のいくつかの抗ヒスタミン薬を以下の表3に示す。
【表3】
【0093】
炎症反応を阻害するのに有用な別のクラスの抗炎症薬は、コルチコステロイドである。これらの化合物は転写調節因子であって、肥満細胞の脱顆粒に起因するヒスタミンやその他の化合物の放出によって引き起こされる炎症症状の強力な阻害剤である。コルチコステロイドの例として、コルチゾン、ヒドロコルチゾン(Cortef)、プレドニゾン(Deltasone,Meticorten,Orasone)、プレドニゾロン(Delta-Cortef,Pediapred,Prelone)、トリアムシノロン(Aristocort,Kenacort)、メチルプレドニゾロン(Medrol)、デキサメタゾン(Decadron,Dexone,Hexadrol)及びベタメタゾン(Celestone)が挙げられる。コルチコステロイドは、経口、静脈内及び局所製剤として広く入手可能である。
【0094】
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)も使用することができる。このような薬は、アスピリン化合物(アセチルサリチラート)、非アスピリンサリチレート、ジクロフェナク、ジフルニサル、エトドラク、フェノプロフェン、フルルビプロフェン、イブプロフェン、インドメタシン、ケトプロフェン、メクロフェナメート、ナプロキセン、ナプロキセンナトリウム、フェニルブタゾン、スリンダク、トメチンを含む。しかし、このような薬の抗炎症効果は、抗ヒスタミン薬やコルチコステロイドよりも低い。アザチオプリン、シクロホスファミド、ロイケラン、シクロスポリンなどの強力な抗炎症薬も使用できるが、作用が遅く、及び/又は副作用を引き起こすため、望ましくない。Tysabri(登録商標)やHumira(登録商標)などの生物学的抗炎症薬も使用できるが、同じ理由で望ましくない。
【0095】
炎症反応を阻害する際に、異なるクラスの薬物と併用することができる。好ましい併用は、肥満細胞脱顆粒阻害剤と抗ヒスタミン剤である。
【0096】
内在化ペプチドに結合した薬理学的薬剤が抗炎症薬と共に投与される方法において、両者は、抗炎症薬が内在化ペプチドによって誘導される炎症反応を阻害できるように十分に短い投与間隔で投与される。抗炎症薬は、前記薬理学的薬剤の投与前、同時又は投与後に投与することができる。好ましい投与間隔は、抗炎症薬の薬物動態及び薬力学に部分的に依存する。抗炎症薬は、薬理学的薬剤が投与される時点で抗炎症薬が最大血清濃度に近くなるように、薬理学的薬剤の投与前に間隔を置いて投与することができる。典型的には、抗炎症薬は、薬理学的薬剤投与の6時間前から1時間後に投与される。例えば、抗炎症薬は、薬理学的薬剤投与の1時間前から30分間後に投与され得る。好ましくは、抗炎症薬は、薬理学的薬剤投与の30分間前から15分間後に投与され、より好ましくは、薬理学的薬剤投与の15分間前から薬理学的薬剤投与時に投与される。いくつかの方法において、抗炎症薬は、薬理学的薬剤が投与される前の15、10又は5分間内に投与される。いくつかの方法において、抗炎症薬は、薬理学的薬剤投与の1-15、1-10又は1-5分間前に投与される。
【0097】
静脈内注入のように薬剤の投与が瞬間的でない場合、抗炎症薬と薬理学的薬剤は、それらの投与期間が同程度又は重複する場合、同時に投与されると見なされる。投与前の投与期間は、投与開始時から始まる。投与後の期間は、投与の終了時から始まる。抗炎症薬の投与に関する期間は、その投与の開始を指す。
【0098】
抗炎症薬が内在化ペプチドに結合した薬理学的薬剤の炎症反応を阻害できると言われる場合において、このような反応が特定の患者に発生する可能性がある場合(このような反応が当該患者に発生することを必ずしも意味するものではない)、抗炎症薬が内在化ペプチドに結合した薬理学的薬剤によって誘導可能な炎症反応を阻害するのに十分に短い投与間隔で両者が投与されることを意味する。一部の患者は、対照臨床試験又は非臨床試験において、統計的に有意な数の患者で炎症反応に関連する内在化ペプチドに結合した薬剤の投与量で治療される。このような患者のかなりの割合が、必ずしも全てではないが、内在化ペプチドに結合した薬理学的薬剤に対して抗炎症反応を起こすと合理的に推測することができる。一部の患者では、内在化ペプチドに結合した薬剤に対する炎症反応の徴候または症状が検出されるか又は検出可能である。
【0099】
個々の患者の臨床治療において、通常、抗炎症薬の存在下と非存在下で、内在化ペプチドに結合した薬理学的薬剤からの炎症反応を比較することはできない。しかし、対照臨床試験又は前臨床試験において、同じ又は類似の共投与条件下で有意な阻害が見られる場合、抗炎症薬はペプチドによって誘導される炎症反応を阻害すると合理的に結論付けることができる。患者の結果(血圧、心拍数、蕁麻疹など)は、個々の患者に阻害が発生したかどうかの指標として臨床試験における対照群の典型的な結果と比較することもできる。通常、抗炎症薬は、薬理学的薬剤の投与後1時間以内のある時点で検出可能な血清濃度で存在する。多くの抗炎症薬の薬物動態は広く知られており、それに応じて抗炎症薬の投与の相対的なタイミングを調整することができる。抗炎症薬は、通常、末梢に投与され、即ち、血液脳関門によって脳から分離される。例えば、抗炎症薬は、論議されている薬剤に応じて、経口、経鼻、静脈内又は局所的に投与することができる。抗炎症薬が薬理学的薬剤と同時に投与される場合、両者は組み合わせた製剤として投与することができ、別々に投与することもできる。
