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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-16
(54)【発明の名称】廃触媒からの金属の回収
(51)【国際特許分類】
   C22B 7/00 20060101AFI20230309BHJP
   C22B 3/04 20060101ALI20230309BHJP
   C22B 3/22 20060101ALI20230309BHJP
   C22B 1/02 20060101ALI20230309BHJP
   C22B 30/06 20060101ALI20230309BHJP
   C22B 30/02 20060101ALI20230309BHJP
【FI】
C22B7/00 B
C22B3/04
C22B3/22
C22B1/02
C22B30/06
C22B30/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022543762
(86)(22)【出願日】2021-01-20
(85)【翻訳文提出日】2022-07-28
(86)【国際出願番号】 US2021014098
(87)【国際公開番号】W WO2021150552
(87)【国際公開日】2021-07-29
(31)【優先権主張番号】62/963,222
(32)【優先日】2020-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/963,215
(32)【優先日】2020-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503148834
【氏名又は名称】シェブロン ユー.エス.エー. インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バーデュリ、ラウール、シャンカール
(72)【発明者】
【氏名】レイノルズ、ブルース、エドワード
(72)【発明者】
【氏名】ミロノフ、オレグ、エイ.
(72)【発明者】
【氏名】クパーマン、アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】シフレット、ウッドロー、ケイ.
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA05
4K001AA18
4K001AA21
4K001AA28
4K001BA22
4K001DB07
(57)【要約】
廃触媒、特に廃スラリー触媒から金属を回収する改良型の方法を開示する。その方法、及びその方法を含む関連プロセスは、石油産業及び化学処理産業で使用される廃触媒金属を回収するのに有用である。その方法は概して、乾式精錬方法及び湿式精錬方法を組み合わせたものを伴い、不溶性のVIIIB族/VIB族/VB族金属化合物を含む廃触媒のKOH浸出残渣を炭酸カリウムと合わせたものの炭酸カリウムカルサインを形成することと、その炭酸カリウムカルサインから、可溶性のVIB族金属化合物及び可溶性のVB族金属化合物を抽出し、回収することを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱油済み廃触媒から金属を回収する方法であって、前記触媒が、VIB族金属、VIIIB族金属及びVB族金属を含み、前記方法が、
硫黄及び炭素のレベルを所定の量未満まで低下させるとともに、か焼済み廃触媒を形成するのに十分な第1の時間、VIB族金属、VIIIB族金属及びVB族金属を含む脱油済み廃触媒を酸化条件下、第1の所定温度で加熱することと、
前記か焼済み廃触媒と、水酸化カリウム浸出液を含む浸出液を接触させて、所定の浸出温度で、所定の浸出時間、所定の浸出pHで、廃触媒スラリーを形成することと、
前記廃触媒スラリーから、第1のろ液及び第1の固体残渣を分離及び除去することであって、前記第1のろ液が、可溶性のVIB族金属化合物及び可溶性のVB族金属化合物を含み、前記第1の固体残渣が、不溶性のVIIIB族/VIB族/VB族金属化合物を含む、前記分離及び除去することと、
前記不溶性のVIIIB族/VIB族/VB族金属化合物を含む第1の固体残渣を乾燥することと、
乾燥した前記VIIIB族/VIB族/VB族金属化合物を含む第1の固体残渣と、炭酸カリウムを合わせて、固体残渣/炭酸カリウム混合物を形成すること、
前記金属化合物固体残渣/炭酸カリウム混合物を第2の所定温度で、第2の所定時間、ガス流条件下で加熱して、炭酸カリウムカルサインを形成することと、
前記炭酸カリウムカルサインと水を接触させて、前記炭酸カリウムカルサインから、可溶性のVIB族金属化合物及び可溶性のVB族金属化合物を浸出させるのに十分な温度及び時間で、炭酸カリウムカルサインスラリーを形成することと、
前記炭酸カリウムカルサインスラリーから、第2のろ液及び第2の固体残渣を分離及び除去することであって、前記第2のろ液が、可溶性のVIB族金属化合物及び可溶性のVB族金属化合物を含み、前記第2の固体残渣が、不溶性のVIIIB族金属化合物を含む、前記分離及び除去することと、
前記廃触媒スラリーの第1のろ液及び前記炭酸カリウムカルサインスラリーの第2のろ液から、前記可溶性のVIB族金属化合物及び前記可溶性のVB族金属化合物を回収することと、
を含む前記方法。
【請求項2】
脱油済み廃触媒から金属を回収する方法であって、前記触媒が、VIB族金属、VIIIB族金属及びVB族金属を含み、前記方法が、
硫黄及び炭素のレベルを所定の量未満まで低下させるとともに、か焼済み廃触媒を形成するのに十分な第1の時間、VIB族金属、VIIIB族金属及びVB族金属を含む脱油済み廃触媒を酸化条件下、第1の所定温度で加熱することと、
VIII族金属化合物、VIB族金属化合物及びVB族金属化合物を含む前記か焼済み廃触媒と、炭酸カリウムを合わせて、か焼済み廃触媒/炭酸カリウム混合物を形成することと、
前記か焼済み廃触媒/炭酸カリウムの混合物を第2の所定温度で、第2の所定時間、ガス流条件下で加熱して、炭酸カリウムカルサインを形成することと、
前記炭酸カリウムカルサインと水を接触させて、前記炭酸カリウムカルサインから、可溶性のVIB族金属化合物及び可溶性のVB族金属化合物を浸出させるのに十分な温度及び時間で、炭酸カリウムカルサインスラリーを形成することと、
前記炭酸カリウムカルサインスラリーから、ろ液及び固体残渣を分離及び除去することであって、前記ろ液が、可溶性のVIB族金属化合物及び可溶性のVB族金属化合物を含み、前記固体残渣が、不溶性のVIIIB族金属化合物を含む、前記分離及び除去することと、
前記炭酸カリウムカルサインスラリーろ液から、前記可溶性のVIB族金属化合物及び前記可溶性のVB族金属化合物を回収することと、
を含む前記方法。
【請求項3】
脱油済み廃触媒から金属を回収する方法であって、前記触媒が、VIB族金属、VIIIB族金属及びVB族金属を含み、前記方法が、
VIII族金属化合物、VIB族金属化合物及びVB族金属化合物を含む前記廃触媒と、炭酸カリウムを合わせて、廃触媒/炭酸カリウム混合物を形成することと、
硫黄及び炭素のレベルを所定の量未満まで低下させるとともに、炭酸カリウムカルサインを形成するのに十分な時間、前記廃触媒/炭酸カリウム混合物を酸化条件下、所定温度で加熱することと、
前記炭酸カリウムカルサインと水を接触させて、前記炭酸カリウムカルサインから、可溶性のVIB族金属化合物及び可溶性のVB族金属化合物を浸出させるのに十分な温度及び時間で、炭酸カリウムカルサインスラリーを形成することと、
前記炭酸カリウムカルサインスラリーから、ろ液及び固体残渣を分離及び除去することであって、前記ろ液が、可溶性のVIB族金属化合物及び可溶性のVB族金属化合物を含み、前記固体残渣が、不溶性のVIIIB族金属化合物を含む、前記分離及び除去することと、
前記炭酸カリウムカルサインスラリーろ液から、前記可溶性のVIB族金属化合物及び前記可溶性のVB族金属化合物を回収することと、
を含む前記方法。
【請求項4】
前記脱油済み廃触媒が、残渣炭化水素を実質的に含まないか、残渣炭化水素を含まないか、または残渣炭化水素を約1000ppm未満、約500ppm未満もしくは約100ppm未満の量で含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記脱油済み廃触媒が、残渣炭化水素を含み、前記プロセスが、残渣炭化水素のレベルを約1000ppm未満、約500ppm未満または約100ppm未満の量まで低下させるのに十分な時間、前記触媒を、任意に非酸化条件下で、所定温度で加熱することをさらに含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記酸化的な第1の所定温度が、約575℃~600℃、約600~625℃または約625~650℃の範囲である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】
前記酸化的な所定温度が、約575℃~600℃、約600~625℃または約625~650℃の範囲である、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
前記脱油済み廃触媒が、アルミナ、シリカ、チタニアもしくはこれらを組み合わせたものを含む触媒担体材料を実質的に含まないか、または前記触媒を調製するのに、アルミナ、シリカ、チタニアもしくはこれらを組み合わせたものを含む触媒担体材料が使用されてない、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記廃触媒が、スラリー触媒を含むか、またはスラリー触媒である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記酸化加熱条件が、不活性ガス、空気またはこれらを組み合わせたものの存在下で加熱することを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記酸化加熱条件が、空気、または酸素を約20vol.%超含まないガス混合物の存在下で、前記脱油済み廃触媒を前記第1の所定温度で加熱することを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記第1の所定温度が、約600℃~650℃、約600℃~650℃もしくは約610℃~630℃の範囲であるか、または約600℃超、約610℃超、約620℃超、約630℃超、約640℃超もしくは約650℃超である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項13】
硫黄及び炭素のレベルを個々にまたは両方とも、CO及びSOオフガス分析によって測定した場合に、約1wt%未満、約0.8wt%未満、約0.5wt%未満、約0.2wt%未満または約0.1wt%未満という所定の量未満まで低下させる、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記所定の浸出温度が、約60~90℃、約60~80℃もしくは約70~80℃の範囲であるか、または約60℃超もしくは約70℃超である、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記所定の浸出時間が、約1~5時間、約2~5時間または約2~4時間の範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記所定の浸出pHが、約9.5~11、約10~11または約10~10.5の範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記第1のろ液が、可溶性モリブデン酸塩化合物もしくは可溶性バナジウム酸塩化合物またはこれらの混合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記第1のろ液が、前記脱油済み廃触媒に存在する前記VIB族金属の約80wt%超もしくは前記VB族金属の約85wt%超、または前記脱油済み廃触媒に存在する前記VIB族金属の約80wt%超及び前記VB族金属の約85wt%超の両方を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記第1の固体残渣を約110~140℃、約110~130℃または約120~130℃の範囲の温度で、0.5~2時間または1~2時間の範囲の期間乾燥する、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
水の量を約2wt%未満、約1wt%未満、約0.5wt%未満、約0.2wt%未満または約0.1wt%未満まで低減するのに十分な温度及び時間で、前記第1の固体残渣を乾燥する、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記第1の固体残渣が、VB族金属及び/またはVIB族金属及び/またはVIIIB族金属の化合物固体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記第2の所定温度が、約600℃~650℃、約600℃~650℃もしくは約610℃~630℃の範囲であるか、または約600℃超、約610℃超、約620℃超、約630℃超、約640℃超もしくは約650℃超である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項23】
前記第2の所定時間が、約0.5~2時間または1~2時間の範囲である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項24】
前記炭酸カリウムのか焼中の前記ガス流条件が、不活性ガスまたは空気を含み、いずれかのオフガスを除去するのに十分である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項25】
約60~90℃、約60~80℃もしくは約70~80℃の範囲の温度、または約60℃超もしくは約70℃超の温度で、前記炭酸カリウムカルサインを水と接触させて、前記炭酸カリウムカルサインスラリーを形成する、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記炭酸カリウムカルサイン浸出時間が、0.5~4時間、1~3時間または2~3時間の範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
pHを変更せずに、前記炭酸カリウムカルサインの浸出を行う、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
前記第2のろ液が、モリブデン酸カリウム、バナジウム酸カリウムもしくはこれらの混合物を含む、請求項1に記載の方法、または前記ろ液が、モリブデン酸カリウム、バナジウム酸カリウムもしくはこれらの混合物を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項29】
前記第2のろ液が、前記VB族及び/またはVIB族金属化合物に存在する前記VB族金属を約60wt%超、約70wt%超、約80wt%超または約90wt%超の量で含む、請求項21に記載の方法。
【請求項30】
前記第2のろ液が、前記VB族及び/またはVIB族金属化合物に存在する前記VIB族金属を約90wt%超、約95wt%超、約97wt%超、約98wt%超または約99wt%超の量で含む、請求項21または請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記脱油済み廃触媒に存在する前記VB族金属の全抽出率が、約85wt%超、約90wt%超、約95wt%超、約97wt%超、約98wt%超または約99wt%超である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記脱油済み廃触媒に存在する前記VIB族金属の全抽出率が、約90wt%超、約95wt%超、約97wt%超、約98wt%超または約99wt%超である、請求項1~3または請求項31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
VIB族金属化合物及びVB族金属化合物を含む水性混合物から、VIB族金属化合物及びVB族金属化合物を別々に回収する方法であって、
前記金属化合物をアンモニウムVB族金属化合物及びアンモニウムVIB族金属化合物に転化するのに有効なメタセシス反応条件下で、前記VIB族金属化合物及び前記VB族金属化合物を含む水性混合物と、アンモニウム塩を接触させることと、
前記アンモニウムVB族金属化合物を晶析させるのに有効な条件に、前記アンモニウムVB族金属化合物を含む前記混合物を供することと、
晶析させた前記アンモニウムVB族金属化合物を飽和アンモニウムVB族金属化合物洗浄液で、所定の洗浄温度においてろ過及び洗浄し、前記アンモニウムVB族金属化合物及びアンモニウムVIB族金属化合物ろ液を別々に回収することと、
アンモニアを放出させるのに有効な条件で、前記アンモニウムVB族金属化合物を加熱し、前記VB族金属化合物及びアンモニアを別々に回収することと、
VIB族金属酸化物化合物析出物及び無機酸のアンモニウム塩を形成するのに有効な条件下で、前記アンモニウムVIB族金属化合物ろ液と前記無機酸を接触させることと、
前記VIB族金属酸化物化合物析出物をアンモニウムVIB族金属酸化物化合物洗浄液で、所定の洗浄温度においてろ過及び洗浄し、前記VIB族金属酸化物化合物析出物を回収することと、
を含む前記方法。
【請求項34】
前記VB族金属が、バナジウムを含み、及び/または前記VIB族金属が、モリブデンを含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記VIB族金属化合物及びVB族金属化合物を含む水性混合物が、前記VIB族化合物のカリウム塩、及び前記VB族金属化合物のカリウム塩を含む、請求項33または34に記載の方法。
【請求項36】
前記アンモニウム塩が、硝酸アンモニウムを含む、請求項33~35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
前記メタセシス反応条件が、約9未満の範囲、約8.5未満、約7~8.5の範囲もしくは約8のpH、約80℃未満、約70℃未満、約50~70℃、55~65℃もしくは約60℃の範囲の温度、及び/または約0.25~2時間、約0.25~1.5時間、約0.5~1.5時間もしくは約1~2時間の範囲の反応時間を含む、請求項33~36のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
前記メタセシス反応条件が、バナジウム酸カリウムを、対応するバナジウム酸アンモニウム化合物及びカリウム塩に転化することを含む、請求項33~37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
前記メタセシス反応条件が、前記水性混合物のpHを約8~約9の範囲に調整し、前記アンモニウム塩を前記水性混合物に加え、アンモニウムVB族金属化合物の種を約7.5~8.5の範囲、好ましくは約8のpHで、前記水性混合物に加える順次的な工程を含む、請求項33~38のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
前記VIB族金属化合物/VB族金属化合物の混合物が、水性ろ液混合物、または廃触媒金属回収プロセスから得た水性ろ液混合物である、請求項33~39のいずれか1項に記載の方法。
【請求項41】
前記アンモニウムVB族金属化合物の晶析条件が、0℃超~約15℃または0℃超~約10℃の範囲の温度、真空条件、及び約1時間~約6時間、約1時間~約4時間または約1時間~約3時間の晶析期間を含む、請求項33~40のいずれか1項に記載の方法。
【請求項42】
前記晶析させたアンモニウムVB族金属化合物をろ過及び洗浄する条件が、0℃超~約15℃もしくは0℃超~約10℃の範囲の洗浄温度、または約10℃の洗浄液温度を含み、好ましくは、前記晶析させたアンモニウムVB族金属化合物及び前記洗浄液が、メタバナジン酸アンモニウムを含み、任意に、前記アンモニウムVB族金属化合物の晶析のために、前記洗浄液をリサイクルする、請求項33~41のいずれか1項に記載の方法。
【請求項43】
前記アンモニウムVB族金属化合物を加熱する条件が、アンモニアを、前記アンモニウムVB族金属化合物に存在する量の少なくとも約90%、約95%、約98%または約99%の量で放出させるのに十分な時間、前記アンモニウムVB族金属化合物を約200~450℃、約300~450℃、約350~425℃または約375~425℃の範囲の温度で加熱することを含む、請求項33~42のいずれか1項に記載の方法。
【請求項44】
前記アンモニウムVIB族金属化合物ろ液と無機酸を接触させる条件が、前記無機酸を約50~80℃、約50~70℃または約55~70℃の範囲の温度で導入して、pHを約1~3、約1~2または約1にすることを含み、好ましくは、前記無機酸が、硝酸もしくは硫酸を含むか、または硝酸である、請求項33~43のいずれか1項に記載の方法。
【請求項45】
前記VIB族金属酸化物化合物析出物をアンモニウムVIB族金属酸化物化合物洗浄液でろ過及び洗浄する条件が、0℃超~約15℃もしくは0℃超~約10℃の範囲の洗浄温度、または約10℃の洗浄液温度を含み、好ましくは、前記洗浄液が、pH1で、Moを枯渇されたヘプタモリブデン酸アンモニウムを含み、任意に、前記VIB族金属酸化物化合物のろ過及び洗浄のために、前記洗浄液をリサイクルする、請求項33~44のいずれか1項に記載の方法。
【請求項46】
前記VIB族金属化合物及びVB族金属化合物を含む前記溶液に存在するVB族金属の全回収率が、約85wt%超、約90wt%超、約95wt%超、約97wt%超、約98wt%超または約99wt%超である、請求項1~45のいずれか1項に記載の方法。
【請求項47】
前記VIB族金属化合物及びVB族金属化合物を含む前記溶液に存在するVIB族金属の全回収率が、約85%超、約90wt%超、約95wt%超、約97wt%超、約98wt%超または約99wt%超である、請求項1~46のいずれか1項に記載の方法。
【請求項48】
前記VIB族金属化合物及びVB族金属化合物を含む前記溶液が、脱油済み廃触媒から取り出したものであるか、またはVIB族金属化合物及びVB族金属化合物を含むろ液である、請求項1~47のいずれか1項に記載の方法。
【請求項49】
前記飽和アンモニウムVB族金属化合物洗浄液が、前記晶析させたアンモニウムVB族金属化合物と同じアンモニウムVB族金属化合物を含むか、または前記洗浄液の飽和アンモニウムVB族金属化合物が、前記晶析させたアンモニウムVB族金属化合物と同じアンモニウムVB族金属化合物である、請求項33~48のいずれか1項に記載の方法。
【請求項50】
前記アンモニウムVIB族金属酸化物化合物洗浄液が、前記晶析させたアンモニウムVIB族金属酸化物化合物と同じアンモニウムVIB族金属酸化物化合物を含むか、または前記洗浄液の前記アンモニウムVIB族金属酸化物化合物が、前記晶析させたアンモニウムVB族金属化合物と同じアンモニウムVIB族金属酸化物化合物である、請求項33~49のいずれか1項に記載の方法。
【請求項51】
前記VIB族金属化合物及びVB族金属化合物を含む水性混合物が、請求項1に記載の第1のろ液及び第2のろ液を含む、請求項33~50のいずれか1項に記載の方法。
【請求項52】
脱油済み廃触媒から金属を回収するための、乾式精錬と湿式精錬との複合的方法であって、請求項1~32のいずれか1項に記載の方法及び請求項33~50のいずれか1項に記載の方法を含む、前記複合的方法。
【請求項53】
請求項1~32のいずれか1項に記載の第1のろ液及び第2のろ液を、請求項33~50のいずれか1項に記載の、VIB族金属化合物及びVB族金属化合物を含む水性混合物として使用する、請求項52に記載の複合的方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2020年1月20日に出願した「Metals Recovery from Spent Catalyst」という標題の米国特許仮出願第62/963,215号(文書番号T-11120-P3)、及び2020年1月20日に出願した「Metals Recovery from Spent Catalyst」という標題の米国特許仮出願第62/963,222号(文書番号T-11120-P2)に基づく優先権の利益を主張するものであり、これらの開示内容は、参照により、その全体が本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、廃スラリー水素化処理触媒を含む廃触媒から金属を回収する方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
触媒は長年、石油精製及び化学処理の産業で広く使用されている。水素処理触媒及び水素化分解触媒を含む水素化処理触媒は現在、世界中において、設備内で広く用いられている。もはや活性が不十分である(または別の理由で、交換の必要がある)、使用済み水素化処理触媒、すなわち「廃」水素化処理触媒は典型的には、モリブデン、ニッケル、コバルト、バナジウムなどのような金属成分を含む。
【0004】
より重質な原料油の登場により、製油会社は、その原料油から硫黄及び夾雑物を除去するために、以前よりも多い触媒を水素化処理に使用することを余儀なくされている。これらの触媒プロセスでは、価値のある金属を有するとともに、その環境意識に従って埋め立てを控えるという2つの趣旨をもたらす廃触媒がかなりの量生成される。
【0005】