【0100】
いくつかの方法において、抗炎症薬は、少なくとも脳内で検出可能な薬理学的活性を発揮するのに十分な量で経口又は静脈内投与された場合、血液脳関門を通過しないものである。このような薬剤は、それ自体が脳内で検出可能な治療効果を発揮することなく、肥満細胞の脱顆粒及び末梢における活性薬剤の投与に起因するその続発症を阻害することができる。いくつかの方法において、抗炎症薬は、血液脳関門の透過性を高めるための共処理なしで投与されるか、血液脳関門を通過する能力を高めるために誘導体化若しくは製剤化される。しかし、他の方法において、抗炎症薬は、その性質、誘導体化、製剤化、又は投与経路により、脳に侵入するか又は脳内の炎症に影響を与えることによって、肥満細胞の脱顆粒及び/又は内在化ペプチドによる末梢におけるその続発症を抑制し、脳内の炎症を阻害するという二重の効果を発揮することができる。WO04/071531(Strbianら)には、肥満細胞脱顆粒阻害剤であるクロモグリケートのi.c.v.投与(非静脈内投与)は、動物モデルでの梗塞に対して直接な抑制作用を有することが報道されている。
【0101】
いくつかの方法において、患者は、活性薬剤と共投与される前及び/又は後の日、週又は月内に活性薬剤と共投与される同じ抗炎症薬で治療されていない。いくつかの方法において、患者が反復投与計画(例えば、同じ量、投与経路、投与頻度、投与日のタイミング)で活性薬剤と共投与される同じ抗炎症薬で治療されている場合、抗炎症薬と活性薬剤の共投与は、量、投与経路、投与頻度及び投与日のタイミングのいずれか又はすべてにおいて反復投与計画と一致しない。いくつかの方法において、患者が本方法において活性薬剤と共投与される抗炎症薬の投与を必要とする炎症性疾患又は病状に罹患していることは知られていない。いくつかの方法において、患者は、肥満細胞脱顆粒阻害剤で治療可能な喘息又はアレルギー疾患に罹患していない。いくつかの方法において、抗炎症薬及び活性薬剤はそれぞれ疾患のエピソードごとに上記のように定義されたウィンドウ内で一度だけ投与される。エピソードは、症状が現れないか又は軽減される長い期間に隣接する、疾患の症状が現れる比較的短い期間である。
【0102】
抗炎症薬は、抗炎症薬の非存在下で炎症反応が起こることが知られている条件下で、内在化ペプチドに対する炎症反応を阻害するのに有効な量、頻度及び経路の投与計画で投与される。抗炎症薬の結果として炎症の徴候又は症状が減少する場合、炎症反応は抑制される。炎症反応の症状には、発赤、蕁麻疹などの発疹、熱、腫れ、痛み、ヒリヒリ感、かゆみ、吐き気、発疹、口渇、しびれ、気道のうっ血などが含まれる。炎症反応は、血圧や心拍数などの徴候を測定することによって監視することもできる。あるいは、炎症反応は、肥満細胞の脱顆粒によって放出されるヒスタミン又は他の化合物の血漿濃度を測定することによって評価することができる。肥満細胞の脱顆粒によって放出されるヒスタミン又は他の化合物のレベルの上昇、血圧の低下、蕁麻疹などの皮膚の発疹、又は心拍数の低下は、大量細胞の脱顆粒の指標である。実際的には、上記抗炎症薬のほとんどの投与量、投与計画、及び投与経路は、Physicians' Desk Reference 及び/又は製造業者から入手することができ、このような抗炎症薬は、このような一般的なガイダンスと一致する本発明の方法に使用することができる。
【0103】
VI.血栓溶解剤との共投与
【0104】
虚血を引き起こすプラーク及び血液塊(塞栓としても知られる)は、薬理的手段及び物理的手段の双方によって、溶解し、除去し、又は迂回することが可能である。プラーク及び血液塊の溶解及び除去ならびに結果として生じる血流の回復は、再灌流と呼ばれる。1つのクラスの薬剤は、血栓溶解により作用する。血栓溶解剤は、プラスミンの産生を促進することによって機能する。プラスミンは、架橋したフィブリンの網目(血液塊の骨格)を消去して、血液塊を可溶にし、他の酵素によるさらなるタンパク分解に付し、閉塞した血管の血流を回復させる。血栓溶解剤の例には、組織プラスミノーゲン活性化因子t-PA、アルテプラーゼ(Activase)、レテプラーゼ(Retavase)、テネクテプラーゼ(TNKase)、アニストレプラーゼ(Eminase)、ストレプトキナーゼ(Kabikinase,Streptase)、及び、ウロキナーゼ(Abbokinase)が含まれる。
【0105】