触媒金属を廃触媒から回収する様々なプロセスは、文献に記載されている。米国特許出願公開第2007/0025899号には例えば、モリブデン及びニッケルの金属錯体を回収するための複数の工程及び装置で、モリブデン、ニッケル及びバナジウムのような金属を廃触媒から回収するプロセスが開示されている。米国特許第6,180,072号には、少なくとも金属硫化物を含む廃触媒から金属を回収するために、酸化工程及び溶媒抽出を必要とする別の複雑なプロセスが開示されている。米国特許第7,846,404号には、廃触媒の酸化加圧浸出を通じて生成されたアンモニア加圧浸出液から金属を回収するために、pH調整及び析出を使用するプロセスが開示されている。米国特許出願公開第2007/0,025,899号にはさらに、モリブデン及びニッケルの金属錯体を回収するための複数の工程及び装置で、モリブデン、ニッケル及びバナジウムのような金属を廃触媒から回収するプロセスが開示されている。米国特許第6,180,072号には、少なくとも金属硫化物を含む廃触媒から金属を回収するために、溶媒抽出及び酸化工程を必要とする別の複雑なプロセスが開示されている。
【0006】
廃触媒からの触媒金属の回収、特に湿式精錬方法において進歩が見られるにもかかわらず、廃触媒から触媒金属(モリブデン、ニッケル及びバナジウムが挙げられるが、これらに限らない)を回収するための改良及び簡潔化されたプロセスに対するニーズが引き続き存在する。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、スラリー触媒のような廃触媒、特に廃水素化処理触媒から、触媒金属を回収する方法に対するものである。本発明の目標の1つは、金属回収において、好ましくは、向上した金属回収効率で、設備費用及び運転費用を低下させる、廃触媒金属回収プロセスの改良を行うことである。本発明は、触媒金属の回収において、革新的で費用効率のよいアプローチをもたらすと同時に、全般的な触媒金属回収の改良も行い、この改良は、石油及びガス産業、ならびに金属回収産業において重要な環境持続可能性のニーズに対処するものである。
【0008】
廃触媒、特に廃スラリー触媒から金属を回収する改良型の方法を開示する。その方法、及びその方法を含む関連プロセスは、石油産業及び化学処理産業で使用される触媒金属を回収するのに有用である。その方法は概して、乾式精錬及び湿式精錬の技法及び方法の両方を含む。その乾式精錬法は、廃触媒を酸化焙焼して、カルサインにすることを含む。続いて、そのカルサインを苛性カリ溶液、すなわちKOH溶液で、(湿式精錬によって)浸出させて、可溶性のVB族金属及びVIB族金属と、VB族金属、VIB族金属及びVIIIB族金属を含む残渣とをもたらす。その残渣を炭酸カリウムとともにか焼してから、熱水中で(湿式精錬によって)浸出させて、可溶性のVB族金属及びVIB族金属、ならびに不溶性のVIIIB族残渣をもたらす。可溶性のVB族金属流及びVIB族金属流を合わせ、VB族金属及びVIB族金属をそれらのアンモニウム形態に転化することによって、VB族金属及びVIB族金属を分離し、VB族金属を晶析してから、VB族貧液流を酸性化して、VIB族金属を沈殿除去させる。
【0009】
一態様では、その乾式精錬方法は、VIB族金属、VIIIB族金属及びVB族金属を含む脱油済み廃触媒に存在する硫黄及び炭素のレベルを所定の量未満まで低下させるとともに、か焼済み廃触媒を形成するのに十分な第1の時間、その触媒を酸化条件下、第1の所定温度で加熱することと、そのか焼済み廃触媒と、苛性カリ浸出液、すなわちKOH浸出液を接触させて、所定の浸出温度で、所定の浸出時間、所定の浸出pHで、廃触媒スラリーを形成することと、その廃触媒スラリーから、ろ液と固体残渣を分離及び除去することであって、そのろ液が、可溶性のVIB族金属化合物及びVB族金属化合物を含み、その固体残渣が、不溶性のVIII族/VIB族/VB族金属化合物を含むことと、その不溶性のVIII族/VIB族/VB族金属化合物固体残渣を乾燥することと、その乾燥したVIII族/VIB族/VB族金属化合物固体残渣と、無水炭酸カリウムを合わせて、固体残渣/炭酸カリウム混合物を形成すること、その金属化合物固体残渣/炭酸カリウム混合物を第2の所定温度で、第2の所定時間、空気下で加熱して、炭酸カリウムカルサインを形成することと、その炭酸カリウムカルサインと水を接触させて、その炭酸カリウムカルサインから、可溶性のVIB族金属化合物及び可溶性のVB族金属化合物を浸出させるのに十分な温度及び時間で、炭酸カリウムカルサインスラリーを形成することと、その炭酸カリウムカルサインスラリーから、ろ液及び固体残渣を分離及び除去することであって、そのろ液が、その可溶性のVIB族金属化合物及び可溶性のVB族金属化合物を含み、その固体残渣が、不溶性のVIIIB族金属化合物を含むことと、そのか焼済み廃触媒スラリー浸出ろ液及び炭酸カリウムカルサインスラリー浸出ろ液から、その可溶性のVIB族金属化合物及び可溶性のVB族金属化合物を回収することを含む。
【0010】
別の態様では、その方法は概して、炭酸カリウムを使用して、廃触媒からの金属の回収量を増やすことに関し、その方法では、廃触媒カルサインから、可溶性のVIB族金属化合物及び可溶性のVB族金属化合物を苛性KOH浸出で抽出した際に得られた固体残渣と、炭酸カリウムを合わせることによって、炭酸カリウムカルサインを形成し、続いて、その炭酸カリウムカルサインから、可溶性のVIB族金属及び可溶性のVB族金属化合物を抽出及び回収する。
【0011】
さらなる態様では、その湿式精錬方法は、VIB族金属化合物/VB族金属化合物をアンモニウムVB族金属化合物及びアンモニウムVIB族金属化合物に転化するのに有効なメタセシス反応条件下で、それらの金属化合物の混合物をアンモニウム塩と接触させることによって、VIB族金属化合物及びVB族金属化合物を含む溶液から、そのVIB族金属化合物及びVB族金属化合物を別々に回収することと、そのアンモニウムVB族金属化合物を晶析させるのに有効な条件に、そのアンモニウムVB族金属化合物を含む溶液を供することと、その晶析させたアンモニウムVB族金属化合物を飽和アンモニウムVB族金属化合物洗浄液で、所定の洗浄温度においてろ過及び洗浄し、そのアンモニウムVB族金属化合物及びアンモニウムVIB族金属化合物のろ液を別々に回収することと、アンモニアを放出させるのに有効な条件下で、そのアンモニウムVB族金属化合物を加熱し、そのVB族金属化合物及びアンモニアを別々に回収することと、VIB族金属酸化物化合物析出物、及び無機酸のアンモニウム塩を形成するのに有効な条件下で、そのアンモニウムVIB族金属化合物ろ液を無機酸と接触させることと、そのVIB族金属酸化物化合物析出物をアンモニウムVIB族金属酸化物化合物洗浄液で、所定の洗浄温度においてろ過及び洗浄し、そのVIB族金属酸化物化合物析出物を回収することを含む。
【0012】
本発明の範囲は、本開示に添付されているいずれの代表的な図面によっても限定されず、本願の請求項によって定義されると理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に従って、脱油済み廃触媒から金属を回収するための乾式精錬方法の実施形態の、全般的なブロック図による略図である。
図1a】本発明に従って、脱油済み廃触媒から金属を回収するための乾式精錬方法の実施形態の、全般的なブロック図による略図である。
図1b】本発明に従って、脱油済み廃触媒から金属を回収するための乾式精錬方法の実施形態の、全般的なブロック図による略図である。
図2】本発明に従って、脱油済み廃触媒から金属を回収するための湿式精錬方法の実施形態の、全般的なブロック図による略図である。
図3】本発明に従って、脱油済み廃触媒から金属を回収するための乾式精錬/湿式精錬複合法の実施形態の、全般的なブロック図による略図である。
図3a】本発明に従って、脱油済み廃触媒から金属を回収するための乾式精錬/湿式精錬複合法の実施形態の、全般的なブロック図による略図である。
図3b】本発明に従って、脱油済み廃触媒から金属を回収するための乾式精錬/湿式精錬複合法の実施形態の、全般的なブロック図による略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書には、1つ以上の態様の例示的な実施形態が示されているが、開示されているプロセスは、いずれかの数の技法を用いて実施してよい。本開示は、本明細書に例示及び記載されているいずれの例示的な設計及び実施形態も含め、本明細書に例示されている例示的または具体的な実施形態、図面及び技法に限定されず、均等物の全範囲とともに、添付の請求項の範囲内で改変してよい。
【0015】
別段に示されていない限り、本開示には、下記の用語、専門用語及び定義を適用する。用語が本開示で使用されているが、本明細書で具体的に定義されていない場合には、IUPAC Compendium of Chemical Terminology,2nd ed(1997)の定義を適用してよい。ただし、その定義が、本明細書におけるいずれかの他の開示内容もしくは適用される定義と矛盾しないか、またはその定義が適用されるいずれの請求項も不明確もしくは実施不能にしないことを条件とする。参照により本明細書に援用されるいずれかの文献によって定められているいずれかの定義または用法が、本明細書に定められている定義または用途と矛盾する限りにおいては、本明細書に定められている定義または用法が適用されると理解されたい。
【0016】
「スラリー触媒」は、「塊状触媒」、「無担持触媒」または「自己担持触媒」と同義的に使用してよく、その触媒組成物が、予め形成済みの成形触媒担体(後で、含侵によって金属を担持させる)を有する従来の触媒形態のもの、すなわち被着触媒ではないことを意味する。このような塊状触媒は、析出によって形成してもよいし、またはその触媒組成物に組み込まれたバインダーを有してもよい。スラリー触媒または塊状触媒は、金属化合物から、いずれのバインダーも有さない状態で形成してもよい。スラリー形態では、このような触媒は、炭化水素油のような液体混合物中に分散粒子を含み、すなわち、「スラリー触媒」である。
【0017】
「重質油」の供給原料または原料とは、重質原油及び超重質原油を指し、残油、石炭、ビチューメン、タールサンド、廃棄物の熱分解から得られる油、ポリマー、バイオマス、コークス及びオイルシェールに由来する油などが挙げられるが、これらに限らない。重質油原料は、液体、半固体及び/または固体であってよい。重質油原料の例としては、カナダのタールサンド、ブラジルのサントス及びカンポス堆積盆地、エジプトのスエズ湾、チャド、ベネズエラのズリア、マレーシア、ならびにインドネシアのスマトラの減圧残油が挙げられるが、これらに限らない。重質油原料の他の例としては、「バレルの底油」及び「残渣」(すなわち「残油」)、沸点が少なくとも650°F(343℃)である常圧塔底油、沸点が少なくとも975°F(524℃)である減圧塔底油、または沸点が975°F(524℃)以上である「残渣ピッチ」及び「減圧残渣」を含め、精製プロセスから残った残渣が挙げられる。
【0018】
「処理」、「処理された」、「アップグレーディングする」、「アップグレーディング」及び「アップグレーディングされた」とは、重質油原料と併せて使用するときには、水素化処理が施されているか、もしくは水素化処理を施した重質油原料、または得られた材料もしくは粗生成物であって、その重質油原料の分子量が低下しているか、その重質油原料の沸点範囲が縮小しているか、アスファルテンの濃度が低下しているか、炭化水素遊離基の濃度が低下しているか及び/または硫黄、窒素、酸素、ハロゲン化物及び金属のような不純物の量が減少しているものを説明するものである。
【0019】
重質油供給原料のアップグレーディングまたは処理は概して、本明細書では「水素化処理」(水素化分解または水素化転化)という。水素化処理は、水素の存在下で実施するいずれかのプロセスとして意味し、そのプロセスとしては、水素化転化、水素化分解、水素化、水素処理、水素化脱硫、水素化脱窒素、水素化脱金属、水素化脱芳香族、水素化異性化、水素化脱ろう及び水素化分解(選択的水素化分解を含む)が挙げられるが、これらに限らない。
【0020】
「水素(Hydrogen)」または「水素(hydrogen)」という用語は、水素そのもの、及び/または水素源を供給する化合物(複数可)を指す。
【0021】
「含炭化水素」、「炭化水素」及び類似の用語は、炭素原子及び水素原子のみを含む化合物を指す。その炭化水素に特定の基が存在する場合には、他の識別語を用いて、その特定の基の存在を示すことができる(例えば、ハロゲン化炭化水素とは、その炭化水素中の等しい数の水素原子と置き換わっているハロゲン原子が1つ以上存在することを示している)。
【0022】
「廃触媒」とは、水素化処理操作で使用された触媒であり、それにより、その活性が失われた触媒を指す。概して、触媒は、その触媒の反応速度定数が、指定温度において、新鮮な触媒と比べて、ある特定の指定値未満である場合に、「廃」触媒と称してよい。状況によっては、触媒は、その反応速度定数が、新鮮な未使用の触媒に対して、80%以下であるか、または別の実施形態では、おそらく50%以下である場合には、「廃」触媒であってよい。一実施形態では、廃触媒の金属成分は、(周期表の)VB族金属、VIB族金属及びVIIIB族金属、例えば、バナジウム(V)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、ニッケル(Ni)及びコバルト(Co)のうちの少なくとも1つを含む。最も一般的に見られる回収対象金属は、Moである。必ずしもこの限りではないが、その廃触媒は典型的には、Mo、Ni及びVの硫化物を含む。
【0023】
「脱油済み廃触媒」とは概して、上で説明したような「廃触媒」のうち、脱油プロセスを行ったものを指す。概して、脱油済み廃触媒は、未転化油及び/または水素化処理生成物のようないくらかの残油炭化水素、ならびにその他の化学化合物及び材料を含む。例えば、脱油済み廃触媒は典型的には、残渣炭化水素を15wt%以上含むことがあり、またはこのような炭化水素を除去するために処理した場合には、量が低減されていることがある(1wt%以下または1000ppm以下など)。このような追加成分の指定含有量は、一般的な用語か、具体的な用語に関わらず、適宜、本明細書に指定されている。
【0024】
「金属」とは、その元素形態、化合物形態またはイオン形態の金属を指す。「金属前駆体」とは、方法において、またはプロセスに供される金属化合物を指す。単数形の「金属」、「金属前駆体」または「金属化合物」という用語は、単一の金属、金属前駆体または金属化合物、例えば、VIB族金属、VIII族金属またはV族金属に限定されず、金属の混合物における複数の言及物も含む。「可溶性」及び「不溶性」という用語は、VIB族金属、VIII族金属もしくはV族金属、または金属化合物に関しては、別段の記載のない限り、金属成分が、プロトン性液体形状であること、またはその金属もしくは金属化合物が、指定の工程もしくは溶媒において可溶性もしくは不溶性であることを意味する。
【0025】
「IIB族」または「IIB族金属」とは、元素形態、化合物形態またはイオン形態のいずれかである亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、水銀(Hg)及びこれらを組み合わせたものを指す。
【0026】
「IVA族」または「IVA族金属」とは、元素形態、化合物形態またはイオン形態のいずれかであるゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)または鉛(Pb)、及びこれらを組み合わせたものを指す。
【0027】
「V族金属」とは、その元素形態、化合物形態またはイオンであるバナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)及びこれらを組み合わせたものを指す。
【0028】
「VIB族」または「VIB族金属」とは、元素形態、化合物形態またはイオン形態のいずれかであるクロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)及びこれらを組み合わせたものを指す。
【0029】
「VIIIB族」または「VIIIB族金属」とは、元素形態、化合物形態またはイオン形態のいずれかである鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、ルテニウム(Ru)、レニウム(Rh)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)及びこれらを組み合わせたものを指す。
【0030】
Moまたは「モリブデン」への言及は、VIB族金属として例示するためのものに過ぎず、他のVIB族金属/化合物、及びVIB族金属/化合物の混合物を排除するようには意図されていない。同様に、「ニッケル」への言及は、例示のためのものに過ぎず、水素化処理触媒で使用できる他のVIIIB族非貴金属成分、VIIIB族金属、VIB族金属、IVB族金属、IIB族金属及びこれらの混合物を排除するようには意図されていない。同様に、「バナジウム」への言及は、廃触媒に存在し得るいずれかのVB族金属成分について例示するためのものに過ぎず、金属回収に使用する廃触媒に存在し得る他のVB族金属/化合物及び混合物を排除するようには意図されていない。
【0031】
存在し得る金属化合物を説明するために、「VIII族/VIB族/VB族」という用語の使用によって表される、金属化合物の組み合わせの記載は、VIII族金属化合物、VIB族金属化合物またはVB族金属化合物、及びそれらをいずれかに組み合わせたものが存在し得ることを意味するように意図されている。例えば、その廃触媒が、酸素及び/または硫黄を含む化合物として、Mo、V、Ni及びFeの金属化合物を含む場合には、「VIII族/VIB族/VB族」という用語には、単一の金属化合物、及び混合された金属化合物、すなわち、VIII族金属、VIB族金属、VB族金属またはこれらを組み合わせたものを含む金属化合物が含まれると理解すべきである。代表的な化合物としては例えば、MoS、V、NiS、FeS、MoO、V、NiO、V、Fe、NiMoO、FeVOなどが挙げられる。同様に、「VB族/VIB族」金属(複数可)及び金属酸化物(複数可)という用語は、VB族金属、VIB族金属またはこれらの組み合わせたものを含む金属または金属酸化物化合物を指す。
【0032】
「担体」という用語は、特に、「触媒担体」という用語で使用する場合には、典型的には、表面積の大きい固体である従来の材料のうち、触媒材料を担持する材料を指す。担体材料は、触媒反応において不活性であっても、または触媒反応に関与するものであってもよく、多孔性または非多孔性であってよい。典型的な触媒担体としては、様々な種類の炭素、アルミナ、シリカ、及びシリカ-アルミナ、例えば、非晶質シリカアルミネート、ゼオライト、アルミナ-ボリア、シリカ-アルミナ-マグネシア、シリカ-アルミナ-チタニア、ならびにそれらに他のゼオライト及び他の複合酸化物を加えることによって得られる物質が挙げられる。
【0033】
「モレキュラーシーブ」とは、フレームワーク構造内に、細孔の均一な分子寸法を有しており、モレキュラーシーブの種類に応じて、ある特定の分子のみが、そのモレキュラーシーブの細孔構造に到達できる一方で、その他の分子が、例えば分子のサイズ及び/または反応性により排除されるようになっている物質を指す。ゼオライト、結晶性アルミノフォスフェート及び結晶性シリコアルミノフォスフェートが、モレキュラーシーブの代表的な例である。
【0034】
本開示では、組成物、及び方法またはプロセスが、各種の成分または工程を「含む」という観点で説明されている場合が多いが、その組成物及び方法は、別段の記載のない限り、その各種の成分もしくは工程「から本質的になっても」よいし、またはその各種の成分もしくは工程「からなっても」よい。
【0035】
「a」、「an」及び「the」という用語は、複数形の代替案、例えば、少なくとも1つを含むように意図されている。例えば、「a」の付された遷移金属または「an」の付されたアルカリ金属という開示内容は、別段の定めのない限り、1つの遷移金属またはアルカリ金属、あるいは2つ以上の遷移金属もしくはアルカリ金属の混合物、または2つ以上の遷移金属もしくはアルカリ金属を組み合わせたものを含むように意図されている。
【0036】
本明細書における詳細な説明及び請求項内のいずれの数値も、示されている値が「約」または「およそ」によって修飾されており、当業者であれば予測するであろう、実験での誤差及び変動が考慮されている。
【0037】
本発明は、脱油済み廃触媒から金属を回収する方法であって、その触媒が、VIB族金属、VIIIB族金属及びVB族金属を含む方法である。一態様(本明細書では「ケース1」という)では、その方法は、
硫黄及び炭素のレベルを所定の量未満まで低下させるとともに、か焼済み廃触媒を形成するのに十分な第1の時間、VIB族金属、VIIIB族金属及びVB族金属を含む脱油済み廃触媒を酸化条件下、第1の所定温度で加熱することと、
そのか焼済み廃触媒と、水酸化カリウム浸出液を含む浸出液を接触させて、所定の浸出温度で、所定の浸出時間、所定の浸出pHで、廃触媒スラリーを形成することと、
その廃触媒スラリーから、第1のろ液及び第1の固体残渣を分離及び除去することであって、その第1のろ液が、可溶性のVIB族金属化合物及び可溶性のVB族金属化合物を含み、その第1の固体残渣が、不溶性のVIII族/VIB族/VB族金属化合物を含むことと、
その不溶性のVIII族/VIB族/VB族金属化合物を含む第1の固体残渣を乾燥することと、
その乾燥した、VIII族/VIB族/VB族金属化合物を含む第1の固体残渣と、炭酸カリウムを合わせて、固体残渣/炭酸カリウム混合物を形成すること、
その金属化合物固体残渣/炭酸カリウム混合物を第2の所定温度で、第2の所定時間、空気下で加熱して、炭酸カリウムカルサインを形成することと、
その炭酸カリウムカルサインと水を接触させて、その炭酸カリウムカルサインから、可溶性のVIB族金属化合物及び可溶性のVB族金属化合物を浸出させるのに十分な温度及び時間で、炭酸カリウムカルサインスラリーを形成することと、
その炭酸カリウムカルサインスラリーから、第2のろ液及び第2の固体残渣を分離及び除去することであって、その第2のろ液が、可溶性のVIB族金属化合物及び可溶性のVB族金属化合物を含み、その第2の固体残渣が、不溶性のVIIIB族金属化合物を含むことと、
そのか焼済み廃触媒スラリーの第1の浸出ろ液、及び炭酸カリウムカルサインスラリーの第2の浸出ろ液から、可溶性のVIB族金属化合物及び可溶性のVB族金属化合物を回収することと、
を含む乾式精錬方法を含む。
【0038】
別の態様(本明細書では「ケース2」という)では、その方法は、
硫黄及び炭素のレベルを所定の量未満まで低下させるとともに、か焼済み廃触媒を形成するのに十分な第1の時間、VIB族金属、VIIIB族金属及びVB族金属を含む脱油済み廃触媒を酸化条件下、第1の所定温度で加熱することと、
VIII族金属化合物、VIB族金属化合物及びVB族金属化合物を含むか焼済み廃触媒と、炭酸カリウムを合わせて、か焼済み廃触媒/炭酸カリウム混合物を形成することと、
そのか焼済み廃触媒/炭酸カリウム混合物を第2の所定温度で、第2の所定時間、ガス流条件下で加熱して、炭酸カリウムカルサインを形成することと、
その炭酸カリウムカルサインと水を接触させて、その炭酸カリウムカルサインから、可溶性のVIB族金属化合物及び可溶性のVB族金属化合物を浸出させるのに十分な温度及び時間で、炭酸カリウムカルサインスラリーを形成することと、
その炭酸カリウムカルサインスラリーから、ろ液及び固体残渣を分離及び除去することであって、そのろ液が、可溶性のVIB族金属化合物及び可溶性のVB族金属化合物を含み、その固体残渣が、不溶性のVIIIB族金属化合物を含むことと、
その炭酸カリウムカルサインスラリーろ液から、その可溶性のVIB族金属化合物及び可溶性のVB族金属化合物を回収することと、
を含む乾式精錬方法を含む。
【0039】
さらなる態様(本明細書では「ケース3」という)では、その方法は、
VIII族金属化合物、VIB族金属化合物及びVB族金属化合物を含む廃触媒と、炭酸カリウムを合わせて、廃触媒/炭酸カリウム混合物を形成することと、
硫黄及び炭素のレベルを所定の量未満まで低下させるとともに、炭酸カリウムカルサインを形成するのに十分な時間、その廃触媒/炭酸カリウム混合物を酸化条件下、所定温度で加熱することと、
その炭酸カリウムカルサインと水を接触させて、その炭酸カリウムカルサインから、可溶性のVIB族金属化合物及び可溶性のVB族金属化合物を浸出させるのに十分な温度及び時間で、炭酸カリウムカルサインスラリーを形成することと、
その炭酸カリウムカルサインスラリーから、ろ液及び固体残渣を分離及び除去することであって、そのろ液が、可溶性のVIB族金属化合物及び可溶性のVB族金属化合物を含み、その固体残渣が、不溶性のVIIIB族金属化合物を含むことと、
その炭酸カリウムカルサインスラリーろ液から、その可溶性のVIB族金属化合物及び可溶性のVB族金属化合物を回収することと、
を含む乾式精錬方法を含む。
【0040】
これらのケース(1、2及び3)のそれぞれは、廃触媒金属の回収の改善と、廃触媒からの金属回収へのアプローチのうち、簡潔化された費用効率のよいアプローチを提供する。ケース1の方法では、2段階の浸出抽出が用いられており、その第1の段階は、脱油済み廃触媒カルサインの苛性カリ浸出抽出であり、第2の段階は、その苛性カリ浸出抽出段階から得られた不溶性残渣と炭酸カリウムを合わせたものから形成された炭酸カリウムカルサインの水浸出抽出である。その方法では、他の溶媒を追加するなどの(その方法内での)追加の抽出段階を使用したり、またはカリ浸出液と組み合わせるか、もしくは炭酸カリウムの使用とともに、追加の処理用の有機化合物及び/または無機化合物を使用したりする必要がない。対照的に、ケース2の方法では、1段階の浸出抽出が用いられており、その浸出抽出は、か焼済み廃触媒を炭酸カリウムと合わせたものから形成された炭酸カリウムカルサインの水浸出抽出である。ケース3の方法でも、1段階の浸出抽出が用いられており、その浸出抽出は、廃触媒を炭酸カリウムと合わせたものから形成された炭酸カリウムカルサインの水浸出抽出である。