再灌流に使用することができる薬理学的薬剤の他のクラスは、血管拡張剤である。これらの薬理学的薬剤は、血管を弛緩させ拡げて、血液が閉塞の周囲を流れるようにすることで、作用する。血管拡張剤の種類のいくつかの例には、アルファ-アドレナリン受容体拮抗剤(アルファ-ブロッカー)、アンジオテンシン受容体ブロッカー(ARB)、β2-アドレナリン受容体拮抗剤(β2-ブロッカー)、カルシウムチャンネルブロッカー(CCB)、中枢作用性交感神経遮断剤、直接作用性血管拡張剤、エンドセリン受容体拮抗剤、神経節遮断剤、ニトロ拡張剤(nitrodilator)、ホスホジエステラーゼ阻害剤、カリウムチャンネル開口剤、及び、レニン阻害剤が含まれる。
【0106】
再灌流に使用することができる薬理学的薬剤の他のクラスは、エピネフリン、フェニレフリン、プソイドエフェドリン、ノルエピネフリン、ノルエフェドリン、テルブタリン、サルブタモール、及び、メチルエフェドリンなどの、昇圧剤(つまり、血圧を上昇させる薬剤)である。上昇した灌流圧は、障害物の周囲の血液の流れを増大させ得る。
【0107】
再灌流のための機械的手段には、血管形成、カテーテル挿入、及び、動脈バイパス移植手術、ステント留置、塞栓除去、又は、動脈内膜切除が含まれる。これらの処置は、プラークの機械的除去によってプラークの流れを回復し、血管を開いたままに維持することにより、血液がプラークの周りを流れ、又はプラークを迂回し得る。
【0108】
再灌流の他の方法には、血流を身体の他の領域から脳に転用する装置の使用が含まれる。1つの例は、大動脈を部分的に閉塞するカテーテルであり、例えば、CoAxia NeuroFlo(商標)カテーテル装置であり、これは、最近、無作為化試験に付されており、脳卒中治療についてのFDAの認可を受けるかも知れない。この装置は、虚血の発症後14時間までの脳卒中を示す被験体に、使用されている。
【0109】
D-アミノ酸を含む本発明の活性薬剤は、再灌流療法の任意の形態で、治療を受けやすい被験体に投与することができる。しかし、本発明の活性薬剤は、活性薬剤に1つ以上のD-アミノ酸を含めることにより血栓溶解剤によって誘導されるプラスミンによる切断に対する活性薬剤の感受性が低下するため、血栓溶解剤との投与に特に有利である。したがって、1つ以上のD-アミノ酸を含む活性薬剤は、血栓溶解剤によって誘導される活性薬剤の切断をもたらす投与計画で血栓溶解剤と共投与することができる。例えば、血栓溶解剤は、活性薬剤が投与される前の60分間、30分間又は15分間のウィンドウ以内に投与することができる。いくつかの方法において、活性薬剤は、血栓溶解剤と同時に投与することができる。活性薬剤と血栓溶解剤は、共製剤化されてもよいか、又は別々に投与されてもよい。いくつかの方法において、血栓溶解剤は、活性薬剤が投与される前に投与され、活性薬剤が投与されるときに血清中に検出可能なレベルで持続する。
【0110】
前もって予測することができない虚血の治療については、活性薬剤は、虚血の発症後できるだけ又は実際的に速やかに、投与することができる。例えば、活性薬剤は、虚血の発症後0.5,1,2,3,4,5,6,9,12又は24時間以内に、投与することができる。前もって予測することが可能な虚血については、活性薬剤は、虚血の発症の前に、発症と同時に、又は発症の後に、投与することができる。例えば、手術に起因する虚血については、PSD-95阻害剤は、虚血が生じているか生じそうであるかにかかわらず定期的に、手術の開始前30分から始まり手術後1,2,3,4,5,6,9,12又は24時間に終わる期間に、投与されることがある。活性薬剤は、重大な副作用がないので、脳卒中又は虚血の他の状態が疑われるときは、当技術分野において承認されている基準に従う診断がなされていなくても、投与することが可能である。例えば、活性薬剤は、脳卒中が起こった場所(例えば、患者の家庭)で、又は、被験体を病院に搬送する救急車の中で、投与することができる。活性薬剤は、また、発症前の脳卒中又は虚血の他の状態の危険性があり、実際にその状態を生じるかも生じないかも知れない被験体にも、安全に投与することができる。
【0111】
活性薬剤の投与に続いて、又は、時には投与の前に、虚血の兆候及び/又は症状を呈する被験体は、被験体がCNSにおけるもしくはそうでなければCNSに影響する虚血を有するか否かを判断し、被験体が出血を有するあるいは出血を疑われるか否かを判断するための、診断評価にさらに付され得る。脳卒中の症状を呈する被験体において特に、その脳卒中が出血又は虚血のどちらの結果であるかを判断する試験では、出血が脳卒中の17%を占める。診断試験は、CATスキャン、MRIもしくはPET画像スキャンなどの1つ以上の器官のスキャン、又は、脳卒中が起こっていることを示唆する生体標識についての血液検査を含み得る。B型神経成長因子、フォン・ヴィレブランド因子、マトリクスメタロプロテイナーゼ-9、及び、単球走化性タンパク-1(Reynolds et al.,Clinical Chemistry 49:1733-1739(2003)を参照)を含む、脳卒中に関係するいくつかの生体標識が知られている。スキャンされる器官には、虚血の場所であると疑われるあらゆる器官(例えば、脳、心臓、四肢、脊椎、肺、腎臓、網膜)に加え、そうではなく、出血の源であると疑われる他のあらゆる器官、が含まれる。