【0041】
その廃触媒は概して、V、NbのようなVB族金属、Ni、CoのようなVIIIB族金属、FeのようなVIIIB族金属、TiのようなIVB族金属、ZnのようなIIB族金属、及びこれらを組み合わせたものから選択した金属を任意に含む塊状の無担持VIB族金属硫化物触媒から生じるものである。ある特定の追加の金属を触媒配合物に加えて、所定の特性を改良するか、あるいは触媒の活性及び/または選択性を改変してよい。その廃触媒は、VIIIB族金属によって炭化水素油水素化処理が促進される分散(塊状または無担持)VIB族金属硫化物触媒から生じるものであってよいし、または別の実施形態では、その廃触媒は、VIIIB族金属硫化物触媒から生じるものであってもよい。その廃触媒は、VIB族金属硫化物から本質的になる触媒から生じるものであってもよいし、または別の実施形態では、その廃触媒は、分散触媒またはスラリー触媒の形状である塊状触媒から生じるものであってもよい。その塊状触媒は例えば、コロイド触媒または分子触媒であってよい。
【0042】
その方法における廃触媒としての使用に適する触媒は、20110005976A1号、同第20100294701A1号、同第20100234212A1号、同第20090107891A1号、同第20090023965A1号、同第20090200204A1号、同第20070161505A1号、同第20060060502A1号及び同第20050241993A号を含む相当数の刊行物に記載されている。
【0043】
一実施形態における塊状触媒は、米国特許第7,901,569号、同第7,897,036号、同第7,897,035号、同第7,708,877号、同第7,517,446号、同第7,431,824号、同第7,431,823号、同第7,431,822号、同第7,214,309号、同第7,390,398号、同第7,238,273号及び同第7,578,928号、米国特許出願公開第20100294701A1号、同第20080193345A1号、同第20060201854A1号及び同第20060054534A1号を含む相当数の刊行物に記載されているように、重質油生成物のアップグレーディングに使用され、その関連する開示内容は、参照により、本明細書に含まれる。
【0044】
金属の回収前、かつ重質油のアップグレーディング後、その廃触媒を処理して、油、析出アスファルテン、その他の油残渣などのような残渣炭化水素を除去してよい。脱油前の廃触媒は典型的には、未転化の残渣炭化水素油中に、炭素細粒、金属細粒及び(廃)無担持スラリー触媒を含み、その固形分は、5~50wt%の範囲である。その脱油プロセス処理は、油の除去のために溶媒を使用すること、及び脱油済み廃触媒の回収のために、その後に液体/固体を分離する工程を含んでよい。その処理プロセスは、その廃触媒から炭化水素を除去するために、熱処理工程、例えば、乾燥及び/または熱分解をさらに含んでよい。別の態様では、その脱油は、その廃触媒から油を排除/除去するために、任意に界面活性剤及び添加剤とともに、亜臨界高圧ガスを使用することを含んでよい。
【0045】
脱油後の廃触媒は典型的には、未転化残渣としての炭化水素を5wt%未満、またはさらに具体的には、炭化水素を2wt%未満、もしくは炭化水素を1wt%未満含む。その脱油済み廃触媒から回収する金属の量は概して、水素化処理で使用するその触媒、例えば、VIB族金属硫化物触媒、VIB族金属及びVIIIB族金属を含む二元金属系触媒、または少なくともVIB族及びその他の(例えば促進剤)金属(複数可)を含む多金属系触媒の組成構成によって決まる。油の除去処理プロセスの後、回収のための金属を含む廃触媒は、コークス様物質の形態であってもよく、その物質は、それに応じて、その後の金属回収プロセスに備えて、典型的には0.01~約100マイクロメートルの範囲である粒径まで粉砕できる。
【0046】
廃触媒からの炭化水素の脱油または除去は、US7790646、US7737068、WO20060117101、WO2010142397、US20090159505A1、US20100167912A1、US20100167910A1、US20100163499A1、US20100163459A1、US20090163347A1、US20090163348A1、US20090163348A1、US20090159505A1、US20060135631A1及びUS20090163348A1を含む相当数の刊行物に開示されている。
【0047】
本発明の実施形態による乾式精錬方法または乾式精錬プロセスの実例が、ケース1については、図1に概略的に示されている。脱油済み廃触媒(DSC)、例えば、本明細書に記載されているように、残渣炭化水素を含まないかまたは実質的に含まない触媒を加熱または焙焼段階(10)に供給して、その触媒に存在する硫黄及び/または炭素の含有量を所定の量未満まで低減し、その後(17)、か焼段階(20)において、か焼済み廃触媒を形成する。その加熱/焙焼工程及びか焼工程は、同じ設備または異なる設備で、個別のバッチプロセス工程または連続プロセス工程として行ってよい。上記したように、触媒からの硫黄及び炭素の放出を利用して、か焼(またはそのか焼工程の完了)に必要な時間の量を確立してよい。その後(27)、その廃触媒カルサインにおいて、典型的には固形分約15wt%で、約75℃において、数時間(2~3時間)、KOH(例えば、pH約10.5)を含む苛性カリ浸出液による抽出(浸出)段階(30)を行う。その後(37)、その浸出スラリーにおいて、典型的には、例えばアルカリ熱水による洗浄(42)とともに、固体残渣からろ液(45)の分離(40)を行う。そのろ液は、可溶性のVIB族金属及びVB族金属を含み、それらの金属を後で回収するのに備えて分離し、その一方で、水分が、適切な量、例えば約1wt%未満になるまで、不溶性固体残渣(47)を例えば125℃で乾燥する(50)。その後に(57)、その乾燥した固体残渣を炭酸カリウム(例えば、大部分の粒径が100μm未満である粒子状の無水炭酸カリウム)と混合し(60)、その後に(67)、その乾燥混合物をか焼する(70)。炭酸カリウムカルサインを形成するための典型的なか焼条件には、600~650℃の範囲の温度が含まれる。可溶性のVIB族金属化合物及びVB族金属化合物を抽出するために、その後に(77)、その炭酸カリウムカルサインを水と混合して(80)、典型的には60~90℃の温度で、炭酸カリウムカルサインスラリーを形成する。その後に(87)、そのスラリーを分離して(90)、可溶性のVIB族金属化合物及びVB族金属化合物を含むろ液(95)と、不溶性化合物(例えば、Ni、Fe及びその他の金属化合物など)を含む残渣(97)にする。例えば、V及びMoOとしてのバナジウム及びモリブデンの場合には、ろ液(45)及び(95)に対して、さらなる処理を行って、VB族金属化合物及びVIB族金属化合物を回収してもよい。残渣(97)も、可能な金属回収のためにさらに処理してもよいし、または精錬炉に送ってもよい。
【0048】
本発明の実施形態による乾式精錬方法または乾式精錬プロセスの実例は、ケース2に関しては、図1aに概略的に示されている。図1aに示されているようなケース2の方法には、例えば、図1において工程30、40及び50として示されているような浸出/抽出工程、分離工程及び乾燥工程が含まれない以外は、ケース2の方法は、ケース1の方法と同じ工程を含む。図1に示されている、番号の付された工程についての上記説明は、図1aに示されているようなもの及び上記のようなものと同じである。
【0049】
本発明のケース3の実施形態による乾式精錬方法または乾式精錬プロセスが、図1bに概略的に示されている。図1bに示されているようなケース3の方法には、ある特定の工程、例えば、図1aに示されているような工程10及び20が含まれない以外は、ケース3の方法は、ケース2の方法と同じ工程を含む。図1及び図1aに示されている、番号の付された工程についての上記説明、及び上で説明されているようなものは、別段、図1bに示されているケース3の方法においても同じである。ケース3の方法では、図1bの70によって示されているように、廃触媒と炭酸カリウムの混合物の加熱/焙焼を使用する。このケースでは、脱油済み廃触媒を炭酸カリウムと直接混合し、低めの温度で(例えば、575~600℃の範囲で、最長約8時間)、加熱/焙焼する。その後に(77)、可溶性のVIB族金属化合物及びVB族金属化合物を抽出するために、カルサイン(70)を水と混合して(80)、典型的には60~90℃の温度で、炭酸カリウムカルサインスラリーを形成する。その後に(87)、そのスラリーを分離して(90)、可溶性のVIB族金属化合物及びVB族金属化合物を含むろ液(95)と、不溶性化合物(例えば、Ni、Fe及びその他の金属化合物など)を含む残渣(97)にする。例えば、V及びMoOとしてのバナジウム及びモリブデンの場合には、ろ液(95)に対して、さらなる処理を行って、VB族金属化合物及びVIB族金属化合物を回収してもよい。残渣(97)も、可能な金属回収のためにさらに処理してもよいし、または精錬炉に送ってもよい。
【0050】
最初の加熱/焙焼段階(図1及び図1aにおける10)は概して、必要な場合または適宜に使用して、残渣炭化水素を除去してから、その後に、その廃触媒をか焼する。事前に処理した触媒で得られるような場合のように、残渣炭化水素の含有率が低い、例えば約1000ppm未満である脱油済み廃触媒では、最初の加熱/焙焼段階は、不要であることがある。この限りではないが、その加熱は、例えば、初期温度、例えば350~500℃の範囲の温度まで、アルゴンのような不活性ガス下で、残渣炭化水素を除去するのに適切な期間(例えば1~2時間)、ゆっくり昇温することを含んでよい。
【0051】
その後に、典型的には、その温度を、適切なか焼温度、例えば600~650℃の範囲の温度まで、最初は酸素欠乏条件(例えば、アルゴンのような不活性ガスと、空気の混合物)下で、か焼済み廃触媒の形成に適切な期間(例えば、典型的には1~2時間超、約24時間未満、またはさらに具体的には、約12時間未満)上昇させることによって、その廃触媒のか焼を行う。概して、そのか焼の適切な終点を定めるために、そのか焼済み廃触媒は、か焼段階の際に、CO及びSOの除去について、オフガス分析によってモニタリングしてもよい。例えば、終点は、約1wt%未満、約0.8wt%未満、約0.5wt%未満、約0.2wt%未満または約0.1wt%未満というCO及びSOのレベルと関連付けてよい。
【0052】
廃触媒のか焼工程の際、酸化加熱条件は概して、不活性ガス、空気またはこれらを組み合わせたものの存在下で加熱することを含む。必要に応じて、酸化条件の変更を用いてもよく、例えば、酸素を約20vol.%以下で含む初期ガス環境の後に、酸素を約80vol.%超含むガス条件を用いてもよい。
【0053】
廃触媒のか焼の際、例えば、その触媒が、例えばMo、Ni、V、Fe、C及びSを含むときには、下記の化合物及びオフガス生成物を形成するには、下記の代表的な反応が考えられる。
MoS+7/2O→MoO+2SO
NiS+3/2O→NiO+SO
+11/2O→V+3SO
2FeS+7/2O→Fe+2SO
C+O→CO
S+O→SO
NiO+MoO→NiMoO
Fe+V→2FeVO
【0054】
廃触媒のか焼後、アルカリ中での浸出抽出工程を行って、可溶性の金属化合物を浸出させて、第1のろ液と、不溶性のVIII族/VIB族/VB族金属化合物(複数可)を含む不溶性の金属化合物(複数可)残渣とを形成する。そのろ液は典型的には、可溶性のモリブデン酸塩化合物及びバナジウム酸塩化合物を含み、その一方で、その不溶性化合物は典型的には、混合金属化合物を含む。例えば、示されている上記の代表的な反応の場合には、このような不溶性の金属化合物は、NiO、Fe、NiMoO及びFeVOを含むと考えられる。必ずしもこの限りではないが、典型的な浸出条件は、約60~90℃、60~80℃もしくは70~80℃の範囲、または約60℃超もしくは70℃超の浸出温度、約1~5時間、約2~5時間または約2~4時間の範囲の浸出時間、及び約9.5~11、約10~11または約10~10.5の範囲の浸出pHを含む。Mo及びVの金属化合物の場合には、KOH浸出反応には、以下が含まれると考えられる。
2KOH+MoO→KMoO+H
2KOH+V→2KVO+H
【0055】
ある特定の不溶性のVB族金属化合物及びVIB族金属化合物(「スピネル」という)と炭酸カリウムとの反応には、ケース1及び2の方法における、Mo及びVの金属化合物の場合では、以下が含まれると考えられる。
NiMoO+KCO→KMoO+NiO+CO
2FeVO+KCO→2KVO+Fe+CO
【0056】
ケース3の方法では、その脱油済み廃触媒を炭酸カリウムと直接混合するので、ある特定のVB族金属化合物、VIB族金属化合物及びVIIIB族金属化合物と炭酸カリウムとの反応には、以下が含まれると考えられる。