脳のスキャンが、虚血性脳卒中と出血性脳卒中を識別するための通常の処理である。診断評価は、また、被験体の医療暦を取得又は考察し、他の試験を行うことも含み得る。次の因子のいずれかが、単独で又は組み合わせで、存在することは、再灌流療法が許容できない危険性をもたらすか否かの評価に使用することができる:被験体の症状が、深刻でないか速やかに改善される;被験体が、脳卒中の始まりに発作を有していた;被験体が、過去3ヶ月以内に別の脳卒中又は重篤な脳外傷を有していた;被験体が、最近14日以内に大きな手術を受けた;被験体が、頭蓋内出血の既知の病歴を有している;被験体が、>185mmHgの持続的な収縮期血圧を有する;被験体が、>110mmHgの持続的な拡張期血圧を有する;被験体の血圧を下げるために、積極的治療が必要である;被験体が、くも膜下出血を示唆する症状を有する;被験体が、最近21日以内に胃腸の又は尿路の出血を有していた;被験体が、最近7日以内に非圧縮性部位に動脈穿刺を受けた;被験体が、最近48日以内にヘパリンを投与され、高いPTTを有している;被験体のプロトロンビン時間(PT)が>15秒である;被験体の血小板数が、<100,000μLである;被験体の血清グルコースが、<50mg/dL又は>400mg/dLである;被験体が、血友病患者であるか、他の凝固欠乏を有する。
【0112】
さらなる診察調査は、承認されている基準に従って、又は、少なくともより大きな可能性で、調査の前に被験体が虚血性疾患を有しているか、及び、被験体が出血を有するか、出血の許容できない危険性を有しているか、又は、そうでなければ、別の面で副作用の許容できない危険性により再灌流療法を受けることから除外されるか、を決定する。CNSにおける又はそうでなければCNSに影響する虚血性疾患の診断が確認される被験体であって、副作用の許容できない危険性のない被験体は、再灌流療法に付すことができる。再灌流療法は、あらゆる診断処理の完了後、できるだけ速やかに実施される。
【0113】
活性薬剤での治療及び再灌流療法での治療の両者は、虚血による梗塞サイズ及び機能障害を低減する能力を個別に有する。組み合わせて使用するとき、梗塞サイズ及び/又は機能障害の低減は、好ましくは、組み合わせのためのものではない同等の投与計画の下で投与されるどちらかの薬剤のみの使用から生じる低減よりも大きい。より好ましくは、梗塞サイズ及び/又は機能障害の低減は、少なくとも、組み合わせを除く同等の投与計画の下で投与された単独の薬剤で達成される低減を加えたものであり、好ましくは加えたものを超える。いくつかの投与計画において、再灌流療法は、PSD-95阻害剤の共投与又は先行投与がなければ有効ではないときに、虚血の発症後の一時点(例えば、4.5時間超)で梗塞サイズ及び/又は機能障害を低減するのに有効である。換言すると、被験体が活性薬剤及び再灌流療法を実施されるとき、再灌流療法は、好ましくは、少なくとも、活性薬剤なしでより早い時点で実施される場合と同様に、有効である。したがって、活性薬剤は、再灌流療法が効果を生じる前又は生じるときに、虚血の1つ以上の損傷作用を低減することによって、再灌流療法の効果を効果的に向上させる。活性薬剤は、したがって、再灌流の実施の遅れを、その遅れが、被験体を病院又は他の医療施設に搬送する途中での、被験体における彼又は彼女の初期症状の危険性を認識することの遅れ、あるいは、虚血の存在及び/もしくは出血の非存在又はその許容できない危険性を確証するための診断処理の実施の遅れの、どちらに由来するかにかかわらず、補償することができる。活性薬剤と再灌流療法との、相加的効果又は相乗的効果を含む統計的に有意な組み合わせ効果は、臨床試験において集団間で、又は、臨床前研究において動物モデルの集団間で、実証することができる。
【0114】
本発明を、理解を明瞭にするために詳細に説明したが、添付の特許請求の範囲内で、一定の変更をしてもよい。本出願で引用するすべての文献、受託番号、及び特許文献は、各々について個別にそうであると述べるのと全く同様に、それらの全体が、参照によって本明細書に組み込まれる。異なる時点で、1つ以上の配列が受託番号に関連付けられている場合、その受託番号に関連する配列は、本出願の有効な出願日のものであることが意図されている。有効な出願日は、問題の受託番号を開示した最も早い優先出願の日である。文脈から他に明らかでない限り、本発明のあらゆる要素、実施形態、工程、機能又は特徴は、他との組み合わせで実施することが可能である。
実施例
【0115】
実施例は、下記の名称及び配列を有するペプチドに関する。小文字はD-アミノ酸、大文字はL-アミノ酸を示す。
NA-1(aka Tat-NR2B9c又はネリネチド):YGRKKRRQRRRKLSSIESDV(配列番号58)
D-TAT-L-2B9c:ygrkkrrqrrrKLSSIESDV(配列番号80)
NA-3:ygrkkrrqrrrklssIESDV(配列番号6)
D-NA-1:ygrkkrrqrrrklssiesdv(配列番号81)