MoS+3KCO+9/2O→KMoO+2KSO+2CO
NiS+KCO+2O→NiO+KSO+CO
+4KCO+7O→2KVO+3KSO+4CO
2FeS+2KCO+9/2O→Fe+2KSO+2CO
C+O→CO
S+O→SO
SO+KCO+1/2O→KSO+CO
【0057】
第1のろ液(ケース1)及びろ液(ケース2または3)は概して、その脱油済み廃触媒に存在するVIB族金属の約80wt%超もしくはVB族金属の約85wt%超を含むか、または脱油済み廃触媒に存在するVIB族金属の約80wt%超及びVB族金属の約85wt%の両方を含む。
【0058】
苛性カリ浸出段階から得られる残渣は典型的には、VB族/VIB族/VIIIB族金属酸化物の固体を含み、その後、ろ液から分離し、適切な条件下で、例えば、約110~140℃、約110~130℃または約120~130℃の範囲の温度で、0.5~2時間または1~2時間の範囲の期間、乾燥する。典型的には、その第1の固体残渣は、水の量を約2wt%未満、約1wt%未満、約0.5wt%未満、約0.2wt%未満または約0.1wt%未満まで低減するのに十分な温度及び時間で乾燥する。
【0059】
その後、その乾燥した苛性カリ浸出残渣を炭酸カリウムと、適切な条件下で混合して、その固体残渣/炭酸カリウムからなる、十分に混合された粒子状または粉末状の混合物を形成する。その後、その固体残渣/炭酸カリウム混合物に対して、加熱/か焼工程を行って、典型的には、約600℃~650℃、約600℃~640℃もしくは約610℃~630℃の範囲、または約600℃超、約610℃超、約620℃超、約630℃超、約640℃超もしくは約650℃超の第2の所定温度で、約0.5~2時間または約1~2時間の範囲の第2の所定時間、炭酸カリウムカルサインを形成する。オフガスをフラッシングするための空気を含む十分なガス流条件を典型的には使用する。
【0060】
その後に、その炭酸カリウムカルサインを水と接触させて、典型的には、約60~90℃、約60~80℃もしくは約70~80℃の範囲の温度で、または約60℃超もしくは約70℃超の温度で、炭酸カリウムカルサインスラリーを形成する。この限りではないが、その炭酸カリウムカルサインの浸出時間は典型的には、0.5~4時間、1~3時間または2~3時間の範囲である。そのpHは、必要に応じて変更してよいが、典型的には、この工程では、pHの変更は行わない。その第2のろ液に存在する代表的な金属化合物は、モリブデン酸カリウム、バナジウム酸カリウムまたはこれらの混合物を含む。
【0061】
さらに広範には、その第2のろ液は、VB族/VIB族金属酸化物に存在するVB族金属を約60wt%超、約70wt%超、約80wt%超または約90wt%超の量で含む。加えて、その第2のろ液は、VB族/VIB族金属酸化物に存在するVIB族金属を約90wt%超、約95wt%超、約97wt%超、約98wt%超または約99wt%超の量で含む。
【0062】
苛性カリ浸出抽出段階から得られる第1のろ液、及び炭酸カリウムカルサインの水浸出抽出段階から得られる第2のろ液は、さらに加工及び/または処理して、可溶性のVB族金属及びVIB族金属を回収してもよい。
【0063】
廃触媒金属の全抽出率という点では、その脱油済み廃触媒に存在するVB族金属の全抽出率は、約85wt%超、約90wt%超、約95wt%超、約97wt%超、約98wt%または約99wt%超である。同様に、その脱油済み廃触媒に存在するVIB族金属の全抽出率は、約90wt%超、約95wt%超、約97wt%超、約98wt%超または約99wt%超である。
【0064】
本発明の実施形態による湿式精錬方法または湿式精錬プロセスの実例が、図2に概略的に示されている。1つ以上の供給源、例えば、図1図1a及び図1bに示されている乾式精錬方法から得られた廃触媒ろ液流45及び95から得られるろ液(F)であって、VIB族金属化合物及びVB族金属化合物の水性混合物を含むろ液(F)をアンモニウム塩(102)と、メタセシス反応条件下で混合して(100)、その金属化合物をアンモニウムVB族金属化合物及びアンモニウムVIB族金属化合物に転化する。その後に、そのアンモニウムVB族金属化合物を晶析させるのに有効な晶析条件に、そのメタセシス反応混合物を供する(107、110)。その後に、その晶析させたアンモニウムVB族金属化合物を分離(120)のために通し(117)、そのアンモニウムVB族金属化合物及びアンモニウムVIB族金属化合物ろ液(125)を回収する。必要に応じて、そのアンモニウムVB族金属化合物の結晶をろ過及び洗浄するために、所定の洗浄温度の飽和アンモニウムVB族金属化合物洗浄液(122)を用いてよい。その後に、そのアンモニウムVB族金属化合物を通して(127)、アンモニアを放出させるのに有効な条件下で加熱(130)を行い、アンモニアを除去するとともに、そのVB族金属化合物(135)及びアンモニア(137)を別々に回収する。その後に、分離工程120から得られたアンモニウムVIB族金属化合物ろ液を通して、VIB族金属酸化物化合物析出物とその無機酸のアンモニウム塩との混合物を形成するのに有効な条件下で、無機酸(142)と混合する(140)。その後に、その析出物及び塩の混合物を通して(147)、そのVIB族金属酸化物化合物析出物を分離し(150)、そのVIB族金属酸化物化合物析出物を回収する(157)。必要に応じて、そのVIB族金属酸化物化合物析出物をろ過及び洗浄するために、所定の洗浄温度のアンモニウムVIB族金属酸化物化合物洗浄液(152)を用いてよい。その後に、必要に応じて、分離(150)から得られたろ液(155)に対して、例えば、樹脂によるイオン交換工程を通じて、さらなる金属回収工程を、任意に、肥料源としての硝酸アンモニウム/硝酸カリウムの回収とともに行ってよい。
【0065】
そのろ液(F)とアンモニウム塩との混合は典型的には、そのVIB族金属化合物及びVB族金属化合物をアンモニウムVB族金属化合物及びアンモニウムVIB族金属化合物に転化するのに有効である条件下で行う。メタバナジン酸アンモニウム(AMV)のような種結晶を、典型的には約2000~8000ppm、約4000~6000ppmまたは約5000ppmの濃度で用いてよい。AMV種を導入するときには、典型的には、そのpH範囲は約8未満である。当業者は、メタセシス反応を行うのに適切な方法を容易に判断し得るが、有用な手順の1つは、まず、硝酸を用いて、そのpHを約9まで低下させた後、pH約8未満、好ましくは8以下、または7.5~8.5もしくは7.5~8の範囲で、硝酸アンモニウムの導入及びAMV種の導入を行うことである。
【0066】
そのろ液(F)の混合及びメタセシス反応の際には、例えば、例えばMo、Ni、V、Fe、C及びSを含む廃触媒から、そのろ液を取り出すときには、以下の代表的な反応が、可溶性(Mo)金属化合物及び不溶性(V)金属化合物を形成すると考えられる。
NHNO+KVO→NHVO3↓+KNO
2NHNO+KMoO→(NHMoO+2KNO
【0067】
その晶析条件は、例えば、メタバナジン酸アンモニウム(AMV)結晶を生成させるときには、典型的には、低下させた温度及び圧力、例えば、約10℃の温度、約21in.Hgの真空下を用いてよい。様々な温度及び圧力(真空)条件、ならびに晶析時間を用いてよいことは、当業者には明らかであろう。概して、0℃超~約15℃または0℃超~約10℃の範囲の温度、真空条件、及び約1時間~約6時間、約1時間~約4時間または約1時間~約3時間の晶析期間が有用である。その結晶をろ過し、低温の洗浄液、例えば約10℃における約5000ppmのAMV洗浄液で洗浄することを用いてよい。洗浄液をその晶析工程にリサイクルしながら、約2~5回または約3回という複数回の洗浄も用いてよい。典型的には、0℃超~約15℃もしくは0℃超~約10℃の範囲の洗浄温度、または約10℃の洗浄液温度が適切であることが分かっており、好ましくは、その晶析させたアンモニウムVB族金属化合物及びその洗浄液が、メタバナジン酸アンモニウムを含み、任意に、その洗浄液は、そのアンモニウムVB族金属化合物の晶析のためにリサイクルする。
【0068】
その後に、アンモニアを、そのアンモニウムVB族金属化合物に存在する量の少なくとも約90%、約95%、約98%または約99%の量で放出させるのに十分な時間、そのアンモニウムVB族金属化合物を約200~450℃、約300~450℃、約350~425℃または約375~425℃の範囲の温度で加熱する。その後に、そのVB族金属化合物をさらに処理し、例えば、溶解炉で溶融し、その溶融物をフレーカーホイールに排出して、VB族金属化合物フレークを生成する。VIB族金属化合物及びVB族金属化合物を含む水性混合物に存在するVB族金属の全回収率は、約90wt%超、約95wt%超、約97wt%超、約98wt%超または約99wt%超であってよい。
【0069】
そのアンモニウムVIB族金属化合物ろ液を無機酸と接触させる際の酸性化条件は、その無機酸を約50~80℃、約50~70℃または約55~70℃の範囲の温度で導入して、pHを約1~3、約1~2または約1にすることを含み、好ましくは、その無機酸は、硝酸もしくは硫酸を含むか、または硝酸である。
【0070】
酸性化反応の際に、例えば、例えばMo、Ni、V、Fe、C及びSを含む廃触媒から、そのろ液を取り出すときには、以下の代表的な反応が、不溶性(Mo)金属化合物を形成すると考えられる。
(NHMoO+2HNO+HO→MoO・2H+2NHNO
【0071】
その酸性化反応後に、ろ過を用いて、その液体及び固体の分離を行ってよい。そのVIB族金属酸化物化合物析出物を洗浄する際の条件は、そのろ過ケーキを、アンモニウムVIB族金属化合物洗浄液によって、0℃超~約15℃もしくは0℃超~約10℃の範囲の洗浄温度、または約10℃の洗浄液温度で、pH約1.0において、15分、固形分25wt%で再スラリー化することによって行ってよい。典型的には、その廃触媒が、MoをVIB族金属として含むときには、その洗浄液は、モリブデンが枯渇されているとともに、図2における貧液ろ液(155)を模するpH1.0のヘプタモリブデン酸アンモニウム(AHM)を含む。そのスラリーの再ろ過後、そのケーキを、pH1.0の新鮮なヘプタモリブデン酸アンモニウム溶液でさらに2回再スラリー化して、そのMoOケーキにおけるK含有率を0.5wt%未満まで低下させてよい。すべての洗浄工程と同様に、その洗浄液は任意に、例えばVIB族金属酸化物化合物の洗浄のために、リサイクルしてよい。
【0072】
そのVIB族金属化合物及びVB族金属化合物を含む水性混合物に存在するVIB族金属の全回収率は、約90wt%超、約95wt%超、約97wt%超、約98wt%超または約99wt%超であってよい。
【0073】
図3には、図1のケース1の乾式精錬方法と、図2に示されている湿式精錬方法を組み合わせた概略図が示されている。同様に、図3aには、図1a及び2で表されている両方の方法の併用が示されており、その一方で、図3bには、図1b及び2で表されている両方の方法の併用が示されている。図1、1a、1b及び2のそれぞれに関する上記の説明は、図3、3a及び3bに示されている、複合型の概略図に直接適用可能である。
【実施例
【0074】
下記の実施例には、特許請求されている本発明に従って、廃スラリー触媒から金属を回収した結果が示されている。本発明の実施形態に従って、炭酸カリウム(カリ)を用いて金属を回収した結果が、炭酸カリウムを使用しない比較結果とともに示されている。
【0075】
実施例1A~1Gには、廃触媒を焙焼したままの状態の後に、そのカルサインを水酸化カリウム(苛性カリ)で浸出させ、浸出残渣を炭酸カリウムとともにか焼し、その炭酸カリウムカルサインを熱水浸出させ、メタバナジン酸アンモニウム晶析の後に、三酸化モリブデン析出を行った結果が示されている。
【0076】
実施例1A-廃触媒の焙焼(そのままの状態):
直径7”×稼働長さ29”の回転式石英管状炉で、O欠乏条件下において、1,750gの脱油済み廃触媒に対して、制御されたバッチ式酸化を行い、最長で8時間の滞留時間で、複数の炉床炉条件をシミュレートすることで、S及びCをそれぞれ0.1wt%未満含むカルサインを得た。その作業は、廃触媒中の残渣炭化水素を除去するために、500℃まで、アルゴンガス流下で迅速に昇温させることから開始した。これに続き、620℃の稼働床温まで、空気流低減下でゆっくり昇温し、CO及びSOの排出測定を行いながら保持時間を延長し、その後、反応の停止中に、空気流下でゆっくり冷却し、その段階的な温度制御は、Moの喪失及び固体の焼結を起こすことになる大幅な放熱を回避するために必須であった。
【0077】
低Vカルサインにおいて、およそ57%の重量減少(表8及び9)が観察され、これは、ほぼ完全にS及びCが除去され(0.1wt%未満)、金属硫化物が金属酸化物に転化されたことに相当していた。表1及び2には、焙焼炉への廃触媒供給原料、及び生成されたカルサインに対する金属分析試験結果が示されている。

【表1】

【表2】
【0078】
下記の反応(1.1)~(1.6)は、適切な燃焼反応を表している。600℃におけるギブスの自由エネルギーにより、V>Mo>Fe>Niという順序による酸化が示唆されており、CO及びSOでの600℃における自由エネルギーにより、Cが、Sよりも速い速度で燃焼することが示唆されている。
【表3】
【0079】
脱油済みの物質の無担持で広表面積な特徴、及びアルミナ及び/またはシリカの不在により、下記の反応1.7には、その原料に存在するニッケルが、およそ620℃での燃焼反応中、モリブデンに捕えられて、非浸出性の難溶性NiMoO「スピネル」相を形成することが示されている。この成分は、XRD及びQEMSCAN(Quantitative Evaluation of Materials by Scanning Electron Microscopy)の両方によって検出された。
MoO+NiO=NiMoO(1.7) ΔG873°K=-20kJ/g.mol
【0080】
XRDによっては検出できなかった別の相が、QEMSCANによって、(MoNi)Oという形態の混合金属酸化物を含むことが明らかになった。その混合金属酸化物におけるV成分は、苛性環境及び酸環境のいずれにおいても、浸出不能であった。
【0081】
実施例1B-苛性カリ(KOH)による、カルサインの浸出:
75℃、固形分15wt%、pH10.0~10.5、及び滞留時間2時間で、低V(低バナジウム)カルサインを苛性カリ(KOH、29wt%溶液)で浸出させたところ、最大で83%のMo及び89%のVの抽出物が得られた(表3)。Niは、その残渣相に、NiMoOとして残留した(表4)。
【0082】
低Vカルサイン塊がKOHに最大で75%溶解されたこと(表9)が観察されたとともに、残留塊は、洗浄済みの浸出残渣において、スピネルを構成していた。浸出残渣のXRDスキャンにより、そのスピネル構造がα-NiMoO4として確認され、その難溶性のV成分は特定できなかった。
【表4】


【表5】
【0083】
実施例1C-KCOと合わせた苛性カリ浸出残渣のか焼:
焙焼済み廃触媒のKOH浸出から得られる、低Mo及び低Vの抽出物は、営利的な金属回収及びプロジェクトエコノミクスの観点での懸念材料であった。さらなる調査により、およそ600℃における、モリブデン酸ニッケルスピネルと炭酸カリウムとの反応が、難溶性のNi-Mo塩を可溶性型のMoに転化させることが明らかになった。その転化は、下記の反応1.8によって表すことができる。
NiMoO+KCO=KMoO+NiO+CO (1.8) ΔG873°K=-111kJ/g.mol
【0084】
乾燥済みの苛性カリ浸出残渣(スピネル)100gと、そのカルサイン中の化学量論的なMo及びVの含有量を最大で25%上回る量の無水カリ(KCO、Rocky Mountain Reagents、28%が300μmを通過)とブレンドし、この後に、直径4”×稼働長さ14”の回転式石英管状炉において、空気による連続的なフラッシング下、600℃~625℃で1.5時間、か焼した。
【0085】
その作業は、500℃まで、迅速に昇温させることから開始し、その後、最大で625℃の稼働床温まで、ゆっくり昇温し、1.5時間の保持時間の後、反応の停止中に、ゆっくり冷却した。その順序は、固体の溶融性及び焼結の問題を回避するために必須であった。表5には、そのカルサインにおける金属分析試験結果が示されている。
【0086】
低Vカルサインにおいて、およそ50%の重量増加(表9)が観察され、これにより、そのスピネルがほぼ完全にブリーチングされて、水溶性のモリブデン酸塩及びバナジウム酸塩になることについて説明されると見られた。表5には、苛性カリ浸出残渣をKCOとともにか焼した後の固体の元素組成が示されている。

【表6】
【0087】
実施例1D-炭酸カリウムカルサインの熱水浸出:
COカルサインを75℃(pH10.5~11.0)の熱水中で、固形分15wt%で、1.5時間、その試料のpHの変更なしに浸出させた。その浸出残渣を真空ろ過し、洗浄し、乾燥した。VをMoから湿式精錬分離する間近まで、その浸出溶液を静置した。
【0088】
その低Vカリカルサインの熱水浸出により、Moの最大96%の抽出及びVの最大67%の抽出(表6)が実現し(すなわち、廃触媒からのMoの全乾式精錬抽出率は99%、Vの全乾式精錬抽出率は96%であった)、最大で72%の重量減少が明らかとなった(表9)。浸出残渣の金属分析試験結果が表7に示されており、Niが、未反応の固体相の最大で2/3を構成するものとして特定された。
【表7】


【表8】
【0089】
実施例1E-実施例1A~1Dの全体的質量バランス:
下記の表8には、列挙されている順序の単位操作を元の低V廃触媒に行った後、残存していた高Ni残渣が5wt%未満であったことが示されている。この表には、カルサインのままの状態では、個別の重量減少率が最大で57%、カリ浸出残渣では、個別の重量減少率が最大で74.5%、カリカルサインでは、重量増加率が最大で50%、最終的なNi残渣では、最終的な重量減少率が最大で72%、及び廃触媒からNi残渣までの全体的な重量減少率が最大95%であることが含まれている。
【表9】
【0090】
表9には、廃触媒供給原料から、金属が除去されるか、または金属が枯渇せずに不溶性Ni残渣になる経過が示されている。様々な段階における、Mo、V、Ni及びFeの計算値は、表1、2、4、5及び7における実際の金属値と比較し得る。

【表10】
【0091】
実施例1F-メタバナジン酸アンモニウム(AMV)による、アルカリ浸出貴液(図1のろ液45及び95)からの晶析:
その浸出ろ液(pH10.5以上)の攪拌溶液を60℃まで加熱した。十分な70%濃HNO酸を加えて、pHをおよそ8.8まで低下させた。100gpLのNHNO結晶を加え、HNOまたはNHOHによって、そのpHをおよそ7.5まで調整した。溶液バナジウム濃度が、10gpL未満の場合、その高温の攪拌溶液に、10gpLのAMV種/スパイクを粉末形態で加えた。pHを7.0~8.0に維持しながら、メタセシス反応を1.5時間、60℃で継続させた。
【0092】
下記の二重置換は、反応1.9及び1.10に示されている、NH とKの間のメタセシスまたはイオン交換を構成する。
NHNO+KVO=NHVO3↓+KNO(1.9)
2NHNO3+MoO=(NHMoO+2KNO(1.10)
【0093】
その後に、その溶液を真空冷却晶析装置に、10℃、21in.Hg下で、3時間移し、静かに回転させながら、晶析を継続した。AMV結晶を真空ろ過し、そのろ液をMo析出のために静置した。10℃まで冷却した純粋な4,800mg/LのAMV溶液3細孔容量で、その結晶を洗浄した。残渣Mo濃度が、25,000ppmwまで上昇するまで、その洗浄液を再利用してよく、その後は、そのメタセシス回路にリサイクルできるであろう。
【0094】
その黄色がかったAMV結晶を60℃~70℃で乾燥した。表10には、10℃での連続的な冷却晶析を用いて、貧液溶液中のV含量を低減することが示されている。推定AMV純度は、最大で97wt%のNHVOを含み、その残部は、NO アニオンと合わさったMo及びKの種としてのものである。その貧液溶液またはMoろ液を、Mo回収のために、酸析出回路に移した。
【表11】
【0095】
実施例1G-三酸化モリブデンによる、AMV貧液からの析出(図2のろ液125):
V晶析回路から得た攪拌貧液を65℃まで加熱してから、70%の濃HNO酸を慎重に加えて、pHをおよそ1.0にした。2.5時間、十分に撹拌しながら、そのpH及び温度を維持した。表11には、その低めのpH及び温度、ならびに高めのHNO酸の投入によって、2時間で、最大99%のMoが回収されたことが示されている。反応の停止時及びろ過の前に、そのスラリーを周囲近くまで冷却した。(2017年11月17日に発行された米国特許第9809870号(「Process for separating and recovering metals」、Bhaduri,Nordrum,Kuperman)に従って)鉄の析出のために、及び/または残渣金属を除去するためのイオン交換のために、1,000mg/L未満のMo及び100mg/L未満のVを含む貧液ろ液を移動してよい。
【0096】
反応1.11は、酸性条件下での、MoOの析出系列を表している。
(NHMoO+2HNO=MoO.H+2NHNO(1.11)
【0097】
MoOケーキ固体をpH1のヘプタモリブデン酸アンモニウム(AHM)において、周囲温度で、15分撹拌しながら、固形分25wt%で再スラリー化し、真空ろ過した。pH1の新鮮なAHMによって、そのプロセスを少なくとも2回以上繰り返し、MoO固体相におけるK含有率が0.5wt%未満になるようにした。その貧液ろ液を再パルプ化溶液媒体としてリサイクルした。固体を70℃~100℃で乾燥した。
注:pH1のAHMは、濃HNO酸によって、200gpLの純粋なヘプタモリブデン酸アンモニウム(AHM)溶液をpH1まで、65℃で2.5時間酸性化することによって調製した。液体と固体を分離後、そのMoO固体を最終生成物として回収してよく、そのろ液を、市販のMoOケーキの洗浄液として使用する。
推定MoO純度は、最大で95wt%のMoO.HO、最大で合計0.75wt%のK及びV、ならびに残りのNH イオン及びNO イオンを含む。
【0098】
記載されている順序の洗浄工程を用いて、そのMoO生成物において、Kイオンレベルを0.5wt%未満まで低下させた。そのアルカリ金属は、触媒合成の際に毒物として作用するので、値を低下させるのが望ましい。そのMoOスラリーにおけるKイオンレベルは、20%まで上昇してよく、不変の除去不能なKイオン部分が、その層状のMoO構造において、ヒドロニウムイオンを置換する。
【表12】
【0099】
上記の結果によって、最大でMo99%及び最大でV96%という乾式精錬抽出率が、最大でMo99%及び最大でV95%という湿式精錬回収率と合わさったことが示されている。全体的な金属回収率は、Mo98%及びV90%と予測される。本明細書に示されている、V回収率の全体的な予測は、控えめである。さらなる処理により、V含有率がさらに高い湿式精錬回収物を得ることができると予測される。例えば、モリブデン析出回路から生じる尾鉱における金属含有物をイオン交換回路によって捕捉して、金属回収率を上昇させてよい。
【0100】
下記の実施例2A~2Dには、廃触媒を焙焼したままの状態にした後、炭酸カリウムとともにか焼し、その炭酸カリウムカルサインを熱水浸出した結果が示されている。V及びMoを回収するためのその湿式精錬分離の単位操作は、実施例1F及び1Gと同じである。
【0101】
実施例2A-廃触媒の焙焼(そのままの状態):
直径7”×稼働長さ29”の回転式石英管状炉で、O欠乏条件下において、1,750gの脱油済み廃触媒に対して、制御されたバッチ式酸化を行い、最長で8時間の滞留時間で、複数の炉床炉条件をシミュレートすることで、S及びCをそれぞれ0.1wt%未満含むカルサインを得た。
【0102】
その作業は、廃触媒中の残渣炭化水素を除去するために、500℃まで、アルゴンガス流下で迅速に昇温させることから開始した。これに続き、620℃の稼働床温まで、空気流低減下でゆっくり昇温し、CO及びSOの排出測定を行いながら保持時間を延長し、その後、反応の停止中に、空気流下でゆっくり冷却した。その段階的な温度制御を用いて、Moの喪失及び固体の焼結を起こすことになる大幅な放熱を回避した。低Vカルサインにおいて、およそ57%の重量減少(表17及び18)が観察され、これは、ほぼ完全にS及びCが除去され(0.1wt%未満)、金属硫化物が金属酸化物に転化されたことに相当していた。表12及び13には、焙焼炉供給原料、及び生成されたカルサインの金属分析試験結果が示されている。
【表13】