【0116】
1.NA-1におけるプラスミン切断部位
【0117】
プラスミンは、tPAなどの血栓溶解剤によって誘導される血清プロテアーゼである。プラスミン切断部位は、L-アミノ酸からなるペプチドの塩基性アミノ酸残基のC末端側に現れる可能性がある。
【0118】
NA-1をプラスミンで消化し、生成物を質量分析で分析した。以下の切断産物が検出された。
【0119】
YGRKKRRQRRRKLSSIESDV(配列番号58)(全長NA-1,未消化)
RRQRRRKLSSIESDV(配列番号82)
RQRRRKLSSIESDV(配列番号83)
QRRRKLSSIESDV(配列番号84)
RRKLSSIESDV(配列番号85)
RKLSSIESDV(配列番号86)
KLSSIESDV(配列番号2)
LSSIESDV(配列番号87)
【0120】
これらの切断産物は、図1に示すように、NA-1が9つの潜在的な部位のうち7つで切断されることを示している。しかし、他の 2 つの部位での切断は、より低い程度で発生する可能性がある。
【0121】
2.ラット又はヒト血漿中の tPA と同時に投与された NA-1 の分解
ラット又はヒト血漿を以下の濃度でNA-1単独又はtPAとの併用で処理した。
NA-1単独[65ug/mL](N=4)
NA-1[65ug/mL]+rt-PA[22.5ug/mL](N=4)
NA-1[65ug/mL]+rt-PA[67.5ug/mL](N=4)
NA-1[65ug/mL]+rt-PA[135ug/mL](N=4)
【0122】
サンプルは、6つの異なる時点で収集された。
【0123】
図2及び図3はそれぞれ、tPAと共投与された場合は、NA-1の単独投与と比較して、ラット血漿(インビトロ)又はヒト血漿(インビトロ)でのNA-1含有量が急激に減少したことを示す。図4は、NA-1及びtPAをラットに投与した後、様々な時点で血漿を収集してNA-1のレベルを確定した後のCMax及びAUCが同様に減少したことを示す。従って、インビトロ又はインビボでtPAとNA-1を一緒に投与した場合、tPA はラット又はヒト血漿でNA-1の切断を誘導する。tPAもTNKも、リン酸緩衝生理食塩水だけでは NA-1を直接切断しない(データを示せず)。したがって、NA-1の切断は、動物血漿又は血液中でのプラスミノーゲンの活性化の結果である。
【0124】
3.D-アミノ酸を含むペプチドの分解
【0125】
図5では、インビトロでのラット血漿に単独又はtPAと同時に投与されたNA-1とD-Tat-L-2B9C(D-Tat-L-NA-1とも呼ばれる)。tPAで処理したNA-1は、約15分間以内にゼロに減少した一方、D-Tat-L-2B9Cは、tPAと共投与された後、僅かな分解を示した。図6は、ラット血漿と類似のヒト血漿の結果を示す。このような分解は、tPAの用量に伴って増加した。
【0126】
tPAの代わりにTNK-組織プラスミノーゲン活性化因子を用いて実験を繰り返した。TNK-組織プラスミノーゲン活性化因子は、より長い半減期を有するtPAの生物工学的バリアントである。tPAの代わりにTNKを用いて同様の結果が得られた。NA-1はTNKの共投与で急速な分解を示した一方、D-Tat-L-2B9Cは安定していた(図7図8)。
【0127】
図9は、PBS中のプラスミンによるNA-1又はD-Tat-L-2B9Cの処理についての類似の結果を示す。NA-1は急速に分解した一方、D-Tat-L-2B9C はプラスミンの有無にかかわらず類似の安定性を示した。血漿を供給しないとtPAはプラスミンを生成しないため、PBS緩衝液(血漿なし)中のtPAによる対照処理は、NA-1又はD-Tat-L-2B9Cの分解を示さなかった。
【0128】
4.D-Tat-L-NR2B9cはPSD-95:NR2B9c複合体を破壊する。
【0129】
Sprague-Dawleyラットを用いて3つの軟膜血管モデル (3PVo)を構築した。脳卒中発症の1時間後に、プラセボ、NA-1又はD-Tat-L-2B9Cをそれぞれ7.6mg/kgでラットに投与した。脳卒中発症の2時間後に脳を採取した。分析のために皮質脳卒中領域を収集した。抗PSD-95又は抗NMDAR2Bを用いて免疫沈降を行った。サンプル中のPSD-95及びNMDAR2Bの量は、ウェスタンブロッティングによって分析された。PSD-95-NMDAR2B 複合体形成の減少は、処理に対するプラセボの倍数減少によって評価された。図10は、NA-1及びD-Tat-L-2B9Cの両方が予め形成されたNMDAR2B:PSD-95複合体を解離することができ、インビボで効果的に作用することを示す。
【0130】
5.PSD-95に対する結合親和性
【0131】
競合ELISAアッセイにより結合を評価した。プレートを50mM重炭酸緩衝液中の1μg/mlのPSD95PDZ2でコーティングし、4℃で一晩静置した。プレートをPBST中の2% BSA(0.05%)で室温で2時間ブロッキングした。その後、150ng/ml のビオチン化 NA-1 と様々な試験化合物(初期濃度120ug/ml、3倍希釈液)の混合物でプレートを4℃で一晩インキュベートし、PBS-Tで適切に洗浄した後、プレートを(1:3000)SA-HRPで30分間インキュベートしました。ウェルを再度洗浄し、TMB溶液で10分間インキュベートした。反応を100ulのHSOで停止させた。Synergy H1リーダーを用いて450nmで吸光度を測定した。
【0132】
図12は、ビオチン化されたNA-1、D-Tat-L-2B9C及びD-Tat-L-IESDV(配列番号6)がそれぞれPSD-95ドメイン2に結合したことを示し、並びにNA-1、D-Tat-L-2B9C及びD-NA-1のEC50を示す。NA-1とD-Tat-L-2B9CのEC50は、実験誤差の範囲内でほぼ同じである一方、D-NA-1のEC50 は約 10 倍低かった。この結果は、PSD-95への結合に最も関与するNA-1の C 末端残基を D-アミノ酸に変換すると、結合親和性が低下するという証拠を提供する。D-Tat-L-2B9C及びD-Tat-L-IESDV(配列番号6)は、標的タンパク質PS95PDZ2に用量依存的に結合する。両方の試験ペプチドは、IC50値<5μMを達成する(図11)。図11は、IC50が互いに2のファクター以内であったことを示し、これは実験の誤差範囲内でした。
【0133】
6.薬物動態分析
【0134】
ラットを仰臥位で麻酔(イソフルラン1.5%)し、0.5L/minOで自発呼吸させた。採血のために左大腿動脈をカニューレ処理した。
【0135】
ビヒクルの全容量中の安定した濃度で試験薬剤を調製した。1ccシリンジに接続された14G カテーテルによる挿管によって肺内点滴注入を行い、カテーテルを通して試験薬を送達する。1部位あたりの総量が2mlを超えないように左脇腹の領域に、皮下(SQ又はSC)注射した。
【0136】
化合物NA-1、D-Tat-L-NA1、D-Tat-L-IESDV(配列番号6)及びD-NA-1を試験した。各投与戦略について、3匹のラットで各用量を評価した。計画された用量レベル及び経路を以下の表3に示す。最初の実験では、2つの異なる投与経路(SQとPI)を評価し、8つの異なる時点(投与前及び投与後の7つの時点:1、2.5、5、10、15、30、60min(250ul/サンプル))で血液サンプルを採取した。24時間のPK曲線実験では、11個の時点(投与前、投与後の2.5、5、10、15、30、60min、3hr、6hr、12hr及び24hr)で血液サンプルを採取した。
【表4】
【0137】
HPLC定量分析
血漿を血液から分離し、使用するまで-80℃で保存した。各サンプルに1MのHCl(10ul/100ulサンプル)を>80℃で加えて沈殿させ、遠心分離 (12,000rpm×15min) し、沈殿物を集めました。5cmのC-18RP-HPLCカラムを10%アセトニトリルと0.1%TFAで40℃で平衡化し、サンプルを注入し、Agilent 1260 Infinity Quaternary LC Systemで分析した。(1.5mL/minで30分間;0.1%TFA中の10%から35%アセトニトリルのグラジエント;220nmで吸光度を検出)。HPLCの標準曲線は、既知量の試験試薬が添加されたサンプルを用いて作成された。
【0138】
図13に示すように、皮下NA-1は同じ用量の静脈内NA-1よりもCMaxがはるかに低く、AUCがやや低かく、半減期が長かった。筋肉内NA-1は、静脈内NAよりもCMaxが低く、AUCがやや高く、半減期が長かった。
【0139】
図14に示すように、皮下D-Tat-L-IESDV(配列番号6)(NA-3)は、皮下NA-1と比較してCmax及びAUC化合物を増加させた。皮下D-Tat-L-2B9C及びD-NAも皮下NA-1と比較してCmax及びAUCを増加させたが、D-Tat-L-IESDV(配列番号6)と同程度ではなかった。図15A-Bに示すように、皮下D-Tat-L-IESDV(配列番号6)のCmax及びAUCは、用量依存性であり、用量とともに直線的に増加する。
【0140】
図16に示すように、D-Tat-L-IESDV(配列番号6)の肺内点滴注入は、NA-1又はD-Tat-L-2B9Cと比較してより高いCMaxをもたらした。
【0141】
7.ヒスタミン放出に対するペプチドの効果
【0142】
3つの異なる用量でNA-3[SQ]が投与されたラットから血漿サンプルを用いてヒスタミン放出に対するD-Tat-L-IESDV(配列番号6)注射の効果を試験した。11つの時点(投与前、投与後の2.5、5、10、15、30、60min、3hr、6hr、12hr及び24hr)で血漿サンプルを収集した。市販されているヒスタミンELISAアッセイキット(Histamine ELISA-H1531-K01, Eagle Bioscience)を用いてヒスタミンレベルを定量化した。プレートを血漿サンプル(50μl/ウェル)でコーティングし、オービタルシェーカー上で中程度の頻度、室温で60分間インキュベートした。次に、100μlの酵素コンジュゲートをウェルに加え、室温で20分間インキュベートした。サンプルを再度洗浄し、TMB溶液とともに室温で25分間インキュベートした。反応を100μlのHSOで停止させた。ELISAプレートリーダーにより450nmで吸光度を測定した。