【表14】
【0103】
下記の反応(2.1)~(2.6)は、燃焼反応を表す。600℃におけるギブスの自由エネルギーにより、V>Mo>Fe>Niという順序による酸化が示唆されており、CO及びSOでの600℃における自由エネルギーにより、Cが、Sよりも速い速度で燃焼することが示唆されている。

【表15】
【0104】
脱油済みの物質の無担持で広表面積な特徴、及びアルミナ及び/またはシリカの不在により、下記の反応2.7には、その原料に存在するニッケルが、およそ620℃での燃焼反応中、モリブデンに捕えられて、非浸出性の難溶性NiMoOスピネル相を形成することが示されている。この成分は、XRD及びQEMSCAN(Quantitative Evaluation of Materials by Scanning Electron Microscopy)の両方によって検出された。
MoO+NiO=NiMoO(2.7) ΔG873°K=-20kJ/g.mol
【0105】
XRDによっては検出できなかった別の相が、QEMSCANによって、(MoNi)Oという形態の混合金属酸化物を含むことが明らかになった。その混合金属酸化物におけるV成分は、苛性環境及び酸環境のいずれにおいても、浸出不能であった。
【0106】
実施例2B-炭酸カリウムとの、焙焼済み生成物のか焼:
下記の反応(2.8)~(2.10)は、か焼の際の、焙焼炉生成物とのKCOの反応を表す。600℃におけるギブスの自由エネルギーにより、これらの条件下で、カリでブリーチングされるスピネル相の適性が示唆されている。
【表16】
【0107】
焙焼済み物質(カルサイン)をKCO(Rocky Mountain Reagents、28%が300μmを通過)と、そのカルサイン中の化学量論的なMo及びV含有量を最大で25%上回る量でブレンドした。その作業は、直径4”×稼働長さ14”の石英製キルンにおいて、500℃まで、空気流下で迅速に昇温させることから開始し、これに続き、620℃の稼働床温まで、空気流低減下でゆっくり昇温し、COの排出を0.1wt%未満に低下させるには、2時間の保持時間で十分であった。これに続き、そのキルンの固体を除去する前に、100℃まで、空気流下でゆっくり冷却した。
【0108】
低V KCOカルサインにおいて、およそ45%の重量増加(表18)が観察され、これにより、そのスピネルがほぼ完全にブリーチングされて、水溶性のモリブデン酸塩及びバナジウム酸塩になることについて説明されると見られた。そのロータリーキルンから容易に排出されたカルサインでは、溶融、集塊または固体焼結物は見られなかった。表14には、苛性カリ浸出残渣をKCOとともにか焼した後の固体の元素組成が示されている。

【表17】
【0109】
実施例2C-炭酸カリウムカルサインの熱水浸出:
COカルサインを75℃(pH10.5~11.0)の熱水中で、固形分15wt%で、1.5時間、その試料のpHの変更なしに浸出させた。その浸出残渣を真空ろ過し、洗浄し、乾燥して、分析のために提出した。VをMoから湿式精錬分離する間近まで、その浸出溶液を静置した。
【0110】
低V KCOカルサインの熱水浸出により、Moの最大99%の抽出及びVの最大91%の抽出(表15)が実現したことから、廃触媒からのMoの全乾式精錬抽出率は99%、Vの全乾式精錬抽出率は91%であった。最大で94%の重量減少が明らかとなった(表18)。浸出残渣の金属分析試験結果が表16に示されており、Niが、未反応の固体相の最大で2/3を構成するものとして特定された。
【表18】


【表19】
【0111】
実施例2D-実施例2A~2Cの全体的質量バランス:
下記の表17には、列挙されている順序の単位操作を元の低V廃触媒に行った後、残存していた高Ni残渣が4wt%未満であったことが示されている。この表には、カルサインのままの状態では、個別の重量減少率が最大で57%、カリカルサインでは、重量増加率が最大で45%、最終的なNi残渣では、最終的な重量減少率が最大で94%、及び廃触媒からNi残渣までの全体的な重量減少率が最大96%であることが含まれる。
【表20】
【0112】
表18には、廃触媒供給原料から、金属が除去されるか、または金属が枯渇せずに不溶性Ni残渣になる理論的な経過が示されている。様々な段階における、Mo、V、Ni及びFeの計算値は、表12、13、14及び16における実際の金属値と比較し得る。V及びMoのためのその湿式精錬分離の単位操作は、実施例1F及び1Gと同じである。

【表21】
【0113】
上記の結果によって、最大でMo99%及び最大でV91%という乾式精錬抽出率が、最大でMo99%及び最大でV95%という湿式精錬回収率と合わさったことが示されている。全体的な金属回収率は、Mo98%及びV87%と予測される。本明細書に示されている、V回収率の全体的な予測は、控えめである。Mo貧液のさらなる処理により、V含有率がさらに高い湿式精錬回収物を得ることができると予測される。例えば、モリブデン析出回路から生じる尾鉱における金属含有物をイオン交換回路によって捕捉して、金属回収率を上昇させてよい。
【0114】
示されているように、実施例2A~Dによって示されたアプローチ(実施例1に従って、焙焼(そのままの状態)-/KCOとのか焼-KCOカルサインの熱水浸出を使用する)により、1つの単位操作の全体、すなわち、焙焼済みの物質またはカルサインのKOH浸出が排除された。
【0115】
下記の実施例3A~3Cには、炭酸カリウムとともに、廃触媒を焙焼した後、その炭酸カリウムカルサインを熱水浸出した結果が示されている。V及びMoを回収するためのその湿式精錬分離の単位操作は、実施例1F及び1Gと同じである。
【0116】
実施例3A-炭酸カリウムと合わせた廃触媒の焙焼:
下記の反応(3.1)~(3.7)は、KCOとの適切な金属酸化反応を表している。600℃におけるギブスの自由エネルギーにより、V>Mo>Fe>Ni>C>Sという順序で良好な酸化が示唆されている。CO及びSOでの600℃における自由エネルギーにより、Cが、Sよりも速い速度で燃焼することが示唆されている。
【表22】
【0117】
欠乏条件において、直径4”×稼働長さ14”の回転式石英管状炉で、KCO(Rocky Mountain Reagents、28%が300μmを通過)とブレンドした廃触媒100gに対して、制御されたバッチ式酸化を行い、最長で4時間の滞留時間で、複数の炉床炉条件をシミュレートすることで、Sをおよそ0.1wt%、及びCを0.5wt%未満含むカルサインを得た。その廃触媒を無水KCOと、そのカルサイン中の化学量論的なMo及びVを最大で25%上回る量で、十分にブレンドした。
【0118】
その作業は、500℃まで、3slpm(標準リットル毎分)のアルゴンガス流下で迅速に昇温させて、その廃触媒中の残渣炭化水素を除去することから開始し、これに続き、580℃の稼働床温まで、3slpmの空気流低減下でゆっくり昇温し、CO及びSOの排出を測定しながら、空気流を5slpmまで増やしながら、保持時間を延長した。最後の焙焼時間の間、温度を620℃まで上昇させてから、反応の停止中に、空気流下でゆっくり冷却した。低めの初期燃焼温度を用いて、共晶溶融をいくらか回避し、大きい集塊を形成させ、キルンに付着させた。その最後の時間における温度が高いほど、S及びCの完全燃焼、ならびに高いV抽出率が確保された。SOの発生が最小限であることが明らかとなり、硫化物が硫酸塩に直接転化されたことが示された。
【0119】
低V KCOカルサインにおいて、およそ92%の重量増加(表23及び24)が観察され、いくらかの溶融及び集塊化が明らかに見られた。しかしながら、そのカルサインは、ロータリーキルンから容易に排出された。その溶融は、ロータリーキルンの転動動作と連携して、カルサインの集塊化に寄与し得る低融点のモリブデン酸カリウム及びバナジウム酸カリウム(およそ500℃)の形成によって生じると推測された。これ自体は欠陥ではない。焙焼炉において、粉化及び細粒喪失を低減するはずであるからである。下記の表19及び20には、焙焼炉供給原料及びカリカルサインでの金属分析試験結果が示されている。
【表23】

【表24】
【0120】
実施例3B-炭酸カリウムカルサインの熱水浸出:
COカルサインを75℃(pH10.5~11.0)の熱水中で、固形分15wt%で、2時間、その試料のpHの変更なしに浸出させた。その浸出残渣を真空ろ過し、洗浄し、乾燥して、分析のために提出した。VをMoから湿式精錬分離する間近まで、その浸出溶液を静置した。低V KCOカルサインの熱水浸出により、Moの最大99%の抽出及びVの最大93%の抽出(表21)が実現したことから、廃触媒からのMoの全乾式精錬抽出率は99%、Vの全乾式精錬抽出率は93%であった。最大で96%の重量減少が明らかとなった(表24)。
【0121】
浸出残渣の金属分析試験結果が表22に示されており、Niが、未反応の固体相の最大で1/3を構成するものとして特定された。実施例1D及び2Cと比べて、Ni含有量が減少したことは、およそ27%の化学量論的なNi含有率を占める異なるNi部分であるニッケルヒドロキシ炭酸塩[Ni(OH).(HCO]の形成を示している。

【表25】

【表26】
【0122】
実施例3C-実施例3A及び3Bの全体的質量バランス:
下記の表23には、列挙されている順序の単位操作を元の低V廃触媒に行った後、残存していた高Ni残渣が8wt%未満であったことが示されている。この表には、カリカルサインでは、重量増加率が最大で92%、最終的なNi残渣では、重量減少率が最大で96%、及び廃触媒からNi残渣までの全体的な重量減少率が最大92%であることが含まれる。
【表27】
【0123】
表24には、廃触媒供給原料から、金属が除去されるか、または金属が枯渇せずに不溶性Ni残渣になる理論的な経過が示されている。様々な段階における、Mo、V、Ni及びFeの計算値は、表19、20及び22における実際の金属値と比較し得る。V及びMoのためのその湿式精錬分離ユニット操作は、実施例1F及び1Gと同じである。

【表28】
【0124】
上記の結果によって、最大でMo99%及び最大でV93%という乾式精錬抽出率が、最大でMo99%及び最大でV95%という湿式精錬回収率と合わさったことが示されている。全体的な金属回収率は、Mo98%及びV88%と予測される。V回収率の全体的な予測は、控えめである。さらなる処理により、V含有率がさらに高い湿式精錬回収物を得ることができると予測される。例えば、モリブデン析出回路から生じる尾鉱における金属含有物をイオン交換回路によって捕捉して、金属回収率を上昇させてよい。
【0125】
示されているように、実施例3A~Cによって示されたアプローチ(実施例1に従って、KCOと合わせた焙焼-KCOカルサインの熱水浸出を利用する)により、2つの単位操作の全体、すなわち、焙焼済みの物質またはカルサインのKOH浸出と、KCOと合わせたKOH浸出残渣のか焼が排除された。
【0126】
本発明及び本開示の範囲に関するさらなる詳細は、添付の請求項から判断し得る。
【0127】
本発明の1つ以上の実施形態の上記の説明は、主に例示のためのものであり、変形形態を用いてよく、その上、その変形形態が、本発明の本質に組み込まれることは認識されている。本発明の範囲を判断する際には、下記の請求項を参照すべきである。
【0128】
米国特許の実施慣行の目的上、及び認められる場合には、その他の特許庁においては、本発明の上記の説明で引用したいずれの特許及び刊行物も、それらに含まれるいずれかの情報が、上記の開示内容と整合し及び/または上記の開示内容を補う限りにおいては、参照により、本明細書に援用される。
図1
図1a
図1b
図2
図3
図3a
図3b
【国際調査報告】