【0143】
血液サンプルを注射前及び投与後0、1、2.5、5、10、15、30、60分間の時点で採取し、市販キットを用いたヒスタミンレベルの定量化に使用した。このサンプリング期間は、ラットサンプル (N=3動物/群)にIV注射した後にNA-1で観察されたヒスタミン上昇の期間をカバーする。
【0144】
図17に示すように、D-Tat-L-IESDV(配列番号6)の用量8.3mg/kg又は2.8mg/kgでの皮下投与は、顕著なヒスタミン放出をもたらさなかった。7.6mg/kg(IV)でのD-Tat-L-NA1は、顕著なヒスタミン放出をもたらした。25mg/kg(SQ)でのD-Tat-L-IESDV(配列番号6)は、ヒスタミン放出をもたらしたが、7.6mg/kg(IV)よりもはるかに少なかった。7.6mg/kg(IV)でのD-Tat-L-2B9Cで誘導されたヒスタミンは、ロドキサミドの共投与によって抑止された(図18)。
【0145】
したがって、D-アミノ酸を含む活性薬剤の皮下投与は、静脈内投与と比較してより高い用量でヒスタミン放出を減少させる。
【0146】
8.塞栓MCA閉塞モデルにおける神経保護剤としてのD-Tat-L-2B9Cの有効性
【0147】
動物をイソフルランで麻酔した(誘導用5%、手術用2%、維持用1.5%)。薬物投与、血圧モニタリング及び採血のために、大腿静脈及び動脈をPE-50チューブでカニューレ処理した。完全なモニタリング(脳血流、動脈血ガス、血漿グルコース、温度)は、手術前と手術中に行われた。すべての生理学的パラメータは正常範囲内に維持された。標準的なレーザードップラーモニター(PF5010 LDPM ユニットと PF5001 メインユニット、Perimed、Jarfalla、Stockholm、Sweden)に接続されたPR407-1直針LDFプローブ(Perimed、Jarfalla、Stockholm、Sweden)を使用して、相対的な脳血流を連続的に測定した。中大脳動脈塞栓性脳卒中の場合、PE-10 5cmチップを備えたPE-50チューブを、外頸動脈を介して内頸動脈から頭蓋底まで挿入し、事前に準備した単一の赤い血餅を手動で注入した。7分間後、総頸動脈(CCA)のカテーテル及びクリップを外した。全手順及び注射の間、動物を麻酔状態に維持した。脳卒中発症の1時間後に治療薬剤を同時に投与した。神経保護剤は静脈内ボーラスにより注射され(<30秒)、血栓溶解剤は最初の10%がボーラス注射により1分間以内で投与され、総用量の残りの90%が1時間かけて注入された。投与終了後、加熱ランプ付きの清潔なケージに動物を回収した。脳卒中モデルの急性の性質のため、行動評価として神経学的スコアテスト(姿勢反射及び前肢配置テスト(グレード:0-12))のみを実行した。ニューロスコア試験の直後(脳卒中発症の24時間後)、動物を安楽死させた。脳を摘出し、厚さ1.5mmの8枚のスライスを冠状に切り出し、染色のために37℃の塩化2,3,5-トリフェニルテトラゾリウム(TTC)の2%溶液に入れた。切片をスキャンし、梗塞体積をImageJソフトウェアで測定した。脳腫脹も測定した。
【0148】
この研究には以下のグループが含まれた。
偽(Sham)(手術なし)(N=10)
プラセボ(陰性対照)(N=12)
NA-1単独[7.6mg/kg](陽性対照)(N=11)
D-TAT-L-NA1Lodo[7.6mg/kg](N=12)
rt-PA単独[5.4mg/kg](N=10)
NA-1[7.6mg/kg]+rt-PA[5.4mg/kg](陰性対照)(N=12)
D-TAT-L-NA1Lodo[7.6mg/kg]+rt-PA[5.4mg/kg](N=17)
【0149】
図19に示すように、tPA処理がない場合、ロドキサミドとNA-1又はD-Tat-L-2B9Cとの併用は、いずれも梗塞体積と右半球の腫脹を顕著に減少させた。tPAが共投与された場合、D-Tat-L-NA1とロドキサミドの併用のみが梗塞及び右半球の腫脹から顕著に保護した。この結果は、tPAに誘導されるNA-1のタンパク質分解がその効果を低下させることにより説明され得る。D-Tat-L-NA1は、D-残基を含めることによってこのようなタンパク質分解から保護されるため、依然として有効である。図20は、神経学的転帰について同様の効果を示す。したがって、D-Tat-L-2B9Cは、rt-PAなどの血栓溶解剤と同時に投与された場合でも、血漿安定性の改善(1回拍出量の減少及び行動転帰の改善)を示す。
【0150】
9.PSD-95阻害剤の皮下投与
【0151】
C末端の5つのアミノ酸に加えてD-アミノ酸を含むPSD-95阻害剤が脳卒中のモデルで効果的であるとともに皮下注射により投与され得ることを実証するために、一連の動物実験を行った。図21は、脳卒中のラット3軟膜血管閉塞モデルにおけるネリネチド又はNA-3の3つの用量レベル(2.6、7.6又は25mg/kg)の皮下投与を比較する。脳卒中発症から60分間後に、ボーラス注射により皮下投与して治療した。NA-3とネリネチドを25mg/kgの濃度で投与されたラットは、プラセボと比較して、梗塞体積の顕著な減少を示した。7.6mg/kgでのNA-3も梗塞体積を顕著に減少させたが、同じ濃度のネリネチドは梗塞体積の減少を達成できなかった。データは平均±SDで表される(N=10/群)。アスタリスク(*)は、プラセボと比較した場合の統計的有意性を表す(Tukey's post-hoc analysisを含むANOVA、P<0.0332、**P<0.0021、***P<0.0002及び****P<0.0001)。NA-3はこのモデルで効果的であり、C末端の5つのアミノ酸(IESDV、配列番号:5)以外のすべてのアミノ酸を D-アミノ酸に変更すると、脳卒中及びPSD-95阻害に効果的であることを示している。さらに、安定性の向上は、皮下投与されたネリネチドよりも有効性の向上に寄与する可能性がある。ネリネチドの25mg/kg用量とNA-3の7.6mg/kg用量の間で同等の神経保護(梗塞体積の減少)が観察され、3倍低い用量のNA-3も同様に有効であることを示唆している。
【0152】
神経保護に必要な用量がはるかに少ないラットの脳卒中の一過性モデルとは異なり、脳卒中の3軟膜血管閉塞モデルにおける神経保護には、2μg/mL(又はモル当量)以上のネリネチドの血漿濃度が必要なようである。図22は、前のモデル(図21)の動物からの投与の15分間後でのNA-3及びネリネチドの血漿濃度を示す。血漿中濃度は約3時間上昇し続け、その後低下するが、脳卒中などの緊急兆候のために、血液と脳に急速に蓄積することが重要である。これは、本明細書に記載の構造を有するPSD-95阻害剤の皮下投与が、迅速な時間枠で治療濃度を達成できることを示している。薬物動態サンプルを分析するために、1μLの適切なストックを100μL の血漿に添加することによりネリネチドの濃度が0、2.5、5、10、15、20及び40μg/mLの校正標準サンプルを調製した。薬物動態サンプル分析用のNA-3標準曲線を作成するために、1μLの適切なストックを100μLの血漿に添加することによりNA-3の濃度が0、2.5、5、10、15、20及び40ug/mLの校正標準サンプルを調製した。ネリネチド(25mg/kg(N=6))、ネリネチド(7.6mg/kg(N=8))、ネリネチド(2.5mg/kg(N=4))又はNA-3(25mg/kg(N=7))、NA-3(7.6mg/kg(N=9))NA-3(2.5mg/kg(N=9))及びプラセボ(N=8)を皮下投与した15min後に血液サンプルを収集した。データは平均±SDで表される。このグラフは、ネリネチド又はNA-3の単回皮下投与後の治療用量とCmaxの間の用量比例性を示す。NA-3は、同じ用量のネリネチドと比較して、より高い血漿中安定性及び投与した15分間後のより高い濃度を示す。
【0153】
血漿中濃度がヒトでの研究により知られた有効濃度(2.6mg/kgの用量で約10ug/mLの血漿濃度)と同等又はそれ以上であることを確認するために、25mg/kg又は7.6mg/KgのNA-3を非ヒト霊長類(カニクイザル)に皮下注射により投与し、血漿サンプルを異なる時点で試験した(図23)。両方の濃度も、ヒトにおいて効果的であることが証明されたものよりも高く、2.6mg/kgのNA-1の静脈内投与量よりも高い血漿濃度を達成することができた(Hill,Lancet 2020)。図24は、試験した注射レベルの薬物動態プロファイルを示す。すべての値は平均±SDで表される。ネリネチド単独と比較した場合の統計的有意性は*で表される(post-hoc turkey's correctionを含むone-way ANOVA、*P<0.01)。(Cmax:外挿された時間ゼロ値に基づく最大血漿濃度;t1/2:終末期での半減期;tmax:Cmaxに到達するまでの時間;AUC0-t:0から最後の測定値までの濃度-時間曲線下面積;AUC0-inf:0から無限大まで外挿した濃度-時間曲線下面積;Cl:総クリアランス)。データは、1群あたり3~4匹の動物の平均±SDで表される。(-)は、AUC0-infが20%を超え、R2が0.9を下回っているため、報告されていないデータを表します。(-)は、AUC0-infの外挿値が20%を超え、Rが0.9未満であるため報告されていないデータを表す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図15
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図19
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図21
図22
図23
図24
【配列表】
2023511057000001.app
【国際調査報告】